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エピローグ的な結末が引っ掛かる。フィクションとして許される範囲を超えているのではないか。

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その女アレックス2.jpg
その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス 7冠.jpg 2014 (平成26) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位、2015(平成27) 年「このミステリーがすごい!」(海外編)第1位、早川書房の「ミステリが読みたい! 2015年版」(海外編)第1位、2014年「IN☆POCKET文庫翻訳ミステリー・ベスト10」第1位、2015(平成27)年・第12回「本屋大賞」(翻訳小説部門)第1位作品。海外では、「リーヴル・ド・ポッシュ読者大賞」(フランス)、「英国推理作家協会インターナショナル・ダガー賞」受賞。最後に決まった「本屋大賞」を含め"7冠"とのことです(国内だけだと5冠)。

 30歳の美女アレックスはある夜、何者かに拉致され、監禁される。アレックスを誘拐した男は、「おまえが死ぬのを見たい」と言って彼女を檻に幽閉する。衰弱したレックスは脱出を図るが...。一方、目撃者がいたことから誘拐事件の捜査に乗り出したパリ警視庁のカミーユ・ヴェルーヴェン警部は、一向に手掛かりが掴めず、いらだちを募らす。そうした中、事件は思わぬ方向に転がりだす―。

alex_.jpg 2011年にピエール・ルメートルが発表したカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第2作(第1作は2006年発表の『悲しみのイレーヌ』)。全三部構成で、ストーリーもそれに沿って大きく二転三転します。個人的には、「二転目」はすぐにその気配を感じましたが、「三転目」は予想と違いました。但し、"衝撃のドンデン返し"といった類のものでもなかったです。
"Alex (The Camille Verhoeven Trilogy)"

 そして、最後にエピローグ的な結末が...。これが一番引っ掛かりました。警察が事件を捏造? フィクションの中では許される設定かもしれませんが、判事や弁護士の壁はどう乗り切るのか。

 と思ったら最後、予審判事に「まぁ、真実、真実と言ったところで......これが真実だとかそうでないとか、いったい誰が明言できるものやら!われわれにとって大事なのは、警部、真実ではなく正義ですよ。そうでしょう?」と言わせていて、件の予審判事、最初は何となくいけ好かない人物だったけれど、最後は自らの意思でカミーユと協調路線をとったのか。

 でも、判事だからなあ。自分たちで勝手に事実を捻じ曲げて裁いちゃっていいのかなあ。「協調」と言うより「共謀」にあたるかも。この段階で、フィクションの中でもそのようなことが許されるかどうか微妙になっているのではないかと思いました。

 アガサ・クリスティの「名探偵ポワロ」シリーズに「厩舎街の殺人」(ハヤカワ・クリスティー文庫『死人の鏡』所収)という短編があって、犯人の女性は恐喝を苦に自殺した友人の恨みを晴らすため、その死を他殺に見せかけ、自殺の原因となった男性に罪を被せるのですが、それを見抜いたポワロは、犯人を男性に対する"殺人未遂"で追及しています(1930年代の英国で人を殺せば大概は死刑だったから、無実の人間に濡れ衣を着せて死刑に追い込む行為は"殺人"であるという理屈)。

 ちょっと厳しいけれど、どちらがスジかと言えばポワロの方がスジであり、死んだ人間の遺志を継いで事実を捻じ曲げようとしているこの物語の警部や判事の方が、その「正義」とやらに無理があるように思いました。

 こうしたこともあって、本来ならば評価は△ですが、カミーユ警部や部下の刑事たちのキャラクター造型がユニークであり、そのことを加味して、ぎりぎりで○にしました。

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青春ハードボイルド・文芸ミステリであると同時に、ビルドゥングスロマンでもある。

『解錠師』.jpg解錠師 ハヤカワ・ポケット・ミステリ.jpg  解錠師 ハヤカワミステリ文庫.jpg 2解錠師 ハヤカワミステリ文庫.jpg  スティーヴ・ハミルトン.jpg Steve Hamilton
解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)』『解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

