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テレワークが生み出すたくさんのメリット(啓発的)。テレワーク課題の克服法(実践的)。

テレワーク本質論.jpgテレワーク本質論2022.jpg
テレワーク本質論 企業・働く人・社会が幸せであり続ける「日本型テレワーク」のあり方』['22年]

 テレワーク専門のコンサルティング会社の設立者である著者によれば、感染防止のために多くの企業がテレワークを実施し、企業も働く側もそのメリットを実感したものの、コミュニケーションやマネジメント、生産性の低下などの課題にぶつかり、後戻りする企業が増え始めていて、一方で、課題を克服し、さらにテレワークを推し進め、大きく成長していく企業もあり、テレワーク推進はいま岐路にあるとのことです。

 第1章では、会社のテレワークが、コミュニケーションが取れない、マネジメントができない、生産性が上がらないといった課題にぶつかっているのならば、それは、テレワークに対する先入観や思い込みから「間違ったテレワーク」を実施したためであるとして、12の「間違ったテレワーク」の類型とその問題点を挙げ、この問題に向き合わずしてテレワークの成功はないとしています。

 第2章では、テレワークは、企業にとっては生産性向上、人材確保、働く人にとってはワーク・ライフ・バランス向上、さらには日本における労働力確保、少子化対策、地方創生など、数多くのメリットを生み出すものであるとしています。さらに、そうしたテレワークがなぜ日本では普及しにくいのか、その理由を考察し、欧米の真似でない日本型のテレワークの実現を訴えています。

 第3章では、適切なテレワークを導入するための考え方や方向性を、「仕事が限られると思い込むなかれ」「一緒に仕事をしている感を大切にせよ」「雑談してしまう〈場〉をつくれ」「ホウレンソウをデジタル化せよ」など「テレワークを成功に導く心得十か条」としてまとめ、それぞれを解説しています。

 第4章では、テレワークのコミュニケーションをよりリアルに近づけるための重要な要素として、①リアルタイムの会話、②話しかけるきっかけ、③チームの業務遂行、④インフォーマルな会話、⑤チームの一体感、の5つを挙げています。また、オンライン会議を活性化したり、オンラインとオフラインの人が混在する ハイブリッド会議をフェアに行うためのヒントや、雑談しやすい「場」と「雰囲気」のつくり方、「ホウレンソウ」をデジタル化する際のコツなどを説いています。

 第5章では、テ レワークでのマネジメント実践のポイントとして、通常の労働時間制度、フレックスタイム制、みなし労働時間制などのパターンを示し、テレワーク時の労働時間管理の方法と就業規則・運用ルールについて解説するとともに、自社で開発した、社員が「いつ」「どこで」「どんな仕事」をしているかを確認できるツールを紹介し、時間あたりの成果をどう把握するかを解説しています。

 第6章では、テレワークの広がりによるオフィスの変化やワーケーションへの関心の高まり、まちづくりへの活用や障がい者雇用の促進などの可能性を挙げ、日本型テレワークが企業・働く人・社会全体のウェルビーイングを実現するとして、本書を締めくくっています。

 テレワークは単なる「感染防止のための在宅勤務」ではなく、企業にとっても、働く人にとっても多くのメリットとがあるものであり、さらに社会にとっても、労働力確保、少子化対策、地方創生など多くのメリットを生み出すものであって、企業、働く人、社会全体を幸せにするとしている点が啓発的です。

 一方で、第4章における「テレワークでのコミュニケーション実践のポイント」などはたいへん具体的であり、オンライン会議を企画したりファシリテーターを務める人にはすぐにでも使える配慮や工夫などもあって、参考になるかと思います。

そうした人に限らず、テレワークに課題を抱える人やテレワークを進めたい人にお薦めですが、著者が本当に読んでほしいのは、テレワークの必要性に疑問を感じている人なのもしれません。


労働問題・人事マネジメント・仕事術

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ビジネスの本質は小さなチーム、小さな会社のやり方にこそあり。

小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕.png小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕2012.jpg 小さなチーム、大きな仕事.jpg
小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則』['12年] 『小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則 (ハヤカワ新書juice)』['10年]

小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕2.jpg シカゴに本社を置く非上場企業でウェブアプリケーションを手がけているIT企業「37シグナルズ」(旧社名37signals、現社名Basecamp)の共同経営者らによる本書は、ビジネスの本質は小さなチーム、小さな会社のやり方にこそあり、大企業における資本のやり取りや体制変革ばかりに目を奪われていると、本当に大切なことを見失うことが多いと説いています。

 「見直す」の章では、失敗から学ぶな、計画は予想にすぎない(予想を頼りにしてはいけない。今年ではなく、今週することを決めよ)、会社の規模を気にするなとし、また、仕事依存症は(ワーカーホリック)は馬鹿げているとしています。

 「先に進む」の章では、他人の問題を解決しようとするのは、暗闇の中を無闇に進むのと同じで、自分にほしいものを作るべきだ、「時間がない」は言い訳にならない、また、ミッションステートメントについて。何かを信じるということを書くだけでは駄目で、本当にそれを信じ、そのとおりに人生を送ることだとしています。また、外部の資金はできるだけ少なくすべきだ、人も資金も必要なものは思ったより少ない、会社は身軽でいるべきで、身軽さをなくすものとして、長期契約、過剰人員、固定した決定、会議、鈍重なプロセス、在庫、オフィスの政治などを挙げています。

 「進展」の章では、しばらくの間は細かいことは気にしないこと、初期の段階ではディテールから得られるものはない、実際に始めてからディテールに気づく、そのときに目をむければよいとし、やることを減らし、変わらないことに着目すべきで、それはいま、始めるべきだとしています。

 「生産性」の章では、やめたほうがいいものを考えるべきで、邪魔が入る環境では生産性が上がらず、何よりも最悪な邪魔者は会議であると。解決策はそこそこのもので構わず、小さな勝利がモチベーションにつながるしています。また、睡眠はしっかりとるべきで、たまに徹夜仕事をしてもいいが、それが定期的になると、多くの代償を積み重ねることになるとしています。

 「競争相手」の章では、商品をありふれたものにしないためには、競争相手の真似をしてはならず、むしろ競合相手よりひとつ下回るようにする(簡単さ、単純さを武器にする)、そもそも競争相手が何をしているしているのか気にしないことだと述べています。

 「進化」の章では、作る製品への正しい態度とは、基本的に「ノー」と言うことであり、「顧客は常に正しい」と信じてはならず、顧客を自分たちよりも成長させようと言っています。

 「プロモーション」の章では、マーケティングとは独立した業務ではなく、何かコミュニケーションの手段があるならば、マーケティングは可能だとしています。

 そして、いよい人事に関する「人を雇う」の章に入りますが、まずは自分自身でやってみるまで人は雇わないこと、人を雇うタイミングは、自分の限界を超えた仕事があるときに限り、無用な人は雇わなようにすること、会社を「知り合いのいないパーティ」にしてはならないと。また、履歴書よりも自身の直観を信じ、経験年数は意味が無く、学歴は忘れることだとしています。また、「自分マネジャー」(自分をマネジメントできる人)、文章力のある人を雇うべきであるとも言っています。文章がはっきりしているということは、考え方がはっきりしている、コミュニケーションのコツもわかっている、ものごとを他人に理解しやすいようにする、他の人の立場に立って考えられる、何をしなくてもよいかもわかっている、ということであり、こんな能力こそ必要であると。

 最後に「文化」の章で、文化はつくるものではなく、自然に発達するものであり、スター社員が環境を作るが、そのスターが育つ環境とは信頼と自律と責任から生まれるものであるとし、従業員は子供扱いすれば、子供のような仕事しかしないとしています。また、仕事が人生のすべてであってはならず、社員は5時に帰宅させるようにしよう、「なるたけ早く」を連呼することは毒にしかならないとしています。

