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移民の不安や希望をモチーフとしているが、普遍性の高い心象風景となっている。

アライバル ショーン・タン.jpg
アライバル ショーン・タン1.jpg  レッドツリー.bmp
アライバル』(31.2 x 23.6 x 1.6 cm)['11年/河出書房新社]/『レッドツリー』(27.8 x 21.4 x 1.4 cm)['11年/今人舎](早見優オフィシャルブログ

ショーン・タン.jpg オーストラリアのイラストレーター、絵本作家のショーン・タン(Shaun Tan、1974-)のオムニバス作品で、全編イラストで構成されていますが、「字のない絵本」「イラストで語られる小説」などとも言われているようです。

遠い町から来た話.jpg '04年に絵本『レッドツリー―希望まで360秒』('01年発表、'04年/今人舎)が早見優の訳で紹介され(絵が主体で文章は僅か。メーテルリンクっぽい寓話的ストーリー)、SF小説の挿絵のような画風の絵本『遠い町から来た話』(Tales from Outer Suburbia、'08年発表、'11年/河出書房新社)で認知度が高まり(これ、大友克洋とか宮崎駿っぽい雰囲気もある)、この『アライバル』(The Arrival、'06年発表)は、日本紹介作としては第3弾です(早見優訳『レッドツリー』は'11年に大判となって改版)。

遠い町から来た話

 国際的には、この『アライバル』で世界幻想文学大賞など多くの賞を受賞し、『ロスト・シング(落し物)』('99年発表、'12年/河出書房新社)が'10年にアニメ映画化され、アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞しています(監督:ショーン・タン/アンドリュー・ルエーマン)。

アライバル ショーン・タン2.jpg 本書は、見知らぬ国に「到着」したばかりの移民が作品の大きなモチーフになっていますが、セピアトーン一色で描くことで年月の経過をうまく演出しており、シュールでありながらリアルであるというのが不思議。移民の不安や希望をここまで描く力量はやはりスゴイことかもしれず、人間の心象風景として普遍性のある作風になっているように思いました。

 ショーン・タンの父親は、マレーシアから西オーストラリアに移住した移民であり、その父の経歴が作風に影響を与えているとのこと、但し、この作品の中で描かれているのは「架空の国」であるとのことですが、個人的には何となく、19世紀から20世紀にかけてヨーロッパからアメリカへ渡った移民を素材として扱った映画に出てくる1シーンを想起させるようなものが多いような気がしました。

アライバル ショーン・タン3.jpg イタリア系移民を扱ったフランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザーPartⅡ」('74年/米)、ロシア系移民を扱ったマイケル・チミノ監督の「天国の門」('80年/米)、ユダヤ系移民を扱ったセルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」('84年/米・伊)、アイルランド人の移民を扱ったマーティン・スコセッシ監督の「ギャング・オブ・ニューヨーク」('02年/米、レオナルド・ディカプリオ主演)等々(映画の中の回想シーンも含め)何となく既視感のあるものもありました。

 アニメ作家でもあるらしく、フィルムのコマ送りのような連作もあって、作品の点数的にもスゴイ数ですが、これ全部一人で描いたのかなあ。

 作者あとがきを見ると、このオムニバス作品の制作に4年間を費やし、リサーチのため多くの図書館を回ったらしく、また「1912年のタイタニック号沈没のニュースを伝える新聞売りの写真」「ビットリオ・デ・シーカ監督の1948年の映画『自転車泥棒』」などからもインスピレーションを得たとありますが、どの映画か特定はできないけれど、先に挙げた映画の影響なども受けているのではないかなあ。

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イラスト集と楽しめるだけでなく、画家と評論家のやりとりが、おまけの楽しみを添える。

アガサ・クリスティーイラストレーション1.jpgアガサ・クリスティーイラストレーション トム・アダムズ.jpgアガサ・クリスティー イラストレーション

 アガサ・クリスティ作品の表紙イラストレーターとして知られるトム・アダムズ(Tom Adams, 1926- )のイラスト集で、トム・アダムズは他のミステリ作家の作品の表紙イラストも手掛けていますが(本書の序文はトム・アダムズがその作品の表紙イラストを手掛けた『コレクター』のジョン・ファウルズが書いている)、本書はタイトル通り、クリスティ作品に絞ったイラスト集となっています。

トム・アダムズ06「予告殺人」.jpgトム・アダムズ23「鏡は横にひび割れて」.jpg 掲載されているのは「原画」であり、タイトルなどの文字は入っていないため、もちろん作品のイメージと結びつけて観賞するのが筋ですが、仮にその作品を読んでなくとも絵画としてスッキリ鑑賞することが出来て、また、その多くに、推理小説家でミステリ評論家のジュリアン・シモンズ(Julian Symons, 1912-1994)が、作品紹介と併せて解説や評価をコメントしています。

「予告殺人」(米国・ポケットブックス版(1972年) /「鏡は横にひび割れて」(英国・フォンタナ版(1966年)

 ジュリアン・シモンズの評価は、例えば本書の表紙にもなっている「鏡は横にひび割れて」のイラストのように絶賛調のものもあれば、作品の内容が想起されにくいとして「落胆した」とはっきり述べているものもあり(「スリーピング・マーダー」の表紙イラスト。逆に「予告殺人」のイラストなどは事件発生時そのものだけど)、それらのコメントに対してイラストを描いたトム・アダムズ自身が更にコメントを寄せているのがなかなか面白いです。

tom-adams_a-murder-is-announced_london-fontana-books-1974.jpgtom-adams_they-do-it-with-mirrors_london-fontana-books-1981.jpg 例えば、シモンズが絶賛する「鏡は横にひび割れて」のイラストについては、「この表紙がどうしてそれほど好まれるかが分からなくて途方に暮れている」としています。

「予告殺人」(1974年・英国・フォンタナ版)/「魔術の殺人」(1981年・英国・フォンタナ版)

 また、「書斎の死体」の表紙イラストなどは、トム・コリンズ自身が、原作にはない作為を加えたことを認めたりしていて(確かに、死体がスパンコールのドレスを纏っていたとか、裸足で紅いペディキュアをしていたとかはどこにも書かれてなかったと思う)、興味深いです。
 
トム・アダムズ27「書歳の死体」.jpgThe Murder at the Vicarage Illustration by tom Adams.jpg 結構シュールレアリズムっぽいものも多く、牧師の頭の部分ががテニスラケットになっている「牧師館の殺人」のイラストなどは完全にルネ・マグリット風ですが、それが作品に出てくる要素が散りばめられていたり、或いはイラスト全体として作品の雰囲気を伝えるものであればシモンズは高く評価し、一方、あまりにシュール過ぎて作品と結びつきにくくなるとやはり疑問を呈したりしています(「牧師館の殺人」におけるテニスラケットはさほど重要なモチーフ要素ではなく、殆どトム・アダムズが自分の好みで描いたのか)。

 それに対してトム・アダムズの方は、ある程度そうした指摘を認めたり、どうしてこれがいけないのかと反論したり、その絵を描いた際の制約条件などの事情を説明して弁解したり、これが描きたかったのだと開き直ったり(?)―といった具合で、この両者の"やりとり"が、単なるイラスト集としてだけでなく、おまけの楽しみを添えるものとなっています。

「書歳の死体」(1974年・英国フォンタナ版)  

「書斎の死体」(米国版表紙イラスト)/「ABC殺人事件」(米国版表紙イラスト)
トム・アダムズ104「書歳の死体」.jpgトム・アダムズ108「ABC殺人事件」.jpg

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「追悼集」的色合い。横尾忠則や宇野亜喜良と並んで60年代に活躍。早すぎた死が惜しまれる。

伊坂芳太良の世界.jpg  (28.2 x 21.8 x 2 cm) 伊坂芳太良.jpg 伊坂芳太良(1928 -1970/享年42)
伊坂芳太良の世界 (1974年) (イラストレーション・ナウ)』(ブックデザイン:浅葉克己)

伊坂芳太良の世界01.jpg 細密なペン描の線画や、和洋折衷のサイケデリック調が特徴の伊坂芳太良(いさか よしたろう、1928 -1970)の作品集で、この人(通称ペロ)、60年代に横尾忠則や宇野亜喜良らとともに活躍したイラストレーター兼グラフィック・デザイナーですが、今生きていたら、横尾忠則級の大御所になっていたのではないかと。

ペロ展図録.jpg 2年ほど前に渋谷で作品展を観に行ったことがありますが、また今月('12年10月)渋谷の「ポスターハリスギャラリー」で「伊坂芳太良ポスター展-60年代伝説の絵師ペロ」というのが開かれるようです。

 辿ってみると、'01年に「幻の絵師ペロ展」が新宿高島屋で開催されており、それからやや間があいて、'10年1~2月に青山ブックセンター内ギャラリーで「伊坂芳太良原画展」があったほか(自分が観たのはこれ)、'11年7月に原宿の「ペーターズ・ショップ・アンド・ギャラリー」で「伊坂芳太良原画展」、今年('12年)7月にも同じ場所で「Pero 伊坂芳太良原画展 タウンゼント館」というのが開かれていて、没後40年を経て、突然ブームが再燃したといった感じでしょうか。ただ、今回の作品展も、出展予定点数20点とのことで、場所の関係もあるのか、それほど多くの作品が観られるわけではないようです。

