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「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(アンドリュー・S・グローブ)

IT企業の経営者が読んでもいいが、むしろ人事パーソンにお薦めの準古典的名著。

HIGH OUTPUT MANAGEMENT4.JPGHIGH OUTPUT MANAGEMENT.jpg ハイ・アウトプット・マネジメント―インテル経営の秘密.jpg インテル経営の秘密3.jpg
HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント』['17年]『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密 (1984年)』['84年]『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』['96年]

アンドリュー・グローヴ .jpgHIGH OUTPUT MANAGEMENT  .jpg 本書『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、2016年に亡くなったインテル元CEO・アンドリュー・グローヴ(1936-2016/享年79)による本で、1984年に発刊された『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密』(早川書房)に加筆修正して1996年に発行された『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』(早川書房)の原書"High Output Management"をもとに、2015年に米国で出版されたペーパーバック版を翻訳したものです。

 アンドリュー・グローヴはユダヤ人で、ハンガリーから無一文で英語も話せないままアメリカに亡命し、インテルに3番目の社員として入社、1979年に社長、1987年に社長兼CEO、1998年に会長兼CEOとなった言わば〈立志伝中の人〉であり、本書の帯には「シリコンバレーのトップ経営者、マネジャーに読み継がれる真の傑作、待望の復刊!」とあり、ピーター・ドラッカーやマーク・ザッカーバーグが寄せた讃辞があります。実際、『インテル経営の秘密』のタイトルで改版された際に日本でも多くの人に読まれ、「準古典的名著」と言ってよいかと思います。

 今回の新版は、本編は1983年に当時インテルの現役社長であった著者が著したもので、その前に1995年に著者自身がその後の80年代から90年代にかけての大きな環境変化(日本企業によるメモリー事業への攻勢を主としたグローバル化と電子メールの発展によるコミュニケーションの変化)について記した「イントロダクション」があり、更にその前に1995年に本書を読んだというベン・ホロウィッツによって2015年に書かれた「序文」が付いています。

 「イントロダクション」において著者は、「本書には3つの基本的なアイデアを盛り込んである」とし、それは、1つ目のアイデアは、マネジメントに対する成果(アウトプット)への志向性であり(マネジメントは成果志向であれということ)、2つ目は、そのアウトプットは個人というよりもチームによって追求されるということであり、そこで、チームのアウトプットを増大させるためマネジャーは何が出来るかとの問いが出てくるとしています。そして、チームは、そのメンバーである各個人の業績遂行活動が導き出された時に、最もよく機能して、その業績を高める―というのが、3つ目のアイデアであるとのことです。

 第1部「朝食工場―生産性の基本原理」では、3分ゆでのゆで卵とトーストとコーヒーを出すごく普通の食堂が設備投資をして「朝食工場」となり、さらにその「朝食工場」をフランチャイズ制によって全国展開していくという架空のケースを用い、その中にインテルでの事例なども織り交ぜながら、著者自身が考えるマネジメントの原理原則を体系的に説明しています(この部分は個人的には、「科学的管理法」に近いものを感じた)。

 第2部「経営管理はチーム・ゲームである」では、マネジャーのアウトプットとは、自分の組織のアウトプットと自分も影響力が及ぶ隣接諸組織のアウトプットの和であるとし、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示しています。また、ミーティングはマネジャーにとっての大事な手段であるとし、インテルで行われている「ワン・オン・ワン」という監督者と部下のミーティングを紹介しています(「ワン・オン・ワン」についてだけで『ワン・オン・ワン―快適人間関係を作るマネジメント手法』('90年/パーソナルメディア)という本になっている)。更に、決断を行う際に陥りがちな"同僚グループ症候群"というものを指摘するとともに、明日のアウトプットのために今日どういった行動をとるべきかを、3つのステップから考える計画策定方式(プランニング プロセス)というものを提唱し、これを日常業務に適用したものが目標による管理(MBOシステム)であるとしています。

 第3部「チームの中のチーム」では、冒頭の「朝食工場」が全国展開するような会社になったとき、自ずとそれは"使命中心"と"機能別"のハイブリッド型組織になるとし、インテルのハイブリッド型組織を紹介するとともに、二重所属制度という考え方を紹介しています(「グローブの法則」として「共通の事業目的を持つすべての大組織は、最後にはハイブリッド組織形態に落ち着くことになる」としている)。また、われわれの行動がコントロールされ、影響される過程を考え、われわれの行動は、自由市場原理の力、契約上の義務、文化的価値の3つの方法でコントロールされるとし、最も適切な仕事のコントロール方式とはどのようなものかを考察しています。

 第4部「選手たち」では、モチベーションの問題を取り上げています。マズローの欲求段階説を改めて解説し、仕事とスポーツを対比させて、マネジャーが部下から最高の業績を引き出せるようにするには、部下のタスクへの習熟度を高めることが肝要であり、それが効果的なマネジメントスタイルの基本的要因となるとしています。そこで人事考課が重要になってくるわけであり、マネジャーが考課するときに判断すべきことは何か、避けなければならない大きな落とし穴は「可能性(ポテンシャル)の罠」であるとして、"潜在能力"を評価することに警告を発しています(時期的には日本企業が職能資格制度を盛んに採り入れていた頃になる)。また、査定内容の伝え方についても指南し、それとは別に問題社員の場合の対応や、更にはエース社員の考課の仕方についても述べています。また、マネジャーにとっての2つ困難な仕事である、採用面接と、貴重な人材が退社しないようにする話し合いついても助言しています。そして、タスクに対するフィードバックとしての報酬の考え方および昇進について論じるとともに、なぜ教育訓練が上司の仕事なのかを説いています。最後には、「これからの行動指針チェックリスト」が付されています。

 かなり以上前に書かれた本でありながら、古さを感じさせないのはすごいことかも。全体として、最初に生産管理の話から入っていき、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示し、業績達成のために部下のモチベーションやタスク習熟度をどのように管理し、部下をどのように考課し、どうフィードバックするかという話の流れになっていて、後半にいけばいくほど「人事」の話になってきます。「人を育て、成果を最大にするマネジメント」というサブタイトルは極めて妥当であり、『インテル経営の秘密』というタイトルから、変化の激しいIT業界について書かれた本だと思われているフシもありますが、実は「人事」の根幹について書かれた本であるということ。だから「経年劣化しない」と言うより「人事の本質が分かる」と言った方がいいかもしれません。従って、IT企業の経営者が読むのもいいですが、人事パーソンにもお薦めの本です。
 
《読書MEMO》
目次
序文 ベン•ホロウィッツ
イントロダクション
第1部 朝飯工場~生産の基本原理
1章 生産の基本
3分間ゆで卵の生産原理は/製造作業の実際\状況が複雑になると/大量生産の場合は/付加価値をつけること
2章 朝食工場を動かす
インディケーターこそ大事なカギ/ブラックボックスの中をのぞくには\将来のアウトプットをコントロール/品質の保証/生産性を高めるために
第2部 経営管理はチーム・ゲームである
3章 経営管理者のテコ作用
マネジャーのアウトプットとは/「パパ、本当はどんなお仕事をしているの?」/社内情報の収集と提供/経営管理活動のテコ作用/マネジャーの活動速度を速めること―ラインのスピードアップ/組織内に組み込まれたテコ作用―マネジャーの部下は何名が適切か/仕事の中断―マネジャーを悩ますもの
4章 ミーティング-マネジャーにとっての大事な手段
プロセス中心のミーティング/使命中心のミーティング
5章 決断、決断、また決断
理想的なモデルは/同僚グループ症候群/アウトプットへの努力
6章 計画化―明日のアウトプットへの今日の行動
計画策定方式/プランニング・プロセスのアウトプット/目標による管理―日常業務にプランニング プロセスを適用すると
第3部 チームの中のチーム
7章 朝食工場の全国展開へ
8章 ハイブリッド組織
9章 二重所属制度
工場保安係はどこに所属すべきか/ハイブリッド組織を働かせる\もうひとつの妙案―二面組織
10章 コントロール方式
自由市場原理の力/契約上の義務\文化的価値/マネジメントの役割/最も適切なコントロール方式/仕事のコントロール方式
第4部 選手たち
11章 スポーツとの対比
生理的欲求/安全―安定への欲求/親和―帰属への欲求/尊敬―承認への欲求/自己実現への欲求/金銭およびタスク関連のフィードバック/不安/スポーツとの対比
12章 タスク習熟度
マネジメント•スタイルとマネジャーのテコ作用/良いマネジャーになるのは容易ではない
13章 人事考課―裁判官兼陪審員としてのマネジャー
なぜ、悩むのか/業績の査定\査定の内容を伝えること/「 一方では......他方では......」/問題社員/エースの考課の仕方/その他の考え方と実際のやり方
14章 2つのむずかしい仕事
面接/「私、辞めます」
15章 タスク関連フィードバックとしての報酬
16章 なぜ教育訓練が上司の仕事なのか
最後にもうひとつ―これからの行動指針チェック・リスト

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「組織論」には違いないが、「こわい上司のひと言」集がいちばん印象に残ったか。

思考停止する職場3.JPG思考停止する職場.jpg
思考停止する職場 ~同じ過ちを繰り返す原因、すべてを解決するしかけ~』(2018/03 大和書房)

 スタンフォード大学工学博士であり、特定非営利活動法人「失敗学会」の副会長でもあるという著者による本書では、職場での思考停止を防ぐために、上司は何を考えなければならないか、部下の潜在能力を引き出し、自分のグループの活力を倍増させるために、部下とどうコミュニケーションをとればよいのかについて解説していています。また、そうした課題を解決するための手法として、「エムパワリング・コミュニケーション」というものを提唱しています。

 第1章では、コミュニケーション不足が引き起こす職場のリスクについて解説しています。ミスが起こったときには必ず原因があり、著者はその原因の分類として、「学習不足」「注意不足」「伝達不良」「計画不良」の4つを挙げています。その結果起きるのが「無知」「無視」「過信」であり、「無知」と「過信」は努力次第で何とか減らせるが、「無視」には無意識的なものと意識的なものがあって、どちらも解決は簡単ではないとしています。そこで、人の組織が頼ってしまうのが「周知徹底」「教育訓練」「管理強化」であるが、失敗学ではこれを「三大無策」といい、これらが通用しないばかりか、致命傷につながったり、最も職場を壊すことになったりする理由を解き明かしています。

 第2章では、自分で考える部下を育てるために、部下とどう接すればいいか、どう指導すると良いかを説いています。著者はマニュアルというものを否定しておらず、最初の仕事はマニュアル通りに作業を進めることを教え、マニュアルに疑問を感じたら、自分で解決しようとせず、相談するよう指導し、部下と一緒になってマニュアルの不備を見つけて修正する姿勢をとるのがいいとしています。指示待ち人間に対しては、根気よくその人が自分で考えるよう、まず簡単なタスクを与えて徐々に育てることを考えるべきで、急に考えるように仕向けると、無用なプレッシャーを与えてしまうとしています。

 また、部下にうまく育ってもらうための効果的サポートの方法として、「はい」という返事は真に受けず、経過を確認するとともに、自分の考えを押しつけず、部下が考えていい答えを出すチャンスを与えること、思考展開図をうまく使い、部下と一緒に作ることを心がけること、まず目標は何か、要求機能を正しい言葉で表現することなどが重要であるとし、どのような失敗が起こり得るか、チームで徹底的に考えることが逆境に強いチーム作りにつながるとしています。

 第3章では、どのような話し方が人の創造性を潰してしまうのかを解説しています。ここでは、「リスクがある」「前例がない」「成功例はあるの?」「それ、ニーズあるの?」「うちの業界はね......」「できない」「つべこべいうな」といった否定的、懐疑的で部下の活力を削ぐような言葉から、「かんたんだから」「期待してるよ」という抽象的な励ましや、「合理化・効率化」「コスト優先」「ノルマ達成」といった往々にして使いがちな言葉が、しばしば部下たちの思考を停止させたり、創造性を奪っていると指摘しています。

 この中で、「コンプライアンスの遵守」は、うかつに掲げると却ってあだとなるというのは、ハーバード・ビジネススクールのマックス・H・ベイザーマン教授らの著書『倫理の死角―なぜ人と企業は判断を誤るのか』('13年/エヌティティ出版)に述べられている指摘に通じるものがあるように思いました(けっして目新しい指摘ということでもないということになるが)。

 第4章では、それでは思考が動く職場とはどのような場所なのかを考察しています。作業の流れをグラフ化するなどの、思考停止に陥らない仕事の進め方や、成功事例よりも失敗事例に学ぶほど誤判断が減るとして、失敗の測定や分析方法、事後に生かすための報告書の書き方などを紹介し、職場での運用方法について解説しています。

 事故・不祥事の発生予防だけでなく、正しい組織運営の在り方を説いた本。但し、まえがきにあった「エムパワリング・コミュニケーション」というものが本文内で定義されておらず、それが本書のどの部分を指すのかよく分からなかったですが(おそらく本書全体?か)、「自分の保身しか考えない」上司が会社を破壊するといったことなど、しっくりくる部分は少なからずありました。

 創造性を発揮できるようにするためには、柔軟かつ科学的な組織運営が求められるとしており、基本的には組織論の本であると思います。仕事上のミスや誤認は、現場と司令塔のギャップや暗黙知の過信などのコミュニケーションの不具合から起きるということを、事例を交えて検証し、組織メンバーの潜在能力を引き出すポイントは、コミュニケーションの巧拙にかかっているとしています。その意味では、第3章の「こわいのは(創造性を潰してしまう)、上司のこのひと言」集は、いちばんストレートに気づきを促してくれる部分だったかもしれません。

《読書MEMO》
●自分で考える部下を育てるために、どう接すればいいか、どう指導すると良いか(155p)
・最初の仕事は真似から始まります。このときはマニュアル通りに作業を進めることを教えてください。
・マニュアルに疑問を感じたら、自分で解決しようとせず、相談するよう指導してください。一緒になってマニュアルの不備を見つけて修正する姿勢をとるのがいいでしょう。
・マニュアルを使用しながら、その内容を見直すことになりますが、そのとき、利用者の立場から、マニュアルがどうあるべきかを考えるよう指導してください。
・指示待ち人間に対しては、根気よくその人が自分で考えるよう、まず簡単なタスクを与えて徐々に育てることを考えること。急に考えるように仕向けると、無用なプレッシャーを与えてしまいます。
●うまく育ってもらうための効果的サポート(156p)
・「はい」という返事は真に受けず、経過を確認してください。
・自分の考えを押しつけず、部下が考えていい答えを出すチャンスを与えてください。
・思考展開図をうまく使い、部下と一緒に作ることを心がけてください。まず目標は何か、要求機能を正しい言葉で表現することが重要です。
・社会にある失敗事例をうまく利用し、仮想的な失敗に備える練習をチームで行ってください。
・どのような失敗が起こり得るか、チームで徹底的に考えることが逆境に強いチーム作りにつながります。

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'02年新訳の新装版。パラドックスというより「矛盾に見える真実」。今一度再読するのも良い。

ピーターの法則 sin .jpg ピーターの法則.jpg  The Peter Principle.jpg Laurence J. Peter.jpg
[新装版]ピーターの法則―「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』(2018/03 ダイヤモンド社)/『ピーターの法則』新訳版 〔'02年〕/The Peter Principle〔'84年版〕/Laurence J. Peter

[新装版]ピーターの法則5.JPG 教育学者ローレンス・J・ピーターが唱えた有名な「ピーターの法則」の原著『THE PETER PRINCIPLE』は1969年に出版され、1970年に邦訳されていますが、2002年に新訳が刊行され、さらに今回その〈新装版〉である本書が出たことになり、やはりインパクトは今でもあるのかと思われます。

 本書は、まず第1章で、「ピーターの法則」なるものを示しています。それは、《階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能のレベルに到達する》というものです。そして、《やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる》ことが必然であるとしています。では一体、誰が仕事をしているのか? それは、《仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われている》のであるとしています。

 第2章、第3章では、階層社会はこのピーターの法則に支配されていて例外はないとし、第4章から第6章にかけては、無能を生む昇進は実際どのようにして行われるのか、優秀なリーダーがいかにして排除されるのかを説き、第7章では、平等主義が昇進を促し、それだけ多くの無能を生み出すとしています。第8章では、先人たちの「無能の研究」を振り返り、第9章では、なぜ人は無能に突き進むのかを考察しています。

 第10章では、無能が無能を生むという悪循環について説き、第11章から第13章にかけては、成功した人(=無能レベルに達した人)はさまざまな病気を患っていることが多く、無能ゆえにいろいろ奇妙な行動をとるとし、無能レベルに達した人には現実を直視することは禁物で、健康と幸福を維持するためには、問題のすりかえを行うことが効果的であるとしています。

 第14章では、無能に陥らないためには、昇進拒否も一手ではあるが、それに勝る方法は、自分が無能レベルに達していることを周囲に印象づけること、つまり「創造的無能」こそが無敵の処世術であるとしています。そして、最終第15章では、「ピーターの特効薬」として、昇進を回避する方法や無能レベルでも健康と幸福を維持する方法などを紹介し、ピーターの法則は、滅亡に至る昇進の代わりに生活の質の向上をもたらすとして、本書を締め括っています。

 すでに察せられるように、全体がある種パラドックスとなっており、ビジネスパーソンに対し、昇進するのが必ずしも良いことではなく、自分の適性を見極め、創造的な職業人生を送るよう示唆しているととれます。

 一方、人事パーソンの視点から見ると、本書におけるパラドックスは、「真実に見える矛盾」というより「矛盾に見える真実」としての色合いが、経験上より強く感じられるのではないでしょうか。プレーヤーとして優秀だという理由でマネジャーに昇進させたらダメだった、というのはまさにピーターの法則にあてはまるのでは。係長の仕事をしていた人が課長になり、課長の仕事をしていた人が部長になるというのが通常の昇進パターンである日本企業の場合、こうしたことは往々にしてありがちな気がします。

 多くの著名な経営思想家が、「ピーターの法則」に陥らないようにするにはどうすればよいかを説いています。「ピーターの法則」――多くの人事パーソンにとって既知ではあるかと思いますが、これを機に今一度読み直してみるのも良いと思いますし、未読の人も、知っておいて損はないかと思います。

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「時間」「人材」「意欲」の3つのリソースをないがしろにしてはならないと教唆。

TIME TALENT ENERGY  e.jpgTIME TALENT ENERGY.jpg Michael Mankins.jpgEric Garton.jpg
TIME TALENT ENERGY ―組織の生産性を最大化するマネジメント』 Michael Mankins & Eric Garton
"Time, Talent, Energy: Overcome Organizational Drag and Unleash Your Team’s Productive Power"

TIME TALENT ENERGY.png 本書では、ほとんどの企業にとって本当に稀少な経営資源は「時間」「人材」「意欲」であるとしています。パート1「時間」(第2章・第3章)では、時間管理の問題をテーマとし、会議、オンラインコミュニケーション、厄介な官僚体質の構造など、大企業病の原因を探っています。パート2「人材」(第4章・第5章)では、社員の能力とチームづくりに焦点を当て、効果的な人材管理の威力を探っています。パート3「意欲」(第6章・第7章)では、当事者意識の意欲、やる気が生み出す効果について、現実的な視点で考察しています。

TIME TALENT ENERGY38.jpg さらに詳しく見ていくと、パート1「時間」では、第2章で、時間が失われてしまうからくりを示すとともに、失われた時間の大部分をシンプルな時間管理のツールやテクニックで取り返す方法について考察しています。第3章では、無駄に複雑な組織構造が、無用な会議や連絡などのやりとりの原因となっているとして、オペレーティングモデルを簡素化して、効果的な時間マネジメントで成果を上げた企業の事例を紹介しています。

 パート2「人材」では、第4章で、本当に必要なのは、誰よりも組織の使命を理解し、戦略を実行に移すことの出来る人材であるとして、いるといないとでは大きな差が出る「違いを生み出す人材」(ディファレンスメーカー)を、最大の効果を発揮できる職務に配置することが大切だとしています。しかしながら、従来の人事管理はこれに対処しきれていないとし、傑出した企業では、理論面や実践面でどのようにこれに対処しているかを紹介しています。第5章では、最も優秀な人材でチームを編成すべきだとし、また、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしています。さらに、オールスターチームには優秀なリーダーと手厚いサポートが欠かせないとしています。

 パート3「意欲」では、第6章で、社員のやる気を奮い立たせるためのステップとして、①人間性溢れる理念を策定・導入する、②社員の自律性と組織のニーズのバランスを追求する、③成果を上げ、やる気を奮い立たせるリーダーを育成せよ、の3つを挙げ、優良企業の成功事例などを紹介しながら、それぞれのステップを解説しています。第7章では。社員の意欲を引き出して成果を達成させる優良企業の企業文化に着目し、読者が同じような企業文化を醸成するための方法を紹介しています。

 企業の競争優位につながるのは「資金」ではなく、「時間」「人材」「意欲」の3つであるというのが筆者らの主張ですが、時間・人材・意欲のそれぞれについて、「傑出した企業」とそうでない企業を比較したうえで、詳細な理由を述べ、具体的な解決策までが示されているので分かり易く、また参考になります。特に人事パーソンにとってパート2の「人材」とパート3の「意欲」は、興味深く読めるのではないでしょうか。

 例えば、パート2の「人材」では、「違いを生み出す人材」を集めてチームを作り、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしていますが、どちらかと言えば、各部署に優秀な人材を均等に配置する傾向にある日本の企業にとっては、発想の転換を促すヒントになるように思います。

 「時間」「人材」「意欲」という3つの指標は必ずしも目新しいものではなく、また、本書で紹介されている優良企業の事例には、ミレニアル企業と呼ばれる新興企業のものが多かったりもし、読者にとっては、自社とは環境が違い過ぎるとの思いに駆られたりするかもしれません。実際、本書で示されたすべての策が、あらゆる企業に当てはまる汎用性を持つとは言えないと思われます。

 しかしながら、巻末で「日本企業への示唆」として、「組織生産力指数は平均で92にとどまり、グローバル平均の113を大きく下回る」という日本企業の組織生産力マネジメントの課題と、今後向かうべき方向について論じているよように、本書を通して「時間」「人材」「意欲」という3つのリソースをないがしろにしている事実に気づき、なぜそれが問題なのかをしっかりと理解し、具体的に何をすべきかと考える機会を得ることは、それなりに意義があるように思います。

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ルーキーの強み(ルーキー・スマート)はリーダーにこそ求められる。

ルーキー・スマート6.JPGルーキー・スマート.jpg  メンバーの才能を開花させる技法.jpg リズ・ワイズマン.jpg
ルーキー・スマート』『メンバーの才能を開花させる技法』リズ・ワイズマン
Liz Wiseman Recognized By Thinkers50 As Top Leadership Thinker
リズ・ワイズマン 2.jpgオラクル.png 著者のリズ・ワイズマンはオラクルで長年人材育成に携わった人で、前著『メンバーの才能を開花させる技法』('15年/海と月社)では、リーダーの2つの類型として「消耗型リーダー」と「増幅型リーダー」があり、消耗型リーダーは自分の知性に溺れ、メンバーを低く見て、組織にとって大切な知性と能力を損ない、一方、増幅型リーダーはメンバーの知識を引き出すことで、組織の中に伝染力のある集合知を築くとしていました。

 本書では、はじめて経験する課題に取り組むルーキーに着目し、ルーキーの潜在力に目覚め、彼らをもっと活用することを説いています。さらには「だれもが永遠にルーキーでありつづけられる」として、自分自身もマンネリと決別し、ルーキーならではの強み(ルーキー・スマート)を身につけることを勧めています。そして、これまでの「経験」に「ルーキーのパワー」が加われば、個人としても組織としても非常に強みを発揮できるようになるとしています。

 第1部「ルーキー・スマートを手に入れる」の第1章では、著者らの調査からわかったこととして、はじめて経験する課題に取り組むルーキーは、目覚ましい成果を上げることができ、多くのベテランと肩を並べ、イノベーションが求められる局面などではベテランを凌駕することも多いが、そうした自覚あるルーキーの示す思考・行動にはパターンがあるとしています。著者はそれを「ルーキー・スマート」と名づけ、ルーキー・スマートには、「バックパッカー」「狩猟採集民」「ファイアウォーカー」「開拓者」の4つのモードがあり、同じ人が局面ごとにさまざまなモードに入るとしています。そして、第2章から第5章にかけて、各モードとその思考パターンを解説しています。

 「バックパッカー」とは、重荷がなく、失うものがない者のことを指し、ベテランが"守り"思考であるのに対して、ルーキーは無制約で自由な思考で動くことができるとしています。「狩猟採集民」とは、知識や専門技能が未熟であるため、周りの世界を理解しようと努め、導きを求めて他の人の力を借りようとする特性を指しています。「ファイアウォーカー」とは、自信がないため慎重に、かつ同時に、あたかも初心者の火渡りのように素早く行動する特性を指しています。「開拓者」は、地図に記されていない、しばしば不快な土地に乗り出していく者を指し、"定住者"であるベテランと違って、未知の世界へ乗り出すために、ハングリーで絶えず精力的に行動する特性を指しています。

 第2部「ルーキー・スマートの育み方」の第6章では、「永遠のルーキー」であるための資質として、好奇心、謙虚さ、遊び心、計画性の4つを掲げています。第7章では、ルーキー・スマートは若者や未経験者だけのものではなく、どんなに経験や実績が豊富な人でも自分を再生させ、ルーキーへ回帰できるとして、それを実現するための4つの戦略(①リーダーから学習者へ、②非快適ゾーンに足を踏み入れる、③小さな行動をとる、④若々しさを取り戻すための手順を確立する)を示しています。

 第3部「人に続いて組織も変わる」の第8章では、リーダーがルーキーを活かすための方法として、①方向性を示したうえで自由を与える、②建設的な「ミニ試練」を与える、③安全ネットつきの綱渡りをさせる、の3つを挙げています。また、ルーキーとベテランの効果的な組み合わせ方法や、チームや組織にルーキーらしさを取り戻す方法についても述べています。

 全体を通して、調査に基づいて書かれているため説得力があります。ルーキーに着目した本ですが、著者の専門はリーダーシップの実践的研究であり、本書におけるルーキー・スマートも、最終的には年齢的な枠を超えた特性的なものであって、むしろ、リーダーが柔軟な思考や果敢な行動力、挑戦者の精神を失わないためにはどうすればよいかを説いた本であるように感じられました。ルーキーの強み(ルーキー・スマート)はリーダーにこそ求められるという意味で、たいへんユニークな視座を提供していて、啓発度は高かったように思います。<

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基礎理論を学ぶことの重要性を説いていることに共感。初任管理職などには示唆に富む本。

即効マネジメント.jpg即効マネジメント: 部下をコントロールする黄金原則 (ちくま新書)』['16年]

 著者の既刊『無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論』('15年/プレジデント社)の姉妹編で、前著で扱った、部下のやる気をどう出させるか(「個」のマネジメント)というテーマと組織全体の活気をどう保つか(「組織」のマネジメント)というテーマのうち、前者に的を絞り、より細かく解説を加えたものであるとのことです。

 本書での理論解説のベースに置いているのは、ハーズバーグやマズローをはじめとする大家と呼ばれる7人の研究者の理論であり、とりわけ、著者が薫陶を受け、元気・勇気・やる気にあふれるリクルートの組織風土を生み出した大沢武志(1935-2012)氏の実践的理論を基礎に置いているとのことです。

 著者は、マネジメントというものを1つの型にはめる必要はなく、むしろ基礎理論を覚えることが重要であるとして、本書では、そのための基礎理論を「明日から使えるように、実践的で簡単な法則」にしたとし、それが、「2W2R(What・Way・Reason・Range)」と「三つのギリギリ」であるとしています。

 第1章では、「やる気」には内発的動機と外部誘因があるが、社員の内発的動機を高めれば企業は強くなるとし、では、その内発的動機はどのようにすれば高まるのかを、ハーズバーグの「満足要因と衛生要因」説などを用いて説明していて、それには「機会」を与え「支援」することが必要であるとしています。

 第2章では、部下にどのような機会を与えそれをいかに支援するかを解説し、指導の基本は2W(What・Way)であり、手本やなどできっちり「What」を教えるのも必要だが、それよりも、その通りにやれば誰でもうまくできる成功の道筋=「Way」を教えることが重要であるとしています。また、教えるに際しては、その理由や目的(Reason)を伝えることが大切で、それが部下の自律への入口になるとしています(ここまでで「2W1R」となったわけだが、もう1つのRについては後述されることになる)。更に、部下に機会を与える際には、「できるかできないかギリギリの線を示す」「経験や得意技を活かす場を残す」「逃げ場をなくす」という「三つのギリギリ」が重要であるとしています。

 第3章では、やる気を絶やさない秘訣として、目標はすぐにくずれるので、そのたびごとに刻み直すこと、そのためにも、上司は常に部下を見てSOSや慢心を見逃さないこと、更に、横の見通し(今の仕事は周囲にどんな影響を与えているか)と縦の見通し(今の仕事は将来のキャリアにどんな影響を与えているか)をつけることが重要であるとしています。

 第4章では、もう1つのRであるRange(範囲)について述べており、成長が実感出来るように踊り場(自遊空間)を作って思いっきり羽を伸ばせるようにしてあげること、階段を刻み、踊り場で遊ばせることが大切であることを、D・マクレガーの「XY理論」や三隅二不二の「PM理論」を用いつつ説明しています。

 第5章では、「誰もがエリートを目指せる」日本型のキャリア構造は世界的にみれば特殊であるが、これも「ギリギリの線を与え続ける」などといったモチベーション理論をキャリアパスの下敷きとして意図的に生み出された構造であるとして、基礎理論の重要性を説いています。また、仮に社員がやる気を出してくれずマネジメント理論が通じないと思われるケースであっても、それは、人の心を揺り動かす要因(動因)が揃っていないことによるものであり、部下は多様な動因を持つから、上司はそれに合った「多様な機会」を作っていくことが大切であることを、マーレイの動因理論などを用いて説いています。

 第6章では、学んだことを人に教えることの重要性を説くとともに、本書でこれまで述べてきた基礎理論を、質問形式で簡潔にまとめています。以上、要約すれば、「2W2R(What・Way・Reason・Range)」とは、何を、どうやって、なぜ、どこまでを決めることであり、「三つのギリギリ」とは、(1)易しすぎず難しすぎず、(2)活かし場を用意する、(3)逃げ場をなくす、ということになります。

 こうしたことが、クイズなどを交えつつ、読み易く丁寧に解説されていて、また、章を追うごとに理論を積み重ねて構造化していくため、説得力のあるものとなっています。個人的にも、基礎理論を学び、実践することの重要性を説いている点には共感しました(同著者の雇用システムや労働市場問題を扱った本よりも共感度が高い?)。とりわけ初任管理職、ミドルマネジメント層には一定の示唆に富む本であるかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 「あの人はすごい」―その理由は、マネジメント理論でけっこう説明できます。
第1章 なぜ、企業は社員のやる気を大切にするのか
第2章 やる気の源泉=「機会」と「支援」の鉄則
第3章 やる気を絶やさないための秘訣
第4章 もう一つのR(=Range)は、なぜ「スーパーな力」なのか
第5章 世界でも特殊な日本型のキャリア構造
第6章 学んだことを人に教え、自分でも実践する
あとがき リクルートの「元気とやる気」の秘密を、みなさんに

