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「インカの世界」入門だがやや専門的? 人類学者と写真家のざっくりしたコラボ。

インカの世界を知る.jpgインカの世界を知る (岩波ジュニア新書)

 南米アンデス地方を中心に栄えたインカとはどのような文明を持ち、どのような人々が暮らしていたのか。神秘と謎に包まれたインカの魅力を多数の写真とともに紹介した、いわば「インカの世界」入門といった感じの本で、人類学者でラテンアメリカ研究を専門とする木村秀雄氏による第1部「インカを知る」(約50ページ)と、写真家・高野潤氏による第2部「インカを知るための10の視点」(約140ページ)から成ります。

 これまで高野潤氏のインカに関する著書を何冊か読んできて、写真家でありながら、インカについて殆ど学究者クラスの造詣の深さを感じていましたが、著者が出るごとに、どんどんインカ道の奥深くに分け入っていき、それはそれでいいのですが、読んでいて、今どの辺りにいるのか分からなくなってしまったりして(笑)。また、それらの本は、ある程度インカの歴史などを理解している読者を想定しているフシもあり、今一度、インカのことを"おさらい"しておきたく思っていた時に出た本で、ちょうどいいタイミングと思い、本書を手にした次第です。

 と言っても、高野潤氏の担当パートである第2部の「10の視点」は、やはりややマニアックというか、(内容的には面白いのだが)ジュニア新書にしてはやや専門的な内容にも思え、一応その前に、木村秀雄氏による第1部「インカを知る」で、インカとは何か、インカ国家はどのように拡大し変質したのかといったインカの歴史から、アンデス山脈の地勢・気候・自然、アンデスの文明・農牧畜、アンデスやクスコ地方の牧畜儀礼などが網羅的・概観的に書かれているので、この第1部と第2部の組み合わせで、入門書としての体裁になっているのだろうとは思いますが、「入門」的内容もあれば専門的内容もあり、「入門書」かと言われるとどうか―ややざっくりしたコラボになっているように思います。

 例えば、もう少し歴史にも重点をおいて"おさらい"して欲しかった気もします。木村秀雄氏は人類学者であり、高野潤氏もフィールド・リサーチャーっぽいところがあるので、流れとしては第1部と第2部が繋がっているのですが、インカの歴史に関する記述が第1部・第2部ともあまりに簡潔すぎて、物足りなかったでしょうか。

 とは言え、全体としては楽しく読めました。高野潤氏は、本書においても引き続き、インカ道を奥深く分け入って行っているという印象でしょうか。写真も(モノクロではあるが)豊富で、神殿や聖所、儀礼・神託所、マチュピチュやビルカバンバ山中の都市、数々の奇岩や水路跡、階段畑、カパック・ニャン(インカ道)、墳墓などの多くが写真付きで紹介されています。ジュニア新書だからといって手抜きしないというか、それが、裏を返せば、あまり、ジュニア新書という感じがしないということにもなっているのかもしれません。

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自身の良き師、善きメンターを持ったという経験が、後継を育てる姿勢に繋がっているのでは。

ニュートリノの夢 岩波ジュニア新書.jpgニュートリノの夢 (岩波ジュニア新書)梶田隆章 小柴昌俊1.jpg 梶田隆章氏(左)と小柴昌俊氏(右)(「産経新聞」(平成25年9月27日))
梶田隆章ノーベル賞3.jpg 2015年のノーベル物理学賞に、ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動を発見したとして梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長が選ばれ、日本人の物理学賞の受賞は、前年の赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏に続いて11人目(外国籍の日本人含む)となりました。この内、素粒子研究の分野での受賞は、'49年の湯川秀樹、'65年の朝永振一郎、'02年の小柴昌俊氏、'08年の南部陽一郎氏(今年['15年]7月に満94歳で逝去)・小林誠氏・益川敏英氏の3氏同時受賞に次ぐ7人目で、日本人がこの分野に強いことを示していると言えますが、更にこれを「紙と鉛筆でできる」とも言われる「理論」と、大型の観測装置や加速器を使って理論を検証する「実験」の2分野に分けると、「実験」で今回の梶田氏の前にノーベル賞を貰っているのは、梶田氏の師にあたる小柴氏のみとなります。

スーパーカミオカンデの実験.jpg 本書は、その小柴氏の口述をベースに2009年1月から2月にかけて46回に渡って「東京新聞」に連載された「この道」を加筆・修正してまとめたもので、第1章で、小柴氏がノーベル賞を受賞する理由となった、カミオカンデにおける宇宙ニュートリノの検出の経緯が書かれ、第2章から第5章までで小柴氏の生い立ちやこれまでの研究人生の歩みが描かれています。そして、最終第6章で、スーパーカミオカンデの設置や平成基礎科学財団の設立、これからの夢について書かれていますが、この中に、今回の梶田氏のノーベル賞受賞の報道でしばしば取り上げられる、1998年に岐阜・高山市で行われたニュートリノ国際学会で、ニュートリノ振動の存在を実証したスーパーカミオカンデの観測結果を梶田氏が発表した際のことも書かれていて、梶田氏の講演が終わると、聴衆が立ち上がって「ブラボー」と叫んで拍手が沸き起こり、まるでオペラが終わったような騒ぎになったとあります(小柴氏は学会に来ていた南部陽一郎氏(小柴氏より5歳年上)とその晩食事を共にし、南部氏に「よかったねえ」と喜ばれたという)。この時点で小柴氏もまだノーベル賞を貰っていないわけですが、小柴氏が自らの受賞の時に、まだまだスーパーカミオカンデでの研究から日本人ノーベル受賞者が何人か出ると言っていたのは、その確信があっての発言であったことが窺えます。

「東京新聞」2015年10月7日

 その小柴氏のノーベル賞受賞の際に、大マゼラン星雲内で16万年前に起きた超新星爆発(天文学では「1987年2月に起きた」という言い方をするわけだが)で生じたニュートリノを、カミオカンデが出来た僅か4年後に捕まえることが出来たのは「実にラッキーだった」という見方もあったように思いますが、本書を読むと、宇宙ニュートリノの観測をしていたライバルの研究グループが世界に複数あって、チャンスはそれらに均等に訪れ、その中で、少ない予算で小さな装置しか持たなかった小柴氏率いる日本チームが最も早く正確に超新星ニュートリノを観測することに成功し、他グループはその追認に回ったこと、また、こうした少ない予算で外国との競争に勝つための独自の戦略が小柴氏のチームの側にあったこと分かりました。