The Lock Artist.png 2012(平成24) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位。2013 (平成25) 年「このミステリーがすごい!」(海外編)第1位。早川書房の「ミステリが読みたい! 2013年版」(海外編)第2位。

 8歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイクだが、彼には。絵を描くこと、そしてどんな金庫の錠前も解錠することが出来る才能があった。孤独な彼は錠前を友に成長し、やがて高校生となったある日、偶然からプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師になっていくと同時に、犯罪の世界にどっぷり引き摺り込まれていく―。

"Lock Artist"

 IBM本社勤務社員との二足の草鞋を履く作家スティーヴ・ハミルトン(Steve Hamilton)が2009年に発表した長編小説(原題:The Lock Artist)で、物語は、刑務所に服役中の主人公のマイケルの独白という形で始まり、彼の半生が主に二つの時間―ポケベルで呼び出され、全米各地の泥棒たちに金庫破りの技術を提供して過ごす解錠師としての日々と、伯父に引き取られてミシガン州ミルフォードで暮らし始め、若き解錠師になるまでの日々―を行き来しながら進行し、その両方に、マイケルが高校生の時に知り合った恋人のアメリアとの関係が絡んできます。

 誰かがこの作品を"青春ハードボイルド"と呼んでいましたが、まさにそんな感じ。エルモア・レナードやドン・ウィンズロウのようなハードボイルド・タッチでありながら、10代の若者を主人公にした青春小説でもあり、また、マイケルの細やかな心の動きを精緻に描いている点では、文芸小説的でもあります。

 アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀長編賞、英国推理作家協会賞スティール・ダガー賞の英米2冠を受賞した作品で、この作品の前年に同じくエドガー賞を受賞をした、ジョン・ハートの『ラスト・チャイルド』(2010年/ハヤカワ・ポケット・ミステリ)(こちらも英国推理作家協会賞との2冠)なども、少年を主人公として"文芸"っぽい感じだったことを思い出しました。『ラスト・チャイルド』も、「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)で1位に選ばれており(「このミステリーがすごい」は5位)、殆ど純文学と言っていいローリー・リン・ドラモンドの『あなたに不利な証拠として』(2006年/ハヤカワ・ポケット・ミステリ)も、「週刊文春ミステリー ベスト10」「このミステリーがすごい!」の両方で1位。日本にも、こうした"文芸ミステリ"のような作品を好む人が結構いるのだなあと。

 但し、この作品においては、主人公が身の危険に晒される場面が多く登場し、特に後半は凄惨な場面も多く、一歩間違えば命を失う綱渡りの繰り返しになっていってハラハラさせ、一方で、終盤には、彼の口がきけなくなったトラウマの元となった事件について明かされていき、サスペンス感も充分にあります。

 社会の暗部、犯罪の世界にどっぷり染まった絶望的な状況で、自分なりに懸命に生きようともがく主人公の姿が、抑制されたトーンで描かれているだけに、じわーっと胸に迫ってくるものがあり、また、彼の唯一最大の武器である解錠のテクニックがかなり詳細に記されていて、リアリティ溢れるものとなっています。

 犯罪の場面が多く、仲間の裏切りといった局面も出てくる分、主人公のある意味ブレない生き方は爽快でもあり、読後感も悪くありませんでした。
 本作品は全米図書館協会アレックス賞も受賞していて、これはヤングアダルト世代に読ませたい一般書に与えられるものですが、確かに少年の成長物語としても読める点では"ビルドゥングスロマン(教養小説)"的要素もあるかも。

 となると、この作品、青春ハードボイルド・文芸ミステリであると同時にビルドゥングスロマンであるということになるね。

【2011年新書化[ハヤカワ・ポケット・ミステリ]/2013年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】

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「不全家庭」の再生。環境に負けない少年の心意気が健気。ミステリと言うより"文学作品"的。

