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進むM&Aと、求められるVBA(企業価値向上)ガバナンス。

企業買収の焦点.jpg 『企業買収の焦点―M&Aが日本を動かす (講談社現代新書)』 〔'05年〕

堀江・村上.jpg 著者は国際会計事務所KPMGの出身のM&Aコンサルタントで、第1章で、近年なぜ日本でM&Aが増え、「企業価値」という言葉が登場してきたのかを、第2章では、「会社は誰のものか」議論の背景にある日本特有の「企業意識」と「企業価値」との関係を述べ、第3章、第4章は、M&Aの種類や財務理論を解説したテキストになっています。
 本書が刊行されたのが、村上ファンドの村上世彰氏による阪神電鉄株の大量取得や、ライブドアとフジテレビのニッポン放送株を巡る経営権取得攻防があった'05年で、そうした事例が各章の解説に生々しく盛り込まれています。

 「会社は株主のものだ」とか「いや、社員のものだ」という議論がありますが(著者の基本的立場は「株主のもの」ということだろう)、著者の言う「企業価値」を高めるということは、財務的に健全で長期的に発展可能な組織を築くということであり、それには、そうした立場の違いからくる議論を超え、経営者や社員が頑張って生産性や効率性を追求する「内科療法」だけでなく、M&Aなどの「外科療法」が必要であり、また、「企業価値」をバロメータに健全性のチェックをする「VBA(企業価値向上)ガバナンス」の機能が必要だとして、第5章でそのモデル図を示しています。

 著者によれば、このガバナンスの機能を担うのが、「持ち株会社」であったり「ファンド」であったりするようですが、それがすべての企業にあてはまるか、また、うまくガバナンス機能が働くのかという"?"は残りました(著者の立場からすれば、大丈夫ということなのだろうが)。
 '05年6月のニレコのポイズン・ピル(新株予約権発行)に対する差し止め命令が紹介されていますが、この判断をしたのは東京地裁だったわけで、今後、こうした係争が増えるのでは...。

 それにしても、本書に列挙されている'05年のM&Aをめぐる動きを見ると、ライブドア、村上ファンドにとどまらず、バンダイ(ピープル株取得)、楽天(TBS株取得)、ブルドッグソース(イカリソースの営業権取得)など、慌しいと言うか夥しいものがあります。
 「株式持ち合い」の解消(相対的に外部株主の発言権が強まる)やカリスマ経営者の退場(現場主義の限界)が、こうした流れと無関係ではないことを指摘している点は、ナルホドと思いました。

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M&Aにおける労務デュー・デリジェンスの参考書として使える。

M&Aの労務ガイドブック.jpgM&Aの労務ガイドブック』(2007/04 中央経済社)  高谷知佐子.jpg 髙谷知佐子 氏(弁護士)

 本書前書きにもあるように、M&A成功のキーポイントは「人」をめぐる法律問題であるにも関わらず、その「人」がクローズアップされる場面は意外と少なく、デュー・デリジェンスでも労務コンサルタントは最後の方でやっと声がかかったりすることが多いのが現状です。

 本書は、会社の財産である「人=社員」にスポットを当て、M&Aにおいてどのような「人」に関する問題が生じるのかという観点から論点を整理し解説したものということで、最近問題になることが多いM&Aの際の企業年金の再編についても言及されています。

 デュー・デリジェンスでどういったことが調査対象となるのかが詳しくあげられているので、デュー・デリを受ける側にとっては良い参考書として使えると思います。
 一方、雇用・労働条件のリストラクチャリングに付随する法的問題を、判例をわかりやすく整理して解説してもいるので、M&Aの仕事をしていて金融・不動産や知的所有権などにはめっぽう強いが、労働法は少し苦手という弁護士さんにも読んでもらいたい気がします。

 M&Aには合併、事業譲渡(旧商法では営業譲渡と言っていた)、会社分割などの類型がありますが、本書の判例のとりまとめ部分で、不利益変更、整理解雇などと並んで、事業譲渡に関する判例が多くあげられています。
 これは、事業譲渡の場合、合併や会社分割などと異なり、労働者の権利義務が自動承継とならず契約上の規定によって定まるからであり(ゆえにリストラを巡るトラブルが多い)、こうした考えは米国からきているのでしょう。

 欧州の国々には、事業譲渡に関しても一応は全労働者を承継しなければならないこととなっている国もあり、グローバル企業などとのM&Aの場合、相手国の法律も調べておいた方いいかも。
 結局、日本法人同士の話なので、日本の法に従うことになるはずですが、前提としてイメージしているものが随分違ったりします(就業規則に対する考え方などについてもそうですが)。
 また、最近はわが国における事業譲渡においても、必然性の薄い従業員解雇は、認められなくなってきているようです。