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旧版の「1分間叱責」を「1分間修正」に修正。旧版よりしっくりくる。
新1分間マネジャー.jpg新1分間マネジャー――部下を成長させる3つの秘訣』['15年] 1分間マネジャー.jpg ケネス・ブランチャード/スペンサー・ジョンソン『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』['83年]

 世界中で累計2000万部以上売れたという1分間」シリーズの第1弾で、1982年に原著刊行の『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』('83年/ダイヤモンド社)の2015年改定版で、著者は旧版と同じくケン・ブランチャード(Kenneth H. Blanchard、心理学者)とスペンサー・ジョンソン(Spencer Johnson、精神医学者)の2人です(ブランチャード博士は、amazon.comにおいて世界中で25人しかいないベストセラー著者の殿堂入りを果たしている)。

 『1分間マネジャー』の特徴は、1つは、物語仕立てになっていて読み易いことで、但し、こうした寓話スタイルは、読んで合う人と合わない人がいるようにも思います。もう1つの特徴は、部下の管理方法の秘訣をシンプルに3つに纏めていることで、その3つの秘訣とは、「1分間目標設定」「1分間称賛」「1分間叱責」というものでした。個人的には、「1分間目標設定」はいいとして、「1分間称賛」「1分間叱責」と続くと、あまりに単純すぎて、逆にこんなのでいいのか、という思いがあって、初読以来、個人的には△評価になっていました。

 こうした古典的ベストセラーと言ってもいいような本が、中身を変えて改定されることは珍しいとのことですが(34年ぶり!)、今回も、物語仕立ての形式も同じであるし、中身もそれほど大きくは変わっていません。但し、物語全体を今の時代環境に合うように直したことで、以前の版は1982年に書かれたものであるから、インターネットなど無い時代のことでであったのに対し、今回の版では、インターネットで世界各地のメンバーとコミュニケーションをとる様子が描かれたりしています。

 次に、ここが一番決定的な改定点ですが、3つの秘訣の内の最後の「1分間叱責」が「1分間修正」に変わっっています。何れの場合も、部下が間違った方向に行ったときにどのように正すかということですが、改定版では、上司が所謂上から目線ではなく、部下と同じ目線で、軌道修正について話し合うようになっています。この改定の理由についてブランチャード博士は、「1980年代に比べ、今の時代はトップダウン式のリーダーシップがそぐわなくなってきており、部下とのパートナーシップがより重要になってきている」と述べています。また、「1分間目標設定」も、上司が一方的に目標を決めるのではなく、部下と共に決めていくような形に改定されています。

 個人的には、以前の版よりかなり良くなったと思います。と言うより、前の版を手にした時に、すでにそうした時代の風潮を感じていて、それがどこか、旧版に対する違和感に繋がっていたのかもしれません。今回の方がしっくりきます。

 旧版同士の比較では、1985年原著刊行の『1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』(Leadership and the One Minute Manager)('85年/ダイヤモンド社)の方が良かった、と言うか、リーダーシップには唯一無二の完璧な手法はないが、事実上、指示型、委任型、コーチ型、援助型という4つのスタイルがあり、マネジメントの状況に応じていずれかのスタイルが取られるとする、かの有名な「状況対応型リーダーシップ」論が提唱されていて、これかあ、という印象を浮けた記憶があります。こちらの方は、本書より先に(2013年に)改定版『新1分間リーダーシップ―どんな部下にも通用する4つの方法』('15年/ダイヤモンド社)が出ています。

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「オキシトシン」は"?"だったが、組織信頼向上の「8要因」は多くの事例を通して解説されていた。

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TRUST FACTOR トラスト・ファクター~最強の組織をつくる新しいマネジメント』(2017/11 キノブックス)

 本書の著者は神経経済学者であり、神経経済学とは、人間が決断をするときの脳活動を測定することで、なぜそのような行動をとるのかを説明する学問であるとのことです。著者によれば、人間は信頼されると脳内で神経伝達物資であるオキシトシン(信頼ホルモン)を合成し、受けた信頼に応えようとするとのことで、そうしたオキシトシンの測定から、信頼や共感が組織において人間の関係性を良好にし、コミュニケーションを円滑にし、イノベーションが実現しやすくし、各種のパフォーマンスも向上させ、組織を成長させるということが分かってきたとしています。

 一方、オキシトシン(の分泌や働き)を抑制する因子としてテストステロンなどがあり、人間の脳内でテストステロンとオキシトシンのせめぎ合いがあって、テストロンが多いと人間は利己的になり、権利意識も強まるとのことです。本書の目的は、テストステロンから得られる高いモチベーションや意欲と、オキシトシンを分泌することによる協調とチームワークのバランスを見つけることであるとのことであり、つまり、人間や組織を動かす生理学的な要素に着目してその働きと功罪、バランスを考える機会を提供しているのが本書であるということです。

 第1章では、著者は、オキシトシンによって脳の神経回路が活性化される仕組みを解明し、人々の信頼を支え維持する組織文化の構築に向けた一連の実用的な方法を突き止めたとし、信頼を生むマネジメントポリシーを構成する8つの因子として、「オベーション(Ovation)」「期待(Expectation)」「委任(Yield)」「委譲(Transfer)」「オープン化(Openness)」「思いやり(Caring)」「投資(Invest)」「自然体(Natural)」を挙げ、それらの頭文字をとって、まさに「OXYTOCIN」と名付けています。そして、第2章から第9章にかけて、この信頼を上げるための要因をそれぞれ解説しています。

 それによれば、「オベーション」とは、組織の成功に貢献した人を称賛することであり、「期待」とは、同僚がグループの課題に直面した時に生じ、「委任」とは、従業員が仕事の進め方を自ら選択できるようにすることであり、「委譲」とは、従業員が自らの仕事をデザインし、自己管理することを可能にするものであるとしています。さらに、「オープン化」とは、従業員とともに情報を広く共有することであり、「思いやり」は、同僚との人間関係を意図的に構築することであり、組織は従業員に一人の人間として成長してもらうために「投資」し、誠実で謙虚なリーダーがいる組織は、従業員が「自然体」でいられるとしています。そして、これらの実現が組織の信頼に寄与した例を数多く紹介しています。

 第10章では、「喜び」をもって仕事をするために重要な、信頼以外のもう1つの要素として「目標」を挙げ、「喜び」は信頼と目標意識から生まれるとしています。第11章では、信頼が業績に与える影響について述べ、信頼は働く人のモチベーションと幸福感を高め、結果的に生産性の向上、離職率の低下、慢性ストレスの減少につながるとして、改めて、信頼度の高い文化を構築することの意義を説いて、本書を締め括っています。

 冒頭で、オキシトシン効果というものが強調されていますが、その話から組織の信頼を向上させる「8つの要因」の話が出て来るまでの間が、「神経経済学で実証されている」としか説明がされていないので、単なるゴロ合わせ(?)だったのか、とやや拍子抜けしました。本書で言われている称賛や期待、委任・委譲など8つのトランス・ファクターについても、著者自身がそう述べているように、特に目新しいものではないです

 しかしながら、8つの要因がそれぞれ組織内で具体的に実現されるというのはどのようなことなのか、それによってどのような効果が生まれたのか、企業等の取り組み事例を数多く紹介しているため、まえがきにある、「『曖昧でとらえどころのないもの』を正しく理解するための技術的な入門書」であるという本書の狙いには概ね即しているように思いました。新旧さまざまな経営理論も併せて紹介されており、神経経済学(オキシトシン)は個人的には"?"でしたが、啓発書としては、まずまずではなかったかと思います。

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「学習する組織」の手法体系に絞った入門書だが、手法部分も含め啓発書としても読める。

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「学習する組織」入門――自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践』(2017/06 英治出版)

 「学習する組織」とは、「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織」のことであり、ピーター・センゲやクリス・アージリスらが生み出し、普及させた概念であり、理論・手法体系です。学習する組織を作るための原則、プロセス、ツールの数々は、自己との向き合い方、大局をつかむ思考法、広く柔軟な視座、対話し共感する力、理念や価値観の共有など5つのディシプリン(規律・訓練)として体系化されていますが、本書では、組織開発メソッドとしての「学習する組織」の要諦を、ストーリーと演習を交えて解説しています。

 第1章では、学習する組織がどのようなものであるかを紹介し、第2章では、学習する組織の全体的な構造と、チーム(組織)の中核的な学習する能力を形成する、志を育成する力、複雑性を理解する力、共創的に対話する力という3つの力を紹介、さらに、志を育成する力は「自己マスタリー」「共有ビジョン」というディシプリンによって、複雑性を理解する力は「システム思考」というディシプリンによって、共創的に対話する力は「メンタル・モデル」「チーム学習」というディシプリンによって、それぞれ構成されるとしています。

 そして第3章から第7章の各章で「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」の5つのディシプリンについてそれぞれ詳しく解説し、第8章では、学習する組織の始め方の例と、その過程で突き当たる典型的な課題について紹介、最終章の第9章では、学習する組織を目指した先にある未来の組織の在り方と、それを導くリーダーシップの在り方について述べています。

 ピーター・センゲの著書『学習する組織』(2011年/英治出版)は約600ぺージの大著であり、その中で学習する組織や5つのディシプリンについて奥深く解説されていますが、本書はピーター・センゲらがまとめた手法体系に絞った入門書であり、読者が今ある組織に備わっている能力や意識について探究し、それらをその組織の文脈に合わせてどう活用し、組織を進化させていくことができるかを、具体的・実践的に解説しています。

 そのため、5つのディシプリンについて解説した第3章から第7章の各章は、事例(ストーリーと振り返りの問い)、理論(各ディシプリンの原則とプロセスの紹介)、演習(ツールによる演習、その振り返りと解説)という基本構成になっており、概念や理論の解説と実践の方法が一体となっているのが本書の特長です。入門書でありながら、実践テキストとしての形態も兼ね備えているため、400ページ近いページ数になっていて、ベースとなっているピーター・センゲの『学習する組織』とはまた異なった専門解説をも含むものとなっていますが、個人的には、そうした実践方法の解説を含め、全体を通して啓発書として読めるように思いました(タイトルが「学習する組織」となっており、『学習する組織』となっていないことからも、ピーター・センゲの『学習する組織』のダイレクトな入門書ではないことが窺える)。

 著者によれば、学習する組織は、組織のメンバーらが自ら学び、創造・再創造を繰り返して進化し続ける組織であり、完成形というものは想定されていないとのことです。ディシプリンは「規律」「訓練」などと訳されますが、合気道や茶道といった言葉で使われる「道」に近いと考えられるとしています。その「道」の部分をより深く感じとり、充分に理解するためには、ピーター・センゲの『学習する組織』を読んでみるのもよいかと思います

 因みに、ピーター・センゲの『学習する組織』においては、5つのディシプリンは「システム思考」「自己マスタリー」「メンタル・モデル」「共有ビジョン」「チーム学習」の順で解説されていて、「システム思考」に最も多くのページが割かれていますが、これは、5つのディシプリンの中で「システム思考」が最も基盤となる概念であるからではないでしょうか。個人的には、センゲの『学習する組織』の並び順の方がしっくりきたし、ウェイトの掛け方も、「システム思考」が一番理解が難しい概念であるという点で『学習する組織』の方が良かったですが、実践を絡めて解説すると、本書の「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」の順になったということでしょう学習する組織 3つの「柱」.pngか(ほぼ同時期に刊行の同著者の『マンガでやさしくわかる学習する組織』(2017年/日本能率協会マネジメントセンター)ででは、「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「自己マスタリー」「共有ビジョン」の順で解説されていて、これはこれで、複雑性を理解する力、共創的に対話する力、志を育成する力、の順であることが窺える)。

学習する組織 3つの「柱」from Change Agent

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○経営思想家トップ50 ランクイン(テレサ・アマビール)

「インナーワーク」(人の認識、感情、モチベーション)を向上させる「進捗の法則」を示す。

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マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』 テレサ・アマビール/スティーブン・クレイマー

 本書の著者らは、業務を通じて人の内面で起こっている、認識、感情、モチベーションの3つの相互作用を「インナーワークライフ」と呼び、3業界、7業種、26チームの1万2000の日誌調査から、このインナーワークライフを向上させることが、チームやメンバーの創造性と生産性を高めるために最も効果的であることが判明したとしています。そして、この3つを充実させるには、「やりがいのある仕事が進捗するように支援する」ことが最重要であると説いています。

 第1章では、かつて称賛された企業が破滅に向かっていく様を見ながら、インナーワークライフの一端を紹介しています。第2章では、間違ったマネジメントがチームの認識、感情、モチベーションへ破壊的な影響を与える様子を紹介しています。

 第3章では、巨大なホテル会社の内部顧客に向けて仕事するソフトウェア・エンジニアのチームが、会社の買収劇に直面して大量解雇が始まり、会社を嫌悪するようになった事例から、インナーワークライフが各人のパフォーマンスのあらゆる側面に影響を与える様子を示しています。

 第4章では、彼らソフトウェア・エンジニアチームにとって大きな転換期となる出来事によって、彼らのインナーワークライフが劇的に好転していく様を通して、「進捗の法則」、つまり人の認識、感情、モチベーションを向上させるには、「やりがいのある仕事が進捗するように支援する」ことが最も重要であることを示しています。著者らは、「進捗の法則」は、インナーワークライフに影響する三大要素の第一のものであるとし、第二の要素を「触媒ファクター」、第三の要素を「栄養ファクター」と名付けています。

 第5章では、「進捗の法則」の仕組みを解き明かし、なぜ「小さな進捗」が力を持ち、なぜ障害がより大きな(ネガティブな)影響力を持つのか、進捗の法則を活用するにあたって最も重要なツールを示し、進捗とインナーワークライフが互いに燃料を与え合うものであることを解明しています。

 第6章では、三大要素のうち二番目にインナーワークライフへポジティブな影響を与える「触媒ファクター」について説明し、触媒ファクターとして、①明確な目標を設定する、②自主性を与える、③リソースを提供する、④十分な時間を与える、⑤仕事をサポートする、⑥問題と成功から学ぶ、⑦自由闊達なアイデア交換の7つを掲げ、失敗に終わったプロジェクトと成功したプロジェクトでマネジャーのプロジェクトの支援の在り方がどう違ったかを解説しています。

 第7章では、インナーワークライフに影響を与える三番目の「栄養ファクター」について説明し、栄養ファクターとして、①尊重、②励まし、③感情的サポート、④友好関係の4つを掲げ、前章と同様に失敗例、成功例でこれらを解説しています。

 第8章では、部下たちが着実に進捗するのに必要な触媒ファクターと栄養ファクターを手にするためのツールやガイドラインを示し、例として、化学企業のリーダーで、本能的にこの体系に沿って行動し、厳しい状況にあったチームを創造的・生産的に、かつ幸せに前進させることができたケースを紹介しています。

 社員に日々の仕事の日誌をつけてもらい、その大量の日誌の分析から結論を導くという手法が珍しく、また、各章でそうした日誌が紹介されているので一定の説得力もあります。

 本書で言うところの「インナーワークライフ」というア・プリオリな切り口が絶対的なものかどうかはともかく、マネジャーとしてどうすれば認識、感情、モチベーションから成る個人のインナーワークライフを高めることができるかを考えることは重要であるに違いないように思えました。

 リーダーシップについて書かれた本と言うよりは、マネジメントについて書かれた本と言えるかと思いますが、常に、チーム(組織)ということを念頭に置いて書かれており、組織マネジメントについて書かれた本であるとも言えるかと思います。

 マネジャーが部下の認識、感情、モチベーションに寄り添ってインナーワークライフを向上させることが、チーム全体の成功を左右することに直結することを示しているという点で啓発される要素が多々あり、その点は良かったように思います。

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「モチベーション」の教科書、解説書、あるいは自省を促す啓発書として読める。

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最強のモチベーション術』(2016/07 日本実業出版社)

 著者によれば、「若手がなかなか定着しない」「昇進したがらない社員が増えた」「社員がダラダラ残業する」など、経営者が直面している問題のほとんどはモチベーションの問題であり、それだけモチベーションは、経営やマネジメントに深く関わっているにもかかわらず、多くの経営者や管理職はそのことに気づいていないか、気づいていても過小評価しているとのことです。そのため、何かあると見栄えのよい制度をつくるだけで満足したり、精神論やあるべき論で片づけたりしてしたりするとのことです。

 また、いざモチベーション問題に取り組むとして、学校で習ったモチベーション理論やビジネス書にある手法をそのまま試しても、うまくいかなかったり、かえって逆効果をもたらしたりするケースも多いとのことです。そこで、「現実の会社や職場の中の人間が何を考え、どのように行動するか」というところからモチベーションを説明し、「"やる気"は何によって、どうして生まれるか」「モチベーションをいかに高めるか」など、「人を動かす」ためのさまざまな問題を解決するのが本書の狙いであるとのことです。

 第1章では、モチベーションの理論と現実の世界とを照らし合わせながら、本当の「やる気」は何によってどのように生まれるのかを、古今の心理学の研究成果などを紹介しながら説明しています。ここでは、マズローの「欲求階層説」について、承認欲求の充足は、自己実現より重要であるとしており、これは従来からの著者の持論でもあります。また、「期待理論」を紹介し、人間は期待によって動き方を変え、仕事そのものに没頭したり、様々な計算を働かせたりして行動する存在だとしています。「計算づくではない」働き方をしているような場合でも、称賛や将来に対する貸しの意識が潜んでいて、そこにモチベーションが内包されているとの指摘は、納得感がありました。

 第2章では、モチベーションの「量」より「質」が問われている今の時代に、質の高いモチベーションを引き出すにはどうすればよいかが述べられています。まず、「やる気の足枷せ」となっているものを取り除くという観点から、長時間労働、人間関係、過剰な管理、不公平な人事評価、理不尽な待遇の引き下げ、の5つの足枷せをそれぞれ外す方法を説き、次に、やる気を倍増させるツボとして、自律性を高める、認められる機会を増やす、意識を「外」に向けさせる、の3つを挙げ、さらに、チーム力を高めるコツや、自分自身のモチベーションを高めるにはどうすればよいかを説いています。

 第3章では、相手のタイプに応じたモチベーションの高め方について述べられており、タイプによって効果が真逆にもなるとし、女性、中高年、派遣といった属性に応じた動機づけのコツを説いています。第4章では、「職場のコミュニケーションが不足している」「若手が消極的だ」などといった、現場でしばしば問題になる具体的なケースについて、その対策が示されています。

 モチベーション研究の第一人者として、これまで多くの著書を世に送り続けてきた著者が、職場環境や人間関係が複雑化している現代社会におけるモチベーションというテーマに向き合い、教科書的な原理原則から意外な事実、相手の心理を深読みする実践的な手法までを、豊富な事例やエピソードを交えながら説いた本と言えます。

 無理矢理、断定的なもの言いをしていない点が好感を持てましたが、一方で、その分ややもやっとした印象が残る箇所もありました。帯に「人を動かす究極の教科書」とあり、一方で「モチベーション解説書の決定版」ともありますが、そうした読み方もできるし、「管理職」(人事パーソンを含む)が読めば、日頃そこまでモチベーションの問題に取り組んでいるだろうかという職場のモチベーション問題への自ら取り組み姿勢について自覚と自省(リフレクション)を促す啓発書としても読めるように思いました。

 第2章の、やる気を倍増させるツボとしての「認められる機会を増やす」のところが、まさに著者の「承認欲求」論に呼応する箇所であり、表象制度などにも触れられていて、一番'力'が入っていたでしょうか。ここのところで、上手なほめ方、叱り方についても述べていますが、「叱る」という言葉を封印して「改善点を指摘する」へ言葉を置き換えた方がよいとしていて、これは、ケン・ブランチャード 、スペンサー・ジョンソン(著『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』('83年/ダイヤモンド社)が改訂されて『新1分間マネジャー―部下を成長させる3つの秘訣』('15年/ダイヤモンド社)になった際に、〈1分間で目標設定する〉〈1分間で褒める〉〈1分間で叱る〉の3つが、〈1分間目標〉〈1分間称賛〉〈1分間修正〉と3つ目が「叱る」から「修正する」に変わったことに対応しているように思いました(偶然ではないだろうと思う)。

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ミドルマネジャーに必要な自己変革し続けるための3つの力を説く。事例にシズル感あり。

これからのマネジャーの教科書 .jpgこれからのマネジャーの教科書』(2016/06 東洋経済新報社)

 本書は、「常にイキイキと仕事に取組み、周囲からの期待を超える活躍をしているミドルマネジャーと、そうでないミドルマネジャーの違いはどこから生まれるのか?」という疑問への答えを探るために、期待を超える成果を上げている40名以上のマネジャーにインタビューを行い、その結果をまとめたものであるとのことです。

 第1章では、ミドルマネジメントの置かれた状況を概観しています。そのうえで、ビジネス環境が激変する現代において、「ミドルマネジャー自身が変わり続けなければならない」こと、「ミドルマネジャーとしてイキイキと働くこと自体」に価値を見出していくことが大切だということを強調しています。

 第2章では、会社からも周囲からも一目置かれ、期待を超える成果を上げているミドルマネジャーへのインタビュー結果から明らかになった、彼らが備えている、自己変革し続けるためのベースとなる3つの力について解説しています。その3つの力とは次の通りです。
 「マネジャーとしてのビジネススキル=組織として成果を出す力(スキル)」
 「強い想いやこだわりを持っている=仕事に対する想いの力(ウェイ)」
 「周囲との考えの違いを乗り越える力(ギャップ)」

 そして第3章では、3つの力をどのようにして身につければいいのか、自己変革と自分を変えていくための3つのステップを示しています。その3つのステップとは次の通りです。
 ステップ1:「自己認識」を深める
 ステップ2:自分にとって「都合のよい解釈」をし、次にやることを決める
 ステップ3:自分のとった行動や置かれた状況に基づき「持論形成」する

 第4章では、多忙な日常の中でどうすれば「期待を超えるミドルマネジャー」であり続けることができるのか(「維持」または「強化」ができるのか)、それが不可能な場合は、どうやって「期待を超えるミドルマネジャー」に再びなれるにか(「回復」できるのか)について考察しています。

 第5章では、取材した41人の中から7人の「期待を超えるミドルマネジャー」について、具体的にどのように3つの力を獲得し、その維持、回復、強化に取り組んできたのかについて記しています。

 体系的に纏まっていますが、テキストと言うより啓発書的な内容であり、但し、別段突飛なことを言っているわけでもなく、内容的にはオーソドックスなものと言えます。そうした中で、「スキル」「ウェイ」「ギャップ」の3つの力をつけるステップの1つとして、「自分にとって"都合のよい解釈"をする」といったことが書かれているのが、個人的には関心を引きましたが、これとて、どんな場面でも、過去に行った行為を後ろ向きにはとらえず「これに意味がある」「これでいいのだ」と自己肯定感をもたせることがこれからのマネジャーに必要であるということを指しているという意味では、オーソドックスと言えるのかもしれません。

 むしろ、本書の後半分を占める、第5章の「7人の事例に学ぶミドルマネジャーの自己変革力」が、なかなかシズル感を出していて良かったです。現在さまざまな業種の企業で活躍中のミドルマネジャーら自身が、社会人になってから今日までの自らのキャリアを10年弱前後の刻みで振り返り、その各段階で「スキル」「ウェイ」「ギャップ」がどのように醸成され、「得られた持論」はいかなるものであり、3つの力の維持・回復・強化に今どのように努めているかが書かれています。前半部分の分析結果から得られた「スキル・ウェイ・ギャップ」などいった概念を逆検証している向きもありますが、入社時から振り返ることにより、マネジャーになる前の段階から「スキル・ウェイ・ギャップ」の3つの能力が大切なことがよく分かり、本書全体の納得感を高めることに繋がっています。

 実在のマネジャーの事例を基にした研究は、海外では、ジョン・P・コッターの『ザ・ゼネラル・マネジャー』(ダイヤモンド社)や、本書でも取り上げられているヘンリー・ミンツバーグの『マネジャーの実像』(日経BP社)など、それほど珍しくありませんが、日本では、金井壽宏 著『仕事で「一皮むける」』 ('02年/光文社新書)などがあるもののそう数は多くはないように思われます。

 ミドルマネジャーには自己変革が求められることを説き、自己変革し続けるための力をいかに養うかということを説いているという意味では自己啓発的な内容ですが、ミドルマネジャーがどのように育ち、育れてられていくかを考えるうえで、人事パーソンとしての立場から一読してみるのも良いかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 ミドルマネジャーとは何か
・マネジメントという仕事
・ミドルマネジャーとは誰を指すのか
・自己変革力を求められるミドルマネジャー
第2章 期待を超えるミドルマネジャーを生むメカニズムと3つの力
・期待を超えるミドルマネジャーとは何か
・スキル(組織で成果を出す力)
・ウェイ(仕事に対する想いの力)
・ギャップ(周囲との考えの違いを乗り越える力)
第3章 期待を超えるミドルマネジャーの自己変革力
・期待を超えるミドルマネジャーになる
・期待を超えるミドルマネジャーはどのように自己変革するのか
・自己解釈レンズ ワークシート
第4章 期待を超えるミドルマネジャーであり続けるために
・期待を超えるミドルマネジャーにも紆余曲折がある
・紆余曲折をいかに潜り抜けるか―3つのパターン
・維持、回復、強化のための具体的な行動・思考
第5章 7人の事例に学ぶ ミドルマネジャーの自己変革力
事例1:「やりきる」ことで次のチャンスが巡ってくる――キリンビールマーケティング 早坂めぐみ
事例2:繰り返し取り組んで自らの軸を太くしていく――国内大手機械部品メーカー 牧 浩一(仮名) 
事例3:「読者に喜んでもらいたい」という想いを形にする――女性誌編集長 鈴木裕子(仮名) 
事例4:ロジカルスキルとコミュニケーションスキルを強みに、自分の提供価値を最大化――スリーエム ジャパン 井手伸一郎 
事例5:「これだけはあいつに聞け」と言われる強みをつくる――外資系医療関連会社 山本健一(仮名)
事例6:「人のためになることをしたい」という想いを軸として生きる――日本財団 青柳光昌 
事例7:想い(ウェイ)の強さで社内外を巻き込んで大企業を活性化―パナソニック 有志の会 OnePanasonic発起人・代表 濱松 誠 
おわりに

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テキスト然としておらず、読みやすい。基本は網羅されていて、入門書としてはお薦め。

みんなの経営学  文庫.JPGみんなの経営学 使える実戦教養講座 文庫.jpg   みんなの経営学―使える実戦教養講座.jpg 単行本['13年]
みんなの経営学 使える実戦教養講座 (日経ビジネス人文庫)』['16年]

 本書の著者は社会人向け大学院で教鞭をとる経営学者であり、「みんなの」というタイトルには、すべての人が身につけるべき教養としての経営学という意味が込められているとのことです。

 第Ⅰ章では、経営学そのものに関する基礎的知識から考察し、経営学の最も基本的な考え方を、権限受容説という考え方をもとに解説しています。著者は、経営学は儲けるための学問ではなく、よりよく生きるための学問であるとしています。

 第Ⅱ章では、企業とは何かということについて考察し、米国や日本の企業の生成や発展の歴史を紐解きながら、その本質に対する基礎的な知識を解説しています。ここでは、ドラッカーによる企業の定義などを引きながら、企業を単に営利を追求するだけの装置としてではなく、人間の理想を実現するための装置として位置付けています。

 第Ⅲ章では、モチベーションについて考察しています。代表的なモチベーション理論を、歴史的な流れに沿って紹介するとともに、金銭的インセンティブの効果について、その"負の効果"も含めて考察し、内発的動機付けをもたらすマネジメントとはどのようなものかを考察しています。

 第Ⅳ章では、リーダーシップを取り上げています。リーダーシップ論の初期から今日に至る流れと追うとともに、なぜ優れたリーダーは少ないのかを探り、サーバント・リーダーシップという視点を通して、企業におけるこれからのリーダーのあり方を考察しています。

 第Ⅴ章では、経営組織について、組織概念の解説からスタートし、なぜ組織が必要なのかという基本的テーマを追っています。著者は、組織論はこれまで経営学の中心的な位置を占めてきたが、今日では、官僚制を代表格に大規模組織を無用の長物とする見解もあり、組織論は混迷の時代にあるとしています。

 第Ⅵ章では、経営戦略の本質的な特徴に迫っています。ここでは、経営戦略策定のための基本的な理論枠組みとツールを紹介し、企業の戦略やそれが具体化された中期計画が机上の空論にならないために、よい経営戦略とはどのようなものかを考察しています。

 最終章である第Ⅶ章では、あらためて、経営戦略の活かし方についての基礎的な話をしています。例えば、日本発の世界的な経営学パラダイムである知識創造の経営組織論(ナレッジ・マネジメント論)などを紹介し、今日の経営を取り巻く環境の変化から、経営学の進んでいる方向についての著者の見解を述べています。

 経営学はそもそも人々の役に立っているのかという疑問からスタートし、著者自身がビジネスパーソンや経営者との関わりの中で、経営学と現実のギャップを感じたことなども素直に問題提起され、また真摯に考察されています。そのため、テキスト然としておらず、全体を通して読みやすいものとなっています。

 一方で、第Ⅲ章から第Ⅵ章で、モチベーション、リーダーシップ、経営組織、経営戦略という経営管理(マネジメント)の根幹を成すテーマを扱っており、その中で、経営学の代表的な概念や学説の系譜は、ごく簡潔ながらも網羅的に押さえられています。例えば、第Ⅲ章のモチベーションのところで解説されているマズローの欲求段階説やハーズバーグの二要因理論などは、人事パーソンの必須常識と言えるでしょう。

 必ずしも全てのビジネスパーソンが、大学等で一般教養としての経営学を学んだわけでもなく、それは人事パーソンに限っても言えることでしょう。こうした教養を身につけるには、基本を先に押さえてしまった方が効率的であると思います。本書の場合、ビジネスの現場で応用するにはもう少し掘り下げる必要があると思いますが、入門書、おさらいの書としてはお薦めできるものです。

【2016年文庫化[(日経ビジネス人文庫]】

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先の見えない時代に対応できる「機動戦経営」を提唱。概念的にはキレイにまとまっている。

米軍式 人を動かすマネジメント.jpg米軍式 人を動かすマネジメント──「先の見えない戦い」を勝ち抜くD-OODA経営

 本書は、先の見えない時代に対応できる「機動戦経営」(D-OODC(ドゥーダ)経営)というものを提唱しています。第1章「機動線経営とは何か?」では、日本人の計画好きのルーツはPACDにあるが、それが「計画・管理・情報」の過剰を生んでおり、軍事的にみれば「想定される攻撃」に対して適切かつ機敏に行動が取れることと、「想定外の攻撃」に対しても臨機応変な対応が取れることは別であり、先が見えない環境で戦うためには、前者の消耗戦型よりも、後者の機動戦型の方が有効であり、それは経営にも当て嵌るとのことです。

