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オプティミストの優位性を説くが、企業には職業的ペシミストも必要であると。

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オプティミストはなぜ成功するか [新装版] (フェニックスシリーズ)』['13年]

 ポジティブ心理学を創始した心理学者マーティン・セリグマン((Martin E. P. Seligman、1942年- )の本(英題"Learned Optimizm")で、楽観主義者(オプティミスト)はうつ病になりにくく、諦めが悪く粘り強いので、悲観主義者(ペシミスト)よりもいい結果を残すことが多いとしています。3部構成の第1部はセリグマンの学習性無力感の研究の経緯やチェックリストがあり、第2部はオプティミストの利点、第3部はオプティミストになるための方法が書かれています。

 第1部「オプティミズムとは何か」では、人生にはペシミズム(悲観主義)とオプティミズム(楽観主義)という2つの見方があり(第1章)、困難を前にして無力状態に陥りやすい者とそうでない者がいて(第2章)、両者の違いは、不幸な出来事をどう自分に説明するかにあるとしています(第3章)。さらに、悲観主義の行きつくところはうつ病であるが(第4章)、物事の考え方。、感じ方で人生は変わるとして、認知療法によりうつ病を克服した例などを紹介しています(第5章)。

 第2部「オプティミズムが持つ力」では、どんな(説明スタイルの)人が成功するか、大手生保会社での実証的研究をもとに考察しています(第6章)。さらに、楽観主義は親から子に遺伝するのか(第7章)、学校で良い成績をあげるのはどんな子か(第8章)、偉大な記録を打ち立てたスポーツ選手やチームはどうであったか(第9章)、人の寿命という面で、楽観主義と健康的人生とは関係があるのか(第10章)、政治家の選挙戦ではどうか(第11章)を実証的に考察し、いずれについても概ねオプティミストの優位性を説いています。

 ただし、第6章では、会社で研究開発や企画に携わる人々は夢を追うタイプでなければならないが、社員全員がオプティミストだと会社は破綻するとし、財務管理や安全管理などの面では、現在の状況をしっかり把握している職業的ペシミストが必要であるとして、ある分野では悲観主義者の方が優れていることを指摘しています。

 第3部「変身―ペシミストからオプティミストへ」では、自分が楽観的な人生を送るにはどうすればよいか(第12章)、子どもを悲観主義から守るにはどうすればよいか(第13章)、楽観主義は仕事や会社にどういった影響を与えるか(第14章)をそれぞれ考察し、最後に、楽観主義は人々が設定した目標を達成するための道具であり、この目標選択自体にこそ意味があるとし、やみくもな楽観主義ではなく、しっかりと目を見開いた柔軟な楽観主義が望まれるとしています(第15章)。

 このうち、第14章では、企業の職場における楽観主義が必須条件である分野と、慎重を期する悲観主義が長所となる分野を列挙していて(「人事」は後者に属している)、その人の楽観度に適した仕事に配置することが大切だが、現在就いている仕事に悲観的でいる人も、楽観主義を習得することはできるとして、認知療法の考えを生かしたテクニックを示しています。

 自己啓発書であり(ただし科学実証的根拠による)、人によって読みどころは違ってくると思いますが、自分はどのタイプであり、どうすればオプティミストになれるか知りたい人は、チェックリストのある章と第3部を読むといいと思います。また、人事パーソンにとっては、第6章、第14章が読みどころかと思います。

 著者は、ポジティブ心理学と学習性無力感で有名ですが、意外とその詳細は知られておらず、本書を読むことで、ポジティブ心理学とは何かが理解出来るのではないかと思われます。

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前著同様にオーソドックスだが、「仕事=人生」みたいな「昭和的」価値観も感じられた。

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定年前後「これだけ」やればいい (青春新書インテリジェンス) 』['19年]『定年前後の「やってはいけない」』['18年]

 前著『定年前後の「やってはいけない」』('18年/青春新書インテリジェンス)に続く第2弾で、著者は84歳にして現役の人材紹介会社社長とのこと。版元の口上によれば、「定年前後の転職成功者の事例も紹介した、ベストセラー『定年前後の「やってはいけない」』待望の実践編」とのことです。

 第1章で、「定年後」はもはや「人生の残り」でも「余生」でもなくなったとして、再就職がうまくいく人の行動習慣などを挙げ、この部分は前著のおさらいになっていました。

 第2章では、人生の後半からの働き方を説いています。前著と同様、ここでも、定年後の起業だけは「やってはいけない」としています。この辺りは一般論的であり、改めてこの著者の書くものは、オーソドックスかもしれないれど、起業されるよりは転職してもらった方が有難いという著者の"商売"も関係しているのではないかという穿った見方もしたくなります。

 第3章が言わば本論で、定年前後うまくいく人の「10の習慣」を挙げています。それを見ていくと、習慣1:自分で動いて仕事を探す、習慣2:なるべく早く定年後の準備に取りかかる、習慣3:「望む仕事はない」と頭を切り替える...といったように「習慣」と言うより「心構え」的なものが多く、本当に意欲がある人は言われなくともそうするだろうと思われるものが多かったです。第4章は、シニアの再就職の成功例ですが、まさにそういった人の例が紹介されているように思いました。

 最終第5章で、「人生100年時代の働き方モデル」として、「30代の働き方」から「80代以降の働き方」まで年代別に、キャリアの作り方を指南しています。「70代の働き方」のところで「まだまだ動き回れる!」とあるように、働く意欲がある人への励ましの書になっていて、著者自身が84歳の現役経営者であることが説得力を持たせるものになっています(書き出しで、自分が84歳になっても長距離通勤する理由を、(老化という)自然現象に負けないためとしている)。

 一方で、「仕事=人生」みたいな「昭和的」価値観も感じられました。Amazonのレビューに、「年配者(終身雇用世代)が書いた本」というものがありましたが、まさにそんな感じ。筆者はずっと「一生働く」ことを推奨しており、そう言えば、前著にも、「最も大切な要件は、『働く』こと以外に存在しないとさえ思っている」(170p)という記述がありました。まあ、それはそれでいいけれど、人にそれを押しつけるものでもないでしょ。

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全体としてはオーソドックスだが、経営幹部の転職が前提となっている面も。

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定年前後の「やってはいけない」』['18年]

 プロ経営幹部の紹介・派遣を行う会社を経営する82歳の現役のビジネスマンで、これまでに3000人以上の再就職をサポートしてきた人材紹介のプロであるという著者が、定年前後に「やってはいけない」ことを説いた本です。したがって、「定年」が60歳定年を指すのか、65歳の再雇用期間終了を指すのかはともかく、年齢がいっても働き続けるにはどうすればよいかということが、前提となっています。

 第1章では、世の中「働かない老後」から「働く老後」へと変化してきている一方、「働きたくても働けない」定年後の現状もあることを示しています。第2章から本論という感じで、定年前後に「やってはいけない」を挙げていきます。

 まず、定年前の肩書や年収にとらわれるのは不幸であるとし、肩書面で言うと偉いのかもしれないけれど、現場では使えなかったりすると。「年の功」が生かせる仕事で活躍すべきだとしています。

 働き続ければ、新しいチャンスも生まれるとし、ただし起業だけは「やってはいけない」としているのは、「人生の第2ハーフ」で起業することのリスクを著者が実際に(数は分からないが)ある程度見てきているからでしょう。ただ、第2ハーフに入ってから新たに資格試験へチャレンジすることなども断定的に否定していますが、これは人によりけりではないでしょうか。

 第3章は暮らしの見直し方についてで、生活水準は上げるな、老後資金は「貯める」より「稼ぐ」 こと、「定年前」の人脈は使わないこと、義理と礼を欠くのは高齢者の特権。同窓会に行く・行かないも個人の自由...などとしています。参考になる部分もあれば、「言われなくとも...」という部分もありました。

 この本は結構売れたようですが、(著者の立場もあり)働き続けることを後押しする姿勢であること、働き方からライフプランニング、老後の生活まで広く網羅していることなどが売れた理由ではないでしょうか。

 全体としてはオーソドックス(その分、目新しさはない)。ただ、これも著者の仕事柄、プロ経営幹部の転職が前提となっていて、一般のビジネスパーソンには一概に当て嵌まらない面もあったように思います。

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興味深い「負の力」の概念。トランジションやレジリエンスにも通じるのでは。

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 『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 (朝日選書)』['17年]

kuro もやもやする力.jpg 第8回「山本周五郎賞」を受賞した『閉鎖病棟』などの作品で知られる著者による本書は、最近巷でよく言われる「ネガティブ・ケイパビリティ」について、そのブームのきっかけを作ったとも言える本です。個人的には、NHKの「クローズアップ現代」で特集された(「迷って悩んでいいんです~注目される"モヤモヤする力"」(2023年9月6日放送))のを見て関心を持ちました。

 「ネガティブ・ケイパビリティ」とは一般に、「事実や理由を性急に求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」を意味し、本書では、悩める現代人に最も必要と考えるのは「共感する」ことであり、この共感が成熟する過程で伴走し、容易に答えの出ない事態に耐えうる能力がネガティブ・ケイパビリティであるとしています。

 本書によれば、これは、古くは詩人のキーツがシェイクスピアに備わっていると発見した「負の力」であり、さらに、第二次世界大戦に従軍した精神科医ビオンにより再発見されたもので、本書の第1章、第2章はそのことについて解説誰されています(著者はある意味"再掘り起し"したことになる)。

 第3章では、人間はもともと「分かりたがる脳」を持つが、そのことはしばしば思考停止を招くとし、その弊害を事例として紹介するとともに、ネガティブ・ケイパビリティは拙速な理解ではなく、謎を謎として興味をいだいたまま、宙ぶらりんの、どうしょうもない状態を耐え抜く力であるとしています。

 以下、ネガティブ・ケイパビリティが各分野でどのように活かされるかを、医療(第4章)、身の上相談(第5章)、伝統治療(第6章)、創造行為(第7章)の各分野で見ていき、さらに第8章では、キーツが見たシェイクスピアのネガティブ・ケイパビリティとはどのようなものか、それを超えると著者が考える紫式部のネガティブ・ケイパビリティとはどのようなものかを見ています。

 そして第9章では、教育の場面でネガティブ・ケイパビリティがどう生かされるか、第10章では、「寛容」とネガティブ・ケイパビリティの関係について見ていき、終わりに、再び共感について、ネガティブ・ケイパビリティは共感の成熟に寄り添うものであるとしています。

 書いているのが作家であるということもありますが、エッセイを読むように読めるのが良かったです。ただ、学者ではなく作家が書いている分「この作家かそう言っているだけだろ」「科学的に実証されているの?」と言われてしまう可能も無きにしも非ずかと。

 その点に関して興味深かったのが、NHKの「クローズアップ現代」で特集された内容で、ネガティブ・ケイパビリティの高い人(モヤモヤ力の高い人―なかなか物事の結論を導き出せない人)と、ネガティブ・ケイパビリティの低い人(モヤモヤ力の低い人―物事の結論を効率よく導き出していく人)の2つのチームに分けて同じ課題を与え解決のアイデアを出させた実験をしたら、最初はモヤモヤ力の低い人のチームが早々と結論を出して課題を終えたのに、モヤモヤ力の高い人のチームは煮詰まっていたのが、後の方になってモヤモヤ力の高い人のチームからどんどんいいアイデアが出されたというものです。

 すべてにおいて、こんな絵に描いたような結果になるかなというのはありますが面白かったです。キャリア行動における「トランジション」や心理学における「レジリエンス」といった概念と通じたり重なったりする要素もあるように思われ、興味深かったです。

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「作家生活を通して記念碑的な第一作」。若くして冷静に人を見る眼を持っていた。

『会社とつきあう法』0.jpg『悪徳セミナ―』.jpg 『悪徳セミナ―』文2.jpg
会社とつきあう法―サラリーマン悪徳セミナー (1977年) (ゴマブックス) 』['77年]/『サラリーマン悪徳セミナー―悪い奴ほど出世する! (1965年) (イケダ3Mブックス) 』['65年]/『サラリーマン悪徳セミナー (1980年) (角川文庫)

「森村誠一 死去」.jpg 先月['23年7月]24日に90歳で亡くなった森村誠一(1933-2033)の、本人が「私の作家生活を通して記念碑的な第一作」と言っていた著作。

 著者は1933(昭和8)年、埼玉・熊谷市生まれ。熊谷商工高等学校を卒業後、伯父の紹介で東芝系の自動車部品会社にいったん入社するも、そこを辞め、青山学院大学の文学部英米文学科に入学。大学卒業時は就職不況時代であったため、希望したマスコミ業界には就職できず、妻が新大阪ホテル(現リーガロイヤルホテル)の重役の姪だったこともあり、同ホテルに就職。1年後に東京の平河町にオープンした系列都市センターホテルに転勤するも、妻のコネという庇護から逃れるため、その頃オープンしたホテルニューオータニに自力で飛び込み転職、ホテル勤務は25歳から34歳まで通算9年に及んでいます。

 1959(昭和34)年26歳で都市センターホテルに移った際に、アパートの近くの貸本屋に内外の推理小説が集められていたのをきっかけに推理小説の世界に傾倒し、エラリー・クイーンに最も強い影響を受け、また、勤務先のホテルのすぐそば(紀尾井町)に文藝春秋の新社屋ができたことから、梶山季之、阿川弘之、笹沢左保など多くの売れっ子作家が来社するのに刺激を受け、自身も小説を書きたいという気持ちが強くなったそうです。

 1965(昭和40)年32歳で、同年4月から12月まで「総務課の実務」にサラリーマン向けのエッセイを雪代敬太郎の名義で連載(ホテルから副業は禁止されていた)、11月、それを再構成した『サラリーマン悪徳セミナー』('65年/池田書店)が刊行され、それが最初の著作であり、本書の基になっています(後に『サラリーマン悪徳セミナー』のタイトルのまま文庫化された('80年/角川文庫))。

横山白虹・松本清張.jpg 著者の公式サイトによれば、これをホテルの常連客であった元現代俳句協会会長・横山白虹氏に贈呈したところ、松本清張を紹介してもらうことになり、「その際、白虹氏に伴われて、5分間という約束で清張邸に赴いた私を、清張氏は一顧だにせず、白虹氏とばかり話していた。清張氏の注意を惹こうとして、私は清張氏のある作品のホテルの描写にミスがあると言ったところ、清張氏は初めてぎらりと眼鏡越しに私の方へ目を向けて、「どこがどうちがっているのか、言ってみたまえ」と言った。私がその箇所を説明すると、清張氏は奥さんにノートとペンを持参させ、「ホテルのフロントのシステムについて話してくれ」と言った。5分の約束が2時間の取材となって、辞去するとき、清張氏は上機嫌で、私の第1作に60字の推薦文を書いてくださった」とのこと。

横山白虹/松本清張(撮影:森村誠一)著者公式サイトより

 興味深い話です。本の内容はサラリーマン社会の本質を突いているため、現代でも通用するものであり、司馬遼太郎がサンケイ新聞社の記者時代に本名の福田定一名義で書いた『名言随筆 サラリーマン―ユーモア新論語』('55年/六月社、後に『ビジネスエリートの新論語』('16年/文春新書)として新書化)を想起させられました。

『会社とつきあう法』1.jpg ゴマブックスのカバー解説は作家の高木彬光で、「鋭い作家の眼と筆であらわしたサラリーマンの哀歓図、涙あり笑いあり怨念あり、千差万別の生態が見事に描き出されている」と称賛しています。個人的印象としては、非常にロジカルに分かりやすく書かれていると思われ、この作家はもともと文章力と理論構築力があったのだなあと感じたのと、32歳くらいでこれだけ人間を識別する眼を持っていたという、その冷静な洞察力に感心させられました(30代前半の人間が書いたようには思えない)。

 ベストセラー作家として順風満帆の人生を送ったわけではなく、晩年はうつ病になったり認知症を発症したりしていましたが、自分自身に起きたそれらのことをテーマに本を出したりして、ある意味最後まで「作家」だった人かもしれません。

【1980年文庫化[角川文庫(『サラリーマン悪徳セミナー』)]】

   

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「カッパ・ブックス」の出版界の席捲ぶりがスゴかった60年代。岩田一男、多湖輝、佐賀潜...。

カッパ・ブックスの時代.jpgカッパ・ブックスの時代2.jpg
カッパ・ブックスの時代 (河出ブックス)』['13年]

カッパ・ブックスの時代』6.JPG 「カッパ・ブックス」の1954年の創刊から2005年の終刊までの軌跡を、光文社の歴史をひも解きながら明らかにした本です。著者は、元光文社の社員であり「カッパ・ブックス」の編集にも携わった人で、現在はフリーライターです。読んでみて、まさに「カッパ・ブックスの時代」と呼べるものがあったのだなあと改めて思いました。特に、1950年代後半から1960年代後半にかけてのカッパ・ブックスの出版界の席捲ぶりがスゴイです。
    
英語に強くなる本.jpg砂の器 カッパ2.jpg '61(昭和36)年には、日本の刊行物の売り上げベスト10の中で、第1位の岩田一男の『英語に強くなる本』(売上部数147万部、以下同)をはじめ5冊が「カッパ・ブックス」としてランクインし、ベスト10の内8冊を光文社の刊行物が占めています。光文社刊の残り3冊は、'59年創刊の「カッパ・ノベルズ」のラインアップである、松本清張の『砂の器』(144万部)、同じく松本清張の『影の地帯』、水上勉の『虚名の鎖』ですが、この松本清張という作家も、その力量に着眼した編集者が光文社にいたとのことで、カッパ・ノベルズと一緒に育った作家だったのだなあと改めて感じ入った次第です(松本清張は'58年の『点と線』(104万部)、'59年の『ゼロの焦点』(107万部)もミリオンセラー。『点と線』刊行時はカッパ・ブックスが創刊前だったので、先に単行本刊行された『点と線』が『ゼロの焦点』の後からカッパ・ブックスに収められた)。

頭の体操第1集.jpg頭の体操4.bmp あと、やっぱり改めてスゴかったと思ったのが、多湖輝の『頭の体操』シリーズで、'67(昭和42)年の売り上げベスト10の中で、第1集(265万部)が第1位、第2集(176万部)が第3位、第3集(123万部)が第6位、翌'68(昭和43)年には第4集(105万部)が第5位と、第4集までミリオンセラーとなっています。その後、第5集の刊行の間に約10年もの間隔がありますが、本書によれば、第4集の段階で著者にドクターストップがかかったとのことです。まあ、第4集までで十分に売り尽くしたという印象はありますが、ドクターストップがかからなければ、すぐに第5集が出てもっと売れていた? この年は、岩田一夫の『英単語記憶術』と野末陳平の『姓名判断』もランクインしており、この年もカッパ・ブックスだけで5冊がベスト10入りでした。

民法入門.jpg佐賀潜.jpg 翌'68(昭和43)年の売り上げベスト10には、『頭の体操 第4集』も含め、カッパ・ブックスまたもや5冊がランクインしていて(第10位のカッパ・ノベルズの松本清張『Dの複合』を含めると6冊)、その内4冊が検察官出身の推理作家・佐賀潜の『民法入門』(119万部)をはじめとする法律シリーズであり、一人の著者で売り上げベスト10の4つを占めたというのもスゴイことです。

 売り上げ部数だけで言うと、これらの後も'70(昭和45)年の塩月弥栄子の『冠婚葬祭』(308万部)や'73年の小松左京の『日本沈没』(上204万部、下180万部)などまだまだスゴイのがありますが、「カッパ・ブックスの時代」と言うとイメージ的には60年代であり、個人的はやはり岩田一男、多湖輝、佐賀潜あたりが印象深いでしょうか(松本清張はやはり"カッパ・ノベルズ"というイメージ)。

 こうしたベストセラーを次々と世に送り出した背景に、神吉晴夫、長瀬博昭といった時代を読むに長けた名物編集者ら(本書の言葉を借りれば編集者と言うよりプロデューサー、プロデューサーと言うよりイノベーター)の才覚とリーダーシップがあり、多くの編集部員の創意工夫と試行錯誤、奮闘努力と不屈の精神があったことが本書からよく窺えましたが、そうした"プロジェクトX" 的な成功譚ばかりでなく、70年代に入ってから激化した(世間的にも注目を浴びた)労働争議で、会社そのものが分裂状態になってしまった経緯なども書かれています。

 この労働争議で多くの社員が辞め、その中には優秀な人材も多く含まれていて、それが祥伝社やごま書房(現在のごま書房新社)、KKベストセラーズといった新たな出版社の旗揚げに繋がっていったとのことです(KKベストセラーズは「ワニ・ブックス」の出版社。どこもカッパ・ブックスと同じように「新書」を出しているなあ)。一方、争議が収まった頃には新書ブームも沈静化し、会社は新たな局面を迎えることになり、カッパ・ブックスは新創刊された光文社新書と入れ替わる形で、51年の歴史に幕を下ろす―といった具合に、一レーベルの歴史を描くとともに、一企業の栄枯盛衰を描いたビジネス・ドキュメントとしても読める本になっています。

岩田 一男 『英単語記憶術5.JPG 力作だと思われ、こうした記録を残しておくことは、出版文化の将来に向けても大事なことなのではないかと思います。とは言え、個人的にはやはり、前半の"成功譚"的な部分が面白かったでしょうか。改めて、当時のカッパ・ブックスの出版界における席捲ぶりのスゴさが甦ってきました。

【読書MEMO】
●1961年(昭和36年)ベストセラー
1.英語に強くなる本』岩田一男(●光文社カッパ・ブックス)
2.記憶術』南 博(●光文社カッパ・ブックス)
3.『性生活の知恵』謝 国権(池田書店)
4.頭のよくなる本』林 髞(●光文社カッパ・ブックス)
5.『砂の器』松本清張(■光文社カッパ・ノベルズ)
6.『影の地帯』松本清張(●光文社カッパ・ノベルズ)
7.『何でも見てやろう』小田 実(河出書房新社)
8.日本経済入門』長洲一二(●光文社カッパ・ブックス)
9.日本の会社』坂本藤良(●光文社カッパ・ブックス)
10.『虚名の鎖』水上 勉(■光文社カッパ・ノベルズ)

●1967年(昭和42年)ベストセラー
1.頭の体操(1)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
2.『人間革命(3)』池田大作(聖教新聞社)
3.頭の体操(2)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
4.『華岡青洲の妻』有吉佐和子(新潮社)
5.英単語記憶術』岩田一夫(●光文社カッパ・ブックス)
6.頭の体操(3)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
7.姓名判断』野末陳平(●光文社カッパ・ブックス)
8.『捨てて勝つ』御木徳近(大泉書店)
9.『徳川の夫人たち』吉屋信子(朝日新聞社)
10.『道をひらく』松下幸之助(実業之日本社)

●1968年(昭和43年)ベストセラー
1.『人間革命(4)』池田大作(聖教新聞社)
2.民法入門―金と女で失敗しないために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
3.刑法入門―臭い飯を食わないために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
4・『竜馬がゆく(1~5)』司馬遼太郎(文藝春秋)
5.頭の体操(4)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
6.『どくとるマンボウ青春記』北 杜夫(中央公論社)
7.商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
8.『愛(愛する愛と愛される愛) 』御木徳近(ベストセラーズ)
9.道路交通法入門―お巡りさんにドヤされないために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
10.『Dの複合』松本清張(■光文社カッパ・ノベルズ)

頭の体操 〈第1―4集〉.JPG  民法・商法入門・56.JPG

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出世・上司・部下・転職・副業・独立―切り口は多岐にわたるがインパクトはやや弱い。

人生100年時代の「出世」のカラクリ (2).JPG人生100年時代の「出世」のカラクリ.jpg  出世する人は人事評価を気にしない.jpg
人生100年時代の「出世」のカラクリ (日経プレミアシリーズ)』['14年] 『出世する人は人事評価を気にしないリ (日経プレミアシリーズ)』['18年]

 人事コンサルタントによる本書は、人生100年時代と言われる今、日本人の働き方も、卒業→就職→引退という「3ステップ型」から、働きながらも、転職・副業・学び直し・趣味といったさまざまな選択肢を持てる「マルチステージ型」へと大きく変わろうとしているとし、会社の言う通り働くだけでは将来が危ないこの時代に、どのように自らの人材価値を高めていけばいいのか、「働き方」と「出世」のヒントを示した本であるとのことです。

 第1章「『会社人間』はキケンですか?」では、会社のビジョンやミッションに深く共感し、社内で人脈を作り、自社のビジネスやサービスに対すると知見を深めていく人たちを「企業人材」とし、一方で、自分自身の専門性を軸にして転職を繰り返し、よりレベルの高い仕事をするようになる人たちを「マーケット人材」としています(企業人材で、マーケット人材でもあるというハイブリッド型もあるとしている)。その上で、「できそうなのにできない人」と「本当にできる人」との違いは何か、「組織にいらないおじさん」はどうやって生まれるのかを考察してみます。

 第2章「会社は教えてくれない『出世』のこれから」では、管理職になることだけが「出世」ではないとしています。また、社内で顔が広く、業務を熟知した人が出世できる時代は終わりつつあり、今求められる人間関係や経験などの人的資本は、かけた時間によって得られるものではなくなっているとしています。

 第3章「『周回遅れ」人材にならないために今できること」では、デキない上司についた場合にどうしのぐかなど、上司・部下・自分との付き合い方を指南し、できる人ほどストレスとうまく付き合い、それを乗り切っているとしています。また、時代に合わせた実力を得るにはどうすればよいか、そのために必要な「論理力・説明力・決断力」という3つのスキルについて解説しています。

 第4章「転職・副業・独立......選択肢とどう向き合うか」では、転職・副業・独立といったものとそれぞれどう向き合うべきか、副業は本当に検討すべきか、資格取得は大事なのか、独立という選択肢は有効か、といったことを考察しています。

 第5章「経営者視点でさらなる高みを目指す」では、経営者は資本の論理だけでは企業を長く存続させることはできず、経営には志というものが必要であり、会社で働く人も、同じように、自らの志を自身に問うてみることが必要であるとしています。その上で、会社とは「稼ぐ場」ではなく「稼がせる仕組みの場」であって、「稼がせる」考え方を身につけることができれば、社内での出世も、独立や起業も難しくなくなるとしています(そのための学問がHRM(人材マネジメント)であるとしている)。

 著者は、前著『世する人は人事評価を気にしない』('14年/日経プレミアシリーズ)でもそうでしたが(前著の趣旨は、社内外に関わらずプロフェッショナルを目指せということだっったのではないか)、「出世」という言葉を社内での昇進のことだけではなく、起業して成功したり、転職して新たなキャリアやさらに高いポジションを得ることも含めて指すものとして用いています。

 出世・上司・部下・転職・副業・独立・資本・経営・人事評価と切り口は多岐にわたり、働く人にとっても啓発的な内容かと思いますが、人事パーソンが読んでも気づきを促される箇所はあったように思われます。ただし、全体としては、世間で多く行われているキャリア・セミナーを聴いているような感じで、インパクトはやや弱かった気がします(「人材マネジメント・人事本」というよりは「一般ビジネス書」)。

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AIを巡って今起きていることを知るにはいい。将来の予測は難しい?

「AI失業」前夜ド.jpg『AI失業」前夜』.JPG「AI失業」前夜.jpg
「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること (PHPビジネス新書)』['18年]
「月刊 人事マネジメント」2018年5月号
月刊 人事マネジメント  2018年5号.JPG 人事マネジメント系の雑誌でも、「AI人材の育て方」といった特集が組まれたりする昨今ですが、本書は、「AIが引き起こす労働環境の大変化はすでに始まっている。特にホワイトカラーは今後5年で残酷な変化に襲われることになる」と言います。前半部分で、現在の労働市場にAI(人工知能)が起こしている諸問題の構造を解明し、後半部分では、この後、どのようなことが我々の社会に起きるのかを論じています。後半部分は、著者の前著『仕事消滅―AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』('17年/講談社+α新書)で現在から2045年の未来までカバーしたテーマの改訂版で、今回は20年先ではなく、5年から10年先の未来に絞って予測したものであるとのことです。

 AIの普及による「仕事の消滅」の問題についても最近ビジネス誌などでもよく特集されるようになってきましたが、こちらの方はいずれも数ページばかりで、内容も"八卦見"みたいな印象で今一つのものが多かったのが、こうしてまとめて1冊の本として読むと、おおまかなトレンドが掴めて(掴めた気分になって?)、その点では良かったです。

 今、AIを巡って起きていることを知るにはいい本だと思います。ただし、将来何が起きるかはいろいろ予測できるにしても、それらがどのような順番でどの程度起きるのかということを厳密に予測するのは難しいようで、結局、ビジネス誌の記事をまとめ読みしたような印象になってしまったのも否めません。

 本書によれば、日本が開発したスーパーコンピュータ「京」は、開発時は世界最速で、また、世界初の「人間の脳の情報処理速度を超える」コンピュータでしたが、今は世界で10番目までランクが落ちているそうです。ただし、逆に言えば、「人間の脳を超える」コンピュータはまだ世界に10台しかないわけで、何にそれが使われているかと言うと、弁護士や行政書士の仕事を代替するにはマーケットが小さすぎて意味がなく、投資効率の大きい市場にそれは投入されていて、その市場とは、セルフドライビングカー(自動運転車)市場とフィンテックだそうです(次に進行しているのが医療のようだ)。

 それでも、いつか今のスーパーコンピュータと同性能のものが10万円程度で買えるようになれば、多くの分野でAIは活用され、遅かれ早かれ、人類の仕事の量は半分以下になるとのことです。ただし、本書の後半の方に出てきますが、人間の「手」の機能をAI化するのはかなり難しいということと、人間の脳を完全にシュミレートするようなニューロコンピュータの開発が5年後には見込まれるものの、実際それが、人間と同等の仕事を100%こなす汎用コンピュータとなるのは2035年以降だと言われているそうです。

 急速にコンピュータによる自動化が進んでいる様々な産業分野を紹介しつつ、一方で、このようにまだまだの部分もあって、読む側としては安心したり焦ったり、また安心したりですが、やはり今の若い人は、そうしたAI社会を見据えて自分のキャリアを構築した方がいいようです。その点についても著者は助言をしていて、ジャンル的には、①AIを使った事業開発、 ②コミュニケーション力を生かした仕事 、③メカトロ系の頭と身体を同時に使う仕事の3つが有望であるとのことです。

 著者は、仕事が消滅してもAI失業を起こさない策として、仕事が減ってGDPが減少すると予想される170兆円分と同じ額を、国がベーシックインカムとして国民に提供することを提案していて、そのためにAIと人間を「同一労働、同一賃金」にすること、つまり、AIが労働者の賃金を奪った分だけ、国は企業から徴収し、それを国民に提供するベーシックインカムの財源に充てるとよいとしています。本書で最も"提案的"な部分ですが、どれくらい実現可能性があるのか、個人的にはやや疑問でした。

 全体としてはやはり、トレンドウォッチング的な本だったでしょう。AIを巡って今起きていることを概観するにはいいですが、将来の予測となると(ざっくり言って大規模な"ワーク・シフト"が起きるのは間違いないが)時期や分野など細かい点はかなり不確定要素が多いように思いました。まあ、未来を知るには今何が起きているかを知らなければならないわけですが、それでも未来予測って難しい。むしろ、何が起きても大丈夫なように備えよ、という啓発書的な本であったように思います。

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第1部41冊の紹介・解説が丁寧。MBAテキストの"定番"を知るのに良い。
トップMBAの必読文献.jpgトップMBAの必読文献5.JPG トップMBAの必読文献8.JPG
トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊

 本書は3部構成になっていて、第1部「トップMBAの必読文献」では、「世界の経営バイブル」呼べるものを、アカウンティング、統計と分析、経済学、ファイナンス、マーケティング、オペレーションズ、 組織行動、戦略、ゼネラル・マネジメントの9ジャンルから41冊選んで解説しいます。

 第2部「各ビジネス分野における主要なテキスト」では、主要MBAのカリキュラムで使用されるテキストを、第1部と同じようなジャンル区分に沿って75冊、どこの大学で使用しているかも含め紹介するとともに、内容を簡単に解説しています。

 第3部「トップMBAで使用されている500のテキスト」では、さらにMBAで称されているテキスト500冊を、第1部、第2部と同様のジャンル区分に沿って紹介しています(タイトルの紹介のみ)。第2部、第3部については、翻訳されていないものも多く含まれています、

 ページ数で全体の半分強を占める第1部の文献紹介が充実していて、本ごとに「バイブル特性マップ」として「難易度(高・低)」と「領域の幅(基本・専門)」を2軸で表し、テキスト使用大学、著者の略歴を紹介、さらに、その本の読みどころ、その本がどのようなメッセージを伝えようとしているのか、その本の概要―といった具合に、かなり突っ込んだ解説になっています。

 第1部で紹介されている41冊(すべて翻訳されている)の「バイブル書」の定義は、世界のトップMBAでテキストとして使用されているということだけでなく、一時の流行ではなく「世界34カ国で翻訳」「各国で100万部突破」「第12版」など定番として売れ続けている原典で、「体系的」かつ「深堀り」された名著であるとのことで、その定義に応えるラインアップとなっているように思います。

『ハーバード流交渉術』.jpgEQリーダーシップ2.jpg 第1部ではマーケティング分野が比較的充実していたでしょうか。ただし、第2部、第3部にもマネジメントやリーダーシップ関連の良書はあって、第1MBAの人材戦略.jpg巨象も踊る.jpg部と重複していないもので、第2部では、ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリーらの『ハーバード流交渉術』、ダニエル・ゴールマンらの『EQリーダーシップ』、第3部では、デイビッド・ウルリッチの『MBAの人材戦』、ルイス・V・ガースナーの『巨象も踊る』といったアメリカCEOのベストビジネス書100.jpg本もありました。『巨象も踊る』は、本書と同年同月に翻訳が刊行された『アメリカCEOのベストビジネス書100』(講談社)でも取り上げられていましたが、こういう特定企業の成功事例本でもMBAのテキストなるのだなあと改めて思いました。

あらすじで読む世界のビジネス名著.jpg 第1部の41冊の選本については、同じグローバルタスクフォースによる『あらすじで読む 世界のビジネス名著』('04年/総合法令)とややダブる傾向にあったかも(因みに、同じグローバルタスクフォースの『世界のエリートに読み継がれているビジネス書38冊』('15年)ともダブりが多い)。本書も2009年刊行と刊行やや年数が経っているため、MBAテキストの最新動向とまではいかないと思いますが、どのような本がMBAテキストの"定番"とされているのかを知るのには良い本だと思います。

《読書MEMO》
●第1部で紹介されている41冊
第1章アカウンティング
01『企業分析入門』K・G. パレプ 、V・L・ バーナード、P・M・ヒーリー
02『ABCマネジメント革命』ロビン クーパー ほか
第2章 統計と分析
03『ビジネス統計学』アミール・アクゼル、ジャヤベル・ソウンデルパンディアン
第3章 経済学
04『ゲーム理論で勝つ経営』B・J・ネイルパフ、 A・M・ブランデンバーガー
05『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー
第4章 ファイナンス
06『EVA創造の経営』G・ベネツト・スチュワートⅢ
07『企業価値評価』マッキンゼー・アンド・カンパニーほか
08『決定版 リアル・オプション』トム コープランド、ウラジミール アンティカロフ
09『コーポレート ファイナンス』リチャード・ブリーリー、スチュワート・マイヤーズ
第5章 マーケティング
10『価格戦略論』ヘルマン・サイモン、ロバート・J. ドーラン
11『サービス・マーケティング原理』クリストファー・ラブロック、ローレン ライト
12『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』フィリップ・コトラー、ケビン・レーン ケラー
13『ブランド・エクイティ戦略』デービッド・A・ アーカー
14『戦略販売』R・ B・ミラー、S・ E・ハイマン
15『マーケティング・リサーチの理論と実践』ナレシュ・K. マルホトラ
16『刺さる広告』レックス・ブリッグス、グレッグ・スチュアート
17『アイデアのちから』チップ・ハース、ダン・ハース
18『顧客ロイヤルティのマネジメント』フレデリック・F・ライクヘルド
第6章 オペレーションズ
19『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン
20『イノベーションへの解』クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー
21『知識創造企業』野中 郁次郎、竹内 弘高
22『サプライチェーン・デザイン』チャールズ・H・ファイン
23『企業のレジリエンシー』ヨッシー・シェフィー
第7章 組織行動
コンピテンシーマネジメントの展開.gif24『コンピテンシー・マネジメントの展開』ライル・M・スペンサー、シグネ・M・ スペンサー
ハーバードで教える人材戦略2.jpg25『ハーバードで教える人材戦略』M・ビアー、P・R・ローレンス、R・E・ウォルトン、B・スペクター、D・Q・ミルズ
【新版】組織行動のマネジメント.jpg26『組織行動のマネジメント』ステファン・P・ロビンス
最強組織の法則 - 原著1990.jpg27『最強組織の法則』ピーター・M・センゲ
第8章 戦略
28『競争の戦略』M・E・ポーター
29『競争優位の戦略』M・E・ポーター
30『企業戦略論』ジェイ・B・バーニー
第9章 ゼネラル・マネジメント
31『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』M・グラッドウェル
32『ベンチャー創造の理論と戦略』ジェフリー・A ティモンズ
ドラッカー名著集2.jpgドラッカー名著集3.jpg33『現代の経営』P・F・ドラッカー
34『考える技術・書く技術』バーバラ・ミント
35『無理せずに勝てる交渉術』G・リチャード・シェル
36『影響力の武器』ロバート・B・チャルディーニ
37『バイアスを排除する経営意思決定』マックス・ベイザーマン
38『実行力不全』ジェフリー・フェファー、ロバート・I・サットン
第10章 リーダーシップ
39『企業変革力』ジョン・P・コッター
ミッション・リーダーシップ .JPG40『ミッション・リーダーシップ』ビル・ジョージ
ビジョナリー・カンパニー1.jpg41『ビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス

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物事の本質を見透かす力と逆説的なユーモアのセンスが光る。