小柴 昌俊.jpg その小柴氏ですが、本書を読むと、子どもの時から神童だったというわけではなく、何とか旧制第一高等学校に入ったものの一高時代も落ちこぼれで成績が悪くて、「小柴は成績が悪いから(東大へ進学しても)インド哲学科くらいしか入れない」と話す教師の雑談を聞いて一念発起し、寮の同室の同級生の朽津耕三氏(現・東京大学化学科名誉教授)を家庭教師に物理の猛勉強を始め東大物理学科へ入学したとのことです。

朝永振一郎.jpg こうした小柴氏を可愛がったのが朝永振一郎(1906-1979)で、2人ともバンカラぽくってウマが合ったというのもあったようですが(本書にある数々の師弟エピソードがどれも可笑しい)、やはり朝永振一郎という人は小柴氏の持つ"何か"を見抜いていたのだろうなあと思いました。本書は小柴氏自身によるものなので、どこを見込まれたのか分からないという書き方になっていますが、小柴氏自身、良き師、良きメンターを持つことの大切さを身をもって経験し、それが、氏の「後継を育てる」ことを重視する姿勢に繋がっているように思います。小柴氏の後継としてスーパーカミオカンデを率いた小柴・戸塚さんから梶田さん.jpg戸塚洋二 asahi.com.jpg戸塚洋二氏が'08年に満66歳で早逝した際は、これで実験グループの日本人のノーベル章受賞はやや遠のいたかに思えましたが、梶田氏という後継がしっかり育っていたということになります。

     「朝日新聞」(asahi.com)2008年7月11日

「読売新聞」(YOMIURI ONLINE)2015年10月7日

 その梶田氏は、出身大学は埼玉大学で、この人も普通の研究者のように見えて、実は尋常ならざる研究者「魂」の持ち主であるようですが、それを見抜いたのが小柴氏ではないかと思います。梶田氏は、今回の受賞インタビューで、「小柴組は徒弟制だと思う。先生は若手の育て方がうまかった。特別な才能で、それを受け継ぐことはできなのでは」と笑って語ったとのことです(「朝日新聞」2015年10月9日)。

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「宇宙塵」を通して宇宙や星、地球などの誕生の謎に迫り、更には生命誕生の謎にも。

星のかけらを採りにいく.jpg    矢野 創.bmp 矢野 創・慶應義塾大学院特別招聘准教授
星のかけらを採りにいく――宇宙塵と小惑星探査 (岩波ジュニア新書)』['12年]

 ある意味、2010(平成22)年6月に地球に大気圏再突入した「はやぶさ」の"偉業"達成効果の流れで刊行された本であり、著者自身「はやぶさ」プロジェクトにおいてカプセル回収・科学輸送斑の責任者であったわけですが、「プロジェクトX」風の本が多い中、本書は、宇宙のチリである「宇宙塵」とういうものを通して、そこに秘められた宇宙や星、更に地球などの誕生の謎に迫ることができることを解説した科学入門書に近い内容。

 その上で、「星のかけら」を採りにいくことの意義を改めて理解させてくれる本でもあり、ジュニア新書らしい切り口ですが、内容のレベル的には大人向けと言っていいかも(まあ、知識欲旺盛な中高校生もいれば、そうでない大人もいるが)。

 「宇宙塵」というものは日々地球に降り注いでいるわけで、でも大気圏通過の際に変質したり、地球に到達してからもやはり地球の大気などの影響で変質したりするし、そもそもどこから来たものかが殆どの場合不明であるから、結局、オリジナルを星に獲りにいくのがいいわけなんだなあと。

 今まで探査機が訪れた小惑星は幾つもあるようですが、2011年にNASAが到達したヴェスタは直径530km、それに対し「はやぶさ」が到達したイトカワは最大直径0.5kmと、1000倍以上の大きさの差があるとのこと。日本は随分小さな小惑星をターゲットに選んだものですが、これは打ち上げスケジュール上の地球とのその時点での小惑星の位置関係の問題などもあったのでしょう。

 本書で興味深かったのは、「生命前駆物質」である有機物や水が、宇宙塵に乗って地球に降ってきて、それが地球における生命誕生の始まりとなった可能性も考えられるということで、地球に到達する宇宙塵には火星などからのものも相当あるとのことで、そうなると、地球生命の起源はもしかして火星にあったりして...。

 火星の地質探査などが今話題になっていますが、一番の注目はそこに有機物の痕跡があるかどうかということ(かつて水があったことは、今世紀に入ってほぼ明らかになっている)―それが何億年も前の地球生命のルーツかも。

 火星の筋状の表面から運河を空想し、知的生命がいるかも知れないとのイマジネーションのもとSF『宇宙戦争』を書いたのがH・G・ウェルズですが、まあ90年代後半にアメリカが火星に送った「マーズ・パスファインダー」の探査車(マーズ・ローバー)は運河も火星人も映し出さなかった―でも、「有機物の痕跡」となると、可能性はゼロではないかもしれません(X線分光計でデータを地球に送るよりは、試料を直接持ち帰った方がいいのだろうけれど、アメリカの場合、それが出来るのであれば、いっそのこと火星旅行(有人飛行)ということになるんだろうなあ)。

 本書を読むと、宇宙探査には①フライバイ、②ランデブー/オービタ、③着陸、④ローバー、⑤サンプルリターンの5種類があり、①から⑤まで全て無人探査機でできて、最も難しくハイリスク・ハイリターンなのが⑤の試料を地球に持ち帰るサンプルリターン。日本の「はやぶさ」プロジェクトは、だからこそサンプルリターンにこだわったということがよく分かりました。

 各章末に、著者自身の生育史、研究者としての歩みがエッセイ風に織り込まれていて、著者の人となりなども窺え、親近感が持てました。

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興味深い切り口。国家間の経済力格差などについて結構考えさせられる。

世界の国1位と最下位2.jpg世界の国1位と最下位1.jpg
世界の国 1位と最下位――国際情勢の基礎を知ろう (岩波ジュニア新書)

 同じく岩波ジュニア新書にある著者の前著で、宇宙史、地球史、生命進化史、人類進化史を全部繋げて1冊に纏めたとでも言うべき本『人類が生まれるための12の偶然』('09年、監修:松井孝典)が個人的にはスゴく面白かったので、本書にも同様に期待しましたが、そこそこに楽しめた―と言うより、国家間の貧富の格差などについて結構考えさせられたという印象でしょうか。