ラスト・チャイルド ポケミス.jpg ラスト・チャイルド ポケミス2.jpg  ラスト・チャイルド 上.jpg  ラスト・チャイルド 文庫上.jpg ラスト・チャイルド文庫下.jpg 
ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)』『ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ジョン・ハ―ト.jpg 2010 (平成22) 年度「週刊文春ミステリーベスト10」(海外部門)第1位作品であり、早川書房の「ミステリが読みたい! 2011年版」(海外編)でも第1位。

 13歳の少年ジョニーの家庭は、1年前に起きた双子の妹アリッサの誘拐・行方不明事件のために一変し、共に優しかった両親は、父親はやがて謎の失踪を遂げ、母親は薬物に溺れるようになっていた。ジョニーは、妹の無事と家族の再生を願って、昼夜を問わない危険な調査にのめり込んでいくが―。

 ミステリ界の"新帝王"との呼び声も高いジョン・ハート(John Hart、1965-)が2009年に発表した作品(原題:The Last Child)であり、「アメリカ探偵作家クラブ賞」最優秀長篇賞と「英国推理作家協会賞」最優秀賞スリラー賞のW受賞作とのこと。また、「早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品」ということで(何だか"肩書"が長いが)、ハヤカワ・ミステリ文庫とほぼ同時期に、ポケット・ミステリからも刊行されるという早川書房の力の入れようです。

 実際、日本でも、各ミステリ・ランキングで上位に入るなど評判も良かったようで、自分自身も読んでみて感動しました。

 家族が崩壊して「不全家庭」状態になっているにも関わらず、そうした環境に押しつぶされることなく、自らを律し、家族の再生という目的意識を持って、親友と共に妹の行方を探し続ける少年の心意気が健気に感じられました。

 全体としてハードボイルド・タッチな中にも、登場人物の心理描写などにおいて詩的な表現が入り交ざったりして、ミステリと文学作品の中間のようなトーンであり、作者自身が「(テーマとしての)家族崩壊は豊かな文学を生む土壌である」と述べているそうです。

 前半部でジョニーの目の前で殺人事件が起き、被害者が死に際に「あの子を見つけた」というダイイング・メッセージを残したため、妹の生存に希望を抱いた少年は、犯罪歴のある近隣の住人たち(これが分かるというところがアメリカ社会らしい)を日々監視して過ごしますが、ここから物語の展開は遅々として進まず、ミステリとしては、必ずしもテンポはいいものではないように思えました。

 一方、人物描写はよく出来ていて、とりわけ殺人事件の捜査にあたるハント刑事の、少年の妹の誘拐事件を解決出来ていないという悔恨の情を抱え、少年の母親への愛情にも似た思い入れがありながらも、少年の行動を手掛かりに、上司の妨害や嫌がらせにも屈せず事件の核心に迫ろうとする姿勢には、共感を覚えました(自分の事件への深入りを、かつての少年の妹の誘拐事件からくる偏りによるものではないかと自問するなど、ストイック且つ自省的なところもいい)。

 「家族崩壊」は少年の家庭だけのことではなく、ハント刑事も息子とうまくいっておらず、またジョニーと探索行動を共にするジャックも、親兄弟とうまくいっていません。
 途中で発覚した事件(こっちの方がより大事件?)は小児性愛者によるものであるし、ある意味、アメリカの社会や家庭が抱えている問題を扱った"社会派"系でもあるなと、途中から、半分ミステリとして読むことを自分の中で抑えてしまった感もありましたが、読み終えてみて、これらの親子関係は実は事件の伏線でもあったんだなあと。

 但し、"予想通り"通常のミステリにおけるカタルシスが期待出来るような作品ではなく、むしろ、ずっしり重い気分にさせられる話でした(純粋にミステリとして見た場合の評価は★3つかも知れない)。
 そうした中で、悲惨な事実を知ってもそこから立ち直り、"お墓参り"をしたり、親友に"仲直り"の手紙を書いたりするジョニー少年の、あくまでも前向きな姿勢が"救い"であるような、そんな作品でした(少年1人にこれだけのものを負わせちゃっていいのかなあ)。

