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「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(エドガー・H・シャイン)

キャリア・アンカーの大切さ、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかを説く。

キャリア・ダイナミクス.jpg エドガー・シャイン.jpg エドガー・シャイン ph0to.jpg エドガー・H・シャイン(マサチューセッツ工科大学スローンスクール名誉教授) 『キャリア・ダイナミクス―キャリアとは、生涯を通しての人間の生き方・表現である。

 エドガー・ヘンリー・シャイン(Edgar Henry Schein、1928 - )による本書(原題:Career Dynamics、1978年)は、現在のキャリア論の礎ともなった、このジャンルおけるバイブル的著書と言ってもいいのではないでしょうか。

 訳者による概説によれば、「人は仕事だけでは生きられず、ライフサイクルにおいて、仕事と家族と自分自身が個人の内部で強く影響し合う。この相互作用は成人期全体を通じて変化する。ここですでに、動態的なダイナミクスがあることになろう。しかし、他方、多くの場合そうであるように、組織に雇われて働けば、個人を受け入れる組織には組織自体の要求があり、これが、個人の持つ要求と調和されなければならない。シャインの言う個人と組織の相互作用である。そして、組織の要求も時の経過とともに変化する。また、個人も組織も複雑な環境のなかに置かれており、両者の相互作用は一部外的諸力によっても決定される。こうして、仕事の決定について、きわめて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになる。これが『キャリア・ダイナミクス』だということができる」とのことであり、この考えが本書のフレームワークとなっています。

 全3部から成る本書の第1部の前にある第1章は、第2章以下第17章までの本編全体の序論に該当し、ここではキャリア開発の視点を提起しています。やや抽象的な記述が続きますが、第1部第2章からは様々な具体例を交えた記述となり、ずっと読み易くなりますので、この部分はざっと読み、全編を読み終えた後に振り返って読んでもよいかと思います。

 第1部「個人とライフサイクル」では、第2章から第6章において、個人が直面する主要なライフサイクル問題について、生物社会的サイクル、キャリア・サイクル、家族の段階と状況の3つの側面からそれぞれの段階と課題を検討するとともに、これらの様々な人生の課題群間の複雑な相互作用についても説明しています。
 人は、個人としての発達の欲求、実行可能なキャリアを開発する欲求、及び、満足な家庭生活を展開する欲求、の3つを均衡させ満たす方法を見つけなければならず、社会の大部分の人々にとって、こうした「欲求の満足」の主要部分は、キャリアを築き維持していく過程で生じ、それゆえ、個人は「組織」と直接的な相互作用を持つに至るとしています。
 組織の要求も時の経過とともに変化し、また、個人も組織も複雑な環境に置かれているため、仕事の決定についての極めて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになりますが、これがまさに「キャリア・ダイナミクス」であるということです。

 第2部「キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用」では、まず第7章から第9章にかけて、そうした相互作用及び個人・組織の両者にとってのその影響を検討したうえで、第10章から第12章にかけて、キャリア初期における重要な概念として「キャリア・アンカー」、即ちキャリアの諸決定を組織し制約する自己概念を提唱しています。
 キャリア・アンカーは、①自覚された才能と能力(様々な仕事環境での実際の成功に基づく)、②自覚された動機と欲求(現実の場面での自己テストと自己診断の諸機会、及び他者からのフィードバックに基づく)、③自覚された態度と価値(自己と、雇用組織及び仕事環境の規範及び価値との、実際の衝突に基づく)から成る自己概念です。 
Career Anchors2.jpgCareer Anchors.jpg 分かり易く言えば、
 1.何が得意か (能力・才能についての自己イメージ)
 2.何がやりたいか (動機・欲求についての自己イメージ)
 3.何をやっているときに意味を感じ、社会に役立っていると実感できるか (意味・価値についての自己イメージ)
 といったことになるでしょうか。
 そうしたアンカーの形成について、MITスローンスクール同窓生の長期にわたるデータが報告されているとともに、第2部終章(第12章)では、キャリア中期の諸問題とその基本的原因を検討しています。

 第3部「人間資源の計画と開発の管理」では、視点を管理者に移し、第14章から第17章にかけて、組織全体の立場と人間資源への組織の要求の立場からすると、全キャリア・サイクルを通じて人間資源を開発し管理する全体的なシステムについて、我々はどのように考えることができ、また、これをどのように生み出せるかを考察し、更に、こうしたシステムにおいて個々の管理者はどのような役割を担うか、また、システムはどう編成されるべきかを探っています。

 キャリア・アンカーの大切さなどキャリア決定のメカニズムを論理的に解き明かしている一方で、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかという点において、近年の人事的課題であるワークライフバランスなどを考えるに際して多くの啓発的示唆を与えてくれる本であり、まさに「現代の古典」と呼ぶに相応しい1冊であるかと思います。

