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専門的な数式を避けて現代物理を解説『物理の世界』。アインシュタインの岩波版にも通じる。

物理の世界 講談社現代新書 旧カバー.jpg 物理の世界 講談社現代新書 新カバー.jpg 湯川秀樹 1949.jpg  物理学はいかに創られたか 上.jpg 物理学はいかに創られたか 下.jpg
物理の世界 (講談社現代新書)』['64年]湯川 秀樹/『物理学はいかに創られたか(上) (岩波新書)』『物理学はいかに創られたか(下) (岩波新書)』['39年]

物理の世界/物理学はいかに創られたか.JPG 『物理の世界』は1964年6月刊行で、執筆者に1949年にノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹(1907- 1981)博士の名があり、序文も湯川博士が書いていますが、当時は現役の京都大学教授でした(残り2人の著者、片山泰久(1926 - 1978)も当時京大教授で山田英二は助教授)。

物理の世界 真鍋.JPG 堅苦しい理論や専門的な数式を避けながら、現代物理の全体像とキー・ポイントを要領よく説いた入門書を創りたいという湯川博士の念願を実現したのが本書であるとのことで、そのためSFの手法を借りています(先に取り上げた相島 敏夫/丹羽小弥太 著『こんなことがまだわからない』('64年/ブルーバックス)と同じく、イラストは真鍋博)。

 例えば、全9話から成る本文のうち、第1話では、主人公たちの知る博士(SFに定番の所謂「ハカセ」)が、過去に存在した人間の脳を現代に呼び戻す装置を完成させたという前提のもと、アルキメデスやケプラー、プランクを呼び出して彼らに物理学の発見の歴史の話を訊くという設定で、第2話では、金星に向かう宇宙船の船内で、A氏とB氏が、主にニュートン力学に関する対話するといった具合です(A氏とかB氏という表現に真鍋博のイラストが似合う(笑))。こんな感じで最後までいき、最終章の第9話も、ギリシャのターレス、レウキッポス、ピタゴラスらを現代に呼び寄せて会話させるスタイルをとっていて、こうした会話部分は誰が書いたのでしょうか。話はニュートン力学からエネルギーとエントロピーの話になって、電波とは何か、分子・原子とは何かという話になり、相対性原理の話になって、最後は素粒子物理学の話になっていきます。

アルベルト・アインシュタイン.jpg これで思い出すのが、岩波新書のアインシュタインとインフェルトの共著『物理学はいかに創られたか(上・下)』で、1939年10月刊行という岩波新書が創刊された翌年に出た本ですが、こちらも、数式を一切使わずに、一般性相対理論や量子論まで展開される物理学の世界がコンパクトにまとめられています。

 話は古典力学から始まり(『物理の世界』もそうだった)、すべての現象は物体と物体との距離が決めるものであり、そこには引力や斥力が働く慣性の世界があるというニュートン力学の理論を第1章で解説し、第2章でその古典力学に反証を行い、第3章と第4章で、物理学を根本から覆してしまった相対性理論と量子力学を解説しています。

Albert Einstein converses with Leopold Infeld in Princeton.
Albert Einstein converses with Leopold Infeld.jpgレオポルト・インフェルト.jpg 共著者のレオポルト・インフェルト(1898-1968)はユダヤ系ポーランド人の物理学者で、アインシュタインはインフェルトのポーランドからの救出を米国に嘆願したものの、すでに何人ものユダヤ人の脱出を援助していたため効力が弱く、そこで、インフェルトとの共著でこの物理学の一般向けの本を書き、推薦書の代わりにしたとのことです。アメリカに渡ったインフェルトは1936年からプリンストン大学の教職に就き、アインシュタインの弟子となって、必ずしも数学が得意ではなかったアインシュタインに対して多くの数学的助言をしたとのことです(ブルーバックスに『アインシュタインの世界―物理学の革命』('75年)という著作がある)。

石原純 作品全集』Kindle版
石原純 作品全集.jpg また、翻訳者の石原純(1881-1947)は、理論物理学者であると同時に科学啓蒙家でもあり、西田幾多郎や九鬼周造にハイゼンベルクの不確定性原理をはじめとする当時最先端の物理学の知識を伝達したことでも知られている人で、科学雑誌の編集長をするなど一般の人向けにも啓発活動を行っており、 "科学ジャーナリスト"のはしりと言っていい人ではないかと思います。

 両著を比べると、『物理の世界』の方が相対論、量子論はさらっと流している印象で、相対論はやはり『物理学はいかに創られたか』の方が詳しいでしょうか(量子論の方は初歩的な解説して終わっている(笑))。ただ、同じ入門書でありながらも、『物理学はいかに創られたか』の方が、古い翻訳であるというのもあるかもしれませんが、少しだけ難解だったかもしれません。
 

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忽然と消えた天才物理学者の謎を追う。レオナルド・シャーシャの古典的伝記に匹敵する面白さ。

マヨラナ.jpgJoão Magueijo.jpg    マヨラナの失踪.jpg レオナルド・シャーシャ.jpg
マヨラナ―消えた天才物理学者を追う』João Magueijo 『マヨラナの失踪―消えた若き天才物理学者の謎 (1976年)』Leonardo Sciascia

エットーレ・マヨラナ.png エットーレ・マヨラナ(Ettore Majorana、1906-1938?)はシチリア島カターニア出身の物理学者で、数学的な才能に溢れ、エンリコ・フェルミ率いるパニスペルナ研究所でその天賦の才を発揮、1933年に核力の理論として中性子と陽子の交換力(マヨラナ力)を考え、ニュートリノが実際に観測される25年も前にこの粒子の性質について考察していましたが、非社交的な性格で、1938年3月26日の夜、シチリア島のパレルモからナポリ行きの船に乗ったまま姿を消しています。

