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カラーイラストで紹介されていて解りやすい。解明されていないことも多いのだなあと。

超美麗イラスト図解世界の深海魚最驚50.jpg 超美麗イラスト図解 世界の深海魚 最驚501.jpg 超美麗イラスト図解 世界の深海魚 最驚502.jpg
超美麗イラスト図解 世界の深海魚 最驚50 目も口も頭も体も生き方も、すべて奇想天外!! (サイエンス・アイ新書)』['14年]

 本書は、世界各国の科学者の研究成果をもとに、驚くべき深海魚の姿形を著者自身のイラストで再現しつつ、その不可思議な生態を紹介したものです。半分図鑑で、半分解説といった感じでしょうか(解説はかなり専門的であるように思えた)。

 同じサイエンス・アイ新書に、同著者の『深海生物の謎―彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか』['07年]がありますが、そちらは写真で深海生物を紹介していて、形態が見にくいものには、同じ場所にイラストが添えてあるのというスタイルでしたが、本書は全部カラーイラストで紹介されていて、細部の形状などはこのイラスト版の方が解りやすいかと思います。著者のイラストでは、『深海生物ファイル―あなたの知らない暗黒世界の住人たち』['05年]にあるように白地にカラーで深海魚を描いたものもありますが、本書はバックがすべて黒で、実際に深海で観た場合はこんな感じなのでしょう。イラストがたいへん緻密に描かれているせいもあり、写真以上に効果的であるように思いました。

 紹介されている50種類の内訳は、ムネエソ科3種、ワニトカゲギス科8種、ヒメ科8種、アカマンボウ類1種、オピスソプロクツス科6種、キガントキプリス1種、頭足類6種。キロテウティス科5種、チョウチンアンコウ10種、オニアンコウ科7種と、実は50種を超えていますが、素人目にはどこが違うのか分からないような種もあるので、逆に50種もあったかなあという印象も(笑)。

 それでも、解説を読み進んでいくうちに、深海魚の多様性に触れることができ、特にバラエティに富んでいると思われたのが、目の構造と機能でした。やはり、深海において目は大事なのだなあと。望遠鏡のような構造の目は珍しいものではなく、中には目が4つあるものもあったりして、一方で、形だけあって殆ど目の機能を果たしていないものもあり、そうした種は代替機能のようなものがあったりします。ただ、なぜそういう構造や機能なのかよく解らなかったりするようです。

 また、何を食べているかは捕まえて腹を裂けばわからないことはないけれども、どうやって獲物を探して捕食しているのかとか、より生態学的なこととなると、解らないことも多いようです。それでも、分かっている範囲で、その不思議な生態を紹介しています。自分より体の大きな魚を食べる深海魚などもいて、ホントに不思議な世界です。あとは、これも確かにそうだろうなあと思いまうSが、生殖関係も不思議なことが多く、なぜそうなのか解っていないことが多いようです。

 本書刊行時点で、深海探査艇をもつ国はわずか6カ国で、そのため、そもそも深海で生きる生物たちの姿が写真や映像で撮られる機会は少なく、研究も十分に進んでいないのが実情であるとのことで、これから更に様々なことが少しずつ解明されていくであろう分野なのでしょう。未解明の部分が多いことも、この分野の魅力の一つかもしれませんが、おそらく、研究し尽くされてその魅力が失われるということは無く、研究が進めば進むほど、未解明の部分も多く出てくるように思います。

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体重と体温が、すべての生き物の代謝量、成長速度、そして時間濃度まで決める。

進化の法則は北極のサメが知っていた (河出新書).jpgニシオンデンザメと奇跡の機器回収.jpg
進化の法則は北極のサメが知っていた (河出新書)』 Webナショジオ「渡辺佑基/バイオロギングで海洋動物の真の姿に迫る」
ペンギンが教えてくれた 物理のはなし (河出ブックス)』['14年]
ペンギンが教えてくれた 物理のはなし.jpg 著者は生物学者で、バイオロギングという、野生動物の体に記録機器を貼り付けて、しばらく後に回収し(回収方法を著者自身が開発した)、動物がどこで何をしていたのかを知る方法を活用して動物の生態を研究しているのですが、そこから生物に普遍的な特性を見出すという、生態学と物理学の融合という新境地を、第68回毎日出版文化賞受賞(自然科学部門)を受賞した前著『ペンギンが教えてくれた 物理のはなし』('14年/河出ブックス)では描いています。本書もその流れなのですが、前著が個々の動物の生態調査のフィールドワーク中心で、バイオロギングの説明などにもかなりページを割いているのに対し、本書はより生態学と物理学の融合ということに直接的に踏み込んだものとなっています。と言っても小難しい話になるのではなく、全五章に自身のフィールドワークの話を面白おかしく織り交ぜながら、動物の体温というものを共通の切り口として話を進めていきます。

ニシオンデンザメ.jpgニシオンデンザメを小型ボートの横に固定.jpg 第1章では、北極の超低温の海に暮らすニシオンデンザメの自身の調査を紹介しつつ、動物における体温に意味を考察していきます。そもそも、このニシオンデンザメというのが、体長5メートルを超えるものでは推定寿命400歳くらいになり、成熟するだけで150年もかかるというトンデモナイ脊椎動物で、その事実だけでも引き込まれてしまいます(このニシオンデンザメについてのバイオロギング調査の様子は、ナショナル ジオグラフィックの日本版サイトにおける著者の連載でも写真で見ることができる)

 第2章では、南極に暮らすアデリーペンギンの自身の調査を紹介、哺乳類や鳥類がどのような体温維持をしているか、そのメカニズムを見ていき、この辺りから本格的な科学の話になっていきます。第3章では、オーストラリアのホオジロザメの自身の調査を紹介しながら、一部の魚類やウミガメが変温動物としての枠組みから外れ、高い体温を維持している、その特殊の能力の背景にあるメカニズムを見ていき、約6500万年前に絶滅した恐竜の体温はどうだったのかという論争に繋げています。

 そして、第4章では、イタチザメの代謝量を測定する自身のフィールドワークを紹介しながら、体温が生命活動に与える影響を包括する1つの理論を組み上げ、結論として、生命活動は化学反応の組み合わせであり、生物の生み出すエネルギー量は熱力学の法則で決定され、それは、サメも人間も、ゾウリムシさえ同じであるとしています。最後の第5章では。バイカル湖のバイカルアザラシの自身の調査を紹介し、全勝で見つけた理論を応用して、生物にとって時間とは何かを考えています。

 このように、目次だけみると、ニシオンデンザメ、アデリーペンギン、ホオジロザメ、イタチザメ、バイカルアザラシと海洋生物が続き、その中でも3つがサメであるため、この著者はサメの生態研究が得意分野なのかなくらいしか思わなかったのが、読んでみると各章が、生物全般に通じる理論への段階的布石とその検証になっていて思わぬ知的興奮が味わえたし、各章をオモシロ探検記的に読ませながら、そうした深淵な世界に読者を引きずり込んでいく語り口は巧いと思いました。

 第4章にある、「代謝量は体重とともに増えるが体重ほどには増えない」といういうのは、すべての動物の体重と代謝量には相関がある(ただし、グラフでは、4分の3乗の傾きで一直線に並ぶ(クライバー))ということです。そう考えると、第1章のニシオンデンザメが動きが極めてスローなのは巨大であるがゆえで、第2章のアデリーペンギンの動きが極めて速く、ハイペースで獲物を捕らえるのは体が小さいからということになります。でも、なぜ4分の3乗に比例して増えるのか。代謝量は体重ではなく、体表面積と比例するという説(ルブナー)もありますが、体表面積は体重の3分の2乗に比例するため、ここでも計算が合わず、結局、代謝量は体重と、あとは体表面積とは別の何かで決まることになると。そこで、体温を仮に補正し、例えば人間も他の動物も皆地球の平均温度である20℃が体温であったとすると、恒温動物や変温動物、単細胞生物も含むすべての生物の体重と代謝量が比例することになり(ブラウン)、つまり、生物の代謝量は体重と体温で決まるのであって、これは「人間もカンパチもゾウリムシも同じ」であるとのことでした。

ゾウの時間 ネズミの時間.jpg 代謝量は生物の成長速度、世代(交代)時間、寿命にも直接影響してくるわけで、第5章における「生物の時間」についての考察も興味深かったです。本書で"名著"とされている、本川達雄氏の『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学』('92年/中公新書)にも、体の大きな動物ほど成長に時間がかかるとありました。本書でも、確かに例えば競走馬が3歳で成熟するように人間よりも大きな体を持ちながら早く成熟する動物も多くあるものの、ミジンコからシロスナガスクジラまでずらっと並べておおまかに言えば、生物の世代(交代)時間は体重の4分の1乗に比例して長くなるという式が導き出されるとしています。でもこれだけは、成長速度は、体重とも体表面積(体重の3分の2乗に比例)とも直接に比例しないわけで、そこに、先の代謝量は体重の4分の3乗に比例して増えるという公式を入れて初めて整合性がとれると。つまり、代謝量は体温に反映されるので、体の大きさが同じであれば代謝量が高い、つまる体温が高いほど、成長が早いということになるということです。

 これはおそらくそのまま「動物の時間」の速度に当て嵌まり、計算上、ネズミの感じている時間速度はニシオンデンザメより350倍も濃く、つまりネズミの1日はニシオンデンザメのほぼ1年に相当し、人間はその間にあってニシオンデンザメの47倍に相当、つまり、人間の1日はニシオンデンザメの1カ月半に相当するとのこと。私たちが大人になったときに感じる子どもの頃との時間濃度の差は、体重25キロの小学生と65キロの大人と比べると子どもの方が1.3倍濃いと(1日が大人の31時間あることになる)。また、大人になってからは、加齢とともに代謝が落ちていき、20代に比べ40代で10%、60代で15%基礎代謝が落ちるため、時間の重みがその分減っていくということのようです(だんだん"ニシオンデンザメ化"していくわけだ(笑))。

 最後に、各章を振り返りながら、これほど多様な生物が(例えば、世代時間8時間のゾウリムシから150年のニシオンデンザメまで)なぜ地球上に共存しているのかを考察していますが、第1章のニシオンデンザメは、巨大かつ低体温のニ省エネタイプで、その対極にあるのが、第2章のアデリーペンギンで、高体温で体の大きさの割に膨大なエネルギーを日々消費し、第3章のホオジロザメは、ニシオンデンザメとアデリーペンギンの中間にある体温の高い魚類(中温動物)となり...と、それぞれに適応への道、進化への道を歩んできた結果なのだなあと思いました。

 本書のコンセプトは「私が読者だったら読みたい本」とのことで、実際サービス過剰なくらい面白く書かれていて、それでいて巨視的な視点から生物を巡る法則を説き明かしてくれる本でした。『ゾウの時間 ネズミの時間』が、エネルギー消費量は体重の4分の1乗に反比例するというところで終わって、あとは大小の違いによる心臓の拍動数の話となり(この話は「ヒト」は例外となっている)、「大きいということは、それだけ環境に左右されにくく、自立性を保っていられるという利点がある。この安定性があだとなり、新しいものを生み出しにくい」といった動物進化に対するもやっとした仮説で終わっているのと比べると、考え方ではそれを超えている本ではないかと思います。

《読書MEMO》
●マグロ類やホオジロザメなどの中温性魚類は、同じ大きさの変温性魚類に比べて2.4倍も遊泳スピードが速い(195p)。中温性魚類は同じ大きさの変温性魚類に比べ、回遊距離が2.5倍も長い(197p)。
●体重60キロの人間と、同じく体重60キロのカンパチを比べると、人間の方が10倍ほど代謝量は高いが、それは単に体温が違うからだ。60キロのカンパチと、1マイクログラムのゾウリムシを比べると、カンパチの方が1億倍ほど代謝量が高いが、そえは単に体の大きさが違うからだ(250p)。

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意味はあるのだろうが、なぜそうするのかよく分からないものが結構あると再認識。
続々ざんねんないきもの事典.jpg  続々ざんねんないきもの事典_2.jpg
おもしろい!進化のふしぎ 続々ざんねんないきもの事典』['18年]