《読書MEMO》
●構成
第1部 個人とライフサイクル(第2章:個人の成長/第3章:生物社会的ライフサイクルの段階と課題/第4章:キャリア・サイクルの段階と課題/第5章:家族の状態、段階、および課題/第6章:建設的対処)
第2部 キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用(第7章:組織キャリアへのエントリー/第8章:社会化および仕事の習得/第9章:相互受容/第10章:キャリア・アンカーの開発/第11章:キャリア・アンカーとしての保障、自律、および創造性/第12章:キャリア・アンカーの総合的検討/第13章:キャリア中期)
第3部 人間資源の計画と開発の管理(第14章:人間資源の計画と開発/第15章:人間資源の計画とキャリアの諸段階/第16章:職務・役割計画/第17章:人間資源の計画と開発の統合的な見方に向かって)
●管理的能力
自分の能力は、以下の3つのより一般的な領域の"結合"にある。
(1)分析能力:不完全情報と不確実性の状況で問題を明らかにし分析し解決する能力
(2)対人関係能力:組織目標のより効果的な達成に向けて組織の全階層の人々に影響を与え、人々を監督し、導き、巧みに扱いかつ統制する能力
(3)情緒の能力:情緒および対人関係の危機によって、疲れ果てたり衰弱したりせず、むしろ刺激される能力、無力にならずに高度の責任を担う能力、および、罪悪感や羞恥心を抱かずに権力を行使する能力
●「助言」の責任を引き受ける
(1)教師、コーチ、あるいは訓練者としての助言者
「あの人はこの辺の物事をどう処理するかについて、多くのことを教えてくれた」
(2)肯定的な役割モデルとしての助言者
「私は、あの人の活動をみて多くのことを学んだ。実際、物事をどうやるかのよい手本を示してくれた」
(3)才能開発者としての助言者
「あの人は実際、やりがいのある仕事を与えてくれ、私は非常に多くのことを学んだ。私は伸び伸びするよう仕向けられ、またそう強いられた。」
(4)門戸解放者としての助言者
 やりがいがあって、成長もできる仕事につく機会が、若者に確実に与えられるように「上位の人たち」と闘う人である。
(5)保護者(母鶏)としての助言者
「私が学んでいる間、あの人は私を世話し護ってくれた。私は、職務を危険にさらすことなく、間違いをしたり学んだりできた。」
(6)後援者としての助言者
 被保護者達を目立たせ、彼らが気付こうと気付くまいと、新しい機会が現れるときには彼らが思い起こされるよう、確実に彼らによい「評判」をとらせ、より高いレベルに人々の目にふれさせる人。
(7)成功したリーダーとしての助言者
自分自身の成功で、その支持者たちも確実に「自分のおかげでうまくいく」ようにする人であり、こうした支持者たちを向上させる人。

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優秀さの部分はスゴすぎてマネ出来ないが、キャリアに対する考え方という点で啓発的。

知る人ぞ知る会社 1.jpg 『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』.jpg
大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社

 2部構成の第1部で「大手を蹴った若者が集まっている会社」を紹介し、第2部で大企業とベンチャーのどこが違うかを考察していますが、特に第1部が興味深かったです。
テラモーターズ.jpgSansan.jpg 第1部で紹介されているのは、「テラモーターズ」(電動バイク、社員数20人)、「Sansan」(名刺管理サービス、社員数100人)、「ネットプロテクションズ」(後払い決済サービス、社員数50人)、「フォルシア」(商品検索エンジン開発、社員数53人)、「クラウドワークス」(クラウドソーシング、社員数20人)の5社で、いずれもベンチャーで従業員数は20人から最大100人までと、一般の人には殆ど知られていない比較的小さな会社ばかりです。

 創業者自身が大手企業からベンチャー経営者に転身した人が多く、そこに集まった若い社員も皆、極めて優秀で、一旦は大手企業に勤めたもののそこを辞めた人や、大手企業の幾つもの内定を蹴った人ばかりといった感じ(その意味ではタイトルに偽りなし)。
 そうした世間的にみても"レールに乗って"いて、そのまま大企業にいれば、安泰な人生を送れたかもしれない若者たちが敢えてそこから飛び出したり、最初から大手には行かなかったりしたのはなぜか(これだと「大手を蹴った」にウェイトがかかり過ぎるから、換言して「なぜ殆どの人が知らないような会社を選んだのか」と言った方がいいかも)―本書の紹介事例を読むと、そんな彼らのユニークともとれる"キャリア行動"の背景に、個々の強い意思や夢も感じられますが、それと呼応するような各社のビジョン、業界内における先進技術や戦略的ビジネスモデル、トップの人柄やリーダーシップがあることも窺えます。

 企業の人事担当者向けの、優秀な若者を惹きつける企業の魅力とは何かを考える上でのテキストとしても読めますが(最初はそういう本だと思った)、むしろ、これから就職活動をする若者や、既にキャリアの第一歩を踏み出したもののこのままこの会社にいていいのかと悩んでいる人に向けて書かれた本と言えるでしょう。
 実際にはベンチャーの世界が甘いものでないことは確かで、成功する企業はごく一握りだとも言われています。巻末には、こうした優秀な人材を得て活気に溢れる仕事をしている企業をその他にも紹介したリストがあり、ベンチャー企業への就職を希望しているものの、玉石混交でどこがいいのか分からないという人にはガイドブックとしても読めるかも。

 但し、第1部で紹介されている企業にいる社員たちは、先にも述べた通り皆「超」がつくくらい高学歴で、好不況に関わらず何社もの大手企業から内定をもらうような人ばかり、しかも、単に就活に強い、企業ウケする、といっただけでなく中身的にも優秀な若者たちです。
 取材形式のままに書かれている第1部では、著者はそうした若者に対し、彼らの生い立ちから、どのように育ち、どのように学んだり遊んだりして、どうしてその会社に入ったのかまで丁寧に聴き出しており、彼らがただ優秀なガリ勉だったわけでなく、非常に人間的で、青春を謳歌しつつ時に自らのキャリアについて迷うなど、真剣に生き、真剣に自らのキャリアを考えてきたことが窺えました。

 彼らの「優秀さ」の部分はちょっとフツーの人にはマネ出来ないなあと思わせるぐらいスゴいレベルなのかもしれませんが、キャリアというものに対する自分なりの考え方を持つことの重要性という意味では、その優秀さゆえに安泰な道を選ぶ手もあった彼らが数十人しか社員のいないベンチャーで、しかも活き活きと働いていることを想うと、非常に啓発される要素があるかと思います。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(シェリル・サンドバーグ)

女性のためのキャリア指南書。男性が読んでも啓発される要素は多い。

LEAN IN(リーン・イン).jpgLEAN IN(リーン・イン)2.jpg LEAN IN(リーン・イン)3.jpg Sheryl Sandberg.jpg
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』 Sheryl Sandberg in TED
              
シェリル・サンドバーグはいかにして野心を抱き.jpg 本書の著者シェリル・サンドバーグは、財務省で首席補佐官を務め、その後グーグルで6年半働いてグローバル・オンライン・セールスおよびオペレーション担当副社長を歴任した後、あのマーク・ザッカーバーグによりフェイスブックにスカウトされ、今現在はフェイスブックのCOO(最高執行責任者)の地位にある人であり、2011年8月のフォーブズ誌「World's 100 Most Powerful Women」で5位になった人でもあり(ミッシェル・オバマ大統領夫人よりも上に位置していた)、2013年には「経営思想家トップ50(Thinkers50)」にランクインしています。