伊坂芳太良作品集成.jpg伊坂芳太良08.jpg その点、本書はある程度纏まった数(248点)のペロさんの作品が掲載されていて貴重で、当時絶大な人気を誇ったファッションブランド「エドワーズ」のポスターなどは懐かしいなあと(作品の半分はモノクロで掲載されているが)。

 但し、当然のことながら、その作品のすべてを載せているわけではなく、タイプライターの「オリベッティ」やTBSラジオ「ヤングタウン」などのシリーズ広告ものはその一部だけ。一方で、裸婦のデッサン習作などもあり、没後4年目に刊行されたということもあって、その仕事の全体像とその原点を探る「追悼集」の色合いが濃い作品集と言えます(因みに、'83年PARCO出版から刊行の『伊坂芳太良作品集成(PERO The Works of Isaka)』は446点収録。古書市場プレミア価格になっているみたい)。

伊坂 芳太良24.jpg 実際、イラストレーターの和田誠(1936年生まれ)、横尾忠則(1936年生まれ)、コピーライターの日暮真三(1944年生まれ)グラフィック・デザイナーの浅葉克己(1940年生まれ)など多くの人が追悼文を寄せていて、この人たちは皆、伊坂芳太良の後輩にあたるんだなあと。

 彼らの文章から、ペロさんが後輩から慕われていたことがよく分かり、更に、本人のエッセイや日記風の小文も掲載されていて、そこから売れっ子イラストレーターの仕事ぶりが分かるのが興味深いです。

伊坂芳太良の世界142.jpg 午前3時に明日の仕事の準備をして、朝9時半に起きて風呂に入った後朝食、11時に原宿の自宅を出て銀座のライトパブリシティへ―'68年頃の1日ですが、40歳にしてまだ広告会社に勤務していたとは知りませんでした(因みに8歳年下の和田誠氏もライトパブリシティの社員だったが、'68年に退職している)。

伊坂エドワーズ.bmp 42歳で亡くなっていますが、死因はクモ膜下出血で、打ち合わせ中に倒れ、5日後に亡くなっており、本書には当時の新聞記事も掲載されています。そこには「現代が追い詰めたイラストレーターの死」「あまりに売れすぎ―倒れても筆とる仕草」といった見出しが並んでいます。

 伊坂芳太良が「エドワーズ」の仕事で一躍脚光を浴びたのは亡くなる4年前のこと。日暮真三氏が、「あと5年生きていたら、伊坂芳太良は別の存在になっていたかもしれない」と書いていますが、確かにそうかも。早すぎた死が惜しまれます。

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構成のダイナミズムと細部の描写の精緻さ、湧き上がってくるような情念。

伊藤彦造イラストレーション.jpg(29.6 x 22.6 x 1.8 cm)  伊藤彦造イラストレーション 旧.jpg
伊藤彦造イラストレーション 〔新装版〕』['06年]『伊藤彦造イラストレーション』['99年/A&Aパブリッシング]

伊藤彦造イラストレーション43.jpg 画家・伊藤彦造(1904 - 2004/享年100)のイラスト集で、'99年に刊行されたものの「新装・増補版」。伊藤彦造の作品に関しては、とりわけ剣戟モノの挿絵画が知られていますが、構成のダイナミズムと細部の描写の精緻さ、そして湧き上がってくるような情念は、このジャンルでは群を抜いていると言っていいのでは。

「天兵童子」(吉川英治原作、「少年倶楽部」昭和12~14年)

 伊藤一刀斉の末裔の生まれですが(ゆえに剣戟シーンの絵にはこだわりを感じる)、幼少時は虚弱だったそうで、「大人になるまで生きることはできない」と言われたそうな。それが100歳まで生きたわけで、やはり手先を使う仕事をする人は長生きするのかなとも思いましたが、絵の仕事そのものは65歳ぐらいで引退しています(これぐらいの細密度になると、年齢的に描ける限界があるのも無理ないか)。

伊藤彦造イラストレーション70.jpg伊藤彦造イラストレーション 3.jpg 解説の中村圭子氏は彼の絵を「被虐のエロス」という言葉で表していますが、子供時代には拒食的自虐の性向があり、自らを徹底的に飢えさせ、飢えを糧に闘志を高めていくタイプだったらしく、そうしたものが、彼の絵の醸す情念に繋がっているのではないかと。短剣を携え、自らの肉体に刃をあて、絵具皿に血を溜める―なんてこともしていたらしいです。

 大人になってから剣術を実技面で一層探求した結果、その道に秀でるところとなり、剣術師範にまでなったということで、中村圭子氏は、同じく少年時代から病弱で成人してから肉体を鍛えた三島由紀夫を想起すると書いていますが、確かに似てるね、「美剣士」の絵からはホモセクシュアルな匂いが感じられるし、伊藤彦造自身も「憂国の士」であったし(終戦時には戦犯容疑がかけられ、絵はGHQによって一時発禁になっている)。

伊藤彦造イラストレーション51.jpg 本書の旧版刊行時には存命していましたが、それでも引退して30年経っており、結構"昔の人"というイメージがあったものの、本書によれば、昭和初年代から10年代の「少年倶楽部」「キング」などで活躍した時代を経て、昭和20年代の「少年画報」時代、更に昭和30年代の学年雑誌時代を経て、40年代前半の名作文学の挿絵までと、その時々の時代の要請に沿って何度も復活を遂げ、洋モノなども含め、広いジャンルで活躍していたのだなあと。

「魔粧仏身」(吉川英治原作、「キング」昭和12~14年)

 昭和30年代の"学年雑誌"時代とは、小学館の「小学○年生」といった雑誌に挿絵を描いていたもので、う~ん、当時、こんな古風な挿絵、あったかなあ。リアルタイムで見た記憶が無いけれど、主に昭和30年代前半かな。今の時代の感覚からすると、小学生の読む雑誌に載せるにしてはかなり"情念の濃い"絵もあります(線画にしてこの"濃さ"―というのがこの人の魅力なんだけど)。

吉川英治『萬花地獄』(昭和2年)挿画
伊藤彦造3.bmp伊藤彦造画集.jpg伊藤彦造名画集.jpg
伊藤彦造画集 (1974年)』[講談社/150p]/『伊藤彦造名画集―憂国画家の入魂世界』['85年/講談社/48p]

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小松崎茂が手掛けたプラモデル・パッケージの全ジャンルを網羅し、資料としても第一級。

小松崎茂 プラモデルパッケージ.jpg小松崎茂 プラモデルパッケージ0.jpg   小松崎茂.jpg 小松崎 茂(1915-2001/享年86) 
小松崎茂―プラモデル・パッケージの世界』(1999/04 大日本絵画)

 小松崎茂(1915-2001)と言えば、一定の年齢層の人にとって思い起こされるのは、プラモデル・パッケージのイラストということになるのではないでしょうか。

 本書は、戦闘機、戦艦、自動車、戦車から「サンダーバード」などのTV系SFメカまで、小松崎茂が手掛けたプラモデル・パッケージの全ジャンルを網羅した収録点数452点にものぼる本格的イラスト集で、'60年代から70年代のものが中心ですが、昭和に換算すると、昭和30年代後半から昭和50年頃にかけてということになるでしょうか。

小松崎茂 プラモデルパッケージ1.jpg 昭和40年代の頃は、大体みんな零戦など戦闘機から入って、震電、鍾馗、飛燕とか作ってから、戦車とか戦艦に行ったのではなかったかなあ。戦闘機が比較的、価格的には安かったのに対し、大和や武蔵といった戦艦は相当高かった印象が個人的にはあるけれど、本書掲載のパッケージ・イラストには、それぞれ発売年と当時の価格が記されており、また、その商品の特徴なども解説されていて、資料としても第一級のものとなっています。

 戦車が好きだった人は特に"通"の人が多かった印象があり、61式中戦車がいいとかパットンがいいとかそれぞれに言っていたけれど、戦車は本書の最終章にきていて、こうして見ると、戦車モノは結構70年代まで長くブームが続いたんだなあと。

小松崎茂 プラモデルパッケージ2.jpg TV関連のSFメカも、「サンダーバード」だけでなく(どういうわけか「サンダーバード2号」が抜群にポピュラーだった)、その後人気が出た「ウルトラマン」や「マジンガーZ」のプラモのパッケージも手掛けていて、クワガタ虫など昆虫のプラモデルもあったりし、そのまま日本のプラモデルの歴史を概観することができる本にもなっています。

 冒頭にある小松崎茂自身による小文を読むと、昭和30年頃、彼自身がプラモデルにハマり、雑誌「世界の戦艦」に投稿した文章が田宮俊作氏(後のタミヤ社長)の目に止まり、その依頼を受けて昭和36年からプラモデル・パッケージを手掛け始めたとのこと。プラモデル・ブームというのは昭和30年代中盤以降で、それまで小松崎茂は、少年雑誌の挿画の仕事の方がメインだったようです(リアルタイムでそれらに触れたのは団塊の世代かそれ以前の人の子供時代か)。

 戦争モノのプラモデル・ブームが一区切りしたところで、今度は小松崎茂の弟子の高荷義之氏が勝澤利司氏(後のイマイ社長)を連れてきて、「サンダーバード」を描いて欲しいと―。

 思えば当然のことですが、自分から描こうとしたのではなく、何れも依頼を受けての仕事だったわけで、また、田宮青年が彼の下を訪ねた際のことについて、「ある本で、その折私がタミヤを救ってあげましょうと言った、と書いてあったが、そんなことはあり得ない。私がいくら馬鹿でも、そんな思いあがった発言をする訳がない。仕事を気持よく引き受けただけである」とも書いています(「大家」然としていない「職人」だった)。

