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シリーズでも最も異色作。ゴジラを飛ばせたことで"飛ばされた"(?)監督。

「ゴジラ対ヘドラ」1971p.jpg「ゴジラ対ヘドラ」dvd.jpg 「ゴジラ対ヘドラ」t.jpg
ゴジラ対ヘドラ [60周年記念版] [DVD]

「ゴジラ対ヘドラ」1971f」.jpg 海洋汚染が進む駿河湾。海洋学者・矢野(山内明)の元へ持ち込まれたヘドロの海で採れたオタマジャクシ状の生物は、鉱物で出来ている脅威の生命体だった。その頃、海では船舶事故が相次ぎ、TVカメラには奇怪な海坊主のような怪物の姿が捉えられていたが、矢野の研究によって未知の生物は合体・増殖を繰り返す事が確認され、海の怪物も同種のものと断定された。ヘドラと名付けられた怪物は遂に港から上陸して、工場地帯でスモッグを吸収していった―。

「ゴジラ対ヘドラ」ヘドラ1.jpg 1971(昭和46)年公開の「ゴジラシリーズ」第11作で、企画・監督の坂野義光(1931-2017/86歳没)にとっては監督昇進後の第1回作品。美術は特技監督・円谷英二(1901-1970/68歳没)の黄金期時代の作品の全てのミニチュアセットに関わった井上泰幸(1922-2012/90歳没)で(この作品は今月['22年8月]神保町シアターの「生誕百年祭」で観直した。井上泰幸が生誕百年に該当)、だだし、円谷英二はこの作品の前年に亡くなっており、円谷の没後に初めて作られたゴジラ映画です。そのため、シリーズの新たなスタートとなった作品とされる一方、独特の作風によりシリーズでも最も異色の作品ともされています。

「ゴジラ対ヘドラ」飛ぶ.jpg ヘドラに立ち向かうのが我らがヒーロー・ゴジラですが(ただしゴジラ側から見れば人間も"害悪"の類か)、そのゴジラが空を飛行するシーンは賛否両論となりました。坂野義光監督が田中友幸プロデューサーに許可を得る段階で田中友幸は撮影途中に体調不良で入院しており、当時、東宝の専務・馬場和夫に全権委任され、馬場の判断によってアイデアの採用が決まったとのことです。しかし、完成作品を見た田中は「性格を変えてもらっちゃ困るんだよな」と難色を示し、次回作も板野が監督する予定だったのが、「もう彼には二度と特撮映画は撮らせない」と言って白紙となったそうです。

「ゴジラ対ヘドラ」へどら.jpg 個人的には、ヘドラが水棲期・上陸期・飛行期と3態ほど変態することから、「ゴジラシリーズ」第29作「シン・ゴジラ」('16年)におけるゴジラが1個体で同じく水棲期・上陸期...といったように4段階もの変態をするのを思い出しましたが、「シン・ゴジラ」の方はゴジラそのものを変態させてしまっているので、田中友幸は草葉の陰で「シン・ゴジラ」に対して「変えてもらっちゃ困るんだよな」とさらに強い口調で言っているのではないでしょうか。

「ゴジラ対ヘドラ」芝1.jpg「ゴジラ対ヘドラ」柴.jpg 主演の矢野博士役を務めた劇団民藝所属の山内明ら以外は出演料の少ない新人を中心に起用するなどし(柴本俊夫、後の柴俊夫などもその一人)、低予算ながらいろいろ工夫し頑張って作っているという感じがするこの作品ですが、公開当時は酷評されました。それが、時代経過と共に風刺アニメやマルチスクリーンを駆使した映像表現などが注目され、反公害映画の社会風刺映画として評価が高まってきたようです。また、美術面においても、本作品のファンである映画評論家・コラムニストの町山智浩氏も指摘するように、ルイス・ブニュエルやジャン=リュック・ゴダールなどヨーロッパの映画作家たちのアバンギャルド作品の影響がみられ、カルト的な人気のある作品となっています。

 坂野義光はこの作品を最後に劇映画監督から手を引き(ゴジラを飛ばせたことで"飛ばされた"?)、得意の水中撮影を生かし(スキューバダイビングの免許保有者で、この作品での海洋学者・矢野の海中シーンは坂野の吹き替えである)、「すばらしい世界旅行」などのテレビのドキュメンタリー映像に関わり、さらに、プロデューサー業に転身するなどします。一方で、'17(平成29)年、福島第一原子力発電所事故をテーマとした映画「新ヘドラ」(仮称)のシナリオをまとめており、映画化をめざしていることを東京新聞の取材で明らかにしていましたが、同年5月7日、クモ膜下出血で死去し(86歳没)、残念ながら構想は実現することはありませんでした。

「ゴジラ対ヘドラ」7.jpg「ゴジラ対ヘドラ」3.jpg 麻里圭子の歌うテーマ曲「かえせ! 太陽を」(作詞:坂野義光/作曲:眞鍋理一郎)の「水銀 コバルト カドミュウム」で始まる歌詞に象徴されるように、メッセージ性の強い作品ですが、同時に70年代を感じる作品です。また、ヘドラに襲われた人たちが続々と白骨化する場面があるなど、被害者の屍を映している点で特徴的であり、これにより暗いイメージが強い作品となっています。

 個人的には、ヘドラが煙突の煙を吸って恍惚としているシーンが何だか妙に迫力があり印象的でしたが、着ぐるみの内部にホースを入れて掃除機でスモークを吸わせたため、着ぐるみの中が黒煙だらけになり、スーツアクターが窒息しかけたとか、ウィキペディア「ヘドラ」の項を見ると、裏話に事欠かない作品のようです。

「ゴジラvsヘドラ」.jpg 公開50周年を記念した'21年11月3日開催の「ゴジラ・フェス 2021」にて新作特撮「ゴジラVSヘドラ」が公開され、YouTubeにおいても期間限定で公開されました(かつての"迷作"、今や"名作"扱い?)。

「ゴジラVSヘドラ」

「ゴジラ対ヘドラ」●制作年:1971年●監督:坂野義光●製作:田中友幸●脚本:馬淵薫/坂野義光●撮影:真野田陽一●音楽:眞鍋理一郎(主題歌:「かえせ! 太陽を」麻里圭子withハニー・ナイツ&ムーンドロップス)●特殊技術:中野昭慶●時間:85分●出演:山内明/柴本俊夫/川瀬裕之/麻里圭子/木村俊恵●公開:1971/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):神保町シアター(22-08-18)(評価:★★★☆)

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懐かしさより、これってあの「ウルトラマン」なの? という思いの方が強かった。

シン・ウルトラマン_poster04 - コピー.jpg シン・ウルトラマン 02.jpg シン・ウルトラマン 03.jpg
「シン・ウルトラマン」メフィラス星人&ウルトラマン  西島秀俊/長澤まさみ/斎藤工/有岡大貴/早見あかり

「シン・ウルトラマン」p.jpg 次々と巨大不明生物【禍威獣(カイジュウ)】が現れ、その存在が日常となった日本。通常兵器は全く役に立たず、限界を迎える日本政府は、禍威獣対策のスペシャリストを集結し、【禍威獣特設対策室専従班】通称【禍特対(カトクタイ)】を設立。班長・田村君男(西島秀俊)、作戦立案担当官・神永新二(斎藤工)、非粒子物理学者・滝明久(有岡大貴)、汎用生物学者・船縁由美(早見あかり)が選ばれ、任務に当たっていた。禍威獣の危機が迫る中、大気圏外から突如現れた銀色の巨人。禍特対には、巨人対策のために分析官・浅見弘子(長澤まさみ)が新たに配属され、神永とバディを組むことに―。

「シン・ウルトラマン」1・2・3.jpg 企画・脚本の庵野秀明、監督の樋口真嗣など「シン・ゴジラ」('16年/東宝)の製作陣による第2弾。高く評価する声がある一方で、若い人の間では、TVの「ウルトラマン」を観ていた人たち向けで、「そういう年齢層の人は懐かしさで100点だろうけど、純粋にストーリーとしてはどうか」との声もあったようです(一緒に観に行った息子には感想を聞かなかったが)。

 ただ、TVの「ウルトラマン」を観ていた世代の一人としては、ウルトラマンの復活を喜び、懐かしさを感じると言うよりは、これってあの「ウルトラマン」なの? という思いの方が個人的には強かったです。

「シン・ウルトラマン」4.jpg 最初の方で、巨大不明生物としてゴメスマンモスフラワーぺギラなど「ウルトラQ」の怪獣・怪生物が出てきたのは確かにちょっと懐かしかったけれど、それらをわざわざ【禍威獣(カイジュウ)】と呼ぶ必要があるのかなあ。フツーに怪獣でいいのではないでしょうか。科学特捜隊隊まで【禍特対(カトクタイ)】に改変されてしまって、しかもユニフォームではなくスーツ勤務。学者中心のメンバー構成で、皆パソコンに向かってばかりいるので、スーツなのか。神永がウルトラマンだとすぐにばれてしまうのは、一話完結だから仕方がないのでしょう。

「シン・ウルトラマン」y2.jpg「シン・ウルトラマン」y3.jpg 話が散漫にならないように、「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」('66年7月24日放映)のストーリーを主軸に据えているのはいいとして、メフィラス星人の人間の姿を演じる山本耕史が(オリジナ「メフィラス星人.jpgルでは、メフィラス星人は人間サイズの時もメフィラス星人の姿)、ビジネスマンさながらに名刺を出したり、ウルトラマン=神永を演じる斎藤工と二人、居酒屋でサラリーマン同士の商談かアフターファイブみたいに酒を酌み交わしたり、ドラマか昔の映画の1シーンのようブランコで並んで語り合っていたりするのは、パロディか、はたまた何かの間違いかとずっこけました(オリジナルのメフィラス星人も、知能指数1万の割には、子どもを騙すことで地球制覇を目論むという"怪しいおっさん"キャラではあるのだが)。

 浅見弘子を演じる長澤まさみが、気合いを入れるごとに自分の尻を叩く、ハイヒールを履く際にドアップになる、スカートを履いたまま横たわるなど、しばしばフェティシズム的な視点から撮られているのも、今の時代、こんなので大丈夫なのかなと思いました。極めつけは、斎藤工が長澤まさみの匂いを執拗に嗅ぐシーンで、(斎藤工のイメージには合っているのかもしれないが)こんなセクハラをやったら、ウルトラマンのイメージが崩壊します。

「ウルトラマン」f3.jpg「シン・ウルトラマン」n3.jpg 長澤まさみが演じる浅見弘子が巨大化するのは、「禁じられた言葉」で桜井浩子が演じたフジ・アキコ隊員がメフィラス星人により巨大化させられたことへのオマージュですが、このストーリーの流れだけ見ていると、彼女がどうしてそんな目に遭うのか分からないのではないかなあ。自分が観た時は、上映後に「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」が上映されたので分かるようになっていましたが、この併映は期間限定のようです。この併映も加味して評価しても、星3つくらいでしょうか(これでも、同じ映画館で観た「トップガン マーヴェリック」('22年/米)よりはいい評価なのだが)。この作品への違和感を通して、自分なりに「ウルトラマン」への思い入れ(?)があることを図らずも再認識させられることになりました。

「シン・ウルトラマン」6.jpg「シン・ウルトラマン」●制作年:2022年●監督:樋口真嗣●脚本:庵野秀明●製作:和田倉和利/青木竹彦/西野智也/川島正規●撮影:市川修/鈴木啓造●音楽:宮内國郎/鷺巣詩郎(主題歌:米津玄師「M八七」)●時間:113分●出演:斎藤工/長toho上野 ウルトラマン・トップガン.jpg澤ま「シン・ウルトラマン」5.jpgさみ/有岡大貴/早見あかり/田中哲司/西島秀俊/山本耕史/岩松了/嶋田久作/益岡徹/長塚圭史/山崎一/和田聰宏/(声の出演)高橋一生/ 山寺宏一/津田健次郎●公開:2022/05●配給:東宝●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン5)(22-07-12)(評価:★★★)

DVD ウルトラマン VOL.9
「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」10.jpg「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」03.jpg「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」 196702.jpg「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」●制作年:1967年●監督:鈴木俊継●脚本:金城哲夫●特殊技術:高野宏一●音楽:宮内国郎●時間:30分●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/津沢彰秀/(ゲスト出演)伊藤久哉/川田勝明/中島春雄/岩本弘司/(声)加藤精三(ノンクレジット)/(スーツアクター)古谷敏/扇幸二/中島春雄/渡辺白洋児(ナレーター)石坂浩二●放送局:TBS●放送日:1967/02/26(評価:★★★☆)●放送局:TBS(評価:★★★☆)

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演出方法は濱口竜介作品に、メタ・ファミリーのモチーフは自身の後の作品に通じる。

「誰も知らない」2005.jpg「誰も知らない」00.jpg 「誰も知らない」6.jpg
誰も知らない [DVD]」柳楽優弥

「誰も知らない」4.jpg トラックからアパートに荷物が運び込まれてゆく。引っ越してきたのは母けい子(YOU)と明(柳楽優弥)、京子(北浦愛)、茂(木村飛影)、ゆき(清水萌々子)の4人の子供たち。だが、大家には父親が海外赴任中のため母と長男だけの二人暮らしだと嘘をついている。母子家庭で4人も子供がいると知られれば、またこの家も追い出されかねないからだ。その夜の食卓で母は子供たちに「大きな声で騒がない」「ベランダや外に出ない」という新しい家でのルールを言い聞かせた。子供たちの父親はみな別々で、学校に通ったこともない。それでも母がデパートで働き、12歳の明が母親代わりに家事をすることで、家族5人は彼らなりに幸せな毎日を過ごしていた。そんなある日、母は明に「今、好きな人がいるの」と告げる。今度こそ結婚することになれば、もっと大きな家にみんな一緒に住んで、学校にも行けるようになるから、と。ある晩遅くに酔って帰ってきた母は、突然それぞれの父親の話を始める。楽しそうな母親の様子に、寝ているところを起こされた子供たちも自然と顔がほころんでゆく。だが翌朝になると母の姿は消えていて、代わりに20万円の現金と「お母さんはしばらく留守にします。京子、茂、ゆきをよろしくね」と明に宛てたメモが残されていた。この日から、誰にも知られることのない4人の子供たちだけの"漂流生活"が始まった―。

「誰も知らない」カンヌ.jpg 2004年に公開された是枝裕和監督作で、1988年に発生した巣鴨子供置き去り事件を題材として、是枝裕和監督が15年の構想の末に映像化した作品とのこと。主演の柳楽優弥が2004年度の第57回「カンヌ国際映画祭」にて史上最年少および日本人として初めての最優秀主演男優賞を獲得したことで話題を呼びました。

 子役には台本を渡さず撮影されたそうで、是枝監督は「オーディションで選んだ4人の子供たちが、それまで演技経験のない子たちで、一度台本を渡してリハをやってみたら、下手だったんですよ。すごく。これはまずいなと思って。で違う形でできないかなと思って台本渡すのをやめました。その場で僕が『お兄ちゃんがこう言うから、こう言ってごらん』みたいな、口伝えでやってみたんです。そしたら子供たちが面白がったんですよ。それも、正確にではなくて、曖昧に伝えていく。できれば感じだけ伝えて、それが普段彼らが使っている言葉として出てくるのがベストだなと思って」とのこと。柳楽優弥のカンヌでの最優秀主演男優賞受賞は、この是枝監督の演出方法の成果とみていいのではないえdしょうか。

「誰も知らない」YOU.jpg 母親の福島けい子役に芝居・演技経験の少ないYOUが選ばれているのも意図的でしょう。是枝監督がある日バラエティ番組に出演していたYOUを見て「いかにも育児放棄しそうなキャラクター」と思い、白羽の矢が立ったそうですが、YOU自身も台本が嫌いで、バラエティ番組でも台本を読まずに現場へ入るらしく、こうした「いかにも演技らしい演技はしない」スタイルは、是枝監督と相性が良かったのでしょう(演技経験のない4人を主役に据え、第68回「ロカルノ国際映画祭」で「最優秀女優賞」を受賞した濱口竜介監督の「ハッピーアワー」('15年)の演出方法に通じるものを感じる)。

「誰も知らない」しだ.jpg モデルになった事件の実際は、映画の内容よりずっと陰惨なものだったようですが、映画では柳楽優弥が演じる長男を逆境の中できょうだいの面倒を見るヒーロー的なポジションに据えて、そこに救いを見出そうとしているように思えます。ただ、そこには限界もあり、アパート部屋も少しづつ荒れてきて、長男もだんだん怒りっぽくなる、そうした変化が記録映画のようにリアリティをもって描かれているように思いました(主演の柳楽は撮影時期、成長期であり、撮影した1年で身長が146cmから163cmまで伸び、声変わりをしている。演じた役名の「明」は柳楽が考えた名である)。

「誰も知らない」きた.jpg 周囲の大人たちは子供たちのことを気にかけながらも結局何もせず(子供たちには〈演技〉をさせず、一方で、平泉成、木村祐一、遠藤憲一、寺島進といった〈演技達者〉が脇を固めているのもこの作品の特徴か)、彼らに寄り添ってきたのは、韓英恵が演じる心に傷を抱える不登校の中学生・紗希であったことにも説得力を感じました。偶然知り合ったきょうだいの現状を目の当たりにした紗希は、微力ながらも彼らを助けるようになりますが、そこにはある種メタ・ファミリー的な構図が見えてとれ、後の是枝監督が「カンヌ国際映画祭」で「パルム・ドール」を受賞した「万引き家族」('18年)に通じるものを感じました

「誰も知らない」2004.jpg「誰も知らない」5.jpg「誰も知らない」●制作年:2004年●監督・脚本:是枝裕和●撮影:山崎裕●音楽:ゴンチチ●時間:141分●出演:柳楽優弥/YOU/北浦愛/清水萌々子/木村飛影/韓英恵/加瀬亮/平泉成/串田和美/岡元夕紀子/タテタカコ/木村祐一/遠藤憲一/寺島進●公開:2004/08(カンヌ2004/05)●配給:シネカノン(評価:★★★★☆)

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最後は映画と言うよりミュージック・ビデオみたいな感じの「ジャズ大名」。

「ジャズ大名」1986.jpg 「ジャズ大名」02.jpg     「犬死にせしもの」1986.jpg
ジャズ大名 [DVD]」古谷一行/財津一郎/殿山泰司   「犬死にせしもの [DVD]」真田広之/佐藤浩市/安田成美

「ジャズ大名」1.jpg 南北戦争が終り、解放された黒人奴隷のジョー(ロナルド・ネルソン)は、弟サム、従兄ルイ、叔父ボブの3人に再会した。彼らはニューオリンズから船に乗り故郷アフリカへ帰るはずが、メキシコ商人に騙されて香港行きの船に乗せられる。ある日、病気で死んだボムを残し、大嵐の中ボートで脱出を図った3人は駿河湾の庵原藩に助けられる。海郷亮勝(古谷一行)が藩主の庵原藩は、薩摩藩と幕府の中間に位置しているため、家老の石出九郎左衛門(財津一郎)は薩摩「ジャズ大名」ざい.jpgか幕府のどちらにつくべきか悩んでいる。しかし亮勝はどこかうわの空。そんな時、黒人3人が流れ着いたとの一報が入る。亮勝は興味津々で彼らに会いたいと言うが、それを許そうとしない九郎左衛門は、医者の玄斎(殿山泰司)に作らせた眠り薬を使い、彼らを地下牢に閉じ込める。下手な篳篥を演奏するのが趣味の亮勝は、彼らは楽隊ではないかと玄斎から伝え聞き、何とか彼らと会うよう画策する。そして、念願を果たすや、音楽好きの亮勝は彼らの演奏するジャズの虜となり―。
岡本真実/財津一郎

エロチック街道』['81年]『エロチック街道 (新潮文庫)』['84年]『ジャズ大名 (新潮文庫)』
『エロチック街道』1.jpg『エロチック街道』2.jpg『ジャズ大名」1.jpg『ジャズ大名」2.jpg 岡本喜八監督の1986(昭和61)年公開作で、原作は筒井康隆の短編集『エロチック街道』('81年/新潮社)の1篇(文庫化後、映画化の際に書名が『ジャズ大名』に改められて表題作となった)。製作会社は大映、配給会社は松竹で、同年キネマ旬報ベストテンで10位となり、映画化困難といわれる筒井原作の映画では初のランクインとなっています。

「ジャズ大名」ろうか.jpg 藩主役の古谷一行と家老役の財津一郎のやり取りが楽しい。原作にある庵原藩の屋敷の特異な形状もしっかり再現されており、百畳敷以上の大広間(これが街道上に位置するため、伊勢参りや敗れた幕府軍、追う官軍などが行き来することになる)のセットは東宝スタジオに建てられ、音楽監督とプロデューサーを除くメ「ジャズ大名」00.jpgインスタッフ全員が東宝から起用されたとのことです。

 終盤は、藩主以下一同数十名(数百名?)は地下室で大ジャムセッション。三味線・琵琶・和太鼓・尺八・桶・ソロバンなどで即興演奏を繰り広げ、気がついたら地上では明治維新になっていた―。原作のシュールな展開が活かされており、維新なって行進する官軍の「トンヤレ節」を鼻で笑い飛ばしてジャムセッションを再開するラスト「ジャズ大名」3.jpgに、戦争なんて馬鹿らしいというメッセージが込められていたように思います。

 狂乱の大演奏がラスト2、30分続きますが、一応、原作も果てしなく演奏が続くという設定などでこれも"原作通り"。唐十郎が薩摩藩士役で出演しているほか、ジャムセッションでは山下洋輔はおもちゃのピアノを弾きまくり、タモリはラーメンの屋台を引きチャルメラを吹くという、最後は映画と言うより、ちょっと変わったミュージック・ビデオみたいな感じでした(併映は次に挙げる「犬時にせしもの」)。

真田広之/佐藤浩市 in「犬死にせしもの」
「犬死にせしもの」1.jpg 昭和23年。ビルマ戦線から復員した重左こと宗重左衛門(真田広之)は、戦友の鬼庄こと鬼松庄一(佐藤浩市)と遊郭で再会し、仲間の伝次郎(堀弘一)と共に海賊して瀬戸内海を股にかけていた。ある日、三人が襲撃した船に洋子(安田成美)という名の少女が乗っており、鬼庄は彼女を色街に売って金を得ようとしていた。しかし重左は影のある彼女に惹かれ、鬼庄の計画を思いとどまらせることに成功する。洋子の嫁ぎ先は瀬戸内海を牛耳る新興やくざ・花万に捜索を依頼。そして、花万の番頭・火つけ柴(蟹江敬三)が五貫島に現われ、3日後に洋子を渡すように要求してきた。大分・竹田津の実家まで送り届けると洋子に約束した重左は、高松の元やくざ・阿波政(西村晃)に助けを求めに行くが、その間洋子は火つけ紫に連れ去られてしまう。闇ブローカーの岩テコ(平田満)から火つけ紫の妾の居場所を聞いた重左たちは、その女・千佳(今井美樹)を攫って人質交換を目論み、小型船の梵天丸で西枯木島にある火つけ紫の本拠地に乗り込むが―。

「犬死にせしもの」d.jpg 井筒和幸監督作で、荒れ狂う海の上での真田広之佐藤浩市の活躍が観られます(この二人のW主演はある種"貴重映像"かも。「道頓堀川」('82年/松竹)でも共演はしていたが、W主演ではなかった)。ただ、二人とも復員者には見えないのが難ですが。加えて、洋子役の安田成美がヒロインなのは分かりますが、色街に売られそうになりながらもどこかお嬢さんっぽい安田成美の役どころと、火つけ柴の妾・千佳役の新人・今井美樹との扱われ方の差があまりに大きいのがどうかなという感じでした。

「ホンダ・トゥデイ」.jpg「ホンダトぅディ」.jpg 今井美樹が唯一ヌードになった映画がこの作品とのことです。ホンダ・トゥデイのCM('85年)に出ていた彼女。個人的には、新車発表会で"ナマ今井美樹"見たこともあり思い入れがあったのですが、その彼女をこうした使い方をして大丈夫なのかなあと、当時思ったりもしました(でも、無事、NWEトゥデイのCM('88年)にも出ていたが)。

井筒和幸.jpg 井筒和幸監督自身はどう振り返っているのかと思ったら、「日刊ゲンダイDIGITAL」の連載コラム(2020年9月26日配信)に《新人の今井美樹嬢を丸裸にさせたり、船上で尻をまくって海にオシッコさせたり、キスを何十回と連続でテークしたりした。彼女は耐えに耐えて夢中で演じた。熱い時代だった。今はキスも嫌う女優もどきがいる。ご清潔なものだ》と書いていて、この発言が今年['22年]になってツイッター民により引用・拡散されたことで物議を醸しているようです。

井筒和幸監督

 映画撮影現場でのセクハラ、パワハラが問題視されている昨今の状況からすると「熱い時代だった」では済まされないように思いますが、2020年の時点でこうした発言をしていることを考えると、井筒和幸監督はまだ昭和の感覚をまだ引き摺っているのではないでしょうか。本人は今月['22年7月]、わき起こった映画界の性加害報道を受けて、「役者に配慮するのは今まで通りだろうし。なのに、監督がセクハラするなんて、それこそこの世の終わり」と発言していますが、何かコメンテーター調だけど、自分のことではないか(?)と思ってしまいます(実際この人は報道番組のコメンテーターをしており、その映画観だけでなく、政治・歴史的主張も含めさまざまな発言をしていて、個人的にはそれらを全否定するわけではないが、この件に関しては都合よく逃げている印象)。


ジャズ大名 [DVD]
「ジャズ大名」0.gif「ジャズ大名」ps.jpg「ジャズ大名」●制作年:1986年●監督:岡本喜八●脚本:岡本喜八/石堂淑朗●製作:室岡信明●撮影:加藤雄大●音楽:筒井康隆/山下洋輔●原作:筒井康隆●時間:85分●出演:古谷一行/財津一郎/神崎愛/岡本真実 /殿山泰司/本田博太郎/今福将雄/小川真司/利重剛/ミッキー・カーチス/唐十郎 (友情出演)/ロナルド・ネルソン/ファーレズ・ウィテッド/レニー・マーシュ/ジョージ「ジャズ大名」「犬死にせしもの」.jpg・スミス/六平直政/山下洋輔(特別出演)/タモリ(特別出演)●公開:1986/04●配給:松竹(評価:★★★☆)●最初に観た場所:渋谷松竹(86-05-04)(評価:★★★☆)●併映:「犬死にせしもの」(井筒和幸)

「犬死にせしもの」k.jpg「犬死にせしもの」●制作年:1986年●監督:井筒和幸●脚本:井筒和幸/西岡琢也●撮影:藤井秀男●音楽:武川雅寛●原作:西村望「犬死にせしものの墓碑名」●時間:92 分●出演:真田広之/佐藤浩市/安田成美/平田満/堀弘一/今井美樹/吉行和子/蟹江敬三/木之元亮/中村玉緒/西村晃●公開:1986/04●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷松竹(86-05-04)(評価:★☆)●併映:「ジャズ大名」(岡本喜八)
蟹江敬三/真田広之

渋谷松竹1.jpg渋谷松竹sibuyatoei1.jpg渋谷東映・松竹・全線座shibuya.jpg渋谷松竹 1938年、前身の松竹系「東京映画劇場」オープン。1990(平成2)年9月16日、隣接の「渋谷東映」と共に開館 (1985年道玄坂「ザ・プライム」6Fにオープンしていた渋谷松竹セントラル(2003年~「渋谷ピカデリー」)が後継館となる(2009(平成21)年1月30日「渋谷ピカデリー」閉館))(⑦渋谷東映/⑨渋谷松竹/⑬全線座(1977年閉館))

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シリーズでいちばん凝った「道行」。なぜシリーズ後半の作品に"一押し作品"が多いのか。

「昭和残侠伝 死んで貰います」ap.jpg「昭和残侠伝 死んで貰います」dnd.jpg「昭和残侠伝 死んで貰います」0.jpg 「昭和残侠伝 死んで貰います」00.jpg
昭和残侠伝 死んで貰います」[Prime Video]/「昭和残侠伝 死んで貰います [DVD]」高倉健/池部良/藤純子
    
「昭和残侠伝 死んで貰います」11.jpg 花田秀次郎(高倉健)は東京深川の老舗料亭「喜楽」に生まれたが、父・清吉(加藤嘉)が後妻を迎えたときに家を出て、そのまま裏街道を歩き始めた。賭場で袋だたきにあった秀次郎は、銀杏の木の下でうずくまっているところを、芸者になったばかりの幾江(藤純子)に救われた。3年後、いかさま師を怪我させた秀次郎は逮捕され、刑に服することに。だが服役中に父が死去、関東大震災が起こり義理の妹も死亡、継母のお秀(荒木道子)は盲目となってしまう。窮地に立たされた「喜楽」を救ったのは、板前の風間重吉(池部良)と小父の寺田(中村「昭和残侠伝 死んで貰います」2.jpg竹弥)だった。昭和2年、出所した秀次郎は偽名で板前として働くこととなり、その姿を寺田は涙の出る思いで見守っていた。一方幾江は売れっ妓芸者となって秀次郎の帰りを待っていて、重吉と寺田の計いで二人は7年ぶりに再会する。そんな頃、寺田一家のシマを横取りしようとことあるごとに目を光らせていた新興博徒の駒井(諸角啓二郎)が、「喜楽」を乗っとろうとしていた。秀次郎の義弟・武史(松原光二)は相場に手を染め、むざむざと「喜楽」の権利書を取り上げられてしまう。それを買い戻す交渉に出かけた寺田が、帰り道で襲撃され殺される―。

「昭和残侠伝 死んで貰います」3.jpg 1970(昭和45)年9月公開のマキノ雅弘監督の「昭和残侠伝」シリーズの第7作品主演は高倉健、共演は池部良、藤純子。高倉健が演じるのは唐獅子牡丹の刺青を背中に仁侠道に生きる昭和初期の渡世人・花田秀次郎で、1965(昭和40)年から1972(昭和47)年までのシリーズ9作のうち7作がこの役名であり、東映やくざ映画全盛時代の最大のヒーローといってもいいかと思います。

「昭和残侠伝 死んで貰います」4.jpg 義理と人情のしがらみに苦悩し、堪えに堪えた新興やくざへの怒りをついには爆発させる―というのがほぼすべてに共通のパターン。ここでも最後、それまで駒井の執拗な挑発に耐えてきた秀次郎でしたが、かけがえのない恩人の死に遂に怒りを爆発させ、重吉と共に駒井の元に殴りこみます(幾江は行かないでとは言わず、死なないでと言う)。

「昭和残侠伝 死んで貰います」m2.jpg ホントは、秀次郎は重吉に、堅気のあんたが行ってはいけない、俺一人で行くと言っていたのですが、結局、死地へ向かおうとする秀次郎の前に重吉が現れ、その流れで「道行」の図となります。この「道行き」を二人が共にするのもシリーズのパターンですが、シリーズ作でいちばん出会いのシチュエーションが凝っているのがこの第7作の「昭和残侠伝 死んで貰います」であるとも言われています。

 秀次郎が暗い夜道を長ドスを携えて歩いて行く途中、街角に重吉が待っており、秀次郎の前に立って懐から短刀を取り出して、「見ておくんなせえ! 恩返しの花道なんですよ」と言って、封印をされていた短刀の封を握った右手親指で切ります。短刀を見つめていた秀次郎は、目だけを上に上げて無言で重吉を見つめると、重吉は「ご一緒、願います」と。そして二人が並んで歩いて行くところに主題歌「唐獅子牡丹」が被さってきます。

 池部良もシリーズ全9作に出演していますが、9作で高倉健(花田秀次郎)・池部良(風間重吉)の二人ともが生還するのは1作のみ。ほとんどが池部良の役の方が命を落とし(風間重吉は何回死ぬのか(笑))、この作品も例外ではなく、必ずしもハッピーエンドとは言えないものとなっています。これは池部良が当時俳優協会の理事をしており、ヤクザ賛美には賛同しかねるゆえの最低ラインを守るための条件だったそうですが、ここでも池部良は志半ばで後を高倉健に託して斃れ伏し、それに気づいた高倉健の表情が何とも言えません。息を引き取る"兄弟"を抱きしめるというのが一つのパターンとして出来上がっています。

 9作作られているこのシリーズ、第1作・2作・3作・8作・9作の監督が佐伯清、第4作・5作、7作がマキノ雅弘、第6作が山下耕作で、このマキノ雅弘監督の第7作をベストとして推す人も多いほか、その他のシーリーズ後半の作品をベストとする人も多いようです。これは、同じ高倉健主演の「日本侠客伝」シリーズ('64年~'71年・全11作)や「網走番外地」シリーズ('65年~67年・全10作)には見られない傾向で、11作中9作がマキノ雅弘が監督した「日本侠客伝」シリーズや、全作が石井監督作品で短い期間に多く作られた「網走番外地」シリーズに対し、主に二人の監督により撮られたこのシリーズは、監督が入れ替わり立ち替わり撮ることで競争原理が働いて、シリーズの後半になってもダレることが無かったのではないかと思います。

 また、普通シリーズものが続けていくうちにダレてくるのは、マンネリ化やそれに伴う粗雑化のせいであったり、あるいはその逆の間違った方向転換のせいであったりするものですが、このシリーズも「日本侠客伝」シリーズと似ている点もあったりして、批評家からは早くからマンネリとの批判があったようです。ただ興行面では、観客が映画館に入り切らないといった盛況ぶりが毎回だったようです。そうした成功の要因を考えるに、マンネリ化を逆手に取って定型パターン化を武器にし、義理人情物語としての純粋性、様式美的な完成度を高めることにいずれの監督も注力したためではないかと思います。

 「日本侠客伝」シリーズが高倉健33歳の時の'64年に始まり、翌年には「網走番外地」シリーズと「昭和残侠伝」シリーズが始まり、各シリーズ年2本撮ったりすることもあって、高倉健はそこから5年間ぐらいは毎年10本以上映画出演していたことになります。しかもそのほとんどが主役。本人は、映画館に人が溢三島由紀夫  2.jpgれるのを見て、繰り返し量産されるワンパターンの作品でも観客が求めるならばと自らに言い聞かせて、同じような役どころを演じ続けたのだそうです(体力維持のため、ジムに通って筋力トレーニングに励み始めたのも各シリーズが始まったこの頃から)。因みに、あの三島由紀夫は、高倉や鶴田浩二主演の任侠映画を好み、特にこの「昭和残侠伝 死んで貰います」を高く評価していたとのことです。

1970(昭和45)年(三島由紀夫が亡くなる年)の雑誌「映画芸術」(「戦争映画とヤクザ映画」)での三島由紀夫と石堂淑朗の対談(一部抜粋)
編集部「「昭和残侠伝 死んで貰います」はどこがよかったのですか」
三島 「何よりも池部良が良かった。...他人のためにやっていることを、自分のこととしている...。なんと言うか、自分の中に消えていく小さな火をそっと大切にしているような、あの淋しさと暗さが何ともいえない。わかっているという感じだ。タンスにしまっておいた短刀出して、封印を指でブスリと切るところもすばらしかった」
「昭和残侠伝 死んで貰います」ぁ.jpg編集部「あそこは質屋から間に合わせにもってきたドスと対照的だったけれど、なんか健さんのほうが良かった」
三島 「あなたは武士じゃないんだ」
(中略)
三島 「うーん、ぼくはホモ的要素があるのかな、ホモじゃあないと思うけれど。最後に池部と高倉が目と目を見交わして、何の言葉もなく行くところなどをみると、胸がしめつけられてくる。キューッとなってくるんだ。日本文化の伝統を伝えるのは今ややくざ映画しかない」
石堂 「(略)礼儀作法をよく守る奴が結局人殺しをやる、これが泣かせるんですね」
(中略)
三島 「(略)あのラストの道行きだけあればいいんだよ。あとはいらない」
石堂 「(略)要するに同じパターンのくりかえしで、擬似神話の魅力ですね」

●「昭和残侠伝」シリーズ(全9作)一覧
第1作『昭和残侠伝』(1965年10月1日公開 東映東京撮影所製作)
 監督:佐伯清、脚本:村尾昭、山本英明、松本功
 出演:高倉健、池部良、三田佳子、江原真二郎、松方弘樹、梅宮辰夫、他
第2作『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』(1966年1月13日公開 東映東京撮影所製作)
 監督:佐伯清、脚本:山本英明、松本功
 出演:高倉健、池部良、三田佳子、津川雅彦、三島ゆり子、芦田伸介、他
第3作『昭和残侠伝 一匹狼』(1966年7月9日公開 東映東京撮影所製作)
 監督:佐伯清、脚本:松本功、山本英明
 出演:高倉健、池部良、藤純子、島田正吾、扇千景、他
第4作『昭和残侠伝 血染の唐獅子』(1967年7月8日公開 東映東京撮影所製作)
 監督:マキノ雅弘、脚本:鈴木則文、鳥居元宏
 出演:高倉健、池部良、藤純子、津川雅彦、金子信雄、加藤嘉、他
第5作『昭和残侠伝 唐獅子仁義』(1969年3月6日公開 東映東京撮影所製作)
 監督:マキノ雅弘、脚本:山本英明、松本功
 出演:高倉健、池部良、藤純子、待田京介、志村喬、他
第6作『昭和残侠伝 人斬り唐獅子』(1969年11月28日公開 東映東京撮影所製作)
 監督:山下耕作、脚本:神波史男、長田紀生
 出演:高倉健、池部良、片岡千恵蔵、大木実、小山明子、他
第7作『昭和残侠伝 死んで貰います』(1970年9月22日公開 東映東京撮影所製作)
 監督:マキノ雅弘、脚本:大和久守正
 出演:高倉健、池部良、藤純子、加藤嘉、中村竹弥、長門裕之、他
第8作『昭和残侠伝 吼えろ唐獅子』(1971年10月27日公開 東映東京撮影所製作)
 監督:佐伯清、脚本:村尾昭
 出演:高倉健、池部良、鶴田浩二、松方弘樹、松原智恵子、他
第9作『昭和残侠伝 破れ傘』(1972年12月30日公開 東映東京撮影所製作)
 監督:佐伯清、脚本:村尾昭
 出演:高倉健、池部良、鶴田浩二、星由里子、北島三郎、安藤昇、他

長門裕之(坂井(ひょっとこの松))/津川雅彦(書生節を歌う男)
「昭和残侠伝 死んで貰います」長門.jpg 「昭和残侠伝 死んで貰います」 津川雅彦2.jpg
加藤嘉(秀次郎の父・花田清吉)
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下沢広之(真田広之[当時9歳])(秀次郎の甥・花田康男)
「昭和残侠伝 死んで貰います」さなだ.jpg 「昭和残侠伝 死んで貰います」さなだ2.jpg 0真田広之.jpg 真田広之

「昭和残侠伝 死んで貰います」m1.gif「昭和残侠伝 死んで貰います」m2.jpg「昭和残侠伝 死んで貰います」●制作年:1970年●監督:マキノ雅弘●脚本:大和久守正●撮影:林七郎●音楽:菊池俊輔●時間:92 分●出演:高倉健/藤純子/加藤嘉/池部良/永原和子/荒木道子/山本麟一/津川雅彦/三島ゆり子/松原光二/永原和子/八代万智子/石井富子/高野真二/諸角啓二郎/赤木春恵/小倉康子/日尾孝司/下沢広之(真田広之)/永山一夫/南風夕子/「昭和残侠伝 死んで貰います」13.jpg小林稔侍/久地明/久保一/伊達弘/田甲一/土山登士幸/花田達/木川哲也/佐川二郎/山浦栄/畑中猛重/青木卓司/五野上力/高月忠/長門裕之●公開:1970/09●配給:東映●最初に観た場所:新宿昭和館(01-03-22)(評価:★★★★)●併映:「日本女侠伝 血斗乱れ花」(山下耕作)/「博徒対テキ屋」(小沢茂弘)
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今村「重喜劇」の代表作。大島渚の「太陽の墓場」と似た雰囲気を感じた。

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日活100周年邦画クラシックス GREATシリーズ 豚と軍艦 HDリマスター版 [DVD]」長門裕之/吉村実子
「豚と軍艦」14.jpg 水兵相手のキャバレーが立ち並ぶ町の中心地ドブ板通り。周囲の活気をよそに。当局の取締りで根こそぎやられてしまったモグリ売春ハウスの連中、日森(三島雅夫)一家は青息吐息の状態。そこで一家は、豚肉の払底から大量の豚の飼育を考えついた。ハワイからきた崎山(山内明)が基地の残飯を提供するという耳よりな話もある。ゆすり、たかり、押し売りからスト破りまでやってのけて金をつくり、彼らの"日米畜産協会"もメドがつき始めた。そんな時、流れやくざの春駒(加原武門)がタカリに来た。応待に出た若頭で胃病もちの鉄次(丹波哲郎)の目が光る。叩き起されたチンピラの欣太(長門裕之)は春駒の死体を沖合まで捨てに行かされた。「欣太、万一の場合には代人に立つんだ。くせえ飯を食ってくりゃすぐ兄貴分だ」という星野(大坂志郎)の言葉に、単純な欣太はすぐその気になった。彼は恋人の春子(吉村実子)と暮したい気持でいっぱいなのだ。春子の家は、姉の弘美(中原早苗)のオンリー生活で左団扇だったが、彼女はこの町の醜さを憎悪し、欣太に地道に生きようと言っては喧嘩になった。ある夜、吐血して病院に担ぎこまれた鉄次がそのまま入院となり、日森一家の屋台骨はグラグラになる。会計係の星野が有り金を持って消え、崎山も前金を搾り取るとハワイに逃げてしまった。酷い胃癌で余命三日という診断結果を受けた鉄次は、自殺する勇気もなく、殺し屋のワン(城所英夫)に自分を殺してくれとすがりつく。だがこれは間違いで、鉄次は単なる胃潰瘍だった。鉄次は、間違いを喜ぶよりもワンに殺される恐怖に再び血を吐く。欣太と激しく口喧嘩をした春子は町に飛び出し、酔った水兵に嬲りものにされる。日森一家は組長の日森と、軍治(小沢昭一)・大八(加藤武)とに分裂、両者とも勝手に豚を売りとばそうと企み、軍治たちは夜にまぎれての運搬を欣太に命じた。欣太は豚を積み込む寸前に先回りした日森らに捕まってしまう。豚を乗せ走り出す日森のトラック群。それを追う軍治らのトラック。六分四分で手を打とうという日森だったが、欣太はもう騙されないと小型機関銃をぶっ放す。ドブ板通りには何百頭という豚の大群が溢れる―。

「豚と軍艦」poster.jpg「豚と軍艦」ny1.jpg 今村昌平監督の1961年公開作で、今村「重喜劇」の代表作とされる作品であり、1961年度・第14回「ブルーリボン賞(作品賞)」受賞作。マーティン・スコセッシ監督がこの映画を学生時代に観て「衝撃を受けた」と語っているという話は有名です。そう思うと確かに〈ピカレスクもの〉としては「グッドフェローズ」('90年/米)などに通じるところもあるし、一方、長門裕之(競演の南田洋子とはこの年に結婚)と吉村実子(今村昌平にスカウトされての映画初出演。「にっぽん昆虫記」にも出ている)のカップルはまさに「どぶの中の青春」という感じで(つまり〈青春もの〉でもある)、2012年に日活創立100周年記念として過去の日活映画を上映した「日活映画 100年の青春」企画でも、上映作品のラインアップにこの作品がありました。

「豚と軍艦」6.jpg 基本的にコメディですが普通のコメディと少し違い、「重喜劇」は単に重いのではなく、軽快な喜劇の逆であるということ、つまり「鈍重な喜劇」だということだそうです。豚を巡るブラックユーモアは、そのまま戦後日本の状況的な寓意になっていて、「米軍基地から出る残飯でやくざが豚を飼い、大儲けをたくらむ」という簡単なプロットから、戦後世界の中で軍艦(軍事的身分)を保持できなかった日本人が、豚(寄生的な家畜)として生きる姿を描いているともとれます。
  
「豚と軍艦」ierba.jpg 神経を逆撫でするギャグが頻出し、丸焼きにした豚の肉片から人の入れ歯が見つかり、ヤクザの一人(加藤武)が殺害したお尋ね者の死体を土に埋めずに豚の餌の中に混ぜ込んだと言うと、鉄次(丹波哲郎)ら一同が嘔吐するといった場面と「豚と軍艦」丹波哲郎 j.jpgか、また、鉄次が、末期ガンで三日と持たないと伝えられ、発作的に鉄道自殺を企てるも直前で思い止まり、列車をやり過ごした直後にしがみついていたのが生命保険の看板だったとか―(だいたい強面な役が多い丹波哲郎が、ここではドスを効かせながらも喜劇的な部分をかなり担っているのが興味深く、この点も「重喜劇」故か?)。

 個人的には、前年公開の大島渚監督の「太陽の墓場」('60年/松竹)と似た雰囲気を感じました。「太陽の墓場」は大阪(西成地区か)が舞台で、主人公のチンピラ役は川津祐介で、愚連隊の会長役は長門裕之の弟・津川雅彦でした。皆が殺し合って、最後に残ったのは炎加世子演じるヒロインでしたが、この「豚と軍艦」でも、ラストの狂騒の中、警官に撃たれた欣太は路地裏でひっそり命を落とし、数日後、一人になった春子は未来を見据えて堂々と家を出ていきます。どちらの映画の女性も強い―。誰か、「太陽の墓場」と「豚と軍艦」を比較して論じている人はいないのかなあ。

「豚と軍艦」yokosuka.jpg 何年か前に横須賀に行って横須賀本港と、海上自衛隊の司令部がある長浦港をめぐり、日米の艦船を見学するクルージングツアーに参加しました。艦船の中にイージス艦2隻が泊まっていましたが、2隻で計約5000億円するそうな。新国立競技場の 建設「豚と軍艦」m.jpg費用が約1600億円だから、1隻の費用だけで新国立競技場の建設費を上回ることになります。ほかに「豚と軍艦」cb.jpgも猿島や三笠公園、海軍カレーの店などに行ったりし、「どぶ板通り商店街」も行ったはずですが、なぜかあまり印象に残らなかったです(観光スポット化して小ざっぱりしすぎていた?)。

「豚と軍艦」●制作年:1961年●監督:今村昌平●製作:大塚和●脚本:山内久「豚と軍艦」ny2.jpg●撮影:姫田真佐久●音楽:黛敏郎●時間:108 分●出演:長門裕之/吉村実子/三島雅夫/丹波哲郎/大坂志郎/加藤武/小沢昭一/南田洋子/佐藤英夫/東野英治郎/山内明/中原早苗/菅井きん/加原武門/青木富夫/西村晃/ 初井言栄/高原駿雄/神戸瓢介/矢頭健男/殿山泰司/城所英夫/武智豊子/河上信夫/玉村駿太郎/中川一二三/福田文子/奈良岡朋子●公開:1961/01●配給:日活●最初に観た場所(再見):シネマブルースタジオ(22-06-14)(評価:★★★★)

吉村実子/長門裕之

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Yokosuka Dobuita Street(© 2022 TripAdvisor LLC Todos los derechos reservados.)
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作者の自伝的長編青春漫画、かつ「劇画」名付け親による「劇画」誕生秘話。面白い。

劇画漂流.jpg劇画漂流  上.jpg 劇画漂流下.jpg 
劇画漂流 上巻』『劇画漂流 下巻

劇画漂流 [文庫版] コミック 全2巻 完結セット
劇画漂流 [文庫版] コミック 全2巻 完結セット.jpg辰巳ヨシヒロ.jpg 2009(平成21)年・第13回「手塚治虫文化賞大賞」を受賞した辰巳ヨシヒロ(1935-2015/79歳没)の自伝的青春漫画作品で、1995(平成7)年から「まんだらけ」のカタログ誌『まんだらけマンガ目録』の8号から22号まで15話連載され、1998(平成10)年からは新創刊された『まんだらけZENBU』が掲載誌となり、2006(平成18)年に33号で打ち切られ、全48話で連載終了しています(何れも季刊誌で発表され12年にわたる連載だった)。

TATSUMI―マンガに革命を起こした男.jpg 「まんだらけ」の編集者で、当時59歳の作者に「劇画」の歴史のようなものを描き残さないかと提案した浅川満寛(1965年生まれ。早稲田大学で美術史を専攻、卒論は「初期つげ義春論」)が、連載中に「まんだらけ」から青林工藝社に移ったこともあり、本書は青林工藝社から刊行されています(後に英語版やスペイン語版も刊行され、この作品をもとにしたエリック・クー監督による映画「TATUMI―マンガに革命を起こした男」('14年/シンガポール)は、第64回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」正式出品となった)。
TATSUMI マンガに革命を起こした男 [DVD]

 兄の桜井昌一とともに漫画家を目指す幼少期から始まり、自身の作風を従来の「漫画」と区別するために誕生した「劇画」(辰巳ヨシヒロがその名付け親ということになる)、および「劇画工房」の設立、その後の活動を描いた長編青春漫画です。戦後間もない1948(昭和23)年から始って1960(昭和35)年の安保闘争の時代までを描いたところで終了しています。

 作中では辰巳ヨシヒロは勝見ヒロシ、兄の桜井昌一も本名の辰巳義興ではなく勝見興昌として登場していますが、他の漫画家や出版関係者らは基本的に実名で登場しており、「劇画」誕生秘話として記録的要素の濃い内容となっていますが、事実であるだけに興味深く、また面白く読めます。

劇画漂流 1.jpg 売れるまでは出版社に作品を持ち込んでは断られ、やはり漫画家の世界は競争が激しいなあと思わされましたが、少し売れるようになってくると、今度は最初の方で世話になった出版社ではなくよその出版社のために書くと、前の出版社から圧力がかかるなど、これはこれで大変そう。

 後半は、その所謂かつて世話になった出版社で、辰巳ヨシヒロ自身も短編集『影』の編集長を務めた「八興・日の丸文庫」の山田兄弟と、元日の丸文庫の顧問で「劇画工房」の主要メンバーだった辰巳ヨシヒロ、松本正彦、さいとう・たかを囲い込んで、名古屋の出版社「セントラル文庫」の漫画家兼編集者として短編集『街』を編集した久呂田まさみとの『影』vs. 『街』の"仁義なき戦い"が描かれています。

 本書にもあるように、山田社長と敵対していた久呂田は、日の丸文庫から辰巳らを切り離すため、セントラル文庫の社長に3人を上京させることを提案し、渡された資金を全部飲み代として使い込んでしまう(酒に逃避する性癖だったようだ。酒癖も悪く、酔った席で態度が横柄なさいとう・たかををぶん殴ったりしたそうだ)等の紆余曲折を経て、東京都国分寺市のアパートに居を構えます。これにより、国分寺市は後に多数の劇画漫画家が集まり劇画文化の中心地になりますが、藤子不二雄の『まんが道』(まんがみち)や石ノ森章太郎の『章説 トキワ荘の青春』、映画「トキワ荘の青春」('96年)にも描かれた豊島区椎名町の「トキワ荘」と同時期に、都内の別のところに新進漫画家の拠点があったことはあまり知られていないかもしれません。

 やや中途半端で終わった感じがなくもなく、作者はこの後、自ら貸本マンガの出版に乗り出した勝見ヒロの孤軍奮闘と、つげ義春らとの交流、そして貸本出版界が滅んでいくまでを描きたかったようですが、あとがきによると「まんだらけ」の都合で果たせなかったとあります。この作品で「劇画工房」のメンバーだったさいとう・たかをのことはよく描かれていますが、つげ義春は、トキワ荘をふらっと訪ねる1場面があるだけです。

 因みに、「劇画工房」の当初メンバーは辰巳ヨシヒロ、石川フミヤス、K・元美津、桜井昌一、山森ススム、佐藤まさあき。後にさいとう・たかを、松本正彦も参加しています。K・元美津は1996年没。辰巳の兄・桜井昌一は2003年没で、辰巳はこの作品を桜井へのレクイエムであるとしています。佐藤まさあきは2004年没。松本正彦は2005年没で、「劇画」ではなく「駒画」を創立し、「劇画工房」を去った彼でしたが、その保管していた文書や手紙が本書に多く転載されていて、本書の記録的価値を高めています。

 本書刊行後、石川フミヤスが2014年に亡くなり、そして作者・辰巳ヨシヒロが2015年に、さらにはさいとう・たかをが昨年['21年]亡くなっていて、寂しい限りです。でも、そうした当時のことを訊くことができる人がいなくなっている分だけ本書の価値があると言えるかもしれません。

 因みに、個人的には、辰巳ヨシヒロは自分の卒業高校の大先輩にあたります。

【2013年文庫化[講談社漫画文庫(上・下)]】

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記念すべき第1話は2つの事件を扱う拡大版。第2話でいきなり変化球。

名探偵モンク d1.jpg 「狙われた市長候補」1.jpg 「第一発見者は超能力者」1.jpg
名探偵モンク シーズン1 バリューパック [DVD]」第1話「狙われた市長候補」"Mr. Monk and the Candidate"/第2話「第一発見者は超能力者」"Mr. Monk and the Psychic"
第1話「狙われた市長候補」
「狙われた市長候補」2.jpg サンフランシスコ市警の名刑事だったモンクは、ある事件以来、極度の神経症のため3年間の休職を余儀なくされながらも、犯罪コンサルタントとして怪事件の解決に貢献していた。ある日、サンタクララで起きた女性の殺人事件のコンサルタントを頼まれたモンクは、シャローナと一緒に犯罪現場を訪れ、犯人の特徴を言い当てる。その後自宅に戻ってきたモンクだが、サンフランシスコ市長選挙の候補者の一人ワレン(マイケル・ホーガン)が演説中に暗殺未遂に遭い、ボディガードが殺される。事態を重く見た助役から捜査の協力を頼まれ―。

 「狙われた市長候補」は、2002年7月スタートのシーズン1(全13話)(日本ではNHK-BS2で2004年3月からレギュラー放送を開始したが、シーズン1については2003年6月から「モンク」のタイトルでビデオレンタルとしてVol.1〜6(全13話)が出されていた)の記念すべき第1話であり、前後編から成る拡大版で、内容的にも2つの事件を扱うものになっています。

「狙われた市長候補」3.jpg この頃は、モンクが警察官への復職を強く望み、一方で元上司のストットルマイヤー警部や元同僚のディッシャー警部補はモンクの異常な潔癖ぶりに彼をややお荷物のように感じている面もあった感じです。モンクは、そうして元上司・同僚に疎まれながらも難事件・怪事件を解決していくというパターンが主でしたが、やがてストットルマイヤー警部などはだんだんモンクを頼りにするようになっています。

 市長選挙の候補者暗殺未遂事件の謎解きが見事です。関係者を調べていくと暗殺者を雇って流れ弾で護衛の方を殺したのではないかと考え、事件時にビル街にも関わらず発砲音のあった方向から狙撃手のいた場所を言い当てた選挙参謀がどうやら怪しいと―。結局、モンクはこの事件を解決して、以来、市長から直接指名で事件捜査に当たるよう要請があったりするようになったわけです。

第2話「第一発見者は超能力者」
「第一発見者は超能力者」2.jpg 警察本部長のアシュコム(ジョン・ブルジョワ)の妻、キャサリンが行方不明に。アシュコムは記者会見を開き、妻に呼びかける。モンクはトゥルーディのことを思い出し、捜査の解決に協力を申し出る。ところがその後、事件は急展開を迎える。霊能者のドリー(リンダ・キャッシュ)がある朝目を覚ますとがけの下におり、そこにはキャサリン・アシュコムの死体が。ドリーはキャサリンの霊に招かれたと言うが、モンクは到底信じることができない。やがてモンクはアシュコムが犯人だと確信するが、一体なぜドリーが第一目撃者に選ばれ、そして何のために夫人は殺されたのか?

