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大人のアスペルガー症候群について分かり易く解説した入門書。

大人のアスペルガー症候群.jpg 『大人のアスペルガー症候群 (こころライブラリー イラスト版)』(2008/08 講談社)

 自分では一生懸命頑張っているつもりなのに、上司や同僚から「仕事ができない」「常識や礼儀が身についていない」と批判されるのが、アスペルガー症候群の人に多い悩みであり、職場で良好な人間関係が構築できず、勤め先を転々として自信喪失になりケースも多いとのことですが、本書は、こうした大人のアスペルガー症候群について分かり易く解説した入門書です。

 最初にアスペルガー症候群の3つの特性(コミュニケーションの特性、社会性の時性、想像性の特性)を「会話ができているようで、できていない」「社会性がなく、失礼な言動をする」「想像力に乏しく、応用がきかない」と解説したうえで、大人になってからの問題点として、「人にあわせられない疎外感」「職場に定着できない無力感」「誤解と非難がもたらす劣等感」というように展開して、それぞれを丁寧に解説しています。

 「疎外感」「無力感」「劣等感」と並ぶと何だかネガティブな印象を受ける人もいるかもしれませんが、自分が大人になるまでアスペルガー症候群であることに気付かない人もいるわけで、アスペルガー症候群の「サバン症候群」的傾向ばかりを強調した本よりも、現実対応にウェイトを置いている点で信頼でき、また実際的でもあります。

 また、そうした自分が大人になるまでアスペルガー症候群であることに気付かない人のために、「疎外感」のところでは、子ども時代は、「少数の友達とだけ仲が良かった」「いじめにあい、人間関係に悩んだ」、「無力感」のところでは、学生時代「天才肌で、得意科目に自信があった」「言葉使いの悪さをよく注意された」などといった振り返りチェックもあります。

 「劣等感」のところの冒頭に「家族が障害を認めないことに苦しむ」とありますが、アスペルガー症候群の疑いが持たれる人が家族や身近な周囲にいる人にも参考になるかと思います。

 そのうえで、アスペルガー症候群は支援を受けると安定するものであり、そのためにはどうしたらよいかが書かれていますが、本書が全体として、アスペルガー症候群をよく知らない一般の人も含めて読者ターゲットにしているためか、この部分に割いているページ数はさほど多くなく、「障害手帳や福祉手帳は取得できるのか」といった手続き的な内容に終始してしまったのが(監修者の一人が支援・療育において日本の第一人者である佐々木正美氏であるとを思うと)若干もの足りませんでしたが、まず、本人や周囲の人のアスペルガー症候群に対する自己認識や理解を深めることを狙いとした本と見るべきなのでしょう。イラスト等も多く、平易に書かれています。

 解説で、概念図として、「発達障害」という概念の中に「AD/HD」、「LD」、その他として「広範性発達障害」を置き、その「広範性発達障害」の中に「自閉症」と「アスペルガー症候群」を置いていますが、これが現在のオーソドクッスな捉え方なのだろなあ(アスペルガー症候群は関連する発達障害の特性を併せ持つことが付記されている)。

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入門書として分かり易く書かれているが、ちょっと「天才」たちの名前(&エピソード)を挙げ過ぎなのでは?

アスペルガー症候群1.JPGアスペルガー症候群 幻冬舎新書.jpg 『アスペルガー症候群 (幻冬舎新書 お 6-2)』['09年]

 アスペルガー症候群の入門書として基本的な部分を網羅していて、記述内容も(一部、大脳生理学上の仮説にも踏み込んでいるが)概ねオーソドックス、既に何冊か関連の本を読んで一定の知識がある人には物足りないかもしれませんが、純粋に入門書として見るならば分かり易く書かれていると思いました。

 以前に著者の『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』('04年/PHP新書)を読んで、例えば「演技性パーソナリティ障害」では、チャップリン、ココ・シャネル、マーロン・ブランドの例を挙げるなど各種人格障害に該当すると思われる有名人を引き合いにして解説していたのが分かりよかったのです。

 ただ、今回気になったのは、読者がよりイメージしやすいようにとの思いからであると思われるものの、ビル・ゲイツ、ダーウィン、キルケゴール、ジョージ・ルーカス、本居宣長、チャーチル、アンデルセン、ウィトゲンシュタイン、アインシュタイン、エジソン、西田幾多郎、ヒッチコック...etc.と、ちょっと「天才」たちの名前(&エピソード)を挙げ過ぎなのではないかと。

 これも以前に読んだ、正高信男氏の『天才はなぜ生まれるか』('04年/ちくま新書)などは、ハナから、「天才」と呼ばれた人には広義の意味での学習障害(LD)があり、それが彼らの業績と密接な関係があったという主張であって、その論旨のもと、エジソン(注意欠陥障害)、アインシュタイン(LD)、レオナルド・ダ・ヴィンチ(LD)、アンデルセン(LD)、グラハム・ベル(アスペルガー症候群)、ウォルト・ディズニー(多動症)といった偉人の事例が出てくるわけですが、本書は一応「入門書」という体裁を取りながらも、アスペルガー症候群に関して同種の論を唱えているようにも思われました。

 勿論、アスペルガー症候群の子どもの強み、弱み共々に掲げ、強みを伸ばしてあげる一方で、社会性の獲得訓練などを通して弱みを補うことで、大人になって自立できるように養育していく努力の大切さを説いてはいるのですが、これだけ「天才」の名が挙がると、(話としては面白いのだが)読んだ人の中にはそっちの方に引っ張られて、子どもに過剰な期待し、現実と期待の差にもどかしさを感じるようになる―といったことにならないかなあ(まあ、養育経験者はまずそんなことにはならないだろうけれど、一般の人にはやや偏ったイメージを与えるかも)。

