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解説、ドキュメントともいい。日本は"名(ノーベル賞)を取り、実を失う"可能性が高いと指摘。

iPS細胞ヒトはどこまで再生できるか?.jpg 『iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?』['08年] iPS細胞ができた!.jpgiPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』['08年]

ヒトiPS細胞の作製.jpg 先に読んだ山中教授と畑中正一・京大名誉教授の対談『iPS細胞ができた!-ひろがる人類の夢』('08年/集英社)が、"iPS入門"としては物足りなかったのに対し、本書は複数のサイエンス・ライターによって書かれたもので、ヒトiPS細胞とはいったい何か、iPS細胞ES細胞の違いは何かといったことが、冒頭で、主に、「DNAの初期化」という概念、及び「ジェネティックス(遺伝学)」と「エピジェネティックス(後成遺伝学)」の概念対比を用いて、比較的わかり易く解説されているように思えました。

 クローンには、「受精卵クローン」と「体細胞クローン」の2種類があることは知っていましたが、未受精卵の不思議な力を使って体細胞を「初期化」することで作る「クローンES細胞」は後者に該当する、但し、これとて、「本来生まれるはずの命を奪い、代わりに患者の細胞を作らせる」という点では「受精卵クローン」同様に倫理上の問題を孕んでいるわけで、これに対し、iPS細胞は、「エピジェネティックスなDNAの初期化を、人工的に行う」ことによって、この問題をクリアしたものであるとのこと。

from JST(科学技術振興機構)

 第2章では、ヒトiPS細胞の誕生までの道のりが時系列で辿られていて、その中で、iPS細胞についての更に突っ込んだ解説もなされており、一般向けにしては少し難しく感じられるところもあったぐらい(発表時に学会とマスコミで温度差があったのも、このわかりにくさのためか?)。
  
 ただ、研究開発にむけてのドキュメントは読んで面白く、また、直接、山中教授にも取材していて、「アップル社の音楽プレーヤー」を意識したネーミングであるとかいった面白い裏話も聞きだしています。

 第3章で、ヒトiPS細胞が再生医療にもたらす可能性を、比較的現実的に探っていますが、最も気になったのはiPS研究を取り巻く問題点や課題が書かれている第4章で、とりわけ、科学研究者をがんじがらめにしている日本の官僚制度の問題点を指摘しています(研究助成金の決定方法などは、どうしようもなく"お役所"的!)。

 本書によれば、「日本の省庁には長期的な研究戦略がない」とのことで、実際、本書刊行後の'08年7月に出された、政府の総合科学技術会議という作業部会が半年もかかってまとめた研究推進策というのが、現実の後追いに過ぎず、何の戦略性も無いということで非難を浴びています。

 山中氏の研究成果を追う海外勢(各国政府・医薬品メーカー・科学者)の勢いには凄まじいものがあり、このままだと、「山中はノーベル賞をとるかもしれないが、実際に再生医療がもたらす利益の多くはアメリカが持っていくことになりそう」、「日本は"名を取り、実を失う"可能性が高い」と本書にもあります。

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○日本人ノーベル賞受賞者(サイエンス系)の著書(山中 伸弥)

楽しく読めたが、iPS細胞を理解するうえではやや物足りない。

iPS細胞ができた!.jpg 『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』 (2008/05 集英社)

 '07年11月にヒト細胞からのiPS細胞作製成功を発表した山中伸弥・京大教授に対して、畑中正一・京大名誉教授が聞き手になって、iPS細胞とはどのようなものか、iPS細胞が出来たときの模様やそこに至る道のり、克服しなければならない問題は何か、再生医療などにおいて今後どういった可能性を秘めているか、などを聞いた対談。

 こうした研究開発"秘話"のような話が好きなので、楽しく一気に読めましたが、もともと正味150ページぐらいしかなく、活字もやけに大きくて、通勤電車で片道 or 1往復の間に読める?
 「ヒトiPS細胞成功」のニュースが新聞に報道されたその日から、集英社の編集者がこのことを本にしたいと動いたようですが、やがて山中教授は「時の人」となり、以降ずっと多忙を極める日々が続いているようで、1回きりの"決め打ち"対談で無理矢理1冊の本にしたような感じも。