OODA.gif それでは機動戦経営とは何なのかと言うと、1つは、機動戦で言うところの「OODC」、即ち、観察(Observe)―方向付け(Orient)― 決心(Decide)― 実行(Act)のサイクルを繰り返すことであり、自分の計画から始まるのがPDCAであるのに対し、OODCは相手を観察することから始まるのがその特徴で(PDCAの前段階とも言える)、このOODCループによって「動く」個人をつくることができるとのことです。例えば接客業であれば、PDCA接客には、 決められた手順を守る従順さが求められるが、一方のOODCには、顧客に対する鋭い観察眼が求められるとのことです。

「OODAループ」from Insource

 そして、臨機応変に「動く」個人が育ったなら、機動戦では次に、 「ミッション・コマンド」という指揮法をとるとのことで、ミッション・コマンドは、何のためにどんな理由で戦うのか(Why)と、戦闘によってどんな勝利を目指すのか(What)が明確に示されるとのこと。更に、こここでOODCとミッション・コマンドを強力にサポートするのが判断と行動に直結する情報であり、これを「クリティカル・インテリジェント」と言うとのことです。

 つまり、「動く個人・動かすリーダーシップ・動ける情報」が機動戦経営の3要素であるとし、以下の章で、それぞれについて解説しています。

 理論的にかっちりしている印象を受けるのは、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐によって提唱された意思決定理論である「OODCループ」の考えを起点にしているということもありますが、その理論にミッション・コマンド、クリティカル・インテリジェントという概念を付加して行く過程も、分かり易く説明されているように思いました。

 第2章ではOODCについて、第3章ではミッション・コマンドについて、第4章ではクリティカル・インテリジェントについてそれぞれ解説し、最終第5章では、現在の米軍では、作戦計画の作成・立案において、「正しい問題の設定」を指す「オペレーショナル・デザイン」(Operation Design)が重視されているという事実をもとに、これをにOODCを組み合わせた「D-OODC(ドゥーダ)ループ」というものを提唱しています。

 やや気になったのは、第2章以下で、OODC、ミッション・コマンド、クリティカル・インテリジェントというそれぞれの概念を更に詳しく説明していく段階で、事例に落とし込んでいく際に、公認会計士である著者の顧問先の中小企業の事例など、事例そのものは数多く紹介されているのものの話がやや拡散気味で、概念と事例の対応関係がややもやっとなった印象がありました。

 そうしたこともあって、もともと概念的要素の高い内容ですが、理論的にはキレイに纏まっているものの、概念的なまま終わってしまった印象も受けました(自分の抽象化能力に問題があるのかもしれないが)。

 概念的には分かるのだけれど、この本を読んだ経営は、次、どうすればいいのか、ちょっと考えてしまうのではないかなあ。とは言え、PDCA絶対説をあっさり批判している点など、提唱されていることの新鮮さはありました。

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論旨は腑に落ちるが、理論と現実とのギャップを埋めるという意味ではやや弱いか。

非合理な職場.jpg非合理な職場 ―あなたのロジカルシンキングはなぜ役に立たないのか』['16年]

 以前ベストセラーになった『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』(2008/01 講談社現代新書)の共著者の一人による本書は、職場やそこで働く人の持つ「非合理な」面に焦点を当て、ロジカルシンキングの罠と、そこからどう脱出すべきかを説いています。

 第1章では、非合理な職場の実態を紹介し、ロジカルシンキングを学んだ人は問題解決者になったと思いがちだが、真の問題解決プロセスとは、単に論理的に問題を解くだけでなく、その実行のために組織や人を動かしていくプロセスであって、このプロセスを進行させるためには、人間の思考や心理にまで踏み込んだ働きかけが必要となり、ロジカルシンキングだけでは通用しない場面が現われるとしています。

 第2章では、人間や組織の持つそうした非合理性は、認知の歪みから生じるとしています。人間の認知は「経験・知識から成るスキーマからの悪影響」「推論のバイアス」「集団による意思決定への影響」により歪みが生じるため、真の問題解決者は、人間の感情や集団の圧力などの認知の動的なメカニズムを十分に理解しており、そのことを念頭に問題解決のアプローチを行うとしています。

 第3章では、具体的に認知の歪みにどう対応するかを考え、それにはその原因ごとに対応策を考える必要があり、スキーマが強い人には、スキーマを生じさせないようなスローシンキングや生の現実を見せ、感情で認知に影響を受けている人には、感情で対応するのではなく、感情を引き起こす影響を伝えることで気づかせることが有効だとしています。

 第4章では、自分自身に認知の歪みが起きる可能性もあるとし、蓄積した経験いスキーマが引きずられる可能性や、感情により認知が歪む可能性、組織への配慮やコミットメントが強すぎる可能性に加え、人には「人スキーマ」と呼ばれる、人をステレオタイプ化して見てしまう危険があることを示しています。

 第5章では、人間や職場が持つ「価値観」の問題を取り上げ、合理的な案に対してノリの悪い反応をする原因を掘り下げていますが、そこには価値観の問題が存在している可能性があるとしています。よって、問題解決者が行うべきことは、まず暗黙的な価値観を明示化し、価値観が障害になっていないかを確認したうえで、それを変えるべきかどうかを検討すべきだとしています。

 第6章では、多様化した職場において人を動かす「動機づけ」について考察し、動機づけ論では内発艇動機づけが注目を浴びたが、現在の日本企業の状態を考えると、内発的動機付けだけでは不十分であり、外発的動機づけとの組み合わせが必要になってくるとしています。

 著者は、マッキンゼーで論理思考の基礎を身につけた上で、人事・組織開発のコンサルに転じ、実績をあげてきた人であるとのことで、読んでみて、別にロジカルシンキングを否定しているわけではなく、マネジメントに心理学を応用し、「心理学」+「論理思考」で人と組織をより自在に動かしていくことを提唱しているように思いました。

 その意味では、切り口はまあまあユニークであるし、論旨はそれなりに腑に落ちるものでしたが、一方で、こうした理論展開自体が、広い意味でのロジカルシンキングではないかという気がしないでもないです。ロジックがまともに通じない人に悩まされるということは往々にしてあるかと思いますが、これが相手の価値観が障壁になっていることが原因だと判明しても、その価値観を変えるというのは現実にはなかなか難しいということは、ままあるのではないでしょうか(むしろ、本当に問題となるのはそうしたケースではないか)。

 理論と現実とのギャップを埋めるという意味ではやや弱い印象も受けるし、最後は比較的フツーの(Z理論的な)モチベーション論になっている印象も。但し、相手の認知の歪みだけでなく、自分自身に認知の歪みが起きる可能性もあることを指摘している点は、大いにリフレクション(自省)したいと思いました(個人的には"自己啓発書"として読んだことになるのかも)。

《読書MEMO》
●目次
第1章 ロジカルシンキングだけでは通用しない「非合理な職場」
第2章 なぜあなたの主張は理解してもらえないのか?
第3章 認知の歪みへの対応策
第4章 あなたのロジックも歪んでいる?
第5章 「ノリ」を左右する価値観
第6章 多様化した職場で人を動機づけるには

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現場マネジャーが直面するジレンマに話題を絞った前半部分が良かった。

会社の中はジレンマだらけ.jpg会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング (光文社新書)』['16年]

 本書によれば、ジレンマとは「どちらを選んでもメリットもデメリットもあるような二つの選択肢を前にして、それでもどちらにするかを決めなければならない状況」とのことで、企業・組織においてマネジャーが直面する幾つかのジレンマのパターンを取り上げ、ヤフー執行役員の本間浩輔氏と東京大学の中原淳准教授が対談形式で議論しています。

 第1章が「絶対に結果を出さなくてはならないハードな案件。自分自身でこなす?それとも思い切って部下に任せる?」、第2章が「チーム内にくすぶり始めた時短社員への不満。ほかのメンバーを説得する?それとも時短社員に働き方を変えてもらう?」、第3章が「仕事をしない"年上の部下"がいます。言いたいことを伝える?それともやり過ごす?」といったように、マネジャーに"現場仕事"が増えがちな問題、産休社員に人員補充が無い場合に起きがちな問題、なぜ「働かないおじさん」の給料は高いのかといった問題を扱っていて、全部で5章ありますが、最初の3章が比較的トーク内容が充実していたように思います(後半2章は正直それほどでも...)。

 第1章では、ヤフーで行われている「ななめ会議」というのが興味深かったです。ある意味、マネジャーに気づきを促すフィードバック方法の1つなのですが、人事部が職場のマネジャーについて部下たちに発言させ、次に人事部がその発言をマネジャーに伝え、最後は三者で話をするというものですが、こうした方法論もさることながら、こうした方法を取ることが可能な企業文化というのもあるだろうなあと。本間氏が「成長には修羅場だ」といった「修羅場幻想」からそろそろ離れた方がいいと言っているのにも納得。IT企業でありながら、「会って話すことがポイント」と言っているのも興味深かったです。

 第2章では、ワーク・ライフ・バランスに関して、「資生堂ショック」を話題にしており、本間氏の発言などからも窺えるように、何時間働くかではなく、パフォーマンスを見て評価するという傾向は今後強まるのだろうなあと(コンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長なども以前からこの路線だったように思う)。但し、マネジャーは短期的評価を気にしていてはダメで、その意味で、マネジャーには覚悟が必要というのも分かります。

 第3章では、「働かないおじさん」とは「おじさん」が「学習した結果」生じているのであり、本間氏が、その"経験学習"も相当な水準に達しているかもしれないと言っているの、ヤフーのような執行役員でもそうしたことを感じるのかと興味深かったです。もちろんこうなってしまうのはマネジャーにも問題があるわけで、1つの大きな原因が評価の在り方にあって、本間氏が、「その人」を評価するのではなく「今期の働き」を評価せよ、つまり「人」ではなく「事」を評価せよ、と言っているのがしっくりきました。会社の「利益」と部下の「やりたい事」のベクトルを摺り合わせるのが上司の仕事だと言っているのも分かり易かったです。

第4章では、なぜ新規事業のハシゴはすぐに外されるのかと言う問題を扱っていて、新規事業に異動したいと言う部下にどう対処すべきかを論じており、この中では、企業のビジョンに絡めた話で、IT企業の間で社史編纂が密かなブームになっているという本間氏の話が興味深かったです。

 第5章では、なぜ転職すると給料が下がるのかというテーマで、転職の話が突然舞い込んできたとき、年収が減っても新天地へ行くべきかということを論じており、今話題の「副業」の問題なども話し合われています。

 前半3章が、マネジャーの直面するジレンマに的が絞られていて良かったですが、後半になって若手など働く側の方へ視点がずれていて、やや散漫になっていった印象。ただ、ヤフー執行役員の本間浩輔氏の話はなかなか興味深く、中原淳氏が主に聞き手に回っているのもいいです(中原氏は、今後もこうした対談形式の本を光文社新書から出していくのか。金井壽宏氏のパターン?)。

《読書MEMO》
●目次
第一章 なぜマネジャーに"現場仕事"が増えるのか
第二章 なぜ産休社員への人員補充がないのか
第三章 なぜ「働かないおじさん」の給料が高いのか
第四章 なぜ新規事業のハシゴはすぐ外されるのか
第五章 なぜ転職すると給料が下がるのか目次

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原著の要約本としてよくまとまっているが、むしろ原著への橋渡しとしての本か。

ドラッカー教授「現代の経営」入門.jpgドラッカー教授『現代の経営』入門 (ビジネスバイブルシリーズ)』(2015/12 総合法令出版)

 難解で分厚いビジネス名著を分かり易く解説する「ビジネスバイブル」シリーズのマイケル・ポーター『競争の戦略』、フィリップ・コトラー『マーケティング・マネジメント』に続く第3弾がこのピーター・ドラッカーの『現代の経営』ですが、このシリーズはこの第3弾で打ち止めになったようです(コトラー『マーケティング・マネジメント』は入門書なのに2分冊になっている。手間がかかりすぎたのか?)。本書は『現代の経営』上下巻(ダイヤモンド社)で550ページにわたる原著の内容を分かり易く噛み砕いて解説しています(こちらは全一冊)。

 第1部「マネジメントとは」で、ドラッカーの言う「マネジメント」と何か、『現代の経営』の序論「マネジメントの本質」に書かれていることを中心に解説し、第2部「『現代の経営』を読む」で『現代の経営』の序論から第5部、さらに結論までを含めた各部を解説、巻末第3部に「ドラッカーによる経営危険度チェック」というリストが付されています。

 第2部「『現代の経営』を読む」では、第1章「マネジメントの本質」で『現代の経営』の「序論 マネジメントの本質」(第1章・マネジメントの役割、第2章・マネジメントの仕事、第3章・マネジメントの挑戦)を、第2章「事業のマネジメント」で『現代の経営』の「第1部 事業のマネジメント」(第4章・シアーズ物語、第5章・事業とは何か、第6章・われわれの事業は何か、第7章・事業の目標、第8章・明日を予期するための手法、第9章・生産の原理)、第3章「経営管理者のマネジメント」で『現代の経営』の「第2部 経営管理者のマネジメント」(第10章・フォード物語、第11章・自己管理による目標管理、第12章・経営管理者は何をなすべきか、第13章・組織の文化、第14 章・CEOと取締役会、第15章・経営管理者の育成)、第4章「マネジメントの組織構造」で『現代の経営』の「第3部 マネジメントの組織構造」(第16章・組織の構造を選ぶ、第17章・組織の構造をつくる、第18章・小企業、大企業、成長企業)、第5章「人と仕事のマネジメント」で『現代の経営』の「第4部 人と仕事のマネジメント」(第19章・IBM物語、第20章・人を雇うということ、第21章・人事管理は破綻したか、第22章・最高の仕事のための人間組織、第23章・最高の仕事への動機づけ、第24章・経済的次元の問題、第25章・現場管理者、第26章・専門職)、第6章「経営管理者であることの意味」で『現代の経営』の「第5部 経営管理者であることの意味」(27章・優れた経営管理者の要件、28章・意思決定を行うこと、29章・明日の経営管理者)、第7章「マネジメントの責任」で『現代の経営』の「結論 マネジメントの責任」を解説しています。以上、章ナンバーと原著の部ナンバーが1つずつずれていますが、内容的には各章を忠実に網羅していることになります。

 人事パーソンにとっての読み所は(ある意味『現代の経営』のすべてが'読み所'なのだが)、第5章「人と仕事のマネジメント」で『現代の経営』の「第4部 人と仕事のマネジメント」(第19章から第26章)にあたる部分でしょうか。

 第19章「IBM物語」でIBMの事例を通してオートメーション化により人の仕事はどう変わったかを考察し、第20章「人を雇うということ」で、人を雇うということは、他の資源と違い、「人格そのものを雇う」ことであり、「個人の強み、主体性、責任、卓越性が、集団全体の強みと仕事ぶりの源泉となるよう、仕事を組織する必要がある」としています。

 第21章「人事管理は破綻したか」では、人事管理論や人間関係論が機能しないのはなぜかを分析し、基本概念は間違っていないが理念上の盲点があることを指摘しています。第22章「最高の仕事のための人間組織」では、チームのメンバー一人ひとりが、チーム全体のニーズに最も合うように、それぞれ自らの作業を配置しなければならないとしています。第23章「最高の仕事への動機づけ」では、外からの動機づけでなく、内からの動機づけを行う必要があるとし、「正しい配置」「仕事の高い基準」「自己管理に必要な情報」「マネジメント的視点を持たせる機会」の4つを企業は提供していかねばならないとしています。

 第24章「経済的次元の問題」では、経済的な報酬についての不満は、仕事に対する阻害要因となるとして、企業にとっての継続的に人を雇い続けるための雇用賃金プランの重要性を説き、第25章「現場管理者」では、現場管理者に求められるものは何かを纏めています。第26章「専門職」では、「彼ら(ここではスペシャリストの意味で使っている)は所属する部や課ではなく、彼ら自身の持つ仕事に責任を持つ」という点で経営管理者(マネジャー)とは異なっているとし、専門職を生産的な存在とするための5つの要件を掲げています。

 勿論これらの他にも読み所はあり、「目標管理」ということ言い始めたのもこの『現代の経営』であれば、「ナレッジワーカー(知識労働者)」についても同様です。

 本書は、あたかも逐条訳であるかのように原典に忠実に纏められていて、太字など用いてポイントが分かり易く要約されています。一方で、必要に応じて、そうしたことが書かれた当時の背景なども解説されていますが、『現代の経営』の初版刊行は1954年であり、60年以上も前に書かれた経営の原理原則が、今もって我々の思考に響いてくるというのは、ドラッカーの洞察力のスゴさを物語っているように思います。

 著者は『現代の経営』を、「世界最古世界最小の経営のツボ全集」と言えるとしていますが、それでも上下巻(ダイヤモンド社)で550ページにわたる元本にいきなりとりかかるのは、結構しんどいかも。本書は原著の要約本としても比較的よく纏まっていますが、むしろ、原著への橋渡しとして格好の本であるように思いました(本来はそうあるべきなんだろなあ。自分自身、なかなか読み返せないでいるけれど)。

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内容紹介とケーススタディがコンパクトに纏まっている。名著へ読み進む契機に。

マネジメントの名著を読む 3.jpgマネジメントの名著を読む1.JPG
マネジメントの名著を読む (日経文庫)』['15年]

 本書は、日本の第一線で活躍する経営コンサルタント、経営学者たちが、自身の推薦する経営論・戦略論の名著を、事例分析を交えながら紹介したものです。ウェブサイト「日経Bizアカデミー」で2011年10月から連載されている「日経キャリアアップ面連動企画」(経営書を読む)の内容を抜粋、加筆・修正し、再構成したもので、ピーター・ドラッカー『マネジメント』、マイケル・ポーター『競争の戦略』といった古典から、ジャック・ウェルチ『ウィニング勝利の経営』、ルイス・ガースナー『巨象も踊る』のような敏腕経営者による経営論まで12冊が取り上げられています。

 本書の特長として、まえがきで、「ビジネスの知の検索」の有効な第一歩と成り得ること、各名著のポイントが簡潔に紹介されていて「名著のつまみ食い」ができること、専門家が名著をどのように読むのかその「読み方」を知ることができること、の3つが挙げられていますが、その3点については個人的にも異存ありません。各名著の紹介のページ数はそう多くはないですが、内容紹介とケーススタディがコンパクトにまとまっていて、密度はかなり濃いように思いました。

 12冊の本を9人の専門家が紹介するかたちとなっていますが、執筆者それぞれの思い入れが込められているのが興味深く、また、各名著の内容にリンクしたケーススタディの取り上げ方、そうしたケーススタディを通しての各名著の読み込み方、切り口、ポイントの捉え方等にそれぞれ特徴があるため、これまでに自分が読んだ本があれば、自分自身の読み方と比較しつつ、名著の内容を改めて想起するなり読み返すなりして、その本への理解をいっそう深める手だてとするのもよいのではないでしょうか。

 また、本書で紹介されている名著の中で、未読のもので興味をひかれたものがあれば、是非これを機会に、それらに読み進まれることをお勧めします。12冊の中には、「マネジメント」という大きな括(くく)りの中で、ポーターやクリステンセンの代表作のように、マーケティングやイノベーション寄りのテーマの本もありますが、ジェームズ・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー』、ピーター・センゲ『最強組織の法則』など、「人事マネジメント」というジャンルにおいても名著とされているものもあります。また、『戦略サファリ』が取り上げられているヘンリー・ミンツバーグのように、戦略論がよく知られているものの、それだけでなく、人と組織に関しても多くの名著を著している経営思想家もいます(もとろんドラッカー然りです)。

 紹介されている本の中には大著もあり、忙しい人事パーソンにとってはなかなか手にする機会も読む時間も無かったりするかもしれません。しかしながら、人事パーソンの役割の1つとして、経営のパートナーであることが挙げられるかと思われ、そうした意識がしっかりあれば、必ずしも「人事マネジメント」に限定しなくとも、こうした「マネジメント」の名著とされている本(や著者)に何らかの関心を持たれ、実際に手にし、読んでみるということは自然な流れではないかと思います。

 繰り返しになりますが、個人的には、本書そのものもさることながら、本書を契機に、ここで紹介されている名著に読み進まれることを一番お勧めしたいと思います(姉妹編『リーダーシップの名著を読む』(2015/05 日経文庫)もお薦め)。

《読書MEMO》
●取り上げられている12冊と紹介者
1.『戦略サファリ』ヘンリー・ミンツバーグ他著―後づけでない成功の真因を探る(入山章栄(早稲田大学))
2.『競争の戦略』マイケル・ポーター著―「5つの力」と「3つの基本戦略」(岸本義之(ブーズ・アンド・カンパニー(執筆当時)))
3.『コア・コンピタンス経営』ゲイリー・ハメル他著―主導権を創造する(平井孝志(ローランド・ベルガー))
4.『キャズム』ジェフリー・ムーア著―普及過程ごとに攻め方は変わる(根来龍之(早稲田大学))
5.『ブルー・オーシャン戦略』W・チャン・キム他著―競争のない世界を創る戦略(清水勝彦(慶應義塾大学))
6.『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン著―リーダー企業凋落は宿命か(根来龍之(早稲田大学))
7.『マネジメント』ピーター・ドラッカー著―変化を作り出すのがトップの仕事(森健太郎(ボストンコンサルティンググループ))
8.『ビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・コリンズ他著―基本理念で束ね、輝き続ける(森健太郎(ボストンコンサルティンググループ))
9.『最強組織の法則』ピーター・センゲ著―学習するチームをつくり全員の意欲と能力を引き出す(森下幸典(プライスウォーターハウスクーパース))
10.『プロフェッショナルマネジャー』ハロルド・ジェニーン他著―自分を犠牲にする覚悟が経営者にあるか(楠木建(一橋大学))
11.『巨象も踊る』ルイス・ガースナー著―リスクテイクと闘争心による巨大企業再生(高野研一(ヘイグループ))
12.『ウィニング 勝利の経営』ジャック・ウェルチ他著―部下の成長を導く八つのルール(清水勝彦(慶應義塾大学))

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プロフェッショナル・マネジャーの資質とやるべきことを実証的に説いたこの上ない指南書。

プロフェッショナルマネジャー ハロルド ジェニーン.jpg プロフェッショナルマネジャー ハロルド ジェニーン 2.jpg       ハロルド・ジェニーン.png Harold Geneen(1910-1997)
プロフェッショナル マネジャー―わが実績の経営』(1985/11 早川書房)田中融二:訳
プロフェッショナルマネジャー』(2004/05 プレジデント社)

ハロルド・ジェニーン2.jpg 本書は、かつての巨大コングロマリット米ITT(International Telephone and Telegraph)の社長兼CEO(最高経営責任者)として「58四半期連続増益」を遂げたハロルド・ジェニーン(Harold Sydney Geneen、1910年1月22日 - 1997年11月21日/享年87)の経営論です(原題: Managing、1984,Garden City,NY)。

 ハロルド・ジェニーンは1910年に米国生まれ、父は実業家でしたが、土地投機で破産、16歳からニューヨーク証券取引所のボーイとして働きながらNY大学で会計を学び、'50年にエレクトロニクスの会社レイセオン社の副社長となり、会社業績を飛躍的に伸ばした実績で'59年にITT社長に就任、在任中に利益を7.6億ドルから170億ドルまで、14年半連続増益というアメリカ企業史上空前の実績を上げ(これが邦訳サブタイトル「58四半期連続増益の男」に繋がる)、「経営の鬼神」とも言われたそうです。本書は1985年早川書房刊行の邦訳を復刊したもので、本邦初訳時から本書を経営の教科書とする柳井正ファーストリテイリング会長兼CEOが解説を加えています。

 第1章「経営に関するセオリーG」では、当時の日本的経営を礼賛する風潮や「セオリーZ」の流行を引き合いに、ビジネスはもちろん、他のどんなものでも、既成のセオリーなどで経営できるものではないとしています(Gはジェニーンの頭文字であり、"ジェニーン理論"、つまり"セオリー俺"という意味である)。

 第2章「経営の秘訣」では、《三行の経営論》を説いていますが、それは、本を読む時は、初めから終わりへと読むのに対し、ビジネスの経営はそれとは逆であり、終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだというものです。

 第3章「経験と金銭的報酬」では、ビジネスの世界では、誰もが2通りの通貨―金銭と経験―で報酬が支払われるが、金は後回しにして、まずは経験を取れとし、さらに、ビジネスで成功したかったら上位20%のグループに入るこよが必要だとしています(上位3%とは言っていない点がミソ)。この章は、ジェニーンがITTに入るまでのキャリアの振り返りにもなっていて、非常に面白く読めます。

 第4章「二つの組織」では、どの会社にも二つの組織があり、一つは組織図に書き表すことができる公式のもの、そしてもう一つは、その会社に所属する男女の、日常の血の通った関係であるとしています。この章は、ジェニーンがITTに来てから何をやったかが書かれています(これらの章に限らず、全体として実証的に書かれている点が、経営学者ではなく経営者の視点から書かれた本書の特長でもある)。

 第5章「経営者の条件」では、「経営者は経営しなくてはならぬ!」ということを繰り返し強調しています。「しなくてはならぬ」とは、それをやり遂げなくてはならぬという、経営者としての信条を信条たらしめている能動的な言葉であるとしています。

 第6章「リーダーシップ」では、リーダーシップは伝授できるものではなく、各自が自ら学ぶものであって、ビジネス・スクールで編み出された最新の経営方式を適用するだけでは経営はできず、なぜならば、経営は人間相手の仕事であるからだとしています。

 第7章「エグゼクティブの机」では、机を見れば人がわかるとし、マネジメントに属する人間にとって、当然なすべき程度と水準の仕事をしながら、同時に机の上をきれいにしておくことなど、実際には不可能であるとしています。

 第8章「最悪の病―エゴチズム―」では、現役のビジネス・エグゼクティブを侵す最悪の病は、アルコール依存症ではなくエゴチズムであるとし、自分の成功を盾にエゴチズムを撒き散らす社員、全体最適を考えず、自己最適に走る社員をどうすべきかを論じています。

 第9章「数字が意味するもの」では、数字が強いる苦行は自由への過程であるとし、数字自体は何をすべきか教えてくれず、企業経営において肝要なのは、そうした数字の背後で起こっていることを突き止めることであるとしています。

 第10章「買収と成長」では、自らが行ってきたM&Aを振り返り、難点は皆が同じ戦略を思いつくことであり、その結果、巨大市場をめぐって、トップメーカー同士で争うことになるのだとしています。そして、そうした中、投資に対するリターンが最も大きくなる選択は何かを、自分の目と頭で見極めることが大事だとしています。

 第11章「起業家精神」では、起業家精神は大きな公開会社の哲学とは相反するものであり、大企業を経営する人々は大方、何よりもまず過ちを(たとえ小さな過ちでも)犯さないように心掛けるものであるとしています。「起業家精神が大事だ」とか「シリコンバレーに学べ」などとは決して言わないところに、ジェニーンの"経営の個性"が感じられます。

 第12章「取締役会」では、勤勉な取締役会は、株主のために、その会社のマネジメントの業績達成の基準をどこに置くか、去年または今年、会社がどれだけ収益を(上げたかではなく)上げるべきであったかという基本問題に取り組まなければならないとしています。

 第13章「気になること―結びとして―」では、良い経営の基本的要素は、情緒的な態度であり、マネジメントは生きている力であって、それは納得できる水準(その気があるなら高い水準)に達するよう物事をやり遂げる力であるとしています。

 第14章の「やろう!」は1ページに満たない終章ですが、実績のみが実在する―これがビジネスの不易の大原則であるとして、本書を締め括っています。

 経営は成果が全てであるという強烈なリアリズムに立脚しながら、そうした冷徹な経営哲学の根本に、人間への深い洞察があることが窺えます。

 部下の報告には「5つの事実」が含まれているとか、リーダーシップの発揮においては現場の間に「緊張感ある対等関係」を作ること鍵になるとか、部下の指導法に際しては「オレオレ社員」の台頭を許すなとか、後継者の育成法としては「社員FC制度」が究極の形である、などといった、リーダーシップや部下の指導・育成に関する示唆に富み、また、「本来の自分にないものの振りをするな」「事実と同じくらい重要なのは、事実を伝える人間の信頼度である」「組織の中の良い連中はマネジャーから質問されるのを待っている」といったマネジャーとしての気づきを促す指摘も数多く含まれています(個人的には、できるエグゼクティブの机は散らかっているというのが面白かった)。

 人事パーソンの視点で見るならば、マネジャーとしての資質とやるべきことは何か、それも、プロフェッショナルなマネジャーとしてのそれらは何かということを実証的に説いたこの上ない指南書であると言えるかと思います。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ゲイリー・ハメル)

「一人ひとりの主体性と創造性を解放させ、個人と組織の持つ自己組織化能力を開花させていく」

経営の未来 マネジメントをイノベーションせよ.jpg経営の未来The Future of Management.jpg"The Future of Management"ゲイリー・ハメル.jpg Gary Hamel

 ロンドン・ビジネススクール客員教授で、シカゴを本拠地とする国際的なコンサルティング会社ストラテゴスの創設者であり、『コア・コンピタンス経営』などの著書で知られるゲイリー・ハメルの、その『コア・コンピタンス経営』と並ぶ世界的なベストセラーになった経営書です(原題: The Future of Management、2007)。

 第Ⅰ部「なぜ経営管理イノベーションが重要なのか」では、まず第1章で、経営管理は終わったのかと問いかけ、これからの変化の時代においてこそ経営管理イノベーションの重要性が増すことを説いています。第2章ではイノベーションには業務イノベーション、製品イノベーション、戦略イノベーション、経営管理イノベーションという種類があり、どのイノベーションもそれぞれ独自の形で成功に貢献するが、これらのイノベーションを上に行くほど価値創造と競争上の防御力が高くなる階層図で示すとしたら、経営管理イノベーションが一番上にくるとしています。第3章では、経営管理イノベーションの挑戦課題は、戦略変更のペースを劇的に加速させること、イノベーションをすべての社員の日常的な業務にすること、すべての社員が自分の最高の力を出す企業を築くことであるとしています。そしてこれらを実現しようとしたとき、「よりよく」「より早く」「より迅速に」「より安く」をめざしてきた近代経営管理では無理であり、経営管理そのもののイノベーションが重要になるとしています。

 第Ⅱ部「経営管理イノベーションの実行例」では、第4章で、目的で結ばれたコミュニティを築くことで社員の活力と参加意識が最も高い企業の一つとなったホールフーズ・マーケットの事例を、第5章で、上司はいないがリーダーは大勢いるという世界中で最も風変りで最も効率的な組織を築くことでイノベーションの民主化を実現したW.L.ゴア(ブランド名:ゴアテックス)の事例を、第6章で、他の何よりも適応力(レジリエンス)を重視する経営管理システムを構築することで、優位性を進化・持続させ続けてきたグーグルの事例を取り上げています。これら企業の共通点として、既成の経営管理の概念に捉われず、時には従来の常識を根底から覆すような独自の経営管理イノベーションを行っていること分かり、いずれも興味深い事例かと思われます。