 自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害の専門家や臨床医が書いた入門書や、或いはこの分野の権威とされる人が監修したガイドブックなどにもエジソン、アインシュタインなどはよく登場するわけですが、本書の場合、冒頭から「本書を読めば、テレビでよく見かける、頭がもじゃもじゃのあの先生も、今をときめく巨匠のあの先生も、ノーベル賞をとったあの先生も、このタイプの人だということがおわかり頂けるだろう」といったトーンです。

益川敏英.jpg 結局、この3人の内の最後の人などは、本文中に物理学者・益川敏英氏として登場し、アスペルガー症候群特有のエピソードが紹介されたりもしているのですが、確かに、あの人のノーベル賞受賞会見などを見て、ぴんとくる人はぴんときたのではないかと思います(その意味では、分かりよいと言えば分かりよいのだが...)。
 ただ、一方で、著者自身が直接益川氏を診たわけではなく、従って、メディアを通しての著者個人の"見立て"に過ぎないとも言えます(前著『境界性パーソナリティ障害』('09年/幻冬舎新書)では、「依存性パーソナリティ」の例として某有名歌手を取り上げるなどしていた)。

 解説部分がオーソッドクスなテキストである分、こうした事例の紹介部分は本書に"シズル感"をもたらしていますが、そこが著者の一番書きたかったことなのではないかな(この著者には、ある意味、"作家性"を感じる。同じようなことを感じる精神科医は前述の正高信男氏をはじめ、他にも多くいるが)。

 著者自身にもその自覚があるからこそ「アスペルガー症候群入門」とか「アスペルガー症候群とは何か」といったタイトルを使わず、本書を単に「アスペルガー症候群」というタイトルにしているのではないでしょうか。

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小学校5年生の光君とその周囲。とり上げるべきテーマの多い年代。

光とともに8巻.jpg 『光とともに... (8)』 〔'05年〕

 '05(平成17)年5月刊行のシリーズ第8巻(「for Mrs」'04(平成16)年〜'05(平成17)年発表)で、主人公の自閉症児・光君は小学校5年生の冬を迎えています。
 このシリーズの第3巻で光君は小学校4年になり、作者はその後しばらく小学生の彼とその周辺を描き続けていますが、それだけ小学校高学年という年代とそれを取り巻く問題については、とり上げるべきテーマも多いのだと思います。

 このシリーズの良いところは、親や教師が、主人公を通して成長し変化していくのがよくわかるところです。
 周囲にはなかなか変わらない人もいますが、それを単なる善玉・悪玉の物語にせず、われわれをとりまく社会の問題として考えなければならないことを教えてくれるという点でも、優れていると思います。

 療育支援の具体的な方法などもわかりやすく示されていますが、巻が進むにつれて、療育の現況に対する問題提起も出てきて、作者の意欲が感じられます。
 両親も、いろいろな人々の励ましや支援を受けることで、自分の子供のことだけでなく、他者へのまなざしも変化していきますが、その両親の他の子どもへの気遣いがある事件の発見につながり、そこでは施設の閉鎖性、暴力の連鎖、問題事実をやり過ごすネグレクトといった深刻な問題が、善意の内部告発という今日的テーマと併せて描かれています。
 以前作者は「漫画にはいといろと制約がある」という発言をしていましたが、これらの描き方には、作者の描かずにはおれないという思いが感じられます。

 一方で、個性の明確化、友との別れ、異性への意識といったこの年代の子どもの世界や、子の進路を意識し始めた親同士の交流と確執も描かれています。
 一種のリベンジ・ファクターで子を受験に駆りたてる親もいれば、1年先を見通すのもたいへんな障害児の親もいる...。
 作者のそれらを包含するような視線が、そのまま、子もそれぞれに違えば親もそれぞれに違うということを認め合うことの大切さを伝えているような気がします。

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専門的な内容を含みながらも入手しやすい本。特に小中学校の教育現場の人に読んで欲しい。

発達障害の子どもたち.jpg 『発達障害の子どもたち (講談社現代新書 1922)』 ['07年]

発達障害の豊かな世界.jpg 発達障害の子どもたちの療育に長く関わってきた著者による初めての新書で、最初に出版社から新書を書かないかと誘われたときは、既に発達障害の豊かな世界』('00年/日本評論社)という一般向けの本を上梓しており、また、著者自身の臨床に追われる殺人的なスケジュールのため逡巡したとのことですが、外来臨床で障害児を持つ親と話しているうちに、まだまだ本当に必要な知識が正しく伝わっていないのではないかとの思いを抱き、改めて、「発達障害に対する誤った知識を減らし、どのようにすれば発達障害を抱える子どもたちがより幸福に過ごすことができるようになるのか、正しい知識を紹介する目的」(46p)で本書を書いたとのこと。

 一般書でもあるということで、最新の脳科学的な見地など、読者の知的好奇心に応えるトピックも盛り込まれていますが、メインである発達障害に関する記述(発達障害を、認知全般の遅れである「精神遅滞・境界知能」、社会性の障害である「広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)」、ADHDやLDなどの所謂「軽度発達障害」、そして「子どもの虐待」にもとづく発達障害症候群の4つのグループに分けてそれぞれ解説)については、手抜き無しの密度の濃い内容です(そのため、専門用語に不慣れな初学者にはやや難しい部分もあるかも)。

 中でも、「第4の発達障害」と言われる「虐待による障害」は、著者が最近の臨床を通して注目している点であり、学童を中心とする被虐待児の8割に多動性行動障害が見られたという報告も本書で紹介されていますが、一般的な広汎性発達障害やADHDに比べ、器質的な障害が明確に見られることが多く、また、ADHDの現れ方も異なるため、治療や療育のアプローチも異なってくるなど、対応の難しさが窺えます。

 一方で、実際の小中学校などの教育現場で、こうした児童が学究崩壊を引き起こす原因となっていることも考えられ、純粋なADHDであれば「軽度発達障害」として対応すべきであるし、仮に虐待が原因の"ADHD様態"であれば、家庭環境との相関が高いことが考えられ、これはこれで、単に「躾け問題」として扱うのではなく、「障害」としての知識と対応が必要になるかと思いました(解離性障害などを併発していないか、といったチェックが出来る教師やスクールカウンセラーが、はたしてどれだけいるだろうか)。

