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たいへん分かり易い入門書。興味を惹く図説や記述が多かった。

人類進化の700万年.jpg ['05年] 人類の進化史 埴原和郎.jpg ['04年]
人類進化の700万年―書き換えられる「ヒトの起源」 (講談社現代新書)』 『人類の進化史―20世紀の総括 (講談社学術文庫)』 

人類進化の系統樹.gif 埴原和郎著『人類の進化史-20世紀の総括 』('04年/講談社学術文庫)のすぐ次に読んだということもありますが、たいへん分かり易い入門書でした。
 個人的には、学術文庫の復習を本書でするような形になりましたが、こちらを先に読んで、それから学術文庫の方を読むという読み方でもいいかも。

 '05年の刊行であるるため、タイトルからみてとれるように、'02年に発見された700〜600万年前の人類化石"サヘラントロプス・チャデンシス"の発見は織り込み済みで、それを起点に、「猿人→原人→旧人→新人」という進化の過程に沿って解説しています。

 この「猿人・原人・旧人・新人」という区分は必ずしも絶対的な時系列にはなっておらず(同じ時代に複数の"人類"がいた)、また、ホモ・ハビリスのように「猿人」と「原人」の中間に位置する人類もいたりするため、欧米では現在はあまり使われなくなっているようですが、「猿人・原人・旧人・新人」といった枠を外して個々の"人類"名を全てカタカナで表記するだけだと分かりづらいため、敢えて、旧来の「猿人・原人・旧人・新人」という言葉を用い、例えばホモ・ハビリスはホモ・エレクトスと同じく「原人」としてグループ化するなどして、読者が概念把握し易いように配慮しています。

 「直立二足歩行」は「犬歯の縮小」とともに、人類誕生初期からの特徴であるとのことですが(脳の大型化や言語の使用などはずっと後のこと)、なぜ人類が直立二足歩行を始めたのかは大きな謎であるとのこと。
 この問題についての諸説が紹介されていますが、オスがメスに対し、より多くの食糧を運び易いようにするためそうなったという説が有力であるというのが興味深いです。
 但し、進化には目的があるのではなく突然変異から起きる、という法則に沿ってこれを正確に言うならば、「オスは、メスに食糧を運ぶために二足歩行に適した体に進化し、繁殖機会を増やした」のではなく、「二足歩行が出来るように進化した人類のオスは、メスに食糧を運ぶことで繁殖機会を増やした」となると。

アフリカ単一起源説による人類進化.jpg 「新人」に関しては、ネアンデアルタール人(ホモ・ネアンデアルターレンシス)とクロマニヨン人(ホモ・サピエンス)の関係などを図説でもって分かり易く解説していますが、形態的な進化の過程を探るだけでなく、"おしゃれ"の始まりなどの「心の進化」の過程や、農耕、家畜の飼育、飲酒などの習慣がいつ頃から始まったのかを解説し、また我々にとって興味深い「日本人の起源」についても考察していますが、こと後者については、遺伝子情報から解析すると相当複雑で、単に「南から来た」とか「北から来た」といった二者択一的な解答を出すのは難しいようです(このテーマについては、篠田謙一『日本人になった祖先たち-DNAから解明するその多元的構造』('07年/NHKブックス)により詳しく解説されている)。

 化石の年代測定法(放射性同位元素による方法など)や、遺伝子情報学についても、概説とは言え、相当のページを割いているのも本書の特徴であり、また、魚類から両生類や爬虫類、鳥類にかけての進化の過程では色覚を持っていたのに、哺乳類はなぜ色盲になってしまい、またそれが人類になって復活したのはなぜかといった考察も興味深いものでした。

《読書MEMO》
●なぜアフリカだったのか(アフリカの類人猿(チンパンジー等)は人類に進化したのに、アジアの類人猿(オランウータン等)はなぜ進化しなかったのか)
⇒アフリカでは急激な乾燥化が起こり、木から下りる必要が生じたが、アジアの熱帯林は豊かで樹上生活を続けることができたため(60‐61p)
●人類がアフリカを出たのは180万年前(2002年にグルジアで化石が発見された。脳の大きさは600ccで初期原人に及ばない)(92‐94p)
●東アジア(北京周辺)到達は166万年前(97‐98p)
●4万〜3万年前のヨーロッパには、ネアンデルタール人と現生人類(クロマニョン人)が共存していたらしい。但し、混血は無かった(126‐128p)
●恐竜全盛時代、多くの哺乳類は夜行性 ⇒ 色覚が退化(221‐222p)
●ミルクを飲むのは哺乳類の子どもだけ ⇒ 人類は遺伝子の突然変異で大人でもラクトース(乳糖)が分解できるようになった(今でもミルクが苦手な人がいる)(230p)