 第Ⅲ部「経営の未来を思い描く」では、第7章で、いかにして前例の束縛から逃れ、従来の中核的な経営原理に反旗を翻すかを説き、第8章では、新しい経営原理をどのようにして見つけ実行に移していくかを説き、第9章では、新しい視点や見方を得るために「周縁から学ぶ」という考え方を提起しています。

 第Ⅳ部「経営の未来を築く」では、第10章で、経営管理プロセスの改革に取り組み経営管理イノベータ―になるためにはどうすればよいか、IBMの「新規事業機会(EBO)」育成事例を基に10の教訓を導き出し、更に最終第11章で、ウェブの進化に対応し、未来の適者となるためのマネジメント2.0という概念を提起しています。

 本書は、「一人ひとりの主体性と創造性を解放させ、個人と組織の持つ自己組織化能力を開花させていく」、そして「過去から未来を描くのではなく、未来から学び現在を築きあげていく」というのがこれからのマネジメントのあり方(イノベーションの方向性)であるということを、企業事例を掲げることで具体的なイメージとともに分かり易く伝えていて、人事パーソンにとっても示唆に富む啓発書であるように思います。

《読書MEMO》
●我々が過去半世紀の間に目にしてきた技術やライフスタイル、地政学の途方もない変化に比べると、経営管理の手法は亀のようにのろのろとしか発展してこなかったように感じられる。残っている中間管理職は、管理者が昔からやってきたことをそのままやっている。つまり、予算を作成し、作業を割り当て、業績を評価し、部下をおだててもっと成果を上げさせようとしているわけだ。(p3)
●経営管理を構成する要素
•目標を設定し、そこに到達するための計画を立てる。
•動機づけをし、努力の方向を一致させる。
•活動を調整・管理する。
•人材を開発・任命する。
•知識を蓄積・応用する。
•資源を蓄積・配分する。
•関係を構築・育成する。
•利害関係者の要求を、うまくバランスをとりながら満たす。(p22)
●第二に、多くの経営幹部が大胆な経営管理イノベーションが実際に可能であるとは思っていない。奇妙なことに、管理職は科学が長足の進歩を遂げることは当然のように思っているのに、経営管理の手法が進歩しないことは少しも気にしていないようだ。(p42)
●つまり、前例を破る経営管理イノベーションの可能性を最大にするために、重要で興味をそそり、本質的で賞賛に値する問題に取り組むべきなのだ。
1.あなたの会社がこの先直面することになる新しい課題は何か。
2.あたたの会社がうまくやれそうにない難しい両立課題は何か。
3.あなたの会社の理論と現実のギャップのうち、最大のものは何か。
4.あなたは何に憤りを感じているか。(p47)
●ほとんどの企業で、管理職の権限は、その人物が管理している資源と直接的な相関関連があり、資源を失うことは地位や影響力を失うことを意味する。そのうえ、個人の成功は通常その人物の事業部門やプロジェクトの業績だけで決まる。そのため、プログラム・マネージャーは「自分の」資本や人材を新しいプロジェクトに配分しようとする動きには―その新プロジェクトがどれほど魅力的あるかに関係なく―抵抗する。第二に、資源配分のプロセスは一般に新しいアイデアに不利になっている。既存事業の延長線上にあるプロジェクトはリターンを予想しやすいが、まったく新しいアイデアのリターンはいつだって計算を立てにくい。ところが大企業は、新しいアイデアの一つひとつを、それぞれ独立した投資とみなす傾向があり、そのため既存の活動をほんの少し拡大しただけのプロジェクトしか満たせないような高レベルの確実さを要求する。その一方で、既存事業を運営している幹部は、徐々に衰退しているビジネスモデルに大金を注ぎ込とき、あるいはすでに収益が減少しつつある活動に過度に資金を投入するとき、その戦略的リスクを弁明するよう求められることはめったにないのである。(p57)
●イノベーションを阻む真のブレーキは、古いメンタルモデルの足かせなのだ。長年その会社に勤めている幹部は、概して既存の戦略に強い思い入れを持っている。その会社の創業者ともなると、なおさらだ。多くの起業家があまのじゃくとしてスタートするのだが、成功はともすると彼らを、唯一の真の信仰を守ろうとする枢機卿に変えてしまう。(p66)
●肩書に頼って物事を進めることに慣れているリーダーは、ゴアのモデルを羨望だけでなく、それに劣らぬ大きな恐怖をもって眺めることだろう。従来どおりの考え方をしている管理職は、権力が地位から切り離されている組織という現実を前にすると、無理からぬことではあるが、あわてふためく。そのような組織では、より上の階層にいるというだけで決定を押し通すことはできないし、自分が命令を下せる「直属の部下」もいない。その人に従いたいと思う人間が誰もいなければ、その人の権力はまたたく間に消えうせる。おまけに、資格や知的優位が立派な肩書という栄誉で認められることもない。(p121)
●彼らの論理は単純明快だ。Aレベルの人間はAレベルの人間と、つまり自分の思考を刺激し、自分の学習を加速してくれる優秀な同僚と働きたがる。だが、Bレベルの人間は、Aクラスの人間に脅威を感じるので、ひとたび入社したら、自分と同程度の凡庸な同僚を採用する傾向がある。さらに悪いことに、自信の面で若干問題のあるBクラスの社員は、自信がなくて誰の意見にも反対できない℃クラスの社員を採用することさえある。凡庸な社員が多くなると、本当に非凡な連中を引き寄せたり引き止めたりすることは難しくなる。そして、いつのまにか社員の質の低下という流れが反転不可能になっている、というわけだ。(p136)
●小規模なチームは、グーグルを和気あいあいとした企業に―膨れ上がった官僚型組織ではなく新規企業のように―感じさせる働きもしている。大規模なチームでは、個人の抜きん出た貢献がえてして上司の手柄にされたり、まぬけな同僚によって帳消しにされたりする。グーグルの小規模なチームは、個人の努力とその人の業績の密接なつながりを維持するのに役立っているのである。(p142)
●実をいうと、「エンプロイー(従業員)」という概念は近代になって生み出されたもので、時代を超越した社会慣行ではない。強い意志を持つ人間を従順な従業員に変えるために、二十世紀初頭にどれほど大規模な努力がなされ、それがどれほど成功したかを見ると、マルクス主義者でなくてもぞっとさせられる。近代工業化社会の職場が求めるものを満たすためには、人間の習慣や価値観を徹底的に作り変える必要があった。生産物ではなく、時間を売ること、仕事のペースを時計に合わせること、厳密に定められた間隔で食事をし、睡眠をとること、同じ単純作業を一日中際限なく繰り返すこと―これらのどれ一つとして人間の自然な本能ではなかった(もちろん、今もそうではない。)したがって、「従業員」という概念が―また、近代経営管理の教義の他のどの概念であれ―永遠の真実という揺るぎないものに根ざしていると思い込むのは危険である。(p163)
●つまり、次の四つの条件が満たされていれば、トップダウンの規律はあまり必要ないのである。
1.現場の社員が結果に責任を負わされている。
2.社員がリアルタイムの業績データを入手できる。
3.業績に影響を及ぼす主要変数について社員が決定権を持っている。
4.結果、報酬、評価の間に密接な関連がある。(p172)
●企業においても同じことが言える。新しいアイデアは古いアイデアを少しばかり拡大したアイデアと同じ間接費を負担することはできないし、同じリスク・ハードルを満たすことこともできない。また同じ短い期間で投下資本を回収することもできない。この点を認識していない経営管理システムや間接費配分ルールは、イノベーションを抑圧することになる。これに劣らず重要な点として、最先端のアイデアに取り組んでいる人たちは、同じものをたくさん生み出すことを担っている人たちと日々触れ合う必要があり、後者もまた前者と日々触れ合う必要がある。都市の場合と同様、新しいものや奇抜なものが、時の試練を経たものや、まともなものと隣り合っていれば、誰もが得をするのである。(p228)

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名著『マネジャーの実像』の著者自身による"エッセンシャル版"。読みやすいが深い。

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エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論』['14年/日経BP社] 『マネジャーの実像 「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』['11年/日経BP社]

 本書は、実際にマネジャーの役割を担っている人や、そのマネジャーの行動に影響を受け、その活動に関心を持つすべての人たちを対象に、「マネジメントとは何か」を記したものであり、著者が2009年に発表した『マネジャーの実像』(2011年/日経BP社)の内容を、忙しい読者のために大幅に圧縮し(『マネジャーの実像』は500ページ近い大著である)、いくらか新しい内容を加えたものです。

 第1章「マネジャーにまつわる定説」では、「マネジメントよりリーダーシップの方が重要だ」などといった一般に流布する定説(思い込み)を1つずつ論破するとともに、マネジメントとは、アート、サイエンス、クラフトの3つの要素が合わさった仕事であり、実践の行為と呼ぶべきものであるとしています。

 第2章「時間に追われるマネジャーたち」では、マネジャーに絶えずのしかかる、慌ただしい日々、頻繁に強いられる中断、解決しなくてはならない混乱といったプレッシャーに焦点を当て、マネジメントを成功させるには、計算と混沌、統制と無秩序の間で微妙なバランスをとることが不可欠だとしています。

 第3章「情報、人間、行動をマネジメントする」では、マネジャーはどういう理由で、どういう活動をしているのか、マネジャーの仕事の基本的な構成要素を見ていて、具体的には、マネジメントは、情報、人間、行動の3つの次元で行われるとしています。

 第4章「いろいろなマネジメント」では、マネジメントの多様性―文化や職階などによる違い、アート、サイエンス、クラフトの3要素への比重の置き方によるマネジメントのスタイルの違いなど―について論じています。

 第5章「マネジャーの綱渡り」では、マネジメントが容易でない理由の核心に切り込み、マネジャーにいくつもの綱渡りを同時に強いるジレンマの数々を検討するとともに、それらのジレンマは解決不能なものであって、マネジメントと切っても切り離せない(マネジメントそのものと言ってもいい)ものであるとしています(著者は、この章が本書の中で最も重要であると思うとしている)。

 第6章(最終章)「有効なマネジメントとは」では、マネジャーの選考は、長所ではなく短所を見て決めるべきであり、その短所を最もよく知っているのはその人物の部下であるとし、また、優れたマネジャーとはたいてい、情緒面で健全な人物であることなどを指摘し、本当に求められているのは、人々を関わらせることができるマネジャーであり、ヒーロー型のリーダーはもういらないとしています。

 帯に「悩めるマネジャー(社長・部長・課長・現場責任者)に捧げる福音の書!」とありますが、ベースとなっている『マネジャーの実像』に比べてかなり読みやすくなっていて、但し、だからといって言っていることがやさしいかというと必ずしもそうともいえず、結構"深い"ことを言っており、別な言い方をすれば、全体を端折ってしまって本質まで違えてしまうようなことはしていないという意味で、原著者自身がまとめた"エッセンシャル版"であるということの意義は大きいと思います。

 ただ、本書自体、マネジャー研修の教材として使えるような内容である一方で、表向きには比較的さらっと読めてしまう分、『マネジャーの実像』のように、時間をかけながら読み進んでいくことで(読むという行為を通して)啓発されていく要素というのは若干弱くなったようにも思います(ミンツバーグの経営思想の体系を解さずとも、普通の啓発書として読めてしまうかも)。マネジャー研修等を企画する側にある人事パーソンとしては(或いは人事パーソンであれば研修担当者でなくとも)、『マネジャーの実像』の方に読み進むことで、自身のミンツバーグの経営思想へのより深い理解に繋がるのではないかと思います。

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忘我の境地こそ「フロー」の感覚。フロー体験についての原典的な本。

Flow:The Psychology of Optimal Experience.jpgフロー体験 喜びの現象学1.jpg  フロー体験 喜びの現象学2.jpg
フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)
"Flow: The Psychology of Optimal Experience"by Mihaly Csikszentmihalyi

ミハイ・チクセントミハイ.jpg 「フロー理論」とは、1960年代に当時シカゴ大学の教授であったハンガリー出身のアメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly.Csikszentmihalyi)が提唱したもので、人が喜びを感じるということを内観的に調べていくと、仕事、遊びにかかわらず何かに没頭している状態であるというものであり、本書("Flow: The Psychology of Optimal Experience"1990)は、その考えを体系的に纏め上げたものです(因みにハンガリー語に沿った名前の表記はチークセントミハーイ・ミハーイ(Csíkszentmihályi Mihály)。ハンガリー語は日本語と同じく姓、名の順になる)。

 チクセントミハイが「フロー」と呼ぶのは、完全に何かに集中し没頭している忘我の境地のことであり、このフローを手に入れる時、人は恋焦がれてやまない幸福という状態を手に入れるとのことです。活動の経験そのものがあまりに楽しいので、人はただ純粋に、何としてもそれを得ようとするとのことです。

 このような機会は、はかなくて予測不可能に思われがちですが、本書第1章「幸福の再来」で著者は、それは偶然に生じるものではなく、ある種の仕事や活動はフローの状態になりやすいとしています。以下、本書では、内面生活の統制による幸福への達成過程を検討しています。

 第2章「意識の分析」では、我々の意識はどのように働き、どのように統制されるのかについて述べています。我々が経験する喜びまたは苦しみ、興味または退屈は心の中の情報として現れ、この情報が統制できれば、我々は自分の生活がどのようなものになるかを決めることができるとしています。

 第3章「楽しさと生活の質」では、内的経験の最適状態とは、意識の秩序が保たれている状態であって、これは心理的エネルギー(注意)が目標に向けられている時や、能力や挑戦目標と適合している時に生じるとしています。1つの目標の追求は意識に秩序を与え、人は当面する目標達成に取り組んでいる時が、生活の中で最も楽しい時であるとしています。

 第4章「フローの条件」では、フロー体験が生じる条件を概観し、「フロー」とは意識がバランスよく秩序づけられた時の心の状態であるとしています。たえずフローを生み出すいくつかの行動―スポーツ、ゲーム、芸術、趣味―を考えれば、何が人々を楽しくするかを理解することは容易だとしています。

 第5章「身体のフロー」及び第6章「思考のフロー」では、心の中に生じることを統制することで、人は例えば競技や音楽からヨーガに至る身体的能力や感覚的能力の使用を通して、または詩、哲学、数学などの象徴的能力の発達を通して、殆ど無限の楽しみの機会を利用できるとしています。

 第7章「フローとしての仕事」第8章「孤独と人間関係の楽しさ」では、殆どの人々は生活の大部分を労働や他者との相互作用、特に家族との相互作用に費やしており、仕事をフローが生じる活動に変換すること、及び両親、配偶者、子供たち、そして友人との関係をより楽しいものにする方法を考えることが決定的に重要であるとしています。

 第9章「カオスへの対応」では、多くの生活が悲劇的な出来事によって引き裂かれ、最高の幸運に恵まれた人々ですら様々なストレスに悩まされるが、不幸な状態から益するものを引き出すか、惨めな状態に留まるかを決定するのは、ストレスにどう対応するかによるとし、人は逆境の中でどのようにして生活に楽しみを見出すかについて述べています。

 第10章「意味の構成」では、どうすればすべての体験を意味のあるパタンに結びつけることができるかというフローの最終段階について述べています。それが達成され、自分自身の生活を支配していると感じ、それを意味あるものと感じる時、それ以上望むものは何も無くなるとしています。

 本書は、課題達成に向けたアプローチを幅広く考察するうえで大いに参考になるとともに、「フロー」体験は、生産性以上に幸福な時間を生み出すものであるという観点からも重要と言えるでしょう。忘我の境地へもっと頻繁に至るには、努力を怠ってはならないということも忘れてはならないように思います。

チクセントミハイの本.JPG 本書のほかに、フロー体験について著者自身が書いたものに、『フロー体験入門―楽しみと創造の心理学』("Finding Flow: The Psychology of Engagement With Everyday Life"1997、'10年/世界思想社)や『フロー体験とグッドビジネス―仕事といきがい』("Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning"2003、'08年/世界思想社)がありますが、ビジネス寄りに書かれていたりするものの、「フロー」というものが何かについて最も深く書かれているのは本書であり(「フロー」状態の例として、ロッククライミング自体に何の外発的報酬もなく観客の喝采も期待出来ないのに、命を賭してまで没入する人のことを書いているが、ミクセントミハイ自身、ロッククライマーであり、それにのめりこんだ経験を持つ)、やや大部ではあるが、先に原典的な本書を読んでおいてから『フロー体験フロー体験 喜びの現象学3.jpg入門』や『フロー体験とグッドビジネス』に読み進む方が、結果として効率が良かったりするのではないでしょうか。

フロー体験.gif
清水康太郎「ベンチャー企業で働く人たちのモチベーション」

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

《読書MEMO》
●著者のフロー関連本(出版順)
・Beyond Boredom and Anxiety: Experiencing Flow in Work and Play 1975
・The Meaning of Things: Domestic Symbols and the Self 1981
・Optimal Experience: Psychological studies of flow in consciousness 1988
・Flow: The Psychology of Optimal Experience 1990
・The Evolving Self 1994
・Creativity: Flow and the Psychology of Discovery and Invention 1996
・Finding Flow: The Psychology of Engagement with Everyday Life 1997
・Flow in Sports: The keys of optimal experiences and performances 1999
・Good Work: When Excellence and Ethics Meet 2002
・Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning 2002
●内、邦訳が入手可能なもの
・Beyond Boredom and Anxiety: Experiencing Flow in Work and Play 『楽しみの社会学』
・The Meaning of Things: Domestic Symbols and the Self 『モノの意味』
・Flow: The Psychology of Optimal Experience 『フロー体験 喜びの現象学』
・Finding Flow: The Psychology of Engagement with Everyday Life 『フロー体験入門』
・Flow in Sports: The keys of optimal experiences and performances 『スポーツを楽しむ フロー理論からのアプローチ』
・Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning 『フロー体験とグッドビジネス』

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ラリー・ボシディ(ローレンス・ボサイディー)/ラム・チャラン)

「実行」は人材・戦略・業務の3プロセスから成る。人事・経営企画に多くの示唆を与える本。

経営は「実行」 2010.jpg 経営は「実行」1.jpg        ローレンス・ボサイディー.jpg    Ram Charan.jpg
              Lawrence("Larry") Bossidy     Ram Charan
経営は「実行」―明日から結果を出すための鉄則』['03年]
経営は「実行」〔改訂新版〕』['10年/改訂新版]

Execution: The Discipline of Getting Things Done(2002)
Execution:The Discipline of Getting Things Done_.jpg 2002年原著刊行の『経営は「実行」』の改訂新版(2009)の訳本であり、著者のラリーボシディ(ローレンス・ボサイディー)はハネウエル・インターナショナル前会長兼CEOで、GE(ゼネラルエレクトリック)で副会長を務めたこともあり、一方のラム・チャランも著名なコンサルタントで、大学でも教鞭をとっている、つまり、アカデミックな立場の人物と、経営の実務者のコラボレーション的な作りになっている本です。

 第Ⅰ部の第1章と第2章では、経営においては、「実行」が大切であり、掲げた目標、実行項目は、常に「実行」されなくてはいけない、その「実行」を進めるために「人材プロセス」「戦略プロセス」「業務プロセス」を、それぞれ連動させる必要があるとし、なぜ今日実行の体系がこれほど重要なのか、どのようにして競争相手と差をつける手段になるかを説明しています。また、多くの企業で見られる失敗として、リーダーは実行を他人に任せ、もっと「大きな」問題に注力すべきだと考えている点にあるとしています。

 第Ⅱ部の第3章から第5章では、「実行」が自然に起こるわけではないことを示しています。基本的な要素を確立する必要があること、そして、特に重要な構成要素は、リーダー自身がとるべき行動、文化変革の社会的ソフトウェア、リーダーにとって最も大切な仕事である人材の選抜と評価であることを示しています。また、適材を適所にあてることは、他人に任せてはならないリーダーの仕事であるとしています。

 第Ⅲ部は実践編で、第6章から9章まで、人材、戦略、業務の3つのコア・プロセスについて論じています。これらのプロセスを効率的にするには何が必要か、各プロセスのプラクティスを、ほかの二つのプロセスと連動させ、どのように統合するかを示しています。第6章で扱う人材プロセスは、三つのプロセスの中でも最も重要であるとし、人材プロセスがうまくいけば、リーダーの遺伝子プールが生まれ、それによって実行可能な戦略を策定し、それを業務計画に落とし込み、各自の責任を明らかにすることができるとしています。

 第7章と第8章では戦略プロセスを取り上げ、有効な戦略を策定すれば、上空1万メートルの概念が現実に根ざしたものになることを示しています。このプロセスでは、実現の可能性を試しながら、戦略の柱をひとつずつ作っていきます。戦略プロセスは人材プロセスと結びついており、戦略やその背後の論理が、市場や経済、競争相手の現実に即したものなら、人材プロセスが生きることになる、つまり、適材が適所に配置されていることになるとしています。

 第9章では、どんな戦略も、具体的な行動に落とし込まなければ、結果を生まないことを示しています。業務プロセスは、戦略を実行するための段階を踏んで業務計画を策定する方法を示すものであり、戦略と業務計画はいずれも人材プロセスと結びついていて、業務計画の実行に必要な能力と組織の能力とが一致しているかどうかが問われることになるとしています。

 「実行」とは何をどうするかを厳密に議論し、質問し、絶えずフォローし、責任を求める体系的なプロセスであるということになります。経営環境を想定し、自社の能力を評価し、戦略を業務や、戦略を遂行する人材と結びつけ、様々な職種の人々が強調できるようにし報酬を結果と結びつける事であって、つまり、経営者は、常に細部まで理解する必要があり、絶えず質問を繰り返し理解を深め、部下に委任するのではなく積極的に関与する事が大切であると説いています。

 人事コンサルタントなどの人事パーソンにとっての読み処は第6章でしょうか。人材プロセスを戦略・業務プロセスとどう連動させるかを説いています。そこでは、4つの構成要素として、人材を戦略とどう結びつけるか、継続的改善・後継者層の充実・離職リスクの軽減を通して、リーダーシップ・パイプラインをどう形成するか、業績不振者にどう対処するか、人事部門を事業と結びつけることの重要性が説かれており、近年盛んな人材管理(タレント・マネジメント)論の嚆矢となったラム・チャランらしい論理展開からは、多くの示唆が得られるものと思われます。経営者、CEOが読んでもいい本ですが、人事・経営企画担当者はむしろ是非とも押さえておきたい本かと思われます。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●実行を支える第一の要素=「リーダーがとるべき7つの行動」
1.自社の人材や事業を知る
2.つねに現実を直視するよう求める
3.明確な目標を設定し、優先順位をはっきりさせる
4.最後までフォローする
5.成果を上げた者に報いる
6.社員の能力を伸ばす
7.己を知る
●実行を支える第二の要素=「企業文化の変革に必要な枠組みを作る」こと
・報酬と業績を連動させることで、社員の行動を変える。
・社員が新たに求められる行動を身につけるのを助ける。
・オープンで率直な議論によって、現実を浮き彫りにする。
●実行を支える第三の要素=「適材を適所にあてる」こと
・リーダー自ら、人材の選抜や評価に積極的に関与する。
・学歴や知性に惑わされず、実行力を重視した人選をする。
・個人の実績を評価する際には、どのような方法で目標を達成したかを詳しく検討する。

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奉仕こそがリーダーシップの本質。従来の「強いリーダー像」からの発想の転換を促す。

『サーバントリーダーシップ』。.jpg『サーバントリーダーシップ』.jpg ロバート・K・グリーンリーフ.jpg Robert K. Greenleaf A Life of Servant Leadership.jpg  The Servant as Leader.png
ロバート・K・グリーンリーフ(1904‐1990) "The Servant as Leader (English Edition)"
サーバントリーダーシップ』(2008/12 英治出版)

 サーバント・リーダーシップの提唱者であり、AT&Tマネジメント研究センター長を務めたロバート・K・グリーンリーフ(Robert K.Greenleaf)による本書("The servant as leader"1970)は、「サーバント」つまり奉仕こそがリーダーシップの本質であり、高い志や社会への奉仕の心を持って、スケールの大きなミッションやビジョンに導かれながらも、その実現に邁進するフォロワーに対して、リーダーの方が尽くすという、それまでのパワーでフォロワーをぐいぐい引っ張っていく一般的なリーダー像とはまったく異なる、「奉仕型リーダーシップ」を提唱したものとして知られ『サーバントリーダーシップ』三省堂 2.jpgています。リーダーがフォロワーに尽くすのが自然であり、「導くこと」と「奉仕すること」は両立するという著者であるグリーンリーフの考え方は、従来の常識の転換を促すものであったと思われます(ピーター・センゲに「リーダーシップを本気で学ぶ人が読むべきただ1冊」と言わしめた本でもある)。

 第1章「リーダーとしてのサーバント」では、サーバント・リーダーとはそもそもサーバントであって、そもそもリーダーである人とはタイプ的には両極端にあるとしています(ヘルマン・ヘッセの短編「東方巡礼」のレーオこそがサーバント・リーダーであるとしているのが分かり易い)。では「リーダーとしてのサーバント」とは何か。それは、①リードするという意識的なイニシアティブから始まり、②大きな夢があり、やりたいことがわかっていることであり、さらに、③傾聴し理解する力、④言語力と想像力、⑤一歩下がることができる能力、⑥受容と共感、⑦意識的な理論を超えた感知力、⑧予見力、⑨気づく力と知覚力、⑩説得力といった資質を携えていることであるとしています。さらに、⑪概念化はリーダーの重要な才能であるとともに、⑫人を癒すヒーリング能力も求められるとしています。
 この部分は、後にグリーンリーフ・センター・アメリカ本部の所長を務めるラリー・スピアーズ(本書の編者でもある)により、以下(《読書MEMO》)のような10余りの特性に再整理されたものを、監訳者である金井壽宏氏が本書巻末に載せています。

SERVANT-LEADERSHIP-2.jpg 第2章「サーバントとしての組織」、第3章「サーバントとしてのトラスティ」では、組織をより奉仕できるものにするための概念としてトラスティとその在り方を提唱し、さらに、第4章で、「企業におけるサーバント・リーダーシップ」の在り方を説いています。この部分は、組織を会社、トラスティを取締役会と想定し、取締役会と執行役員会の機能の違いを念頭においても読めるかと思います。以下、第5章で、「 教育におけるサーバント・リーダーシップ」、第6章で「財団におけるサーバント・リーダーシップ」、第7章で「教会におけるサーバント・リーダーシップ」について述べています。そして第8章「 サーバント・リーダー」では、著者がよく知るところのその模範となるべき人物を挙げて紹介し、第9章で「官僚主義社会におけるサーバントとしての責任」について、第10章で「 アメリカと世界のリーダーシップ」についてそれぞれ述べた講演を収めています。
 最終章にあたる第11章「心の旅」は、リーダーシップについて考えることは自らの姿に出会うことと同じで、深く内側の真実の自分へと辿る心の旅でもあるという、非常に啓蒙的かつ詩的とも言える内容のものとなっています。

servantleadership.jpg 「サーバント・リーダーは、何よりもまずサーバント(フォロワーに尽くす人)なのである。まず、初めにフォロワーに尽くしたいという自然な感情があり、フォロワーに尽くすことが第一なのである。そのうえで、導きたいという願望に駆られるのである」。つまりサーバント・リーダーは、自分のビジョンやゴールに向かって一緒に付いて来てくれるフォロワーに対し、「尽くしたい」という思いを最初に抱く―それゆえに、フォロワーに必要なものを提供しようと常に努め、フォロワーに影響力を行使してゴールに導いていきます。このように利他の心、フォロワーを思いやり、フォロワーに尽くす心で臨むことが、サーバント・リーダーシップの実践哲学です。
 グリーンリーフは、これを「Servant First」(相手に尽くす気持や奉仕の精神が最初に来る)と表現しています。リーダーがそうした実践哲学に立脚してこそ、フォロワーは絶大な信頼を寄せ、喜んでゴールへ同行してくれるということになるのでしょう。

 とりわけ第1章をしっかり読まれることをお勧めします。先に述べたように、それまでのパワーで皆をぐいぐい引っ張っていくリーダー像に対して大きく発想の転換を促したという点で、欧米ではユニークなリーダーシップ観ということで注目されましたが、一方で、和を尊重する日本の社会においては、こうしたサーバント・リーダーと呼べるようなリーダーはこれまでにも少なからずいたようにも思われ、一般に日本はリーダーシップの研究やリーダーの育成が遅れている(或いはリーダーが育ちにくい)と言われる中、或いはまた、欧米型のリーダーシップ観をその通り実践した場合日本の社会の中ではむしろ"浮いて"しまいがちになるとも言われる中、日本人にとって、身近にイメージし易い、また、誰もが目指しやすいリーダー像を示した本としても注目されるべきではないでしょうか。解説で金井壽宏氏が、サーバントの素質がある人がリーダーになるのがいいと書いているは、特に日本の社会において当て嵌まるように思います。

《読書MEMO》
servant-leadership.jpg●サーバント・リーダーシップの特性
 ・利他心(相手に尽くし奉仕することにより信頼を得ること)
 ・気づき(自分自身の感情と行動を理解し、相手や状況を理解すること)
 ・癒し(自分や相手のストレスや困難、リスク要因を見つけ出して解決すること)
 ・傾聴(心を開いて、相手の要求や課題を聴くこと)
 ・共感(相手の立場で、相手の感情・思考・意図を理解すること)
 ・説得(強制ではなく相手を納得させて、自発的な行動を促すこと)
 ・概念化(目指すゴールやビジョンの具体的なイメージを描くこと)
 ・先見性(過去から学び、現実を見据え、未来への道筋を示すこと)
 ・スチュワードシップ(信頼と強い責任感の下で黙々と奉仕すること)
 ・成長へのコミット(相手の成長を支援すること)
 ・コミュニティー作り(チームワークと協調を促進すること)

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「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(エドガー・H・シャイン)

キャリア・アンカーの大切さ、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかを説く。

キャリア・ダイナミクス.jpg エドガー・シャイン.jpg エドガー・シャイン ph0to.jpg エドガー・H・シャイン(マサチューセッツ工科大学スローンスクール名誉教授) 『キャリア・ダイナミクス―キャリアとは、生涯を通しての人間の生き方・表現である。

 エドガー・ヘンリー・シャイン(Edgar Henry Schein、1928 - )による本書(原題:Career Dynamics、1978年)は、現在のキャリア論の礎ともなった、このジャンルおけるバイブル的著書と言ってもいいのではないでしょうか。

 訳者による概説によれば、「人は仕事だけでは生きられず、ライフサイクルにおいて、仕事と家族と自分自身が個人の内部で強く影響し合う。この相互作用は成人期全体を通じて変化する。ここですでに、動態的なダイナミクスがあることになろう。しかし、他方、多くの場合そうであるように、組織に雇われて働けば、個人を受け入れる組織には組織自体の要求があり、これが、個人の持つ要求と調和されなければならない。シャインの言う個人と組織の相互作用である。そして、組織の要求も時の経過とともに変化する。また、個人も組織も複雑な環境のなかに置かれており、両者の相互作用は一部外的諸力によっても決定される。こうして、仕事の決定について、きわめて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになる。これが『キャリア・ダイナミクス』だということができる」とのことであり、この考えが本書のフレームワークとなっています。

