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やはり何となく煽らないと本が売れないというのがあるのか。

2014年、中国は崩壊する 0.jpg 2014年、中国は崩壊する.jpg  尖閣を獲りに来る中国海軍の実力.jpg
2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)』 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力: 自衛隊はいかに立ち向かうか (小学館101新書)

2014年、中国は崩壊する3.jpg  『2014年、中国は崩壊する』は以下の4章構成。
  第1章 尖閣諸島で敗北した中国
  第2章 日本人が知らないメンツ社会
  第3章 中国経済の問題
  第4章 中国崩壊とその後

 第1章では、尖閣諸島問題において日本が中国に押され気味であるという一般認識に対し、むしろ大敗北を喫したのは中国(より正確に言えば中国共産党政権)であって、この問題によって中国は国際的信用を下落させ、軍事的、経済的な損失も計り知れないものがあると。そこには地方政府を御しきれていない中央政府の「脆さ」が窺える一方で、「尖閣諸島は中国の領有である」と主張した以上、それを言い続けなければならない中国の国内事情(他に多くの国境問題を抱えているという)もあるとのこと。

 そして第2章では、中国が頑なに尖閣諸島の領有権を主張する背景には、中国人のメンタリティと社会構造も関係しているとし、自らのビジネス経験もベースにして、中国の社会や慣習が「メンツ」を重んじるものであることを解説しています。

 第3章では、中国の経済について述べており、政治システムと経済システム(改革開放システム)が全く噛み合っていない中で起きている現在のバブル経済の危うさを指摘しています。中国は「資産そのものが通貨発行の基準」であるため、常に国家資産を増やさなければ通貨が発行できない仕組みであり、つまり、共産党の保有している資産が多くなればその限度まで通貨を発行できるが、通貨発行が限度に達すると、どこかの資産を奪い取らねば通貨を発行できなくなる―これが尖閣の資源を狙う最大の理由であると指摘しています。
 また、中国の経済は下層社会における地下経済が大きなウェイトを占め、中国共産党も下層民衆の経済は制御できていないと。社会主義といいながら資本主義化し、力のある下層民衆を制御しきれていない中で、現在のバブル化した経済が崩壊した際には、経済システムだけばく、政治システムも崩壊することになると。

 第4章では、中国崩壊はどのようして何時ごろ起こり、その後はどうなるかを述べていますが、下層社会にうずまく不満が、経済成長が限界に達した時に爆発し、下層民衆の反乱によって中国は崩壊するとし、それが起こるのは習近平体制が発足して1年後の2014年であり、その後のことは予測がつかないとしています。
 
 個人的には、尖閣諸島問題については、中国の内部事情と絡めた一つの分析として興味深く読めましたが、中国の地下経済についてはかなり漠たる記述内容という印象でしょうか(どの本を読んでも大体そうなのだが、まだ、富坂聰氏の『中国の地下経済』('10年/文春新書)などの方が具体的)。

 中国の崩壊の過程についても、下層民衆の反乱が起こるとしつつもそう具体的なシナリオが示されているわけでもなく、「2014年」というのも、どちらかと言うと「2014年に起きる可能性もある」といったニュアンスで、その後のことは予測がつかないとなると、ますます歯切れが悪くなり、ブックレビューなどで高い評価を得ている本のようですが、個人的には、やや煽り気味で具体性の乏しい週刊誌記事を読んだような印象でした(富坂氏は元「週刊文春」記者なのだが)。

 因みに、尖閣諸島問題については、元海将補の川村純彦氏(より以前には対潜哨戒機のパイロットでもあった)が尖閣を獲りに来る中国海軍の実力―自衛隊はいかに立ち向かうか』('12年/小学館101新書)で、この問題は資源問題や経済問題などではなく、純粋に軍事問題であるとしており、人によって様々だなあと(元ビジネスマンと元自衛官の立場の違いか)。

尖閣を獲りに来る中国海軍の実力2.jpg 川村氏は、尖閣諸島を巡って今すぐに中国側から戦争を仕掛けてくる可能性は少なく、但し、将来は台湾を領有することで東シナ海、南シナ海を自国の"庭"とし、(原子力潜水艦で移動しながら核ミサイルを発射することを可能にすることで)米国と拮抗する軍事大国にならんがために、中国はいつの日か"尖閣を獲りに来る"と。但し、現時点での"中国海軍の実力"は、航空母艦はウクライナから購入して改修した「遼寧」1隻のみで、艦載機の離発着(所謂"タッチ・アンド・ゴー")の実績も無く(この点について'12年11月に離発着訓練に成功したとの中国海軍の発表があったが)、中国が空母を運用していくには未だかなりの課題が残っているようです。

 そのような現況において中国側から攻撃を仕掛けてくる可能性はまず無いとしながらも、漁民に変装した中国特殊部隊による尖閣諸島占領を契機に日中間に戦争が勃発した際の推移をシュミレーションし、最終的には自衛隊の圧勝で締め括られる結末を描いてみせています(なんだ。自衛隊の宣伝本だったのか)。

 やっぱり、この辺りのレーベルの新書となると、何となく煽らないと本が売れないというのがあるのかなあ。

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謎多き生涯を、多くの証言等から再構築。映画の方はフーヴァーに寄り添っている感じだが...。

大統領たちが恐れた男 上.jpg 大統領たちが恐れた男 下.jpg 大統領たちが恐れた男.jpg  大統領たちが恐れた男 j.エドガー dvd.jpg 
大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯〈上〉 (新潮文庫)』『大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯〈下〉 (新潮文庫)』『大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯』「J・エドガー [DVD]
大統領たちが恐れた男 フーヴァー.jpg 1924年にFBI長官に任命され、1972年に亡くなるまで長官職にとどまったジョン・エドガー・フーヴァー(John Edgar Hoover, 1895 - 1972/享年77)の人と生涯の記録ですが、謎の多い彼の長官時代の実態を、多くの証言と資料から立体的に再構築しているように思われました。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー.jpg 折しも、クリント・イーストウッド監督、レオナルド・ディカプリオ主演によるフーヴァーの伝記映画「J・エドガー」('11年/米)が公開され、この映画に対する評価は割れているそうですが、本書を読む限り、分かっている範囲での事実関係、或いはフーヴァーのセクシュアリティ(同性愛、異性装)など、ほぼ事実とされている事柄については、比較的漏らさずに描かれていたように思います。

・エドガー3.jpg 映画では、フーヴァーの、FBIの機能・権力を整備・改革・拡大していく才気に溢れた青年時代を、マザコンのために女性と上手く付き合うことが出来なかったその性癖と併せて描く共に、ケネディ兄弟に対する脅迫など自分の地位を守るために手段を選ばなかった最盛期、老いて権力にしがみつく亡霊のようになった晩年期が、ほぼ同じような比重で描かれていたように思います。

 しかし本書を読むと、政治家に対する脅しに関しては、映画で中心的に描かれていたロバート・ケネディ司法長官との対立に限らず、フーヴァーがケネディ兄弟の以前から、歴代大統領の私生活のスキャンダルも含めた極秘情報を使っていかに彼らを恫喝していたかが、様々な証言や資料を基に最も詳しく描かれていて、圧倒的なボリュームを占めています。

 例えば、映画では、ニクソンがフーヴァーの恫喝が通じにくい新しいタイプの大統領であったかのように描かれていますが、本書を読むと、ウォーターゲート事件の先駆けとなるニクソンの政敵への盗聴工作について、自らが実行部隊の責任者でありながら、それがホワイトハウス・マターであることの証拠を確保しておいて、後に自分を長官の座から追い落とそうとするニクソンを恫喝するネタにしていたことが分かります。

 さらに、映画では殆ど描かれていなかったマフィアとの黒い交際(フーヴァーは大好きな競馬で勝ち馬をマフィア関係者から事前に教えてもらうなどの優遇を受け、マフィアを取り締まることはFBIの管轄ではないとしていた)や、映画の方では控え目にしか描かれていなかった同性愛癖についても、様々な事実関係や証言を基に、かなり詳しく検証しています。

J・エドガー1.png 自らがFBIの副長官に任じたクライド・トールソンとの同性愛は、映画ではキス・シーンが1回ある程度で、あとは、フーヴァーのトールソンに贈った詩や、彼が異性との交際の意思をトールソンに伝えた際にトールソンが激昂する―といった象徴的な表現に抑えられていますが、二人が老齢に達して両者の肉体関係は終わったものの、その後もフーヴァー自身は若いゲイなどを相手に同性愛に耽り、女装癖も保持し続けていたことが、本書からは窺えます。

 映画の方は、脚本のダスティン・ランス・ブラックが「J・エドガーのような人物を映画に描くとき、その人物の衷心にあるものを読み取ろうとしないなどということは、私の脚本にはありえない」と述べているように、この女装癖についても、彼の最愛の母が亡くなった際に母親の服を纏うというセンチメンタルなトーンで描かれていましたが、これが老醜の男がベビードールを纏って少年愛に耽っているとなると、かなり一般のイメージが違ってくるのでは。

 本書では、彼のこうした性癖についても最後に簡潔に成育歴からみた精神分析学的な分析を行っていますが、それに加えて、彼が有名人のスキャンダルなどを執拗に追いかけた背景には、相手の弱みを握るためだけでなく、そうしたことをはじめ風紀に関する厳しい取り締まりを行うことが、自分の秘密を守ることに繋がると彼は考えたのだとの分析も示しています。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー3.jpg 「犯罪とスキャンダルの摘発」「権力者への恫喝」「自らの性癖の隠蔽」の3つがトライアングルのような関係になっていたことを暗示している分、心理学的にみても本書の方が読みが深いと言え、また、このような人物が国の機関の最高権力者として居続けたことに対する問題提起もされています。

 こうしてみると、映画の方は、むしろフーヴァーに寄り添っている感じですが、とても寄り添えるような人物ではないような...。イーストウッドが撮ると、こうなるのだろうなあ。

 映画でフーヴァーを演じることを切望したというディカプリオの演技は、確かに頑張っているなあという印象はありますが、元々ブルドッグ顔で知られるフーヴァーをディカプリオが演じること自体が視覚的にハードルが高く、晩年期はメイクが濃すぎてゾンビのようで、かなりギャップを感じました(自伝のウソの部分を先に映像にしてしまっている点も気になった。これ、"禁じ手"ではないか)。

J・エドガー2.jpg 本書の原題 "Official and Confidential(公式かつ機密)"は、フーヴァーが収録したファイルの名前で、所謂この「フーヴァー・ファイル」には、有名人に対する恐喝や政治的迫害が記録されているとのことですが、本書にも映画にもあるように、長年にわたって彼の秘書を務めた女性(映画でナオミ・ワッツが演じた、フーヴァーが初めて女性に想いを打ち明け、結婚を断られた相手)が、フーヴァーの死後に、訃報に触れたニクソンがファイル回収のために配下をフーヴァーの屋敷に送り込む前に持ち出し、密かに処分したとのことです。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー dvd2.jpgナオミ・ワッツ.jpg「J・エドガー」●原題:J. EDG「J・エドガー」01.jpgAR●制作年:2011年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/ ブライアン・グレイザー/ロバート・ロレンツ●脚本:ダスティン・ランス・ブラック●撮影:トム・スターン●音楽:クリント・イーストウッド●時間:137分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ ナオミ・ワッツ/アーミー・ハマー/ジョシュ・ルーカス/ジュディ・デンチ/エド・ウェストウィック●日本公開:2012/01●配給/ワーナー・ブラザーズ(評価★★★☆)
ナオミ・ワッツ(1968- )[2012年]

 【1998年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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クルド人問題の入門書として定番的位置付け。映画「路」は重かった。

クルド人 もうひとつの中東問題.jpg        路(みち)04.JPG  ギュネイ.jpg 
クルド人 もうひとつの中東問題 (集英社新書)』 「映画パンフレット 「路(みち)」 監督 ユルマズ・ギュネイ 出演 タルック・アカン/シェリフ・セゼル/ハリル・エルギュン/メラル・オルホンソイ/ネジュメッティン・チュバンオウル/セムラ・ウチャル/ヒクメット・チェリク」 ユルマズ・ギュネイ(Yilmaz Güney 1937-1984/享年47)

川上洋一.bmp 朝日新聞社の中東アフリカ総局長などを務めたベテラン記者の川上洋一氏(本書執筆時は既に新聞社を退職し大学教授)がクルド人問題について書いたもので、'02年の刊行ですが、その後最近まであまりこうしたクルド人にフォーカスした本がそう多く出されていなかったため、クルド人問題の入門書としては定番的位置付けになっているのではないでしょうか。

kurd-map.gif 本書によれば、「祖国なき最大の民」と言われるクルド人の居住地域(クルディスタン)は主にトルコ、イラン、イラクにまたがり、面積はフランス一国にも匹敵、人口は2500万人とも推定され、パレスチナ人約800万を大きく凌ぐとのことです。

地図出典:www.fuzita.org

 クルドの歴史を古代シュメールにまで遡り紹介していますが、クルド人の自治・独立活動が活発化したのは19世紀末以降であって、その後、第一次世界大戦によってオスマン・トルコ帝国が崩壊してから今日まで、国際政治のパワー・ゲームに翻弄されてきた経緯を特に詳しく書いており、この辺りは、根っからの大学教授(といってもどれぐらい研究者がいるのか)よりも、著者のような記者経験者の書くものの方が、より時事的な視点に沿った書き方になって、読む側としては良いのかも。

 オスマン・トルコ時代も「トルコ化」政策などの下で圧迫されていたわけですが、20世紀に入ってからの、トルコ、イラン、イラク三国による翻弄のされ方が哀しい―クルディスタンが紛争多発地域にまたがっているとうのが、ある意味、不幸の源なのでしょうが、それに大国の利権が絡んで、もうグジャグジャという感じ。

 但し、著者の視点は冷静で、幾多の自治・独立活動がの挫折をタ丹念に追うと共に、クルド人自身が、彼らの解放闘争の史上では部族主義になりがちで民族の統一が実現しない、外国依存に陥りやすい、というマイナス要因を持っているとしています。

 今後の見通しも示していますが、こうなると悲観的なものにならざるを得ない―トルコ、イラン、イラクの三国の何れにとってもクルド人国家の独立は脅威であって容認されざるものであり、強いて言えば、クルド寄りの政党、クルド人市長などがいるトルコに若干の光明が見えるといったところでしょうか(国会議員にも入り込んでいるが、これまで出自を明かしていないケースが殆ど。しかし、近年になって自らをクルド人と認める人が増えているようである)。

路(みち)05.JPG 本書を読んで思い出されるのは、クルド人であるユルマズ・ギュネイ(1937-1984)監督の映画「路<みち>」('82年/トルコ・スイス)でした(この人、元は二枚目俳優。反体制作家でもあり、獄中から代理監督を立てて映画を作っていた)。