 巻末には、小松崎茂の弟子で、小松崎茂研究の第一人者である根本圭助氏による詳細な「小松崎茂バイオグラフィー」や、田宮俊作氏、勝澤利司らの寄稿文が付されており(勝澤氏も、当時「サンダーバード2号」が圧倒的に人気だったと書いている)、根本氏言うところの"スーパーアーチスト"小松崎茂の仕事ぶりや、プラモデルに関するマニアックな話もあって楽しめました。

THUNDER BIRDS サンダーバード.jpg「サンダーバード」 Thunderbirds (英ATV 1965~1966)○日本での放映チャネル:NHK(1966~1967)/TBS(1967~1968)/東京12ch(現・テレビ東京)(1970~1971)/テレビ東京)(1974~1975)/TBS(1980~1981)/フジテレビ(1987~1988)/テレビ東京)(1992~1993)/NHK教育(2003~2004)

Thunderbirds

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ハイスペック豪華本。CG復元画がリアルでダイナミックな「大迫力のヴィジュアル大図鑑」。

生物の進化 大図鑑0.jpg生物の進化大図鑑.jpg(30.2 x 26.4 x 4.2 cm)  EVOLUTION 生命の進化史.jpg
生物の進化 大図鑑』(2010/10 河出書房新社)『EVOLUTION 生命の進化史』(2010/02 ソフトバンククリエイティブ)

生物の進化大図鑑1.jpg 先にダグラス・パーマー『EVOLUTION 生命の進化史』('10年/ソフトバンククリエイティブ)を取り上げましたが、生物進化図鑑の"本命"というとこちらの方になるのかなあ(河出書房、科学図鑑に強いネ)。

 図版数 約3000点、生物の掲載種 772種、索引数 約2300項目、化石写真 約600点、CG復元図 約250点、語解説 約300項目...という文句のつけようの無いほど充実したスペックで、強いて難を言えば9,500円(税別)という、1万円近い価格でしょうか。

 但し、"稀少本"にしては結構売れたようで(今も売れているみたい)、多くの人が"相応の価格"であるとみたということでしょう。全512ページにフルに掲載されている写真や図説の豊富さだけでなく、解説の詳細さなどからみても、まずます頷けます。

生物の進化 大図鑑3.jpg CG復元図がリアルでスゴイ迫力!(子どもでなくとも大人でもぐっと惹かれるものがある)、CGもここまできたかという印象ですが、化石写真などとの配置が上手くなされていて、写真とCGが自然な感じで繋がっているように感じられました(CGがまるで写真のように見えることに加えて、レイアウトの妙が効いているため、相乗効果を醸している)。

 冒頭に「地球の起源」とあり、「地球誕生から5億年」「プレートテクトニクス」「気候の変動」と続くように、古生物学の視点に留まらず、地質学や地球科学の視点も取り入れられていて、動物だけでなく植物の進化にも相当数のページを割いています。

生物の進化大図鑑2.jpg 『EVOLUTION 生命の進化史』もそうですが、こちらは更に陸生動物の登場までに相当のページを割いていて(180頁強)、かなり本格的。でも、子どもたちが喜びそうな恐竜についてもこれまた詳しく(恐竜リスト 約800点)、見開きページいっぱいを使ったダイナミックなCG復元画(骨格見本を含む)だけでなく、その種に見られる部位の特徴などをピンポイントで解説するなどしていて、大人も子どもも楽しめます。
 
 人類の進化についても詳しいですが、その人類進化の部分を、『EVOLUTION 生命の進化史』はイラストを用いて解説していたのに対し、こちらは化石写真中心であるのが対照的であり、『EVOLUTION 生命の進化史』が"生態図"のパノラマという形式を取っているのに対し、生態が不確かなものについての恣意的な想像を排するという本書の姿勢が表れています(但し『EVOLUTION 生命の進化史』の方も、同じ場所の同じ地層に化石が見られた古生物を1つのイラストに収めているという点では、ある種の厳格さを貫いている)。

 高価な価格が難であると言っても、中古市場で購入すれば、家族で科学博物館へでかけたのと同じくらいかそれ以内の出費で、この「大迫力のヴィジュアル大図鑑」という謳い文句に違わぬ豪華本を手元に置くことができるということになるのではと思ったけれど、この手の書籍に共通する傾向として(本の善し悪しや発刊部数の多寡によって差はあるが)、この本も、刊行されて2年くらいしか経っていない現段階では、あまり安い値段では手に入らないみたい。

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専門的だが見易さに工夫。大人でも子どもでも楽しめるパノラマイラスト。読み込むほどに味が。

EVOLUTION 生命の進化史.jpg (29.2 x 25 x 3.4 cm)        生物の進化大図鑑.jpg
EVOLUTION 生命の進化史』(2010/02 ソフトバンククリエイティブ) 『生物の進化 大図鑑』(2010/10 河出書房新社)

EVOLUTION 生命の進化史1.jpg 生命誕生から現在まで、地球35億年の生命の進化の歴史をイラスト化したもので、パノラマ・イラストを全て繋げると全長50メートルにも及ぶという「壮大な命の絵巻物」。

 2009年のダーウィン『種の起源』発刊150周年・生誕200周年を記念しての刊行の"稀少本"とのことで(定価4,700円(税別)、同種の"稀少本"では河出書房新社の『生物の進化 大図鑑』('10年/定価9,500円(税別))が1万円近い価格にも関わらず結構売れたようですが、本書もなかなかの出来栄えではないでしょうか(価格的にはよりお買い得)。

 『生物の進化 大図鑑』のイラストがCGなのに対し、こちらは英国の動物挿絵家で、食器の鳥の図柄や英国切手の図柄をはじめ、世界の童話に独特なタッチの水彩画を描いているピーター・バレットによる手書きイラストです。

何れもいかにも水彩画家らしい淡いタッチで描かれており、『生物の進化 大図鑑』のCGの迫力に対し、線画の緻密さに凝っている感じに何となく昔ながらの「図鑑」の懐かしさを覚えてしまい、こういうのも悪くないなあと。

EVOLUTION 生命の進化史2.jpg 丁度、歴史年表を見ているように、年代表が各パノラマ・イラストの最上部にあり、年代に関する情報や気候と生物相に関する情報が記されていて、下部には、化石産出地のかつての位置と現在の位置(大陸移動しているため両者は異なってくる)の図、種のリスト、イラストの一部のクローズアップや化石写真付きの解説などがあります。

 フルカラー全384ページですが、最初の陸生生物の登場までに80ページ以上のページ数を割いていて、後半140ページは「系統樹」「化石産出地の索引」「種の索引」に充てるなどしており(これらも視覚的に分かり易いよう工夫されている)、アカデミックと言うか、専門家向けという感じもします。

 生物進化史を体系的に理解しようとするにはうってつけの図鑑ですが、パノラマ・イラストは大人でも子どもでも楽しめるものとなっており、『生物の進化 大図鑑』と併せて一家に一冊置いておきたい図鑑、読み込めば読み込むほど味が出てきます。

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浮世絵の伝統画法を守りながらもモダンなダイナミズム。イラストレーターの先駆?

月岡芳年 幕末・明治を生きた奇才浮世絵師.jpg 月岡芳年 義経 m14.jpg  月岡芳年の世界.jpg
月岡芳年 幕末・明治を生きた奇才浮世絵師 (別冊太陽)』 義経と弁慶(明治14年)『月岡芳年の世界』['10年]
侠客・金神長五郎(慶応2(1866)年)                        (30 x 21.4 x 2.8 cm )
月岡芳年(つきおかよしとし).jpg月岡芳年 侠客・金神長五郎 慶応2(1866).jpg 江戸から明治にかけて活躍し、「最後の浮世絵師」と言われる月岡芳年(つきおか・よしとし、1932-1892)の特集で、武者絵、妖怪画、歴史画、美人画など約230点を収めています。

トミー・リー・ジョーンズ.jpgトミー・リー・ジョーンズ 浮世絵.jpg 先般、映画「メン・イン・ブラック3」('12年/米)のキャンペーンで共演のウィル・スミスと共に来日したトミー・リー・ジョーンズが、民放の朝のテレビ番組のインタビューを受けた後、浮世絵の絵柄のネクタイを贈られていましたが、自分に渡された安藤広重の絵柄のネクタイを気難しそうな顔でしばらく眺めたうえで、ウィル・スミスに渡された葛飾北斎の絵柄のネクタイと自分のものと替えてくれとウィル・スミスに言って交換していました。「メン・イン・ブラック3」のプロモーションワールドツアーで唯一日本ツアーにだけ参加したトミー・リー・ジョーンズは、歌舞伎ファンであるとともに浮世絵愛好家でもあり、特に北斎と月岡芳年が好きで、しかも、娘は月岡芳年作品のコレクターで100点をめざして収集中とのこと、浮世絵は光に弱いため、保管庫から1点だけ取り出して部屋に飾り、毎日架け替えているそうです(番組担当者は、彼が浮世絵愛好家であることは調べていたが、作者の好みまでは調べてなかった?)。

月岡芳年 女盗賊・鬼神お松 m19.jpg それはともかく、こうしたムックで見ても、月岡芳年の作品は、迫力といい躍動感といいやはり凄いなあと。歴史・故事や歌舞伎・浄瑠璃、時々の世相・風俗・事件など、様々なところから題材を取っていますが、何でもござれ、妖怪画も多い。

