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総花的ではなく、「組織モデル」を絞り込んで解説していて分かりやすい。

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図解 組織開発入門 組織づくりの基礎をイチから学びたい人のための「理論と実践」100のツボ』['22年]

 本書は、前著『図解 人材マネジメント入門』(2020年)に続く第2弾であり、「組織開発」の入門書になります。著者は本書で、人事担当者にとって組織開発とは「人事として取り組まなければならないことはわかっているが、正体のわからない不安なもの」なのではないかと述べていますが、確かにそうした面はあるように思います。そこで本書では、組織開発を「体系的にわかりやすく」理解できることを企図したとのことです。

 タイトルに「100のツボ」とあるように、全部で10のChapter(章)から成り、1つのChapterは10のツボ(ポイント)からできています。1つのツボは見開き2ページで完結した内容となっていて、見開き上部にQ&Aがあって、左ページに解説、右ページに図解があり、右下にはツボを理解し実践するためのヒントが記載されているという構成であるため、どこからでも読めるものとなっています。

 まず、「組織開発」とはそもそも何か、その目的、歴史、哲学の解説(第1章)から始まって、チェンジエージェント(第2章)、サーベイ・フィードバック(第3章)、対話型組織開発(第4章)など「組織開発のやり方・あり方」を解説していきます。第4章では、ホールシステム・アプローチ、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)、フューチャーサーチ、オープンスペーステクノロジー、ワールドカフェといった具体的方法が紹介されています。

 第5章以降は「組織モデル」の解説となり、ピーター・センゲの提唱する「学習する組織」(第5章)、フレデリック・ラルーの「ティール組織」(第6章)、ジム・コリンズらの「ビジョナリー・カンパニー」(第7章)をそれぞれ取り上げて解説し、さらにザッポス社が実践している「デリバリング・ハピネス」という考え方(第8章)、リクルート社が実践してきた「心理学的経営」(第9章)を紹介し、最後に、野中郁次郎氏らの『知的創造企業』の続編『ワイズカンパニー』で提唱された考え方(第10章)について解説しています。

 入門書でありながら、総花的になっていないのがいいと思いました。特に「組織モデル」については、以上のように6つの考え方に絞り込んだ上でそれぞれ10のツボを紹介しているため、読者に考えながら読ませる、丁寧で多角的な解説となっています。また、各章末に「次の1歩」として原典や関連する書籍を6冊ずつ紹介しているため、より深耕したい読者にとってはいい手引きになるかと思います。

 また、組織モデルの説明として、「個・組織」を縦軸に、「内的(幸せ・充足)・外的(成功・上昇)」を横軸に置いたマトリクス図を設定し、図中に、ティール組織論における三つの発展段階「オレンジ達成型」(組織・外的)、「グリーン多元型」(組織・内的)、「ティール進化型」(個・外的)という組織の3つの発展段階の位置づけを示した上で、、さらに、「学習する組織」「ビジョナリー・カンパニー」「デリバリング・ハピネス」「心理学的経営」「ワイズカンパニー」がその図のどこに位置して、それらがどのような相関関係にあるかを示しているのも、「体系的にわかりやすく」という謳(うた)い文句どおりであったように思います。

 対話型組織開発の方法や組織モデルも含め、コンセプチュアルな要素の多い分野ですが、その点においては「図解」の助けを借りながら読み進むことができるのが有り難いです。読後に時間を経て読み直してみたいと思った際も、ページを開きやすいのではないかと思います。人事パーソンに広くお薦めします。

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最強チームをつくるカギは「安全な環境をつくる、弱さを共有する、共通の目標を持つ」こと。

THE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法0.jpgTHE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法.jpg
THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』['18年]

 本書では、グーグルやピクサーなど、仕事への熟達やヒットを生む創造力の強さが世界的にも証明されている「最強のチーム」を実際に訪ねて分析した結果、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあり、成功しているチームには共通する3つのスキルがあることが判明したとしています。その3つのスキルとは、「安全な環境をつくる」「弱さを共有する」「共通の目標を持つ」であるとし、以下、3部構成で各スキルを解説しています。

 第1部(スキル1「安全な環境をつくる」)では、チームのパフォーマンスを決めるのは、「ここは安全な場所だ。そして私たちはつながっている」という心理的安全性と帰属意識であり(第1章)、安全な社内環境が信頼を生んで、それが帰属意識につながり(第2章)、その帰属意識がチームの結束を強めるとしています(第3章)。さらに、帰属意識を育てるにはどうすればよいか(第4章)、帰属意識の高いチームをつくるにはどうすればよいか(第5章)、そのためにリーダーはどのような行動をとるべきか(第6章)を解説しています。

 第2部(スキル2「弱さを共有する」)では、帰属意識がチームをくっつける「接着剤」だとするなら、弱さを共有することは「筋肉」であるとしています(第7章)。「自分には弱点があり、助けが必要だ」という弱さの開示は「弱さのループ」を生み、それによってチームの親密さと信頼が深まり(第8章)、チームのパフォーマンスは最大化されるとしています(第9章)。また、小さなチームで協力関係を築くには、シンプルな質問を何度もするのが効果的であり(第10章)、個人間の協力関係を築くには、相手の話を本当に聞き、相手に全神経を集中させることだとし(第11章)、最後に、リーダーが弱さを見せられるようになる方法を指南しています(第12章)。

 第3部(スキル3「共通の目標を持つ」)では、成功しているチームでは、共通の価値観や目的が明確であり、目標達成のメリットと障害が理解されていて、「現実と理想をつなぐ物語」が存在するとし(第13章)、目的意識の高い環境のチームを、実例で紹介しています(第14章)。その上で、「熟達したチーム」をつくるには価値を言葉にして伝え続けることが重要であり(第15章)、「創造的なチーム」をつくるには、創造的な人たちへのサポートが必要であるとしています(第16章)。そして最後に、価値や目標を共有するためにリーダーが何をすべきか、行動のためのアイデアを示しています(第17章)。

 本書の特徴の一つは、事例を引いて、3つのスキルそれぞれの有効性を説くとともに、どうすればそれを実践できるかという、具体的な行動提案が書かれている点にあります。環境変化が激しく、企業が抱える問題の複雑さも増す今日、一人のカリスマに依存するのはリスクであり、チームの力を最大化することが、より大きな困難や逆境を乗り越える原動力となるということであると思います。本書を通してチームビルディングの新しい形を知ることができ、リーダーが読むべき本であると言えます。

 本書では、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあるとし、一見すると普通とも思えるような行動を習慣化することによって、チームの力は大きく変わっていくとしています。最強チームをつくるカギは、「安全な環境」「弱さの開示」「共通の目標」の3つのスキルに集約されるとし、これらのスキルはなぜ重要で、具体的にはどのように行動すればよいのかを説いています。

 良いチームに最も必要なのは、強いリーダーシップや優秀な人材ではないということです。本書を通して提案される行動は、シンプルでポジティブな人間観に基づいており、極々「普通」に思えますが、だからこそ誰でも、いつでも行うことができ、こうした些細な行動によって強いチームが育まれるならば、一読の上、試してみる価値は大いにあると思われます。

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職場の問題点だけでなく、人事についての自分の意識のセルフチェックにいいかも。

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なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか (SB新書)』['21年]沢渡あまね氏

 本書では、日本の職場は、国際調査を見ると、人間関係、生産性、やりがい、満足度などの点で「世界一」ギスギスした職場とされているとした上で、日本の職場のどこに問題があるのか、働きやすい職場に生まれ変わるにはどうしたらよいかを、そのアイデアを提案しています。

 はじめに、日本の職場がギスギスする3つの主な要因として、①旧態依然のマネジメントや働き方、②旧態依然の職場環境、③ジェネレーションギャップを挙げ、職場のギスギスを解消させる3つのシフトとして、マインドシフト、マネジメントシフト、スキルシフトを挙げています。その上で、以下、ケースごとに職場のギスギスを生む要因を紐解き、それをどう解決していくか、3つのシフトをどう仕掛けていくかを、本文3章にわたってまとめています。

 第1章では、環境によるギスギスについて取り上げています。ここでは、職場環境によるギスギスとして、人が辞めていく、情報が共有できない、管理職・上司が現場を知らない、相談や提案がしにくい一方通行のコミュニケーション、誰に何を訊けばいいのか分からない、部門間の連携が取りにくい、といった6つの問題を、さらに、労働環境によるギスギスとして、公平すぎて不公平な働き方、テレワークで仕事がはかどらない、物理的環境がよくない、という3つ問題を挙げて、それぞれの原因と問題解決のヒントを示しています。

 第2章では、スキルやメンタリティによるギスギスについて取り上げています。スキルとキャリアによるギスギスとして、組織は集団主義だが行動は個人主義であること、雑用が多くてスキルが伸びないこと、日本特有の採用ミスマッチ、待遇で区別される非正規社員と働かなくても大丈夫な正社員、の4つの問題を、メンタリティによるギスギスとして、新しいことへの挑戦を拒む「5教科主義」「減点評価主義」、いまだに目立つ根性論、確認が多くてイライラの部下としっかり仕事しているか不安の上司、という3つの問題を挙げて、それぞれの問題解消のためのポイントを示しています。

 第3章では、制度によるギスギスについて取り上げています。ここでは、毎日出社しなければいけない、条件が厳しくて働けない、自分が動いても何も変わらない、終身雇用がモチベーションを下げるといった、制度に起因する問題を取り上げ、問題解決の道筋を示唆 しています。

 読んでいて、自分の職場も同じような問題を抱えていると思われる読者は多いのではないでしょうか。そうした問題の特効薬的な解決方法を示すというよりは、マインドシフト、マネジメントシフト等を促すことを主眼として、解決のためのアプローチを示しているように思えました。

 帯に「こんな職場は危険信号」とあって「コロナ禍依然と働き方が変わらい」とありますが、「テレワークで仕事がはかどらない」という問題については、テレワーク以前の仕事のプロセスに問題があるとしていて、なるほどと思いました。すごく斬新なことが書かれているわけではありませんが、自分の職場の問題点のセルフチェックにはいいかと思います。

 本文の最後で「終身雇用がモチベーションを下げる」と言い切って、企業として人材に投資する一方、成長しない人たちには厳しい人事制度に変えていくべきであるとし、おわりには、「気合・根性主義の体育会系カルチャー、そろそろおやすみなさい」とあります。これからのあるべき人事についての自分の意識のセルフチェックにもいいかもしれません。

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これからの組織変革の方向と実行のための知的ヒント、組織論の「今」を知る。

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だから僕たちは、組織を変えていける --やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた【ビジネス書グランプリ2023「マネジメント部門賞」受賞!】

 本書は、「組織を変える」ことを目的に、社会のパラダイムシフト、これからの組織の在り方、リーダーの在り方、チームを動かす原動力、やる気のあるチームの作り方、組織を変えるための影響の輪の広げ方などについて書かれた本です。

 第1章では、「時代」ということについて、21世紀に入り人類は、テクノロジーによる「デジタルシフト」、リーマンショックによる「ソーシャルシフト」、そして新型コロナウイルス流行による「ライフシフト」という3つのパラダイムシフトを経験し、これらの変化により、ビジネスにおいては「場所や情報よりも、アイデア」「個人の努力よりも、人とのつながり」「ワークライフバランスよりも、ワークとライフをともに楽しむこと」が重要になったが、こうした時代や価値観の変化があったにもかかわらず、多くの企業は、いまだに旧態依然とした仕組みのままだとしています。

 第2章では、「組織」ということについて、この3つのパラダイムシフトによって、知識社会に必要となる組織特性として、①環境から学び続ける「学習する組織」、②社会とのつながりを大切にする「共感する組織」、③メンバーが自ら考え、共創する「自走する組織」を挙げて、3つ組織を実現するためのエッセンスや、組織を変えるリーダ像(「学習する組織」→サーバント・リーダーシップ、「共感する組織」→オーセンティック・リーダーシップ、「自走する組織」→シェアド・リーダーシップ)を示しています。

 第3章では、「関係」ということについて、「心理的安全性」こそがチームを変えていくとし、心理的に安全な場をつくるためのプロセスとして、①共感デザインと②価値デザインの2つを挙げて解説し、心理的安全性のためにリーダーがやるべきことや留意すべきことを挙げ、リーダーは強がりの仮面をはずし、安全に対話できる場をつくるべきで、「関係性」は組織の土壌であるとしています。

 第4章では、「思考」ということについて、サイモン・シネックを引いて、すべてはWHYからはじまるとし、社会にとっての「仕事の意味」、自分にとっての「仕事の意味」を考え、仕事を楽しむことからはじめよう、チームを動かす北極星(目的)を見つけよう訴えています。

 第5章では、「行動」ということについて、組織のモチベーションをアップデートすべきだとし、メンバーの「自律性」をとりもどし、「有能感」を満たし、「関係性」を育むにことが、「内発的な動機」を生むことになるとして、やる気のあるチームをつくるにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、「変革」ということについて、変革のアクションを7段階に分けて解説し、まず一歩を踏み出すことからはじめ、共感をつなぎ「影響の輪」を広げていくまでを具体的に解説しています。

 リーダーシップは肩書ではなく行動であり、組織変革は現場最前線にいるスタッフ一人からでもはじめられるとして、そうした行動への勇気を促し、また実行する際の知的なヒントを与えてくれる本であるように思いました。

 多くのリーダーシップ論、経営論、組織論が、最新のものも含めて紹介されていて、普通であれば読んでいて"お腹いっぱい"になりそうなところですが、イラストと図解を多用することで、無理なく理解できるよう工夫されています。人事パーソン、ビジネスパーソンとして知っておきたいものが多く、組織論の「今」を知るという意味でもお薦めです。

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「中央集権」から「分権」への組織論の新たな視点(旧訳の方が読み易かった?)。

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ヒトデ型組織はなぜ強いのか 絶対的なリーダーをつくらない組織が未来をつくる The Starfish and the spider』['21年]『ヒトデはクモよりなぜ強い―21世紀はリーダーなき組織が勝つ』['07年]

 本書では、階層的な指揮命令系統が定められている中央集権的な組織を「クモ型」、権限が分散し階層構造を持たないネットワークの総体を「ヒトデ型」とし、「ヒトデ型」を「ヒトデ型」たらしめるものは何で、「ヒトデ型」を有効に機能させる要素は何かの解明を試みています(本書は、'07年刊行の『ヒトデはクモよりなぜ強い―21世紀はリーダーなき組織が勝つ』(日経BP社)の14年ぶりの新訳となる)。

 第1章では、MGMなどのレコード会社が違法なダウンロードをユーザーにさせるP2Pサービス会社を排除できなかった事例を、スペイン軍がアパッチ族を制圧できなかった事例に照らして分析し、「分権型組織は攻撃を受けると、より一層開かれた状態となり、さらに分権化の度合いを強める」(第1の法則)としています。

 第2章では、インターネット登場時に初めてそれに接した人が、インターネットの社長は誰かと問うたように、「ヒトデはクモと間違えやすい」(第2の法則)ものであり、「開かれた組織では、情報は中央に集中せず、組織全体に分散している」(第3の法則)、「開かれた組織は容易に変化させられる」(第4の法則)、「分権型組織はこっそり近づいてくる」(第5の法則)、「業界内で分権化が進むと、業界全体の利益が減少する」(第6の法則)としています。

 第3章では、ウィキペディアを例に、「人は開かれたシステムの中に身を置くと、無意識のうちに貢献しようという気になる」(第7の法則)とし、第4章では、分権型組織の5本の足(基本要素)は、①サークル、②触媒、③イデオロギー、④既存のネットワーク、⑤推進者であるとし、第5章では、そのうちの「触媒」に必要なものを挙げています。第6章では、「中央集権型組織は、攻撃されると、より一層集権化する傾向にある」(第8の法則)がこれはうまくいかないとし、ヒトデによる侵略に対抗する具体的な戦略を挙げています。

 第7章では、純粋にヒトデ型でもクモ型でもない、ハイブリッド型組織というものもあり、ハイブリッド型組織には、①カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を分権化させた中央集権型企業、②中央集権型企業が事業の内部構造を分権化するというパターンの2種類があるとしています。第8章では、企業はどの部分を分権化するか、分権の「スイートスポット」を追い求めるべきだとしています。第9章では、これまでのまとめとして、今日の企業競争には新しいゲームのルールが誕生しているとして、規模の不経済、ネットワーク効果など10のルールを挙げています。

ヒトデ型組織はなぜ強いのか3.jpg 本書では権力分散の成功例が豊富に紹介されていますが、今日において活発に活動している企業の多くが、はっきりした命令系統のある組織でありながら、サービスや経営に権限分散の要素を取り入れた「ハイブリッド型」であり、社内で一貫性を保ち、きちんと管理するには集権型のマネジメントが必要だが、人々が創造力を発揮しやすいのは、秩序よりも柔軟性を重んじる分権型の環境であることも示唆しています。組織論に新たな視点を提供しているという意味で、一読をお薦めします。

 ただ、個人的には、重要箇所が太字ゴシックになっていた旧訳の方が読み易かったかもしれません。例えば、第7章でのハイブリッド型組織の2タイプの紹介で、1種類目と1種類目の紹介の間に15ページ近く間隔がありますが、要約部分が特に太字ゴシックになっているわけでもなく、これでは2タイプの説明の位置関係が分かりにくいのではないかという気がしました。ハードカバーからソフトカバーになったのはともかく、そうしたところは手を抜かないで欲しかったように思います(旧訳★★★★☆に対して、新訳★★★★)

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「全員戦力化」に必要な組織力をどう高めるかを説く。「過程の公平性」という考え方に関心を持った。
全員戦力化.jpg全員戦力化2021.jpg
全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』['21年]

全員戦力化3.jpg 本書は、日本企業が抱える最も大きな人材問題は「人手不足」であり、社員全員を戦力化する必要があるが、それには組織力を高めるためのマネジメントが重要になるとし、そのために何をすべきかを論じています。

 第1章では、戦略人事とは企業目的の達成のために人事を行うことであり、数多くの経営環境の変化が起きている今、不足しているのは人手ではなく人材であって、多くの企業が人材不足に陥っている可能性があるとし、そこでとるべき人事戦略は、「全員戦力化」とでも呼ぶべきものとなるとしています。

 第2章では、「全員戦力化」のために必要なのは組織力であるとし、「組織力開発」の重要性を説いています。第3章では、職場に宿る組織力として、「協働」「人材育成」「所属」「同質化」の4つを挙げ、組織が弱体化するときにはどのような兆候が見られるか、特に危うい職場の人材育成とは何かを論じています。第4章では、従業員が働きがい・働きやすさを感じる組織とは何かを考察し、働きがいの根幹には達成感と成長感があり、働きやすさについては、個の尊重であるとしています。

第5章では、ダイバーシティおよびダイバースな人材を活用するインクルージョンという考え方は、全員戦力化において重要であるとし、インクルージョンの3要素として、①意見を表明しやすい職場、②組織文化や組織風土、③一段上の目標の共有、の3つを挙げています。

 第6章では、組織力としてのミドルにフォーカスし、ミドルは強い組織の礎であるが、環境の変化などによりミドル育成機能はいま低下しており、ミドル対象の研修に頼らない組織的な対応が求められているとして、その重要ポイントとして、①コンピテンシーまたは行動レベルのミドルの役割明確化、②組織図の修正、③フォロワー育成への投資、の3つを挙げています。

 第7章では、チームにフォーカスし、いま企業経営で構築され、活躍が期待されるチームとは、①多様化、②期待される成果・目標。③チーム内コミュニケーションという面で従来のチームの概念から変容しつつあり、こうしたチームを活用する組織力強化のカギとして、①ダイバーシティからインクルージョンへの進化、②心理的安全性、③個を自立させる組織の確保の3つを挙げています。

 第8章では働き方改革について、働く人が個々の事情に応じて、多様で柔軟な働き方ができるようにすることは、「全員戦力化」の考えにも一致するとした上で、「同一労働同一賃金」が意味するものは何か、法が求める衡平原則の課題と、組織力としての公平性を確保する施策を述べています。第9章では、従業員エンゲージメントとは何か、働く人のココロをつかむには何が必要かを論じています。

 最終章では、コロナウィルス感染拡大が要請する組織と人材の革新とは何かを述べていますが、この最終章のみが書き下ろしで、第1章から第9章までは、日本経済新聞などに掲載された既出の論考をもとに加筆・アップデートしたものであるとのことです。経営者・管理職をも読者として想定しているため、それぞれの章が、テーマごとに概論になっている印象があり、著者自身も述べているように、「全員戦力化」という課題について、方法論までは議論できていないような印象を受けました。それでも、インクルージョン、ミドル育成機能強化、チームの活用、働き方改革など、どこに焦点を当てればよいかということについては把握できると思われ、著者身の主張にぶれがなく一貫性のある内容であると思います。 

 個人的に印象に残ったのは第8章で、同一労働同一賃金法制が求める衡平原則は、誰と誰を比較するのか、何を比較の基準とするのか、どこまでの格差が許容されるのかの3点について合理性の判断に関して曖昧さが大きいとの問題点を指摘しつつ、公平性を確保し、企業運営もスムーズに進める方法として、「過程の公平性」と呼ばれる考え方を紹介している点です。これは「手続きの公平性」「手続きの平等性」などと呼ばれることもあり、一般的にいえば、評価の手続きや基準の公開、上司との話し合い、苦情処理システムの整備などによって、従業員がもつ公平感を高めようという考え方で、目標管理制度の導入や評価結果の本人への開示などは、その代表的な施策となるとのことです。

 法的要請を超えた人事管理にとっての同一労働同一賃金とは何なのか、同一労働同一賃金の考え方を活かす人事施策とは何なのかを、ひとりひとりの人事パーソンが考えていかなければならない時代が今なのかもしれないと思わされました。

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優優れたリーダーは「WHAT(結果)」からではなく、「WHY(理念)」から始める!

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WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』['12年]

WHYから始めよ!gc.jpg 本書は、コンサルタントである著者が、TEDでの「優れたリーダーはどうやって行動を促すのか」というプレゼンで提唱して注目を集めた〈ゴールデン・サークル〉理論を書籍化したものです。その趣旨は、人々や社会を巻き込む力を持つリーダーには共通点があり、それは思考を「WHAT(結果)」からではなく、「WHY(理念と大義)」から始めるという点にあるということです。本書は、組織の内外の人々に感銘を与え、やる気を起こさせ、アイディアやビジョンを発展させる手助けができる"インスパイア型リーダー"になる方法を説いたものです。

 第1部「WHYから始まらない世界」では、第1章「あなたの思い込みが間違っていたら?」で、我々はつい勝手な思い込みをして、不完全な情報を基に誤った判断をしがちだが、長期的な成功を得ることができるのは正しい判断が下された時のみであるとしています。第2章「飴と鞭」では、人に影響を与えることができる方法は、「操作(マニュピレーション)」と「鼓舞(インスピレーション)」しかなく、価格競争・プロモーション・恐怖心の利用・上昇思考メッセージ・目新しさなどの様々な操作は、短期的な利益を得るためには有効な手段だが、操作から継続的な忠誠心が生まれることはなく、別の正しい方法(つまり鼓舞)が存在するとしています。

 第2部「WHYから始まる世界」では、第3章「ゴールデン・サークル」で、著者が〈ゴールデン・サークル〉と命名したコンセプトを紹介しています。これは、人に何かしらの情報を伝え、行動を促したい時、「WHY・HOW・WHAT」という3層のサークル状の構成要素が存在し、サークルの中心にあるWHY(なぜ)から始め、HOW(どうやって)、WHAT(何を)の順で相手に伝えると共感を生むことができるという理論です。例えば、アップルのメッセージはWHY(理由)から始まっていて、つまりそれは目的、大義、理念であり、アップルを際立たせているのは、アップルのWHAT(していること)ではなくWHYであり、アップルの製品は、彼らの信念に命を吹き込んだものなのだと。「よりよい」製品という考え方には疑問が伴い、なぜその製品が存在するのかが最初に考えられるべきであり、それを望む人がいる理由と一致してなければならず、どの場合でも、初心、大義、信条といったものに立ち戻っていれば、業界の変化に対応できると。「競争に勝つためににはなにをすべきか?」と自問するのではなく、「そもそも自分たちの理念とはな何か、その理念に生命を吹き込むには、なにができるか」と自問すべきなのだとしています。

 第4章「これは生物学だ」では、どこかに帰属していたいという願望は、理性から生じるものではなく、どんな文化であろうとすべての人間がもつ普遍的なものであるとしています。また、意思決定を司る脳の部位は、言語機能を司っていないため、我々は無理やり説明をくっつけるが、WHYがなければ、決断を下すのは難しくなり、不安な気持ちのままデータや数値に頼って決断を下そうとするようになると。WHYが鮮明な製品は、ユーザーの理念や信条を周囲に明確に伝える力を持っているが、WHYを曖昧にしている企業は、顧客の要望を叶えようとHOWやWHATで始めてしまい、低価格、特徴の数、サービスや製品の品質といった操作で差異化を図って勝負せざるを得なくなるとしています。

 第5章「明快さ、厳しい指針、一貫性」では、終始一貫したWHATには「本物であること」が求められ、本物であることは、永続する成功には必須だが、これは、もとをたどればWHYに行きつくとしています。そして、自分のWHYがわかっていなければ、志や理念を言動であらわすことなどできず、自分のWHY(信条)と言動が矛盾せず、終始一貫していなければ、本物になれないと。リーダーは自分の心から信じることを行動に移すことによって本物(オーセンティシティ)になり、周囲の同じ信条を持っている人がついてくるとしています。

 第3部「リーダーには信奉者が必要」では、第6章「危機に瀕する信頼」で、勝ちたいという欲望は、本質的に悪いものではないが、得点だけが成功の基準になると問題が生じるとしています。会社や顧客のためではなく「自分のために」勝たなければならなず、会社やリーダーは、社内の人間が「自分のために」と思えるようなWHYを持つ必要がある―つまり、会社のWHYと自分のWHYを一致させ、自分のためにやったことが会社のためになっていることが理想なのだとしています。

 第7章「ティッピング・ポイントとは」では、ビジネスや社会でティッピング・ポイント(それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点)に達するには、コネクター(イノベーター、アーリーアダプター)による口コミが必要だが、初期ターゲットとするイノベーターやアーリーアダプターには単に影響力をある人を選ぶのではなく、自分たちが信じているものを信じてくれる人を選ぶべきであると。ビジネスの目標は、単に誰か(大衆)に商品を売ることではなく、理念や信念に共感してくれる人を探すことにあり、初期採用者についてそうした狙いを定めていれば、最終的には大衆がついてくるとしています。

 第4部「信じる人間をどう集結させるか」では、第8章「WHYからはじめよ、だがHOWを知れ」で、世の中にはWHYタイプの人(夢を語る人)とHOWタイプの人(計画を立てる人)が存在するが、優劣があるわけではなく、WHYタイプの語る信念・大義を中心に、それらをメガホンのように拡散する役割をHOWタイプが担っていて、WHYを知る人にはHOWを知る人が必要であり、WHYタイプの役割は、人々をインスパイアし、活動をおこすことだとしています。

 第9章「WHYがわかり、HOWもわかった。で、WHATは?」では、リーダーは、メンバーに信念を確実に信じさせ、それを実行する方法を理解させなければならず、また、HOWタイプはWHYを理解する責任を負っているとしています。組織のトップに座っているリーダーは、インスピレーションであり、我々の行動理由のシンボルなのだと。

 第10章「コミュニケーションとは耳を傾けること」では、業績をあげている会社の「最善策」を、つまりWHATやHOWをそのまま真似るだけではダメで、大切なのは、WHATやHOWではなく、HOWとWHATがWHYと一致しているかどうかが肝心なのだとしています。

 第5部「成功は最大の難関なり」では、第11章「WHYが曖昧になるとき」で、起業した後、あるいは仕事を始めた後、自分が行うWHATに我々は自信を深めていき、それを行うHOWに精通していく―業績を上げれば、どれだけの成功をおさめたかを数値で知ることができ、これでまた精進した、成功した、と感じることができる―ところがその過程で、そもそもどうしてこの旅を始めたのかというWHYをすっかり忘れてしまいがちになり、すると、必ずWHATとWHYに乖離が生じるとしています。

 第12章「WHATとWHYの乖離」では、WHATとWHYが離れはじめた組織は、もはや理念や大義に心動かされることはなく、インスピレーションはなきに等しいと。多くの大企業が「初心に戻れ」と異口同音に言っているのも、偶然ではなく、彼らがほのめかしているのは、乖離が始まる前の時代に戻れということだとしています。

 第6部「WHYを発見する」では、第13章「WHYの源泉」で、アップルという会社のWHYの源泉はどこにあったのかを振り返り、アップルの製品は、アップルのWHYを理解する人にとって最高なのだとしています。

 第14章「新たな競争」では、他の人間と競争するとき、誰もあなたを助けたいとは思わないが、自分自身に戦いを挑むと、誰もがあなたを助けたいと思うとし、他人と自分を比べると誰も私たちを助けようとしないが、自分自身をよりよくするために出社したらどうなるか? 人々をインスパイアするために出社したたらどうなるか? と問うています。そして、もし、すべての組織がWHYから始めたら、決定はよりシンプルになり、忠誠心は篤くなり、信頼が共通認識になるだろうとしています。

 世の中には「形式上のリーダー」と「本物のリーダー」がいて、「形式上のリーダー」は、権力のある座につき、影響力を持つが、「本物のリーダー」は、私たちを感激させ、奮起させる。「本物のリーダー」は、私たちに「WHY(理念と大義)」を語るが、それこそが組織の内外の人たちのやる気を起こさせるのに対し、「形式上のリーダー」は「WHAT(結果)」だけを語ってしまうということを言っている本です。

FIND YOUR WHY2.jpg TEDで記録的な再生数を誇った著者のプレゼンテーションを見て本書を手に手にした人も多いかと思いますが、プレゼンからさらに一歩踏み込んで説明されており、啓発度が高かったように思います。単なる啓発書にとどまらず、組織論、リーダーシップ論としても読め、人事パーソンにお薦めです(本書の実践編として、『FIND YOUR WHY―あなたとチームを強くするシンプルな方法』('19年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)も刊行されている)。

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心理的安全性と何か、それを実践するにはどうすればよいかを説く。

恐れのない組織1.jpg恐れのない組織.png チームが機能するとはどういうことか.jpg エイミー・C・エドモンドソン2.jpg Amy C. Edmondson
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』['21年] エイミー・C・エドモンドソン『チームが機能するとはどういうことか―「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』['14年]

 本書は、ハーバード・ビジネススクール教授で、最近注目を集めている「心理的安全性」という概念の提唱者である著者が、フォルクスワーゲン、ピクサー、福島原発など様々な事例を分析し、対人関係の不安がいかに組織を蝕むか、それを乗り越えた組織の在り方とは何かを論じて、実践への示唆までを語った本です。

 3部構成の第1部「心理的安全性のパワー」では、心理的安全性とは何か、心理的安全性がなぜ重要なのかを説明し、さらに、なぜ多くの組織で心理的安全性が当たり前になっていないのかを考察しています。

 第1章「土台」では、病院での医療事故につながりかねなかった事例から、対人関係の不安により職場で従業員が本心を言わないことがパターン化すると、仕事の質に深刻な影響を及ぼしかねないとしています。心理的安全性とは、率直に発言することによる対人関係リスクを、人々が安心して取れる環境のことであるとしています。

 第2章「研究の軌跡」では、心理的安全性に関する学術研究からわかったことして、不安を当たり前にして生き残れる組織は21世紀においてはなく、「フィアレスな組織」は従業員にとってよりよい場であるだけでなく、学習、エンゲージメント、パフォーマンスに素晴らしい効果をもたらすことが明らかになったとしています。

 第2部「職場の心理的安全性」では、事例をもとに、心理的安全性が業績と人々の安全委にどのように影響するかを述べています。

 第3章「回避できる失敗」では、心理的安全性が欠けていると、ビジネスにおいて重大な失敗を吹き起こしてしまうことをフォルクスワーゲンなどの事例から、第4章「危険な沈黙」では、率直に意見を言えないことや権威を過信することとがもたらすリスクを、福島第一原発の事例などから、それぞれ検証しています。

 第5章および第6章では、率直に考えを述べることができ、それを当たり前とする組織の事例を紹介しています。第5章「フィアレスな組織」では、ピクサーを例に、クリエイティブな仕事が業績を左右するなかでのフィアレスな組織のもたらした効果を、第6章「無事に」では、福島第二原発などを例に、思いやりのあるリーダーシップよって、従業員が求められる以上のことをすることを、それぞれ例示しています。

 第3部「フィアレスな組織をつくる」では、リーダーはどんなことをすればフィアレスな組織―誰もが率直に話して仕事をし、貢献・成長・成功し、チームを組んで、ずば抜けた成果を出す組織―をつくりだせるかに焦点を当てています。

 第7章「実現させる」では、心理的安全性をつくるためには何をする必要があるかを述べ、心理的安全性は相互に関連する3つの行動(土台をつくる。参加を求める、生産的に対応する)によって生み出され、心理的安全性を強固にすることは、組織のあらゆるレベルのリーダーの責務であるとしています。

 第8章「次に何が起きるのか」では、本書の事例に関するいくつかの最新情報を紹介するとともに、心理的安全性に関してのよくある質問について回答しています。

 最後の質問のなかに「職場が心理的に安全になると、時間がかかりすぎてしまうのではないか」というのがあり、これなどは最近どこかの組織委員会であったような話ですが、著者は、心理的安全性は効率性に役立つ可能性があり、時間の浪費ではなく節約になるとしています。また、透明性の問題にも触れています。

 著者は、日本企業は「権力格差(パワー・ディスタンス)」が大きいとしており、その意味でも日本企業の職場こそ心理的安心性がより求められると思われますが、著者もそれは可能なことであるとしています。

 著者は『チームが機能するとはどういうことか』の著者でもあり、専門はチーミング(境界を越えてコミュニケーションを図り、一致協力する技術)ですが、心理的安全性と何か、それを実践するにはどうすればよいかを問いた本書は、チーミングをテーマとした本と言ってもいいのではないかと思います。

 心理的安全性について書かれた本がすでに何冊か出ていますが、先に大本(おおもと)である本書を読んで、そのエッセンスに触れておくのがよいかと思います(『チームが機能するとはどういうことか』もお奨めです)。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1部 心理的安全性のパワー
第1章 土台
第2章 研究の軌跡
第2部 職場の心理的安全性
第3章 回避できる失敗
第4章 危険な沈黙
第5章 フィアレスな職場
第6章 無事に
第3部 フィアレスな組織をつくる
第7章 実現させる
第8章 次に何が起きるのか
解説 村瀬俊朗

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理想のチームプレーヤーの特質は、「謙虚」「ハングリー」「スマート」の3つ。

理想のチーム プレーヤー2.jpg理想のチーム プレーヤー.jpg
理想のチームプレーヤー――成功する組織のメンバーに欠かせない要素を知り、成長・採用・育成に活かす方法』['20年]

 本書の著者パトリック・レンシオーニには、『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』('02年/日経BP)、『あなたのチームは、機能してますか?』('03年/翔泳社)など日本でも話題になった著書があります。

 『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』は、大規模な組織を率いるトップにとっての組織が競争優位を得るための最重要課題は、戦略でもマーケティングでも財務でもなく、健全な組織をつくることにあるとし、それを実現する「結束」「明確化」「周知徹底」「強化」という4つの指針を、物語を通して示した本であり、『あなたのチームは、機能してますか?』は、危ない組織の5つの症状(「信頼の欠如」「衝突への恐怖」「責任感の不足」「説明責任の回避」「結果への無責任」)を、これも物語形式で示し、ここから導かれる、真のチームワークに求められる5つの行動とは、弱みを見せて信頼を築き、健全に衝突し合い、進んで責任感を持ち、互いの説明責任を追求し、結果を重視することであるとしたものでした。

 本書『理想のチームプレーヤー』では、著者は、チームデベロプメントのコンサルタントとして長年に渡り様々な企業と関わる中で、組織の繁栄に最も必要な人材はチームプレーヤーであるという結論に至ったとした上で、前著での5つの行動は、十分なコーチングや忍耐力、時間などの条件を満たせば習得可能だが、周りよりも優れたチームプレーヤーで、この5つの行動をうまく実践できる人がいて、これ実現できるそうした理想のチームプレーヤーは、人生や仕事や鍛錬を通して「3つの美徳」を身に付けてきたのだとしています。そして、その3つの美徳とは何かを、「第1部:寓話」で、前二著と同じく物語形式で示しています。物語の枠組みは次のようなものです。

 シリコンバレーの企業やコンサルティング会社で輝かしいキャリアを重ねてきた主人公ジェフ・シャンリーは、突然、伯父が経営する有名な建設会社バレー・ビルダーズ社のCEO に任命される。緊急の社長交代劇と共に与えられた使命は、会社史上最大規模の2つのプロジェクトを成功させることだった。ジェフは困惑しながらも、難航するプロジェクトをやり遂げる唯一の方法を見つけ出す。それは、会社のメンバー全員が「理想のチームプレーヤーになる」という価値観を共有し、それに向かう採用と育成の企業文化を、早急に作り上げることだった―。

 つまり本書は、ジェフ・シャンリーという主人公が叔父の会社を救おうとする物語を例に、理想のチームプレーヤーとは何かが語られているわけです。物語で主人公らはまず、会社に問題を引き起こす「モンスター社員」の特性を考え、次にその逆の特質とは何かを考えます。そして、偉ぶらず、勤勉に働き、人間との接し方を知っていることが、モンスター社員の逆、つまりチームプレーヤーの特質であり、この「謙虚」「ハングリー」「スマート」という3つの要素が、優れたチームプレーヤーに欠かせないという結論に行きつきます。

 物語の後の「第2部:モデル」では、3つの美徳を改めて定義し、理想のチームプレーヤーと、そうでない3つの要素のどれかがが欠けている人物のモデルを示すとともに、理想のチームプレーヤーを採用する方法、今いる社員の評価の仕方、一つ二つ美徳に欠けている社員の育成方法、3つの美徳の組織カルチャーへの組み込み方がまとめられています。

 例えば、採用に関しては、面接でカギとなるポイントや、謙虚、ハングリー、スマートの3要素のエッセンスを探るのに役立つ質問例が紹介されていいます。その中には、ごく普通に日本の企業面接で訊くような質問もありますが、チームプレーヤーに必須の3要素を持っているかどうかを、要素ごとに探るためにその質問をしているという点が特徴的であると思われます。

 物語形式なので読みやすく、内容も頭に入ってきやすいです。例えば採用に関して、米国企業の採用というとスペック重視という印象が強いですが、最近は変わってきているのではないかと思わせるものがありました。一方、日本企業は、前述のように、以前から本書にあるような採用をしてきたような気がしなくもありません。しかしながら、どこまで戦略的バックグラウンドがあったかはやや疑問であり、本書を読みながらそのことについて考えてみるのもいいのではないかと思います。また、著者の前著が未読であれば、遡及してそちらに読み進むのも良いかと思います。

《読書MEMO》
●モデル
三分の一
・「謙虚さのみ」 ⇒ 歩兵
・「ハングリーさのみ」 ⇒ ブルドーザー
・「スマートさのみ」 ⇒ 人たらし
三分の二
・「謙虚でハングリーだがスマートでない」 ⇒ うっかりトラブルメーカー
・「謙虚でスマートだがハングリーでない」 ⇒ 憎めない怠け者
・「ハングリーでスマートだが謙虚でない」 ⇒ 熟練の政治家

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「賢明」より「健全」。そのために「結束」「明確化」「周知徹底」「強化」せよと。

れんしおーに2.jpgなぜあなたのチームは力を出しきれないのか.jpg あなたのチームは、機能してますか.jpg
なぜあなたのチームは力を出しきれないのか 』['02年] 『あなたのチームは、機能してますか?』['03年]

 本書『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』では、まえがきにおいて、競争優位を得ている組織には、①賢明である、②健全である、の2つの特徴があるが、「現実をみると、ほとんどのリーダーは、組織をかしこくすることに時間とエネルギーの大半を費やし、組織をすこやかにすることにはあまり熱がこもっていない。ビジネス・スクールやビジネス誌が何を重視しているかを考えれば、無理もないことである。しかし、組織が健全であることの、しなやかで強い特性を考えると、これは残念なことである」(8p)としています。自身がマネジメントを任されているチームが、最高のパフォーマンスを発揮していると胸を張って言える管理職はどれほどいるでしょうか。本書は、物語形式で話を進めながら、チームが力を出し切れていないのはなぜなのか、その疑問に答え、解決策を提示したものです。

 第1部「不安の種」では、物語の枠組みが示されています。ビンス・グリーンが創立しCEOを務めるITコンサルティング会社グリニッチ・コンサルティングは、ビジネス・スクールの同級生だったリッチ・オコナーがほぼ同時期に創立しCEOを務める同業のITコンサルティング会社テレグラフとライバル関係にあるが、リッチの会社はすこぶる評判が良く、両社は売上こそ競ってはいるものの、人材獲得競争において、ビンスの会社からリッチの会社に移る人の流れが止まらない。また、ビンスの方は相手の会社が気になるが、相手は自分の会社に関心すら示していないようだ。ビンスはリッチの会社テレグラフ成功の秘密を知るためにスパイまがいの偵察までしたりし、さらにその"謎"を探ろうと、専門家を経営会議に招いたりするが、専門家らの分析では、ビンスの会社とリッチの会社では何から何まで異なり、彼らは、リッチの会社は「非常に健全な組織なのです」と言うばかりだった―。

 第2部「異なる文化」では、ビンスのライバルと目されていたリッチにも、ある悩みがあったことを明かしています。その悩みとは、忙しすぎるということで、自らの時間を取れないためリッチは会社を売却しようかとも考えましたが、生きがいでもある会社であるため踏ん切りがつかず、そこで、本当に会社にためになることを1つだけやるとすれば、それは何か? それだけを考えることにしました。そして、その結果見出した「4か条の指針」を黄色い用箋に記し、これを「イエロー・リスト」と呼びます。そのイエロー・リストに記された指針に則って行動することで、会社は急速に素晴らしいものになっていきました。そのイエロー・リストには何が書かれているのか、秘密にしていたわけではないですが、本当に知る人はごく限られていました(4か条の内容は本書の最後の方で明かされる)。
しかしながら、どんなグレートな会社でも過ちを犯すものです。リッチの会社は、空いていた人事担当副社長のポストにジャミー・ベンダーという男を採用します。ジャミーの経歴はどこから見ても申し分ないように思えましたが、次第にジャミーが進める改革の手法を巡って、彼とリッチの会社の経営チームのメンバーとの間に溝が生じます。結局、リッチの会社は、自社の企業文化にそぐわない人物を採用したことが判明し、ジャミー自身も自分がリッチの会社の企業文化に合わないことに気づいて会社を辞めます。

 第3部「チャンス」では、リッチの会社を辞めたジャミーが、ビンスの会社に自分を売り込みに行きますが、その際に何とイエロー・リストの内容を手土産に持っていきます。ここで、その4か条の内容が明かされます。それは、①まとまりがある指導者チームをつくり、その結束を維持する、②透明な組織をつくりだす、③組織が決定したことの伝達はやり過ぎるくらいやる、④人事システムで透明な組織を強化する、の4つで、つまり、リーダーが第一にするべき仕事とは、組織を健全にすること、それだけなのだということです。しかし、ビンスには、それがやれるというイメージが湧かない―。
ジャミーが転職希望先のビンスの会社で、ライバルのリッチの会社の「秘密の4か条」を説いているとき、偶然にもリッチがその場に、ビンスの会社事業買収の相談で訪ねてきます。そして、まだホワイトボードに書かれていなかった第4条と、「結束せよ、明確にせよ、周知徹底せよ、強化せよ」というまとめのスローガンを書き残して、穏やかな表情で去っていきます。

 第4部「情熱のゆくえ」は後日譚です。4か条の効用を信じたとしても、そのとおり実践するのは自分には無理だと悟ったビンスは、企業経営への情熱を失っている自分に気づき、会社を売却します。

 以上、本書の前4分の3がストーリー展開になっていて、後の4分の1が、健全な組織をつくるための4か条の指標のまとめとなっています。本書には、組織を健全化するためのノウハウがたくさん盛り込まれていて、リーダーは可能な限りその命題に取り組んでみるべきだろうと改めて思わされます。社内政治は良くないのではなく「絶対に駄目」と言っているのが印象的で、小さなほころびが大きな穴となり、組織を崩してしまうことの危険性がわかります。「強い」チームを作るためにリーダーが最も注力すべきことは何か、そのことを知りたいと思うマネジャーにお薦めです。