 「第一発見者は超能力者」は、シーズン1第2話にしてかなりコメディ的要素が強まった印象です。でも、ミステリとしてもまずまずでした。犯人が夫で市警本部長アシュコムであることも、妻を殺害する手口も冒頭から明かされていて、本題となる謎は、どのような理由で死体発見の霊能力者を絡ませたかということでした。

「第一発見者は超能力者」3.jpg モンクならずともドリーの霊能力なるものがインチキだとは誰もが思うわけですが(シャロローナは信じている風。過去に実績もあったというが偶然か)、彼女がどうして死体の第一発見者になり得たのかが(これが事件解決のカギになるわけだが)どうしても分かりませんでした。

 結局、犯人は彼女の霊能者としてもっともらしく振舞う性質を利用したわけで、ただ、死体発見後の彼女のどや顔的な振る舞いはともかく、犯人が彼女を現場に導くまでが計画犯罪としてはかなり不確定要素が大きいようにも思いました。

 最後、ドリーも超能力なんてデタラメだと自ら告白し、捜査に協力するのが可笑しいです。悪い人じゃないということですね。「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」と同じく倒叙ミステリーでしたが、これはシリーズ全体の中では少数派であり、ある意味、第2話にしていきなり変化球できたとも言えるかと思います。

「狙われた市長候補」4.jpg「名探偵モンク(第1話)/狙われた市長候補」(Season1 | Episode 1・2)●原題:Mr.MONK and the CANDIDATE●制作年:2002年●制作国:アメリカ●本国放映:2002/07/12●監督:ディーン・パリソット●脚本:アンディ・ブレックマン●時間:86分●出演:トニー・シャルーブ/ビティ・シュラム/テッド・レヴィン/ジェイソン・グレイ=スタンフォード/(ゲスト)マイケル・ホーガン/ベン・バス●日本放映:2004/03/30●放送:NHK-BS2(評価:★★★★)
   
「第一発見者は超能力者」4.jpg「名探偵モンク(第2話)/第一発見者は超能力者」(Season 1 | Episode 3)●原題:Mr.MONK and the PSYCHIC●制作年:2002年●制作国:アメリカ●本国放映:2002/07/19●監督:ケビン・インチ●脚本:ジョン・ロマノ●時間:43分●出演:トニー・シャルーブ/ビティ・シュラム/テッド・レヴィン/ジェイソン・グレイ=スタンフォード/(ゲスト)リンダ・キャッシュ/ジョン・ブルジョワ●日本放映:2004/04/06●放送:NHK-BS2(評価:★★★☆)

●「名探偵モンク」エピソード別IMDbレーティング(評価)
「名探偵モンク」エピソード別IMDb.jpg

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TVシーリーズの中でベストエピソードとする人も多い作品。

「ソア橋のなぞ」d1.jpg「ソア橋のなぞ」d2.jpg 「ソア橋のなぞ」1.jpg
シャーロック・ホームズの冒険 完全版 Vol.16 [DVD]」「シャーロック・ホームズの冒険 レディー・フランシスの失踪/ソア橋のなぞ(英日対訳ブック 特典DVD付き)

「ソア橋のまぞ」8.jpg 金鉱王として有名な大富豪ギブソン(ダニエル・マッセイ)の妻マリア(セリア・グレゴリー)が射殺体となってソア橋の上で発見され、当家の家庭教師でグレース(キャサリン・ラッセル)という女性が逮捕される。夫人は頭を撃たれており、凶器と思われる銃がグレースの部屋から見つかったのだ。だがギブソンは彼女の無実を主張。証拠品やアリバイから、嫉妬を買ったダンバー嬢がマリアと揉み合っているうちの悲劇とも考えられたが、本人はそれをも否認。一方、ギブスンが潔白を主張する理由は、彼が好意を示した際に慈善に動くよう諭されたダンバー嬢の人柄だという。絞首刑の危機が迫るグレースを救うため、ホームズ(ジェレミー・ブレット)は捜査に乗り出す―。 

 英国グラナダTV(ITV)製作、ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett、1933-1995)主演の「シャーロック・ホームズの冒険」(1984~1994、全41話)の第28話で、本国では1991年2月28日に放映、日本では第29話として1991年8月28日に放送されました。アーサー・コナン・ドイルの原作は、1922年に発表され、1927年発行の第5短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』(The Case-Book of Sherlock Holmes) に収録されています(原題:he Problem of Thor Bridge)。

 ストーリーはおおよそ原作通りですが、ギブソンがベーカー街のアパートに戻ってしまい事件の事情を話さないことが大きな違いです(ギブスンは馬車ではなく運転手付きのT型フォードを移動手段として用いている)。結局、ギブソンがホームズに事情を話したのは自身の屋敷の敷地内「ソア橋のなぞ」あ.jpgで、なぜかアーチェリーをしながらでした。このアーチェリーの場面(ホームズも弓を引く)は原作にはありません。ただ、ギブスンがホームズに依頼しておきながら、捜査に非協力的なのは原作と同じです(家庭教師を愛してしまったことへの衒いがあるのか)。

 トリックは分かってみれば単純なのですが、マリアが自らの命を絶たってまでもダンバー嬢に報復しようしたのは、彼女もまた夫を愛していたからであり、これを行き過ぎた愛情と呼ぶべきか、それとも、夫の愛を失った女性の悲劇と見るべきか、何れにせよ彼女の激情的な気質が原因です(だからこそ夫の心が離れていったのだと思うが)。

 こうした哀しい人間ドラマがバックボーンにあり、トリックも単純とは言えまさか自殺とは考えつかないため、TVシーリーズの中でベストエピソードとする人も多い作品です(野外ロケが多く、イギリスの田舎の美しさを満喫できるのもいい)。一応、ギブスンは嫌疑の晴れたグレースと結ばれることになる結末ですが、手放しでハッピーエンドと喜んでもおられないのでは。

 因みに、ここからはネタばれになりますが、凶器のピストルに紐で重りを結びつけ、その重りでピストルを引っ張ることで現場から凶器を移動させ隠すことにより、自殺を他殺に見せかけるというこの短編のトリックには、モデルとなった実際の事件があり、それは、「ヨーロッパにおける犯罪学の創始者」といわれるハンス・グロスの著書に記されている事件だそうです。

 この実際の事件は、ある早朝にドイツ人の穀物商が、橋の上で頭をピストルで撃たれ死亡しているのが発見されたことに始まり、凶器のピストルは現場に見当たらず、当初は強盗による殺人事件と考えられ、付近にいた浮浪者が一人、容疑者として拘束されました。しかし、予審判事が死体の側の欄干に新しい不審な傷があるのを発見したことから、橋の下の水中を浚ってみることになり、その結果、水中から紐で結ばれたピストルと石が引き上げられました。鑑定の結果、穀物商の頭部に残されていた弾丸はこのピストルで撃ったものだと確認され、最終的には、困窮していた穀物商が高額の保険金を目当てに自殺したのだと結論づけられたとのことです。

 多分、コナン・ドイルはこの事件を参考したのだと思いますが、自殺では家族へ保険金が支払われないため、強盗に襲われたように偽装したと考えられる実際の事件を、愛憎の縺れに起因する事件に置き換えたところに巧さを感じます。

「ソア橋のなぞ」s.jpg「シャーロック・ホームズの冒険(第28話)/ソア橋のなぞ」●原題:THE ADVENTURE OF SHERLOCK HOLMES: THE PROBLEM OF THOR BRIDGE●制作年:1991年●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/28●監督:マイケル・シンプスン●脚色:ジェレミー・ポール●原作:アーサー・コナン・ドイル●時間:48分●出演:ジェレミー・ブレット/エドワード・ハードウィック/ダニエル・マッセイ/キャサリン・ラッセル/セリア・グレゴリー●日本放映:1991/08/28 (NHK)(評価:★★★★)
 

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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「松本清張特別企画・鉢植を買う女」)

裏切られた中年女性の怨念と復讐。結構ホラーだった(笑)。

『影の車』1.jpg『影の車』2.jpg 「鉢植を買う女」1.gif 「鉢植を買う女」余泉.gif.jpg
影の車 (1961年)』『影の車: 松本清張プレミアム・ミステリー (光文社文庫プレミアム)
「松本清張特別企画・鉢植を買う女」['11年/テレビ東京]余貴美子・泉ピン子

 上浜楢江は精密機械会社に勤めているが、女性社員としては最年長となっていた。不器量の彼女は、美しい同僚2人が若い社員からもてるのをよそに、恋愛の対象から除外されていた。楢江は美人の同僚に言い寄る男たちの言葉に次第に耳をふさぐようになり、懸命に仕事に精を出した。結婚に諦めを持つようになった彼女には、金さえあれば、いかなる不幸も、ある程度は防げるように思われた。やがて楢江はかなりの金を貯め、金銭的に苦しむ社員に対して、金貸しを始める。会計課の杉浦淳一も楢江から金を借りる常連となった。返済が溜り、利子も払えなくなった杉浦は、それを棒引きさせるため、楢江を陥れることを思い立つ―。

 先に取り上げた「潜在光景」同様、松本清張の「婦人公論」1961(昭和36)年1月号から8月号まで連載され、同年8月、中央公論社より単行本が刊行された連作短編『影の車』の内の1つ(「婦人公論」1961年7月号発表)。

 杉浦は会社から800万円を横領し、彼が計略的に自分の愛人とし上浜楢江のところに転がり込みますが、自分を利用するだけ利用してポイ捨てしようとしている男に、この独身中年女性は復讐する―。結構ホラーだったなあ(笑)。松本清張の作品には、こうした裏切られた女性の怨念を描いたものが多いですが、これはその典型です。蓄財してアパート経営するのが夢が唯一の夢になってしまった女性の姿が哀しいですが、でも、彼女は結果的には"完全犯罪"を成し遂げてしまっている!(彼女にとってはハッピーエンド?)。

 この作品はこれまでに以下3回ドラマ化されています。

 ・1962年「黒の組曲・鉢植を買う女」(NHK) 中北千枝子・近藤洋介
 ・1966年「松本清張シリーズ・鉢植を買う女」(関西テレビ・フジテレビ) 根岸明美・寺島達夫
 ・1993年「松本清張スペシャル・鉢植を買う女」(テレビ朝日)池上季実子・布施博
 ・2011年「松本清張特別企画・鉢植を買う女」(テレビ東京)余貴美子・泉ピン子・田中哲司

「鉢植を買う女」余.gif.jpg「鉢植を買う女」2.jpg この内、2011年にテレビ東京系列の「水曜ミステリー9」枠で放映された余貴美子版を観ました。中堅精密機械メーカーに30年勤める独身OLの上浜楢江を余貴美子が演じていますが、口うるさい性格で社内で疎まれているものの、原作のように社内で完全に孤立しているのではなく、泉ピン子が演じ社員食堂の従業員・岸田茂子とは比較的何でも話す間柄です。

「鉢植を買う女」5.jpg「鉢植を買う女」3.jpg 実は、(原作には無い)この岸田茂子は、以前は社内で個人的に金を貸し、その利子で密かに金を稼いでいたのが、今は楢江がそれをやっている(つまり、茂子から客を奪った)ということで、この二人の微妙な関係の変化が、事件解決の鍵を握ることになり、ドラマ版では(ありがちだが)完全犯罪は成立せず、最後は茂子が楢江に、男性に恋心を抱いたのがその失敗の原因だったというような諭し方をするところで終わっていたのではないかと思います。

「鉢植を買う女」佐藤.jpg 原作では、茂子がどうやって犯行後に死体を隠したのか推察させるつくりになっていて、最後の、彼女がアパートを建てる花壇の土には「動物性の脂が十分に滲みこんでいた」というのが不気味ですが、ドラマでは、土一杯のガス風呂の木桶が出てくるので何だかリアル。佐藤二朗演じる刑事が家宅捜索して、木桶の蓋を開けるところでヒヤッとさせますが、その時にはすでに死体は別所に移し終えていて...(木桶の内側が綺麗すぎるのが不自然だが)。

 彼女が会社に留まっているのは、男性社員と定年年齢が同じだからで、それは今なら当たり前のことのようですが、実は彼女が入社した終戦直前は世間一般に男女で定年年齢の差が無かったのが、その後、例えばこの作品の会社で言えば昭和25,6年から男性と女性で定年格差を設けたとなっており、この後、世間一般にも男性と女性で定年格差のある時代が長く続くわけです。そうなる前に18歳で入社し、昭和25年には23歳になっていた主人公には、改定後のルールが適用されないということだったのです(結果として主人公は、全社で3人しかいない中年女性社員の一人となる)。

 それから、彼女は自宅の風呂が使えなくって(なぜ使えなくなったのがこの作品のヤマなのだが)「会社の風呂」を使うようになったとありますが、かつてはメーカーなどであれば会社や工場の敷地内に風呂があるのが当たり前だったということです。風呂どころか、診療所や娯楽施設、集会場、公園などもあったりするというのがごく普通に見られたのではないでようか。こうした手厚い福利厚生は今では考えれないなあと、ふと思ったりしました。

「鉢植を買う女」松村.jpg「鉢植を買う女」t.jpg「松本清張特別企画・鉢植を買う女」●制作年:2011年●監督:大岡進●脚本:西岡琢也●選曲:御園雅也●原作:松本清張●出演:余貴美子/泉ピン子 /田中哲司/筒井真理子/佐藤二朗/佐々木すみ江/マギー/山口翔悟 /渡辺いっけい/津村鷹志/池田道枝/松村邦洋/加藤虎ノ介●放映:2011/11/09(全1回)●放送局:テレビ東京
松村邦洋(花屋の店主)

【1973年文庫化[中公文庫]/1983年再文庫化[角川文庫]/2018年再文庫化[光文社文庫(松本清張プレミアム・ミステリー)]】

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再会した女性に溺れると同時に、彼女の幼い息子の不信な目に怯える主人公の心理。

『影の車』1.jpg『潜在光景』.png 『潜在光景』2.jpg 『影の車』2.jpg 「影の車」ドラマ.jpg
影の車 (1961年)』『潜在光景―恐怖短編集 (角川ホラー文庫)』『潜在光景 (角川文庫) 』『影の車: 松本清張プレミアム・ミステリー (光文社文庫プレミアム) 』「影の車」['01年/TBS]風間杜夫・原田美枝子

 都心から80分ばかりかかる住宅地に住む浜島幸雄は、会社帰りのバスの中で、小磯泰子から声をかけられ、学生時代以来の再会をする。1週間後、再びバスの中で遭遇した泰子は、家に立ち寄るよう勧めた。思い切ってバスを降りた浜島は、泰子が夫を失い、保険の集金の仕事をしながら、6歳の健一という名前の息子と二人で暮らしているのを知る。泰子の態度に、妻には見られないやさしさを感じる浜島。他方、浜島の妻は、それほど温かい気持ちの女ではなく、家の中は索漠としていた。浜島と泰子の間は急速に進み、二人は結ばれる。少ない収入にもかかわらず、浜島に心から仕える泰子。しかし、息子の健一はひどく人見知りし、一向に浜島に馴れない。泰子と話をしていても、健一の存在が煙たく、気持ちにひっかかってくる浜島。浜島はふと、自分の小さいときの記憶を途切れ途切れに思い出すようになったが、その記憶に潜在する光景が、現在の浜島に思わぬ影をもたらす―。

 松本清張の「婦人公論」1961(昭和36)年1月号から8月号まで連載され、同年8月、中央公論社より単行本が刊行された連作短編『影の車』の内の1つ(「婦人公論」1961年4月号発表)。

 20年ぶりに再会した泰子に溺れていくと同時に、彼女の幼い息子の不信な目に怯える主人公の心理がよく描かれていて、最後の幼い頃に自らの犯した行動への罪の意識ともうまく重なっているように思いました。因果は巡る、って感じでしょうか。少年の殺意というモチーフは「天城越え」などにもありました。

『影の車』.jpg この作品は、野村芳太郎監督、橋本忍脚本、加藤剛(浜島幸雄)・岩下志麻(小磯泰子)・小川真由美(浜島啓子)主演で「影の車」('70 年/松竹)として映画化されているほか、これまでに以下3回ドラマ化されています。

野村 芳太郎 「影の車」(1970/06 松竹)★★★★

 ・1971年「影の車」(フジテレビ)日色ともゑ・園井啓介・岡本久人・橋爪功
 ・1988年「松本清張サスペンス・潜在光景」(関テレ・フジテレビ) 水谷豊・大谷直子
 ・2001年「松本清張特別企画・影の車」(TBS)風間杜夫・原田美枝子・浅田美代子   
      
「影の車」ドラマ2.jpg このうち、2001年の風間杜夫版を観ました(脚本は橋本忍の娘・橋本綾)。原田美枝子が演じる小磯泰子は、保険の集金人から臨時雇いの看護師に変更されていて、風間杜夫が演じる主人公の浜島幸雄の方が、大手保険会社の管理職になっているほか、浅田美代子が演じる浜島の妻・啓子は、毎週土曜日に自宅で近所の主婦を集めてフラワーアレンジメントの教室を開いているという設定になっています(したがって、もともと土曜日は主人公は自宅から締め出される習慣があり、これが泰子との逢瀬には好都合になるいう設定は巧い)。

「影の車」ドラマ3.jpg 風間杜夫(1949年生まれ・当時51歳)はこうした役が似合っている俳優に思えましたが、それ以上に小磯泰子を演じた原田美枝子(1958年生まれ・当時42歳)が母として女としての情感を滲み出させていて流石です(原田美枝子はこの演技で第38回TBS「ギャラクシー賞奨励賞(テレビ部門)」受賞)。次女の石橋静河がちょうど6歳ころの出演作になるなあ。浅田美代子(1956年生まれ・当時44歳)の演技もまずまず。この人は大成しないかと思いましたが、結構息の長い女優になりました。

『影の車』d.jpg「松本清張特別企画・影の車」●制作年:2001年●監督:堀川とんこう●脚本:橋本綾●音楽:川崎真弘●原作:松本清張●出演:風間杜夫/原田美枝子/片岡鶴太郎/浅田美代子/村田雄浩/石野真子/友里千賀子/螢雪次朗/川俣しのぶ/大塚良重●放映:2001/02/19(全1回)●放送局:TBS

【1973年文庫化[中公文庫]/1983年再文庫化[角川文庫]/2018年再文庫化[光文社文庫(松本清張プレミアム・ミステリー)]】

《読書MEMO》
●『影の車』連載時ラインアップ
『確証』(婦人公論・1961年1月号)
『万葉翡翠』(婦人公論・1961年2月号)
『薄化粧の男』(婦人公論・1961年3月号)
『潜在光景』(婦人公論・1961年4月号)
『典雅な姉弟』(婦人公論・1961年5月号)
『田舎医師』(婦人公論・1961年6月号)
鉢植を買う女』(婦人公論・1961年7月号)
『突風』(婦人公論・1961年8月号)...... 単行本化時に除外された作品。

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青春の只中にいる人間の、強く生きようとする意志が伝わってくる気がした。

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きみの鳥はうたえる (河出文庫) 』「草の響き[DVD]」東出昌大/奈緒/大東駿介

 印刷所で働く青年「彼」は、ある日自律神経失調症と診断され、精神科医の勧めで毎晩のランニングを始める。仕事を休み、毎日同じ場所を黙々と走り続ける男。そんな中、プールで「太い健康な声」の持ち主の高校教師の研二と知り合い、さらに青年のジョギングに暴走族のリーダー格の青年「ノッポ」が並走するようになる―。

 自死した函館出身の作家・佐藤泰志(1949-1990/享年41)の初期作品で、雑誌「文藝」の1979(昭和54)年7月号に発表されたもの。単行本及び文庫本併録の「きみの鳥はうたえる」よりさらに2年前の作品になります。「きみの鳥はうたえる」は文庫で160ページほどですが、こちらは60ページほどの中編となります。

 年譜によると、作者は、1977年、28歳の時に自律神経失調症の診断を受け、以後、その死までずっと精神安定剤を服用していたとのこと。また、療法としてのエアロビクスやランニングを始め、1日10キロ以上走ったとのことです。また、この2年前に印刷所に勤め、ランニングを始めて数か月後にには物語の主人公と同様に大学生協に調理員として勤め始めているので、自分の経験が作品のベースとしてかなりあると思われます。

 主人公は、「どうしてあんなにも心はひ弱いのか」と嘆く一方で、ストイックなまでに走り続けますが、走ることそのものの理由については作中でそれほど説明されているわけでもなく、その辺りが却っていいように思いました(そう言えば「きみの鳥はうたえる」でも "敢えて"かどうか分からないが、自分の恋人を友人に譲る主人公の心情を説明していなかった)。

 文庫解説の井坂洋子氏も述べているように、主人公は、やりたいようにやるだけと言いながら、「目的」のようなもの、手応えのようなものをどこかで求めているのかもしれません。青春の只中にいる人間の、強く生きようとする意志が伝わってくる気がしました。

 一時期、全作品が絶版となっていた作者ですが、『海炭市叙景』('91年)が函館にあるミニシアター「シネマアイリス」支配人の菅原和博氏が映画化を実現したのを契機に、その後「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」「きみの鳥はうたえる」と映画化され、この「草の響き」も、作者の没後30周年に当たる2020年に映画製作が発表され、同年11月にクランクインし、全編函館ロケで撮影が行われ、昨年['21年]10月に公開されています(5度目の映画化って結構スゴイことではないか)。

「草の響き」●制作年:2021年●監督:斎藤久志●製作:菅原和博/鈴木ゆたか●脚本:加瀬仁美●撮影:石井勲●音楽:佐藤洋介●原作:佐藤泰志●時間:116分●出演:東出昌大/奈緒/大東駿介/Kaya/林裕太/三根有葵/利重剛/クノ真季子/室井滋●公開:2021/10●配給:コピアポア・フィルム+函館シネマアイリス(評価:)

【2011年文庫化[河出文庫]】

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いい作品(と言うか、好みの作品)。芥川賞を受賞していたら、と考えてしまう。

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きみの鳥はうたえる』『きみの鳥はうたえる (河出文庫) 』/映画「きみの鳥はうたえる」(2018)柄本佑/石橋静河/染谷将太
『きみの鳥はうたえる』1982.jpg 1981(昭和56)年下期・第85回「芥川賞」候補作。

 冷凍倉庫のアルバイトで知り合った僕と静雄。2人は意気投合し共同生活を始める。静雄の数少ない持ち物の中にはレコードもあり、それは全てビートルズのものだった。部屋にはレコードプレイヤーが無く、2人で飲んだ時に静雄はビートルズの「And Your Bird Can Sing」を歌ってくれた。その後、僕は東京郊外の国立にある書店で働き始め、そこで一緒に働く佐知子とやがて恋仲となり、静雄との生活に佐知子も加わり、3人で夜通し飲み明かす生活が始まる。楽しくも切ない3人の夏のひとときが過ぎようとしていく―。

 佐藤泰志(1949-1990/41歳没)の雑誌「文藝」の1981(昭和56)年9月号に発表された最初の芥川賞候補作で、その後も4作品が芥川賞候補作(第88・89・90・93回)となりますが、結局何れも受賞に至りませんせした。その中でも、この作品は惜しかったような気がします。選考委員の中では丸谷才一の「これは青春の哀れさと馬鹿ばかしさという、もうすっかり陳腐なものになってしまった主題、いや、文学永遠の主題の一つを扱ったもので、かなり読ませる。特にいいのは若者たちに寄り添いながら、しかしいつも距離を取っていることである」というのが、最も推している評になるでしょうか。

 21歳の若者男女3人の三角関係を描いていて、作者と同世代作家である村上春樹の初期作品なども想起しましたが(ビートルズの曲からタイトルをとっているのは『ノルウェイの森」』('87年)よりこちらが先)、いちばん雰囲気的に近いのは、作者自身の後の作品『そこのみにて光輝く』だったでしょうか。これも、第2回「三島由紀夫賞」(1988(昭和63)年度)、第11回「野間文芸新人賞」(1989(平成元)年)の候補作でした。そう言えば、村上春樹も2度「芥川賞」候補になっていますが(第81・83回)、結局受賞していません(「野間文芸新人賞」は2度候補になって(第1・2回)、3回目『羊をめぐる冒険』で受賞している)。

 この「きみの鳥はうたえる」という作品の最も不思議なところは、主人公が静雄に恋人である佐知子を譲っているように見えるところで、作品の中ではその理由を解き明かしていない点です。これは、いろいろな見方があると思いますが、個人的には、主人公は佐和子を通じて静雄と繋がっていたいと思っていて、自分が佐和子を独占するよりはその方が主人公にとっては心地良い状態だったのではないかという気がしました。実際、「そのうち僕は佐知子をとおして新しく静雄を感じるだろう、と思ったことは本当だった」「今度僕は、あいつをとおしてもっと新しく佐知子を感じることができるかもしれない」と小説の終わりの方にあります、

 ただ、結末については、静雄の家庭に関する終盤の展開は余分だったのではないかという批判もあって、丸谷才一でさえも、「ただし、お終いの方は感心しない。人殺しなんか入れなくたっていいのに。佐藤さんは小説的な恰好をつけようとして、かえって話のこしらえを荒つぽくしてしまった」と批判的でした。又吉直樹氏の『火花』('15年)が「芥川賞」候補になった際に、最後に、主人公の憧憬する神谷が豊胸手術をしたという結末に、批判があったのを思い出しました(でも『火花』は芥川賞を受賞したが)。

 個人的には、ラストへの批判は分かる気もしますが、それでもいい作品だと思います(と言うか、好みの作品)。また、正直、この時この作品が芥川賞を受賞していたら、この作家はその後どうなっただろうという思いもあります。でもやはり、当時のバブル経済に向かおうとする日本においては、あまりに"古い""後ろ向き"な感じの作品と見られたのかもしれません。だから、この作家は、バブル経済が崩壊してから注目されたのかも。

 作者の『海炭市叙景』('91年)が函館にあるミニシアター「シネマアイリス」支配人の菅原和博氏が映画化を実現したのを契機に、その後「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」と映画化され、この「きみの鳥はうたえる」もシネマアイリスの開館20年を記念して2018年に三宅唱監督により、原作の舞台を東京から函館へ移して、オール函館ロケで映画化されています(その後、併録の「草の響き」も映画化された)。

きみの鳥はうたえる [DVD].jpg「きみの鳥はうたえる」●制作年:2014年●監督・脚本:三宅唱●製作:菅原和博●撮影:四宮秀俊●音楽:Hi' Spec●原作:佐藤泰志●時間:106分●出演:柄本佑/石橋静河/染谷将太/足立智充/山本亜依/柴田貴哉/水間ロン/OMSB/Hi' Spec/渡辺真起子/萩原聖人●公開:2018/09●配給:コピアポア・フィルム+函館シネマアイリス(評価:)

きみの鳥はうたえる [DVD]

【2011年文庫化[河出文庫]】

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「●よ 横尾 忠則」の インデックッスへ

シリーズを通して亡くなった人に対するレクイエムだったのだなあと。

『奇縁まんだら 終り』0.jpg奇縁まんだら 終り 2011.jpg奇縁まんだら 終り

 著者自身が縁あって交流したことのある文学者や芸術家との間のエピソードを綴ったエッセイに、彼女と親交の深かった横尾忠則氏が、エッセイに登場する人たちの肖像画を描いて(装幀も担当)コラボした本の、全部で4集の内の第4弾。日本経済新聞の連載で言うと、2010年9月から2011年11月にあっけてになります。登場する人物は、第1集の21人、第2集の28人、第3集の41人からさらに増えて45人です。

 連載が始まったのが2007年1月で、著者の年齢で言うと84歳から89歳まで書き続けたことになりますが、3冊目が出た2010年に背骨圧迫骨折で作家になって初めて休筆した半年、「奇縁まんだら」としては6回分休んだだけというのがスゴイです。病も癒えぬうちに再開し、他の連載はすべて休ませてもらって「奇縁まんだら」だけ書き続けたというから相当の入れ込み様です。「最後の章は、個人となった「瀬戸内寂聴」で締めくくれればスマートだなと思っていた」と―。でも、連載を終了してから10年も生きて、2021年11月に99歳で亡くなっています。

 第4集は、吉村昭から始まって、やはり基本的には同業である作家が多いでしょうか。ただ、他分野の芸術家や俳優などもこれまでと同様に入ってきます。作家といっても、表紙にも横尾忠則氏の肖像画がきていますが、ボーボワールやパール・バックなどの"大物"も出てきて、実際に見たり会ったりしており、まさに"生き証人"という感じです。

 裏表紙にもある池部良の、「かの子繚乱」の舞台で岡本一平役を演じた時の話が面白かったです。池部良が以前に舞台で台詞が飛んでしまったのを知っていてダメだろうと言っていた岡本太郎が、本番を見て驚いたという―。岡田嘉子とはモスクワで会ったのかあ。後に日本で会って対談した際に馬鹿にされて、自分のことを書いていいと言われ、書いてやるものかと(笑)。やっぱり人間、合う合わない、好き嫌いはあるみたい。寺山修司とはミュンヘンで会ったのかあ。エノケンこと榎本健一と会ったときは、修行を積み上げた賢僧に向かい合っている気持ちだったと―。作家以外の職業の人の方が好き嫌いが出ている?

 永田洋子、永山則夫といった死刑囚なども出てくるのは、そうした人たちとの往復書簡があったり接見する機会があったりしたためのようです。そう言えば、第1集から第4集まで登場した135人全員が、連載執筆の時点ですでに故人となっており、このシリーズはそうした人たちへのレクイエムだったのだなあと改めて思いました。

 巻が進むと、そのうち連載時点で生きている人の話も出てくるのかなあと思って読んでいましたが、そういうコンセプトではなかったと途中で気がついた次第です。ホントは、第1集から人物のプロフィール紹介のところに墓の写真が多く出てくるので、その時点で気づくべきでした。

 因みに、最後に登場したのは永平寺第78世貫首の宮崎奕保禅師で、やはり著者は僧侶だなあと。禅師は108歳で亡くなっていますが、著者が数えで84歳の時の数え105歳の禅師との間の思い出を書いています。個人的には、NHKの立松和平がインタビュアーを務めたドキュメンタリー「永平寺 104歳の禅師」('04年)で見た記憶があり、著者の話もその頃でしょうか。お坊さんって時々すごく長生きする人がいるなあと思ったりしました。

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直接的に死を語っている部分が面白かった。「生」への執着を素直に吐露する石原慎太郎。

死という最後の未来.jpg石原 慎太郎.gif 石原慎太郎 散骨.jpg
死という最後の未来』 石原 慎太郎(田園調布の自宅で2019年2月)[毎日新聞]/石原慎太郎の海上散骨式(2022年4月)[逗子葉山経済新聞]

 キリストの信仰を生きる曽野綾子。法華経を哲学とする石原慎太郎。対極の死生観をもつふたりが「老い」や「死」について赤裸々に語る。死に向き合うことで見える、人が生きる意味とは―。(版元口上)

 石原慎太郎と彼より1つ年上の曽野綾子が死について語り合ったもので、2020年6月に単行本刊行、今年['22年]2月に文庫化されましたが、その石原慎太郎は2月1日に満89歳で亡くなっており、ものすごく好きな人物だったというわけではないですが、やはり寂しいものです。

 「人は死んだらどうなるのか」といった直接的なテーマから、「コロナは単なる惨禍か警告か」といった社会的なテーマ、「悲しみは人生を深くしてくれる」といった亡くなった人の周囲の人の問題までいろいろ語り合っていますが、やはり直接的に死を語っている部分が面白かったです。

 特に石原慎太郎は、法華経を哲学とするも死後は基本的に「無」であり何も無いと考えているようであって、それでいて、それは「つまらない」と必死に抵抗している感じ。こうなると「生」に執着するしかないわけであって、そのジタバタぶりがストレートに伝わってくるのが良かったです。「生」に執着しない人なんてそういないと思いますが、「功なり名なりを成した人間」が、それを素直に吐露している点が興味深いです。

レニ・リーフェンシュタール.jpg 1962年、旅行先のスーダンでヌバ族に出会い、10年間の取材を続け1973年に10カ国でその写真集『ヌバ』を出版、70歳過ぎでスクーバダイビングのライセンスを取得して水中写真集をつくり、100歳を迎えた2002年に「ワンダー・アンダー・ウォーター 原色の海」で現役の映画監督として復帰し(世界最年長のダイバー記録も樹立)、その翌年の2003年、101歳で結婚したレニ・リーフェンシュタールのような人が、石原慎太郎にとっての生き方の理想となっているようです。

レニ・リーフェンシュタール(1902-2003)

 また、石原慎太郎は対談の中で「僕は生涯、書き続けたい」と述べていて、結局、これも対談の中で「完治した」と言っていた膵臓がんが2021年10月に再発し、「余命3か月」程度との宣告を受けているわけですが、この時の心情も含め、「死への道程」というのを書いていて、その通り最後まで書き続けたのだったなあと(これが絶筆となり、死去後の今年['22年]3月10日に発売された「文藝春秋」4月号に掲載されている)。

 先月['22年6月]には、65歳になる前から書き綴られた自伝『「私」という男の生涯』(幻冬舎)が、石原自身と妻・典子の没後を条件に刊行されています(典子夫人は石原慎太郎の死去後1カ月余りしか経ない3月8日に亡くなっている)。まあ、生涯、作家であったと言えるし、作家というのは引退のない職業だとも言えるのかも。

ホタル  2001es.jpg 因みに、石原慎太郎が話す、特攻隊の基地があった鹿児島・知覧の町で食堂をやっていた鳥濱トメさんから直接聞いた「自分の好きな蛍になって、きっと帰ってきます」といった隊員の話は、降旗康男監督、高倉健主演の映画「ホタル」('01年/東映)のモチーフにもなっていました。

映画「ホタル」('01年/東映)奈良岡朋子

【2022年文庫化[幻冬舎文庫]】

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面白かった。筋トレに打ち込む女子の内面がよく描けている。

我が友、スミス .jpg我が友、スミス.jpg スミスマシン.jpg
我が友、スミス』 woman doing squats in smith-machine

 2021(令和3)年下半期・第166回「芥川賞」候補作。

 30歳手前の会社員・U野は仕事帰りに日々自己流の筋トレに励んでいる。ある日元ボディビル選手のO島から声をかけられ、彼女が立ち上げる新しいジムに来ないかと誘われる。今通っている施設には一台しかないスミス・マシンがそのジムには3台もあることと、「うちで鍛えたら、別の生き物になるよ」というO島の言葉に惹かれたU野は、彼女のもとでボディビルの大会に出場することを決意する。何かに夢中になるという経験がなかったU野だが、目標に向けて凄まじい努力を始める。厳しい指導を受け、日々マシンと格闘し、慢性的な筋肉痛に耐え、ストイックな食生活を送り...。しかし、彼女の前には意外な壁が立ちはだかっていた。審査基準には、肌の美しさや所作、人格までもが含まれ、女性らしさが重要とされるのだ。なぜ筋肉を鍛えることに女性らしさを求められるのか? 化粧をしたり身なりを飾ることに抵抗を感じてきたU野は、疑問に思いながらも元ミス・ユニバース日本代表だというスペシャル・コーチE藤の指導を受け、髪を伸ばし、ピアスを開け、脱毛サロンに通う。そんなU野を見た職場の人々には「彼氏できた」と噂され、母親からは「ムキムキにならないでよ?」という言葉をかけられる。周囲の声に反発を覚えながらも、目標に向かって突っ走るが―。

 面白かったです。「スミス」は人の名ではなく、バーベルを補助者なく安全に扱うことのできるトレーニング・マシンのこと。主人公U野は、ただ「別の生き物になりたくて」筋トレに励むわけですが、これが却って受け入れやすかったです(何かもっともらしい理由をつけると通俗になっていただろう)。そのキャラクターも好感が持てました。自分の考えを曲げない頑固さを持つ一方で、違和感のあることでも受け入れてみようとする柔軟性もあって、感情を撒き散らさず、黙って行動で表現するところは武士のように潔く、それでいて、結構キツイ挑戦をしているにの関わらず、その心理表現は辛口のユーモアに溢れていました。何かを極めようとする人だけが見ることのできる世界の一部を、覗き見させてもらったような気がします。

 ユーモアに関しては、面白過ぎて芥川賞とれなかったのかと思ったぐらい。実際、芥川賞選考委員の中で最も推した川上弘美氏が「何回笑い崩れたことでしょう」と述べている一方、奥泉光氏が、「軽快な文章で愉しく読ませる」としながらも、「ただ幾分サービス過剰なところがあって、笑いを狙った表現が上滑りになっているのが惜しい」としています。

 また、平野啓一郎氏は、空虚化した実存の依存先という主題自体は『推し、燃ゆ』と同範疇であるとしていて、これは自分も少し感じました。自分の場所を求めてという意味では『コンビニ人間』が想起され、マニアックな世界という意味では『火花』を思い出したでしょうか。個人的には、芥川賞作品としては"異例"の面白さだった『コンビニ人間』といい勝負だったように思います。

 ジェンダー小説でもあったように思います。最初「O島」って男性だと思い込んしまいましたが、女性だったのだなあ(【天才外科医】クイズというのを思い出した)。これ読んで、筋トレをしてみたくなる女子はいるかも。作者自身も相当やり込んでいるのかと思いましたがそれほどでもなく、自分が通っているジムでやり込んでいる人を観察して、こうした作品に仕上げたようです。デビュー作にして、筋トレに打ち込む女子の内面がよく描けているように思いました。

ボディビル フィジーク.jpg 因みに、本書にあるように、男子ボディビルの世界に「ボディビル」から派生した「フィジーク」というのがあり、一方、女子における「フィジーク」は、追加ではなく、従来の「ボディビル」が「フィジーク」に置き換わったとのことで、その理由は「女子のボディビルには、女性らしさも必要だから」とのことです。

 作中では、主人公・U野が目指すのが「BB(ボディビル)大会」で、同じジムに通うS子が出場するのは「PP(パーフェクト・プロポーション)大会」という、女性のセクシーさに重点が置かれる大会のようです。ただし、U野が出場する大会も、ハイヒールを着用し、ピアスを付け(主人公はそのために耳に穴を空ける)、髪が短いとヘアピースを付けるものなので、純粋なボディビル(つまりフィジーク)ではなく、「ボディフィットネス」(フィギュアとも呼ばれる)の類ではないでしょうか(あるいは安井友梨で知られる「フィットネスビキニ」乃至「ビキニ」か)。あまり説明しすぎると読者が混乱するので、単に「BB大会」とした(つまり単純化して「ボディビル」とした)のではないかと思います。まあ、「ボディビル大会」と冠して、その中で各種目が行われることもあるので、「BB大会」でも間違いではないと思いますが。

0フィジーク.jpg フィジーク

0フィットネス.jpg ボディフィットネス

0フィットネスビキニ.jpg フィットネスビキニ(中央:安井友梨)

pumping iron 2.jpgpumping iro n 2.jpg 昔、ボディビル大会に向けてトレーニングする女性たちを追ったドキュメンタリー映画「パンピン・アイアンⅡ」('85年/米)というビデオがあったのを思い出しました。結局DVD化されなかったみたいですけれど...。因みに、アーノルド・シュワルツェネッガーを中心に追った男性版「パンピング・アイアン」('77年/米)はDVD化されています(5度のミスター・オリンピアに輝いたシュワルツネッガーが6度目の栄冠に挑戦するのを追っている)。

《読書MEMO》
●【天才外科医】クイズ
父親が一人息子を連れてドライブに出かけました。ところがその途中で父親がハンドル操作を誤り、大きな交通事故を起こしてしまいました。父親は即死、助手席の息子は意識不明の重体になり、すぐに救急車で病院に運ばれました。幸運にも天才外科医との呼び声の高い、その病院の院長が直々に手術をすることになりました。助手や看護師を従えて手術室に入り手術台に寝かされた子どもを見るなり、院長は、「私の息子...!」と嘆き悲しみました。さて、これはどういうことなのでしょう(正解:院長は息子の母親だった)。

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主人公の「敵」は誰であるか。最後に彼女が銃口を向けたのはイリーナではなく―。

同志少女よ、敵を撃て8.jpg同志少女よ、敵を撃て0.jpg同志少女よ、敵を撃て1.jpg
同志少女よ、敵を撃て』装画:雪下まゆ

『同志少女よ、敵を撃て』評.jpg同志少女よ、敵を撃て honya.jpg 2022(令和4)年・第19回「本屋大賞」第1位(大賞)作品。2021(令和3)年・第11回「アガサ・クリスティー賞(大賞)」(早川書房・公益財団法人早川清文学振興財団主催)受賞作。2022(令和4)年度・第9回「高校生直木賞(大賞)」(同実行委員会主催、文部科学省ほか後援)受賞作。2021(令和3)年下半期・第166回「直木賞」候補作。

 独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」―そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした"真の敵"とは―。

 作者自身も述べているように、2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの主著『戦争は女の顔をしていない』に触発されて書かれた小説で、同書は、独ソ戦に従軍した女性たちへの綿密なインタビューをもとに、「男の言葉」で語られてきた戦争を、これまで口を噤まされてきた女性たちの視点から語り直した証言集ですが、そのほかに、実在した天才狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコの回想録『最強の女性狙撃手』などから完成された本物のスナイパーの在り様を参照し、さらに、作中でも引用している『ドイツ国防軍兵士たちの100通の手紙』からは、人を殺めることへの罪悪感が消失する瞬間を描出しています。

 直木賞の選評では、三浦しをん氏が強く推したのに対し、浅田次郎氏の「戦争小説には不可欠なはずの、生と死のテーマが不在であると思えた。主人公が敵を憎みこそすれ戦争に懐疑しないというのは、たとえ現実がそうであろうと文学的ではない」などといった意見もあり、受賞を逃していますが、もともとこの回は米澤穂信氏の『黒牢城』が候補作にあったりしてレベルが高かったのと、あと、この作品が作者の処女作であることから、もう少し他の作品も見てみたいというのも選考委員の間にあったのではないでしょうか。選考委員の一人である宮部みゆき氏も、「作品は素晴らしいが、新人賞受賞作で初ノミネート、いきなり受賞はためらわれる」として見送りになったかつてのケースと同じだと、述べています。

 浅田次郎氏の評と反しますが、作中で主人公セラフィマが終始問われることになるのが「なんのために戦うのか」であり、これはタイトルにある「敵」が誰であるのかにも通じる問いです。むしろ、物語は、主人公の「敵」が誰であるのかからスタートし、セラフィマにとっての最初の「敵」は、母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナであって、それらに復讐するためにそのイリーナの下で彼女は狙撃兵となります。それが、最後は、イリーナへ銃口を向けるのではなく、自分と同い年の幼馴染で、周囲からは将来結婚するものと思われていたミハイル(ミーシカ)に彼女は銃を向けることになる―。
 
 ここが、この作品の最大のポイントでしょう。国家間の戦争からジェンダーの問題に切り替わってしまったとの見方もあるかもしれませんが、この部分において『戦争は女の顔をしていない』のテーマを引き継ぐとともに、、ミハイルをそのような人間にしてしまった戦争というものへの批判が込められているように思いました。

 直木賞の選考で論点となったことの1つに、「どうして日本人の作家が、海外の話を書かなくてはいけないのか」というものがあり、林真理子氏などは、それが最後まで拭い去ることが出来なかったとしています。しかし一方で、三浦しをん氏は「彼女たちの姿を描くことを通し、現代の日本および世界に存在する社会の問題点をも「撃て」ると作者は確信したからだろう」という積極的に評価しており、この意見は選考委員の中では少数意見だったようですが、個人的には自分もそれに近い意見です。よって、評価は「◎」としました。

 ただし、選考委員の北方謙三氏は、「タイトルの『敵』が、終盤では観念性を持ちはじめて、私を失望させた」と述べており、そういう見方もあるかもしれないなあとは思いました(でも「◎」)。

 因みに、高校生が直木賞候補作から「大賞」を選ぶ「高校生直木賞」では、『黒牢城』などを抑えてこの作品が受賞しています。

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原作ノンフィクションを漫画にしようと思い、それをやってのけたこと自体がすごい。

戦争は女の顔をしていない 1.jpg戦争は女の顔をしていない 2.jpg 戦争は女の顔をしていない 3.jpg  戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫).jpg
戦争は女の顔をしていない 1』『戦争は女の顔をしていない 2』『戦争は女の顔をしていない 3』『戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫)
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ.jpg『戦争は女の顔をしていない』014.jpg 『チェルノブイリの祈り』(1997)などの著作により、2015年にノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家・ジャーナリストであるスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ(1948年生まれ)による、第二次世界大戦の独ソ戦に従軍した女性たちの聞き取りがまとめられたノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』(1984)のコミカライズ作品です(小梅けいとが作画を担当し、速水螺旋人が監修)。2019年4月27日からウェブコミック配信サイトComicWalker(KADOKAWA)で漫画の連載が始まり、2020年1月にコミックス第1巻が発売。個人的には、原作を先に読み、続いてコミックを読みました。

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ 6.jpg[戦争は女の顔をしていないil2.jpg 原作は、アレクシエーヴィッチが雑誌記者だった30歳代、1978年から500人を超える女性たちから聞き取り調査を行ったもので、本は完成したものの、2年間出版を許可されず、ペレストロイカ後に出版されています。当時ベラルーシの大統領だったアレクサンドル・ルカシェンコは祖国を中傷する著書を外国で出版したと非難し、ベラルーシでは長らく出版禁止になっていたようです。
戦争は女の顔をしていない

プーチン ルカシェンコ.jpg プーチンやルカシェンコには批判的で、特にベラルーシではその著書は独裁政権誕生以後、出版されず圧力や言論統制を避けるため、2000年にベラルーシを脱出し、西ヨーロッパを転々としたが、2011年には帰国、プーチン・ロシアがウクライナに侵攻し、それをルカシェンコが支持しているという2022年現在においてはどうしているかというと、。2020年に持病の治療のためドイツに出国し、以来ドイツに滞在しているとのこと、今年['22年]5月に74歳になっており、祖国に戻れる日が来るのか心配です。

 『チェルノブイリの祈り』でのチェルノブイリ原子力発電所事故に遭遇した人々の証言も衝撃的でしたが、こちらも強烈です。『チェルノブイリの祈り』が約300人に取材しているのに対し、こちらが約500人に取材していて、実に精力的に話を聞いて回ったことが窺えます。コミカライズに際して、どうエピソードを抽出しどうまとめるか難しいところだったのではないかと思いますが、上手くまとめているように思いました。

 戦線に駆り出された女性たちは、医療・看護・衛生関係者が多かったようですが、飛行士や高射砲の指揮官などもいて、目の前で人の命が一瞬にして奪われていくのを見ており、さらには女性狙撃兵もいて、これは逢坂冬馬氏のべしとセラー小説『同志少女よ、敵を撃て』('21年/早川書房)のモチーフにもなっています。

『戦争は女の顔をしていない (全3巻)』1.jpg コミックを見て思ったのは、アレクシエーヴィッチが30歳代とまだ若かったのだなあと(絵は少し若すぎて20代にしか見えないが)。インタビューを受ける側も、原作を読んだ時はかなり高齢かと思いましたが、まだ50代前半ぐらいの年齢だったのではないかと思います。若い頃の壮絶な体験ということもあり、まったく忘れてはおらず、むしろ話すことができるようになるのに戦後20余年を経る必要があったといった内容の話も多かったように改めて思いました。

 単行本第1巻の帯には、「機動戦士ガンダム」の富野由悠季氏が推薦文を寄稿していますが、小梅けいと氏、速水螺旋人氏との対談では、「この原作の内容をマンガ化するのは、正気の沙汰とは思えない」と言い(帯にも「蛮勇」と書いている)、「戦争を知らない世代だから描ける」のだとまで言っています(特に「小梅世代」を指して言っている)。富野氏が、「あっけらかんと描いていることが、救いだと思います」と述べているのは、それだけコミカライズによって"抜け落ちる"ものも大きいということを言っているのだと思います。

 それでも、この原作ノンフィクションを漫画にしようと思い、それをやってのけたこと自体がやはりすごいことではないかと思います(小梅氏は、いつかこうの史代氏の『この世界の片隅に』のような作品を書いてみたいとの思いはあったようだが)。個人的にも、ビジュアライズされることでイメージに肉付けがされた面があり、原作本と併せて読んで決してがっかりさせられるようなレベルではなかったように思いました。

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『カササギ殺人事件』に続いて「1作品で2度美味しい」という感じ。

ヨルガオ殺人事件 上.jpgヨルガオ殺人事件下.jpgヨルガオ殺人事件 上下.jpg
ヨルガオ殺人事件 上 (創元推理文庫)』『ヨルガオ殺人事件 下 (創元推理文庫)

Moonflower Murders.jpg アラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』にまつわる事件に巻き込まれてから2年。出版業界を離れたスーザン・ライランドはギリシャに移り住み、恋人のアンドレアスと共にホテルを営んでいた。しかし、経営はギリギリで心の余裕もなく、イギリスに戻ることを考えていた。ある日、イギリスで高級ホテルを経営しているトレハーン夫妻がスーザンのもとを訪れ、失踪した娘のセシリーの捜索を依頼される。なんと、ホテルで8年前に起きた殺人事件の真相がアティカス・ピュントシリーズ3作目の『愚行の代償』に隠されているのだという。スーザンは事件の関係者たちに話を聞いてまわり、アランの作品を読み返すことになる。果たして、8年前の真相とスーザンの失踪の関係は、そして作品に隠された真相とは一体何なのか―。

 「このミステリーがすごい!」(宝島社)2022年版海外篇・第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」(週刊文春2021年12月9日号)海外部門・第1位、「2022本格ミステリ・ベスト10」(原書房)第1位を獲得し、『カササギ殺人事件』『メインテーマは殺人』『その裁きは死』による3年連続での年末ミステリランキング3冠を更新し、〈4年連続3冠〉となりました(ただし、「ミステリが読みたい!2022年版」(ハヤカワ・ミステリマガジン2022年1月号)だけ第2位だったため、〈4年連続4冠〉は成らなかった)。

 2020年原著刊行。『カササギ殺人事件』の続編(事件はまったく異なる事件)であり、主人公は同じスーザン・ライランド。編集者を辞め、ロンドンからパートナー・アンドレアスと共にクレタ島に移りホテルを経営しています。『カササギ殺人事件』と同じく「現実編」と「小説編」から成りますが、文庫上巻が「小説編」で下巻が「現実編」だった『カササギ殺人事件』に対して、こちらは、「現実編」の真ん中に、文庫の上下を繋ぐような形で「小説編」である『愚行の代償』が入っており、このまさに「入れ子」構造となっている『愚行の代償』だけで1つの推理小説として緊迫感を持って読めます。

 まあ、『カササギ殺人事件』に続いて「1作品で2度美味しい」という感じでしょうか。敢えて惜しかった点を指摘すれば、『愚行の代償』(「小説編」)の謎解きが本編(「現実編」)の謎解きと直接的にはリンクしていなかったことでしょうか。文庫下巻で本編の登場人物一覧と、小説編の登場人物一覧の両方に指を挟んで、見比べながら読んだ割には、正直やや拍子抜けさせられた印象もあります。

 でも、上下巻で一気に読ませる力量はさすが。分量はあっても無駄がないと言うか、これは作者ならではという感じ。ただ、「現実編」「小説編」共かなり登場人物が多いので、ややマニアックになっている印象はありました(「現実編」の登場人物がかなり『カササギ殺人事件』から引き継がれている分、緩和されている面もあるが)。

 最後の方では、主人公が結構いきなり誰が犯人か閃いたようで、思わずそこでいったん本を置いて、居住まいを正し(笑)一呼吸置いてから読み進みました。随所にアガサ・クリスティへのオマージュが見られるのも楽しかったですが、犯人に至る伏線が記号として織り込まれていたことは、謎解きがああってから分かりました(プロットではなく記号だった)。

 『カササギ殺人事件』とどちらが上かと言うと、「現実編」に対し「小説編」が「入れ子」構造となっている分、『カササギ殺人事件』より洗練されていた(加点要素)とも言えるし、でも、「小説編」の現実の事件の解決ポイントがプロット的なものではなかったことへの物足りなさ(減点要素)もあるし、まあ、いい勝負という感じでしょうか。何れにせよ、そこいらの並みの推理小説よりはずっと面白いので「◎」です。

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獄中にて事件の謎を解く黒田官兵衛。上手いなあと思った点がいくつもあった。

黒牢城3.jpg黒牢城.jpg
黒牢城2.jpg 
 
黒牢城

『黒牢城9冠.jpg 2021(令和3)年下半期・第166回「直木賞」、2021(令和3)年度・第12回「山田風太郎賞」受賞作。① 2021(令和3)年度「週刊文春ミステリー ベスト10(週刊文春2021年12月9日号)」(国内部門)第1位、② 2022(令和4)年「このミステリーがすごい!(宝島社)」(国内編)第1位、③「2022本格ミステリ・ベスト10(原書房)」国内ランキング第1位、④ 2022年「ミステリが読みたい!(ハヤカワミステリマガジン2022年1月号)」(国内編)第1位の、国内小説では初の「年末ミステリランキング4冠」達成。2022年・第19回「本屋大賞」第9位。そして先月['22年5月]、2022年・第22回「本格ミステリ大賞」も受賞(もろもろ併せて「9冠」になるとのこと(下記《読書MEMO》参照))。

 本能寺の変より四年前、天正六年の冬。摂津池田家の家臣から上り詰め、摂津一国を任され織田家の重臣となっていた荒木村重は、突如として織田信長に叛旗を翻し、有岡城に立て籠もる。織田方の軍師・小寺官兵衛(黒田官兵衛)は謀叛を思いとどまるよう説得するための使者として単身有岡城に来城するが、村重は聞く耳を持たず、官兵衛を殺すこともせずに土牢に幽閉する。荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求める―。

 荒木村重による摂津・有岡城での約1年間の籠城期間を冬・春・夏・秋の4章(+終章)に分けた構成。まず冬に「人質殺害事件」が起き、春に「手柄争い騒動」が、さらに夏には「高僧殺害事件」、そして秋には、前の事件の犯人の死をめぐる「鉄炮放の謎」が浮上してくるという―有岡城はミステリに事欠かない(笑)。

 上手いなあと思ったのは、4つの事件すべての"探偵役"が黒田官兵衛になっていることで、獄中に居ながら事件の謎を解いてみせるという"安楽椅子探偵"みたいなポジショニングにしてみせているところです(「獄中」と「安楽椅子」で言葉上は真逆だが)。

 それと、4つの事件が単に並列なのではなく、最後の事件がそれまでの3つを包括的に謎解きしている点も上手いと思ったし、黒田官兵衛が荒木村重を助けてあげたくて謎解きをしたのではなく、そこには深謀があったというのも上手いなあと思いました。

gunsi kanbei.jpg軍司官兵 araki.jpg 作者のこれまでの警察物や海外ものとはがらっと変わった時代物で、しかも荒木村重という戦国武将の中では数奇な生涯を送った人物を取り上げたのも良かったと思います(NHKの大河ドラマでは、'14年の岡田准一主演の「軍師官兵衛」で、田中哲司の演じた荒木村重が印象深い)。
NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」['14年]岡田准一(黒田官兵衛)/田中哲司(荒木村重)
桐谷美玲(荒木だし)
軍師官兵衛 だし 桐谷.jpg軍師官兵衛 だし 桐谷2.jpg 因みに、主要登場人物の一人、荒木村重の妻・千代保(荒木だし。村重の妻だが、正室か側室かは不明だそうだ)は「絶世の美女」と称されたそうですが(大河ドラマでは村重に隠れて囚われた官兵衛の世話をしていた)、有岡城落城後に捕えられるも城主の妻として潔くすべてを受け入れ、京の六条河原で一族の者とともに処刑されています。一方、荒木村重の方は、だし等一族が処刑されたことを知ると「信長に殺されず生き続けることで信長に勝つ」ことを誓って尼崎城から姿を消したとのこと。そうした村重の信長の逆を行くという思いは、この作品でも示唆されているように思われます。

 年末ミステリランキングで、前作『満願』『王とサーカス』に続いて「3冠」を達成し、加えて「4冠」全制覇した作品は国内では初で(下記参照)、海外も含めると、アンソニー・ホロヴィッツ の『カササギ殺人事件』『メインテーマは殺人』『その裁きは死』の3年連続「4冠」に次ぐ快挙でした。直木賞の選考会でも、選考委員9人による1回目の投票の時点で「抜けていた」という評価を受けています。

●年末ミステリランキング3冠達成作品(『黒牢城』は4冠達成)
容疑者χの献身.jpg 東野 圭吾『容疑者Xの献身(2005年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」賞自体が未創設

満願1.jpg 米澤 穂信『満願(2014年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」2位、「ミステリが読みたい」1位

王とサーカス.jpg 米澤 穂信『王とサーカス(2015年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」3位、「ミステリが読みたい」1位

屍人荘の殺人.jpg 今村 昌弘『屍人荘の殺人(2017年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」2位

たかが殺人じゃないか.jpg 辻 真先『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説(2020年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」4位、「ミステリが読みたい」1位

黒牢城.jpg 米澤 穂信『黒牢城』(2021年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」1位

大河ドラマ 軍師官兵衛 完全版3竹中直人(豊臣秀吉)
軍師官兵衛 2014.jpg軍師官兵衛 竹中.jpg「軍師官兵衛」●脚本:前川洋一●演出:田中健二ほか●プロデューサー:中村高志●時代考証:小和田哲男●音楽:菅野祐悟子●出演:岡田准一/(以下五十音順)東幹久/生田斗真/伊吹吾郎/伊武雅刀/宇梶剛士/内田有紀/江口洋介/大谷直子/大橋吾郎/忍成修吾/片岡鶴太郎/勝野洋/金子ノブアキ/上條恒彦/桐谷美玲/黒木瞳/近藤芳正/塩見三省/柴田恭兵/春風亭小朝/陣内孝則/高岡早紀/高橋一生/高畑充希/竹中直人/田中圭/田中哲司/谷原章介/塚本高史/鶴見辰吾/寺尾聰/永井大/中谷美紀/二階堂ふみ/濱田岳/速水もこみち/吹越満/別所哲也/堀内正美/眞島秀和/益岡徹/松坂桃李/的場浩司/村田雄浩/山路和弘/横内正/竜雷太(ナレーター)藤村志保 → 広瀬修子●放映:2014/01~12(全50回)●放送局:NHK

《読書MEMO》
●『黒牢城』(9冠)
 ★「第166回直木三十五賞」受賞
 ★「第12回山田風太郎賞」受賞
 ★「週刊文春ミステリーベスト10」(週刊文春2021年12 月9 日号)国内部門 第1位
 ★『このミステリーがすごい! 2022年版』(宝島社)国内編 第1位
 ★「ミステリが読みたい! 2022年版」(ハヤカワミステリマガジン2022年1月号)国内篇 第1位
 ★『2022本格ミステリ・ベスト10』(原書房)国内ランキング 第1位
 ★「第22回本格ミステリ大賞」受賞
 ★「2021年SRの会ミステリーベスト10」国内部門 第1位
 ★「週刊朝日 歴史・時代小説ベスト3」(週刊朝日 2022年1月7・14日号) 第1位
 ・「2022年本屋大賞」第9位
 ・『この時代小説がすごい! 2022年版』(宝島社)単行本 第3位

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男性が主人公のものは侘しさがあり、女性が主人公のものの方に「強さ」を感じた。

田舎のポルシェ.jpg田舎のポルシェ1.jpg
田舎のポルシェ

 "今どきの人生"を感じさせるロードノベル3編を収録。収録短篇は、いずれも「オール讀物」に初出掲載されたもの。「田舎のポルシェ」は2020年9・10月合併号に、「ボルボ」は2020年2月号に、「ロケバスアリア」は2021年1月号に、それぞれ掲載された作品です。

「田舎のポルシェ」... 実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。波乱だらけの強行軍だったが―。

「ボルボ」... 不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったが―。

「ロケバスアリア」...「憧れの歌手が歌った会場に立ちたい」。70歳を迎えたおかんである私の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る―。

 「田舎のポルシェ」は、軽トラになぜか米を満載にして東京から岐阜に向かう話(都会から地方へ行くということで、最初は状況が掴みにくかった)。農家の事情や登場人物の家族、生い立ち、行く手に立ちはだかる台風などの諸要素がにうまく組み合わせられていて、手練れの技という感じ。文芸評論家の斎藤美奈子氏と書評ライターの細貝さやか氏の対談で「アラフィー女性に読んで欲しい本」の1冊として挙げられていたように思いますが、作者の「女たちのジハード」系の作品とも言えるかも。

 「ボルボ」は、大企業を辞めた60代の男同士が知り合うのってこんな感じかなあと。主人公が長年頑張ってきたボルボに自分を重ねているのがよく分かって切なかったです。自分も、車で北海道に行ったとき、八戸から苫小牧行きのフェリーニに乗ったので懐かしかったです(1等がとれず、2等を予約して乗船してから1等のキャンセルをゲットした)。でも、なんで斎藤氏はわざわざ妻の仕事場へ行ったんだろなあ。

 「ロケバスアリア」の主人公は孫の運転で浜松のホールへ行くわけで、それはホールで歌うという彼女の秘めた決意があるため。この決意の意味が最後に読者に分かるようになっているのがミソで、書評ライターの細貝さやか氏も、生きる尊さを感じさせる中編で、主人公のコロナ禍の決意に勇気をもらったとしてました。やっぱりラストが効いているかな。

 3編ともロードノベルであるという共通点と併せて、いずれも、単なる運転手で主人公とはまったくの他人同士であったり、元は主人公とは他人同士だったのが最近付き合い始め、今回初めて一緒に旅行する関係だったり、古希の主人公とかつて引き取る機会があった孫だったり、これも主人公にとってはまったくの他人の録音ディレクターだったり――といった主人公と"他者"との関係性がモチーフになっている点が同じで、その両者の距離感が、物語の始まりと終わりで変化している(より密になっている)と言えるかと思います。

 そうした関係性の変化を描くことで、人生というものを炙り出しているところがうまいなあと。男性が主人公の「ボルボ」は侘しさがあり、女性が主人公のものの方に「強さ」を感じられた点は、やはり作者らしいのかも。

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後の『女のいない男たち』や映画「ドライブ・マイ・カー」に連なるものを感じた。

レキシントンの幽霊 単行本.jpg レキシントンの幽霊 (文春文庫).jpg
レキシントンの幽霊』['96年]『レキシントンの幽霊 (文春文庫) 』['99年]

 1996年に文藝春秋より刊行された短編集で(1999年、文春文庫として文庫化)、「レキシントンの幽霊」「緑色の獣」「沈黙」「氷男」「トニー滝谷」「七番目の男」「めくらやなぎと、眠る女」の7編を所収し、いくつかの作品は収録にあたり加筆されています(収録作品のうち「レキシントンの幽霊」を除く6作品すべてが英訳されている)。

レキシントンの幽霊 0.jpg「レキシントンの幽霊」... 小説家の僕が手紙を介して知り合ったケイシーは、レキシントンの屋敷に、ジェレミーというピアノの調律師と暮らしていた。ある時、僕はケイシーに家の留守番を頼まれる。ケイシーのロンドン出張と、ジェレミーの母親の看病が重なり、しばらく空き家になるからだ。留守番の初日、大勢がパーティをしているような物音で僕は深夜に目が覚める―。友達の家の留守番を頼まれ滞在することになった主人公が、真夜中のダンスパーティーに遭遇する恐怖。ゴシックホラーっぽいです。個人的には、映画「シャイニング」を思い出しました。

「緑色の獣」... 夫が会社に出かけた後、女は庭の木に語りかけて孤独を癒していた。ある時、その木の根元から緑色な獣がやってくる。女性は愛を語る異物を排除しようと想像上の暴力を奮う―。これはすべて女性の脳内で起きている出来事なのでしょう。結婚により理性を失いかけた女性の孤独と闇の深さ。ただ、メタファー系はあまり好みではないです。

「沈黙」... ボクシングジムに通う大沢さんの昔の話。穏やかに見える大沢さんがただ一度だけ、同級生の青木を殴ってしまった経験を語る。狡猾な青木は、根拠のない噂を広め、集団による排除という目に見えない暴力で大沢さんを傷つけた―。この「青木」という人物は、村上春樹の小説の登場人物は皆どれも似ているとよく言われる中では特異な方ではないでしょうか。その分、面白かったけれど、一人称でもよかったかな。「僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の言い分を無批判に受け入れてそのまま信じてしまう連中です」という終わり方も、やけに社会性があり(本書に収録される前に、1993年3月、全国学校図書館協議会から「集団読書用テキスト」として発売された)、この短編集の中は特に印象に残りました。

氷男.jpg「氷男」... 氷男は結婚してしたあと、妻の希望で旅をした南極で自分の世界を見つけて南極社会で幸せに暮らすようになるが、妻は言葉の通じない場所で孤独を深める―。またもメタファー系。結婚して女性が社会とのつながりを失って孤独になる痛みを描いえちます。氷男は、心を閉ざして自分語りをしないという男性性の象徴でしょうか。いずれにせよ、メタファー系は苦手です。