 ベンチャー企業やスタートアップ段階の小さな会社だけでなく、一般企業やその中のチームや個人にも適用できる考え方が多く含まれています。自分の会社が「大企業病」に陥っていないか、自らがそうした価値観に縛られていないかを振り返ってみるうえで、人事パーソンにもお薦めです。

【2010年新書刊行[(ハヤカワ新書juice『小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則』]/2016年文庫化[ハヤカワ文庫NF(『小さなチーム、大きな仕事―働き方の新しいスタンダード』)]】

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社員の自律性と快適さを重視する新しい働き方としての「リモートワーク」を提示。

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リモートワーク――チームが結束する次世代型メソッド』['20年]

 本書は、リモートワークは欧米のIT業界が長く牽引してきたもので、そこで蓄積された膨大なメソッドは、他業種にも多くのヒントを与えてくれるとし、初級者、中級者、マネジャーにその方法論を伝えることを目的としたものです。

 第Ⅰ部「リモートワークの前提条件」では、なぜリモートワークをするのかについて述べ、リモートワークは職場に柔軟性をもたらし、時間志向ではなく成果志向の働き方を促進するとし(第1章)、さらに、リモートワークが雇用主にもたらす利益として、競争力強化のために必要な人材が確保しやすくなることなどを挙げています(第2章)。また、バーチャル領域でどう効果を発揮すればよいかについてのよくある質問に回答するともに、職場勤務の重要なメリットをオンラインでも再現する方法について紹介しています(第Ⅰ部番外編)。

 第Ⅱ部「リモートワーク実践ガイド」では、リモートで働く人に焦点を当てています。まずリモートワーク初心者について、リモートワークを始める前にどのようなスキルセット、ツールセット、マインドセットが必要かを述べ(第3章)、さらに中級者がリモートワークに磨きをかけるにはどうすればよいか、どうすれば自分でも、そして他者ともうまく働けるのかを述べています(第4章)。最後に、リモートワークの準備が整っているかどうかを決める手助けにする質問票を示し、その結果から、準備を整えるためには、具体的に何をすべきかが明確になるとしています。また、上司(やチーム)を説得する方法や、リモートの職探しといった、次の段階へ続く助言もあります(第Ⅱ部番外編)。

 第Ⅲ部「リモートチームのマネジメント入門編」では、経営者やマネジャーの視点から見たリモートワークについて検討しています。バーチャル領域に初めて踏み込もうとする企業や部署のために、それに備える方法を説明しています(第5章)、また、リモートワーカーを雇う方法についても説明しています。ここでは、トップリモートワーカーは、協調性があり、フィードバックを前向きに受け取れる優れたチームワーカーであるとして、そうした資質を面接でどう見抜くか、サンプル質問票を提示しています(第6章、第Ⅲ部番外編)。

 第Ⅳ部「リモートチームのマネジメント中級編」では、リモートワークにおいて効果的なコラボレーションを実現するにはどうすればよいか、リモートチームのマネジメントについて述べています。ここではまず、マネージャーがコミットしてチームの成功を信じ、メンバーが期待通りに仕事を成し遂げると信頼することの重要性を説いています(第7章)。さらに、チームを成功に導くためにはどのようなリーダーシップや方向性、ツールが必要か(第8章)、チーム間で効果的なコミュニケーションをするためにはどのようなルール決めをすればよいか(第9章)、効果的なオンラインミーティングを実施するにはどうすればよいか(第10章)、それぞれ述べています。そして最後に、各章で説明されている行動の手順を〈マネジャーの行動計画〉としてまとめています(第Ⅳ部番外編)。

 上意下達・ピラミッド式の従来の日本企業像をそのままに踏襲する「テレワーク」ではなく、社員の自律性と快適さを重視する新しい働き方としての「リモートワーク」を提示している点は評価できるかと思います。テクニカルな問題にも触れていますが、それ以前に、リモートワークの前提となるマインドセットの必要性を強調しています。

 ただし、結果的に、周囲との価値観の共有や配慮が重要であるといった、一般的な組織論、チームワーク論と変わらないものになったような気もします。たとえば、上司(やチーム)を説得する方法を説いている箇所(第Ⅱ部番外編)や、トップリモートワーカーは、協調性があり、フィードバックを前向きに受け取れる優れたチームワーカーであるとしている点(第6章、第Ⅲ部番外編)などがそうです(かつてのグローバルリーダー論が一般のリーダー論とそう変わらないものであったのと相似関係になっている)。

 また、インタビューの引用が多く、インタビューした人のリストだけで30ページ近く、英文の「註」も含めると60ページ近くあって、それらが全部文中に入っているため、"引用過多"のきらいも。その割には、皆、言っていることは「同僚に感謝を示そう」「同僚との関係性を強化しよう」といった抽象的な精神論であったりするので、今一つ読後の印象が弱かったようにも思います。

 と言うことで、メリット、デメリットが半々みたいな本でしたが、帯に「いま、仕事の質を変えるとき」とありょうに、職場勤務の重要なメリットをリモートワークでも再現するにはどういう問題を克服すべきかを論じることによって、日本企業における人々のこれまでの働き方をリフレクション(内省)するための気づきを与えてくれるという副次的効果はあったように思います。

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テクニックを具体的に説くだけでなく、作成の際の心構えや仕事の意義にも言及。

「マニュアル」をナメるな!.jpg 『「マニュアル」をナメるな! 職場のミスの本当の原因 (光文社新書) 』['19年]

 工学博士であり、人間のミスと安全に関する研究を様々な業種との共同研究において現場主義で進めてきたという著者が、マニュアルの本質とあるべき姿を語った本です。マニュアル作りに悩んでいる読者に向けて、使えるテクニックを具体的に説くことを基本とする一方、それらを通じて「仕事とはどうあるべきか」という根源的な問いに答えようとしたものです。

 まえがきで、マニュアル作成の原則を示したうえで、本章へ入っていきます。その原則とは、マニュアルは全てを1ページ以内に収める、ルール風には書かない、見本で示す、絵・図・写真のビジュアルを使う、指示を断言する、単文・肯定形・大和言葉で書く、工程の途中に"味見"のタイミングを入れる、マニュアルの原稿を部外者や家族に下読みさせる、執筆者の氏名や更新履歴を明記する、の9つです。

 第1部「マニュアルの文章術」では、第1章で、なぜマニュアルを作るのか、その目的を再整理しています。第2章では、マニュアルの文章作法について、冒頭に掲げたマニュアル作成の原則に沿って解説しています。断言する、単文で書く、大和言葉で書く、肯定形で書く、といった原則は、具体例によって、そうあるべき理由が明快に示されていたように思いました。第3章では、マニュアルはどうあるべきか、その本質を探っていて、マニュアル作成の際の心構えを説いた章とも言えるものでした。

 第2部「正しい作業手順の作り方」では、第4章で、作業手順の全体構造をどのように作るかを説き、作業ループ型ではループは一本道にするのが最良であり、対処マニュアル型では、正常状態に戻す復旧作業を明示することがポイントであるとしています。第5章では、作業は「型から型へ」で組んで、途中までの成果が積み立てられていくのが望ましいとしています。第6章では、チェックは、行為の有無よりも、結果を検証する(味見する)方が確実であるとし、第7章では、作業の意味は、時代の変化によって変わり得るとしています。

 第3部「練習問題」では、ルールブック調のマニュアルを示して、それを手順主義に書き直すとどうなるかといった例題が3題と、それらの解答例が示されています。

 まさに、マニュアルを作るためのマニュアルのような本であり、マニュアルを作成したり見直したりするうえでの、テクニカルな面での気づきを指摘してくれる本でした。ただし、そうした実務書的な要素もありながら、一方で、マニュアル作りに際しての心構えを説いた啓発書でもあり、さらに言えば、最初に述べたように、「仕事とはどうあるべきか」という問いに答えようとした意欲作でもあるように思いました。

 本来、マニュアルは作業ミスを失くすための重要なものであり、作業時間や教育時間を短縮できるメリットもあるはずですが、実際にはマニュアルが活用されず、社内で浮いた存在となってるケースも少なからずあるように思われます(それでいて、マニュアルがあるという事実に安心してしまっていたりもする)。また、定型作業を機械化(AI化)する上で、その作業がすでにマニュアル化されていること(加えてそれが機械に置き換え可能であること)が、前提条件の1つになるかもしれません。本書を読んで、自社に今あるマニュアルを、今一度見直してみるきっかけとするのも良いかもしれないと思った次第です。

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奇を衒わずオーソドックス、マトモすぎてインパクトがやや弱い?