 面積、人口、GDP、税金、軍事力、石油・天然ガスの生産、輸出、貧困率、食糧自給率、進学率の各項目について、世界で最高の国、最低の国を挙げ、その背景や問題点を説明するとともに、それぞれの項目における日本の位置なども解説していますが、やはりこの著者の持ち味は、こうしたユニークな切り口でしょうか。

 読んでみて大方の予測がつくものもあったけれど、知らなかったこと(特に「最小」の方)、意外だったことも結構あったなあと思った次第で、その幾つかを挙げると―、

 国土面積がバチカン(0.44平方キロ)、モナコ(2平方キロ)に次いで小さい国は、ニューギニア東方中部太平洋の島国ツバル(21平方キロ)、その次はツバルの傍のナウル(26平方キロ)。人口がバチカン(800人)に次いで少ないのも(モナコは除かれ)ツバル(9700人)、ナウル(1万1000人)。更に経済規模(国民総所得=GNI)が一番小さいのも(バチカンも除かれ)ツバル、ナウルの順。

 ツバルは、地球温暖化で水没してしまうのではないかと危惧されていると本書にもありますが、その兆候は今のところないという話も(しかし、国内の最高標高が5mだからなあ)。

ナウル 重量挙げ.jpg 一方ナウルは、ロンドン五輪に出場したその国の重量挙げのイテ・デテナモ選手のことが新聞に出ていたなあ。最重量級で14位に入っていたのは立派(2012年8月9日付朝日新聞)。地下資源の涸渇で経済的に困窮していて、その選手も現在失業中。新聞にはトンガに次ぐ肥満大国ともありました。

イテ・デテナモ(重量挙げ、ナウル)[朝日新聞デジタル:ロンドンオリンピック2012]

 税と社会保障の国民負担率が最も大きな国はアフリカ南部のレソト(51.5%)。続いてフランス(44.5%)、ハンガリー(43.6%)...。GDPに対する国家財政の累積債務比率が最も高いのはジンバブエ(220%)。但し、先進国で断トツ「は日本(170%)。

 世界一の産油国はロシア。但し、埋蔵量ではサウジアラビア、カナダ、イラン、イラクなど7カ国がロシアを上回る。

 一人当たりのGDPが最も少ない最貧国は、アフリカのブルンジ(1万4000円)。因みに最大はルクセンブルグ(930万円)。

 高等教育への進学率が最も高いのはキューバで109%(!!)。高等教育への進学年齢(日本で言えば18歳)を分母とした場合、社会人になってからの進学者が分子に入ってくると、理論上100%を超え、キューバは実際にそうなっている。

 まあ、こうやって国名や数字を見ていくだけでも興味深いですが(数字には年代と共に変化していくものも多くあるが)、本書ではそれぞれの解説において更に突っ込んで、こうした数字の背景にある諸問題を浮き彫りにしてもいます。

 数値データだけなら、『朝日ジュニア学習年鑑』(前身は『少年朝日年鑑』)の「統計編」のようにもう少しグラフを使ったりした方が分かりやすいかもしれませんが、本書はあくまで「調べること、見せること」より、」 1位と最下位」をキーワードとして「読ませること」を主眼としたものと言えるでしょう。

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世界中の地球学(地学)上の重要ポイントを数多く巡る。カラー版にして欲しかった気も。

生きた地球をめぐる.jpg 『生きた地球をめぐる (岩波ジュニア新書)』 ['09年]

 1934年生まれの著者は、教師をしながらも、1966年に日本地学教育学会の一員としてヨーロッパ、北米を巡り、自然博物館、フィヨルド、氷河、滝、火山などを見て廻ってその魅力に憑かれ、以降、世界の秘境を旅してきた人だそうです。

 本当に北極から南極まで地球の隅々を観てきた人という感じで、今までに訪れた都市は1000以上にもなるとのことですが、ただ訪問地の数が多いとか、所謂"秘境"と呼ばれる地へ何度も足を運んだというだけのことでありません。

 本書で紹介されている著者が行った先々は、地球学(地学)上の重要ポイントであり、ギアナ高地にしろ、アイスランドにしろ、アフリカの地溝帯にしろ、自らの専門知識をもとに、そこでこれまで起きてきた、そしてこれからも続くであろう、プレートの移動や地表の変化の歴史を読み取りながらの旅の記録になっています。

エアーズロック.jpg 一方で、「観光旅行」記的なところもあって、実際、北米のナイヤガラ滝にしてもグランド・キャニオンにしても、オーストラリアのエアーズロックにしてもキングズ・キャニオンにしても、更には南極にしても、ツアー客が訪れる観光地でもあるわけで、本書は著者のプロとしての知識とアマチュア観光客としての感覚がマッチングされ、シズル感のあるものになっているように思いました(文章も上手い)。

 個人的には、プレート移動がマグマだまりの上を通過して列島が出来る仕組みの解説などが特に興味深く、インド亜大陸とユーラシア大陸の衝突現場がパキスタン北部にあると特定できるというのも驚きであり、地球は悠久の時間の中で生きているのだという思いを強くしました。

 惜しむらくは、やや解説というか訪問地数が詰め込み過ぎで、地球上を駆け足で巡っているという印象を受けるのと、写真がそこそこに掲載されているものの、写真アルバムだけで130冊もあるというわりには少ない気がし、どちらかというと、ビジュアルよりは、地学解説の方にウェイトが置かれているという感じでしょうか(勉強にはなったが)。

 扉写真を除いて、文中の写真はモノクロですが、「ジュニア新書」得意のカラー版で刊行しても良かった内容ではないかと。

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震災後、街がどのように復興を遂げてきたかということにスポットしているのが特徴。

カラー版 神戸.jpg 『カラー版 神戸―震災をこえてきた街ガイド (岩波ジュニア新書)』 ['04年]

 神戸の街を紹介した本ですが、阪神淡路大震災の後、街がどのように復興を遂げてきたかということにスポットを当てているのが特徴で、震災後ちょうど10年を経ようとしている時期に刊行されたのは、1つの区切りを記すうえでも意味のあることだったのではないでしょうか。

 なぜ「神戸駅」でなく、隣り駅の「兵庫」が県名になったのかとか、なぜ「神戸駅」より「三ノ宮」の方が賑やかなのかといった、神戸の発展の歴史についての概略を知ることも出来、また、街の見所を広く紹介しているため、通常のガイドブックとしても使えます(北野異人館町やハーバーランドだけしか行かない観光客には読んで欲しい)。

