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基本的には黒澤和子氏の著作であり、新書化によってそのことがよりはっきりした。

黒澤明 夢は天才である.jpg 黒澤明―生誕100年総特集.jpg黒澤明の選んだ100本の映画.jpg黒澤明が選んだ100本の映画 (文春新書)』〔'14年〕
黒澤明―生誕100年総特集 (KAWADE夢ムック 文藝別冊)』〔'10年/KAWADE夢ムック〕
黒沢明「夢は天才である」』〔'99年〕

 黒澤明(1910-98)が自ら選んだ100本の映画作品にコメントしたものを、黒澤明の長女である著者が集めた、本書のオリジナル「黒澤明が選んだ100本の映画」は、黒澤明が亡くなった翌年の'99年の「文藝春秋」4月号に掲載され、同年に単行本化された『夢は天才である』('99年/文藝春秋)に収録され、更に『文藝別冊 黒澤明―生誕100年総特集』('10年/KAWADE夢ムック)にも再録されています。

 今回の新書化にあたっては、黒澤明の映画に対するコメントはそのままにして、著者が父・黒澤明から聞いていたことを新たに添え書きし、各作品のストーリーやデータを加え、スチール写真も併せて掲載しています。「黒澤明が選んだ100本の映画」の部分に特化して新書化しており、読み易いことは読み易いし、 "KAWADE夢ムック"版に比べ入手し易くなった点では有難いけれど、あまりにさらっと読めてしまって、ややもの足りない印象も受けます。

 監督1人につき1作品に限定しており、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男などの日本映画作品も入っていますが、8割方は外国映画です。1910年代の作品から90年代の作品までありますが、一番多いのは50年代(18本)、60年代(16本)、70年代(16本)、80年代(21本)辺りで、一般的に映画ファンにお馴染みの作品が多く、例えば50年代の外国映画であれば、「道」「大地のうた」「大人は判ってくれない」「勝手にしやがれ」など、よく知られている名匠・巨匠の作品をカバーしています。

 ただ、この100本が、黒澤明が選んだ「ベスト100」かと言うと、必ずしもそうではないようで、あくまで著者の黒澤和子氏が選んだものであるようです(タイトルからは黒澤明がベスト100を選んだようにもとれるが)。また、コメントの中に、父が娘に映画について語る際のそうした状況的要素、或いは娘が父の言葉を思い出す際の懐かしさを込めた要素というのも含まれているように思われ、特に後から書き加えられた部分は、黒澤明の没後10数年も経てのものであるため、資料的価値という点でどうかなという気もします。

 黒澤からファンとしてその影響を受けたジョージ・ルーカス(1944年生まれ)や、「」('90年)をプロデュースしたスティーヴン・スピルバーグ(1946年生まれ)、その「夢」に出演したマーティン・スコセッシ(1942年生まれ)のうち、取り上げられているのは黒澤が年下ながら敬愛していたというマーティン・スコセッシの作品のみで、それも「キング・オブ・コメディ」('83年)を取り上げているのが興味深いですが、こうした取捨選択が純粋に黒澤自身によるものなのか、著者である和子氏によるもの(芸術映画指向?)であるのかがよく判らないというのが、やや引っ掛かりました。

 そうした前提条件の不確かさをとりあえず置いておくならば、黒澤が自分と全く作風の異なる監督の映画を結構褒めている点が興味深かったですが、そうした中で、ウディ・アレンについて、「すごいインテリだなという感じがして、㒒の映画は単純だから嫌いだろうと思ていた」ら、「リチャード・ギアがアレンはボクのファンだと教えてくれて、うれしかった」という話は微笑ましく感じました(作風の異なる監督からファンだと言われると尚更のこと強く嬉しさを感じるのか?)。

 基本的には黒澤和子氏の著作であり、新書化によってそのことがよりはっきりしたとも言えるかも。

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「心配性で淋しがり、心やさしい泣き虫」だった黒澤。「家庭ではいいパパだった」的トーンか。

