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変わった作品が多かった。個人的には、1番「考える人」(井上靖)、2番「誤訳」(松本清張)。
『名短篇、ここにあり』.jpg『名短篇、ここにあり』(ちくま文庫).jpg 北村薫 宮部みゆき.jpg
名短篇、ここにあり (ちくま文庫)』北村薫 氏/宮部みゆき 氏

 北村薫・宮部みゆき両氏の編による「名短編」セレクト集の第一弾(この後、第二弾『名短篇、さらにあり』('08年)から第六弾『教えたくなる名短篇』('14年)まで続く)。ここでは、半村良、黒井千次、小松左京、城山三郎、吉村昭、吉行淳之介、山口瞳、多岐川恭、戸坂康二、松本清張、井上靖、円地文子の短篇12編を収録しています。

となりの宇宙人 SF短篇集.jpg 「となりの宇宙人」(半村良)... 宇宙船が難破して、近所に落っこってきたが―。後の展開はほとんど落語の世界。宇宙人も「宙さん」とか呼ばれたりして(笑)。宮部みゆき氏が、SFの大家が「こんなメタメタなSFを小説新潮に書いてらしたとは」と驚いた作品。ただ、本書刊行の前年に河出文庫からこの作品を表題作とする短篇集が出ているので、意外と知っている人は知っている作品なのかも。
となりの宇宙人 SF短篇集 1』['75年/徳間書店]

 「冷たい仕事」(黒井千次)... 冷蔵庫の冷凍器の霜取りに格闘する男たち―。あの霜がごそっととれた瞬間の快感が甦ってきますが、その達成感を男同士で共有するところが、本質的にサラリーマン小説なのだろなあ。

 「むかしばなし」(小松左京)... 学生が村の年寄りを語り部にして聞いた70年前の話が、実は自分が姉を殺してその肉を味噌煮に入れてその夫に喰わせたという展開に―。「かちかち山」の翻案だったのかあ。

 「隠し芸の男」(城山三郎)... 宴会の隠し芸に執念を燃やす新任課長。昔はこういう中間管理職がいたかもなあ。このタイプ、そこから上には出世しない(笑)。黒井千次と同じくサラリーマン小説。

『少女架刑』2.jpg 「少女架刑」(吉村昭)...肺炎で亡くなり、金銭目的で病院に献体された貧しい家の少女の遺体がどう扱われるかを、少女の意識が死後も在り続けるという設定のもと、少女の視点で描かれているというシュールな作品。「隠れた名作」と言うより、かなり有名な作品で、個人的にも既読

 「あしたの夕刊」(吉行淳之介)... 林不忘の小説に明日の夕刊が今日届くというものがあって、それと同じことが作家である村木にも起きる―。吉行淳之介がこんな星新一みたいな作品を書いていたとは。でも、実際に昔は、夕刊の日付は翌日になっていたというモチーフは、この年代の作家にしか書けないか(翌日の朝刊の速報版的位置づけは今も変わっていないが)。

 「穴―考える人たち」(山口瞳)... 偏軒はイーストのために穴を掘り続ける。そこへ、ドストエフスキイやコーガンが通りかかる―。吉永小百合とか岡田茉莉子とかも出てきて、安部公房の作品みたいにシュールだった。『考える人たち』('82年/文春文庫)の1編。

 「網」(多岐川恭)... ある男の殺害を試みる男の話。その方法は、標的が自宅のプールで泳いでいるところを〈投網〉を被せて溺死させようというものだった―。他にいくらでも方法があるのにね。一度その考え方に固執したら、そこから逃れられない人間の性? 極悪非道な強腰で成り上がった実業家・鯉淵丈夫は過去買った恨みも数多く、復讐を企む7人が彼を亡き者にしようと秘策を凝らすが、誰も彼もが悉く失敗するという連作『的の男』('00年/創元推理文庫)の1篇。

 「少年探偵」(戸坂康二)... ちょっとした身の回りの事件を解決する「少年探偵足立君」。正月早々、寺本さんの家の金印が消えた―。軽い推理落ち。名探偵コナンの奔りみたいな感じか。江戸川乱歩とかも少年探偵ものを書いているし、そうした一つの系にある作品と言えるかも。

 「誤訳」(松本清張)... 稀少言語国の作家がノーベル賞級の賞を貰って、本人が賞金を全部寄付すると言ったのは、実は日本人翻訳家兼通訳の誤訳だったことが判るが、本当にそうだったのか―。面白かった。いかにも本当の話のように書いているのが松本清張らしい。短篇集『隠花の飾り』('82年/新潮文庫)に収められている作品。

 「考える人」(井上靖)... 作家である私は、東北地方への木乃伊(ミイラ)探訪の旅に行く(タイトルは、ある木乃伊がロダンに彫刻の姿勢に似ていることから)。木乃伊になった聖人は、本当に木乃伊になりたかったのか―。これも面白かった。即身仏になるのを先延ばしするために、荒地を開墾したり、洞窟を掘ったりしたのかもね。短篇集『満月』('59年/角川文庫)に収められている作品。

 「鬼」(円地文子)... 女は自分の望みを何でもかなえられるが、それが幸せと直結しない。実は、彼女の母親が娘を手放したくない、娘が女として自分以上の幸せを掴むのは面白くないと思っていた―。人間の心に潜む鬼を描いている。そう言えば円地文子には、古典「春雨物語」に材を得た「二世の縁 拾遺」という作品があって、それを鈴木清順が「恐怖劇場アンバランス」の第1話で「木乃伊(ミイラ)の恋」('70年制作)として映像化しているのを、「考える人」と"即身仏"繋がりで思い出した。

 名作・傑作と言うより変わった作品が多かったように思いますが、この作家がこんな作品を書いているのだなあという新たな発見がありました。既読だった「少女架刑」(吉村昭)を除くと、特に良かったのは最後の3作。1番、2番、3番と順位をつけるならば、1番は「考える人」(井上靖)、2番はショートショートクラスの短さですが「誤訳」(松本清張)、3番は「鬼」(円地文子)となります。1番、2番は共に二重丸つけたいところですが、どちらも作者または語り手の推論で終わっている点がやや弱かったでしょうか。

 最後の「鬼」(円地文子)は、作家で同じく優れた読者家である小川洋子氏が、最近「母との関係に悩む娘」の話が度々話題に上るが、「円地さんは時代をかなり先取りしていたのかもしれませんね」と推していました(そういう読み方もあったのか)。

 これが最後にきているということは、選者らもこの「鬼」が一押しなのかと思いましたが(個人的にはやや苦手なタイプの作品でもあるが)、巻末の対談にやや"昭和的"との評がありました。両氏のネット上での対談(シリーズ全体の中からベスト12篇を選ぶ作業をしている)を読んだりしてみると、宮部みゆき氏などは「鬼」も推していますが、「となりの宇宙人」(半村良)も推していて、やはり冒頭にくるだけのことはあるのでしょう。

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〈地獄〉と言うくらいの思いをしないとこれだけの本は読めないのだろなあ。感服させられる。

地獄の読書録 tannkoubon.jpg地獄の読書録 bunko.jpg  地獄の読書録 ちくま文庫.jpg
地獄の読書綠』['80年]/『地獄の読書録 (集英社文庫)』['84年]/『地獄の読書録 (ちくま文庫)』['89年]

地獄の読書録 syuueisya bunko.jpg 1958年のある日、著者・小林信彦は翻訳ミステリーの全巻読破・紹介を雄々しく決意する。それから10年、本格推理からハードボイルド、サスペンス、スパイ・スリラー、冒険小説、SF、日本の作家の作品...と、"読み"の対象は広がり、膨大な量の"活字の地獄"との血みどろの戦いは続いた。755冊を俎上にあげ、激動と混乱の60年代の語り部となった著者の毒舌が冴える大河ブック・ガイドの名篇。(本書紹介文より)

 具体的には、本書の第1部「本邦初訳ミステリ総まくり」は座視「宝石」の1959年1月後から63年12月号まで連載された「みすてりい・がいど」の完全収録であり、第2部「スパイ小説とSFの洪水」は、隔月刊「平凡パンチ・デラックス」の1965年9月号から69年9月号に連載されたもので、そのことにより'59年から'69年の、つまり概ね60年代のブックガイドとなっています(巻末に著者索引・書名索引が付されている)。

 とにかくすごい量です。これだけ本を読みながら、同時に映画なども多く観ているわけであり、この時分の著者のパワーと執念を感じます。著者によれば、、あくまで一ファンとして、楽しい作品を少しでも多く読みたい、との熱い想いを抱いて本の山に挑戦していったとのことで、ある種〈闘いの記録〉であるとも言えます。

 気に入った作品は、一作に複数ページを費やして内容紹介・論評することもある一方で、凡作はほとんど一文で片付けていたりもしますが(総じて短いものが多いが、このあたりのメリハリが明確)、今日"傑作"とされているものでも当時はまだ新鋭作家の評価が確定していない作品だったりして、それをきっちり評価し切っているところがスゴイです。年代別に見て、前半の方でいくつか印象に残ったのは―(以下、ページ数は集英社文庫)。

1959年
魔術の殺人 (1958年).jpg チャンドラーの『長いお別れ」でスタートしたこの年は、「魔術の殺人」(早川書房170円)をクリスティーの52年の作品だが、「凡作」と一言で切り捨てています(28p)。

血の収穫 創元推理文庫.jpg 創元推理文庫の新刊8冊『グリーン家殺人事件」』(ヴァン・ダイン、130円)、『血の収穫』(D・ハメット、100円)、『ABC殺人事件」(A・クリスティー、100円)、『かわいい女』(R・チャンドラー、110円)など紹介し(55p)、この中で『血の収穫』は名訳(田中西二郎)として定評があるのでと一読を勧めています。やはり1つ選ぶとすればこれでしょうか('56年6月に 田中西二郎訳が創元推理文庫から出て、すぐに名訳との評価が固まったということか)。

1960年
気ちがい〔サイコ〕.pngPSYCHO2.jpg ロバート・ブロックの『気ちがい』(早川書房・160円)を、ヒッチコックが来日の際に大いに宣伝していった映画「サイコ」の原作として紹介していますが(114p)、原作の翻訳刊行はこPSYCHO 31.jpgの年の4月、映画の公開は9月でした。原作のあらすじを紹介しながらも、面白くない、凄味がないとの低評価です。映画の方は後の方で、大当たりしているけれど、話がモーテルに入るまでが冴えないと。ただし、殺しの場のショッキングなことは無類であり、パーキンスのサイコぶりがいいとのことで(137p)、原作がイマイチで、映画は原作を超えているというのは、衆目の一致するところかと思います。

Alfred Hitchcock 女主人01.jpg この年のエドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)受賞作を取り上げる中で、短編賞を受賞したロアルド・ダールの「女主人」(作者の第三短編集『キス・キス』所収)を取り上げ(118p)、そのあらすじを3ページにわたって詳しく紹介しています(ネタバレはしていないけれどほとんど全部(笑))。個人的にも傑作だと思い、読者に伝えたくなる気持ち、理解できます。これ、「ヒッチコック劇場」(「ロンドンから来た男」(1961))や「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」(「女主人」(1979))で映像化されています(この作品、「サイコ」とモチーフ的に似たところがある)。
Alfred Hitchcock Presents - Season 6 Episode 19 #210."The Landlady"(1961)(「ロンドンから来た男」)

1961年
パディントン発4時50分 (1960年).jpg鳩のなかの猫 ポケミス.jpg アガサ・クリスティーの『パディントン発4時50分』(早川書房200円)の評価を☆☆☆☆と(このあたりから星評価を導入し、☆1つ20点、、★が5点とのこと)。本格ファンは、久しぶりに良い気分になれる作品であるとしています(150p)。それから『鳩の中の猫』(早川書房220円)にも☆☆☆☆の評価をしています(158p)。女子パブリック・スクールにおける殺人という「本格」に、中近東の某国における革命と宝石紛失という「スリラー」の掛け合わせを、マープル物とトミー・タペンス物をカクテルにしたみたいで、こんがらがったところへ登場するのがポワロであるというサービスぶりと絶賛しています。

 ロアルド・ダールの第三短編集『キス・キス』早川書房360円)そのものも取り上げ、「女主人」を最高としながらも、「天国への道」が好きだと。第二短編集『あなたに似た人』よりレベルは落ちるが、風変わりな短編集としてお奨めでき、ただし、値段の高いのが玉にキズであるとしています(360円だが)。

 後半は、「スパイ小説とSFの洪水」と題されているように、スパイ小説、冒険小説やSF、さらに文学作品にまで言及が及んでいて、日本人作家の作品も多く出てきます。例えば、1965年では、「筒井康隆という新人」の『48億の妄想』(早川書房・340年)であったり、「露悪的なテレビ・タレントとして有名な野坂昭如」の『エロ事師』(講談社・270年)であったりとか。

 著者が翻訳ミステリーの全巻読破を決意したのは失業していた時で、雑誌の編集長になってからは「翻訳もの全完読破」は地獄であり、狂気の沙汰であったとのことで、映画「地獄の黙示録」('79年/米)のもじりであるとは思いますが、すんなり(笑)このタイトルになったとのことです。地獄かあ。そうだろうなあ。それくらいの思いをしないとこれだけは読めないだろうなあ。ただただ感服させられるばかりです。

 本書は、1980年代のミステリ評も加えた〈定本版〉として、ちくま文庫で再文庫化されました。

【1984年文庫化[集英社文庫]/1989年再年文庫化[ちくま文庫]】

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読書案内を兼ねた"読書半生記"。人文専攻ネタ、松波信三郎ゼミネタで懐かしくなってしまった。

新書百冊 新潮新書.jpg  坪内祐三2.jpg 新潮新書 新書百冊.jpg
新書百冊(新潮新書)』坪内 祐三(1958-2020)

 本書の著者で、今年['20年]1月に61歳で亡くなった評論家・エッセイストの坪内祐三(1958年生まれ)は、本好き、古本好き、神保町好きとしても知られていましたが、その著者が、自らの半生の折々に読んできた新書百冊を重ねて振り返ってコラムとして綴った"読書半生記"であり(エッセイとも言えるか)、新潮新書の創刊ラインアップの10冊のうちの1冊として刊行されています。

 タイトルから「読書案内」的なものを想像する人もいるかと思いますが、その要素もしっかり満たしていて、文中で取り上げた百冊の新書が、巻末に「百冊リスト」として章ごとに整理されています。ただし、その他にも多くの本を紹介していて、「新書百冊」にそれらを含めた約300冊の書名索引もそのあとに付されています。

 いい本を選んでいるなあという印象で、古本が多いせいか、岩波新書・中公新書・講談社現代新書の「新書御三家」が占める割合が高くなっています。「講談社現代新書のアメリカ文化物は充実していた」(第4章)というのは確かに。かつては岩波新書・中公新書・講談社現代新書の3つが、一般向け新書では絶対的代表格でリジッドなイメージがありました。

 自伝的エッセイっぽい印象を受けるのは、例えば第1章が「自らの意志で新書を読み始めた頃」、第2章が「新書がどんどん好きなっていった予備校時代」というふうになっていたりするためで、御茶ノ水での浪人生活を振り返り、「私が通っていた御茶ノ水の駿台予備校は、当時、単なる受験合格のテクニックではなく、もっと本質的な「学問」を教えてくれた。特に英文解釈の奥井潔先生の授業はいつも心待ちにした。教壇で奥井先生は例えばT.S.エリオットやポール・ヴァレリーの文学的意味について語ってくれた」といった下りは、その頃浪人生活を送り、駿台予備校で学んでいた人などは懐かしくて仕方がないのでは。

 と思って読んでいたら、「浪人時代の多読が功を奏して(?)」早稲田大学第一文学部に入学し、2年次の専攻分けで、学問の多様化を見据え、オール―ジャンルの学科の授業に出席できる人文専攻を選んだとのこと(本当は1時限目の授業や原書購読が無いことが理由であったとも)。実は自分も同じ大学・学部・専攻であり、そのことは以前から知っては知ってはいたものの、人文専攻を選んだ理由もほぼ同じであることを改めて知りました。

存在と無下.jpg存在と無 上.jpg さらに、第5章では、人文専攻のゼミで『存在と無』を読まされ、教官はその本の翻訳者の松波信三郎で、「全然歯が立たなかった」とありますが、自分も同じ頃このゼミを受けました。松波信三郎先生の講義は『存在と無』をものすごいスピードで読み下して解説するので、講義中にかなりの集中力を要したように記憶します。毎回の授業がそんな感じで進められ、それを丸々1年かけてやるのですが、『存在と無』そのものがかなり大部な本なので、結局、本の要所要所を押さえはするものの、全部は読み通せませんでした。

 松波信三郎先生は大男だったとのこと(そうだったかも)、躰の大小の違いはあるが風貌はサルトルに似ていたとのこと(言われればそうだったかも)。なんだか、早大一文(「第一文学部」という呼称は今は無い)ネタ、人文専攻ネタ、松波信三郎ゼミネタで懐かしくなってしまいましたが、著者の方は修士課程に進んだのだのだなあ。

 著者の社会人としてのスタートは雑誌「東京人」の編集者であり、その後次第に書き手としての本領を発揮していくことになりますが、ベースにしっかりした読書体験があることを改めて感じました。本書で紹介されている本には絶版本も多いですが、今はほぼネットの古本市場で入手可能です。それにしても、一方で1996年から「週刊文春」で「文庫本を狙え!」の連載を亡くなる前まで続けていて、こちらの方は文庫の新刊を追っていたわけですから、改めてスゴイなあと思います。

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1冊1冊の読み込みが深い。本書を手に文庫探索してみるのもいいかも。

I文庫本を狙え図5.jpg文庫本を狙え.jpg  坪内 祐三.jpg
文庫本を狙え! (ちくま文庫)』 坪内 祐三(1958-2020(61歳没))
カバーデザイン:南 伸坊

『文庫本を狙え!』(晶文社.jpg 今年['20年]1月に61歳で亡くなった評論家・坪内祐三(1958年生まれ)が、「週刊文春」誌上で亡くなる直前まで20年以上にわたって長期連載した「文庫本を狙え!」の第1回から171回分を1冊の文庫に纏めたものです。2000年11月に単行本『文庫本を狙え!』(晶文社)が刊行されていますが、第18回から第171回までが収録されていて、最初の17回分は著者の初の書評集『シブい本』('97年/文藝春秋)に掲載されたため、両方を纏めたものはこの文庫が初となります。第1回の高見澤潤子『のらくろひとりぼっち』の掲載は1996年8月で、171回の小林信彦『読書中毒』の掲載は2000年5月です。

 因みに、シリーズ第2弾『文庫本福袋』(2000年~2004年、194回分を収録)は先に文春文庫で文庫化されていて(したがって文春文庫内では『文庫本福袋』が"第1弾"とされている)、第3弾『文庫本玉手箱』(2004年~2009年、200回分を収録)は'09年に文藝春秋から、第4弾『文庫本宝船』(2009年~2016年、290回分を収録)は本の雑誌社から、それぞれ単行本が刊行されています。さらに、第5弾として、連載の第886回(2016年4月)~第1056回(2020年1月)を収めた『文庫本千秋楽』が先月['20年11月]本の雑誌社から刊行され、「文庫本を狙え!」の170回分と併せ、本の雑誌増刊「おすすめ文庫王国」に1999年から20年にわたって書き続けた「年刊文庫番」を1冊にしたものとなっています。

 1冊1冊の読み込みが深くて、よくこれだけ毎週毎週書き続けてきたものだなあと驚かされます。同じく「週刊文春」に'92年から「私の読書日記」を連載している立花隆氏が、「最後まで読まなければならない本」(推理小説など)、「速読してはいけない本」(文学作品など)は「タイムコンシューマー」(時間浪費)であるとして避けていたのに対し、著者も日本の現代小説や推理小説はほとんど選んでおらず、多くを読もうと思ったらやはり何らかの割り切りが必要なのかもしれません。因みに、本書では34の文庫レーベルが取り上げられていて、最多は岩波の15冊、ちくま、中公が続き、新潮と講談社文芸文庫が10冊で同数4位とのことです。

 村上春樹を取り上げていると思ったら『やがて哀しき外国語』('97年/講談社文庫)で、つまりエッセイでした(p85)。村上春樹はエッセイがいいね。

 小沼丹の『清水町先生』('97年/ちくま文庫)の井伏鱒二の将棋好きの様などは可笑しいです(p112)。太宰治との師弟の関係がどのようなものであったかも伝わってきます。

 「裸の大将」こと山下清の『日本ぶらりぶらり』('98年/ちくま文庫)というエッセイも紹介されていて(p201)、著者が「実は、山下清は、かなりの文章家なのだ」とするのに納得させられました。

 蛭子能収『エビスヨシカズの密かな愉しみ』('98年/講談社+α文庫)では、「蛭子能収ほど実物と作品のイメージが異なる人も珍しい」とし(p216)、「文筆家エビスヨシカズは、きわめて知的で論理的」としてその証左を示しています(そう言えば、先の立花隆氏は、蛭子能収氏の作品の方を評して、作者は「天才か狂人」と言っていた)。

 ノーマン・マルコム/板坂元訳『ウィトゲンシュタイン―天才哲学者の思い出』('98年/平凡社ライブラリー)などを取り上げてくれているのは嬉しいです(p247)。これ、絶版新書がライブラリーになったパターンです。すぐ後に続く岡井耀毅『瞬間伝説―歴史を刻んだ写真家たち』('98年/朝日文庫)にある新人カメラマンだった秋山庄太郎と大女優・原節子の出会いなども、いいところを拾ってくるなあと(p249)。

 水上勉『私版 東京図絵』('98年/朝日文庫)にある、水上勉が武者小路実篤から実篤自身の描いた絵を貰った話も、武者小路実篤の白樺派的な人柄が窺えるエピソードでいいです(p275)。吉行淳之介は、短編集『悩ましき土地』('99年/講談社文芸文庫)が取り上げられていますが(p306)、巻末の年譜が読みごたえがあったと(笑)。それだけの病歴ということでしょう。

 千葉伸夫『評伝山中貞雄―若き映画監督の肖像』 ('99年/平凡社ライブラリー)などを取り上げているのもシブいです(p357)。山中貞雄にとって小津安二郎がメンターだったのなあ。同じく映画関係で、殿山泰司『三文役者のニッポンひとり旅』('00年/ちくま文庫)なども読んでみたくなる紹介のされ方をしています。

 このように、文庫と言えども結構マニアックなものも多いです。その分、こんな本も文庫で読めるのだという新たな発見がありました。シリーズ第1弾なので、1996年から2000年刊と結構古い本ばかりになりますが、解説の平尾隆弘氏によれば、今はネットの古本市場でこれら全ての文庫が入手可能とのことで、しかも、一番高いものでも2,500円とのこと(最安値は1円)。本書を手に、文庫探索してみるのもいいかもしれません。

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「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(加藤周一)

半世紀を経ても古さを感じさせない。スマホ時代の今だからこそ読むべきかも。

読書術 加藤周一.jpg 頭の回転をよくする読書術 86.jpg 読書術 (同時代ライブラリー).jpg 読書術 加藤周一 岩波現代文庫2000.jpg
読書術―頭の回転をよくする (カッパ・ブックス)』['62年](カバーデザイン:田中一光)『頭の回転をよくする読書術 (光文社文庫)』['86年]『読書術 (同時代ライブラリー)』['93年]『読書術 (岩波現代文庫)』['00年]

I読書術―頭の回転をよくする (カッパ・ブックス).JPG『読書術―.jpg 評論家で医学博士でもあった加藤周一(1919-2008/89歳没)による主に若者(高校生くらいか)に向けの読書術の本で、第Ⅰ部で、本をどこで読むかというテーマを取り上げ、第Ⅱ部で、どう読むか、その技術について述べており、第Ⅱ部は、遅く読む「精読術」、速く読む「速読術」、本を読まない「読書術」、外国の本を読む「解読術」、新聞・雑誌を読む「看破術」、難しい本を読む「読書術」の6章から成っています。

 「本をどこで読むか」ということについては、基本的にどこでも読めるのが映画やテレビにはない本の良さだとしながらも、読書の能率がグンと上がる場所は「外洋航路の貨物船」であると言っているのが面白いです。でも、より現実的な"乗り物"を考えるならば「通勤電車」がいいとし、混雑する通勤電車の中では、ページをめくらなくてもいい本を選び、電車に乗る時には1冊だけ持つようにし、受験生なら英単語集、社会人なら外国語テキストがいいと述べています。

本文イラスト:金森馨
『読書術―2.jpg 遅く読む「精読術」については、古典はゆっくり読むべきだとし、日本人のものの考え方を知るために論語、仏教の経典、古事記、万葉集などを読み、西洋を知るためには聖書とギリシャ哲学を学ばなければならず、それらは一度だけ読むのではなく、繰り返しゆっくりと読むことが大切だとしています。

 速く読む「速読術」は、これはこれで、専門化された知識の集積がおそろしく速い現代においては必要であるとし、眼球をどう動かすかといったことから、とばし読みの秘訣まで、わかりやすく指南しています。飛ばし読みは単語に注目することがポイントで、日本語はこの技法に向いているようです。また、一冊ではなく同時に数冊読む方法についても説いています。現代文学は速読すべしとも。

 外国の本を読む「解読術」については、大学、高校で使う教科書の内容はつまらないものが多く、それよりも自分が興味のある分野の本をたくさん読んだほうがいいとしています(エロ本でもよいと)。

 新聞・雑誌を読む「看破術」では、新聞を一紙だけでなく二紙以上読むことを勧め(新聞によって立場が異なる)、また、見出しだけを読んではならないとしています(新聞の見出しは当てにならず事実とは少し違うものになっている)。一時期、新聞を二紙以上購読していた時期があり、新聞によって書いてあることというより記事の扱いが随分異なることを痛切に思ったことがありますが、結局、自分に合った1紙しか読まなくなってしまったなあ。

 難しい本を読む「読書術」では、難解な本が難しい理由は、一つは、作者の問題で、文章が悪く、作者自身も専門用語などを理解しておらず、何を書いているか分かっていない場合があり、もう一つは、読者自身の問題で、文章に使われている用語が分かっていない場合があるとしています。だから、単語の意味を知っておくことは重要だと。

 何十年ぶりかの再読ですが、高校生の時に読んで最も印象に残ったのは、最後の、「難解な本が難しい理由」は、「作者の問題で、文章が悪く、作者自身も専門用語などを理解しておらず、何を書いているか分かっていない場合」があるということで、この言説に何だかすごく励まされように思います。

 でも、今思えば、この著者って「超頭いいー」人でした。東大医学部出身の作家・評論家と言えば、明治は森鴎外が代表格ですが、昭和は、安部公房、加賀乙彦、そして加藤周一ということになるのではないでしょうか(意外と少ない)。「通勤電車」読書のところに出てくる、「電車通勤1年間でラテン語をマスターした男」の話って著者自身のことだし、「速読術」のところで、小学校5年生の時に5年生用と6年生用の授業の内容を覚えて、飛び級で中学に入ったというのも、東京府立一中(現在の日比谷高校)から一高理科(現在の東大教養学部)という"秀才"コースを歩んだ著者のことでした。

 まあ、自分とは頭の出来に雲泥の差があるのでしょうが、それでも、「本が難しい」のは著者の責任であるという言説には、やっぱり励まされた(笑)。この本は、学生時代に限らず、社会人になってからも、もっと何度か読み返してみればよかったかも。小説やビジネス書の読み方で参考になる部分は多くあったように思います。

 1962(昭和37)年刊行、と半世紀以上も前の本ですが、それほど古臭さは感じさせません。当時としては高校生向きなのかもしれませんが、若い世代があまり本を読まなくなったと言われる昨今、いや、今や世代に関係なく、電車に乗れば本を読んでいる人よりスマホをいじっている人の方がずっと多い昨今だからこそ、ビジネスパーソンにお薦めできる一冊ではないかと思います。

【1986年文庫化[光文社文庫(『頭の回転をよくする読書術』)]/1993年[岩波同時代ライブラリー(『読書術』)]/2000年再文庫化[岩波現代文庫(『読書術』)]】

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誰がどの作家を選び、その中でどの3冊を選んでいるのか興味深い。
私の選んだ文庫ベスト3 単行本.jpg 私の選んだ文庫ベスト3 文庫.jpg    本読みの達人が選んだ「この3冊」.jpg
私の選んだ文庫ベスト3』['95年]/『私の選んだ文庫ベスト3 (ハヤカワ文庫JA)』['97年]/『本読みの達人が選んだ「この3冊」』['98年]何れも装幀・挿画:和田誠

私の選んだ文庫ベスト3_藤沢.JPG  1992年4月から1995年3月まで「毎日新聞」の書評欄に連載された「私の選んだ文庫ベスト3」の書籍化(後に文庫化)。150名弱の識者が、一人の作家を選んでその作家のベスト3を挙げて紹介しています。オリジナルが新聞コラムなので、1人当たりそれほど詳しく書かれているわけではないですが、やっぱり「あの作品」が選ばれるのだなあという思いがあって興味深かったです。

風雪の檻.jpg刺客 用心棒日月抄.jpg 常盤新平・選「藤沢周平」には「用心棒日月抄シリーズ」、「獄医立花登手控えシリーズ」があって、「彫師伊之助捕物覚えシリーズ」は入れておらず、代わりに長編「海鳴り」が入っています。

私の選んだ文庫ベスト3_吉行.JPG原色の街・驟雨.jpg 村松友視平・選「吉行淳之介」では先ず「原色の街・驟雨」がきてあと対談とエッセイがきているというのが吉行という作家らしいですが、新潮文庫の『原色の街・驟雨』には「薔薇販売人」「夏の休暇」「漂う部屋」といった短編の代表作も収められており、納得です。

私の選んだ文庫ベスト3_谷崎.JPG E・G・サイデンステッカー・選「谷崎潤一郎」には、エドワード・ジョージ・サイデンステッカー.jpg蓼喰う虫.gif陰翳礼讃 中公文庫.jpg蓼食う虫」「陰翳礼讃」があってあと1つは「猫と庄造と二人のおんな」。サイデンステッカーという人は谷崎の"軽妙文学"と呼ばれる作品が好きだったようです。  
Edward George Seidensticker (1921-2007)

新選組血風録2.jpg梟の城1.jpg 中村稔・選「司馬遼太郎」は、「梟の城」「新選組血風録」「菜の花の沖」が挙がっていて、個人的にはやはり初期作品が面白いと思いますが、選者は「菜の花の沖」を「竜馬がゆく」以降の教養小説(人格形成小説)の頂点とみなしているようです。

