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企業内でキャリア研修に携わる人だけでなく、人事パーソン全般にお薦め。

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トランジション ――人生の転機を活かすために (フェニックスシリーズ) 』['00年]/『トランジション: 人生の転機』['94年]

 人生で訪れる転機をどのように乗り越え、変化に適応していくか―本書では、キャリアや生涯での節目をトランジションと呼び、キャリアや生涯での節目にあたるトランジションには、何かが終わるとき(終わり)、混乱や苦悩のとき(ニュートラルゾーン)、新しい何かが始まるとき(始まり)の3つの段階があるとし、人生で訪れる転機をどのように乗り越えるかを説いています。第Ⅰ部(第1章~第4章)では、人生の発達過程としてのトランジションが、人間関係や職業生活にどう影響するかを考察し、第Ⅱ部(第5章~第7章)では、トランジションの3つ段階についてそれぞれ解説しています。

 第1章では、すべてのトランジションは何かの「終わり」から始まり、「終わり」の後に「始まり」があるが、その間に重要な空白ないし休養期間が入るとしています。そして、トランジションの過程で、人は「死と再生」を経験するとしています。

 第2章では、人生はトランジションの連続であり、それは人生の発達過程としてとらえることができるとし、子ども時代の終わり、30代、「中年の危機」、それ以降のヒンドゥー教で言うところの「林住期」のそれぞれにおけるトランジションについて述べています。

 第3章では、人間関係にもトランジションがあり、たとえば夫婦関係とは、相手の物語に組み込まれた役割を演じることであり、危機の中で二人の関係をどう育むかが大切であるとし、人間関係がトランジションを迎えている人が留意すべきチェックリストを示しています。

 第4章では、トランジションは「終わり」から始まり、「ニュートラルゾーン」「始まり」という3つの局面があるが、人間関係と同様に、職業生活にも人生のステージごとにトランジションのリズムがあるとし、トランジションに直面した際にその意味を見い出し、自分自身のために「もはやふさわしいとは言えなくなった」ことが何であるかとしっかりと捉える必要があると説いています。

 第5章では、トランジションの最初の局面としての「終わり」には、離脱・解体・アイデンティティの喪失・覚醒・方向感覚の喪失の5つの側面があるとし、また、トランジションが変化と異なる点は、自分にふさわしくなくなったものを手放すことから始めることにあるとしています。

 第6章では、「ニュートラルゾーン」は経験したことのない不思議な体験であり、深刻な虚無感を伴うものであるが、そこに意味を見い出し、この時期をできるだけ短く切り上げるにはどうすればよいか、そのヒントを挙げています。

 第7章では、「始まり」について、それは印象に残らない形で生じるが、「始まり」を知らせるヒントはどのように現れるか、また、「始まり」において留意すべきことは何かを述べています。

 人材不足の時代、企業は、社員のトランジションをサポートする仕組み作りをすることが、人材定着率の中長期的な向上に繋がるのではないでしょうか。キャリア研修の担当者に限らず、広く人事パーソンにお薦めです。もちろん、自分自身に引き寄せて読んでみるのもいいと思います。

《読書MEMO》
●ニュートラルゾーンの中で、その意味を見いだすためのヒント(第6章・207p)
 (1) ニュートラルゾーンで過ごす時間の必要性を認める
 (2) 一人になれる特定の時間と場所を確保する
 (3) ニュートラルゾーンの体験を記録する
 (4) 自叙伝を書くために、ひと休みする
 (5) この機会に、本当にしたいことを見いだす
 (6) もし今死んだら、心残りは何かを考える
     人生を後悔しないための重要な質問が「今自分の人生が終わったら心残りになることは何か?」。
     日々この質問を自分にすることで、やり残すことがないように生きる。
 (7) 数日間、あなたなりの通過儀礼を体験する
●「始まり」において留意すべきこと(第7章:244p)
 第一:あまり準備せずに行動する
 第二:「始まり」がもたらした結果を確認する
 第三:目標よりもプロセスを重視する
     大切なのは何か目標を達成するのではなく、人生の過程そのもの。
     何を得たのではなく、何を経験し、どのように生きたか?本当に大切にすべきなのは生きていく過程そのもの。
     目標が達成された or 失敗したで物事の価値を決めてはいけない。行動したことは間違いではないから。

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企業内でキャリア研修に携わる人事パーソン、キャリアの入り口にある人にお薦め。

その幸運は偶然ではないんです1.jpgその幸運は偶然ではないんです2005.jpg J.D.クランボルツ.jpg J.D.クランボルツ(1928-2019)
その幸運は偶然ではないんです! 』['05年]

 何か事が上手くいった人が、「偶然だよ。たまたま運が良かっただけ」だと言ったりもしますが、心理学者でキャリアカウンセラーでもある著者らによる本書では、想定外の出来事が本物のチャンスに変わる時、全くの偶然など存在せず、そこには、必ずその人自身が果たした「いくつかの行動」があり、そこから新しいチャンスを創り出せた人が人生を変えられるとして、45人のキャリアをめぐるケースを紹介しています。

 第1章では、人生の目標を決め、将来のキャリア設計を考え、自分の性格やタイプを分析したからといって、自分の望む仕事を見つけることができるわけではなく、人生には予測不可能なことのほうが多いが、結果がわからないときでも、行動を起こしてチャンスを切り開くこと、想定外の出来事を最大限に活用することが大事であるとしています。

 第2章では、自分自身も環境も変化していくなかで、自分の将来を今決めるよりも、選択肢はいつもオープンにしているほうがずっとよいとしています。

 第3章では、夢が計画どおり実現しなかったとしても、「夢は消えてしまった」と考えるのではなく、「状況が変わった。さらに自分にとってよいチャンスを探すにはどうしたらいいだろう!」と考えるべきであるとして、「夢から覚める方法」を指南しています。

 第4章では、新しいことをやるときにはリスクがあり、結果がどうなるかわからないが、結果が見えなくてもやってみることが重要であり、失敗を恐れて何もしなければ、どんな幸運も訪れてはくれないとしています。

 第5章では、新しいことに挑戦することは、時として失敗という結果につながることがあるが、間違えるかもしれないという恐怖から何もしないことよりも、間違いから学ぶことこそ成功につながるとしています。

 第6章では、過去の自分をひきずったり、意にそわない現在の仕事にこだわる必要はなく、将来に向かって自分の環境を変えていくための行動を起こすことが大切であるとして、それではどうすればよいかを述べています。

 第7章では、まず仕事に就いて、それからスキルを学べばよいとしています。スキルやキャリアを身につけるための「学ぶ意欲」こそが重要であり、逆に、要求されるスキルがあったとしても、それですべての仕事がうまくいくと限らず、変化の激しい時代には「学び続けること」こそが最も大切であるとしています。

 第8章では、行動を起こすことが重要なのに、それが時として難しいのは、自分の中にある心理的な障害によることが多く、まずはそうした心の壁を克服することに焦点を当ててみることを勧めています。

 45人のキャリアをめぐるエピソードの中は、自分のキャリアを変えられなかった人の話もあり、何が自分の望む仕事に就くことの障害になるかを知る上でも参考になります。また、各章の末尾に、章ごとのテーマに沿った「練習問題」があり、書かれていることを自分に当てはめた場合どうであるかチェックできるようになっています。

因みに、著者らの提唱するプランドハプンスタンス理論=計画的偶発性理論(本書そのものにこの言葉は出てこない)のキーファクターは大きく次の5つになるとされています。

 1.好奇心(Curiosity) 絶えず新しい学習の機会を模索し続ける
  「おもしろそうだ、やってみよう」
 2.持続性(Persistence) 失敗してもあきらめず、努力し続ける
  「同じ失敗はくり返さないぞ」
 3.楽観性(Optimism) 予期せぬ出来事を否定的に受け止めるのではなく、新しい成長をもたらす機会ととらえる
  「この異動にも意味があるはずだ」
 4.冒険心(Risk Taking) 結果が不確実でも、リスクを冒して行動する
  「先は見えないけど挑戦することに意味がある」
 5.柔軟性(Flexibility) 過去に固執せず、信念・概念・態度・行動を変える
  「過去は過去。新しい方法でやってみよう」

 上記に照らすと、本書の第2章は柔軟性、第3章は楽観性・柔軟性、第4章・第5章は冒険心、第6章は柔軟性、第7章は持続性、第8章は柔軟性について言っているともいえるのではないでしょうか。


 本書に書かれていること並びにプランドハプンスタンス理論に沿って言えば、計画や人生の目標は変わってよいものであり、道をひとつに決めずにオープンマインドでいることが重要であって、ただし、失敗を恐れて行動しなければ、何も起こらないのは確かなことであるということです。そして、キャリアの多くは予期しない偶然の出来事により形成されるが、その偶然は、自分の行動や考え方によって産み出しているといってもよいということでしょう。

 キャリアプランを立てることが重要視され、一貫性のあるキャリアばかりが評価される風潮にある中で、企業内でキャリア研修に携わるような人事パーソンは、そうした考え方へのアンチテーゼとして、このプランドハプンスタンス理論を意識しておく必要があるように思います。

 また。日本では、キャリア研修というのは中高年になったから実施されることが多いように思いますが(中高年人材をリリースするために行っている印象もある)、本書はキャリアの入り口にあるような人たちにむしろお薦めの本であり、本来であれば、キャリア研修も若手社員のうちからやるべきものなのだろなあとも思わされました(若手人材囲い込みのために敢えて行っていない気もする)。

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女性幹部育成にポジティブアクションは必須。やらない企業は時代に遅れていく。

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女性リーダーが生まれるとき 「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成 (光文社新書)』['20年]

 本書によれば、日本では、政治の世界も経済の世界も、意思決定層は「日本人、男性、シニア」と極めて均質であり、2019年12月、世界経済フォーラムから発表されたジェンダー・ギャップ指数で、日本は調査対象の153カ国中121位、過去最低の順位であり、女性リーダーの少なさが、下位低迷の大きな要因とのことです。海外各国では働く女性の現況に危機感を抱き、変化を加速させていて、意思決定層に女性を増やさないと日本は変わらない、それどころか、このまま沈んでしまうと―。

 本書は、四半世紀にわたって女性リーダーの取材を続けてきた著者が、国内外の女性役員にインタビューしたもので、それら「生の声」に、これからの時代を生き抜くヒントが眠っているとしています。

 第1章、第2章で、企業の役員となった女性たち10人のその道のりを紹介しています。第1章では、均等法世代の総合職一期生、二期生としての道を歩んで役員となった女性を5人、第2章では、役員に就いた年代が30代から50代までの様々なキャリアの女性を、短大卒一般職、地域限定職などから役員になった人も含め5人紹介しています。この10人のキャリアの紹介が本書の半分強を占めます。

 第3章では、こうした女性役員の歩んだキャリアを分析し、その中で「一皮むけた経験」とは何だったのかを見ていくと、男性役員と大差なく、
1.キャリアの初期で、仕事を任せて鍛えてくれる上司と出会っている
 2.転勤も海外赴任もいとわずにキャリアを築いてきた
 3.仕事で修羅場(過酷な経験、失敗体験)を経験した
4.「目をかけ引き上げてくれる人」に早い時期に巡り合っている
5.「ガラスの天井」も「ガラスの壁」もなかった
といったものになるとしています。その上で、女性幹部の育成を加速させるにはいわゆる「ポジティブアクション」が必要であるとして、そのポイントを整理しています。

 第4章、第5章では海外に目を転じています。第4章では監査役会を対象に「女性を3割以上にすべし」というクオータ制を導入したドイツにおいて、それでも残るさまざまな女性に特有の壁を克服して、企業の取締役や監査役になった女性たちに、自らの成長体験は何だったのかを訊き、第5章では、米国シリコンバレーで、その地においてさえまだ根強いジェンダー・バイアスと闘って、CEOなどエグゼクティブの地位に就いた女性たちに、今までのどのような経験が役に立ち、何をモットーに仕事に向き合ってきたのかを訊いています。

 第6章では、女性のキャリア形成が世代によりどう違うのかを考えるとともに、まだ残る女性管理職ならではの壁についても証言から明らかにし、女性課長のキャリア形成の3つのポイントを挙げるとともに、女性課長を悩ませる5つの壁を整理し、第7章では、女性幹部育成にまつわる5つの誤解と題して、根強い根強いジェンダー・バイアスと女性幹部育成の関係を、アンケート調査から探っています。

 やはり、第1章、第2章の女性役員たちのキャリアの紹介がインパクトがありました。部下全員が年上の男性だったり、部長職を解任されたり、リストラの矢面に立たされたりと、各章末に図解で可視化されたキャリアの軌跡は"山あり谷あり"で多様でありながらも、"谷"の部分、乃至はコンフォートゾーン(居心地のいいポジション)を抜け出す契機となったものは何だったのかという点について共通項が見られるようにも思いました。

 それが、第3章にある「一皮むけた経験」であると思いますが、それを見ると、確かに本人の頑張りや有能さもあるとは思われ、実際に第1章、第2章などは"列伝"風に読めてしまう側面もある(そのため抵抗を感じる読者もいるのではないか)、その一方で、見方によっては、会社や上司がその女性を育てる環境を用意したからこそ、彼女たちのキャリアがあったともとれます。だからこそ、著者が、女性役員を増やすためには、トップ主導での「ポジティブアクション」が必要であると説くのは、よく分かるように思いました。

