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脳卒中からの脳科学者の回復の記録。まさに奇跡的。その回復要因をもっと考察して欲しかった。

奇跡の脳1.JPG奇跡の脳.jpg  奇跡の脳 文庫.jpg Jill Bolte Taylor Ph.D. in TED.jpg
奇跡の脳』['09年]『奇跡の脳: 脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)』['12年] Jill Bolte Taylor Ph.D. in TED

 著者のジル・ボルト・テイラー(Jill Bolte Taylor Ph.D.)はハーバードの第一線で活躍する脳科学者でしたが、1996年12月10日の朝、目覚めとともに脳卒中に襲われ、歩くことも話すことも、読むことも書くこともできず、記憶や人生の思い出が失われていくという事態に陥ります。

 彼女を襲った病気は、脳動静脈奇形(AVM)による脳出血(脳卒中は血管が詰まる「脳梗塞」と血管が破れて出血する「脳出血」に大別される)でしたが、本書は、そうした"心の沈黙"という形のない奈落の世界に一旦は突き落とされたものの、そこから完全に立ち直ることが出来た彼女が、後から長い時間をかけて自らの陥った状況を思い出し、科学者として分析し、回復の過程をまとめたものです(原題は"My Stroke of Insight A Brain Scientist's Personal Journey")。

 脳卒中に襲われた朝の自身の心理状態などが詳しく書かれていますが、その瞬間、これで脳の機能が失われていく様を内側から研究できると思ったというのがスゴイね。「時間が流れている」という感覚も、「私の身体の境界」という感覚も、脳の中で作り出された概念に過ぎないということを、それを失うことによって悟ってしまうというのも。

 脳卒中などによる機能障害は、最初はリハビリの効果が見られても6ヵ月ぐらいで症状が固着し、そこからはあまり目覚ましい回復は見られないというのが一般的であるのに対し、彼女の場合は年ごとに身体機能と知的活動を行う力を回復し、8年ぐらいかけて身体機能を元に戻すとともに、研究の場に完全復帰しています。

 そこには並々ではない努力はあったと思われるものの、脳の大手術を受けたこと、また障害の重さなどから言うと、やはり"奇跡的回復"と言っていいのでは(「身体の境界」の感覚が戻ったのは7年目だという)。

 彼女の場合、主にダメージを受けたのは左脳であったため、左脳が司っていた言語機能、理性や時間感覚が失われる一方で、右脳の芸術家的機能が活発化していったわけで、本書の後半は、「左脳マインド」に対する「右脳マインド」の話になっていて、プラグマティックであると同時に、ややスピリチュアルな雰囲気も。

 本書は全米で50万部売れ、彼女の「TED」(Technology Entertainment Design)でのプレゼンの様子はユーチューブで何百万回も視聴されたそうですが、それを見ると、この人、相当のプレゼンテーターというか、教祖的な雰囲気もあって、確かにアメリカ人には受けそうだなあ(但し、日本でも、NHK-BSハイビジョンで特番が組まれた。訳者・竹内薫氏の仕掛けもあったとは思うが)。

 彼女が陥った脳機能障害について、図説などを用いて丁寧に解説してあるのが親切で、一方、まさに"奇跡"であるところの回復過程についてはさらっと済ませてしまっていて、「努力」だけでこのような回復を遂げられるものではなく、何らかの特別な要因があったと思われるのですがそれにはさほど触れず、その後は「右脳マインド」の話になってしまっているのが、個人的にはやや不満。そうした"奇跡"が起きたことの「神秘」が、そのまま後半のスピリチュアリズムに受け継がれているといった感じでしょうか。

それでも、そうした「右脳マインド」の話にしても、体験者、しかも脳科学者が語っているだけに、凡百の啓蒙書などに書かれていることなどよりは、ずっと説得力はあったように思います。

【2012年文庫化[新潮文庫(『奇跡の脳: 脳科学者の脳が壊れたとき』)]】

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

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学者の対談に一般人が加わる試み。「手話」や「双生児」を通して探る脳の話が興味深い。

カフェ・デ・サイエンス.jpg遺伝子・脳・言語.jpg 『遺伝子・脳・言語―サイエンス・カフェの愉しみ (中公新書 1887)』 ['07年]