回想 黒澤明.jpg回想 黒澤明 (中公新書)』  黒澤 明 「夢」1.jpg夢 [DVD]

黒澤明2.jpg 黒澤明(1910-1998/享年88)の長女である著者が、『黒澤明の食卓』('01年/小学館文庫)、『パパ、黒澤明』('00年/文藝春秋、'04年/文春文庫)に続いて、父の没後6年目を経て刊行した3冊目の"黒澤本"で、「選択する」「反抗する」「感じる」「食べる」「着る」「倒れる」など24の動詞を枕として父・黒澤明に纏わる思い出がエッセイ風に綴られています。

 本書によれば、外では「黒澤天皇」として恐れられていた父であるけれども、実はそういう呼ばれ方をするのを本人は最も嫌っていて、気難しい面もあるけれど、「人間くさくて一直線、心配性で淋しがり、心やさしい泣き虫」だったとのこと。孫と接するとなると大甘のおじいちゃんで、相好を崩して幸せそうだったとか、実の娘によるものであるということもあって、「家庭ではいいパパだった」的なトーンで貫かれている印象も受けなくもありません。微笑ましくはありますが、まあ、男親ってそんなものかなとも(著者が意図しているかどうかはともかく、読む側としてはそれほど意外性を感じない)。

 でも、宮崎駿監督の「魔女の宅急便」('89年/東映)を夜中に観て、翌日、目を腫らして、「すごく泣いちゃったんだ。身につまされたよ」と、ポツリと言っていたとかいう話などは、娘ならではエピソードかもしれません。晩年、小津安二郎監督の作品をビデオで繰り返し見ていたとのことで、肉体的な労力を減らして、良い作品を撮ろうと勉強していたのではないかとのことです。

 著者自身、「夢」('90年/黒澤プロ)以降、衣装(デザイナー)として黒澤作品や小泉堯史、山田洋次、北野武、是枝和裕などそれ以外の監督の作品の仕事をしていて、黒澤の晩年の作品に限られますが、家庭内だけでなく、撮影の現場や仕事仲間の間での娘の目から見た黒澤監督のことも描かれており、役者やスタッフを怒鳴り散らしてばかりいるようなイメージがあるけれども、実は結構気を使っていたのだなあと(役者の躰に触れてまでの演技指導をすることはなかったという。役者のプライドを尊重していた)。ただ、これも、著者の父に対する世間の「天皇」的イメージを払拭したいとの思いも半ば込められているのかも。

黒澤 明 「夢」2.jpg黒澤 明 「夢」3.jpg 著者が最初にアシスタントとして衣装に関わった「夢」は(衣装の主担当はワダエミ)、黒澤明80歳の時の作品で、「影武者」('80年)、「乱」('85年)とタイプ的にはがらっと変わった作品で比較するのは難しいですが、初めて観た時はそうでもなかったけれど、今観るとそれらよりは面白いように思います。80歳の黒澤明が少年時代からそれまでに自分の見た夢を、見た順に、「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨黒澤 夢 01.jpg士」「鬼哭」「水車のある村」の8つのエピソードとして描いたオムニバス形式で、オムニバス映画というのは個々のエピソードが時間と共に弱い印象となる弱点も孕んでいる一方で(「赤ひげ」('65年)などもオムニバスの類だが)、観直して観るとまた最初に観た時と違った印黒澤 明 「夢」水車2.jpg象が残るエピソードがあったりするのが面白いです(小説で言うアンソロジーのようなものか)。個人的には、前半の少年期の夢が良かったように思われ、後になるほどメッセージ性が見え隠れし、やや後半に教訓めいた話が多かったように思われました。全体として絵画的であるとともに、幾つかのエピソードに非常に土俗的なものを感じましたが、最初の"狐の嫁入り"をモチーフとした「日照り雨」は、これを見た時に丁度『聊齋志異』を読んだところで、「狐に騙される」というのは日本だけの話ではないんだよなあみたいな印象が、観ながらどこかにあったのを記憶しています。