 河鍋暁斎(1831-1889)、落合芳幾(1833-1904)、歌川芳藤(1828-1887)らと同じく、歌川国芳(1798-1861)の弟子であり、この歌川国芳がまた何でもござれのスゴい人だったわけだけど...。

女盗賊・鬼神お松(明治19年)

 なぜか「天才」とは呼ばれず「鬼才」と言われることの多い芳年ですが、その作風の変遷を見ていると、世阿弥の「守・破・離」という教えを想起します。師から学んだ浮世絵の伝統画法を大事に守りながらも、時代の要請に沿って工夫をこらし、後期の作品においては、なにものにも捉われない自由さ、画面からはみだしそうなぐらいのダイナミズムが感じられます。

月岡芳年 スサノウノミコト m26.jpg 30歳の頃に明治維新を迎え、54歳で没していて、明治に入ってからの作品の方が圧倒的に多いわけで、西南戦争や文明開化なども題材になっていますが、テーマ的にはやはり、「水滸伝」といった中国物も含めた武者絵や、役者絵・美人画・風俗画など、江戸時代の浮世絵のオーソドックスなモチーフが多いのかなあ。

素戔雄尊と八岐大蛇(明治26年)

 それでいて、時代の変化に合わせて描き方がどんどん洗練されてきて、遠近感の使い方などは西洋画法と変わらないものあり、これは当時、これまでの浮世絵に無かった斬新さゆえの人気があっただろうなあと思わせます。

 三島由紀夫なども愛好家だったそうだし、横尾忠則氏にも芳年に関する著書がありましたが、最近また巷では「イラストレーターの先駆」などと言われ、広くブームになっているみたいです(トミー・リー・ジョーンズ父娘は先見の明があった?)。

 この「別冊太陽」のムックは、昨年('11年)の「河鍋暁斎」に続く"生誕120周年"の記念刊行ですが、昨年ぐらいから、『衝撃の絵師 月岡芳年』('11年/新人物往来社)など芳年に関する本が続けて刊行されていて、今や師匠の歌川国芳やライバルだった河鍋暁斎らを超える人気であり、ブームになって比較的入手し易い価格で芳年の作品に触れることができるようになるのは歓迎すべきことです。

月岡芳年の世界0.jpg月岡芳年の世界21.jpg 本当に一作品一作品じっくり鑑賞したければ、少し値が張るのが難点ですが『月岡芳年の世界』がお薦めです。'92年に東京書籍から刊行されたものが絶版になり、古書市場で刊行時の定価(7千円)を若干上回る価格で出回っていて且つ品薄気味だったのが、これもブームの予兆だったのか、、'10年に復刊ドットコムで全く同じものが刊行されました(でも、定価が1万円になっている。18年ぶりだから仕方ないのか)。やはり、根強いファンがいるんだなあと。原則一頁に一作品。解説も丁寧で、専門家のコラムなどもあります(編者は洋画家の悳俊彦(いさお・としひこ)氏。歌川国芳、月岡芳年などの研究家でもある)。これが手元にあると、トミー・リー・ジョーンズにちょっとは近づける?

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モノクロ線画で描かれている点に、正確な形状へのこだわりを感じる。一級品。

イラスト・アニマル-動物細密・生態画集.jpg   アニマルイラスト967.JPG
( 27.8 x 19.8 x 4.8 cm)『イラスト・アニマル―動物細密・生態画集』(1987/08 平凡社)

アニマルイラスト2971.JPG 全534ページのかなり本格的な動物イラスト集(全てモノクロ)で、霊長類、哺乳類、鳥類、両生類・ハ虫類、魚類、さらには昆虫、甲殻類、軟体動物など、無脊椎動物も一部カバーしています。

 本書で動物画を描いている画家は、青山晃ほか15名に及びますが、更に監修者の方はとなると、今泉吉典(動物図鑑監修の常連だったなあ)ほか50名近くになり、正確さを期すことにウェイトが置かれていることが窺えます。

アニマルイラスト2972.JPG 量的な本格度もさることながら、「図鑑」ではなく「動物細密・生態画集」と謳っているように、全編モノクロで描かれていること(線画用の細い筆を使っていると思われる)が、却って正確な形状へのこだわりを感じさせます。

 画家の方も、近似種との相違点や、生態の特徴などを意識して描いているように思われ、むしろ、これだけ精緻なイラストを、たった16人で描き分けていることの方が驚きかも。

アニマルイラスト2973.JPG 本当に動物が好きな人、或いは、動物好きでそうした動物に関する知識を吸収中の子供などは、1ページ1ページめくって、自分の知識やイメージを確かめつつ、解説等を併せて読み、傍に親や友人、更には同好の士などがいれば、その生態を語り始める―といった感じになるでは。

 実際に、図書館で借りて、最初の霊長類のところを開くや否や、アイアイの手が描かれているのを見た子供に、これで木の臍にいるアリを掻き出して捕食するとの講釈を、早速受けました。

アニマルイラスト2974.JPG 「図鑑」ではなく「イラスト」、それもまさに第一級の「動物細密・生態画集」です。

 ホントのところは購入したいのだけど、やや値段が張るのが難点でしょうか。改訂は難しいとしても、復刻しないかなあ。学術上の問題か何かあって、できないのかなあ(古書になっても価格は安くならないんだよね、このレベルの本は)。

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怪奇画、怪獣画のイメージが強いが、美人画もいい。大正・昭和的なノスタルジー感がある。

石原 豪人『新装版 石原豪人(らんぷの本)』.jpg石原豪人08.jpg 石原豪人82.jpg 石原豪人29歳頃.jpg
新装版 石原豪人---「エロス」と「怪奇」を描いたイラストレーター (らんぷの本)』 /「宇宙巨人ジャイアン」[昭和42年4月9日「少年マガジン」ほか/「日本は沈んでいく!」[昭和48年9月「小学四年生」]/石原豪人(1923-1998/享年75)29歳の頃

石原豪人 らんぷの本.jpg石原豪人10.jpg 昭和40年代頃の少年雑誌には「大図解」というグラビアページがあり、「未来世界」「怪奇現象」「怪人」といったテーマで様々な絵が描かれていましたが、そうした挿絵画の常連画家だったのが石原豪人(ごうじん)でした。

石原豪人 (らんぷの本)』(2004)

石原豪人90-91.jpg 本書は'04年に刊行されたものの新装版で、表紙が「怪奇」に「エロス」が加わって、より豪人らしくなったのかな? いずれにせよ、この価格でこれだけ石原豪人の作品を見られたのはお得だったかも。

石原豪人20.jpg 作品を「怪人画」「妖怪画」「怪獣画」「幽霊画」「探偵小説の挿絵」「虚構世界」等ジャンル別に収め、解説を付していますが、スポーツ画や少女雑誌の挿絵などもあって、何でもござれだったんだなあと。

「マンボウ情報局」扉絵[「マンガボーイズ」平成6年9月]

 個人的にはやはり「怪奇画」「怪獣画」のイメージが強いのですが、美人画も良くて、それも、セクシー美女や芸能人の似顔絵に限らず、老若男女を問わず何を描いても色気があり、やはりこの人、振り返ってみればある種"天才"だったのだなあと。

 「林月光」の名でSM雑誌の挿絵も多く描いていて、それらも少ないながらもオミットせずに紹介されていますが(編者は美術館学芸員)、少年雑誌が「まんが誌」化し、「大図解」などの入る余地が無くなったために、こっちの仕事が多くなったという経緯があったのだなあ(彼自身、まんがにも挑戦しているが、1コマ1コマが細密過ぎて体力が持たず、続かなかったとのこと)。

石原豪人75.jpg 高度成長期が終わって、豪人のパワフル過ぎる絵が時代にそぐわなくなってきたという編者の分析もありますが、それが、昭和の終わりから平成にかけて、所謂"おたく"と呼ばれる人たちの間で再注目され、結局、最晩年まで現役で活躍しました。

「松虫」(神谷敬里(=栗本薫)/文)[「ジュネ」昭和54年8月]

 実際に本書にも、平成に入ってからの作品も結構ありますが、常に新境地を開拓しつつも、どの絵を見ても、昭和初期から30年代前半までの街頭紙芝居の絵の雰囲気をどこか保持していて、日本的(大正・昭和的)なノスタルジー感を秘めています。

 こんな絵を描いている人がどんな人柄で、どのようなプライベート生活を送っていたかというと、生真面目な職人気質で、家庭では子煩悩であったようです(自作の怪人衣装でコスプレして、息子の遊び相手をしている写真がある。編集者らと息子を連れて釣りに行った時は、自分はさっぱりだったが、息子のために釣れる場所を一生懸命探していたとか)。

 でも、仕事部屋に電話が2台あって、石原豪人と林月光で使い分けていたというから、ちょっと江戸川乱歩っぽく、また文才もあって、『謎解き坊ちゃん』という著作もあるという―「坊ちゃん」解釈にこだわりを持っていて、「登場人物全員ホモ説」を唱えた―何だか面白い人だなあ。

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自分が大人になる頃にはこうなっていると信じていた時期があった"懐かしい未来"。

昭和少年SF大図鑑 カバー.jpg 昭和少年SF大図鑑.jpg   「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号.jpg
昭和少年SF大図鑑 (らんぷの本)』 ['09年] 「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号口絵)