 【2010年新書化[ハヤカワ・ポケット・ミステリ]/2010年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(上・下)]】 

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英国風ペダンティシズムや気の利いた会話が楽しめるシリーズ中でも佳作と言える作品。

The Way Through the Woods.jpg森を抜ける道 デクスター.jpg 森を抜ける道.jpg            『森を抜ける道』.jpg
森を抜ける道 (ハヤカワ ポケット ミステリ)』['93年] 『森を抜ける道 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』['98年]
"The Way Through the Woods" (1992)

 1993 (平成5) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第2位作品(1994(平成6) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第5位)。

 スウェーデンの美しい娘がオックスフォード近郊で行方不明になったまま1年が経過し、捜査に行き詰った警察本部に、娘の死体が森に埋められていることを暗示するA・オースティンの謎めいた詩が送られてきて、それがタイムズ紙に掲載されたことから、事件に対する様々な見解や推理が新聞社に寄せられる―。

 1992年発表の、コリン・デクスターによる「主任警部モース」シリーズの10作目で(原題は"The Way Through the Woods")、第8作『オックスフォード運河の殺人』('89年)に続いて英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞を受賞した作品であるとともに、『ウッドストック行最終バス』('75年)と『キドリントンから消えた娘』('76年)などの初期作品と並んで、本格推理としてファンの間でも評価が高い作品。

 事件は複雑ですが、モースはかなり早い時期からその真相に迫り、それまでの作品にしばしば見られるような、途中でそれまでの推理を根本的に組み立て直すことを迫られるような事態には陥っていないようで、但し読者としては、シャーロック・ホームズにおけるワトソン的役回りである彼の部下のルイス部長刑事と同じように、彼の推理を"推理"しながら読み進んでいくといったところでしょうか。

 コリン・デクスターは、クロスワードパズル作りのチャンピオンとしとしても鳴らしたそうですが、モースの趣味もクロスワードパズルで(そのことがこの作品では生かされている)、加えてワーグナーの音楽を愛し、読書家でもある―これだけだといかにも英国紳士っぽい雰囲気とペダンティックなムードを漂わせた人物ということになりますが、一方で酒と女性をこよなく愛し、仕事中にビールを飲んでばかりいて、署内ではアル中のように思われているし、美しい女性に出会うと淡い恋心を抱いて妄想を膨らまし、また老人っぽい頑固さや気短さを包み隠さず、時にはそれが子供っぽく見える場合もある、そうした人間臭い点に親近感を覚えます。

The Way Through the Woods Colin Dexter.jpg主任警部モース 森を抜ける道.jpg 本作は、プロットだけではなく、英国風のペダンティシズムや気の利いた会話表現が楽しめるもので、他の殆どの主要作品と同じくテレビドラマ化('95年)もされています。

テレビ版「主任警部モース」(森を抜ける道)

 むしろ英国では、このシリーズはテレビドラマ化されたことで人気が沸騰した模様で(モース役のジョン・ソウ(1942-2002)が役にハマっている)、初期作品5作が'87年から'88年にかけて全てドラマ化され、その時点で元ネタとなる小説が不足したせいか、デクスターはテレビ局の要請により'89年から'93年にかけてドラマ用の脚本としても約20話を書いていて、これは最終的な原作シリーズ本編の数(13作)を上回ることになります。その後、'95年から'99年にかけて、それまで映像化されていなかった「森を抜ける道」「カインの娘たち」「死はわが隣人」「オックスフォード運河の殺人」「悔恨の日」の5作が年1作のペースで順次ドラマ化されてます。

 '89年から'93年にかけてのドラマ用のオリジナルストーリーは、原作者が構成またはその内容を示唆して、実際には複数名のスクリプトライターが脚本化したと思われますが、そうであるにしても'92年発表の本作は、そうした忙しい最中に書かれたものであることを思うと、デクスターの売れっ子ぶりとその力量は推して知るべしといったところでしょうか。
        
