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「キャリア発達支援」というメンタリングの本筋を押さえた入門書。

メンタリング入門.jpg 『メンタリング入門』 日経文庫 〔'06年〕

mentor.bmp 「メンタリング」について書かれた本の中には、リーダーシップ論やコーチングの技法論とまったく同じになってしまっているものも散見し、「高成果型人材を育成する」といった、短期間でパフォーマンスの向上を求めることが直接目的であるかのような書かれ方をしているものもあります。

 本書は、キャリア・カウンセリング理論の第一人者による「メンタリング」の入門書ですが、 「メンタリング」の目的は、メンティ(メンタリングを受ける人)の「キャリア発達を援助する」ことであるとしています。

 企業内で良いメンター役になるにはどうすればよいかということについて、相手に関心を持ち、自分の価値観を押しつけず、自らも誠実かつ寛大であり、相手から学ぶ態度を持つなどといった、メンターがメンティに向き合う際の姿勢を重視し、またメンターが自身のキャリアの棚卸しをすることなどを通して自身の成長をも促すとしていて、そうした考え方のベースにカウンセリング理論があることが読み取れます。

 最終章では、企業内で「メンター制度」として導入し運用する際のポイントが述べられていて、その中で提唱している、メンティに希望するメンターを選ばせる「ドラフト会議方式」などは、メンターの本来の姿は自然発生的な私的なものであり、制度はその仕掛けであるという考え方からすれば、納得性の高いものと言えます。

 新書ゆえの簡潔さで、物足りなさを感じる部分もありますが、入門書ほど著者の「見方」が入るものはないかもしれず、個人的には著者の「見方」は「メンタリング」の本筋を押さえたものだと思います。
 メンターを志す方は、本書を足掛かりにカウンセリング心理学の本などに読み進むのもいいのではないでしょうか。
 
 ただし、1つ付け加えるならば、メンターとカウンセラーはまた少し異なるということも意識しておくべきでしょう(メンターはメンティを「組織」の目指す方向に向かわせるべきものでもある)。 
キャリアカウンセリング入門.jpg
 著者の渡辺氏も『キャリアカウンセリング入門-人と仕事の橋渡し』('01年/ナカニシヤ書店)の中で、コーチングやメンタリングとカウンセリングの違いを詳説していますし、日本の企業社会では、「上司はカウンセラーよりもメンターになることの方が現実的である」と思われる(同書111p)と書いています。

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わかりきっていることの羅列にがっかり。独自の提案が欲しかった。

キャリア・カウンセリングが会社を強くする.jpg 『キャリア・カウンセリングが会社を強くする―本気で、個人も会社もしあわせになる法、教えます』 (2004/10 経済界)

 著者は今や大手となった再就職支援会社の設立者で(後にその会社は外資系になりました)、ある意味、業界の先駆者的な人であると言えるかと思います。
 その後〈キャリア工学ラボ〉というものを設立し、自分はたまたま著者のセミナーを聴く機会があって、その前に本書を読みましたが、残念ながら本もセミナーもやや期待外れでした。
 セミナーを聴いていて気づいたのですが、本書は著者のセミナー内容を書き起こしたような内容だったのですね。

 内容があまりにわかりきっていること、手垢のついた表現の羅列で、著者自身の独自の提案というものが無いと感じました。 
 一方、自らの経験によるものとしては、「派遣スタッフの身に"安住"しているような人は、チャレンジ精神に欠けるのだ」「学校の先生は社会人の礼儀を知らない」など決めつけ型の表現が目立ちます(この辺りは、限定的な聴衆を対象としたセミナーのノリか)。

 例えば、個人が幸せになれば家族も幸せになれ、その幸福感は職場にも連鎖する―といった表現は、セミナーの中で聞き手を惹きつけるうえではある程度効果的なフレーズであるかも知れないし、キャリア・カウンセリングの本筋からも外れてはいない(ワーク。ライフ・バランスという考え方)と思いますが、活字にした場合、その本を選び、お金を払って買って読む側に対して、内容の提供レベル的にどうなのかなあと言う感じも(因みに、自分が受けたセミナーは、コンサルティング会社の販促セミナーだったので無料だったが)。