 誤った知識から自らが偏見に囚われていることはないか、障害児を持つ親たちがそれをチェックするためにも読んで欲しい本ですが、専門的な内容を含みながらも新書という入手しやすいスタイルで刊行されたわけで、今まで「発達障害」にあまり関心の無かった多くの人にも、特に小中学校の教育現場にいる人に読んでもらいたい本であり、その思いを込めて星5つ。

《読書MEMO》
●(PTSD、フラッシュバックなど)強いトラウマ反応を生じる個人は、(脳機能の器質障害もあるが)もともと扁頭体が小さい。マウスなどの実験により、小さい扁頭体が作られる原因は被虐体験らしいことが現在最も有力な説となっている。(37p)
●注意欠陥多動性障害(ADHD)と広汎性発達障害の一群であるアスペルガー障害との併発は、より重大な問題である「社会性の障害」の方が優先されるため、注意欠陥多動性障害の症状とアスペルガー障害の症状との両者があれば、「多動を伴ったアスペルガー障害」という診断になる。(42p)
●適切な特別支援教育を持ってきちんと就労し、幸福な結婚と子育てが可能になった者と、その逆の道を辿った者とその道のりを見ると、発達障害の適応を決めるものは実は「情緒的なこじれ」であることが見えてくるのではないか。(59p)
●自閉症の認知の特徴...①情報の中の雑音の除去が出来ない ②一般化・概念化という作業が出来ない ③認知対象との間に心理的距離が持てない(79p)
―「遠足の作文を書きましょう」という課題を与えられてパニックに。遠足といっても、どこが遠足なのかわからない(学校に集まって、バスに乗って、バスの中でゲームがあり、目的地について、集会や班ごとの活動があり、弁当を食べて...どこを書けば良いのかわからない)(86-87p)
●あまりに対応に困る多動児は、基盤に「社会性の障害」を抱えている(つまり高機能広汎性発達障害である)ことが多い。(104p)
●子どもの心の問題に対応する専門家として登場したスクールカウンセラーの大半は、当初、発達障害の知識も経験も欠落していて役に立たなかった。(中略)今や学校カウンセラーが機能するか否かは、発達障害への知識と経験を持ち、彼らへの対応ができるか否かによって決まるとまで言われるようになった。(105p)
●今日の日本で、小学校に実際に出かけて低学年の教室を覗くと、(中略)授業中にうろうろと立ち歩いたり、前後の生徒にちょっかいを出したりを繰り返す「多動児」が、4〜5人ぐらいは存在するのが普通である。(129p)
●(被虐待児は)状況によって意識モードの変化が認められる⇒虐待の後遺症としての「解離性障害」(157p)

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「画面分割できない」という"情報処理"の特質が、想像力の欠如の原因だとわかる。

自閉っ子におけるモンダイな想像力.jpg 『自閉っ子におけるモンダイな想像力』 俺ルール! 自閉は急に止まれ.jpg 『俺ルール!』 自閉っ子、こういう風にできてます!.jpg 『自閉っ子、こういう風にできてます!

 翻訳家で、幼い頃から周囲との違和感を抱きながら育ち、30代でアスペルガー症候群(知的・言語的遅れのない自閉症スペクトラム)と診断された著者は、"爆笑"エッセイや対談、講演などを通じて自閉の内面を語る活動を続けていて、対談『自閉っ子、こういう風にできてます!』('04年/花風社)では、「雨が刺すように痛いと感じる」といった自閉症独特の身体感覚などを取り上げ、エッセイ『俺ルール!-自閉は急に止まれない』('05年/花風社)では、1つの思い込みに囚われるとなかなかそこから抜け出せないという自閉症者の特質をユーモラスに解説していました。

 本書ではさらに、その「想像力の欠如」の問題をとり上げ、"自閉流の情報処理"の特質として、頭の中でものを考えるとき「画面分割できない」ということを訴えています。
 同時に複数の想像図を頭に描くことが出来ないため、時間交替して1つ1つ表示するしかない、ところが1つの想像図を描くのに時間がかかり、一旦イメージが表示されると今度は消すのが難しくて次に移れない、移れたとして、一旦消去されたイメージは今度は復活できない、従って、「AだからB、BだからC」というように単線的に思考を進めていくことが出来ても、「CだからD、DであればE、では、Cの次がDでなければどうなるか」といった遡及的な想像が苦手であるとのこと(その時点で始まりがAだったことも忘れている場合がある)。

 自閉児には、計算や漢字の読み書きは普通に出来るのに、文章題、文章読解になると滞ってしまうケースがよく見受けられますが、本書の説明がその裏付けになるのではないかと思わせます。
 また、本書にあるように、仮に、見比べやすいように複数の想像図を思い浮かべることが出来るまでに至っても、「実際の世の中ではどちらがありそうかを判断する力」や「なさそうと判断された想像図を頭からふり払う力」が弱かったりするのですね。

 専門書を敬遠しがちな読者にも入りやすいスタイルの本(それでいて奥は深い)ではありますが、自閉症者はたいへんなのだけれども他人にはわかってもらえないという被害者意識のようなものがやや先行しすぎているのと、文章が今ひとつ読みにくいような気がし(相性の問題?)、挿絵の漫画もごてごてしていて見づらく、コマ漫画は読む気がしない。
 このシリーズ、他にも何冊か刊行されていますが、体裁・挿絵は同じパターンが続いていて、個人の嗜好の問題かもしれませんが、より多くの人に読まれることを欲するならばもう少し見やすくして欲しい(文字だけは大きすぎるぐらい大きいのだが...)。

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「自閉症研究の足跡を辿る旅」と「自閉症のわが息子の療育・成長ぶり」の"複合技"。

自閉症の君は世界一の息子だ.jpg 『自閉症の君は世界一の息子だ』 〔'07年〕 NOT EVEN WRONG.jpg  "Not Even Wrong: A Father's Journey Into The Lost History Of Autism" Paul Collins