 全3部から成る本書の第1部の前にある第1章は、第2章以下第17章までの本編全体の序論に該当し、ここではキャリア開発の視点を提起しています。やや抽象的な記述が続きますが、第1部第2章からは様々な具体例を交えた記述となり、ずっと読み易くなりますので、この部分はざっと読み、全編を読み終えた後に振り返って読んでもよいかと思います。

 第1部「個人とライフサイクル」では、第2章から第6章において、個人が直面する主要なライフサイクル問題について、生物社会的サイクル、キャリア・サイクル、家族の段階と状況の3つの側面からそれぞれの段階と課題を検討するとともに、これらの様々な人生の課題群間の複雑な相互作用についても説明しています。
 人は、個人としての発達の欲求、実行可能なキャリアを開発する欲求、及び、満足な家庭生活を展開する欲求、の3つを均衡させ満たす方法を見つけなければならず、社会の大部分の人々にとって、こうした「欲求の満足」の主要部分は、キャリアを築き維持していく過程で生じ、それゆえ、個人は「組織」と直接的な相互作用を持つに至るとしています。
 組織の要求も時の経過とともに変化し、また、個人も組織も複雑な環境に置かれているため、仕事の決定についての極めて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになりますが、これがまさに「キャリア・ダイナミクス」であるということです。

 第2部「キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用」では、まず第7章から第9章にかけて、そうした相互作用及び個人・組織の両者にとってのその影響を検討したうえで、第10章から第12章にかけて、キャリア初期における重要な概念として「キャリア・アンカー」、即ちキャリアの諸決定を組織し制約する自己概念を提唱しています。
 キャリア・アンカーは、①自覚された才能と能力(様々な仕事環境での実際の成功に基づく)、②自覚された動機と欲求(現実の場面での自己テストと自己診断の諸機会、及び他者からのフィードバックに基づく)、③自覚された態度と価値(自己と、雇用組織及び仕事環境の規範及び価値との、実際の衝突に基づく)から成る自己概念です。 
Career Anchors2.jpgCareer Anchors.jpg 分かり易く言えば、
 1.何が得意か (能力・才能についての自己イメージ)
 2.何がやりたいか (動機・欲求についての自己イメージ)
 3.何をやっているときに意味を感じ、社会に役立っていると実感できるか (意味・価値についての自己イメージ)
 といったことになるでしょうか。
 そうしたアンカーの形成について、MITスローンスクール同窓生の長期にわたるデータが報告されているとともに、第2部終章(第12章)では、キャリア中期の諸問題とその基本的原因を検討しています。

 第3部「人間資源の計画と開発の管理」では、視点を管理者に移し、第14章から第17章にかけて、組織全体の立場と人間資源への組織の要求の立場からすると、全キャリア・サイクルを通じて人間資源を開発し管理する全体的なシステムについて、我々はどのように考えることができ、また、これをどのように生み出せるかを考察し、更に、こうしたシステムにおいて個々の管理者はどのような役割を担うか、また、システムはどう編成されるべきかを探っています。

 キャリア・アンカーの大切さなどキャリア決定のメカニズムを論理的に解き明かしている一方で、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかという点において、近年の人事的課題であるワークライフバランスなどを考えるに際して多くの啓発的示唆を与えてくれる本であり、まさに「現代の古典」と呼ぶに相応しい1冊であるかと思います。

《読書MEMO》
●構成
第1部 個人とライフサイクル(第2章:個人の成長/第3章:生物社会的ライフサイクルの段階と課題/第4章:キャリア・サイクルの段階と課題/第5章:家族の状態、段階、および課題/第6章:建設的対処)
第2部 キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用(第7章:組織キャリアへのエントリー/第8章:社会化および仕事の習得/第9章:相互受容/第10章:キャリア・アンカーの開発/第11章:キャリア・アンカーとしての保障、自律、および創造性/第12章:キャリア・アンカーの総合的検討/第13章:キャリア中期)
第3部 人間資源の計画と開発の管理(第14章:人間資源の計画と開発/第15章:人間資源の計画とキャリアの諸段階/第16章:職務・役割計画/第17章:人間資源の計画と開発の統合的な見方に向かって)
●管理的能力
自分の能力は、以下の3つのより一般的な領域の"結合"にある。
(1)分析能力:不完全情報と不確実性の状況で問題を明らかにし分析し解決する能力
(2)対人関係能力:組織目標のより効果的な達成に向けて組織の全階層の人々に影響を与え、人々を監督し、導き、巧みに扱いかつ統制する能力
(3)情緒の能力:情緒および対人関係の危機によって、疲れ果てたり衰弱したりせず、むしろ刺激される能力、無力にならずに高度の責任を担う能力、および、罪悪感や羞恥心を抱かずに権力を行使する能力
●「助言」の責任を引き受ける
(1)教師、コーチ、あるいは訓練者としての助言者
「あの人はこの辺の物事をどう処理するかについて、多くのことを教えてくれた」
(2)肯定的な役割モデルとしての助言者
「私は、あの人の活動をみて多くのことを学んだ。実際、物事をどうやるかのよい手本を示してくれた」
(3)才能開発者としての助言者
「あの人は実際、やりがいのある仕事を与えてくれ、私は非常に多くのことを学んだ。私は伸び伸びするよう仕向けられ、またそう強いられた。」
(4)門戸解放者としての助言者
 やりがいがあって、成長もできる仕事につく機会が、若者に確実に与えられるように「上位の人たち」と闘う人である。
(5)保護者(母鶏)としての助言者
「私が学んでいる間、あの人は私を世話し護ってくれた。私は、職務を危険にさらすことなく、間違いをしたり学んだりできた。」
(6)後援者としての助言者
 被保護者達を目立たせ、彼らが気付こうと気付くまいと、新しい機会が現れるときには彼らが思い起こされるよう、確実に彼らによい「評判」をとらせ、より高いレベルに人々の目にふれさせる人。
(7)成功したリーダーとしての助言者
自分自身の成功で、その支持者たちも確実に「自分のおかげでうまくいく」ようにする人であり、こうした支持者たちを向上させる人。

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人事パーソンが読んでも、"おさらい"を兼ねつつ、新たに得られる知見もあるのではないか。
マネジメントの心理学2.jpg
 

伊波和恵 教授 臨床心理士.jpg 伊波和恵氏(東京富士大学教授・臨床心理士)東京富士大学サイトより
マネジメントの心理学: 産業・組織心理学を働く人の視点で学ぶ

 本書は、主に学生やビジネスパーソンらを対象としたマネジメントの心理学(産業・組織心理学)に関する初学者向け入門書です。著者らは、会社で働き始めてから心理学をもっと学んでおくべきだったというビジネスパーソンの声をよく耳にする一方で、大学で学んだことはあまり役に立たないという声も聞くことから、ビジネスの現場で活用しうる考えや知識を、学生自身が今後の社会人生活をイメージしながら学ぶことができて、大学での学びが社会での実践に結びつくようにするにはどうすればよいかということを意識したうえで、産業・組織心理学の入門書として本書を企画したとのことです。

 心理学を専攻したことがない読者を主に想定して書かれており、心理学の基本的で重要な内容を一通り学びつつ、その知見の持つ意味や、実生活の中でそれがどのように役立つのかを具体的に分かるように解説したものとなっています。また、「働く人の文脈、働く人の視点」を強調し、「働くこと」に関する心理学の知見をもとに、企業組織におけるマネジメントのあり方までを考えるものともなっています。

 本編は、第1章「働くということ」からはじまり、「採用と就職」「組織と私」「リーダーシップ」「ワーク・モチベーション」「コミュニケーション」「キャリア発達」「人事マネジメント・教育研修」「起業」「経営革新」「心の健康」「働く環境の質」の全12章から成りますが、各章の冒頭に、ある学生が就職して、さまざまな人とのかかわりの中で「働く人」として成長していく姿が、各章の内容と関連したストーリーで描かれています。

 そのため、テキストではありますが読み物を読むような感覚でも読めて、また、章末には参考文献を掲げるとともに、働くことに関する現代社会の状況が反映されたケーススタディを載せることで、学習した理論の実践への応用を助ける(自分で考えてみる)ものとなっています。

 参考文献は「もっと詳しく知りたい人の文献紹介」と「文献」の二段構成で、後者がいわゆる"参考文献"の列挙であるのに対し、前者は、例えば「キャリア発達」の章であれば、シャインの『キャリア・ダイナミクス』(1991年/白桃書房)と金井壽宏氏の『働く人のためのキャリア・デザイン』(2002年/PHP新書)の2冊に絞って内容の概略まで紹介するなどしており、次に何を読むべきかという実践的な読書ガイドとなっているように思いました。

 全体を通して、産業・組織心理学の基本から近年の新たな知見まで網羅されている点でオーソドックスであるとともに、組織から個人を捉えるというアプローチではなく、個人から組織を捉えるというアプローチが強調されている点が、類書と比較してユニークかと思います。

 主に人事部門の初任者にお薦めですが、リーダーシップやモチベーション、コミュニケーションといったものの人事マネジメントにおける重要性がより高まっていると考えられる今日、人事パーソンが「実務に役立つ教養」として身につけておきたい知識がふんだんに織り込まれているという意味で、初任者に限らず各層の人事パーソンが本書を読むことで、"おさらい"を兼ねつつ、新たに得られる知見もあるのではないかと思います。

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一見理想論に見えるが、内容・理論構成はしっかりしており、啓発度の高い良書。

世界でいちばん大切にしたい会社0.JPG世界でいちばん大切にしたい会社.jpg   Wholefood Market 1.jpg  John Mackey Whole Foods Market.jpg
世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー (Harvard Business School Press)』/Wholefood Market/John Mackey, co-founder and co-CEO of Whole Foods Market

Wholefood Market logo.jpgWholefood Market 3.jpg テキサス州・オースティンを本拠とする米国の大手自然食品スーパー「ホールフーズ・マーケット」の経営者が、自らが30年以上にわたって実践し成功を収めている経営スタイル「意識の高い資本主義」(コンシャス・キャピタリズム)を紹介した本です(原題:Conscious Capitalism: Liberating the Heroic Spirit of Business(2013))(米国を中心に現在300以上の拠点を持つこのスーパーは、1978年、当時25歳の大学中退者ジョン・マッキー(John Mackey)と恋人Wholefood Market 2.jpgのRene Lawson(当時21歳)が、家族から借りた資金45,000米ドルで開店した小さな自然食品から始まった。因みにこの会社は、ゲイリー・ハメルの『経営の未来』('08年/日本経済新聞出版社)で、経営イノベーションに成功した企業事例として紹介されている3社の内の筆頭にきており、続く2社は、W・L・ゴア(ゴアテックス)とグーグル)。

John Mackey2.jpg 本書の目的は、「意識の高い企業」(コンシャス・カンパニー)の誕生を促すことにあるといい、コンシャス・カンパニーとは、①主要ステークホルダー全員と同じ立場に立ち、全員の利益のために奉仕するという高い志に駆り立てられ、②自社の目的、関わる人々、そして地球に奉仕するという意識の高いリーダー(コンシャス・リーダー)を頂き、③そこで働くことが大きな喜びや達成感の源になるような活発で思いやりのある文化に根ざしている会社のことであるとのことです。こう書くと漠然とした理想論のように思われるかもしれませんが、内容および理論構成はしっかりしているように思いました。

John Mackey

 序章(第1章・第2章)でコンシャス・キャピタリズムの四つの柱を示した後、第一部から第四部で、その1つずつを丁寧に解説しています。また、その中で、ホールフーズと同様、すべてのステークホルダーに愛されながら富と幸福をつくり出しているコンシャス・カンパニーとしてイケア、コストコ、サウスウエスト航空、スターバックス、タタ、トヨタ、パタゴニアなど多くの企業例を取り上げおり、これからの企業のあるべき姿の提案として、啓発的かつ説得力のあるものとなっています。

 第一部(第3章・第4章)では、コンシャス・キャピタリズムの四つの柱のうちの第一の柱である「企業の存在目的」について、目的を持つことがなぜ重要なのかを説明し、第二部(第5~第12章)では、第二の柱「ステークホルダーの統合」について、顧客、社員、投資家、サプライヤー、コミュニティなどさまざまなステークホルダーを1つずつ取り上げて、コンシャス・カンパニーがそれぞれをどう捉えているかを考察しています。

 第三部(第13・第14章)では、第三の柱「コンシャス・リーダーシップ」について、コンシャス・リーダーの資質と育成方法を解説し、第四部(第15章~18章)では、四つ目の柱である「コンシャス・カルチャーとコンシャス・マネジメント」―意識の高い企業文化と意識の高い経営を論じています。また、コンシャス・カンパニーになる方法や、コンシャス・キャピタリズムの美と力について述べています。

 ミルトン・フリードマンの「顧客、従業員、企業の慈善活動に気を配ることは投資家の利益を増やすための手段だ」との考えに対し、「利益を上げることは企業の最も重要な使命を実現するための手段にすぎない」とのアンチテーゼを掲げるところからスタートし、「あらゆる企業が存在目的を意識して活動し、すべてのステークホルダーの利益を統合し、コンシャス・リーダーを育てて登用し、信頼と説明責任、思いやりの文化を築き上げること」がコンシャス・キャピタリズムについての自分たちの夢であるという結語で終わる本書は、資本主義社会における新たな企業のあり方が問われる今日において、非常に啓発度の高い良書であるように思いました(本書でのフリードマンの評価はボロクソと言っていい)。

 邦訳タイトルは『日本でいちばん大切にしたい会社』と無意味に張り合ってしまったのかな。個人的には、ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー2―飛躍の法則』で"持ち上げられていた"「偉大な」企業のリストにアルトリア(前フィリップ・モリス)が含まれていることに"呆れた"としているのが、本書並びにホールフーズ・マーケット4.jpg店内の一例.jpgこの著者の指向を象徴しているようで興味深かったです(自然食品スーパーの経営者がタバコ製造会社の社的存在意義を認めないというのは、まあ"自然"ではあるが)。思ったより読み易い本でもあり、コンシャス・キャピタリズムとい概念に関心を持たれた人には一読をお勧めします。

ホールフーズ・マーケット/店内の一例(ニューオーリンズ)

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マネジャーの"経験学習"にメス。経験と能力の関係、経験の決定要因をデータから解明。

松尾 睦  『成長する管理職』.jpg松尾 睦  『成長する管理職』2.jpg
成長する管理職: 優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか

 グローバル競争が激化する今日において、現場を支えるミドルマネジャーの成長を支援することは、人事部の今日的且つ大きな課題となっていますが、本書によれば、マネジャーの成長プロセスの研究はあまり進んでいないとのことです。確かに、管理職研修などでも、ひとしきり座学講義があって、最後には、「マネジャーの成長は経験で決まる」という結論で締めくくられることがありますが、その「経験」が具体的に何を指すのかは、曖昧なままにされてきたようにも思います。

 「経験学習」の研究者による本書は、「経験はどのように能力と関係しているのか」「経験はどのような要因によって決定されるのか」という2つの問いかけのもと、日本企業12社の課長・部長の調査データを分析することで、こうしたマネジャーの経験学習のプロセスを明らかにすることを狙いとしています。

 そして、それらの定性的・定量的調査の結果分析を通して、「経験はどのように能力と関係しているのか」という第1の問いに関しては、「部門を超えた連携」「変革への参加」「部下育成」という3つの経験が複合的に「情報分析力」「目標共有力」「事業実行力」を高めていることがわかったとしています。

 また、「経験はどのような要因によって決定されるのか」という第2の問いに関しては、「過去の経験」「目標の性質」「上司の支援」の3つが経験に影響を与えていることがわかったとし、このうち、経験に最も強く影響していたのは、過去の経験であり、例えば、部長時代に部門連携の経験を積んでいる人は、担当者時代や課長時代にも部門連携の経験を積んでいる傾向が見られ、部長時代に変革に参加している人は、それ以前にも変革に参加する傾向が見られたとしています。

 つまり、早い時期に上記3つの経験(「部門を超えた連携」「変革への参加」「部下育成」)を積んでおくほど、その後も同様の経験が積みやすくなる「経験の好循環」に入ることができる、逆にいうと、この循環に入れないマネジャーは成長しにくくなるとしています。

 では、この好循環に入るためにはどうしたらよいのかというと、そのためには、挑戦や好奇心を重視する「学習志向の目標」と、目標達成を重視する「成果志向の目標」を持つことであり、学習志向や成果志向の高い人は、部下育成の経験を積む傾向が見られたとしています。

 また、経験の好循環に入るためのもう1つの要因である「上司の支援」に関しては、特に、通常は会うことが難しい社内外の上位者やキーパーソンを紹介してもらい、対話する機会をもらっている人ほど、連携や変革の経験が見られたとしています。

 本書が示すこうした幾つかの知見に触れて、実際に自分がこれまで見てきた「成長する管理職」像と符合する点が多いと思われる読者も多いのではないでしょうか。、巻末には、これまでに得られた知見をベースに、補論として「マネジャーの育成方法」と「マネジャーの経験学習の診断方法」を付すなど、実務への落とし込みもなされています。

 全体としては研究書というスタイルをとっていますが、マネジャーを育成する役割を担っている人はもちろんのこと、マネジャーとして成長したいと思っている人、今後マネジャーになりたい人も読者層として想定しており、詳しい統計分析方法などはコラムや章末の参考資料としてまとめ、一般のビジネスパーソンは読み飛ばしてもよいとするなど、そうした読者がストレスを感じずに読めるよう配慮されています。

 また、要所ごとに、リーダーシップ理論などを"おさらい"的に紹介しており、その部分に関しては入門書としても読めます。そのため、マネジャーを育成する役割を担っている人には、階層を問わず一読され、「経験学習」という考え方を通して、マネジャーの成長を促すにはどうすればよいかということを改めて考えてみるのもよいのではないかと思います。

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マネジメント、組織行動理論を、一般向け噛み砕いて書き直したような感じ。読みやすい!

マネジメントとは何か スティーブン・P・ロビンズ.jpgマネジメントとは何か.JPGマネジメントとの正体 ロビンス.jpg 【新版】組織行動のマネジメント.jpg   Stephen P. Robbins.jpg
マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」』['02年]『【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ』['09年]Stephen P. Robbins
マネジメントとは何か』['13年]

 著者のスティーブン・P・ロビンズ(Stephen P. Robbins)は、アメリカ国内の多くの大学で採用され今も使われている組織行動論に関する教科書の著者として知られる人で、日本でも2009年に『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』(ダイヤモンド社)としてその要約版が12年ぶりに邦訳されています。新訳版は原著の第8版をベースに翻訳していますが、原著は2013年現在で第12版まで刊行されていて、累計売上げは200万冊を超え、マネジメントと組織行動学の分野における世界一のベストセラー教科書とされています。

 本書は、同著者の"The Truth About Managing People"(『マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」』('02年/ソフトバンククリエイティブ))の第3版の翻訳で(原著は2014年に第4版が刊行された)、帯に「世界でいちばんわかりやすいマネジメントの教科書」とありますが、MBAなどでテキストとして使われている『組織行動のマネジメント』(これはこれで、これ一冊で組織行動論を概観できる優れもの)がやや硬派な"教科書"であるのに対し、こちらは「現にマネジャーである人々」「人を管理する職に就きたいと考えるすべての人たち」を対象として、マネジメントの真髄を分かり易く噛み砕いて書いた "啓発書"であると言えるのではないでしょうか。

 マネジャーが直面する、人間の行動に関する主要な分野ごとに全9部59章で構成されていて、その分野とは、採用、モチベーション、リーダーシップ、コミュニケーション、チーム作り、業績評価、変化への対応などであり、殆ど「人事マネジメント」に関するトピックを扱っていると言ってもいいのではないと思います。
 新たな版のために16のトピックを書き下ろし、それ以外の部分も最新の状況を加味して書き直したとのことで、今回書き加えられたのは、倫理的なリーダーシップ、バーチャルなリーダーシップ、カリスマの負の側面、年齢に関する固定観念、組織政治、職場でのデジタル雑音などの今日的なトピックです。

 59のケースはそれぞれが一章となっていて、好きな順に読めますが、個人的には、今回書き直された部分が多かったリーダーシップに関する箇所がとりわけ興味深く読めました。
 「カリスマ性は身に着けつけられる」としながらも、「カリスマ性は毒にもなる」としてその負の側面も指摘しており、また、「優れたリーダーは政治に秀でている」として、政治は組織で生きていくために欠かせないとし、ポリティックスを肯定的に捉えています。一方、倫理に欠けるリーダーは、自分のカリスマ性を利用して、自己利益のためにフォロワーを支配しようとするとしています。
 また、今日のマネジャーは、コンピュータやスマートフォンなどで書かれた言葉を通して支援やリーダーシップを伝える能力が求められるとしています。

 更に、文化の違いについて、殆どのリーダーシップ理論はアメリカで、アメリカ人によって、アメリカ人を研究対象として展開されてきたため、アメリカの影響を強く受けているとしています。こうした理論ではフォロワーの権利より責任を重視し、義務を果たす決意や利他的な動機づけよりも、快楽の欲求によって動機づけされる立場を取っていて、精神的なものよりも合理性が強調されると。但し、これらの前提条件は世界各国で同じように適用されるものではないとしています。

 その他では、採用の部でも、「第一印象は正しいか」「性格は無視しよう、肝心なのは行動だ!」など啓発されるフレーズがありましたが、「判断に迷ったら『頭のよい人』に賭けよう」として、仕事をさせるうえでの知能の重要性を説き、また「実績につながるのは、冷静さより誠実さ」であると言っているのが興味深かったです。

 モチベーションの部の「プロは集中する楽しさを知っている」の章で、ランニング、スキー、ダンス、小説など何かに没頭して、他のことはどうでもよくなるような状態を「フロー」と呼び、こうしたフローは、テレビを見る、リラックスするなど気楽に過ごす時間には起きず、フローが一番起きやすいのは仕事中であるとしているのには、そうかもしれないなあと。

 コミュニケーションに関する部では、「男と女のコミュニケーションは違う」という章が面白く読め、男性と女性が互いにうまくコミュニケーションできないのは、男性は自分の地位を強調するために話をしがちだが、女性は繋がりを作るために会話をするからであって、結果として、男性は、女性がだらだらと自分の悩みを話すと非難し、女性は、男性が話を訊かないと文句を言う―といったことになるのだそうです。

『マネジメントとは何か』0.JPG 全体で230ページ弱で、その中にはこうしたエッセイに書かれている箇所も多く、全体を通して読み易いです。個人的には、あまり自己啓発書的なものは読まない方ですが、本書はどちらかというと、著者の専門であるマネジメント、組織行動理論を、一般向けの読み物風に書き直したような感じであり、平易な表現の裏に確固たるバックボーンがあるのが感じられます。
 著者自身、部下の管理についての真理を学ぶのに、人事や組織行動学の詳しい教科書を読み通す必要はないとの思いからこの本を書いたとまえがきに述べています。その意図がよく生かされた本だと思います。すべてのマネジャーはもちろんのこと、人事で仕事する人も読んで啓発される部分が多々あるのではないかと思われます。

 故スティーブ・ジョブズにまつわる話や「ヘリコプター(モンスター)・ペアレント」の話など、「現代の古典」ともなりつつあった本を、著者自身による最新のトピックを交えた新版で読めるのも有難いことです。因みに著者は、個人短距離走で11度の世界タイトルに輝き、米国と世界の年齢別記録を何度も塗り替え、米国マスターズ陸上の殿堂入りを果たしている人でもあるそうです。スゴイね。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ジム・コリンズ)

「第5水準のリーダーシップ」(カリスマ経営者はいらない)。「だれをバスに乗せるか―最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」。

ビジョナリー・カンパニー2.jpgビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則』['01年] ジム・コリンズ(Jim Collins).jpg Jim Collins
Good to Great: Why Some Companies Make the Leap...And Others Don't
Good to Great_ビジョナリー・カンパニー2.jpg ビジョナリーカンパニー・シリーズの第2弾となる本書(原題:"Good to Great"、2001)は、「1994年に出版され、経営書としてベストセラーになった『ビジョナリー・カンパニー』の著者であるジム・コリンズが、6年の歳月をかけて「良い企業(グッド・カンパニー)」と「偉大な企業(グレート・カンパニー)」の違いを調べ上げて、そこから得られた知見を偉大な企業の法則としてまとめたもの」(解説より)です。章立ては以下の通り。

 第1章 時代を超えた成功の法則―良好は偉大の敵
 第2章 野心は会社のために―第5水準のリーダーシップ
 第3章 だれをバスに乗せるか―最初に人を選び、その後に目標を選ぶ
 第4章 最後にはかならず勝つ―厳しい現実を直視する
 第5章 単純明快な戦略―針鼠の概念
 第6章 人ではなく、システムを管理する―規律の文化
 第7章 新技術にふりまわされない―促進剤としての技術
 第8章 劇的な転換はゆっくり進む―弾み車と悪循環
 第9章 ビジョナリーカンパニーへの道

 第1章「時代を超えた成功の法則―良好は偉大の敵」では、本書の概要が述べられており、本書で纏められている調査とは、アメリカの上場企業の中で、15年程度凡庸な成長を続け、転換点を超えて目覚ましい成長を遂げその成長を15年以上維持できた偉大な企業11社を選び出し、その企業と同業種で同じ様に成長したがその後数年で衰えた企業との 比較において、何故その11社が良い企業から偉大な企業へと飛躍し、それを維持できたのかを探り出したものであるとのことです。そして、そうした企業には時代を超えた法則があり、「良好」であることはむしろ「偉大」となるための障害であるとしています。この章では、これから述べる各章の内容が要約されていますので、改めてそれを追ってみたいと思います。

 第2章「野心は会社のために―第5水準のリーダーシップ」では、良い企業を偉大な企業に変えるために必要なリーダーシップとは「第5水準のリーダーシップ」であり、派手なリ―ダーが強烈な個性をもち、マスコミで大きく取り上げられて有名人になっているのと比較すると、飛躍を指導したリーダーは万事に控えめで、物静かで、内気で、恥ずかしがり屋ですらあって、個人としての謙虚さと、職業人としての意思の強さという一見矛盾した組み合わせを特徴としている―これがその「「第5水準のリーダーシップ」であるとしています。

 第3章「だれをバスに乗せるか―最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」では、偉大な企業への飛躍を指導したリーダーは、はじめに新しいビジョンと戦略を設定したのだろうと著者らは予想していたが、事実はそうではなく、最初に適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、適切な人がそれぞれにふさわしい席に坐ってから、どこに向かうべきかを決めていた―よって「人材こそがもっとも重要な資産だ」という格言は間違っていたことになり、人材が最重要の資産なのではなく、適切な人材こそがもっとも重要な資産であるとしています。

 第4章「最後にはかならず勝つ―厳しい現実を直視する(だが、勝利への確信を失わない)」では、偉大な企業への道筋を探し出すのに何が必要かについて、企業戦略を論じた本の大半よりも、捕虜になって生き残った人たちの方が学べる点が多いことに著者らは気づいたとし、それを「ストックデールの逆説」と呼んで、偉大な企業はいずれも、同じ逆説を信奉していて、その逆説とは、どんな困難にぶつかろうとも、最後にはかならず勝てるし、勝つのだという確信が確固としていなければならない。だが同時に、それがどんなものであろうとも、きわめて厳しい現実を直視する確固たる姿勢をもっていなければならないとしています。

 第5章「単純明快な戦略― 針鼠の概念(三つの円のなかの単純さ)」では、 偉大な企業に飛躍するには、「能力の罠」から脱却しなければならないとし、中核事業だからといって、何年か何十年かにわたってそれに従事してきたからといって、それに関する能力が世界でもっとも高いとは限らないし、中核事業で世界一になれないのであれば、中核事業が飛躍の基礎になることは絶対にありえず、「自社が世界一になれる部分はどこか」「経済的原動力になるものは何か」「情熱をもって取り組めるものは何か」の三つの円が重なる部分に関する深い理解に基づいて、中核事業に代わる単純な概念を確立するべきだとしています。

 第6章「人ではなく、システムを管理する ―規律の文化」では、どの企業にも文化があり、一部の企業には規律があるが、規律の文化をもつ企業はきわめて少ないとしています。規律ある人材に恵まれていれば、階層組織は不要になり、規律ある考えが浸透していれば、官僚組織は不要になる。規律ある行動がとられていれば、過剰な管理は不要になり、規律の文化と起業家の精神を組み合わせれば、偉大な業績を生み出す魔法の妙薬になるとしています。

 第7章「新技術にふりまわされない―促進剤としての技術」では、飛躍した企業は、技術の役割についての見方が一般とは違っていて、変化を起こす主要な手段としては使っていない。その一方で逆説的なことに、慎重に選んだ技術の適用に関しては、先駆者になっている。偉大な企業への飛躍にしろ、没落にしろ、技術そのものが主要な原因になることはないのだとしています。

 第8章「劇的な転換はゆっくり進む―弾み車と悪循環」では、革命や、劇的な改革や、痛みを伴う大リストラに取り組む指導者は、ほぼ例外なく偉大な企業への飛躍を達成できない。偉大な企業への飛躍は、結果をみればどれほど劇的なものであっても、一挙に達成されることはない。たったひとつの決定的な行動もなければ、壮大な計画もなければ、起死回生の技術革新もなければ、一回限りの幸運もなければ、奇跡の瞬間もない。逆に、巨大で重い弾み車をひとつの方向に回しつづけるのに似ている。ひたすら回しつづけていると、少しずつ勢いがついていき、やがて考えられないほど回転が速くなるとしています。

 第9章「ビジョナリーカンパニーへの道」では、これまで調査に基づき述べてきたことを総括するとともに、前著『ビジョナリー・カンパニー』で述べたことと本書との関係性などを解説しています。

 第2章から第8章にかけて、各章の章末にその章の要約があり、内容理解の助けになります。「第5水準のリーダーシップ」(カリスマ経営者はいらない)というのも、データと事例に基づいているだけに説得力があり、「だれをバスに乗せるか―最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」というのが個人的にはたいへん新鮮でした。

 本書では、人事制度については報酬制度も含めそれほど力点が置かれていませんが、本書を読むと、企業組織におけるトップのリーダーシップのあり方、企業の文化や価値観、人材選抜などの重要性が実感され、その点において人事は、社員の採用・人材育成から退職までの活動を通して大事な役割を担うということを再認識させられるとともに、経営者に対してフォロアーシップを発揮していかなければならないこともあるこいう思いにもさせられます。人事パーソンにもお薦めの1冊です。
 