 神戸に実家がある者としては、街の昔の面影がまだ脳裏にあり、本書の中にも、もっと昔の写真と10年後の現況とを対比させるような意匠があってもよかったのではないかと思いました(依然と空き地のままになっている場所など、結構あるんだよなあ)。

 神戸に対する個人的な印象としては、本書にもある「神戸株式会社」という言葉が一番ぴったりくる感じで、ワイナリーとかハーブ園とか、市営の施設(商売?)がやたら多いという気がします。
 それと六甲・有馬方面にかけての、ここ10年ばかりの高速道路網の整備には目覚しいものがあり、むしろ、やや過剰ではないかとも。
 市のキャンペーンとかも行政的と言うより"企業的"なイメージがあるし、それはそれでいいところもあるし(震災からの立ち直りの早さは、やはり神戸ならではだろう)、何となく危うい面もあるような気も。

 「親水空間を十分にとった都賀川」の写真があり、阪神淡路大震災で水道が断水し、トイレ用の水に不便した際に、都津川の水がトイレ用や洗濯用に重宝したことにより、川の水の大切さを知った住民の「都津川を守る運動」があって、川底を歩いて散歩できる、この公園が造られたとのことです。
 それが、'08年7月の集中豪雨による鉄砲水(これ、ネット動画で見ると凄まじい)で学童保育で水遊びに来ていた児童2人が流され亡くなるという事故が起きてしまったのは、哀しい皮肉としか言いようがありません。
 
 こうして見ると、本書も、ややキャンペーン的かも。但し、終わりの方で、下町の再開発における人々の意気込みや悩みをとり上げ、また、若者を中心とした地道な文化・芸術活動などに触れているのは悪くないです。

8時間労働制導入記念碑.jpg ハーバーランドの「跳ね橋」の傍のオブジェが、川崎造船所が1919年に「8時間労働制」を導入した記念碑だとは知りませんでした。
 神戸は、パン・ケーキ・チョコレート・コーヒー・紅茶などの食文化、洋服・帽子・シューズなどのファッション、ゴルフ・サッカー・ボートなどのスポーツにおいて「日本で初めて」の地であるとのこと。
 「8時間労働制導入記念碑」の解説のところにも一言、「日本で初めて」と入れておいて欲しかったです(記念碑には「発祥の地」と刻まれている)。
 
 表紙と各章の扉絵に川西英(1894‐1965)「新・神戸百景」から抜粋した絵が使われていて、絵自体はすごくいいです。但し、ここに描かれているのは、「震災前の神戸」と言うより、昭和20年代から30年代にかけての「レトロな神戸」です。

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自分が今、この時空に生きていることの不思議さ、有難さに思いを馳せることが出来る本。

人類が生まれるための12の偶然.jpg  『人類が生まれるための12の偶然 (岩波ジュニア新書 626)』 ['09年]

 「人類が生まれるためにはどのぐらいの偶然の要素が重なったのか」というテーマは自分としても関心事でしたが、宇宙誌、生物誌(生命誌・進化誌)に関する本の中で個々にそうしたことは触れられていることは多いものの、それらを通して考察した本はあまり無く、そうした意味では待望の本でした。

 宇宙の誕生から始まり、量子物理学的な話が冒頭に来ますが、「ジュニア新書」ということで、大変解り易く書かれていて、しかも、宇宙誌と生物誌の間に地球誌があり、更に、生命の誕生・進化にとりわけ大きな役割を果たした「水」についても解説されています(水の比熱が小さいこと、固体状態(氷)の方が液体状態(水)より軽いということ、等々が生命の誕生・進化に影響している)。

 本書で抽出されている「12の偶然」の中には、「太陽から地球までの距離が適切なものだったこと」など、今まで聞いたことのある話もありましたが、「木星、土星という2つの巨大惑星があったこと」など、知らなかったことの方が多かったです(巨大惑星が1つでも3つでもダメだったとのこと)。

 その他にも、太陽の寿命は90億年で現在46億歳、終末は膨張して地球を呑みこむ(蒸発させる)とうことはよく知られていますが、太陽が外に放出する光度のエネルギーが増え続けるため、あと10億年後には地球は灼熱地獄になり、すべての生物は生きられなくなるというのは、初めて知りました。

 最後に、気候変動の危機を説いていますが、環境問題を考える際によく言われる「地球に優しく」などいう表現に対して、人類が仮に核戦争などで死に絶えたとしても、生き残った生物が進化して新たな生態系が生まれることは、過去の恐竜が隕石衝突により(その可能性が高いとされている)絶滅したお陰で哺乳類が進化発展を遂げた経緯を見てもわかることであり、「私たちや今の生態系が滅びないために」と言うべきであると。

 ナルホド、「宇宙は偶然こうなった」のか、「神が今のような姿にすべて決めた」のか「何らかのメカニズムによって必然的にこうなった」のかは永遠の謎ではあるかも知れませんが、仮に地球が生命を求めているとしても、地球にとって人類の替わりはいくらでもいるわけだなあ。

 監修の松井孝典博士は、日本における惑星科学の先駆者で、幅広い視野と斬新な発想を兼ね備えた、日本では珍しいタイプの研究者であるとのこと(田近英一著(『凍った地球』('09年/新潮選書)によると)。
 最新の研究成果までも織り込まれた本であると同時に(しかし、まだ解っていないことも多い)、自分が今、この時空に生きていることの不思議さ、有難さに思いを馳せることが出来る本です。

《読書MEMO》
偶然1 宇宙を決定する「自然定数」が、現在の値になったこと(自然定数=重力、電磁気力、中性子や陽子の質量)
偶然2 太陽の大きさが大きすぎなかったこと (太陽がもし今の2倍に質量だと寿命は約15億年しかない)
偶然3 太陽から地球までの距離が適切なものだったこと (現在の85%だと海は蒸発、120%だと凍結)
偶然4 木星、土星という2つの巨大惑星があったこと (1つだと地球に落下する隕石は1000倍、3つだと地球は太陽に落下するか太陽系の圏外に放り出される)
偶然5 月という衛星が地球のそばを回っていたこと (月が無ければ地球の自転は早まり、1日は8時間、1年中強風が吹き荒れる)
偶然6 地球が適度な大きさであったこと (火星ほどの大きさだと大気は逃げていた)
偶然7 二酸化炭素を必要に応じて減らす仕組みがあったこと (プレート移動や大陸の誕生、海などがCO2を削減)
偶然8 地磁気が存在したこと (磁場が宇宙線や太陽風などの放射線を防ぐ働きをしている)
偶然9 オゾン層が存在していたこと (紫外線から生物を守っている)
偶然10 地球に豊富な液体の水が存在したこと (水が液体でいられる0〜100℃という狭い温度範囲に地球環境があったこと)
偶然11 生物の大絶滅が起きたこと (恐竜の繁栄もその後の哺乳類の繁栄も、その前にいた生物の大絶滅のお陰)
偶然12 定住と農業を始める時期に、温暖で安定した気候となったこと (65万年前から寒冷期が続いたのは、約1万年前に突然、今のように温暖安定化)