 同著者には、本書に続いて日本でもベストセラーになった『あなたのチームは、機能してますか?』('03年/翔泳社)という著書もあり、こちらもストーリー仕立てになっていて、その枠組みは以下の通りです。

 経験豊富な経営陣、完全無欠な事業計画、他の企業には望むべくもない一流の投資家、ことさら慎重なベンチャーキャピタルも列をなして投資を申し込み、オフィスも決まらないうちに有能なエンジニアが履歴書を送ってきた。その企業の将来は薔薇色に見えた。しかし2年後、取締役会で37歳のCEOは解任された。150名の社員の頂点に迎えられたのは57歳の女性CEOのキャスリン。しかも古くさいブルーカラー業界出身。ビジネス・スクールも決して有名とは言えない。彼女をCEOに迎えたいという会長の発言を聞き、取締役は彼の正気を疑った。でも、会長には確信があった。競争における究極の武器はチームワークである。そして、キャスリンはチーム作りの天才だったのだ―。

 本書では、キャスリンが来た時には最悪だった会社の状況を示し、危ない組織の5つの症状を挙げています。それは次のようになります。
 ・結果への無責任(各自の仕事にかまけて全体を見ない)
 ・説明責任の回避(衝突を避けて互いの説明を求めない)
 ・責任感の不足(決定したことでもきちんと支持しない)
 ・衝突への恐怖(不満があっても会議で意見を言わない)
 ・信頼の欠如(意見は一致していないのに議論が起きない)

 キャスリンは、経営チームのメンバー各個人の性格を全員露わにすることから始め、チームの輪を崩すもの(テイカー)をチームから排除し、少しづつチームとして機能させていきます。危ない組織の5つの症状から導かれる、真のチームワークに求められる5つの行動とは、弱みを見せて信頼を築き、健全に衝突し合い、進んで責任感を持ち、互いの説明責任を追求し、結果を重視することであるとしたものでした。

 本書も、前6分の5がストーリー展開になっていて、キャスリンが経営チームとの対話や討議を通して、組織がチームワークの実現に失敗する、これら5つの要因を一つひとつ明らかにしていき、それを解決するにはどうすればよいかを説いていきます。そして、最後の6分の1で、「五つの機能不全」モデルを再整理し、それを理解し克服する「プロセス」と「ノウハウ」をまとめています。こちらも併せて読まれることをお勧めします(シンプルさで言えば前者、より体系的であると言えば後者になるか)。

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「上司」を持たない自律したチーム=「セルフマネジング・チーム」を提唱。今もって先進的。

自律チーム組織 マンツ1.jpg自律チーム組織 マンツ2.jpg
自律チーム型組織―高業績を実現するエンパワーメント』['97年]

 本書は、チーム制を組織に導入し、フラット化された組織を作るうえでの注意すべきポイントを、実際にチーム制を導入した実例を使って説明している本であり、著者であるチャールス・C・マンツとヘンリー・P・シムズJr.は「セルフマネジング・チーム」という概念の産みの親とも言える研究者です。セルフマネジング・チームとは「上司」を持たない自律したチームであり、「上司」の代わりに部下をセルフマネジングに導く「スーパーリーダー」がいることになります。本書ではまず、この新チーム制を導入する際の阻害要因を整理し、それらを踏まえ、チーム制導入のためには何をすればよいかを章ごとに事例を通して説明していきます。

 第1章「チーム制への道―中間管理職の壁の克服」では、チーム制導入成功への最大の課題である中間管理職の抵抗をどう克服するかについて、シャレッテ社の倉庫管理における中間管理職の移行事例を通して述べています。ここでは、管理職を「上司」から「スーパーリーダー」へと新しいリーダーシップの役割に移行する際に想定されるステップと、ステップごとにどのようなことが課題となるかを示すとともに、移行のための時間と努力は、セルフマネング・チームを成功させるのに重要であるとしています。

 第2章「現場でのチーム経験―役割、行動、そして成熟したセルフマネジング・チームの業績」では、メンテナンスフリーの自動車バッテリーを創り出したゼネラルモータース工場の事例を取り上げ、比較的成熟したセルフマネジング・チームにおける従業員の日々の行動を通して、セルフマネジング・チーム内での従業員の役割や行動、チームリーダーや調整者のリーダーシップの特徴などを見ています。そして、初期の段階から以前は管理者に任されていた責任と役割がチームに任せられたこと、調整者の最も頻繁な言語的行動は、従業員への思慮深い問いかけであったことなどが明らかになったとしています。

 第3章「チーム制の利点と欠点―成功と課題の実践的展望」では、レイク・スペリアー製紙会社の工場での、セルフマネジング・チーム制への移行のまだ比較的初期の発展段階にあるチーム制の事例を通して、解決されるべき多くの課題もあるが多くの成功もあるとし、以降の際にどのようなことが課題となり、それらにどう応えるべきかを説いています。

 第4章「導入初期の段階―オフィスでチーム制を導入する」では、IDS金融会社でのチーム制の導入を検証し、導入初期の段階で留意すべきことを説いています。ここでは、さまざまな難題や挫折、苦境に直面したもののチーム制への移行は成功したが、その過程において、どのような組織が設けられ、どのような分析ツールが活用されたかを紹介し、チーム制によって得をする人もいれば損をする人もいるが、できるだけ多くの人が得をするよう細心の注意を払わなければならないとしています。

 第5章「セルフマネジングの幻想―権限を奪うためにチーム制を利用すること」では、ある独立系保険会社の失敗事例を取り上げ、従業員の権限を奪い、コントロールを強化するためにチーム制を導入した場合は、たとえ「セルフマネジメント」という言葉を使ったからといって、自動的にエンパワーされた従業員につながるわけでもなく、セルフマネジング・チームが達成されるわけでもないと警告しています。

 第6章「組職上のチーム制なしでのセルフマネジング―チームとしての組織」では、セルフマネジメント・チームを公式にデザインされたチーム制なしで実現している例として、非常に成功しているW・A・ゴア社の事例が紹介されています。そのなかでは、自分たちで育てていくようなかたちでのチームが必要な時だけに現れてくるという画期的なやり方が明らかにされ、上司とか管理者はいないが、たくさんのリーダーがいるというのが成功の秘訣であったとしています。ゴア社の経営スタイルは「無管理」と呼ばれていて、チームワークはさかんであるが、組織上のチームはなく、仕事を遂行するうえで必要な場合、だれもが異分野の人々とチームを組むことができるとのことです。

 第7章「チーム制とトータルクオリティマネジメント―国境を越えて」では、トータルクオリティマネジメント(TQC)の最終段階としてセルフマネジング・チームを取り入れたテキサス・インスツルメント・マレーシアの事例を紹介し、アメリカ以外の国の組織でも、チーム制の導入により目を見張るような効果が上がることを明らかにしています。

 第8章で「戦略的チーム―上層部のチーム」では、電力会社であるAES社の事例をもとに、企業の戦略形成におけるチームワークの重要性について述べています。会社のあちこちに出現するチームのネットワークが、成長中の組織の経営戦略を決定するうえでどう影響するのかを見ています。AES社にとって全従業員が共有する価値観は非常に重要であり、この会社で共有されているコアバリューとは、正直さ、公平さ、楽しさ、社会的責任の4つであるが、この4つのコアバリューに忠実であるということは、それ自体、価値のある目標であるとしています。さらに、この章では、チーム制は組織の下の部分だけでなく、上層部においても適用されるべきであるとしています。

 第9章「セルフマネジング・チーム―我々は何を学び、どこへいくのか」では、これまでのセルフマネジメントの実践例から得られた知見と将来の課題について述べるとともに、チームアプローチを採用することを検討していたり、すでに採用しだした企業に向けて、セルフマネジング・チームを成功させる道のりのガイドを示しています。

 各章での議論が、著者たちの調査した事例に基づいて行われていて、顧客対応、TQC、業務プロセスなど多様であるため興味深く、また説得力もあります。今や"準古典"的な位置づけにある本ですが、セルフマネジング・チームという概念は今もって先進的であるように思います。むしろ、本書を読んで、「ウチはまだそこまでは」と思われる読者の方が多いかもしれません。ただし、そうした企業であっても、本書で示された知見は、プロジェクトマネジメントや人材育成などにおいて応用可能であると思われます。新しいリーダー像を示した啓発書としても読めるかと思われ、人事パーソンにお薦めの1冊です。

《読書MEMO》
●目次
序章 ティラノザウルス王国―企業内の恐竜としての上司
第1章 チーム制への道―中間管理職の壁の克服
第2章 現場でのチーム経験―役割、行動、そして成熟したセルフマネジング・チームの業績
第3章 チーム制の利点と欠点―成功と課題の実践的展望
第4章 導入初期の段階―オフィスでチーム制を導入する
第5章 セルフマネジングの幻想―権限を奪うためにチーム制を利用すること
第6章 組職上のチーム制なしでのセルフマネジング―チームとしての組織
第7章 チーム制とトータルクオリティマネジメント―国境を越えて
第8章 戦略的チーム―上層部のチーム
第9章 セルフマネジング・チーム―我々は何を学び、どこへいくのか

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エクセレントを生むのは「人」という考え方はブレず、AI時代にも説得力を持つ。

新エクセレント・カンパニー1.jpg新エクセレント・カンパニー2.jpg
新エクセレント・カンパニー: AIに勝てる組織の条件』['20年]

 本書は、80年代に発表され、世界的ベストセラーとなった『エクセレント・カンパニー』を著した著者が、豊富な経験とケーススタディをもとに、AI(人工知能)には決してマネ出来ない「エクセレント」な企業活動の条件とは何か、時代に左右されないビジネスの本質を説いたものです。

 第Ⅰ部「実践」 、第Ⅱ部「エクセレント」 、第Ⅲ部「人びと」、 第Ⅳ部「イノベーション」、 第Ⅴ部「付加価値」、 第Ⅵ部「エクセレントなリーダー」の全6部から成り、さらにそれを15の章に分けており、 第Ⅰ部では、実践こそ戦略であり、実践とは現場で行われるものであって、社長室では起こらないと説いています(第1章)。

 第Ⅱ部では、エクセレントとは何かを14のセクションにわたって検討し、エクセレントはその瞬間瞬間の生き方にあり、実行しなければ存在しないとしています(2章)。さらに、エクセレントは、エクセレントな組織文化によってのみ維持されるとし(第3章)、中小企業は間違いなくエクセレントたり得るとして、エクセレントな成果を上げている中小企業の事例を紹介しています(第4章)。

 第Ⅲ部のテーマは人間関係であり、まず「人がいちばん」はエクセレントを目指すための最重要項目であるとし(第5章)、従業員一人ひとりにチームにがっちりかかわらせて、チームの成長に専念させなければならないとしています(第6章)。また、新しいテクノロジーとの向き合い方を説き、企業の新しい道徳的責務は、すべての社員に将来必要となる専門技術を身につけさせることだとし(第7章)、不安定な世界で雇用を安定させることは、攻撃的な戦略なのだとしています(第8章)。

 第Ⅳ部では、イノベーションの2つの法則(「数打ちゃ当たる」と「失敗は成功のもと」)を紹介し、イノベーションは"本気の遊び"であり、思い切って一歩を踏み出すことだとし(第9章)、多様な相手との付き合いが私たちを成長させるのであって、この時代、同じような人とばかり付き合うのは身を亡ぼすとしています(第10章)。

 第Ⅴ部では、AI時代において魂が抜けた業務が氾濫するなかで、付加価値こそ優先すべきだとして、付加価値を強化する9つの戦略の筆頭にデザインを挙げ、アップルなどの例からデザインこそ最重要の差別化因子であるとし(第11章)、続いて、その他の8つの付加価値強化戦略を説いています(第12章)。

 第Ⅵ部では、エクセレントなリーダーの最大の特質は「聴き上手」であることだとし(第13章)、最前線のエクセレントなリーダーは企業のコアバリューであって、もっと評価されるべきだとしています(第14章)。そして最後に、エクセレントなリーダーとなるための26の戦術を紹介しています(第15章)。

 各章の冒頭に「マイストーリー」という著者自身の実体験があり、その後に各トピックが番号付きで紹介されてはいますが、内容的には特に体系だった構成がされているわけではなく、解説の米倉誠一郎・法政大学大学院教授が述べているように、気に入った章から読み進め、各章で紹介されるエクセレントな事例を座右の銘として書き留めるという読み方でもよいと思います。

 他の書籍からの引用が多く、読んでいてやや細切れ感があったのは否めませんが、戦略や数字、分析よりも、組織文化や人こそが大切であるという考え方は、前著『エクセレント・カンパニー』から受け継がれているものであり、AI時代に突入した今日においても、エクセレントを生むのは「人」であるとし、そうした「人がいちばん」という著者の考え方がブレず、且つ、今日においても説得力を持っているのは、個人的には嬉しく、また心強く思いました。

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ギバー(与える人)こそが成功するとして、どうしたらギバーになれるのかを説く。

GIVE & TAKE2.jpgGIVE & TAKE.jpg アダム・グラント.jpg アダム・グラント
GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』['14年]

 組織心理学者による本書では、人間の思考と行動を「ギバー(人に惜しみなく与える人)」「テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)」「マッチャー(損得のバランスを考える人)」の三類型に分け、それぞれの特徴と可能性を分析し、ギバーこそが成功するとして、どうしたらギバーになれるのかを説いています。

 パート1では、ギバーは「ギブ・アンド・テイク」の関係を相手の利益になるようもっていき、受け取る以上に与えようとし、テイカーが自分を中心に考えるのに対し、ギバーは他人を中心に考え、相手が何を求めているかに注意を払うとしています。そして、多くの人々が、ギバーとして人間関係や評判を築いたサービス提供者を重視するようになっているとしています。

 パート2では、テイカーは自分のことで頭がいっぱいなので、三人称の代名詞(私たち)より一人称の代名詞(私)を使うことが多く、調査によれば、たいていの人は、フェイスブックのプロフィールを見ただけでテイカーかどうかを見分けることができるというとのことです。また、ギバーの1つ目の才能として、「ゆるいつながり」の人脈づくりを挙げ、強いつながりは「絆」を生み出すが、弱いつながりは「橋渡し」として役立つとしています。

 パート3では、テイカーは自分がほかの人より優れていると考え、他人に頼りすぎると、守りが甘くなってライバルに潰されてしまうと思いがちだが、ギバーは、競り合うことを弱さだとは考えず、それは強さの源であり、多くの人々のスキルをより大きな利益のために活用する手段であるとしています。また、ギバーの2つ目の才能として、自分だけでなくグループ全体が得をするように、パイ(総額)を大きくすることを挙げ、ギバーはグループに貢献するので皆から感謝されるとしています。

 パート4では、ギバーは同僚や会社を守ることを第一に考えるので、進んで自らの失敗を認め、柔軟に意思決定しようとし、長い目で見てよりよい選択をするためなら、さしあたって自分のプライドや評判が打撃を受けてもかまわないとするとしています。そして、ギバーの3つ目の才能として、テイカーが、自分こそが一番賢い人間になろうと躍起になるのに対し、ギバーは、たとえ自分の信念が脅かされようと、他人の専門知識を受け入れ、その結果、部下の可能性を掘り出し、精鋭たちを育てるということを挙げています。

 パート5では、テイカーは強気な話し方をする傾向があり、独断的であるのに対し、ギバーはもっとゆるい話し方をする傾向があり、控えめな言葉を使って話すとしています。また、ギバーの4つ目の才能として、「強いリーダーシップ」を発揮するのではなく、知らずしらずのうちに相手の心をつかむ質問力や説得術により、相手に対して「影響力」を及ぼすことが挙げられるとしています。

 パート6では、ギバーが成功するために気をつけなければならないこととして、困っている人をうまく助けてやれないときに、燃え尽きてしまうことがあるが、他人のことだけでなく自分自身のことも思いやりながら他者志向的に与えれば、心身の健康を犠牲にすることはなくなるとしています。

 パート7では、「いい人」であるだけでは絶対に成功はできないとし、気づかいが報われる人と人に利用されるだけの人の違いを説いています。ここでは、ギバーが陥りやすい三つの罠として、信用しすぎること、相手に共感しすぎること、臆病になりすぎることを挙げ、それらに陥らないためにはどうすればよいかを述べています。

 パート8では、人間が「お互いを助ける」のはなぜかを考察し、それは、困っている相手に自己意識を同化させ、相手のなかに自分自身を見出すからだとし、つまり、実際には自分自身を助けていることになるとしています。そして、最初に人々の行動を変えれば、信念も後からついてくるとしています。

 パート9では、多くの人がギバーとしての価値観を持っているのに仕事ではそれを表に出したがらないが、ほんの少しでもギバーになれば、もっと大きな成功や豊かな人生、より鮮やかな時間が手に入ること示唆して、本書を締め括っています。

 監訳者の楠木建氏も書いていますが、本書を読んだ第一の印象は「情けは人のためならず」ということでしょうか。しかし、楠木氏は、本書は凡百の「自己啓発書」ではなく、行動科学の理論と実証研究に裏打ちされている点で、個人的な経験や思いつきで書かれた自己啓発のビジネス書とは一線を画しているとしています。

 人事パーソンの視点で見れば、職場にこうしたギバーが増えていくことが望ましいということになるかと思います。また、もし、あるチームが効果的に機能しているとすれば、それは特定のギバーに負っている面があったりもする可能性もあり、そうしたギバーが燃え尽きてしまうことがないような配慮も必要になってくるかと思います。その意味で、組織論的な観点からも多くの示唆に富む本であると思います。

TED Talks. 「与える人」と「奪う人」 ― あなたはどっち?
TED Talks. 「与える人」と「奪う人」.jpg

2TED Talks. 「与える人」と「奪う人」2.jpg2TED Talks. 「与える人」と「奪う人」.jpg(●アダム・グラントは「TEDトーク」で「人当たりの良いギバー」と「人当たりの悪いテイカ―」はすぐ分かるが、「人当たりの良いテイカ―」と「人当たりの悪いギバー」は見分けを誤ることがあると注意を促してる。「人当たりの悪いギバー」の例として「Dr.HOUSE」でヒュー・ローリーが演じたグレゴリー・ハウス医師を挙げているのが個人的には分かりやすかった。有能だが不愛想でいつも不機嫌に「Dr.HOUSE」2004.jpg「Dr.HOUSE」ヒュー・ローリー.jpgしているため組織の上の方からも疎んじられているが、実は部下にとって自身の成長を促してくれる存在であるということだ。キャラクター的にはシャーロック・ホームズをモデルにしていることが知られ、日本では「US版ブラック・ジャック」というキャッチコピーが付けられていた。)

「Dr.HOUSE」 House (FOX 2004/11~2012) ○日本での放映チャネル:FOXライフHD(2005)→FOXチャンネル(2006-)

《読書会》
■2021年04月16日 第34回「人事の名著を読む会」アダム・グラント 『GIVE & TAKE』
『GIVE & TAKE dokusyokai.jpg『GIVE & TAKE dokusyokai2.jpg

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「職場の空気」を改善するオープネスとは何か、オープネスを使った組織戦略とは―。

OPENNESS(オープネス).jpgOPENNESS(オープネス) 職場の「空気」が結果を決める』['19年]

本書では、わが国の職場でいま最も期待値を下回り、業績にマイナスの影響を及ぼしているのは「オープネス(開放性)」の低さであるとしています。これまで、会社の評価をするときには「財務データ」「経営者の情報」がその根拠として使われてきた一方、社員の士気を左右する「職場の空気」については、定量化が難しく、可視化されてこなかったと。しかし、著者が戦略担当ディレクターを務めるオープンワークにためられた述べ840万人の現役・OB社員のクチコミから、V字回復した企業、好調を維持する企業に共通の傾向をまとめたところ、オープネス(OPENNESS、風通しの良さ)が重要であることが分かってきたとのことです。本書は、グローバル企業から日系大手、ベンチャーまで企業の事例を豊富に使いながら、オープネスとは何か、そしてオープネスを使った組織戦略について説明しています。

 第1章では、「職場の空気」と「企業の業績」には強い関係があるとし、職場の満足度を高めようとすたとき。最も改善の余地があるのは「風通しの良さ」(≒オープネス)と「社員の士気」であるとしています。

 第2章では、オープネスは、①経営開放性(経営と現場の関係がオープンになっているか)、②情報開放性(社内情報にアクセスしやすいか)、③自己開示性(自分の才能を表現しても攻撃対象にならないか)の3つの要素から成るとし、風通しが悪いのに社員の士気が高い会社というのはほとんど存在しないとしています。また、オープネスは衛生要因であり、高ければ高いほどいいというものでもなく、さらに、組織の規模とオープネスは関係がなく、「オープネスが高い=フラットな組織」ということでもないとしています。

 第3章では、オープネスを高める方法を説いています。オープネスを阻む壁として、①ダブルバインド(人の心を蝕む「言行不一致」)、②トーション・オブ・ストラテジー(組織を壊す「戦略わかったふりおじさん」)、③オーバーサクセスシェア(成功例しかシェアしようとしないリーダー)の3つがあるとしています。その上で、経営開放性を高めるには、①失敗が起きたときにどのような解決策をとるか(自らの失敗を開示できるか)、②なぜ経営者をやっているのか、をしっかり伝えることが求められ、情報開放性を高めるには、①印象性、②アクセス性、③質疑性の3つを高めることが鍵となり、自己開示性を高めるには、一人ひとりが持つ才能を仕事において発揮させることが重要となるため、創造性、再現性、共感性を発揮しやすい環境づくりが必要となるとしています(章末に「リーダーができるオープネスを高めるアクション12選」あり)。

第4章では、オープネスをどう使うかを説いています。利益が出なくなった組織はまずオープネスが悪化し、リーダーの心の弱さによって事業と組織は負のスパイラルに嵌っていくとしています。そうしたことを「予防」するための"打ち手"として、①勝ちグセの強化戦略(勝っているときも自分たちの「機会損失」を発見できる)、②ロードウェイ改善戦略(従業員の働き方や仕事の進め方を改善)を挙げ、さらに、「早期治療」のための"打ち手"として、業績が悪いのに真実を伝えないといった「白い嘘」をつかないことを、「手術」の"打ち手"として、アロケート戦略(士気がダウントレンドに入る前に人を異動させ、活気のあるトップを新しい事業部、地域、部署に配属させる)と撤退生存戦略(所謂「損切り」をする。事業撤退と退職マネジメントを行い、「存続させる事業と組織」にフォーカスする)を挙げています。

 社員の士気を左右する「職場の空気」について、これまで定量化が難しいいとされてきたものを、クチコミデータなどを駆使して可視化している点が一つ、本書の特徴です。かっちり纏まった構成で、読みやすかったです。基本的にコンセプチュアルな内容であり、実務家の視点からすれば、すでに分かり切っている点もあれば、「そうは言っても」という点もあるかと思いますが、それでも十分、組織の在り方についての気づきを促す啓発書として読めるように思いました。

1《読書MEMO》
●目次
第1章 オープネスの発見
「株価当てゲーム」に私が猛烈にハマったワケ
見えなかった「職場の空気」が可視化されつつある
「職場環境のデータ」が株価へ及ぼす影響度
データが示す事実「職場の空気が企業の結果を決める」
社員の士気が高い企業は事業のピボットもうまくいく
「改善できる余地」はどこにあるのか

第2章 オープネスとは何か
なぜ人は社員のクチコミをのぞきたがるのか
「経営開放性」「情報開放性」「自己開示性」とは何か
「変われた企業」と「変われなかった企業」を分けたもの
「大企業は変化が苦手」は真実か
「社長の名前がバイネームで書かれる」となぜよいのか
「顔をオープンにする」ことはコミットする姿勢の表れ
風通しの悪い組織は「グレートカンパニー」にはなれない
「給与は低いが満足度が高い企業」は存在するか
【オープネスの誤解1】「高ければ高いほどいい」わけではない
【オープネスの誤解2】「大きい組織だと高められない」はウソ
【オープネスの誤解3】「オープネスが高い組織=フラットな組織」ではない
「オープネス」と「戦略」は対の関係にある

第3章 オープネスをどう高めるか
オープネスを「邪魔しているもの」は何か
【オープネスを阻む罠1】ダブルバインド:「言行不一致」が人の心を蝕む
【オープネスを阻む罠2】トーション・オブ・ストラテジー:「戦略わかったふりおじさん」が組織を壊す
【オープネスを阻む罠3】オーバーサクセスシェア:リーダーは失敗例こそシェアせよ
経営開放性を高める 失敗への対応、経営者をやっている理由を伝える
情報開放性を高める 印象性、アクセス性、質疑性を高める
自己開示性を高める 一人ひとりがもつ才能を仕事にクロスさせる
リーダーができる「オープネスを高めるアクション12選」

第4章 オープネスをどう使うか
ウサギの生存戦略に学べ
オープネスは「組織のカナリア」
事業と組織には、モメンタむがある
【「予防」の打ち手1】勝ちグセの強化戦略
【「予防」の打ち手2】ロードウェイ改善戦略
【「早期治療」の打ち手】「白い嘘」をついてはいけない
【「手術」の打ち手】アロケート戦略と撤退生存戦略
組織にも「ライフサイクル」が存在する
「組織の力」は採用や資本市場にダイレクトにヒットする

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組織の三つの質(関係・思考・行動)を高め、結果の質を向上させる方法を指南。

病まない組織のつくり方.jpg病まない組織のつくり方 ――他人事を自分事に変えるための処方箋』['19年]

 本書では、MIT教授ダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」を引いて、病んでいる組織というのは、「結果の質」→「関係の質」→「思考の質」→「行動の質」という4つの質においてバッド・サイクルに陥っているとし、組織の「関係の質」「思考の質」「行動の質」の向上が「結果の質」を向上させるとして、三つの質(関係・思考・行動)について、それぞれを高めるための方法を述べています。

 第1部「関係の質」では、チーム内の風通しを良くする方法を説いています。ここでは、社会心理学者ジャック・ギブ論を引いて、チームの成長の懸念には、①受容の懸念(受容懸念)、②コミュニケーンの懸念(データの流動的表出懸念)、③目標の懸念(目標形成懸念)、④リーダーシップの懸念(社会的統制懸念)の4種類があり、「関係の質」を高めるとは、この四つの懸念を解消させていくことであるとしています。

 第1章「受容-組織を健やかにする方法」では、コミュニケーションで相手に発信していることには、(コミュニケーションについて)①知覚、②感情、③思考、(目に留まる動作・行動について)④態度、⑤行動、(最終的な結果について)⑥結果の六つがあり、相手を受容するには、まず自分を受容する必要があるとし、特に自分の感情に気づいてそれを受け入れることが重要であるとしています。

 第2章「コミュニケーション―誤解なく意思疎通ができる方法」では、伝えたいことが相手に伝わるまでには、①記号化、②送信、③受信、④解読の四つのプロセスがあり、相手にミスなく伝える基本的な方法は、確認しながら聴くことであるとして、その方法を指南しています。

 第3章「ファシリテーション―思ったことを言い合えて関係も悪くならない法」では、会議で大切なのは参加者の納得感であるとし、コンセンサスによる意思決定の方法を解説しています

 第2部「思考の質」では、チームの真の課題を発見する方法を説いています。賢明な思考の前提として全体像が見えていることを挙げ、現実の世界をなるべく正確に見るには、自らの解釈のベースとなっている「メンタルモデル」を検証しなければならないとしています。

 第4章「メンタルモデル―行動を決定づけている固定観念に気づく方法」では、メンタルモデルに気づく方法として、ピーター・センゲが提唱した「推論のはしご」という、自分自身の解釈を、①どこを見て(自分の見た事実)、②どう意味づけし(その事実をどんな言葉にしたか)、③どう解釈したか(その言葉を私はく解釈した)という三つの視点で掘り下げていく手法や、ロバート・キーガンらが提唱した「免疫マップ」という、その目標を阻害する行動をとっている裏の目標(メンタルモデル)に気づく方法を紹介しています。

 第5章「ダイヤログ―物事の本質をみつける」では、対話(ダイアログ)を一般に広めたデヴィッド・ボームの『ダイヤログ』を引いて、本書では、対話とは「お互いの思考プロセスを開示して、新しい見方を創造する行為」と定義し、対話の必要性を説くとともに、対話の方法として、①一人称で語り、②前提を疑い、③判断を留保することを挙げ、また、対話を活用するケースとして、①対話をすることを目的として実施する場合と、②普段の会議の中で実施する場合があるが、①の場合は「問い」が、②の場合は「観察」が大切であるとしています。

 第6章「システム思考―個別最適から全体最適へと意識が変わる方法」では、問題を含む状況の全体像を"見える化"し、全体を見据えて根本的な原因を探る「システム思考」という考え方を紹介し、従来の分析思考とシステム思考の違いを解説するとともに、全全体像を表現するとして「因果ループ図」というものを紹介しています。

 第3部「行動の質」では、チームに自発的な行動を促すにはどうすればよいかを説き、その鍵となるものとして、「モチベーション」「フロー理論」「習慣化」の三つを挙げています。

 第7章「モチベーション―創造的な仕事のモチベーションを高める方法」では、ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』などを引きながら、内発的動機づけをベースとするモチベーション3.0の要素は、自律性、マスタリー、目的の三つに整理され、自律性には、課題、時間、手法、チームという四つの側面があり、マスタリーとは、何か価値のあることを上達させたいという欲求であり、目的とは使命のことであって、ミッションステートメントを書くことで使命はみつけやすくなるとしています。

 第8章「フロー―仕事に集中し、どんなことからも成長していける方法」では、集中しているときの状態を指す、心理学者ミハイ・チクセントミハイの「フロー(最適体験)」という概念を紹介し、仕事をフローになりやすいようにするには何が重要かを解説、内発的な動機に導かれてフロー状態に入ることで、人が本来持っている能力が最大限に活かされる行動が生まれるとしています。

 第9章「目標設定―行動に直結し達成感が得られる目標をつくる方法」では、意識的に行動するとき、どのように行動するかを意思決定することを「セルフコントロール」と呼び、セルフコントロールを使いすぎると心身を消耗させ、集中力や問題解決力を低下させるので、セルフコントロールを消耗させないためには、目標をあらかじめ行動レベルで設定しておくのがよいとしています。また、行動を習慣化するには、小さな成功体験を積み重ねることが自信につながり、体験学習とは、行動の後に振り返り(「体験」の後に「指摘」→「分析」→「仮説を立てる」)を行い、そうした循環を繰り返すとしています。

 第4部「実践のために」では、好循環を作り出す方法を"おさらい"的に説いています。第10章「結果につなげるための実践方法」として、「関係の質」を高めるために、受容懸念やコミュニケーション懸念をどうやって下げるか、「思考の質」を高めるために、気づきの好循環をどう作り出すか、「行動の質」を高めるために、行動に集中する環境をどう整えるか、これまで述べてきたことを再整理しながら解説しています。

 さまざまなマネジメント理論、モチベーション理論が独自に統合・再整理されていますが(それは18ページの「本書全体のレベルマトリックス」に集約されている)、理論を理論で終わらせず、実際に役立つ「方法」として読者がノウハウを得られるよう丁寧に説明しようとしているのが良いと思います(全体としてまだまだ概念的ではあるが)。もっとも影響を受けているのは、ピーター・センゲの「学習する組織」という考え方でしょうか。その中でも「システム思考」というのは理解が難しい概念ですが、本書の中ではわかりやすく説明されていたように思います。関心を持たれた読者は、各章で引用元となっている経営書にあたってみるのもいいかと思います。

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「わかりあえなさ」から始まる問題を解くには「対話」と「ナラティブ・アプローチ」をと説く。

他者と働く2.jpg他者と働く.jpg 
他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』['19年]

 本書では、組織内で起きる「わかりあえなさ」から始まる諸問題は、単なるノウハウやスキルで解決できるものではないとし、こうした複雑で厄介な組織の問題を解くための方法として、「対話」と「ナラティブ・アプローチ」というものを提唱しています。

 まず、組織内の問題を、リーダーシップ研究者のロナルド・ハイフェッツの論を引用して「技術的問題」と「適応的課題」に分けています。「技術的問題」とは、ハウツーやノウハウ、あるいは、技術的合理性に基づく何らかの処方箋が存在する課題であり、誰かがすでに解決していることが多いが、組織のなかにある「わかりあえなさ」の問題は後者の「適応的課題」であり、ハウツーやノウハウによって一方的に解決できる問題ではないとしています。そして、「適応的課題」を解くものが「対話」であり、対話とは「新しい関係性を構築すること」であるとしています。

 第1章では、組織における一方的に解決できない「適応課題」として、大切にしている「価値観」と実際の「行動」にギャップが生じるケース(「ギャップ型」)、互いのコミットメントが対立するケース(「対立型」)、「言いにくいことを言わない」ケース(「抑圧型」)、痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケース(「回避型」)の4つのタイプを挙げています。

 そして、適応課題が見い出されたときには相手を変えるのではなく、こちら側の「ナラティブ(解釈の枠組み、囚われ)」を変えるアプローチが必要であるとし、ナラティブとは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことであるとしています。また、ナラティブとは、視点の違いにとどまらず、その人たちが置かれている環境における「一般常識」のようなものであるとも言っています。

 つまり、適応的課題とは、問題を生み出しているステークホルダーが相互に有している「ナラティブ(解釈の枠組み:囚われ)」が、微妙に「ズレ」ているがゆえに、そこからの解釈、行動の枠組みがすべて「ズレ」てきて、いわゆる「適応的課題」を組織に生み出していると考えられるということです。しかも、人々は、自己の囚われのナラティブには自覚的ではなく、ましてや、他人のナラティブにも気づかないでいるため、両者の間にある溝そのものが見えていないことが多いとしています。

 ここまで、「対話」とは、一方的な技術だけでは解決できない「適応課題」を解消するための「新しい関係性を築く」方法であり、対話に取り組むことで、互いの「ナラティブ」の溝に向き合って厄介な状況を乗り越えていくことができるとしてきました。

 そこで、第2章では、対話を「溝に橋を架ける」という行為になぞらえ、適応課題に挑んでいくためには、1.準備「溝に気づく」―2.観察「溝の向こうを眺める」―3.解釈「溝を渡り橋を設計する」―4.介入「溝に橋を架ける」という4つの対話のプロセスを経なければならないとして、各プロセスを解説しています。この部分が本書の中核になるかと思います。

 例えば「準備」においては、一度自分のナラティブを脇に置いてみることが、実践的な取り組みの第一歩であるとしています。また、次の「観察」では、よい観察は発見の連続であるはずであるとしており、「解釈」では、よい解釈をするには、協力者などのリソースを交えて考えるとよいとしています。そして、「介入」というアクションは、次の観察の入り口となり、こうして対話のプロセスを繰り返すことで、新たな関係性は構築されていくとしています。

 第3章から第5章にかけては実践編として、1.総論賛成・各論反対の溝にどう挑むか、2.正論の届かない溝にどう挑むか、3.権力が生み出す溝にどう挑むかについてそれぞれ、より実践的な観点から論じています。

 第6章では、対話を拒む5つの罠として、①気づくと迎合になっている、②相手への押しつけになっている、③相手との馴れ合いになっている、④他の集団から孤立する、⑤結果が出ずに徒労感に支配される、を挙げ、その問題点とそうならないための対処法を説いています。例えば、相手との馴れ合いになるのは、いったん橋が架かった相手との関係性を維持すべく、言いたいことが言えない「抑圧型」の適応課題が生じることを意味するとしていて、ナルホドと思わされました。

 最終の第7章では、「ナラティブ・アプローチ」の目指すところは、相手を自分のナラティブに都合よく変えることではなく、自分を改めることを通じて、相手との間に、今までなかった関係性の構築を目指すことにあるとし、また、対話の実践は自分を助けることにもなるとしています。

 NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られるロナルド・ハイフェッツ教授が『最難関のリーダーシップ―変革をやり遂げる意志とスキル』('17年/英治出版)の中でも提唱しているアダプティブ・リーダーシップ(観察、解釈、介入という3つの主要な活動を反復することで、難題に取り組み、成功するように人々をまとめあげ動かしていくリーダーシップ)の"日本版"という印象を受けました。

 ただし、特にリーダーシップを発揮する場面に限らず、組織内における多くのコミュニケーション場面において当て嵌まる示唆を含んだ内容であると思います。とりわけ人事パーソンは常日頃から、多種多様な他者のナラティブ(解釈の枠組み)に向き合う機会が多いと思われ、その際の考え方やの問題解決のヒントとなる本であるとも言えるかと思います。

一方で、認識論的な内容でもあるため、理解することはできるが、読んだからといってすぐにできるものでもない―実践には相当の鍛錬が必要かな(?)という気にもさせられた本でした(鍛錬の場は日々そこかしこにあるので、あとは意識の問題か)。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 正しい知識はなぜ実践できないのか
第1章 組織の厄介な問題は「合理的」に起きている
第2章 ナラティヴの溝を渡るための4つのプロセス
第3章 実践1.総論賛成・各論反対の溝に挑む
第4章 実践2.正論の届かない溝に挑む
第5章 実践3.権力が生み出す溝に挑む
第6章 対話を阻む5つの罠
第7章 ナラティヴの限界の先にあるもの
おわりに 父について、あるいは私たちについて

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「クソッタレ撲滅ルール」によって「鑑定書つきのクソッタレ」を追い出そう!

あなたの職場のイヤな奴.jpg      職場のアホと戦わない技術.jpg チーム内の低劣人間をデリートせよ.jpg
あなたの職場のイヤな奴』['08年] 『スタンフォードの教授が教える 職場のアホと戦わない技術』['18年]『チーム内の低劣人間をデリートせよ ----クソ野郎撲滅法 (フェニックスシリーズ No. 77)』['18年]

あなたの職場のイヤな奴1.jpg イジメ上司、卑劣な同僚、ムカつく部下...これらをどうするか? 人の神経を逆なでする、いるだけでまわりにダメージを与える、自分より弱い相手をいじめる、ときには取引先にも被害をおよぼす―そんなイヤな奴=クソッタレはあらゆる職場にいて、それは、成果主義・実力主義のアメリカでも同じであるようです。

 本書の原題は「職場のクソッタレは絶対いやだよね!」(No Asshole Rule)という意味で、人間関係術&組織論として反響を呼んだベスト&ロングセラーです。著者はスタンフォード大の人気教授で専門は組織行動論。ビジネス経済誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」で「私のイヤな奴実体験」について書いたエッセイに、アメリカ国内外から共感&体験談メールが殺到し、それをきっかけに書かれたのが本書です。

 第1章「どんなやつをクソッタレと呼ぶか?」では、本書の主題であるイヤな奴とは「鑑定書付きのクソッタレ」のことであるとして、クソッタレを、「基準1/その人物がつねに他人を貶め、やる気を喪失させる人間かどうか?」、「基準2/その人物がつねに自分よりも力の弱い(もしくは社会的地位の低い)相手を標的にしているかどうか?」の2つの基準で定義しています。

 第1章「どんなやつをクソッタレと呼ぶか?」では、本書の主題であるイヤな奴とは「鑑定書付きのクソッタレ」のことであるとして、クソッタレを、
 基準1/クソッタレと目されている人物と会話をかわしたあとで、"標的"となった人物が憂鬱になったり、屈辱を感じたり、やる気を失ったりするか? とくに重要なのは、標的となった人物が卑屈な気分になるかどうかである。
 基準2/クソッタレと目されている人物が悪意を向ける対象が、自分より力の弱い者であるか?
の2つの基準で定義しています。

 第2章「被害に苦しむ人々」では、クソッタレがいることで、いじめの標的となった人物や周囲の人間が受ける被害、本人が受ける被害、管理職が受ける被害や、法務部や人事部にかかる経費、クソッタレがはびこった場合の職場の弊害を洗い出しています。

 第3章「クソッタレ撲滅ルールを導入するには」では、グーグルの「クソッタレ撲滅ルール」など紹介しています。グーグルは「悪しきことはするな」というモットーのもと、クソッタレは出世できない環境を整備しているとのことです(そう言えば昨年['18年]末に「グーグルはこの2年間にわたり、セクハラ行為をめぐって社員48人を解雇したが、その中には上級管理職13人が含まれる」というニュースがあった)。その上で、クソッタレ撲滅ルールを実施するための10のステップとして、①クソッタレ撲滅ルールをきちんと文章に書きだし、それを実践すること、②社内のクソッタレを人事採用業務にタッチさせてはならない、③クソッタレはできるかぎり早急に会社から追い出すべきである、④鑑定書つきのクソッタレは"無能な社員"とみなすこと、などを挙げています。

 第4章「あなたのなかにもクソッタレはいる」では、自分自身がクソッタレにならないようにするには、自分自身の内にあるクソッタレを認めることが第一歩であるとし、その上で、①自分の内なるクソッタレを外に出さない、②クソッタレ病をうつされそうな場所や人間に気をつける、③人生を"勝ったやつがみなもらう"式の競争とみなさない、④他人の目に映った自分自身の姿をしっかり把握する、という、クソッタレになることを避けるための4つのポイントを示しています。

 第5章「イヤな奴だらけの職場をサバイバルするには」では、職場がイヤな奴だらけだったとしても会社はなかなか辞められないものであり、そうした場合、イヤな奴だらけの職場をサバイバルするにはどうすればよいか、その方法として、①急流下り戦略(流れに逆らわないことで体力の消耗を避ける)、②リフレーミング(ものの見方を変えてみることで楽天主義に転化する)、③クソッタレが変わるなどと期待しない、④「なにも期待しない」、⑤無関心を心掛け、感情を遮断してみる、⑤距離を置いた関心、⑥"小さな勝利"を積み重ねよう、⑦顔を合わす時間をできるだけ減らそう、⑧安らぎを得られる場所を見つけよう、などいった対応やマインドセットを指南・紹介しています。

 第6章「クソッタレ成功者たちの教訓」では、クソッタレの中にも成功者はいて(その筆頭例としてスティーブ・ジョブズが挙げられている)、ではなぜ彼らはクソッタレでありながら成功するのかを分析、そこには、①攻撃やいじめを戦略的に使う、②威嚇も時には効果的、③恐怖を鞭に、飴も使う、④やる気のない人を動かす、などの成功の理由があるとしています。ただし、著者自身は、「卑劣なクソッタレを職場からシャットアウトすることがたとえ組織の業績アップにつながらなくとも、クソッタレ撲滅ルールはやはり実践すべきだ」との考えを示しています。

 第7章「生きかたとしてのクソッタレ撲滅ルール」では、クソッタレ撲滅ルールのエッセンスとして、以下の7つの教訓を示しています。
 1.良識のある人たちによって生み出された温かい感情の和も、たったひと握りのクソッタレのせいでブチ壊されてしまう。
 2.クソッタレ撲滅ルールの大切さを人に説くのもいいだろう。しかし、ほんとうに重要なのは、それを実行することである。
 3.ルールを生かすも殺すも、当人の意志次第である。
 4.クソッタレが役に立つこともある。
 5.クソッタレ撲滅ルールの実施は、管理職だけの仕事ではない。
 6.クソッタレに恥をかかせろ。
 7.クソッタレとは、わたしたち自身のことである。.

