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作風の変遷を概観できる。これだけ網羅していれば立派。画集として堪能できる。

不熟 1970-201267.jpg不熟 1970-2012.jpg 不熟 1970-2012213.jpeg
不熟 1970〜2012 諸星大二郎・画集 Morohoshi Daijiro ARTWORK

不熟30-31.jpg 漫画家・諸星大二郎(1949年生まれ)がこれまでの創作活動で描いた絵の中から選びぬいた画集です。単行本として刊行された漫画の表紙や扉絵、挿画などとして描かれたものが殆どであるため、ここでのジャンル分けは「イラスト集」としましたが、一枚一枚の絵に感じられる尽きないイマジネーションの奔出から、芸術作品としての画集として鑑賞してもいいのではないでしょうか。

不熟38-39.jpg 本人あとがきによれば、カラー絵はどうしても単行本のカバー絵などに限られ、それ以外にカラー絵を描く機会があまりなかったようで、画集として構成するために集めるのがたいへんだったようです。「不熟」というタイトルは、40年描いてきても、昔の未熟さから抜け出ていない思いがあり、いっそ最後まで未熟でいようと、未熟ではなく不熟としたとのこと。巻末の漫画家・高橋葉介氏との対談でも、「カラー自信がない」と述べていて、随分と謙虚だなあ。

不熟64.jpg 125ページのうち96ページがカラーで、ほぼ時系列(単行本発行順)に並べられているので、作風の推移などもわかりやすいです。対談からも窺えますが、やはりゴヤやダリの影響を受けているようです。代表作『西遊妖猿伝』と他の作品で、人物の眼など描き方やタッチが違うなあと思っていましたが、これは同時期に作品によって使い分けていたのだなあ。一方で、独特のエロスが感じられるとも評される女性の肉体の描き方は、時期によって多少変遷しているようです。

 このように、作風の特徴、変遷を概観できるのがいいです。マニアックなファンからは、全ての単行本を網羅するには至っていないとの不満もあるようですが、個人的には、これだけ網羅していれば立派なものではないかと思いました(逸失しているものも多いのでは)。もちろん画集として堪能できますが、絵を眺めていると今度は、漫画作品の方を読みたくなります。

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「図鑑」ではなく「画集」として楽しむものだとしても図鑑として見てしまう。引き込まれる。

大恐竜画報.jpg
大恐竜画報 2.jpg 南村喬之(みなみむら・たかし、1919-1997).jpg
大恐竜画報 伝説の画家 南村喬之の世界』南村喬之(1919-1997)

IMG_5469ブロントサウルス.JPG 挿絵画家・南村喬之(1919-1997)が1970年代から80年代に描いた恐竜作品を「大恐竜画報」として1冊に纏めたもの。解説によれば、すべて当時子供向け図鑑用に描かれた作品であるものの、恐竜研究が進む中、現在では違った見解、異なった名称の恐竜も多く、そのことを踏まえた上で、本書は「図鑑」ではなく、「南村喬之の画集」として編集したとのことです。

 当時の雰囲気を再現するため、名称も1970年代当時のままで、説明文も、当時の少年誌の読み物を意識した文体にしたとのこのこと。したがって、恐竜に詳しい人の目から見れば、おかしところが多く見られる復元図ということなるかと思いますが、以上の趣旨のもとに編纂されているので、これはこれで、昔見た少年誌の挿絵のワクワク感を思い出させてくれるという意味でいいです。

IMG_5470アパトサウルス.JPG 個人的には、自分がずっと幼い頃は、最大恐竜と言えば「プロントザウルス」が定番でまさにそれ一本でしたが、この画報が想定している70年代から80年代の時点ですでに名称が「プロントザウルス」からブロントサウルス(108p、全長21~23m)となっており、一方、アパトサウルス(156p、全長21~26m)も出ていて、解説に「かつてはブロントサウルス、雷竜とも呼ばれていたんだ」とあります(プロントザウルス→ブロントサウルス→アパトサウルスか)。但し、2015年の研究で「アパトサウルス」と「ブロントサウルス」とは別属との発表もあります(ナショナルジオグラフィックWEBニュース「ブロントサウルス、本物の恐竜として復活へ」2015.4.10)

IMG_5471マメンチサウルス.JPG 竜脚類(首長竜)でマメンチサウルス(36p、全長22~25m)というのも大きいし、長さで言えばディプロドクス(66p、全長25~30m)が史上最も長い恐竜だとありますが、Wikipediaでは、マメンチサウルスが体長20~35m、ディプロドクスが全長約20~33mになっています。でも、体重では、30t(本書)と圧倒的にアパトサウルスが重く(同じくWikipediaによれば、ディプロドクスはアパトサウルスなどと同じ竜脚類ではあるが、体重は比較的軽く、10 ~20t程度とみられるとのこと)、やっぱり草食巨大恐竜と言えばアパトサウルスになるのかなあ。でも、「特大の竜」ことスーパーサウルス(72年発見)はここには出てこないなあ。さらには「存在可能な最大級の恐竜であろう」と考える学者もいるアルゼンチノサウルスというのもあるし(体重は約80~100tあったと見積もられている)、アパトサウルスの最大恐竜としての地位は安泰ではないかもしれません。

 一方、肉食恐竜の方は、昔も今もティラノサウルス(98p、全長15m)が最大最強とされていて...とやっていくとキリがないのでこの辺りにしておきます。「図鑑」ではなく、「南村喬之の画集」として楽しむものだとしても、結局「図鑑」として見てしまうのは、もともとそのために描かれたものだからでしょう。その後の発見や研究で、二足立ち恐竜が所謂ゴジラ立ちをすることは普段は無かったとか、雷竜が水中にいることも無かったとか、いろいろ新事実が明らかになっているというのはありますが、それでも絵に細やかさと奥行きがあって引き込まれます。結局(正確さのことは抜きにして)「図鑑」として見てしまうことは、同時に絵を楽しんでいるということなのでしょう。

「白馬童子」 少年画報昭和35年9月号付録
白馬童子 少年画報昭和35年9月号付録.jpg 南村喬之は日本通信美術学院で美術を勉強、戦時中シベリアでの拘留生活を体験した後、戦後は多様な作画仕事で生活費を稼ぎながら改めて美術を勉強し、「はやぶさ童子」で絵物語作家としてデビュー。昭和30年代には「少年ブック」「少年画報」などで活躍しますが、絵物語が漫画分野にとって変わられる中で仕事が減り、1959(昭和34)年の「週刊少年マガジン」創刊号の漫画「天平童子」(原作・吉川英治)を執筆(矢野ひろし名義)したりもしますが(そう言えば、同じ挿絵画家の小松崎茂も、1957(昭和32)年に雑誌「少年」に漫画形式の絵物語「宇宙少年隊」を連載したことがあるが、途中から絵物語形式にスタイル変更した)、結局、漫画は自分の資質に合わないとし、以降は、挿絵画家に本格的に転向。怪獣もの、戦記ものなどで多大な業績を残しています(1960年代の初期怪獣ブームの時は、東宝・大映などの映画怪獣、ウルトラシリーズの怪獣んお造形に大きな影響を与えたとされる)。このように、主な活動は児童を対象としたものですが、桐丘裕之(きりおか・ひろゆき)、桐丘裕詩(きりおか・ゆうじ)などの筆名でSM雑誌の小説挿絵やイラスト画も担当していたりし、その分野でも独特の世界を確立していたそうです。そうした二面性があるところも何となくいいです。

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「●わ 和田 誠」の インデックッスへ

誰が誰を選んでいるかも興味深いが、やはり、和田誠の絵が一番楽しめる。意外と知られていない傑作集。
3人がいっぱい②_5436.JPG3人がいっぱい  1・2 - コピー.jpg 和田誠 2.jpg
3人がいっぱい 2 (新潮文庫 わ 3-2)』和田 誠(1936-2019)

 雑誌「小説新潮」の1976(昭和51)年7月号から1979(昭和54)年12月号までに掲載されたコラムを文庫化したもので、同誌の1973(昭和48)3人がいっぱい②_5437.JPG年1月号から1976(昭和51)年6月号に掲載のコラムを文庫化した『3人がいっぱい➀』の続編です。

3人がいっぱい②図7.png コラムの趣旨は、「今月の3人」として、毎月異なる選者にテーマを決めてそのテーマに沿った3人の有名人を挙げて文書を書いてもらい、その3人の似顔絵を和田誠が描くというものです(最初の1年間は和田誠自身が似顔絵だけでなく、人選と文書も担当していた)。

3人がいっぱい②_5438.JPG 冒頭の1976(昭和51)年の1月には、黒柳徹子が「私より早口の三人」として、森英恵(美しい早口)、淀川長治(楽しい早口)、沢村貞子(立派な早口)を、2は、寺山修司が「競馬の先輩」として、古山高麗雄(最終レースの古さん)、織田作之助(一の目のオダサク)などを挙げています(織田作之助って随分前に亡くなっているけれど)。9月は渡辺淳一が、「手術してみたい三人」として、ちあきなおみ。浅丘ルリ子、浅茅陽子を挙げています。

3人がいっぱい②_5444.JPG 1977(昭和52)年に入ると、9月に筒井康隆が「三人の破壊者」として、タモリ(言語破壊者)、矢野顕子(フィーリング破壊者)、山下洋輔(ピアノ破壊者)を挙げていたりし、1978(昭和53)年には、本書の解説も書いている作家の阿佐田哲也が「文武百般の大先輩」として、五味廣祐、柴田錬三郎、寺内大吉を挙げていますが、この場合の"武"は賭け事なのでしょう。

3人がいっぱい②_5439.JPG  1979(昭和54)年では、作詞家の阿久悠が「目の光る三人」として倉本聰、浅井慎平、王貞治を挙げています。また、作家の小林信彦が、「笑いの求道者たち」として、森繁久弥、渥美清、萩本欽一を挙げています。

 選者も含め亡くなっている人も多いですが、息長く活躍している人も多いなあと。『3人がいっぱい➀』の方でも感じましたが、誰が誰を選んでどのようなことを書いているかも興味深いですが、やはり絵が一番楽しめるでしょうか。昨年['19年]亡くなった和田誠の、本書は意外と知られていない傑作イラスト集と言えるかもしれません。

3人がいっぱい②7.jpg

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「●わ 和田 誠」の インデックッスへ

人選や文章も楽しめるが、やはり一番は和田誠の描く似顔絵。

3人がいっぱい➀_5429.JPG3人がいっぱい  1・.jpg3人がいっぱい➀ amazon.jpg
3人がいっぱい 1 (新潮文庫 わ 3-1)

 雑誌「小説新潮」の1973(昭和48)年1月号から1976(昭和51)年6月号までに掲載されたコラムを文庫化したもので、単行本化を経てはおらず、和田誠(1936-2019)の名前で出た本としては新潮文庫初登場でした。

3人がいっぱい➀_5430.JPG コラムの趣旨は、「今月の3人」として、毎月テーマを決めてそのテーマに沿った3人の有名人に登場してもらい、その3人の似顔絵を和田誠が描くというもので、当初は和田誠自身がテーマを決めて「今月の3人」を選び、その3人についてイラストを前景として余白に文章も書くというものでしたが、このスタイルは1973年12月号で終わり、1974年からは「続・今月の3人」として、人選と文章を毎月異なる著名人が担当し、和田誠はイラストを担当するものとなっています。

 この形になったお陰で長続きできたのか、1975年から1976年6月号までは「新・今月の3人」として連載は続き、それが本書に収めれられているわけですが(42組13人がいっぱい➀_5431.JPG26人)、連載は「今月の3人」にタイトルを戻して1976年7月号から1979年(昭和54)年12月号まで続き、後半部分(42組126人)は『3人がいっぱい②』として同じく文庫化されています。

 まず、シンプルな線で本人の特徴を上手く写しとった絵に目が行き、次にどのような切り口で誰を選んだのかが面白く、それで文章も読むといった感じでしょうか。まず、和田誠自身がテーマ決めと人選をしていた1973(昭和48)年は、1月は「多忙」と題して、笹沢佐保氏、愛川欽也氏、赤塚不二夫氏が取り上げられていて、当時の売れっ子ぶりが窺えます。8月は「お寺」と題して、、丹羽文雄氏、植木等氏、篠山紀信氏が取り上げられていますが、3人とも実家がお寺だったのだなあ(1973年だけ画中の名前に男性は「氏」、女性は「さん」がついている)。

3人がいっぱい➀_5432.JPG 1974(昭和49)年以降は、選者のトップバッターは文庫解説も書いている吉行淳之介で、「ノム・ウツ・カウ」と題して、"ノム"で山口瞳、"ウツ"で生島治郎、" カウ"で川上宗薫を選んでいて、川上宗薫は巨大なイヌを飼っているとのこと(笑)。同年6月は、選者がSF作家の小3人がいっぱい➀_5433.JPG松左京で、「SF三大図絵」と題して、星新一、筒井康隆、半村良を選んでいます。8月は、漫画家の東海林さだおが「三人をハゲます会」と題して、"角"として稲垣足穂、"丸"として田中小実昌、"三角"として殿山泰司を選んでいます。形状で区分しているところがさすがに漫画3人がいっぱい➀_5434.JPG家(笑)。それをイラスト化しているのは和田誠ですが。

 1975(昭和50)年に入ると、その田中小実昌が8月の選者となって、「三大ボイン歌手」と題して、中山千夏、戸川昌子、3人がいっぱい➀_5435.JPG淡谷のリ子を取り上げたりしていますが、こうしてみると、亡くなった人も多いですが、存命で現役の人も結構いるなあという印象です。そうした人はものすごく職歴や芸歴が長いことになりますが、それだけ早くに世に出たということなのでしょう。芸能人で言えば黒柳徹子然り、美輪明宏然り、作家で言えば佐藤愛子然り、大江健三郎然り(庄司薫みたいに書かなくなってしまった作家もいるが)。

 結構、選ばれた人が今度は選ぶ側に回っていたりして、まあ、人選や文章も楽しめますが、やはり一番は和田誠の描く似顔絵でしょうか。解説の吉行淳之介(この人も選ぶ側であったり選ばれる側であったりする)は、和田誠の描く似顔絵を山藤章二(この人も選ぶ側であったり選ばれる側であったりする)のそれと比較して「淡泊」としていますが、そういう表現の仕方もあるのかもしれません。

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そのオーラに溢れた怪奇画を再びこうして見られるだけでも有難い。

柳柊二怪奇画集01.jpg柳柊二怪奇画集11.jpg 柳柊二怪奇画帖ド.jpg
柳柊二怪奇画帖

柳柊二怪奇画集20.jpg イラストレーター・挿絵画家の柳柊二(やなぎ・しゅうじ)(1927-2003)(本名:柳橋風有草(やなぎばし・かざうぐさ)の怪奇挿画を集めたもので、昭和40年代頃の少年雑誌には「大図解」というグラビアページがありましたが、それを飾る画家としては、柳柊二は石原豪人(ごうじん)(1923-1998)と並ぶ"大御所"だったように思います(この二人、共に75歳で亡くなっている)。

柳柊二怪奇画集30.jpg 石原豪人は「エロスと怪奇」を描いたイラストレーターと言われていますが、柳柊二の方は「怪奇」が中心で(初期にはエロス系も描いていたが、子どもができてやめたようだ)、ただし、普通の歴史時代ものの挿絵なども多く描いています(「伝記文庫」の表紙絵なども描いている)。両者を「怪奇」同士で比較すると、石原豪人が、力強いタッチで押してくるのに対し、柳柊二は繊細なタッチで、伊藤彦造(1904- 2004/享年100)のイラストをも想起させます。

柳柊二怪奇画集40.jpg 本書では、その細かいタッチが分かるようにページいっぱいに絵を載せていて、見開きページも少なからずあって、画家の筆致を堪能できます。一方で、モノクロ・二色刷りが主体で、カラー原画のページがちょっと少ないかなという感じもします。もともと少年雑誌の「大図解」がモノクロ・二色刷りが多く、これは致し方なかったのかなと(怪奇画に絞って、しかも原画が残されているもののみで本書を構成したこともその理由か)。

ヘンゼルとグレーテル―グリム童話.jpg 巻末に、柳柊二夫人、柳橋静子さんのインタビューがあり、本人は「子供の絵はごまかしちゃいけない」と言い、「リアルな絵が描ける装画家はいないんじゃないかなあ」と嘆いてもいたとのこと。忙しい時期は、今は禁止薬物になっている精神賦活剤を飲んで、60時間くらい起き続けて描いていたそうです。ずっと奥さんを「おい」とだけで呼んでいたのに、最期亡くなるちょっと前に「静子さん」と名前で奥さんを呼び、感謝の意を表したという話にはほろりとさせられます。