入社1年目の教科書1.jpg入社1年目の教科書.jpg入社1年目の教科書3.jpg
入社1年目の教科書』(2011/05 ダイヤモンド社)

 ライフネット生命保険の代表取締役社長兼COOによる本で、この本を書いている時点ではまだ副社長ですが、ここまでの経歴がスゴイ。東大在学中に司法試験に合格して、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て米国留学。ハーバード経営大学院(HBS)を修了し、帰国後ライフネット生命保険設立に参画と...(その後'13年に35歳の若さで社長に就任している)。

入社1年目の教科書2.jpg 学校を卒業して社会人となる人、またはなって間もない人のための仕事術集のような本で、こうした経歴の人の書いた本って結構ムチャなことが書いてあったりするのではないかと思いましたが、読んでみたらマトモで、ネットなどの書評でも好評のようです。

 仕事における3つの原則として「頼まれたことは、必ずやりきる」「50店で構わないから早く出せ」「つまらない仕事はない」を挙げており、仕事術というより仕事に対する心構え、社会人生活の送り方に対する指南書といった方がいいかも。啓発書的要素が大きいので、読む人によって相性はあるかと思いますが、まあまあマトモな線をいっているように思いました。

入社1年目から「できる人になる」43の考え方.jpg 奇を衒わずオーソドックス、マトモすぎてインパクトが弱い面もありますが、個人的には「速読するな」「新聞は2紙以上、紙で読め」といったところが自分の感覚には馴染みました。この手の本で、全く逆の事が書かれているものもあります。例えば、安田 正 著『一流役員が実践してきた入社1年目から「できる人になる」43の考え方』('14年/ワニブックス)には、「新聞も雑誌も読まずに検索しろ」とありますが、「読まずに検索」するだけで情報収集するというのも結構たいへんなのではないかと...(この「一流役員が実践して...」シリーズは、Amazon.comで毎回身内のレビュアーを何人も投入して作為的に5つ星評価にしているのが却って信頼感を損ねている)。

 ライフネット生命保険は、会長の出口治明氏が読書家で知られ、その薫陶を受けてか、著者も巻末に「僕がおすすめする本」を12冊挙げていますが、ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』や司馬遼太郎の『坂の上の雲』などに混じって出口氏の『百年たっても後悔しない仕事のやり方』を挙げているのは自分の親分だから仕方がないにしても、『生命保険のカラクリ』『ネットで生保を売ろう!』とういう自著2冊が、この12冊の中に含まれているのはいかがなものでしょうか(この点で星半個マイナス)。

 出口氏の近著『ビジネスに効く最強の「読書」』('14年/日経BP社)と比べれば分かりますが、「本」を紹介するということに関してはまだまだ出口氏の足元にも及ばないのではないでしょうか(しかし、ライフネットは経営者が啓発書を書くことが事業戦略の1つになっているのか? 一体、現社長と前社長で何冊書いている?)。

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"イノベーションの人"であったことを改めて痛感する『全発言』。中学生から読める『全仕事』。

『スティーブ・ジョブズ全発言 』.jpg  スティーブ・ジョブズ全仕事.jpg図解 スティーブ・ジョブズ全仕事』['12年]

スティーブ・ジョブズ全発言 (PHPビジネス新書)』['11年]

スティーブ・ジョブズ名語録.jpg 昨年('11年)11月の刊行(奥付では12月)ということで、10月のスティーブ・ジョブズの逝去を受けての執筆・刊行かと思ったら、昨年初から企画をスタートさせて脱稿したところにジョブズの訃報が入ったとのこと、著者には既に『スティーブ・ジョブズ名語録 (PHP文庫)』('10年)という著作があり、今回はその際に収録できなかったものも網羅したとのことで、その辺りが「全発言」という由縁なのでしょうか。

 彼の言葉を11のテーマ毎に括ってそれぞれ解説していますが、解説がしっかりしているように思え(前から準備していただけのことはある?)、内容も面白くて、一気に読めました(新書で330ページ超だが、見開きの右ページにジョブズの言葉が数行あって、左ページが解説となっているため、実質、半分ぐらいの厚さの新書を読む感じ)。

 必ずしも時系列に沿った記述にはなっておらず、冒頭にジョブズの年譜がありますが、1冊ぐらいジョブズの伝記を読んでおいた方が、そうした発言をした際のシチュエーションが、より把握し易いと思われます。

 11のテーマは、「ヒットの秘密」「自分の信じ方」「イノベーション」「独創の方法」「仕事のスキル」「プレゼンテーション」「リーダーの条件」「希望の保ち方」「世界の変え方」「チームプレー」「生と死」となっていますが、全般的にイノベーションに関することが多く(特に前半部分は全て)、ジョブズが"イノベーションの人"であったことを、改めて痛感しました。

 著者の解説と読み合わせて、特に個人的に印象に残った言葉を幾つか―。

「マッキントッシュは僕の内部にある。」
 ジョブズは、設計図の線を一本も引かず、ソフトウェア一行すら書かなかったにも関わらず、マッキントッシュは紛れも無くジョブズの製品だったわけで、マッキントッシュがどういう製品であるべきかという将来像は、彼の内部にしかりあった―何だか、図面を用いないで社寺を建てる宮大工みたい。

「イノベーションの出どころは、夜の10時半に新しいアイデアが浮かんだからと電話をし合ったりする社員たちだ。」
 著者が「多くの企業がイノベーションを夢見ながら一向に果たせずにいるのは、『イノベーション実現の五ヵ条』といったものを策定して壁に貼り出すことで満足するからだ。イノベーションとは、体系ではない。人の動きなのだ」と解説しているのは、確かにそうなのだろうなあと。ジョブズは、「研究開発費の多い少ないなど、イノベーションと関係はない」とも言っています。

「キャリアではない。人生なのだ。」
 '10年の春にジョブズを訪問したジャーナリストの、「キャリアの絶頂を迎え、この恰好の引き際でアップルをあとにされるのですか」との問いに答えて、「自分の人生をキャリアとして考えたことはない。なすべき仕事を手がけてきただけだよ...それはキャリアと呼べるようなものではない。これは私の人生なんだ」と―。今の日本、キャリア、キャリアと言われ過ぎて、"人生"がどっか行ってしまっている人も多いのでは...。

 後には、「第一に考えるのは、世界で一番のパソコンを生み出すことだ。世界で一番大きな会社になることでも、一番の金持ちになることでもない」との言葉もあります。
 これは「お金は問題ではない。私がここにいるのはそんなことのためではない」との言葉とも呼応しますが、ヒューレット・パッカードの掲げた企業目的が「すぐれた」製品を生み出すことだったのに対する、ジョブズの「すぐれた」では不足で、「世界で一番」でなければならないという考えも込められているようです。

