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昆虫たちの驚くべき「戦略」。読み易さの『昆虫はすごい』、写真の『4億年を生き抜いた昆虫』。

昆虫はすごい1.jpg昆虫はすごい2.jpg  4億年を生き抜いた昆虫.jpg 4億年を生き抜いた昆虫_pop01(縮)-300x212.jpg
昆虫はすごい (光文社新書)』『4億年を生き抜いた昆虫 (ベスト新書)

 『昆虫はすごい』('14年/光文社新書)は、人間がやっている行動や、築いてきた社会・文明によって生じた物事 は、狩猟採集、農業、牧畜、建築、そして戦争から奴隷制、共生まで殆ど昆虫が先にやっていることを、不思議な昆虫の生態を紹介することで如実に示したものです。昆虫たちの、その「戦略」と言ってもいいようなやり方の精緻さ、巧みさにはただただ驚かされるばかりです。

 ゴキブリに毒を注入して半死半生のまま巣穴まで誘導し、そのゴキブリに産卵するエメラルドセナガアナバチの"ゾンビ"化戦略とか(p46)、同性に精子を注入して、その雄が雌と交尾を行う際に自らの精子をも託すというハナカメムシ科の一種の"同性愛"戦略とか(p84)、アブラムシに卵を産みつけ、そのアブラムシを狩りしたアリマキバチの巣の中で孵化してアブラムシを横取りして成長するエメラルドセナガアナバチ7.jpgハチの仲間ツヤセイボウの"トロイの木馬"戦略とか(p93)、その戦略はバラエティに富んでいます。カギバラバチに至っては、植物の葉に大量の卵を産み、その葉をイモムシが食べ、そのイモムシをスズメバチが幼虫に与え、そのスズメバチの幼虫に寄生するというから(p94)、あまりに遠回り過ぎる戦略で、人間界の事象に擬えた名付けのしようがない戦略といったところでしょうか。

ゴキブリ(左)にエメラルドセナガアナバチ(右)が針を刺し麻痺させ、半死半生のゾンビ化させ、巣に連れて行き、ゴキブリの体内に産卵する。子が産まれたららそのゴキブリを食べる。

 こうしてみると、ハチの仲間には奇主を媒介として育つものが結構いるのだなあと。それに対し、アリの仲間には、キノコシロアリやハキリアリのようにキノコを"栽培"をするアリや(p144)、アブラムシを"牧畜"するアリなどもいる一方で(p154)、サムライアリを筆頭に、別種のアリを"奴隷"化してしまうものあり(p173)、メストゲアリ7.jpgいわば、平和を好む"農牧派"と戦闘及び侵略を指向する"野戦派"といったところでしょうか。トビイロケアリのように、別種の働きアリを襲ってその匂いを獲得して女王アリに近づき、今度は女王アリを襲ってその匂いを獲得して女王に成り代わってしまう(p178)(トゲアリもクロオオアリに対して同じ習性を持つ)という、社会的寄生を成す種もあり(但し、いつも成功するとは限らない)、アリはハチから進化したと言われていますが、その分、アリの方が複雑なのか?(因みにシロアリは、ゴキブリに近い生き物)。
クロオオアリの女王アリ(左)に挑みかかるトゲアリの雌(右)。クロオオアリの働きアリに噛み付き、匂いを付けて巣に潜入。女王アリを殺し、自分が女王アリに成り代わる。

 著者の専門はアリやシロアリと共生する昆虫の多様性解明で、本書は専門外の分野であるとのことですが、ただ珍しい昆虫の生態を紹介するだけでなく、それらの特徴が体系化されていて、それぞれの生態系におけるその意味合いにまで考察が及んでいるのがいいです。そのことによって、知識がぶつ切りにならずに済んでおり、誰もがセンス・オブ・ワンダーを感じながら楽しく読み進むことができるようになっているように思います。

