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しっかりした概念整理、社会的弊害、社会病理学的観点など、バランスの取れた内容。

「新型うつ病」のデタラメ.jpg                それってホントに「うつ」?.jpg   林 公一 『それは、うつ病ではありません!』.jpg
「新型うつ病」のデタラメ (新潮新書)』['12年]/吉野 聡『それってホントに「うつ」?──間違いだらけの企業の「職場うつ」対策 (講談社+α新書)』['09年]/林 公一『それは、うつ病ではありません! (宝島社新書)』['09年]

 挑発的なタイトルであり、実際に内容的にも、精神科医である著者の「新型うつ病」の診断のいい加減さに対する憤りが感じられますが、ベースは非常に秩序立った解説と、著者の経験的症例に基づくかっちりしたものでした。

 冒頭に「新型うつ病」の症例と「従来型うつ病」の症例を掲げ、さらに「軽症」の「従来型うつ病」の症例を挙げて、「新型うつ病」と「軽症」のものも含めた「従来型うつ病」の違いをくっきり浮かび上がらせています。

 更に、「うつ」と「うつ病」の違いを、うつ病概念の歴史を辿りながら解説しており、うつ病概念がDSMなどの操作的診断基準と、所謂「新型うつ病」に属する新たな病型の提唱により拡大したとする一方、DSMにおいて、失恋やリストラなどによって起こる気分の落ち込みや不眠、空虚感が「症状」とされ、安易にうつ病と診断されること(うつ病概念の拡大)への異論も紹介しています。

 こうして多くの学説・主張等を紹介したうえで、「新型うつ病」とは、ずばり、「逃避的な傾向によって特徴づけられる抑うつ体験反応」であるとし、「逃避型抑うつ」(広瀬徹也)、「現代型うつ病」(松浪克文)、「ディスチミア親和型うつ病」(樽味伸)の殆どがこれに当たるとしています。

 その上で、抑うつ状態の全貌を表に纏めていますが、それを見ると、まず全体を病的なもの(「抑うつ症診断群」)と病気とは言えないもの(「単なる気分の落ち込み」)に分け、前者の抑うつ症診断群の中に、「総うつ病」「うつ病」「抑うつ体験反応」などがあり、「抑うつ体験反応」の中に、従来から「抑うつ神経症」「反応性うつ病」と呼ばれていたものと、「逃避型抑うつ」「現代型うつ病」「ディスチミア親和型うつ病」などと呼ばれる最近増加した逃避を特徴とする「新型うつ病」がある―という構図を示しています。

 「新型うつ病」が生まれた要因は、「精神病理学の衰退」と「精神力の低下」がその出現環境を外側と内側から準備し、「SSRI(抗うつ薬)の出現」がその引き金となったという著者の見方には説得力があり、とりわけ、DSMの普及と反比例するように精神病理学という学問自体が衰退し、これを専門に勉強する若い精神科医があまり出なくなった、というのには考えされられました(外見判断基準であるDSMの普及により、精神科医が「直観」を磨く訓練をしなくなった)。

 全3章構成のここまでが第1章で、第2章では、「新型うつ病」がもたらした社会的弊害について臨床経験を踏まえつつ考察していますが、休職するためだけに診断書を求める人達とそれに応える医師がいることや、そのことによって給料の6割に該当する傷病手当金が比較的簡単にもらえるため、病気を隠れ蓑にしたある種の利権のようになってしまっていること、障害年金についても「うつ病で障害年金 完全マニュアル」のようなものが出回っていて同じような状況になっていること、更には、労働紛争の場においても、専門医のバラバラな診断結果と裁判官の恣意的な解釈によって、専門家から見れば非常に疑問の余地があるケースにおいて原告に多額の「賠償金」が支払われていたりすることなどを、事例を挙げて紹介しています。

 最終第3章「精神科診療から見た現代社会」においては、「何でも人のせい」「何でも病気」「『知らない私』のせい(プチ解離)」といった最近の社会風潮に呼応するようなケースが紹介されています。

 症例がそれほど多く紹介されているわけではありませんが、1つ1つの事例紹介が解説としっくり符合していて、無駄が無いという印象です。

 DSMの基準に批判的で「現代型うつ病」乃至「ディスチミア親和型うつ病」を「うつ病」とは見做さない派―の精神科医が書いた本という意味では、その部分だけ見れば、ほぼDSMに沿って書かれている吉野聡 著 『それってホントに「うつ」?』('09年/講談社+α新書)よりも、林公一 著『それは、うつ病ではありません!』('09年/宝島社新書)に近いと思われますが、こちらの方が、概念整理がしっかりしており、事例も適切であったように思います。

 前二著を比較すると、個人的には『それってホントに「うつ」?』の方を圧倒的に支持するのですが、それは、企業側からすれば「現代型うつ病」も「従来型うつ病」と同じような"対応課題" になっているという観点から書かれているためであり、その背景には、本書にあるように、「逃避的な傾向によって特徴づけられる抑うつ体験反応」(乃至は、そのレベルにまでも至らない「単なる気分の落ち込み」)に対して「うつ病」という診断を下す(或いは、乞われて診断書に書く)精神科医がいるということがあるのでしょう。

 この本はこの本で、うつ病の基本概念と近年の傾向をよく整理し、「新型うつ病」の社会的弊害を現場感覚で捉えつつ、社会病理学的な観点も視野に入れた、バランスの取れた良書だと思います。

 Amazon.comのレビューの中に、うつ病に関する記述はこの種の一般書としては出色の出来であり、症例も臨床観に優れているが、タイトルが問題であり、内容と合っていないばかりか、「新型うつ」はでっち上げとの誤解を招き、ある種の人たちが主張する「新型うつは甘えなので、診断治療の必要はないし、疫病利得を得るなどもってのほか」という説とこの本の趣旨は大きく隔たっているにも関わらず同じと見られる恐れがある―といったものがありましたが(そのことを理由に星2つの評価になっている)、それは言えているなあと(吉野聡氏の『それってホントに「うつ」?』についても同じことが言え、こういうの編集部でタイトルを決めているのかな。共に良書であるだけに惜しい)。

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「新型うつ」の見分け方から企業としての対応の在り方や予防法までを分かりやすく解説。

「新型うつ」な人々.jpg「新型うつ」な人々 (日経プレミアシリーズ)

 真面目な人が「うつ」になり易く、「うつ」になった場合は自分を責める傾向にある―という「従来型のうつ」に対し、軽く注意したら不調を訴え会社に来なくなった、本人からは上司に叱責されたために「うつ病」になったとの訴えがあり、配置換えを申し出てくる―そうした、いわゆる「新型うつ」ではないかと思われるケースが、最近若い社員を中心に増えていると言われますが、本書はその「新型うつ」と呼ばれるものについて、経験豊富な産業カウンセラーが分かりやすく解説した新書本です。

 前半部分では、「新型うつ」の特徴や「従来型うつ病」との違い、「新型うつ」になりやすいのはどんなタイプの人かなどが事例をあげて解説されており、後半は、「新型うつ」と思われる社員への対応から、社員を「新型うつ」にしないための対策やストレス・マネジメント法まで、対処法が提案されています。

 このように、「新型うつ」の見分け方から企業としての対応の在り方や予防法まで、全体によく網羅されていて、内容のバランスもとれていると思いますが、新書であるため、その分一つ一つの事柄がそれほど深く書かれているわけではありません。それでも個人的には、「新型うつ」は若者だけの問題ではなく、四十代、五十代でもなることがある、といった新たな知識を得ることができました。

 また、企業内で、メンタル不調者一人ひとりに対しどのようなアプローチが必要なのかを総合的にアセスメントできる人材、「メンタルヘルスのスペシャリスト」を育てることを提案している点は、まったく同感だと思いました。