パーキンソンの法則ー図2.jpg パーキンソンの法則.jpg パーキンソンの法則 上野訳.jpg
パーキンソンの法則 (至誠堂選書)』['96年]/『新編パーキンソンの法則―先進国病の処方箋 (1981年)
パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (1965年) (至誠堂新書)
パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (1965年).jpg 1958 年に原著が刊行された「パーキンソンの法則(Parkinson's law)」は、英国の歴史学者・政治学者シリル・ノースーコート・パーキンソン(Cyril Northcote Parkinson)が英国エコノミスト誌(1955/11/19 号)に発表した風刺コラム「Parkinson's law」から始まっています。彼は英国の官僚制度に関する研究を行い、官僚制度(企業の管理機構等も含む) に内包する問題点・非合理性を鋭い観察眼で指摘して、世の共感を得、日本でも「パーキンソンの法則」が流行語になるほど普及しました。

 「パーキンソンの法則」とは―、
第1法則: 仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する、
第2法則: 支出の額は、収入の額に達するまで膨張する、
第3法則: 拡大は複雑化を意味し、組織を腐敗させる、
凡俗法則: 組織はどうでもいい物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く、
 ―以上のようなものを指すとされていますが、第1法則も第2法則も官僚世界では「時間はあるだけ使ってしまう」「金はあるだけ使ってしまう」という「貴重な資源を使い切ってしまう」点で共通性があります。

 邦訳は、翻訳者によって取り上げる章とその順序が異なりますが、ここでは、原子核物理学者の森永晴彦氏の訳による至誠堂選書版『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』('81年4月)に概ね準拠します。

 第1章「パーキンソンの法則-公務員は如何にしてふえるか」では、役人の数は、仕事の量や有無に関係なく増えるとし(パーキンソンの第1法則)、①役人は部下を増やすことを望むが、ライバルは望まない、②役人は互いのために仕事をつくり合う、の2つがその動因だとしています。自分の仕事が過重だと感じるようになった役人Aは、1.辞めるか、2.同僚Bと仕事を分かち合うか、3.2人の部下C、Dの助力を求めるかで、この中で3番目の方法以外が選ばれたことは歴史的に殆どないとしています。そして、英国の植民地省の役人の人数が、英国の植民地が次々独立して植民地でなくなって行く過程でもその数は増え続けたという実証例に挙げ、時として大企業でも、役所と同類のこうした大企業病と言われる事態に陥ることがあるとしています。

 第2章「民衆の意思-中間派の理論」では、議会制度における(議題を理解する能力のない)中間派の操縦法を説いています。会議の決議においては中間派の票が最終的に重要であり、議会における勝利を得るためのキーは、反対者の説得ではなく、明確な意見を持たない中間層を引き込むことであり、それは会場の議席の配置によっても大きな影響を受けるとしています。

 第3章「高度財政術-関心喪失点」では、予算審議に必要な時間は、金額が巨大になりイメージが沸かなくなればなるほど短くなるとしています。内容が難しい事案ほど短時間で議決され、誰にでも判る簡単な事案の審議時間は長くなる、つまり、誰でも口を出せる事案では発言者が多くなり、審議時間が長くなるとしています(パーキンソンの凡俗法則)。本書では、原子力に関する議題は理解できる人が殆どいないために5分間で採決されてしまうが、役所で使う事務用品などの議題では誰もが一見識をひけらかし、採決に2時間もかかり、その後出席者は、自分は有益な仕事をしたとの満足感で議場を去る―と皮肉を込めて書かれています。

 第4章「閣僚の定数-非能率の係数」では、委員会の最適な人数は5人~7人程度で、20人を超えると運営不可能になるとしています。従って、内閣や委員会において、そのメンバーは22人未満とすべきであり、22人以上であればその組織は有効なものになり得ず、構成メンバーの機能としては、大蔵、外務、防衛、法務の5人に限ればそれが良いとしています。

 第5章「人選の原理-採用試験と求人広告」では、旧式の英国式面接では人材の採否は家柄で決定した一方、中国(科挙制度)では多くの選抜を経て官吏登用者が決まったとしています。今後の求人の在り方としては、人材取得に時間をかけることを避けたいのであれば、募集内容に具体的な内容を記載すれば良いとし、1人の求人に対して応募者1人というのが最も望ましいが、そのためにはどのような求人広告を出せばよいかをユーモラスに説いています。

 第6章「非建設的建築-行政のしこり」では、立派な建造物は組織の衰退の兆しであるとしています。ある組織の立派な建造物の建設計画はその組織の崩壊点に達成され、その建築が有効活用されることは少なくともそのとき必要とされた組織によってはされない。その完成は組織の終息や死を意味すること(パーキンソンの第3法則)を、ルイ王朝の宮殿を例に引いて説いています。

 第7章「人物映写幕-カクテル・パーティーの公式」では、カクテル・パーティーにおける重要人物の見分け方を説いています。その人物は、パーティ開始後75分から90分後に遅れてやって来て、E7(会場を左からA,B,...Eと分け、入り口から奥に向かって1,2,3...8と分けたときのE7の方形)の中におり、グループの中心となっている人物であるとしています。

 第8章「劣嫉症(インジェリティティス)-組織病理学」では、組織のマヒは、「劣嫉症の出現:劣嫉症(第1期)」→「優秀な人物の排除:独善(第2期)」→「劣嫉症のみの組織の形成:無関心(第3期)」の順で進行するとしています。治療の原則は、①治療を行うものと、治療をうけるものが同一人物ということはあってはいけない。②第1期と第2期は治療可能であるが、第3期は治療不可であること。治療の方向性として、第1期は、叱咤激励、報奨の実施、第2期は外部からの人材補充による組織の活性化、第3期は隔離し、速やかに組織を潰すことであるとしています。

 第9章「苦力(クーリー)百万長者の話-中国風成功」では、中国人のお金持ちは決して目立ってそれを表すことはなく、その理由は、目立てば、身代金、納税、マスコミ対策に対する出費がかさむからであり、逆に、目立ってそれを見せている人は、そのような対策を気にする必要も無いほどの権力を得た者たちであるとしています。

 第10章「恩給点の解析-退職の潮時」では、退職する側とその後を引き継ぐ者の年齢差から適切な退職時期について考察しており、退職させる方法としては、退職させるべき人を退職させるためには、海外の視察をハードスケジュールで行わすといったものが挙げられるとしています。

 本書の内容は、「膨大な研究のもとこれらが纏め上げられた」とのことですが、その中には確かに数学的根拠に基づいているものもありますが、むしろ、著者の経験則からくる物事の本質を見透かす力と逆説的でアイロニカルなユーモアのセンスが大きく反映されているように思います。

 本書が書かれた1950年代の終わりは、人間関係論学派が米国で開花し、大量生産と並んではびこっていた官僚主義が批判に晒されていた時期と一致します。マックス・ウェーバーの予言した「書類を生産する機会」という官僚モデルが現実のものとなり、何層にも重なる管理担当者によって組織の動脈硬化が進行していた時期に書かれたものではありますが、そうした1958年という企業における官僚主義の絶頂期において書かれたものが、今現在においても読む者の共感を呼ぶのは、人と組織の関係性というものは一定の普遍的特性を持っていて、変わろうとしてもそう簡単に変われるものではないということの証しではないでしょうか。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

パーキンソンの法則―はだかの経営学.jpgパーキンソンの第2法則.jpg
森永晴彦 訳[至誠堂]...【1961年6月単行本(『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』)/1965年新書版(『パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (至誠堂新書)』)/1981年選書版(『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本 (至誠堂選書2)』)】
上野一郎[ダイヤモンド社]...【1981年3月単行本(『新編 パーキンソンの法則―先進国病の処方箋』)】

パーキンソンの成功法則 (1963年)
パーキンソンの第2法則かねは入っただけ出る (1965年) (至誠堂新書)

《読書MEMO》
●至誠堂選書版『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』('81年4月)森永晴彦(原子核物理学者)氏訳
1 パーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるかパーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるか
2 民衆の意志―中間派の理論―
3 高度財政術―関心喪失点―
4 閣僚の定数―非能率の係数―
5 人選の原理―採用試験と求人広告―
6 非建設的建築―行政のしこり―
7 人物映写幕―カクテル・パーティーの公式―
8 劣嫉症(インジェリティティス)―組織病理学―
9 苦力(クーリー)百万長者の話―中国風成功法―
10 恩給点の解析―退職の潮時―
●ダイヤモンド社版『新編パーキンソンの法則―先進国病の処方箋』('81年3月)上野 一郎(学校法人産業能率大学理事長)氏訳
政府
1 パーキンソンの法則 ― 役人はどんどん増える(至誠堂版1 パーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるか)
2 二十一年後 ― 私の預言は当たったか
3 パーキンソンの第二法則 ― 金は入っただけ出る
財政
4 些事こだわりの法則 ― 関心得失の分岐点(至誠堂版3 高度財政術―関心喪失点)
5 課税の限界 ― 二0パーセントをこすと...
6 税金のがれ ― 節税と脱税
人事
7 適格者選択の原理 ― 総理大臣の選び方(至誠堂版5 人選の原理―採用試験と求人広告)
8 ナンバー2 ― あなたは社長になれるか
9 先輩を退陣させる法 ― 退職の潮時(至誠堂版10恩給点の解析―退職の潮時)
戦術
10 嫌な奴="ノー・マン" ― 役所でOKをもらう法
11 引延しの法則 ― 「ノー」といわずに「ノー」という法
12 大衆の意思 ― 中間派が決定を左右する(至誠堂版2 民衆の意志―中間派の理論)
組織
13 閣僚の数は何人が適性か ― 能率、非能率の分岐点(至誠堂版4 閣僚の定数―非能率の係数)
14 劣等感とやきもちの病 ― 停滞組織の治療法(至誠堂版8 劣嫉症(インジェリティティス)―組織病理学)
15 建物が豪華になると ― 組織衰退の徴候(至誠堂版6非建設的建築―行政のしこり)
法則
16 真空の法則 ― 打つ手が悪いと...

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○経営思想家トップ50 ランクイン(スコット・アダムス)

分かりやすいのは、コミックであるためだけでなく、企業組織が抱える問題の普遍性を突いているため。

ディルバートの法則011.jpg ディルバートビジネス社会の法則.jpg ディルバートの法則3004.JPG
ディルバートの法則 (MAC POWER BOOKS)』['97年]/『ディルバート ビジネス社会の法則―会社の備品をくすねて優雅に暮らそう』['96年] [下]ペーパーバック/『THE DILBERT PRINCIPLE―英和対照で読むディルバートの法則 (洋販E‐Jライブラリー)』['97年] Scott Adams
THE DILBERT PRINCIPLE_.jpg THE DILBERT PRINCIPLE―英和対照_.jpgスコット・アダムズ adamsscott.jpg 本書の元々のベースは、ディルバートというシステムエンジニアを主人公にしたコミックで、官僚的な職場や無能な上司を皮肉ったユーモアで知られる新聞連載のコマ割り漫画です(最近はどうかよく分からないが、日本でもかつて英字新聞などで読んだ人は結構いるように思う)。本書の原著である1996年の単行本刊行に際し、テーマごと分けられた全26章のそれぞれに、コマ割り漫画と併せて作者がユニークな解説を施し、また章末には、従業員から寄せられたメールなどが紹介されています(作者は単行本を出す直前1995年までパシフィック・ベル社勤務と兼業)。この本は刊行された年の秋までに130万部売れ、ウォールストリート・ジャーナルのベストセラー覧に43週間載り続けました。漫画そのものは、リストラ、ダウンサイジング、ハイテクとローテクの対立などをテーマにしています。日本の企業にはパーティション文化というのはあまり根付いていませんが、それでもSEである主人公のディルバートがパーティションの視点から見たボス、会議、流行の経営理論など"職場の苦痛"の数々とそれを回避しようとする彼の奮闘は、会社勤めの経験がある人ならば誰でも充分理解可能なのでは。翻訳者の山崎理仁氏はあとがきで「オフィスワーカーの知的健康飲料」としていますが、まさにそうと言えます(因みに、解説はデーブ・スペクター氏)。

 第1章「ディルバートの法則」では、「能力のある者は自分が無能となるレベルに達するまで昇進し続ける」という所謂"ピーターの法則"を引いて、今日では無能な人間がひとっ跳びで管理職に昇進しているとし、「もっとも無能な社員はもっとも実害を及ぼしにくいポスト―管理職へと組織的に異動させられる」という"ディルバートの法則"を打ち立て、ピーターの法則はディルバートの法則その地位を譲るとしています。つまり、この法則は、無能な者は害をなさないように意図的に昇進させられ、その結果、組織の上層部は実質の生産に殆ど寄与せず、大部分の現実的、生産的な仕事は下層部の人々によってなされているという考えに基づいていることになります。

 以下、各章において、オフィスで起きている様々な出来事への洞察から得られた、皮肉とユーモアに満ちた数多くの《知見》が、コマ漫画と併せてビジネス界で生き残るための自己防衛戦略のヒントとして提示されています。"ディルバートの法則"自体も風刺の一形式として見るべきでしょうが、第1章も含め、以下、各章で述べられていることのほとんどがアイロニー表現となっているのは言うまでもありません。

 第2章「屈辱」では、社員の士気は上がりすぎると危険であり、社員の生産性が最も上がる適度なレベルの士気とは、「幸福だが、あまりうぬぼれていない」状態のときであるとし、社員の満足度を損なわずに自尊心を"生産性の上がる"レベルに抑えるために、ビジネス界では社員の業績を過小に評価するなど、社員に屈辱を与える様々なテクニックが用いられるとしています。

 第3章「ビジネス・コミュニケーション」では、ビジネス・コミュニケーションの真の目的は情報の正確な伝達ではなく、自分のキャリアの発達を図ることであり、このことは「情報を明確に伝達する」発想とは相容れず、なぜならば、明確なコミュニケーションはトラブルの基であり、何も断言しなければ間違いを犯す可能性はないからだとしています。

 第4章「管理職の大ウソ」では、「社員こそもっとも大切な資産」「何でもオープンに話し合おう」「リスクを負う者には報いよう」など管理職が常用するウソの定番を掲げています。「君の提案が大切だ」という言葉もウソであり、「社員の提案=仕事の増加=悪」という等式が真であるとしています。

 第5章「マキャヴェリ的方法」では、アドバイスを求めてきた同僚に対し「似非アドバイスを与えよ」としており、それは同僚を会社の出世コースから蹴落とすチャンスなのだからとしています。第6章「従業員の戦略」では、「実労働+見かけの労働=総労働」という公式を打ち出し、実労働を増やさずに総労働を一定の値に保つよう心がけよとしています(コンピュータを使って多忙さを装うのもいいと)。

 第7章「勤務評定」では、勤務評定の目的は「あなたをローマの果樹園の奴隷のように働かせること」「生産性の罪を自白させ署名させること」「あなたの安月給を正当化すること」にあるとしています。第8章「働くフリ」では、実際には"忙しくない"のに"忙しそうに見せる"様々なテクニックを紹介しています(「チームのコンサルタントになる」というのは言い得て妙)。

 第9章「悪態」では、女性は悪態をつくことが出世の鍵となるとし、第10章「思い通りにコトを進める」では、会議で自分の意見だけがまともだと皆に分からせる「ツルの一声作戦」を紹介しています(わざと誰かに間抜けな提案をさせて、参加者が紛糾し疲れて会議終了時刻が迫ったところで、あたかも今までの議論の結論のように自分の意見を言う)。

 第11章「マーケティングとコミュニケーション」では、いい広告によって、ひどい製品でも人々に売りつけられるため、洗脳作業に投じる1ドルは製品改良に投じる1ドルよりも費用対効果が高いとしています。第12章「経営コンサルタント」では、コンサルタントとは、会社から金を取って社員をいらだたせ、ひたすらコンサルティング契約を引き延ばす手口について考えている人間だとしています。

 第13章「事業計画」では、事業計画は「1.情報の収集」と「2.収集した情報の無視」の2大ステップを踏んで作られるとし、第14章「エンジニア、科学者、プログラマー等の変人」では、彼らが普通の人とどう違うのかを解き明かしています。

 第15章「変革」では、変革はコンサルタントによって引き起こされ、そのうえ、変革をどう処理すればいいかを教えてもらうためのコンサルタントが必要となり、変革が終わると、また変革した方がいいと教えてくれるコンサルタントが必要になるとしています。

 第16章「予算編成」では、予算のパイから分け前を確実にもらうには、必要額を誇張することであり、自分の要求した予算を裏付ける分かりづらいグラフや表を常に提出せよと。そして、たとえ何をしようと、年度の終わりには予算を一銭たりとも残さないこと! だとしています。

 第17章「セールス」では、会社の製品が高すぎるうえに欠陥商品だとしても、出来のいい販売奨励プランを使ってその埋め合わせは可能であるとし、会社の売上げが低いのは営業部員に適切な動機付けがなされていないためであって、この状態を解決するにはノルマを引き上げ、営業部員に「A.欺瞞と背信に満ちた人生」と「B.ハウストレーラー生活」の二者択一を迫るだけでいいと。

 第18章「会議」では、会議は一種のパフォーマンス芸術であり、個々の俳優は、自明の達人、善意のサディスト、グチる殉教者、長々男、眠り居士などの役割を演じればよく、例えば「善意のサディスト」を演じるには正直と献身と反社会的態度を組み合わせればよいとしています。

 第19章「プロジェクト」では、プロジェクトの成功のカギを握るのは、「1.運」と「2.すごいプロジェクト名」であると。第20章「ISO9000」では、ISO900とは、退屈したヨーロッパ人がビールをがぶ飲みし、世界中の大企業をからかうことにした、そのイタズラが後にISO9000として知られるようになったのだと。

 第21章「ダウンサイジング」では、縮小を図る企業から最初に逃げ出すのはもっとも賢い連中で、彼らは"退職手当"を手に入れ、直ちに別のもっとマシな仕事にありつくが、残ったノロマ社員は、仕事の質は低いが長時間働いて埋め合わせをする―そして、優秀な人材がみな逃げたあと、企業はダウンサイジングに肯定的な響きを持たせて社員の士気を高めようとしてこれをライトサイジングなどと呼んだりすると。

 第22章「企業の破滅を見抜く法」では、破滅の前兆として、パーティション、チームワーク、管理職へのプレゼンテーション、組織再編、プロセス(管理)を挙げています。

 第23章「リエンジニアリング」では、リエンジニアリングは、企業がもともと抱えていた問題を、細かい品質管理ユニットとして処理する代わりに、けた外れの規模で解放してしまうリスクがある、つまり、企業の無能さが一気に解放されるとしています。

 第24章「チームワーク育成訓練」では、チームワーク育成訓練のルーツは監獄制度であり、典型的なチームワーク育成訓練では、従業員は団結力のあるチームかカージャックの一味になるまで、様々な不快な状況に置かれるとしています。

 第25章「リーダー」では、リーダーにとってもっとも大切な技能は、ひとりでにおこることを自分の手柄にする才能であり、リーダ-ーとは生まれつきの才能なのか、作られるものかという質問に対し、作られたものなら、保守期間内に返品することは可能なのだろうか?と問うています。また、リーダーとは、誰が見ても明らかに無意味か、あるいは危険でさえあるような選択ができる人種であり、そうした"平均的"人間から見て明らかに筋の通らない選択をするリーダーは、「1.あまりに賢く、誰もその先見の明を理解できない」か「2.マヌケ」かのいずれかだと断定できるとしています。

 第26章「新しい企業モデル―OA5」では(この最終章のみストレートに真面目な提案になっている)、5時に退社する従業員は尊敬されない現状を見直すべく、5時に帰る従業員が与えられた仕事を充分にこなし、誰もがそれを認めることを保証するのが新しい企業モデルであるとしています。

 風刺とユーモア満載ですが、働く側からすれば翻訳者の山崎理仁氏が言うように「オフィスワーカーの知的健康飲料」であり、逆にマネジメントする側から見れば、どうすればそうならずに済むかを探るうえで多くの気づきを与えてくれる「反面教師」的な書です。漫画がケーススタディとなっているため分かり易いです。しかし、元アップルのガイ・カワサキ氏が「企業には二種類ある。自社がディルバートに似ていることを自覚しているもの、そしてディルバートに似ているがそれをまだ自覚していないもの」と言っているように、分かり易さのベースには、企業の職場や組織が抱える問題の普遍性を突いているということがあるのではないかと思います。今までも触れることはありましたが、こうしてまとめ読みすると、漫画だからと言って侮れず、スコット・アダムス、恐るべし、といった感じ、MBAでも読まれていたりするようです。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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定年後をイキイキとで過ごすためにはどうすればよいのかをエッセイ風に指南。

定年後.jpg  定年 image.jpg
定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)

 定年後をイキイキとで過ごすためにはどうすればよいのか、定年後に待ち受ける「現実」を著者自身の経験を踏まえ、また統計や取材等を通して明らかにし、真に豊かに生きるためのヒントを占めした、エッセイ風「指南書」といった感じの本です。著者のこれまでの人事関連の本に比べるとターゲットが広がっているし、また、多くのビジネスパーソンの関心事でもあるので、結構売れたようです。

 前半部分(第1章~第3章)では、取材を通して定年後もイキイキとした人生を送っている人を紹介しながらも、一方で、テレビのチャンネルを手放せず、妻から粗大ゴミ扱いされている人もいるなど、定年後でもイキイキと暮らしている人は2割未満(?)というのが現実ではないかという暗澹たる事実を提示しています。定年後の男性の人生の危機というのは(本書によれば女性より男性が危ないらしい)、本書で紹介されているように、定年が無いと言われるアメリカでも、ジャック・ニコルソン主演の「アバウト・シュミット」(2002年公開)という定年後の危機をテーマにした映画がありましたから、世界共通なのかもしれません。

 ただし、中盤以降(第4章~第6章)は、60歳から75歳までを「黄金の15年」として前向きに捉え、この15年を輝かせるにはどうすればよいかということを論じています。そうした中でとりわけ、社会とどうつながるか(第5章)、また、自分の居場所をどう探すか(第6章)ということについてそれぞれ具体的に検討しています。新聞記事からの引用であるとのことですが、定年になったシニアが、在職中の経験や人脈を生かして、短時間だけビジネスの相談に乗る「スポットコンサルティング」が増えているとのことで、そう言えば、最近テレビでもやっていたような。また、そうした需要と供給を仲介するビジネスも、あちこちで起こってきているようです。

定年後 image.jpg 最終章(第7章)「『死』から逆算してみる」では、定年後の目標は日々「いい顔」で過ごすことであり、人は「良い顔」で死ぬために生きているのだと。「定年学」っぽい切り口から始まって、殆ど人生論的エッセイみたいな終わり方になっていますが、これはこれで良かったのではないでしょうか。でも「定年」って日本的な、しかしながらずっと当たり前のように考えられてきた制度であるせいか、多くの人に関わりがあることであるにしては、あまり「学」として確立されておらず、そちらの方向でもっと突き詰めて書いてもらっても良かったようにも思います。但し、「学」として捉えると、あまりに扱うべき問題が多すぎて、茫漠とした論文になって終わってしまうので、それを避けて、わざとエッセイ調にしたのかも。

 まあ、本書はもともとすべてのビジネスパーソンを対象としているわけではなく、第1章で、36年間同じ会社で務め上げて定年退職した著者の経験が書かれているように、大企業をある意味「昭和的」な定年退職の仕方で辞め、再雇用の道を選ばなかったシニア層や(その内、社員が定年退職する日に皆の前で挨拶するような慣習も稀少になるのではないか)、或いは、これから60歳定年を迎えるが、同じ職場で同じ条件で再雇用される見通しが薄く、そのままリタイアメントまたは独自に転身することを考えている中高年をターゲットにしているフシはあります(大企業の方が小企業より定年再雇用への道のりは厳しいとも言われているし)。

 文章がこなれていて読みやすかったし、60歳から75歳までを「黄金の15年」としていることに励まされる人も多いのでは。一部、ナルホドなあと思わされた部分はあったものの、全体的には"情報"の面ではさほど目新しさは感じられませんでしたが、"啓発"の面ではまずまずでなかったでしょうか。

《読書MEMO》
●「アバウト・シュミット」(2002年公開、ジャック・ニコルソン主演)(62p)
●「空気を読むためには、微妙なニュアンスを把握する必要があるので、常に仲間の輪に入っていなければならない。この共有の場は、各社員が互いに助け合うという機能を持っているが、社員が会社から離れて何か物事をなそうとするときには大きな制約になる。(中略)この共有の場で身につけた受け身の姿勢が、定年後に新たな働き方や生き方を求めることも難しくしてしまうのである。(77p)

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「読書会」で互いに刺激を受け、個々の研鑽がより効果的に深耕されることもあるかも。

小説でわかる名著『経営者の条件』   .jpg人生を変えるドラッカー72.jpg
小説でわかる名著『経営者の条件』 人生を変えるドラッカー―――自分をマネジメントする究極の方法』(2016/12 ダイヤモンド社)

 研修会社のベテランOL・青柳夏子。うっかりミスを社長にとがめられたことから、自分の仕事の仕方に悩みを抱き始める。広告会社に勤める杉並柊介もまた、制作部門から営業部門に異動となり、壁に突き当たっていた。そして、保険会社を脱サラしてカフェを始める堀川徹。起業間際のあまりの忙しさに、仕事も家庭もパンク寸前だった。ある日、夏子はふとしたきっかけから、1冊の赤い本を手に取る。ドラッカーの『経営者の条件』だった。しかし買ってはみたものの、難しそうでなかなか読めずにいた。そんなとき、ドラッカー読書会の存在を知る。何かに導かれるように―。(「Amazon内容紹介」より)

 ドラッカーの名著『経営者の条件』を通じて、登場人物たちが自分たちの悩みを解決していく、ストーリー仕立ての入門ガイドブックです。以前にベストセラーになった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(2009年/ダイヤモンド社)がドラッカーの『マネジメント―基本と原則[エッセンシャル版]』(2001年/ダイヤモンド社)1冊に絞って引用しているのと同様、本書も『経営者の条件―ドラッカー名著集1』(2006年/ダイヤモンド社)1冊を言わば「底本」としています。

 第1章では、研修会社のOLですでにベテランでありながら、みんなの前で社長からガツンと叱られた夏子、広告会社の制作部門から営業部門に異動になったものの、営業数字の未達に悩む柊介、保険会社を脱サラして念願のカフェ立ち上げのはずが、仕事も家庭もパンク状態の徹の3人が登場し、彼らがそれぞれ偶然に導かれるように東堂という人物が主催するドラッカーの読書会に集い、『経営者の条件』を読むことになります。そして、まず初回は、『経営者の条件』の章立てを確認しています。『経営者の条件』の章立ては以下の通りです。
 ・序 章 成果をあげるには
 ・第1章 成果をあげる能力は修得できる
 ・第2章 汝の時間を知れ
 ・第3章 どのような貢献ができるか
 ・第4章 人の強みを生かす
 ・第5章 最も重要大切なことに集中せよ
 ・第6章 意思決定とは何か
 ・第7章 成果をあげる意思決定とは
 ・終 章 成果をあげる能力を修得せよ

 以下、第2章では、その『経営者の条件』の読書会を通して各人が、誰もが「知識労働者」であることを確認し、「汝の時間を知れ」「どのような貢献ができるか」といったドラッカーの言葉の意味を探っていきます。第3章では、「人の強みを生かす」「最も重要なことに集中せよ」という言葉の意味を、第4章では「意思決定とは何か」「成果をあげる意思決定」をするとはどういうことなのか、それらの意味を探っていきます。

 同時並行で、登場人物たちが学んだことを自らの仕事や生活にどのように活かしていったかが描かれていて、例えば夏子は、「指示待ち」OLから脱却し、自ら会社の危機に立ち向かうようになりますが、このあたりは「実践編」と言えます。但し、「読書会」が、しかも1冊のテキストが軸になっているため、話が拡散することなく、コンパクトでありながらも、押さえるべきポイントは押さえているように思いました。著者は、ドラッカー読書会ファシリテーターでもあるとのことで、このあたりはさすがだと思いました。

 『経営者の条件』は、ドラッカーの著者の中でも体系がすっきりしていて読みやすく、また自己啓発度が高い一方で実践的であることもあって、応用もしやすい方ではないかと思われますが、まだ読んでいない人は、このような手引書から入って原典にあたるのもいいのではないかと思います。

 個人的に知る中小企業の経営者で、社員にドラッカーの著書を読ませて感想文を書かせている人もいますが、大企業の場合だと、それぞれが自分の意思で自己研鑽せよということになるのかもしれません。但し、ドラッカーをテーマにしたものに限らず、こうした「読書会」「勉強会」という形をとることで互いに刺激を受け、個々の研鑽がより効果的に深耕されることも考えられるのではないかと、本書を読んで感じました。

 著者自身、あとがきで「『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』の存在がまかったら、この小説が生まれることはなかったと思います」と書いていますが、『もしドラ』の"二番煎じ"ということではなく、ドラッッカーの読書会の主催者としての著者の経験が生かされたものとなっているように思いました。

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優れたリーダーはどんなに忙しくても本を読んでいる。女性が1人もいないのが残念。

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私をリーダーに導いた250冊 自分を変える読書』(2016/10 朝日新聞出版)

「リーダーたちの本棚」.jpg 2009年1月から2016年9月の間に「朝日新聞」の広告特集として掲載された連載「リーダーたちの本棚」から50回分を加筆修正して収録したものです。ビジネス界のトップリーダーが、自分が若い頃から今までに読んだ本の中で影響を受けた本について語り、他人に薦めたい本を5冊程選んで紹介するというものであり、延べ250冊がリストアップされています。

私をリーダーに導いた250冊SL.jpg リーダーがなぜその本を選んだのか、自らの幼少時代や学生時代、社会人になってからの新人時代や海外勤務時代、そして、組織のリーダーや企業のトップになった今におけるエピソードなどを交えて紹介しているので、その人がその本とどう出会い、それをどう読んだのか、そしてどういった影響を受けたのかなどが、その人の人生の軌跡とともに分かるのがいいです。

 50人のどの人についても、経営書だけで5冊選んでいる人はおらず、歴史書、小説、写真集、漫画までその種類は幅広く、また古典から比較的新刊の本まで多岐に及んでいます。よくこれだけの読書人を探したものだなあという気もするし、優れたリーダーというのは、どんなに忙しくても本を読んでいるものなのかもしれないと思ったりもしました。本を読むことを通して、勇気をもらったり、生き方を教わったり、ビジネスの参考にしたりしているのでしょう。

 「百冊の読書は百の人生経験、心に残れば生涯の指針です」「仕事にも息抜きにも本が助けに」「読書の妙味は仕事と同じ。自分にない価値観との出会いである」「読書せずに成長はない」「いろいろ読むほど先入観から解放される」「偏りなく読み、独自の道をさぐる」といったそれぞれの言葉には、実感と重みがあるように思いました。

 1人ずつの本の紹介の最後に、その人が選んだ5冊の書影と概要を整理して掲載してあり、さらに、本の最後の章で「こんな時読みたいブックリスト」として、それまでに紹介された本がジャンル・目的別にまとめられているため、ブックガイドとしても使いやすいものになっています。

 こうしてみると、確かにそれぞれのリーダーの本の選び方は個性的であり、選ばれた本も多様であり、昔のように山岡荘八の『徳川家康』に"一冊集中"するようなことはなくなっています(『徳川家康』を選んだ人も一人ぐらいいたが)。

司馬遼太郎.jpg ただ、それでも複数の人が推す本があったりします。例えば、ノンフィクションで言えば『失敗の本質』(野中郁次郎ほか)、『文明の衝突』(サミュエル・ハンチントン)、小説で言えば司馬遼太郎の『坂の上の雲』や童門冬二の『小説 上杉鷹山』などは3人から4人の人が薦めており(山岡荘八に代わるとすれば司馬遼太郎か。ただし、司馬遼太郎については、『峠』や『項羽と劉邦』、『竜馬がゆく』を選んだ人もいる)、そのほかに『成功の実現』(中村天風)、『道をひらく』(松下幸之助)、『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ)、『21世紀の資本』(トマ・ピケティ)なども複数の人が推しています。そうしたことから、伝統的な傾向に交じって新たな傾向が窺えるのも興味深いです。

 リーダーということに必ずしもこだわらなくとも、良書を読むことで得るものは何かと大きく、ビジネスの面でも広く人生全般においても、読書は無駄にならないということを改めて思わされるものでした。50人のリーダーが全員男性であり、女性が一人も取り上げられていないのが、海外などのこの種の本との大きな違いでしょうか。その点がやや残念でした。

《読書MEMO》
●本書で紹介されている本(一部)
『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(武居俊樹著)
『いい加減 よい加減』(野村万之丞著)
『いかに生くべきか』(安岡正篤著)
『生き方』(稲盛和夫著)
『1分間マネジャー』(K・ブランチャードほか著)
『宇宙は何でできているのか』(村山 斉著)
『得手に帆あげて』(本田宗一郎著)
『「空気」の研究』(山本七平著)
『栗の木』(小林秀雄著)
『Googleの脳みそ』(三宅伸吾著)
『錯覚の科学』(C・チャブリスほか著)
『少しだけ、無理をして生きる』(城山三郎著)
『政治と秋刀魚』(J・カーティス著)
『西洋紀聞』(新井白石著)
『世阿弥に学ぶ100年ブランドの本質』(片平秀貴著)
『全一冊 小説 上杉鷹山』(童門冬二著)
『組織を変える〈常識〉』(遠田雄志著)
『知識創造企業』(野中郁次郎ほか著)
『沈黙の春』(R・カーソン著)
『遠き落日』(渡辺淳一著)
『督促OL 修行日記』(榎本まみ著)
『ドラッカーと論語』(安冨 歩著)
『ノムさんの目くばりのすすめ』(野村克也著)
『裸の独裁者 サダム』(A・バシールほか著)
『晩年のスタイル』(E・W・サイード著)
『ヒトは食べられて進化した』(D・ハートほか著)
『陽のあたる坂道』(石坂洋次郎著)
『複合汚染』(有吉佐和子著)
『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(国末憲人著)
『忘れられた日本人』(宮本常一著)ほか

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応用はそう簡単ではない? 単なる「雑学本」として読んでしまった。

薀蓄雑学説教の事典.jpg薀蓄雑学 説教の事典』(2016/08 時事通信社)

 2010年から2011年にかけて警視総監を務めた著者による訓示集で、警察に入って訓示をしてきたある日「だれもちゃんと聞いていない」ことに気づいて、それから、雑学、薀蓄を思いきり入れて、記憶に沁み込む話にしようと考え、訓示に雑学を盛り込むようにしたともこと。著者はまさに博覧強記の人であり、吉本興業に誘われた過去を持つとのことです。

 ただ、読み物としてはそこそこ面白いのですが、こうした"薀蓄雑学"を、これから話を聞く側に伝えようとする趣旨にどのように絡めるかという応用ということになると、そのあたりは個々の創意というかセンスによるものではないかと。一応は、コミュニケーション、危機対応、マネジメント、計画立案、人事管理、人材育成、業務改善、広報戦略、複眼思考と、訓示の内容に沿って9つのジャンルに分けられていますが、本書に出てくるものは警視総監なりが警察幹部なりに話す訓示という枠組みがあるため、本書を読んだだけで読者がすぐに自らに応用するのは難しいかもしれません。

 知識の抽斗(ひきだし)を多く持つことは、ひとつの武器にはなると思いますが、ホントはどんな雑学を開陳するかということよりも、話の趣旨にどう繋げるのかがポイントなのでしょう。本来はそこを押さえながら読むべきなのでしょうが、自分には本書をそこまで敷衍する能力がないのか、単に「雑学本」として読んでしまった感じです(Amazon.comでの分類を見ると、「コミュニケーション」とか「ビジネス」とかでなく、「雑学・クイズ」になっていたりする)。雑学本としてはまずまずでしょうか。

《読書MEMO》
●乾杯は本来「毒殺防止」のために行われた。
●「ローマの休日」は、他人のドタバタを楽しむ悪趣味な人たちの意味
●「本日は晴天なり」(It's fine today)は英文の発音に多くの要素が入っているため使われた。
●NYヤンキースのマークの「Y」はヨークのY。
●エイトマンは警視庁捜査一課の8番目の刑事の意(本来はeighth man(エイスマン))。
●一寸法師の刀である針は、鍼灸師の使う鍼(はり)と考えるべき(鬼は病気の象徴)。
●「少年よ大志を抱け」の後には「この年老いた私のように」と続く。
●やくざ用語の「マッポ」の由来は「待つポリス」から。ヤバいの語源は「速い」からきているとも。
●パッションフルーツのパッションは「受難」の意(花の五本のおしべが十字架のキリストに見えるため)。
ゴディバ.jpg●サッポロビールの星のマークの星は北極星(北海道開拓使の旗のマークより)。
●パネリストは問題提起をする人、パネラーはただのパネルを貼る人。
●ゴディバのマークの由来は、馬に乗った裸のゴディバ伯爵夫人(ピーピング・トムの由来も同じ故事から)。

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「ビジネスエリート」と言うより「サラリーマン」目線であることに終身雇用時代を感じる。

ビジネスエリートの新論語1.pngビジネスエリートの新論語3.JPG 名言随筆 サラリーマン1.jpg ビジネスエリートの新論語1.jpg
ビジネスエリートの新論語 (文春新書)』『名言随筆サラリーマン (1955年)』『ビジネスエリートの新論語』(1972年)

ビジネスエリートの新論語ド.jpg 1955(昭和30)年、サラリーマン時代の司馬遼太郎が本名・福田定一の名で刊行した、古今東西の名言を引用して語る人生講話風のサラリーマン向けのエッセイの復刻刊行。新書口上には「後年、国民作家と呼ばれる著者の、深い人間洞察が光る。"幻の司馬本"を単独では初の新書として刊行!」とあります。

 1955年に六月社から刊行された時は『名言随筆 サラリーマン―ユーモア新論語』というタイトルだったのが、1972(昭和47)年に新装版となって六月社書房より刊行された際に『ビジネスエリートの新論語―サラリーマンの原型を侍に求める』というタイトルに改題され,この時も福田定一の名で刊行されています(この間、'65年に六月社から、'71年に文進堂から、共に『サラリーマンの金言』というタイトルで別バージョンが刊行されている)。