 武田計測先端知財団が主催した「カフェ・デ・サイエンス」という、一般の人々が科学者と一緒に、科学的テーマを日常的な言葉で考える企画で、遺伝子研究の堀田凱樹氏と脳研究の酒田邦嘉氏を構師(対談者)として6回にわたって行われたものを本にしたもの。テーマは「脳」。

 第1回、第2回は、脳と遺伝子や環境との関係、脳と言語の関係、というテーマで講義が進められ、一般参加者が質問をしていくのですが、何だか質問の方向性やレベルがバラバラで、1つ1つのQ&Aは面白いことは面白いのですが、こんな「ぱらぱら」した感じで進んでいくのかなあと...(結構、こういうカフェに参加する人は、科学番組とか見ているんだろうなあと思わせるような、そんな"仕入れネタ"的質問が多かった)。

双生児の脳科学.jpg手話の脳科学.jpg そしたら、第3回で手話通訳者をゲストに迎え「手話の脳科学(脳と言語の関係)」を、第4回では一卵性双生児の学者の卵を迎え「双生児の脳科学(脳と遺伝子や環境との関係)」を、それぞれテーマとし実証的に(実例的に)討議していて、対象が絞れた分、内容も締まったという感じ。
                 
脳が生みだす科学.jpg脳とコンピューター.jpg 第5回では「脳とコンピュータ」というテーマで、フランス人のチェスの元日本チャンピオンを招いていますが、この辺りからどんどん参加者が質問するだけでなく活発に議論に参加するようになり、最終回では堀田・酒田両氏もファシリテーター的立場になっていて、司会をした財団のコーディネーターの方も、カフェの理想に近かったと自画自賛していますが、最後でまた、ややバラけた印象も。

 堀田・酒田両氏の話は、最先端の研究成果が盛り込まれている一方で、脳科学の本を何冊か読んでいる人には復習的部分も多かったのではないかとも思われますが、身近な話題を織り込んでいて気軽に読める点はいいと思いました。

 遺伝子学者の堀田氏は、昔"ラジオ少年"で、生物が苦手のまま医学部へ進み平滑筋の電気生理学など研究をしていたのが、もともと脳に興味があり、脳を知るには遺伝子を知らねばという思いからショウジョウバエの染色体研究へ転身したそうですが、そうした来歴が脳に関する話の内容にも現れていたと思いました。

 個人的には、手話のところで出た右利き・左利きのろう者の話や、双生児たち自身がシンクロニシティ経験の有無について語る部分などが特に興味深かったです。

 ゲストで招かれた双生児2人の出身校・東大附属中学には、脳研究の一環として双生児を"追跡"研究するための「双生児特別枠」が50年以上前からあるそうですが、初めて知りました。

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一般常識を覆すような内容も。中高生の質問が良く、それを導く著者の手腕も立派。

進化しすぎた脳 中高生と語る〈大脳生理学〉の最前線.jpg 『進化しすぎた脳 (ブル-バックス)』 ['07年] 進化しすぎた脳.jpg 単行本 ['04年/朝日出版社]

海馬/脳は疲れない.jpg ベストセラー『海馬/脳は疲れない』('02年/朝日出版社)の著者が、米国留学中に、脳をテーマに中高校生に4回に渡って講義したもので、'04年にソフトカバー単行本として一旦刊行されていますが、'07年にブルーバックスに収めるにあたり、脳科学を学ぶ日本の大学生に対して行った講義を、最後に1講追加しています。

 第1講では、脳が身体を規制しているという一般概念を覆し、身体が脳を規制しているのだと―、しかし、実際には人間の脳は必要以上に進化している、それはなぜか、といった感じで、のっけからスリリング。
 第2講では、「人間は脳の解釈から逃れられない」というタイトルで「意識」や「意志」といったことをテーマに様々な角度から解説していますが、「自由意志とは潜在意識の奴隷である」と言明しています。手足を動かすことさえ、そうなのだと。動かそうと思って動かすのではなく、脳が、先にそうしたくなうような指令を出して、後から意志や感情がついてくる。クオリアなども後発的副産物なのだ―と。

 第3講では、「記憶」をテーマに、曖昧な記憶しか持てないという脳の特質を明らかにする一方で、記憶のメカニズムを大脳生理学的観点から解説(この部分は少し難しいが、それでも類書に比べて解り易い)、第4項では、アルツハイマー治療など最先端研究を通して、脳の進化について語っています。