私の選んだ文庫ベスト3_ヘミング.JPGわれらの時代・男だけの世界.bmp 石原慎太郎・選「ヘミングウェイ」はヘミングウェイ短編集」「日はまた昇る」「武器よさらば武器よさらば (新潮文庫).jpg日はまた昇る (新潮文庫).bmpで、ヘミングウェイあh短編もいいし「日はまた昇る」も傑作だと思いますが(自分は時々この人と芥川賞候補作の評価で重なることがある)、「老人と海」を傲慢、退屈でリアリティもないとしているのが興味深いです(でも、和田誠のイラストが「老人と海」をモチーフにしたものになっているように思える)。

私の選んだ文庫ベスト3_阿佐田.JPG麻雀放浪記.jpg 伊集院静・選「阿佐田哲也・色川式大」で「麻雀放浪記」がくるのは、自身のギャンブルの師匠である阿佐田哲也をモデルにいた『いねむり先生』の作者であることからすれば当然でしょうか。まさに「もう二度と出ることのないギャンブル小説」です(あと2つは「百」「引越文房」)。

パノラマ島奇談他4編 春陽文庫9.jpg屋根裏の散歩者 文庫.jpg 荒俣宏・選「江戸川乱歩」は、「暗黒星」「パノラマ島奇談」「屋根裏の散歩者」で、この選者ならこうなるのだろうなあ。そのほかに「人間椅子」「押絵と旅する男」にも触れていますが変態・猟奇物ばかり(笑)。

小僧の神様・城の崎にて.jpg小僧の神様(岩波文庫).jpg 加賀乙彦・選「志賀直哉」で「小僧の神様 他十篇」と「小僧の神様・城の崎にて」がきているのは、前者が岩波文庫で後者が新潮文庫で、収録作品のラインアップが異なるためで、作家が短編の名手の場合、文庫単位でベストを選ぶとこういうことになるのだなあと(ベスト3のあと1つは長編「暗夜行路」)。

かもめ・ワーニャ伯父さん.jpg 山崎正和・選「チェーホフ」が「桜の園・三人姉妹」「かもめ・ワーニャ伯父さん」「かわいい女・犬を連れた奥さん」の新潮文庫3冊を挙げているのは、これでチェーホフの代表作を網羅してしまうと思われ、ケチのつけようがないというかズルいという気もしますが、「かもめ」1作の中に少なくとも五つの愛の不幸が描かれているというのは、確かにそうでした。

 先に述べたように1つのコラムが2ページ程度とそう長くはないですが、その作家のどの作品を読めばいいのかというガイドとして使えるし、どの識者がどの作家を選び、またその中でどの作品を推しているかということの興味が尽きません。

 故・和田誠(1936-2019)によるイラストも、そのことを意識してか、選ばれた作家と選んだ識者の似顔絵をセットで描いています。ただ刊行から20年以上も経つと、選ばれる側だけでなく選んだ識者の方も、編者の丸谷才一(1925-2012)をはじめ多くの人が亡くなっているのがちょっと寂しいです(大江健三郎や椎名誠、筒井康隆、黒井千次のように、選ばれる側で存命の人もいるが)。

本読みの達人が選んだ「この3冊」1.jpg 尚、本書の元のなった連載に続いて、1995年4月から1998年3月まで「毎日新聞」の書評欄に連載された、各界の読書人150人にいろいろな分野の本のベスト3を推薦してもらう「この3冊」(同じく丸谷才一・編、和田誠・イラスト)も書籍化されていますが(『本読みの達人が選んだ「この3冊」』('98年/毎日新聞社))、こちらは文庫化されていないようです。選者には新体操の山崎浩子(スポーツの本3冊)や女優の岩崎ひろみ(太宰治の本3冊)、俳優の池部良(日本人が学ぶべきもの3冊)もいて面白いのですが、全体としては評論家や翻訳家、特定分野の専門家が多くを占めており、その分、前書に比べると選本のアカデミック度、マニアック度がやや高かったように思います(選評の対象を文庫に限定していないというのもその要因だとは思うが)。
本読みの達人が選んだ「この3冊」

【1997年文庫化[ハヤカワ文庫JA〕】

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「絵のある」岩波文庫という切り口がユニーク。古典文学へのアプローチの一助となるかも。
「絵のある」岩波文庫への招待.jpg 絵のある 岩波文庫への招待 :.jpg  モーパッサンの『脂肪の塊』.jpg
「絵のある」岩波文庫への招待』(表紙版画:山本容子) モーパッサン『脂肪の塊』(水野 亮:訳)挿画
モーパッサン『脂肪のかたまり』(高山 鉄男:訳)挿画
モーパッサン『脂肪の塊』挿画.JPG 「絵のある」、つまり文中に挿し絵や図版を挿入されている岩波文庫―というユニークな切り口で、岩波文庫を約120タイトル、冊数にして約190冊ほど紹介したもの。まえがきによれば、「絵のある」岩波文庫の8、9割には達したのではないかとのことで、岩波文庫は実は「傑作挿し絵」の「ワンダーランド」であると―。

 かつて岩波文庫の古典文学は字が小さくて、同じ作品を読むなら新潮文庫で読んで、後で岩波文庫の方には挿絵があったことを知ったりしたこともあったりしました。絵があるのなら、最初から岩波文庫で読めば良かったと、買い直したりしていました。

 本書は2段組み350ページ強と大部ですが、文学評論というより「本の紹介」であり、文章はエッセイ風で柔らか目です(岩波文庫の堅いイメージを解きほぐそうとしたのか?)。切り口はまちまちで、時々話が脱線したりもしますが、一方で随所に、挿絵を介してみた作品に対する著者の鋭い分析がありました。これだけの作品を先に手元に集めて一気に読むとなると、結構たいへんな作業かも。労作と言っていいのかもしれません。

小出 龍太郎『小出楢重と谷崎潤一郎 小説「蓼喰ふ虫」の真相』['06年/春風社]
小出楢重と谷崎潤一郎_.jpg蓼喰う虫2.jpg 思い出深いところでは、谷崎潤一郎の『蓼食う虫』の小出楢重の挿画などは良かったなあ。人形浄瑠璃を桝席で鑑賞する図(36p)なんて、挿絵が無いと現代人は想像がつかないでしょう。本書にもありますが、小出楢重の挿画は、小さい頃からの楢重の地元である関西を舞台にしたこの作品において、関東大震災後に関西に移り住んでまだ5年しか経っていなかった谷崎の文章とちょっと張り合っている印象があります。小出龍太郎『小出楢重と谷崎潤一郎―小説「蓼喰ふ虫」の真相』['06年/春風社]によれば、小出楢重と谷崎潤一郎は双方に刺激し合って(むしろ谷崎が楢重に励まされる感じで)この作品を作り上げていったようです(谷崎作品では『』の棟方志功の版画もいいが、これは「中公文庫」。本書では時々中公文庫をはじめ岩波文庫以外の挿画入り文庫も出てくる)。

「絵のある」岩波文庫への招待200_.jpg モーパッサンの『脂肪の塊』の挿画も分かりよかったです。「ブール・ド・シュイフ」(脂肪の塊)と呼ばれた主人公がどんな風だったのかイメージ出来ます(122p)。本書の表紙にも中央やや右下に描かれていますが、文庫の挿絵と比べ反転しています(カバー挿画は、赤または白の表紙の本がそれぞれピンポイントになっているように、原版のコピーでは山本容子.jpgなく、山本容子氏のオリジナル版画だそうだ。表紙を見ているだけでも、どの作品の挿画かとイメージが掻き立てられるなどして楽しい)。因みに、モーパッサンは『メゾン テリエ』も挿画入りです。

濹東綺譚(ぼくとうきだん) 永井荷風.jpg また日本に戻って、永井荷風の『濹東綺譚』の木村荘八の挿絵。主人公とお雪が雨宿りしたところで出会う場面(162p)などは、もうこの作品のイメージを完全に形作ってしまったという印象で、タイトルに「現代挿画史に残る不朽の名作」とあるのも納得です。

 読んだことのない作品の方が圧倒的に多いものの、この作品にこんな挿画が使われているのかということを新たに知ることが出来て良かったです。実際、読めるかどうかは分かりませんが、まだ読んだことがない本への関心が高まったのは事実であり、古典文学へのアプローチの一助、その方法の一種となるかもしれないと思いました。

「絵のある」岩波文庫をご紹介.png六本木「アカデミーヒルズ」エントランス・ショーケース展示「絵のない本なんてつまらない!~「絵のある」岩波文庫」(2018年9月)

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「ビジネス系と文学系に分けて、自分で課題本を決める」でいいのだと。自信になった。

読書会入門.JPG読書会入門 人が本で交わる場所.jpg  猫町倶楽部   .jpg 猫町倶楽部
読書会入門 人が本で交わる場所 (幻冬舎新書)

 読書会は「今、密やかに大ブーム」(本書帯より)になっているそうですが、本書は、名古屋、東京、大阪などで年200回以上開催し、のべ約9000人が参加しているという日本最大規模の読書会「猫町倶楽部」の主宰者が、読書会の魅力を語るとともに、参加の仕方、会の開き方からトラブル対処法までを伝授したものです。自分も個人的に小さな読書会を主宰していますが、ほんとに小規模であり、読書会を続けていくのはたいへんだなあと時折思います。その点で、本書は読書会の意義を再認識させてくれるとともに、運営のコツなどの面でたいへん参考になりました。

 著者がごく近い知人らと身内で読書会を最初スタートしたのは2006年で、2008年には地元の中日新聞に取り上げられ、2009年には本拠地である名古屋を飛び出して東京で開催するようになり、2013年には1回の読書会で300人を超える人が集まったとか。ビジネス書を扱う「アウトプット勉強会」と別に、「文学サロン月曜会」という分科会を立ち上げ、東京進出時に全体の呼称として「猫町倶楽部」に統合し、その後、映画を扱う「シネマテーブル」や芸術全般を扱う「藝術部」、性愛をテーマにした「猫町アンダーグランド(猫町UG)」などの分化会を立ち上げたということで、今はちょっと組織が大きく複雑になり過ぎた感じがしなくもないですが...。

 読書会の魅力について、自分の好みや思想に合ったものだけと向き合って、そうでない情報を知らず知らずのうちに遮断していると偏狭的になりがちなところ、読書会で知らない人が勝手に決めた課題本を読んで、その会に参加しなければ出会わなかった人と言葉を交わすことで、ノイズを取り入れることができ、それによって日頃包まれているフィルターバブルの一歩外に出ることができるというのは、読書会のメリットを旨く言い表しているように思いました(そう言えば、ビジネスの世界でも最近、コミュニティの重要性が言われている)。

猫町倶楽部.jpg 課題図書に合わせた"ドレスコード"(浴衣で参加とか)のある読書会をやったりとか、或いは課題図書の作者を招聘してダンス形式でやったりとか、結構いろんな形のイベント形式での読書会をやっていて、この著者はもともと学生時代、"チーム"(今の暴力沙汰の多い"チーマー"の前の穏やかだった頃のグループ)に属してたとのことで、イベントを企画し実施するのが好きだっただろうなあ。それにしても、本業の仕事の時間4割、残り6割は読書会の運営に割き、しかも読書会から得る報酬は一切無しでやっているというのはスゴイことです。こう書くと何だか単に奇特な人とかお目出たい人のようにも思えますが、多数のサポーターの使い方などにおいても、組織が硬直化しないようにそれなりに考えてやっていることが窺えます。

 いいなあと思ったのが、ビジネス系の「アウトプット勉強会」と文学系の「文学サロン月曜会」を「猫町倶楽部」に呼称統合した後も、分科会としての「アウトプット勉強会」と「文学サロン月曜会」は分けて実施していて、両方のバランスをとっているということです。最近になってビジネスの世界でもリベラル・アーツの重要性が注目されていますが、ココは最初からそれをやっているなあと。実は、自分が主宰する読書会でも最初から同じように分けていて、「ああ、これでいいのだ」という自信になりました。

 巻末に「猫町倶楽部」のこれまでの課題本について、「名古屋アウトプット勉強会」150回分と「名古屋文学サロン月曜会」140回が紹介されていて、意外とオーソドックスでした(ビジネス、文学とも自分がやっている読書会と少なからず重なるものがあった)。ただし、著者は、課題本を選ぶときは合議性にせず、"私がやりたいことをやる""私がやりたくないことはやらない"と決めているそうで、これを貫くことでモチベーションを下げないようにしているとのことです。この点はなるほどなあと思いました(おかしな"自己実現本"や読んでも読まなくてもいい"通俗本"などが課題本に入ってこないようにする狙いもあると思う)。自分の場合、ビジネス系は著者同様に自分がワンマンで決めているし、文学系は一応合議制はとるものの、その中でも自分がやりたいものをやるようにしています。この点も「ああ、これでいいのだ」という自信になりました。

 ということで、天と地ほどの規模の差はありますが、読書会を主宰する者として、ビジネス系と文学系に分けて、自分主体で課題本を決めるやり方について、「ああ、これでいいのだ」という自信をつけてくれた本でした。

【読書MEMO】
●目次
目次
第1章 読書会が人生を変えた
第2章 読書会とは何か?
第3章 読書会の効果
第4章 読書は遊べる
第5章 読書会は居場所になる
最終章 「みんなで語る」ことの可能性

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100冊の概要にとどまらず、100人の作家の概要がコンパクトに収められている。

海外ミステリーマストリード100.jpg海外ミステリー マストリード100 .jpg 杉江 松恋.jpg 杉江 松恋 氏
読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100 (日経文芸文庫)』['13年]

 書評家である著者個人が選んだ海外ミステリーの必読書100選のガイドブック。第1部「マストリード100」では、1929年のアントニイ・バークリーの『毒入りチョコレート事件』から、2010年のデイヴィッド・ゴードンの『二流小説家』まで、1作家1作に限定して100作品が「原著刊行順」に並んでいて、1つの作品の紹介が3ページほどですが、その中に「あらすじ」「鑑賞術」「さらに興味を持った読者へ」「訳者、そのた情報」とコンパクトに収められています。

 その作家の代表作もさることながら、その作家のどの作品から読み始めればいいかという観点が織り込まれた選本になっていて、さらに、次にその作家のどの作品に読み進めばいいのか(或いは、他の作家の作品で似たジャンルやモチーフの作品にどのようなものがあるか)といった読書案内的な構成になっています。あくまでも著者個人が考えるベスト100であるとのことですが、ざっと見てみると―。

ガラスの鍵 光文社古典新訳文庫.jpgマルタの鷹〔改訳決定版〕.jpgxの悲劇 角川文庫.jpg ダシール・ハメットについては『ガラスの鍵』(1931)を取り上げ、『赤い収穫』(1929)、『マルタの鷹』(1930)は「さらに興味を持った読者へ」の方で紹介し、エラリイ・クイーンについては、『シャム双生児の秘密』(1933)を取り上げ、『Ⅹの悲劇』(1932)などは同じく後段での「さらに興味を持った読者へ」の方での紹介に回しています。
   
ポワロのクリスマス book - コピー.jpg名探偵ポワロ/ポワロのクリスマスL.jpg大いなる眠り.jpg アガサ・クリスティーについて『ポアロのクリスマス』(1938)を選んでいるのは結構ユニークにも思えますが(個人的にはデビッド・スーシェのテレビドラマ「名探偵ポワロ」で観た)、選んだ理由を読むと納得。レイモンド・チャンドラーについては第1作の『大いなる眠り』(1938)ではなく、第2作の『さらば愛しき女よ』(1940)を選んでいます。
    
太陽がいっぱい.jpg死刑台のエレベーター000.jpg パトリシア・ハイスミスの『太陽がいっぱい』(1955)、ノエル・カレフの『死刑台のエレベーター』(1956)は共に映画化作品が超有名ですが、映画と原作の違いをわかりやすく解説しています(特に『死刑台のエレベーター』は、映画版と原作は、物語の性質がまったく違う別の作品と言っていいとしている)。

ナヴァロンの要塞 カラージャケット.jpgThe Wycherly Woman.bmpウィチャリー家の女.jpg アリステア・マクリーンの『ナヴァロンの要塞』(1957)は、冒険小説によくある「~せよ」というタイトルの使命遂行型作品の元祖であるとのこと(なるほどね。そうしたタイトルになっていないので今まで意識しなかった)。これも順当ならば、ロス・マクドナルドについて、『ウィチャリー家の女』(1961)がきているのも順当ではないでしょうか。
    
深夜プラス1ミステリ文庫1.jpgジャッカルの日 (1973年) .jpg ギャビン・ライアルの『深夜プラス1』(1965)然りです。これもまあ、ギャビン・ライアル作品の中では断トツに有名な作品なので異論のないところではないでしょうか。それが、フレデリック・フォーサイスとなると、『ジャッカルの日』(1971)を選んでいますが、ほかにも同じく映画化された超有名作で『オデッサ・ファイル』(1972)や『戦争の犬たち』(1974)などがあります。ただ、1つ選ぶとなるとやはり『ジャッカルの日』でしょうか。
       
百万ドルをとり返せ!.jpgケインとアベル 上.jpgケインとアベル下.jpgシャイニング(上).gif ジェフリー・アーチャーには、著者もその代表作としている『ケインとアベル』(1981年)などの大河小説がありますが、最初に読むのならばやはり『百万ドルをとり返せ!』(1976)がお薦めということになるのでしょう。スティーヴン・キングも、ありすぎるぐらい沢山ありますが、1冊となると『シャイニング』(1977年)になるのだろうなあ。

針の眼.jpg推定無罪下.jpg推定無罪 上.jpg ケン・フォレットも『大聖堂』(1989)などの大河小説がありますが、1冊となると『針の眼』(1978)で決まりでしょう。戦争冒険小説ですが、人間ドラマをかませたところに読みどころがあるとの著者の意見に納得。スコット・トゥローの『推定無罪』(1987)も順当かと思いますが、100選に同じく弁護士出身の作家ジョン・グリシャムの作品を入れないで、このスコット・トゥローを入れているところは著者のこだわり?

検屍官.jpg極大射程 新潮文庫 下.jpg パトリシア・コーンウェルの『検屍官』(1990)が、CBSで2000年に放送が始まった「CSI:科学捜査班」に影響を与えたという著者の見方には同意見です。でも、ケイ・スカーペッタ シリーズって映画化されていないなあ。スティーヴン・ハンターの『極大射程』(1993)は、主役が当初予定されていたキアヌ・リーブスからマーク・ウォールバーグに代わりはしたものの、しっかり映画化されています。
     
ボビーZの気怠く優雅な人生.jpgボーン・コレクター 単行本.jpg ドン・ウィンズロウは『ボビーZの気怠く優雅な人生』(1997)を持ってきたかあ。ただし、デビュー作『ストリート・キッズ』(1991)から始まる"ニール・ケアリー"シリーズ全5作も、ぜひ第1作から読んでもらいたいとしています(個人的№1は、本書でも紹介されている「翻訳ミステリー大賞」受賞作の『犬の力』(2005)だが)。ジェフリー・ディーヴァーは『ボーン・コレクター』(1997)を持ってきています。これは、主人公の犯罪学者リンカーン・ライムが四肢麻痺の、言わば"安楽椅子探偵"であることの経緯と状況を理解するうえでも、第1作からということになるのでしょう。

女彫刻家 ミネット ウォルターズ 文庫.jpgダ・ヴィンチ・コード 上.jpg ミネット・ウォルターズはエドガー賞の『女彫刻家』(1993)ではなく、犯人当てに特化したという意味で入りやすい構造を持つ作品として『破壊者』(1988)を挙げています。ダン・ブラウンも、世界的な大ベストセラーとなった第4作『ダ・ヴィンチ・コード』(2003)ではなく、ロバート・ラングドン教授が初登場した第2作『天使と悪魔』(2000)を挙げていて、これも『ボーン・コレクター』同様、探偵役の主人公の特性(教授の専門は宗教象徴学)を理解したうえで読み進んだ方が読み進みやすいだろうとの配慮かと思われます。

 基本的には1929年から2010年に発表され、2013年までに訳出されて現在も読める本から選んでいますが(第1部)、巻末の第2部では、アラン・ポー、コナン・ドイル、G・K・チェスタトン、モーリス・ルブランなど、それ以前の古典的探偵小説に触れるとともに、今は絶版になってしまって古本屋で探すなどしないと読めなくなってしまったハードボイルドの名作なども紹介しています。

 作品解説と同時に作家解説になっていて、100冊の概要にとどまらず、100人の作家の概要がわかるという意味では、文庫書下ろしながら、充実した内容だと思います。その分1作当たりの内容の紹介がやや物足りないと言えなくもないですが、ミステリなので、あまり事前に細かく内容を知ってしまってもいうのもあるし、これはこれでいいのかも―ということでお薦めです。

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「過去130年間の論壇を振り返る」には紙数足らずで、読書案内としてはやや中途半端か。

読む力 - 0_.jpg読む力.jpg
読む力 - 現代の羅針盤となる150冊 (中公新書ラクレ)』['18年]
二十一世紀精神―聖自然への道 (1975年)』['75年]
松岡 正剛 二十一世紀精神.jpg 編集工学研究所の松岡正剛氏と、月300冊は本を読むという元外交官で作家の佐藤優氏が、雑誌「中央公論」創刊130年記念で、過去130年間の論壇を振り返って語った誌上対談シリーズを新書化したものです。個人的な注目は松岡正剛氏で、かなり以前に津島秀彦氏との対談集『二十一世紀精神―聖自然への道』('75年/工作舎)を読んでスゴイ思考力の人がいるものだなあと思ったものですが、当時はそれほど知られていなかったのが、今や「松岡正剛 千夜一夜」で、読書子の間ではすっかり有名になりました(個人的には今でもスゴイ人だなあと思っている)。

 第1章では、二人が子供のころに読んだ本を語り合っていて、両者の対談は"初"だそうですが、「実は、高校は文芸部でした」という佐藤氏の打ち明け話にはじまり、意外とオーソドックスだと思いました。それが、第2章から「20世紀の論壇」がテーマになっていて、ああ、そう言えば、「過去130年間の論壇を振り返る」のが企画の趣旨だったなあと。以下、第3章から第5章まで、章末に、対談の中で出てきた主要な本のリストがあり、一部書影もあって見やすく親切であると思いました。

禅と日本文化1.bmp阿部一族 岩波文庫.jpg 第3章では、日本国内の130年間の思想を(この「130年」というのは要するに「文藝春秋」の創刊からの年数であるのだが)、ナショナリズム、アナーキズム、神道、仏教...と振り返り、章末に「国内を見渡す48冊」として、それまでの対談の中で取り上げた、鈴木大拙の『禅と日本文化』や森鷗外の『阿部一族』などが挙げられています。

ブリキの太鼓 ポスター.jpg存在の耐えられない軽さ.jpg 第4章では、主に欧米の思想について、民族と国家、資本主義などに関して検証的に振り返り、章末に「海外を見渡す52冊」として、ニーチェの『道徳の系譜』やテンニエスの『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』、サルトルの『存在と無』やヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』、ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』やミラン・クンデラの『存在の堪えられない軽さ』などが挙げられています。

ロウソクの科学改訂版.jpgバカの壁1.jpg 第5章では、ちょっと切り口を変えて「通俗本」を取り上げています。ここで言う「通俗本」とは、難解な学問や他者の業績を「通俗化」しようとする試みのもと書かれた本のことで、それは学問や思想を普及させ、人々の理解を促すものであるとして、二人とも礼賛しています。章末に「通俗本50冊」として、マイケル・ファラデーの『ロウソクの科学』や養老孟司氏の『バカの壁』などが挙げられています。

 意外とオーソドックスな中、第5章の「通俗本」という考え方が、個人的には目新しかったでしょうか。ただ、「通俗本50冊」のラインアップの中に、手塚治虫の『火の鳥』や白土三平の『カムイ外伝』と並んで弘兼憲史氏の『社長島耕作』などが入っていたりするのが意外でした。『社長島耕作』は、佐藤優氏が"一生懸命読んでいる"ところだとのことで、それに対して松岡正剛氏は「えっ、島耕作を? 何のために読んでいるのですか?」と聞き返しています。それに対して佐藤氏は、「つまるところ、世の中たった一人しか幸せじゅない」という世界を、主人公の早稲田大学入学から会長になるまでトレースしているとし、松岡氏は「ふうん、そういうことか」と。但し、あまり納得していない様子でした。ともに「通俗本50冊」の価値を認めながらも、どのような本がそれに該当するかは意見が違ってくる部分もあるのは当然かと思います。

 そもそも、この紙数で「過去130年間の論壇を振り返る」のにやや無理があったかもしれません(だから「読む力」というタイトルになった?)。対談内容が、(自分の読んでいる本が少なすぎて)自分の理解が及ばないというのもあることにはありますが、全体に少しもやっとした印象のものになってしまったように思いました。

 読書案内としても、二人ともスゴイ読書家であることは読む前から分かっているわけですが、やや中途半端な印象でしょうか。松岡正剛氏のまえがきによれば、編集部から事前に「150冊選んでください」と言われたそうですが、この二人、他にもいっぱい"読書案内"的な本を出しているので、本書はそれぞれのそうした"読書案内"本の<体系>の一部にすぎず、そちらの方も併せて読みましょうということなのかもしれません。

《読書MEMO》
●佐藤 優 2020年「菊池寛賞」受賞(作品ではなく人に与えられる賞)
受賞理由:『国家の罠』で2005年にデビュー以来、神学に裏打ちされた深い知性をもって、専門の外交問題のみならず、政治・文学・歴史・神学の幅広い分野で執筆活動を展開。教養とインテリジェンスの重要性を定着させる

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「カッパ・ブックス」の出版界の席捲ぶりがスゴかった60年代。岩田一男、多湖輝、佐賀潜...。

カッパ・ブックスの時代.jpgカッパ・ブックスの時代2.jpg
カッパ・ブックスの時代 (河出ブックス)』['13年]

カッパ・ブックスの時代』6.JPG 「カッパ・ブックス」の1954年の創刊から2005年の終刊までの軌跡を、光文社の歴史をひも解きながら明らかにした本です。著者は、元光文社の社員であり「カッパ・ブックス」の編集にも携わった人で、現在はフリーライターです。読んでみて、まさに「カッパ・ブックスの時代」と呼べるものがあったのだなあと改めて思いました。特に、1950年代後半から1960年代後半にかけてのカッパ・ブックスの出版界の席捲ぶりがスゴイです。
    
英語に強くなる本.jpg砂の器 カッパ2.jpg '61(昭和36)年には、日本の刊行物の売り上げベスト10の中で、第1位の岩田一男の『英語に強くなる本』(売上部数147万部、以下同)をはじめ5冊が「カッパ・ブックス」としてランクインし、ベスト10の内8冊を光文社の刊行物が占めています。光文社刊の残り3冊は、'59年創刊の「カッパ・ノベルズ」のラインアップである、松本清張の『砂の器』(144万部)、同じく松本清張の『影の地帯』、水上勉の『虚名の鎖』ですが、この松本清張という作家も、その力量に着眼した編集者が光文社にいたとのことで、カッパ・ノベルズと一緒に育った作家だったのだなあと改めて感じ入った次第です(松本清張は'58年の『点と線』(104万部)、'59年の『ゼロの焦点』(107万部)もミリオンセラー。『点と線』刊行時はカッパ・ブックスが創刊前だったので、先に単行本刊行された『点と線』が『ゼロの焦点』の後からカッパ・ブックスに収められた)。

頭の体操第1集.jpg頭の体操4.bmp あと、やっぱり改めてスゴかったと思ったのが、多湖輝の『頭の体操』シリーズで、'67(昭和42)年の売り上げベスト10の中で、第1集(265万部)が第1位、第2集(176万部)が第3位、第3集(123万部)が第6位、翌'68(昭和43)年には第4集(105万部)が第5位と、第4集までミリオンセラーとなっています。その後、第5集の刊行の間に約10年もの間隔がありますが、本書によれば、第4集の段階で著者にドクターストップがかかったとのことです。まあ、第4集までで十分に売り尽くしたという印象はありますが、ドクターストップがかからなければ、すぐに第5集が出てもっと売れていた? この年は、岩田一夫の『英単語記憶術』と野末陳平の『姓名判断』もランクインしており、この年もカッパ・ブックスだけで5冊がベスト10入りでした。

民法入門.jpg佐賀潜.jpg 翌'68(昭和43)年の売り上げベスト10には、『頭の体操 第4集』も含め、カッパ・ブックスまたもや5冊がランクインしていて(第10位のカッパ・ノベルズの松本清張『Dの複合』を含めると6冊)、その内4冊が検察官出身の推理作家・佐賀潜の『民法入門』(119万部)をはじめとする法律シリーズであり、一人の著者で売り上げベスト10の4つを占めたというのもスゴイことです。

 売り上げ部数だけで言うと、これらの後も'70(昭和45)年の塩月弥栄子の『冠婚葬祭』(308万部)や'73年の小松左京の『日本沈没』(上204万部、下180万部)などまだまだスゴイのがありますが、「カッパ・ブックスの時代」と言うとイメージ的には60年代であり、個人的はやはり岩田一男、多湖輝、佐賀潜あたりが印象深いでしょうか(松本清張はやはり"カッパ・ノベルズ"というイメージ)。

 こうしたベストセラーを次々と世に送り出した背景に、神吉晴夫、長瀬博昭といった時代を読むに長けた名物編集者ら(本書の言葉を借りれば編集者と言うよりプロデューサー、プロデューサーと言うよりイノベーター)の才覚とリーダーシップがあり、多くの編集部員の創意工夫と試行錯誤、奮闘努力と不屈の精神があったことが本書からよく窺えましたが、そうした"プロジェクトX" 的な成功譚ばかりでなく、70年代に入ってから激化した(世間的にも注目を浴びた)労働争議で、会社そのものが分裂状態になってしまった経緯なども書かれています。

 この労働争議で多くの社員が辞め、その中には優秀な人材も多く含まれていて、それが祥伝社やごま書房(現在のごま書房新社)、KKベストセラーズといった新たな出版社の旗揚げに繋がっていったとのことです(KKベストセラーズは「ワニ・ブックス」の出版社。どこもカッパ・ブックスと同じように「新書」を出しているなあ)。一方、争議が収まった頃には新書ブームも沈静化し、会社は新たな局面を迎えることになり、カッパ・ブックスは新創刊された光文社新書と入れ替わる形で、51年の歴史に幕を下ろす―といった具合に、一レーベルの歴史を描くとともに、一企業の栄枯盛衰を描いたビジネス・ドキュメントとしても読める本になっています。

岩田 一男 『英単語記憶術5.JPG 力作だと思われ、こうした記録を残しておくことは、出版文化の将来に向けても大事なことなのではないかと思います。とは言え、個人的にはやはり、前半の"成功譚"的な部分が面白かったでしょうか。改めて、当時のカッパ・ブックスの出版界における席捲ぶりのスゴさが甦ってきました。