 解説によれば、柳柊二は怪奇画を得意としていたわけでもなく、多くの出版社から依頼を受けて、描いてきたものは多岐に渡り、子供向けだけを取ってみても怪奇画はその一部にすぎないとのこと(「講談社の絵本」シリーズの表紙などを手掛けており『ヘンゼルとグレーテル』などは高い水準であると)。柳柊二のものと知らずに見ていた絵も結構あったかもしれないなあと思いました。

 でも、取り敢えず、原画が残っていて(殆どが、出版社から戻されて、本人宅に無造作に仕舞われていたものだったそうだ)、そのオーラに溢れた怪奇画を再びこうして見られるだけでも有難いことだと思います。

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錚々たるメンバーによるイラスト。"豪華なキッチュ感"を楽しむ本(?)。

悪魔全書.jpg悪魔全書    2.jpg 悪魔全書 14.jpg
悪魔全書 復刻版 (ドラゴンブックス)』['18年/復刊ドットコム]

悪魔全書 22.jpg 1970年代に数多くの怪奇系児童書を手掛けた怪奇作家・オカルト研究者の佐藤有文(さとう ありふみ、1939-1999)の本の復刻版で、ドラゴンブックスは、講談社が'74年11月から''75年12月にかけて刊行の怪奇系児童書のレーベルです(全11巻)。著者の代表作としては、「ドラゴンブックス」では本書『悪魔全書』以外に『吸血鬼百科』『霊魂ミステリー』『四次元ミステリー』『日本幽霊百科』があり、その外に立風書房の「ジャガーバックス」で『日本妖怪図鑑』『世界妖怪図鑑』など、秋田書店では『妖怪大全科』などがあります。

悪魔全書 26.jpg 今は当然のことながら全部絶版になっていますが、古本市場でプレミア価格になっていることもあって、そのうちの幾つかは、本書のように復刻版として刊行されているようです。昭和の味わい加え、キッチュ感がいいのだろうなあ。本書で言えば、イラストを描いているのは、石原豪人柳柊二南村喬之、加藤孝雄に加え、秋吉巒、山田維史といった錚々たるメンバーで、それらの人の絵が1冊に収まっているという辺りも、古本市場でプレミア価格がつく要因かと思います(解説よりも絵の方が楽しめるかも)。

悪魔全書 復刻版164.jpg  悪魔全書  エクソシスト.jpg

悪魔全書 18.jpg 解説の方は、当時、'74年7月にホラー映画「エクソシスト」('73年/米)が公開されたばかりであっためか、その「エクソシスト」を結構取り上げていますが、全体としては、中世ヨーロッパの典型的な悪魔(悪魔審問)・魔女(魔女裁判)は勿論のこと、バビロニアの悪魔から始まって、ルーダンの怪事件まで、古今東西の悪魔・魔女及び関連事項を広く取り上悪魔全書 ルーダンの怪事件.jpg尼僧ヨアンナ_22.jpgげています。ルーダンの怪事件は、ポーランド人作家ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィッチ原作、イェジー・カヴァレロヴィッチ監督の映画「尼僧ヨアンナ」 ('60年/ポーランド)のモチーフになっていますが、写真は映画からとっているね。映画は舞台がフランスからポーランドに置き換えられているのだけど。

我が子を食らうサトゥルヌス.jpg食人鬼ゴール.jpg この人の場合、秋田書店の『妖怪大全科』で、ギリシャ神話のクロノスが子供の神々を喰らった件にモチーフを得たゴヤの「我が子を食らうサトゥルヌス」の絵に、ポルトガルの「食人鬼」とのキャプションをつけたりして(クロノスは"鬼"ではなく、大地および農耕の"神"。解説も典拠不明で、好き勝手に書いているのではないかという印象)、結構いい加減でもあるのですが(『妖怪大全科』は復刻されていないなあ)。
  
 まあ、そうしたいい加減さも含め(多くの妖怪を描いたあの水木しげるだって、「柳田國男のあたりのものは愛嬌もあり大いに面白いが、形がないので全部ぼくが作った」と言っている)、"豪華なキッチュ感"(言葉の用法的に矛盾しているが)を楽しむ本(?)とでも言うべきでしょうか。人によっては、子供時代のトラウマを追体験する本だったりして(笑)。

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真鍋博の插絵と星新一のショーショートの組み合わせは、双方にとって相性ばっちり。

真鍋博のプラネタリウム 2013.jpg 真鍋博のプラネタリウム (新潮文庫).jpg 真鍋博のプラネタリウム my.jpg 真鍋博3.jpg 星新一 p.jpg
真鍋博のプラネタリウム:星新一の挿絵たち (ちくま文庫)』['13年]『真鍋博のプラネタリウム―星新一の挿絵たち (新潮文庫)』['83年]真鍋博/星新一

真鍋博 146.jpg 名コンビと言われた星新一(1926‐1997)と真鍋博(1932‐2000)ですが、本書は、雑誌掲載時の作品を中心に「真鍋博の插絵」という視点で集めた唯一の作品集であるとのことで、1983(昭和58)年に〈新潮文庫〉として刊行されています。この2013(平成25)年刊行の再文庫化版(〈ちくま文庫〉版)では、従来の星新一によるまえがき、真鍋博によるあとがきプラス、新たに真鍋博の子息で恐竜学者の真鍋真氏による解説が加わっています。

 星新一作品の插絵は和田誠、ヒサクニヒコ、そして真鍋博が御三家と呼ばれていますが、やはり一番印象に残っているのは真鍋博の插絵のような気がします。真鍋博自身も、筒井康隆作品の插画やアガサ・クリスティのハヤカワ・ミステリ文庫のカバー絵なども手掛けていますが、星新一作品との組み合わせは、双方にとって相性ばっちりだったように思います。

 本書は、その相性の良さを堪能できますが、真鍋博の插絵を多く紹介するために、星新一のショートショートの方は、「おーいでてこーい」(星新一のまえがきによると、これが最初に真鍋博と組んだ作品とのこと。和田誠と知り合ったのはその9年後)、「マイ国家」「ボッコちゃん」などの代表作にしても、書き出しやさわりの部分だけの引用になっています。結末や核心に触れていないので、これはこれで、これからどうなるのだろうという余韻を残して悪くないと思いました(どんな結末だったか忘れてるなあ)。
  
真鍋博のプラネタリウム2.9.2.png それでも、全部このスタイルだと読者がカタルシス不全になると考えたのか、30ページおきぐらいに結末まで全文掲載している作品が出てきます。そのラインアップは「はじめての例」「窓の奥」「いやな笑い」「追われる男」「幸運の未来」「夢のような星」となっており、先に挙げた「マイ国家」「ボッコちゃん」といった短編集の表題作となるような有名なものではないところが、またミソなのかもしれません(ほぼ初読のはずなので、插絵から結末を想像して読んで欲しいとのことらしい)。

 難を言えば、真鍋博の插絵が、中には見開きいっぱいにスペースをとっているものもありますが、全体としては小さいものが多い点で、これは、旧版も文庫でありるため致し方無いのかもしれません。目をうんと近づけて見てしまいました。

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「●あ 安西 水丸」の インデックッスへ

待望の初作品集であり、構成も工夫されていて、その軌跡を偲ぶに相応しい保存版。
イラストレーター 安西水丸 0.jpg
イラストレーター 安西水丸.jpg
 安西水丸 いつまでも愛されるイラストレーター.jpg
イラストレーター 安西水丸』['16年](25.7 x 18.6 x 1.8 cm)『安西水丸: いつまでも愛されるイラストレーター (文藝別冊/KAWADE夢ムック)』['14年]

イラストレーター 安西水丸 10.jpg 2014年3月に急逝したイラストレーター安西水丸(1942-2014)の作品集で、2016年6月刊行(安西水丸事務所 (監修))。安西水丸は、日本大学芸術学部卒業後、電通、ニューヨークのデザインスタジオ、平凡社を経てフリーのイラストレーターになり、書籍の装丁、雑誌の表紙やポスター、小説やエッセイの執筆、絵本、漫画など、多様な活動をしてきました。本書は、「ぼくの仕事」「ぼくと3人の作家」「ぼくの来た道」「ぼくのイラストレーション」の4章から成り、その活動の全容を1冊にまとめています。

 chapter1「ぼくの仕事」では、その仕事を、小説、装丁・装画、エッセイ、漫画、絵本、雑誌、ポスター、リーフレットほか、広告・立体物に区分して、代表的なものを紹介しています。その多彩な活動を改めて感じとることが出来ますが、本書が初の作品集であるとのことで、まさに "疾走"している最中の逝去であり、亡くなることでようやっとこうした「作品集」を見ることができるというのが何となく哀しい気もします。

村上春樹をとり上げた雑誌の表紙/和田誠とのコラボレーション
イラストレーター 安西水丸 108 村上.jpgイラストレーター 安西水丸 116 和田.jpg Chapter2「ぼくと3人の作家」では、親交の深かった嵐山光三郎氏、村上春樹氏、和田誠氏との仕事を紹介しています。この中でも、村上春樹作品とコラボは印象深いものがありますが、村上作品で最初に装丁を担当したのは、'83(昭和58)年に中央公論社(現、中央公論新社)から出た『中国行きのスロウ・ボート』であるとのことイラストレーター 安西水丸_7929.JPGです。本人も気に入っているようですが、村上作品は、先行して村上作品のカバーイラストを担当していた佐々木マキ氏のアナーキーな雰囲気も似合うけれども、こうしたカンファタブルなイラストや、『村上朝日堂』シリーズに見られるほのぼのとした雰囲気もマッチしているように思え、また、その雰囲気が意外と村上作品または村上春樹という作家の本質に近いところにあるのではないかと思ったりもします。

 Chapter3「ぼくの来た道」では、子ども時代を過ごした千倉のことや、学生・イラストレーター時代のこと、青山と鎌倉のアトリエ、好きなもの(カレーライス、スノードーム、ブルーウィロー、お酒)が写真と文章で紹介され、娘・安西カオリ氏の父親との幼い頃の思い出を綴ったエッセイが付されています。千倉の話は、本人のエッセイにも出てきたなあ(村上春樹のエッセイにも出てくる)。アトリエに飾られた小物などは、ああ、これが作品のモチーフになったのだなあと思わせるものもあって興味深かったです。

イラストレーター 安西水丸 166.jpg Chapter4「ぼくのイラストレーション」では、純粋なイラストレーションとしての安西水丸作品が80ページにわたって紹介されていて圧巻! 多様な活動をしながらも、心には「イラストレーターであることへの誇イラストレーター 安西水丸 170.jpgり」を常に持ち続けたということが改めて感じられました。最後に、仕事面で何かと一緒に歩むことの多かった嵐山光三郎氏のエッセイと、村上春樹氏が寄せた短文が付されていますが、共にイラストレーター 安西水丸 222.jpg、まだ安西水丸という人がもうこの世にはいないという喪失感から抜け出せていないことを感じさせるものでした。

 安西水丸、待望の初作品集であり、構成も工夫されていて、その軌跡を偲ぶに相応しい保存版として一冊です。

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「●わ 和田 誠」の インデックッスへ

多くの作家との相性の良さ。「装丁のコツ」は「初校ゲラをよく読むこと」と。

Book Covers in Wadaland 和田誠 装丁集.jpgBook Covers in Wadaland 和田誠 装丁集 474.jpg 和田誠 2.jpg
Book Covers in Wadaland 和田誠 装丁集』 和田 誠(1936-2019)

2Book Covers in Wadaland.jpg 昨年['19年]10月に亡くなったイラストレーター和田誠(1936-2019)の装丁集で、2014年刊行。それまでの20年間に装丁を手がけた書籍・文庫を中心としたデザイン作をフルカラーで716点収録し、正方形サイズの上製本に収めたもので、著者の200冊目の著作にあたるとのことです。因みに、書籍・文庫本はすべて、著者自身が手元に保存している原本や色校紙を撮影・スキャンしたものだそうです。

 著者・和田誠は、多摩美術大学図案(現・デザイン)科卒業後、1959(昭和34)年に、今も銀座にある広告制作プロダクションのライトパブリシティにデザイナーとして入社し、1968(昭和43)年に退社、フリーになっていますが、本書によれば、最初に装丁を手掛けたのは、1961年の寺山修司・湯川れい子編『ジャズをたのしむ本』で、これは寺山修司が学生時代からの友人であったため、著者を指名してくれたのではないかと述べています。

 その後、もともと絵本を作りたいといった願望があったものの依頼してくれる出版社がなかったため、私家版で作ることにし、絵本には「お話」が必要だがそれは誰かに描いてもらうしかなく、そこで、星新一や谷川俊太郎など知り合ったばかりの作家に依頼して、1963年から65年まで3年間に7冊の私家版絵本を関背させたとのと。やっぱり仕事は待ってるだけじゃこない。しかも、在職中にそこまでやっているから、たいしたものです。

1Book Covers in Wadaland.jpgBook Covers in Wadaland_7926.JPG 独立してからも谷川俊太郎との共作を多く手掛け、70年代には、1972年に遠藤周作の『ぐうたら人間学』の装丁をしたことからその作品を多く手掛けたとのこと。自身は、自分が装丁する作家を思い浮かべると「星新一さん、丸谷才一さん、阿川佐和子さんが主な3人である」と述べています。

 他のイラストレーターも、例えばこの作家ならこのイラストレーターというお決まりの組み合わせがあったりしますが、和田誠の場合、そうしたコアな関係の作家の数が抜きん出て多いように思います。谷川俊太郎や星新一、丸谷才一、阿川佐和子に限らず、村上春樹、三谷幸喜、井上ひさし、ジェイムズ・ジョイスなどもそうでしょう。

 著者は、「装丁のコツ」を人に訊かれ、「初校ゲラをよく読むことです」と答えていたそうで、この辺りにも、これだけ多くの作家と相性が合う理由があるように思いました。保存版として手元に置いておきたい1冊です。

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その緻密さや細かいところで施された時空を超えた"遊び"が堪能できる。

山口晃 大画面作品集00.jpg 「成田国際空港 飛行機百珍圖」.png
山口晃 大画面作品集』['15年] 成田空港第1ターミナル4F「成田国際空港 飛行機百珍圖」
NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」タイトルバック(2019)
いだてん〜東京オリムピック噺〜_10.jpg

山口晃 大画面作品集0.jpg 大和絵や浮世絵のようなタッチで、非常に緻密に人物や建築物などを描き込む画風で知られる山口晃(1969年生まれ)氏の大画面作品集です。'19年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」の(題字の「回転する三本の脚」は横尾忠則氏によるものだが)タイトルバックの東京の俯瞰図のような緻密な絵の作者がこの人でした。また、近年パブリックアートに力を入れている成田空港では、第1ターミナルで、この人の成田空港をモチーフにした絵「成田国際空港 飛行機百珍圖」が見られます。

山口晃 大画面作品集08.jpg 本書の巻頭にも、この「成田国際空港 飛行機百珍圖」図がきていて、部分拡大図と全体図があって、その緻密さや細かいところで施された"遊び"が堪能できるものとなっています。実物は、1枚が縦3.8m×横3.0mだそうですが、とにかく細部の描き込みがスゴイです。「いだてん」のタイトルバックはもう少しゆったりした感じで描いたのかなあと思ったら、あれは人物(中村勘九郎や阿部 サダヲ)を怪獣映画のゴジラか何かに見立てて、その想定サイズに合わせて絵の方も大映したそうで、それによってテレビでも絵の細部が楽しめるようになっていますが、原画のサイズは1.6m×横2.6mだそうで、小さくはないけれど、特別に巨大な絵でもないようです。

山口晃 大画面作品集16.jpg こうした細密画を専門とする画家は他にもいるし、鳥瞰図絵師としては、大胆なパノラマ地図を描き続けた吉田初三郎(1884-1955)から、最近では、港町神戸の"今"を描き続けている青山大介氏などもいますが、青山氏の絵なども素晴らしいと思います(自分の実家が神戸なので愛着がある)。青山氏の絵を観ていると、技法的には、かつてのイラストレーター真鍋博(1932-2000)の『真鍋博の鳥の眼』('68年/毎日新聞社)を想起させられますが、この山口晃氏の作風は、伝統的な日本の図像と現代的なモチーフを混合させ、大和絵のようなタッチで描いているユニークなものです。