4億年を生き抜いた昆虫_pop0.jpg 『4億年を生き抜いた昆虫』('15年/ベスト新書)は、カラー写真が豊富なのが魅力。本文見開き2ページとカラー写真見開き2ページが交互にきて、やはり写真の力は大きいと思いました。

 『昆虫はすごい』と同じく、昆虫とは何か(第1章)ということから説き起こし、第2章で昆虫の驚くべき特殊能力を、第3章で昆虫の生態を種類別に解説していますが、第3章が網羅的であるのに対し、第2章が、奇妙な造形の昆虫や、人間顔負けの社会性を持つ昆虫、"一芸に秀でた"昆虫にフォーカスしており、この第2章が『昆虫はすごい』とほぼ同じ趣旨のアプローチであるとも言えます。その中には、「クロヤマアリを奴隷化するサムライアリ」(p69)とか「ゴキブリをゾンビ化するエメラルドセナガアナバチ」(p92)など、『昆虫はすごい』でもフューチャーされていたものもありますが、意外と重複は少なく、この世界の奥の深さを感じさせます。

 著者は昆虫学、生物多様性・分類、形態・構造が専門ということで、『昆虫はすごい』の著者に近い感じでしょうか。『昆虫はすごい』の著者によれば、昆虫に関する研究も最近は細分化していて、「昆虫を研究している」という人でも、現在では昆虫全般に興味の幅を広げている人は少ないとのこと。いても、自分の専門分野に関係するものに対象を絞っている場合が殆どで、中には「事象に興味があっても虫には興味が無い」と浅学を開き直る学者もいるそうな。そうした中、"虫好き"の精神とでも言うか心意気とでも言うか、センス・オブ・ワンダーをたっぷり味あわせてくれる本が世に出るのは喜ばしいことだと思います。

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写真も素晴しいが、体験と専門知識に裏打ちされた文章の内容がまたいい。

海野和男写真展ポスター(2009年1月・銀座Nikom Salon).jpg昆虫の世界へようこそ.jpg 『昆虫の世界へようこそ (ちくま新書)』 ['04年]

 今年('09年)の1月に東京と大阪で写真展が開催された、長野県小諸市にアトリエを構え、自然を記録している昆虫写真の第一人者・海野和男氏による写文集で、小諸近辺の身近な昆虫から熱帯の稀少な昆虫まで、その多彩な、また珍しい生態を写真に収めています。

 まず第一に、どの写真も極めて美しく、昆虫の目線で撮られたものがくっきりとした背景と相俟って、時に神秘的でさえありますが、どうしてこのような写真が撮れるのかと思ったら、著者なりの工夫の跡が記されていて、魚眼レンズを使っており、魚眼レンズは被写界深度が深いため、昆虫に焦点を合わせても、背景がそれほどボヤけないとのこと、より接写レベルが高くなると、今度はデジタルカメラ(またはデジタル一眼レフ)を使い、これも通常の一眼レフカメラなどより被写界深度が深いので昆虫撮影に向いているとのこと。
 まさに、被写界深度ぎりぎりのところでのテクニックが、こうした不思議な作品を生んでいるのだなあと。

 もう1つ、本書の更なる魅力は文章の内容で、昆虫を追って世界中を巡った自らの体験のエッセンスが詰まっていて読む方もわくわくさせられると共に、解説そのものが近年の科学的な研究に裏打ちされたものであること。
 それもそのはず、著者は大学で昆虫行動学を学んだ人で、但し、それらの表現は分かり易いものであり、また、昆虫の大きさや感覚、能力を人間に置き換えた喩え話などは、空想を刺激して楽しいものでもありました。

昆虫 驚異の微小脳.jpg 例えば、本書の2年後に刊行された昆虫学者・水波誠氏の『昆虫―驚異の微小脳』('06年/中公新書)の中に、「複眼の視力はヒトの眼より何十分の1と劣るが、動いているものを捉える時間分解能は数倍も高い。蛍光灯が1秒間に100回点滅するのをヒトは気づかないが、ハエには蛍光灯が点滅して見える。映画のフィルムのつなぎ目にヒトは気づかないが、ハエには1コマ1コマ止まって見えるのだ」とありましたが、本書では、「私たちにはスムーズに見えるテレビも、カマキリに見せたら、こんな性能の悪いテレビをよく平気で見られるなと思うかもしれない」(16p)とあります。