【読書MEMO】
●1961年(昭和36年)ベストセラー
1.英語に強くなる本』岩田一男(●光文社カッパ・ブックス)
2.記憶術』南 博(●光文社カッパ・ブックス)
3.『性生活の知恵』謝 国権(池田書店)
4.頭のよくなる本』林 髞(●光文社カッパ・ブックス)
5.『砂の器』松本清張(■光文社カッパ・ノベルズ)
6.『影の地帯』松本清張(●光文社カッパ・ノベルズ)
7.『何でも見てやろう』小田 実(河出書房新社)
8.日本経済入門』長洲一二(●光文社カッパ・ブックス)
9.日本の会社』坂本藤良(●光文社カッパ・ブックス)
10.『虚名の鎖』水上 勉(■光文社カッパ・ノベルズ)

●1967年(昭和42年)ベストセラー
1.頭の体操(1)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
2.『人間革命(3)』池田大作(聖教新聞社)
3.頭の体操(2)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
4.『華岡青洲の妻』有吉佐和子(新潮社)
5.英単語記憶術』岩田一夫(●光文社カッパ・ブックス)
6.頭の体操(3)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
7.姓名判断』野末陳平(●光文社カッパ・ブックス)
8.『捨てて勝つ』御木徳近(大泉書店)
9.『徳川の夫人たち』吉屋信子(朝日新聞社)
10.『道をひらく』松下幸之助(実業之日本社)

●1968年(昭和43年)ベストセラー
1.『人間革命(4)』池田大作(聖教新聞社)
2.民法入門―金と女で失敗しないために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
3.刑法入門―臭い飯を食わないために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
4・『竜馬がゆく(1~5)』司馬遼太郎(文藝春秋)
5.頭の体操(4)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
6.『どくとるマンボウ青春記』北 杜夫(中央公論社)
7.商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
8.『愛(愛する愛と愛される愛) 』御木徳近(ベストセラーズ)
9.道路交通法入門―お巡りさんにドヤされないために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
10.『Dの複合』松本清張(■光文社カッパ・ノベルズ)

頭の体操 〈第1―4集〉.JPG  民法・商法入門・56.JPG

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述べられていることに普遍性があるから「ベストセラー」になったのだと思わされた。

プロがすすめるベストセラー経営書9.JPGプロがすすめるベストセラー経営書.jpg  マネジメントの名著を読む.jpg リーダーシップの名著を読む.jpg 企業変革の名著を読む.jpg
プロがすすめるベストセラー経営書 (日経文庫)』 『マネジメントの名著を読む』『リーダーシップの名著を読む』『企業変革の名著を読む

プロがすすめるベストセラー経営書10.JPG 本書は経営書を紹介したものであり、読む前は、同じ日経文庫の『マネジメントの名著を読む』('15年)、『リーダーシップの名著を読む』('15年)など「名著を読む」シリーズと"同系統"かと思いましたが、一方で、タイトルの付け方やカバーデザインが少し違っているので"別系統"かなとも思ったりしました。

 実際のところ、手にしてみれば、『マネジメントの名著を読む』や『リーダーシップの名著を読む』、同じく「名著を読む」シリーズの一冊である『企業変革の名著を読む』('16年)と同様に、オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」であり、経営学者やコンサルタントがマネジメントやリーダーシップに関する本を選んで解説したネットの連載に加筆したものでした。

 今回の特徴は、"ベストセラー"という選び方をしている点ですが、取り上げられている本のうち、『ワーク・シフト』『採用基準』が'12年刊行、『HARD THINGS』が'15年刊行と比較的最近のベストセラーであるものの、中にはベストセラーと言われてもピンとこないものもあるかも。因みに『イノベーションと企業家精神』は'15年刊行の「エッセンシャル版」を底本としています。

『サーバントリーダーシップ』三省堂 3.jpg ロバート・K・グリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』なども'08年の翻訳刊行で、当時はベストセラーだったかもしれませんが、今は"定番""ロングセラー"と言った方がいいかもしれません。ただし、この本、リーダーシップの"定番"でありながら、『リーダーシップの名著を読む』では取り上げれていなかったので、ここで取り上げてもらえるのは有難いです(元本は571ページの大著で、読み手側からすれば、何らかの参考となる切り口が欲しいということもある)。

 これまでの「名著を読む」シリーズと同じく、本ごとに複数のケーススタディを示して解説していますが、今回は紹介している本が全8冊とやや少ないものの、1冊当たりの解説は充実してたように思います。述べられていることに一定の普遍性があるから「ベストセラー」になったのだろうなあと思わせるものがありました。

 国内・国外の「ベストセラー」が混ざっていますが、「ベストセラー」を近年の新刊に限定せず"広義"に解したのは正解だったでしょう。むしろ、連載時点で選者らが、単にベストセラーであるということより、「名著」乃至は「名著となりそうなもの」を選んでいるということなのでしょう。

【読書MEMO】
●取り上げている本
プロがすすめるベストセラー経営書00_.jpgFlag_of_日本.png『戦略プロフェッショナル』三枝匡著(日経ビジネス人文庫、2002年)―原理原則と熱い心がリーダーを作る(清水勝彦(慶應義塾大学ビジネススクール))
ワーク・シフト ―00_.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngワーク・シフト』リンダ・グラットン著(邦訳・プレジデント社、2012年)―明るい未来を切り開くためのシフトチェンジ(岸田雅裕(A・T・カーニー))
採用基準 伊賀泰代.jpgFlag_of_日本.png採用基準』伊賀泰代著(ダイヤモンド社、2012年)―リーダーシップが自分の人生を切り開く(大海太郎(ウイリス・タワーズワトソン・グループタワーズワトソン))
Flag_of_日本.png『ストーリーとしての競争戦略』楠木建著(東洋経済新報社、2010年)―3枚の札でビジネスに勝つ(小川進(神戸大学、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院))
『サーバントリーダーシップ』 -2.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngサーバントリーダーシップ』ロバート・K・グリーンリーフ著(邦訳・英治出版、2008年)―「良心」が会社を動かす(森洋之進(アーサー・D・リトル))
HARD THINGS.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngHARD THINGS(ハード・シングス)』ベン・ホロウィッツ著(邦訳・日経BP社、2015年)―人、製品、利益、の順番で大事にする(佐々木靖(ボストンコンサルティンググループ))
Flag_of_アメリカ合衆国png.png『イノベーションと企業家精神』ピーター・ドラッカー著(邦訳・ダイヤモンド社"エッセンシャル版"、2015年)―一つの目標に資源を集中させよ(森下幸典(PwCコンサルティング))
Flag_of_日本.png『経営戦略の思考法』沼上幹著(2009年、日本経済新聞出版社)―考え続けることが英断を生む(平井孝志(筑波大学大学院ビジネスサイエンス系))

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第1部41冊の紹介・解説が丁寧。MBAテキストの"定番"を知るのに良い。
トップMBAの必読文献.jpgトップMBAの必読文献5.JPG トップMBAの必読文献8.JPG
トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊

 本書は3部構成になっていて、第1部「トップMBAの必読文献」では、「世界の経営バイブル」呼べるものを、アカウンティング、統計と分析、経済学、ファイナンス、マーケティング、オペレーションズ、 組織行動、戦略、ゼネラル・マネジメントの9ジャンルから41冊選んで解説しいます。

 第2部「各ビジネス分野における主要なテキスト」では、主要MBAのカリキュラムで使用されるテキストを、第1部と同じようなジャンル区分に沿って75冊、どこの大学で使用しているかも含め紹介するとともに、内容を簡単に解説しています。

 第3部「トップMBAで使用されている500のテキスト」では、さらにMBAで称されているテキスト500冊を、第1部、第2部と同様のジャンル区分に沿って紹介しています(タイトルの紹介のみ)。第2部、第3部については、翻訳されていないものも多く含まれています、

 ページ数で全体の半分強を占める第1部の文献紹介が充実していて、本ごとに「バイブル特性マップ」として「難易度(高・低)」と「領域の幅(基本・専門)」を2軸で表し、テキスト使用大学、著者の略歴を紹介、さらに、その本の読みどころ、その本がどのようなメッセージを伝えようとしているのか、その本の概要―といった具合に、かなり突っ込んだ解説になっています。

 第1部で紹介されている41冊(すべて翻訳されている)の「バイブル書」の定義は、世界のトップMBAでテキストとして使用されているということだけでなく、一時の流行ではなく「世界34カ国で翻訳」「各国で100万部突破」「第12版」など定番として売れ続けている原典で、「体系的」かつ「深堀り」された名著であるとのことで、その定義に応えるラインアップとなっているように思います。

『ハーバード流交渉術』.jpgEQリーダーシップ2.jpg 第1部ではマーケティング分野が比較的充実していたでしょうか。ただし、第2部、第3部にもマネジメントやリーダーシップ関連の良書はあって、第1MBAの人材戦略.jpg巨象も踊る.jpg部と重複していないもので、第2部では、ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリーらの『ハーバード流交渉術』、ダニエル・ゴールマンらの『EQリーダーシップ』、第3部では、デイビッド・ウルリッチの『MBAの人材戦』、ルイス・V・ガースナーの『巨象も踊る』といったアメリカCEOのベストビジネス書100.jpg本もありました。『巨象も踊る』は、本書と同年同月に翻訳が刊行された『アメリカCEOのベストビジネス書100』(講談社)でも取り上げられていましたが、こういう特定企業の成功事例本でもMBAのテキストなるのだなあと改めて思いました。

あらすじで読む世界のビジネス名著.jpg 第1部の41冊の選本については、同じグローバルタスクフォースによる『あらすじで読む 世界のビジネス名著』('04年/総合法令)とややダブる傾向にあったかも(因みに、同じグローバルタスクフォースの『世界のエリートに読み継がれているビジネス書38冊』('15年)ともダブりが多い)。本書も2009年刊行と刊行やや年数が経っているため、MBAテキストの最新動向とまではいかないと思いますが、どのような本がMBAテキストの"定番"とされているのかを知るのには良い本だと思います。

《読書MEMO》
●第1部で紹介されている41冊
第1章アカウンティング
01『企業分析入門』K・G. パレプ 、V・L・ バーナード、P・M・ヒーリー
02『ABCマネジメント革命』ロビン クーパー ほか
第2章 統計と分析
03『ビジネス統計学』アミール・アクゼル、ジャヤベル・ソウンデルパンディアン
第3章 経済学
04『ゲーム理論で勝つ経営』B・J・ネイルパフ、 A・M・ブランデンバーガー
05『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー
第4章 ファイナンス
06『EVA創造の経営』G・ベネツト・スチュワートⅢ
07『企業価値評価』マッキンゼー・アンド・カンパニーほか
08『決定版 リアル・オプション』トム コープランド、ウラジミール アンティカロフ
09『コーポレート ファイナンス』リチャード・ブリーリー、スチュワート・マイヤーズ
第5章 マーケティング
10『価格戦略論』ヘルマン・サイモン、ロバート・J. ドーラン
11『サービス・マーケティング原理』クリストファー・ラブロック、ローレン ライト
12『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』フィリップ・コトラー、ケビン・レーン ケラー
13『ブランド・エクイティ戦略』デービッド・A・ アーカー
14『戦略販売』R・ B・ミラー、S・ E・ハイマン
15『マーケティング・リサーチの理論と実践』ナレシュ・K. マルホトラ
16『刺さる広告』レックス・ブリッグス、グレッグ・スチュアート
17『アイデアのちから』チップ・ハース、ダン・ハース
18『顧客ロイヤルティのマネジメント』フレデリック・F・ライクヘルド
第6章 オペレーションズ
19『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン
20『イノベーションへの解』クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー
21『知識創造企業』野中 郁次郎、竹内 弘高
22『サプライチェーン・デザイン』チャールズ・H・ファイン
23『企業のレジリエンシー』ヨッシー・シェフィー
第7章 組織行動
コンピテンシーマネジメントの展開.gif24『コンピテンシー・マネジメントの展開』ライル・M・スペンサー、シグネ・M・ スペンサー
ハーバードで教える人材戦略2.jpg25『ハーバードで教える人材戦略』M・ビアー、P・R・ローレンス、R・E・ウォルトン、B・スペクター、D・Q・ミルズ
【新版】組織行動のマネジメント.jpg26『組織行動のマネジメント』ステファン・P・ロビンス
最強組織の法則 - 原著1990.jpg27『最強組織の法則』ピーター・M・センゲ
第8章 戦略
28『競争の戦略』M・E・ポーター
29『競争優位の戦略』M・E・ポーター
30『企業戦略論』ジェイ・B・バーニー
第9章 ゼネラル・マネジメント
31『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』M・グラッドウェル
32『ベンチャー創造の理論と戦略』ジェフリー・A ティモンズ
ドラッカー名著集2.jpgドラッカー名著集3.jpg33『現代の経営』P・F・ドラッカー
34『考える技術・書く技術』バーバラ・ミント
35『無理せずに勝てる交渉術』G・リチャード・シェル
36『影響力の武器』ロバート・B・チャルディーニ
37『バイアスを排除する経営意思決定』マックス・ベイザーマン
38『実行力不全』ジェフリー・フェファー、ロバート・I・サットン
第10章 リーダーシップ
39『企業変革力』ジョン・P・コッター
ミッション・リーダーシップ .JPG40『ミッション・リーダーシップ』ビル・ジョージ
ビジョナリー・カンパニー1.jpg41『ビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス

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従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチ。リーダー個人の動機や視点に注目。

静かなリーダーシップ.jpg静かなリーダーシップ5.JPG 企業変革の名著を読む.jpg
静かなリーダーシップ (Harvard Business School Press)』['02年]『企業変革の名著を読む (日経文庫)』['16年]

 本書(原題:Leading Quietly: An Unorthodox Guide to Doing the Right Thing,2002)では、特殊な能力を持つリーダーが組織の目的を達成するために力を発揮する従来の「ヒーロー型リーダーシップ」に対して、日常生活やビジネスの意思決定を正しく行い、地道な努力と絶妙な妥協によって目的を達成する能力を「静かなリーダーシップ」とし、目を引くヒーロー型リーダーよりも、静かなリーダーが社会で果たす役割の方が大きいと主張しています。そのうえで、第1章から第8章にかけて、静かなリーダーの8つの特徴的な考え方や行動特性について述べています。

 第1章では、静かなリーダーは「現実を直視する」としています。静かなリーダーは、現実的であるとともに自分の理解を過大評価せず、計画を立てるが予想外の事態にも備え、組織内のインサイダー(事情通)に目を光らせ、人を信頼しすぎないことがないのと同じく、人を信頼しすぎることもなく、信頼してもどこかで切り札を残しておくとしています。

 第2章では、静かなリーダーの「行動はさまざまな動機に基づく」としています。複雑でさまざまな動機が静かなリーダーの成功のカギとなり、また、リーダーであり続けるためには、自分の地位を守って交渉の場にとどまり続けなければならず、そのため健全な利己主義の感覚が必要であるとしています。

 第3章では、静かなリーダーは「時間を稼ぐ」としています。静かなリーダーは、難問に直面しても、問題に突進するのではなく、何とかして時間を稼ぐ方法を考えるとのことです。なぜならば、常に変化する予想不可能な世界では、流動的で多面的な問題に対して、即座に対策を考えるのは無理であるからだとしています。

 第4章では、静かなリーダーは「賢く影響力を活用する」としています。ここでいう影響力とは、主に人の評判と仕事上の人間関係で構成され、静かなリーダーは現実主義者であるため、自分の影響力を危険さらす前に、リスクと報酬(見返り)を考えるとしています。

 第5章では、静かなリーダーは「具体的に考える」としています。つまり、複雑な問題に直面した場合、忍耐強さと粘り強さをもって、自分が何を知っているのか、何を学ぶ必要があるのか、だれからの支援が必要なのかを理解しようとするとしています。

 第6章では、静かなリーダーは「規則を曲げる」としています。静かなリーダーは、規則について真剣に考え、創造性と想像力を駆使して規則を曲げながら、規則の目的を果たす方法を探すとしています。規則をないがしろにするのではなく、規則の解釈の余地を探すということです。

 第7章では、静かなリーダーは「少しずつ徐々に行動範囲を広げる」としています。今後の展開が不明な状況下で、リーダーシップが成功するかどうかは、事態を把握できるかどうかにかかっていて、そのためには、些細なステップを適切に実行する必要があり、静かなリーダーは探りを入れながら、物事の流れ、避けるべき危険、活用できるチャンスを徐々に理解するとしています。

 第8章では、静かなリーダーは「妥協策を考える」としています。静かなリーダーにとって妥協をを考えるということは、実践的な知識を習得して実行に移すことであり、多くの場合、妥協を考えることが、目的を達成する最善の方法であるとしています。

 第9章では、これまでの振り返りとして、静かなリーダーには「三つの静かな特徴」があり、それは、自制、謙遜、粘り強さであって、ほぼだれでも静かなリーダーシップ特徴を実践できるとして、これまで述べてきたことを振り返りつつ、この三つの特徴について解説しています。

 第1章から第8章にかけて各章ごとに、「静かなリーダー」のケーススタディとなる人物が1人または2人登場し、読みやすいものとなっています。一方で、あまり体系的に本書を理解しようとすると、却って読みずらいかも。著者自身、本書の"付録"で、「本書はエッセイである。理論構築、仮設の検証、結論の証明を行っているのではない」とし、「本書はガイドラインの形で、実践的なアドバイスも提供している」としています。

 従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチで、リーダーシップ論に新たな視点を与えているとともに、リーダー個人の動機や視点に注目し、そこからリーダーシップ論を展開しているという点でもユニークです。従来の「ヒーロー型リーダーシップ」が組織目標の達成というトップダウンの組織に動かし方であるのに対して、静かなリーダーシップはボトムアップ型の個人の目的達成を中心とした組織の動かし方であり、解説の渡邊有貴氏も書いているように、個人を視点としたリーダーシップ指向は強まると思われます。内部昇進でミドルがトップになっていく日本には理解しやすい内容であると思います。ミドルマネジメントにお薦めですが、もちろん人事パーソンが読んでも良いと思います。

 因みに本書は、『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)において紹介されていて、こちらはコンサルタントやビジネススクールの人気教員たちが企業や組織の変革をテーマにした本をそれぞれ選んで解説したものですが(オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」のうち2014年から2016年にかけて掲載のもの)、その11人12選のラインアップのうちの1冊となっています。いずれの紹介者たちも、本の内容を紹介するにあたって、コンサルなどで経験した本の内容に呼応するような事例を複数、ケーススタディとして交えながら解説するスタイルになっていて、『静かなるリーダーシップ』の紹介者はPwCコンサルティングの森下幸典氏ですが、分かりやすい解説でした(事例に関しては、元本の『静かなるリーダーシップ』自体が事例構成になっているので、元本を読んだ方が早い?)。

 『静かなるリーダーシップ』というタイトルでもあり、個人的にはリーダーシップの本として手にしましたが、ミドルマネジメント向けに書かれていて、個人の動機などに着眼していることが特徴として挙げられながらも、最終的には組織変革が目的となっているため、「企業変革」をテーマにした本と言えなくもないです。『企業変革の名著を読む』は、日経文庫の「名著を読む」シリーズの1冊でもありますが、テーマが「企業変革」とあるのにあまり「企業変革」らしくない内容の本も納められていて、そうした中で本書は、比較的オーソドックスな選本ということになるのかもしれません。

《読書MEMO》
● 『企業変革の名著を読む』で取り上げている本
企業変革の名著を読む9_1.jpg1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
静かなリーダーシップ.jpg6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
倫理の死角2.jpg10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』

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優れたリーダーはどんなに忙しくても本を読んでいる。女性が1人もいないのが残念。

私をリーダーに導いた250冊6.JPG私をリーダーに導いた250冊6_n.jpg
私をリーダーに導いた250冊 自分を変える読書』(2016/10 朝日新聞出版)

「リーダーたちの本棚」.jpg 2009年1月から2016年9月の間に「朝日新聞」の広告特集として掲載された連載「リーダーたちの本棚」から50回分を加筆修正して収録したものです。ビジネス界のトップリーダーが、自分が若い頃から今までに読んだ本の中で影響を受けた本について語り、他人に薦めたい本を5冊程選んで紹介するというものであり、延べ250冊がリストアップされています。

私をリーダーに導いた250冊SL.jpg リーダーがなぜその本を選んだのか、自らの幼少時代や学生時代、社会人になってからの新人時代や海外勤務時代、そして、組織のリーダーや企業のトップになった今におけるエピソードなどを交えて紹介しているので、その人がその本とどう出会い、それをどう読んだのか、そしてどういった影響を受けたのかなどが、その人の人生の軌跡とともに分かるのがいいです。

 50人のどの人についても、経営書だけで5冊選んでいる人はおらず、歴史書、小説、写真集、漫画までその種類は幅広く、また古典から比較的新刊の本まで多岐に及んでいます。よくこれだけの読書人を探したものだなあという気もするし、優れたリーダーというのは、どんなに忙しくても本を読んでいるものなのかもしれないと思ったりもしました。本を読むことを通して、勇気をもらったり、生き方を教わったり、ビジネスの参考にしたりしているのでしょう。

 「百冊の読書は百の人生経験、心に残れば生涯の指針です」「仕事にも息抜きにも本が助けに」「読書の妙味は仕事と同じ。自分にない価値観との出会いである」「読書せずに成長はない」「いろいろ読むほど先入観から解放される」「偏りなく読み、独自の道をさぐる」といったそれぞれの言葉には、実感と重みがあるように思いました。

 1人ずつの本の紹介の最後に、その人が選んだ5冊の書影と概要を整理して掲載してあり、さらに、本の最後の章で「こんな時読みたいブックリスト」として、それまでに紹介された本がジャンル・目的別にまとめられているため、ブックガイドとしても使いやすいものになっています。

 こうしてみると、確かにそれぞれのリーダーの本の選び方は個性的であり、選ばれた本も多様であり、昔のように山岡荘八の『徳川家康』に"一冊集中"するようなことはなくなっています(『徳川家康』を選んだ人も一人ぐらいいたが)。

司馬遼太郎.jpg ただ、それでも複数の人が推す本があったりします。例えば、ノンフィクションで言えば『失敗の本質』(野中郁次郎ほか)、『文明の衝突』(サミュエル・ハンチントン)、小説で言えば司馬遼太郎の『坂の上の雲』や童門冬二の『小説 上杉鷹山』などは3人から4人の人が薦めており(山岡荘八に代わるとすれば司馬遼太郎か。ただし、司馬遼太郎については、『峠』や『項羽と劉邦』、『竜馬がゆく』を選んだ人もいる)、そのほかに『成功の実現』(中村天風)、『道をひらく』(松下幸之助)、『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ)、『21世紀の資本』(トマ・ピケティ)なども複数の人が推しています。そうしたことから、伝統的な傾向に交じって新たな傾向が窺えるのも興味深いです。

 リーダーということに必ずしもこだわらなくとも、良書を読むことで得るものは何かと大きく、ビジネスの面でも広く人生全般においても、読書は無駄にならないということを改めて思わされるものでした。50人のリーダーが全員男性であり、女性が一人も取り上げられていないのが、海外などのこの種の本との大きな違いでしょうか。その点がやや残念でした。

《読書MEMO》
●本書で紹介されている本(一部)
『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(武居俊樹著)
『いい加減 よい加減』(野村万之丞著)
『いかに生くべきか』(安岡正篤著)
『生き方』(稲盛和夫著)
『1分間マネジャー』(K・ブランチャードほか著)
『宇宙は何でできているのか』(村山 斉著)
『得手に帆あげて』(本田宗一郎著)
『「空気」の研究』(山本七平著)
『栗の木』(小林秀雄著)
『Googleの脳みそ』(三宅伸吾著)
『錯覚の科学』(C・チャブリスほか著)
『少しだけ、無理をして生きる』(城山三郎著)
『政治と秋刀魚』(J・カーティス著)
『西洋紀聞』(新井白石著)
『世阿弥に学ぶ100年ブランドの本質』(片平秀貴著)
『全一冊 小説 上杉鷹山』(童門冬二著)
『組織を変える〈常識〉』(遠田雄志著)
『知識創造企業』(野中郁次郎ほか著)
『沈黙の春』(R・カーソン著)
『遠き落日』(渡辺淳一著)
『督促OL 修行日記』(榎本まみ著)
『ドラッカーと論語』(安冨 歩著)
『ノムさんの目くばりのすすめ』(野村克也著)
『裸の独裁者 サダム』(A・バシールほか著)
『晩年のスタイル』(E・W・サイード著)
『ヒトは食べられて進化した』(D・ハートほか著)
『陽のあたる坂道』(石坂洋次郎著)
『複合汚染』(有吉佐和子著)
『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(国末憲人著)
『忘れられた日本人』(宮本常一著)ほか

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多彩な11冊を、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディで解説。

リーダーシップの名著を読む1.jpgリーダーシップの名著を読む2.JPG             マネジメントの名著を読む.jpg
企業変革の名著を読む (日経文庫)』['15年]  『マネジメントの名著を読む』['15年]

 実務経験豊富な5人の経営コンサルタントらが、リーダーシップについての不朽の名著と言われる11冊を選び、その内容を紹介するとともに、現代における意義を解説したもので、ウェブサイト「日経Bizアカデミー」で2011年10月から連載されている「日経キャリアアップ面連動企画」(経営書を読む)の内容を抜粋、加筆・修正し、再構成したものであり、先に刊行された『マネジメントの名著を読む』('15年1月/日経文庫)の姉妹編にあたります。

 取り上げられているのは、ジョン・コッタ―の『第2版 リーダーシップ論』に始まり、デール・カーネギーの『人を動かす』、スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』、ダニエル・ゴールマンの『EQ こころの知能指数』などの"有名どころ"から、エドガー・シャインの『組織文化とリーダーシップ』やトム・ピーターズらの『エクセレント・カンパニー』、更には、米国海軍の士官候補生向けに書かれた『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』(個人的には"初モノ"だった)、2000年に邦訳が出たビジネス寓話『チーズはどこへ消えた?』、MLB弱小チームの再生を描き、映画化もされた『マネー・ボール』まで多彩です。

 そのラインナップと内容から、「体系」よりも「実践」を重視している印象を受けました。実際、9人のコンサルタントや大学教授が12冊の"座右の書"を紹介した『マネジメントの名著を読む』と同じく、単なる内容紹介にとどまらず、本の内容に関連して、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディを1冊につき4つ設定し、ケーススタディを通して本の内容を解説するというスタイルになっています。

 従って、11冊の中には、「天は自ら助くる者を助く」という序文で知られるサミュエル・スマイルズの『自助論』といった古典も含まれていますが、現代的なケーススタディに当てはめて解説されているため、19世紀半ばに英国で著され、明治時代に日本でベストセラーとなった古典でありながらも、その言わんとするところを身近に感じることができます。

 また、古典ばかりではなく、1990年に刊行され全世界で2000万部が売れたという『7つの習慣』についても、会社の上司と部下の関係をケースに引きながら、「真の成功とは、優れた人格を持つこと」という『7つの習慣』の根底に流れる考え方を提示していくスタイルをとっており、このように、本書自体がリーダーシップの"ケースブック"として読める点が、その特長と言えるかと思います。

 一方で、前著『マネジメントの名著を読む』よりも更に執筆陣の思い入れが強く感じられ(古今数多くあるリーダーシップに関する本の中から僅か11冊をまさに"厳選"しているわけだから、思い入れが無い方がむしろおかしいが)、切り口にも執筆者の経験や考え方が少なからず反映されているように思われました。

 その意味では、この1冊でリーダーシップに関するヒントを手っ取り早く頭に入れるのもいいですが、関心を持たれたもので原著を読んでいないものがあれば、そちらに当たるのもいいのではないでしょうか。そこでまた、執筆者とは違った見方が生じることも大いにあり得るのではないかと思います。

 同じ名著と呼ばれるものでも、「リーダーシップ系」のものは「マネジメント系」のものに比べて、読む人によって相性が良かったりそうでなかったりする傾向がより著しいように思います。「リーダーシップ」に関する本を読むということは、書かれていることを鵜呑みにするのではなく、また、書かれていることの全てに納得する必要もなく、自分にフィットしたものを探す「旅」のようなものではないかと思います。

《読書MEMO》
●取り上げている本
リーダーシップの名著を読む9_1.jpg第2版 リーダーシップ論 帯付 2.jpg1『第2版 リーダーシップ論ジョン・コッター ---- 変革を担うのがリーダーの使命・永田稔(タワーズワトソン)
2『人を動かす』デール・カーネギー ---- 誤りを指摘しても人は変われない・森下幸典(プライスウォーターハウスクーパース)
3『自助論』サミュエル・スマイルズ ---- 「道なくば道を造る」意志と活力・奥野慎太郎(ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン)
4『7つの習慣』スティーブン・コヴィー ---- 人格の成長を土台に相互依存関係を築く・奥野慎太郎
5『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン ---- 自制心と共感力で能力を発揮・永田稔
6『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』アメリカ海軍協会 ---- 米国式リーダーシップの源流・高野研一(ヘイグループ)
7『組織文化とリーダーシップ』エドガー・シャイン ---- 変革はまず組織文化から・永田稔
エクセレント・カンパニー_.jpg8『エクセレント・カンパニートム・ピーターズ他 ---- 優れたリーダーの影響力は価値観にまで及ぶ・高野研一
9『なぜ、わかっていても実行できないのか』ジェフリー・フェファー他 ---- 成果ではなく行動したことを評価・森下幸典
10『チーズはどこへ消えた?』スペンサー・ジョンソン ---- 変化を受け入れ、いち早く動く・森健太郎(ボストンコンサルティンググループ)
11『マネー・ボール』マイケル・ルイス ---- チーム編成のイノベーション・森健太郎
 
 

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内容紹介とケーススタディがコンパクトに纏まっている。名著へ読み進む契機に。

マネジメントの名著を読む 3.jpgマネジメントの名著を読む1.JPG             リーダーシップの名著を読む.jpg
マネジメントの名著を読む (日経文庫)』['15年] 『リーダーシップの名著を読む』['15年]

 本書は、日本の第一線で活躍する経営コンサルタント、経営学者たちが、自身の推薦する経営論・戦略論の名著を、事例分析を交えながら紹介したものです。ウェブサイト「日経Bizアカデミー」で2011年10月から連載されている「日経キャリアアップ面連動企画」(経営書を読む)の内容を抜粋、加筆・修正し、再構成したもので、ピーター・ドラッカー『マネジメント』、マイケル・ポーター『競争の戦略』といった古典から、ジャック・ウェルチ『ウィニング勝利の経営』、ルイス・ガースナー『巨象も踊る』のような敏腕経営者による経営論まで12冊が取り上げられています。