 黒澤明はその後、「八月の狂詩曲」('91年)「まあだだよ」('93年)を撮りますが、85歳の時に転倒してから3年半は寝たきりで、結局そのまま逝ってしまったとのこと(老人に転倒は禁物だなあ)。黒澤作品って、「どですかでん」('70年)以降あまり面白くなくなったと言われますが(そうした評価に対する、自分は自分の年齢に相応しいものを撮っていうのだという黒澤自身の考えも本書に出てくる)、晩年に作風の変化が見られただけに、もう何本か撮って欲しかった気もします。

黒澤 夢 011Z.jpg「夢」●制作年:1990年●監督・脚本:黒澤明●製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ●製作:黒澤久雄/井上芳男●製作会社:黒澤プロ●撮影:斎藤孝雄/上田正治●音楽:池辺晋一郎●時間:119分●出演:寺尾聰/中野聡彦黒澤 明 「夢」水車.jpg/倍賞美津子/伊崎充則/建みさと/鈴木美恵/原田美枝子/油井昌由樹/頭師佳孝/山下哲生/マーティン・スコセッシ/井川比黒澤明 夢 0.jpg佐志/根岸季衣/いかりや長介/笠智衆/常黒澤明 夢 dvd.jpg田富士男/木田三千雄/本間文子/東郷晴子/七尾伶子/外野村晋/東静子/夏木順平/加藤茂雄/門脇三郎/川口節子/音羽久米子/牧よし子/堺左千夫●公開:1990/05●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

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「用心棒」('61年/東宝)を分かり易く立体的に解明。改めて観直した気分になれる。

黒澤明と「用心棒」都築.jpg  黒澤明 用心棒 09.jpg 用心棒D.jpg「用心棒」
黒澤明と『用心棒』―ドキュメント・風と椿と三十郎』(2005/11 朝日ソノラマ)

用心棒 黒澤 三船 ロケ.jpg 都築政昭(1934- )氏の『黒澤明と「七人の侍」』('99年/朝日ソノラマ、'06年/朝日文庫)、『黒沢明と『赤ひげ』―ドキュメント・人間愛の集大成』('00年/朝日ソノラマ)、『黒沢明と『天国と地獄』―ドキュメント・憤怒のサスペンス』('02年/朝日ソノラマ)、『黒沢明と『生きる』―ドキュメント心に響く人間の尊厳』('02年/朝日ソノラマ)に続く黒澤作品"ドキュメント"シリーズの第4弾で、今回は「用心棒」('61年/東宝)を徹底解明しています。

 何が"ドキュメント"なのかと言うと、本書で言えば、ます第1章で、どうして「用心棒」という傑作が生まれ、それはどの部分が革新的であり、そこに至るまでにどのような道を辿ったのかを概観し、更に第2章で、シナリオ、セット、カメラ、殺陣、配役、音楽、効果など各論に分けて、投じられた労力やなされた工夫が詳説されています。

黒澤明と「用心棒」18.JPG そして、続く第3章、第4章では、映画の展開に沿って一場面ずつを再現し、それについて解説されていて、写真などもあって、今まさに映画を観ているようにその面白さが反芻されるとともに、その中でまた、使われた効果やとられた工夫などが解説されていて、そうした意味でも"ドキュメント"であると言えます。

黒澤明と「用心棒」16.JPG 写真などが解説に沿ったものを使われており(「逆手不意討ち斬りの秘法」なんて、"分解写真"みたいで分かり易いし楽しい)、また、黒澤監督自身や出演者の声なども織り交ぜられていて、まさに立体的な構成であると言えます。