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詳しく書かれていて、且つ分かり易い。解説書でありながら、ロマンを掻き立てられる。

人類の進化史 埴原和郎.jpg 『人類の進化史―20世紀の総括 (講談社学術文庫)』 ['04年] 人類の進化.jpg 『人類と進化 試練と淘汰の道のり―未来へつなぐ500万年の歴史』 ['00年]

東京大学名誉教授 埴原 和郎(はにはら かずろう).jpg 本書の著者である人類学者の埴原和郎(はにはら かずろう、1927.8.17〜2004.10.10/享年77)東大名誉教授が1991年に提唱した日本人の起源についての「二重構造論」(東南アジア系の縄文人が居住していた日本列島に、東北アジア系の弥生人が流入して混血して現在に至っているという説)は、発表当初は多くの批判を浴びましたが、「日本人の重層性」という考えは、今は主流の学説になっています。

 本書は、その埴原博士が人類の進化史全般について解説したもので、『人類と進化 試練と淘汰の道のり―未来へつなぐ500万年の歴史』('00年/講談社)を底本とし、学術文庫に収めるにあたって、'00年以降'04年までの人類学の新たな成果が書き加えられています(結果的に学術文庫の方が単行本よりややページ数が多くなっている(321p→334p))。

 「章立て」を見てもわかりますが、テーマごとに年代を区切り、500万年前に二本足で直立歩行する猿人が出現し、それが現代型ヒト(サピエンス)に進化していくまでが丹念に解説されていて、詳しく書かれているだけでなく、文章もたいへん読み易いものであり、もともと形質人類学者なので、形質(骨)に関する記述は特に丁寧ですが、それだけでなく、遺伝(分子生物)学・地球環境学など広範な学問領域の研究成果が織り込まれています。

 個人的には、やはり、人類の「出アフリカ」の解説部分が特にロマンを掻き立てられましたが、猿人から原人にかけての進化がアフリカで起こり、エレクトス原人のグループが初めてアフリカを出たのが100万年以上前だったと考えられるとのことで、現代人はアフリカからヨーロッパ、アジアに渡った原人の子孫であるという「多地域進化説」が当初は優勢だった―ところが、そこへ、「イブ説」という「全ての現代人(サピエンス)は、およそ20万年前にアフリカで生きていたあるグループの女性の子孫だ」という遺伝子学からの学説が出てきて、様々な修正を加えられながらも現在では「単系統進化説」が優位学説であるとのこと。

 また、本書では、ネアンデルタール人についての記述が特に詳しく、ネアンデルタール人は、30万年前に原ネアンデルタール人が出現し(祖先はハイデルベルゲンシス原人ではないかと考えられているが、この原人の"故郷"がどこかについてはアフリカ説、ヨーロッパ説など諸説ある)、寒冷気候に適応しながらヨーロッパと西アジアの全域に分布していったにも関わらず3万年前までには全て絶滅してしまったとのことですが、その間に、後に「出アフリカ」を果たしたホモ・サピエンスとの間に、"交流"はあったが"混血"は無かったとのことです。

 文庫化にあたって書き加えられた4年間の人類学の研究・発見成果だけでも様々なものがありますが、とりわけ、最古の人類化石サヘラントロプス・チャデンシスの発見により人類の起源が一気に200万年も以前に遡ったことは画期的であり、他書なども併せ読むとよりよく分かりますが、猿人・原人の細分化が近年特に進んでいるように思えます。

 また、底本の段階で既に触れられてますが、「多地域進化説」が必ずしも全否定できないものとなってきていることが窺えるのが興味深く、一方で、アフリカで起きたサピエンスが、コイサンとニグロイドといった分化だけでなく、アフリカ内部においてもかなりの多様性を持ったものであったと推察されること(黒人しかいなかったわけではない)も、近年の研究成果として注目していいのではないかと思います。
 日本人の起源についての著者の「二重構造論」についても、それまで述べてきた人類全体の進化史の流れの中で分かり易く解説されていて、解説書でありながらも読みどころ満載という感じです。

 学術文庫刊行と時同じくして著者は肺がんで亡くなっていますが、生前からダンディな合理主義者で知られ、遺言により供花・香典を固辞し会葬を執り行わなかったこと、その死がマスコミにより報じられたのは、近親者による密葬が終わった後でした。