 昭和20年代から40年代の少年向け雑誌やプラモデルの箱を飾った空想未来絵図を集めたもので、本郷の弥生美術館で展覧会も行われましたが、その弥生美術館で学芸員をしている女性による編集及び本文解説。

 この方面での画家と言えば、個人的には小松崎茂(1915-2001/享年86)の印象がかなり強いのですが、本書を見ると、小松崎茂が第一人者であったことは間違いないようですが、中島章作、伊藤展安、梶田達二、高荷義之、中西立太、南村喬之と、多彩な人たちがいたのだなあと。

 今見ると、これらの概ね楽天的な、時には物理の法則を逸脱したようなイラストには微笑ましい印象も受けますが、子供時代の一時期においては、自分たちが大人になる頃にはほぼ間違いなくこういう時代が来るのだと、「予測図」より「予定図」みたいな感じで半ば信じていて、素敵な夢を見させて貰いました。

 本書は、そうした夢を描いていた頃の自分を思い出させる、"懐かしい"未来図とでも言えるでしょうか。

Fifth Element Cars.jpg 自動車に代わってエアカーが飛び交う様など、リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」('82年/米)やリュック・ベッソン監督の「フィフス・エレメント」('97年/仏)など、映画の中ではお目にかかれていますが、実現はいつのことやら。

Fifth Element Cars (1997)

ゲイリー・オールドマン.jpg 「ブレードランナー」のデッカートが操るポリススピナーに比べて、15年後に作られた「フィフス・エレメント」のパトカーやコーベンが運転するタクシーの方がキッチュに描かれているのが興味深いです(映画自体も、変てこな悪役ゲイリー・オールドマンやラジオDJ役のクリス・タッカーの怪演が楽しめた、肩の凝らない娯楽作品。この作品でも「ディーバ」(歌姫)がモチーフになっているなあ、リュック・ベンソンは)。

 ただ、この本にある、当時描かれた未来図の全てが荒唐無稽だったとは言えず、臨海副都心構想に近いアイデアやリニアモーターカーの原型など、かなり"いい線"いっているものあります。

 "明るい未来図"ばかりでなく、昭和40年代に入ると、公害問題などの世相を反映して"恐ろしい未来図"も結構出てきて、小松崎茂などは、地球温暖化で極地の氷が溶けて関東地方の大部分が水没する想像図なんてのも描いていて先見性を感じますが、だからと言って人間がエラ呼吸器を手術で植え付け、水中生活に適した身体に変えていくというのは、ちょっと行き過ぎ?

Minority Report.jpgTom Cruise  in Minority Report.jpg 同じくネガティブな未来図として描かれている類で、コンピュータに人間の生が支配されたり、コンピュータによって人間の思考や行動が監視される社会などというのは、ウォシャウスキー兄弟の映画「マトリックス」('99年/米)やスティーヴン・スピルバーグ監督の「マイノリティ・リポート」('02年/米)など、近年のSF映画にも類似したモチーフを看て取れます。
 Minority Report (2002)

 但し、「マイノリティ・リポート」(原作は「ブレードランナー」と同じくフィリップ・K・ディック )は、プリコグと呼ばれるヒト個人に予知能力が備わっていることが前提となっていますが(この映画、今思うとあのタッチ・センサーのヴィジュアルには、Windows8の予告編的要素もあった?)。

マイノリティ・リポート06.jpg「マイノリティ・リポート」●原題:MINORITY REPORT●制作年:2002年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ボニー・カーティス/ジェラルド・R・モーレン/ヤン・デ・ボン/ウォルター・F・パークス●脚本:ジョン・コーエン/スコット・フランク ●撮影:ヤヌス・カミンスキー●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:フィリップ・K・ディック ●時間:145分●出演:トム・クルーズ/コリン・ファレル/サマンサ・モートン/マックス・フォン・シドー/ロイス・スミス/スティーヴン・スピルバーグ●日本公開:2002/12●配給:20世紀フォックス (評価:★★★)
 
 今、若者たちが映画で受身的に観ている様な仮想未来社会を、かつての子供たちは、少年雑誌のイラストで見て、自ら想像力を働かせイメージを膨らませていたのだろうなあ(彼らにとって、これらのイラストの乗り物などは、頭の中では映画のように動いていたに違いない)、そして、その中には、今、科学技術の最前線で研究開発に勤しんでいる科学者や技術者もいるのだろうなあと思いました。

「ブレードランナー」●原題:BLADE RUNNER●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:マイケル・ディーリー ●脚本:ハンプトン・フィンチャー/デイヴィッド・ピープルズ●撮影:ジョーダン・クローネンウェス●音楽:ヴァンゲリス●時間:117分●出演:ハリソン・フォード/ルトガー・ハウアー/ショーン・ヤング ●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:二子東急(83-06-05)(評価:★★★★☆)

フィフス・エレメント.jpgクリス・タッカー.jpg「フィフス・エレメント」●原題:THE FIFTH ELEMENT(Le Cinquie`me e'le'ment)●制作年:1997年●制作国:フランス●監渋谷パンテオン.jpg督・脚本:リュ渋谷パンテオン 2.jpgック・ベッソン●撮影:ティエリー・アルボガスト●音楽:エリック・セラ●時間:126分●出演:ブルース・ウィリス/ミラ・ジョヴォヴィッチ/ゲイリー・オールドマン/イアン・ホルム/クリス・タッカー/ルーク・ペリー●日本公開:1997/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:渋谷パンテオン(97-10-24) (評価:★★★★)フィフス・エレメント [DVD]
渋谷パンテオン 東急文化会館1F、1956年オープン。2003(平成15)年6月30日閉館。

【2014年新装版】

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稀有な生き方をした昆虫画家・熊田千佳慕のライフワークであり、遺作となった作品。

ファーブル昆虫記の虫たち5.jpg     熊田 千佳慕.jpg 熊田千佳慕(1911‐2009/享年98)
(28.6 x 27.8 x 1.5 cm)『ファーブル昆虫記の虫たち〈5〉 (Kumada Chikabo's World)』 ['08年]

 2008年9月刊行の本書は、今年('09年)8月に98歳で亡くなった熊田千佳慕(1911‐2009)の『ファーブル昆虫記の虫たち』の「シリーズ5」で、「シリーズ1」から「シリーズ4」までが約10年前('98年)の1年間の間に刊行されたことを思うと、待望の1冊でした(体裁としては、著者自身の文が添えられた「科学絵本」になっている)。

 個人的には、'01年にNHKの「プライム10」で放映された「私は虫である〜昆虫画家・熊田千佳慕の世界」で初めてこの人のことを知り、空襲の跡に引っ越した横浜・三ツ沢の農家の蔵に妻と草花を育てて暮らし、地面に腹ばいになって"虫の目線"で描く独特の画風に興味を覚えました(NHKは、その前年に、BSハイビジョンの「土曜美の朝」で、山根基世アナウンサーによる三ツ沢の熊田宅を訪ねてのインタビューを特集している)。

 番組によると、この三ツ沢の地に居ついてから一度もその外に出たことが無いそうで、絵の「素材」は全て、自宅の庭やその周辺の道端から拾ってきているとのこと、ただ描き写すだけでなく、庭での蝉の脱皮をはらはらしなががら見守る様に、生き物への優しい視線を感じました。
 
 この人、興味ある虫とかを見つけると、何処ででも這いつくばって一日中ずっとそれを眺めているので、自宅の庭でならともかく、近所でそれをやられると奥さんが困ったらしい。

熊田千佳慕展.jpg 本書の「おわびのメッセージ〜あとがきにかえて」によると、奥さんの病気のため、60年住み慣れた"埴生の宿""おんぼろアトリエ"での仕事が出来なくなり、このシリーズの仕事も中断していたとのこと、番組の中で紹介されていたあの描きかけのコオロギの絵はどうなったのかなあと思っていたら、本書の表紙にきていました。

 ブラシなどを一切用いず、筆の毛先だけでの点描法であるため、1枚の絵を仕上げるのに何ヶ月もかかるそうで、しかも、心身充実していなければ、こうした緻密な作品を仕上げることはできない、そうした意味でも、このシリーズは作者自身も天職(ライフワーク)と位置づけている作品です。

 ようやっと一段落したのを機に、'09年には朝日新聞主催で、東京の銀座松屋をスタートして、『ファーブル昆虫記の虫たち』を含む作品の全国巡回展が始まることがあとがきでも告知されていますが、まさに銀座松屋での展覧会の初日(8月12日)が無事に終了した翌日未明に、この"白寿"の昆虫画家は、90年以上描き続けたその生涯の幕を閉じました。
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熊田 千佳慕 (くまだ・ちかぼ)
1911年、横浜市中区生まれ。東京美術学校(現・東京藝術大学)卒業後、デザイナーの山名文夫氏に師事。デザイナー・写真家集団「日本工房」に入社。土門挙らと公私共に親交を深める。戦後、出版美術の分野で活躍するようになり、「ふしぎの国のアリス」「みつばちマーヤ」「ファーブル昆虫記」などの作品を発表。イタリア・ボローニャ国際絵本原画展で入選し、フランスでは「プチファーブル」と賞賛されるなど、国内外から高い評価を得る。2009年8月13日未明、誤嚥(ごえん)性肺炎のため横浜市の自宅で死去、98歳。

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イラストによるビジュアル教材だが、解説は大人の好奇心をも満たすレベル。