 当時(1955年、著者32歳)から既に博覧強記ぶりが窺えますが、金言名句ごとの文章の長さはまちまちで、忙しい記者生活(産経新聞文化部の記者だった)の間にこつこつ書き溜めたものなのでしょうか。意外とユーモアや遊びの要素も入っていて、気軽に読めるものとなっています。

 印象としては、確かにビジネスエリートとしての矜恃を保つことを説いている箇所もありますが、会社社会の中で生きていくための処世術的なことを説いている箇所もあって、当初の『名言随筆 サラリーマン』のタイトルの方が内容的にはしっくりくるような気がしました。

 Amazon.comのレビューなどを見ると、"今読んでもまったく色褪せていない"的なコメントが幾つかありましたが、基本的には金言名句を取り上げているため、確かにそういうことになるでしょう。一方で、今と違うのは、会社および会社の中にいる自分(乃至は読者)というものを半永続的に捉えていて、つまり終身雇用が前提になっているという点であり、当時は今よりも上司の部下に対する生殺与奪権者としての力が大きかったことを感じました。

 第一部はやや文章がやや粗いかなあと思われる部分もありましたが、第二部に描かれている二人の老サラリーマンとの出会いの話は物語的にも読めて秀逸であり(実際に著者はこの二人の記者との出会いに大きな影響を受けたそうだが)、これだけ書ければもういつでも作家として独立できそうな気もしますが、著者が産経新聞を退社したのは6年後の1961(昭和36)年で、『梟の城』で第42回直木賞を受賞した翌年のことになります。

 この後も6年間もサラリーマンをやっていたのかあという、やや意外な印象を受けました。まあ、結婚前後の時期にあたり会社を辞めることに慎重だったというのもあるかもしれないし(著者がその前に勤めていた新聞社は倒産していて、産経新聞社は3社目の就職先だった)、仕事そのものが記者という「書く」仕事であったということもあるかと思いますが、やはり、会社ってそう安易に辞めるものではないというのが当時の社会通念としてあったのではないかと思います。

 そう思って本書を読むと、ますます「ビジネスエリート」と言うより「サラリーマン」といった言葉の方がフィットするように思われ、また、そうした上から目線ではない、ほどよい目線で書かれていることが、読者の共感を生むのかもしれないと思った次第です。

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ジャンルを幅広く取って簡潔にポイントを解説。極々スッキリしたスタイル。

明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む.jpg明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む3.jpg
明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』(2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

 ビジネス書の分析・解説がほぼメインの仕事になっていると思われる著者が、「明日から使える世界のビジネス書」を99冊セレクトし、あらすじと名著である理由を解説したもので、今回は海外のビジネス書に限定して、(1)ビジネス理論 Theory、(2)自己啓発 Self-Help、(3)経営者・マネジメント Management、(4)哲学 Philosophy、(5)古典中の古典 Classics、(6)投資 Investment の6つのジャンルに分類して取り上げ解説しています。

明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む2.jpg 見開き2ページ毎に各1冊紹介する形で、左ページにその本の「著者略歴」の紹介と「この本を一言でいうと」どういう本なのか、また「この本が名著とされる理由」、更にはわかりやすさ度、有名度、お役立ち度、エンタメ度をそれぞれ★で5段階評価しています。

 そして右ページにその本のポイントを2つに絞って解説をしていますが、確かにスッキリしたスタイルではあるものの、そうなるとあまりに簡単にしか本の内容の紹介ができないのではないかという気もしますが、著者の考え方は、「本書ではざっくり言って、1冊の本に書かれている真実の量は1%程度だと結論づけている。つまり200ページの本であれば、2ページの自分にとって役立つ知識が吸収されれば十分なのだ」「したがってこの本では、筆者が厳選した"100冊のビジネス書"をジャンル分けしたうえで、内容を1%で要約し、"本書から得るべき真実"を抽出した」(水野俊哉,ITmediaより)とのことです。

 ナルホド、言い得ているなあと思われる面もあるし、何ページにもわたって解説したところで、結局のところ、元の本そのものに当たってみないと分からない(体感できない)エッセンスのようなものは残るものでしょう。短く纏める方が却って難しい場合もあるでしょうし、著者(水野氏)の視点での"纏め"ということで読めば(誰が纏めても"その人の纏め方"にしかならないわけだが)これはこれでいいのではないでしょうか(タイトルにある「あらすじ」とまではいっていない気もするが)。「この本がどうしてこのジャンル?」というのもありますが、ビジネス書って元々読み手によってどのジャンルに属するか違ってくる面もあるかもしれず、その点も含めて、著者の一視点と見ればいいのでは。

 著者のデビュー作が『成功本50冊「勝ち抜け」案内』('09年/光文社ペーパーバックスBusiness)であることからも窺えるように、著者はこれまでビジネス書の中でも「成功本」的な本を数多く取り上げているようです。元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏が『本は10冊同時に読め!』('08年/知的生きかた文庫)の中で、「家にある成功者うんぬんといった本を捨てるべきである」としていますが、個人的にむしろそっちの考え方に近く、従って著者の選評本をまともに読むのは今回が初めてですが、この本に限れば、ジャンルを幅広く取っているため「成功本」指向はそれほど鼻につきませんでした。

 「哲学」や「古典中の古典」といったジャンルがあり、『銃・病原菌・鉄』や『奇跡の脳』『利己的な遺伝子』といった本なども取り上げられているのは興味深いですが、所謂「教養系」となると、成毛眞氏の編による『ノンフィクションはこれを読め!―HONZが選んだ150冊』('12年/中央公論新社)もそうですが、ライフネット生命の会長兼CEOの出口治明氏の『ビジネスに効く最強の「読書」―本当の教養が身につく108冊』('14年/日経BP社)など、筋金入りの読書人による更に"上手(うわて)"の(よりハイブローな)読書案内があるので、そうした本を指向する人はそちらの方がいいと思います。

 本書は本書で、これまでの著者の本との比較ではそう悪くないのではと思います。と言っても、これまで著者の本は書店の立ち読みでしか読んでいないのですが...(随分といっぱい書いてるなあ)。

《読書MEMO》
●目次と内容
1 ビジネス理論 Theory
・『ビジネスモデル・ジェネレーション』アレックス・オスターワルダー/イヴ・ピニュール
・『キャズム』ジェフリー・ムーア
モチベーション3.0.bmp・『モチベーション3.0』ダニエル・ピンク
・『ザ・プロフィット』エイドリアン・スライウォツキー
・『ハイパワー・マーケティング』ジェイ・エイブラハム
・『MAKERS』クリス・アンダーソン
ビル・ゲイツの面接試験.jpg・『ビル・ゲイツの面接試験』ウィリアム・パウンドストーン
 ほか
2 自己啓発 Self-Help
・『ハーバードの人生を変える授業』タル・ベン・シャハー
・『天才!』マルコム・グラッドウェル
・『一瞬で「自分の夢」を実現する方法』アンソニー・ロビンズ
・『スタンフォードの自分を変える教室』ケリー・マクゴニガル
・『非才!』マシュー・サイド
 ほか
3 経営者・マネジメント Management
・『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝』レイ・A・クロック/ロバート アンダーソン
・『スティーブ・ジョブズ』ウォルター・アイザックソン
・『ストレスフリーの整理術』デビッド・アレン
LEAN IN(リーン・イン)3.jpg・『LEAN IN(リーン・イン)』シェリル・サンドバーグ
・『フェイスブック 若き天才の野望』デビッド・カークパトリック
・『Google誕生』デビッド・ヴァイス/マーク・マルシード
 ほか
4 哲学 Philosophy
・『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー
・『銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイアモンド
・『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル
EQリーダーシップ2.jpg・『EQ リーダーシップ』ダニエル・ゴールマン
フリーエージェント社会の到来  sin.jpg・『フリーエージェント社会の到来』ダニエル・ピンク
ワーク・シフト ―00_.jpg・『ワーク・シフト』リンダ・グラットン
奇跡の脳.jpg・『奇跡の脳』ジル・ボルト・テイラー
・『なぜ選ぶたびに後悔するのか』バリー・シュワルツ
・『新ネットワーク思考』アルバート・ラズロ・バラバシ
・『ワープする宇宙』リサ・ランドール
 ほか 
5 古典中の古典 Classics
・『思考は現実化する』ナポレオン・ヒル
・『道は開ける』D・カーネギー
・『自助論』S・スマイルズ
・『7つの習慣』スティーブン・R・コビー
ドラッカーマネジメント.jpg・『マネジメント[エッセンシャル版]』ピーター・F・ドラッカー
フロー体験 喜びの現象学1.jpg・『フロー体験 喜びの現象学』ミハイ・チクセントミハイ
・『人を動かす』D・カーネギー
ピーターの法則.jpg・『ピーターの法則』ローレンス・J・ピーター/レイモンド・ハル
 ほか
6 投資 Investment
・『ブラック・スワン』ナシーム・ニコラス・タレブ
・『となりの億万長者〔新版〕』トマス・J・スタンリー/ウィリアム・D・ダンコ
 ほか
全99冊

  

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シニアの問題を、本人の意識・心構えの問題にすり替えてはならないというのが趣旨だが...。

劣化するシニア社員4.jpg[劣化するシニア社員.jpg 「新型うつ」な人々.jpg
劣化するシニア社員 (日経プレミアシリーズ)』 『「新型うつ」な人々 (日経プレミアシリーズ)

 『「新型うつ」な人々』('11年/日経プレミアシリーズ)などの著書のある産業カウンセラーによる本書は、仕事を選り好む、マネジメントに口を出す、「あと数年だから」と無気力に陥る、過去の経験や職位を振りかざす、「もう年だから」を理由に努力をしない等々、シニア社員の"問題児化"を六つのタイプに分類し、筆者が遭遇した実例を交えながら、シニア問題の根本要因に迫っています。

 第1章「『縦横無尽』に振る舞うシニア社員たち」で、その6タイプを示し、ケースを挙げて典型的な口癖などと示すとともに、そのケースの最後に周囲の声が付されており、それらは以下の通りです。
 ①自分の不遇への共感を周囲に求める「嘆きタイプ」
 「その仕事はちょっとね...」
  そんな人には「そんなに仕事をしたくなければ辞めてしまえ!」と叫びたくなる。
 ②年下の社員に対する依存が止まらない「おんぶに抱っこタイプ」
 「ねえねえ、パソコン教えて」
  「私はあなたのパソコンインストラクターではない!」と叫びたくなって、結局「そんなに働きたくないなら、早く辞めてよ!」と叫びたい。
 ③自分で選んだ仕事しかしない「わが道を行くタイプ
 「1人でできる仕事がしたい」
  「いい加減、チームで働くことを覚えろ!」と叫びたい。
 ④職場を地域のサークルと勘違い「ご隠居タイプ」
 「その指輪、彼氏のプレゼント?」
  「頼むから、1日も早く全員辞めてほしい。その仕事は無償で引き受けてやる!」と叫びたい。
 ⑤安請け合いが最悪のトラブルを生む「無責任タイプ」
 「まあ、なんとかしますよ」
  「1日も早く、辞めてくれ!」と叫びたい。
 ⑥権限を超越し暴走する「勘違いやり過ぎタイプ」
 「俺が若手にビシッと言ってやる」
  「あなたにそんなことは期待していない、自分の身分をわきまえろ!」と叫びたい。
う~ん、これを読んで、確かにこういうシニアはいるなあと思った人は多いのでは。

 第2章「なぜ『問題児』化するのか」では、タイプごとに本人の抱える意識面での背景要因を分析していますが、これ読むと、本人の人格的要素が占める割合が大きいような...。

 ここまで本人責任論っぽいですが、第3章「ほんとうは本人が苦しい」では一転してシニア本人の側に立ち、上司サイドに問題があって職場適応でつまずいたり、更に職場適応への失敗からメンタル不調に陥ったりするケースなどが紹介されています。

 そして、第4章「その職場環境がやる気を奪う」では、無視できない環境・状況面での問題を取り上げ、第5章「周囲の社員の危険な思い込み」では、周囲の様々な思い込みが状況をますます悪化させることに繋がる場合があることを示唆しています。

 更に「実践編」として、シニア社員を受け入れる側からとシニア社員本人からのアプローチを示し(チェックリストのようなもの)、終章「『「意味』があれば仕事はつらくない」で、「価値観の創造」ということについて述べています。

 全体を通して、シニア社員の職場で問題になるケースや本人が辛い思いを抱えているケースを具体的に示し、環境・状況面の問題性、本人の意識の問題性、周囲の意識の問題性など幅広い観点から分析することで、シニアの問題を、本人の意識・心構えの問題にすり替えて考えてはならないことを訴えています。周囲が「いい大人なのだから、周囲にとけ込む努力をしてほしい」「わからないときは、本人から教えを請うべきである」と明らかな上から目線から捉えているとしたら、それはシニア社員を完全に拒絶する意識とも言え、"厄介者"発想に根ざして、はじめから配慮するつもりがないのなら、摩擦が起きてくるのも当然だというのは穿った指摘でした。

 但し、第1章「『縦横無尽』に振る舞うシニア社員たち」が全体の中で相対的にインパクトあり過ぎて(マンガ的であり過ぎて?)、"あるある本"みたいな(うっ憤解消本みたいな)印象が強くなってしまった感じもします(タイトルもさることながら、帯にも「"問題シニア"の驚くべき生態とは?」とあるくらいだからなあ)。それに比べると、後半は、産業カウンセラーという立場からなのか、企業内外の制度や仕組みには触れず、ヒューマンスキルでの対応のみで事を解決しようとしている分、ちょっと弱かったように思われました。

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「社内出世」と「プロとして生きること」の両方を論じている分、インパクトに欠けるか。

出世する人は人事評価を気にしない.jpg1出世する人は人事評価を気にしない.png
出世する人は人事評価を気にしない (日経プレミアシリーズ)

 本書では、冒頭で、経営層に出世した人たちの特徴として、自分の人事評価を気にしていなかったことを挙げています。そして、その背景には彼らに共通した行動があり、それを整理する試みが本書であるとのことです。

 企業内では、目の前の仕事で結果を出していてもある日昇進できなくなることがあり、一方で、それまで評価の低かった人がいきなり出世することがあるとしています。なぜそうしたことが起きるのかというと、一般社員層の間の昇進基準は、今担当している仕事での評価結果に基づくのに対し、管理職になるときには、別の昇進基準が用いられる――つまり、上位者から「使われる側」でいる間は「競争」が基本だが、それ以上の「使う側」になるには「選ばれる」ルールが変わる、すなわち互いに選び合う立場になる「協奏」になるタイミングがあると指摘しています。

 一般社員の間は「卒業基準」で、課長からは「入学基準」となり、「職務主義」のもとでは、課長として優秀でも部長にはなれないといった本書の指摘は、一般のビジネスパーソン(とりわけ若い人たち)にとっては新たな知見として受け止められる面もあるかもしれませんが、人事パーソンにとってはある種コモンセンスに近いものではないでしょうか。ただし、ケース・ストーリーも交え、そうしたことが分かりやすく書かれているため、おさらい的に読むにはいいかもしれません。

 課長の手前までは「できる人」が出世するが、さらに上にいくには「できる」だけでよいのか、管理職止まりの人と経営陣になる人は何が違うのかといったことが、会社側のアセスメント基準として、また、ビジネスパーソンに対する啓発的示唆として説かれています。因みに、「出世する人」の行動パターンとして著者は、第一につながりを大事にしていること、第二に質問を繰り返していること、を挙げています。

 さらに、40歳からの10年間、課長時代の働き方がその後の人生を決定するとして、40歳は第二のキャリアの出発点であるとし、第二のスタートを切るにあたって自ら人的資本の棚卸しを行い、キャリアの再設計を行うことを提唱しています。

 その上で、40歳からのキャリアの選択肢として、社内プロフェッショナルになるという生き方を提唱しています。併せて、企業におけるプロフェッショナルの処遇の在り方が、本来の専門性を評価する方向に変わってきていることも指摘しています。ただし、プロフェッショナルとして認められるには高い評価を得る必要があり、では、評価を意識せずに専門性を認められるには、組織でどう働けばよいかといったことを、最終章にかけて指南しています。

 そして、プロフェッショナルとして認められるには、「明確な専門性がある」ことが第一条件であり、プロフェッショナルを目指す人なら、この条件はクリアしやすいだろうが、テクニックが求められるのは第二の条件の「ビジネスモデルに貢献する」ことであるとしています。

 以上の流れでも分かるように、途中までは「出世する」にはどうすればよいかということが書かれていたのが、途中から、組織の中でプロフェッショナルとして生きるにはどうすればよいか、言い換えれば、部下のいない管理職としての地位にあり続けるにはどうすればよいかという話に変わってきているように思いました。

 本書では、「出世」という言葉を社内での昇進のことだけではなく、起業して成功したり、転職して新たなキャリアやさらに高いポジションを得ることも含めて指しているとのことです。ならば、結局、本書の本来の趣旨は、社内外に関わらずプロフェッショナルを目指せということになるのでしょうか。

 プロフェッショナルとは、自分で自分の仕事に評価を下す人と解すれば、必ずしもタイトルから大きく外れるものではないともとれますが、「出世する人は―」というタイトルは間違いなくアイキャッチになっていると言えるでしょう。

 若年層向けの啓発書としてはそう悪くないと思いました。ただ、結局、前半部分は基本的に社内での出世について書かれていて、「それが叶わなくなった場合」に備えて今のうちにどうしておけばよいかということが後半部分に書かれているような気もしました。

 これでは、「とりあえず社長レースに参加しておこう」という"従来型サラリーマン"の発想を変えるものではなく、「本旨」であるべきところの後半部分が前半部分の「保険」に思えてしまう分、インパクトは弱かったように思います(ゼネラリストを目指す人、スペシャリストを目指す人、ゼネラリストを目指してダメだったらスペシャリストを目指す人の全てを読者ターゲットとして取り込もうとした?従来型サラリーマン"マジョリティ"との相性は良さそうだけれど)。

《読書MEMO》
●目次
第1章 評価が低いあの人が、なぜ出世するのか――「使う側」「使われる側」の壁
第2章 課長手前までは「できる人」が出世する――組織における人事評価と昇進のルール
第3章 役員に上がるヒントは、ダイエット本の中にある――経営層に出世する人たち
第4章 採用試験の本番は40歳から始まる――課長ポストからのキャリアの見直し
第5章 飲みに行く相手にあなたの価値は表れる――第二のキャリアを設計する
第6章 レースの外で、居場所を確保する方法――組織内プロフェッショナルという生き残り方
第7章 「求められる人」であり続けるために――会社の外にあるキャリア
おわりに 「あしたの人事の話をしよう」

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忘我の境地こそ「フロー」の感覚。フロー体験についての原典的な本。

Flow:The Psychology of Optimal Experience.jpgフロー体験 喜びの現象学1.jpg  フロー体験 喜びの現象学2.jpg
フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)
"Flow: The Psychology of Optimal Experience"by Mihaly Csikszentmihalyi

ミハイ・チクセントミハイ.jpg 「フロー理論」とは、1960年代に当時シカゴ大学の教授であったハンガリー出身のアメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly.Csikszentmihalyi)が提唱したもので、人が喜びを感じるということを内観的に調べていくと、仕事、遊びにかかわらず何かに没頭している状態であるというものであり、本書("Flow: The Psychology of Optimal Experience"1990)は、その考えを体系的に纏め上げたものです(因みにハンガリー語に沿った名前の表記はチークセントミハーイ・ミハーイ(Csíkszentmihályi Mihály)。ハンガリー語は日本語と同じく姓、名の順になる)。

 チクセントミハイが「フロー」と呼ぶのは、完全に何かに集中し没頭している忘我の境地のことであり、このフローを手に入れる時、人は恋焦がれてやまない幸福という状態を手に入れるとのことです。活動の経験そのものがあまりに楽しいので、人はただ純粋に、何としてもそれを得ようとするとのことです。

 このような機会は、はかなくて予測不可能に思われがちですが、本書第1章「幸福の再来」で著者は、それは偶然に生じるものではなく、ある種の仕事や活動はフローの状態になりやすいとしています。以下、本書では、内面生活の統制による幸福への達成過程を検討しています。

 第2章「意識の分析」では、我々の意識はどのように働き、どのように統制されるのかについて述べています。我々が経験する喜びまたは苦しみ、興味または退屈は心の中の情報として現れ、この情報が統制できれば、我々は自分の生活がどのようなものになるかを決めることができるとしています。

 第3章「楽しさと生活の質」では、内的経験の最適状態とは、意識の秩序が保たれている状態であって、これは心理的エネルギー(注意)が目標に向けられている時や、能力や挑戦目標と適合している時に生じるとしています。1つの目標の追求は意識に秩序を与え、人は当面する目標達成に取り組んでいる時が、生活の中で最も楽しい時であるとしています。

 第4章「フローの条件」では、フロー体験が生じる条件を概観し、「フロー」とは意識がバランスよく秩序づけられた時の心の状態であるとしています。たえずフローを生み出すいくつかの行動―スポーツ、ゲーム、芸術、趣味―を考えれば、何が人々を楽しくするかを理解することは容易だとしています。

 第5章「身体のフロー」及び第6章「思考のフロー」では、心の中に生じることを統制することで、人は例えば競技や音楽からヨーガに至る身体的能力や感覚的能力の使用を通して、または詩、哲学、数学などの象徴的能力の発達を通して、殆ど無限の楽しみの機会を利用できるとしています。

 第7章「フローとしての仕事」第8章「孤独と人間関係の楽しさ」では、殆どの人々は生活の大部分を労働や他者との相互作用、特に家族との相互作用に費やしており、仕事をフローが生じる活動に変換すること、及び両親、配偶者、子供たち、そして友人との関係をより楽しいものにする方法を考えることが決定的に重要であるとしています。

 第9章「カオスへの対応」では、多くの生活が悲劇的な出来事によって引き裂かれ、最高の幸運に恵まれた人々ですら様々なストレスに悩まされるが、不幸な状態から益するものを引き出すか、惨めな状態に留まるかを決定するのは、ストレスにどう対応するかによるとし、人は逆境の中でどのようにして生活に楽しみを見出すかについて述べています。

 第10章「意味の構成」では、どうすればすべての体験を意味のあるパタンに結びつけることができるかというフローの最終段階について述べています。それが達成され、自分自身の生活を支配していると感じ、それを意味あるものと感じる時、それ以上望むものは何も無くなるとしています。

 本書は、課題達成に向けたアプローチを幅広く考察するうえで大いに参考になるとともに、「フロー」体験は、生産性以上に幸福な時間を生み出すものであるという観点からも重要と言えるでしょう。忘我の境地へもっと頻繁に至るには、努力を怠ってはならないということも忘れてはならないように思います。

チクセントミハイの本.JPG 本書のほかに、フロー体験について著者自身が書いたものに、『フロー体験入門―楽しみと創造の心理学』("Finding Flow: The Psychology of Engagement With Everyday Life"1997、'10年/世界思想社)や『フロー体験とグッドビジネス―仕事といきがい』("Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning"2003、'08年/世界思想社)がありますが、ビジネス寄りに書かれていたりするものの、「フロー」というものが何かについて最も深く書かれているのは本書であり(「フロー」状態の例として、ロッククライミング自体に何の外発的報酬もなく観客の喝采も期待出来ないのに、命を賭してまで没入する人のことを書いているが、ミクセントミハイ自身、ロッククライマーであり、それにのめりこんだ経験を持つ)、やや大部ではあるが、先に原典的な本書を読んでおいてから『フロー体験フロー体験 喜びの現象学3.jpg入門』や『フロー体験とグッドビジネス』に読み進む方が、結果として効率が良かったりするのではないでしょうか。

フロー体験.gif
清水康太郎「ベンチャー企業で働く人たちのモチベーション」

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

《読書MEMO》
●著者のフロー関連本(出版順)
・Beyond Boredom and Anxiety: Experiencing Flow in Work and Play 1975
・The Meaning of Things: Domestic Symbols and the Self 1981
・Optimal Experience: Psychological studies of flow in consciousness 1988
・Flow: The Psychology of Optimal Experience 1990
・The Evolving Self 1994
・Creativity: Flow and the Psychology of Discovery and Invention 1996
・Finding Flow: The Psychology of Engagement with Everyday Life 1997
・Flow in Sports: The keys of optimal experiences and performances 1999
・Good Work: When Excellence and Ethics Meet 2002
・Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning 2002
●内、邦訳が入手可能なもの
・Beyond Boredom and Anxiety: Experiencing Flow in Work and Play 『楽しみの社会学』
・The Meaning of Things: Domestic Symbols and the Self 『モノの意味』
・Flow: The Psychology of Optimal Experience 『フロー体験 喜びの現象学』
・Finding Flow: The Psychology of Engagement with Everyday Life 『フロー体験入門』
・Flow in Sports: The keys of optimal experiences and performances 『スポーツを楽しむ フロー理論からのアプローチ』
・Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning 『フロー体験とグッドビジネス』

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奇を衒わずオーソドックス、マトモすぎてインパクトがやや弱い?

入社1年目の教科書1.jpg入社1年目の教科書.jpg入社1年目の教科書3.jpg
入社1年目の教科書』(2011/05 ダイヤモンド社)

 ライフネット生命保険の代表取締役社長兼COOによる本で、この本を書いている時点ではまだ副社長ですが、ここまでの経歴がスゴイ。東大在学中に司法試験に合格して、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て米国留学。ハーバード経営大学院(HBS)を修了し、帰国後ライフネット生命保険設立に参画と...(その後'13年に35歳の若さで社長に就任している)。

入社1年目の教科書2.jpg 学校を卒業して社会人となる人、またはなって間もない人のための仕事術集のような本で、こうした経歴の人の書いた本って結構ムチャなことが書いてあったりするのではないかと思いましたが、読んでみたらマトモで、ネットなどの書評でも好評のようです。

 仕事における3つの原則として「頼まれたことは、必ずやりきる」「50店で構わないから早く出せ」「つまらない仕事はない」を挙げており、仕事術というより仕事に対する心構え、社会人生活の送り方に対する指南書といった方がいいかも。啓発書的要素が大きいので、読む人によって相性はあるかと思いますが、まあまあマトモな線をいっているように思いました。

入社1年目から「できる人になる」43の考え方.jpg 奇を衒わずオーソドックス、マトモすぎてインパクトが弱い面もありますが、個人的には「速読するな」「新聞は2紙以上、紙で読め」といったところが自分の感覚には馴染みました。この手の本で、全く逆の事が書かれているものもあります。例えば、安田 正 著『一流役員が実践してきた入社1年目から「できる人になる」43の考え方』('14年/ワニブックス)には、「新聞も雑誌も読まずに検索しろ」とありますが、「読まずに検索」するだけで情報収集するというのも結構たいへんなのではないかと...(この「一流役員が実践して...」シリーズは、Amazon.comで毎回身内のレビュアーを何人も投入して作為的に5つ星評価にしているのが却って信頼感を損ねている)。

 ライフネット生命保険は、会長の出口治明氏が読書家で知られ、その薫陶を受けてか、著者も巻末に「僕がおすすめする本」を12冊挙げていますが、ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』や司馬遼太郎の『坂の上の雲』などに混じって出口氏の『百年たっても後悔しない仕事のやり方』を挙げているのは自分の親分だから仕方がないにしても、『生命保険のカラクリ』『ネットで生保を売ろう!』とういう自著2冊が、この12冊の中に含まれているのはいかがなものでしょうか(この点で星半個マイナス)。

 出口氏の近著『ビジネスに効く最強の「読書」』('14年/日経BP社)と比べれば分かりますが、「本」を紹介するということに関してはまだまだ出口氏の足元にも及ばないのではないでしょうか(しかし、ライフネットは経営者が啓発書を書くことが事業戦略の1つになっているのか? 一体、現社長と前社長で何冊書いている?)。

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全部読めるかどうかはともかく、こういう本もあるのだなあと知っておくだけでもいいのでは。

ビジネスに効く最強の「読書」.jpg
 
 
 
 
 

ビジネスに効く最強の「読書」 本当の教養が身につく108冊』(2014/06 日経BP社)

 読書家で知られるライフネット生命の会長兼CEOの出口治明氏による本の紹介。2012年10月から「日経ビジネスオンライン」に連載されたものを、連載が1年半続き、取り上げた本も100冊を超えたところで1冊の本にまとめたものであるとのことです。企業経営者として執筆の時間が取れないため当初は連載を断ったところ、女性編集者から対談(取材)を編集サイドでまとめるということでどうかとの提案があって連載が始まったとのことで、所謂「聞き語り」のような感じでしょうか(養老孟司氏の『バカの壁』シリーズもこのスタイル)。その意味では、半分は編集者が作った本とも言えますが、それでも永年の読書経験を通しての本に関する膨大な知識、引き出しの多さはこの人ならの水準です。

 経団連が毎年出している『新入社員に贈る一冊』などもそうですが、本書も、「ビジネスに効く」といってもノウハウ本などを排してるのは勿論のこと、ビジネス書自体も殆どありません。そういった意味では、「本当の教養本」ばかりと言えるでしょうか。個人の選評乃至コメント集なので、本の選び方が、世界史や日本史など歴史ものが多く(紀行ものも多い)、自然科学系はやや少なくて、文学関係とか小説は無いといった、出口氏の指向に沿ったウエィトになっていますが、これはこれで特徴が出ていていいと思いました。

 歴史関係などでは結構マニアックというか専門的な本もありますが、自ら本オタク、本フェチを自称しているだけに、これも納得。コラムによれば、社宅に本が溢れる事態になって、頭を保有から貸借に切り替え、ロンドン赴任を機に蔵書を売り払ったとのこと。また、ライフネットを創業するまでは書店通いしていたのが、創業準備で時間が取れなくなって、新聞の書評で本を探して、パソコンで近くの図書館に予約を入れる方式に切り替えたとのことで、これもナルホドね、と言う感じです(企業のトップでも自宅付近の図書館を使っていたりするのだあ)。

 道理でどこかでタイトルだけは見たことがある本が多いなあと思ったら新聞の日曜日の書評欄だったのかあ。あれ、結構レベル高かったりして、専門家以外に誰が読むのだろうという本もありますが、読んでいる人は読んでいるのだなあと。見ていくと、歴史関係などでは一部数千円もするような比較的高価な本も紹介されていますが、全体では新書であったり文庫化されているものが結構多く紹介されていて、学術系でも講談社学術文庫などになっているものだったりして、その辺りは一般読者に配慮したのでしょうか。

 全体を通しても(これは編集者の技量によるところもあるかと思うが)関連ある本を並べてそのポイントや特徴を平易にまとめているため読み易く、意外とペダンティックな印象はなく、むしろ選評者の飽くなき好奇心、知的探求心の発露がうかがえるものとなっています。全部読めるかどうかはともかく、こういう本もあるのだなあと知っておくだけでもいいのでは。

《本書で紹介されている本》(コラム部分で紹介されているものを一部除く)

1.リーダーシップを磨くうえで役に立つ本
ローマ政治家伝I カエサル.jpg ローマ政治家伝II ポンペイウス.jpgガリア戦記 (岩波文庫).jpgローマ人の物語 (1).jpgプルターク英雄伝(全12冊セット) (岩波文庫).jpg採用基準 伊賀.jpg新版 指輪物語 全10巻セット (評論社文庫).jpg君主論 (岩波文庫).jpg●マティアス・ゲルツァー『ローマ政治家伝I カエサル』『ローマ政治家伝II ポンペイウス』名古屋大学出版会/●カエサル『ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)』/●塩野 七生『ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)』/●『プルターク英雄伝(全12冊セット) (岩波文庫)』/●伊賀 泰代『採用基準』ダイヤモンド社/●J.R.R. トールキン『文庫 新版 指輪物語 全10巻セット (評論社文庫)』/●ニッコロ マキアヴェッリ『君主論 (岩波文庫)
  
2.人間力を高めたいと思うあなたに相応しい本
韓非子 (第1冊) (岩波文庫).jpgブッデンブローク家の人びと.jpg夏の砦 (文春文庫).jpg王書.jpgチェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫).jpgドン・キホーテのごとく―セルバンテス自叙伝〈上〉.jpg 朗読者 (新潮文庫).jpg 供述によるとペレイラは....jpg白い城.jpg●韓非『韓非子 (第1冊) (岩波文庫)』/●トーマス マン 『ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)』/●辻 邦生『夏の砦 (文春文庫)』 /●フェルドウスィー『王書―古代ペルシャの神話・伝説 (岩波文庫)』/●塩野 七生『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)』/●スティーヴン マーロ 『ドン・キホーテのごとく―セルバンテス自叙伝〈上〉』文藝春秋/●ベルンハルト シュリンク『朗読者 (新潮文庫)』/●アントニオ タブッキ『供述によるとペレイラは... (白水Uブックス―海外小説の誘惑)』白水社/●オルハン パムク『白い城』藤原書店
  
3.仕事上の意思決定に悩んだ時に背中を押してくれる本
脳には妙なクセがある.jpg貞観政要 上.jpg宋名臣言行録.jpg戦争論〈上〉.jpg自分のアタマで考えよう.jpg宇宙は本当にひとつなのか.jpg宇宙論と神.jpgバウドリーノ(上).jpg西遊記〈1〉 (岩波文庫).jpg三國志逍遙.jpg預言者.jpg●池谷 裕二『脳には妙なクセがある (扶桑社新書)』扶桑社/●原田 種成『貞観政要 上 新釈漢文大系 (95)』明治書院/●梅原 郁『宋名臣言行録 (中国の古典)』講談社/●クラウゼヴィッツ『戦争論〈上〉 (岩波文庫)』/●ちきりん『自分のアタマで考えよう』ダイヤモンド社/●村山 斉『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)』/●池内 了『宇宙論と神 (集英社新書)』/●ウンベルト・エーコ『バウドリーノ(上)』岩波書店/●『西遊記〈1〉 (岩波文庫)』/●中村 愿 安野 光雅 『三國志逍遙』山川出版社/●カリール ジブラン 佐久間 彪『預言者』至光社

4.自分の頭で未来を予測する時にヒントになる本
2052 今後40年のグローバル予測.jpg2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する.jpg第五の権力--Googleには見えている未来.jpgユートピア (岩波文庫).jpg一九八四年 新訳版.jpgすばらしい新世界.jpg迷宮に死者は住む2.jpg地図と領土 (単行本).jpg●ヨルゲン・ランダース『2052 今後40年のグローバル予測』/●英エコノミスト』編集部『2050年の世界―英『エコノミスト』誌は予測する』文藝春秋/●エリック・シュミット ジャレッド・コーエン『第五の権力---Googleには見えている未来』ダイヤモンド社/●トマス モア 『ユートピア (岩波文庫 赤202-1)』/●ジョージ・オーウェル『一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)』/●ハックスリー『すばらしい新世界 (講談社文庫)』/●ハンス・ゲオルク・ヴンダーリヒ『迷宮に死者は住む―クレタの秘密と西欧の目覚め (1975年)』新潮社/●ミシェル ウエルベック『地図と領土 (単行本)』筑摩書房

5.複雑な現在をひもとくために不可欠な本
アンダルシーア風土記.jpg気候で読み解く日本の歴史.jpg歴史 上 (岩波文庫 青 405-1).jpg史記列伝 全5冊 (岩波文庫).jpgイタリア絵画史.jpg日本のピアノ100年.jpg国宝神護寺三像とは何か.jpgモンゴル帝国の興亡 (講談社現代新書).jpg完訳 東方見聞録.jpg1940年体制(増補版).jpg昭和史 1926-1945.jpg敗北を抱きしめて 上 増補版.jpg〈民主〉と〈愛国〉.jpg●永川 玲二『アンダルシーア風土記』岩波書店/●田家 康『気候で読み解く日本の歴史―異常気象との攻防1400年』日本経済新聞出版社/●ヘロドトス『歴史 上 (岩波文庫 青 405-1)』/●司馬遷『史記列伝 全5冊 (岩波文庫)』/●ロベルト ロンギ『イタリア絵画史』筑摩書房/●前間 孝則 岩野 裕一『日本のピアノ100年―ピアノづくりに賭けた人々』草思社/●黒田 日出男『国宝神護寺三像とは何か (角川選書)』/●杉山 正明『モンゴル帝国の興亡<上> (講談社現代新書)』/●マルコ ポーロ『完訳 東方見聞録〈1〉 (平凡社ライブラリー)』/●野口 悠紀雄『1940年体制(増補版) ―さらば戦時経済』東洋経済新報社/●半藤 一利『昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)』/●ジョン ダワー『敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人』岩波書店/●小熊 英二『〈民主〉と〈愛国〉―戦後日本のナショナリズムと公共性』新曜社
  
6.国家と政治を理解するために押さえるべき本
田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像.jpg首相支配 日本政治の変貌.jpg変貌する民主主義 (ちくま新書).jpg職業としての政治 (岩波文庫).jpg人間の条件 (ちくま学芸文庫).jpg政治思想論集 (ちくま学芸文庫).jpg小説フランス革命11 徳の政治.jpg物語 フランス革命―バスチーユ陥落からナポレオン戴冠まで.jpgフランス革命の省察.jpgアメリカのデモクラシー.jpgトクヴィルが見たアメリカ 現代デモクラシーの誕生.jpg世界をゆるがした十日間〈上〉 (岩波文庫).jpgワイルド・スワン(上) (講談社文庫).jpg●早野 透『田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像 (中公新書)』/●竹中 治堅『首相支配-日本政治の変貌 (中公新書)』/●森 政稔『変貌する民主主義 (ちくま新書)』/●マックス ヴェーバー『職業としての政治 (岩波文庫)』/●ハンナ アレント『人間の条件 (ちくま学芸文庫)』/●カール シュミット『政治思想論集 (ちくま学芸文庫)』/●佐藤 賢一『小説フランス革命11 徳の政治 (小説フランス革命 11)』集英社/●安達 正勝『物語 フランス革命―バスチーユ陥落からナポレオン戴冠まで (中公新書)』/●エドマンド・バーク『フランス革命の省察』みすず書房/●トクヴィル『アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)』/●レオ ダムロッシュ『トクヴィルが見たアメリカ: 現代デモクラシーの誕生』白水社/●ジョン リード 『世界をゆるがした十日間〈上〉 (岩波文庫)』/●ユン チアン『ワイルド・スワン(上) (講談社文庫)
  
