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入門書としてコンパクトに纏まっていて、それでいて内容が濃い"とんぼの本"版。

血と笑いとエロスの絵師 岩佐又兵衛.jpg 血と笑いとエロスの絵師 岩佐又兵衛ド.jpg 岩佐又兵衛作品集―MOA美術館所蔵全作品.jpg ミラクル絵巻で楽しむ「小栗判官と照手姫」.jpg
血と笑いとエロスの絵師 岩佐又兵衛 (とんぼの本)』['19年]/『岩佐又兵衛作品集―MOA美術館所蔵全作品』['13年]/『ミラクル絵巻で楽しむ「小栗判官と照手姫」―伝岩佐又兵衛画 (広げてわくわくシリーズ)』['13年]
岩佐又兵衛(1578-1650)自画像
岩佐又兵衛.jpg 『血と笑いとエロスの絵師 岩佐又兵衛 (とんぼの本)』('19年/新潮社)は、江戸初期、凄絶な復讐譚を長大な絵巻に仕立てる一方、当世風俗をよく描き"浮世絵の元祖"と呼ばれた謎多き絵師・岩佐又兵衛(1578-1650)の、彼の四大代表作を中心に解説した入門書です(タイトルにエロスとあるが、同じ辻唯雄氏の『浮世絵をつくった男の謎 岩佐又兵衛』('08年/文春新書)も同じ場面が表紙に使われていて、絵巻の中で一番エグい場面をアイキャッチ的に持ってきた感もある)。

 岩佐又兵衛と言えば屏風絵なども遺していますが、やはり最もよく知られているのは古浄瑠璃絵巻群の四大代表作「山中常盤物語絵巻」(12巻)、「浄瑠璃物語絵巻」(12巻)、「堀江物語絵巻」(12巻)、「小栗判官絵巻」(15巻)で、本書ではまずこの4作品についてそれぞれ、あらすじを紹介するとともに、主要な場面がどのように描かれているかを見せていきます。

 「山中常盤物語絵巻」(12巻)、「浄瑠璃物語絵巻」とも主人公は15歳の牛若丸、後の源義経で、「堀江物語絵巻」の主人公は月若、後の岩瀬太郎家村(塩谷惟純)ですが、ストーリそのものは事実ではなく、説話的な内容です。「小栗判官絵巻」の小栗判官は、説教節などでも知られていますが、同じく説教節で知られる山椒大夫などと同じく架空の人物です(しかしこうしてみると仇討ち・復讐譚が多いなあ。同じ説教節でも「信太妻(葛の葉狐)」などは安倍晴明という実在者がモデルだが、ストーリーは母親がキツネということになっていて、これもほぼ伝説と言っていい)。

 続いて「人生篇」において、美術史家で、東京大学名誉教授、前多摩美術大学学長、前MIHO MUSEUM館長であり、生涯にわたり岩佐又兵衛を研究してきた辻唯雄(のぶお)氏が、岩佐又兵衛の、信長に謀反を企てた武士を父に持ち、京・福井・江戸を渡り歩いた波乱の人生を浮き彫りにし、さらに続く「作品編」において、同じく美術史家で辻唯雄氏の弟子にあたる山下裕二氏との対談形式で、屏風絵なども含めその作品・作風を「笑い」「妖し」「秘密」「その後」の4つのキーワードで分析しています。

 入門書としてコンパクトに纏まっていて、それでいて内容が濃いという印象です。ただし、絵巻物の主要な場面を抽出しているものの全部ではないため、ストーリーが今一つ理解しにくいかもしれません。岩佐又兵衛作品集―MOA美術館所蔵全作品3.jpg岩佐又兵衛作品集―MOA美術館所蔵全作品2.jpgそこでお薦めなのが、『岩佐又兵衛作品集―MOA美術館所蔵全作品』('13年/東京美術)で、大判で「山中常盤物語絵巻」(12巻)、「浄瑠璃物語絵巻」(12巻)、「堀江物語絵巻」(12巻)の全場面をカラーで見ることができます。しかも、場面ごとに解説が付され、大事な場面や絵的に重要な個所は拡大して掲載しているのがいいです。