 サブタイトルからも窺えるように、神戸大学・金井壽宏教授の『仕事で「一皮むける」―関経連「一皮むけた経験」に学ぶ』('02年/光文社新書)にインスパイアされてその女性版を指向したものですが、よく纏まっていて("本家"以上(?))、ジェンダー・バイアスの解消がこれからの社会には必要であり、いま会社の経営方針としてそれを進めることが求められており、施策を講じない企業はどんどん時代の流れに遅れていくと改めて思わせられる本でした。

《読書MEMO》
●女性幹部育成のポイント(第3章)
 ➀トップダウンで、必要性を繰り返し説く
 ②経営戦略に組み込み、目標を定める
 ③管理職の育成責任を明確にする
 ④女性社員のキャリア意識を高める
 ⑤アンコンシャス・バイアスの影響を取り除く
●女性課長のキャリア形成の3つのポイント(第6章)
 1.「武者修行」の機会を20代のうちから与える
2.子育てとの両立で、管理職のイメージを塗り替えていく
3.管理職へのルートが多様化している
●女性課長を悩ませる5つの壁(第7章)
 その1:「女性枠」と抜擢の度に言われる
 その2:成功しても失敗しても目立ってしまう
 その3:上の世代の女性管理職との「世代差」に悩む
 その4:男性とは違う「母親的」リーダー像を求められる
 その5:振り返ると、あとに続く後輩がいない
番外編:夫との家事育児分担・収入差という「家庭内の壁」
●女性課長を悩ませる5つの壁(第7章)
 その1)女性は管理職になりたがらない
  → 昇進意欲は男性の方が強いが、リーダー意欲に男女で大きな差はない
 その2)管理職にふさわしい女性がいない
  → 女性はリーダーに向かないというジェンダー・バイアスがある
その3)女性は「木を見て森を見ず」、大局観に欠ける
  → 男女のリーダーシップ・スタイルに差はない
その4)管理職のハードワークは、子育て中の女性には難しい
  →「女性はハードワークに耐えてはいけない」という刷り込みがある
 その5)女性管理職には、面倒見のいいお母さんタイプが多い
  → これからの時代、管理職には男女を問わず「個別配慮」が求められる

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企業の採用・人材育成、働く人々のキャリア行動の変化を俯瞰するには良かったか。

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定年消滅時代をどう生きるか (講談社現代新書)』['19年]

 本書では、これからは「定年」もなく、人生で3つの仕事や会社を経験する時代となり、そうした新しい雇用の在り方が普及していく時代には、個々の社員が自らキャリア形成を考えていかねばならないとしています。

 第1章では、大手企業で定年を撤廃する動きが散見され、2020年代には多くの企業が雇用継続年齢を引き上げていき、事実上「定年」は消滅するだろうとしています。また、年齢だけを理由に一律で給与を下げる従来の再雇用制度は、再雇用者のモチベーションを低下させ、優秀なシニア人材が新興国に流出する原因にもなっているとし、個人の専門性や能力に応じて待遇を見直す企業が増えているとしています。そこで、高齢者になる前に、今後の企業社会で通用するスキルを身に付け、絶えず更新することを推奨しています。

 第2章では、企業の採用において今や新卒一括採用から通年採用への流れは決定的であり、さらにジョブ型雇用も拡大していくだろうとしています。優れた人材には新卒でも年収1000万円以上支払う企業も現れていて、終身雇用・年功序列を前提としたこれまでの日本型雇用は見直され、企業は「優秀な学生以外はいらない」という考え方になってきていると。また、ジョブ型雇用の普及につれて企業は社員のキャリア形成のコストを縮小するため、社員は自分でキャリア形成を考えることが必要になってくるとしています。

 第3章では、新卒一括採用から通年採用への衣替えは、日本型雇用の変革の突破口となるのは間違いなく、2019年には大手企業の4分の1が通年採用を導入し、トヨタなどは中途採用が占める割合を中期的には5割まで引き上げる方針であると。中途採用が標準となると、50年の会社人生で転職2回(3つの職場経験)が普通となるだろうとしています。そのため、リカレント教育(学び直し)が必要となり、3年である領域のプロとなることを目指し、スキルを最低3つは持ちたいとしています。個人が3回分野を変えて10人に1人の専門家になれば、その掛け算の組み合わせで、9年で1000人に1人の稀少人材なれるとしています。

 第4章では、大学における教育改革について必要な4つの視点を提示し、大学はリカレント教育の普及を担う中核的な存在にもなり、また、人生にとって貴重な一般教養を学ぶ機会も与えてくれるとしています。

 第5章では、スマートフォンのような便利な機器が、逆に日頃から考える機会を奪っているとし、今後は頭を「使う人」と「使わない人」との経済格差が拡大していくとています。そして、考える力=思考力が強い人は、ごく自然に読書が習慣になっているとし、読書の効用を説いています。

 一般の働く人々に向けた本であり、日常で人事に携わっている読者にとっては、本書で書かれていることはすでに知識や実感としてあるかもしれませんが、それでも、最近の企業の採用・人材育成の動向や、働く人々のキャリア行動とそれを取り巻く環境の変化を俯瞰するにはちょうど手頃な本だったように思います。類書には、働く人にとって「受難の時代」が到来するといったトーンのものが多い中、「人生100年時代の変化を未来志向で楽しむ」という前向きなスタンスであるのが、個人的には良かったように思えます。

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会社を辞めるのに慎重になり過ぎるのもどうかと思うが、その辺りの見極めを説いた本か。

50歳からの逆転キャリア戦略.jpg 『50歳からの逆転キャリア戦略 「定年=リタイア」ではない時代の一番いい働き方、辞め方 (PHPビジネス新書) 』['19年]

 「会社員人生もいよいよ最終コーナー」と思いきや、「定年後も働き続ける人生100年時代」と言われガックリといったミドルも少なくからずいると思われる一方、これは見方を変えれば、「本当にやりたい仕事に挑戦する時間ができた」とも言えるとし、では、充実したセカンドキャリアのためには何が必要で、会社員のうちにやっておくべきことは何か、そのポイントを説いた本です。

 第1章では、もしいま早期退職したらどうなるか分からない(=危うい)「まだ辞めてはいけない人たち」とはどのような人かを挙げ、第2章では、人生後半戦のキャリアの考え方を「お金、肩書き」から「働きがい」へ転換することを説いています。第3章では、会社は「学び直しの機会」に溢れていて、辞める前に出来ることはまだ多くあるとしてそれらを列挙し、第4章では、 50歳からの働き方を変える「7つの質問」を通して、著者の" 七転八倒体験"から人生後半戦の働き方を考え、最後に、「人生後半戦の使命を考えるキャリアプランニングシート」など3つのワーク素材を付しています。

 各章とも列挙型で分かりやすく纏まっていて、個人的には第1章、第3章、第4章がすんなり腑に落ちた印象です。特に、第1章の「まだ辞めてはいけない人たち」については納得度が高かったですが、慎重になりすぎるのもどうかなと。第4章の「50歳からの働き方を変える「7つの質問」」も、著者は自身の経験に照らして照らしてとのことですが、一般論として参考になるように思われました。第1章、第4章の各項は以下の通り。

■第1章 まだ辞めてはいけない人たち
 【1】やりたいことがない人―転職の条件が年収しか言えない人は危険
 【2】変化に対応できない人―自分の専門以外に関心を持とうとしない人は危険
 【3】根拠なく楽観する人―リサーチ不足の「なんとかなるさ」は危険
 【4】自分を客観視できない人―「上司が評価してくれないから辞める」は危険
 【5】経営の視点や知識に欠ける人―会社経営を甘く考えている人の独立・転職は危険
 【6】自分のことしか考えていない人―周囲に貢献する意識に欠けているミドルは危険
 【7】社名や肩書きにこだわる人―昭和・平成型のプライドを捨てられないミドルは危険

■第4章 50歳からの働き方を変える「7つの質問」
 Q1 自分の人生があと1年だとしたら、何をやりたいですか?
 Q2 なぜ、その「やりたいこと」に挑戦しないのですか?
 Q3 やりたいことができない本当の理由は何ですか?
 Q4 名刺がなくても付き合える社外の知人は何人いますか?
 Q5 会社の外でも通用する「自分の強み」は何ですか?
 Q6 その強みを磨き、不動のものにするためには何が必要ですか?
 Q7 今のうちに何から始めますか?
 
 いつか自分のやりたいことをやってみたいと思いつつも、いつ会社を辞めるかというのは難しい問題だと思います。本書は、準備ができていないうちに辞めることの危うさを説いた本とも言えますが、意外と、すぐにでも独立できるような人が慎重になって定年まで(場合によっては再雇用されても)会社にとどまっているというのが、平成不況以降続いている傾向ではないかと、個人的には感じています。

 自分に辞める準備ができているかセルフチェックするにはいい本だと思いますが、あまりに慎重になり過ぎるのもどうかと思いました(誰でも慎重にはなると思うが)。まあ、その辺りの見極めを説いた本だと思います。実際、辞める準備ができていないのに辞めて失敗している人もいれば、辞める準備ができないまま定年再雇用期間も終わってしまい、結局、今いる会社がラストキャリアになる人もいて、そうした人が途中で辞めていればやっぱり上手くいかなかったかもしれず、うかつに他人に対してこうした方がいいああした方がいいとは言えない、本当に難しい問題だと思います。

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前著同様にオーソドックスだが、「仕事=人生」みたいな「昭和的」価値観も感じられた。

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定年前後「これだけ」やればいい (青春新書インテリジェンス) 』['19年]『定年前後の「やってはいけない」』['18年]

 前著『定年前後の「やってはいけない」』('18年/青春新書インテリジェンス)に続く第2弾で、著者は84歳にして現役の人材紹介会社社長とのこと。版元の口上によれば、「定年前後の転職成功者の事例も紹介した、ベストセラー『定年前後の「やってはいけない」』待望の実践編」とのことです。

 第1章で、「定年後」はもはや「人生の残り」でも「余生」でもなくなったとして、再就職がうまくいく人の行動習慣などを挙げ、この部分は前著のおさらいになっていました。

 第2章では、人生の後半からの働き方を説いています。前著と同様、ここでも、定年後の起業だけは「やってはいけない」としています。この辺りは一般論的であり、改めてこの著者の書くものは、オーソドックスかもしれないれど、起業されるよりは転職してもらった方が有難いという著者の"商売"も関係しているのではないかという穿った見方もしたくなります。

 第3章が言わば本論で、定年前後うまくいく人の「10の習慣」を挙げています。それを見ていくと、習慣1:自分で動いて仕事を探す、習慣2:なるべく早く定年後の準備に取りかかる、習慣3:「望む仕事はない」と頭を切り替える...といったように「習慣」と言うより「心構え」的なものが多く、本当に意欲がある人は言われなくともそうするだろうと思われるものが多かったです。第4章は、シニアの再就職の成功例ですが、まさにそういった人の例が紹介されているように思いました。

 最終第5章で、「人生100年時代の働き方モデル」として、「30代の働き方」から「80代以降の働き方」まで年代別に、キャリアの作り方を指南しています。「70代の働き方」のところで「まだまだ動き回れる!」とあるように、働く意欲がある人への励ましの書になっていて、著者自身が84歳の現役経営者であることが説得力を持たせるものになっています(書き出しで、自分が84歳になっても長距離通勤する理由を、(老化という)自然現象に負けないためとしている)。

 一方で、「仕事=人生」みたいな「昭和的」価値観も感じられました。Amazonのレビューに、「年配者(終身雇用世代)が書いた本」というものがありましたが、まさにそんな感じ。筆者はずっと「一生働く」ことを推奨しており、そう言えば、前著にも、「最も大切な要件は、『働く』こと以外に存在しないとさえ思っている」(170p)という記述がありました。まあ、それはそれでいいけれど、人にそれを押しつけるものでもないでしょ。

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全体としてはオーソドックスだが、経営幹部の転職が前提となっている面も。

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定年前後の「やってはいけない」』['18年]

 プロ経営幹部の紹介・派遣を行う会社を経営する82歳の現役のビジネスマンで、これまでに3000人以上の再就職をサポートしてきた人材紹介のプロであるという著者が、定年前後に「やってはいけない」ことを説いた本です。したがって、「定年」が60歳定年を指すのか、65歳の再雇用期間終了を指すのかはともかく、年齢がいっても働き続けるにはどうすればよいかということが、前提となっています。

 第1章では、世の中「働かない老後」から「働く老後」へと変化してきている一方、「働きたくても働けない」定年後の現状もあることを示しています。第2章から本論という感じで、定年前後に「やってはいけない」を挙げていきます。

 まず、定年前の肩書や年収にとらわれるのは不幸であるとし、肩書面で言うと偉いのかもしれないけれど、現場では使えなかったりすると。「年の功」が生かせる仕事で活躍すべきだとしています。