トニー滝谷.jpg「トニー滝谷」... トニー滝谷は、結婚した妻が買い物依存症で、洋服を次々と買い漁り、部屋中が服でいっぱいになってしまったので、それを処分するように妻に話すと、彼女は服を売りに行った帰りに亡くなってしまう。彼は、他の女の人に仕事を頼んでまでしてその服を着せようとする―。要するに、愛する人の死を受け入れられない男の哀しみを、滑稽かつアイロニックに描いた寓話ということではないでしょうか。『文藝春秋』に掲載されたのはショート・バージョンで、1991年7月刊行の『村上春樹全作品 1979~1989』第8巻にロング・バージョンが収録され、本書に収められたのはロング・バージョン。2005年には市川準監督のもと映画化されています。

七番目の男.jpg「七番目の男」... 子どもの頃、波に友達をさらわれてしまった傷を抱えながら生きてきた男の回想談。「何よりも怖いのは、その恐怖に背中を向け、目を閉じてしまうことです。そうすることによって私たちは自分の中にあるいちばん重要なものを、何かに譲り渡してしまうことになります。私の場合には...それは波でした」―。トラウマに向き合うことでそれを乗り越えるという話はなかったでしょうか。

めくらやなぎと、眠る女.jpg「めくらやなぎと、眠る女」... 耳が悪い従弟の少年の病院に付き添う僕は、過去に、友人と一緒に友人の彼女を見舞いに行ったことを思い出す。その女の子の話した奇妙な話とは―。〈女性の耳から入って中身を食い尽くす虫〉というのが気持ち悪いですが、、これも「緑色の獣」や「氷男」と同じく病んでいる女性の話なのでしょう。

 全体を通して〈喪失〉がテーマやモチーフになっているものが多く、後の『女のいない男たち』('14年/文藝春秋)や、映画「ドライブ・マイ・カー」('21年)に連なるものを感じました。

【1999年文庫化[文春文庫]】

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「ウルトラシーリーズ」全体を怪獣路線に導いたエポックメイキング的な作品。

ウルトラq 宇宙からの贈りもの1.jpg ウルトラq 宇宙からの贈りもの4.jpg
火星怪獣ナメゴン 佐原健二(万城目淳)/桜井浩子(江戸川由利子)/江川宇礼雄(一ノ谷博士)

ウルトラq 宇宙からの贈りもの12.jpg 半年前に打ち上げた火星ロケットのカプセルが、ある日地球へ送り返されて来た。カプセルは火星の地表に衝突し、木っ端微塵に散ったはずなのにと、人々はガク然となった。しかも、カプセルの中には、ウズラの卵大の金色の丸い玉が二つまぎれ込んでいたのだ。学者たちは、火星人が人類の宇宙開発の成功を祝福して、贈り物をよこしたに違いないと楽観した。ところが宇宙開発局の金庫から三千万円とともに、保管されていた金色の丸い玉が盗まれてから、しばらくして大蔵島の洞窟の中に恐ろしい怪物が出たという報せが入った。淳、由利子、そして、一平の三人は、さっそくその島へ飛んだ。その洞窟の中にはギャングが倒れており、三千万円の札束が散らばっていた。だが、金色の丸い玉はどこにも見当たらなかった。その時、一匹の怪物が洞窟を突き破って出現した。金色の丸い玉は、なんと火星怪獣の卵だったのである。となると、もう一個の卵は一体どこへ?それは由利子の胸にペンダントに姿を変えて、ぶら下っていたのだ―。(「ウルトラQ・あらすじ集」より)

 「ウルトラQ」は'66(昭和41)年1月から7月まで27回にわたって放映されましたが、この第3話「宇宙からの贈りもの」は、円谷一監督、金城哲夫脚本で、1966年1月16日放送。「ウルトラQ」は'64年(昭和39)から'65(昭和40)年の間にシリーズ全話撮影を終えてから放送がスタートしていますが、この「宇宙からの贈りもの」は制作№は5で、実際に撮影されたのは'64年10月下旬~11月中旬になります(因みに制作№4の「あけてくれ!」(監督:円谷一、脚本:小山内美江子)は、シリーズの放送終了後の'67年12月14日に放送された)。

ウルトラq 宇宙からの贈りもの03.jpg 登場するナメクジに似た姿の怪獣ナメゴン(劇中では単に「火星怪獣」と呼称している)は、島で万城目(佐原健二)を追い詰めるも誤って海に転落、海水によって全身が溶けてしまったことで塩分に弱いと判明するという流れ。そのため、終盤、一平(西條康彦)によって由利子(桜井浩子)のペンダントに姿を変えていたもう1個の卵が孵化してナメゴンが再び現れ、一ノ谷博士(江川宇礼雄)の邸宅の庭を徘徊するも、近くの海に落っこちるだろうみたいな楽観的予測をするナレーションで終わっていて、本当に大丈夫なのかなと。

ウルトラq 宇宙からの贈りもの3.jpg このようにストーリーは間尺の関係か尻切れトンボですが、ナメゴンがよく出来ていたので○です。移動ギミックは映画「モスラ対ゴジラ」('64年/東宝)、「三大怪獣地球最大の決戦」('64年/東宝)の幼虫モスラのもの(ミニチュア自走用の車両を内蔵して自走)を流用し、湿気を出すために撮影のたびに霧吹きで水を表皮に吹き付けていたそうです(因みに、卵が膨らむシーンは風船で表現された)。

 最初期に制作されたこの第3話はTBSでの検討用素材としても用いられ、ナメゴンが好評であったため「ウルトラQ」シーリーズの作品全体が怪獣路線になったとされているそうで、「ウルトラQ」の企画時のタイトルが「アンバランス」だったことからも窺えるように、後の「怪奇大作戦」('68年~'69年)みたいな怪奇路線でいくこちとも当初は選択肢としてあったようです。その意味では、「ウルトラシーリーズ」全体を怪獣路線に導いたエポックメイキング的と言うか決定的な作品と言えなくもないかと思います(小山内美江子脚本の「あけてくれ!」がシリーズ放送期間内に放映されなかった一因にもなっている)。

ナメゴン 少年マガジン.jpg 因みに、'66(昭和41)年1月の「ウルトラQ」放送開始直前に刊行された「少年マガジン」の'65(昭和40)年第53号(12月26日号)で「『ウルトラQ』の怪獣たち特集」というのをやっていて、そこにナメゴンも出てきて、走行中のパトカーを襲って大暴れする絵が描かれていましたが、そうしたシーンは本編にはありませんでした。結構いい加減(笑)。

 ウルトラq 宇宙からの贈りもの2.jpgウルトラQ(第3話)/宇宙からの贈りもの tazaki.jpg「ウルトラQ(第3話)/宇宙からの贈りもの」●制作年:1964年●監督:円谷一●監修:円谷英二●制作:円谷英二●脚本:金城哲夫●撮影:内海正治●音楽:宮内国郎●特技監督:川上景司●出演:佐原健二/西條康彦/桜井浩子/江川宇礼雄/田島義文/加藤春哉/佐藤功一/岡部正/池田生二/田崎潤/(ノンクレジット)金城哲夫/(ナレーター)石坂浩二●放送:1966/01●放送局:TBS(評価:★★★☆)
田崎潤(宇宙開発局・坂本長官)


●「ウルトラQ」(全27話)制作順ラインアップ
放送回/制作順/脚本No./放送日(1966年)/サブタイトル/登場怪獣・宇宙人/脚本/特技監督/監督/視聴率
4/1/1/1966年1月23日/マンモスフラワー/巨大植物ジュラン/金城哲夫・梶田興治/川上景司/梶田興治 35.8%
22/2/2/5月29日/変身/変身人間 巨人・巨蝶モルフォ蝶/北沢杏子(原案:金城哲夫)/川上景司/梶田興治 26.9%
25/3/3/6月19日/悪魔ッ子/悪魔ッ子リリー/北沢杏子(原案:熊谷健)/川上景司/梶田興治 31.5%
3/5/5/1月16日/宇宙からの贈りもの/火星怪獣ナメゴン/金城哲夫/川上景司/円谷一 34.2%
12/6/7/3月20日/鳥を見た/古代怪鳥ラルゲユウス/山田正弘/川上景司/中川晴之助 32.6%
2/7/11/1月9日/五郎とゴロー/巨大猿ゴロー/金城哲夫/有川貞昌/円谷一 33.4%
17/8/9/4月24日/1/8計画/1/8人間/金城哲夫/有川貞昌/円谷一 31.7%
27/9/4/7月3日/206便消滅す/四次元怪獣トドラ/山浦弘靖・金城哲夫(原案:熊谷健)/川上景司/梶田興治 35.2%
8/10/10/2月20日/甘い蜜の恐怖/モグラ怪獣モングラー/金城哲夫/川上景司/梶田興治 38.5%
6/11/8/2月6日/育てよ!カメ/大ガメ ガメロン・万蛇怪獣怪竜、乙姫/山田正弘/小泉一/中川晴之助 31.2%
1/12/12/1966年1月2日/ゴメスを倒せ!/古代怪獣ゴメス・原始怪鳥リトラ/千束北男/小泉一/円谷一 32.2%
9/13/13/2月27日/クモ男爵/大グモ タランチュラ/金城哲夫/小泉一/円谷一 32.4%
5/14/15/1月30日/ペギラが来た!/冷凍怪獣ペギラ/山田正弘/川上景司/野長瀬三摩地 34.8%
14/15/16/4月3日/東京氷河期/冷凍怪獣ペギラ/山田正弘/川上景司/野長瀬三摩地 36.8%
11/16/17/3月13日/バルンガ/風船怪獣バルンガ/虎見邦男/川上景司/野長瀬三摩地 36.8%
13/17/27/3月27日/ガラダマ/隕石怪獣ガラモン/金城哲夫/的場徹/円谷一 35.7%
26/18/19/6月26日/燃えろ栄光/深海生物ピーター/千束北男/的場徹/満田かずほ 30.8%
21/19/18/5月22日/宇宙指令M774/キール星人・ルパーツ星人・宇宙エイ ボスタング/上原正三/的場徹/満田かずほ 30.9%
15/20/21/4月10日/カネゴンの繭/コイン怪獣カネゴン・カネゴン(両親)/山田正弘/的場徹/中川晴之助 28.5%
18/21/24/5月1日/虹の卵/地底怪獣パゴス/山田正弘/有川貞昌/飯島敏宏 28.9%
19/22/23/5月8日/2020年の挑戦/誘拐怪人ケムール人/金城哲夫・千束北男/有川貞昌/飯島敏宏 28.6%
23/23/14/6月5日/南海の怒り/大ダコ スダール/金城哲夫/的場徹/野長瀬三摩地 30.1%
20/24/26/5月15日/海底原人ラゴン/海底原人ラゴン・海底原人ラゴン(子)/山浦弘靖・大伴昌司・野長瀬三摩地/的場徹/野長瀬三摩地 34.0%
24/25/22/6月12日/ゴーガの像/貝獣ゴーガ/上原正三/的場徹/野長瀬三摩地 27.0%
16/26/28/4月17日/ガラモンの逆襲/隕石怪獣ガラモン・宇宙怪人セミ人間/金城哲夫/的場徹/野長瀬三摩地 31.2%
7/27/20/2月13日/SOS富士山/岩石怪獣ゴルゴス/金城哲夫・千束北男/的場徹/飯島敏宏 32.5%
10/28/25/3月6日/地底超特急西へ/人工生命Ⅿ1号/山浦弘靖・千束北男/的場徹/飯島敏宏 32.6%

(制作№4.)
28/4/6/1967年12月14日/あけてくれ!/異次元列車/小山内美江子/川上景司/円谷一 19.9%

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「ウルトラQ」の記念すべき第1話は二大怪獣の激突。
ゴメスを倒せ!3.jpg
DVD ウルトラQ VOL.1」古代怪獣ゴメス VS. 原始怪鳥リトラ
ゴメスを倒せ!6.jpg トンネル工事をするうちに反対側からのトンネルに行きあたった一作業員(大村千吉)が、突然「怪物を見た!」と叫び、狂気のようになった。洞窟の中には長さ1メートル半ぐらいの楕円形の塊が発見された。作業員たちは奇怪な物体に当惑し、すぐ調査を依頼することにした。しかし工事現場からの通報で現場にかけつけた学者たちにも皆目判らない物体だった。淳(佐原健二)、由利子(桜井浩子)、一平(西條康彦)の三人も取材に、現場にやって来ていた。困惑する人々、そのうちジロー(村岡順二)という科学好きな少年が「あれは古代のもので、たしかに、これと同じものをどこかで見た」といい出した。記憶をたどったジローが、70キロ離れたところの洞仙寺附近で見たというので、洞窟に入った淳と由利子を残して一平たちはジローとともに洞仙寺へ急いだ。寺の和尚(森野五郎)が見せてくれた一枚の絵、それはリトラとゴメスが闘っているものだった。この絵は裏山にある洞窟の中から発見したものだという。これによって例の物体がリトラのサナギであり、作業員の「ゴメスを倒せ!0.jpgみたという怪物はゴメスに間違いないことを知った一平たちは、淳たちのことを心配してすぐに引返した。その頃、洞窟に入った淳と由利子は、ゴメスに遭遇し、襲撃されていた。ゴメスが冬眠状態から生きかえったのだ。このゴメスを倒すには、宿的リトラに頼むほかはない。だが、リトラはさなぎから脱皮する気配も見せない。そうしているうちにも、淳たちの身に危険が迫るのだった―。(「ウルトラQ・あらすじ集」より)

ゴメスを倒せ!1.jpg '66(昭和41)年1月から7月まで27回にわたって放映された「ウルトラQ」の記念すべき第1話で、'66年1月2日放送。制作時期は'65(昭和40)年2月~3月で、制作No.12。放映に際して第1回にもってきたのは、リトラという二大怪獣の激突があり、派手さがあると見たのではないでしょうか。因みに「ウルトラQ」は'64年から'65年の間にシリーズ全話撮影を終えてから放送がスタートしています(これが「ウルトラマン」('66 年7月~'67年4月)になると、怪獣の作製が放送に追いつかなくなり、そのため高視聴率のまま番組終了となった)。

●「ウルトラQ」(全27話)放映ラインアップ
放送回/制作順/脚本No./放送日(1966年)/サブタイトル/登場怪獣・宇宙人/脚本/特技監督/監督/視聴率
1/12/12/1966年1月2日/ゴメスを倒せ!/古代怪獣ゴメス・原始怪鳥リトラ/千束北男/小泉一/円谷一 32.2%
2/7/11/1月9日/五郎とゴロー/巨大猿ゴロー/金城哲夫/有川貞昌/円谷一 33.4%
3/5/5/1月16日/宇宙からの贈りもの/火星怪獣ナメゴン/金城哲夫/川上景司/円谷一 34.2%
4/1/1/1月23日/マンモスフラワー/巨大植物ジュラン/金城哲夫・梶田興治/川上景司/梶田興治 35.8%
5/14/15/1月30日/ペギラが来た!/冷凍怪獣ペギラ/山田正弘/川上景司/野長瀬三摩地 34.8%
6/11/8/2月6日/育てよ!カメ/大ガメ ガメロン・万蛇怪獣怪竜、乙姫/山田正弘/小泉一/中川晴之助 31.2%
7/27/20/2月13日/SOS富士山/岩石怪獣ゴルゴス/金城哲夫・千束北男/的場徹/飯島敏宏 32.5%
8/10/10/2月20日/甘い蜜の恐怖/モグラ怪獣モングラー/金城哲夫/川上景司/梶田興治 38.5%
9/13/13/2月27日/クモ男爵/大グモ タランチュラ/金城哲夫/小泉一/円谷一 32.4%
10/28/25/3月6日/地底超特急西へ/人工生命Ⅿ1号/山浦弘靖・千束北男/的場徹/飯島敏宏 32.6%
11/16/17/3月13日/バルンガ/風船怪獣バルンガ/虎見邦男/川上景司/野長瀬三摩地 36.8%
12/6/7/3月20日/鳥を見た/古代怪鳥ラルゲユウス/山田正弘/川上景司/中川晴之助 32.6%
13/17/27/3月27日/ガラダマ/隕石怪獣ガラモン/金城哲夫/的場徹/円谷一 35.7%
14/15/16/4月3日/東京氷河期/冷凍怪獣ペギラ/山田正弘/川上景司/野長瀬三摩地 36.8%
15/20/21/4月10日/カネゴンの繭/コイン怪獣カネゴン・カネゴン(両親)/山田正弘/的場徹/中川晴之助 28.5%
16/26/28/4月17日/ガラモンの逆襲/隕石怪獣ガラモン・宇宙怪人セミ人間/金城哲夫/的場徹/野長瀬三摩地 31.2%
17/8/9/4月24日/1/8計画/1/8人間/金城哲夫/有川貞昌/円谷一 31.7%
18/21/24/5月1日/虹の卵/地底怪獣パゴス/山田正弘/有川貞昌/飯島敏宏 28.9%
19/22/23/5月8日/2020年の挑戦/誘拐怪人ケムール人/金城哲夫・千束北男/有川貞昌/飯島敏宏 28.6%
20/24/26/5月15日/海底原人ラゴン/海底原人ラゴン・海底原人ラゴン(子)/山浦弘靖・大伴昌司・野長瀬三摩地/的場徹/野長瀬三摩地 34.0%
21/19/18/5月22日/宇宙指令M774/キール星人・ルパーツ星人・宇宙エイ ボスタング/上原正三/的場徹/満田かずほ 30.9%
22/2/2/5月29日/変身/変身人間 巨人・巨蝶モルフォ蝶/北沢杏子(原案:金城哲夫)/川上景司/梶田興治 26.9%
23/23/14/6月5日/南海の怒り/大ダコ スダール/金城哲夫/的場徹/野長瀬三摩地 30.1%
24/25/22/6月12日/ゴーガの像/貝獣ゴーガ/上原正三/的場徹/野長瀬三摩地 27.0%
25/3/3/6月19日/悪魔ッ子/悪魔ッ子リリー/北沢杏子(原案:熊谷健)/川上景司/梶田興治 31.5%
26/18/19/6月26日/燃えろ栄光/深海生物ピーター/千束北男/的場徹/満田かずほ 30.8%
27/9/4/7月3日/206便消滅す/四次元怪獣トドラ/山浦弘靖・金城哲夫(原案:熊谷健)/川上景司/梶田興治 35.2%

「ゴメスを倒せ!}0.jpg 因みに、ゴメスは身長が10メートルという設定で、ゴメスの着ぐるみは「モスラ対ゴジラ」('64年/東宝)で制作されたゴジラを流用、リトラは「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年/東宝)での操演用のラドンを使用し作られたたそうです。

 ゴメスは10メートルとそう大きくはないですが、両手の爪はビルや山を壊す威力があり、尻尾はダムを破壊できる力があるとのこと。古代の肉食性哺乳類で、牛を一度30頭食べる"大食い"で、長い間地中で眠っていたところを地殻変動で覚醒し、奥多摩の工事現場に現れたということのようです。

 リトラは身長5メートル、鳥類と爬虫類の中間的な古代生物で、大トカゲなどを捕食するが人間は食べないという変わった習性であり、大昔にゴメスと対決したことがあるらしく、そのことが金峯山洞仙寺の古文書に残っていたということのようです(古文書といっても、遡る年代の桁数が異なるようにも思うが(笑))。

「ゴメスを倒せ!」少年.jpg 怪獣オタク(?)のジロー少年が大活躍で、仕舞いにはリトアに「シトロネラアシッド(強力溶解液)を使うんだ!早く!」と指示している! 自分の弱点であるシトロネラ酸を喰らったゴメスは暴れ狂ったのち横転して息絶え、リトラの勝利に喜ぶジローだが、その直後、リトラも命を落とし、ゴメスの亡骸に覆いかぶさる―つまり、シトロネラアシッドはリトア自身の命を削る最後の武器でもあったということで、まあ、リトアだけ生き残っても、現代に餌となる大トカゲもいないわけで、このあたりはうまく出来ているという感じでしょうか。

「ゴメスを倒せ!」横.jpg でも、この頃の怪獣はそう大きくはないとは言え、二頭も一度に斃れたら、映画「大怪獣のあとしまつ」('22年/東映・東宝)ではないですが、"あとしまつ"たいへんだろうなあ。

「ウルトラQ(第1話)/ゴメスを倒せ!」●制作年:1965年●監督:円谷一●監修:円谷英二●脚本:千束北男●撮影:内海正治●音楽:宮内国郎●特技監督:小泉一●出演:佐原健二/西條康彦/桜井浩子/田島義文/富田仲次郎/山本廉/大林千吉/森野五郎/村岡順二/関田裕/山田圭介/勝本圭一郎/(ナレーター)石坂浩二●放送:1966/01/02●放送局:TBS(評価:★★★☆)

【3180】 樋口 真嗣 「シン・ウルトラマン」(2022/05 東宝)
「シン・ウルトラマン」ゴメス.jpg

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ウルトラマンに登場した最強の相手の1つメフィラス星人(単なる怪しいオッさんのようなキャラにも思えるが)。
「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」00.jpg「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」図3.jpg
悪質宇宙人メフィラス星人/誘拐怪人ケムール人(二代目)/凶悪宇宙人ザラブ星人(二代目)/宇宙忍者バルタン星人(三代目)/[下]巨大フジ隊員

「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」01.jpg0巨大フジ隊員.jpg 航空ショーの見学に来たハヤタ・フジ・フジ隊員の弟サトル(川田勝明)。メフィラス星人が突如現れ、人間代表としてフジ・アキコ隊員の弟であるサトルを誘拐。地球を売り渡す承諾の言葉を要求し、あの手この手でサトルを拷問する。しかし、交渉は決裂し、業を煮やしたメフィラスはサトルを閉じ込め、フジ隊員を巨大化させて街中で暴れさせる。さらに、ケムール人、バルタン星人、ザラブ星人を突如都心に出現させ、自らの力を人類に見せつける。サトルと共に円盤に閉じ込められていたハヤタ隊員は事態を見て変身しようとするも、メフィラスに動きを止められてしまう。しかし、メフィラスの宇宙船が爆発し、その衝撃でベーターカプセルのスイッチが入り何とか変身、ウルトラマンはメフィラス星人と激しい戦いを繰り広げるが―。

「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」02.jpg 「ウルトラマン」の第33話で、'66年7月24日放映。監督は鈴木俊継、脚本は金城哲夫。メフィラス星人初登場の巻ですが(後に「ウルトラマンタロウ」(73年)、「ウルトラマンメビウス」('07年)などにも登場)、「悪質宇宙人メフィラス星人」という呼称も凄いけれども、「誘拐怪人ケムール人(二代目)」「凶悪宇宙人ザラブ星人(二代目)」「宇宙忍者バルタン星人(三代目)」を配下に置いているというのがまた凄く、相当の実力者?(知能指数1万以上、ウルトラマンと同等以上の能力を持つと言われ、様々な超能力を発揮し、反重力光線やテレポート能力を有する。科学捜査隊のフジ・アキコ隊員を巨大化させて暴れせた)。

「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」03.jpg ウルトラマンとの戦いでは、両手から放つ光線でウルトラマンの技を防ぎ、肉弾戦でも互角。このようにタフでありながらも知能は高く、暴力を嫌う紳士を自称しており、力づくによる地球制服ではなく、人間の心に挑戦して説得による地球制服を「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」04.jpg図ろうとします。しかし、その交渉相手にサトル少年を選び、「永遠の命を与える」「星の王子にする」などの甘言や、拷問によって「あなたに地球をあげます」と言わせようと画策しているところが可笑しいです(この「地球あげます」が禁じられた言葉ということのようだ)。

結局、その後ウルトラマンと戦いを繰り広げるも、「地球人の心に敗北した」ことを認め、いつか再び地球制服に挑戦することを宣言して去っていきます。ラストは以下のような感じ...。

 「よそう......、宇宙人同士戦ってもしようがない」
  私が欲しいのは地球の心だった。
  だが、私は負けた。子供にすら負けてしまった。
  しかし、私は諦めたわけではない。
  いつか私に地球を売り渡す人間が必ずいるはずだ。
  必ず来るぞ! はっはっはっ!」

「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」10.jpg 高知能指数の宇宙人と言うより、子どもをたぶらかそうとするどこかの単なる怪しいオッさんのようなキャラにも思えますが、初代ウルトラマンに登場した最強の相手の1つと言え、地球侵略を企みながら、ウルトラマンに倒されることなく生き延びた稀有な存在でした。

DVD ウルトラマン VOL.9
「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」 196702.jpg「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」●制作年:1967年●監督:鈴木俊継●脚本:金城哲夫●特殊技術:高野宏一●音楽:宮内国郎●時間:30分●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/津沢彰秀/(ゲスト出演)伊藤久哉/川田勝明/中島春雄/岩本弘司/(声)加藤精三(ノンクレジット)/(スーツアクター)古谷敏/扇幸二/中島春雄/渡辺白洋児(ナレーター)石坂浩二●放送局:TBS●放送日:1967/02/26(評価:★★★☆)●放送局:TBS(評価:★★★☆)
【3180】 樋口 真嗣 「シン・ウルトラマン」(2022/05 東宝) メフィラス星人
シン・ウルトラマン_poster04 - コピー.jpg シン・ウルトラマン 02.jpg 

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強烈な印象を残したバルタン星人の初登場回。移民問題を想起させるような内容。

『ウルトラマン』Episode 2.jpg「ウルトラQ第5話ペギラが来た!t.jpg 「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」b.gif.jpg 「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」bb.gif.jpg
ULTRAMAN ARCHIVES『ウルトラマン』Episode 2「侵略者を撃て」Blu-ray&DVD」」 宇宙忍者バルタン星人

「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」8.gif 東京上空に強力な電波を発する飛行物体が出現するが、御殿山の科学センター付近で突如信号が途絶える。科学特捜隊のアラシ隊員(石井伊吉)が現場へ急行すると、そこで発見したのは何かの力によって全く動かなくなった科学センターの職員たちであった。そしてアラシ隊員も、待ち伏せていたバルタン星人が放つ光線によって仮死状態にさせられてしまう。対話を試みた科学特捜隊は、バルタン星人らが宇宙旅行中に母星を失い宇宙船の修理のために立ち寄ったという事実を聞かされる。そして彼らは地球が自分たちの住み良い惑星だと確認し、総移住を強行しようとする。その人口の数なんと"20億3000万"―。

 「ウルトラマン」の第2話で、'66年7月24日放映(制作№は1)。監督は飯島敏宏、脚本は千束北男(飯島敏宏の脚本家としてのペンネーム)。セミに似た顔とザリガニのような大きいハサミ状の両手を持ち、高度な知能を備えた直立二足歩行の異星人―バルタン星人が強烈な印象を残した初登場回。

 バルタン星人が地球を訪れた当初の目的は侵略ではなく、故障した宇宙船の修理のためだったようで、自分たちの故郷であるバルタン星が発狂した科学者の行った核実験で壊滅したため、たまたま宇宙船で旅行中だった20億3,000万人のバルタン星人が故郷を失って難民となり、身体をバクテリア大にまで縮小して放浪の旅を続けて、やがて発見した地球で宇宙船を修理しようと飛来し、現地を気に入ったということのようです。

 因みに、バルタン星人の名前の由来は、「母星が兵器開発競争によって滅んだため、移住先を求めて地球にやってきた」という設定を、ヨーロッパの火薬庫といわれて紛争の絶えなかったバルカン半島に重ねているとされているそうです(地球人が地球の地名から名付けたということか)。

「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」9 (1).jpg このバルタン星人の来訪はまさに移民問題を想起させるような内容になっていて、「地球に移住することにした」と宣言するバルタン星人に対しハヤタ隊員は「人類の民俗や風習に馴染み、法律を守るなら良いだろう」と答えます。勝手に承諾してしまっていいのかなというのはありますが、ハヤタ隊員=ウルトラマン=神ですからいいのでしょう(笑)。

 しかし、結局バルタン星人は力で人類を制圧しようとしウルトラマンによって撃退されてしまいます。しかしながら、視聴者に残した印象が強烈だったのか、「ウルトラマン(第16話)/科特隊宇宙へ」で二代目バルタン星人が登場、ウルトラマンによって壊滅的な被害を受けたが何とか生き延びた一部のバルタン星人たちが、太陽系に存在すると言われているR惑星に漂着し、地球侵略との機会を窺っていたという設定でした。さらに、「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉へ」で三代目バルタン星人が登場、その後も数多くのウルトラシリーズに登場しています。

「「ウルトラマン(第2話)/侵略者を撃て」.jpg

「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」f.gif.jpg「ウルトラマン(第2話)/侵略者を撃て」●制作年:1966年●監督:飯島敏宏●脚本:千束北男(飯島敏宏)●特殊技術:的場徹●音楽:宮内国郎●時間:30分●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/津沢彰秀/(ゲスト出演)藤田進/飯田覚三/幸田宗丸/緒方燐作/(スーツアクター)古谷敏/佐藤武志/(ナレーター)石坂浩二●放送局:TBS●放送日:1966/07/24(評価:★★★☆)●放送局:TBS(評価:★★★☆)
藤田進(防衛隊幕僚長)

ウルトラマン 1966.jpg「ウルトラマン」title.jpg桜井浩子.jpg「ウルトラマン」●演出:円谷一ほか●監修:円谷英二●制作:円谷特技プロダクション●脚本:金城哲夫ほか●音楽:宮内国郎●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/平田昭彦/津沢彰秀●放映:1966/07~1967/04(全39回)●放送局:TBS

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ミクロ化して少女(松坂慶子)の体内で怪獣と闘うセブン。「ミクロの決死圏」への挑戦。

31話 悪魔の住む花 t3.jpg
「ウルトラセブン(第31話)/悪魔の住む花」細菌怪獣ダリー 松坂慶子(当時15歳)

31話 悪魔の住む花 t1.jpg31話 悪魔の住む花.jpg 花畑を楽しむ3人の女学生。そのうちの一人香織(松坂慶子)が見たこともないような花びらをじっくり観察しているうちに、気を失ってしまう。香織は特殊な血液型で、同じ血液型のアマギ隊員(古谷敏)が協力。何の病気かは不明で、異常に血小板が減っているとのこと。その夜、看護師は香織が病室にいないのに気づき、みんなで探すことに。アマギが地下室で香織を見つけたかと思うと、殴られて気絶してしまう。地下には輸血用の血液が保管されていて、アマギの首には香織に血を吸われたらしき跡が残されていた。香織の持っていた花びらのようなものは宇宙細菌ダリーで、血液を吸う細菌だった。しかし、現代の医学では香織を治す方法がない。見張っていたにもかかわらず、再び香織は病室から姿を消してしまう―。

 「ウルトラセブン」の第31話で、'68年5月5日放映。監督は鈴木俊継、脚本は上原正三。

 ダンは香織を救うため、ウルトラセブンに変身してミクロ化して香織の体内に入り、細菌怪獣ダリーを倒すことを決意しますが、人間の体内はセブンにとって危険な未知の世界であるものの、香織を救う方法は他になかったということのようです。
  
「ミクロの決死圏」('66年/米)
ミクロの決死圏.jpg このダン=ウルトラセブンの決心は、このシリーズが「ミクロ」の世界に初めて挑戦したことと重なってます。意識したのは本作の2年前に公開されたリチャード・フライシャー監督の「ミクロの決死圏」('66年/米)であり、そのことは、細菌怪獣の「ダリー」という名が、「ミクロの決死圏」が日本で紹介される際「サルバドール・ダリが美術を担当」と記述されることが多かったことに由来しているようです(実際にはサルバドール・ダリはこの映画には関係していない)。円谷プロの「ミクロの決死圏」への挑戦ともとれるかと思います。

松坂慶子 ウルトラセブン1.jpg あと、当時15歳の松坂慶子が香織役で出ているのも見どころかもしれません。古谷敏が演じるアマギ隊員は香織のことを好きになったみたいですが、確かにこの頃の松坂慶子は美少女です。

 ストーリー的にはたいしたことなく、メリーゴーランドに香織とアマギ隊員が仲良く乗っているシーンで、一体誰がメリーゴーランドを動かしたのか分からないし、細菌怪獣の「ダリー」も、細菌怪獣と呼ぶにしては完全にダニのような節足動物の姿をしているし(「ダニー」の間違いかと思った(笑))、といった突っ込みどころは多いのですが、「ミクロの決死圏」に挑戦していることを買い、さらに松坂慶子の貴重映像?との合わせ技で一応○としました。

「ウルトラセブン(第31話)/悪魔の住む花」●制作年:1968年●監督:鈴木俊継●脚本:上原正三●音楽:冬木透●特殊技術:的場徹●時間:30分●出演:森次浩司(森次晃嗣)/菱見百合子(ひし美ゆり子)/中山昭二/石井伊吉(毒蝮三太夫)/阿知波信介/古谷敏/松坂慶子/伊藤実●放送局:TBS●放送日:1968/05/05(評価:★★★☆)

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米ソ冷戦を色濃く反映させたエピソード。「ウルトラQ/ペギラが来た!」にも出ていた田村奈巳。
26話「超兵器R1号」t.jpg 26話「超兵器R1号」t2.jpg 26話「超兵器R1号」last.jpg
「ウルトラセブン(第26話)/超兵器R1号」再生怪獣ギエロン星獣 森次浩司/佐原健二/田村奈巳

26話「超兵器R1号」10.jpg 地球防衛軍はタケナカ参謀(佐原健二)のもと瀬川博士(向井淳一郎)と前野律子博士(田村奈巳)で新型水爆8000個分の威力を持つ惑星攻撃用超兵器R1号を完成させる。ダン(森次浩司)は兵器の開発には反対で、実験の中止を希望している。兵器をテストするために、前野博士は生物がいないと見られるギエロン星を選ぶ。実験は成功し、ギエロン星は爆破されてしまう。悲しい面持ちで見ていたダンは宇宙パトロールへ出発する。その頃、基地に宇宙観測艇から、ギエロン星から攻撃を受けたと連絡が入る。ギエロン星の怪物が地球に向かっていて、ホーク1号に乗ったダンとフルハシ(石井伊吉)が現場へ。基地では博士達が話し合っていて、ギエロン星には生物がいて、R1号の攻撃で変異したらしいと言っている。ホーク3号が地球に降り立ったギエロン星人にミサイルを発射し、爆死したかのように見えたのだが―。

 「ウルトラセブン」の第26話で、'68年3月31日放映。監督は鈴木俊継、脚本は若槻文三。

 地球人が打ち上げた超兵器を宇宙で実験し、それは何事もなく成功したように思えたプロジェクトには大きな欠陥があり、その星には生物が生息しており、結果的に復讐の使者「ギエロン星獣」が地球に飛来することになったということです。

 これは当時の米ソ冷戦を色濃く反映しているのは間違いなく、超兵器R1号は核爆弾の象徴でしょう。金星に似た生物の住めないような星でR1号の事件をしたら、そこには星人がいたという(ギエロン星人がギエロン星獣になったということか)、ちょうど核実験をやったらそこに漁船がいたという、1946年のアメリカによる戦後の最初の核実験(初回は原子爆弾実験)と「第五福竜丸」の悲劇をも想起させるものとなっています。

26話「超兵器R1号」6.jpg ウルトラホーク3号に搭載した新型ミサイルによる攻撃でギエロン星獣の体はバラバラになり、全ては終わったかと思いきや、夜になるとバラバラになっていた体が集結してギエロン星獣は復活(だから「再生怪獣」)、放射能をまき散らしながらより強靭になっていて、ウルトラホーク1号、3号からのミサイル攻撃も効果は無く、星獣はウルトラセブンセブンのアイスラッガーさえも跳ね返してしまいます(それでも、セブンは星獣の片翼をもぎとり、手に持ったアイスラッガーで喉元を斬ってなんとか星獣を倒す。結構、原始的)。

 ギエロン星獣の最期も含め、作品全体にどんよりとした空気が流れる作品ですが、実験を積極的に進めていた前野律子博士らが最後自らの考えを改めることが救いでしょうか。核軍縮へのメッセージと言えますが、子供向け番組でそうした平和に向けたメッセージをかなり強く打ち出している点が特徴的であり、それはシリーズ全体についても言えることかもしれません。

26話「超兵器R1号」田村.jpg5話)/ペギラが来た!図3.jpg 前野律子博士を演じた田村奈巳(1942年生まれ)は、「ウルトラQ(第5話)ペギラが来た!」('66年)で南極基地越冬隊員・久原羊子役、「ウルトラマン(第35話)怪獣墓場」('67年)で月ロケットセンター所員役でも出ており、近年は露出が減りましたが、岡本喜八監督の「助太刀屋助六」('01年/東宝)に1カット出ていました。

「ウルトラQ(第5話)ペギラが来た!」田村奈巳(南極基地越冬隊員・久原羊子)
「ぺギラが来た」田村奈巳.jpg 「ウルトラQ(第5話)ペギラが来た!」('66年1月30日放送)は―
 南極観測隊を乗せた観測船が、夏季というのに吹雪におそわれ、外気氷点下100度の寒冷に見舞われて立往生する。先に派遣されて行方不明になった野村隊員のメモによると、同じ様な寒波におそわれた直後何かを見つけて外へ出たらしく「またきたペギラ」と文章を結んでいた。ペギラとは何か? 万城目淳(佐原健二)は野村のメモをたよりに、ペギラを調査するために、みんなが寝静まった時に出かけようとした。だが、女性隊員、久原羊子(田村奈巳)がその時同じように忍んで来た。彼女は野村隊員の許婚者で、彼の消息を調べたくて観測隊に同行したのだ。次の瞬間、突然、強風と「ぺギラが来た」3.jpgともに雪上車が空中に舞い上がり、無気味なうなり声が辺りにひびきわたった。そこへ、表へ出でいた伊東隊員(伊吹徹)が、氷づけになったように転がり込んで来て、「怪物を見た」「クレパスで野村隊員をみつけた」と虚ろに叫んだ。淳はすぐにそのクレパスに向かうと、そこへペンギン状の化物が白い息をはきながら現われた―。

「ぺギラが来た」ct.jpg 個人的感想は、まず単なる一パイロットに過ぎない万城目がなぜ行方不明の南極観測隊員の捜索をしなくてはいけないのか、その辺りが引っ掛かったのと、その後のストーリー展開ものったりしていて、南極のセットだけで費用をかけすたのか、未知の生物に襲撃されて南極基地がパニックになるということにもならず、イマイチでした(カラー版で今観ると、田村奈巳の美貌が数少ない見どころの1つか)。ただし、このペギラは、同じウルトラQの第14話「東京氷河期」で再登場し、こちらの方はまずまずでした。

「超兵器r1号」.jpg0超兵器R1号.jpg「ウルトラセブン(第26話)/超兵器R1号」●制作年:1968年●監督:鈴木俊継●脚本:金城哲夫●音楽:冬木透●特殊技術:的場徹●時間:30分●出演:森次浩司(森次晃嗣)/菱見百合子(ひし美ゆり子)/中山昭二/石井伊吉(毒蝮三太夫)/阿知波信介/古谷敏/佐原健二/田村奈巳/向井淳一郎●放送局:TBS●放送日:1968/03/31(評価:★★★☆)

  
「ウルトラQ(第5話)/ペギラが来た!」●制作年:1965年●監督:野長瀬三摩地●監修:円谷英二●制作:円谷英二●脚本:山田正「ぺギラが来た」mt.jpg「ぺギラが来た」ものくろ.jpg弘●撮影:内海正治●音楽:宮内国郎●特技監督:川上景司●出演:佐原健二/田村奈己(田村奈巳)/松本克平/森山周一郎/伊吹徹/黒木順/石島房太郎/岡豊/今井和雄/石坂浩二(ナレーター)●放送日:1966/01/30●放送局:TBS(評価:★★★)
「ペギラが来た」21.jpg  

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政治的メッセージがあるとも取れるし特に無いとも取れる。それくらいがいい。

ウルトラセブン dvd11.jpg ノンマルトの使者 t.jpg ウルトラセブン 42 ノンマルトの使者 01.jpg ウルトラセブン 42 ノンマルトの使者 02「.jpg
DVD ウルトラセブン Vol.11」(「第42話/ノンマルトの使者」所収)/地球原人ノンマルト/蛸怪獣ガイロス
菱見百合子(友里アンヌ)
ノンマルトの使者002.jpgウルトラセブン 42 ノンマルトの使者 06.jpg 海岸で休んでいたアンヌ(菱見百合子)の元へ男の子がやって来て、シーホース号の海底開発を今すぐ止めさせないと、大変なことになると予告する。ダン(森次浩司)がアンヌのところへ戻って来ると、沖に見えるシーホース号が炎を上げて燃え始めた。連絡を受けた基地からハイドランジャーが発進して探索すると、海底基地は爆破され近くで潜水艦のようなものを目撃する。アンヌは男の子の顔を覚えていたので、近くの小学校で男の子を探すが、全員違っていた。地球防衛軍ではマナベ参謀(宮川洋一)が子供の声でかかってきた電話を録音してあり、みんなに聞かせ始めると、海底はノンマルトのものだと言っていた。ダンはノンマルトはもともと地球人のことだが、人間とは別の生き物がいるのかと、ノンマルトの正体を考える.。アンヌは事件を予告してきた男の子が海辺の岩の上に座っているのを見つける―。

 「ウルトラセブン」の第42話で、'68年7月21日放映。監督は満田穧(かずほ)、脚本は金城哲夫。

ノンマルトの使者01.jpgノンマルトの使者00.jpg ダン(ウルトラセブン)の故郷M78星雲では地球人のことをノンマルトと呼んでいるが、少年の言うノンマルトとはいったい何者なのか? アンヌが少年を見つけ出し、ノンマルトとは何なのかということを尋ねると、それに対する少年の答は「本当の地球人さ ずっとずっと大昔 人間より前に地球に住んでいたんだ でも人間から海に追いやられてしまったのさ 人間は今では自分たちが地球人だと思ってるけど本当は侵略者なんだ」という驚くべきものだった―。

 う~ん。人類の誕生以前に別の地球人(海底人)が居たという凄いSF仕立て。しかも、その海底人の存在を伝えた少年は、実は2年前にこの海で亡くなっていたというオチなので、「ウルトラセブン」の後番組の「怪奇大作戦」('68年~'69年)の雰囲気も漂っている印象を受けます。

ノンマルトの使者 アンヌ.jpgノンマルトの使者d.jpgノンマルトの使者r.jpg 一方で、冒頭、ダンとアンヌは海水浴に来ていて、アンヌは首まで砂に埋まり、ダンは海で魚を仕留めてくるという、絵にかいたようなレジャーモード(アンヌの水着姿も見ることができるし)。ラストでも二人して波打ち際を走り、日活青春映画のワンシーンみたいだったりします。

 先住民vs.侵略者である地球人という構図とも解釈でき、沖縄出身の金城哲夫の政治的メッセージが込められているとの見方もあるようですが、アンヌ隊員役のひし美ゆり子氏が「先住民vs.侵略者である地球人という構図は後付けではないか」と言っているし、満田穧(かずほ)監督も「沖縄人としての思いを込めて書いたのではないか?」という質問に対し、「全くそうは思わない」と答えています。

 個人的には、そうとも取れるし、と言ってそう取らなければならないというほどの押しつけがましさも無いという印象で、そういうところがこの作品の良さなのかもしれません(結構、このシリーズ、そういうのが多かったりする)。

ノンマルトの使者99.jpgノンマルトの使者001.jpg「ウルトラセブン(第42話)/ノンマルトの使者」●制作年:1968年●監督:満田穧(かずほ)●脚本:金城哲夫●特殊技術:高野宏一●音楽:冬木透●時間:30分●出演:森次浩司(森次晃嗣)/菱見百合子(ひし美ゆり子)/中山昭二/石井伊吉(毒蝮三太夫)/阿知波信介/古谷敏/二瓶正也/宮川洋一/天草四郎●放送局:TBS●放送日:1968/07/21(評価:★★★☆)

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名前は「モロボシ・ダンとでもしておきましょう」(笑)。今観直してみても熱狂が甦る。

ウルトラセブン vol1.jpgウルトラセブン 姿なき挑戦者 2.jpg ウルトラセブン 第1話 1967.jpg
DVD ウルトラセブン Vol.1」(「第1話/姿なき挑戦者」所収)宇宙狩人(ハンター)クール星人/カプセル怪獣ウインダム
ウルトラセブン 姿なき挑戦者t.jpgウルトラセブン 姿なき挑戦者 d.jpg 頻繁に発生する人間蒸発事件を宇宙人の仕業と断定した地球防衛軍は、精鋭チーム"ウルトラ警備隊"に出動を要請する。早速、捜査を開始したフルハシ隊員(石井伊吉(毒蝮三太夫)とソガ隊員(阿知波信介)の前に突如現れ、警告を発する謎の風来坊。彼はモロボシ・ダン(森次浩司)と名乗り、宇宙人を迎撃するために有効な作戦を提案した。果たして、彼の正体は?

 '67(昭和42)年10 月から'68(昭和43)年9月まで、TBS系列で毎週日曜19:00 - 19:30に全49話が放送された「ウルトラセブン」の内の第1話であり、'67年10月1日放映。監督は円谷一、脚本は金城哲夫です。

ウルトラセブン 姿なき挑戦者6.jpg 途中、「地球防衛軍」の秘密基地が紹介され、キリヤマ隊長(中山昭二)率いる「ウルトラ警備隊」が、ヤマオカ長官(藤田進)、タケナカ参謀(佐原健二)、ヤナガワ参謀(平田昭彦)らの「地球防衛軍」の指示のもと出動する部隊であることが分かるほか、キリヤマ隊長、ソガ隊員、フルハシ隊員、アマギ隊員(古谷敏)、友里アンヌ隊員(菱見百合子)の年齢、隊歴、出身地、特技といったプロフィール紹介があります。

 そんな彼らの前に突然現れたどこの誰か分からない風来坊、隊員に名前を訊かれて「そう、モロボシ・ダンとでもしておきましょう」とまるで椿三十郎みたいなやり取りをした彼でしたが、人間蒸発事件を起こしている「クール星人」への対応についてアンヌ隊員が「ねぇ、あなた何か名案はないの?」と訊かれ(プロが素人に教えを乞うかなというのはあるが、)円盤に特殊噴霧器で色をつけるという提案が採用されて、その貢献から、ラストではヤマオカ長官に改めてウルトラ警備隊の新メンバーということで紹介されています(身上調査はやったのか?)。

「ウルトラセブン(第1話)/姿なき挑戦者」図3.jpg この回で早速、ウルトラセブン=モロボシ・ダンが所有する、小さなカプセルに入った怪獣(カプセル怪獣)の一種「ウィンダム」が登場。ウルトラセブンがクール星人と闘う前に、彼らの宇宙船と前哨戦のような闘いを繰り広げ、やられそうになるとモロボシ・ダンにカプセルに呼び戻されますが、これが「ポケットモンスター」の元ネタになったとされているようです。

「ウルトラセブン(第1話)/姿なき挑戦者」図.jpg そして、この回における敵の「クール星人」は、資料によると身長2メートル、体重75キログラムと小さいのですが、肥大化した脳と退化した四肢が特徴的な彼らは進化の最終形態にあり、知能指数は何と5万とのこと(「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉へ」に登場する「メフィラス星人」が知能指数1万かそれ以上とされているから、それよりさらに上で、ウルトラシリーズ最高だったということになる)。進化しきった代償に無精子症及び不妊症となり、精力旺盛な地球人(笑)を研究材料に選び、地球にやってきた彼らは各地で人間を捕らえ標本にし研究してきたとのこ「ウルトラセブン(第1話)/姿なき挑戦者」t.jpgと。そして、捕らえた地球人を人質に地球防衛軍に全面降伏を迫るも拒否され、直接攻撃に移行、目に見えない宇「ウルトラセブン(第1話)/姿なき挑戦者.jpg宙船からの攻撃で京浜工業地帯を壊滅状態にしてしまうという流れ。でも最後は、宇宙船に入り込まれたウルトラセブンに破れ死亡、宇宙船も爆破されます(このあたりは宇宙での戦い)。

 因みに、この回では隊員たちはウルトラセブンのことを特に名前では呼ばず、第2話で「ワイアール星人」と戦うウルトラセブンにアンヌ隊員が投げかけた「ウルトラセブン、がんばって!」という言葉が初出だそうです。呼称の由来は、「ウルトラ警備隊」7番目の戦士と認められたからとのことで(6番目はモロボシ・ダン)、本編ではカットされたが、シナリオにそれとわかるシーンがあったそうな。

 でも、「ウルトラマン」('66年7月~'67年4月)が円谷特技プロ側で制作が次第に追いつかなくなり、やむなく放送打ち切りを余儀なくされるといった事態に陥った中で、間に低予算番組「キャプテンウルトラ」('67年4月~9月)(これはこれで国産初の本格スペースオペラ作品であるのだが)を挟んで、準備万端で臨んだだけに、まずまずのスタートが切れたのではないでしょうか。観直してみても、子供時代の熱狂が甦ってきます。

●「ウルトラセブン」(全49話)放映ラインアップ
NO./日付/タイトル/登場怪獣・宇宙人等/脚本/監督/特殊技術・特撮監督
1/1967/10/1/姿なき挑戦者/クール星人・ウインダム/金城哲夫/円谷一/高野宏一
2/10/8/緑の恐怖/ワイアール星人/金城哲夫/野長瀬三摩地/高野宏一
3/10/15/湖の秘密/ピット星人・エレキングミクラス/金城哲夫/野長瀬三摩地/高野宏一
4/10/22/マックス号応答せよ/ゴドラ星人/金城哲夫・山田正弘/満田禾斉/有川貞昌
5/10/29/消された時間/ビラ星人/管野昭彦/円谷一/高野宏一
6/11/5/ダークゾーン/ペガッサ星人/若槻文三/満田禾斉/有川貞昌
7/11/12/宇宙囚人303/キュラソ星人/金城哲夫/鈴木俊継/的場徹
8/11/19/狙われた街/メトロン星人/金城哲夫/実相寺昭雄/大木淳
9/11/26/アンドロイド0指令/チブル星人・アンドロイド/上原正三/満田禾斉/的場徹
10/12/3/怪しい隣人/イカルス星人/若槻文三/鈴木俊継/的場徹
11/12/10/魔の山へ飛べ/ワイルド星人・ナース/金城哲夫/満田禾斉/的場徹
12/12/17/遊星より愛をこめて/スペル星人/佐々木守/実相寺昭雄/大木淳
13/12/24/V3から来た男/アイロス星人/市川森一/鈴木俊継/高野宏一
14/1968/1/7/ウルトラ警備隊西へ 前編/ペダン星人・キングジョー/金城哲夫/満田禾斉/高野宏一
15/1/14/ウルトラ警備隊西へ 後編/ペダン星人・キングジョー/金城哲夫/満田禾斉/高野宏一
16/1/21/闇に光る目/アンノン/藤川桂介/鈴木俊継/高野宏一
17/1/28/地底GO!GO!GO!/ユートム/上原正三/円谷一/大木淳
18/2/4/空間X脱出/ベル星人・グモンガ/金城哲夫/円谷一/大木淳
19/2/11/プロジェクト・ブルー/バド星人/南川竜/野長瀬三摩地/的場徹
20/2/18/地震源Xを倒せ/シャプレー星人・ギラドラス/若槻文三/野長瀬三摩地/的場徹
21/2/25/海底基地を追え/アイアンロックス/赤井鬼介/鈴木俊継/大木淳
22/3/3/人間牧場/ブラコ星人/山浦弘靖/鈴木俊継/大木淳
23/3/10/明日を捜せ/シャドー星人・ガブラ/南川竜・上原正三/野長瀬三摩地/的場徹
24/3/17/北へ還れ!/カナン星人・ウインダム/市川森一/満田禾斉/高野宏一
25/3/24/零下140度の対決/ポール星人・ガンダー・ミクラス/金城哲夫/満田禾斉/高野宏一
26/3/31/超兵器R1号/ギエロン星獣/若槻文三/鈴木俊継/的場徹
27/4/7/サイボーグ作戦/ボーグ星人/藤川桂介/鈴木俊継/的場徹
28/4/14/700キロを突っ走れ!/キル星人・恐竜戦車/上原正三/満田禾斉/高野宏一
29/4/21/ひとりぼっちの地球人/プロテ星人/市川森一/満田禾斉/高野宏一
30/4/28/栄光は誰のために/プラチク星人/藤川桂介/鈴木俊継/的場徹
31/5/5/悪魔の住む花/ダリー/上原正三/鈴木俊継/的場徹
32/5/12/必殺の0.1秒/ペガ星人/山浦弘靖/野長瀬三摩地/高野宏一
33/5/19/散歩する惑星/リッガー・アギラ/山田正弘・上原正三/野長瀬三摩地/高野宏一
34/5/26/侵略する死者たち/シャドウマン/上原正三/円谷一/高野宏一
35/6/2/蒸発都市/ダンカン/金城哲夫/円谷一/高野宏一
36/6/9/月世界の戦慄/ザンパ星人・ペテロ/市川森一/鈴木俊継/高野宏一
37/6/16/盗まれたウルトラ・アイ/マゼラン星人/市川森一/鈴木俊継/高野宏一
38/6/23/勇気ある戦い/クレージーゴン/佐々木守/飯島敏宏/高野宏一
39/6/30/セブン暗殺計画[前編]/ガッツ星人・アロン・ウインダム/藤川桂介/飯島敏宏/高野宏一
40/7/7/セブン暗殺計画[後編]/ガッツ星人/藤川桂介/飯島敏宏/高野宏一
41/7/14/水中からの挑戦/テペト星人・テペト/若槻文三/満田禾斉/高野宏一
42/7/21/ノンマルトの使者/ノンマルト・ガイロス/金城哲夫/満田禾斉/高野宏一
43/7/28/第4惑星の悪夢/第4惑星人/川崎高・上原正三/実相寺昭雄/高野宏一
44/8/4/円盤が来た/ペロリンガ星人/川崎高・上原正三/実相寺昭雄/高野宏一
45/8/11/恐怖の超猿人/ゴーロン星人・ゴリー/上原正三・市川森一/鈴木俊継/大木淳
46/8/18/ダン対セブンの決闘/サロメ星人・ニセ・ウルトラセブン・アギラ/上原正三・市川森一/鈴木俊継/大木淳
47/8/25/あなたはだあれ?/フック星人/上原正三/安藤達己/的場徹
48/9/1/史上最大の侵略 前編/ゴース星人・バンドン/金城哲夫/満田禾斉/高野宏一
49/9/8/史上最大の侵略 後編/ゴース星人・バンドン/金城哲夫/満田禾斉/高野宏一


ウルトラセブン 姿なき挑戦者 d2.jpg「ウルトラセブン(第1話)/姿なき挑戦者」●制作年:1967年●監督:円谷一●脚本:金城哲夫●特殊技術:高野宏一●音楽:冬木透●時間:30分●出演:中山昭二/森次浩司(森次晃嗣)/菱見百合子(ひし美ゆり子)/石井伊吉(毒蝮三太夫)/阿知波信介/古谷敏/佐原健二/宮川洋一/藤田進/平田昭彦/佐原健二●放送局:TBS●放送日:1967/10/01(評価:★★★☆)

ダンとアンヌとウルトラセブン: ~森次晃嗣・ひし美ゆり子 2人が語る見どころガイド~』(森次晃嗣(ダン)とひし美ゆり子(アンヌ)はじめての対談集)
森次晃嗣ひし美ゆり子対談.jpg
      
菱見百合子.jpgウルトラセブン2.jpgウルトラセブン 1967.jpg「ウルトラセブン」●演出:円谷一ほか●監修:円谷英二●制作:円谷特技プロダクション●脚本:金城哲夫ほか●音楽:冬木透●出演:中山昭二/森次浩司(森次晃嗣)/菱見百合子(ひし美ゆり子)/石井伊吉(毒蝮三太夫)/阿知波信介/古谷敏/藤田進/佐原健二/宮川洋一/平田昭彦●放映:1967/10~1968/09(全49回)●放送局:TBS
ウルトラ警備隊:アマギ隊員(古谷敏)/モロボシ・ダン隊員(森次浩司)/友里アンヌ隊員(菱見百合子)/ソガ隊員(阿知波信介)/フルハシ隊員(石井伊吉)/キリヤマ隊長(中山昭二)
ウルトラ警備隊0.jpgウルトラセブン04.jpg地球防衛軍:タケナカ参謀(佐原健二)/ヤマオカ長官(藤田進)/ヤナガワ参謀(平田昭彦

   
  

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「ウルトラマン」だけでなくウルトラシリーズ全体での最高視聴率(42.8%)を記録。

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【Amazon.co.jp限定】ULTRAMAN ARCHIVES『ウルトラマン』Episode 37「小さな英雄」 Blu-ray&DVD(L判ビジュアルシート4枚セット付)」科学特捜隊 & 友好珍獣ピグモン(再生)/ウルトラマン VS.酋長怪獣ジェロニモン

/小さな英雄10.jpg ある日、銀座のデパートにピグモンが出現し、科学特捜隊に保護される。ピグモンの言葉を解析したところ、怪獣の酋長ジェロニモンが60匹以上の怪獣を復活させ、科学特捜隊とウルトラマンに復讐するという。直ちに迎撃に出動する科学特捜隊だが、イデ隊員(二瓶正也)の様子がおかしい―。

 '66(昭和41)年7月から'67(昭和42)年4月まで、TBS系列で毎週日曜19:00 - 19:30に全39話が放送された「ウルトラマン」の内のこの「小さな英雄」は第37話で、'67年3月18日放映。監督は満田穧(かずほ)、脚本は金城哲夫。

 この第37話「小さな英雄」の視聴率は42.8%で、後の「ウルトラセブン」の最高視聴率を記録した第2話「緑の恐怖」の33.8%を大きく上回り、先行した「ウルトラQ」で最高視聴率を記録した第8話「甘い蜜の恐怖」。の38.5%をも上回っています。因みに、平均視聴率も「ウルトラマン」がトップで36.8%、「ウルトラQ」が 32.4%、「ウルトラセブン」が26.5%であり、今思えばどれもスゴイ数字ですが、その中でもこの頃がピークだったかもしれません。

「ウルトラマン(第37話)/小さな英雄」1tou.jpg 酋長怪獣ジェロニモンは、ジェロニモがモチーフであることは明らか(今の時代だと検閲でアウトか)。ただし、対白人抵抗戦「アパッチ戦争」に身を投じた実際の戦士ジェロニモ(1829-1909)は、本作のように部族の酋長と誤解されている例も多いですが、実際は酋長でも部族の「指導者」でもなく、シャーマンだったそうです。しかしながら、怪獣ジェロニモンに死んだ怪獣を甦らせる能力を付与していることから、その辺りは事前に調べて、シャーマンとしての呪術能力を持たせたのかもしれません。

「ウルトラマン(第37話)/小さな英雄」2tou.jpg お陰で、科学特捜隊がピグモンに案内された場所に行ってみれば(怪獣に案内してもらっているというのが可笑しいが、それ以前に、ピグモンの言葉を解するためにイルカの言葉を研究している博士に協力してもらったというのも可笑しい)、そこでは第25話「怪彗星ツイフォン」の彗星怪獣ドラコと第22話「地上破壊工作」の地底怪獣テレスドンが"再生"されていて(当初の予定はゴモラとレッドキングを"再生"させる予定だだったが、着ぐるみの都合でドラコとテレスドンという微妙な取り合わせ(笑)になったようだ)、ピグモンが現れたのも"再生"の結果でしたが、ドラコとテレスドンの二頭が暴れた後に、"元締め"のジェロニモンが登場すします(何と鳥の羽根が武器!)。

 科学特捜隊のイデ隊員(二瓶正也)は、前回取り上げた第23話「故郷は地球」で元は人間だった怪獣ジャミラと闘うことに悩んでいましたが、今回は、自分たちがどれだけ怪獣と闘っても、最後はウルトラマンが敵を倒すのだと、自分の仕事について悩んでいます。そんな彼の研究室にコーヒーを差し入れて励ますのが、前の時はフジ・アキ子隊員(桜井浩子)でしたが、今度はハヤタ隊員(黒部進)。実はそのハヤタ隊員がウルトラマンなのだけれどね。