 日本におけるキャリア・カウンセリングという分野の歴史が、企業経営との関連ではまだ浅いために(そうしたセミナーにも社命で何となく参加している人事担当者などもいたりして)、まず、こういうところから説いていかなければならないのかなとも思いました。

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キャリア行動の専門家とプロ・キャリアカウンセラーのコラボ。個人的には良かったが...。

キャリアカウンセリング58.JPG会社と個人を元気にするキャリア・カウンセリング.jpg        金井壽宏.jpg 金井壽宏 氏
会社と個人を元気にするキャリア・カウンセリング』 ('03年)

 組織には組織の価値観や規則があり、社員が組織にとって望ましい発想や行動パターンをとってくれて、なおかつそれが社員にとっても元気の源となり自己実現につながるならば、そらは素晴らしいことでしょう。しかしなかなか現実にはそうはいかない...。

SPRACHCAFFE Business.bmp 個人は当然、自らのキャリアや価値観を重視するわけで、そうしたなかで企業は、企業のアイデンティと個人のアイデンティの調和をいかに図るかが大きな課題になってくるに違いなく、そのことを意識した場合において(まだそういう意識を持てないでいる企業経営者も多いけれど)、キャリアカウンセリングというのは会社生活と個人生活を調和した状態に近づけるひとつの手立てになると思われます。

 本書はキャリア行動などが専門の金井壽宏教授と、プロのキャリアカウンセラー(臨床心理士)らの共著ですが、上述の問題に一歩でも迫ろうという意欲は感じられます。 
 金井教授が冒頭で最近とりあげられることの多いミドルの課題を提示し、以降カウンセラーがキャリア・ストレスやミドルの危機、カウンセラーの役割などについて1章ずつ述べ、後段で金井教授がリーダーシップやトランジッションについて述べています。

アイデンティティ.jpg 岡本祐子氏の「アイデンティの螺旋式モデル」は厚労省のキャリア・コンサルティング技法報告書にも採用されたものであるし、「成人期の発達を規定する2軸・2領域」論は是非多くの人に触れて欲しいものです。
 渡辺三枝子氏のキャリア・カウンセラー論も素晴らしい内容でした。
 全体的にはバラエティに富んだ、意欲的かつ面白いコラボレーションだと思います。

 ただし少しケチをつけるならば、別の章では、学術的論文を50頁以上にわたりベタで掲載して1章を構成していたりもし、この部分は"バラエティ"と言うよりは"水増し"の感があり、少なくとも一般読者向けを思わせるタイトルとは相容れないのではないでしょうか。

《読書MEMO》
●客観的キャリアと主観的キャリア(意味づけ・将来展望)(10p)
●ワーク・ファミリー・コンフリクト(仕事と家庭の間で生じる葛藤)(39p)
●成人期の発達を規定する2つの軸と2つの領域-職業人・組織人・家庭人・自立(自律)した個人(岡本祐子)(61p)
 ・人としてのアイデンティの達成-職業人としての有能性
 ・組織に対するケア-後進の指導育成・組織の人間関係への主体的関与
 ・家族に対するケア-親役割・夫役割
 ・一人の人間、生活者としての自立/自律性

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参考になる部分は確かにあるが、読んでいていろいろと効率が悪いのが難点。

ライフキャリアカウンセリング.jpg  Career Counseling Process, Issues, and Techniques.jpg
ライフキャリアカウンセリング―カウンセラーのための理論と技術』(2002/04 生産性出版)"Career Counseling: Process, Issues, and Techniques"(1997)

life-transitions.bmp 原題は"Career Counseling: Process, Issues, and Techniques"(1997)。キャリアカウンセリングを"ライフキャリア"という観点(個人の役割・環境・出来事など、人生における重要な要素すべてを考慮して最適な選択を行おうとする考え方)から理論的に整理し、さらにオープニングから、情報収集、理解/仮定、行動化、目標/行動計画、評価/終了までの6段階に構造化して、各段階の実践的アプローチを具体的に解説しています。
 