 「ざんねんないきもの」という切り口で、さままな生物の不思議を、楽しめるよう解説しベストセラーとなった『ざんねんないきもの事典』('16年)のシリーズ第3弾。個人的に印象に残ったのは―

ダーウィンが来た! アマミホシゾラビフグ 46.jpgアマミホシゾラフグはミステリーサークルをつくってメスをよぶ(46p)コレ、NHKの「ダーウィンが来た!〜生きもの新伝説〜」でやっていました。と言うか、円形の幾何学的な模様が海底に存在することは前から知られていたものの、誰が何のために作っているのかは長らく謎のままであったのが、2012年にNHKの「ダーウィンが来た!」のロケ(奄美大島南沖、琉球諸島近海)に同行・協力したフグ分類の第一人者で国立科学博物館の松浦啓一氏が観察した結果、新種のフグの繁殖行動の一環であることが分ったのでした。今やその海域は人気ダイビング・スポットになっています。

ナマケモノのススメ.jpgナマケモノは週1回、うんこのためにだけ木から下りる(46p)これもテレビでやっていました。調べてみたら、2011年1月3日にTBSで放送された「ナマケモノのススメ~ボクが木から降りる、たったひとつの理由~」という番組があって(制作局はMBS(毎日放送))、声の出演は小林薫、ナレーターは長澤まさみでした。20日間を超える密着取材だったそうです。でも、個人的には結構最近観た気がするので、BSなどで再放送を観たのか、或いはどこかの局で同じ趣旨のものが作られたのを観たのかもしれません(動物園で観察をして、3日目ぐらいになって木から下りて糞をしたように思う)。

バク ブラシでゴシゴシされると寝る.jpgバクは掃除ブラシでゴシゴシされると寝てしまう(96p)これもテレビでやったいましたが、どの番組か忘れたなあ(ネット緒で調べたら、テレビ朝日「林修の今でしょ!講座」という番組で「ざんねんないきもの事典」3時間スペシャルというのが 2019年6月25日に組まれ、「ざんねんな哺乳類ランキングベスト10」というのの中で紹介されたらしい)。でも、コレ、動物園で実際に見ることできる場合が結構あります。個人的には、神戸の「どうぶつ王国」で見ましたが、完全には眠らなかったものの、何となくトロンとはしていました。本書によれば、なぜ眠くなるのかは分かっていないとのことです。動物の習性はまだまだ謎の部分が多いです。

アフリカオオコノハズク.jpgアフリカオオコノハズクは敵を見つけるとやせこける(134p)これもいつか「ダーウィンが来た!」でやっていたし(この番組、なぜか出来るだけ欠かさず視ているなあ)、本物もまた「どうぶつ王国」で見ましたが、本書にもあるように、細くしたところで姿が消えるわけでもなく、"かくれんぼ"に失敗してしまったら、今度は体を精一杯大きくして、"クジャクのポーズ"で威嚇するそうです。

 今回も気軽に楽しめる1冊でした。本書のテーマである進化ということに絡めて考えると結構奥が深いのかもしれませんが、「ゾウアザラシは意味もなく石を食べる」(32p)じゃないけれど、意味はあるのだろうけれど、なぜそうするのかはよく分かっていないというものが結構あるものだと再認識しました(プロにも分からないのだから素人が考えても分かるはずはないと思うが、いろいろ想像してみるのは楽しい)。

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ネタ枯れと言うより驚くことに馴れたという感じ? でも今回も楽しく読めた。

ざんねんないきもの事典4 もっと.jpg  ざんねんないきもの事典1-3.jpg
『もっとざんねんないきもの事典』続々
おもしろい! 進化のふしぎ もっとざんねんないきもの事典』['19年]

 '16年から'18年にかけて〈正・続・続々〉と刊行されてきた人気シリーズの第4弾。ネタ切れ感は否めないような気がするとの声もありますが、読む側が慣れてきただけで、ネタ自体はまだまだ無尽にあるのではないかという気もします。今回印象に残ったのは―

ナウル共和国の経済を繁栄させた、リン鉱石の積出施設.jpgアホウドリにうんこを国にされた(24p)ナウル共和国の国土は、アホウドリが何百年もサンゴ礁のうえにうんこをしてできたもの。「リン鉱石」といううんこの残骸を売って生活しているそうです(「日経ビジネスオンライン」で読んだが、リン鉱石のお陰で医療費も学費も水道・光熱費もタダで、税金までタダ。リン鉱石採掘などの労働すらもすべて外国人労働者に任せっきりとなっているようだ。そのため、国民は怠け癖がつき、全国民の90%が肥満、30%が糖尿病という「世界一の肥満&糖尿病大国」になったとのこと)。

ナウル共和国のリン鉱石採掘

ウェルウィッチア.jpgウェルウィッチアは600年生きても、つける葉は2枚(35p)和名は「奇想天外」。砂漠に生えて600年以上生きるとのこと(ウェルウィッチアはNHK「ダーウィンが来た!」で取り上げられたことがあって、そこでは1500年以上も生きると紹介されていた。右動画でも1000年以上生きると考えられているとある)。

ウオノエは魚の舌になる.jpgウオノエは魚の舌になる(76p)魚にとりつく寄生虫で、魚の舌がなくなるまで舌の血を吸い続け、その後、舌のつけ根に体を固定し、魚の体液や血液を吸って大きくなるそうです(本書イラストで見るとそうでもないが、実写で見るとかなりキモイ)。

イシガキリュウグウウミウシ.jpgイシガキリュウグウウミウシはなかまを食べちゃう(97p)「友達を食べてみた」ぐらいの軽いノリで、仲間を丸のみにするとのこと(共食いをする生き物は結構いるけれど、食糧難の場合に限ったり、カマキリのように特別の条件下であったりすることが多く、共食いが成長のためのスタンダードとなっているのは珍しいのでは。言い換えれば「仲間が主食」ということか。確か、シリーズ第1巻で、サバクトビバッタが「主食は共食い」と紹介されていた)。

『シン・ゴジラ』第2.jpgラブカはお母さんのおなかの中で3年半もひきこもる(115p)ラブラブカ.jpgカは自分のお腹の中で子どもを育て、その期間はなんと3年半。ラブカは生きた化石とよばれるほど昔から姿を変えていないそうです(原始的な深海ざめには不思議な生態のものが多いなあ。「シン・ゴジラ」('16年/東宝)の"第二形態"のモデルがラブカだった)。
◆深海ザメ「ラブカ」捕獲後に死す 生態不明、標本にして研究へ 和歌山・串本(毎日新聞ニュース 2020年1月17日)[写真]捕獲された深海ザメ「ラブカ」=串本海中公園提供

ネコはキュウリを見るとおどろく.jpgネコはキュウリを見ると超おどろく(116p)「えさをたべているネコのうしろにキュウリをそっとおく」とどうなるかという、数年前にユーチューブでいたずら動画が話題になったそうで、動物学者は「キュウリがヘビに見えるのではないかと(因みに、この種のネコ動画はユーチューブで今でも多くみられる。ネコが驚くのは、ネコに気づかれないように後ろの方にキュウリを置いといて、ネコがたまたま気づいたといった場合に限るようだ。「幸せそうな表情できゅうりを齧るネコ」の写真もネットにあった)。

 ネタ枯れと言うより、こっちがもう驚くことに馴れたという感じ。でも、今回も楽しく読めました。

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やはり進化の不思議を考えさせるのが大きな狙いとなってるシリーズなのかと。

ざんねんないきもの事典2 続.jpg続ざんねんないきもの事典ages.jpg 続ざんねんないきもの事典ド.jpg ざんねんないきもの事典.jpg
おもしろい! 進化のふしぎ 続ざんねんないきもの事典』['17年]『ざんねんないきもの事典』['16年]

 ベストセラーとなった『ざんねんないきもの事典』('16年)の続編。個人的に印象に残ったのは―

ダウンロード.jpgハダカデバネズミには、赤ちゃんをあたためる「ふとん係」がいる(34p)地下に住むハダカデバネズミは、1000匹もの大家族で暮らし、「巣を守る係」や「食べ物をとる係」がいて、中でも変わっているのが赤ちゃんをあたためる「ふとん係」がいること。体温を一定に保つ機能が退化しているため、こうした係がいるようです(今月['20年1月]、NHK-BSプレミアム「世界のドキュメンタリー」で"長寿ネズミ 健康の秘密を解明"としてハダカデバネズミの特集(ドイツ・2017年制作)を放送していた。ハダカデバネズミが高度の社会性を有することは知られているが、近年はマウスの10倍の30年は生きるというその長寿に注目が集まっていて、全遺伝子の解析はすでに終わっており、人間の長寿に応用できないか研究が進められているようだ)。

ハシビロコウ どうぶつ王国 .jpgハシビロコウ どうぶつ王国 グッズ.jpgハシビロコウはひたすら待ちの姿勢(50p)動かないことでまわりの風景に溶け込んで、隙を狙うという戦法で、「魚が水面に顔を出すまでひたすら待つ」というもの(個人的には、行きつけのどうぶつ王国のハシビロコウが馴染み(?)だけど、時々首を振るような動きはすることがある。園内でも人気が高いらしくグッズもある)。[写真:神戸どうぶつ王国公式フェイスブックより]

マッコウクジラ.jpgマッコウクジラの頭の中は脳ではなく油でいっぱい(68p)マッコウクジラの脳の重さは約8㎏で、動物界ナンバーワン。ただし、でかい頭の中身のほとんどは「脳油」という油のかたまりで、まわりを探るために出す超音波を強化したり、浮かんだりする時の浮きぶくろの役割を果たしたりしている(シロナガスクジラのようにオキアミをすくって食べているクジラより、マッコウクジラのようにイカなどを捕食するクジラの方が、脳が発達しているようだ)。

ジャイアントチューブワーム.jpg口もおしりのあなもないハオリムシ(76p)深海の海底に生命はなぜ生まれたのか.jpg住むハオリムシは、口もおしりのあなもなく、海底から噴き出す猛毒の「硫化水素」をえらから吸収し、それを体内の微生物に分解させて栄養に変えている(この生き物は、微生物地球学者の高井研氏の『生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る』('11年/幻冬舎新書)の中でも「チューブワーム」として紹介されていた(ハオリムシは和名))。

ヨイアイオイクラゲ.jpg世界一長いクダクラゲはちびクラゲが合体しただけ(83p)世界最長の動物はクダクラゲで、全長が40mを超えるものや、触手が50mにんるものもいるが、実は小さなクラゲが集まってできた「群体」である。大きさくらべに合体した体は反則とも思われるが、そもそもわれわれの体も細胞の集合体であるので文句は言えないと(ギネスブックでも世界最長の動物は〈マヨイアイオイクラゲ〉(クダクラゲの一種)となっていて、最長で40mほどの長さとなり、ホタルのように生物発光を行うとある)。

 正編と同じく冒頭に、進化についてのコマ割り漫画などによる解説があり、ああ、やっぱり進化の不思議を考えさせるのが大きな狙いの1つとなってるシリーズなのだなあと。だから、「ざんねん」に見える面も、実は一定の合理性に裏付けられた進化の帰結(乃至は過程)なのだなあと改めて思った次第です(ある部分においては大人向け?)。

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「ざんねん」と思われた部分も実は生存競争の帰結、進化の結果であると。

ざんねんないきもの事典_5273.JPGざんねんないきもの事典.jpgおもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』['16年]

 「ざんねんないきもの」という切り口で、さままな生物の不思議を楽しめるよう解説したもの。イラスト入りで1~2ぺージの読み切りであるため、子どもにとってはとっつきやすく、また、大人が読んでも面白いということでベストセラーになりました。個人的に印象に残ったのは―