 このイデ隊員が悩む回は人気が高いようで、CS放送の「ファミリー劇場」が樋口真嗣監督の「シン・ウルトラマン」('22年/東宝)の公開に併せてテレビ版を放映するため、「ファンが選ぶ10エピソード」を募ったところ、アンケートで第1位となったのが第23話「故郷は地球」で、第2位がこの第37話「小さな英雄」でした。怪獣が複数"復活"登場するというのもありますが、ジャミラが身を挺して闘うのが健気で、死ぬところが切ないのが、上位に来る要因でしょう。

「ウルトラマン(/小さな英雄」.png 最高視聴率を記録したのは、春休み中の放送だったとかも関係した?(放送曜日は日曜なのだが)。哀切感と懐かしさ、先に述べたようなイルカ語などの突っ込みどころと、いろいろな意味で、ランキング上位にくるのは分かる気がします。

「ウルトラマン(第37話)/小さな英雄」●制作年:1967年●監督:満田穧(かずほ)●脚本:金城哲夫●特殊技術:有川貞昌●音楽:宮内国郎●時間:30分●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/(ゲスト出演)浅野進治郎/(スーツアクター)古谷敏/荒垣輝雄/清野幸弘/松島映一/小宅雅裕/(ナレーター)浦野光●放送局:TBS●放送日:1967/03/26(評価:★★★☆)●放送局:TBS(評価:★★★☆)

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ファンの間で"神回"と呼ばれる回。イデ隊員(故・二瓶正也)に焦点が当てられていた。

『ウルトラマン』Episode 23.jpg「故郷は地球」dvd1.jpg.gif.jpg 「故郷は地球」ジャミラ.jpg
ULTRAMAN ARCHIVES『ウルトラマン』Episode 23「故郷は地球」Blu-ray&DVD」棲星怪獣ジャミラ

「故郷は地球」01.jpg.gif.jpg 国際平和会議に参加予定の各国の代表者が乗った飛行機や船ばかりを狙った、謎の爆破が頻発する。科学特捜隊はこの問題を解決するべく、パリ本部のアラン隊員(ピエール・ピロッツ)と一緒に捜査に乗り出す。そして、飛行機や船を破壊をしていたの「故郷は地球」02.jpgは「見えない円盤」であることがわかる。科学特捜隊はイデ隊員(二瓶正也)が開発したスペクトルα線、β線、γ線でこれを破壊。見えない円盤の中から出てきた怪獣を見て、アラン隊員はその正体を確信する。この怪獣はかつて有人衛星に乗っていた宇宙飛行士のジャミラ。つ「故郷は地球」03.jpgまり元人間だった。米ソの宇宙開発競争が盛んだった時代、ジャミラの乗った有人衛星は遭難して惑星に不時着し、その失敗を隠すために祖国はジャミラを見捨てた。過酷な宇宙環境に耐えるうちに怪獣になったジャミラ。その恨みを晴らすために、ジャミラは各国の代表者が集まる国際平和会議を狙ったのだった。祖国に見捨てられて怪獣になってしまったという悲しい過去を持つ怪獣ジャミラ。国際平和会議の会場に向けて周りを焼き尽くしながら進むジャミラに、ウルトラマンが立ち向かう―。

 '66(昭和41)年7月から'67(昭和42)年4月まで、TBS系列で毎週日曜19:00 - 19:30に全39話が放送された「ウルトラマン」の内のこの「故郷は地球」は第23話で、'66年12月18日放映。監督は実相寺昭雄、脚本は佐々木守。

シン・ウルトラマン ポスター.jpg 樋口真嗣監督の「シン・ウルトラマン」(22年/東宝)が今月[5月]公開されたところですが、CS放送の「ファミリー劇場」がそれに併せてテレビ版を放映するため、「ファンが選ぶ10エピソード」を募ったところ、アンケートで第1位となったのがこのエピソードでした(実相寺昭雄監督と脚本・佐々木守。このタッグの作品はほかにも第34話「空の贈り物」が第6位に、第35話「怪獣墓場」が第7位にランクインしている)。

●「ウルトラマン」ファンが選ぶ10エピソード(CS「ファミリー劇場」)
  第1位 第23話「故郷は地球」
  第2位 第37話「小さな英雄
  第3位 第2話「侵略者を撃て
  第4位 第33話「禁じられた言葉
  第5位 第39話「さらばウルトラマン」
  第6位 第34話「空の贈り物」
  第7位 第35話「怪獣墓場」
  第8位 第18話「遊星から来た兄弟」
  第9位 第28話「人間標本5・6」
  第10位 第1話「ウルトラ作戦第一号」

 このエピソードは、これまで行われたアンケートでも常に上位にくる所謂"神回"と呼ばれるもので、やはりジャミラが元は人間だったといことが観ている側のシンパシーを掻き立てるのでしょう。実際、かつてソ連などは、成功した宇宙飛行だけ公表し、失敗したものは隠ぺいしたのではないかとの噂もあったから、その辺りの"疑い"がモチーフになっているのは間違いないと考えられます(テレシコワなどソ連の宇宙飛行士の写真がカットバック的に挿入されている)。

「故郷は地球」二瓶.jpg.gif.jpg このエピソードの中では、昨年['21年]8月に亡くなった二瓶正也(1940-2021/80歳没)が演じるイデ隊員に焦点が当てられていますが(武器開「故郷は地球」井出・アキコ.jpg発担当でありながら、ジャミラが元人間と知って、ジャミラを倒すことを拒否する。これを咎めるのが石井伊吉(毒蝮三太夫)のアラシ隊員)、観直してみると、イデ隊員のそうした苦悩が描かれる一方で、桜井浩子演じるフジ・アキ子隊員に叱られてたじたじになったり(「イデ君」と呼ばれている)、逆に、兵器の開発中にフジ・アキ子隊員にコーヒーを差し入れて貰いちょっといい雰囲気になったする場面もあったのだなあと改めて思いました(イデ隊員、研究室ではスーツ着ている)。

「故郷は地球」22避難.jpg.gif 結局、姿を現したジャミラは農村を焼き払って人々は逃げまくるわけですが、「ウルトラマン」でこうしたゴジラ映画のような住民の避難シーンが大々的に描かれるには珍しいとのこと(みんな泥棒みたいな唐草模様の風呂敷を背負っているのが可笑しい。柱時計を抱えている人も)。ジャミラがなぜ日本に現れたかというと、日本で国際平和会議が開かれようとしていたからということで説明はつくか。

「故郷は地球」3競技場難.jpg.gif.jpg 国際平和会議の会場として国立代々木競技場第一体育館の前でロケしていて、ジャミラが出てくるシーンではそれをミニチュアで再現しているのは立派。この頃って、前の東京オリンピックが終わってまだ2年しか経っていなかったのだなあ。国際的なものを象徴するとしたら、やはり東京オリンピック関係の施設ということになったのでしょう。

「故郷は地球」4ジャミラjpg.jpg 突っ込みどころも多いですが、やはりウルトラマンのスーツアクターの古谷敏も演じていて切なさを感じたというジャミラの最期の哀れさがいちばん効いているでしょうか(水に弱いとは!)。樋口真嗣監督も、「人類を守るということが命を奪うということになるという問題にちゃんと向き合っている」と評価しています。

「故郷は地球」5.jpg「ウルトラマン(第23話)/故郷は地球」●制作年:1966年●監督:実相寺昭雄●脚本:佐々木守●特殊技術:高野宏一●音楽:冬木透●時間:30分●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/(ゲスト出演)ピエール・ピロッツ/(スーツアクター)古谷敏/(ナレーター)浦野光●放送局:TBS●放送日:1966/12/18(評価:★★★☆)●放送局:TBS(評価:★★★☆)

ウルトラマン 1966.jpg「ウルトラマン」title.jpg桜井浩子.jpg「ウルトラマン」●演出:円谷一ほか●監修:円谷英二●制作:円谷特技プロダクション●脚本:金城哲夫ほか●音楽:宮内国郎●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/平田昭彦/津沢彰秀●放映:1966/07~1967/04(全39回)●放送局:TBS

「ウルトラマン」科学特捜隊メンバーが集結 50年に感慨(2016)(左から)古谷敏、桜井浩子、黒部進、毒蝮三太夫、二瓶正也 (C)ORICON NewS inc.
『ウルトラマン』科学特捜隊.jpg

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本書を読んで、映画の鑑賞法の原点に立ち返るのもいいのではないか。

『映画を見ると得をする』.jpg映画を見ると得をする b.jpg 映画を見ると得をする d.jpg
映画を見ると得をする (新潮文庫)』「映画を見ると得をする もっと映画が面白くなる」[Kindle版]

映画を見ると得をする (ゴマブックス)』['80年]

 著者は言います。なぜ映画を見るのかといえば、人間は誰しも一つの人生しか経験できない。だから様々な人生を知りたくなる。しかも映画は、わずか2時間で隣の人を見るように人生を見られる。それ故、映画を見るとその人の世界が広がり、人間に幅ができてくる―と。

 まさに至言ではないでしょうか。本書は、シネマディクト(映画狂)を自称する著者が、映画の選び方から楽しみ方、効用を縦横に語り尽くしたものです。個人的に印象に残ったポイントをいくつか拾っていくと―

「料理長殿、ご用心」0.jpg 原題をそのまま題名にするのが流行っている。何かイメージがわく題名なら、中身もいい。... 日本語でいい題がつくときは、映画としてもいいものであるとして、「料理長(シェフ)殿、ご用心」 ('78年/米)がその例で、原作の小説より映画の方がよくできていたとしている。

「ナイル殺人事件」0.jpg 外国映画の「大作」は絶対に観るに値する。失敗作でさえも見るべきところがいっぱい。... 映画自体は失敗作でも、大作はセットも素晴らしいし、ロケにも金をかけていて、「ナイル殺人事件」('78年/英)などは本当にエジプトに行って撮っている」わけでしょと。個人的は、観光映画としても楽しめる要素があったなあ。

「元禄忠臣蔵」0.jpg「残菊物語」0.jpg 戦前の日本映画には凄い大作があった。例えば「残菊物語」「元禄忠臣蔵」。... 溝口健二の「残菊物語」('39年/松竹)は個人的にも完璧な恋愛・人情ドラマだと思った。「元禄忠臣蔵」('41-'42年/松竹)で、松の廊下を原寸通りに作っちゃったというのも凄いと(確かに)。歴史の中にしか存在しなかったものを、ぼくらの眼前に再現してくれているのが大作の価値だと。

「カサノバ 」フェリーニ0.jpg 「難解きわまる映画」というものがある。ときにはそういう映画で自分を鍛える。...  アラン・レネはどれも難しいと。フェリーニは「81/2」('63年/伊・仏)から後はみなわからなくなっちゃって、「アマルコルド」('73年/伊・仏)で昔のフェリーニに戻って、これはだれが観ても素晴らしかったが、ところが今度「カサノバ」('76年/伊)を撮ったら、やっぱりわからないと。主演のドナルド・サザーランドが、終わってから、「自分は一体どういう役をやったのかさっぱりわからない...」と、いったそうで、ぼくもパリで観たが退屈したと。

「赫い髪の女」0.jpg ポルノをつくっている会社の映画にも、時には観るべきものがある。例えば「赫い髪の女」。... 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は、中上健次の原作がいいし、男と女の愛欲を探究しているものだから、凄いけれど、いやな感じはないと。

 「巨匠」の作品必ずしも秀作にあらず。ただし、美術的感覚に見るべきものあり。... 「」('54年/伊)を作ったころのフェリーニは、大道芸人の可哀そうな女とか哀れな男に本当に共感を持っていたと思うが、フェリーニ自身が大巨匠になっておかしくなってしまったと。

「影武者」1.jpg 黒澤明然り。ただし、筆を持たせたら素晴らしく、「影武者」('80年/東宝)のスケッチなどは大したものであると(著者自身が絵を描くからそう感じるのだろう)。個人的には、かつての黒澤作品のダイナミズムは影を潜め、映画は映像美・様式美に終始してしまった印象。カンヌ国際映画祭でパルムドールを撮ったのは、その様式美がジャポニズムとして受けたのでは。勝新太郎が黒澤監督と喧嘩して主役を降りたけれど、もともと勝新太郎向きではなかった? 映画の完成披露試写会を勝新太郎が観に来たていて、「面白くなかった...俺が出ていたらもっと面白くなってたよ」と言ったそうだ。

椿三十郎 三船 仲代.jpg 「役者を汚して、血を噴出させる」のがリアリズムという日本映画の馬鹿の一つ覚え。... 最初にやったのが黒澤明の「椿三十郎」('62年/東宝)で、黒澤さんが悪いんじゃなく、黒澤監督としてはちょっと珍しいことをやってみたに過ぎない、それを猫も杓子も真似しちゃったから困ったものだと。

淀川長治2.jpg 映画評論を読めば、自分自身の「好み」や「個性」がわかってくる。それが値打ち。... 推薦できる評論家として、飯島正、南部圭之助、双葉十三郎を挙げ、淀川長治さんなかの映画評論を一般のファンは当てにしたらいいんじゃないかと思うと(そう言えば、本書のカバー裏の著者紹介は淀川長治が書いている)。

荒野の用心棒 1964.jpg「荒野の用心棒」2.jpg ハリウッドの西部劇とマカロニ・ウエスタン。その大きな違いの一つは「女の描き方」。... マカロニ・ウエスタンには女の匂いがぷんぷんするような女が出てきて男とからみ合うが、アメリカの方は「女なんか全然数のうちじゃない...」といった男がいっぱい出てくると。また、マカロニ・ウエスタンの特徴はサディスティックであることで、拷問シーンなどでもユーモアがないとのこと。確かに「荒野の用心棒」('64年/伊)がそうだった。クリント・イーストウッドはボロボロにやられていた。ただし、著者は、黒澤明の「用心棒」を無断でかっぱらった「荒野の用心棒」が面白くないはずがないと。

イノセント.jpg 最近ではヴィスコンティの遺作「イノセント」。歴史に残るセックスシーンの1つだろう。... 「イノセント」('76年/伊・仏)のそれは素晴らしかったと。夫婦が別荘に行って、ちょうど春で、ぽかぽか温かくなり、庭に花が咲き乱れ、男がだんだん興奮してくる...。全身を写すところもあったが、たいていは胸から上しか写さず、それでいて本当にエロチックなシーンだったと。

「最後の晩餐」0.jpg 洒落たフランス映画を観た後で「フランス料理を食べたい」という女の子なら悪くない。... フランス映画を観た後では鮨屋よりフランス料理を食べに行きたくなるが、逆の場合もあり、それが「最後の晩餐」('73年/伊・仏)であると(確かに)。四人の主人公が死ぬまで食べ続ける映画だった。マルコ・フェレーリは巨匠ではないが相当の監督だと。

「旅芸人の記録パンフ2.jpg 例えば「忠臣蔵」を一本観ただけで、その人の世界がグーンと広くなっちゃう。... 「旅芸人の記録」('75年/ギリシャ)という映画を観れば、自然にギリシャという国に興味を持って、ギリシャに歴史を読んでみよう、ギリシャの生活について何か探して読んでみようということになり、それをやれば、ぼくの持っている世界が広がっていくわけだと。まさに、本書のエッセンスがここに述べられているように思いました。

 この本が出たころは、映画と言えば(テレビで観ることもあったとは思うが)基本的にみんな映画館で観たのだろうなあ。それが、レンタルビデオの時代を経て、今やAmazon PrimeやNetflixの時代へと移りつつあり、昨今は、映画を倍速で視聴するユーザーが急増しているようです。今一度、本書を読んで映画鑑賞の在り方の原点に立ち返るののいいのではないかと思いました。

影武者[東宝DVD名作セレクション]」 山﨑努(信玄の弟・武田信廉)/仲代達矢(武田信玄、影武者)
「影武者」dvd1980.jpg「影武者」0.jpg「影武者」●制作年:1980年●監督:黒澤明●製作:黒澤明/田中友幸●外国版プロデューサー:フランシス・コッポラ/ジョージ・ルーカス●脚本:黒澤明/井手雅人●撮影:斎藤孝雄/上田正治「影武者」志村僑.jpg「影武者」大滝秀治.jpg●音楽:池辺晋一郎●時間:180分●出演:仲代達矢/山﨑努/萩原健一/根津甚八/油井昌由樹/隆大介/大滝秀治/桃井かおり/倍賞美津子/室田日出男/阿藤海/矢吹二朗/志村喬/藤原釜足/清水綋治/清水のぼる/山本亘/音羽久米子/江幡高志/島香裕/井口成人/松井範雄/大村千吉●公開:1980/04●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(81-02-14)(評価:★★★)
志村喬(信玄の父・田口刑部、信玄に追放され、信長の手先として送り込まれる)/大滝秀治(信玄家臣・山縣昌景)
倍賞美津子(側室・於ゆうの方)/桃井かおり(側室・お津弥の方)  黒沢明監督「影武者」、カンヌ映画祭の最高賞に(1980年5月23日)[日本経済新聞]/日劇(1981年閉館)
「影武者」倍賞・桃井.jpg 黒澤 カンヌ.jpg 日劇文化.jpg

「荒野の用心棒」.jpg「荒野の用心棒」●原題:PER UN PUGNO DI DOLLARI●制作年:1964年●制作国:イタリア・西ドイツ・スペイン●監督:セルジオ・レオーネ●脚本:ヴィクトル・アンドレス・カテナ/ハイメ・コマス・ギル/セルジオ・レオーネ●製作:アリゴ・コロンボ/ジョルジオ・パピ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:96分(完全版100分)●出演:クリント・イーストウッド/ジャン・マリア・ヴォロンテ/マリアンネ・コッホ/ホセ・カルヴォ/ヨゼフ・エッガー/アントニオ・プリエート●公開:1965/12●配給:東宝(評価:★★★★)

映画を見ると得をする.jpg【1987年文庫化[新潮文庫]】

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木村拓哉は軽い感じだったが、原作の良さ、周囲の演技陣に助けられていた。

「武士の一分」d.jpg
「武士の一分」0.jpg
木村拓哉/壇れい
武士の一分 [木村拓哉]|中古DVD [レンタル落ち] [DVD]
 
「武士の一分」01.jpg 幕末時代の海坂藩。優れた剣技を生かされることなく毒見役の職を務める小侍の三村新之丞(木村拓哉)は、毒味の仕事の最中倒れ、城内は藩主の暗殺未遂の疑いで騒然となるが、原因はつぶ貝の貝毒と判明。城内は落ち着きを取り戻したものの「武士の一分」02.jpg、御広敷番頭の樋口作之助(小林稔侍)は責任を取らされ切腹の運びとなる。三日後に意識を取り戻した新之丞は、自分の「武士の一分」03.jpg目が見えなくなっていることに気がつく。妻・加世(檀れい)は医師の玄斎(大地康雄)を頼るが、彼は「新之丞の目はもう治らない」と告げる。視力を失ったかわりに、他の感覚に鋭さが増し、加世の化粧の臭い等から男の影を感じ取る。最初に加世に関する話を持ってきたのは「武士の一分」04.jpg従妹の波多野以寧(桃井かおり)だった。ある場所、加世を見たという噂を持ち込んだのだ。その場所が武家の妻女が夜分出入りすべき町ではなかった。視力を失って以来、久方ぶりに新之丞は剣の稽古をした。だが、以「武士の一分」木村.jpgで前と勝手が違う。最初は戸惑いを覚えることが多かった。ある時、新之丞は徳蔵(笹野高史)に加世の尾行を命じた。その結果、噂は本当だったのが判明した。相手は新之丞の上司・島村藤弥(坂東三津五郎)。新之丞はそうなった経緯を加世に問いただし、離縁を申し伝えた。その後、新之丞は同僚の加賀山(近藤公園)からあることを聞かされる―。

「武士の一分 ベルリン国際映画祭.jpg 山田洋次の監督の「たそがれ清兵衛」('02年)、「隠し剣 鬼の爪」('04年)と並ぶ「時代劇三部作」の'06年公開の完結作で、興行収入は41.1億円で、松竹配給映画としての歴代最高記録(当時)を樹立したとのことです。ただし、それでも'06年公開作の興行収入ランキングは11位で、トップ10から漏れています(1位は「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」で100.2億円)。日本上映に先駆けて、第57回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門オープニング作品として上映されています。

檀れい・桃井かおりin 第57回ベルリン国際映画祭(2007年2月9日)

「武士の一分」07.jpg 原作は「たそがれ清兵衛」、「隠し剣 鬼の爪」と同じく藤沢周平の短編であり。短編集『隠し剣 秋風抄』('81年/文藝春秋)の中の一編である「盲目剣谺返し」(昭和55年発表)です(「隠し剣 鬼の爪」の原作と同じシリーズということになる)。文庫本で50ページ弱の話であるため、映画では少しだけ話を膨らませている部分があります。

 まず、原作は新之丞がすでに視力を失っているところから始まりますが、映画はそこに至る経緯を現在進行形で描いていきます。毒見役の仕事が(まるでEテレの番組内の解説映像のように)丁寧に描かれていますが、小林稔侍が演じる御広敷番頭の樋口作之助は原作に登場しないので、責任を取らされ切腹させられるのも映画のオリジナル(こっちの方が主人公より気の毒?)。

 しかし、新之丞が失明してからラスト、かたき討ちを果たした後の後日譚までは、比較的原作に忠実に作られていたように思いました。ただし、新之丞が島村と斬り合って彼を斃した際に、原作ではすでに島村はそこで絶命しいているのに、映画では腕を切り落とされたものの生きていて、自ら切腹したことになっていて「彼にも武士の一分があった」と他人に言われていますが、これは映画のオリジナルです。個人的には、新之丞の言う「武士の一分」だけでよく、こっちは蛇足だったように思えました。

「武士の一分」4.jpg 木村拓哉は頑張っている印象でしたが、SMAP(スマップ)の先入観があるせいか、ちょっと軽い感じも。原作の良さ、山田洋次監督の演出力、そして何より徳蔵を演じた笹野高史、加世を演じた檀れい、剣の師匠・木部孫八郎を演じた緒形拳など周囲の多くの俳優陣(桃井かおりや小林稔侍もいる)に助けられていたように思います(笹野高史はこの演技で第30回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞)。作品自体の個人的評価は、「たそがれ清兵衛」★★★☆、「隠し剣 鬼の爪」★★★★に対して、その間くらいでしょうか(一応、★★★★としたが、やや甘いか)。

桃井かおり/笹野高史
小林稔侍/坂東三津五郎

「武士の一分」6.jpg そう言えば、緒形拳は前作「隠し剣 鬼の爪」では、主人公(永瀬正敏)の親友の妻(高島礼子)を騙して寝とってしまう家老の役(敵役)で、つまりこの作品における坂東三津五郎が演じる島村と似たような、いわば悪役でしたが、今回は主人公の剣の師匠で、主人公の「武士の一分」の意を汲む人物の役でした。「隠し剣 鬼の爪」で主人公の剣の師匠役を演じた舞踏家の田中泯は、その前作「たそがれ清兵衛」では、上意討ちにより主人公に斃される役だったので、前作で敵役だと、次は主人公を助ける役とかが回ってくるのかも。坂東三津五郎も、山田洋次監督の次の作品「母べえ」('08年)では、一家の良き父親で反戦思想を抱く文学者を演じていたから、そうやってバランスをとっているのかな。

「武士の一分」p.jpg 「武士の一分」●制作年:2006年●監督:山田洋次●製作:久松猛朗●脚本:山田洋次/平松恵美子/山本一郎●撮影:長沼六男●音楽:冨田勲●原作:藤沢周平●時間:121分●出演:木村拓哉/檀れい/笹野高史/坂東三津五郎/小林稔侍/緒形拳/岡本信人/左時枝/綾田俊樹/桃井かおり/赤塚真人/近藤公園/歌澤寅右衛門/大地康雄●公開:2006/10●配給:松竹(評価:★★★★)
   

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いずれも安定した面白さのある9編(映画「武士の一分」の原作を含む)。

『隠し剣 秋風抄』.jpg隠し剣 秋風抄 1981.jpg 隠し剣秋風抄 (文春文庫).jpg  「武士の一分」2006.jpg
隠し剣 秋風抄』『新装版 隠し剣秋風抄 (文春文庫)』(カバー:蓬田やすひろ)「武士の一分

 藤沢周平(1927‐1997)の時代小説「隠し剣」シリーズの『隠し剣 孤影抄』の姉妹編で、昭和53年から昭和55年に発表された作品群になり、収録作品は、「酒乱剣石割り」「汚名剣双燕」「陽狂剣かげろう」「偏屈剣蟇ノ舌」「好色剣流水」「暗黒剣千鳥」「孤立剣残月」「盲目剣谺返し」ですが、いずれも安定した面白さのある9編でした。

 「酒乱剣石割り」...弓削甚六は剣の達人だが、酒に溺れるのが難点。家老はそれを承知で、藩内の争いで政敵の息子を討つように命じる。甚六は自分の妹がその息子たちによって陵辱されたこともあって、憎しみを込めて、彼を倒すことを承知するが、いざ迎え撃つときに力がはいらない。そこで...。ジャッキー・チェンの「酔拳」みたいな剣豪だった(笑)。甚六の妹を思う気持ちが温かい。

 「汚名剣双燕」...由利の夫が同僚を斬って逃げるときに、八田康之助は由利を思い浮かべて、斬らずに避けてしまう。以後、臆病者として侮られることになる。だが、この由利には醜聞がつきまとうようになる。今度の相手は関光弥である。ある日、康之助は由利に誘われ、そこで関光弥を斬ってくれと頼まれる。捨てられたというのだ。康之助はこれを断わった。後日、康之助は関光弥と同情の跡目を巡って立合いをする。この時、康之助は自分で編み出した秘剣を使わず、関光弥に破れた。二年後、康之助に光弥と決着をつける機会が...。「双燕」は危険すぎて、稽古では使えず、本番でしか使わない剣ということか。

 「女難剣雷切り」...佐治惣六は過去に二度妻に逃げられた。そこに、嫁をもらわぬかと勧める人が現れた。話を持ち込んできたのは服部九郎兵衛である。惣六はこの話を受けたが、嫁となった嘉乃は惣六を避ける。ある日、惣六に忠言をしてくれる人がいた。嘉乃は昔から、そして今も服部九郎兵衛の妾であると。惣六は押しつけられたのだ。そうと知って...。4度妻に逃げられたが、最後は、相手に嫌われてはならないと自制する惣六の姿から、結ばれそうな気配?

 「陽狂剣かげろう」...許嫁の乙江が奥へあがることになり、婚約は解消されることになったが、乙江がすんなりと奥にいくために佐橋半之丞は気が触れたフリをした。乙江の家は剣術の道場を開いている。主は半之丞の師匠であり、この婚約解消の代わりといってはなんだが、秘剣を授けられた。半之丞はそこに取引めいたものを感じた...。気が狂ったフリを続けると本当に狂ってしまう?

 「偏屈剣蟇ノ舌」...人が右といえば左を向く偏屈者の馬飼庄蔵。だが、剣はめっぽう出来る。家中の争いのために、重臣たちはこの偏屈者を利用しようと企む。庄蔵を遠藤久米次が呼び出し、それとなく斬る相手のことを喋る。相手が剣もたち、品もよいという話に庄蔵は興味を示したようだが、本当に斬るかどうかは分からない...。座ったまま斬るから"蟇の舌"なのか。美しい姉でなく醜女の妹を心から気に入って妻に選んだ、そこは真っ直ぐな気持ちだっただけに、最後の妻との別れがちょっと哀しかった。

 「好色剣流水」...三谷助十郎には好色の噂があったが、実際はそういう風にいわれるほどのことではない。その助十郎の念頭にあるのは、いつか服部の妻女とわずかでも話が出来ればという思いである。だが、ある日、この念願が叶う出来事が起きた。しかし、その場をある人間に見られてしまった...。好色の裏には、そのために死ぬ覚悟もあるということか。でも、生かされた相手も、片腕を失ったら武士としては生きていけないのでは。

 「暗黒剣千鳥」...三﨑修助は実家の冷や飯食いだが、修助に縁談が持ち込まれた。しかし、修助の周辺では大変なことが起きていた。それは牧治部左衛門の差し金で政敵を葬るために放たれたかつての刺客仲間が、次々と斬られていったのだ。残る者も少なくなった時、三﨑修助は牧へ相談するが、牧は病床に伏していた。だが、この相談の後も仲間は斬られていく、そのうちの一人が死の間際に呟いた一言で、修助は誰が斬ったのかが分かった...。ミステリっぽい。マッチポンプみたいなヤツだったなあ。老人でも使える秘剣なのか。

 「孤立剣残月」...藩命で討った鵜飼の弟が恨みを果たすべく果たし合いを申し込んでくるらしい。筋違いな話に小鹿七兵衛は当惑する。剣の稽古をしてみるものの、体が鈍っている。小鹿七兵衛に焦りが生まれていた。上役の取りなしや助太刀を頼んだりしたが、いずれも不首尾に終わる。一人で立ち向かわなければならなくなったとき、かつて授けられた残月という秘剣を思い出そうとした...。ラストで駆けつけた"助っ人"が健気。

 「盲目剣谺返し」...山田洋次監督、木村拓哉主演の映画「武士の一分」('06年/松竹)。大体は映画のストーリーどおりでした。発表順の並びですが、最後に持ってくるに相応しい話だと思います。

 主人公の剣の流派ですが、「酒乱剣石割り」は丹石流、「汚名剣双燕」のは不伝流、「女難剣雷切り」は今枝流、「陽狂剣かげろう」は制剛流、「偏屈剣蟇ノ舌」は不伝流、「好色剣流水」は井哇(せいあ)流、「暗黒剣千鳥」は三徳流、「孤立剣残月」は無明流、「盲目剣谺返し」は東軍流で、これらは実在した流派だそうです。そう聞くと、こうした「隠し剣」も何となく実際にあったように思えてきて、この辺りも作者の上手さなのでしょう。

【2004年文庫化[文春文庫]】

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「白夜」「ラルジャン」と同じ研ぎ澄まされた現代劇。少し入り込みにくかったか。

「たぶん悪魔が」d.jpg 「たぶん悪魔が」1.jpg 「たぶん悪魔が」2.png
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「たぶん悪魔が」 1.jpg 裕福な家柄に生まれた美貌の青年シャルル(アントワーヌ・モニエ)は、自殺願望にとり憑かれている。左翼の政治集会や宗教論争に精神分析、そして環境問題を論じる大学サークルやヒッピーたちの集いに参加しても、そこに自分の居場所を見いだすことができず、違和感を抱くだけで何も変わらない。環「たぶん悪魔が」f1.jpg境破壊を危惧する生態学者の友人ミシェル(アンリ・ド・モーブラン)や、シャルルに寄り添う二人の女性アルベルト(ティナ・イリサリ)とエドヴィージュ(レティシア・カルカノ)と一緒に過ごしても、死への誘惑を断ち切ることはできない。やがて冤罪で警察に連行されたシャルルは、さらなる虚無にさいなまれていく―。

「たぶん悪魔が」 2.jpg ロベール・ブレッソン監督が1977年に手掛けた作品で、第27回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員特別賞)を受賞していますが、日本では今年['22年]3月に初の劇場公開が実現した作品です。「たぶん悪魔が」というタイトルは、『カラマーゾフの兄弟』の中にあるイワンの「悪魔が裏で手を引いている」という表現から引いているとのことです(これ、イワンが父フョードルに神はいないと説き、では神を"でっち上げた" のは誰かと訊かれ、「悪魔でしょ、たぶん」と答えるも、さらにイワンは悪魔もいないと言う)。ブレッソン作品の中でも実験的な作品と言え、76歳にしてここまでラジカルな映画を撮るブレッソンには敬服しますが、それゆえに日本での公開が遅れたように思えなくもないです(ビデオグラム化としては、'08年に紀伊國屋書店よりリリースされた「ロベール・ブレッソン DVD-BOX」(3枚組)に収められた)。

「 たぶん悪魔が」 3.jpg 主人公のシャルルは裕福な家柄に生まれた美貌の青年で、頭脳も優れていて、二人の女性の恋愛の対象にもなっているわけですが(それでいて行きずりのの女性と寝たりもする)、それでも死への誘惑にとり憑かれたらアウトなのだろなあ。一昨年['20年]に芸能人の自殺が相次いだのを思い出しました。シャルルの死を希求する気持ちの特徴は、彼の死への道筋に絡むように挿入される撲殺されるアザラシ、切り倒される木々、水俣病患者、核実験といった映像の数々から窺えるように、人類の未来への不安と同調している点です。

 冒頭に「ペール・ラシェーズ墓地で青年が自殺、いや他殺か?」という新聞記事を示しておいて、では実際に主人公がどのような自死の方法を選んだのかと思ったら、ラスト、薬物中毒の友人に自分を背後から射殺させた!(これって予想外だった)。 ベルリン国際映画祭の審査員だったでライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が絶賛し、フランソワ・トリュフォーが「すばらしく官能的」と評した作品ですが、ちょっとついて行きにくい面もありました。

「たぶん悪魔が」 21.jpg その作品限りの素人ばかりを採用し(出演者を「モデル」と呼んだ)、音楽はほとんど使用せず、感情表現をも抑えた作風を貫くその作風(自らの作品を「シネマトグラフ」と称している)はこの作品においても徹底していて、友人や恋人がが自殺しそうな雰囲気だと周囲の人間はもっと焦って大騒ぎになりそうな気がしなくもないですが、この映画(「シネマトグラフ」と言うべきか)では、本人も周囲も意外と飄々としています。でも、その方が何となくリアリティがありそうな気もしました。

 現代の若者を描いているという点で、この作品の前と後のブレッソンの作品であるドストエフスキー原作の「白夜」('71年)、トルストイ原作の「ラルジャン」('83年)と同系譜のように思えましたが、それら二作と同様に映像的に研ぎ澄まされているものの、個人的には正直それらより少し入り込みにくかったかなという印象です。

 このブレッソン監督の晩年現代劇3作(あと、今回「たぶん悪魔が」と同時公開された「湖のランスロ」('74年)があるが、時代設定は中世アーサー王伝説の時代になる)では、個人的評価は「白夜」がいちばんで、「ラルジャン」がそれに次いで、この「たぶん悪魔が」はその次でしょうか。ほとんど感覚的な好みであり、理屈で説明すると後付けになりそうです。

白夜」('71年)(ドストエフスキー原作)/「ラルジャン」('83年)(トルストイ原作)
「白夜」(ブレッソン版).bmp 「ラルジャン」 (83年/仏・スイス).jpg「ラルジャン」ブレッソン.jpg

「たぶん悪魔が」 [.jpg「たぶん悪魔が」●原題:LE DIABLE ROBABLEMENT(THE DEVIL PROBABLY)●制作年:1977年●制作国:フランス●監督・脚本:ロベール・ブレッソン●製作:ステファン・チャルガジエフ●撮影:パスカリーノ・デ・サンティス●音楽:フィリップ・サルド●時間:97分●出演:アントワーヌ・モニエ/ティナ・イリサリ/アンリ・ド・モーブラン/レティシア・カルカノ●日本公開:2022/03●配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム●最初に観た場所:新宿シネマカリテ(22-04-19)(評価:★★★★)●併映(同日上映):「湖のランスロ」(ロベール・ブレッソン)

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「不幸のバーゲンセール」か、「虐待の連鎖」ならぬ「寄り添いの連鎖」か。

『52ヘルツのクジラたち』1.jpg『52ヘルツのクジラたち』2.jpg 『52ヘルツのクジラたち』町田.jpg 『52ヘルツのクジラたち』1本屋.jpg
52ヘルツのクジラたち (単行本) 』町田そのこ氏

 2021年・第18回「本屋大賞」第1位(大賞)作品。

 主人公・貴瑚はずっと母親から虐待を受け、義父が病気になり寝たきりになってからは、その介護を一人でしなくてはならなかった。介護している義父からも罵倒され、心も体もぼろぼろになっていたある日、高校時代の友達、美晴と再会し、美晴の同僚の男性「アンさん」と出会う。アンさんは貴瑚のことを本気で心配し、貴瑚を家族から引き離してくれた。そして今、貴瑚は亡くなった祖母が暮らしていた大分県の海辺の町にやってきている。貴瑚はそこで、母親に虐待され「ムシ」と呼ばれている少年と出会う。少年は中1くらいの年齢だが、幼い頃の母親の虐待がきっかけで喋ることができない。貴瑚は自分と同じ匂いのする少年を放っておくことができず、少年が安心できる場所を見つけるまでは共にいようと決心する―。

 児童虐待だけでなく、ヤングケアラー、トランスジェンダー、恋人間のDVなど、いろんなものを詰め込んだ感じでしたが、作者がインタビューで「いろんな人の声なき声を小説に織り込んでみることにしました」と語っているように、意図的にそうしているのでしょう。「不幸のバーゲンセールか」との批判もあるように、あざとい感じがしなくもないですが、虐待を受けていたのを家族でない他人に救われた主人公が、今度は虐待を受けている子供を救うことで自身も救われるという「虐待の連鎖」ならぬ「寄り添いの連鎖」の構造になっているところがよくて、やはり感動してしまいます。

 トランスジェンダーの中でも「ゼロジェンダー」に近いそれを扱っている点は、本書の前年に「本屋大賞」を受賞した凪良ゆう『流浪の月』('19斎藤美奈子 2.jpg年/東京創元社)を想起させ、「傷ついたティーン」扱っている点では、2020(令和2)年下半期・第164回「芥川賞」受賞作である宇佐美りん『推し、燃ゆ』('20年/河出書房新社)を想起させられました(『推し、燃ゆ』はこの本書と同年の「本屋大賞」では第9位)。本作は傷ついた女性が虐待されている子供を救おうとする話ですが、こういうメタファミリー的な小説が支持されるのは、家族でも友人でも恋人でもない関係に絆を求める人が多いからではないかと、文芸評論家の斎藤美奈子氏が言っていました。

 タイトルが上手いと思います。「52ヘルツのクジラ」とは、世界で一番孤独だと言われているクジラのことで、他のクジラとは声の周波数が違うため、いくら大声をあげていたとしても、ほかの大勢の仲間にはその声は届かず、世界で一頭だけというそのクジラの存在自体は確認されているものの、姿を見た人はいないと言われているそうです。「クジラたち」とすることで、そうした「52ヘルツのクジラ」に喩えられる"少数者"が世の中にはたくさんいることを示唆しているように思います。

 そう言えば、是枝裕和監督の映画「誰も知らない」('04年/シネカノン)なども、まさにタイトルからして同じ系列であったように思えます。あの映画は育児放棄を描いたものでしたが、母親の失踪後、過酷な状況の中で幼い弟妹の面倒を見る長男に唯一寄り添ったのは、自身が不登校という問題を抱える少女でした。「誰も知らない」は1988年に発生した「巣鴨子供置き去り事件」をモチーフにしていますが、こうしたが家族の問題をテーマとした小説が横溢する今、映画で描かれた世界は今日にも通じるものがあったことを改めて思わせます。

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ブームの最中に創作活動しなかったのが不思議だったが、本人は結構たいへんだったのだなあと。

『つげ義春日記』.jpg『つげ義春日記』1983.jpg 『つげ義春日記』現代.jpg
つげ義春日記 (講談社文芸文庫) 』['20年]/『つげ義春日記』['83年]/「小説現代」連載['83年]

つげ義春日記 1983 24.jpg 漫画家・つげ義春が、昭和50年代、結婚して長男も生まれ一家を構えた頃の日記で、正確には1975(昭和50)年11月1日から1980(昭和55)年9月28日までのものとなっています。1983(昭和58)年に「小説現代」に8回に分けて連載されたものに未発表だった1980(昭和55)年分を『つげ義春日記』1983 .jpg加え、同年12月に講談社より単行本刊行、その後、2020(令和2)年、37年ぶりに講談社文芸文庫に収められました(2020年4月から同社より『つげ義春大全』(全22巻)の刊行が始まったのに合わせてか)。「小説現代」連載時は本人による装画があったようですが、単行本化に際しては家族との写真などに置き換えられ、今回の文庫化ではそのうちの1葉のみが掲載されています。

 つげ義春が「李さん一家」「海辺の叙景」「紅い花」「ほんやら洞のべんさん」「ねじ式」「ゲンセンカン主人」といった代表作を立て続けに発表した所謂「奇跡の二年」と呼ばれる期間は'67年から'68年にかけてであり、ただし、'70年代後半に爆発的な"つげブーム"が起こると、逆に自らは創作から遠ざかり、その後、心身不調とノイローゼ(不安神経症)を繰り返す寡作の作家となります。

 この日記はちょうどそのブームが立ち上がった頃のもので、フツーに考えれば脚光を浴びたのを機会にどんどん新作を発表していけばいいのにと思われるところ、逆に過去の自作の売り上げが好調のために創作から遠ざかるというのがこの人の特徴です。これを指して水木しげるなどは彼のことを「怠け者」と評したりしていますが、例えば作品の発表が全く無かった'69年は、一体この人は何していたのかというと、専ら水木しげるの助手としての仕事だけを務めていたようです(水木しげるの言葉には、旧作が何度も取り上げられるつげ義春に対するひがみもあるのか? それとも師匠として激を飛ばしているのか?)。

 この日記を読むと、家族への想いと併せて、将来への不安、育児の苦労、妻の闘病と自身の心身の不調など尽きない悩みに直面する日々が私小説さながら赤裸々に描かれており、ああ、こんな精神状態では仕事にならんだろうなあ、編集者と打ち合わせしたりするだけでもしんどそう、という気がしました。

 また、日々の生活に中での漫然とした死への不安が感じられ、それは妻の手術入院や知己であった評論家の石子順造の壮絶なガン死などにより増幅され、自身の心身不調とノイローゼという形で顕在化していったようです。「病は気から」とも言いますが、やはり、芸術家という人の中には、その繊細さから、こうした気の病に憑かれてしまうタイプの人もいるのかもしれないと思わせるものでした。

 その後、一時持ち直したものの、'99年に奥さんが闘病の末ガン死したことで(日記の中では本人はガンの恐怖に怯える一方、奥さんは退院後はスポーツなどに打ち込んでいたのだが)、また心身不調に陥ったようです。そうした外的要因もあったかと思いますが、この人はもともと普段から気質的にそうした不安神経症的な面を持っているという印象を日記から受けます。そうした漠然とした不安と向かい合いながら、そこから自分を解き放つために作品を描いてきたのではないかと思ったりもしました。

劇画シリーズ 紅い花.jpg 読んでいて、自分の作品を映像化したものへの評価が厳しいのが印象に残りました。「紅い花」のドラマ版はあまり気に入ってなかったらしく、芸術祭参加でグランプリを獲ったことに対して「あの程度でグランプリとは意外なり。テレビ界の程度の低さを物語る」(昭和51年11月25日)と書いています。これは'76年4月3日にNHK「土曜ドラマ」の"劇画シリーズ"で放送された中の1作(70分)で、短編「紅い花」に加え、他のつげ義春の作品「ねじ式」「沼」「古本と少女」などのエッセンスをひとつのストーリーにまとめ上げたものでした(演出:佐々木昭一郎、脚本:大野靖子、音楽:池辺晋一郎、出演:草野大悟、沢井桃子、渡部克浩、宝生あやこ、嵐寛寿郎、藤原釜足ほか)。これが第31回芸術祭大賞を受賞したわけです。NHKのアーカイブで観る前から予想されたことですが、つげ作品を映像化することの難しさ示したような作品でもあったような気がします。
「劇画シリーズ 紅い花」('76年4月3日NHK「土曜ドラマ」)

 一方で、自分の作品そのものについても、池袋のデパートの古書店で自分の絵が10万円で出品されたと聞いて、「とてもそれほどの価うちがあるとは思えぬ」(昭和54年1月11日)と書いていて、ブームの中で当の本人は何となく冷めているのが可笑しかったです。

 病者の日記のような面もあり、読むのが辛くなるよるような記述もありますが、一方で、このようにどことなく飄々としたユーモアも漂っていたりして、結局のところ最後まで興味深く読めました。

 外から見れば、自分の作品のブームが到来しているのになぜ創作活動しなかったのか不思議でしたが、この日記を読んでみて、本人は結構たいへんだったのだなあというのが分かり(しようと思ってもできなかったということか)、貴重な記録に思えました。

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原作をハッピーエンドに改変。当初のヒチコックの構想通りの結末も観たかった。

「断崖」1941.jpg「断崖」dvd1.jpg「断崖」dvd2.jpg 『レディに捧げる殺人物語』1987.jpg
「断崖」ポスター(1941)ケーリー・グラント/ジョーン・フォンテイン/「断崖 [DVD]」「断崖 HDマスター [DVD]」『レディに捧げる殺人物語 (あすかコミックス)
「「断崖」0.jpg 社交界の人気者ジョニー・アイガース(ケーリー・グラント)は実は詐欺常習者だったが、その彼が列車で偶然知り合った金持ちの娘リーナ・マクレイドロウ(ジョーン・フォンテイン)と駆け落ちする。リーナはジョニーが無一文であることを知り、仕事を持つことを勧め、その結果彼「断崖」21.jpgは従弟の財産を管理するが、やがてリーナは彼が従弟の財産を使いこんでいることを知り衝撃を受ける。続いて彼は友人のビーキー(ナイジェル・ブルース)を唆かし土地に投資させるが、彼女はジョニーがビーキーの金を自由にした上で「「断崖」22.jpg彼を殺すのではないかと憶測する。ジョニーはパリへ出発するビーキーを見送ってロンドンに行くが、ビーキーはパリで死亡する。リーナはジョニーを疑っていたが、帰宅した彼の口振りから彼女の疑惑はいよいよ深まる。やがてリーナは彼が保険金目当に自分を殺そうとしていると疑い始める。そして彼が友人の殺人小説の著者イソベル・セドバスクから劇毒薬の秘「断崖」23.jpg密を探り出そうとしているのを知り、ますます疑念を深める。その夜、彼女はジョニーの勧める一杯のミルクを飲む気になれず、翌朝母親を訪ねるのだといってジョニーから逃れようとするが、彼はリーナを自動車で送ろうと言い張る。車が危険な個所に近づいた時、彼の乱暴な運転ぶりに堪りかねた彼女は車から飛び降り逃れようとするが、ジョニーに追いつかれてしまう。しかしそこで彼女がジョニーから聞いたのは意外な告白だった―。

「断崖」がけ.jpg アルフレッド・ヒッチコック監督の1941年公開作で、「レベッカ」('40年)に続いてのヒッチコック作品出演となったジョーン・フォンテインが第14回アカデミー主演女優賞を受賞した作品です(第7回「ニューヨーク映画批評家協会賞」主演女優賞も受賞)。原作は、1932年にフランシス・アイルズ(別名アントニー・バークリー)が発表した小説『レディに捧げる殺人物語』ですが、原作ではリーナはジョニーの勧める一杯のミルクを毒入りと分かっていて飲んで死ぬ―つまり、それくらいジョニーのことを愛していたという終わり方になっています。

 この原作通りの終わり方だと、ジョニーは「稀代のワル」ということになりますが、映画会社は、当時37歳、映画デビュー10年目のケーリー・グラントが「赤ちゃん教育」、「ヒズ・ガール・フライデー」、「フィラデルフィア物語」で人気がブレイクしてまだまだ二枚目で売り出したい時期だったので、悪役を演じさせるのはNGとの横槍が入って、こうした温い結末になってしまったそうです。

 ただ、どうなのでしょう、この結末でも、結局はジョニーの賭博中毒や虚言癖は治らないように思われ、本当にハッピーエンドなのか疑わしいです。さらに、とってつけたような結末のため、それまでの彼が犯罪者であるかもしれないといった伏線はそのまま説明されずに残ってしまっている感じがします。ジョニーがパリへ出発するビーキーを見送って自分はロンドンに行ったと言っても、それは彼がそう言っているだけで、パリでビーキーを死に至らしめたと解釈する方が整合性がとれているように思われます。

 ヒッチコックは最初、リナはミルクで毒殺される前に、犯人はジョニーで「私が最後の犠牲者になる」と書いた母親宛ての手紙を書いていて、それをジョニーに投函するよう頼んでいたという形で終わるつもりだったそうです。妻を毒殺したジョニーは、これで財産はすべて自分のものになるのだと、意気揚々と口笛を吹きながら、その手紙を中身を見ないままポストに投函するというラストシーンだったそうで、そっちの方がミステリとしては洗練されているように思います。

「断崖」m.jpg 疑惑の「光るミルク」は豆電球を仕込んで撮影して、観客の視線を集中させるようにしたとのことです。ここまでやっておいて、結末はやや拍子抜けするものであり、いちばん悔しかったのはヒッチコック自身ではないでしょうか。敢えて張り巡らせた伏線部分はそのまま放置して、ジョニーが殺人犯であるという可能性もあるとのニュアンスを残した終わり方にしたのかも。そうなると、結構深い見方のできる映画ということになるかもしれません。

 ただし、一般的には、この映画はハッピーエンドで、リーナの心配はすべて杞憂であり、ジョニーは本当に彼女を愛していたという解釈になるのでしょう。ケイリー・グラントは、本作の後も「汚名」('46年)、「泥棒成金」('55 年)、「北北西に進路を取れ」('59 年)と出演してヒッチコックお気に入り俳優となりますが、この映画で殺人犯役だったとしたら人気もそれほど出なかった? いや、そうでもないのでは。

「断崖」jf.jpg ジョーン・フォンテインの名演(最初はやや野暮ったいが、恋すると『レディに捧げる殺人物語』.jpgどんどん綺麗になっていくパターンは「白い恐怖」('45年)のイングリッド・バーグマンに受け継がれている)と、ケーリー・グラントの軽妙な演技の対比が楽しめ、評価としてはまずまずです。でも、原作乃至は当初のヒチコックの構想通りの作品も観たかった気がします。フランシス・アイルズの『レディに捧げる殺人物語』は鮎川信夫訳で創元推理文庫に収められていますが、漫画家の名香智子(なか ともこ)氏が原作をほぼ忠実にコミック化したとされているもの(「ASUKA」1985年8~9月号連載、1987年刊・2001年文庫化)もあります(これによるとジョニーってリーナの父親も殺していたのかあ)。

「断崖」●原題:SUSPICION●制作年:1941年●制作国:アメリカ●監督:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:サムソン・ラファエルソン/アルマ・レヴィル/ジョーン・ハリソン●撮影:ハリー・ストラドリング●音楽:フランツ・ワックスマン●原作:フランシス・アイルズ●時間:99分●出演:ケーリー・グラント/ジョーン・フォンテイン/セドリック・ハードウィック/ナイジェル・ブルース/デイム・メイ・ウィッティ/イザベル・ジーンズ/ヘザー・エンジェル/オリオール・リー/レジナルド・シェフィールド/レオ・G・キャロル●日本公開:1947/02●配給:セントラル映画社(評価:★★★☆)

『レディに捧げる殺人物語』...【2001年文庫化[講談社漫画文庫]】

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山本周五郎の"こっけいもの"が原作。TVドラマ「探偵物語」の演技の土台が窺える松田優作。

「ひとごろし」ポスター1.jpg「ひとごろし」ポスター2.jpg「ひとごろし」dvd.jpg
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ポスター 「ひとごろし [DVD]」『ひとごろし (新潮文庫) 』(「壺」「暴風雨の中」「雪と泥」「鵜」「女は同じ物語」「しゅるしゅる」「裏の木戸はあいている」「地蔵」「改訂御定法」「ひとごろし」)

 福井藩武芸指南役の仁藤昂軒(丹波哲郎)は、酒に酔った帰途、彼を嫌う若い藩士たちによる闇討ちに遭う。正々堂々を好む昂軒は怒り、真剣を抜いて一網打尽にするが、その現場に居合わせ、若い藩士たちを止めるために昂軒に立ち向かった藩士・加納(岸田森)も斬られて絶命してしまう。そのまま藩を去った昂軒に怒った藩主は、上意討ち(じょういうち=主君が部下に逃亡した罪人を処断させること)を命じたが、昂軒の腕前を知る藩士たちは誰も手を挙げない。そんな中、上意討ちを名乗り出たのは、藩きっての臆病者で知られた双子六兵衛(松田優作)だった。臆病な自身の悪評のために婚期を逃した妹・かね(五十嵐淳子)のため、また自身の汚名返上のため、六兵衛は蛮勇を振るって旅に出る。すぐに六兵衛は昂軒に追いつき、上意討ちと直感した昂軒は六兵衛に決闘を求めたが、六兵衛は怖気づいて「ひとごろし!!」と叫び、逃げ出す。逃げた先で彼は、農民たちが「逃げたお侍は偉い」と噂話をしているのを耳にする。「世間には俺のように臆病な人間のほうが多いのだ」と悟った六兵衛は一計を案じ、街に着くたび昂軒につきまとい、宿屋や飯屋で彼を指差して「ひとごろし!!」と叫んでは周りの人々の恐怖を煽り立て、昂軒がこちらに向かってくれば徹底的に逃げることで、武士道に凝り固まった昂軒の自尊心を傷つけ、精神的に追い詰めていく作戦を図る。執拗に作戦を展開する六兵衛は、昂軒との奇妙な距離感を保ったまま旅を続ける。ある日、富山の街中で叫んでいた六兵衛は町奉行所に捕らわれるが、取り調べた町方与力・宗方(桑山正一)は、六兵衛が持っていた上意書を見て早合点し、果たし合いの会場を提供したうえ、昂軒を連れてくる。窮地に陥った六兵衛はわざと頭を打ち、気が変になったふりをしてやり過ごす。真剣勝負にならないと判断した昂軒は刀を納めて立ち去る。ある街道沿いの草むらで、遂に六兵衛と昂軒は向き合うことに―。

「ひとごろし」原作単行本.jpg 大洲齊(おおず ひとし)監督の1976年公開作で、原作は山本周五郎が1964(昭和39)年10月、「別册文藝春秋」に掲した短編載時代小説で、本作を表題作として1967(昭和42)年3月文藝春秋刊。野村芳太郎監督により1972年1月に「初笑いびっくり武士道」というタイトルでコント55号主演で映画化・公開されていて、タイトルからしてもコント55号主演であることからしてもコメディなのですが、原作をコメディ化したと言うより、原作自体が「雨あがる」(昭和26年)、「日々平安」(昭和29年)系の"こっけいもの"であり、ユーモアを存分に散りばめながら、強さというものの限界を示している作品となっています。この映画化作品の場合、以前に萩本欽一(双子六兵衛)、坂上二郎(仁藤昂軒)で演じたれぞれの役を松田優作、丹波哲郎でやっているところがミソでしょうか。この二人の起用は成功していたように思えます。

『ひとごろし』['67年/文藝春秋](「ひとごろし」「へちまの木」「あとのない仮名」「枡落し」)

「ひとごろし」松田.jpg「ひとごろし」1.jpg 松田優作は「太陽にほえろ!」('73年~'74年)の"ジーパン"刑事の印象がありますが、この映画を観ると後のTVドラマ「探偵物語」('79年~'80年)での演技の土台がこの頃にはすでに出来上がってことが窺え、この人って重い役よりもこうしたコミカルな役の方が向いていたようにも思えます。その松田優作のコミカルな演技に対して丹波哲郎の方はいつも通りの重厚な演技で、その対比が効いています。

「ひとごろし」五十嵐.jpg 女優陣で、松田優作演じる六兵衛の妹かねを演じた五十嵐淳子(1952年生まれ)は、「五十嵐じゅん」の芸名時代にグラビアアイドルとして超人気でした。プライベートでは中村雅俊と1976年12月婚約発表、1977年2月に結婚することなりますが、その前に中村雅俊と松田優作との間で五十嵐淳子を巡って争奪戦があったとか。婚約発表から結婚まで比較的短いのは、五十嵐淳子が妊娠していたためで、この映画の公開された1976年10月にはすでに"三角関係"は決着していたのでしょうか(松田優作は「探偵物語」の第1話にゲスト出演した熊谷美由紀と1983年に結婚)。

「ひとごろし」高橋2.jpg「ひとごろし」高橋.jpg ただ、この映画の中の女優でもっと目立っているのは、北陸の宿場町にある旅籠の女将・およう(本名はとら)を演じた高橋洋子(1953年生まれ)で、おようは「ひとごろし」呼ばわりされ別の旅籠を追い出された昂軒を宿泊させる一方、六兵衛の事情を知って暴力を嫌う彼の姿勢に共鳴し、旅籠を番頭に任せて六兵衛の旅に随い、六兵衛と共に昂軒に向かって「ひとごろし!!」と叫び続ける作戦に参加するという役どころです。撮影時は、五十嵐淳子、高橋洋子とも23歳で、高橋洋子は「サンダカン八番娼館 望郷」(1974年)などにすでに出演していたとはいえ、こうして見ると若いな~という感じがします。

「ひとごろし」vhs.jpg 武士道に対する風刺ドラマで、コミカルな松田優作、重厚な丹波哲郎、若々しい女優陣、シンプルなストーリーと、タイトルから受ける印象と少し違って肩が凝らずに愉しめる作品でした(珍品的プレミア価値を加味して星4つの評価とした)。

 因みに、原作では、この話は「偏耳録」という古記録の欠本を出典としているとし、その「偏耳録」によれば、双子六兵衛は上意討ちを首尾よく果たし、おまけに嫁まで連れて来たし(高橋洋子が演じた「およう」のこと)、その高い評判によって(五十嵐淳子が演じた)妹・かねも中老に息子と婚姻のはこびとなったとされています(もちろん「偏耳録」も含め全部フィクションだと思うが、このあたりが何となく本当にあった話みたいで上手い)。

ひとごろし」 (大映).jpg「ひとごろし」 (1976).jpg「ひとごろし」●制作年:1976年●監督:大洲齊●製作:永田雅一●脚本:中村努●撮影:牧浦地志●音楽:渡辺宙明●時間:82分●出演:松田優作/高橋洋子/五十嵐淳子/桑山正一/岸田森/永野達雄/西山辰夫/丹波哲郎●公開:1976/10●配給:大映(評価:★★★★)

【1972年文庫化[新潮文庫]】

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ジャーナリズムの使命とは。「大統領の陰謀」の冒頭シーンに繋がるラストシーン。

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ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 [DVD]」キャサリン・グラハム(1917-2001)

「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 1.gif ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国民の間に疑問や反戦の気運が高まっていたリチャード・ニクソン大統領政権下の1971年、政府がひた隠す、ベトナム戦争を分析・記録した国防省の最高機密文書=通称「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在をニューヨーク・タイムズがスクープし、政府の欺瞞が明らかにされる。ライバル紙でもあるワシントン・ポスト紙は、亡き夫に代わり発行人・社主「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 2.jpgに就任していた女性キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)のもと、編集長のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)らが文書の入手に奔走。なんとか文書を手に入れることに成功するが、ニクソン政権は記事を書いたニューヨーク・タイムズの差し止めを要求。新たに記事を掲載すれば、ワシントン・ポストも同じ目に遭うことが危惧された。記事の掲載を巡り会社の経営陣とブラッドリーら記者たちの意見は対立し、キャサリンは経営か報道の自由かの間で難しい判断を迫られる―。

「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 3.jpg スティーブン・スピルバーグ監督の2017年公開作で、メリル・ストリープ、トム・ハンクス出演の二大オスカー俳優の共演で、政府と報道機関の闘いを通してジャーナリズムの使命や良心とはなにかを問うたアメリカ映画らしい作品(原題は"The Post")。背景は複雑ですが、見どころを明日の新聞にスクープ記事を掲載するかしないか、掲載すれば新聞社は潰れるかもしれないという究極の状況にフォーカスすることで、娯楽性も兼ね添えた作品となっています。
   
大統領の陰謀1.jpg こうした単純化の手法は、アラン・J・パクラ監督がよく使っていたように思いますが、この映画の最後に、政府の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露された当時の大統領リチャード・ニクソンが、怒り心頭に発して電話で怒鳴りながら何やら指示しており、さらにその後のラストシーンが、アラン・J・パクラ監督の「大統領の陰謀」 ('76年/米)の冒頭の、ウォーターゲートビルで働く警備員が建物のドアに奇妙なテープが貼られていることに気づく、そのシーンに繋がるようにな終わり方になっています。これは意図的でしょう(そして、「大統領の陰謀」で描かれるように、ポスト紙の記者ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインの取材が、「ウォーターゲート事件」という政治スキャンダルに繋がり、1974年のニクソンが大統領の辞任に至る)。