山口晃 大画面作品集68.jpg "遊び"が堪能できると言いましたが、その最大の遊びが、同じ絵の中に時空を超えて、江戸や明治の時代の人物や事物と現代の人物や事物を混在させていることで、現在が主となってその中に昔のものが混ざっているものもあれば、昔の時代が主で、その中に現代が混ざっているものもあります。後者の例で言えば、1枚の絵の中で、武家の厩に馬が羈がれているのに混ざってバイクが駐車されていたり、烏帽子頭の男と話している相手が脇にパソコン開いていたりして、くすっと笑いたくなります。

 山口晃氏は、私立美術大学を中退後、1994年東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業、1996年同大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程を修了しているとのことです。個人的にはその作風から日本画を専攻したのかと勘違いしていましたが、本書内のエッセイで、「日本美術」という山口晃 大画面作品集42.jpeg言葉について再考するとともに、「日本画、洋画なんて事は海の向こうの人から見ればとるにたらない事でしょう」と述べています。

 また、「このまま設計図描きが続きかもしれませんが、絵描きなる時が来るかもしれません」とも述べています。確かに、画家と言うよりイラストレーターのような面もあるかも知れませんが、一方で極めて"絵画"的な作品もあり、また、絵画だけではなく、さまざまな美術活動に取り組んでいて、本書ではその一端をも垣間見ることができます。2013年に『ヘンな日本美術史』('12年/祥伝社)で第12回小林秀雄賞を受賞するなど多才な人であり、引き続き今後も注目されます。

「百貨店圖 日本橋 新三越本店」(注文主:三越)
山口晃 大画面作品集70.jpg
山口晃 大画面作品集70-2.jpg

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「●や 柳原 良平」の インデックッスへ

装丁、絵本、漫画、アニメ、グッズやオリジナル作品を収め、保存版として貴重なムック版。

柳原良平の仕事.jpg 柳原良平の仕事 TVCM.jpg  柳原良平の装丁.jpg
柳原良平の仕事 (玄光社mook)』['15年](29.9 x 21 x 1 cm)『柳原良平の装丁』['03年]
柳原良平(1931-2015)
柳原良平.jpg 2015年8月に84歳で亡くなった、イラストレーター、デザイナーで、船の画家でもあり、アンクルトリスの生みの親でもある柳原良平(1931-2015)の仕事集。このムック版が初めての本格的仕事集とのことですが、上記に加え、漫画家、文筆家としても知られたように、仕事の範囲がかなり広範に及び、また晩年まで活動していたため、本人が亡くなってやっとこうしたものが刊行されるということになるのでしょう。装丁、絵本、漫画にアニメーション、さらにはグッズやオリジナル作品まで、900点以上を図版に収めています。

トリスを飲んでハワイへ行こう!TVCM.jpgトリスを飲んでハワイへ行こう!.jpg柳原良平の仕事 アンクルトリス.jpg まず最初に、アンクルトリス誕生の初期の作品を紹介しています。柳原良平はよく知られているように、サントリーの前身「寿屋」の社員だったわけですが、50年代の終わりから60年代にかけて、広告の変遷を通してアンクルトリスのキャラクターが確立されていく過程が見えて、なかなか興味深いです。

アニメーション3人の会.jpg でも、1959年にはもうテレビコマーシャルになっているのだなあ。1960年に、久里洋二、真鍋博と「アニメーション3人の会」を結成していますが、その時点でアニメーション経験があったのは柳原良平だけで、「寿屋」に所属していたというのは大きかったと思います(「3人の会」上映会は'60年、'61年、'63年の3回行なわれ、'64年の第4回からは一般公募と海外からの招待作品も含めて上映する「アニメーション・フェスティバル」へと発展し(-1966)、日本の自主制作アニメーション界全体の活性化と次代を担う人材の育成につながったほか、和田誠、横尾忠則、宇野亜喜良など他の分野で活躍していたアーティストがアニメーション制作を行なう契機となり、虫プロダクションを設立したばかりの手塚治虫も実験的な短編を制作して参加した)。

柳原良平の仕事 新社会人広告.png 1978年から約20年続いた山口瞳(1926-1995)との新社会人を激励する新聞広告(全国紙の4月1日朝刊に掲載)も懐かしいです。広告代理店に入社して、4月1日の入社式が終わった後の研修で、講師である役員から「読んだか」と訊かれ、即答できず皆ぼーっとしていたら怒鳴られたのを覚えています(広告業界の者にとって必見の広告。ましてや自身が訴求ターゲットである新社会人であることからして、これを読まずに会社に来るなんてトンデモナイということか)。

 仕事全体としては、装丁を手掛けた書籍が300冊以上に及び、挿画や新聞連載漫画、絵本の製作などもあり、絵本では『かお かお どんなかお』などベストセラーもあります(絵本、思っていたより結構多かった)。本書に収められているものでは、新聞連載漫画などは興味深く(サラリーマン漫画などを描いている)、また珍しいのではないでしょうか。初期作品の図版なども貴重であり、オリジナルの絵画(船の絵)もあります。

柳原良平の装丁ード.jpg 全体を通してみると、やはり装丁の仕事が最も多いという印象で、全体的な仕事集としてはこのムックが初とのことですが、装丁集としては以前に『柳原良平の装丁』('03年/DANぼ)が出され柳原良平の装丁 山口.jpgており、柳原良平は当時72歳でしたが、それまでに装丁を手掛けた約300冊の内、50年代~2003年までの200冊以上の装丁を収録しています。

 一番多いのは、「寿屋」宣伝部で共に広告制作を担当した山口瞳の本であり、まあ、「山口瞳の本と言えば柳原良平の表紙」というイメージになるでしょうか。遠藤周作や八切止夫、開高健(山口瞳と同じく「寿屋」の同僚)、筒井康隆や阿川弘之、北杜夫の本も手掛けています。それでも結構絞り込んでいる感じ新入社員諸君 角川.jpgもしますが、では、装丁を手掛けた作家とは付き合いがあるのかというと、八切止夫や筒井康隆の本は何冊も手掛けているのに、作家本人には会ったことがないと述べているのが意外でした(最期まで会うことはなかったのだろうか?)。

 どちらも楽しめますが、『柳原良平の仕事』の方がムック版で判型が大きく、それだけ多くの内容を取り込んでいるという感じでしょうか。保存版として貴重です。

《読書MEMO》
●「3人の会」第2回上映会(1961年12月)チラシ(デザイン:和田誠)
3人の会 2-1.jpg

3人の会2-2.jpg

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「●ま 真鍋 博」の インデックッスへ

日本の主要都市の鳥瞰図。超細かい。時を経て記録的な価値が高まった。

真鍋博の鳥の眼.jpg真鍋博の鳥の眼2.jpg 鳥の眼―真鍋博の (1968年).jpg 真鍋博3.jpg 真鍋 博
新装版 真鍋博の鳥の眼 タイムトリップ日本60'S』['19年]『鳥の眼―真鍋博の (1968年)』['68年]
(37.2 x 23.3 x 2.1 cm)
真鍋博の鳥の眼1.jpg イラストレーターの真鍋博(1932-2000/68歳没)による日本の主要都市を鳥瞰図的に描いたイラスト集で、昭和43(1968)年に刊行され、今回50年ぶりに令和元年に新装版として復刻されました。描かれているのは、丸ノ内、霞が関、新宿、渋谷、札幌、盛岡、日光、軽井沢、横浜、鎌倉、箱根、熱海、新潟、金沢、名古屋、奈良、京都、大阪、和歌山、神戸、岡山、松江、広島、尾道、高知、松山、別府、福岡、長崎、鹿児島...etc.全部で54に及び、一部、黒四や日本アルプスなどを含みます。個人的には、ちょうど昭和のその頃通っていて、今は廃校になってしまった小学校と中学校が見つかったのが嬉しかったです。

真鍋博の鳥の眼 S.jpeg 週刊誌「サンデー毎日」の連載として昭和43年から翌年にかけて発表されたものですが、一定の技法があるとは言え、CGソフトもない時代に、この細密画に近い鳥瞰図を週一のペースで描き続けていたというのはスゴイなあと思われ、筒井康隆氏が「鳥になり壮絶な技法で日本を国会議事堂から喫茶店まで描ききったこの個人による芸術は唯一無二である」と絶賛したのも頷けます(新装版の解説は、マップラバー(地図愛好者)を自認する生物学者の福岡伸一氏で、真鍋博の息子で恐竜学者の真鍋真氏と知己であるとのこと)。

 よく展望台にあるマップのように、建物に線を引いて名称をこと細かく書いてあるのがまたスゴく、「新宿」(上図)などは大変なことになっています(笑)。因みに旧版は新書本に近いサイズであったから、週刊誌に掲載したサイズに合わせたのだと思いますが、週刊誌でリアルタイムで見た人は、この細かい字をどこまで読み込めたのでしょうか(それぐらい超細かい)。

真鍋博の鳥の眼_5354.JPG 各ページに見開きページに、著者によるその都市の紹介がついていますが、もともとバイコロジーの提唱者で、文明批評的エッセイの分野でも足跡を残した人であり、解説もそうした視点からなされています。新装版になって「タイムトリップ日本60'S」というサブタイトルが付きましたが、年月が経過したことで、記録的な価値が高まった言えるかと思われ(著者自身、当初より"イラスト・ルポルタージュ"という姿勢でこの大作業に臨んだとある)、復刻したのは意義があることだと思います。エッセイ風の解説と併せて堪能できる一冊です。

 自分の知らない街はあまり興味がないという人もいるかもしれませんが、全部かどうか分かりませんが、絵の中に一組の男女が隠れていて(左例はP60「名古屋(南)」)、それを探してみる楽しみもあります(これがなかなか見つからない)。1987年に英国人イラストレーターのマーティン・ハンドフォードによって英国で出版された絵本『ウォーリーをさがせ!』を想起させます(真鍋博の方が20年早いが)。

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総数約900点。全ての作品に本人コメント付き。横尾忠則の精神史を垣間見える。

横尾忠則 全装幀集2013.jpg横尾忠則 全装幀集01.jpg   横尾忠則 全装幀集pster.jpg
横尾忠則 全装幀集』(24.7 x 19.7 x 5.3 cm)

横尾忠則 全装幀集044.jpg 横尾忠則と言えば、グラフィック・デザインとイラストレーション、コラージュに始まり、1980年代初めから絵画制作、さらに写真、小説なども手掛け、幅広い分野で精力的に活動している世界的デザイナーであり、"世界的"ということで言えば、個人的には90年代に、ニューヨーク近代美術館(MoMA)内の一等地とも言える展示スペースをその作品群が占めているのを見て、そのことを痛感した次第です(因みに、横尾忠則がデザイナーから画家へ転身した契機となったのは、80年代初めにMoMA「ピカソ展」にインスパイアされたためと自身で語っている)。

 その横尾忠則が、早くから機会あるごとに手掛けてきたのがブックデザインであり、本書は、1957年から2012年までの55年にわたる装丁の仕事を、処女作を含め約900点をカラーで収録したものであり、全ての作品に本人によるコメントが付されているというのが貴重です(本書の刊行に合わせて。

横尾忠則 全装幀集020.jpg横尾忠則 全装幀集176.jpg横尾忠則 全装幀集068.jpg 寺山修司「書を捨てよ、町へ出よう」、柴錬三郎「うろつき夜太」、デビット・ラシャペル「Lachapelle Land」などの単行本・大型本の他、アートディレクターを務めた流行通信や、広告批評などの雑誌(無名に近い頃には「少年サンデー」や「話の特集」などの表紙デザインも手掛けている)、そして自著に至るまで、意匠デザインだけでなくタイポグラフィ(絵文字)までもが個性的で、しかもモダンなものから筆文字まで多彩。それらがコラージュ写真や絵画などのビジュアルとぶつかり合って、また新たな味わいを醸しています。

横尾忠則 全装幀集156.jpg こうして見ていくと、横尾忠則自身が何度もインドを訪れていて、神秘主義やスピリチュアリズムに嵌っていた時代があり、そうしたものが反映されている作品が結構あるように思いました(インドに行くことを勧めたのは三島由紀夫だった)。横尾忠則 全装幀集268.jpgそうした彼の精神史も垣間見ることができ、また、後のものになるほど絵画的要素も入ってきているように思われました。版元による紹介にも「横尾忠則装幀という名の自伝」とあります(ただ、その辺りは、年代順に並べてくれた方が分かりやすかったかもしれないが、必ずしもそうはなっていない)。

横尾忠則 全装幀集506.jpg 国書刊行会から、本書の前に『横尾忠則全ポスター』('10年)、『横尾忠則コラージュ: 1972-2012』('12年)、本書の後に『横尾忠則全版画 HANGA JUNGLE』('17年)が刊行されていて、画集『全Y字路』('15年/岩波書店)なども刊行されており、10年代以降、横尾忠則の創作活動の再整理が進んでいるようです。こうして見ると、装丁の仕事が(他人の書いた本の装丁をするわけであって)一見制約を受けそうで、実はかなり多様性に富み、横尾忠則の創作の幅の広さを感じさせるのが興味深いです(その意味で、白地の比較的シンプルな装丁にしたのは良かった)。

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挿画家・小松崎茂としては珍しい「まんが形式による絵物語」(第1巻のみ)。

宇宙少年隊 (空想科学冒険絵巻小松崎茂絵物語)0.jpg
宇宙少年隊 小松崎_0108.JPG
宇宙少年隊 (空想科学冒険絵巻小松崎茂絵物語)』['13年/復刊ドットコム]

宇宙少年隊 小松崎_0106.JPG 挿画家・小松崎茂の 「空想科学冒険絵巻」の復刻版(全5巻)の第1巻で、1957(昭和32)年に雑誌「少年」に連載された「宇宙少年隊」の「怪人スターマン」編(1月号~6月号連載・全6回)と「海魔ダイラ」編(7月号~12月号・全6回)を所収しています。因みに、第2巻は、1953(昭和28)年から翌年にかけて雑誌「おもしろブック」に連載された「海底王国」(全14回)を、第3巻は、1955(昭和30)年に同誌に連載された「銀河Z団」(全9回)を、第4巻は、1955年から翌々年にかけて「少年」に連載された「大暗黒星雲」(全14話)を、第5巻は、1953(昭和28)年から翌年にかけて雑誌「少年クラブ」に連載された「二十一世紀人」(全14話)を収めていますが、第2巻から第5巻がその名の通り"絵物語"形式なのに対し、この第1巻の「宇宙少年隊」は、コマ割りされ、絵と吹き出しセリフが一体になった「まんが形式による絵物語」となっています(一部、コマ枠外のト書によってストーリーを進めている)。

宇宙少年隊 小松崎_0115.JPG 第1巻「宇宙少年隊」の「怪人スターマン」編は、宇宙少年隊の隊員の和夫と輝彦が、地球侵略を図る遊星ロン宇宙少年隊 小松崎_0111.JPGドゴンの宇宙人の攻撃によって窮地に追い込まれると、いきなり月に住んでいるという"怪人スターマン"が「正義の味方」(自分でそう名乗った)として現れて少年たちを助けてくれ、さらには、少年たちが川で獲ってきたエビガニが「前世紀の怪物」に化けるが、これもロンドゴン星人の仕業で、この放射能で育ったらしいガデスという怪物(前世紀だってこんな生物はいなかったと思うが)も、少年たちがスターマンを呼んで倒してもらうというもの。全部スターマンに負んぶに抱っこですが、スターマンが東海村の原子力研究所に行き、ニュートロンを貰って中性子弾で怪獣を倒すところが、一応、人間とスターマンが協力し合っていることになるのかも。

宇宙少年隊 小松崎_01142.JPG もう一つの「海魔ダイラ」編(原作:木村吉宏)は、少年たちが夏休み旅行で伊豆大島に船で行く途中、突如巨大な宇宙少年隊 小松崎_0113.JPGクラゲの怪物が現れて船を襲い、このダイラと名付けられた怪獣は鋼鉄を喰い荒らす魔物で、原水爆実験で生まれたことがわかり、博士(絶対この手の話に「博士」は出てくる)の助言により、最後はストロンチウム90を撃ち込んで倒すというもの(これもまた毒には毒をもって制すということか)。最後は、「世界は平和をとりもどしたが、原水爆実験がつづく限り不幸な事件はたえないだろう」という博士セリフで終わります(「宇宙大怪獣ドゴラ」('64年/東宝)よりずっと以前に「クラゲ怪獣」がいたということか)。