 クソッタレの傾向と対策が軽快かつ真摯に語られていて、例えば,ネガティブな出来事はポジティブな出来事に比べて5倍も影響力があり、良いことが5回あったとしてもたった1回クソッタレを相手にするだけでチャラになってしまうというのは、(打たれ弱い自分としてしては)よく分かる気がしました。

 一時的なクソッタレと「鑑定書つきのクソッタレ」とを区別しているのも本書の特徴で、誰もがクソッタレになる可能性を秘めているのだから、一時的にクソッタレになってしまった人を、何か嫌なことがあったのだろうと気遣いしてやることが必要だが、よく見守った末、たえず嫌なことをする「鑑定書つきのクソッタレ」であることが分かったならば、その時は皆で結託して追い出そうというスタンスのようです。

 池上彰氏が帯の推薦文で「書名に惑わされてはいけない。これはすぐれた経営組織論だ」と言っているように、個人としてだけでなく、組織としてクソッタレにどう対応するかが書かれていて、「パワハラ」「イジメ」を新しい視点から経営組織論として理解できる本。人事パーソンにとっても読んで得るところが少なからずある本ではないかと思います。

《読書MEMO》
●社員を採用する立場の管理職のなかにクソッタレがいると、社内にクソッタレがどんどん増殖していってしまう。(102p)
●リーダーにとって大切なのは、自分と周囲の人間との権力格差を小さくしていく努力をつづけていくことだ。(116p)
●たとえそれが向こうの誤解であろうとも、他人の目にうつった自分の姿をしっかりと把握しろ。(179p)
●目標を小さくすることの長所は、はっきりと目に見える成果を上げられる可能性が高い点にある。(中略)自分がなにかをコントロールしているという感覚は、絶望感や無力感を軽くする効果を持っているのである。(210p)

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精神分析的組織・リーダー論。広くお薦めできるが、とりわけ人事パーソンにお薦めの本。

会社の中の「困った人たち」.jpg マンフレッド・ケッツ ド・ブリース2.jpg Manfred Kets de Vries
会社の中の「困った人たち」―上司と部下の精神分析>』['98年]

 本書(原題:Life and Death in the Executive Fast Lane: Essays on Irrational Organizations and Their Leaders,1995)の著者マンフレッド・ケッツ・ド・ブリース(Manfred F. R. Kets de Vries) は、欧州のINSEADビジネススクールの教授であり(本書執筆時)、ハーバード・ビジネススクールの教授を務めたこともある人で、精神分析を組織論に応用することを目指している異色の経営学者であるとのことです。原題の意は「追い越し車線を走る経営幹部の生と死―非合理的な組織とそのリーダーに関するエッセイ集」であり、企業組織の中で慌ただしく働き生きる人々の心理を探ろうとした本です。大きく二部構成になっていて、Ⅰ部(「困った人たち」は変化を求めない、第1~第9章)は組織の問題に重点を置いており、Ⅱ部(「困った人たち」のジレンマ、第10~第19章)は人間の役割に焦点を当てています。

 第1章「部下がついてこない上司なんて―リーダーシップの機微」では、リーダーには、組織の将来をビジョン化し、社員にエンパワーし、社内エネルギーを方向付けるカリスマとしての役割と、計画を立て、組織化を行い、統制をして、報酬を与えるという実施促進者としての役割があるとしています。

 第2章「新しい会社に移った経営者なら―新任最高経営責任者の心の内」では、社外から招かれたり、内部昇進をしてリーダーの地位に就いた経営幹部は、さまざまな対立事項や利害の衝突の対処しなければならないことがい多いが、リーダーとしての役割をできるだけ早く果たせるようになるには、どのようなことを意識すべきかを説いています。

 第3章「ゆでガエル、そして踊るゾウ―やる気を保つダウンサイジング」と第4章「合併熱にご用心―合併・買収の心理的側面」では、企業が競争力を保つためには組織の変化が必要であり、それが企業規模や労働力の拡大縮小につながることもままあるが、ダウンサイジングなどの困難な変化について、あるいは合併・買収(Ⅿ&A)などについて、リーダーは社員の拒否反応をどう調停すべきか、経営幹部は変化による競争上の利点をどう活かすかを説き、変化をうまく活かすには、変化の途上における人間的側面に配慮することが不可欠であるとしています。

 第5章「社歌という名のラブソング―企業文化は簡単には変わらない」では、企業文化はいわば人間的側面の集大成であり、組織変革においてはこれが決定的要因になることがあるとして、象徴や言語や行動など社風の本質を解読し、それを変えていくための手がかりを提示しています。

 第6章「会社の中のカルチャーショック―国境を越える経営」では、企業文化の多様性の考察と同じく、国ごとの文化の違いを考察することは重要であり、異文化問題が決定的になる例として国際的なⅯ&Aがあるとして、文化による仕事の多様性を扱っています。

 第7章「海外でほんとうに働きたい?―海外赴任のプラス・マイナス」では、経営幹部やその家族に対して、海外の赴任のために適切な準備を行うことの重要性を理解している企業はほとんどなく、帰国してみると戻るべきポストがないという問題にぶつかる経営幹部も多いとして、海外勤務と帰国後の勤務とを、経営幹部にとっても企業にとっても建設的なものとするにはどうすればよいかを考察しています。

 第8章「グローバルにやっていく―グローバル・リーダー育成の実際」では、グローバル企業の増加に伴い、真にグローバルなリーダーへの要請が高まっているが、そのようなリーダーはどのような経験によってつくられるものなのかを、実例を見ながら、そのの国際的リーダーたちの育成に役立った要因を考察しています。

 第9章「今日の成功者は明日の失敗者―エクセレンスを持続するリーダーシップ」では、将来のビジネスはどうなるか、企業が抜きんでておく必要がある分野とは何かを予想しています。

 第10章「女性差別の重いツケ―上司としての女性」では、男性と女性の生理的、心理的過程がどう異なるかに注目して、組織の中でこの違いから生じてきている偏見と現実をテーマにしています。

 第11章「親父の会社に入る茶番劇―同族会社の大変さ」では、同族会社においては後継者問題で会社が没落するということもあり、家族関係がビジネスに影響すると問題が深刻化するとして、同族会社のオーナーや従業員にアドバイスを与えています。

 第12章「はみ出し者を活かす―創造性の管理」では、真に創造的な社員と普通の社員の違いに目を向け、創造的な社員をどう見つけ、どう育てるかを検証しています。

 第13章「優雅な退場―最高経営責任者の引退と後継者問題」では、引退と後継者問題といういかなるリーダーにとってもトラウマになる時期について説明し、引退を人生の一つの通過点に過ぎないと思う人がいる一方で、なぜ、これを文字通り命に関わる問題と感じる人がいるのか、この種の変化に対して、個人的、組織的両面からどう対処すればよいかを考察しています。

 第14章「つい働き過ぎてしまうのは―仕事と遊びのバランス」では、機能不全の行動のタイプとしてよく見られるものに仕事中毒(ワーカーホリック)があるとし、ワーカーホリックの行動をどのようにすれば変えることができるのかを考えています。

 第15章「『死んだ魚』でいっぱいの会社―失感情症は蔓延する」では、組織には失感情症(アレキシサイミア)と呼ばれる人がいて、こうした情動を表現できない症状の人は大企業によく見られるが組織の構造や日常業務の背後に隠れてしまっていることもあり、失感情症のリーダーはその組織に悪影響を及ぼし、有能なリーダーに不可欠なカリスマ的資質を欠きがちであるとしています。

 第16章「起業家はムチャもする―起業家精神の暗黒面」では、リーダーとしての機能不全的特徴の多くは、不健康な自己愛に起因しており、起業家は自分に敵対していると思える勢力を前にしても、なお成功への道を突き進もうとするエネルギーを得られることから行き過ぎた行動をとるという、その起業家にありがちな精神の暗黒面について論じています。

 第17章「なぜジンギス・カンのために働くのか?―粗暴な上司に服従する心理」では、行動面での過度の服従と感応精神病という奇妙な現象を考察し、リーダーへの愛着は、ときにフォロワーの合理的思考力、行動力を圧倒して、自分を損なわせるほどにつよくなることを明らかにしています。

 第18章「常軌を逸した上司―自己愛とうぬぼれの取り扱い方」では、これまで見てきたような種類の機能不全よりももっとひどい、狂気の領域に足を踏み入れたようなリーダーもいて、彼らの行動を説明できる合理的解釈は見当たらないが、彼らに一線を超えさせてしまう要因として、やはり自己愛があり、自己愛は建設的なプラスの力として働くこともあるが、一転して過度の傲慢と非合理的思考の鍵となることもあるとしています。ただし、第19章「おわりに―少々の狂気は人生に必要」では、特に極端な位置にいるのでなければ、少々の狂気は人生の中で必要なのだと認めることもできるとしています。

 冒頭に述べたように、Ⅰ部(第1~第9章)は組織の問題に重点を置いており、Ⅱ部(第10~第19章)は人間の役割に焦点を当てていますが、著者自身が前書きで述べているように、恋人と組織はそれぞれ複雑に絡み合った全体の一面であるため、ほとんどシームレスな感じで読めました(Ⅱ部からでも読める)。また、各章に気の利いたタイトルがついていて(おそらく訳者による意訳だと思うが)、その章で扱うテーマが分かりやすくなっているのも良かったです。

 内容的には、リーダーシップ(とその暗黒面)、組織改革、キャリア・ダイナミクス(転職、海外赴任、引退、女性のキャリア問題)、企業活動と人の国際化・グローバル化、起業家、同族経営、職場のメンタルヘルス、リストラやⅯ&Aの心理的影響など多くの問題を扱っていますが、問題の掘り下げ方に精神分析家としての特徴があり、しかも臨床的パラダイムを主張する著者だけに、企業経営者やそこで働く人々をよく観察・分析して書かれているという印象を持ちました。

 訳者あとがきで、第一に、会社の中における人間の問題について深く考える必要があるポジションにある人(例えば管理職、人事部門の人)、第二に、会社の中で「困った人たち」に会うことを専門にしている人たち(例えばキャリア・カウンセラー、組織コンサルタント)、第三に、組織内で自らが困っていると思っている人、第四に、なにも困っていなくとも、精神分析的組織論と言う経営学の知のフロンティアに知的好奇心を抱く一般読者に本書を読んでほしいとありますが、まさにその通りだと思いました(個人的は、とりわけ人事パーソンにお薦め)。

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「組織学習論の父」アージリスの代表作。行動科学的組織論の準古典的著作。

組織とパーソナリティー アージリス2.jpg組織とパーソナリティー アージリス1.jpg アージリス.jpg Chris Argyris: 1923-2-2013
組織とパーソナリティー―システムと個人との葛藤 (1970年)

 本書は、マグレガーやリッカートと並び、行動科学的組織論を代表する 1 人であるアージリス(Chris Argyris: 1923-2013)の著書(Personality andOrganization-The conflict between system and the individual, 1957)であり、表題にもあるように、人間のパーソナリティを土台としながら、組織内における個人と組織との間にある葛藤状態をどのように解決するかを主題としています。

 第1章「本書の基本的仮定と見解」では、組織のうちにある人聞の行動を知るためには、 ①個人(パーソナリティ)、②非公式な小集団、③公式組織に関する諸要困を総合したうえで、組織全体を把握する必要があるとし、経営者は、自己の善悪、原理および人間関係の技量を判断するに足る人生観を持つ必要があるとしています。本書の目的は、企業のような人間組織の中における人間行動の基本的な原因(なぜ人々はそのように行動するのか)を解明することであり、人間状況の正しい診断には、最上の知識の利用が必要であって、体系的な枠組みを用いて、人々の行動を理解するためのヒントを与えることが本書の目的であるとしています。、

 第2章「人間のパーソナリティー」では、①パーソナリティの部分は全体を維持し、全体は部分を維持する、②組織は、同時的に動的な対内対外の平衡を表示する、③パーソナリティは活動力(エネルギー)を表示する、④心理的活動力の源は欲求に中にある、⑤パーソナリティは多くの能力を持っている、⑥パーソナリティは「自我」として概念化されている、⑦防衛機能は脅威に対して自我を守る、⑧成長の意味はわれわれの「私的世界」ととその部分とにおける増大であるとし、⑨パーソナリティの基本的な自己実現の傾向を示しています。つまり、個人のパーソナリティは、個々の要素が単に部分的に合計されたものではなく、全体的な関連の中に把握されなければならないと。パーソナリティが内面的に均衡がとれていることを「適応」、外部環境と均衡を保っていることを「順応」、個々の環境の中で、それぞれに適応し、順応して均衡が維持されている状態を「統合」しているといい、統合状態のもとで目的を達成することにより「自己実現」が達成されるとしています。人間は自己実現に向けて努力をするが、自己実現の欲求が目的を達成しようとするエネルギーの源泉として作用し、このエネルギーを生理的エネルギーに対して心理的エネルギーと言うと。心理的エネルギーはあらゆる人間に存在し、人間である限りは必ず表出し、しかもその量は個人の心的状態によって左右され、こうして形成された個々のパーソナリティを「自我」と呼び、人間はさまざまな環境との対応の過程で自我を適応・順応させることによってパーソナリティを成長させていくとしています。

 第3章「公式組織」では、①公式組織は合理的な組織であり、②課業分化、命令の連鎖、指令の統一、管理の限界などの基礎原理を有するが、③成熟したパーソナリティの欲求と公式組織の間には、基本的な不適合があるとしています。例えば、仕事を専門化することは、個人の能力の一部分しか用いられないことになり、個人は未成熟なものとして捉えられることになり、また、命令の系統によって、人間は上位の管理者に従属的・受動的にならざるを得ず、さらに指揮の統一も個人の自発的な目的設定にはなり得ないし、管理範囲の原則は、末端の個人にとっては自己の統制範囲を狭めることになるとしています。その結果、組織内で自己実現を達成することが困難となり、人間は欲求不満、葛藤、失敗感、あるいは近視眼的な視野に立たざるを得なくなるとしています。

 第4章「個人の順応と集団の順応」では、そうしたフラストレートされた状況において個人(従業員)が取る行動のパターンを挙げ、基本的には、個人のとるべき行動は組織を去るか、順応するか、意識や価値観を変えることしかないが、組織内で仕事を続けることが一般的な選択肢であるとすれば、人間は組織に対して順応行動を取りながら、インフォーマルな集団を形成し、依存するようになるとし、例えば労働組合の形成は、インフォーマルな集団が公式化したものであるとしています。

 第5章「経営者の反応とそれが従業員に加える衝撃」では、生産性の低下を防ぐために経営者が従業員に対する経営方針としての、①より強力で「ダイナミックな」リーダーシップの発揮、②従業員の行動に対するより厳格な統制、③従業員を人間的な取り扱い方をしようとする一時的な「人間関係論」的な近づき方、のそれぞれについて、それらが従業員に与える影響を考察し、これらは根本的な問題を解決するかわりに、組織の問題を増やす傾向にあるとしています。

 第6章「第一線監督者」では、こうした従業員と経営者という二つの世界の分断の中、二つの世界を繋ぐ鎖となるべき中間層にいる第一線監督者(フォアマン)は、両方の世界の板挟みになって葛藤し、フラストレーションがたまり、さらに労働組合の介入によって、その権力と地位の多くを失いつつあるとしています。この問題に対して経営者は、フォアマンを経営者に一部にするなどの対策を取るが、多くのフォアマンにとってそれは、さらに緊張を増すものになりかねないとしています。

 第7章「公式組織と健全な個人との間の不一致の度合いを減少させるには」では、公式組織において個人が葛藤や欲求不満に順応するようにするにはどうすればよいかを説いています。そして、個人と組織との軋轢を解決する手段として「職務拡大」と「参加的リーダ ーシップ」(「従業員中心的リーダーシップ」)の導入を主張しています。「職務拡大(job enlargement)」とは、仕事の流れに従って、作業者が遂行する職務の数を増加させることにより、職務の幅を拡げることで、職務の水平的拡大とも言われ、作業者にまとまりのある職務を割り当てることによって、各自の職務に自己完結性を持たせようとするものであり、「参加的リーダーシップ」とは、すべてのメンバーが方針決定や将来の活動についての議論に参加することを許し、メンバーが自分自身の職務上の立場を決定することを容認するといった従業員の自己実現を許容するリーダーシップを指します。

 第8章「効果的な経営者行動の啓発」では、効果的なリーダーシップ行動とは、個人と組織の両方が同時に最適の自己実現を得られるようにするものであるとして、そのための経営者の行動を啓発するためのヒント、並びに経営者を啓発させる専門スタッフがとるべき行動を示しています。

 第9章「要約と結論」では、要約と結論として10の命題を掲げ、それらは、①健全な個人の欲求と公式組織の要請との間に適合欠如がみられる、②この混乱の結果は、欲求不満、失敗、短期間の展望および葛藤である、③ある条件のもとでは、欲求不満と失敗と短期間の展望と葛藤との度合は増大する傾向にある、④公式組織の持つ本質は、どのような階層にある部下にも、競争と対抗と部下相互間の敵意を経験させ、また全体よりもむしろ部分へ眼を向けることを助長させる原因となる、⑤従業員の順応行動は自己統合を維持し、公式組織との統合を阻害する、⑥従業員たちの順応行動は、累積的効果を持っており、組織の中へフィードバックし、また順応行動自体を強化する、⑦ある種の経営者の反作用は、順応行動の底に横たわっている敵意を増大しがちである、⑧その他の経営者の行為は、個人と公式組織との間の間の不適合を減少することができる、⑨職務拡大あるいは役割の拡大と従業員中心のリーダーシップとは、順応行動(命題③~⑥)が組織の文化と個人の自己概念との中に深く留まる程うまくいかないであろう、⑩命題⑨の中に含まれる困難は、現実志向のリーダーシップを用いることによって最小限にしうることができるであろう、となっています。

本書は、「組織学習論の父」とも称される著者による、組織と個人の関係をパーソナリティの観点から明らかにしょうとした野心的労作ということができ、行動科学的組織論の準古典的著作でもありますが、公式組織の捉え方などについて偏りがあるとの批判もある一方で、今日においてもその内容に多くの普遍性があります。かなり"堅め"の内容の本ですが、ここは頑張って自身で手にし、そうした内容を確認してみるのもよいでしょう。

《読書MEMO》
●パーソナリティ成長の過程(マチュリティ(成熟度)理論)(p88~89)
(1)受け身の状態から能動的になっていく傾向
(2)他人に依存する状態から独立した状態に発展する傾向
(3)数少ない仕方でしか行動できない状態から,多様な仕方で行動できるようになる傾向
(4)その場限りの浅い関心から,より深い興味を持つようになる傾向
(5)短期の展望から長期の展望へと発達する傾向。
(6)家庭や社会での従属的な地位から,同僚に対して同等あるいは上位に位置したいという傾向
(7)自己意識が欠如した状態から,自己を意識し,コントロールしようとするようになる傾向
●従来の伝統的組織論が,人間のパーソナリティの成長に及ぼす問題点を(p100~109)
(1)仕事の専門化
(2)命令の系統
(3)指揮の統一
(4)管理の範囲
●フラストレートされた状況において、個人(従業員)がとる行動のパターン(p125)
(1)組織を去る。
(2)出席し社長になるため一生懸命働く。
(3)自我を守り、防衛機構によって順応する。
(4)仕事の目標を下げたり、無力感・無関心になって順応する。
(5)(4)の結果、人間は物的報酬により大きな価値を置くようになる。(6)自分の子どもに対して、仕事上の満足を期待しないで、よい賃金や仕事以外の生活に期待するように教える。

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初学者向けテキストだが、基本的な知識から最近の動向までよく網羅している。

『組織行動論』.jpg 『組織行動論 (ベーシック+) 』['19年]

 本書は、組織と人の関わりや組織における人間行動の基本知識を体系的に解説したものであり、組織行動論の初学者を念頭に書かれたテキストですが、書かれていることは、日常生活のあらゆる場面で応用可能であると考えられるため、ビジネスパーソンをはじめ一般の読者にも読んでもらいたい本であるとのことです。

 全16章の構成で、第1章で、組織行動論とはどのような領域なのかを概説し、第2~7章で、組織の中での一人ひとりの心の動きや具体的な行動に関するトピックを取り上げています。次に、第8・9章で、チームや集団といった複数の人の存在を前提に解説し、第10~12章では、それよりもさらに大きな組織全体のトピックを扱っています。第13・14章では、組織と個人の接点に焦点を当て、第15・16章で、専門的な人材、女性、高齢者といった、日本企業における新たなプレーヤーに焦点を当てています。

 具体的には、第2章では、モチベーションについて、代表的なモチベーション理論を紹介し、第3章では、組織コミットメントについて、第4章では、組織内での意思決定のありようについて解説しています。このあたりは、組織行動論の基礎的な理解のために必要不可欠な知識であると思います。

 第5章では、職業経験としてのキャリアを組織と個人の双方からとらえ、どのようなキャリア・マネジメントが必要なのかを考察し、企業主導の画一的なキャリアではなく、従業員主導で多様なキャリアの構築が必要になってきていることを指摘しています、第6章では、組織内の職務に関する行動を、OCB(組織市民行動)という考え方をベースに説明し、第7章では、個人が組織内で感じるストレスが、個人の心理・行動に与える影響について解説しています。

 第8章では、チーム・マネジメントについて、チームにはどのようなタイプがあり、チームを成功に導く条件は何かを述べ、第9章では、リーダーとリーダーシップに関する基本的な考え方を説明しています。、

 第10章では、組織において知識・スキルの習得がどのように行われるかを、組織学習という概念を用いて説明し、第11章では、組織変革とは何かを、第12章では、組織文化とはどのようなものかを解説しています。

 第13章では、組織的公正について、従業員のモチベーションや組織の生産性に対して公正の認知が与える影響を考え、その重要性を説明し、第14章では、組織に新しく加入した人の行動を、組織社会化という概念で説明しています。

 第15章では、ダイバーシティ・マネジメントを取り上げ、ダイバーシティが注目される理由や、実際にダイバーシティ・マネジメントを行う際のポイントについて説明しています。第16章では、プロフェッショナルを取り上げ、プロフェッショナルとは何か、それをどうマネジメントするかを解説しています

 執筆陣の多くが若手研究者であることもあって、基本的な知識から最近の動向までよく網羅しているように思いました。こうしたテキストも、時代とともに少しずつ変わっていくのでしょう。また、読者に初学者を想定しているということもありますが、読みながら組織行動に関するイメージが描きやすいように書かれていると思いました。

 人事パーソンに求められる概念化能力とは、こうしたテキストを読んで概念的なものを理解するだけではなく、実際に組織内で起きていることからそのエッセンスを抽出して、統合的な概念としてテキストに照らし合わせ、その照合を通じて、諸事象に対する具体的な見方や行為に還元していくことではないかと考えます。そうした能力を養う上でも、こうしたテキストに触れてみるのは良いことだと思います(勉強会などを開催し、テキストとして用いるようなシチュエーションがベストか)。

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個人だけでなく組織をも対象としていることで、組織開発的な内容に。求められるファシリテーション能力。

FIND YOUR WHY.jpgFIND YOUR WHY2.jpg 『FIND YOUR WHY あなたとチームを強くするシンプルな方法』['19年]

 本書の著者の一人サイモン・シネックは、2009年に行ったTEDトークにおいて、「WHY」(個人や集団の存在意義、組織が何を表しているか)という概念の重要性を説き、反響を呼びました。その概念をさらに掘り下げたのが、前著『Start with WHY』(邦題『WHYから始めよ!』('12年/日本経済新聞出版社))であり、本書はその実践編とでもいうべきものです。

 TEDトーク以来の彼の主張は、社会を巻き込む力をもつリーダーに共通するのは、思考を「WHAT(何をするのか)」からではなく「WHY(なぜそれをやっているのか)」から始めるという点であるというものでした。「本物のリーダー」は、私たちに「WHY(理念と大義)」を語り、それこそが組織の内外の人たちのやる気を起こさせるが、「形式上のリーダー」は「WHAT(結果)」だけを語ってしまうと指摘しています。

WHY2012.jpg 本書では、まず第1章で、TEDトーク及び『WHYから始めよ!』で示したゴールデン・サークル(WHY―HOW―WHAT)という概念モデルで、WHYから始めることのインパクト、WHYを知ることの利点を説明し、第2章で、WHYを見つけるためにはどのようなプロセスを踏めばよいのか、3つのステップを解説しています。さらに第3章では、<個人>が自分自身のWHYを見つけるための段階的プロセスを、7つのステップごとに説明しています。

 第4章では、、<組織>のためのWHYの見つけ方として、その準備としてのユニット(グループ)アプローチについて解説しています。続く第5章では、実際にワークショップを実施するための具体的な手順を解説しています。ここでは、WHYを見つけるプロセスにおいて、グループをどう導けばよいかを述べています。

 第6章では、WHYを現実のものとするための行動、HOWについて書かれています。WHYは目的地であり、HOWはそこへたどり着くための経路を意味します。第7章では、自分のWHYを生き始め、実行するにはどうすればよいかを説明しています。

 リーダーを目指す人にとって啓発的な内容であるとともに、個人だけでなく組織をも対象とすることで、本書自体が<組織開発>的な内容となっているのが興味深いです。個人に応用するにはまずパートナーを見つけることから始め、組織に応用するにはまずファシリテーターを見つけることが最初のステップになるということですが、個人や組織をそのWHY(存在意義)に導いてくれるパートナーやファシリテーターを見つけたり、育成したりするのが、ややハードルが高いようにも思いました。とは言え、ワークショップの進め方などは、これまでの組織開発におけるホールシステムの手法などに通じるところがあったようにも思います。

 要所ごとにパートナー・セッションやファシリテーター・セッションといった解説があり、巻末にもパートナー、ファシリテーターのそれぞれに対するアドバイスが付されていることからも窺えるように、本書を読んだ人がまず自らパートナーやファシリテーターになってみることを推奨しているのでしょう。ただ、個人的には、読んでみて、若干もやっとした印象も残りました。

 米国などでは、エンカウンターグループなどの歴史が連綿と今日にまで繋がっていますが、日本はそうしたものが高度経済成長期に行われた感受性訓練(ST)などをもっていったん途切れた観もあり、そもそも日本人はグループで集まって自分の本心を語るということが苦手なような気もします。一方で、「組織開発」は今また何十年かぶりに注目を集めているとも言われています。こうした個人や組織の根本的な存在意義(「WHY」)を問い、それを共有化するという啓発的なワークショップが、今後どれくらい日本に浸透するのか注目したいと思います。


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「承認欲求の呪縛」を解くには、メンバーの組織への依存を断ち切り、プロ化する。

『「承認欲求」の呪縛』.jpg 『「承認欲求」の呪縛 (新潮新書)』['19年]

 本書の著者によれば、上司などから褒められたらモチベーションや挑戦意欲が高まり、業績も上がるという実験結果があり、承認が離職の抑制や成長にもつながることが明らかになっている一方で、褒められ、認められると逆にやる気が奪われるケースがあるとのことです。また無意識のうちに承認欲求の奴隷になり、破滅したり、自殺に追い込まれたりするケースもあり、さらにパワハラや組織不祥事の背景にも「承認欲求の呪縛」が潜んでいると言います。

 つまり、承認欲求には光と影があり、功と罪を分ける何かがあるということです。本書は、「承認欲求の呪縛」がどのようなメカニズムで発生するか、どうすれば呪縛から逃れられるかを簡単な数式と具体例を用いながらわかりやすく説明したものであるとのことです。

 「承認欲求」が人間にとって「最強の欲求」となるのは、それ自体が人を動機づけるだけでなく、認められるとほかの欲求が満たされたり、有機無形のさまざまな報酬が得られたりするためであるとしています。ところが、あることをきっかけに、今度は獲得した報酬や築き上げた人間関係にとらわれるようになり、それが「承認欲求の呪縛」であるとのことです。「認められたい」が「認められなければ」に変わるとき、それは危険な兆候を示し、結果的にその人を破滅に導くこともあるとのことです。

 また、「承認欲求の呪縛」は、「認知された期待」と「自己効力感」のギャップに加え「問題の重要性」という三つの要素によってもたらされ、「数式」としては(認知された期待-自己効力感)×問題の重要性=プレッシャーの大きさ、即ち「承認欲求の呪縛」の強さであるとのことです。そして、パワハラや企業不祥事、長時間労働による過労死の背景にも、この呪縛が潜んでいるとした上で、これまでに起きたさまざま事件を振り返りながら、そうした事件が繰り返される根底には、日本の組織が、外から隔てられた「共同体」の性格が強く、メンバーは内部の規範や人間関係を強く意識し、そこでの承認を失うことを恐れるという特徴があると指摘しています。

 それではこの、無意識のうちに精神的な負担となり、本人の意に反して無理をさせ、時にはそれが過労死や過労自殺、犯罪、組織不祥事といった重大な事態を招く場合もある「承認欲求の呪縛」から逃れるにはどうすればよいのか。著者によれば、日本人はもともと「期待」に潰されやすく、これを病にたとえるならば「日本人病」と言うより、「日本の風土病」とでも言うべきものであり、よってリーダーにはメンバーに過剰なプレッシャーをかけない配慮が求められ、また、本人の自己効力感を高め、組織への依存を小さくすることが必要であるとしています。

 また、組織不祥事をなくすためには、メンバーの「プロ化」、すなわち組織をプロフェッショナルの集団に変えるのがよく、なぜならば、プロにとっては専門能力こそが生命線なので、自己効力感が高く、期待をプレッシャーではなく、むしろエネルギーに変えることも可能であるからとしています。著者は、これまでのような共同体組織は、遅かれ早かれ崩れていくに違いなく、だとすれば、組織にとっても個人にとっても、変化を先取りしてプロ化を図っていくことが、「承認欲求の呪縛」を解く決め手になり、ひいては不祥事対策の王道を歩むことにもつながるとしています。

 「承認欲求」に関する本をこれまで何冊も書いてきた著者ですが、いずれもそのポジティブな面に焦点を当てたものばかりだったのが、今回、「承認欲求の呪縛」というネガティブ面に着眼し、警告を発しているという点が興味深かったです。そして、「承認欲求」が人間にとって「最強の欲求」であることをよく知っている著者が発する警告であるだけに、説得力があったように思います。

 最後の部分の「プロ化」の勧めは、ドラッカーが『現代の経営』の中で、「専門職たる者(プロフェッショナル)は、優れた仕事とは何であるべきかを自ら決める」と言っていたのを想起しました。プロって、自分の仕事の評価を自分でできる人なのだなあと。本書によれば、そうした組織に依存していないメンバーの揃ったプロ集団であれば、組織不祥事は起きないということなのでしょう。

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組織開発の歴史を120年以上前の思想や哲学の誕生に遡って解説しているのはユニーク。

組織開発の探究.jpg組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす』['18年]

 今また何十年かぶりに注目を集めている「組織開発」ですが、本書は、組織開発の初学者が、その概略について理解を深め、組織開発の深い経験を持つ実践者が、その思想や歴史を理解し、さらに、組織開発に関心のあるすべての人が、実践について理解し、自社におけるアクションのヒントを得ることができることを目的に書かれた本であるとのことです。

 全5部構成の第1部は「初級編」であり、第1章で、初学者向けに組織開発とは何かを解説し、第2章で、組織開発を"感じる"ための手がかりとして、組織開発の3つのステップや5段階の実践モデルを示すとともに、企業内における組織開発においてありがちな「生々しいリアリティ」をまとめています。

 第2部と第3部は「プロフェッショナル編」として、組織開発の歴史と発展の歩みを辿っています。第3章では、組織開発を支える「3層モデル」というものを提唱し、その第1層としての「組織開発の考え方」の哲学的な基盤を、ジョン・デューイのプラグマティズムやフッサールの現象学、フロイトの精神分析学などに求めて解説しています。

 第4章では、「3層モデル」の第2層としての「組織開発の方法」の基礎となったものとして、心理劇(サイコドラマ)とゲシュタルト療法の2つの集団療法について解説し、第5章では、組織開発を支える経営学的基盤として、テイラーシステムや人間関係論、行動科学があったとしています。

 さらに第6章では、「3層モデル」の第3層として開花した「独自手法の発展」として、1940年代のクルト・レヴィンの社会実験から始まったTグループや、感受性訓練(ST)、エンカウンターグループなどを解説しています。

 ここまでが言わば組織開発の「前史」であり、第3部・第7章では、1950年代から1960年代にかけての「組織開発」の誕生からその青春時代までを追い、第8章では、1970年代から80年代、90年代と、組織開発が環境の変化とともにどのような変遷を遂げたのかを述べています。

 第9章では、日本における組織開発の歴史を辿り、第10章では、アメリカで組織開発と「似て非なるもの」が「自己啓発セミナー」として暴走し、日本でも1980年代後半から流行して、「マインドコントロール」としてマスコミでも取り上げられた経緯を紹介、第11章では、2000年代に入り「組織開発の見直し」が進み、「対話型組織開発」などの新しい手法も生まれ、組織開発が再びブームとなるに至るまでを解説しています。

 第4部は組織開発のケーススタディ編で、キャノンやヤフーなど先進5社の組織開発の取り組み事例が紹介され、第5部は、「組織開発の未来」についての両著者の対談となっています。

 タイトルに「探求」とありますが、組織開発とは何かについて書かれた第1部と、組織開発の歴史と発展について書かれた第2部、第3部で全体の8割近くを占め、第4部もケーススタディであることから、テキスト的な色合いの濃い本であると言えます。ただし、組織開発の歴史を、120年以上も前の、1890年代からの組織開発につながるであろう思想や哲学の誕生に遡って解説しているのはユニークであり、そうした意味で「探求」ということになるのかもしれません。

 堅くなりがちな内容が分かりやすくかみ砕いて書かれていて、組織開発というもののイメージをつかむには良い本だと思います。また、組織開発の歴史に関する知識も、それに携わる人の素養として持っていて無駄ではないと思います。実践面の解説がほぼ事例の紹介にとどまっていて、その部分はやや弱い印象もありますが、第5部の対談で、では一体社内のどの部署が組織開発を推進するのかといったことなども議論されていたりして、最後まで関心を持って読めた本でした。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1部:初級編 組織開発を感じる
第1章 組織開発とは何か
1. 組織開発の定義
2. 組織開発は風呂敷である!?
第2章 組織開発を"感じる"ための3つの手がかり
1. 1つ目の手がかり:「組織開発とは組織をworkさせる意図的な働きかけ」である
2. 2つ目の手がかり:「組織開発に注目が集まる背景」を理解する
3. 3つ目の手がかり:「組織開発のステップ」
  コラム●対話と議論の違い
4. 組織開発の5段階実践モデル
5. 企業における組織開発の実際
6. より開かれた議論へ:組織開発と党派制
第2部:プロフェッショナル編(1) 組織開発の歴史学
第3章 組織開発を支える哲学的な基盤
1. 組織開発の3層モデル
2. 哲学者ジョン・デューイ:経験と学習の理論
3. フッサールの現象学:「今 ── ここ」の理論
4. フロイトの精神分析学:無意識の中の抑圧を顕在化させる
5. 組織開発を支える哲学的基盤のまとめ
第4章 組織開発につながる2つの集団精神療法
1. 集団精神療法とは何か
2. モレノの心理劇
3. パールズのゲシュタルト療法
第5章 組織開発を支える経営学的基盤
1. テイラーの科学的管理法
2. メイヨーの人間関係論
3. 行動科学の登場
4. バーナード以降の近代派
第6章 組織開発の黎明期
1. Tグループの始まり クルト・レヴィンの社会実験
2. Tグループとは何か
3. クルト・レヴィンのさらなる発明
4. クルト・レヴィンと組織開発
  コラム●ジョハリの窓
5. ST(sensitivity training):感受性訓練の発達
6. ロジャーズのエンカウンターグループ
7. イギリスでの動き:グループ・アプローチから社会技術システム・アプローチへ
第3部:プロフェッショナル編(2) 組織開発の発展
第7章 組織開発の誕生
1. アンブレラ・ワードとしての「組織開発」
2. 1960年代の組織開発
3. 組織開発の定義
  コラム●組織開発の定義における効果性と健全性について
4. 組織開発の基本的な進め方
5. 組織開発の青春時代
第8章 組織開発の発展
1. 組織開発をめぐる環境の変化:1970年代
  コラム●経営学の理論的系譜と組織開発の変化
2. 診断型組織開発の確立
3. 組織開発実践者のためのトレーニング
  コラム●ゲシュタルト組織開発について
4. 組織開発の「風呂敷化」が進む:1980年代
5. 組織開発は死んだ!?:1990年代
第9章 日本における組織開発
1. Tグループの日本への導入
  コラム●組織開発の実践者に求められること
2. 日本のODブーム
3. 組織開発から小集団活動などへの移行
4. 大学におけるTグループと組織開発研究
5. バブル崩壊による組織開発の衰退
6. 組織開発ブーム再燃
第10章 組織開発と「似て非なるもの」の暴走
1. ファシリテーターの質
2. 自己啓発セミナーの暴走
第11章 組織開発の復活 組織開発の見直しと対話型組織開発の広がり
1. 組織開発の見直し
2. 強みに着目する組織開発:AI
  コラム●社会構成主義とは何か
3. ホールシステム・アプローチの広がり
4. 対話型組織開発というコンセプトの出現
  コラム●診断型組織開発と対話型組織開発は二分できるのか?
第4部:実践編 組織開発ケーススタディ
Case1:キヤノン
社内コンサルタントが支援するCKI活動
Case2:オージス総研
現場を巻き込んで風土を改善する「アジャイル改善塾」の仕掛け
Case3:豊田通商
働き方改革と「いきワク活動」の取り組みについて
Case4:ベーリンガーインゲルハイム
人事ビジネスパートナーによる組織開発
Case5:ヤフー
組織課題に合わせて進化する組織開発
第5部:対談 「組織開発の未来」
組織開発は「経営に資するべきもの」か「人に資するべきもの」か
・経済的な価値と人間的な価値が二律背反するものであるとする議論自体を超える
・対話によって教条化した組織開発像を超える
・組織開発は、実践者の数だけある
・組織開発実践者の人材開発
・組織開発はマネジャーの武器になる
・労働人口が減少する中、日本の経営がなすべきこと
おわりに
索引
組織開発の系譜
●組織開発を"感じる"3つの手がかり
・「組織開発とは組織をworkさせる意図的な働きかけ」である
・「組織開発に注目が集まる背景」を理解する
・「組織開発のステップ」
① 見える化
② ガチ対話
③ 未来づくり
●組織開発の5段階実践モデル
① エントリーと心理的契約
② プロジェクトデザインと準備
③ フィードバックによる対話
④ アクション計画・実施
⑤ 評価
●企業内における組織開発においてありがちな「生々しいリアリティ」
① 人材開発と"ちゃんぽん"になりがちである
② ときに「血生臭い」人事プロセスとセットになって実施されることがある
③ 想定外のことが次々起こる「即興的実践」になりがちである
●紹介
コミュニケーションを活発にし、組織を活性化させることを目的とする「組織開発」に注目が集まっている。 「組織開発とは、組織の健全さ(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-Renewing capabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な課程である」(ウォリック) 平たく言えば、組織開発の目的は「組織の健全さ、効果性を高める」こと、であり、具体的には組織内のコミュニケーションを意図的に活発にすることから作業が始まる。 人材開発は働く個人に働きかけ、その成長を支援することである。それに対し、組織開発は、そのように単純化した説明が難しい。それは、組織開発が「ある特定の手法」を指すのではないからだ。また、その歴史をさかのぼると、組織開発には、人の心理を操作する悪しきやり方によって、自殺者を出すなどの黒歴史もあった。 本書では組織開発の思想的源流をさかのぼって、その哲学と手法の変遷をたどる。大ざっぱに言えば、100年の歴史の流れを解説する。さらに、いま行われている組織開発の手法を紹介し、5社の実践事例も解説する。

「●日本人論・日本文化論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【924】 会田 雄次 『日本人の意識構造
「●組織論」の インデックッスへ(『タテ社会の人間関係』) 「●講談社現代新書」の インデックッスへ 「●や 山本 七平」の インデックッスへ

ベストセラー日本人論2冊。組織論的にも多くの示唆を含む『タテ社会の人間関係』。今一つ分からない『日本人とユダヤ人』。
タテ社会の人間関係1.jpg タテ社会の人間関係2.jpgタテ社会の人間関係★中根千枝.jpg タテ社会の人間関係3.jpg
タテ社会の人間関係―単一社会の理論 (1967年) (講談社現代新書)』『タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)
日本人とユダヤ人1970.jpg 日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア).jpg 日本人とユダヤ人 (山本七平ライブラリー).jpg 日本人とユダヤ人 oneテーマ21.jpg
日本人とユダヤ人』['70年]『日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)』['71年]『日本人とユダヤ人 (山本七平ライブラリー)』['97年]『日本人とユダヤ人 (角川oneテーマ21 (A-32))』['04年]
Iタテ社会の人間関係 日本人とユダヤ人.jpg 『タテ社会の人間関係―単一社会の理論』は、社会人類学者の中根千枝氏が1967年に出版した日本論であり、半世紀以上を経た今も読み継がれているロングセラーです。よく「日本はタテ社会だ」と言われますが、その本質を、日本社会の構造、組織のあり方という観点から説明したものです。

 著者によれば、日本人の集団意識は「場」に置かれており、日本のように「場」を基盤とした社会集団には、異なる資格を持つ者が内包されているため、家や部落、企業組織、官僚組織といった強力かつ恒久的な枠が必要とされるとのことです。そこで、日本的集団は、構成員のエモーショナルな全面的参加により一体感を醸成し、集団の肥大化に伴い、「タテ」の組織を形成するのだとしています。

 著者は、社会集団を構成する要因は、「資格」と「場」の2つに大別されるとし、「資格」とは、氏や素性、学歴、地位、職業、経済的立場、男女といった属性を指して、こうした属性を基準に構成された社会集団を「資格による集団」と呼び(職業集団や父系血縁集団、カースト集団などがその例)、一方、「場による社会集団」とは、地域や所属機関のような一定の枠によって個人が集団を構成する場合を指すとのこと(例えば、「○○村の成員」、「○○大学の者」など)。資格と場のいずれの機能が優先されるかは、その社会の人々の価値観と密接に関係するが、例えば、インド人の集団意識はカーストに象徴されるように、「資格」によって規定されているのに対し、日本人の集団意識は「場」に置かれているとのことです。

 だから日本人は、職種(=資格)よりも、A社、B大学といった自分の属する職場(=場)を優先して、自分の社会的位置づけを説明するのだと。それはつまり、日本人にとっては、「場」=「会社・大学」という枠が、集団構成や集団認識において重要な役割を果たしているからであり、とりわけ、会社は個人が雇用契約を結んだ対象という認識ではなく、「私の会社・われわれの会社」というふうに、自己と切り離せない拠り所のように認識されているのだとしています。

 この特殊な集団認識を代表するのは、日本社会に浸透している「イエ(家)」の概念であり、著者の定義する「家」とは、家族成員と家族以外の成員を含んだ生活共同体・経営体という「枠」の設定によって作られる社会集団であるとのことですが、この「家」集団内における人間関係は、他の人間関係よりも優先され、例えば、他の家に嫁いだ娘・姉妹よりも、他の家から入ってきた嫁のほうが「家の者」として重視されるが、これは、同じ両親から生まれた兄弟姉妹という「資格」に基づいた関係が永続するインド社会とはかけ離れているとのことです。

 社会人類学というのは当時聞き馴れない領域でしたが、本書の目的は、人々のつき合い方や同一集団内における上下関係の意識といった、社会に内在する基本原理を抽象化した「社会構造」に着目し、日本社会の特徴を解き明かすことにあったとのことで、ある種、構造主義的人類学の手法に通じるものがあるように思いました。

 前記の通り、著者によれば、日本社会では、「場」、つまり会社や大学という枠が集団構成や集団認識において重要な役割を果たし、こうした社会では、「ウチの者」「ヨソ者」を差別する意識が強まり、親分・子分関係、官僚組織によって象徴される「タテ」の関係が発達し、序列偏重の組織を形成するとのこと。こうしたメカニズムは、年次や派閥がものをいう組織、前任者の顔色を窺って改革を断行できない経営者といった諸問題に繋がっていると言え、これは今も根本的に変わっていないように思います。組織論的に見ても、今の社会に通じる多くの示唆を含む名著であると思ます。

山本七平(1921-1991)
山本七平.jpg 『日本人とユダヤ人』はイザヤ・ベンダサン名義で1970年に山本書店より刊行された本で、ベストセラーという意味では『タテ社会の人間関係』以上に売れ、『日本人と○○人』といった題名の比較型日本人論が一時流行したほどですが、やがて著者は山本書店の店主で、ベンダサン名義の作品の日本語訳者と称してきた山本七平(1921-1991/享年69)であることが明らかになり、'04年に、今は無き新書レーベルの「角川oneテーマ21」には著者名「山本七平」として収められました(解説にも「イザヤは山本のペンネーム」という旨が明記されている)。

 内容は、ユダヤ人と対比することによって日本人というものを考察している日本人論であり、この中では著書のイザヤ・ベンダサンは日本育ちのユダヤ人ということになっています。

 著者が、ユダヤ人との対比において指摘する日本人の特性として、四季に追われた生活と農業とそこから生まれるなせばなるという哲学や、模範を選び、それを真似ることで生きてきた隣百姓の論理、大声をあげるほど無視され、沈黙のうちに進んでいく政治的天才、法律があっても、必ず拘束されるわけではない、それを超えて存在する法外の法に従うという実態などを挙げていて、それなりに説得力があるように思いました。

 ただ、著者はさらに突き進み、日本人の論理の中心に据えられた「人間」という概念を、そのような日本人の特徴をユダヤ人との対比で考察しながら、日本人は、決して無宗教ではなく、「人間」を中心とした一つの巨大な宗教集団なのだという結論を導き出しますが、このあたりから個人的にはよく分からなくなりました。

 著者は、日本人は、無宗教である人が多いと言われるが、実際にはそうではなく、自分自身の宗教をそれを意識すらしないほどに体に染み込ませているという意味で、日本教は世界中のどこよりも強い、強烈な一つの宗教なのだという著者の論理は、受け容れられる人とそうでない人で分かれるのではないかと思いました。

 著者の論理で言えば、キリスト教であっても、仏教であっても、それは全て日本教に組み込まれており、日本人はどんなに頑張っても結局、日本教徒でしかありえず、日本人の究極の概念は、神よりもまず人間であり、神を人間に近づける形でしか日本人は神を理解できないということです。