 映画は、1980年秋、マルマラ海の小島の刑務所から5日間の仮出所を許された5人のクルド人の囚人を追っていますが、その内の一人は、故郷への帰途にある街で、軍による外出禁止令が出てしまっていて足止めを喰い、もう一人は仮出所許可証が見つからずに軍に拘留され、何れもなかなか故郷に辿りつけない。何とか故郷に辿りついた一人は、そこでクルド・ゲリラと憲兵隊との銃撃戦があり、兄が亡くなったこと知って、刑務所には戻らず自らゲリラとなって戦う道を選ぶ―。

 こうした政治的状況と併せて、クルド人の男女観や社会的因習などもが描かれており、フィアンセと再会した一人は、デートを親族から監視されることに嫌気がさして売春宿に駆け込みながら、フィアンセに対しては専制的に服従を要求し、また別の男は、妻の兄を死なせたのは自分に責任があると告白したばかりに村に居れなくなって、最後は妻の弟に射殺されてしまう―。

路(みち)06.JPG 最初の男がやっと故郷に戻ってみると、妻は彼が入獄中に売春した咎で実家に戻され鎖に繋がれていて、しかも、掟により家名を汚した妻を自ら殺さなければならず、彼は妻を背負って山中へ逃げるが、鎖で繋がれていた間パンと水しか与えられていなかった妻は、雪の中で衰弱死する―。

 兄を亡くしゲリラになることを決意した3番目の男には好きな娘がいたが、兄が死に独身の弟がいる場合は、弟は兄嫁と結婚しなければならないというクルドの因習を拒否できない―。

路(みち)07.JPG クルド人の圧政に対する不屈の精神と家族愛、男女愛を描く一方で、クルド人自らが、旧弊な因習により自らを縛っている面もあること如実に示した作品で、本国(クルド社会)内でも評価が割れたのではないかなあ。いや、そもそも、ギュネイ監督の作品は国内上映が禁止されているか(国際的にはカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞)。

 この作品も獄中から指揮して作ったもの。5人の顔が何となく似ているので(クルド人も皆トルコ髭を生やしている)、初めて観た時は途中で誰が誰だったか分からなくなったりもしたけれど、いろいろ考えさせられる重い映画には違いなく、監督の死が惜しまれます(撮影後、仮出所の際に脱走しフランスで映画を仕上げたが、その2年後に癌で死去)。

路 YOL 1982l5.jpgYol(1982).jpg「路<みち>」●原題:YOL●制作年:1982年●制作国:トルコ/スイス●監督・脚本:ユルマズ・ギュネイ●製作:エディ・ヒュプシュミット/K・L・プルディ●演出:シェリフ・ギョレン●撮影:エルドーアン・エンギン●音楽:セバスチャン・アルゴン/ケンダイ●時間:115分●出演:タルク・アカン/シェリフ・セゼル/ハリル・エルギュン/メラル・オルホンソイ/ネジュメッティン・チュバンオウル/セムラ・ウチャル/ヒクメット・チェリク●日本公開:1985/02●配給/フランス映画社●最初に観た場所:有楽町スバル座(85-10-27) (評価★★★★)
Yol(1982)

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興味深い切り口。国家間の経済力格差などについて結構考えさせられる。

世界の国1位と最下位2.jpg世界の国1位と最下位1.jpg
世界の国 1位と最下位――国際情勢の基礎を知ろう (岩波ジュニア新書)

 同じく岩波ジュニア新書にある著者の前著で、宇宙史、地球史、生命進化史、人類進化史を全部繋げて1冊に纏めたとでも言うべき本『人類が生まれるための12の偶然』('09年、監修:松井孝典)が個人的にはスゴく面白かったので、本書にも同様に期待しましたが、そこそこに楽しめた―と言うより、国家間の貧富の格差などについて結構考えさせられたという印象でしょうか。

 面積、人口、GDP、税金、軍事力、石油・天然ガスの生産、輸出、貧困率、食糧自給率、進学率の各項目について、世界で最高の国、最低の国を挙げ、その背景や問題点を説明するとともに、それぞれの項目における日本の位置なども解説していますが、やはりこの著者の持ち味は、こうしたユニークな切り口でしょうか。

 読んでみて大方の予測がつくものもあったけれど、知らなかったこと(特に「最小」の方)、意外だったことも結構あったなあと思った次第で、その幾つかを挙げると―、

 国土面積がバチカン(0.44平方キロ)、モナコ(2平方キロ)に次いで小さい国は、ニューギニア東方中部太平洋の島国ツバル(21平方キロ)、その次はツバルの傍のナウル(26平方キロ)。人口がバチカン(800人)に次いで少ないのも(モナコは除かれ)ツバル(9700人)、ナウル(1万1000人)。更に経済規模(国民総所得=GNI)が一番小さいのも(バチカンも除かれ)ツバル、ナウルの順。

 ツバルは、地球温暖化で水没してしまうのではないかと危惧されていると本書にもありますが、その兆候は今のところないという話も(しかし、国内の最高標高が5mだからなあ)。

ナウル 重量挙げ.jpg 一方ナウルは、ロンドン五輪に出場したその国の重量挙げのイテ・デテナモ選手のことが新聞に出ていたなあ。最重量級で14位に入っていたのは立派(2012年8月9日付朝日新聞)。地下資源の涸渇で経済的に困窮していて、その選手も現在失業中。新聞にはトンガに次ぐ肥満大国ともありました。

イテ・デテナモ(重量挙げ、ナウル)[朝日新聞デジタル:ロンドンオリンピック2012]

 税と社会保障の国民負担率が最も大きな国はアフリカ南部のレソト(51.5%)。続いてフランス(44.5%)、ハンガリー(43.6%)...。GDPに対する国家財政の累積債務比率が最も高いのはジンバブエ(220%)。但し、先進国で断トツ「は日本(170%)。

 世界一の産油国はロシア。但し、埋蔵量ではサウジアラビア、カナダ、イラン、イラクなど7カ国がロシアを上回る。

 一人当たりのGDPが最も少ない最貧国は、アフリカのブルンジ(1万4000円)。因みに最大はルクセンブルグ(930万円)。

 高等教育への進学率が最も高いのはキューバで109%(!!)。高等教育への進学年齢(日本で言えば18歳)を分母とした場合、社会人になってからの進学者が分子に入ってくると、理論上100%を超え、キューバは実際にそうなっている。

 まあ、こうやって国名や数字を見ていくだけでも興味深いですが(数字には年代と共に変化していくものも多くあるが)、本書ではそれぞれの解説において更に突っ込んで、こうした数字の背景にある諸問題を浮き彫りにしてもいます。

 数値データだけなら、『朝日ジュニア学習年鑑』(前身は『少年朝日年鑑』)の「統計編」のようにもう少しグラフを使ったりした方が分かりやすいかもしれませんが、本書はあくまで「調べること、見せること」より、」 1位と最下位」をキーワードとして「読ませること」を主眼としたものと言えるでしょう。

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核心の部分をもう少し具体的に書いて欲しかった気もするが、面白かったことは面白かった。

『中国の地下経済』富坂聰(文春新書).jpg 『中国の地下経済 (文春新書)』    薄煕来2.jpg 薄煕来・重慶市党委員会書記

 著者は「週刊文春」記者時代から中国をずっとテーマとして追っているジャーナリストで、これまで多くのインサイドレポートを著していますが、本書はとりわけ著者が得意とする「地下経済」に的を絞って書かれている点が良かったです。

 「地下経済」というと、麻薬や人身売買が関係するダーティーなイメージを抱きがちですが、本書によれば、中国においては、まっとうに見えるビジネスも実は地下経済とすべて繋がっており、また、中国で暮らしている者であれば、地下経済とまったく関係なく生きている者などいないとのことです。

 中国の私企業、商店、飲食店などは、その設立や設備投資に際しては殆どの場合、銀行が安全な国有企業にしか融資しないため、「地下銀行」を利用するとのことで、これは無尽講のような個人経営の金融機関なのですが、そうした地下銀行が中国では発達しているため、個人でも事業を起こすことができるとのこと。

 国家による人民元の持ち出しや外貨規制等がある中で海外との入送金などが可能なのも、こうした地下銀行がその役割を担っているためで(こうした地下銀行は東南アジアの他の国にもあるけれどね)、中国人が銀座でブランド品を買い漁ることができるのも、この地下マネーのお陰であるようです。
 
 一方、役人には「灰色収入」と呼ばれる賄賂に近い浦収入があり、1万以上あるという地方自治体の出先事務所が、そうした賄賂や官官接待を取り仕切っているとのことで、ある事務所では高級茅台酒を一時に777本も買っていたとのこと(その茅台酒がニセ酒だったことから事件化し、その事実が明るみになった)。

 また、「中華」という1箱58元(754円)の高級タバコを大量に買い込んでいた事務所もあったとのことですが、更にその上をいく「黄鶴楼」という1箱300元(3900円)もする超高級タバコがあって、これらも役人に渡す賄賂として利用され、「回収煙酒」という看板を掲げている商店があって、そこにこうした酒・タバコ持ち込めば、定価の一定率で買い取ってくれるという―つまり、非合法(且つ何ら危険を伴わない)裏マーケットがあるということで、要するに、この場合「高級タバコ」は(パチンコの景品のように循環して)疑似通貨の役割を果たしているわけです。

 こうした裏マーケットを支えているのも「地下経済」であれば、上海万博にパビリオンを出展する企業に融資しているのも、リーマンショック後の金融危機に対して約54兆円の景気対策を打ち出した国家財政を裏支えしているのも地下経済であるということであり、その規模は少なく見積もっても中国のGDPの半分(200兆円)になり(となると、中国のGDPが日本を上回ったのはつい先だってではなく、既に日本の1.5倍の規模であったことになる)、更にもっと大きな数字になるという試算もあるようです。

 こうなると、表経済と裏経済は別々にあるのではなく、中国経済そのものを地下経済が支えているということになり、但し、これらは税金がかからない世界で金の流れであって、中国政府はこれらに課税しようと「灰色収入」を定義し、「地下経済」を表の世界に引っ張り出そうとしているようですが、必ずしも上手くいってはいないようです。

 「地下経済」は、貧富の格差を生む原因となっていますが(実際に、党幹部を除いて最も潤っているのは、ベンチャー起業家ではなくて「央企」と呼ばれるガリバー型国有企業の社員らしい)、一方で貧しい庶民の雇用を支えている面もあり、著者自身、そうした施策の実効性に疑問を呈しています。

薄煕来.jpg 国家による地下経済"表化"施策の象徴とも言えるのが、本書の最後にある、当局によるマフィア掃討作戦であり、重慶市における「掃黒(打黒)」キャンペーンで有名になったのが薄煕来・重慶市党委員会書記ですが、大多数の国民から熱狂的な支持を集める一方で、その強引なやり口には綻びも見られるという―。

 結局、「首相候補」とまで言われた薄煕来は、本書刊行後の今年('12年)4月に失脚しますが(政治局員から除名され、妻には英国人殺害容疑がかけられた)、本書によれば、そのキャンペーン自体が薄自身の発想ではなく、中央の大老が支持したものだったのこと―薄煕来の前任者もトカゲの尻尾切りのように切られており、簿煕来も同じ道を辿ったことを考え合わせると、納得性は高いように思いました。

 中国は今、財政的な意味においてだけでなく、コピー商品やマネーロンダリングに対する諸外国からの批判もあって「地下経済」の"表化"に熱心ですが、中国が本気で地下経済を排除すれば中国経済のパイそのものは縮小し、地下経済でしか生きていけない人の生存域を狭めることになるという、著者の指摘するこのジレンマに、今後この国はどうなっていくのだろうかという思いを強く抱きました。

 表層的なことはかなり具体的に書かれていますが、核心の部分をもう少し具体的に書いて欲しかった気もして、しかしながら、簡単に核心に触れられないからこそ「地下経済」なのだろうなあ(面白かったことは面白かった)。

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イデオロギー至上主義が人間性を踏みにじる様が具体的に描かれている。

私の紅衛兵時代1.jpg私の紅衛兵時代―ある映画監督の青春.jpg          写真集さらば、わが愛/覇王別姫.jpg
私の紅衛兵時代 ある映画監督の青春 (講談社現代新書)』['90年/'06年復刻]写真集『さらば、わが愛覇王別姫』より

陳凱歌(チェン・カイコー).jpg 中国の著名な映画監督チェン・カイコー(陳凱歌、1952年生まれ)が、60年代半ばから70年代初頭の「文化大革命」の嵐の中で過ごした自らの少年時代から青年時代にかけてを記したもので、「文革」というイデオロギー至上主義、毛沢東崇拝が、人々の人間性をいかに踏みにじったか、その凄まじさが、少年だった著者の目を通して具体的に伝わってくる内容です。

紅衛兵.jpg 著者の父親も映画人でしたが、国民党入党歴があったために共産党に拘禁され、一方、当時の共産党員幹部、知識人の子弟の多くがそうしたように、著者自身も「紅衛兵」となり、「毛沢東の良い子」になろうとします(そうしないと身が危険だから)。

 無知な少年少女が続々加入して拡大を続けた紅衛兵は、毛沢東思想を権威として暴走し、かつて恩師や親友だった人達を糾弾する、一方、党は、反国家分子の粛清を続け、"危険思想"を持つ作家を謀殺し、中には自ら命を絶った「烈士」も。

 そしてある日、著者の父親が護送されて自宅に戻りますが、著者は自分の父親を公衆の面前で糾弾せざるを得ない場面を迎え、父を「裏切り」ます。

 共産党ですら統制不可能となった青少年たちは、農村から学ぶ必要があるとして「下放」政策がとられれ、著者自身も'69年から雲南省の山間で2年間農作業に従事しますが、ここも発狂者が出るくらい思想統制は過酷で、但し、著者自身は、様々の経験や自然の中での肉体労働を通して、逞しく生きることを学びます。

 語られる数多くのエピソードは、それらが抑制されたトーンであるだけに、却って1つ1つが物語性を帯びていて、「回想」ということで"物語化"されている面もあるのではないかとも思ったりしましたが、う〜ん、実際あったのだろなあ、この本に書かれているようなことが。

紅いコーリャン [DVD]」チャン・イーモウ(張藝謀)
紅いコーリャン .jpgチャン・イーモウ(張藝謀).jpg 結果的には「農民から学んだ」とも言える著者ですが、17年後に映画撮影のため同地を再訪し、その時撮られたのが監督デビュー作である「黄色い大地」('84年)で、撮影はチャン・イーモウ(張藝謀、1950年生まれ)だったとのこと。