 でも、当事者が登場して語っているので、シズル感は満点。神戸大学医学部卒、大阪市立大学助手、奈良先端技術大学院大学助教授(後に教授)というコースは、失礼だけれど、ノーベル賞コースらしくないのでは。それが、世界の天才たちを差し置いて、少なくとも日本人科学者の中ではノーベル賞候補の筆頭に一気に躍り出たというのは痛快でもあります。

 ただ、米グラッドストーン研究所での研究員としての経験がやはり生きているみたい。それと、この人柄。学生時代は柔道とラグビーを、今はランニングが趣味のスポーツマンですが、いかにも、若い有意な研究者たちが慕ってついてきそうな感じがします。

 ES細胞とiPS細胞の違いなどを、解説書と異なり、対談の中で本人に語らせているので、アウトラインの説明がラフなまま、いきなり専門的な話になったりする部分があり、iPS細胞の入門書としては、別のものも読んだ方がよいでしょう。他の学者たちとの研究の差別化のポイントなどは、本人の語りによって、より実感を持って伝わってはきますが。

 それと、iPS細胞の再生医療における可能性に対して畑中氏の寄せる期待が、あまりに楽観的なのも気になりました。
 技術的な問題だけでなく、諸外国に比べ厳しい国内の規制の問題、国の支援のあり方の問題などあるはず。それらに深く触れずに終わっているのは、いわば"ご祝儀対談"であるためでしょうか?

《読書MEMO》
山中 伸弥 ノーベル賞.jpg山中 伸弥 ノーベル賞2.jpg山中 伸弥 氏 2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞

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人間は日々作り替えられているのだ...。読み易く、わかり易い(藤原正彦の本と少しだぶった)。

生物と無生物のあいだ_2.jpg生物と無生物のあいだ.gif            福岡伸一.jpg 福岡 伸一 氏 (略歴下記)
生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)』 ['07年]

 2007(平成19)年度「サントリー学芸賞」(社会・風俗部門)受賞作であり(同賞には「政治・経済」部門、「芸術・文学」部門、「社会・風俗」部門、「思想・歴史」部門の4部門があるが、元々人文・社会科学を対象としているため、「自然科学」部門はない)、また、今年(2008年)に創設された、書店員、書評家、各社新書編集部、新聞記者にお薦めの新書を挙げてもらいポイント化して上位20傑を決めるという「新書大賞」(中央公論新社主催)の第1回「大賞」受賞作(第1位作)でもあります。

 刊行後1年足らずで50万部以上売り上げた、この分野(分子生物学)では異例のベストセラーとか言うわりには、読み始めて途端に"ノックアウトマウス"の話とかが出てくるので、一瞬構えてしまいましたが、読み進むにつれて、ベストセラーになるべくしてなった本という気がしてきました。

Rudolf Schoenheimer (1898-1941).jpg プロローグで、表題に関するテーマ、「生物」とは何かということについて、「自己複製を行うシステム」であるというワトソン、クリックらがDNAの螺旋モデルで示した1つの解に対して、「動的な平衡状態」であるというルドルフ・シェ―ンハイマーの論が示唆されています。

Rudolf Schoenheimer (1898-1941)

 本編では、自らのニューヨークでの学究生活や、生命の謎を追究した世界的な科学者たちの道程が、エッセイ又は科学読み物風に書かれている部分が多くを占め(これがまた面白い)、その上で、DNAの仕組みをわかり易く解説したりなどもしつつ、元のテーマについても、それらの話と絡めながら導き、最後に結論をきっちり纏めていて、盛り込んでいるものが多いのに読むのが苦にならず、その上、読者の知的好奇心にも応えるようになっています。