 個人的には、自己啓発本はあまり読まない方ですが、読むとしたら、やはりジョブズ関連かなあ。神格化するつもりはありませんが、元気づけられるだけでなく、仕事や人生に対するいろいろな見方を示してくれるように思います。


 本書著者には、近著で『図解 スティーブ・ジョブズ全仕事』('12年1月/学研パブリッシング)というのもあり、これはスティーブ・ジョブズがその生涯に成し遂げた業績を解説しながら、イノベーション、チームマネジメント、プレゼン手法など、彼の「仕事術」をコンパクトに網羅したもの。

 190ページ足らずとコンパクトに纏まっていて、しかも、見開き各1テーマで、左ページは漫画っぽいイラストになっていますが、これがなかなか親しみを抱かせる優れモノとなっています。

 難読漢字(というほど難読でもないが)にはルビが振ってあり、中学生からビジネスパーソンまで読めるものとなって、特に中高生に、ジョブズの業績について知ってもらうだけでなく、ビジネスにおける「仕事術」というものを考えてもらうには、意外と良書ではないかと思いました。

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トータルでは「会議術」の本と言うより「上司学」の本か。『上司力100本ノック』の方が良かった。

若手社員が化ける会議のしかけ.jpg 上司力100本ノック.jpg上司力100本ノック~部下を育てる虎の巻』['09年/幻冬舎]
若手社員が化ける会議のしかけ (青春新書インテリジェンス)』['11年]

 著者は、リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を歴任し、'08年にコミュニケーションを鍵とした人材育成支援会社を起業した人とのことで、同著者の『上司力100本ノック―部下を育てる虎の巻』('09年/幻冬舎)は、部下コミュニケーションの在り方を二者択一のQ&A方式で問うシンプルなスタイルのもので、その明快さから結構売れた本だったように思います。
『若手社員が化ける会議のしかけ』.jpg
 こうした著者のバックグラウンドからも予測されるように、本書で想定されている「会議」とは、アイディアを出し合う「企画会議」であり(この点は、齋藤孝氏の『会議革命』('02年/PHP研究所)などもそうだった)、また、そうした会議をリードする上司の立場からの、会議における部下コミュニケーションの在り方を中心に説いたものでした(リーダーシップの発揮の仕方が中心テーマとなっているとも言える)。

 『上司力100本ノック』の中でも会議のシチュエーションを想定したQ&Aが出てきますが、逆に本書の方も、会議に限らず、部下コミュニケーションの在り方全体を説いていて、『上司力100本ノック』が"事例編"ならば、こちらは「上司力」の"概論"という感じでしょうか。

 言っていることは尤もという感じでしたが、アイディアを出すには、毎日「頭の筋トレ」をせよとか、リーダーは「愛他主義を貫け」とか、やや月並みな啓蒙書に類した表現も多く、その分、個人的には、具体的なシチュエーションごとのQ&A形式を取っていた前著ほどのインパクトは無かったかも。

 中核となる「会議」というのが、リクルートでの雑誌の企画会議をイメージして書かれているように思われ、確かに、通常の会社で行われている会議にも敷衍できる部分はありますが、一口に「会議」と言っても、部門間の調整会議や、根回しを図ったりコンセンサスを得たりするための会議など、外にもいろいろな種類のものがあるわけであって...。
但し、この点は、タイトルから、若いスタッフを集めた企画会議を想定したものであることは推して測るべし―ということだったのかと。

 トータルでは、「会議術」の本と言うより、「上司学」の本、リーダーシップを説いた本であると言えるかも(但し、「アイディア会議」ということでマーケティング的な視点も若干入っている)。

 自らの経験に裏打ちされているし、経験を基に書いている誠実さは感じられましたが、その分「リクルートでは」どうしたこうしたという話があまりに多く、と思うと、いきなり"自己啓発書"のトーンになったりしまったりしている部分もあったりして、個人的には『上司力100本ノック』の方がまだ良かったかなあ。

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ある意味、丸々1冊、コピー的な手法で書かれた「発想法」の本。

 コピーライターの発想IMG_0593.jpgコピーライターの発想IMG_0594.jpg 土屋耕一全仕事.jpg
コピーライターの発想 (講談社現代新書 (724))』['74年]/『土屋耕一全仕事』['84年/マドラ出版]/「A面で恋をして」資生堂CM['81年](アーティスト:ナイアガラ・トライアングル(大滝詠一、佐野元春、杉真理))

コピーライターの発想s.jpg '09年3月に亡くなったコピーライター・土屋耕一(1930-2009/享年78)の本で、'74年刊行ですから、40歳代半ば頃の著作ということになります。

戻っておいで・私の時間.jpg 伊勢丹とか資生堂の広告コピーは、一時この人の独壇場だったなあ。竹内まりやのデビューシングルにもなった伊勢丹の「戻っておいで・私の時間」、アリスの堀内孝雄によりヒットした資生堂の「君のひとみは10000ボルト」など、CMソングがヒットチャートの上位を占める現象のハシリもこの人の作品でした。

「戻っておいで・私の時間」(竹内まりや/伊勢丹'78年CMテーマソング)

 大瀧永一(1948-2013/享年65))の「A面で恋をして」も、この人のコピー(コマーシャル・テーマを歌っている「ナイアガラ・トライアングル」(大滝詠一、佐野元春、杉真理)はまだ全然売れておらず、大瀧永一は逆にCMソングが自分たちの代表曲になってしまうことを危惧して作曲を断ろうとしたが、コピーが"A面で恋をして"で言われたとき曲が「パッとできちゃった」そうな。結局、代表曲になったわけだが)。著者は「軽い機敏な仔猫何匹いるか」などの回文作家としても知られていました(そう言えば、「でっかいどお。北海道。」のコピーライター・眞木準も亡くなった(1948-2009/享年60))。

 コピーライターという職業が脚光を浴び始めつつも、1行文章を書いてたんまり報酬を貰うナンダカ羨ましい職業だなあという偏見や誤解が勝っていたような時代に、コピーライターというのが実際にはどういった仕事の仕方をしているのか、その発想はどのようにして生まれるかを(これが結構たいへんな作業)わかり易く、また楽しく書いたものだと言えますが、そうした意味では、コピーライターや広告業界志望者へのガイドブックにとどまらず、「発想術」「ひらめき術」の本とも言え、広くビジネスに応用が利くのでは。

君のひとみは10000ボルト.jpg "ひらめき"と"思いつき"はやはり違うわけで、本書によれば、「唐突に、頭の中の風にやってくるものは、浜べに打ち寄せられる、あの、とりとめのない浮遊物と同じであって、すべては単なる思いつきのたぐいにすぎないのだ」と。

「君のひとみは10000ボルト」(堀内孝雄/資生堂'78年秋のキャンペーンソング)

 「ひらめきだって結局は頭の中に、ぱっとやってくることは、やってくるのだ。ただ、その現われたものが、ほかの浮遊物とちがうところは、それの到着をこちら側で待ちのぞんでいたものがやってくる、という、このところでありますね。ひらめきとは、じつに、『待っていた人』なのである」とのこと。何となく分る気がします。

 口語調に近い文体で書かれているのも、この頃の新書としては珍しかったのではないでしょうか。でも、こうした柔らかい感じで文章を書くというのは、本当は結構難しいのだろうなあと、読み返した今は、そのように思われました。それと、やはり"比喩"表現の豊富さ! ある意味、丸々1冊、コピー的な手法で書かれた「発想法」の本とも言えるかも知れません。

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「働き方」を今一度考えさせられると共に、「仕事術」の体験的指南書でもある。