 本書の特長として、まえがきで、「ビジネスの知の検索」の有効な第一歩と成り得ること、各名著のポイントが簡潔に紹介されていて「名著のつまみ食い」ができること、専門家が名著をどのように読むのかその「読み方」を知ることができること、の3つが挙げられていますが、その3点については個人的にも異存ありません。各名著の紹介のページ数はそう多くはないですが、内容紹介とケーススタディがコンパクトにまとまっていて、密度はかなり濃いように思いました。

 12冊の本を9人の専門家が紹介するかたちとなっていますが、執筆者それぞれの思い入れが込められているのが興味深く、また、各名著の内容にリンクしたケーススタディの取り上げ方、そうしたケーススタディを通しての各名著の読み込み方、切り口、ポイントの捉え方等にそれぞれ特徴があるため、これまでに自分が読んだ本があれば、自分自身の読み方と比較しつつ、名著の内容を改めて想起するなり読み返すなりして、その本への理解をいっそう深める手だてとするのもよいのではないでしょうか。

 また、本書で紹介されている名著の中で、未読のもので興味をひかれたものがあれば、是非これを機会に、それらに読み進まれることをお勧めします。12冊の中には、「マネジメント」という大きな括(くく)りの中で、ポーターやクリステンセンの代表作のように、マーケティングやイノベーション寄りのテーマの本もありますが、ジェームズ・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー』、ピーター・センゲ『最強組織の法則』など、「人事マネジメント」というジャンルにおいても名著とされているものもあります。また、『戦略サファリ』が取り上げられているヘンリー・ミンツバーグのように、戦略論がよく知られているものの、それだけでなく、人と組織に関しても多くの名著を著している経営思想家もいます(もとろんドラッカー然りです)。

 紹介されている本の中には大著もあり、忙しい人事パーソンにとってはなかなか手にする機会も読む時間も無かったりするかもしれません。しかしながら、人事パーソンの役割の1つとして、経営のパートナーであることが挙げられるかと思われ、そうした意識がしっかりあれば、必ずしも「人事マネジメント」に限定しなくとも、こうした「マネジメント」の名著とされている本(や著者)に何らかの関心を持たれ、実際に手にし、読んでみるということは自然な流れではないかと思います。

 繰り返しになりますが、個人的には、本書そのものもさることながら、本書を契機に、ここで紹介されている名著に読み進まれることを一番お勧めしたいと思います(姉妹編『リーダーシップの名著を読む』(2015/05 日経文庫)もお薦め)。

《読書MEMO》
●取り上げられている12冊と紹介者
マネジメントの名著を読む52.jpg1.『戦略サファリ』ヘンリー・ミンツバーグ他著―後づけでない成功の真因を探る(入山章栄(早稲田大学))
2.『競争の戦略』マイケル・ポーター著―「5つの力」と「3つの基本戦略」(岸本義之(ブーズ・アンド・カンパニー(執筆当時)))
3.『コア・コンピタンス経営』ゲイリー・ハメル他著―主導権を創造する(平井孝志(ローランド・ベルガー))
4.『キャズム』ジェフリー・ムーア著―普及過程ごとに攻め方は変わる(根来龍之(早稲田大学))
5.『ブルー・オーシャン戦略』W・チャン・キム他著―競争のない世界を創る戦略(清水勝彦(慶應義塾大学))
6.『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン著―リーダー企業凋落は宿命か(根来龍之(早稲田大学))
ドラッカーマネジメント.jpg7.『マネジメントピーター・ドラッカー著―変化を作り出すのがトップの仕事(森健太郎(ボストンコンサルティンググループ))
ビジョナリー・カンパニー1.jpg8.『ビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・コリンズ他著―基本理念で束ね、輝き続ける(森健太郎(ボストンコンサルティンググループ))
最強組織の法則 - 原著1990.jpg9.『最強組織の法則ピーター・センゲ著―学習するチームをつくり全員の意欲と能力を引き出す(森下幸典(プライスウォーターハウスクーパース))
プロフェッショナルマネジャー ハロルド ジェニーン.jpg10.『プロフェッショナルマネジャーハロルド・ジェニーン他著―自分を犠牲にする覚悟が経営者にあるか(楠木建(一橋大学))
巨象も踊る.jpg11.『巨象も踊るルイス・ガースナー著―リスクテイクと闘争心による巨大企業再生(高野研一(ヘイグループ))
ウィニング勝利の経営.jpg12.『ウィニング 勝利の経営ジャック・ウェルチ他著―部下の成長を導く八つのルール(清水勝彦(慶應義塾大学))

 
  

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蔵書に埋もれて亡くなった草森紳一。面白かったけれど、最後はやや侘しかった。

本で床は抜けるのか.jpg本で床は抜けるのか』(2015/03 本の雑誌社)

 ノンフィクション作家が表題通り「本で床は抜けるのか」その真相を追ったもので、'12年から'14年にかけてウェッブマガジンに連載されたものの単行本化ですが、なかなか面白かったです。

 やはり抜けることがあるのだなあと。本書に出てくる有名どころでは、井上ひさし(1934-2010)や立花隆氏など。井上ひさしの場合は、自宅の床が本で抜けた時の模様を書いていますが、先妻・西舘好子氏によると、創作も含めてかなり面白おかしく書いてとのこと。でも、床が抜けたのは事実のようです。立花隆氏の場合は、RCコンクリート構造の建物のコンクリート床の上の木の床の部分が抜けたようで、何れも2人がまだ若かった頃の話のようです。

草森紳一2.jpg草森紳一.jpg 一番凄まじいのは草森紳一(1938-2008/享年70)の話で、'08年に逝去した際は、2DKを覆い尽くした約3万冊の本の中で亡くなっているのが見つかったといい、やはり生前に本で床が抜ける経験をしており、その時の模様は自著『随筆 本が崩れる』('05年/文春新書)に書かれているとのことです(この本は、松岡正剛氏も「松岡正剛 千夜一夜」の中で取り上げている)。

森紳一氏の仕事場は文字どおり、本で埋まっていた。(「崩れた本の山の中から 草森紳一蔵書蔵書整理プロジェクト」(2008-12-07)より転載)

 因みに、井上ひさしは、先妻との離婚前後から郷里の山形県川西市に本を寄贈しており、その数は当時で13万冊にのぼったといい、草森紳一は、当面の仕事で使う可能性の少ない3万冊は、北海道の実家に建てた白い書庫「任梟盧」に別に持っており、亡くなった後の自宅の3万冊は帯広大谷短期大学に寄贈され、ボランティアによって整理が進められているとのことです。

 松原隆一郎氏のように本を偏りなくなく床に置けば床は抜けないとしていた人も、ついに書庫専用の建物を早稲田通り沿いに建てることになり、その様子もレポートされていますが、こうなると立花隆氏の「猫ビル」と同じで、もう「抜ける 抜けない」という話ではなくなってしまって、司馬遼太郎や松本清張の膨大な個人書庫同様、一般人からはやや遠い話のような気も。

後半部分は、自炊(本の電子化)による省スペース化の話も、著者の体験も含め出てきますが、これも結構手間がかかるようですし、著作権法上グレーな部分もあるようで、あまり広まらないのではないでしょうか。むしろ最初から電子書籍として刊行される本はこれから増えるかもしれないという気がします。

 でも、愛書家って、要するに「捨てられない」人でもあるのだろうなあと。そういう人って、いつの時代でも一定数いるような気もします。本書には「捨てられない」派から「捨てる」派に転じた人の話も出てきますが、病気とかそういった何かが転機になるみたいです。

 本書は、著者自身の本の引っ越しの話から始まり、最後も著者自身の再度の本の引っ越しの話で終わりますが、大鉈(おおなた)を振るった末に何とかすっきり本の整理ができた模様。但し、皮肉なことに、最後はそれに合わせるかのように奥さんと子どもに去られてしまう―というのがあまりに侘しすぎて、星半分マイナス。やはり、リアルな生活も大事にしなければなあ。

本で床は抜けるのか 2015年4月12日朝日新聞日曜日.jpg2015年4月12日(日)付「朝日新聞」読書欄

【2018年文庫化[中公文庫]】

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ジャンルを幅広く取って簡潔にポイントを解説。極々スッキリしたスタイル。

明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む.jpg明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む3.jpg
明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』(2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

 ビジネス書の分析・解説がほぼメインの仕事になっていると思われる著者が、「明日から使える世界のビジネス書」を99冊セレクトし、あらすじと名著である理由を解説したもので、今回は海外のビジネス書に限定して、(1)ビジネス理論 Theory、(2)自己啓発 Self-Help、(3)経営者・マネジメント Management、(4)哲学 Philosophy、(5)古典中の古典 Classics、(6)投資 Investment の6つのジャンルに分類して取り上げ解説しています。

明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む2.jpg 見開き2ページ毎に各1冊紹介する形で、左ページにその本の「著者略歴」の紹介と「この本を一言でいうと」どういう本なのか、また「この本が名著とされる理由」、更にはわかりやすさ度、有名度、お役立ち度、エンタメ度をそれぞれ★で5段階評価しています。

 そして右ページにその本のポイントを2つに絞って解説をしていますが、確かにスッキリしたスタイルではあるものの、そうなるとあまりに簡単にしか本の内容の紹介ができないのではないかという気もしますが、著者の考え方は、「本書ではざっくり言って、1冊の本に書かれている真実の量は1%程度だと結論づけている。つまり200ページの本であれば、2ページの自分にとって役立つ知識が吸収されれば十分なのだ」「したがってこの本では、筆者が厳選した"100冊のビジネス書"をジャンル分けしたうえで、内容を1%で要約し、"本書から得るべき真実"を抽出した」(水野俊哉,ITmediaより)とのことです。

 ナルホド、言い得ているなあと思われる面もあるし、何ページにもわたって解説したところで、結局のところ、元の本そのものに当たってみないと分からない(体感できない)エッセンスのようなものは残るものでしょう。短く纏める方が却って難しい場合もあるでしょうし、著者(水野氏)の視点での"纏め"ということで読めば(誰が纏めても"その人の纏め方"にしかならないわけだが)これはこれでいいのではないでしょうか(タイトルにある「あらすじ」とまではいっていない気もするが)。「この本がどうしてこのジャンル?」というのもありますが、ビジネス書って元々読み手によってどのジャンルに属するか違ってくる面もあるかもしれず、その点も含めて、著者の一視点と見ればいいのでは。

 著者のデビュー作が『成功本50冊「勝ち抜け」案内』('09年/光文社ペーパーバックスBusiness)であることからも窺えるように、著者はこれまでビジネス書の中でも「成功本」的な本を数多く取り上げているようです。元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏が『本は10冊同時に読め!』('08年/知的生きかた文庫)の中で、「家にある成功者うんぬんといった本を捨てるべきである」としていますが、個人的にむしろそっちの考え方に近く、従って著者の選評本をまともに読むのは今回が初めてですが、この本に限れば、ジャンルを幅広く取っているため「成功本」指向はそれほど鼻につきませんでした。

 「哲学」や「古典中の古典」といったジャンルがあり、『銃・病原菌・鉄』や『奇跡の脳』『利己的な遺伝子』といった本なども取り上げられているのは興味深いですが、所謂「教養系」となると、成毛眞氏の編による『ノンフィクションはこれを読め!―HONZが選んだ150冊』('12年/中央公論新社)もそうですが、ライフネット生命の会長兼CEOの出口治明氏の『ビジネスに効く最強の「読書」―本当の教養が身につく108冊』('14年/日経BP社)など、筋金入りの読書人による更に"上手(うわて)"の(よりハイブローな)読書案内があるので、そうした本を指向する人はそちらの方がいいと思います。

 本書は本書で、これまでの著者の本との比較ではそう悪くないのではと思います。と言っても、これまで著者の本は書店の立ち読みでしか読んでいないのですが...(随分といっぱい書いてるなあ)。

《読書MEMO》
●目次と内容
1 ビジネス理論 Theory
・『ビジネスモデル・ジェネレーション』アレックス・オスターワルダー/イヴ・ピニュール
・『キャズム』ジェフリー・ムーア
モチベーション3.0.bmp・『モチベーション3.0』ダニエル・ピンク
・『ザ・プロフィット』エイドリアン・スライウォツキー
・『ハイパワー・マーケティング』ジェイ・エイブラハム
・『MAKERS』クリス・アンダーソン
ビル・ゲイツの面接試験.jpg・『ビル・ゲイツの面接試験』ウィリアム・パウンドストーン
 ほか
2 自己啓発 Self-Help
・『ハーバードの人生を変える授業』タル・ベン・シャハー
・『天才!』マルコム・グラッドウェル
・『一瞬で「自分の夢」を実現する方法』アンソニー・ロビンズ
・『スタンフォードの自分を変える教室』ケリー・マクゴニガル
・『非才!』マシュー・サイド
 ほか
3 経営者・マネジメント Management
・『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝』レイ・A・クロック/ロバート アンダーソン
・『スティーブ・ジョブズ』ウォルター・アイザックソン
・『ストレスフリーの整理術』デビッド・アレン
LEAN IN(リーン・イン)3.jpg・『LEAN IN(リーン・イン)』シェリル・サンドバーグ
・『フェイスブック 若き天才の野望』デビッド・カークパトリック
・『Google誕生』デビッド・ヴァイス/マーク・マルシード
 ほか
4 哲学 Philosophy
・『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー
・『銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイアモンド
・『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル
EQリーダーシップ2.jpg・『EQ リーダーシップ』ダニエル・ゴールマン
フリーエージェント社会の到来  sin.jpg・『フリーエージェント社会の到来』ダニエル・ピンク
ワーク・シフト ―00_.jpg・『ワーク・シフト』リンダ・グラットン
奇跡の脳.jpg・『奇跡の脳』ジル・ボルト・テイラー
・『なぜ選ぶたびに後悔するのか』バリー・シュワルツ
・『新ネットワーク思考』アルバート・ラズロ・バラバシ
・『ワープする宇宙』リサ・ランドール
 ほか 
5 古典中の古典 Classics
・『思考は現実化する』ナポレオン・ヒル
・『道は開ける』D・カーネギー
・『自助論』S・スマイルズ
・『7つの習慣』スティーブン・R・コビー
ドラッカーマネジメント.jpg・『マネジメント[エッセンシャル版]』ピーター・F・ドラッカー
フロー体験 喜びの現象学1.jpg・『フロー体験 喜びの現象学』ミハイ・チクセントミハイ
・『人を動かす』D・カーネギー
ピーターの法則.jpg・『ピーターの法則』ローレンス・J・ピーター/レイモンド・ハル
 ほか
6 投資 Investment
・『ブラック・スワン』ナシーム・ニコラス・タレブ
・『となりの億万長者〔新版〕』トマス・J・スタンリー/ウィリアム・D・ダンコ
 ほか
全99冊

  

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全部読めるかどうかはともかく、こういう本もあるのだなあと知っておくだけでもいいのでは。

ビジネスに効く最強の「読書」.jpg
 
 
 
 
 

ビジネスに効く最強の「読書」 本当の教養が身につく108冊』(2014/06 日経BP社)

 読書家で知られるライフネット生命の会長兼CEOの出口治明氏による本の紹介。2012年10月から「日経ビジネスオンライン」に連載されたものを、連載が1年半続き、取り上げた本も100冊を超えたところで1冊の本にまとめたものであるとのことです。企業経営者として執筆の時間が取れないため当初は連載を断ったところ、女性編集者から対談(取材)を編集サイドでまとめるということでどうかとの提案があって連載が始まったとのことで、所謂「聞き語り」のような感じでしょうか(養老孟司氏の『バカの壁』シリーズもこのスタイル)。その意味では、半分は編集者が作った本とも言えますが、それでも永年の読書経験を通しての本に関する膨大な知識、引き出しの多さはこの人ならの水準です。

 経団連が毎年出している『新入社員に贈る一冊』などもそうですが、本書も、「ビジネスに効く」といってもノウハウ本などを排してるのは勿論のこと、ビジネス書自体も殆どありません。そういった意味では、「本当の教養本」ばかりと言えるでしょうか。個人の選評乃至コメント集なので、本の選び方が、世界史や日本史など歴史ものが多く(紀行ものも多い)、自然科学系はやや少なくて、文学関係とか小説は無いといった、出口氏の指向に沿ったウエィトになっていますが、これはこれで特徴が出ていていいと思いました。

 歴史関係などでは結構マニアックというか専門的な本もありますが、自ら本オタク、本フェチを自称しているだけに、これも納得。コラムによれば、社宅に本が溢れる事態になって、頭を保有から貸借に切り替え、ロンドン赴任を機に蔵書を売り払ったとのこと。また、ライフネットを創業するまでは書店通いしていたのが、創業準備で時間が取れなくなって、新聞の書評で本を探して、パソコンで近くの図書館に予約を入れる方式に切り替えたとのことで、これもナルホドね、と言う感じです(企業のトップでも自宅付近の図書館を使っていたりするのだあ)。

 道理でどこかでタイトルだけは見たことがある本が多いなあと思ったら新聞の日曜日の書評欄だったのかあ。あれ、結構レベル高かったりして、専門家以外に誰が読むのだろうという本もありますが、読んでいる人は読んでいるのだなあと。見ていくと、歴史関係などでは一部数千円もするような比較的高価な本も紹介されていますが、全体では新書であったり文庫化されているものが結構多く紹介されていて、学術系でも講談社学術文庫などになっているものだったりして、その辺りは一般読者に配慮したのでしょうか。

 全体を通しても(これは編集者の技量によるところもあるかと思うが)関連ある本を並べてそのポイントや特徴を平易にまとめているため読み易く、意外とペダンティックな印象はなく、むしろ選評者の飽くなき好奇心、知的探求心の発露がうかがえるものとなっています。全部読めるかどうかはともかく、こういう本もあるのだなあと知っておくだけでもいいのでは。

《本書で紹介されている本》(コラム部分で紹介されているものを一部除く)

1.リーダーシップを磨くうえで役に立つ本
ローマ政治家伝I カエサル.jpg ローマ政治家伝II ポンペイウス.jpgガリア戦記 (岩波文庫).jpgローマ人の物語 (1).jpgプルターク英雄伝(全12冊セット) (岩波文庫).jpg採用基準 伊賀.jpg新版 指輪物語 全10巻セット (評論社文庫).jpg君主論 (岩波文庫).jpg●マティアス・ゲルツァー『ローマ政治家伝I カエサル』『ローマ政治家伝II ポンペイウス』名古屋大学出版会/●カエサル『ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)』/●塩野 七生『ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)』/●『プルターク英雄伝(全12冊セット) (岩波文庫)』/●伊賀 泰代『採用基準』ダイヤモンド社/●J.R.R. トールキン『文庫 新版 指輪物語 全10巻セット (評論社文庫)』/●ニッコロ マキアヴェッリ『君主論 (岩波文庫)
  
2.人間力を高めたいと思うあなたに相応しい本
韓非子 (第1冊) (岩波文庫).jpgブッデンブローク家の人びと.jpg夏の砦 (文春文庫).jpg王書.jpgチェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫).jpgドン・キホーテのごとく―セルバンテス自叙伝〈上〉.jpg 朗読者 (新潮文庫).jpg 供述によるとペレイラは....jpg白い城.jpg●韓非『韓非子 (第1冊) (岩波文庫)』/●トーマス マン 『ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)』/●辻 邦生『夏の砦 (文春文庫)』 /●フェルドウスィー『王書―古代ペルシャの神話・伝説 (岩波文庫)』/●塩野 七生『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)』/●スティーヴン マーロ 『ドン・キホーテのごとく―セルバンテス自叙伝〈上〉』文藝春秋/●ベルンハルト シュリンク『朗読者 (新潮文庫)』/●アントニオ タブッキ『供述によるとペレイラは... (白水Uブックス―海外小説の誘惑)』白水社/●オルハン パムク『白い城』藤原書店
  
3.仕事上の意思決定に悩んだ時に背中を押してくれる本
脳には妙なクセがある.jpg貞観政要 上.jpg宋名臣言行録.jpg戦争論〈上〉.jpg自分のアタマで考えよう.jpg宇宙は本当にひとつなのか.jpg宇宙論と神.jpgバウドリーノ(上).jpg西遊記〈1〉 (岩波文庫).jpg三國志逍遙.jpg預言者.jpg●池谷 裕二『脳には妙なクセがある (扶桑社新書)』扶桑社/●原田 種成『貞観政要 上 新釈漢文大系 (95)』明治書院/●梅原 郁『宋名臣言行録 (中国の古典)』講談社/●クラウゼヴィッツ『戦争論〈上〉 (岩波文庫)』/●ちきりん『自分のアタマで考えよう』ダイヤモンド社/●村山 斉『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)』/●池内 了『宇宙論と神 (集英社新書)』/●ウンベルト・エーコ『バウドリーノ(上)』岩波書店/●『西遊記〈1〉 (岩波文庫)』/●中村 愿 安野 光雅 『三國志逍遙』山川出版社/●カリール ジブラン 佐久間 彪『預言者』至光社

4.自分の頭で未来を予測する時にヒントになる本
2052 今後40年のグローバル予測.jpg2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する.jpg第五の権力--Googleには見えている未来.jpgユートピア (岩波文庫).jpg一九八四年 新訳版.jpgすばらしい新世界.jpg迷宮に死者は住む2.jpg地図と領土 (単行本).jpg●ヨルゲン・ランダース『2052 今後40年のグローバル予測』/●英エコノミスト』編集部『2050年の世界―英『エコノミスト』誌は予測する』文藝春秋/●エリック・シュミット ジャレッド・コーエン『第五の権力---Googleには見えている未来』ダイヤモンド社/●トマス モア 『ユートピア (岩波文庫 赤202-1)』/●ジョージ・オーウェル『一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)』/●ハックスリー『すばらしい新世界 (講談社文庫)』/●ハンス・ゲオルク・ヴンダーリヒ『迷宮に死者は住む―クレタの秘密と西欧の目覚め (1975年)』新潮社/●ミシェル ウエルベック『地図と領土 (単行本)』筑摩書房

5.複雑な現在をひもとくために不可欠な本
アンダルシーア風土記.jpg気候で読み解く日本の歴史.jpg歴史 上 (岩波文庫 青 405-1).jpg史記列伝 全5冊 (岩波文庫).jpgイタリア絵画史.jpg日本のピアノ100年.jpg国宝神護寺三像とは何か.jpgモンゴル帝国の興亡 (講談社現代新書).jpg完訳 東方見聞録.jpg1940年体制(増補版).jpg昭和史 1926-1945.jpg敗北を抱きしめて 上 増補版.jpg〈民主〉と〈愛国〉.jpg●永川 玲二『アンダルシーア風土記』岩波書店/●田家 康『気候で読み解く日本の歴史―異常気象との攻防1400年』日本経済新聞出版社/●ヘロドトス『歴史 上 (岩波文庫 青 405-1)』/●司馬遷『史記列伝 全5冊 (岩波文庫)』/●ロベルト ロンギ『イタリア絵画史』筑摩書房/●前間 孝則 岩野 裕一『日本のピアノ100年―ピアノづくりに賭けた人々』草思社/●黒田 日出男『国宝神護寺三像とは何か (角川選書)』/●杉山 正明『モンゴル帝国の興亡<上> (講談社現代新書)』/●マルコ ポーロ『完訳 東方見聞録〈1〉 (平凡社ライブラリー)』/●野口 悠紀雄『1940年体制(増補版) ―さらば戦時経済』東洋経済新報社/●半藤 一利『昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)』/●ジョン ダワー『敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人』岩波書店/●小熊 英二『〈民主〉と〈愛国〉―戦後日本のナショナリズムと公共性』新曜社
  
6.国家と政治を理解するために押さえるべき本
田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像.jpg首相支配 日本政治の変貌.jpg変貌する民主主義 (ちくま新書).jpg職業としての政治 (岩波文庫).jpg人間の条件 (ちくま学芸文庫).jpg政治思想論集 (ちくま学芸文庫).jpg小説フランス革命11 徳の政治.jpg物語 フランス革命―バスチーユ陥落からナポレオン戴冠まで.jpgフランス革命の省察.jpgアメリカのデモクラシー.jpgトクヴィルが見たアメリカ 現代デモクラシーの誕生.jpg世界をゆるがした十日間〈上〉 (岩波文庫).jpgワイルド・スワン(上) (講談社文庫).jpg●早野 透『田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像 (中公新書)』/●竹中 治堅『首相支配-日本政治の変貌 (中公新書)』/●森 政稔『変貌する民主主義 (ちくま新書)』/●マックス ヴェーバー『職業としての政治 (岩波文庫)』/●ハンナ アレント『人間の条件 (ちくま学芸文庫)』/●カール シュミット『政治思想論集 (ちくま学芸文庫)』/●佐藤 賢一『小説フランス革命11 徳の政治 (小説フランス革命 11)』集英社/●安達 正勝『物語 フランス革命―バスチーユ陥落からナポレオン戴冠まで (中公新書)』/●エドマンド・バーク『フランス革命の省察』みすず書房/●トクヴィル『アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)』/●レオ ダムロッシュ『トクヴィルが見たアメリカ: 現代デモクラシーの誕生』白水社/●ジョン リード 『世界をゆるがした十日間〈上〉 (岩波文庫)』/●ユン チアン『ワイルド・スワン(上) (講談社文庫)
  
7.グローバリゼーションに対する理解を深めてくれる本
ペルリ提督日本遠征記〈第1〉 岩波.jpgペリー.jpg大君の通貨.jpg近代世界システムI.jpgクアトロ・ラガッツィ (上).jpgモンゴル帝国が生んだ世界図.jpg黒いアテナ.jpgベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る.jpg定本 想像の共同体.jpg社会心理学講義.jpg増補 民族という虚構.jpg戦後世界経済史.jpg マッキンダーの地政学.jpgマハン海上権力史論.jpg海洋国家日本の構想.jpg世界正義論.jpg●ペルリ『ペルリ提督日本遠征記〈第1〉 (1953年) (岩波文庫)』/●佐藤 賢一『ペリー』角川書店(角川グループパブリッシング) /●佐藤 雅美『大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫)』/●I. ウォーラーステイン 『近代世界システムI―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立―』名古屋大学出版会/若桑 みどり『クアトロ・ラガッツィ (上) 天正少年使節と世界帝国 (集英社文庫)』/●宮 紀子『モンゴル帝国が生んだ世界図 (地図は語る)』日本経済新聞出版社/●マーティン・バナール『黒いアテナ―古典文明のアフロ・アジア的ルーツ (2〔上〕)』藤原書店/●梅森 直之『ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る (光文社新書)』/●ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)』書籍工房早山/●小坂井 敏晶『増補 民族という虚構 (ちくま学芸文庫)』/●小坂井敏晶『社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)』/●猪木 武徳『戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)』/●ハルフォード・ジョン マッキンダー『マッキンダーの地政学―デモクラシーの理想と現実』原書房/●アルフレッド・T・マハン『マハン海上権力史論(新装版)』原書房/高坂 正堯『海洋国家日本の構想 (中公クラシックス)』/●井上 達夫『世界正義論 (筑摩選書)
  
8.老いを実感したあなたが勇気づけられる本
生物学的文明論 (新潮新書).jpg老い 上 (新装版).jpg決定版 第二の性〈1〉.jpgおひとりさまの老後 (文春文庫).jpgハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅.jpgブッダのことば―スッタニパータ.jpg生と死の接点.jpg5 (ファイブ) 5年後、あなたはどこにいるのだろう.jpg●本川 達雄『生物学的文明論 (新潮新書)』/●シモーヌ・ド ボーヴォワール 『老い 上 (新装版)』人文書院/●ボーヴォワール『決定版 第二の性〈1〉事実と神話 (新潮文庫) 』/●上野 千鶴子『おひとりさまの老後 (文春文庫)』/●レイチェル・ジョイス『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』/●『ブッダのことば―スッタニパータ (岩波文庫)』/●河合 隼雄『生と死の接点』岩波書店/●ダン・ゼドラ『5 (ファイブ) 5年後、あなたはどこにいるのだろう? 』海と月社

  
9.生きることに迷った時に傍らに置く本
アルケミスト―夢を旅した少年.jpg君たちはどう生きるか.jpg幸福論 (岩波文庫).jpgラッセル幸福論 (岩波文庫).jpgニコマコス倫理学〈上〉.jpgルバイヤート.jpg幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫).jpg男性論 ECCE HOMO.jpg●パウロ コエーリョ 『アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)』/●吉野 源三郎『君たちはどう生きるか (岩波文庫)』/アラン『幸福論 (岩波文庫)』/●B. ラッセル『ラッセル幸福論 (岩波文庫)』/●アリストテレス『ニコマコス倫理学〈上〉 (岩波文庫)』/●オマル・ハイヤーム『ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)』/●オスカー ワイルド『幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)』/●ヤマザキ マリ 『男性論 ECCE HOMO (文春新書 934)


  
10.新たな人生に旅立つあなたに捧げる本
何でも見てやろう.jpg深夜特急.jpgグレートジャーニー 人類5万キロの.jpg大唐西域記.jpgイタリア紀行 上.jpg三大陸周遊記 抄.jpgイブン・ジュバイルの旅行記.jpgインド日記―牛とコンピュータの国から.jpgスペイン旅行記 ――カレル・チャペック旅行記コレクション.jpg中国奥地紀行.jpg朝鮮紀行.jpg●小田 実『何でも見てやろう (講談社文庫)』/●沢木 耕太郎『深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)』/●関野 吉晴『グレートジャーニー 人類5万キロの旅 1 嵐の大地パタゴニアからチチカカ湖へ (角川文庫) 』/●玄奘『大唐西域記〈1〉 (東洋文庫)』/●ゲーテ『イタリア紀行(上) (岩波文庫 赤405-9)』/●イブン・バットゥータ『三大陸周遊記 抄 (中公文庫BIBLIO)』/●イブン・ジュバイル『イブン・ジュバイルの旅行記 (講談社学術文庫)』/●小熊 英二『インド日記―牛とコンピュータの国から』新曜社/●カレル・チャペック『スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)』/●イザベラ・L バード 『中国奥地紀行〈1〉 (東洋文庫)』/●イザベラ・バード『朝鮮紀行〜英国婦人の見た李朝末期 (講談社学術文庫)

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本書そのものを味わってもいいのでは。紹介本へ読み進むうえでは、読み所や関連書籍をガイドしているのが丁寧。

『アメリカCEOのベストビジネス書100』2.JPGThe 100 Best Business Books of All Time.jpgアメリカCEOのベストビジネス書100.jpg
  
  
  
アメリカCEOのベストビジネス書100』(2009/11 講談社)/"The 100 Best Business Books of All Time: What They Say Why They Matter and How They Can Help You (Paperback) - Common"/『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』(2009/11 東洋経済新報社)

『アメリカCEOのベストビジネス書100』.JPG アメリカのビジネス専門誌書店「800-CEO-READ」の経営者らが、最高レベルのビジネス書と言えるものを100冊を選んで、第1章「まず、あなた自身から」から第12章「さわりで読む」まで12の章に分けて紹介したもので、1冊あたり3~5ページにわたってしっかり解説されているため、500ページを超える大著となっています。