 個人的には、チャン・イーモウは「紅いコーリャン」('87年/中国)を初めて観て('89年)、これは凄い映画であり監督だなあと思いました(この作品でデビューしたコン・リー(鞏俐)も良かった。その次の作品「菊豆<チュイトウ>」('90年/日本・中国)では、不倫の愛に燃える若妻をエロチックに演じているが、この作品も佳作)。 
               
童年往事 時の流れOX.jpg童年往事 時の流れ.png童年往時5.jpg その前月にシネヴィヴァン六本木で観た台湾映画「童年往時 時の流れ」('85年/台湾)は、中国で生まれ、一家とともに台湾へ移住した"アハ"少年の青春を描いたホウ・シャオシェン(侯孝賢、1947年生まれ)監督の自伝的作品でしたが(この後の作品「恋恋風塵」('87年/台湾)で日本でも有名に)、中国本土への望郷の念を抱いたまま亡くなった祖母との最期の別れの場面など、切ないノスタルジーと独特の虚無感が漂う佳作でした。
【映画チラシ】童年往時/「童年往事 時の流れ [DVD]」/侯孝賢 (パンフレット)

坊やの人形.jpg ホウ監督の作品を観たのは、一般公開前にパルコスペースPART3で観た「坊やの人形」('83年/台湾)に続いて2本目で、「坊やの人形」は、サンドイッチマンという顔に化粧をする商売柄(チンドン屋に近い?)、家に帰ってくるや自分の赤ん坊を抱こうとするも、赤ん坊に父親だと認識されず、却って怖がられてしまう若い男の悲喜侯孝賢.jpg劇を描いたもので、渋谷パルコスペース3で上映された台湾の3監督によるオムニバス映画の内の1小品。他の2本も台湾の庶民の日常を描いて、お金こそかかっていませんが、何れもハイレベルの出来でした。
坊やの人形 [DVD]」/侯孝賢

 両監督作とも実力派ならではのものだと思いましたが、同じ中国(または台湾)系でもチャン・イーモウ(張藝謀)とホウ・シャオシェン(侯孝賢)では、「黒澤」と「小津」の違いと言うか(侯孝賢は小津安二郎を尊敬している)、随分違うなあと。

さらば、わが愛~覇王別姫 [DVD]」 /レスリー・チャン
さらば、わが愛/覇王別姫.jpg覇王別姫.jpgレスリー・チャン.gif 一方、チェン・カイコーの名が日本でも広く知られるようになったのは、もっと後の「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/香港)の公開('94年)以降でしょう(これも良かった。妖しい魅力のレスリー・チャン、自殺してしまったなあ)。

 本書も刊行されたのは'90年ですが、その頃はチェン・カイコーの名があまり知られていなかったせいか、一旦絶版になり、「復刊ドットコム」などで復刊要望が集まっていたのが'06年に実際に復刻し、自分自身も復刻版(著者による「復刊のためのあとがき」と訳者によるフィルモグラフィー付)で読んだのが初めてでした。

 「さらば、わが愛/覇王別姫」にも「紅いコーリャン」にも「文革」の影響は色濃く滲んでいますが、前者を監督したチェン・カイコーは早々と米国に移住し(本書はニューヨークで書かれた)、ハリウッドにも進出、後者を監督したチャン・イーモウは、かつては中国本国ではその作品が度々上映禁止になっていたのが、'08年には北京五輪の開会式の演出を任されるなど、それぞれに華々しい活躍ぶりです(体制にとり込まれたとの見方もあるが...)。


「中国問題」の内幕.jpg中国、建国60周年記念式典.jpg 中国は今月('09年10月1日)建国60周年を迎え、しかし今も、共産党の内部では熾烈な権力抗争が続いて(このことは、清水美和氏の『「中国問題」の内幕』('08年/ちくま新書)に詳しい)、一方で、ここのところの世界的な経済危機にも関わらず、高い経済成長率を維持していますが(GDPは間もなく日本を抜いて世界第2位となる)、今や経済界のリーダーとなっている人達の中にも文革や下放を経験した人は多くいるでしょう。記念式典パレードで一際目立っていたのが毛沢東と鄧小平の肖像画で、「改革解放30年」というキャッチコピーは鄧小平への称賛ともとれます(因みに、このパレードの演出を担当したのもチャン・イーモウ)。

 中国人がイデオロギーやスローガンに殉じ易い気質であることを、著者が歴史的な宗教意識の希薄さの点から考察しているのが興味深かったです。
 
シネヴィヴァン六本木.jpg「童年往時/時の流れ」●原題:童年往来事 THE TIME TO LIVE AND THE TIME TO DIE●制作年:1985年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:徐国良(シュ・クオリヤン)●脚本:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/朱天文(ジュー・ティエンウェン)●撮影:李屏賓(リー・ピンビン)●音楽:呉楚楚(ウー・チュチュ)●時間:138分●出演:游安順(ユーアンシュ)/辛樹芬(シン・シューフェン)/田豊(ティェン・フォン)/梅芳(メイ・フアン)●日本公開:1988/12●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(89-01-15)(評価:★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン/1999(平成11)年12月25日閉館
坊やの人形 <HDデジタルリマスター版> [Blu-ray]
坊やの人形 00.jpg坊やの人形 00L.jpg「坊やの人形」(「シャオチの帽子」「りんごの味」)●原題:兒子的大玩具 THE SANDWICHMAN●制作年:1983年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/曹壮祥(ゾン・ジュアンシャン)/萬仁(ワン・レン)●製作:明驥(ミン・ジー)●脚本:呉念眞(ウー・ニェンジェン)●撮影:Chen Kun Hou●原作:ホワン・チュンミン●時間:138分●出演:陳博正(チェン・ボージョン)/楊麗音(ヤン・リーイン)/曽国峯(ゾン・グオフォン)/金鼎(ジン・ディン)/方定台(ファン・ディンタイ)/卓勝利(ジュオ・シャンリー)●日本パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpg公開:1984/10●配給:ぶな企画●最初に観た場所:渋谷・PARCO SPACE PART3(84-06-16)(評価:★★★★)●併映:「少女・少女たち」(カレル・スミーチェク)
PARCO SPACE PART3 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「パルコ・パート3」8階にオープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。


「さらば、わが愛/覇王別姫」(写真集より)/「さらば、わが愛/覇王別姫」中国版ビデオ
『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993) 2.jpgさらばわが愛~覇王別姫.jpg「さらば、わが愛/覇王別姫」●原題:覇王別姫 FAREWELL TO MY CONCUBI●制作年:1993年●制作国:香港●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:徐淋/徐杰/陳凱歌/孫慧婢●脚本:李碧華/盧葦●撮影:顧長衛●音楽:趙季平(ヂャオ・ジーピン)●原作:李碧華(リー・ビーファー)●時間:172分●出演:張國榮(レスリー・チャン)/張豊毅(チャン・フォンイー)/鞏俐(コン・リー)/呂齊(リゥ・ツァイ)/葛優(グォ・ヨウ)/黄斐(ファン・フェイ)/童弟(トン・ディー)/英達(イン・ダー)●日本公開:1994/02●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画(評価:★★★★☆)

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新自由主義政策の弊害を「民営化」という視点で。前半のリアルな着眼点と、後半のアプリオリな視座。

ルポ貧困大国アメリカ.jpg ルポ 貧困大国アメリカ.jpg 『ルポ貧困大国アメリカ (岩波新書 新赤版 1112)』 ['08年]

 '08(平成20)年度・第56回「日本エッセイスト・クラブ賞」受賞作で、'08年上期のベストセラーとなった本('09(平成21)年度・第2回「新書大賞」も受賞)。

obesity_poverty.jpg 前半、第1章で、なぜアメリカの貧困児童に「肥満」児が多いかという問題を取材していて、公立小学校の給食のメニューが出ていますが、これは肥って当然だなあと言う中身。貧困地域ほど学校給食の普及率は高いとのことで、これを供給しているのは巨大ファーストフード・チェーンであり、同じく成人に関しても、貧困家庭へ配給される「フードスタンプ」はマクドナルドの食事チケットであったりして、結果として、肥満の人が州人口に占める比率が高いのは、ルイジアナ、ミシシッピなど低所得者の多い州ということになっているらしいです。

Illustration from geographyalltheway.com

 第3章で取り上げている「医療」の問題も切実で、国民の4人に1人は医療保険に加入しておらず、加えて病院は効率化経営を推し進めており、妊婦が出産したその日に退院させられるようなことが恒常化しているとのこと、こうした状況の背後には、巨大病院チェーンによる医療ビジネスの寡占化があるようです。

 中盤、第4章では、若者の進路が産業構造の変化や経済的事情で狭められている傾向にあることを取り上げていて、ここにつけ込んでいるのが国防総省のリクルーター活動であり、兵役との引き換え条件での学費補助や、第2章で取り上げている「移民」問題とも関係しますが、兵役との交換条件で(それがあれば就職に有利となる)選挙権を不法移民に与えるといったことが行われているとのこと。

 本書執筆のきっかけとなったのは、こうした学費補助の約束などが実態はかなりいい加減なものであることに対する著者の憤りからのようで、後半では、貧困労働者を殆ど詐欺まがいのような勧誘で雇い入れ、「民間人」として戦場に送り込む人材派遣会社のやり口の実態と、実際にイラクに行かされ放射能に汚染されて白血病になったトラック運転手の事例が描かれています。

 全体を通して、9.11以降アメリカ政府が推し進める「新自由主義政策」が生んだ弊害を、「民営化」というキーワードで捉え、ワーキングプアが「民営化された戦争」を支えているという第5章の結論へと導いているようですが、後半にいけばいくほど著者の(「岩波」の)リベラルなイデオロギーが強く出ていて(「あとがき」は特に)、「だから米国政府にとっては、格差社会である方が好都合なのだ」的な決めつけも感じられるのがやや気になりました(本書にある「世界個人情報機関」の職員の言葉がまさにそうであり、こうした見方さえ"結果論"的には成り立つという意味では、そのこと自体を個人的に否定はしないが)。

 著者は9.11テロ遭遇を転機にジャーナリストに転じた人ですが、本書が「○○ジャーナリスト賞」とか「○○ノンフィクション賞」とかでなく(まだこれから受賞する可能性もあるが)、その前に「エッセイスト・クラブ賞」を得たのは、文章の読み易さだけでなく、前半のリアルな着眼点と、後半のアプリオリな視座によるためではないかと。

《読書MEMO》
●「世界個人情報機関」スタッフ、パメラ・ディクソンの言葉
「もはや徴兵制など必要ないのです」「政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出すだけでいいのです。経済的に追いつめられた国民は、黙っていてもイデオロギーのためではなく生活苦から戦争に行ってくれますから。ある者は兵士として、またある者は戦争請負会社の派遣社員として、巨大な利益を生み出す戦争ビジネスを支えてくれるのです。大企業は潤い、政府の中枢にいる人間たちをその資金力でバックアップする。これは国境を超えた巨大なゲームなのです」(177-178p)

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タイトル通りなのは最初だけ。広く問題をとりあげた分、新聞の纏め読みのような印象。

藤村 幸義 『老いはじめた中国』.jpg 『老いはじめた中国 (アスキー新書 049)』 ['08年] 「小皇帝」世代の中国.jpg 青樹明子 『「小皇帝」世代の中国 (新潮新書)』 ['05年]

 第1章ではタイトル通りで、中国という国の人口が日本以上に急ピッチで高齢化していて、それは「一人っ子政策」によるものですが(中国は人口増加が横ばいとなり、少子化問題が国の大きな問題となった現在も、この政策を廃してはいない)、そのことが労働経済や教育にもたらす影響を分析しており、人口の減少が始まるのは日本より少し先ですが、そのスケールが大きいだけに、こっちまで心配になってくるような内容。
 本書にある、一人っ子は「小皇帝」などと呼ばれて大事に育てられたために、甘やかされすぎて「超わがまま」な傾向にあるといった話は、広東衛星ラジオ放送キャスターの青樹明子氏による『「小皇帝」世代の中国』('05年/新潮新書)といった本もあり、既知の人も多いのでは。

三峡ダムの建設地周辺で発生した山崩れ.jpg 第2章では環境問題を扱っていて、三峡ダム建設で120万人の住民が立ち退き移転させられたのはよく知られていることですが、治水上、更にそれを上回る230万人以上もの人を移転させる必要が出てきているとのこと(ダムの水位を下げればこの数字は違ってくるが)、石炭採掘による地盤沈下なども各地に起きていて、ずっと経済最優先でやってきて、二酸化炭素排出量もアメリカを抜いて世界一になり、本当にこの国の環境政策は大丈夫なのかなという気になってきます。
三峡ダムの建設地周辺で発生した山崩れ (写真:㈱大紀元)

 第3章以降は、主に経済問題を扱っていて、こうして見ると、タイトルに沿った内容は、第1章だけではなかったかと...。結果的には、中国が今抱えている問題を俯瞰するうえでは悪くはないのですが、「サーチナ」に連載されたものがベースになっているということもあって、やや新聞やネット記事を纏め読みしているような感じ(範囲が広い分、1つ1つが浅い)。

 先日、スポーツジャーナリストの松瀬学氏のこわ〜い中国スポーツ』('08年/ベースボール・マガジン社新書)という本を読みましたが、かつて『汚れた金メダル-中国ドーピング疑惑を追う』('96年/文藝春秋)という本を書いたりしていた割には、今回は、タイトルから想像されるような当局批判は見られず、最近気になるのは、中国当局のお墨付きをもらった人が中国に関する本を書いているのでは、と思える点です(松瀬氏は北京五輪の取材を予定する一方、最近は、『五輪ボイコット-幻のモスクワ、28年目の証言』('08年/新潮社)という本を上梓していて、矛先をロシアに変えた?)。

 本書の著者についても、元日本経済新聞・北京支局長(現在は拓大教授)で、今も、中国経済学会理事、日中関係学会理事という人らしいですが、そう言えば、随所で当局の政策に懸念を示しながらも(それさえも、中国政府高官などが自らも了解している範囲内に見える)、将来については意外と楽観的に書かれているような。

白岩松(中央电视台主持人).jpg 後半は、'07年の温家宝首相来日に合わせて中国の国営テレビが作った「岩松看日本」 という番組での白岩松というTVキャスターの日本取材記の話が唯一面白かったけれど、この人、渡辺淳一、浜崎あゆみ、村上龍、栗原小巻など中国で人気のある日本人にインタビューをしたのは本書にある通りですが、日本の一般の家庭を訪問してゴミの分別方法を見て、日本人の環境問題意識の高さに仰天している、そうしたことを別の本か何かで読んだのですが、こうした話は本書では省かれているのが物足りない。  
白岩松(中央電視台・主持人)

