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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「ようこそ、わが家へ」)

会社と家庭で「内憂外患」。読み易いがインパクトはやや弱いか。

ようこそ、わが家へ 池井戸潤0_.jpg ようこそ、わが家へ 池井戸潤1.jpg ようこそ、わが家へ tvC.jpgようこそ、わが家へ (小学館文庫)』「ようこそ、わが家へ DVD-BOX」出演:相葉雅紀/沢尻エリカ/有村架純/南果歩/寺尾聰

ようこそ、わが家へ 池井戸潤c.jpg 真面目なだけが取り柄の会社員・倉田太一は、ある夏の日、駅のホームで割り込み男を注意した。すると、その日から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐようになる。花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれた。さらに、車は傷つけられ、部屋からは盗聴器まで見つかった。執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意する。一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は営業部長に不正の疑惑を抱いたことから窮地へと追い込まれていく―。

 季刊誌「文芸ポスト」2005年秋号から2007年冬号まで6回にわたって連載されたものに加筆修正して、単行本化を経ずいきなり文庫化された作品。最近は企業小説の旗手として脚光を浴びている作者ですが、この作品は、そうした企業サスペンス(企業ドラマ)的なストーリーと、以前に作者がよく書いていたホーム・サスペンス的なストーリーが並行して進行していくという構成です。

 連載時のものからどれぐらい加筆修正されているのか分かりませんが、読み易かったです。但し、主人公の「内憂外患」には大いに同情するものの、インパクトは弱かったか。企業サスペンスの方は、やや盛り上がりを欠いたまま予定調和的な帰結を迎えるし、ストーカーが出てくるホーム・サスペンスの方も、犯人に関して特にサプライズ的要素があるわけでなかったように思います。

 最近の作者の企業小説に比べると"軽めの読み物"という感じでしょうか。それでも、あの高視聴率をマークした「半沢直樹」の原作者による作品ということもあってか、2015年にフジテレビでドラマ化され(それ以前の2014年に、NHKラジオ第1放送「新日曜名作座」にて全6回放送されていた)、TBSが「半沢直樹」であれだけ視聴率を稼げたドラマを僅か10回で終わらせてしまった(しかもそこに原作2冊分を詰め込んで使ってしまった)その轍を踏むまいとしてか、かっちり1クール、場合によっては延長も有りでスタートしました。しかし、そうなると今度は案の定、原作に無い登場人物とか出てきて、原作者はどう思っていたのでしょうか。以前、NHKで『鉄の骨』がドラマ化された際には、「どんどん原作から離れていきますね。まさにNHK版『鉄の骨』です」と自らのブログで書いていましたが、今は作者はブログを休止しているので分かりません。

 ドラマ版の方は、そもそも主役が倉田ではなく息子の健太になっていて、倉田という個人において事態が「内憂外患」状態のままダブル進行していくことが作品のミソであって、息子を主人公にしてしまったのでは...。ラストは謝る謝らないで、土下座までは行かなかったけれど、殆ど「半沢直樹」風の世界に改変されていました。

ようこそ、わが家へ  tv2.jpgようこそ、わが家へ tv.jpg「ようこそ、わが家へ」●演出:中江功/谷村政樹●プロデューサー:羽鳥健一●脚本:黒岩勉●音楽:川井憲次●原作:池井戸潤「ようこそ、わが家へ」●出演:相葉雅紀/沢尻エリカ/有村架純/佐藤二朗/山口紗弥加/眞島秀和/堀内敬子/足立梨花/藤井流星(ジャニーズWEST)/高田純次/竹中直人/近藤芳正/南果歩/寺尾聰●放映:2015/04-06(全10回)●放送局:フジテレビ

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M&Aを素材とした分かり易い逆転劇。元々「劇画」を小説にしたような物語なのでこれで良しか。

ロスジェネの逆襲.jpg 『ロスジェネの逆襲』(2012/06 ダイヤモンド社)

 2004年、銀行の系列子会社で業績は鳴かず飛ばずの東京セントラル証券に、IT企業の雄「電脳雑伎集団」の平山社長から、ライバルの「東京スパイラル」を買収したいとの相談があった。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるチャンスだったが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。責任を問われて窮地に陥った半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、驚くべき秘策に出る―。