 追加された第5講は、2、3年で脳科学研究の状況は目覚しく変化するということでの追加らしいですが、大学生たちが脳科学を専攻した理由とかにページが結構割かれていて、質疑もいかにも学者の卵っぽいものが多い。

 それに比べると、4講までの中高生の質問は(慶応ニューヨーク学院の生徒たち8名を先着順で受講生に据えたらしいが)、わかりやすい言葉で発せれながらもユニークで、しかも、意図せず最先端のテーマに繋がるものも多く、講師の話を進めていく原動力になっています。
 (一緒に授業を受けていて、誰かが質問をした意味が最初わからず、先生の答えを聞いて、「ああ、いい質問だったんだなあ」と初めて知った―そんな経験を、読みながらしている感じ。遅れをとってはいけない、という気分になった。)

 こうしたことは、何よりも導き手である講師の手腕によるところが大きいのでしょうが(著者自身も、あの頃の自分だから出来た、と述べている)、最先端にある研究者が、極めて有能な教師でもある場合の好例であり、それが、教授でも准教授でもなく、30歳代前半の「助手・研究員」クラスの人によって為されているというのが面白いと言えるかも('07年に准教授になったが)。
 これからが楽しみな人。あまり「頭が良くなる...云々」的な本ばかり書いて、商売の方に走らないで欲しい。

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今でもそこそこにオーソドックスな入門書として読める。

脳の話 岩波新書.jpg 『脳の話 (岩波新書)』['62年] 時実利彦(1909-1973).gif 時実利彦(生理学者、1909-1973/享年63)

 1962(昭和37)年刊行という古さですが(1963年・第17回「毎日出版文化賞」受賞)、本論の最初で系統発生(脳の進化)と個体発生(脳の発達)、マクロ解剖の構造(脳の構造)を解説し、次にニューロンなどシステムの話(ネウロン)に入っていくという体系は、現代の専門教育におけるオーソドックスな講義の進め方と何ら変わらないものです。
 中盤は、大脳皮質の分業体制を示し、感覚、運動、感情、言語などのメカニズムを説き、後半では、記憶や学習、眠りと夢見、意識や行動などを、脳がどのように司っているかが書かれています。

 教科書的な並び方ですが、例えば「脳の重さ」についてだけでも、
 ・古代人類の脳の重さは現代人類の何歳のそれに相当するか(例えば北京原人は、3歳児ぐらいの脳の重さ)、
 ・偉人たちの脳の重さは普通の人より重かったのか(重い場合もあるが、必ずしもそうであるとは言えない)、
 ・脳の重さは高等動物の証しなのか(クジラの脳は7000gある)、
 ・では「脳重:体重」の比率が高等・下等を示しているのか(日本人の脳の重さの体重比は、スズメやテナガザル、シロネズミより小さい―だったらアメリカ人もフランス人もそうだろうが)、
 等々。
 そうなると、高等・下等を決めるのは、脳細胞の数か、皺の数か、はたまた細胞の絡み方か、と...読者の関心を引き込むような記述がなされています。

 図説も豊富ですが、著者は、実験脳生理学の手法を日本に導入した人であり、これまでの有名な海外での実験を紹介するだけでなく、自らの実験室で行ったマウス実験などを、写真と併せて紹介しているのが興味深く、電気生理学と分子生物学、とりわけ電気生理学の面での脳研究は、記憶の仕組みと海馬の役割などについても、この頃には既にここまでわかっていたのか、という思いにさせられます。

 「生の意欲」「生の創造」は前頭葉がその座であるとし、「生の創造」が人類滅亡の危機を抱かせることになった今日、「生の意欲」を達成するためには、シュバイツァーの説くところの「生への尊敬」が平和への唯一の道であり、脳の仕組みを凝視し、この心に徹してこそ豊かな実りが期待できると結んでいて、この頃の偉い先生って、思想と学問をきっちり結び付けていたのだなあという思いがしました。

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脳の神秘、リハビリの心得、医療への提言、そして感動。

壊れた脳 生存する知.jpg壊れた脳 生存する知』〔'04年/講談社〕 金曜プレステージ『壊れた脳 生存する知』.jpg フジテレビでドラマ化「壊れた脳 生存する知」('07年1月19日放映)