Ettore Majorana

 このエットーレ・マヨラナについては、今や古典的マヨラナ伝として定番も言える、レオナルド・シャーシャ(Leonardo Sciascia、1921-1989)著、千種堅(1930-2014)訳『マヨラナの失踪―消えた若き天才物理学者の謎』('76年/出帆社)をかなり以前に読んで、マッチ箱の切れ端や小さな紙切れに殴り書きしたような数式が実はノーベル賞級の理論発見でありながら、次の瞬間にはそれらを破り捨てていたという、こんな凄くて変わり者の天才物理学者がいて、しかもある日忽然と船の上から姿を消したということを知って驚いたものですが、その後、日本ではあまりこの人のことは取り上げられなかったのではないでしょうか(本国イタリアでは、しばしば"ミステリ・ドキュメンタリー"風のTV番組などで取り上げられるようだが)。

A Brilliant Darkness_.jpg 本書(原題"A Brilliant Darkness" 2009)は、レオナルド・シャーシャによる伝記以来、久しぶりに邦訳されたマヨラナの伝記で、レオナルド・シャーシャ(シチリア島出身)が当時のイタリアを代表する文豪と呼んでいい作家であったのに対し、著者ジョアオ・マゲイジョ(João Magueijo)はポルトガルの宇宙物理学者で、初期宇宙では光速は現在よりも60桁以上早かったとする「光速変動理論」を唱えている現役バリバリの研究者です(この理論は、佐藤勝彦・東京大学名誉教授が提唱したことで氏がノーベル物理学賞候補と目されるようになった「インフレーション理論」と真っ向から対立する)。

 現役の物理学者による著書ということで、読む前は、専門知識の面では満足できるだろうけれど、レオナルド・シャーシャによる伝記ほど面白く読めるかどうかやや疑心暗鬼でしたが、読んでみたらシャーシャの伝記に匹敵するくらい面白かったという印象でしょうか(もともと天才の物語は面白いし、マヨラナはそうした中でも多くの興味深い謎を秘めている素材であるということはあるのだが)。著者は、まるで本職が伝記作家であるかのように、マヨラナの家系を調べたり、所縁(ゆかり)の生存者を訪ねて取材したりしており(しかも言葉の壁を乗り越えて)、シャーシャによる伝記を更に深耕したものと言えます(それにしても、作家並みの文才!)。

Ragazzi di via Panisperna.jpg 最初にマヨナラの失踪時の経緯を、最後に失踪後の経緯をもってきて、本編の大部分にあたる中間部分では、マヨラナの生い立ちから始まって、マヨナラと彼を巡る人々を取り上げ(必要に応じて様々な物理学理論の紹介もし)、それらが全体として、物理学分野で活躍した人々の立志伝、人物群像になっていますが、その中での様々なエピソードを通して、マヨナラがどれほど図抜けた天才だったか(フェルミなどは彼の頭脳に全くついていけなかった)、また、そうしたノーベル賞級の発見を数々成し得ながらもそれを自ら進んで公表しようとはしなかったその変人ぶりが浮き彫りにされています。

Ragazzi di via Panisperna(「パニスペルナ通りの青年たち」右端がフェルミ。孤独を好んだマヨラナは写っていない)

 但し、単に繊細な、或いは気難しい変人としてマヨラナを描くのではなく、彼がなぜそうした学界の主流に入っていかなかったのかについても著者なりの見方を示唆しており、マヨナラの失踪についても、イタリアのコミックで登場した"宇宙人による誘拐説"などを面白く紹介しながらも、独自の考察をしています。

 また、レオナルド・シャーシャの本と異なる点は、科学史上希代の物理学者と言われているエンリコ・フェルミが、本書ではマヨラナとの対比でかなり俗物っぽく描かれている点で、自らの研究所の一員であるマヨラナの、大発見とも言える成果を世に公表しようともせず、後に他の学者が公表すると、悔しがるでもなく、むしろ自分が公表する手間が省けたと喜ぶ様に、研究所のリーダーで功名心にはやるフェルミの方がイライラさせられたとありますが、競争の激しい研究分野では、フェルミのとった態度の方がむしろ自然だったと言えるかも(明らかにフェルミがマヨラナより劣っていたにしても)。

 レオナルド・シャーシャは、マヨナラ"自殺説"をほぼ堅い説としつつ、マヨラナは自らの天才を怖れていたのではないかとしていますが、本書の著者マゲイジョは、シャーシャの古典的伝記に敬意を払い、また共感を示しつつも(マゲイジョ自身もマヨナラをニュートン、アインシュタインと並ぶ三大天才の一人としている)、物理学が誤った方向に進んでいることに対する彼の懸念などを炙り出し(実際、多くの物理学者が核開発に協力し原子爆弾が誕生するという結果となった)、それが、彼が学界から距離を置き、遂には失踪することに繋がったのではないかとしているようです("自殺説"そのものを否定しているのではなく、自殺したとすれば、予め仕掛けておいたプログラムのようなものが何かのはずみで起動した結果ではないかとしているのは、シチリア島へ渡る船には乗っていたが帰りの船では消えてしまったということと考え合わせると、何となく説得力があるように思える。まあ一方で、最期に故郷を訪ね、それから自殺する「計画」をその通り遂行したととれなくもないが)。

I ragazzi di via Panisperna (1988).png エンリコ・フェルミが率いたエットーレ・マヨラナほかパニスペルナ研究所の若き研究者らは「ラガッツィ・ディ・ヴィア・パニスペルナ(Ragazzi di via Panisperna、パニスペルナ通りの青年たち)」と呼ばれ、ジャンニ・アメリオ監督によってそのままのタイトルで'88年に映画化されていますが、当然のことながら、フェルミではなくマヨナラを中心として描いた作品のようです。但し、アメリオ監督の作品の中でこの作品は、高村倉太郎(監修)『世界映画大事典』('08年/日本図書センター)で紹介されていましたが、残念ながら日本では公開されていないようです。
映画"Ragazzi di via Panisperna"
  (パニスペルナ通りの青年たち)('88年/伊)

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自身の良き師、善きメンターを持ったという経験が、後継を育てる姿勢に繋がっているのでは。