「シェリル・サンドバーグはいかにして野心を抱きすべてを手に入れたのか」(米「TIME」誌→「COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2013年 08月号 [雑誌]」)

 こうした著者の華々しい経歴から、本書は、スーパーウーマンが自らの成功体験をもとに、フツーの人にはちょっと真似できないようなことが書かれた自己啓発書かと思われがちですが、実際に読んでみると、著者自身、自らのキャリアが恵まれたものであることを率直に認めつつも、現在の地位にたどりつくまでにさまざまな苦労や葛藤があったことが、実に赤裸々に、時にユーモアを交え描かれています。

 また、アメリカ社会において女性が仕事をしていくことがいかに困難かを多くのデータや文献から裏付けるとともに、その原因を、社会の仕組みだけでなく、働く女性の心理面からも分析し、女性たちがそうした内面の壁を突破するにはどうしていけばいいかを考える内容となっています。

 著者によれば、男女差別はアメリカ社会の中にも隅々まで根付いていて、優秀な女性たちは、自分たちの優秀さについて一種の罪悪感を抱いており(著者自身、ハーバード大学で最優秀学生の1人に選ばれた際に、「優秀な女は嫌われる」という思い込みから、周囲にはそのことを隠していたという)、女性たちはまず、この内なる敵と闘わなければならないのとしています。

 その上で、「キャリアは梯子ではなくジャングルジム」「笑っていれば気分が明るくなる」「ロケットの座席をオファーされたらまず座ってみる」「正直なリーダーになる」「完璧を目指すよりもとにかくやり遂げること」という「5つのマインドチェンジ」を提唱しています。

 女性がキャリアで成功する上での障害と、それを取り除くためにどうすればよいかということについて多くのページを割いていて、報酬の交渉をする際のポイント、夫を協力的なパートナーにするためのコツや、子供が生まれるまさにその時まで仕事を辞めてはいけないというアドバイスなど、いずれも具体的かつ有用なものばかりです。

シェリル・サンドバーグ1.jpg プレゼンテーション・カンファレンスとして知られる「TED」で著者が講演した際の話がでてきますが、著者が本書を著すきっかけとなったのは、TEDでの著者の「なぜ女性のリーダーは少ないのか?」と題された(周囲はなぜ彼女は成功したのかを聞きたがっていたが、彼女は敢えてこのテーマを演題に選んだ)トークの反響が大きかったためで(トークの模様はインターネットで視聴できる)、本書もアメリカでベストセラーとなり、女性のキャリアについて大きな論争が起きているとのことです。

 論争の元となる1つの要素として、例えば著者が、自分のことを特別な女性と崇め奉り「メンターになってくれませんか?」と言い寄ってくる女性に対して、力のある人間にすり寄っていけば誰かが自分を引き上げてくれるだろうという、その受け身の姿勢が気に入らないとぶちまけていたりすることもあるのかもしれません。また、男性優位社会との対立項として自らの考えを述べているように捉えられる点もあるのかも。

 但し、単に声高に女性の権利を主張するのではなく、本当に必要なのは相互理解であり、女性は女性で、まず出来ること、やるべきことをやりましょう、と言っているように思えました。その上で著者は、「いまこそ私は、誇りをもって、自分をフェミニストと呼ぼう」と宣言しています。結婚や出産といったライフイベントを機に、キャリアを諦めてしまう女性が多いのは日本も同じであるという、データに基づいた指摘もあり、アメリカ国内だけでなく、世界の女性に呼びかけているところに、メッセージ性、発信力のスケールの大きさを感じます。

 著者は本書を自分の領域でトップに就く可能性を高めたい、全力でゴールを目指したい、そう考えている女性に向けて書いたそうです。女性のためのキャリアの指南書として読めるばかりでなく、男性にとっても、一緒に働く女性のことを考える契機となる本であり、また、男女を問わず、キャリアやリーダーシップに関する示唆に富むものとなっています。更に、女性リーダーのロールモデルを増やしていくことは、今後の企業の人材活用における大きな課題になっていくことは間違いなく、人事パーソンの視点からみても、啓発される要素を多分に含んだ本であると思います。

photo3377-2.jpg それにしてもこの人、TEDのプレゼンもNHKの「クローズアップ現代」でのインタビューも見ましたが、コミュニケーション能力がやはり抜群に長けているのではないでしょうか、「1対多」でも「1対1」でも。その年俸22億円はカルロス・ゴーンの倍以上ですが、確かにハーバードを首席で卒業した秀才ではあるし、おそらくマーケティングなどの知識も豊富だとは思われるのですが、やはりこの人をこうした地位まで押し上げたのは、リーダーシップとコミュニケーション能力だろうなあと思います。

「クローズアップ現代 女性のリーダーはなぜ少ない?~米企業トップ サンドバーグさんのメッセージ~」(2013年7月9日放送)

Facebook COO Sheryl Sandberg Commencement Speech | Harvard Commencement 2014


【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

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キャリア官僚から大学教授への転職奮戦記。教授になること自体が目的化してしまっている印象も。

1勝100敗.JPG1勝100敗! あるキャリア官僚の転職記.jpg1勝100敗! あるキャリア官僚の転職記 大学教授公募の裏側 (光文社新書)』['11年]

 キャリア官僚から大学教授への転職奮戦記で、いやー、ご苦労サマという感じ。自らのキャリアを築くには、それなりの意志と覚悟が必要なのだなあという教訓になりましたが、それにしても大した意志の強さと言うか、そもそもが粘着気質のタイプなのかなあ、この著者は。

 その気質を裏付けるかのように、大学教授の公募試験に落ちまくった様が克明に書かれていて、併せて教授公募の実態や論文実績の積み重ね方もこと細かに書かれているので、同じ道を目指す人には参考になるかと思われます。

 ただ、一般読者の立場からすると、なぜ大学教授になることにそうこだわるのかも、大学教授になって一体何をしたいのかもよく伝わってこず、大学教授になること自体が目的化してしまっている印象も受けました(「ノウハウ本」ということであれば、そんなことは気にしなくてもいいのかも知れないが)。