手塚治虫「銀河少年」(昭和28-29年)
銀河少年 手塚.jpg手塚治虫3.jpg 挟み込みの解説によると、漫画家・手塚治虫が昭和28年から29年にか手塚治虫漫画全集未収録作品集(1).jpgけて正調絵物語として「銀河少年」を連載しており、同じようなモチーフで、漫画家と挿絵画家の仕事が入れ替わったようにも見えて興味深いです。ただし、「銀河少年」の方は、途中から「絵ものがたり」の看板を外してコマ割り漫画に移行してしまい、しかも前篇だけで連載終了、後篇は描かれませんでした(国書刊行会から復刻版が出されているほか、『手塚治虫漫画全集未収録作品集①-手塚治虫文庫全集194』('12年/講談社)でも読むことができる。途中で打ち切られ未完のため、「手塚治虫漫画全集」(全400巻)には収録されなかった)。解説でも触れられていますが、小松崎茂は「手塚治虫の絵物語時代」が到来するのではないかと心配していたかもしれません。

 因みに、第2巻の「海底王国」は、H・R・ハガードの小説『洞窟の女王』及びその映画化作品の影響を受けていて、手塚治虫の『ジャングル魔境』もこれに影響を受けています。一方、第3巻の「銀河Z団」は、アンソニー・ホープの『ゼンダ城の虜』の影響を受けていて、手塚治虫の『ナスビ女王』もこれに影響を受けています。また、「銀河Z団」は、手塚治虫の(後に『鉄腕アトム』となる)『アトム大使』の影響も受けているそうで、小松崎茂と手塚治虫が結構"近接"していた時期があったのだなあと。小松崎茂は、自分たちの「絵物語」はやがて衰退して「まんが」にとって代わられ、その「まんが」の旗手が手塚治虫だと考えていたようですが、その予測は当たったと言えます。

 本書を呼んでも、コマ割りながらも絵は迫力があるものの、ストーリーはちょとどうかな(やや破綻気味?)と思う面もありますが、エディトリアルデザイナーのほうとうひろし氏は、手塚治虫のアトムのロボット漫画で快進撃中だった「少年」編集部から(手塚作品とバッティングしないように?)過剰な介入があったのではないかと推察しています。そのためか、小松崎茂自身も当時落ち込みが激しく、そこへ「あなたの絵と絵コンテが欲しい」と自宅に直談判に来たのがあの特撮監督の円谷英二で、この二人の思いが「地球防衛軍」('57年/東宝)として結実したとのこと。そう言えば「宇宙大怪獣ドゴラ」('64年/東宝)のドゴラも、『少年サンデー』の怪獣絵物語用に小松崎茂がデザインした怪物のイラストを円谷英二が立体化したものとのことです。

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「怪獣図解下図(したず)大画報」は圧巻かつ貴重。写真集『円谷英二』が最後の仕事かあ。

怪獣博士!大伴昌司.jpg怪獣博士!大伴昌司 2.jpg大伴昌.jpg 大伴昌司(1936-1973)
怪獣博士! 大伴昌司 ---「大図解」画報 (らんぷの本)

 大伴昌司(1936-1973/36歳没)は1960年代から70年代にかけて、少年雑誌の巻頭グラビアの企画・構成・レイアウトで活躍した人で、ウルトラシリーズの怪獣の詳細を設定し「大図解」でも大ブレイクしたことでも知られますが、本書はその軌跡を辿った「決定版!」であるとのことです。

「人気5大怪獣ウルトラ図解」(講談社「少年マガジン」1967(昭和42)年3月12日号/絵:遠藤昭吾)
怪獣博士!大伴昌司11.JPG 本書では、「少年マガジン」を中心とした少年雑誌で、怪獣や特撮映画、SF、恐怖文学、CM、劇画など多彩なテーマを先駆的なビジュアル構成で紹介し、多くの人に影響を与えた大伴流"大図解"の世界を、ラフスケッチや構想メモ、南村喬之や柳柊二石原豪人、水氣隆義らの挿絵原画、当時の雑誌資料から紹介しています。

 そもそも、大伴昌司とは何者だったのか。ネットを見ると、編集者とか脚本家とか様々な肩書になっていますが、活動の幅が広すぎて一言で言い表せないかも。個人的には、少年雑誌の印象からイラストレーター的なイメージもありましたが、実はイラストレーターは彼の肩書には含まれず、最終的なイラストは本職のイラストレーターに任せ、彼はそのコンセプト図、構想図を描いていたことを改めて認識しました。

怪獣博士!大伴昌司35.jpg その彼が描いた構想図と最終的にイラストになったものの関係がよくわかるのが本書の特長で、特に本書冒頭の"ウルトラの怪獣"の構造を解き明かした「大伴昌司 怪獣図解下図大画報」は圧巻かつ貴重だと思います(ナルホド、これらは「下図(したず)」と呼ぶのか。テレビ局の原稿用紙に描いているところがスゴイ)。この人、どうしてウルトラマンが3分間しか戦えなかったり、怪獣たちが火を噴いたりするのか解き明かさないと気が済まなかったのだろうなあ。いつまでも子供の心を持ち続けていたとも言えるかと思います("秘密基地"の構造図など見ていると、こちらまで子供心が甦ってくる)。

怪獣博士!大伴昌司59.jpg 実は、ウルトラマンが地上で戦える時間を3分間としたのも、「ウルトラQ」がまだ企画段階だった時期から、企画者として円谷特技プロに関わり始めていた彼の発案だったといいます。ただし、怪獣「大図解」への細かい拘りは、怪獣図解は子供たちの夢を無くすと考える円谷英二の長男・円谷一の考怪獣博士!大伴昌司 4.jpgえと相容れず、1967年の『怪獣解剖図鑑』を巡る怪獣観の決定的相違で円谷一の怒りを買い、円谷特技プロへの出入りを禁止となったようです。本書では、円谷英二の葬儀の時、スポーツ紙の取材で「もっとたくさん人が集まるかと思ったら少なかった」という趣旨のコメントをして、それが円谷一の怒りを買って円谷プロを出入り禁止になったとありますが、伏線ときっかけとみればどちらも事実なのかも。

円谷英二 日本映画界に残した遺産 01.jpg その和解の意味を込めて作られたのが写真集『円谷英二 日本映画界に残した遺産』で、彼は、編集、レイアウトから装丁に至るまで、すべてをこの写真集に注ぎ込んだとのこと。ただし、写真集の見本が出来上がった直後、1973年1月、日本推理作家協会の新年会の席にて臓発作を起して36歳で急死しています。常に「自分は40までには死ぬのだから」と言い続けていたそうで、気管支喘息治療用の薬剤の副作用により心臓発作を起したそうですが、今で言う「過労死」に近かったのではないかと思います(円谷一も、大伴の死のわずか13日後の2月9日に41歳で急死している)。

『円谷英二 日本映画界に残した遺産』(1973/01 小学館)

 振り返ると、1966年から亡くなるまで「少年マガジン」の図解グラビアの企画構成者であり、それが高度経済成長期における未来ブームの波に乗って一世を風靡したわけで、別に円谷プロの仕事がなくても、とめどもなく溢れる才能の受け口というのはいくらでもあった人だったのだろうなあと思いました。それでも最後、写真集『円谷英二』(結局これが、彼の「最後の仕事」になったとある)に尽力したというのは、やはり円谷英二に恩義を感じていたのだろうなあ(意外と義理堅い人だった?)。

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作家のこれまでの軌跡を一望する、決定版「佐々木マキ入門」。コンパクトかつ充実の一冊。

佐々木マキ  アナーキーなナンセンス詩人.jpg佐々木マキ アナーキーなナンセンス詩人.jpg 『佐々木 マキ―アナーキーなナンセンス詩人 1.jpg
佐々木マキ: アナーキーなナンセンス詩人 (らんぷの本)』['13年]

 佐々木マキ(1946年神戸市生まれ)氏はマンガ家・絵本作家・イラストレーターということで、その作品を集めてこれまでの仕事を振り返った本書も、版元による紹介が「あるときはアヴァンギャルドなマンガ家。またあるときはキュートな絵本作家。そしてまたあるときはクールなイラストレーター...。はたして、その正体は!?」となっています(そのあと"作家のこれまでの軌跡を一望する、決定版「佐々木マキ入門」"と続く)。

IMG_3804 佐々木マキ.JPG 個人的には村上春樹氏の小説の表紙イラストなどが馴染みがあって「イラストレーター」というイメージが強いのです佐々木マキ アナーキーなナンセンス詩人 マンガ.jpgが、1966年に「ガロ」でマンガ家デビューし、「ガロ」「朝日ジャーナル」を中心に自由で実験的なマンガを立て続けに発表したことから、自分よりもう少し前の年代には、「マンガ家」の印象が強いかも。本書では、個人的には今まであまり触れることのなかったマンガ作品の数々を垣間見ることが出来て良かったです。

佐々木マキ アナーキーなナンセンス詩人01.jpg それと、全5章構成の内、第5章の資料編を除くと、第1章が「マンガの世界」、第3章が「イラストレーションの世界」となっているのに対して第2章、第4章の二章が「絵本の世界」となっていて、実際、1973年に福音館書店より『やっぱりおおかみ』で絵本デビューして以来、その仕事に占める絵本の割合がかなり大きいのだなあと改めて知りました(本人名義で刊行されている本も圧倒的に絵本が多い)。

 マンガ、絵本作品をみて、ポップアートの影響がみられるのが分かる一方、「アナーキーなナンセンス」というのも改めて感じられ、「つげ義春と並ぶ前衛漫画の代表作家」と言われるのも分かる気がしました(ネット情報によれば、マンガ家時代に「ガロ」などで描いていたマンガはシュール、ナンセンス、旅行記風、SF風のなんでもござれで、その前衛すぎる作風に、手塚治虫が「あれは狂ってる」「あの連載をすぐにやめろ、載せるべきではない」などと言ったとか)。また、それらのマンガはある種「不条理マンガ」でもあったりするものが多く、"カフカ"っぽい点で村上春樹作品と相性が良かったりもするのかなと思いました。

まよなかの台所.jpg 絵本において、初期にモーリス・センダックの『まよなかの台所』の影響を受け、そこからあのコマ割りやそこからあのコマ割りやフキダシが生まれたということを本書で知りましたが、全体を通しての何となく洒落た雰囲気というのは、やはり海外のものから吸収していただなあと(見ればすぐ分かると言われればそうだが、どことなく無国籍感が漂う)。この辺りも、ちょっと村上春樹作品に通じるところがあるかと思いました。

 これまでの仕事がよく纏まっていて、巻末の本人へのインタビューも含め充実の1冊です。つげ義春(1937年生まれ)氏はすっかり寡作になってしまい、安西水丸(1941-2014)は亡くなってしまいましたが、和田誠(1936年)氏などよりも若いです。まだまだ活躍し続けてほしい作家ですが、最近新作が少ないのが少し気になります。

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移民の不安や希望をモチーフとしているが、普遍性の高い心象風景となっている。

アライバル ショーン・タン.jpg
アライバル ショーン・タン1.jpg  レッドツリー.bmp
アライバル』(31.2 x 23.6 x 1.6 cm)['11年/河出書房新社]/『レッドツリー』(27.8 x 21.4 x 1.4 cm)['11年/今人舎](早見優オフィシャルブログ

ショーン・タン.jpg オーストラリアのイラストレーター、絵本作家のショーン・タン(Shaun Tan、1974-)のオムニバス作品で、全編イラストで構成されていますが、「字のない絵本」「イラストで語られる小説」などとも言われているようです。

遠い町から来た話.jpg '04年に絵本『レッドツリー―希望まで360秒』('01年発表、'04年/今人舎)が早見優の訳で紹介され(絵が主体で文章は僅か。メーテルリンクっぽい寓話的ストーリー)、SF小説の挿絵のような画風の絵本『遠い町から来た話』(Tales from Outer Suburbia、'08年発表、'11年/河出書房新社)で認知度が高まり(これ、大友克洋とか宮崎駿っぽい雰囲気もある)、この『アライバル』(The Arrival、'06年発表)は、日本紹介作としては第3弾です(早見優訳『レッドツリー』は'11年に大判となって改版)。

遠い町から来た話

 国際的には、この『アライバル』で世界幻想文学大賞など多くの賞を受賞し、『ロスト・シング(落し物)』('99年発表、'12年/河出書房新社)が'10年にアニメ映画化され、アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞しています(監督:ショーン・タン/アンドリュー・ルエーマン)。

アライバル ショーン・タン2.jpg 本書は、見知らぬ国に「到着」したばかりの移民が作品の大きなモチーフになっていますが、セピアトーン一色で描くことで年月の経過をうまく演出しており、シュールでありながらリアルであるというのが不思議。移民の不安や希望をここまで描く力量はやはりスゴイことかもしれず、人間の心象風景として普遍性のある作風になっているように思いました。

 ショーン・タンの父親は、マレーシアから西オーストラリアに移住した移民であり、その父の経歴が作風に影響を与えているとのこと、但し、この作品の中で描かれているのは「架空の国」であるとのことですが、個人的には何となく、19世紀から20世紀にかけてヨーロッパからアメリカへ渡った移民を素材として扱った映画に出てくる1シーンを想起させるようなものが多いような気がしました。

アライバル ショーン・タン3.jpg イタリア系移民を扱ったフランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザーPartⅡ」('74年/米)、ロシア系移民を扱ったマイケル・チミノ監督の「天国の門」('80年/米)、ユダヤ系移民を扱ったセルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」('84年/米・伊)、アイルランド人の移民を扱ったマーティン・スコセッシ監督の「ギャング・オブ・ニューヨーク」('02年/米、レオナルド・ディカプリオ主演)等々(映画の中の回想シーンも含め)何となく既視感のあるものもありました。

 アニメ作家でもあるらしく、フィルムのコマ送りのような連作もあって、作品の点数的にもスゴイ数ですが、これ全部一人で描いたのかなあ。

 作者あとがきを見ると、このオムニバス作品の制作に4年間を費やし、リサーチのため多くの図書館を回ったらしく、また「1912年のタイタニック号沈没のニュースを伝える新聞売りの写真」「ビットリオ・デ・シーカ監督の1948年の映画『自転車泥棒』」などからもインスピレーションを得たとありますが、どの映画か特定はできないけれど、先に挙げた映画の影響なども受けているのではないかなあ。

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イラスト集と楽しめるだけでなく、画家と評論家のやりとりが、おまけの楽しみを添える。

アガサ・クリスティーイラストレーション1.jpgアガサ・クリスティーイラストレーション トム・アダムズ.jpgアガサ・クリスティー イラストレーション

 アガサ・クリスティ作品の表紙イラストレーターとして知られるトム・アダムズ(Tom Adams, 1926- )のイラスト集で、トム・アダムズは他のミステリ作家の作品の表紙イラストも手掛けていますが(本書の序文はトム・アダムズがその作品の表紙イラストを手掛けた『コレクター』のジョン・ファウルズが書いている)、本書はタイトル通り、クリスティ作品に絞ったイラスト集となっています。

トム・アダムズ06「予告殺人」.jpgトム・アダムズ23「鏡は横にひび割れて」.jpg 掲載されているのは「原画」であり、タイトルなどの文字は入っていないため、もちろん作品のイメージと結びつけて観賞するのが筋ですが、仮にその作品を読んでなくとも絵画としてスッキリ鑑賞することが出来て、また、その多くに、推理小説家でミステリ評論家のジュリアン・シモンズ(Julian Symons, 1912-1994)が、作品紹介と併せて解説や評価をコメントしています。

「予告殺人」(米国・ポケットブックス版(1972年) /「鏡は横にひび割れて」(英国・フォンタナ版(1966年)

 ジュリアン・シモンズの評価は、例えば本書の表紙にもなっている「鏡は横にひび割れて」のイラストのように絶賛調のものもあれば、作品の内容が想起されにくいとして「落胆した」とはっきり述べているものもあり(「スリーピング・マーダー」の表紙イラスト。逆に「予告殺人」のイラストなどは事件発生時そのものだけど)、それらのコメントに対してイラストを描いたトム・アダムズ自身が更にコメントを寄せているのがなかなか面白いです。

tom-adams_a-murder-is-announced_london-fontana-books-1974.jpgtom-adams_they-do-it-with-mirrors_london-fontana-books-1981.jpg 例えば、シモンズが絶賛する「鏡は横にひび割れて」のイラストについては、「この表紙がどうしてそれほど好まれるかが分からなくて途方に暮れている」としています。