7.グローバリゼーションに対する理解を深めてくれる本
ペルリ提督日本遠征記〈第1〉 岩波.jpgペリー.jpg大君の通貨.jpg近代世界システムI.jpgクアトロ・ラガッツィ (上).jpgモンゴル帝国が生んだ世界図.jpg黒いアテナ.jpgベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る.jpg定本 想像の共同体.jpg社会心理学講義.jpg増補 民族という虚構.jpg戦後世界経済史.jpg マッキンダーの地政学.jpgマハン海上権力史論.jpg海洋国家日本の構想.jpg世界正義論.jpg●ペルリ『ペルリ提督日本遠征記〈第1〉 (1953年) (岩波文庫)』/●佐藤 賢一『ペリー』角川書店(角川グループパブリッシング) /●佐藤 雅美『大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫)』/●I. ウォーラーステイン 『近代世界システムI―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立―』名古屋大学出版会/若桑 みどり『クアトロ・ラガッツィ (上) 天正少年使節と世界帝国 (集英社文庫)』/●宮 紀子『モンゴル帝国が生んだ世界図 (地図は語る)』日本経済新聞出版社/●マーティン・バナール『黒いアテナ―古典文明のアフロ・アジア的ルーツ (2〔上〕)』藤原書店/●梅森 直之『ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る (光文社新書)』/●ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)』書籍工房早山/●小坂井 敏晶『増補 民族という虚構 (ちくま学芸文庫)』/●小坂井敏晶『社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)』/●猪木 武徳『戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)』/●ハルフォード・ジョン マッキンダー『マッキンダーの地政学―デモクラシーの理想と現実』原書房/●アルフレッド・T・マハン『マハン海上権力史論(新装版)』原書房/高坂 正堯『海洋国家日本の構想 (中公クラシックス)』/●井上 達夫『世界正義論 (筑摩選書)
  
8.老いを実感したあなたが勇気づけられる本
生物学的文明論 (新潮新書).jpg老い 上 (新装版).jpg決定版 第二の性〈1〉.jpgおひとりさまの老後 (文春文庫).jpgハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅.jpgブッダのことば―スッタニパータ.jpg生と死の接点.jpg5 (ファイブ) 5年後、あなたはどこにいるのだろう.jpg●本川 達雄『生物学的文明論 (新潮新書)』/●シモーヌ・ド ボーヴォワール 『老い 上 (新装版)』人文書院/●ボーヴォワール『決定版 第二の性〈1〉事実と神話 (新潮文庫) 』/●上野 千鶴子『おひとりさまの老後 (文春文庫)』/●レイチェル・ジョイス『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』/●『ブッダのことば―スッタニパータ (岩波文庫)』/●河合 隼雄『生と死の接点』岩波書店/●ダン・ゼドラ『5 (ファイブ) 5年後、あなたはどこにいるのだろう? 』海と月社

  
9.生きることに迷った時に傍らに置く本
アルケミスト―夢を旅した少年.jpg君たちはどう生きるか.jpg幸福論 (岩波文庫).jpgラッセル幸福論 (岩波文庫).jpgニコマコス倫理学〈上〉.jpgルバイヤート.jpg幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫).jpg男性論 ECCE HOMO.jpg●パウロ コエーリョ 『アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)』/●吉野 源三郎『君たちはどう生きるか (岩波文庫)』/アラン『幸福論 (岩波文庫)』/●B. ラッセル『ラッセル幸福論 (岩波文庫)』/●アリストテレス『ニコマコス倫理学〈上〉 (岩波文庫)』/●オマル・ハイヤーム『ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)』/●オスカー ワイルド『幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)』/●ヤマザキ マリ 『男性論 ECCE HOMO (文春新書 934)


  
10.新たな人生に旅立つあなたに捧げる本
何でも見てやろう.jpg深夜特急.jpgグレートジャーニー 人類5万キロの.jpg大唐西域記.jpgイタリア紀行 上.jpg三大陸周遊記 抄.jpgイブン・ジュバイルの旅行記.jpgインド日記―牛とコンピュータの国から.jpgスペイン旅行記 ――カレル・チャペック旅行記コレクション.jpg中国奥地紀行.jpg朝鮮紀行.jpg●小田 実『何でも見てやろう (講談社文庫)』/●沢木 耕太郎『深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)』/●関野 吉晴『グレートジャーニー 人類5万キロの旅 1 嵐の大地パタゴニアからチチカカ湖へ (角川文庫) 』/●玄奘『大唐西域記〈1〉 (東洋文庫)』/●ゲーテ『イタリア紀行(上) (岩波文庫 赤405-9)』/●イブン・バットゥータ『三大陸周遊記 抄 (中公文庫BIBLIO)』/●イブン・ジュバイル『イブン・ジュバイルの旅行記 (講談社学術文庫)』/●小熊 英二『インド日記―牛とコンピュータの国から』新曜社/●カレル・チャペック『スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)』/●イザベラ・L バード 『中国奥地紀行〈1〉 (東洋文庫)』/●イザベラ・バード『朝鮮紀行〜英国婦人の見た李朝末期 (講談社学術文庫)

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若い人に向けて分かり易く語っている。古さを感じさせないのはスゴイことかも。

社員稼業 新書1.jpg 社員稼業 新書2.jpg  社員稼業 新版.jpg 社員稼業 旧版.jpg
社員稼業 仕事のコツ・人生の味 PHPビジネス新書 松下幸之助ライブラリー』『[新装版]社員稼業』『社員稼業―仕事のコツ人生の味 (PHPブックス)』['74年]

 松下幸之助(1894-1989/享年94)が社内外で行った講話を5話収めており、第一話「生きがいをどうつかむか」が昭和45年に朝日ゼミナールとして行われたものである以外は、第二話「熱意が人を動かす」が昭和34年の松下電器大卒定期採用者壮行会、第三話「心意気を持とう」が松下電器寮生大会、第四話「何に精魂を打ち込むのか」が昭和38年の大阪府技能大会、第5話「若き人びとに望む」が同じく昭和38年の郵政省近畿管内長期訓練生研修会での話と、何れも昭和30年代のもとなっています(松下幸之助は昭和36年に社長を退き、会長に就任しているが、会長職を退いたのは昭和48年、80歳の時だった)。

 本書を読むと、若い人に向けて分かり易く話すのが上手だったのだなあという気がしますが(元々そうした話をするのが好きだった?)、当時の若い人たちは、すでに「経営の神様」と呼ばれていた松下幸之助の話をどのような思いで聴いたのでしょうか。

自分自身、PHPから単行本で出されている松下幸之助の講話集はこれまでそれほどじっくり読んだことはなかったのですが(本書も昭和49年10月PHP研究書刊の単行本がオリジナル)、新書になったのを機に読んでみると、意外と今に通じる普遍性があって古さを感じさせず、さすが松下幸之助という感じです。

 とりわけ本書は「社員稼業」という言葉が特徴的で、松下幸之助の説く「社員稼業」とは、「たとえ会社で働く一社員の立場であっても、社員という稼業、つまり一つの独立した経営体の経営者であるという、一段高い意識、視点を持ってみずからの仕事に当たる」という生き方を指します。

 今風に言えば、プロフェッショナルとか、アントレプレナーとか、インディペンダント・コントラクターとか、いろんなものがこの概念に当てはまるのではないでしょうか。松下幸之助が自社の社員に向けてこうした話をするというのは、そのことが社員の独立を促して辞める社員が続出しそうな気もしますが(松下幸之助自身が企業を辞めて独立して会社を起こしたわけだが)、当時は「終身雇用」が守られていて、ましてや松下電器という大企業(既に数万人の従業員がいた)に就職したということでつい安心感に浸ってしまいがちで、こうした話をしないと、自らは何もせず指示待ちの、雇われ根性の社員ばかりになってしまうという危惧が松下幸之助にあったのではないかと思われます。

 結果として、今現在にも通じる話になっているわけですが、この外にも、今風に言えば「ワーク・ライフ・バランス」(松下は昭和40年、日本の大手企業で最初に完全週休2日制を導入している)、「CSR」(どの講話にも「松下電器は社会の公器である」といった話が出てくる)、「フォロワー・シップ」(本書の中で「上司を使う人間になれ」と言っている)に該当する話が出てきて、そうした意味でも古さを感じさせないのはスゴイことかもしれません。

 個人的には、織田信長の長所や、信長対する明智光秀と豊臣秀吉の態度の違いについて述べているところなどが興味深かったですが、非常に日本人の感性に訴えるような話し方をするなあという印象があります。

 リーダーシップの泰斗ジョン・コッタ―が、それまで松下幸之助について全く知らなかったのが、ハーバード・ビジネス・スクールで自分の担当する講座が松下幸之助記念講座(松下による寄付講座)であったこと契機に、幸之助について調べてみると、自分がこれから大学で教えようとしていることを既に幸之助が繰り返し述べていることに驚き、『幸之助論』を著すに至ったというのは有名な話です。

 日本の場合、マネジメントとかリーダーシップとかの「理論」の部分は殆ど「輸入品」だと思うのですが、それゆえに日本人の感性に合わない部分もあるように思え、しかしながら、例えば松下幸之助のこうした話などによって、同じような考えが働く人に浸透していったという経緯はあるのかもしれません。今回初めて松下幸之助の講話本を読んだのですが、単に「経営の神様」による訓話ということだけでなく、「輸入品」である「理論」を、日本的な観点から見直すという意味での効用もあるように思いました。

【1974年単行本[PHP研究所]/1991年文庫化[PHP文庫]/2009年新装版[PHP研究所]/2014年新書化[PHPビジネス新書 松下幸之助ライブラリー]】

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全否定はしないが、「自己啓発ポルノ(キャリアポルノ)」の一種か。

小玉 歩 『仮面社畜のススメ』 .jpg仮面社畜のススメ (一般書)』(2013/12 徳間書店)

仮面社畜のススメ9.jpg 著者の略歴(自己PR?)を見ただけで既に大いに胡散臭そうなのに、Amazon.comのブックレビューで意外と本書を推す人が多かったのには驚きましたが、個人的にはこの本は、谷本真由美氏が言うところの「キャリアポルノ」の典型ではないかと思いました。「自己啓発ポルノ」と言ってもいいかな。

 ビジネスパーソンは自分なりの考えや価値観、行動指針を持つべきでしょうが、実際のビジネスの場面においては状況対応型になるのが普通でしょう。リーダーシップ理論だって、あるべきリーダー像を唯一のものとする「特性論」は廃れ、50年前から「状況対応型」のリーダーシップ論が主流になっています。

 本書に書かれていることも、原則論で捉えれば、特段目新しいことでもないような内容が多く、但し、本書の危ういところは、ビジネス及び職場の実態や個別の状況に全くおかまいなしに、特定の形式やスタイルを押し付けている点で、その決めつけによって類書との差別化、影響力の強化を図っている点です。

 まあ、本書を読んで目からウロコが落ちたという人はそういないと思いますが、Amazon.comのブックレビューなどからみて、"我が意を得たり"と思ってしまった人は結構いたみたいです。でも、ここに書いてあることは全てが実行可能とは思えないし(逆に出来ることは既にやっているだろうし)、この本を読んだ人が明日から新たに本書にある通りに行動するかどうかも疑わしいです。

 考えなしに実行すれば(そんなこをする人も出来る人も殆どいないと思うが)、結局は著者と同じように会社をクビになるかも。この本、服務規律違反で会社をクビになった人物が書いていることに留意すべきでしょうね。

 ブラック企業と思われる会社に入ってしまった人が指南書として読むつもりならば、こんな本読んで「仮面」を気取ってその会社にしがみついているよりは、早目に自らのキャリア発達が可能な場を他所(よそ)に探した方が良いように思います。

 書かれていることを全否定はしませんが、読むことによって(ある人にとっては)その間ドーパミンが出続け、それで読み終わって暫くしたら後には何も残っていない―「消費されるだけの本」という意味で、やはり「自己啓発ポルノ」の一種、その典型でしょう。

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読み物としても楽しいが、異文化論に止まらず、対処法を具体的に示している点でビジネス書としても優れモノで。

外国人社員の証言 日本の会社40の弱点   .jpg外国人社員の証言 日本の会社40の弱点.jpg外国人社員の証言 日本の会社40の弱点 (文春新書 945)

 本書は、日本企業に勤務する外国人社員向けに研修や講演を行っている著者が、17ヵ国40人から相談された日本企業の困った事例を紹介し、その解決法を示したものであり、外国人社員と日本人社員の「常識」の違いを物語る40の実例が紹介されています。

 「職場のコミュニケーション編」「ビジネス日本語編」「マネジメント・チームワーク編」「悩める上司編」「就職活動・キャリア編」の5章から成り、例えば「職場のコミュニケーション編」では、中国に進出した日系アパレルメーカーに勤める40代の中国人男性が、日本人店長から7月7日に新規店のオープニングセレモニーを開くと聞いて激怒した―中国でも七夕はあるが、7月7日は盧溝橋事件が起きた日で、国内が反日一色染まるから―、「お客様は神様だ」という日本人上司のコメントが納得できない(インドネシア人)―イスラム教は一神教であり、お客は神ではありえないから―、部長に指示を仰いだら瞑想をはじめてしまった(イギリス人)、居酒屋で反対意見を述べて以来、同期とギクシャクしている(中国人)といったような事例が紹介されています。

 外国人社員の悩みや疑問に回答するという形を取りながら、そのまま、われわれ日本人が様々なビジネスシーンで常日頃当たり前のように思っている発言や行動が、外国人にとっては理解不能であったり奇異に感じられたりする場合があることを知らしめるものとなっており、そうした「認識のズレ」が、外国人との仕事を円滑に進めるうえでの障害となり得ることを改めて思い知らされました。

 著者は、グローバル・マネジメントは単なる価値観や精神論ではなく、その実現には、マネジメントする側である日本人管理職によるグローバル対応力の強化がポイントとなるとしています。そのうえで、国籍や性別などによって異なる考え方や行動パターンなどの異文化を企業競争力に転換するステップとして、①外国人社員の適応(理解→信頼)②ライン・マネジメントの高度化(信頼→提案)③知識移転(提案→展開)④制度の高度化(展開→深化)⑤組織改革(深化→文化)という5つのフェーズを示していますが、本書では主に「認識のズレ」にいかに対応するかという①のフェーズにフォーカスしています。

外国人社員の証言 日本の会社40の弱点 3.jpg 本書を読んで、その最初のフェーズというのが意外と重要であり、また多くのビジネスパーソンが悩んでいる部分ではないかと思いました。ただし、ポイントを押さえておけば、起こさなくてもよいトラブルは回避することができ、大切な時間や労力を本来業務に傾け、チームの生産性を上げることができるという思いにもさせられました。

 著者は、「違いを認識し、楽しむ」ことを目的としつつ、読者のグローバル対応力の強化につながればとの思いから本書を書いたとのことですが、その狙いの通り、読み物として読んでも楽しいものとなっています。ですから、今現在、外国人社員を部下に持っていない、あるいは外国人と一緒に仕事をしていない人が読んでも、最後まで飽きずに読めるのではないかと思います。ただし、単に異文化論に止まらず、事例に対する対処法を具体的に示しているという点では、ビジネス書としても優れモノではないでしょうか。新書で200ページ足らずと読みやすいのもいいです。
 
《読書MEMO》
●七夕の日に祝賀行事はありえない(中国人)... 日中戦争の発端・盧溝橋事件(1937年)が起きた日
●「お客様は神様?」納得できない(インドネシア人)... イスラム教は一神教
●なぜ上司を「牛みたい」と言ってはいけないのか(インド人)... インドでは牛は神聖さの象徴(中国では「まじめ」「愚直」「身を粉にして働く」の意)
●上司に相談すると、なぜ瞑想するかのように黙りこむのか?(イギリス人)
●プラスアルファ?初めて聞く英語(オーストラリア人)...「プラスアルファ」は和製英語(「最高!」→「Psycho」(精神病)、「あー、そう?」→「asshole」(肛門。嫌な奴)、「アホみたい」→「Aha! Hold me tight」(しっかり抱いて)
●「油断一秒、怪我一生」?(中国人)... 中国語では「一秒でも油を絶やすと一生責任を追及される」との意に。
●オフィスが好立地に移転するのは困る(ベトナム人)... 交通渋滞で通勤時間が大幅に増える
●社員同士で給与明細を見せ合うのは当然でしょ。(中国人)
●そろそろ出家したいのですが、有給休暇は取れますか?(タイ人)

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「上司学」「仕事術」という域にも達していない、毒にも薬にもならない「処世術」本。

上司は部下の手柄を奪え、部下は上司にゴマをすれ.jpg伊藤洋介 2013 選挙.jpg 伊藤洋介氏/安倍昭恵氏
上司は部下の手柄を奪え、部下は上司にゴマをすれ 会社にしがみついて勝つ47の仕事術 (幻冬舎新書)

 景気回復期こそ企業はリストラを進めるということで、ビジネスパーソンの"リストラ防錆策"を説いた本が結構出されていますが、これも、「上司学」や「仕事術」の本というより、どちらかと言うとその手の本だったかも。少なくとも、「上司学」「仕事術」という域に達しておらず、毒にも薬にもならない「処世術」本という感じでした。

 第1章「上司は何を思う」、第2章「部下は何を願う」、第3章「組織人としての誇りと果たすべき役割」の3部構成ですが、第1章も含め、どちらかと言うと部下から見た視点で書かかれていて、そこから無理矢理、インパクトがありそうな項目をアイキャッチ的にタイトルにもってきた感じ。それも、「手柄はどんどん上司に渡そう」と部下の立場から書いてあるのであって、「上司は部下の仕事を奪え」なんて書いてないんだよなあ。

 「会社が提供してくれる安定やメリットを最大限に享受すべく努めることこそが、幸福な人生の第一歩」との考えのもと、「絶対にクビにならず会社人生をまっとうするための、忘れ去られた美徳ともいうべきマナーや義務を説いた」本であるとのことで、何となく"昭和"的な上司-部下関係の再構築を説いているマニュアル本みたいな印象でした。

シャインズ.jpg東京プリン.jpg 著者は、山一証券勤務時代に「シャインズ」を結成して(相方は杉村太郎(1963-2011/享年47))、その後、森永製菓に転職し、「東京プリン」を結成して(相方は牧野隆志(1964-2014.2.7/享年49))森永の方は辞めるなど、会社員とアーティスト(?)を兼業したり、フリーで活動したりを繰り返しているような人で、この人自身は何度か会社を辞めているわけでしょ。「会社にしがみついて生きろ」と言っているこの人自身のアイデンティティがどうなっているのかよく解りません(会社を辞めてからよっぽどシンドイ思いをしたのか)。

 '13年7月の参院選挙で比例区から自由民主党公認で立候補して(安倍晋三首相の夫人・昭恵氏が森永製菓創業家の娘として伊藤と旧知だったことで公認を得られたらしい)、結局落選していますが、こうしたマニュアル本のような本を書いている人が、何のために国会議員になりたいのか、国会議員になって何をしたいのかもよく解らないね。選挙の前の、知名度アップ作戦だったのかな。

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本書そのものを味わってもいいのでは。紹介本へ読み進むうえでは、読み所や関連書籍をガイドしているのが丁寧。

『アメリカCEOのベストビジネス書100』2.JPGThe 100 Best Business Books of All Time.jpgアメリカCEOのベストビジネス書100.jpg
  
  
  
アメリカCEOのベストビジネス書100』(2009/11 講談社)/"The 100 Best Business Books of All Time: What They Say Why They Matter and How They Can Help You (Paperback) - Common"/『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』(2009/11 東洋経済新報社)

『アメリカCEOのベストビジネス書100』.JPG アメリカのビジネス専門誌書店「800-CEO-READ」の経営者らが、最高レベルのビジネス書と言えるものを100冊を選んで、第1章「まず、あなた自身から」から第12章「さわりで読む」まで12の章に分けて紹介したもので、1冊あたり3~5ページにわたってしっかり解説されているため、500ページを超える大著となっています。

 著者らによれば、2007年にアメリカで出版されたビジネス書の数は1万1千で、1冊ずつ積み重ねたら、9階建てのビルの高さに相当するとのことです。著者らがそれらの中からどういう基準で100冊を選んだかと言うと、まず「アイデアの質」を重視したとのことです。更に、「現代ビジネス社会で働く人にとって、そのアイデアが適用できるか」も重視し、最後に「読み易さ」を基準にしたとのことで、フレデリック・テーラーが20世紀の変わり目に提唱した「労働者は組織という機械における交換可能な歯車にすぎない」といった考え方は、現代は個人の多様性が職場に強みをもたらすという考え方に置き代わっているためテーラーは外し(個人的には、テーラーはそのことだけ言ったわけではないと思うが)、アダム・スミスの『国富論』などは、「読み易さ」重視の観点から外したとのことです(全体的には、所謂"準古典"系はあるが、ストレートな"古典"は取り上げていない)。

アメリカCEOのベストビジネス書1002.jpg 経営学者による著書だけでなく、企業経営者によるものも幾つか含まれているのが特徴で(「伝記から選ぶ」という章がある)、但し、成功体験であっても現代の世の中で応用されにくいものは除外したとのこと、自己啓発的な本も若干含まれていますが(個人的にはあまり読まないなあ)、全体としてバランス良く、ドラッカーの著者を複数取り上げる中で『経営者の条件』などを紹介しているところなど、個人的には悪くないと思いました。

 著者のバックグランドやその本が書かれた経緯も述べられていて、ただ内容解説するだけでなく、著者らの観点から"書評"的に書かれている箇所もあり、本書自体が読み物として読めるようになっています。また、他の啓蒙家や経営思想家が述べていることと一致している点やそこから派生している点、或いは相反している点などの記述もあり、自ずと他の本と関連付けながら読めるのも本書の特長です。

 100冊も紹介されて、これだけでお腹一杯という印象もありますが、本書そのものを味わえばいいのではないかなあと。それで尚且つ、紹介されている本を読んでみたいと思えば読めばいいという感じでしょうか。本書によってその著書への関心が湧けば、著者のその他の本や同系の著者の本へと読み進んでいってもいいわけで、解説の終わりに「次に読むべきところは?」「さらに読むべき本は?」という項目で、解説した以外の読み所の箇所や同じ著者の関連書籍をガイドしているのも丁寧であると思いました。

 以下、紹介書籍の一部を示しますが、本の括り方(ジャンル分け)や小見出しの付け方にも工夫があるように思いました。

第1章 まず、あなた自身から
フロー体験 喜びの現象学1.jpg・忘我の境地こそフローの感覚 『フロー体験 喜びの現象学
・まず、必要な行動を明確にせよ 『ストレスフリーの整理術』
経営者の条件 ドラッカー 旧版.jpg経営者の条件 ドラッカー.jpg・リーダーにも新人にも必須のビジネス指南書 『経営者の条件』 ほか
・スターをはぐくむ「九つの戦略」 『9つの黄金測』
・成功を創造する習慣 『7つの習慣』
・「人間関係」を説いた不朽の大ベストセラー 『人を動かす』
・ビジネスで生き残り、成功する近道とは 『ビジネス人間学』 ほか

第2章 リーダーシップとは
・生まれながらのリーダーはいない 『リーダーになる』
・実話に学ぶリーダーシップの原則 『九つの決断』
リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版].jpg・豊富なリサーチのもと「優れたリーダー像」を追求 『リーダーシップ・チャレンジ
響き合うリーダーシップ.jpg・ハーマンミラーの元CEOが語る真のリーダーの意義 『響き合うリーダーシップ
・「究極のリーダーシップ」をフィクションで描いた一冊 『LEAP!』
・ジャック・ウェルチは、いかにしてGEを変化させたのか? 『ジャック・ウェルチのGE革命』
・企業変革を成功させる秘訣を八段階のプロセスで指南 『企業変革力』 ほか
 
第3章 戦略を考える
エクセレント・カンパニー_.jpg・超優良企業の観察をもとに提言された時代を超える企業ビジョン『エクセレント・カンパニー
・平均的企業が大きく飛躍する法則 『ビジョナリー・カンパニー2.jpgビジョナリー・カンパニー2
・巨大企業も脅かす新技術への対応とは 『イノベーションのジレンマ』
・「戦略転換点」を見定めて危機を乗り越えよ 『インテル戦略転換』
・IBM再建に見る戦略的措置 『巨象も踊る.jpg巨象も踊る
・サービス業の必勝戦略集 『成功企業のサービス戦略』
・目標達成には実行力が不可欠だ 『経営は「実行」 2010 - コピー.jpg経営は「実行」』ほか

第4章 販売とマーケティングのコツ
・セールスと消費における人間心理のメカニズム 『影響力の武器』
・モノと情報の過剰供給社会では「ポジショニングが不可欠だ」 『ポジショニング戦略』 ほか

第5章 ルールを知って、スコアをつける
・賢い人のための経済学入門 『裸の経済学』
・会計の基本ルールと問題点をわかりやすく示した書 『Financial Inteligence』 ほか
キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード.jpg・戦略と実行を結びつける、バランス・スコアカードの構築法 『バランス・スコアカード

第6章 マネジメントは組織運営の要諦
・ドラッカー作品群の"ベスト盤" 『チェンジ・リーダーの条件』『プロフェッショナルの条件』『イノベーターの条件』
・徹底的にムダを排除する、トヨタの生産方式に学べ 『トヨタ生産方式』 ほか

第7章 伝記から学ぶ
・石油王ロックフェラーの貪欲かつ人道的な生涯 『タイタン(上・下)』
・GMの地位を引き上げた偉大な経営者の記録 『GMとともに』 ほか

第8章 起業家精神
・起業のノウハウを軽妙な語り口で説いた1冊 『起業成功マニュアル』
・スモールビジネスで成功する基本ルールとは 『はじめの一歩を踏み出そう』 ほか

第9章 物語(ナラティブ)
・厳格な戦略で築き上げたマクドナルドの成功物語 『マクドナルド』
・鉄鋼業界で生き残りをかけた、スリルとロマンあふれるストーリー 『鉄鋼サバイバル』 ほか

第10章 イノベーションと創造性
・アイデアを形にする「ベストプラクティス」の精神 『発想する会社!』
・創造的な自己発掘のための実践的ガイドブック 『A Whack on the Side of the Head.gif頭脳(あたま)を鍛える練習帳』 ほか

第11章 ビッグアイデアは未来に続く
・人々のライフスタイルはどのように変化していくのか 『ビジネスマン価値逆転の時代』
・コントロールを手放すことが進歩へのカギだ 『「複雑系」を超えて』 ほか

第12章 さわりで読む
・キャリアの移行期を乗り切る実用的な指針 『ハーバード・ビジネス式マネジメント』
ロバート・タウンゼンド組織に活を入れろil2.png・会社を再建させたCEOが語る経営のイロハと企業理念 『組織に活を入れろ』 ほか
  

  

《読書MEMO》
全100冊
YOU
 ●フロー体験 喜びの現象学 Mihaly Csikszentmihalyi  (Flow)
 ・はじめてのGTD ストレスフリーの整理術 David Allen(Getting Things Done:The Art of Stress-Free Productivity)
 ●経営者の条件 Peter F. Drucker  (The Effective)
 ・9つの黄金則 Robert E. Kelley  (How to Be a Star at Work)
 ・7つの習慣 Stephen R. Covey  (The 7 Habits of Highly Effective People)
 ・人を動かす Dale Carnegie  (How to Win Friends and Influence People)
 ・ビジネス人間学 Harvey Mackay  (Swim with the Sharks Without Being Eaten Alive)
 ・The Power of Intuition Gary Klein Ph.D.
 ・このつまらない仕事を辞めたら、僕の人生は変わるのだろうか?Po Bronson(What Should I Do with My Life?)
 ・きみの行く道 Dr.Seuss  (Oh, the Places You'll Go!)
 ・ビジネスマンに贈る最後の言葉 Eugene O'Kelly  (Chasing Daylight)
LEADERSHIP
 ・リーダーになる Warren Bennis  (On Becoming a Leader)
 ・九つの決断 Michael Useem   (The Leadership Moment)
 ●The Leadership Challenge James M. Kouzes, Barry Z. Posner
 ●響き合うリーダーシップ Max Depree  (Leadership Is an Art)
 ・LEAP! Steve Farber  (The Radical Leap)
 ・ジャック・ウェルチのGE革命 Noel M.Tichy, S. Sherman(Control Your Destiny or Someone Else Will)
 ・企業変革力 John P. Kotter  (Leading Change)
 ・Questions of Character Joseph L., Jr. Badaracco
 ・The Story Factor Annette Simmons
 ・Never Give In! Winston S. Churchill
STRATEGY
 ●エクセレント・カンパニー Thomas J. Peters, Robert H. Waterman  (In Search of Excellence)
 ●ビジョナリーカンパニー2 Jim Collins  (Good to Great)
 ・イノベーションのジレンマ Clayton M. Christensen  (The Innovator's Dilemma)
 ・インテルの戦略転換 Andrew S. Grove  (Only the Paranoid Survive)
 ●巨象も踊る Louis Gerstner  (Who Says Elephants Can't Dance?)
 ・成功企業のサービス戦略 Leonard L. Berry  (Discovering the Soul of Service)
 ●経営は「実行」 Larry Bossidy, Ram Charan  (Execution)
 ・コア・コンピタンス経営 Gary Hamel, C. K. Prahalad  (Competing for the Future)
SALES AND MARKETING
 ・影響力の武器 Robert B. Cialdini  (influence)
 ・ポジショニング戦略 Al Ries, Jack Trout  (Positioning)
 ・なぜみんなスターバックスに行きたがるのか? Scott Bedbury, Stephen Fenichell  (A New Brand World)
 ・逆転のサービス発想法 Harry Beckwith  (Selling the Invisible)
 ・ザグを探せ! Marty Neumeier  (ZAG)
 ・キャズム Geoffrey A. Moore  (Crossing the Chasm)
 ・販売成約120の秘訣 Zig Ziglar  (Secrets Of Closing The Sale)
 ・めざせ!レインメーカー Jeffrey J. Fox  (How to Become a Rainmaker)
 ・なぜこの店で買ってしまうのか Paco Underhill  (Why We Buy)
 ・経験経済 B. Joseph Pine, James H. Gilmore   (The Experience Economy)
 ・「紫の牛」を売れ! Seth Godin  (Purple Cow)
 ・急に売れ始めるにはワケがある Malcolm Gladwell  (The Tipping Point)
RULE AND SCOREKEEPING
 ・裸の経済学 Charles Wheelan  (Naked Economics)
 ・Financial Intelligence Karen Berman, Joe Knight
 ●バランス・スコアカード Robert S. Kaplan, David P. Norton  (The Balanced Scorecard)
MANAGEMENT
 ・チェンジ・リーダーの条件 Peter F. Drucker  (The Essential Drucker)
 ・プロフェッショナルの条件 Peter F. Drucker  (The Essential Drucker)
 ・イノベーターの条件 Peter F. Drucker  (The Essential Drucker)
 ・Out of the Crisis W. Edwards Deming
 ・トヨタ生産方式 大野 耐一  (Toyota Production System)
 ・リエンジニアリング革命 Michael Hammer, James Champy  (Reengineering the Corporation)
 ・ザ・ゴール Eliyahu M. Goldratt, Jeff Cox  (The Goal)
 ・その仕事は利益につながっていますか? Jack Stack  (The Great Game of Business)
 ・まず、ルールを破れ Marcus Buckingham, Curt Coffman  (First, Break All The Rules)
 ・さあ、才能(じぶん)に目覚めよう Marcus Buckingham, Donald O. Clifton(Now, Discover Your Strengths)
 ・実行力不全 Jeffrey Pfeffer, Robert I. Sutton  (The Knowing-Doing Gap)
 ・あなたのチームは、機能してますか? Patrick M. Lencioni  (The Five Dysfunctions of a Team)
 ・会議が変わる6つの帽子 Edward de Bono  (Six Thinking Hats)
BIOGRAPHIES
 ・タイタン〈上・下〉 Ron Chernow  (Titan)
 ・GMとともに Alfred Sloan  (My Years with General Motors)
 ・HPウェイ David Packard  (The HP Way)
 ・キャサリン・グラハム わが人生 Katharine Graham  (Personal History)
 ・真実の瞬間 Jan Carlzon  (Moments of Truth)
 ・私のウォルマート商法 Sam Walton  (Sam Walton)
 ・ヴァージン―僕は世界を変えていく Richard Branson  (Losing My Virginity)
ENTREPRENEURSHIP
 ・完全網羅 起業成功マニュアル Guy Kawasaki  (The Art of the Start)
 ・はじめの一歩を踏み出そう Michael E. Gerber  (The E-Myth Revisited)
 ・The Republic of Tea Mel Ziegler, etc.
 ・The Partnership Charter David Gage
 ・ビジネスを育てる Paul Hawken  (Growing a Business)
 ・Guerrilla Marketing Jay Conrad Levinson
 ・ランディ・コミサー Randy Kosimar  (The Monk and the Riddle)
NARRATIVE
 ・マクドナルド John F. Love  (McDonald's)
 ・American Steel Richard Preston
 ・いまだ目標に達せず David Dorsey  (The Force)
 ・The Smartest Guys in the Room Bethany McLean, Peter Elkind
 ・最強ヘッジファンドLTCMの興亡 Roger Lowenstein  (When Genius Failed)
 ・マネー・ボール Michael Lewis  (Moneyball)
INNOVATION AND CREATIVITY
 ・Orbiting the Giant Hairball Gordon MacKenzie
 ・発想する会社! Thomas Kelley  (The Art of Innovation)
 ・Jump Start Your Business Brain Doug Hall
 ●頭脳(あたま)を鍛える練習帳 Roger von Oech  (A Whack on the Side of the Head)
 ・クリエイティブな習慣 Twyla Tharp  (The Creative Habit)
 ・チャンスを広げる思考トレーニング Rosamund Stone Zander, Benjamin Zander (The Art of Possibility)
BIG IDEAS
 ・ビジネスマン価値逆転の時代 Charles Handy  (The Age of Unreason)
 ・「複雑系」を超えて Kevin Kelly  (Out Of Control)
 ・クリエイティブ資本論 Richard Florida  (The Rise of the Creative Class)
 ・EQ―こころの知能指数 Daniel Goleman  (Emotional Intelligence)
 ・Driven Paul R. Lawrence, Nitin Nohria
 ・人はだれでもエンジニア Henry Petroski  (To Engineer Is Human)
 ・「みんなの意見」は案外正しい James Surowiecki  (The Wisdom of Crowds)
 ・アイデアのちから Dan Heath, Chip Heath  (Made to Stick)
TAKEAWAYS
 ・ハーバード・ビジネス式マネジメント Michael Watkins  (The First 90 Days)
 ●組織に活を入れろ Robert C. Townsend  (Up the Organization)
 ・Beyond the Core Chris Zook
 ・営業の赤本 Jeffrey Gitomer  (Jeffrey Gitomer's Little Red Book of Selling)
 ・ビジネスの極意は、インドの露天商に学べ! Ram Charan  (What the CEO Wants You to Know)
 ・The Team Handbook Barbara J. Streibel, Brian L. Joiner, Peter R. Scholtes
 ・IBMを世界的企業にしたワトソンJr.の言葉 Thomas J., Jr. Watson  (A Business and Its Beliefs)
 ・セレンディピティ Bo Peabody  (Lucky or Smart?)
 ・レクサスとオリーブの木(上・下) Thomas L. Friedman  (The Lexus and the Olive Tree)
 ・アイデアのおもちゃ箱 Michael Michalko  (Thinkertoys)
 ・投資の科学 Michael J. Mauboussin  (More Than You Know)

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紙質もレイアウトもいい。選本も要所を押さえていて、解説もこなれている。

世界で最も重要なビジネス書.jpg世界で最も重要なビジネス書 .JPG   あらすじで読む世界のビジネス名著.jpg
世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』['05年/ダイヤモンド社] 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』['04年/総合法令]
『世界で最も重要なビジネス書 』.jpg
 先に取り上げた『あらすじで読む 世界のビジネス名著』('04年/総合法令)が、全190ぺージ余りの中で世界のMBAカリキュラムでも必読テキストとなっているドラッカー、コトラー、ポーターなど、ビジネス書の名著とされる定番28冊を紹介したものであったのに対し、こちらは全350ページの中で、ビジネス名著77冊を、「思想と人間」「戦略と理論」「マネジメントと組織」の3部に分け、1冊あたり4ページから5ページを割いて紹介し紹介・解説しています。

 ダイヤモンド社編となっていますが、英国ブルームズベリー社(確か「ハリー・ポッター」シリーズの版元のはず)のオリジナルの文章にダイヤモンド社の編集者が類書紹介(エディターズ・チョイス)を追加したもので、取り上げている本は『国富論』(アダム・スミス)、『資本論」(マルクス)、『君主論』(マキャベリ)などの歴史的書物から、『人を動かす』(カーネギー)、『現代の経営』(ドラッカー)などの古典的ビジネス書、『ビジョナリー・カンパニー』(コリンズ)、『ザ・ゴール』(ゴールドラット)など比較的近年ものまで(と言っても、原著が刊行されて10年経っているのだが)幅広く、『五輪書』(宮本武蔵)などもラインアップされています。

 各解説は「GETTING STARTED」(主要テーマについてのイントロ)、「CONTRIBUTION」(ラーニングポイント)、「CONTEXT」(その本の影響や意義)で構成され、全編を通して読み物のように読め、また、そうして読んでいくと、一見拡散気味に思えたラインアップが自然と流れとして繋がってくるという印象でした。
 
 2段組みですが行間はゆったりしていてたいへん読み易く、デザインやレイアウトも凝っていて紙質も良く、保存版として手元に置いておくのにいいです。その上、気持ち良く読めるという印象で(このレイアウトと紙質は、少なくとも本書自体への読書欲は増進させる効果はある)、各冒頭の1ページにある書影はくっきりと大きく、また、著者略歴、翻訳・原著のリソース、内容を一言で表したキャッチフレーズ、難易度、概説なども同じページ内に纏められているので、何だかもう手元に本があるような気分にもなってしまいます。