 「モヤモヤ病」という奇病を学生時代に発症し、3度にわたる脳出血の後遺症として高次脳機能障害を負った女性医師の闘病記。
 高次脳機能障害というのは、病気や事故によって脳に損傷を受けたために、思考、記憶、学習、注意といった人間の脳にしか備わっていない次元の高い機能が失われる症状のことで、この著者の場合だと、今話したことを忘れてしまう、物を立体的に見ることができない、左半身の麻痺、自分の左側の空間に注意を払えない、といった症状が見られています。
但し、知能の低下はなく、日常生活の些細なことを失敗する自分のことは認識できてしまうために、その分辛い障害であると言えます。
 しかし、医師である著者は、そうした認知障害などの心の障害を、自らの"壊れた脳"との対応関係において冷静に分析していて、本書は闘病記であると同時に、脳の神秘を示す貴重な記録にもなっています。

 全編を通して前向きでユーモアに満ちた明るい姿勢が貫かれていて、リハビリに取り組む人には障害へ向き合う姿勢を示唆し、一般読者には元気を与えてくれます。
 一方で、今も老人保健施設で医療に携わる立場から、認知症などに対する社会環境や医療現場、家族やセラピストへの提言も多く含まれています。
 リハビリのためにクルマの運転や速聴速読、百マス計算にまで取り組む著者のバイタリティに感服する一方、脳機能障害は、「ガンバレ」と言われて「ハイ」と頑張れるようなものでもないという難しい面があることも教えられます。

 脳科学に関する本を何冊か読んだ流れで本書を手にし、自らの障害を対象化し科学的に捉えた内容に興味深く読み進みましたが、最後にこの本が出来上がるまでの長い道程を知り、さらに著者が息子に宛てた手紙を読んでジ〜ンときました。

 【2009年文庫化[角川ソフィア文庫]】

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「●や‐わ行の現代日本の作家」の インデックッスへ 「●ちくま新書」の インデックッスへ

知識は得られるが、"ア本"(アキレタ本)指定されても仕方がない面も。

男が学ぶ「女脳」の医学.jpg 『男が学ぶ「女脳」の医学 (ちくま新書)』 〔'03年〕 米山 公啓.bmp

 斎藤美奈子氏によれば、「ちくま新書」は"ア本"(アキレタ本)の宝庫だそうで、特にそれは男女問題を扱ったものに多く見られるとのこと(大学教授で、準強制わいせつ罪で逮捕された岩月謙司氏の『女は男のどこを見ているか』('02年)などもそう)。
 もちろん分野ごとに良書も多くあって結構よく手にするのですが、本書は『誤読日記』('05年/朝日新聞社)の中でしっかり"ア本指定"されていました。

 本書は、扁桃体などの役割やドーパミンなど主要脳内物資の名前と機能を知るうえでは、わかりやすい良い本であるかのようにも思えました(多くの読者はそうした目的では読まないのかもしれませんが)。

 しかし読んでいるうちにだんだん不快になるとともに、釈然としない部分が多くなります。 
 振り返ると、著者による脳内物資の働きと日常の行動との関係の説明などには、かなりの恣意的な部分や拡大解釈が見受けられます。
 タイトルに「医学」とありながら、さほどの根拠も示さず「これは医学的にも証明されている」で片づけていたりするような傾向が見られ、似非科学、トンデモ本の世界に踏み込んでしまっているかも知れません。

 作家でもありながら(だからか?)、人間の性格や行動に対する乱暴な二分法を展開している点も問題があるように感じます。
 この決めつけぶりに加え、文章にあまり品位が無いこともあり、読んでいてだんだん、自分と同じように不快になってくる人もいるのではとも思われるのですが、すべての人がそう感じるとも限りません。
 結構売れたところを見ると、飲み会の話のネタのレベルで一部には受けるのかもしれません。

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海馬や扁桃体の機能を楽しく知ることができる。

海馬/脳は疲れない.jpg海馬/脳は疲れない (ほぼ日ブックス)』['02年/朝日出版社] 池谷 裕二.jpg 池谷 裕二 氏 (大脳生理学者)

hippocampus.jpg 若手脳研究家の池谷裕二氏とコピーライターの糸井重里氏の、頭のよさや脳の使い方などをテーマとした対談。
 脳科学の本を何冊も読んでしまった人には物足りなさもあるかもしれませんが、自分にとっては、海馬や扁桃体の機能を楽しく知ることができる本でした。