「予告殺人」(1974年・英国・フォンタナ版)/「魔術の殺人」(1981年・英国・フォンタナ版)

 また、「書斎の死体」の表紙イラストなどは、トム・コリンズ自身が、原作にはない作為を加えたことを認めたりしていて(確かに、死体がスパンコールのドレスを纏っていたとか、裸足で紅いペディキュアをしていたとかはどこにも書かれてなかったと思う)、興味深いです。
 
トム・アダムズ27「書歳の死体」.jpgThe Murder at the Vicarage Illustration by tom Adams.jpg 結構シュールレアリズムっぽいものも多く、牧師の頭の部分ががテニスラケットになっている「牧師館の殺人」のイラストなどは完全にルネ・マグリット風ですが、それが作品に出てくる要素が散りばめられていたり、或いはイラスト全体として作品の雰囲気を伝えるものであればシモンズは高く評価し、一方、あまりにシュール過ぎて作品と結びつきにくくなるとやはり疑問を呈したりしています(「牧師館の殺人」におけるテニスラケットはさほど重要なモチーフ要素ではなく、殆どトム・アダムズが自分の好みで描いたのか)。

 それに対してトム・アダムズの方は、ある程度そうした指摘を認めたり、どうしてこれがいけないのかと反論したり、その絵を描いた際の制約条件などの事情を説明して弁解したり、これが描きたかったのだと開き直ったり(?)―といった具合で、この両者の"やりとり"が、単なるイラスト集としてだけでなく、おまけの楽しみを添えるものとなっています。

「書歳の死体」(1974年・英国フォンタナ版)  

「書斎の死体」(米国版表紙イラスト)/「ABC殺人事件」(米国版表紙イラスト)
トム・アダムズ104「書歳の死体」.jpgトム・アダムズ108「ABC殺人事件」.jpg

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「追悼集」的色合い。横尾忠則や宇野亜喜良と並んで60年代に活躍。早すぎた死が惜しまれる。

伊坂芳太良の世界.jpg(梱包サイズ(以下、同)28.2 x 21.8 x 2 cm) 伊坂芳太良.jpg 伊坂芳太良(1928 -1970/享年42)
伊坂芳太良の世界 (1974年) (イラストレーション・ナウ)』(ブックデザイン:浅葉克己)

伊坂芳太良の世界01.jpg 細密なペン描の線画や、和洋折衷のサイケデリック調が特徴の伊坂芳太良(いさか よしたろう、1928 -1970)の作品集で、この人(通称ペロ)、60年代に横尾忠則や宇野亜喜良らとともに活躍したイラストレーター兼グラフィック・デザイナーですが、今生きていたら、横尾忠則級の大御所になっていたのではないかと。

ペロ展図録.jpg 2年ほど前に渋谷で作品展を観に行ったことがありますが、また今月('12年10月)渋谷の「ポスターハリスギャラリー」で「伊坂芳太良ポスター展-60年代伝説の絵師ペロ」というのが開かれるようです。

 辿ってみると、'01年に「幻の絵師ペロ展」が新宿高島屋で開催されており、それからやや間があいて、'10年1~2月に青山ブックセンター内ギャラリーで「伊坂芳太良原画展」があったほか(自分が観たのはこれ)、'11年7月に原宿の「ペーターズ・ショップ・アンド・ギャラリー」で「伊坂芳太良原画展」、今年('12年)7月にも同じ場所で「Pero 伊坂芳太良原画展 タウンゼント館」というのが開かれていて、没後40年を経て、突然ブームが再燃したといった感じでしょうか。ただ、今回の作品展も、出展予定点数20点とのことで、場所の関係もあるのか、それほど多くの作品が観られるわけではないようです。

伊坂芳太良作品集成.jpg伊坂芳太良08.jpg その点、本書はある程度纏まった数(248点)のペロさんの作品が掲載されていて貴重で、当時絶大な人気を誇ったファッションブランド「エドワーズ」のポスターなどは懐かしいなあと(作品の半分はモノクロで掲載されているが)。

 但し、当然のことながら、その作品のすべてを載せているわけではなく、タイプライターの「オリベッティ」やTBSラジオ「ヤングタウン」などのシリーズ広告ものはその一部だけ。一方で、裸婦のデッサン習作などもあり、没後4年目に刊行されたということもあって、その仕事の全体像とその原点を探る「追悼集」の色合いが濃い作品集と言えます(因みに、'83年PARCO出版から刊行の『伊坂芳太良作品集成(PERO The Works of Isaka)』は446点収録。古書市場プレミア価格になっているみたい)。

伊坂 芳太良24.jpg 実際、イラストレーターの和田誠(1936年生まれ)、横尾忠則(1936年生まれ)、コピーライターの日暮真三(1944年生まれ)グラフィック・デザイナーの浅葉克己(1940年生まれ)など多くの人が追悼文を寄せていて、この人たちは皆、伊坂芳太良の後輩にあたるんだなあと。

 彼らの文章から、ペロさんが後輩から慕われていたことがよく分かり、更に、本人のエッセイや日記風の小文も掲載されていて、そこから売れっ子イラストレーターの仕事ぶりが分かるのが興味深いです。

伊坂芳太良の世界142.jpg 午前3時に明日の仕事の準備をして、朝9時半に起きて風呂に入った後朝食、11時に原宿の自宅を出て銀座のライトパブリシティへ―'68年頃の1日ですが、40歳にしてまだ広告会社に勤務していたとは知りませんでした(因みに8歳年下の和田誠氏もライトパブリシティの社員だったが、'68年に退職している)。

伊坂エドワーズ.bmp 42歳で亡くなっていますが、死因はクモ膜下出血で、打ち合わせ中に倒れ、5日後に亡くなっており、本書には当時の新聞記事も掲載されています。そこには「現代が追い詰めたイラストレーターの死」「あまりに売れすぎ―倒れても筆とる仕草」といった見出しが並んでいます。

 伊坂芳太良が「エドワーズ」の仕事で一躍脚光を浴びたのは亡くなる4年前のこと。日暮真三氏が、「あと5年生きていたら、伊坂芳太良は別の存在になっていたかもしれない」と書いていますが、確かにそうかも。早すぎた死が惜しまれます。

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構成のダイナミズムと細部の描写の精緻さ、湧き上がってくるような情念。

伊藤彦造イラストレーション.jpg(29.6 x 22.6 x 1.8 cm)  伊藤彦造イラストレーション 旧.jpg
伊藤彦造イラストレーション 〔新装版〕』['06年]『伊藤彦造イラストレーション』['99年/A&Aパブリッシング]

伊藤彦造イラストレーション43.jpg 画家・伊藤彦造(1904 - 2004/享年100)のイラスト集で、'99年に刊行されたものの「新装・増補版」。伊藤彦造の作品に関しては、とりわけ剣戟モノの挿絵画が知られていますが、構成のダイナミズムと細部の描写の精緻さ、そして湧き上がってくるような情念は、このジャンルでは群を抜いていると言っていいのでは。

「天兵童子」(吉川英治原作、「少年倶楽部」昭和12~14年)

 伊藤一刀斉の末裔の生まれですが(ゆえに剣戟シーンの絵にはこだわりを感じる)、幼少時は虚弱だったそうで、「大人になるまで生きることはできない」と言われたそうな。それが100歳まで生きたわけで、やはり手先を使う仕事をする人は長生きするのかなとも思いましたが、絵の仕事そのものは65歳ぐらいで引退しています(これぐらいの細密度になると、年齢的に描ける限界があるのも無理ないか)。

伊藤彦造イラストレーション70.jpg伊藤彦造イラストレーション 3.jpg 解説の中村圭子氏は彼の絵を「被虐のエロス」という言葉で表していますが、子供時代には拒食的自虐の性向があり、自らを徹底的に飢えさせ、飢えを糧に闘志を高めていくタイプだったらしく、そうしたものが、彼の絵の醸す情念に繋がっているのではないかと。短剣を携え、自らの肉体に刃をあて、絵具皿に血を溜める―なんてこともしていたらしいです。

 大人になってから剣術を実技面で一層探求した結果、その道に秀でるところとなり、剣術師範にまでなったということで、中村圭子氏は、同じく少年時代から病弱で成人してから肉体を鍛えた三島由紀夫を想起すると書いていますが、確かに似てるね、「美剣士」の絵からはホモセクシュアルな匂いが感じられるし、伊藤彦造自身も「憂国の士」であったし(終戦時には戦犯容疑がかけられ、絵はGHQによって一時発禁になっている)。

伊藤彦造イラストレーション51.jpg 本書の旧版刊行時には存命していましたが、それでも引退して30年経っており、結構"昔の人"というイメージがあったものの、本書によれば、昭和初年代から10年代の「少年倶楽部」「キング」などで活躍した時代を経て、昭和20年代の「少年画報」時代、更に昭和30年代の学年雑誌時代を経て、40年代前半の名作文学の挿絵までと、その時々の時代の要請に沿って何度も復活を遂げ、洋モノなども含め、広いジャンルで活躍していたのだなあと。

「魔粧仏身」(吉川英治原作、「キング」昭和12~14年)

 昭和30年代の"学年雑誌"時代とは、小学館の「小学○年生」といった雑誌に挿絵を描いていたもので、う~ん、当時、こんな古風な挿絵、あったかなあ。リアルタイムで見た記憶が無いけれど、主に昭和30年代前半かな。今の時代の感覚からすると、小学生の読む雑誌に載せるにしてはかなり"情念の濃い"絵もあります(線画にしてこの"濃さ"―というのがこの人の魅力なんだけど)。

吉川英治『萬花地獄』(昭和2年)挿画
伊藤彦造3.bmp伊藤彦造画集.jpg伊藤彦造名画集.jpg
伊藤彦造画集 (1974年)』[講談社/150p]/『伊藤彦造名画集―憂国画家の入魂世界』['85年/講談社/48p]

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小松崎茂が手掛けたプラモデル・パッケージの全ジャンルを網羅し、資料としても第一級。

小松崎茂 プラモデルパッケージ.jpg小松崎茂 プラモデルパッケージ0.jpg   小松崎茂.jpg 小松崎 茂(1915-2001/享年86) 
小松崎茂―プラモデル・パッケージの世界』(1999/04 大日本絵画)

 小松崎茂(1915-2001)と言えば、一定の年齢層の人にとって思い起こされるのは、プラモデル・パッケージのイラストということになるのではないでしょうか。

 本書は、戦闘機、戦艦、自動車、戦車から「サンダーバード」などのTV系SFメカまで、小松崎茂が手掛けたプラモデル・パッケージの全ジャンルを網羅した収録点数452点にものぼる本格的イラスト集で、'60年代から70年代のものが中心ですが、昭和に換算すると、昭和30年代後半から昭和50年頃にかけてということになるでしょうか。

小松崎茂 プラモデルパッケージ1.jpg 昭和40年代の頃は、大体みんな零戦など戦闘機から入って、震電、鍾馗、飛燕とか作ってから、戦車とか戦艦に行ったのではなかったかなあ。戦闘機が比較的、価格的には安かったのに対し、大和や武蔵といった戦艦は相当高かった印象が個人的にはあるけれど、本書掲載のパッケージ・イラストには、それぞれ発売年と当時の価格が記されており、また、その商品の特徴なども解説されていて、資料としても第一級のものとなっています。

 戦車が好きだった人は特に"通"の人が多かった印象があり、61式中戦車がいいとかパットンがいいとかそれぞれに言っていたけれど、戦車は本書の最終章にきていて、こうして見ると、戦車モノは結構70年代まで長くブームが続いたんだなあと。

小松崎茂 プラモデルパッケージ2.jpg TV関連のSFメカも、「サンダーバード」だけでなく(どういうわけか「サンダーバード2号」が抜群にポピュラーだった)、その後人気が出た「ウルトラマン」や「マジンガーZ」のプラモのパッケージも手掛けていて、クワガタ虫など昆虫のプラモデルもあったりし、そのまま日本のプラモデルの歴史を概観することができる本にもなっています。

 冒頭にある小松崎茂自身による小文を読むと、昭和30年頃、彼自身がプラモデルにハマり、雑誌「世界の戦艦」に投稿した文章が田宮俊作氏(後のタミヤ社長)の目に止まり、その依頼を受けて昭和36年からプラモデル・パッケージを手掛け始めたとのこと。プラモデル・ブームというのは昭和30年代中盤以降で、それまで小松崎茂は、少年雑誌の挿画の仕事の方がメインだったようです(リアルタイムでそれらに触れたのは団塊の世代かそれ以前の人の子供時代か)。

 戦争モノのプラモデル・ブームが一区切りしたところで、今度は小松崎茂の弟子の高荷義之氏が勝澤利司氏(後のイマイ社長)を連れてきて、「サンダーバード」を描いて欲しいと―。

 思えば当然のことですが、自分から描こうとしたのではなく、何れも依頼を受けての仕事だったわけで、また、田宮青年が彼の下を訪ねた際のことについて、「ある本で、その折私がタミヤを救ってあげましょうと言った、と書いてあったが、そんなことはあり得ない。私がいくら馬鹿でも、そんな思いあがった発言をする訳がない。仕事を気持よく引き受けただけである」とも書いています(「大家」然としていない「職人」だった)。

 巻末には、小松崎茂の弟子で、小松崎茂研究の第一人者である根本圭助氏による詳細な「小松崎茂バイオグラフィー」や、田宮俊作氏、勝澤利司らの寄稿文が付されており(勝澤氏も、当時「サンダーバード2号」が圧倒的に人気だったと書いている)、根本氏言うところの"スーパーアーチスト"小松崎茂の仕事ぶりや、プラモデルに関するマニアックな話もあって楽しめました。

小松崎茂 プラモデルパッケージ85.2.jpg 小松崎茂 プラモデルパッケージ85.3.jpg

THUNDER BIRDS サンダーバード.jpg「サンダーバード」 Thunderbirds (英ATV 1965~1966)○日本での放映チャネル:NHK(1966~1967)/TBS(1967~1968)/東京12ch(現・テレビ東京)(1970~1971)/テレビ東京)(1974~1975)/TBS(1980~1981)/フジテレビ(1987~1988)/テレビ東京)(1992~1993)/NHK教育(2003~2004)

Thunderbirds

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ハイスペック豪華本。CG復元画がリアルでダイナミックな「大迫力のヴィジュアル大図鑑」。

生物の進化 大図鑑0.jpg生物の進化大図鑑.jpg(30.2 x 26.4 x 4.2 cm)  EVOLUTION 生命の進化史.jpg
生物の進化 大図鑑』(2010/10 河出書房新社)『EVOLUTION 生命の進化史』(2010/02 ソフトバンククリエイティブ)

生物の進化大図鑑1.jpg 先にダグラス・パーマー『EVOLUTION 生命の進化史』('10年/ソフトバンククリエイティブ)を取り上げましたが、生物進化図鑑の"本命"というとこちらの方になるのかなあ(河出書房、科学図鑑に強いネ)。

 図版数 約3000点、生物の掲載種 772種、索引数 約2300項目、化石写真 約600点、CG復元図 約250点、語解説 約300項目...という文句のつけようの無いほど充実したスペックで、強いて難を言えば9,500円(税別)という、1万円近い価格でしょうか。

 但し、"稀少本"にしては結構売れたようで(今も売れているみたい)、多くの人が"相応の価格"であるとみたということでしょう。全512ページにフルに掲載されている写真や図説の豊富さだけでなく、解説の詳細さなどからみても、まずます頷けます。

生物の進化 大図鑑3.jpg CG復元図がリアルでスゴイ迫力!(子どもでなくとも大人でもぐっと惹かれるものがある)、CGもここまできたかという印象ですが、化石写真などとの配置が上手くなされていて、写真とCGが自然な感じで繋がっているように感じられました(CGがまるで写真のように見えることに加えて、レイアウトの妙が効いているため、相乗効果を醸している)。

 冒頭に「地球の起源」とあり、「地球誕生から5億年」「プレートテクトニクス」「気候の変動」と続くように、古生物学の視点に留まらず、地質学や地球科学の視点も取り入れられていて、動物だけでなく植物の進化にも相当数のページを割いています。