 「1センチメートルほどのこのアリ(グンタイアリ)が人と同じ大きさだとすると、実は時速120キロメートル近い速度で歩き続けていることになる」(27p)、「ハラビロカマキリは交尾中にオスがメスに頭からバリバリと食べられてしまうことが多いらしい。それでもオスはけなげにも交尾を続ける。昆虫の場合脳がなくなっても身体の各部を制御する神経節が生きていれば、このようなことが可能なのだ」(97p)等々、他にも興味深い話が満載。

 昆虫の生態を体験的に知っているだけでなく、その機能等についての知識もきちんと持っていて、それでいて「かもしれない」「らしい」といった控えめな表現が多いのは、謙遜というより、まだまだ未知のことが多い自然界に対する、著者なりの畏敬の念の表れであるとみました。

デジタルカメラで撮る海野和男昆虫写真.jpg もし、著者の撮った昆虫写真をもっと大判で見たい、或いは、どこでどのようにして撮ったのか詳しく知りたいというのであれば、より「写真集」的性格の強い『デジタルカメラで撮る海野和男昆虫写真―WILD INSECTS』('06年/ソフトバンククリエイティブ)などはおススメではないでしょうか。

 新書に比べれば、2,600円と少し値は張りますが、国内外の昆虫写真を収めた著者の作品の厳選集で、親子ででも楽しめるものになっているかと思います。
 表紙のテングビワハゴロモやヒョウモンカマキリなどカラフルな昆虫も多く紹介されていますが、個人的には、15センチメートルにもなるサカダチコノハナナフシの迫力が最も印象に残りました。

デジタルカメラで撮る海野和男昆虫写真 -wild insects』 ['06年]

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行った場所(コスタリカ)が良かった? 写真が美しく、書き下ろしの文章も悪くない。

茂木 健一郎 『熱帯の夢』.jpg 熱帯の夢.jpg 『熱帯の夢 (集英社新書ヴィジュアル版)』 ['09年] 

コスタリカ共和国.bmp 脳科学者である著者が、'08年夏、著者自身が碩学と尊敬する動物行動学者の日高敏隆氏らと共に、中米・コスタリカを11日間にわたって巡った旅の記録。

 著者は子供の頃に昆虫採集に没頭し、熱帯への憧憬を抱いていたとのことですが、コスタリカには蝶だけでも1千種を超える種類が棲息していて、その他にも様々生物の多様性が見られるとのことで、本書の旅も、熱帯の昆虫などを著者自身の目で見ることが主目的の旅と言えるかと思います。

 中野義樹氏の写真が素晴しく、珍しい生態で知られるハキリアリや、羽の美しいことで知られるモルフォチョウといった昆虫だけでなく、ハチドリやオオハシ、世界一美しいと言われるケツァールなどの鳥類も豊富に棲息し、何だか宝石箱をひっくり返したような国だなあ、コスタリカというのは。イグアナとかメガネカイマン(ワニ)、ナマケモノまでいる。

 中米諸国の中においては、例外的に治安がいいというのがこの国の良い点で(1948年に世界で初めて憲法で軍隊を廃止した)、その分、野生生物の保護に国の施策が回るのだろうなあ。勿論、観光が国の重要な産業となっているということもあるでしょうが。

茂木健一郎/日高敏隆.jpg そうした土地を、コスタリカ政府から自然調査の許可を名目上は取り付けた動物学者らと10人前後で巡っているわけで、"探検"と言うより"自然観察ツアー"に近い趣きではありますが、部外者がこういう所へいきなり行くとすれば、こうしたグループに帯同するしかないのかも。