 【1998年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】

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130年前の事件の謎解き。状況設定がシンプルな一方で、トリックは巧妙。本格推理として満足。

The Wench Is Dead (Inspector Morse Mysteries).jpg The Wench is Dead.jpg オックスフォード運河の殺 人.jpg オックスフォード運河の殺人.jpg THE WENCH IS DEAD dvd.jpg
"The Wench is Dead (Inspector Morse Mysteries)" (1991)" The Wench is Dead" (1989)『オックスフォード運河の殺人 (ハヤカワ ポケット ミステリ)』 ['91年] 『オックスフォード運河の殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 ['96年] "Inspector Morse Set Eleven: The Wench Is Dead [DVD] [Import]"

 1991(平成3) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第5位作品。

 モースは不摂生が祟り胃潰瘍にため入院生活を余儀なくされるが、たまたま病院で入手した『オックスフォード運河の殺人』という130年前のヴィクトリア朝時代に起きたある殺人事件と裁判に関する郷土史家の研究書を読むことになり、それは、夫に会いに行くためにオックスフォード運河を船旅中のある女性が荒くれ者の船員に殺され運河に投げ込まれたという事件で、裁判により船員2名が絞首刑になっているというものだったが、モースはその記録を読み進むうちに、彼らは無実の罪で処刑されたのではないかと考えるようになる―。

INSPECTOR MORSE:THE WENCH IS DEAD Double Audio Cassette.jpg 1989年発表のコリン・デクスター(Colin Dexter)による、オックスフォード、テムズ・バレイ警察の主任警部モースを主人公とした「主任警部モース」シリーズの第8作(原題:The Wench is Dead)で、2段組ながら200ページとコンパクトですが、一本筋の運河での事件という状況設定がシンプルな一方で、トリックは巧妙で、なかなか密度が濃く、本格推理として満足できる1冊でした。

INSPECTOR MORSE:THE WENCH IS DEAD Double Audio Cassette U.K.

 刑事や探偵がベッドや安楽椅子で文献のみを頼りに過去の事件を解くというパターンには、ジョセフィン・テイ女史の歴史ミステリの傑作『時の娘』('51年/早川書房)があり、一方こちらは史実を扱ったものではなく『オックスフォード運河の殺人』という研究書自体がコリン・デクスターの創作なのですが(原題"The Wench is Dead"はテイを意識したのかも知れないが、研究書のタイトルをストレートに持ってきた邦題の方がいいかも)、本書も傑作と言えるのでは(コリン・デクスターは本書により、英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞を初受賞)。

 『時の娘』の事件の舞台は15世紀で、それに比べると1859年の事件というのは比較的"最近"なのかも知れませんが、それにしても130年も遡って、当時の審判をひっくり返してしまうというのはなかなかのもの。
 同じ英国のアリソン・アトリー女史の『時の旅人』('81年/評論社)は16世紀にトリップするタイムトラベル・ファンタジーでしたが、本書での事件の検証場面にもあるように、英国の家って旧いものがよくもまあいろいろな痕跡を留めているなあと感心しました(130年前の事件の証拠物件を破棄せず、保管しているというのもたいしたもの)。

THE WENCH IS DEAD.bmp アイルランドまで墓を掘り返しに行くなど、やや酔狂が過ぎる気もしないでもないですが、これぞモースの探究心が本領発揮されたものとも言え、ラストのアナグラムは、いかにもクロスワードを得意とするモースらしい(デクスターらしい)ものでした。

 「オックスフォード運河の殺人」はテレビ版も観ましたが(かつてNHK-BS2で放送していたものをAXNで再々放送していた)、モースが過去の事件について推理を巡らせる部分が「時代モノ」のドラマとして再現されていて、その部分の占める比重が大きいため、通常の現代劇としてのミステリ・ドラマとは違った雰囲気に仕上がっており、一風変わった味わいがありました。