 近年の大学の実学重視の傾向により、社会人としての実績からすっと大学教授になってしまう人もいますが、この著者 の場合、博士課程に学んで、「査読」論文を何本も書いて公募試験を受けるという"正攻法"です。

 但し、博士課程で学ぶ前提条件となる修士課程については、霞が関時代に米国の大学に国費留学させてもらっていることで要件を満たしているわけだし、目一杯書いたという論文の殆どは、新潟県庁への出向期間中の3年間の間に書かれたもので、この時期は毎日定時に帰宅することが出来たとのこと―こうした、一般サラリーマンにはなかなか享受できない、特殊な"利点"があったことも考慮に入れる必要があるのではないかと思います(その点は、著者自身も充分に認めているが)。

高学歴ワーキングプア.jpg 大学教授の内、こうした大学外の社会人からの転入組は今や3割ぐらいになうそうですが、一方で、同じ光文社新書の水月昭道『高学歴ワーキングプア―「フリーター生産工場」としての大学院』('07年)にもあるように、大学で学部卒業後、ストレートに大学院の修士課程、博士課程を終えても、大学の教員職に就けないでいるポストドグが大勢いるわけで、そうした人達はますますたいへんになってくるのではないかと、そちらの方を懸念してしまいました。

水月昭道『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

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モチベーション・タイプ別の自律的人材になるための処方箋を示す。

自律的人材になるためのキャリア・マネジメントの極意3.JPG自律的人材になるためのキャリア・マネジメントの極意.jpg自律的人材になるためのキャリア・マネジメントの極意』(2009/09 ナカニシヤ出版)

 先行き不透明な経済・経営環境のもと、企業にとってこれからは自律的人材が求められるとは、昨今よく言われることですが、本書では、自律的人材とはどのような人材なのか、自律的人材とモチベーションはどのような関係にあるのかを示したうえで、個人のモチベーションのタイプ別に、自らやる気を高める方策をまとめています。

 本書によれば、自律的人材とは、「自分が何をすべきかの方向を定め、他者から指示・コントロールされなくても、責任感をもって主体的に物事を進めていく人材」であり、モチベーションの効果が比較的短期間であるのに対し、自律意識(自律的人材であろうとする意識)は一定期間持続するとしています。

モチベーションのタイプ.jpg そのうえで、モチベーションをタイプ分けするために、まず「やる気のエンジン」がどこにあるか、つまり、内発的動機づけによるもの(目的的)か外発的動機づけによるもの(手段的)かで区分し、それぞれに、自己決定が可能な自律的ケースと、他からの支援など関係性に依存する他律的ケースがあるとしています。

この区分に沿って、モチベーション・タイプを「目的的‐手段的」と「自律的‐他律的」の2軸に分け、内発的動機づけによるものは自律的‐他律的を問わず「内発的モチベーション」(目的的)として1つのタイプとし、外発的動機づけによるもののうち、自律的なものを「役割自発型モチベーション」、他律的なものを「外発的モチベーション」とし、これに、まだ動機づけられていない「アパシー状態」を加えた4つのタイプを規定したうえで、各タイプごとに章分けして、自律的人材になるための最適方法を教唆しています。

心理学の考え方が各章に織り込まれていますが、例えば「内発的モチベーション・タイプ」ではキャリア・マネジメントの方法論そのものがに書かれているのに対し、「役割自発型モチベーション・タイプ」においては、「自己追究型アプローチでキャリアをマネジメントする」といった具合にアイデンティティの追究にウェイトが置かれています。

「外発的モチベーション」では「有能感を貯める」「行為の主体になる」といったことが、さらに「アパシー状態」においては、「できない気持ちを学ばない」などとなっていて、このように、タイプごとに"処方箋"レベルが明確に区分されているのが興味深かったです。

 個人においても仕事や課題の違いによって異なるタイプの状態になるであろうし、部下を使う側に立てば、部下1人1人は違ったタイプに分けられるかもしれませんが、このタイプ区分を前提に、部下ごとに「やる気の引き出し方」が違ってくることを意識してみるのもいいのではないか、そうした意識を持つことが、人材マネジメント・スキルの向上にも繋がるのではないかと思いました。

 モチベーションのタイプ分け自体が1つの仮説であるともとれますが、むしろ、概念整理の方法および心理学をベースとした方法論と読み手との相性によって、この本の評価は分かれるかも知れません(ハマる人はハマる)。

 言えることは、ただただ"自律的人材たれ"と連呼するだけでなく、1つの仮説からスタートしてでも、より多くの社員が自律的人材となるべく方向付けをしていくことが、仕事に対する価値観や関わり方の違いという"目に見えない"ダイバーシティをマネジメントしていくうえでの、管理職や人事担当者のこれからの課題ではないかと思いました。

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またまたタイトルずれ? 特殊な人だけ拾っても...。

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか.jpg 
若者はなぜ3年で辞めるのか?.jpg若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)』['06年]
3年で辞めた若者はどこへ行ったのか アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』['08年]

 『若者はなぜ3年で辞めるのか』('06年/光文社新書)の続編と思われますが、今度は〈ちくま新書〉からの刊行で、〈webちくま〉の連載に加筆修正して新書化したものとのこと。

 前著では、「年功序列」を日本企業に未だにのさばる「昭和的価値観」としていて、そこから企業のとるべき施策が語られるのかと思いきや、働く側の若者に対し「昭和的価値観」からの脱却を呼びかけて終わっていましたが、本書では、実際にそうして企業を辞め、独立なり転職なりした、著者が言うところの「平成的価値観」で自らのキャリアを切り拓いた人達を取材しています。

 ですから、タイトルからすると労働問題の分析・指摘型の内容かと思われたのですが、後から書き加えたと思われる部分にそうした要素はあったものの、実際には、どちらかというと働き方、キャリアの問題を扱っていると言えるかも知れず、こちらも少しずつタイトルずれしているような気が...。