スペース 宇宙.jpg 『スペース 宇宙 (insidersビジュアル博物館)』 (2008/01 昭文社)
(26.8 x 24.6 x 1.2 cm)

 米国 Weldon Owen社による国際的出版プロジェクト"insiders"シリーズの日本語版で、このシリーズ、テーマは歴史、考古学、自然、生物・生命、技術に渡り、世界各国で出版されているそうですが、日本でよく見かけるのは生物や恐竜関係ではないでしょうか。そうした中、本書のテーマは「宇宙」。

 全64ページ、オールカラーの見開きイラストで、「宇宙」と言っても幅広いですが、ビッグバンから始まって太陽系の星々を地質学的な観点から解説し、「宇宙の雪だるま」現象や恒星、星雲、銀河について、さらに宇宙探査についての解説までが前半で、後半に太陽系や恒星と銀河の一般的な解説をもう一度もってきているという変わった構成です。

 最近は日本の図鑑などでも、教科書的な順番でなく、こうしたテーマ主義的な構成のものがありますが、まずテーマと大迫力のイラストで惹きつけて、更に関心がある学習者のために、その知的好奇心を満たすだけの詳細な解説がされているというところでしょうか。
 基本的には青少年向け教材らしいのですが、解説部分には結構"大人の好奇心"を満たす専門的なことが書いてあるように感じました。

 全ページに渡る見開きイラストは確かに迫力はありますが、NASAの専属イラストレーターなどが描いたCGと比較すると、やや"絵"的と言うか、"解説"に比重を置いたものになっている気がし、星雲や惑星のイラストはクラシカルな感じさえするものもあります。
 但し、宇宙探査に関する部分(宇宙探査機、月面基地、国際宇宙ステーションなど)はよく描かれていて、解説も詳細です。

 その他に写真も多く使用されていますが、それらはあくまでも解説の一環としてで、サイズも小さく、やはりメインはイラストによるビジュアル―中でも最も"豪華版"なのは、宇宙飛行士を描いた表紙かな(表紙がレリーフになっている!)。

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『大図鑑』と言うより「蛇柄」観賞用イラスト集。図書館で借りて"観る"本。『写真図鑑』の方がお奨め。

ヘビ大図鑑.bmp   千石先生の動物ウォッチング.jpg                爬虫類と両生類の写真図鑑.jpg
(28.2 x 22.6 x 1.8 cm)『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』['00年/ 緑書房] 『千石先生の動物ウォッチング―ガラパゴスとマダガスカル カラー版 (岩波ジュニア新書)』 『爬虫類と両生類の写真図鑑 (地球自然ハンドブック)』['01年/日本ヴォーグ社]

『ヘビ大図鑑―驚くべきヘビの世界』.jpg 本書『ヘビ大図鑑-驚くべきヘビの世界』に見開きで描かれている蛇のイラストはいずれも大変に美しいのですが、一部、生態も含めたイラストがあるものの、半分ぐらいはとぐろを巻いている同じような"ポース"ばかりのもので、せっかくあの「千石先生」が翻訳しているのに、これではそれぞれの蛇の生態がシズル感を以って伝わってはきません(ある意味、"蛇柄"のカタログ)。

 それと、191ページで7000円という価格は、いくら何でも高過ぎ。「3000種を超える世界のヘビを収録」とありますが、イラストで紹介されているのは100種類にも満たないのではないでしょうか(1種を見開きで使っていたら当然そういことになるが)。図鑑と言うより贅沢なイラスト集、それも純粋に"蛇柄"の違いのみを楽しむマニアックなものという印象を受けました。

 蛇マニア("蛇柄"フェチ?)には魅力的な本かもしれませんが、一般の人にとっては、買う本ではなく、図書館で借りる本でしょう(「日本図書館協会選定図書」とのことでもあるし)。

『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』.jpg 図鑑という観点から本書よりもお奨めなのが、『爬虫類と両生類の写真図鑑 完璧版』('01年/日本ヴォーグ社/定価2,500円)。

 版は小ぶりですが、オールカラーで、世界の爬虫類と両生類を400種類紹介していて(写真は600枚)、1つ1つの解説も丁寧。よくこれだけ、写真を集めたなあという感じで、1ページに2種から3種収められていてコンパクトですが、分布、繁殖や類似種から、全長、食性、活動期間帯まで一目でわかるようになっています。

 オリジナルの英国版は両生類4,550種、爬虫類が6,660種が掲載されているそうで(すごい数!)、本書はそのほんの一部の抜粋版であるため、「完璧版」はちょっと言い過ぎのようにも思われますが、それでも蛇だけで160種を超える掲載点数であり、やはりこっちを買うことにしました。


映画「アナコンダ」2.jpg映画「アナコンダ」1.jpg そう言えば、ジェニファー・ロペス、ジョン・ヴォイトが主演した「アナコンダ」('97年/米)という映画がありました。伝説のインディオを探して南米アマゾンに来た映画作家らの撮影隊(ジェニファー・ロペスら)が、遭難していた密猟者(ジョン・ヴォイト)を助けるが、最初は温厚な態度をとっていた彼が、巨大蛇アナコンダが現れるや否や本性を曝け出し、アナコンダを捕獲するという自らの目的遂行のために撮影隊のメンバーを支配してしまう―というもの。

映画「アナコンダ」3.jpg映画「アナコンダ」4.jpg 大蛇アナコンダが出てくる場面はCGとアニマトロニクスで合成していますが、CGのアナコンダはあまり怖くなく、作品としてはどちらかと言うとスペクタクルと言うより人間劇で、アナコンダよりもアクの強い演技がすっかり板についているジョン・ヴォイトの方が怖かった(蛇すら吐き出してしまうジョン・ヴォイド?)。

ラスト・アナコンダ.jpg 後に「アナコンダ2」('04年/米)という続編も作られ(それにしても、南米にしか生息しないアナコンダをボルネオに登場させるとは)、更には「アナコンダ3」('08年/米・ルーマニア)、「アナコンダ4」('09年/米・ルーマニア)までも。「ラスト・アナコンダ」('06年/タイ)というタイ映画や「「アナコンダ・アイランド」('08年/米)という、蛇の大きさより数で勝負している作品もあるようです。

ラスト・アナコンダ [DVD]
ボア vs.パイソン.jpg
 "アナコンダもの"が多いようですが、このほかに、「パイソン」('00年/米)、「パイソン2」(02年/米)、「ボア vs.パイソン」('04年/米(TVM))、「ボア」('06年/タイ)、「ザ・スネーク」('08年/米(TVM))など、蛇を題材にした多くの生物パニック・ホラー映画が作られており、コアな「蛇ファン」がいるのか(CGにし易いというのもあるのかも)。"コブラもの"はあるみたいですが、世界最大の大蛇アミメニシキヘビのものは無いのか? 「ボアvs.パイソン [DVD]

「アナコンダ」●原題:ANACONDA●制作年:1997年●制作ANACONDA 1997.jpg国:アメリカ●監督:ルイス・ロッサ●製作:ヴァーナ・ハラー/レナード・ラビノウィッツ/キャロル・リトル●脚本:ハンス・バウアー/ジム・キャッシュ/ジャック・エップスJr.●撮影ビル・バトラー●音楽:ランディ・エデルマン●時間:89分●出演:ジェニファー・ロペス映画「アナコンダ」dvd.jpg/アイス・キューブ/ジョン・ヴォイト/エリック・ストルツ/ジョナサン・ハイド/オージェニファー・ロペス in 「アナコンダ」.jpgウェン・ウィルソン/カリ・ウーラー/ヴィンセント・カステラノス/ダニー新宿東急 アナコンダ.jpg・トレホ●日本公開:1997/09●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (評価:★★)
アナコンダ [DVD]」/ジェニファー・ロペス in「アナコンダ」


 ガラガラ蛇の生命力の強さを物語る動画があったので、酔狂半分でアップ。"キモい"のが苦手の人は見ないで。

蛇は頭だけになっても襲いかかってくる

 
Python eats Alligator, Time Lapse Speed x6

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"トバッチリ"が空を舞う。「西海岸」らしくていい。皆が憧れた時代があったなあと。

鈴木英人 表紙作品集 FMステーションイラストレイテッド」.jpg   鈴木英人 表紙作品集 FMステーションイラストレイテッド」4.jpg
『鈴木英人 表紙作品集 FMステーションイラストレイテッド』('84年/ダイヤモンド社)

 "わたせせいぞう"らとともに80年代を象徴するイラストレーターだった(山下達郎のジャケットデザインを数多く手がけている)鈴木英人(えいじん)の初期イラスト集で、ダイヤモンド社が発行していたFM情報誌「FM STATION」の'81年の創刊から'84年までの表紙を飾ったものを集めた「FM STATION」初の別冊ムック('84年12月刊行、当然のことながら現在絶版...。最近、この人の作品集、カレンダー以外では見かけないなあと思っていたら、「筆まめ」のソフトにあった。この手の絵は、季節的には冬の方が売れるのだろうか)。

Tatsuro Yamashita -山下達郎--あまく危険な香り(1982) (extended version) with 鈴木英人

 結局、鈴木英人は'88年まで「FM STATION」の表紙を担当することになりますが、'81年の最初の頃はミュージシャンの顔を描いていたのが、次第にアメリカ西海岸の風景などをモチーフにしたものへと移り、それで急速に人気上昇したという経緯があります。