働き方革命.jpg   駒崎 弘樹.jpg 駒崎 弘樹 氏(略歴下記) NPO法人フローレンス.jpg http://www.florence.or.jp
働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)』 ['09年] 

 著者は、学生時代に起業したITベンチャー出身の人で、今は、自らが立ち上げた会社を共同経営者に譲渡し、子供が病気になり普通の保育園などで預かってもらず、そのために仕事を休まねばならないようなワーキングマザーのために、そうした子供を預かる所謂"病児保育"専門の託児所のネットワーク作りをしているNPO法人「フローレンス」の代表、と言っても、まだ29歳の若さです。

 今までの日本人の働き方、人生を会社に捧げるような仕事中心の人生観、その割には低い生産性、といったことに対する疑問からスタートし、ITベンチャーの経営者として、それこそ身を粉にして仕事をしてきた自分を振り返り、そこから脱却していく思考過程が1つ1つ内省的に綴られていて、「働く」ということに対する根源的な思索となっている上に、新たに自分が描いたライフビジョンをどう行動に移していったかが、ユーモアを交えて語られています。

 自分だけが自己実現やワークライフバランスの実現をすればいいというのではなく、社会実現(あるべき社会像の実現)を通しての自己実現ということを念頭に置き、社員、パートナーや親・家族、社会が豊かな人生を享受できるようにするためには自分がどうしたらよいかということを具体的に行動に移しています。

 その手始めとして、自らが経営者である会社の「働き方」(仕事のやり方)をどう変えていったか、どう仕事の「スマート化」していったかということが、論理的・実践的に紹介されていて(いきなり「とりあえず定時に帰れ、話はそれからだ」というのも凄いといえば凄いけれど)、仕事術(メール術・会議術・報告術・残業しない術...etc.)の指南書にもなっています。

 ここで言う「スマート化」が、例えば「『長時間がむしゃら労働』から『決められた時間で成果を出す』」ということとして表されているように、個人的にはこの著者に対して、やはり何事においても徹底してやる「モーレツ」ぶりを感じなくもないし、著者の抱く家族観や人生観も、新たなことを提唱しているのではなく、ある種"原点回帰"的なものに過ぎないような気もしなくもありませんでした。

 でも、「働く」とは「傍」を「楽」にすることであり、その「傍」とは家族だけなく地域や社会に及ぶという発想や、「『成功』ではなく『成長』」、「『目指せ年収1000万円』ではなく『目指せありたい自分』」、「『キャリアアップ』ではなく『ビジョンの追求』」、「『金持ち父さん』ではなく『父親であることを楽しむ父さん』」といったキーワードの整理の仕方などに、通常の啓蒙書(著者は啓蒙書が好きでないみたいだが)には無い視座が感じられました。

 「働き方革命」をしたら、会社でトラブルがあって倒産の危機に見舞われる、こうなったのも「働き方革命」したせいだと、今までやってきたことを全否定するような心境になった、というその話の落とし処も旨い、とにかく全体に読むものを引き込んで離さない文章の巧みさ(自分を3枚目キャラとした小説のように描いている)、もしかしたら、その点に一番感服したかも。

 ただ、そうした文章テクニックはともかく、「働くということ」「働き方」について今一度考させられると共に、「仕事術」の体験的指南書としても、一読して損は無い本でした。
_________________________________________________
駒崎 弘樹 (コマザキ ヒロキ)
1979年生まれ。99年慶応義塾大学総合政策学部入学。在学中に学生ITベンチャー経営者として、様々な技術を事業化。同大卒業後「地域の力によって病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくれまいか」と考え、ITベンチャーを共同経営者に譲渡し、「フローレンス・プロジェクト」をスタート。04年内閣府のNPO認証を取得、代表理事に。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)がある。2012年までに東京全土の働く家庭をサポートすることを志す。

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内容が経年により陳腐化しているというよりは、むしろ著者の試行錯誤が却って新鮮。

知的生産の技術5.JPG知的生産の技術.jpg 梅棹 忠夫.jpg 梅棹 忠夫 氏 知的生産者たちの現場.jpg 
知的生産の技術 (岩波新書)』['69年]    藤本ひとみ『知的生産者たちの現場』['84年]  

 本書は「情報整理術」の元祖的な本で、著者は文化人類学者としてよりもこっちの分野で有名になり、今で言えば、経済学者の野口悠紀雄氏が一般には〈「超」整理法〉の方でより知られているのと似ているかもしれません。

 知的生産の「技術」について書かれたものですが、著者も断っているように、本書はその「技術」の体系的な解説書ではなく、自らの経験を通じての提言であり問題提起であって、ハウ・ツーものと違って、読者が自ら考え、選び、また試すことを願って書かれています。

 従って押し付けがましさがなく、また文章も平易で、天才ダ・ヴィンチがメモ魔だったという話から始まって、それに倣って「手帳」を持ち歩くようになり、更に「ノート」「カード」と変遷していく自らの情報整理術の遍歴の語り口は、まるでエッセイを読むようです(個人的にハマったなあ、「京大カード」。結構デカいので、途中からハーフサイズのものに切り替え、収納用の木箱まで買ったのを中身と共に今も持っている)。
 その後に出てくるファイリング・システムの話などは、野口悠紀雄氏の考えに連なるものがあり、〈「超」整理法〉もいきなり誕生したわけではないということかと思った次第。

 本書の後半では、「読書」「書く」「手紙」「日記と記録」「原稿」「文章」といったことにまで触れ、カバーしている範囲も幅広く、何れも示唆に富むものですが、文化人類学者らしく文化論的な論考も織り込まれていたりするのも本書の特徴でしょうか。

 再読して改めて興味深かったのは第7章の「ペンからタイプライターへ」で、著者は英文タイプライターにハマった時期があり、手紙などもローマ字で打ち、その後カナ・タイプライターが出るとそれも使っているという点で、ワープロの無い時代に既にこの人はそうしたものを志向していたのだなあと(更にカーボン紙を使って現在のコピーに当たる機能をも担わせている)。

 今でこそ我々はワープロやコピー機を、そうしたものがあって当然の如く使っているだけに、内容が技術面で経年により陳腐化しているというよりは、むしろ著者の試行錯誤が却って新鮮に感じられ、「より効率的、生産的な方法」を模索する飽くなき姿勢には感服させられます。

 自分は本をあまり読まないとか文章を書くのが得意ではないとかサラっと書いていますが、本当はスゴイ人であり、著者の秘書をしていた藤本ひとみ氏の『知的生産者たちの現場』('84年/講談社、'87年/講談社文庫)などを読むと、本書にある「技術」が現場でどのように応用されたのかということと併せて、著者の精力的な仕事ぶりが窺えます。

 1987(昭和62)年度・第58回 「朝日賞」を受賞していますが、受賞理由はもちろん「情報整理術の開発」ではなく、「国立民族学博物館創設・運営による民族学の発展と普及への貢献」となっています。

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「浪花節・メロドラマ・被害者意識」を武器に論理(契約)を覆す日本人。

日本人と交渉する法2.jpg日本人と交渉する法―欧米の論理はなぜ通用しないのか 日本人と交渉する法.jpg 『日本人と交渉する法 - The Japanese Negotiator: Subtletyand Strategy Beyond Western Logic

 オーストラリア人の心理学者で、社会学、経営学も修め、米・豪・日の各大学で教鞭を執った経験があり、日本文化にも造詣の深い著者が、欧米人からみた日本人の「わからなさ」の背景にある独特の文化を鋭く分析し、なぜ欧米流の論理が日本人には通用しないのか、では一体どうすればビジネス交渉などが上手く捗るのかを解説しています。