 紹介されている人の全てがそうだとも言えないけれど、(著者同様に)高学歴でもって世で一流と言われる企業に勤め、業界のトップの雰囲気や先端のノウハウに触れた上で起業なり独立なりを果たした人が中心的に取り上げられているような気がし、同じ「若者」といっても産業社会の下層で最初からそうしたものに触れる機会の無かった人のことは最初から眼中にないような印象を受けました。

 こうした特殊な人ばかり取り上げて(その方向性の散漫さも目につく)、「辞めた若者」の一般的な実態には迫っていないんじゃないかなという気がしますが、転職に失敗した人に対しては、前著『若者はなぜ3年で辞めるのか』にある"羊 vs.狼"論で、「彼ら"転職後悔組"に共通するのは、彼らが転職によって期待したものが、あくまでも『組織から与えられる役割』である点だ。言葉を換えるなら、『もっとマシな義務を与えてくれ』ということになる。動機の根元が内部ではなく外部に存在するという点で、彼らは狼たちと決定的に異なるのだ」と既にバッサリ斬ってしまっていたわけです。

 元々著者自身が、企業の中で学習機会に恵まれた環境のもと大事に育てられた人なわけで、この人が「キャリア塾」的な活動をするとすれば、対象としては大企業に今いて一応レールに乗っかっている人に限られるのではないかと思われ、個人的にはそうした活動よりも、企業向けのコンサルティング的提言をしていく方がこの人には向いているのではないかと、老婆心ながらも思いました(『内側から見た富士通-「成果主義」の崩壊』('04年/光文社ペーパーバックス)は悪い本ではなかった。むしろ、大いに勉強になった)。

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物足りない内容。よく言えば"おさらい"的。"焼き直し"感は拭えない。

キャリアの常識の嘘.jpgキャリアの常識の嘘』('05年/朝日新聞社)金井壽宏.jpg 金井壽宏 氏 高橋 俊介.jpg 高橋俊介 氏

 『部下を動かす人事戦略』('04年/PHP新書)に続く金井壽宏、高橋俊介両氏の共著で、「職種が自分に合うことが重要だろうか」「キャリアにとって忠誠心はプラスになるか」「部下は上司が育成すべきか」といった問いに両氏が答える形式になっていますが、就職しようとする学生などキャリアの入り口にある人に対する指南書といったところでしょうか。

 金井氏は、今まで多くの自著でも紹介してきた「キャリア・ドリフト」「キャリア・トランザクション」などの概念や理論を織り交ぜながらキャリア・デザインについて論じ、また高橋氏は、単線的な上昇志向より「キャリア自律」が大切であることを説いていますが、方向性としては金井氏と重なり(すり寄ってきた?かつては「成果主義」を進めるコンサルを標榜し、目いっぱい上昇志向を煽っていたではないか)、読んでいてどちらが書いているものかふとわからなくなるときもありました。

 一応、中高年などでキャリアの上で迷いを感じている人なども読者対象としているようですが、実社会の経験がある人が読むにはややモヤっとした感じで、「キャリア学」的関心から本書を手にした人にとっても物足りないかも。
 特に両氏の本を何冊か読んだことのある人にとっては、よく言えば"おさらい"的なのかもしれませんが、"焼き直し"感は拭えないと思います。
 
 そうした意味でも、(シリーズ名とは言え)タイトルの「常識の嘘」や帯の「目からウロコ!」というのは大仰で、どのあたりのターゲットを指してそう言っているのかと突っ込みたくなります(オーソドックスなんです。書いてあること自体は)。

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結局のところ"スローキャリア"というものが何なのかよくわからない。

スローキャリア.jpgスローキャリア』 ('04年/PHP研究所) スローキャリア2.jpgスローキャリア (PHP文庫)

Slow.jpg 著者の提唱する"スローキャリア"というのは、"上昇志向でない動機によってドライブされる"キャリアのことを指すらしいのですが、この定義がわかりにくい。

 キャリアアップや組織で出世することだけに血道を上げ、本来の自分らしいキャリア形成という目的から逸脱してまでも「勝ち組」となることにこだわる考え方に疑問を投げかけるという姿勢はわからないでもないのですが、著者自身が「上昇志向」「勝ち組」「キャリアアップ」などという言葉を使うことで、そうした価値基準の中にどっぷり浸っているようにもとれます。
 これは、この本が「THE21」という"キャリアアップ"特集とかをよく組んでいる雑誌に連載したものを単行本化したものであることとも符合します。

 基本的には、著者が今まで説いてきた「キャリア自律」、クランボルツの「計画的偶発性理論」などがベースとなっていて、キャリア計画より普段の仕事への取り組み姿勢が大切だという落とし処だと思いますが、"スローキャリア"とは逆の"ファストキャリア"的発想に近いのではないかと思われる記述も多い一方で、"スローキャリア"を"スローフード""スローライフ"になぞらえる記述もあり(少なくとも"スローフード"の"スロー"と"スローキャリア"の"スロー"は別物または異質のものではないだろうか)、読む側としては混乱します。

 平易な文体で書かれていてさらっと読めるものの、流行語としては流行らせようしたのではないでしょうが、"スローキャリア"がまずありきで論を進めていてる感じがしました。

 「はっきりいおう、スローキャリアをめざす人は、お金という唯一のものさしでその人の価値を決めることができるという、ある種アメリカ的な考え方を否定すべきだ」
 ―と言われても、結局のところ"スローキャリア"というものが何なのかよくわらないので、結果的には通俗的な人生論にしか聞こえてこないという面がありました。

 【2006年文庫化〔PHP文庫〕】

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バランスがとれ、わかりやすく、かつ深みのある考察。

キャリアの教科書.jpg 『キャリアの教科書』('03年/PHP研究所)佐々木直彦.jpg 佐々木直彦 氏 (略歴下記)

 エンプロイアビリティの基本能力を 専門能力/自己表現力/情報力/適応力とし、雇われ続ける能力に限定せず、転職を可能にする能力、やりたい仕事を続けるための能力という観点を示しているのが新鮮でした。
 企業のエンプロメンタビリティ(雇う力)にも言及していてバランスがとれています。