《読書MEMO》
●章立て
第1章 サルからヒトへの関門(‐500万年前ごろ)
第2章 生き残りをかけた猿人たちの選択(500万‐100万年前ごろ)
第3章 文化に目覚めたヒトの予備軍(250万‐23万年前ごろ)
第4章 直立したヒト、アフリカを出る(170万‐20万年前ごろ)
第5章 少しずつ見えてきた現代人への道すじ(60万‐23万年前ごろ)
第6章 氷期に適応したネアンデルタール人(20万‐3万年前ごろ)
第7章 多様化していく現代型のヒト(20万‐2万年前ごろ)
第8章 集団移動と混血をくり返しながら(3万‐1万年前ごろ)
第9章 ついに太平洋を越えて(4万年前ごろ‐)
第10章 進化に学ぶヒトの未来

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自分が今、この時空に生きていることの不思議さ、有難さに思いを馳せることが出来る本。

人類が生まれるための12の偶然.jpg  『人類が生まれるための12の偶然 (岩波ジュニア新書 626)』 ['09年]

 「人類が生まれるためにはどのぐらいの偶然の要素が重なったのか」というテーマは自分としても関心事でしたが、宇宙誌、生物誌(生命誌・進化誌)に関する本の中で個々にそうしたことは触れられていることは多いものの、それらを通して考察した本はあまり無く、そうした意味では待望の本でした。

 宇宙の誕生から始まり、量子物理学的な話が冒頭に来ますが、「ジュニア新書」ということで、大変解り易く書かれていて、しかも、宇宙誌と生物誌の間に地球誌があり、更に、生命の誕生・進化にとりわけ大きな役割を果たした「水」についても解説されています(水の比熱が小さいこと、固体状態(氷)の方が液体状態(水)より軽いということ、等々が生命の誕生・進化に影響している)。

 本書で抽出されている「12の偶然」の中には、「太陽から地球までの距離が適切なものだったこと」など、今まで聞いたことのある話もありましたが、「木星、土星という2つの巨大惑星があったこと」など、知らなかったことの方が多かったです(巨大惑星が1つでも3つでもダメだったとのこと)。

 その他にも、太陽の寿命は90億年で現在46億歳、終末は膨張して地球を呑みこむ(蒸発させる)とうことはよく知られていますが、太陽が外に放出する光度のエネルギーが増え続けるため、あと10億年後には地球は灼熱地獄になり、すべての生物は生きられなくなるというのは、初めて知りました。

 最後に、気候変動の危機を説いていますが、環境問題を考える際によく言われる「地球に優しく」などいう表現に対して、人類が仮に核戦争などで死に絶えたとしても、生き残った生物が進化して新たな生態系が生まれることは、過去の恐竜が隕石衝突により(その可能性が高いとされている)絶滅したお陰で哺乳類が進化発展を遂げた経緯を見てもわかることであり、「私たちや今の生態系が滅びないために」と言うべきであると。

 ナルホド、「宇宙は偶然こうなった」のか、「神が今のような姿にすべて決めた」のか「何らかのメカニズムによって必然的にこうなった」のかは永遠の謎ではあるかも知れませんが、仮に地球が生命を求めているとしても、地球にとって人類の替わりはいくらでもいるわけだなあ。

 監修の松井孝典博士は、日本における惑星科学の先駆者で、幅広い視野と斬新な発想を兼ね備えた、日本では珍しいタイプの研究者であるとのこと(田近英一著(『凍った地球』('09年/新潮選書)によると)。
 最新の研究成果までも織り込まれた本であると同時に(しかし、まだ解っていないことも多い)、自分が今、この時空に生きていることの不思議さ、有難さに思いを馳せることが出来る本です。