 著者は、シェーンハイマーの考えをさらに推し進め、「生命とは動的平衡にある流れである」と再定義しています。
 ヒトの皮膚も臓器も、細部ごとに壊されまた再生されていて、一定期間ですっかり入れ替わってしまうものだとはよく言われることですが、本書にある、外部から取り込まれたタンパク質が身体のどの部位に蓄積されるかを示したシェーンハイマーの実験には、そのことの証左としての強いインパクトを受けました(歯も骨も脳細胞までも、常にその中身は壊され、作り替えられているということ)。

ダークレディと呼ばれて―二重らせん発見とロザリンド・フランクリンの真実.jpgマリス博士の奇想天外な人生.jpg また、シェーンハイマーという自殺死した天才学者に注目したのもさることながら、科学者へのスポットの当て方がいずれも良く、ノーベル生理学・医学賞をとったワトソンやクリックよりも、無類の女性好きでサーフィン狂でもあり、ドライブ・デート中のひらめきからDNAの断片を増幅するPCR(ポメラーゼ連鎖反応)を発明したというキャリー・マリス博士(ワトソン、クリックらと同時にノーベル化学賞を受賞)や、ワトソン、クリックらの陰で、無名に終わった優秀な女性科学者ロザリンド・フランクリンの業績(本書によれば、ワトソンらの業績は、彼女の研究成果を盗用したようなものということになる)を丹念に追っている部分は、読み物としても面白く、また、こうした破天荒な博士や悲運な女性科学者もいたのかと感慨深いものがありました(著者は、キャリー・マリス、ロザリンド・フランクリンのそれぞれの自叙伝・伝記の翻訳者でもある)。 『マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF)』 『ダークレディと呼ばれて 二重らせん発見とロザリンド・フランクリンの真実

若き数学者のアメリカ 文庫2.jpgワープする宇宙.jpg アメリカでスタートを切った学究生活やそこで巡り合った学者たちのこと、野口英世の話(彼の発表した研究成果には間違いが多く、現在まで生き残っている業績は殆ど無いそうだ)のような、研究や発見に纏わる科学者の秘話などを、読者の関心を絶やさずエッセイ風に繋いでいく筆致は、海外の科学者が書くものでは珍しくなく、同じ頃に出た多元宇宙論を扱ったリサ・ランドール『ワープする宇宙』('07年/日本放送協会)などもそうでしたが、科学の"現場"の雰囲気がよく伝わってきます。 『ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く
 日本では、こうした書き方が出来る人はあまりいないのでは。強いて言えば、数学者・藤原正彦氏の初期のもの(『若き数学者のアメリカ』『心は孤独な数学者』など)と少し似てるなという気がしました。 『若き数学者のアメリカ (新潮文庫)

 俗流生物学に当然のことながら批判的ですが、今度´08年5月から、その"代表格"竹内久美子氏が連載を掲載している「週刊文春」で、著者も連載をスタート、更に、脳科学者の池谷裕二氏も同時期に連載をスタートしました。
 どうなるのだろうか(心配することでもないが)。竹内久美子氏は、もう、連載を降りてもいいのでは。
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福岡 伸一(ふくおか・しんいち)
1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ロックフェラー大学およびハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授を経て、青山学院大学 理工学部化学・生命科学科教授。分子生物学専攻。研究テーマは、狂牛病 感染機構、細胞の分泌現象、細胞膜タンパク質解析など。専門分野で論文を発表するかたわら一般向け著作・翻訳も手がける。最近作に、生命とは何かをあらためて考察した『生物と無生物のあいだ』(講談社)がある。

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分子生物学についてのオーソドックスな一般向け入門書。

新・分子生物学入門.jpg新・分子生物学入門―ここまでわかった遺伝子のはたらき (ブルーバックス)』〔'02年〕丸山 工作.bmp 丸山 工作・元千葉大学学長(1930-2003)(略歴下記)

 同じ著者の『分子生物学入門-誰にでもわかる遺伝子の世界』('85年/ブルーバックス)の新版で、平易に書かれていて、かつ一定の範囲を網羅した、分子生物学についてのオーソドックスな一般向け入門書だと思います。