 わたせせいぞうと画風が似ていて、どのイラストにも、赤や緑や青や黄色の帯状のもの、本書解説の美術評論家・東野芳明氏に言わせれば「竹とんぼの羽根のような、かもめの翼のような、空飛ぶナメクジのような(これ、東野氏の娘さんが言ったらしい)、光線の束のような(これ、東野氏の奥さんが言ったらしい)"トバッチリ"が空を舞っている」のも似ています。

鈴木英人 表紙作品集 FMステーションイラストレイテッド」3.jpg わたせせいぞうは漫画家でもあるためか、イラストにも人物(日本人)が描かれることが多いのに対し、こちらは殆ど人物は出て来ないため、"西海岸"そのものという感じで、個人的には、和洋折衷型の前者(わたせせいぞう)よりはこっち(鈴木英人)の方が好きでした。

 鈴木英人は西海岸をドライブしながら撮った写真からイラストを描き起こしていたそうですが、ナルホド、そうした雰囲気がよく出ているし、FM・AMのラジオ・ステーションやその広告の看板などは、「FM STATION」の表紙にピッタリ。

 "ハードロック・カフェのマッチ"とか(本書のイラストでは「ロンドン」のロゴがあるのがミソ)、このイラスト集の影響でもないですが、自分もアメリカに行った際にいくつかの都市のを集めたりしましたが、ハードロック・カフェは今や上野にさえも店がある...。

 巻末にカセットケース・レーベルとして使えるイラスト(裏面に曲目が書き込めるようになっている)が付いていますが、何せ"カセット"だから時代を感じさせる...(本書の"保存版"としての価値を考えれば切り離して使わなくて良かった?)。

Tatsuro Yamashita -山下達郎- For You(1982) (Full Album) with 鈴木英人

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絵本作家であり、シニカルな風刺画家であり、エログロ・アートも手掛ける作者の絵本。

すてきな三にんぐみ.jpg  The Three Robbers.jpg  フォーニコン.jpg Jean-Thomas (Tomi) Ungerer.jpg Jean-Thomas (Tomi) Ungerer
すてきな三にんぐみ』['69年/偕成社]/"The Three Robbers" /『フォーニコン』['99年/水声社]

Tomi Ungerer.jpg 黒いマントに黒い帽子の泥棒三人組は、次々と馬車を襲い、奪った財宝をかくれがにため込んでいたが、ある夜、三人組が襲った馬車に乗っていたのは、意地悪な親戚に引き取られるところだった孤児のティファニー。親戚に引き取られるぐらいならこの三人組の方がおもしろそう!と泥棒の隠れ家に行き、宝の山を見て「これ、どうするの?」―。

ゼラルダ.JPG 1961年に絵本作家トミー・アンゲラー(ウンゲラー)(Tomi Ungerer)が30歳で発表した絵本で(原題:Die Drei Räuber、英題:The Three Robbers)、三人組の泥棒がひょんなことから全国の孤児を集めて城をプレゼントするというハッピーエンドですが、ここまで色んなものを削ぎ落として話を単純化してしまっていいのかなあというぐらいシンプルなストーリーで(「富の再配分」がテーマであるとも言える)、それでも日本では人気の高い作品です(手元にある偕成社の'06年版は166刷になっている)。アンゲラーの作品の中では同系統の作品とも言える『ゼラルダと人喰い鬼』(英題:Zeralda's Ogre)なども、日本でも結構読まれているのではないでしょうか。

ゼラルダと人喰い鬼 (評論社の児童図書館・絵本の部屋)

 トミー・アンゲラーは1931年フランス生まれで高校を中退して北欧やアフリカを放浪した末、1957年、25歳でニューヨークに渡り、職探しに苦労しながらも広告美術の世界に仕事を得、絵本創作の傍らイラストレーター、ポスター作家、グラフィックデザイナーとして現在も多彩な活躍している人で、この作品も、黒や藍をベースとした鮮明な色調に、グラフィックデザインのような特色が窺えます。

"Une Soiree Mondaine (THE PARTY)"より
Une Soiree Mondaine (THE PARTY)2.jpgUne Soiree Mondaine (THE PARTY).jpgアンゲラー1.jpg 自分の娘に捧げたこの絵本にはほのぼのとした味わいがありますが、彼のイラスト作品などの多くは毒気を含んだ風刺精神に満ちたもので(絵本の動物戯画などにもそれが現れている)、その戦争や差別に対する批判には、人間や社会に対する彼自身のシニカルな視線が感じられ(社交界の紳士淑女を痛烈に諷刺した『THE PARTY』は有名)、これは彼が移民というマイノリティであったことに関係しているのかも知れませんが、この作品の泥棒達も隠れ家に潜む"義賊"であり、「富の再配分」を実践することで、金持ちをストレートに批判しているともとれます。

TOMI UNGERER:FORNION.jpg"Fornicon"より
Fornicon2.gifFornicon1.gif アンゲラーには「機械仕掛けの欲望装置」というコンセプトに基づく"SM×ナンセンス"がオンパレードの『フォーニコン(Fornicon)』というイラスト作品集(作中の絵を模したフィギアも作っている)もあります(いやらしいというより、どことなくお洒落なセンスが漂うけれど、やはりドイツっぽいなあ)。
   
TOMI UNGERER: "FORNICON"  1971年 DIOGENES(ドイツ語版)

アンゲラー2.jpg Tomi Ungerer4.gif そうかと思えば、社会的活動としてはフランスとドイツの文化交流の橋渡しにも尽力していたりし、人間の多面性というものを如実に示しているアーティストだと思います。

 左のイラストなどはその両方の要素("エロ・グロ"と"仏独友好")が入っているとも言えますが...、大丈夫なのかなあ、こんなの描いて。

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ピンナップ女性が、コスプレ的にメタリックな装飾をしている? 新しそうで古い。

The Gynoids (Paperback).jpg 『ガイノイド』 ['95年](ペーパーバック 36.1 x 25.4 x 1.3 cm ) ガイノイド.jpg 『ガイノイド』 ['93年](ハードカバー)/『ガイノイド』 ['93年](ペーパーバック 37 x 26.8 x 1 cm)

aibo.gif イラストレーターで、SONYのAIBOのデザインでも知られる空山基(はじめ)の作品集ガイノイド・シリーズの一番初期のもの。ペーパーバック版('95年)の2年前にハードカバー版(トレヴィル社)が出ていています。

air.jpg 『セクシー・ロボット』('88年)という画集で国内外に知られるようになった空山基(多くの人が、彼の描くメタリックな女性ロボットの絵、またはそのマネモノを見ているはず)ですが、「ガイノイド」とは、SF的発想に基づく機械人間系ロボット、つまりサイボーグの女性版とのことです。

 この人はもともと80年代にピンナップ画からスタートした人ですが、その時すでに、ピンナップ画はノスタルジアの類になっていて、そこで、新世紀のエロティシズムを探究した結果、「ガイノイド」という発想をSFから取り込んだことのようですが、どちらかと言うと、この作品集の初期シリーズは、ピンナップ女性が、コスプレ的にメタリックな装飾をしているようにも見えます(エアーブラシの技術はピカ一。新聞広告の車の光沢なども、全てエアーブラシで仕上げをしていることを知っている人はどれぐらいいるだろうか)。

 ボンデージ・モチーフを入れているのも特徴ですが、そのスタイルがヨーロピアン・クラシカルという感じで(全然「新世紀的」ではない)、こういうの、外国人の嗜好には合うのかも知れないが、日本人向きではない。
 実際、外国人女性ばかり描いた作品集は海外で売れていて、日本では、ボンデージからも外国人からも離れて、単にメタリックなロボットか(アート誌の表紙とか)、ただ肉感的な日本人ピンナップを(二見文庫のカバー絵とか)描くような仕事ぶりが見られます。

メトロポリス.jpg ペーパーバック版の表紙にある絵をはじめ、フリッツ・ラングの「メトロポリス」('27年)をモチーフにした作品がいくつかありますが、以前この映画をドイツ文化センターに見にいったとき、手塚治虫が観客として来ていました。
 「ロボット愛」ということでは、手塚の方が、より根が深いかも。彼は成熟した女性を作品の主人公にすることはなく、女に成り切っていない少女ばかりをヒロインにしましたが、「ロボット」というのは、女に成り切れないという意味では少女の表象ともとれ、手塚にとっての「ロボット」は、時に少女と等価であったのではないでしょうか。
メトロポリス」 (1927年) DVD

 一方、空山の絵のベースにあるのは、やはり80年代のピンナップのような気がし、それにクラシカル・ボンデージが加味されているとすれば、新しそうで、実は古いというのが、この作品集の特徴ではないかと思います。

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CGがいいか、筆画がいいか。研究成果とともに変遷する恐竜画(像)。

寺越慶司の恐竜.jpg 『寺越慶司の恐竜』 恐竜.jpg 『恐竜 (小学館の図鑑NEO)
( 25.6 x 24.8 x 2 cm)

小田隆.jpg 「小学館の図鑑NEO」シリ-ズの第1期全16巻が5年がかりで出揃いましたが、その殆どを買い揃え、NEO版『恐竜』('02年)も当然購入済み。この『恐竜』に最も多く「恐竜画」を提供しているのが、市川章三、小田隆の両画家で、背景画も含めた迫力ある恐竜画などは、挿絵と言うより絵画作品に近いものがあります(時々、署名が入っているものがありますが、その気持ちワカル)。
小田 隆 氏 (古生物アーティスト)