【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●飛躍を導いた経営者は、派手さやカリスマ性とは縁遠い地味なしかも謙虚な人物だった。その一方で勝利への核心を持ち続ける不屈の意思を備えており、、カエサルやパットン将軍というよりは、リンカーンやソクラテスに似た思索する経営者であった。
●飛躍を導いた経営者は、最初に優秀な人材を選び、その後に経営目標を定める。目標にあわせた人材を選ぶのではない。
●飛躍を導いた経営者は、自社が世界一になれる部分はどこか、経済的原動力は何か、そして情熱を持って取り組めるものは何かを深く考え、必要とあればそれまでの中核事業を切り捨てる判断さえ下す。
●劇的な改革や痛みを伴う大リストラに取り組む経営者は、ほぼ例外なく継続した飛躍を達成できない。飛躍を導いた経営者は、結果的に劇的な転換にみえる改革を、社内に規律を重視した文化を築きながら、じっくりと時間をかけて実行する。
飛躍した企業と比較対象企業の例 ジレット vs ワーナーランバート フィリップ・モリス vs R.J.レイノルズ キンバリー・クラーク vs スコットペーパー

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現代の社会や企業経営、人事管理の在り方に照らしても、耳を傾けるべき言葉が多く含まれている名著。

完全なる経営.jpg

完全なる経営』 アブラハム・マズロー.jpg アブラハム・マズロー(1908-1970)

 本書は、「欲求5段階説」を提唱したことで知られる米国の心理学者アブラハム・マズロー(Abraham Harold Maslow, 1908 - 1970)が1960年代初めに書いた手記や覚書の数々を纏めたものが、一旦は1965年に本として刊行され(原題;Eupsychian Management (1965)、邦訳『自己実現の経営―経営の心理的側面』('67年/産業能率短期大学出版部))、その後長い間絶版になっていたものを1998年に復刻刊行したもので(原題:Maslow on Managemen「マズローオンマネジメント(マズロー、経営を語る)」、そのことを示すかのように、冒頭にウォーレン・ベニスの「37年後に」という副題の序文があります(随所に、マズローの影響を受けた経営者へのインタビューが挿入されているため、400ページ超と旧版のおよそ倍のヴォリュームの大著となっている)。

 元が手記乃至覚書の形式なので、1つ1つ独立した考察として読みながら、全体の流れの中で彼が訴えたかったことを汲み取っていくという読み方になるかと思います(ある意味、どこからでも読める)。

 まず、仕事生活を正しく管理すれば、そこで人間は成長し、世界はより良いものになるとしています(その意味で、仕事生活の正しい管理はユートピア的であり、彼はこのことを「ユーサイキアン・マネジメント」と呼んだ)。人は誰でも高次の価値を体現したいとの生まれながらの欲求を持っているので、くだらない仕事を見事にやり遂げたとしても、それは真の達成とは言えず、自己実現を促す仕事をすることが肝要であり、またそのこと自体が自己を癒す治療的効果を持つとしています。

 誰もが受動的な助力者であるよりも、原動力でありたいと望んでおり、人々が積極的な人生を送るか、それとも無力な人生を送るかは、彼らが組織内で権限を与えられるかどうかにかかっており、経営者が従業員を、マクレガーが言うところの「Y理論」的な人間として扱うことが必要なのは、それが企業経営にとって利益を生むことにつながるからであると。従って、大規模な組織に見られる画一主義的な行動基準は改め、権威主義的な経営管理スタイルから参加型の経営管理スタイルに移行する必要があるとしています(会計士には、労働者を向上させることから生まれる目に見えない人的価値を、貸借対照表に記載できる会計用語に置き換える努力が求められるとし、最高の管理者は、自分が管理する労働者の健康を増進するとも)。

 また、チームの場では、メンバーにより大きな影響力とパワーを授ければ、自分の影響力とパワーも大きくなるという"シナジー"効果が生まれ、貧弱な社会や環境の条件下では、各個人の利害が対立的、相互排他的にとらえられ、人々が互いに反目してしまうような状況になるとしています。

 リーダーシップに関しては、権力を求めるような人間こそ権力を手にすべきではなく、こうした人間は権力を悪用し、他人を圧倒し、制圧して自己満足を得るために権力を用いるのであり、進歩的リーダーのやり方というのは、メンバーに対するパワーを放棄して自由を認めるとともに、メンバーの自由と自己実現を心から喜べるような人であるとしています。また、リーダーの創造性に関しては、先の見通しが予測不可能な状態に耐え、それを受け入れることのできる能力が、創造性と深い関係にあるとしています(メンバーは往々にして、予想外の事態や不測の出来事を正面から受け止める力が備わっていないという不安感が入り交っている)。また、卓越した社会(組織)と退行的で堕落した社会を分けるものは、起業家精神を発揮する機会に恵まれているかどうか、その社会に起業家が大勢いるかどうかという点であるともしています。

 また、より高次の欲求を満足させる条件が提示されない限り、多くの人は現在の職務からの転職は考えないが、人材は無形かつ真正の財産であり、社会から必要とされている重要な人物が転職せず同じ職場にとどまっているのは無駄であると。さらに、投資家の立場からすれば、人的資産の豊富な企業と人的資産の乏しい企業で、或いは消費者の信用を得ている企業と消費者の信用をすっかり失っている企業で、或いはまた労働者の士気の高い企業と低い企業で、それぞれどちらに投資するか、と問うています。企業経営の在り方について、長期にわたって存続し、その間健全性を維持しながら成長を目指す企業は、顧客との間に掛け値無しの信頼関係を築きたいと願うはずであり、むしり取るだけむしり取ったら後は目もくれないというような関係を結びたいとは考えないはずだとしています。そして、進歩的な経営管理という哲学は、社会全体を確実に向上させるものであり、それ故に、革命的な哲学と呼ぶべきものであるとしています。

 その他にも示唆に富むフレーズに満ち満ちている本であり、マズローの言うところの「自己実現」の奥の深さが窺い知れるとともに、現代の社会や企業経営、人事管理・人材活用の在り方に照らしても耳を傾けるべき言葉が多く含まれている名著であると思います。

 因みにマズローは、1908年にブルックリンのスラム街でロシア系ユダヤ人の家系に生まれ、貧しい家の7人兄弟の長男で一時は叔父の家に引き取られて育てられたこともあったそうです。父親の事業が軌道に乗るとスラム街を出て白人街に移りますが、そこで今度はユダヤ人としての差別を体験したとも言われています。大学では最初、法律学を勉強しましたが、法律学の人間性悪説的な立場が肌に合わず心理学に転向したと言われています。

《読書MEMO》
03 完全なる経営.jpg(経営者インタビューからの抜粋を含む)
●人間の使命とは、可能な限り「自分自身」にあることである。
・彼にとって必要なこと、実現しうることは、唯一このことだけなのだ。そこには競争というものが存在しない。
●仕事は一種の心理療法とも心理高揚法ともなりうるものだ。心理高揚法によって健全な人間は仕事を通じて成長し、自己実現に向かうことができるのだ。
●この上ない安らぎを得たいのであれば、音楽家は曲を作り、画家は絵を描き、詩人は詩を詠む必要がある。人間は自分がそうでありうる状態を目指さずにはいられないのだ。こうした欲求を自己実現の欲求と呼ぶことができよう。
●重要で価値ある仕事をやり遂げ自己実現に至ることは、人間が幸福に至る道である。
・幸福とは、何かにともなって生じる状態であり、副産物なのだ。直接求めるものではなく、善き行いに対して間接的に与えられる報酬なのである。
●仕事を通じての自己実現は、自己を追求しその充足を果たすことであると同時に、真の自我とも言うべき無我に達することでもある。
●何としてもやり遂げるのだという気概で仕事に望んでいると、ある時点から仕事は情熱を傾ける対象となり、仕事と自分との距離はなくなってしまいます。
・健全で安定した自尊心をもてるかどうかは、りっぱな価値ある仕事を自己の内部に取り込み、自己の一部にできるかどうかにかかっている。
●あらゆる人間は、美、真実、正義といった最高の諸価値を求める本能的欲求を持つのである。真の重要な問題とは、「何が創造性を育むのか」ではなく、「だれもが創造的とは限らないのはなぜか」ということなのだ。
●リーダーが第一に考慮すべき点
①人間は信頼に値すると信じているか
②人間は責任や義務を担おうとするものであると信じているか
③人間は仕事に意義を求めると信じているか
④人間は生まれながらに学習欲求をもっていると信じているか
⑤人間は変わることには抵抗しないが、変えられることには抵抗すると信じているか
⑥人間は怠惰よりも働くことを好むと信じているか
●仕事や課題に取り組むこと自体が自己を癒す利用的効果を持つものになりうる。心の中の問題が周囲の世界に投影されて外に姿を現した結果、内省だけで直接処理するよりもはるかに容易に、しかも不安や抑制をそれほど感じることなく、問題に取り組めるようになるのである。
●ブラックフット族において最も尊敬を集める人物、それは最も多くを与えた人物なのだ。
●シナジーは、個人にとっての利益が同時にすべての人間にとっても利益となるような文化である。シナジーの度合いの高い文化は安定しており、善意に満ち、人々の士気も高い。
●「問題はこういうことだ。やるべきことはこれだ」とはっきり社員一人ひとりに伝えるべきだろうか。「これをやれば、こういう報酬を与えよう」と言うべきだろうか。「顧客のためになる価値を創造しよう。社員のためになる職場環境を整え、結果を見てみよう」と言うべきなのだろうか。最後のアプローチをとれば、社員にやるべきことを指示した場合よりも10倍効果が上がるでしょう。
●我が社のサービスのおかげで、顧客が一人で努力したときよりも、はるかに大きな価値が生まれる。
●人生における使命は自己と深く一体化しており、真に幸運な作業者、進歩的で理想的作業者から仕事(人生における使命)を奪うのは、彼の生命を奪うに等しい行為なのだ。
●自己実現の段階では、個人に足りない部分、つまり欠乏や不足の充足を訴えることによって、その個人を動機「づけ」することはもはやできない。それは外からの充足でなく内からの発達を目指すものだからである。
●企業の目的は単に利益を上げることではなく、基本的欲求を満たそうと努力する人々、特定の集団に属しながら社会全体に奉仕する人々にとって、真の共同体となることである。ビジネスにおいては収益は大きな意味を持っているが、唯一絶対のものではない。人間的要因や道徳的要因を忘れてはならないのだ。
●自尊心や尊厳に関する精神力動的理解が深まっていけば、産業界にも大きな変化がもたらされるはずだ。なぜなら、尊厳、尊敬、自尊の意識といったものは、実にたやすく与えることができるからである。経済的負担はほとんどない。
●普通の人間にとって、仕事は休息や遊びと同じく自然なものであり、皆働くことを望んでいる。やりがいのある目標だと思えば、たいていの人間は自己統制しつつ自発的に仕事に取り組み、積極的に責任を引き受けようとする。
・人間は自らの仕事に意味を求め、遠大な目標の実現に専心したいと願っており、やりがいのある職務や役割、責任に取り組めば「世間をあっと言わせる」ことができる。
●アップルの成功の方程式の大部分を占めていたのは、その社内環境-社員が潜在能力を発揮し、目標の実現に向けて専心できる環境。仕事に大いなる意味を見出せる環境-だったはずだ。
・ラインの全従業員が、生産工程全体の中で自分の果たす役割を理解していましたし、自分の作業が最終製品にどのような影響を及ぼすかも承知していたのです。
●泥棒が泥棒である事を自覚し、まっとうな人間に生まれ変わりたいと願うならば、意識的に盗みをやめ、意識的に正直な人間になろうと努力するしか道はない。
●利己主義と利他主義を互いに相容れない対立概念としてとらえることには何の意味もない。私がとった行動は全面的に利己的でもなければ、全面的に利他的でもない。利己的であると同時に利他的であるといっても同じことである。より洗練された表現を用いれば、シナジーのある行為なのである。
・相手の幸福が自分を幸福にするとき、相手の自己実現が自分の自己実現に劣らぬ喜びをもたらすとき、さらには「他人のもの」と「自分のもの」との区別がなくなるとき、そこに愛は存在するのだ。
●語彙を豊かにすることで世の中に対する認識を高めることができる。
●いい社会とは、徳が報われる社会である。
・いい社会とは利己主義が利益につながる社会である。社会の成員が、結果的には自分にとっても利益になることを理解しているため、他者の利己主義を認める社会である。
●会社が、一見当然だとも思われる結びつきやサービスなどの織りなすネットワークの中に存在しているという事実である。これを逆方向から述べることもできる。製品やサービスがもっといいものになればなるほど、労働者が、管理者が、企業が、地域社会が、州が、国家が、世界が改善される。
・いくつもの同心円の中に立っている自分を発見することになる。
●幸せは探そうとして見つかるものではない。人への奉仕を通じて見出せるものなのだ。
●観光客にユニークな体験を味わってもらうために、アスペン社の価値観と地域住民の価値観をいかにして活用すべきかが明らかになってきた。その結果掲げられた目標は、両者に対して「命の洗濯」の機会を提供することと、住民に対してこの活動に参加する機会を提供することであった。
●たとえ危機的状況であろうとも、権威主義的リーダーシップの出る幕はないというのが私の意見です。危機に直面したときに独裁者の出番だということを否定するつもりはありません。それが状況を打開する最善の策だったかもしれないし、余計な手間をかけずにすんだかもしれません。でも、今回と同じ結果が得られたとは思えないんです。
●B力とは、やるべきことをやる能力のことであり、取り組むべき仕事に取り組む能力、現実に存在する問題を解決する能力、完遂すべき仕事を完遂する能力のことである。あるいは、真、善、美、正義、完全性、秩序といったあらゆるB価値を育み、守り、高める能力と言うこともできる。B力は、もっといい世界を作る能力であり、世界をより完璧に近づける能力である。
●参加者タイプの人間は、人生の指針となる価値観や信念を持っており、危険を怖れず未知のことがらに挑戦する。ものごとが順調に運び、もてはやされ、成功を味わっているときでも、不調で、批判を浴び、不安定に苦しむときでも、常に自分の信念を貫き通そうと努力する。
●短期間で心理療法と同じ効果を上げるために、ある人物の普段の生活ぶりを正面と背後からそっくりそのまま映像に記録して、本人に見せるというものだ。この映像を見れば、自分自身について実に多くのこと-自分の外見がどうか、自分はどんなペルソナ、つまり仮面をかぶって生活しているか、さらには自分が何者なのか、自分のアイデンティティとは何か、本当の自己とは何かなど-が学べるだろう。
●完全に信頼できる相手、怖れる必要がなく、自分を傷つけたり、自分の弱みにつけ込んだりする心配のない相手に向かって、思いの丈を包み隠さず打ち明けられるという特権は、何にも勝るものなのだ。
●人間はある程度成功を収めると、社会の枠組みに沿った考えからをしなければならないと思い込むようになる。だが、このような態度をとっているうちに個性を失い、個人の内面にある創造性や喜び、ユーモア、学習、革新の源泉をからしてしまう人間が少なからずいる。
・一日に何度この声-自分の外からきて、世の中の仕組みを教え込む声-に行動を阻まれているか、十分反省してみるべきです。
●自分が人生をかけて取り組む劇仕事(マイライフワーク)とは何か。
・いまこの瞬間に没頭するよう強く主張している。
・いまここに全面的に没頭し、完全にその場で見聞きするためには、強靭なパーソナリティをすべて備えていなければならない。過去も未来も忘れ、現在だけを考えることだといってもいい。
・この姿勢は、彼がかなり勇敢な人物で、自分自身に信頼を寄せていること、新たな問題を解決できるという静かな自信を秘めていることを示すものである。
●創造的な人間は柔軟性があり、状況の変化に応じて行動を変えることができる。自分の計画にこだわらず、状況の変化に適応し、その都度その都度の問題に的確に対処することができる。
・絶え間ない変化こそ、人生に興を添えてくれるのである。
●セールスパーソンに求められることは、より長期的で広い視野に立ち、物事の因果関係や全体論的な関連性を把握した上で判断を下す姿勢である。それはなぜか。顧客との関係を百年も二百年も維持することを目指す健全な企業にとって、両者が騙しあう関係など論外だからだ。
●高次の不平を、それより低次の不平と同等に扱ってはならない。高次の不平は、そうした不平が理論的に存在しうるための前提条件がすべて満たされていることを示す証拠として理解されなければならないのだ。
●宇宙レベルの壮大な過大に取りかかるのではなく、身近な具体的課題に専心し努力すべきである。
・社会の全成員が目標を明確に理解し、全力を尽くして各人になしうる最大の貢献を果たすのが理想的な社会変革の姿なのだ。
●自分から事を起こそうとせず、何かが起こるのを待ち受ける姿勢、あるいは、才能を開花させるためには適切な指導や訓練の積み重ねが必要であることを理解せず、怠惰にすごしてしまうような姿勢は、何としても改めなければならない。
●自己実現は、本人以外の人が「これがお前の自己実現だ」と外からは定義できない。
●自己実現は、ないものを埋めること(欠乏動機、D動機)によって人を短期的に動かすのでなく、自分の存在価値を示していくこと(存在動機、B動機)によって長期的に探し続けるものなのだ。確かに虹のようになかなかたどり着かないかもしれない。しかし、それをあきらめると、完全なる人間も、完全なる経営も成り立たなくなってしまう。

・ユーサイキア(Eupsychia):マズローの造語。現実的可能性や向上の余地、心理学的な健康を目指す動き、健康志向。
・個人の成長→企業は自律的な欲求充足に加えて、共同的な欲求充足をもたらすことが可能。
・自己救済→自分に運命付けられた「天職」をやりとげること。例えば、黒澤明監督の映画「生きる」。こうした志向性はおのずと自己超越、自己を追求すると同時に、無我でもある。自己/利他、内的/外的、主観/客観といった二項対立は解消(仕事の大義名分も自己の一部に取り込まれているのだから)。
・研究課題→「人間の尊厳を奪ったり、損なったりしない組織を作るにはどうすればよいのか。組み立てラインのような非人間的な環境は、産業界では避けることができないが、こうした環境を浄化し、労働者の尊厳と自尊心をできる限り保つためには、どうすればよいのか──」(96~97ページ)。
・マグレガーのX理論(人間は一般に怠惰→管理は命令。低次の欲求に対応)とY理論(人間は本当は働きたい→自発的な創造性を生かす。高次の欲求に対応)はマズローの動機付け、自己実現の理論を応用。晩年のマズローはさらに、経済的欲求の次なる段階として価値ある人生や創造的な職業生活を求めるものとしてZ理論を構想。
・産業的権威主義に対して、自律的な人間モデルによる民主主義的なものとしての「進歩的な経営管理」→ただし、客観的要件がそろっていることが必要。生存的に厳しい社会では権威主義的上司の方が適合的かもしれない。状況に応じて最高の、機能する管理方法を選ぶこと。
・リーダーシップ:その状況における客観的要件を誰よりも鋭く見抜き、そうであるが故に全く利他的な人間が問題解決や職務遂行に最適→安全の欲求、所属の欲求、愛の欲求、尊敬の欲求、自尊の欲求のすべてが満たされた、自己実現に近づいた人間がリーダーとして理想的。そうでない人間は、自身の欲求充足のレベルで右往左往してしまう。

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「組織学習」の名著。核となる提案部分(5つのディシプリン)は旧版と同じ。旧版でも問題ない。
学習する組織0.JPG学習する組織 2011.jpg  最強組織の法則 - 原著1990.jpg  Peter M Senge .jpg
学習する組織―システム思考で未来を創造する』(2011/11 英治出版)/『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』(1995/06 徳間書店) Peter M Senge

Peter M Senge 2.jpg 著者のピーター・M・センゲ(Peter M. Senge)はマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院の組織センター長であり、本書のオリジナルに当たる1990年にセンゲが発表した『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か(The Fifth Discipline : The Art & Practice of The Learning Organization)』('95年/徳間書店)は、「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」というコンセプトを提唱したことで知られています。本書『学習する組織―システム思考で未来を創造する』('11年/英治出版)は、原著の2006年改訂版(原題同じ)であり、書き加えられた「学習する組織」の実践上の課題やそれを乗り越える事例と併せて、旧版の翻訳で一部割愛されていた内容を補完したものです。

 全5部構成の第Ⅰ部において、著者は、世界では物事の相互の繋がりは一層深まり、ビジネスは複合的でダイナミックになっていて、そうした中、仕事はもっと「学習的」にならなければならず、それは、会社のために誰か1人が学べばいいというものでもなく、また、トップが解決策を見つけ、社員がその大戦略家に付き従うという方法でももはや成功できず、これからはあらゆるレベルの社員から学習する意欲と能力を引き出すことができる企業こそ成功していくだろうとしています。

 従って、マネジャーは社員に①新しいアイデアに柔軟に対応する、②互いに気兼ねなく率直にコミュニケーションする、③企業がどのように運営されるべきか、深く理解する、④集団的なビジョンを構築する、⑤共通の目的を達成するために力を合わせる、といったことを奨励すべきだとしています。

 そのうえで、学習する組織には5つの基本的なディシプリン(構成要素)があるとしており、それらは以下の通りであるとともに(本書で意味する"ディシプリン"とは、学習し習得すべき理論及び技術の総体を指す)、第Ⅱ部において「システム思考」(第1のディシプリンとして重要視されるこのシステム思考は、これに続く他の4つを統合するものとされる)、第Ⅲ部において残りの4つのディシプリンについて解説しています。

①システム思考:全体のパターンを明らかにし、それを有効に変えていく視点でものを考えること。このシステム思考によって全体を纏め、一貫した実行プランが構築できる。
 センゲの組織研究のアプローチは一貫して、組織を独自の行動様式と学習パターンを持つ一個の生きた存在と捉えるシステムアプローチであると言えます。彼はここで、問題を頻発させたり成長を抑制したりする反復性のパターンをマネジャーが見抜くのに役立つ「システムの原型」の考え方を紹介しています。

②自己マスタリー:現実を客観的に捉える。そのために、個人の視野を拡げ、常に現実への理解を深めていくことの重要性を意識的に認識する必要がある。
 現代のマネジャーは誰でも個人のスキルや強みを開発することの大切さを認識していますが、センゲはこの考えからさらに一歩踏み込んで、学習する組織における個人の心の成長の重要性を強調しています。真に心が成長すれば、現実をよりはっきりと認識するようになるとして、心の成長によって現実をもっとはっきりと見据えることを教え、ビジョンと現実との違いを際立たせることにより、創造的な緊張関係を生み出すことが出来るとしています。そしてこの緊張関係から効果的な学習が生まれると。センゲの言う「学習する組織」とは、「自分が大切だと思うことを達成できるように自分を変える」ことにより「自分の未来を創造する能力を絶えず充実させている人々の集団」であると。

③メンタル・モデルの克服:自分たちの心に知らないうちに固定化されたイメージや概念(メンタル・モデル)を分析し、精査する。
 システムアプローチの次なる要素としてセンゲが強調しているのは、メンタル・モデルであり、センゲは、マネジャーたちに組織の価値観や理念を裏で支えるメンタルモデルを構築することを要求しています。組織レベルで培われてきた既成の思考パターンの影響力の大きさに注意を促し、これらのパターンの性質を検証するオープンな仕組みづくりが必要であるとしています。

④共有ビジョンの構築:組織内で共通のアイデンティとミッションのもとに個人を結束させる。そのためには、お題目だけのビジョンではなく個々が心から納得し、参加できるような共通の「将来像」を掘り起し、コミュニケーションを続ける必要がある。
 真の創造性やイノベーションは集団の創造性に基づくものであり、また、集団のビジョンはメンバーの個人的なビジョンの上に構築されるものであって、メンバーが集団のビジョンを自分と切り離すことなく考え始めたときにビジョンの共有が可能になるとしています。

⑤チーム学習:現代の組織では、個人ではなくチームで成果を出し、そのための学習の基礎を構築する。そのために対話と議論という2つの実践が伴う。チームが学び、成長できなければ集合体としての組織も成長できない。
 ここでは、効果的なチーム学習のためには、「ダイアローグ」(dialogue)と「ディスカッション」(discussion)という2つの異なる対話方法をうまく使い分けることが必要であるとしています。ダイアローグ(意見交換)は問題点をどんどん探し出してゆくことであり可能性を広げるものであり、ディスカッションとは将来の意思決定のために最善の選択肢を絞り込む作業であると。これらの2つのプロセスは相互補完的ではあるが、別々のものとして考えなければならず、実際には両者を意識して使い分けられるチームは残念ながら殆ど見当たらないとしています。

 本書で挙げられている事例を見ればわかる通り、企業をラーニング・オーガニゼーションに変身させるのは簡単なことではなく、それは何故かと言うと、最大の理由は、マネジャーが今まで持っていた権力や権限を手放し、学習している人に渡さなければならないからだとしています。社員が学習するためには試行錯誤が必要であり、とりわけ(旧来型の)責任追及型の企業文化であればそれは大胆な変革が必要となると。また、ラーニング・オーガニゼーションを築くには、信頼と関与が必要であり、これも多くの企業で欠けているとも言っています。

 旧版『最強組織の法則』第Ⅳ部では、「創造への課題」を取り上げ、この中では「仕事と家庭の対立は終わる」といったワーク・ライフ・バランスに対する早くからの炯眼を窺わせる記述もあり、第Ⅴ部では。「組織学習の新しいテクノロジー」を事例を交えて解説していました。新版『学習する組織』第Ⅳ部は、「実践から振り返り」となっており、第Ⅴ部が「結び」となっています。

 基本となる第Ⅰ部から第Ⅲ部までは『最強組織の法則』も『学習する組織』も同じ内容なので、どちらを読んでも構わないかと思います。取り上げている事例の部分で旧版の方が「アメリカ企業はなぜ日本企業に敗れたのか」といった例が多くなっているのが、やや時代を感じさせるぐらいしょうか。「組織学習」の名著としての評価は定着しているのではないかと思います。
 旧版1,900円、新版3,500円(何れも本体価格)。旧版の日本語タイトルは不評でしたが、旧版の方の訳が古びているとか硬いとかいったことはなく、読む上では旧版でも全く問題ないかと思います(むしろ旧版の方が単独翻訳者なので、訳調が統一されているかも)。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●企業が抱える7つの学習障害
①「職務イコール自分」:
 個人が自分の職務だけに気を取られると、全ての職務が関連し合って生まれる結果に対して責任が薄れ、職務間の連携が阻害される。
②「敵は向こうに」:
 自分の仕事にしか目が向かないと、何のために仕事しているのかという本質的な目的や、自分の行動の影響が職務の範囲を超えてどう拡がっていくのかを認識できなくなる。そんな中、自分の仕事の結果が悪い形で出てくると、理由を外に向け、自分以外のせいにしようとする。
③積極策の幻想:
 「向こうの敵」と戦かおうとひたすら攻撃的になるとすれば、人は受身に反応しているということになる。これは積極策の幻想であり、真の積極性は、自分の抱える問題にどのように寄与するかの見通しから生まれる。
④個々の出来事に捉われる:
 我々の組織及び社会の生き残りにとっての中心的脅威は、不意の出来事からではなく、徐々にゆっくり進行するプロセスからくること。
⑤茹でられた蛙の寓話:
 徐々に変化していくプロセスを見極める力を養うには、現在の慌ただしいペースを緩め、全体像を見極めた上で、派手なものだけでなく目立たないものにも注意を払う必要がある。
⑥体験から学ぶという錯覚:
 人は経験から最も多くのことを学ぶが、重要な決定の場合は大抵(その影響が長期にわたるため)、その帰結を直接には経験しない。
⑦経営チームの神話:
 経営チーム=組織の様々な機能と専門分野を代表する有能で経験豊富な管理職の一団のはずが、実際には会社の現状を擁護し、保身のための能力だけに長けた「熟練した無能」集団と化す。
●システム思考の法則
①今日の課題が昨日の「解決策」からくる。
②システムは押せば押すほど強く押し返す(補償的フィードバック)
③状況は一旦好転してから悪化する
④安易な出口は通常元に戻る
⑤治癒策が病気そのものより問題になることがある
⑥急がば回れ
⑦原因と結果は時間的・空間的に近隣しているとは限らない
⑧小さな変化が大きな結果を生むことがある。しかし一番効果のある手段はしばしば一番見えにくい。
⑨ケーキを手に入れ、しかも味わうことができる(同時にではないが)
⑩1頭の象を分割しても2頭の小象にはできない
⑪罪を着せる外部はない...etc.