「受精卵クローン」と「体細胞クローン」.gif ゲノム、DNA、遺伝子などのキーワードの概念整理をするうえでも役立し、タンパク質をつくるとはどういうことかとか、ウイルスと分子生物学の関連、遺伝子工学や免疫機能についても概要は掴めます。
 キーワード整理について個人的に言えば、クローンには、「受精卵クローン」「体細胞クローン」の2種類があることも知らなかったので、参考になりました。
 
 「受精卵クローン」の方が「体細胞クローン」より技術的には簡単なわけですが、「牛」レベルで言えばわが国では'90年代に、「受精卵クローン牛」も「体細胞クローン牛」も誕生させているわけですね(「体細胞クローン牛」は世界初)。

農林水産消費安全技術センターHPより

 では「人間」レベルではどうか。
 著者によれば、「クローン人間」をつくるとして、その成功率は数%だそうです。
 一つの話題として紹介されている話ですが、イタリアの不妊治療医の間には、無精子症男性のクローンづくり計画もあるそうです(大金持ちの希望者がいるんだろうなあ)。
 
 ほとんどの先進国ではヒトクローン実験は禁止されているので、禁止されていない国(そうした法律がない国)か、「公海上の船の上」でやるということだそうで、何だか年老いた大富豪とマッド・サイエンティストが登場する小説か映画みたいな話ですが、案外「先にやったモン勝ち」と考えている学者は現実にいるのではないかと思われました。
                                      
《読書MEMO》
●受精卵クローンと体細胞クローン...受精卵クローンのメカニズムは一卵性双生児と同じ、体細胞クローンは細胞を提供した個体と同じクローンになる(19p)
●DNAのうち97%は情報を持たない。3%(3万個)が遺伝子として機能(35p)
●人とチンパンジーのDNAの配列差はわずか1.2%

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丸山 工作 (元千葉大学学長)
1930年東京生まれ。53年東京大学理学部動物学科卒業後、同大理学部大学院を経て、56年同大教養学部助手。62年理学部助手。65年教養学部助教授。72年京都大学理学部教授。77年千葉大学理学部教授。94~98年千葉大学学長。99年より大学入試センター所長。加えて、科学技術事業団さきがけ21「形とはたらき」総括として繁忙な生活が続き、自身の伝記執筆の予定がなかなか進まない。日本動物学会賞、朝日賞、紫綬褒章などを受章。

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「免疫」というものが面白いほどよくわかり、よくわかるから面白い。

好きになる免疫学.jpg 『好きになる免疫学』 (2001/11 講談社)

 「わかる」という謳い文句でよくわからない本が相当ありますが、この本は本当に面白いほどよく「わかる」。そして「わかる」から「面白い」。
 しかも、対象としているのが、あの専門用語ばかりで難解な免疫学なのです。

 冒頭の、マクロファージ、B細胞、キラーT細胞、ヘルパーT細胞などの免疫細胞たちが連携しながら大活躍する話から、〈ガン細胞〉は"胎児のまねをして"免疫細胞からの攻撃をかわすという話や、〈エイズ細胞〉は免疫反応の"司令官"であるヘルパーT細胞を直接攻撃するという話まで、マンガイラストとあわせて実に面白く読めました。

Ozzy & Drix.jpg 免疫細胞たちの活躍ぶりの描き方は、まるでスター・ウォーズ調!です。
 アメリカのアニメ番組に、「オジー&ドリックス」という"白血球"を主人公にしたものがあるのを思い出しました(日本でもCS放送で放映)。

Ozzy and Drix

 この本は、読んだ後に誰かにその内容を話したくなるのですが、自分でも驚くぐらいきちんと説明できるのです。
 専門家(著者)が自分の手で説明のマンガを描いているという部分が大きいのかも知れません。  
 マンガ入りといっても、監修しているのは、免疫遺伝学の権威・多田富雄氏です。
 同じ師弟コンビによる『好きになる分子生物学』('02年/講談社)も面白そう。