 働き続ければ、新しいチャンスも生まれるとし、ただし起業だけは「やってはいけない」としているのは、「人生の第2ハーフ」で起業することのリスクを著者が実際に(数は分からないが)ある程度見てきているからでしょう。ただ、第2ハーフに入ってから新たに資格試験へチャレンジすることなども断定的に否定していますが、これは人によりけりではないでしょうか。

 第3章は暮らしの見直し方についてで、生活水準は上げるな、老後資金は「貯める」より「稼ぐ」 こと、「定年前」の人脈は使わないこと、義理と礼を欠くのは高齢者の特権。同窓会に行く・行かないも個人の自由...などとしています。参考になる部分もあれば、「言われなくとも...」という部分もありました。

 この本は結構売れたようですが、(著者の立場もあり)働き続けることを後押しする姿勢であること、働き方からライフプランニング、老後の生活まで広く網羅していることなどが売れた理由ではないでしょうか。

 全体としてはオーソドックス(その分、目新しさはない)。ただ、これも著者の仕事柄、プロ経営幹部の転職が前提となっていて、一般のビジネスパーソンには一概に当て嵌まらない面もあったように思います。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ハーミニア・イバーラ)

キャリア・チェンジ成功の鍵は、「計画して実行する」ではなく「試して学ぶ」。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術7.JPGハーバード流 キャリア・チェンジ術.jpg  working identity.png  ハーミニア・イバーラ.jpg
ハーバード流 キャリア・チェンジ術』 "Working Identity: Unconventional Strategies for Reinventing Your Career" ハーミニア・イバーラ (Herminia Ibarra)

 長い年月やってきた仕事に対し、職業人生半ばにしてふとこのままでいいのか、自分のやりたいことは別にあるのではないか、といった疑問を抱くことは誰にもあるのではないかと思われるが、その時からでもキャリアを変更することは可能なのか―本書(原題:Working Identity: Unconventional Strategies for Reinventing Your Career,2003)の著者は、ここで従来のように綿密に計画を立て、自己分析をし、信頼できる人に相談しながら行動しても、多くの場合は徒労に終わってしまうだろうとしています。本書では、様々な状況においてキャリアの転換を試み、成功した39人の例を取り上げ、自分に合った道を探すキャリア・チェンジ術を紹介しています。

 第1章「新しい可能性を見つける」では、キャリア・チェンジにうまく対処するには、つきたい仕事を把握し、その認識に基づいて行動することだと考えがちだが、実際の変化は、行動が最初で、認識はその次となるとしています。なぜならば、キャリア・チェンジとは自分の「キャリア・アイデンティティ」を修正することだからだと。キャリア・アイデンティティとは、キャリアを通じた「自己像」(セルフイメージ)のことであり、具体的には、
 ①職業人の役割を果たす自分をどう見るか、
 ②働く自分を人にどうに伝えるか、
 ③最終的には職業人生をどうに生きるか、
といったことを指すとしています。新しい「将来の自己像」を思い描いたら、新しい自己像のために、これまでのいくつかの自己像を手放さなければならず、また、「新旧のアイデンティティの間」でかなりの時間を過ごすことになるとしています。そして、こうした将来の自己像がさまざまに変わる過渡期に変化を生み出す方法について概説しています。新しいキャリア・アイデンティティを確立するポイントとして、
 ①さまざまなことを試みる、
 ②人間関係を変える、
 ③深く理解し納得する、
の3つを掲げ、以下の第1部からの各章において、キャリア・チェンジを図った人が、職業人生の次の段階にどう進むことによってそのことを成し得たかを、具体的に説明していきます。

 第1部の「キャリア・チェンジ入門編」では、新しいキャリア・アイデンティティを確立できるかどうかを試しながら、最終的には想像以上に大きな変化を遂げる過程を見ています。第2章「将来の自己像」では、一歩踏み出す際の考え方に焦点を当て、「本当はどういう人を目指したいのか」という問いから始めるのではなく、「いろいろな将来の自己像のうち、まずどれを探るべきか。どうすればそれを試せるか」を考えるべきであるとしています。第3章「新旧のアイデンティティの間」では、将来の自己像を試した時から始まる長く混乱した過渡期について取り上げています。第4章「大きな変化」では、このつらい過渡期が必要なものであることの理由を説明し、アイデンティティを修正するには、それを根底から見直すことが必要であるとしています。

 第2部「キャリア・チェンジ実践編」では、過渡期にどう行動すれば転職に成功するかを見ています。第5章「さまざまなことを試みる」では、漠然とした可能性を具体的な計画に変え評価できるようにし、それによって将来を検討する方法を述べています。第6章「人間関係を変える」では、新しい指導者、手本になる人、仕事仲間を見つけることで、新しい世界への不安が少なくなることを説明しています。第7章「深く理解し納得する」では、人生の「物語」を書き換える方法について詳しく述べています。

 最後の第3部「キャリア・チェンジの型破りな戦略」・第8章「自分自身になる」では、これまでに紹介した「型破りな(Unconventional)」キャリア・チェンジ術における以下の9つの戦略をまとめています。
 ・型破りな戦略1 行動してから考える。
 ・型破りな戦略2 本当の自分を見つけようとするのはやめる。
 ・型破りな戦略3 「過渡期」を受け入れる。
 ・型破りな戦略4 「小さな勝利」を積み重ねる。
 ・型破りな戦略5 まずは試してみる。
 ・型破りな戦略6 人間関係を変える。
 ・型破りな戦略7 きっかけを待ってはいけない。
 ・型破りな戦略8 距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。
 ・型破りな戦略9 チャンスの扉をつかむ。

 各章とも、キャリアの転換を試み、成功した人の事例をベースに話を進めているため、分かり易く、また、説得力がありました。よく、転職で失敗する人は「自分探し」をする人だと言われますが、本書はその逆を行ってキャリア・チェンジに成功した人の事例集としても読め、体系的にもよく纏まっていて、すんなり腑に落ちるように思いました。従来のキャリア理論の基本的な考え方であった「計画して実行する」ではなく、まず「試して(自分の自己像が何かを)学ぶ」ことを提唱しているという意味では確かに「型破り」なのかもしれません。個人的には、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性(プランド・ハップンスタンス)理論」に通じるところもあるように思いました。「キャリア・チェンジ術」とありますが、テクニカルな話に止まらず、例えばキャリアとは何かといったことを改めて考える上でも奥が深かったです。

 因みに、著者はフランスとシンガポールに拠点を置くビジネス・スクールINSEADの教授ですが、タイトルに「ハーバード流」とあるのは、ISEADの前にハーバード・ビジネス・スクールで13年間教鞭をとっていることに由来しているようです(「ハーバード流」とあることの理由は他に見当たらなかった。原題は"Working Identity: Unconventional Strategies for Reinventing Your Career"(2003))。

《読書MEMO》
●型破りな戦略1 行動してから考える。
行動することで新しい考え方が生まれ、変化できる。自分を見つめても新しい可能性は見つけられない。
まず一歩踏み出して違う道を試してみる。行動を起こした後、その結果を振り返り(フィードバック)、自分の本当の考え方や気持ちをはっきりさせる。新しいキャリアへの道を分析したり、計画を立てたりしない方がいい。
●型破りな戦略2 本当の自分を見つけようとするのはやめる。
「将来の自己像」を数多く考え出し、その中で試して学びたいものいくつかに焦点を合わせる。
じっくり考えることは大切だが、試さないためのいい訳として利用されがち。自分がどんな人間かを考えるより、欲しいと思っているものが本当に欲しいかどうかを検討する方が重要になる。行動すれば、自分の言動から自分を理解する機会が得られるし、学ぶたびに予想を修正できる。
●型破りな戦略3 「過渡期」を受け入れる。
執着したり手放したり、行動に一貫性がなくてもいいことにする。早まった結論を出すよりは、矛盾を残しておいた方がいい
キャリア・チェンジを実践するまでの何年かは、苦痛や不安、混乱、疑念がどうしても伴う。かなりつらいことだが、目標をすぐには達成できないと分かってもあきらめないこと。急いで結論を出さないように気を付けた方がいい。特に、唐突に転職を打診された場合には注意する。新しいものへ移行するには時間がかかるものと考えておこう。
●型破りな戦略4 「小さな勝利」を積み重ねる。
「小さな勝利」を積み重ねることで、仕事や人生の基本的な判断基準がやがて大きく変わっていく。一気にすべてが変わるような大きな決断をしたくなることもあるが、そうした誘惑には耐えよう。曲がりくねった道を受け入れよう。
小さな一歩が大きな変化を導く。最初から正しい「答え」を見つけようとして、時間や気力、お金を無駄にしない方がいい。押せば劇的な変化が得られる「レバー」はない。初めに試したことですぐに変化を遂げられる人はほとんどいない。直線的に進もうと考えないこと。
●型破りな戦略5 まずは試してみる。
新しい仕事の内容や手法について、感触をつかむ方法を見つけよう。いまの仕事と並行して実行に移せば、結論を出す前に試すことができる。
最初からこれだと決め付けるのではなく、副業や一時的に試す方法を考えてみる。本気で追求するが、決断は後にする。必ずいくつかの選択肢を試して、経験を比較してから選ぶ対象を絞るようにする。
●型破りな戦略6 人間関係を変える。
仕事以外にも目を向ける。あんなふうになりたいと思う人や、キャリア・チェンジを手助けしてくれそうな人を見つけだす。
いま持っているネットワーク(人脈)の外にアンテナを突き出すようにする。
目指したいものを気付かせてくれる人、別の働き方やライフスタイルの実例を見せてくれる人など、手本になる人を見つける。
●型破りな戦略7 きっかけを待ってはいけない。
キャリア・チェンジのきっかけを待っていてはいけない。いま経験している変化の意味を見いだすようにする。
キャリアを大幅に方向転換するには、3年から5年かかる。大きな転機がある場合、後半に訪れることが多い。この過渡期の間、触発される決定的なきっかけを待つのではなく、すべてのものを何らかのきっかけととらえ、その意味を考える。自分の物語(自己像についての)をつくり、人に何度も話してみる。
●型破りな戦略8 距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。
考えに行き詰まって、どうしたらいいか分からなくなったら、変化の動機や過程ばかりを思い詰めている状態から離れてみよう。
1日郊外に出掛けるといった短い休息でも、考え方の習慣がもたらす一面的な見方を外すことができる。ただし、離れている状態を長く続けない方がいい。自分の可能性を見つけるには、実際の社会に前向きに参加し、現実から影響を受けていくしかない。
●型破りな戦略9 チャンスの扉をつかむ。
変化は急激に始まるもの。大きな変化を受け入れやすいときもあれば、そうでないときもあるから好機を逃さない。
チャンスの扉は開いたり閉じたりする。例えば、何かの講座を修了した直後や新しい職務を引き受けたとき、節目となる誕生日などは、絶好の機会として一歩を踏み出すために利用する。

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〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉。現代の若者のキャリア観、キャリア行動を俯瞰する上で参考に。

ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?.jpg  「ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?」 福島創太.jpeg
ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?: キャリア思考と自己責任の罠 (ちくま新書)』['17年]

ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?  .png 大卒3年以内の離職率が3割であることを表す「3年3割」という言葉がありますが、厚労省の調査結果を見ると、実ははじめの3年間で最も離職率が高いのは1年目であるとのことです。本書は、ゆとり世代と呼ばれる若者たちが歩むキャリアの実態を明らかにし、若者の転職が多くなった社会的背景を考察した本であり、著者は元リクルート社員で、大学院に籍を置く教育社会学者です。本書は、著者が、すでに転職をした20代へのインタビューなどを通して修士論文として書き上げ、担当教官である本田由紀・東京大学教授に提出したものに加筆修正したものです。

 第1章では、若者の転職が増えているという事実と社会的背景を確認したうえで、「伝統的キャリア」から「自律的キャリア」への労働者のキャリア観の変貌を踏まえ、インタビューした転職者を〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉〈伝統的キャリア系〉の3つに分類したうえで、本書では、自律的キャリア化する若者を追いかけるうえで、〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉に焦点を当てるとしています。

 第2章では、〈意識高い系〉には、自律的キャリア化した時期によって〈在学時意識高い系〉〈初戦入社後意識高い系〉〈転職後意識高い系〉の3パターンがあるとして、それぞれの転職活動の在り様を探るとともに、何れも「高い意識」のみに基づいて転職する傾向があるとして懸念を示しています。

 第3章では、〈ここではないどこか系〉は、環境適応としての転職をし、仕事に対する意義づけとともに職も変えるが、〈意識高い系〉が自分のキャリアに対して真摯なのに対し、自分の感情に対して真摯であり、よりよく働きたいという気持ちの強さは立派なことだが、いつまでもどこか探しが続くことが懸念されるとしています。

 第4章では、第2章、第3章を踏まえ、〈意識高い系〉には希望が実現できない、やり直しがきかないというリスクがあり、〈ここではないどこか系〉には、スキルや経験が蓄積されない、劣悪な労働環境を許容しいてしまうというリスクがあるとし、それらは「自分らしさ」にこだわることからくるもので、その背景には、社会によって煽られた「自律的キャリア意識」があるとしています。