うつ病をなおす.jpg この分野の知識を深めようとするならば、精神科医など専門家の書いた本も読むといいと思われ、最初に読む入門書としては、野村総一郎『うつ病をなおす』(2004/11 講談社現代新書)などがお薦めです。逆に、医師であっても専門医ではない人が書いた本には、特殊な見解や特定の療法に偏っていたりするものもあり、危うさを感じることがあります。一方で、専門医は専門医で、"病態区分"などに関して、それぞれの立場ごとに書かれていることが異なったりすることもあります。

 例えば、林公一『それは、うつ病ではありません!』(2009/02 宝島社新書)では、"「ディスチミア親和型うつ病」(「うつ病」と診断されるには至らない軽症のうつ状態が慢性的に長期間持続するもの―岩波 明『ビジネスマンの精神科』(2009/10 講談社現代新書))などをうつ病と呼ぶ派"などという言い方で、「新型うつ」と呼ばれるものは「擬態うつ」であってうつ病ではないとそれってホントに「うつ」?.jpgしています(岩波氏自身の考え方は後述)。一方で、吉野聡『それってホントに「うつ」?―間違いだらけの企業の「職場うつ」対策』(2009/03 講談社+α新書)では、「ディスチミア親和型うつ病」などを「現代型うつ病」とし、さらに、「職場うつ」と呼ぶべきものの中には、パーソナリティ障害や内因性精神障害(統合失調症や躁うつ病など)も含まれる場合があるとしています。

 本書『「新型うつ」な人々』の場合、精神科医による典拠を示し、さらに「私の解釈」と断ったうえで、「うつ病」の領域には「ディスチミア親和型」も含まれ、「新型うつ」を理解するためには、「適応障害」や「パーソナリティ障害」の理解も必要であるとしており、これは吉野氏の立場に比較的近く、また「新型うつ」に関するオーソドックスな解釈であると言えるのではないでしょうか。

うつ病.jpg 「ディスチミア親和型うつ病」は、かつては「軽症うつ」などという言われ方もし、従来型のうつ病に比べて軽度のものであると思われがちですが、岩波明『うつ病―まだ語られていない真実』(2007/11 ちくま新書)では、非常に重篤で大きな事故に繋がった「ディスチミア親和型うつ病」の症例が報告されています(但し、岩波氏の場合、岩波明『ビジネスマンの精神科』(2009/10 講談社現代新書)の中で、「新型うつ病」を「ジャンクうつ」と"断罪"し、「ディスチミア親和型うつ病」とは峻別している。これはつまり、林公一氏が言うところの"「ディスチミア親和型うつ病」などをうつ病と呼ぶ派"であることになるが、ディスチミア親和型うつ病はうつ病の一種であるというのが大方の見方で、林氏の見解の方がマイノリティであると思われる)。

気まぐれ「うつ」病.jpg また、貝谷久宣『気まぐれ「うつ」病―誤解される非定型うつ病』(2007/07 ちくま新書)では、かつて「神経症性うつ病」と呼ばれた「非定型うつ病」について解説されています。岡田尊司『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』(2004/06 PHP新書)は、パーソナリティ障害の入門書としてお薦めです。

 メンタルヘルス対策の専従部門を設けることができるのは、限られた数の大企業だけでしょう。普通の会社だと、結局、人事労務部門にいる人たち自らが「メンタルヘルスのスペシャリスト」となるべく自助努力をしなければならないような気もしますが、新書レベルでも、一人の専門家に偏らず何冊かを読むようにすれば、一定の知識は得られるように思います。

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一般社会人が身につけておきたい精神医学の知識。"新型うつ病"を"ジャンクうつ"と断罪。

岩波 明 『ビジネスマンの精神科』.JPGビジネスマンの精神科.gif        うつ病.jpg 
ビジネスマンの精神科 (講談社現代新書)』 ['09年] 『うつ病―まだ語られていない真実 (ちくま新書 690)』 ['07年]

 タイトルからすると職場のメンタルヘルスケアに関する本のようにも思われ、「中規模以上の企業」に勤めるビジネスマンを読者層として想定したとあり、実際、全11章の内、「企業と精神医学」と題された最終章は職場のメンタルヘルスケアの問題を扱っていますが、それまでの各章においては、うつ病、躁うつ病、うつ状態、パニック障害、その他の神経症、統合失調症、パーソナリティ障害、発達障害などを解説していて、実質的には精神医学に関する入門書であり、タイトルの意味は、一般社会人として出来れば身に着けておきたい、精神医学に関する概括的な知識、ということではないかと受け止めました(勿論、こうした知識は、職場のメンタルヘルスケアに取り組む際の前提知識として重要であるには違いないが)。

 基本的にはオーソドックスな内容ですが、うつ病の治療において「薬物療法をおとしめ、認知療法など非薬物療法をさかんに推奨する人」を批判し、例えば「認知療法を施行することが望ましい患者は、実は非常に限定される」、「そもそも、認知療法を含む非薬物療法は急性期のうつ病の症状に有効性はほとんどない。かえって症状を悪化させることもある」といった記述もあります(前著『うつ病―まだ語られていない真実』('07年/ちくま新書)では、高田明和氏とかを名指しで批判していたが、今回は名指しは無し。名指ししてくれた方がわかりやすい?)。

 その他に特徴的な点を挙げるとすれば、「適応障害」は一般的な意味からは「病気」とは言えないとしているのは、DSMなどの診断基準で"便宜的"区分として扱われて売ることからも確かに"一般的"であるとしても、「適応障害よりもさらに"軽いうつ状態"を"うつ病"であると主張する人たちがいる。その多くは、マスコミ向けの実態のない議論である」とし、「"新型うつ病"という用語がジャーナリズムでもてはやされた時期があった」と過去形扱いし、「分析すること自体あまり意味があるように思えないが、簡単に述べるならば、"新型うつ病"は、未熟なパーソナリティの人に出現した軽症で短期間の"うつ状態"である。(中略)精神科の治療は必要ないし、投薬も不要である」、「こうした"ジャンクなうつ状態"の人は、自ら病気であると主張し、これを悪用することがある。彼らはうつ病を理由に、会社を休職し、傷病手当金を手にしたりする」(以上、98p-99p)と断罪気味に言っていることでしょうか。

 『うつ病―まだ語られていない真実』には、「気分変調症(ディスサイミア)」の症例として、被害妄想から自宅に放火し、自らの家族4人を死に至らしめた女性患者が報告されていて(これ読むと、かなり重い病気という印象)、うつ病や気分変調症と、適応障害やそれ以外の"軽いうつ状態"を厳格に峻別している傾向が見られ、個人的には著者の書いたものに概ね"信を置く"立場ですが、自分は重症うつ病の"現場"を見てきているという自負が、こうした厳しい姿勢に現われるのかなあとも。

 但し、個人における症状を固定的に捉えているわけではなく、適応障害から「気分変調症」に進展したと診断するのが適切な症例も挙げていて、この辺りの判断は、専門医でも難しいのではないかと思わされました。

 その他にも、「精神分析」を「マルクス主義」に擬えてコキ下ろしていて(何だか心理療法家そのものに不信感があるみたい)、フロイトの理論で医学的に証明されたものは1つもないとし、フーコーやラカンら"フロイトの精神的な弟子"にあたる哲学者にもそれは当て嵌まると(125p)。
 
田宮二郎.jpg 入門書でありながら、所々で著者の"持ち味"が出るのが面白かったですが、
一番興味深かったのは、「躁うつ病」の例で、自殺した田宮二郎(1935-1978/享年43)のことが詳しく書かれていた箇所(72p-77p)で、彼は30代前半の頃から躁うつ病を発症したらしく、テレビ版の「白い巨塔」撮影当初は躁状態で、自らロケ地を探したりもしていたそうですが、終盤に入ってうつ状態になり、リハーサル中に泣き出すこともあったりしたのを、周囲が励ましながら撮影を進めたそうで、彼が自殺したのは、テレビドラマの全収録が終わった日だったとのこと。
 躁状態の時に実現が困難な事業に多額の投資をし、借金に追われて、「俺はマフィアに命を狙われている」とかいう、あり得ない妄想を抱くようになっていたらしい。
 へえーっ、そうだったのかと。