「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 4.jpg テーマ的にはいいテーマだと思います。ただ、脚本のせいなのか、6カ月という短期間で撮り上げたせいなのか(スピルバーグの作品で「最も短期間で完成」した作品とのこと)よくわかりませんが、オスカー3度受賞のメリル・ストリープとオスカー2度受賞のトム・ハンクスの共演にしては演出的な盛り上がりはやや物足りず、トム・ハンクスが役柄上のこともあってメリル・ストリープに喰われるかたちで、両者の共演が相乗効果に至っていない印象を受けました。

 そのためか、2017年11月発表の「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞」で作品賞、主演女優賞、主演男優賞を獲りましたが、その後の賞レースではノミネートはされるもののほとんどが受賞に至りませんでした。それでも、メリル・ストリープは上手いことは上手いです。あがり症の主人公が演説をするところの演技などはさすがで、アカデミー主演女優賞にノミネートされていて、21回目のノミネートは俳優としては最多の記録になります。

 スピルバーグ監督らしいと思ったのは、当時の鉛版を使用していた凸版輪転機で新聞を作る様が(おそらく)忠実に再現されていた点で(社主が輪転機の回っている階にわざわざ降りて行くかどうかはともかく)、昔、新聞社見学で、鉛の版組みを見せられたり、地階で巨大輪転機が回るのを見たのを思い出しました(今はコンピューター制御のオフセット印刷だが、最後、輪転機を回し、刷り上がった新聞をトラックで運ぶのは同じ。新聞社は物流業の側面がある)。

 1970年代前半の「ニューヨーク・タイムズ」記者の数人が、本作が「ペンタゴン・ペーパーズ」をめぐる一連の報道における同紙の役割を軽視していると批判しているそうですが、確かに、先に二度も「ペーパーズ」記事を書いて政権から記事差し止めを要求されたニューヨーク・タイムズの方が先駆的であったかも。ライバルでありながら共闘していくというというのがこの映画での描かれ方ですが、やはりスクープを競うライバル意識は互いに強いのでしょう。

「キャサリン・グラハム わが人生」より.jpg メリル・ストリープが演じたキャサリン・グラハム(1917-2001/84歳没)は、20世紀の米国で最もパワフルな女性の一人として本国では広く知られている存在のようです。社主キャサリン・グラハムと編集長ベン・ブラッドリーは最初にペンタゴン・ペーパーズの内容を発表する際は、映画で描かれたように困難を感じていましたが、記者のボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインがブラッドリーにウォーターゲート事件の取材を持ち掛けたときは、キャサリンは彼らの調査を支持し、ブラッドリーは他の報道機関がほとんど報じていなかったウォーターゲート事件の記事を掲載することにしたとのことです(「ジャーナリズムの使命」というのもあるし、「スクープ」的価値というのもあったかと思う)。
ペンタゴン・ペーパーズ 「キャサリン・グラハム わが人生」より

ジェフ・ベゾス.jpg 因みに、2013年10月、グラハム家(社主はキャサリンの息子に代替わりしていた)は同紙をアマゾン創業者のジェフ・ベゾスが設立した持株会社ナッシュ・ホールディングスに2億5千万ドルで売却しており、以来、同紙の実質的オーナーはジェフ・ベゾスということになります(イーロン・マスクがTwitter(ツイッター)社を約440億ドル(5.6兆円)で買収するという最近の話と比べればその180分の1というずっと小規模な売却額だが)。ジェフ・ベゾスに買収されてからというもの、「ワシントン・ポスト」はデジタルファーストを掲げて急速な変化を遂げており、2015年10月、「ワシントン・ポスト」のWebサイトへの訪問者数が6690万人と、はじめて「ニューヨーク・タイムズ」の数字(6580万人)を上回っています(それ以前の同紙は、知名度は高いがあくまで「地方紙」という存在で、発行部数も50万部程度だった)。

「ペンタゴン・」ストリープ&ハンクス.jpg.gif.jpg「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」●原題:THE POST●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:エイミー・パスカル/スティーヴン・スピルバーグ/クリスティ・マコスコ・クリーガー●脚本:リズ・ハンナ/ジョシュ・シンガー●撮影:ヤヌス・カミンスキー●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:116分●出演:メリル・ストリープ/トム・ハンクス/サラ・ポールソン/ボブ・オデンカーク/トレイシー・レッツ/ブラッドリー・ウィットフォード/ブルース・グリーンウッド/マシュー・リース●日本公開:2018/03●配給:東宝東和(評価:★★★☆)

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クリント・イーストウッドが見殺しにされた保安官のユーレイを演じた異色西部劇。

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荒野のストレンジャー [DVD]」クリント・イーストウッド

 鉱山の小さな町「荒野のストレンジャー」1.jpg(ラーゴ)に、ある日正体不明の流れ者(クリント・イーストウッド)が立ち寄る。男は、絡んできた3人のならず者を瞬く間に撃ち殺し、その場に居合わせた小人のモーデカイ(ビリー「荒野のストレンジャー」bj.jpg・カーティス)は声も無くただ見つめるだけだった。さらに男は、通りががったカリー・トラバース(マリアント・ヒル)を納屋に連れ込むと、強引に犯してしまう。臆病な町の住人たちは、流れ者を咎めもせず、ただただ困惑する。その頃、ブリッジス(ジョフリー・ルイス)、コール(アンソニー・ジェイムス)、ダン(ダン・デイビス)のステイシー3兄弟が刑務所から放免になり、町に向かっていた。3人はかつてラーゴ鉱山会社で用心棒をしていた時に金塊を持ち出し、彼らを逮捕しようとした連邦保安官をムチで叩き殺したの「荒野のストレンジャー」b.jpgだ。ラーゴでは町を守るために、正体不明の流れ者を雇うことにする。男は当初渋っていたが、「何でも言う事を聞く」との申し出に、町の護衛を引き受ける。男はホテルの主人ルイス(テッド・ハートレイ)にしばらく滞在すると告げる。ルイスの妻サラ(バーナ・ブルーム)は、この「荒野のストレンジャー」2.jpg男をどこかで見たような気がした。町を挙げての防戦体制が敷かれ、モーデカイに絶大な権限が与えられたが、男の行動が理解できない鉱山会社のドレイクやモーガン(ジャック・ギング)は男を用心棒として雇ったことを後悔し始めた。男はホテルの客を全員他の場所に移し、カリーとホテル暮らしを始めた。ある夜、2人の部屋へモーガンと数人の男たちが侵入し、寝ている男を襲おうとしたが、男はベランダからダイナ荒野のストレンジャー02.jpgマイトを投げつけ、翌日にはモーデカイに指揮を命じて、どこかへ去っていった。町の人々は、彼がいなくてどうやって町を守るのかと恐怖に慄き騒ぎ始める。そこへステイシー3兄弟がやって来て、混乱している町を易々と乗っ取った。人々を酒場に集め、3人は勝手放題に嫌がらせを始める。コールが馬を見ようと酒場の扉を押すと、突然ムチの音がして彼の姿が見えなくなった。コールの呻き声で、ステシシーとダンが通りに出ると、コールがムチで打たれて死んでいた。さらにダンの首にからみついたムチが彼の首を絞めつける。彼は地面に崩れ、そのまま死んだ。ステイシーは素早く建物の影に隠れだが、男はどこまでも追ってくる。"お前は誰だ。何者なんだ?"それがステイシーの最期の言葉だった―。

 1973年公開のはクリント・イーストウッド監督・主演作品で、先に取り上げたマーティン・リット監督、ポール・ニューマン主演の「太陽の中の対決」('67年/米)と同じく、あるいはそれ以上に異色の西部劇です。

 イーストウッドの師でもあるセルジオ・レオーネとドン・シーゲルからの影響を受けている作品でもありますが、主人公が訪れた町でかつて1人の保安官が住民に見殺しにされて3人の悪党に殺されており、釈放された悪党たちがお礼参りに来るというこの設定は、フレッド・ジンネマン監督の「真昼の決闘」('52年/米)のゲイリー・クーパーが演じた主人公の保安官がもし殺されていたら...」という思いつきから構想を得たとのことです。

荒野のストレンジャー1.jpg クリント・イーストウッド演じる男が時おりムチで打たれる悪夢にうなされるため、この男がかつて悪党にムチ打たれ、住民たちに見殺しにされた保安官の生まれ変わり(ユーレイ?)であるのは何となくわかりますが、町人たちに防戦訓練を施している様などを見るとリアルな人間にしか見えません。しかし、悪党3人組を倒した後、町を臨む丘の上の墓地にある名無しだった保安官の墓に"ジム・ダンカンここに眠る"と、モーデカイが保安官の名を刻んだのを見届けて町を去って行きます。その際に、「あんたの名前を聞いてなかったね」とモーデカイが訊くと、墓石をじっと見つめ「知っているはずさ」と。ラスト、陽炎の立つ地平に男が消えていくことで、またユーレイっぽく(笑)なっています。このラスト、いいです。

「荒野のストレンジャー」w.jpg 男が町に来てならず者を倒すだけでなく(ユーレイなのに)女性も犯し(マリアント・ヒル演じるこの女性は最初は怒り狂ったものの、結局は男のシンパになる)、さらに、人々を無法者から守る契約をしたはずなのに、無法者が攻めてきても最初は相手のやり放題にさせていたりするのは、かつて無法者にリンチされながら住民の誰からの助けもなく亡くなった保安官の生まれ変わりが、住民に少しは反省してもらうために敢えてそうしたのではないでしょうか。

真昼の決闘 ド.jpg この映画、当初はジョン・ウェインが出演のオファーを受け、脚本も受け取っていたそうですが、彼は映画公開後、イーストウッドに本作の評価を手紙で送り、それは「映画の町民たちは、実際のアメリカ先駆者達の精神を持っていない。アメリカの偉大なる精神をだ」という批判的な内容だったとのことです。これは、ジョン・ウェインが「真昼の決闘」を同じような理由で非難していたことと符合します。

 小林信彦氏もその著書『地獄の映画館』('82年/集英社)の中で、「スタンリー・クレイマーは優秀なプロデューサーだが、本質的には社会劇のヒトで、西部劇向きではない」として、「『真昼の決闘』には西部の土の匂いが無く、民衆不信の社会劇」である、としています。

村上春樹 09.jpg村上さんのところs.jpg 一方で、村上春樹氏は『村上さんのところ』('15年/新潮社)で「何度も観返している映画ベスト3はなんですか?」との問いに、「ジョン・フォードの『静かなる男』と、フレッド・ジンネマンの『真昼の決闘』です。四面楚歌みたいな状況に置かれたときに(何度かそういうことがありました)、よく観ました。見終わると、「僕もがんばらなくちゃな」という気持ちになれます。どちらもとてもよくつくられた映画です。何度観ても飽きません」と答えていました。同氏によれば、アメリカのホワイトハウスの映画室で、もっとも数多く大統領に観られた映画は「真昼の決闘」だという話を聞いたことがあるそうです(ここ項、最後は「真昼の決闘」の話になってしまった)。

マリアンナ・ヒル
「荒野のストレンジャー」mh.jpg「荒野のストレンジャー」m.jpg「荒野のストレンジャー」●原題:HIGH PLAINS DRIFTER●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:ロバート・デイリー●脚本:アーネスト・タイディマン/ディーン・レイスナー●撮影:ブルース・サーティース●音楽:ディー・バートン●時間:105分●出演:クリント・イーストウッド//ヴァーナ・ブルーム/マリアンナ・ヒル/ミッチェル・ライアン/ジャック・ギング/ステファン・ギーラシュ/テッド・ハートリー/ビリー・カーティス/ジェフリー・ルイス/ロバート・ドナー/アンソニー・ジェームズ/ダン・ヴァディス/ウォルター・バーンズ●日本公開:1973/06●配給:CIC(評価:★★★☆)

真昼の決闘.jpg「真昼の決闘」●原題:HIGH NOON●制作年:1952年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・ジンネマン●製作:ス真昼の決闘 DVD.jpgタンリー・クレイマー/カール・フォアマン●脚本:カール・フォアマン●撮影:フロイド・クロスビー●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原案:ジョン・W・カニンガム●85分●出演:ゲイリー・クーパー/グレイス・ケリー/トーマス・ミッチェル/ケティ・フラド/ロイド・ブリッジス/ロン・チェイニー・ジュニア/イアン・マクドナルド/シエブ・ウーリー/リー・ヴァン・クリーフ/ロバート・ウィルク/ジャック・イーラム●日本公開:1952/09●配給:ユナイテッド・アーチスツ日本支社=松竹●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(83-01-10)(評価:★★★☆)
真昼の決闘 [DVD]


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ポール・ニューマンがインディアンに育てられた寡黙な白人青年を演じた異色西部劇。

太陽の中の対決 p.jpg太陽の中の対決 dvd.jpg太陽の中の対決0 - 3.jpg 太陽の中の対決1 - 2.jpg 

太陽の中の対決 [DVD]」ポール・ニューマン/ダイアン・シレント
「太陽の中の対決」2g.jpg 1880年代の東部アリゾナ。ここは元アパッチの地だったが、白人に奪われてから、彼らは保護地に移り住んだ。その中のひとりジョン・ラッセル(ポール・ニューマン)はアパッチに育てられた白人だ。彼は養父からの遺産の下宿屋を売り払い、コンテンションという地で馬を買う計画を立てていて、数日後、南へ行く小型馬車をやっとのことで見つけることができた。というのは、この地方にも鉄道が敷かれ、駅馬車が影を潜める時代が来たのだ。南へ行く馬車の同乗者は、ジョンのほかに、下宿屋のマネージャーだったジェシー(ダイアン・シレント)、ビリー・リー(ピーター・ラザー)とドリス(マギー・ブライ)の新婚夫婦、そして60がらみのフェーバー(フレドリック・マーチ)と若い妻オードラ(バーバラ・ラッシュ)たちだった。馬「太陽の中の対決」5.jpg車が出る間際にグライムス(リチャード・ブーン)と名のる男が強引に乗り込んだ。馬車がけわしい山を越えると、突如行手に3人のガンマンが現れた。ひとりはジョンの下宿屋にいたブレイトンという元保安官。この3人に、一人のメキシコ人が加わりさらにグライムスが合流して、その頭に。5人のガンマンの目的はフェーバーだった。彼はインディアン用の食肉を横流しして儲けていた極悪人。5人はフェーバーの金を奪い若妻オードラを人質にして逃げる。後を追ったジョンは2人を射殺し、金だけは無事に取り戻す。その金を、フェーバーは持ち逃げしようとしたが、逆にジョンに身ひとつで追放された。生き残ったグライムスは、オードラと金を交換しようと言ってきたがジョンは拒絶。するとグライムスは、オードラを強い太陽の下で縛りつける。このままでは、渇きと日射病で死んでしまう。この頃、追放されたフェーバーも戻ってきていたが、なすすべもない。結局はジョンが"(夫フェーバーが)インディアンにひもじい思いをさせた報いだ"と呟きながらも助ける。しかし、金と交換せずにオードラを助けたジョンは、グライムスとメキシコ人の2人を射殺したが、5人のガンマンの最後の一人に倒されてしまう。復讐はビリー・リーがした。そしてジョンの遺体は、かつて彼の下宿屋で働いていたジェシーが町へ持って行き弔うという―。

「太陽の中の対決」原作.jpg村上春樹 09.jpg 1967年公開のマーティン・リット監督、ポール・ニューマン主演の異色西部劇で、両コンビの「ハッド」('63年)、「暴行」('64年)に続く3部作の第3作。原作はエルモア・レナード(1915-2013/87歳没)による1961年の小説「オンブレ」です(村上春樹訳で新潮文庫『オンブレ』に収められている)。エルモア・レナードって西部劇小説がデビュー作だったのだなあ。

オンブレ (新潮文庫)
「太陽の中の対決」pm.jpg.png.jpg ポール・ニューマンがインディアンに育てられた白人青年を演じていて、公金を横領した悪玉と同じ馬車に乗り合わせたために強盗に襲われるという、しかも、インディアンに対して加害者であった白人たちを救い、その一方で、自分は悪者に撃たれて死んでしまうという、なんだかすごくやるせない話でした。

「太陽の中の対決」09.jpg「太陽の中の対決」15.jpg 駅馬車にいろいろな人物が乗り合わせ、それが外部から敵に襲われる(リチャード・ブーン演じる悪党面の男グライムスが敵の側だったのはやっぱりという感じだった)というのは、ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の「駅馬車」('39年/米)を想起させます。ただ、その流れでいくと最後強いヒーローが敵を倒して自らは生き延びるわけですが、そうはならないところがミソです。

「太陽の中の対決」3.jpg ポール・ニューマンが演じる主人公のジョンが寡黙で(これも珍しいのでは)、最初は駅馬車の客たちにも不愛想。でも、馬車が外敵に襲われると、その冷静な行動から、自然と皆のリーダーになっていきます。それでも、ずっと不愛想なのは、彼は別にバーバラ・ラッシュ .jpg駅馬車の客たちに義理があるわけでもなく、むしろ白人に迫害された側にあるからでしょう。敵方によって強い太陽の下で縛りつけられた美しい人妻オードラ(バーバラ・ラッシュ)がどんなに泣き叫んでも助けにに行かない。正義感に溢れる勇敢な女性ジェシー(ダイアン・シレント)にそのことを非難されてもなお動かない。それが最後の最後に―(やはりジェシーに心動かされたか)。

荒野のストレンジャー.jpg すぐに動かなかったのは、白人たちに反省させるためだったのかな。今までさんざん差別しておいて、今は縛られた女性の夫ですら何も出来ずにいるところ、皆が彼に頼り切っているという状態になっているわけですから、皮肉と言えば皮肉なことです(クリント・イーストウッド監督・主演の「荒野のストレンジャー」('73年/米)で、人々を無法者から守るはずの主人公が、無法者が攻めてきても最初は相手のやり放題にさせていたのを思い出した。実はこの主人公は、かつて無法者にリンチされながら住民の誰からも助けがなく亡くなった保安官の生まれ変わり?だったので、住民に少しは反省してもらうためにそうしたのではないか)。

「太陽の中の対決」pn1967.jpg しかし、ポール・ニューマン演じるこの寡黙な主人公の"勇敢さ"は、これではいくら命があっても足りないというもので、ほとんど白人たちのために命を投げ出したに近く、原作がエルモア・レナードだから、陳腐なカタルシス効果を排してリアルな心理劇になっているのはある程度頷けますが、結果としてジョンは"神"のような存在になっていたように思います。

 ポール・ニューマンがインディアンに育てられた寡黙な男を演じているのも異色であるし、一般的なハリウッド型ヒーローとはやや趣の異なる、こうした完全に自己犠牲的な役を、大仰ではなくさらりと演じているのも珍しいように思いました。

「シャラコ」.jpg「太陽の中の対決」6.jpg.png「太陽の中の対決」pg.jpg 主人公の心に大きな影響を与える役どころで要所で物語を転がすヒロイン・ジェシーを演じたのは当時ショーン・コネリーの妻だったダイアン・シレント(「太陽の中の対決」と同年公開の「007は二度死ぬ」('67年/英)の撮影時、海女の役なのに海に潜れないことが判明した浜美枝の代わりに、たまたま夫に同伴していた彼女が急遽スタントとして潜った。彼女は子供の頃から泳ぎが得意で潜水も長時間できた)。ショーン・コネリーがこの「太陽の中の対決」が大のお気に入りで、翌年、本作とそっくりな設定の西部劇「シャラコ」('68年)に主演しています(気丈な女性の役どころはブリジット・バルドー)。

「太陽の中の対決」●原題:HOMBRE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・リット●製作:マーティン・リット/アーヴィング・ラヴェッチ●脚本:アーヴィング・ラヴェッチ/ハリエット・フランク・Jr●撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ●音楽:デヴィッド・ローズ●原作:エ「太陽の中の対決」4.jpg.png.jpgルモア・レナード●時間:111分●出演:ポール・ニューマン/フレデリック・マーチ/リチャード・ブーン/ダイアン・シレント/キャメロン・ミッチェル/バーバラ・ラッシュ/ピーター・ラザー/マギー・ブライ/マーティン・バルサム/スキップ・ウォード/フランク・シルヴェラ●日本公開:1967/10●配給:20世紀フォックス(評価:★★★☆)
リチャード・ブーン

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女主人公をイノセントとして描いている。原作を改変して成功している稀有なドラマ化例。

松本清張の種族同盟0.jpg 松本清張の種族同盟1.jpg 火と汐  ポケット文春 1968.jpg 火と汐  文春文庫 旧.jpg
土曜ワイド劇場「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」['79年/テレビ朝日]小川真由美/高橋幸治『火と汐 (文春文庫)
種族同盟 松本清張3.jpg松本清張ほか著/日本推理作家協会編『種族同盟―現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』(カッパ・ノベルス 1969.01)
 千鶴子(小川真由美)は旅館から旅館、仕事から仕事へと流れ歩く"渡り中居"。そんな千鶴子に思わぬ災難がふりかかる。彼女の色気に目をつけた議員秘書に犯され、誤って崖から突き落としてしまったのだ。そして、千鶴子は逮捕されてしまうが、一人の高い野望を抱いた男(高橋幸治)が国選弁護士となり、無罪判決を勝ち取るが―。原作は松本清張の中編推理小説で、「オール讀物」1967(昭和42)年3月号に掲載され、1968年7月に中短編集『火と汐』収録作として、文藝春秋(ポケット文春)から刊行されています(その後、文春文庫で文庫化)。また黒の奔流 01 -  コピー.jpg、カッパ・ノベルス『現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』('69年)に表題作として収録されています。渡邊祐介監督、岡田茉莉子・山崎努主演で、「疑惑」('82年/松竹)の10年前に「黒の奔流」('72年/松竹)として映画化されているほか、これまで以下3度テレビドラマ化されています。
渡辺 祐介 「黒の奔流」 (1972/09 松竹) ★★★★

 •1979年「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(テレビ朝日)小川眞由美・高橋幸治・金沢碧
 •2002年「松本清張没後10年記念企画・黒の奔流」(テレビ朝日)渡瀬恒彦・さとう珠緒・純名里沙
 •2009年「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(テレビ東京)船越英一郎・星野真里・黒谷友香・賀来千香子

「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」('79年/テレビ朝日)小川真由美/高橋幸治/金沢碧
松本清張の種族同盟3.jpg松本清張の種族同盟 6.jpg この1979年版の小川真由美演じる被告は、映画版と同じく旅館の女中(渡り仲居)で(千鶴子、つまり原作で殺害される女性と同じ名前になっている)、彼女の色香に目をつけた客の議員秘書に犯され、彼を崖から渓流に突き落として死なせてしまいます。警察に捕まって尋問されますが、本人に殺意がなかったこともあってか無実を訴え、資力がないので国選弁護人をつけることになりますが、その案件引き受けた弁護士が、高橋幸治演じる矢野弁護士で(原作は一人称で語られるため、弁護士の名は出てこず、この「矢野」という名は映画と同じ名前)、その助手の金沢碧が演じる由基子は(これは原作でもそのことが示唆されているが)彼の愛人ということになっています(男女の入れ替えをはじめ、全体の設定としては原作より映画「黒い奔流」にずっと近い)。

阿刀田高.jpg 小説家の阿刀田高はその著書『松本清張あらかると』(1997年/中央公論社)で「種族同盟」のドラマの脚色を賞賛していて、少し長くなりますが引用します。

松本清張の種族同盟ド.jpg 「〈種族同盟〉のテレビ化は、実にみごとなものであった。もちろん小説を映像化して絶讃を受けた映画やテレビ・ドラマは他にもたくさんあるだろう。どちらかと言えば、テレビより映画のほうによい作品が多いような気がするけれど、テレビ化だって捨てたものじゃない。名品を次々に思い出すことができる。だが、私がここでことさらに〈種族同盟〉を挙げるのは、作品の筋が原作から大きく変更されたにもかかわらず、見どころのある物語をあらたに創っていたからである。しかもその変更の理由が(これはあくまで私の推測ではあるけれど)―テレビ的だなあ―と思いたくなるような、けっして本質的ではないものなのに、ドラマ化された結果は本質的な条件をクリアーしていた。ありていに松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件454.jpg言えば「小説をテレビ化するとき、テレビ局の側にもいろいろ事情はあるでしょう。しかし変更するなら、このくらい、熟慮して変えてください」と、あらまほしき例として挙げたくなるのが、この〈種族同盟〉のテレビ・ドラマ化であった。(中略)〈種族同盟〉のドラマ化は、原作のエンドマークの先にたっぷりと新しいものをつけたして違和感のないものとした。付加するならば、このくらいうまく繋げてほしい。主人公を男から女へ変えるなら、ここまで工夫してほしい。小説〈種族同盟〉と、テレビ・ドラマ化された映像と、どちらがよいかは、むつかしい問題ではあるけれど、私としては、「小説のほうは凄味があるけれど、陰鬱だからなあ。テレビのほうがある種の女のあわれさがよく出ていて、ここちはいいね」と言いたくなってしまう。いずれにせよテレビドラマ〈種族同盟〉は、原作を大きく変えて、しかも充分に成功した珍しい例、と、私は特筆大書したいのである。」

 個人的にも阿刀田氏とほぼ同意見で、やはり脚本が優れているのでしょう。原作や映画化作品と大きく異なるのは、小川真由美演じる千鶴子が"イノセント"として描かれていることで、彼女が無罪を訴えるのも自分は何も悪いことはしていないという"イノセント(無実)の心情"によるものであり、彼女の高橋幸治演じる弁護士に対する想いも"イノセント(純粋)な愛"であって、これが最後まで貫かれていました。弁護士が婚約しても、「先生の結婚は邪魔しない」と言い、妊娠を口実に結婚を迫った映画版とは真逆と言えるかもしれません。

8話)/悪魔のような美女 o.jpg松本清張の種族同盟4.jpg ただ、この"イノセント"を実際に演じるのは相当に難しいはずであり、それをリアリティをもって演じ切った小川真由美ってすごいなあと思いました。同じ「土曜ワイド劇場」枠で同年4月放映の「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/悪魔のような美女」('79年/テレビ朝日)で『黒蜥蜴』の緑川夫人(魔性の女賊・黒蜥蜴)を演じたばかりだったはずですが、演技の幅を感じます(出演映画では、前年の6月に「鬼畜」('78年/松竹)、この年の4月「復讐するは我にあり」('79年/松竹)が公開されている。まさに絶頂期)。

松本清張の種族同盟図9.jpg松本清張の種族同盟 t.jpg 最初の方で小川真由美演じる千鶴子と議員秘書の絡みがあって、しかも千鶴子がたまたまゆっくり走っていたトラックに飛び乗るシーンがあるので(これが意図せず時間トリックとなって彼女の無罪につながるのだが)、原作と違って言わば倒叙ミステリーになっています。その分、ミステリとしての意外性は削がれていることになりますが、ドラマはあくまでも千鶴子が主人公である作りなので、あまり気になりませんでした。

松本清張の種族同盟5.jpg松本清張の種族同盟6.jpg 高橋幸治(1935年生まれ)も悪くなかったです(映画で弁護士を演じた山崎努(1936年生まれ)と似た感じか)。NHKの大河ドラマ「太閤記」('65年)で織田信長、連続テレビ小説「おはなはん」('66年)で速水中尉を演じて人気を博した俳優です。山崎努より1歳年上なだけですが、今世紀に入ってから引退状態にあり、知らない人も多くなっているか...。

高橋幸治(矢野弁護士)/小川真由美(千鶴子)
金沢碧(由基子)
松本清張の種族同盟0.png 金沢碧は、事務所の助手・岡橋由基子役でしたが、原作や映画において弁護士を追いつめる元被告に代わって、由基子が弁護士を恐喝する役回りでした。ダーティな部分を全部引き受けた感じで、最後にドジを踏ん7話)/宝石の美女 kanazawa2.jpgで哀れな末路を辿りますが、どこかユーモラスで憎めない感じであり、その前に、基本"美人"です。実際、「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/宝石の美女」('79年)に"美女"役で出ており、これは小川真由美が出た「悪魔のような美女」の1話前になります(同シリーズ第15話「鏡地獄の美女」('81年)にも再度"美女"役で出ている)。

 小川真由美版のドラマ「種族同盟」は、改変して成功している稀有な例ですが、一つケチをつけるとしたら、「湖上の偽装殺人事件」というサブタイトルでしょうか。これって、視聴者を怖がらせるための、ある種"叙述トリック"のつもりなのかなあ。でも"偽装"しようとした側からすれば未遂に終わったわけで、未遂行為をタイトルにするのは如何なものでしょうか。

松本清張の種族同盟k.jpg松本清張の種族同盟1-.jpg「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(土曜ワイド劇場)●演出:井上昭●脚本:吉田剛●音楽:津島利章●原作:松本清張●出演:小川真由美/高橋幸治/金沢碧/下条アトム(下條アトム)/加藤嘉/朝加真由美/中村竹弥/川合伸旺/進藤準/小島三児●放映:1979/05/26(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★★☆)

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シンプルで上手い。ドラマ版は話を膨らませているが原作の良さが効いている。

 駅路1.jpg『誤差』ノベルズ.jpg  「誤差」2017.jpg
誤差―松本清張短編全集〈9〉 (カッパ・ノベルス)』(装飾評伝・氷雨・誤差・紙の牙・発作・真贋の森・千利休)「松本清張 没後25年特別企画「誤差」」['17年/テレビ東京]村上弘明/剛力彩芽/陣内孝則

駅路』(1961/11 文藝春秋新社)(駅路・誤差・部分・偶数・小さな旅館・失踪)

『誤差』001.jpg『誤差』000.jpg 夏の終わりが近いある日、東海道から山に入った鄙びた温泉宿「川田屋」に、都会風の美貌の女性が現われた。安西澄子と名乗ったその女性は、あまり話をしたがらない様子を見せていたが、三日目に安西忠夫と名乗る長身の紳士が現われ、澄子と合流した。しかしその三日後、書店から夕方17時前に温泉宿に戻った紳士は、仕事で一時宿を離れる、家内はよく睡っているから誰も入らずにそのままにしてほしい、と言い残して17時半過ぎに宿を発った。その二時間後、澄子の死体が部屋から発見された。当初、現場に到着した警察の嘱託医が述べた死後推定時間からは、死亡時刻が15時から16時の間との見解が得られた。続いて死体が解剖されたが、担当の病院長が述べた死後推定時間からは、死亡時刻が17時過ぎとの見解を得た。二人の医師の見解には差があったが、病院長は嘱託医の見解を、誤差と指摘した。警察としても、死亡時刻を17時過ぎとする病院長の見解のほうが、忠夫が澄子を殺したのち逃走という推定に合致し、満足すべきものであった。捜査が進み、川田屋に泊まった紳士の本名は竹田宗一と判明、山岡刑事は東京に出張するが、まもなく竹田の首吊り死体が遺書と共に発見され、事件は容疑者の自殺で幕を閉じたかに思われた―。

 松本清張の短編小説で、「サンデー毎日(特別号)」'60(昭和35)年10月号に掲載、翌年10月に短編集『駅路』収録の1編として、文藝春秋新社より刊行され、その後、『誤差―松本清張短編全集〈9〉』(' 64年/カッパ・ノベルス)に表題作として収められています。

 法医学における死亡推定時刻の"誤差"に、人間心理の思い込みによる"錯誤"を重ねて、かつ男女の微妙な愛の心理も絡めていて、それでいてシンプルで上手いと思います。カッパ・ノベルス版の作者本人のあとがきによれば、ある法医学者の話からヒントを得たとにことで、科学がどれだけ発達しても、まだ人間の判断に拠らざるを得ない部分がどうしても残ること(扱う人によって差も出ること)を如実に表わしているように思いました。

「誤差」20171.jpg 1962年にNHKでドラマ化されて以来ずっとドラマ化されていませんでしたが、2017年に村上弘明×剛力彩芽×陣内孝則の共演で55年ぶりに「松本清張没後25年特別企画 『誤差』」のタイトルでテレビ東京でドラマ化されました(メインキャスト3人は、2015年の「開局50周年特別企画 黒い画集―草―」、2016年の「松本清張特別企画 喪失の儀礼」に続いての共演)。

「誤差」2017t .jpg 2017年の村上弘明版は、最初に安西澄子の絞殺体が見つかるところから始まって、関係者の証言を集めながら、事件4日前に澄子が来泊したところから振り返ってみるという作りになっていて、捜査は難航しますが(原作より複雑になっている)、原作のようにいったん事件が解決したかに見えた後で刑事の山岡が事の真相に気づくというものではなく、山岡は部下の女性刑事を従え、紆余曲折ありながら最後一気に犯人に辿り着きます。以下、あらすじは―
  
「誤差」201710.jpg 山梨県にある温泉宿「川田屋」で、ある夜、安西澄子(田中美奈子)の絞殺体が宿泊していた離れで発見される。山梨県警の山岡慶一郎(村上弘明)は、部下の伊崎美里(剛力彩芽)と共に現場へ急行する。身元がわかるものは一切残されていなかったが、金品は手つかずのまま。女将の川田沙織(水沢アキ)によると、澄子は4日前から夫の忠夫と一週間滞在する予定だったが、忠夫は仕事が入り昨日合流したばかり。今日は忠夫のみ一旦外出。戻ったあと「家内はよく眠ってるから、そっとしておいてほしい」と連絡を入れて再び外出してしまったという。なぜか担当仲居の鵜飼理沙子(齋藤めぐみ)の姿も見当たらない。一方、澄子を解剖した法医学教授・立花亮介(陣内孝則)は吉川線と呼ばれる傷を発見するが、その傷に気になる点を見つける。山岡と美里が湯治客全員を聴取すると、ファーコートを着た怪しい女性を目撃したとの情報が。また宿帳に書かれた〈安西夫妻〉の住所と氏名はデタラメだと判明。安西夫婦は、またファーコートの女性は、誰なのか? そして一連のニュースを東京の街角のモニターで見つめる謎の女(松下由樹)の正体は? そんな中、鵜飼理沙子の遺体が発見され事件はさらに混迷していく―。

「誤差」20173.jpg 以上のように、犯行現場を目撃したと思われる仲居も殺害されるため、原作より被害者が1人多いです。さらに、〈安西夫妻〉の片割れの竹田宗一と併せて、澄子に貢いでいた信金金庫の融資係の男性も疑われるなど、容疑者も増えています。また、竹田の本当の妻が澄子が殺害される前に、澄子を「川田屋」に訪ねて宗一と別れるよう直談判するという場面もあり、〈男女の微妙な愛の心理〉の部分もかなり拡大しています。さらに、病院医師と山岡が、最初はぶつかるが、最後は真実を求めて共闘するという、その部分のドラマ的要素もあります。
 
「誤差」20172.jpg 随分盛りだくさんですが、それらはそれらでまずまず面白く、観ていてシラける感じはありませんでした。それもこれも、原作のプロットが効いているからでしょう。意図せずに生まれた時間差トリックと言うか、だからこそ"誤差"であるわけですが、そこが良く出来ているから、そこから話を膨らますこともできるし、膨らましてもそのプロットさえ活かせば駄作にはならず、まずまずの作品に仕上がるということではないかと思います。

「誤差」2017100.jpg
「松本清張没後25年特別企画 誤差」●監督:倉貫健二郎●脚本:深沢正樹●原作:松本清張●出演:村上弘明/剛力彩芽/陣内孝則/松下由樹/小市慢太郎/田中美奈子/酒井美紀(友情出演)/宮川一朗太/橋爪遼/宍戸美和公/齋藤めぐみ/久保田磨希/矢柴俊博/三田村賢二/矢野浩二/細川ふみえ/螢雪次朗/水沢アキ/左とん平(友情出演)●放送日:2017/05/10●放送局:テレビ東京

【1964年ノベルズ化・2003年改版[カッパ・ノベルズ]/2009年再文庫化[光文社文庫(『誤差―松本清張短編全集(09)』)]】

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聞き込み捜査の"常道"の裏をかいて上手い。ドラマ版は芳子をファム・ファタールにしていた。

『顔』ロマン・ブックス.jpg「市長死す」0.jpg
「松本清張没後20年特別企画・市長死す」['12年/フジテレビ]石黒賢/反町隆史/倍賞美津子/京本政樹/木村多江
(ロマン・ブックス)
顔 (1956年) (ロマン・ブックス)』(顔/殺意/なぜ「製図」が開いていたか/反射/市長死す/張込み)
顔 (1956年) (ロマン・ブックス).jpg 九州のある小さな市の市長・田山与太郎は、市会議員と秘書を連れ、陳情で上京したが、明日は地元に帰るという前の晩、議員たちを新国劇へと招待した。ところが、二幕目が開き寄席へ戻った市長は、しきりと考える風をみせ、ホテルへ戻るやいなや、急な用件で志摩川温泉へ行くと言い出し、議員と秘書を地元に帰してしまう。それから3、4日過ぎても市長は帰ってこなかった。地元紙が騒ぎかけた時、田山市長の転落死体が志摩川温泉で発見された。醬油屋を営む若き市会議員・笠木は、市長の奇妙な行動の裏に疑問を抱き、調査を始める―。

 松本清張の短編小説で、「別冊小説新潮」'56(昭和31)年10月号に掲載、同年10月に短編集『顔』収録の1編として、講談社ロマン・ブックスより刊行されています。

 短篇ながら上手いなあと思います。主人公の若き市会議員・笠木は市長の死に疑念を抱いて聞き込み調査をするわけですが、推理小説の場合、制服(警官がその代表格だが)やユニフォーム(店員や工場・施設などの従業員)を着た人に聞いた話をもとに事件の真相に迫っていくことが多く、またそれが常道であると思いますが、この作品は見事にその裏をかいているように思いました。

「市長死す」t.jpg 1959年にテレビドラマ化されて以来ずっとドラマ化されていなかったのが、2012年に53年ぶりに反町隆史の主演でテレビドラマ化され、それを観ました。

「市長死す」[.jpg 市議会議員の笠木公蔵(反町隆史)のもとに、伯父である市長の田山与太郎(イッセー尾形)が死んだとの連絡が母親から入る。真面目一辺倒の市長が公務中に突然姿を消し、数日後にある温泉で遺体となって発見されたのだった。市長はすでに無断で6日も議会を欠席しており、横川市庁舎にて行われていた定例市議会では市長に対する野次が飛び交い、市長の秘書・矢崎(春海四方)が責め立てられていた。矢崎は市長が視察をかねたクラシックコンサートの途中で、突然「急に用事を思い出したから、明日の議会は欠席にしてほしい」と言って姿を消したことを不思議に思っていた。さらには、向かった先の志摩川(シマカワ)温泉のことを"シマガワ"温泉と言ったことで、初めて行く町だったのではないかと不信感を募らせていた。堅物で通っていた伯父が私用で仕事を抜け出したことを不審に思った笠木は、市長のところに通っていた家政婦の手塚スミ子(倍賞美津子)の協力のもと、市長の部屋で遺品整理をする。そこで発見した伯父の日記によって、芳子(木村多江)という女に惚れ込んでいたという伯父の意外な一面を知る。この日記の内容は、伯父の失踪と関係があるのだろうか? 笠木はスミ子と共に、市長が遺体で発見された志摩川温泉に再び足を運ぶが...。笠木は市長の死の裏にある衝撃的な真実にたどり着く―。

反町隆史/イッセー尾形
「市長死す」 イッセー尾形.jpg 時代が現代(2010年代)になっており、反町隆史演じる市議会議員の笠木はイッセー尾形演じる田山市長の甥という血縁関係になっていて、議員職の傍ら営むのは醤油店ではなく花屋経営になっていたりします。田山市長が死ぬ前に行ったのが観劇ではなく視察を兼ねたクラシックコンサートだったり、田山市長が市長になる前の過去に部下の不祥事の責任を負わされた事件が、戦時中の朝鮮での軍資金8万円横領事件から、彼の商社マン時代の機密費5億円横領事件になっていたり、彼が思慕することになる木村多江演じる芳子とは、戦地ではなく海外赴任先で知り合ったことになっています。さらに、倍賞美津子演じる田山市長に出入りしていた家政婦が積極的に協力したりと、幾つか改変がされていますが、短編を2時間超のドラマにしているだけに丁寧な作りで、プロット的にも本筋の部分は活かしています。

「市長死す」 反町.jpg 原作の最後の解題の部分が笠木の市会議長に宛てた手紙の形式になっているのに対し、ドラマではそれを映像的に丁寧に再現しているというのはありますが、短篇を2時間ドラマにしても十分見応えがあるというところに、松本清張の原作短編の密度の濃さを感じます。ただ、それに合わせて、主人公の笠木の正しいかどうか分からない推理も映像化しているため、その点は観る者をミスリードするかも(実際には無かったことを映像化したことをアンフェアと見る人もいるのでは)。

「市長死す」last.jpg 原作とのいちばん大きな違いはラストでしょう。田山市長の長年の想い人は、歩き方に特徴があり、それは過去に男性の問題で料理店の同僚に脚を出刃包丁で刺されたためで、その事件を機に海外店に勤務することになって商社マン時代の田山市長と出会ったという設定ですが、最後に犯人が逮捕された後、笠木に市長のことを好きだったかと訊かれて「気持ち悪い」と呟き、田山市長殺害の再現シーンでは現場にいたことになっていて、しかも笑っています(怖っ)。さらにさらに、ラストシーンではすたすたと歩いていて、今まで足を引きずるようにしていたのは"幸薄い女"と見せる演技だったのかと(随分手が込んでいる)。

 原作ではそのキャラが描かれていない芳子を、ドラマではファム・ファタール(悪女)にしちゃってるなあ。これはこれで面白いけれど、この部分は完全にドラマのオリジナルです。

「市長死す」2012.jpg「市長死す」中文.jpg「松本清張没後20年特別企画・市長死す」●演出:西浦正記●脚本:樫田正剛●プロデューサー:樋口徹/竹田浩子●原作:松本清張●出演:反町隆史/木村多江/イッセー尾形/倍賞美津子/石黒賢/白石美帆/春海四方/きたろう/京本政樹(友情出演)●放送日:2012/04/03●放送局:フジテレビ

【1976年文庫化[講談社文庫(『遠くからの声』)]/1964年ノベルズ版・2002年改版[カッパ・ノベルズ(『青春の彷徨―松本清張短編全集6〉』)]/2009年再文庫化[光文社文庫(『青春の彷徨―松本清張短編全集(06)』)]】

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『コンビニ人間』と逆方向の結末は"鮮やかに決まりすぎている"という印象も。

推し、燃ゆ.jpg宇佐見りん.pngかか usami.jpg   『コンビニ人間』.jpg
推し、燃ゆ』['20年]宇佐美りん氏(芥川賞授賞式)『かか』['19年]  村田沙耶香『コンビニ人間』['16年]

 2020(令和2)年下半期・第164回「芥川賞」受賞作。2021年・第18回「本屋大賞」第9位。

 普通のことが普通にできない高校生のあかり。そのせいで高校は退学、バイトもくびになり、勤め先は決まらない。そんなあかりが、自分の「背骨」と定義し人生を傾けて推しているのが男女混合アイドルグループのひとり、上野真幸。あかりは推しの作品や推し自身を丸ごと解釈したいと思いながら、推しに心血を注いでいる。そんなある日、突然SNS上で推しが炎上した。ファンを殴ったらしい。そこから、あかりの人生も少しずつ歯車が狂い始める―。

 著者の21歳での芥川賞受賞は、同時受賞だった綿矢りさ(『蹴りたい背中』)、金原ひとみ(『蛇にピアス』)両氏に次ぐ歴代3番目の若さとのこと。すでにデビュー作『かか』('19年/河出書房新社)で文藝賞を受賞し、さらに三島由紀夫賞を最年少で受賞していて、やっぱり才能あるんだろうなあ。

 句読点の少ない文章は、最初のうちは読みなれなかったけれども、読んでいくうちに一定のリズム感のようなものが感じられるようになりました。少なくとも『かか』よりもこちらの方が文章的に洗練されていて、分かりよいように思いました。もしかしたら、『かか』より(『かか』はもともと"壊れゆく母親"を描いたものだが)ずっと自身に近いところで書かれているためではないかと推察したくなります。

 芥川賞の選考では、9人の選考委員の内、小川洋子氏と山田詠美氏が強く推していて、小川洋子氏は「推しとの関係が単なる空想の世界に留まるのではなく、肉体の痛みとともに描かれている」とし、山田詠美氏は「確かな文学体験に裏打ちされた文章は、若い書き手にありがちな、雰囲気で誤魔化すところがみじんもない」と絶賛。他の委員の評価もまずまずで、(吉田修一氏の講評のみ否定的だったが)比較的すんなり受賞が決まったようです。

 主人公について文中では、「2つの診断名がついた」とあるものの、その具体的な診断名は書かれていませんが、おそらく発達障害の内の学習障害(LD)と注意欠陥障害(ADD)だと思われます。こうした障害による「生きづらさ」を抱えた主人公が登場する小説として想起されるものに、'16年に同じく芥川賞を受賞した村田沙耶香氏の『コンビニ人間』('16年/文藝春秋)があります。

 両作品はその点で似ているところがありますが、結末の方向性が、『コンビニ人間』の方は主人公が自身の性向に合ったセキュアベース的な場所(それがコンビニなのだが)に回帰するのに対し、この『推し、燃ゆ』の主人公は、自らセキュアベースであったアイドルを推すという行為から脱却することが示唆されて、結末は逆方向のような気もします。

 芥川賞の選考委員の一人、堀江敏幸氏も、「バランスの崩れた身体を、最後の最後、自分の骨に見立てた綿棒をぶちまけ、それを拾いながら四つん這いで支えて先を生きようと決意する場面が鮮烈だ。鮮やかに決まりすぎていることに対する書き手のうしろめたさまで拾い上げたくなるような、得がたい結びだった」と言っており、これって、手放しで褒めているのか、そうとも言えないのか?

 個人的にも、やや"鮮やかに決まりすぎている"という印象を持ちました。そこが上手さなのだろうけれど、これでこの先、主人公は本当に大丈夫なんだろうかと気を揉んでしまいます(笑)。

芥川賞の偏差値 .jpg小谷野敦.jpg 比較文学者で辛口批評で知られる小谷野敦氏がその著書『芥川賞の偏差値』('17年/二見書房)で『コンビニ人間』を絶賛し、歴代芥川賞受賞作の中でも最高点を与えていましたが、この作品についてはどうかなと思ってネットで見たら、「週刊読書人」の対談でやはり「スマッシュヒットという感じでした」と絶賛してました。

 小谷野敦氏は、「私は〝人間は「推し」がいなくても生きていかなければいけない〟という主題だと読んだ」とのことで「受賞後のインタビューで本人は、〝推しを持つ気持ちを認めてほしい〟ということを繰り返し語っています。それが引っかかっている」と。でも、小谷野氏の最初の解釈がフツーだろうなあ。

 あとは、『コンビニ人間』とどちらがいいかですが、小谷野氏は特にそれは言っていません(両方いいのだろう)。個人的には、結末は、考え方的には『推し、燃ゆ』なんだろうけれど、読み心地としては『コンビニ人間』かなあ。『推し、燃ゆ』もいい作品ですが、このラストは結構キツイと言うか、この後主人公は本当に大丈夫なのかという印象が残りました(われながら全然文学的な読み方してないね)。

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アスペルガー、AD/HD、LDに分けてエピソードを紹介しているのが良かった。

毎日やらかしてます。.jpg毎日やらかしてます。2013.jpg 沖田 ×華.jpg
毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』['13年] 沖田×華氏

 「もう帰っていい! 」と怒られれば即座に帰宅!? 予定がひとつでも崩れると1日寝込む!? 職場で、自宅で、オフ会で...自身の周りはいつもハプニングの連続!! さまざま発達障害をもつ沖田×華が、大人になってからの自身と発達障害とのかかわり方、失敗談などを描く笑えるコミックエッセイ!(版元口上より)

「毎日やらかしてます。」.jpg アスペルガー症候群(AS)、学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)などの発達障害を併せ持つという漫画家・沖田×華(1979年生まれ)氏によるコミックエッセイ。初出は「別冊 本当にあった笑える話」 2011年2月号から2014年6月号にかけてで、2012年6月ぶんか社より単行本刊。以降、シリーズ化され、直近の2021年4月発行の『わいわい毎日やらかしてます。』で第8巻になります。

 この〈第1巻〉は、第1章が「アスペルガー編」、第2章が「注意欠陥/多動性障害編」、第3章が「学習障害編」というように分けれていて、その上でそれぞれに関連するエピソードを拾っているので、それぞれの障害の特徴が分かりやすいのがいいと思いました。

 著者は、子どもの頃から障害の可能性を持たれながらも見過されて、大人になってそれが2次障害となって現れ、そこで改めて自分の障害のことを知ったようですが、これってよくあるパターンかと思います。障害に特有の「やらかした」ぶりや「生きずらさ」感がよく描かれていたと思います。

 病気ではなく発達障害であるため、ちょうど人の性格がそれそれぞれ異なるように人によって障害の現れ方が異なったりするわけですが、それを自分やそれと疑われる他人(けっこう身近にいそう)の例を引いて分かりやすく紹介しています。ちゃんとマンガとして読めるようになっているのもいいと思います。

 でも、Amazonのレビューなどを見ると、いいという人も多い一方で、「発達障害だから何でも許されるってもんでもないと思った。全く共感できなかった」「自分にとって不都合なことは全て障害のせいにしている」といったレビューもあり、人によっては抵抗を感じる人もいるのかも。しかしながら、前述の通りシリーズは8巻まで続いてきているので、一定多数の支持は得ているとみていいのではないでしょうか。

 個人的には、マンガって少し"毒"があるのがフツ―だと思います。そうでないと面白くないです(だから、賞を取ったマンガより取らなかったマンガの方が面白いことがある)。

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原作からの改変点を楽しみながら観られる。体当たり演技の名取裕子(当時23歳)がいい。

kemonomichi.jpg「けものみち」1982.01 .jpg「けものみち」19822.jpg
松本清張原作 けものみち DVD-BOX 全2枚セット」山崎努/名取裕子
kemonomichi 2.jpg 成沢民子(名取裕子)は、暴漢に襲われて負傷し動けなくなった夫・成沢寛次(石橋蓮司)を養うため、割烹旅館・芳仙閣で住み込みの仲居をしていた。しかし、寛次はそんな民子をいたわるどころか、日々、猜疑心を募らせるのだった。ある日、芳仙閣にニュー・ローヤル・ホテルの支配人・小滝章二郎(山崎努)が訪れ、小滝は民子に、今の生活から抜け出し、もっと安楽な生活に導く手助けをするようなことを仄めかす。民子は小滝の誘いに乗ることを決意し、失火に見せかけて夫を焼き殺す。そして、民子は弁護士・秦野重武(永井智雄)により、政財界の黒幕・鬼頭洪太(西村晃)の邸宅に連れて行かれる。小滝の誘いとは、鬼頭の愛人になることだったのだ。民子は鬼頭の相手を務める一方、小滝とも関係を持ち、鬼頭の後ろ盾を得て、奔放な生活を送るようになる。寛次の焼死事件は、小滝が民子のアリバイを証言したこともあり、警察と消防によって失火と断定されたが、焼死事件に不審を抱いて独自に捜査を進めた刑事・久恒(ひさつね)義夫(伊東四朗)は民子が犯人であると睨み、証拠を民子にちらつかせて肉体関係を迫る。しかし、逆に久恒は警察官を免職される。背後に鬼頭の影を見た久恒は、自分が調べ上げた鬼頭の闇の部分を書いて新聞社に持ち込むが、鬼頭の力を怖れる新聞社のデスク(塩見三省)はこれを受け付けない。やがて、鬼頭家の女中頭・山倉米子(加賀まりこ)が殺害される―。

けものみち (新潮文庫).jpgけものみち(上) (新潮文庫).jpgけものみち(下) (新潮文庫).jpg 「NHK土曜ドラマ 松本清張シリーズ」として'82年1月に毎週土曜日夜3話に分けて放送されたもの。原作は松本清張が「週刊新潮」の'62年1月8日号から'63年12月30日号にかけて連載したもので、'64年5月、新潮社から単行本として刊行されています。原作の時代設定は執筆当時、つまり東京オリンピック開催の2年前になっていて、ドラマもそれに倣っています。
 
和田勉.jpg「けものみち」道行.jpg 面白かったです。原作の面白さに拠るところ大であるとは思いますが、和田勉(1930-2011/81歳没)による演出も良かったのではないかと思います。原作は、最後に小滝が民子を焼死させ、小滝だけが生き残る、ある種、小滝を中心としたピカレスクロマンとなっています。それに対してNHK版の方は、名取裕子は演じる民子を中心に描かれていて、最後は山崎努演じる小滝との逃避行になっており、"道行(みちゆき)物"のような印象のあって、小滝を完全な悪者にしていないところがテレビ的なのかもしれませんが、これはこれで良かったです。

「けものみち」10.jpg 当時NHKのディレクターであった和田勉が、仕事上のトラブルに陥っていた名取裕子に、民子役として直接出演を依頼して制作された作品です。政財界の黒幕・鬼頭を演じた西村晃の怪演をはじめ、山崎努、加賀まりこらベテラン役者陣の中で、当時23歳で25歳のヒロイン(原作は31歳)を演じた名取裕子は体当たりの演技で頑張っていたと思います。実際、彼女は当時引退を考えていたところ、このドラマへの出演で女優の世界に引き戻されたと後に語っています。以後、清張作品だけで映画・テレビドラマ合わせて17本出演することになり、「清張女優」とまで呼ばれるようになりました(その後もドラマに出続け、今度は「片平なぎさに次ぐ2時間ドラマの女王」の異名を持つようになった)。

「けものみち」4.jpg 山崎努の安定した演技はもちろんのこと、当時お笑いで人気を博していた伊東四朗のシリアスな刑事役もなかなかのものだったし、女中頭・山倉米子役の加賀まりこのきついイメージも印象的。さらに、もう色欲しか残っていないような末期老人・鬼頭を演じる西村晃―、得体のしれない弁護士・秦野重武を演じる永井智雄といった、こうした面々を相手に23歳でヒロインを演じ切ったというのは、本人にとっても自信になっただろううし、この役に彼女を起用した和田勉の慧眼もさすがだと思います。個人的には、原作が変な風に改変されてガックリくるドラマが多い中、原作からの改変点を楽しみながら観ることができるドラマでした。

「けものみち」門0.jpg「けものみち」庭.jpg 鬼頭邸の門や庭のシーンは(ドラマ制作当時の)清張邸を使って撮影されていて、第1話の終わりに、その庭での原作者・松本清張と山崎努、名取裕子の会話が挿入されているのが貴重映像かと思います。

「けものみち」ばんせn.jpg「松本清張シリーズ・けものみち」●演出:和田勉●脚本:ジェームス三木●音楽:(オープニング)ムソルグスキー「交響詩 禿山の一夜」/(劇中音楽)ムソルグス「けものみち」暫し.jpgキー「組曲 展覧会の絵」(ラヴェル編曲)●原作:松本清張●出演:名取裕子/山崎努/西村晃/伊東四朗/永井智雄/加賀まりこ/石橋蓮司/中村伸郎/久米明/加藤和夫/勝部演之/林昭夫/塩見三省/松崎真/高森和子/原知佐子/矢吹二朗/林ゆたか/奥野匡/野村信次/西村淳二/松本マツエ/増田順司/大森義夫/山崎満/松村彦次郎/入江正徳/小坂明央/小林かおり/永六輔●放送日:1982/01/09~23●放送局:NHK(評価:★★★★)

【1968年文庫化[新潮文庫(全1冊)]/2005年再文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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『わるいやつら』に勝るとも劣らない面白さ。リアルタイムであるのがスゴイ。

けものみち (新潮文庫).jpgけものみち(上) (新潮文庫).jpg けものみち(下) (新潮文庫).jpg けものみち 米倉涼子.jpg
けものみち (新潮文庫) 』['68年]/『けものみち(上) (新潮文庫)』『けものみち(下) (新潮文庫)』['05年]「松本清張 けものみち DVD-BOX」米倉涼子

IMG_20220413_170911.jpg 成沢民子は、脊髄損傷のために動けなくなった夫・成沢寛次を養うため、割烹旅館・芳仙閣で住み込みの女中をしていた。しかし、寛次はそんな民子をいたわるどころか、日々、猜疑心を募らせ、民子が家に戻るたびに、執拗にいたぶるのだった。ある日、芳仙閣にニュー・ローヤル・ホテルの支配人・小滝章二郎が訪れる。小滝は民子に、今の生活から抜け出し、もっと安楽な生活に導く手助けをするようなことをほのめかす。民子は小滝の誘いに乗ることを決意し、失火に見せかけて夫を焼き殺す。そして、民子は弁護士・秦野重武によって、政財界の黒幕・鬼頭洪太の邸宅に連れて行かれる。小滝の誘いとは、鬼頭の愛人になることだったのである。民子は鬼頭の相手を務める一方、小滝とも関係を持ち、鬼頭の後ろ盾を得て、奔放な生活を送るようになる。そのころ、寛次の焼死事件は、小滝が民子のアリバイを証言したこともあり、警察と消防によって失火と断定された。しかし、事件を担当した刑事・久恒義夫は、事件に不審を抱いて独自に捜査を進め、民子が夫を焼き殺したという結論に達する。民子の美貌に魅せられた久恒は、自分が集めた証拠を民子にちらつかせ、民子にたびたび関係を迫る。しかし、逆に久恒はささいな理由で警察官を免職される。自分を免職にした上司の背後に鬼頭の姿を見た久恒は、自分が調べ上げた鬼頭の闇の部分を手紙にしたため、新聞社に持ち込むが、鬼頭の力を恐れる新聞社は久恒のネタをどこも採用しなかった。改めて鬼頭の実力を知った久恒は、失踪した鬼頭家の女中頭・米子の殺害事件の証拠を集めて鬼頭を追い詰めようとする―。(Wikipediaより)

 松本清張が「週刊新潮」の'62(昭和37)年1月8日号から'63(昭和38)年12月30日号にかけて連載したもので、'64(昭和39)年5月、新潮社から単行本として刊行されています。時代設定は執筆当時、つまり東京オリンピック開催の2年前になっていて、当時においてのリアルタイムということになります。本作は以前に同じく「週刊新潮」('60年1月11日号~'61年6月5日号)に連載された『わるいやつら』以上の評判を呼び、本作連載時の「週刊新潮」は120万部を発行し、増刷となったとのことです。実際、『わるいやつら』に勝るとも劣らない面白さだと思います。

実録日本の黒幕右翼の巨魁児玉誉士夫 (バンブー・コミックス)
-Hotel-New-Japan_(1993).jpg児玉誉士夫.jpg 小説中の政財界の黒幕・鬼頭洪太のモデルは諸説ありますが概ね児玉誉士夫をモデルに造形された人物だろうとされ、その児玉誉士夫の名は、'76(昭和51)年に明るみに出たロッキード事件により世に知られるようになります。また、赤坂の高台に3年前に新築されたという「ニュー・ローヤル・ホテル」は、1960(昭和35)年開業のホテルニュージャパンがモデルと推察されますが、このホテルは'82年(昭和57)年に33人の死者を出した「ホテルニュージャパン火災事件」で有名になります。
 
 ホテルニュージャパンがモデルならば、ニュー・ローヤル・ホテルの支配人・小滝章二郎のモデルは、当時ホテルニュージャパンのオーナー兼社長だった横井英樹(1913-1998)でしょうか。モデルがそのあたりの事情を多少とも知っている人が読めばすぐに思いつきそうな設定で、しかもリアルタイムの時代設定で書いているのがスゴイし、ゆえにベストセラーとなるのでしょう。文芸評論家の細谷正充は、「政財界を裏から操る黒幕」という設定は、大藪春彦や森村誠一の小説、のちにはコミックなどのエンターテイメント作品に広く流布されているが、本作は、政財界の設定を使い勝手の良いガジェットとして扱うのではなく、政財界の闇そのものを真正面から取り上げ、徹底的にリアルな掘り下げをした点で、意外なほど少ない、例外的な作品となっていると評しています。

「けものみち」池内.jpg この作品は1965に須川栄三監督、池内淳子(民子)、池部良(小滝)主演で東宝で映画化されているほか(久恒刑事役は小林佳樹)、過去3度テレビドラマ化されています。
 •1982年「松本清張シリーズ・けものみち」[全3回]名取裕子・山崎努(NHK)
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・けものみち」[全3回]十朱幸代・草刈正雄(NHK)
 •2006年「松本清張 けものみち」[全9回]米倉涼子・佐藤浩市(テレビ朝日)