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アラブ入門書としても読めるが、観光立国を目指す「CEO」的首長や「投資家」王子の存在が興味深い。

アラブの大富豪.jpg 『アラブの大富豪 (新潮新書 251)』 ['08年] ドバイ政府観光.jpg(写真提供)ドバイ政府観光商務局 http://dubaitourism.ae/japan  

 著者はアラビア石油に勤務し、サウジアラビアに長く駐在していた人で、ジェトロのリヤド事務所長を務めた経歴もあり、アラ石を定年退職後に始めたアラブ関係のブログが契機で、経済誌の取材を受けたりし、新潮社から誘いを受け本書の慣行に至ったとのこと。

 サウジアラビアの王家の歴史や政商のルーツ、アラブ人の宗教観とビジネスの関係、今回の産油国の「オイル・ブーム」の特徴や「オイル・マネー」を巡る諸国の動き、更には、石油は枯渇しないのか、なぜ湾岸諸国の多くが旧態の王制ながら政情が比較的安定しているのか、といったことまで書かれていて、コンパクトなアラブ入門書としても読めますが、面白かったのはやはり、特定の「大富豪」に絞って解説した第2章と第3章でした。 

"The Infinity Tower"(330m)-Duabi/'Palm island' - Dubai/'Burj Dubai'(800m)
The Infinity Tower - Duabi.jpgPalm island Dubai.jpg'Burj Dubai'.jpg 第2章では、UAEの1つ、ドバイのムハンマド首長に焦点を当てていて、既に「NHKスペシャル」などでも特集されたりして、「ヤシの木リゾート」や世界一の高層ビル「ブルジュ・ドバイ」をはじめとする建設ラッシュなど、ドバイの観光開発やビジネス投資が凄いことになっているのは知っていましたが、これを牽引しているのが「ドバイ株式会社のCEO」と言われる彼であるとのことで、なかなかのやり手だなあと。
 日本でも、ドバイのことを「世界中のセレブが集う夢のリゾート」と謳った観光ガイドブックが見られるようになった一方で、峯山政宏氏の『地獄のドバイ』('08年/彩図社)などという本も刊行されており、「光」の部分だけではなく、観光立国を目指す裏には「闇」の部分もあると思いますが、それはともかく、個人的には、王族の兄弟が世界各地のリゾートで放蕩し、また競馬やギャンブルで莫大な散財をしたことが、リゾート計画の立案や投機ビジネスに生かされているというのが、ちょっと面白いと思いました。

'The Kingdom Tower' (302 m)-Riyadh
The Kingdom Tower.jpg 第3章では、サウジアラビアのアルワリード王子にスポットを当て、こちらは、王族には珍しい起業家タイプで、米国のウォーレン・バフェット並みの投資家であり(実際、「アラビアのバフェット」と呼ばれている)、世界有数の大富豪でもあるとのこと。彼の率いるキングダム・ホールディングのリャドにある本拠地「キングダム・タワー」は、投資家の憧れの地みたいになっているようです。
 個人的には、彼が起業家を目指した経緯が、王家の傍流にいて、当初は父親が国王になる見込みが無かったためというのも、これまたちょっと面白い(やはり、人間どこかハングリーなところがないと、伸びないのか)。

 著者によれば、こうしたアラブ諸国は、支配者である国王が膨大な冨を国民に分配することを役割としている「レンティア(金利生活)国家」であり、額に汗流して働かなくとも(それでいて、税金は無く、医療や義務教育も無料)国民全体が生活できるというもので、著者自身は王国の将来について、近未来の範囲では楽観的に捉えているようですが、う〜ん、どうなんだろう。本書で取り上げられているUAE各国やカタルなど、人口が小さい国では、そうかも知れないなあ(使い切れずに余ったオイル・マネーはどこに流れているのか、不思議)。

 世界の長者番付に出てこない「大富豪」も沢山いるようで、オイル・マネー潤沢の王族企業は不特定多数の個人や法人から資金を調達する必要がないため、株式上場もしなければ、財務諸表も開示していないとのこと。ビル・ゲイツの資産は殆どマイクロソフト社の彼自身の保有株の時価総額が占めているわけですが、確かにアラブの大富豪王族だと、非公開企業のオーナーである彼らの保有資産額はわからない...。

「ブルジュ・ドバイ」と世界の高層ビルの高さ比べ http://v4vikram.blogspot.com  "Al Burj "(1050m=計画中)-Duabi
Al Burj.jpg「ブルジュ・ドバイ」と世界の高層ビルの高さ比べ.gif 
 
 
 
 

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利権グループの代表としての中国の政治家たち。旧勢力は簡単には死なず。

「中国問題」の内幕.jpg 『「中国問題」の内幕 (ちくま新書 706)』['08年] ポスト胡錦涛.jpg from NHK

 日本の政治家が外交面の交渉力に劣るのは、国内での政治抗争などエネルギーが内向きに働いているためで、そのために中国の政治家のように外交面ではしたたかさを持ち得ないなどといった見方がありますが、本書を読むと、中国の政治家の方が、まるで「十八史略」の続きのような壮絶な権力抗争を続けていて、その上で外交面においてもしたたかさを発揮していることがわかり、その凄まじいエネルギーに改めて感服させられます。

温家宝.jpg 本書は、東京新聞のベテラン記者(元中国総局長)が、主に'05年からから2年余りの中国の時事問題を追ったもので、'06年以降に記事として発表したものを新書に纏めたものですが、対象時期は限定的であるものの、中国の政局の動向を通して、政治家の問題、外交問題、国内問題の本質がそれぞれに浮かび上がるようになっていると思われました。
温家宝

胡錦濤.jpg 冒頭、'07年4月に訪日した温家宝・首相の、国会演説の原稿にあった部分をわざと(?)読み飛ばしてジョークにすり替えるなどしたパーフォーマンスに潜む真意を通して、その政治的したたかさを解明していますが、本書の「主人公」は、中国№1の権力者である胡錦濤・国家主席であり、胡錦濤が前任者・江沢民の一派をいかに弱体化させるか、その腐心の過程を描いているようにも思えました。
胡錦濤

 中国には、胡錦濤の出身母体である「共産主義青年団(共青団)グループ」と、江沢民勢力の残滓であるが経済面で強い影響力を持つ「上海グループ」(上海閥)があり、更に、共産党の長老とその師弟を中心とした「太子党」も依然国の有力な地位を占めていて、収賄や汚職など"腐敗度"のひどい順で言うと、「太子党>上海閥>共青団」となるようですが、要するに、中国の政治家というのは、特定の利益団体の代表であり、新任者が前任者の腐敗を暴き、権力の座からグループごと放逐するということが繰り返され、また、各グループは権力の中枢に自らの代表を送り込むべく、常に虎視眈々と機を窺っているのだなあと。

 そうした政治家の権力争いと平行して、国内には「格差問題」などがあり(内地では依然「人身売買」が横行していて「奴隷制度」があるとの言われ方もしているとのこと)、更に、外交では、「歴史問題」「台湾問題」などがありますが、本書を読むと、日本に対する「歴史問題」は"外交カード"としての要素もあり(確かに江沢民は日本首相の靖国参拝問題などに執着したが、それが国内からの批判を受ける要因にもなった)、中国が本当に固執しているのは「台湾問題」(更には「チベット問題」)であるように思えました。

江沢民.jpg 元々は、あの鄧小平が、「自分の次は江沢民、その次は胡錦濤」と指名したのが現在に至っているわけで、江沢民が胡錦濤への権力移譲を渋ったのも、自分が胡錦濤を選んだわけではないからですが(「上海閥」から「共青団」への権力移行になってしまう)、但し、彼は既に「歴史問題」で求心力を失っていた―。
江沢民

習近平李克強合傳.jpg習近平.jpg習近平夫人の彭麗媛.jpg では、今や胡錦濤の天下かと言うと、'07年10月の中全会(全人代の事前党大会)で、自らが後継に推す"改革派"の李克強より上位に「太子党」を母体とする"既得利益擁護派"の習近平(清華大学卒の理系エリートで、夫人は軍所属の有名歌手・彭麗媛)をもってこざるを得なくなっている―(議会に投票制を採用した結果でもあるが)、本当に、この国の"旧勢力"というのはシブトイ。
習近平と夫人の彭麗媛

 本書はここまでですが、その後、'08年3月にチベット暴動が起き(胡錦濤は'89年のチベット暴動の時にチベットの党書記をしており、武力鎮圧した事で昇進した)、5月には胡錦濤自身が来日して「友好」をアピール、それから1週間もしないうちに四川大地震が起きるなど、中国情勢は目まぐるしい...。
 

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「エコノミック・アニマル」の本来の意味には、素直に「へぇ〜」だったが...。

「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった.jpg 『「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった―誤解と誤訳の近現代史 (新潮新書)』 ['04年]

 一般に日本人を否定的に捉えたものとされる「日本人は12歳の少年」(マッカーサー元帥)、「エコノミック・アニマル」(ブット外相)、「ウサギ小屋」(EC報告書)といった表現の真意はどこにあったかを探り、それが必ずしも日本人の意識やその暮らしぶりを否定的に捉えたものではなかったことを明かした前段(1・2章)部分が、裏づけ調査も綿密で、インパクトもありました。

 マッカーサーの言葉は、同じ敗戦国ドイツとの対比において、民主主義の歴史が長いドイツが国際ルールを破って戦争したのは、"大人"が意図的にやった選択(民主主義を手放したこと)に誤りがあったものであり、ドイツ人の性格自体は"大人"であるゆえに変えようがなく、それに対し、日本での民主主義の歴史は浅く、これまで世界のことも十分に知らなかった日本人は、これからの教化によって変わり得る(成長し得る)といった意味合いだったらしい(これって、褒めているのかどうかはやや微妙ではないか)。

パキスタン元外相アリー・ブット(後に首相)と娘のベナジル・ブット(後に首相)(AFP).jpg 表題にある、当時のパキスタンの外相アリー・ブット氏が日本人記者との話の中で使った"Economic Animal "の"Animal "は、例えば「政治」を得手とする人物を評して"Political Animal"というように(学生時代に勉学が振るわなかったのに大物政治家となったチャーチルがそう呼ばれた)、「日本人はこと経済活動にかけては大変な才能がある」という「褒め言葉」だったとのことで、これには素直に「へぇ〜」という感じ(これが日本人批判と誤解されたためか、彼が政争に破れた時に日本人からあまり同情されなかったというのは気の毒)。「ウサギ小屋」というのが、フランスでは、都市型の集合住宅の一形態を指すにすぎないもので、貶める意味を持たないということも初めて知りました。

 パキスタン元外相アリー・ブット(後に首相となり絞首刑に)と娘のベナジル・ブット(後に首相となり暗殺される)(AFP)

 ただ、中盤は、漱石の英国留学時代の話に自分の英国留学の思い出を重ねたりしてエッセイ風であり、終盤は、ダイアナ妃やブッシュ親子の英語の用い方など、ややトリビアルな話になり、テーマも、国同士のコミュニケーション・ギャップという観点から、単なる「英語表現」の問題に移った感じ。

 後者のテーマが1冊を貫いていると見れば、サブタイトルの「誤解と誤訳」には違わぬ内容ではあるかも知れないけれど、何となく本としての纏まりに欠くように思ったら、別々に雑誌などに発表したものを纏めて1冊にしていたのでした。
 「日本人は12歳」、「エコノミック・アニマル」、「ウサギ小屋」に関しては、'93年と'95年に雑誌「文藝春秋」に発表されたもので、著者(前バンクーバー総領事)は、随分前から言ってたんだなあ、このことを―(この部分だけでも、一応の読む価値はあると思うが)。

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さらっと読める現代「インド入門」。多民族・多宗教・多言語国家であることを再認識。

インドビジネス.jpg 『インドビジネス―驚異の潜在力 (祥伝社新書 (050))』 島田 卓 (インド・ビジネス・センター代表取締役社長).jpg 島田 卓(たかし) 氏

india it.jpg 本書によれば、11億の人口を抱えるインドは、その平均年齢がたいへん若く、毎年1200万人の新たな労働人口が生じているとのこと(高齢化の進む日本とは違いすぎ!)、しかも、彼らの多くが英語を能くし、数学に強く、IT(情報技術)力が高い―。

 60年代から始まった米国へのインド人の頭脳流出が、80年代からの米シリコンバレーのIT革命の原動力になったことは知られていますが、その頭脳がインドに還流し、今、インドITの発展に貢献しているそうで、教育熱も盛んで、インド工科大学は、「IIT(インド工科大学)に落ちたらMIT(マサチューセッツ工科大学)へ行け」と言われるぐらい難関だそうです(中国にも、清華大学という理科系分野の殆ど全てにおいて国内最高のレベルを占める特異な大学があるが、国内需要と教育熱が難易度を高めるという点で似ていると思った)。          

 本書は、インドでのビジネスを経験した著者(現在、インド・ビジネス・センター代表取締役社長)が、インドビジネス・コンサルタントの立場から、インドの政治・経済・産業の現況やインド人のビジネスの考え方を示したもので、このタイトルで〈日経文庫〉などから刊行されていれば、経済主体の解説で終わってしまっていたかも知れませんが、一般向け新書として刊行された本書では、歴史・民族・文化から社会・宗教・慣習等まで、幅広い話題をとり上げ、インドというものを多角的に捉える助けになるとともに、読み物としても読みやすいものになっています。

 とりわけ、前半部分のインド人のビジネス場面で見られる国民的特徴を紹介した部分が面白く、インド人が日本人と接するときは、最初は低姿勢で従順だが、実は彼らは大変プライドが高く、また論議好きで(インドでは「沈黙は金」ではなく「死」であるとのこと)理屈っぽいというのが元々のところであるようで、第一印象で甘く見ると後で痛い目に逢う?