ニュートリノの夢 岩波ジュニア新書.jpg 梶田隆章 小柴昌俊1.jpg
ニュートリノの夢 (岩波ジュニア新書)』Nobel Physics 2002 contributions to astrophysics  梶田隆章氏(左)と小柴昌俊氏(右)(「産経新聞」(平成25年9月27日))
梶田隆章ノーベル賞3.jpg 2015年のノーベル物理学賞に、ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動を発見したとして梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長が選ばれ、日本人の物理学賞の受賞は、前年の赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏に続いて11人目(外国籍の日本人含む)となりました。この内、素粒子研究の分野での受賞は、'49年の湯川秀樹、'65年の朝永振一郎、'02年の小柴昌俊氏、'08年の南部陽一郎氏(今年['15年]7月に満94歳で逝去)・小林誠氏・益川敏英氏の3氏同時受賞に次ぐ7人目で、日本人がこの分野に強いことを示していると言えますが、更にこれを「紙と鉛筆でできる」とも言われる「理論」と、大型の観測装置や加速器を使って理論を検証する「実験」の2分野に分けると、「実験」で今回の梶田氏の前にノーベル賞を貰っているのは、梶田氏の師にあたる小柴氏のみとなります。

スーパーカミオカンデの実験.jpg 本書は、その小柴氏の口述をベースに2009年1月から2月にかけて46回に渡って「東京新聞」に連載された「この道」を加筆・修正してまとめたもので、第1章で、小柴氏がノーベル賞を受賞する理由となった、カミオカンデにおける宇宙ニュートリノの検出の経緯が書かれ、第2章から第5章までで小柴氏の生い立ちやこれまでの研究人生の歩みが描かれています。そして、最終第6章で、スーパーカミオカンデの設置や平成基礎科学財団の設立、これからの夢について書かれていますが、この中に、今回の梶田氏のノーベル賞受賞の報道でしばしば取り上げられる、1998年に岐阜・高山市で行われたニュートリノ国際学会で、ニュートリノ振動の存在を実証したスーパーカミオカンデの観測結果を梶田氏が発表した際のことも書かれていて、梶田氏の講演が終わると、聴衆が立ち上がって「ブラボー」と叫んで拍手が沸き起こり、まるでオペラが終わったような騒ぎになったとあります(小柴氏は学会に来ていた南部陽一郎氏(小柴氏より5歳年上)とその晩食事を共にし、南部氏に「よかったねえ」と喜ばれたという)。この時点で小柴氏もまだノーベル賞を貰っていないわけですが、小柴氏が自らの受賞の時に、まだまだスーパーカミオカンデでの研究から日本人ノーベル受賞者が何人か出ると言っていたのは、その確信があっての発言であったことが窺えます。

「東京新聞」2015年10月7日

 その小柴氏のノーベル賞受賞の際に、大マゼラン星雲内で16万年前に起きた超新星爆発(天文学では「1987年2月に起きた」という言い方をするわけだが)で生じたニュートリノを、カミオカンデが出来た僅か4年後に捕まえることが出来たのは「実にラッキーだった」という見方もあったように思いますが、本書を読むと、宇宙ニュートリノの観測をしていたライバルの研究グループが世界に複数あって、チャンスはそれらに均等に訪れ、その中で、少ない予算で小さな装置しか持たなかった小柴氏率いる日本チームが最も早く正確に超新星ニュートリノを観測することに成功し、他グループはその追認に回ったこと、また、こうした少ない予算で外国との競争に勝つための独自の戦略が小柴氏のチームの側にあったこと分かりました。

小柴 昌俊.jpg その小柴氏ですが、本書を読むと、子どもの時から神童だったというわけではなく、何とか旧制第一高等学校に入ったものの一高時代も落ちこぼれで成績が悪くて、「小柴は成績が悪いから(東大へ進学しても)インド哲学科くらいしか入れない」と話す教師の雑談を聞いて一念発起し、寮の同室の同級生の朽津耕三氏(現・東京大学化学科名誉教授)を家庭教師に物理の猛勉強を始め東大物理学科へ入学したとのことです。

朝永振一郎.jpg こうした小柴氏を可愛がったのが朝永振一郎(1906-1979)で、2人ともバンカラぽくってウマが合ったというのもあったようですが(本書にある数々の師弟エピソードがどれも可笑しい)、やはり朝永振一郎という人は小柴氏の持つ"何か"を見抜いていたのだろうなあと思いました。本書は小柴氏自身によるものなので、どこを見込まれたのか分からないという書き方になっていますが、小柴氏自身、良き師、良きメンターを持つことの大切さを身をもって経験し、それが、氏の「後継を育てる」ことを重視する姿勢に繋がっているように思います。小柴氏の後継としてスーパーカミオカンデを率いた小柴・戸塚さんから梶田さん.jpg戸塚洋二 asahi.com.jpg戸塚洋二氏が'08年に満66歳で早逝した際は、これで実験グループの日本人のノーベル章受賞はやや遠のいたかに思えましたが、梶田氏という後継がしっかり育っていたということになります。

     「朝日新聞」(asahi.com)2008年7月11日

「読売新聞」(YOMIURI ONLINE)2015年10月7日

 その梶田氏は、出身大学は埼玉大学で、この人も普通の研究者のように見えて、実は尋常ならざる研究者「魂」の持ち主であるようですが、それを見抜いたのが小柴氏ではないかと思います。梶田氏は、今回の受賞インタビューで、「小柴組は徒弟制だと思う。先生は若手の育て方がうまかった。特別な才能で、それを受け継ぐことはできなのでは」と笑って語ったとのことです(「朝日新聞」2015年10月9日)。

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分かれば分かるほど、分からないことが増える。「宇宙論」って奥が深い。

宇宙は何でできているのか1.jpg宇宙は何でできているのか2.jpg 宇宙は何でできているのか3.jpg  野本 陽代 ベテルギウスの超新星爆発.jpg  宇宙論入門 佐藤勝彦.jpg
宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)』 野本 陽代 『ベテルギウスの超新星爆発 加速膨張する宇宙の発見 (幻冬舎新書)』 佐藤 勝彦 『宇宙論入門―誕生から未来へ (岩波新書)

