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「地球上の珍奇な場所や驚くべき出来事について、科学の視点を交えながら紹介する8つのストーリー」

地球の履歴書.jpg 大河内直彦 .jpg 大河内 直彦 氏(海洋研究開発機構) チェンジング・ブルー.jpg 『チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る
地球の履歴書 (新潮選書)

 著者は海洋研究開発機構・生物地球化学部門のリーダーであり、この分野では日本を代表する科学者の一人です。気候変動の謎に迫った『チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る』('08年/岩波書店、'15年/岩波現代文庫)で2009年・第25回「講談社科学出版賞」を受賞しています。

 本書『地球の履歴書は、雑誌「考える人」の季刊誌の方に2013年から2015年にかけて連載したものがベースになっており、裏表紙には、「熱球から始まったこの星はどうやって冷え、いかにして生物が生まれたのか?」とあって、続いて「科学の発達とともに、私たちは少しずつ地球の生い立ちを解明してきた。戦争や探検、数学の進歩や技術革新などのおかげで、未知の自然現象の謎は氷解してきたのだ。海面や海底、地層、地下、南極、塩などを通して、地球46億年の歴史を8つのストーリーで描く」とあります。

 まず、第1章で、地球創世の歴史を説き起こし、更にエラトステネスの地球の大きさの計測の仕方を紹介、その話が、第2章から第4章にかけての、海底深度の測定や海底火山や海嶺に関する話、或いは、プレート移動と海底堆積物の分析、更には火山活動との関係の話に繋がっていくといった具合に、各章のストーリーが緩やかに繋がっているのが読み易くていいです。

 そうした中に科学史の話や、南極点到達の歴史(ノルウェーのアムンゼンとイギリスのスコットの話)など科学史以外の歴史的なエピソードも織り込み(アムンゼンとスコットの話は、ビジネス書であるジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー4』('12年/日経BP社)にも出てくるので、読み比べてみると面白い)、その上で、南極大陸の氷床について解説するなど、密度の濃い科学的解説が織り込まれているにも関わらず、繋がりが自然で、エッセイとして楽しみながら読み進むことができました。

ニオス湖.jpg まさに、著者がまえがきで述べているように、「地球上の珍奇な場所や驚くべき出来事について、科学の視点を交えながら紹介する8つのストーリー」であり、興味深い話が盛り沢山でした。話のスケールが大き過ぎたり不思議すぎたりして、ついつい現実感が無くなりそうにもなりますが(1986年、カメルーン・ニオス湖で「湖水爆発」により1700人余りが二酸化炭素中毒または酸欠で死亡したという話は知らなかった。悲劇が再発しないよう、日本の政府開発援助で二酸化炭素を強制排出するポンプが設置され、ガス抜きをしているとのこと)、一方で、随所でより身近な話を旨く織り込んで、現実に引き寄せているといった印象です。
カメルーン・ニオス湖

有馬温泉.jpg 例えば、東京の下町と山の手は地質学上どうやって出来たかとか、有馬温泉は泉温が90度を超える非常に高温な温泉で、しかも周囲には火山がないのは希有なことであるとかいった話は、東京のその地質学上の山の手の下町の境界近くに住み、実家がその有馬温泉に近い神戸である自分にとっては、とりわけ興味深く読めました。
有馬温泉

 著者はまえがきで、一般書や科学セッセイを書いても、科学者の業績査定には一向にプラスにはならないとし(ボヤキ?)、限られた時間の中でこうしたエッセイを書くことを気が引けるとしながらも、一方で、現代社会を形作ってきた原動力を浮かび上がらせることを気に入っているとし、更に、寺田寅彦の「科学は科学者だけのものではない」との考えに後押しされて、こうしたエッセイを書いたとのことです。

 先にも述べた通り、エッセイと言えども、書かれている内容の知識密度は濃かったように思われ、加えて、内容の幅も広かったように思います(博覧強記と言っていいが、高踏的であったり、知識を振りかざすといったものではない)。それに加えて、飽きさせないで最後まで一気に読ませる文章は、なかなかの筆力ではないかと思います。知識的なことはすべて頭には入らなかったような気もし、時間を置いてまた読み直してもよいかなと思わせる内容の本でした。