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書簡文の殆どが、金の工面に関わるものであったドストエフスキー。

「ドストエフスキーのおもしろさ」.jpgドストエフスキーのおもしろさ~言葉・作品・生涯.gif  ドストエフスキーの肖像(ヴァシリー・グリゴリエヴィチ・ペロフ画〉.jpgドストエフスキーのおもしろさ―ことば・作品・生涯 (岩波ジュニア新書)』 ['88年]/ドストエフスキーの肖像画(ヴァシリー・グリゴリエヴィチ・ペロフ画/モスクワ・トレチャコフ美術館)

 ドストエフスキーの作品や書簡から言葉を拾って、その部分を軸に、ドストエフスキーの作品やその登場人物の面白さ、更には、ドストエフスキーがどんな人物であったかを浮き彫りにしています。

 ジュニア向けということで、見開き1テーマの読みやすい体裁をとっていますが、語られている作品や人物の分析は奥深く、高校生以上向け、むしろ、一般向けと言っていいかも。
 やや、ブツ切り感はあるものの、こういう本からドストエフスキーに入っていくのも、或いは、ドストエフスキーを復習的になぞるのも一法だと思いました(本書はどうして絶版になったのだろうか?)。

 著者は、ドストエフスキーの書簡集なども翻訳しているため、手紙からの引用も多く、更には、評論や創作ノートなど、引用の幅は多岐に及んでいます。
 また、5大長編だけでなく、「分身」「死の家の記録」「虐げられた人たち」「賭博者」などのドストエフスキーを語る上で鍵となる作品や、「白夜」「ネートチカ・ネズワーノア」といった初期の小品からの引用もあります(短篇や初期作品にヒューマンなもの、叙情的なものが多いということもあるだろう)。

 全体を通して作品入門書としても読めますが、ドストエフスキーという人物を知る上では、とりわけその手紙が興味深く、彼の手紙は「文学者の手紙らしくない」と言われているそうですが、全て実用の通信文で、殆どが金の工面に関わるものであるということ、従って、一般読者を意識しないで書かれており、生活の苦しさや楽しさ、嘆きや憤りがストレートに表されています。
 他の文豪の書簡などと異なり、"芸術的香気"は無いけれども、生半可な自伝を読むよりは印象に残ると著者も言っていますが、まったくその通りだと思いました。

 個人的には、妻アンナ宛の手紙から、"賭博病"だったドストエフスキーが賭博をやめたきっかけが、亡父が恐ろしい姿で夢枕に立ったためであるとしているのが興味深かったです(一般的な説では、賭博禁止令により、ロシアにルーレットを用いる賭場が無くなったためとされていたのでは)。

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著者の本でジュニア向けで1冊と言えば、今('08年)はこれか。

宇宙はきらめく.jpg 『宇宙はきらめく カラー版 (岩波ジュニア新書 579)』 ['07年] 見えてきた宇宙の神秘.jpg カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産.jpg見えてきた宇宙の神秘』['99年/草思社]/ 『カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産 (岩波新書)』〔'04年〕

わし星雲M16(へび座)「象の鼻」.jpg 天体写真に解説文章を添えた野本陽代氏の本は、最初、単行本(『見えてきた宇宙の神秘』('99年/草思社)など)からはいって、その後、岩波新書の「カラー版ハッブル望遠鏡が見た宇宙」シリーズの3冊を読みましたが、ハッブル宇宙望遠鏡が映した天体写真などは、最近ではかなりインターネット上のウェブサイトでも見ることができるようになりました。

わし星雲M16(へび座)の「象の鼻」(本書第3章「夏は天の川」より)

 ただ、美しい天体写真もさることながら、この人の解説のわかり易さはピカイチであると個人的には思っていて(全くの素人でも読める)、今回は「岩波ジュニア新書」ですが、特に今までと文調を変えておらず、要するに、元々、大多数の人が読んですんなり頭に入る書き方がされていたということの証しかもしれないと思いました。

 特に今回工夫しているのは構成の方で、四季に合わせて章立てし、章の頭に季節ごとの全天恒星図をもってきて、写真との連関を番号で示しており、実際の天体観望に役立つものとなっています。

超新星残骸N 63A(大マゼラン星雲).jpg ハッブル宇宙望遠鏡による星や星雲の写真がメインであるという点では、岩波新書のカラー版シリーズの第3冊『ハッブル望遠鏡の宇宙遺産』('04年)に内容的には最も近いかも知れませんが、こちらは太陽系まで含まれていて、(単行本の版元も潰れたりしているので)今、ジュニア向けで1冊買うとするならば、本書がお薦めと言えるのではないでしょうか、天文ファンの中にも、本書を薦める人は多いようです。

 俗事にかまける日々ですが、時に悠久の宇宙に思いを馳せるのもいいのでは。
 
超新星残骸N63A (大マゼラン星雲)(本書第5章「南天はマゼラン雲」より)

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全編カラーのマンガでわかり易く解説。写真も豊富で、且つコンパクトな点がいい。

宇宙に行くニャ!.jpg 『カラー版 宇宙に行くニャ! (岩波ジュニア新書)』 ['06年]

 何だかふざけたようなタイトルですが、これ、意外とアタリで、親子で楽しめるものになっています(子供の方は小学校高学年または中学生以上向けといったところか)。

 "全頁フルカラー"マンガで、「物知りネコ」のビーフンと、「面白いけどなぜ?」のタンメンの2匹の猫クンの「宇宙への旅」の話ですが、かけあい漫才のような両者(両猫)のやりとりが楽しいばかりでなく(ギャーギャー少しうるさくもあるが、これはまあ賑やかしということで)、説明が大変わかり易いです。

野菜ロケット.jpg 最初の「彗星」に関する説明などは、自分も初めて知ることも多く、日食や月食の起きる仕組みからロケットが飛ぶ原理やその構造まで、色々と宇宙に関する下調べも丹念で(宇宙飛行士が打ち上げと帰還のときだけ橙色の宇宙服を着るのはなぜか、なんてことも初めて知った)、また、擂りおろしニンジンとオキシドールで飛ばす「野菜ロケット」などといった簡単な科学実験の方法まで書いてあり、「自由研究」のテキスト的要素もあります。