生物の進化大図鑑2.jpg 『EVOLUTION 生命の進化史』もそうですが、こちらは更に陸生動物の登場までに相当のページを割いていて(180頁強)、かなり本格的。でも、子どもたちが喜びそうな恐竜についてもこれまた詳しく(恐竜リスト 約800点)、見開きページいっぱいを使ったダイナミックなCG復元画(骨格見本を含む)だけでなく、その種に見られる部位の特徴などをピンポイントで解説するなどしていて、大人も子どもも楽しめます。
 
 人類の進化についても詳しいですが、その人類進化の部分を、『EVOLUTION 生命の進化史』はイラストを用いて解説していたのに対し、こちらは化石写真中心であるのが対照的であり、『EVOLUTION 生命の進化史』が"生態図"のパノラマという形式を取っているのに対し、生態が不確かなものについての恣意的な想像を排するという本書の姿勢が表れています(但し『EVOLUTION 生命の進化史』の方も、同じ場所の同じ地層に化石が見られた古生物を1つのイラストに収めているという点では、ある種の厳格さを貫いている)。

 高価な価格が難であると言っても、中古市場で購入すれば、家族で科学博物館へでかけたのと同じくらいかそれ以内の出費で、この「大迫力のヴィジュアル大図鑑」という謳い文句に違わぬ豪華本を手元に置くことができるということになるのではと思ったけれど、この手の書籍に共通する傾向として(本の善し悪しや発刊部数の多寡によって差はあるが)、この本も、刊行されて2年くらいしか経っていない現段階では、あまり安い値段では手に入らないみたい。

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専門的だが見易さに工夫。大人でも子どもでも楽しめるパノラマイラスト。読み込むほどに味が。

EVOLUTION 生命の進化史.jpg (29.2 x 25 x 3.4 cm)        生物の進化大図鑑.jpg
EVOLUTION 生命の進化史』(2010/02 ソフトバンククリエイティブ) 『生物の進化 大図鑑』(2010/10 河出書房新社)

EVOLUTION 生命の進化史1.jpg 生命誕生から現在まで、地球35億年の生命の進化の歴史をイラスト化したもので、パノラマ・イラストを全て繋げると全長50メートルにも及ぶという「壮大な命の絵巻物」。

 2009年のダーウィン『種の起源』発刊150周年・生誕200周年を記念しての刊行の"稀少本"とのことで(定価4,700円(税別)、同種の"稀少本"では河出書房新社の『生物の進化 大図鑑』('10年/定価9,500円(税別))が1万円近い価格にも関わらず結構売れたようですが、本書もなかなかの出来栄えではないでしょうか(価格的にはよりお買い得)。

 『生物の進化 大図鑑』のイラストがCGなのに対し、こちらは英国の動物挿絵家で、食器の鳥の図柄や英国切手の図柄をはじめ、世界の童話に独特なタッチの水彩画を描いているピーター・バレットによる手書きイラストです。

何れもいかにも水彩画家らしい淡いタッチで描かれており、『生物の進化 大図鑑』のCGの迫力に対し、線画の緻密さに凝っている感じに何となく昔ながらの「図鑑」の懐かしさを覚えてしまい、こういうのも悪くないなあと。

EVOLUTION 生命の進化史2.jpg 丁度、歴史年表を見ているように、年代表が各パノラマ・イラストの最上部にあり、年代に関する情報や気候と生物相に関する情報が記されていて、下部には、化石産出地のかつての位置と現在の位置(大陸移動しているため両者は異なってくる)の図、種のリスト、イラストの一部のクローズアップや化石写真付きの解説などがあります。

 フルカラー全384ページですが、最初の陸生生物の登場までに80ページ以上のページ数を割いていて、後半140ページは「系統樹」「化石産出地の索引」「種の索引」に充てるなどしており(これらも視覚的に分かり易いよう工夫されている)、アカデミックと言うか、専門家向けという感じもします。

 生物進化史を体系的に理解しようとするにはうってつけの図鑑ですが、パノラマ・イラストは大人でも子どもでも楽しめるものとなっており、『生物の進化 大図鑑』と併せて一家に一冊置いておきたい図鑑、読み込めば読み込むほど味が出てきます。

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モノクロ線画で描かれている点に、正確な形状へのこだわりを感じる。一級品。

イラスト・アニマル-動物細密・生態画集.jpg   アニマルイラスト967.JPG
( 27.8 x 19.8 x 4.8 cm)『イラスト・アニマル―動物細密・生態画集』(1987/08 平凡社)

アニマルイラスト2971.JPG 全534ページのかなり本格的な動物イラスト集(全てモノクロ)で、霊長類、哺乳類、鳥類、両生類・ハ虫類、魚類、さらには昆虫、甲殻類、軟体動物など、無脊椎動物も一部カバーしています。

 本書で動物画を描いている画家は、青山晃ほか15名に及びますが、更に監修者の方はとなると、今泉吉典(動物図鑑監修の常連だったなあ)ほか50名近くになり、正確さを期すことにウェイトが置かれていることが窺えます。

アニマルイラスト2972.JPG 量的な本格度もさることながら、「図鑑」ではなく「動物細密・生態画集」と謳っているように、全編モノクロで描かれていること(線画用の細い筆を使っていると思われる)が、却って正確な形状へのこだわりを感じさせます。

 画家の方も、近似種との相違点や、生態の特徴などを意識して描いているように思われ、むしろ、これだけ精緻なイラストを、たった16人で描き分けていることの方が驚きかも。

アニマルイラスト2973.JPG 本当に動物が好きな人、或いは、動物好きでそうした動物に関する知識を吸収中の子供などは、1ページ1ページめくって、自分の知識やイメージを確かめつつ、解説等を併せて読み、傍に親や友人、更には同好の士などがいれば、その生態を語り始める―といった感じになるでは。

 実際に、図書館で借りて、最初の霊長類のところを開くや否や、アイアイの手が描かれているのを見た子供に、これで木の臍にいるアリを掻き出して捕食するとの講釈を、早速受けました。

アニマルイラスト2974.JPG 「図鑑」ではなく「イラスト」、それもまさに第一級の「動物細密・生態画集」です。

 ホントのところは購入したいのだけど、やや値段が張るのが難点でしょうか。改訂は難しいとしても、復刻しないかなあ。学術上の問題か何かあって、できないのかなあ(古書になっても価格は安くならないんだよね、このレベルの本は)。

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怪奇画、怪獣画のイメージが強いが、美人画もいい。大正・昭和的なノスタルジー感がある。

石原 豪人『新装版 石原豪人(らんぷの本)』.jpg石原豪人08.jpg 石原豪人82.jpg 石原豪人29歳頃.jpg
新装版 石原豪人---「エロス」と「怪奇」を描いたイラストレーター (らんぷの本)』 /「宇宙巨人ジャイアン」[昭和42年4月9日「少年マガジン」ほか/「日本は沈んでいく!」[昭和48年9月「小学四年生」]/石原豪人(1923-1998/享年75)29歳の頃

石原豪人 らんぷの本.jpg石原豪人10.jpg 昭和40年代頃の少年雑誌には「大図解」というグラビアページがあり、「未来世界」「怪奇現象」「怪人」といったテーマで様々な絵が描かれていましたが、そうした挿絵画の常連画家だったのが石原豪人(ごうじん)でした。

石原豪人 (らんぷの本)』(2004)

石原豪人90-91.jpg 本書は'04年に刊行されたものの新装版で、表紙が「怪奇」に「エロス」が加わって、より豪人らしくなったのかな? いずれにせよ、この価格でこれだけ石原豪人の作品を見られたのはお得だったかも(その後、2017年に再度「新装版」が刊行された)

石原豪人20.jpg 作品を「怪人画」「妖怪画」「怪獣画」「幽霊画」「探偵小説の挿絵」「虚構世界」等ジャンル別に収め、解説を付していますが、スポーツ画や少女雑誌の挿絵などもあって、何でもござれだったんだなあと。

「マンボウ情報局」扉絵[「マンガボーイズ」平成6年9月]

 個人的にはやはり「怪奇画」「怪獣画」のイメージが強いのですが、美人画も良くて、それも、セクシー美女や芸能人の似顔絵に限らず、老若男女を問わず何を描いても色気があり、やはりこの人、振り返ってみればある種"天才"だったのだなあと。

 「林月光」の名でSM雑誌の挿絵も多く描いていて、それらも少ないながらもオミットせずに紹介されていますが(編者は美術館学芸員)、少年雑誌が「まんが誌」化し、「大図解」などの入る余地が無くなったために、こっちの仕事が多くなったという経緯があったのだなあ(彼自身、まんがにも挑戦しているが、1コマ1コマが細密過ぎて体力が持たず、続かなかったとのこと)。

石原豪人75.jpg 高度成長期が終わって、豪人のパワフル過ぎる絵が時代にそぐわなくなってきたという編者の分析もありますが、それが、昭和の終わりから平成にかけて、所謂"おたく"と呼ばれる人たちの間で再注目され、結局、最晩年まで現役で活躍しました。

「松虫」(神谷敬里(=栗本薫)/文)[「ジュネ」昭和54年8月]

 実際に本書にも、平成に入ってからの作品も結構ありますが、常に新境地を開拓しつつも、どの絵を見ても、昭和初期から30年代前半までの街頭紙芝居の絵の雰囲気をどこか保持していて、日本的(大正・昭和的)なノスタルジー感を秘めています。

 こんな絵を描いている人がどんな人柄で、どのようなプライベート生活を送っていたかというと、生真面目な職人気質で、家庭では子煩悩であったようです(自作の怪人衣装でコスプレして、息子の遊び相手をしている写真がある。編集者らと息子を連れて釣りに行った時は、自分はさっぱりだったが、息子のために釣れる場所を一生懸命探していたとか)。

 でも、仕事部屋に電話が2台あって、石原豪人と林月光で使い分けていたというから、ちょっと江戸川乱歩っぽく、また文才もあって、『謎解き坊ちゃん』という著作もあるという―「坊ちゃん」解釈にこだわりを持っていて、「登場人物全員ホモ説」を唱えた―何だか面白い人だなあ。

【2004年初版/2010年新装版/2017年増補新装版】

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自分が大人になる頃にはこうなっていると信じていた時期があった"懐かしい未来"。

昭和少年SF大図鑑 カバー.jpg 昭和少年SF大図鑑.jpg   「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号.jpg
昭和少年SF大図鑑 (らんぷの本)』 ['09年] 「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号口絵)

 昭和20年代から40年代の少年向け雑誌やプラモデルの箱を飾った空想未来絵図を集めたもので、本郷の弥生美術館で展覧会も行われましたが、その弥生美術館で学芸員をしている女性による編集及び本文解説。

 この方面での画家と言えば、個人的には小松崎茂(1915-2001/享年86)の印象がかなり強いのですが、本書を見ると、小松崎茂が第一人者であったことは間違いないようですが、中島章作、伊藤展安、梶田達二、高荷義之、中西立太、南村喬之と、多彩な人たちがいたのだなあと。

 今見ると、これらの概ね楽天的な、時には物理の法則を逸脱したようなイラストには微笑ましい印象も受けますが、子供時代の一時期においては、自分たちが大人になる頃にはほぼ間違いなくこういう時代が来るのだと、「予測図」より「予定図」みたいな感じで半ば信じていて、素敵な夢を見させて貰いました。

 本書は、そうした夢を描いていた頃の自分を思い出させる、"懐かしい"未来図とでも言えるでしょうか。

「ブレードランナー」('82年/米)/「フィフス・エレメント」('97年/仏)
Blade Runner (1982) ages.jpgFifth Element Cars.jpg 自動車に代わってエアカーが飛び交う様などは、リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」('82年/米)やリュック・ベッソン監督の「フィフス・エレメント」('97年/仏)などの映画の中ではお目にかかれていますが、実現するのはいつのことになるのでしょう。

ポリススピナー.jpg 「ブレードランナー」のハリソン・フォード演じるデッカートが操るポリススピナー(左)に比べて、15年後に作られた「フィフス・エレメント」のパトカーやブルース・ウィリス演じるコーベンが運転するタクシー(上)の方がややキッチュに描かれているのが興味深いです(映画自体も、変てこな悪役ジャン=バティスト・エマニュエル・ゾーグを演じゲイリー・オールドマン.jpgゲイリー・オールドマンやラジオDJ役のクリス・タッカーの怪演が楽しめた、肩の凝らない娯楽作品。この作品でも「ディーバ」(歌姫)がモチーフになっているなあ、リュック・ベンソンは)。

 ただ、この本にある、当時描かれた未来図の全てが荒唐無稽だったとは言えず、臨海副都心構想に近いアイデアやリニアモーターカーの原型など、かなり"いい線"いっているものあります。

 "明るい未来図"ばかりでなく、昭和40年代に入ると、公害問題などの世相を反映して"恐ろしい未来図"も結構出てきて、小松崎茂などは、地球温暖化で極地の氷が溶けて関東地方の大部分が水没する想像図なんてのも描いていて先見性を感じますが、だからと言って人間がエラ呼吸器を手術で植え付け、水中生活に適した身体に変えていくというのは、ちょっと行き過ぎ?

Minority Report.jpgTom Cruise  in Minority Report.jpg 同じくネガティブな未来図として描かれている類で、コンピュータに人間の生が支配されたり、コンピュータによって人間の思考や行動が監視される社会などというのは、ウォシャウスキー兄弟の映画「マトリックス」('99年/米)やスティーヴン・スピルバーグ監督の「マイノリティ・リポート」('02年/米)など、近年のSF映画にも類似したモチーフを看て取れます。
Minority Report (2002)

 但し、「マイノリティ・リポート」(原作は「ブレードランナー」と同じくフィリップ・K・ディック )は、プリコグと呼ばれるヒト個人に予知能力が備わっていることが前提となっていますが、この発想は昔からあったかもしれません(この映画、今思うとあのタッチ・センサーのヴィジュアルには、Windows8の予告編的要素もあった?)。

 今、若者たちが映画で受身的に観ている様な仮想未来社会を、かつての子供たちは、少年雑誌のイラストで見て、自ら想像力を働かせイメージを膨らませていたのだろうなあ(彼らにとって、これらのイラストの乗り物などは、頭の中では映画のように動いていたに違いない)と思わされます。そして、その中には、今、科学技術の最前線で研究開発に勤しんでいる科学者や技術者もいるのだろうなあと思いました。

ブレードランナー チラシ  22.jpg「ブレードランナー」1982 ンロード.jpg「ブレードランナー」1982 .jpg「ブレードランナー」●原題:BLADE RUNNER●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:マイケル・ディーリー ●脚本:ハンプトン・フィンチャー/デイヴィッド・ピープルズ●撮影:ジョーダン・クローネンウェス●音楽:ヴァンゲリス●時間:117分●出演:ハリソン・フォード/ルトガー・ハウアー/ショーン・ヤング ●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:二子東急(83-06-05)(評価:★★★★☆)

フィフス・エレメント.jpgクリス・タッカー.jpg「フィフス・エレメント」●原題:THE FIFTH ELEMENT(Le Cinquie`me e'le'ment)●制作年:1997年●制作国:フランス●監督・脚本:リュック・ベッソン●撮影:ティエリー・アルボガスト●音楽:エリック・セラ●時間:渋谷パンテオン.jpg126分●出演:渋谷パンテオン 2.jpgブルース・ウィリス/ミラ・ジョヴォヴィッチ/ゲイリー・オールドマン/イアン・ホルム/クリス・タッカー/ルーク・ペリー●日本公開:1997/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:渋谷パンテオン(97-10-24) (評価:★★★★)フィフス・エレメント [DVD]
渋谷パンテオン 東急文化会館1F、1956年オープン。2003(平成15)年6月30日閉館。

マイノリティ・リポート06.jpg「マイノリティ・リポート」●原題:MINORITY REPORT●制作年:2002年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ボニー・カーティス/ジェラルド・R・モーレン/ヤン・デ・ボン/ウォルター・F・パークス●脚本:ジョン・コーエン/スコット・フランク ●撮影:ヤヌス・カミンスキマイノリティ・リポート マックス・フォン・シドー.jpgー●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:フィリップ・K・ディック ●時間:145分●出演:トム・クルーズ/コリン・ファレル/ササマンサ・モートン マイノリティ・リポート.jpgマンサ・モートン/マックス・フォン・シドー/ロイス・スミス/スティーヴン・スピルバーグ●日本公開:2002/12●配給:20世紀フォックス (評価:★★★)

トム・クルーズ/サマンサ・モートン(「ミスター・ロンリー」('07年/英・仏・米))