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分かり易さが特長。クリニックで行う「復職支援デイケアプログラム」を紹介。

ササッとわかる「うつ病」の職場復帰への治療 図解大安心シリーズ.jpg 『ササッとわかる「うつ病」の職場復帰への治療』 ['09年] ツレがうつになりまして。.jpg 『ツレがうつになりまして。』 ['06年]

 3構成で、第1章で「うつ病」の基礎知識、第2章で職場復帰プログラムの実際、第3章で復職後の心得等について書かれています。
 テーマがテーマだけに「ササッとわかる」などというシリーズに入れていいのかなという思いも無きにしもでしたが、1テーマ見開きで、各左ページがイラストや図解になっていて、100ページ余りの本、実際よく纏まっているなあという印象です。

 そうした分かり易さという"特長"とは別に、本書の最大の"特徴"は、メディカルケア虎ノ門院長である著者が、自らのクリニックで実施している「復職支援デイケアプログラム」を詳細に紹介している点でしょう。
 うつ病で休職し、復職見込みにある者が会社に「馴らし出勤」するパターンは、企業が用意する復職支援プログラムとして一般的ですが、本書で言う「デイケアプログラム」とは、クリニックに"模擬出勤"するとでも言うべきものでしょうか。
 「馴らし出勤」の間に発生した業務遂行上のミスをどう扱うかとか周囲への負荷の問題などを考えると、こうした専門家に"預ける"というのも1つの選択肢のように思えました。

 但し、こうしたデイケアが受けられる施設数も受容人数も現状では限られているし、その間の費用は会社が一部補助したりするべきかとか、いろいろ考えてしまいます(そもそも「治療」とあるが、医療保険の対象になるのだろうか)。
 ただ、本としては、こうしたデイケアに参加できない人には何をどのように行えば良いかが2章から3章にかけて解説されていて、周囲が本人にどう接すればよいかということも含め参考になるように思えました。

ツレがうつになりまして.jpg『ツレがうつになりまして』.bmp NHKで今年('09年)の春に、漫画家・細川貂々氏の『ツレがうつになりまして。』('06年/幻冬舎)をドラマ化したものを放映していましたが、あれなどは家族(配偶者)が、この本で言うところの"デイケア"的な役割を担った例ではないかなと。

「ツレがうつになりまして。」●演出:合津夏枝/佐藤善木●制作:田村文孝●脚本:森岡利行●音楽(主題歌):大貫妙子●原作:細川貂々「ツレがうつになりまして。」「その後のツレがうつになりまして」●出演:藤原紀香/原田泰造/風吹ジュン/濱田マリ/小木茂光/設楽統(バナナマン)/駿河太郎/黒川芽以/田島令子●放映:2009/05~06(全3回)●放送局:NHK

 原作コミックも読みましたが、うつ病の特徴が分かり易く描かれているとともに、作品としても心温まるものに仕上がっていると思えました。

ツレがうつになりまして。2.jpg あのコミックの"ツレ"さんは、メランコリー親和型の典型例ではないでしょうか。社内でも有能とされるSEで責任感が強い。曜日ごとにどのネクタイをするか、どの入浴剤を使うか、弁当に入れるチーズの種類は何かまで決めているなんて、完璧癖の1つの現われ方なんでしょうね。

 また、うつを内因性・外因性で区分するやり方は、現在では治療的観点からはあまり意味がないとされているようですが、細川氏の夫はやや太った体型で、クレッチマーが言うところの、肥満型≒うつ型気質という類型に当てはまるかも(ドラマでその役を演じた原田泰造はやせ型。うつ型と言うより神経症型か。まあ、痩せている人はうつ病にならないというわけではないけれど、演技がうつのそれではなく、神経症のそれになってしまっているような印象を受けた)。

ツレがうつになりまして 映画.jpgツレがうつになりまして 映画2.jpg2011年映画化「ツレがうつになりまして。」(主演:堺雅人・宮崎あおい)

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現代型うつ病(ディスチミア親和型うつ病など)への企業内での現実的対応法を示した良書。

それってホントに「うつ」?.jpgそれってホントに「うつ」?──間違いだらけの企業の「職場うつ」対策 (講談社+α新書)』['09年]

 精神科医であると同時に産業医でもある著者によるもので、若者を中心に増えつつあり、企業の人事担当者を惑わせる「職場うつ」に対する対応の在り方について書かれたものですが、それ以前に、「うつ」とは何かが簡潔に解説されているため、「うつ」の入門書としても読めます。

それは、うつ病ではありません.jpg 同じ頃に刊行された林公一(きみかず)氏の『それは、うつ病ではありません!』('09年/宝島社新書)が、事例から入って、これは「うつ病」でありこれは「擬態うつ」だとして後付で解説しているのに比べると、最初に体系を示しているためより解り易かったです。
 そして何よりも、『それは、うつ病ではありません!』が「気分変調性障害」などを「擬態うつ」として排斥しているのに対し、本書は、「現代型うつ病」としているのが大きな違いで、DSM-Ⅳに対しては批判も多いものの、とりあえずは現行の診断基準になっているのだから、それに沿って解説するのが筋でしょう。そうした意味では本書の方がオーソドックス。

 その上で、巷に氾濫している「職場うつ」という概念を、①従来型うつ病(大うつ病障害)、②現代型うつ病(気分変調性障害)、③パーソナリティ障害、④内因性精神障害(統合失調症や躁うつ病など)に区分し、それぞれの特徴を述べるとともに、治療方法や周囲の接し方、職場復帰プログラムの在り方などをタイプ別に解説しています(③、④など「うつ病」の診断基準を満たさないものを「排除」するのではなく、それらも含めて、産業医の立場から人事担当者と共に現実対応を考えていこうという姿勢がいい)。

 とりわけ、著者が「現代型うつ病」と呼ぶところの気分変調性障害(ディスチミア親和型うつ病)に対する見分け方や対応方法が類書に比べて解り易く書かれていて、例えば、「現代型うつ病」であっても敢えて「従来型うつ病」と同じ職場復帰プログラムを用いればよいことをその理由と共に書いている部分には、ナルホドと共感しました。

 「職場うつ」への企業内での対応について、産業医としての現場での経験を踏まえた上で(もちろん著者は、主治医としても患者を診ている)、精神科医としての専門家の立場から、現実的な対応法、実践的な示唆やアドバイスが分かり易く書かれた良書だと思います。

 惜しむらくはタイトルで、林公一氏の『それは、うつ病ではありません!』と同じようなニュアンスになってしまっているため、これもまた「擬態うつ」を告発するような内容かと錯覚する読者もいるのではないでしょうか。
 更に、「職場うつ」という言葉が混乱を招いているとしながら、「企業の『職場うつ』対策」というサブタイトルを用いているのもどうかと(「職場うつ」には"非うつ"も含まれると断り、また、そのことを"悲劇"としてはいるが)。
 
 著者の最近のセミナーの1つに、「傲慢なのに打たれ弱い『現代型うつ病』への職場対応」という演題ものがありましたが、本書では、「現代型うつ病」に当たる気分変調性障害(ディスチミア親和型うつ病)だけでなく、非うつ病である「パーソナリティ障害」や「内因性精神障害」についても触れているので、このサブタイトルは止むを得ない(「職場うつ」という言葉を条件付きで使わざるを得ない)のかも知れませんが、メインタイトルの方はちょっと...。

 林公一氏の著書とのタイトルの類似を個人的に意識し過ぎたかも知れませんが、中身的には、こちらの方が圧倒的に良書です。

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1人の精神科医の1つの考え。入門書と言うより「意見書」として読んだ方がいい。

林 公一 『それは、うつ病ではありません!』.jpg 『それは、うつ病ではありません! (宝島社新書)』 ['09年] 擬態うつ病.jpg擬態うつ病 (宝島社新書)』 ['01年]