 第5章では、自律的キャリア化のベースにある自己責任論は、社会の責任を見えづらくしている面もあるとし、そうした問題が凝縮されるのが「就活」であり、「就職できない若者がいる」という個人に問題にとどまるのではなく、その背景には社会構造の変化があるわけであり、社会の役割として支援の可能性を探っていかねばならないとしています。

 第6章では、社会が若者の転職者をどう支援できるかということの一つの手がかりとして、キャリアアドバイザーによるキャリア面談を取り上げ、実際に行われた面談記録の分析から、その可能性と課題を考察しています。

 そして、最終第7章では、第6章におけるキャリア面談の二面性考えるうえで「やりがいの搾取構造」「ブラック企業」という二つの問題を取り上げ、社会が若者のキャリア支援においてできることとして、「できること」を基準としたキャリア選択の可能性をひらいていくことを主張しています。

 〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉というのは、個人的には、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論にも対応しているように思いましたが、そうした理論を持ち出すまでもなく、社員の退職や採用と向き合っている人事パーソンにはしっくりくるのではないでしょうか。そこからさらに踏み込んで分析されているため、現代の若者のキャリア観、キャリア行動を俯瞰する上では参考になります。「自律的キャリア」を煽る社会や自己責任論に批判的な点は、やはり本田由紀氏の系譜でしょうか。サブタイトルも「キャリア思考と自己責任の罠」となっていますが、タイトルも含め、テーマは別のところにあったような気がしました。

 企業もまた社会の一部であり、「できること」を基準としたキャリア選択の可能性をひらいていくということは、企業の役割でもあるのかもしれません。では、どうすればよいかというところまでは(企業の人事担当者も読者として想定しながら)本書では具体的に踏み込んでいませんが、これは(著者が分析に巧みで社会提案に弱い元リクルート系であるからと言うより)ベースが修士論文であることの限界でしょうか。それでも、そうしたことを考える糸口となるような啓発的内容であったとは思います。

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働き方の未来を明るいものとするための3つのシフト。"意識高い" 系だが、示唆に富む。

ワーク・シフト   .jpgワーク・シフト ―00_.jpg ワークシフト2.jpg ワークシフト3.jpg
ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

ワークシフト1.jpg 2025年、われわれはどんなふうに働いているのか? ロンドンビジネススクール教授であり、経営組織論の世界的権威で働くことについて研究し続けてきた著者(英タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」のひとりでもある)が、「働き方に大きく影響する『五つの要因(32の要素)』」を基に、2025年を想定した働き方の未来を予測した本です。

 序章において、未来を理解し、未来ストーリーを描いて自分の選択の手掛かりにし、職業生活に関するいくつかの常識を根本から〈シフト〉させれば、より好ましい未来を迎える確率を高められるとして、働き方を変える三つの〈シフト〉を提唱しています。

 第1部「なにが働き方の未来を変えるのか」(第1章)では、働き方の未来を形づくる五つの要因として、①テクノロジーの進化、②グローバル化の進化、③人口構成の変化と長寿化、④社会の変化、⑤エネルギー・環境問題の深刻化、を挙げて、それぞれ解説しています。

 第2部と第3部では、これら五つの要因の組み合わせを基に、2025年の人々の働き方の予測シナリオを架空の人物ストーリーとして描いています。

 第2部「『漫然と迎える未来』の暗い現実」(第2章~第4章)では、暗い未来予測図として5人のストーリーがあり、3分間隔でいつも時間に追われ続ける未来(第2章)、人とのつながりが断ち切られ、孤独にさいなまれる未来(第3章)、繁栄から締め出された新たな貧困層が生まれる未来(第4章)が描かれています。

 第3部「『主体的に築く未来』の明るい日々」(第5章~第7章)では、明るい未来予測図として7人のストーリーがあり、みんなの力で大きな仕事をやり遂げるコ・クリエーションの未来(第5章)、積極的に社会と関わることで共感とバランスのある人生を送ることができる未来(第3章)、ミニ起業家が活躍し、創造的な人生を切り開く未来(第4章)が描かれています。

 第4部「働き方を〈シフト〉する」(第8章~第10章)では、冒頭に示した第一のシフトとして、ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ(第8章)、第二のシフトとして、孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ(第9章)、第三のシフトとして、大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ(第10章)という三つのシフトについて解説しています。

 第8章「第一のシフト―ゼネラリストから『連続スペシャリスト』へ」では、なぜ、「広く浅く」ではだめなのか? 高い価値をもつ専門技能の三条件とは何か、未来に押しつぶされないキャリアと専門技能とは何かを解説し、あくまでも「好きな仕事」を選ぶこと、移動と脱皮で専門分野を広げること、セルフマーケティングを通して、カリヨン・ツリー型のキャリアを築くことの重要性を説いています。つまり、1つの企業でしか通用しない技能で満足せず、高度な専門技術を磨き、他者との差別化をするために「自分ブランド」を築くことが肝要であるということです。

 第9章「第二のシフト―孤独な競争から『協力して起こすイノベーション』へ」では、未来に必要となる三種類の人的ネットワークを掲げ、ポッセを築くこと、ビッグアイデア・クラウドを築くこと、自己再生のコミュニティを築くことを勧めています。難しい問題に取り組む上で頼りになる少人数の「同志(ポッセ)」グループとイノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢のネットワーク(ビックアイデア・クラウド)と打算のない友人関係(自己再生のコミュニティ)という三種類のネットワークを構築することが求められるということです。

 第10章「第三のシフト―大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ」では、なぜ、私たちはお金と消費が好きになったのかを考察し、消費より経験に価値を置く生き方へシフトすることを説いています。経済・消費第一優先から、家族や趣味、社会との絆といった創造的経験を重んじる生き方に転換することになります。

 ある種「未来学」ではありますが、データの裏付けがあって説得力があり、また、働き方の未来図を人物ストーリーとして描いているために分かり易いです。一方で、著者が提唱する〈シフト〉は、あまりに"意識高い"系であり、ついていけないと感じる読者もいるかもしれません。しかし、世の中は次第に著者の描く未来図に近づいていくのではないでしょうか。それを「明るい未来」とするにはどうすればよいか考える上で多くの示唆を含んだ本であり、働き方のこれからやキャリアというもの考えるにあたって欠かせない1冊であることは間違いないと考えます。

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント) 
【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

ワーク・シフト LIFE SHIFT.JPG ライフ・シフト2.jpg リンダ・グラットン 来日1.jpgリンダ・グラットン 2016年10月来日『LIFE SHIFT』発売記念講演「100年時代の人生戦略」

《読書MEMO》
●未来を形づくる5つの要因と32の要
要因1.テクノロジーの進化
①テクノロジーが飛躍的に発展する。
②世界の50億人がインターネットで結ばれる。
③地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる。
④生産性が向上し続ける。
⑤「ソーシャルな」参加が活発になる。
⑥知識のデジタル化が進む。
⑦メガ企業とミニ起業家が台頭する。
⑧バーチャル空間で働き、「アバタ―」を利用することが当たり前になる。
⑨「人工知能アシスタント」が普及する。
⑩テクノロジーが人間の労働者に取って代わる
要因2.グローバル化の進展
①24時間・週7日休まないグローバルな世界が出現した。
②新興国が台頭した。
③中国とインドの経済が目覚ましく成長した。
④倹約型イノベーションの道が開けた。
⑤新たな人材輩出大国が登場しつつある。
⑥世界中で都市化が進行する。
⑦バブルの形成と崩壊が繰り返される。
⑧世界のさまざまな地域に貧困層が出現する。
要因3.人口構成の変化と長寿化
①Y世代の影響力が拡大する。
②寿命が長くなる。
③ベビーブーム世代の一部が貧しい老後を迎える。
④国境を越えた移住が活発になる。
要因4.社会の変化
①家族のあり方が変わる。
②自分を見つめ直す人が増える。
③女性の力が強くなる。
④バランス重視の生き方を選ぶ男性が増える。
⑤大企業や政府に対する不信感が強まる。
⑥幸福感が弱まる。
⑦余暇時間が増える。
要因5.エネルギー・環境問題の深刻化
①エネルギー価格が上昇する。
②環境上の惨事が原因で住居を追われる人が現れる。
③持続可能性を重んじる文化が形成されはじめる。

●ワーク・シフト:3つのシフト
第一のシフト:ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
•ゼネラリスト的な技能から専門技能の連続的習得へシフト
•資本:知的資本
•資質:①専門技能の連続的習得、②セルフマーケティング
•対応:広く浅い知識を持つのではなく、いくつかの専門技能を連続的に習得する。そのためには、時間とエネルギーをつぎ込む覚悟をする。
•高い価値を持つ専門技能の条件
①価値を生み出す、②希少性がある、③模倣されにくい。
•いくつもの小さな釣り鐘が連なって職業人生を形作る「カリヨン・ツリー型」のキャリアが主流となる。
第二のシフト:孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
・個人主義、競争原理から人間同士の結びつき、コラボレーション、人的ネットワークへシフト
・資本:人間関係資本、人的ネットワークの強さと幅広さ
・対応:高度な専門知識と技能を持つ人たちと繋がり合って、イノベーションを成し遂げることを目指す姿勢に転換する。仕事とそれ以外の要素のバランスを取り、新たに重要となる活動に時間を割く。
・人的ネットワーク
①ボッセ:同じ志を持ち、頼りになり、長期にわたる互恵的な関係(少人数)
②ビックアイデア・クラウド:大きなアイデアの源となる群衆
③自己再生のコミュニティ:頻繁に会い、リラックスしできる人達
第三のシフト:大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ
・貪欲に大量のモノを消費し続けるライフスタイルから質の高い経験と人生のバランスを重んじる姿勢へシフト
・資本:情緒的資本、自分の選択について深く考える能力、勇気ある行動を取るための強靭な精神を育む能力
•対応:際限ない消費に終始する生活をやめ、情熱を持って何かを生み出す生活に転換する。やりがいとバランスのとれた働き方に転換する。
・「お金のためだけに働く」という古い考えでなく、「働くのは、充実した経験をするためで、それが幸せの土台」となる。自分の生き方と選択に責任と理解を持つ。
自分の未来予想図を描くためのプロセス
1.不要な要素を捨てる。
2.重要な要素に肉づけをする。
3.足りない要素を探す。
4.集めた要素を分類し直す。
5.一つの図柄を見いだす。
未来に押しつぶされないキャリアと専門技能
1.今後価値が高まりそうなキャリアの道筋
・草の根の市民活動
・社会起業家
・ミニ起業家
2.特に重要性を増す専門技能
・生命科学・健康関連
・再生可能エネルギー関連
・創造性・イノベーション関連
・コーチング・ケア関連
第二のシフトは、難しい問題に取り組む上で頼りになる少人数の「同志(ポッセ)」グループとイノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢のネットワーク(ビックアイデア・クラウド)と打算のない友人関係(自己再生のコミュニティ)という三種類のネットワークを構築すること。
第三のシフトは家族や趣味、社会との絆といった創造的経験を重んじる生き方に転換すること。

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働く人々の人生観や仕事観が今後多様化していくであろうことを新たな視点で説明。

ライフ・シフト2.jpg LIFE SHIFT   .jpg リンダ・グラットン 来日1.jpg リンダ・グラットン 来日2.jpg
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』['16年]リンダ・グラットン 2016年10月来日『LIFE SHIFT』発売記念講演「100年時代の人生戦略」
ライフ・シフト0.JPGThe 100-Year Life.jpg イギリスの心理学者リンダ・グラットン(前著『ワーク・シフト』はベストセラー)と経済学者アンドリュー・スコットによる共著で、先進国の寿命が伸び、人生100年時代が現実となってきた今、人々はどう人生設計すべきかを考察した本です(本書もベストセラーとなり「ライフシフト」という言葉は人事専門誌などでも使われるようになった)

 本書の日本語版への序文によれば、100歳以上の人をセンテナリアンと呼び、日本は現在6万人以上のセンテナリアンがいるとのことすが、国連の推計によれば、2050年には日本のセンテナリアンは100万人を突破、2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想されるとのことです(個人的にはそこまでの実感はないが...)。

「月刊 人事マネジメント」2018年12月号
「月刊 人事マネジメント」2018年12月号.JPG 人が長く生きるようになれば、職業生活に関する考え方も変わらざるをえず、人生が短かった時代は、「教育→仕事→引退」という3ステージの生き方で問題はなかったのが、寿命が延びれば2番目の仕事のステージが長くなり、引退年齢が70~80歳になって、長い期間働くようになる。すると、人々は生涯にもっと多くのステージを経験するようになるだろうとしています。

 著者らは、このような時代には、選択肢を狭めずに幅広い針路を検討する「エクスプローラー(探求者)」、自由と柔軟性を重んじて小さなビジネスを起こす「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」、さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる「ポートフォリオ・ワーカー」が登場すると予測しています。

 本書では、1945年生まれのジャック(3ステージの人生の世代)、1971年生まれのジミー(3ステージの人生が軋む世代)、1998年生まれのジェーン(3ステージの人生が壊れる世代)という3人のモデルを想定し、雇用の未来を見据えつつ、3人の人生と仕事のシナリオを描いていきます。