プレゼン能力.jpg 本論では、エンプロイアビリティ向上のために実践し(フィールドワーク)考え(コンセプトワーク)人とつながる(ネットワーク)ことの重要性を、図解やケーススタディと併せ、またキャリア行動に関する理論を引きながら、わかりやすく具体的に説いていています。

 プレゼン能力の大切さを特に強く訴えている点など、プランナーでありコンサルタントである著者の体験からきているかと思いますが、何のために自己表現するかというところまで踏み込んでいて、考察に深みを感じます。

 ただ、図説の中にはいかにもプランナーが描きそうな矢印の多用が見られ、洗練されたイラストや写真も時には邪魔に感じられることがあったのが残念でした。
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佐々木直彦 (ささき なおひこ)
一橋大学社会学部卒業。リクルート、産業能率大学研究員を経て、現株式会社メディアフォーラム代表取締役。組織変革、営業・顧客リレーション改革、リクルーティング、キャリア創造などのコンサルティングに携わる。一方、トップから内定者まで、さまざまな階層を対象とした「プレゼンテーション」「問題解決」などに関するセミナーの講師をつとめる。著書に『大人のプレゼン術』『キャリアの教科書』(いずれもPHP研究所)、『コンサルティング能力』(日本能率協会マネジメントセンター)、『仕事も人生もうまくいく人の考え方』(すばる舎)ほか。

キャリアの教科書2962.JPG《読書MEMO》
●エンプロイアビリティの基本となる4つの能力...
 1.専門能力
 2.自己表現力
 3.情報力
 4.適応力(26p)
●エンプロイアビリティの3つの観点...
 1.雇われ続けるためのエンプロイアビリティ
 2.好条件での転職を可能にするためのエンプロイアビリティ
 3.やりたい仕事をやり続けるためのエンプロイアビリティ
●企業のエンプロイメンタビリティ(45p)
●3つのワーク(フィールドワーク/コンセプトワーク/ネットワーク)(60p)
●グランボルツ博士のプランド・ハップンスタンス・セオリー(96p)

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趣旨は、社員の自律的キャリアの構築促進。内容がこなれていない。

キャリア論.jpg 『キャリア論』 (2003/06 東洋経済新報社)  高橋 俊介.jpg 高橋 俊介 氏

car02.jpg サブタイトルからは窺えますが、"会社側は"何をすべきなのかという本で、そのあたりが「キャリア論」というタイトルからは少しわかりにくく、それでも個人として買っても役に立ったという人も少なからずいるらしいのは、本書が〈自律的キャリア(CSR=Career Self Reliance)〉を形成・促進することを説いているためだろうと思われます。

 この本が企業側に対して明らかにしようとしているのは、社員の〈自律的キャリア〉の構築を促進していくことは、必ずしも優秀人材の流出には繋がらず、むしろ企業にとっても望ましいものであるということです。
 それはそれで、企業側部にパラダイム転換を促す1つ筋の通った主張になっていると思います。

『キャリア論』 .jpg ただし、そのことを説明するためにクラスター分析の手法を使って多くのページを割いていますが、学術論文か、その手前のゼミ論文のような生硬さで、一般読者はもちろん企業の担当者にとっても、読んでいて何故こんなゼミの講義みたいな話に付き合わさればならないのかという気分になってきます。

 文体にも著者独特の分かりやすさが見られず、どこまで誰が書いたのかわからない、やや"手抜きの1冊"と見ました。

 著者が以前から言っている〈自律的キャリア(CSR=Career Self Reliance)〉というが概念にも、少なくとも本書では深化は見られず、加えて〈企業の社会的責任=CSR(Corporate Social Responsibility)〉というハヤリの言葉とカブったのが、ちょっと気の毒。

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報告書レベルを超えた内容。ただし、ちょっと大企業中心?

仕事で一皮むける0.JPG仕事で「一皮むける」.jpg仕事で「一皮むける」光文社新書金井壽宏.jpg 金井壽宏 氏

 関西経済連合会のワークショップとして、参加企業のミドルが企業トップ(経営幹部)にインタビューし、自らの〈キャリアの節目〉を振り返りってもらったものをまとめたものを、さらに金井教授が新書用に再構成し、解説をしたものです。

Career and Work Success.jpg 金井教授の「一皮むける」という表現は、その仕事上の経験を通して、ひと回り大きな人間になり、自分らしいキャリア形成につながった経験のことを指し、ニコルソンのトランジッション論などのキャリア理論がその裏づけ理論としてあるようです。直接的には南カリフォルニア大の経営・組織学教授モーガン・マッコールが著書『ハイ・フライヤー』('02年/プレジデント社)の中で述べている"クォンタム・リープ(量子的跳躍)"という概念と同じようですが、"クォンタム・リープ"といった言葉よりは"一皮むける"の方がずっとわかりやすいかと思います(一方で、"ターニング・ポイント"という言葉でもいいのではないかとも思うが、ここでは"キャリア"ということを敢えて意識したうえでの用語選びなのだろう)。その言葉のわかりやすさと、金井氏の思い入れが、本書を単なる報告書レベルを超えたまとまりのあるものにしています。

 経営幹部が選んだ自らの"一皮むけた"経験の契機が様々であるにも関わらず、配属や異動であったり、初めて管理職になったときであったり、プロジェクトに参画したときであったりと、ある程度類型化できるのが興味深く、自分に重なる事例に出会ったときはハッとさせられます。日経の「私の履歴書」みたいな実名記載ではない分、飾り気が無く、自らのキャリアに対する素直な振り返りになって、誰もが自分にも類似したことが思い当たる〈キャリアの節目〉となった事例を、本書の中に見出せるのではないかと思います。

 但し、大企業での話ばかりで、多階層組織、事業部制を前提とし、新規事業、海外生活などを経験したといったことがキーになっていたりする話などは、今ひとつピンと来ない読者もいるのではないかと思いました(関西経済連合会には中小企業はいないの?)。

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深い考察と確信。キャリア行動に関して読んだ本の中では最良の部類。

キャリア コンピタンシー.JPGキャリア・コンピタンシー.jpg     04_12_6_2.gif 小杉俊哉 氏 (略歴下記)
キャリア・コンピタンシー』('02年/日本能率協会)