「Dr 林のこころと脳の相談室」(http://kokoro.squares.net)というサイトを運営し、人事担当者の間でも評判の高い精神科医である著者の『擬態うつ病』('01年/宝島社新書)に続く第2弾で、それぞれのタイトルからも解るように、うつ病と外見は似ているが本質は異なる「擬態うつ病」(=うつ病もどき)というものをテーマにしています。

 実際、著者が言うところの「擬態うつ病」というのは社会に、また企業の内に蔓延していて、人事担当者を大いに惑わせるものであり、『擬態うつ病』はタイムリーな刊行であったと思いますが、但し、当時それを読んでやや個人的には引っ掛かるものがあり、精神医学やうつ病の本を何冊か読んだ後に今回の続編を読んで、ああ、これも1人の精神科医の1つの見方に過ぎないなあという思いを強くしました。

 20のケースを挙げ、「これはうつ病でしょうか?」というQ&A形式で解説を進めていますが、最初の方は結構わかりやすい事例のように思え、但し、では「うつ病」でなければ何なのかということで、例えば境界性人格障害や統合失調症であるといった具合に言い切っていますが、果たしてこれだけでそうと言えるのか。著者が描いている事例のイメージの中ではそうかも知れませんが、一般の読者がこれだけを読んで、こうしたケースは境界性人格障害や統合失調症であると(それら自体の解説はあまりされていないのに)決め込んでしまう恐れがあるように思いました。

 また、「うつ病」の定義に著者独自の考えがかなり入っているように思え、実際、著者自身、後半の方では、医学界が「カオスの時代」にあり、「現代の診断基準では、うつ病ということになります」、「こうしたケースはうつ病と呼ぶべきではない、と私は思います」といった物言いになっていたりします。

 決定的なのは、"「ディスチミア親和型うつ病」などをうつ病と呼ぶ派"などという言い方で、社会に「擬態うつ病」が蔓延しているのは困ったものだという一般感情にかこつけて、現代のメジャーな診断基準および「うつ病(うつ病性障害)」の概念範囲を否定していることで、うつ病の入門書として本書を読んでしまった読者がいたら、その前後に読む真っ当な本に書かれている内容との齟齬のために相当混乱させられるのではないでしょうか。

 入門書と言うより、1つの「意見書」として読んだ方がいいと思います。

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様々な「うつ」との闘いを取材。医療機関、行政、NPO、企業などの取り組みも。

うつを生きる2.gif 『うつを生きる』 (2007/06 朝日新聞社) やまない雨はない.jpg 倉嶋 厚 『やまない雨はない―妻の死、うつ病、それから...』 (2002/08 文藝春秋)

 '06年から'07年にかけて朝日新聞に断続的に連載された「うつ」関連の特集コラムを再編集したもので、複数の記者が「うつ」で悩む様々な人を取材し、彼らがそれをどう克服したか、また、医療機関や行政、NPO、企業などがどのような対応や対策を講じているかが記されています。

高島忠夫.jpg 冒頭に高島忠夫氏のことが事例として紹介されていますが(新聞なので、有名人でアイキャッチを狙った部分もあるかと思うが)、本書を読むと、26年間続いた料理番組の司会を代わった2年後に発病したとのことで、長く続けた仕事を辞めた時は、危ない時期なのだろうか。この人は、治ったと言うより、まだ闘病中でしょう。今でも毎日、抗うつ剤を服用しているとのこと。

倉嶋厚.jpg 元・気象キャスターの倉嶋厚氏も「うつ」に罹患経験者の1人として紹介されていますが、発症したのが妻が癌で亡くなった73歳の時で、この人のように伴侶の死が発症の契機となることも、やはり多いのかも(倉嶋氏のうつ病の発症と闘病の記録は、自著『やまない雨はない―妻の死、うつ病、それから...』('02年/文藝春秋)に詳しい)。

 ワイドショー「小川宏ショー」の司会を通算17年務めた小川宏氏もうつ病に罹患しているから、やはり長寿番組を終えた後の虚脱感は大きいのかなあ(妻が癌になった点では、本書の倉嶋厚氏と同じ)。

 高齢者のうつだけでなく、女性特有のうつ(中高年齢者は更年期障害と見分けにくく、また、それより下の年齢では"産後うつ"などといったものもある)や、エリート・サラリーマン、医師などがうつになった例なども取材していて、その治癒方法も、薬物療法だけでなく、認知療法や磁気療法など様々で、こうして見ると、どの療法がその人に合っているかということの見極めが難しいなあと思わざるを得ませんでした。

 うつ病から回復して職場復帰を目指す人のために、相手を人事担当者に見立てた模擬面接訓練をやっている組織もあることを知り、それだけ、復職の壁は厚いということなのでしょうか(ただ、企業側が積極的に、職場復帰支援プログラムを策定している例も紹介されてはいるが)。

 この職場復帰支援組織の人がうつ病患者の家族に説いている、本人との接し方には「温かな無関心」 という姿勢が必要という話と、同じく職場復帰支援に力を入れている不知火病院(大牟田市)の院長が退院患者に渡したメモにある、「7割の力、3割の余力」 という言葉が印象的でした。

 本書によれば、'04年に、精神科医の島悟・京都文教大教授が全国ネットのメンタルヘルスコンサルティング機構を立ち上げ、主として、社員を復職させるかどうかなどに迷う上司や人事担当者への助言を行っているそうですが、これからは、企業側からも積極的にこうした外部機関との連携・活用を進めていく必要があるように思いました。

《読書MEMO》
「やまない雨はない」...2010年3月6日単発スペシャルのテレビドラマとしてテレビ朝日系列にて放映。
ドラマ やまない雨はない.jpgキャスト
倉嶋 厚:渡瀬恒彦(青年期:内田朝陽)
倉嶋泰子:黒木 瞳(青年期:星野真里)

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「メランコリー親和型うつ病」というものを通して、"日本人という「うつ病」"を考える。

うつを生きる.jpgうつを生きる (ちくま新書)』['02年]日本人という鬱病.jpg 芝 伸太郎『日本人という鬱病』['99年]

メランコリー.jpg うつ病の中に「メランコリー親和型うつ病」という種類があり、これは、律儀、几帳面、生真面目、小心な、所謂、テレンバッハが提唱したところの「メランコリー親和型性格」の人が、概ね40歳以降、近親者との別離、昇進、転居、身内の病気などを契機に発症するものですが、職場での昇進などを契機に責任範囲が広がると、全てを完璧にやろうと無理を重ね、結果としてうつ病に至る、といったケースは、よく見聞きするところです。

 著者は、「メランコリー親和型性格」というのは平均的な日本人の性格特徴であり、和辻哲郎の『風土』など引いて、それに起因するうつ病というのは、日本の"風土病"であるとも言えるとして、これは、前著『日本人という鬱病』('99年/人文書院)のテーマを引き継ぐものです。
 また、日本の社会における「贈与」(ボランティア活動なども含む)とは、「交換」と密接に結びついていて(結局は、どこかで相手に見返りを要求している)、そうしたことが「うつ病の発生母地」になっていると。
 確かに、うつ病による休職者などは、会社に対して借りを作っていうような気分になりがちで、ある種の経済的な貸借関係の中に自らの休職を位置づけてしまいがちな傾向があるのかも。
 では、どうして日本人がそうした心性に向かいがちなのかを、本書では、文学、哲学、経済など様々な観点から考察し、貨幣論やマックス・ウェーバーの社会学にまで言及しています。

木村 敏.jpg 「メランコリー親和型性格」をキーワードに日本人論を展開したのは、著者の師であるという木村敏(1931- )であり、その他にも、中井久夫、新宮一成ら"哲学系"っぽい精神病理学者を師とする著者は、一般書という場を借りて、自らの思索を本書で存分に展開しているように思えます。
 うつ病本体から離れて、形而上学や日本人論にテーマが拡がっている分、一般のうつ病経験者などが本書を読んだ場合、どこまでそれに付き合うかという思いはありますが、これが意外と共感を呼ぶようです。
 それぐらい、「メランコリー親和型性格」というものを指摘されたとき、それが自分に当て嵌まると感じる人が、うつ病経験者には多いということなのかも知れません。