 米文学研究者で古書関係のべストセラー著作もある著者は、画家である妻と訪れた息子の3歳児健診で、息子に発達障害があることを知らされますが、それ以前に何となく関心を抱いていた18世紀の「野生児ピーター」の、その事跡を追う英国取材旅行中に、"ピーター"が自閉症ではなかったかという記述に出会っていて、息子の存在が自分を「野生児ピーター」へ引き寄せたのではないかという思いにかられます。

 以降、著者の古文書を探る旅は、自閉症研究の足跡を辿る旅へと転じ、「自閉症」の命名者であるレオ・カナーや、自閉症児のサバン症候群(特定能力に秀でた特質)を確認していたがその所見は長く歴史に埋れていたハンス・アスペルガーらの'40年代の研究成果、更にはフロイトの旧居へと遡り、やがて現代に舞い戻って、英国の自閉症の権威バロン=コーへン博士のもとに辿り着きます。
 本書は、こうした自閉症研究を巡る知的な旅の部分と、自閉症であると判明した息子との日常での触れ合いやその療育・成長ぶりを描いた部分が字縄を綯うような構成になって、知識人作家が書いたものらしい内容となっています。

 バロン=コーへン博士の調査によれば、自閉症が発生する家系には工学者、芸術家などが多いとのことで、著者の家系がそれに当て嵌まるのですが、アスペルガー症候群だったと言われるニュートンなどの事例を引いているように、著者はそのことを前向きに捉えようとしているようです。
 マイクロソフト社にビル・ゲイツを訪ねて行っていることも(彼もアスペルガーであると言われている)その表われだと思いますが、確かに、著者の息子は、3歳になっても親の呼びかけに応えない一方で、2歳で既に文字を読み、自閉症者に特徴的な「能力の島」現象を呈している。但し、あまり、この「島」の部分に過剰な期待を寄せるのもどうかという気もしました。

 ただ、そうした取材過程においての興味深い話が多くあるのが本書の特長で、マイクロソフト社で自閉症者が働いていて、また、同社が自閉症センターを匿名出資して設立しているというのもそうですが、一方で、精神病院や刑務所に入れられている人たちの中に多くの自閉症者が含まれている可能性をも、過去の記録を引いて示唆しています。

 原題は"Not Even Wrong"(間違ってすらいない)で、物理学者パウリが論敵の論点のズレを指して言った言葉ですが、本書では、自閉症者のコミュニケーションの特徴(コミュニケーション不全)を表すものとして用いられています。
 それが邦訳では「感動したい症候群」に応えるようなタイトルになっていますが、息子との触れ合いにおいて、ちゃんとそうした場面は用意されています(ノンフィクションですが、やっぱり作家的だなあ、この著者)。

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基本入門書の"新古典"。科学的関心から興味を持つ人にも手に取りやすい。

自閉症入門4.JPG自閉症入門 親のためのガイドブック.jpg    Professor Simon Baron-Cohen.jpg Professor Simon Baron-Cohen
自閉症入門―親のためのガイドブック』 〔'97年〕

自閉症スペクトル.jpg 自閉症について書かれた本で「入門書の古典」とされてきたのは、'71年原著出版のローナ・ウィング(英国)の『自閉症児―親のためのガイドブック』('83年/川島書店)で、その全面改訂版にあたる'96年刊行の『自閉症スペクトル―親と専門家のためのガイドブック』('98年/東京書籍)は、現在でも自閉症入門書としてはベストの部類のものであると思われます。

 一方、本書『自閉症入門―親のためのガイドブック』('97年/中央法規出版)は、ウィングの改訂版出版に先駆けて'93年に原著刊行されたもので、それまでの紆余曲折があった研究成果を総括した基本入門書ですが(原題は"Autism: The Facts")、やや大部な『自閉症スペクトル』(邦訳で342ページ)に比べると167ページと半分程度のボリュームで、易しく書かれていて図版も多く、手に取りやすい入門書という点では一押しです。

サリーとアンの実験.gif 「自閉症は家族に遺伝するか」といった自閉症に関する疑問についての科学的解説や、教育によって何ができるか、自閉症の子どもが大きくなったときどうなるかといった現実問題への対処方法を噛み砕いて説明していて、推薦図書リストや用語集なども付されています。

 著者のバロン=コーエン(英国)は、「サリーとアンの実験」として知られる有名な「心の理論」の提唱者で、これが自閉症にのみ当てはまる特徴なのかということについては議論があるようですが、「他人が考えていること理解することが苦手」ということを例証するものとしては画期的な成果で、その後も多くの本で彼の理論は引用されています(但し本書では、自らの理論を「心理的な問題」の1つについての解説として用いているだけで、自閉症について多面的かつコンパクトに纏めるという狙いのもと、全体の記述バランスに配慮がされている)。

 自閉症の子どもが時に見せる得意な能力(著者はこれを「能力の島」と呼んでいる)についても紹介されていて、3歳の少女ナディアの描いた躍動感溢れる馬の素描(本書表紙に使われているのはナディア5歳の時に描いた絵)や、ウィルシャー(Stephen Wiltshire )という少年の1度見た記憶だけを頼りに描いた精緻な風景画は、脳の神秘を扱った日本のテレビ番組やナショナル・ジオグラフィック・チャンルなどで見た人も多いのでは。
 「親のためのガイド」という副題がついていますが、一般の人が科学的関心から読んでも、充分に期待に応える内容だと思われます。

 London-based artist Stephen Wiltshire travels to Tokyo where he views the city
from above and below and draws the buildings and skyscrapers in 7 days, all from
memory.
Stephen_in_Tokyo.jpg
《読書MEMO》
●自閉症の子どもに見られる特徴
  ①社会的関係と社会性の発達に障害
  ②通常の対人コミュニケーションの発達が見られない
  ③関心と行動が、柔軟性や想像力に乏しく、限定的かつ反復的
●自閉症の人の脳に高値に存する化学物質「セロトニン」(69p)
●アンとサリーの実験『心の理論』(78p)