 本書では、キャリア・コンピタンシーを構成する9つの要素を示し、キャリア理論やカウンセリング理論を引きながら論を進めていますが、最終的には借り物の理論をなぞってスキルのみ伝授して終わるのでなく、著者自身がキャリア及び生き方について深く考察し、確信を持って読者をインスパイアしようとしているのが伝わってきます。
 それだけに、「読み手との相性」で評価が割れる本かと思います。

 自分の場合は、最後の「自分自身であること」に至るまで物語を読み進むように引き込まれ、著者自身のキャリアの振り返りにも感動しました。
 知識を期待して読み始めましたが、既知のクランボルツの挿話にしても、高橋俊介、金井壽宏といった人の本の中で読むよりも深い印象を受けたりしたのは、自分だけでしょうか。
 
 キャリア理論やカウンセリング理論の紹介も的を射ており、そうした知識の整理にも役立ちますが、個人的には知識以上のものが得られという読後感があり、キャリア行動に関する本で今まで読んだものの中では、自分にとっては最良の部類に入るものでした(相性が良かったのかも)。

《読書MEMO》
●専門プロフェッショナル(34p)とビジネス・リーダー(40p)
●キャリア・コンピタンシーを構成する9つの要素
 1.自己認識
 2.ビジョン
 3.楽観・柔軟
 4.環境理解
 5.状況判断
 6.アサーション・表現力)
 7.影響力・対人手腕
 (以下、コアコンピタンシー)
 8.直感
 9.自分自身であること
●モチベーション・ファクターとリベンジ・ファクター(66p)
●MBTI(マイヤーズ・ブリッグス・インディケイター)(76p)
●シャインのキャリア・アンカー(124p)
●クランボルツのプランド・ハップンスタンス(125p)

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小杉俊哉
1958年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、日本電気株式会社(NEC)入社。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー インク、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピュータ株式会社人事総務本部長を経て独立。現在、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教授、株式会社コーポレイト・ユニバーシティ・プラットフォーム代表取締役社長。自律的キャリア開発・リーダーシップの研究とそれに基づく人材育成、組織・人事コンサルティング、およびベンチャー企業への経営支援を行っている【著書】「キャリア・コンピタンシー」(日本能率協会マネジメントセンター)「組織に頼らず生きる」(平凡社)「ラッキーをつかみ取る技術」(光文社新書)他多数

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著者の本領発揮!キャリアを考え、キャリア論を知るうえでの良書。

働くひとのためのキャリア・デザイン.jpg  キャリアデザイン96.JPG         金井壽宏.jpg 金井壽宏氏 (略歴下記)
働くひとのためのキャリア・デザイン』 PHP新書 〔'00年〕

 長年にわたりキャリアについて研究してきた著者による本で、キャリアとは何かを考えるうえで啓発される要素が多々ありました。また、一般にどういったキャリア観があるかを知り、自らのキャリアをデザインするとはどういうことなのか考えるうえで参考になる本です。著者自身のキャリア観にも好感が持てました。

career.jpg キャリア理論を学ぶうえでも、シャインの何が得意か、何がやりたいか、何をやっているときに意味を感じ社会に役立っていると実感できるかという〈3つの問い〉や、ブリッジスの、キャリアにおける危機の一つとしての転機は、一方で躍進・前進に繋がる可能性もあるという〈トランジッション論〉、クランボルツの、キャリアの節目さえデザインしていれば、それ以外はドリフトしていいとして、偶然性や不確実性の効用を説いた〈キャリア・ドリフト〉といったキャリア行動や意思決定に関する理論や概念が、最近のものまでバランス良くカバーされており、役に立つのではないでしょうか。

business.jpg またそれらの解説が大変わかりやすいうえに、著者の「この理論を自分のキャリアを決める際に生かしてほしい」という熱意が伝わってきます。

 単行本の執筆も多く、最近は組織・人事全般に関わるテーマでも本を出しているのは経営学者ですから当然ですが、実はこの新書本に著者の本領が最も発揮されているのではないか、という気がします。

《読書MEMO》
●シャインの「3つの問い」(36p)...
 1.何が得意か (能力・才能についての自己イメージ)
 2.何がやりたいか (動機・欲求についての自己イメージ)
 3.何をやっているときに意味を感じ、社会に役立っていると実感できるか
    (意味・価値についての自己イメージ)
●ブリッジスの「トランジッション論」...危機の1つとしての「転機」、一方で躍進感・前進感も(72p)
●ニコルソンのモデル...準備→遭遇→順応→安定化というサイクルの節目をキャリアの発達につなげる(84p)
●クランボルツの「キャリア・ドリフト」(114p)...
 ・デザインの反対語→流されるままでいいのか→偶然性や不確実性の効用(キャリアドリフトのパワー)
●キャリアにアップもダウンもない、主観的意味づけや統合がキャリア理解を強化(137p)
●キャリアの定義...長い目で見た仕事生活のパターン(140p)
●レビンソン...生涯を通じて発達するという概念(202p)
●ユング...「人生の正午」(221p)
●エリクソン...ライフサイクル論(221p)

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金井壽宏 (神戸大学大学院経営学研究科教授)
1954年生まれ。兵庫県神戸市出身。京都大学教育学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。マサチューセッツ工科大学でPh.D(マネジメント)、神戸大学で博士(経営学)を取得。現在はリーダーシップ、モティベーション、キャリア・ダイナミクスなどのテーマを中心に、個人の創造性を生かす組織・管理のあり方について研究。

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刊行時はキャリア行動の教科書的な読まれ方。今でも示唆は多い。

キャリアショック.jpg 『キャリアショック―どうすればアナタは自分でキャリアを切り開けるのか?』 ['00年]

4211281012.jpg 自分の思い描いていたキャリアの将来像が予期しない環境変化により崩壊してしまうことを「キャリアショック」とし、そうしたことが起こりうる現代において自分のキャリアをどう捉え、どう開発していくかを説いています。