ダチョウの脳みそは目玉より小さい(26p)ダチョウは世界最大の鳥で、その卵は1.5㎏あり、その黄身は世界最大の細胞。目玉は直径5㎝、重さ60gでニワトリの卵と同じくらいの大きさ。一方の脳は40gしかなく、実際ダチョウはかなり記憶力が悪いとのこと(調べてみたら、ダチョウよりずっと小ぶりのカラスの脳は10グラムから13グラム程で、体重に対する脳の重さの指標「脳化指数」(ヒト10.0チンパンジー4.3、サルは2.0、ニワトリ0.3)がカラスの場合2.1で、サルより高いそうだ)。

オランウータン.jpgオランウータンはけんかの強さが顔に出る(37p)フランジのあるオランウータンは強そうに見えますが、若いオスがけんかに勝つと男性ホルモンが分泌され、フランジが発達するとのだとのこと。ただし、たまたまけんかに勝ってもフランジが発達してしまい、より強い相手に目をつけられたりもすることになる場合もあると。

メガネザル.jpgメガネザルは目玉が大きすぎて動かせない(52p)メガネザルの目玉は一つで脳と同じ重さがあり、頭蓋骨からはみ出すほど大きいため、きょろきょろと動かせないと。目玉が大きくなったのは、昼行性から夜行性へ進化して、たくさん光が集められる目が必要だったためで、これはこれで進化の結果と言えます。

ユカタンビワハゴロモ.jpgユカタンビワハゴロモの頭の中はからっぽ(57p)頭に見えるのはにせもので、にせものの頭は横から見るとワニの頭に見えなくもなく、鳥などが怖がるという説があるそうです。本物の頭を守るためのおとりという意見もあるが、実際はどちらの説に立っても目立った効果はないそうです。

カカポ.jpgカカポは太りすぎて飛べなくなった(71p)ニュージーランドには100万年の間、カカポの天敵となる生物がいなかったため、飛ぶための筋肉が退化し、代わりにたくさんの脂肪がついたと(NHK「ダーウィンが来た!」で取り上げられたことがあって、その際の呼称は〈フクロウオウム〉だったか〈カカポ〉だったか)。

ドウケツエビ.jpgドウケツエビはおりの中で一生をすごす(121p)カイロウドウケツという動物の中で一生をすごすのがドウケツエビ。カイロウドウケツをマイホームにしいるわけで、敵から身を守れて食事にも困らず、成長して体が大きくなると、出られなくなる(沼津港深海水族館の石垣幸二館長の 『深海生物 捕った、育てた、判った!―"世界唯一の深海水族館"館長が初めて明かす』('14年/小学館101ビジュアル新書)でも紹介されていた。雌雄1ペアだけが残って成長して出られなくなり、そのままその中で一生を送るので、カイロウドウケツ自体が諺で言う"偕老同穴"なのではなくて、ドウケツエビが"偕老同穴"なのだなあ)。

 メガネザルの項などのように、「ざんねん」と思われた部分も実は生存競争の帰結、つまり進化の結果であったりもするので(冒頭に進化とは何かをコマ割り漫画などで解説している)、本書に対し、「ざんねん」という表現はどうなのかという批判もあるようです。でも、取り敢えず関心を持つことから入って、その上で最終的には、それらが生物たちの巧妙な生き残り戦略であることの思いを馳せて欲しいというのが監修者の狙いでしょう(読者が小さい子どもだと、ちょっと難しいか)。

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○レトロゲーム(レミングス(SFC))

げっ歯目って多いなあ。"生態"について詳しく書かれている。レミングは"集団自殺"しない!
小型草食獣 (動物大百科5).jpg小型草食獣 (動物大百科5.jpg  レミングス.jpg
小型草食獣 (動物大百科)』['86年/平凡社]「レミングス - PSP

小型草食獣 (動物大百科5_2.jpg シリーズ全20巻(+別巻)の第5巻で、リス・ネズミ・ビーバー・ヤマアラシ・ウサギなど小型草食獣を扱っています(中でも、リスからヤマアラシまでげっ歯目が種類がダントツに多い)。このシリーズ、表紙は「図鑑」っぽいですが、中身は写真もさることながら、解説が本格的であり、まさに「大百科」という感じです。とりわけ、その動物の"生態"について詳しく書かれており、Amazonのカスタマーレビューにも、「生息地や行動原理、性生活など、なかなか詳しく載っています。写真や絵も素晴らしいです」とありました。

 動物の "生態"となるとどうしても、最近ではテレビの動物ドキュメンタリー番組などが、撮影技術の進化等により、圧倒的な訴求力を持っているように思われますが、たまにこうした、少し昔には主流であった、文章で書かれたものに触れてみるのも良いかと思いました。Amazonの別のカスタマーレビューにも、「ネット情報も良いけれど、やはりアナログ情報も不可欠だと実感する一冊です」とありましたが、同感です。

 一例として、ネズミ型げっ歯類に属するレミングについて、「レミングレミング_3649.JPGの集団移住―ノルウェーレミングの生活史におけるその意義」とあり、ちょっとした小論文という感じです。スカンジナビアの伝説にレミングが集団自殺に向けて行進をするというのがあり、実際、集団移動して多くが溺死するといったことがあるそうです(写真が出ている)。しかし、それは事故のようなもので(レミングは本来は泳ぎが上手く、集団移動の際に川を渡ることはよくある)、集団移動自体は、個体数の増加のピークの年に、個体間の攻撃的関係が多くなることが引き金になって起きている可能性があり(つまり、互いの無駄な争いを避けるための移動で、移動するのは大型の個体に追い払われた若い個体たち)、長距離移動は生き残ろうとする願望であるように(著者には)思われ、「移動が集団自殺で終わるのはナンセンスである」としています。

白い荒野.jpg 同じようにWikipediaにも、レミングは、かなり長い間「集団自殺をする」と考えられていて、スカンディナビアでは「集団で海に飛び込む」という伝説が古くからあるとあり、ただし、「集団移住を行っている際に一部の個体が海に落ちて溺れ死ぬことはあるが、これは自殺ではなく事故」であるとなっていました(Wikipediaでは、集団移動をする理由はよくわかっていないとしている)。個人的にも何となく"集団自殺"のイメージがありましたが、例えば、ディズニーのドキュメンタリー映画「白い荒野」('58年)でレミングが崖から落ちるシーンがあったのが、実は人間がレミングの群れを崖に追いやって落とした"やらせ"だったことが分ったりしたようです(この映画の前に「砂漠は生きている」('53年)という作品があって、共にアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞している。「砂漠は生きている」は三島由紀夫なども「正真正銘の傑作」と評価した作品で、個人的には学校の課外授業で観て早速動物図鑑を親にせがんだが、「砂漠は生きている」でもやらせがあったのだろうか)。またWikipediaによれば、1991年のパズルゲーム「レミングス」のヒットも誤解の一因だと言われているそうです。
「白い荒野」('58年/米)の1シーン
レミングス SFC 1991.jpgレミングス SFC 1991 p.jpg 「レミングス」というゲームは、天井にある蓋からレミングス(レミング達)が次々と落ちてきて歩き出し、プレーヤーが何もしないでいるとただひたすら行進を続けて崖から落ちて死んだりしてしまうため、プレーヤーが色々な指令を与えて、出口へと導いていくというもので、分類的としてはパズルゲームですが、結構"反射神経"的なものが求められる、パズルゲームの中では「アクション・パズル」と呼ばれるものでした(本書を読んだついでに思い出して、懐かしくなってしまった)。でも、このゲームがレミング集団自殺説という誤解を増長させていたとはねえ。

現生種最大のげっ歯類・カピバラ(2014年12月30日 神戶どうぶつ王国)
カピバラ_4774.jpg

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淡々と書かれているだけに却って感動的であり、また、面白かった『クラゲに学ぶ』。

下村脩 クラゲに学ぶ.jpg 光る生物の話.jpg 下村脩 2.jpg 下村 脩 氏   科学者は戦争で何をしたか.jpg
クラゲに学ぶ―ノーベル賞への道』『光る生物の話 (朝日選書)』『科学者は戦争で何をしたか (集英社新書)

「一度も借りられたことがない本」特集 朝日新聞デジタル.jpg 今年['15年]はどうしたわけか色々な図書館で貸出回数ゼロの本の展示企画が流行り、藤枝市立駅南図書館(2月)、裾野市立鈴木図書館(2月)などで実施され、更にはICU大学図書館の「誰も借りてくれない本フェア」(6月)といったものもありましたが、つい最近では、江戸川区立松江図書館が1度も貸し出されたことがない本を集めた特設コーナーを設けたことが新聞等で報じられていました(12月)。その中に、2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩氏による本書『クラゲに学ぶ』('10年/長崎文献社)があり、やや意外な印象も受けました(ローカルの版元であまり宣伝を見かけなかったせいか?)。

借りられたことのない本を集めた江戸川区立松江図書館の企画展(朝日新聞デジタル 2015年12月21日)

下村脩 3.jpg 本人が自らの人生の歩みと、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見によりノーベル賞を受賞するまでの研究の歩みを振り返っている本ですが(タイトルは2008年ノーベル化学賞のポスター"Lessons from the jellyfish's green light"に由来)、淡々と書かれているだけに却って感動的であり、また、面白かったです。特に、学問や人との出会いが、実は偶然に大きく左右されていたというのが興味深かったです。

 終戦直後、受験した高校に全て落ちた下村氏は、原爆で被災した長崎医科大学附属薬学専門部が諫早の家から見える場所に移転してきたこともあって、薬剤師になる気は無かったけれども、ほかの選択肢がなくて長崎薬専へ内申書入学、それが化学実験に興味を持ち始める契機になったとのことです。

 薬専から大学となった長崎大学を卒業後、武田薬品の面接で「あなたは会社にはむきませんよ」と言われ、安永峻五教授の授業の学生実験の助手として大学に残り、山口出身の安永教授と同郷の名古屋大学の有名な分子生物学の先生を紹介してもらえることになり、一緒に名古屋に行くと偶々その先生は出張中で、山口出身の別の先生の研究室に挨拶に行ったら「私のところへいらっしゃい」と言われ、その先生が当時新進の天然物有機化学者の平田義正教授で、当時、分子生物学も有機化学も全くと言っていいほど知らなかった著者が平田研究室の研究生となり、ウミホタルを発光させる有機物を結晶化するというテーマに取り組むことになったとのことです。下村氏は巻末で、尊敬する3人の師の下村 脩   .jpg1人として、プリンストンで共にオワンクラゲの研究に勤しんだ(共に休日に家族ぐるみでオワンクラゲの採下村脩 35.jpg集もした)ジョンソン博士の名を挙げていますが、その前に、安永峻五教授と平田義正教授の名を挙げています。やがてずっと米国で研究を続けることになる著者ですが、日本国籍を保持し続けていたことについて、何ら不便を感じたことがないと言っているのも興味深いです。

 著者の研究分野やその内容については、著者が一般向けに書き下ろした『光る生物の話』('14年/朝日新書)により詳しく書かれていますが、こちらの方にも、近年の発光植物の研究まで含めた著者の研究の歩みや、『クラゲに学ぶ』にもある著者自身の自伝的要素も織り込まれています。元々、自分たちの子どものために自伝を書き始め、ノーベル賞受賞後、それを本にする話が朝日新聞の人から出て朝日新聞出版社で刊行する予定だったのが、故郷長崎県人の強い要望から地元の出版社で刊行することになったのが『クラゲに学ぶ』であるとのことで、既に朝日新聞出版社からも『クラゲの光に魅せられて-ノーベル化学賞の原点』('09年/朝日選書)を出していたものの、下村氏が書いたのは3分の1足らずで、あとは講演会の内容がほとんどそのまま収録されているような内容であったため(おそらく出来るだけ早く刊行したいという版元の意向だったのだろう)、改めて自伝的要素を織り込んだ『光る生物の話』を朝日選書で出すことで、朝日新聞出版社にも義理を果たしているところが著者らしいです。

 『光る生物の話』によれば、生物発光の化学的研究は1970年代がピークで、現在は衰退期にあるとのこと、研究者の数も多くなく、過去100年間の研究成果のうち、著者が共同研究者として関わっているものがかなりあることからもそれが窺えます。オワンクラゲからの緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見は偶然も大きく作用していますが、こうした医学界に実際に役立つ成果でもない限り、本当にマイナーな世界だなあと。