 普段意識しない日本人という枠組みを、本書によって考える機会を与えられたのは確かで、実際、多くの人がこの本に共感し、「山本学」という学問(?)まで流行ったくらいですが、個人的には「今一つ分からない」といった印象であり、それは当時も今も変わっていません(今振り返ると、随分と難しい本がベストセラーになったものだなあという気もする)。

51Aにせユダヤ人と日本人.jpg 本書に対する批判として、宗教学者、神学博士の浅見定雄氏の『にせユダヤ人と日本人』('83年)があり、それによれば、「ニューヨークの老ユダヤ人夫婦の高級ホテル暮らし」というエピソードは実際にはあり得ない話であり(英語版『日本人とユダヤ人』では完全にこのエピソードがカットされている)、「ユダヤ人は全員一致は無効」という話も、実は完全な嘘あるいは間違いであるとのことです。「日本人は安全と水を無料だと思っている」というベンダサンの警告は当時鮮烈でしたが、その対比としての、安全のために高級ホテル暮らしをするユダヤ人夫婦という話が「あり得ない話」ならば、説得力は落ちるのではないでしょうか(それとも、これも山本教徒にとっては、そんなことはどうでもいいことなのか)。

浅見定雄『にせユダヤ人と日本人 (1983年)
       
比較文化論の試み.jpg日本人の人生観.jpg 個人的には著者の書いたものを全否定するわけではなく、講談社学術文庫に収められた『比較文化論の試み』('75年)は多くの気づきを与えてくれて良かったし(この本は最初に読んだときはそうでもなかったが、読み直してみて、鋭い指摘をしているのではないかと思った)、『日本人の人生観』('78年)もまずまずでした(こちらは、ユダヤ・キリスト教文化圏の歴史観・人生観と日本人のそれを対比させている)。一方で、『日本人と中国人』などは、知識人、読書人で絶賛する人は多いですが、自分にはよく分かりませんでした。

 浅見定雄氏は、山本七平は、自分でもよくわかっていないことを、わからないまま書き連ね、収拾がつかなくなると決まって「読者にはおのずからお分かりいただけるだろう」というふうに書いて、よくわからないのは読者の頭が悪いからだと思わせるごまかしのテクニックを使っているとも指摘していますが、全てがそうでないにしても、『日本人と中国人』などは『日本人とユダヤ人』以上に自分にとってはその類でした。

 ただ、その『日本人と中国人』についても、内田樹氏などは、「決して体系的な記述ではないし、推敲も十分ではなく、完成度の高い書物とは言いがたい」としながらも、「随所に驚嘆すべき卓見がちりばめられていることは間違いない。何より、ここに書かれている山本の懸念のほとんどすべてが現代日本において現実化していることを知れば、読者はその炯眼に敬意を表する他ないだろう」としていて、こんな見方もあるのだなあと。自分が頭が悪いのか、はたまた、この人の場合、書いたものによって相性が良かったり悪かったりするのでしょうか。

『日本人とユダヤ人』...【1971年文庫化[角川ソフィア文庫]/1997年選書[山本七平ライブラリー]/2004年新書化[角川oneテーマ21]】

《読書MEMO》
●『タテ社会の人間関係』
・単一社会―頼りになる集団はただ1つ(p64)
・タテの関係は親分。子分関係、官僚組織によって象徴される(p71)
・リーダーは一人に限られ、交代が困難(p122)
・日本のリーダーの主要任務は和の維持(p162)
・論理を敬遠して感情を楽しむ(p181)

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どうすれば変われるのか。「免疫マップ」という変革アプローチを提案した啓発度の高い本。

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Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey
なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか2.jpg Harvard Graduate School of Educationの発達心理学と教育学の専門家による本であり(原著:Immunity to Change: How to Overcome It and Unlock the Potential in Yourself and Your Organization,2009,Harvard Business Review)、二人の近著には『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(2017/08 英治出版)があります。本書によれば、変わる必要性を認識していても85%の人が行動すら起こさないとのことで、それは何故かというと"変革を阻む"免疫機能"が働くからであるとのことです。著者たちは、変革が進まないのは「意志」が弱いからではなく、「変化⇔防御」という拮抗状態を解消出来ないからだと説きます。そのうえで、30年にわたる研究と実践のなかで編み出された「免疫マップ」という変革アプローチを提案しています。これは、「変わりたくても変われない」という心理的なジレンマの深層を掘り起し、変化に対して自分を守ろうとしているメカニズムを解き明かす手法であり、自分のもっている「免疫マップ」、つまり「改善目標や阻害行動、裏の目標、強力な固定観念」を、事実と自分に向き合いながらみんなで見つけ出すことで、様々なレベルでの改革を効果的に展開できるとしています。

 全体で3部構成であり、第1部「"変われない"本当の理由」で「免疫マップ」による変革アプローチの概念を説明し、第2部「変革に成功した人たち」で実際の成功事例を紹介、第3部「変革を実践するプロセス」で自分もやってみようという読者にその実践方法を紹介しています。

 第1部「"変われない"本当の理由」では、大人の知性の発達に関してこの30年間で明らかになった新しい真実、そして、その発見が職業生活に対してもつ意味を簡単に解説しています。第1章では、本書で提案するアイデアと手法の理論的・実証的土台を整え、第2章では、「どうして人は本当に望んでいる変革を実現できないのか」という点について、これまで知られてこなかったメカニズム"変革をはばむ免疫機能"を紹介し、第3章では、本書の考え方を職場で実践し、成果をあげたビジネス界と政府機関の2人のリーダーの実例を取り上げています。

 第2部「変革に成功した人たち」では、"変革をはばむ免疫機能"に対処すれば、個人と組織がどのような変化を遂げられるかを詳しく説明しています。取り上げている事例は、当事者の業種や分野も、実現しようとする目標も様々です。第4章では、グループが集団レベルの"変革をはばむ免疫機能"に対処したケース、第5章と第6章では、2人の個人がそれぞれの"変革をはばむ免疫機能"に対処したケースを紹介し、第7章では、最も野心的な取り組みである、職場グループ全体の成果を高めるためにメンバーの一人ひとりが個人レベルの"変革をはばむ免疫機能"に対処したケースを紹介しています。

 第3部「変革を実践するプロセス」では、読者が個人レベルと集団レベルで"変革をはばむ免疫機能"に対処するための手引きを示しています。第8章では、このアプローチを実践するために必要な3つの要素を指摘し、第9章と第10章では、免疫機能を診断するためのプロセスを段階ごとに説明して、読者が個人レベルの免疫機能を乗り越えるよう導いています。第11章では、チームや組織のレベルで免疫機能を克服するプロセスと、そのために役立つ方法論を紹介しています。そして終章では、チームのメンバーとチーム全体が能力を高められる土壌を作るために、リーダーが備えるべき7つの資質を論じています。

 個人と組織が成功するために避けて通れない変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにし、「免疫マップ」を用いた変革のアプローチとその効果を多くの事例を通して明らかにし、更に本書を手にした読者に対し、自分とチームのメンバーが職場で能力を目覚ましく発揮できるようにするにはどうすればよいかまでを説いた啓発度の高い本です(個人的には、「免疫マップ」の手法は、心理療法における「認知療法」とも共通点があるように思った)。実際に行われたワークやエクササイズなどの事例ベースで解説が進むため、読み物を読むように読めてしまうのもいいところでしょうか。それでいて、ポイントはしっかり要約されています。組織を率いるリーダーにとっての組織と自分を変える処方箋となり得る要素があり、個人的にも折々に再読してみたい本でもあると思いました。

なぜ人と組織は変われないのか3.jpg《読書MEMO》
●免疫マップ:変革のプロセスに関する思考の地図というべきもの。
1)改善目標、
2)阻害行動(改善目標の達成を妨げる要因)、
3)裏の目標(不安も含む)、
4)強力な固定観念、
からなる
●変わるために必要な3つの要素(276p~295p)
要素1 心の底―変革を起こすためのやる気の源:目標を成し遂げたいという強力な本能レベルの欲求。ほかに、自己変革の原動力になりうる要素としては、たとえば目標の達成に自信があり、そのための方法がわかっていること。
要素2 頭脳とハート―思考と感情の両方にはたらきかける:"変革をはばむ免疫機能"は、特定の知性のレベルならではの思考と感情の両方を反映するものなので、適応を要する変化を本当に成し遂げようと思えばこの両方にはたらきかけなくてはならない。
要素3 手―思考と行動を同時に変える:既存の免疫機能と衝突する行動を意識的に取ってはじめて変革が可能になる。これを避けていては、既存の行動パターンの土台にある思考様式の妥当性を検証できないからだ。
●リーダーが備えるべき7つの資質(402p~418p)
①大人になっても成長できるという前提に立つ
②適切な学習方法を採用する
③誰もが内に秘めている成長への欲求をはぐくむ
④本当の変革には時間がかかることを覚悟する
⑤感情が重要な役割を担っていることを認識する
⑥考え方と行動のどちらも変えるべきだと理解する
⑦メンバーにとって安全な場を用意する

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「働きがい」を構成するの「信頼(信用・尊敬・公正)」「誇り」「連帯感」。

The Great Workplace.jpg最高の職場 ロビン.jpg最高の職場 ロビン2.jpg
最高の職場―いかに創り、いかに保つか、そして何が大切か
"The Great Workplace: How to Build It, How to Keep It, and Why It Matters"
Great Place to Work HPより
「働きがいのある会社」モデル.jpg 本書(原題:The Great Workplace: How to Build It, How to Keep It, and Why It Matters,2011)は『フォーチュン』誌の「米国で最も働きがいのある会社ベスト100」を認定する、サンフランシスコに本部を置く《Great Place to Work (働きがいのある会社)Institute(GPTWI)》による「最高の職場」に関する調査報告書であり、いわゆるGPTWモデルというものを提唱したものです。

 第1章では、GPTWIが、長年にわたる研究から定義したGPTWモデルの「働きがい」の構成要素を5つ挙げています。その5つとは、①信用、②尊敬、③公正、④誇り、⑤連帯感であり、そのうち①~③までを一緒にした概念が「信頼」であり、「信頼」「誇り」「連帯感」の3つは、組織におけるプラットフォームで、それがない組織では、どんな制度や仕掛けを導入してもうまく機能しないとしています。以下、第2章から第7章にかけて、これら5つの要素について、それぞれのチェックポイントを解説しています。

 第2章は「信用」について述べられており、リーダーに対する信用を構築するのに欠かせないものとして、オープンで気さくな「双方向コミュニケーション」、人材とその他のリソースを調整する際の「有能さ」、一貫性をもってビジョンを遂行する「誠実さ」の3つを挙げています。第3章は「尊敬」について解説しており、リーダーの行動が従業員の尊敬の念に影響を与える3つの領域に、専門性の育成のための「支援(サポート)」、関係する意思決定における従業員との「協働(コラボレーション)」、従業員の家庭や生活への「配慮(ケアリング)」をがあるとしています。第4章は「公正」について述べられており、報酬が整合性のとれた方法で配分されているという「公平感」、採用や昇進でのえこひいきがない「偏りのなさ」、差別がなく、意見や不満をアピールすることができる「正義」の3つが公正な職場環境を構築するとしています。

 第5章は「誇り」について説いており、社員を育む誇りには、「自分の仕事」に対する誇り、「チーム」が行った仕事に対する誇り、「組織」が生み出す製品や地域社会での位置づけに対する誇りの3つがあるとしています。第6章では「連帯感」について述べられており、自分らしくいられる環境が整っている「親しみやすさ」、楽しみと歓迎する雰囲気がある「思いやり」、《家族》意識や《チーム》意識といった「仲間意識」の3つが、職場の連帯感を構築するとしています。

 第7章ではグローバルな視点に立ち、こうしたGPTWモデルが世界共通にビジネス上の恩恵をもたらしていることが、世界各国にあるGPTWIのオフィスで行われた調査結果から判明しているとしています。第8章では、では最高の職場を作るにはどうすればよいのかを説き、最高の職場におけるリーダーは、責任感と謙虚さ、熱意と忍耐力、人と成果のそれぞれについて、これかあれかの選択をするのではなく、それら二つの見方のバランスをとっているとしています。

 本書で挙げた「働きがい」の構成要素のそれぞれについて、その分野で秀でた会社の事例が数多く紹介されており、多様な学習機会や楽しいイベントを用意している会社が多くあります。例えばバーモント州のコーヒー豆販売会社は、社員をコーヒーの生産国に招待し、コーヒーの木がどのような険しさの中で成長するのかを教え、そして旅の思い出を共有するようにしています。ギリシャでスイミングプールの建設と保守をしている会社の場合は、大学院に行きたい者には学費を払い、フランチャイズ事業を立ち上げたい者には資金援助をしていて、またグローバルな法律事務所では、1000人を超える弁護士が1人当たり77時間の無料法律相談をしていたりします。

 本書で挙げられている「働きがい」の構成要素の中には、かつて日本的経営の強みと言われた要素も少なからず見られたように思いました。また、リーダーシップとはバランス感覚なのだという思いも抱かされました。「働きがいのある会社」とはどのような会社なのかということをデータに基づいて述べているわけであって、人事パーソンは一度は読んでおきたい本です。

《読書MEMO》
●目次
第1章 序論 最高の職場を創り上げることがもつ価値
 Case study SASインスティチュート-最高の資産に配慮する
第2章 信用 「私はリーダーを信じる」
 Case study プライスウォーターハウスクーパース-優秀な社員の鼓舞
 Case study グーグル-巨大な干し草の山からグーグラーを探し出す
第3章 尊敬 「私はこの組織の価値ある一員です」
 Case study ジェネラル・ミルズ-優秀な管理職の育成
 Case study SCジョンソン-ファミリー企業
第4章 公正 「皆が同じルールでプレーする」
 Case study スクリップス・ヘルス病院-全員は一人のために、一人は全員のために
 Case study CH2Mヒル 所有権をもつ生き方
第5章 誇り 「私は本当に意味あることに貢献します」
 Case study ウェグマンズ・フード・マーケッツ-地域社会への貢献を誇りとする
 Case study WLゴア&アソシエイツ-革新的な文化と革新のための文化
第6章 連帯感 「わが社の社員はすばらしい」
 Case study カムデン・プロパティ・トラスト-社員と同社製住宅の住民にとって楽しいコミュニティの構築
 Case study マイクロソフト-天才大歓迎
第7章 グローバルな視点 世界各国にある最高の職場
第8章 行動を起こす 最高の職場を創り上げる
●GPTWモデルの「働きがい」の5つの構成要素とチェックポイント
①信用
・コミュニケーション:オープンで気さくなコミュニケーション
・有能さ:人材とその他のリソースを調整する際の有能さ
・誠実さ:誠実さを重視し、一貫性をもってビジョンを遂行している
②尊敬
・支援:専門性の育成への支援と感謝の表明
・協働:関係する意思決定における従業員との協働
・配慮:従業員の家庭や生活への配慮
③公正
・公平感:全員に対する公平な報酬
・偏りのなさ:採用・昇進でえこひいきをしない
・正義:差別がなく、意見や不満をアピールする方法が整っている
④誇り
・自分の仕事:自分の仕事と個人的貢献に対する誇り
・チーム:自分のチームやワークグループが行った仕事に対する誇り
・組織:組織の製品や地域社会での位置づけに対する誇り
⑤連帯感
・親しみやすさ:白分らしくいられる環境が整っている
・思いやり:社交的で親しみやすく、歓迎する雰囲気がある
・仲間意識:《家族》意識や《チーム》意識

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「中央集権」から「分権」へ。「ハイブリッド型」もあり。組織論の新たな視点。

Iヒトデはクモよりなぜ強い .JPGヒトデはクモよりなぜ強い.jpg  Ori Brafman.jpg  Rod Beckstrom.jpg
ヒトデはクモよりなぜ強い』['07年] Ori Brafman / Rod Beckstrom

 本書(原題:The Starfish and the Spider: The Unstoppable Power of Leaderless Organizations,2006)では、階層的な指揮命令系統が定められている中央集権的な組織を「クモ型」、権限が分散し階層構造を持たないネットワークの総体を「ヒトデ型」とし、「ヒトデ型」を「ヒトデ型」たらしめるものは何で、「ヒトデ型」を有効に機能させる要素は何かの解明を試みています。(2021年に新訳が刊行された、旧訳の方が読み易い。)

 第1章「MGMの失敗とアパッチ族の謎」では、MGMなどのレコード会社が違法なダウンロードをユーザーにさせるP2Pサービス会社を排除できなかった事例を、スペイン軍がアパッチ族を制圧できなかった事例に照らして分析し、「分権型の組織が攻撃を受けると、それまで以上に開かれた状態になり、権限をそれまで以上に分散させる」(分権の第1の法則)としています。

 第2章「クモとヒトデとインターネットの最高責任者」では、インターネットの概念はまさにヒトデ型であるが、インターネットが登場した際に、クモ型組織に馴れ親しんだ人が初めてそれに接して、インターネットの最高責任者は誰かと訊ねたように、「ヒトデを見てもクモだと勘違いしやすい」(分権の第2の法則)ものであり、「開かれた組織では情報が一カ所に集中せず、組織内のあらゆる場所に散らばっている」(分権の第3の法則)としています。また、分権型組織の構造の特徴として、「開かれた組織は簡単に変化させることができる」(分権の第4の法則)、「ヒトデたちは、誰も気づかないうちにそっと背後から忍び寄る性質がある」(分権の第5の法則)とし、「業界内で権力が分散すると、全体の利益が減少する」(分権の第6の法則)としています。また、ヒトデとクモを見分ける方法として、誰かひとり、トップに責任者がいるか?など、10のポイントを挙げています。

 第3章「ヒトデでいっぱいの海」では、ウィキペディアなどを例に、「開かれた組織に招かれた人たちは、自動的に、その組織の役に立つことをしたがる」(分権の第7の法則)としています。

 第4章「5本足で立つ」では、分権型組織は五本足で立つ動物のようなものだとし、その5つの足とは、①サークル(ヒエラルキーのないグループ。自主性にゆだねられる)、②触媒(サークルを創設し、そのあとは身を引いて、表舞台から消えてしまう人物)、③イデオロギー(分権型の組織をまとめる接着剤の役割を果たす)、④既存のネットワーク(インターネットが、新しいヒトデの繁殖地)、⑤推進者(新しい概念を執拗なまでに推し進める)であるとしています。

 第5章「触媒のもつ不思議な力」では、第4章で挙げた分権型組織における5つの要素のうち、「触媒」に必要なものとして、他人に対する純粋な興味や緩やかなつながりの許容など、12の「道具」を挙げています。

 第6章「分権型組織と戦う」では、「攻撃されると、集権型組織は権限をさらに集中させる傾向がある」(分権の第8の法則)が、これはうまくいかないとし、ヒトデによる侵略に対抗する具体的な戦略として、①イデオロギーを変える、②権限を中央に集めさせる、③自らも分権型に変わって対抗する、の3つを挙げています。

 第7章「ハイブリッドな組織」では、純粋なヒトデ型組織でも、クモ型組織でもない、ハイブリッド型組織というものもあるとし、そのハイブリッド型組織には、①顧客経験価値を分散させた中央集権型企業(イーベイ、アマゾン、グーグル)、②中央集権型企業でありながら、ビジネスの一部に分権を取り入れている企業(GE、DFJ、トヨタ)の2種類があるとしています。

 第8章「スイートスポットを探して」では、トヨタ方式の例(生産性の低かったGMの工場をいわゆるトヨタ生産方式の分権的な現場作業で劇的に改善させたケース)を挙げ、企業はどの部分を分権化するか、分権の「スイートスポット」を追い求めるべきであるとしています。

 第9章「新しい世界へ」では、これまで述べてきたことのまとめとして、今日の企業競争には新しいゲームのルールが誕生しているとして、規模の不経済、ネットワーク効果、無秩序の力など10のルールを挙げています。

 本書では権力分散の成功例が豊富に紹介されていますが、今日において活発に活動している企業の多くが、はっきりした命令系統のある組織でありながら、サービスや経営に権限分散の要素を取り入れた「ハイブリッド型」であり、社内で一貫性を保ち、きちんと管理するには集権型のマネジメントが必要だが、人々が創造力を発揮しやすいのは、秩序よりも柔軟性を重んじる分権型の環境であることも示唆しています。組織論に新たな視点を提供しているという意味で、一読をお薦めします。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 MGMの失敗とアパッチ族の謎
第2章 クモとヒトデとインターネットの最高責任者
第3章 ヒトデでいっぱいの海
第4章 5本足で立つ
第5章 触媒のもつ不思議な力
第6章 分権型組織と戦う
第7章 ハイブリッドな組織
第8章 スイートスポットを探して
第9章 新しい世界へ
注釈・謝辞・訳者あとがき・索引
●分権についての重要な8つの法則(第1章~第3章)
①分権型の組織が攻撃を受けると、それまで以上に開かれた状態になり、権限をそれまで以上に分散させる(第1章)
②ヒトデを見てもクモだと勘違いしやすい(第2章)
③開かれた組織では情報が一カ所に集中せず、組織内のあらゆる場所に散らばっている(第2章)
④開かれた組織は簡単に変化させることができる(第2章)
⑤ヒトデたちには、誰も気づかないうちに、そっと背後から忍び寄る性質がある(第2章)
⑥業界内で権力が分散すると、全体の利益が減少する(第2章)
⑦開かれた組織に招かれた人たちは、自動的に、その組織の役に立つことをしたがる(第3章)
⑧攻撃されると、集権型組織は権限をさらに集中させる傾向がある(第6章)
●ヒトデとクモを見分ける10のポイント(第2章)
①誰かひとり、トップに責任者がいるか?
②本部があるか?
③頭を殴ったら死ぬか?
 ④明確な役割分担があるか?
 ⑤組織の一部を破壊したら、その組織が傷つくか?
 ⑥知識と権限が集中しているか?、分散しているか?
 ⑦組織には柔軟性があるか、それとも硬直しているか?
 ⑧従業員や参加者の数がわかるか?
⑨各グループは組織から資金を得ているか、それとも自分たちで調達しているか?
⑩グループは直接連絡をとるか、それとも仲介者を通すか?
●信頼感とコミュニティ(第3章)
 クレイグズリストを使ってタダで箱を手に入れるということは、クレイグズリストというコミュニティにちょっとした借りができるようなものだ。
開かれた組織では、最も重要なのはCEOではなく、組織のリーダーが、組織を構成するメンバーをどれだけ信頼し、その自主性に任せるかなのだ。
●分権型組織における5つの根本的要素(第4章)
①サークル(ヒエラルキーのないグループ。自主性にゆだねられる)
②触媒(サークルを創設し、そのあとは身を引いて、表舞台から消えてしまう人物)
③イデオロギー(分権型の組織をまとめる接着剤の役割を果たす)
④既存のネットワーク(インターネットが、新しいヒトデの繁殖地)
⑤推進者(新しい概念を執拗なまでに推し進める)
●触媒に必要なもの(第5章)
①他人に対する純粋な興味
 ②緩やかなつながりの許容
 ③(知り合いのネットワークの)地図づくり
 ④役に立ちたいという欲求
 ⑤情報
 ⑥説得せず、肯定するスタンス
 ⑦感情的知性
 ⑧信頼
 ⑨他人にインスピレーションを与えること
 ⑩曖昧さへの寛容さ
 ⑪干渉しないこと
 ⑫立ち去ること
●ヒトデ型組織に対抗する戦略(第6章)
①イデオロギーを変える
 ②権限を中央に集めさせる(牛型アプローチ)
 ③自らも分権型に変わって対抗する(奴らに勝てないなら奴らの仲間になれ)
●ハイブリッド型組織(第7章)
①顧客経験価値を分散させた中央集権型企業(イーベイ、アマゾン、グーグル)
②中央集権型企業でありながら、ビジネスの一部に分権を取り入れている企業(GE、DFJ、トヨタ)
●肯定的な問いかけ(AI=アプリシエイティブ・インクワイアリー)(第7章)
 人々がお互いに意義のある質問をしあう、組織の権限を分散させるための手法。
組織について自分がもつ夢を、どんなに実現不可能なものでも良いから話し合う。
●新しい世界のゲームのルール(第9章)
①規模の不経済
②ネットワーク効果
③無秩序の力
④組織の端の知識
⑤誰もが貢献したがる
⑥ヒュドラの反撃に気をつけろ
⑦触媒が触発する
⑧価値こそが組織
⑨測定して、観察して、仕切る
⑩フラットにせよ―でないと負ける

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鋭い人間行動観察を通してアファーマティブ(ポジティブ)・アクションクションを擁護。

企業のなかの男と女.jpgMen and Women of the Corporation.jpg Rosabeth Moss Kanter  .jpg Rosabeth Moss Kanter.jpg Rosabeth Moss Kanter
"Men and Women of the Corporation: New Edition"(2nd ed.1993)
企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』['95年]

ロザベス・モス・カンター    .jpg 本書は、社会学者である著者が、1970年代に約5年間外部コンサルタントとして働いたある大企業での男性・女性社職員について描いたエスノグラフィ(行動観察記)であり、1977年の原著(Men and women of the corporation)出版から16年を経た1993年に社会的変化を追記し改訂新版が刊行されています(以下の章はこの改訂新版の邦訳版(1995年/生産性出版)に準拠する)。

 本書での議論を貫いているコンセプトは「職務が人を作る」というものであり、「人が置かれた状況の特徴が行動を作る」のであって、よって「人は同じ状況に置かれれば男性も女性も同じ行動や態度を示す」としており、その状況を規定するものとして「機会」「権力」「数」の3つを挙げています。

 第1章「企業のなかの男と女‥そこに住む人々」では、企業の発展と経営精神や経営学の発展を、経営精神の男性化という視点から捉えています。第2章「インダストリアル・サプライ・コーポレイション‥舞台装置(要約)」では、本書の舞台となった「インダスコ社」(仮称)のオフィスや文化、階級システムなどを紹介しています。第3章「管理者たち」では、その中で働く人々、特に管理監督職につく男女の問題を扱っています。

 第4章から第6章にかけては、著者の理論を説明する3つの要因である「機会」「権力」「数」について述べています。そして、第7章「理論への貢献‥組織行動を決定する構造的な要因(要約)」では、経営学の2つの流れと、マルクス主義からの視点、また女性論として本理論と対立する理論を紹介し、検討を加えています。第8章「実践への貢献‥組織的変革、アファーマティブ・アクション、職業生活の質(要約)」では、政策への応用が論じられ、企業組織の改革や女性の数を増やすための施策が提起されています。

1977-08-Rosabeth-Moss-Kanter.jpg 本書が出版された1977年は、米国がアファーマティブ・アクション(欧州ではポジティブ・アクションと呼ばれている)を制定して10年目にあたっており、当初は人種間の不平等を是正するためのこの政策が女性にも適用が拡大され、それまで男性の職場と考えられていた管理職や多くの専門職、ブルーカラー的職種に女性も積極的に雇用することが義務付けられたり奨励されたりしたわけですが、その結果、広い分野に女性が現われ始めていたものの、その数はまだ少なく、「初の女性」という冠がつきまとう珍しいものであったようです(特に、高給を伴う職務では、なかなか女性の進出が進まない現状があったようだ)。

1977 08 Rosabeth Moss Kanter

 そうした中で、著者の主張は、第一に、女性の問題とされる企業における機会や地位の問題を男性の問題でもあるとし、職場において男性に特有とされる態度や行動が、実は機会や権力の有無や数の不均衡から生じているとしている点に大きな意味があります。そして、第二に、トークニズムという概念を発展させ、男女の人数の比率の不均衡は、多くのプレッシャーを少数派であるトークンに与え(トークンとは、本来は、目につきやすいもの、象徴という意味)、男性でも女性でも少数派に属する方に不利を与えるので、外部からの介入によって人数の平等を積極的に図らねばならないとしています。

 つまり、著者は、企業の中の大多数派(男性)とトークン(女性)の組織行動の中に見られるこの現象を本書において理論化し、トークンはトークニズムのプレッシャーのため、いつまでも力を発揮できず、発揮しても例外としか評価されないため、社会の固定観念を変化させる力とはならず、これが「最初の女性○○」が現われてもその後になかなか人数が増えないことの1つの理由であり、トークンを増やすには、外部からの圧力を使っう必要があるとしてアファーマティブ・アクション(ポジティブ・アクション)を擁護しているわけです。

 こうしたトークニズムの概念に踏み込んでいくのは本書の中盤以降にかけてですが、本書で描かれている「インダスコ社」の職員の企業生活が、1980年代の米国にとっての不況の時代以前のものであり、長期雇用を前提とした従来の日本型雇用の下での企業生活と似ているため、意外と身近な印象を抱きつつ読み進むことができるのではないかと思います。また加えて、著者の組織の中での人間の行動に対する鋭い観察の成果が組織行動論として冒頭から冒頭から随所に散りばめられており、人事パーソンであれば啓発される面も多いかと思います(個人的には第3章「管理者たち」における管理職の分析などは優れていると思った)。

《読書MEMO》
●目次
第1章 企業のなかの男と女‥そこに住む人々
第2章 インダストリアル・サプライ・コーポレイション‥舞台装置(要約)
第3章 管理者たち
第4章 機会
第5章 権力
第6章 数‥少数派と多数派
第7章 理論への貢献‥組織行動を決定する構造的な要因(要約)
第8章 実践への貢献‥組織的変革、アファーマティブ・アクション、職業生活の質(要約)

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チームを機能させるためには何が必要なのか、学習力・実行力を高める実践アプローチを説く。

チームが機能するとはどういうことか2.jpg チームが機能するとはどういうことか.jpg Teaming.jpg エイミー・C・エドモンドソン2.jpg Amy C. Edmondson
チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(2014/05 英治出版)/"Teaming: How Organizations Learn, Innovate, And Compete In The Knowledge Economy"(2012)

 病院、工場、役員室、災害現場など20年以上にわたって多様な人と組織を見つめてきた著者が、「チーミング」という概念をもとに、学習する力と実行する力を兼ね備えた新時代のチームづくりを描いた本です(Amy C. Edmondson,Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy,2012)。

 本書の原題は「チーミング」ですが、チーミングとは、組織が相互に絡み合った仕事をするために協働する「活動」を表す造語であり、それはチームといった静的なものとは異なり、動的な活動プロセスをさすものであるとのことです。本書では、組織がチーミングを通して成功するのに役立つ基本的な活動と条件について述べていて、以下のように全3部8章構成になっています。
(第1部)チーミング
  第1章 新しい働き方
  第2章 学習とイノベーションと競争のためのチーミング
(第2部)学習するための組織づくり
  第3章 フレーミングの力
  第4章 心理的に安全な場をつくる
  第5章 上手に失敗して、早く成功する
  第6章 境界を超えたチーミング
(第3部)学習しながら実行する
  第7章 チーミングと学習を仕事に活かす
  第8章 成功をもたらすリーダーシップ

 第1部ではチーミングに焦点を当て、チーミングをしっかり行うための中心的活動について述べるとともに、チーミングとはどのように機能するものなのか、チーミングの仕方を学ぶにはどれくらい時間がかかるのか、チーミングをしているとき人々はどのような行動をとるのか、チーミングは一体どのようにして組織学習を生み出すのかといった疑問に答えています。第1章ではまずチーミングとは何かを明らかにし、今日の複雑な組織においてなぜそれが不可欠なのかを探り、次いで学習と知識を理解するための新たな枠組みを示しています。第2章では、チーミングの段階的プロセスをさらに詳しく述べ、成功しているチーミングは、次の4つの特別な行動を伴っているとし、さらに、チーミングと学習を可能にする、以下の4つのリーダーシップ行動を明らかにしています。
(成功しているチーミングにおける4つの特別な行動)
 ・率直に意見を言う
 ・協働する
 ・試みる
 ・省察する
 (チーミングと学習を可能にする4つのリーダーシップ行動)
 ・行動1 学習するための骨組みをつくる
 ・行動2 心理的に安全な場をつくる
 ・行動3 失敗から学ぶ
 ・行動4 職業的、文化的な境界をつなぐ

 第2部では、その4つのリーダーシップ行動について、さらに詳しく述べています。ここではチーミングの人間的な側面に焦点を当て、様々な組織的背景の中で人々がどのように協力するのかを詳細に見ています。具体的には、第3章でフレーミングの力を探り、効果的な協働と学習を促すためにリーダーはフレーミングによってどのようなことが出来るのかを説き、第4章では、心理的安全によって、チーミングの成功に必要な考え方やスキルや行動がどのように促進されるのかを見ています。第5章では、なぜ失敗が組織学習の根幹であるかを示し、失敗によって生まれるチャレンジを乗り越えるための具体的な行動を紹介しています。第6章では、様々な分野や部署、企業、さらには国の間にある境界をつなぐ重要性と課題を検証しています。そして、実際につなぐとどんなことが可能になるかを、2010年にチリのサン・ホセ鉱山で起きた、地下600メートルの岩の中に閉じ込められた33人の作業員の「不可能な」救出劇を糸口に検証しています。

 第3部では、個人や個人間の行動から組織としての実践に焦点を移しています。第7章では、それまでの章で述べた「実行」の新たなモデルとなる教訓や戦略をまとめ、たゆまぬ学習と改善を確実にする反復プロセスを診断、デザイン、実践するための具体的な手順を紹介し、第8章では、3つのケーススタディを通して、プロセス改善、問題解決、イノベーションなど得られるだろう様々な学習の結果を考察しています。1つ目のケースでは、他社にリードを許してしまった企業において業績を改善させるリーダーシップに注目し、2つ目のケースでは、組織中の人を協働させ、複雑な業務における難しい問題を解決するリーダーシップについて述べ、3つ目のケースでは、イノベーションを支援して、先駆的な製品やプロセスを生み出すようなチーミングを成功させるリーダーシップに焦点を当てています。

 以上が本書の"あらすじ"ですが、要するに、チーミングとは、新たなアイデアを生み、答えを探し、問題を解決するために人々を団結させる働き方のことであり、また、組織間の境界を超えてつながり合うこと、つまり境界をつなぐことでもあるということになります。

 成功しているチーミングの特別行動を、「率直に意見を言う、協働する、試みる、省察する」の4つに定義し、学習するための組織づくりには「学習するための骨組みをつくる、心理的に安全な場をつくる、失敗から学ぶ、職業的、文化的な境界をつなぐ」という4つの行動が不可欠であるというのが著者の主張であり、また、そうした主張が、以下に展開される様々なケーススタディを通して説得力を持つものとなっており、また、各章の章末に「リーダーシップのまとめ」と「Lessons & Actions」というコーナーが設けられているという点でも分かり良いものとなっています。協働を推し進め、パフォーマンスを向上させたいと考えるリーダー、協働を後押ししたり、チームづくりの訓練をしたり、組織学習を実践したりする人事パーソンに是非お薦めしたい本です。

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ティール組織入門書としては良いが、ホクラシーの概念と混在してやや複雑になった?

実務でつかむ! ティール組織.jpg実務でつかむ! ティール組織  .jpg     ティール組織.jpg
実務でつかむ! ティール組織 "成果も人も大切にする"次世代型組織へのアプローチ』['18年]『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』['18年]
「月刊 人事マネジメント」2018年9月号
「月刊 人事マネジメント」2018年9月号.JPG フレデリック・ラルー著『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(2018年/ 英治出版)が刊行されて以来、人事専門誌などでも「自立分散型組織」に関する特集が組まれたりするようになりました。本書は、この本で提唱されているティール組織とはどのようなものであるか、これまで巷で次世代型組織と言われてきたホラクラシー組織とはどのような関係にあるのかを解説した本であり、著者は、日本初のホラクラシー認定ファシリテーターであるとのことです。

 1章では、『ティール組織』の中で示されているレッド、コハク、オレンジ、グリーン、ティールの5つの組織モデルについての概要を紹介するとともに、次世代型組織にあたるティール組織の、①進化する目的(エボリューショナルパーパス)、②「自主経営」が可能となる仕組みを有していること、③個人としての全体性の発揮(ホールネス)、という3つの要点について解説しています。さらに、ホラクラシー組織とはティール組織の1つの形態であるため、ティール組織同様、「社内上、社長や役員、部長等の役職自体を持たずに、組織の目的実現に向けてメンバーが進むことができるような独自の仕組みや工夫が溢れている」ことが特徴であるとし、ホラクラシー組織における「進化する目的」「自主経営」「個人としての全体性の発揮(ホールネス)」とは何かを解説しています。

 2章では、5つの組織モデルのうちオレンジ組織、グリーン組織、ティール組織について、それぞれトップダウン型組織(オレンジ)、ボトムアップ志向の組織(グリーン)、次世代型組織(ティール)と位置づけ、その特徴と移行の際の要点を実務的に解説しています。さらに、著者自身がボトムアップ志向の組織と次世代型組織との間に距離感を感じたことから、グリーン組織からティール組織への移行段階で、役職は残しまま次世代組織への土台をつくる「プレティール組織」という概念を設定しています。

 3章では、次世代型組織の3つの土台づくりとして必要な、①心の奥底の想いに気付き、互いに対話する、②目的地図と重要指標の透明化、③行動と目的の循環サイクル、の3つについて解説しています。

 4章では、次世代型組織の事例として、『ティール組織』でも取り上げられていたザッポス社のホラクラシーの活用例を紹介し、5章では、次世代組織の土台づくりに繋がる事例として、従来のマネジャーをなくし、"カタリスト(媒介役)"という役割を設定した株式会社ネットプロテクションズの事例などを紹介しています。

 ティール組織に関する解説は『ティール組織』に準拠しているため、同書の解説になっていると言えます。一方、ホラクラシー組織については、著者自身がティール組織の考え方との融合を試みたとも言えるのではないかと思います。ティール組織やホラクラシー組織の基本概念を整理し、何がその要点となるかを理解するには良い本だと思います。

 一方で、事例編の方は、次世代型組織(ティール組織)の事例として紹介されているのは『ティール組織』でも取り上げられていたザッポス社1社のみで、一方で、著者が設定した「プレティール組織」という概念に該当する「次世代型組織の土台に繋がる事例」は、日本企業やNPO法人などいくつかの事例が紹介されていますが、いずれもティール組織と言うより、どちらかと言うとホラクラシー組織の事例解説となっているように思いました。

 ティール組織というのがまだ事例が少ないため、理解しようとする側にとってもやや抽象的なイメージになりがちなのが今の段階であり、「プレティール組織」という過渡期的な概念を用い、それに該当する事例を紹介して解説した工夫は買いたいと思います。ただし、それらがティール組織とは実務上どのようなものかを理解するうえでの助けになったかもしれませんが、ティールとホラクラシーの両概念が混在して、概念的にはやや複雑になってしまった印象も受けました。

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「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(スマントラ・ゴシャール)

新しい企業モデルとしての「個を活かすマネジメント」を提唱。

個を活かす企業1.JPG個を活かす企業.jpg 個を活かす企業2.jpg christopher-bartlett-sumantra-ghoshal.jpg
個を活かす企業―自己変革を続ける組織の条件』['99年]/『【新装版】個を活かす企業』['07年]Christopher Bartlett & Sumantra Ghoshal
"The Individualized Corporation: A Fundamentally New Approach to Management"
企業のグローバル化の4類型.pngThe Individualized Corporation.jpg 「企業のグローバル化の4類型」の提唱者としても知られる著者らよる本書(原著"The Individualized Corporation"1997年)によれば、1980年代後半ごろから、世界中の企業はリストラ、組織階層の削減や事業の再編といった波にさらされてきたが、これは、グローバル競争の本格化によって市場の形態が変わり、技術革新のペースが速まり、情報化社会が急速に進展したことによるものであるとのことです。そうした情勢の中、本書では、世界の20社以上の企業のマネジャーにインタビュー取材し、これからの新しい企業モデルはどうあるべきかを探っています。

 第1部「新しい企業モデルの誕生」第1章「マネジメントの再発見―成熟企業から成長企業へ」では、ウェスチングハウスが送変電・配電部門をABBに買収された事例を通して、ABBがウェスチングハウスには存在しなかった個人に対する揺るぎない信頼を通して、そこで働く人の行動を変え、業績を好転させた、その新たなマネジメントの在り方を、元ウェスチングハウスのマネジャーの立場から描いています。

 第2部「『組織の中の個』から『個を活かす組織』へ」第2章「個人への信頼―自発性と起業家精神を育てる」では、3Mにおける「制度化された起業家的な行動」の3つの特徴(①「当事者意識」、②「自己規律」、③「支援的な文化」)を紹介し、閉じ込められた起業家精神を解放し、その潜在能力を発揮することができるようにするには、単なるエンパワーメント・プログラムを超えた、個を活かす企業の魂ともいえる、個人への信頼が重要となってくるとしています。

 第3章「知識の創造と利用―個人のノウハウを組織学習へ」では、マッキンゼーなどの例を挙げ、個を活かす企業は、個人の自発性と専門性を発揮させるだけではなく、組織の中に分散している自発性を結合させることが必要であり、組織学習によって個人のノウハウを育成するとともに、人材の採用を戦略的意思決定と考える必要があるとしています。また、組織横断的な情報の流れを作るとともに、信頼に基づく企業文化を築いて、組織の価値観を共有しなければならないとしています。

 第4章「継続的な自己変革―改善から再生へ」では、花王における継続的な自己変革の例を紹介し、自己変革能力に不可欠な要素として、①内部エネルギー引き出すストレッチを根づかせる、②柔軟な組織をつくる、③(伝統的な役割と組織に不均衡をもたらす)動態的な不均衡状態をつくり出す、の3つを挙げています。

 第3部「個を活かす企業の構築とそのマネジメント」第5章「社内の行動環境を変える―変革に必要な四つの特性」では、社員の行動をむしばむのは、「服従」「コントロール」「契約」「制約」という古臭い環境であり、それに代わって「規律」「サポート」「信頼」「ストレッチ」という4つの要素が相互に作用し共に進化するような変革の環境によって、変革のダイナミクスが生まれるとしています。 

 第6章「組織力の構築―プロセスのポートフォリオとしての企業」では、たとえ古い組織構造であっても変革は可能であり、企業を表向きの組織構造の観点から理解することは不可能であって、「起業プロセス」(現場のマネジャーが機会を求めて外を向く)、「統合プロセス」(企業内に分散する資源・競争力をビジネスに結び付ける)、「変革プロセス」(絶えず自分の信念や慣行に挑戦する)の3つのプロセスのポートフォリオとして考えるべきであるとしています。

 第7章「個人のコンピタンシーの開発―新しいマネジャーの役割」では、新しいマネジメントの役割に必要なコンピタンシーを「態度・特性」「知識・経験」「スキル・能力」の3つのカテゴリーに分類し、マネジメントにとっての最重要課題は、異なる役割において成功できる個人特性を見極め、素養があることが明らかなら、その望ましい資質をサポートし活用するための知識やノウハウを開発することであるとしています。

 第8章「変革プロセスのマネジメント企業―企業再生の三段階」では、個を活かす企業への変革を遂げるには、第一段階:合理化 起業家的な動きを創り出す、第二段階:再活性化 統合とシナジーを創り出す、第三段階:再生 継続的な自己変革を達成する、の3段階のプロセスをマネジメントすることが必要であるとしています。

 第4部「新しい企業の時代」第9章「会社と個人の新たな関係―価値創造者としての企業」では、個を活かす企業の経営哲学は、人のために価値を創造する「価値創造者としての企業」というコンセプトに繋がり、それは従来の雇用契約とは異なる新しい道徳契約に立脚しているとし、株主、顧客、社員、政府、地域社会などのステークスホルダーの間で未来を共有する関係を築き上げることが、その目的となるとしています。

 第10章「変わるトップ・マネジメントの役割―企業目的、プロセス、社員への視点」では、これからのマネジメントの役割は、ハードウエアである3S(戦略、組織、経営システム)から、ソフトウエアである3P(目的:Perpose、経営プロセス:Process、人:People)に関心を変える必要があるとしています。

 本書で提唱されている新しい企業モデルは、「組織の中の個」から「個を活かす組織」を作りあげることであり、個を活かす組織を構築するためには、マネジャーの役割を新たに創出しなければならず、そこから会社と個人の新しい関係が生まれてくるというのが本書の主張です。そして、社員個人が起業家精神を持つこと、タテの管理からヨコのつながりを重視した組織を作ること、そして、その組織はマネジャーを中心とした小さなグループの集合体であること―これが、企業を活き活きと活性化するカギであることを明らかにしています。

 '90年代に刊行された本であり、著者の一人スマントラ・ゴシャールは2004年に55歳の若さで他界していますが、いま企業には日々学習し、自己変革を続ける個の集まりとなることが求められているという意味では、今世紀においてもまったく色褪せていない、と言うよりますます重みを増している内容であり、そのことを裏付けるかのように、本邦でも2007年に新装版が刊行されています。