 シナプスをうまく作れない神経細胞は死んでいく(アポトーシス)というのが、免疫システムにおける「自己」を識別できないキラーT細胞がアポトーシスにより死ぬのと似ていて面白いと思いました。

 系統立てて対談が進行しているわけでは無いので、断片的なウンチクしか残らないのですが、自分の脳の可能性はともかくとして(諦めてはいけないか!)、脳の不思議さを改めて感じます。

 【2005年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
●脳の中で好き嫌いを扱うのは扁桃体、情報の要不要の判断は海馬(24p)
●区切りのいいところからあと数行書いて休憩をとった方がうまくいく(72p)
●海馬の大きさは小指ぐらい、ネズミの海馬は脳の半分ぐらいを占める(122p)
●海馬が無くなったら新たな記憶を製造できなくなり5分位しか記憶がもたない
●扁桃体の「感情」記憶はより本質的、蛇を怖いと思う→生命を守る(128p)
●海馬は記憶を蓄えるのではなく、情報の要・不要を判断し、他の部位に記憶を蓄える(134p)
●夢は、海馬が行う睡眠中の情報整理(寝ないと1日の記憶ができない)(199p)
●シナプスをうまくつくれない神経細胞は殺される(アポトーシス)(222p)
●モーツァルト「2台のピアノのためのソナタ」聴いたあとIQがあがる(ただし、30分から1時間しか効果は続かない)という研究がある(242p)
●池谷裕二は学部進学のときも大学院進学のときもトップ成績だったが、いまだに九九ができない(261p)-暗記メモリーでなく、経験メモリー

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「●岩波新書」の インデックッスへ ○日本人ノーベル賞受賞者(サイエンス系)の著書(利根川 進)

文学や哲学はいずれ脳科学に吸収されてしまう? 教授自身にまつわる話がかなり面白い。

私の脳科学講義77.JPG 私の脳科学講義.jpg     利根川 進.jpg 利根川 進 博士
私の脳科学講義 (岩波新書)』 〔'01年〕

 ノーベル賞学者(1987年ノーベル生理学・医学賞受賞)であるのに、海外で活躍する期間が長かったゆえに岩波新書にその著作が入っていないのは...ということで、岩波の編集部が口述でもいいからと執筆依頼したかのような印象も受けないではないのですが、本題の脳科学講義もさることながら、利根川教授自身にまつわる話が面白かったです。 

 京都大学では卒業論文を書かなかったとか、バーゼルの研究所で契約切れで解雇されたが居座って研究を続けたとか、英語の同じ単語の発音の間違いを米国育ちの3人の子どもが3歳になるごとに指摘されたとか...。

 今の著者の夢は、自分の研究室からノーベル賞学者を出すこと―。"日本人から"でなく"自分の研究室から"という発想になるわけだ。

 著者の考え方の極めつけは、巻末の池田理代子氏との対談の中の言葉(利根川教授はこの対談の中で、池田氏が40才を過ぎてから音大の声楽科へ入学し(この人、音大に通っている時に、マンションの同じ棟に住んでいたことがあった)、イタリア語を勉強をし始めてモノにしたことを大変に稀なケースだと評価していますが、利根川氏の理論から言うとまんざらお世辞でもないみたい)。
 利根川氏はこの対談の中で次のように述べている―。 

 ―文学や哲学はいずれ脳科学に吸収されてしまう可能性がある、と。

 ほんとにエーッという感じですが、以前、立花隆氏に対しても同じようなことを言っていたなあ(立花氏もちょっと唖然としていた)。
 世界中の脳科学者の中には同じように考えている人が多くいるらしく、一方それととともに、こうした考え方に対する哲学者らなどからの反論もあるようです(知られているところでは2005年に来日した女性哲学者カトリーヌ・マラブーなど)。

《読書MEMO》
●抗体は一種のタンパク質で、B細胞(Bリンパ球)がつくる(26p)/抗体と抗原はいわば鍵と鍵穴の関係(27p)
●バ-ゼル研究所で契約切れで解雇されたが、研究を続けた(30p
●多様性発現とダーウィン進化論の類似(32p)
●カスパロフVS.ディープ・ブルー(54p)
●rice(米)とlice(しらみ)の発音の違いを3歳の子供に指摘される(60p)
●海馬のどの部分に記憶と想起の部位があるかを、ノックアウトマウスで調べた
●夢は自分の研究室からノーベル賞学者を出すこと
●文学や哲学はやがて脳科学に吸収される