 要するに上記の3巻は"MOA美術館所蔵"ということになりますが、この本に含まれていない(つまり"MOA美術館所蔵"ではない)「小栗判官絵巻」(15巻)は、総長が約324メートルという大作になりますミラクル絵巻で楽しむ「小栗判官と照手姫」_4177.JPGミラクル絵巻で楽しむ「小栗判官と照手姫」_4178.JPGが、『ミラクル絵巻で楽しむ「小栗判官と照手姫」―伝岩佐又兵衛画 (広げてわくわくシリーズ)』('11年/東京美術)でその概要を知ることができます。本の大きさは前2冊の中間ぐらいですが、キャッチ通り広げてみることができるページが多くあって楽しめます。

 岩佐又兵衛は最近ちょっとブームのようです。解説書では辻惟雄氏の『奇想の系譜』が名著とされていますが、岩佐又兵衛という人がどのような仕事をしたのかその概要と作風を掴もうとするならば、最初に辻氏の"とんぼの本"を読んで、後でここで取り上げた他の2冊を眺めるというのもいいのではないでしょうか。

血と笑いとエロスの絵師 岩佐又兵衛B.jpg

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「青物問屋の若旦那、転じて画家となる」
異能の画家 伊藤若冲.jpg 異能の画家 伊藤若冲 01.jpg 目をみはる伊藤若冲の「動植綵絵」.jpg 伊藤若冲 Portrait_of_Itō_Jakuchū_by_Kubota_Beisen.jpg
異能の画家 伊藤若冲 (とんぼの本)』['08年]/『目をみはる伊藤若冲の『動植綵絵』 (アートセレクション)』['00年](24.4 x 18.4 x 1.4 cm)/伊藤若冲像(1885年に久保田米僊が若冲85年忌法要に際して描いた肖像)

和樂 若冲.jpg 小学館の「和樂」の'13年4月号で伊藤若冲の特集をやっているのを広告で見ましたが、'07年に雑誌「AERA」(朝日新聞社)で若冲の特集をやっていて、'09年には雑誌「ユリイカ」(青土社)も若沖特集を組むなど、美術専門誌ではない雑誌が特集するところにファン層の広さを感じます(因みにテレビでも'11年にNHK-BSプレミアムで、'12年にはBS日テレで特集番組が組まれている)。

異能の画家 伊藤若冲 00.jpg 伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう、1917-1800)は、本書『異能の画家 伊藤若冲』('08年/新潮社)の冒頭に「青物問屋の若旦那、転じて画家となる」とあるように、京都・錦小路の青物問屋の長男として生まれ、要するに商家の若旦那だったわけですが、狩野博幸氏によれば、学問は嫌いで字も下手、芸事もダメで、酒は飲まないし、女性にも興味が無く(生涯独身で通した)、では商売に打ち込んだかと言うとその逆で、当主という立場からどうやって逃れるかが前半生の目標だったのではないかとのこと。

 絵を描き始めたきかっけも何時ごろかも明確ではないけれど、最初は狩野派の町絵師に学び、やがて狩野派を捨て、中国画の名画を模写するなどして独学で腕を磨き、但し、狩野派や中国絵画の考え方で言えば絵のモチーフのランクとしては低いとされる花鳥図を専ら描いたとのこと、40歳で隠居し画家になってから四半世紀の間、ずっと作画に専念し、作品数は千点以上になるそうです。

異能の画家 伊藤若冲 2000.jpg 本書も、「芸術新潮」の'00年11月号の特集「異能の画家 伊藤若冲」からの移植ではありますが、江戸絵画の研究者である狩野博幸氏へのインタビューという形式をとっている部分が大半を占め、その中で伊藤若冲の生涯や作品について語られており、読み易いうえに一貫性があって、入門書としては通常の雑誌などの特集よりはお薦めです。