下村脩 ノーベル賞8.jpgToshihide Maskawa osamu shimomura.jpg 『クラゲに学ぶ』の特徴としては、他の学者等の"ノーベル賞受賞記念本"と比べて受賞時及びそれ以降の過密スケジュールのことが相当詳しく書かれている点で(おそらく下村氏は記録魔?)、断れるものは断ろうとしたようですが、なかなかそうもいかないものあって(これも淡々と書いてはいるが)実にしんどそう。それでも、ノーベル賞を貰って"良かった"と思っているものと思いきや、人生で大きな嬉しさを感じたのは貴重な発見をした時で、ノーベル賞は栄誉をもたらしたが、喜びや幸福はもたらさなかったとしています。本書は受賞の1年版後に書かれたものですが、「今の状態では私はもはや現役の科学者ではない」と嘆いていて、米国の研究所を退任する際に実験器具一式を研究所の許可を得て自宅へ移したという、あくまでも研究一筋の著者らしい本音かもしれません。
asahi.com

益川敏英 氏
益川敏英00.jpg 同じ2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏の近著『科学者は戦争で何をしたか』('15年/集英社新書)は、ノーベル賞受賞者が過去の戦争で果たした負の役割を分析したものですが、益川氏は、ノーベル財団から受賞連絡を受けた際に、「発表は10分後です」「受けていただけますか」と言われ、その上から目線の物言いにややカチンときたそうです。下村氏の場合、自分が受賞するとすれば既に発表が終わっていた生理学・医学賞であり、その年は自身の受賞は無いと思っていたそうで、その下村氏の元へノーベル財団から化学賞受賞の連絡があった際も「20分後に発表する」と言われたとのこと、財団の立場に立てば、本人の受賞の受諾が必要であり、但し、事前にマスコミに受賞者を知られてはマズイらしく、そのためある程度のドタバタ劇になるのは仕方がないのかもしれません。

増川ノーベルレクチャー.png益川教授ノーベル賞受賞講演.jpg 益川氏の『科学者は戦争で何をしたか』の中にある話ですが、益川氏はノーベル賞受賞の記念講演で戦争について語ったのですが(英語が苦手の益川氏は1968年に文学賞を受賞した川端康成以来40年ぶりに講演を日本語で行なった。歴代の日本人受賞者の中で最も流暢な英語を喋るのは小柴昌俊氏ではないか)、事前にその原稿にケチがついたことを人伝に聞いたとのこと、益川氏は自分の信念から筋を曲げなかったのですが、そうしたら、下村氏も同じ講演で戦争の話をしたとのことです。長崎に原爆が落ちた際に当時16歳の下村氏は諫早市(爆心から20km)にいて、将来の妻となる明美氏は長崎市近郊(爆心から2.3km)にいたとのことです(下村氏は別に別に政治的な話ばかりしたわけではなく、講演の最中にポケットからGFPを取り出し、場内を暗くして発行させ、聴衆から拍手を浴びている)。益川氏は原爆は戦争を終わらせるためではなく実験目的だったとし、下村氏も戦争を終わらせるためだけならば長崎投下は説明がつかないとしています。

下村氏ノーベルレクチャー1.jpg

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下村氏ノーベルレクチャー3.png

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興味深いヤマメVSサクラマスの"逆転"の生態。但し本書は、擬人化を排した「専門書」的内容。

二つの顔をもつ魚 サクラマス.jpg ヤマメとサクラマス.jpg   やまめとさくらます 絵本.jpg
二つの顔をもつ魚 サクラマスー川に残る`山女魚'か海に降る`鱒'か。その謎にせまる! (ベルソーブックス043)
NHK「ダーウィンが来た!生きもの新伝説~どっちが得?ヤマメVSサクラマス」より 『やまめとさくらます

ヤマメとサクラマス1.jpg 渓流の女王"と呼ばれる「ヤマメ」と全長60センチにもなる「サクラマス」は姿も名前も異なりますが、実は全く同じ種類の魚であり、生まれた川で一生を送るものが「ヤマメ」となり、川から海に出て大きくなって、再び川に戻ってくるものが「サクラマス」になります。釣り人、特にトラウトファンならばそうした知識はあるのではないかと思いますが、そうした知識の有無に関わらず、昨年['14年]10月、NHKの「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」で「どっちが得?ヤマメVSサクラマス」としてその生態が紹介されたのを興味深く観た人は多かったのではないでしょうか。

やまめとさくらます 絵本1.jpg 本書は、そのサクラマスの生態を、より科学的・実証的な調査・研究から明らかにしたものです。これによると、一定の時期までに一定の大きさまでに育ったものがヤマメとなり、逆に降海型のスモルト(サクラマス)になるには、成長が大きすぎないことが条件になるようで、この辺りは大体「ダーウィンが来た!」での解説と同じでしょうか。但し、本書では成長が早かったか遅かったかで川に留まるか海に降りるかが決まるというようになっているのに対し、「ダーウィンが来た!」では、餌の獲得競争に勝った幼魚が川に留まり、劣勢だったものが海に降りるというような説明になっていました(ほぼ同じことか)。

 ここからの"逆転劇"はよく知られているところで、海に降りたものはやがて巨大なサクラマスとなって川を遡上し、雄が雌を獲得する繁殖でも圧倒的優位を得るわけですが、この逆転劇は、おくやまふみや(著)/あさりまゆみ(絵)の『やまめとさくらます』('09年/ポトス出版)という絵本にもなっていて、こちらは、「川にいたヤマメの中でいじめられた"弱虫"が海に下って大きくなって帰って来て、かつて川で自分をいじめたヤマメに再会するのだが仕返しはしない」という教訓的な「オチ」と言うか「流れ」になっているようです。

ヤマメ.jpg 一方で、「ダーウィンが来た!」では、サクラマスの繁殖行為に横から小さな体で割り込んで自分の子孫を残そうとするヤマメの"戦略"が映像で捉えられていたのが興味深かったです。〈適者生存〉の原理から言えば、ヤマメになったものとサクラマスになったものとでは、もともとヤマメになったものの方がより"適者"であったと言えなくもなく、この辺りは上手く出来ているのでしょう。

NHK「ダーウィンが来た!生きもの新伝説~どっちが得?ヤマメVSサクラマス」より

 「ベルソーブックス」は、日本水産学会の事業として刊行されたシリーズで、高校生や大学生、一般向けに分かり易く書かれているとは言え、ベースになっているのは専門的な学術研究の成果であり、本書も、サクラマスの亜種も含め、詳細な研究データが織り込まれており、個人的には、「専門書」に近い内容と言うか、思った以上に敷居が高かった印象も受けました。

 調査データは多岐に及んでいるのに対し、恣意的な解釈は排されており、これを読むと、「ダーウィンが来た!」でのサクラマスの生態の紹介のされ方は、絵本『やまめとさくらます』と本書の中間にあるような、やはり一般の関心を引くよう適度に"擬人化"されていた印象を、改めて受けなくもありません。何れにせよ、ヤマメとサクラマス、たいへん興味深い生態であると言えるかと思います。

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『世界の美しい透明な生き物』の第2弾? こちらの方が若干玄人好みか。

世界で一番美しいイカとタコの図鑑.jpg世界で一番美しいイカとタコの図鑑2.jpg                世界で一番美しいイカとタコの図鑑 ポケット版.jpg
世界で一番美しいイカとタコの図鑑』['14年] 『世界で一番美しいイカとタコの図鑑 愛蔵ポケット版』['15年]
世界で一番美しいイカとタコの図鑑3.jpg 同じ版元により前年に刊行された写真図鑑『世界の美しい透明な生き物』('13年/エクスナレッジ)が結構話題になって、本書は"二匹目のどじょう"を狙ったかにも見えますが、こうした写真集はすぐにでも刊行できるものではなく、丁度1年後の刊行となりました。

世界で一番美しいイカとタコの図ZZZ_.jpg 内容的にも拙速感は無く、前の『世界の美しい透明な生き物』のソフトカバーから今回はハードカバーになり、写真の充実度・美しさのレベルも前回同様に高く、イカ・タコに特化した分、こちらの方が若干は玄人好み(生物図鑑ファン(?)好み)かもしれません。

世界で一番美しいイカとタコの図ZZ_.jpg しかし、これだけ様々なイカ・タコの写真を網羅しながら、生きているダイオウイカの写真って本当に無いのだなあ(海辺に打ち上げられて死体となったものや漁網に掛かって瀕死の状態のものの写真はあるが)。NHKと国立科学博物館が共同プロジェクトで2009年に深海で撮影した映像写真が本書にも掲載されていますが、あれが、人類が普通の生息状態のダイオウイカと遭遇した初めての出来事だったようです(因みに。2004年、ダイオウイカの生きている姿を世界で初めて撮影したのは、本書の監修者である国立科学博物館標本資料センターの窪寺恒己氏)。

世界で一番美しいイカとタコの図Z_.jpg 本書にはダウオウイカのカラー魚拓(実物の1/6サイズ)が織り込みで付いていますが、今年['15年]8月、神戸の須磨海浜水族園の特設展で、ダウオウイカのスルメ(標本)を見ました。元の大きさがどれぐらいだったか分からないけれど、スルメにしてしまうと思いの外に小さくなってしまうようで、あまり迫力が感じられませんでした。

 『世界の美しい透明な生き物』同様、こちらも、今年['15年]7月には入手しやすい"愛蔵ポケット版"が刊行されています。但し、こちらも、サイズが小さくなっただけでなく、ページ数が4割ほど減っており、写真が一部割愛されているようです。

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「透明な生物」という切り口が面白い。写真が美しい。

世界の美しい透明な生き物1i.jpg 『世界の美しい透明な生き物』['13年] 世界の美しい透明な生き物 愛蔵版.jpg世界の美しい透明な生き物 愛蔵ポケット版』['15年]
世界の美しい透明な生き物Z_.jpg 写真によるいろいろな生物図鑑がありますが、「透明な生物」という切り口が面白いと思いました。そして、まず何よりも、使われている写真のどれもが美しいのが本書の魅力です。「透明」ということはイコール「生きている」ということなのだなあと改めて思わされました。

 「生物」と言うからには、動物は昆虫から微生物にまで及び、更には動物だけでなく植物も入ってくるわけで、そうした動植物のいろいろな取り合わせに新鮮味を覚えました。
世界の美しい透明な生き物ZZZ_.jpg
 透明と言えば、まずクラゲなどを想起しますが、クラゲは勿論のこと、それ以外にもタコやイカやナマコ、プランクトン、魚、カエル、更にはチョウなどの昆虫や花草類やキノコなどいった具合に、実に多種多様な「透明な生物」がいるのだなあと思わされました。

 体系的に整理されていないとの批判もあるようですが、子どもや一般の大人が見て楽しんだり、生き物の世界に興味を抱いたりするうえではこのレベルでいいのではないでしょうか。

世界の美しい透明な生き物ZZ_.jpg 口上によれば、「世界で唯一の透明生物図鑑」であるとのことで、書店でもそうした謳い文句で紹介されていた記憶があります。それなりの反響はあったようで、今年['15年]7月には入手しやすい"愛蔵ポケット版"が刊行されています。ただ、サイズが小さくなっただけでなく、ページ数にして3分の1以上減っているようです(写真が一部割愛されたようだ)。解説の活字の大きさの問題などもありますが、出来ればそのままの内容での縮小版にして欲しかった気もします。

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深海生物の魅力を多くの人に知ってほしいという著者の熱い思いが伝わってくる本。

深海生物 捕った、育てた、判った!.jpg
石垣 幸二 氏.jpg 石垣幸二氏 沼津 深海水族館.jpg 沼津深海水族館
深海生物 捕った、育てた、判った!: "世界唯一の深海水族館"館長が初めて明かす (小学館101ビジュアル新書)