 テレビドラマでお馴染みになった半沢直樹が主人公の物語の『オレたちバブル入行組』('04年/文藝春秋)、『オレたち花のバブル組』('08年/文藝春秋)に続くシリーズ第3作で、「週刊ダイヤモンド」2010年8月7日号から2011年10月1日号にかけて連載されたもの。
 今回は、半沢は東京中央銀行から東京セントラル証券に企画部長として出向中の身であり、出向元の東京中央銀行に対抗する形で「東京スパイラル」の買収防衛に関与します。

 既に「フォックス」という会社が「東京スパイラル」のホワイトナイトを名乗り出ていましたが、これら全てが「東京スパイラル」買収のために東京中央銀行が練った偽装スキームだった―半沢はそれを見破っただけでなく、「東京スパイラル」の瀬名社長を通じて「フォックス」に逆買収をかける、所謂「倍返し」に出るという、分かり易い逆転劇で、カタルシス効果は大です。

 部下の森山が「東京スパイラル」の瀬名社長と幼馴染だったとか、「フォックス」の海外子会社に「東京スパイラル」が新たなビジネスモデルを展開する上での非常にプラスになるノウハウが隠されていたとか、かなりご都合主義的なところはありますが、元々「劇画」を小説にしたような物語なので、これでいいのではないかと思います。

 ここにきて、ますますエンタテイメントのツボを押さえている感じで、分かり易くて、話の展開に無駄がありません。但し、M&Aにおける比較的常識的な規制等が、あたかも新たに露呈した事実のように描かれているのは、やや違和感もありました。

ロスジェネの逆襲s.jpg 特定のモデルは無いように思いましたが、IT企業「電脳雑伎集団」の粉飾決算を半沢が見破るに至って、そう言えば、カバーに六本木ヒルズが描かれていたなあと。

 『オレたちバブル入行組』、『オレたち花のバブル組』と続けて読み、ドラマも観てややお腹一杯という感じで、この作品もドラマ化が決定してからでも読めばいいと思っていましたが、シリーズ4作目『銀翼のイカロス』の連載が「週刊ダイヤモンド」で始まっていることもあって、じゃあ読んじゃおうかという流れでした。

 『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』はほぼリフレイン構造になっていたのに対し、本作はM&Aという新たなモチーフであったために、これはこれで思った以上に楽しめました。
 
 ドラマで前2作を僅か10話に纏め、蓋を開けれてみれば予想外の高視聴率で、TBSは勿体ないことをしたと思っているのでは。今度この作品がドラマ化される時は、もっと小出しにして長くやるのではないかなあ。

【2015年文庫化[文春文庫]】

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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「七つの会議」)

「原島」から始まって「原島」で終わるドラマ。「原島」から始まって「八角」で終わる原作。

七つの会議 単行本.jpg七つの会議 10.jpg七つの会議七つの会議 タイトル.jpg 

 大手総合電機会社ソニックの子会社である中堅電機メーカー東京建電で住宅関連商品を扱う営業4課の課長・原島万二(45)は、名前通りの万年二番手でたいした実績がない平凡なサラリーマンだったが、一方、原島と対照的に花形部署の営業1課に38歳という最年少で昇進しメキメキと業績を上げていた坂戸宣彦が、万年係長と揶揄される八角民夫(50)(通称ハカック)からパワハラを訴えられて突然更迭される。やる気のない八角に対し、10歳以上年下である坂戸は課員の面前で罵倒し続けたのだった。営業部のエースは失脚で、代わりに一課長に就任したのが原島だったが、坂戸がパワハラで訴えられたことには"裏"があったのだ。それは、東京建電にとって会社存続をかけた死活問題であり、親会社のソニックにしても子会社の不祥事と連結決算で受けるダメージは底知れない重大事件だった―。

 どれが7つの会議に該当するのかよく分からなかったけれど(7つ以上あったのでは)、面白かったので気にせずスラスラ読み進めました。企業の不祥事の隠蔽体質が分かり易く描かれていて面白かったし、また、やるせなかった。でも、最後はホッとした感じも。