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「●ピーター・ドラッカー」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ピーター・F・ドラッカー)

成果を上げることは"教科"ではなく自己鍛錬。リーダーにも新人にも有益な書。

The Effective Executive   .jpg経営者の条件.JPG経営者の条件 ドラッカー 旧版.jpg 経営者の条件 ドラッカー.jpg
ペーパーバック(1993)『経営者の条件 (1966年)』  『ドラッカー名著集1 経営者の条件

Video Review for The Effective Executive by Peter Drucker
 ピーター・ドラッカーが1966年に発表(同年に大幅改訂、改訂版原著は1967年刊)した本書『経営者の条件』(原題"The Effective Executive")を読むと、ドラッカーが「知識労働者(ナレッジワーカー)」という言葉を半世紀も前から使っていたことがわかります。本書は、序章と本体全7章と最終章から成ります。

 第1章「成果をあげる能力は修得できる」では、現代の組織社会において中心的な存在となりつつある知識労働者のうち、企業や組織の業績に影響を与える意思決定を下す人を、"地位を問わず"「エグゼクティブ」と位置づけています。ドラッカーはまず、肉体的労働者が基本的に能率性で評価されるならば、知識労働者は何をもって評価されるのが妥当であるか、と読者に問いかけ、知識労働者は、"仕事を正しくやり遂げる"というよりも、"何をすべきかを判断してそれをやり遂げる"ことで成果を生み出す必要があるといいます。そして、成果をあげる能力は"教科"として学ぶことはできないが、実践を通した自己鍛錬によって修得できるとしています。つまり、本書では、(1)エグゼクティブの仕事は成果をあげることである、(2)成果をあげる能力は修得できる-という2つの前提に立ち、以下、成果を上げるエグゼクティブの条件について、時間、貢献、強み、集中、意思決定の5つの観点から述べています。

 第2章「汝の時間を知れ」において、成果を上げるエグゼクティブは、「時間」を慈しみ大切に扱っているだろうとしています。人間が時間に対する意識をどれほどおろそかにしているか、自分がどのように時間を過ごしたかを記憶していないものであるかを、調査結果を挙げて示し、エグゼクティブの知識集約的な仕事は、定型化が難しい上に発生頻度もまちまちで、かつ他のエグゼクティブとの協業を必要とするものが非常に多いため、自分で積極的に時間をコントロールしない限り、偶発的な仕事と周囲のエグゼクティブに振り回されてしまうのであると。そこで彼は、時間の使い方について記録をとることを勧めています。そして、自分の時間の半分以上を他人の都合によって決定されているようならば、それを自分の管理下に戻さなくてはならないと。

 第3章「どのような貢献ができるか」では、成果を上げるエグゼクティブは「貢献」に焦点を合わせることが重要であるとし、「どのような貢献ができるか?」と自問することは、仕事においてまだ用いられていない可能性に目を向けることになり、また、貢献に焦点を合せれば、当然の結果としてコミュニケーションやチームワークが生まれ、自己改善や周囲の人々の成長にも繋がるとしています。

 第4章「人の強みを生かす」では、優れた人事とは人の「強み」を生かすことであり、弱みからは何も生まれない、結果を生むには利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを動員しなければならならず(人の強みを生かすとは、人すなわち自らと他人を敬うということである)、強みこそが機会であり、強みを生かすことは組織に特有の機能であるとしています。「弱みからスタートしてはならない」、つまり、ある仕事に就ける人材を決める際に、一部の欠点に着目して、減点主義で候補者を外していくような人材配置は行ってはならないと主張しているわけです。上司、同僚、部下の強みを活かさなければならないという点も非常に重要であり、エグゼクティブの仕事は個人単位では完結せず、必ず他者との協業を必要とするため、対人関係能力やコミュニケーション能力、チームビルディングの能力、動機づけの能力などといった、複合的なヒューマンスキルが必須となるとしています。

 第5章「最も重要なことに集中せよ」では、成果を上げるエグゼクティブは、まず最優先事項から取りかかり、一度に一つのことだけに「集中」して行うとし、そのためには、これまで期待通りの成果を生み出していない仕事を捨て去らなければならない、過去を捨て去ることが、前進のためには最も肝要である、エグゼクティブの仕事の本質は、資源を本来の可能性に充てる決断を下すことであるから、としています。また、意思決定の大部分は会議を通じて下されるため、「会議を運営する能力」と言い換えられるだろう。だが一口に会議を運営する能力と言っても、以下に示す通り、実に幅広い行動とマインドをエグゼクティブは習得しなければならない

 第6章「意思決定とは何か」では、成果を上げるエグゼクティブは、「意思決定」において問題を一度で解決するとしています。そもそも彼らは、問題を包括的に見て、目下の問題に関連している人たちだけではなく、誰にとってもシンプルなルールで問題を解決しようとするとし、その際には、何もしないという選択肢もあるという点も、決断はそれが実行に移されるまでは完結しないということも知っているとしています。

 第7章「成果をあげる意思決定とは」では、成果をあげるエグゼクティブは、「意思決定」は事実を探すことからスタートしないこと、人々の意見を聞くことからスタートすることを誰もが知っており、最初から事実を探すと、すでに決めている結論を裏づける事実を探すだけになり、好ましいことではないとしています。また、決定には判断と同じくらい勇気が必要であり、一般的に成果をあげる決定は苦いものであるが、エグゼクティブは好きなことをするために報酬を手にしているのではなく、すべきことをなすために、成果をあげる意思決定をするために報酬を手にしているのであるとしています。

 終章「成果をあげる能力を修得せよ」では、(1)エグゼクティブの仕事は成果をあげることである、(2)成果をあげる能力は修得できる、という二つの前提のもとこれまで述べてきたことを総括するとともに、エグゼクティブの成果をあげる能力が、現代社会を経済的に生産的なものとし社会的に発展しうるものとするとして締め括っています。

 時間、貢献、強み、集中、意思決定―これらが、実行可能で適切な観点から説明されており、仕事の姿勢に対する洞察に溢れた本であるとともに、人材の配置、育成、活用に関する示唆にも富んでいます。リーダーにとってもキャリアの起点にある人にとっても、仕事とはただ与えられたことをするのではなく、判断して成すべきことを成すことであるということを喚起させるに有益な本です。

 本書を最初に読んだのは、野田 一夫、川村 欣也訳('66年11月/ダイヤモンド社、原著の決定稿版が'67年2月刊行であり、原著より日本語版の方が先に刊行された)の第9版('67年9月)で、個人的にはこれが今も手元にあります。上田惇生訳の選書版('95年)、ドラッカー名著集('06年)と若干章立てが異なるほか、文脈も翻訳の表現も異なっているところが多いようですが、全体の流れや趣旨は同じではないでしょうか。
 今回初めて読んだ新訳の方は、冒頭に「八つの習慣」(下に列記)とあり、序文の中でそれぞれについて簡単に解説されていましたが、本文とも緩やかに対応している印象を受けました。
 1.なされるべきことを考える
 2.組織のことを考える
 3.アクションプランをつくる
 4.意思決定を行う
 5.コミュニケーションを行う
 6.機会に焦点を合わせる
 7.会議の生産性をあげる
 8.「私は」ではなく「われわれは」を考える

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《●『経営者の条件』要約pp》
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《読書MEMO》
第1章「成果をあげる能力は修得できる」
●今日では、知識を基盤とする組織が、社会の中心的な存在である。現代社会は、組織の社会である。それら大組織のすべてにおいて、中心的な存在は、筋力や熟練技能ではなく、頭脳を用いて仕事をする知識労働者である。筋力や熟練ではなく、知識や理論を使うよう、学校で教育を受けた人たちが、ますます多く組織の中で働くようになっている。
●われわれはすでに、最下層の経営管理者が、企業の社長や政府機関の長とまったく同じ種類の仕事、すなわち、企画、組織化、統合、調整、動機づけ、そして成果の測定を行うことを知っている。意思決定の範囲は、非常に限られた狭いものかもしれない。しかし、たとえ狭くとも、その範囲内においては、まぎれもないエグゼクティブである。(中略)そして、トップであろうと、新人であろうと、エグゼクティブであるかぎり、成果をあげなければならない。
●確かに人生には、成果をあげるエグゼクティブになることよりも高い目標がある。しかし目標があまり高くないからこそ、実現も期待しうるというものである。すなわち、現代社会とその組織が必要とする膨大な数の成果をあげるエグゼクティブを得る、という目標の実現である。(中略)大規模組織のニーズは、非凡な成果をあげることのできる普通の人によって満たされなければならない。これこそ、成果をあげるエグゼクティブが応ずべきニーズである。しかも目標は謙虚であって、だれでも努力さえすれば実現可能である。
第2章「汝の時間を知れ」
●アルフレッド・P・スローンは、人事についての意思決定はその場では決してしなかったそうである。一応の判断はするが、それにさえ、通常、数時間を使っている。しかも、その数日あるいは数週間後には、初めから考え直していた。二度も三度も同じ名前が出てきたときだけ、人事の最終決定を行った。スローンは、人事の秘訣を聞かれたとき、「秘訣などない。最初に思いつく名前は、概して間違いだということを知っているにすぎない。だから私は、何度も検討し直して、決定することにしている」と答えたという。
●自分の時間の半分以上をコントロールしており、自分の判断によって自由に使っているなどという者は、実際に自分がどのように時間を使っているかを知らないだけであると断言してよい。組織のトップにいる人たちには、重要なことや、貢献につながることや、報酬を払われている当の目的に使える自由な時間など、4分の1もない。これは、あらゆる組織についていえる。
第3章「どのような貢献ができるか」
●知識労働者が貢献に焦点を合わせることは必須である。貢献に焦点を合わせることなくして貢献する術はない。
●必要なことは、専門家自身に彼と彼の専門知識をもって成果をあげさせることである。言い換えれば、自らの産出物たる断片的なものを生産的な存在にするために、何を知り、何を理解し、誰に利用してもらうかを考えさせることである。
●対人関係の能力をもつことによってよい人間関係がもてるわけではない。自らの仕事や他との関係において、貢献に焦点を合わせることによってよい人間関係がもてる。そうして人間関係が生産的となる。生産的であることが、よい人間関係の唯一の定義である。
●われわれは貢献に焦点を合わせることによって、コミュニケーション、チームワーク、自己開発、人材育成という、成果をあげるうえで必要な四つの基本的な能力を身につけることができる。(中略)第一に、長い間マネジメント上の中心課題だったものがコミュニケーションである。(中略)第二に、果たすべき貢献を考えることによって、横へのコミュニケーションが可能となり、その結果チームワークが可能となる。(中略)第三に自己開発は、その成果の大部分が貢献に焦点を合わせるかどうかにかかっている。(中略)第四に、貢献に焦点を合わせるならば、部下、同僚、上司を問わず、他の人の自己開発を触発することにもなる。
第4章「人の強みを生かす」●優れた人事は人の強みを生かす。弱みからは何も生まれない。結果を生むには利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを動員しなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことは組織に特有の機能である。
●いかにして、人に合うように仕事を設計するという陥穽に陥ることなく強みに基づいた人事を行うか。(四つの原則)
(1)適切に設計されているか
(2)多くを要求する大きなものか
(3)その人間にできることか
(4)弱みを我慢できるか
●今日あらゆる分野のエグゼクティブが、胸に炎を抱いているべき若者たちの多くがあまりに早く燃えかすになるといって嘆く。しかし責められるべきは彼らエグゼクティブである。彼らが若者たちの仕事をあまりに小さなものにすることによって彼らの胸の炎を消している。
●強みを手にするには弱みを我慢しなければならない。(中略)実績によってある仕事に適任であることが明らかである者は、必ずその仕事に異動させ、昇進させることを絶対のルールとしなければならない。(中略)仕事には最適の者を充てなければならないだけではない。実績をもつ者には、機会を与えなければならない。問題ではなく機会を中心に人事を行うことこそ、成果をあげる組織を創造する道であり、献身と情熱を創造する道である。(中略)かくして知識労働の時代においては、強みをもとに人事を行うことは、知識労働者本人、人事を行った者、ひいては組織そのものにとってだけでなく、社会にとっても欠くべからざることになっている。
第5章「最も重要なことに集中せよ」
●成果をあげるための秘訣を一つだけ挙げるならば、それは集中である。成果をあげる人は最も重要なことから始め、しかも一度に一つのことしかしない。(中略)これこそ困難な仕事をいくつも行う人たちの秘訣である。彼らは一時に一つの仕事をする。その結果ほかの人よりも少ない時間しか必要としない。
成果をあげられない人の方が多くの時間働いている。(中略)成果をあげる人は、多くのことをなさなければならないこと、しかも成果をあげなければならないことを知っている。したがって、自らの時間とエネルギー、そして組織全体の時間とエネルギーを一つのことに集中する。最も重要なことを最初に行うべく集中する。
●集中のための第一の原則は、生産的でなくなった過去のものを捨てることである。そのためには自らの仕事と部下の仕事を定期的に見直し、「まだ行っていなかったとして、いまこれに手をつけるか」を問うことである。答が無条件のイエスでないかぎり、やめるか大幅に縮小すべきである。もはや生産的でなくなった過去のもののために資源を投じてはならない。第一級の資源、特に人の強みという希少な資源を昨日の活動から引き揚げ、明日の機会にあてなければならない。
第6章「意思決定とは何か」●ヴェイルとスローンの意思決定の特徴は次のようなものだった。
(1)問題の多くは原則の決定を通してのみ解決できることを認識していた。
(2)問題への答えが満たすべき必要条件を明確にした。
(3)決定を受け入れられやすくするための妥協を考慮する前に、正しい答えすなわち必要条件を満足させる答えを検討した。
(4)決定に基づく行動を決定そのものの中に組み込んでいた。
(5)決定の適切さを検証するためにフィードバックを行った。
これらが、成果をあげるうえで必要とされる意思決定の五つのステップである。
(1)問題の種類を知る
厳密にいえば、あらゆる問題が、二つではなく四つの種類に分類できる。第一に、基本的な問題の兆候にすぎない問題がある。(中略)第二に、当事者にとっては例外的だが実際には基本的、一般的な問題がある。(中略)第三に、真に例外的で特殊な問題がある。(中略)第四に、そのような何か新しい種類の基本的、一般的な問題の最初の表れとしての問題がある。
(2)必要条件を明確にする
決定が満たすべき必要条件を明確にしなければならない。意思決定においては、決定の目的は何か、達成すべき目標は何か、満足させるべき必要条件は何かを明らかにしなければならない。(中略)必要条件を簡潔かつ明確にするほど成果はあがり、達成しようとするものを達成する可能性が高まる。逆に、いかに優れた決定に見えようとも、必要条件の理解に不備があれば成果をあげられないことは確実である。(中略)もちろん誰もが間違った決定を行う危険はある。
事実、誰もが時に間違った決定を行う。だが最初から必要条件を満たさない決定は行ってはならない。2)必要条件を明確にする。(中略)決定が満たすべき必要条件を明確にしなければならない。意思決定においては、決定の目的は何か、達成すべき目標は何か、満足させるべき必要条件は何かを明らかにしなければならない。(中略)必要条件を簡潔かつ明確にするほど成果はあがり、達成しようとするものを達成する可能性が高まる。逆に、いかに優れた決定に見えようとも、必要条件の理解に不備があれば成果をあげられないことは確実である。(中略)もちろん誰もが間違った決定を行う危険はある。事実、誰もが時に間違った決定を行う。だが最初から必要条件を満たさない決定は行ってはならない。
(3)何が正しいかを知る
決定においては何が正しいかを考えなければならない。やがては妥協が必要になるからこそ、誰が正しいか、何が受け入れられやすいかと言う観点からスタートしてはならない。満たすべき必要条件を満足させるうえで何が正しいかを知らなければ、正しい妥協と間違った妥協を見分けることもできない。その結果間違った妥協をしてしまう。(中略)そもそも「何が受け入れられやすいか」
「何が反対を招くからいうべきでないか」を心配することは無益であって時間の無駄である。心配したことは起こらず、予想しなかった困難や反対が突然ほとんど対処しがたい障害となって現れる。換言するならば、「何が受け入れられやすいか」からスタートしても得るところはない。それどころか通常この問いに答える過程において大切なことを犠牲にし、正しい答えはもちろん成果に結びつく可能性のある答えを得る望みさえ失う。
(4)行動に変える
決定を行動に変えなければならない。決定においてもっとも困難な部分が必要条件を検討する段階であるのに対し、最も時間のかかる部分が、成果をあげるべく決定を行動に移す段階である。決定は最初の段階から行動への取り組みをその中に組み込んでおかなければ成果はあがらない。事実、決定の実行が具体的な手順として誰か特定の人の仕事と責任になるまでは、いかなる決定も行われていないに等しい。それまでは意図があるだけである。(中略)決定を行動に移すには、「誰がこの意思決定を知らなければならないか」「誰が行動をとるか」「いかなる行動が必要か」「その行動はいかなるものであるべきか」
を問う必要がある。特に最初と最後の問いが忘れられることが多い。そのためひどい結果を招くことがある。
(5)フィードバックを行う
最後に、決定の基礎となった仮定を現実に照らして継続的に検証していくために、決定そのものの中にフィードバックを講じておかなければならない。
決定を行うのは人である。人は間違いを犯す。最善を尽くしたとしても必ずしも最高の決定を行えるわけではない、最善の決定といえども間違っている可能性はある。そのうえ大きな成果をあげた決定はやがては陳腐化する。(中略)
自ら出かけ確かめることは、決定の前提となっていたものが有効か、それとも陳腐化しており決定そのものを再検討する必要があるかどうかを知るための、
唯一ではなくとも最善の方法である。われわれは意思決定の前提というものが、
遅かれ早かれ必ず陳腐化すること知らなければならない。現実には長い間変化しないでいられるものではない。
●会議を運営する能力
・会議の適切な目的、アジェンダを設定する。
 ・意思決定によって影響を受ける社内外の利害関係者を特定する。
 ・利害関係者をモレなく会議に出席させる。
 ・議論に必要な情報を前もって準備する。
 ・会議の出席者から、追加的な情報を引き出す。
 ・情報の意味や解釈をめぐって、出席者の見解を擦り合わせる。
 ・下準備した情報と、会議の場で出た情報に基づいて、選択肢を形成する。
 ・選択肢を取捨選択する際の基準を設定する。
 ・上記の基準に従って、それぞれの選択肢のメリット、デメリットを十分に検討する。
 ・リスクを伴う選択肢の場合は、リスクを低減する補完的な施策も検討する。
 ・最終的に選択肢を絞り込み、それを現場でのアクションに落とし込む。
 (誰が、何を、いつまでにするのか?そのタスクの成否は何によって判断するのか?)
 ・(会議全体を通じて、)出席者からモレなく公平に意見を引き出す。
 ・(会議全体を通じて、)各出席者の意見を尊重して最後まで聞く。反対意見を歓迎する。また、エグゼクティブ自身だけでなく、出席者全員にも同じマインドで会議に臨んでもらうよう要請する。
 ・(会議終了後、)会議で意見が採用されなかった出席者、他の出席者から批判を受けた出席者を心理的にフォローする。
 ・(会議終了後、)選択肢の実行によって、不利益や負担を被る利害関係者を事後フォローする。
第7章「成果をあげる意思決定とは
意思決定とは判断である。いくつかの選択肢からの選択である。しかし、決定が正しいものと間違ったものからの選択であることは稀である。せいぜいのところ、かなり正しいものとおそらく間違っているであろうものからの選択である。はるかに多いのが一方が他方よりたぶん正しいだろうとさえいえない二つの行動からの選択である。(中略)成果をあげるエグゼクティブは、意思決定は事実を探すことからスタートしないことを知っている。誰もが意見からスタートする。このことに不都合はまったくない。ひとつの分野に多くの経験をもつ者は当然自らの意見をもつべきである。ひとつの分野に長い間関わりながら自らの意見をもたないのでは、観察力と姿勢を疑われる。(中略)人は意見からスタートせざるをえない。最初から事実を探すことは好ましいことではない。すでに決めている結論を裏づける事実を探すだけになる。見つけたい事実を探せないものはいない。
●最後に、意思決定は本当に必要かを自問する必要がある。何も決定しないという代替案が常に存在する。意思決定は外科手術である。システムに対する干渉でありショックのリスクを伴う。よい外科医が不要な手術を行わないように、不要な決定を行ってはならない。優れた決定を行う人も優れた外科医と同じように多様である。ある人は大胆であり、ある人は保守的である。しかし不要な決定を行わないという点では一致している。何もしないと事態が悪化するのであれば行動しなければならない。同じことは機会についてもいえる。急いで何かをしないと機会が消滅するのであれば思い切って行動しなければならない。(中略)第一に、得るものが犠牲やリスクを大幅に上回るならば行動しなければならない。第二に、行動するかしないかいずれかにしなければならない。
二股をかけたり両者の間をとろうとしたりしてはならない。(中略)とうとうここで、決定には判断と同じくらい勇気が必要であることが明らかになる。
薬は苦いとは限らないが、一般的に良薬は苦い。決定が苦くなければならないという必然性はない。しかし一般的に成果をあげる決定は苦い。(中略)エグゼクティブは好きなことをするために報酬を手にしているのではない。なすべきことをなすために、成果をあげる意思決定をするために報酬を手にしている。
終章 「成果をあげる能力を修得せよ」
●本書は二つの前提に立っていた。
(1)エグゼクティブの仕事は成果をあげることである
(2)成果をあげる能力は修得できる
第一に、エグゼクティブは成果をあげることに対して報酬を受ける。彼らは自らの組織に対して成果をあげる責任をもつ。(中略)第二の前提は、成果をあげる能力は修得できるということだった。(中略)本書は教科書ではない。その理由の一つは、成果をあげることは学ぶことはできるが教わることはできないからである。つまるところ成果をあげることは教科ではなく修練である。(中略)すなわち成果をあげることは個人の自己開発のために、組織の発展のために、そして現代社会の維持発展のために死活的に重要な意味をもつということである。
●(1)成果をあげるための第一のステップは作業的な段階である。すなわち時間が何に使われているかを記録することである。これは機械的な仕事とはいわないまでも非常に機械的な段階である。
(2)第二のステップは、貢献に焦点を合わせることである。これは作業的はなく概念的であり、機械的ではなく分析的であり、効率ではなく成果への関心の段階である。
(3)強みを生かすということは行動することである。人すなわち自らと他人を敬うということである。それは、行動の価値体系である。強みを生かすということは、実行によって修得すべきことであり、実践によって自己開発すべきものである。そしてエグゼクティブたる者は、強みを生かすことによって個人の目的と組織のニーズを結びつけ、個人の能力と組織の業績を結びつけ、個人の自己実現と組織の機会を結びつける。(中略)上司を喜ばせる部下としての行動ではなくエグゼクティブとしての責任ある行動を要求する。そしてエグゼクティブは、自らと自らの視点の焦点を貢献に合わせることによって、手段ではなく目的を中心に考えるようになる。
(4)次の段階としての「最も重要なことに集中せよ」(第5章)は、「汝自身の時間を知れ」(第2章)に対置されるものである。この二つはエグゼクティブの成果を支える二本の柱である。ここでは時間という資源ではなく、エグゼクティブの成果と組織の成果という最終製品を扱う。記録し分析すべきものは、われわれに起こることではなく、われわれがわれわれの環境に対し起こすものである。
(5)第6章、第7章で論じた成果をあげるための意思決定とは、合理的な行動に関わるものである。たどりさえすれば自然に成果をあげられるような広くてはっきりした道は存在しない。しかしたどるべき方向や道筋を教えてくれる標識はある。(中略)しかし、成果をあげるエグゼクティブの自己開発とは真の人格形成でもある。それは機械的な手法から姿勢、価値、人格へ、そして作業から使命へと進むべきものである。ここで発展させるべきものは、情報ではなく、洞察、自立、勇気など人に関わるものである。換言するならば、それがリーダーシップである。聡明さや才能によるリーダーシップではなく、持続的なリーダーシップ、献身、決断、目的意識によるリーダーシップである。
●エグゼクティブの成果をあげる能力が、現代社会を経済的に生産的なものとし社会的に発展しうるものとする。(中略)エグゼクティブの成果をあげる力によってのみ、現代社会は二つのニーズ、すなわち個人からの貢献を得る組織のニーズと、自らの目的の達成のための道具として組織を使うという個人のニーズを調和させることができる。
したがってまさにエグゼクティブは成果をあげる能力を修得しなければならない。

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MBA教科書の要約版。組織行動論の定番的教科書。これ一冊で組織行動論を概観できる貴重なテキスト。

【新版】組織行動のマネジメント.jpg
組織行動のマネジメント 旧.jpg                  Stephen P. Robbins.jpg
組織行動のマネジメント―入門から実践へ』['97年] Stephen P. Robbins

【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ』['09年]

 経営に携わる人、経営を学ぶ人にとっての定番的教科書とされている本書(原題:Essentials of Organizational Behavior)は、MBAの教科にあるOrganizational Behavior(OB=組織行動論)の授業で使われる教科書の要約版であり、訳者もあとがきで書いているように、グローバル・スタンダードなマネジメントの教科書ではあるが、基本的にはアメリカのビジネス価値観に根ざしているものとしています。言い換えれば、「グローバル市場で競争するとき、仮に競争相手がMBAホルダーなら、人と組織のマネジメントはこの教科書で学んでいると想定するほうがよい」としています。

 原著は近年は毎年改版されていて、最新版は第12版(2013年現在)になり、邦訳は、旧版が第5版、新版が第8版を訳していて、改版に翻訳が追いつかない傾向もありますが、組織行動論に関する教科書的な本が日本にはあまりない現況では、(要約版であっても)これ一冊で組織行動論を概観できる貴重なテキストかと思います。

 本書では、組織行動学を、個人的なレベルからグループのレベル、組織システムのレベルへと3つの分析レベルで捉えています。

 第1部で組織行動学とは何かを説いたあと、第2部では組織における個人の問題を扱い、個人の行動の基礎―価値観、態度。認知、学習に目を向け、それから、動機づけの問題と個人の意思決定の問題に移っています。

 第3部ではグループ行動の問題を取り上げ、そのモデルを紹介し、チームの効率を高める方法について考察、更には、コミュニケーションの問題やグループの意思決定について考え、リーダーシップ、権力、政治的な駆け引き、対立、交渉という問題を探っています。

 第4部では、組織の構造、テクノロジー、職務設計がいかに行動に作用するか、組織の公式の業績評価や報酬システムが人々にいかに作用を及ぼすか、組織の独自の文化がいかにそのメンバーの行動を形づくるか、更には、マネジャーが組織の利益のためにどのような組織変革や開発のテクニックを利用して、部下の行動を導くかといった問題を扱っています。

 以上の内、第2部では、主だった動機づけ理論が網羅されているとともに、MBO(目標管理)などへのその応用が述べられ、また、意思決定のスタイルとモデルなども示されており、第3部では、集団行動の基礎、チームとは何か、コミュニケーションの機能とプロセスなどが述べられ、更に、主だったリーダーシップ理論が紹介されるとともに、パワー理論などにも触れ、第4部では、組織構造の定義や類型、組織文化の特性と人材管理の考え方及び方法、組織変革や組織開発のモデルや方法などが示されています。

 本書一冊で、組織行動に関する代表的な理論が、心理学や社会学など様々な学問から得られる知見も織り交ぜながら紹介されており、個人→グループ→組織という各分析レベルと全体プロセスの流れの中でそれらを概観できるようになっている点が、本書の良書たる所以でしょう。

 新訳では、グローバル化、情報化、多様化が当然となっている経営環境で、人と組織をいかにマネジメントするかが重点的に述べられていますが、そのポイントとして「チーム化」と階層の「フラット化」を掲げ(激変する時代の組織でチームを多用するのは、その有機的組織特性が革新を生む源泉となる)、但し、チーム化やフラット化が万能のものではないことも指摘しています。

 組織論を学ぶには、こうした関連項目を系統立ててしっかり押さえてある本に先に目を通してから、リーダーシップ論やモチベーション論などの各論に当たる方が、ばらばらと啓蒙書的なリーダー論に当たるよりは、圧倒的に効率がよいように思います。

 語学に自信がある人は原著の方がお奨め(エッセンシャル版で充分)。ほぼ毎年改訂されているというだけでなく、ふんだんにビジュアライズされていて概念把握がし易くなっています。

 因みに、著者のスティーブン・P・ロビンスは、米国マスターズ陸上殿堂のメンバーであり、個人短距離走で11度の世界タイトルに輝き、米国と世界の年齢別記録を何度も塗り変えているそうな。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)

《読書MEMO》
●目次
1.組織行動論とは何か
2.個人の行動の基礎
3.パーソナリティと感情
4..動機づけの基本的なコンセプト
5.動機づけ:コンセプトから応用へ
6・個人の意思決定
7.集団行動の基礎
8・"チーム"を理解する
9・コミュニケーション
10.リーダーシップと信頼の構築
11.力(パワー)と政治
12.コンフリクトと交渉
13.組織構造の基礎
14.組織文化
15.人材管理の考え方と方法
16.組織変革と組織開発

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モチベーション理論としての「X理論-Y理論」を提唱。今読んでも示唆に富む名著。

The Human Side Of Enterprise Douglas McGregor.jpg企業の人間的側面1.JPG                ダグラス・マクレガー.png
企業の人間的側面―統合と自己統制による経営』['70年] ダグラス・マクレガー
The Human Side of Enterprise, Annotated Edition McGraw-Hill; 1版 (2005)

McGregor, Theory x and Theory y.jpg 1960年にアメリカの心理学者ダグラス・マクレガー(またはマグレガー、Douglas McGregor、1906-1964)が、発表した著書で(原題:The Human Side Of Enterprise)、モチベーション理論としての「X理論-Y理論」を提唱したことで知られています。

 マクレガーの言う「X理論」とは、「普通の人間は生来仕事が嫌いで、できれば仕事はしたくないと思っている」「仕事が嫌いだから、強制・統制・命令されたり、処罰や脅しを受けなければ働かない」「普通の人間は命令される方が楽で、責任はとらずに済む方がよく、野心はもたず、安全を望む」という人間観に根ざすもので、この場合、命令や強制で管理し、目標が達成できなければ懲罰するといった、「アメとムチ」による経営手法となります。

 これに対し「Y理論」とは、「人間は生まれつき仕事をすることをいとわない。仕事は条件次第で満足の源になる」「進んで働きたいと思う人間には統制や命令は役にたたない」「進んで働く人間は責任も積極的にとるし、創意工夫をして問題を解決する」という人間観に根ざすものであり、この場合、労働者の自主性を尊重する経営手法となります。
 
02 企業の人間的側面.jpg 第1部「経営に関する理論的考察」では、まず、伝統的な科学的管理法に基づく「権限による人の統制」に対する批判が続きますが、こうした命令系統による人の動かし方を、彼は「X理論」によるものであるとしています。これまでの経営者や管理職は、従業員に対して「権限に基づく適切な命令」を与えることが自らの重要な職務であると考えてきた経緯があり、その根底には、よく働く従業員には報酬を与え、怠ける従業員には罰則を与えることで、従業員の労働意欲を高め、仕事へのモチベーションを維持することが出来るという「X理論」の見解があると―。従業員を積極的に働かせて生産性と効率性を高めるには、道具的条件付け的な報酬と罰則の強化子(刺激)が必要であると考えられてきたということです。

 しかし、マズローの欲求階層説に基づけば、低次元の欲求(生理的欲求や安全の欲求)が十分に満たされた現在(1960年当時)、高次元の欲求(社会的欲求や自我・自己実現欲求)を考慮した理論が求められているのであり、上司から部下への命令統制や企業の階層関係における権限の行使によって、従業員の労働意欲を高め生産効率性を上昇させようとする「X理論」には自ずと限界があり、「通常業務を効率的に処理する」議論から抜け出す必要があるとし、そうした意味で、「人間的側面」を取り込んで、しかも科学的な経営理論を確立することが時代的要請としてあり、それを形にしたものが、彼が提唱する「Y理論」であったわけです。

 先にも述べたように、「人間は本来、怠け者ではなく働き者であり、旺盛な知的好奇心と自己実現欲求を持つので、やりがいのある職場環境(人間関係)と達成目標さえ与えられれば積極的に働く」というのが「Y理論」の考え方であり、マクレガーは、これからの経営理論(組織論・人事管理・企業運営)では、外部から強制的な命令を下して「統制による管理」を行う「Ⅹ理論」の有効性は大きく低下し、内発的な動機付けを重視して「目標による管理」を行うY理論の有効性が段階的に上昇すると主張したわけです。

 そのことは、本書の第2部「Y理論の考察」、第3部「管理者の育成」における、現行の組織理論・管理理論に対する痛烈な批判として具体的に示されており、また、この第2部、第3部では、目標管理、業績評価、給与・昇進の管理、経営環境、ライン・スタッフ関係、リーダーシップ、管理者の育成と教室での管理技法の習得についてなど、人事マネジメント、人材育成に関する様々なテーマを取り上げていて、今日改めて読んでも、大いに示唆に富むものです。

 例えば、「管理者の部下に対する最も適切な役割は、部下の教師、専門的援助者、同僚、コンサルタント」であって、「Y理論」に基づく管理者であれば、「専門家と顧客との関係と同じような関係を、部下や上役や同僚との間で作り上げることができるであろう」としています。

 リーダーシップに関しては、「すべてのリーダーに共通の能力や人柄の基本型は唯一つであるということは全くありえない。リーダーの人柄は重要であるが、人柄として何が不可欠かは状況によって大いに異なる」とし、「まだ設立早々で苦悶している会社に必要なリーダーシップは、大規模で安定している会社の場合とは全く違う」としています。

 管理者の育成については、製品を「製造」するような方法では、管理を「製造」することはできないとし、望めるのは管理者が成長することだけであると―。そして、「目標管理」による方法ほど、それだけで管理者育成を促進する環境を作り出すのに役立つものはないとしています(「農業的」な管理者育成方法が「工業的」な方法よりも望ましい、という表現を用いているのが面白い)。