 そうした性格を否定するのではなく肯定的に捉えている点も、本書が共感を呼ぶ理由の1つだと思いますが(その点でタイトルの「生きる」に繋がる)、思考しながら読み進むことで、そうした自らの心性を対象化し、ものの考え方が良い方向に変容するという効果もあるのかも知れないとも思いました。

 個人的に興味深かったのは、不況(depression)とうつ病(同じく、depression)の相関についての考察で、「メランコリー親和型うつ病」というのは、返済不能な負債を負った際などに発症するものであり、会社で給与カットやリストラに遭ったりして発症するものではなく、折角昇進(昇給)させてもらったのに、それに見合った仕事ができていない、などといった状況で発症すると。
 だから、不況下では、それ以外の精神疾患は増えるかも知れないが、「メランコリー親和型うつ病」は減ると―。

 そんな機械的に割り切れるものかなという気もしますが(リストラした会社に対する負債は無いが、家族や援助者への負い目などはあるのでは?)、「メランコリー親和型うつ病」の特性を考えるうえでは、わかりやすく、また興味深い仮説かも知れないと思いました。

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"うつ"の底が抜けると躁になる。つまり、躁の方が深刻だということか。

問題は、躁なんです.jpg 『問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ (光文社新書)』 ['08年] 「狂い」の構造.jpg 春日武彦・平山夢明 『「狂い」の構造 (扶桑社新書 19)』 ['07年]

 "うつ"よりも頻度が低いために見過ごされ易い"躁"についての本ですが、著者は、うつ病が「心の風邪」であるならば躁病は「心の脱臼」であるとし、"うつ"の対極に躁があるのではなく、"うつ"の底が抜けると躁になるとしていて(つまり、躁の方が深刻だということ)、その3大特徴(「全能感」「衝動性」「自滅指向」)を明らかにするとともに、有吉佐和子、中島らもなどの有名人からハイジャック事件の犯人まで、行動面でどのようにそれが現れるかをわかり易く説いています。

中島らも.jpg有吉佐和子.jpg 有吉佐和子が亡くなる2カ月前に「笑っていいとも」の「テレフォンショッキング」に出演し、ハイテンションで喋りまくって番組ジャックしたのは有名ですが(橋本治氏によると番組側からの提案だったそうだが)、当時、本書にあるような箍(たが)が外れたような空想小説を大真面目に書いていたとは...。中島らもの父親が、プールを作ると言って庭をいきなり掘り始めたことがあったというのも、ぶっ飛んでいる感じで、彼の躁うつは、遺伝的なものだったのでしょうか。

黒川 紀章.jpg 著者によれば、躁の世界は光があっても影のない世界、騒がしく休むことを知らない世界で、最近では老年期にさしかかった途端にこうした状態を呈する人が増えているとのこと、タイプとしてある特定の妄想に囚われるものや、所謂「躁状態」になるものがあり、後者で言えば、(名前は伏せているが)黒川紀章が都知事選に立候補し、着ぐるみを着て選挙活動をした例を挙げていて、その人の経歴にそぐわないような俗悪・キッチュな振る舞いが見られるのも、躁の特徴だと(個人的に気になるのは、有吉佐和子、黒川紀章とも、テレビ出演、都知事選後の参院選立候補の、それぞれ2カ月後に亡くなっていること。躁状態が続くと、生のエネルギー調整が出来なくなるのではないか)。

黒川紀章(1934-2007/享年73)

 不可解な犯罪で(アスペルガー症候群のためとされたものも含め)、躁病という視点で見ると行動の糸口が見えてくるものもあるとしていますが、やや極端な事例に偏り過ぎで(しかも、自分が直接診た患者でも無いわけだし)、一般の"躁"の患者さんから見てどうなのかなあ。罹患した場合、普段隠している欲望が歯止めなく流れ出していく怖さを強調する一方で、そうした事態に対する患者の内面の苦しみには、今一つ踏み込んでいないように思えます。

 (名前は伏せているが)中谷彰宏氏のように「○○鬱病の時代」とか言って素人が二セ医学用語を振り回すのは確かにどうしようもなく困ったものですが(この発言が本書を書くきっかけになったと「週刊文春」の新刊書コーナーで語っている)、著者自身も、時代の気質の中でこの病を捉えようとしている面があり、その分、社会病理学な視点も含んだ書きぶりになっていて、その点が入門書としてはどうかなあという印象もありました。

 著者自身は、「躁に関心があるのは、怖いもの見たさのようなものがある」といったことを、同じ文春の誌面で語っていて、そのことは、作家・平山夢明氏との対談『「狂い」の構造-人はいかにして狂っていくのか?』('07年/扶桑社新書)を読むと、人間の狂気そのものへの著者の関心が窺えます。但し、この対談では、平山氏の異常性格犯罪に対するマニアックな関心の方が、それ以上に全開状態で、著者が平山氏と歩調を合わせて、自らの患者になるかも知れない人間を「ヤツ」呼ばわりしているのが気になった。

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重症うつ病の"現場"を見てきているという自信が感じられる内容。「うつ病」の怖さを痛感。

うつ病.jpgうつ病―まだ語られていない真実 (ちくま新書 690)岩波 明.jpg 岩波 明 氏(精神科医/略歴下記)

Hemingway.bmpMargaux Hemingway.jpgMargaux Hemingway in Lipstick.jpg 自殺したヘミングウェイが晩年うつ病でひどい被害妄想を呈していたとは知らなかったし、近親者にうつ病が多くいて、彼の父も拳銃自殺しているほか、弟妹もそれぞれ自殺し、孫娘のマーゴ・ヘミングウェイ(映画「リップスティック」に主演)までも薬物死(自殺だったとされてる)しているなど、強いうつ病気質の家系だったことを本書で知りましたが、うつ病を「心のかぜ」などというのは、臨床を知らない人のたわごとだと著者は述べています。
Ernest Hemingway/Margaux Hemingway

 ただし本書によれば、こうした遺伝的気質などによる「内因性うつ病」と、心因的な「反応性うつ病」を区分する従来の二分法は症状面からの区別が困難で、内因性うつ病でも近親者の死など身近な出来事が誘引として発症することがあるため、DSM‐Ⅳではこれらは大うつ病という用語で一括りにされており、一方、軽症うつも、「神経症性うつ病」と従来呼ばれていたのが気分変調症(ディスサイミア)」と呼ぶようになっているとのこと。こうした病名は時代とともに変わるようでややこしい。
 実際、「軽症うつ」という概念は、「大うつ病」「気分変調症」を除く"軽いタイプのうつ病"という意味で最近まで用いられており(時に「気分変調症」も含む)、本書はどちらかと言うと、「軽症うつ」を除くディスサイミア以上の重い症状を扱った本と言えるのでは。

 うつ病(ディスサイミア)の症例として、被害妄想から自宅に放火し、自らの家族4人を死に至らしめた女性患者の例が詳しく報告されていて、うつ病(ディスサイミア)の怖さを痛感させられショッキングであるとともに、その供述があまりに不確かで、(このケースもそうだが)抗うつ剤を大量服用したりして事故に至るケースも多いようで、こうした事件の事実究明の難しさを感じました(この事件についても著者は"失火"の可能性を捨てていない)。

 こうした犯罪と精神疾患の関係も著者の研究テーマであり、そのため著者の本は時に露悪的であると評されることもあるようですが、無理心中事件などの中には、実際こうしたうつ病に起因するものがかなり多く含まれていて、周囲が異常を察知し、また薬の服用を過たなければ防げたものも多いのではないかと改めて考えさせられました。

 現在治療を受けたり通院したりしている人にも自分がどんな治療を受けているのかがわかる様に、抗うつ剤の種別や副作用について専門医の立場から詳しく書かれている一方、素人や専門医でない人の書いたうつ病や抗うつ剤に関する著書の記述の危うさに警鐘を鳴らし(高田明和、生田哲の両氏は名指しで批判されている)、更に、精神科医であっても重症例の臨床に日常的に携わっていない学者先生のものもダメだとしていて、重症のうつ病の"現場"を見てきているという自信とプライドが感じられる内容です。