《読書MEMO》
偶然1 宇宙を決定する「自然定数」が、現在の値になったこと(自然定数=重力、電磁気力、中性子や陽子の質量)
偶然2 太陽の大きさが大きすぎなかったこと (太陽がもし今の2倍に質量だと寿命は約15億年しかない)
偶然3 太陽から地球までの距離が適切なものだったこと (現在の85%だと海は蒸発、120%だと凍結)
偶然4 木星、土星という2つの巨大惑星があったこと (1つだと地球に落下する隕石は1000倍、3つだと地球は太陽に落下するか太陽系の圏外に放り出される)
偶然5 月という衛星が地球のそばを回っていたこと (月が無ければ地球の自転は早まり、1日は8時間、1年中強風が吹き荒れる)
偶然6 地球が適度な大きさであったこと (火星ほどの大きさだと大気は逃げていた)
偶然7 二酸化炭素を必要に応じて減らす仕組みがあったこと (プレート移動や大陸の誕生、海などがCO2を削減)
偶然8 地磁気が存在したこと (磁場が宇宙線や太陽風などの放射線を防ぐ働きをしている)
偶然9 オゾン層が存在していたこと (紫外線から生物を守っている)
偶然10 地球に豊富な液体の水が存在したこと (水が液体でいられる0〜100℃という狭い温度範囲に地球環境があったこと)
偶然11 生物の大絶滅が起きたこと (恐竜の繁栄もその後の哺乳類の繁栄も、その前にいた生物の大絶滅のお陰)
偶然12 定住と農業を始める時期に、温暖で安定した気候となったこと (65万年前から寒冷期が続いたのは、約1万年前に突然、今のように温暖安定化)

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人類進化に関する知識をリフレッシュするのに手頃。諸説をバランスよく纏めた本。

人類進化99の謎.jpg 『人類進化99の謎 (文春新書)』 ['09年]

Sahelanthropus tchadensis.gif 本書によれば、人類進化学というのは、大体10年ごとに人類化石の大きな発見があり、その度に進化図ががらりと書き換えられているそうですが、21世紀に入って起源的人類の発見が相次ぎ、2001年にアフリカ中部のチャド共和国で見つかった化石(サヘラントロプス・チャデンシス (Sahelanthropus tchadensis))により、人類のルーツは700万年前に遡ったそうで、もっと古い人類種が未発見で眠っているとも推定されるとのことです。

The red dot marks the site at which a skull of Sahelanthropus tchadensis was found.

 以前に、ネアンデルタール人の研究をしている奈良貴史氏が養老孟司氏との対談『養老孟司 ガクモンの壁』('03年/日経ビジネス人文庫)(『養老孟司・学問の挌闘―「人間」をめぐる14人の俊英との論戦』('99年/日本経済新聞社)改題 )で、ネアンデルタール人がホモ・サピエンス(現生人類)とある期間共存していたと言っていたのが興味深かったですが、ネアンデルタール人というのはホモ・サピエンスの"先祖"ではなく、学術名がそれぞれ Homo neanderthalensis、Homo sapiens sapiens となっているように、両者はホモ属の中で"従兄弟"関係にあることを本書で再認識(ホモ属全体で見ると200数十年前からいて、ネアンデルタール人が滅んだのは2万数千年前とのこと)。

Sahelanthropus tchadensis.bmp 今までアウストラロピテクス((Australopithecus)が一番古い猿人だと思っていましたが、アウストラロピテクスというのは属名で、その中にもいろいろあり、それでも一番古いもので400数十年前だったように思いますが(このあたりまでは習ったような記憶がある)、サヘラントロプス・チャデンシスの「700万年前」というと、それより200数十年も古いことになります。

 Sahelanthropus tchadensis

 1テーマ見開き2ページですが、ある程度テーマが繋がっていて、あまりぶつ切り感がなく読めるのが本書の特長かと思います。
 それでも巻末の「人類進化の系統図」を参照しながらでないと、ホモ属にしろアウストラロピテクスにしろ、それより古い猿人にしろ、今どの年代の辺りにいた人類の話をしているかわからなくなる―それはとりもなおさず、本書が新書でありながら、細分化された各種の最新の情報を丁寧に読者に提供しようとしていることの証なのかも知れません。

 著者は学者ではなく科学ジャーナリスト(但し、この分野を深耕している)で、「ヒトはいつ、どこで誕生したのか」「ヒトははたして強い狩猟者だったのか」「いつから火を使い出したのか」「ヒトはなぜ、いつ、アフリカを出たのか(ヒトは永らくアフリカにいた)」「ヒトはいつから言葉をしゃべれるようになったのか」「ヒトの暴力性は古くからあったのか」「ヒトの性による役割の違いは、いつからは始まったのか」といった素朴な問いの設定からもそのことが窺え、多くは推論でしかないと言えばそうなるのかも知れませんが、諸説をバランス感覚を以って取り纏めているような印象を受けました。

 どの年代においても複数種の人類がいたのに、今はホモ・サピエンスしかいないというのは確かに不思議で(著者はこのことについても一応の推論をしているが)、この先、人類は更に進化するのかなあ。
 人口は増えているけれど、ホモ属としては先細りしているような気もしないでもないです。

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