《読書MEMO》
●目次
第1部 新しい企業モデルの誕生
第1章 マネジメントの再発見―成熟企業から成長企業へ
 ある熟練マネジャーの転機
 老いた事業に新たな生命を吹き込む
 マネジメントの再発見
 トップ・マネジメントの率先垂範
 異端児か、それとも模範生か
第2部 「組織の中の個」から「個を活かす組織」へ
第2章 個人への信頼―自発性と起業家精神を育てる
 制度に組み込まれた3Mの起業家精神
 当事者意識を育てる
 自己規律を育てる
 支援できる環境をつくる
 閉じ込められた起業家精神を解放する
第3章 知識の創造と利用―個人のノウハウを組織学習へ
 戦略立案を超えた組織学習
 マッキンゼーにおけるグローバルな知識の活用
 個人のノウハウを養成する
 組織横断的な情報の流れを作る
 信頼に基づく企業文化を築く
 組織の価値観を共有する
 統合されたネットワークとしての組織
第4章 継続的な自己変革―改善から再生へ
 花王の継続的な自己変革
 ストレッチを根づかせる
 柔軟な組織を作る
 動態的な不均衡状態をつくり出す
 「酸い」と「甘い」を調合するマネジメント
第3部 個を活かす企業の構築とそのマネジメント
第5章 社内の行動環境を変える―変革に必要な四つの特性
 重要な「職場のにおい」
 変革のための環境
 フィリップス半導体事業部の変革
 環境から行動へ
第6章 組織力の構築―プロセスのポートフォリオとしての企業
 古い組織構造でも変革はできる
 ABBの組織
 プロセスのポートフォリオとしての企業
 新しい組織モデル
第7章 個人のコンピタンシーの開発―新しいマネジャーの役割
 新しいマネジメントの役割と個人の能力
 新しい個人のコンピタンシーと人事の役割
 個人の潜在能力を発見する
第8章 変革プロセスのマネジメント企業―企業再生の三段階
 変革の過程
 第一段階:合理化 起業家的な動きを創り出す
 第二段階:再活性化 統合とシナジーを創り出す
 第三段階:再生 継続的な自己変革を達成する
 個を活かす企業への変身
第4部 新しい企業の時代
第9章 会社と個人の新たな関係―価値創造者としての企業
 個を活かす企業の経営哲学
 人のために価値を創造する
 「未来を共有する」関係を築く
第10章 変わるトップ・マネジメントの役割―企業目的、プロセス、社員への視点
 戦略、組織構造、システムを超えて
 マネジャーの新たな任務

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「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(トム・ピーターズ/ロバート・ウォーターマン)

超優良企業の観察をもとに8つの基本的特性を示す。企業文化論のベストセラー。

エクセレント・カンパニー 講談社.jpgエクセレント・カンパニー 講談社文庫 上.jpg エクセレント・カンパニー 講談社文庫下.jpg エクセレント・カンパニー_.jpg
エクセレント・カンパニー―超優良企業の条件』['83年]/『エクセレント・カンパニー〈上〉 (講談社文庫)』『エクセレント・カンパニー〈下〉 (講談社文庫)』['86年]/『エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)』['03年]
トム・ピーターズ(Tom Peters)/ロバート・ウォーターマン(Robert Waterman)
トム・ピーターズ ド.jpgトム・ピーターズ.jpgrobert waterman.jpg 本書(原題:In Search of Excellence、1982)は、マッキンゼーで(出版当時)コンサルタントをしていたトム・ピーターズとロバート・ウォーターマンの2人が、米国の革新的超優良企業(エクセレント・カンパニー)に共通する8つの基本的特性を導きだしたものです。日本企業の躍進と米国企業の衰退が対比的であった1980年代前半に出版され、当時で100万人以上のビジネスパーソンが読んだと言われる世界的ベストセラーとなりました(トム・ピーターズは一時カリスマ的人気を博し、その啓発書は日本でもかなり売れた)。
エクセレントな仕事人になれ! 「抜群力」を発揮する自分づくりのためのヒント163

 著者らは、エクセレント・カンパニーの事例を最終的に62社に絞り込んでいますが、選ばれた企業のリスト自体はそう驚くようなものではなく、IBMやHP(ヒューレット・パッカード)、ウォルマート、GE(ゼネラル・エレクトリック)など、日本でもよく知られている大企業が多いです。本書の特徴は、大手企業などを称えながらも、冷淡な近代マネジメント刊行の行き過ぎを批判し、よりシンプルな基本に戻ることを説いている点にあります。

 第1部「優良企業の条件」第1章「成功しているアメリカ企業」では、自らが行った調査を元に、エクセレント・カンパニーに共通する8つの基本特性を挙げています。
1.行動の重視
2.顧客に密着する
3.自主性と企業家精神
4."ひと"を通じての生産性向上
5.価値観に基づく実践
6.基軸から離れない
7.単純な組織、小さな本社
8.厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ


 第2部「新しい理論の構築を求めて」第2章「『合理主義』的な考え方」では、行き過ぎた合理的な経営モデルを批判しています。
「私たちが異論を唱えたいのは、方向を誤った分析、複雑すぎて実用にならない分析、厳密すぎて扱いにくく柔軟性のない分析、本質的に予知不可能な分析、現場から離れた管理者が現場に対して管理中心の考え方で展開した分析などである。」

 第3章「人々は動機づけを望んでいる」では、プラスの動機づけを強化することの重要性を説き、超優良企業が超優良であるのは、平凡な人々から非凡な力を引き出すような組織を作っているからであり、そこには非凡なリーダーシップが働いているとしています。それは、「意味づけ」を求める人間の欲求に応え、組織の目標を創造するような「変容のリーダーシップ」であるとしています。
「『不合理な』人間欲求を満足させている超優良企業の体質をよく見るとき、その歴史の中には必ず、この『変容のリーダーシップ』を発見することができる。」

 本書の後半3分の2を占める第3部「基本に戻る」では、まず第4章「曖昧さと矛盾を扱う」で、これまでの経営理論の進展を顧みつつ、超優良企業にもしひとつの顕著な特徴があれば、それはこの、曖昧さと矛盾をうまく包括し、管理していく能力であるとし、第5章以下第12章までにおいて、先に挙げたエクセレント・カンパニーの8つの基本特性を、細かく検証・解説しています。

 第5章「行動の重視」では、行動の重視が8つの基本特性の中で最も重要であり、エクセレント・カンパニーは、非常に行動志向が強いとしています。
「『打ち方用意!撃て!狙え!』そして、『狙わずに撃ってしまったあとで、試行から学べ』。それで十分なのである。」

 第6章「顧客に密着する」では、エクセレント・カンパニーは顧客から学ぶとしています。IBMはテクノロジーではなく、顧客とマーケット優先主義を徹底し、ディズニーはひとを通じてのサービスを実践しているとのことです。
「顧客の声を聞き、顧客を会社に招き入れる。顧客をパートナーとする会社は優良な会社であり、その逆も真である。収益は顧客志向の結果として生まれるのである。」

 第7章「自主性と企業化精神」では、エクセレント・カンパニーは、社内に大勢のリーダーと創意ある社員をかかえており、それは私たちが「チャンピオン」と呼ぶ人々の巣箱であるとしています。GE:では大プロジェクトに自主参加できる仕組みがあり、3Mには失敗を支持する仕組みがあるとのことです。
「チャンピオンは先駆者であり、先駆者が力を発揮できるような、十分なバックアップが必要。バックアップがなければチャンピオンは生まれない。チャンピオンがいなければ革新はない。」

 第8章「"ひと"を通じての生産性向上」では、エクセレント・カンパニーは、ごく端末にいる一般社員を、品質および生産性向上の源泉のように扱っているとしています。例えば、ディズニーのファースト・ネーム・タグやキャストという呼称などは、企業をひとつの(拡大)家族であると見ている証しであるとしています。
「従業員を十分に教育し、妥当かつはっきりとした目標を与える。従業員に自主性を持たせ、すすんで業務改善、業績向上につとめるようにしむける。そうした意志と責任感を企業側が持つという意味で、人を大切にせよと言っているのである。」

 第9章「価値観に基づく実践」では、エクセレント・カンパニーは、エクセレント・カンパニーは、価値観を非常に大切にし、その指導者たちは、組織の末端にいたるまで、その価値観にもとづいた活気にみちた環境を作り出しているとしています。IBMのトーマス・ワトソン・ジュニアは、基本的な哲学、精神、組織としての推進力は、技術ないし経済的能力、組織構造、イノヴェーション、タイミングといったことより、組織としての成功にずっと深い関わりをもっていると述べているとのことです。
「自社の価値体系を確立せよ。自社の経営理念を確立せよ。働く人の誰もが仕事を誇りを持つようにするためになにをなしているか自問せよ。10年、20年先になって振り返ってみるとき、満足感をもって思い出せることをしているかと自問せよ。」

 第10章「基軸から離れない」では、エクセレント・カンパニーは、自分たちが熟知している業種(本業)に固執するとしています。そして、そんあ企業は、複雑化に向かう種々のプレッシャーにもかかわらず、ものごとをシンプルにしておくことの重要性を理解しているとのことです。ジョンソン&ジョンソンの創業者バード・ウッド・ジョンソンは、どんなビジネスにせよ、どう運営してはいいかわからないものに手を出してはいけないと述べていると。
「エクセレント・カンパニーでは、成長のほとんどすべてが、内部的に、自前の努力で達成されてきた。小さな会社を買ったり新しいビジネスに乗り出したりするのだが、十分に管理できる規模で行う。そして、明らかにリスクを小さくするのである。」

 第11章「単純な組織、小さな本社」では、エクセレント・カンパニーは、エクセレント・カンパニーの支柱になっている機構と体制は、すっきりと単純なものが多く、管理階層が薄く、本社の管理部門も小さいとしています。また、そうした企業では、"Small is beautiful"という考えに沿って、チーム制、プロジェクト制や自立型組織が機能し、 スピンオフや独立が奨励されているとしています。
「遺憾なことに、企業は大きくなるとともに複雑性を増す。そして、大会社のほとんどは、本質的な複雑さに対応するため、複雑なシステムと組織を考えだす。その結果、スタッフを増やしてその複雑さと取り組もうとするのだが、ここから誤りが始まるのである。」

 第12章「厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ」では、エクセレント・カンパニーは、工場の現場から製品開発チームにいたるまで、自主性を強調している反面、起業精神の中核となるいくつかの価値観については、狂信的ともいえるほど中央集権がきついとしています。共有された価値観が枠組を提供し、その範囲内の中で具体的な自主性が日常的に発揮され、外部を重視すること、外への視点、顧客への関心が、あらゆることのうちでもっとも厳しい自己規制の特性のひとつとなっていると。
「著しく厳格な文化が原動力となり、文化に管理される特性が、エクセレント・カンパニーを際立たせている。」

 著者ら掲げた優良さの判断基準には議論の余地もあり、また、本書で取り上げられた優良企業の中から業績不振に陥るものが出てくると批判に晒されたりもしました。しかし、著者ら自身が、「私たちは革新的な企業文化を持つ企業を挙げたが、それらの企業がいつまでも革新的といえるのかと聞かれる。答えはノーだ」(「ビジネスウィーク誌」1984)と警告しています。

 ビジネス書の進化の歴史の中でもターニング・ポイントなった本ですが。その理由の1つとして、組織の成功に関し、"人間は不合理で、人間をまとめる組織はその責任をとらなければならない"という考えのもとに、意義、最小限の管理など人道的価値観を唱え、ビジネスのソフト面、文化、社員が大事であるという結論を説いている点が、古典的な経営書と対照的であったということが挙げあっれるかと思います。

 また、著者らは、情熱的な観察者の視点から纏めているため、読んでいてまるで登場するエグゼクティブの話を役員会議室で聴いているような気持ちで読み進むことができるのも、本書の特長であるかと思います。

 従業員が、人間の不合理な行動や無分別ゆえに受け入れらる組織―本書はそうした時代を超えたビジネス組織のあり方を提示し、人間の変わり易い性質こそが組織を動かすエネルギーであることを示しているように思いました。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)
【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)
【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

【1986年文庫化[講談社文庫(上・下)]】

《読書MEMO》
●効果的なサービス思考に共通してみられる3つの特徴
1. 経営幹部が徹底的かつ積極的に参加していること
2. 従業員志向がきわだって強いこと
3. 従業員のサービスのチェック評価とそのフィードバックが徹底してること
●ニッチ戦略によって顧客に密着している企業の5つの特徴
1. テクノロジーを抜け目のないほど巧みに利用している
2. 価格設定がうまいこと
3. マーケット細分化に1日の長があること
4. 問題解決指向が強いこと
5. 差別化のために費用をかけるのを惜しまぬこと

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組織の制度化に押し潰されないためのゲリラ戦を開始する方法について述べた箴言集。

ロバート・タウンゼンド組織に活を入れろ13.jpg組織に活を入れろ08.JPG  ロバート・タウンゼンド組織に活を入れろ il2.jpg
組織に活を入れろ (1970年)』"Up the Organization: How to Stop the Corporation from Stifling People and Strangling Profits"

 原題は"Up the Organization: How to Stop the Organization from Stifling People and Strangling Profits"(1970)。著者のロバート・C・タウンゼント(Robert Townsend,1920-98)は、終戦後アメリカン・エクスプレス社に入り(1948-62)、同社の専任副社長兼取締役を経て、その後、ハーツ(Hertz)に次ぐ全米第2位のレンタカー会社エイビス(Avis)の社長に就任、「わが社は業界第2位にすぎませんが懸命に頑張っています」という有名なキャッチコピーで宣伝し、"ミスター・№2"という綽名で呼ばれた人です。彼が社長に就任してから2、3年の間に、エイビス社は驚異の成長を遂げましたが、1965年に巨大コングロマリットITT(International Telephone and Telegraph)に買収されてしまい(当時ITTエイビスレンタカー.jpgは『プロフェッショナルマネジャー ~58四半期連続増益の男』(`04年/プレジデント社)のハロルド・ジェニーンがトップを務めていたが、そのITTも今は存在しない。ただし、オンライン予約のエイビスレンタカー・システムという会社はグローバル企業として残っていて、日本でもオーバーシーズ・トラベルが運営しており、エイビスレンタカー名義として存在する)、ロバート・C・タウンゼントはその買収された時に即座に社長を辞めています(本書刊行時点で49歳。まだ50代の手前だった)。

組織に活を入れろ (1970年)L.jpg 本書は、マネジメントの要諦を随想風に綴った箴言集とでも言えるものであり、「広告(Advertisement)」から「あいそをつかされるな(Wearing out Your Welcome)」まで、おおよそ100近くの章がタイトルのアルファベット順に並んでいて、目次を見て関心のあるタイトルを選び、どこから読んでも読めるようになっていて、また、何れも含蓄に富んだ内容となっています。

 「側近」(p28)の章では、側近であることが楽しくてたまらないやつは吸血鬼だけだと言い、併せて、最も良い組織形態のあり方を説いています。「組織内の衝突」(p49)では、衝突は組織が健全であることを示す証拠ではあるが、それには限度があり、すぐれたマネジャーは衝突をなくしようとはせず、ただ、そのために部下のエネルギーが浪費されるのを防ごうとするとしています。「権限の委譲」(p60)では、口先だけの信頼を示す人は多いけれども、重要な問題を処理する権限を委譲する人は少ないとしています。

 周知の通りアメリカは契約社会ですが、「雇用契約なんか、くそ食らえ」(p72)では、雇用契約がなければ、会社はたえず挑戦的な溌剌とした雰囲気を保って、報酬が業績と見合うようにしなければならず、その方がいいとしています。「株主にたえず報告を送れ」(p112)では、株主は、会社の経営状態が順調なときはこうるさい存在にすぎないが、状態が悪化してくると、会社の存立を脅かす絶大な脅威となりうるとし、株主に対する情報連絡のコツを示しています。

 「職務明細書」(p115)では、ジョブ・ディスクリプションは職務の"冷凍品"にすぎず、いちばんまずいのは、その職務を理解していない人事部門の人間によって作成されていることであり、しょっちゅう改訂するので、むやみに金がかかるばかりか、社員の士気を大いに阻喪させるとしています。「弁護士は負債になりかねない」(p120)では、正しい法律的な助言を受けられるかどうかは、法律事務所の選び方よりも、弁護士そのものの選び方にかかっているとしています。

 「指導者とは」(p122)では、「人々を導かんとするならば、人々の後を行くべし」という老子の言葉を引いて、指導者の任務は部下の利益をはかることであって、自分の懐を肥やすことではなく、戦場において将官は最後に飯を食うべきだとしています。現代の大会社の人々は、管理されているだけで指導されてはおらず、人間ではなく職員なのだとも。「二つの経営者層」(p125)では、"トップ"マネジメントとはフクロウがわんさかたむろしている樹木のようなものであり、社長以下のマネジメントが森の中で道を間違えたりするとぶうぶうわめきたてるが、森がどこにあるかを彼が知っていたという話は一度も聞いたことがないと皮肉っています。

 「経営コンサルタント」(p129)では、有能な経営コンサルタントは一匹狼だけで、徒党を組んでいるやつは破壊的であり、時間を浪費し、金を使わせ、優秀な社員たちの頭を混乱させて士気をくじき、何の問題も解決しないどころか、問題を増やすばかりだとしています。「社員」(p166)では、マグレガ―のⅩ理論とY理論を分かり易く説いています(この章は8ページで、これで長めの方)。「人事」(p175)では、あまり大きな会社でなければ人事課はいらないとし、人事管理の専門家の悪い癖は、職務明細書、配置転換チャートなどといったカラクリを弄ぶことだとしています。

 その他、「死後硬直状態の組織図」(p164)、「内部の者を抜擢しろ」(p191)、「再組織化」(p201)、「給料が不当に安いとき」(p237)といった、組織と人事に関する章が数多くあり、人事パーソンにとっても読み所は多いと思われます。また、最後に附録として、「あなたのボスの指導者としての価値の採点法」というものも付されています。

 ピーター・ドラッカーは著者タウンゼントを評して、「無類の革命家であり、無類の風刺化であり、恐れることを知らぬ正義の人である。彼はいかにして人々に働く意欲をわかせるかということに焦点をおかない経営学には、いっさい目をもくれない。彼は偉大な実業家あるいは偉大な経営者の一人として歴史に名をとどめることはないだろう。彼は偉大な将軍ではなく、それよりも難しい、偉大なゲリラ指導者であるからだ」としています。

 冒頭の著者自身による覚え書には、たいがいの会社では、働いている人に共通するのは、従順であること、退屈していること、そして生気のないことであり、彼らは組織系列の小さな囲いの中に閉じ込められたまま、誰も変えることができないために惰性で運用されている階級制度の奴隷となっているとし、本書は、こうした状況を打開するために、「われわれが奉仕している組織の装備を片っ端から剥ぎ取って、組織がわれわれに奉仕している部分だけを残す」そのための非暴力のゲリラ戦を開始する方法について述べたものであり、非マンモス会社ないしはマンモス会社の非マンモス部門を、従業員が人間として扱われるように運営させる勇気と、ユーモアとエネルギーをもった人々に、この本を捧げたいとあります。

 語られている言葉が今もって全く風化していないことに、著者の慧眼が窺えます。人事パーソンのみならず、企業組織やマネジメントに関わる人に遍(あまね)くお薦めできる本です。

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【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

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公式組織は非公式組織から。組織の要素は、(1)コミュニケーション、(2)貢献意欲、(3)共通目的。
新訳 経営者の役割7.JPG新訳 経営者の役割_.jpg  チェスター・I・バーナード.jpg Chester I. Barnard
経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)

 本書は、経営学(経営組織論・経営管理論)の古典であるチェスター・I・バーナード(Chester I. Barnard)の著書です(原題:The Functions of the Executive、1938)。内容は、大きな流れとして、まず組織論を展開し、それに基づいて管理論を展開するという構成になっていて、また、組織論においては、人間論→協働論(協働システム論)→組織論(公式組織論)という構成がとられています。

 第1部「協働体系に関する予備的考察」では、第1章「緒論」で、本書が公式組織を論じるものであること、公式組織とは、意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働であり、組織の存続は、環境が不断に変動するなかで、複雑な性格の均衡をいかに維持するかにかかっており、このためには組織の内的な諸過程の再調整が必要であるとしています。第2章「個人と組織」では、人間の特性として、活動、心理的要因、選択力、目的の4つを挙げ、この本では特定の協働体系の参加者としての人間を、純粋に機能的側面において、協働の局面とみなすとしています(協働を二人以上の人々の活動の機能的システムと考える考え方)。一方、なんらかの特定の組織の外にあるものとしての人間は、物的、生物的、社会的要因の独特に個人化したものであり、限られた程度の選択力をもつものとみなされるとしています(人間を協働的な機能もしくは過程の対象と考える考え方)。そして、組織はこれらの範疇のうちの1つを統制したり、影響を与えることによって、個人の行為を修正する結果を生じるとしています。第3章「協働体系における物的および生物的制約」では、協働が有効である時とその理由、協働の目的や性格について述べ、さらに、協働が環境や目的の変化に適応するために、管理者あるいは管理組織が必要になるとしています。第4章「協働体系における心理的および社会的要因」では、3章までの協働論では除外してきた心理的要因、社会的要因に関して述べられています。第5章「協働行為の諸原則」では、物理的、生物的、人格的、および社会的な諸要素や諸要因が、ひとつでも欠けているような協働体系は存在しないとし、協働体系はつねに動的なものであり、物的、生物的、社会的な環境全体に対する継続的な再調整のプロセスであるとしています。

 第2部「公式組織の理論と構造」では、第6章「公式組織の定義」で、協働体系とは、少なくとも一つの明確な目的のために二人以上の人々が協働することによって、特殊の体系的な関係にある物的、生物的、個人的、社会的構成要素の複合体であるとしています。第7章「公式組織の理論」では、組織は、(1)相互に意思を伝達できる人々がおり、(2)それらの人々は行為を貢献しようとする意欲をもって、(3)共通目的の達成をめざすときに成立し、従って、組織の要素は、(1)コミュニケーション、(2)貢献意欲、(3)共通目的であるとしています。第8章「複合公式組織の構造」では、構造的な見地から複合組織に関する一般的な記述を行い、第9章「非公式組織およびその公式組織との関係」では、非公式組織とは何か、その諸結果は何か、公式組織による非公式組織の創造や公式組織における非公式組織の機能について述べています。ここでは、公式組織における非公式組織の機能として、コミュニケーション機能、貢献意欲と客観的権威の安定とを調整することによって公式組織の凝集性を維持する機能、自律的人格保持の感覚、自尊心および自主的選択力を維持することなどを挙げています。

 第3部「公式組織の諸要素」から管理論に入っていき、第10章「専門化の基礎と種類」では、専門化(分業)と組織におけるその意義について述べ、第11章「誘因の経済」では、組織を構成する「貢献」は、組織が個人に与える誘因との交換の形で発生するものであり、つまり、組織と個人とは、誘因と貢献の交換関係になるとしています。第12章「権威の理論」では、権威の源泉は何か、権威が受容される条件とは何か、などについて述べています。ここでは、権威が受容される条件として、(a)コミュニケーションを理解でき、また実際に理解すること、(b)意思決定に当り、コミュニケーションが組織目的と矛盾しないと信ずること、(c)意思決定に当り、コミュニケーションが自己の個人的利害と両立しうると信ずること、(d)その人は精神的にも肉体的もコミュニケーションに従いうること、の4つを挙げています。第13章「意思決定の環境」では、バーナードの考える意思決定とは何かが論じられ、第14章「機会主義の理論」では、意思決定のプロセスの原則が論じられています。ここでは、意思決定は、最終的には、環境を変えるか、目的を変えるか、どちらかの行為に行き着くとしています。

 第4部「協働システムにおける組織の機能」ではさらに管理論を展開し、第15章「管理機能」では、管理者の果たすべき機能が論じられ、それは、組織伝達(コミュニケーション)の維持、必要な活動の確保、目的と目標の定式化の3つであるとしています。第16章「管理過程」では、管理過程において、全体という観点から考慮されなければならない二つの要因は、行為の有効性と能率であるとしています。第17章「管理責任の性質」では、協働の道徳的側面についての論考が展開されています。

 組織が成功するためにはコミュニケーションが不可欠であり、なぜならコミュニケーションが全員を諸目的に結びつけるからであるということが強調されています。本書に従えば、マネジメントの不可欠な機能とは、第1にコミュニケーション機能の提供、第2に目的達成のための不可欠な努力の促進、第3に目的を定義し定式化すること、ということになります。また、人的ネットワークである非公式組織に着目し、非公式組織に共通の意図や目的が与えられることによって公式組織に転化する一方で、公式組織はそれ自体が非公式組織を生み出し、それは、非公式組織が伝達、凝集、個人の保全の手段として公式組織の運営に必要であるからであることを初めて指摘した本でもあります。経営者は短期的な業績ばかりを重視する独裁者であってはならず、経営者には、組織や価値観や目標を育てる責任があり、さらに、マネジメントには道徳性に関わる面があるとしており、そうした意味でも、今読んでも啓発される面は多い名著であると思います。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●目次

日本語版への序文

第1部 協働システムに関する予備的考察
第1章 緒論
第2章 個人と組織
第3章 協働システムにおける物的および生物的制約
第4章 協働のシステムにおける心理的および社会的要因
第5章 協働行為の諸原則
第2部 公式組織の理論と構造
第6章 公式組織の定義
第7章 公式組織の理論
第8章 複合公式組織の構造
第9章 非公式組織およびその公式組織との関係
第3部 公式組織の諸要素
第10章 専門家の基礎と種類
第11章 誘因の経済
第12章 権威の理論
第13章 意思決定の環境
第14章 機会主義の理論
第4部 協働システムにおける組織の機能
第15章 管理機能
第16章 管理過程
第17章 管理責任の性質
第18章 結論

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物事の本質を見透かす力と逆説的なユーモアのセンスが光る。

パーキンソンの法則ー図2.jpg パーキンソンの法則.jpg パーキンソンの法則 上野訳.jpg
パーキンソンの法則 (至誠堂選書)』['96年]/『新編パーキンソンの法則―先進国病の処方箋 (1981年)
パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (1965年) (至誠堂新書)
パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (1965年).jpg 1958 年に原著が刊行された「パーキンソンの法則(Parkinson's law)」は、英国の歴史学者・政治学者シリル・ノースーコート・パーキンソン(Cyril Northcote Parkinson)が英国エコノミスト誌(1955/11/19 号)に発表した風刺コラム「Parkinson's law」から始まっています。彼は英国の官僚制度に関する研究を行い、官僚制度(企業の管理機構等も含む) に内包する問題点・非合理性を鋭い観察眼で指摘して、世の共感を得、日本でも「パーキンソンの法則」が流行語になるほど普及しました。

 「パーキンソンの法則」とは―、
第1法則: 仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する、
第2法則: 支出の額は、収入の額に達するまで膨張する、
第3法則: 拡大は複雑化を意味し、組織を腐敗させる、
凡俗法則: 組織はどうでもいい物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く、
 ―以上のようなものを指すとされていますが、第1法則も第2法則も官僚世界では「時間はあるだけ使ってしまう」「金はあるだけ使ってしまう」という「貴重な資源を使い切ってしまう」点で共通性があります。

 邦訳は、翻訳者によって取り上げる章とその順序が異なりますが、ここでは、原子核物理学者の森永晴彦氏の訳による至誠堂選書版『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』('81年4月)に概ね準拠します。

 第1章「パーキンソンの法則-公務員は如何にしてふえるか」では、役人の数は、仕事の量や有無に関係なく増えるとし(パーキンソンの第1法則)、①役人は部下を増やすことを望むが、ライバルは望まない、②役人は互いのために仕事をつくり合う、の2つがその動因だとしています。自分の仕事が過重だと感じるようになった役人Aは、1.辞めるか、2.同僚Bと仕事を分かち合うか、3.2人の部下C、Dの助力を求めるかで、この中で3番目の方法以外が選ばれたことは歴史的に殆どないとしています。そして、英国の植民地省の役人の人数が、英国の植民地が次々独立して植民地でなくなって行く過程でもその数は増え続けたという実証例に挙げ、時として大企業でも、役所と同類のこうした大企業病と言われる事態に陥ることがあるとしています。

 第2章「民衆の意思-中間派の理論」では、議会制度における(議題を理解する能力のない)中間派の操縦法を説いています。会議の決議においては中間派の票が最終的に重要であり、議会における勝利を得るためのキーは、反対者の説得ではなく、明確な意見を持たない中間層を引き込むことであり、それは会場の議席の配置によっても大きな影響を受けるとしています。

 第3章「高度財政術-関心喪失点」では、予算審議に必要な時間は、金額が巨大になりイメージが沸かなくなればなるほど短くなるとしています。内容が難しい事案ほど短時間で議決され、誰にでも判る簡単な事案の審議時間は長くなる、つまり、誰でも口を出せる事案では発言者が多くなり、審議時間が長くなるとしています(パーキンソンの凡俗法則)。本書では、原子力に関する議題は理解できる人が殆どいないために5分間で採決されてしまうが、役所で使う事務用品などの議題では誰もが一見識をひけらかし、採決に2時間もかかり、その後出席者は、自分は有益な仕事をしたとの満足感で議場を去る―と皮肉を込めて書かれています。

 第4章「閣僚の定数-非能率の係数」では、委員会の最適な人数は5人~7人程度で、20人を超えると運営不可能になるとしています。従って、内閣や委員会において、そのメンバーは22人未満とすべきであり、22人以上であればその組織は有効なものになり得ず、構成メンバーの機能としては、大蔵、外務、防衛、法務の5人に限ればそれが良いとしています。

 第5章「人選の原理-採用試験と求人広告」では、旧式の英国式面接では人材の採否は家柄で決定した一方、中国(科挙制度)では多くの選抜を経て官吏登用者が決まったとしています。今後の求人の在り方としては、人材取得に時間をかけることを避けたいのであれば、募集内容に具体的な内容を記載すれば良いとし、1人の求人に対して応募者1人というのが最も望ましいが、そのためにはどのような求人広告を出せばよいかをユーモラスに説いています。

 第6章「非建設的建築-行政のしこり」では、立派な建造物は組織の衰退の兆しであるとしています。ある組織の立派な建造物の建設計画はその組織の崩壊点に達成され、その建築が有効活用されることは少なくともそのとき必要とされた組織によってはされない。その完成は組織の終息や死を意味すること(パーキンソンの第3法則)を、ルイ王朝の宮殿を例に引いて説いています。

 第7章「人物映写幕-カクテル・パーティーの公式」では、カクテル・パーティーにおける重要人物の見分け方を説いています。その人物は、パーティ開始後75分から90分後に遅れてやって来て、E7(会場を左からA,B,...Eと分け、入り口から奥に向かって1,2,3...8と分けたときのE7の方形)の中におり、グループの中心となっている人物であるとしています。

 第8章「劣嫉症(インジェリティティス)-組織病理学」では、組織のマヒは、「劣嫉症の出現:劣嫉症(第1期)」→「優秀な人物の排除:独善(第2期)」→「劣嫉症のみの組織の形成:無関心(第3期)」の順で進行するとしています。治療の原則は、①治療を行うものと、治療をうけるものが同一人物ということはあってはいけない。②第1期と第2期は治療可能であるが、第3期は治療不可であること。治療の方向性として、第1期は、叱咤激励、報奨の実施、第2期は外部からの人材補充による組織の活性化、第3期は隔離し、速やかに組織を潰すことであるとしています。

 第9章「苦力(クーリー)百万長者の話-中国風成功」では、中国人のお金持ちは決して目立ってそれを表すことはなく、その理由は、目立てば、身代金、納税、マスコミ対策に対する出費がかさむからであり、逆に、目立ってそれを見せている人は、そのような対策を気にする必要も無いほどの権力を得た者たちであるとしています。

 第10章「恩給点の解析-退職の潮時」では、退職する側とその後を引き継ぐ者の年齢差から適切な退職時期について考察しており、退職させる方法としては、退職させるべき人を退職させるためには、海外の視察をハードスケジュールで行わすといったものが挙げられるとしています。

 本書の内容は、「膨大な研究のもとこれらが纏め上げられた」とのことですが、その中には確かに数学的根拠に基づいているものもありますが、むしろ、著者の経験則からくる物事の本質を見透かす力と逆説的でアイロニカルなユーモアのセンスが大きく反映されているように思います。

 本書が書かれた1950年代の終わりは、人間関係論学派が米国で開花し、大量生産と並んではびこっていた官僚主義が批判に晒されていた時期と一致します。マックス・ウェーバーの予言した「書類を生産する機会」という官僚モデルが現実のものとなり、何層にも重なる管理担当者によって組織の動脈硬化が進行していた時期に書かれたものではありますが、そうした1958年という企業における官僚主義の絶頂期において書かれたものが、今現在においても読む者の共感を呼ぶのは、人と組織の関係性というものは一定の普遍的特性を持っていて、変わろうとしてもそう簡単に変われるものではないということの証しではないでしょうか。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

パーキンソンの法則―はだかの経営学.jpgパーキンソンの第2法則.jpg
森永晴彦 訳[至誠堂]...【1961年6月単行本(『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』)/1965年新書版(『パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (至誠堂新書)』)/1981年選書版(『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本 (至誠堂選書2)』)】
上野一郎[ダイヤモンド社]...【1981年3月単行本(『新編 パーキンソンの法則―先進国病の処方箋』)】

パーキンソンの成功法則 (1963年)
パーキンソンの第2法則かねは入っただけ出る (1965年) (至誠堂新書)

《読書MEMO》
●至誠堂選書版『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』('81年4月)森永晴彦(原子核物理学者)氏訳
1 パーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるかパーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるか
2 民衆の意志―中間派の理論―
3 高度財政術―関心喪失点―
4 閣僚の定数―非能率の係数―
5 人選の原理―採用試験と求人広告―
6 非建設的建築―行政のしこり―
7 人物映写幕―カクテル・パーティーの公式―
8 劣嫉症(インジェリティティス)―組織病理学―
9 苦力(クーリー)百万長者の話―中国風成功法―
10 恩給点の解析―退職の潮時―
●ダイヤモンド社版『新編パーキンソンの法則―先進国病の処方箋』('81年3月)上野 一郎(学校法人産業能率大学理事長)氏訳
政府
1 パーキンソンの法則 ― 役人はどんどん増える(至誠堂版1 パーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるか)
2 二十一年後 ― 私の預言は当たったか
3 パーキンソンの第二法則 ― 金は入っただけ出る
財政
4 些事こだわりの法則 ― 関心得失の分岐点(至誠堂版3 高度財政術―関心喪失点)
5 課税の限界 ― 二0パーセントをこすと...
6 税金のがれ ― 節税と脱税
人事
7 適格者選択の原理 ― 総理大臣の選び方(至誠堂版5 人選の原理―採用試験と求人広告)
8 ナンバー2 ― あなたは社長になれるか
9 先輩を退陣させる法 ― 退職の潮時(至誠堂版10恩給点の解析―退職の潮時)
戦術
10 嫌な奴="ノー・マン" ― 役所でOKをもらう法
11 引延しの法則 ― 「ノー」といわずに「ノー」という法
12 大衆の意思 ― 中間派が決定を左右する(至誠堂版2 民衆の意志―中間派の理論)
組織
13 閣僚の数は何人が適性か ― 能率、非能率の分岐点(至誠堂版4 閣僚の定数―非能率の係数)
14 劣等感とやきもちの病 ― 停滞組織の治療法(至誠堂版8 劣嫉症(インジェリティティス)―組織病理学)
15 建物が豪華になると ― 組織衰退の徴候(至誠堂版6非建設的建築―行政のしこり)
法則
16 真空の法則 ― 打つ手が悪いと...

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「組織論」には違いないが、「こわい上司のひと言」集がいちばん印象に残ったか。

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思考停止する職場 ~同じ過ちを繰り返す原因、すべてを解決するしかけ~』(2018/03 大和書房)

 スタンフォード大学工学博士であり、特定非営利活動法人「失敗学会」の副会長でもあるという著者による本書では、職場での思考停止を防ぐために、上司は何を考えなければならないか、部下の潜在能力を引き出し、自分のグループの活力を倍増させるために、部下とどうコミュニケーションをとればよいのかについて解説していています。また、そうした課題を解決するための手法として、「エムパワリング・コミュニケーション」というものを提唱しています。

 第1章では、コミュニケーション不足が引き起こす職場のリスクについて解説しています。ミスが起こったときには必ず原因があり、著者はその原因の分類として、「学習不足」「注意不足」「伝達不良」「計画不良」の4つを挙げています。その結果起きるのが「無知」「無視」「過信」であり、「無知」と「過信」は努力次第で何とか減らせるが、「無視」には無意識的なものと意識的なものがあって、どちらも解決は簡単ではないとしています。そこで、人の組織が頼ってしまうのが「周知徹底」「教育訓練」「管理強化」であるが、失敗学ではこれを「三大無策」といい、これらが通用しないばかりか、致命傷につながったり、最も職場を壊すことになったりする理由を解き明かしています。

 第2章では、自分で考える部下を育てるために、部下とどう接すればいいか、どう指導すると良いかを説いています。著者はマニュアルというものを否定しておらず、最初の仕事はマニュアル通りに作業を進めることを教え、マニュアルに疑問を感じたら、自分で解決しようとせず、相談するよう指導し、部下と一緒になってマニュアルの不備を見つけて修正する姿勢をとるのがいいとしています。指示待ち人間に対しては、根気よくその人が自分で考えるよう、まず簡単なタスクを与えて徐々に育てることを考えるべきで、急に考えるように仕向けると、無用なプレッシャーを与えてしまうとしています。

 また、部下にうまく育ってもらうための効果的サポートの方法として、「はい」という返事は真に受けず、経過を確認するとともに、自分の考えを押しつけず、部下が考えていい答えを出すチャンスを与えること、思考展開図をうまく使い、部下と一緒に作ることを心がけること、まず目標は何か、要求機能を正しい言葉で表現することなどが重要であるとし、どのような失敗が起こり得るか、チームで徹底的に考えることが逆境に強いチーム作りにつながるとしています。

 第3章では、どのような話し方が人の創造性を潰してしまうのかを解説しています。ここでは、「リスクがある」「前例がない」「成功例はあるの?」「それ、ニーズあるの?」「うちの業界はね......」「できない」「つべこべいうな」といった否定的、懐疑的で部下の活力を削ぐような言葉から、「かんたんだから」「期待してるよ」という抽象的な励ましや、「合理化・効率化」「コスト優先」「ノルマ達成」といった往々にして使いがちな言葉が、しばしば部下たちの思考を停止させたり、創造性を奪っていると指摘しています。

 この中で、「コンプライアンスの遵守」は、うかつに掲げると却ってあだとなるというのは、ハーバード・ビジネススクールのマックス・H・ベイザーマン教授らの著書『倫理の死角―なぜ人と企業は判断を誤るのか』('13年/エヌティティ出版)に述べられている指摘に通じるものがあるように思いました(けっして目新しい指摘ということでもないということになるが)。

 第4章では、それでは思考が動く職場とはどのような場所なのかを考察しています。作業の流れをグラフ化するなどの、思考停止に陥らない仕事の進め方や、成功事例よりも失敗事例に学ぶほど誤判断が減るとして、失敗の測定や分析方法、事後に生かすための報告書の書き方などを紹介し、職場での運用方法について解説しています。

 事故・不祥事の発生予防だけでなく、正しい組織運営の在り方を説いた本。但し、まえがきにあった「エムパワリング・コミュニケーション」というものが本文内で定義されておらず、それが本書のどの部分を指すのかよく分からなかったですが(おそらく本書全体?か)、「自分の保身しか考えない」上司が会社を破壊するといったことなど、しっくりくる部分は少なからずありました。

 創造性を発揮できるようにするためには、柔軟かつ科学的な組織運営が求められるとしており、基本的には組織論の本であると思います。仕事上のミスや誤認は、現場と司令塔のギャップや暗黙知の過信などのコミュニケーションの不具合から起きるということを、事例を交えて検証し、組織メンバーの潜在能力を引き出すポイントは、コミュニケーションの巧拙にかかっているとしています。その意味では、第3章の「こわいのは(創造性を潰してしまう)、上司のこのひと言」集は、いちばんストレートに気づきを促してくれる部分だったかもしれません。

《読書MEMO》
●自分で考える部下を育てるために、どう接すればいいか、どう指導すると良いか(155p)
・最初の仕事は真似から始まります。このときはマニュアル通りに作業を進めることを教えてください。
・マニュアルに疑問を感じたら、自分で解決しようとせず、相談するよう指導してください。一緒になってマニュアルの不備を見つけて修正する姿勢をとるのがいいでしょう。
・マニュアルを使用しながら、その内容を見直すことになりますが、そのとき、利用者の立場から、マニュアルがどうあるべきかを考えるよう指導してください。
・指示待ち人間に対しては、根気よくその人が自分で考えるよう、まず簡単なタスクを与えて徐々に育てることを考えること。急に考えるように仕向けると、無用なプレッシャーを与えてしまいます。
●うまく育ってもらうための効果的サポート(156p)
・「はい」という返事は真に受けず、経過を確認してください。
・自分の考えを押しつけず、部下が考えていい答えを出すチャンスを与えてください。
・思考展開図をうまく使い、部下と一緒に作ることを心がけてください。まず目標は何か、要求機能を正しい言葉で表現することが重要です。
・社会にある失敗事例をうまく利用し、仮想的な失敗に備える練習をチームで行ってください。
・どのような失敗が起こり得るか、チームで徹底的に考えることが逆境に強いチーム作りにつながります。

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'02年新訳の新装版。パラドックスというより「矛盾に見える真実」。今一度再読するのも良い。

ピーターの法則 sin .jpg ピーターの法則.jpg  The Peter Principle.jpg Laurence J. Peter.jpg
[新装版]ピーターの法則―「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』(2018/03 ダイヤモンド社)/『ピーターの法則』新訳版 〔'02年〕/The Peter Principle〔'84年版〕/Laurence J. Peter(1919-1990)

[新装版]ピーターの法則51.jpg 教育学者ローレンス・J・ピーターが唱えた有名な「ピーターの法則」の原著『THE PETER PRINCIPLE』は1969年に出版され、1970年に邦訳されていますが(よって個人的には再読になる)、2002年に新訳が刊行され、さらに今回その〈新装版〉である本書が出たことになり、やはりインパクトは今でもあるのかと思われます。

 本書は、まず第1章で、「ピーターの法則」なるものを示しています。それは、《階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能のレベルに到達する》というものです。そして、《やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる》ことが必然であるとしています。では一体、誰が仕事をしているのか? それは、《仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われている》のであるとしています。

 第2章、第3章では、階層社会はこのピーターの法則に支配されていて例外はないとし、第4章から第6章にかけては、無能を生む昇進は実際どのようにして行われるのか、優秀なリーダーがいかにして排除されるのかを説き、第7章では、平等主義が昇進を促し、それだけ多くの無能を生み出すとしています。第8章では、先人たちの「無能の研究」を振り返り、第9章では、なぜ人は無能に突き進むのかを考察しています。

 第10章では、無能が無能を生むという悪循環について説き、第11章から第13章にかけては、成功した人(=無能レベルに達した人)はさまざまな病気を患っていることが多く、無能ゆえにいろいろ奇妙な行動をとるとし、無能レベルに達した人には現実を直視することは禁物で、健康と幸福を維持するためには、問題のすりかえを行うことが効果的であるとしています。

 第14章では、無能に陥らないためには、昇進拒否も一手ではあるが、それに勝る方法は、自分が無能レベルに達していることを周囲に印象づけること、つまり「創造的無能」こそが無敵の処世術であるとしています。そして、最終第15章では、「ピーターの特効薬」として、昇進を回避する方法や無能レベルでも健康と幸福を維持する方法などを紹介し、ピーターの法則は、滅亡に至る昇進の代わりに生活の質の向上をもたらすとして、本書を締め括っています。

ピーターの法則601.jpg すでに察せられるように、全体がある種パラドックスとなっており、ビジネスパーソンに対し、昇進するのが必ずしも良いことではなく、自分の適性を見極め、創造的な職業人生を送るよう示唆しているととれます。

 一方、人事パーソンの視点から見ると、本書におけるパラドックスは、「真実に見える矛盾」というより「矛盾に見える真実」としての色合いが、経験上より強く感じられるのではないでしょうか。プレーヤーとして優秀だという理由でマネジャーに昇進させたらダメだった、というのはまさにピーターの法則にあてはまるのでは。係長の仕事をしていた人が課長になり、課長の仕事をしていた人が部長になるというのが通常の昇進パターンである日本企業の場合、こうしたことは往々にしてありがちな気がします。