《読書MEMO》
●目次
第1章 How Deep is the Ocean?
第2章 謎を解く鍵は海底に落ちていた
第3章 海底が見える時代
第4章 秋吉台、ミケランジェロ、石油
第5章 南極の不思議
第6章 海が陸と出会う場所
第7章 塩の惑星
第8章 地下からの手紙

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世界中の地球学(地学)上の重要ポイントを数多く巡る。カラー版にして欲しかった気も。

生きた地球をめぐる.jpg 『生きた地球をめぐる (岩波ジュニア新書)』 ['09年]

 1934年生まれの著者は、教師をしながらも、1966年に日本地学教育学会の一員としてヨーロッパ、北米を巡り、自然博物館、フィヨルド、氷河、滝、火山などを見て廻ってその魅力に憑かれ、以降、世界の秘境を旅してきた人だそうです。

 本当に北極から南極まで地球の隅々を観てきた人という感じで、今までに訪れた都市は1000以上にもなるとのことですが、ただ訪問地の数が多いとか、所謂"秘境"と呼ばれる地へ何度も足を運んだというだけのことでありません。

 本書で紹介されている著者が行った先々は、地球学(地学)上の重要ポイントであり、ギアナ高地にしろ、アイスランドにしろ、アフリカの地溝帯にしろ、自らの専門知識をもとに、そこでこれまで起きてきた、そしてこれからも続くであろう、プレートの移動や地表の変化の歴史を読み取りながらの旅の記録になっています。

エアーズロック.jpg 一方で、「観光旅行」記的なところもあって、実際、北米のナイヤガラ滝にしてもグランド・キャニオンにしても、オーストラリアのエアーズロックにしてもキングズ・キャニオンにしても、更には南極にしても、ツアー客が訪れる観光地でもあるわけで、本書は著者のプロとしての知識とアマチュア観光客としての感覚がマッチングされ、シズル感のあるものになっているように思いました(文章も上手い)。

 個人的には、プレート移動がマグマだまりの上を通過して列島が出来る仕組みの解説などが特に興味深く、インド亜大陸とユーラシア大陸の衝突現場がパキスタン北部にあると特定できるというのも驚きであり、地球は悠久の時間の中で生きているのだという思いを強くしました。

 惜しむらくは、やや解説というか訪問地数が詰め込み過ぎで、地球上を駆け足で巡っているという印象を受けるのと、写真がそこそこに掲載されているものの、写真アルバムだけで130冊もあるというわりには少ない気がし、どちらかというと、ビジュアルよりは、地学解説の方にウェイトが置かれているという感じでしょうか(勉強にはなったが)。

 扉写真を除いて、文中の写真はモノクロですが、「ジュニア新書」得意のカラー版で刊行しても良かった内容ではないかと。

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わかり易い。「スノーボールアース仮説」の検証過程をスリリングに解説。

凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語.jpg  田近 英一.jpg  田近 英一 氏 (経歴下記)  全球凍結-大型生物誕生の謎.jpg 全地球凍結.jpg
凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語 (新潮選書)』['09年]「NHKスペシャル地球大進化 46億年・人類への旅 第2集 全球凍結 大型生物誕生の謎 [DVD]」  川上 紳一 『全地球凍結 (集英社新書)』 ['03年]

 かつて地球の表面は完全に氷で覆われていたという「スノーボールアース仮説」(全球凍結仮説)は、'04年にNHKスペシャルとして放映された「地球大進化-46億年・人類への旅」の「全球凍結-大型生物誕生の謎」で広く知られるところとなったのではないでしょうか。本書は、この「スノーボールアース仮説」の成立とそれがもたらした地球史観を解り易く紹介した本です。

 スノーボールアース仮説は、'92年にカリフォルニア工科大学のジョー・カーシュビンク教授がアイデアとして専門誌に発表し、その後は封印されていたのが、'98年にハーバード大学のポール・ホフマン教授が、ナミビアでの地質調査の結果をもとにこれを支持する論文を科学雑誌「サイエンス」に投稿したわけですが、本書は、その発表を見逃していた著者のもとに、ホフマン教授から当の「サイエンス」誌が送られてきたところから始まります。