リップ・スティック.jpg 因みに、冒頭で取り上げられているマーゴ・ヘミングウェイが主演した映画「リップスティック」は、レイプ被害に遭った女性モデル(マーゴ・ヘミングウェイ)が犯人の男を訴えるも敗訴し、やがて今度は妹(マリエル・ヘミングウェイ)も同じ男レイプされるという事件が起きたために、自分と妹の復讐のためにそのレイプ犯を射殺し、裁判で今度は彼女の方が無罪になるというもの。

マーゴ・ヘミングウェイ リップスティック 映画パンフ.jpg あまり演技力を要しないようなB級映画でしたが(マーゴ・ヘミングウェイが演じている主人公は、うつ気味というよりはむしろ神経症気味)、大柄でアグレッシブな印象のマーゴ・ヘミングウェイを襲うレイプ犯を演じていたのが、ヤサ男の音楽教師ということで(「狼たちの午後」('75年/米)でオカマ男性を演じてアカデミー助演男優賞にノミネートされたクリス・サランドンが演じてている)、このキャラクター造型は、今風のストーカーのイメージを先取りしていたように思います。

Killer Fish.jpg マーゴ・ヘミングウェイは、この後、B級映画「キラーフィッシュ」(別題「謎の人喰い魚群」または「恐怖の人食い魚群」、'78年/伊・ブラジル)とかにも出ていますが(劇場未公開、'07年にテレビ放映)、B級映画専門で終わった女優だったなあ。

 彼女が自殺した日は、祖父アーネスト・ヘミングウェイが自殺した日から35年後の、同じ7月2日だったそうです。

リップスティック.jpglipstick.jpg 「リップスティック」●原題:LIPSTICK●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ラモント・ジョンソン●製作:フレディ・フィールズ●脚本:デヴィッド・レイフィール●撮影:ビル・バトラー●音楽:ミッシェル・ポルナレフ●時間:89分●出演:マーゴ・ヘミングウェイ/クリス・サランドン/アン・バンクロフト/ペリー・キング/マリエル・ヘミングウェイ/ロビン・ガンメル/ジョン・ベネット・ペリー●日本公開:1976/09●配給:東宝東和●最初に観た場所:高田馬場パール座 (77-12-16) (評価:★★)●併映:「わが青春のフロレンス」(マウロ・ポロニーニ)

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岩波明 イワナミ・アキラ
1959昭和34)年、横浜市生れ。東京大学医学部卒。精神科医。医学博士。東京都立松沢病院を始めとして、多くの精神科医療機関で診療にあたり、東京大学医学部精神医学教室助教授を経て、ヴュルツブルク大学精神科に留学。現在、埼玉医科大学精神医学教室助教授を務める。著書に『狂気という隣人』『狂気の偽装』『思想の身体 狂の巻』(共著)、訳書に『精神分析に別れを告げよう』(H.J.アイゼンク著・共訳)などがある。

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憂うつだが好きなことには元気が出る、過食・過眠、イライラする...若い女性に多いうつ病。

気まぐれ「うつ」病.jpg 『気まぐれ「うつ」病―誤解される非定型うつ病 (ちくま新書 668)』 ['07年] 貝谷久宣 (かいや ひさのり).gif 貝谷久宣 (かいや ひさのり)赤坂クリニック理事長(略歴下記)

うつ2.jpg 著者は、パニック障害をはじめ不安障害を専門とする精神科医で、パニック障害の治療で知られるクリニックの理事長を務めるなど、社会不安障害の研究・治療の第一人者ですが、その著者が書いた「非定型うつ病」(かつて「神経症性うつ病」と呼ばれたタイプ)の本です。

 普通のうつ病では、何があっても元気が出ないのに対し、非定型うつ病の場合は、何か楽しいことがあると気分が良くなるなど、出来事に反応して気分が明るくなるのが大きな特徴で、タ方になると調子が悪くなったり、過食・過眠気味になったり、イライラして落ち着かないなどの傾向もみられるそうですが、20〜30代でかかるうつ病では、多くがこの非定型タイプと考えられ、特に若い女性に多いとのこと。

 「非定型うつ病によくみられる随伴症状」として、〈不安・抑うつ発作〉〈怒り発作〉〈フラッシュバック〉〈過去・現在混同症候〉〈慢性疲労症候群〉といった症状をあげていて、「不安・抑うつ発作の特徴は、わけもなく涙が出ること」といった観察は、数多くの臨床をこなしてきた著者ならではのものと思われました。

うつ3.jpg 但し、掲げられている13の症例の読み解きは、自分にはかなり難しく思え、それぞれ共通項も多いものの、症候の現れ方や治り方が多様で、他の病気や人格障害と重なる症状もあり、実際、医者に境界性人格障害などの診断を下されることもあるというのは、ありそうなことだなあと(こうなると、患者にすればもう、クリニックの選び方にかかってきて、そこで誤ると、症状を増幅しかねないということか)。

 普通のうつ病では、とにかく休養をとることが重要、周囲の人が頑張れと言って励ますと、本人が自分自身を追い込んでしまうので良くないとされていますが、非定型うつ病の場合は、少し励ますことが本人のためになり、決まった時間に起きて会社に行く方が良かったりするようで(休職を取り消して回復した症例が紹介されている)、一方で、普通のうつ病が多くの場合、重症期を過ぎて回復期に自殺する危険があるのに対し、非定型うつ病では、周囲の人に助けを求めるサインとして、衝動的に自殺を企てる恐れがあるそうで(リストカットを繰り返すのはこのタイプに多い。これも、症例で紹介されている)、大体、人見知りをするようなタイプの人が発症することが多いようです。

 こうなると、うつ病(「執着性格」と相関が高い)とは別の病因による独立した症候群ではないかという仮説も成り立ちそうですが、著者はそこまでは踏み込まず、むしろ、治療の実際において使われる薬など、治療法の部分にページを割いています。
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貝谷久宣 (かいや ひさのり)
医療法人 和楽会 心療内科・神経科/赤坂クリニック理事長
1943年名古屋生まれ。1968年名古屋市立大学医学部卒業。マックス・プランク精神医学研究所(ミュンヘン)留学。岐阜大学医学部助教授・岐阜大学客員教授・自衛隊中央病院神経科部長を歴任。1993年なごやメンタルクリニックを開院。1997年不安・抑うつ臨床研究会設立代表。医療法人 和楽会 なごやメンタルクリニック理事長。米国精神医学会海外特別会員。国際学術雑誌『CNS Drugs』編集委員。
主な編著書/[新しい精神医学/HESCO] [新版 不安・恐怖症―パニック障害の克服/講談社健康ライブラリー] [脳内不安物質/講談社ブルーバックス] [対人恐怖/講談社] [社会不安障害のすべてがわかる本/講談社]

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体験者が書いた本の中ではベストの部類。偏りがなく読みやすい小野氏の本。疑問を感じた織田氏の本。

あなたの大切な人が「うつ」になったら.jpg     医者にウツは治せない.jpg
あなたの大切な人が「うつ」になったら―治すために家族や友人ができること、できないこと』 『医者にウツは治せない (光文社新書)

 うつ病の体験者が書いた「うつ」の本の内の幾つかには、余りにその人個人の体験に引きつけて書かれているため、その点を注意して読んだ方が良いものがあるように思えます。
 例えば、スポーツ・ノンフィクション作家の織田淳太郎氏が書いた『医者にウツは治せない』('05年/光文社新書)などは、医者の診断力に疑念を呈し(誤診や的確でない薬物投与は少なからずあると思うが、極端なケースばかり例示している)、生物学的治療(薬物療法)を否定し、ウツは自分で治そうとのことで「呼吸瞑想法」などを提唱していますが、これは著者が「うつ」と言うより「適応障害」であったためと思われ、最近の研究成果などは度外視し、多くの面で自らが俗説に流され、少数事例を以って過剰に一般化しているように思えました(評価★☆)。同じ光文社新書に精神科医が書いた「うつ」の本もあるのですが...。
                    