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自閉症者が自身の特性について書いた初めての本。分析の水準は高い。

我、自閉症に生まれて13.JPG我、自閉症に生まれて.jpg Temple Grandin.gif   Dr. Temple Grandin's Web Page.jpg Web Page
我、自閉症に生まれて』 〔'94年〕 Temple Grandin 

 自閉症者本人が、自己が抱える自閉症の特性について書いた世界で初めての本で、原著("Emergence: Labeled Autistic")出版は'86年ですが、その後、脳神経科医オリバー・サックス博士の著書『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』('95年)の中で紹介されて有名に(ただし、邦訳はその前に出版されている)。
 自閉症者にとって世界がどのように感じられ、どのようなことが苦痛であり、どのようなことに安堵するか、社会と折り合いをつけるのにどのような壁があり、それをどのようにして乗り越えてきたかがよくわかります。

 著者のテンプル・グランディン(1947年生まれ)は、6歳の時に自閉症と診断され、神秘的な発作や知覚過敏を抑制するために、牛桶から着想を得て「締めつけ機」を開発、その後、動物学の博士号を取得し、大学の准教授として勤める傍ら、「畜産動物扱いシステム会社」の社長として成功しています。

 本書が執筆されたのは彼女が30代後半の頃ですが、自閉症に起因する、子供の頃の混乱に満ちた世界観や感性が生き生きと(幼年期の記述は、共同執筆者の協力を得て書かれているようだが)、かつ分析的に書かれていて、特に自閉症の特質に関する記述は、その後の専門家の研究内容の先駆となるような高い水準です。

 彼女は知能指数137の高機能自閉症であるうえに、その後出版された『自閉症だったわたしへ』('92年)の著者ドナ・ウィリアムズが愛情に恵まれない少女時代を送ったのと比べても、指導環境に恵まれたと言えます。
 彼女が設計した「締めつけ機」は全米の屠殺場で使用されていますが、これは、虐待的な家畜施設の改善を図るもので、彼女自身、『動物感覚-アニマル・マインドを読み解く』という本を書いているぐらい、"牛の気持ち"になっているわけです。
The Woman Who Thinks Like a Cow (BBC)

 それにしても、屠殺される前の牛の神経を落ち着かせるためにその牛の体を挟む装置が、自身にとっても、落ち着かない時にその装置に身体を挟むと安心感があって"お薦め"であるというのは、写真入りで紹介されているのを見ると、最初はちょっと引いてしまった...。
 発想の順番も、牛よりも自身を落ち着かせることが先なのだろうけれど、その後、日本でも自閉症者が書いた本が出版されるようになり、彼(彼女)らが独特の触覚刺激を持っていることが、研究上も注目されるようになっています。

The Boy Inside.jpg 以前来日したこともありますが、最近どうしているのかなと思ったら、教育番組を対象にした国際コンクール「日本賞」(NHK主催)の青少年番組部門の受賞作「少年の内面」The Boy Inside 製作国:カナダ)という自閉症の中学生少年の内面とその家族の苦悩を描いたドキュメンタリーに出ていました(番組のプロデューサーがこの少年の母親で、自らカメラも撮っていて、成人自閉症者を訪ねるという場面でテンプル・グランディンが登場)。
 彼女ももう59歳だけど、てきぱきとした女偉丈夫ぶり(身長180cm)は変わりなかったです。

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自閉症児とその親の歩み。母親の一番苦しい時期を描く第1巻。

光とともに1巻.bmp光とともに... (1)』〔'01年〕光とともに 自閉症児を抱えて.jpg光とともに... ~自閉症を抱えて~ DVD-BOX

光とともに3.jpg '00(平成12)年、女性コミック誌「for Mrs.(フォアミセス)」(秋田書店)にて連載がスタートした、自閉症児とその親の歩みを描いたコミックの第1巻で、主人公の光君の誕生から保育園卒園までを画いています。
 '04年にNTV系でドラマ化され話題を呼びましたが(主演は、'01年に蜷川幸雄演出の舞台「ハムレット」でオフィーリア役を演じて"一皮むけた"篠原涼子)、ドラマを見て少しでも関心を抱いた人にはお薦めしたいと思います。

 母親と目を合わせようとしないし、いつまでたっても母親を「ママ」と呼ばないわが子。最初は自分でもわが子のことがよくわからないで困惑する母親。そして、〈自閉症〉という診断にたどり着く―。自閉症だとわかった後も、家族・親戚・周囲の理解がなかなか得られない、そうした母親の一番苦しい時期が描かれています。
NTV系ドラマ「光とともに~自閉症児を抱えて~」 ('04年放映)
光とともに2.jpg光とともに.jpg これを読むと、TVドラマ(母親役は篠原涼子)の方は途中から始まっていることになり(小学校入学の少し前から)、またかなり明るいシーンが多かったような気がします。作者は漫画にはいろいろ制約があるといったことを以前言っており、テレビの場合はなおさらそうでしょう。
出演:篠原涼子/小林聡美/山口達也

光とともに(戸部けいこ 秋田書店) .jpg わが子との心の繋がりを懸命に模索する母親。光君が初めて母親のことを「ママ」と呼ぶ場面や、さまざまな出来事を経て保育園の卒園式で新たな一歩を踏み出す場面は胸を打ちますが、いずれも作者が取材した事実に基づいているようです。

 続きモノで手をつけるのはちょっと...という人もいるかもしれませんが、この第1巻はこれ1冊でも完結した感動的物語として読めるので、未読の人も手にとりやすいのではないかと思います(もちろん療育に簡単な"終わり"はないのでしょうが)。 