 そして、当初は"奇説"とも看做されていたこの仮説が、様々な反論を退けて、次第に有力な学説であると認知されるようになるまでを、本書は丹念に追っていますが、著者自身も、'99年のカーシュビンク、ホフマン両教授が企画した米国地質学会の特別セッションに参加するなどして、そうした論争の只中におり、そのため本書はシズル感のある内容であると共に、考えられる様々な反論に、緻密な論理構成で論駁を加えていく様はスリリングでもありました。

 とりわけ、全球凍結が起こる原因となる、温室効果を生む大気中の二酸化炭素の量が変化する要因について詳しく解説されていて、火山活動や大陸の風化作用、海底堆積物の形成など、大気や海洋と固体地球との相互作用が、大気中の二酸化炭素の循環的な消費プロセスを形成していることが解ります。

 生物の光合成作用もこの「炭素循環」に関与していて、光合成により大気中の二酸化炭素が取り込まれ有機化合物が形成され、その結果、植物プランクトンなどの死骸の一部は二酸化炭素を含んだ海底堆積物となり、それが海洋プレートと共に大陸の下に沈み込み、沈み込み帯の火山活動によって再びマグマと共に大気中に放出される―この「炭素循環」が、大気中の二酸化炭素量、ひいては大気温を調節し、生命にとってハビタブルな環境を生み出しているわけですが、普段"地震の原因"ぐらいにしか思われていないプレートテクトニクスが、我々の誕生に重要な役割を果たしているというのは、興味深い話ではないでしょうか。

 全球凍結は、こうした温室効果バランスがずれる「気候のジャンプ」により起こり(全球凍結を1つの安定状態と看做すこともできるのだが)、判っているもので6億年前と22億年前に起きたとのことですが、「全球」凍結のもとで生命が生き延びてきたこと自体が、「全球」凍結説への反駁材料にもなっていて、本書では、この仮説にまた幾つかのパターンがあって(赤道部分は凍結していなかったとか)、その中での論争があること、その中で有力なものはどれかを考察しています。
 著者の考えでは、現在の地球が全球凍結しても、地中海やメキシコ湾の一部は凍らないかもしれないとし、全球凍結状態においても、こうした生命の生存に寄与する「ホットスポット」があった可能性はあると。

 終盤部分では、全球凍結が無ければ、地球上の生物はバクテリアのままだったかも知れないと、全球凍結が生物進化に多大の影響を及ぼしていることを解説すると共に、太陽系外の惑星にもスノーボールプラネット乃至オーシャンプラネットが存在する可能性を示唆しており、そうなると地球外生命の存在の可能性も考えられなくもなく、今後の研究の展開が楽しみでもあります。

川上 紳一教授.jpgスノーボールアース  ウォーカー.jpg全地球凍結.jpg 本書を読んだのを契機に関連する本を探してみたら、本書にも登場する川上紳一岐阜大学教授の『全地球凍結』('03年/集英社新書)が6年前に刊行されていたのを知り、NHKスペシャル放映の前に、もうこのような一般書が出されていたのかと―(川上紳一氏は、毎日出版文化賞を受賞した女性サイエンスライターのガブリエル・ウォーカーの『スノーボール・アース』['04年/早川書房、'11年/ハヤカワ・ノンフィクション文庫]の邦訳監修者でもあった)。

 川上氏の『全地球凍結』でも田近氏の本と同様、全球凍結を巡る論争の経緯をしっかり追っていますが、川上氏は'97年に南アフリカのナンビアで、ポール・ホフマン教授らと共に、全球凍結仮説を裏付ける氷河堆積物の地質調査のあたった人でもあり、それだけに地質学的な観点から記述が詳しく、その分、新書の割には少し難度が高いかも知れず、また、やや地味であるため目立たなかったのかなあ("全球凍結"と"スノーボールアース"の語感の差もあったかも)。

 '03年刊行のこの本の段階で既に、全球凍結状態においても、「ホットスポット」があった可能性なども示唆されていて、内容的には田近氏と比べても古い感じはしないのですが、読み易さという点でいうと、やはり田近氏のものの方が読み易いと言えるかと思います。

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田近 英一
1963年4月 東京都出身
1982年3月 東京都立西高等学校卒業
1987年3月 東京大学理学部地球物理学科卒業
1989年3月 東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻修士課程修了
1992年3月 東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻博士課程修了
1992年4月 東京大学気候システム研究センターPD(日本学術振興会特別研究員)
1993年4月 東京大学大学院理学系研究科地質学専攻助手
2002年7月 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻助教授
2007年4月 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻准教授
2008年8月 文部科学省研究振興局学術調査官(併任)