 村山斉氏の『宇宙は何でできているのか―素粒子物理学で解く宇宙の謎』は、「宇宙はどう始まったのか」「私たちはなぜ存在するのか」「宇宙はこれからどうなるのか」という誰もが抱く素朴な疑問を、素粒子物理学者が現代宇宙物理学の世界で解明出来ている範囲で分かり易く解説したもので、本も売れたし、2011年の第4回「新書大賞」の第1位(大賞)にも輝きました。

 分かり易さの素は「朝日カルチャーセンター」での講義が下敷きになっているというのがあるのでしょう。但し、最初は「岩波ジュニア新書」みたいなトーンで、それが章が進むにつれて、「ラザフォード実験」とか「クォークの3世代」とかの説明に入ったくらいから素粒子物理学の中核に入っていき(小林・益川理論の基本を理解するにはいい本)、結構突っ込んだ解説がされています。

 その辺りの踏み込み具合も、読者の知的好奇心に十分応えるものとして、高い評価に繋がったのではないかと思われますが、一般には聞きなれない言葉が出てくると、「やけに難しそうな専門用語が出てきましたが」と前フリして、「喩えて言えば次のようなことなのです」みたいな解説の仕方をしているところが、読者を難解さにめげさせることなく、最後まで引っ張るのだろうなあと。

 本書によれば、原子以外のものが宇宙の96%を占めているというのが分かったのが2003年。「暗黒物質」が23%で「暗黒エネルギー」が73%というところまで分かっているが、暗黒物質はまだ謎が多いし、暗黒エネルギーについては全く「正体不明」で、「ある」ことだけが分かっていると―。

 分からないのはそれらだけでなく、物質の質量を生み出すと考えられている「ヒグス粒子」というものがあると予言されていて、予想される量は宇宙全体のエネルギーの10%の62乗―著者は「意味がさっぱり分かりませんね」と読者に寄り添い、今のところ、それが何であるか全て謎だとしています。

 しかしながらつい最近、報道で「ヒッグス粒子」(表記が撥音になっている)の存在が確認されたとあり、早くも今世紀最大の発見と言われていて、この世界、日進月歩なのだなあと。

 小林・益川理論は粒子と反粒子のPC対称性の破れを理論的に明らかにしたもので、それがどうしたと思いたくもなりますが、物質が宇宙に存在するのは、宇宙生成の最初の段階で反物質よりも物質の方が10億分の2だけ多かったためで、このことが無ければ宇宙には「物質」そのものが存在しなかったわけです(但し、それがなぜ「10億分の2」なのかは、小林・益川理論でも説明できていないという)。

 本書はどちらかというと「宇宙」よりも「素粒子」の方にウェイトが置かれていますが(著者の次著『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)』('11年)の方が全体としてはより"宇宙論"的)、最後はまた宇宙の話に戻って、宇宙はこれからどうなるかを述べています。

 それによると、10年ばかり前までは、減速しながらも膨張し続けているという考えが主流だったのが(その中でも、膨張がストップすると収縮が始まる、減速しながらも永遠に膨張が続く、「永遠のちょっと手前」で膨張が止まり収縮もしない、という3通りの考えがあった)、宇宙膨張は減速せず、加速し続けていることが10年前に明らかになり、そのことが分かったのは超新星の観測からだといいます(この辺りの経緯は、野本陽代氏の『ベテルギウスの超新星爆発-加速膨張する宇宙の発見』('11年/幻冬舎新書)にも書かれている)。

 加速膨張しているということは、膨張しているのにエネルギーが薄まっていないということで、この不思議なエネルギー(宇宙の膨張を後押ししているエネルギー)が「暗黒エネルギー」であり、その正体は何も分かっていないので、宇宙の将来を巡る仮説は、今は「何でもアリ」の状況だそうです。

 分かれば分かるほど、分からないことが増える―それも、細部においてと言うより、全体が―。「宇宙論」って奥が深いね(当然と言えば当然なのかもしれないけれど)。

 そこで、更に、著者が言うところのこの「何でもアリ」の宇宙論が今どうなっているかについて書かれたものはと言うと、本書の2年前に刊行された、佐藤勝彦氏の『宇宙論入門―誕生から未来へ (岩波新書)』('08年)があります。

佐藤 勝彦.jpg この本では、素粒子論にも触れていますが(『宇宙は何でできているのか』の冒頭に出てくる、自分の尻尾を飲み込もうとしている蛇の図「ウロボロスのたとえ」は、『宇宙論入門』第2章「素粒子と宇宙」の冒頭にも同じ図がある)、どちらかというとタイトル通り、宇宙論そのものに比重がかかっており、その中で、著者自身が提唱した宇宙の始まりにおける「インフレーション理論」などもより詳しく紹介されており、個人的にも、本書により、インフレーション理論が幾つかのパターンに改変されものが近年提唱されていることを知りました(著者は「加速的宇宙膨張理論の研究」で、2010年に第100回日本学士院賞を受賞)。
佐藤 勝彦

  第4章「宇宙の未来」では、星の一生をたどる中で「超新星爆発」についても解説されており、最後の第5章「マルチバースと生命」では、多元宇宙論と宇宙における生命の存在を扱っており、このテーマは、村山斉氏の『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門』とも重なるものとなっています(佐藤氏自身、『宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった (PHP文庫)』('01年)という著者もある)。

 『宇宙論入門』は、『宇宙は何でできているのか』よりやや難解な部分もありますが、宇宙論の歴史から始まって幅広く宇宙論の現況を開設しており、現時点でのオーソドックスな宇宙論入門書と言えるのではないかと思います。

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入門書のわりにはかなり突っ込んで解説。マンガは"流れ"で説明できて分かり良いが...。

マンガでわかる相対性理論.bmp                     「相対性理論」を楽しむ本2.bmp
マンガでわかる相対性理論 (サイエンス・アイ新書)』['10年] 佐藤勝彦『「相対性理論」を楽しむ本―よくわかるアインシュタインの不思議な世界 (PHP文庫)』['98年]

 特殊相対性理論に絞って解説されているため、マンガを使った入門書とはいえ、入門書のわりにはかなり突っ込んで解説されているように思いました(巷では、これまでになく分かり易い入門書との評もあって購入したが、個人的には、結構難しく思えた部分があった)。