 変化の激しい時代においては、最初に目標があっても必ずしも予定通りにはいかない、ということは多くのビジネスパーソンが感じているところ。しかしそうした時代だからこそ、自律的なキャリア形成を図るよう心掛けるべきである、というのがメインの主張です。

 キャリアアップという言葉を使わず、「幸福なキャリア」を築くにはどうしたらよいかということを、プランド・ハップンスタンス(計画的偶然性)などキャリア行動の概念を用いて説明する過程は、先駆的で、かつわかりやすいものでした。
 実際にキャリアチェンジした人の事例を多く挙げていて、キャリアコンピテンシーの高め方が身近に理解できる1冊。

 本書が刊行された'00年は、民間のコンサル会社ワイアットの社長だった著者が独立を経て慶応大の教授に転身した年ですが、この一般向けの著書はキャリア行動の教科書的な読まれ方をしました。
 ただし、その後あまりにこうした本や考え方が出尽くして、今読むと当時ほどの目新しさはありません。
 それでもなお、キャリアの入り口にいる学生や、今を自分のキャリアの転機ととらえて転職を考えている人には、今もって示唆の多い内容ではあると思います。

  高橋 俊介.jpg 高橋 俊介 氏 (略歴下記)

 【2006年文庫化(ソフトバンククリエイティブ[SB文庫])】
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高橋 俊介
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
組織・人事に関する日本の権威の一人。プリンストン大学大学院工学部修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ザ・ワイアット・カンパニーに勤務後、独立。
人事を軸としたマネジメント改革の専門家として幅広い分野で活躍中。主な著書に「自由と自己責任のマネジメント」「自立・変革・創造のマネジメント」「キャリアショック」「組織改革」「人材マネジメント論」がある。

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キャリアの節目で悩んでいる人には、元気づけられる事例やヒントが。

「選職社会」転機を活かせ.gif「選職社会」転機を活かせ0』 ('00年/日本マンパワー出版) NancySchlossberg.jpg Dr. Nancy Schlossberg

MidCareer.jpg 全米キャリア開発協会(NCDA)の会長などを務めた著者による本書は、人が人生の転機やキャリアの節目にぶつかったとき、それをどう乗り越え、どうすれば豊かな人生が送れるかということをテーマとしています。

 著者は、どんな転機でも「見定め」、「点検し」、「受け止める」ことで必ず乗り越えられるとし、その「点検」のところでは、リソースとしての4つのS(Situation:状況、Self:自分自身、Support:周囲の支え、Strategies:戦略)を見極めるとが、成功への道に繋がるとしています。

 この論旨の流れに沿って、人生の転機や困難に直面した人がそれをどう乗り越えたかという事例が多く紹介されていて(本書の原題は"Overwhelmed"(途方にくれて))、アメリカ人というのはこういう逆境から立ち直る話が好きなのだなあという気もしましたが、もちろん日本人にとっても、とりわけ人生やキャリアの節目で悩んでいる人には、元気づけられる事例や考え方のヒントが本書には含まれていると思います。
 
 原著の出版は'89年と少し古く、一般的なキャリア理論の紹介も一部にありますが、必ずしも充分に網羅しきれていません。 
 キャリア学の金井壽宏氏も「どんな転機でも必ず乗り越えられる」という考え方において、本書に賛同していたような覚えがあります。
 そうした意味では、理論書というより啓蒙書に近い感じがします(人生論ではないと訳者あとがきにはありますが...)。
 
 興味深かったのは、「人生半ばの危機」説に批判的なことで、人はあらゆる時期に転機に見舞われるとしていている点で、例えば母と娘が同時期に出産するといったことが起こる社会においては(そうしたことがどれぐらいの頻度でアメリカ社会にあるのかはよくわかりませんが)、確かに固定的なライフステージを想定していない方が、こうしたダイバーシティ(多様性)に対応できるのかもしれないと思いました。

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円高不況期に書かれた転職・人材会社利用ガイド。今に通じる部分も。

転職.jpg 『転職―人材紹介のプロが教える「考え方・選び方・売り込み方」okamoto.jpg岡本義幸 氏(略歴下記)

Change of career.bmp 本書は'87(昭和62)年の出版であり、人材会社(人材斡旋会社)の社長が書いた「転職」のためのガイドブックです。
 この分野では古書に属するものかも知れませんが、読み直してあまり旧い感じがしないのは、本書が書かれ時期が、その直前までバブル景気前の円高不況期であったために、バブル崩壊の際と背景が少し似ているからではないかと思います。
 プラザ合意('85年)による急激な円高が未曾有の鉄鋼不況を招き、新日鉄などが大規模なリストラ策を打ち出したのがこの頃でした。

 転職先の見つけ方・見分け方や、履歴書の書き方から面接での自分の売り込み方などが70項にわたって書かれていますが、「受付嬢で会社がわかる」とかはちょっと平凡ですが、「中小企業なら社長面接のある企業を選べ」とか、なかなか面白いアドバイスもあります。

 当時それほど一般のビジネスパーソンには馴染みのなかった人材会社の活用の仕方について書かれているほか、外資系の会社というものの見つけ方・見分け方が詳しく書かれているのが特徴でしょうか。
 外資系の企業で勤務する場合「本社に2名の友達を持て」というアドバイスは、日本企業の支社・支店に勤める人にも当てはまるかも。

 結局、日本の景気は回復してバブル期に入り、高度専門職能(当時ならば金融・SEなどの専門知識・能力が最も需要があった)を持つ人が、自分をより高く売るためにこういう人材会社を利用したように思います(採用会社が斡旋会社に払う手数料も、かなり高かったように思う)。

 最後に著者の将来予測があり、「企業の国籍は無くなる」とか「理科系出身者が三次産業に押し寄せる」などというのは当たっている面があり、「社長の10人に1人は女性になる」というのは、まだそこまでいってはいないという感じでしょうか。
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岡本 義幸
ボイデン・ジャパン 代表取締役会長。同志社大学経済学部卒。米国大沢商会取締役社長、株式会社ケンブリッジ ヒューイット インターナショナル(現ヒューイット アソシエイツ)社長を経て、1995年、ECI株式会社を設立。現在、同社の代表取締役会長を務める。 

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