 また、その際に、人生の資産はマイホーム、貯蓄などの「有形資産」だけでなく、「無形資産」も重要な役割を果たすとして、その無形資産を1.生産性資産(知識、職業上の人脈、評判)、2.活力資産(健康、人生のバランス、自己再生の友人関係)、3.変身資産(多様な人的ネットワーク、自分についての知識)の3つに分類し、ジャック、ジミー、ジェーンの人生と仕事のシナリオを、これら有形・無形資産の増減と併せて描いています(これ、なかなか興味深い)。

 そして、その結果、あとの世代なればなるほど、長くなった仕事人生の間にいくつものステージが現れることが考えられるとし、それが、エクスプローラーであり、インディペンデント・プロデューサーであり、ポートフォリオ・ワーカーであって、それだけ、人々にとって人生の選択肢は多様化するであろうとしています。

 こうした、人生で多くの移行を経験し、多くのステージを生きる時代には、新しいスキルを身につけるための投資(生産性資産への投資)、新しいライフスタイルを築くための投資(活力資産への投資)、新しい役割に合わせて自分のアイデンティティを変えるための投資(変身資産への投資)を怠ってはならないということを説いており、さらに、新しいお金の考え方、新しい時間の使い方、未来の人間関係についても述べており、そうした意味では、自己啓発的な内容であるとも言えます。

 但し、それだけではなく終章では企業の課題についても論じています、企業には、①従業員の無形資産にも目を向けること、②従業員の人生で経験する移行を支援すること、③キャリアに関する制度や手続きを見直し、従来の3ステージの人生を前提にしたものからマルチステージを前提にしたものに改めること、④仕事と家庭の関係の変化を理解すること、⑤(難しいだろうが)年齢を基準にすることをやめること、⑥実験を容認・評価することを提案し、これらを実践しようとすれば、人事の一大改革が必要であるとしています。

ワーク・シフト   .jpg 著者の1人リンダ・グラットンの前著『ワーク・シフト─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>』('12年/プレジデント社)は、2025年を想定ワーク・シフト LIFE SHIFT.JPGした働き方の未来をシナリオ風に予測した本でした。そこでは、「働き方」の〈シフト〉として、①ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ、②孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ、③大量消費から「情熱を傾けられる経験」へという3つのシフトを提唱していましたが、データの裏付け等があって説得力がありました。本書も同様にある種「未来学」であり、同じくシナリオ仕立てなので小説を読むように読めますが、働く人々の人生観や仕事観が今度どんどん多様化していくであろうことを体系的に説明しており、新たな視点を提供して説得力を持っているように思いました。読む世代によっても受け止め方は異なるかもしれません。今のところ "教養系"(実務系ではない)ということになるかと思いますが、人事パーソンにはお薦めです。

《読書MEMO》
●選択肢を狭めずに幅広い針路を検討する「エクスプローラー(探検者)」のステージを経験する人が出てくるだろう。自由と柔軟性を重んじて小さなビジネスを起こす「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」のステージを生きる人もいるだろう。さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる「ポートフォリオ・ワーカー」のステージを実践する人もいるかもしれない(5p)。
●人生で多くの移行を経験し、多くのステージを生きる時代には、投資を怠ってはならない。新しい役割に合わせて自分のアイデンティティを変えるための投資、新しいライフスタイルを築くための投資、新しいスキルを身につけるための投資が必要だ(27p)。
●エイジとステージが一致しなくなれば、異なる年齢層の人たちが同一のステージを生きるようになって、世代を越えた交友が多く生まれる(31p)。
●アイデンティティ、選択、リスクは、長い人生の生き方を考えるうえで中核的な要素になるだろう(37p)。
●無形の資産の3分類(127p)
1.生産性資産 2.活力資産 3.変身資産
●落とし穴にはまっていない人は、以下の三つのことを実践している。
まず、リスク分散のために、投資対象を分散させ、ファンドの運営会社もいくつかにわけている。次に、高齢になると損失を取り返す時間があまりないことを理解していて、引退が近づくとポートフォリオのリスクを減らしはじめる。そして、資金計画を立てるとき、資産の市場価値を最大化させることよりも、引退後に安定した収入を確保することを重んじる(276p)。
●平均寿命が延び、無形の資産への投資が多く求められるようになれば、(中楽)レクリエーション(=娯楽)ではなく、自分のリ・クリエーション(=再創造)に時間を使うようになるのだ(312p)。

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キャリア・アンカーの大切さ、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかを説く。

キャリア・ダイナミクス.jpg エドガー・シャイン.jpg エドガー・シャイン ph0to.jpg エドガー・H・シャイン(マサチューセッツ工科大学スローンスクール名誉教授) 『キャリア・ダイナミクス―キャリアとは、生涯を通しての人間の生き方・表現である。

 エドガー・ヘンリー・シャイン(Edgar Henry Schein、1928 - )による本書(原題:Career Dynamics、1978年)は、現在のキャリア論の礎ともなった、このジャンルおけるバイブル的著書と言ってもいいのではないでしょうか。

 訳者による概説によれば、「人は仕事だけでは生きられず、ライフサイクルにおいて、仕事と家族と自分自身が個人の内部で強く影響し合う。この相互作用は成人期全体を通じて変化する。ここですでに、動態的なダイナミクスがあることになろう。しかし、他方、多くの場合そうであるように、組織に雇われて働けば、個人を受け入れる組織には組織自体の要求があり、これが、個人の持つ要求と調和されなければならない。シャインの言う個人と組織の相互作用である。そして、組織の要求も時の経過とともに変化する。また、個人も組織も複雑な環境のなかに置かれており、両者の相互作用は一部外的諸力によっても決定される。こうして、仕事の決定について、きわめて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになる。これが『キャリア・ダイナミクス』だということができる」とのことであり、この考えが本書のフレームワークとなっています。

 全3部から成る本書の第1部の前にある第1章は、第2章以下第17章までの本編全体の序論に該当し、ここではキャリア開発の視点を提起しています。やや抽象的な記述が続きますが、第1部第2章からは様々な具体例を交えた記述となり、ずっと読み易くなりますので、この部分はざっと読み、全編を読み終えた後に振り返って読んでもよいかと思います。

 第1部「個人とライフサイクル」では、第2章から第6章において、個人が直面する主要なライフサイクル問題について、生物社会的サイクル、キャリア・サイクル、家族の段階と状況の3つの側面からそれぞれの段階と課題を検討するとともに、これらの様々な人生の課題群間の複雑な相互作用についても説明しています。
 人は、個人としての発達の欲求、実行可能なキャリアを開発する欲求、及び、満足な家庭生活を展開する欲求、の3つを均衡させ満たす方法を見つけなければならず、社会の大部分の人々にとって、こうした「欲求の満足」の主要部分は、キャリアを築き維持していく過程で生じ、それゆえ、個人は「組織」と直接的な相互作用を持つに至るとしています。
 組織の要求も時の経過とともに変化し、また、個人も組織も複雑な環境に置かれているため、仕事の決定についての極めて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになりますが、これがまさに「キャリア・ダイナミクス」であるということです。

 第2部「キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用」では、まず第7章から第9章にかけて、そうした相互作用及び個人・組織の両者にとってのその影響を検討したうえで、第10章から第12章にかけて、キャリア初期における重要な概念として「キャリア・アンカー」、即ちキャリアの諸決定を組織し制約する自己概念を提唱しています。
 キャリア・アンカーは、①自覚された才能と能力(様々な仕事環境での実際の成功に基づく)、②自覚された動機と欲求(現実の場面での自己テストと自己診断の諸機会、及び他者からのフィードバックに基づく)、③自覚された態度と価値(自己と、雇用組織及び仕事環境の規範及び価値との、実際の衝突に基づく)から成る自己概念です。 
Career Anchors2.jpgCareer Anchors.jpg 分かり易く言えば、
 1.何が得意か (能力・才能についての自己イメージ)
 2.何がやりたいか (動機・欲求についての自己イメージ)
 3.何をやっているときに意味を感じ、社会に役立っていると実感できるか (意味・価値についての自己イメージ)
 といったことになるでしょうか。
 そうしたアンカーの形成について、MITスローンスクール同窓生の長期にわたるデータが報告されているとともに、第2部終章(第12章)では、キャリア中期の諸問題とその基本的原因を検討しています。

 第3部「人間資源の計画と開発の管理」では、視点を管理者に移し、第14章から第17章にかけて、組織全体の立場と人間資源への組織の要求の立場からすると、全キャリア・サイクルを通じて人間資源を開発し管理する全体的なシステムについて、我々はどのように考えることができ、また、これをどのように生み出せるかを考察し、更に、こうしたシステムにおいて個々の管理者はどのような役割を担うか、また、システムはどう編成されるべきかを探っています。

 キャリア・アンカーの大切さなどキャリア決定のメカニズムを論理的に解き明かしている一方で、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかという点において、近年の人事的課題であるワークライフバランスなどを考えるに際して多くの啓発的示唆を与えてくれる本であり、まさに「現代の古典」と呼ぶに相応しい1冊であるかと思います。

《読書MEMO》
●構成
第1部 個人とライフサイクル(第2章:個人の成長/第3章:生物社会的ライフサイクルの段階と課題/第4章:キャリア・サイクルの段階と課題/第5章:家族の状態、段階、および課題/第6章:建設的対処)
第2部 キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用(第7章:組織キャリアへのエントリー/第8章:社会化および仕事の習得/第9章:相互受容/第10章:キャリア・アンカーの開発/第11章:キャリア・アンカーとしての保障、自律、および創造性/第12章:キャリア・アンカーの総合的検討/第13章:キャリア中期)
第3部 人間資源の計画と開発の管理(第14章:人間資源の計画と開発/第15章:人間資源の計画とキャリアの諸段階/第16章:職務・役割計画/第17章:人間資源の計画と開発の統合的な見方に向かって)
●管理的能力
自分の能力は、以下の3つのより一般的な領域の"結合"にある。
(1)分析能力:不完全情報と不確実性の状況で問題を明らかにし分析し解決する能力
(2)対人関係能力:組織目標のより効果的な達成に向けて組織の全階層の人々に影響を与え、人々を監督し、導き、巧みに扱いかつ統制する能力
(3)情緒の能力:情緒および対人関係の危機によって、疲れ果てたり衰弱したりせず、むしろ刺激される能力、無力にならずに高度の責任を担う能力、および、罪悪感や羞恥心を抱かずに権力を行使する能力
●「助言」の責任を引き受ける
(1)教師、コーチ、あるいは訓練者としての助言者
「あの人はこの辺の物事をどう処理するかについて、多くのことを教えてくれた」
(2)肯定的な役割モデルとしての助言者
「私は、あの人の活動をみて多くのことを学んだ。実際、物事をどうやるかのよい手本を示してくれた」
(3)才能開発者としての助言者
「あの人は実際、やりがいのある仕事を与えてくれ、私は非常に多くのことを学んだ。私は伸び伸びするよう仕向けられ、またそう強いられた。」
(4)門戸解放者としての助言者
 やりがいがあって、成長もできる仕事につく機会が、若者に確実に与えられるように「上位の人たち」と闘う人である。
(5)保護者(母鶏)としての助言者
「私が学んでいる間、あの人は私を世話し護ってくれた。私は、職務を危険にさらすことなく、間違いをしたり学んだりできた。」
(6)後援者としての助言者
 被保護者達を目立たせ、彼らが気付こうと気付くまいと、新しい機会が現れるときには彼らが思い起こされるよう、確実に彼らによい「評判」をとらせ、より高いレベルに人々の目にふれさせる人。
(7)成功したリーダーとしての助言者
自分自身の成功で、その支持者たちも確実に「自分のおかげでうまくいく」ようにする人であり、こうした支持者たちを向上させる人。

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優秀さの部分はスゴすぎてマネ出来ないが、キャリアに対する考え方という点で啓発的。

知る人ぞ知る会社 1.jpg  『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』.jpg
大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(2014/02 朝日新聞出版)

 本書は2部構成になっていて、第1部で「大手を蹴った若者が集まっている会社」を紹介し、第2部で大企業とベンチャーのどこが違うかを考察していますが、特に第1部が興味深かったです。

テラモーターズ.jpgSansan.jpg 第1部で紹介されているのは、「テラモーターズ」(電動バイク、社員数20人)、「Sansan」(名刺管理サービス、社員数100人)、「ネットプロテクションズ」(後払い決済サービス、社員数50人)、「フォルシア」(商品検索エンジン開発、社員数53人)、「クラウドワークス」(クラウドソーシング、社員数20人)の5社で、いずれもベンチャーで従業員数は20人から最大100人までと、一般の人には殆ど知られていない比較的小さな会社ばかりです。

 創業者自身が大手企業からベンチャー経営者に転身した人が多く、そこに集まった若い社員も皆、極めて優秀で、一旦は大手企業に勤めたもののそこを辞めた人や、大手企業の幾つもの内定を蹴った人ばかりといった感じ(その意味ではタイトルに偽りなし)。
 そうした世間的にみても"レールに乗って"いて、そのまま大企業にいれば、安泰な人生を送れたかもしれない若者たちが敢えてそこから飛び出したり、最初から大手には行かなかったりしたのはなぜか(これだと「大手を蹴った」にウェイトがかかり過ぎるから、換言して「なぜ殆どの人が知らないような会社を選んだのか」と言った方がいいかも)―本書の紹介事例を読むと、そんな彼らのユニークともとれる"キャリア行動"の背景に、個々の強い意思や夢も感じられますが、それと呼応するような各社のビジョン、業界内における先進技術や戦略的ビジネスモデル、トップの人柄やリーダーシップがあることも窺えます。