 ビジュアル系叢書の一冊であるため図版も豊富で、「動物綵絵」などの代表作を紹介するとともに、"枡目描き""筋目描き""石摺ふう"といった独自の絵画テクニックを紹介しています。

 更に後半部分では彼の晩年を辿り、70歳を過ぎて「天明の大火」に遭い、家も画室も灰になるという逆境の中、画1枚を米一斗で売る暮らしを送るようになりますが、洛南の石峯(せきほう)寺門前に移り住み、85歳で没するまでの10年間は、むしろ悠々自適の暮らしというか、矍鑠たる生き様だったようです。

 無学ながらも禅の思想に深く帰依していたため、元来世俗的な欲求と言うものが殆ど無かったようですが、狩野博幸氏が若冲のことを「江戸時代のオタク」と言い切っているのが興味深く、「オタク」もとことん極めれば「禅僧」の境地に至るのかなと、彼の作品を見て思ってしまった次第です(人付き合いが苦手で一時完全な隠遁生活に入ったこともあった一方、隠居後も商売の利権を巡る交渉事で駆け回らざるを得ないようなことはあったらしい)。

目をみはる伊藤若冲の「動植綵絵」01.jpg 若沖の作品を鑑賞するための本はムックも含め数多く刊行されており、先に挙げた「和樂」は'10年にも「若冲の衝撃」という特集をムックで組んでいますが、比較的入手し易いものとしては、同じく小学館の『目をみはる伊藤若冲の「動植綵絵」』('00年)がお薦めです。

 代表作「動植綵絵」に絞ったものですが、これだけでも30幅あり、しかも一幅一幅がリアルな細密画となっていて(鳥の絵が多い。その中でも特に多いのが鶏)、但し、細部のリアルさに対して全体のダイナミックな構図などは計算し尽くされたものとなっており、どこかモダンなイラストレーションをも思わせ、江戸時代の中期にこのような絵師がいたというのが不思議な気がしてきます(若冲は丸山応挙より13歳年上)。

 こちらも解説は狩野博幸氏で、10年間を費やして描かれたという30幅の絵の中に様々な意匠が凝らされていることを改めて認識しました。

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浮世絵の伝統画法を守りながらもモダンなダイナミズム。イラストレーターの先駆?

月岡芳年 幕末・明治を生きた奇才浮世絵師.jpg 月岡芳年 義経 m14.jpg  月岡芳年の世界.jpg
月岡芳年 幕末・明治を生きた奇才浮世絵師 (別冊太陽)』 義経と弁慶(明治14年)『月岡芳年の世界』['10年]
侠客・金神長五郎(慶応2(1866)年)                        (30 x 21.4 x 2.8 cm )
月岡芳年(つきおかよしとし).jpg月岡芳年 侠客・金神長五郎 慶応2(1866).jpg 江戸から明治にかけて活躍し、「最後の浮世絵師」と言われる月岡芳年(つきおか・よしとし、1932-1892)の特集で、武者絵、妖怪画、歴史画、美人画など約230点を収めています。

トミー・リー・ジョーンズ.jpgトミー・リー・ジョーンズ 浮世絵.jpg 先般、映画「メン・イン・ブラック3」('12年/米)のキャンペーンで共演のウィル・スミスと共に来日したトミー・リー・ジョーンズが、民放の朝のテレビ番組のインタビューを受けた後、浮世絵の絵柄のネクタイを贈られていましたが、自分に渡された安藤広重の絵柄のネクタイを気難しそうな顔でしばらく眺めたうえで、ウィル・スミスに渡された葛飾北斎の絵柄のネクタイと自分のものと替えてくれとウィル・スミスに言って交換していました。「メン・イン・ブラック3」のプロモーションワールドツアーで、各国へのツアーの中で唯一日本ツアーにだけ参加したトミー・リー・ジョーンズは、歌舞伎ファンであるとともに浮世絵愛好家でもあり、特に北斎と月岡芳年が好きで、しかも、娘は月岡芳年作品のコレクターで100点をめざして収集中とのこと、浮世絵は光に弱いため、保管庫から1点だけ取り出して部屋に飾り、毎日架け替えているそうです(番組担当者は、彼が浮世絵愛好家であることは調べていたが、作者の好みまでは調べてなかった?)。