 著者らによれば、2007年にアメリカで出版されたビジネス書の数は1万1千で、1冊ずつ積み重ねたら、9階建てのビルの高さに相当するとのことです。著者らがそれらの中からどういう基準で100冊を選んだかと言うと、まず「アイデアの質」を重視したとのことです。更に、「現代ビジネス社会で働く人にとって、そのアイデアが適用できるか」も重視し、最後に「読み易さ」を基準にしたとのことで、フレデリック・テーラーが20世紀の変わり目に提唱した「労働者は組織という機械における交換可能な歯車にすぎない」といった考え方は、現代は個人の多様性が職場に強みをもたらすという考え方に置き代わっているためテーラーは外し(個人的には、テーラーはそのことだけ言ったわけではないと思うが)、アダム・スミスの『国富論』などは、「読み易さ」重視の観点から外したとのことです(全体的には、所謂"準古典"系はあるが、ストレートな"古典"は取り上げていない)。

アメリカCEOのベストビジネス書1002.jpg 経営学者による著書だけでなく、企業経営者によるものも幾つか含まれているのが特徴で(「伝記から選ぶ」という章がある)、但し、成功体験であっても現代の世の中で応用されにくいものは除外したとのこと、自己啓発的な本も若干含まれていますが(個人的にはあまり読まないなあ)、全体としてバランス良く、ドラッカーの著者を複数取り上げる中で『経営者の条件』などを紹介しているところなど、個人的には悪くないと思いました。

 著者のバックグランドやその本が書かれた経緯も述べられていて、ただ内容解説するだけでなく、著者らの観点から"書評"的に書かれている箇所もあり、本書自体が読み物として読めるようになっています。また、他の啓蒙家や経営思想家が述べていることと一致している点やそこから派生している点、或いは相反している点などの記述もあり、自ずと他の本と関連付けながら読めるのも本書の特長です。

 100冊も紹介されて、これだけでお腹一杯という印象もありますが、本書そのものを味わえばいいのではないかなあと。それで尚且つ、紹介されている本を読んでみたいと思えば読めばいいという感じでしょうか。本書によってその著書への関心が湧けば、著者のその他の本や同系の著者の本へと読み進んでいってもいいわけで、解説の終わりに「次に読むべきところは?」「さらに読むべき本は?」という項目で、解説した以外の読み所の箇所や同じ著者の関連書籍をガイドしているのも丁寧であると思いました。

 以下、紹介書籍の一部を示しますが、本の括り方(ジャンル分け)や小見出しの付け方にも工夫があるように思いました。

第1章 まず、あなた自身から
フロー体験 喜びの現象学1.jpg・忘我の境地こそフローの感覚 『フロー体験 喜びの現象学
・まず、必要な行動を明確にせよ 『ストレスフリーの整理術』
経営者の条件 ドラッカー 旧版.jpg経営者の条件 ドラッカー.jpg・リーダーにも新人にも必須のビジネス指南書 『経営者の条件』 ほか
・スターをはぐくむ「九つの戦略」 『9つの黄金測』
・成功を創造する習慣 『7つの習慣』
・「人間関係」を説いた不朽の大ベストセラー 『人を動かす』
・ビジネスで生き残り、成功する近道とは 『ビジネス人間学』 ほか

第2章 リーダーシップとは
・生まれながらのリーダーはいない 『リーダーになる』
・実話に学ぶリーダーシップの原則 『九つの決断』
リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版].jpg・豊富なリサーチのもと「優れたリーダー像」を追求 『リーダーシップ・チャレンジ
響き合うリーダーシップ.jpg・ハーマンミラーの元CEOが語る真のリーダーの意義 『響き合うリーダーシップ
・「究極のリーダーシップ」をフィクションで描いた一冊 『LEAP!』
・ジャック・ウェルチは、いかにしてGEを変化させたのか? 『ジャック・ウェルチのGE革命』
・企業変革を成功させる秘訣を八段階のプロセスで指南 『企業変革力』 ほか
 
第3章 戦略を考える
エクセレント・カンパニー_.jpg・超優良企業の観察をもとに提言された時代を超える企業ビジョン『エクセレント・カンパニー
・平均的企業が大きく飛躍する法則 『ビジョナリー・カンパニー2.jpgビジョナリー・カンパニー2
・巨大企業も脅かす新技術への対応とは 『イノベーションのジレンマ』
・「戦略転換点」を見定めて危機を乗り越えよ 『インテル戦略転換』
・IBM再建に見る戦略的措置 『巨象も踊る.jpg巨象も踊る
・サービス業の必勝戦略集 『成功企業のサービス戦略』
・目標達成には実行力が不可欠だ 『経営は「実行」 2010 - コピー.jpg経営は「実行」』ほか

第4章 販売とマーケティングのコツ
・セールスと消費における人間心理のメカニズム 『影響力の武器』
・モノと情報の過剰供給社会では「ポジショニングが不可欠だ」 『ポジショニング戦略』 ほか

第5章 ルールを知って、スコアをつける
・賢い人のための経済学入門 『裸の経済学』
・会計の基本ルールと問題点をわかりやすく示した書 『Financial Inteligence』 ほか
キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード.jpg・戦略と実行を結びつける、バランス・スコアカードの構築法 『バランス・スコアカード

第6章 マネジメントは組織運営の要諦
・ドラッカー作品群の"ベスト盤" 『チェンジ・リーダーの条件』『プロフェッショナルの条件』『イノベーターの条件』
・徹底的にムダを排除する、トヨタの生産方式に学べ 『トヨタ生産方式』 ほか

第7章 伝記から学ぶ
・石油王ロックフェラーの貪欲かつ人道的な生涯 『タイタン(上・下)』
・GMの地位を引き上げた偉大な経営者の記録 『GMとともに』 ほか

第8章 起業家精神
・起業のノウハウを軽妙な語り口で説いた1冊 『起業成功マニュアル』
・スモールビジネスで成功する基本ルールとは 『はじめの一歩を踏み出そう』 ほか

第9章 物語(ナラティブ)
・厳格な戦略で築き上げたマクドナルドの成功物語 『マクドナルド』
・鉄鋼業界で生き残りをかけた、スリルとロマンあふれるストーリー 『鉄鋼サバイバル』 ほか

第10章 イノベーションと創造性
・アイデアを形にする「ベストプラクティス」の精神 『発想する会社!』
・創造的な自己発掘のための実践的ガイドブック 『A Whack on the Side of the Head.gif頭脳(あたま)を鍛える練習帳』 ほか

第11章 ビッグアイデアは未来に続く
・人々のライフスタイルはどのように変化していくのか 『ビジネスマン価値逆転の時代』
・コントロールを手放すことが進歩へのカギだ 『「複雑系」を超えて』 ほか

第12章 さわりで読む
・キャリアの移行期を乗り切る実用的な指針 『ハーバード・ビジネス式マネジメント』
ロバート・タウンゼンド組織に活を入れろil2.png・会社を再建させたCEOが語る経営のイロハと企業理念 『組織に活を入れろ』 ほか
  

  

《読書MEMO》
全100冊
YOU
 ●フロー体験 喜びの現象学 Mihaly Csikszentmihalyi  (Flow)
 ・はじめてのGTD ストレスフリーの整理術 David Allen(Getting Things Done:The Art of Stress-Free Productivity)
 ●経営者の条件 Peter F. Drucker  (The Effective)
 ・9つの黄金則 Robert E. Kelley  (How to Be a Star at Work)
 ・7つの習慣 Stephen R. Covey  (The 7 Habits of Highly Effective People)
 ・人を動かす Dale Carnegie  (How to Win Friends and Influence People)
 ・ビジネス人間学 Harvey Mackay  (Swim with the Sharks Without Being Eaten Alive)
 ・The Power of Intuition Gary Klein Ph.D.
 ・このつまらない仕事を辞めたら、僕の人生は変わるのだろうか?Po Bronson(What Should I Do with My Life?)
 ・きみの行く道 Dr.Seuss  (Oh, the Places You'll Go!)
 ・ビジネスマンに贈る最後の言葉 Eugene O'Kelly  (Chasing Daylight)
LEADERSHIP
 ・リーダーになる Warren Bennis  (On Becoming a Leader)
 ・九つの決断 Michael Useem   (The Leadership Moment)
 ●The Leadership Challenge James M. Kouzes, Barry Z. Posner
 ●響き合うリーダーシップ Max Depree  (Leadership Is an Art)
 ・LEAP! Steve Farber  (The Radical Leap)
 ・ジャック・ウェルチのGE革命 Noel M.Tichy, S. Sherman(Control Your Destiny or Someone Else Will)
 ・企業変革力 John P. Kotter  (Leading Change)
 ・Questions of Character Joseph L., Jr. Badaracco
 ・The Story Factor Annette Simmons
 ・Never Give In! Winston S. Churchill
STRATEGY
 ●エクセレント・カンパニー Thomas J. Peters, Robert H. Waterman  (In Search of Excellence)
 ●ビジョナリーカンパニー2 Jim Collins  (Good to Great)
 ・イノベーションのジレンマ Clayton M. Christensen  (The Innovator's Dilemma)
 ・インテルの戦略転換 Andrew S. Grove  (Only the Paranoid Survive)
 ●巨象も踊る Louis Gerstner  (Who Says Elephants Can't Dance?)
 ・成功企業のサービス戦略 Leonard L. Berry  (Discovering the Soul of Service)
 ●経営は「実行」 Larry Bossidy, Ram Charan  (Execution)
 ・コア・コンピタンス経営 Gary Hamel, C. K. Prahalad  (Competing for the Future)
SALES AND MARKETING
 ・影響力の武器 Robert B. Cialdini  (influence)
 ・ポジショニング戦略 Al Ries, Jack Trout  (Positioning)
 ・なぜみんなスターバックスに行きたがるのか? Scott Bedbury, Stephen Fenichell  (A New Brand World)
 ・逆転のサービス発想法 Harry Beckwith  (Selling the Invisible)
 ・ザグを探せ! Marty Neumeier  (ZAG)
 ・キャズム Geoffrey A. Moore  (Crossing the Chasm)
 ・販売成約120の秘訣 Zig Ziglar  (Secrets Of Closing The Sale)
 ・めざせ!レインメーカー Jeffrey J. Fox  (How to Become a Rainmaker)
 ・なぜこの店で買ってしまうのか Paco Underhill  (Why We Buy)
 ・経験経済 B. Joseph Pine, James H. Gilmore   (The Experience Economy)
 ・「紫の牛」を売れ! Seth Godin  (Purple Cow)
 ・急に売れ始めるにはワケがある Malcolm Gladwell  (The Tipping Point)
RULE AND SCOREKEEPING
 ・裸の経済学 Charles Wheelan  (Naked Economics)
 ・Financial Intelligence Karen Berman, Joe Knight
 ●バランス・スコアカード Robert S. Kaplan, David P. Norton  (The Balanced Scorecard)
MANAGEMENT
 ・チェンジ・リーダーの条件 Peter F. Drucker  (The Essential Drucker)
 ・プロフェッショナルの条件 Peter F. Drucker  (The Essential Drucker)
 ・イノベーターの条件 Peter F. Drucker  (The Essential Drucker)
 ・Out of the Crisis W. Edwards Deming
 ・トヨタ生産方式 大野 耐一  (Toyota Production System)
 ・リエンジニアリング革命 Michael Hammer, James Champy  (Reengineering the Corporation)
 ・ザ・ゴール Eliyahu M. Goldratt, Jeff Cox  (The Goal)
 ・その仕事は利益につながっていますか? Jack Stack  (The Great Game of Business)
 ・まず、ルールを破れ Marcus Buckingham, Curt Coffman  (First, Break All The Rules)
 ・さあ、才能(じぶん)に目覚めよう Marcus Buckingham, Donald O. Clifton(Now, Discover Your Strengths)
 ・実行力不全 Jeffrey Pfeffer, Robert I. Sutton  (The Knowing-Doing Gap)
 ・あなたのチームは、機能してますか? Patrick M. Lencioni  (The Five Dysfunctions of a Team)
 ・会議が変わる6つの帽子 Edward de Bono  (Six Thinking Hats)
BIOGRAPHIES
 ・タイタン〈上・下〉 Ron Chernow  (Titan)
 ・GMとともに Alfred Sloan  (My Years with General Motors)
 ・HPウェイ David Packard  (The HP Way)
 ・キャサリン・グラハム わが人生 Katharine Graham  (Personal History)
 ・真実の瞬間 Jan Carlzon  (Moments of Truth)
 ・私のウォルマート商法 Sam Walton  (Sam Walton)
 ・ヴァージン―僕は世界を変えていく Richard Branson  (Losing My Virginity)
ENTREPRENEURSHIP
 ・完全網羅 起業成功マニュアル Guy Kawasaki  (The Art of the Start)
 ・はじめの一歩を踏み出そう Michael E. Gerber  (The E-Myth Revisited)
 ・The Republic of Tea Mel Ziegler, etc.
 ・The Partnership Charter David Gage
 ・ビジネスを育てる Paul Hawken  (Growing a Business)
 ・Guerrilla Marketing Jay Conrad Levinson
 ・ランディ・コミサー Randy Kosimar  (The Monk and the Riddle)
NARRATIVE
 ・マクドナルド John F. Love  (McDonald's)
 ・American Steel Richard Preston
 ・いまだ目標に達せず David Dorsey  (The Force)
 ・The Smartest Guys in the Room Bethany McLean, Peter Elkind
 ・最強ヘッジファンドLTCMの興亡 Roger Lowenstein  (When Genius Failed)
 ・マネー・ボール Michael Lewis  (Moneyball)
INNOVATION AND CREATIVITY
 ・Orbiting the Giant Hairball Gordon MacKenzie
 ・発想する会社! Thomas Kelley  (The Art of Innovation)
 ・Jump Start Your Business Brain Doug Hall
 ●頭脳(あたま)を鍛える練習帳 Roger von Oech  (A Whack on the Side of the Head)
 ・クリエイティブな習慣 Twyla Tharp  (The Creative Habit)
 ・チャンスを広げる思考トレーニング Rosamund Stone Zander, Benjamin Zander (The Art of Possibility)
BIG IDEAS
 ・ビジネスマン価値逆転の時代 Charles Handy  (The Age of Unreason)
 ・「複雑系」を超えて Kevin Kelly  (Out Of Control)
 ・クリエイティブ資本論 Richard Florida  (The Rise of the Creative Class)
 ・EQ―こころの知能指数 Daniel Goleman  (Emotional Intelligence)
 ・Driven Paul R. Lawrence, Nitin Nohria
 ・人はだれでもエンジニア Henry Petroski  (To Engineer Is Human)
 ・「みんなの意見」は案外正しい James Surowiecki  (The Wisdom of Crowds)
 ・アイデアのちから Dan Heath, Chip Heath  (Made to Stick)
TAKEAWAYS
 ・ハーバード・ビジネス式マネジメント Michael Watkins  (The First 90 Days)
 ●組織に活を入れろ Robert C. Townsend  (Up the Organization)
 ・Beyond the Core Chris Zook
 ・営業の赤本 Jeffrey Gitomer  (Jeffrey Gitomer's Little Red Book of Selling)
 ・ビジネスの極意は、インドの露天商に学べ! Ram Charan  (What the CEO Wants You to Know)
 ・The Team Handbook Barbara J. Streibel, Brian L. Joiner, Peter R. Scholtes
 ・IBMを世界的企業にしたワトソンJr.の言葉 Thomas J., Jr. Watson  (A Business and Its Beliefs)
 ・セレンディピティ Bo Peabody  (Lucky or Smart?)
 ・レクサスとオリーブの木(上・下) Thomas L. Friedman  (The Lexus and the Olive Tree)
 ・アイデアのおもちゃ箱 Michael Michalko  (Thinkertoys)
 ・投資の科学 Michael J. Mauboussin  (More Than You Know)

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紙質もレイアウトもいい。選本も要所を押さえていて、解説もこなれている。

世界で最も重要なビジネス書.jpg世界で最も重要なビジネス書 .JPG   あらすじで読む世界のビジネス名著.jpg
世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』['05年/ダイヤモンド社] 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』['04年/総合法令]
『世界で最も重要なビジネス書 』.jpg
 先に取り上げた『あらすじで読む 世界のビジネス名著』('04年/総合法令)が、全190ぺージ余りの中で世界のMBAカリキュラムでも必読テキストとなっているドラッカー、コトラー、ポーターなど、ビジネス書の名著とされる定番28冊を紹介したものであったのに対し、こちらは全350ページの中で、ビジネス名著77冊を、「思想と人間」「戦略と理論」「マネジメントと組織」の3部に分け、1冊あたり4ページから5ページを割いて紹介し紹介・解説しています。

 ダイヤモンド社編となっていますが、英国ブルームズベリー社(確か「ハリー・ポッター」シリーズの版元のはず)のオリジナルの文章にダイヤモンド社の編集者が類書紹介(エディターズ・チョイス)を追加したもので、取り上げている本は『国富論』(アダム・スミス)、『資本論」(マルクス)、『君主論』(マキャベリ)などの歴史的書物から、『人を動かす』(カーネギー)、『現代の経営』(ドラッカー)などの古典的ビジネス書、『ビジョナリー・カンパニー』(コリンズ)、『ザ・ゴール』(ゴールドラット)など比較的近年ものまで(と言っても、原著が刊行されて10年経っているのだが)幅広く、『五輪書』(宮本武蔵)などもラインアップされています。

 各解説は「GETTING STARTED」(主要テーマについてのイントロ)、「CONTRIBUTION」(ラーニングポイント)、「CONTEXT」(その本の影響や意義)で構成され、全編を通して読み物のように読め、また、そうして読んでいくと、一見拡散気味に思えたラインアップが自然と流れとして繋がってくるという印象でした。
 
 2段組みですが行間はゆったりしていてたいへん読み易く、デザインやレイアウトも凝っていて紙質も良く、保存版として手元に置いておくのにいいです。その上、気持ち良く読めるという印象で(このレイアウトと紙質は、少なくとも本書自体への読書欲は増進させる効果はある)、各冒頭の1ページにある書影はくっきりと大きく、また、著者略歴、翻訳・原著のリソース、内容を一言で表したキャッチフレーズ、難易度、概説なども同じページ内に纏められているので、何だかもう手元に本があるような気分にもなってしまいます。

 選本も要所を押さえているように思え、解説もよくこなれているため、個人的には、本書1冊を読んでそれなりに満足してしまった感も。今まで読んだことがある本の振り返りにもなったし、ある程度、"時代限定"的に評価の定まっている本(今それほどこぞって読むようなものでもない本)もあるし...と言うと、何だか全てを読み切れないことの負け惜しみみたいですが、こうした本があるということだけでも知っておくことの意味はあるのではないかと思います(教養とは、自分が何を知らないかを知っていることである、という説もあるし)。

《読書MEMO》
●紹介書籍
第1部 思想と人間
『IBMを世界的企業にしたワトソンJr.の言葉 (Eijipress business classics) 』
『HPウェイ - シリコンバレーの夜明け』 (日経ビジネス人文庫)
『新訳 君主論』 (中公文庫BIBLIO)
『[新訳]経験経済』
『経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上・下〉』 (岩波文庫)
『国富論』 (岩波文庫)
『雇用・利子および貨幣の一般理論』
『ザ チェンジ マスターズ―21世紀への企業変革者たち』
『産業文明における人間問題―オーソン実験とその展開』 (1967年)
『GMとともに』
『自然資本の経済―「成長の限界」を突破する新産業革命』
『資本論』
『スモール イズ ビューティフル』 (講談社学術文庫)
『セムラーイズム 全員参加の経営革命 (ソフトバンク文庫)
『組織のなかの人間―オーガニゼーション・マン』 (現代社会科学叢書)
『第三の波』 (中公文庫 M 178-3)
『断絶の時代―いま起こっていることの本質』
『人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ』
『ハーバード流交渉術』.jpgハーバード流交渉術』 (知的生きかた文庫)
『ビーイング・デジタル - ビットの時代』新装版
ピーターの法則.jpgピーターの法則 創造的無能のすすめ
『人を動かす』新装版
プロフェッショナルマネジャー ハロルド ジェニーン.jpgプロフェッショナルマネジャー
『ボーダレス・ワールド』
『MADE IN JAPAN(メイド・イン・ジャパン)』
『メガトレンド』
『20世紀の巨人事業家ヘンリー・フォード著作集』

第2部 戦略と理論
エクセレント・カンパニー_.jpgエクセレント・カンパニー
『企業価値評価 第4版 【上】、企業価値評価 第4版 【下】』
『企業生命力』
『企業戦略論』
企業の人間的側面.jpg企業の人間的側面―統合と自己統制による経営
『競争の戦略』
『国の競争優位〈上〉、国の競争優位〈下〉』
『ゲーム理論で勝つ経営 競争と協調のコーペティション戦略』 日経ビジネス人文庫
『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』
『五輪書』 (岩波文庫)
『ザ・ゴール― 企業の究極の目的とは何か』
『シックスシグマ・ブレイクスルー戦略―高収益を生む経営品質をいかに築くか』
『シナリオ・プランニングの技法』 (Best solution)
『真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか』
『ストラテジック・マインド―変革期の企業戦略論』
『戦争論』〈上・下〉』 (岩波文庫)
『戦略計画 創造的破壊の時代』
『戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック』 (Best solution)
ビジョナリー・カンパニー1.jpg『戦略の原理―独創的なポジショニングが競争優位を生む』
『孫子』 (講談社学術文庫)
『地球市場時代の企業戦略―トランスナショナル・マネジメントの構築』
ビジョナリー・カンパニー―時代を超える生存の原則
『複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』 (新潮文庫)
『マーケティングの革新―未来戦略の新視点』
『マッキンゼー 経営の本質 意思と仕組み』

第3部 マネジメントと組織
1分間マネジャー.jpg1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!
『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』
科学的管理法.JPG[新訳]科学的管理法
期待される管理者像.jpg期待される管理者像―新・グリッド理論
新訳 経営者の役割_.jpg経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)
『経営の行動科学』 (1984年)
『マックス・ウェーバー―経済と社会』     
ドラッカー名著集2.jpg現代の経営[上・下]
『コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略』
最強組織の法則 - 原著1990.jpg最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か
産業ならびに一般の管理2.jpg産業ならびに一般の管理』 (1985年)
ディルバートの法則011.jpgディルバートの法則
『ジャパニーズ・マネジメント』(講談社文庫)
『組織行動の原理―動態的管理』
『組織は戦略に従う』
『知識構築企業』
『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』
『ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング』 (日経ビジネス人文庫)
『21世紀の経営リーダーシップ―グローバル企業の生き残り戦略』
パーキンソンの法則.jpgパーキンソンの法則』 (至誠堂選書)
『ビジネスマン価値逆転の時代―組織とライフスタイル創り直せ』
マネジャーの仕事.jpgマネジャーの仕事』
『リエンジニアリング革命―企業を根本から変える業務革新』 (日経ビジネス人文庫)
リーダーシップの王道.jpgリーダーシップの王道
『リーダーになる』[増補改訂版]

  

  
   

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紹介冊数は多くないが、その分解説は丁寧。選本も手堅く、実際にその著書を読む時に使える。
あらすじで読む世界のビジネス名著.jpgあらすじで読む世界のビジネス名著2.jpg      あらすじで読む 世界のビジネス名著』6.JPG
あらすじで読む 世界のビジネス名著』['04年/総合法令]/『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』['05年/ダイヤモンド社]

 世界のMBAカリキュラムでも必読テキストとなっているドラッカー、コトラー、ポーターなど、ビジネス書の名著とされる定番28冊のエッセンスを抜き出して1冊にしたもので(全195ページ)、1冊あたり6ページの割り振りの中で、冒頭のページの「キーワード」「機能別分類」「キャリア職位別分類」で、その本の理論や主張のキーとなる言葉、どういった領域のことが述べられているのか、初級者・中級者(マネージャー)・上級者(シニアマネージャー)の何れの読者層向きか示しています。

 本文各3ページはそれぞれ「1分解説」「要旨」「読書メモ」から成り、「1分解説」で、なぜその本がバイブルとされるのか、その経緯や背景を説明し、「要旨」で、著者がその本で伝えているメッセージを要約し、「読書メモ」で、そのメッセージで特に核となる部分、メッセージを補足する重要な事柄について、読書メモ的に抜書き整理しています。

そして、最後に見開き2ページの「目次体系マップ」があり、目次から各章の構成と関連を、論旨の流れに合わせてツリー状に図説するとともに、必要に応じてその要約が示されていますが(この部分が、タイトルの「あらすじで読む」に呼応しているとも言える)、全体に分かり易く、また使い勝手よく纏められているように思います。

ただ単に内容をざっと知るだけならば最初の4ページまででもいいのですが、実際にその著書を読むとなると、最後に見開き2ページを割いている「目次体系マップ」がかなり役立つように思われます。

章の構成としては、中心となる部分を「ヒト(HR/組織行動)」「モノ(マーケティング)」「カネ(会計・財務)」「戦略」という分け方にしているのが特徴で、各章5冊から7冊ずつ取り上げています。

 1冊ずつじっくり、しかも分かり易く紹介しているという印象。しかも、ビジネスの広い範囲に渡って取り上げているため、28冊という限られた冊数になっていますが、「名著」の選定に関しては、編者がグローバルなMBA同窓組織から生まれたプロジェクト支援組織であるだけに、MBA基準での手堅いラインアップという印象を受けた一方で、'04年の刊行ということで、当時のトレンドを反映している面も一部には感じられました(今読んでも"ハズレ"ということではないのでしょうが)。。

《読書MEMO》
●紹介書籍
第1章:ゼネラル・マネジメント
ドラッカー名著集2.jpgドラッカー名著集3.jpg新訳 現代の経営(上・下)』P・F・ドラッカー

第2章:論理的思考
『考える技術・書く技術』バーバラ・ミント

第3章:技術経営・アントレプレナーシップ
『増補改訂版 イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン
『イノベーションの解』クレイトン・クリステンセン他
『ベンチャー創造の理論と戦略』ジェフリー・A・ティモンズ

第4章:ヒト(HR/組織行動)
ハーバードで教える人材戦略2.jpgハーバードで教える人材戦略』M・ビアー+B・スペクター他
【新版】組織行動のマネジメント.jpg組織行動のマネジメント 旧.jpg組織行動のマネジメント』ステファン・P・ロビンス
コンピテンシーマネジメントの展開.gifコンピテンシー・マネジメントの展開』ライル・M・スペンサー他
最強組織の法則 - 原著1990.jpg最強組織の法則』ピーター・M・センゲ
『企業変革力』ジョン・P・コッター

第5章:モノ(マーケティング)
『コトラーのマーケティング・マネジメント ミレニアム版』フィリップ・コトラー
『顧客ロイヤルティのマネジメント』フレデリック・F・ライクヘルド
『サービスマーケティング原理』クリストファー・ラブロック他
『ブランド・エクイティ戦略』D・A・アーカー

第6章:カネ(会計・財務)
『企業分析入門 第二版』K・G・パレプ+P・M・ヒーリー他
『企業価値評価』マッキンゼー・アンド・カンパニー+トム・コープランド他
『コーポレイト・ファイナンス(上・下)第六版』リチャード・ブリーリー他
『ABCマネジメント革命』R・クーパー+R・S・カプラン他
『EVA創造の経営』G・ベネット・スチュワートIII
『決定版リアル・オプション』トム・コープランド他
『リスク 神々への反逆(上・下)』ピーター・バーンスタイン

第7章:戦略
『新訂 競争の戦略』M・E・ポーター
『競争優位の戦略』M・E・ポーター
『コア・コンピタンス経営』ゲイリー・ハメル+C・K・プラハラード
『知識創造企業』野中郁次郎+竹内弘高
『ゲーム理論で勝つ経営』A・ブランデンバーガー&B・ネイルバフ
ビジョナリー・カンパニー1.jpgビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・C・コリンズ他
キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード.jpgキャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード』ロバート・S・キャプラン他
 
 

 

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面白い本の面白い部分だけを紹介した『面白い本』。"オフ会"活動の延長としての『ノンフィクションはこれを読め!』。

面白い本 成毛.jpg  ノンフィクションはこれを読め2.jpg ノンフィクションはこれを読め1.jpg honzu.jpg
面白い本 (岩波新書)』『ノンフィクションはこれを読め! - HONZが選んだ150冊』 本紹介サイト「HONZ - ノンフィクションはこれを読め!」

HONZ.jpg 元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏によるもので、そう言えば『本は10冊同時に読め!―本を読まない人はサルである!』(三笠書房)なんていうのもあったなあ、この人。基本的に小説などは読まないみたいで、ノンフィクション一本。それにしてもすごく広いジャンルの本を読んでいるなあと。

 「面白い本」の面白い部分だけを抜書きして紹介しているため、実際"面白く"読めましたが、ちょっと立花隆氏と似ている感じも。立花氏も、ノンフィクション一本だし、本の良し悪しよりも、面白い本の面白い部分だけを紹介するようなスタイルには共通するものがあります。

ぼくの血となり肉となった五〇〇冊そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊.jpg 立花氏の『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』や『ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊』(いずれも文藝春秋)などの「週刊文春」連載の書評を纏めたシリーズを読んで思ったのですが、紹介されている本を読破しようなんて思わないことだなあと。その本自体を愉しめばいいのだと―。
 
HONZ サイト.jpg 因みに著者は、2011年に自らのブログで呼びかけて始めた、ノンフィクションに限定した「HONZ」という書評サイト及び書評勉強会を始めていて、今やその「HONZ」のサイトの会員であるレビュアーによって紹介された本が、書店で売れ筋になるほどの影響力を持っているそうです(氏自身は、「HONZ」は書評サイトではなく、「おすすめ本」を紹介するサイトであると断っている)。

 その「HONZ」のレビューを抜粋・編集したものが、本書より少し前に刊行された『ノンフィクションはこれを読め!―HONZが選んだ150冊』('12年/中央公論新社)ですが、こちらもそれなりに面白いのですが、書評を読んだだけで満足してしまいそうなもの(いいのか悪いのか?)、普通の新刊案内レビューとあまり変わらないようなもの、個人的エッセイ風のものと、まあ20人くらいの書き手が書いているためトーンそのものが雑多な印象も。

 評論家の山形浩生氏が自らのブログで、「HONZにある書評のほとんどに共通するダメなところというのは、基本的に、評者が本を読んで『おもしろかった』というのを、その本の中だけで閉じて言っていることだ。その本の範疇を出る書評がほとんどない」と述べていましたが、やや厳し過ぎる批判のように思えるものの、そうした面は確かにあるかもしれません。でも、成毛氏にしても「HONZ」の書評家にしても、実生活に全く役に立たないような本を紹介することを敢えて身上としている面もあるんだよなあ。山形氏のように、自らの書評の「足元にも及ばない」とイキらなくても、それはそれでいいのではないかという気もします(「HONZ」のサイトによれば、成毛氏自身は「書評ブログ講座なんぞをやってみようかと企画中」とのこと)。