 著者にしても、この本を書くこととのバーターの"お抱え旅行"とも取れなくもないですが、最近の著者の新書に見られる語り下ろしの「やっつけ仕事」ではなく、本書は書き下ろし(一部は集英社の文芸誌「すばる」に掲載)。

 この人、ちゃんと"書き下ろし"たものは、"語り下ろし"の本とは随分トーンが異なるような(いい意味で)感じで、"語り下ろし"はテレビで喋っているまんま、という感じですが、本書を読むと、エッセイストとして一定の力量はあるのではないかと(コスタリカという"素材"や美しい写真の助けも大きいが)。

 クオリア論はイマイチだけど(これも日高氏と同様に著者が尊敬する人であり、また、同じく昆虫好きの養老孟司氏から、クオリア論は「宗教の一種」って言われていた)、多才な人であることには違いないと思います。
 もじゃもじゃ頭で捕虫網を持って熱帯に佇む様は、「ロココの天使」(と体型のことを指して友人に言われたらしい)みたいでもありますが。
 
 

著者と日高敏隆 氏 (撮影:中野義樹/本書より)  
  
                                

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昆虫の「微小脳」の世界の奥の深さに、ただただ驚くばかり。

昆虫 驚異の微小脳.jpg 『昆虫―驚異の微小脳 (中公新書)』 ['06年]

 ヒトなどの哺乳類とは全く違う方向に進化し、「陸の王者」として人類と共に進化の双璧を成す昆虫―本書では、昆虫の小さな脳を「微小脳」と呼び、哺乳類の大きな脳「巨大脳」と対比させつつ、その1立方ミリメートルに満たない昆虫の脳の特徴や行動の秘密を解き明かそうとしていますが、着想から5年、執筆を始めてからでも3年をかけての上梓とのことで、並みの新書のレベルを超える充実した内容となっています。

 視覚(複眼・単眼)の仕組みから始まって、飛翔、嗅覚、記憶と学習、情報伝達、方向感覚などのメカニズムを、現代生物学の最先端の研究成果をもとに解説しており、著者の最初の研究テーマは昆虫の「視覚」であり、そこから「嗅覚」にいき、更に「記憶と学習」へと向かっていったようで、とりわけそれらについて詳しく解されていて、内容の専門性も高いように思われました。

 特にニューロンなど伝達系統の話には難解な箇所も少なくありませんでしたが、全体を通して書かれている内容がまさに「驚異」の連続であり、また、文章自体も一般向けに平易な表現を用い、更に重要なポイントは太字で示すなどの配慮もされているため、興味を途切れさせずに最後まで読めます。

 例えば、教科書によく出ていた(国語の教科書だったが)「ミツバチの8の字ダンス」の話なども詳しく解説されていて、餌場の在り処を仲間に伝えるメカニズムだけでなく、それでは方向や距離はどうやって記憶したのかといったことまで書かれていて、そうだよなあ、覚えていなければ伝えられないし、その覚えるということ自体が、「微小脳」のもと、どういうメカニズムが働いているのか不思議と言えば不思議。
 本書はそうした謎も解き明かしてくれ、ミツバチが「方向」を太陽の位置で見定めているのは知っていましたが、「距離」についてはビックリ(実験による検証方法も興味深い)、更に、太陽の位置だって時間と共に変わるだろうと疑問に思っていましたが、これに対する答えもビックリと、まさに"ビックリ"の連続でした。

 ヒトの脳をスーパーコンピュータに喩えれば、昆虫の脳はまさに超高機能の集積回路、どちらが優れているとは必ずしも言い切れないのだなあと。
 しかし、ゴキブリの脳手術をして、記憶をつかさどる部分がどこにあるのかテストするとか、何だか気の遠くなるような実験を繰り返してここまでいろいろなことが解り、それでもまだ解らないことが多くあるということで、昆虫の「微小脳」の世界の奥の深さには、ただただ驚くばかりでした。