 企業の人事担当者向けの、優秀な若者を惹きつける企業の魅力とは何かを考える上でのテキストとしても読めますが(最初はそういう本だと思った)、むしろ、これから就職活動をする若者や、既にキャリアの第一歩を踏み出したもののこのままこの会社にいていいのかと悩んでいる人に向けて書かれた本と言えるでしょう。
 実際にはベンチャーの世界が甘いものでないことは確かで、成功する企業はごく一握りだとも言われています。巻末には、こうした優秀な人材を得て活気に溢れる仕事をしている企業をその他にも紹介したリストがあり、ベンチャー企業への就職を希望しているものの、玉石混交でどこがいいのか分からないという人にはガイドブックとしても読めるかも。

 但し、第1部で紹介されている企業にいる社員たちは、先にも述べた通り皆「超」がつくくらい高学歴で、好不況に関わらず何社もの大手企業から内定をもらうような人ばかり、しかも、単に就活に強い、企業ウケする、といっただけでなく中身的にも優秀な若者たちです。
 取材形式のままに書かれている第1部では、著者はそうした若者に対し、彼らの生い立ちから、どのように育ち、どのように学んだり遊んだりして、どうしてその会社に入ったのかまで丁寧に聴き出しており、彼らがただ優秀なガリ勉だったわけでなく、非常に人間的で、青春を謳歌しつつ時に自らのキャリアについて迷うなど、真剣に生き、真剣に自らのキャリアを考えてきたことが窺えました。

 彼らの「優秀さ」の部分はちょっとフツーの人にはマネ出来ないなあと思わせるぐらいスゴいレベルなのかもしれませんが、キャリアというものに対する自分なりの考え方を持つことの重要性という意味では、その優秀さゆえに安泰な道を選ぶ手もあった彼らが数十人しか社員のいないベンチャーで、しかも活き活きと働いていることを想うと、非常に啓発される要素があるかと思います。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(シェリル・サンドバーグ)

女性のためのキャリア指南書。男性が読んでも啓発される要素は多い。

LEAN IN(リーン・イン).jpgLEAN IN(リーン・イン)2.jpg LEAN IN(リーン・イン)3.jpg Sheryl Sandberg.jpg
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』 Sheryl Sandberg in TED
              
シェリル・サンドバーグはいかにして野心を抱き.jpg 本書の著者シェリル・サンドバーグは、財務省で首席補佐官を務め、その後グーグルで6年半働いてグローバル・オンライン・セールスおよびオペレーション担当副社長を歴任した後、あのマーク・ザッカーバーグによりフェイスブックにスカウトされ、今現在はフェイスブックのCOO(最高執行責任者)の地位にある人であり、2011年8月のフォーブズ誌「World's 100 Most Powerful Women」で5位になった人でもあり(ミッシェル・オバマ大統領夫人よりも上に位置していた)、2013年には「経営思想家トップ50(Thinkers50)」にランクインしています。

「シェリル・サンドバーグはいかにして野心を抱きすべてを手に入れたのか」(米「TIME」誌→「COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2013年 08月号 [雑誌]」)

 こうした著者の華々しい経歴から、本書は、スーパーウーマンが自らの成功体験をもとに、フツーの人にはちょっと真似できないようなことが書かれた自己啓発書かと思われがちですが、実際に読んでみると、著者自身、自らのキャリアが恵まれたものであることを率直に認めつつも、現在の地位にたどりつくまでにさまざまな苦労や葛藤があったことが、実に赤裸々に、時にユーモアを交え描かれています。

 また、アメリカ社会において女性が仕事をしていくことがいかに困難かを多くのデータや文献から裏付けるとともに、その原因を、社会の仕組みだけでなく、働く女性の心理面からも分析し、女性たちがそうした内面の壁を突破するにはどうしていけばいいかを考える内容となっています。

 著者によれば、男女差別はアメリカ社会の中にも隅々まで根付いていて、優秀な女性たちは、自分たちの優秀さについて一種の罪悪感を抱いており(著者自身、ハーバード大学で最優秀学生の1人に選ばれた際に、「優秀な女は嫌われる」という思い込みから、周囲にはそのことを隠していたという)、女性たちはまず、この内なる敵と闘わなければならないのとしています。

 その上で、「キャリアは梯子ではなくジャングルジム」「笑っていれば気分が明るくなる」「ロケットの座席をオファーされたらまず座ってみる」「正直なリーダーになる」「完璧を目指すよりもとにかくやり遂げること」という「5つのマインドチェンジ」を提唱しています。

 女性がキャリアで成功する上での障害と、それを取り除くためにどうすればよいかということについて多くのページを割いていて、報酬の交渉をする際のポイント、夫を協力的なパートナーにするためのコツや、子供が生まれるまさにその時まで仕事を辞めてはいけないというアドバイスなど、いずれも具体的かつ有用なものばかりです。

シェリル・サンドバーグ1.jpg プレゼンテーション・カンファレンスとして知られる「TED」で著者が講演した際の話がでてきますが、著者が本書を著すきっかけとなったのは、TEDでの著者の「なぜ女性のリーダーは少ないのか?」と題された(周囲はなぜ彼女は成功したのかを聞きたがっていたが、彼女は敢えてこのテーマを演題に選んだ)トークの反響が大きかったためで(トークの模様はインターネットで視聴できる)、本書もアメリカでベストセラーとなり、女性のキャリアについて大きな論争が起きているとのことです。

 論争の元となる1つの要素として、例えば著者が、自分のことを特別な女性と崇め奉り「メンターになってくれませんか?」と言い寄ってくる女性に対して、力のある人間にすり寄っていけば誰かが自分を引き上げてくれるだろうという、その受け身の姿勢が気に入らないとぶちまけていたりすることもあるのかもしれません。また、男性優位社会との対立項として自らの考えを述べているように捉えられる点もあるのかも。

 但し、単に声高に女性の権利を主張するのではなく、本当に必要なのは相互理解であり、女性は女性で、まず出来ること、やるべきことをやりましょう、と言っているように思えました。その上で著者は、「いまこそ私は、誇りをもって、自分をフェミニストと呼ぼう」と宣言しています。結婚や出産といったライフイベントを機に、キャリアを諦めてしまう女性が多いのは日本も同じであるという、データに基づいた指摘もあり、アメリカ国内だけでなく、世界の女性に呼びかけているところに、メッセージ性、発信力のスケールの大きさを感じます。

 著者は本書を自分の領域でトップに就く可能性を高めたい、全力でゴールを目指したい、そう考えている女性に向けて書いたそうです。女性のためのキャリアの指南書として読めるばかりでなく、男性にとっても、一緒に働く女性のことを考える契機となる本であり、また、男女を問わず、キャリアやリーダーシップに関する示唆に富むものとなっています。更に、女性リーダーのロールモデルを増やしていくことは、今後の企業の人材活用における大きな課題になっていくことは間違いなく、人事パーソンの視点からみても、啓発される要素を多分に含んだ本であると思います。

photo3377-2.jpg それにしてもこの人、TEDのプレゼンもNHKの「クローズアップ現代」でのインタビューも見ましたが、コミュニケーション能力がやはり抜群に長けているのではないでしょうか、「1対多」でも「1対1」でも。その年俸22億円はカルロス・ゴーンの倍以上ですが、確かにハーバードを首席で卒業した秀才ではあるし、おそらくマーケティングなどの知識も豊富だとは思われるのですが、やはりこの人をこうした地位まで押し上げたのは、リーダーシップとコミュニケーション能力だろうなあと思います。

「クローズアップ現代 女性のリーダーはなぜ少ない?~米企業トップ サンドバーグさんのメッセージ~」(2013年7月9日放送)

Facebook COO Sheryl Sandberg Commencement Speech | Harvard Commencement 2014


【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

【2018年文庫化[日経ビジネス人文庫]】

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キャリア官僚から大学教授への転職奮戦記。教授になること自体が目的化してしまっている印象も。

1勝100敗.JPG1勝100敗! あるキャリア官僚の転職記.jpg1勝100敗! あるキャリア官僚の転職記 大学教授公募の裏側 (光文社新書)』['11年]

 キャリア官僚から大学教授への転職奮戦記で、いやー、ご苦労サマという感じ。自らのキャリアを築くには、それなりの意志と覚悟が必要なのだなあという教訓になりましたが、それにしても大した意志の強さと言うか、そもそもが粘着気質のタイプなのかなあ、この著者は。

 その気質を裏付けるかのように、大学教授の公募試験に落ちまくった様が克明に書かれていて、併せて教授公募の実態や論文実績の積み重ね方もこと細かに書かれているので、同じ道を目指す人には参考になるかと思われます。

 ただ、一般読者の立場からすると、なぜ大学教授になることにそうこだわるのかも、大学教授になって一体何をしたいのかもよく伝わってこず、大学教授になること自体が目的化してしまっている印象も受けました(「ノウハウ本」ということであれば、そんなことは気にしなくてもいいのかも知れないが)。

 近年の大学の実学重視の傾向により、社会人としての実績からすっと大学教授になってしまう人もいますが、この著者 の場合、博士課程に学んで、「査読」論文を何本も書いて公募試験を受けるという"正攻法"です。

 但し、博士課程で学ぶ前提条件となる修士課程については、霞が関時代に米国の大学に国費留学させてもらっていることで要件を満たしているわけだし、目一杯書いたという論文の殆どは、新潟県庁への出向期間中の3年間の間に書かれたもので、この時期は毎日定時に帰宅することが出来たとのこと―こうした、一般サラリーマンにはなかなか享受できない、特殊な"利点"があったことも考慮に入れる必要があるのではないかと思います(その点は、著者自身も充分に認めているが)。

高学歴ワーキングプア.jpg 大学教授の内、こうした大学外の社会人からの転入組は今や3割ぐらいになうそうですが、一方で、同じ光文社新書の水月昭道『高学歴ワーキングプア―「フリーター生産工場」としての大学院』('07年)にもあるように、大学で学部卒業後、ストレートに大学院の修士課程、博士課程を終えても、大学の教員職に就けないでいるポストドグが大勢いるわけで、そうした人達はますますたいへんになってくるのではないかと、そちらの方を懸念してしまいました。

水月昭道『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

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モチベーション・タイプ別の自律的人材になるための処方箋を示す。

自律的人材になるためのキャリア・マネジメントの極意3.JPG自律的人材になるためのキャリア・マネジメントの極意.jpg自律的人材になるためのキャリア・マネジメントの極意』(2009/09 ナカニシヤ出版)

 先行き不透明な経済・経営環境のもと、企業にとってこれからは自律的人材が求められるとは、昨今よく言われることですが、本書では、自律的人材とはどのような人材なのか、自律的人材とモチベーションはどのような関係にあるのかを示したうえで、個人のモチベーションのタイプ別に、自らやる気を高める方策をまとめています。

 本書によれば、自律的人材とは、「自分が何をすべきかの方向を定め、他者から指示・コントロールされなくても、責任感をもって主体的に物事を進めていく人材」であり、モチベーションの効果が比較的短期間であるのに対し、自律意識(自律的人材であろうとする意識)は一定期間持続するとしています。

モチベーションのタイプ.jpg そのうえで、モチベーションをタイプ分けするために、まず「やる気のエンジン」がどこにあるか、つまり、内発的動機づけによるもの(目的的)か外発的動機づけによるもの(手段的)かで区分し、それぞれに、自己決定が可能な自律的ケースと、他からの支援など関係性に依存する他律的ケースがあるとしています。

この区分に沿って、モチベーション・タイプを「目的的‐手段的」と「自律的‐他律的」の2軸に分け、内発的動機づけによるものは自律的‐他律的を問わず「内発的モチベーション」(目的的)として1つのタイプとし、外発的動機づけによるもののうち、自律的なものを「役割自発型モチベーション」、他律的なものを「外発的モチベーション」とし、これに、まだ動機づけられていない「アパシー状態」を加えた4つのタイプを規定したうえで、各タイプごとに章分けして、自律的人材になるための最適方法を教唆しています。

心理学の考え方が各章に織り込まれていますが、例えば「内発的モチベーション・タイプ」ではキャリア・マネジメントの方法論そのものがに書かれているのに対し、「役割自発型モチベーション・タイプ」においては、「自己追究型アプローチでキャリアをマネジメントする」といった具合にアイデンティティの追究にウェイトが置かれています。

「外発的モチベーション」では「有能感を貯める」「行為の主体になる」といったことが、さらに「アパシー状態」においては、「できない気持ちを学ばない」などとなっていて、このように、タイプごとに"処方箋"レベルが明確に区分されているのが興味深かったです。

 個人においても仕事や課題の違いによって異なるタイプの状態になるであろうし、部下を使う側に立てば、部下1人1人は違ったタイプに分けられるかもしれませんが、このタイプ区分を前提に、部下ごとに「やる気の引き出し方」が違ってくることを意識してみるのもいいのではないか、そうした意識を持つことが、人材マネジメント・スキルの向上にも繋がるのではないかと思いました。