 タイトルを見ただけでは特殊相対性理論(=等速直線運動系)についてのみの解説書であって一般相対性理論(=加速度運動系)には触れられていないということが事前に分からないのは、佐藤勝彦 著『「相対性理論」を楽しむ本』('98年/PHP文庫)などもまったく同じで、まあ、入門書の読者に「特殊」とか「一般」とか言っても分かる人と分からない人がいるだろうし、「特殊」から入って「一般」に進むのが通常の習得コースなので、まあいいか。

 マンガというのは、コマ割りすることで"流れ"で説明できるので、静止的な解説図が1枚だけあるという構図よりは、ダイナミックで分かり良いかも知れませんし、極力、数式を用いずに解説し、その分、図に置き換えて視覚的に理解を深めさせようという狙いと、そのための工夫は買いたいと思います。

 但し、1ページに4、5コマならともかく、7コマ、8コマあって、その中で図解していたりすると、そうした箇所については、かなりごちゃごちゃした印象を受けざるを得ないようにも思いました。

 サイエンス・アイ新書は、全頁フルカラーが「売り」で、「写真」系でその特質を活かしているものと「解説」系でその特質を活かしているものがありますが、本書は典型的な後者。

 科学系新書の老舗「ブルーバックス」にある同分野の入門書などとは、また違った切り口の入門書のスタイルであることには違いないように思います。

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理論解説より、人となりにウェイト。新書創刊に合わせた"名前貸し"?

あなたにもわかる相対性理論.jpg 『あなたにもわかる相対性理論』.jpg 『あなたにもわかる相対性理論 (PHPサイエンス・ワールド新書)』 ['01年]

 相対性理論の解説も一応はされていますが、どちらかと言うと、アインシュタインという人がいかに偉大であったかを、個人の思いいれたっぷりに語った本で、テレビ出演等で忙しいのに、よくこんな専門分野でもはない本を書いている時間があるなあと思ったら、著者の喋ったことを編集者が文章化した「語り書き」でした。やっぱり。

 個人的には、著者は(話の内容や最近とみに目立つ通俗的な方向性はともかく)プレゼンテーション能力は高い人だと思っており、本書に関してもそれは感じられなくもないですが、文章が文語調であるにも関わらず、内容が「喋り」のトーンと同じになっていて、文章にすると意外と深みを感じなかったりして...。
 脳科学に関連づけた解説も、著者がよくやるテレビ番組のコメントを再生しているような感じ。

 アインシュタインの人となりを表すエピソードが多く紹介されているのが取り柄でした。
 「A(成功)=X(仕事)+Y(遊び)+Z(口を開かぬこと)」というのがアインシュタインの成功信条だったとのことで、「口を開かぬこと」というのは、口を開いてしまうと、どうしても他人の評価を気にしたり、他人のために何かをすることのなるからとのこと。

 相対性理論の解説そのものには、著者のオリジナル的な表現が殆ど見られず(タイトルからそれを期待して本書を手にしたのだが)、ホントに概略のみ。
 「喋り」とは別に著者が後で書き加えたのか、アインシュタインの経歴等と併せて編集者が文献を引き写しながら書いたのか、何れにせよ、全体のトーンに一貫性がないような気がしました。
 
 解説がちょっと細部にわたると、いきなり活字が小さくなって(この部分は明らかに編集者が資料をもとに書いたのだろう)、全体を通して平易な割には必ずしも読み易いとは言えず、最後にいきなり、難易度の上がる「第二論文」が出てくるのも唐突な印象。
 
アインシュタイン丸かじり.jpg 新書創刊に合わせた"名前貸し"的な側面があることは否めないのでは。
 手近でいいから(或いは、手近であることを条件として)アインシュタインの人柄だけでなく理論そのものをざっくり学んでみたいという人には、志村史夫氏の『アインシュタイン丸かじり-新書で入門』('07年/新潮新書)の方をお奨めします。

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文系出身の社会人が通勤電車内で楽しく(苦なく?)読み切れる内容。

アインシュタイン丸かじり.jpg 『アインシュタイン丸かじり―新書で入門 (新潮新書)』['07年] 志村史夫.jpg 志村 史夫 氏 (略歴下記)

 アインシュタインの業績や相対性理論に関する入門書で、「文系出身の社会人が通勤電車内で楽しく(苦なく?)読み切れる」内容とでも言ったらいいのでしょうか、新書(「新潮新書」)の性格を反映した大変読み易いものとなっています(著者は「ブルーバックス」の常連執筆者だったと思うが)。

 内容面の特徴として、アインシュタインの発表した理論のうち、特殊相対性理論と一般相対性理論の解説に各1章を割くのと併せて、光の粒子説を中心とした他の業績にも1章を割いていることが挙げられます。
 それらを挟んで、前段で、アインシュタインの業績がいかに凄いものであったのか、彼の"天才ぶり"、その偉業の"奇跡ぶり"を解り易く説くと共に、「アインシュタイン以前」をおさらいし、後段では「時空の歪み」という解りにくい概念を今一度解説するとと共に、最後にアインシュタインの言葉を紹介し、その発想の原点や思想を伝えています(盛りだくさん!)。

 文系でも読み易いと言いましたが、数式を使わないというわけではなく、一般相対論の理論式など一応は登場し、ローレンツ変換とかも出てきます。
 但し、それらを必ずしも解らなくてもいいとして、読者を追い詰める(?)ことなく、合間に適度にアインシュタインの"人となり"を伝える話やその他の学者やノーベル賞などに纏わる科学史上のエピソードが織り込まれていて、「読み物」的感覚で読み進めることができます。
 この辺りの、ちょっと脇道に行って(ムダ話をしているのではない)「閑話休題」として本筋に戻ってくるタイミングが絶妙。

 著者自身が、相対性理論を理解するうえで、どこで引っ掛かったか、それをどのような発想の転換で乗り越えたかなどが書かれている点も、親近感を覚えると共に、ああ、ここが一般の人と物理学者の思考方法の分岐点だなあと思わせるものがありました。