受賞歴
2003年 山崎賞奨学会 第29回山崎賞
2007年 日本気象学会 堀内賞

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自分が今、この時空に生きていることの不思議さ、有難さに思いを馳せることが出来る本。

人類が生まれるための12の偶然.jpg  『人類が生まれるための12の偶然 (岩波ジュニア新書 626)』 ['09年]

 「人類が生まれるためにはどのぐらいの偶然の要素が重なったのか」というテーマは自分としても関心事でしたが、宇宙誌、生物誌(生命誌・進化誌)に関する本の中で個々にそうしたことは触れられていることは多いものの、それらを通して考察した本はあまり無く、そうした意味では待望の本でした。

 宇宙の誕生から始まり、量子物理学的な話が冒頭に来ますが、「ジュニア新書」ということで、大変解り易く書かれていて、しかも、宇宙誌と生物誌の間に地球誌があり、更に、生命の誕生・進化にとりわけ大きな役割を果たした「水」についても解説されています(水の比熱が小さいこと、固体状態(氷)の方が液体状態(水)より軽いということ、等々が生命の誕生・進化に影響している)。

 本書で抽出されている「12の偶然」の中には、「太陽から地球までの距離が適切なものだったこと」など、今まで聞いたことのある話もありましたが、「木星、土星という2つの巨大惑星があったこと」など、知らなかったことの方が多かったです(巨大惑星が1つでも3つでもダメだったとのこと)。

 その他にも、太陽の寿命は90億年で現在46億歳、終末は膨張して地球を呑みこむ(蒸発させる)とうことはよく知られていますが、太陽が外に放出する光度のエネルギーが増え続けるため、あと10億年後には地球は灼熱地獄になり、すべての生物は生きられなくなるというのは、初めて知りました。

 最後に、気候変動の危機を説いていますが、環境問題を考える際によく言われる「地球に優しく」などいう表現に対して、人類が仮に核戦争などで死に絶えたとしても、生き残った生物が進化して新たな生態系が生まれることは、過去の恐竜が隕石衝突により(その可能性が高いとされている)絶滅したお陰で哺乳類が進化発展を遂げた経緯を見てもわかることであり、「私たちや今の生態系が滅びないために」と言うべきであると。

 ナルホド、「宇宙は偶然こうなった」のか、「神が今のような姿にすべて決めた」のか「何らかのメカニズムによって必然的にこうなった」のかは永遠の謎ではあるかも知れませんが、仮に地球が生命を求めているとしても、地球にとって人類の替わりはいくらでもいるわけだなあ。

 監修の松井孝典博士は、日本における惑星科学の先駆者で、幅広い視野と斬新な発想を兼ね備えた、日本では珍しいタイプの研究者であるとのこと(田近英一著(『凍った地球』('09年/新潮選書)によると)。
 最新の研究成果までも織り込まれた本であると同時に(しかし、まだ解っていないことも多い)、自分が今、この時空に生きていることの不思議さ、有難さに思いを馳せることが出来る本です。

《読書MEMO》
偶然1 宇宙を決定する「自然定数」が、現在の値になったこと(自然定数=重力、電磁気力、中性子や陽子の質量)
偶然2 太陽の大きさが大きすぎなかったこと (太陽がもし今の2倍に質量だと寿命は約15億年しかない)
偶然3 太陽から地球までの距離が適切なものだったこと (現在の85%だと海は蒸発、120%だと凍結)
偶然4 木星、土星という2つの巨大惑星があったこと (1つだと地球に落下する隕石は1000倍、3つだと地球は太陽に落下するか太陽系の圏外に放り出される)
偶然5 月という衛星が地球のそばを回っていたこと (月が無ければ地球の自転は早まり、1日は8時間、1年中強風が吹き荒れる)
偶然6 地球が適度な大きさであったこと (火星ほどの大きさだと大気は逃げていた)
偶然7 二酸化炭素を必要に応じて減らす仕組みがあったこと (プレート移動や大陸の誕生、海などがCO2を削減)
偶然8 地磁気が存在したこと (磁場が宇宙線や太陽風などの放射線を防ぐ働きをしている)
偶然9 オゾン層が存在していたこと (紫外線から生物を守っている)
偶然10 地球に豊富な液体の水が存在したこと (水が液体でいられる0〜100℃という狭い温度範囲に地球環境があったこと)
偶然11 生物の大絶滅が起きたこと (恐竜の繁栄もその後の哺乳類の繁栄も、その前にいた生物の大絶滅のお陰)
偶然12 定住と農業を始める時期に、温暖で安定した気候となったこと (65万年前から寒冷期が続いたのは、約1万年前に突然、今のように温暖安定化)