 自閉症という一般の人にはなかなか理解されない障害を、多くの人にわかりやすく知らしめたという意味でも、本書の功績は大きいと思います。

光とともに 篠原.jpg「光とともに~自閉症児を抱えて~」●演出:佐藤東弥/佐久間紀佳●制作:梅原幹●脚本:水橋文美江●音楽:溝口肇●原作:戸部けいこ●出演:篠原涼子/小林聡美/山口達也/武田真治/鈴木杏樹/井川遥/齋藤隆成/市川実日子/大倉孝二/大城紀代/高橋惠子/渡辺いっけい/金沢碧/福田麻由子/佐藤未来/池谷のぶえ●放映:2004/04~06(全11回)●放送局:日本テレビ

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新書という体裁に沿った、軽度発達障害のわかりよい入門・啓蒙書。

磯部 潮 『発達障害かもしれない』 (2).JPG発達障害かもしれない.jpg
発達障害かもしれない 見た目は普通の、ちょっと変わった子 (光文社新書)』 〔'05年〕 

 本書は、主に高機能自閉症、アスペルガー症候群という軽度発達障害を世の中に広く知ってもらうことを目的とした本ですが、概念の説明、症状、LD(学習障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)との違い、それらのケースの紹介と対応する治療をわかりやすく示しています。

 著者自身はLD、ADHDを"発達障害"の定義に含めるべきではない(もちろん、自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群を指す"自閉症スペクトラム"には含まない)という近年の研究動向に沿った考え方ですが、LD、ADHDも高機能群に重複することがあるために敢えて本書で取り上げていて、それは、もし高機能群であればそれに沿った療育が不可欠で、そのことがまたLD、ADHDにも良い影響を与えると言う考えに基づくものです。

 外から見えない障害である自閉症スペクトラムは、実際にそうした人に関わらないとわかりにくいものだとエピローグで述べていますが、後半部分の高機能自閉症、アスペルガー症候群、LD、ADHDのそれぞれのケーススタディは、年齢的な経過を追って書かれていて、親からはどう見えたか、どういったことで苦労したかなども添えられていてわかりやすく、また、症状が固定的なものでなく適切な対応や療育によって改善されていくことを示しています。

 "社会性の障害"である自閉症スペクトラムへの対応の仕方を丁寧にアドバイスしていて、一方で、いじめや被害妄想が早期療育の効果を損なうこともあるとも指摘しており、自閉症スペクトラムの人たちの障害が早期に認識され、できるだけ早期に療育され、将来健常者に近いかたちで社会参画できることを期待する著者の気持ちが伝わってくる内容です。
 
 同じ光文社新書の前著『人格障害かもしれない』('03年)では、芸術家などの症例への当て込みにやや恣意的ではないかと思われるものを感じましたが、本書は直近の研究成果と著者の臨床経験をベースにしたバランスのとれた内容で、多くの人に触れる機会の多い「新書」という体裁にも沿った、適切なレベルの入門書であり啓蒙書であると思います。

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療育支援の手引きとしても、入門書としても良書。

広汎性発達障害の子どもたち.jpg 『広汎性発達障害の子どもたち―高機能自閉症・アスペルガー症候群を知るために』〔'04年〕

 広汎性発達障害(高機能自閉症・アスペルガー症候群)の子どもの療育と支援について多くの示唆を含んだ本です。

高機能広汎性発達障害 アスペルガー症候群と高機能自閉症.gif この本の5年前に同じ ブレーン出版から出た高機能広汎性発達障害-アスペルガー症候群と高機能自閉症』(杉山登志郎・辻井正次共著)も名著ですが、本書はより平易に書かれていて、かつ、著者ら主催のアスペ・エルデの会の実践活動を通しての成果を含め最新の研究成果が反映されたもの言えます。
 自閉症スペクトラムの4分の3は知的障害が無いというのはある意味驚きであり、「診断」の重要性を感じます。

 軽度発達障害の場合、「普通」の子どもたちの中に置いておけば成長するものではなく、普通学級に入れることで二次障害を重ねる危険性もあるという著者の指摘は、「普通学級」に入れるということが目的化しがちな療育現場において、子どものために本当に大切なことは何かを先々にわたり考えなければならないことを示しています。

 療育支援の手引きとなる本ですが、自閉症の入門書としても読むことができるので、広くお薦めします。

《読書MEMO》
●「普通」の子ども達のなかに置いておけば成長する、ということはない(34p)
●軽度発達障害は普通学級に入ることで二次障害を重ねる危険性も(35p)
●自閉症スペクトラム(社会的不適応のないものを含む)>広汎性発達障害(自閉的傾向を含む)>〔非定型的自閉症・アスペルガー症候群・自閉症(高機能自閉症含む)〕(47p)
●"高機能"はIQ70以上(70以下は人口2.3%、実数はもっと多い、自閉症の半分が70以下、自閉症スペクトラムの3/4は知的障害がない)(48p)
●欠点を克服しなければ...というスタンスではなく、自分はうまくいっているという感覚を育てる。人生を楽しむ、余暇支援は大事(167p)
●有名私立中学・高校や有名大学には多くのアスペルガー症候群の青年がいる(176p)
●大学でトラブルを起こすことが多い。うまくいくのはアニメ同好会や鉄道研究会の中(177p)
●『フォレスト・ガンプ』の例...「僕は兵隊にはまった」→実際には自衛隊にはなかなか入れない(180p)

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知的関心を惹く考察だが、入門書としても一通りは網羅している。

アスペルガー症候群と学習障害34.JPGアスペルガー症候群と学習障害.jpgアスペルガー症候群と学習障害―ここまでわかった子どもの心と脳 (講談社プラスアルファ新書)』〔'02年〕

 本書は前半部分で子どもの心の発達や知能の構造について述べ、後半部分で最近一般にもその名が知られ、わが子もそれではないかという親が増加しているアスペルガー症候群と学習障害について解説しています。

 前半部分ではソーシャルスキルの発達を中心に「心の理論」などを解説する一方、最近の認知心理学や脳科学者・澤口俊之氏の仮説を引き、知能の多重構造とワーキングメモリーの関係を説いています。
 この部分が本書の特徴の1つであり、アスペルガー症候群や学習障害はワーキングメモリーや知能モジュールの機能不全ではないかというのが、"発達のムラ"に対する著者の考察です。