 選本も要所を押さえているように思え、解説もよくこなれているため、個人的には、本書1冊を読んでそれなりに満足してしまった感も。今まで読んだことがある本の振り返りにもなったし、ある程度、"時代限定"的に評価の定まっている本(今それほどこぞって読むようなものでもない本)もあるし...と言うと、何だか全てを読み切れないことの負け惜しみみたいですが、こうした本があるということだけでも知っておくことの意味はあるのではないかと思います(教養とは、自分が何を知らないかを知っていることである、という説もあるし)。

《読書MEMO》
●紹介書籍
第1部 思想と人間
『IBMを世界的企業にしたワトソンJr.の言葉 (Eijipress business classics) 』
『HPウェイ - シリコンバレーの夜明け』 (日経ビジネス人文庫)
『新訳 君主論』 (中公文庫BIBLIO)
『[新訳]経験経済』
『経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上・下〉』 (岩波文庫)
『国富論』 (岩波文庫)
『雇用・利子および貨幣の一般理論』
『ザ チェンジ マスターズ―21世紀への企業変革者たち』
『産業文明における人間問題―オーソン実験とその展開』 (1967年)
『GMとともに』
『自然資本の経済―「成長の限界」を突破する新産業革命』
『資本論』
『スモール イズ ビューティフル』 (講談社学術文庫)
『セムラーイズム 全員参加の経営革命 (ソフトバンク文庫)
『組織のなかの人間―オーガニゼーション・マン』 (現代社会科学叢書)
『第三の波』 (中公文庫 M 178-3)
『断絶の時代―いま起こっていることの本質』
『人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ』
『ハーバード流交渉術』.jpgハーバード流交渉術』 (知的生きかた文庫)
『ビーイング・デジタル - ビットの時代』新装版
ピーターの法則.jpgピーターの法則 創造的無能のすすめ
『人を動かす』新装版
プロフェッショナルマネジャー ハロルド ジェニーン.jpgプロフェッショナルマネジャー
『ボーダレス・ワールド』
『MADE IN JAPAN(メイド・イン・ジャパン)』
『メガトレンド』
『20世紀の巨人事業家ヘンリー・フォード著作集』

第2部 戦略と理論
エクセレント・カンパニー_.jpgエクセレント・カンパニー
『企業価値評価 第4版 【上】、企業価値評価 第4版 【下】』
『企業生命力』
『企業戦略論』
企業の人間的側面.jpg企業の人間的側面―統合と自己統制による経営
『競争の戦略』
『国の競争優位〈上〉、国の競争優位〈下〉』
『ゲーム理論で勝つ経営 競争と協調のコーペティション戦略』 日経ビジネス人文庫
『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』
『五輪書』 (岩波文庫)
『ザ・ゴール― 企業の究極の目的とは何か』
『シックスシグマ・ブレイクスルー戦略―高収益を生む経営品質をいかに築くか』
『シナリオ・プランニングの技法』 (Best solution)
『真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか』
『ストラテジック・マインド―変革期の企業戦略論』
『戦争論』〈上・下〉』 (岩波文庫)
『戦略計画 創造的破壊の時代』
『戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック』 (Best solution)
ビジョナリー・カンパニー1.jpg『戦略の原理―独創的なポジショニングが競争優位を生む』
『孫子』 (講談社学術文庫)
『地球市場時代の企業戦略―トランスナショナル・マネジメントの構築』
ビジョナリー・カンパニー―時代を超える生存の原則
『複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』 (新潮文庫)
『マーケティングの革新―未来戦略の新視点』
『マッキンゼー 経営の本質 意思と仕組み』

第3部 マネジメントと組織
1分間マネジャー.jpg1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!
『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』
科学的管理法.JPG[新訳]科学的管理法
期待される管理者像.jpg期待される管理者像―新・グリッド理論
新訳 経営者の役割_.jpg経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)
『経営の行動科学』 (1984年)
『マックス・ウェーバー―経済と社会』     
ドラッカー名著集2.jpg現代の経営[上・下]
『コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略』
最強組織の法則 - 原著1990.jpg最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か
産業ならびに一般の管理2.jpg産業ならびに一般の管理』 (1985年)
ディルバートの法則011.jpgディルバートの法則
『ジャパニーズ・マネジメント』(講談社文庫)
『組織行動の原理―動態的管理』
『組織は戦略に従う』
『知識構築企業』
『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』
『ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング』 (日経ビジネス人文庫)
『21世紀の経営リーダーシップ―グローバル企業の生き残り戦略』
パーキンソンの法則.jpgパーキンソンの法則』 (至誠堂選書)
『ビジネスマン価値逆転の時代―組織とライフスタイル創り直せ』
マネジャーの仕事.jpgマネジャーの仕事』
『リエンジニアリング革命―企業を根本から変える業務革新』 (日経ビジネス人文庫)
リーダーシップの王道.jpgリーダーシップの王道
『リーダーになる』[増補改訂版]

  

  
   

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紹介冊数は多くないが、その分解説は丁寧。選本も手堅く、実際にその著書を読む時に使える。
あらすじで読む世界のビジネス名著.jpgあらすじで読む世界のビジネス名著2.jpg      あらすじで読む 世界のビジネス名著』6.JPG
あらすじで読む 世界のビジネス名著』['04年/総合法令]/『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』['05年/ダイヤモンド社]

 世界のMBAカリキュラムでも必読テキストとなっているドラッカー、コトラー、ポーターなど、ビジネス書の名著とされる定番28冊のエッセンスを抜き出して1冊にしたもので(全195ページ)、1冊あたり6ページの割り振りの中で、冒頭のページの「キーワード」「機能別分類」「キャリア職位別分類」で、その本の理論や主張のキーとなる言葉、どういった領域のことが述べられているのか、初級者・中級者(マネージャー)・上級者(シニアマネージャー)の何れの読者層向きか示しています。

 本文各3ページはそれぞれ「1分解説」「要旨」「読書メモ」から成り、「1分解説」で、なぜその本がバイブルとされるのか、その経緯や背景を説明し、「要旨」で、著者がその本で伝えているメッセージを要約し、「読書メモ」で、そのメッセージで特に核となる部分、メッセージを補足する重要な事柄について、読書メモ的に抜書き整理しています。

そして、最後に見開き2ページの「目次体系マップ」があり、目次から各章の構成と関連を、論旨の流れに合わせてツリー状に図説するとともに、必要に応じてその要約が示されていますが(この部分が、タイトルの「あらすじで読む」に呼応しているとも言える)、全体に分かり易く、また使い勝手よく纏められているように思います。

ただ単に内容をざっと知るだけならば最初の4ページまででもいいのですが、実際にその著書を読むとなると、最後に見開き2ページを割いている「目次体系マップ」がかなり役立つように思われます。

章の構成としては、中心となる部分を「ヒト(HR/組織行動)」「モノ(マーケティング)」「カネ(会計・財務)」「戦略」という分け方にしているのが特徴で、各章5冊から7冊ずつ取り上げています。

 1冊ずつじっくり、しかも分かり易く紹介しているという印象。しかも、ビジネスの広い範囲に渡って取り上げているため、28冊という限られた冊数になっていますが、「名著」の選定に関しては、編者がグローバルなMBA同窓組織から生まれたプロジェクト支援組織であるだけに、MBA基準での手堅いラインアップという印象を受けた一方で、'04年の刊行ということで、当時のトレンドを反映している面も一部には感じられました(今読んでも"ハズレ"ということではないのでしょうが)。。

《読書MEMO》
●紹介書籍
第1章:ゼネラル・マネジメント
ドラッカー名著集2.jpgドラッカー名著集3.jpg新訳 現代の経営(上・下)』P・F・ドラッカー

第2章:論理的思考
『考える技術・書く技術』バーバラ・ミント

第3章:技術経営・アントレプレナーシップ
『増補改訂版 イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン
『イノベーションの解』クレイトン・クリステンセン他
『ベンチャー創造の理論と戦略』ジェフリー・A・ティモンズ

第4章:ヒト(HR/組織行動)
ハーバードで教える人材戦略2.jpgハーバードで教える人材戦略』M・ビアー+B・スペクター他
【新版】組織行動のマネジメント.jpg組織行動のマネジメント 旧.jpg組織行動のマネジメント』ステファン・P・ロビンス
コンピテンシーマネジメントの展開.gifコンピテンシー・マネジメントの展開』ライル・M・スペンサー他
最強組織の法則 - 原著1990.jpg最強組織の法則』ピーター・M・センゲ
『企業変革力』ジョン・P・コッター

第5章:モノ(マーケティング)
『コトラーのマーケティング・マネジメント ミレニアム版』フィリップ・コトラー
『顧客ロイヤルティのマネジメント』フレデリック・F・ライクヘルド
『サービスマーケティング原理』クリストファー・ラブロック他
『ブランド・エクイティ戦略』D・A・アーカー

第6章:カネ(会計・財務)
『企業分析入門 第二版』K・G・パレプ+P・M・ヒーリー他
『企業価値評価』マッキンゼー・アンド・カンパニー+トム・コープランド他
『コーポレイト・ファイナンス(上・下)第六版』リチャード・ブリーリー他
『ABCマネジメント革命』R・クーパー+R・S・カプラン他
『EVA創造の経営』G・ベネット・スチュワートIII
『決定版リアル・オプション』トム・コープランド他
『リスク 神々への反逆(上・下)』ピーター・バーンスタイン

第7章:戦略
『新訂 競争の戦略』M・E・ポーター
『競争優位の戦略』M・E・ポーター
『コア・コンピタンス経営』ゲイリー・ハメル+C・K・プラハラード
『知識創造企業』野中郁次郎+竹内弘高
『ゲーム理論で勝つ経営』A・ブランデンバーガー&B・ネイルバフ
ビジョナリー・カンパニー1.jpgビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・C・コリンズ他
キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード.jpgキャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード』ロバート・S・キャプラン他
 
 

 

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先輩が後輩に向けて説教調で自身の成功体験を語るパターンとちょっと似てしまっている。

世界で勝つグローバル人材の条件.jpg世界で勝つグローバル人材の条件』(2013/03 幻冬舎)

 世界最大の金融組織シティ・グループで20年間にわたりグローバル市場を舞台に活躍し、シティのトップ0.1%の経営陣にも選ばれたという著者が、ビジネスパーソンに向けて、弱肉強食のグローバル市場において日本人として活躍するための条件(心得)を説いた本です(著者は現在、国際金融コンサルタント乃至財務アドバイザーとして活躍しているらしい)。

 「持つべき武器は日本人としてのアイデンティティ」とし、「日本人に必要なサムライ魂の鍛え方」とは何かといった具合に、「日本人」の強みを強調している点が類書と比べた際の特徴と言えば特徴。「日本人としてのアイデンティティ」が大事との考え方に異論はないし、中身は読んで元気づけられる要素も多かったけれど、一方で、「自分の頭で考え、自分の言葉で伝え、自分で動く」「賢明であれ」「強靭であれ」「感性豊であれ」といった言葉は、月並みと言えば月並との印象を持ちました。

 自身の経験に裏付けされてのそれらの言葉とみれば、それなりに説得力はないことはないですが、金融市場も、またそこで働く日本人人材の市場も、著者がキャリアの階段を駆け昇っていた頃と今現在では大きく異なっていると思われますし、誰もが著者と同じようなキャリアを歩めるわけでもなく、先輩が後輩に向けて、説教調みたいな感じで自身の成功体験を語るパターンとちょっと似てしまっている印象も受けました(一般論に落とし込む段階で全て精神論になってしまっている)。

世界で通用するリーダーシップ2.jpg戦略人事のビジョン.jpg ビジネス啓蒙書として読む分にはまあまあですが、リーダーシップを学ぶという観点からみれば、こうした個人の成功譚を1つ1つ読むのは、あまり効率が良いことのように思えません(と言いつつ、GEの日本法人社長からノバルディス ファーマの日本法人社長に転じた三谷宏幸氏の 『世界で通用するリーダーシップ』 ('12年/東洋経済新報社) には★★★★☆の評価をつけたのだが、三谷氏は、執筆にあたって「自慢話」にならないよう配慮したとインタビューで語っている。コンサルタントとして独立したわけではないから、余計な自己宣伝は要らないというスタンスで書かれているという意味では、同じくGEからLIXILグループの執行役副社長に転じた八木洋介氏の 『戦略人事のビジョン―制度で縛るな、ストーリーを語れ』 ('12年/光文社新書)についても言える(評価★★★★★))。

 「グローバル人材の条件」というタイトルテーマに沿って本書の内容を振り返ると、逆に「素質」と「環境」で決まるのかなという思いにもさせられなくもなく、キャリア・デザイン支援や人材育成支援も今後の著者の事業ドメインに入っているようなので、その辺りもやや気になりました。

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評判の良い人の方の3つの重要ポイントを示す。これって〈コンピテンシー〉だなと。

会社人生は「評判」で決まるes.jpg会社人生は「評判」で決まる.jpg  相原 孝夫.jpg 相原 孝夫 氏
会社人生は「評判」で決まる (日経プレミアシリーズ)』['12年]

 人事コンサルタントである著者は、企業内では「評価」に基づく人事が前提となっているにもかかわらず、「評判」が"裏スタンダード"として大きな影響力を発揮していると、本書で述べています。評価が高くても、たった一つの悪評で、彼には人望がないとされて、昇進が見送られたりすることもあるとしていますが、自社内を見回して、思い当たるフシのある人は多いのではないでしょうか。

 著者は本書で、評判がどのように形成され、どのような特徴を持つものなのかを解説するとともに、評判の善し悪しを分ける3つの重要ポイントを示しています。それによれば、悪い評判につながる傾向が強いと考えられるのは、1番目が、自分の力を誤認している、自信過剰な「ナルシスト」、2番目が、自分自身を省みないで、他人のことはとやかく言う「評論家」、3番目が、自分の立場を理解しておらず、勘違いの大きい「分不相応な人」であると。

 評判の良い人の方はこの裏返しとなり、1番目が、自分自身をよく分かっており「他者への十分な配慮のできる人」、2番目が、口は出すが手は出さない「評論家」の逆で、労をいとわない「実行力の人」、3番目が、自分の立場や役割を正しく理解し、それに基づいた「本質的な役割の果たせる人」であるとしています。

 また、著者がこれまで仕事上行ってきた好業績者に対する数多くのインタビューから、業種・職種を問わず、それらの人たちに見られる重要な共通点として、それらの人たちが20代~30代前半という時期に、脇目も振らずに目の前の仕事に没頭してきたことを挙げ、社外の人脈づくりに一生懸命であったり、資格取得に励んだりしてきた人たちではないとしています。

 数年前から若年層の間で"自己ブランド化"が流行っているようですが、著者は、見えやすい特徴をアピールすることに重点が置かれる「パーソナル・ブランディング」は、結果として、現在の仕事や組織と乖離してしまうということが起こりがちであり、今後のキャリアを切り拓くための実力を身に付けようとするならば、現在の仕事に没頭し、組織とより密着度を高めていく方向へ向かわなければならないとしています。

 つまり、社外へ向けての「パーソナル・ブランディング」ではなく、社内での自分自身の価値を高め、同時に評判を高めていく「パーソナル・レピュテーション・マネジメント」こそが、将来のキャリアを切り拓くことにつながるというのが本書の趣旨ですが、近年言われる「エンプロイアビリティ」とか「自律的キャリア」といった言葉には、「社外に向けて」「業界内でも通用する」といったイメージが付きまといがちであるため、こうした対比のさせ方は興味深く思いました。

 全体を通して具体例を踏まえ、分かりやすく書かれており、とりわけ若いビジネスパーソンには、単なる処世術・出世術ではない示唆を与えるようになっていると思いました(処世術・出世術として読んでしまう人も、もしかしたらいるかもしれないが、そうした人には物足りないかも。元々"人望"って、そう簡単に意図して形成されるものでもないと思うけれどね)。

 人事部の人から見れば、「好業績者に対するインタビューから」という箇所で、これって〈コンピテンシー〉だな、と思い当たる人も多いはず。実際、著者には、〈コンピテンシー〉や〈360°評価〉について書かれた著作もあります。

 〈コンピテンシー〉って、最近今一つ言われなくなった気がしますが、「行動評価」という風に形を変えて、定着している企業には定着しているのではないでしょうか。本来は「(性格に近いところの)能力」を指すものであったはずが、従来の「業績・能力・情意」の三大効果要素のうち、「能力」とではなく「情意」と置き換わり、「性格」を評価するのではなく、そうした「行動」をしたかどうか評価するようになっているというのが、"日本的コンピテンシー"の特徴ではないかと、個人的には思います(結局〈コンピテンシー〉って、本来は人物評価なんだよなあ)。

 一般のビジネスパーソンに向けて書かれた本ですが、著者がこれを人事部に向けて書くとすれば、「他者への十分な配慮のできる人」「実行力の人」「本質的な役割の果たせる人」という項目を、考課要素(とりわけ昇格・昇進において)に織り込みましょう、ということになるのかな(その方が、本来的な〈コンピテンシー〉に近いかも)。そうしたら、「評価」と「評判」がより一致することにも繋がるのだろうけれども...。

 但し、本書にもそうした事例があるように、日本企業の場合、昇格・昇進においては、「パーソナル・レピュテーション」のチェックが比較的"自動装置"的に機能し、結果をコントロールしてきたような気もします。

 むしろ著者自身も、「パーソナル・レピュテーション」そのもの自体を考課要素とすべきであるという考えではなく、「評価」と「評判」が乖離しないことが望ましいのであって、その手法として、〈コンピテンシー〉の考え方が補完的に生かせるという考え方なのだろうけれども、本書の対象読者層が一般ビジネスパーソンであるため、そのあたりまで踏み込んでいないのが、人事部目線でみた場合、やや物足りないか。

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グローバル人材としての「マインドセット」とは必ずしも目新しいものではないのが興味深い。

なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか.jpg  なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか2.jpg ドミニク・テュルパン.jpg ドミニク・テュルパン
 『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか―世界の先進企業に学ぶリーダー育成法

 スイスに本拠を置くビジネススクールIMDの学長と、その日本拠点の代表による共著で、このIMDのミッションは、グローバル・リーダーの開発であるとのことです。

 全5章構成の第1章では、マクロ的な観点からさまざまなデータを示すことで、世界において、日本および日本企業がいかにグローバル化の流れにたち遅れているかを示しています(IMDの調査による世界競争力ランキングでは、日本はバブル期には世界競争力第1位だったのが、2011年版調査では59カ国中26位とのこと)。

 さらに第2章では、今度はややミクロな観点から、日本企業が「グローバル化」につまずいた要因を取り上げるとともに、第3章では、IMDが社員教育等で関与する各国の企業のグローバル人材育成の取り組みや、いくつかの日本企業の事例を紹介しています。

 つまずきの要因としては、①もはや競争優位ではない「高品質」にこだわり続けた、②生態系の構築が肝心なのにモノしか見てこなかった、②地域規模の長期戦略が曖昧で、取り組みが遅れた、④生産現場以外のマネジメントがうまくできなかった、の4点を挙げ、具体的事例と併せて解説しています。

 さらにその奥には、ある種の視野狭窄に陥って本当の土俵での戦略的な取り組みができていないことと、常にオープンで何事にも好奇心の心の扉を開き、他者や異文化を尊重できる、そうしたマインドセットを持った人材が少なく、新卒大卒男性を大量採用して会社のカラーに染めていく人材育成を続けてきたために、多様な人材が欠如していることの2つの課題が見えてくるとしています。

 ここまでの分析には説得力がありましたが、第4章では、グローバル・リーダーの必要条件として「グローバル・マインドセット」という概念をとりあげ、IMDが考える「マインドセット」とは、「異なる社会、文化システムから来る人たちやグループに対して影響を与えることを可能にするような思考」のことであるとしていますが、おそらくこの部分が本書の中核と言えるかもしれません。

 「マインドセット」は体験と学習によって高めることが可能であるとするとともに、IMDが経営幹部研修などにおいて活用している、個人の行動特性をはかるアセスメントツール(グローバル・コンピテンシー・インベントリー)は、「認知管理力」「関係構築力」「自己管理力」の3つの軸から成っているとしています。

 これらをバランスよく兼ね備えているのがグローブトロッター(グローバル人材)であり、3要素の何れかが欠けた場合、あるいは1要素しか満たさない場合、どのような行動特性が現れるかが、分かりやすく解説されていますが、これがなかなか面白い。

  「認知管理力」「関係構築力」のみ ⇒ 日和見主義者
  「関係構築力」「自己管理力」のみ ⇒ 調整役
  「自己管理力」「認知管理力」のみ ⇒ 冒険家
  「認知管理力」のみ ⇒ 観察者
  「自己管理力」のみ ⇒ 孤立主義者
  「関係構築力」のみ ⇒ 異業種交流好き
  何も無しみ ⇒ ひきこもり
 といった具合です。

 第5章では、グローバル人材育成のために日本企業ができることとして、人事異動の効果的活用や幹部教育を手厚くすること、人材育成は日本人も外国人も対象とすることなど、5つの提案をしています(最後に「海外ビジネススクールを有効に活用せよ」とある)。

 部分部分は面白く読め、特に第4章、第5章が、単に要素分析にとどまらず、今日本企業で求められる施策にまで踏み込んで書かれている点は評価できると思いますが、一方で、このあたりの踏み込みがやや浅く抽象的な印象もある...。

 全体としてよく纏まっているし、大いに啓蒙的ではあるけれど、具体策としては、結局は社員にいろいろと「経験を積ませろ」というところに落ち着くのかなという気も。

 考えてみれば、「認知管理力」「関係構築力」「自己管理力」などは、日本企業が管理職登用アセスメントなどで永らく用いてきた指標であり、これに異価値許容性(これも昔からアセスメント項目にあったことはあった)などのグローバルな視点をもっと取り込んで人材の育成をはかれということなんだろうなあ。

 集合研修としての育成ノウハウは、本書においては必ずしも具体的に公開されているとは言えず、そうした意味では、コンサル受注誘因本と言えなくもないし、研修よりも人事異動による育成等を説いている面では、そうでないとも言えます。

 ただ、本書で述べられているグローバル・リーダーのアセスメント要素自体は決して目新しいものではない(個人的にはそのことが、本書から学んだ最大のポイント)ことから考えても、わざわざ海外の研修機関に社員を派遣しなくとも、それ以前に、今までやってきた管理職育成施策のもとになっている「求められる人材像」というものを、もう一度見直してみる契機となる本ではあるかもしれません。

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波頭・茂木両氏のある種「職業的対談」みたいで、それほど心に響いてこない。

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突き抜ける人材 (PHPビジネス新書)

NHKスペシャル 生み出せ 危機の時代のリーダー.jpg NHKスペシャルの「シリーズ日本新生」の先月['11年1月]21日放送分で、「危機の時代のリーダー」をテーマとして取り上げ、この日本という国の難局を打開できるリーダーを生むためには何が必要なのかという議論がされていました。番組のおおまかな落とし処が、強いリーダーの出現を受け身的に待つのではなく、一人ひとりが先ず自ら"小さなリーダー"となるべく一歩を踏み出そう的な感じで、これは、東日本大震災で被災住民の支援にあたるNPOボランティアの印象などがある程度影響しているのではないかと。

NHKスペシャル リーダー.jpg 主演者の面々に、姜尚中、田坂広志、古賀茂明の各氏らがいて、途中、日本の官僚と政治家の関係の問題が話題になったりし、現在の一律的な教育の問題も若干扱っていましたが、ややモヤっとした感じの議論の展開。デーブ・スペクター氏が受験教育の弊害にストレートに言及すると、それはその場で言っても詮無いことと思われたのか(パネリストの中に若手官僚などもいたせいか)、司会者にほ無視されたような...。

NHKスペシャル・シリーズ日本新生「生み出せ!危機の時代のリーダー」(出演者:姜尚中 野中広務 デーブ・スペクター 田坂広志 土井香苗 古賀茂明 河添恵子 三村等 辻野晃一郎 松枝洋二郎 瀧本哲史 久保田崇 古市憲寿 坂根シルック 渡辺一馬 竹内帆高 三神万里子)
                           
 本書は「突き抜ける人材」とは何か、どこがフツーと違うのか、そうした人材を生み出すにはどうすればいいのかを、波頭・茂木両氏が、直接対談ではありませんが、対談を模したようなリレー・エッセイの形で綴ったものです。

 必ずしも組織リーダーに限らず、ビジネスやイノベーションの分野での「突き抜ける人材」の輩出を模索したものと言えますが、教育の問題も一応はちゃんと扱っており、落とし処は「私塾」に対する期待のようなものになっています、

 2人とも話題は豊富と言うか、世相評論的な纏めは上手で、「海外ではこうしている」といった出羽守(ではのかみ)的な発言が少なからずあるものの、議論を更に進めており、現代教育の在り方への批判から、それではどうすればよいかということで、「私塾」というのが浮かんできたようです。

 但し、そこに至る1つ1つのテーマについての突っ込みがそれほど深くなく、どことなく既知感のある内容の評論風に流れていくため、危機感を煽りながらも"言い放っし"になっているような印象もあり、「お気楽対談」とまでは言いませんが、ある種「職業的対談」みたいで、それほど心に響いてきません(じゃあホントに「茂木塾」開くのかなあ)。

 NHKの「シリーズ日本新生」でもケーススタディとしてスティーブ・ジョブズが取り上げられていましたが、茂木氏が本書の中で、ジョブズ、ジョブズと連発するのにはやや辟易させられました(「ジョブズ追悼番組」にも出演していたし、この人のジョブズ崇拝は相当なもののようだ。番組ではWindowsは嫌いだと発言して、西和彦・元マイクロソフト副社長と喧嘩になったようだが)。
 
 ジョブズには個人的にも関心があり、学ぶ面も多いけれども、傑出した才能だけでなくキャラクターの激しさも含め、常人の域を超えているようなところがあるから(それでジョブズ自身も何度か大きな失敗をしているし)、彼自身をそのまま手本にするはちょっとキツいのではないかなあ(フェイスブックのマーク・ザッカーバーグについても同じ)。

 茂木氏って今やオールマイティ(専門分野不明)みたいな感じですが、こういうことを広く浅くスラスラ語れるのがまさにこの人の才能? 意図してやっているのではなく"天然"なのでしょう。

《読書MEMO》
●若くして頭角を現すための共通項(波頭氏)
「アメリカの経営学者であるジョン・コッターの調査によると、若くして頭角を現した人には、二つの共通項があるそうです。一つは、アジェンダを持っていること、もう一つは、ネットワークを持っていることです。アジェンダとは、日本ではよくミーティングで「その場での主要テーマ」といった意味で使われますが、ジョン・コッターのいうアジェンダは、「その人がつねに抱くこだわり」、つまり「執着するテーマ」のことです。(中略)コッターが指摘しているもう一つの共通事項のネットワークとは、社内や取引先、あるいはまったく無関係な外部にも、何かやろうとしたときにお願いできる人がいることです」

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製品写真が豊富で、記事も充実。エディトリアル・デザインが優れている。

The History of Jobs & Apple 2.jpg      The History of Jobs & Apple3.jpg
The History of Jobs & Apple 1976〜20XX【ジョブズとアップル奇蹟の軌跡】(100%ムックシリーズ)

 雑誌「MAC LIFE」の版元による特別編集の大判ムックで、昨年('11年)8月の刊行、2ヵ月足らず後のスティーブ・ジョブズの死が想定されていたかのような、彼の人生の振り返り及びアップルの歩みの振り返りとなっています。

The History of Jobs & Apple.jpg Mac製品の写真が、内容的にも点数的にも充実していて、それらが綺麗に配置されており、全体的にみても、ジョブズ自身の写真も充実しているばかりでなく、編集デザイン的にも美しい構成。更には記事も充実していて、「MAC LIFE」の執筆・編集・デザイン陣の総力結集という感じでしょうか。

 執筆陣は、「MAC LIFE」編集長で、ジョブが亡くなったすぐに刊行された『ジョブズ伝説』('11年11月/三五館)の著者である高木利弘氏や、テクノロジーライターで『スティーブ・ジョブズとアップルのDNA』('11年12月/マイナビ)の近著がある大谷和利氏など。

 大谷和利氏には、『iPodをつくった男―スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』('08年/アスキー新書)という著書がありますが、新書という体裁上、Mac等の製品デザインについての記述の部分に関して写真が少なく分かり辛かったのに対し、本書はムックの特性を十分に活かし、写真と記事が相乗効果をもたらすような作りになっています。

 iPhonだけでも相当数の写真がありますが、それらの並べ方が美しく、本書の最も優れている点は、エディトリアル・デザインにあると言っていいかと思います。

 個人的にはPCはMacを使ってはいないのですが、MacOSのモノクロのドット絵でデザインされたインターフェイスなどは懐かしさを覚えます。
 その他にも、かなりレアな製品写真や画像も多く含まれているようで、そのあたりは個人的にはあまり詳しくないのですが、永年のMacユーザー、Macファンにはたいへん魅力的な1冊ではないでしょうか(マニアならば、星5つ評価か)。

 ジョブズ及びアップル社の詳細な年譜も付いていて価格1,900円は、「保存版」的な価値からみると安いと思います。

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"イノベーションの人"であったことを改めて痛感する『全発言』。中学生から読める『全仕事』。

『スティーブ・ジョブズ全発言 』.jpg  スティーブ・ジョブズ全仕事.jpg図解 スティーブ・ジョブズ全仕事』['12年]

スティーブ・ジョブズ全発言 (PHPビジネス新書)』['11年]

スティーブ・ジョブズ名語録.jpg 昨年('11年)11月の刊行(奥付では12月)ということで、10月のスティーブ・ジョブズの逝去を受けての執筆・刊行かと思ったら、昨年初から企画をスタートさせて脱稿したところにジョブズの訃報が入ったとのこと、著者には既に『スティーブ・ジョブズ名語録 (PHP文庫)』('10年)という著作があり、今回はその際に収録できなかったものも網羅したとのことで、その辺りが「全発言」という由縁なのでしょうか。

 彼の言葉を11のテーマ毎に括ってそれぞれ解説していますが、解説がしっかりしているように思え(前から準備していただけのことはある?)、内容も面白くて、一気に読めました(新書で330ページ超だが、見開きの右ページにジョブズの言葉が数行あって、左ページが解説となっているため、実質、半分ぐらいの厚さの新書を読む感じ)。

 必ずしも時系列に沿った記述にはなっておらず、冒頭にジョブズの年譜がありますが、1冊ぐらいジョブズの伝記を読んでおいた方が、そうした発言をした際のシチュエーションが、より把握し易いと思われます。

 11のテーマは、「ヒットの秘密」「自分の信じ方」「イノベーション」「独創の方法」「仕事のスキル」「プレゼンテーション」「リーダーの条件」「希望の保ち方」「世界の変え方」「チームプレー」「生と死」となっていますが、全般的にイノベーションに関することが多く(特に前半部分は全て)、ジョブズが"イノベーションの人"であったことを、改めて痛感しました。

 著者の解説と読み合わせて、特に個人的に印象に残った言葉を幾つか―。

「マッキントッシュは僕の内部にある。」
 ジョブズは、設計図の線を一本も引かず、ソフトウェア一行すら書かなかったにも関わらず、マッキントッシュは紛れも無くジョブズの製品だったわけで、マッキントッシュがどういう製品であるべきかという将来像は、彼の内部にしかりあった―何だか、図面を用いないで社寺を建てる宮大工みたい。

「イノベーションの出どころは、夜の10時半に新しいアイデアが浮かんだからと電話をし合ったりする社員たちだ。」
 著者が「多くの企業がイノベーションを夢見ながら一向に果たせずにいるのは、『イノベーション実現の五ヵ条』といったものを策定して壁に貼り出すことで満足するからだ。イノベーションとは、体系ではない。人の動きなのだ」と解説しているのは、確かにそうなのだろうなあと。ジョブズは、「研究開発費の多い少ないなど、イノベーションと関係はない」とも言っています。

「キャリアではない。人生なのだ。」
 '10年の春にジョブズを訪問したジャーナリストの、「キャリアの絶頂を迎え、この恰好の引き際でアップルをあとにされるのですか」との問いに答えて、「自分の人生をキャリアとして考えたことはない。なすべき仕事を手がけてきただけだよ...それはキャリアと呼べるようなものではない。これは私の人生なんだ」と―。今の日本、キャリア、キャリアと言われ過ぎて、"人生"がどっか行ってしまっている人も多いのでは...。

 後には、「第一に考えるのは、世界で一番のパソコンを生み出すことだ。世界で一番大きな会社になることでも、一番の金持ちになることでもない」との言葉もあります。
 これは「お金は問題ではない。私がここにいるのはそんなことのためではない」との言葉とも呼応しますが、ヒューレット・パッカードの掲げた企業目的が「すぐれた」製品を生み出すことだったのに対する、ジョブズの「すぐれた」では不足で、「世界で一番」でなければならないという考えも込められているようです。

 個人的には、自己啓発本はあまり読まない方ですが、読むとしたら、やはりジョブズ関連かなあ。神格化するつもりはありませんが、元気づけられるだけでなく、仕事や人生に対するいろいろな見方を示してくれるように思います。


 本書著者には、近著で『図解 スティーブ・ジョブズ全仕事』('12年1月/学研パブリッシング)というのもあり、これはスティーブ・ジョブズがその生涯に成し遂げた業績を解説しながら、イノベーション、チームマネジメント、プレゼン手法など、彼の「仕事術」をコンパクトに網羅したもの。

 190ページ足らずとコンパクトに纏まっていて、しかも、見開き各1テーマで、左ページは漫画っぽいイラストになっていますが、これがなかなか親しみを抱かせる優れモノとなっています。

 難読漢字(というほど難読でもないが)にはルビが振ってあり、中学生からビジネスパーソンまで読めるものとなって、特に中高生に、ジョブズの業績について知ってもらうだけでなく、ビジネスにおける「仕事術」というものを考えてもらうには、意外と良書ではないかと思いました。

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コンパクトに纏まっている。アップル社およびジョブズについて知る上で手頃な本。

アップルの法則 青春新書.jpgアップルの法則200_.jpg   スティーブ・ジョブズ スタンフォード.jpg
アップルの法則 (青春新書インテリジェンス)』['08年] スティーブ・ジョブスによるスタンフォード大学卒業式辞

 昨年('11年)10月にスティーブ・ジョブズが亡くなってから、ジョブズ関連本の刊行が相次ぎ、また結構売れているようですが、バタバタと急いで書かれた本よりは、ちょっと以前に書かれた本の方が良かったりもし、本書もその一つ。'08年の刊行であり、'07年のiPhone発表までをカバーしています。

 iMac、iPod、iPhoneとヒット製品を出し続けるアップル社がどのような会社で、どのように発想し、どのように製品を作ってきたのかが、アップルの誕生から凋落、そして奇跡の復活を遂げるまでのストーリーと併せてコンパクトに纏められています。

 著者はアップルを長年追いかけてきたITジャーナリストで、新書本は初めてとのことですが、一般向けに分かり易く書かれていて、既にアップルをよく知っている人が読むとあまり目新しい情報は無いかもしれませんが、今までアップル製品にあまり縁が無かったが、iPodやiPhoneを使い始めてから初めてアップル社やその製品に関心を持つようになったといった人には、アップル社を知る上で手頃な本かも。

 同じ年の1月に刊行された同著者の『スティーブ・ジョブズ―偉大なるクリエイティブ・ディレクターの軌跡』('08年/アスキー)が、ジョブズを撮った写真中心だったの対し(殆ど写真集?)、企画としては先行していたというこちらの方は、文章が中心であるため、相補関係にあつとも言えます。
 
 アップル社の歴史を追うということは、とりもなおさずスティーブ・ジョブズの歩んできた道を追うということになるとの思いを改めて抱かされ、ジョブズが亡くなってからジョブズという人物に関心を持ち始めた人にとって、ジョブズ自身の歩んできた道や、その製品戦略を知る上でも手頃な入門書と言えるかと思います(製品解説の部分、とりわけデザインについての部分は、もっと写真があった方が良かった)。

 著者は、アップル流のビジネスのやり方は、「日本の企業で、今すぐにそのまま実践しようとしても、なかなかうまくはいかないことも多いだろう」が、「アップルから今すぐ学んで取り入れることができることもある」と書いていますが、それは日本の企業に限らず言えることでしょう(ジョブズ亡き後、この会社がどうなるのか)。

 最後の方でジョブズが′05年にスタンフォード大学で行った、あの「ハングリーであれ、バカであれ」という言葉で締めくくられた有名なスピーチの内容が紹介されており、スタンフォード大学のWebサイトで「(英語の)文章として読むことができる」と補足されていますが、今はYouTube で日本語字幕付きで見ることができ、ちらっと見るつもりが、結局最後まで見てしまう―そんな味わい深い内容でした。

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大判の写真が充実(「写真集」に近い)。上質のクリエイティブ・センスで作られている本。

スティーブジョブズ偉大なるクリエイティブディレクター.jpgスティーブ・ジョブズ 偉大なるクリエイティブ・ディレクターの軌跡』['07年/アスキー]

スティーブ・ジョブズ3.jpg 昨年('11年)10月に56歳で亡くなったスティーブ・ジョブズの軌跡を追った本ですが、彼の人生のターニングポイントとなった幾つものシークエンスにおけるジョブズを撮った、余白スペース無しの大判の写真が充実していて、ジョブズの様々な発言と組み合わせたレイアウトも美しく、ジョブズの言葉の力強さを引きたてています。

 '07年末の刊行であり(奥付では'08年1月)、勿論その時点では大方の人がジョブズの死というものを('05年に一旦ガン克服宣言をしていることもあって)こんなに早く現実になるものとしてイメージしていなかったのではないかと思われ、そんな中、映画スターでもない企業経営者で(しかも存命中に)このような「写真集」のような本が刊行されたというのは、ジョブズの絶大なカリスマ性ならでのことではないでしょうか。

 長年アップル社及びジョブズを追いかけてきたITジャーナリストである著者が、ジョブズの軌跡を分かり易い文章で綴っていて、'07年のiPhone発表までをカバーしており、解説そのものは概ねジョブズやアップル製品のファンには既に知られていることが多いと思われますがが、中にはきらりと光るエピソードもあり、また、強いて言えば、サブタイトルにある「クリエイティブ・ディレクター」としての彼にスポットが当てられたものとなっています。

 写真の方も、冒頭の一枚に、今や多くのジョブズ関連本の表紙にその場面が用いられているiPhone発表の際のプレゼンテーションのものが、「今日、アップルは電話を再発明する」という彼の言葉とともにあり、最後のカラー写真は、そのプレゼンの最中に機材の不具合で中断を余儀なくされた際に、ジョブズが慌てる素振りも見せず、創業期に共同創業者のウォズニーらとやっていた悪戯を壇上にて身振りで紹介し、聴衆の笑いをとっている様を撮ったものであり、う~ん、大人の風格!