 野菜ロケット(from JAXAクラブ)

 いざ宇宙に飛び出してからも、宇宙服を着ないで宇宙に出たらどうなるかといった素朴な疑問に丁寧に答えるなどしていて、一瞬にして血液が沸騰し、数秒から10秒ぐらいでミイラのような状態になる-という回答はちょっと怖いけれども、試した人がいないので「と考えられている」だけであるとフォローしているのは、確かにそうだなあと。

 いっぱい色んなことを説明し、間にギャグも入るため、2匹の猫クンの宇宙旅行の方は、月に行った後は、火星と土星と冥王星に行っておしまい、「残りページが少ないのギャ」ということで、この辺りの大雑把さ、いい加減さも一見「岩波」らしくないけれど、新書でコンパクトに纏めるということを主眼にしたのでしょう。

 所謂"学習マンガ"の類ということになるのかも知れませんが、携帯に便利なのが良く、また、コンパクトながらも写真が充実していて、コマのバックに天体写真を用いている箇所が数多くあり、その写真がどれも美しい。

 彗星や流星雨、火星の表面や水をたたえたクレーター、土星や地球のオーロラの写真には引き込まれるものがあり、本全体として、図書館によく置いてあるような一般的な"学習マンガ"に比べると、紙質も良く、構成もかなり垢抜けていると言えるのでは。

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一葉研究の第一人者がわかりやすく解説。美登利が寝込んだ理由は...。

樋口一葉.jpg 『樋口一葉 (岩波ジュニア新書)』 〔'04年〕  一葉の四季.jpg 森 まゆみ 『一葉の四季 (岩波新書)

 森まゆみ氏の『一葉の四季』('01年/岩波新書)も、第1章が樋口一葉の生涯を解説したものでしたが、もう少し一葉のことを知りたく本書を手にしました。
 著者の関礼子氏は一葉研究の当代の第一人者で、その人が中高校生向けに書き下ろしたのが本書ですが、「薄幸」と「厚遇」という矛盾した評価が併存するこの作家のプロフィールを出来るだけ正確に描くこと、また、一葉が書いた日記・小説・手紙・和歌などを生き生きと読者に伝えることを趣意としています(関氏には『樋口一葉日記・書簡集』('05年/ちくま文庫)などの解説著書もあるが、本書はジュニア向けなので、極めてわかりやすく書かれている)。

 個人的には新たに知ったことが多くて面白く、森氏や関氏の著作を読む前は、森鷗外に認められて一躍有名になったと思っていたのですが、私塾「荻の舎」時代から先輩の田辺花圃に認められて激励され(花圃女史のことは森氏の本では一葉の才能に嫉妬していたように書かれていたが)、平田禿木から「文学界」グループに強く勧誘されこれがメディアデビューの契機となり、「にごりえ」を最も絶賛したのは内田魯庵だったということで、短い期間ながらもその間一応のステップを踏んでいるわけだ(ハナから鷗外が出てくるワケ無かったか)。

斎藤緑雨2.png 彼女をある意味最もバックアップしたのは、生前の彼女に対し厳しくその作品を批評した斎藤緑雨で、彼女の死後、全集の編集役として渾身の力を注いでいます(森氏は、一葉が結核で倒れなかったら、2人は一緒になってもおかしくなかった、と書いている)。

斎藤緑雨 (1868-1904/享年36)
                    
下谷龍泉寺町の住居であった二軒長屋.jpg 小学校を中退し、私塾で学んで、高等女学校卒の才媛作家たちを凌駕した一葉は、塾から出たスーパースターのような感じですが(森氏の本には、当時、公的教育より私塾の方がレベル高かったとある)、関氏が言うように、高等女学校に行っていたら逆に平凡な作家で終わっていたかも。
 短い期間ではありましたが、吉原の裏手・龍泉寺町で自ら店を切り盛りするなどの苦労をしたから、「たけくらべ」などの傑作を生み出せたのでしょう。

下谷龍泉寺町の住居だった二軒長屋(模型:一葉記念館)

 その「たけくらべ」は、関氏も一葉の作品の中で最も高く評価していますが、よく議論になる、美登利が寝込んで正太に対し不機嫌になる場面が「初潮」によるものなのか「初夜(水揚げ)」(遊女が初めて客と関係すること)によるものか、それとも「初店」(遊女として店に出て客をとること)のためかという点について、「初潮」と「初夜」を一続きのもの(つまり両方である?)と解釈した長谷川時雨の説をとっているのが注目されます(遊女として店に出られるのは16歳からで、数え14歳の彼女が公然と営業することは考えらないとのこと。だから、内密に...ということか)。
 これ、「ジュニア新書」だけれども、なかなか現代の感覚ではすぐに思いつかいない部分があります。

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著者の手づくりへのこだわり。手づくりアニメは純粋芸術化していくのか?
アニメーションの世界へようこそ.jpg Atama Yama (Mt. Head).jpg 頭山」山村浩二作品集 1.jpg  雪の女王 dvd.jpg  水玉の幻想 INSPIRACE.jpg
アニメーションの世界へようこそ (岩波ジュニア新書)』「「頭山」山村浩二作品集 [DVD]」「雪の女王 [DVD]」「カレル・ゼーマン作品集 [DVD]

アニメ「頭山」.jpg ケチな男が拾ったサクランボを種ごと食べてしまったため、種が男の頭から芽を出して大きな桜の木になる。近所の人たちは大喜びで男の頭に上って、その頭を「頭山」と名づけて花見で大騒ぎ、男は頭の上がうるさくて苛立ちのあまり桜の木を引き抜き、頭に大穴が開く。この穴に雨水がたまって大きな池になり、近所の人たちが船で魚釣りを始め出し、釣り針をまぶたや鼻の穴に引っ掛けられた男は怒り心頭に発し、自分で自分の頭の穴に身を投げて死んでしまう―。
 