 「HONZ」のサイト自体は新刊書に限定しているので、ジャンルを問わず新刊で面白そうな本はないかという時には便利ですが、確かに「書き方に工夫がない」(山形氏)とまでは言わないけれど、やや物足りない面はあるかも。「HONZ」の書評家たちも著名人、書店員、フツーの人の区分けなく錚々たるメンバー並びに上質のレビュアーだと思いますが)「「HONZ」のレビュアーになるための審査をパスした人だけが書いているらしい)、それだけにレビュアー各自の纏め方自体は上手いと思いますが、「人の多様性」×「ジャンルの多様性」で、見ているとやや情報過多になってしまうキライも。。やはり、『面白い本』の場合は、成毛氏という著名な個人がこれだけの本に接しているという点が興味を引くのかもしれません。「立花氏が選んだ」とか「成毛氏が選んだ」というのは、自分の中で一つの指標になっているのかもね(これって権威主義的?)。

HONZ3.jpg 『ノンフィクションはこれを読め!』の方が情報量としては多いけれど、『面白い本』の方が新刊書に限っていない分、 『ノンフィクションはこれを読め!』よりある意味幅広いとも言えるかも。それでいてすらすら読めるのは、成毛氏のその本の「面白どころ」の掴み方が上手いのかも。この辺りも立花氏に通じます(面白くないところは、本人もスキップして読んでるんだろなあ。そうでないと、こんなに読めないよ)。

売れ行き左右-ノンフィクション書評サイト「HONZ」(BOOK asahi.com 2013年2月20日)

 「HONZO」というのは、書評勉強会が楽しいのでしょう。『ノンフィクションはこれを読め!』の刊行も、そうした"オフ会"活動の延長、1年の振り返りといった印象を受けます。今後、毎年刊行していくんだろなあ。サイトの内容を纏め読みできるという意味では便利かも。

《読書MEMO》
●『面白い本』で紹介されている本
第1章 ピンポイント歴史学
「ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)」 [文庫] スティーヴン・ジェイ・グールド
「イヴの七人の娘たち (ヴィレッジブックス)」 [単行本] ブライアン サイクス
「死海文書のすべて」青土社 [単行本] ジェームス・C. ヴァンダーカム
「ロゼッタストーン解読 (新潮文庫)」 [文庫] レスリー・アドキンズ
「トンパ文字―生きているもう1つの象形文字」マール社 [単行本] 王 超鷹
「ヴォイニッチ写本の謎」青土社 [単行本] ゲリー・ケネディ
「全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)」 [文庫] 松本 修
「TOKYO STYLE (ちくま文庫)」 [文庫] 都築 響一
「マタギ 矛盾なき労働と食文化」エイ出版社 [単行本(ソフトカバー)] 田中康弘
「サルたちの遺言 宮崎幸島・サルと私の六十五年」祥伝社 [単行本] 三戸サツヱ
「オオカミの護符」新潮社 [単行本] 小倉 美惠子
「毛沢東の大飢饉 史上最も悲惨で破壊的な人災 1958?1962」草思社 [単行本] フランク・ディケーター
「ポル・ポト―ある悪夢の歴史」白水社 [単行本] フィリップ ショート
「悲しみの収穫―ウクライナ大飢饉」恵雅堂出版 [単行本] ロバート・コンクエスト
「731―石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く (新潮文庫)」 (新潮文庫) [文庫] 青木 冨貴子
第2章 学べない生き方
「ザ・ビッグイヤー 世界最大のバードウォッチング競技会に挑む男と鳥の狂詩曲」アスペクト [単行本] マーク・オブマシック
「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」河出書房新社 [単行本] ウェンディ・ムーア
「「李香蘭」を生きて (私の履歴書)」日本経済新聞社 [単行本] 山口 淑子
マリス博士の奇想天外な人生.jpg「マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF)」 [文庫] キャリー・マリス
「死にたい老人 (幻冬舎新書)」 [新書] 木谷 恭介
「ブッシュ妄言録」ぺんぎん書房 [単行本] フガフガ・ラボ (著), 村井 理子 (著)
「演歌よ今夜も有難うー知られざるインディーズ演歌の世界」平凡社 [単行本] 都築 響一
「なぜ人妻はそそるのか? 「よろめき」の現代史 (メディアファクトリー新書)」 (メディアファクトリー新書) [新書] 本橋信宏
「武士マニュアル (メディアファクトリー新書) [新書] 氏家幹人
「なかのとおるの生命科学者の伝記を読む」学研メディカル秀潤社 [単行本] 仲野徹
大村智 2億人を病魔から守った化学者.png「大村智 - 2億人を病魔から守った化学者」中央公論新社 [単行本] 馬場 錬成
「ミドリさんとカラクリ屋敷」集英社 [単行本(ソフトカバー)] 鈴木 遥
「クマムシ?!―小さな怪物 (岩波 科学ライブラリー)」 [単行本] 鈴木 忠
「ヒドラ――怪物?植物?動物! (岩波科学ライブラリー〈生きもの〉)」 [単行本(ソフトカバー)] 山下 桂司
ロウソクの科学改訂版.jpg「ロウソクの科学 (角川文庫)」 [文庫] ファラデー
第3章 ヘビーなサイエンス
「ヒトは食べられて進化した」化学同人 [単行本] ドナ・ハート、ロバート W.サスマン 
「笑うカイチュウ」 (講談社文庫) [文庫] 藤田 紘一郎
「ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係」 (岩波科学ライブラリー) [単行本] 吉田 重人、岡ノ谷 一夫
「チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る」岩波書店 [単行本] 大河内 直彦
凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語.jpg「凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語 」(新潮選書) [単行本] 田近 英一
「破局噴火-秒読みに入った人類壊滅の日 」(祥伝社新書) [新書] 高橋 正樹
「ノアの洪水」集英社 [単行本] ウォルター・ピットマン ウィリアム・ライアン
「恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた」 (文春文庫) [文庫] ピーター・D. ウォード
「医学探偵ジョン・スノウ―コレラとブロード・ストリートの井戸の謎」日本評論社 [単行本] サンドラ・ヘンペル
「ペニシリンはクシャミが生んだ大発見―医学おもしろ物語25話」 (平凡社新書) [新書] 百島 祐貴
「不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生 」講談社[単行本] レベッカ・スクルート
「アンティキテラ古代ギリシアのコンピュータ」文春文庫 [単行本] ジョー・マーチャント
「フェルマーの最終定理」 (新潮文庫) [文庫] サイモン・シン
「暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで] (新潮文庫) [文庫] サイモン・シン
「完全なる証明―100万ドルを拒否した天才数学者」 (文春文庫) [文庫] マーシャ ガッセン
第4章 シチュエーション別読書法
「鑑賞のためのキリスト教美術事典」視覚デザイン研究所 [単行本] 早坂 優子
「死にカタログ」大和書房 [単行本] 寄藤 文平
「ゲームシナリオのためのSF事典 知っておきたい科学技術・宇宙・お約束110」ソフトバンククリエティブ [単行本] クロノスケープ (著), 森瀬 繚 (監修)
「ゲームシナリオのためのファンタジー事典 知っておきたい歴史・文化・お約束110」ソフトバンククリエティブ [単行本] 山北 篤
「ゲームシナリオのためのミリタリー事典 知っておきたい軍隊・兵器・お約束110」ソフトバンククリエティブ[単行本] 坂本 雅之
「ゲームシナリオのためのミステリ事典 知っておきたいトリック・セオリー・お約束110」ソフトバンククリエティブ [単行本] ミステリ事典編集委員会 (著), 森瀬 繚 (監修)
「原色金魚図艦―かわいい金魚のあたらしい見方と提案」池田書店 [単行本] 川田 洋之助 (監修), 岡本 信明
「はい、泳げません」新潮文庫 [単行本] 高橋 秀実
「日本全国津々うりゃうりゃ」廣済堂出版 [単行本] 宮田 珠己
「エロティック・ジャポン」河出書房新社 [単行本] アニエス・ジアール
「人間の大地 労働―セバスティアン・サルガード写真集」岩波書店 [大型本] セバスティアン サルガード
「ピュリツァー賞 受賞写真 全記録 」ナショナル ジオグラフィック社[単行本(ソフトカバー)] ハル・ビュエル (著)、ナショナル ジオグラフィック(編)
「BONES ― 動物の骨格と機能美」早川書房 [ハードカバー] 湯沢英治 (著), 東野晃典 (著), 遠藤秀紀 (監修)
「新装版 道具と機械の本――てこからコンピューターまで」岩波書店 [大型本] デビッド・マコーレイ
「絵本 夢の江戸歌舞伎 (歴史を旅する絵本)」岩波書店 [大型本] 服部 幸雄 (著), 一ノ関 圭 (イラスト)
「東海道五十三次 将軍家茂公御上洛図―E・キヨソーネ東洋美術館蔵」河出書房新社 [単行本] 福田 和彦
「宇宙創成」 (新潮文庫) [文庫] サイモン シン
「エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する」草思社 [単行本] ブライアン グリーン
「宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体」草思社 [単行本] ブライアン・グリーン
「バースト! 人間行動を支配するパターン」NHK出版 [単行本] アルバート=ラズロ・バラバシ
第5章 嘘のノンフィクション
「鼻行類―新しく発見された哺乳類の構造と生活」 (平凡社ライブラリー) [新書] ハラルト シュテュンプケ
「バチカン・エクソシスト」 (文春文庫) [文庫] トレイシー ウイルキンソン
「ご冗談でしょう、ファインマンさん」 (岩波現代文庫) [文庫] リチャード P. ファインマン
「二重らせん―DNAの構造を発見した科学者の記録」(講談社ブルーバックス)ジェームス・D.ワトソン
「ロザリンド・フランクリンとDNA―ぬすまれた栄光」草思社 [単行本] アン・セイヤー
「ヒトラー・マネー」講談社 [単行本] ローレンス・マルキン
「ジーニアス・ファクトリー」早川書房 [単行本] デイヴィッド・プロッツ
「私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件」武田ランダムハウスジャパン [単行本] フランク・ウイン
「偽りの来歴 ─ 20世紀最大の絵画詐欺事件」白水社 [単行本] レニー ソールズベリー、アリー スジョ
「FBI美術捜査官―奪われた名画を追え」柏書房 [単行本] ロバート・K. ウィットマン, ジョン シフマン
「スエズ運河を消せ―トリックで戦った男たち」柏書房 [単行本] デヴィッド・フィッシャー

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 新書の買い方・読み方・活かし方、各レーベルの特徴―いずれもまともだが...、多分に物足りない内容。
新書がベスト2.jpg新書がベスト .jpg 『新書がベスト (ベスト新書)

0小飼 弾 『新書がベスト.jpg 勝ち組になるために本を読めとか(未だに「勝ち組・負け組」なんて言って煽っているのか)、新書だけを読んでいればいいとか(確かに立花隆氏のようにノンフィクションしか読まないという人はいるが、立花氏の場合、読んでいる本のレベルが違う。フツーの人はそういうものでもなかろう)、こうした著者の前提についてはいろいろ括弧書きのようなケチをつけたくなりますが、新書そのものについて、或いは、その買い方、読み方、活かし方について書かれた前半部分は、比較的しっくりくるものでした(際立って斬新な内容と言えるものは無かったが)。

 新書を数こなして読もうとすると、自ずと著者の言うような読み方になっていくのではないかなあと。体系立てて読まないと特定分野のことは身につかないし、と言って、分野をアプリオリに規定してしまうと、そこが自分の教養の地平線になってしまう。そこで、同じ新書レーベルから無作為に何冊か選んで読んでいく「レーベル読み」といった発想もあっていいのでしょう。但し、やり過ぎると、数をこなすのが目的化する読み方になるのではないかなあ(この本自体の指向が、ややそのキライがあるが)。

 後半は、各新書レーベルの特徴が、何冊かそのレーベルの代表的なラインナップをピックアップしながらコンパクトに書かれていて、これも、まあ、ある程度新書を読んでいる人ならば納得できるものではないでしょうか。

 個々の本の評価については、著者自身、自分の価値観が反映されていると言っているように賛否はあろうかと思いますが、レーベル自体の評価は、「貫禄ある老舗レーベル―岩波新書」とか、「じっくり時間をかけて仕上げる―中公新書」とか、「社会派老舗の風格―ちくま新書」とか、まともと言えばまとも、癖が無いと言えば癖が無いように思えました。

 「講談社現代新書」がかなり後の方にでてきて、「コンセプトが迷走?」としていますが、これは当たっているなあと。でも、これも多くの読者が感じていることではないでしょうか。かつては、エスタブリッシュメントだったし、表紙に本の内容の丁寧な"口上"があったのが本を選ぶ際の助けとなり、昔の講談社現代新書は本当に良かったです。

 編集者と話しながら書いた結果、やけに中立的立場の本になったのではないかというような気もしますが、その分、評価の偏りが少ないように思われ、新書読み「初心者」向けの読書ガイドとしては、そう悪くないと思います(この本自体が、立ち読みで最後まで読めてしまうような本である)。
 
 新書ガイドブックとしてはまあまあ。でも、新書をある程度読み込んでいる人には、多分に物足りない内容でしょう(「ベスト新書」など、自分があまり読んでいないレーベルの評価は参考になった)。

 因みに、朝日新聞の記事(asahi.com 2009年3月12日)によると、出版業界では、「岩波新書」「中公新書」「講談社現代新書」が「新書御三家」と呼ばれてきたが、これに対し、94年創刊の「ちくま新書」創刊以降に生まれたのが「新御三家」で、「新潮新書」「光文社新書」「ちくま新書」をそう呼ぶ人もいれば、「ちくま新書」の代わりに「文春新書」「集英社新書」を挙げる人もいるそうです。「新潮新書」以降も「朝日新書」「幻冬舎新書」など新規参入が続いたわけで(下図・asahi.comより)、これらだけ数えあげると、ちょうど「新書10傑」みたいな感じになるのかなあ(「朝日」は身内だから挙げておかないと―というのもあるのだろうけれど。「朝日新書」の代わりに「10傑」に入るものがあるとすれば「PHP新書」か)。

 朝日の記事によれば、新書は「百花繚乱時代」でブームであるには違いないけれど、これはハードカバー単行本が売れていないという出版不況の裏返しであるとの見方もあるようです。また、同記事では、「講談社現代新書」は岩波より内容が軟らかいという立ち位置でやってきたものの、更に軟らかい「新御三家」が出現したため、自分立ちの位置が見えなくなった―と、講談社現代新書の出版部長自身が述べています。

《読書MEMO》
新書ブーム.jpgPart III 新書レーベルめった斬り! 小見出し抜粋
新書スタイルはここから生まれた「岩波新書」
じっくりと時間をかけて仕上げる「中公新書」
社会派老舗の風格「ちくま新書」
目の付け所が光る「光文社新書」
新書ブームをつくった「新潮新書」
クリーンヒット率の高い「幻冬舎新書」
節操のなさが強みでもある「PHP新書」
すぐれた海外翻訳モノ「ハヤカワ新書juice」
科学系新書の元祖「ブルーバックス」
カラーと図版の勝利「サイエンス・アイ新書」
ハズレ率の驚異的な低さ「DOJIN選書」
右寄りと左寄りで好対照「集英社新書」「文春新書」
コンセプトが迷走?「講談社現代新書」「講談社+α新書」 
事情はわかるが紛らわしい「角川oneテーマ21」「角川SSC新書」
大人こそ読みたい「岩波ジュニア新書」「ちくまプリマー新書」
元祖「ライフハック本」「宝島新書」 
かくも楽しきニッポン文化「平凡社新書」
実用知識をユニークな構成で見せる「新書y」
スゴ本、ダメ本 玉石混淆の「青春新書インテリジェンス」
ルポが光る、新聞社系新書「朝日新書」
エコとエロが共存する「ベスト新書」
IT好きにうれしいラインナップ「アスキー新書」
派手なグループの地味なレーベル「ソフトバンク新書」
今後が楽しみ「マイコミ新書」


(左図)asahi.comより

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ポピューラーなものからマニアックなものまで多彩。読み解きに引き込まれた。

i偏愛文学館s.jpg 偏愛文学館 文庫.jpg  倉橋 由美子.jpg 倉橋 由美子(1935‐2005/享年69)
偏愛文学館 (講談社文庫)』['08年]
偏愛文学館 』['05年]

 倉橋由美子(1935‐2005/享年69)が39冊の小説を取り上げた「文学案内」で、'96-'97年に雑誌「楽」(マガジンハウス)にて「偏愛文学館」として連載され、その後'04-'05年に文芸誌「群像」(講談社)にて連載再開されたものを1冊にしたものですが、彼女は『星の王子さま』の新訳を亡くなる前月に脱稿し、刊行直前の6月10日に亡くなっていて、本書も奥付では'05年7月7日初版とあり、こちらも著者自身は刊行を見ずに逝ってしまったのでしょうか。

 安部公房と並んでカフカの薫陶を受けた作家として、或いは、大江健三郎と並んで学生時代にデビューした作家として知られ、更には、日本的な私小説を忌避し、今で言う村上春樹に連なるようなメタフィジカルな世界を展開した作家として知られていますが、一筋縄ではいかない作家が自ら"偏愛"と謳っているだけに、自分には縁遠い作家の作品が並んでいるのかなと思いきや、意外とポピュラーな作品が多く、「読書案内」であることを意識したのかなあと。

 夏目漱石は『吾輩は猫である』と並んで愛でるべきは『夢十夜』であるとか、内田百閒の短編では「件(くだん)」が一番の傑作であるとしていたり、『聊斎志異』を愛してやまないとか、うーん、何だか親近感を覚えてしまい、丁寧な読み解きに引き込まれました。

 中盤の外国文学作品の方が、作品の選択自体に"偏愛度"の高さが感じられ、入手不可能に近い本を取り上げるのは気が引けるがとしつつ、マルセル・シュオブ「架空の伝記」を取り上げていて(話の中身は面白そう)、ジョン・オーブリーの「名士小伝」もそうだし、海外の作家で2回登場するのがイーヴリン・ウォーだったりします(日本の作家で2回登場するのは、この人の場合、やはり吉田健一)。

 一方で、そうした外国作品の中にジェフリー・アーチャーの『めざせダウニング街10番地』なんてのがあるのがちょっと意外で(日本の作品の中にも、宮部みゆきの『火車』があり、映画「太陽がいっぱい」と結末が似ているとしている)、読者を意識してと言うより、本人が本当に読むことを満喫しているのが伝わってきます。

 自殺した作家を原則認めないとしながらも、太宰治、三島由紀夫、川端康成は別格みたいで、よく知られている作品でも、作家の読み方はやはり奥が深いなあと思わされる面が随所にありました。
 一方で、カミュの『異邦人』の読み方などには、自分と相容れないものがありました。
 
 別々の雑誌の連載の合本であるためか、1作品について10ページ以上にわたり解説されているものもあれば3ページ足らずで終わっているものもあり、あれ、これで終わり? もっと読みたかった、みたいな印象も所々で。
 (単行本には、どちらの雑誌に掲載されたものか典拠が無いのが、やや不親切。結果的に追悼出版となり、刊行を急いだ?)

 【2008年文庫化[講談社文庫]】

《読書MEMO》
●紹介されている本
夏目漱石『夢十夜』
森鴎外『灰燼・かのように』
岡本綺堂『半七捕物帳』
谷崎潤一郎『鍵・瘋癲老人日記』
内田百閒『冥途・旅順入城式』
上田秋成「雨月物語」「春雨物語」
中島敦『山月記・李陵』
宮部みゆき『火車』
杉浦日向子『百物語』
蒲松齢『聊斎志異』
蘇東坡『蘇東坡詩選』
トーマス・マン『魔の山』
フランツ・カフカ『カフカ短篇集』
ジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』『シルトの岸辺』
カミュ『異邦人』
ジャン・コクトー『恐るべき子供たち』
ジュリアン・グリーン『アドリエンヌ・ムジュラ』
マルセル・シュオブ「架空の伝記」
ジョン・オーブリー「名士小伝」
サマセット・モーム『コスモポリタンズ』
ラヴゼイ『偽のデュー警部』
ジェーン・オースティン『高慢と偏見』
サキ『サキ傑作集』
パトリシア・ハイスミス『太陽がいっぱい』
イーヴリン・ウォー「ピンフォールドの試練」
ジェフリー・アーチャー『めざせダウニング街10番地』
ロバート・ゴダード『リオノーラの肖像』
イーヴリン・ウォー『ブライツヘッドふたたび』
壺井栄『二十四の瞳』
川端康成『山の音』
太宰治『ヴィヨンの妻』
吉田健一『怪奇な話』
福永武彦『海市』
三島由紀夫『真夏の死』
北杜夫『楡家の人びと』
澁澤龍彦『高丘親王航海記』
吉田健一『金沢』

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 「素直」に「深く」読む。ジュニアに限らず大人が読んでも再発見のある本。

『心と響き合う読書案内』.jpg心と響き合う読書案内.jpg Panasonic Melodious Library.jpg
心と響き合う読書案内 (PHP新書)』['09年]

Panasonic Melodious Libraryド.jpg '07年7月にTOKYO FMでスタートした未来に残したい文学遺産を紹介するラジオ番組『Panasonic Melodious Library』で、「この番組は文学的な喜びの共有の場になってくれるのではないだろうか」と考えパーソナリティを務めた著者が、その内容を本にしたものですが、文章がよく練れていて、最近巷に見られるブログをそのまま本にしたような類の使い回し感、焼き直し感はありません。

 著者については、芥川賞受賞作がイマイチ自分の肌に合わず、他の作品を読まずにいたのが、たまたま『博士の愛した数式』を読み、ああ旨いなあと感服、その後も面白い作品を書き続けていると思っていましたが、本書に関して言えば、とり上げている作品は「著者らしい」というか、「いまさら」みたいな作品も結構あるような気がしました。

 しかし実際読んでみると、優れた書き手は優れた読み手でもあることを実証するような内容で、評価の定まった作品が多いので、何か独自の解釈でも連ねるのかなと思ったら、むしろ素直に自らも感動しながら読み、また楽しんで読んでいるという感じがし、その感動や面白さを読者に易しい言葉で伝えようとしているのがわかります。

 むしろ「解釈」を人に伝えるより、「感動」や「面白さ」を人に伝える方が難しいかも。その点、著者は、作品の要(かなめ)となる部分を限られた紙数の中でピンポイントで抽出し、そこに作品全体を読み解く鍵があることを、著者なりに明かしてみせてくれています(作家だから当然かも知れないが、文章がホントに上手!)。

 作品の読み方が評論家っぽくなく「素直」で、それでいて、味わい方の奥が「深い」とでも言うか、冒頭の金子みすゞの『わたしと小鳥とすずと』(これ、教育テレビの子ども向け番組「日本語で遊ぼう」でよく紹介されているものだが)の読み解きからしてそのような印象を抱き、「心に響く」ではなく、「心と響きあう」読書案内であるというのはわかる気がします。

 こんな人が国語の先生だったら、かなりの生徒が読書好きになるのではないかと思いましたが、ジュニアに限らず大人が読んでも再発見のある本ではないかと。

《読書MEMO》
●第一章 春の読書案内 ... 『わたしと小鳥とすずと』/『ながい旅』(大岡昇平)/『蛇を踏む』/「檸檬」/『ラマン』/『秘密の花園』/「片腕」(川端康成)/『窓ぎわのトットちゃん』/『木を植えた男』(ジャン・ジオノ)/『銀の匙』/『流れる星は生きている』/「羅生門」/「山月記

蛇を踏む.jpg 檸檬.jpg 片腕.jpg 銀の匙.jpg 羅生門・鼻 新潮文庫.jpg 李陵・山月記.jpg

●第二章 夏の読書案内 ... 『変身』/『父の帽子』(森茉莉)/『モモ』/『風の歌を聴け』/『家守綺譚』(梨木香歩)/『こころ』/『銀河鉄道の夜』/「バナナフィッシュにうってつけの日」/『はつ恋』/『阿房列車』/『昆虫記』(ファーブル)/『アンネの日記』/『悲しみよ こんにちは

変身.jpg 銀河鉄道の夜 童話集 他十四編.jpg 悲しみよこんにちは 新潮文庫.jpg

●第三章 秋の読書案内 ... 「ジョゼと虎と魚たち」(田辺聖子)/『星の王子さま』/『日の名残り』/『ダーシェンカ』/『うたかたの日々』/「走れメロス」/「おくのほそ道」/『錦繍』/「園遊会」(マンスフィールド)/『朗読者』/『死の棘』/「たけくらべ」/『思い出トランプ

日の名残り (中公文庫) _.jpg 錦繍 bunnko .jpg 朗読者 新潮文庫.jpg にごりえ・たけくらべ (新潮文庫).jpg 思い出トランプ.jpg 

●第四章 冬の読書案内 ... 『グレート・ギャツビー』/『冬の犬』(アリステア・マクラウド)/「賢者の贈りもの」(O・ヘンリ)/『あるクリスマス』(トルーマン・カポーティ)/『万葉集』/『和宮様御留』(有吉佐和子)/「十九歳の地図」/『車輪の下』/『夜と霧』/『枕草子』/『チョコレート工場の秘密』/『富士日記』/『100万回生きたねこ』

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー).jpg 十九歳の地図.jpg チョコレート工場の秘密 yanase.jpg 富士日記 上巻.jpg
以上

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 本を選んだのは新潮社。さらっと読める分物足りなさもありるが、個人的には楽しめた。

I『新潮文庫 20世紀の100冊』.jpg新潮文庫 20世紀の100冊.jpg 新潮文庫 20世紀の100冊 2.jpg
新潮文庫20世紀の100冊 (新潮新書)』 ['09年]

新潮文庫 20世紀の100冊     .jpg 新潮社が2000年に、20世紀を代表する作品を各年1冊ずつ合計100冊選んだキャンペーンで、著者がそれに「解説」をしたものとのことですが、著者の前書きによれば、「100冊の選択におおむね異論はなかった。しかし素直にはうなずきにくいものもないではなかったし、読むにあたって苦労した作品もあった」とのこと。

 1冊1冊の著者による解説は実質10行足らずであるため、さらっと読める分物足りなさを感じる面もありますが、全体としてはよく吟味された文章と言えるのではないかと思われ、十分に(そこそこに?)楽しめました。

 個人的には、三島由紀夫の『春の雪』(1970年)の「人生のすべてをパンクチュアルに生きた人が、最後に破った約束」などは、内容に呼応した見出しのつけ方が旨いなあと。

 但し、前半・中盤・後半に分けるならば、とりわけ、前半部分の20世紀初頭の近代文学作品の解説が、作品の書かれた背景や他の同時代の作家との相関において、その作品の歴史的位置付けを象徴するような要素をピンポイントで拾っていて、文学史の潮流を俯瞰でき、作家の個人史に纏わる薀蓄などもあって、より楽しめました(著者の得意な時代ジャンルということもあるのか)。

 また、著者自身、これら100冊を「鑑賞」しようとはせず、むしろ「歴史」を読み取ろうとしたと述べているように、こうして様々な作風の作家の作品を暦年で並べて時代背景と照らしながら見ていくことには、それなりの意義があるように思えました(時折、海外の作品が入るのも悪くない)。

 でも最後の方(特に最後の10年ぐらい)になると、例えば「1993年は『とかげ』(吉本ばなな)の年、そういうことにしよう」とあるように、ちょっと評し切れないと言うか(選んだのは著者ではなく新潮社、2000年1月から毎月10冊ずつこの100冊を刊行する上での商業的思惑もあった?)、「歴史」に"定位"するスタイルでは論じ切れなくなっている感じもし、著者のこの作業が2000年に行われたことを考えれば、その点は無理もないことかも。

 「100冊」と言うより「100人」とみて読んだ方がすんなり受け容れられる面もあるかと思われますが、亡くなって年月を経た作家は、彼(彼女)の生き方はこうだった、みたいに言い切れるけれど、生きている作家については、そうした言い切りがしくいというのもあるしなあ。

企画タイアップカバー例
新潮文庫 20世紀の100冊 miadregami.jpg 1927年 河童 芥川龍之介.jpg 1931年 夜間飛行 サン=テグジュペリ.jpg 新潮文庫 20世紀の100冊 tennyawannay.jpg 新潮文庫 異邦人.jpg

《読書MEMO》
●取り上げている本
1901年 みだれ髪 与謝野晶子
1902年 クオーレ エドモンド・デ・アミーチス
ヴェ二スに死す 文庫新潮.jpg1903年 トニオ・クレーゲル トーマス・マン
1904年 桜の園 アントン・チェーホフ
1905年 吾輩は猫である 夏目漱石
1906年 車輪の下 ヘルマン・ヘッセ
1907年 婦系図 泉鏡花
1908年 あめりか物語 永井荷風
1909年 ヰタ・セクスアリス 森鴎外
刺青・秘密 (新潮文庫).jpg1910年 刺青 谷崎潤一郎

1911年 お目出たき人 武者小路実篤
1912年 悲しき玩具 石川啄木
1913年 赤光 斎藤茂吉
1914年 道程 高村光太郎
1915年 あらくれ 徳田秋声
1916年 精神分析入門 ジークムント・フロイト
和解.bmp1917年 和解 志賀直哉
1918年 田園の憂鬱 佐藤春夫
『月と六ペンス』(中野 訳).jpg1919年 月と六ペンス サマセット・モーム
1920年 惜みなく愛は奪う 有島武郎

小川未明童話集.jpg1921年 赤いろうそくと人魚 小川未明
1922年 荒地 T・S・エリオット
1923年 山椒魚 井伏鱒二
1924年 注文の多い料理店 宮沢賢治
檸檬.jpg1925年 檸檬 梶井基次郎
日はまた昇る (新潮文庫).bmp1926年 日はまた昇る アーネスト・ヘミングウェイ
河童・或阿呆の一生.jpg1927年 河童 芥川龍之介
『新版 放浪記』.jpg1928年 放浪記 林芙美子
1929年 夜明け前 島崎藤村
1930年 測量船 三好達治

夜間飛行 文庫 新.jpg1931年 夜間飛行 サン=テグジュペリ
八月の光.jpg1932年 八月の光 ウィリアム・フォークナー
1933年 人生劇場 尾崎士郎
1934年 詩集 山羊の歌 中原中也
1935年 雪国 川端康成
風と共に去りぬ パンフⅠ2.JPG1936年 風と共に去りぬ マーガレット・ミッチェル
1937年 若い人 石坂洋次郎
1938年 麦と兵隊 火野葦平
怒りの葡萄 ポスター.jpg1939年 怒りの葡萄 ジョン・スタインベック
1940年 夫婦善哉 決定版 新潮文庫.jpg夫婦善哉 織田作之助