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音読・計算ブームの原点となった本だが、他にも読みどころあり。

自分の脳を自分で育てる.jpg 『自分の脳を自分で育てる―たくましい脳をつくり、じょうずに使う (くもん出版)』 〔'01年〕

FMRIscan.jpg '01年に出版されたこの本は、脳の働きを調べるブレーンイメージング研究の成果を通じて、子ども向けに脳の仕組みをわかりやすく伝えようとしたものだったのですが、翌年、『読み・書き・計算が子どもの脳を育てる』('02年/子どもの未来社)が出るや、計算・音読ドリルブームとなりました(料理ドリルまで出た!)。
 結果として、音読や単純計算をしているときは脳が活性化しているということは知られるようになりましたが、他にも興味深いことが結構書いてあります。

 ―右手を開閉させているときは左脳を使っているが、左手を開閉させているときは両脳を使っている。ただし、左利きの人はどちらの場合でも両脳を使っている、
 ―人の顔や風景の記憶は大脳の下部に、動物や植物の名前は脳の後ろのほうにしまわれている、
 といったことなど。脳の不思議を改めて考えさせられる本でもあったのかと。

 しかし、どちらかと言うとこうした点は読み飛ばされ、計算・音読が脳を活性化させる点のみが注目されて、実用的な方向へ大方の関心がいってしまう風潮がやや残念。

《読書MEMO》
●どちらが脳を使う?ゲームと単純計算(内田クレペリン検査)(12p)
●文章を音読すると脳が活発化(30p)
●前頭前野...コンピュータの中のコンピュータ(物事を考えたり覚えたりするときに働く(40p)
●単純計算をする時も左右の前頭前野が活発化(50p)
●ブローカ野...言葉を作り出す働き(58p)ウェルニッケ野...言葉の意味を理解する働き(59p)
●右手の開閉は左脳を使うが、左手は両脳使う→左脳が右脳を助ける(95p)
●左利きの人は常に両脳を使っている(左利きの方が運動に向いてる?)(96p)
●複雑な運動では右利きも両脳使う(98p)
●記憶はどこにしまわれているか→写真を見て知ってる人の顔や風景かどうか答える→どの部分が活性化しているか→顔(側頭葉下部)・風景(側頭葉内面部)・動物・植物(脳の後ろ=視覚野)、記憶を取り出すときに前頭前野が活動、自分自身の記憶(脳の奥深い所(本能に関係するところ)(114-116p)

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人間とは何か。それは脳と遺伝子に尽きる!(養老孟司)

脳+心+遺伝子.jpg                            脳とサムシンググレート 5次元文庫.jpg
脳+心+遺伝子VS.サムシンググレート―ミレニアムサイエンス 人間とは何か』('00年/徳間書店)/『脳とサムシンググレート』 ['09年/5次元文庫(徳間書店)]

 村上和雄(分子生物学)・茂木健一郎(脳科学)・養老孟司(解剖学)の3人の学者の遺伝子・心・脳などについての自説展開と対談をまとめたもので、何だか全員の考えを取り込んだようなタイトル。

 村上氏が遺伝子以外の情報で遺伝子のスイッチがON/OFFとなると言っているのは今や通説です。
 ただ、その遺伝子を支配するものを〈サムシンググレート〉としていることに対して、養老氏は、神を考えたがるのは人間の脳の癖だと冷ややか(?)。
 茂木氏の〈クオリア説〉にも、養老氏は「皆さん、これ納得できる?」みたいな感じです。
 人間を神経系(脳)と遺伝子系という2つの情報系に分けて捉える養老氏の考えが、比較的すっきりしているように思えました。

 随所に興味深い話が多く、公務員であるため上限規制があるという国立大学の学長の給料の話(独立行政法人化され事情は変わった?)なども個人的にはそうだったのですが、話題を拡げすぎて全体にまとまりを欠いた感じもします。