 ビル・ゲイツ('07年)との公開インタビューの写真で「昨日のことでクヨクヨするのではなく、一緒に明日をつくっていこう」との言葉があるのは、実際にその場でその通りのことを言ったにしても、やや出来過ぎの感もありますが('05年のスタンフォード大学の卒業式のスピーチでは、「WindowsはMacのコピーに過ぎない」と冗談っぽく言って、学生の笑いをとっていたけれど...)。

スティ―ブ・ジョブズIMG_2707.JPG 若い頃の写真もいい。アップル追放時代の中盤期の写真も少ないながらも何枚かあるようですが、「言葉」に年代が入っているのはいいけれど(「二十億ドルの売上と四三〇〇人の社員を抱える大企業が、 ジーンズを穿いた六人組と張り合えないなんてバカげている」という言葉は、アップル社に対して言っていたのだなあ)、出来れば「言葉」だけでなく「写真」の方にも年代を入れて欲しかったようにも思います。

 それでもグッドなエディトーリアル・デザイン。本書そのものが、上質のクリエイティブ・センスで作られているとの印象を受け、ファンには垂涎の1冊とまではいかなくても(価格的にも内容の割には安いと思う)手元に置いておきたい本ではないでしょうか。

《読書MEMO》
●目次
プロローグ ─iPhone─
「今日、アップルは電話を再発明する」
[第一章] さらばアップル
創業
「実はエジソンのほうが、世の中に貢献しているんじゃないかと思えてきた」
六色のロゴ
「私は、自分の思う方法で好きにやるチャンスを手に入れたんだ」
Apple II
「どうあってもコンピューターをプラスチックのケースに入れたいと思った」
Lisa
「どうしてこれを放っておくんだ? これはすごいことだ。これは革命だ!」
Mac
「海軍に入るくらいなら、海賊になったほうがましだ」
NeXT
「20億ドルの売り上げと4300人の社員を抱える大企業が、ジーンズを穿いた6人組と張り合えないなんてバカげている」
ピクサー
「ディズニーの白雪姫以来、最大の進歩だ」
[コラム] ジョブズとゲイツ

[第二章] アップル復活
Think different.
「私にはアップルを救い出す計画がある」
iMac
「いまの製品はクソだ! セックスアピールがなくなってしまった!」
Mac OS X
「画面上のボタンまで美しく仕上げた。思わずなめたくなるはずだ」
デジタル・ライフスタイル
「これは、われわれがリベラル・アートとテクノロジーの接点に立つ企業であることを示している」
iPod
「われわれはレシピを見つけただけではない。"アップル"というブランドが素晴らしい効果をもたらすと考えたのだ」
iTunes Store
「これは音楽業界のターニングポイントとして歴史に残るだろう。まさに画期的なものなんだ」
[コラム]
人々が語った「スティーブ・ジョブズ」
エピローグ ─ スタンフォードにて ─
「ハングリーであれ、バカであれ」

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考え方はマットウ。「勝間」本などの啓発本批判は明快。どう若い世代に理解させるかが課題。

『社畜のススメ』.jpg  断る力.jpg 勝間 和代『断る力 (文春新書)

藤本 篤志 『社畜のススメ (新潮新書)

 『社畜のススメ』の著者は、USENの取締役などを経て独立して起業した人ですが、IT企業出身の人というと、華々しく転職を繰り返しているイメージがあるけれど、著者に関して言えば、一応USENだけで18年間勤めていて、スタート時はそれこそ、カラオケバーやスナックを廻る「有線」のルートセールスマンだったようです。

 本書では冒頭で、「個性を大切にしろ」「自分らしく生きろ」「自分で考えろ」「会社の歯車になるな」という、いわゆる"自己啓発本"などが若いサラリーマン(ビジネスパーソン)に対し、しばしば"檄"の如く発している4つの言葉を、サラリーマンの「四大タブー」としています。

 こうした自己啓発本が奨める「自分らしさ」を必要以上に求め、自己啓発本に書かれていることを鵜呑みにすることから生まれるのは、ずっと半人前のままでいるという悲劇であり、そこから抜け出す最適の手段は、敢えて意識的に組織の歯車になることであるとしています。したがって、これから社会に出る若者たちや、サラリーマンになったものの、どうもうまく立ち回れないという人に最初に何かを教えるとすれば、まずは「会社の歯車になれ」と、著者は言うとのことです。

守破離.jpg さらに、世阿弥の「守破離」の教えを引いて、サラリーマンの成長ステップを、最初は師に決められた通りのことを忠実に守る「守」のステージ、次に師の教えに自分なりの応用を加える「破」のステージ、そしてオリジナルなものを創造する「離」のステージに分け、この「守」→「破」→「離」の順番を守らない人は成長できないとしています(「守」が若手時代、「破」が中間管理職、「離」が経営側もしくは独立、というイメージのようです)。

 「守」なくして「破」や「離」がありえないと言うのは、ビジネスの世界で一定の経験年数を経た人にはスンナリ受け容れられる考えではないでしょうか。先に挙げたような"檄"を飛ばしている"自己啓発本"を書いている人たち自身が、若い頃に「守」の時期(組織の歯車であった時期)を経験していることを指摘している箇所は、なかなか小気味よいです。

 
勝間和代『断る力』.jpg その冒頭に挙っているのが、勝間和代氏の『断る力』('09年/文春新書)で、これを機に勝間氏の本を初めて読みましたが(実はこのヒト、以前、自分と同じマンションの住人だった)、確かに書いてあるある、「断ること」をしないことが、私達の生産性向上を阻害してストレスをためるのだと書いてある。「断る」、すなわち、自分の考え方の軸で評価し選択することを恐れ、周りに同調している間は、「コモディティ(汎用品)を抜け出せないと。

 これからの時代は「コモディティ」ではなく「スペシャリティ」を目指さなければならず、それには「断る力」が必要だ、との勝間氏の主張に対し、著者は、こうした主張は「個性」を求めるサラリーマンの耳には心地よく響くだろうが、それは、本書で言う「四大タブー」路線に近いものであり、勝間氏のような人は「天才」型であって、それを「凡人」が鵜呑みにするのは危険だとしています。

 勝間氏は、自分が「断る力」が無かった時代、例えばマッキンゼーに在職していた頃、「究極の優等生」と揶揄されていたそうですが、「断る」ことをしないことと引き換えに得られたのは、同期よりも早い出世や大型クライアントの仕事だったとのこと、その仕事を守るために、何年間も自分のワークライフバランスや健康を犠牲にしたために、32歳の時にこんなことではいけないと方針転換して「コモディティ」の状態を脱したそうですが、藤本氏が言うように、「コモディティ」状態があったからこそ、今の仕事をバリバリこなす彼女があるわけであって、20代の早い内から「断る」ことばかりしていたら、今の彼女の姿はあり得ない(いい意味でも、悪い意味でも?)というのは、想像に難くないように思えます(そうした意味では自家撞着がある本。元外務省主任分析官の佐藤優氏が「私のイチオシ」新書に挙げていたが(『新書大賞2010』('10年/中央公論社))、この人も何考えているのかよく分からない...)。

藤本 篤志 『社畜のススメ』.JPG 但し、『社畜のススメ』の方にも若干"難クセ"をつけるとすれば、日本のサラリーマンの場合、藤本氏の言う「歯車」の時代というのは、単に機械的に動き回る労働力としての歯車ではなく、個々人が自分で周囲の流れを読みながら、その都度その場に相応しい判断や対応を求められるのが通常であるため、「歯車」という表現がそぐわないのではないかとの見方もあるように思います(同趣のことを、労働経済学者の濱口桂一郎氏が自身のブログに書いていた)。そのあたりは、本書では、「守」の時代に漫然と経験年数だけを重ねるのではなく、知識検索力を向上させ、応用力へと繋げていくことを説いています(そうなると「社畜」というイメージからはちょっと離れるような気がする)。

 むしろ気になったのは、本書が中堅以上のサラリーマンに、やはり自分の考えは間違っていなかったと安心感を与える一方で、まだビジネ経験の浅い若い人に対しては、実感を伴って受けとめられにくいのではないかと思われる点であり、そうなると、本書は、キャリアの入り口にある人へのメッセージというより、単なる中高年層向けの癒しの書になってしまう恐れもあるかなと。

 前向きに捉えれば、中高年は、自分のやってきたことにもっと自信を持っていいし、それを若い人にどんどん言っていいということなのかもしれないけれど。例えば、「ハードワーカー」たれと(これ、バブルの時に流行った言葉か?)。


 第5章には、サラリーマンをダメにする「ウソ」というのが挙げられていて、その中に「公平な人事評価」のウソ、「成果主義」のウソ、「学歴神話崩壊」のウソ、「終身雇用崩壊」のウソといった人事に絡むテーマが幾つか取り上げられており、その表向きと実態の乖離に触れています。

 著者は、世間で言われていることと実態の違い、企業内の暗黙の了解などを理解したうえで行動せよという、言わば"処世術"というものを説いているわけですが、これなんかも人事部側から見ると、図らずも現状を容認されたような錯覚に陥る可能性が無きにしも非ずで、やや危ない面も感じられなくもありません。

 色々難点を挙げましたが、基本的にはマットウな本ですし、「自己啓発本」批判をはじめ、個人的には共感する部分も多かったです。でも、自分だけ納得していてもダメなんだろうなあ。
 
 「マズローの欲求五段階説」が分かり易く解説されていて、「社会的欲求」の段階を軽んじてしまい、いきなり「尊厳の欲求」と「自己実現の欲求」を満たそうとするサラリーマンが多くなっていることを著者は危惧しているとのことですが、それは同感。そうした若い人の心性とそれを苦々しく思っている中高年の心性のギャップをどう埋めるかということが、実際の課題のように思いました。

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啓蒙書としても読めるし、ジョブズの失敗と成功、遺したものの大きさも知ることができる。
 
スティーブ・ジョブズ 失敗を勝利に変える底力.gif                     ファインディングニモ dvd.jpg
スティーブ・ジョブズ 失敗を勝利に変える底力 (PHPビジネス新書)』「ファインディング・ニモ [DVD]

 スティーブ・ジョブズがその個性の強さゆえに犯した数々の失敗と、彼自身がそこから学び復活を遂げたことに倣って、ビジネスにおいてどのようなことに留意すべきかを教訓的に学ぶという、ビジネス・パーソン向けの啓蒙書的な体裁を取っていますが、併せて、ジョブズの歩んできた道における様々なビジネス上のイベントが、必ずしも時系列ではないですがほぼ取り上げられているため、ジョブズの足取りを探ることが出来るとともに、コンピュータ産業や映画産業の裏事情なども知ることができ、180ページほどの薄手の新書ですが、かなり面白く読めました。

 ジョブズを徒らに偶像化するのではなく、素晴らしい面とヒドイ面、それぞれについて書かれていますが、こうした体裁から、むしろ「反面教師」として部分にウェイトがかかっているのが本書の1つの特徴でしょうか。但し、こうした人間的にどうなのかと思われるような行動そのものが、ある意味、常人には測り知れない天才の個性でもあることは、著者も重々承知のうえなのですが。

 ジョブズがアップルへの奇跡的な復帰を遂げたことについては、当時のCEOギル・アメリオの"引き"が大きかったわけですが、そのアメリオをジョブズが策略を用いて放逐したことは、ジョブズの"悪行"としてよく知られているところ。本書でも「恩人を蹴落とし、CEOの座を射止める」と小見出しを振っていますが、ジョブズがアップルへの復帰を果たさなかったら、ジョブズの情熱はピクサーに注ぎ込まれ、ピクサーはジョブズの現場介入により、「トイ・ストーリー」('95年)のようなヒット作は生み出せず、駄作のオンパレードになっただろうという分析は興味深く、更には、iPodもiPhoneも誕生しなかったとして、アメリオの救済がいかに大きかったかを述べている辺りは、説得力がありました(そのアメリオを裏切ったジョブズがいかにヒドイ人間かということにも繋がるのだが、「裏切り者が作る偉大な歴史」という小見出しもある)。

ファインディング・ニモ whale.jpg 因みに、「ファインディング・ニモ」('03年)の制作の際に、ピクサーの美術部門のメンバーは、クジラの中にニモが呑みこまれるシーンを描くために、海岸に打ち上げられたクジラの死体を見に出かけたとのこと、ピクサーのデザイナー達は、アニメの映像世界の細部にジョブズ以上のこだわりを持っていたわけです。

ジョブズ&ゲイツ 2007年5月.jpg 更に、ジョブズとビル・ゲイツの間の様々な交渉についても、ジョブズが犯した過ちを鋭く検証していて、いかにジョブズが失ったものが大きかったかということが理解でき、Windowsのユーザーインターフェイスがその典型ですが、ある意味オリジナルはMacであり、普通ならばマイクロソフトではなくアップルがコンピュータ産業の覇者となり、ジョブズが世界一の億万長者の地位にいてもおかしくなかったことを示唆しているのも頷けました。
Steve Jobs and Bill Gates Interviewed together at the D5 Conference (2007).

スティーブ・ジョブズ 偶像復活.jpg ジョブズの秘密主義にもスゴイなあと思わされるものがあり、2005年に刊行されたジェフリー・ヤング、ウィリアム・サイモン著『スティーブ・ジョブズ―偶像復活』(′05年/東洋経済新報社)を読みましたが、そこにはiPhoneのことは全く出てきませんでしたが、2004年夏にジョブズが「アップルフォンを作ることはない」と正式発表した時、心の底では逆のことを考えていたというわけだと。

 著者は、アップルにおいてマーケティングに携わっていたこともある人で、現在はドラッカーの解説本を書いたり講演活動を行ったリもしている人。本書はビジネス啓蒙書としても読めるし、ジョブズの失敗と成功、遺したものの大きさをも知ることができ、更には、もしあの時ジョブズがこうしていたら...といったことに思いを馳せることにも繋がる本です。

ファインディング・ニモo5.jpg「ファインディング・ニモ」●原題:FINDING NEMO●制作年:2003年●制作国:アメリカ●監督:アンドリュー・スタントン/リー・アンクリッチ●製作:グラハム・ウォルターズ(製作総指揮:ジョン・ラセター)●脚本:アンドリュー・スタントン/ボブ・ピーターソン/デヴィッド・レイノルズ● 音楽:トーマス・ニューマン/ロビー・ウィリアムズ●時間:100分●出演:アルバート・ブルックス/エレン・デジェネレス/アレクサンダー・グールド/ウィレム・デフォー/オースティン・ペンドルトン/ブラッド・ギャレット/アリソン・ジャニー●日本公開:2003/12●配渋谷東急 閉館2.jpg渋谷東急 閉館.jpg給:ウォルト・ディズニー・ カンパニー●最初に観た場所:渋谷東急 (03‐12‐23) (評価★★★☆)

映画館「渋谷東急」が5月23日閉館.jpg渋谷東急 2003年7月12日、同年6月の渋谷東急文化会館の閉館に伴い、直営映画館(「渋谷パンテオン」「渋谷東急」「渋谷東急2」「渋谷東急3」)の代替館として渋谷クロスタワー2Fにオープン。2013年5月23日閉館。

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スラスラ読める分、物足りない。パソコン雑誌の記事文章みたい。

IPodをつくった男  スティーブ・ジョブズ.jpgiPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス (アスキー新書 048)

 スティーブ・ジョブズという人物のアウトライン、アップル社の経営方針、アップル製品のデザイン戦略、キャッチコピーから見たアップル社、ジョブズの犯した誤りとそこからの軌道修正など、盛りだくさんな内容で、それでいて全体で190ページしかなく、しかもスラスラ読める本でしたが、それだけに色々物足りない点もありました。

スティーブ・ジョブズ 偶像復活.jpg Amazon,comのレビューで、ジェフリー・ヤング、ウィリアム・サイモン著『スティーブ・ジョブズ―偶像復活』(′05年/東洋経済新報社)を薄めて新書にしたようなもの、という評がありましたが、著者自身が翻訳したアラン・デウッチマン著『スティーブ・ジョブズの再臨』('01年/毎日コミュニケーションズ)を主に参照しているようで、'90年代のことに関する記述が多いのに対し、今世紀に入ってからの記述が少ない点がまず物足りません。

 アスキー新書で、著者はテクノロジージャーナリストということで、テクノロジーの面での記述に期待したのですが、記述が広い範囲に及ぶ分、それぞれの中身はやや浅く、ジョブズのプレゼンとビル・ゲイツのプレゼンの違いを写真入りで解説するならば、Mac等の製品デザインについての記述の部分にも写真を入れるなどの気遣いが欲しかったように思います。

 本文がパソコン雑誌の記事文章のようで、その味気無さを補うかのように、章ごとにジョブズ語録を挟んでいますが、やはり全体として内容そのものが、新書という制約もあり、かなり"薄い"ものとなってしまった感じがしました。

 ジョブズの歩んできた道を把握する上でも、本書サブタイトルにある「現場介入型ビジネス」というキーワードを掘り下げる上でも、やはり、『スティーブ・ジョブズ―偶像復活』などを読んだ方がよさそう(ジョブズの「現場介入」主義を全面肯定しているのもやや気になる。映画「トイ・ストーリー」は、ジョブズがエド・キャットムルらに権限委譲したから誕生したのでは)。

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ジョブズの多面性をそのままに描く。こんな劇的な話があっていいのかと思うくらい面白かった。

スティーブ・ジョブズ 偶像復活.jpgスティーブ・ジョブズ 偶像復活2.bmp スティーブ・ジョブズ 1977.jpg Steve Jobs.jpg S. Jobs
スティーブ・ジョブズ-偶像復活』['05年/東洋経済新報社] AppleⅡを発表するスティーブ・ジョブズ(1977)本書より

ウォルター・アイザックソン スティーブ・ジョブズ.jpg アップル創業者スティーブ・ジョブズ(1955-2011/享年56)の半生記であり、ジョブズの伝記はこれまでも多く刊行されていますが、昨年['11年]10月にジョブズが亡くなったことで、ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ(上・下)』('11年10月/講談社)をはじめ、多くのジョブズ関連本がベストセラーにランクインすることとなりました。

 アイザックソン版は絶妙のタイミングでの邦訳刊行でしたが、取材嫌いのスティーブ・ジョブズが唯一全面協力した「本人公認の決定版評伝」とのことで、スティーブ・ジョブズという人の評伝を読むに際し、彼のキャラクターからみて果たしてそのことがいいのかどうか。上下巻に渡る長さということもあり、翻訳の方もかなり急ぎ足だったことが窺えるようで、同じ井口耕一氏の翻訳によるものですが、本書の方を読むことにしました。

 本書は、原著も'05年刊行であり、ジョブズの生い立ちから始まって、一度はアップルを去った彼が倒産寸前のアップルに復帰し、iPod等で成功を収めるまでが描かれていますが、翻訳はこなれていて読み易く、ジョブズの歩んできた道が成功―挫折―復活の繰り返しであったこともあって、とにかく内容そのものが波瀾万丈、こんな劇的な話があっていいのかというくらい面白かったです。

ジョブズ nhk.bmp 個人的には、ちょうどNHKスペシャルで「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」('11年12月24日放送)を見たところでしたが、それと照らしても、偏りの少ない伝記と言えるのではないでしょうか。元々が毀誉褒貶の激しいジョブズですが、そのスゴイ面、人を強烈に引きつける面と、ヒドイ面、友人や上司にはしたくないなあと思わせる面の両方が書かれていて、それでいて、ジョブズに対する畏敬と愛着が感じられました。

 単巻ながらも約500ページの大著ですが、アップル創業時代を描いた第1部(21歳でアップルを創業し、僅か4年で「フォーチュン500」に名を連ねる企業にするも、経営予測を誤り'85年に同社を追われる)、追放時代を描いた第2部(NeXT社を設立する一方、ルーカス・フィルムの子会社を買収して設立したピクサーで成功を収め、表舞台に復帰する)、アップル復帰以降の第3部(13年ぶりにアップルに復帰するやiMac('98年)をヒットさせ、更にiPod('01年)、iTunesなどのヒットをも飛ばす)とバランスよく配分されています。

「マッキントッシュ」新発売コマーシャルと発表するジョブズ(1983)
steve jobs 1983.jpg アップルの共同創業者や自らが引き抜いた経営陣との確執のほかに、同年代のライバルであるビル・ゲイツとの出会いや彼との交渉、Windowsの牙城を切り崩そうするジョブズの攻勢なども描かれていますが、ピクサーでの仕事におけるディズニー・アイズナー会長との様々な権利を巡るビジネス面での交渉が特に詳しく描かれており、アメリカのコンピュータ業界の内幕を描いた本であると同時に、映画ビジネス界を内側から描いたドキュメントにもなっています。
   
Luxo Jr.(1986)
Luxo Jr.jpg NHKスペシャルの「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」を見て、彼の人生には幾つかの印象的な場面が印象的な映像と共にあったように思われ、とりわけ、'84年のマッキントッシュ発売の際のジョージ・オーエルの『1984』をモチーフとしたコマーシャル(CM監督は「ブレードランナー」('82年)のリドリー・スコット)や、'86年のCGの可能性を如実に示した"電気ランプ"の親子が主人公の短篇映画「ルクソーJr.」(Luxo Jr.)、'95年の「世界初のフル3DCGによる長編アニメーション映画「トイ・ストーリー」などが個人的には脳裡に残りました。

「トイ・ストーリー」(1995)
トイ・ストーリー1.jpg 「トイ・ストーリー」以外は番組で初めて見ましたが、そうした映像のイメージもあって本書を比較的身近に感じながら読むことができ、「トイ・ストーリー」も、初めて観た時はCGが進化したなあと思っただけでしたが、ジョブズが買収も含め個人資産を10数年も注ぎこむも全く利益を生まなかったピクサーが、土壇場で放った"大逆転ホームラン"だったと思うと、また違った感慨も湧きます(この作品だけでも公開までの4年間の投資額は5千万ドルに及び、「こんなに金がかかるなら投資しなかった」とジョブズは語っているが、本作のヒットでピクサー株は高騰し、結果的にジョブスの資産は4億ドル増えた)。

 そもそも、ジョブズのアップル復帰そのものが、次世代マッキントッシュの開発に失敗したジョブズ無き後のアップルが、次世代OSを求め、その開発に当たっていたNeXT社を買収、それに伴いジョブズの非常勤顧問という形でのアップル復帰が決まったわけで、それを機にジョブズは経営の実権を握るべくポリティックな画策をするわけですが、この「トイ・ストーリー」のヒットが、ジョブズの立場を押し上げ強固なものとする追い風になったのは確かでしょう。

 「トイ・ストーリー」に続くピクサー作品も、興行記録を次々塗り変えるヒットで、その生み出す利益があまりに膨大であるため、本書にあるようなディズニー・アイズナー会長との確執ということに繋がっていったのでしょうが、その後アイズナーの方は会長職を追われ、ジョブズはピクサーをディズニーに売却すると共に、ディズニーの筆頭株主に収まるという決着となっています。

iMacを発表するジョブズ(1998)
iMac 1998.jpg 人々を惹き付ける素晴らしいプレゼンテーションをする一方で、傲慢な人柄で平気で人を傷つけ、また、類まれなイノベーターとして製品のデザインや性能への完璧主義的なこだわりを持つ一方で、相手の弱みに付け込む政治的画策も厭わない冷酷な経営者という一面も持つ―こうしたジョブズの多面性が、本書では充分に描かれているように思いました。

 彼の次の視野には、マイクロソフトからコンピュータ業界の覇権を奪回すべく、Windows及びOfficeに匹敵するようなOSやアプリの開発があることが本書では示唆されていますが、実際に彼が'07年1月のMacworld 初日の基調講演で発表した新製品は、次世代携帯端末のiPhoneだった―徹底した秘密主義というのもあるかと思いますが、ほんの1年か2年後にどんな(しかもメガヒットとなる)製品を出すのか、誰も予測がつかなかったということなのでしょうか。

トイ・ストーリー17.jpgトイ・ストーリー dvd.jpg「トイ・ストーリー」●原題:TOY STORY●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ラセター●製作:ラルフ・グッジェンハイム/ボニー・アーノルドズ●脚本:ジョス・ウィードン/アンドリュー・スタントン/ジョエル・コーエン/アレック・ソコロウ●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ランディ・ニューマン●時間:81分●出演:トム・ハンクス/ティム・アレン/ドン・リックルズ/ジョン・モリス/ウォーレス・ショーン/ジョン・ラッツェンバーガー/ジム・バーニー●日本公開:1996/03●配給/ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン(評価★★★☆)
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企業理念・経営理念やビジョン・ミッション・バリューなどと微妙にニュアンスが異なるのが興味深い。

できる会社の社是・社訓6.JPGできる会社の社是・社訓.jpg 『できる会社の社是・社訓 (新潮新書)

 電通の「鬼十則」や日本電産、日清など有名企業の社是・社訓の成り立ちや、そこに込められた創業者や中興の祖の思いなどが、コンパクトに分かり易く紹介されていますが、各見出しには、社是・社訓に限らず、創業者の言葉などを引いているものもあり、併せて、創業者がどのようにして事業を起こし、どのようにしてそれを育て、現在の会社の礎を築いたかが書かれていて、ミニ社史を読んでいる感じも...(多分に各社の社史を参考にしているということもあるだろう)。

大丸.jpg先義後利.jpg 大丸の「先義後理」など享保年間(18世紀初頭)に遡るものから。楽天の「スピード!! スピード!! スピード!!」など近年のものまであり(因みに、ライブドアには社訓が無かったそうな)、また、シャープ、松下電器(現パナソニック)、ホンダなどになると、創業者の立志伝の紹介みたいになってきますが、それらはそれで、自分が知らなかったことなどもあって面白く読めました。

 著者は、就職を切り口にした教育問題などの特集記事を担当する経済週刊誌記者だそうで、社是・社訓が実際にその企業に今どのような形で定着し、活かされているかといった組織・人事的な視点は殆どありませんが、さすがに大きな不祥事のあった会社については、その時の経営者が社訓に悖る行動をとったことを解説しています。

 大丸の「先義後理」などの古い社訓は、広い意味でのCSR、コンプライアンスに沿っているように思われ、一方、資生堂のエシックス(倫理)カードにある「その言動は、家族に知れても構いませんか?」などは、90年代の企業不祥事の多発を受けてのものなのだろうなあ。

 サントリーが、山口瞳、開高健らが執筆陣に加わった社史『サントリーの70年』で、創業者・鳥井信治郎「やってみなはれ」「みとくんなはれ」を前面に押し出していたのに、100年史では「人と自然と響きあう」が企業理念となっていて、つまらなくなったようなことを著者は書いていますが、確かに。

 こうしてみると、創業者個人の強烈な思いが込められた「社是・社訓」は、「企業理念」「経営理念」や「ビジョン」「ミッション」「バリュー」などと呼ばれるものと重なる部分は多いものの(IBMの"THINK"とかアップルの"Think different"なども「行動規範」であり「バリュー」の一種とみていいのではないか)、「社是・社訓」と「企業理念」「経営理念」と言われるものとは、或いは日本と海外との間では、それぞれ微妙にニュアンスが異なる部分もあり、もしかしたらその部分に日本的経営の特性があるのかも―と思ったりもしました。

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広い意味での国際プロトコルについて書かれた本。実践の場がないとなあ。

「お辞儀」と「すり足」はなぜ笑われる.jpg 『お辞儀」と「すり足」はなぜ笑われる』(2010/01 日経プレミアシリーズ)

 国連機関などで長年に渡って仕事し、国際会議やパーティなどを通じて外国人との仕事・交流の経験が豊富な著者が、外国人の思考・行動特性と日本人のそれとの違いを踏まえた上で、外国人との付き合い方を指南したもの。

 本書の後半では、欧米人と対等に付き合うためのマナーや、レセプションやディナーでの基礎理式、スピーチの秘訣や国際会議での立ち回り方などが書かれていて、最終章が「恥をかかないための基礎的なプロトコル」となっていますが、後半全体が広い意味での国際プロトコルについて書かれたものであり、見方によっては本書全体がそうであるとも言えるのでは。

 但し、前半部分の、日本人がよく使う「すみません」という言葉が欧米人にとっては何を意味しているのか理解されにくい、とか、欧米では、自己主張できなければ無能力と評価されるため、子供の頃からいかに自分の意見を主張し、他人を説得できるかを鍛えられるが、謙虚が美徳の日本社会では「沈黙は金なり」と教えられる、従って、日本人と欧米人とが一番異なる行動をするところは、発言するかしないかである、といったことは、これまでも多くの本などで言われてきたことではないでしょうか。

2011年FIFAワールドカップ日本対アメリカ決勝戦.jpg 日本の社会では、結果よりもプロセスが大事にされるが、欧米社会では結果が全てであるというのは、時と場合によるような気もしました。以前、女子サッカーの2011年FIFAワールドカップの日本対アメリカの決勝戦の選手別採点表の日本版とドイツ版をネットで比較してみたことがありますが(サイトの運営会社は同じ)、日本の場合は優勝したこともあって皆高い評価になっていたのに対し、ドイツの方は、苦戦したプロセスを見ているのか、結構厳しかったように思います(時間ごとに区切った評価の累積が最終評価になっているようだ。海外の方がプロセス重視型であるのが興味深い)。

 尤も、日本人は分析力や総合力に長けているので、問題を分析し、解決方法を探し、自分で改善して行く能力を持っているため、いわゆるマニュアルは不要で、上司の役割も細部にわたる指示ではなく、むしろ問題点を発掘し大きな方針を示すことに重点が置かれるが、一方、西欧では、事細かに何をするのかを指示しなければ人々は動かない、という指摘など、改めてナルホドなあと思わされる部分も多々ありました。
 
「お辞儀」と「すり足」はなぜ笑われる 2.jpg 表題の「お辞儀」に関しては、日本人はやたらとお辞儀をするが、平常の挨拶で頭を下げてお辞儀をする国はあまり無く、殆どの国でお辞儀は君主に会ったりしたときに使う最敬礼の挨拶であるとのことで(だからオバマ大統領は天皇に会った際にお辞儀したわけか)、通常のビジネスの場においては、堂々と胸を張り握手をすべきであり、それが欧米人と対等に付き合うことができる第一歩であると。

 前半は比較文化論的で面白いけれども、聞いたことがあるような内容も多く、後半に行くほど「プロトコル」色が強くなっていくため、知識として持っているにこしたことはないけれど、周囲に外国人がいて実践する機会がないと、応用に繋がらないかなあと(誰かレセプションにでも呼んでくれないと、忘れてしまいそう?)。

 『国家の品格』という本がありましたが、国際社会は闘争の場であり、自国において「誇り」や「品格」を大事にしている外国人でさえも、国際社会に出た途端にそうしたものを捨て去るという指摘は興味深かったです。

 その他にも、外国人間では、相手の家族のことを気に掛けたり、家族同士で付き合ったりすることが、日本人間以上に高い親密度の表れとみなされるといった指摘なども興味深かったですが、やはり、応用の場がないとなあ(実践の場がある人にとってはいいかも知れないが、そうした人達にとっては、すでに分かり切ったことかも)。

女子サッカー.jpg2011 FIFA女子ワールドカップドイツ大会 決勝戦(対アメリカ)先発メンバー個人別評価

女士サッカー.jpg 

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あくまでも、初めてマーケティングを学ぶ人向け。ストーリー的にはしょぼい。

新人OL、つぶれかけの会社をまかされる.jpg新人OL、つぶれかけの会社をまかされる (青春新書PLAYBOOKS)

 ベストセラー『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(2009/12 ダイヤモンド社)のマーケティング版のような本です。

 但し、著者が以前書いた『ドリルを売るには穴を売れ!』(2006/12 青春出版社)をリニューアルしたもので、元本も、新人OLが会社傘下のイタリアン・レストランの経営を立て直すというストーリー自体は同じであり、今回は、中身よりも主にタイトルと装丁を変えた"新装バージョン"とのことのようです。

 そうした意味では、『もしドラ』を真似したわけではなく、むしろこちらの方がこの手の本では元祖とも言えるし、元本は元本で、分りやすいマーケティング入門書として定評があるようです。

 確かに、読んでみて分り易かった。ストーリーがあるために分り易いというよりも、基本にある理論構成が、「ベネフィット」「ターゲット」「強み・差別化」「4P」という4つに集約されていて分り易いのです。
但し、そこから先が、元本よりも中身もやや柔らかくなっているせいか、ホントに入門レベルで留まっている感じもしました。

 広告代理店の新人研修レベル、までも行かないか。あくまでも、初めてマーケティングを学ぶ人向けと考えれば、この程度でもいいのかも知れませんが、ストーリー部分は、理論よりもむしろ啓蒙という感じでしょうか。

 思えば、こうした物語風の入門書は、本書や『もしドラ』に限らず今までもあったのでしょうが、『もしドラ』は、野球部という企業経営とは異なる舞台で、ドラッカーの理論を敷衍的に活かすというストーリー構成の旨さがあったし、まあ、ドラッカー・ブームに乗ったということも相俟って、あれほど売れたのだろうなあ。

 一方、こちらは、直接的にレストラン経営というビジネスの場を扱っているため、「敷衍」の幅が小さいというか、むしろ、あまりストーリーに拘泥されずに、各章の纏めの部分を何度か読めば、体系的なことは理解できてしまう...。

 ストーリー部分も、9人でやる野球と数人のプロジェクトという人数の違いもあってか、それほど深みがなく、登場人物の人物造形も浅いように思えました。

 単独で入門書としてみればそう悪くもないですが、『もしドラ』を意識してリニューアルしたことは明らかで、テーマも「マネジメント」と「マーケティング」という違いがあり、ついついストーリー部分を比べてしまいました。

 改めて、『もしドラ』のストーリー展開の旨さ(ヤングアダルト小説の典型パターンの1つともとれるが)を認識しました(自分は、両方とも"テキスト"としてよりも"小説"として読んだということか?)