 版元による本書の紹介文によれば、「著者の石垣幸二さんは、世界にも類のない深海水族館『沼津港深海水族館』の館長であり、一方で、世界中の水族館や研究施設からの依頼で希少な海洋生物を納入している"海の手配師"としても活躍しています。自分で捕獲し、飼育・観察し、水族館での展示の工夫まで考えているのです。本書では、その石垣さんが実際に捕獲し、観察しているからこそ判った深海生物の不思議な生態や、飼育・展示の苦労話などを余すところなく語り尽くします。深海生物のカラー写真もたくさん掲載しました」とのとです。

 3章構成の第1章「知れば知るほどおもしろい深海生物の魅力」は、その深海生物の紹介ですが、著者らが捕ったり生育したりした中で判ったことや苦労したことなども交えて書かれていて、シズル感がありました。それと、版元の紹介文にもある通り、写真が豊富で、取り上げた深海生物のほぼ全てに(よそから借りてきたものも含め)写真があり、これはやはりその生き物を知る上で大きいと思いました。

 深海水族館のある沼津市が面している駿河湾というのは、すぐ近くに水深200メートルの漁場もあれば水深600メートルの深海もあるという、世界でもここしかないという場所なのだなあ。それぞれの深海生物の解説も興味深く、提灯アンコウのオスはメスに噛みついて、最後はメスの体の一部となってしまうとか、海綿の1種でカイロウドウケツというメッシュ状に編まれた駕籠のような生き物は、その中にドウケツエビの幼体が入り込んで最後、雌雄1ペアだけが残って成長して出られなくなり、そのままその中で一生を送るとか...(カイロウドウケツが"偕老同穴"なのではなくてドウケツエビが"偕老同穴"なのだなあ)。

 第2章「『海の手配師』」は忙しい」は、著者が、日本大学国際関係学部卒業後、一般企業で営業マンとして活躍するも、少年時代に親しんだ海への想いを捨てきれず、潜水士として水産会社に転職し、2000年に海洋生物の生体供給会社「ブルーコーナー」を設立、"海の手配師"として世界各国の水族館、博物館、大学に海洋生物を納入し、2004年の横浜中華街「よしもとおもしろ水族館」(現ヨコハマおもしろ水族館)オープンに参画、2011年に「沼津港深海水族館」の館長になるまでを綴っており、これも版元の紹介文を引用させてもらうと、「漁の際に船を出してくれる漁師さんたちとの付き合い方、世界一のサプライヤー(生体供給業者)を目指すきっかけになった人との出会い、採算を度外視してでも誠実に仕事をして信頼を得る、捕ることよりも実は搬送のほうが難しい...深海ビジネスを初めて成功させた男といわれる石垣さんの仕事への真摯な取り組み方は、ビジネス書としても一読の価値があります」とあって、まさにその通りだと思った次第です。読んで爽やかな印象が残る章でした。

 巻末付録的な第3部「読む深海生物図鑑」も、点数を絞り込んで、その生態を詳しく解説しており、全体を通して、深海生物の魅力を多くの人に知ってほしいという著者の熱い思いが伝わってくる本でした。「捕った、育った、判った!」の「!」に誇張は感じられず、お薦めです。

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動物(生物)を体の機能や生態行動ごとにテーマで括って解説。解説も写真も楽しめる。

動物生態大図鑑1.jpg動物生態大図鑑』['11年]動物生態大図鑑 2.jpg
(30.4 x 25.6 x 2.2 cm)
 動物(生物)を通常の分類ごとに分けるのではなく、体の機能や生態行動ごとにテーマで括って分けていて、例えば「血を吸って生きる」というテーマでコウモリと蚊やダニを同じページで紹介したり、「うろこ」というテーマで魚と蛇を紹介している独特な切り口であり、写真も豊富で美しく、見ているだけでも楽しめますが、読んでいてもなかなか面白いと思いました。

動物生態大図鑑2.jpg 例えば「足で歩く」のところでは、ヤスデ(750本の足は動物の中で最も多い)とチーターが一緒に登場したり、「極限の環境に生きる」のところでは、冬眠するヤマネと、400℃に達する海底熱水噴火口に生息するポンペイワームや10年以上も冬眠が可能な微生物のクマムシが一緒に登場するなど、哺乳類や魚類などの脊椎動物から、無脊椎動物や昆虫、更には微生物まで、1つのテーマや切り口の中では同等に扱っている(写真の大きさも)のが斬新です。

 「血を吸って生きる」のところに出てくるマダニは、大人の雌が食事をするのは一生に一度だけで、その1回を終えるのに1週間以上かかり、体重は50倍になってぶどうの粒ぐらいになり、そのまま地面に落ちて卵を産むそうな(何だかウソみたいな話だが、吸血後の腹が巨大化したマダニの写真が出ている)。

 「繁殖」のところでは、雌雄同体でありながらパートナーに精子を与え合うマダラコウラナメクジや、ことが終わったあとに交尾相手の雄を頭から食べ始めるカマキリの雌の写真があります(雄は頭が無くなっても雌の体内に精子を送り続ける!)。

 最終章で、一応分類学上の括りで、無脊椎動物、軟体動物、節足動物、昆虫、脊椎動物(魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類)のそれぞれの中での分類や代表的な生き物を紹介していて、生物学の"復習"になるとともに、改めて生物の多様性を認識させられました。

動物生態大図鑑 3.jpg 無脊椎動物の一種「扁形動物」で60センチにもなるというウズムシなんて知らなかったし、サナダムシの頭部の写真は怖いなあ。魚類の一種「無顎類」であるヌタウナギって、心臓が4つあるのか―等々、トリビアな記述が満載で、こうした細部の解説も楽しめ、それらにもちゃんと写真が付されています。

 勿論、各章の冒頭や章中にある見開きワイドのダイナミックな生物写真は迫力、美しさ共に圧巻で、章中の写真の一部にピントのずれがあったりしたものもありましたが(大判でしかもコラージュしているため、却ってそれが目につく)、但し、この場合、解像度よりもむしろ生態写真としての価値の方を優先させて掲載しているのでしょう。極小生物ほどよく撮れているように思いましたが、まあ、アリ1匹を大判見開きで見せるなんて普通の図鑑ではやらないことだから、それだけでインパクトがあるのかも。

 解説文中においても「爬虫類」「哺乳類」を「は虫類」「ほ乳類」とせず全て漢字表記にしているのは、この方が読み易くていいと思いました(「雄・雌」も漢字。「蚊」はやっぱり「カ」になってしまうのだが、これは表記の統一上やむを得ないか)。

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ハイスペック豪華本。CG復元画がリアルでダイナミックな「大迫力のヴィジュアル大図鑑」。

生物の進化 大図鑑0.jpg生物の進化大図鑑.jpg(30.2 x 26.4 x 4.2 cm)  EVOLUTION 生命の進化史.jpg
生物の進化 大図鑑』(2010/10 河出書房新社)『EVOLUTION 生命の進化史』(2010/02 ソフトバンククリエイティブ)

生物の進化大図鑑1.jpg 先にダグラス・パーマー『EVOLUTION 生命の進化史』('10年/ソフトバンククリエイティブ)を取り上げましたが、生物進化図鑑の"本命"というとこちらの方になるのかなあ(河出書房、科学図鑑に強いネ)。

 図版数 約3000点、生物の掲載種 772種、索引数 約2300項目、化石写真 約600点、CG復元図 約250点、語解説 約300項目...という文句のつけようの無いほど充実したスペックで、強いて難を言えば9,500円(税別)という、1万円近い価格でしょうか。

 但し、"稀少本"にしては結構売れたようで(今も売れているみたい)、多くの人が"相応の価格"であるとみたということでしょう。全512ページにフルに掲載されている写真や図説の豊富さだけでなく、解説の詳細さなどからみても、まずます頷けます。

生物の進化 大図鑑3.jpg CG復元図がリアルでスゴイ迫力!(子どもでなくとも大人でもぐっと惹かれるものがある)、CGもここまできたかという印象ですが、化石写真などとの配置が上手くなされていて、写真とCGが自然な感じで繋がっているように感じられました(CGがまるで写真のように見えることに加えて、レイアウトの妙が効いているため、相乗効果を醸している)。

 冒頭に「地球の起源」とあり、「地球誕生から5億年」「プレートテクトニクス」「気候の変動」と続くように、古生物学の視点に留まらず、地質学や地球科学の視点も取り入れられていて、動物だけでなく植物の進化にも相当数のページを割いています。

生物の進化大図鑑2.jpg 『EVOLUTION 生命の進化史』もそうですが、こちらは更に陸生動物の登場までに相当のページを割いていて(180頁強)、かなり本格的。でも、子どもたちが喜びそうな恐竜についてもこれまた詳しく(恐竜リスト 約800点)、見開きページいっぱいを使ったダイナミックなCG復元画(骨格見本を含む)だけでなく、その種に見られる部位の特徴などをピンポイントで解説するなどしていて、大人も子どもも楽しめます。
 
 人類の進化についても詳しいですが、その人類進化の部分を、『EVOLUTION 生命の進化史』はイラストを用いて解説していたのに対し、こちらは化石写真中心であるのが対照的であり、『EVOLUTION 生命の進化史』が"生態図"のパノラマという形式を取っているのに対し、生態が不確かなものについての恣意的な想像を排するという本書の姿勢が表れています(但し『EVOLUTION 生命の進化史』の方も、同じ場所の同じ地層に化石が見られた古生物を1つのイラストに収めているという点では、ある種の厳格さを貫いている)。

 高価な価格が難であると言っても、中古市場で購入すれば、家族で科学博物館へでかけたのと同じくらいかそれ以内の出費で、この「大迫力のヴィジュアル大図鑑」という謳い文句に違わぬ豪華本を手元に置くことができるということになるのではと思ったけれど、この手の書籍に共通する傾向として(本の善し悪しや発刊部数の多寡によって差はあるが)、この本も、刊行されて2年くらいしか経っていない現段階では、あまり安い値段では手に入らないみたい。

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専門的だが見易さに工夫。大人でも子どもでも楽しめるパノラマイラスト。読み込むほどに味が。

EVOLUTION 生命の進化史.jpg (29.2 x 25 x 3.4 cm)        生物の進化大図鑑.jpg
EVOLUTION 生命の進化史』(2010/02 ソフトバンククリエイティブ) 『生物の進化 大図鑑』(2010/10 河出書房新社)
EVOLUTION 生命の進化史1.jpg 生命誕生から現在まで、地球35億年の生命の進化の歴史をイラスト化したもので、パノラマ・イラストを全て繋げると全長50メートルにも及ぶという「壮大な命の絵巻物」。

 2009年のダーウィン『種の起源』発刊150周年・生誕200周年を記念しての刊行の"稀少本"とのことで(定価4,700円(税別)、同種の"稀少本"では河出書房新社の『生物の進化 大図鑑』('10年/定価9,500円(税別))が1万円近い価格にも関わらず結構売れたようですが、本書もなかなかの出来栄えではないでしょうか(価格的にはよりお買い得)。

 『生物の進化 大図鑑』のイラストがCGなのに対し、こちらは英国の動物挿絵家で、食器の鳥の図柄や英国切手の図柄をはじめ、世界の童話に独特なタッチの水彩画を描いているピーター・バレットによる手書きイラストです。

何れもいかにも水彩画家らしい淡いタッチで描かれており、『生物の進化 大図鑑』のCGの迫力に対し、線画の緻密さに凝っている感じに何となく昔ながらの「図鑑」の懐かしさを覚えてしまい、こういうのも悪くないなあと。

EVOLUTION 生命の進化史2.jpg 丁度、歴史年表を見ているように、年代表が各パノラマ・イラストの最上部にあり、年代に関する情報や気候と生物相に関する情報が記されていて、下部には、化石産出地のかつての位置と現在の位置(大陸移動しているため両者は異なってくる)の図、種のリスト、イラストの一部のクローズアップや化石写真付きの解説などがあります。

 フルカラー全384ページですが、最初の陸生生物の登場までに80ページ以上のページ数を割いていて、後半140ページは「系統樹」「化石産出地の索引」「種の索引」に充てるなどしており(これらも視覚的に分かり易いよう工夫されている)、アカデミックと言うか、専門家向けという感じもします。