 本書は1法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に所属する弁護士10名の共同執筆で、編者の高谷知佐子氏は、'05年の「日経ビジネス」の「弁護士ランキング労務・人事部門」で第4位にランクインしている労働契約法や解雇問題のエキスパートです。

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「敵対的M&A」=「悪いM&A」ということにはならないと。

会社の値段.jpg 『会社の値段』 ちくま新書 〔'06年〕 森生 明.jpg 森生 明 氏 (株)M・R・O代表取締役

 著者は、ハーバード・ロースクールで学び、外資系投資銀行などでM&A業務経験を持つM&Aアドバイザーで、企業価値評価の理論と実践について書いた『MBAバリュエーション』('01年/日経BP社)という著書もある人。

 本書でも企業価値の具体的な算定方法に触れていて、前著に至る入門書ともとれますが、特徴的なのは、なぜ「会社に値段をつけるのか」という根源的問いを発し、「米国流」の〈株主至上主義〉の考え方の背景や本質を解説している点です。
 一方で、日本で使われている「企業価値」という言葉に該当する英語は無いとして、その曖昧さを指摘しており、ライブドアのニッポン放送株事件を実例に引いたこの辺りの説明はわかりやすいものでした。

 要するに日本では、誰にとっての「企業価値」なのかが曖昧であり、「すべてのステークホルダーにとっての企業価値」という日本的な表現を、著者は心情的には理解しながらも何も言っていないのと同じとし、ストレートに「株主価値」基準で「会社の値段」をきちんと算定すべきだというのがその主張で、そのことが社会・経済の混乱を防ぐことに繋がるのだと。

 「敵対的M&A」に対する日本企業や日本人の抵抗感は強いけれども、ハゲタカファンドが暗躍する背後には、市場原理がうまく機能していないという国家や銀行に責を帰すべき問題もあり、また、ライブドア事件などを見てもわかる通り、株式市場における適正な情報開示や投資家の成熟ということも大事であり、ファンドばかりが悪者ではないということでしょうか。

 著者の立場(企業買収のファシリテーター?)からすれば当然の論旨とも思え、また敵対的買収に対する防衛策を説いた他の本とは考え方も前提となる視座も異なるところですが、健全なM&Aとは本来は支配権の売買であって、経営者としての力量を競い合うのがM&Aの本質であり、「シナジー効果」など新たな価値を生むM&Aであれば、「敵対的M&A」だから悪いということにはならないということが、よくわかる本でした。

《読書MEMO》
●株式公開もM&Aも、会社を売るという意味では本質的に違いはない(15p)
●「企業価値を創造するのは、その企業活動に参加するすべての人である」という優等生的回答は何も解決しない(86p)→企業価値創造の担い手は経営者であり、その経営者の評価は株主や投資家が行う(90p)
●経営者は会社の値段を適正に反映した株価が市場でちゃんとつくように情報発信し、説明する努力を惜しむな(177p)

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一般社会人向けのM&Aの入門書として最適。刊行時の直近の話題も豊富。

これくらいは知っておきたい 図解でわかるM&A.jpg  『これくらいは知っておきたい>図解でわかるM&A』 (2005/07 日本実業出版社)

 本書は1項目を見開き2ページずつまとめ、右ページに必ず図解を配していますが、この図やイラストがそれぞれに本文内容のエッセ ンスをうまく表していて、理解の助けとなり、後で読み直すときも便利です。

livedoor_top02.jpg なぜM&Aが行われるかその目的を示し、狙われやすい会社や、買収が実際にどのように進められ防衛策はどのようなものがあるのかを、事例をあげながら解説しています。
 やはりライブドアとフジテレビを巡る話が、単独の事例としても、また様々な用語の解説の中にも多く出てきます。
 そうしたものをうまく解説に取り入れているので、一般書としてはかなり広い範囲を網羅しているにもかかわらず身近な感覚で読めるのも特長です。

 本書は'05年7月刊ですが、制御機器メーカーの「ニレコ」が計画していた新株予約権を活用したポイズン・ピル(毒薬条項)を裁判所が差し止めた('05年6月)といった本書出版直近の事例までカバーしていて、"時機"を捉えて発刊された本と言えます。