ほら吹き男爵の冒険 サクランボ.jpg落語 頭山.jpg 江戸落語「頭山」(上方落語では「さくらんぼ」)を基にした短編アニメ「頭山」('02年)、シュールな展開が面白かったです。このタイプのナンセンスは個人的好みでもありました。徒然草の「堀池の僧正」が元ネタであるという説があるそうですが、西洋でも、ビュルガー原作の小説「ほら吹き男爵の冒険」の中に、男爵が大鹿めがけて撃ったサクランボの種が鹿の額に命中し、後日、男爵はあたま山 アニメ.jpg頭からサクランボの木を生やしたその鹿と遭遇してこれを射止め、シカ肉とサクランボソースの両方を堪能する―という話があり、サクランボという点で符合しているのが興味深いです。ユーリー・ノルシュテインなどの影響も感じられ、一方で語りは浪曲師の国本武春が弁士を務めているジャパネスク風というこのアニメ作品、世界4大アニメーション映画祭(アヌシー・ザグレブ・オタワ・広島)のうちアヌシー、ザグレブ、広島でグランプリを獲得し、第75回アカデミー賞短編アニメーション部門にもノミネートされ、内外23の映画祭で受賞・入賞を果たしたそうです。

 本書は、その「頭山」の作者であるアニメーション作家・山村浩二氏が、ジュニア向けに書き下ろしたアニメーション入門書(山村氏は今年['07年]、「カフカ 田舎医者」('07年)で、オタワ国際アニメーション映画祭で日本人初のグランプリを獲得し、これで4大アニメーション映画祭のすべてにグランプリを獲得したことになる)。

アルタミラ洞窟画.jpg アニメーションの誕生から現代に至るまでの歴史を辿り、「頭山」のメーキングから、アニメーションの作り方までを、編集・録音、発表・公開まで含めて(この辺りは職業ガイド的)紹介しています。

 アニメーションの発想が、アルタミラの洞窟画の牛の絵などにも見られるというのが面白く(疾走感を表すために前脚が3本描かれているものがある)、法隆寺の玉虫厨子(日本橋高島屋に立派なレプリカがありましたが、今どうなったか?)の「捨身飼虎図」(しゃしんしこのず)なども、ナルホド、アニメーションの発想なのだなあ。  
 
雪の女王.jpg アニメの歴史は映画の歴史とほぼ同時に始まっていて、東欧圏とかに結構いい作品があるのを知りました。

 ロシアン・アニメはレフ・アタマノフ監督の「雪の女王」('57年/ソ連)(アンデルセン原作)など、何本か観たことがありましたが、ディズニーのものとはまた違った趣きがあって良かったです(「三鷹の森ジブリ美術館」の館主・宮崎駿監督が監修した新訳版が来月('07年12月)公開予定)。

水玉の幻想1.jpg 本書はカラー版なので写真が美しく、カレル・ゼマン(或いはカレル・ゼーマン)(KAREL ZEMAN 1910-1989/チェコ)「水玉の幻想」(Inspiration 1948年)などは、動いているところをまた見たくなります(これも手づくり作品の極致)。物語は、ガラス細工職人が、創作にちょっと行き詰ったある日、窓の外の雨の中に見た幻想という形をとっており、木の葉を伝う雨の一雫の中に幻想の世界が広がり、踊り子とピエロの儚い愛の物語が展開するガラス人形アニメーションで、人や動物、草や木、湖や海まで全てガラスで作られており、それらをコマ撮りしてここまでの高度な芸術世界を創り上げているのは、ボヘミアンガラスのお膝元とは言え、驚嘆させられるものがあります。長さ10分強の短編ですが、ゼマンにはこの他に、ジュール・ヴェルヌの小説などを映像化した長編作品もあります(代表作は「盗まれた飛行船(Ukradená vzducholoď)」(原作『十五少年漂流記』 88分、1966年))。 

 本書の全編を通じて、著者の手づくりへのこだわりが感じられます。「頭山」も長さ10分ほどの作品ですが、原画は1万6千枚だそうで、構想から完成までの期間は6年! アニメの作り方も「霧の中のハリネズミ」('75年/ソ連)のユーリー・ノルシュテインなどに似ています。作者(著者)は、自分が今生きているとはどういううことなのか、という哲学を、この作品で描きたいと思ったそうです。

 '06年にディズニーがCGアニメのピクサー社の買収を発表しましたが(ピクサーCEOスティーブ・ジョブズはディズニーの筆頭株主に)、今後ますます世界の商業アニメのCG化は進むだろうと思われ、こうした手づくりアニメは純粋芸術化していくような気もしました。

頭山es.jpg 「頭山」●英題:MT. HEAD●制作年:2002年●監督・演出・アニメーション・編集・製作:山村浩二●脚本:米村正二 ●原作:落語「頭山」●時間:10分●声の出演:国本武春/ブルーノ・メッカー●公開:2003/04●配給:スローラーナー=ヤマムラアニメーション(評価:★★★★)

雪の女王es.jpg雪の女王ド.jpg 「雪の女王」●原題:Снежная королев(スニェージナヤ・カラリェバ)●制作年:1957年●制作国:ソ連●監督:レフ・アタマノフ●脚本:レフ・アタマノフ/G・グレブネル/N・エルドマン●音楽:A.アイヴァジャン●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:63分●声の出演:Y.ジェイモー/A.カマローワ/M.ババノーワ/G.コナーヒナ/V.グリプコーフ●公開:1960/01/1993/08 ●配給:NHK/日本海映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-01-14)(評価:★★★★)●併映:「せむしの仔馬」(イワノフ・ワーノ)

カレル・ゼマン 水玉の幻想 dvd.jpgカレル・ゼマン 水玉の幻想 .jpg mizutama.jpg 「水玉の幻想」●原題:INSPIRACE●制作年:1948年●制作国:チェコスロバキア●監督:カレル・ゼマン(ゼーマン)●時間:12分●公開:1955/06●配給:独立映画(評価:★★★★)
  
 
幻想の魔術師 カレル・ゼマン コレクターズBOX [DVD]」所収作品:「クラバート」「彗星に乗って」「鳥の島の財宝」「前世紀探検」「シンドバッドの冒険」「狂気のクロニクル」「ホンジークとマジェンカ」「クリスマスの夢」「プロコウク氏 映画製作の巻」「プロコウク氏 家作りの巻」「プロコウク氏 靴屋はいやだの巻」「プロコウク氏 発明の巻」「王様の耳はロバの耳」「ハムスター」「幸運の蹉跌」

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生物の多様性を示す面白い事例が豊富に紹介されている。

進化とはなんだろうか.jpg 『進化とはなんだろうか』 岩波ジュニア新書 〔'99年〕 生き物をめぐる4つの「なぜ」.gif 『生き物をめぐる4つの「なぜ」 (集英社新書)