 読後それほど間を置かず、NHK土曜ドラマで4回に分けて放映されたものも観ました(演出は「ハゲタカ」('07年)と同じ堀切園健太ディレクター)。同じ土曜ドラマで2010年に放映された同原作者の「鉄の骨」が原作に無い自殺者が出たりする、NHKにしてここまでやるかといった改変ぶりだったのに比べれば、概ね原作通りだったのではないでしょうか。退職前に社内でのドーナッツ販売を企画する浜本優衣の前の不倫相手が、社内政治家的な動きをして営業部長の北川に潰されるという話が完全に抜けていたけれど、俗な話は端折ったのかな(北川の遣り口を象徴する出来事でもあるのだが)。坂戸の八角に対するパワハラも、恒常的なものとしてではなく、会議の場で掴みかかった出来事の一点に集約されていて、この辺りは効率化を図った?

七つの会議1.jpg ドラマでは、原作の最後にある調査委員会の聴取を冒頭に持ってきて、常にそこからの振り返りという形でドラマを展開しているせいもあって、このこと七つの会議2.jpgがかなり全体のトーンを重苦しく暗いものにしている感じがしました。しかし、役者陣は、東山紀之(原島)の周りを、同時期にスタートしたTBS日曜劇場「半沢直樹」には半沢の上司役で出ていた舞台出身の吉田鋼太郎(八角)や、ロッカー出身で今は俳優としての渋い演技ぶりが定着している石橋凌(北川)、「鉄の骨」にも出ていた豊原功補(佐野)らが固め、まずます良かったのではないかと思われます。「半沢直樹」のような派手さはないけれど、こちらの方を評価する人も七つの会議 4.jpgいたみたいです(個人的には「半沢直樹」の方が面白かったが、反面、「半沢」には引っ掛かる部分もあった)。「半沢直樹」は個人に起因する不正融資を描いていますが、こちらは企業ぐるみのリコール隠しなわけで、民放でやってもスポンサーが嫌うかも。その意味ではNHKらしいと言えばNHKらしいドラマ。2つの内部告発が出てきますが、最初のカスタマー室長・佐野の社内での内部告発は、グループ企業内で秘密にされ、原島もその方針に従う―こうなるともう、八角(ハカック)のようなマスコミを使ったやり方しかないのか(「半沢」も同じ手を使っていたが)。
     
七つの会議 吉田鋼太郎.jpg七つの会議1.jpg ドラマを観ると「原島」から始まって「原島」で終わっている印象を受けますが、原作は「原島」から始まって「八角」で終わっている印象があり、個人的にはこの辺りが、原作とドラマから受ける印象の最も大きな違いだったかもしれません。

「七つの会議」●演出:堀切園健太●脚本:宮村優子●原作:池井戸潤「七つの会議」●出演:東山紀之/吉田鋼太郎/田口淳之介/石橋凌/長塚京三/眞島秀和/豊原功補/山崎樹範/戸田菜穂/堀部圭亮/村川絵梨/野間口徹/中村育二/矢島健一/北見敏之/神保悟志/竜雷太/浜野謙太/松尾れい子/甲本雅裕/遊井亮子●放映:2013/07/13~08(全4回)●放送局:NHK

【2016年文庫化[集英社文庫]】

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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「半沢直樹」)

原作もわりと劇画調だが、「倍返し」「土下座」は2作を通して1、2度出てくる程度。

オレたちバブル入行組 単行本.jpg オレたちバブル入行組 文庫.jpg  オレたち花のバブル組 単行本.jpg オレたち花のバブル組 文庫.jpg 半沢直樹 -ディレクターズカット版 dvd.jpg
単行本/『オレたちバブル入行組 (文春文庫)』  単行本/『オレたち花のバブル組 (文春文庫)』「半沢直樹 -ディレクターズカット版- DVD-BOX

オレたちバブル入行組s.jpg バブル期に入行し、大阪西支店の融資課長を勤める半沢直樹は、支店長の浅野の強引な指示で無担保でへの5億円の新規融資を実行したが、7ヵ月後に当の相手企業が不渡りを出し倒産、半沢は支店長から融資の責任を一手に負わされ、窮地に立たされる。雲隠れした倒産会社社長の東田を捕まえることはできるのか、果たして5億円を回収できるのか―。(『オレたちバブル入行組』)