 クライエントの意思が明らかな場合でも、"ライフキャリア"の観点からは違った結論が導かれるのではないかと思われる場合は、クライエントのパートナーとしてそのことを率直に伝え、クライエントの視野を拡げ、クライエントが自主的に最良の選択をすることを"サポートする"ことを旨としていて、基本的にはオーソドックスなキャリアカウンセリングの考え方に近いと思われます。
 ただし理論と技術を総合的にとりあげ、ここまで具体的に詳説した本というのは従来はあまりなく、キャリアカウンセリングに携わる人にとって参考になる部分は確かにあるかと思います。

 ただし、本の造りが拙くて、かなり読みにくく感じました。
 これでは、参考になる部分があっても、後で読み返すときに探しにくいという気がします。
 さらには、性差や民族といった観点からもライフキャリアについて述べていますが、グローバルな(米国的な)観点に立つ分、日本人に対するカウンセリングとウェイトの置き方が異なるため、読んでいて効率が悪い。
 こうした欠点もいろいろあり、価格(3,400円)、時間などからみてROI(投資効率)的には今ひとつでした。

《読書MEMO》
●キャリアカウンセリングの構造化...
 ◆オープニング→◆情報収集→◆理解/仮定→◆行動化→◆目標/行動計画→◆評価/終了までの6段階
●社会的認知学習理論(107p)/自己効力感(108p)
●タイプA行動...他人に対して敵対的でせっかちな態度を取り、時間に追われながら攻撃的・競争的に仕事取り組む傾向(123p)心臓発作を起こしやすい

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キャリアカウンセリング理論をバランスよく網羅している。

キャリアカウンセリング959.JPGキャリアカウンセリング.jpg      clip_image002.jpg 宮城まり子氏(略歴下記)
キャリアカウンセリング』('02年/駿河台出版社)

 キャリアカウンセリングの理論・方法・進め方、意思決定のプロセスなどがバランスよく網羅された入門書だと思います。
 キャリアコンサルタントの資格試験の参考書としてよく纏まってるという点ではベストで、この1冊でほぼ合格点は取れるのではないかと思います。自分自身、マーカーで線を引き引きして使いましたが、記述問題で出たアセスメントに関する質問は、本書に書かれている内容で完璧に対応できたと思います(試験主催機関の出題傾向にもよるが)。
 つまり別な言い方をすれば、択一問題レベルにとどまらず、記述問題に対応できるレベルであると言ってよいかと思います。と言っても、この1冊で終わらないようにしたいものです(自戒をこめて)。

IMG_3163.JPG もともと「受験参考書」ではなく(そうした本はキャリア・コンサルタント、キャリア・カウンセラーの養成機関などから別に出版されています)、キャリアカウンセリングの「入門書」であり、また本書において解説されているキャリア・アンカー、プランド・ハップンスタンス、トランジションといった言葉は、最近多いキャリア行動に関する書籍にしばしば登場する言葉ですので、その方面に関心がある人が読んでも、概念把握を誤らずに基礎知識を得る上で参考になるかと思います。

《読書MEMO》
●特性因子理論(43p)/職業指導の父パーソンズ(20p)
●スーパーの理論...(発達論的アプローチ)→ライフステージ・自己概念
●ホランドの理論...(パーソナリティアプローチ)→6つの性格タイプ(現実・研究・芸術・社会・企業・慣習)
●クランボルツの理論...(意思決定論的アプローチ)→計画された偶然性
●シャインの理論...キャリア・アンカー
●シュロスバーグの理論...トランジッション・ノンイベント
●ハンセンの理論...人生の4要素...仕事・学習・余暇・愛)の統合、意味ある全体

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宮城 まり子
早稲田大学大学院心理学専攻修士課程修了。臨床心理士として臨床活動を行い、1992年より産能大学、2002年より立正大学心理学部助教授。大学教育の傍ら外部EAP機関(精神科)にて臨床活動を行う。専門はカウンセリング、キャリア心理学、生涯発達心理学、産業組織心理学。主著「キャリアカウンセリング」(駿河台出版)など。