 紙数の関係上、結果的に、一般相対性理論の解説などがやや浅くなってしまったことは否めませんが、「最初に読む1冊」乃至「久しぶりに復習してみる1冊」としては、その要件を満たした好著だと思います。
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志村史夫(しむら・ふみお)
1948(昭和23)年東京・駒込生まれ。名古屋工業大学大学院修士課程修了。名古屋大学工学博士(応用物理)。2007年現在、静岡理工科大学教授、ノースカロライナ州立大学併任教授。『こわくない物理学』など著書多数。2002(平成14)年、日本工学教育協会賞・著作賞受賞。

《読書MEMO》
●章立て
第1章 アインシュタインは偉い
 「奇跡の年」から一〇〇年/二〇世紀のコペルニクス/週刊誌のトップ記事にも/日本との因縁/ハイテクの父/世紀の人
第2章 「アインシュタイン以前」をおさらい
 自然の理解/自然哲学の誕生/物質の構造/物体の運動/運動の相対性/空間とは何か/時間とは何か/光とは何か/ニュートンと光/重力とは何か/驚異の年
第3章 「奇跡の年」の奇跡ぶり
 不遇の時代/五篇の論文/光電効果/電気と磁気/マクスウェルの電磁理論/電磁波と光/生活に欠かせない電磁波/プランクの量子仮説/光の謎を解明/ハイテクを支える光量子
第4章 これで「特殊相対性理論」がわかる
 特殊相対性効果/原型は一六歳の空想/不思議な光/光速不変の原理/時間が遅れる/空間が縮む/光速より速いものはない/質量が増大する/同時性の否定/先人の無念
第5章 世界一有名な方程式E=mc2の誕生
 エネルギーはどこへ?/わずか三ページの革命/エネルギーから物質が生まれる/物質に潜む巨大なエネルギー/日常生活への応用
第6章 時空の歪みとは何か
 一般相対性理論/重力の源は「空間の曲がり」/「空間の曲がり」とは?/光が曲がった/ノーベル賞受賞の裏側
第7章 想像力は知識よりも重要である―アインシュタイン名言集
 タゴールとの対話/「才能」と「学問」について/「自然」「宇宙」「神」について/「科学」と「芸術」について/「人生」について

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数式を使わないで相対性理論を説明。文系向きで楽しく読める入門書。

宇宙時代の常識-教養としての相対性理論.jpg 『宇宙時代の常識―教養としての相対性理論』 講談社現代新書 ['66年] 数式を使わない物理学入門.jpg 『数式を使わない物理学入門―アインシュタイン以後の自然探検 (1963年)』 光文社カッパブックス

宇宙時代の常識―教養としての相対性理論0.JPG宇宙時代の常識_5317.JPG アインシュタインの相対性理論の入門書として、たいへん分かり易い本で、同時期に読んだ何冊かの中で、内容が最もすんなり頭に入った本でした。

猪木 正文.JPG 版元は講談社ですが、〈ブルーバックス〉ではなく〈現代新書〉の方に入っているのがミソというか、初心者向きであるとともに文系向きであり、殆ど数式を使わず、比喩表現など言い表し方を工夫することで補っています。

 説明を補足する図も、図というより「絵」的で(真鍋博のイラスト)、喩え話として挿入されている宇宙旅行の話なども含め、SF小説感覚で読めます。

 例えば、加速度(重力)が時間を遅らせることの説明を、年上の妻との不和を解消するにはどうしたらよいかといったユーモラスな話で説明したり(妻を宇宙船に乗せて旅をさせ、年齢差を逆転させることで不和解消?)、遊星間または恒星間宇宙船は可能かというSF的テーマのもと試算結果を検討したりして(原理的には、例えば20光年先にある星ならば地球時間で18年で往復可能ということになる)、読者の興味を惹き付けるのが上手。

 著者の猪木正文(1911‐1967)は、湯川秀樹、朝永振一郎らを育てた仁科芳雄(1890‐1951)に師事した物理学者ですが、『数式を使わない物理学入門』('63年/カッパブックス)といった著書もあり、「数式を使わない説明」を得意としていたのでしょうか、本書刊行の翌年、50代半ばで亡くなっているのが惜しまれます。

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読みやすいが、内容的には、一般向け入門書としてはかなり詳しい方。

100歳になった相対性理論.jpg  『100歳になった相対性理論ーアインシュタインの宇宙遺産』 (2005/01 講談社)

 サイエンスライターである著者の本は、『SFを科学する』('87年/ブルーバックス)から読んでいますが、'05年出版の本書は、相対性理論や宇宙論に関する今までの著作の総まとめ的性格でありながらも、そのタイトルや内容構成は、この年の出版でなければ使えなかったものかも知れないと思われます(ちょうど100年前の1905年が、アインシュタインが特殊相対性理論を発表した年です)。

 第1章、第2章でそれぞれ、アインシュタインの特殊相対性理論、一般相対性理論とその実証について扱っていますが、以降、第3章から第7章まで、ビッグバン宇宙論、ブラックホール宇宙像、クェーサー、観測的宇宙論(インフレーション宇宙論)、タイムトラベル理論について、それらの中核となった学者がその理論を発表した年を「相対性理論○○歳」というように追いながら、各内容を解説しています。

 「中核となった学者」とは、宇宙膨張論を発見したハッブル('29年)、ブラックホールを予言したオッペンハマー('39年)、クェーサーを発見したマーチン・シュミット('63年)などで、佐藤勝彦・東大教授の「インフレーション理論」も、同じ時期('81年)に同じ理論を発表した米国のグースと併せて1章を割いて理論紹介されています。
 ただし欧米では、「インフレーション理論」の提唱者としてグースの名前しか出てこないことが多いというのは、ちょっと残念な気もします。

 イラストや写真が適宜挿入されていて文章も読みやすいですが、内容的には一般向け入門書としては、かなり詳しく書かれている方ではないでしょうか。
 忘れかけていたことの復習用にも読めるし、最新動向を知る上でも役に立ちます。