【2014年・2019年新装版】

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稀有な生き方をした昆虫画家・熊田千佳慕のライフワークであり、遺作となった作品。

ファーブル昆虫記の虫たち5.jpg     熊田 千佳慕.jpg 熊田千佳慕(1911‐2009/享年98)
(28.6 x 27.8 x 1.5 cm)『ファーブル昆虫記の虫たち〈5〉 (Kumada Chikabo's World)』 ['08年]

 2008年9月刊行の本書は、今年('09年)8月に98歳で亡くなった熊田千佳慕(1911‐2009)の『ファーブル昆虫記の虫たち』の「シリーズ5」で、「シリーズ1」から「シリーズ4」までが約10年前('98年)の1年間の間に刊行されたことを思うと、待望の1冊でした(体裁としては、著者自身の文が添えられた「科学絵本」になっている)。

 個人的には、'01年にNHKの「プライム10」で放映された「私は虫である〜昆虫画家・熊田千佳慕の世界」で初めてこの人のことを知り、空襲の跡に引っ越した横浜・三ツ沢の農家の蔵に妻と草花を育てて暮らし、地面に腹ばいになって"虫の目線"で描く独特の画風に興味を覚えました(NHKは、その前年に、BSハイビジョンの「土曜美の朝」で、山根基世アナウンサーによる三ツ沢の熊田宅を訪ねてのインタビューを特集している)。

 番組によると、この三ツ沢の地に居ついてから一度もその外に出たことが無いそうで、絵の「素材」は全て、自宅の庭やその周辺の道端から拾ってきているとのこと、ただ描き写すだけでなく、庭での蝉の脱皮をはらはらしなががら見守る様に、生き物への優しい視線を感じました。
 
 この人、興味ある虫とかを見つけると、何処ででも這いつくばって一日中ずっとそれを眺めているので、自宅の庭でならともかく、近所でそれをやられると奥さんが困ったらしい。

熊田千佳慕展.jpg 本書の「おわびのメッセージ〜あとがきにかえて」によると、奥さんの病気のため、60年住み慣れた"埴生の宿""おんぼろアトリエ"での仕事が出来なくなり、このシリーズの仕事も中断していたとのこと、番組の中で紹介されていたあの描きかけのコオロギの絵はどうなったのかなあと思っていたら、本書の表紙にきていました。

 ブラシなどを一切用いず、筆の毛先だけでの点描法であるため、1枚の絵を仕上げるのに何ヶ月もかかるそうで、しかも、心身充実していなければ、こうした緻密な作品を仕上げることはできない、そうした意味でも、このシリーズは作者自身も天職(ライフワーク)と位置づけている作品です。

 ようやっと一段落したのを機に、'09年には朝日新聞主催で、東京の銀座松屋をスタートして、『ファーブル昆虫記の虫たち』を含む作品の全国巡回展が始まることがあとがきでも告知されていますが、まさに銀座松屋での展覧会の初日(8月12日)が無事に終了した翌日未明に、この"白寿"の昆虫画家は、90年以上描き続けたその生涯の幕を閉じました。
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熊田 千佳慕 (くまだ・ちかぼ)
1911年、横浜市中区生まれ。東京美術学校(現・東京藝術大学)卒業後、デザイナーの山名文夫氏に師事。デザイナー・写真家集団「日本工房」に入社。土門挙らと公私共に親交を深める。戦後、出版美術の分野で活躍するようになり、「ふしぎの国のアリス」「みつばちマーヤ」「ファーブル昆虫記」などの作品を発表。イタリア・ボローニャ国際絵本原画展で入選し、フランスでは「プチファーブル」と賞賛されるなど、国内外から高い評価を得る。2009年8月13日未明、誤嚥(ごえん)性肺炎のため横浜市の自宅で死去、98歳。

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イラストによるビジュアル教材だが、解説は大人の好奇心をも満たすレベル。

スペース 宇宙.jpg 『スペース 宇宙 (insidersビジュアル博物館)』 (2008/01 昭文社)
(26.8 x 24.6 x 1.2 cm)

 米国 Weldon Owen社による国際的出版プロジェクト"insiders"シリーズの日本語版で、このシリーズ、テーマは歴史、考古学、自然、生物・生命、技術に渡り、世界各国で出版されているそうですが、日本でよく見かけるのは生物や恐竜関係ではないでしょうか。そうした中、本書のテーマは「宇宙」。

 全64ページ、オールカラーの見開きイラストで、「宇宙」と言っても幅広いですが、ビッグバンから始まって太陽系の星々を地質学的な観点から解説し、「宇宙の雪だるま」現象や恒星、星雲、銀河について、さらに宇宙探査についての解説までが前半で、後半に太陽系や恒星と銀河の一般的な解説をもう一度もってきているという変わった構成です。

 最近は日本の図鑑などでも、教科書的な順番でなく、こうしたテーマ主義的な構成のものがありますが、まずテーマと大迫力のイラストで惹きつけて、更に関心がある学習者のために、その知的好奇心を満たすだけの詳細な解説がされているというところでしょうか。
 基本的には青少年向け教材らしいのですが、解説部分には結構"大人の好奇心"を満たす専門的なことが書いてあるように感じました。

 全ページに渡る見開きイラストは確かに迫力はありますが、NASAの専属イラストレーターなどが描いたCGと比較すると、やや"絵"的と言うか、"解説"に比重を置いたものになっている気がし、星雲や惑星のイラストはクラシカルな感じさえするものもあります。
 但し、宇宙探査に関する部分(宇宙探査機、月面基地、国際宇宙ステーションなど)はよく描かれていて、解説も詳細です。

 その他に写真も多く使用されていますが、それらはあくまでも解説の一環としてで、サイズも小さく、やはりメインはイラストによるビジュアル―中でも最も"豪華版"なのは、宇宙飛行士を描いた表紙かな(表紙がレリーフになっている!)。

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『大図鑑』と言うより「蛇柄」観賞用イラスト集。図書館で借りて"観る"本。『写真図鑑』の方がお奨め。

ヘビ大図鑑.bmp   千石先生の動物ウォッチング.jpg                爬虫類と両生類の写真図鑑.jpg
(28.2 x 22.6 x 1.8 cm)『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』['00年/ 緑書房] 『千石先生の動物ウォッチング―ガラパゴスとマダガスカル カラー版 (岩波ジュニア新書)』 『爬虫類と両生類の写真図鑑 (地球自然ハンドブック)』['01年/日本ヴォーグ社]

『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』.jpg 本書『ヘビ大図鑑-驚くべきヘビの世界』に見開きで描かれている蛇のイラストはいずれも大変に美しいのですが、一部、生態も含めたイラストがあるものの、半分ぐらいはとぐろを巻いている同じような"ポース"ばかりのもので、せっかくあの「千石先生」が翻訳しているのに、これではそれぞれの蛇の生態がシズル感を以って伝わってはきません(ある意味、"蛇柄"のカタログ)。

 それと、191ページで7000円という価格は、いくら何でも高過ぎ。「3000種を超える世界のヘビを収録」とありますが、イラストで紹介されているのは100種類にも満たないのではないでしょうか(1種を見開きで使っていたら当然そういことになるが)。図鑑と言うより贅沢なイラスト集、それも純粋に"蛇柄"の違いのみを楽しむマニアックなものという印象を受けました。

 蛇マニア("蛇柄"フェチ?)には魅力的な本かもしれませんが、一般の人にとっては、買う本ではなく、図書館で借りる本でしょう(「日本図書館協会選定図書」とのことでもあるし)。

『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』.jpg 図鑑という観点から本書よりもお奨めなのが、『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』('01年/日本ヴォーグ社/定価2,500円)。

 版は小ぶりですが、オールカラーで、世界の爬虫類と両生類を400種類紹介していて(写真は600枚)、1つ1つの解説も丁寧。よくこれだけ、写真を集めたなあという感じで、1ページに2種から3種収められていてコンパクトですが、分布、繁殖や類似種から、全長、食性、活動期間帯まで一目でわかるようになっています。

 オリジナルの英国版は両生類4,550種、爬虫類が6,660種が掲載されているそうで(すごい数!)、本書はそのほんの一部の抜粋版であるため、「完璧版」はちょっと言い過ぎのようにも思われますが、それでも蛇だけで160種を超える掲載点数であり、やはりこっちを買うことにしました。


映画「アナコンダ」2.jpg映画「アナコンダ」1.jpg そう言えば、ジェニファー・ロペス、ジョン・ヴォイトが主演した「アナコンダ」('97年/米)という映画がありました。伝説のインディオを探して南米アマゾンに来た映画作家らの撮影隊(ジェニファー・ロペスら)が、遭難していた密猟者(ジョン・ヴォイト)を助けるが、最初は温厚な態度をとっていた彼が、巨大蛇アナコンダが現れるや否や本性を曝け出し、アナコンダを捕獲するという自らの目的遂行のために撮影隊のメンバーを支配してしまう―というもの。

映画「アナコンダ」3.jpg映画「アナコンダ」4.jpg 大蛇アナコンダが出てくる場面はCGとアニマトロニクスで合成していますが、CGのアナコンダはあまり怖くなく、作品としてはどちらかと言うとスペクタクルと言うより人間劇で、アナコンダよりもアクの強い演技がすっかり板についているジョン・ヴォイトの方が怖かった(蛇すら吐き出してしまうジョン・ヴォイド?)。

アナコンダ2.jpgラスト・アナコンダ.jpg 後に「アナコンダ2」('04年/米)という続編も作られ(それにしても、南米にしか生息しないアナコンダをボルネオに登場させるとは)、更には「アナコンダ3」('08年/米・ルーマニア)、「アナコンダ4」('09年/米・ルーマニア)までも。「ラスト・アナコンダ」('06年/タイ)というタイ映画や「「アナコンダ・アイランド」('08年/米)という、蛇の大きさより数で勝負している作品もあるようです。
アナコンダ 2 [DVD]」('04年/米)「ラスト・アナコンダ [DVD]」('06年/タイ)
  
ボア [DVD].jpgボア vs.パイソン.jpgパイソン  dvd.jpg "アナコンダもの"が多いようですが、このほかに、「パイソン」('00年/米)、「パイソン2」(02年/米)、「ボア vs.パイソン」('04年/米(TVM))、「ボア」('06年/タイ)、「ザ・スネーク」('08年/米(TVM))など、蛇を題材にした多くの生物パニック・ホラー映画が作られており、コアな「蛇ファン」がいるのか(CGにし易いというのもあるのかも)。 
パイソン [DVD]」('00年/米)「ボアvs.パイソン [DVD]」('04年/米(TVM))「ボア [DVD]」('06年/タイ)
Boas (left) and pythons (right)
boa_and_python.png "コブラもの"の映画もあるみたいですが(追っかけていくとどんどんマニアックになっていく)、"ニシキヘビもの"は無いのか? 実は「パイソン」はニシキヘビ類全般を指す場合に用いられる呼称であって、「パイソン」の中にアミメニシキヘビなども含まれているわけです。更に、「ボア」も、アメリカ大陸(中南米)に生息するニシキヘビの一種で、ボア・パイソンとも呼ばれます。但し、分類学上は、ボア科が本科であり、ニシキヘビ科をボア科の亜科とする学説が有力なようです。ボア科とニシキヘビ科の違いは胎生か卵生かであり、「ボア」は胎生(卵胎生)で、ボア科の「アナコンダ」も胎生、これに対してニシキヘビは卵生です(但し進化学的には、本科のボアの方が亜科ニシキヘビより原始的)。映画「ボア vs.パイソン」は、「本科 vs.亜科」といったところなのでしょうか。
  
「アナコンダ」●原題:ANACONDA●制作年:1997年●制作ANACONDA 1997.jpg国:アメリカ●監督:ルイス・ロッサ●製作:ヴァーナ・ハラー/レナード・ラビノウィッツ/キャロル・リトル●脚本:ハンス・バウアー/ジム・キャッシュ/ジャック・エップスJr.●撮影ビル・バトラー●音楽:ランディ・エデルマン●時間:89分●出演:ジェニファー・ロペス映画「アナコンダ」dvd.jpg/アイス・キューブ/ジョン・ヴォイト/エリックジェニファー・ロペス in 「アナコンダ」.jpg・ストルツ/ジョナサン・ハイド/オーウェン・ウィルソン/カリ・ウーラー/ヴィンセント・カステラノス/ダニー新宿東急 アナコンダ.jpg・トレホ●日本公開:1997/09●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (評価:★★)
アナコンダ [DVD]」/ジェニファー・ロペス in「アナコンダ」


 ガラガラ蛇の生命力の強さを物語る動画があったので、酔狂半分でアップ。"キモい"のが苦手の人は見ないで。

蛇は頭だけになっても襲いかかってくる

 
Python eats Alligator, Time Lapse Speed x6

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"トバッチリ"が空を舞う。「西海岸」らしくていい。皆が憧れた時代があったなあと。

鈴木英人 表紙作品集 FMステーションイラストレイテッド」.jpg   鈴木英人 表紙作品集 FMステーションイラストレイテッド」4.jpg
『鈴木英人 表紙作品集 FMステーションイラストレイテッド』('84年/ダイヤモンド社)

鈴木英人 表紙作品集.2.jpg "わたせせいぞう"らとともに80年代を象徴するイラストレーターだった(山下達郎のジャケットデザインを数多く手がけている)鈴木英人(えいじん)の初期イラスト集で、ダイヤモンド社が発行していたFM情報誌「FM STATION」の'81年の創刊から'84年までの表紙を飾ったものを集めた「FM STATION」初の別冊ムックです。'84年12月刊行で、当然のことながら現在絶版...。最近、この人の作品集、カレンダー以外では見かけないなあと思っていたら、「筆まめ」のソフトにありました(この手の絵は、季節的には冬の方が売れるのだろうか)。

鈴木英人 表紙作品集③.jpg 結局、鈴木英人は'88年まで「FM STATION」の表紙を担当することになりますが、'81年の最初の頃はミュージシャンの顔を描いていたのが、次第にアメリカ西海岸の風景などをモチーフにしたものへと移り、それで急速に人気上昇したという経緯があります。

 わたせせいぞう氏と少し画風が似ているところがあって、どのイラストにも、赤や緑や青や黄色の帯状のもの、本書解説の美術評論家・東野芳明氏に言わせれば「竹とんぼの羽根のような、かもめの翼のような、空飛ぶナメクジのような(これ、東野氏の娘さんが言ったらしい)、光線の束のような(これ、東野氏の奥さんが言ったらしい)"トバッチリ"が空を舞っている」のも似ています。

鈴木英人 表紙作品集 FMステーションイラストレイテッド」3.jpg わたせせいぞうは漫画家でもあるためか、イラストにも人物(日本人)が描かれることが多いのに対し、こちらは殆ど人物は出て来ないため、"西海岸"そのものという感じで、個人的には、和洋折衷型の前者(わたせせいぞう)よりはこっち(鈴木英人)の方が好きでした。

 鈴木英人は西海岸をドライブしながら撮った写真からイラストを描き起こしていたそうですが、ナルホド、そうした雰囲気がよく出ているし、FM・AMのラジオ・ステーションやその広告の看板などは、「FM STATION」の表紙にピッタリ。

鈴木英人 表紙作品集 5.jpg "ハードロック・カフェのマッチ"とか(本書のイラストでは「ロンドン」のロゴがあるのがミソ)、このイラスト集の影響でもないですが、自分もアメリカに行った際にいくつかの都市のを集めたりしましたが、ハードロック・カフェは今や上野にさえも店がある...。

 巻末にカセットケース・レーベルとして使えるイラスト(裏面に曲目が書き込めるようになっている)が付いていますが、何せ"カセット"だから時代を感じさせる...(本書の"保存版"としての価値を考えれば切り離して使わなくて良かった?)。

鈴木英人 表紙作品集 FMステーション_3.jpg

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絵本作家であり、シニカルな風刺画家であり、エログロ・アートも手掛ける作者の絵本。

すてきな三にんぐみ.jpgThe Three Robbers.jpg  フォーニコン.jpg Jean-Thomas (Tomi) Ungerer.jpg Jean-Thomas (Tomi) Ungerer
すてきな三にんぐみ』['69年/偕成社]/"The Three Robbers" /『フォーニコン』['99年/水声社]