 多くの著名な経営思想家が、「ピーターの法則」に陥らないようにするにはどうすればよいかを説いています。「ピーターの法則」――多くの人事パーソンにとって既知ではあるかと思いますが、これを機に今一度読み直してみるのも良いと思いますし、未読の人も、知っておいて損はないかと思います。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)


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「組織論」には違いないが、思った以上に精神論的な「啓発書」だった。

生きている会社、死んでいる会社2.JPG生きている会社、死んでいる会社.jpg  『生きている会社、 死んでいる会社』  .jpg
生きている会社、死んでいる会社―ー「創造的新陳代謝」を生み出す10の基本原則』 遠藤 功 氏
生きている会社、死んでいる会社  image.jpg遠藤 功.jpg 30年にわたり経営コンサルタントとして多くの企業と接してきた著者による本書では、経営において本質的に大事なことはただ1つ、会社が「生きている」ことであり、経営とは「創造と代謝を繰り返す」ことであって、「死んでいる会社」は管理や抑制がメインになり、組織が停滞しているとしています。本書は、「生きている会社」になるための処方箋を明らかにしたものであるとのことです。

 第Ⅰ部では、「生きている会社」とは、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOが言うところのデーワン、つまり創業1日目の活力ある状態を保っている会社であるとしています。会社は「新陳代謝」しなければ創造はできず、「生きている会社」とは「新陳代謝」に長けている会社であり、「生きている会社」であり続けるには、「事業」「業務」「組織」「人」の4つを新陳代謝しなければならないとしています。また、会社は「生き物」であり、会社を「経済体」として捉えるだけでなく、「共同体」「生命体」としての会社を理解しなければならないとしています。

 第Ⅱ部では、「生きている会社」になるための必須条件として、「熱」「理」「情」の3つの要素を掲げています。まず、「生きている会社」は「熱」を帯びているとし、その「熱」の正体は何か、「熱」はどこからくるのか、どうしたら広がるのか、失ってしまった「熱」をどう取り戻すかを説いています。また、「生きている会社」は「理」を探究しているとし、会社は「合理的な存在」でなければならず、戦略レベルと実行レベルのそれぞれにおいて「理」をどう担保するかを説いています。さらに、「生きている会社」は「情」に満ち溢れているとし、「情」とは人の「心」であり、それを満たすことは最も合理的であるとして、仕事の「やりがい」をどう作り出すか、承認欲求をどう満たすかを説いています。

 第Ⅲ部では、どうすれば「生きている会社」を作ることができるかを説き、代謝のメカニズムを埋め込む、骨太かつシンプルな「大戦略」を定める等々、実践すべき「10の基本原則」を掲げています。また、会社が「生きている」かどうかは、ミドル(課長クラス)を見ればわかるとし、課長たちの「突破力」を磨くために必要な「6つの力」を掲げ、さらに、経営者の仕事とは何か、その「4つの仕事」(扇動者・羅針盤・指揮者・演出家)を説いています。

 会社というものを理解する際に、付加価値を生む「経済体」として捉えるほかに、そこにいる人たちの関係性(「共同体」)や人の営み(「生命体」)の集積としての会社に着眼している点は興味深かったです。「見た目の数字」や「業績」より「生きていること」が重要であるとし、「生きている会社」になるための必須条件に、「熱」「理」「情」の3要素を挙げているのは腑に落ちました。

 帯に「働き方が変わる!新しい組織論」とありましたが、全体としては、特に目新しいことを言っているわけではなく、オーソドックスと言えばオーソドックスな内容かと思います(結果的に"総花的"になった印象も)。前半部分は概念的で、かっちり纏まっていると思いましたが、それが中盤から後半にかけて具体的になっていくかと思ったら、確かに事例なども紹介されているものの、それほど深く突っ込んだ紹介でもなく、むしろ精神論の比重が高くなったような印象を受けました。経営コンサルタントの著書という先入観があったかもしれませんが、思いの外に"啓発書"であり、読み手によっては、もやっとした印象で終わってしまう可能性もあるかも。

《読書MEMO》
●生きている企業の3つの条件
「熱」...生きている企業は「熱」を帯びている。
「理」...生きている企業は「理」を探求している。
「情」...生きている企業は「情」に満ちている
●実践すべき「10の基本原則」
・代謝のメカニズムを埋め込む
・骨太かつシンプルな「大戦略」を定める
・「必死のコミュニケーション」に努める
・「言える化」を大切にし、管理を最小化する
●経営者の「4つの仕事」
・扇動者
・羅針盤
・指揮者
・演出家

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「ティール組織」という新しい組織モデル(パラダイム)を提唱して示唆に富む。

ティール組織512.jpgティール組織.jpg ティール組織ド.png
ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

 「ティール組織」という新しい組織モデルを提唱した本ですが、マッキンゼーで組織変革プロジェクトに関わり、現在はコーチ、ファシリテーターを生業とする著者による原著("Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness")は、2014年に自費出版されて以来、12か国語に翻訳されているビジネス書のベストセラーだそうです。著者は、組織の発展段階を色で表現していて、現在、世界中で五段階目の新たな進化型モデルが生まれ始めているとし、これを「ティール(鴨の羽色)」という色(本書カバーの色)で表現し、第Ⅰ部では、これまでの組織の歴史と進化を振り返っています。

ティール組織a.png それによれば、まず、組織形態の前段階として、「無色(グレー)」という血縁関係中心の小集団、「神秘的(マゼンタ)」という数百人の人々で構成される種族があり、組織形態の第一段階が「衝動型(レッド)」モデルで、これはマフィアやギャングなどに見られる、恐怖が支配するものであるといいます。第二段階は「順応型(アンバー)」モデルで、教会や軍隊に見られるように、ここでは規則、規律、規範による階層構造が支配していて、そして、現代の資本主義社会で主流になっているのが、第三段階の「達成型(オレンジ)」モデルであり、多国籍企業に見られるように、目標を設定して未来を予測し、効率を高めてイノベーションを起こすことで成果をあげようとするものであると。但し、達成型モデルにおいては、実力主義によって万人に機会が開かれているが、階層の上にいくほど権限が集中しやすいヒエラルキー構造になって、また、効率と成果を追求するあまり人間らしさを無視してしまいやすく、更には、ますます複雑化するビジネス環境において、計画と予測は機能しなくなる恐れがあるという欠点を抱えているとしています。そこで、達成型モデルへのアンチテーゼとして生まれたものが、第四段階の「多元型(グリーン)」モデルであり、人生には成功か失敗か以上の意味があるとして、平等と多様性を重視し、多様なステークホルダーを巻き込んで合意を形成して物事を進めようとするものであるといいます。しかし、このモデルの極端な平等主義は、多様な意見をまとめきれずに袋小路にはまってしまうリスクも孕んでいるとしています。そして、これらの問題を打破すべく生まれつつあるのが、第五段階の「進化型(ティール)」モデルであり、これは階層構造におけるトップダウン型の意思決定でも、ボトムアップ型の合意形成による意思決定でもない。上司も中間管理職もいなければ、組織図も職務権限規程も肩書もない、変化の激しい時代における生命型組織であるとしています。

 第Ⅱ部では、事例研究によって、ティール組織には、「自主経営(セルフ・マネジメント)」「全体性(ホールネス)」「存在目的」の三つの突破口(特徴)が備わっていること明らかになったとしています。つまり、組織を取り巻く環境の変化に対して、階層やコンセンサスに頼ることなく、適切なメンバーと連携しながら迅速に対応することが可能で(自主経営)、誰もが「本来の自分」の姿で職場に来ることができ、同僚、組織、社会との一体感を持てるような風土や慣行があって(全体性)、更に、組織自体が何のために存在し、将来どの方向に向かうのかを常に追求し続ける姿勢が見られる(存在目的)としています。そのうえで、そうしたティール組織が実際にどのように運営されているのかを、著者らが調査した12の組織の事例を通して"三つの突破口"の観点から紹介しています。

 例えば第Ⅱ部の第2章では、自主経営の例として、2006年に立ち上がったビュートゾルフという、在宅介護支援の新しいモデルを提供する組織の事例が紹介されていますが、その特徴は、マネジャーを持たないチームが、ビュートゾルフが進化するという目的のために完全に独立しているというもので、その特異な組織形態・介護システムによって、7年間で10名から7000名の介護士が働く組織に急成長を遂げたとのことです(より直近のデータによれば10年間で24ヶ国、850チーム、1万人以上)。他社の事例も含め、第3章にかけて、上司もミドルマネジメントも不在のチームが、どのように意思決定を行っているのかを紹介しています。第4章では、そうしたティール組織が全体性を支えるために、開放的な、真の意味で「安心」できる職場環境をどのように整えているのかなどを、第5章では、採用や研修、労働時間管理や評価など人事面でどのような慣行やプロセスを取っているのかを紹介しています。

 第Ⅲ部では、こうしたティール組織が機能するための条件は何か、新たにティール組織を立ち上げる際と、既存の組織をこの新たなパラダイムへと転換させる際のそれぞれについて、念頭に置くべきことは何かを示唆しています。

 本書によれば、ティール組織とは、社長や上司がマイクロマネジメントを行わなくても、組織の目的実現に向けて進むことが出来ている、独自の工夫に溢れた組織のことであり、実は、世界には既にそういった組織が実際に増えてきており、成果を上げている現状があるとのことです。序章で、こうした組織を、「昔のテレビ・シリーズに出てきたような親しみやすい宇宙人」に喩え、「人々の生活に溶け込み、超能力を備えているのだが、ほかの人々からはそのことを認知されていない」と言っています。とは言え、本書に出てくる12社もまだティール組織への移行段階にあり、「自主経営(セルフ・マネジメント)」「全体性(ホールネス)」「存在目的」の三つの条件の全てを完璧に満たしているわけではないとも言っています。

 わが国では現在「働き方改革」の議論は盛んですが、組織の在り方というのは、そうした議論の前提条件としてあるものではないかと思います。「ティール」という新しい組織モデルが(モデルと言うよりパラダイムに近いが)今後どれだけ浸透していくか、ひとつの潮流的なコンセプトとなり得るのか関心が持たれるとともに、これからの社会に適合した組織とはどのようなものかを考えるうえで、たいへん示唆に富む本であると思います。

《読書MEMO》 
ティール組織7colors.png
●組織形態の進化
・組織形態の前段階①=「無色(グレー)」:血縁関係中心の小集団
・組織形態の前段階②=「神秘的(マゼンタ)」:数百人の人々で構成される種族
・第1段階:「衝動型(レッド)」:ジャイアンの世界。人を動かすのには最も手っ取り早い豪族やマフィアによる支配。
・第2段階:「順応型(アンバー)」:ピラミッド時代のように身分で支配する世界。支持命令の組織。業務フローはここで登場した。
・第3段階:「達成型(オレンジ)」:技術が進化するとそれぞれの村や国が出会うようになり、武器を発明しないといけない時代。一人一人を測定した能力主義となり、上層部の指示に従う部品だけの人生を歩む人もいる。
・第4段階:「多元型(グリーン)」:家族をメタファとした組織。従業員としてではなく、家族・仲間としてみんなで話し合いエンパワーメントする。欠点としては、なかなか物事が決まらないことと、最終決定はトップ層が決める為、そことの溝だけは大きくなる。
・第5段階:「進化型(ティール)」:上司がおらず、一人一人が意思決定する信頼で成り立つ組織。
達成型パラダイムは組織を「機械」に喩えることが多く、多元型パラダイムでは組織は「家族」のようなものとされるが、進化型パラダイムにおいて組織は「生命体」や「生物」に喩えられる。
●進化型組織の三つの突破口
・「自主経営(セルフ・マネジメント)」:組織を取り巻く環境の変化に対して、階層やコンセンサスに頼ることなく、適切なメンバーと連携しながら迅速に対応すること。セルフ・マネジメントが浸透している組織では、お互いにアドバイスをしつつ、独立したひとり一人が積極的に意思決定をすることになる。
・「全体性(ホールネス)」:メンバーひとり一人が持っている潜在性を全て使って組織を運営することを指す。ここでは、誰もが「本来の自分」の姿で職場に来ることができ、同僚、組織、社会との一体感を持てるような風土や慣行がある。
・「存在目的」:創業者が決めたビジョンやミッション・ステートメントとは違い、変化に適応した方向性を指す。その方向性は一部の限られた人が決めて推し進めるのではなく、組織全体として探求し続けていく中で、組織自体が何のために存在し、将来どの方向に向かうのかを常に追求し続ける姿勢として立ち現れてくる。

●英治出版 公式Twitterより(2019年2月19日)
【速報!】
『ティール組織』が、読者が選ぶ #ビジネス書グランプリ 2019の【マネジメント部門】部門賞を受賞いたしました!! 投票いただきました皆さま、関係各者様、本当にありがとうございます!!
『ティール組織』が.jpg


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ストーリー仕立てで組織開発のプロジェクトを追体験でき、啓発的であると同時に実践的。

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組織は変われるか――経営トップから始まる「組織開発」』(2017/12 英治出版)

 組織開発のコンサルティングをしている著者が、組織開発を実践しようとしている人(本書では「事務局」と呼んでいる)に向けて、その手順や方法を示した本です。事務局を主人公とした組織開発のストーリーが用意されていて、約1年におよぶ組織開発のプロジェクトを追体験できるようになっています。

 第1章では、コンサルタントが事務局と対話する形式で、事務局はまず何をすべきか、組織開発のタイミングをどう見極めるか、組織が変われない要因はどこにあるのか、問題をどう捉えなおすかを説いています。さらに、組織開発を進めるうえでの3原則として、「経営トップから始める」「各層のコンセンサス」「当事者主体」を掲げ、それらを解説しています。

 第2章では、経営トップである社長とのコミットメントを得るために、社長との対話のプロセスにおいて、①現状の認識をすりあわせる、②リスクシナリオを提示する、③組織課題の本質を見極める、④組織開発のプロジェクトを提案する、⑤トップの想いを引き出す、という5つのステップを意識するように説いています。そのうえで、トップの想いを社内に発信することを説き、初期の発信フェーズの仕上げとなるのが、役員合宿であるとしています。

 第3章では、その役員合宿の前に、役員一人ひとりの考えをインタビューで探る方法や、役員合宿の目的をどう明確化するか、合宿をどうプランニングするかについて解説しています。さらに、実際の2日にわたる役員合宿の事例を交えながら、合宿中に役員の本音の対話をどう引き出すか、それらの中に見られる変革と抵抗のシグナルにどう対応するかを述べ、それを、役員合宿の次のステップとしての、部長支援のワークショップに生かすことを説いています。

 第4章では、部長が置かれている現実と葛藤を理解したうえで、気づきと自覚を促すための部長支援のワークショップをどう設計するか、1日版の進行案を示しています。また、部長と課長数名で行う「智慧の車座」という対話の方法などを、これもまた事例で紹介しています。そして、ワークショップが終わった後、部長の意識改革を、部下にどう結びつけ、いかに変革の種をまくかが、事務局による現場支援の鍵のひとつであるとしています。

 第5章では、組織開発が自走し続けるにはどうすればよいか、それには組織を刺激しつづけることが大事であるとしています。また、組織開発においては、感情をマネジメントすることも重要であり、組織開発とはまさに「感情のマネジメント」であるとしています。最後に、組織開発部を立ち上げるならば、どのような人材が、ビジネス・パートナーたる組織開発部のメンバーに向いているのかを示しています。

 本書では、組織開発とは、経営トップから現場の管理職にいたる各層と対話を重ね、彼らのコミットメントを生み出すことであるとし、その第1段階が社長との対話にとなるとしています。そして、さらに、役員との対話、部長との対話と続き、最後は自分との対話、という流れになっています。

 堅くなりがちなテーマですが、ストーリー仕立てで読みやすく、また、合宿やワークショップの中身が具体的に書かれていて、理解しやすいものとなっています。組織開発で重視されるのは、組織で働く個々人の感情であるため、「対話」というものが非常に重要になってくるというのが、具体的な解説で読んでいて腑に落ちるものとなっています。組織開発の本質を突いて、啓発的であると同時に実践的であり、組織開発に携わる人にはお薦めしたい本であると思います。

 組織開発を小説仕立てで描いた名著とされる、三枝匡 著『Ⅴ字回復の経営―2年で会社を変えられますか』('01年/日本経済新聞社)を想起しましたが、『Ⅴ字回復の経営』の方が改革への抵抗勢力が手強くて、それに対する対応などが重点的に描かれているのに比べると、こちらは、抵抗勢力の役員はあっさり更迭されてしまって、ちょっと物足りなかった? でも、『Ⅴ字回復の経営』にもこんなに上手くいくかなという部分はあったし、まあ、互角というところでしょうか。

《読書MEMO》
●組織開発の三原則(第1章/37p)
「経営トップから始める」
「各層のコンセンサス」
「当事者主体」 
●社長のコミットメントを得るための対話のプロセス(第2章/59p)
・ステップ1 :現状の認識をすりあわせる
・ステップ2 :リスクシナリオを提示する
・ステップ3 :組織課題の本質を見極める
・ステップ4 :組織開発のプロジェクトを提案する
・ステップ5 :トップの想いを引き出す
●役員への「自己免疫システム」に関する質問(第3章/137p)
① 私は自組織をどう変えたいのか?
② そのために、私自身は何をするのか?(行動目標)
③ 行動目標を阻む日常の行動とは?(阻害行動)
④ ③の目的は何か?(裏目的)
⑤ 裏目的を支えている固定観念は何か?(思い込み)
⑥ だからこそ、自分はどう変わるのか?(私の成長課題)
(ロバート・キーガン/リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』)
●変革ストーリーとQPCA(第4章/177p)
1 現状認識 ⇒ Question (このままでいいのか?)
2 WHY ⇒ Purpose (どうありたいのか?)
3 HOW ⇒ Change  (どこを変えたいのか?)
4 WHAT ⇒ Action (何からやるか?)
●部長への「自己免疫システム」に関する質問(第4章/179p)
① 自組織を変えるために、私は何をしたいのか?
② 私自身は何をするのか?(行動目標)
③ 行動目標を阻む日常の行動とは?(阻害行動)
④ ③の目的は何か?(裏目的)
⑤ 裏目的を支えている固定観念は何か?(固定観念)
⑥ だからこそ、自分はどう変わるのか?(私の成長課題)
(ロバート・キーガン/リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』)

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「時間」「人材」「意欲」の3つのリソースをないがしろにしてはならないと教唆。

TIME TALENT ENERGY  e.jpgTIME TALENT ENERGY.jpg Michael Mankins.jpgEric Garton.jpg
TIME TALENT ENERGY ―組織の生産性を最大化するマネジメント』 Michael Mankins & Eric Garton
"Time, Talent, Energy: Overcome Organizational Drag and Unleash Your Team’s Productive Power"

TIME TALENT ENERGY.png 本書では、ほとんどの企業にとって本当に稀少な経営資源は「時間」「人材」「意欲」であるとしています。パート1「時間」(第2章・第3章)では、時間管理の問題をテーマとし、会議、オンラインコミュニケーション、厄介な官僚体質の構造など、大企業病の原因を探っています。パート2「人材」(第4章・第5章)では、社員の能力とチームづくりに焦点を当て、効果的な人材管理の威力を探っています。パート3「意欲」(第6章・第7章)では、当事者意識の意欲、やる気が生み出す効果について、現実的な視点で考察しています。

TIME TALENT ENERGY38.jpg さらに詳しく見ていくと、パート1「時間」では、第2章で、時間が失われてしまうからくりを示すとともに、失われた時間の大部分をシンプルな時間管理のツールやテクニックで取り返す方法について考察しています。第3章では、無駄に複雑な組織構造が、無用な会議や連絡などのやりとりの原因となっているとして、オペレーティングモデルを簡素化して、効果的な時間マネジメントで成果を上げた企業の事例を紹介しています。

 パート2「人材」では、第4章で、本当に必要なのは、誰よりも組織の使命を理解し、戦略を実行に移すことの出来る人材であるとして、いるといないとでは大きな差が出る「違いを生み出す人材」(ディファレンスメーカー)を、最大の効果を発揮できる職務に配置することが大切だとしています。しかしながら、従来の人事管理はこれに対処しきれていないとし、傑出した企業では、理論面や実践面でどのようにこれに対処しているかを紹介しています。第5章では、最も優秀な人材でチームを編成すべきだとし、また、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしています。さらに、オールスターチームには優秀なリーダーと手厚いサポートが欠かせないとしています。

 パート3「意欲」では、第6章で、社員のやる気を奮い立たせるためのステップとして、①人間性溢れる理念を策定・導入する、②社員の自律性と組織のニーズのバランスを追求する、③成果を上げ、やる気を奮い立たせるリーダーを育成せよ、の3つを挙げ、優良企業の成功事例などを紹介しながら、それぞれのステップを解説しています。第7章では。社員の意欲を引き出して成果を達成させる優良企業の企業文化に着目し、読者が同じような企業文化を醸成するための方法を紹介しています。

 企業の競争優位につながるのは「資金」ではなく、「時間」「人材」「意欲」の3つであるというのが筆者らの主張ですが、時間・人材・意欲のそれぞれについて、「傑出した企業」とそうでない企業を比較したうえで、詳細な理由を述べ、具体的な解決策までが示されているので分かり易く、また参考になります。特に人事パーソンにとってパート2の「人材」とパート3の「意欲」は、興味深く読めるのではないでしょうか。

 例えば、パート2の「人材」では、「違いを生み出す人材」を集めてチームを作り、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしていますが、どちらかと言えば、各部署に優秀な人材を均等に配置する傾向にある日本の企業にとっては、発想の転換を促すヒントになるように思います。

 「時間」「人材」「意欲」という3つの指標は必ずしも目新しいものではなく、また、本書で紹介されている優良企業の事例には、ミレニアル企業と呼ばれる新興企業のものが多かったりもし、読者にとっては、自社とは環境が違い過ぎるとの思いに駆られたりするかもしれません。実際、本書で示されたすべての策が、あらゆる企業に当てはまる汎用性を持つとは言えないと思われます。

 しかしながら、巻末で「日本企業への示唆」として、「組織生産力指数は平均で92にとどまり、グローバル平均の113を大きく下回る」という日本企業の組織生産力マネジメントの課題と、今後向かうべき方向について論じているよように、本書を通して「時間」「人材」「意欲」という3つのリソースをないがしろにしている事実に気づき、なぜそれが問題なのかをしっかりと理解し、具体的に何をすべきかと考える機会を得ることは、それなりに意義があるように思います。

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すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」(DDO)を提唱。

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Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey
"An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization"
なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる』(2017/08 英治出版)

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか2.jpg 30年以上にわたって「大人の発達と成長」を研究してきた著者らによる本で、前著『なぜ人と組織は変われないのか』('13年/ 英治出版)では、大人の知性の発達とはどのようなものであるかに言及しつつ、人と組織が持つ「変革をはばむ免疫システム」に着目して、個人と組織が成功するために避けて通れない変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにし、「免疫マップ」を用いた変革のアプローチを提唱するとともに、その効果を多くの事例を通して明らかにしていました。本書(原題:An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization、2016)では、すべての人が自己変革に取り組むことで、そうした大人の発達を組織全体で可能にする運営を行っており、かつ好業績を上げている3社の事例をもとに、発達指向型組織」(DDO=Deliberately Developmental Organization)と著者らが名づけた会社の実態とその可能性に迫っています。

 著者らは、ほとんどのビジネスパーソンが「自分の弱さを隠す仕事」に多大な労力を費やしているとしています。そのことは、そうした「もう一つの仕事」など誰もしていない組織を観察してはじめて、ありふれたことが実は「普通」ではないとわかるとし、本書で紹介する、人々の能力をはぐくむのに最も適した環境を持っている組織は、みんなが自分の弱さをさらけだせる、安全であると同時に要求の厳しい組織文化によって生み出される、などの特徴があるとして、このような組織を「発達指向型組織」(DDO=Deliberately Developmental Organization)と呼んでいます。

 第1章では、DDOとはどのようなものなのか、DDOに移行しようしている組織の現場を、3社の事例を通して紹介し、それらには、失敗が成功を加速する、「自分の成長+他者の成長=みんなの成長」となっている、リーダーがすぐに次のリーダーを育てる、人々の能力を開花させる場をつくっている、ものごとの根っこの原因をえぐり出す、といった特徴があることを示しています。

 第2章では、DDOにおける「発達」とは、社員のキャリアの発達ではなく、社員の人間としての発達に光を当て、組織を大きくすることより、組織を良くすることをまず考えるのだとしています。そのうえで、大人の知性には「環境順応型知性」「自己主導型知性」「自己変容型知性」の3つの段階があり、すべての人が知性のレベルを次の次元に向上させる必要があるとしています。

 第3章では、DDOというコンセプトを「ホーム」(発達を後押しするコミュニティ)、「グルーブ」(発達を実現するための慣行)、そして「エッジ」(発達への強い欲求)という3つのカテゴリーに分け、DDOに共通する12の特徴を挙げています。例えば、「ホーム」の側面であれば、「地位には基本的な特権がともなわない」「みんなが人材育成に携わる」など。「グルーブ」の側面であれば、「安定を壊すことが建設的な結果につながる場合がある」「ギャップに注意を払う」など。「エッジ」の側面であれば、「大人も成長できる」「弱さは財産にもなりうる。失敗はチャンスだ」など。

 第4章では、「グルーブ」の側面から、DDOの人々が具体的にどのようにして自分の限界に挑み続けているのか、人々がみずからの弱点をあぶり出し、行き詰まりの原因を掘り下げ、自分の足を引っ張ってきた思考・行動パターンを克服し続けるようにしているかを、3社の事例から探っています。

 第5章では、DDOの考え方ではたして営利企業が運営できるのかという疑問に対し、先に挙げた3社の例を分析し、それらは個人の成長を重んじているにもかかわらず成功しているのではなく、個人の成長を重んじているからこそ成功しているのだとしています。

 第6章では、「エッジ」の側面から、DDOでどのように成長が後押しされるのかを、2人の人物が「免疫マップ」の4枠(1.改善目標、2.阻害行動、3.裏の目標、4.強力な固定観念)を書き込んでいくエクササイズを通して例示し、さらに、読者自身がそれらを記す際の留意点を示し、第7章では、「ホーム」の側面から、DDOを目指す組織がその一歩を踏み出すための方法論を論じています。

 著者らの前著『なぜ人と組織は変われないのか』('13年/ 英治出版)は、個人と組織が成功するための変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにした本でしたが、本書も、著者らによれば、組織と個人の両方の潜在能力を開花させる方法を示すことを目的とした本であるとのことです。DDO企業にとっては、個人の発達が「付け足し」ではなく、発達指向の考え方が、組織のガソリンとエンジンの両方に浸透しているとのことです。かなり先進的な考えで、個人も組織もなかなかそこまでのレベルに達している例は少ないと思われますが(本書にもそう書いてある)、但し、企業が将来目指す方向性としてはそうなっていくべきだろうし、今後益々そういしたことが言われるようになるのだろうなあと思いました。

 「経営戦略としての組織文化」とはどういうものかを論じた本でもありますが、「発達」という考えを、社員のキャリアの発達ではなく、社員の人間としての発達として捉えているところに、先駆的かつ啓発的なものを感じました。『なぜ人と組織は変われないのか』と併せて読むとよいと思います。

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「分化」というコンセプトで、個を活かすこれからの組織と働き方を提唱。

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なぜ日本企業は勝てなくなったのか: 個を活かす「分化」の組織論 (新潮選書)

 著者によれば、これまで「全社一丸」を看板に掲げ、社員の勤勉さとチームワークを売り物に優れた製品を世界に送り出してきた日本企業が、労働生産性や競争力の国際的地位が1990年代から急落し、日本経済は20年以上に及ぶ長期の停滞からいまだ抜け出せず、喘ぎ続け、また、生産性だけの問題ではなく、近年、名だたる大企業で組織的不祥事が続発し、女性が活躍できる社会の実現や「働き方改革」も声高に唱えられながらも、現実には思うように進んでおらず、また、ストレスや過労死が深刻な問題になりながら、労働者の労働時間は減らず、有給休暇の取得率も低いままであるとのことです。

 本書では、これらの諸問題には共通する「病根」があるとし、それは、個人が組織や集団から「分化」されていないことであるとしています。ここで言う「分化」とは、個人が組織や集団から制度的、物理的、あるいは認識的に分別されていることであり、「未分化」とは逆に個人が組織や集団のなかに溶け込み、埋没してしまっている状態を意味しています。「働き方改革」「イノベーションの創出」「組織不祥事の撲滅」―これら現在の日本企業、日本社会が直面する重要課題を克服できるかどうかは、そうした空気を一掃し「分化」を実現できるか否かにかかっていると著者は言います。

 全5章の第1章と第2章では、「未分化」がどのような問題を引き起こしているかを説明し、第3章では実際に「分化」すると、組織と個人がどう変わるのかを多くの実例もまじえて紹介、第4章では、著者が長年にわたって取り組んできた「組織と個人の統合」という課題を踏まえ、「分化」と「統合」をどう両立させるかを述べ、第5章で、「分化」の過去を振り返り、未来を考察しています。

 第1章「『未分化』が引き起こしていること」では、企業不祥事の背景にある共同体の圧力、集団無責任体制や「たこつぼ」化した職場の病理、「ブラック企業一掃」の壁となっている長時間労働や、パワハラ・セクハラ、イジメ、さらには「女性活躍推進」や「同一労働同一賃金」の壁となっているさまざまな原因の背景も、そこに個人の「未分化」の問題があることを、多くの事例やエピソードを引き合いにしつつ指摘しています。

 第2章「日本企業の深層に残っているもの」では、日本企業が勝てなくなった理由として、日本的な共同体型組織が、かつてはさまざまな利点があったが、今は限界にきており、同調圧力がいい意味での突出を抑えるため、本来モチベーションというものは個人が組織から「分化」することで生まれるものであるのに、組織が「未分化」であるとそれが抑制されるため、有能な人材は外部に流出してしまうのだとしています。更に、成果主義が失敗したのも、成果の責任を問うには個人の「分化」が絶対条件であるのに、個人を未分化にしたままそれを取り入れたからだとしています。

 第3章「『分化』するとどう変わるのか」では、「分化」することのメリットとして、「やる気の天井」がとれて仕事が効率化し、「異質なチームワーク」からイノベーションが生まれるとともに、「集団無責任型」不祥事がなくなり、女性活躍の道も広がるし、オフィス環境も改善され、オーダーメイドのキャリアが形成できることなどを挙げています。また、「絆」「つながり」を唱え続けて無理に求心力を高めるよりも、むしろ「分化」することでつながるということを、①「自律」の欲求、②人間関係、③功利的な動機、④利他的な動機、という4つのキーワードで説明するとともに、個人のレベルでも、一人ひとりが個人の仕事や職業生活を分化することで、「未分化」では得られなかった生きがいが得られ、将来の展望が開けてくるとしています。

 第4章「『分化』と『統合』をどう両立させるのか」では、「組織と個人の統合」という課題を踏まえ、「分化も進めたいが統合も大事だ」というジレンマを克服するには、「行動」と「機能」を意識的に切り離して考える必要があり、行動を分化しながら機能として統合することで、企業の業績も社員の満足度も実際に上がる場合が多いことを指摘しています。更に、分化した個人は、それ以前よりも強く連帯することを、医療、映画製作、製品開発の具体例で説明しています。また、「分化」をどう仕掛けるかについて、外圧を利用する戦略や、「異分子」を投入したり、「ウチとソトの峻別」を逆手にとる方法などを紹介しています。

 第5章「『分化』の過去と未来」では、過去の「分化」の歴史を、タテに分化された前期工業社会、フラット化した後期工業社会、機械的組織から有機的組織へ、「人間的な労働」への改革、と振り返り、ポスト工業化社会では、これまでのタテの「階級」がヨコの「専門」に転換し、タテ方向の分化が勢いを失ってフラット化に転じる一方、ヨコ方向への分化が進んでいるとしています。そして、この分化ははるか未来を見据えても止まらないであろうとしています。

「分化」という1つのコンセプトで、これだけ多くの問題について具体例を挙げながら包括的に論じている点が、大胆かつユニークに思いました。すっきりしている一方で、読む側にある程度の概念化能力が求められる内容でもあるかもしれませんが、かつて日本企業の利点だった日本企業の「まとまる力」が、いま社員一人ひとりの能力を引き出すことの大きな妨げとなり、組織を不活性化させているとしており、必要なのは、まず組織や集団から個人を「引き離すこと」なのだという趣旨は分かったように思います。個の力を充分に活かすためには、これまでの働き方をドラスティックに変えなければならないことを示唆しており、啓発度の高い本であると言えます。

《読書MEMO》
●「分化」とは、個人が組織や集団から制度的、物理的、あるいは認識的に分別されていることであり、「未分化」とは逆に個人が組織や集団のなかに溶け込み、埋没してしまっている状態を意味する。(5p)
●IT革命とともに経済のソフト化やグローバル化も一気に進んだ1990年代の半ば以降、わが国の労働生産性や国際競争力は世界のなかでの順位が急落し、その状態が今でも続いている。その人的要因の一つとして、ポスト工業社会に入って人間に求められる能力や資質、モチベーションの質が大きく変化したことがあげられる。工業社会で強みを発揮した日本人の黙々として働く勤勉さや一体感、そしてある種の帰属意識やチームワークが、ポスト工業社会では通用しにくくなっているのである。(70p)
●一つの企業のなかでも研究開発、企画、広報、営業、マーケティングといった部署は階層が少ないほど自由に仕事ができ、身軽に動けるので組織をフラットにしたい。一方、慎重さを重んじる法務、契約、審査のような部署はフラット化しにくい。(中略)全社一律、悪しき画一的平等へのこだわりがしばしばネックになっている。そして全職種を対象として企業別に組織される企業別労働組合が、それと深く関わっている。(91p)
●わが国の共同体型組織では、行動と機能を一体化させるところに特徴があった。(中略)モノづくりにしても、事務の仕事にしても従来の集団作業においては、そのように文字どおり一丸になることが大切だったからである。(中略)行動と機能を切り離せば、個人の自由を尊重しながら仲間同士の協力や連帯ができるようになる。(163p)
●バーナードは、組織を「意図的に調整された人間の活動や諸力の体系」と定義しており、組織に人間そのものは含まれない。(中略)組織にとって人間の行動そのものを規制する必要がないことを示唆したバーナードの慧眼は敬服に値する。(165p)

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組織論から入って、リーダー(またはリーダーを志す人)へのアドバイスになっている。

DREAM WORKPLACE1.JPGDREAM WORKPLACE.jpg なぜ、あなたがリーダーなのか 旧3.JPG Rob Goffee & Gareth Jones.jpg
DREAM WORKPLACE(ドリーム・ワークプレイス)――だれもが「最高の自分」になれる組織をつくる』(2016/12 英治出版)『なぜ、あなたがリーダーなのか? (ADL経営イノベーションシリーズ)』['07年] Rob Goffee & Gareth Jones
"Why Should Anyone Work Here?: What It Takes to Create an Authentic Organization""Why Should Anyone Be Led by You? With a New Preface by the Authors: What It Takes to Be an Authentic Leader"(2019)
Why Should Anyone Work Here.jpgWhy Should Anyone Be Led by You?:What It Takes To Be An Authentic Leader.jpg 原題は"Why should Anyone Work Here?"(なぜみんながここで働かなければならないのか?)。本書では、世界で一番働きたいと思う組織は、有能な人材を引きつけ、留まらせる灯台のようなところであり、社員と会社そのものから、常に一番よいところ引き出す場となる組織であるとしています。そして、著者ら(『なぜ、あなたがリーダーなのか』(原題:"Why Should Anyone Be Led by You?: What It Takes To Be An Authentic Leader" 2006))の著者でもある)は、世界中の人々に、理想の組織、すなわち最高の自分になれる組織とはどのようなものであるのかを問い続けた結果、回答は大きく次の6つの原則に分類されることが判ったとしています。

 ①違い(Difference)ありのままの自分でいることができる
 ②徹底的に正直であること(Radical honesty)今現実に起きていることを伝える
 ③特別な価値(Extra value)社員の強みと利益を理解し、強化する
 ④本物であること(Authenticity)アイデンティティ、価値観、リーダーシップ
 ⑤意義(Meaning)日々の仕事にやりがいをもたらす
 ⑥シンプルなルール(Simple rule)余計なものを減らし、透明性と公平性を高める

そして、これらの頭文字をとってこれを「夢(DREAMS)」の原則と呼び、以下、第1章から第6章までは、この6つの原則をひとつずつ詳しく述べ、各章の中でそれぞれの原則に沿ったシンプルな組織診断ツールを示すとともに、末尾にリーダーがとるべきアクションを整理しています。

 第1章「ありのままでいられるように」では、「違い」は埋めずに、むしろ広げるべきであるとして、思考プロセスや人生経験の「違い」を理由に人を雇い、価値観に対する見解の一致を求めながらも、個人が創造的な表現をする余地を認めよとしています。

 第2章「徹底的に正直である」では、今現実に起きていることを伝えるべきであるとして、コミュニケーションは正直に、かつ迅速に行うことなどを説いています。

 第3章「社員の強みと利益を理解し、強化する」では、ひとりひとりのために特別な価値を創造せよとし、能力開発のチャンスを与えること、社員に価値を付加することなどを推奨しています。

 第4章「『本物』を支持する」では、アイデンティティや価値観を重視し、自分の中にある「本物であること(オーセンティシティ)」を行動で示すことを説いています。

 第5章「意義あるものにする」では、日々の仕事にやりがいをもたらすにはどうすればよいかを述べており、意義あるものを見つけようと思ったら、様々な経験を取り入れ、また、あらゆる機会を使って、自分の組織の取り組みと成果を、広くコミュニティにつなげていくことを推奨しています。

 第6章「ルールはシンプルに」では、余計なものを減らして、透明性と公平性を高めることに努めよとし、物事がうまくいかなくても、新しいルールをつくりたいと思う誘惑を退けなさいとしています。

 さらに第7章では、本物の組織を作り維持するにはどうすればよいか、6つの原則を自分の組織の現状にカスタマイズする際に、リーダーとして行わなければならないトレードオフのパターンなどを示しています。

著者らはロンドンの組織行動学とリーダーシップの研究者ですが、各章とも組織の在り方から入って、組織診断ツールを示した上で、リーダーがとるべきアクションを整理しており、最終的にはリーダー(またはリーダーを志す人)に啓発を促す内容になっています。

 「6つの原則」は、それだけではやや抽象的な人生訓のような印象も受けなくはありませんが、多くの事例を紹介することで、読み進んでいく中で具体的にどのようなことを指すのかがイメージ出来るようになっていて、そのことがリーダーへのアドバイスに繋がっていきます(中にはややもやっとした感じのままのものもあったが、一方で、感動的なエピソードも少なからずあった)。

 ただし、本書で挙げた組織は、「6つの原則」の少なくともひとつ以上の達成に向けて努力していると思われるから取り上げられたのであるとのことで、それらの中で「6つの原則」をすべて解決した企業はひとつもないとしています。ですから、「こんなのウチでは無理だ」などと思わないで、自分たちに出来ることは何かという感覚で読んでいった方が、割合受け入れられ易いのではないでしょうか。

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新たなる「ホワイト企業」の定義? これからの人事部の役割という観点からも啓発的。

ホワイト企業.jpgホワイト企業 創造的学習をする「個人」を育てる「組織」』(2015/11 日経BP社)

 本書では、低賃金で長時間労働を強いる「ブラック企業」について、厳しい競争環境の中で、大量生産大量流通型モデルで付加価値の低い商品やサービスを提供する企業が、徹底的に利益水準を高めようとした際の現実的な選択肢であったとし、誰でもできる仕事しかしないヒューマンリソース的な人がブラック企業に搾取される構図は、産業革命以来続くものであるとしています。

 これに対し、21世紀の企業経営の要は、社員がイノベーション力の高い「クリエイティブ・キャピタル」になることに力を入れる、つまり、イノベーションを学習する組織=「ホワイト企業」に生まれ変わることであり、また、働く個人が職業人生をサバイバルする最良の道は、イノベーションを産み出す「創造的学習力」を高めることであるとしています(因みに、本書では「イノベーション」という言葉を「技術革新」の意味でなく「価値創造(社会や顧客にとって新しい価値を産み出すこと)」の意味で使っている)。その上で、価値創造に向けた「創造的学習」を促す仕組みや取り組みの在り方について、調査データ、企業や学校組織の事例も取り上げながら、具体的に述べています。

 3部構成の第1部では、「日本の雇用や働き方が、今後どのように変わるのか」を概観しています。主な変化の波は、技術革新、グローバル化、長寿化・高齢化、都市化の4つであるとし、こうした変化の潮流を踏まえた上で、世界経済フォーラムが唱える「人的資本指数」を構成する雇用・労働(働き方)、教育・学習(教育や学習のあり方)の視点から、日本の現況と将来を考察しています。

 第2部では個人の立場から、長いキャリア人生を通してイノベーション力を蓄えた「クリエイティブ・キャピタル」になるために求められる学習の在り方=「創造的学習」とはどのようなものかを探っています。ここでは、孤独な「勉強」をやめ、学習のサイクルを回すことが肝要であるとし、イノベーション力を高めるための「創造的学習」のカギとして、①テーマを見つける、②没頭して楽しむ、③実体験する、④他者と交わる、⑤教え合う、の5つの要素を挙げています。

 第3部では企業の立場から、まず日本企業のイノベーション持続にとって最大の障害である「組織文化の現状」を示し、20世紀に主流だった大量生産大量流通型工業社会で成功を収めた組織運営の在り方や個人の働き方が、21世紀の知識・コミュニケーション型知識社会では大きな足枷になっているという課題を提示した上で、コスト削減や業務能率向上を優先した20世紀型の工業社会とは異なる、知識社会の企業経営の在り方を探っています。

 この中では、イノベーションを拒むものとして、「管理統制信仰」「刻苦勉励好き」「組織の論理と人事権の優先」「本業意識」「目先の利益優先」「リスク回避の権威主義」「職場のコミュニケーション不全」の7つの組織文化の壁を指摘するとともに、イノベーションを継続する力を高める「ホワイト企業」になるには、社員の専門性と自律の促進がカギになり、人、職場、組織、文化の4つの経営の土台づくりが求められるとしています(とりわけ、日本企業に根づいた7つの組織文化の壁を崩すため、文化づくりが大切であるとしているのが興味深い)。

 これまで「ホワイト企業」と言えば、「ブラック企業」の対語として、法令を順守した就業規則が整備され、実際に労務面に反映されているとか、新卒3年後定着率が高いといった現象面のみで捉えられることも多かったように思いますが、本書では、社員をヒューマンリソース(人件費)として位置づけるかクリエイティブ・キャピタル(人的資本)として位置づけるかに"ブラック"と"ホワイト"の違いを見出している点が興味深く(新たなる「ホワイト企業」の定義?)、また、なぜ、イノベーションを学習する組織=「ホワイト企業」に生まれ変わる必要があるのか、そのためにはどうすればよいのかということについても、よく纏まって書かれているように思いました。更には、それらが机上の空論ではなく、調査データ、企業や学校組織の事例も取り上げながら、具体的に述べられている点もいいです。実際にマネジメント研修やリーダーシップ研修を数多くこなしてきた実務家によって書かれているだけに、説得力があるように思いました。

 これからの企業が目指すべき方向という意味で啓発度の高い本であり、また、組織論、人材育成論、さらにはこれからの人事部の役割という観点からみて、人事パーソンに限っても同様のことが言えるかと思います。

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組織論になっていない。啓発書としては尤もなことばかりだが、目新しさに欠ける。

すべての組織は変えられる.jpgすべての組織は変えられる (PHPビジネス新書)』['15年]

 Amazon.comでのレビュー評価が比較的高かったのでつい買ってしまいましたが、買ってから「リンクアンドモチベーション」の執行役員の人が書いたものだということに気づきました(まさか、帯に推薦文を書いている人の会社に勤務している人の本であろうとは)。ただ、"推薦人"である人の本は書店で立ち読みしたことしかなかったので、まあこれを機会に読んでみるのもいいかと...。

 書かれていることは、啓発的で尤もなことばかりですが、タイトルからするに、著者自身は「組織論」のつもりで書いていると思われるものの、実際に組織全体の施策を説いている部分は終章の数ページだけではなかったでしょうか。

 例えば、「陰口や悪口がなくなるだけで組織は激変する」とありますが、これって「組織論」とは言えないのでは。「気まずいメンバーこそ、呑みに誘え」とか、リーダー論、部下コミュニケーション論だなあと。"メソッド"と言うほどのものでもなく、殆どこれまで幾多もあった自己啓発書の世界と変わらないと言っていいかも。内容的に目新しさはありませんでした。