 多少、著者個人の体験から来る主観もあるでしょうが、本書は後半に行けば行くほどデータブック的になってくるだけに、この前半部分の、やや放言的?なトーンは、読者を引きつけ、読後にインド及びインド人についての何らかイメージを読者に持ってもらう意図としては悪くないと思い、日本はインドのソフトパワー(人材)への投資(企業でのインターン受け入れなど)をすべきだなどの提言が盛り込まれているのもいいです。

インド紙幣.jpg 本書を読んで、インドという大国の今後の台頭を予感させられましたが、この国が多民族・多宗教・多言語国家であることも再認識させられたことの1つで、言語で言えば、地方言語を含めると300近くあるとのこと、国会議員が議場では同時通訳のヘッドフォンをしていて、紙幣には17の言語で金額が表記されているというのにはビックリしました。

 インドは映画大国でもありますが、サタジット・レイの「大地のうた」3部作みたいな教養映画は少数で、殆どがミュジカール映画とのこと。日本でもヒットした「踊るマハラジャ」なんかまだストーリーが凝っている方で、2時間ぶっ続けで踊っているシーンばかりのもあるようです(一応その中に、典型的な勧善懲悪ストーリーなどが組み込まれていたりはするが)。

                                                                    アイシュワリヤ・ラーイ
アイシュワリヤ・ラーイ2.jpgアイシュワリヤ・ラーイ.jpg でも、女優は美人が多く、本書でも紹介されているミス・ワールドになったアイシュワリヤ・ラーイというのは、いつまでもキレイ(ニックネームはアイシュ。LUX Super Rich のCMに出ていた。ダンスも上手い)。出演している映画はともかく、インドの自信とプライドを体現しているような女優だと思った次第です。この他にもインドには、シュリヤー・サラン、ヴァルシャといっシュリヤー・サラン.bmpヴァルシャ.bmpた美人女優が数多くいて、この辺りは"ボリウッド"だけでなく"ハリウッド"にも進出しています。

シュリヤー・サラン/ヴァルシャ
 
 
 
 

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複雑な問題をわかり易く説明することのプロが、時間をかけて書いた本だけのことはあった。

まんが パレスチナ問題.jpg 『まんが パレスチナ問題 (講談社現代新書)』 ['05年]    sadat.jpg アラファト.jpg

 旧約聖書の時代から現代まで続くユダヤ民族の苦難とパレスチナ難民が今抱える問題、両者の対立を軸とした中東問題全般について、その宗教の違いや民族を定義しているものは何かということについての確認したうえで、複雑な紛争問題の歴史的変遷を追ったもので、周辺諸国や列強がどのようなかたちでパレスチナ問題に関与したか、それに対しイスラエルやパレスチナはどうしたかなどがよくわかります。

 最初のうちは、マンガ(と言うより、イラスト)がイマイチであるとか、解説が要約され過ぎているとか、地図の一部があまり見やすくないとか、心の中でブツブツ言いながら読んでいましたが、結局、読み出すと一気に読めてしまい、振り返ってみれば、確かに史実説明が短い文章で切られているため因果関係が見えにくくなってしまい、歴史のダイナミズムに欠ける部分はあるものの、全体としては、わかり易く書かれた本であったという印象です。

 ユダヤの少年ニッシムとパレスチナの少年アリによるガイドという形式をとっていて、(会話体の割には教科書的な調子の記述傾向も一部見らるものの)双方のパレスチナ問題に関する歴史的事件に対する見解の違いを浮き彫りにする一方で、ちょっと工夫されたエンディングも用意されています。

 著者は、広告代理店の出身で、教育ビデオの制作などにも携わった経験の持ち主ですが、複雑な問題をわかり易く説明することにかけてのプロなわけで、そのプロが、2年半もの時間をかけて書いた本、というだけのことはありました。

 読み終えて、ロンドンのロスチャイルドのユダヤ人国家建国の際の政治的影響力の大きさや、'48年、'56年、'67年、'73年の4度の中東戦争の経緯などについて新たに知る部分が多かったのと、サダト・元エジプト大統領に対する評価がよりプラスに転じる一方で、アラファト・元PLO議長に対する評価のマイナス度が大きくなりました。


 要所ごとに、「十戒」「クレオパトラ」「チャップリンの独裁者」「アラビアのロレンス」「夜と霧」「屋根の上のバイオリン弾き」「栄光への脱出」といった関連する映画がイラストで紹介されているのも馴染み易かったです。

屋根の上のバイオリン弾き.jpg屋根の上のバイオリン弾き2.jpg 「屋根の上のバイオリン弾き」('71年)は、もともと60年代にブロードウェイ・ミュージカルとして成功を収めたもので、ウクライナ地方の小さな村で牛乳屋を営むユダヤ人テヴィエの夫婦とその5人の娘の家族の物語ですが、時代背景としてロシア革命前夜の徐々に強まるユダヤ人迫害の動きがあり、終盤でこの家族たちにも国外追放が命じられる―。

Topol in Fiddler On the Roof
『屋根の上のバイオリン弾き』(1971).jpg 映画もミュージカル映画として作られていて、テーマ曲のバイオリン独奏はアイザック・スターン。ラストの「サンライズ・サンセット」もいい。

 主演のトポルはイスラエルの俳優で、舞台で既にテヴィエ役をやっていたので板についていますが、森繁の舞台を先に見た感じでは、やはりこの作品は映画より舞台向きではないかという気がしました("幕間"というものが無い映画で3時間は結構長い)。

Katharine Ross in Voyage Of The Damned
Katharine Ross Voyage Of The Damned.jpgさすらいの航海(VOYAGE OF THE DAMNED).jpg 事件的にはややマイナーなためか紹介されていませんが、第2次大戦前夜、ドイツから亡命を希望するユダヤ人937名を乗せた客船が第二の故郷を求めて旅する実話の映画化「さすらいの航海」('76年/英)なども、ユダヤ人の流浪を象徴する映画だったと思います。

 船に乗っているのは比較的裕福なユダヤ人たちですが、ナチスVoyage of the Damned1.jpgの策略で国を追い出されアメリカ大陸に向かったものの、キューバ、米国で入港拒否をされ(ナチス側もそれを予測し、ユダヤ人差別はナチスだけではないことを世界にアピールするためわざと出航させた)、結局また大西洋を逆行するという先の見えない悲劇に見舞われます。

Voyage of the Damned2.jpg この映画はユダヤ人資本で作られたもので、マックス・フォン・シドーの船長役以下、オスカー・ヴェルナーとフェイ・ダナウェイの夫婦役、ネヘミア・ペルソフ、マリア・シェルの夫婦役、オーソン・ウェルズやジェームズ・メイソンなど、キャストは豪華絢爛。今思うと、フェイ・ダVOYAGE OF THE DAMNED Faye Dunaway.jpgナウェイのような大物女優からリン・フレデリック、キャサリン・ロスのようなアイドル女優まで(キャサリン・ロスは今回は両親を養うために娼婦をしている娘の役だが)、よく揃えたなあと。さすがユダヤ人資本で作られた作品。但し、グランドホテル形式での人物描写であるため、どうしても1人1人の印象が弱くならざるを得なかったという映画的な弱点も見られたように思います。

FIDDLER ON THE ROOF 1971.png『屋根の上のバイオリン弾き』(1971)2.jpg「屋根の上のバイオリン弾き」●原題:FIDDLER ON THE ROOF●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督・製作:ノーマン・ジュイスン●脚本:ジョセフ・スタイン●撮影:オズワルド・モリス●音楽:ジョン・ウィリアムス●原作:ショーレム・アレイヘム「牛乳屋テヴィエ」●時間:179分●出演:トポル/ノーマ・クレイン/ロザリンド・ハリス/スカラ座.jpg新宿スカラ座22.jpgミシェル・マーシュ/モリー・ピコン/レナード・フレイ/マイケル・グレイザー/ニーバ・スモール/レイモンド・ラヴロック/ハワード・ゴーニー/ヴァーノン・ドブチェフ●日本公開:1971/12●配給:ユナイト●最初に新宿スカラ座.jpg観た場所:新宿ビレッジ2(88-11-23)(評価:★★★☆)

新宿ビレッジ1・2 新宿3丁目「新宿レインボービル」B1(新宿スカラ座・新宿ビレッジ1・2→新宿スカラ1・2・3) 2007(平成19)年2月8日閉館

 

吉祥寺スカラ座・吉祥寺オデヲン座・吉祥寺セントラル・吉祥寺東宝
吉祥寺東亜.jpg「さすらいの航海」●原題:VOYAGE OF THE DAMNED●制作年:1976年●制作国:イギリス●監督・製作:スチュアート・ローゼンバーグ●撮影:オズワルド・モリス●音楽:ラロ・シフリン●原作:ゴードン・トマス/さすらいの航海 リン・フレデリック4.jpgマックス・モーガン・ウィッツ「絶望の航海」●時間:179分●出演:フェイ・ダナウェイ/オスカー・ヴェルナー/リン・フレデリック/マックス・フォン・シドー/マルコム・マクダウェル/リー・グラント/キャサリン・ロス/オーソン・ウェルズさすらいの航海 ウェルズ2.jpg/ジェームズ・メイソン吉祥寺セントラル・吉祥寺スカラ座.jpg/マリア・シェル/ネヘミア・ペルソフ/ホセ・フェラー/フェルナンド・レイ●日本公開:1977/08●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:吉祥寺スカラ座 (77-12-24)(評価:★★★)●併映:「シビルの部屋」(ネリー・カフラン) 
吉祥寺スカラ座 1954(昭和29)年、吉祥寺駅東口付近に「吉祥寺オデヲン座」オープン。1978(昭和53)年10月、吉祥寺オデヲン座跡に竣工の吉祥寺東亜会館3階にオープン(5階「吉祥寺セントラル」、2階「吉祥寺アカデミー」(後に「吉祥寺アカデミー東宝」→「吉祥寺東宝」)、B1「吉祥寺松竹オデヲン」(後に「吉祥寺松竹」→「吉祥寺オデヲン座」)。 2012(平成24)年1月21日、同会館内の全4つの映画館を「吉祥寺オデヲン」と改称、同年8月31日、地下の前・吉祥寺オデヲン座(旧・吉祥寺松竹)閉館。 

吉祥寺東亜会館
吉祥寺オデオン.jpg 吉祥寺オデヲン.jpg

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夫のピート・ハミル氏と現場ではぐれた...! 9.11テロとその後の1週間をリポート。

 目撃アメリカ崩壊.jpg目撃 アメリカ崩壊 (文春新書)』['01年]

目撃 アメリカ崩壊2.jpg ニューヨーク・マンハッタン、世界貿易センター(WTC)ビルから数百メートルのところに住むフリージャーナリストである著者が、自らが体験した9.11テロとその後の1週間を、事件直後から継続的に日本に配信したメールなどを交え、1日ごとに振り返ってリポートしたもので、本書自体も事件1ヵ月後に脱稿し、その年11月には新書として早々と出版されたものであっただけに当時としては生々しかったです。

 事件直後、WTC付近で仕事をしていた夫のピート・ハミル氏の安否を気遣い現場に直行、そこでWTC南タワーの崩壊に出くわし、避難する最中に夫とはぐれてしまうなど、その舞い上がりぶりは、著者の、週刊文春の「USA通信」での大統領選レポートなどとはまた違った高揚したトーンで、緊迫感がよく伝わってきます(身近にこんな大事件が起きれば、しかも現場で次々とビルから身を投げる人々を目撃すれば、混乱しない方がどうかしているが)。

 1日1章でまとめられていて、各章の冒頭にロウアーマンハッタンの地図が挿入されているため地理的状況が把握しやすく、著者の住むキャナルストリート以南が立ち入り禁止区域になり、事件後何日かは、出かけると自宅に戻れなくなる可能性があったとのこと。
 こうした規制下での生活、友人の安否情報、食料調達状況などの身辺の話や、事件直後、国民の前から姿をくらましたブッシュ、現場へ早々に出向いたジュリアーニ、ヒラリー・クリントンといったTVニュースを通しての政治家の動きとそれに対する国民の反応など、書かれていることはジャーナリストというよりも地元ニューヨーカーとしての視点に近い感じです(「ニューズウィーク日本版」ニューヨーク支局長などのキャリアがある著者だが、基本的には、この人、"じっくり型"ジャーナリスト?)。
 クリントン政権以来、テロの危機に鈍感になってしまっていたアメリカ国民の能天気を批判していますが、今後の国際情勢については、アメリカに報復戦争の口実を与えてしまったとして、貧困に喘ぐアフガニスタンの国情悪化を懸念する夫のピート・ハミル氏の憂いなどを通して、著者自身はこれから考え始めるといった段階である観もあります。

 後半は、むしろ、北タワー83階から1時間15分かけて脱出した人の話などの方が印象に残りました。
 北タワーは航空機突入から崩壊まで1時間40分持ちましたが、15分後に航空機が突っ込んだ南タワーの方は、その後50分ぐらい崩壊したので、この人が南タワーにいたら助からなかったかも。

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イラクの政治・宗教・経済・市民生活などを知る上ではわかりやすい入門書。

イラク.jpg 『イラク (光文社新書)』〔'03年〕 タリバン.jpg 『タリバン (光文社新書 (003))』〔'01年〕

 イラク戦争開戦('03年)直前のイラクの政治・宗教・経済・市民生活などを知る上では、わかりやすく書かれた本で、ペルシャ帝国来のイラクの歴史についても触れられていて、今読んでも充分参考になります。

 著者の田中宇(たなか さかい)氏は元共同通信者記者でフリーの国際ジャーナリスト、同じ光文社新書では、創刊ラインアップの1冊として『タリバン』を「9.11同時多発テロ」の翌月に上梓していますが(内容的にはタリバン自体よりもアフガン情勢が主)、本書『イラク』の刊行は、イラク戦争におけるアメリカの爆撃開始直前でした(実際、戦争を予想して本書は書かれている)。

 田中氏は、ウェブ上の海外サイトで情報収集し、自らのニュースサイトに記事を書き、更に解説メールの配信を行うことを中心に活動していますが、『仕組まれた9.11』('02年/PHP研究所)など、ネット情報のどの部分を拾ってきたの?といった内容の本もあり、但し、この『タリバン』と『イラク』については現地取材をしていて、とりわけ、インターネットとは逆の"地を這うような"目線で書かれた部分が多い本書『イラク』は、日本人の知らないイラクの人々の一面が描かれていて興味深いものでした。

 小学校の取材では、独裁政権下でスローガンを連呼する小学生が何となくラテン的だったり、クルド人の生徒が拍手で紹介されるようなヤラセっぽい演出があったり、また、バクダッド市内には、日本の秋葉原や六本木とよく似た雰囲気の街があり、そこで働く若手事業家は...といった具合で、この辺りの淡々としたルポルタージュ感覚がいい。

 僅か2週間の滞在で、しかも、当局が用意した"取材ツアー"の枠内での取材が多かったようですが、劣化ウラン弾に汚染された街なども取材して、白血病・癌などの子供が多く入院する病院とその近くにある子供専用墓地が痛ましいです。

 政情分析についても、湾岸戦争後の経済制裁でフセイン政権への求心力が強まり、その後の制裁緩和で求心力が失われたとか、「戦争が近い」という状況がアメリカ側・イラク側両方の政権にとって好都合なものであるといった分析は、あながちハズレではないのでは(あまり強調しすぎると「仕組まれた9.11」のような論調になってしまうのだろうけれど)。