クジャクの雄はなぜ美しい?.jpg 進化についての中高生向けの入門書なので、自分のような素人にもわかりやすかったです。有名な「赤の女王仮説」もこの本で知りました。

 著者の長谷川真理子氏は動物学者で、『クジャクの雄はなぜ美しい?』('92年出版・'05年改定版/紀伊國屋書店)など性差学の著作も多く、旦那さんも動物学者で、『進化と人間行動』('00年/東京大学出版会)など進化動物学に関する共著もあります。

 本書は動物学者の著者らしく、生物の多様性とその仕組みを説明するための事例が豊富で、それらには驚くべきものが多かったです。

 例えば6pにいきなり出てくる、母親の体内で卵からかえり、兄弟姉妹同士で交尾し、雌だけが母親を食べて体外へ出てきて、精子を姉妹に渡した雄は死んでしまうというダニの話など、ショッキングとまではいかなくとも結構不思議な気がして、生命とは何か、種とは何を目的としているのかを考えさせられる事例です。
 面白くてどんどん読み進んでしまいます。

 この著者の『生き物をめぐる4つの「なぜ」』('02年/集英社新書)もオススメです。

《読書MEMO》
●ダニの一種で、母親の体内で卵からかえり、母親を食べて体外へ出てくる、しかも体内で兄弟姉妹同士で交尾し、雌だけが出てくるものがある(精子を姉妹に渡した雄はもう生きていく必要が無く、出る前に死ぬ)(6p)
●人の血液型は、ABO型どれであっても適応度に差がないため、ABOそれぞれを作る遺伝子が残った(64p)
●「赤の女王」(鏡の国のアリス」)仮説...有性生殖の目的は、遺伝子組み換えによる寄生者(ウィルスなど)への対抗戦略(171p)
●雄のクジャクの羽が美しいのは、厳しい環境の中でそれだけのものを維持しているとういう生存力の指標(183p)

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"天才"物理者が淡々と語る自らの少年時代や研究と交友の歩み。

宇宙物理への道.jpg 『宇宙物理への道―宇宙線・ブラックホール・ビッグバン』  岩波ジュニア新書 〔'02年〕 佐藤 文隆.jpg

 日本を代表する宇宙物理学者であり、一般相対性理論の研究者としても知られる著者が、自らの半生を振り返ったもの。

 山形の片田舎に生まれ、小学校卒の両親のもとで普通に少年らしく暮らし、湯川秀樹のノーベル賞受賞に刺激されて、学校で勉強しているのだから家で勉強しなくてもいいと親に言われながらも勉学に励んだ―、 
 たまたま人の勧めで京大を受験してあっさり合格し、そのつもりはなかったが大学院に進み、自らの関心に沿って宇宙線やブラックホールの研究を続け、やがてアインシュタインの重力方程式の新たな解を発見する―という、"痛快"とでも言うか、こういう人には何か資質的な"天才"を感じないわけにはいきません。

 しかし中高生向けに書かれた本書には、自らの才能を誇示する風も、科学者としての尖がった感じも、はたまた聖人君主めいた感じもまったくなく、淡々と語る研究の歩みや仲間との交流の話、科学の将来展望と若い人へ寄せる期待などは、著者の人柄を感じさせるものです。

 宇宙物理学の歩みが、ホーキング博士や多くのノーベル賞科学者の業績とともに紹介されていて、彼らの多くと著者が交流や繋がりがあるのがスゴイ。
 
 また、解があるかないかも分からないような問題に取り組む際のカン処の話や、ノーベル賞を受賞した小柴昌俊教授のカミオカンデの成果がある種の幸運によるものであったように、偶然から次の展開が見えてくることもあるという話など、科学者の研究の裏側も少し覗けたような気持ちになりました。

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イスラームの社会・生活・文化をフィールドワーク的視点から紹介。

イスラームを知ろう.jpg  『イスラームを知ろう』 岩波ジュニア新書 〔'03年〕

 イスラームという宗教そのものについても解説されていますが、著者が人類学者であるため、むしろイスラームの社会での結婚や生死に関する儀礼、日常生活の義務規定がよく紹介されています。

 イスラーム社会は世界の広い範囲に及ぶのですが、著者がフィールドワーク的に長期滞在したヨルダン、エジプト、ブルネイなどのことが中心に書かれていて(一応、中東、北アフリカ、南アジアという代表的イスラーム圏にそれぞれ該当しますが)、イスラーム世界のすべてを網羅して解説しているわけではありません。
 それでも、今まで知らなかったことが多く興味深く読めました。

 通過儀礼として有名な「割礼」についても詳しく書いてあります。
 またイスラームと言えば一夫多妻制が知られていますが、「第一夫人」「第二一夫人」...と言っているのは研究者で、平等を重んじるムスリムはそういう言い方はしないとか。
 「ラマダーン(断食)月」というと何か不活発なイメージがありますが、この時期に食料消費量が増え、逆に太ってしまう人が多いというのは何となく可笑しい話でした。

Gene.jpg 本書によれば、「アラジンと魔法のランプ」は、元々は中国の話だそうですが、語源である「ジン」(一種の妖怪)というのが、イスラームが宗教的版図を拡げていく過程で土着信仰を融合する際に生まれたものだというのは興味深いです。
 土着信仰のネガティブな部分を"怪物"的なものに封じ込めたという説は面白いと思いました(土着の悪神をリストラして「ジン」という概念に一本化したとも言える)。

 「善いジン」というのもいるらしいけれど、ディズニーアニメ「アラジン」('92年/米)のランプの精「ジーニー」は、キャラ的には明るいけれど(ジーニーの声はロビン・ウィリアムズが担当)、素質的にはやはり妖怪型かな。

アラジン dvd.jpg 因みに「アラジン」は、ディズニーの長編アニメで初めて非白人が主人公となった映画で(「白雪姫」('39年)から数えて何と65年後)、その後ネイティブ・アメリカンや中国人、ハワイ人という有色人種が主役の地位についていますが、最初がイスラームの話だったというのは興味深いです。

「アラジン」●原題:ALADDIN●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジョン・マスカー/ロン・クレメンツ●脚本:ジョン・マスカー/ロン・クレメンツ/テッド・エリオット/テリー・ロッシオ●オリジナル作曲:アラン・メンケン●時間:90分●声の出演:スコット・ウェインガー/リンダ・ラーキン/ロビン・ウィリアムズ/ジョナサン・フリーマン/ギルバート・ゴットフリード/ダグラス・シール●日本公開:1993/08●配給:ブエナビスタインターナショナルジャパン (評価:★★★★)

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