 生物進化史を体系的に理解しようとするにはうってつけの図鑑ですが、パノラマ・イラストは大人でも子どもでも楽しめるものとなっており、『生物の進化 大図鑑』と併せて一家に一冊置いておきたい図鑑、読み込めば読み込むほど味が出てきます。

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モノクロ線画で描かれている点に、正確な形状へのこだわりを感じる。一級品。

イラスト・アニマル-動物細密・生態画集.jpg   アニマルイラスト967.JPG
( 27.8 x 19.8 x 4.8 cm)『イラスト・アニマル―動物細密・生態画集』(1987/08 平凡社)

アニマルイラスト2971.JPG 全534ページのかなり本格的な動物イラスト集(全てモノクロ)で、霊長類、哺乳類、鳥類、両生類・ハ虫類、魚類、さらには昆虫、甲殻類、軟体動物など、無脊椎動物も一部カバーしています。

 本書で動物画を描いている画家は、青山晃ほか15名に及びますが、更に監修者の方はとなると、今泉吉典(動物図鑑監修の常連だったなあ)ほか50名近くになり、正確さを期すことにウェイトが置かれていることが窺えます。

アニマルイラスト2972.JPG 量的な本格度もさることながら、「図鑑」ではなく「動物細密・生態画集」と謳っているように、全編モノクロで描かれていること(線画用の細い筆を使っていると思われる)が、却って正確な形状へのこだわりを感じさせます。

 画家の方も、近似種との相違点や、生態の特徴などを意識して描いているように思われ、むしろ、これだけ精緻なイラストを、たった16人で描き分けていることの方が驚きかも。

アニマルイラスト2973.JPG 本当に動物が好きな人、或いは、動物好きでそうした動物に関する知識を吸収中の子供などは、1ページ1ページめくって、自分の知識やイメージを確かめつつ、解説等を併せて読み、傍に親や友人、更には同好の士などがいれば、その生態を語り始める―といった感じになるでは。

 実際に、図書館で借りて、最初の霊長類のところを開くや否や、アイアイの手が描かれているのを見た子供に、これで木の臍にいるアリを掻き出して捕食するとの講釈を、早速受けました。

アニマルイラスト2974.JPG 「図鑑」ではなく「イラスト」、それもまさに第一級の「動物細密・生態画集」です。

 ホントのところは購入したいのだけど、やや値段が張るのが難点でしょうか。改訂は難しいとしても、復刻しないかなあ。学術上の問題か何かあって、できないのかなあ(古書になっても価格は安くならないんだよね、このレベルの本は)。

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『大図鑑』と言うより「蛇柄」観賞用イラスト集。図書館で借りて"観る"本。『写真図鑑』の方がお奨め。

ヘビ大図鑑.bmp   千石先生の動物ウォッチング.jpg                爬虫類と両生類の写真図鑑.jpg
(28.2 x 22.6 x 1.8 cm)『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』['00年/ 緑書房] 『千石先生の動物ウォッチング―ガラパゴスとマダガスカル カラー版 (岩波ジュニア新書)』 『爬虫類と両生類の写真図鑑 (地球自然ハンドブック)』['01年/日本ヴォーグ社]

『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』.jpg 本書『ヘビ大図鑑-驚くべきヘビの世界』に見開きで描かれている蛇のイラストはいずれも大変に美しいのですが、一部、生態も含めたイラストがあるものの、半分ぐらいはとぐろを巻いている同じような"ポース"ばかりのもので、せっかくあの「千石先生」が翻訳しているのに、これではそれぞれの蛇の生態がシズル感を以って伝わってはきません(ある意味、"蛇柄"のカタログ)。

 それと、191ページで7000円という価格は、いくら何でも高過ぎ。「3000種を超える世界のヘビを収録」とありますが、イラストで紹介されているのは100種類にも満たないのではないでしょうか(1種を見開きで使っていたら当然そういことになるが)。図鑑と言うより贅沢なイラスト集、それも純粋に"蛇柄"の違いのみを楽しむマニアックなものという印象を受けました。

 蛇マニア("蛇柄"フェチ?)には魅力的な本かもしれませんが、一般の人にとっては、買う本ではなく、図書館で借りる本でしょう(「日本図書館協会選定図書」とのことでもあるし)。

『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』.jpg 図鑑という観点から本書よりもお奨めなのが、『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』('01年/日本ヴォーグ社/定価2,500円)。

 版は小ぶりですが、オールカラーで、世界の爬虫類と両生類を400種類紹介していて(写真は600枚)、1つ1つの解説も丁寧。よくこれだけ、写真を集めたなあという感じで、1ページに2種から3種収められていてコンパクトですが、分布、繁殖や類似種から、全長、食性、活動期間帯まで一目でわかるようになっています。

 オリジナルの英国版は両生類4,550種、爬虫類が6,660種が掲載されているそうで(すごい数!)、本書はそのほんの一部の抜粋版であるため、「完璧版」はちょっと言い過ぎのようにも思われますが、それでも蛇だけで160種を超える掲載点数であり、やはりこっちを買うことにしました。


映画「アナコンダ」2.jpg映画「アナコンダ」1.jpg そう言えば、ジェニファー・ロペス、ジョン・ヴォイトが主演した「アナコンダ」('97年/米)という映画がありました。伝説のインディオを探して南米アマゾンに来た映画作家らの撮影隊(ジェニファー・ロペスら)が、遭難していた密猟者(ジョン・ヴォイト)を助けるが、最初は温厚な態度をとっていた彼が、巨大蛇アナコンダが現れるや否や本性を曝け出し、アナコンダを捕獲するという自らの目的遂行のために撮影隊のメンバーを支配してしまう―というもの。

映画「アナコンダ」3.jpg映画「アナコンダ」4.jpg 大蛇アナコンダが出てくる場面はCGとアニマトロニクスで合成していますが、CGのアナコンダはあまり怖くなく、作品としてはどちらかと言うとスペクタクルと言うより人間劇で、アナコンダよりもアクの強い演技がすっかり板についているジョン・ヴォイトの方が怖かった(蛇すら吐き出してしまうジョン・ヴォイド?)。

アナコンダ2.jpgラスト・アナコンダ.jpg 後に「アナコンダ2」('04年/米)という続編も作られ(それにしても、南米にしか生息しないアナコンダをボルネオに登場させるとは)、更には「アナコンダ3」('08年/米・ルーマニア)、「アナコンダ4」('09年/米・ルーマニア)までも。「ラスト・アナコンダ」('06年/タイ)というタイ映画や「「アナコンダ・アイランド」('08年/米)という、蛇の大きさより数で勝負している作品もあるようです。
アナコンダ 2 [DVD]」('04年/米)「ラスト・アナコンダ [DVD]」('06年/タイ)
  
ボア [DVD].jpgボア vs.パイソン.jpgパイソン  dvd.jpg "アナコンダもの"が多いようですが、このほかに、「パイソン」('00年/米)、「パイソン2」(02年/米)、「ボア vs.パイソン」('04年/米(TVM))、「ボア」('06年/タイ)、「ザ・スネーク」('08年/米(TVM))など、蛇を題材にした多くの生物パニック・ホラー映画が作られており、コアな「蛇ファン」がいるのか(CGにし易いというのもあるのかも)。 
パイソン [DVD]」('00年/米)「ボアvs.パイソン [DVD]」('04年/米(TVM))「ボア [DVD]」('06年/タイ)
Boas (left) and pythons (right)
boa_and_python.png "コブラもの"の映画もあるみたいですが(追っかけていくとどんどんマニアックになっていく)、"ニシキヘビもの"は無いのか? 実は「パイソン」はニシキヘビ類全般を指す場合に用いられる呼称であって、「パイソン」の中にアミメニシキヘビなども含まれているわけです。更に、「ボア」も、アメリカ大陸(中南米)に生息するニシキヘビの一種で、ボア・パイソンとも呼ばれます。但し、分類学上は、ボア科が本科であり、ニシキヘビ科をボア科の亜科とする学説が有力なようです。ボア科とニシキヘビ科の違いは胎生か卵生かであり、「ボア」は胎生(卵胎生)で、ボア科の「アナコンダ」も胎生、これに対してニシキヘビは卵生です(但し進化学的には、本科のボアの方が亜科ニシキヘビより原始的)。映画「ボア vs.パイソン」は、「本科 vs.亜科」といったところなのでしょうか。
  
「アナコンダ」●原題:ANACONDA●制作年:1997年●制作ANACONDA 1997.jpg国:アメリカ●監督:ルイス・ロッサ●製作:ヴァーナ・ハラー/レナード・ラビノウィッツ/キャロル・リトル●脚本:ハンス・バウアー/ジム・キャッシュ/ジャック・エップスJr.●撮影ビル・バトラー●音楽:ランディ・エデルマン●時間:89分●出演:ジェニファー・ロペス映画「アナコンダ」dvd.jpg/アイス・キューブ/ジョン・ヴォイト/エリックジェニファー・ロペス in 「アナコンダ」.jpg・ストルツ/ジョナサン・ハイド/オーウェン・ウィルソン/カリ・ウーラー/ヴィンセント・カステラノス/ダニー新宿東急 アナコンダ.jpg・トレホ●日本公開:1997/09●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (評価:★★)
アナコンダ [DVD]」/ジェニファー・ロペス in「アナコンダ」


 ガラガラ蛇の生命力の強さを物語る動画があったので、酔狂半分でアップ。"キモい"のが苦手の人は見ないで。

蛇は頭だけになっても襲いかかってくる

 
Python eats Alligator, Time Lapse Speed x6

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個人的に懐かしい本。「事典」というより「図鑑」に近い。

少年少女学習百科大事典 11 動物.jpg 少年少女学習百科大事典11.jpg 古川晴男.jpg
『少年少女学習百科大事典 11 動物』['61年/学習研究社]    古川 晴男(1907-1988)

 学研が'56年に会社として初めて刊行した百科事典(同タイトル全13巻)を前身とする『少年少女学習百科大事典』(全21巻)は、'61年から'62年にかけて刊行されたもので、ちょうどこの頃、百科事典ブームというのがあったようです。箱入りでクロス地のビニールカバーがついていて高級感があり、社会科編と理科編にわかれていますが、子どもの頃は理科編が特に面白く感じました。

少年少女 学習百科大事典 14 理科編 天文・気象.jpgA9☆少年少女学習百科大事典15/理科編・地球のすがた.jpg その中でも「11 動物」は、カラーイラストが豊富で大いに引き込まれ、「事典」ではあるが「図鑑」的であるように思われます。その他には「12 植物」「14 天文・気象」「15 地球のすがた」などにハマった覚えがあり(太陽系の起源を解説した「潮汐説」「隕石説」のイラストなどスゴイ迫力を感じた)、要するにこれ、カラーイラストの多い順に関心を持って読んだということになるのかも知れません。

少年少女学習百科大事典11.jpg この「11 動物」はかなり読み込み(眺め尽くし)、他の動物図鑑などを読む契機にもなりましたが、今時の"図鑑"だったら多分、単独で1巻となるであろう「昆虫」も、この百科事典では「動物」の中に組み込まれていて、但し、これがなかなか詳しいです。

 ショウリョウバッタ、クビキリ、ハラビロカマキリ、ギンヤンマ、エンマコウロギ、カマドウマ、ツマグロヨコバイといった掲載されている昆虫たちが、昔はまだまだ身近にいたように思い、そうした昆虫に対する親近感も、かつてはわりあい自然に持てたと思います。

 思えば、この事典の編集委員の中に昆虫学の大家・古川晴男博士(1907-1988)がいたわけで(だから昆虫に多くのページを割いている?)、古川博士のポケット版の昆虫図鑑もかつて愛用しました。現在、偕成社版『少年少女ファーブル昆虫記』(全6巻)を持っていますが、これを訳しているのも古川博士。岩波文庫だとびっちり活字が詰まって全10巻なので、こっちの方がとっつき易そうかも...(子ども用に買った本に大人になって懐かしさから再びハマまるパターンだなあ)。