 前段の歴史解説の部分で、中近東の宗教的対峙が、オスマン帝国を解体しようとした西欧列強に起因することはおおよそ知識としてありましたが、「シーア派」の教義は被征服国ペルシャの宗教をコーランに当て嵌めたもので、偶像崇拝的な面があるというのは初めて知り、聖地の廟を訪れる人たちの様は「浅草詣」っぽく、廟の金具を触ったり額をくっつけたりするのは、柱に触ると縁起がいいという「善光寺詣」に似ているのが、個人的には興味深かったです。

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「無脳症」の赤ん坊の写真に衝撃。劣化ウラン弾による核被害の深刻さが重く伝わってくる。

イラク湾岸戦争の子どもたち 劣化ウラン弾は何をもたらしたか.jpg      湾岸戦争の子供たち (森住卓写真集) - 英語.gif       森住 卓.bmp  森住 卓 氏(1951年生まれ)
イラク・湾岸戦争の子どもたち―劣化ウラン弾は何をもたらしたか』/英語版 『湾岸戦争の子供たち』

 フォトジャーナリストである著者が、'98年から'01年にかけてイラクを4回訪れ取材したものを、写真集として纏めたもので、タイトル通り殆どがイラクの子どもたちを撮った写真ですが、当時の経済制裁下の貧困の中、何とか明るく生きようとしている子どもたちの逞しさが伝わってくる一方、栄養失調や白血病のため入院・治療生活を送っている子たちの写真も多く含まれていて心が痛みます。

米原 万里(よねはらまり)エッセイスト・日ロ同時通訳.jpg 本書のことは、ロシア語通訳の故・米原万里氏が以前に書評で取り上げていて知りました。
 著者にとっては、旧ソ連の核実験場周辺に住む人々の生活と核による被害状況を5年間に渡り取材した『セミパラチンスク-草原の民・核汚染の50年』('99年/高文研)を上梓した(多分、この本で米原氏は著者の仕事に関心を寄せたのだろう)次の仕事で、最初はイラクは危険な国ということで敬遠していたようですが、「湾岸戦争」に従軍した米兵を親として生まれてきた子に癌や先天性障害が見られたという話は以前から聞いていたとのことで、イラクで医療支援をしている伊藤政子氏の講演会でイラクの核被害状況の話を聞き、いてもたってもいられなくなってイラクへ入ったとのことで、結局この仕事も4年間に及ぶ長期取材となりました。

イラク・湾岸戦争の子どもたち.jpg 写真は殆どがモノクローム、ルポルタージュとしてのトーンも抑制されていて、それだけに却って、現地の核被害の深刻さが重く伝わって来ます。

 「湾岸戦争」時に使われた劣化ウラン弾により、イラクの大地には広島に投下された原爆の1万4千倍から3万6千倍の放射能がばらまかれたとのこと、実際、栄養失調と併せて、劣化ウラン弾の影響による白血病や癌で亡くなる子が非常に多いということで、病院で、生まれたばかりの健康な赤ん坊が眠る隣で、「無脳症」で生まれ、迫り来る死と戦っている赤ん坊の写真にはショックを受けました。

 当時('02年初頭)イラクを「悪の枢軸」の1つと見做し、攻撃をちらつかせる米国ブッシュ大統領に対し、「この写真を見た上で、それでもなおかつ爆撃を強行するとしたら...私は言うべき言葉を知らない」と著者は結んでいますが、1年後には本当に戦争を始めてしまった...。しかも、その「イラク戦争」においても、劣化ウラン弾が使用されたという...。

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生きようとする子供たちの表情を捉える。原爆症の子供の写真が痛々しかった。

イラク戦争下の子供たち.jpg     「イラク戦争」の30日.jpg      豊田 直巳.bmp 豊田 直巳 氏(1956年生まれ)
写真集・イラク戦争下の子供たち』〔'04年〕『フォト・ルポルタージュ「イラク戦争」の30日―私の見たバグダッド』〔'03年〕

 ルポルタージュもこなす戦場カメラマンの写真集で、先に『フォト・ルポルタージュ「イラク戦争」の30日-私の見たバグダッド』('03年/七つ森書館)を読みましたが、多くの取材陣がそうであったようにビザ取得に苦労したようで、米英軍によるイラクへの空爆が開始された日にイラクへ入りしているものの、バグダッド中心部には達しておらず、バグダッドに入ってからも、これまた多くの取材陣がそうであったように、情報省の報道規制で振り回されている感じ。

バグダッド101日.jpg アスネ・セイエルスタッド『バグダッド101日』('07年/イースト・プレス)を読むと、「30日」と「101日」の差を感じるというか...、彼女の方は空爆の始まる3カ月前から市内の様々な人を取材し、情報省を頼みにせず、"取材ツアー"なるものにも価値を置かず独自取材をし(その結果、情報省から睨まれている)、現地に残った唯一の北欧人ジャーナリストとして頑張っている―、それに比べると、「バー・宮嶋」("不肖・宮嶋"こと宮嶋茂樹氏主催?)に日本人同士集っているのは、ちょっとヌルい感じも(戦時下のバグダッドにいるということだけでも大変なことなのだろうけれど)。

 むしろ、写真集である本書『イラク戦争下の子供たち』の方がストレートに訴えるものがあり、これまでも、イラク、アフガン、パレスチナで子供たちを撮り続けているだけのことはありますが、戦時下または内戦の混乱の中でも、何とか一縷の希望のもとに明るく生きようとする子供たちの表情を、見事にファインダーに捉えています。

 そうした写真の中で、原爆症の子供の写真はとりわけ痛々しく思われ、『「イラク戦争」の30日』にも原爆症の若い女性のモノクローム写真が掲載されていて、その女性は間もなく亡くなったとのことでしたが、現地の原爆症の多くは湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾(アメリカは使用を否定している)の"後遺症"だと思われ、今回の戦闘でもさらなる劣化ウラン弾がイラク全土に打ち込まれていると見られています(本書には、イラクの原子力施設の近くで被曝したと思われる少年の写真が掲載されている)。

 本書は、八木久美子・東京外語大学教授(著書『イスラム教徒へのまなざし』)、ジャーナリストの渡辺悟氏(著書『クルド、イラク、窮屈な日々』)ら識者が、近年刊行されたアジア関係の本のベスト5に挙げています。

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この国の実態への関心の喚起を促す。その後のアフガニスタンは...。

アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ.jpg 『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』〔'01年〕

mohsen.gifハナ・マフマルバフ.jpg イランの作家であり映画「カンダハール(Kandahar)」('01年)の監督でもある著者(息子サミラ、娘ハナも映画監督)が'01年に発表したもので、当時のタリバン政権下のアフガニスタンの絶望的な国情を淡々と伝えるとともに、世界に向け、この国の置かれた厳しい状況、過酷な実態への関心の喚起を促しています。
Mohsen Makhmalbaf/Hana Makhmalbaf

 娘ハナ・マフマルバフは「ブッダは恥辱のあまり崩れ落ちた(Buddha Collapsed Out of Shame)」('07年)というストーリー物の映画を撮っていますが(まだ19歳だが実力ありそう)、本書の内容は巨視的なレポートに近いものです。

 アフガニスタンには2000万人の飢えた国民がいて、この20〜30年間で人口の10%が殺されたり飢餓により死に、国民の30%は飢餓や政情不安のため難民になっているとのこと(難民の数は、パレスチナの全人口に匹敵するという)。
 アフガニスタンの主たる産業はなんと麻薬産業であり、世界のヘロインの80%はアフガニスタンで生産されているが、その他には目立った産業も無く、イラクなど中東諸国のような産油国でもなく、従って、ソ連のアフガン撤退後は、パキスタンの傀儡であるタリバン政権に対してアメリカなども干渉してこない、つまり、国が貧しすぎて、経済的動機が働かないということなのだなあと。

 ところが、日本で本書の翻訳が行われている最中に、この国は一気に世界の注目を集めることになる―。アルカイーダがニューヨークなどで「9.11」同時多発テロが起こし、訳者が後書きを書いている頃にはアメリカが報復としてアフガンに侵攻、本書が書店に並ぶ頃には、カブールが陥落し、タリバン政権は崩壊するという事態に。
 本書によれば、当時アフガニスタンは飢饉により更に100万人が餓死寸前の危機にあり、訳者は、米軍の空爆により、それが現実のものとなるのではと危惧しています。

 新政府発足後も、タリバンの反攻などにより国内の混乱は続き、軍閥が資金調達目的でケシ栽培を進めるため、麻薬産業がGDPの半分を占めるまでになっているという報告もあります。
 本書からは、諸外国の介入に対する期待感も感じられるのですが、望んでいたのは人道的介入であったはずで、現状、タリバンが政権を掌握していた時以上の"麻薬生産国"になってしまっているとすれば、それは著者にとっても誤算ではなかっただろうかと。

 尚、本書のタイトルについては、あまりに詩的であり、バーミヤンの仏像破壊はタリバンによるイスラム諸国へのアピールの所為であるのに(回教は偶像崇拝を禁じる)、その責任を韜晦するものだという批判もありますが、この行為によりタリバンが仏教国のみならず回教国からも非難されることになったことはよく知られていることであり、個人的には、アフガニスタンに対する人道支援の為されていないことを訴える意味で効果的なタイトルだと思いました。
 本書では、仏像の破壊を世界中の人が嘆くのに、ひどい飢饉によって死んだ100万人のアフガン人に対しては、誰も悲しみを表明しないことを問題としているのです。

Hana's "Buddha Collapsed out of Shame"
Buddha-Collapsed-out-of-Shame1.jpg

《読書MEMO》
 「私はヘラートの町のはずれで、二万人もの男女や子どもが飢えで死んでいくのを目のあたりにした。彼らはもはや歩く気力もなく、皆が地面に倒れて、ただ死を待つだけだった。この大量死の原因は、アフガニスタンの最近の旱魃である。同じ日に、国連の難民高等弁務官である日本人女性もこの二万人のもとを訪れ、世界は彼らのために手を尽くすと約束した。三ヵ月後、イランのラジオで、この国連難民高等弁務官の女性が、アフガニスタン中で餓死に直面している人々の数は100万人だと言うのを私は聞いた。 
 ついに私は、仏像は、誰が破壊したのでもないという結論に達した。仏像は、恥辱の為に崩れ落ちたのだ。アフガニスタンの虐げられた人びとに対し世界がここまで無関心であることを恥じ、自らの偉大さなど何の足しにもならないと知って砕けたのだ。」(26-27p)

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「観察し、報告し、書く」という姿勢が生み出す文学的"厚み"。

バグダッド101日.jpg バグダッド101日.jpg         Asne Seierstad.jpg Asne Seierstad (Folha Online)
バグダッド101日―早朝5時30分、米空軍の猛爆撃が始まった』(2007/10 イースト・プレス)

A Hundred and One Days on Iraq.gif  1970年生まれの著者は、90年代から世界の戦地を取材してきたノルウェー人フリージャーナリストで、タリバン政権崩壊後のアフガニスタンを取材した前著『カブールの本屋』('05年/イースト・プレス)は、世界的なベストセラーになっています。

 '03年1月に米国との交戦が濃厚となったイラクに10日間ビザで単身入国し、フセインの息子ウダイと掛け合って滞在延長許可を得、その後いったん国外退去になりながらも、「人間の盾」に紛れて再入国しようとしたりし、結局、高官に金銭を渡して、多くのジャーナリストが引き揚げるのと入れ違いに再入国を果たし、遂に3月、バグダッドで開戦を迎え、北欧人唯一のジャーナリストとして北欧諸国にレポートを送り続けます。
 本書は当時の回想記ですが、空爆や地上戦の最中にTVレポートを送り続ける場面などは、非常に緊迫感があります。彼女もまた、米軍の砲撃を受けたパレスチナ・ホテルにいた1人でした。

 こうして見ると、あたかも「深刻な衝突」やスクープを追う命知らずの戦場記者の典型のようですが、実際には、同業者の死に震える生身の人間であり、通訳の女性(フセインの信奉者)を思いやる優しさもあります。
 彼女を突き動かしているのは「観察し、報告し、書く」というジャーナリスト精神であり、開戦前にしろ、空爆直後にしろ、街中に出て、高飛びを目論む商人から戦火で子どもを失った親まで様々な人に話を聞き、その言葉を再現していて、(端的に言えば、直接見聞きしたもの以外は書かないという姿勢により)まるで戦争文学を読むような"厚み"効果を生じています(引用されている当時の彼女の配信記事にも、その姿勢が貫かれている)。

 とりわけ優れていると思われたのは、開戦前3カ月の市井の人々に対する根気強い取材から、当時のバグダッド市民の様々な考え方や気持ちが浮き彫りにされている点で、最も哀しかったのは、取材相手が永遠に言葉を発することがない、大人や子どもたちの遺体が横たわる遺体安置所の取材場面でした。

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「●岩波新書」の インデックッスへ

朴正煕政権圧制の闇をリアルタイムでレポート。韓国政治って不思議だ。

韓国からの通信.jpg 『韓国からの通信―1972.11~1974.6 (岩波新書 青版 905)』〔'74年〕 韓国からの通信〈続.jpg 『韓国からの通信〈続(1974.7-1975.6)〉 (1975年)

朴正煕(パク・チョンヒ).jpg 韓国の朴正煕政権(1963‐79年)は'72年に戒厳令を発してから急速に独裁色を強めましたが、本書は、その思想・言論統制が敷かれた闇の時代において、政府の弾圧に苦しみながらも抵抗を続ける学生や知識人の状況をつぶさに伝えたレポートです。
朴正煕(パク・チョンヒ)

 正編は'72年11月から'74年6月までを追っていて、'73年1月の「金大中(キム・デジュン)氏拉致事件」が1つの"ヤマ"になっています。

金鐘泌(キム・ジョンピル).jpg '06年に韓国・盧武鉉大統領は、田中角栄首相(当時)と金鍾泌(キム・ジョンピル)首相(当時)との間で交わされた事件の政治決着を図る機密文書を発表('73年11月、金鐘泌当時国務総理(左)が、東京の首相官邸で田中角栄首相に会っている。金総理は金大中拉致事件に関連し、朴正煕大統領の謝罪親書を持って陳謝使節として日本を訪問した)、'07年には、韓国政府の「過去事件の真相究明委員会」の報告書で、KCIAが組織的にかかわった犯行だったことを認めていますが、これらのことは既に本書において推察済みのことでした(しかし、金鍾泌というのは、朴政権の立役者でありながら、後の金大中政権でも総理になっている。朴正煕の娘も政治家として活躍していて、この辺りが韓国政治のよくわからないところで、韓国政治って不思議だ)。

 朴正煕は、自己の権力の座を守るために"北傀(北朝鮮)の脅威"というものを最大限に利用した政治家であり、そのために多くの学生や言論人が、"北のスパイ"として拷問されたり処刑されたりしていく様が、本書ではリアルタイムで生々しく伝えられており、これでも経済成長を遂げている近代国家なのかと震撼せざるを得ませんでした。