オレたち花のバブル組s.jpg ビデオリサーチ速報値での「最終回」の平均視聴率42.2%、瞬間最高視聴率 46.7%(何れも関東)を記録したTBS日曜劇場「半沢直樹」(関西は平均45.5%、瞬間最高50.4%)の原作で、ドラマの第1部の「西大阪スチール」の話が『オレたちバブル入行組』、第2部の「伊勢島ホテル」の話が『オレたち花のバブル組』に対応していますが、原作もドラマも面白かったように思います。

 ドラマがかなり劇画調に脚色されているかのように思われていますが、原作がそもそも池井戸作品の中ではかなり劇画調な方で、カタルシス効果にウェイトを置いたエンタテインメント企業小説となっています。但し、「倍返し」といった言葉や「土下座」シーンは、2作を通して1、2度出てくる程度で、ドラマではそれが頻繁に繰り返され、気持ちは分かるなあという一方で、土下座させれば全て問題が解決したことになるのかという疑問も覚えました。でも、ドラマの場合、ずっと読み進んで最後にカタルシスを覚える小説とは違って、毎回、1話毎の時間内に山場を作る必要があるため、そうした枠組みの中で「倍返し」などを決め台詞をにした点などは、視聴者心理を掴んで巧みであり、その戦略は見事に功を奏したと言えます。

半沢直樹 黒崎.jpg 原作では主要な登場人物のそれぞれの出自などに踏み込んで描かれていて、但し、ネジ製造工場経営の半沢の父親が自殺したという話は原作にはありません(彼が学生時代に剣道をやっていて今も時々道場に足を運ぶ、という話も)。片岡愛之助(この人、実生活では歌舞伎とは無縁のスクリュー製造工場を営む家庭に生まれ、両親は20代の頃に相次いで他界している)が演じて、そのオネエキャラで話題となった国税庁の黒崎は、原作でもオネエキャラです。但し、本格的に登場するのは、大阪国税局就航中の『オレたちバブル入行組』よりも、金融庁に戻って主任検査官となった『オレたち花のバブル組』に入ってからで、しかもそう頻繁に登場するキャラクターでもなく、人気が出て、ドラマの方での出番が原作より多くなっているようです。

半沢直樹3.jpg半沢直樹 大和田常務.jpg 浅野支店長(石丸幹二)に株取引の失敗で重ねた5千万もの借金があり(原作では3千万円)、大和田常務(香川照之)の妻の会社は1億円以上の借金を抱えているという―2人とも不正を働く動機としては分かり易いけれど、銀行のお偉いさんってこういう人ばかりなのかなあ。バブルの夢よ、もう一度、か。

半沢直樹 吉田鋼太郎.jpg七つの会議 吉田鋼太郎.jpg ドラマとして成功した要因は、「劇画」として割り切って作ったことにあるかと思いますが、そうした中、全体を通して観て振り返ると、後半部分の半沢の直属上司で、半沢の能力・人格を買って常に彼を庇う姿勢を貫く第2営業部長の内藤を演じた吉田鋼太郎が結構渋かったかもしれません。同時期スタートした同原作者のNHK土曜ドラマ「七つの会議」では、反骨精神に富み、最後はj自分の会社の悪事をマスコミに内部告発する"万年係長"という全く異なるタイプのキャラクターを演じていました。

 こうしてドラマで第1部・第2部と観てみると、原作の『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』が良く似た展開であり、リフレイン構造になってることに気付かされます(続けて読むとお腹いっぱい、という感じになってしまう)。シリーズ第3作『ロスジェネの逆襲』('12年/ダイヤモンド社)が楽しみ、と言いつつ、ドラマ化が決まるまでしばらく読まないかも。
半沢直樹1.jpg
2半沢直樹.jpg
「半沢直樹」●演出:福澤克雄●脚本:八津弘幸●原作:池井戸潤「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」●出演:堺雅人/上戸彩/及川光博/片岡愛之助/滝藤賢一/山崎直子/北大路欣也/香川照之/赤井英和/笑福亭鶴瓶/宇梶半沢直樹 片岡愛之助 壇蜜.jpg半沢直樹 壇蜜 宇梶剛士.jpg剛士/宮川一朗太/森田順平/緋田康人/石丸幹二/中島裕翔/壇蜜/福田真夕/松本さやか/モロ師岡/石丸雅理/大谷みつほ/相築あきこ/倍賞美津子●放映:2013/07/07~09(全10回)●放送局:TBS