INSPECTOR MORSE/THE WENCH IS DEAD.jpg第32話)/オックスフォード運河の殺人.jpg「主任警部モース(第32話)/オックスフォード運河の殺人」●原題:INSPECTOR MORSE: THE WENCH IS DEAD●制作年:1998年●制作国:イギリス●監督:ロバート・ナイツ●脚本:マルコム・ブラッドベリ●原作:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ジェームズ・グラウト/クレア・ホルマン/リサ・アイクホーン/ジュディ・ロー/マシュー・フィニー/ジュリエット・コーワン●日本放映:2001/06 (NHK-BS2)(評価:★★★☆)
Inspector Morse: Wench Is Dead [DVD] [Import]

モース 英ITV.jpg主任警部モース2.jpg「主任警部モース」Inspector Morth (英ITV 1987~2000)○日本での放映チャネル:NHK-BS2(2001)/ミステリチャンネル(2003~2004)
オックスフォード運河の殺人[ハヤカワ・ミステリ文庫].jpg
 【1996年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】 
 
 
 

《読書MEMO》
●モース警部シリーズ(原作発表順)
 ・ウッドストック行最終バス Last Bus To Woodstock
 ・キドリントンから消えた娘 Last Seen Wearing
 ・ニコラス・クインの静かな世界 The Silent World of Nicholas Quinn
 ・死者たちの礼拝 Service of all the Dead (1979年CWA「シルバー・ダガー賞」受賞)
 ・ジェリコ街の女 The Dead of Jericho (1981年CWA「シルバー・ダガー賞」受賞)
 ・謎まで三マイル The Riddle of the Third Mile
 ・別館三号室の男 The Secret of Annexe 3
 ・オックスフォード運河の殺人 The Wench is Dead (1989年CWA「ゴールド・ダガー賞」受賞)
 ・消えた装身具 The Jewel That was Ours
 ・森を抜ける道 The Way Through the Woods(1992年CWA「ゴールド・ダガー賞」受賞)
 ・カインの娘たち The Daughters of Cain
 ・死はわが隣人 Death is Now My Neighbour
 ・悔恨の日 The Remorseful Day

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ケイとマリーノのやりとりがいい。テレビドラマに「BONES」のようなフォロアーを生んだ。

検屍官.jpg 『検屍官 (講談社文庫)』 〔'92年〕 BONES.jpg "BONES"

Postmortem.jpg 1992 (平成4) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位。 

 1990年に発表されたパトリシア・コーンウェルの「検屍官シリーズ」の第1作であり(原題は"Postmortem")、主人公である40歳の女性検屍官ケイ・スカーペッタが、バージニア州リッチモンドで起きた女性連続殺人事件の犯人に迫るというストーリー(但し、シリーズの途中で、ケイの年齢は30代に改変されている)。

 1991年「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」の処女長編賞並びに「英国推理作家協会(CWA)賞」のジョン・クリーシー・ダガー賞(新人賞)を受賞した作品ですが、文庫で500ページを一気に読ませる力量は、その後のシリーズの人気を予感させます。ミステリとしての面白さもさることながら、女性主人公の魅力で引っぱられる感じがしますが、それだけで次作へ次作へと読み進みました。

 捜査に積極的に加わり捜査方針を左右する発言権を持つ検屍長官というのは超エリート、つまり彼女はスーパー・キャリアウーマンといったところでしょうが、彼女の一人称で語られる文章は、その冷静で知的な分析力だけでなく、人間的な感情の起伏をよく表していて、組織内での女性キャリアゆえのストレスや不安から幼い頃から抱えるコンプレックスまですべて吐露されていて、かえって親近感を覚えます。

 個人的には、部長刑事ピート・マリーノとの皮肉やユーモアに富んだやりとりが好きで、マリーノは時にセクハラともとれる言動があるが、実のところケイを大いに助けていて、イタリア系同士ということもあり、やはりこの2人、実は気が合っているということか。