1941年 人生論ノート 三木清
1942年 無常という事 小林秀雄
李陵・山月記.jpg1943年 李陵 中島敦
1944年 津軽 太宰治
1945年 夏の花 原民喜
坂口 安吾 『堕落論』2.jpg1946年 堕落論 坂口安吾
1947年 ビルマの竪琴 竹山道雄
俘虜記.jpg1948年 俘虜記 大岡昇平
1949年 てんやわんや 獅子文六
1950年 チャタレイ夫人の恋人 D・H・ローレンス

異邦人 1984.jpg1951年 異邦人 アルベール・カミュ
二十四の瞳 dvd.jpg1952年 二十四の瞳 壺井栄
1953年 幽霊 北杜夫
1954年 樅ノ木は残った 山本周五郎
太陽の季節 (新潮文庫) (2).jpg1955年 太陽の季節 石原慎太郎
楢山節考 洋2.jpg1956年 楢山節考 深沢七郎
1957年 死者の奢り 大江健三郎
松本 清張 『点と線』 新潮文庫.jpg1958年 点と線 松本清張
1959年 海辺の光景 安岡章太郎
1960年 忍ぶ川 三浦哲郎

1961年 フラニーとゾーイー サリンジャー
砂の女(新潮文庫)2.jpg1962年 砂の女 安部公房
飢餓海峡(下) (新潮文庫).jpg飢餓海峡(上) (新潮文庫).jpg1963年 飢餓海峡 水上勉
1964年 沈黙の春 レイチェル・カーソン
1965年 国盗り物語 司馬遼太郎
沈黙 遠藤周作 新潮文庫.jpg1966年 沈黙 遠藤周作
アメリカひじき・火垂るの墓1.jpg1967年 火垂るの墓 野坂昭如
1968年 輝ける闇 開高健
1969年 孤高の人 新田次郎
奔馬.jpg春の雪.jpg1970年 豊饒の海 三島由紀夫

1971年 未来いそっぷ 星新一
1972年 恍惚の人 有吉佐和子
辻斬り.jpg1973年 剣客商売 池波正太郎
1974年 おれに関する噂 筒井康隆
1975年 火宅の人 檀一雄
1976年 戒厳令の夜 五木寛之
蛍川・泥の河 (新潮文庫) 0.jpg1977年 泥の河 宮本輝
1978年 ガープの世界 ジョン・アーヴィング
1979年 さらば国分寺書店のオババ 椎名誠
1980年 二つの祖国 山崎豊子

1981年 吉里吉里人 井上ひさし
1982年 スタンド・バイ・ミー スティーヴン・キング
破獄  吉村昭.jpg1983年 破獄 吉村昭
1984年 愛のごとく 渡辺淳一
1985年 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹
1986年 深夜特急 沢木耕太郎
1987年 本所しぐれ町物語 藤沢周平
1988年 ひざまずいて足をお舐め 山田詠美
1989年 孔子 井上靖
1990年 黄金を抱いて翔べ 高村薫

1991年 きらきらひかる 江國香織
火車.jpg1992年 火車 宮部みゆき
1993年 とかげ よしもとばなな
1994年 晏子 宮城谷昌光
1995年 黄落 佐江衆一
1996年 複雑系 M・ミッチェル・ワールドロップ
1997年 海峡の光 辻仁成
1998年 宿命 高沢皓司
1999年 ハンニバル トマス・ハリス
朗読者 新潮文庫.jpg2000年 朗読者 ベルンハント・シュリンク

 
 
 
  
       

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 半端じゃない読書量。一体いつ自分の作品を書いているのかと...。

桜庭一樹読書日記.jpg 『桜庭一樹読書日記―少年になり、本を買うのだ。』['07年] 少年になり、本を買うのだ.jpg 『少年になり、本を買うのだ 桜庭一樹読書日記 (創元ライブラリ) (創元ライブラリ L さ 1-1)』['09年] 

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない00_.jpg 異色のライトノベルとして評判になった『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』('04年/富士見ミステリー文庫)を読みましたが、皆が言うほどの"傑作"なのかよく分からず、大体ライトノベルというのが自分の肌に合わないのかなと思っていたら、今や直木賞作家だからなあ、この人。ライトノベルといっても終盤で露わになる近親相姦的モチーフはへヴィで、これがまあ"異色"と言われる所以ですが、このモチーフ、『私の男』へと連なっていったわけかあ。

桜庭一樹 物語る少女と野獣.jpg 角川文庫の新聞広告で読書案内人のようなこともやっていて、読書家であることでも知っていましたが、本書はタイトル通り、「書評」と言うより読書生活を綴った「日記」のようなもので、Webでの連載('06年2月〜'07年1月分)を纏めたもの。

 ミステリ中心ですが、近代文学や海外の純文学作品、詩集やノンフィクション、エッセイなども含まれていて、でもやっぱり中心は内外のミステリでしょうか(東京創元社のHP上で連載だったこともあるが)、その読書量の多さに圧倒されます。

桜庭一樹 ~物語る少女と野獣~』 ['08年/角川グループパブリッシング ]

 まず、"ミステリ通"の好みそうな作品をよく拾っているなあと感心させられますが、自然とそういう本の方向に向かうのだろうなあ、こういう読書生活を送っていると。

 自分はそこまでミステリに嵌っているわけではないので、ああ、こんな本もあるんだあみたいな感じでついていくのがやっと、とてもそれらを探して読みまくるというところには至らないですが、それでもこの本自体が1冊の「読み物」乃至はエッセイとして楽しめました。

 あまり大仰ぶらず批評家ぶらず、ストレートに「わあ〜、面白かったあ」みたいな感じで、併せて自分の生活を戯画化しながら書いているので、ついつい親近感を覚えさせるのでしょうが、ミステリ通の人が読めば、また違った読み方ができるのかも。
 何れにせよ半端な読書量では無く、一方で小説を量産しているわけで、一体いつ自分の作品を書いているのかと...。

 各ページの下の方に、文中で取り上げた本が書影付きで載っていて、必要に応じて簡単な解説もされているのが親切に思えました(自分で解説しているものもあれば編集者が書いているのもある。相互の感想のやりとりも楽しい)。

 因みに、2009年の「角川文庫の100冊」(正式タイトル「2009年 発見。角川文庫夏の100冊」)の中の「作家12人が選んだこだわりの角川文庫」というコーナーでこの人が選んだ1冊は、本書でも取り上げられている寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』でした。

 【2009年文庫化[創元ライブラリ(『少年になり、本を買うのだ-桜庭一樹読書日記』)]】

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本のある生活、本をめぐる交友を通しての、本というものに対する様々な視点がいい。

本を読む兄、読まぬ兄.jpg  お父さんは時代小説(チャンバラ)が大好き.jpg お母さんは「赤毛のアン」が大好き.jpg 弟の家には本棚がない.jpg 犬は本よりも電信柱が好き.jpg
本を読む兄、読まぬ兄 [吉野朔実劇場]』  『お父さんは時代小説が大好き―吉野朔実劇場 (吉野朔実劇場)』 『お母さんは「赤毛のアン」が大好き―吉野朔実劇場 (吉野朔実劇場)』 『弟の家には本棚がない―吉野朔実劇場 (吉野朔実劇場)』 『犬は本よりも電信柱が好き (吉野朔実劇場)

 漫画家・吉野朔実が、日常での自分と本との付き合いをエッセイのように描いた「本の雑誌」連載のコミックシリーズで、もうこれで5冊出ています。
 シリーズの最初で、芥川や漱石をとり上げたかと思うと、『羊たちの沈黙』のようなサイコサスペンスやサイエンス系・心理学系の本をとりあげたりしていて、次に何が出てくるかわからない面白さがありましたが、総じてミステリーが多いのは、やはり漫画家としてストーリーテイリングの参考になるのか(波瀾がありそうで結局は何も無かったというような小説には、結構手厳しかったりする)と思ったけれど、このシリーズ第5冊を読んで、改めて、このあちこちにジャンルが跳ぶのはシリーズを通して健在だったなあと(実際には、本の中身より、本のある生活、本をめぐる交友などを通しての、本というものに対する様々な視点の部分が面白いのだが)。

 シリーズ第1冊の『お父さんは時代小説(チャンバラ)が大好き』('96年)では、ケストナーの『飛ぶ教室』をめぐる対談で、この本が泣けるのは、「一杯のかけそば」が泣ける話だということと、どう違うのかを(思い出し泣きしながら)論じていたりしていて、神経症患者を描いたオリーバー・サックスの『妻を帽子とまちがえた男』に新鮮な興味を覚え、この辺りから、精神医学への興味が始まっているのかな。

 シリーズ第2冊『お母さんは「赤毛のアン」が大好き』('00年)の「私はこれを"読みきった自慢"」という、「難解だったり起伏が無かったりする本を我慢して最後まで読んだことの自慢」は笑えて、でも、出版業界ってさすが読書家の人が多いよなあ、と改めて感じた次第。

 シリーズ第3冊『弟の家には本棚がない』('02年)は、中勘助に関するエッセイの部分が良く、この辺りからしばしば精科医の春日武彦さんが登場し、結局、この人も著者の交友サークルの1人ということか(著者と春日氏の対談集が本になっているが)、春日さんの人柄までわかってしまう。

 シリーズ第4冊『犬は本よりも電信柱が好き』('04年)の「電車の中は誤解でいっぱい」という、電車の中で読む本を巡る鼎談(ドストエフスキーの『悪霊』を読んでいたら"宗教の人"から名刺を渡されたとか)も面白く、こうなってくると、もっと対談やエッセイ部分を増やしてもいいような気もしました。

 そして昨年['07年]刊行のシリーズ第5冊『本を読む兄、読まぬ兄』('06年)、「お札の絵柄がマンガのキャラクターだったら」という話が一番笑えた。
 作家・平山夢明氏との対談がありますが、ページ数が少なくてちょっと物足りなく、ついでに、平山氏と春日氏の対談本(『「狂い」の構造』('07年/扶桑社新書))も読んでしまいました。

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今回は、蔵書の「量」だけでなく、「質」の部分がかなり浮き彫りにされている。

2ぼくの血となり肉となった五〇〇冊.jpgぼくの血となり肉となった五〇〇冊そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊.jpg 『ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊』 ['07年]

立花隆.bmp 文京区・小石川で、手提げ袋を両手にえっちらおっちら歩く立花隆氏を"目撃"したことがありますが、書評としてとり上げる候補の本を購入したところだったのでしょうか。

 「週刊文春」連載の書評を纏めたシリーズの第3冊で、今回は単行本500ページ強のうち、前半部が「ぼくの血となり肉となった500冊 そして血にも肉にもならなかった100冊」というタイトルのインタビューで、仕事場で編集者に語る形で自らの蔵書と読書遍歴を語っており(併せて仕事遍歴の話も)、後半が恒例の「週刊文春」の書評('01年3月〜'06年11月分)になっています。

 編集者の提案したタイトルが面白いということでタイトルが先に決まったようですが、結果的には象徴的な意味合いとなっています(ダメ本100冊のリストがあれば面白いのでしょうが、そういう形式にはなっていない)。自らの読書遍歴を語った前半部分は、"血肉になった本"を書庫を巡る形で紹介していて、予想はつきましたが、これがまた凄い量と質。

ぼくはこんな本を読んできた 立花式読書論、読書術、書斎論.jpg このシリーズの1冊目『ぼくはこんな本を読んできた』('95年/文藝春秋)にも事務所である"猫ビル"の案内があり、その凄まじい蔵書量に驚きましたが、今回の方が、自身が辿ってきた思索(ヴィトゲンシュタインの影響が大きかったとか)及び仕事との関連においてより系統的に書物の紹介をしているので、ものの見方や仕事のやり方というものも含めて、蔵書の「質」の部分がかなり浮き彫りにされているように思えました。

 タイトルの「ぼくの血となり...血にも肉にもならなかった100冊」はむしろ後半部の方に当て嵌まり、とり上げている本は全部で235冊ですが、時々こき下ろしている本もあります。
 個人的には、この人の書評を読む際は、本探しではなく書評自体を楽しむ、という風にスタンスを決めたため、今回も楽しめたように思います。

素手でのし上がった男たち.jpg寺山修司.jpg ノンフィクションしかとり上げない主義のようですが、「例外」的に寺山修司の詩集宮崎駿のコミックが入っているのは、個人的な繋がりからでしょうか。

 立花氏の最初の本が『素手でのし上がった男たち』(番町書房)であり、著者の無名時代のこうした人物ドキュメント本に、寺山修司が「情報社会のオデッセー」なんていう帯書きをしていたという事実が、余談の部分ではあるけれど興味深かったです(今や「知の巨人」と言われる立花氏とて、無名時代に世話になった人に対しては生涯にわたって恩義を感じるものだということの例に漏れるものではないのだろなあ)。
『素手でのし上がった男たち』 Bancho Shobo 1969年

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"打ちのめされるような"凄い姿勢。最初で最後の書評集になってしまったのが残念。

打ちのめされるようなすごい本.jpg 『打ちのめされるようなすごい本』 〔'06年〕 米原 万里(よねはらまり)エッセイスト・日ロ同時通訳.jpg 米原 万里 (エッセイスト・日ロ同時通訳、1950-2006/享年56)

 '06年5月に癌で亡くなった著者の書評集で、「週刊文春」連載の読書日記の'01年1月から'06年5月までの掲載分ほか、読売新聞の書評欄など他メディアに掲載した書評を収録しています。
 著者の本を読むのは初めてで、文春の連載は"見て"いましたが、こうして纏まったものをじっくり読んでみると、何かと収穫が多かったです。

 個人的には実質星5つですが、この人はエッセイ・小説でも賞を受賞している凄い人なので、そちらを読んでみてからということで星半個分出し惜しみしたかも(昔の体操かフィギアスケートの採点みたいだなあ)。
 文春書評欄で、"知の巨人"と呼ぶ人もいる立花隆氏や、仏文学者でビブリオマニアに近いと思われる鹿島茂氏らに堂々伍して書いているのも凄いし(もともと文筆家じゃなくてロシア語通訳が本職だったわけだから)、また、癌に侵されても「癌治療本を我が身を以って検証」する一方(それらに振り回されたような結果になったのが残念)、継続して広範囲の分野の本を紹介し続け、知識吸収意欲は萎えるどころか昂進している感じで、そのことも凄い、とにかく書評以前に、著者自身の姿勢に感服させられてしまったという思いもあります。

 一般に読みやすい本、入手しやすい本も多く含まれていて、立花隆氏の書評と比べると、読者にこの本を是非とも読んでほしいという気持ちが強く伝わってくる内容だと思います。
 但し、ロシア関係の本は小説・ノンフィクションを問わず、さすがに専門的なものが含まれていますが(鹿島茂氏が、他所で『知られざるスターリン』や『真説ラスプーチン』をとり上げていたのは、もしかして著者の影響ではないか)、一国の近現代史に通暁しているということが、そのまま、チェチェン、アフガニスタン、その他中東・アジア諸国などの周辺民族・諸国の動向を分析する眼力となっていることを、また通訳経験などを通して培われた、権力者分析などにおける透徹した視線を感じました。

 立花隆氏との共通項で一番に思いつくことは、ネコに関する本をとり上げていることかな。

 【2009年文庫化[文春文庫]】

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"本探し"ではなくこの書評集自体を楽しむ気持ちで読めば...。

1ぼくが読んだ面白い本・ダメな本.jpgぼくが読んだ面白い本・ダメな本そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術.jpgぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術.jpgぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』 『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』 〔'01年/文春文庫'03年〕

 『ぼくはこんな本を読んできた-立花式読書論、読書術、書斎論』('95年/文藝春秋)に続く読書論・書評集で、書評部分は、「週刊文春」連載の「私の読書日記」の、前著が'92年8月から'95年10月までの3年分を収録していたのに対し、本書は、'95年11月から'01年2月までの5年分を収録、前著は書評部分が本全体の半分弱だったのに対し、本書は8割が書評で、書評を楽しみたければこっちの方がいいかも。

 前著を読んだ時は、書庫(兼仕事場)として地上3階、地下1階の「ねこビル」を建てたという話の印象が強く、また圧倒され、書評の方は難しくて高価な本が多くてあまり楽しめませんでしたが、本書には、著者の「書評」を書く際のスタンスが(前著にも一応あったのだが)よりわかり易く記されていて、お陰で楽しめました(選んでいる本の難易度も価格帯の高さも相変わらずなのだが)。

 著者が書評で取り上げるのは、原則として自身の仕事とは関係ない本で、雑誌の原稿締切り近くに書店に行って見つけてきた所謂"旬の本"から選んだものであるとのこと(大書店に行かないと無い本が結構多いように思うが)、但し、通常の「書評らしい書評」、または「ヒマ人用の趣味的な書評」として書いているのではなく、そうしたヒマ人が一生手に取ることのないような、しかし本として価値があるものを、敢えて紹介しているとのこと。

 個人的には、以前は、読むべき本を探す気持ちがどこかにあって、逆にこの人の書評を楽しめない面があったかも...。著者の意図に反するかも知れませんが、この書評集自体を楽しむ気持ちで読めば、難しくて高価な本から、面白いところだけ抜き出して見せてくれているのは、有り難いことであるとも言えます。
 著者自身、意識していることですが、「奇書」の含まれている比率が高いと言うか、この人、何でも極端な話が好きみたい(その部分だけだと面白いけれど、何千円も払って本そのものを購入する人の比率は少ないのではないか)。

 「最後まで読まなければならない本」(推理小説など)、「速読してはいけない本」(文学作品など)は含まれておらず、そうした本は著者にとっては「タイムコンシューマー」(時間浪費)であり、要するに小説は著者のこの書評シリーズには含まれていません。
 この割り切りも、スッキリしていて良いと思えてきました。

 【2003年文庫化[文春文庫]】

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思想家が、中学時代を送った昭和十年代の自らの読書体験を回想。

安田 武 『昭和青春読書私史』.jpg昭和青春読書私史.jpg 『昭和青春読書私史 (1985年)』岩波新書

銀の匙.jpgモンテ・クリスト伯.jpg 昭和十年代、戦争に向かう世相の中で中学時代を送った著者の当時の読書体験の回想。

 昭和12年春、中学1年の終わり頃手にしたアレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯』から始まり、中学2年の時に読んだ中勘助(『銀の匙』)、モーパッサン(『ピエルとジャン』)、田山花袋、ジョルジュ・サンドらの作品、更に島木健作(『生活者の探求』)やツルゲーネフ(『父と子』)、ジイド(『狭き門』)などが続いています。

狭き門.jpg父と子.jpg 著者の安田武(1923‐1986/享年63)は鶴見俊輔氏らの起こした月刊誌「思想の科学」の同人で、本稿は岩波の『図書』に'84(昭和59)年から翌年にかけて連載されたものですから、60歳過ぎの思想家が自分の読書体験を振り返っているということになります。

 中学2年の時に読んだ本が最も多く取り上げられているのが興味深かったのと(旧制中学なので現在の中学と1年のズレがあり、当時14歳)、内容的には青春文学の定番を意外と外れていないようにも思えますが、夏目漱石などはそれ以前から読んでいたようで、やはり読み始めるのが早いなあと思いました。

西部戦線異状なし.jpg 昭和12年というと日華事変の年でもあり、学生生活に未だそれほど戦争の影響は無かったとは言え、軍靴の足音から意識的に距離を置くような読書選択をしているようにも思えました(但し、昭和17年には『西部戦線異状なし』を読んでいる)。

 日本文化を論じた著作が多く、多田道太郎(1924‐2007)などとの共通項を感じる人ですが、本書の印象は、中勘助(『銀の匙』)的ノスタルジーで、さらっと読める分、「読書の栞(しおり)」的な物足りなさもやや感じます。

ぼく東綺譚.jpg雪国.jpg ただし、終盤に取り上げられている『濹東綺譚』や『雪国』の著者なりの感想が面白く、また、『濹東綺譚』の挿画を担当した木村荘八の描いた「玉の井」が、実は「亀戸」の町並みであったことを武田麟太郎が見抜いていたという話が、たいへん興味深かったです(武田麟太郎の本からの抜粋ではあるが)。

      
   
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安田 武(1922-1986年1)評論家
東京都出身。1943年法政大学国文科在学中に学徒出陣。朝鮮の羅南で敗戦を迎え、ソ連軍捕虜となる。復員後、大学を中退。出版社勤務の後、1959年から評論家として独立文筆生活に入る。思想の科学研究会に属し鶴見俊輔、藤田省三らと「共同研究・転向」(1959年~1967年)に最初の業績を発表。1964年から1966年まで思想の科学研究会長。 また1960年の日本戦没学生記念会「わだつみ会」の再建に尽力し、常任理事を務めた。そのほか、日本文化に関する著作が多く、特に多田道太郎との対談『『「いき」の構造』を読む』などが有名である。戦争体験の継承、平和運動に一貫した姿勢を示す一方、伝統文化における技術の伝承の研究家としても知られる。

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権威に臆することのない批評メスの切れ味は相変わらず。

斎藤 美奈子 『誤読日記』.JPG誤読日記.jpg  『誤読日記』 (2005/07 朝日新聞社)

 著者の『読書は踊る』('98年/マガジンハウス)、『趣味は読書。』('03年/平凡社)に続く書評集ですが、今回は175冊もの本がしっかりジャンル分けされていて、より体系的にアイテム整理されているのではないかと思います。 

 『チーズはどこへ消えた?』、『バカの壁』など、とり上げている本の3分の2以上がベストセラー本です。 
 話題にはなっているが何となくクダラナイあるいは胡散臭いと思っても気にはなる、そんな本の中身をいちいち確かめる暇のない人にとっては実用性(?)が高いと思われます。

 タレント本や"幸せになりたい本" "泣きたい本"、良識ある新聞の書評欄は取り上げないけれどバカ売れだけはしている本を多くとり上げるなど、出版文化批評(多少大袈裟に言えば「文芸社会学」)の様相がますます強くなった感じです。 

 もちろん、芥川・直木各賞受賞作品、丸谷才一、渡辺淳一といった大御所から政治家の書いたものまでも広く網羅し、「誤読」という控えめなタイトルに反し、権威に臆することのない著者の批評メスの切れ味は相変わらずです。

 普通、書評集というのは、読んでいて「あ〜、あれも読んでない。これも読んでない」と少し焦ったりすることがあるのですが、著者のこの一連の書評集は、その逆の気持ち、つまり読んでないことで安心し、読んでいたら「しまった!」みたいに思わせるところがあったりします。 

 とはいえ、全部を全部こき下ろしていたら読む方は結構マンネリを感じるかもしれないけれど、加賀まりこの『とんがって本気』はタレント本だけど貶してはいないし、魚住昭の『野中広務 差別と権力』など高い評価のものもあります。 
 この辺りの配置がいいアクセントになっているかも。

 【2009年文庫化[文春文庫]】

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ベストセラー本を爽快になで斬り。時間の節約になる。

趣味は読書.jpg 『趣味は読書。』(2003/01 平凡社)趣味は読書 文庫.jpg趣味は読書。 (ちくま文庫)

 ベストセラーを追いかけて読む方ではないが、どうせたいした内容ではないだろうと思いつつも、社会現象としては多少気になる部分もある。 
 でも、そんなのいちいち追っかけて読んでいたら、自分の読みたい本を読む時間が無くなってしまう。 
 そんな人には便利な、斎藤美奈子の書評集です。

 「趣味は読書」という人に何を読んでいるか訊ねたら、くだらないベストセラーばかり、という皮肉も込めたタイトル。 
 ベストセラー本を爽快になで斬りという感じですが、その中で『プラトニック・セックス』(飯島愛)に対してだけ、なんとなく甘いような...。 
 いずれにせよ、読むことで時間の節約になる1冊であり、ベストセラーの共通項を通して、世間が求めているものも少し見えてききます。

 【2007年文庫化[ちくま文庫]】

《読書MEMO》
●『大河の一滴』...辻説法
●『日本語練習帳』...ボケ防止
●『光に向かって100の花束』..."死ぬまでラッパを話しませんでした"式の辻説法
●『生きかた上手』...あやかりたいけれどあやかれない本
●『鉄道員』...怪談、死んだ娘だから父に優しい(生きていたらグレてる)
●『朗読者』...男に都合のいい包茎文学
●『白い犬とワルツを』...家長に都合のいい幻想譚
●『蜜の味』(叶恭子)...遠足に吉兆の弁当!女はパトロンに頼るべしの開き直り、援交物語
●『プラトニック・セックス』...◎プチ不良を黙らせる効果
●『永遠の仔』...主人公3人が幼児虐待を受けていたという絵に描いたようなアダチル小説
●『「捨てる!」技術』...○終盤ペースダウンだが「捨てる勇気」を説く
●『話を聞かない男、地図を読めない女』...科学を装った迷信
●『冷静と情熱の間』...浮世離れした女と自意識過剰男
●『金持ち父さん貧乏父さん』『チーズはどこへ消えた?』『ザ・ゴール』...80年代にアメリカではやった寓話スタイル
●『模倣犯』...少女チックでコバルト文庫のノリ
●『海辺のカフカ』...最後まで成長しない
●『五体不満足』...乙武くんは絵になる障害者、くん付けはアイドル系の証拠、障害者は全部頑張ればいいんだで済まされると困る
●『だから、あなたも生きぬいて』...非行少女&極妻時代の記述(16-22歳)が抜け落ちている(児童書として企画されたからというが)「学歴社会逆転本」
●『ハリー・ポッター』シリーズ...現実逃避は構わないが、出るごとに書店の他の本が書店の隅へ押しやられる(書店はハリポタを売っていればそれでいいということに)
●『声に出して読みたい日本語』...ジジババ本は権威主義と紙一重、国語教育の呪縛に囚われている

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読者が何となく感じる胡散臭さや危うさの秘密を解き明かしている。

読者は踊る.jpg読者は踊る―タレント本から聖書まで。話題の本253冊の読み方・読まれ方』(マガジンハウス)

 著者の『趣味は読書。』('03年/平凡社)、『誤読日記』('05年/朝日新聞社)に先立つ書評集で、読者目線でタレント本からシロウト科学本、フェニミズム本まで様々なテーマごとに、更には学者本や国語辞典なども含め250冊以上を紹介し、背後にある社会やジャーナリズムの動向とともにそれらを読み解いています。
 読者が何となく感じる胡散臭さや危うさの秘密を解き明かしてみせていて、読書において盲点になりやすい様々な部分を的確に突いてくるという印象を持ちました。

 近年は「ミーハー書評」を自認し、ベストセラーをかなり辛辣(かつ軽妙)に"なで斬り"しているために、一部からは興醒まし感でもって見られているフシもある著者ですが、本書では、売れた本、話題になった本も多く取り上げている一方で、歴史教育関連の本や翻訳聖書などの堅い本も取り上げていて、権威に惑わされず、それらの"どこかおかしい"面への著者のこだわりを見せ、さらに専門文献を精査するなどして、その誤謬や偏向を指摘しています。

 「科学音頭に浮かれて」の章の『そんなバカな!』(竹内久美子著)における遺伝子の擬人化に対する批判には説得力あったし(竹内流の勝手なドーキンス解釈なのに「週刊文春」は相変わらず同著者によるくだらない連載を続けている)、『環境ホルモン入門』(立花隆著)も、考えてみれば、アトピー、アレルギーはいざ知らず、同性愛から少年犯罪まで環境ホルモンのせいだというのは確かにどう見てもおかしい。

 『趣味は読書。』、『誤読日記』に比べ、ジャンルの選び方に著者のこだわりが感じられ、それだけにそのジャンルにおける好著は好著として評価しており、かつ、柔らかい文章で楽しく読めました(この人の"一人突っ込み"もあまり気にならず、自分としては相性がいい文体なのかも)。

 取り上げている本が時間とともにやや古くなっているのは仕方ないですが、個人的には著者の書評に信を置くきっかけとなった本で、駄本を購入しないで済むための良い水先案内人を得た気がしました。

 【2001年文庫化[文春文庫]】

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「ドリトル先生」に夢中だった少女が進化生物学の第一人者になるまで。

進化生物学への道.jpg 『進化生物学への道―ドリトル先生から利己的遺伝子へ (グーテンベルクの森)』 〔'06年〕

 進化心理学や行動生態学の権威である著者が、自らの半生を綴ったエッセイで、研究の歩みを振り返るとともに、「人生の軌跡において重要な役割を果たした本」を紹介した「読書案内」にもなっています。

 子どもの頃は「図鑑」の愛読者で、小学4年生で『ドリトル先生航海日誌』に夢中になり、そのときの好奇心や探究心を保ったまま学究の徒となり、紆余曲折、様々なフィールドワークや世界的な学者との交流を経て、進化生物学のフロントランナーとしての今に至るまでが、飾り気の無い語り口で書かれています。

 前半では『ドリトル先生』の他に、ローレンツの『ソロモンの指環』、ジェイン・グドールの『森の隣人』などが紹介されていて、その後、ドーキンスの『利己的な遺伝子』に出会い、ダーウィンに回帰し、進化心理学、しいては総合人間科学を自らのテーマとする―そうした過程を振り返りながらも、生態学、進化学の現時点的視座から、先人たちの研究や著作を冷静に検証していています。
 
 2年半にわたるアフリカでの野生チンパンジーの観察の話や、「ハンディキャップ理論」(著者の本『クジャクの雄はなぜ美しい?』('92年出版・'05年改定版/紀伊國屋書店)に集約されている)、「ミーム論」に関する話などがわかりやすく盛り込まれていて、知的エッセンスに溢れる仕上がりになっています。

 「群淘汰の誤り」というパラダイム変換が世界の学会に起きていたのに、東大の研究グループの中ではそんなことは知らずにいた著者が、たまたま来日した学者に『利己的な遺伝子』を読むことを勧められ、目からウロコの思いをしたという話は印象的でした。
 しかし、この流行語にもなった「利己的遺伝子」の概念が、俗流の「トンデモ本」によって歪められ、多くの日本人は結局のところ、未だに「種の保存」論を信じていることを著者は指摘しています。

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河合氏が児童文学に触れて書いたものではベスト。

河合 隼雄 『子どもの宇宙』.jpg子どもの宇宙.jpg 『子どもの宇宙 (岩波新書)』 〔'87年〕

 河合隼雄氏が児童文学について書いているものは、この新書の出版前後にも何冊か文庫化されていて、いずれも素晴らしい内容です。
 ただしそれらが過去に各所で発表したものを再編したものであるの対し、本書は丸々1冊書き下ろしであり、まとまりと深みにおいてベスト、渾身の1冊だと思います。