『オレたちバブル入行組』...【2007年文庫化[文春文庫]】/『オレたち花のバブル組』...【2010年文庫化[文春文庫]】

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「●「直木賞」受賞作」の インデックッスへ 「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「下町ロケット」WOWWOW版・TBS版)

爽快感のある企業小説。特許侵害訴訟と部品納入交渉。「二段ロケット」のように楽しめた。

下町ロケット 2.jpg 下町ロケット.jpg   下町ロケット wowow.jpg 主演:三上博史
下町ロケット』(2010/11 講談社) /「連続ドラマW 下町ロケット [DVD]」WOWWOW

 2011(平成23)年上半期・第145回「直木賞」受賞作。

 かつて研究者としてロケット開発に携わっていた佃航平は、打ち上げ失敗の責任を取って研究者の道を辞し、今は親の仕事を継いで従業員200人の佃製作所を経営していた。そんな彼の元へ、自社の主力製品が大企業の特許を侵害しているという一通の訴状が届き、その相手・ナカシマ工業の法廷戦略により、製作所は存亡の危機に立たされる―。

 下町のとある町工場が、その優れた技術力でもって国産宇宙ロケットに部品を供給する話―とは知っていましたが、実際に読んでみて面白かったし、途中で何度かぐっときて、久しぶりに爽快感のある企業小説を読んだなあと。

 宇宙ロケットへの部品供給が成るかどうか以前に、ナカシマ工業による理不尽な特許侵害訴訟により会社経営そのものが危機に晒される「前半部分」と、大企業の驕りから居丈高な態度で特許の買い取りを迫る帝国重工との間で、部品納入を巡る交渉する「後半部分」とが、共にはらはらドキドキしながら一気に読め、「二段ロケット」のように楽しめました。

 '02年に起きた「三菱ふそうトラック・バス」の大型車のタイヤ(ホイール)脱落事故(三菱リコール隠し事件)に材を得た『空飛ぶタイヤ』('06年/実業之日本社)や、'07年に起きた「名古屋市営地下鉄」延伸工事談合事件に材を得た『鉄の骨』('09年/講談社)など、実際に起きた企業不祥事をモデルにした作品を発表してきた作者ですが、この作品のモデルである製作所は、作品発表以前から報道されていた大田区にある会社以外にも、同様に宇宙ロケットに部品を供給している小さな会社が幾つかあり、作者自身は「特定モデルは無い」としているようです。

 但し、ロケット部品の技術面での記述などは(マニアックにならない程度に)しっかりしているように思え、神谷弁護士のモデルと言われる弁護士の事務所が実際に西新橋にあるなどから、相当に関係者に聞き込み取材をしたのではないでしょうか(銀行からの出向の経理部長の"殿様バッタ"こと殿村の設定は創作か。銀行出身の作者の思い入れがあるにしても、いいキャラだ)。

 『鉄の骨』同様、TVドラマ化されましたが、帝国重工のモデルがすぐに分ってしまうこともあってか、『空飛ぶタイヤ』がドラマ化された時と同様、民放キー局ではなくWOWWOWの連続ドラマW枠での放映でした(出演:三上博史、寺島しのぶ、渡部篤郎 他)。

 直木賞受賞は順当に思われますが、選考委員の中には渡辺淳一氏のように、「私はここまで読みものに堕したものは採らない。直木賞は当然、文学賞であり、そこにそれなりの文学性とともに人間追求の姿勢も欠かすべきではない」といって推さなかった人もいて、個人的には最初から「企業小説」と思って読みましたが、賞を与えるとなると、まあ、いろいろな考え方があるなあと。

 渡辺氏自身、(最近書いているものがどうかというのは置いといて?)「光と影」で直木賞を受賞する前に「死化粧」が芥川賞候補になったという経緯があり、「文学性」に拘りがあるのでしょうか。