 リッチモンドは当時、アメリカ随一の犯罪都市だったそうですが、地元新聞の警察担当記者として犯罪レポートを書いた著者の経歴が、物語のリアリティを高めていて、さらにこのデビュー作には、検屍局でコンピュータ・プログラマーとして勤務したという著者の経歴がよく生かされていると思いました。

 一方、事件が複雑なわりにはオチがあっさりしている傾向が、この作品も含めこのシリーズにあり、15年間で14作刊行されたのは、よく続いた方と見るべきかもしれません。

「Law & Order:性犯罪特捜班」   「BONES」
LAW & ORDER: 性犯罪特捜班.jpgBones (FOX).jpg テレビドラマなどに明らかにこのシリーズの影響を受けていると思われるフォロアーを多く生み、「Law & Order:性犯罪特捜班」(旧バージョンからスピンアウトして女性が主役になった)や「BONES」(こちらも有能な女性法人類学者が主人公で、殺人捜査班の男性捜査官と組ん仕事をする)、更には「女検死医ジョーダン」なんてパクリが出てきてしまっている今、このシリーズはもう復活はない?と思っていたら、'07年に15作目『異邦人(上・下)』('07年/講談社文庫)が出ました(手元にあるけれど、未読。第11作の『審問』以降、全部上下巻と長いんだよなあ)。

Law & Order:性犯罪特捜班 dvd.jpgLaw & Order:Special Victims Unit.jpg「Law & Order:性犯罪特捜班」Law & Order: Special Victims Unit (NBC 1999/09~2010/05)○日本での放映チャネル:FOX CRIME

BONES3.jpg「BONES」Bones (FOX 2005/09~ ) ○日本での放映チャネル:FOX (2006~2015/09)

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"実務寄り?"のリーガル・サスペンス。興味深い「司法取引」の様。

推定無罪 上.jpg  推定無罪下.jpg     推定無罪 ポスター.jpg Presumed Innocent m.jpg  映画「推定無罪」
推定無罪〈上〉 (文春文庫)』『推定無罪〈下〉 (文春文庫)』〔'91年〕

Presumed Innocent.jpg 1987年「英国推理作家協会(CWA)賞」シルバー・ダガー賞受賞作。1988 (昭和63) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位(同年度「このミステリーがすごい」(海外編)第2位)。

 1987年発表の本作品『推定無罪-プリジュームド・イノセント』(Presumed Innocent)は、もともと連邦検察局の検事補だったスコット・トゥローが在職中に執筆したもので、彼の処女作。

 作家になった後も彼は弁護士として活動していて、死刑廃止論者でもあり、何度か法廷で死刑判決をひっくり返しているヤり手だそうです(同じ弁護士作家のジョン・グリシャムが、作家になるまでは地方で傷害事件訴訟などに主に関与していたのに比べると、法律家としてのキャリアの華々しさはこちらの方が圧倒的に上)。

 女性検事補が自宅で全裸の絞殺死体となって発見され、優秀で堅物の首席検事補として知られていた主人公は、地方検事の命令でこの事件を担当することになるが、実は事件の被害者が、自分の部下で愛人の女性だと知って驚く―。

 疑惑が自分に向けられてくる主人公の"追い詰められ感"がうまく描けていて(検察官だった人間が被告人の立場に追いやられていく訳だから、焦るのは当然だが)、面白く読めました。事件に潜む政治的な背景はともかくとして、何よりも作者が、バリバリの弁護士ということで、並みのリーガル・サスペンスよりずっと"実務寄り"な印象を受けます(自分が実務に使うわけではないけれど)。

 興味深かったのは、「公判前の評議」において「有罪答弁取引」をして公判によらない解決を図るというシステムで、所謂「司法取引」というものがどのように行われるのかが分ります(アメリカにおける刑事事件裁判の9割は司法取引で処理され、純粋に陪審員制度によって判決が下されるのは5%ぐらいだという)。日本の司法制度とか日本人の感覚とは随分違うなあという感じです。