ポケット採集図鑑 「こんちゅう」0.jpgポケット採集図鑑 「こんちゅう」1.jpgポケット採集図鑑 「こんちゅう」2.jpg小学館の原色図鑑②昆虫ポケット版.jpg


 
 
 
 
 
 
 

古川晴男:監修 『原色図鑑ポケット版 ② 昆虫』 [小学館] 

古川晴男:監修 『ポケット採集図鑑 「こんちゅう」』 [学研](1959年初版)

           

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自分が今まさに「海底潜望鏡」を覗いているような"シズル感"。

深海生物の謎2.jpg深海生物の謎 彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか (サイエンス・アイ新書 32) (サイエンス・アイ新書 32).jpg   深海生物ファイル.jpg
深海生物の謎 彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか(サイエンス・アイ新書32)』['07年/サイエンス・アイ新書]『深海生物ファイル―あなたの知らない暗黒世界の住人たち』['05年/ネコ・パブリッシング]

 ソフトバンククリエイティブの"サイエンス・アイ新書"の1冊。著者の『深海生物ファイル』('05年/ネコ・パブリッシング)が好評だったもののやや値が張るため(内容から見れば高くはないのだが)、同じような構成でこれを新書化したのかなと思っていましたが、いい意味でちょっと違っていたかも。

 冒頭、三浦半島で見られる深海生物の痕跡、というやや身近な話に続いて、1993年に海洋研究開発機構が初島沖海底(水深1175m)に設置した観測ステーションのことが紹介されていて、以来14年間、この"初島沖ステーション"は継続的に深海の模様を映像で伝えてきているとのこと(このようなものがあるとは知らなかった。まるで惑星探査みたい)、本書では、このステーションによって観察された深海生物の映像を中心に、「しんかい」などの海底探査船の観測写真なども多く掲載されています。

 写真そのものの多くは、『深海生物ファイル』に掲載されていたものに比べると"派手さ"はないけれども、解説文章と併せて見ていると、深海魚やクラゲが装置に迫って来て(ぶつかってしまうのもいる)自分が今まさに「海底潜望鏡」を覗いているような"シズル感"があります。

 サカナのくせにまともに泳がず、のたうちながら海流に流されていってしまうものや、逆に、飛び立つように、或いは踊るように泳ぐナマコなど、見ていると結構、海の生き物に対する既成概念が変わる―。
 ヒラノマクラなど鯨骨に群がる生物群も興味深く、今まで、クジラの死んだ後の死体のことなんか考えてもみなかったけれど、何年、何十年にも渡って深海生物の栄養資源になっているのだなあと、ちょっと自然の摂理に感心させられました。

 『深海生物ファイル』と違ってイラストのためのページはとっていませんが、写真で深海生物の形態が見にくいものには、同じ場所にイラストが添えてあるのが親切。
 写真が、単なる形態写真ではなく、"生態"写真の観点から撮られている点、解説文が非常にわかり易い点は、『深海生物ファイル』同様、この著者ならではないかと思いました。

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写真が充実。解説・イラストもいい。深海に行けばいくほど、まるで別宇宙の生物のよう。

深海生物ファイル.jpg深海生物ファイル―あなたの知らない暗黒世界の住人たち』['05年/ネコ・パブリッシング]

 前半部が様々な深海生物を脊椎動物(所謂"深海魚")、無脊椎動物(クラゲ・イカ・タコ・ナマコなど)、節足動物(エビなど)などにジャンル分けした写真集で、後半部が、海層の深度別に区分した生物イラスト(モノクロ)と解説、前半部と後半部の相互索引機能が無いのがやや不満ですが、それ以外は満足のいく内容でした(最後に総合索引はある)。

 とりわけ、深海生物の写真が点数も多く、またよく撮れていて、この種の本や図鑑などは殆どがイラスト主体であることを考えれば、この写真の充実ぶりは相当のものだと言えるのでは。
 かなり貴重な写真も含まれているかと思いますが、ただ写真で見せるだけでなく、出来るだけその生き物の生態がわかるような写真を収めるよう配慮して掲載されているように感じました。

深海生物イラスト(イラスト:北村雄一).gif 解説は、最新の観察・研究情報を織り込みながらも、文章の端々にユーモアも感じられて親しみ易いものとなっており、なかなかの迫力であるイラストも、著者自身の描いたものです。

 魚類にしても、我々が通常思い浮かべる"サカナ"のイメージからかけ離れているものが多く、無脊椎動物や節足動物も含めると、その生態は更に不思議さを増し、深海に行けばいくほど、まるでSF世界か別宇宙の生物のようになってきます。

 たまには、こうした「暗黒世界の住人たち」に想いを馳せるのもいいかも。
 一見まったく我々の日常に関係無いように思えるけれども、ハンバーガーのフィレオフィッシュに使われているメルルーサ(アルゼンチンへイク)なども、一応"深海魚"の部類に入るのだなあと。
 
  深海生物イラスト (イラスト:北村雄一) 上から順にリュウグウノツカイ・オニキンメ・コウモリダコ・オオグソクムシ

 

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CGがいいか、筆画がいいか。研究成果とともに変遷する恐竜画(像)。

寺越慶司の恐竜.jpg 『寺越慶司の恐竜』 恐竜.jpg 『恐竜 (小学館の図鑑NEO)
( 25.6 x 24.8 x 2 cm)

小田隆.jpg 「小学館の図鑑NEO」シリ-ズの第1期全16巻が5年がかりで出揃いましたが、その殆どを買い揃え、NEO版『恐竜』('02年)も当然購入済み。この『恐竜』に最も多く「恐竜画」を提供しているのが、市川章三、小田隆の両画家で、背景画も含めた迫力ある恐竜画などは、挿絵と言うより絵画作品に近いものがあります(時々、署名が入っているものがありますが、その気持ちワカル)。
小田 隆 氏 (古生物アーティスト)

寺越慶司.jpg  NEO版『恐竜』の両氏の絵は、筆を用いて描かれてた油彩乃至アクリル画だと思われますが、一方、この寺越慶司氏はCGによる恐竜画の第一人者で、本書『寺越慶司の恐竜』に描かれた恐竜は、目の輝きや皮膚の質感は、CGならではのリアルさです(「図鑑」と言うより「CG画集」の趣き)。
寺越 慶司 氏 (CGアーティスト)

 どちらが良いかはその人の好みの問題だと思いますが、皮膚の彩色では、市川氏や小田氏が筆で描いたものの方が凝った感じで、恐竜の大きさをイメージさせる遠近感も出ているかも(但し、皮膚の色については、皆さん想像で描いているわけですが)。

一般書店向けのチラシ.jpg 一方、皮膚の質感や光沢は、寺越氏のCGの方がより本物に近く見せていて(何となく既視感を感じるのは、これが映画「ジュラシック・パーク」などの恐竜とダブるため?)、本書前半部分では闘う・反撃する・追う・追われる・吠える・育てるといったテーマごとに恐竜たちを描いていますが、精緻さが絵をよりダイナミックなものにしています。

 本書では、図鑑形式をとりながらも、その恐竜画を描いた際の経緯や工夫・研究した点が所々記されていて、著者のそれぞれの恐竜に対する思い入れが感じられます。
 興味深いのは、同種の恐竜が時代とともに描き方が変遷していることを、自らの作品において示していることです。

 市川、小田両氏もそうですが、寺越氏も、最新の古生物学の研究情報を基に描画していて、この世界、どんどん新たな恐竜の化石の発見や、定説を覆すような研究成果の発表があるらしく、そうした動きに対応していこうとするならば、今後は、描き直しが難しい筆画よりもCG画の方がアドバンテージは高いということになるのでしょうか。
 ただし、寺越氏の描画工程が本書に紹介されていますが、これ見ると、CGも決して楽ではないことがよくわかります。

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野生動物写真家・イワゴーのこれまでの活動の集大成であり真骨頂である。

地球動物記.jpg 『地球動物記』 ('07年/福音館書店) iwago.jpg 岩合 光昭 氏 (野生動物写真家)
(30.4 x 23.4 x 3.4 cm)
 
1994年12月 ナショナルジオグラフィック誌.jpg1986年5月 ナショナルジオグラフィック誌.jpg 野生動物写真家は日本にも多くいますが、米国の"ナショナル・ジオグラフィック"誌にその写真が紹介された日本人の野生動物写真家は、これまでに、岩合光昭(1950‐)、星野道夫(1952‐1996)、原田純夫(1960‐)の3氏のみだそうで、カムチャツカ半島でヒグマに襲われて亡くなった星野道夫氏や米国に住みロッキーの自然を撮り続けている原田純夫氏に比べると、パンダや猫のカレンダー写真を多く撮っている岩合光昭氏に対しては、他の2人ほどの「野生動物写真家」というワイルドなイメージを持たない人もいるかも知れません。

 しかし、"ナショジオ"に最初に写真が採用されたのは岩合氏で(しかも表紙を2度飾っている)、北米・アジア・アフリカ・オセアニアなど世界の各地で37年にわたり野生動物の生態を撮り続けてきたベテラン中のベテランです。
book2.jpg 本書は、そうした岩合氏のこれまでの活動の集大成と言えるもので、四季を通しての野生動物の生態を捉えた900枚の写真は、野生動物写真家としての真骨頂が発揮されたものです。

 動物の生き生きとした表情を捉えることで定評のある岩合氏ですが、この写真集では、温かい動物親子の写真ばかりでなく、弱肉強食の掟や厳しい自然環境の中で生き死にする動物たちを"活写"していて、地球で生きているのは我々人間だけではなく、そうでありながら多くの野生動物を絶滅の危機に追いやっている人間とは、地球全体にとってどういう存在なのかということを、一時(いっとき)考えさせられました。

 値段は少し張りますが(本体価格4,700円)、解説文にひらがなが振ってあるので親子で楽しめ、保存版として購入して損はないと思います。

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今どきの図鑑の刊行スタイル。大人をも充分満足させる。

大むかしの生物 小学館の図鑑NEO.jpg大むかしの生物 (小学館の図鑑NEO)』 〔'04年〕 カンブリア紀の怪物たち.jpg サイモン・コンウェイ・モリス 『カンブリア紀の怪物たち―進化はなぜ大爆発したか シリーズ「生命の歴史」〈1〉 (講談社現代新書)』 〔'97年〕

『大むかしの生物 小学館の図鑑NEO』.jpg 「小学館の図鑑NEOシリ-ズ」は、動物、植物、昆虫といったオーソドックスなテーマでの刊行が先ずあって、その後「カブトムシ・クワガタムシ」('06年)といった細かいジャンルでのより詳しい内容のものを刊行していて、この「大むかしの生物」にしても、既にシリーズの中に「恐竜」('02年)というテーマで1冊出ている上での刊行です。

 同様の傾向は、ライバルの「ニューワイド学研の図鑑」にも見られ、新入学シーズンなどには、両社のシリーズ新刊・既刊分が書店に"平積み"されますが、これが今どきの図鑑の刊行形態なのだなあと、改めて思わされます。

 セット刊行・セット販売されたものを丸ごとセット買いするというのが旧いパターンになりつつあるのは、インターネットの普及なども関係しているのかも。

 それにしても先カンブリア時代から古生代、中生代、新生代までの生物の変遷を追った本書の充実ぶりにはちょっと驚かされ、古代生物の多様性というものを痛感します(しかし、よくここまで化石からわかるなあ。色は想像でしょうけれど)。

 『カンブリア紀の怪物たち』('97年/講談社現代新書)という本が出て、NHKスペシャルなどでも一時、先カンブリア時代からカンブリア紀(古生代前期)の生物に注目していましたが(その姿がCGにしやすかった?)、最近では少し後のデボン紀とか石炭紀の、恐竜全盛時代(中生代)に入る前の生物を扱っているように、この"陸(おか)に上がったばっかり"の頃の時代の生き物が結構面白い。