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「キャリアにはアップもダウンもない」という言葉に頷かされる。

キャリアカウンセリング入門57.JPGキャリアカウンセリング入門.jpgキャリアカウンセリング入門―人と仕事の橋渡し』 ['01年/ナカニシヤ出版]

C o n s u l t i n g   &  C o a c h i n g.jpg キャリアカウンセリングの入門書に触れ、もう少し突っ込んだ標準テキストを求める人には格好の本だと思います。歴史や背景理論から援助の具体的技法まで広く触れていますが、随所に明快な考察が見られます。

キャリアカウンセリング入門―人と仕事の橋渡し』 69.JPG 「キャリア」という言葉ひとつにしても、「職業」との対比で、キャリアは個人から独立して存在し得ず、時間をかけて創造していくもので、個々人にとって独自のものである、としています。確かに「職業」という概念は個人から独立して存在するが、「キャリア」と言う場合は「誰かのキャリア」だ...と納得。

 しかしこの本で一番心に残ったのは、著者の渡辺三枝子氏が"キャリアアップ"という言葉を用いたら、キャリアの権威である心理学者サビカスに「キャリアにはアップもダウンもないんだ」と即座に叱られたという話です。キャリアとは主観的なものであり、評価できるのは本人しかいないということです。"キャリアアップ"という言葉があまりにも一般化している中で、目からウロコが落ちる思いをしました。


《読書MEMO》
●キャリアにはアップもダウンもない(前書き3p)
●キャリアの特徴「個人から独立しては存在しえない」「時間をかけて創造していくものである」「個々人にとってユニークなものである」「職業との関わりにおける個人の行動(心理的過程)(19-20p)
●予測としては、一人の人が生涯に7回から8回転職するだろう(31p)
●自己効力感(71p)・クルンボルツの社会的学習理論(73p)
●コーチとメンターの違い(108p)

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事例は参考になるが、レベル的には勉強会の意見交換のレベル。

事例キャリア・カウンセリング.jpg 『事例 キャリア・カウンセリング―「個」の人材開発実践ガイド』 キャリア開発/キャリア・カウンセリング.jpg 『キャリア開発/キャリア・カウンセリング―実践個人と組織の共生を目指して

 前半でキャリア・カウンセリングに対する著者ら(企業出身者で現在、キャリア・カウンセリングの研究及び実施機関を運営している人たちが主)の視点が述べられ、後半3分の2がキャリア・カウンセリングの事例研究となっています。

 前半部分の、社内委員会などによる面接とキャリア・カウンセラーによるカウンセリング、さらには治癒的なカウンセリングを"面接の三様態"として整理した部分はわかりやすいものでした。
 後半部分の10の事例も、こうした具体例が本書刊行当時('99年)一般書の中で出てくることはあまりなかったので、ある程度は参考になりました。

 ただし、何れも著者らが主催したキャリア開発のワークショップに参加した人たちの事例であることを考慮しなければならないし、参加者の意識にかなりバラツキがあるのも気になりました。
 「妻から呑気を責められる」などという家庭内の悩みも、ライフキャリアという観点に立てばキャリア・カウンセリングの範疇に入るのかも知れませんが、「生きている実感が持てない」「自然体で生きられない」などという悩みは、本書内でも指摘されているように、来談者がカウンセリングを通じてのセラピューティクな関係を求めているのであって、こういう人に向き合うには、セラピスト(心理療法家)としての高度な経験と技法が必要になってくるのではないでしょうか。
 あるいは著者の1人が告白しているように、つい寝てしまったカウンセリングが、来談者に「今回の面接が一番良かった」と言われたように、何もしないでいるか...。
 
 また、事例研究そのものが著者グループの勉強会の意見交換記録のレベルに留まっていて、課題の取り上げ方が恣意的で、内容も充分に総括されているようには思えませんでした(事例討議まで、カウンセリング記録の手法を準用してそのままベタで載せているのが、果たしていいのかどうか)。
 著者グループの次著『キャリア開発/キャリア・カウンセリング』('04年/生産性出版)へのステップ段階における本(または記録)だったと言えるのではないでしょうか。

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