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冒頭の旅館とホテルの事例は良かった。だんだん、ビジネス誌の連載みたいになってくる。

「最強のサービス」の教科書.jpg「最強のサービス」の教科書 (講談社現代新書)

 いかにも編集サイドがつけたようなタイトルですが、「最強のサービス」とは何かということよりも、工学的アプローチにより無駄な部分を廃し、本当に顧客が望むサービスの強化に経営リソースを投下することで、そうして顧客満足を効率的に実現するという「サービス工学」という視点を、事例を通して訴えたかった本のようです。

加賀屋.jpg 社会の状況や顧客の要望、嗜好に合わせ、サービスの内容や提供方法を変化させることで成功し、今も成長を続ける企業8社の事例が紹介されていますが、最初に登場する「加賀屋」の事例が(すでに台湾進出などで、マスコミで取り上げられることも多いが)際立っているように思えました。

「BIGLOBE みんなで選ぶ 温泉大賞」温泉宿部門 総合1位(3年連続)「加賀屋」(石川県・和倉温泉)

 本当の意味での「おもてなし」とは何かを顧客目線で考え、顧客にとって価値を生まないサービスは省力化し、客室係が接客に注力できるようにする一方で、人的サービスが「良質」であるのはいいが、人によってサービスに「ムラ」が出ないように、顧客の要望や意見などをデータベースしている―とりわけこのデータベースの力が大きいように思いました(客室まで客を案内する間に、旅館の様々な情報を教えてくれる宿というのは、最近は少ないなあ)。

 続いてのビジネスホテルチェーン「スーパーホテル」の事例は、チェックイン・アウトの機械化されていて、現金や鍵の収受などフロント業務も行っておらず、ちょうど一見「加賀屋」の対極にあるようにも見えますが、部屋置きの電話機やドリンク入り冷蔵庫など、顧客がメリットをさほど感じていないサービスは廃止し、ユニットバスも無く、代わりに温泉大浴場があって、これが顧客に好評を博しているとのこと、顧客目線に立ったサービスとは何かということを考え、従来の既定のサービスの見直しを行ったという意味では、やはり「加賀屋」に通じるものがあると思いました。

 ベッドの脚を無くして床に直置きにしたのは従業員のアイデアだそうですが、こうなると、経営者や(現場のことをよく知っている)従業員の、常日頃の意識の問題と言うか、「サービス工学」という理論は、後から説明的についてくるような気がしなくもありません。
 
 実際に本書に出てくる企業は何れも、従業員満足(ES)ということに非常に力を注いでおり、そうしたことが、従業員の変革のモチベーションに繋がっているのではないかと思われ、そこへ現場を知らないコンサルタントが入ってきて、「サービス工学」とか振り回しても、あまりに効果はないのではないかというのは、後ろ向きの考え方ということになるのでしょうか。

 「サービス工学」というものへの懐疑もあり、読み進むにつれて、何だかビジネス書で連載されて成功事例集のように思えてきて、う~ん、新書で出すような本なのかなあとも。

 グローバルな視点みて、顧客の創造というものを行っているのは、やはり台湾に進出した「加賀屋」でしょう。
テレビの特番で、現地採用の新米仲居を躾けるベテラン従業員を見ましたが、今後どうなるか注目したいところです。


《読書MEMO》
●加賀屋
野村芳太郎監督(松本清張原作) 「ゼロの焦点」('61年) のロケで使われた(原作執筆時の松本清張も宿泊)。
加賀屋 .jpg ゼロの焦点 1961年.jpg

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「個」としての自分をしっかり持て―と。「自己啓発セミナー」を聴いているような感じも。

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仕事で成長したい5%の日本人へ (新潮新書)

 欧州で生活して30年、現在パリに住み、グローバルビジネスのコンサルティングをしているという著者の、国際的な観点からの、日本人に向けた仕事論、ビジネス論、キャリア論といった感じの本でしょうか。

 前半部分は、自らのキャリアを通しての仕事論で、そのキャリアというのが、東大の応用物理学科、同大学院化学工学科卒後、国内メーカー(旭硝子)に勤務し、オックスフォード大学の招聘教官を経て、スイスのバッテル研究所、ルノー公団、エア・リキード社とヘッドハンティングされながら渡り歩いたというもので、あまりに"華麗"過ぎて、最初はちょっと引いてしまいました。

 しかしながら、読み進むうちに、「自分の仕事の相場観を持て」、「評論家ではなく実践家になれ」、「他人を手本にしても、憧れは抱くな」、「成長願望と上方志向を混同するな」といった著者のアドバイスが、欧米のビジネスの現場で様々な人々と会い、そうした外国人と交渉したり共に仕事してきた経験に裏打されているものであることが分かり、説得力を感じるようになりました。

 フランス人のバカンスの過ごし方に触れて、バカンスに仕事を持ち込むのは無能である証拠とみなす彼らの考え方を知ったり、ルノーの労組リーダーに、労組の理論家としての立場を放棄することとバーターでの昇給を申し出て断られたことから、自らの成長願望のために昇給を犠牲にするその生き方に爽やかさを覚えたりするなど、著者自身の異価値許容性の広さも感じました。

 後半部分は、そうした経験を通しての異文化コミュニケーションの在り方を、これも具体的な事例を通して解説しており、また、そしたことを通して、「夢」と「パッション」を持つことの大切さを説いています。

 読んでいて、「成功セオリー本」という感じを受けることは無く、むしろ「個」としての自分と言うものをしっかり持てという根本的なところを突いていて(日本人が弱い部分でもある)、自律的なキャリア形成を促す「自己啓発セミナー」を聴いている感じでしょうか。

 振り返ってみれば、著者自身、ルーティン化したサラリーマン生活に嵌ってしまうのが嫌で日本を飛び出したわけで、一見"華麗"に見えるキャリアも、最高学府を出ているとか頭の良さとかからくるものではなく、著者自身の、決して現状に充足しない成長願望の賜物なのでしょう。

 著者が親交のあるラグビーの平尾誠二氏、指揮者の佐渡裕氏、柔道の山下泰裕氏、将棋の羽生善治氏らのエピソードを挙げ、彼らのような天才と比べ自らを凡人であるとしつつも、そこから学ぼうと言う姿勢は謙虚且つ貪欲であるように思えました。
 但し、終盤にこれら著名人の逸話を多くもってきたことで、所謂「自己啓発セミナー」の観が、パターナルな方向で強まったかも知れません。

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典拠を1冊に絞っているのがいい。すらすら読めることが本書の狙いの1つ。読後感も爽やか。
もし高校野球の女子マネージャーが2.bmp   もし高校野球の女子マネージャーが (新潮文庫).jpg
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(2009/12 ダイヤモンド社)もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら (新潮文庫)』2015年文庫化

 タイトル通りの設定で、進学校の弱小野球部の女子マネージャーになった主人公の女の子・みなみが、「野球部を甲子園に連れていく」という自らに課したミッションのもと、偶然出会ったドラッカーの経営書『マネジメント』を片手に野球部の強化に乗り出し、ドラッカーの教えを1つ1つ実践して、やがて―。

 面白かったです。ドラッカーの数ある著作の中から『マネジメント―基本と原則[エッセンシャル版]』('01年/ダイヤモンド社)1冊に絞って引用しているので典拠が分かり易く、また、それらを旨く物語に織り込んでいるように思われ、これだと、かなりの読者を、元本(もとほん)を読んでみようという気にさせるのではないでしょうか。

上田惇生、糸井重里 nhk.jpg 著者は、放送作家としてバラエティ番組の制作に参加したり、「AKB48」のプロデュース等にも携わった人とのことですが、NHKの「クローズアップ現代」で「よみがえる"経営の神様"ドラッカー」としてドラッカー・ブームをフィーチャーした際に('10年3月放映)、ドラッカー本の翻訳者である上田惇生氏と共にゲスト出演していたコピーライターの糸井重里氏もさることながら、その糸井氏よりも著者の方がより"ドラッカリアン"ではないでしょうか(但し、本書とこの糸井氏出演のテレビ番組でドラッカーブームに火がついたとされているようだ)。

NHKクローズアップ現代「よみがえる"経営の神様"ドラッカー」出演:上田惇生(1938-2019)、糸井重里(2010年3月17日放送)

 本書を読んでこんな旨くコトが運ぶものかと思う人もいるかも知れませんが、ビジネス書(テキスト)として捉えれば、その枠組みとしての"お話"なので、そうした目くじら立てるのは野暮でしょう。ドラッカー自身が、オプティミストであったわけだし、バリバリの経営コンサルタントである三枝匡氏の 『Ⅴ字回復の経営』('01年/日本経済新聞社)だって、こんな感じと言えばこんな感じでした。

 主人公のみなみと親友の夕紀や後輩の文乃、野球部のメンバー達との噛ませ方は、ヤングアダルト・ノベルのストーリーテリングの常套に則っていますが、このYA調が意外とこの手の「テキスト」としてはマッチしていて、構想に4年かけたというだけのことはあります(著者自身、高校時代は軟式野球部のピッチャーだったと、朝日新聞に出ていた)。
 最初は主人公のみなみが"マネージャー"の意味を"マネジャー"と勘違いして、それが結果的にうまくいくというコメディにしようと思っていたそうですが、そうしなくて良かったし、そうする必要も無かった(でも、"マネジャー"って、日本語の発音上は"マネージャー"と言ってるなあ)。

 文章が稚拙との評もありましたが、飾り気の無い文体で、個人的にはすらすら読めたし、すらすら読めることが本書の大きな狙いの1つなのだと思います。読後感が爽やかなのも良かったです。

【2015年文庫化[新潮文庫]】

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一企業に膨大な個人情報が蓄積されることの不安。「検索」の次に何をしようとしているのか。

グーグル革命の衝撃 新潮文庫.jpg 『グーグル革命の衝撃 (新潮文庫)』  グーグル革命の衝撃 NHK.jpg 「NHKスペシャル"グーグル革命の衝撃"あなたの人生を検索が変える [DVD]

 NHKスペシャルで'07年1月21日に放映された「"グーグル革命"の衝撃~あなたの人生を"検索"が変える」は、思えばそれが自分にとって"Web2.0"的な世界を初めて認識した機会だったかも知れません。
 番組の内容はその年の5月に単行本化されましたが、本書はその後のグーグルとそれを取り巻く世界の動向を加筆し、2年の月日を経て文庫化したもので、単行本の方は読んでなかったこともあり、久しぶりにグーグルという企業の"凄さ"が自分の中で甦ってきました。

 まず、冒頭の広報チームの構成からして凄く、ハーバード・ロー・スクールの出身者であったりします。そして、番組にもあった、難解な数学の問題だけを表示した高速道路脇にあるグーグルの求人広告。優秀な人材を根こそぎ採用していて、普通の会社に1人か2人しかいないようなスーパースターが、グーグルにはごろごろいるとのことです。

 グーグルの検索結果の表示順位のアルゴリズムは明かされていませんが、本書では、グーグルの草創期の物語を通して、サイトのバックリンクの多さなど、その基本的な指標は明かされているように思います。

 グーグルの収入源である"グーグル・アドワーズ"、コンピュータがニュースを編集する"グーグル・ニュース"についても1章ずつ割いて解説されていますが、検索順位を上げることだけを目的としたリンクなどに対して、グーグルがどのように対処しているのかという話が、やはり興味深かったです。

 企業のグーグルでの検索順位を上げるためのコンサルティング会社の隆盛を番組で見た時は驚きましたが、今では「SEO対策」などといった言葉が日本でも身近なものになっています(アドワーズの代理店から、広告掲載を勧誘された経験を持つ人も多いのでは)。

 ここで本書が問題提起しているのは、情報収集の全てをグーグルに依存し、また、グーグルに個人情報の全てを委ねるようなライフスタイルが新たに現出しようとしていることです。

 本書で紹介されているサンフランコ市の例のように、グーグルが接続業者と組めば、そして、その接続業者が都市全体を無線LANでカバーするアクセスポイントを有していれば、グーグルには間接的に市民の個人生活情報が蓄積されることになり、これは、自治体や国家以上の情報を、それもナマの情報を、一企業が蓄積していることになるということではないかと。
 また、そうした情報は、マーケティング的立場から見れば関係者にとっては垂涎の的であり、これは結構危険な状態なのではないかと思いました。

 '06年のユーチューブの買収発表後も、最近では中国市場からの撤退表明やオンラインビデオサービス会社の買収など、依然話題に事欠かないグーグルですが、この企業が「検索サービス」の次に何をしようとしているのかということは、我々の生活にも影響が無いとは言えない気が、本書を読んでしました。

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この本そのものも、「心理屋さん」が書いた成功本。

成功本はムチャを言う.png成功本はムチャを言う 青春新書INTELLIGENCE.jpg            本は10冊同時に読め.png
成功本はムチャを言う!? (青春新書INTELLIGENCE)』['08年]  成毛 眞 本は10冊同時に読め!―本を読まない人はサルである!生き方に差がつく「超並列」読書術 (知的生きかた文庫)』['08年]

 タイトルから「成功本」を斬って捨てる本かと思いきや、「成功本の著者が説く成功ノウハウや成功法則と、それをなかなか自分に生かし切れない読者のギャップを埋めることを目的に」書かれた本であるとのことで、著者は、小学校教師から出版社の編集者、取締役を経て、今は、コーチングやカウンセリングを行う心理カウンセラー(乃至コンサルタント)―と言うか、そうしたことを商売とする事業者と言った方がいいかも。

 本書では、成功本そのものを否定しているのではなく、成功本が説く法則(ノウハウ)を、「目標を明確にする」「期日を決める、スケジュールを立てる」「好きな仕事をする」「ポジティブ思考をする」「人に感謝する、人に与える」「自分に投資する」「いい人と付き合う、人脈を広げる」「潜在意識を活用する」の8つ類型に分け、これらの法則を読んでも実行できない読者の心理的障壁について、つまり読者が読んでどこに無理が生じる原因があるかを分析しています。

 更に、人の行動価値基準を「目標達成的傾向(「勇」:行動を重視する人)」「親和的傾向(「親」:調和することを重視する人)」「献身的傾向(「愛」:愛し愛されることを重視する人)」「評価的傾向(「智」:考えることを重視する人)」の4つの性格傾向に分け、これらに沿って成功本を"自分流"に読み替えるコツを伝授していますが、いかにも「心理屋さん」が書いた本といった印象も受けなくもなく、気づいてみれば、この本そのものも「成功本」の1種だったのかと...(この著者には『異性を思いどおりに動かす!』('93年/橘出版)なんて著書もある)。

 「成功本」というのがどこまでを指すのかよくわかりませんが、個人的にはあまりそうした本は読まない方だと思います。
 元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏が『本は10冊同時に読め!』('08年/知的生きかた文庫)の中で、「家にある成功者うんぬんといった本を捨てるべきである」とし(こっちの方がスッキリしている)、「ビジネスハウツー書ばかり読む人も、私から見れば信じられない人種である。まず、『金持ち父さん、貧乏父さん』系の本を読んでいる人、こうすれば儲かるという投資本や、年収1500万円を稼げるといった本を読んでいる人は、間違いなく『庶民』のまま終わるだろう。できる社員系の本を読んでいる人も同じである。なぜならば、他人のノウハウをマネしているかぎり、その他大勢から抜け出すことはできないからだ」と書いていますが、庶民のままで終わって何が良くないのかとは思うものの、「成功本」に対するスタンスは自分も成毛氏に近いかも知れません。この本は"ムチャ本"ではありません(但し、古典や文学作品は読む価値が無いというのはやや乱暴)。

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「博報堂生活総研」×「人材コンサル」? サラッと読めて、新たな視点を提供してくれる。

ネコ型社員の時代.jpgネコ型社員の時代―自己実現幻想を超えて (新潮新書)』 ['09年] 山本直人.jpg 山本 直人 氏(略歴下記)

 かつて大手広告代理店・博報堂の人事部門に在籍し、現在は人材開発コンサルタントをしている人が書いた本で、新潮新書らしいサラッと読めてしまうビジネス本。
 著者の言う「ネコ型社員」とは、「『自己実現』に幻想を持たず、出世のためにあくせくせず、滅私奉公に背を向けつつも、得意分野では爪を磨ぐ」タイプとのことで、そんな「ネコ型社員」が増殖しているそうな。

 著者が挙げる「ネコ型社員」の特徴は、「1.滅私奉公より、自分を大切にする、2.アクセクするのは嫌だが、やる時はやる、3.自分のできることは徹底的に腕を磨く、4.隙あらば遊ぶつもりで暮らしている、5.大目標よりも毎日の幸せを大切にする」ということだそうで、ちょっぴり「犬型」的要素も入っているような気がしないでもないですが、本書では、名犬・忠犬・警察犬はいるけれど名猫・忠猫・警察猫はいないよねという話は冒頭あるものの、「犬型」の特徴を挙げて対比するようなやり方はしておらず、あくまで「ネコ型」について述べるのみ、これ、戦略的かも。

 ネコ型社員の信条は、「『忠誠』よりも『信義』、『上昇』よりも『向上』、『一人前』よりも『一流』」ということで、博報堂のR&D部門にもいた人らしく、こうした分類にはマーケティング的というか「博報堂生活総合研究所」的な匂いを感じなくもありません(「生活総研」×「人材コンサル」といったところか)。

 「ネコ型社員」であることを勧める共に、企業としての「ネコ型社員」の活かし方にも触れていて、「1.砂場を作る、2.見返りを求めない、3.自信を持って甘やかす」ということになるようで、それぞれについては中身を読んでいただければと思いますが、「ネコ型社員」になることよりこっちの方が難しいかも知れないとも思ったりしました。

 個人的に感性が一致したのは、転職支援の「あなたの可能性はまだまだそんなものじゃない」といった"眩しい"コピーを「自己実現熱」を煽るものとして批判している点で、元コピーライターが言うだけに説得力があったりして(「粘土上司」なども言い得て妙)。

 「ワーク・ライフ・バランス」という言葉の流行に対しても、経営側は「結局ワークを中心として、ライフとのバランスをとろうというように聞こえる」と言っているのには素直に共感しました。

 実践面でそんなに旨くいくかなという部分もありましたが、"目から鱗"とまでは行かないでも、働き方や物事への取り組み方、部下の扱い方などを少し違った角度から考察してみるには悪くない本でした。
_________________________________________________
山本 直人 (やまもと なおと)
1964(昭和39)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。博報堂に入社後、コピーライター、研究開発、人事局での若手育成などを経て、2004年退職、独立。著書に『売れないのは誰のせい?』など。青山学院大学講師。

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さほど目新しさが感じらず、むしろ、テレビって簡単には変われないのかも、とも。

テレビ進化論.jpg 『テレビ進化論 (講談社現代新書 1938)』 ['08年]

 梅田望夫氏の『ウェブ進化論』('06年/ちくま新書)を模したようなタイトルで、本書の方もそれなりに売れたようですが、内容的にはさほど目新しさが感じられませんでした。

 コンテンツ・ビジネスの現状を、最近のトピックス(かなり瑣末なものも含まれているように思える)を織り交ぜ、「再確認」的な意味でわかり易く取り纏めてはいるものの、最近の動向や現状分析が主体で、主テーマであるはずのテレビの「今後」ということに関してはやや漠としており、角川が昔やったメディアミックス戦略(出版・TVと広告と芸能キャラクターの複合戦略)に注目していたりしますが、これって、多かれ少なかれ今はどこの局でも(NHKですら)やっていることではないかと。

 一見、「ギョーカイ」人が語るメディアの未来像みたいなムードを漂わせていますが、著者は最近まで経済産業省の官僚であった人で、TV局や映画会社など映像メディアの流通・配信に関わる産業が、いかに過去の因習やインフラ整備に係る法的な規制に縛られているかという「業界」内の産業構造の問題点が重点的に指摘されており、電波事業は郵政省の許認可及び監督事業であるわけですが、経済産業省にもメディアコンテンツ課というのがあり(著者はかつてここに勤務していた)、やはり人は自分の得意分野のことしか書けないということか、とも思ったりしました。

 但し、グーグルのビジネス技法の特徴を「直接収益のように単一の受益者に金銭対価を要求するのではなく、複数の受益者を想定し、ある受益者には無償で利益を与え、そこから、獲得した情報と引き換えに別の受益者から金銭を回収するというやり方」だとし(これも言わば"再確認"事項に過ぎないが)、こうした「情報の三角貿易」を映像ビジネス世界でも模索する動きがあるというのには関心を持ちました。

 ただ全体としては、ウェブの世界でアルゴリズム化されたOne To Oneマーケティングが進む中、テレビの方はそう簡単には変われないのではないか(「地デジ」にしても、郵政族議員の利権の上に進められているのであって、そうした双方向効果が具体的に見えているわけではない)という思いを、本書を読むことで更に強くしました。

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「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「HEROES」)

「目からウロコ」と言うより、もやっと感じていたものをスッキリと表現したという感じ。

パラダイス鎖国.jpgパラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書)』['08年]海部 美知.jpg 海部 美知 氏(帯の写真は梅田望夫氏と池田信夫氏)

 「日本人は海外に行きたくなくなったし、海外のことに興味がなくなった」のではというのは、確かに言えているかも。
 本田技研に総合職一期生として就職後、米国に留学し、現在シリコンバレーで通信・IT事業に関するコンサルタントをしている著者は、こうした「自国が住みやすくなりすぎ、外国のことに興味を持つ必要がなくなってしまった状態」を「パラダイス鎖国」と呼び、これは個人レベルに止まらず、産業レベル、例えば自らが携わった携帯端末事業などにおいても、ほどほどに大きい日本市場に安住して囲い込み競争を続けているうちに世界市場にとり残されることになったような状況が見られるとしています。

 著者は、'05年の日本での夏休みの後、米国に戻った際に、日本人は「誰も強制していないけれど、住み心地のいい自国に自発的に閉じこもる」ようになったのではないかと感じ、そのことを自らのブログ「Tech Mom from Silicon Valley」に綴った際に用いた言葉が、この「パラダイス鎖国」。
 これが、翌年「月刊アスキー」編集部の目にとまり、更に2年を経て、新書として刊行されることになったという点では「ブログ本」だとも言えますが、「パラダイス鎖国を、国家とか全産業とかのレベルでどうすべきだ、なんぞという大きな話は私にはよくわからない」とブログで述べていた当初に比べると、本書では「パラダイス鎖国・産業編」という章を設け、産業統計を用いて自己の考えを検証するなどし、「ブログ本」によく見られるブログ記事を引き写しただけのような安直さ、読みにくさはありませんでした。

 著者は自らのブログで、携帯端末に関して日本の企業は、いかに大きいといっても日本市場しか相手にしておらず、特に日本ではメーカーの数が多すぎて世界で売っているメーカーと比べてスケールも違いすぎ、一方海外の安い端末は日本のあまりに進んだ市場に合わず、そのため日本で普及している製品は皆コスト高となっている、こうした状況がユーザーに割高な使用料を強いていることを指摘していましたが、すでに料金システムの見直しや端末メーカーの撤退が始まっている...。
 こうした著者の経験分野に近いところの話は(ブログと内容は重複するものの)シズル感を持って読むことができましたが、統計数字を用いた貿易収支の話などは、経済白書を読まされているような印象も。

 「パラダイス鎖国」を脱するための問題解決の提言が抽象レベルに止まっているのもやや不満で、最後は、まだキャリアの入り口にいるような人に向けての"もっと視野を拡げよう"的「啓蒙書」になった感じ。
 但し、そのことを割り引いても、個人の意識レベルの問題と産業レベルの問題を「パラダイス鎖国」という概念で貫いて示した点は評価できると思いました(「目からウロコ」と言うより、もやっと感じていたものをスッキリと表現したという感じ)。

ヒロ・ナカムラ.jpg 個人的には、「HEROES/ヒーローズ」のマシ・オカ演ずるヒロ・ナカムラの描き方について、「日本人の記号」を装飾しているが、中身は「普通の人」として描かれているとし、「パラダイス鎖国」の裏側で、アメリカ人から見た日本人の姿もまた変化してきているとしている点などはナルホドと思わされました(但し、ヒロ・ナカムラ像は、英語を母国語としながらも、流暢な日本語とブロークンの英語を操るマシ・オカこと岡政偉(おか まさのり)の異才に依るところ大のように思う。彼は頑張っているのだが、ドラマ自体は、共同脚本の常でストーリーが破綻気味であり、観ているうちにだんだん訳がわからなくなってきた)。

HEROES ヒーローズ.jpg「HEROES」HEROES (NBC 2006~2010) ○日本での放映チャネル:スーパー!ドラマTV(2007/10~2011/10)/日本テレビ

HEROES ファイナル・シーズン DVD-BOX

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「●さ 佐賀 潜」の インデックッスへ

楽しく読めて、商法や会社法の考え方を大筋で知る上では、今でも役立つ。

民法・商法入門・56.JPGI商法入門.jpg商法入門/佐賀潜.jpg   民法入門.jpg
商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために (1967年)』/『商法入門』 改版版/『民法入門―金と女で失敗しないために (1967年) (カッパ・ビジネス)

法律(昭和43年)▷「刑法入門・民法入門・商法入門.jpg 佐賀潜の法律入門書シリーズの1冊であり、学生時代に法律を勉強したことが無かった自分には、例えば、商法における「商人」とは何かについて、「売春婦は商人ではないが、売春宿の主人は商人である」といった説明の仕方で入る点などは興味を引かれるとともに、条文解釈が懇切丁寧で、全体を通して非常にわかり易かったです。

 今は別立ての法律となっている会社法の部分が含まれており、株式会社とは何か、取締役とは何かといったことのアウトラインも掴め、細部は法改正などで変わっている部分もありますが、商法や会社法の考え方を大筋で知るための入門書としては、今でも役立つのではないでしょうか。

 社長は取締役を解任できないが、「取締役の過半数が結託すれば、社長をクビにできる」などといったことは、本書で初めて知りましたが、その後、三越の岡田社長解任劇など、そうしたことが本当に起きるような時代になっていきました。取締役は原則として労働基準法ではなく商法(会社法)の適用を受けるので、企業法務に携わる仕事をする人にとっては、商法(会社法)の知識は必須のものと言えるでしょう。

佐賀潜.jpg 佐賀潜(1914‐1970/享年56)は、中央大学法学部在学中に司法試験に合格し、検事として活躍した後、弁護士に転じた、所謂"ヤメ検"でした(最近では 大澤孝征弁護士・元東京地検検事などがそう)。弁護士時代もやり手だったようで、それでいて、推理作家としても華々しいデビューをし、多くの娯楽作品を手掛けた人で、父親を含め先祖代々佐賀鍋島藩の出身ですが、ペンネームはその"佐賀"に「犯人をなかなか"捜せん"」を懸けたものです。

民法入門02.jpg この作家の、小説ではないところの「法律シリーズ」は、『民法入門-金と女で失敗しないために』(これもかなり面白い。お薦め!)、『刑法入門-臭い飯を食わないために』が'68(昭和43)年にベストセラー2位と3位になったほか、『商法入門』、『道路交通法』も同年の7位と9位にランクインしていて、これはかなりスゴイことではないでしょうか。

商法入門1.jpg 表紙カバーの推薦の辞を、『商法入門』が作家の梶山李之、『民法入門』が経済評論家の三鬼陽之助が担当しているのも、時代を感じさせます(佐賀潜自身は、三島由紀夫の『葉隠入門』('67年/光文社カッパブックス)に推薦の辞を寄せている)。

 【1974年・1986改版/1990年新版[カッパビジネス『新版 商法入門―安全・確実に儲けるために』]】

《読書MEMO》
●1968年(昭和43年)ベストセラー
1.『人間革命(4)』池田大作(聖教新聞社)
2.『民法入門―金と女で失敗しないために』佐賀 潜(光文社)
3.『刑法入門―臭い飯を食わないために』佐賀 潜(光文社)
4・『竜馬がゆく(1~5)』司馬遼太郎(文藝春秋)
5.『頭の体操(4)』多湖輝(光文社)
6.『どくとるマンボウ青春記』北杜夫(中央公論社)
7.『商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために』佐賀 潜(光文社)
8.『愛(愛する愛と愛される愛) 』御木徳近(ベストセラーズ)
9・『道路交通法入門―お巡りさんにドヤされないために』佐賀 潜(光文社)
10.『Dの複合』松本清張(光文社)

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アラブ入門書としても読めるが、観光立国を目指す「CEO」的首長や「投資家」王子の存在が興味深い。

アラブの大富豪.jpg 『アラブの大富豪 (新潮新書 251)』 ['08年] ドバイ政府観光.jpg(写真提供)ドバイ政府観光商務局 http://dubaitourism.ae/japan  

 著者はアラビア石油に勤務し、サウジアラビアに長く駐在していた人で、ジェトロのリヤド事務所長を務めた経歴もあり、アラ石を定年退職後に始めたアラブ関係のブログが契機で、経済誌の取材を受けたりし、新潮社から誘いを受け本書の慣行に至ったとのこと。

 サウジアラビアの王家の歴史や政商のルーツ、アラブ人の宗教観とビジネスの関係、今回の産油国の「オイル・ブーム」の特徴や「オイル・マネー」を巡る諸国の動き、更には、石油は枯渇しないのか、なぜ湾岸諸国の多くが旧態の王制ながら政情が比較的安定しているのか、といったことまで書かれていて、コンパクトなアラブ入門書としても読めますが、面白かったのはやはり、特定の「大富豪」に絞って解説した第2章と第3章でした。 

"The Infinity Tower"(330m)-Duabi/'Palm island' - Dubai/'Burj Dubai'(800m)
The Infinity Tower - Duabi.jpgPalm island Dubai.jpg'Burj Dubai'.jpg 第2章では、UAEの1つ、ドバイのムハンマド首長に焦点を当てていて、既に「NHKスペシャル」などでも特集されたりして、「ヤシの木リゾート」や世界一の高層ビル「ブルジュ・ドバイ」をはじめとする建設ラッシュなど、ドバイの観光開発やビジネス投資が凄いことになっているのは知っていましたが、これを牽引しているのが「ドバイ株式会社のCEO」と言われる彼であるとのことで、なかなかのやり手だなあと。
 日本でも、ドバイのことを「世界中のセレブが集う夢のリゾート」と謳った観光ガイドブックが見られるようになった一方で、峯山政宏氏の『地獄のドバイ』('08年/彩図社)などという本も刊行されており、「光」の部分だけではなく、観光立国を目指す裏には「闇」の部分もあると思いますが、それはともかく、個人的には、王族の兄弟が世界各地のリゾートで放蕩し、また競馬やギャンブルで莫大な散財をしたことが、リゾート計画の立案や投機ビジネスに生かされているというのが、ちょっと面白いと思いました。

'The Kingdom Tower' (302 m)-Riyadh
The Kingdom Tower.jpg 第3章では、サウジアラビアのアルワリード王子にスポットを当て、こちらは、王族には珍しい起業家タイプで、米国のウォーレン・バフェット並みの投資家であり(実際、「アラビアのバフェット」と呼ばれている)、世界有数の大富豪でもあるとのこと。彼の率いるキングダム・ホールディングのリャドにある本拠地「キングダム・タワー」は、投資家の憧れの地みたいになっているようです。
 個人的には、彼が起業家を目指した経緯が、王家の傍流にいて、当初は父親が国王になる見込みが無かったためというのも、これまたちょっと面白い(やはり、人間どこかハングリーなところがないと、伸びないのか)。

 著者によれば、こうしたアラブ諸国は、支配者である国王が膨大な冨を国民に分配することを役割としている「レンティア(金利生活)国家」であり、額に汗流して働かなくとも(それでいて、税金は無く、医療や義務教育も無料)国民全体が生活できるというもので、著者自身は王国の将来について、近未来の範囲では楽観的に捉えているようですが、う〜ん、どうなんだろう。本書で取り上げられているUAE各国やカタルなど、人口が小さい国では、そうかも知れないなあ(使い切れずに余ったオイル・マネーはどこに流れているのか、不思議)。

 世界の長者番付に出てこない「大富豪」も沢山いるようで、オイル・マネー潤沢の王族企業は不特定多数の個人や法人から資金を調達する必要がないため、株式上場もしなければ、財務諸表も開示していないとのこと。ビル・ゲイツの資産は殆どマイクロソフト社の彼自身の保有株の時価総額が占めているわけですが、確かにアラブの大富豪王族だと、非公開企業のオーナーである彼らの保有資産額はわからない...。

「ブルジュ・ドバイ」と世界の高層ビルの高さ比べ http://v4vikram.blogspot.com  "Al Burj "(1050m=計画中)-Duabi
Al Burj.jpg「ブルジュ・ドバイ」と世界の高層ビルの高さ比べ.gif 
 
 
 
 

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さらっと読める現代「インド入門」。多民族・多宗教・多言語国家であることを再認識。

インドビジネス.jpgインドビジネス3.jpg 島田 卓 (インド・ビジネス・センター代表取締役社長).jpg
インドビジネス―驚異の潜在力 (祥伝社新書)』島田 卓(たかし)氏(インド・ビジネス・センター代表取締役社長)

india it.jpg 本書によれば、11億の人口を抱えるインドは、その平均年齢がたいへん若く、毎年1200万人の新たな労働人口が生じているとのこと(高齢化の進む日本とは違いすぎ!)、しかも、彼らの多くが英語を能くし、数学に強く、IT(情報技術)力が高い―。

 60年代から始まった米国へのインド人の頭脳流出が、80年代からの米シリコンバレーのIT革命の原動力になったことは知られていますが、その頭脳がインドに還流し、今、インドITの発展に貢献しているそうで、教育熱も盛んで、インド工科大学は、「IIT(インド工科大学)に落ちたらMIT(マサチューセッツ工科大学)へ行け」と言われるぐらい難関だそうです(中国にも、清華大学という理科系分野の殆ど全てにおいて国内最高のレベルを占める特異な大学があるが、国内需要と教育熱が難易度を高めるという点で似ていると思った)。          

 本書は、インドでのビジネスを経験した著者(現在、インド・ビジネス・センター代表取締役社長)が、インドビジネス・コンサルタントの立場から、インドの政治・経済・産業の現況やインド人のビジネスの考え方を示したもので、このタイトルで〈日経文庫〉などから刊行されていれば、経済主体の解説で終わってしまっていたかも知れませんが、一般向け新書として刊行された本書では、歴史・民族・文化から社会・宗教・慣習等まで、幅広い話題をとり上げ、インドというものを多角的に捉える助けになるとともに、読み物としても読みやすいものになっています。

 とりわけ、前半部分のインド人のビジネス場面で見られる国民的特徴を紹介した部分が面白く、インド人が日本人と接するときは、最初は低姿勢で従順だが、実は彼らは大変プライドが高く、また論議好きで(インドでは「沈黙は金」ではなく「死」であるとのこと)理屈っぽいというのが元々のところであるようで、第一印象で甘く見ると後で痛い目に逢う?

 多少、著者個人の体験から来る主観もあるでしょうが、本書は後半に行けば行くほどデータブック的になってくるだけに、この前半部分の、やや放言的?なトーンは、読者を引きつけ、読後にインド及びインド人についての何らかイメージを読者に持ってもらう意図としては悪くないと思い、日本はインドのソフトパワー(人材)への投資(企業でのインターン受け入れなど)をすべきだなどの提言が盛り込まれているのもいいです。

インド紙幣.jpg 本書を読んで、インドという大国の今後の台頭を予感させられましたが、この国が多民族・多宗教・多言語国家であることも再認識させられたことの1つで、言語で言えば、地方言語を含めると300近くあるとのこと、国会議員が議場では同時通訳のヘッドフォンをしていて、紙幣には17の言語で金額が表記されているというのにはビックリしました。
  
 インドは映画大国でもありますが、サタジット・レイの「大地のうた」3部作みたいな"教養映画"は少数で、殆どがミュジカール映画とのことです。日本でもヒットした「踊るマハラジャ」などはまだストーリーが凝っている方で、2時間ぶっ続けで踊っているシーンばかりのもあるようです(一応その中に典型的な勧善懲悪ストーリーなどが組み込まれていたりはするが)。

アイシュワリヤ・ラーイ
アイシュワリヤ・ラーイ2.jpgアイシュワリヤ・ラーイ.jpg しかし映画女優は美人が多く、例えば本書でも紹介されている1994年ミス・ワールドのアイシュワリヤー・ラーイ(1973年年生まれ)という女優は、いつまでも奇麗だと思います(ニックネームはアイシュ。ロレアルのLUX Super Rich のCMに出ていた。ダンスも上手い)。過去に出演している映画はともかく("ボリウッド"系娯楽映画が殆ど)、ビジュアル的にはインドの自信とプライドを体現しているような女優だと思います。

シュリヤー・サラン.bmpヴァルシャ.bmpプリヤンカー・チョープラー.jpg この他にもインド映画界には、シュリヤ・サラン(1982年生まれ)、ヴァルシャといった美人女優が数多くいて、この辺りの女優は"ボリウッド"だけでなく"ハリウッド"にも進出していて、最近では20世紀最後のミス・ワールド優勝者女優のプリヤンカー・チョープラー(1982年生まれ)のハリウッド進出が見込まれているそうです。

左からシュリヤ・サラン/ヴァルシャ/プリヤンカー・チョープラー

「RRR」シュリヤ・サラン01.jpg シュリヤ・サラン

RRR」[Prime Video]
「RRR」2022.jpg「RRR」01.jpg(●2022年のS・S・ラージャマウリ監督のインド・テルグ語叙事詩的ミュージカルアクション映画「RRR」が、「ムトゥ 踊るマハラジャ」(1995年)が保持していた記録を塗り替え、日本で公開されたインド映画の中で最も高い興行収入を記録し、第46回「日本アカデミー賞」で優秀外国作品賞も受賞した。映画そのものは娯楽映画として大いに楽しめた。

「RRR」02.jpg 舞台は1900年代前半のインド。当時のインドは大英帝国の植民地であり、現地の人々は白人の権力者から差別的な扱いを受けていた。そんなインドに生きるビーム(N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア)は、インド総督のバクストン(レイ・スティーヴンソン)に誘拐された少女・マッリを救うため、大英帝国の本拠地・デリーに潜入する。しかし、バクストンが住む総督公邸は警備が固く、安易に侵入できなかった。ビームは総督公邸に侵入するべく、スコットの姪・ジェニー(オリヴィア・モリス)に接近していく。一方、大英帝国に忠誠を誓うインド人の警察官・ラーマ(ラーム・チャラン)は、デリーのどこかに潜んでいるビームを追っていた。思想も立場も異なるふたりが出会うとき、インドの歴史が大きく動き出す―。

Shriya-Saran-To-Be-A-Part-Of-RRR.jpg「RRR」シュリヤ・サラン02.jpg 1920年の英領インド帝国が舞台で、大英帝国が悪者になっているが、背後にあるのは政治的なものより宗教的なものだろう。この映画に、「RRR」arison.jpg上記のシュリヤ・サランが主人公の母親役で出ていた。女優として大成して良かったと思う。因みに、大英帝国側の総督夫人をアリソン・ドゥーディ(「007 美しき獲物たち」('85年)、「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89年))が演じていた。「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」と同じ悪役だが、こちらも相変わらずの美貌で何より。エンディングはヒーローもヒロインも、悪者である提督らも出てきて長々と踊る。これぞインド娯楽映画という感じだった。)

アリソン・ドゥーディ in 「007 美しき獲物たち」(1985)/「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」(1989)/「RRR」(2022)

  
「RRR」03.jpg「RRR」●原題:RRR●制作年:2022年●制作国:インド●監督:S・S・ラージャマウリ●製作:D・V・V・ダナイヤー●脚本:S・S・ラージャマウリ/サーイ・マーダヴ・ブッラー●撮影:K・K・センティル・クマール●音楽:M・M・キーラヴァーニ●時間:182分●出演:N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア/ラーム・チャラン/アジャイ・デーヴガン/アーリヤー・バット/シュリヤ・サラン/サムドラカニ/レイ・スティーヴンソン/アリソン・ドゥーディ/オリヴィア・モリス●日本公開:2022/10●配給:ツイン●最初に観た場所:シネマート新宿(23-10-24)(評価:★★★★)

シネマート新宿
IMG_20231014_151743.jpg

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なぜアメリカ人の"巡礼地"となったのかを、文化社会学的に分析。ビジネス書としても人物評伝としても読める。
ディズニーランドという聖地.gif   ウォルト・ディズニー (1901-1966).jpg ウォルト・ディズニー(1901-1966)
ディズニーランドという聖地 (岩波新書)』 
 主にアメリカのディズニーランドの歩んできた道を描いた本書は、ビジネス書としての要素もウォルト・ディズニーの評伝としての要素もありますが、タイトルの通り、いかにしてディズニーランドがアメリカ人の「聖地」となり得たのかを分析した「文化社会学」的な本としての要素が最も強いと言えます。但し、ディズニーについて米国人などが書いた大概のビジネス書よりもずっと楽しく読め、しかも、'90年の刊行でありながら、その後に刊行されたディズニー関連の多くのビジネス書よりも、含蓄にも富んだものとなっているように思われます。

 著者は、米国の大学院に学んだアメリカ研究者(文化人類学者)ですが、もともとディズニーランドにはあまり楽しくない印象を抱いていたのが、たまたま仕事で東京ディズニーランド開設に関与することになり、また、そこで知り合った人に勧められてディズニーの伝記を訳すことになったということで、ディズニーランドのコンセプト、ウォルトの個人史を通じて、ディズニー文化とアメリカ人、アメリカ社会との関わりを探るうえでは、ピッタリの人と言えるかも(ディズニーに関わりながらも、普通のライターやマニアとは異なる冷静な視線がいい)。

Disneyland Railroad.jpgSanta Fe & Disneyland Railroad.jpg ウォルト・ディズニーの幼少時代は、家庭的・経済的に暗いもので、ディズニーランドは彼にとって単なる遊園地ではなく(映画プロデューサーが本職の彼には、遊園地を作るという発想は無かった)、そうした暗いものを全部裏返しにしたような、彼にとっても「夢の国」であったということを本書で知りました。