「けものみち」米倉.jpg「けものみち」米倉4.jpg やはり、ドラマは複数回にわたりじっくり描いたものが人気のようで、今世紀に入ってからの米倉涼子版は、米倉涼子にとって「松本清張 黒革の手帖」('04年)、「黒革の手帖スペシャル〜白い闇」('05年)に続く松本清張原作ドラマ出演で、翌年には「松本清張・最終章 わるいやつら」('07年)に出演するなど(いずれもテレビ朝日)、この辺りの松本清張原作ドラマは、女優・米倉涼子のキャリア上の大きな転換点となった作品群と言えます。

 では、その前の「清張女優」は誰だったかと言うと、松本清張作品に映画・テレビドラマ合わせて17本出演した名取裕子が筆頭に思い浮かび、その名取裕子が初めて出演した清張原作ドラマが「けものみち」でした(名取裕子版は次のエントリーで取り上げたい)。

「けものみち」池内2.jpg 池内淳子の映画版は、ラストで民子が辿る運命は原作と同じで、ちょっと残酷ですが、これも夫殺しの原罪の報いということでしょうか。まあ、原作も民子ではなく小滝が主人公のピカレスク小説と解せないこともないですし。

 それに対して直近の米倉涼子版は、途中、民子が企業経営に乗り出したり、二度の殺人がともに小滝の仕事部屋で行われるなど、かなり話が飛躍していたり非現実的であったりし、ラストも民子は原作と同様の状況に陥るも、そこから奇跡的に(どうやって?)脱出して生き延びます。今風と言えば今風かもしれませんが、翌年放送の「松本清張スペシャル・地方紙を買う女」('07年/日本テレビ)で、内田有紀が演じる主人公が原作のように自殺しないで生き延びたのを思い出しました(「強い女性」が当時のトレンドだったのか)。

「けものみち」平 米倉.jpg「けものみち」米倉[.jpg「松本清張 けものみち」●演出:松田秀知/藤田明二/福本義人●プロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)/伊賀宣子(共同テレビ)●脚本:寺田敏雄●音楽:(エンディング)中島みゆき「帰れない者たちへ」●原作:松本清張●出演:米倉涼子/佐藤浩市/仲村トオル/若村麻由美/平幹二朗●放映:2006/01/12~03/09(全9回)●放送局:テレビ朝日

「けものみち」1982.01 .jpg「けものみち」19822.jpgkemonomichi.jpg NHK土曜ドラマ「松本清張シリーズ・けものみち」 (1982/01 NHK) ★★★★(演出:和田勉/脚本:ジェームス三木/出演:名取裕子・山崎努)
    
【1968年文庫化[新潮文庫(全1冊)]/2005年再文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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演技性を排することを指向する一方で、映画内舞台劇を見せているところが興味深い。

「親密さ」 濱口竜介.jpg「親密さ」3.jpg 「親密さ」5.jpg
「親密さ」

「親密さ」1.jpg 「親密さ」という演劇を作り上げる過程を描いた劇映画と、実際の舞台「親密さ」の記録映像の2部構成。それぞれに虚構と現実が複雑、微妙に交錯し続ける。新作舞台の上演を控えた令子(平野鈴)と良平(佐藤亮)はコンビで演出を手がけているが、そのやり方に限界が見え始めてきていた―。

 濱口竜介監督・脚本による2012年製作映画で、俳優養成の専門学校・ENBUゼミナールの演技コースの修了作品としてスタートした企画から生まれた255分、4時間超の長編であり、2012年7月28日オーディトリウム渋谷での「濱口竜介レトロスペクティヴ」で上映されています(同監督の一連の過去作品と併せて上映されたため「レトロスペクティヴ」(回顧展)というイベント名になっているようだ)

「親密さ」4.jpg 前半の舞台演劇を作り上げていく過程の部分は、そこまでが現実でどこまでが演技か分からない部分もあり、こうした作りは、同監督の「ハッピーアワー」('15年)などに受け継がれているなあと。朝鮮半島で戦争が始まったという設定は、オムニバス映画「偶然と想像」('21年)の第3話「もう一度」でも、2019年、強力なコンピュータ・ウィルスが大発生し、インターネットが遮断され、世界は郵便と電話だけの古いシステムへ逆戻りしていたというSF的設定があったことを想起させられました。

「親密さ」6.jpg 演出の令子が舞台の出演者たちにいきなり政治的なインタビューをしたり、超長回しのシーンがあったりと、実験的な要素は多いです。舞台稽古の途中で主役の衛(まもる)役を託してした男性が去り、良平自身が主役を演じることになるというのはまさに「ドライブ・マイ・カー」('21年)と同じではないかと。―といろいろありましたが、やはり、第2部の舞台劇に入ってからが、緊張感があって、また時にユーモラスな場面もあってぐっと面白くなったように思います。

「親密さ」2.jpg そして、「短い第3部」とも言えるエピローグ。舞台劇「親密さ」の演出家だった令子は編集者になり、脚本家かつ主演俳優だった良平は(SF的設定のもと)韓国の義勇兵となり、軍楽隊に所属している。その2人が偶然再会し、それぞれの電車に乗り、車内を走り回り、投げキスを交わし合う。山手線と京浜東北線を走る電車が並走し、追いつき追い越し、最終的に二手に分かれて消えていく―。何だか青春映画っぽい結末にも見えますが、平行線で交わらない線路によって「親密さ」を表現するという発想自体が「視線」について考え抜いてきた濱口監督ならではの演出と言えるかと思います(このラストシーン、出演者はカメラがどこにあるかわからないまま演技したそうで、このあたりも濱口監督らしい)。

 早稲田大学教授の藤井仁子氏が、WEB版「神戸映画資料館」で、「『親密さ』には名のあるスターは出ておらず、演技経験の浅い、通常の商業映画であれば現時点で重要な役が回ってくることはまずありえない若者だけでキャストが固められている」が、「はじめから『映画的』であるわけではない彼らの顔と声が、映画が進むにつれてスターに成長していくというのではなく、小さく、また弱くあるままで思いがけない輝きを放っていくさまは感動的」と評価しています。

 4時間に及ぶ長編であるためか、後半の舞台劇の部分だけを上映したこともあったようですが、舞台劇の部分だけだとこの「思いがけない輝きを放っていく」という部分が感じにくいわけで、やはりこの映画は、前半部のドキュメンタリータッチな部分があってこその後半の舞台劇ではないかと思います。

 「ドライブ・マイ・カー」の中の「ワーニャ伯父さん」の舞台の読み合わせシーンで、演技性を排することを指向して、監督自身の演出スタンスの種明かしをしていましたが、この映画の前半部がそれに当たるのではないでしょうか。一方で、映画内の舞台劇としての「演技」見せているところに、濱口作品が「演劇」との密接な繋がりがあることも感じられ(「ドライブ・マイ・カー」もそうなのだが)興味深いと思います。

「親密さ」●制作年:2012年●監督・脚本:濱口竜介●舞台演出:平野鈴●撮影:北川喜雄●劇中歌:岡本英之●時間:225分●出演:平野鈴/佐藤亮/田山幹雄/伊藤綾子/手塚加奈子/新井徹/菅井義久/香取あき●公開:2012/07●配給:ENBUゼミナール●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(22-03-29)(評価:★★★★)

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3話ともそれぞれに違った味があって、話としても面白かった。

「偶然と想像」00.jpg
「偶然と想像」
魔法(よりもっと不確か)
「偶然と想像」第1話).jpg ファッションモデルの芽衣子(古川琴音)は、撮影スタッフの一人で親友のへアメイクアーティストつぐみ(玄理)と、都心での撮影が終わって一緒にタクシーに乗る。つぐみは最近出会った運命の相手との夜を話し始める。その相手は、若くしてビジネスで成功したハンサムな起業家で、ふとしたことで出会い、話し始めると趣味や価値観がことごとく一致していることに二人は驚喜し、どれだけ長く話しても飽きるということがく、会ったその日の夜に、これがずっと探していた運命の相手だとお互いに確信、その確信はあまりに揺るぎなかったので、肉体的な接触も要らず、目を見ているだけで満ち足りた時間を過ごすことができたと。芽衣子はこの話に喜んで耳を傾け、つぐみを羨んでみせ、幸運を祝福する。しかし幸福に顔を輝かせているつぐみを家の前で降ろすと、芽衣子は運転手に、いま来た道を後戻りするよう伝え、あるビルの前で降りる。オフィスに入ると、青年が一人残って働いている。青年と芽衣子は、旧知の仲らしい。しばらく言葉を交わしたのち、なぜか芽衣子はいま聞いたばかりのつぐみの体験を語り始める。その男は、つぐみの元恋人の和明(中島歩)だった―。

扉は開けたままで
「偶然と想像」第2話).jpg 大学生の佐々木(甲斐翔真)は、フランス文学教授の瀬川(渋川清彦)を深く憎んでいた。瀬川の授業で単位が足りず、佐々木は必死になって瀬川の前で土下座までしてみせたのだが、謹厳な瀬川は頑として聞き入れず、佐々木は決まっていた大手企業への就職を棒に振ってしまったのだった。佐々木は、同じ大学に通っている奈緒と(森郁月)いう人妻との情事に溺れるようになったが、奈緒と抱き合っているとき、あの瀬川が書いた小説で芥川賞を受賞したというTVニュースを目にする。佐々木は瀬川へ復讐するため、奈緒を使って瀬川にハニートラップを仕掛けることを企てる。瀬川の研究室を訪ねた奈緒は、自分は瀬川の大ファンなのだと告げ、今回の受賞作を朗読させてほしいと申し出る。あくまで冷ややかに応じる瀬川だったが、その小説には過激なセックスシーンが含まれており、朗読がその場面にさしかかって淫猥な言葉を奈緒が淡々と読み上げ始めると―。

もう一度
「偶然と想像」第3話).jpg 2019年、未知の強力なコンピュータ・ウィルスが大発生し、インターネットは遮断され、世界は郵便と電話をつかった古いシステムへ逆戻りしていた。女子校の同窓会に参加するため故郷の仙台市にやってきた夏子(占部房子)は、20年ぶりに会った顔ぶれとは全く話が噛み合わず、若干の落胆を覚えつつ東京へ戻ろうとして、仙台駅のエスカレーターで同世代の女(河井青葉)とすれちがう。夏子が驚いて駆け寄ると、女も思わぬ再会に驚いている。夏子が同窓会のために仙台に来たのだというと、女は招待状を受け取っていないという。あの社会の大混乱が原因かもしれない。女は、どこかでゆっくり話そうと近くの自宅へ夏子を招く。自宅に着いて、二人は高校時代の思い出を少しずつ語り始める。しかし細かなところで話は噛み合わず、話を続けるうちにその齟齬はどんどん大きくなってくる―。

「偶然と想像」b.jpg 濱口竜介監督の2021年に公開された3つの短編からなるオムニバス映画で、2021年(3月)、第71回「ベルリン国際映画祭」に出品され、最高賞に次ぐ銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した作品(「ロカルノ国際映画祭」で濱口竜介監督の「ハッピーアワー」を推したイタリア人ディレクターのカルロ・シャトリアンが、2020年からは「ベルリン国際映画祭」のディレクターを務めていたという巡り合わせもあった)。前作「寝ても覚めても」('18年)の後、濱口監督のはいくつかの作品製作を進めていたものの、コロナ禍によるスケジュールの混乱で、本作「偶然と想像」は長編「ドライブ・マイ・カー」('21年8月公開)と並行して撮影されたとのことです。

「偶然と想像」第1話0).jpg 第1話「魔法(よりもっと不確か)」は、「偶然と想像」というタイトルに最も沿っていたように思います。親友の"おのろけ"に近い打ち明け話に出てくる男が実は自分の元カレだったという偶然。そこからの主人公・芽衣子の行動がちょっとエグくて、最後、「ああ、とうとうやっちゃったなあ」と思って観ていたら―。タクシーの中でのろけ話を話すつぐみとそれを聴く芽衣子のやり取りの演出が巧みで、本当にプライベートな会話のようであり、この作品の中で最も"濱口調"が冴えている箇所かも。このリアティが後の展開に効いているのだと思いました。

「偶然と想像」第2話0).jpg 第2話「扉は開けたままで」は、瀬川と瀬川を色仕掛けで陥れようとする奈緒のやり取りが、緊迫感の中にもちょっとユーモラスなところもあって良かったです。性に奔放だった奈緒と(彼女が佐々木のハニートラップの企てに乗ったのも、佐々木のためと言うよりそのあたりに動機があるのでは)、後日譚に現れる彼女のやつれた感じのギャップが良く出ていたなあ。メールの誤送信がすべてを変えてしまったということでしょう。あの時、ヤマトだか佐川だかの宅急便が来なければ...。

「偶然と想像」第3話0).jpg.png 第3話「もう一度」は、夏子が出会って家まで行って羊羹まで呼ばれた女性はあやという名で、夏子が思っていた相手とは別人だったという、互いに20年前の級友に出会ったと思ったら、互いに勘違いしていたという話。でも、そこからの展開がなかなか楽しかったです。演技性を排した演出をする濱口監督作ですが、その中で、夏子とあやは、互いに相手が思っていた人物を演じようとするという、濱口マジックの"上級編"という印象を受けました。第2話がちょっとやるせない結末だっただけに、第3話でほんわかした感じにしたのでしょうか。こうなると、並べ方も重要になってきます。コンピュータ・ウィルス云々の話は要らなかったのでは。

「偶然と想像」6に.jpg 3話ともそれぞれに違った味があって、話としても面白かったです。主に、フツーに生きている人に起こりうることを映画にしているわけで、この映画に着眼した「ベルリン国際映画祭」の審査員のセンスもいい。濱口監督は昨年['21年]銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞したばかりですが、今年['21年]2月開催の第72回「ベルリン国際映画祭」のコンペティション部門の国際審査員団の一人に抜擢されています。

「偶然と想像」●英題:WHEEL OF FORTUNE AND FANTASY●制作年:2021年●監督・脚本:濱口竜介●製作:高田聡●撮影:飯岡幸子●音楽:阿部海太郎●●時間:121分●出演:(第1話)「魔法(よりもっと不確か)」古川琴音/中島歩/つぐみ/(第2話)「扉は開けたままで」渋川清彦/森郁月/甲斐翔真 /(第3話)「もう一度」占部房子/河井青葉●公開:(ドイツ)2021/03/(日本)2021/12●配給:Incline●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(22-03-27)(評価:★★★★)
  
  
Bunkamura ル・シネマ1.jpgBunkamura ル・シネマ内.jpgBunkamura ル・シネマ2.jpgBunkamura ル・シネマ1・2 1989年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン  
  
    

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良かった。従来の日本映画の〈非リアリティ〉の壁を打ち破ったという感じ。

「ハッピーアワー」01.jpg 「ハッピーアワー」03.jpg 「ハッピーアワー」02.jpg
Happy Hour [DVD] [Import]」田中幸恵/菊池葉月/三原麻衣子/川村りら
「ハッピーアワー」ws.jpg「ハッピーアワー」1.jpg 兵庫県神戸市で暮らす看護師のあかり(田中幸恵)、専業主婦の桜子(菊池葉月)、学芸員の芙美(三原麻衣子)、科学者の妻の純(川村りら)は、お互いに仲が良く、行動を共にすることが多い。彼女たちは、鵜飼(柴田修兵)が開催したワ「ハッピーアワー」3.jpgークショップに参加する。打ち上げの席上、純が離婚調停を進めていると知ったあかりは、なぜ今まで話してくれなかったのかと怒り、その場を立ち去る。その夜、駅のプラットフォームで倒れた純を桜子は自宅に泊め「ハッピーアワー」2.jpgる。あかり、桜子、芙美、純は温泉へ出かける。あかりと純のあいだにあったわだかまりは消えて、彼女たちは旅行を満喫するが、芙美は、夫で編集者の拓也(三浦博之)と小説家のこずえ(椎橋怜奈)が連れ立って歩いている場面を目撃してしまう。翌日、純は1人だけバスで帰途につく。後日、あかり、桜子、芙美は、純の夫の公平(謝花喜天)からの連絡を受けて、カフェを訪れる。純の行方が分からなくなっているのだという。離婚を望んでいた純が裁判に敗れたこと、そして、純が公平との子を妊娠しているらしいことも、公平の口から語られる。桜子は、中学生の息子が恋人の女性を妊娠させてしまったと知らされ「ハッピーアワー」f.jpgる。夫の良彦(申芳夫)と話し合ったのち、良彦の母のミツ(福永祥子)と共に女性の家を訪ねた桜子は、女性の両親に土下座する。その帰り道、桜子は、自分と良彦の仲を取り持ってくれたのが純であった、と息子に話す。桜子の息子が、フェリー乗り場で恋人の女性を待っていたところ、偶然にも純と出会う。純は、感謝の言葉を告げる桜子の息子に見送られながら、フェリーに乗り込む。純を乗せたフェリーが、神戸の街から遠ざかって行く。こずえ「ハッピーアワー」13.jpgの小説の朗読会が開催される。トークセッションに登場する予定だった鵜飼が途中で退席するが、純を探して朗読会に来ていた公平がその役割を引き継いで、朗読会は無事に終わる。打ち上げでは、公平、桜子、芙美、拓也、こずえのあいだで口論が起こる。その場にいた者たちが次々と席を外し、こずえと拓也が残される。帰りの車中でこずえは拓也に好意を伝える。その言葉に拓也は戸惑うが、こずえとそのまま一晩を明かす。芙美とともに最終電車に乗った桜子は、夫とは久しく性的な関係を持っていないと芙美に告げる。やがて電車が駅に着き、桜子と芙美は電車を降りるが、ワークショップの参加者だった風間(坂庄基)の姿を車内に見つけた桜子は、再び電車に乗る。転倒により足を怪我しているあかりは、松葉杖をつきながら、鵜飼の妹の日向子(出村弘美)が働くバーに行き、鵜飼と打ち解ける。翌朝、芙美は拓也に離婚の意思を伝える。芙美の言葉を聞いた拓也は動揺するが、出社の時間が迫っていたため、家を出て車に乗り込む。同じ頃、桜子は良彦に、風間と性的な関係を持ったことを伝える。その後、職場へ向かった良彦は、交差点で泣き崩れる。一方、病院に出勤したあかりは、いつも失敗を叱っていた後輩の柚月(渋谷采郁)から、泣きながら感謝の言葉を告げられる。あかりは柚月をそっと抱擁する。交通事故にあった拓也は、あかりが勤める病院に運びこまれる。あかりは、廊下にいた芙美を誘って、病院の屋上に上がる。芙美は拓也のそばにいるつもりだという。また4人で旅行へ行こう、と語るあかりの目の前には、神戸の街と海と空が広がっているのであった―。(Wikipediaより)

「ハッピーアワー ロカルノ.jpg 2015年公開の濱口竜介監督作で、主演を務めた田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りらの4人は、第68回「ロカルノ国際映画祭」で「最優秀女優賞」を受賞しています(予備選考の段階でコンペ部門に正式には入っていなかったこの作品が最終的には賞を受賞し、同監督の「偶然と想像」('21年)の「ベルリン国際映画祭・銀熊賞」の受賞、「ドライブ・マイ・カー」('21年)の「カンヌ国際映画祭・脚本賞」、「米アカデミー・国際長編映画賞」の受賞へと繋がっていった経緯が、アカデミー賞受賞を伝える朝日新聞に出ていて[下]、興味深く読んだ)。本作の製作は、2013年9月から5か月間、KIITOにて開催された「即興演技ワークショップ in Kobe」がきっかけとなっていて、ワークショップの参加に応募した希望者の中から、17名が選考されたたそうですが、参加者の約3分の2とのことですは、それまでに演技した経験が無かったとのことです。

 2014年5月に第3稿の脚本で撮影が開始され、その後、脚本の方は、演技の感触や撮影の状況により、撮影を重ねる中で微調整を加えていって第7稿まで手直しされたそうですが、2015年2月に5時間36分の編集ラッシュ版を上映したのち、3時間20分版や3時間50分版なども製作されたものの、5時間36分版の方が面白いということでスタッフの意見が一致し、これの一部を切り詰めて、5時間17分の上映時間となったとのことです。

「ハッピーアワー」sa.jpg 脚本の改稿を重ねる中で、出演者と面談し、彼女たちが脚本に感じる違和感は修正されていったとのこと(第3稿)。さらに、「語りたいドラマを語ること」と「『演者が口にできないだろう』と思わないセリフを書いていくこと」という2点の課題に取り組むこととなった(第6稿)とのことで、とりわけ後者は、ドキュメンタリーを思わせるようなタッチとなって効いているように思いました。大袈裟に言えば、従来の日本映画の〈非リアリティ〉の壁を打ち破ったという感じでしょうか。個人的には、今までに観た日本映画で最もインパクトが大きかった今村昌平監督の「人間蒸発」('67年)以来の衝撃でした(「人間蒸発」の場合はドキュメンタリーに潜む演技性を露わにしたものだったが)。

「ハッピーアワー」b.jpg 当初は、家庭という守るものを持っている3人の中年男性が、急死した親友の葬儀後、家族や仕事を放り出し、人生を見つめなおす放浪を繰り返すという、ジョン・カサヴェテス監督の「ハズバンズ」('70年/米)という映画における「4人組がひとりを失い、他の3人が精神的な彷徨いを体験する」構造を使おうとしたそうで、(実際その構図は活かされている)、「ハズバンズ」の女性版で、かつ「かつての花嫁たち」という皮肉が込めて(実際4人ともかつて結婚していたか、今も結婚しているが夫婦の危機にあるという設定)「BRIDES」という仮題がつけられていたそうですが、濱口監督が偶々「HAPPY HOUR」とい「ハッピーアワー」cf.jpgう看板を見つけて、「ファニーな響きが、映画が進行するに従って皮肉な働きをする」「ラストをアンハッピーエンドと思わせない力をタイトルが持ち得るんじゃないか」と感じて、これを題名に選んだとのことです(製作段階において資金が底を尽きそうになったため、濱口竜介監督自らネットでクラウドファンディングを呼びかけたが、この時はまだ「BRIDES」という仮題のままだった)。

ネット動画でクラウドファンディングを呼びかける濱口竜介監督

「ハッピーアワー」k.jpeg 確かに、最初は4人ともフツーに日常を過ごしているアラフォーの女性たちに見えたのに、ワークショップの打ち上げの席上で純が離婚調停を進めていると告白したあたりから、それぞれが抱える容易ならぬ問題が浮き彫りになってきて、終盤になればなるほど何れもカタストロフィー(破局)に向かっていうように見えるけれども、アンハッピーエンドかというと、そんな印象も受けない不思議な作りになっているように思いました。

「ハッピーアワー」k.jpg 個人的には実家である神戸が舞台なので親近感がありましたが、今までにないニュータイプの日本映画を観たというか(リアリズムに立脚していることがニュータイプであるならば、今までの日本映画はなんだったのかというのはあるが)、ともかく、5時間17分を飽きさせないで見せる傑作であると思います。

「ハッピーアワー」●制作年:2015年●監督:濱口竜介●製作:高田聡/岡本英之/野原位●脚本:濱口竜介/野原位/高橋知由●撮影:北川喜雄●音楽:阿部海太郎●●時間:317分●出演:田中幸恵/菊池葉月/三原麻衣子/川村りら/申芳夫/三浦博之/謝花喜天/柴田修兵/出村弘美/坂庄基/久貝亜美/田辺泰信/渋谷采郁/福永祥子/伊藤勇一郎/殿井歩/椎橋怜奈●公開:2015/12●配給:神戸ワークショップシネマプロジェクト●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ1(22-03-22)(評価:★★★★★
Bunkamura ル・シネマ1.jpgBunkamura ル・シネマ内.jpgBunkamura ル・シネマ2.jpgBunkamura ル・シネマ1・2 1989年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン

 
 
  

[左端]濱口竜介監督(出演)
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「ハッピーアワー」0102.jpg.png.jpg「ハッピーアワー」0102.jpg.png.jpg

「朝日新聞」2022年3月28日夕刊

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「●「カンヌ国際映画祭 脚本賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「フランス映画批評家協会賞(外国語映画賞)」受賞作」の インデックッスへ 「●「ロンドン映画批評家協会賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「●「全米映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「アカデミー国際長編映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」」受賞作」の インデックッスへ「●「芸術選奨(監督)」受賞作」の インデックッスへ(濱口竜介) 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●む 村上 春樹」の インデックッスへ

良かった。村上春樹作品がモチーフだが、もう一つの原作は「ワーニャ叔父さん」か。

「ドライブ・マイ・カー」2021.jpg「ドライブ・マイ・カー」01.jpg 「ドライブ・マイ・カー」02.jpg
「ドライブ・マイ・カー」西島秀俊/三浦透子
「ドライブ・マイ・カー」12.jpg 舞台俳優で演出家の家福(西島秀俊)は、妻・音(霧島れいか)と穏やかに暮らしていた。そんなある日、思いつめた様子の妻がくも膜下出血で倒れ、帰らぬ人となる。2年後、演劇祭に参加するため広島に向かっていた彼は、寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会い、これまで目を向けることのなかったことに気づかされていく―。

 2021年公開の濱口竜介監督の商業映画3作目となる作品で、妻を若くして亡くした舞台演出家を主人公に、彼が演出する多言語演劇の様子や、そこに出演する俳優たち、彼の車を運転するドライバーの女性との関わりが描かれています。

『ドライブ・マイ・カー』文庫.jpg「ドライブ・マイ・カー」22.jpg 村上春樹の短編集『女のいない男たち』('14年/文藝春秋)所収の同名小説「ドライブ・マイ・カー」より主要な登場人物の名前と基本設定を踏襲していますが、家福の妻・音が語るヤツメウナギや女子高生の話は同短編集所収の「シェエラザード」から、家福が家に戻ったら妻・音が見知らぬ男と情事にふけっていたという設定は、同じく「木野」から引いています(家福の妻・音はクモ膜下出血で急死するのではなく、原作では、物語の冒頭ですでにガンで亡くなっている設定となっている)。

「ドライブ・マイ・カー」ws2021.jpg 映画は、原作では具体的内容が書かれていないワークショップ演劇に関する描写が多く、そこで演じられるアントン・チェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」の台詞を織り交ぜた新しい物語として構成されていて、村上春樹作品がモチーフではあるけれど、もう一つの原作は「ワーニャ叔父さん」であると言っていいくらいかもしれません。

「ドライブ・マイ・カー」32.jpg テーマ的にも、喪失感を抱きながらも人は生きていかねばならないという意味で、「ワーニャ叔父さん」に重なるものがあります。原作は短編であるためか、家福が、妻・音の内面を知り得なかったことに対して、みさきが「女の人にはそういうところがあるのです」と解題的な(示唆的な)言葉を投げかけて終わりますが、映画ではこのセリフはなく、より突っ込んだ家福の心の探究の旅が続きます。

 それは、演劇祭での上演直前にしての主役の高槻の事件による降板から、上演中止か家福自身が主役を演じるか迫られたのを機に、どこか落ち着いて考えられるところを走らせようと提案するみさきに、家福が君の育った場所を見せてほしいと伝えたことから始まり、二人は広島から北海道へ長距離ドライブをすることに。このあたりはまったく原作にはない映画のオリジナルです。

「ドライブ・マイ・カー」6jpg.png 北海道へ向かう車中で、家福とみさきは、これまでお互いに語らなかった互いの秘密を明かしますが、何だか実はみさきの方が家福より大きな秘密を追っていたような気がしました。それを淡々と語るだけに、重かったです。母親の中にいた8歳の別人格って、「解離性同一性障害」(かつては「多重人格性障害」と呼ばれた)だったということか...。

 喪失感を抱えながらも生きていかねばならないという(それがテーマであるならば、村上春樹からもそれほど離れていないと言えるかも)、ちゃんと「起承転結」がある作りになっていて、商業映画としてのカタルシス効果を醸しているのも悪くないです(この点は村上春樹が短編ではとらな「ドライブ・マイ・カー」7.jpgいアプローチか)。言わば、ブレークスルー映画として分かりやすく、ラストのみさきが韓国で赤いSAABに乗って買い物にきているシーンなどは、彼女もブレークスルーしたのだなと思わせる一方で、映画を観終わった後、「あれはどういうこと?」と考えさせる謎解き的な余韻も残していて巧みです。

 演出が素晴らしいと思いました。もちろん脚本も。絶対に現実には話さないようなセリフを使わないということで、脚本を何度も書き直したそうですが、「演技」させない演技というのも効いていたように思います。演劇ワークショップ(原作にはワークショップの場面は無い)での家福の素人出演者に対する注文に、濱口監督の演出の秘密を探るヒントがあったようにも思いますが、濱口監督自身、これまで素人の出演者に対してやってきた巷で"濱口メソッド"といわれるやり方が、プロの俳優でも使えることを知ったと語っています。韓国人夫婦の存在も良くて、原作の膨らませ方に"余計な付け足し"感が無かったです。「手話」を多言語の1つと位置付けているのも新鮮でした。

「ドライブマイカー」カンヌ・アカデミー.jpg 第74回「カンヌ国際映画祭」で脚本賞などを受賞、第87回「ニューヨーク映画批評家協会賞」では日本映画として初めて作品賞を受賞、「全米映画批評家協会賞」「ロサンゼルス映画批評家協会賞」でも作品賞を受賞(これら3つ全てで作品賞を受賞した映画ととしては「グッドフェローズ」「L.A.コンフィデンシャル」「シンドラーのリスト」「ソーシャル・ネットワーク」「ハート・ロッカー」に次ぐ6作品目で、外国語映画では史上初。「全米映画批評家協会賞」は主演男優賞(西島秀俊)・監督賞・脚本賞も受賞、「ロサンゼルス映画批評家協会賞」は脚本賞も受賞)、第79回「ゴールデングローブ賞」では非英語映画賞(旧外国語映画賞)を日本作品としては市川崑監督の「」(1959)以来62年ぶりの受賞、第94回「アカデミー賞」では、日本映画で初となる作品賞にノミネートされたほか、監督賞(濱口)・脚色賞(濱口、大江)・国際長編映画賞の4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞しています(国内でも「キネマ旬報ベスト・テン」第1位で、「毎日映画コンクール 日本映画大賞」や「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」、「芸術選奨」(濱口)を受賞)。

まさに、一気に映画界のホープとなった感がありますが、この1作をだけでも相応の実力が窺える作品でした。原作者の村上春樹にとっては、やっと自分の作品を映画化するに相応しい監督に巡り合ったという感じではないでしょうか。
「ドライブ・マイ・カー」朝日.jpg 
「朝日新聞」2022年3月28日夕刊

「ドライブ・マイ・カー」パンフレット.jpg「ドライブ・マイ・カー」●英題:DRIVE MY CAR●制作年:2021年●監督:濱口竜介●製作:山本晃久●脚本:濱口竜介/大江崇允●撮影:四宮秀俊●音楽:石橋英子●原作:村上春樹●時間:179分●出演:西島秀俊/三浦透子/霧島れいか/岡田将生/パク・ユリム/ジン・デヨン/ソニア・ユアン(袁子芸)/ペリー・ディゾン/アン・フィテ/安部聡子●公開:2021/08●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン7)(22-03-17)(評価:★★★★☆)

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観ていて〈しんどい〉感じがした。議論が〈空疎〉で〈内向き〉であることが浮き彫りに。

「日本の夜と霧」ポスター.jpg『日本の夜と霧』.jpg 「日本の夜と霧」1960-0.jpg
あの頃映画 日本の夜と霧 [DVD]」芥川比呂志/渡辺文雄/桑野みゆき
日本の夜と霧」ポスター
「日本の夜と霧」6.jpg 60年安保闘争で6月の国会前行動中に知り合った新聞記者の野沢晴明(渡辺文雄)と、女子学生の原田玲子(桑野みゆき)の結婚式が行なわれていた。野沢はデモで負傷した玲子と北見(味岡享)を介抱する後輩の太田(津川雅彦)に出会い、2人は結「日本の夜と霧」津川.jpgばれたのであった。北見は18日夜、国会に向ったまま消息を絶つ。招待客は、それぞれの学生時代の友人らで、司会は同志だった中山(吉沢京夫)と妻の美佐子(小山明子)。その最中、玲子の元同志で逮捕「日本の夜と霧」小山1.jpg状が出ている太田が乱入し、国会前に向かっ「日本の夜と霧」佐藤戸浦.jpgたまま消息を絶った北見の事を語り始める。一方で、野沢の旧友だった宅見(速水一郎)も乱入してきて、自ら命を絶った高尾(左近允宏)の死の真相を語り始める。これらを契機に、約10年前の破防法反対闘争前後の学生運動を語り始め、玲子の友人らも同様に安保闘争を語り始める。野沢と中山は暴力革命に疑問を持つ東浦(戸浦六宏)と坂巻(佐藤慶)を「日和見」と決めつけていたが、武装闘争を全面的に見直した日本共産党との関係や「歌と踊り」による運動を展開した中山、「これが革命か」と問う東浦や「はねあがり」など批判し合う運動の総括にも話が及び、会場は討論の場となる―。

 1960年10月公開の大島渚監督作で、大島渚監督は同年に「青春残酷物語」(6月公開)、「太陽の墓場」(8月公開)という、後にこれも代表作と評価される2作を撮っているわけで、この時期は凄く精力的だったと思います。

 この映画は異例のスピードで制作された背景には、松竹が制作を中止することを大島渚監督が恐れていたためで、実際、公開からわずか4日後、松竹が大島に無断で上映を打ち切ったため、大島渚監督は猛抗議し、翌1961年に松竹を退社しています。

 実際に撮影中にも松竹社長から異議が出ていたといい、撮影を短くすませるために、カット割りのない長回しの手法を多用し、俳優が少々セリフを間違えても中断せずに撮影を続けていて、それによって独特の緊張感が生まれています。

 上映中止は、「過激な」政治をテーマにしたメジャー映画(商業映画)というものの成立の難しさを示しているように思いますが、今の若い人がこの映画を観たらどう思うのかなあ。「青春残酷物語」や「太陽の墓場」のように、安保闘争時の時代の雰囲気を、恋人同士やドヤ街の人々に落とし込んだものの方が、「安保闘争」のことは分からなくとも、雰囲気は伝わりやすい気がします。

 この作品は劇場で観るのは今回が初めてですが、ストレートに安保闘争を巡る議論になっていて、個人的にも〈しんどい〉感じがしました。それは、1つは、彼らの語る言葉が非常に〈空疎〉に聞こえることで、多分、大島渚はその〈空疎〉を計算して描いているのではないかと思いました。

 もう1つは、議論が〈内向き〉であること。「誰があの時どうだったか」という、仲間の過去の言動のあげつらい合戦になっていて、これが、「革命運動」とやらがこれを以って終焉を迎えたという「連合赤軍事件」における「総括」と称する内部粛清に引き継がれていったとのではないかと思うとぞっとします。

 これって、さらには「オウム真理教」で繰り返された「構成員リンチ殺人事件」にもつながるように思います。脱会しようとした信徒を教祖・麻原の指示で殺害したわけですが、そう言えば、「太陽の墓場」でも愚連隊「信栄会」を抜けようとしたヤス(川津祐介)が会長の信(津川雅彦)に殺されるわけで、大島渚という人は、これらの日本的組織に通底するものを見抜いていたのではないかと思いました。

 力が〈内向き〉に働くというのは、日本の会社組織における権力争いなどもそうで、外国企業であれば別会社に自分を売り込んでさっさと転職してしまうけれども、日本企業の場合、会社に留まってキャリアの長い期間と大きな労力を内部の権力争いに費やすことが多いように思います。

 何だか、登場人物の議論に入っていけない分、そういうことを考えてしまいました。議論が〈空疎〉で〈内向き〉であることが浮き彫りにされるのも大島渚監督の計算の内だとは思いますが、映画としては前2作の方が自分との相性は良かったように思います。

「日本の夜と霧」小山2.jpg「日本の夜と霧」●制作年:1960年●監督:大島渚●製作:池田富雄●脚本:大島渚/石堂淑朗●撮影:川又昂●音楽:真鍋理一郎●時間:107分●出演:渡辺文雄/桑野みゆき/津川雅彦/味岡享/左近允宏/速水一郎/戸浦六宏/佐藤慶/芥川比呂志/氏家慎子/吉沢京夫/小山明子/山川治/上西信子/二瓶鮫一/寺島幹夫/永井一郎●公開:1960/10●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(22-03-20)(評価:★★★)

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この頃の大島渚のパワーはスゴイ。 主演は川津祐介でも佐々木功でもなく、炎加世子だった。

『太陽の墓場』.jpg 「太陽の墓場」1.jpg 「太陽の墓場」3.jpg
あの頃映画 太陽の墓場 [DVD]」津川雅彦/川津祐介/炎加世子/佐々木功

「太陽の墓場」p.jpg「太陽の墓場」10.jpg 大阪の小工場街の一角にバラックの立ち並ぶドヤ街の建物の中で、若い男ヤス(川津祐介)に見張らせて、元陸軍衛生兵の村田(浜村純)が大勢の日雇作業員から採血し、花子(炎加世子)がそれを手伝い、ポン太(吉野憲司)が三百円払う。動乱屋(小沢栄太郎)は国難説をぶって一同を煙にまき、花子の家に往みつくことに。ヤスとポン太は新興の愚連隊「信栄会」の会員で、この種の小遣い稼ぎは会長の信(津川雅彦)から禁じられている。二人の立場を見抜いた花子は、支払いを値切る。一帯を縄張りとする大浜組を恐れる信は、組の殴り込みを恐れてドヤを次々に替えた。二人は武(佐々木功)と辰夫(中原功二)という二少年を信栄会に入れる。仕事は女の客引き。ドヤ街の一角には、花子の父・寄せ松(伴淳三郎)、バタ助(藤原釜足)・ちか(北林谷栄)夫婦、ちかと関係のある朝鮮人・寄せ平(渡辺文雄)、ヤリ(永井一郎)とケイマ(糸久)ら「太陽の墓場」3n.jpgが住む。一同は旧日本陸軍の手榴弾を持った動乱屋を畏敬の目で迎える。武は信栄会を脱走して見つかるが、花子の力でリンチを免れる。信の命令で仕事に出た武、辰夫、花子は公園でアベックを襲う。花子が見張り、物を盗り、辰夫が女を犯した。花子は動乱屋と組んで血の売買を始めたが利益分配で揉め、信栄会と組む。信の乾分の手で村田は街から追い出される。動乱屋のもう一つの仕事は、色眼鏡の男(小池朝雄)に戸籍を売る男を世話することで、その戸籍は外国人に売られるのだった。その金で武器を買い、旧軍人の秘密組織を作るのだと豪語する。花子は医師の坂口(佐藤慶)を誘惑し、採血仲間に加える。やがて信栄会は分裂し、信と花子は喧嘩別れに。仲間のパンパンを連れて大浜組に身売りしようとしたヤスは信に殺される。アベックの男も自殺し、これらを見た武は嫌気がさすが、その武に花子は惹かれる。村田を拾い上げた花子は、動乱屋と組んで再び血の売買を始める。バタ助は動乱屋に戸籍を売ると、その金で大盤ふるまいをして首を吊る。人のいい大男(羅生門)の戸籍を買った動乱屋は、男を北海道に追いやる。花子は武の口からそれとなく信栄会のドヤを聞く。二人が「太陽の墓場」17.jpg公園まで来ると、恋人に死なれたアベックの女(富永ユキ)が武に飛びかかり、花子が突き放すと女は崖から転落する。安ホテルの一室で二人は激しく抱き合う。信栄会を辞める決心した武は辰夫に相談、反対する辰夫はナイフを抜くが、格闘の末倒れたのは辰夫だった。花子は大浜組に信栄会のドヤを教え、信栄会は殴り込みを受け、信以外は全員殺される。武と逃げる信は、ドヤの場所が武の口から花子に知れたことを悟り、武を銃で撃つ。撃たれた武は信にしがみつき、離れない二人の上を列車が通過する。呆然とする花子に動乱屋のヤジが聞こえた。ソ連が攻めて来て、世の中が変ったところで、このドヤ街に何の変化が来よう!花子もヤジる。騒然とした中で動乱屋の手榴弾が爆発し、バラックは吹っ飛ぶ。その中を、採血針を持った村田が花子の後を気ぜわしげに駈け廻っていた―。

「太陽の墓場」えp.jpg「太陽の墓場」さつえい.jpg 1960年に公開された、大島渚(1932-2013/80歳没)が、彼自身と助監督の石堂淑朗との共同オリジナル・シナリオを監督した作品で、大阪のドヤ街を舞台にしていますが、「青春残酷物語」('60年)を撮り終えた後、こちらの方は非常に短い期間で撮り切ったようです。この年にさらに「日本の夜と霧」('60年)も撮っているわけで、'60年代の大島渚監督作は16作に及び、例えば1967年にも「忍者武芸帳」「日本春歌考」「無理心中 日本の夏」の3作を撮っていたりします(精力的!)

「太陽の墓場」9.jpg ストーリーを長々書きましたが、群像劇なので、ストーリーの細部や順番はあまり重要ではないのかもしれません。大阪が舞台であるのに、出演者の大阪弁がヘタクソとの声もありますが、それさえもあまり重要ではないことかも。とにかく、登場人物たちの熱気を感じます。

 当時あまり売れていなかった役者を拾い上げたのも良かったのかもしれません。松竹への移籍後、ヒット作に恵まれていなかった津川雅彦も然り、出演2作目の新「太陽の墓場」2.jpg人で、本作の成功で松竹専属となった佐々木功(後のさ「太陽の墓場」19.jpgさきいさお)も然り、劇団員だったところを大島に起用されて映画に転じた戸浦六宏も然り、いずれもこの映画が転機となった俳優です。一方で、「青春残酷物語」から引き続いての起用の川津祐介、渡辺文雄、佐藤慶、浜村純などもいて、上手く組み合わせて化学反応を起こさせている感じです。

「太陽の墓場」炎.jpg「太陽の墓場」佐々木.jpg 主人公は最初に登場する川津祐介が演じるヤスかと思いましたが、これがあっさり殺されてしまい、そっか、佐々木功が演じる武が主人公だったのかと思ったら、彼も最後、信と一緒に轢死してしまい、最後に残ったのは炎加世子「太陽の墓場」炎2.jpg「太陽の墓場」炎3.jpgが演じる花子でした。思えば、最初にクレジットされているのは炎加世子だったし、この群像劇の中で最も強烈な印象を残したのも彼女でした。

 DVDの口上では、「60年安保闘争で揺れる世相の中、釜ヶ崎という小さな地域を日本全体の縮図とみたてて、縦社会である暴力団の非人間性を暴きたてた作品」とありますが、そこまで言い切「太陽の墓場」4 m.jpgらなくとも、ドヤ街に住む最底辺の人々が、飲めば、やれ革命だ、やれ戦争だと騒ぐのを見れば、60年代安保が頭に浮かびます。ただ、最近の若い人にどう伝わるかなというのはありました。

 でも、このパワーと言うか喧噪感は伝わるみたいです。今回この映画を観たのは芸術センターのシネマブルースタジオで、観客は自分以外は、東京芸大生と思われる男女3人だけでした。映画が終わった後、女子学生が拍手して、席の立ち際に「すごい映画を観てしまった」と言っていました。

田中邦衛
IMG_20220308_15561.png「太陽の墓場」田中.jpg「太陽の墓場」●制作年:1960年●監督:大島渚●製作:池田富雄●脚本:大島渚/石堂淑朗●撮影:川又昂●音楽:真鍋理一郎●時間:97分●出演:炎加世子/伴淳三郎/渡辺文雄/藤原釜足/北林谷栄/小沢栄太郎/小池朝雄/羅生門/浜村純/佐藤慶/戸浦六宏/松崎慎二郎/佐々木功/津川雅彦/中原功二/川津祐介/吉野憲司/清水元/永井一郎/糸久/宮島安芸男/田中謙三/曽呂利裕平/小松方正/茂木みふじ/山路義人/田中邦衛/富永ユキ/檜伸樹/左卜全/安田昌平●公開:1960/08●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(22-03-08)(評価:★★★★)
羅生門(綱五郎) in「太陽の墓場」(1960)/「用心棒」(1961)
「太陽の墓場」羅生門.jpg「用心棒」羅生門1.jpg

「用心棒」羅生門2.jpg
 
 
  
 
kawazu.jpg 川津祐介(1935-2022.2.26)

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最初の頃は2メール半と小さくて、ボディの光沢も影も無かった鉄人28号。

『鉄人28号』1.jpg『鉄人28号』1-3.jpg 『鉄人28号』24.jpg
鉄人28号 原作完全版 1 希望コミックス』 『鉄人28号 24 (希望コミックススペシャル)

『鉄人28号』少年.jpg『鉄人28号』終わり.jpg 横山光輝(1934-2004/69歳没)の漫画『鉄人28号』は、月刊誌「少年」の1956(昭和31)年7月号別冊付録として連載が開始され、1966(昭和41)年5月号別冊付録まで続きました。1966年「少年」での人気第1位を続けている中、作者はストーリー展開の限界を感じて漫画の連載を終了していますが、その後繰り返しリメイクが行われ、派生作品が制作されたりしています。

アニメ 鉄人28号2.jpg テレビアニメ版の方は漫画連載が始まって8年目、1963(昭和38)年10月20日から 1966(昭和41)年5月25日までフジテレビ系列で放送され、全84話でした。ただし、一旦終了した後、3か月後に新作13話が放送され、それ等を加えると全97話となります。ただし、こちらも、漫画の連載終了と同じ頃に放送終了していることになります。

『鉄人28号』1-24.jpg 漫画版は、2005年11月より「巨匠・横山光輝『鉄人28号』執筆50周年記念」プロジェクトとして潮出版社と光プロダクションの共同企画の元、コミックス未収録の読み切り8本を加えたこの「原作完全版」の毎月の刊行が始まり、2007年9月に全24巻で完結しています(横山光輝の元アシスタントとコンピュータによる最新技術で痛んでいた原画を復元したとのこと)。

鉄人28号 カッパ・コミックス1.jpg鉄人28号 1 (サンデー・コミックス).jpg 今読み直してみて興味深いのは「鉄人の開発計画」がどのようなものであったかで、連載版とカッパコミックス版の2種類が存在しますが、「原作完全版」はカッパコミックス版ではなく連載版を収めています。太平洋戦争時、日本軍が敷島博士を中心とした開発陣により乗鞍岳の地下の研究所で進めた軍用ロボット開発計画が発端で、1号から26号まで失敗して27号でやっと成功するもこれも実用に至らず、さらに28号の起動実験が行われるが失敗、戦争末期、ロボット研究を諦めた敷島博士らは孤島の秘密兵器工場へ特攻機の研究のため移されるが、研究所を米軍に空爆され、鉄人の真実を知る者はいなくなり、戦争は終わる―。
『鉄人28号(カッパ・コミックス)(1)』['64年]『鉄人28号 1 (サンデー・コミックス) 』['89年]

鉄人27号
『鉄人28号』誕生.jpg『鉄人28号』27.jpg ある日(現在)、敷島邸にギャング団が強盗に押し入ったところへ、鉄人26号を駆使する怪人が現れ、さらに各地でロボットによる強盗事件が相次ぎ、続いて鉄人27号(このときは鉄人28号と思われていた)も登場し、市街地で大暴れします。一方、敷島博士は実は生きていて、乗鞍岳の研究所内で鉄人28号の開発にあたっており、そこへ鉄人27号とギャング団とそれを追う警察が乱入、正太郎(職業は探偵)たちに敷島博士は開発中のロボットを指し、「本物の鉄人28号はあれなんだ」と言う。ただし、本物の鉄人28号も制御不能で、27号と闘ってやっつけた後に暴走する―。

 ということでやっと本物の28号の登場ですが、その後、正太郎がリモコンを手にするのはまたずっと先で、手にした後も、敵にリモコンを奪われたり、それを取り返したりで、このあたりは「ある時は 正義の味方 ある時は 悪魔の手先」という主題歌の通りであることはよく知られているところです。

『鉄人28号』1-2.jpg 気になるのは鉄人の大きさで、光文社文庫「鉄人28号」第11巻に収録されている作者本人の「"昔の漫画"と"今の漫画"」というエッセイでは、「身長が2メートル50センチ」と書かれてい「鉄人28号」アニメ.jpgて、そう大きくなかったようです。実際、漫画版の最初の頃はそれくらいの大きさで、それが大きな相手と戦ううちに次第に大きくなっていったようで、1963年のモノクロアニメ版では10メートルくらいにまでなったようです。さらにその後もリメイクなどに際して巨大化がなされ、2004年のリメイク版アニメでは、担当プロデューサーと監督が横山光輝氏の元を訪問し、その時18メートルに決定したそうです。

『鉄人28号』24-1.jpg 漫画の方は、本編連載終了の10年後の1976年に「月刊少年ジャンプ」に掲載された最後の読み切り作品では、正太郎と敷島博士が鉄人の手に乗って運ばれるシーンがあり、これは「原作完全版」の第24巻に収録されているほか、第24巻の表紙絵にもなっていて、これを見るとゆうに20メートル以上はありそうです(因みに、「原作完全版」の表紙絵は、第1巻からほぼこの大きさで統一されている)。この1976年版に限らず、本編でも最終話の「怪物ギャロン」(1966)の頃には初登場時より鉄人はかなり大きくなっているようにも見えます(本稿上右の「連載終了の挨拶」ではやや元のサイズに近い大きさに戻している感じもするが)。

   第24巻収録「新作鉄人28号 コンピューター殺人事件の巻」(1976)

第1巻収録「鉄人28号」(1956)/第3巻収録「一大決戦」(1957)
『鉄人28号』1-1.jpg『鉄人28号』32.jpg また、鉄人の描かれ方として、当初はボディの光沢と影を描かず、見方によってはゴム製にでも見えるようなタッチが続いていましたが、次第にメッシュ状の影などが描かれるようになり、遂にはボディの光沢と影は必須表現となり、重量感が強調されるようなタッチに変貌を遂げています(これも「原作完全版」の表紙絵は、第1巻から光沢と影のあるボディとなっている)。

 第1巻には前述のとおり鉄人28号が鉄人27号とを取っ組み合いするシーンなどがあるし、初期の鉄人は後の鉄人と顔つきや体つきが違って見えたりすることもあったりして、なかなか興味深いです。また、これは第1巻に限ったことではないですが、同じストーリの中でも鉄人の描かれるサイズがどう見ても変わっているというマニアックな発見もあります。


アニメ 鉄人28号 1.jpg「鉄人28号」アニメt.jpg「鉄人28号」●演出:庵原和夫/渡辺米彦/山本功/若林忠雄/上金史朗/瀬古常時/河内功/松木功●脚本:岡本欣三/大野満男●音楽:越部信義(主題歌:西六郷少年合唱団(一部資料ではデューク・エイセス))●原作:横山光輝●出演(声):高橋和枝/矢田稔/富田耕生/久野四郎/加茂喜久/田畑明彦/安藤敏夫/高津杏子/梅屋かおる/浦野光/安田隆/白石冬美/はせさんじ/森山周一郎/永山一夫/藤本譲/兼本新吾/富山敬/坂本新兵●放映:1963/10~1965/05(全84回)●放送局:フジテレビ

 
『鉄人28号』オリジナル版.jpg
復刊ドットコムは2016年から2017年にかけて、「鉄人28号」連載60周年を記念し、雑誌掲載時の体裁を忠実に再現した「鉄人28号《少年 オリジナル版》 復刻大全集」全7ユニットを刊行していた。そして今年['22年]4月から、新たに「鉄人28号《オリジナル版》」が刊行されることになった。これは、その「鉄人28号《少年 オリジナル版》復刻大全集」をベースにしたもので、同じ収録作品を新たな仕様で楽しめるようになっているとのこと。

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トキワ荘に集った才能豊かな面々を描くとともに、自伝になっていて、貴重な記録。

『章説 トキワ荘の青春』.jpg

章説-トキワ荘の青春2018.jpg 章説・トキワ荘・春 1981.jpg トキワ荘の青春―ぼくらの1986.jpg   トキワ荘の青春 [DVD].jpg
章説-トキワ荘の青春 (中公文庫)』['18年]/『章説・トキワ荘・春』['81年]/『トキワ荘の青春―ぼくらの漫画修行時代 (講談社文庫 い 43-1)』['86年]/「トキワ荘の青春 [DVD]
章説・トキワ荘・春』['96年]『章説 トキワ荘の春 (石ノ森章太郎生誕70年叢書シリーズ)』['08年]
章説・トキワ荘・春 1996.jpg章説 トキワ荘の春叢書シリーズ) 2008.jpg 石ノ森章太郎(1938-1998/60歳没)が、豊島区椎名町トキワ荘に集まった漫画家との熱き日々を自らの視点から描いたエッセイ。寺田ヒロオ、藤子不二雄(藤本弘・安孫子素雄)、鈴木伸一、森安直哉、つのだじろう、園山俊二、赤塚不二夫、横田徳男、長谷邦夫、水野英子らにまつわる笑いと涙の交友録です。

 '81(昭和56)年9月に刊行された『章説・トキワ荘・春』(講談社)の改題で、著者が生前に「仕掛け的には、順番をこう変えてもいいかもなぁ...」と語っていた記憶を辿り、森プロとの協議で、章立ての順序等が原本より再構成・編集されているとのことです。この間に文庫『トキワ荘の青春―ぼくらの漫画修行時代』('86年/講談社文庫)、単行本『章説・トキワ荘・春』('96年/風塵社)、単行本『章説 トキワ荘の春』('08年/清流出版・石ノ森章太郎生誕70年叢書シリーズ)が刊行されていますが、底本が同じなので内容も基本的には同じです(風塵社版の『章説・トキワ荘・春』には、プロローグにまんが版「トキワ荘物語」が加えられている)。

 トキワ荘に集った才能豊かな面々を著者の視点から描いていて、同時に著者の自伝になっています(プロローグと終わりの方に、著者と3歳違いで23歳で亡くなった姉の話が出てくるのが切ない)。しかし、著者は高校生時代から漫画雑誌に連載漫画を画いていたというから、その才能はスゴイ。最初は上京して別の所に住んでいたのが、途中からトキワ荘へ。結局、最後一人になるまでトキワ荘に残った漫画家になりました。

がんばれゴンベ1.jpg 冒頭に挙げたトキワ荘の「青春の仲間たち」では、園山俊二が、『がんばれゴンベ』を「毎日小学生新聞」でリアルタイムで読んだ自分としては懐かしいです。「新漫画党」唯一の大学卒(早稲田大学の漫画研究会出身)でしたが、トキワ荘の「半住人」だったと。結局「がんばれゴンベ」は1958年から1992年まで、通算連載回数は9775回となりましたが、肝臓癌で1993年1月20日に57歳で死去したのが惜しまれます(手塚治虫も石ノ森章太郎も60歳で亡くなっている。漫画家ってどうして長生きしないのか)。

『名画座面白館』赤塚.jpg 石ノ森章太郎の赤塚不二夫、長谷邦夫との交流は、赤塚不二夫の『赤塚不二夫の名画座面白館』('89年/講談社)でも見ることができます。

 そのほかに、手塚治虫はもちろんのこと、高井研一郎高橋留美子つげ義春といった人々も登場し、著者が「一度きりのサラリーマン生活」を経験した「東映動画」では、「天才」の異名を取ったアニメーターの月岡貞夫などとも仕事をしたのだなあ、これは知らなかった。全編を通して貴重な記録でもあると思います。

「トキワ荘の青春」p2.jpg「トキワ荘の青春」4.jpg トキワ荘について書かれた書籍は当事者によるものも含め数多くあり、また、アニメやドキュメンタリー、ドラマなどにもなっていますが、映画では、昨年['21年]四半世紀ぶりにデジタルリマスター版で公開された、市川準(1948-2008/59歳没)監督の「トキワ荘の青春」('96年)があります(「ロッテルダム国際映画祭」招待作品。1996年キネマ旬報ベストテン第7位、読者選出第7位)。

「トキワ荘の青春」11.jpg 映画は、トキワ荘におけるリーダー的存在であった寺田ヒロオが主人公であり、その寺田ヒロオを本木雅弘が演じています。コミカルな描写もありますが、自身が理想とする「子供たちに理想を教える漫画」と、雑誌編集者が要求する「商業主義漫画」との間で思い悩む寺田ヒロオの姿などが描かれていて、全体に盛り上がりを抑えた物静かなトーンの作品となっており、それが、ラストで寺田ヒロオが黙ってトキワ荘を去るという結末に繋がっていきます。

 視点としては、藤子不二雄の自伝的漫画作品『まんが道』(藤子不二雄によるシリーズとしては最長連載作品で、シリーズの連載は'13年に完結するまで43年間続いた)に近いかなという気がしますが(寺田ヒロオを頼もしくて理想的な先輩として描いている)、この映画の原案は、梶井純の『トキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道』('93年/ちくまライブラリー、'20年/ちくま文庫)です。

阿部サダヲ(藤本弘(藤子・F・不二雄))/鈴木卓爾(安孫子素雄(藤子不二雄Ⓐ))
0フジコフジオ.jpg 当時はまだ無名に近かった自主映画・小劇団関係者で、後年人気スターや映画監督となった俳優が多く起用されていて、安孫子素雄に鈴木卓爾(後に「ゲゲゲの女房」('10年)を監督)、藤本弘に阿部サダヲ(映画デビュー3年目、当時25歳)、石森章太郎にさとうこうじ(映画デビュー作)、赤塚不二夫に大森嘉之、森安直哉に古田新太(映画デビュー翌年・当時31歳)、鈴木伸一に生瀬勝久(映画デビュー作・当時35歳)などを配しています。

「トキワ荘の青春」s.jpg 結局、寺田ヒロオは後に漫画の筆を折ることになり、本書でも著者が「寺さんの"絶筆宣言"はショックだった。漫画がひどくなる。もう書きたくない」というのが理由だったとありますが、やがてトキワ荘時代のメンバーとの交流も絶ったのは謎です(本人は後に病気が原因と語ったという)。晩年は一人自宅の庭の離れに籠って、母屋に住む家族ともほとんど会話しなかったそうで、1992年9月24日に61歳で亡くなっています。

「スポーツマン金太郎」.jpg 映画では、若い新進映画化の台頭に(ただし、石森章太郎・藤子不二雄らが早くに売れっ子漫画家となったのに対し、赤塚不二夫・森安直哉らはなかなか芽が出なかった風に描かれている)、本木雅弘が演じる寺田ヒロオが徐々に時流から取り残されていっているように描写されているともとれます(断定的ではないが)。個人的には、『スポーツマン金太郎』をリアルタイムで読んだ世代ですが、その頃からこの人の漫画は、ちょっとレトロな感覚があったように思われ、やはり、作風が時代に合わなくなったことが筆を折る理由になったのではないかと思います。

「トキワ荘の青春」赤塚.jpg石森の姉:安部聡子.jpg 因みに、石森章太郎者と3歳違いで23歳で亡くなった姉は、映画にも上京した弟のことを思い遣る女性としてとして登場します(演:安部聡子)
     
映画「トキワ荘の青春」で舞台挨拶する赤塚不二夫(後ろは藤子不二雄Ⓐ氏)['96年/日刊スポーツ」
  

「トキワ荘の青春」m.jpg「トキワ荘の青春」●英題:TOKIWA:THE MANGA APARTMENT●制作年:1996年●監督:市川準●製作:塚本俊雄/里中哲夫●脚本:市「トキワ荘の青春」2.jpg川準/鈴木秀幸/森川幸治●撮影:小林達比古/田沢美夫●音楽:清水一登/れいち●原案:梶井純『トキワ荘の時代』●時間:110分●出演:本木雅弘/鈴木卓爾/阿部サダヲ/さとうこうじ/大森嘉之/古田新太/生瀬勝久/翁華栄/松梨智子/北村想/安部聡子/土屋良太/柳ユーレイ/桃井かおり/原一男/向井潤一/広「トキワ荘の青春」桃井.jpg岡由里子/内田春菊/きたろうメモリーズ・オブ・市川準.jpg神保町シアター.jpg/時任三郎●公開:1996/03●配給:カルチュア・パブリッシャーズ●最初に観た場所:神保町シアター(10-09-13)(評価:★★★☆)