推定無罪04.jpg '90年にシドニー・ポラック製作、アラン・J・パクラ監督で映画化され、検察官を演じたハリソン・フォードは、女性に助けられるちょっと情けない男って感じで、「インディ・ジョーンズ」シリーズからのイメージ・チェンジ作にもなりました。既に「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年/米)や「フランティック」('88年/米)などに出演しており、この作品以降、「逃亡者」('93年/米)などサスペンス物への出演がますます多くなるハリソン・フォードですが、この作品ではラウル・ジュリアほか女優陣の方が元気がいいです。
映画「推定無罪」 ('90年/米)

 司法取引の場面だけはキッチリと描かれていて、そこは気に入りましたが、とは言え原作はかなり長くて専門的な記述も多く、映画にするとどうしても細部は端折らざるを得ない...。ジョン・グリシャムよりは通好みの作風だと思うけれども、映画で見ると、「ああ、これもまた映画的なストーリーなのだなあ」という気がしてしまうのは、その辺りに原因があるのかも。

THE BURDEN OF PROOF 1991  .jpgTHE BURDEN OF PROOF 1991.jpg '91年には『推定無罪』の続編とも言える『立証責任』(The Burden of Proof,1990)がTV映画化(ミニ・シリーズ)されていて(日本でも'93年にビデオ販売された)、『推定無罪』の主人公ラスティ・サビッチの弁護をつとめた弁護士サンディ・スターンが原作でも映画でも前作からのスピンオフの形をとって主人公になっています。シカゴへの2日間の出張からスターンが帰宅すると妻のクララがガレージの車の中で自殺していて、31年間も連れ添った愛妻がなぜ自殺したのか、さっぱり理由がわからないスターンは、妻宛の病院からの請求書を手がかりにクララの死の真相を探り始めるというもの。おそらく原作は面白いのだろうけれど、ドラマは162分の長尺ながらもやや物足りなかったでしょうか。主人公スターンは56歳で、演じたのはヘクター・エリゾンド(「刑事コロンボ(第33話)/ハッサン・サラーの反逆」('75年)の犯人役だった)、共演は「推定無罪」にも出ていたブライアン・デネヒーで、共演者の方が存在感があったかも(ブライアン・デネヒーはこの作品でエミー賞最優秀助演男優賞にノミネートされた)。スコット・トゥローらしい法律の専門知識は生かされているように思いましたが、ややマニアックか。加えてこうした中年期の危機みたいなものを描いた作品となると、やはり映画よりもテレビドラマになってしまうのでしょうか。

推定無罪09.jpg「推定無罪」●原題:PRESUMED INNOCENT●制作年:1990年●制作国:アメリカ●製作:シドニー・ポラック/マーク・ローゼンバーグ●監督:アラン・J・パクラ●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:スコット・トゥロー「推定無罪-プリジュームド・イノセント」●時間:127分●出演:ハリソン・フォード/ラウル・ジュリア/ブライアン・デネヒー/ボニー・ベデリア/グレタ・スカッキ/ジョン・スペンサー/ポール・ウィンフィールド●日本公開:1991/06●配給:ワーナー・ブラザース (評価★★★)

立証責任 1993 tv 映画.jpg「立証責任」●原題:THE BURDEN OF PROOF●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ローブ●製作:ジョン・ペリン・フリン●脚本:ジョン・ゲイ●撮影:キース・ヴァン・オーストラム●音楽:クレイグ・セイファン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作: スコット・トゥロー「立証責任」●時間:162分●出演:ヘクター・エリゾンド/ブライアン・デネヒー/メル・ハリス/エイドリアン・バーボー/ステファニー・パワーズ/アン・ボビー/ヴィクトリア・プリンシパル/ゲイル・ストリックランド/ジェフリー・タンバー/コンチータ・トメイ●VHS日本発売:1993/04●販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ (評価★★★) 「立証責任 [VHS]

 【1991年文庫化・2012年新装改定版[文春文庫(上・下)]】

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