椿三十郎%20三船 仲代.jpg 最終章を、続編にあたる「椿三十郎」の解説に当てていて、これも最後の"噴血"決闘シーンに纏わる話などは興味深かったです。海外の映画人の間では、「用心棒」の評価が圧倒的に高くてリメイクされたりしているのに対し、「椿三十郎」には全く海外からは触手が動かないそうですが(日本ではリメイクされたけれど)。
「椿三十郎」('61年/東宝)

i黒澤明 用心棒M63.jpg黒澤明と「用心棒」17.JPG 改めて「用心棒」はスケールの大きな作品だったなあという印象を持ちました。舞台となる「馬目(まのめ)の宿(しゅく)」のセットだけで当時で映画2本分の製作費に当たる三千万円を超え(俯瞰ショットがあるため全戸の屋根を葺き、裏側から内側まで全部作った)、それはリアリズムを追求したものではあるが、道幅は時代考証にとらわれず通常の倍以上広くとったとのこと、それにより四つ辻での対抗勢力同士の十三人の刺客%20工藤栄一.jpg迫力ある攻防が可能になったわけで、クソリアリズムに陥らないところが黒澤明の発想の自由度の高さだったのだなあと。確かに言われてみれば、道幅、矢鱈広いような感じがします。工藤栄一監督の「十三人の刺客」('63年/東映)などと比べてみるとそれが分かるのでは(「十三人の刺客」は殆ど"隘路"での斬り合いみたいになっている)。

「十三人の刺客」('63年/東映)

用心棒 三船.jpg また、シナリオについては、最初から三十郎役に三船敏郎を想定して書かれたもので、黒澤は三船のことを、「先ず、とてもスピーディに演技する事、大変ハイカラな演技をするがそれが全く板についている点、日本人には珍しく芝仲代達矢 卯之助.jpg居気が旺盛な事、顔面の表情も身体の表情も日本人離れして豊かな事、等だと思う」(「三船君について」(雑誌「映画ファン」))と当初から絶賛しています。一方の卯之助役の仲代達矢の方は、黒澤は「俺は仲代達矢は嫌いだ」と当初は言っていたのが(仲代達矢は演出家の言うことをきかない俳優だという印象があったらしい)、仲代達矢の作品を観て言っているんですかと助監督に言われ、やがて黒澤の方から「仲代君どうだろう」と言ってきたということです(本書によれば、三十郎と卯之助は「野良犬とヘビだ」と、黒澤はイメージを伝えたという)。

 こうしたエピソードも楽しいし、何よりも第3章、第4章の場面解説がいいです。シリーズの他の本もそうですが、読んだだけで、改めてもう一度作品を観直した気分になれる、加えて新たな発見や薀蓄も得られる一冊です。

「用心棒」●制作年:1961年●監督:黒澤明●製作:田中友幸/菊島隆三●脚本:黒澤明/菊島隆三●撮影:宮川一夫●音楽:佐藤勝●剣道指導:杉野嘉男●時間:110分●出演:三船敏郎(桑畑三十郎)/仲代達矢(新田の卯之助)/東野英治郎(居酒屋の権爺)/河津清三郎(馬目の清兵衛)/山田五十鈴(清兵衛の女房おりん)/太刀川寛(清兵衛の倅与一郎)/志村喬(造酒屋徳右衛門)/藤原釜足(名主左多衛門)/夏木陽介(百姓の小倅)/山茶花究(新田の丑寅)/加東大介(新田の亥之吉)黒澤 明 「用心棒」3.jpg/渡辺篤(桶屋)/土屋嘉男(百姓小平)/司葉子(小平の女房ぬい)/沢村いき雄(番屋の半助)/西村晃(無宿者・熊)/加藤武(無宿・瘤八)/藤田進(用心棒・本間先生)/中谷一郎(斬られる凶状持)/堺左千夫(八州周りの足軽)/谷晃(丑寅の子分・亀)/羅生門綱五郎(丑寅の子分・閂(かんぬき)/ジェリー藤尾(丑寅の子分・賽の目の六)/清水元(清兵衛の子分・孫太郎)/佐田豊(清兵衛の子分・孫吉)/天本英世(清兵衛の子分・弥八)/大木正司(清兵衛の子分・助十)●劇場公開:1961/04●配給:東宝●最初に観た場所:高田馬場パール座(81-03-23)(評価★★★★☆)

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