「うつ」は、ゆっくり治せばいい!.jpg それらの体験本の中で、この著者が書いた本は、「うつ」治療の学術的状況や、実際に行われている治療をよく精査していて、自分の体験を語ることで説得力を持たせつつも、自らの言説の裏をしっかりとっている、という印象を受けます。

 著者は、出版社に勤務していた44歳の時に「軽症うつ」を発症し、その後、退職してフリーのエディターになってからも「軽症うつ」を抱えて生きている人で、本書では、うつ病にはどのようなものがあり、どのような原因で発症するのかを概説したうえで、配偶者や恋人、親や子供、部下や同僚が「うつ」になった時、周囲の人はどのように対応し、また、本人と接したらよいのか、距離感をどう保てば良いのかなどが、わかりやすく書かれています。
 読みやすいだけでなく、サポートする側のつらさも踏まえて、しかも感情論に流されず書いている点が、他のうつ病の体験者が書いたものより優れていていると思いました。
小野 一之「うつ」は、ゆっくり治せばいい!

 著者の持論は、前著にもあるように「ゆっくり治す」ということ、とにかく、周囲の人はすべてを受け入れることが肝要で、薬物治療については著者も「薬物ではうつは治らない」との考えながらも、必要とする人もいるので、服用する場合には、長く服用を続けるのではなく、少しずつ減らすことをするよう勧めています。また、生活のリズムを整えることが必要で、スポーツの効用なども説いています。

 あることについて専門雑誌誌などの記事にする場合、ライター以上にテーマの周辺を精査するタイプのエディターがいて、ライターの記事が偏向しないように注意を払っているケースがありますが、そうしたタイプのエディターは概ね優れていると思えることが多く、本書は、著者のエディターとしての良質の部分が生かされているように思えます。

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最初に読むうつ病の本としてならば、オーソドックスで読みやすい。

うつ病をなおす.jpg 『うつ病をなおす (講談社現代新書)』 ['04年] 野村総一郎.jpg 野村 総一郎 氏(防衛医科大学教授) NHK教育テレビ「福祉ネットワーク」 '05.05.28 放映 「ETVワイド-"うつに負けないで"」より

うつ.jpg 「うつ病」の入門書であり、「うつ病」をうつ病性障害」、「双極性障害(躁うつ病)」、「気分変調症の3タイプに分け、代表的症状をわかり易く解説していますが、この内「うつ病性障害」が「大うつ病」と訳されているのに対し、このタイプを「うつ病」と呼び、いろいろなタイプを総括した呼び名を「気分障害」とした方が良いのでは、といった著者なりの考えも随所に織り込まれています。

 「特殊なうつ病」や、うつ病ではないがうつ病に関連があると言われているタイプについても、「仮面うつ病」、「子供のうつ病」、「マタニティーブルー」や、「軽症うつ病」(「気分変調症」以外の「小うつ病」、「短期うつ病」など)、「双極2型障害」(ウツが重く躁が軽い)、「季節性うつ病」(冬だけ発症する)、「血管性うつ病」(高齢者に発症、アルツハイマーとは症状が異なる)などの解説がされていて、改めてウツには様々なタイプがあることを知りました。

 患者の側に立って書かれている本でもあり、趣味・気晴らしもウツ気分の時はかえってエネルギー枯渇を招き、症状を悪化させることがあるといった指摘などもされています。
 うつ病の人は休養するのが一番なのだが、「休むなんてとんでもない」というのがうつ病者独特の考え方であり、そこで著者の場合は、そうした努力好きの性格を利用して、「休暇を取る」ことだけに向けて「努力」してもらうよう説得するとのこと。
薬.jpg
 薬物療法についても、症状のタイプ別に「治癒アルゴリズム」という概念を用いて、一般に抗うつ剤や安定剤がどの段階でそのように処方されるかがわかり易く書かれているほか、精神療法については、それぞれに患者との相性の違いがあるとしながらも、その中で、元来うつ病の治療と予防を目的として作られた「認知療法」に的を絞って解説しています。

 最初に読むうつ病の本としてはオーソドックスで読み易いものであるともに、網羅的でありながらさらっと読める分、やや物足りなさも。
 最後に「うつ病」の病因について「こだわり遺伝子」という仮説を示していて、「物事の重みづけができない」ため「全てをやって初めて成功すると感じる」、逆にそれが出来ないと不全感に囚われストレスに見舞われるという、遺伝子に根ざす「こだわり」がその原因ではないかとしているのが、興味深い考察に思えました。

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用語の適用は変遷しているが、メンタルヘルス担当者が今読んでも、参考となる点は多い。

軽症うつ病―「ゆううつ」の精神病理.jpg 軽症うつ病.jpg            笠原 嘉2.gif  笠原 嘉 氏(名大名誉教授)
軽症うつ病―「ゆううつ」の精神病理 (講談社現代新書)』 ['96年]

退却神経症.jpg 著者は、日本で最初に「軽症うつ」という概念を提唱した人で(「うつ」と紛らわしい「退却神経症」というものを概念として提唱したのも著者)、本書では、人に気づかれにくい、また、自分でも気づきにくいタイプのうつ病である「軽症うつ」ついて、とりわけ、ひとりでに起こる「内因性うつ」について、患者サイドに立って、わかりやすく解説しています。

 但し、本書で取り上げられている「軽症うつ」は、最近では、「大うつ病」(狭義の「うつ病」)以外のうつ病として「気分変調症」と呼ばれているようで、それでは「軽症うつ」という言葉が使われていないかというと、ある時は、「大うつ病」と「気分変調症」以外の病的なうつ状態を指す言葉として、またある時は、「大うつ病」以外の病的なうつ状態(「気分変調症」含む)を指す言葉として使われているようで、ややこしい。
 更に、「内因性うつ」と「心因性うつ」を無理に区別しようとしないのも最近のトレンドのようです(本書でも、ある出来事が引き金となって「内因性うつ」が発症することがあることを事例で示している)。

 少し古い本だけに、こうした用語の適用の変遷には一応の注意を払わねばならないという面はありますが、「ゆううつ」の要素として、「ゆううつ感」のほかに「不安・いらいら」「おっくう感」をあげ、回復期において「おっくう感」が一番最後まで残り、仕事などに復帰しても何故かヤル気が出ないことがあるといった指摘は鋭いです。

 職場のメンタルヘルス対策として、復帰者の受け入れ体性をつくる際に、原則として今までの職場に復帰させ、ならし出勤からスタートするといった、最近、人事関係の専門誌によく書かれていることが、すでに本書では提唱されているなどはさすがであり、その他にも、うつ病が何事も几帳面にやり遂げないと気がすまない「執着性格」と相関が高いことや、回復期に「三寒四温」的な気分変調が見られることなど、職場のメンタルヘルス(保健推進)担当者などが今読んでも、参考になることが多いと思われます。

《読書MEMO》
●急性期治療の七原則(149p)
(1) 治療対象となる「不調」であって、単なる「気の緩み」や「怠け」でないことを告げる。
(2) できることなら、早い時期に心理的休息をとるほうが立ち直りやすいことを告げる。
(3) 予想される治癒の時点を告げる。
(4) 治療の間、自己破壊的な行動をしないと約束する。
(5) 治療中、症状に一進一退のあることを繰り返し告げる。
(6) 人生にかかわる大決断は治療終了まで延期するようアドバイスする。
(7) 服薬の重要性、服薬で生じるかもしれない副作用について告げる。

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うつ経験がビジネス人生のステップになるという、当事者としての強いメッセージ。

デキるヤツほどウツになる1.jpg 『デキるヤツほどウツになる―ビジネスマンのためのメンタルケア読本』 デキるヤツほどウツになる2.jpg.jpgデキるヤツほどウツになる―ビジネスマンのためのメンタルケア読本 (小学館文庫 Y う- 8-2)』 〔'07年〕

