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Q&A形式だがハウ・ツーではない。思春期までの問題を広く扱っているのが特徴。
単行本['99年]『Q&Aこころの子育て―誕生から思春期までの48章 (朝日文庫)』
河合隼雄氏が子育てに悩む親に向けて書いたもので、Q&Aの形式をとり、一般の親たちにわかりよい内容でありながらも、ハウ・ツーになっていないのが、本書の特徴と言えるのでは。
河合 隼雄 (1928-2007/享年79)
「子育てがうまくいかないのは母子関係が原因でしょうか」という問いに対して「原因がわかっただけでは何の解決にもなりません」とか、「思い通りにならないのは、育て方が悪いからですか」という問いに対して「生きているんだから思い通りになるはずがないです」といったふうに、子育ての問題に対する直接的な解答よりも、それに向き合うための新たな視点を示すことで、子どもたちよりもむしろ親たちに対するカウンセリング効果を生み出しているような本。
子どもの発達に沿って話を進めていますが、本書のもう1つの大きな特徴は、ほとんどの子育て本が誕生から小学校入学時ぐらいまで終わっているのに対し、その後の小学生時代、さらに中学生から高校生に至る思春期における問題までを広く扱っていることにあります。
本書刊行('99年)の背景に、神戸の児童連続殺傷事件('97年)など思春期の子どもによる事件の多発という社会現象があることもありますが、特に、小学校4年生(10歳ぐらい)が、子どもの成長における一つの大きな転換期であり、重要な自己形成の時期であるとみているところは、もともとの河合氏の考えの特質でしょうか。
残念ながら'07年7月に亡くなった河合氏ですが、『育児の百科』の故・松田道雄(1908‐1998)の後継として、児童精神科医の佐々木正美氏とユング心理学者・河合隼雄の名があがることが多かったような気がします。
母性原理と父性原理のバランスを重視する考え方は佐々木・河合両氏に共通する一方、河合氏の方がより心理主義的な曖昧さを含んでいる感じもして、実際そのことで河合氏を批判する向きもあるようですが、それは彼が専門としたユング心理学やカウンセリング理論と無縁ではないでしょう。個人的にはどちらの著作も優れたものが多いと思っています。
本書で一番印象に残ったのは、ドイツ文学者の子安美知子の話で、彼女が姪に本を読んであげようとしたとき、横にいた姪の友達がじゃまをし、読み終ったあと、その子が「もいっぺん読んで」と言うので「?」と思ったら「今度は私に読んで」と言ったというもの。その子は子安氏が姪のためにしか読んでいないのがわかっていて、だから邪魔していたということがその時わかったので、子安さんは「ほな、こんどはあんたのために読むわ」と。
この話に河合氏は痛く感動したそうですが、そうしたところが河合氏らしいし、自分もこれはいい話だと思いました。
【2001年文庫化[朝日文庫]】