《読書MEMO》
●村上和雄(分子生物学者・筑波大名誉教授)...サムシンググレート(遺伝子を支配している何かがある)。遺伝子以外の情報で遺伝子のスイッチがON/OFに。
●茂木健一郎(脳科学者)...クオリア(脳という物質になぜ感覚が宿るか?)
●養老孟司...人間は神経系(脳)と遺伝子系(免疫系など)の2つの情報系を持つ。当面は2つは違うものとすべき。ヒトゲノムや遺伝子操作の研究は、実は「脳一元論」「脳中心主義」。脳は脳に返せ。
●〔養老〕サムシンググレートは神の類似概念。それを考えるのは「脳のクセ」
●〔村上〕東大や京大の学長の給料なんて知れている。公務員だから(135p)
●〔茂木〕永井均、池田晶子が面白い(242p)
●〔養老〕人間とは何か。それは脳と遺伝子に尽きる(330p)/脳は遺伝子が作ったが、遺伝子から独立しかかっている(338p)

 【2009年文庫化[5次元文庫(『脳とサムシンググレート』)]】

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自己意識=自我、自我=「私」というのは拡大解釈ではないか。

「私」は脳のどこにいるのか.jpg          澤口 俊之.bmp
「私」は脳のどこにいるのか (ちくまプリマーブックス)』 〔'97年〕

 前段の心脳二元論に対する反駁は納得できます。
 本題では、心のシステムにはモデュール性があり、それが脳のどこかの部位と対応していると。
 "自我モデュール"には「自己制御」と「自己意識」という側面があり、前頭連合野がそれを担っているのではないかと。
 何故ならば、認知心理学的には、「自己制御」と「自己意識」は、それぞれワーキング・メモリの中枢実行系と情報バッファとして捉えられ、前頭連合野の中心的な働きがワーキング・メモリであるからと。

 ワーキング・メモリを意識の座とする考え方を唱える人は他にもいるかと思いますが、著者は「自己意識」をワーキング・メモリが情報を操作・統合した結果生じるものとし、そのメカニズムを推論しています。
 このあたりは正直よくわかりませんでした。

 著者の「自己意識とはワーキング・メモリの特殊な状態の一つである」という結論が今ひとつピンとこないのは、一般感覚として「自己意識ってワーキング・メモリの一状態に過ぎないの?」という印象を受けるからです。

 タイトルに著者なりの答えを出している姿勢は買えますが、自己意識=自我、自我=「私」というのは拡大解釈ではないかという気がします。
 著者なりのア・プリオリな解釈があって、後から理屈がついてくるような感じ。

 『平然と車内で化粧する脳』('00年/扶桑社)でブレイクし、その後、IQでもEQでもないHQ(=人間性知性、超知性)なる概念を提唱していた著者ですが、'06年勤めていた北大を職員へのセクハラで辞めさせらりたりもしています(本人は無実を主張。但し、'04年にもセクハラで減給処分を受けていた)。今は「脳科学者」と言うより「脳科学評論家」乃至「タレント」?

《読書MEMO》
●「二元論」(脳と心は別)と「一元論」(脳の活動が心)の対立(48p)
●脳の各部位の機能にも階層があり、前頭連合野にこそ
 ◆「自我」(自己意識・自己抑制)の鍵である
  ワーキング・メモリ(中枢実行系[理解・推論・計画...etc.]・音韻グループ・視空間グループ)センター
  がある(134-138p)
 ◆分裂病は、前頭連合野に対するドーパミンの働きの障害が関与する(143p)
  かつては精神分裂病の治療としてロボトミーが行われた

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「●講談社現代新書」の インデックッスへ

前半はわかりやすく、後半のニューロンと遺伝子の関係はやや専門的。

脳と記憶の謎.jpg脳と記憶の謎―遺伝子は何を明かしたか』 講談社現代新書 〔'97年〕山元 大輔.bmp 山元 大輔 ・東北大教授(行動遺伝学)(略歴下記)

 冒頭の、「頭の記憶」(陳述記憶)がダメになるアルツハイマーと、「体の記憶」(手続き記憶)がダメになるピック病との対比で、記憶とは何かを述べるくだりはわかりやすいものでした。
Illustration by Lydia Kibiuk.jpg 扁桃体が情動記憶センターだとすれば、海馬は陳述記憶の集配基地であり長期記憶に関わる-この説明の仕方もわかりやすい。