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一度に2万人以上の命を奪った明治の大津波などを科学的視点で検証。どの話も凄まじい。

0海の壁―三陸沿岸大津波.jpg海の壁 三陸海岸大津波1.jpg     三陸海岸大津波2.jpg   三陸海岸大津波.jpg
海の壁―三陸沿岸大津波 (1970年)』『三陸海岸大津波 (中公文庫)』〔'84年〕『三陸海岸大津波 (文春文庫)』〔'04年〕

村昭『三陸海岸大津波』.jpg 過去に東北・三陸海岸を襲った津波のうち、とりわけ被害の大きかった明治29年の津波、昭和8年の津波、チリ地震津波(昭和35年)の3つについて、三陸地方を愛した作家・吉村昭(1927‐2006)がルポルタージュしたもので、最初に読んだ中公新書版『海の壁』は紐栞付きで160ページぐらい(一気に読めて紐栞は使わなかったと思う)。

 吉村氏は本書執筆当時40代前半で、村役場・気象台などの記録を精力的に収集し、イメージしにくい大津波の性質や実態を科学的視点で分析・検証し、一瞬にして肉親と生死を分かち生き残った人の証言などを交え、大津波のの模様を生々しく再現しています(カットバック手法は、著者の小説とも似ているが、文庫化にあたり改題したのは、ノンフィクションであることを強調したかったのか? 「海の壁」っていいタイトルだと思うけれど...)。 

海の壁 三陸海岸大津波2.jpg 3大津波のそれぞれの死者数は、1896(明治29)年の津波が26,360人、1933(昭和8)年が2,995人、1960(昭和35)年が105人で、災害記録としては、昭和8年津波のものが、親・兄弟を失った子供の作文などが多く紹介されていて胸が痛む箇所が多かったですが、スケールとしては、津波の高さ24.4mを記録し、多くの村を壊滅させ、2万人以上の人命を奪った明治29年の津波の話が、どれをとっても凄まじい。

 その中には、津波の中、刑務所から辛うじて脱出した囚人たちの中に、生存者の救出に尽力した者がいたというヒューマンな話から、風呂桶に入ったまま激浪とともに700mも流されたが助かった、という奇跡のような話までありますが、津波の波高記録が10m、20mだった所でも、皆一様に、それ以上の大津波だったと証言しています。
 事実、海抜50mにある民家を押し流していて、入り江に入ると津波は勢いを増すため、こうした波高記録は当てにならず(普通、人間の証言の方が大袈裟だと考えがちだが)明治の大津波の科学的解明は充分ではなかったと、著者は書いています(この大津波の波高記録の最高は、最終的には38.2mとなっているが、一説には50m以上とも)。

 明治の大津波と昭和8年の大津波では、大津波の前には沿岸漁村で大豊漁があるという、昔から言われている地震の"前兆"があり、また、津波が"発光"していたという証言が多々あるのも不思議で、これらの現象は今もって科学的に充分には解明されていないようです。

 一方、チリ地震の津波は、日本では地震の揺れは感知されず、しかも第1派と第2波の間隔がたいへん長いもので、このタイプはこのタイプで不気味ですが('06年のスマトラ沖地震を想起させる)、第2波が到来する前の対処の仕方が被害の明暗を分けるということが、本書でわかります。

津波を防ぐための水門「びゅうお」(静岡県・沼津港).jpg 先日、静岡・沼津の津波防災水門「びゅうお」を見てきましたが、あそこは立派。でも、こうした設備のある港は、日本でも僅かでしょう。

津波を防ぐための水門「びゅうお」(静岡県・沼津港)

 【1984年文庫化[中公文庫(『三陸海岸大津波』)]/2004年再文庫化[文春文庫(『三陸海岸大津波』)]】

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