《読書MEMO》
●札束の脅迫、グリーンメール(114p)
●生え抜きがオーナー社長になるMBO(116p)
●相手のフンドシで相撲をとるLBO(118p)
●ポイズン・ピル(134p)
●企業を救うゴールデン・パラシュート、ティン・パラシュート(136p)
●白と黒の騎士、ホワイトナイト、ブラックナイト(138p)
●パックマン・ディフェンス(140p)
●焦土作戦、スコーチド・アース(142p)
●クラウン・ジュエル・ロックアップ(144p)
●サメよけ戦略、シャーク・リペラント(146p)
●株式の非公開、ゴーイング・プライベート(118p)
●委任状の争奪戦、プロキシ・ファイト(158p)

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面白さで言えば、ナビスコの事例が一番面白い。あとは通読でも。

企業合併.jpg  『企業合併』 文春新書 〔'01年〕 メガバンクの誤算.jpg  『メガバンクの誤算―銀行復活は可能か

 著者は元長銀執行役員で、放漫な経営陣を批判して銀行を辞し、コンサルタントに転じてた人で、 『メガバンクの誤算-銀行復活は可能か』('02年/中公新書)などの著書もあります。

 本書において、資本家や投資家の飽くなき欲望と、冷徹な資本の論理がぶつかり合うのが欧米の企業合併であるとすれば、日本のそれは、経営者の面子や旧財閥のしがらみ、行政の強引な介入などが絡んだ経済合理性の無い企業合併ばかりで、それでは経済の国際化がますます進むなかで、国際競争についてはいけなくなることを示唆しています。

 前半3章でRJRナビスコ、タイムワーナー、スイス銀行といった海外の合併事例を、後半3章で三井物産・三菱商事の大合同、海運大再編、新日鉄など国内の事例を取り上げています。

e0076461_1221590.jpg 読んで面白いのは海外のもので、とりわけRJRナビスコの、〈経営陣によるMBO〉vs.〈投資顧問会社によるLBO〉の対決劇と、その後フィリップ・モリスに買収されるまでの顛末を追った第1章の「タバコとビスケット」は、スケールの大きさと逆転に次ぐ逆転劇で引き込まれるように読めます。

 LBO、ゴールデン・パラシュート、ベア・ハッグ、TOB、白馬の騎士といった要素がすべてこの章に盛り込まれていて、その用語が出てきたところで著者が簡潔な解説を挟んでいるため、今まであまりこうした用語に縁の無かった自分の頭にも、その意味がすんなり入ってきました。

 ただ、後半の日本の合併劇は、著者自身が言うように"あまりドラマがない"もので、その狙いもスケールメリットを図るという一本調子なものばかり。
 一応最後まで読みましたが、ナビスコの章だけじっくり読めば、あとは通読でよかったかも知れません。

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入門書としてならば「図解雑学M&A」クラスで充分だったかも。

M&Aの戦略と法務.jpgM & A の戦略と法務 (新版)(2005年版)』  M&A.jpg 『図解雑学M&A』(05年/ナツメ社)

イメージ01.jpg M&Aの実務を中心に解説したもので、自分のレベルが『図解雑学M&A』('00年/ナツメ社)という入門書と併読という感じで選んだぐらいのレベルだったので、本書はやや難しかったし、「戦略」といっても、経営戦略としては抽象的なもので、具体的に詳しく述べられているのは「法務の戦略」ではないかと思ったりして...。

 もちろん"法務の専門家ではない経営層や戦略部門にもわかりやすく"書いてあると言うように、M&Aの種類など丁寧に記されていますが、その先のノウハウについては、実際にM&Aの作業に入ると、法律や会計の専門家が担う部分がかなり含まれています。

 新聞・ニュースなどで対等合併と言われているものも、法的には吸収合併がほとんどだそうですが、M&Aの実態は百社百様で、名称で括り切れない部分も多々あるかと思います(その意味では本書はむしろ、参考書として自らが対峙しているケースに当てはまる部分だけをを読むという使い方になるのでは)。

 『M&Aの戦略と法務』も『図解雑学M&A』も共に、会社法改正に合わせて'05年に新版が出ていますが、企業内での法務の専門職ならばともかく、一般読者はまず「図解雑学シリーズ」クラスからのスタートでいいかも。

《読書MEMO》
●友好的M&Aの種類...①株式譲渡 ②新株引受 ③営業譲渡 ④合併
 ①〜③は原則として取締役会決議、④は加えて総会の特別決議(2/3以上)要
●新株引受の種類...①第三者割当増資 ②転換社債・ワラント債引き受け
●合併の種類...①新設合併 ②吸収合併

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