Santa Fe & Disneyland Railroad (Disneyland Railroad)

 共同作業で機械的に生産されるようになったアニメーションの仕事で行き詰っていたときに、鉄道模型にハマり、それで心癒されたウォルトの気持ちが、「サンタフェ鉄道」(ディズニーランド鉄道)に込められているとのことで、その他にも、ディズニーランドのアトラクション1つ1つの歴史や意味合いがわかり、楽しく読めます(東京ディズニーリゾートに同じものがコピーされているというのも、本書が親しみ易く読める理由)

The third most elaborate Pirate walk-through plan  circa 1963.gifWalt.gif ウォルトが最後に関与したアトラクションが「カリブの海賊」ですが、実際の"カリブの海賊"に勇ましい歴史などは無く(死因のトップは性病だった)、ウォルトの故郷を模したというメインストリートも、実は彼の故郷は殺風景な町並みであり、ミシシッピーの川下りで川辺に見える景色についても、同じことが言える―。つまり彼は、「本物の佳作」を作ろうとしたのでなく、「ニセモノの大傑作」を作ろうとしたのであり(ディズニーランド内の開拓時代風の建物や島などは、確かにそれらの殆どがセメントで出来ている)、そこに「死と再生」の意匠が反映されていると著者は分析しています。

 アメリカ人の方が日本人よりもアメリカの歴史を知っているだろうし、ディズニーランドにある多くのニセモノに気づくのではないかと思われますが、それでも、アメリカ人にとってディズニーランドは、どんな離れた所に住んでいても1度は行きたい「巡礼地」であり、訪れた人の多くが、ディズニーランドのゲートをくぐった途端に多幸感に包まれる...。どうしてディズニーランドが、アメリカの歴史と文化を象徴するものとしてアメリカ人に承認されるのか、本書を読み、アイデンティtティって、リアリズムじゃなくて"ドリーム(夢見=幻想)"なのだなあと(ディズニーランドででは"夢見"を阻害するものは徹底して排除されているわけだ)、そう思いました。

「ディズニーランド」.jpgディズニーランド(テレビ番組).jpg 因みに、ディズニーランドがアメリカでオープンする前年の1954年にテレビ番組「ディズニーランド」がスタートしており、日本では4年遅れで日本テレビ系列で放送が開始され、'72年まで続きました。番組の冒頭、ウォルト・ディズニー本人が喋って、ティンカー・ベルが「未来の国」「おとぎの国」「冒険の国」「開拓の国」の4つ中から、妖精の粉を振りかけたものがその日の番組内容のジャンルになるという趣向が懐かしく思われます。

「ディズニーランド」Disneyland (ABC 1954~61/NBC 1961~81/CBS 1981~83)○日本での放映チャネル:日本テレビ(1958~72)

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パートナーシップ、仕事に向き合う姿勢、コミュニケーションのあり方ついて多くの示唆。

Iある広告人の告白MG0589.jpgある広告人の告白.jpg     ある広告人の告白2.jpg    David Ogilvy.gif
ある広告人の告白』 (1964/04 ダビッド社)『ある広告人の告白[新版]』〔'02年版〕 David Ogilvy (1911-1999/享年88)

 オグルヴィ&メイザーを1948年に設立したデビッド・オグルヴィが'63年に出版した本で、今まで自分の手元にあったのは、広告会社アド・エンジニアーズ設立者の西尾忠久氏らが訳した'64年初版のダビッド社版ですが、この度翻訳家・山内あゆ子氏の訳による新版が刊行されました。

 新版のための前書きがあるのと、著者の経歴が多少以前より詳しく書かれているほかは(この本は著者がパリのホテルで菓子職人をしていたときに学んだことから始まりますが、そのほかに家庭用コンロの販売員もしていたらしい!)内容構成は同じであるものの、訳がかなりこなれて読みやすくなっているのと、専門用語が多少現代風になっています。

 広告ビジネスに携わる人にとってはとりわけ示唆に富んだ内容で、前半部分は主に経営者や営業(アカウントエグゼクティブ)に対するアドバイス、後半はクリエイターに対するアドバイスになっており、個人的には、その間にある「よいクライアントであるために」(新版では「クライアントに贈る『15のルール』)とか、「キャンペーンを成功させるためには」などがなかなか良かったです(冒頭の「広告代理店の経営のしかた」において、行動規範をキッチリ示しているのもいい)。

 「私は、手放すと困るほど大きなアカウントを欲しいと思ったことはありません」とありますが、海外の広告代理店はAE制、つまり1業種1社の専任制なので、もともと売上げの割にはクライアント数が少なく、主要クライアント1社への依存度が高くなると、他社へ扱いを持っていかれたときに危険だということでしょう。

 この本が書かれた時点で、オグルヴィ社は社員497人の国内企業でしたが、'07年現在、世界125カ国に497のオフィスを持ち、当事の社員数が今のオフィスの数になったのだなあと。
 本書を読むとクリエイティブについて特出しているのがわかり、一方メディア手数料で仕事はするなと言っていますが、実際オグルヴィ社はメディア購買部門を持っていません。
 米国にはメディアバイイングを専門に行う会社があるので(まとめ買いする代理店が一番強いということ)、こうした業態は必ずしもオグルヴィ独自のものではなく、今後は日本でもこうした動きがあるかも。
 クライアントの広告表現の統一などブランディング戦略による利用広告会社の絞込みは海外でも日本でも進行していて、そうした意味でも今読んで全然古くない内容です。

 ただし、そうした広告に関することに限らず、ビジネス全般に通じるパートナーシップや仕事に向き合う姿勢のあり方、「聞き役に回れば回るほど"敵"にはあなたが賢く見える」といったビジネス・コミュニケーションについてのヒントなど、多くの示唆を含んだ良書です。
                        
《読書MEMO》
● 「よいクライアントであるために」(「クライアントに贈る『15のルール』」)
(1) あなたの代理店を恐怖から開放しなさい(いつも新しい代理店を探している様子をみせないこと)
(2) 最初から適切な代理店を選びなさい(新規取引専門部隊に騙されない)
(3) あなたの代理店に適切な情報を与えなさい
(4) 金の卵を生むニワトリを大切にしなさい(有能クリエイティブに金を惜しむな)
(5) クリエイティブの領域で代理店と競争しないでください(餅は餅屋に)
(6) 検討段階を多くして広告をゆがめないでください
(7) 代理店の利益を保証してやりなさい
(8) あなたの代理店にケチをつけないでください
(9) 率直にものを言い、また言われるようにしてください
(10) 目標を高いところに置いてください
(11) すべてをテストしてください(新製品は25のうち24までテストマーケティングで失敗している)
(12) 急いでください(利益は時間函数である)
(13) 問題児に時間を浪費しないでください
(14) 天才は寛大に扱ってやってください(彼らはほとんど例外なく気に食わない連中)
(15) 広告費を少なすぎないようにしてください
●「キャンペーンを成功させるためには」(「成功する『広告キャンペーン』とは?」)
(9)自分自身の家族に読ませたくないような広告は書かないこと(オグルヴィ・ジャパンのホームぺージにもこの言葉がある)

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ネット社会の「司祭」? グーグル。入門書または啓蒙書としても読めるが...。

グーグルGoogle.bmpグーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 文春新書』 ウェブ進化論.jpg 『ウェブ進化論』 

google news.bmp 梅田望夫氏の『ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる』('06年/ちくま新書)が、ビジネス分析の視点は面白いもののグーグルに対するあまりの絶賛ぶりに満ちていたのが少し気になっていたところ、本書ではグーグルの怖い部分が書かれているということで手にしましたが、もともとの視点が異なる本だったという感想です。

 「グーグルニュース」の編集権問題の経緯から始まる話は、これをホームページに置いている自分には馴染みやすく、また新たに知る事実があって興味深いものでした。

 グーグルがとっている「アルゴリズムによるニュース記事の編集」という手法(メディアから編集許諾を得て、生身の人間が記事選択したり編集しているのではないということ)に、当初は編集権の問題で抵抗していた各メディアが、グーグルの影響力の大きさに押され次第に譲歩していく過程が描かれています。

 『ウェブ進化論』が鳥瞰的なビジネス進化論とすれば、こちらは"グーグル現象"を、地を這うようなジャーナリストの目線でとらえているという感じで、"ロングテール"戦略についても、実際に著者が取材した零細の駐車場やメッキ工場の成功例で説明しています。

 ただし、グーグルは一体何で企業収入を得ているのかということは、わざわざ本書中盤まで引っぱらなくとも答えが「キーワード広告」(アドワーズ)であることは多くの人が知るところであり、むしろその先において指摘している、個人のホームページに対する広告配信システム(アドセンス)を投入して「巨大な広告代理店」化していること、「アテンション」(注目されること)をキーワードに無料サービスと有料広告の組み合わせによる収益構造を構築していることなどが注目されるべき点であり、この辺りにもう少しページを割いてもよかったのでは。

 世界中のありとあらゆる情報を集め、ネット社会の「司祭」と化しているグーグル―、ただし「グーグル八分」(本書では司祭による「宗教的追放」に喩えられている)というような話は、本書刊行後1年余りの間にNHKスペシャルなどでより具体的な例をもって紹介されているのでさほど新味はなく、この辺りが、既成の報道や既刊の書物からの引用に多く依存している本書後半部分の弱みか。

 それでも、「グーグルマップ」の利用者などが、そのまま地域広告などのターゲットになっているという構造は、確かに近未来小説を想わせるちょっと気味悪い面ではあるなあと。
 「グーグル」という固有名詞にこだわらければ、ネット社会の近未来についての入門書または啓蒙書としても読めます(どちらの意味でも新味やインパクトが少し弱いが)。

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「あちら側」「こちら側」の2つの世界を軸にウェブ・ビジネスの状況がわかりやすく解説。

ウェブ進化論3.jpgウェブ進化論.jpg 『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』 ちくま新書 〔'06年〕

Googleマップ.bmp シリコンバレーに住んで10年以上というIT企業経営コンサルタントが、今ウェブ・ビジネスがどういう状況にあるかを解説したもので、ネットバブル崩壊後のこの分野のビジネス動向を探る上では必読書かもしれません。
 ただし、こうした内容のものはどんどん身近になり目新しさがなくなるため(例えば「グーグル・マップ」などは普段使っている人も身近に多いし、「グーグル・アース」の"旅行ガイド"は書店に多く出ている)、将来予測というより'05年時点での現状分析という感じ。

 「インターネット」「チープ革命」に加えて「オープンソース」(リナックスが想起しやすい)の3つを「次の10年への三大潮流」とし、その相乗効果がもたらすインパクトを、「Web 2.0」や「ロングテール」などといった言葉に絡めてわかりやすく説いていますが、本書で最も秀逸なのは、ネットの世界を「あちら側」、リアルの世界を「こちら側」と呼び、この2つの世界を対比させて描いているユニークな視点でしょう。

 「あちら側」をホームグラウンドとする企業の代表として「グーグル」をあげ、「こちら側企業」であるマイクロソフトなどとのもともとの土俵の違いやその優位性、さらに、同じ「Web 2.0企業」とされながらも内部で閉じていてオープンソースとは言えないアマゾンやヤフーとの違いを述べています。
 そして、「情報発電所」構築競争という意味では、マイクロソフトやヤフーがグーグルを追撃するのは難しいと言い切っています。
 グーグルのような検索エンジンを"ロボット型"と言いますが、本書を読んで、ある意味、グーグルの思想が反映されている言葉でもあるなあと感じました。

google本社.jpg 情報を「あちら側」でオープンにすると「不特定多数無限大」の存在によって伝播され、より優れた正確なものへと醸成されるという(本書にあるように「ウィキペディア」などもその例だが)、こうしたグーグルのある種の楽天主義に対する著者の共感がよく伝わってきますが、「グーグル八分」なんてことも報じられている昨今、グーグルのある種脅威の部分を想うと、「著者自身がそんな楽天的でいいの?」とい気がしないでもありません。
 ただし、本書でも終わりの方で、グーグルという企業が、会社としてはいかに外部に対し閉鎖的な風土であるかということに少しだけ触れていて、ただし、あえて本書ではそれ以上突っ込んでネガティブ要素に触れていない気もします。

 それはまた少し異なるテーマであり、テーマを絞った入門書として読めばこれはこれでいいのかも。
 全体として論文形式であり、部分的には体感していないとわかりにくい先進事例もありますが、ポイントとなる概念は丁寧に解説されていてわかりやすく(アマゾンの本の売り上げ順位と部数を恐竜の体高ラインに喩えたロングテールの解説など)、この人、両親とも脚本家で、そうした資質を受け継いでいるのかも。

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経営書というよりビジネス・ドラマ。人材採用に関わる話などが面白く読めた。

渋谷ではたらく社長の告白.jpg 『渋谷ではたらく社長の告白』 (2005/06 アメーバブックス)    logoca.gif

 サイバーエージェントの藤田晋氏が自ら綴った半生記で、とりわけ'98年、24歳で起業して '02年、26歳で自分の会社を東証マザーズ上場にさせるまでの色々な出来事が書かれていて、起業物語として面白く読め、さらに上場とほぼ同時期にネットバブルが崩壊し、株価が低迷して株主からの批判も強まり、会社の売却を考えるまでに追い詰められるという、ちゃんと山と谷がある話で、書店で経営書のコーナーにありましたが、内容はビジネス・ドラマといった感じ。

 若手起業家にはメンターとして仰ぐ人がいる場合が多いですが、人材会社インテリジェンス勤務時代(1年未満だが)に同社の社長だった宇野康秀氏(現USEN社長)から在職中も独立後も多くの薫陶を受けたようで、まだ社員がいないのに新卒を何人も採ったり、社員数の何倍ものキャパのあるオフィスを借りたりと、かなり思い切りがいい。
 ジャック・ウェルチは、楽天性や行動力を経営者の条件としているし、ドラッカーも先ず実践することを説いていますが、この人の楽天性や行動実践力は資質的なものだろうという印象を持ちました。

 経営戦略的な話はあまり出てこず、むしろ「世界一の会社をつくる」という漠然としたビジョンしか見えてきませんが、とりあえず起業時においては戦略よりビジョンなのか(内容的には漠然としているけれども、信念としてはやたら強い)。
 ドラッカーはアップルの創業者たちがやがて失墜することを予言し的中させましたが、それは彼らが経営知識を身につけないうちに、あまりにも早く成功しすぎてしまったためだとしていて、藤田氏の場合も、たまたま時流に乗った面もあり、本書を読んでもサイバーエージェントという会社がどのように社会に貢献しようとしているのか見えてこず、スティーブ・ジョブズらの轍を踏む可能性も無いとは言えません。
 しかし本書を読む限り、堀江貴文氏や村上世彰氏よりは自律的な内省型の人物に思え、"アロガント"(傲慢)にならずにすんでいるのではないかなあと(本書に出てくる昔の堀江氏はカッコいいが)。

 もともと採用マネジメントに携わっていた人(堀江氏などと異なりITは素人だった)ですが、人材採用に関わる話などが面白く読めたこともあり、個人的には多少オマケして"○"。

 【2007年文庫化[幻冬舎文庫]】

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自分の "粗製濫造"商品(いわゆる「堀江本」)が自分の首を絞める...。

儲け方入門.jpg 『儲け方入門〜100億稼ぐ思考法』 (2005/03 PHP研究所) 100億稼ぐ仕事術.jpg 『100億稼ぐ仕事術 (SB文庫)

 本書は、'04年のライブドアによる球団買収騒動と'05年のテレビ局買収騒動の間に書かれたもので、'03年11月に『100億稼ぐ仕事術』(ソフトバンククリエイティブ)を出して以来9冊目の「堀江本」、既にやや粗製濫造気味ではありました。
 著者はその後も衆院選に立候補するなどし、経済や社会、政治の既成の概念や風潮に風穴を開けた面はあるかと思いますが、ライブドア事件を経て、かつて書店に平積みされた「堀江本」もその面影は無く、図書館にでも行かないと見つからないないとか...。

 著者の経営、ビジネス、ファイナンスなどについての考え方自体はそれなりに筋が通っている部分もあったと思い、"事件"を起こしたから書いてあることも全部ダメというのもどうかなあと。
 ただし特別に斬新なわけでもなく、また、成功したから言える面もあるし、(後日明らかになりますが)人に言えないこともいっぱいやっているだろうし、ベンチャーにはいいが、既存の企業にはどうかというものもあります。 

 でも当時のホリエモンの"固定客"にはそれで充分だったのかもしれませず、同時に彼らがライブドアの個人株主にもなっていたわけですが、企業にはびこる老害や無意味なヒエラルキーを小気味よく斬っていく様は心地よく感じられるでしょう。
 ファンには、本書が最も言いたいことがよく語られていると好評だったようです。

 ただ、知名度が上がって「ホリエモンってどんな人」と思って読む読者が増えると、「お金で買えないものはない。(中略)女心だって買える」というような表現は、社会的責任のある企業経営者としてどうなのという反発も出て当然で、選挙に出てこの点を突っ込まれ、「部分をとりあげての批判をしないで、ちゃんと僕の本を読んでください」と言ってましたが―。

 しかしこの本には、稼げない人は元々その能力が無いのだから、最初から高望みするなというようなことも書いてあり、まさに「勝ち組」支配の論理で貫かれていて、「能力の無い人は天才に食わせてもらえばいい」と書いてあっても、それについての具体的施策を述べている箇所はなく、これでよく選挙に立候補したなあと。

 結局、選挙戦の途中で、「本の内容についてはコメントしない」という方針へ方向転換しています。
 そうせざるを得なかったのでしょうが、こうした細かい"変節"も、その後の証券取引法違反による逮捕事件などの衝撃が大きかったために、やがて忘れ去られてしまうでしょう。

 自分自身の存在までもが忘れられないためにも、今後も世間に対して発信は続けると思われますが、ビジネスの世界への完全復帰は難しいのではないかな。 

 彼は、著書(=自分)に対する固定的なファンの反応が、世の中の大方の反応ではないかと勘違いしていた面があったのかも。 

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斎藤氏自身のメッセージを込めたビジネス啓蒙書とみていいのでは。

i座右のゲーテs.jpg座右のゲーテ.jpg座右のゲーテ -壁に突き当たったとき開く本』光文社新書〔'04年〕

 これを機に『ゲーテとの対話』(岩波文庫で3分冊、約1200ページあります)を読む人がいれば、その人にとっては"ゲーテ入門者"ということになるかも知れませんが、本文中に「ビジネスマンこそ、自分の資本は何かということを問われる」などとあるように、基本的には斎藤氏自身のメッセージを込めたビジネス啓蒙書とみていいのでは。
 仕事術、処世術から氏の専門である身体論、教育論、さらに人生論まで幅広いです。

 ゲーテは常に偉大なものに対しては素直だったそうですが、斎藤氏もそうあろうとしているのでしょうか。
 教養主義を過去のものとする風潮に対する氏の考えには共感できる部分もあるのですが、大芸術家や文豪から、スポーツ選手、歌手、漫画家まで、多方面から引いてきた"いい話"が満載で、誰でもこの人のヒーローになっちゃうのかな、という感じもしました。

 個々にはナルホドと思う箇所もありました。「豊かなものとの距離」の章で、憧れの対象と付かず離れずの距離を置くことを説いていることに納得!
 ゲーテはシェイクピアの作品との付き合い方を「年1回」という言い方で、「適当にしておけ」と言っているそうです。
 著者自身の経験からか、藤沢周平の作品の読み易さをから、そこにハマって他のものを読まなくなると、世界が広がらなくなるとも言っています。

 ただし、変に固まってしまうことを戒めると同時に大人になり切れないことの弊害を説くというように、「すべてを語って何も語らず」みたいな感じもして、文章自体が平易でスラスラ読める分、読後の印象がやや薄いものになった気がします。

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「人望」を得ようとするその「心根」が部下に嫌われるのではないだろうか。

「人望」とはスキルである.jpg  『「人望」とはスキルである』 カッパ・ブックス 〔'03年〕

 「人望=スキル」であるならば、人事考課の要素に「人望」というものがあってもおかしくないでしょう。測定可能なはずだから。実際には測定困難であるにしても、業績評価は別として、管理職登用に際して「品格」や「識見」を考課要素に入れている企業はあります。いわゆるヒューマン・スキルの1つとして。ただし、習熟やトレーニングによって高められるのは、「品格」や「識見」であって、「人望」はそれに付随するものであるはず(ただし、両者の間に不確定要素がいっぱい入るわけだが)。そうすると「人望=スキル」というのは、かなりユニークな論ではないか―。

 そう思って本書を手にしたところ、何のことはない、「人望」は「スキル」で磨くことができるということを言っているに過ぎないことがすぐにわかりました。先に述べた理由により、「人望」というより「品格」や「識見」といった言葉の方が正しい使い方になるのではないかと思いますが、ただ、それでは訴求力が弱いから、「人望」としたのでしょう。

 内容的には、上司が部下を「ほめる」「しかる」「動かす」「励ます」といった際の基本的なテクニックを説いたコーチングの本と言えるかと思いますが、ケーススタディごとにわかりやすく解説されていて、実際この本は結構売れたようです。

 しかし、とり上げられている事例があまりにパターン化されたもので、部下に対するお気楽な性善説的見方は、現場を外からしか見ることがない「心理屋さん」のものという気がしました。コーチング・テキストとしても組織心理学の本としてもやや底が浅く、いわゆる「ビジネス一般書」レベルだと感じました。まあ、"大衆の欲望に根ざした「新しい知性」"を標榜する「カッパ・ブックス」であるということもありますが。

 とにかく、部下は、組織目標に向かって自分が働きやすくしてくれる上司についていくのであって、上司本人が「人望」を得るためにする行為については、その「心根」を嫌うのが普通ではないかと思うのですが、最初の用語の定義でひかかってしまった自分の読み方が、やや斜に構えたものになってしまったのかも知れません。

 【2007年文庫化〔 ソフトバンク文庫〕】

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〈映画〉から〈海〉へ、〈カリブ海〉から〈地中海〉へ。プロジェクの交渉過程やディズニーのこだわりがわかり、興味深い。

海を超える想像力.jpg 『海を超える想像力―東京ディズニーリゾート誕生の物語』 (2003/03 講談社)

 オリエンタルランド(OLC)社長が語るディズニーリゾートの誕生まで、さらに誕生後20年の歴史で、巨大プロジェクトがどういう形で進行したのかということだけでなく、「顧客満足」を念頭に置いたディズニーの〈細部へのこだわり〉がわかるという点でも面白かったです。

 '60年の会社設立当時は、浦安沖埋立て事業が当面の仕事で(だから社名に"ランド"と付いている)、そこに商業・住宅・レジャー施設を誘致して活用しようという漠たる計画しか無かったわけで、その時にディズニーランド誘致を構想した高橋政知という人がやはりスゴイ。

 開業後も「テーマパークは生き物であり、進化を止めたとき老化が始まる」と言う通り、様々なプロジェクトが常に生起しているのがわかり、著者が社長となり陣頭指揮したディズニーシー開業の秘話は興味深く、とりわけ、ライセンシーのOLCとライセンサーのディズニーの交渉過程は、外国人と交渉することがあるビジネスパーソンなどには参考になる部分が多いのでないでしょうか。

1-3.jpg 「第2パーク」構想でディズニー側が最初に示したプランは、MGM(映画)だったんですね。でも、日本人は米国人ほど映画文化に執着は無く、そこで〈シー(海)〉になったとのこと。
 〈シー〉と決まってからも、相手(米国本社側)はシーと言えば〈カリブ海〉をイメージしているけれど、日本人が憧憬を抱くのはむしろ〈地中海〉であって、結局「メディタレーニアン(地中海)ハ―パー」ということになったとか、入り口の巨大アイコンも、米国側は当初〈灯台〉を想定していたけれど、それだと日本から見るとウェットな世界になってしまうので(「喜びも悲しみも幾歳月」の世界?)結局〈地球〉になったとか―、そうした文化的修正の過程も興味深いです。

 〈シー〉や〈イクスピアリ〉にどれだけOLC側の独自姿勢が生かされているかと宣伝気味の嫌いはあり、著者が経済同友会の副代表にもなったように経営は一定の安定期にあるかと思いますが、まだ投資負債は残っているはずで、さらに大衆に近いビジネスだけに利用者サイドからも毀誉褒貶はあります(個人的にも、平日に関わらず、ポップコーンを買うだけで30分以上も並ぶような状況は何とかして欲しい!)。
 
 とは言え、そうしたことを抜きにして、プロジェクト物語としてよく纏まっていて(ライターがいい?)、〈シー〉開業前に亡くなったランド設立の立役者・高橋氏の遺体を乗せた霊柩車が夜のパーク内に入っていく最後のところには、ちょっとグッときました。

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こんな人に"分相応"を説かれたくはないなあ、という気もしてしまう。

年収300万円時代を生き抜く経済学.jpg
年収300万円時代を生き抜く経済学 給料半減が現実化する社会で「豊かな」ライフスタイルを確立する!』['03年/光文社]

 冒頭で小泉内閣の経済政策を批判し、デフレへの対応を誤ったゆえに雇用創出にも失敗し、失業の拡大を招いたとしています。
 デフレは止まらず、このままでは日本に新たな階級社会が作られ、所得は3階層に分かれると。

 つまり、1億円以上稼ぐ一部の金持ちと年収300万円くらいのサラリーマンと年収100万円台のフリーター的労働者に。最初の大金持ちになれるのは1%ぐらいしかいないから、金持ちになる幻想は捨てて、なんとか真ん中の年収300万円の層に留まり、その中でどう生きるべきかを考えよと。
 アメリカンドリーム的な成功を目指して必死で働くよりも、ヨーロッパの一般市民階級のように人生を楽しむことを優先せよと、発想の転換を促しています。

 これは大企業などに長年勤め、すでに子どもの教育も持ち家のローン終わり、なおかつ一定の蓄えがあり、老後の公的年金や上乗せとしての企業年金が保証されている人ならば納得するかもしれませんが、不況やリストラで年収300万円を稼ぐのも大変な立場にいる人にとってはどうでしょうか。

 アルゼンチンの楽天的な国民性をあげ、都道府県別の自殺率と失業率の逆相関を「ラテン指数」と名付けたりしていますが(沖縄県が最も高い)、最後は気の持ちようみたいな結論は、著者自身のお気楽な精神論にすぎないのではないかとも思えます。

 自分は車を外車からカローラにし、その後軽自動車に変えたとか言っても、一方で、本書がベストセラーになるや「年収300万円時代」とタイトルに入った本を何冊も書いている―(誰かが計算してたが、本書の印税だけで軽く3千万円を超えるとか)。
 こんな人に"分相応"を説かれたくはないなあ、という気もしてしまいます。

 大体、『〈非婚〉のすすめ』('97年/講談社現代新書)などという本を書きながら、自分はしっかり結婚している、そういう人なので、書いてあることにあまり踊らされない方がいいかも。

 【2005年新版文庫化[知恵の森文庫]】

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ディズニー7つの法則 新装版.jpg キャスト・細部への配慮・こだわりが顧客満足へ。楽しく読めて感動も。
ディズニー7つの法則8.JPGディズニー7つの法則.gif
ディズニー7つの法則―奇跡の成功を生み出した「感動」の企業理念』['97年/日経BP社] ディズニー7つの法則 新装版』['14年/日経BP社]
Walt Disney World.jpg
 「顧客満足」コンサルタントによる本書は、「ディズニーのために書かれたものではない」ということですが、読みやすい小説仕立て、各方面5人のビジネス人男女が、ディズニー・ワールドの探検ツアーを通してその成功の秘密を体感していく様が描かれています。

Disney World Characters.jpg 来園者を〈ゲスト〉、従業員を〈キャスト〉と呼ぶディズニーの経営姿勢が、どういった形でテーマパークに生かされているかがよくわかり、「顧客満足」とは何かということをテーマとした本ですが、ビジネス全般に通じる示唆を含んでいて、また読み物として感動させられる箇所も多くありました。

 ディズニー・ワールドには行ったことはないけれど東京ディズニー・リゾートは定期的に家族と訪れていて、"順番待ち担当"の身にどうしても目につくのは〈キャスト〉の仕事ぶりで、いつもスゴイなあと思って見ています。「全員がゴミを拾う」ことが〈キャスト〉に徹底しているのはよく知られているところですが、「金箔」の話など、テーマパークの「細部へのこだわり」が新たにわかり、利用者の立場から読んでも興味深く楽しいものです。 

かうれミッキー.jpg そして、それらが〈ゲスト〉のためだけでなく、むしろ〈キャスト〉へ向けてのメッセージであるという点が、個人的には最も興味深く思われ("隠れミッキー"なども元は内輪受けからスタートしているようです)、そうした配慮やこだわりが、結果的には〈ゲスト〉の満足度にもつながっていくのだということがよくわかりました。

 原題はタイトルが"Inside The Magic Kingdom"、サブタイトルが"Seven Keys to Disney's Success"で、こちらの方が自分にはしっくりきました。邦題は「7つの法則(Seven Keys to Disney's Success)」の方が本題にきているためにセミナー本っぽい感じがしますが、セミナー本としても使えるように「7つの法則」に纏めているのであり、まず読み物として読んで、感動した部分があれば自らの心に刻むようにすればいいのではないかと思います。

【2014年新装版】

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ボードの一員としてその場にいるような臨場感。コーラ戦争は終わっていない。

20040529.jpg           The Other Guy Blinked.jpg  enrico_sm.jpg Roger A. Enrico, PepsiCo
コーラ戦争に勝った!』 新潮文庫 〔'87年〕/"The Other Guy Blinked: How Pepsi Won the Cola Wars"

 後にペプシコ社会長となるロジャー・エンリコは、コーラ業界において、'70年代から激しさを増して「コーラ戦争」とまで呼ばれたコカ・コーラとの覇権争いの最中にペプシコ社社長に就任しますが、本書は彼が、その挑戦意欲・決断力とリーダーシップ、さらには徹底したマーティング戦 略により、シェアの奪回を果たした過程が描かれています。

 今もって示唆に富む内容ですが、翻訳がいいのか(常盤新平氏訳)、読んでいて自分がペプシコのボードの一員としてその場にいるような臨場感があり、読み物としても楽しめました。

 本書冒頭にあるように、敗れたコカ・コーラ社は方針転換し、'85年に〈ニュー・コーク〉を発表しますがこれは不評に終わり、僅か90日で元の味に戻しています(ただし、素早い決断をしたゴイズエタ会長は、後にその素早さゆえに名経営者と言われた)。

Pepsi Michael.jpg マイケル・ジャクソンのCM起用が本書終盤のヤマで、契約を結ぶことが出来た時点でエンリコはペプシの勝利を確信したフシがありますが、当時のマイケル・ジャクソンは、今のように大衆の好悪が割れるようなキャラクターイメージではなく、圧倒的な国民的スーパースターだったということでしょう(今でもポップス・ファンにとってスーパースターであることには違いないが)。

Michael Jackson Pepsi Generation

 CMによるイメージ戦略の威力は、コーラ以上に味そのものの識別が微妙なビールの業界における、アサヒスーパードライの成功を想起させます(飲料商品というのは多分にイメージ商品なのだなあと)。

ペプシネックス.jpg ペプシとコカ・コーラの売上げシェアが拮抗しているアメリカではともかく、日本ではシェアは圧倒的にコカ・コーラの方が勝っているので、その点では本書の内容は少しピンとこない部分もあるかも知れません。
 その後ペプシコは、日本での事業をサントリーに売却していますが、マーケティングやR&Dと原液供給はアメリカ本社主導で行う〈ボトリングシステム〉を維持していました。しかし日本でのシェアの伸び悩みは続き、ついに〈完全ボトリングシステム〉の方針を変更し、サントリー主導で開発した日本向けブランド「ペプシネックス」を今年('06年)になって発売しています。     
 このように、「コーラ戦争」はまだまだ続いているという感じですが、ペプシのCMも、'04年に作られたBritney Spears、Beyonce、P!NK、Enrique Iglesias出演の「We Will Rock You」に見られるように、派手さを一層に増している感じがします。

PEPSI Commercial (CM) - We Will Rock You [Britney Spears(中央), Beyonce(左), P!NK(右), Enrique Iglesias]

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保守的で内向きなGM役員の中で、異彩を放った競争心と挑戦意欲。

晴れた日にはGMが見える ―s.jpg晴れた日にはGMが見える 4.jpg On a Clear Day You Can See General Motors.jpg ジョン・デロリアン.jpgデロリアン.jpgDMC‐12(通称デロリアン)
晴れた日にはGMが見える』新潮文庫/単行本/原著(ハードカバー)/ジョン・Z・デロリアン
 
バック・トゥ・ザ・フューチャー デロリアン.jpgバック・トゥ・ザ・フューチャー.jpg スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮の映画「バック・トウ・ザ・フューチャー」('85年/米)(監督はロバート・ゼメキス)は、ストーリーはお決まりのパターン、予定調和でしたが、50年代の音楽・ファッションがふんだんに盛り込まれていて、SFXも楽しめるというエンタテイメントに徹した、テンポのいい娯楽作品でした。あの映画でお馴染みのクルマと言えば「DMC‐12」(通称"デロリアン")ですが、本書はそのデロリアンを開発したジョン・デロリアン(1925-2005/享年80)の話で、彼がGM史上最年少で役員になりながらも、経営陣と対立して同社を辞すまでが描かれています(本書はライターを使ってますが、彼自身は後に、GM退職後の「DMC‐12」開発のことなども含めた自筆自伝を書いています)。

J・パトリック・ライト「晴れた日にはGMが見える」.jpg 暴露本であるとも言え、その分、経営書と言うよりはビジネス書、ビジネス書と言うよりは小説のように面白く読めます。私企業でも大きくなると役所と変わらぬ官僚主義が横行することがよくわかり、それに驚き、怒り、呆れるデロリアン氏に共感しますが、彼自身も自分の考えを通す上で強引過ぎる点は無かったのかという疑問も湧き、この点でアメリカでも本書に対する評価は割れるようです。それでも、大企業の役員が保守的で内向きな視点しか持てない傾向に陥りがちなのがよくわかって興味深く、これは'70年代のGM社内の話ですが、今でも実際にGMは大企業病に喘いでいるわけです。

アイアコッカ.jpg フォード社で社長を務めながらもオ-ナー一族と対立し、クライスラー社の社長に転じたリー・アイアコッカと比べると、アメリカの自動車メーカーのトップクラスで異彩を放つ人物が持つ競争心と挑戦意欲に富んだ気質という点では似ていますが、デロリアンはアイアコッカ以上にクルマづくりそのものにこだわった感じがします。

アイアコッカ―わが闘魂の経営』 ['85年/ダイヤモンド社]


タッカー・トーペード
『タッカー』0.jpgTUCKER 1988.jpgTucker '48 Torpedo.jpg むしろこの人、フランシス・F・コッポラ 監督の映画「タッカー」('88年/米)(製作総指揮ジョージ・ルーカス、コレ、知人宅でビデオで観た(89-08-19))のモデルにもなったブレストン・タッカーに近いかも。ブレストン・タッカーは軍需工場を経営していましたが、来るべき現代にふさわしい新しい新車の設計、開発を自ら計画し、1945年に「タッカー・トーペード」という自動車を生産します。最終的には、こうした彼の動きに警戒感を抱いたGMなどの「ビッグ3」に潰されてしまうものの、独力でクルマの生産まで漕ぎつけるところが、いかにも起業家という感じで、しかも今時流行のITとかではなくクルマづくりである点を考えてもスゴイ。但し、この「タッカー・トーペード」は50台しか生産されませんでした(映画では現存する47台が愛好家の全面協力により使われた)。一方、デロリアンの手による「DMC‐12」は約9,000台生産されています。

 しかし独立後のデロリアンは、ジウジアローのような超一流デザイナーとの出会いはありましたが、本田宗一郎を補佐した藤沢武夫のような経営補佐に恵まれませんでした。そのことは、本書を読んで窺える彼の性格からも何となく感じられ、会社も倒産し、'05年に80歳でひっそりと亡くなりました(でも、デロリアンの名は残った!)。
Back to the Future (1985)
Back to the Future (1985) .jpgバック・トゥ・ザ・フューチャー-50.jpgバック・トゥ・ザ・フューチャーs.jpg「バック・トゥ・ザ・フューチャー」●原題:BACK TO THE FUTURE●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ/キャスリーン・ケネディ/フランク・マーシャル●製作:ボブ・ゲイル/ニール・カントン●脚本:ロバート・ゼメキス/ボブ・ゲイル●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・シルヴェストリ●時間:116分●出演:マイケル・J・フォックス/クリストファー・ロイド/リー・トンプソン/クリスピン・グローヴァー/トーマス・F・ウィルソン/クローディア・ウェルズ/マーク・マクルーア/ウェンディ・ジョー・スパーバー/ジェームズ・トールカン/新宿スカラ座.jpgスカラ座.jpg新宿スカラ座 .jpgドナルド・フュリラブ/ドナルド・フュリラブ/フランシス・リー・マ新宿スカラ座22.jpgッケイン●日本公開:1985/12●配給:UIP●最初に観た場所:新宿スカラ座(85-12-07) (評新宿スカラ座 閉館.jpg価★★★)
新宿スカラ座
新宿3丁目「新宿レインボービル」3F(新宿スカラ座・新宿ビレッジ1・2→新宿スカラ1(620席)・2(286席)・3(250席)) 2007(平成19)年2月8日閉館   
 

TUCKER.jpgタッカー (1988).jpg「タッカー」●原題:TUCKER●制作年:1988年●制作国:アメリタッカー .jpgカ●監督:フランシス・フォード・コッポラ●製作:フレッド・ルース/フレッド・フックス●製作総指揮:ジョージ・ルーカス●脚本 アーノルド・シュルマン/ディビッド・セイドラー●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:ジョー・ジャクソン●時間:111分●出演:ジェフ・ブリッジス/ジョアン・アレン/マーティン・ランドー/フレデリック・フォレスト/マコ岩松/イライアス・コティーズ/ディーン・ストックウェル/ディーン・グッドマン/ロイド・ブリッジス/ニーナ・シーマツコ/クリスチャン・スレーター●日本公開:1988/10●配給:東宝東和 (評価★★★☆)

 【1986年文庫化[新潮文庫]】

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