 確かに日本人は質問しても明確に答えを出さず、また契約に際しても感情的なことで左右される―、その後者の例として、日米の「野球論争」がとりあげられています。

Murakamimasanori1965.jpg これは、今は大リーグ解説などで知られる村上雅則氏の話で、かつて日米の選手交換協定で、南海入団2年目の彼が1年間の野球留学でサンフランシスコ・ジャイアンツ1Aに行ったとき、協定の中にSFジャイアンツは親球団に1万ドル払えば選手契約を買い取れるとの条項があって、ジャイアンツは村上をメジャー昇格させ、南海は(それまでまさか日本人投手がメジャー昇格するとは思ってなかったが)とりあえず1万ドルを受け取った―、ところが、村上が正月に日本に戻ると、彼は日本人であり長男なのだから日本に留まるべきだという意見があり、プレッシャーに押された南海は彼に南海でプレーするよう契約をとり付けたという二重契約事件。

 どう見ても南海の契約違反であり、当然米国側は怒るわけですが、著者はここに日米の契約に対する考え方の違いがあるとしています。
 つまり、契約が交わされた後も再交渉の余地があると考えるのが日本人であり、「浪花節」(論理より感情優先)、「メロドラマ」(自分はいつも悲劇の主人公のような立場でいる)、「被害者意識」(相手の"良心"に訴える)という3つの武器で論理(契約)をひっくり返してしまうということです(この武器は本物の感情と演技力があれば欧米人でも使えると著者は言っている)。

 随分前に出された本ですが、日本人が独自の精神性をビジネスの場に持ち込むことについては、大方は今も変わっていないような気がします。
 欧米人に向けて書かれた本ですが、日本人にとっても異文化交渉で役立つものであり、実際、本書はアメリカに先立って日本で刊行されています。

 【1990年ペーパーバック版[講談社インターナショナル]】

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新しいアイデアを生み出すには、新しい流儀で考えること。

頭にガツンと一撃 2.jpg頭にガツンと一撃.jpg 『頭にガツンと一撃』 ('90年/新潮文庫) Awhackonthesideofthehead.jpg "Whack on the Side of the Head"
頭にガツンと一撃』('84年/新潮社)

 知識は新しいアイデアを作り出す素材であるが、知識だけで創造的になれるわけではなく、知識がただ眠っているのは、新しい流儀で考えようとしないからだ―と、著者のロジャー・フォン・イークは述べています。

 創造的思考とは何かを示す例で、グーテンベルグが、「ブドウ絞り器」と「硬貨打印器」の機能を組み合わせるというアイデアから、印刷技術を生み出したという話が紹介されていますが、こうした着想は、このモノはこれだけの為に使うのだというような思い込みからいったん離れる必要があるということです。

A Whack on the Side of the Head.gif 頭のこわばりをほぐすには、禅における"喝"ではないが、一度頭の横をガツンとやられる必要があり(原題は"A Whack: on the Side of the Head")、あのエジソンも、電信技術の改良発明をしたものの、電信事業が大手企業に独占されたことを知り、「頭にガツン」とやられて、それで電球、発電機、蓄音機など他分野の発明に乗り出し、成功をおさめたとのこと。

 そこで以下、頭のこわばりをほぐし、創造的に考えるということはどういうことなのかを、設問や事例で示していますが、最初に「次の5つの図形から、他のすべてと性格の異なるものを選べ」という設問があり、これが、どれもが正解になり得ることを示していて、のっけから、おおっという感じで、「物事の正解は一つだけではない」ということを端的に示しています。

 以下、全部で10か条、頭のこわばりをほぐす方法を示していて、紹介されている事例を読むだけでも楽しい本ですが...。

 一度決めたことはなかなか変えられないということの事例で、タイプライターの「QWERTY配列」が、タイプライター・メーカーの技術者が、速く打ちすぎるとキーがからむため、「速く打てなくしたらどうだろう? そうすれば、キーもそれほどからむまい」と考え、キーボードの配列を意図的に非能率的なものにしたものが今でも残っているのだという話があり(80p)、これは話としては面白いけれども、事実とは言えないとの指摘もあるらしいです。

 このように、所々に例証や論理の強引はありますが、大体、ビジネスアイデア・コンサルタントって昔からこんな感じでしょう。こうした発想は、プランナーやクリエイターの素養にも繋がる部分があるかと思います。

 役に立つかどうかは読む人次第かもしれませんが(本来ならば意外と読み手を選ぶ本?)、単に読み物としても楽しいため、誰が読んでも一応損はないと思います(読んで時間を無駄にしたということはないと思うのだが、やはり読み手次第?)。

 故・城山三郎自身が本書を読んで「ガツンと一撃くらって」自ら翻訳に乗り出したというだけのことはあります。とりわけプランナーやクリエイターを目指す人にはお奨めです。
 あらゆる仕事でこうした柔軟な発想は求められると考えれば、新入社員や内定者の課題図書としてはいいかも。そうした対象者に限れば★★★★です(実際、広告業界で本書を内定者の課題図書に選んでいる会社がある)。

頭脳を鍛える練習帳.jpg川島 隆太.jpg '05年に『脳を鍛える大人の計算ドリル』『脳を鍛える大人の音読ドリル』の川島隆太氏の訳で『頭脳を鍛える練習帳―もっと"柔軟な頭"をつくる!』(三笠書房)として改訳版が出ましたが、先に城山訳が刊行されていることに言及していないとのことで、それはいかがなものか(先んじて本書に着眼した故・城山三郎に対し失礼ではないか)。

頭脳を鍛える練習帳―もっと"柔軟な頭"をつくる!

 【1990年文庫化[新潮文庫]/2005年改訳[『頭脳を鍛える練習帳―もっと"柔軟な頭"をつくる!』]】

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●頭のこわばりをほぐす10か条
1)物事の正解は一つだけではない
2)何も論理的でなくてもいい
3)ルールを無視しょう
4)現実的に考えようとするな
5)曖昧のままにしておこう
6)間違えてもいい
7)遊び心は軽薄ではない
8)「それは私の専門外だ」というな
9)馬鹿なことを考えよう
10)「創造力」は誰でも持っている

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ビジネスパーソンの大半が意識的・無意識的に既に実践していること。

理解する技術.jpg理解する技術 情報の本質が分かる』 PHP新書 〔'05年〕 分かりやすい説明の技術.jpg「分かりやすい説明」の技術 最強のプレゼンテーション15のルール (ブルーバックス)

ビジネスパーソン.jpg 本書は、講談社ブルーバックス『「分かりやすい表現」の技術』シリーズの著者によるものですが、今度は大量の情報から必要なものを抽出するテクニックを説明しています。
 この著者の本は本当に読みやすく、「脳内関所」といった言葉使いなども含め、〈PHP新書〉に場を移しても変わっていません。

 ただし、本書目次を見れば分かりますが、今回は書かれていることが一段とオーソドックスで、基本的な事柄ばかり。目新しさはやや乏しいかなという感じです。
 オーソドックスであること自体が良くないわけではありませんが、情報現場にいるビジネスパーソンの大半は、意識的または無意識的にこれら本書に書かれていることの多くを既に実践しているだろうし、中には意識していても個人のやり方があって本書の通りにはならなかったり、出来なかったりするものあるのではないでしょうか。

 その辺りの自己チェック用としては読めないこともありませんが、この程度の内容で「目からウロコの連続!」みたいな人は、ビジネスマンの中にはあまりいないと思うのです。

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使えば Excel の100倍便利!と思える。データベースは使う人が自分で作ろう!