 翌年刊行された続編は'74年7月から'75年6月までを追っていて、'74年8月の「文世光事件」以降、朴政権の学生運動家らに対する弾圧はさらに強まり、拷問や処刑がますます繰り返されるようになりますが、朴正煕の生育歴(厳格な父の下でスパルタ教育を受けた)などにも"T・K生"の考察は及んでいて、「ファシズム統治のためには社会不安が必要である」(「続」224p)とありますが、彼自身が完璧主義から来る一種の不安神経症状態だったのではないかという気がします(本書を読んだとき、こうした独裁者は暗殺されるしかないなあと思ったが、結局その通りになったものの"謎"の多い結末で、朴政権の負の遺産も続く何代かの大統領に引き継がれてしまった)。

池明観〔チ・ミョンクワン〕氏.jpg 本シリーズは第4部まで続き、後に"T・K生"が自分であることを明かした池明観(チ・ミョンクワン)氏によると、書かれていることの80%以上は事実であると今でも信じている」とのことです。
 多分に伝聞情報に頼らざるを得なかったのと、この本自体が1つの反政権運動的目的を持ったプロジェクトの産物であるとすれば、記述のすべてに正確さを求めるのは土台無理なのかも知れず、だからと言って、本書を通じて隣国がつい30年前ぐらい前はどんな政治状況にあったかに思いを馳せることが無意味なわけでも無く、このレポートを過去の遺物であるとして葬り去る必要もないと思います。

南ベトナム政治犯の証言』川本邦衛編、『韓国からの通信』『第三・韓国からの通信』T・K生、「世界」編集部編
『韓国からの通信』『第三・韓国からの通信』T・K生、「世界」編集部編、 『南ベトナム政治犯の証言』川本邦衛編.jpg

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国策的に殺人マシーンに改造された米兵たち。"べトコン"と比べて野蛮なのはどちらか。

ベトナム帰還兵の証言.jpg  タイガーフォース.jpg    南ベトナム政治犯の証言.jpg       ディア・ハンター.jpg
ベトナム帰還兵の証言 (1973年) (岩波新書)』 『タイガーフォース』('07年)『南ベトナム政治犯の証言 (1974年) (岩波新書)』 映画「ディア・ハンター [DVD]

vvawa.gif '71年に「戦争に反対するベトナム帰還兵の会」(VVAW=Vietnam Veterans Against the War, Inc.)が、インドシナでアメリカが実施した政策を暴露するための集会をデトロイト開き、それに参加した100人以上の帰還兵が、自由発砲、濃密爆撃、捕虜虐待、部落殲滅などの犯罪的戦術行為が"上官命令"により行われたことを証言したもので、本書はその1000ページ近い証言記録を、在野の現代アメリカ政治研究者・睦井三郎氏(故人)が抜粋・編訳したもの。

 最近では、当時の南ベトナム駐留米軍の空挺部隊小隊が、非武装の村を焼き払い、半年間で数百人の住民を殺戮したことが約35年ぶりに明るみにされ、『タイガーフォース』('07年/WAVE出版)という本になって話題を呼びましたが、本書『ベトナム帰還兵の証言』によれば、ソンミ村の虐殺程度のことはいくらでもあったらしいです。
 本書で語られている米兵による村落の殲滅や農地の破壊、捕虜の虐待や組織的な強姦などは凄まじいものがあり、語っている兵士たちも、自分たちがどうしてそうした残虐行為の"下手人"となり得たのか、半ば整理がつかないでいる様子が窺えます。 

 彼らの証言を通して、戦争犯罪そのものである"上官命令"は、アメリカの"政策"として設定されていたことが浮き彫りになり、そのために兵士たちは、戦場に赴く前から"殺人マシーン"となるよう訓練されていたことがわかります(冒頭の兵士たちが可愛がっていた兎を、戦場に行く前に上官が惨殺する話は実に怖い)。

 人種差別意識、女性差別意識も徹底的に吹き込まれ、普通の生活を送っていた若者や道徳的なキリスト教徒が、ベトナムの地では、捕虜を生きたまま嬲り殺し、女子供を強姦することに無感覚になる、こうした"人間の非人間化"を政策として行うアメリカという国は、本当に恐ろしい側面を持つと言えますが、こうした集会に参加して証言をする帰還兵たちは、自分たちがしたことに罪の意識を抱き、過去から逃避しようとしないだけ、"アメリカの良心"の存続に一縷の希望を抱かせる存在なのかも知れません。

ベトナム戦争-サイゴン・ソウル・東京.jpg 本書は'73年7月刊行ですが、岩波新書で同じくベトナム戦争について書かれたものでは、共同通信記者の亀山旭氏によるベトナム戦争-サイゴン・ソウル・東京』('72年5月刊)川本邦衛氏編集の『南ベトナム政治犯の証言』('74年6月刊)などがあり、前者は、政治的観点からベトナム戦争の経緯を追いながらも、やはり、米兵の民間人に対する残虐行為をとりあげ、後者は、捕虜となった北ベトナム兵士(民間人を多く含む)の証言を集めていて、「虎の檻」と呼ばれたコンソン島の監獄などで捕虜たちが受けた拷問や残虐行為が生々しく証言されています(亀山旭『ベトナム戦争』は、取材で激戦地にさしかかった際の記者の恐怖感が伝わってくる。この取材には作家の開高健が同行している)。 亀山 旭『ベトナム戦争―サイゴン・ソウル・東京 (岩波新書)』 (1972/05)

 『ベトナム帰還兵の証言』の中には、"べトコン"の捕虜となったアメリカ人の証言もありますが、彼らはアメリカ人捕虜もベトナム人(政府軍側)捕虜も丁寧に扱ったということで(マイケル・チミノ監督の「ディア・ハンター」('78年)では、極めて野蛮な人種のように描かれていたが、往々にしてハリウッド映画には政治的プロパガンダが込められる)、一方、アメリカ兵は、"べトコン"を捕らえると、ヘリコプターで搬送中にヘリから突き落としたりしていたという証言もあります(野蛮なのはどっちだ!)。
ディア・ハンター テアトル東京.jpg映画「ディア・ハンター」.png 映画「ディア・ハンター」そのものは、アカデミー賞を受賞した一方で、以上のような観点から「ベトナム戦争を不当に正当化している」との批判もあります(橋本勝氏などもそうであり、その著書『映画の絵本』によれば、この映画を全く評価していない)。しかしながら、解放戦線(映画内では「ベトコン」)の捕虜となったことがトラウマとなり、精神を病んでいく男を演じたクリストファー・ウォーケンの演技には、鬼気迫るものがあったように思います(癌を病んでいたジョン・カザール(享年42)の遺作でもあった)。
 
ディア・ハンター2.jpg「ディア・ハンター」●原題:THE DEER HUNTER●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・チミノ●製作:マイケル・チミノ/バリー・スパイキングス/マイケル・ディーリー/ジョン・リヴェラル●脚本:デリック・ウォッシュバーン●撮影:ヴィルモス・スィグモンドsマイケル・チミノed.jpg●音楽:スタンリー・マイヤーズ●時間:183分●出演:ロバート・デ・ニーロ/クリストファー・ウォーケン/ジョン・カザール/ジョン・サヴェージ/メリル・ストリープ/チャック・アスペグラン/ジョージ・ズンザ/ピエール・セグイ/ルタニア・アルダ●日本公開:1979/03●配給:ユニバーサル映画●最初に観た場所:銀座・テアトル東京(80-02-15)(評価:★★★★)

 マイケル・チミノ&ロバート・デ・ニーロ

テアトル東京 1955 七年目の浮気3.jpgテアトル東京2.jpg

テアトル東京内.jpg
テアトル東京
1955(昭和30)年11月1日オープン (杮落とし上映:「七年目の浮気」)
1981(昭和56)年10月31日閉館 (最終上映」マイケル・チミノ監督「天国の門」)

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イスラーム原理主義とグローバル化する資本主義の共通項を指摘。

文明の内なる衝突.bmp                      サミュエル・ハンチントン 文明の衝突.jpg
文明の内なる衝突―テロ後の世界を考える (NHKブックス)』['02年] /サミュエル・ハンチントン『文明の衝突

9-11_Statue_of_Liberty_and_WTC_fire.jpg 社会学者である著者が、「イスラーム原理主義者」による9・11テロ後に、テロを前にしたときの社会哲学の無力を悟り、またこれが社会哲学の試金石となるであろうという思いで書き下ろした本で、テロとそれに対するアメリカの反攻に内在する思想的な問題を、「文明の衝突」というサミュエル・ハンチントンの概念を援用して読み説くとともに(ハンチントンは冷戦時代にこの概念を提唱したのだが)、テロがもたらした社会環境の閉塞状況に対しての「解決」の道(可能性)を著者なりに考察したもの。
September 11, 2001 attacks

 イスラーム原理主義とグローバル化する資本主義の対立を、その背後にある共通項で捉えているのが大きな特徴ですが、9・11テロ後のアメリカのナショナリズムの高揚を見ると、それほど突飛な着眼点とは思えず、むしろ受け入れられやすいのでは。
 世界貿易センタービルで亡くなった消防士でも国家のために「殉死」した英雄ということになっているけれど、彼らはまさか直後にビルごと倒壊するとは思ってなくて救出活動に向かったわけです。

 '04年に亡くなったスーザン・ソンタグの、「アメリカ人は臆病である。テロリストは身体ごとビルにぶつかっていったのに、アメリカ軍は遠くからミサイルを撃つだけだ」というコメントが多くのアメリカ人の怒りを買った背景に、アメリカ人のテロリストに対する憧憬とコンプレックスがあるというのはなかなか穿った見方のように思えました。

 映画「インデペンデンス・デイ」が引き合いに出されていますが、「アルマゲドン」なんかもそうかも(それぞれ、'96年、'98年の作品で、共に9・11テロ以前に作られたものだが)。

アルマゲドン1.jpgインデペンデンス・デイ1.jpg 「インデペンデンス・デイ」は、本国では独立記念日の週に公開されたそうですが、昔(ベトナム戦争)の飛行機乗りが最新鋭のジェット戦闘機を操縦できるものかなあと疑念を抱かざるを得ず、大統領(湾岸戦争の戦闘パイロットだったという設定)が飛行編隊の先頭を切って巨大UFOに戦いを臨むと言うあり得ない設定(9・11の時は、ブッシュ大統領は緊急避難して、暫く居所を明らかにしていなかったではないか)。

 一方、「アルマゲドン」で石油掘削員が立向かう相手は巨大UFOではなく巨大隕石(小惑星)ですが、新型スペースシャトルの名前が「インディペンデンス号 」と「フリーダム号」で、この映画も独立記念日の週に公開されています(個人的には、ブルース・ウィリス演じる"部下想いのリーダー"が、出立する前に政府にいろいろ要求を突きつけるシーンが、やたら臭いこともあって好きになれなかった。実際、ブルース・ウィリスはこの作品で、「ゴールデンラズベリー賞」の"最低男優賞"と「スティンカーズ最悪映画賞」の"最悪の主演男優賞"をダブル受賞している)。
 

1dollar_C.jpg 著者は、イスラームやキリスト教の中にある資本主義原理を指摘する一方、「資本主義は徹底的に宗教的な現象である」と見ており、そう捉えると、確かにいろいろなものが見えてくるなあという感じがしました(確かに1ドル札の裏にピラミッドの絵がある なあ、と改めてビックリ)。
 
 "赦し"を前提とした「無償の贈与」という著者の「解決」案は甘っちょろいととられるかも知れませんが、レヴィ=ストロースの贈与論などに準拠しての考察であり、最後にある「羞恥」というものついての考察も(著者はこれを「無償の贈与」の前提条件として定位しようとしているようだが)、イランの映画監督マフマルバフの、「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない。恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」という言葉の意味がこのことでわかり、個人的には興味深いものでした。

「インデペンデンス・デイ」2.jpgインデペンデンス・デイ.jpg「インデペンデンス・デイ」●原題:INDEPENDENCE DAY●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ローランド・エメリッヒ●脚本:ディーン・デヴリン/ローランド・エメリッヒ●撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ●音楽:デヴィッド・アーノルド●時間:145分●出演:者 ジェフ・ゴールドブラム/ビル・プルマン/ウィル・スミス/ランディ・クエイド●日本公開:1996/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(96-12-27) (評価:★★☆)

アルマゲドン09.jpgアルマゲドン.jpg「アルマゲドン」●原題:ARMAGEDDON●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・ベイ●製作:ジェリー・ブラッカイマー/ゲイル・アン・ハード/マイケル・ベイ●脚本:ジョナサン・ヘンズリー/J・J・エイブラムス●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:トレヴァー・ラビン●時間:150分●出演:ブルース・ウィリス/ベン・アフレック/リヴ・タイラー●日本公開:1998/12●配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン(評価:★★)

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マフィアの示威行為が狙いともとれる本だが、生々しいだけに興味深く読めた。

アメリカを葬った男2.jpg アメリカ.jpg  『JFK』(1991).jpg 『ダラスの熱い日』(1973).jpg
アメリカを葬った男―マフィア激白!ケネディ兄弟、モンロー死の真相』〔'92年〕/『アメリカを葬った男』光文社文庫/映画「JFK [DVD]」(1991)/映画「ダラスの熱い日 [VHS]」(1973).