 後半部分のアスペルガー症候群、学習障害の解説も丁寧で、やや専門的な部分もありますが、分かりやすい事例もとり上げられていています。
 高級レストランで客を待たせても謝らないボーイに対して「ふーん、さすがに高級レストランだね」と客が言ったのをそのまま真に受ける―とか。

 「気づかれずに増えている」と帯にありましたが、著者の主張では障害そのものが増えているのではなく、ソーシャルスキルを獲得する社会の受皿が減って、今まで気づきにくかった障害が目立つようになったということなので、このキャッチはやや違うのではないかと思いました。

《読書MEMO》
●サリーとアンの課題(55p)
●ウィリアムズ症候群-大部分、精神遅滞があるのに言語遅滞がない。「妖精様顔貌」(77p)
●サバン症候群(89p)/●ワーキングメモリー(91p)/●カナー型(106p)/●クレーン現象(108p)
●神経伝達物質セロトニンの濃度が高い(120p)
●高級レストランで客を待たせても謝らないボーイに対して「ふーん、さすがに高級レストランだね」と客が言ったのを、そのままにとる(132p)

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自分を「この私」として「ここ」に定位することができないという特徴。

自閉症の子どもたち.jpg 『自閉症の子どもたち―心は本当に閉ざされているのか (PHP新書)』 〔'01年〕 

 自閉症についての基本的知識が得られる入門書ですが、同時に、著者が多くの臨床経験を通じて得た深い考察に触れることができます。

 自閉症児は絶えず他者からの侵入を恐れていて、その症状は防衛の手段である、とする著者の考えは、R・D・レインの反精神医学を想起させます。
 レインの場合、自閉症ではなく精神分裂病(統合失調症)の患者に特徴的な行動に対する解釈なわけですが...。

 著者は自閉症児の特徴として、自分を「この私」として「ここ」に定位することの困難を指摘し、そのため「身体」、「空間」、「言葉と時間」の感覚に障害を生じているとしています。
 身体感覚の喪失や指さしが出来ない、指示代名詞が使えないなどの特徴は、療育に携わっておられる方なら目の当たりにしたことがあるのではないでしょうか。

 著者の考察は「自己」とは何かというところまで及び、読者の知的好奇心を刺激してやみませんが、そのためだけに書かれた本ではなく、その都度、自説に沿った治療のあり方(適切さ・一貫性・柔軟性)を提示していることからも、自閉症児が人と関わることの快さを感じられるようにしたいという著者の熱い思いが伝わってきます。

《読書MEMO》
●『レインマン』過去の飛行機事故をすべて記憶していて搭乗を嫌がる(29p)
●アスペルガー...IQと言語が正常で、コミュニケーションの質に障害がある(36p)
●自閉症児は絶えず他者から侵入されることを恐れている。自閉症児の示す多様な症状は、自己を他者の侵入から守ろうとする防衛手段である(39p)
●自分の身体が自分でない状況(101p)
●癒着的一体化(104p)クレーン現象など
●自分を「この私」として「ここ」に定位することができない(150p)

「●自閉症・アスペルガー症候群」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【391】 酒木 保 『自閉症の子どもたち

是非多くの人に味わってもらいたい「てる君の連続画」の衝撃。

発達障害の豊かな世界.jpg              杉山登志郎.jpg杉山登志郎・静岡大学教授(児童精神科医)
発達障害の豊かな世界』 ['00年/日本評論社] 

発達障害の豊かな世界12.JPG 本書を読み始めて先ず驚かされるのは、18歳になった自閉者が、幼稚園時代のある1日を千数百枚の連続画として描き続けた「てる君の連続画」です。
 自閉症児の特徴の1つ、タイムスリップ現象の如実な具体例ですが、人生において記憶とは何か、ということを思わざるを得ません。

 著者はこれを「障害を生き抜いてきて証し」と捉えています。
 本書を一般向けでありながらも自らのライフワークと位置づける著者にとって、われわれに人間の持つ未知の可能性を示すことさえある自閉症児の「豊かな世界」の一例として、是非紹介しておきたい事例だったのだと思うし、実際その訴求力は感動的と言ってよいかと思います。

 内容的にも、自閉症、アスペルガー症候群、ダウン症候群、ADHD、トゥーレット症候群など広範囲の発達障害について、それぞれに臨床例を示し、その特徴と治療・対応を述べ、就労の問題についても事例をあげて言及しています。
 入門書として読みやすいうえに、療育に携わる関係者には大いに役立つものと思います。

《読書MEMO》
●てる君の連続画(就職して1年後、10年間にわたり幼稚園での1日を描く)
●時間が横すべりする(普通高校の授業中に、保育園で自分だけに過配保母がついていたことを思い出して泣き出す(24p)
●ADHDに対するリタリンの効用(167p)

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高機能広汎性発達障害の理解と療育・支援のための優れた参考図書。

高機能広汎性発達障害 アスペルガー症候群と高機能自閉症.gif 『高機能広汎性発達障害―アスペルガー症候群と高機能自閉症』 (1999/08 ブレーン出版)

 本書は「高機能広汎性発達障害」の診断、成長段階ごとの発達援助、治療教育などについて扱っていますが、特徴として、
 ◆この障害特有の複雑な臨床像を多岐にわたり具体的に示している、
 ◆乳幼児期から社会生活上の問題を含む青年期までの支援方法が具体的に示されている、
 ◆個別の治癒教育プログラムの必要性を指導事例と併せて説いている、
 といったことがあげられます。

 発達にムラがある障害と言われても一般の人にはわかりにくいと思いますが、本書は、医学・心理学的分析にとどまらず、理解の助けとなる臨床例が豊富です。
 更には支援のためのアイデアなども具体的で、両親が抱える精神面での問題への対処法にも言及しています。