月岡芳年 女盗賊・鬼神お松 m19.jpg それはともかく、こうしたムックで見ても、月岡芳年の作品は、迫力といい躍動感といいやはり凄いなあと。歴史・故事や歌舞伎・浄瑠璃、時々の世相・風俗・事件など、様々なところから題材を取っていますが、何でもござれ、妖怪画も多い。

 河鍋暁斎(1831-1889)、落合芳幾(1833-1904)、歌川芳藤(1828-1887)らと同じく、歌川国芳(1798-1861)の弟子であり、この歌川国芳がまた何でもござれのスゴい人だったわけだけど...。

女盗賊・鬼神お松(明治19年)

 なぜか「天才」とは呼ばれず「鬼才」と言われることの多い芳年ですが、その作風の変遷を見ていると、世阿弥の「守・破・離」という教えを想起します。師から学んだ浮世絵の伝統画法を大事に守りながらも、時代の要請に沿って工夫をこらし、後期の作品においては、なにものにも捉われない自由さ、画面からはみだしそうなぐらいのダイナミズムが感じられます。

月岡芳年 スサノウノミコト m26.jpg 30歳の頃に明治維新を迎え、54歳で没していて、明治に入ってからの作品の方が圧倒的に多いわけで、西南戦争や文明開化なども題材になっていますが、テーマ的にはやはり、「水滸伝」といった中国物も含めた武者絵や、役者絵・美人画・風俗画など、江戸時代の浮世絵のオーソドックスなモチーフが多いのかなあ。

素戔雄尊と八岐大蛇(明治26年)

 それでいて、時代の変化に合わせて描き方がどんどん洗練されてきて、遠近感の使い方などは西洋画法と変わらないものあり、これは当時、これまでの浮世絵に無かった斬新さゆえの人気があっただろうなあと思わせます。

 三島由紀夫なども愛好家だったそうだし、横尾忠則氏にも月岡芳年に関する著書がありましたが、最近また巷では「イラストレーターの先駆」などと言われ、広くブームになっているようです(トミー・リー・ジョーンズ父娘は先見の明があった?)。確かに、江戸時代前期・中期の「絵師」に比べ、江戸後期の「浮世絵師」はある種イラストレーター的であり、幕末から明治にかけての「浮世絵師」であった月岡芳年などは特にその印象があります。

 この「別冊太陽」のムックは、昨年('11年)の「河鍋暁斎」に続く"生誕120周年"の記念刊行ですが、昨年ぐらいから、『衝撃の絵師 月岡芳年』('11年/新人物往来社)など芳年に関する本が続けて刊行されていて、今や師匠の歌川国芳やライバルだった河鍋暁斎らを超える人気であり、ブームになって比較的入手し易い価格で芳年の作品に触れることができるようになるのは歓迎すべきことです。

月岡芳年の世界0.jpg月岡芳年の世界21.jpg 本当に一作品一作品じっくり鑑賞したければ、少し値が張るのが難点ですが『月岡芳年の世界』がお薦めです。'92年に東京書籍から刊行されたものが絶版になり、古書市場で刊行時の定価(7千円)を若干上回る価格で出回っていて且つ品薄気味だったのが、これもブームの予兆だったのか、、'10年に復刊ドットコムで全く同じものが刊行されました(でも、定価が1万円になっている。18年ぶりだから仕方ないのか)。やはり、根強いファンがいるんだなあと。原則一頁に一作品。解説も丁寧で、専門家のコラムなどもあります(編者は洋画家の悳俊彦(いさお・としひこ)氏。歌川国芳、月岡芳年などの研究家でもある)。これが手元にあると、トミー・リー・ジョーンズにちょっとは近づける?

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