 子どもと、家族・秘密・動物・時空・老人・死・異性という7つのテーマに全体を切り分け、子どもの世界にこれらがどう関わるのか、著者の深い洞察を展開しています。
 そして、その中で家出や登校拒否などの今日的問題を扱いつつ、優れた児童文学に触れ、それらから得られるものを解き明かし、読者に子どもの持つ豊かな可能性を示しています。

日本幻想文学集成13・小川未明.jpg 児童文学について書かれた従来の氏の著作に比べ、遊戯療法や夢分析の事例など、臨床心理学者としての視点が前面に出ている一方、育児・児童教育についての示唆も得られる本です。
 もちろん児童文学案内としても読め、本書の中で紹介された本は、是非とも読んでみたくなります。

 ちなみに個人的に一番強い関心を抱いたのは、太郎という7歳で病気で死んでいく子どもの眼から見た世界を描いた小川未明の「金の輪」で、この極めて短く、かつ謎めいた作品を、小川未明の多くの作品の中から河合氏が選んだこと自体興味深かったですが、河合氏なりの解題を読んで、ナルホドと。
 
《読書MEMO》
●主要紹介図書...
 ◆ベバリイ=クリアリー『ラモーナとおかあさん』
 ◆E・L・カニグズバーグ『クローディアの秘密』...美術館に家出する
 ◆E・L・カニグズバーグ『ジョコンダ夫人の肖像』
 ◆エーリヒ・ケストナー『ふたりのロッテ』
 ◆F・E・H・バーネット『秘密の花園』
 ◆キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』
トムは真夜中の庭で.jpg ◆フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』『まぼろしの小さい犬』
 ◆C・S・ルイス『ナルニア国ものがたり』
 ◆キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』
時の旅人1.jpg ◆アリソン アトリー『時の旅人
日本幻想文学集成13・小川未明.jpg ◆小川未明『金の輪』...死んでいく子どもの眼から見た世界
 ◆ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』
あのころはフリードリヒがいた.jpg ◆ハンス・ペーター・リヒター『あのころはフリードリヒがいた
ぼんぼん1.jpg ◆今江祥智『ぼんぼん
 ◆佐野洋子『わたしが妹だったとき』
 ◆I・ボーゲル『さよなら わたしのおにいちゃん』
 ◆イリーナ・コルシュノウ『だれが君を殺したのか』

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"読み忘れ"はないかのチェックに良かった(実際にはなかなか読めないが...)。

現代を読む.jpg  『現代を読む―100冊のノンフィクション』 岩波新書 〔'92年〕 戦後を読む 50冊のフィクション.jpg戦後を読む―50冊のフィクション』 岩波新書 〔'95年〕

 ノンフィクションというのは、その時のテーマ乃至は過去の限定的なテーマを追うことが多いので、発刊から時間が経つと書評などで取り上げられることも少ないものです。
 本屋も商売、つまらない本は多く並んでいるのに、いい本でも刊行が古いというだけでどんどん消えていき、版元も重版しなくなる。
 刊行時に話題になったり高い評価を得た本でも、やがてその存在すら忘れてしまいがちになり、そうした本を掘り起こしてみるうえでは、あくまでも佐高信という評論家の眼でみた"100選"ですが、本書は手引きになるかも。

 自分にとっても、ノンフィクション系の"読み忘れ本"はないか、チェックしてみるのに良かったと思います。
 う〜ん、読んでない本の方が多い、と言うより、新たに知った本がかなりある...。
 比較的そうした本を新たに知ることが出来るのも、"個人の選"であることの良さですが、と言って、いま全部読んでいる時間もなかなか無い...。
 ただし、そうした本の存在を知るだけでも知っておき、あるいは思い出すだけでも思い出して、薄れかけた記憶を焼き付け直しておくことで、何かの機会に偶然その本に出会ったときに、思い出して手にとるということはあるかも知れないとは思います。

 同じ著者による、戦後を読む-50冊のフィクション』('95年/岩波新書)という本もあり、こちらは所謂「社会派」小説を中心に紹介されていて、連合赤軍の息子の父を描いた円地文子の小説『食卓のない家』や、歌人・中条ふみ子をモデルにした渡辺淳一の『冬の花火』(この頃はいいものを書いていたなあ)、更には松本清張『ゼロの焦点』や宮部みゆき『火車』、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』といった、何らかの社会問題をモチーフとした作品やドキュメンタリー性の強い作品を中心に、それらの内容紹介と書評があります。
(紹介書籍リストは「新書マップ」で見ることが可能 htttp://shinshomap.info/book/4004303931.html

《読書MEMO》
●松下竜一 『風成の女たち』/●内橋克人 『匠の時代』/●船橋洋一 『通貨烈烈』・●千葉敦子 『「死への準備」日記』/●鎌田慧 『自動車絶望工場』(トヨタ)/●柳田邦男 『マリコ』/●沢村貞子 『貝のうた』/●桐島洋子 『淋しいアメリカ人』/●石川好 『ストロベリー・ロード』/●吉田ルイ子 『ハーレムの熱い日々』/●立花隆 『脳死』/●石牟礼道子 『苦海浄土』(水俣病)/●野添憲治 『聞き書き花岡事件』(戦時中の鹿島による中国人強制労働と虐殺)/●田中伸尚 『自衛隊よ、夫を帰せ!』(靖国合祀問題)/●山本茂 『エディ』(エディ・タウンゼントの話)/●吉野せい 『洟をたらした神』(開拓農民の生活)/●佐野稔 『金属バット殺人事件』(1980年発生)/●梁石日(ヤン・ソルギ) 『タクシードライバー日誌』(映画「月はどっちに出ている」の原作)/●吉永みち子 『気がつけば騎手の女房』(吉永正人は結婚に反対した姑の前に鞭を差し出した)/●杉浦幸子 『六千人の命のビザ』(リトアニア領事・杉浦千畝(ちうね)の話)/●藤原新也 『東京漂流』("文化くさい"広告を批判しフォーカスの連載打ち切りになった話が)...

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自分にあまり縁がなさそうな本の批評でも、読み始めると楽しく読めた。

読んだ、飲んだ、論じた.jpg 『読んだ、飲んだ、論じた―鼎談書評二十三夜』 (2005/12 飛鳥新社)

 '03年から2年にわたり雑誌「文藝春秋」に連載された鼎談書評ですが、仏文学者の鹿島茂氏、文芸評論家の福田和也氏、経済学者の松原隆一郎氏の3氏が、それぞれが推薦した本(当時における新刊本)を読みあって講評するスタイルで、3冊×23回=69冊の本が紹介されていています。

 一応、鹿島氏が歴史・風俗、福田氏が文学・政治、松原氏が経済・社会という推薦本のジャンル担当になっていたようですが、そのバランスが良く、また時に鹿島氏が『カルロス・ゴーン経営を語る』といったビジネス書を取り上げたりするなど、専門分野に固執していないのもいいです。

 いずれにしろ、鹿島氏の書誌学的博識や福田氏の歴史やサブカルチャーなどにも及ぶ該博ぶりは分野を飛び越えていて、松原氏にしても、鼎談の良き調整役となっているだけでなく、マルチジャンルの2人によく拮抗して意見を述べているなあと感心。

取り上げている本(一部/順不同)
グローバル・オープン・ソサエティ.jpg 移民と現代フランス.jpg 日本の童貞.jpg 野中広務差別と権力.jpg 知られざるスターリン.jpg グロテスク.jpg 成長経済の終焉.jpg 虚妄.jpg カルロス・ゴーン経営を語る.jpg 女神.jpg 静かなる戦争.jpg 真説ラスプーチン.jpg 夏彦の影法師.jpg 百万遍青の時代.jpg マネー・ボール.jpg 日本はなぜ敗れるのか.jpg 波瀾万丈の映画人生.jpg 分断されるアメリカ.jpg 森敦との対話.jpg 肩をすくめるアトラス.jpg エコノミストは信用できるか.jpg 巨大独占.jpg 六世笑福亭松鶴はなし.jpg ペニスの歴史.jpg

 『上司は思いつきでものを言う』のような比較的馴染みのある新書本から、専門書に近い本や大部な本(『肩をすくめるアトラス』は2段組1,270ページ、6,300円也!)、通好みの本(『「清明上河図」をよむ』などはその類、思わずネットで鑑賞した)まで紹介されていますが、3人の知識が衒学をひけらかすためではなく、本のバックグラウンドの理解や読み解きのために吐露されているので、自分にとってあまり縁がなさそうな本の批評でも、読み始めるとそれぞれに楽しく読めました。

 鹿島氏('49年生まれ)が50代中盤、松原氏('56年生まれ)が40代後半、福田氏('60年生まれ)が40代中盤という微妙な年代の違いも、鼎談を面白いものにしていると思いますが、福田氏というのは昔のこともよく知ってるなという感じ。
 この人の特定の作家への過剰な思い入れはともかく、「本で読んだ知識」にしても、「知っている」ということは大きいなあと思いました。だから、同じ土俵で他の2人と話が出来るんだ...とまた感心。
 しかし、小説や社会学系の本を扱って、さほど"論争"にならないのがやや不思議な気もしました。もっと意見が割れるような気もする3人だけど...。


《読書MEMO》
●取り上げている本(一部)
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』J・D・サリンジャー(村上春樹訳)
『グローバル・オープン・ソサエティ』ジョージ・ソロス
『移民と現代フランス』ミュリエル・ジョリヴェ
『帝国以後』エマニュエル・トッド
『日本の童貞』渋谷知美
『シェフ、板長を斬る悪口雑言集』友里征耶
『グロテスク』桐野夏生
『創るモノは夜空にきらめく星の数ほど無限にある』宮脇修
『知られざるスターリン』ジョレス・メドヴェージェフ・&ロイ・メドヴェージェフ
『成長経済の終焉』佐伯啓思
『ナンシー関大全』ナンシー関
『エコノミストは信用できるか』東谷暁
『虚妄の成果主義』高橋伸夫
『日本はなぜ敗れるのか』山本七平
『六世笑福亭松鶴はなし』戸田学
『教育の世紀』苅谷剛彦

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読書案内であり、社会批評風エッセイでもあることが良かったのか疑問。

いまどきの新書1.jpg いまどきの新書.jpg 『いまどきの新書―12のキーワードで読む137冊』 (2004/12 原書房)

 「週刊朝日」連載の著者の書評コーナー「新書漂流」をまとめたもので、社会、ビジネス・経済、生き方、思考の道具、暮らし、趣味、国際、芸術、科学、歴史、文化、読書の12分野に"かっちり"ジャンル分けして、1冊につき見開き2ページで内容紹介していますが、よくこれだけの広範囲にわたってコンスタントに集めてきたなあという感じ。

 構成上、読みやすいといえば読みやすいのですが、本の紹介がエッセイ風で、そこに著者の社会批評(小泉首相、石原都知事批判が結構なされている)が含まれているのが、読書案内という観点からするといいのかどうか。

 新書本のライン・アップ自体は悪くないです。
 比較的身近なテーマのものが多く、ただし、ちょっとマニアックなものや趣味的なものも紹介されていて、「ああ、また読みたい本が出てきたなあ」という気にはさせられました。
 ただし、限られた文字数の中で他の本も紹介されていて、社会批評風のエッセイのスタイルをとれば当然そうなるのかも知れませんが、肝心の主対象となる本の紹介や読み解きがさらっとしたものになってしまった面もあります。

 著者はインタビュアーとしてのキャリアもあり、その本を書いた人の経歴や周辺をあたるというのは著者らしいのですが、一方で個人的に、この人はコンテキスト(文脈)で読み込むタイプの批評家でもあると思っており、後者の持ち味が生かされていないのではという気も、ややします。

 単行本化するにあたって、取り上げた本に関連するテーマを扱っている新書本を「こちらもおすすめ」として2,3冊ずつ紹介していますが、簡単な内容紹介があれば良かったと思います(左側のスペース、少し余ってるし)。
 それらの中には昔からのロングセラーも含まれていますが、そこまで紹介するならば、本文紹介の本も含めて、出版年を入れてほしかった。

 ああ、でもやっぱり、新書のガイドブックを読むって「ガイドブックのガイドブック」を読んでいるような...。

《読書MEMO》
●取り上げている本(一部)
◆1.社会―『ワイドショー政治は日本を救えるか』、『人口減少社会の設計』、『若者の法則』、『監視カメラ社会』、『東京都政』、『教育改革と新自由主義』 ほか 
上司は思いつきでものを言う.jpg ◆2.ビジネス、経済―『情報の「目利き」になる!』、『インターネット書斎術』、『論理に強い子どもを育てる』、『食べていくための自由業・自営業ガイド』、『上司は思いつきでものを言う』、『コーポレート・ガバナンス』『働くことは生きること』 ほか 
さみしい男.jpg ◆3.生き方―『ルポ「まる子世代」 変化する社会と女性の生き方』、『DV (ドメスティック・バイオレンス) 、『さみしい男』、『シングル化する日本』、『中高年自殺』、『自分の顔が許せない!』 ほか 
◆4.思考の道具―『哲学は何の役に立つのか』、『教養としての「死」を考える』、『現代日本の問題集』、『原理主義とは何か』、『食の精神病理』、『生き方の人類学』 ほか 
◆5.暮らし―『和食の力』、『行儀よくしろ。』、『運動神経の科学-誰でも足は速くなる』、『人体常在菌のはなし-美人は菌でつくられる』、『住まいと家族をめぐる物語-男の家、女の家、性別のない部屋』、『憲法対論』、『適応上手』 ほか 
◆6.趣味―『いい音が聴きたい-実用以上マニア未満のオーディオ入門』、『マンガで読む「涙」の構造』、『素晴らしき自転車の旅-サイクルツーリングのすすめ』、『ロンドンの小さな博物館』、『ラーメンを味わいつくす』、『匂いのエロティシズム』 ほか
◆7.国際―『北朝鮮難民』、『デモクラシーの帝国-アメリカ・戦争・現代世界』、『ナショナリズムの克服』、『グレートジャーニー-地球を這う1南米〜アラスカ編』、『日朝関係の克服』、『ドキュメント女子割礼』 ほか
◆8.芸術――『キーワードで読む現代建築ガイド』、『表現の現場 マチス、北斎,そしてタクボ』、『恋するオペラ』、『ウィーン・フィル 音と響きの秘密』、『人形作家』、『江戸の絵を愉しむ』 ほか
進化論という考えかた.jpg ◆9.科学―『進化論という考えかた』、『自然保護のガーデニング』、『お話・数学基礎論』、『科学の大発見はなぜ生まれたか-8歳の子供との対話で綴る科学の営み』、『意識とはなにか-「私」を生成する脳』、『時間の分子生物学』 ほか
◆10.歴史―『ヒエログリフを愉しむ』、『ダルタニャンの生涯-史実の「三銃士」』、『江戸三〇〇藩最後の藩主-うちの殿さまは何をした?』、『言論統制-情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』、『「明星」50年601枚の表紙』、『日本の童貞』 ほか
犬は「びよ」と鳴いていた.jpg ◆11.文化―『洋菓子はじめて物語』、『新宗教と巨大建築』、『犬は「びよ」と鳴いていた』、『漢字と中国人』、『「しきり」の文化論』『「おたく」の精神史-一九八〇年代論』 ほか
◆12.読書―『新書百冊』、『メルヘンの知恵 ただの人として生きる』、『眠りと文学-プルースト、カフカ、谷崎は何を描いたか』、『鞍馬天狗』、『「面白半分」の作家たち』、『シェークスピアは誰ですか?』、『未来をつくる図書館』 ほか

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千円にしては「使える」ブックガイド。巻末「新書コレクション500」がいい。

『使える新書―教養インストール編』.JPG使える新書.jpg 『使える新書―教養インストール編』['03年/WAVE出版]

 山とある新書の中から、「使える」「役に立つ」ことを最優先にして120冊強を選び、1冊につき1〜3ページで内容紹介しています。編者の言う「使える」とは、例えば、自明とされている常識を問いなおしたり、物事を筋道だてて考えたりといった汎用的な思考ツールを提供するものであるとのことです。

 分類を兼ねた章立てが「ビジネス社会サバイバルの書」、「人生の兵法」、「世の中を知る遠近法」、「科学が人間について知っている二,三の事柄」、「暮らしのリテラシー」となっているのがユニークで、学際的なテーマが多い最近の一般教養系新書の傾向を反映しているとも言えます。

 編者の斎藤哲也氏('71年生まれ)をはじめ5人の分担執筆になっていて、ビジネスから哲学、社会学、科学、さらに趣味・生活まで、広いジャンルの本を取り上げていますが、充分に読み込みがなされた上でポイントを絞って解説されているものがあると思えば、趣旨解釈や論調が「?」のものも一部ありました。

 新書本の選択そのものはそれほど悪くないと思うのですが、個々の解説には賛否あるかもしれません。ただし、知的興奮を喚起させるか(要するに、面白いかどうか)ということに結構ウェイトがおかれているようで、個人的にはそうした姿勢は好きです。むしろ本文よりも、最終章として付録的にある「新書コレクション500(冊)」が、新書別にロングセラーを挙げていたりして、それぞれに簡単な内容紹介もあり、本文より役に立ったりして...(一定の評価が確立している本ばかりだが、いいライン・アップだと思う)。

 若い編者が「教養インストール」などというサブタイトルを掲げるところが厭らしい感じがする人もいるだろうし、個人的には不似合いというかアナクロな感じがしましたが、中身はそんな大それたものでもなく、と言って貶すほどのものでもないと思います。

 あれもこれも読まなきゃと思うとため息が出そうにもなりますが、「教養」とは「自分が何を知らないかについて知っている」ことだと、本書でもその著書が紹介されている内田樹氏も言っておりました。
本体価格千円にしては「使える」ブックガイドだと思います。でも、新書のガイドブックを読むって、福田和也氏が言うところの、「ガイドブックのガイドブック」を読んでいるようなところもあるなあ。

《読書MEMO》
●紹介されている新書(一部)
アーロン収容所 西欧ヒューマニズムの限界.jpgアーロン収容所 --西欧ヒューマニズムの限界(会田雄次・中公新書)
・キヤノン特許部隊(丸島儀一・光文社新書)
ウェルチにNOを突きつけた現場主義の経営学.jpgウェルチにNOを突きつけた現場主義の経営学(千葉三樹・光文社新書)
・日本の公安警察(青木理・講談社現代新書)
・債権回収の現場(岡崎昂裕・角川Oneテーマ21)
・値切りの交渉術(新井イッセー・生活人新書)
・議論のレッスン 福澤一吉 生活人新書
・「分かりやすい表現」の技術(藤沢晃治・ブルーバックス)
・インタビュー術!(永江朗・講談社現代新書)
・相手に「伝わる」話し方--ぼくはこんなことを考えながら話してきた(池上彰・講談社現代新書)
・ギリギリ合格への論文マニュアル(山内志朗・平凡社新書)
・ゼロからわかる経済の基本(野口旭・講談社現代新書)
・景気と経済政策(小野善康・岩波新書)
・バブルとデフレ(森永卓郎・講談社現代新書)
「欲望」と資本主義1.jpg「欲望」と資本主義--終りなき拡張の論理(佐伯啓思・講談社現代新書)
・消費資本主義のゆくえ--コンビニから見た日本経済(松原隆一郎・ちくま新書)
・日本の経済格差 --所得と資産から考える--(橘木俊詔・岩波新書)
・軍師・参謀--戦国時代の演出者たち(小和田哲男・中公新書)
・アメリカ海兵隊(野中郁次郎・中公新書)
・ゲームの理論入門--チェスから核戦略まで(モートン・D・デービス/翻訳:桐谷維・森克美・ブルーバックス)
・ゲームとしての交渉(草野耕一・丸善ライブラリー)
・詭弁論理学(野崎昭弘・中公新書)
「わからない」という方法.jpg「わからない」という方法(橋本治・集英社新書)
・社会認識の歩み(内田義彦・岩波新書)
・寝ながら学べる構造主義(内田樹・文春新書)
・思考のための文章読本(長沼行太郎・ちくま新書)
一億三千万人のための小説教室.jpg一億三千万人のための小説教室(高橋源一郎・岩波新書)
・受験は要領(和田秀樹・ゴマブックス)
・孔子(貝塚茂樹・岩波新書)
・論語の読み方(山本七平・ノン・ブック)
・飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ(井村和清・ノン・ブック)
・不平等社会日本--さよなら総中流(佐藤俊樹・中公新書)
・社会的ひきこもり(斎藤環・PHP新書)
・森田療法(岩井寛・講談社現代新書)
やさしさの精神病理.jpgやさしさの精神病理(大平健・岩波新書)
・< 対話>のない社会(中島義道・PHP新書)
・なぜ人を殺してはいけないのか(小浜逸郎・新書y)
・新・シングルライフ(海老坂武・集英社新書)
禅と日本文化1.bmp禅と日本文化(鈴木大拙/翻訳:北川桃雄・岩波新書)
・朝比奈隆 わが回想(朝比奈隆・中公新書)
・日本の思想(丸山真男・岩波新書)
・ヒロシマ・ノート(大江健三郎・岩波新書)
・戒厳令下チリ潜入記(G.ガルシア=マルケス/訳:後藤政子・岩波新書)
・貧困の克服 (アマルティア・セン/訳・大石りら/集英社新書)
・楽譜の風景(岩城宏之・岩波新書)
・天才になる!(荒木経惟・講談社現代新書)
・日本人のしつけは衰退したか(広田照幸・講談社現代新書)
・『社会調査』のウソ(谷岡一郎・文春新書)
・アトピービジネス(竹原和彦・文春新書)
・食のリスクを問いなおす(池田正行・ちくま新書)
・『食べもの情報』ウソ・ホント(高橋久仁子・ブルーバックス)
・里山再生(田中淳夫・新書y)
・日本の社会保障(広井良典・岩波新書)
自動車の社会的費用 (岩波新書)_.jpg自動車の社会的費用(宇沢弘文・岩波新書)
・教育改革の幻想(苅谷剛彦・ちくま新書)
若者はなぜ「決められない」か.jpg若者はなぜ「決められない」か(長山靖生・ちくま新書)
・安心社会から信頼社会へ(山岸俊男・中公新書)
現代社会の理論.jpg現代社会の理論(見田宗介・岩波新書)
・グローバリゼーションとは何か(伊豫谷登士翁・平凡社新書)
・マックス・ヴェーバー入門(山之内靖・岩波新書)
・アメリカ産業社会の盛衰(鈴木直次・岩波新書)
・ヘッジファンド(浜田和幸・文春新書)
・金融工学とは何か(刈屋武昭・岩波新書)
・移民と現代フランス(ミュリエル・ジョリヴェ/訳:鳥取絹子・集英社新書)
・現代戦争論(加藤朗・中公新書)
・新書 アフリカ史(宮本正興+松田素二編・講談社現代新書)
・制御工学の考え方(木村英紀・ブルーバックス)
・本の未来はどうなるか(歌田明弘・中公新書)
・飛行機物語(鈴木真二・中公新書)
・ロボット入門(舘暲・ちくま新書)
・自動販売機の文化史(鷲巣力・集英社新書)
・脳の探検(フロイド・E・ブルーム他著/監訳:久保田競・ブルーバックス)
・心と脳の科学(苧阪直行・岩波ジュニア新書)
・ヒトはなぜ、夢を見るのか(北浜邦夫・文春新書)
脳と記憶の謎.jpg脳と記憶の謎(山元大輔・講談社現代新書)
・どうしてものが見えるのか(村上元彦・岩波新書)
・心はどのように遺伝するか(安藤寿康・ブルーバックス)
・ヒト型脳とハト型脳(渡辺茂・文春新書)
・ヒトゲノム(榊佳之・岩波新書)
・新しい発生生物学(木下圭+浅島誠・ブルーバックス)
・生命と地球の歴史(丸山茂徳+磯崎行男・岩波新書)
カンブリア紀の怪物たち.jpgカンブリア紀の怪物たち(サイモン・コンウェイ・モリス/訳:木下智子・講談社現代新書)
・原子(もの)が生命(いのち)に転じるとき(相沢慎一・カッパ・サイエンス)
・ハゲ、インポテンス、アルツハイマーの薬(宮田親平・文春新書)
・ドーピング(高橋正人+立木幸敏+河野俊彦・ブルーバックス)
・「健康常識」ウソ・ホント55(前野一雄・ブルーバックス)
・ぼくらの昆虫記(盛口満・講談社現代新書)
・森はよみがえる(石城謙吉・講談社現代新書)
・ミミズのいる地球(中村方子・中公新書)
・砂の魔術師アリジゴク(松良俊明・中公新書)
・昆虫の誕生(石川良輔・中公新書)
ゾウの時間 ネズミの時間.jpgゾウの時間ネズミの時間(本川達雄・中公新書)
・原子爆弾(山田克哉・ブルーバックス)
・日本の医療に未来はあるか(鈴木厚・ちくま新書)
・地球はほんとに危ないか?(北村美遵・カッパ・サイエンス)
・不妊治療は日本人を幸せにするか(小西宏・講談社現代新書)
・生殖革命と人権(金城清子・中公新書)
日本の科学者最前線―発見と創造の証言.jpg日本の科学者最前線(読売新聞科学部・中公新書ラクレ)
・100円ショップで大実験!学研の「科学」「学習」編・学研)
・日本人のひるめし(酒井伸雄・中公新書)
・栽培植物と農耕の起源(中尾佐助・岩波新書)
・漬け物大全(小泉武夫・平凡社新書)
・カレーライスと日本人(森枝卓士・講談社現代新書)
・魚々食紀(川那部浩哉・平凡社新書)
・万博とストリップ(荒俣宏・集英社新書)
・私の選んだ一品(阪急コミュニケーションズ)
・グッドデザイン賞審査委員コメント集1(日本産業デザイン振興会編・GD新書)
・広告のヒロインたち(島森路子・岩波新書)
・マジックは科学(中村弘・ブルーバックス)
元禄御畳奉行の日記―尾張藩士の見た浮世2.png元禄御畳奉行の日記(神坂次郎・中公新書)
・武士の家計簿(磯田道史・新潮新書)
参勤交代.jpg参勤交代(山本博文・講談社現代新書)
・百姓の江戸時代(田中圭一・ちくま新書)
・花と木の文化史(中尾佐助・岩波新書)
・住まい方の思想(渡辺武信・中公新書)
・誰か「戦前」を知らないか(山本夏彦・文春新書)
・日本一周ローカル線温泉旅(嵐山光三郎・講談社現代新書)
・オートバイ・ライフ(斎藤純・文春新書)
・新「親孝行」術(みうらじゅん・宝島社新書)

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バカは歴史書を読め!? 読書案内であると同時に反「ニューアカデミズム」の教養論。

バカのための読書術.jpg 『バカのための読書術グロテスクな教養.jpgグロテスクな教養学者の値打ち.jpg学者の値打ち

 インパクトのあるタイトルでそれなりに売れた本ですが、本書で言うところの「バカ」とは「学校出た後も勉強はしたいけど、哲学のような抽象的なことは苦手」という人のことで、著者は、そういう「難しい本」がわからない人は「歴史書」を読めと言っています。「教養」を身につけようとして、哲学書や心理学・社会学系の本を読み漁り、カオスに陥って時間を無駄にするという事態を避けるための逆説的提言として、「事実」に立脚したものを読めということのようです。

 巻末近くに「歴史入門ブックガイド」「小説ガイド」がありますが意外と平凡で、むしろ中程の「読んではいけない本」ブックガイドが面白い(小林秀雄、ユング、中沢新一あたりは、ほとんど全部ダメとのこと)。世間で名著とされているものに疑念を呈するだけでなく、入門書にも入門書として不向きなものがあることを教えてくれます。ただし、「自然科学」書を「バカ」には荷が重いと最初から排除しているのはどうかなあ。なんで歴史書に限定されてしまうのだろうか。

 背景には著者の「若者の歴史についての無知」に対する危惧があるようですが、さらには、「ニューアカデミズム」に対する「旧教養主義」という構図の中での「歴史書」推奨という構図になっているようです。ですから本書は、読書案内であると同時に「教養」に関する本と言えます。

 同じ「ちくま新書」で、他にも「教養(またはアカデミズム)」をテーマにしたものを何冊か読みましたが―、
 『グロテスクな教養』(高田里惠子/'05年)は旧制高校的教養主義の伝統を確認しているだけのようにしか思えず、評価★★☆(低評価の理由には、着眼点は面白いが、自分にとってイメージしにくい世界の話だったということもある。この本を高く評価する人もいる。テーマとの相性の問題か?)、『学者の値打ち』(鷲田小彌太/'04年)に至っては、あまりに恣意的で主観に偏った内容であったため評価★。
 これらに比べると、まあ参考になった部分もあるし、「許せるかな」という内容でした(元々が、目くじら立てて読むような内容の本ではないのですが)。

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量的な部分で圧倒される「知」のデリバリー・システム。

ぼくはこんな本を読んできた3.JPGぼくはこんな本を読んできた 立花式読書論、読書術、書斎論.jpg 『ぼくはこんな本を読んできた―立花式読書論、読書術、書斎論』 (1995/12 文藝春秋)

 著者の本を何冊か読んだ人ならば、その知識の源泉の秘密はどこにあるのか、情報の整理・分析のシステムはどのようになっているのかを知りたいと思うだろし、そうした意味では興味が涌く1冊。ただし、本書を読んでみて何よりも圧倒されるのは、質的なものよりも量的なものではないでしょうか。蔵書のために、地上3階、地下1階の「ねこビル」を建ててしまったわけですから。

 もちろん読書術として参考になる部分も幾つかあり、例えばある分野について知ろうとする場合、その分野に関する本をとりあえずまとめて購入してしまうとか...。ただし、その数が一度に50冊とか半端じゃない。一般の人にはマネしたくてもできない面も多く、はあ〜と感心させられて終わりみたいな部分もありました。
 イヤミに聞こえるとまでは言うと言い過ぎかも。ノンフィクション作家やルポライター、或いはそうした職業を目指す人とかの中には、実際、本書の読書法を参考にし、また実践している読者がいるかもしれませんから。

 後半は雑誌に連載した読書日記の再録になっていますが、すごく幅広い分野にわたってのかなりマニアックとも思える本までを、比較的常識人としての感覚で読める人という感じがします。
 ただ、この人の「追究」テーマの核となっているのは、宇宙とか臨死体験とか、極限的なものが多いような気がします(価格の高い本が多いので、あまり買って読む気はしないが...)。

 個人的には、この人はやはり「追究者」であって「研究者」という感じは受けず(もちろん単なるピブリオマニア(蔵書狂)でないことは確かですが)、「知識」を一般人にデリバリーしてみせる達人であって、「知の巨人」というこの人のことをよく指していう表現はちょっと的を射ていないのではないかという思いを、本書を読んで強めました。

 【1999年文庫化[文春文庫]】

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