 紹介されているマズローの欲求階層説などは、モチベーション理論でしょう。また、モチベーションの高さは「目標の魅力」×「達成可能性」×「危機感」で決まるとしていますが、これって、ビクター・ブルーム(V.Vroom)の、モチベーションの高さは「対象の魅力度」×「達成への直結度」×「実現可能性」で決まるとした「期待理論」を自社流にアレンジしたものでしょう。こうした亜流の理論から入るよりも、本来の「期待理論」を押さえておいた方が読者にとっては良いように思うのですが、どうでしょうか。著作権の無いことをいいことに、既存理論の一部を改変して、あたかも完全に自社オリジナルの理論のように見せるやり方というのは(多くのコンサルティング会社がやっていることだが)好きになれません。

 「リンクアンドモチベーション」系の本と言っていい? Amazon.comレビューの高評価から見て、嵌る人は嵌るのだろなあ。個人的には、組織論にもなっていないし、目新しさにも欠け、読んでもあまり得られるものはないように思いましたが、一定の「固定客」がいるのでしょう。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジョン・P・コッター)

階層組織とネットワーク組織を共存させた新しい組織への進化を提唱。

ジョン・P・コッター 実行する組織0.JPGジョン・P・コッター 実行する組織.jpg
ジョン・P・コッタ― 実行する組織―――大企業がベンチャーのスピードで動く (Harvard Business Review Press)』(2015/07 ダイヤモンド社)

Dual Operating System - image from the book.jpg リーダーシップ論の大家として知られるジョン・コッターによる本書("Accelerate: Building Strategic Agility for a Faster-Moving World"、2014)は、大組織が、変化のスピードが速く不確実性の高い事業環境で競争に先んじるための解決策として、「デュアル・システム」というものを提唱しています。これは、既存の「ピラミッド型組織」を維持しながらも、起業当時に慣れ親しんでいたはずの「ネットワーク型組織」を有機的に再導入する仕組みであり、このスタートアップのような俊敏な動きが取れる第二のシステムが加わることで、組織全体が機敏性とスピードを実現できるようになるとしています。

 このネットワーク型組織はきわめて動的でやすやすと変化し、「官僚的な階層もなければ、上下関係のタブーもなく」「個人主義、創造性、イノベーションがおおっぴらに許される」「ネットワーク組織を形成するのは、年齢や地位の上下を問わず社内のあちこちから集まってきた人間であり、階層やサイロごとに滞留していた情報が自由に行き交い、何物にも遮られず隅々まで勢いよく流れる」としています。そして、「従来はタスクフォースや戦略部門でしのいできた仕事の大半を、ネットワーク組織に移管することだ。これで階層組織の負担は減り、本来の仕事をよりよくこなせるようになる」としています。

 そして、デュアル・システムの成功のカギとして、①社内のさまざまな部門からたくさんのチェンジ・エージェントを動員する、②「命じられてやる」のではなく「やりたい」気持ちを引き出す、③理性だけでなく感情にも訴える、④リーダーを増やす、⑤階層組織とネットワーク組織の連携を深める、という「5つの原則」を挙げています。

 更に、ネットワーク組織が戦略的に重要なイニシアチブを加速させるために、①危機感を高める、②コア・グループを作る、③ビジョンを掲げ、イニシアチブを決める、④志願者を増やす、⑤障害物を取り除く、⑥早めに成果を上げて祝う、⑦加速を維持する、⑧変革を体質化する、という「8つのアクセラレータ」を挙げています(ジョン・コッターがその著書『リーダーシップ論』や『企業変革力』などで提唱している「変革の8つのステップ」と比較してみるのもよい)。

デュアル・システム2.jpg 本書で興味深いのは、大規模な組織運営として開発され実績を上げてきた階層型組織を捨てる必要はないとしている点であり、但し、ネットワーク組織は、階層組織内でその管理の下に活動するタスクフォースやタイガーチームなどとは全く異なるとしています。それでは、ネットワーク組織とは全く未知のものであるかというとそうではなく、どんな大企業も最初はネットワーク型組織で運営される果敢なベンチャー企業であったのであって、俊敏な動きで事業誕生の礎を築いたからこそ、生き残って今の大企業になっているのであり、つまり、企業が大規模化するプロセスで置いてきてしまった、ネットワーク型システムを、大企業は取り戻せ、というのがコッターの主張です。

 読んでいて、組織概念としての理屈は分かるものの、考えることは出来るが実践はそう容易ではないのではないか、実際にデュアル・システムを取り入れて成功している企業はあるのかという疑問が当然の如く頭をもたげますが、それに応えるかのようにコッターは、まだ数は少ないが成功事例はあるとして、その成功事例(匿名企業)において「5つの原則」「8つのアクセラレータ」がどのように機能し、回って行ったかを詳細に紹介しています。

 コッターは、組織というものは本来的に自己満足に陥るものであり、先ず、真の危機感を醸成することが大切であるとし、そのためには、心を開き、外の世界に気づかせることが大事であるとしています。また、トップこそがロールモデルになる必要があるとし、更に、成果はそれを祝うことによって前向きのエネルギーを生むとしています。

 デュアル・システムを成功させ組織を加速させるには、ビジョンや戦略目標よりは先ず、自分達には大きな機会、大きな可能性があることを示すことが重要であるとしています。その大きな機会を伝わり易く示すには、短い、論理的である、感情に訴える、前向きである、本音である、明快である、整合性がある、ということに気を配ることが大切であるとしています。

 既に、昨年['14年]、「階層組織とネットワーク組織を共存させる―これから始まる新しい組織への進化」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー論文)という論文がKindle版でリリースされていましたが、コッタ―が書いているとは気づきませんでした。書籍化された本書は「マッキンゼー賞金賞受賞」ということで、それがどれくらい凄いのかよくは分かりませんが、コッタ―は間違いなく経営思想に大きな影響力を持つ人なので(しかもハーバード学派のど真ん中にいる人)、このデュアル・システムという概念が、今後より浸透し、具現化していく可能性はあるかもしれません。それがいつ頃なのか予測するのは難しいかもしれませんが、ただ、「デュアル・システム」という考えは、何れにせよ、大企業病に陥った企業や組織が、これから機敏性のある組織への変革を目指すうえでは、大いに示唆的であるように思いました。

《読書MEMO》
●ジョン・コッターの「変革の8つのステップ」
 1.危機感を生み出す
 2.変革プロセスを主導できるだけの強力チームをつくる
 3.ビジョンを掲げ戦略を立てる
 4.ビジョンと戦略を全員に徹底する
 5.社員がビジョン実現に向けて行動するように、現場に任せる
 6.信頼を勝ち取り、批判を鎮めるために、早い時期に成果を出す
 7.手を緩めず、変革を成し遂げる上でのより困難な課題に挑む
 8.新しい行動様式を組織文化の一部として根付かせる


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分かり易く説得力もあったが、一方で、それほど目新しさも感じられなかったか。

腐ったリンゴをどうするか?.jpg腐ったリンゴをどうするか?』(2015/06 三五館)

 前著『人はなぜ集団になると怠けるのか―「社会的手抜き」の心理学』('13年/中公新書)で、「社会的手抜き」のメカニズムを社会心理学、行動心理学の立場から多様な心理学的実験の結果などを通して明らかにした著者による本で、今度はより「ビジネス書」としての体裁になっているという感じでしょうか。

 人は集団で仕事をする。しかし集団になると人は怠け、単独で作業を行うよりも一人当たりの努力の量が低下する―これを学術的には「リンゲルマン効果」と呼び、所謂「社会的手抜き」ということになるわけですが、「自分だけ頑張ってもしょうがない」「誰かがやるからいいだろう」という気持ちは誰の心にも存在するものの、度が過ぎると手抜きは感染し、そばにある"リンゴ"から次々に広がり、最後には箱全体を腐らせるようになる―そこで、「腐ったリンゴをどうするか」ということが重要な課題になってくるということです。

 まず、手抜き発生の要因として、次の4つがあるとしています。
 ①評価可能性...個人の努力が他者から評価されない場合、動機づけが高まらない。
 ②努力の不要性...他者が優秀であったり、一緒に作業している人数が多いので、努力してもムダと思ってしまう。
 ③手抜きの同調...多くの人が手抜きをしているので、一所懸命課題に取り組んでも馬鹿らしいと思ってしまう。
 ④他者の存在による緊張感の低下...同じことをしている人が他にもいると、自分一人くらい、やらなくても大丈夫だと思ってしまう。

 更に、手抜き対策として、次の8つがあるとしています。
 ①罰を与える
 ②社会的手抜きをしない人物を選考する
 ③リーダーシップにより仕事の魅力向上を図る
 ④パフォーマンスのフィードバック
 ⑤集団の目標を明示する
 ⑥パフォーマンスの評価可能性を高める
 ⑦腐ったリンゴの排除
 ⑧社会的手抜きという現象の知識を与える

 そしてこれらは、「個人―集団」「積極―消極」という2軸4象限に整理することが出来、著者が望ましいとする優先順位で並べると、
 第1位 ― 第1象限 ... 個人に対する積極的施策 ... ④⑥⑧
 第2位 ― 第2象限 ... 集団に対する積極的施策 ... ③⑤
 第3位 ― 第3象限 ... 個人に対する消極的施策 ... ⑦
 第4位 ― 第4象限 ... 集団に対する消極的施策 ... ①②
となるとのことです。

 非常に分かりよく整理されているように思われ、結局、手抜きを防ぐには、④パフォーマンスのフィードバック、⑥パフォーマンスの評価可能性を高めること、⑧社会的手抜きという現象の知識を与えること、が最も効果的で、①罰を与えること、②社会的手抜きをしない人物を選考することが、最も効果が薄いということになるようです。

 ネガティブな施策よりもポジティブな施策の方が望ましいことはもとより、③リーダーシップにより仕事の魅力向上を図る、や⑤集団の目標を明示する、といった集団に対する施策よりも、パフォーマンスをフィードバックしたり、評価可能性を高めるといった個人に対する施策の方が効果が大きいというのはそれなりに説得力がありましたが、一方で、「社会的手抜き」の理論を裏返しただけの結果にすぎないようにも思われ、さほど目新しさはなかったというのが正直なところでしょうか(但し、そのことを日常において意識することで、実践面では役に立つセオリーではあると思う)。

 エピローグが「『手抜き』にも役割がある」となっているように、個人レベルにおいても集団レベルにおいても「怠け」というものを100%ネガティブなものとしては捉えず、むしろ「無用の用」として捉えている点は前著の流れを汲んで言えるでしょうか(集団においては"多様性"の観点が織り込まれている)。Amazon.comのレビューなどには、いかにして手抜きを防ぐかと言う本書のそれまでの論旨とズレがあるのではないかと見る向きもあったようですが、「怠け者」を排除すれば組織は活性化するというものではないという点では、先にあげた、①罰を与えること、②社会的手抜きをしない人物を選考することは効果が薄いという論旨と理論上は合致しているように思いました。

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タイトルずれしている。組織論なのか、マネジメント論なのか、単なる「世間話」なのか。

高学歴社員が組織を滅ぼす.jpg 日本経済を滅ぼす「高学歴社員」という病.jpg 上念司 ニュース女子.jpg「ニュース女子」上念司・西川史子両氏
高学歴社員が組織を滅ぼす』(2015/06 PHP研究所)『日本経済を滅ぼす「高学歴社員」という病 (PHP文庫)』(2017/06 PHP文庫)

 Amazon.comでのレビュー評価が比較的高かったので、つい買ってしまいそうになりましたが、買わずに図書館で借りました。結果的に、借りるだけにしておいて良かった...という印象です。

 「高学歴社員」とはいったいどのような人間なのか、著者はその定義をしているわけですが、それがかなり恣意的で、殆ど"無茶苦茶"と言っていいです。著者自身、「本書における定義は著者である私自身の経験に基づき独断と偏見で行いたいと思います。それがたとえ、世間一般で言うところの高学歴の定義に当てはまらなかったとしても、...」と前置きし(この前置きそのものが無茶苦茶ではないか)、「私の提唱する高学歴社員の定義は次の通りです」として、
 1.リスク回避的である
 2.安定志向であり、自己保身主義である
 3.相手が誰であるかを判断するとき、世間で重んじられるヒエラルキーばかりを重視する(※世間の評価・評判、学歴、職歴、企業規模など)
 4.自分よりも「格上」と見做した相手には思考を停止しておもねる。身内に対しては自分が傷つきたくないので過剰に甘く、お互いに傷を舐め合う。
 5.「格下」の人間に対しては生死に関わる問題も含め極めて冷淡な態度をとる
としています。

 何ら論を待たずとも、こんな社員ばかり集まったら組織が衰退するか滅びるのは想像に難くないのではないでしょうか。実際、著者自身も、その後は「高学歴社員」論を展開することはなく、ダメになった組織の例を、企業不祥事や、はたまた、昔の戦記物語から引いてきているわけですが、少なくともそこから「高学歴社員」論に戻ることはなく、完全にタイトルずれしています。

 強いていえば、中盤以降の様々な事例は、"「脆弱なマネジメント」と「暴走する現場」の失敗の法則"に呼応していると言えなくもないですが、何れも歴史オタクや経済オタクが歴史書や経済書から引いてきたような話ばかりで、"居酒屋談義"を聞かされているような印象でした。

 結局、組織論なのか、マネジメント論なのか、単なるビジネス読み物なのかよく分からないような内容で、歴史的な出来事や社会的な事件の裏側を語るだけ語って、そのうち終わってしまったという印象です。

 Amazon.comのレビューにも少数派ですが「世間話の範疇を出るものではない」というのがありました。これ、真っ当なコメントだと思います。何故、Amazon.comでの他のレビューで高評価をつけた人が結構いるのか、タイトルずれを誰も怒らないのか、個人的には理解不能です。

【2017年文庫化[PH文庫(『日本経済を滅ぼす「高学歴社員」という病』)]】

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近年また脚光を浴びつつあるという「組織開発」に関する入門書。新書で読めるのが有難い。

入門 組織開発9.JPG入門 組織開発.jpg
入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる (光文社新書)

 本書によれば、「組織開発」とは、戦略や制度といった組織のハードな側面だけでなく、人や関係性といったソフトな側面に働きかけ、変革するアプローチを指し、アメリカで1950年代終盤に生まれ、欧米を中心に発展し、日本でも1960代に導入されたとのことです。近年また、この「組織開発」が脚光を浴びていて、組織開発をタイトルに掲げる研修や講座が増えているとのことです。

 一方で、一般に用いられている「人材開発」とは異なり、一部の人事パーソンにとって聞きなれない言葉であったり、また、多くの人事パーソンにとっても、言葉は聞いたことがあっても、コーチング研修やファシリテーション研修といった研修(トレーニング)とどう違うのか、具体的なイメージが湧きにくいという面もあったりするのではないでしょうか。

 実際、組織開発はその理論や手法が非常に多種多様であるため、その全体像を把握するには体系的な学びが必要とされるものの、組織開発をこれから学びたいという人に向けた本は日本にはまだないとのことです。そこで、本書は、その全体像を理解できるような入門書を目指したとのことで、いま、組織開発が必要とされる理由、特徴と歴史、理論と手法などを具体的な事例を交えて紹介し、なぜ、組織の人間的側面のマネジメントは重要な経営課題となるのかを説いています。

 第1章では、今、なぜ組織開発なのかを、組織を機能させるためには組織の人間的側面へのマネジメントが必要であるという心理学的な視点から考察するとともに、①活き活きとできない社員、②利益偏重主義、③個業化する仕事の仕方、④多様性の増大、といった日本の組織の現代的課題を取り上げ、組織開発が必要とされる状況について検討しています。

 第2章では、組織開発とは何か、その考え方や価値観について検討するとともに、アメリカにおける組織開発の歴史と日本における組織開発の歴史を概観し、さらには組織開発の手法を、その「あり方」はどうあるべきかという観点から述べ、組織開発の手法には代表的な4つの働きかけ(①戦略的な働きかけ。②技術・構造的な働きかけ、③人材マネジメントによる働きかけ、④ヒューマンプロセスへの働きかけ)があるとしています。

 第3章では、組織開発の手法の中から、リーダー養成型組織開発による取り組みを紹介した後に、「パートナー型組織開発」の進め方の例として、①データ・フィードバックによる取り組み、②プロセス・コンサルテーションによる取り組み、③対立解決セッション、④AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)による取り組みを紹介し、最後の第4章では、日本の企業が活性化するための鍵を、組織開発の観点からまとめています。

 組織開発の研究者によるオーソドックスな入門書であり、読者がその体系を理解しやすいように書かれていて、いまの日本の企業組織において、トレーニングから組織開発への広がりが必要とされている理由も理解できました。こうした本はややもすると概念的・抽象的になりがちなところを、第3章では、組織開発の代表的手法を、組織開発コンサルタントの取り組み例で示しているのも良かったです。あくまで仮想事例であり、もう少しシズル感が欲しかった気もしますが、大学の先生が書いた入門書としては妥当な線でしょうか(コンサルティングファームが書いた自社サービスの紹介ではないからね)。

 むしろ、新書でここまで読めるのは貴重かも。後は、「組織開発」への関心が企業内でどれぐらい拡がっていのかによって、本書への注目度も変わってくるのではないでしょうか(同じ光文社新書の高間邦男 著『組織を変える「仕掛け」―正解なき時代のリーダーシップとは』(2008/09 光文社新書)を併せて読まれることをお勧め)。

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「オキシトシン」は"?"だったが、組織信頼向上の「8要因」は多くの事例を通して解説されていた。

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TRUST FACTOR トラスト・ファクター~最強の組織をつくる新しいマネジメント』(2017/11 キノブックス)

 本書の著者は神経経済学者であり、神経経済学とは、人間が決断をするときの脳活動を測定することで、なぜそのような行動をとるのかを説明する学問であるとのことです。著者によれば、人間は信頼されると脳内で神経伝達物質であるオキシトシン(信頼ホルモン)を合成し、受けた信頼に応えようとするとのことで、そうしたオキシトシンの測定から、信頼や共感が組織において人間の関係性を良好にし、コミュニケーションを円滑にし、イノベーションが実現しやすくし、各種のパフォーマンスも向上させ、組織を成長させるということが分かってきたとしています。

 一方、オキシトシン(の分泌や働き)を抑制する因子としてテストステロンなどがあり、人間の脳内でテストステロンとオキシトシンのせめぎ合いがあって、テストロンが多いと人間は利己的になり、権利意識も強まるとのことです。本書の目的は、テストステロンから得られる高いモチベーションや意欲と、オキシトシンを分泌することによる協調とチームワークのバランスを見つけることであるとのことであり、つまり、人間や組織を動かす生理学的な要素に着目してその働きと功罪、バランスを考える機会を提供しているのが本書であるということです。

 第1章では、著者は、オキシトシンによって脳の神経回路が活性化される仕組みを解明し、人々の信頼を支え維持する組織文化の構築に向けた一連の実用的な方法を突き止めたとし、信頼を生むマネジメントポリシーを構成する8つの因子として、「オベーション(Ovation)」「期待(Expectation)」「委任(Yield)」「委譲(Transfer)」「オープン化(Openness)」「思いやり(Caring)」「投資(Invest)」「自然体(Natural)」を挙げ、それらの頭文字をとって、まさに「OXYTOCIN」と名付けています。そして、第2章から第9章にかけて、この信頼を上げるための要因をそれぞれ解説しています。

 それによれば、「オベーション」とは、組織の成功に貢献した人を称賛することであり、「期待」とは、同僚がグループの課題に直面した時に生じ、「委任」とは、従業員が仕事の進め方を自ら選択できるようにすることであり、「委譲」とは、従業員が自らの仕事をデザインし、自己管理することを可能にするものであるとしています。さらに、「オープン化」とは、従業員とともに情報を広く共有することであり、「思いやり」は、同僚との人間関係を意図的に構築することであり、組織は従業員に一人の人間として成長してもらうために「投資」し、誠実で謙虚なリーダーがいる組織は、従業員が「自然体」でいられるとしています。そして、これらの実現が組織の信頼に寄与した例を数多く紹介しています。

 第10章では、「喜び」をもって仕事をするために重要な、信頼以外のもう1つの要素として「目標」を挙げ、「喜び」は信頼と目標意識から生まれるとしています。第11章では、信頼が業績に与える影響について述べ、信頼は働く人のモチベーションと幸福感を高め、結果的に生産性の向上、離職率の低下、慢性ストレスの減少につながるとして、改めて、信頼度の高い文化を構築することの意義を説いて、本書を締め括っています。

 冒頭で、オキシトシン効果というものが強調されていますが、その話から組織の信頼を向上させる「8つの要因」の話が出て来るまでの間が、「神経経済学で実証されている」としか説明がされていないので、単なるゴロ合わせ(?)だったのか、とやや拍子抜けしました。本書で言われている称賛や期待、委任・委譲など8つのトランス・ファクターについても、著者自身がそう述べているように、特に目新しいものではないです

 しかしながら、8つの要因がそれぞれ組織内で具体的に実現されるというのはどのようなことなのか、それによってどのような効果が生まれたのか、企業等の取り組み事例を数多く紹介しているため、まえがきにある、「『曖昧でとらえどころのないもの』を正しく理解するための技術的な入門書」であるという本書の狙いには概ね即しているように思いました。新旧さまざまな経営理論も併せて紹介されており、神経経済学(オキシトシン)は個人的には"?"でしたが、啓発書としては、まずまずではなかったかと思います。

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「学習する組織」の手法体系に絞った入門書だが、手法部分も含め啓発書としても読める。

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「学習する組織」入門――自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践』(2017/06 英治出版)

 「学習する組織」とは、「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織」のことであり、ピーター・センゲやクリス・アージリスらが生み出し、普及させた概念であり、理論・手法体系です。学習する組織を作るための原則、プロセス、ツールの数々は、自己との向き合い方、大局をつかむ思考法、広く柔軟な視座、対話し共感する力、理念や価値観の共有など5つのディシプリン(規律・訓練)として体系化されていますが、本書では、組織開発メソッドとしての「学習する組織」の要諦を、ストーリーと演習を交えて解説しています。

 第1章では、学習する組織がどのようなものであるかを紹介し、第2章では、学習する組織の全体的な構造と、チーム(組織)の中核的な学習する能力を形成する、志を育成する力、複雑性を理解する力、共創的に対話する力という3つの力を紹介、さらに、志を育成する力は「自己マスタリー」「共有ビジョン」というディシプリンによって、複雑性を理解する力は「システム思考」というディシプリンによって、共創的に対話する力は「メンタル・モデル」「チーム学習」というディシプリンによって、それぞれ構成されるとしています。

 そして第3章から第7章の各章で「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」の5つのディシプリンについてそれぞれ詳しく解説し、第8章では、学習する組織の始め方の例と、その過程で突き当たる典型的な課題について紹介、最終章の第9章では、学習する組織を目指した先にある未来の組織の在り方と、それを導くリーダーシップの在り方について述べています。

 ピーター・センゲの著書『学習する組織』(2011年/英治出版)は約600ぺージの大著であり、その中で学習する組織や5つのディシプリンについて奥深く解説されていますが、本書はピーター・センゲらがまとめた手法体系に絞った入門書であり、読者が今ある組織に備わっている能力や意識について探究し、それらをその組織の文脈に合わせてどう活用し、組織を進化させていくことができるかを、具体的・実践的に解説しています。

 そのため、5つのディシプリンについて解説した第3章から第7章の各章は、事例(ストーリーと振り返りの問い)、理論(各ディシプリンの原則とプロセスの紹介)、演習(ツールによる演習、その振り返りと解説)という基本構成になっており、概念や理論の解説と実践の方法が一体となっているのが本書の特長です。入門書でありながら、実践テキストとしての形態も兼ね備えているため、400ページ近いページ数になっていて、ベースとなっているピーター・センゲの『学習する組織』とはまた異なった専門解説をも含むものとなっていますが、個人的には、そうした実践方法の解説を含め、全体を通して啓発書として読めるように思いました(タイトルが「学習する組織」となっており、『学習する組織』となっていないことからも、ピーター・センゲの『学習する組織』のダイレクトな入門書ではないことが窺える)。

 著者によれば、学習する組織は、組織のメンバーらが自ら学び、創造・再創造を繰り返して進化し続ける組織であり、完成形というものは想定されていないとのことです。ディシプリンは「規律」「訓練」などと訳されますが、合気道や茶道といった言葉で使われる「道」に近いと考えられるとしています。その「道」の部分をより深く感じとり、充分に理解するためには、ピーター・センゲの『学習する組織』を読んでみるのもよいかと思います

 因みに、ピーター・センゲの『学習する組織』においては、5つのディシプリンは「システム思考」「自己マスタリー」「メンタル・モデル」「共有ビジョン」「チーム学習」の順で解説されていて、「システム思考」に最も多くのページが割かれていますが、これは、5つのディシプリンの中で「システム思考」が最も基盤となる概念であるからではないでしょうか。個人的には、センゲの『学習する組織』の並び順の方がしっくりきたし、ウェイトの掛け方も、「システム思考」が一番理解が難しい概念であるという点で『学習する組織』の方が良かったですが、実践を絡めて解説すると、本書の「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」の順になったということでしょう学習する組織 3つの「柱」.pngか(ほぼ同時期に刊行の同著者の『マンガでやさしくわかる学習する組織』(2017年/日本能率協会マネジメントセンター)ででは、「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「自己マスタリー」「共有ビジョン」の順で解説されていて、これはこれで、複雑性を理解する力、共創的に対話する力、志を育成する力、の順であることが窺える)。

学習する組織 3つの「柱」from Change Agent

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「守・破・離」という従来の概念に、マネジャー、スペシャリストという概念をクロスオーバーさせたもの?

「一体感」が会社を潰す―6.JPG「一体感」が会社を潰す1.JPG
「一体感」が会社を潰す 異質と一流を排除する<子ども病>の正体 (PHPビジネス新書)

 バブル崩壊までの高度経済成長期においては、社員は社長や上司の号令のもと、一致団結して同じ行動をとることが組織の勝利の方程式であり、そのため、組織において「一体感」や「仲間意識」を高めることが、非常に良いこととされてきた―しかし、これまでの社会情勢に合わせて発達してきたこの「一体感」や「仲間意識」が、ここに来て、たくさんの組織、会社の成長をかえって妨げているのではないか。そして、変化に適応できていない人や組織が、かつての成功モデルにしがみつき、かつて合理的であった、仲間ウチの「一体感」を高めるべく、子どもっぽい思考や行動、そして組織のあり方を続けているのではないか―。

 25年以上にわたり、30社以上の組織に経営改革のための助言をしてきた組織コンサルタントであるという著者(この人の本はあ『インディペンデント・コントラクター―社員でも起業でもない「第3の働き方」』を読んだことがある)は、こうした状況を「組織の<子ども病>」と呼び、本書前半部分(第1章~第3章)では、個人、組織文化、マネジメントの3つの観点から「コドモ組織」の以下の15のパターンを、事例でもって分かり易く示しています。著者が本書をエッセイ風に書いたブログで述べている通り、この部分は楽しく読めました。

「個人がコドモ」
 パターン1:誰が当事者?批評家ばかりの組織
  パターン2:「空気」に支配されている人たちの組織
  パターン3:「稼ぐ」ことを忘れた人たちの組織
 パターン4:仲間としか仕事をしない人たちの組織
 パターン5:忠誠心の表明を要求する上司がいる組織
「組織文化がコドモ」
 パターン6:全体最適より個別最適を優先する組織
 パターン7:必要以上に摩擦を回避する組織
  パターン8:よその部署の情報が流れてこない組織
 パターン9:例外対応ができていない組織
 パターン10:議論のための議論で満足する組織
「マネジメントがコドモ」
 パターン11:実現不可能な目標が設定される組織
 パターン12:権限と責任が不釣り合いな組織
 パターン13:優先順位がつけられない組織
 パターン14:反省しない、学習能力の低い組織
  パターン15:一流が排除される組織

 そして、続く第4章で、コドモ組織と大人組織の違いを「標準化力と同質性/専門技術力と異質性」といったように対比的に示し、コドモ組織が大人組織に変わるための3つのポイントとして、1.個人の「自立」と「自律」、2 .目的合理的な思考行動パターン、3.マネジメントのプロ化、を掲げ、それぞれ解説しています。

 この中ではまず、個人の「自立」と「自律」を具体的に考えるために、両要素を縦横の軸としたマトリクスを示しています。そして、目指すべき究極は「プロフェッショナル」乃至は「超一流」であるとの前提のもと、「丁稚」→「一人前」→「自律」というプロセスを経て次に「統合的役割」に至るのが通常だが、「自律」での研鑽が足りないために、次段階の「プロフェッショナル」に至る前に厚い壁があるとし、また、「一人前」段階で「一流」を目指すにしても、「一人前」から「自律」を経ないでそこへ行こうとするから、やはりそこには厚い壁があるとしています。つまり、「プロフェッショナル」への道と同様、「一人前」から「自律」へ行き、そこで研鑽を積むことで初めて「一流」「超一流」への道が開けるというものです。

 そして、コドモの組織から大人の組織になるためには、「目的合理的な思考行動パターン」が求められ、それは例えば、自分の仕事にこだわりを持ち、自分がやるべき仕事を深く理解して、自分のやりたい仕事ができる組織で働くことができることが目的合理的ということになると。そこで摩擦が起こるのは当たり前であり、それを回避するのではなく、摩擦が発展の糧となると考えるべきだとしています。

 更に、「マネジメントのプロ化」とは、専門家の持つ多様性を束ねて機能的に統合し、共通の目標を実現させるようにすることであり、一流から一目置かれる「眼力」と「質問力」を有するのがマネジメントのプロであり、また、大人の組織はルールではなくプリンシプルで動き、プロセス制御ではなく結果制御であるとしています。

そして、最後の第5章では、組織がコドモの組織である状況で、大人になるための戦略を、「一流の仕事人」の日常を通して解説し、一流の技術者、プロフェッショナルとして大切にしたい要素として、1.自助努力、2.連携、3.正直かつ率直、4.ポジティブ、5.基準を高くもつ、の5つを挙げています。

 全体を通して啓発的であるだけでなく理論構成もしっかりしていて、書かれていることは異を唱えるものではありませんが、考え方は、本書の中にも出てくる「守・破・離」という従来の概念と、マネジャー、スペシャリストという概念をクロスオーバーさせたものであるように思われました。

 但し、現代ビジネスに求められる高度の専門性や、常に変革が求められる時代環境に即した、新たなマネジャー、スペシャリスト像を示しているという点では評価できると思います(「一体感」を批判していると言うより、「自律」段階にある人を異質なもの、または脅威として潰してしまう組織体質を批判している本だと思った)。

 一方で、「一流」「超一流」という言葉を使っていることにやや引っ掛かりました。スポーツにおけるスター選手などと違ってビジネスの現場では、「一流」の仕事をしている人って意外と自分が「一流」だという意識は無かったりするのではないかなあ。まだ「丁稚」段階にある人に向かって、あんまり「一流」ということを言いすぎると、逆に「守・破・離」の「破」をすっ飛ばして「離」に行こうとして、著者が意図したものと逆の結果を生むことに繋がる気もするのですが、杞憂に過ぎないものでしょうか。 自己啓発書的要素もあり、読む人によって相性の違いはある本だと思います。

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手軽に読めるがややインパクトは弱いか。若手ビジネスパーソンへのサバイバルのための指南書?

崩壊する組織にはみな「前兆」がある 1.jpg崩壊する組織にはみな「前兆」がある: 気づき、生き延びるための15の知恵 (PHPビジネス新書)

 三菱商事で10年間海外プロジェクトを担当後、ボストン・コンサルティンググループ(BCG)で19年間内外の一流企業に経営アドバイスを行ってきたという著者(現在は経営大学院教授)が、企業組織が崩壊に向かう「前兆」となる現象を紹介するとともに、その問題点や発生原因を解説したものです。読者ターゲットは、キャリア半ばのビジネスパーソンであるとのことで、そのため、大手コンサルティングファームの出身者が書いた本であるわりには、"田の字"の図説が多用されているようなものに比べ、分かり易く書かれているように思いました。

 本書で取り上げられている15の前兆とは、「沈黙する」「どなり合う」「ブンブン回る」「飾り立てる」「コロコロ変わる」「誇大妄想する」「はしごを外す」「浮かれる」「MBAする」「面従腹背する」「密談する」「ぐちゃぐちゃになる」「からめとられる」「別居する」「マヒする」「落下する」の15です(なぜか16あるね)。

 これらの前兆の発生に大きく影響する要因として、①企業のライフサイクル・ステージ、②企業のDNA、③そのときどきのリーダーのタイプの3つがあり、これらが組み合わさってこうした前兆が生まれるとしています。15の前兆の並べ方は、概ね企業のライフサイクル・ステージに沿ったものであり、「ブンブン回る」あたりから創業期、「浮かれる」あたりから成長期の問題となり、「面従腹背する」「密談する」あたりで成熟期・再生期、「マヒする」「落下する」で衰退期から組織崩壊へ至るとしています。

 15の前兆は、何となく読む前から内容が分かりそうなものもありますが、そうでないものも、各章の冒頭に具体的な事例が紹介されていて、読み始めればすぐにナルホドなあと。例えば「飾り立てる」の章では、経営者が美術品や競走馬にはまった例が紹介されていますが、経営トップ自らが「経営者本」を出したりして、メディアなどで飾り立てられている組織も、顕在的・潜在的両面で問題を内包している可能性が高いとしています。

 「はしごを外す」とは、リスクのある仕事を他人にやらせてその成否を見極め、うまくいけばすかさず自分の手柄にし、うまくいかなければ責任を他人に押し付けて逃げることであり、テレビドラマ「半沢直樹」を思い出してしまいました。ドラマでは、そうした上司に立ち向かう主人公がヒーローとして描かれているのに対し、本書のスタンスは、若いビジネスパーソンの立場に立って、そうしたことが蔓延する組織をどう見切るか、その"見切り"のポイント、ビジネスパーソンとしてのサバイバル方法を指南していると言えるかと思います。

 ただ、個人的に思うに、若いビジネスパーソンの方が意外とこれらの組織崩壊の前兆に敏感であり、むしろ、本書にもあるように、危機感覚が「マヒする」ことになりがちなのは、"組織の中にどっぷりと浸かっている"ベテランだったりするのではないかなあ。

 著者は、15の前兆の中で最も危険なものを一つ選べと言われれば、「沈黙する」(会議などで出席者が口を開かないこと)を選ぶとしており、ベテランの経営コンサルタントが、どのような視点で企業診断を行っているかを知るうえでは興味深い面もありました。ただ、人事パーソンの目線からすれば、全体としてはそれほどインパクトのある本ではないかも(まあ、一応、自らの組織の中で起きていることが、組織崩壊の"前兆"に該当するかどうかを振り返ってみる分には悪くない、と言うか、手軽に読める本ではありますが。

《読書MEMO》
●出席者が会議で沈黙する
役員会での沈黙、部門会議での沈黙、労使懇談会や職場をよくする会での沈黙。せっかく議論するために集まっているのに、みな口を開かない。(中略) 多くの場合、沈黙の会議は、その組織に何か大きな不具合が生じていることの「兆候」と考えてよい。役員会が静かで、議論が活発化していない企業は、おそらく経営的に問題があると疑ってよい。この例の会社もそれから間もなくして、経営不振に陥り、社長も退任させられてしまった。
●経営者が美術品や馬にはまる
これも有名な話だが、ある成功した技術系新興企業の経営者が、ふとしたはずみで馬主になったらその魅力に取りつかれ、ついには巨額の資金を競馬に投じるようになってしまった。しばらくして彼は、会社の役員会で社長を電撃的に解任されてしまった。一説には、彼が「競走馬育成事業」を会社の中核事業にしようと目論んだため、他の役員がそれを阻止するためだった、とも言われている。そのまま競馬事業に突き進んでいたら、その会社の経営はどうなっていただろうか。
●「はしご外し」が蔓延する
正しいことやチャンスがあることでも、そのリスクが目について、自分ではなかなか先頭を切れなくなる。そこで他の人にやらせて、その成否を見極める。うまくいけばすかさず前に出て、自分の手柄にするし、うまくいかなければ首を引っ込めて、責任をそいつに押し付けて逃げる。(中略)もちろん、こうした「はしご外し」行動が蔓延すれば、その組織には徐々に活力が失われ、もはやかつてのようなダイナミックな成長は期待できない。緩やかに衰退していくしかない。
●幹部社員が不審な行動をとる
会社の社員、特に幹部社員に不審な行動が目立つようになると、危険な兆候であることが多い。ひそひそ話、密談、長時間の離席、非常階段や喫煙コーナーなどでの長い携帯電話、会議の席などで目を伏せる、目を合わせない......。こうした行動がしばしば目撃されるのは、組織崩壊の前兆である。幹部や社員は、さまざまな理由で、会社を逃げ出そうとしている可能性が高い。
●利害関係者が多い
こうした体験を通じて、私が考え出したのは、「ステークホールダーの数と意思決定スピードは二乗に反比例する」という法則である。この意味は、ステークホールダーの数が、たとえば4人から5人へと2倍になると、意思決定のスピードは、2×2=4の逆数で4分の1に落ち、意思決定にかかる時問は逆に4倍に延びるということである。ステークホールダーが多いことは、それだけ組織の足を引っ張り、うすのろの組織にする絶大な効果があるということだ。
●「やつら対われわれ」と言いだすようになる
合弁会社や統合会社は、男女の結婚のようなものである。最初は、相思相愛の熱烈な恋愛感情で結ばれたカップルも、結婚して一緒に暮らすようになると、「こんなはずではなかった」という思いが生じ、両者の間に冷ややかなすきま風が吹くようになる。(中略)会話の中に、「やつら対われわれ」というような表現が出てくるのは、パートナー間に不信感が蔓延していることの表れである。こうなると、組織の崩壊も間近である。
●組織の中に浸かってマヒする
想定外の事故が起きたとき、事故調査委員会などが組織されて、事故原因を調査する。そうすると、経営が緩んでいた兆候や、事故が起きる伏線あるいは予兆がいたるところに出てくる。それに対して、調査委員会もまたメディアも「想定できたじゃないか」とか、「事前になぜ手を打てなかったのか」とか、「経営陣の怠慢だ」と責めることになる。(中略)しかし、実際に事故発生前の組織の中にどっぷりと浸かっていると、そうした兆候がいたるところにあったとしても、気がつかない。あるいは気がついていても手を打とうという行動にはならない。「まあ今まで大丈夫だったし...」とか、「自分の任期中には目をつむろう...」となるわけである。

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「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ピーター・M・センゲ)

「組織学習」の名著。核となる提案部分(5つのディシプリン)は旧版と同じ。旧版でも問題ない。
学習する組織00.jpg学習する組織 2011.jpg  最強組織の法則 - 原著1990.jpg  Peter M Senge .jpg
学習する組織―システム思考で未来を創造する』(2011/11 英治出版)/『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』(1995/06 徳間書店) Peter M Senge

Peter M Senge 2.jpg 著者のピーター・M・センゲ(Peter M. Senge)はマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院の組織センター長であり、本書のオリジナルに当たる1990年にセンゲが発表した『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か(The Fifth Discipline : The Art & Practice of The Learning Organization)』('95年/徳間書店)は、「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」というコンセプトを提唱したことで知られています。本書『学習する組織―システム思考で未来を創造する』('11年/英治出版)は、原著の2006年改訂版(原題同じ)であり、書き加えられた「学習する組織」の実践上の課題やそれを乗り越える事例と併せて、旧版の翻訳で一部割愛されていた内容を補完したものです。

 全5部構成の第Ⅰ部において、著者は、世界では物事の相互の繋がりは一層深まり、ビジネスは複合的でダイナミックになっていて、そうした中、仕事はもっと「学習的」にならなければならず、それは、会社のために誰か1人が学べばいいというものでもなく、また、トップが解決策を見つけ、社員がその大戦略家に付き従うという方法でももはや成功できず、これからはあらゆるレベルの社員から学習する意欲と能力を引き出すことができる企業こそ成功していくだろうとしています。

 従って、マネジャーは社員に①新しいアイデアに柔軟に対応する、②互いに気兼ねなく率直にコミュニケーションする、③企業がどのように運営されるべきか、深く理解する、④集団的なビジョンを構築する、⑤共通の目的を達成するために力を合わせる、といったことを奨励すべきだとしています。

 そのうえで、学習する組織には5つの基本的なディシプリン(構成要素)があるとしており、それらは以下の通りであるとともに(本書で意味する"ディシプリン"とは、学習し習得すべき理論及び技術の総体を指す)、第Ⅱ部において「システム思考」(第1のディシプリンとして重要視されるこのシステム思考は、これに続く他の4つを統合するものとされる)、第Ⅲ部において残りの4つのディシプリンについて解説しています。

①システム思考:全体のパターンを明らかにし、それを有効に変えていく視点でものを考えること。このシステム思考によって全体を纏め、一貫した実行プランが構築できる。
 センゲの組織研究のアプローチは一貫して、組織を独自の行動様式と学習パターンを持つ一個の生きた存在と捉えるシステムアプローチであると言えます。彼はここで、問題を頻発させたり成長を抑制したりする反復性のパターンをマネジャーが見抜くのに役立つ「システムの原型」の考え方を紹介しています。

②自己マスタリー:現実を客観的に捉える。そのために、個人の視野を拡げ、常に現実への理解を深めていくことの重要性を意識的に認識する必要がある。
 現代のマネジャーは誰でも個人のスキルや強みを開発することの大切さを認識していますが、センゲはこの考えからさらに一歩踏み込んで、学習する組織における個人の心の成長の重要性を強調しています。真に心が成長すれば、現実をよりはっきりと認識するようになるとして、心の成長によって現実をもっとはっきりと見据えることを教え、ビジョンと現実との違いを際立たせることにより、創造的な緊張関係を生み出すことが出来るとしています。そしてこの緊張関係から効果的な学習が生まれると。センゲの言う「学習する組織」とは、「自分が大切だと思うことを達成できるように自分を変える」ことにより「自分の未来を創造する能力を絶えず充実させている人々の集団」であると。

③メンタル・モデルの克服:自分たちの心に知らないうちに固定化されたイメージや概念(メンタル・モデル)を分析し、精査する。
 システムアプローチの次なる要素としてセンゲが強調しているのは、メンタル・モデルであり、センゲは、マネジャーたちに組織の価値観や理念を裏で支えるメンタルモデルを構築することを要求しています。組織レベルで培われてきた既成の思考パターンの影響力の大きさに注意を促し、これらのパターンの性質を検証するオープンな仕組みづくりが必要であるとしています。

④共有ビジョンの構築:組織内で共通のアイデンティとミッションのもとに個人を結束させる。そのためには、お題目だけのビジョンではなく個々が心から納得し、参加できるような共通の「将来像」を掘り起し、コミュニケーションを続ける必要がある。
 真の創造性やイノベーションは集団の創造性に基づくものであり、また、集団のビジョンはメンバーの個人的なビジョンの上に構築されるものであって、メンバーが集団のビジョンを自分と切り離すことなく考え始めたときにビジョンの共有が可能になるとしています。

⑤チーム学習:現代の組織では、個人ではなくチームで成果を出し、そのための学習の基礎を構築する。そのために対話と議論という2つの実践が伴う。チームが学び、成長できなければ集合体としての組織も成長できない。
 ここでは、効果的なチーム学習のためには、「ダイアローグ」(dialogue)と「ディスカッション」(discussion)という2つの異なる対話方法をうまく使い分けることが必要であるとしています。ダイアローグ(意見交換)は問題点をどんどん探し出してゆくことであり可能性を広げるものであり、ディスカッションとは将来の意思決定のために最善の選択肢を絞り込む作業であると。これらの2つのプロセスは相互補完的ではあるが、別々のものとして考えなければならず、実際には両者を意識して使い分けられるチームは残念ながら殆ど見当たらないとしています。

 本書で挙げられている事例を見ればわかる通り、企業をラーニング・オーガニゼーションに変身させるのは簡単なことではなく、それは何故かと言うと、最大の理由は、マネジャーが今まで持っていた権力や権限を手放し、学習している人に渡さなければならないからだとしています。社員が学習するためには試行錯誤が必要であり、とりわけ(旧来型の)責任追及型の企業文化であればそれは大胆な変革が必要となると。また、ラーニング・オーガニゼーションを築くには、信頼と関与が必要であり、これも多くの企業で欠けているとも言っています。

 旧版『最強組織の法則』第Ⅳ部では、「創造への課題」を取り上げ、この中では「仕事と家庭の対立は終わる」といったワーク・ライフ・バランスに対する早くからの炯眼を窺わせる記述もあり、第Ⅴ部では。「組織学習の新しいテクノロジー」を事例を交えて解説していました。新版『学習する組織』第Ⅳ部は、「実践から振り返り」となっており、第Ⅴ部が「結び」となっています。

 基本となる第Ⅰ部から第Ⅲ部までは『最強組織の法則』も『学習する組織』も同じ内容なので、どちらを読んでも構わないかと思います。取り上げている事例の部分で旧版の方が「アメリカ企業はなぜ日本企業に敗れたのか」といった例が多くなっているのが、やや時代を感じさせるぐらいしょうか。「組織学習」の名著としての評価は定着しているのではないかと思います。
 旧版1,900円、新版3,500円(何れも本体価格)。旧版の日本語タイトルは不評でしたが、旧版の方の訳が古びているとか硬いとかいったことはなく、読む上では旧版でも全く問題ないかと思います(むしろ旧版の方が単独翻訳者なので、訳調が統一されているかも)。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)
【2701】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『マネジメントの名著を読む』 (2015/01 日経文庫)

《読書MEMO》
●企業が抱える7つの学習障害
①「職務イコール自分」:
 個人が自分の職務だけに気を取られると、全ての職務が関連し合って生まれる結果に対して責任が薄れ、職務間の連携が阻害される。
②「敵は向こうに」:
 自分の仕事にしか目が向かないと、何のために仕事しているのかという本質的な目的や、自分の行動の影響が職務の範囲を超えてどう拡がっていくのかを認識できなくなる。そんな中、自分の仕事の結果が悪い形で出てくると、理由を外に向け、自分以外のせいにしようとする。
③積極策の幻想:
 「向こうの敵」と戦かおうとひたすら攻撃的になるとすれば、人は受身に反応しているということになる。これは積極策の幻想であり、真の積極性は、自分の抱える問題にどのように寄与するかの見通しから生まれる。
④個々の出来事に捉われる:
 我々の組織及び社会の生き残りにとっての中心的脅威は、不意の出来事からではなく、徐々にゆっくり進行するプロセスからくること。
⑤茹でられた蛙の寓話:
 徐々に変化していくプロセスを見極める力を養うには、現在の慌ただしいペースを緩め、全体像を見極めた上で、派手なものだけでなく目立たないものにも注意を払う必要がある。
⑥体験から学ぶという錯覚:
 人は経験から最も多くのことを学ぶが、重要な決定の場合は大抵(その影響が長期にわたるため)、その帰結を直接には経験しない。
⑦経営チームの神話:
 経営チーム=組織の様々な機能と専門分野を代表する有能で経験豊富な管理職の一団のはずが、実際には会社の現状を擁護し、保身のための能力だけに長けた「熟練した無能」集団と化す。
●システム思考の法則
①今日の課題が昨日の「解決策」からくる。
②システムは押せば押すほど強く押し返す(補償的フィードバック)
③状況は一旦好転してから悪化する
④安易な出口は通常元に戻る
⑤治癒策が病気そのものより問題になることがある
⑥急がば回れ
⑦原因と結果は時間的・空間的に近隣しているとは限らない
⑧小さな変化が大きな結果を生むことがある。しかし一番効果のある手段はしばしば一番見えにくい。
⑨ケーキを手に入れ、しかも味わうことができる(同時にではないが)
⑩1頭の象を分割しても2頭の小象にはできない
⑪罪を着せる外部はない...etc.