 モチベーションのタイプ分け自体が1つの仮説であるともとれますが、むしろ、概念整理の方法および心理学をベースとした方法論と読み手との相性によって、この本の評価は分かれるかも知れません(ハマる人はハマる)。

 言えることは、ただただ"自律的人材たれ"と連呼するだけでなく、1つの仮説からスタートしてでも、より多くの社員が自律的人材となるべく方向付けをしていくことが、仕事に対する価値観や関わり方の違いという"目に見えない"ダイバーシティをマネジメントしていくうえでの、管理職や人事担当者のこれからの課題ではないかと思いました。

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またまたタイトルずれ? 特殊な人だけ拾っても...。

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか.jpg 
若者はなぜ3年で辞めるのか?.jpg若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)』['06年]
3年で辞めた若者はどこへ行ったのか アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』['08年]

 『若者はなぜ3年で辞めるのか』('06年/光文社新書)の続編と思われますが、今度は〈ちくま新書〉からの刊行で、〈webちくま〉の連載に加筆修正して新書化したものとのこと。

 前著では、「年功序列」を日本企業に未だにのさばる「昭和的価値観」としていて、そこから企業のとるべき施策が語られるのかと思いきや、働く側の若者に対し「昭和的価値観」からの脱却を呼びかけて終わっていましたが、本書では、実際にそうして企業を辞め、独立なり転職なりした、著者が言うところの「平成的価値観」で自らのキャリアを切り拓いた人達を取材しています。

 ですから、タイトルからすると労働問題の分析・指摘型の内容かと思われたのですが、後から書き加えたと思われる部分にそうした要素はあったものの、実際には、どちらかというと働き方、キャリアの問題を扱っていると言えるかも知れず、こちらも少しずつタイトルずれしているような気が...。

 紹介されている人の全てがそうだとも言えないけれど、(著者同様に)高学歴でもって世で一流と言われる企業に勤め、業界のトップの雰囲気や先端のノウハウに触れた上で起業なり独立なりを果たした人が中心的に取り上げられているような気がし、同じ「若者」といっても産業社会の下層で最初からそうしたものに触れる機会の無かった人のことは最初から眼中にないような印象を受けました。

 こうした特殊な人ばかり取り上げて(その方向性の散漫さも目につく)、「辞めた若者」の一般的な実態には迫っていないんじゃないかなという気がしますが、転職に失敗した人に対しては、前著『若者はなぜ3年で辞めるのか』にある"羊 vs.狼"論で、「彼ら"転職後悔組"に共通するのは、彼らが転職によって期待したものが、あくまでも『組織から与えられる役割』である点だ。言葉を換えるなら、『もっとマシな義務を与えてくれ』ということになる。動機の根元が内部ではなく外部に存在するという点で、彼らは狼たちと決定的に異なるのだ」と既にバッサリ斬ってしまっていたわけです。

 元々著者自身が、企業の中で学習機会に恵まれた環境のもと大事に育てられた人なわけで、この人が「キャリア塾」的な活動をするとすれば、対象としては大企業に今いて一応レールに乗っかっている人に限られるのではないかと思われ、個人的にはそうした活動よりも、企業向けのコンサルティング的提言をしていく方がこの人には向いているのではないかと、老婆心ながらも思いました(『内側から見た富士通-「成果主義」の崩壊』('04年/光文社ペーパーバックス)は悪い本ではなかった。むしろ、大いに勉強になった)。

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物足りない内容。よく言えば"おさらい"的。"焼き直し"感は拭えない。

キャリアの常識の嘘.jpgキャリアの常識の嘘』('05年/朝日新聞社)金井壽宏.jpg 金井壽宏 氏 高橋 俊介.jpg 高橋俊介 氏

 『部下を動かす人事戦略』('04年/PHP新書)に続く金井壽宏、高橋俊介両氏の共著で、「職種が自分に合うことが重要だろうか」「キャリアにとって忠誠心はプラスになるか」「部下は上司が育成すべきか」といった問いに両氏が答える形式になっていますが、就職しようとする学生などキャリアの入り口にある人に対する指南書といったところでしょうか。

 金井氏は、今まで多くの自著でも紹介してきた「キャリア・ドリフト」「キャリア・トランザクション」などの概念や理論を織り交ぜながらキャリア・デザインについて論じ、また高橋氏は、単線的な上昇志向より「キャリア自律」が大切であることを説いていますが、方向性としては金井氏と重なり(すり寄ってきた?かつては「成果主義」を進めるコンサルを標榜し、目いっぱい上昇志向を煽っていたではないか)、読んでいてどちらが書いているものかふとわからなくなるときもありました。

 一応、中高年などでキャリアの上で迷いを感じている人なども読者対象としているようですが、実社会の経験がある人が読むにはややモヤっとした感じで、「キャリア学」的関心から本書を手にした人にとっても物足りないかも。
 特に両氏の本を何冊か読んだことのある人にとっては、よく言えば"おさらい"的なのかもしれませんが、"焼き直し"感は拭えないと思います。
 
 そうした意味でも、(シリーズ名とは言え)タイトルの「常識の嘘」や帯の「目からウロコ!」というのは大仰で、どのあたりのターゲットを指してそう言っているのかと突っ込みたくなります(オーソドックスなんです。書いてあること自体は)。

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結局のところ"スローキャリア"というものが何なのかよくわからない。

スローキャリア.jpgスローキャリア』 ('04年/PHP研究所) スローキャリア2.jpgスローキャリア (PHP文庫)

Slow.jpg 著者の提唱する"スローキャリア"というのは、"上昇志向でない動機によってドライブされる"キャリアのことを指すらしいのですが、この定義がわかりにくい。

 キャリアアップや組織で出世することだけに血道を上げ、本来の自分らしいキャリア形成という目的から逸脱してまでも「勝ち組」となることにこだわる考え方に疑問を投げかけるという姿勢はわからないでもないのですが、著者自身が「上昇志向」「勝ち組」「キャリアアップ」などという言葉を使うことで、そうした価値基準の中にどっぷり浸っているようにもとれます。
 これは、この本が「THE21」という"キャリアアップ"特集とかをよく組んでいる雑誌に連載したものを単行本化したものであることとも符合します。

 基本的には、著者が今まで説いてきた「キャリア自律」、クランボルツの「計画的偶発性理論」などがベースとなっていて、キャリア計画より普段の仕事への取り組み姿勢が大切だという落とし処だと思いますが、"スローキャリア"とは逆の"ファストキャリア"的発想に近いのではないかと思われる記述も多い一方で、"スローキャリア"を"スローフード""スローライフ"になぞらえる記述もあり(少なくとも"スローフード"の"スロー"と"スローキャリア"の"スロー"は別物または異質のものではないだろうか)、読む側としては混乱します。

 平易な文体で書かれていてさらっと読めるものの、流行語としては流行らせようしたのではないでしょうが、"スローキャリア"がまずありきで論を進めていてる感じがしました。

 「はっきりいおう、スローキャリアをめざす人は、お金という唯一のものさしでその人の価値を決めることができるという、ある種アメリカ的な考え方を否定すべきだ」
 ―と言われても、結局のところ"スローキャリア"というものが何なのかよくわらないので、結果的には通俗的な人生論にしか聞こえてこないという面がありました。

 【2006年文庫化〔PHP文庫〕】

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バランスがとれ、わかりやすく、かつ深みのある考察。

『キャリアの教科書』.JPGキャリアの教科書.jpg 佐々木直彦.jpg 佐々木直彦 氏(略歴下記)
キャリアの教科書』('03年/PHP研究所)

 エンプロイアビリティの基本能力を 専門能力/自己表現力/情報力/適応力とし、雇われ続ける能力に限定せず、転職を可能にする能力、やりたい仕事を続けるための能力という観点を示しているのが新鮮でした。
 企業のエンプロメンタビリティ(雇う力)にも言及していてバランスがとれています。

プレゼン能力.jpg 本論では、エンプロイアビリティ向上のために実践し(フィールドワーク)考え(コンセプトワーク)人とつながる(ネットワーク)ことの重要性を、図解やケーススタディと併せ、またキャリア行動に関する理論を引きながら、わかりやすく具体的に説いていています。

 プレゼン能力の大切さを特に強く訴えている点など、プランナーでありコンサルタントである著者の体験からきているかと思いますが、何のために自己表現するかというところまで踏み込んでいて、考察に深みを感じます。

 ただ、図説の中にはいかにもプランナーが描きそうな矢印の多用が見られ、洗練されたイラストや写真も時には邪魔に感じられることがあったのが残念でした。
_________________________________________________
佐々木直彦 (ささき なおひこ)
一橋大学社会学部卒業。リクルート、産業能率大学研究員を経て、現株式会社メディアフォーラム代表取締役。組織変革、営業・顧客リレーション改革、リクルーティング、キャリア創造などのコンサルティングに携わる。一方、トップから内定者まで、さまざまな階層を対象とした「プレゼンテーション」「問題解決」などに関するセミナーの講師をつとめる。著書に『大人のプレゼン術』『キャリアの教科書』(いずれもPHP研究所)、『コンサルティング能力』(日本能率協会マネジメントセンター)、『仕事も人生もうまくいく人の考え方』(すばる舎)ほか。

キャリアの教科書2962.JPG《読書MEMO》
●エンプロイアビリティの基本となる4つの能力...
 1.専門能力
 2.自己表現力
 3.情報力
 4.適応力(26p)
●エンプロイアビリティの3つの観点...
 1.雇われ続けるためのエンプロイアビリティ
 2.好条件での転職を可能にするためのエンプロイアビリティ
 3.やりたい仕事をやり続けるためのエンプロイアビリティ
●企業のエンプロイメンタビリティ(45p)
●3つのワーク(フィールドワーク/コンセプトワーク/ネットワーク)(60p)
●グランボルツ博士のプランド・ハップンスタンス・セオリー(96p)

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趣旨は、社員の自律的キャリアの構築促進。内容がこなれていない。

キャリア論.jpg 『キャリア論』 (2003/06 東洋経済新報社)  高橋 俊介.jpg 高橋 俊介 氏

car02.jpg サブタイトルからは窺えますが、"会社側は"何をすべきなのかという本で、そのあたりが「キャリア論」というタイトルからは少しわかりにくく、それでも個人として買っても役に立ったという人も少なからずいるらしいのは、本書が〈自律的キャリア(CSR=Career Self Reliance)〉を形成・促進することを説いているためだろうと思われます。

 この本が企業側に対して明らかにしようとしているのは、社員の〈自律的キャリア〉の構築を促進していくことは、必ずしも優秀人材の流出には繋がらず、むしろ企業にとっても望ましいものであるということです。
 それはそれで、企業側部にパラダイム転換を促す1つ筋の通った主張になっていると思います。

『キャリア論』 .jpg ただし、そのことを説明するためにクラスター分析の手法を使って多くのページを割いていますが、学術論文か、その手前のゼミ論文のような生硬さで、一般読者はもちろん企業の担当者にとっても、読んでいて何故こんなゼミの講義みたいな話に付き合わさればならないのかという気分になってきます。

 文体にも著者独特の分かりやすさが見られず、どこまで誰が書いたのかわからない、やや"手抜きの1冊"と見ました。

 著者が以前から言っている〈自律的キャリア(CSR=Career Self Reliance)〉というが概念にも、少なくとも本書では深化は見られず、加えて〈企業の社会的責任=CSR(Corporate Social Responsibility)〉というハヤリの言葉とカブったのが、ちょっと気の毒。

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報告書レベルを超えた内容。ただし、ちょっと大企業中心?