 著者らが主催する「アスペの会」の活動を通しての研究・実践の集大成とも言えるもので、これまで活動に取り組んでこられた方々に敬意を表すとともに、療育・支援に携わる人たちに是非とも役立ててほしい本だと思います。

《読書MEMO》
●自閉症候群は裾野の広い山(自閉症の山=自閉症スペクとラム・広汎性発達障害(59p
●バロン=コーエン「サリーとアンの課題」心の理論(65p)
●ウィングによる3類型-孤立型・受動型・積極奇異型(105p)
●マルオの事例(129-137p)
●IQ75以下の場合...できる教科は普通学級で受けることは当然だが、特殊学級で基本的学習に取り組む必要も。高学年になって「お客さん」しているのはよくない(159p)

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重度自閉症の娘を持つ精神医学者による自閉症のベスト入門書。

自閉症スペクトル14.JPGLorna Wing.png 自閉症スペクトル.jpg The Autistic Spectrum.jpg
Lorna Wing
自閉症スペクトル―親と専門家のためのガイドブック』〔'98年〕
"The Autistic Spectrum: A Guide for Parents and Professionals"

 著者のローナ・ウィング(Lorna Wing、1928-2014)は、精神医学者であるとともに重度自閉症の娘の母親でもあるのですが、重度から高機能までのすべての自閉症を連続体(スペクトル)として捉える立場を本書で提唱しました。そこには、自閉症の子どもを対象としたサービスを、一見すると自閉障害には見えないアスペルガー症候群の子たちも受けられるようにしようという意図があったそうです。

 しかし、彼女の臨床分析自体は、恣意性を排した、科学者としての極めて冷静なものであり、自閉障害の特徴を示す"三つ組"の概念(社会的相互交渉・コミュニケーション・想像力の障害)や、孤立群・受動群・積極奇異群などのタイプ区分は、この本以降に出版された自閉症関係の本の多くで引用されています。

 また本書は、自閉障害を持つ子どもの支援方法にページを多くさいていており、解説も極めて具体的で丁寧なものとなっています。

 多少大部な本かもしれませんが、翻訳もよく吟味されたものなので、自閉症を理解しようとするならば、この本は入門書としてベストに近いものであると思います。

《読書MEMO》
●「自閉症スペクトル」の概念
・カナーの提唱した自閉症に、アスペルガーの提唱したアスペルガー症候群、さらにその周辺の厳密にはどちらの定義をも満たさない一群を含めた比較的広い概念。
※英国では「自閉症スペクトラム(スペクトル)」、米国では「広範性発達障害」という用語の使われ方をすることが多いが、「自閉症スペクトル」の概念の方が「広範性発達障害」より広い(内山登紀夫・篇『高機能自閉症・アスペルガー症候群入門-正しい理解と対応のために』('02年/中央法規出版)
●「自閉症スペクトル」の特徴...「ウィングの3つ組」
 1.社会性、2.コミュニケーション、3.想像力の3領域に障害
●「自閉症スペクトル」の3つのタイプ
 1.孤立群、2.受動群、3.「積極・奇異」群

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「●講談社現代新書」の インデックッスへ

認知心理学の視点からみた自閉症入門書。

自閉症からのメッセージ2.jpg 自閉症からのメッセージ.jpg     rain man.jpg Kim Peek/Dustin Hoffman
自閉症からのメッセージ (講談社現代新書)』 〔'93年〕 

 少し以前に書かれた本ですが、一般向けの自閉症入門書としては読みやすい内容だと思います。
 映画「レインマン」で、ダスティン・ホフマン演じるところの自閉症者レイモンドが、ばら撒かれたつま楊枝の数を一瞬にして言い当てた場面などを引き(この映画は、キム・ピ-ク氏という実在の自閉症者に取材して作られている)、自閉症の「優れた空間認識や記憶力」に注目していますが、こうした特徴は自閉症のすべてに現れるわけではないのでやや誤解を招く恐れもあります。 

自閉症からのメッセージ2891.JPG しかし、その行動・言語・記憶・時間・感情について"謎"を問いかけ、認知心理学の視点から実験結果などを踏まえ考察していく過程は、自閉症を通して「私」とは何かというテーマを浮き彫りにする帰結に至るまで、一般読者の知的関心をひくかと思います。
 本書出版当時のことを考えると、自閉症に対する認知度を高める効用はあったと思います。

 療育に携わる立場にいる人でも、「オウム返し」や「カレンダー・ボーイ」といった特徴に対し不思議な思いは抱くし、「選択肢が立てられない」「今日学校で何をしたかという問いに答えるのが苦手」「パニックが終わったら意外とケロリとしている」といった特徴について、何故だろうと思うことがあるのではと思います。

 著者の謎解きに全面的に賛同するかはともかく、自閉症をより深く理解し、教育的アプローチの手立てとするのに役立つ本です。

《読書MEMO》
●『レインマン』で自閉症者レイモンドがばら撒かれたつま楊枝の数を一瞬にして言い当てた場面(19p)
●『レインマン』の企画にダスティン・ホフマンが強い挑戦意欲を持ったのは、「自閉症者は火星人のようなものだから理解できるとは思わないほうがいい」と心理学者に言われて(64p)。
●選択肢が立てられない、今日学校で何をしたかという問いに答えるのが苦手(64p)
●パニックが終わると意外とケロリとしている(211p)
●私たちは、時間を一次元的な軸の上を進むものとして解釈している。過去の出来事は時がたてばたつほど遠いセピア色の世界となっていく。だからこそ、自分にとっては時間の果てにあると感じられる誕生日の曜日を、息子にぴったりと当てられた母親は「怖いような」「気持ちの悪いような」気分になるわけである。しかし、自閉症者は、私たちがイメージしているような時間軸というものをはたして意識しているのだろうか。M君とN君は、カレンダーを記憶する方法は少し違っていた。しかし両名とも、カレンダーという二次元空間の上を移動しながら指定された日付の曜日を探しに当てていた、という点では共通している。つまり、彼らは地図を見ていたのであり、二次元的なパターンを操作していたのだということができる。

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