桃井かおり(藤本弘(藤子・F・不二雄)の母)
トキワ荘の青春(1996年).jpg
     
  
【1981年単行本[講談社(『章説・トキワ荘・春』)]/1986年文庫化[講談社文庫(『トキワ荘の青春―ぼくらの漫画修行時代』)]/2018年再文庫化[中公文庫(『章説 トキワ荘の青春』)]】

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著者の語り下ろしインタビュー。『失踪日記』から『アル中病棟』への繋がりが分かった。

逃亡日記.jpg吾妻 ひでお 『逃亡日記』b.jpg    失踪日記 吾妻 ひでお.jpg 失踪日記2 アル中病棟.jpg 
逃亡日記 (NICHIBUN BUNKO) 』['15年] 漫画『失踪日記』['05年]『失踪日記2 アル中病棟』['13年]
インタビュー集『逃亡日記』['07年]
『逃亡日記 公園.jpg 2019年に亡くなった吾妻ひでお(1950-2019/69歳没)が、日本文芸社の「週刊漫画ゴラク」の兄弟雑誌にあたる「別冊漫画ゴラク」('14年末をもって休刊)に連載していた語り下ろしのインタビューコラムをまとめたもの('07年刊行)。語り下ろしの内容は、著者の生い立ち、漫画家になるまで、失踪時代、アル中時代、「失踪日記」が賞を獲った以降のことなどです。

 冒頭に、著者が失踪していた時にいた公園を訪ねた際のメイド・モデルとの写真などがあったりし、さらに、「失踪日記」が日本漫画家協会大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞と三冠を達成した際の授賞式での顛末を描いたマンガもあり、巻末にはまた、冒頭の写真を撮りに行った際の内幕が収録されています。

漫画家の吾妻ひでお.jpg 盛りだくさんですが、やはり中心となる語り下ろしの部分がいちばんでしょうか。第1章「失踪時代」で、漫画『失踪日記』('05年)ではかなり実際のエピソードを抜いたりしていることを明かしています。まあ、漫画には書けない(笑えない)ようなことも多くあったということです(自身の自殺未遂とか)。

 第2章「アル中時代」はむしろ「失踪時代」より(「鬱」なども絡んで)もっと強烈で、ここで語られている内容が漫画『アル中病棟―失踪日記2』('13年)になっていくのだなあと。もう、構想は出来上がっていたけれど、漫画にするまでにやはり時間を要したのでしょう。

 第3章「生い立ちとデビュー」で、父親は4回結婚していて、怒ると銃を持ち出してくるような人だったというから、結構すごい家庭に育ったのだなあと。漫画家になろうと決めて、手塚治虫ではなく石ノ森章太郎を手本にしたそうで、「手塚先生の絵は動いている」ので模倣するのが難しかったと。SF志向で(多くSF作家の名前が出てくる)、「ロリコン」の方にいったのは少し後だったようです。

 第4章「週刊誌時代」では、時間軸に沿って作品リストを挙げながら、自作についてコメントし、第5章「「不条理」の時代」まで、初期作品、『不条理日記』や『ふたりと五人』の頃(70年代終わりから90年代、00年代にかけてか)について語り、第6章「『失踪日記』その後」で『失踪日記』('05年)が賞を獲った後のことを語っています。

 先に述べたように、時系列では漫画作品『失踪日記』('05年) → インタビュー中心の本書('07年) → 漫画作品『アル中病棟』('13年)となるわけであり、『失踪日記』と『アル中病棟』の間に本書があることになります(『アル中病棟』で描かれていることはすでに体験済だが、作品として昇華されてはいないということ)。個人的には『失踪日記』→『アル中病棟』→本書の順で読んだので、『アル中病棟』の下地がどのように作られたか、作者本人が語っているのが興味深かったです(『失踪日記』から『アル中病棟』にどう繋がっていったのかが分かった)。

 また、個々の自作品の創作の経緯や出来上がったものに対するコメントは、コアなファンには貴重な情報ではないでしょうか。個人的には著者のロリコン漫画の方は読んでいないので何とも言えませんが、インタビューの中でアシモフ、クラーク、ハインライン、ブラッドベリ、シェクリィ、ブラウンなど好きなSF作家を挙げていて(これだけでない、フィリップ・K・ディックなど、あと20人くらいの作家名が出てくる)、しっかり影響を受けている印象を持ちました。

 食道癌による69歳での死は早いと言えば早いですが(まあ、手塚治虫も石ノ森章太郎も60歳で亡くなっているというのはあるが)、こうしたインタビュー記録が本として遺ったということは、編集者のお手柄ではないでしょうか(著者自身は、本書の漫画の中で編集者に「てかこれ『失踪日記』の便乗本じゃないのか」と言ってはいるが)。

【2015年文庫化[NICHIBUN BUNKO]】

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「●よ 横尾 忠則」の インデックッスへ

作家だけでなく、芸能人や政治家も登場。「私の履歴書」に出てくるような人ばかりになった印象も。
『奇縁まんだら 続の二』.jpg『奇縁まんだら 続の二』u.jpg
奇縁まんだら 続の二

『奇縁まんだら 続の二』n.jpg 著者自身が縁あって交流したことのある文学者や芸術家との間のエピソードを綴ったエッセイに、彼女と親交の深かった横尾忠則氏が、エッセイに登場する人たちの肖像画を描いて(装幀も担当)コラボした本の、全部で4集の内の第3弾。日本経済新聞の連載で言うと、2009年10月から2010年8月になります。

 登場する人物は、第1集の21人、第2集の28人に対し、41人と増えていて、内容も、第1集が作家20人と芸術家1人、第2集も作家や芸術家が中心だったのが、この第3週では芸能人や政治家、実業家などの何人か入っています。

 最初が田中角栄、次が美空ひばりと大物が続きますが、著者は田中角栄と自身が出家する前の時代に対談しているし(田中角栄は自民党幹事長時代)、美空ひばりとは2度も対談していたのだなあ。出てくるのは、連載執筆当時すでに亡くなっている人ばかりで、各冒頭にプロフィールと併せてお墓の写真があり、ああ、これって、単なる回顧録ではなく、鎮魂歌的なトーンになっているなあと新ためて思いました。

 亡くなった時に著者自身が駆けつけた人も何人かいて、吉行淳之介などもそうだったのだなあ。「まりちゃん」と暮らしていた家に行って、安らかな死顔に対面したと。吉行淳之介と宮城まり子の間のエピソードなども興味深かったです。結婚していない異性との欧州旅行するのは、著者の方が先輩で、あちらのホテルが正式な夫婦でないと一つの部屋に泊めないことに対する対応を、吉行淳之介は著者に訊いてきたとにこと。

 芸能人や俳優と言っても出てくるのは森繁久彌や藤山寛美、長谷川一夫など大物ばかりで、勝新太郎との話で、勝新が大麻を忍ばせて飛行機に乗り、空港で逮捕された事件を振り返って、著者に話した話がおかしいです。五百人乗りのジャンボ機に五百一人の乗客が乗っていて、その一人がお釈迦様で、そのお釈迦様から、「勝よ、お前にこれをやろう」と薬を授かったと。その後、著者が勝新を祇園に連れて行った時の話も、小説みたいで面白いです。

 小林秀雄や江藤淳もでてきますが、一つの講演会で、著者は江藤淳と小林秀雄の間に講演したりしていたのだなあ(昔から話上手だった)。あの司馬遼太郎さえ一緒にいると緊張したという「日本一偉大な評論家」小林秀雄の懐にすっと入っていく著者。その入っていき方が面白いです。江藤淳の自殺は、「美貌の愛妻の死に殉じた」としています。遺書では、脳梗塞で今の自分は形骸にすぎないとあり、最近では、妻の死の4年後に自殺した西部邁を想起させられました。

 いろいろな人が出てきて興味深くは読めるし、横尾忠則の装画も愉しめます。取り上げる人数が増えて、一人当たりのページ数が減っても、それほど浅くなったという印象がないのはさすが作家(でも、やっぱり少し浅くなっているか)。日経新聞連載ということのあってか、「私の履歴書」に出てくるような人ばかりになった印象も少しあります。最後の第4集はどうなるのでしょうか。

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いちばん生き残ってはいけない人物が生き残ってしまっている。

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大洞窟 (文春文庫)

 ユーゴスラヴィアのカルスト台地の地底深く、4万年前にネアンデルタール人が壁画を残した大洞窟が見つかった。世紀の大発見に、国際調査団が勇躍現地に赴くが、ときならぬ大地震で閉じこめられてしまう。漆黒の闇のなかで、土砂流、水没洞、大瀑布、毒虫などと闘いながら続ける地獄めぐり。彼らが再び陽光を見る日はあるのか―。

 1983年にカナダ人作家クリストファー・ハイドが発表した作品で、原題は"STYX(黄泉) "。もちろん巣既に絶版となっていますが、一部の冒険小説ファンの間では根強い人気があるようで、Amazonのレビューの評価も高いようです。

 光の射さない洞窟内に閉じ込められ、食料や燃料、電池といった物資がいつかは枯渇してしまうという緊張感の中、13人のメンバーは、目の前に立ちはだかる障害を、ただただ切り抜けるしかない―このシンプルな構成が読者を引き付けるのでしょう。13人の内、誰が生き残るのかという興味もあります。

 また、人種や年齢、性別や性格も多様な一行ですが、その中で光るのが、日本人の中年の地質学者・原田以蔵で、こうした冒険小説の魅力は、ただスケールの大きさや緊迫感だけでなく、登場人物(主人公)の魅力によるところが大きく、個人的にはその主人公の哲学的深みによるところが大きいと思っています(ダイバーのスピアーズも自らの"人生哲学"を独白するが、その内容は空寒い)。

 その点、この原田以蔵の人物造型はまずまず良かったです。ただ、洞窟内での専門イラストレーター・マリーアとの "ベッドシーン"(ベッドではなく寝袋だったが)は必要だっただろうか(ほとんどポルノ的描写)。あるとすれば、イケメン男ディヴィッドとその恋人イレーヌだけでよかったのでは。トーンが"通俗"冒険小説になった気がします。

 一番良くないのは、このタイプの小説のセオリーからすると、本来はいちばん生き残ってはいけない人物が生き残ってしまっているということ(他はいっぱい死んでいるのに)。これにはややガックリしました。

 「土砂流、水没洞、大瀑布、毒虫」とありますが、「毒虫」で、無数のムカデに獲りつかれて血を吸われて死ぬというのは、昔からあるパターンなんだなあ。

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メロドラマ in 阿蘇谷。高峰秀子と仲代達矢が競演。田村正和の本格デビュー作でもある。

永遠の人 1961.jpg 永遠の人 木下 01.jpg 永遠の人 木下 02.jpg
木下惠介生誕100年「永遠の人」 [DVD]」高峰秀子/仲代達矢/佐田啓二

「永遠の人」1.jpg◇第一章 昭和7年、上海事変の頃、阿蘇谷の大地主・小清水平左衛門(永田靖)の小作人・草二郎(加藤嘉)の娘・さだ子(高峰秀子)には川南隆(佐田啓二)という親兄弟も許した恋人がいた。隆と、平左衛門の息子・平兵衛(仲代達矢)は共に戦争に行っていたが、平兵衛は足に負傷、除隊となって帰郷する。平兵衛の歓迎会の数日後、平兵衛はさだ子を犯す。さだ子は川に身を投げるが、隆の兄・力造(野々村潔)に助けられる。やがて隆が凱旋、事情を知った彼は、さだ子と村を出奔しようと決心するが、当日になって幸せになってくれと置手紙を残し行方をくらます。

「永遠の人」13.jpg◇第二章 昭和19年。さだ子は平兵衛と結婚、栄一、守人、直子の三人の子をもうけていた。太平洋戦争も末期、隆も力造も応召していた。隆はすでに結婚、妻の友子(乙羽信子)は幼い息子・豊と力造の家にいたが、平兵衛の申し出で小清水家に手伝いにいくことになる。隆を忘れないさだ子に苦しめられる平兵衛と、さだ子の面影を追う隆に傷つけられた友子。ある日、平兵衛は友子に挑み、さだ子は"ケダモノ"と面罵する。騒ぎの中、長い間病床に伏していた平左衛門が死去、翌日、友子は暇をとり郷里へ帰る。

「永遠の人」tamura.jpg◇第三章 昭和24年。隆は胸を冒されて帰郷。一方、さだ子が平兵衛に犯された時に姙った栄一(田村正和)は高校生になっていたが、ある日、自分の出生の秘密を知り、阿蘇火口に投身自殺する。さだ子と平兵衛は一層憎み合うようになる。

◇第四章 昭和35年。二十歳になる直子(藤由紀子)と25歳になる隆の息子・豊(石浜朗)は愛し合っていたが家の事情で結婚できない。さだ子は二人を大阪へ逃がしてやった。これを知って怒る平兵衛。そこへ巡査(東野英治郎)がきて、東京の大学に入っている次男の守人(戸塚雅哉)が安保反対デモに参加、逮捕状が出ていると報せに来る。その後へ守人から電話。さだ子は草千里まできた守人に会い金を渡して彼の逃走を助ける。草千里へ行く途中、さだ子はまた友子と会い、息子と会いたいという友子に大阪の居場所を教える。

◇第五章 昭和36年。隆は死の床についていた。直子と豊も生れたばかりの子を連れて駆けつける。さだ子も来た。隆は死の間際に、平兵衛を苦しめていたのは自分であり、謝ってくれとさだ子に告げるた。さだ子は隆を安らかに送るため平兵衛を呼んでこようとするが―。

「永遠の人」tamura2.jpg 木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1961(昭和36)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第3位。1962年に米国の第34回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品でもあります。前年「旗本愚連隊」にて顔見せ出演した田村正和は、この作品が本格的デビューとなりました。

仲代達矢/田村正和/高峰秀子

 「ザ・メロドラマ in 阿蘇谷」という感じ。さだ子(高峰秀子)、隆(佐田啓二)、平兵衛(仲代達矢)は三角関係で、さだ子にとっての「永遠の人」は隆であり、そのためさだ子と平兵衛は憎しみ合っていて、それを演じる高峰秀子と仲代達矢が演技合戦がスゴイです(高峰秀子は'61年・第12回「芸術選奨(演技)」受賞)。

「永遠の人」12.jpg ラスト、平兵衛はさだ子の頼みを最初はきかなかったけれども、やがて頑なだった彼の心も砕けます。ただ、これで30年間も憎み、苦しんできた二人にようやく平和が訪れたという、所謂メロドラマ的筋書きなのでしようが、高峰秀子と仲代達矢のそれまでの憎しみ合う演技がスゴ過ぎて、結末がやや安易に思えてしまうほどでした。

 なぜかBGMがフラメンコギターなのですが、これが各シーンに合っていて、フラメンコ調のギターはメロドラマと相性がいいのかも。フラメンコ調のギターを活かした映画と言えば今井正監督の「小林多喜二」('74年)がありましたが、あれもなぜフラメンコギターなのかと思いながらも、しばらくすると違和感がなくなりました。個人的には、この映画で再び同じような経験をしたことになります。

「永遠の人」あそ.jpg.png「永遠の人」●制作年:1961年●監督・脚本:木下惠介●製作:月森仙之助/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●時間:107分●出演:高峰秀子/佐田啓二/仲代達矢/加藤嘉/野々村潔/永田靖/浜田寅彦/乙羽信子/田村正和/戸塚雅哉/藤由紀子/石濱朗/東野英治郎●公開:1961/09●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-20)(評価:★★★★)
「永遠の人」p.jpg.png.jpg

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脚本がよく出来ている。二つの"和解"がラストで重層的に織り込まれている。

カルメン故郷に帰る」 1951.jpg カルメン故郷に帰る 01.jpg カルメン故郷に帰る 02.jpg
木下惠介生誕100年 「カルメン故郷に帰る」 [DVD]」高峰秀子/小林トシ子(バックは浅間山)
「カルメン故郷に帰る」1.jpg 浅間山麓に牧場を営む青山正一(坂本武)の娘おきん(高峰秀子)は、東京からの便りで、友達を一人連れて近日帰郷すると言ってくる。しかも署名にはリリイ・カルメンとしてある。正一はそんな異人名前の娘は持った覚えが無いと怒鳴るので、おきんの姉のおゆき(望月美惠子)は村の小学校の先生をしている夫の一郎(磯野秋雄)に相談に行き、校長(笠智衆)に口を利いてもらって正一を宥めようと相談が纏まる。田口春雄(佐野周二)は出征して失明して以来愛用のオルガンで作曲に専心していて、妻の光子(井川邦子)が馬力を出して働いているが、運送屋の丸十(小沢栄)に借金のためにオルガンを取り上げられ、息子に手を引かれて小学校までオルガンを弾きに通っている。その丸十は、村に観光ホテルを建てる計画に夢中になり、そのため東京まで出かけて行き、おきんや朱実(小林トシ子)と一緒の汽車で帰って来た。東京でストリップ・ダンサーになっているおきんと朱実の派手な服装と突飛な行動とは村にセンセーションを巻き起こし、正一はそれを頭痛に病んで熱を出す。校長も、正一を説得したことを後悔している。村の運動会の日には、せっかくの春雄が作曲し「カルメン故郷に帰る」4.jpgた「故郷」を弾いている最中、朱実がスカートを落っこどして演奏を台無しにしてしまう。春雄は怒って演奏を中止するし、朱実は想いを寄せている小川先生(佐田啓二)が一向に手ごたえがないので、きんと二人で腐ってしまう。しかし丸十の後援でストリップの公演を思い立った二人はまたそれで張り切り村の若者たちは涌き立つ。正一は、公演の夜、校長宅で泊りきりで自棄酒を飲んでいたが、公演は満員の盛況で大成功だった。その翌日おきんと朱実は故郷を後にする―。

「カルメン故郷に帰る」2.jpg 木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1951(昭和26)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第4位。脚本が良く出来ていると思います。群像劇のような感じなので、どこが見どころかは人によって異なるかもしれませんが、個人的には、いいと思った箇所が2つありました。

「カルメン故郷に帰る」3.jpg 一つは、正一が娘おきんのことを親不孝者と嘆いていたのが、最後はやっぱり可愛くてたまらないということで、娘から公演の出演料を受け取る気になって、それをそっくり学校へ寄付するという流れ。もう一つは、丸十が公演の儲けに気を良くしてオルガンを春雄に只で返してやったことで、春雄が一度は腹を立てたおきんたちに済まないと思い、光子と一緒に汽車の沿道へ出ておきんと朱実に感謝の手を振るという流れです。

「カルメン故郷に帰る」5.jpg ラストの方で、この二つの"和解"を重層的に織り込んでいる点が上手いと思いました。やや話が出来過ぎの感もあるし、考えてみれば、"芸術"で村興しすると言っても、外から来た観光客が金を落としていったわけではなく、金の出所は村人たちであるわけですが、何となくほろりとさせられます。

「カルメン故郷に帰る」佐野.jpg 木下惠介と高峰秀子との出会いは、高峰秀子のマネージャーが勝手に 「破れ太鼓」に出るよう契約して、何も聞いていなかった高峰秀子が勝手に契約したのを怒って、脚本読んだら面白いけれど主役じゃないし、やっぱり辞退しようと木下惠介のところへ直に言いに行き、木下惠介から、ケチのついた仕事なら降りたほうがいいよと、 代わりに今度はあなたのために脚本書いてあげるということになって、出来た脚本が「カルメン故郷に帰る」のストリッパーの役だったとのことです。木下惠介は自分で脚本を書くから、こういう時に強いなあと思います。

「カルメン故郷に帰る」高峰2.jpg 戦後日本初の「国産カラー映画」としても知られていて(富士写真フイルム(現:富士フイルム)と協力して製作)、カラー映画として満足のゆく出来にはならなかった場合は、カラー撮影そのものが無かったことにしてフィルムを破棄し、従前のモノクロ映画として公開することを内約していたため、まずカラーで撮影を行い、それが終わってから改めてモノクロの撮影を行うという、二度手間をかけて撮り上げたそうです。結果として映画の発色技術面は必ずしも満足のゆくものではなく、基本的に赤と緑の発色に問題があることも分かって、かなりどぎつい色彩感覚になっていますが、「総天然色映画」と前面に打ち出して公開したら、興業的には大成功となりました。

 個人的にはこの映画の全部がいいと思ったわけではないですが、やはりポイントは押さえているという感じで、単に総天然色であるというだけでなく、脚本がよく出来ている(カルメンらが芸術舞踏家と勘違いされるところが、娼館の娼婦たちが皆でピクニックに行った田舎で貴婦人の一行と間違われるモーパッサンの「メゾン・テリエ」と似ていると思った)ということも、興業的な成功に結びつく要因としてあったのではないかと思います。

「カルメン故郷に帰る」高峰1.jpg「カルメン故郷に帰る」笠智衆.jpg「カルメン故郷に帰る」●制作年:1951年●監督・脚本:木下惠介●製作:月森仙之助●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司(主題歌:黛敏郎)●時間:86分●出演:高峰秀子/小林トシ子/佐野周二/井川邦子/笠智衆/坂本武/佐田啓二/望月優子/見明凡太郎●公開:1951/03●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-07-19)(評価:★★★☆)
 
《読書MEMO》
田中小実昌(作家・翻訳家,1925-2000)の推す喜劇映画ベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
○丹下左膳餘話 百萬兩の壺('35年、山中貞雄)
○赤西蠣太('36年、伊丹万作)
○エノケンのちゃっきり金太('37年、山本嘉次郎)
○暢気眼鏡('40年、島耕二)
カルメン故郷に帰る('51年、木下恵介)
○満員電車('57年、市川昆)
○幕末太陽傳('57年、川島雄三)
○転校生('82年、大林宣彦)
○お葬式('84年、伊丹十三)
○怪盗ルビイ('88年、和田誠)

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旧作には及ばない。"鬼才"にはリメイク作品は向かない?

「ナイル殺人事件」r1.jpg 「ナイル殺人事件」r2.jpg 「ナイル殺人事件」r3.jpg
「ナイル殺人事件」('22年/米) アーミー・ハマー/ガル・ガドット/ケネス・ブラナー
「ナイル殺人事件」p.JPG.gif 新婚旅行中の夫婦、そして彼らの招待客たちを乗せた豪華客船がナイル川を進んでいた。そんな中、船内で乗客が次々と何者かによって殺されていく。偶然船に乗っていた名探偵・ポアロは、謎に包まれたこの事件を解明し、犯人を探し出そうと奔走する―。

DEATH ON THE NILE  .jpg「ナイル殺人事件」1354.JPG 先に取り上げた「ウエスト・サイド・ストーリー」('21年/米)と同じくリメイク作品。ジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」('78年/英)のリメイク作に当たりますが、ケネス・ブラナーとしては、「オリエント急行殺人事件」('17年/米)に続いてアガサ・クリスティ原作の映画を監督し、またエルキュール・ポアロを演じたリメイク作になります。

 冒頭、1914年の第1次世界大戦時、ベルギーの部隊に所属していた若き兵士のポアロがいて、そこで上官を爆発トラップで失い、自分も爆発で顔面を怪我し、この顔の傷を隠すため、そして亡き上司への敬意として、ポアロは口髭を持つことにしたというバックグラウンドがプロローグ的にありますが、ポアロの人物像をかなりアレンジしていることになり、英国の「アガサ・クリスティ財団」などはどう思っているのでしょうか、気になります。

「ナイル殺人事件」1355.JPG 登場人物もかなりアレンジしているみたい。旧作でアンジェラ・ランズベリーが演じたサロメ・オッタボーンは作家からソフィー・オコネドー演じる黒人ブルース歌手に、したがって旧作でオリヴィア・ハッセーが演じたサロメの姪ロザリー・オッタボーンも、黒人女優レティーシャ・ライトに。この辺りは人種的多様性であるとしても、彼女と恋仲にあり、また、ポアロの親友でもあるトム・ベイトマン演じるブークは「オリエント急行殺人事件」より続投であるものの、旧作にはないキャラクターで、しいて言えばデヴィッド・ニーヴンが演じたジョニー・レイス大佐でしょうか。

「ナイル殺人事件」1500.JPG レティーシャ・ライトは「アベンジャーズ」シリーズの"シュリ"役の女優だけど、莫大な財産を相続した若き女性リネット・リッジウェイを演じたガル・ガドットも、「ワンダーウーマン」シリーズで、イスラエルでの兵役時代の経験が"ワンダーウーマン"の役作りに役立ったと語っていた女優で、ケネス・ブラナーはその系統の女優が好きなのでしょうか。旧作でリネット・リッジウェイを演じたロイス・チャイルズが醸す富豪の鼻もちならなさや危うさが、今回のガル・ガドットには感じられないと、朝日新聞の編集委員も書いていました。

 ただ、この映画が旧作に比べて最も弱いのは、リネットの旧知の友人でサイモンの元婚約者であるジャクリーン・ド・ベルフォール:を演じたエマ・マッキーで、なぜこの重要な役に駆け出しのような女優を使ったのかよくわかりません。旧作がミア・ファローだけに差が大きいです。また、ミア・ファロー演じるジャクリーンがどこか病的な雰囲気を持っていて、とても男性に好かれそうなタイプには見えないからこそ、ラストのどんでん返しが効くわけで、エマ・マッキーはあまりに美人で魅力的過ぎる気がしました。

「ナイル殺人事件」1359.JPG ケネス・ブラナーが演じるポアロが、被疑者(乗客ほぼ全員だが)に対して強い詰問口調なのも気になりました。挙句の果ては、犯人の前に親友を晒して第三の殺人の犠牲者にしてしまい(原作でも第三の殺人はあるが)、乗客の誰かがポワロを"疫病神"だと非難したけれども、実際その通りになってしまっている印象も受けます。

 旧作の個人的評価○(★★★☆)に対してこの作品の評価は△(★★★)。いろいろケチをつけましたが、ケネス・ブラナーという人は才人だと思います(本作の1つ前の監督作である「ベルファスト」('21年/アイルランド・英)がアカデミー賞作品賞にノミネートされている)。朝日新聞の映画評では彼は"鬼才"となっていて、"鬼才"にはリメイク作品は向かないのではないかとも。確かに、「ウエスト・サイド物語」をリメイクしたスピルバーグ監督のような"職人"の方が向いているのかもしれません。

 ただし、この作品も、原作も読んでおらず、旧作も観ていない人は充分楽しめるのではないでしょうか。しかしながら、それは原作の良さに負うところが大きいのではないかと思います。

朝日新聞(夕刊)2022年3月4日
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「ナイル殺人事件」1356.JPG「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作年:2022年●制作202203032.jpg国:アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:ケネス・ブラナー/サイモン・キンバーグ/リドリー・スコット/マーク・ゴードン/ジュディ・ホフランド●脚本:マイケル・グリーン●撮影:ハリス・ザンバーラウコス●音楽:パトリック・ドイル●原作:アガサ・クリスティ●時間:127分●出演:トム・ベイトマン/アネット・ベニング/ケネス・ブラナー/ラッセル・ブランド/アリ・ファザル/ドーン・フレンチ/ガル・ガドット/アーミー・ハマー/ローズ・レスリー/エマ・マッキー/ソフィー・オコネドー/ジェニファー・ソーンダース/レティーシャ・ライト●日本公開:2022/02●配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン●最初に観た場所:上野・TOHOシネマズ上野(シアター3)(22-03-03)(評価:★★★)
TOHOシネマズ上野.jpgTOHOシネマズ上野2.jpgTOHOシネマズ上野3.jpgTOHOシネマズ上野
総座席数1,424席(車椅子席16席)。
スクリーン 座席数 スクリーンサイズ
1 97席 7.7×3.2m
2 250席 12.0×5.0m
3 333席 14.4×6.0m
4 95席 8.0×3.3m
5 112席 9.7×4.0m
6 103席 10.0×4.2m
7 235席 13.9×5.8m
8 199席 12.0×5.0m
 
   
ガル・ガドット in「ナイル殺人事件」(2022)/レティーシャ・ライト in「ナイル殺人事件」(2022) 
ガル・ガドット in 「ナイル殺人事件」(2022) .jpg レティーシャ・ライト ナイル.jpg
ガル・ガドット in「ワンダーウーマン」(2017)/レティーシャ・ライト in「ブラックパンサー」(2018)
ガル・ガドット  ワンダーウーマン 2017.jpg レティーシャ・ライト「ブラックパンサー」.jpg


ミア・ファロー_3.jpgナイル殺人事件 べティ・デイヴィス.jpgナイル殺人事件 オリヴィア・ハッセー.jpg「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作年:1978年●制作国:イギリス●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:アガサ・クリスティ「ナイルに死す」●時間:140分●出演:ピーター・ユスティノフ/ミア・ファローベティ・デイヴィス/アンジェラ・ランズベリー/ジョージ・ケネディ/オリヴィア・ハッセー/ジkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612353.jpgkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612358.jpgョン・フィンチ/マギー・スミス/デヴィッド・ニーヴン/ジャック・ウォーデン/ロイス・チャイルズサイモン・マッコーキンデール/ジェーン・バーキン/サム・ワナメイカー/ハリー・アンドリュース●日本公開:1978/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:日比谷映画劇場(78-12-17)(評価:★★★☆)

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スピルバーグ版はダイナミック、スタイリッシュで見応えがあり良かった。旧作に肉迫したか。

「ウエスト・サイド・ストーリー」r1.jpg 「ウエスト・サイド・ストーリー」r2.jpg 「ウエスト・サイド・ストーリー」r3.jpg
「ウエスト・サイド・ストーリー」 ('21年/米) レイチェル・ゼグラー/アリアナ・デボーズ(米アカデミー助演女優賞受賞) [下右]「ウエスト・サイド・ストーリー」「ウエスト・サイド物語」配役対比
「ウエスト・サイド・ストーリー」sinnkyu.JPG「ウエスト・サイド・ストーリー」パンフ.JPG  「ウェスト・サイド・ストーリー」('21年/米)は、スティーブン・スピルバーグ監督が、ロバート・ワイズ監督の「ウェスト・サイド物語」('61年/米)を60年ぶりにリメイクしたものです。「ウェスト・サイド物語」はよく知られるように、元は「ロミオとジュリエット」を、ニューヨークの一角で対立抗争するポーランド系アメリカ人の少年非行グループ「ジェット団」と、「ウエスト・サイド・ストーリー」1338.JPG新参のプエルトリコ系アメリカ人の少年非行グループ「シャークス団」の若者に置き換えた(この翻案は振付家ジェームズ・ロビンズのアイデア)舞台「ウエスト・サイド・ストーリー」1340.JPGミュージカルで、作曲家バーンスタインの協力で1957年にブロードウェイで上演され、それをロバート・ワイズとジェローム・ロビンズが共同監督で映画化し、映画としてもヒットしたものです。

ウエスト・サイド物語1.jpg 旧作「ウエスト・サイド物語」は、アカデミー賞の作品賞をはじめノミネートされた11部門中10部門を受賞していて(この中には作品賞、監督賞とともにジョージ・チャキリスとリタ・モレノがそれぞれ助演男優賞と助演女優賞を受賞、ロバート・ワイズは4年後に「サウンド・オブ・ミュージック」でも監督賞を受賞している)、「トゥナイト」「アメリカ」「マン「ウエスト・サイド物語」61.jpgボ」「クール」「マリア」など、映画の中で歌われる曲も多くの人を魅了しました。「AFIアメリカ映画100年シリーズ」の、2004年の「アメリカ映画主題歌ベスト100」では「雨に唄えば」「サウンド・オブ・ミュージック」と並んで3曲が選ばれ、また2006年の「ミュージカル映画ベスト」では「雨に唄えば」続いて第2位(第3位が「オズの魔法使」、第4位が「サウンド・オブ・ミュージック」)にランクインしています。」このミュージカル映画史上の"名作"とされるオリジナルへのスピルバーグ監督の挑戦が注目されました。

「ウエスト・サイド・ストーリー」1344.JPG 結果的に日本での評価は割れているようですが、カメラワークはダイナミックで、ダンスはスタイリッシュで見応えがあり、個人的には前作を超えたとまでは言わないものの、良かったように思います。スピルバーグ監督に何を期待するかにもよりますが、あまり特別な期待を抱いていなかったせいか、技術的に洗練されている点が観ていて心地よかったです。

「ウエスト・サイド・ストーリー」1346.JPG 前作との違いを挙げれば、差別による分断を若者だけの問題でなく社会的問題として捉えていて、LGTBなどの問題にも触れていて、さらに銃社会への批判などが強調されている点が現代風でしょうか。これは町山智浩氏からの受け売りになりますが、「ジェントリフィケーション」(都市において低所得者層の居住地域が再開発によって活性化し、その結果、地価が高騰すること)の問題なども反映されているとのこと。確かに、再開発による「立ち退き」問題も強調されていたように思います(リンカーン・センター建設中の地でロケしている)。

「ウエスト・サイド・ストーリー」1347.JPG あと、ポーランド系とプエルトリコ系の対立と言いながらも、前作では例えばベルナルドを演じたジョージ・チャキリスはギリシャ系、マリアを演じたナタリー・ウッドはロシア系だったりして、「シャークス団」の「ウエスト・サイド・ストーリー」1348.JPGメンバーも実は白人俳優が多く、せいぜい"ドグの店"のドグを演じたネッド・グラスが本物のポーランド系、アニタを演じたリタ・モレノが本物のプエルトリコ系ぐらいだったのに対し、今回は、ベルナルドを演じたデヴィッド・アルヴァレスはキューバ系 マリアを演じたレイチェル・ゼグラー(3万人が参加したオーディションから選ばれたという)、アニタを演じたアリアナ・デボーズ(アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた)は共にプエルトリコ系で、そのあたりはこだわったようです(プエルトリコ系同士の会話はスペイン語になるが、本国公開ではポリティカル・コレクトネスの立場か英語字幕をつけなかったという)。

「ウエスト・サイド・ストーリー」1350.JPGリタ・モレノ.gif 前作のアニタ役のリタ・モレノ(アカデミー賞助演女優賞受賞)が、白人と結婚したプエルトリコ移民で、トニーが働きポーランド系の若者が集まる店(前作の"ドグの店"に該当)の店主役で出ているのが嬉しいです(1931年生まれ。製作総指揮も務め、米国でこの映画が公開された翌日に満90歳になった)。でも、前作でネッド・グラスが演じたポーランド系移民のドグは、ナチスの迫害を逃れて米国に来たということが暗示されていたので、抜け落ちてしまった部分もあり、まあ新旧、一長一短というところでしょうか。

 個人的評価は旧作の方が若干上ですが、新作も頑張ってそれに肉迫したと言えるように思い、両方とも星4つとしました(「ロミオとジュリエット」からの翻案は舞台化の際の成果なので、映画としての両作の間でハンデは付けなかった)。

20220303 (1).jpg「ウエスト・サイド・ストーリー」1349.JPG「ウエスト・サイド・ストーリー」●原題:WEST SIDE STORY●制作年:2021年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:スティーヴン・スピルバーグ/ケヴィン・マックコラム/クリスティ・マコスコ・クリーガー●脚本:トニー・クシュナー●撮影:ヤヌス・カミンスキー●音楽:レナード・バーンスタイン/デヴィッド・ニューマン●原作:アーサー・ローレンツ●時間:156分●出演:アンセル・エルゴート/ レイチェル・ゼグラー/アリアナ・デボーズ/デヴィッド・アルヴァレス/マイク・ファイスト/ジョシュ・アンドレス/コリー・ストール/リタ・モレノブライアン・ダーシー●日本公開:2022/02●配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン●最初に観た場所:上野・TOHOシネマズ上野(シアター2)(22-03-03)(評価:★★★★)


ウエスト・サイド物語1962.jpgウエスト・サイド物語2.jpg「ウエスト・サイド物語」●原題:WEST SIDE STORY●制作年:1961年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ワイズ/ジェローム・ロビンズ●製作:ロバート・ワイズ●脚本:アーネスト・レーマン●撮影:ダニエル・L・ファップ●音楽:レナード・バーンスタイン/デヴィッド・ニューマン●原作:アーサー・ローレンツ●時間:152分●出演:ナタリー・ウッド/リチャード・ベイマー/ジョージ・チャキリス/リタ・モレノ/ラス・タンブリン/サイモン・オークランド/ネッド・グラス●日本公開:1961/12●配給: ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:吉祥寺・テアトル吉祥寺(82-09-23)(評価:★★★★)
リタ・モレノ(1961/2021)
rita moreno west side story 2021.jpgリタ・モレノ2.jpg【2018年・米アカデミー賞授賞式】1962年にミュージカル映画「ウエスト・サイド・ストーリー」でアカデミー助演女優賞を受賞したリタ・モレノ。56年後の2018年アカデミー賞授賞式にプレゼンターとして、同じドレスで登場した(当時86歳)。
アリアナ・デボーズ 2022年・米アカデミー助演女優賞
アリアナ・デボーズ助演女優賞.jpg

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船越英一郎(当時22歳)の「2時間ドラマ」デビュー作。原作の改変ぶりはまずまず。

「歯止め」10.jpg船越英一郎.jpg 黒の様式 カッパ・ノベルズ.png 黒の様式 新潮文庫.jpg
「松本清張の歯止め」船越英一郎『黒の様式 (カッパ・ノベルス) 』『黒の様式 (新潮文庫)』(「歯止め」「犯罪広告」「微笑の儀式」)
船越英一郎/范文雀
「歯止め」1.png 郊外の住宅地で暮らしている津留江利子(長山藍子)は、夫・良夫(井川比佐志)はサラリーマンで、一人息子の19歳の恭太(船越英一郎)は、東大を目指している一浪の受験生だが、その恭太が、最近何「歯止め」2.jpgかにつけ反抗的な態度をとるのがいたたまれなかった。ただ、江利「歯止め」はn.jpg子には反抗的な恭太も、大学のエリート助教授・旗島信雄(山本學)に嫁いだ江利子の妹・素芽子(范文雀)に対しては素直になり、何でも相談しているようであり、そんな二人に江利子は嫉妬さえ覚える。その素芽子は時々家に来るが、夫の旗島信雄もその義母・織江(月丘夢路)も特に心配してないようだ。恭太が素芽子の「歯止め」3.jpg水着写真を隠し持っていたのを見つけ江利子は心配するが、夫・良夫に相談すると、夫はその世代の男にはよくあることと一笑に付す。そん「歯止め」4.jpgなある日、素芽子が突然自殺する。恭太は素芽子は旗島家に殺されたのだと、通夜の場で荒れ狂う。苛立ちが募って、挙句の果てには、予備校仲間のガールフレンド・亜子(小森みちこ)を襲う恭太。恭太の行動を止めさせるため、江利子は素芽子の死が自殺であることの証「歯止め」5.jpg拠を織江に求めるが、逆に、その年頃の子は想像もできないことをする「歯止め」6.jpgので、その"歯止め"になってあげるのが母親の役割だと言われる。さらに、素芽子が通っていたという精神科の医師で、旗島信雄のことも知る竹田助手(橋爪功)を訪ねると、竹田は、旗島信雄にも恭太と同じような時期があって、それを乗り越えたのは母親の力があったからだと言うが、それ以上具体的なことは話さない。江利子は次第に信雄と織江の関係を訝しく思うようになる―。

 原作は、松本清張の短編小説で、「週刊朝日」1967(昭和42)年1月6日号から2月24日号に、「黒の様式」第1話として連載され、同年8月に短編集『黒の様式』」収録の一作として、光文社(カッパ・ノベルス)から刊行されています(後に新潮文庫『黒の様式』として刊行。「歯止め」は文庫本で100ページ前後のボリューム)。親子間の近親相姦がモチーフになっている作品です。

 1976年に、日本テレビ系列の「愛のサスペンス劇場」枠(13:30-13:55)で全20回の連続ドラマとして放映され、これが2回目のドラマ化。1981年から始まった日本テレビ系列の「火曜サスペンス劇場」で、1983(昭和58)年4月に放映されました。因みに、スタートからこの月まで、「火曜サスペンス劇場」のテーマは岩崎宏美が唄う「聖母(マドンナ)たちのララバイ」でした。

「歯止め」7.jpg そして何よりも、在京民放5局の2時間ドラマすべてに主演作品がある唯一の俳優と言われる「2時間ドラマの帝王」船越英一郎(1960年生まれ、当時22歳、芸名は'97年まで「船越栄一郎」だった)の「2時間ドラマ」デビュー作がこのドラマになります。まさに「火曜サスペンス劇場」などの成功などにより「2時間ドラマ」というものが隆盛に向かう、その最中(さなか)に登場した船越英一郎、といった感じでしょうか。

「歯止め」小森.jpg 主演は長山藍子で、船越英一郎は、范文雀、山本學、井川比佐志らとともに共演という位置づけになりますが、それでも重要な役割を担っていて、最初に信雄と義母の近親相姦的関係を訝しんで、素芽子の死に纏わる"疑惑"を糾弾するのが船越英一郎が演じる恭太。一方で、自らも性の衝動に悶々とし、素芽子の水着写真をベッドに持ち込んで...("青姦"とは言えるのかどうか知らないが、河原でもズボン下ろしてやっていたなあ)。しかし、ラストは小森みちこ演じるガールフレンドとの関係も回復して、でも、ハナからもう1浪するするつもりでいるのか?

「歯止め」長山藍子.jpg「歯止め」長山.jpg 長山藍子(1941年生まれ)は、TBSの「クイズダービー」の2枠レギュラー(1979年10月~1981年9月)としても"お茶の間の顔"でしたが、このドラマではかなり"重い"役でした。彼女が演じる母・江利子は、最初は素芽子は自殺であることを恭太に納得させようとしますが、次第に彼女自身も恭太と同じ疑惑を抱くようになり、さらに、息子の性向を矯(た)めるために、母親が身をもってする"歯止め"が有効適切なのか悩むという、ストーリー的には二重構造的な近親相姦の心理劇となっています。

 その心理劇の方がかなり重くて、この家は一体どうなるのかと思ったら、家庭崩壊直前で最後、井川比佐志が演じる父親が初めて「理想的な父性」を一気に発揮して(笑)一件落着、一方の素芽子の死は自殺なのか他殺なのかというミステリの方は、彼女は精神的に追い詰められてはいたのは確かだろうけれど、自殺とも他殺とも解釈できる終わり方になっていて、やや未消化感が残りました。

 原作では、姉妹が逆になっていて、「現在」が昭和40年で、「姉・素芽子」は23年前の昭和17年に、結婚2年後の21歳で亡くなっており、その時江利子は17歳、姉・素芽子の死は青酸カリ自殺とされたという、いわば過去の眠っていた出来事を掘り起こす設定。恭太は17歳の高校2年生で、ドラマ同様に悶々としていますが、実際に素芽子の死の真相に挑むのは母・江利子であり、最後は夫・良夫が20年前の事件の謎を解くという流れで、(推察レベルではあるが)ドラマよりはミステリの結末が明確です。

 ただ、原作の方も、主人公・江利子の心理的窮迫に焦点が当てられており、その部分を拡大したドラマの改変はまずまずだったように思います(ラストの母子無理心中はやや唐突か。これは原作にはない)。船越英一郎の「2時間ドラマ」デビュー作ということも少しだけ勘案して、星3つ半の評価としました。

「アテンションぷりーず」.jpg范文雀.jpg 最後に范文雀(1948-2002/54歳没)について(このドラマに出た頃は34歳くらいか)。22歳の時に「サインはV」(1969年--1970年/TBS)で ジュン・サンダース役(途中から登場)で人気を博し、後番組の「アテンションプリーズ」(1970年--1971年/TBS)でも準主役級で起用されていました。その後、寺尾聡と結婚して一時芸能界を引退したような時期がありましたが離婚後に復帰、舞台などを経て演技の幅を広げていきました。感受性が鋭く聡明な人格であり、人に媚びずに、気に入らなければ大物男優との共演も辞退する男勝りな一面もあったそうですが、自分自身を曲げることなく、常に上を目指すストイックでプロフェショナルな姿勢に、演劇関係者やファンを初めとした多くの人々が魅了されていたとのこと。亡くなった際は、その早すぎる死が惜しまれたものです。 
      

「サインはV」r.jpg「「サインはV」1.jpg「サインはV」●監督:竹林進/金谷稔/日高武治●制作:黒田正司●脚本:上條逸雄/鎌田敏夫/加瀬高之●音楽:三沢郷●原作:神保史郎/望月あきら●出演:岡田可愛/中山仁/中山麻理/范文雀/岸ユキ/青木洋子/小山いく子/和田良子/泉洋子/西尾三枝子/三宅邦子/十朱久雄/星十郎/木田三千雄/近松麗江/村上冬樹/林マキ/逗子とんぼ/塚本信夫、/有沢正子/土屋靖雄/5代目柳家小さん/ミキ中町/平井道子/立原博/田崎潤/ナレーション:納谷悟朗●放映:1969/10~1970/08(全45回)●放送局:TBS

   
EASE アテンションプリーズ 范文雀.jpeg「アテンショNぷりーず」.jpgアテンションプリーズ2.jpg「ATTENTION PLEASE アテンションプリーズ」●演出:金谷稔/竹林進●制作:黒田正司●脚本: 竹林進/上條逸雄●音楽:三沢郷(作詞:岩谷時子)●出演: 紀比呂子/佐原健二/皆川妙子/范文雀/高橋厚子/関口昭子/黒沢のり子/麻衣ルリ子/山内賢/竜雷太/ナレーション:納谷悟朗●放映:1970/08~1971/03(全32回)●放送局:TBS


「歯止め」脚本.jpg「歯止め」1983.jpg「松本清張の歯止め」●演出:出目昌伸●脚本:重森孝子●音楽:佐藤允彦●プロデューサー:小杉義夫/高倉三郎●原作:松本清張●出演:長山藍子/井川比佐志/船越英一郎/范文雀/山本學/月丘夢路/小森みちこ/橋爪功/立石涼子●放送日:1983/04/05●放komori michiko.jpg送局:日本テレビ(評価:★★★☆) 

小森みちこ/魅惑のセレモニー(1983)
 
    

「●木下 惠介 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3120】 木下 惠介 「永遠の人
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今村昌平に「リアリズムで撮る手は残っているな」と思わせた作品。

「楢山節考」木下p.jpg「楢山節考」木下1958.jpg「楢山節考」木下1958 1.jpg
木下惠介生誕100年 「楢山節考」 [DVD]

「楢山節考」kinosiya.jpg 70歳になると楢山参り(姥捨)を行わなければならない山奥の村に住む、69歳になる「おりん」とその息子が軸となるストーリー。したがって、基本的には今村昌平監督の「楢山節考」('83年/東映)と同じストーリーの枠組みですが、見せ方はかなり異なります。

「楢山節考」木下1958 2.jpg オープニングは定式幕に「東西、東西、このところご覧にいれますルは本朝姥捨ての伝説より、楢山節考、楢山節考...」という黒子の口上で始まり、幕が開きます。ラストの現代の風景を除いてオール・セットで撮影されていて、場面転換では振落し(背景が描かれている書割の布を瞬時で落として次の場面を見せること)や、引道具(建物などの大道具の底に車輪をつけて、前後・左右に移動させる装置)などといった歌舞伎の舞台の早替わりの手法が使われ、長唄や浄瑠璃などの音楽を全編にわたって使い、歌舞伎の様式美を取り入れた作品となっています。
        
「楢山節考」木下1958 3.jpg 今村昌平は深沢七郎の原作を読んだ時から「楢山節考」を映画化したいと考えていたところ、木下惠介監督が撮ることが決まりがっくりしたとのこと。ところが、木下惠介が前述のとおり歌舞伎の様式美を取り入れた作品として撮ったため、「まだリアリズムで撮る手は残っているな」と思ったそうです。結局、今村昌平は木下惠介版の四半世紀後に「楢山節考」('83年/東映)を撮り、これに第36回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞という"オマケ"までつきました。大本命だった大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」を下してグランプリに輝いたことについて、岩波ホール総支配人の高野悦子は、「大島さんはいい作品で当然、今村さんは新しい人だから、フランス人にはショッキングな発見だったんでしょう」と述べています。

 木下惠介版は、1958年度のキネマ旬報ベストテン第1位になったほか、毎日映画コンクール日本映画大賞などを受賞し、同年度のヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品され、評論家時代のフランソワ・トリュフォーが絶賛したとされています。2012年に木下惠介生誕100年を記念してデジタルリマスター版が作られ、同年のカンヌ国際映画祭クラシック部門で上映されていますが(日本映画としては小津安二郎、宮崎駿、鈴木清順の監督作に続く選出)、先に木下惠介版を観ている審査員がいれば、今村昌平版の時は木下惠介版との相対評価になったのかなあ。

「楢山節考」tanaka.jpg 木下惠介版で老女を演じた田中絹代(1909-1977/67歳没) は当時48歳で、70歳の女性を演じるにあたり自分の差し歯4本を外して役作りしましたが、今村昌平版で老女を演じた坂本スミ子(1936-2021/84歳没)は当時46歳で、前歯を短く削り歯が抜けたように見せる演出をして役作りしています(差し歯はしてなかったということか)。坂本スミ子は、カンヌ映画祭へ出品に消極的だった今村昌平を、プロデューサーと一緒に説得して出品させた経緯があり、それがパルム・ドール受賞に繋がったわけです。

田中絹代(当時48歳)
      
『名画座面白館』赤塚.jpg『名画座面白館』022.jpg 先に読んだ『赤塚不二夫の名画座面白館』('89年/講談社)で赤塚不二夫は木下惠介版を舞台仕立てにしたところが見事であると絶賛し、今村昌平版の土俗的リアリズムは自分は「買わないのだ」と断言していましたが、個人的にはそれぞれにいいと思います。同じ原作の映画を観たという感じがあまりないのですが、共に観る側との相性を選ぶ作品であるようにも思います(個人的評価はともに★★★☆)。
      
「楢山節考」●制作年:1958年●監督・脚本:木下惠介●製作:小梶正治●撮影:楠田浩之●音楽:杵屋六左衛門/野沢松之輔●原作:深沢七郎●時間:98分●出演:田中絹代/高橋貞二/望月優子/三代目市川團子(二代目市川猿翁)/宮口精二/伊藤雄之助/東野英治郎/三津田健/小笠原慶子/織田政雄/西村晃/鬼笑介/高木信夫/小林十九二/末永功/本橋和子/吉田兵次●公開:1958/06●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-09-03)(評価:★★★☆)
「楢山節考」木下1958 5.jpg

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有田紀子の清楚で現代的なリリシズムが光る。原作の語り手の年齢はかなり若い?

野菊の如き君なりき 1955.jpg「野菊の如き君なりき」.jpg 野菊の墓 (新潮文庫).jpg
木下惠介生誕100年 「野菊の如き君なりき」 [DVD]」田中晋二/有田紀子『野菊の墓 (新潮文庫)
野菊の如き君なりき1.jpg 矢切の渡しの舟客・斎藤政夫翁(笠智衆)は老船頭(松本克平)に、遠い過去の想い出を語る...。この渡し場に程近い村の旧家の次男として育った政夫(田中晋二)が15歳の秋のこと、母(杉村春子)が病弱のため、近くの町家の娘で母の姪に当る民子(有田紀子)が政夫の家を手伝いに来ている。政夫は二つ年上の民子とは幼い頃から仲が良い。それが嫂のさだ(山本和子)や作女お増(小林トシ子)の口の端にのって、本人同志もいつか稚いながら恋といったものを意識するようになる。祭を明日に控えた日、母の吩咐で山の畑に綿を採りに出かけ二人は、このとき初めて相手の心に恋を感じ合ったが、同時にそれ以来、仲を裂かれなければならなかった。母の言葉で追われるように中学校の寮に入れられた政野菊の如き君なりき2.jpg夫が、冬の休みに帰省すると、渡し場に迎えてくれるはずの民子の姿はなかった。お増の口から、民子がさだの中傷で実家へ追い帰されたと聞かされ、政夫は早々に学校へ戻る。二人の仲を心配した母や民子の両親の勧めで、民子は政夫への心を抑えて他家へ嫁ぐ。ただ祖母(浦辺粂子)だけが民子を不愍に思った。やがて授業中に電報で呼び戻された政夫は、民子の死を知る。民子の最期を看取った母によると、民子は政夫の手紙を抱きしめながら息を引きとったという。政夫の名は一言もいわずに...。渡し船を降りた翁は民子が好きだった野菊の花を摘んで、墓前に供えるのであった―。

『野菊の墓』復刻.jpg 木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1955(昭和30)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第3位。原作「野菊の墓」は、歌人であった伊藤左千夫が43歳で初めて発表した小説で、1906(明治39)年1月、雑誌「ホトトギス」に掲載、その年の4月に俳書堂から単行本として刊行されています。15歳の少年・斎藤政夫と2歳年上の従姉・民子との淡い恋を描き、夏目漱石が絶賛したというこの作品は、過去に3度映画化されており、その第1作は木下惠介が監督した本作です(2作目('66年)の主演は太田博之と安田道代(大楠道代)、3作目('81年)は澤井信一郎監督、の松田聖子主演のもの。TVドラマ版では西河克己監督、山口百恵主演のもの('77年)などがある)。

近代文学館〈〔38〕〉野菊の墓―名著複刻全集 (1968年)

「野菊の如き君なりき」ありた.jpg 物語の設定では民子の方が2歳年上ですが、主演の田中晋二と有田紀子は共に1940年生まれの当時15歳。有田紀子は女優に憧れ学習院女子中等科に在学中に木下惠介監督に手紙を書いたことが契機となり、民子役に抜擢されましたが、学習院は生徒の映画出演を認めておらず、転校して映画に出演しています。この映画は、旧弊な気風が根強い田舎を舞台にしている分、有田紀子の清楚で現代的なリリシズムが光っていたように思います。ただし、彼女が出演した木下作品は田中晋二と共演した3作品だけです。その後は学業に専念し、1958年早稲田の文学部演劇科に進みますが、それを知った多くがの若者が早稲田を受験したという逸話があります。伊藤左千夫は「野菊の墓」という作品があってこその作家という印象がありますが、有田紀子も、結婚で女優業を引退したということもあって、代表作はこの「野菊の如き君なりき」ということになるのでしょう。

野菊の如き君なりき 笠智衆.jpg ところで、映画は矢切の渡しの舟客・斎藤政夫老人(笠智衆)が60年前の自らが数え年で15(「月で数えると13歳と何月」と原作にある)の時のことを回想する(船頭に語る)形式で進み、政夫老人は現在73歳ということになりますが(演じる笠智衆は当時51歳)、原作では、「十余年も過去った昔のこと」とあり、語り手の年齢はもしかしたら30歳前後くらいかもしれず、この年齢の差は、「政夫の今」を映画が作られた1955年を現在に設定したためではないかと思われます(小説が発表された年とも約40年の開きがある)。世間一般にも原作の語り手がかなり年齢が高いように思われている気がしますが(コミック版などもそうなっている)、思えば、伊藤左千夫がこの小説を書いたときでさえまだ43歳だったわけで、作者はそこからさらに10歳以上若い"語り手"を設定しているように思います(物語は伊藤左千夫自身の幼い頃の淡い恋が基になっているというから、概算すると原作の時代設定の方が映画より少し古いということになるのかも)。

 そう言えば、川端康成原作、西河克己監督、高橋英樹・吉永小百合主演の「伊豆の踊子」('63年/日活)でも、語り手である現在の主人公として当時49歳の宇野重吉が初老の大学教授として登場しますが、川端康成が原作を発表したのが1926(大正15)年27歳の年で、1918(大正7)年に19歳で初めて伊豆に旅行し、旅芸人の一行と道連れになった経験が基になっているとされているので、こちらも原作の書き手は8年前の記憶を辿っているのに対し、映画は作られた1963年を現在に設定し、45年ぐらい前のことを思い出しているように描かれていることになります。まだその頃は、明治・大正の文学作品の語り手を、そのまま老いさせて「現在」にもってこれたのだなあと改めて思いました。

『名画座面白館』赤塚.jpgIMG_20220228_050114.jpg 因みにこの作品、作品の大部分を占める過去の回想部分は全体を楕円にしてまわりをボカした手法にをとっていますが、先に読んだ『赤塚不二夫の名画座面白館』('89年/講談社)で、登場人物としての赤塚不二夫、長谷邦夫、石森章太郎がこの映画について語り合っていて、石森章太郎がこのボカシを指摘すると、長谷邦夫が「昔の懐かしい写真アルバム集みたいな感じを出すためだね」と説明していました(分かりやすい説明)。一方、笠智衆が出ている"今"のシーンにはこの楕円のボカシはありません(代わりに伊藤左千夫の短歌が挿入される)。

野菊の如き君なりき 杉村.jpg 有田紀子、田中晋二の演技は「二十四の瞳」('54年/松竹)で6歳(小学校1年生)、10歳(小学校5年生)、18歳の少年少女を撮った木下惠介監督が、ここでもその演出力を発揮した成果だと思います(セリフはわざと棒読みで喋らせたのは「二十四の瞳」でも使った手?)。一方で、演技達者が作品を支えているのも確か。政夫の母役の杉村春子が民の死後に家に戻って一人泣き崩れるシーンと(結局この人も根はいい人だった)、民の祖母役の浦辺粂子が孫の不憫さを語るシーン(この人は最初から唯一の二人の理解者だった)の演技には圧倒されます。

杉村春子(政夫の母)

「野菊の如き君なりき」●制作年:1955年●監督・脚本:木下惠介●製作:久保光三●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:伊藤左千夫『野菊の墓』●時間:92分●出演:田中晋二/有田紀子/杉村春子/田村高廣/笠智衆/松本克平/山本和子/小林トシ子/浦辺粂子/高木信夫/本橋和子/雪代敬子/渡辺鉄弥/谷よしの/松島恭子/小林十九二●公開:1955/11●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-07-16)(評価:★★★★)

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安保闘争とその後の時代を反映する主人公の怒り。今の若い人が観たらどうか?