デキるヤツほどウツに.bmp 35歳のときにうつ病を発症したという人が書いたビジネスマン(ビジネスパーソン)のためのメンタルケアについての本で、自分がうつ病になっているだけに、うつにならないようにするにはどうすれば良いか、それ以上悪化させないようにするにはそうすればよいか、治った後に再発を防ぐにはどうすれば良いかが、ビジネスマンの視点に立って具体的に書かれています。

 単に個人の考えではなく、専門家の監修を交え、医学的見地からの解説もされていて、大手・先行企業のメンタルヘルスケア対応例が紹介されています。
 従って、書かれていることにそれほど偏りは無く、「デキるヤツほどウツになる」というタイトルも、完璧主義や几帳面な人ほどうつ病になりやすいという点では当たっているように思われます。

 著者が言うように、デキる人ほど自分は最近うつではないかと思いがちで、むしろ、デキないくせに自分はデキると思っている人ほど、「うつなんてデキないヤツがなるものだ」と思っているのかも。

 うつについて書かれた他の本にもありますが、本書にも「つらくなったらまず病院へいくこと」とあります。
 大体、うつの人は、自分でそのことを受け入れれば、わりとすんなり病院にいくことが多いのではないかと思われ、むしろ問題は、うつの予兆がじわじわと表れるため、本人も病気だとは思わず、周囲も気づかないことが多いということなのかもしれません。

 休職中に"気晴らしの旅行"をすることが逆効果になることがあるとか、うつであることを"カミングアウト"することで得られる効用など興味深い話もあり、うつ経験(ウツ・キャリア)が次のビジネス人生の良い方向へのステップになるという考えには、当事者としての強いメッセージが込められているように感じました。

 一方で、自分がうつになった経緯についてはほとんど書かれておらず、この著者の場合は、「今も治療中」であるということからも、仕事要因よりも気質的要因によるものなのではないかという疑念も少し抱きました。
 著者には『僕のうつうつ生活』('05年/知恵の森文庫)という本もあり、そちらの方を読めば、著者自身のことはわかるのかも。
 
 【2007年文庫化[小学館文庫]】

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ビジネスパーソンの目線に立ってわかりやすく解説した啓蒙的入門書。

部下を「会社うつ」から守る本.jpg 『部下を「会社うつ」から守る本』 〔'07年〕 渡部卓さん.jpg 渡部 卓(たかし) 氏 (ライフバランスマネジメント社社長) NHK教育テレビ「福祉ネットワーク」 '05.06.14 放映 「ETVワイド-"うつに負けないで"」より

会社のストレスに負けない本.jpg そのわかりやすさで好評だった『会社のストレスに負けない本』('05年/大和書房)の著者が、今度は管理職の立場から見た、部下のメンタルヘルスケアの問題を扱って解説したもので、前半は「社内うつ」とその予防や対応について、後半は、メンタルヘルスケア全般についての個人および組織・企業ぐるみの対応について書かれていています。

会社のストレスに負けない本

 本書では、職場ストレスに起因する心因性のうつ状態、うつ病、適応障害などをひっくるめて「うつ病」(会社うつ)と表現し、現実のビジネス現場で部下がこうした状態に陥らないようにするには、上司がどのように考え、行動したらよいのかを具体的に解説しています。

 人と話すことで「うつ」というのはかなり防げるわけで、本書では「傾聴」というカウンセリングの概念を重視しており(同時にそれがコーチングの基本でもあるという捉え方は正統的であるという印象を受けた)、さらに、ワークライフ・バランスの向上、アサーションの効用といったことから、認知療法、森林療法などについても触れられていますが、著者は医者ではなく、産業カウンセラーであり、また多くの外資系企業で要職にいた経歴の持ち主でもあることから、医学的な観点よりも、ビジネスパーソンの目線に立ってそれぞれ実践的に書かれています。

 最近のビジネスのトレンドの中での職場環境というものを捉えて、セクハラ・パワハラ、ITストレス、EAP(Employee Assistance Program=従業員支援プログラム)といったことにも言及しているため、やや網羅的になって1つ1つのテーマの捉え方が浅くなっている傾向がありますが(入門書というより啓蒙書?)、特定分野ごとにもっと知識を深めたいという人向けに、適宜、参考図書を紹介しています。

 〈メンタルヘルス〉を〈メンタルタフネス〉と置き換えてみると経営者の興味・反応が大きく変わるというのが、何かよくわかる気がしますが、〈メンタルタフネス〉をつけるには、3つのR(Rest 休養、Recreation 気分転換、Relaxation くうろぎ)が大事だということで、そこのところ、上司または経営者は理解してくれるでしょうか(彼ら自身が、余裕がなくなっているケースも多いけれど)。

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「社内うつ」とは本当のうつ病ではなく、職場ストレスが引き起こす「適応障害」だという考え。

仕事中だけ「うつ」になる人たち.jpg仕事中だけ「うつ」になる人たち―ストレス社会で生き残る働き方とは』 ('04年/日本経済新聞社)

 心理学者の小杉正太郎氏とワトソン・ワイアットの川上真史氏が、最近増えていると言われる「社内うつ」の問題について、その発生原因やそれを取り除く方法を対談形式で語っています。

070101.jpg 小杉氏は本書で、本当のうつ病(内因性うつ病)は人口の0.3%に過ぎず、今ビジネスの世界で起きているのは「心因性うつ状態」と「適応障害」であるとし、「心因性うつ状態」は死別体験や社会的立場の危機などで生じるが、「適応障害」は特定の人物や状況に遭遇した時だけ生じると言っています。
 そして、「職場ストレスが引き起こす適応障害」を「社内うつ」と呼んでいます。

 個人の体質からくる「うつ病」は完治が難しいが、「社内うつ」は、例えば人間関係のトラブルが原因の場合、その原因となっている相手とのコミュニケーションを改善するなどしてトラブル原因をとり除けば、解決されるであろうと...。

 ストレス問題の解決法として氏は「積極的コーピング」という考え方を示していますが、それは、感情に直接焦点を当てるのではなく、原因となっている問題に焦点を当て解決することに主眼をおいた対処方法のことです。
 むしろ外部の専門家より内部の管理職が意識すべきことかも知れません。
 そのためには、氏の指摘のように「ストレス耐性」などと言って耐えることが美徳とされている企業風土を変えていく必要も感じました。

 一方、川上氏は、企業側から見たマネジメント問題としての提案をしていますが、"ハイパフォーマーを守るための制度"的な考え方が窺えるのが少し気になりました。
 氏のコンピテンシー論も興味深かったのですが、もともと達成動機論(達成動機の高い社員を多くする)だったものを、自分が日本流に行動論にアレンジし、つまり、真似していると同じ気持ちになってくるという方法論として導入したということらしいです。
 興味深い話ですが、そうした「自分がやった」という氏の自負は一体どこから来るのだろうか、やや疑問を感じました。

小杉正太郎.jpg 小杉正太郎 氏 (心理学者/略歴下記)  kawakami.jpg 川上 真史 氏 (ワトソン・ワイアット)

《読書MEMO》
●最近の医学では、「DSM-Ⅳ」というマニュアルが多く採用され、症状の程度と持続期間によって「大うつ病」と「軽症のうつ病(気分変調障害)」に分けている(本書でも「軽症うつ病」という言葉を併せて使用)。

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小杉正太郎 (早稲田大学文学部教授)
1939年生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了。1966年から携わった海底居住の心理学的研究を契機として、環境・ストレス・行動などをキーワードとする心理学的研究に従事。多数の企業にカウンセリングルームを開設し、従業員を対象とした心理ストレス調査と職場適応の援助を実施している。心理ストレス研究の第一人者として執筆活動・講演活動も活発に行う。主な著書に『社内うつ』(講談社)、『ストレス心理学』(川島書店)、『仕事中だけ「うつ」になる人たち』(川上真史氏との共著、日本経済新聞社)などがある。

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