《読書MEMO》
●マクロファージ→ヘルパーT細胞→キラーT細胞・B細胞
●胸腺(胸腺でキラーT細胞は選別を受ける)
●細胞内で遺伝子組み換えが行われている(利根川 進教授)
●ガン細胞はキラーT細胞から身を隠す(胎児の仕組みと同じ)
●エイズウィルスはヘルパーT細胞を破壊する

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「免疫の意味論」「生命の意味論」との併読をお薦め。

免疫学個人授業.jpg 『免疫学個人授業』 (1997/11 新潮社)  免疫学個人授業2.jpg 新潮文庫 ['00年]

 南伸坊氏が免疫学者・多田富雄氏から受けた講義を通して、免疫学の基本や多田氏の「スーパーシステム」の概念をわかりやすく説いている本です。

 免疫学の専門用語などが段階を追ってマスターできるので、読み終えたらせっかくですから、多田氏の『免疫の意味論』('93年/青土社)、 『生命の意味論』('97年/新潮社)に読み進まれることをお勧めします。 

 免疫システムを無目的に複雑化するシステム(スーパーシステム)と捉え、言語や都市、官僚システムにも同じ性質があるという類推は、『生命の意味論』などでも著者が展開した独自の考察ですが、たいへん面白いと思い、また本書ではより噛み砕いて述べられています。

 多田氏が新種のT細胞を発見したときの秘話や、実験台に使った自分の背中の写真なども興味深いものでした。
 歴史的発見にいたるまでの気の遠くなるような努力と科学者としての探求心のスゴさを感じますが、そうしたことを淡々と語る人柄にも惹かれます。

 【2000年文庫化[新潮文庫]】

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「免疫の意味論」の"発展形"の本。興味深く読めて、示唆に富む。

生命の意味論.jpg  『生命の意味論』 (1997/02 新潮社)

 『免疫の意味論』('93年/青土社)に続く本書では、免疫学者・多田富雄氏の生命観や「スーパーシステム」(それ自体に直接の目的はなく、システム自体が自己目的化して増殖し発展していくという動き)の概念がよりわかりやすく書かれています。『免疫の意味論』の"姉妹本"というよりも、「生命」や「社会」のシステムにまで考察が及ぶ点では"発展形"の本であると言えます。「自己」とは何かを考察して大きな反響を呼んだ『免疫の意味論』をさらに発展させ、「スーパーシステム」の概念が言語や社会、都市、官僚機構などにまで当て嵌まるのではないかとしています。

 免疫機能や遺伝子に関するテーマにも引き続き触れていて、人間はウイルスと共存していたのに、なぜエイズウルスのようなものが現れたのか?とか、オタマジャクシが蛙になるときに尾が失われるのもアポトーシスによるとか、男脳・女脳の違いは視床下部にある神経核の大きさの違いだとか、鶏にウズラの脳を移植するとウズラ行動をとるが、やがて免疫反応で死ぬ、といった興味深い話も満載です。

 「免疫」とは「非自己に対して行う自己の行動様式」。そこには「自己」という「存在」があるのではなく、「自己」という「行為」があるのみ―。この部分を読み、今まで免疫における「自己」を擬人化して捉えていた自分の勘違いに気づかされました(「免疫」とはあくまで「行動様式」として捉えるべきであることを再認識させられた)。

シムシティ.jpg 「免疫」システムだけでなく、「生命」や「社会」のシステムについて考える上で、多くの示唆を与えてくれる本です。都市の中でも、スーパーシステムを持っている都市と、あらかじめ青写真が出来てから作られた都市(その場合の都市はスーパーシステムを持たない)があるという下りなどは、興味深いです。

 (1989年に第1作が発売された「シムシティ」というシミュレーションゲームを思い出した。操作しなくても勝手に都市が増殖していくが、だからと言って長時間放置していると、いつの間にかゴジラが歩き回ってあちこち破壊していたりした)。