 最後の第8章で、2005年(相対性理論100歳)時点での相対性理論の今後を展望していますが、相対性理論を観測実証しようという様々な動きがあることがわかり、興味深かったです(すでに部分的には、"重力レンズ"現象や飛行機とセシウム時計を使った実験などで観測・実証されていて、GPSなどに応用されているわけですが)。

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中学生でも読める「相対性理論」についてのバランスよい解説。

『「相対性理論」の世界へようこそ』.JPG「相対性理論」の世界へようこそ.jpg    「相対性理論」を楽しむ本2.bmp
「相対性理論」の世界へようこそ―ブラックホールからタイムマシンまで』PHP文庫〔'04年〕/『「相対性理論」を楽しむ本―よくわかるアインシュタインの不思議な世界 (PHP文庫)』PHP文庫〔'98年〕

 本書は中学生でも読めることを意図し、わかりやすく書かれていて、相対性理論について、定番ですが、光時計、ミューオンの時間の遅れといった思考実験や観測、ウラシマ効果、双子のパラドックスの話などで平易に説明した上で、副題にもある通り、ブラックホールやタイムマシンへと話は拡がっていき、佐藤教授の初期宇宙論(インフレーション理論)にも触れています。

 姉妹本の『「相対性理論」を楽しむ本』('98年/PHP文庫)の方は、特殊相対性理論を中心に構成されていますが(ただし宇宙論などにも触れてはいますが)、本書でも特殊相対性理論には触れていて、その部分では焼き直しの感じもあります。

 しかし「相対性理論」というテーマから見れば、全体的にはこちらの方が構成にバランスがとれていて、「特殊相対性理論(=等速直線運動のみに使える)」→「一般相対性理論(=加速度運動にも使える)」という流れの中で読み進むことができます。
 文章もより練れているので、どちらかを読むならばこちらの方をお薦めします。

 加速度=重力、重力は時間を遅らせる...だから電車に乗って会社に着いたら、自分だけ時間が遅れているということになるのか...でも他の人も電車に乗ってきているわけだから...とか、あまり実生活に役立たないことを考えるのは何となく楽しいものです。

《読書MEMO》
●《特殊相対性理論》(等速直線運動のみに使える)
・光の速さはどんな速度で動く人からみても一定/・運動するものは時間が遅れる(時間はお互いに遅れる)/・動くものは質量が増える/・E=mc2
●《一般相対性理論》(加速度運動にも使える)
・重力によって時間が遅れる/・ウラシマ効果/・双子のパラドックス(等速直線運動ではお互いの過去を見ている。兄弟が出会うためにUターンしたとき、加速運動を行う必要が生じて、特殊相対性理論ではなく、一般相対性理論になる

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サイエンスライターとしての著者の経歴が生きた好著。
アインシュタインの宿題.jpg   『アインシュタインの宿題』.JPG アインシュタインの宿題2.jpg 知恵の森文庫 〔'03年〕
アインシュタインの宿題』('00年/大和書房)

 著者は宇宙物理学者ですが、サイエンスライターとしての経歴も長く、本書はそうした著者の特質が生かされた相対性理論の入門書であり、一般人の考え方を前提にしたうえでの著者の解説の仕方は、各章にあるコミックや図版と併せ、理解の大きな助けとなります。

 ミンコフスキーダイアグラムなど、普通の一般書ではあまり出てこない話なども平易に説く一方で、「新世紀エヴァンゲリオン」のポジトロンライフル(陽電子砲)の話をアインシュタインの式の説明の枕に持ってくるなどはニクイ。
 まあ、名作SFを物理学的に解析した『SFを科学する』('87年/ブルーバックス)を書いたのが30歳そこそこですから。
 その本の共著者である石原藤大氏が考えたらしい「ウラシマ効果」という言葉が、世界中で使われている「双子のパラドッス」という表現より優れているという著者の説に納得しました。
 〈特殊相対性理論〉と〈一般相対性理論〉の違いがスッと頭に入る部分でもあります。

 各章の冒頭にアインシュタインの言葉を配しています。
 例えば「神はサイコロ遊びをしない」とは、彼が量子力学を批判したものですが、いまだに相対性理論と量子力学の融合はなされていない。
 アインシュタインのアカンベーした顔が目に浮かびます。

 【2003年文庫化[知恵の森文庫]】

《読書MEMO》
●1987年大マゼラン星雲で超新星爆発、but、爆発したのは16万年前(文庫106p)
●播磨科学公園都市のSPring-8(放射光施設)...素粒子の加速実験(文庫122p)
●ウラシマ効果...地球出発(帰還)時の加速(減速)で慣性系でなくなる(文庫124p)
●1kgの質量は、ビキニ型水爆並みのエネルギーを持つ(文庫134p)
●星の終末...
 タイプ1....白色矮星
 タイプ2....赤色巨星→白色矮星
 タイプ3....赤色巨星→惑星状星雲→白色矮星
 タイプ4....赤色巨星→超新星爆発
 タイプ5....赤色巨星→超新星爆発→中性子星orブラックホール

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科学者の思考と一般の人のイメージの違いが面白い。

1僕がアインシュタインになる日.png僕がアインシュタインになる日.jpg 『僕がアインシュタインになる日―相対性理論講義』 朝日レクチャーブックス 〔'81年〕

佐藤 文隆/光瀬 龍.jpg 「朝日レクチャーブックス」(朝日出版社)の1冊で、SF作家の光瀬 龍 (1928-1999/享年71)が日本を代表する一般相対性理論の研究者である宇宙物理学者・佐藤文隆(1938-)に相対性理論や宇宙論について話を聞くスタイル。1981年刊。

 要するに、対談形式を通しての相対性理論・宇宙論の入門書であるのですが、個人的にはすごく面白かった1冊です。光瀬龍の質問は簡潔ですが、言葉で理解できてもイメージとして理解できないところは(それは一般読者とほぼ一致するはず)何度でも突っ込んで聞いています。この姿勢が実にいいです。

 宇宙論に入ると、ますます物理学者の考え方と一般人のそれとの違いが浮き彫りになります。
 膨張宇宙論において、「では宇宙の外側には何があるのか」と聞く光瀬龍に、佐藤先生は「外側はない」、今見えている領域を "宇宙"と規定しているのであって、まだ光が届いていないその先は論じないと。