 確かに、すぐにドラマ化されたことからも窺えるように、そのまま劇画にでもなりそうな話ですが、やはりエンタテインメントとして優れているならば、そのことは直木賞に選ばれて然るべき大きな要因となるのではないでしょうか(直木賞の選考基準がよく分からないままに言っているのだが)。

下町ロケット wowow0.jpg下町ロケット wowow-wowow.jpg「下町ロケット」(WOWWOW版)●監督:鈴木浩介/水谷俊之●制作:青木泰憲/土橋覚●脚本:前川洋一●音楽:羽岡佳●原作:池井戸潤「下町ロケット」●出演:三上博史/寺島しのぶ/渡部篤郎/池内博之/綾野剛/原田夏希/眞島秀和/松尾諭/美山加恋●放映:2011/08~09(全5回)●放送局:WOWOW

《読書MEMO》
●2015年再ドラマ化 【感想】 全10話の後半は、朝日新聞連載「下町ロケット2ガウディ計画」が原作。主役の阿部寛はまずまずの演技か。新聞連載とドラマの同時進行で最終回の視聴率は22.3%と民放ドラマの年間最高視聴率を記録したから、メディアミックスとしては成功したと言える。但し、2013年に同じくTBSで放送された「半沢直樹」の最終回の42.2%には遥かに及ばない。

下町ロケット2.jpg下町ロケット2_rel_k.jpg「下町ロケット」(TBS版)●演出:福澤克雄/棚澤孝義/田中健太●プロデューサー:伊與田英徳/川嶋龍太郎●脚本:八津弘幸/稲葉一広●音楽:兼松衆/田渕夏海/中村巴奈重●原作:池井戸潤「下町ロケット」「下町ロケット2ガウディ計画」●出演:阿部寛/土屋太鳳/立川談春/安田顕/真矢ミキ/恵俊彰/倍賞美津子/吉川晃司/杉良太郎●放映:2015/10~12(全10回)●放送局:TBS

 【2013年文庫化[小学館文庫]】 

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「●「吉川英治文学新人賞」受賞作」の インデックッスへ 「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「鉄の骨」)

若きゼネコンマンが垣間見た建設談合の世界。まあまあ面白かったが、ドラマは改変が目立った。

鉄の骨    .jpg鉄の骨.jpg 鉄の骨 dvd.jpg NHKドラマ『鉄の骨』.jpg
鉄の骨』(2009/10 講談社) 「NHK土曜ドラマ 鉄の骨 DVD-BOX」2010/07放映(全5回)豊原功輔/小池徹平
NHKドラマ・タイアップカバー版

 2009(平成21)年・第31回「吉川英治文学新人賞」受賞作。

 中堅ゼネコンの現場で働く入社3年目の富島平太は、突然畑違いの業務課への異動を命じられるが、業務課とは主に大口の公共土木事業などの受注に携わる営業部門であり、別名"談合課"と呼ばれる部署。最初は異動に不満だった平太だが、業界のフィクサーと称される人物と知り合ったり、上司たちの優秀な仕事ぶりに接したりするうちに仕事にのめり込んでいく。一方で、常に目の前に立ちはだかる「談合」の実態に愕然とし、会社のために違法行為に加担すべるきか葛藤する―。

 「談合」にターゲットを絞っているせいもありますが、これだけ分かり易いエンタテインメントに仕上げているのはなかなかのものであり、企業小説の新たな書き手が現れたように思いました。

「法令遵守」が日本を滅ぼす.jpg 建設談合については、大学教授で東京地検特捜部の元検事・郷原信郎氏のように、過去における一定の機能的役割を認め、単純な「談合害悪論」がそうした機能を崩壊させようとしているという見方もあります。しかしながら、インフラ整備が未発達だった戦後間もない頃から高度経済成長期にかけてならともかく、今の時代には相応しくないシステムに違いなく(郷原氏も基本的にはそうした考え)、ましてや公共事業となると使われるのは税金だし、それでいて、官僚の関係企業への天下りなど政財官の癒着の原因になっていると思うと、やはり今時「必要悪」論は無いんじゃないかなと思います。でも、理想と現実は異なり、この作品を読むと、肝心の建設会社の当事者達は、そうした議論からは遠い「村社会」に居るのだろうなあと感じます。