《読書MEMO》
●複眼の視力はヒトの眼より何十分の1と劣るが、動いているものを捉える時間分解能は数倍も高い。蛍光灯が1秒間に100回点滅するのをヒトは気づかないが、ハエには蛍光灯が点滅して見える。映画のフィルムのつなぎ目にヒトは気づかないが、ハエには1コマ1コマ止まって見える(8p)
●解像力でみれば複眼は進化の失敗作(45p)
(但し)時間的解像度が高い(48p)
オプティカルフロー(画像の流れ)のパターンを捉えることで、高速アクロバット飛行の制御を実現している(66p)
ミツバチもヒトと同じ錯視を示す(69p)
単眼は空と大地の(明暗の)コントラストを検知している(76p)
●雄の蚕蛾は、嗅覚器官である触覚にわずか数分子が当たっただけで性フェロモンを検知できる(125p)
ゴキブリはヒトに匹敵するほどの優れた匂い識別能力をもつ(130p)
●ゴキブリにはゴールの周囲の景色を記憶する能力がある(163p)
●コオロギの匂い学習能力は、ラットやマウスなどの哺乳類の学習能力にひけを取らない(193p)
●(ミツバチの距離の把握は)オプティカルフロー(働きバチが経験した像の流れ)の量が距離の見積りに使われている(235p)、ミツバチは陳述記憶をもつ(239-241p)
●ハチやアリは、1日の時間を知り、その時刻の太陽の位置を覚えている(245p)

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稀有な生き方をした昆虫画家・熊田千佳慕のライフワークであり、遺作となった作品。

ファーブル昆虫記の虫たち5.jpg     熊田 千佳慕.jpg 熊田千佳慕(1911‐2009/享年98)
(28.6 x 27.8 x 1.5 cm)『ファーブル昆虫記の虫たち〈5〉 (Kumada Chikabo's World)』 ['08年]

 2008年9月刊行の本書は、今年('09年)8月に98歳で亡くなった熊田千佳慕(1911‐2009)の『ファーブル昆虫記の虫たち』の「シリーズ5」で、「シリーズ1」から「シリーズ4」までが約10年前('98年)の1年間の間に刊行されたことを思うと、待望の1冊でした(体裁としては、著者自身の文が添えられた「科学絵本」になっている)。

 個人的には、'01年にNHKの「プライム10」で放映された「私は虫である〜昆虫画家・熊田千佳慕の世界」で初めてこの人のことを知り、空襲の跡に引っ越した横浜・三ツ沢の農家の蔵に妻と草花を育てて暮らし、地面に腹ばいになって"虫の目線"で描く独特の画風に興味を覚えました(NHKは、その前年に、BSハイビジョンの「土曜美の朝」で、山根基世アナウンサーによる三ツ沢の熊田宅を訪ねてのインタビューを特集している)。

 番組によると、この三ツ沢の地に居ついてから一度もその外に出たことが無いそうで、絵の「素材」は全て、自宅の庭やその周辺の道端から拾ってきているとのこと、ただ描き写すだけでなく、庭での蝉の脱皮をはらはらしなががら見守る様に、生き物への優しい視線を感じました。
 
 この人、興味ある虫とかを見つけると、何処ででも這いつくばって一日中ずっとそれを眺めているので、自宅の庭でならともかく、近所でそれをやられると奥さんが困ったらしい。

熊田千佳慕展.jpg 本書の「おわびのメッセージ〜あとがきにかえて」によると、奥さんの病気のため、60年住み慣れた"埴生の宿""おんぼろアトリエ"での仕事が出来なくなり、このシリーズの仕事も中断していたとのこと、番組の中で紹介されていたあの描きかけのコオロギの絵はどうなったのかなあと思っていたら、本書の表紙にきていました。

 ブラシなどを一切用いず、筆の毛先だけでの点描法であるため、1枚の絵を仕上げるのに何ヶ月もかかるそうで、しかも、心身充実していなければ、こうした緻密な作品を仕上げることはできない、そうした意味でも、このシリーズは作者自身も天職(ライフワーク)と位置づけている作品です。