Megalodon.jpg それと、ずっと後の、恐竜時代後の「新生代」の生き物も、現存の動物をサイズだけ大きくしたようなものもあり、メガロドンというのはホオジロザメに似てますが、全長16mで、殆ど"ジョーズ"を超えるような世界、他にも7mのコモドオオトカゲとか8mの海牛(カイギュウ)とか、それらの方が恐竜などよりも何か新鮮なインパクトが感じられたりもします。

Megalodon

 子どもに見せるつもりで買って、つい自分の書棚に置いてしまいそうになる1冊です。

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「●は 長谷川 真理子」の インデックッスへ 「●集英社新書」の インデックッスへ

生き物の謎に対する多面的アプローチをわかりやすく示す良書。

生き物をめぐる4つの「なぜ」.gif生き物をめぐる4つの「なぜ」 (集英社新書)』〔'02年〕hasegawa.jpg 長谷川真理子氏(略歴下記)

 章題に「雄と雌」、「鳥のさえずり」、「鳥の渡り」、「光る動物」、「親による子の世話」などとあり、その謎を解き明かしていくのが本書の目的であるかと思って読み始めましたが、それらの答えが本書で完全に示されているわけではありません。
 「詳細はよくわかっていません」という記述が随所にあります。

 序章にありますが、表題の4つの「なぜ」というのは、ティンバーゲンという動物学者が、『本能の研究』('51年)の序論において,「動物はなぜそのように行動するのか?」という問いに対して、それが、
 1.どのような仕組みであり(至近要因)、
 2.どんな機能をもっていて(究極要因)、
 3.生物の成長に従いどのように獲得され(発達要因)、
 4.どんな進化を経てきたのか(系統進化要因)
 の4つの視点からアプローチすべきであると説いたのを受けています。

 しかし、学校教育における「生物」は、生物の不思議な特徴を、仕組み・目的・発達・進化の4つの要因から読み解くこうした多面的アプローチがなされていない(至近要因=仕組みしか教えていない)ために単なる暗記科目になり、多くの人は高校生の間に「生物」嫌いになってしまうというのが著者の指摘です。

 "多面的アプローチ"というと何か難しそうに聞こえますが、本書では実際にその考察手法により、生き物の様々な面白い面、不思議な面が見えてくることを、事例で示すことで、読者の関心を引きながら実証しています。
 全体を通して一般向けにわかりやすく書かれており、良書だと思います。
_________________________________________________
長谷川 真理子 (早稲田大学政治経済学部 教授)
1976年 東京大学理学部生物学科卒業
1983年 東京大学大学院理学系研究科博士課程単位取得退学、理学博士
東京大学理学部助手、専修大学法学部助教授、教授、イェール大学人類学部客員準教授を経て現在、早稲田大学政治経済学部教授。
専門は行動生態学、進化生物学。日本動物学会会長、日本進化学会評議員。著書に、「科学の目 科学のこころ」(岩波新書)、「進化とはなんだろうか」(岩波ジュニア新書)、「生き物をめぐる4つのなぜ」(集英社新書)、「進化と人間行動」(長谷川寿一と共著、東京大学出版会)など

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大人が読み物として気軽に読める恐竜学の入門書。

恐竜を掘りにいく.jpg 『恐竜を掘りにいく―謎だらけの生態を解き明かす最新恐竜学』 プレイブックス・インテリジェンス 〔'02年〕

大恐竜を掘りにいく.jpg 「恐竜」は子どもだけでなく大人のロマンも誘います。本書は、地球科学、恐竜学研究の第一人者で福井県立恐竜博物館館長でもあり、児童向けの恐竜本などの監修も多く手がけている濱田隆士東大名誉教授の監修によるもので、大人が読み物として気軽に読める恐竜学の入門書になっています。
 地球の歴史は地質年代上、
 ◆「先カンブリア紀」(46〜5.4億年前)、
 ◆「古生代」(5.4〜2.45億年前)、
 ◆「中生代」(2.45億年前〜6500万年前)、
 ◆「新生代」(6500万年前〜現代)
 に分けられ、生物は35億年前、多細胞生物は6億年前に地球に登場しますが、恐竜の時代といわれるのは「中生代」であり、恐竜が地球にいたのは1.5億年の間で、これは〈地球の歴史〉の33分の1に過ぎないけれど、〈人類の歴史〉の80倍にあたるとのこと。

 「中生代」はさらに、
 ◆「三畳紀」(2.45〜2.08億年前)、
 ◆「ジュラ紀」(2.08〜1.45億年前)、
 ◆「白亜紀」(1.45億年前〜6500万年前)
 に分かれます。
 例えばティラノサウルス(Tレックス)が出てくるのは白亜紀後期になります。

ブロントザウルス.jpg こうした基本事項をしっかり押さえた上で、よく挿絵や映画であるような、 ジュラ紀の巨大恐竜が鎌首を白鳥のように持ち上げているのは嘘であるとか、一般の思い込みを覆す指摘も多く、興味深く読めます。

 一般にも関心が高いと思われる「恐竜絶滅」に関しては、有力説から俗説まであげて説明しています。
 やはり、「巨大隕石衝突説」と「大規模火山活動説」が有力みたいです。
 近年の研究では「隕石説」が一歩リードのようですが、最近のNHKスペシャル「地球大進化 46億年・人類への旅」('04年)では「火山活動説」を結構推していたような気がします。
 サイエンス・ファンには目が離せない論点の1つだと思います。

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着眼点そのものはユニークだが、根拠は今ひとつ不明確。

『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学』.jpgゾウの時間 ネズミの時間.jpg  絵ときゾウの時間とネズミの時間.jpg
ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)』 〔'92年〕 『絵ときゾウの時間とネズミの時間 (たくさんのふしぎ傑作集)』 〔'94年〕

第76刷新カバー['17年]

 1993(平成5)年・第9回「講談社出版文化賞」(科学出版賞)受賞作。

ゾウimages.jpg 生き物のサイズと時間について考えたことがある人は案外多いのではないでしょうか。本書によれば、哺乳類はどんな動物でも、一生の間に打つ心臓の鼓動は約20億回、一生の間にする呼吸は約5億回ということだそうです。

 ネズミはゾウよりもずっと短命ですがこういう結果になるのは、拍動や呼吸のピッチが全然違うためだということ。こうした時間を計り、体重との関係を考えてみると、動物は体重が重くなるにつれ、その時間はだいたいその4分の1乗に比例して長くなるとのこと。

 スッキリした「答え」の示し方が、本書がベストセラーになった要因の1つではないでしょうか。科学的好奇心を満たすだけでなく、同じ1秒でもネズミの1秒とゾウの1秒ではその意味が違うのだという感慨のようなものがあります。数式など用いて部分においては専門的なことに触れながらも、全体を通してこなれた文章で読者の関心を掴んで離さず、中高生向けの科学推薦図書として挙げられることが多いばかりでなく、しばしば国語の入試問題などの出典元にもなったようです。

 ただし、その後に繰り広げられる著者の論説は、エネルギー消費量は体重の4分の1乗に反比例するというといった点まではわかるものの、「大きいということは、それだけ環境に左右されにくく、自立性を保っていられるという利点がある。この安定性があだとなり、新しいものを生み出しにくい。ひとたび克服出来ないような大きな環境の変化に出会うと、新しい変異種を生み出すことも出来ずに絶滅してしまう」といった動物進化に対する考え方は、1つの仮説に過ぎないという気もします。いったんそうした目で本書を見ると、本書はすべてが著者の仮説・推論で構成されているような気がしてくるのです。着眼点そのものはユニークなのですが、根拠は今ひとつ明確に示されていないのではないかと...。

 それと少し気になるのは、最近著者は一生の間に打つ心臓の鼓動を「20億回」から「15億回」と修正していることです。そうすると、人間の寿命は長すぎるということに...(計算上は26.3年に)。そこで最近は、「縄文人の寿命は31歳ぐらいだった」とし、「生物学的寿命とは別の"おまけの人生"を我々は送っているのだ」ということを言っているけれども、なんだか人生論みたいになっていきます。

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興味深い話が満載。「子殺し」の話はショックであり謎である。

立花 隆 『サル学の現在』.jpgサル学の現在.jpg サル学の現在 上.jpg サル学の現在下.jpg  立花 隆 2.jpg 立花 隆 氏
サル学の現在』 単行本 〔'91年〕/文春文庫 (上・下)

 ジャーナリストである著者が、内外のサルに関する研究者に対するインタービューをまとめたもの。「サル学」に関心を持っている人がどれだけいるかという気もしましたが、著者のネームバリューもあってか、結構売れたようです。

 現在の日本の「サル学」研究は、世界のトップクラスであるとのこと。「現在」といっても'91年の出版で、内容は多少古くなってるかもしれませんが、扱っているサルの種類が広汎で(チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなど類人猿から、ニホンザル、ヒヒ、ハヌマンラングール、その他)、視点も、社会学的考察から、遺伝子工学による分子生物学的分類まで幅広いものです。

 しかも、ニホンザルにボスザルはいないとか(動物園で見られるサル山は人工的に作られた社会とのこと)、ゴリラには同性愛があるとか、ピグミーチンパンジーは挨拶代わりに性行為をするとか、読者の興味を引く話が満載です。

ハヌマンラングール.jpg 結果として、体系的な知識が得られるという本にはなっていない気もしますが、サル学者になるわけではないから、まあいいか。

 むしろこれだけブ厚い本を楽しく最後まで読ませ、振り返って人間とは何かを否応無く考えさせる力量は、やはり著者ならでのものでしょう。

「子殺し」をするハヌマンラングール

 一番印象に残った話は、やはりサルの「子殺し」でしょうか。

 ハヌマンラングール(南アジア に棲息する中型のオナガザルの1種)の新しく群れのリーダーになったオスが、前のボスの子である生まれたばかりの赤ちゃんザルを殺すということを発見したのは日本人です。

 '62年、京大の大学院生だった杉山幸丸氏(現・京都大名誉教授)が、インド・デカン高原西部のダルワール近郊で、ハヌマンラングールの群れを追っていた際に、ドンタロウと名づけたオスが率いる「ドンカラ群」を7匹のオスグループが襲い、ドンタロウは群れを追われ、襲撃派のなかのエルノスケが群れを乗っ取るという"事件"が起こります。

 しかし、杉山氏にとって本当に衝撃的な"事件"は、その後2ヵ月の間に起こり、それは、エルノスケがその間に、大人のメスが連れていた赤ちゃんザル5匹と1歳の子どものメス1匹を次々に殺しく光景に出くわしたというもので、杉山氏ら京都大の霊長類研究グループは、ニホンザル研究で培った個体識別と長期観察の手法で「子殺し」の詳細を明らかにしていった結果、「群れの中でメスと交尾できるのは大人のオスだけで、外のオスが群れを乗っ取り、交尾を望んでも、子育て中のメスは発情しないため、子どもをいなくして発情させようとした」のだという結論に達します。

 別の群れで大人のオスを除去したら、近くの群れからきたオスが子殺しをしたことが観察され、研究グループは、これは特殊な出来事ではないとの確信を深めますが、国際シンポジウムでこの「子殺し」を発表した際の世界中の学者たちの反応は冷たく、単なる「異常行動」とされて議論にもならなかったそうです。

 しかし、その後、ゴリラやチンパンジーなどの霊長類のほか、ライオンでも子殺しが見つかり、70年代になると、欧米の研究者らもハヌマンラングールの子殺しを相次いで報告し、杉山氏らの研究は追認され、世界に受け入れられていきます(日本はサル学先進国なのだ!)。

 子育て中のメスザルは発情しないが、子が死ねばまた発情する―というのがポイントだと思いますが、こうした子殺しが、チンパンジーやゴリラでも行われていて、しかも彼らは、殺した子ザルの肉を食うというのにはビックリ。

 ゴリラの場合はハーレムを形成するけれど、チンパンジーは乱交なので、自分の子を食べている可能性もあるわけです。しかも生きたままで...。
 何だか、ショックと謎がいっぺんに来たような感じがしました。

 【1996年文庫化[中公文庫(上・下)]】

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