はじめてのデータベース.jpg 『Accessはじめてのデータベース―Access2003/2002/2000対応』 (2004/03 技術評論社)

db.bmp 電卓計算した数値を Word で入力していた人が、同じことが Excel で出来ることを知ったとき、「ああ、Excel は Word の100倍便利だ!」と思っても不思議ではありませんが、ある意味それは、Access と Excel の関係でも言えます。

 1つの数値を訂正するだけで、関連する100個の表の数値も一瞬にして直る―これを Excel でやろうとすると、使用関数やリンク設定を記憶しておく必要がある場合が多く、Access が使えれば「ああ、Access は Excel の100倍便利だ!」と思えることになるのでは。

 本書は、「住所録を作る」で終わっているように、入門の入門、基礎の基礎というべきレベルのものですが、データベースの概念について若干触れている点で、初学者には薦めやすいものです。

 この本のデータベース理論の解説も、ほんのサワリだけで充分とは言えませんが、世の中には、こうした話も端折って、テーブル、クエリ、フォーム、レポートの関係さえ充分に示さないまま、「さあ、テーブルを作ろう」みたいな感じで各論に入っていくマニュアル本が多く、学習者は今学んでいることの「意味」が判らず、マニュアルの最後まで辿りついた"奇特な"人だけが、「ああ、こういう関係性の中でのテーブル、クエリ、フォーム、レポートだったのか」と事態が飲み込める―だったら最初にそう言ってよ、と。

 データベースは(Accessd で作れるような一定レベルのものであれば)、仕事でそれを必要としている人がプレーンな状態から自分で作るのがベストで、外注先などとのプロジェクト作業で作成してもよいのですが、仕事の流れがよく判っていない人に丸投げしたばっかりに、使いづらいものを我慢して使用している(あるいは、更新しなくなり死んでいる)ケースも結構ありますネ。もったいない。

 【2009年改訂3版】

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「●さ 齋藤 孝」の インデックッスへ

「企画会議」に絞った内容。ビジネス会議にはもっといろいろな側面があるのでは。

会議革命 単行本.jpg会議革命会議革命.jpg会議革命 PHP文庫』 〔'04年〕 saito_takashi.jpg 齋藤 孝 氏 (略歴下記)

 会議を効率的に進めるヒントを10の法則にまとめています。
 「インスパイア・アイテムを用意する」とか「身体モードを切り替える」とか、著者らしい提案でいいと思いました。
 状況的になかなか出来ない面もあるかもしれませんが、念頭に置いておくと煮詰まったときの打開策になるかも。

070111.jpg さらに、会議を変えるための具体的方法を提示しています。
 ポジショニングにおいて、2人で共通の資料を頂点とした直角二等辺三角形をつくるというのはいいと思います。
 本書にもありますが、カウンセリングの実施場面などにおいても、まず椅子の位置を変えるというのがセオリー的にあります。
 「丸テーブル」方式というのも、集団面接の現場などでは、依然からよく採用されています。
 「キーワード・シート」にアイデアを(3色ボールペンを使って!)書き込んでいく「マッピング・コミュニケーション」というスタイルも、会議というよりは2人から3人の打ち合わせにおいて有効な手法ではないでしょうか。

 全体に、「企画会議」に絞った内容となっていますが、ビジネスの現場では、報告のための会議やコンセンサスを得るための会議も結構多く、そっちの方の効率の悪さに悩まされている人も多いのでは。
 著者の認識では、「報告会議」は本来の会議ではなく、「今日の会議は報告だけ」ということになれば出席率は下がるということのようですが、「企画会議」的なものは人任せで、「報告会議」にだけ出てくるタイプの人もいるでしょう。
 そういう人が、結構思いつきでものを言ったりする...。

 【2004年文庫化[PHP文庫]】
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齋藤 孝 (明治大学文学部教授)
1960年、静岡生まれ。
東京大学法学部卒業。東京大学大学院教育学研究科学校教育学専攻博士課程等を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。

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「●光文社新書」の インデックッスへ

「ブログ」隆盛の今日においては"鮮度落ち"の内容か。

『ホームページにオフィスを作る』.JPGホームページにオフィスを作る.gif  2000logo.gif「野口悠紀雄Online」
ホームページにオフィスを作る』光文社新書〔'01年〕

 本書の肝は、第2章の冒頭にある「ホームページは自分だけが使うつもりで作るとよい」ということです。
 本書が刊行された時点('01年)では画期的な提唱でしたが、「ブログ」隆盛の今日においては、根底部分ではすでに多くの人が実践しているものとなっています(本書を読んで「ブログ」を始めたという人もいるかと思いますが)。

 もちろん第3章の「ノグラボ」「野口悠紀雄Online」に見る、利用者とのイントラクションなどの有効な活用方法は今読んでも示唆に富むものですが、誰もがすぐにできて、かつ同じ効果が期待できるというものでもありません。
 むしろやや自己宣伝的で、一般読者への落とし込みが充分なされていない分、著者の『「超」整理法』シリーズなどと比べ不親切さを感じました。

 『「超」整理法』シリーズ1〜3('93年・'95年・'99年/中公新書)を読んだ流れで本書を手にしましたが、どの本においても著者の先見性を感じるとともに(そのことは認めます)、近著から順番に賞味期限が切れていくのではないかという皮肉な思いがしました。

 本書も、現時点での有効性で評価するのはちょっとキツイかもしれません。
 「ホームページは自分だけが使うつもりで作るとよい」という発想の先駆性に対して星1つプラスしたつもりですが、自分のホームページの宣伝的であることに対して(この手の本は他にも結構あるが)星1つマイナス、といったところでしょうか。

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「●は 橋本 治」の インデックッスへ 「●集英社新書」の インデックッスへ

「わからない」を前提にした自分の方法を探るべきだと。回りくどかった。

「わからない」という方法  .jpg「わからない」という方法』.JPG  橋本 治.jpg
「わからない」という方法』集英社新書 〔'01年〕

 著者によれば、20世紀は知識を得ることで何でも答えが出ると思われた「わかる」が当然の時代だったのに対し、21世紀は「わからない」を前提とした時代であり、正解を手に入れさえすれば問題はたちどころに解決すると信じられた時代は終わったのであって、そのような「信仰」は幻想に過ぎないということが明らかになった今、「わからない」を前提にした自分なりの方法を探るべきであると。

 自分の直感を信じ、それに従って突き進むのが著者の言う「わからない」という方法ですが、それには、「俺、なんにもわかんないもんねー」と正面から強行突破する「天を行く方法」と、「わかんない、わかんない」とぼやきながら愚直に失敗を繰り返し、持久力だけで問題を解決する「地を這う方法」があり、著者は実際の自分の仕事がどのような方法でなされたかを例をあげて説明しています。

 『桃尻語訳 枕草子』などの仕事は後者の例で、「わからない」を方法化していく過程が説明されていますが、この人、基本的には「地を這う方法」なのではないか、と思いつつも、全体を通しての著者独特の"回りくどさ"もあり、自分がどれだけ「わからない」という方法に近づけたかやや心もとない感じです。
 「自分の無能を認めて許せよ」という啓蒙的メッセージだけは強く受け止めたつもりですが...。

 '05年に『乱世を生きる-市場原理は嘘かもしれない』(集英社新書)が出た時に、『「わからない」という方法』、『上司は思いつきでものを言う』に続く"橋本治流ビジネス書の待望の第3弾!"とあり、ああこれらはやっぱりビジネス書だったんだなあと...。

 前半部分「企画書社会のウソと本当」の部分で、「企画書の根本は意外性と確実性」だと喝破しており、「確実性」とはもっともらしさであるということを、「管理職のピラミッド」の中にいる「上司」の思考行動パターンへの対処策として述べていて、この辺りは『上司は思いつきでものを言う』への前振りになっているなあと思いました。

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情報環境の急速な変化とともに読み方が変わらざるを得ない本。

「超」整理法 3  .JPG 「超」整理法 3.jpg 「超」整理法 2.jpg
「超」整理法〈3〉』中公新書 〔'99年〕『「超」整理法2 捨てる技術』中公文庫