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MBA教科書の要約版。組織行動論の定番的教科書。これ一冊で組織行動論を概観できるテキスト。

【新版】組織行動のマネジメント.jpg
組織行動のマネジメント 旧.jpg                  Stephen P. Robbins.jpg
組織行動のマネジメント―入門から実践へ』['97年] Stephen P. Robbins

【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ』['09年]

 経営に携わる人、経営を学ぶ人にとっての定番的教科書とされている本書(原題:Essentials of Organizational Behavior)は、MBAの教科にあるOrganizational Behavior(OB=組織行動論)の授業で使われる教科書の要約版であり、訳者もあとがきで書いているように、グローバル・スタンダードなマネジメントの教科書ではあるが、基本的にはアメリカのビジネス価値観に根ざしているものとしています。言い換えれば、「グローバル市場で競争するとき、仮に競争相手がMBAホルダーなら、人と組織のマネジメントはこの教科書で学んでいると想定するほうがよい」としています。

 原著は近年は毎年改版されていて、最新版は第12版(2013年現在)になり、邦訳は、旧版が第5版、新版が第8版を訳していて、改版に翻訳が追いつかない傾向もありますが、組織行動論に関する教科書的な本が日本にはあまりない現況では、(要約版であっても)これ一冊で組織行動論を概観できる貴重なテキストかと思います。

 本書では、組織行動学を、個人的なレベルからグループのレベル、組織システムのレベルへと3つの分析レベルで捉えています。

 第1部で組織行動学とは何かを説いたあと、第2部では組織における個人の問題を扱い、個人の行動の基礎―価値観、態度。認知、学習に目を向け、それから、動機づけの問題と個人の意思決定の問題に移っています。

 第3部ではグループ行動の問題を取り上げ、そのモデルを紹介し、チームの効率を高める方法について考察、更には、コミュニケーションの問題やグループの意思決定について考え、リーダーシップ、権力、政治的な駆け引き、対立、交渉という問題を探っています。

 第4部では、組織の構造、テクノロジー、職務設計がいかに行動に作用するか、組織の公式の業績評価や報酬システムが人々にいかに作用を及ぼすか、組織の独自の文化がいかにそのメンバーの行動を形づくるか、更には、マネジャーが組織の利益のためにどのような組織変革や開発のテクニックを利用して、部下の行動を導くかといった問題を扱っています。

 以上の内、第2部では、主だった動機づけ理論が網羅されているとともに、MBO(目標管理)などへのその応用が述べられ、また、意思決定のスタイルとモデルなども示されており、第3部では、集団行動の基礎、チームとは何か、コミュニケーションの機能とプロセスなどが述べられ、更に、主だったリーダーシップ理論が紹介されるとともに、パワー理論などにも触れ、第4部では、組織構造の定義や類型、組織文化の特性と人材管理の考え方及び方法、組織変革や組織開発のモデルや方法などが示されています。

 本書一冊で、組織行動に関する代表的な理論が、心理学や社会学など様々な学問から得られる知見も織り交ぜながら紹介されており、個人→グループ→組織という各分析レベルと全体プロセスの流れの中でそれらを概観できるようになっている点が、本書の良書たる所以でしょう。

 新訳では、グローバル化、情報化、多様化が当然となっている経営環境で、人と組織をいかにマネジメントするかが重点的に述べられていますが、そのポイントとして「チーム化」と階層の「フラット化」を掲げ(激変する時代の組織でチームを多用するのは、その有機的組織特性が革新を生む源泉となる)、但し、チーム化やフラット化が万能のものではないことも指摘しています。

 組織論を学ぶには、こうした関連項目を系統立ててしっかり押さえてある本に先に目を通してから、リーダーシップ論やモチベーション論などの各論に当たる方が、ばらばらと啓蒙書的なリーダー論に当たるよりは、圧倒的に効率がよいように思います。

 語学に自信がある人は原著の方がお奨め(エッセンシャル版で充分)。ほぼ毎年改訂されているというだけでなく、ふんだんにビジュアライズされていて概念把握がし易くなっています。

 因みに、著者のスティーブン・P・ロビンスは、米国マスターズ陸上殿堂のメンバーであり、個人短距離走で11度の世界タイトルに輝き、米国と世界の年齢別記録を何度も塗り変えているそうな。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)

《読書MEMO》
●目次
1.組織行動論とは何か
2.個人の行動の基礎
3.パーソナリティと感情
4..動機づけの基本的なコンセプト
5.動機づけ:コンセプトから応用へ
6・個人の意思決定
7.集団行動の基礎
8・"チーム"を理解する
9・コミュニケーション
10.リーダーシップと信頼の構築
11.力(パワー)と政治
12.コンフリクトと交渉
13.組織構造の基礎
14.組織文化
15.人材管理の考え方と方法
16.組織変革と組織開発

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ホールシステム・アプローチの"思想"と"枠組み"を理解するうえでは良かった。

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       ホールシステム・アプローチ.jpg  ワールド・カフェをやろう.jpg
俊敏な組織をつくる10のステップ』['12年]『ホールシステム・アプローチ―1000人以上でもとことん話し合える方法』['09年]『ワールド・カフェをやろう!』['11年]

 本書は同じ著者らの前著『決めない会議―たったこれだけで、創造的な場になる10の法則』('09年/ビジネス社)、『ワールド・カフェをやろう!』('09年/日本経済新聞出版社)、『ホールシステム・アプローチ―1000人以上でもとことん話し合える方法』('11年/日本経済新聞出版社)などに続く、「ホールシステム・アプローチ」の入門書です。

 「ホールシステム・アプローチ」とはアメリカ生まれの会議の手法であり(ベースにはピーター・センゲの「学習する組織」の考え方がある)、検討すべき課題に関係するすべての関係者を集めて、共通の課題や目指したい未来などについて話し合う大規模な会話の手法の総称であるとのことですが、今回の本書では、ホールシステム・アプローチを単なる会議の手法として取り上げるのではなく、組織変革プロセスの視点から加筆されています。

The World Café.jpg ホールシステム・アプローチの代表的な手法には、ワールド・カフェやOST(オープンスペース・テクノロジ―)、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリ)、フューチャー・サーチなどがあり、これらの会議の特徴は、無理に結論を出そうとしたり、結果を出すことに最初からこだわらないで、むしろ話し合いの質やプロセスに気を配り、参加者同士の関係の質を向上させることを大切にしているところであり、こうした「決めない会議(決めようとしなくても決まってしまう会議)が今注目されているとのことです。

The World Café(上・イメージイラスト/下・解説図)

ワールドカフェ01.gif 本書によれば、ホールシステム・アプローチによる組織改革においては、組織の階層や部門の違いを超えた密接な社内コミュニケーションを維持し、多様なものの見方や意見を尊重し、自由活発な意見交換がなされ、また、組織が何を実現したいのか。そのために何が必要なのかを全員が共有することを目的とするとのことで、それが、本書のタイトルにある「アジャイル(俊敏)な組織をつくる」ということになります。
 
 本書では、そのためのホールシステム・アプローチによる組織改革プロセス、並びに、ワールド・カフェやOSTといった手法がそのプロセスのどの手法をカバーするかを示すとともに、ホールシステム・アプローチによる変革プロセスを組み立てる際のポイントとなる10の視点を挙げていて、それらについての解説が、実質的な本書の"本編"となっています。

 また、後半は、ホールシステム・アプローチのワークショップを組み入れて組織や地域の変革をプロセスとして展開している企業、自治体、業界、海外の事例が詳しく紹介されており、ワークショップの在り様がイメージしやすくなっています。

 前著から続編的な側面があり、AIやOSTといった用語がいきなり出てきますが、それらについては巻末で解説されているため、この分野が初めての読者は、先にそちらに目を通した方がいいかもしれません。

 ホールシステム・アプローチの"思想"と"枠組み"を理解するうえでは良かたと思います。人事パーソン的な視点からすれば、ファシリテーターとして社内ワークショップを成功させるためのテクニカルなポイントについてもう少しあれば、例えば社内ワークショップの運営を想定した際のイメージが掴みやすかったのではないかという気もしますが、そうなると、一冊の入門書にあまりに多くのことを求め過ぎることになるのかも。

 本書とは別の切り口からホールシステム・アプローチの"思想"を解説するとともに、リーダーシップ研修にホールシステム・アプローチを採り入れた事例なども紹介されている、高間邦男 著『組織を変える「仕掛け」―正解なき時代のリーダーシップとは』(2008年/光文社新書)などを併せて読んでみるのもいいのではないかと思います。

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組織にも「感情」特性ごとの処方箋。人間性善説に依拠した啓蒙書? 前著の方が良かった。

職場は感情で変わる.png職場は感情で変わる (講談社現代新書)』['09年] 不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか.jpg不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)』 ['08年]

 前著(コンサルタント4人の共著)『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』('08年/講談社現代新書)では、社員同士での協力関係が生まれないために、職場がギスギスして、生産性も向上せず、ヤル気のある人から辞めていく、こうした組織における協力関係阻害の要因はどこにあるのかを、「役割構造」「評価情報」「インセンティブ」という3つのフレームで捉えていました。

 例えば、「役割構造」の変化については、従来の日本企業の特徴であった個々の仕事の範囲の「緩さ・曖昧さ」が、協力行動を促すことにも繋がっていたのが、成果主義が導入されると、今度は、個々は自分の仕事のことしか考えなくなり、外からは誰が何をしているのかよくわからなくなって、仕事(役割)が「タコツボ化」しがちになっているが今の状態であるとし、そのことが結果として、組織力の弱体化に繋がっているとした分析は、明快なものであったように思います。

 前著共著者の1人による本書は、「ベストセラー『不機嫌な職場』の解決編登場!」というキャッチコピーで、組織にも「感情」特性があるという視点から、それを「イキイキ感情」「あたたか感情」「ギスギス感情」「冷え冷え感情」の4象限に分類し、それぞれの処方箋を示しています。

 「イキイキ感情」というのは、①高揚感(ワクワクする気持ち)、②主体感(自らやってみようという気持ち)、③連帯感(みんなでがんばろうという気持ち)であり、「あたたか感情」というのは、①安心感(ここにいても大丈夫だよという気持ち)、②支え合い感(お互いに助け合っているという気持ち)、③認め合い感(自分は必要とされているという気持ち)であって、「ギスギス感情」や「冷え冷え感情」を「イキイキ感情」「あたたか感情」に変えていくことが大切だが、それが行き過ぎて「燃え過ぎ感」や「ぬるま湯感」に陥らないようにしなければならないと。

 組織力は個々人の力と個人間のつながりで決まるとの考えに則り、まず、個々人が良い方向に変わっていくことから始めようという、その趣旨はわからないでもないですが、同じことが前著の範囲内で繰り返し何度も書かれているようにも思え、そのトーンも、何となく自己啓発セミナーそのそれに近い感じがしました。

 1人の人間が組織全体をも変えてしまうケースはままあるわけで、書かれていること自体を否定はしませんが、あまりに"人間性善説"的なもの(或いは、マクレガーの「Y理論」的なもの)に依拠し過ぎている感じ。

 前著『不機嫌な職場』とどちらか1冊と言われれば、前著『不機嫌な職場』の方が圧倒的にお奨めで、人事担当者、教育研修担当者や組織リーダー、チームリーダーが次に読む本としては、経営コンサルタントの高間邦男氏の『組織を変える「仕掛け」―正解なき時代のリーダーシップとは』('08年/光文社新書)あたりになるのではないでしょうか。個人的には、そちらの方が、より地に足のついた組織変革の実践論となっているように思えました。

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参考にならないわけではないが、あまりに「リクルート」回顧調。
  
職場活性化の「すごい!」手法.png職場活性化の「すごい!」手法2.png         組織を変える「仕掛け」.jpg
職場活性化の「すごい!」手法 (PHPビジネス新書)』['09年]  高間 邦男『組織を変える「仕掛け」 (光文社新書)』['08年]
 
 『組織を変える「仕掛け」-リーダーシップとは』(高間邦男著/'08年/光文社新書)を読んだ後に、実際の"テクニカル編"に当たるような本かなと思い本書を読みましたが、う〜ん、この著者はリクルートのトップ営業だったそうで、「やまびこあいさつ」、「寄せ書き」「社員図鑑」「社内パーティ」等々、いかにも「リクルート」という印象を受けました(他社の事例も多少はあるが)。

 職場を活性化するための手法が具体的に幾つも紹介されていて、その背後にある著者の考え方には異を唱えるわけではないですが、実際この本に書かれているようなことをやって効を奏す会社(職場)とそうでもない会社(職場)があるのではないかとも。

 著者自身、重厚長大で伝統的な企業には、「リクルートのようなイケイケ・ドンドンの社風は異次元のものに映るに違いない」、「工場や研究所の活性化のために太鼓や鳴り物で鼓舞激励するような手を使うというのは、TPOがずれているだろう」と最初に断りながらも、紹介されている例の多くは、リクルートで著者自身が経験したものです。

 著者がいた頃のリクルートは、単一または少数の自社メディアを掲げ皆で一斉にセールスにかける、そうした営業スタイルが主体だったのではないでしょうか。
 一見、最近のベンチャー企業と似てなくもないですが、例えばITベンチャーでも回線リセールのような業務を主体とする会社と、コンテンツ・ビジネスを主体とする会社では大きく業態が異なり、後者の方は、下手すると社員数だけの職種があったりするわけで、そうした意味では「研究所」的な要素もあって、ベンチャーだからと言って、本書にあるような手法が向いているとも限らないのでは。

 但し、社風や職場風土に似つかわしくないかなと思われることでも、職場のムードを変えるために、ある時期、思い切ってやってみた方が良いというようなこともあるでしょう。
 ナレッジ・マネジメントにおける「場」の考え方にあるように、インフォーマル・コミュニケーションの充実が図られるならば、それが人と人の関係や職場の活性化に寄与するところは大きいと思います。

 「社内報」や「社内イベント」などは、かつて企業業績が好況だった時期には、別にそうした意図のもとでなくても、自然発生的にあったように思います。
 今は、入社以来そうしたことを経験したこともなく、日々の業務に追われている人が、企業の若手社員には結構多いのでは。

 本書に紹介されている活性化事例が参考にならないわけではないですが、「リクルートではこうしていた」的な話ばかりで、冒頭の断り書きを除いては、その方式がどの会社や職場でも通用するような感じで書かれているのがやはり気になりました。
 著者が若手社員だった頃と今とでは社会情勢も就労意識も異なるし、また、その中でも当時のリクルートは特殊な会社だったわけです。
 帯にある「これだけあればどれかは効く!」というのは確かかもしれないけれど、どれが自社に効くかというのが難しいわけであって、その辺りを冒頭の一言で済ませているのはちょっと乱暴な感じも。

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理念的に纏まっていて、且つ、地に足のついた組織変革の実践論・手法論となっている。

I組織を変える「仕掛け」―67.JPG組織を変える「仕掛け」.jpg   リーダーシップの旅.jpg
組織を変える「仕掛け」 (光文社新書)』['08年]『リーダーシップの旅 見えないものを見る (光文社新書)』['07年]

 『組織を変える「仕掛け」-正解なき時代のリーダーシップとは』は経営コンサルタントの高間邦男氏による組織変革並びにリーダーシップに関する本で、同じくAmazon.comのレビューの評価が高かった『リーダーシップの旅-見えないものを見る』(野田智義・金井壽宏著/'07年)と共に読みましたが、『リーダーシップの旅』は、リーダーシップは先天的なものか後天的なものかという論争には意味がなく、後天的な環境がリーダーを育むものであり、「すごいリーダー幻想」に惑わされてはいけないと説きながらも、例に引いてくるのが歴史上の偉人や有名な経営者など「すごい」人物ばかりで、却って「すごいリーダー幻想」を助長しているような気もしました(横文字がやたら多いにも気になった)。

 斬って捨てるような本ではないし、部分部分では共感するのですが、何となく肌に合わなかったというか、自分はこの本向きの読者では無かったのかも。

 一方、高間氏の『組織を変える「仕掛け」』の方にも横文字は少なからず出てきますが、こっちの方がかっちりと理念的に纏まっていて、且つ、より地に足のついた組織変革の実践論となっているように思えました(最後にリーダーシップ論も出てきますが、メインは組織改革の手法を説いた本だった)。

 従来のトップダウンやボトムアップに替わる手法として〈ホールシステム・アプローチ〉という「経営トップから管理者層、メンバー、協力会社まで、ステークホルダーが全員集まり、状況や背景を共有し、全員が話をし、人の話を聴くことで、全員で自分たちのありたい姿を考え、新しいアイディアや施策を生み出していく」方法を提唱していて、更に、このアプローチの背景になる思想は、従来型の問題解決アプローチ(ギャップアプローチ)では限界があり、人の「強み」や「価値」に焦点を当てていく〈ポジティブアプローチ〉であるべきだとしています。

 前半部分だけだとやや抽象的ですが、後半において、「ポジティブアプローチの6つの原則」として、〈ポジティブアプローチ〉を更に具体的な幾つかの手法に落とし込み、研修場面などを想定しながら話を進めていくので、非常にわかり易いし、最後の「組織変革の9つのステップ」もしっくりくるものでした(但し、あまりに多くのことに触れているので、一読して全てを習得するのは難しいかもしれないが、取り敢えず要点と流れだけ掴めば、それだけでも随分違うのでは)。

 『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』('08年/講談社現代新書)を読んだ際にも思ったのですが、結局、これからはリーダーシップ研修というよりメンバーシップ研修が大切になってくるのだろうと思わされた1冊でした。

《読書MEMO》
インクルージョン(⇔イクスクルージョン)-境界を外していく(⇔閉じている)
「女性の活用」といい続けるのは、「女性」というラベルを貼って区別していることになる(49p)
●生物学的な統合的(シンセシス)アプローチ(⇔分析的(アナリシス)アプローチ)
私たちを取り囲むシステムの変化や影響関係を、物語や映画のように全体の流れの中でとらえ、感性や皮膚感覚といったもので、察知していきます。自分たちは何者であるのか、一人ひとりがどうありたいのか、自分たちの組織や、社会がどうなったらいいのかを共有するところから、行動を生み出していく(53p)
●ミツバチの生態系の破壊
 アーモンドの需要増→5キロ四方のアーモンド畑→単一の花の蜜ばかり食べる→免疫力低下(70p)
●アポトーシス
 新規プロジェクトが100ぐらい走っているが、その多くが失敗。非効率に見えるが、どうも社内的にアポトーシスを持っているようで、長い時間軸で見るといい結果に(74p)
●ポジティブアプローチの6つの原則
原則1:信頼感のある対話の場をつくる(108p)
組織のメンバーの関係性を徐々に高めながら、メンバーの思いを引き出し、共有できるコミュニケーションの場をつくる。(「怒ってはいけない」「根に持たない」「自分のことは棚に上げてよい」)
原則2:メンバーの「察知力」を高める(129p)
メンバー自身が自己の認知の癖を知り、また、他者のことを自分のことのように捉える力を磨く。そのために自己に向き合うプログラムを取り入れる(内観/トイレ掃除/身体性を高める/瞑想をする)。
原則3:一人ひとりをリスペクトし、強みを認める(138p)
組織の一人ひとりに一人の人間として関心を寄せ、尊重する(問題解決の責任は問題に気づいた人にある/ミーティングで一人ひとりをリスペクトする/必ず全員が話しするようにする/メンバーの強みを引き出す手法―アプリーシアティブ・インクワイアリー(AI)のハイポイント・インタビュー(フロー体験(生きがいや達成感を抱いた体験)を語る)。
原則4:主体性を引き出す(161p)
メンバーが主体的に学習に取り組んだり、ミーティングに参加したりする工夫をする。(プロセス・ガーディナー/ファシリテーターはごみ拾いが理想)
原則5:自他非分離の場を作る(177p)
組織の一体感を高める活動を。組織変革を促すミーティングの場ではディスカッショよりも、メンバーの思いが表出するストーリーテリングが大切(ストーリーを共有する→個々のメンバーに内在するコンテクストが浮き彫りに→共感が生まれる)
原則6:暗在的リーダーシップでサポートする(192p)
組織メンバーの良い面を引き出し、サポートしていくことに徹することができるリーダーが組織変革には不可欠(顕在的リーダー(カリスマ)ではなく、メンバーを励ましていけるリーダーシップ)
組織を変える「仕掛け」6.jpg●組織変革の9つのステップ(214p)
ステップ1:全体観を持ち、状況の共有によって視座の向上を図る
ステップ2:みなのありたい姿、夢を共有する
ステップ3:関係性の向上を図る
ステップ4:目的・ゴールを共有する
ステップ5:否定と創造
ステップ6:新しい意味の創造
ステップ7:アクションプランをつくる
ステップ8:行動する
ステップ9:振り返り、成果を実感する
●「メンバーが好きに目標を立てたら、組織目標が達成できないだろう」と危惧するマネージャーも多いが、それは思い込み。AIミーティングで主体的に売上げ目標を立ててもらったら、組織目標をはるかに上回った(215p)
●魂の入ってないプランをサラサラつくらないようにスピードを落とす。メンバーが本当に考え、腹に落ちている言葉であれば、稚拙な表現でもよい(232p)

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社員同士の協力関係を、役割構造、評価情報、インセンティブの3つで捉える。

不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか.jpg不機嫌な職場―2044.jpg不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)』 ['08年]

 なかなか惹きつけるタイトルで、こういう場合、読んでみたら通り一遍のことしか書いてない紋切り型の"啓蒙書"だったりしてガッカリさせられることがままありますが、この本は悪くなかったです。但し、やはり基本的には(いい意味での)"啓蒙書"であり、読んで終わってしまってはダメで、書かれていることで自分が納得したことを、常に意識し、実践しなければならないのでしょう。

 社員同士での協力関係が生まれないために、職場がギスギスして、生産性も向上せず、ヤル気のある人から辞めていく―こうした協力関係阻害の要因を、役割構造、評価情報、インセンティブという3つのフレームで捉えた第2章(ワトソンワイアット・永田稔氏執筆)が、特にわかり易く、また、頷ける点が多かったです。

 特に、「役割構造」の変化について、従来の日本企業の特徴であった、会社で仕事をする際に決められる「仕事の範囲」の「緩さ・曖昧さ」が協力行動を促すことにも繋がっていたことを指摘しているのには頷けて(但し、フリーライド、つまり、仕事してないのに仕事しているように見せる"ただ乗り"を許すことにも繋がっていた)、それが、成果主義が導入されると、今度は、個々は自分の仕事のことしか考えず、外からは、誰が何をしているのかよくわからなくなって、仕事が「タコツボ化」していると―。

 それが、組織力の弱体化に繋がるとしているわけですが、これは、成果主義の弊害としてよく言われることであるものの、併せて、個々の仕事が高度化していることも、仕事が「タコツボ化」する要因として挙げているのには、確かにその通りかもしれないと思いました。

 このことは、続く、インフォーマル・コミユニケーションを通じての社員同士の「評価情報」の共有化がもたらす効果や、金銭的報酬以外の、社内や仕事仲間の間での承認願望の充足がもたらす「インセンティブ」効果という話に、スムーズに繋がっているように思えました。

 「仕事の高度化」ということで言えば、IT企業などは正にそうでしょうが、第4章で、組織活性化に成功している企業の事例が3社あり、その内2社は、グーグルとサイバーエージェントです。
 両社の組織活性化施策は、人事専門誌などでは、もうお馴染みの事例となっていますが、本書におけるそれまでの繋がりの中で読んでみると、改めて新鮮でした。

 ワトソンワイアットは、外資系の中では日本企業の人事制度構築に定評のあるファームですが、日本での強さのベースには、組織心理学に重きを置いている点にあるのかも。

《読書MEMO》
●八重洲ブックセンター八重洲本店 公式Twitterより(2018年5月21日)
【1階】講談社現代新書『不機嫌な職場』あなたの職場がギスギスしている本当の理由。社内の人間関係を改善する具体的な方法をグーグルなどの事例もあげて解説。
不機嫌な職場』se.jpg

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処世術としてではなく、組織論の1つの考え方、言い表し方として押さえておきたい。

ピーターの法則s.jpgピーターの法則.jpg The Peter Principle.jpg ピーターの法則 sin .jpg
ピーターの法則』(1970/01 ダイヤモンド社)『ピーターの法則』新訳版 〔'03年〕 The Peter Principle〔'84年版〕 『[新装版]ピーターの法則―「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由(2018/03 ダイヤモンド社)再選評
ピーターの法則9.JPGLaurence J. Peter.jpg 教育学者ローレンス・J・ピーター(Laurence.J.Peter、1919‐1990)が唱えた有名な「ピーターの法則」の原著『The Peter Principle』は'69年に出版され(実際にはカナダ人作家のレイモンド・ハルが書いた)、'70年に邦訳されていますが、'02年には新訳が出されていることから、やはりインパクトは今でもあるのではないかと思われます。
Laurence J. Peter(1919‐1990)

vision03.jpg 「ピーターの法則」とは、「階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのが無能レベルに到達する」というものです。さらに、これに続く「ピーターの必然」というものがあり(「ピーターの法則」の系1,系2とされることもある)、それは、 「やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる」、「仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われている」というものですが(何れも渡辺伸也氏訳)、組織論的に見てかなり当たっているのではないかという気がしています。

 読む側が、上司である管理職の無能を嘆いている場合は、一定のカタルシスを得られる本かもしれませんが、最後の「必然」を飛ばしてしまうと、自分がいる組織は回らなくなるというパラドックスに陥ります。それでも組織が回っているのは、「必然」の後段(系2)が示唆するように、組織を構成する個々において"無能化"に至る時間差があるためです。

 冒頭にこうしたパラドックスの種明かしをしておきながら、本文全体は、人々が"無能化"する経緯を様々な事例を挙げてパラドキシカルに述べているために本書は"奇書"と見なされ(新訳の帯にも「"構造社会学"の奇書」とある)、しかも最後に、"昇進しない"ための〈創造的無能〉を"大真面目に"説いていているため、書店では、ビジネス書コーナーよりも、啓蒙書・人生論のコーナーに置かれていたりします。

 "スロー・キャリア"などが唱えられる昨今、意外と自らのキャリア・プランのヒントとして、或いは処世術として本書を読む人もいるかも知れませんが(新訳の帯に「無敵の処世術!」とある)、一方で、著者の読者を煙に巻くような言い方が合わない人も多いのではないでしょうか。本書の啓発的ポイントはどこかという観点から見れば、努力することによって無能に到達するまでのステップを増やせ、という自助努力論であって、所謂効率良く世の中を泳ぎ切ろうという"処世術"とは少し違うのではないかと思います。

 これまで個人的には、本書に横溢するパラドックスはユーモアとしてのものであると捉え、処世術の本としてではなく、ちょっとひねった感じの組織論の本として読んできましたが、最近は、結構奥が深いというか、「ピーターの法則」とは必ずしもパラドックスというようなものではなく、むしろ、現実のジレンマとしてあるものではないかと思うようになりました。

 人事コンサルティングの現場においても、「プレイヤーとして優秀な人が必ずしも優秀なマネジャーになるとは限らない」といったことはよく聞きますし、昇格・昇進において当初は「卒業方式」でいくとしても上位職層にいけばいくほど「入学方式」でいきべきだとも言われますが、これらなども「ピーターの法則」が示唆する教訓と呼応するのではないでしょうか。「役職定年制」や「役職任期制」などを提案する際などもこの「ピーターの法則」を引くことが多く、組織論の1つの考え方、言い表し方として、是非とも押えておきたい概念ではないかと思います。

 マネジャーになるために、一旦会社を辞めて大学に通ってMBAを取ってから企業に入り直すようなことが珍しくない米国などと、その部署で係長の仕事をしていた人がやがて課長になり、その何年か後に部長になるような日本と比べた場合、「ピーターの法則」の"ジレンマ"により陥りやすいのは日本の方かもしれません。

ピーターの法則 "The Peter Principle" lectured by KATUYA KOBAYASHI

 【1970年単行本[ダイヤモンド社『ピーターの法則―創造的無能のすすめ』(田中融二:訳)]/2002年単行本[ダイヤモンド社『ピーターの法則―創造的無能のすすめ』(渡辺伸也:訳)]/2018年新装版[ダイヤモンド社『[新装版]ピーターの法則―「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』(渡辺伸也:訳)]】

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

《読書MEMO》
●「ピーターの法則」(田中融二氏訳)
「階層社会にあっては、その構成員は(各自の器量に応じて)それぞれ無能のレベルに達する傾向がある」
系1:「時がたつに従って、階層社会のすべてのポストは、その責任を全うしえない従業員(構成員)によって占められるようになる傾向がある」
系2:「仕事は、まだ無能のレベルに達していない従業員(構成員)によって遂行される」

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短時間でビジョン、ミッション、バリューなどの概念整理はできるが...。

組織変革のビジョン.jpg  『組織変革のビジョン』 光文社新書 〔'04年〕 金井壽宏.jpg 金井壽宏 氏 (略歴下記)

 大学教授であり、教育研修コンサルタントでもある著者によって書かれた本書は、働く個々人に対し「ビジョン」、「ミッション」、「バリュー」を創ることで、生きていく方向性や指針が見つかるとし、とりわけビジョニング(自分自身のマイビジョンを創ること)が自己改革をもたらすと説いていますが、併せて、企業を活性化するためには「組織ビジョン」と「個人ビジョン」の相乗効果が大切であると言っていて、組織論の書としても読めます。

 「経営理念」の重要性というのがわかっていても、企業によっては額縁に入れて飾ってあるだけで形骸化していたりして、何でも横文字が良いというわけではありませんが、自社の「ビジョン」「ミッション」「バリュー」はそれぞれ何であるかという切り口で改めて問い直してみるということも、創造的組織改革への道筋を探る上で無駄ではないと思います。

 「ビジョン」は長期のもの、「ミッション」は短期のもの、「バリュー」は現状からビジョンへ至る過程での価値観・行動規範であるという概念区分がスッキリしていてわかりやすく、リーダーシップ論などのマネジメント理論も紹介されています。

 短時間で概念整理するには良い本だと思いますが、最終章の組織メンバーがCOEになったつもりで組織変革を考える「バーチャルCEO」 や「忌憚のない議論が大切」といった提案部分が、独自性が弱かったり(ジュニア・ボードという手法は以前からあります)、抽象的だったりするのがやや物足りなかったです(基本的にはやはり個々人に向けた啓蒙書という感じでしょうか)。

《読書MEMO》
●ジョン・P・コッター『リーダーシップ論』でマネジメントよりリーダーシップが大事、コーチングによる組織活性化が必要(56p)
 ★コッターのリーダーシップの定義...①方向設定 ②人的連携 ③動機付けと鼓舞
●ジェームズ・C・コリンズ『ビジョナリーカンパニー』 成功の鍵はビジョン(110p)
●好き嫌いチャートと強み弱みチャート(116p)
●ルイス・ガースナー(ナビスコ会長→IBMのCEO)『巨象も踊る』 顧客志向へ変革(149p)

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金井壽宏 (神戸大学大学院経営学研究科教授)
1954年生まれ。兵庫県神戸市出身。京都大学教育学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。マサチューセッツ工科大学でPh.D(マネジメント)、神戸大学で博士(経営学)を取得。現在はリーダーシップ、モティベーション、キャリア・ダイナミクスなどのテーマを中心に、個人の創造性を生かす組織・管理のあり方について研究。

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短時間でビジョン、ミッション、バリューなどの概念整理はできるが...。

ビジョニング.jpgビジョニング―あなたのビジョンは今、組織で活きていますか。』('04年/日経BPクリエーティブ)

VisionMissionValues.jpg 教育研修コンサルタントによって書かれた本書は、働く個々人に対し「ビジョン」、「ミッション」、「バリュー」を創ることで、生きていく方向性や指針が見つかるとし、とりわけビジョニング(自分自身のマイビジョンを創ること)が自己改革をもたらすと説いていますが、併せて、企業を活性化するためには「組織ビジョン」と「個人ビジョン」の相乗効果が大切であると言っていて、組織論の書としても読めます。

 「経営理念」の重要性というのがわかっていても、企業によっては額縁に入れて飾ってあるだけで形骸化していたりして、何でも横文字が良いというわけではありませんが、自社の「ビジョン」「ミッション」「バリュー」はそれぞれ何であるかという切り口で改めて問い直してみるということも、創造的組織改革への道筋を探る上で無駄ではないと思います。

 「ビジョン」は長期のもの、「ミッション」は短期のもの、「バリュー」は現状からビジョンへ至る過程での価値観・行動規範であるという概念区分がスッキリしていてわかりやすく、リーダーシップ論などのマネジメント理論も紹介されています。

 短時間で概念整理するには良い本だと思いますが、最終章の組織メンバーがCOEになったつもりで組織変革を考える「バーチャルCEO」 や「忌憚のない議論が大切」といった提案部分が、独自性が弱かったり(ジュニア・ボードという手法は以前からあります)、抽象的だったりするのがやや物足りなかったです(基本的にはやはり個々人に向けた啓蒙書という感じでしょうか)。

《読書MEMO》
●ジョン・P・コッター『リーダーシップ論』でマネジメントよりリーダーシップが大事、コーチングによる組織活性化が必要(56p)
 ★コッターのリーダーシップの定義...①方向設定 ②人的連携 ③動機付けと鼓舞
●ジェームズ・C・コリンズ『ビジョナリーカンパニー』 成功の鍵はビジョン(110p)
●好き嫌いチャートと強み弱みチャート(116p)
●ルイス・ガースナー(ナビスコ会長→IBMのCEO)『巨象も踊る』 顧客志向へ変革(149p)

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企業に見られる組織心理のダイナミズムを解き明かしてはいるが...。

ホンネで動かす組織論.jpg  『ホンネで動かす組織論』 ちくま新書 〔'04年〕 photo_ota.jpg 太田 肇 氏

 本書は3部構成になっていて、第1部「なぜ、やる気がでないのか」、第2部「ホンネの抑圧が組織を滅ぼす」において企業や組織におけるタテマエとホンネの乖離とその弊害を説き、第3部で「ホンネからの組織づくり」、つまり旧来の「全社一丸」的な"直接統合"ではなく、「個人が組織の一員でありながら、組織と同じ目標を追求する必要はない」という"間接統合"の考え方を提唱しています。

 組織における人の行動や人間関係についてのさまざまな事例やエピソードには非常に頷かされるものが多く、著者が一般企業などで見られる組織心理のダイナミズムに精通していることがわかります(さすがサラリーマン経験者!)。
 
 一方、提案部分の方は、「内発的動機づけ」(高橋伸夫『虚妄の成果主義』などでも強調されていましたが)など仕事の「面白さ」を重視しすぎるのを戒め、むしろ「目立ちたい」といった承認願望など「健全な利己心」をベースに動機づけを図ることを提唱しています。

 全体を通して読みやすくスラスラと読めてしまいますが、「タテマエ・ホンネ論」というのは意外と、どこまでがタテマエでどこまでがホンネなのかわかりにくく、またタテマエがすべて弊害とは言い切れない部分もあり、その点本書は、やや問題を単純化しすぎた「タテマエ・ホンネ論」になっているのも否めないのではないかと思いました。

《読書MEMO》
●いかに会社に貢献するかよりも、いかに自分が評価されるかが関心事(48p)
●有給休暇の権利を行使しないことは、サービス残業と同じように、やる気をアピールする手段になる。(54p)
●やる気をみせるためのファザード(演技)は組織にとっても社員にとっても有害でこそあれ何の価値も無い、一種の病理現象(中略)。演技を続けるうちにタテマエがホンネに近づくという奇妙な現象が起きている(57p)
●いくら会社が情報を共有するように呼びかけても、その価値に見合う対価が得られない限り、積極的に情報を出そうとはしなくなる。(67p)
●私用を優先させたければ、仕事上の理由を装うことが必要になる。(94p)
●「私」より「公」が優先される組織では、個人はホンネを隠そうとする(98p)
●タテマエの行使を控える会社や管理者に対し、社員は協力的な姿勢や打算を超えた貢献によって報いようとする。(120p)

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「組織心理学」から「組織論」、「文化社会学」的な話へと展開。

上司は思いつきでものを言う (集英社新書).jpg上司は思いつきでものを言う.jpg 橋本 治.jpg 橋本 治 氏 (略歴下記)
上司は思いつきでものを言う』 集英社新書 〔'04年〕

 このタイトルに、誰もが自分の会社のことだと思うのではないでしょうか。著者独特のやや回りくどい言い回しも、本書に関しては「そうだ、そうだ」というカタルシスの方が勝り、それほど気になりませんでした。

 「埴輪の製造販売」会社での会議の例え話で、「埋葬品でなく美術品としての埴輪を」という部下の提案に対し、上司の「いっそ、ウチもコンビニをやろう」というトンチンカン発言に会社の決定が靡いていく様は、企業の中にある「ありふれた不条理」をうまく描いていると思いました。

 著者によれば、結局、上司とは現場という"故郷"を離れ、管理職という"都会"に住む先輩で、田舎の青年団の後輩(部下)が持ってきた村おこしプラン(企画)に対し、故郷をバカにしている先輩はアラ探しをし、故郷を愛し過ぎている先輩は、自分も青年団の一員になったような錯覚に陥り、いずれの場合も「思いつきでものを言う」のであると。

 「組織心理学」の話かと思い読み進むと、日本の会社の下から上への流れがない組織的特徴を指摘する「組織論」そのものの話になり、さらに中国から伝わった儒教が日本的変容を遂げて、官僚や企業組織の中にどのように反映されたかという、「文化社会学」的な話になってきます。
 
 確かに本書については、前書きにサラリーマン社会の欠点を書こうとしたとあるように、そのあたりが著者の最も言いたかったことなのかも知れませんが、こうした歴史文化論的分析に対しては、賛否が割れるとかも知れません。

 一方、こうした困った上司への対処法としては、その場で「ええーっ」と呆れればいいと。
 個人的には、このやり方自体にさほど現実味を感じず(実践している人はいるかも知れないが)、これらも含めて、そういう下からの声が無さ過ぎるのだという著者の批判の一形態としてこれを捉えた次第です。
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橋本 治(はしもと おさむ)
1948年、東京生まれ。作家。東京大学文学部国文科卒。77年『桃尻娘』で講談社小説現代新人賞佳作受賞。以後、小説、評論、戯曲、古典現代語訳、エッセイ、芝居の演出等で幅広い創作活動を続ける。主な著作に『江戸にフランス革命を!』『窯変源氏物語』『ひらがな日本美術史』等。『宗教なんかこわくない!』で第9回新潮学芸賞、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で第1回小林秀雄賞を受賞している。

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目新しさは少ないが、組織腐敗のメカニズムを旨く解き明かしている。

組織戦略の考え方.jpg 『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』 ちくま新書 〔'03年〕 沼上 幹 (ぬまがみ つよし).jpg 沼上 幹 (ぬまがみ つよし)氏 (一橋大教授)

 硬そうなタイトルですが、ビジネス誌「プレジデント」に連載したエッセイがベースになっていて、文章が平易でスラスラ読めます。
 冒頭で「組織設計の基本は官僚制である」と言っているのが、組織はフラットな方がいいという昨今の通説に対峙して一見ユニークですが、読めばある意味至極当然のことに気づきます。
 組織論の入門書としてよく紹介される本で、体系的に整理されているわけではありませんが、書かれていること1つ1つの内容はオーソドックスです(目新しさは少ないとも言えるかも)。
 マズローの欲求階層説について、自己実現欲求もさることながら、承認・尊厳欲求の充足が大切だということなども、かなり以前から一般に指摘されていることです。

image2.jpg むしろ、組織にいる人に働く組織心理の傾向の分析や説明には、誰もが思い当たるものが多くあるのではないかと思われます(まるで企業小説のように書かれていて、しかも現実味がある!)。
 
 組織腐敗のメカニズムをうまく解き明かし、一応はその診断と処方も提示しているので、自分が関わっている組織の問題に引きつけて読むことができれば、問題解決の方向性やヒントが見えてくるかもしれず、それだけ本書を読む価値は出てくるかと思います。

《読書MEMO》
●組織構造自体は何も解決しない(62p)ムチャクチャな組織に問題があるとしても、組織変革すれば全面的に問題が解決するわけではない(62p)
●(マズローの欲求段階説について)自己実現欲求の追求という方向が美しく、安上がりであるゆえに、多くの人がそこに目を奪われ、所属・愛情欲求や承認・尊厳欲求などを忘れてしまう(87p)
●エリートとノン・エリートの間に、当たり前のことを当たり前に黙々と処理してくれる信頼できる中間層がいないとエリート・システムもうまく機能しない(120p)
●全方位全面戦争型の戦略計画などは、何も考えていない、何も決めていない明確な徴候(132p)
●「厄介者の権力」...育ちの良い優等生の「大人」たちが組織内で多数になると、厄介者の言うことがかなり理不尽であっても、組織として通してしまう場合が出てくる(144p)
●「バランス感覚のある宦官」...(スキャンダルで)密告者が権力を握るのではない。根性のない優等生たちが恐怖にとらわれ、その恐怖心を気持ちよく解消する「美しい言い訳」を創り上げる宦官が権力を握る(171p)
●「キツネの権力」...公組織と業者という二つの世界をつなぐ唯一の橋であることを権力基盤とした、トラの威を借る「キツネの権力」が生み出される。天下った人が二つの組織の間をいろいろかき回す。(201p)

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