 ようやっと一段落したのを機に、'09年には朝日新聞主催で、東京の銀座松屋をスタートして、『ファーブル昆虫記の虫たち』を含む作品の全国巡回展が始まることがあとがきでも告知されていますが、まさに銀座松屋での展覧会の初日(8月12日)が無事に終了した翌日未明に、この"白寿"の昆虫画家は、90年以上描き続けたその生涯の幕を閉じました。
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熊田 千佳慕 (くまだ・ちかぼ)
1911年、横浜市中区生まれ。東京美術学校(現・東京藝術大学)卒業後、デザイナーの山名文夫氏に師事。デザイナー・写真家集団「日本工房」に入社。土門挙らと公私共に親交を深める。戦後、出版美術の分野で活躍するようになり、「ふしぎの国のアリス」「みつばちマーヤ」「ファーブル昆虫記」などの作品を発表。イタリア・ボローニャ国際絵本原画展で入選し、フランスでは「プチファーブル」と賞賛されるなど、国内外から高い評価を得る。2009年8月13日未明、誤嚥(ごえん)性肺炎のため横浜市の自宅で死去、98歳。

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個人的に懐かしい本。「事典」というより「図鑑」に近い。

少年少女学習百科大事典 11 動物.jpg 『少年少女学習百科大事典 11 動物』 (1961年/学習研究社)

 学研が'56年に会社として初めて刊行した百科事典(同タイトル全13巻)を前身とする『少年少女学習百科大事典』(全21巻)は、'61年から'62年にかけて刊行されたもので、ちょうどこの頃、百科事典ブームというのがあったようです。箱入りでクロス地のビニールカバーがついていて高級感があり、社会科編と理科編にわかれていますが、子どもの頃は理科編が特に面白く感じました。

 その中でも「11 動物」は、カラーイラストが豊富で大いに引き込まれ、「事典」ではあるが「図鑑」的であるように思え、その他には「12 植物」「14 天文・気象」「15地球のすがた」などにハマった覚えがあり(太陽系の起源を解説した「潮汐説」「隕石説」のイラストなどスゴイ迫力を感じた)、要するにこれ、カラーイラストの多い順に関心を持って読んだということになるのかも知れません。

少年少女学習百科大事典11.jpg この「11 動物」はかなり読み込み(眺め尽くし)、他の動物図鑑などを読む契機にもなりましたが、今時の"図鑑"だったら多分、単独で1巻となるであろう「昆虫」も、この百科事典では「動物」の中に組み込まれていて、但し、これがなかなか詳しいです。
 ショウリョウバッタ、クビキリ、ハラビロカマキリ、ギンヤンマ、エンマコウロギ、カマドウマ、ツマグロヨコバイといった掲載されている昆虫たちが、昔はまだまだ身近にいたように思い、そうした昆虫に対する親近感も、かつてはわりあい自然に持てたと思います。

 思えば、この事典の編集委員の中に昆虫学の大家・故古川晴男博士(1907-1988)がいたわけで(だから昆虫に多くのページを割いている?)、古川博士のポケット版の昆虫図鑑もかつて愛用しました。
 現在、偕成社版『少年少女ファーブル昆虫記』(全6巻)を持っていますが、これを訳しているのも古川博士。
 岩波文庫だとびっちり活字が詰まって全10巻なので、こっちの方がとっつき易そうかも...(子ども用に買った本に大人がハマまるパターンだなあ)。

ポケット採集図鑑 「こんちゅう」0.jpgポケット採集図鑑 「こんちゅう」1.jpgポケット採集図鑑 「こんちゅう」2.jpg小学館の原色図鑑②昆虫ポケット版.jpg


 
 
 
 
 
 
 

古川晴男:監修 『原色図鑑ポケット版 ② 昆虫』 [小学館] 

古川晴男:監修 『ポケット採集図鑑 「こんちゅう」』 [学研](1959年初版)

           

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