アメリカを葬った男 原著.jpgSam Giancana.jpg マフィアの大ボスだったサム・ジアンカーナが、自分はマリリン・モンローの死とケネディ兄弟の暗殺に深く関わったと語っていたのを、実の弟チャック・ジアンカーナが事件から30年近い時を経て本にしたもので、読んでビックリの内容で、本国でもかなり話題になりました。
Sam Giancana
"Double Cross: The Story of the Man Who Controlled America"

 「アメリアを葬った男」とは、訳者の落合信彦氏が考えたのかピッタリのタイトルだと思いますが、原題は"Double Cross(裏切り)"で、ケネディ兄弟の暗殺は、移民系の面倒を見てきたマフィアに対するケネディ家の仕打ちや、大統領選の裏工作でマフィアが協力したにも関わらずマフィア一掃作戦を政策展開したケネディ兄弟の "裏切り"行為、に対する報復だったということのようです。

 但し、その他にも、ジョンソンもニクソンも絡んでいたといった政治ネタや、CIAがケネディ排除への関与に際してマフィアと共同歩調をとったとかいう話など、驚かされる一方で、他のケネディ事件の関連書籍でも述べられているような事柄も多く、だからこそもっともらしく思えてしまうのかもしれないけれど、本書の記述の一部に対しては眉唾モノとの評価もあるようです(ただ一般には、「CIA、FBIとマフィアが手先となった政府内部の犯行説」というのは根強いが)。

 確かに「大ボス一代記」のようにもなっているところから、本自体マフィアの示威行為ともとれますが、「マフィアと政府はコインの表裏だと」いう著者の言葉にはやはり凄味があり、モンローを"殺害"した場面は、かなりのリアリティがありました。
 マフィアがジョンとロバートのケネディ兄弟に"女性"を仲介したことは事実らしいし(モンローもその1人と考えられ、さらにケネディ大統領とジアンカーナは同じ愛人を"共有"していたことも後に明らかになっている)、本書によれば、ジョンとロバートは同時期にモンローの部屋に出入りしていた...と。

JFK ポスター.jpgJFK.jpgJFK―ケネディ暗殺犯を追え (ハヤカワ文庫NF).jpg 生々しいけれども、それだけについつい引き込まれてしまい、本書とほぼ同時期に訳出された、オリバー・ストーン監督の映画「JFK」('91年/米)の原作ジム・ギャリソン『JFK-ケネディ暗殺犯を追え』('92年/ハヤカワ文庫)よりもかなり「面白く」読めました。
「JFK」ポスター /「JFK [DVD]」/ジム・ギャリソン『JFK―ケネディ暗殺犯を追え (ハヤカワ文庫NF)
 ジム・ギャリソンは、事件当時ルイジアナの地方検事だった人で、偶然ケネディ暗殺に関係しているらしい男を知り、調査を開始するも、その男が不審死を遂げ、そのため彼の仲間だったクレイ・ショウを裁判にかけるというもので(これが有名な「クレイ・ショウを裁判」)、結局彼はこの裁判に敗れるのですが、その後、彼の追及した方向は間違っていなかったことが明らかになっていて、彼は、ケネディ暗殺事件をCIAなどによるクーデター(ベトナム戦争継続派から見てケネディは邪魔だった)により殺されたのだと結論づけています。
 原作はドキュメントであり、結構地味な感じですが、ジム・ギャリソンを主人公に据えた映画の方は面白かった―。
 オリバー・ストーン監督ってその辺り上手いなあと思いますが、その作り方の上手さに虚構が入り込む余地が大いにあるのもこの人の特徴で、司法解剖の場面で検視医の白衣が血に染まっている...なんてことはなかったと後で医師が言ったりしてるそうな。                                    
Executive Action.jpg"EXECUTIVE ACTION"(「ダラスの熱い日」)/「ダラスの熱い日」予告

ダラスの熱い日 - Executive Action.jpg『ダラスの熱い日』(1973)2.jpgダラスの熱い日パンフレット.jpg むしろ、この映画を観て思ったのは、ずっと以前、ケネディ暗殺後10年足らずの後に作られたデビッド・ミラー監督、バート・ランカスター、ロバート・ライアン主演の「ダラスの熱い日(EXECUTIVE ACTION)」('73年/米)で(脚本は「ジョニーは戦場に行った」のダルトン・トランボが担当)、既にしっかり、CIA陰謀説を打ち出しています。
 CIAのスナイパー達が狙撃訓練をする場面から始まり、それを指揮している元CIA高官をバート・ランカスターが演じているほか、ロバート・ライアンが暗殺計画を中心になって進める軍人を演じており、それに右翼の退役将校やテキサスの石油王などが絡むという展開。因みに、私生活では、バート・ランカスターは反戦主義者として知られ、ロバート・ライアンもハト派のリベラリストでした(だから、こうした作品に出演しているわけだが)。

Men Who Killed Kennedy 1988.jpgThe Men Who Killed Kennedy.jpg 当時は1つのフィクションとして観ていましたが、その後に出てきた諸説に照らすと―例えばEngland's Central Independent Televisionが製作したTVドキュメンタリー「Men Who Killed Kennedy 」('88年/英)や、英国エクスボースト・フィルム製作、ゴドレイ&クレーム監督によるチャンネル4のTV番組作品JFK・暗殺の真相(The Day The DrThe-Day-The-Dream-Died-001.jpgeam Died、'88年/英)などを見ると―オズワルドを犯人に仕立て上げる過程なども含め、かなり真相(と言っても未だに解明されているわけではないのだが)に近いところをいっていたのではないかと思いました(映画「JFK」とも重なる部分も多い)。

 これらと比べると、本書『アメリカを葬った男』は、この事件にマフィアが及ぼした影響をアピールしている感じはやはりします(マフィアにとって何らかのメリットがなければ、こんなに身内のことをベラベラ語らないのでは)。でも、面白かった。 

JFK 1991.jpg「JFK」●原題:JFK●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:オリバー・ストーン●製作:A・キットマン・ホー/オリバー・ストーン●脚本:オリバー・ストーン/ザカリー・スクラー●撮影:ロバート・リチャードソン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:ジム・ギャリソンほか●時間:57分●出演:ケビン・コスナー/トミー・リー・ジョーンズ/ジョー・ペシ/シシー・スペイセク/ゲイリー・オールトコン/ドナルド・サザーランド/ジャック・レモン/ウォルター・マッソー●日本公開:1992/03●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

ダラスの熱い日1.jpgダラスの熱い日パンフレット2.jpg「ダラスの熱い日」●原題:EXECUTIVE ACTION●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:デビッド・ミラー●製作:エドワード・ルイス●脚色:ダルトン・トランボ●撮影:ロバート・ステッドマン●音楽:ランディ・エデルマン ●原案:ドナルド・フリードほか●時間:91分●出演:バート・ランカスター/ロバート・ライアン/ウィル・ギア/ギルバート・グリーン/ジョン・アンダーソン●日本公開:1974/01●配給:ヘラルド映画配給●最初に観た場所:池袋テアトルダイヤ(77-12-24)(評価:★★★☆)●併映:「ジャッカルの日」(フレッド・ジンネマン)/「合衆国最後の日」(ロバート・アルドリッチ)/「鷲は舞いおりた」(ジョン・スタージェス) 「ダラスの熱い日」パンフレット(右)

 「JFK 暗殺の真相」.jpg「JFK 暗殺の真相」●原題:THE DAY THE DREAM DIED●制作年:1988年●制作国:イギリス●監督:ゴドレイ&クレーム●製作:エクスボースト・フィルム●音楽:バスター・フィールド/デビッド・ラザロ●時間:45分●日本公開(ビデオ発売):1992/07●配給(発売元):バップ(評価:★★★☆) 「JFK 暗殺の真相」(日本語吹替版ビデオ[絶版・DVD未発売])

 【1997年文庫化[光文社文庫]】

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トップは自分の考えと同意見の参謀の声しか聞かず。

『司令官たち』.jpg 司令官たち .jpg   大統領の陰謀100_.jpg大統領の陰謀 [Blu-ray]
司令官たち―湾岸戦争突入にいたる"決断"のプロセス』['91年/文藝春秋]

大統領の陰謀.jpg大統領の陰謀 ニクソンを追いつめた300日.jpg 『大統領の陰謀』(映画にもなった)で、カール・バーンスタインとともにニクソンを追いつめて名を馳せたワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードによる湾岸戦争の〈軍事上の意思決定〉の記録-と言っThe Commanders_.jpgても、'88年11月のジョージ・ブッシュ大統領就任から'91年1月の湾岸戦争突入までの話ですが、同年3月の停戦協定の2ヵ月後には本国出版されていて、短期間に(しかも戦争中に)よくこれだけの証言をまとめたなあと驚かされます。

Colin Powell.gif  戦争に対して様々な考えを持った司令官たちの、彼らの会話や心理を再現する構成になっていて、小説のように面白く読めてしまいますが、大統領制とは言え、戦争がごく少数の人間の考えで実施に移されることも思い知らされ、その意味ではゾッとします。

Colin Powell

 パパ・ブッシュは、直下のチェイニー国防長官や慎重派のコリン・パウエルよりも、好戦的なスコウクロフトの主戦論になびいた―。トップが自分の考えと同意見の参謀の声しか聞かず、逆に反対派の参謀には事前相談もしなくなるというのはどこにでもあることなのだけど、この場合その結果が〈戦争〉突入ということになるわけで、穏やかではありません。

 個人的に興味深かったのは、「砂漠の嵐」作戦の指揮官シュワルツコフが、部下が悪い話を持ってきただけでその部下に怒鳴り散らすタイプだったのに対し、彼の部下のパウエルは、自分の部下の話をじっくり聞くタイプだったということで、戦後、両者の地位の上下は逆転しています。

Colin Luther Powell.jpg とは言え本書は、コリン・パウエルをカッコ良く書き過ぎている傾向もあり、一軍人としてキャリアを全うするという彼の内心の決意が描かれているものの、実際には彼はその後、国務長官という政治的ポストに就いています("初の黒人大統領"待望の過熱ぶりを本書によって少し冷まそうとした?)。 

Condoleezza Rice2.jpg また、本書で主戦派として描かれているスコウクロフトは、イラク戦争ではパウエルと協調し、息子の方のジョージ・ブッシュ(父親と同じ名前)の強硬姿勢にブレーキをかける立場に回っています。しかし、息子ブッシュは、パウエルの後任として自身が国務長官に指名したコンドリーザ・ライスの"攻撃的現実主義"になびいた―。最初から戦争するつもりでタカ派の彼女を登用したともとれますが...。
 

大統領の陰謀1.jpg 因みに、映画「大統領の陰謀」('76年/米)は、以前にテレビで観たのを最近またBS放送で再見したのですが(カール・バーンスタイン役のダスティン・ホフマンもボブ・ウッドワード役のロバート・レッドフォードも若い!)、複雑なウォーターゲート事件の全体像をかなり端折って、事件が明るみになる端緒となった共和党工作員の民主党本部への不法侵入の部分だけを取り上げており、侵入した5人組の工作員は誰かということと、それが分らないと事件を記事として公表できず、そのうち新聞社への政治的圧力も強まってきて、取材のために残された時間は限られているがあと1人がわからない―という、その辺りの葛藤、鬩ぎ合いの1点に絞って作られているように思いました。それなりに面白く、再度見入ってしまったこの作品の監督は、後に「推定無罪」などを撮るアラン・J・パクラで、やはりこの監督は、政治系ではなく、この頃からサスペンス系だと。「ディープ・スロート」という2人の記者に情報提供した人物が、後に政府高官だと分った、その上で観るとまた興味深いです。

「大統領の陰謀」●原題:All THE PRESIDENT'S MEN●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:アラン・J・パクラ ●製作:ウォルター・コブレンツ●脚本:ウィリアム・ゴールドマン●撮影:ゴードン・ウィリス●音楽:デヴィッド・シャイア●時間:138分●出演:ダスティン・ホフマン/ロバート・レッドフォード/ジャック・ウォーデン/マーティン・バルサム/ジェイソン・ロバーズ/ジェーン・アレクサンダー/ハル・ホルブルック●日本公開:1976/08●配給:ワーナーブラザーズ (評価:★★★★)

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米軍同行取材に対する批判もあるが、多くのカラー写真が訴えるものはやはり重い。

カラー版  ベトナム 戦争と平和.gifカラー版 ベトナム 戦争と平和.jpg  『ベトナム戦争と平和―カラー版』 岩波新書 〔05年〕

 ベトナム戦争で新聞社所属のカメラマンとして活動した著者に対して、たとえ著者が心情的に解放戦線寄りだったとしても、米軍に同行し、目の前でその米軍に虫けらのように殺されるベトナムの兵士や民間人を撮影していることに対する批判的な見方はあるかも知れませんが、イラク戦争にしてもそうですが、こうした取材スタイルになるのはある程度やむを得ないのではないでしょうか(本書には"北側"からの取材も一部ありますが)。
 
 故沢田教一のように、被写体となった家族を自ら救い、さらにその写真がピュリツァー賞を受賞すると、戦時中に関わらずその家族を訪問し、賞金の一部を渡したというスゴイ人もいましたが、本書は本書なりに、多くのカラー写真が訴えるものは重いと思いました。

 どうも個人的には、1973年の和平協定で米軍が撤退した時の印象が強いのですが、本書はサイゴン陥落はその2年後だったことを思い出させました。戦争終結直前に死亡した政府軍兵士の墓も哀しい。政府や軍の幹部がとっくに海外に逃亡した頃に亡くなっているのです。その後もカンボジア、中国との武力紛争を繰り返し、国力が衰退を極めたにも関わらず、よくこの国は立ち直ったなあという感想を持ちました。ドイモイ政策もありますが、戦時においても爆弾の跡を灌漑用の溜池として利用するような、国民のバイタリティによるところが大きいのではないでしょうか。

 現在のべトナムの姿もあり、経済振興と人々の明るい表情の一方で、枯葉剤の影響を受けて生まれてきた子どもの写真などが、戦争の後遺症の大きさを感じさせます。今やハノイなどは観光ブームですが、ここを訪れるアメリカの観光客は、ただ異国情緒だけ満喫して帰って行くのでしょうか。ベトナムという国の観光収入だけ考えれば、それでいいのだろうけれど...。

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短時間で、中東関連ニュースに対する理解を深めたい人にピッタリ。

中東 迷走の百年史.jpg  『中東 迷走の百年史』 新潮新書 〔04年〕

 高校の世界史の授業というのは、どうしても西洋史中心で、さらには、近現代史をやる頃には受験期に入っているので、最後は殆ど駆け足で終ってしまう―、その結果「中東の近現代史」などは、習った記憶すら無いという人も多いのではないでしょうか。

 ところが今や、海外から伝わる政治的紛争やテロのニュースには、中東乃至はイスラム過激派に関するものが非常に多いという状況で、今までの経緯が分からないから、関心もイマイチ湧かない、ということになりがちかも。
 でも、そうした背景を少しでも知って、ニュースに対する理解を深めたいという人に、本書はピッタリです。
 200ページ前後の新書で活字も大きく、さほど時間をかけずに読めるのが特長です。

 イラク、イスラエルとパレスチナ、サウジアラビアとイエメン...など12の国や地域をあげ、国を持たない中東最大の少数民族「クルド」もとりあげていて、それぞれの歴史や現況をコンパクトに解説していますが、こうして見ると紛争の火種が絶えない地域ばかりで、まさに「迷走」の歴史です。
 
 植民地時代や米ソ冷戦時代の「負の遺産」や、国家権力者の専横もさることながら、国際テロ組織の暗躍がこうした紛争に暗い影を投げかけていることがよく分かります。
 アフガン戦争の時に、米国とともに対ソ抗戦したイスラム原理主義者の一部が、イスラム過激派として9・11テロの実行犯などに流れていったことに、歴史の皮肉を感じます。
 サウジ、アフガン、東アフリカと場所を移しつつテロリストを養成しているオサマ・ビンラディンは、ある意味、独裁国家の元首よりタチが悪いかも。

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