『仕事で「一皮むける」』 .JPG仕事で「一皮むける」.jpg仕事で「一皮むける」光文社新書金井壽宏.jpg 金井壽宏 氏

 関西経済連合会のワークショップとして、参加企業のミドルが企業トップ(経営幹部)にインタビューし、自らの〈キャリアの節目〉を振り返りってもらったものをまとめたものを、さらに金井教授が新書用に再構成し、解説をしたものです。

Career and Work Success.jpg 金井教授の「一皮むける」という表現は、その仕事上の経験を通して、ひと回り大きな人間になり、自分らしいキャリア形成につながった経験のことを指し、ニコルソンのトランジッション論などのキャリア理論がその裏づけ理論としてあるようです。直接的には南カリフォルニア大の経営・組織学教授モーガン・マッコールが著書『ハイ・フライヤー』('02年/プレジデント社)の中で述べている"クォンタム・リープ(量子的跳躍)"という概念と同じようですが、"クォンタム・リープ"といった言葉よりは"一皮むける"の方がずっとわかりやすいかと思います(一方で、"ターニング・ポイント"という言葉でもいいのではないかとも思うが、ここでは"キャリア"ということを敢えて意識したうえでの用語選びなのだろう)。その言葉のわかりやすさと、金井氏の思い入れが、本書を単なる報告書レベルを超えたまとまりのあるものにしています。

 経営幹部が選んだ自らの"一皮むけた"経験の契機が様々であるにも関わらず、配属や異動であったり、初めて管理職になったときであったり、プロジェクトに参画したときであったりと、ある程度類型化できるのが興味深く、自分に重なる事例に出会ったときはハッとさせられます。日経の「私の履歴書」みたいな実名記載ではない分、飾り気が無く、自らのキャリアに対する素直な振り返りになって、誰もが自分にも類似したことが思い当たる〈キャリアの節目〉となった事例を、本書の中に見出せるのではないかと思います。

 但し、大企業での話ばかりで、多階層組織、事業部制を前提とし、新規事業、海外生活などを経験したといったことがキーになっていたりする話などは、今ひとつピンと来ない読者もいるのではないかと思いました(関西経済連合会には中小企業はいないの?)。

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深い考察と確信。キャリア行動に関して読んだ本の中では最良の部類。

キャリア コンピタンシー.JPGキャリア・コンピタンシー.jpg     04_12_6_2.gif 小杉俊哉 氏 (略歴下記)
キャリア・コンピタンシー』('02年/日本能率協会)

 本書では、キャリア・コンピタンシーを構成する9つの要素を示し、キャリア理論やカウンセリング理論を引きながら論を進めていますが、最終的には借り物の理論をなぞってスキルのみ伝授して終わるのでなく、著者自身がキャリア及び生き方について深く考察し、確信を持って読者をインスパイアしようとしているのが伝わってきます。それだけに、「読み手との相性」で評価が割れる本かと思います。

『キャリア・コンピタンシー64.JPG 自分の場合は、最後の「自分自身であること」に至るまで物語を読み進むように引き込まれ、著者自身のキャリアの振り返りにも感動しました。知識を期待して読み始めましたが、既知のクランボルツの挿話にしても、高橋俊介、金井壽宏といった人の本の中で読むよりも深い印象を受けたりしたのは、自分だけでしょうか。
 
 キャリア理論やカウンセリング理論の紹介も的を射ており、そうした知識の整理にも役立ちますが、個人的には知識以上のものが得られという読後感があり、キャリア行動に関する本で今まで読んだものの中では、自分にとっては最良の部類に入るものでした(相性が良かったのかも)。

《読書MEMO》
●専門プロフェッショナル(34p)とビジネス・リーダー(40p)
●キャリア・コンピタンシーを構成する9つの要素
 1.自己認識
 2.ビジョン
 3.楽観・柔軟
 4.環境理解
 5.状況判断
 6.アサーション・表現力)
 7.影響力・対人手腕
 (以下、コアコンピタンシー)
 8.直感
 9.自分自身であること
●モチベーション・ファクターとリベンジ・ファクター(66p)
●MBTI(マイヤーズ・ブリッグス・インディケイター)(76p)
●シャインのキャリア・アンカー(124p)
●クランボルツのプランド・ハップンスタンス(125p)

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小杉俊哉
1958年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、日本電気株式会社(NEC)入社。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー インク、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピュータ株式会社人事総務本部長を経て独立。現在、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教授、株式会社コーポレイト・ユニバーシティ・プラットフォーム代表取締役社長。自律的キャリア開発・リーダーシップの研究とそれに基づく人材育成、組織・人事コンサルティング、およびベンチャー企業への経営支援を行っている【著書】「キャリア・コンピタンシー」(日本能率協会マネジメントセンター)「組織に頼らず生きる」(平凡社)「ラッキーをつかみ取る技術」(光文社新書)他多数

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著者の本領発揮!キャリアを考え、キャリア論を知るうえでの良書。

『働くひとのためのキャリア・デザイン』.JPG働くひとのためのキャリア・デザイン.jpg  キャリアデザイン96.JPG  金井壽宏.jpg 金井壽宏氏 (略歴下記)
働くひとのためのキャリア・デザイン』 PHP新書 〔'00年〕

 長年にわたりキャリアについて研究してきた著者による本で、キャリアとは何かを考えるうえで啓発される要素が多々ありました。また、一般にどういったキャリア観があるかを知り、自らのキャリアをデザインするとはどういうことなのか考えるうえで参考になる本です。著者自身のキャリア観にも好感が持てました。

career.jpg キャリア理論を学ぶうえでも、シャインの何が得意か、何がやりたいか、何をやっているときに意味を感じ社会に役立っていると実感できるかという〈3つの問い〉や、ブリッジスの、キャリアにおける危機の一つとしての転機は、一方で躍進・前進に繋がる可能性もあるという〈トランジッション論〉、クランボルツの、キャリアの節目さえデザインしていれば、それ以外はドリフトしていいとして、偶然性や不確実性の効用を説いた〈キャリア・ドリフト〉といったキャリア行動や意思決定に関する理論や概念が、最近のものまでバランス良くカバーされており、役に立つのではないでしょうか。

business.jpg またそれらの解説が大変わかりやすいうえに、著者の「この理論を自分のキャリアを決める際に生かしてほしい」という熱意が伝わってきます。

 単行本の執筆も多く、最近は組織・人事全般に関わるテーマでも本を出しているのは経営学者ですから当然ですが、実はこの新書本に著者の本領が最も発揮されているのではないか、という気がします。

《読書MEMO》
●シャインの「3つの問い」(36p)...
 1.何が得意か (能力・才能についての自己イメージ)
 2.何がやりたいか (動機・欲求についての自己イメージ)
 3.何をやっているときに意味を感じ、社会に役立っていると実感できるか
    (意味・価値についての自己イメージ)
●ブリッジスの「トランジッション論」...危機の1つとしての「転機」、一方で躍進感・前進感も(72p)
●ニコルソンのモデル...準備→遭遇→順応→安定化というサイクルの節目をキャリアの発達につなげる(84p)
●クランボルツの「キャリア・ドリフト」(114p)...
 ・デザインの反対語→流されるままでいいのか→偶然性や不確実性の効用(キャリアドリフトのパワー)
●キャリアにアップもダウンもない、主観的意味づけや統合がキャリア理解を強化(137p)
●キャリアの定義...長い目で見た仕事生活のパターン(140p)
●レビンソン...生涯を通じて発達するという概念(202p)
●ユング...「人生の正午」(221p)
●エリクソン...ライフサイクル論(221p)

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金井壽宏 (神戸大学大学院経営学研究科教授)
1954年生まれ。兵庫県神戸市出身。京都大学教育学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。マサチューセッツ工科大学でPh.D(マネジメント)、神戸大学で博士(経営学)を取得。現在はリーダーシップ、モティベーション、キャリア・ダイナミクスなどのテーマを中心に、個人の創造性を生かす組織・管理のあり方について研究。

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刊行時はキャリア行動の教科書的な読まれ方。今でも示唆は多い。

キャリアショック.jpg 『キャリアショック―どうすればアナタは自分でキャリアを切り開けるのか?』 ['00年]

4211281012.jpg 自分の思い描いていたキャリアの将来像が予期しない環境変化により崩壊してしまうことを「キャリアショック」とし、そうしたことが起こりうる現代において自分のキャリアをどう捉え、どう開発していくかを説いています。

 変化の激しい時代においては、最初に目標があっても必ずしも予定通りにはいかない、ということは多くのビジネスパーソンが感じているところ。しかしそうした時代だからこそ、自律的なキャリア形成を図るよう心掛けるべきである、というのがメインの主張です。

 キャリアアップという言葉を使わず、「幸福なキャリア」を築くにはどうしたらよいかということを、プランド・ハップンスタンス(計画的偶然性)などキャリア行動の概念を用いて説明する過程は、先駆的で、かつわかりやすいものでした。
 実際にキャリアチェンジした人の事例を多く挙げていて、キャリアコンピテンシーの高め方が身近に理解できる1冊。

 本書が刊行された'00年は、民間のコンサル会社ワイアットの社長だった著者が独立を経て慶応大の教授に転身した年ですが、この一般向けの著書はキャリア行動の教科書的な読まれ方をしました。
 ただし、その後あまりにこうした本や考え方が出尽くして、今読むと当時ほどの目新しさはありません。
 それでもなお、キャリアの入り口にいる学生や、今を自分のキャリアの転機ととらえて転職を考えている人には、今もって示唆の多い内容ではあると思います。

  高橋 俊介.jpg 高橋 俊介 氏 (略歴下記)

 【2006年文庫化(ソフトバンククリエイティブ[SB文庫])】
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高橋 俊介
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
組織・人事に関する日本の権威の一人。プリンストン大学大学院工学部修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ザ・ワイアット・カンパニーに勤務後、独立。
人事を軸としたマネジメント改革の専門家として幅広い分野で活躍中。主な著書に「自由と自己責任のマネジメント」「自立・変革・創造のマネジメント」「キャリアショック」「組織改革」「人材マネジメント論」がある。

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キャリアの節目で悩んでいる人には、元気づけられる事例やヒントが。

「選職社会」転機を活かせ.gifMidCareer.jpg NancySchlossberg.jpg Dr. Nancy Schlossberg
「選職社会」転機を活かせ0』 ('00年/日本マンパワー出版)

シュロスバーグのキャリア理論.png 全米キャリア開発協会(NCDA)の会長などを務めた著者による本書は、人が人生の転機やキャリアの節目にぶつかったとき、それをどう乗り越え、どうすれば豊かな人生が送れるかということをテーマとしています。

 著者は、どんな転機でも「見定め」「点検し」「受け止める」ことで必ず乗り越えられるとし、その「点検」のところでは、リソースとしての4つのS(Situation:状況、Self:自分自身、Support:周囲の支え、Strategies:戦略)を見極めるとが、成功への道に繋がるとしています。

 この論旨の流れに沿って、人生の転機や困難に直面した人がそれをどう乗り越えたかという事例が多く紹介されていて(本書の原題は"Overwhelmed"(途方にくれて))、アメリカ人というのはこういう逆境から立ち直る話が好きなのだなあという気もしましたが、もちろん日本人にとっても、とりわけ人生やキャリアの節目で悩んでいる人には、元気づけられる事例や考え方のヒントが本書には含まれていると思います。

 原著の出版は'89年と少し古く、一般的なキャリア理論の紹介も一部にありますが、必ずしも充分に網羅しきれていません。キャリア学の金井壽宏氏も「どんな転機でも必ず乗り越えられる」という考え方において、本書に賛同していたような覚えがあります。そうした意味では、理論書というより啓蒙書に近い感じがします(人生論ではないと訳者あとがきにはありますが...)。その分、自身のキャリア点検における前述の「4Sシステム」といった考え方は、時代を超えた普遍性があるようにも思いました。

 興味深かったのは、「人生半ばの危機」説に批判的なことで、人はあらゆる時期に転機に見舞われるとしていている点で、例えば母と娘が同時期に出産するといったことが起こる社会においては(そうしたことがどれぐらいの頻度でアメリカ社会にあるのかはよくわかりませんが)、確かに固定的なライフステージを想定していない方が、こうしたダイバーシティ(多様性)に対応できるのかもしれないと思いました。

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円高不況期に書かれた転職・人材会社利用ガイド。今に通じる部分も。

転職.jpg 『転職―人材紹介のプロが教える「考え方・選び方・売り込み方」okamoto.jpg岡本義幸 氏(略歴下記)

Change of career.bmp 本書は'87(昭和62)年の出版であり、人材会社(人材斡旋会社)の社長が書いた「転職」のためのガイドブックです。
 この分野では古書に属するものかも知れませんが、読み直してあまり旧い感じがしないのは、本書が書かれ時期が、その直前までバブル景気前の円高不況期であったために、バブル崩壊の際と背景が少し似ているからではないかと思います。
 プラザ合意('85年)による急激な円高が未曾有の鉄鋼不況を招き、新日鉄などが大規模なリストラ策を打ち出したのがこの頃でした。

 転職先の見つけ方・見分け方や、履歴書の書き方から面接での自分の売り込み方などが70項にわたって書かれていますが、「受付嬢で会社がわかる」とかはちょっと平凡ですが、「中小企業なら社長面接のある企業を選べ」とか、なかなか面白いアドバイスもあります。

 当時それほど一般のビジネスパーソンには馴染みのなかった人材会社の活用の仕方について書かれているほか、外資系の会社というものの見つけ方・見分け方が詳しく書かれているのが特徴でしょうか。
 外資系の企業で勤務する場合「本社に2名の友達を持て」というアドバイスは、日本企業の支社・支店に勤める人にも当てはまるかも。

 結局、日本の景気は回復してバブル期に入り、高度専門職能(当時ならば金融・SEなどの専門知識・能力が最も需要があった)を持つ人が、自分をより高く売るためにこういう人材会社を利用したように思います(採用会社が斡旋会社に払う手数料も、かなり高かったように思う)。

 最後に著者の将来予測があり、「企業の国籍は無くなる」とか「理科系出身者が三次産業に押し寄せる」などというのは当たっている面があり、「社長の10人に1人は女性になる」というのは、まだそこまでいってはいないという感じでしょうか。
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岡本 義幸
ボイデン・ジャパン 代表取締役会長。同志社大学経済学部卒。米国大沢商会取締役社長、株式会社ケンブリッジ ヒューイット インターナショナル(現ヒューイット アソシエイツ)社長を経て、1995年、ECI株式会社を設立。現在、同社の代表取締役会長を務める。 

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