 『「超」整理法』('93年/中公新書)からのシリーズ第3弾ですが、中公文庫版の方では本書が『「超」整理法2』となっているように、『「超」整理法』の「押し出しファイリング」論の続編のような内容です。
 
070112.jpg 「押し出しファイリング」で溜まってきた情報を捨てるノウハウとして、"とりあえず捨てる仕組み"である「バッファー・ボックス」を提唱しています。さらに「バッファー・ボックス」には、「受入れバッファー」と「廃棄バッファー」があると。
 本書の提案の中核である「廃棄バッファー」は、PCの「ごみ箱」にあたるとしていますが、多分、そのPCの「ごみ箱」から逆発想したのではないでしょうか。
 しかし以前は「ポケット一つの原則」を提唱していたのに、どんどんボックスが階層化してくるのは仕方ないことなのでしょうか。

 この本の通りやると、ボックス(箱)だらけになることはある程度覚悟する必要があるのではという気もしますし、個人で仕事している人などで、実際にそうなっている人もいます。
 でも、サーバーやハードディスクにある電子情報がマスターで、紙情報は大体の所在がわかればいいという人も多い。
 そうした人の中には、「本」についてもPC内に書庫データベースを持てば同様だと言い切る人もいます。
 著者のように、大量の蔵書や学生レポートなどを扱う大学教授などはそうはいかないのかも知れませんが...。
 
 本書は'99年の刊行ですが、すでに(著者の予見通り)PCの(ハードディスクの)"大容量時代"を迎え、情報環境が当時と変わってしまった部分もかなりあると思いました。

 【2003年文庫化[中公文庫(『「超」整理法2』)]】

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時代を感じる部分もあれば、今もって得るところがある部分もある。

「超」整理法 続.jpg続「超」整理法・時間編―タイム・マネジメントの新技法』中公新書 〔95年〕 「超」整理法3.jpg 『「超」整理法3―タイム・マネジメント』中公文庫

 前著『「超」整理法』(中公新書)が'93年、本書が'95年の刊行ですが、やはり前著の「押し出しファイリング」というのはある意味強烈だったなあと。
 それに比べると本書は、タイムマネジメント全般を扱っていて、「押し出しファイリング」の復習みたいな章もあり、やや焦点が定まっていない印象を受けます。
070100.jpg
 だだ、時間管理を軸とした仕事の進め方についての指摘などには鋭いものがあります。「中断しない時間帯を確保する」など。
 でも、実際の問題は、それができる状況かどうかということも大きいのではないでしょうか。「TO DOリストの作成」然りです(ん?これは意志力の問題かナ)。

 電子メールに関する当時としては慧眼だったその便利さの指摘も、今や誰もが当然のように享受しています。
 むしろ、ファックスの「受信紙にメモして送り返す」などの利用法は、今もって使える(だだし、電子メールでも同じことはできる)。
 
 また電話を「問題だらけの連絡手段」とこき下ろしていて、終章で携帯電話を使用する際のマナーの社会的ルールを確立せよと言っているのも、電車内で携帯電話を使うビジネスマンのCMが流れていた当時のことを考えると先駆的だったのかも知れません。

 【2003年文庫化[中公文庫(『「超」整理法3―タイム・マネジメント』)]】

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特に個人ワーカー、主婦などには最も適した整理法ではないか。

「超」整理法.jpg「超」整理法 』 中公新書 〔'93年〕 「超」整理法 1.jpg 中公文庫  野口 悠紀雄.jpg 野口悠紀雄 氏

 本書の刊行は'93年ですから随分前のことになりますが、刊行後10年を経て'03年に文庫化されたりもしており、ロングセラーと言ってよいかと思います。

 本書での提言の核は、何と言っても「押しだしファイリング」でしょう。
 書類を内容別に分類して格納するのではなく時間順に並べてしまう方式で、これは、内容に沿って分類して置き場所を決める「図書館方式」と対照を成すものであり、「整理」というとすぐにこの「図書館方式」や「五十音方式」を思い浮かべてしまいがちな人には、「分類する」という考え方自体から脱却したこのやり方は、発想のコペルニクス的転換を促すものでした。

 その他にも、電話を使うことよりも、パソコンで作成した文書をプリントアウトせずに電信ファックスする方法を推奨したりしていて、これなどは今で言う「仕事の連絡は電子メールで」という考え方と同じで、著者の先見性を窺わせるものでした。

 ただし本書にもあるように、「押しだしファイリング」は"個人用"であり、「時間順」という検索キーは個人の記憶に基づくものであるため、会社の一部署などで情報を共有する場合は、この方法では困難が生じるだろうと。

 個人的にも、電子ファイリングにおいてこの方式を採用してますが(ファイル名の冒頭にすべて作成年月日を入れるなどして)、ある時点で自分以外の人と情報共有することになったりすると「あのファイルはどこにありますか」といつも聞かれることに...。

 読み返して、この"留意点"を再認識した以外には特に新たな発見もなかったのですが、まだ読んでいない人には、今読んでもそれなりに示唆が得られる、そうした普遍性はあるのではないでしょうか。
 特に個人ワーカー、主婦などには最も適した整理法だと思います。

 【2003年文庫化[中公文庫]】

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まず「人と問題を切り離す」というところから、意識して始めるべきか。

『ハーバード流交渉術』.jpg  ハーバード.jpg  Getting to Yes Negotiating Agreement Without Giving in.jpgハーバード流交渉術 (1982年)』/『ハーバード流交渉術』1998年改訂版(阪急コミュニケーションズ)/"Getting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving in"

070113.jpg 日本人の場合、「交渉」というとすぐに「権謀術数」とか「手練手管」という言葉を思い浮かべ、交渉問題そのものよりも相手の性格や立場のことを考えがちではないでしょうか。本書は特に日本人向けに書かれたものではありませんが、ここに示されている交渉の戦術は、そうした日本的な交渉とは対照的で、要約すれば、
 1.人と問題を切り離せ
 2.立場でなく利害に焦点を合わせよ
 3.複数の選択肢を用意せよ
 4.客観的基準を強調せよ

 ということになります。これらの戦術をどう実践するかが平易かつ説得力をもって書かれていて、理論と実例のバランスもとれているように思えます(こうした書き方も含めて実に"アメリカ的"な本)。

 「以心伝心」とか「阿吽の呼吸」のようなものにすがることなく、自分の考えをロジックで通していく、多民族国家の根底にある「ディベート文化」を感じました。ただし、相手を叩きのめすということではなく、"お互いの"問題解決とその後の良好な関係維持のための交渉であるという目的意識がはっきりしているのがいいです。

 原著"Getting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving in"は'81年刊行という"古典"ですが、ハーバード大に交渉学研究所があって、当時所長であった著者は国防省のコンサルタントもしており、その理論は中東和平交渉などでも応用されているというから恐れ入ります。その後、"Getting Together: Building a Relationship That Gets to Yes"(『続 ハーバード流交渉術―よりよい人間関係を築くために』('89年/TBSブリタニカ))、"Getting Past No: Negotiating Your Way from Confrontation to Cooperation"(『決定版 ハーバード流"NO"と言わせない交渉術』('00年/三笠書房))と続編が出ているところをみると、アメリカでも結構売れた?

 最後の方では、「相手の方が強い時」、「相手が話に乗ってこない時」、「相手が汚い手口を使ってきた時」などの対処法も書かれていたりして、通して読んで損はないですが、まず「人と問題を切り離す」というところから、今までより意識して始めるべきでしょうか。

 【1989年文庫化[知的生きかた文庫]/1998年単行本改訂[TBSブリタニカ]】

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社 )

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