鉄の骨2.jpg '10年7月にNHKの「土曜ドラマ」で全5話にわたってドラマ化されましたが、その際に監修協力を求められた郷原氏は、「原作が全くゼネコンの仕事と乖離し、リアリティの無さに議論に値しない」とし、ドラマについても、「談合を個別の企業、個人の意思によって回避できる問題のようにとらえる原作とは異なり、単純に善悪では割り切れない問題ととらえている点は評価できるが、談合構造の背景の話がないので、なぜ談合に同調するのかが一般人には理解できないのではないか」と、twitterでなかなか手厳しい評価をしていました。

鉄の骨3.jpg 原作は人物造形がステレオタイプと言えばステレオタイプで、但し、個人的には文芸的なものは期待せずに単純に「企業小説」として読んだため、山崎豊子クラスとはいかないまでもまあまあ面白く感じられました。ドラマも、同じ「土曜ドラマ」枠で'07年に放映された「ハゲタカ」などに比べるとやや地味ですが、「ハゲタカ」が『ハゲタカ(上・下)』、『バイアウト(ハゲタカⅡ)(上・下)』という2つの原作(単行本4巻!)を全6話の中に"無理矢理"組み入れたものであったのに対し、こちらは原作1冊に準拠しているようなので、一貫性という意味ではスッキリしたものになるのではないかと...。

 ところが実際ドラマを観ていると、人物造形が原作とやや違っているみたいで、平太(小池撤平)の部署の統轄である尾形常務(陣内孝則)が原作ほどの貫禄がないとか細かいことは色々ありますが、何よりも、「西田」という見栄えはぱっとしないが有能な先輩のキャラが、ドラマでは、会社のエース的存在であるカッコいい"遠藤"(豊原功補)と見栄えはイマイチだがコスト計算のスペシャリストである"西田"(カニング竹山)に分かれ、談合組織の仕切役(ボス)の「長岡」のキャラが、剛腕の"和泉"(金田明夫)と真面目で責任感の強い"長岡"(志賀廣太郎)に分かれているなど、「キャラクター分割」がなされている点が異なります。一体何のためにそんな面倒なことをするのか。

鉄の骨4.jpg しかも、殆ど新たに造ったキャラクターに近い志賀廣太郎の"長岡"が、検察の追及と会社の板挟みになって自殺するという原作には無い展開で(原作が直木賞の選評で「人物の描き方が浅い」という理由で落選したのを意識したのか?)、さすがにこれには原作者の池井戸潤氏も、「どんどん原作から離れていきますね。まさにNHK版『鉄の骨』です」と自らのブログで書いていましたが、「このテンションで最終回まで引っ張ってくれないかなあ。そしたら、すごくいいドラマになる予感がします」とのエールも送っています(でも、「ハゲタカ」ほどまでのテンションは上がらなかったような気がする)。

鉄の骨  .jpg NHKのドラマって、民放よりは原作に比較的忠実に作るというイメージがありましたが、最近はそうでもないようです。志賀廣太郎の演技は悪くなかったですが、とにかく劇的な要素を入れてハイテンションで持っていけばいいというものでもないし(この場合"自殺"に至るという重い結果により、システム的な問題よりも個人の苦悩のウェイトが大きくなりすぎたような気がする)、改変しない原作通りのものを観たかった気もします(疑獄事件で関係者の自殺を持ち出すというのは、これもまたある種のステレオタイプではないか)。

鉄の骨 dvd.jpg「鉄の骨」●演出:柳川強/松浦善之助/須崎岳●制作:磯智明●脚本:西岡琢也●音楽:川井憲次●原作:池井戸潤「鉄の骨」●出演:小池徹平/カンニング竹山/豊原功輔/臼田あさ美/松田美由紀/笹野高史/中村敦夫/陣内孝則/北村総一朗/金田明夫/志賀廣太郎●放映:2010/07(全5回)●放送局:NHK
NHK土曜ドラマ 鉄の骨 DVD-BOX

【2011年文庫化[講談社文庫]】

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