「シムシティ」のゲーム画面

《読書MEMO》
●サトカイン...様々な細胞を作り出すホルモン様分子群(14p)
●造血幹細胞...サトカインが働くと赤血球、血小板、T細胞、B細胞などを作る-骨髄移植etc(受精卵から様々な組織ができる「発生」の仕組みとと類似)(28p)
●「スーバーシステム」...単一なものが、まず自分と同じものを複製、ついで多様化することにより自己組織化。そして充足した閉鎖構造を作ると同時に、外部情報を取り込み自己言及的に拡大していく。(56p)
●動物はウィルスと共存。人間のウィルスが豚や鳥に感染すると、2種類のウィルスがゲノム内の遺伝子の一部を交換し、凄みのある変身を遂げる。住血吸虫(タニシ)同様、エイズ(猿)等の原因は自然界への人間の侵入(76-78p)
●アポトーシス...オタマジャクシが蛙になるとき、尾が失われる仕組み(84p)
脳神経系が形成される時、必要以上に神経細胞や神経線維が発生しする(90p)
●胸腺では「自己」見本によりT細胞をチェック、95%が自殺してしまう(95-96p)
●男脳・女脳は視床下部の神経核の大きさの違い(エイズ患者より)(112p)
●ミトコンドリアは卵子にはあるが、精子にはない(124p)
●鶏にウズラの脳を移植すると、ウズラ行動をとるがやがて免疫で死ぬ(144p)
●「免疫」とは、「非自己」に対して行う「自己」の行動様式。そこには自己という「存在」があるのではなく「自己」という「行為」:があるだけ(147p)
●寿命を決めるのは、テロメテア(DNAの一部で、細胞分裂の毎に短くなる)(124p)でなく、胸腺ではないか(181p)

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「●た 立花 隆」の インデックッスへ ○日本人ノーベル賞受賞者(サイエンス系)の著書(利根川 進)

分子生物学から免疫学に"乱入"してノーベル賞、そして脳科学へ。立花氏を唖然とさせる発言も。

立花 隆 『精神と物質』.jpg精神と物質.jpg        利根川 進.jpg 利根川 進 氏
精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』(1990/06 文芸春秋)

 1991(平成3)年・第4回「新潮学芸賞」受賞作。 

 個体の中に進化と同じシステムがあって、それにより免疫抗体の多様性が生み出される―。この本を読む前は、言葉で理解していてもその実よくわからなかったようなことが、読んだ後にはよくわかりました。

 進化でいうところの〈突然変異〉が、免疫細胞における遺伝子組み換えというかたちで恒常的におこなわれている―。
 つまり、個体を構成する細胞の遺伝子はすべて同一であるという生物学の"常識"概念を、利根川教授が見事に覆してみせたわけです(こういうパラダイム転換をもたらすものがノーベル賞の対象になりやすいのだろうなあ。そうでなければ、多方面の技術の進展や実生活に直接・間接に寄与したものとか)。

 利根川氏、分子生物学から免疫学へ乱入(?)してノーベル賞を、続いては脳科学の世界へ。すごいに尽きます。
 ただし、免疫学の研究においては分子生物学で培った技術が大いに役立ったとのこと。逆に、長く同じ分野で研究を続けている人は、新しい方法を思いつきにくいという傾向も、一面ではあるのかもしれないと思ったりしました。

 生物はもともと無生物からできているので、物理学や化学の方法論で解明できる。人間は非常に複雑な機械に過ぎないーとおっしゃる利根川氏。
 頭でわかっても、凡人には今ひとつピンと来ず、利根川ご指名の単独インタヴュアーである立花隆氏も、この発言には少し唖然としている様子ですが、脳科学の世界ではこれが主流の考えなのでしょうか。

 【1993年文庫化[中公文庫]】

《読書MEMO》
●人間は60兆個の細胞からできていて、その1つ1つに長さ1.8mのDNAがあり、30億個分の遺伝情報が蓄積されているが、読み出される情報はごく一部(文庫46p)
●個体の中に進化と同じシステムがあって、それで免疫抗体の多様性が生み出されている→突然変異=遺伝子組み替え、ただし頻度が異なる(文庫252p)
●生物はもともと無生物からできているので、そうであれば物理学や化学の方法論で解明できる。要するに生物は非常に複雑な機械にすぎない(文庫322p)

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