 さらに、短期記憶にも長期記憶にも前頭前野が深く関わっており、記憶の座とは一点にあるものではないことがわかります。ここまでが前半部分。

 後半はニューロンの情報記憶メカニズムに迫りますが、NMDAレセプターがグルタミン酸に結合し、神経細胞を興奮させるイオンチャンネルとして働く...、NMDAレセプターへの刺激により一酸化炭素が発生し、LTP(長期増強)が起こるが、このとき転写を起こす遺伝子群がある...、といったニューロンによる遺伝子の読み出しという考え(多分これが著者の一番言いたかったこと)に至るプロセスは、分子生物学の初学者である自分には、ちょっと難解に感じられました。
 
 本書の前半と後半の難易度にギャップを感じたのは、自分だけだろうか。

《読書MEMO》
●アルツハイマー型痴呆...「体の記憶」(手続き記憶)はOKだが、「頭の記憶」(陳述記憶)はダメ。ピック病は、その逆(ホッチキスで爪を切る...)(28-29p)
●海馬は陳述記憶、扁桃体は情動記憶。海馬がなくても体が反応、ただし自分では覚えていない。扁桃体がないと、覚えているのに感じない(81p)
●《概要》記憶のシステムは筋肉を動かすシステムと同じ刺激=反応で、ニューロンが未知の刺激には電気反応を起さないのに、過去に経験した刺激につては特徴的反応を示すのは、経験済みの刺激だけ通りやすくなっているため

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山元 大輔(やまもと・だいすけ)
1954年生まれ。東京農工大学大学院修了。米国ノースウエスタン大医学部博士研究員、三菱化学生命科学研究所室長をへて、99年より早稲田大学人間科学部教授、03年より現職。『恋愛遺伝子運命の赤い糸を研究する』(光文社)は、遺伝子の専門知識がない人でも面白く読める本として注目を集めた。そのほかにも『行動を操る遺伝子たち』(岩波書店)など著書多数。

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あくまで一般科学書。フェニミズム論争で引き合いにされるのは不幸。

ここまでわかった!女の脳・男の脳.jpg 『ここまでわかった!女の脳・男の脳―性差をめぐる最新報告』 講談社ブルーバックス 〔94年〕

 本書は、男性の脳と女性の脳が医学的に異なることを、アンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲン(女性ホルモン)の作用から考察したものです。著者はこの分野の研究では日本における先駆とも言える人です。 

 ネズミなどの動物実験においても空間認知能力では性差があった(雄ネズミの方が雌より空間認知能力が高い。ただし、アンドロゲンを注入された雌ネズミは、雄に近い方向感覚を持つようになる)という報告や、妊娠中のアカゲザルにアンドロゲンを注射すると、生まれてきたメスザルの遊びの行動パターンがオス型になったとの報告は興味深いものでした。 

 男性の空間認知力は狩猟時代における方向感覚の必要性からきたのではなどの考察から、男らしさ、女らしさや性役割ができあがっていくのにも、生物学的なものが何かかかわっていないのだろうかと問いかけています。

話を聞かない男、地図が読めない女.jpg フェニミズムやジェンダー論争の中で、「ジェンダーフリー教育」などを男女の生得的資質の違いを無視したものだとする保守派論客(例えば林道義・日本ユング研究会会長)らのフェニミズム批判において、本書と『話を聞かない男、地図が読めない女-男脳・女脳が「謎」を解く』('00年/主婦の友社)がよく引き合いに出されます。 

 しかし、『話を聞かない...』は脳科学の専門家の手によるものではなく、フェニミズム批判の意図を込めて書かれた一種の啓蒙書であり、一方本書は、専門家による一般科学書で、ジェンダーについての考察をしているだけで、フェニミズムを直接批判しているわけではありません。
 一緒にフェニミズム批判本として引き合いにされるのは、本書にとっての不幸というか、いい迷惑ではないかと思うのですが。

《読書MEMO》
●男性の空間認知力...狩猟時代における方向感覚の必要性(14p)、ネズミにも同様の性差(ただし、アンドロゲン(男性ホルモン)を注入された雌ネズミは、雄に近い方向感覚を持つようになる(23p)(生後1週間以内での話(59p))
●一卵性双生児の性的志向は似る(同性愛では67%)(104p)
●扁桃体の働きは、前頭連合野に影響する(知性の表現にも男女差)(121p)
●アンドロゲン(男性ホルモン)過剰は、左半球の発達を遅らせ、相対的に右半球が発達することがある

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