Tomi Ungerer.jpg 黒いマントに黒い帽子の泥棒三人組は、次々と馬車を襲い、奪った財宝をかくれがにため込んでいたが、ある夜、三人組が襲った馬車に乗っていたのは、意地悪な親戚に引き取られるところだった孤児のティファニー。親戚に引き取られるぐらいならこの三人組の方がおもしろそう!と泥棒の隠れ家に行き、宝の山を見て「これ、どうするの?」―。

ゼラルダと人喰い鬼2.jpg 1961年に絵本作家トミー・アンゲラー(ウンゲラー)(Tomi Ungerer)が30歳で発表した絵本で(原題:Die Drei Räuber、英題:The Three Robbers)、三人組の泥棒がひょんなことから全国の孤児を集めて城をプレゼントするというハッピーエンドですが、ここまで色んなものを削ぎ落として話を単純化してしまっていいのかなあというぐらいシンプルなストーリーで(「富の再配分」がテーマであるとも言える)、それでも日本では人気の高い作品です(手元にある偕成社の'06年版は166刷になっている)。アンゲラーの作品の中では同系統の作品とも言える『ゼラルダと人喰い鬼』(英題:Zeralda's Ogre)なども、日本でも結構読まれているのではないでしょうか。

ゼラルダと人喰い鬼 (評論社の児童図書館・絵本の部屋)

 トミー・アンゲラーは1931年フランス生まれで高校を中退して北欧やアフリカを放浪した末、1957年、25歳でニューヨークに渡り、職探しに苦労しながらも広告美術の世界に仕事を得、絵本創作の傍らイラストレーター、ポスター作家、グラフィックデザイナーとして現在も多彩な活躍している人で、この作品も、黒や藍をベースとした鮮明な色調に、グラフィックデザインのような特色が窺えます。

"Une Soiree Mondaine (THE PARTY)"より
Une Soiree Mondaine (THE PARTY)2.jpgUne Soiree Mondaine (THE PARTY).jpgアンゲラー1.jpg 自分の娘に捧げたこの絵本にはほのぼのとした味わいがありますが、彼のイラスト作品などの多くは毒気を含んだ風刺精神に満ちたもので(絵本の動物戯画などにもそれが現れている)、その戦争や差別に対する批判には、人間や社会に対する彼自身のシニカルな視線が感じられます(社交界の紳士淑女を痛烈に諷刺した『THE PARTY』は有名)。これは彼が移民というマイノリティであったことに関係しているのかも知れませんが、この作品の泥棒達も隠れ家に潜む"義賊"であり、「富の再配分」を実践することで、金持ちをストレートに批判しているともとれます。

TOMI UNGERER:FORNION.jpg"Fornicon"より
Fornicon2.gifFornicon1.gif アンゲラーには「機械仕掛けの欲望装置」というコンセプトに基づく"SM×ナンセンス"がオンパレードの『フォーニコン(Fornicon)』というイラスト作品集(作中の絵を模したフィギアも作っている)もあります(いやらしいというより、どことなくお洒落なセンスが漂うけれど、やはりドイツっぽいなあ)。
   
TOMI UNGERER: "FORNICON"  1971年 DIOGENES(ドイツ語版)

アンゲラー2.jpg Tomi Ungerer4.gif そうかと思えば、社会的活動としてはフランスとドイツの文化交流の橋渡しにも尽力していたりし、人間の多面性というものを如実に示しているアーティストだと思います。

 左のイラストなどはその両方の要素("エロ・グロ"と"仏独友好")が入っているとも言えますが...、大丈夫なのかなあ、こんなの描いて。

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ピンナップ女性が、コスプレでメタリックな装飾をしている? そうとれば新しそうで古いとの見方も。

The Gynoids (Paperback).jpg
 ガイノイド.jpg 
ガイノイド』['95年](ペーパーバック 36.1 x 25.4 x 1.3 cm ) 『ガイノイド』 ['93年](ハードカバー)/『ガイノイド』 ['93年](ペーパーバック 37 x 26.8 x 1 cm)

aibo.gif イラストレーターで、SONYのAIBOのデザインでも知られる空山基(はじめ)の作品集ガイノイド・シリーズの一番初期のもの。ペーパーバック版('95年)の2年前にハードカバー版(トレヴィル社)が出ていています。

air.jpg 『セクシー・ロボット』('88年)という画集で国内外に知られるようになった空山基(多くの人が、彼の描くメタリックな女性ロボットの絵、またはそのマネモノを見ているはず)ですが、「ガイノイド」とは、SF的発想に基づく機械人間系ロボット、つまりサイボーグの女性版とのことです。

 この人はもともと80年代にピンナップ画からスタートした人ですが、その時すでに、ピンナップ画はノスタルジアの類になっていて、そこで、新世紀のエロティシズムを探究した結果、「ガイノイド」という発想をSFから取り込んだことのようですが、どちらかと言うと、この作品集の初期シリーズは、ピンナップ女性が、コスプレ的にメタリックな装飾をしているようにも見えます(エアーブラシの技術はピカ一。新聞広告の車の光沢なども、全てエアーブラシで仕上げをしていることを知っている人はどれぐらいいるだろうか)。

 ボンデージ・モチーフを入れているのも特徴ですが、そのスタイルがヨーロピアン・クラシカルという感じで(全然「新世紀的」ではない)、こういうの、外国人の嗜好には合うのかも知れないが、日本人向きではない。
 実際、外国人女性ばかり描いた作品集は海外で売れていて、日本では、ボンデージからも外国人からも離れて、単にメタリックなロボットか(アート誌の表紙とか)、ただ肉感的な日本人ピンナップを(二見文庫のカバー絵とか)描くような仕事ぶりが見られます。

メトロポリス.jpg ペーパーバック版の表紙にある絵をはじめ、フリッツ・ラングの「メトロポリス」('27年)をモチーフにした作品がいくつかありますが、以前この映画をドイツ文化センターに見にいったとき、手塚治虫が観客として来ていました。
 「ロボット愛」ということでは、手塚治虫の方が、より根が深いかも。手塚治虫は成熟した女性を作品の主人公にすることはなく、女に成り切っていない少女ばかりをヒロインにしましたが、「ロボット」というのは、女に成り切れないという意味では少女の表象ともとれ、手塚治虫にとっての「ロボット」は、時に少女と等価であったのではないでしょうか。
メトロポリス」(1927年) DVD

 一方、空山基の絵のベースにあるのは、やはり80年代のピンナップのような気がし、それにクラシカル・ボンデージが加味されているとすれば、新しそうで実は古いというのが、この作品集の特徴ではないかと思います。

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CGがいいか、筆画がいいか。研究成果とともに変遷する恐竜画(像)。

寺越慶司の恐竜.jpg 『寺越慶司の恐竜』 恐竜.jpg 『恐竜 (小学館の図鑑NEO)
( 25.6 x 24.8 x 2 cm)

小田隆.jpg 「小学館の図鑑NEO」シリ-ズの第1期全16巻が5年がかりで出揃いましたが、その殆どを買い揃え、NEO版『恐竜』('02年)も当然購入済み。この『恐竜』に最も多く「恐竜画」を提供しているのが、市川章三、小田隆の両画家で、背景画も含めた迫力ある恐竜画などは、挿絵と言うより絵画作品に近いものがあります(時々、署名が入っているものがありますが、その気持ちワカル)。
小田 隆 氏 (古生物アーティスト)

寺越慶司.jpg  NEO版『恐竜』の両氏の絵は、筆を用いて描かれてた油彩乃至アクリル画だと思われますが、一方、この寺越慶司氏はCGによる恐竜画の第一人者で、本書『寺越慶司の恐竜』に描かれた恐竜は、目の輝きや皮膚の質感は、CGならではのリアルさです(「図鑑」と言うより「CG画集」の趣き)。
寺越 慶司 氏 (CGアーティスト)

 どちらが良いかはその人の好みの問題だと思いますが、皮膚の彩色では、市川氏や小田氏が筆で描いたものの方が凝った感じで、恐竜の大きさをイメージさせる遠近感も出ているかも(但し、皮膚の色については、皆さん想像で描いているわけですが)。

一般書店向けのチラシ.jpg 一方、皮膚の質感や光沢は、寺越氏のCGの方がより本物に近く見せていて(何となく既視感を感じるのは、これが映画「ジュラシック・パーク」などの恐竜とダブるため?)、本書前半部分では闘う・反撃する・追う・追われる・吠える・育てるといったテーマごとに恐竜たちを描いていますが、精緻さが絵をよりダイナミックなものにしています。

 本書では、図鑑形式をとりながらも、その恐竜画を描いた際の経緯や工夫・研究した点が所々記されていて、著者のそれぞれの恐竜に対する思い入れが感じられます。
 興味深いのは、同種の恐竜が時代とともに描き方が変遷していることを、自らの作品において示していることです。

 市川、小田両氏もそうですが、寺越氏も、最新の古生物学の研究情報を基に描画していて、この世界、どんどん新たな恐竜の化石の発見や、定説を覆すような研究成果の発表があるらしく、そうした動きに対応していこうとするならば、今後は、描き直しが難しい筆画よりもCG画の方がアドバンテージは高いということになるのでしょうか。
 ただし、寺越氏の描画工程が本書に紹介されていますが、これ見ると、CGも決して楽ではないことがよくわかります。

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パロディ満載、イラストも文章も楽しめ、特に、戯作「雪国」では文才が光る。

倫敦巴里2.jpg倫敦巴里1.jpg倫敦巴里 (1977年)』話の特集 倫敦巴里2.jpg

I倫敦巴里4.jpg 著者が「話の特集」('66年創刊)に'66(昭和41)年から'77(昭和52)年にかけて発表した様々なパロディを一冊の本にしたものです('77年の刊行)。パロディとしてのイラストも文章も何れも理屈抜きで楽しく、特に文章パロディのセンスには舌を巻きます。

 冒頭の「暮しの手帳」のパロディ「殺しの手帳」には有名ミステリの多くのトリックが参照されていて、どの作品だったか思い出すのが楽しく(全部わかれば相当のミステリ通、と著者自身が述べています)、また、イソップの「兎と亀」の寓話を、ジョン・フォード、市川昆から黒沢明、フェリーニまで20人以上の内外の監督の作風に合わせて脚色してみせていて、こちらも、どの作品から引いているかというマニアックな楽しみ方ができます(本人弁によると、マニアックの度が過ぎないようにするのが難しいとか)。

倫敦巴里3.jpg その他にも、様々なパロディのオンパレードですが、何と言っても圧巻なのは、'70年から'77年の間5回に分けて掲載された、川端康成('68年ノーベル文学書受賞)の「雪国」の冒頭部分を、多くの文筆家らの作風に合わせて偽作したもの。

 とり上げられているのは、庄司薫、野坂昭如、植草甚一、星新一、淀川長治、伊丹十三、笹沢左保、永六輔、大薮春彦、五木寛之、井上ひさし、長新太、山口瞳、北杜夫、落合恵子、池波正太郎、大江健三郎、土屋耕一、つげ義春、筒井康隆、川上宗薫、田辺聖子、東海林さだお、殿山泰司、大橋歩、半村良、司馬遼太郎、村上龍、つかこうへい、横溝正史、浅井慎平、宇能鴻一郎、谷川俊太郎の総勢32名で、イラストが本業の著者の文才が光っていて、これは「あなたのライフワークですか」と人から聞かれたこともあったというぐらいの凝りよう。

 これだけでもこの本の価値は高いような気がし、初版本ではないけれど、所有していることを少し自慢したくなるような本。著者は'94(平成6)年に第42回「菊池寛」賞を受賞しており、この賞は挿画家(画家・漫画家・イラストレーターを含む)では過去に、横山泰三、岩田専太郎、近藤日出造、山藤章二、加藤芳郎、中一弥らが受賞、著者より後では、東海林さだお、風間完らが受賞しています。

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懐かしいプラモデルの箱絵など。"昭和レトロ"を感じさせる異能の職人的画家。

5図説 小松崎茂ワールド.jpg
小松崎茂.jpg ソーラー・シティ.jpg "ソーラー・シティ"
図説 小松崎茂ワールド』['05年] 小松崎茂(1915-2001/享年86)

密林の冒険児.jpg 小松崎茂と言えば、サンダーバードのプラモデルのボックスアート(パッケージアート、箱絵)のイメージが強くあり、サンダーバードに限らず、タミヤのドイツ戦車やゼロ戦などのプラモデルのボックスアートも印象に残っていますが、本書を見て、ボックスアートばかりでなく、様々な仕事を手がけていたことを知りました。

 昭和30年代に創刊された「少年サンデー」「少年マガジン」などの少年漫画雑誌の戦記特集などの挿画も多く手掛けているほか、それ以前からSF・未来世界を描いた作品も数多くあり、自分自身も雑誌などでそうした彼の作品を見ながら、それが小松崎茂という画家の手によるものであるという認識はないながらも、エアカーが超高層ビルの間をぬって疾走する未来社会を夢想した1人であることは間違いないようです。
"密林の冒険児" 

雷電.jpg 小松崎の活躍の始まりは昭和20年代の冒険活劇物語(いわゆる「絵物語」)で、作家として物語を書きつつ挿画も書いていたようですが、「大平原児」とかウェスタン調のものが多いのが面白い。
 また、この画集でやはり圧倒されるのは、「モスラ」などの特撮映画の担当もしたというリアルなメカニックで、その精緻さは戦争モノから宇宙モノまで共通していて、時代を感じさせない現代的な感じがします。

"雷電" 

育ったのが東京の下町(南千住)で、仕事場は宇宙コロニー.jpg 乱雑の極みでしたが、どうしてこういう環境でこのような垢抜けた絵が描けるのか不思議な気もしました。若いころの写真を見ると、小太りでオタクっぽい感じがあります。
 老境に至って"気骨の画家"、あるいは"飄々とした"という感じの独特の風貌を呈していますが、昔から下町のスケッチなども多く描いていて、それらを見ると少し和みます。

 "昭和レトロ"を堪能させてくれるこの異能の職人的画家は'01年に亡くなりましたが、固定ファンが結構いるせいか、作品を集めたサイトもいくつかあるようです。

"宇宙コロニー"

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江戸庶民の生活の息吹が感じ取れて楽しい図絵集。時代小説ファンにお薦め。

三谷一馬『江戸商売図絵』青蛙房 昭和38年発行.jpg江戸商売図絵8.JPG商売.jpg 三谷 一馬.jpg 三谷 一馬(1912-2005/享年93)
江戸商売図絵 (1963年)』青蛙房 『江戸商売図絵』中公文庫 〔95年〕
『江戸商売図絵』.jpg
 文庫本で600ページ以上ある江戸時代(中期以降)の「商売図鑑」で、店商売や物売りから職人や芸人まで数多くの生業(なりわい)の様を絵画資料から復元し、それぞれにわかりやすい、結構味のある解説を加えています。

 「紅屋」で"光る口紅"を売っていたとか、「髢屋」(かもじ=つけ毛・ウィッグ)とか、江戸時代の庶民は大いにお洒落を楽しんだ?
 「鮨屋」「鰻屋」「居酒屋」のように今の時代に引き継がれているものもありますが、「楊枝屋」「烏帽子屋」となると、店を構えた上でのこうした単品の商売が成立ったのが不思議な気もして、現代のスーパー・コンビニ社会から見ると驚くべき細分化ぶりです(「鳥屋」でペットと鳥肉を一緒に売っている図もありますが)。

江戸商売図絵 1975.jpg 物売りにしても多彩で、「ビードロ売り」とか「水売り」とか風流で、「八百屋」「魚屋」などが江戸と大阪で格好が違ったりするのも面白し、「熊の膏薬売り」が熊の剥製を被っているのは笑えて、「物貰い」というのがちゃんとした職業ジャンルであったことには驚かされます(掛け声や独特のパフォーマンスなども紹介されています)。
 さすがに「七夕の短冊売り」とか月見用の「薄(ススキ)売り」というのは、年中それしか扱っていないというわけではないのでしょう。

三谷 一馬 『江戸商売図絵』.jpg 青蛙房から出版された元本の初版は'63年で'75年に三樹書房から新装版が出されましたが、古書店で5万円という稀こう本的な値がついたらしく、やはり小説家とか劇画家には重宝したのかも...。
 本書は'86年の単行本(定価4,600円)を元本として文庫化したものですが(価格は定価1,300円に)、江戸庶民の生活の息吹が感じ取れて一般の人にも充分楽しいし、時代小説好きならば、そうした本を読む際のイメージがより生き生きするのではないかと思います。

『江戸商売図絵』 三樹書房版 (1975)[上]/『江戸商売図絵』立風書房版(1986)[右]

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