 "素粒子崩壊"のイメージなどについても、光瀬は粘り強く聞いて、ここも本書の"読みどころ"となっています。
 今は亡き光瀬龍の、"素人"としての疑問に飽くまでもこだわり、簡単には納得しない姿勢のお陰で、本書は興味深く読めました。

宇宙との対話.jpg 尚、本書はSF作家が宇宙物理学者に話を訊くというスタイルをとっているわけですが、同じ朝日レクチャーブックスの中には、同じくSF作家(半村良(1933‐2002/享年78))が、天体物理学者(小尾信彌(1925‐))に話を訊くという『宇宙との対話-現代宇宙論講義』('79年/朝日出版社)というのもあり、こちらもお奨めです。

宇宙との対話―現代宇宙論講義 (1979年) (Lecture books)

《読書MEMO》
●《特殊相対性理論》 光の速さは一定である(光速度一定の仮定)=光を光の速さで追いかけても、光の速さで逃げていく(40-43p)
●運動していると時計がゆっくり進むー飛行機の時間(飛行機に積んだ原子時計の遅れで確認済み)(93-98p)
●コップ1個の内臓している物質エネルギーは広島型原爆ぐらい
●宇宙が1センチより小さかったときがあった

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"文系人間"のための物理入門書。"物質と反物質の対生成"などの説明が詳しい。

宇宙の始まりの小さな卵.jpg  『宇宙の始まりの小さな卵―ビッグバンからDNAへの旅』 (2002/03 文春ネスコ )

 帯に「数式なしでも宇宙はわかる!」とあるように、"文系人間"のための物理入門書で、話は原子物理学から熱力学、宇宙学、生命学にまで及んでいますが、語りかけるような口調でやさしく書かれています。

 タイトルにも繋がる宇宙の原初における"物質と反物質の対生成"などはかなり詳しく書かれていますが、しかしそこでも、宇宙空間の真空をゴルフボールが敷きつめられたグリーンに喩え、
 「何もない空間ではなく、実は、隙間なく粒子がつまっているようなものなのです。そこから電子をはぎとると、穴があきます。その穴は、ちょうど電子の反対の性質をもった粒子としてふるまいます」
 といった感じの説明の仕方で、わかりやすいです。

 今から何十億年後に太陽が現在より大きくなったときに、「小惑星」を地球のそばを通過させ地球の軌道を太陽から離す―そんな人類延命策を今から考えている人がいるなんて、ちょっと面白い。

 著者は芥川賞作家ですが、相対性理論や仏教の入門書を書いていたり、『パパは塾長さん』('88年/河出書房新社)などという中学受験本も書いていて、「芥川賞作家って何」と言いたくなったりもしますが、小説もちゃんと書いています(本書の中に、著者の小説を想起させるような文体や言い回しがところどころ見られるのが面白い)。

 ジャーナリスト的素養もある人と見るべきか。あるときはサイエンス・ライターで、あるときは受験ジャーナリストになる...。

《読書MEMO》
●地球は、ウランが発する熱が鉄流動を起こし、磁気を発生させている(144p)
●宇宙背景放射により晴れ上がり(ビッグバン後50万年)が観測できる(166p)
●ゼロ時間から0.01秒の間に何が起きたか=陽子・中性子の生成前(166p)
●電子と陽電子が真空から対生成した、というのが宇宙の始まり。電子と陽電子は宇宙のゆらぎで消滅、そこにクオーク・反クオークの対生成が起き、陽電子はクオーク・反クオークに囲まれてⅩ粒子を経て陽子になった...(189p)

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アイデアがいい科学絵本。最後に辿り着いた一番小さなものは「宇宙」。

小さな小さなせかい.jpg 『小さな小さなせかい―ヒトから原子・クォーク・量子宇宙まで』 (1996/03 偕成社)

 1996(平成8)年3月に刊行された科学絵本ですが、1ページめくるごとに10分の1ずつに小さい世界になり、微生物、DNAの世界を経て、分子、原子、素粒子の世界へ入っていくというアイデアがいいです。
 小学生向けの本ということですが、例えば〈中性子〉〈中間子〉〈ニュートリノ〉を大きい順に並べよと言われて、わかる大人はどれぐらいの割合でいるでしょうか。

 最後に辿り着いた一番小さなものが(原始の)「宇宙」だったという〈逆説〉も、ロマンがあっていいです。
 10の-34乗m の"量子宇宙"こそ最小のものだというのは、宇宙発生論において〈事実〉とされていることでもありますが。

大きな大きなせかい.jpg 本書は『大きな大きなせかい-ヒトから惑星・銀河・宇宙まで』('96年/偕成社)と対になっていて、こちらも楽しく学べます。

 著者の加古里子(かこさとし)氏は、『だるまちゃんとてんぐちゃん』('67年/福音館書店)に代表される「だるまちゃん」シリーズや、『からすのパンやさん』('73年/偕成社)、『どろぼうがっこう』('73年/偕成社)などで知られる絵本作家で(『からすのパンやさん』や『どろぼうがっこう』は幼稚園や保育園の発表会の演目としてよく採用されている)、1975年に『遊びの四季』で第23回「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞、2008年には第56回「菊池寛」賞を受賞するなどしていますが、もともとは東京大学工学部応用化学科に学んだ工学博士でもあり、こうした科学絵本も多く手がけています。

《読書MEMO》
●原子>原子核>陽子、中性子
●重粒子(パリオン)→陽子、中性子、ラムダ粒子、シグマ粒子ほか
●>中間子→(陽子と中性子を結びつける)π中間子、ケーオンほか
●ハロドン(重粒子と中間子)>クォーク→重粒子(陽子・中性子等)、中間子を構成する)(反クォークもある)
●>軽粒子(レプトン)→電子、ミューオン(宇宙線が空気に衝突してπ中間子ができ、それが壊れてできる)、ニュートリノ(中性子が陽子に壊れるとき電子とともにできる)など(反レプトンもある)

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