寺越慶司.jpg  NEO版『恐竜』の両氏の絵は、筆を用いて描かれてた油彩乃至アクリル画だと思われますが、一方、この寺越慶司氏はCGによる恐竜画の第一人者で、本書『寺越慶司の恐竜』に描かれた恐竜は、目の輝きや皮膚の質感は、CGならではのリアルさです(「図鑑」と言うより「CG画集」の趣き)。
寺越 慶司 氏 (CGアーティスト)

 どちらが良いかはその人の好みの問題だと思いますが、皮膚の彩色では、市川氏や小田氏が筆で描いたものの方が凝った感じで、恐竜の大きさをイメージさせる遠近感も出ているかも(但し、皮膚の色については、皆さん想像で描いているわけですが)。

一般書店向けのチラシ.jpg 一方、皮膚の質感や光沢は、寺越氏のCGの方がより本物に近く見せていて(何となく既視感を感じるのは、これが映画「ジュラシック・パーク」などの恐竜とダブるため?)、本書前半部分では闘う・反撃する・追う・追われる・吠える・育てるといったテーマごとに恐竜たちを描いていますが、精緻さが絵をよりダイナミックなものにしています。

 本書では、図鑑形式をとりながらも、その恐竜画を描いた際の経緯や工夫・研究した点が所々記されていて、著者のそれぞれの恐竜に対する思い入れが感じられます。
 興味深いのは、同種の恐竜が時代とともに描き方が変遷していることを、自らの作品において示していることです。

 市川、小田両氏もそうですが、寺越氏も、最新の古生物学の研究情報を基に描画していて、この世界、どんどん新たな恐竜の化石の発見や、定説を覆すような研究成果の発表があるらしく、そうした動きに対応していこうとするならば、今後は、描き直しが難しい筆画よりもCG画の方がアドバンテージは高いということになるのでしょうか。
 ただし、寺越氏の描画工程が本書に紹介されていますが、これ見ると、CGも決して楽ではないことがよくわかります。

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パロディ満載、イラストも文章も楽しめ、特に、戯作「雪国」では文才が光る。

倫敦巴里2.jpg倫敦巴里1.jpg倫敦巴里 (1977年)』話の特集 倫敦巴里2.jpg

I倫敦巴里4.jpg 著者が「話の特集」('66年創刊)に'66(昭和41)年から'77(昭和52)年にかけて発表した様々なパロディを一冊の本にしたものです('77年の刊行)。パロディとしてのイラストも文章も何れも理屈抜きで楽しく、特に文章パロディのセンスには舌を巻きます。

 冒頭の「暮しの手帳」のパロディ「殺しの手帳」には有名ミステリの多くのトリックが参照されていて、どの作品だったか思い出すのが楽しく(全部わかれば相当のミステリ通、と著者自身が述べています)、また、イソップの「兎と亀」の寓話を、ジョン・フォード、市川昆から黒沢明、フェリーニまで20人以上の内外の監督の作風に合わせて脚色してみせていて、こちらも、どの作品から引いているかというマニアックな楽しみ方ができます(本人弁によると、マニアックの度が過ぎないようにするのが難しいとか)。

倫敦巴里3.jpg その他にも、様々なパロディのオンパレードですが、何と言っても圧巻なのは、'70年から'77年の間5回に分けて掲載された、川端康成('68年ノーベル文学書受賞)の「雪国」の冒頭部分を、多くの文筆家らの作風に合わせて偽作したもの。

 とり上げられているのは、庄司薫、野坂昭如、植草甚一、星新一、淀川長治、伊丹十三、笹沢左保、永六輔、大薮春彦、五木寛之、井上ひさし、長新太、山口瞳、北杜夫、落合恵子、池波正太郎、大江健三郎、土屋耕一、つげ義春、筒井康隆、川上宗薫、田辺聖子、東海林さだお、殿山泰司、大橋歩、半村良、司馬遼太郎、村上龍、つかこうへい、横溝正史、浅井慎平、宇能鴻一郎、谷川俊太郎の総勢32名で、イラストが本業の著者の文才が光っていて、これは「あなたのライフワークですか」と人から聞かれたこともあったというぐらいの凝りよう。

 これだけでもこの本の価値は高いような気がし、初版本ではないけれど、所有していることを少し自慢したくなるような本。著者は'94(平成6)年に第42回「菊池寛」賞を受賞しており、この賞は挿画家(画家・漫画家・イラストレーターを含む)では過去に、横山泰三、岩田専太郎、近藤日出造、山藤章二、加藤芳郎、中一弥らが受賞、著者より後では、東海林さだお、風間完らが受賞しています。

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懐かしいプラモデルの箱絵など。"昭和レトロ"を感じさせる異能の職人的画家。

図説小松崎茂ワールド.jpg       小松崎茂.jpg      ソーラー・シティ.jpg "ソーラー・シティ"
図説 小松崎茂ワールド』['05年] 小松崎茂(1915-2001/享年86)

 密林の冒険児.jpg小松崎茂と言えば、サンダーバードのプラモデルのボックスアート(パッケージアート、箱絵)のイメージが強くあり、サンダーバードに限らず、タミヤのドイツ戦車やゼロ戦などのプラモデルのボックスアートも印象に残っていますが、本書を見て、ボックスアートばかりでなく、様々な仕事を手がけていたことを知りました。

 昭和30年代に創刊された「少年サンデー」「少年マガジン」などの少年漫画雑誌の戦記特集などの挿画も多く手掛けているほか、それ以前からSF・未来世界を描いた作品も数多くあり、自分自身も雑誌などでそうした彼の作品を見ながら、それが小松崎茂という画家の手によるものであるという認識はないながらも、エアカーが超高層ビルの間をぬって疾走する未来社会を夢想した1人であることは間違いないようです。

"密林の冒険児" 

雷電.jpg 小松崎の活躍の始まりは昭和20年代の冒険活劇物語(いわゆる「絵物語」)で、作家として物語を書きつつ挿画も書いていたようですが、「大平原児」とかウェスタン調のものが多いのが面白い。
 また、この画集でやはり圧倒されるのは、「モスラ」などの特撮映画の担当もしたというリアルなメカニックで、その精緻さは戦争モノから宇宙モノまで共通していて、時代を感じさせない現代的な感じがします。

"雷電" 

育ったのが東京の下町(南千住)で、仕事場は宇宙コロニー.jpg 乱雑の極みでしたが、どうしてこういう環境でこのような垢抜けた絵が描けるのか不思議な気もしました。若いころの写真を見ると、小太りでオタクっぽい感じがあります。
 老境に至って"気骨の画家"、あるいは"飄々とした"という感じの独特の風貌を呈していますが、昔から下町のスケッチなども多く描いていて、それらを見ると少し和みます。

 "昭和レトロ"を堪能させてくれるこの異能の職人的画家は'01年に亡くなりましたが、固定ファンが結構いるせいか、作品を集めたサイトもいくつかあるようです。
"宇宙コロニー"

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江戸庶民の生活の息吹が感じ取れて楽しい図絵集。時代小説ファンにお薦め。

三谷一馬『江戸商売図絵』青蛙房 昭和38年発行.jpg江戸商売図絵8.JPG商売.jpg 三谷 一馬.jpg 三谷 一馬(1912-2005/享年93)
江戸商売図絵 (1963年)』青蛙房 『江戸商売図絵』中公文庫 〔95年〕
『江戸商売図絵』.jpg
 文庫本で600ページ以上ある江戸時代(中期以降)の「商売図鑑」で、店商売や物売りから職人や芸人まで数多くの生業(なりわい)の様を絵画資料から復元し、それぞれにわかりやすい、結構味のある解説を加えています。

 「紅屋」で"光る口紅"を売っていたとか、「髢屋」(かもじ=つけ毛・ウィッグ)とか、江戸時代の庶民は大いにお洒落を楽しんだ?
 「鮨屋」「鰻屋」「居酒屋」のように今の時代に引き継がれているものもありますが、「楊枝屋」「烏帽子屋」となると、店を構えた上でのこうした単品の商売が成立ったのが不思議な気もして、現代のスーパー・コンビニ社会から見ると驚くべき細分化ぶりです(「鳥屋」でペットと鳥肉を一緒に売っている図もありますが)。

江戸商売図絵 1975.jpg 物売りにしても多彩で、「ビードロ売り」とか「水売り」とか風流で、「八百屋」「魚屋」などが江戸と大阪で格好が違ったりするのも面白し、「熊の膏薬売り」が熊の剥製を被っているのは笑えて、「物貰い」というのがちゃんとした職業ジャンルであったことには驚かされます(掛け声や独特のパフォーマンスなども紹介されています)。
 さすがに「七夕の短冊売り」とか月見用の「薄(ススキ)売り」というのは、年中それしか扱っていないというわけではないのでしょう。

三谷 一馬 『江戸商売図絵』.jpg 青蛙房から出版された元本の初版は'63年で'75年に三樹書房から新装版が出されましたが、古書店で5万円という稀こう本的な値がついたらしく、やはり小説家とか劇画家には重宝したのかも...。
 本書は'86年の単行本(定価4,600円)を元本として文庫化したものですが(価格は定価1,300円に)、江戸庶民の生活の息吹が感じ取れて一般の人にも充分楽しいし、時代小説好きならば、そうした本を読む際のイメージがより生き生きするのではないかと思います。

『江戸商売図絵』 三樹書房版 (1975)[上]/『江戸商売図絵』立風書房版(1986)[右]

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