「青春残酷物語」p.jpg 「青春残酷物語」p2.jpg 「青春残酷物語」d.jpg 「青春残酷物語」01.jpg
「青春残酷物語」ポスター「あの頃映画 青春残酷物語 [DVD]」桑野みゆき/川津祐介

「青春残酷物語」4d.jpg「青春残酷物語」00.jpg 真琴(桑野みゆき)と陽子(森島亜樹)が夜の街から帰る際に用いる手段は、クルマの窓を叩いて、運転者に家まで送らせるというもの。真琴は赤いシボレーの男(春日俊二)に声を掛けたりし、結局パッカードの男(山茶花究)にホテルに連れ込まれそうになり、清(川津祐介)という大学生に救われる。翌日、二人は隅田川の貯木場で遊び、丸太の上で清は真琴を抱く。その後1週間経っても清から連絡はなく、真琴は彼のアパートへ行き、バー「クロネコ」で伊藤(田中晋二)と陽子とで待つ。彼ら二人が去り、残った真琴に、チンピラの樋上(林洋介)や寺田(松崎慎二郎)が言い寄る。清が来て喧嘩になるが、兄貴分「青春残酷物語」03.jpgの松木(佐藤慶)が止めて金で話がつく。清は、アルバイト先の人妻・政枝(氏家慎子)と関係があったが、真琴の真情に惹かれ、アパートに泊める。真琴が朝帰りすると、姉の由紀(久我美子)がそれを叱り、彼女は家に閉じ込められるが、隙を見て逃げ、清と同棲を始める。由紀はその居所を突き止めるが、真琴は家には戻らない。金が必要だっベンツの男・堀尾(二本柳寛)を騙せなかった。彼女は妊娠していたが、清は堕胎しろと言い、そのためにも例の仕事は必「青春残酷物語」05.jpgた清は、真琴と出合った時のことを応用し、マーキュリーの男(森川信)を真琴が釣り、清が強請った。学校で同棲が噂になり、真琴は受持ちの下西(小林トシ子)に呼ばれるが、由紀が噂を否定する。妹の生き方を認めたくなっていたのだ。その夜、真琴は要だと。真琴は清のもとを去る。偶然に堀尾に会って、清を忘れるためにホテルへ泊る。清は政枝から金を借りるが、真琴が堀尾と寝たことを知ると、堀尾を強請る。一方の「青春残酷物語」渡辺文雄.jpg由紀は、昔愛して破れた医者の秋本(渡辺文雄)を訪ねる。工場街で診療所を開き、看護婦の茂子(俵田裕子)と関係があり、昔日の面影はない。真琴が寝ていた。ここで子を堕ろしたのだ。清が現われ、秋本や由紀を罵倒し、真琴をいたわる。海辺で、二人の結びつきは堅いようにみえた。アパートに帰った時、警官が待っていた。堀尾が訴えたのだ。真琴は家へ帰され、清は政枝の奔走で情状酌量された。別れようと清は言う。君を守る力がないと。追いすがる真琴を突き放すが、樋口たちが女を貸せと脅したため、殴り合いになる。彼らは清を殴り続け、彼は死ぬ。真琴はフォードの男(田村保)に誘われ、ふらっと乗り込むが、突然飛び降り、クルマに引き擦られて動かなくなる―。

「青春残酷物語」お.jpg 大島渚(1932-2013/80歳没)監督による1960(昭和35)年6月公開作。 "松竹ヌーヴェルヴァーグ"という言葉が生まれるきっかけとなった作品で、これを機に大島渚監督自身も篠田正浩や吉田喜重とともに"松竹ヌーヴェルヴァーグ"の旗手として知られるようになりました(しかし、自身はそのように呼ばれることを望まなかったという)。

 この映画では、川津祐介演じる主人公の清の怒りが、当時の多くの若者が抱いていた世の中への憤りと重なっている点が一つのポイントでしょう。そう見ないと、清は金を得るために美人局的なことぐらいしか思いつかない、単なる破滅型の愚かな敗北者ということになってしまいます。ただ、実際、真琴の自分への真情に自らも彼女に惹かれる一方で、彼女が妊娠すると堕ろせと命じているわけで、責任回避型のどうしょうもない男にも見えなくもありません。

「青春残酷物語」04.jpg 安保世代とその後の世代のギャップというものが時代背景としてあり、渡辺文雄が演じる町医者の秋本は、青春を投げ打ってまで社会と闘った過去を持ち、一方、清の友人の伊藤は、今まさに安保反対デモに参加しながらも、ガールフレンドともテキトーに付き合っています。それに対して清は、安保闘争のようなものには秋本のように没頭することも、伊藤のようにテキトーに関わることもできず、家庭教師先の熟女マダムと爛れた関係を持つばかりで、そこへ現れた真琴が眩しく見えたのではないでしょうか。

「青春残酷物語」しぼr.jpg やはり、時代背景抜きにしては川津祐介演じる主人公の清に共感しにくいように思われ、安保闘争とその挫折という時代の流れを知らない若い人が観たらどうかな?という思いはあります(清が乗るのが単車でしかも盗難車、それに対しクルマの男たちが乗るのが、シボレー、パッカード、マーキュリー、ベンツ、フォードとどれも高級外車というのが当時のくすぶった日本の現実を象徴しているともとれる。ただ、今の若者がこうした外車に憧れを抱くか?)。個人的にはむしろ、表現面で、表情の大写しなど今の映画ではあまり使われない手法が取られているのが印象的でした。

「青春残酷物語」j2.jpg この作品は、大島渚監督が亡くなった翌年['14年]4Kデジタル修復版が第67回「カンヌ国際映画祭」でワールドプレミア上映され、さらに同年の第15回「東京フィルメックス」でも上映され、審査委員長の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督(カンヌ国際映画祭でもコンペティション部門の審査員だった)が舞台挨拶でこの作品に触れています。

「青春残酷物語」j1.jpg そこで述べたのが、「この作品の特徴は、青春のただ中にいる若者たちの個人的な事を扱いながら、非常に社会性があるという事です。大島監督はこの作品の中で、個人と社会を断ち切ることなく、個人が属する社会の問題をしっかり見据えていたわけです。この観点は、現在の映画の中で、啓発を受けるべき非常に重要な姿勢だと思いました」「我々個人はあくまでも社会に属しているわけで、決して関係を断ち切ることはできません。『青春残酷物語』の中には、様々な問題が盛り込まれています。青春という意識の問題、命の問題、社会、経済、学生運動といったものです。さらに、大島監督の凄いところは、社会をしっかり見つめながら、ただ社会の方向にだけ映画を持っていくのではなく、そこに人間性に対する洞察力をしっかり込めているということ。社会を題材に、社会的な見方でしか映画を撮らないとしたら、それは芸術ではなくなってしまいます。この点が社会学者とは違い、芸術にまで高めているところだと思います」ということで、ああ、やっぱりという印象です。

「青春残酷物語」j3.jpg「青春残酷物語」ま.jpg さらに、"忘れられない場面"として、序盤、街で出会った主人公の真琴(桑野みゆき)と清(川津祐介)が丸太の浮かぶ川で遊ぶ場面を挙げ、「男が女の子にキスしようとすると、彼女が嫌がります。すると、男は彼女を水の中に突き落とし、彼女は溺れそうになりながら必死にあ「青春残酷物語」02.jpgえぐわけです。その時の会話がまさに人生に関わることでした。セリフのやり取りを通じて、2人が傷つけ合いながら互いの存在感を確かめ合っているようで、大きな孤独感を感じました。そのような表現が、この場面に盛り込まれていたわけです」と述べていて、この辺りはさすが、中国映画界の「第六世代」の監督として知られる賈樟柯監督らしいなあと思います。大島監督の作品を初めて見たのは、北京電影学院で映画を学んでいた頃だったといいます。今年['22年]の北京冬季五輪・パラリンピックの開閉会式の総監督の張芸謀(チャン・イーモウ)監督が、かつて高倉健主演の「君よ憤怒の河を渉れ」('76年/松竹)を観て感動したという、「第五世代」の日本映画に対する出会いや感じ方とはまた違うなあと。

 賈樟柯監督は、この作品が「自分が映画を撮り始めた1990年代の中国を思わせ、不思議な感じがする」とも語っていて、やはり社会を反映している分、その時代(あるいは同じような時代背景の時代)を見知っているかどうかというのは、この映画を観る時かなり大きな要素になってくる気がしました。

 結局、〈60年安保闘争〉の後に〈70年安保闘争〉というのもあったわけで、後者についてこの作品に該当するのが、藤田敏八監督の 「八月の濡れた砂」('71年/ダイニチ映配)ではないかなと勝手に思っています。

佐藤慶(チンピラの兄貴分・松木)/渡辺文雄(町医者・秋本)
「青春残酷物語」佐藤0.jpg 「青春残酷物語」渡辺文雄01.jpg

「青春残酷物語」ぽ.jpg「青春残酷物語」●制作年:1960年●監督・脚本:大島渚●製作:池田富雄●撮影:川又昂●音楽:真鍋理一郎●時間:96分●出演:桑野みゆき/川津祐介/久我美子/ 浜村純/氏家慎子/森島亜樹/田中晋二/富永ユキ/渡辺文雄/俵田裕子/小林トシ子/佐藤慶/林洋介/ 松崎慎二郎/堀恵子/水島信哉/春日俊二/山茶花究/ 森川信/田村保/佐野浅夫/城所英夫●公開:1960/06●配給:松竹●最初に観た場所(再見):シネマブルースタジオ(22-02-22)(評価:★★★★)

桑野みゆき in「彼岸花」('58年/松竹) 久我美子/渡辺文雄 in「彼岸花」('58年/松竹) 
「彼岸花」桑野.jpg 彼岸花 映画5O.jpg 

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映画に纏わる自伝的エッセイ漫画、映画青春記。その時代のシズル感があった。

『名画座面白館』03.jpg『名画座面白館』01.jpg ギターを持った渡り鳥 HDリマスター版.jpg
赤塚不二夫の名画座・面白館』「日活100周年邦画クラシック GREAT20 ギターを持った渡り鳥 HDリマスター版 [DVD]

 赤塚不二夫(1935-2008/72歳没)が自らの映画体験を漫画で描いた本で、1989(平成元)年刊行。1954(昭和29)年頃の江戸川区小松川の化学薬品工場の寮に住み込んで『漫画少年』など投稿を続け、肉筆回覧誌「墨汁一滴」の同人に参加した頃から、その後のトキワ荘に移ってからの期間を中心に、若い頃、お金はなくとも映画を観まくっていた時代に観た映画を漫画で語った、自伝的エッセイ漫画です。

 全13話の各タイトルになっている(メインで取り上げている)映画は、「七人の侍」「狂った果実」「ニッポン無責任時代」「ゴジラ」「独立愚連隊」「唐獅子牡丹」「ギターを持った渡り鳥」「けんかえれじい」「楢山節考」「男はつらいよ」「眠狂四郎殺法剣」。そして、これらに関連するその他多くの映画作品にもふれています。

 特に長谷邦夫(1937-2018/84歳没)や石森章太郎(1938-1998/60歳没)らと映画談義をしている場面が多くありますが、映画に関しては彼らの方が先輩格と言うか理論派の映画マニアであり、談論形式でその言説をそのまま載せたりしているのが素直です。実際、冒頭の「七人の侍」('54年/東宝)などは、長谷邦夫に強く薦められて観に行って、感銘を受けています。三人で雑司ヶ谷の手塚治虫邸を最初に訪ねた時、石ノ森章太郎が16歳、長谷邦夫が17歳、赤塚不二夫が19歳だったとあり、赤塚不二夫が一番年上なわけですが、長谷邦夫や石森章太郎は、映画という面では赤塚不二夫の"師匠"でもあったのでしょう。

『名画座面白館』022.jpg でも、そうした仲間に感化されながらも自分の好みをしっかり持っていて、そのあたりはやはり職業柄、創作者であれば当然かもしれませんが、分かる気がしました。例えば、木下惠介監督などは絶賛の対象であり、「楢山節考」('58年/松竹)を取り上げ、長谷邦夫や石森章太郎らと語り合いながら自らの意見も述べ、舞台仕立てにした部分が見事であるとし、リメイク版の今村昌平の作品(「楢山節考」('83年/東映))の土俗的リアリズムは「わしは買わないのだ」と断言しています(個人的にはそれぞれにいいと思うのだが)。

IMG_20220228_050114.jpg ここでは木下惠介監督の「野菊の如き君なりき」('55年/松竹)についても長谷邦夫や石森章太郎らと語り合3人で語り合っていますが、石森章太郎が全体を楕円にしてまわりをボカした手法について指摘すると、長谷邦夫が「昔の懐かしい写真アルバム集みたいな感じを出すためだね」とはっきり言っていて、こういうのに赤塚不二夫自身が教えられたということを、漫画で再現しているという感じでしょうか(切ない映画だった)。

 「ギターを持った渡り鳥」('59年/日活)のところでは、小林旭ファンの「少年サンデー」の記者が出てきて、長谷邦夫も交えて議論し、漫画ならではに構図でシリーズの流れなどを解説していて分かりやすかっ「ギターを持った渡り鳥」3.jpgたです。このシリーズで一番人気が急上昇したのは一昨年['20年]亡くなった"殺し屋ジョージ"こと宍戸錠で、拳銃無頼帖シリーズとか「早射ち野郎」('61年/日活)はその後だったのだなあ。でも、「ギターを持った渡り鳥」のいいところ(切ないところ)はやはり土地(本作は函館市が舞台)の娘・浅丘ルリ子との別れでしょう。浅丘ルリ子がウェットな執着を見せず、「あの人は戻らない」と決めてかかっているのも西部劇の影響でしょうか。

 映画青春記であると共に、読者に対する鑑賞ガイドになっている点が親切です(長谷邦夫や石森章太郎の意見を多く取り入れている分、押しつけがましさがな無い)。また、どういう状況やきかっけでその作品を観に行って、その時の映画館や客席はどうだったのかとかも描かれていたりするので、時代のシズル感がありました。ビデオすらない時代の話。家で一人でNetflixやAmazonプライムで観てしまうと、こういう、映画そのものとそれを観た時の状況がセットで記憶に残るという感触は味わえないのだろうなあ。

 木下惠介監督の「野菊の如き君なりき」と「楢山節考」は近々改めて取り上げたいと思います。

「ギターを持った渡り鳥」2.jpg「ギターを持った渡り鳥」1.jpg「ギターを持った渡り鳥」●制作年:1959年●監督:齋藤武市●脚本:山崎巌/原健三郎●撮影:高村倉太郎●音楽:小杉太一郎●原作:小川英●時間:78分●出演:小林旭/浅丘ルリ子/中原早苗/渡辺美佐子/金子信雄/青山恭二/宍戸錠/二本柳寛/木浦佑三/鈴木三右衛門/神戸瓢介/片桐恒男/青木富夫/弘松三郎/伊丹慶治/野呂圭介/近江大介/水谷謙之/高田保/宮川敏彦/ 衣笠真寿夫/原恵子/清水千代子/菊田一郎/倉田栄三/渡井嘉久雄/竹部薫/ 高瀬将敏●公開:1959/10●配給:日活(評価:★★★☆)

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原案も作画もオーディションで決定。「最終回」が2度描かれた。ラストはちょっと寂しい。

8マン 扶桑社文庫1.jpg 8マン 扶桑社文庫1-6.jpg 8マン マンガショップ.jpg エイトマン HDリマスター.jpg
8(エイト)マン (扶桑社文庫 く 2-1)』['95年]『8(エイト)マン 文庫版 コミック 全6巻完結セット (扶桑社文庫)』『8マン〔完全版〕(1) (マンガショップシリーズ) (マンガショップシリーズ 435)』['11年]「エイトマン HDリマスター スペシャルプライス版DVD vol.2<期間限定>【想い出のアニメライブラリー 第33集】」['18年]

8マン マガジン.jpg 『8(エイト)マン』は、平井和正(1938-2015/76歳没)原作・原案、桑田次郎(1935-2020/85歳没)作画によるSF漫画で、講談社の「週刊少年マガジン」に1963(昭和38)年20号から1965(昭和40)年13号まで連載され、テレビアニメ版は1963年11月から1964(昭和39)年12月までTBS系列局で放送されています(テレビアニメ版は「8マン」の「8」がフジテレビの8チャンネルを想起させるので、「エイトマン」とカナカナ表記になった)。

 因みに、この作品は、原案も作画もオーディションで決定されています。「少年マガジン」編集会議で、手塚治虫の『鉄腕アトム』を越えるようなロボット漫画を連載することになり、先にSF作家・平井和正が提出した原案が『鉄腕アトム』とも『鉄人28号』とも異なる、「変身能力」「加速性能」というオリジナリティが受け入れられて採用され(平井和正の漫画原作家としてのデビュー作になった)、続いて講談社の「少年クラブ」で『月光仮面』を連載したことがある桑田次郎が、シャープでスマートな描線だったことから選定されています。

8マン 変身.jpg 8マンはただ弾よりも速く動けるだけでなく。人工皮膚(プラスティック)でどのような顔にも変装でき、関節は伸縮可能で、関節を縮めることによって、女性など小柄な人物にも変装できるという万能ぶりですが(電子頭脳が麻痺して、さち子を思いやるあまりか、そのさち子に変身してしまったこともある(文庫第18マン たばこ.jpg巻・248p))、弱点もあり、電子頭脳は、火炎・高圧電流などの高熱にさらされると力を失ってしまい、小型の予備電子頭脳が肩にセットされているのですが、その際は本来の能力を十分に発揮できません。そこで、ベルトのバックルに、電子頭脳及び超小型原子炉を冷却するタバコ型の強加剤(冷却剤)が仕込んであり、これを吸わないと戦い続けることが出来ないことがままあります(ある意味、科学が、端的に言えば原子力が万能でないことを示唆しているとも言え、「鉄腕アトム」などよりは先駆的かも。さすが平井和正)。

8man たばこ.jpg 丁度、ウルトラマンが戦いが3分を過ぎるとカラータイマーがピコンピコン鳴るのと同じで、こうした弱みのあるところがまた魅力なのでしょう。冷却剤はタバコに似ているらしく、宿敵デーモン博士によって冷却剤をタバコにすりかえられる場面もあるほどでしたが(文庫第1巻・243p)、タバコ型冷却剤に手を伸ばす8マンの姿は、ちょうどタバコ好きの人(と言うかニコチン中毒の人)がタバコを切らした時の状況に、絵的には似てしまっています。そこでアニメ版では、子供が喫煙を真似するといけないとの理由で途中からタバコ型強加剤は使用されなくなり、貯水槽に穴を開けて水をかぶるなどの方法で原子炉を冷却していました(これはこれで周囲に迷惑がかかると思うのだが(笑))。因みに、殉職した刑事の東(あずま)八郎が谷博士の手で8マンになった経緯や、谷博士自身が実はスーパーロボットで、8マンとほぼ同じ姿であることは(最初は8マンもそのことを知らない)、話が進んでいくうちに序盤で明かされます。

 平井和正の原案がいいのは間違いないですが、桑田次郎の線画タッチも素晴らしいと思います。連載が始まった年にテレビアニメ化されたことからも当時の人気が窺えますが(スポンサーがふりかけの丸美屋だったのを憶えている)、漫画連載中に桑田次郎が拳銃不法所持(自殺用に所持していたと言われている。当時は、漫画の描写用と聞いたが)による銃刀法違反で逮捕されたため、連載は急遽打ち切りとなり、打ち切りとなった回(「魔人コズマ」篇の最終回(1965(昭和40)年13号))は、連載当時、桑田の弟子だった楠高治(くすのき・たかはる、1936-2014/78歳没)らが代筆しています。このため、「魔人コズマ」篇は単行本(秋田書店版)に収録されることはなく、長らく幻のエピソードとなっていました。

8マン rumu.jpg しかし、1990(平成2)年に桑田が26年ぶりに最終回を執筆し(ペンタッチが微妙に変わっている)、1989(平成元)年から1990(平成2)年)にかけて、リム出版より完全版(全7巻)が単行本出版され、このときにその最終回も収録されています(代筆版は未収録)。単行本は50万部以売れる大ヒットとなりましたが、余勢をかって出た実写映画化などは失敗し、その影響でリム出版も経営破綻し絶版となりました。

8マン fusou.jpg これを復活させたのがこの扶桑社文庫版で、その第6巻がシリーズの中でも最高傑作とされる「魔人コズマ」篇になります。最後に東八郎こと8マンはさち子に正体を知られ事務所を去る(さち子・一郎の前から姿消す)という寂しい結末になりますが、連載打ち切り直前の回で、すでに東八郎が8マンであるのはほぼ間違いないとさち子が悟るシーンがあり(文庫第6巻・299p)、これが描8マン さち子.jpgかれたのは連載打ち切りが決まる前なので、この部分については最終回を意識しての展開ではないと思われます。もっとも、さち子はかなり早い段階から東八郎はもしかしたら8マンではないかという疑念は抱いてしばしば悩んでいるため、このままずっと話を続けていくつもりだったのかもしれません。

 因みに、'04年刊行のマンガショップ版(全5巻)には楠高治版と桑田次郎版の両方の最終回が掲載されています。桑田次郎版との違いは以下の通りです。

8マン めたこ.jpg●楠高治版「最終回」
・最後に使用した8マンの武器は分からず
・8マンはゴーガンに命令され助ける
・化け物となったコズマが妻ノラを襲うが8マンに助けられる
・コズマは化け物から普通の人間に戻り、コズマ夫妻は警察に捕まる
・事務所に戻るが扉を開けられず立ち去る

●桑田次郎版「最終回」
・8マンがコズマに対して秘密兵器フォノン・メーザーの使用に踏み切る
・8マンが自分の意志でゴーガンを助ける
・化け物となったコズマに妻ノラは殺される
・8マンは両拳からの電撃で化け物となったコズマにとどめを刺す
・事務所に戻らず立ち去る

エイトマン 2.jpg 一方、テレビアニメ版「エイトマン」の方は56話放映され、脚本には半村良、豊田有恒、辻真先らも関わっていて、最高視聴率35.5%(扶桑社文庫による)を記録、視聴率を落とすことなく1964〈昭和39〉年〉12月に終了していて、桑田次郎が拳銃不法所持で逮捕される前に終わっていたことになり、終わり方も、東八郎が事務所を去るとかいうのではなく、普通に終わっています。


エイトマン 1963.jpgエイトマンエ.jpg「エイトマン」●原作:平井和正●キャラクターデザイン・作画:桑田次郎●演出:大西清/佐々木治次●脚本:平井和正/辻真先(桂真佐喜)/半村良/豊田有恒/加納一朗/大貫哲義●音楽:萩原哲晶(主題歌:作詞・前田武彦/作曲・:荻原哲晶/歌・克美しげる●出演(声):高山栄/上田みゆき/原孝之/天草四郎●放映:1963/11~1964/12(全56回)●放送局:TBS
「エイトマンの歌」
作詞:前田武彦
作曲:荻原哲晶
歌:克美しげる

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どの回も楽しく突っ込めるが、この回は"偽黒星"の黒子(ホクロ)か。

まぼろし探偵 第4巻 [DVD]5_.jpgまぼろし探偵 DVD-BOX2.jpgまぼろし探偵 Blu-ray.jpg『朝を呼ぶ口笛』.jpg
まぼろし探偵 第4巻 [DVD]」['07年]「まぼろし探偵 DVD-BOX」['09年]「まぼろし探偵 Blu-ray 【甦るヒーローライブラリー 第39集】」['21年]「<あの頃映画> 朝を呼ぶ口笛 [DVD]
まぼろし探偵 t.jpgまぼろし探偵 1.jpg 日の丸新聞社の記者・黒星十郎(花咲一平)はある日自分のことを「兄貴」と呼ぶやくざ風の青年と出会う。その事を聞いた当の"兄貴"である黒猫五郎(花咲一平、二役)はまぼろし探偵 2.jpg黒星本人に成り済まして彼の給料を前借りしたりする。図に乗った"偽黒星"は、吉野博士(カワベキミオ)からロケットの書類を奪って外国に売るという計画を立てる。しかし、その頃には、少年記者・富士進(加藤弘)に偽物の存在が見抜かれていた。ままぼろし探偵 進君.jpgまぼろし探偵 3.jpgまぼろし探偵 吉永.jpgぼろし探偵(加藤弘、二役)は本物の黒星に確実なアリバイを作ってやるため、富士警部(大平透)に黒星を明日まで警視庁で預かって欲しいと要請する。富士警部は、大塚刑事(鈴木志郎)に命じて、黒星に逮捕状を出す。ロケットの書類を奪い取った偽黒星は、吉野博士を殴って気絶させ、一緒にいた娘の吉野さくら(吉永小百合)を誘拐するが―。

「まぼろし探偵」桑田次郎 昭和33年9月 少年画報
まぼろし探偵.jpgまぼろし探偵 4.jpg 「まぼろし探偵」は1959(昭和34)年4月1日から1960(昭和35)年3月27日にかけて、全52回にわたり水曜18:15-18:45に放送されたもので(第28回から日曜の朝に変更)、原作は、1957年に『少年画報』に連載された桑田次郎(桑田二郎、1935-2020/85歳没)の漫画です(原作では「日の丸新聞社」は「少画新聞」)。また、当まぼろし探偵 コミック.jpg時14歳(中学2年生)だった吉永小百合の「赤胴鈴之助」に続くテレビ出演番組としても知られています(同じく子役時代の藤田弓子の出演している)。以前は3分の1くらいしかDVD化されていませんでしたが、その後、'07年に現存するうちの計49話を収録したがDVD化が発売され、昨年['21年]さらに50話収録の Blu-ray版(オリジナルも第24話以降は前編・後編となって、それをつなげているため全39集)が発売されています(当時はもちろんモノクロだが、最近では、彩色加工版もある)。

まぼろし探偵ま.jpg この第17話「犯人黒星十郎?」は、第1話「謎の怪電波」(武田信玄の子孫の復讐劇?)、第8話「れい迷教?」(当時流行りの新興宗教批判?)などと並んで面白いとされているエピソードですが、この回に限らず、同じKRT(現TBS)で前年スタートの「月光仮面」よりは全体的に洗練されてきているのではないでしょうか。この回で言えば、黒星記者に成りすましたチンピラのやることが、給料を前借り、かつ丼の注文、紳士服や靴、テレビの購入といったやたら生活染みたものであったりとか、依然、突っ込みどころは多いのですが、それはそれでまた別に意味での愉しみと言えるでしょう。

まぼろし探偵 新聞社.jpgまぼろし探偵 大平.jpg まぼろし探偵は第1話の時から世間に周知の存在であり、富士登警部(第1話から途中まで天草四郎、途中から大平透に交代)も全幅の信頼を置いていますが(まぼろ探偵に言われて黒星記者をほとんど人権蹂躙的に逮捕してしまうくらい(笑))、そのくせ"まぼろし探偵"の正体がさっきまで目の前にいた自分の息子・進少年であることに気がつきません(主題歌の2番に「親に心配かけまいと、あっという間の早変わり」とある)。

まぼろし探偵 吉永小百合 .jpgまぼろし探偵 まぼろし号.jpg 因みに、漫画で描かれるまぼろし探偵はバイクを操りますが、テレビ版は〈まぼろし号〉というフェアレディをベースにしたクルマが愛車で、これは探偵役の加藤弘がバイクに乗れなかったために用意されたとする説がありますが、加藤弘はまぼろし号の運転も無免許で行っていたと証言しています(バイクに乗ったスチール写真もあり、DVDカバーなどに使われまぼろし探偵じ.jpgている)。結構、撮影現場って道交法の遵守とかに関してはいい加減だったのかも(この他、飛行シーンはジェット機で、これはミニチュア特撮を駆使している。特撮は、「楢山節考」('58年/松竹)などに携わった矢島信男(1928-2019/91歳没)が、ちょうどこのこの頃は松竹から東映へ移籍する時期にあたり、松竹には内緒でアルバイトで担当、松竹から注意を受けたという)。

まぼろし探偵4枚y.jpg 吉野博士の娘、進のガールフレンドのさくら役という設定の吉永小百合は、テレビ番組放映中に人気が出て忙しくなったのか、最初の頃は進と一緒に事件について考えたりしていたのに、この頃にはスタート時ほど出ずっぱりではなく、この回にしても、中盤以降で父親の吉野博士と一緒に出てきて、あっという間に誘拐されてしまいます。誘拐グループが彼女を担ぎ上げて「わっしょい、わっしょい」と大声を出して運び(祭かいな)、すぐさま、まぼろし探偵に見つかってしまう。しかし、最後、まぼろし探偵も(博士から授かった電波ピストルを持っているのだが)徒手空拳の取っ組み合い。まあ、これは「月光仮面」も、宇宙人である「ナショナルキッド」でさえ最後はそうでしたが。それにしても少年の割には強い!

まぼろし探偵 宗教.jpg 花咲一平のシーリーズ唯一の一人二役の作品で、この人の演技、観ていて楽しいです。黒星十郎のキャラクターは、後の「ウルトラQ」の戸川一平(西條康彦)に引き継がれているのではないでしょうか。黒星はよく敵方に捕まって縛られている印象があり(第8話「れい迷教?」もそうだった)、進も敵方に捕まったりしていますが(第13話「金塊輸送車」など)、さくらが敵方につかまって縛られたというイメージは浮かびません。実際のところどうだったのでしょう。
第8話「れい迷教?」

まぼろし探偵 北tpy.jpg どの回も楽しく突っ込めますが、この回の最大の突っ込みどころは、花咲一平が演じる黒星十郎が、"偽黒星"の時は右頬にマジックでつけたような大きな黒子(ホクロ)がある点ではないでしょうか。観ていて今本物が出ているのか偽物が出ているのか分かりやすくしたのでしょうが、この黒子のことを誰も気づかないというのが、進行上の"お約束"ということなのでしょう。普通だったら「黒星さん、顔にマジックがついてますよ」って誰か言うだろうけれどね(笑)。

「朝を呼ぶ口笛」1.jpg「朝を呼ぶ口笛」2.jpg 因みに、吉永小百合はラジオのデビュー作がラジオ東京(現・TBSラジオ)の「赤胴鈴之助」('57年1月-'59年2月)であるのに対し、テレビのデビュー作がこの「まぼろし探偵」('59年4月-'60年3月)だと思っていたという人がいましたが、テレビのデビュー作もKRテレビ版の「赤胴鈴之助」('57年10月-'59年3月)です。一方、映画デビューは、「まぼろし探偵」の放映が始まる前月の'59年3月に公開の松竹映画「朝を呼ぶ口笛」でした。これは新聞配達を続けながら、夜間高校へ進学することを目指している中学生の少年が、母親が病気入院したところに父親の手術が重なって、両親と幼「朝を呼ぶ口笛」4.jpgい弟妹がいる家計を支えるために、学校も新聞配達も辞めて町工場で働くことにし、夢が消え落ち込んではいたところ、新聞販売店の仲間たちの力添えや配達先の少女の励ましに支えられ、再び以前の生活に戻ることができたというもの。その主人公の少年を励ます少女役が吉永小百合で、少年は少女に淡い想いを抱くも、最後、少女は父親の転勤で大阪に行くことになるという、言わば"ボーイ・ミーツ・ガール"&"別れ"というストーリーですが、この少年を演じていたのが「まぼろし探偵」こと富士進役の加藤弘でした。映画の方では、当時14歳の吉永小百合の方が加藤弘より大人びて見え、加藤弘の方は吉永小百合に励まされる役どころということもあってか、子供っぽく見えるので、加藤弘は「まぼろし探偵」で大変身を遂げたように思いました。

まぼろし探偵 藤田.jpg藤田弓子.jpg「まぼろし探偵(第17話)/犯人黒星十郎?」●制作年:1959年●監督:近藤竜太郎●企画:神山雄二●脚本:柳川創造●原作:桑田次郎(桑田二郎)●音楽:大塚一男●出演:加藤弘/吉永小百合/大平透/利根はる恵/花咲一平/カワベキミオ/藤田弓子●放送局:KRT(現TBS)●放送日:1959/07/22(評価:★★★☆)

藤田弓子(日の丸新聞社の給仕・みち子)当時13歳
     
●「まぼろし探偵」(全52話)放映ラインアップ(関東圏)
01 まぼろし探偵カラー版 「二人のまぼろし探偵」.jpg1959- 4- 1 水 18:15-18:45 謎の怪電
02 1959- 4- 8 水 18:15-18:45 時限爆弾
03 1959- 4- 15 水 18:15-18:45 透明人間の恐怖
04 1959- 4- 22 水 18:15-18:45 狙われた408列車
05 1959- 4- 29 水 18:15-18:45 二人のまぼろし探偵
06 1959- 5- 6 水 18:15-18:45 オリオン王国の秘密
07 1959- 5- 13 水 18:15-18:45 海王星から来た少年
08 「まぼろし探偵」編集長.jpg1959- 5- 20 水 18:15-18:45 れい迷教?
09 1959- 5- 27 水 18:15-18:45 進君危うし
10 1959- 6- 3 水 18:15-18:45 山火編集長おそわる
11 1959- 6- 10 水 18:15-18:45 怪人黒マント
12 1959- 6- 17 水 18:15-18:45 日本から逃がすな
13 1959- 6- 24 水 18:15-18:45 金塊輸送車
14 1959- 7- 1 水 18:15-18:45 怪盗紅バラ男爵
15 1959- 7- 8 水 18:15-18:45 青銅の仮面
16 1959- 7- 15 水 18:15-18:45 消えた花売娘
17 1959- 7- 22 水 18:15-18:45 犯人黒星十郎?
18 1959- 7- 29 水 18:15-18:45 ニセ札団
19 「まぼろし探偵」暗殺団.jpg1959- 8- 5 水 18:15-18:45 ゆうれい島
20 1959- 8- 12 水 18:15-18:45 白狐の挑戦
21 1959- 8- 19 水 18:15-18:45 暗殺団を倒せ
22 1959- 8- 26 水 18:15-18:45 海底魔人
23 1959- 9- 2 水 18:15-18-45 まだら蜘蛛の復讐・前篇
24 1959- 9- 9 水 18:15-18-45 まだら蜘蛛の復讐・後篇
25 1959- 9- 16 水 18:15-18:45 ウランの秘密・前篇
26 1959- 9- 23 水 18:15-18:45 ウランの秘密・後篇
27 1959- 9- 30 水 18:15-18:45 Xマン?・前篇
28 1959-10- 11 日 9:00- 9:30 Xマン?・後篇
29 1959-10- 18 日 9:00- 9:30 ダイヤの秘密・前篇
30 1959-10- 25 日 9:00- 9:30 ダイヤの秘密・後篇
31 1959-11- 1 日 9:00- 9:30 クラーク東郷・前篇
32 「まぼろし探偵」七色真珠.jpg1959-11- 8 日 9:00- 9:30 クラーク東郷・後篇
33 1959-11- 15 日 9:00- 9:30 ミイラ武者の復讐・前篇
34 1959-11- 22 日 9:00- 9:30 ミイラ武者の復讐・後篇
35 1959-11- 29 日 9:00- 9:30 七色真珠・前篇
36 1959-12- 6 日 9:00- 9:30 七色真珠・後篇
37 1959-12- 13 日 9:00- 9:30 国際密輸団・前篇
38 1959-12- 20 日 9:00- 9:30 国際密輸団・後篇
39 1959-12- 27 日 9:00- 9:30 謎の仮面博士・前篇
40 1960- 1- 3 日 9:30-10:00 謎の仮面博士・後篇
41 1960- 1- 10 日 9:00- 9:30 スパイ?・前篇
42 1960- 1- 17 日 9:00- 9:30 スパイ?・後篇
「まぼろし探偵」妖鬼.jpg43 1960- 1- 24 日 9:00- 9:30 謎のジョーカー・前篇
44 1960- 1- 31 日 9:00- 9:30 謎のジョーカー・後篇
45 1960- 2- 7 日 9:00- 9:30 妖鬼現わる・前篇
46 1960- 2- 14 日 9:00- 9:30 妖鬼現わる・後篇
47 1960- 2- 21 日 9:00- 9:30 黒星故郷へ帰る・前篇
48 1960- 2- 28 日 9:00- 9:30 黒星故郷へ帰る・後篇
49 1960- 3- 6 日 9:00- 9:30 仙人沼のせむし男・前篇
50 1960- 3- 13 日 9:00- 9:30 仙人沼のせむし男・後篇
51 1960- 3- 20 日 9:00- 9:30 邪魔者は倒せ・前篇
52 1960- 3- 27 日 9:00- 9:30 邪魔者は倒せ・後篇


まぼろし探偵   吉永小百合.jpgまぼろし探偵 1シーン.jpg「ぼろし探偵」●演出:近藤龍太郎●制作:近藤栽/松村あきお●脚本:柳川創造●音楽:大塚一男/渡辺浦人/渡辺岳夫●特撮:矢島信男(ノンクレジット)●原作:桑田次郎●出演:加藤弘/天草四郎/吉永小百合/大平透/利根はる恵/花咲一平/カワベキミオ/大宮敏/藤田弓子/ウィリアム・ロス●放映:1959/04~1960/03(全52回)●放送局:KRT(現TBS)

「朝を呼ぶ口笛」3.jpg「朝を呼ぶ口笛」●制作年:1959年●監督:生駒千里●製作:桑田良太郎●脚本:光畑碩郎●撮影:篠村荘三郎●音楽:鏑木創●原作:吉田稔「新聞配達」(全国中小学生綴り方コンクール文部大臣賞受賞)●時間:62分●出演:加藤弘/織田政雄/井川邦子/鳥居博也/羽江マリ/田村高廣/瞳麗子/山内明/殿山泰司/沢村貞子/吉永小百合/田村保/吉野憲司/田中晋二/真塩洋一/土紀洋兒/井上正彦/人見修/後藤泰子/村上記代/秩父晴子●公開:1959/03●配給:松竹(評価:★★★☆)
「朝を呼ぶ口笛」v.jpg

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トラベルミステリーと歴史・民俗学ミステリーを融合させた展開は愉しめた。

『Dの複合』カッパ.jpg 『Dの複合』d1.jpg 『Dの複合』d2.jpg 「Dの複合」D1.jpg
Dの複合 (カッパ・ノベルス)』『Dの複合 (新潮文庫)』1993年フジテレビ「松本清張スペシャル Dの複合」野村宏伸/津川雅彦/いしだあゆみ
『Dの複合.jpg あまり売れない小説家・伊瀬忠隆は、天地社の雑誌「月刊 草枕」の依頼を受け、「僻地に伝説をさぐる旅」の連載を始めた。浦島太郎伝説の取材で、編集者の浜中と丹後半島の網野町を訪れるが、宿泊した木津温泉にて、警察が近くの山林を捜索しているところに遭遇する。人間の死体を埋めたという投書があったというが、のちに同じ場所からは「第二海竜丸」と記された木片が発見された。旅は網野神社から明石へと続くものの、以降、取材先の各地で、不可解な謎や奇怪な事件が立て続けに発生した。やがて浮上する奇妙な暗合。伊瀬を動かすプランの正体とは―。

 松本清張の長編推理小説で、光文社の月刊総合雑誌「宝石」に連載され(1965年10月号-1968年3月号、連載時の挿絵は山藤章二)、加筆訂正の上、1968年7月に光文社(カッパ・ノベルス)から刊行された作品です。

 木津温泉、網野町、柿本神社、淡路島、友ヶ島、淡嶋神社、三保の松原、折戸駅、松尾大社、大仁町、九重駅、館山駅、熱海市、新勝寺、三条大橋、三朝温泉、塩竈市、戸田村、網走刑務所...いずれもこの作品の関係地点です! 浦島太郎、羽衣伝説といった民俗説話を追っての旅情と、謎解きから殺人事件へと、トラベルミステリーと歴史・民俗学ミステリーを融合させた展開は飽きさせず、愉しめました(ややマニアック過ぎる部分もあってか、カッパ・ノベルス所収の際には、本筋と直接関係のない部分を中心に一部割愛したとのこと)。

 ミステリ的には、読者に対して「隠された人間関係」というものがあり、そのため最後ぎりぎりまで犯人の見当はつきません(怪しそうな雰囲気はあるが、動機がさっぱりわからない)。謎解きに興味のある読者にとっては、ややアンフェアな印象を与えるかもしれませんが、個人的にはあまり気になりませんでした(クリスティにしても誰にしても、こうしたパターンは広くある)。

 一番気になったのは、結局、壮大な復讐劇だったわけですが、ここまで手の込んだやり方をするかな(ある意味"趣味的")という印象を抱かされた点です。復讐相手をじわじわと苦しめるたいという気持ちは分からなくもないですが。

「Dの複合」D2.jpg これだけ複雑な展開の作品をドラマ化するとなるとたいへんなような気がしますが、これまで1度だけ、1993年にフジテレビ系列の「金曜エンタテイメント」枠で「松本清張スペシャル Dの複合」としてドラマ化されています。

 作家・伊瀬を津川雅彦、編集者・浜中を野村宏伸、天地社の社長・奈良林を平幹二朗が演じ、しだあゆみが演じる伊瀬の妻・「Dの複合」D3.jpg和代がかなり前面に出てきて伊瀬と一緒に謎解きをします。さすがに2時間ドラマにまとめるには登場人物が多すぎると思たのか、二宮健一と照千代が登場しないなど、原作と比べて人間関係は簡略化されています(脚本は金子成人)。

「Dの複合」D4.jpg 浜中役の野村宏伸は、津川雅彦と平幹二朗というベテラン大物俳優の間に挟まって、まずまず奮闘していたでしょうか。ただ、ラストはどうなるかと思ったら、楢林社長の最期は自殺に改変されていて、浜中は最後まで伊瀬のそばにいて、伊瀬に楢林社長を追い詰めたことをなじられるという終わり方になっています。

 先にも述べたように、壮大な復讐劇であるとともに、ここまで面倒なことやるかなというのもあって、テレビ版は復讐者に直接手は下させないように改変したために(所謂"テレビ向け改変"?)、そのマニアックな部分が逆に浮き彫りになったように思います。

「Dの複合」だい.jpg 二宮健一と照千代が登場しないというのは、原作のラストでのこの二人が緊迫感があった(装画入り!)だけに、物足りない印象があります。心中というのはテレビ向けではないということで割愛したわけではなく、あくまでもは登場人物が多すぎるために"リストラ"されてしまったのだとは思いますが。

「松本清張スペシャル Dの複合」●監督:長尾啓司●脚本:金子成人●音楽:高島正明●原作:松本清張●出演:野村宏伸/津川雅彦/いしだあゆみ/平幹二朗/森口瑤子/石丸謙二郎/沼田爆/芦川誠/大杉漣/緒口幸信●放映:1993/09/10(全1回)●放送局:フジテレビ

【1973年文庫化[新潮文庫]】

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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「松本清張ドラマスペシャル・死の発送」)

着想は面白いが、マニアックな鉄道ダイア・ミステリーになってしまった感も。

死の発送 カドカワノベルズ.jpg死の発送 角川文庫.jpg 「死の発送」d1.jpg
死の発送 (1982年) (カドカワノベルズ)』『死の発送 新装版 (角川文庫)』/2014年フジテレビ「松本清張ドラマスペシャル・死の発送」寺尾聰/向井理/比嘉愛未

 25歳にして公金5億円を横領したかどで社会を騒がせ、服役していた元N省の官吏・岡瀬正平が、7年の刑を終えて出所した。警視庁では、岡瀬正平の費消した先を調べたが、その使いぶりが乱脈過ぎたか、約1億円が使途不明のままとされていた。夕刊紙Rの編集長・山崎治郎は、部下である記者の底井武八に、岡瀬の隠し金の行方を追跡するよう命じた。山崎の意図に疑問を感じつつも、岡瀬の行動を日々張込み、尾行を続ける底井。しかし、2カ月近く経った時点で、岡瀬は福島県内の山林で死体となって発見された。犯人逮捕の報道が出ない中で、密かに単独行動を始めた様子の山崎に、底井は不審を抱く。やがて山崎は、6月15日の朝に自宅を出て以来、消息不明となり、東北本線の五百川駅近くで、ジュラルミントランクのトランク詰めの死体となって発見された。ところが、トランクの発送元の田端駅に現れた男は、トランクに詰められた被害者の山崎自身であったという。山崎は横領金を追う中で、4人の人物と会っていた。底井は、福島競馬を巡る彼らの動きに目を付け、事件の真相に迫っていく―。

 松本清張の長編推理小説で、当初は『渇いた配色』のタイトルで「週刊コウロン」に連載され(1961年4月10日号-8月21日号)、同誌休刊後、「小説中央公論」に掲載(1962年5月・10月・12月号)、加筆・訂正の上、1982年11月にカドカワ・ノベルズより刊行された作品。

 トランクを駅で発送した者が、トランクの中から死体で発見されるという着想が面白いと思いました。おそらく作者は、先にこの着想を得て、それがどうすれば起こり得るかというところからプロットを組み立てていったのではないでしょうか。ただ、その結果として、列車が3本も4本も出てくる鉄道ダイア・ミステリーになってしまい、こういうのが好きな人にはいいけれど、個人的にはややマニアックな印象を受けました(実現可能性という点でも結構際どい線か)。

 この複雑さもあってか、過去に1度しかドラマ化されておらず、その2014年5月30日にフジテレビ開局55周年特別番組として放送された「松本清張ドラマスペシャル・死の発送」(「金曜プレステージ」枠)を観ました。

 結構丁寧に作られていたように思います。使途不明金は1億円から3億円に引き上げられ、地方競馬の開催地は福島から盛岡に改変(列車の速度が上がっているためだろう)、競走馬そのものは昭和30年代には主流だった鉄道による輸送ではなく専用トレーラーでの輸送に改変されています。

「死の発送」d2.jpg 向井理が演じる記者の底井が務める出版社は「週刊ドドンゴ」となっていて(「週刊コウロン」を意識?)、一人ではなく比嘉愛未が演じる同僚記者と一緒に動いたりします。底井の上司で編集長の山崎治郎を演じる寺尾聰は、原作で犯人グループから金を強請り取ろうとする男にしては脂ぎったものが欠けているなあと思ったら、そうした欲得絡みではなく、最後までスクープ狙いの純粋な記者魂に燃えた人物像に改変されていました。従って、底井にとっての犯人追求は、記者としての自分を育ててくれた上司のための復讐の様相を呈しています。

「死の発送」d3.jpg その上司だった山崎がいつか語った「証拠」を守るために飲み込んだという武勇伝から、底井がボイスレコーダーのチップを見つけ出して事件の確証を得るというのは、完全にドラマのオリジナルです。でも、今回は山崎はすでに火葬されているので(わざわざそのシーンを入れている)、普通だった諦めるところを、馬草に潜ませたのではと着想し、それが当たったというのはやや出来過ぎの印象もあります(馬糞の中を探すシーンは割愛されている(笑))。

「死の発送」d大杉.jpg でも、全体としてはまずまずよく出来ていたドラマ化作品でした。向井理はセリフが多くてたいへんだったと後に述べていますが、確かに。でも、向いている役だったのでは。寺尾聰、大杉漣(立山代議士)、寺島進(西田調教師)といった安定した俳優陣に支えられていたのも大きいと思います。

大杉漣(1951-2018/66歳没)

「死の発送」d6.jpg「死の発送」dt.jpg「松本清張ドラマスペシャル・死の発送」●演出:国本雅広●脚本:扇澤延男●テーマ音楽:佐藤和郎●原作:松本清張●出演:向井理/比嘉愛未/寺尾聰/大杉漣/寺島進/伊藤裕子/矢柴俊博/山中崇/朝加真由美/松尾諭 /玉置孝匡/中村靖日/山崎画大/ベンガル/阪田マサノブ●放映:2014/05/30(全1回)●放送局:フジテレビ

【1984年文庫化・2014年新装版[角川文庫]】

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原作ミステリを塚本晋也風ホラー映画に改変。元木雅弘が兄弟二役を怪演。原作より上。

「双生児」d.jpg『双生児 (角川ホラー文庫』.jpg 『人間椅子 (江戸川乱歩文庫) 』.jpg 屋根裏の散歩者 文庫.jpg
双生児-GEMINI- 特別版 [DVD]」『双生児 (角川ホラー文庫)』『人間椅子 (江戸川乱歩文庫)』(「双生児」所収)『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)』(「双生児」所収)
「双生児」01.jpg 明治末期、大徳寺雪雄(本木雅弘)は、大徳寺医院の跡取りとして医師の地位と名誉、そして美しい記憶喪失の妻りん(りょう)を手にした充実した日々を送っていた。ところが、大徳寺家で不審な出来事が続き、彼の父・茂文(筒井康隆)と母・(藤村志保)が謎の死を遂げる。そんなある日雪雄は庭を散歩していると、自分と瓜ふたつの男に襲われ、古井戸に投げ捨てられた。彼を井戸に落とした男・捨吉(本木雅弘、二役)は、何くわぬ顔をして雪雄に成りすまし、大徳寺「双生児」03.jpg家の当主に収まった。捨吉は井戸の中の雪雄に、二人は実は双生児であり、捨吉は両親に捨てられて貧民窟で育ったのだと惨めな生い立ちを語り、復讐のため両親の死に関わったのだと打ち明ける。さらに、貧民窟では、りんと恋仲であったことを話す。捨吉は、井戸の中の雪雄に最低限の飲食物を与え、奇妙な関係を続ける。一方、りんも今の雪雄は捨吉ではないかと気付くが、成りすました捨吉はシラを切り続ける。必死の思いで井戸を脱した雪雄と捨吉は争い、捨吉は死に至る。生還した雪雄は、りんと新たな絆を結び、かつては蔑み、忌避していた貧民窟への往診を行う医師となっていた―。

沈黙 サイレンスs.jpg鉄男 TET.jpg鉄男 dvd.bmp 1999年に公開された、あのカルトムービー「鉄男 TETSUO」('89年)の塚本晋也監督(「シン・ゴジラ」('16年)、「沈黙-サイレンス-」('17年)[右]など俳優としても活躍しているが)による作品です。原作は、江戸川乱歩が1924(大正13)年10月に「新青年」に発表した短編小説(正式タイトル「双生児~ある死刑囚が教誨師にうちあけた話~」)で、ある種「ドッペルゲンガー小説」と言えます。

世にも怪奇な物語 影を殺した男1.jpg 因みに、自分そっくりな存在(ドッペルゲンガー)との遭遇によってアイデンティティが揺らぐというモチーフの文学作品(ドッペルゲンガー小説)の嚆矢はエドガー・アラン・ポーの「ウィリアム・ウィルソン」(1839)で、こちらはオムニバス映画「世にも怪奇な物語」('67年)の第2話「影を殺した男」[左]として、ルイ・マル監督、アラン・ドロン、ブリジット・バルドー主演で映画化されています。

「双生児」04.jpg 江戸川乱歩の原作とはずいぶん違う話になってはいますが、江戸川乱歩作品の雰囲気は出ていたように思います。登場人物が全員眉を剃っていて、それだけで乱歩的な雰囲気が出てしまうのが不思議ですが、全体を通しても映像的に成功していて、塚本晋也監督ならではの作品になっているように思いました。

 ホラー映画であり、後を引くような怖い話になるのかなと思ったけれども、最後、雪雄がこれまで忌避していた貧民窟へ往診に向かうという"いい人"になっていて、後に引きません(笑)。しいて言えば、以前に彼を見ていたはずの乞食僧(石橋蓮司)がそれを見て慄くというのが、解釈の入る部分でしょう(彼は延命治療に疑問を感じた末に、安楽死推進派に転じたとする説もあるようだが、それだと逆に怖いラストだけれども、ちょっと無理がある?)。

 原作の乱歩の真意を読み取ろうにも、原作は、ある殺人犯死刑囚が教誨師に、まだ告白していなかった殺人の告白をするという、全然違う話なので...。この死刑囚は、親からのすべての財産を相続し、美しい妻もいる兄に対し、弟の自分は何も持たざる身であることを妬ましく思い、ある日遂に兄を殺害して井戸に死体を捨て、何食わぬ顔して兄に成り代わるというもので、兄側から見ればいわば「入れ替わり怪談」のようなモチーフです。このパターンは昔からあり、ここでは兄にとって井戸が冥界への入り口になっていますが、トイレや鏡が媒介になっているものが結構あるように思います。

「双生児」05.jpg ただし、原作はどちらかと言うとホラー怪談ではなくミステリ―であり、井戸に捨てられた兄(映画で言えば雪雄の立場になるが)は上から土を盛られてもう甦ることはなく、弟である自分(捨吉の立場?)は兄の指紋を採取しておいて、それを利用して強盗殺人を犯すのですが、犯行現場にゴム手袋に写し取った兄の指紋を遺しておいたので、自分の指紋と一致するはずがなく、自分は絶対に安全だったはずが―。

 原作は、オチはケアレスミスだったわけで、主人公はそのために捕まって死刑にはなるわけですが、プロット的には「双生児」06.jpg乱歩の初期作品に多く見られる比較的軽い感じのミステリ―といったところでしょうか。映画は、完全に塚本晋也風ホラーで(貧民窟時代の捨吉やりょうらのメイクは「鉄男」のイメージを一部踏襲している)、浅野忠信がパンク風な格好で出てくるほか、田口トモロヲ、麿赤兒、竹中直人、石橋蓮司といった癖のある役者が癖のある演技を見せます。しかしながら、それらを凌駕して余るのが、雪雄・捨吉兄弟の二役を演じた元木雅弘の怪演ではなかったかと思います。原作より映画の方が上です。

りょう/藤村志保/筒井康隆/田口トモロヲ/浅野忠信/麿赤兒/竹中直人/石橋蓮司
「双生児」02.jpg

「双生児」08.jpg「双生児」09.jpg「双生児-GEMINI-」●制作年:1999年●監督・脚本:塚本晋也●製作:中澤敏明/古里靖彦●撮影:森下彰生●音楽:久石譲●原作:石川忠●時間:84分●出演:本木雅弘/りょう/藤村志保/筒井康隆/もたいまさこ/石橋蓮司/麿赤兒/竹中直人/浅野忠信/田口トモロヲ/村上淳/内田春菊/今福将雄/大方斐紗子/広岡由里子/猪俣由貴/溝口遊/金守珍●公開:1999/09●配給:東宝(評価:★★★★)

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ベラ・ルゴシの演技が作品全体を「雰囲気」のあるものにしている。

「魔人ドラキュラ」1931 1.jpg 「魔人ドラキュラ」1931 2.png  「魔人ドラキュラ」1931 3.jpg 「魔人ドラキュラ」1931 4.jpg 「魔人ドラキュラ」1931 5.jpg
魔人ドラキュラ [DVD]」['98年]/「魔人ドラキュラ [DVD]」['04年]/「魔人ドラキュラ(AR Oリング仕様)(初回生産限定) [DVD]」['12年]/「魔人ドラキュラ [Blu-ray]」['16年]/「魔人ドラキュラ 4K Ultra HD+ブルーレイ[4K ULTRA HD + Blu-ray]」['21年]
「魔人ドラキュラ」2.jpg 英国の事務弁護士レンフィールド(ドワイト・フライ)は、トランシルヴァニアの貴族ドラキュラ伯爵(ベラ・ルゴシ)に招かれてドラキュラ城を訪れる。ドラキュラはロンドンでの土地の購入を希望していた。しかし、ドラキュラの正体は伝説上の存在とされていた吸血鬼「魔人ドラキュラ」3.png.jpgであり、レンフィールドは下僕にされてしまう。ドラキュラはレンフィールドに手引きさせて船を占拠して英国に渡り、レンフィールドは「精神を病んだ」としてセワード精神病院に搬送される。修道院を棲家とすると、東欧から移住してきた高貴な伯爵として社交界に現れ、修道院の隣に居住するセワード博士(ハーバート・バーンストン)一家に接触する。セワードの娘ミーナ(ヘレン・チャンドラー)の友人ルーシー(フランシス・デイド)はドラキュラの虜になり、血を吸われて死んでしま「魔人ドラキュラ」1.jpgう。セワードの元を恩師のヴァン・ヘルシング教授(エドワード・ヴァン・スローン)が訪れ、レンフィールドが吸血鬼になっていることを告げるが、セワードは吸血鬼の存在を信じようとはしない。レンフィールドも「自分を病院から遠ざけろ」と訴えるが、セワードは聞き入れずに病室に戻してしまう「魔人ドラキュラ」4.jpg。その夜、ドラキュラはセワード邸に忍び込み、ミーナを襲い吸血する。その日以来、ミーナは悪夢にうなされるようになり、ヘルシングは彼女の婚約者ハーカー(デヴィッド・マナーズ)と共に屋敷を訪れるが、そこにドラキュラが見舞いに訪れる。ミーナはドラキュラの来訪を喜ぶが、ドラキュラの姿が鏡に映らないのを見たヘルシングは、ドラキュラこそが吸血鬼であると確信する。ヘルシングは、ドラキュラを寄せつけないためにミーナの部屋をトリカブトで埋め尽くすが、吸血鬼の血が入ったミナはそれを嫌がり、彼女の身を案じるハーカーもヘルシングに反発する。ドラキュラは再びセワード邸に忍び込み、ミーナを連れ去ってしまう。同じ頃、レンフィールドが精神病院から脱走してドラキュラの元に向かい、ヘルシングとハーカーは彼を尾行する。これによってドラキュラが隠れ家にしていた修道院まで二人が来てしまい、ドラキュラはレンフィールドを裏切ったと見なし殺害するも、夜明けが近付いてきていたためミーナを連れて慌てて地下墓所の棺に逃げ込む。地下墓所で二人は棺で眠るドラキュラを発見、ヘルシングはそばにあった棒を折ってドラキュラの心臓にその尖った先端を刺して彼を殺し、ハーカーはミーナを取り戻す―。

吸血鬼ドラキュラ (角川文庫).jpg「魔人ドラキュラ」 11.jpg トッド・ブラウニング監督の1931年2月公開作で、ブラム・ストーカー原作『吸血鬼ドラキュラ』の初の正規映画化作品(先行するF・W・ムルナウ監督の「吸血鬼ノスフェラトゥ」('22年/独)は非公式に映画化された作品)。世界的にヒットし、戦前のホラー映画ブームを巻き起こすとともにユニバーサルは怪奇メーカーとして名を馳せ、ドラキュラ役で主演したベラ・ルゴシはこの1作で世界に知られる怪奇スターとなりました。ドラキュラ役は当初「オペラ座の怪人」('25年/米)のロン・チェイニーに内定していましたが、チェイニーが1930年に47歳で急死し 、ブロードウェイ版舞台でドラキュラを演じたハンガリー出身の俳優ベラ・ルゴシ(日本などと同じくハンガリー語圏では名前を「姓・名」の順で表記するため、母国ハンガリーでは映画監督のタル・ベーラなどと同様、ルゴシ・ベーラとなる)が、たまたま別の舞台に出演するためにロサンゼルスを訪れていたこともあって、役が回ってきたのです。ベラ・ルゴシはそれまで、俳優として長いキャリアがありながら、ハンガリー訛りが強く英語下手のため、米国では役に恵まれずにいましたが、この後はエドガー・アラン・ポー原作の「モルグ街の殺人」('32年/米)でのマッドサイエンティスト役(原作にない、ほとんどベラ・ルゴシのために作ったような役)、ボリス・カーロフ(ベラ・ルMurders in the Rue Morgue 1932 1.jpegThe Black Cat. (1934).jpgゴシが「フランケンシュタイン」('31年/米)への出演を台詞のない厚いメイクの怪物役を拒否して降りために脇役俳優だった彼に役が回ってきて、彼の当たり役となった)と共演した「黒猫」('32年/米)など、怪奇映画の出演オファーが次々来るようになります。
ベラ・ルゴシ in「モルグ街の殺人」('32年/米)/「黒猫」('32年/米)with ボリス・カーロフ

「魔人ドラキュラ」 7.jpg 原作との違いは幾つもありますが、まず、ドラキュラ城を訪れるのが弁護士のジョナサン・ハーカーではなく、原作において精神病院の院長のジョン・セワード博士の患者であるレンフィールドになっていて(ドラキュラ伯爵のロンドンでの土地購入手続きのために赴くのは原作と同じ。そして映画でも結局ドラキュラ伯爵にやられて結果的には原作のようにセワードの患者になるのだが、原作では最初からセワードの精神病院にいる患者となっている)、ハーカーの方はずっとロンドンにいることになっています。ミーナがセワード博士の娘であるというのも映画のオリジナルで、原作では、ハーカーとセワードはかつてはミーナを巡っての恋のライバルで、今は友人みたいな関係でさほど年齢差が無いのですが、映画ではセワードはミーナの父親であるため、初老の医師となっています。

「魔人ドラキュラ」 8.jpg それと、これが一番原作と異なる点かもしれませんが、原作ではドラキュラ伯爵はロンドンにおいては影の如く行動し、作「魔人ドラキュラ」 6.jpg中の主要登場人物の前に姿を見せないのに対し、このベラ・ルゴシ演じるドラキュラ伯爵は、社交好きなのか(笑)社交の場も含め主要登場人物の前によく姿を現し、わざわざミーナのお見舞いにまで来たりして、そこで鏡に映らないことで自らが吸血鬼であることがヘルシング教授にバレてしまったりしています。

「魔人ドラキュラ」9.jpg このように物語は序盤はドラキュラ城で、中盤以降はほとんどセワード邸の中で話が進んでいきますが、セワード邸ではドラキュラ伯爵vs. セワード博士の"直接対決"があったりして、互いに"ガンの飛ばし合い"をしたりします(ヤンキーではない。ドラキュラ伯爵がセワード博士に催眠術をかけようとして失敗する、といった場面などがあったりするということなのだが)。

「魔人ドラキュラ」 5.jpg でも、夜会服をまとったドラキュラ伯爵の妖しく、不遜で、優雅な姿や立ち振る舞いは厳かかつ華麗であり(時折ユーモラスに見えるチャーミングさも)、作品全体を「雰囲気」のあるものとしており、当時49歳だったベラ・ルゴシの演技がその時代「映画の中で最もユニークで強力な役」と称賛されたのも頷けます。

 古典に対する好みは人さまざまだと思いますが、ドラキュラ映画ファンならずとも一度観ておいて損はない作品かと思います。

「魔人ドラキュラ」 105.jpg「魔人ドラキュラ」●原題:DRACULA●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:トッド・ブラウニング●製作:トッド・ブラウニング/カール・レムリ・jr●脚本:ギャレット・フォート●撮影:カール・フロイント●音楽:フィリップ・グラス (1999年)●原作:ブラム・ストーカー●時間:75分●出演:ベラ・ルゴシ/ヘレン・チャンドラー/デヴィッド・マナーズ/ドワイト・フライ/エドワード・ヴァン・スローン/ハーバート・バーンストン/フランシス・デイド/ジョアン・スタンディング/チャールズ・ジェラード●日本公開:1931/10●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ(評価:★★★★)

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