 「X理論-Y理論」については、発表当初には、労働者にあまりにも高次元の資質を求めすぎているのではないかとの批判もあり(本書の中でも、労働者が高次元欲求を持っている場合においてより有効であるとされているのだが)、その後、対照的な2つのマネジメントスタイルとして「X理論」的な対処と「Y理論」的な対処の両方を考え、細かいことには目をつむり、基本は「Y理論」でいくが、但し、「X理論」的な仕組みは欠かさない―という「修正Y理論」的な考えが、マズローをはじめ多くの研究者から出されるとともに、マクレガー自身も所謂「Z理論」の構築に取り組みましたが、本書刊行の4年後、58歳で亡くなってしまったため、完成を見ることはありませんでした。

 マクレガーは、1906年にミシガン州デトロイトに生まれ、曾祖父はスコットランド長老派の牧師であり、祖父はオハイオで浮浪者のための施設を作っていて、これが慈善事業を行なうマグレガー協会という団体に発展し、ダクラス・マグレガーの父親も1915年にマグレガー協会の理事になっています。彼の家では毎晩礼拝が行なわれ、父親がオルガンをひき、母親が讃美歌を歌い、彼も伴奏をしたり、幼い頃から恵まれない人々に食事や宿を与える仕事の事務を手伝ったりしていたとのことで、マグレガーの「Y理論」は人間に対する深い信頼がベースになっていますが、それは、彼が宗教的で慈善精神の継承された家系に育ったことと結びつくかと思われます。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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ある意味誤解されているテイラーだが、今読んでも啓発される要素は多い。

科学的管理法  .JPG科学的管理法1.jpg 科学的管理法2.jpg モダン・タイムス [字幕版].jpg
科学的管理法』(上野陽一:訳)['69年] 「モダン・タイムス [VHS]」(カバーイラスト:和田誠
|新訳|科学的管理法』['09年](有賀裕子:訳)

Frederick Winslow Taylor Scientific Management.jpg フレデリック・W・テイラー(Frederick Winslow Taylor, 1856-1915)が1911年に著した有名な本ですが(原題:The Principles of Scientific Management)、1921年の本邦初訳以来、何度か新訳が出されていたものの、1957年の上野陽一(1888-1957)訳(技報社刊)の新訳版が、彼が創始した産業能率大学(当初は短大)の出版部より1969年に刊行され、1983年と1995年に改版された後はずっと絶版となっていて、今回は14年ぶりの新版(40年ぶりの新訳)ということになります(因みに、上野陽一訳はテイラーの他の論文等も収めて579ページあり、それに対し今回の新訳版は175ページ)。

 「科学的管理法」を提唱したテイラーという人は、「人間を機械のごとく扱った」という誤解がつきまといがちな人物でもあります。しかし本書を読むと、彼は、雇用主に「限りない繁栄」をもたらし、併せて、働き手に「最大限の豊さ」を届けるにはどうすればよいかを真剣に考えた人であり、その考えのもとに「科学的管理法」というものを提唱し、実践したことが窺えます。ピーター・ドラッカーはその著書『マネジメント』において、テイラーこそ、仕事を体系的な観察と研究に値するものとしThe Principles of Scientific Management Elite Illustrated Edition.jpgた最初の人だったとし、20世紀初頭の先進国の一般人の生活を大幅に引き上げることになった豊かさの増大は、テイラーの「科学的管理法」のおかげであると高く評価しています。

 あえて仕事のペースを緩めて十分な働きをしないで済ませるのが「怠業」ですが、機械工場の旋盤工からスタートして作業長になったテイラーは、機械工たちの怠業に悩まされ続けていました。そこで彼は、怠業は管理方法や制度の不備が原因であると考え、それを防止するために、①科学的に目標を設定し、②その目標を達成するための作業を要素単位に分析し、③分析結果に基づいて、作業を無駄がなく効率が仕上がるように再編成し、④そこに労働者を配置し、定められた作業を早く正確にやり遂げた場合には、差別的出来高払い性によって割増賃金を支払うことで報いる、というやり方を提唱しました。それが本書のタイトルでもある「科学的管理法」です。

The Principles of Scientific Management Elite Illustrated Edition (English Edition) [Kindle版]

科学的管理法4.JPG ともすると最後の差別的出来高払い制が注目されがちですが(テイラーが最初に提唱したのが差別的出来高払い制であり、この成果によって彼は職長に昇進した)、テイラー自身は出来高制がはらむ危険性にも早くから気づいていました。働き手が、「記録的な成果を上げて、それが出来高制の賃金基準になってはたまらない」という不安から、作業ペースを落とすことが考えられるからです。そのことを防ぐためには、マネジャーと最前線の働き手が密接に連携し、それぞれの役割を分担することが重要であると説いています。この場合のマネジャーの役割とは、作業プランを作成し、実行することです。そのためには、仕事の分析だけでなく、人間観察、人間理解が必要になってくるということが、本書から十分に理解できます。

 本書では、「自主性とインセンティブを柱としたマネジメント」を旧来のマネジメントとしています。テイラー以前のマネジメントは、一人一人の働き手が全力を尽くし、持てる知識や技能を総動員し、創意工夫や善意を十分に発揮するようお膳立てをするのがマネジャーの仕事であるとされていました。つまり、仕事の中身は現場の働き手に任せてマネジャーは介入しないというものです。それに対して「科学的管理法」では、 マネジャーが作業の中身まで深く踏み込み、これまで現場の働き手に任せきりにしてきた仕事の多くをマネジャーが引き取り、自分たちでこなさなくてはいけない―マネジャーは、それまでよりも大きな責任を果たす必要があるということになる―そうすることで、科学的管理法は従来型マネジメントより優れたものになるとしています。

 一方で、労働者の殆どがブルーワーカーであった20世紀初頭と現代では労働現場の状況が異なり、また、企業組織と働き手を媒介する要素が専ら「生計維持のため」という経済原理に拠っていたテイラーの時代と、その後に「科学的管理法」を批判するかたちで登場する「人間関係論」に見られるように、仕事への動機づけに様々な社会的要因や個人の価値観が大きく影響すると考えられる現代では、前提条件が異なります。科学的管理法の弱点と言うよりも、そうした、人間の功利的側面ばかりが強調される「経済人モデル」の人間観の限界と言えるでしょう。

 そうしたことを踏まえつつも、一方で、現在の仕事を体系的に捉え、それを改善しようとう気運が、職場マネジャーの中にどれだけいるだろうかということに思いをめぐらせた時、本書で紹介されているテイラーの様々な業務改善施策(彼は"実験"と呼んでいる)とそれに取り組む彼の姿勢は、今読んでも啓発される要素は多いかと思います。

 雇用者に、製品の品質向上と総コストの削減をもたらし、働き手に労働時間の短縮と賃金上昇及び生活の充実をもたらし、職場には労使間協調と働き手同士の間の協働をもたらす―これが、テイラーが「科学的管理法」を通して意図した職場のあり方ではなかったのかと思いました。

 因みにテイラーはもともと知識階層に属していた人で、ハーバード大学の法学部に入学しましたが眼の病気のため、郷里で機械工になった人。晩年は経営コンサルタントとして活躍し、機械学会の代表も務めましたが、本書執筆の4年後に59歳で亡くなっています。

 テーラーの「科学的管理法」を採り入れて、作業の合理化と生産性の向上を成した例として最も有名な企業は「フォード・モーター」です。
    1900年頃のフォード自動車工場           1910年代のフォード自動車工場
フォード1.jpgフォード2.jpg ヘンリー・フォードは、それまでの、シャーシーを固定して同じグループの工員達がそれにエンジンやタイヤなどの部品を順次取り付けるという自動車製造法を一変させ、シャーシーをベルトコンベアに乗せて作業することを発想し、1913年までに完全ベルトコンベア化し(これが現在の自動車工場の所謂"製造ライン"の始まり)、1920年までにはT型フォード(A型から始まって20番目の試作完成品であるためこう呼ばれた)の生産台数を年間100万台超に引き上げ、大量生産による単価の低減により、それまで金持ちの贅沢嗜好品であった自動車を、一般の人々の身近な生活の道具にしたわけです(当時、アメリカのクルマの2台に1台はT型フォードだったとのこと)。ある意味、「働き手に豊さを届ける」というテイラーの理念が現実のものとなった事例でもあります。

フォード3.jpg まだ日本にはトヨタも日産も会社そのものが存在していなかった頃の話ですが、1910年代には東洋紡績がこの「科学的管理法」を採り入れ、倉敷紡績も研究所を設けるなど、当時の日本の主力産業にも大きな影響を与えました。

フォード自動車工場での作業風景

 一方で、フォードの自動車工場ではどのようなことが起きたかと言うと、例えば、クルマの左前輪のネジを締める作業を担当する工員は朝から晩までそのことだけをすることになり、そうした単調さが労働の過酷さとなって退職者が続出したとのことです(こうした事態はテイラーも予測し得なかった?)。会社は儲かっているので、工賃を引き上げることで新たな労働力の供給を賄ってはいましたが、それでも辞める者が続出したため、(ヘンリー・フォードは必ずしも労働者思いの経営者ではなかったようだが)1914年には8時間労働制に踏み切っています(因みに、日本で一番最初に8時間労働制を入れたのは川崎重工の前進の川崎造船所の兵庫工場で1919年のこと)。
 フォード・モーターは、このT型フォードの成功体験があまりに大き過ぎて、成熟した消費者の様々なニーズや好みへの対応について手を打たなかったため、1920年代が終わるころまでには、後発のGM、クライスラーに生産高で抜かれることになってしまいました。「科学的管理法」の"光と影"が反映された事例のようにも思えます。

ホーソン工場の実験.jpg あの有名なウエスタン・エレクトリック社の「ホーソン工場の実験」も、機械組立て作業のための最適な照明の明るさを検証するために行われたことを考えれば、前提として「科学的管理法」の考え方があったと思われますが、作業効率と照明の明るさの相関が得られず、殆ど真っ暗な状態でも作業効率が落ちないチームがあったりした-そのことに関心を持ったハーバード大学のエルトン・メイヨーらが途中から実験に加わり、作業チームのメンバー間のインフォーマルな人間関係の強さが作業結果に影響を及ぼしていることを突き止め、これが「人間関係論」の始まりで、更に「新人間関係論」(テイラー的人間観を"経済人モデル"と規定してその限界を説き、新たな人間観として"社会人モデル"を提唱する)、マクレガーやハーズバーグの近代モチベーション理論へと発展していくわけです。
ウエスタン・エレクトリック社の「ホーソン工場の実験」
  
モダン・タイムス.jpg チャールズ・チャップリンの「モダン・タイムス」('36年/米、チャップリン初のトーキー作品。監督・製作・原作・脚本・音楽の何れもチャップリン)などにも、「科学的管理法」批判ととれなくもない場面がありますが(個人的にはスラップスティック感覚に溢れる「チャップリンの黄金狂時代」('25年/米)の方が若干好みだが、これも傑作)、この映画はこうしたテイラーイズムやフォーディズム批判の風潮の中で作られた作品でもあるのだなあと改めて思います。
    
モダン・タイムス dvd.pngモダン・タイムス2.bmp「モダン・タイムス」●原題:MODERN TIMES●制作年:1936年●制作国:アメリカ●監督・製作・原作・脚本:チャールズ・チャップリン●脚本:ロバート・J・アヴレッチ/ブライアン・デ・パルマ●撮影:ローランド・トセロー/アイラ・モーガン●音楽:チャールズ・チャップリン/アルフレッド・ニューマン●時間:87分●出演:チャールズ・チャップリン/ポーレット・ゴダード/ヘンリー・バーグマン/チェスター・コンクリン●日本公開:1938/02●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (79-03-06)(評価:★★★★☆)●併映:「チャップリンの黄金狂時代」(チャールズ・チャップリン)
モダン・タイムス [DVD]

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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今でも企業研修などで使われる「管理の5機能(4機能)説」を提唱。

産業ならびに一般の管理1.jpg産業ならびに一般の管理 (1985年)アンリ・ファヨール2.jpgアンリ・ファヨール(1841-1925/享年84)

 1916年にフランスの「経営学者」アンリ・ファヨール(またはファィヨール、Jule Henri Fayol, 1841-1925)が発表した本で、ファヨールという人は元々は鉱山技師で、実際には学者は学者でも地質学者でしたが、鉱山会社の経営者となって、その実務経験から得た自らの考えを体系的に纏めた本書により、企業経営において「管理」という言葉を初めて使った人物とされています。

 ファヨールは、「経営とは、企業がその裁量下にあるすべての資産から最大限の利益を引き出すよう努めながら、企業をその目的へと導くことである」として、経営に不可欠な基本的機能を
 1.技術活動(生産、製造、加工)
 2.商業活動(購買、販売、交換)
 3.財務活動(資本の調達と管理)
 4.保全活動(財産と従業員の保護)
 5.会計活動(財産目録、貸借対照表、原価、統計など)
 6.管理活動(予測、組織化、命令、調整、統制)
の6つに分類しましたが、彼がこの中で特に重視したのは「管理活動」であり、企業の経営活動にこの管理的活動を組み合わせている会社こそが、経営に成功している会社であると主張しました。

 更に、経営に欠かせないこの管理的活動は、①.予測、②.組織、③命令、④調整、⑤統制から5つの要素から構成される総合的な活動であるとしましたが、「管理活動とは、組織体の目標に向かって、組織のメンバーの活動を高め且つかつ統合して行く活動であり、統合した活動とするために、①計画、②組織、③指揮、④統制 という管理過程をへて実行される」という言い方もしており、「管理の4機能説」と呼ばれることもあります。

 組織(仕事)運営における「計画(Plan)、実行(Do)、統制(See)」の所謂「PDCサイクル」の概念は産業革命の頃からあったようですが、「管理」という概念の下に「組織」化をこれに組み入れたところが、ファヨールの考え方の、当時としては斬新なポイントであったのではないかと個人的には思います。

 かつて、メーカー企業の初任管理職研修などでは、この「①計画、②組織、③指揮、④統制」というものが1日がかりで徹底的に講義されたりしました。
 例えば「計画」であれば、「(1)計画とは何か」(① 目標、方向、方針、戦略を設定する。② 必要とする資源(人・物・金・情報)を準備する。③ 必要とされる関係者の了解・支持・承認をとりつける。④ 実施段階で予想される障害の対策を検討・準備する)、「(2)計画の意義は」(① 最小限の資源投資努力で最大限の効果を期待する。② 実施上のポジションや進捗状況を把握する。③ 途中の状況の変化に対策を打つ手掛けとする。④ 業績結果を的確に把握し認識する)、「(3)計画の内容は」(① 目的、②目標(売上目標)、③方針、④方法と手順、⑤日程、⑥規則・基準、⑦予算、⑧戦略)、「(4)計画策定のプロセスは」(①問題、目的の明確化、② 代替案の発見・開発、③ 代替案の結果予測、④比較・評価、⑤意思決定)...といった具合に。

 最近の企業研修ではここまで細かくはやっていないかもしれません。経験が未だ少ない内に抽象概念ばかり言っても頭に入らないというのもあるかも(これら要素の不備が、労災事故や企業不祥事に至る原因であったりもし、これはこれで重要なのだが)。
 最近では、「命令」機能の中から「リーダーシップ」と「コミュニケーション」を分離させ「管理の6機能」とし、更に、その「リーダーシップ」「コミュニケーション」にむしろ重点を置いて研修を行う傾向にあるように思われます。

 但し、ファヨールに敬意を表するならば、彼が提唱した、様々な管理の原則―「命令統一の原則」(部下への命令は一人の上司から与えられ、部下からの報告は一人の上司に行うという原則)、「類似業務一括の原則」(同種の仕事は一つの部署に集中しまとめて行うという原則)、「責任と権限の原則」(組織の目標を達成するために、組織を構成する者がそれぞれに責任を分担し、その責任を果たす手段として資源を自由に使える範囲を定めた権利、すなわち権限が付与されなければならないという原則)、「権限委譲の原則」(一部の上位管理者に権限が集中しすぎることで状況対応が遅れ、組織の硬直化、組織メンバーの士気低下を招くことがないように、日常の反復的で定型的な業務はなるべく権限委譲を行い、上位管理者は例外的な事項の処理だけに専念すればよいという原則)、「統制範囲限界の原則」(管理者が管理できる部下の数や地域・時間による管理には限界があり、その限界を超えた管理は不可能であるという原則)、「階層の原則」(組織が大きくなりすぎると、命令の伝達や報告に時間がかかり、組織内の情報伝達が徹底されないため、組織階層はなるべく少なくすべしという原則)―などは、原則としてみれば本質をついており、古びてはいないように思います。

 本書の難点は入手しにくいこと。また、古本市場などで入手可能であっても値が張ることです。国会図書館や、学生の場合は大学の図書館を利用するのがいいかも。

【1958年[風間書房『産業並に一般の管理』(都筑栄:訳)]/11972年2月[未来社(佐々木恒男:訳)]/1985年6月[ダイヤモンド社(山本安次郎:訳)]】

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ジム・コリンズ/モートン・ハンセン)

不確実性の時代に高成長を遂げた企業及びリーダーの特質を、実証的に検証。

ビジョナリー・カンパニー44.JPG
ビジョナリー・カンパニー4.png
 ビジョナリー・カンパニー1.jpg ビジョナリー・カンパニー2.jpg ビジョナリー・カンパニー3.jpgビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる』['12年]  『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』['95年] 『ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則』['01年]『ビジョナリーカンパニー3 衰退の5段階』['10年]
    
ジム・コリンズ(Jim Collins).jpg ビジョナリー・カンパニーシリーズの第4弾となる本書(原題:"Great by Choice: Uncertainty, Chaos, and Luck--Why Some Thrive Despite Them All"、2011)では、「経営規模が脆弱な状況でスタートし」、「不安定な環境下で目覚ましい成長を遂げ、偉大な企業となった」事例を調査対象として選抜しています。

ジム・コリンズ(Jim Collins)元スタンフォード大学経営大学院教授

モートン・ハンセンMorten_Hansen.jpg そして、それらの企業が業界の株価指数を少なくとも10倍以上も上回る株価パフォーマンスを示していることから、それらを「10X(10倍)型企業」と命名し、一方、同じ環境下で、かつては優位にありながら「偉大になれなかった企業」(衰退した企業)を「比較対象企業」として挙げ、両者を歴史分析することによって、「10X倍型企業」および「10X型リーダー」の特質とは何かを分析してします。

モートン・ハンセン(Morten Hansen)UCBerkeleyおよびINSEAD教授。ボストンコンサルティング出身。

 高成長企業とダメになってしまった企業の比較歴史分析という点では、『ビジョナリー・カンパニー―時代を超える生存の法則』('95年/日経BP社)、『ビジョナリー・カンパニー2-飛躍の法則』('01年/日経BP社)などと同じですが、高成長や卓越さといった視点に加えて、置かれた環境の厳しさを指標に加えて事例を選んでいるのが本書の特徴です(衰退した企業をも調査対象としている点では、『ビジョナリー・カンパニー3-衰退の5段階』('10年/日経BP社)とも同じ)。

 例えば航空業界であれば、サウスウェスト航空(10X倍型企業)とPSA(比較対象企業)を、コンピュータ業界ではマイクロソフト(10X倍型企業)とアップル(比較対象企業)を取り上げ、歴史データをもとにリーダーのとった経営戦略の推移から対比するなどし、そのほかにフトウェア、バイオ、半導体、保険、医療機器の各業界から「10X型企業」と「比較対象企業」をそれぞれ1社ずつ選んで対比させています(アップルは、調査対象期間の関係で「比較対象企業」とされているが、スティーブ・ジョブズの復帰後の彼の行動は、「10X型リーダー」のそれとして解説されている)。

 それらの企業研究から、10X型リーダーの特徴的行動パターンとして、「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」の三つを抽出し、それぞれを「二十マイル行進」「銃撃に続いて大砲発射」「死線を避けるリーダーシップ」というキー・フレーズのもとに解説しています。

 「二十マイル行進(狂信的規律)」においてはリスクマネジメントと持続的改善活動の重要性を説き、「銃撃に続いて大砲発射(実証的創造力)」では、具体性のある創造力の重要性、「死線を避けるリーダーシップ(建設的パラノイア)」では、最大限の準備を怠らないことの大切さを説いています。

 そうした中で、例えば「大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー」であるといった"神話"に対し、現実には、未来を予測できるビジョナリーではなく、「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前に進んだのであって、比較対象企業のリーダーよりリスク志向でも大胆でもなく、またビジョナリーでも創造的でもない。より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである―といったように、従来の"神話"を幾つも覆している点も興味部深いです。

 また、「10X倍型企業」には、「具体的で整然とした一貫レシピ」<SMaC(Specific Methodical and Consistent)>があり、「10X型リーダー」は運だけで成功したのではなく、成功する原則を死守したから「偉大」になれたのであって、言い換えれば「自分の意思によって偉大に」なったのであるとしています。

 『ビジョナリー・カンパニー2』で「バスに乗せる人」と「降ろす人」を厳格に決めることが重要であると説いた「まず人選ありき」といった概念をはじめ、これまでのシリーズにあった「ハリネズミの概念」「基本的価値観」「BHAG(不可能なぐらい高い目標)」「カルト的文化」「ストックデールの逆説」「時を告げるのではなく、時計を作る」「衰退の五原則」「弾み車」と言った概念については、前作で十分説明されているとして、本書では意識的に触れていませんが、本書で述べられていることは、それらを具体的な行動レベルに落とし込んだものとも言えます。

 広い意味で「経営書」と言うより「啓蒙書」ですが、著者が師とするドラッカーの著作に倣って、データによる裏付けがきっちりしていて説得力のあるものとなっているうえに、世界で初めて南極点に到達したアムンゼンと、遅れて南極点に到達した後に隊員が全員死亡したスコットの詳細な比較分析例などを用いて、「10X倍型企業」と「比較対象企業」の違いにあてはめながら解説したりするどしているため、読みやすく、また、分かりやすいものとなっています。

 ベンチャー企業の経営者などに人気のあるシリーズですが、この不確実性の時代においては、どういった企業の経営者が読んでも啓発される要素がある本であると思われ、また、「経営者を支える」経営専門家(役員・経営幹部がそれに該当すると思われるが)にも読んでほしい本である―ということは、とりもなおさず、人事パーソンにも読んでほしい本、ということになります。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●崩れ去った神話(31‐33p)
○【神話】大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー。
【意外な現実】我々の調査対象になった10X型リーダーは、未来を予測できるビジョナリーではない。「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前に進む。比較対象リーダーよりリスク志向ではなく、大胆でもなく、ビジョナリーでもなく、創造的でもない。より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである。
○【神話】:刻々と変化し、不確実で混沌とした世界で10X型リーダーが際立つのはイノベーションのおかげ。
【意外な現実】驚いたことに、イノベーションは成功の鍵ではない。確かに10X型企業も多くのイノベーションを起こす。しかし、我々の調査では「10X型企業が比較対象企業よりもイノベーション志向である」という前提を裏付けるデータは出てこなかった。10X型企業が比較対象企業よりもイノベーションで劣るケースさえあった。我々の予想に反し、イノベーションだけでは切り札にならないのだ。より重要なのは、イノベーションをスケールアップさせる能力、すなわち創造力と規律を融合させる能力である。
○【神話】脅威が押し寄せる世界ではスピードが大事。「速攻、そうでなければ即死」ということ。
【意外な現実】環境が急変する世界では、素早い判断と素早い行動が求められるから、「どんなときでも即時・即決・即行動」という哲学を取り入れる、これは破滅を招く効果的な方法だ。10X型リーダーはいつアクセルを踏み、いつ踏んではならないかを理解している。
○【神話】外部環境が根本的に変化したら自分も根本的に変化すべき。
【意外な現実】外部環境が急変しても、10X型企業は比較対象企業ほど変化しない。劇的変化に見舞われて世界が揺れ動いたからと言って、自分自身が劇的変化を遂げる必要はない。
○【神話】10X型成功を達成した偉大な企業は多くの運に恵まれている
【意外な現実】全体として見ると、10X型企業が比較対象企業よりも強運であるとは限らない。幸運だろうが不運だろうが、10X型企業も比較対象企業も共に同じ程度に多くの運に遭遇している。成功の鍵を握っているのは、運に恵まれているかどうかではなく、遭遇した運とどのように向き合うかである。

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ドラッカー経営哲学における「組織・マネジャー・イノベーション・自己実現」を解説。正統派の良書。

究極のドラッカー (角川oneテーマ21).jpg究極のドラッカー (角川oneテーマ21)國貞 克則.jpg 國貞 克則 氏(略歴下記)

 著者は企業(神戸製鋼所)に在籍しながら、30代半ばでドラッカー経営大学院に学んでMBAを取得し、その後コンサルタントとして独立した人で、本書はドラッカー著作の翻訳で知られる上田惇生氏による内容チェックを経ているとのこと、278ページと新書としては若干厚めですが、ドラッカー入門書としてはコンパクトによく纏まっているように思いました。

 先ず第1章でドラッカー経営学を理解するために知っておくべき5つのポイントについて説明し、第2章から第5章において、「組織」「マネジャー」「イノベーション」「自己実現」の4つの分野についてドラッカー経営学の基本を解説していますが、対象読者として、経営者・中間管理職・一般従業員など、組織に働くすべての人を念頭に置く一方で、ドラッカーが比較的大きな企業の経営トップを意識して書いている取締役会の運営、事業の多角化、多国籍企業などについては触れていないことを断っています。

 各章ごとのテーマに沿って、基本的には、第2章(組織と第3章(マネジャー)はドラッカーの著作『マネジメント―課題、責任、実践』を解説し、第4章(イノベーション)は『イノベーションと企業家精神』、第5章(自己実現)は『明日を支配するもの』の中から、それぞれテーマに関連する箇所を抽出して解説・整理していますが、原著と上田惇生氏の翻訳本の両方を参照しており、必要に応じて原著に遡ったり、上田氏以外の翻訳者による翻訳との比較をしたりするなど、ドラッカーが用いた表現や用語のうち特に重要なものについては、読者がその真意を正しく理解できるように踏み込んだ解説がされています。

 分かり易い言葉で書かれていながらも、ドラッカーの真意を曲げることなく読者に伝えるため、著者が訳を変えたり意訳した部分についても、原著に立ち戻ったりするなどの注意が払われており、自分の解釈や感想を述べている箇所は、「と思います」「と感じます」といった表現で締め括るか、或いは、コラム欄で纏めて述べるなど、"オリジナル"と"著者の解釈"の峻別がしっかりされています。

 結果としてドラッカー書籍からの引用が多くなり過ぎたかもしれないとしながらも、一方で、ドラッカー書籍にはない例示や解説も入れたために、自分の意見や感想が入り過ぎたかもしれないと述べているのは、実に謙虚。巷にドラッカーの言葉の断片を引き合いにして、著者の意見を滔々と述べている"ドラッカー入門書"が溢れていることを思うと、"稀有"と言っていいほどの誠実さと言うか、ドラッカーの経営哲学及びそれを学ぼうとする読者に対する真摯な姿勢を感じました。

 個人的には、ドラッカーが企業の目的を「顧客満足」とは言わず「顧客の創造」と言った意味がしっくり理解でき、その他にもドラッカーが用いた「Perception」(知覚)という言葉の意味など、新たに多くの示唆を得ることができた本であり、携帯にも便利な新書でありながらも、密度の濃いかっちりしたその内容は、タイトルを裏切ることなく、むしろそれに応えており、正統派の良書だと思いました。

 巻末には、ドラッカー著作の何から読み始めてどのように読み進んでいけばよいかということについても丁寧に紹介されていて、ドラッカー著作に至るための手引書としてもお薦めできる1冊です。

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國貞 克則(有限会社 ボナ・ヴィータ コーポレーション代表取締役社長)
1983年 東北大学工学部機械工学科卒業
1996年 米国ピーター・ドラッカー経営大学院にてMBA取得
1983年 (株)神戸製鋼所入社
       プラント輸出、人事、企画、海外事業企画を経て、
2001年 ボナ・ヴィータ コーポレーション設立して独立。
       (事業内容:会計及びリーダーシップに関する研修ほか)

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「コーチング・アワセルブズ」という「第三世代」のマネジメント教育の方法を物語風に解説。

ミンツバーグ教授のマネジャーの学校.jpg 『ミンツバーグ教授の マネジャーの学校』(2011/09 ダイヤモンド社)

 IT企業のマネジャーであった著者(フィル・レニール Phil LeNir)は、自分のいた会社が買収の憂き目に遭い、リストラや経費削減で職場モラールが低下する中、ミドルマネジャーが元気を取り戻し、活き活きと仕事するにはどうすればよいかを模索していた。そんなある日、母親の再婚相手が経営学者であったことを思い出して、義父のもとへ相談に行く―。

 その(著者の義父にあたる)経営学者というのが、偶然にも『MBAが会社を滅ぼす』で有名なヘンリー・ミンツバーグ教授であったわけですが、本書は、著者がミンツバーグの教えに従い実践した「コーチング・アワセルブズ」というマネジャー育成方法について、自分の職場への導入の実際から、その浸透により得られた効果までが、実体験に基づき物語風に綴られていて、たいへん読みやすいものとなっています。

 「コーチング・アワセルブズ」というプログラムの要となるのは、マネジャーたちが互いに自身のマネジメント経験を語り、それを振り返る「内省(リフレクション)」であり、これを習慣化し、そこから今まで気づかなかった学びを得るとことで、各自がマネジャーとしての大局観を養うとともに、マネジャー同士のコミュニティシップを形成し、組織変革の起点にしていくというのがその狙いです。

 重光直之氏の解説にもあるとおり、ミンツバーグはかねてより、マネジメント教育は「自分の経験を内省する」ことを中心にすべきであると主張しており、こうした自身の唱える「日々の自分の経験から学ぶ」マネジメント教育の方法を、教室において座学で理論を学ぶ「第一世代」のマネジメント教育、アクションラーニングなど実際のプロジェクトを教室に持ち込む「第二世代」のマネジメント教育に対し、「第三世代」のマネジメント教育としています。

 本書からも窺えるように、実際の経緯としては、以前からミンツバーグが提唱していたマネジメント教育の在るべき姿を、著者が実践に落とし込むことにより、「コーチング・アワセルブズ」というスタイルが出来あがったわけであり、著者自身は会社を辞め、この手法を広めるための会社を設立し、解説の重光直之氏の属する会社は、その日本におけるパートナーとなっています(日本では「リフレクション・ラウンドテーブル」という名称で展開)。

 そうなると、この本は"宣伝本"ではないかと見るむきもあるかもしれませんが、著者の実体験を書くことで、そのノウハウがほぼ開示されているため、内製的に実施することが可能であるように思われ、また、これからの企業内研修の在り方にユニークな示唆を提供しているように思えました。実際に日本でも、一部の大手企業では導入済みであるとのこと、社内研修の担当者などは、本書から、マネジメント研修の実施方法についての新たなヒントが得られるかもしれません。一読して損はないかと思います。

 「コーチング・アワセルブズ」、次回の管理職研修で採り入れてみようかなあ。

マネジャーの実像.jpg 因みに、ミンツバーグ自身の近著『マネジャーの実像』(日経BP社 2011年1月刊)の中でも、この「コーチング・アワセルブズ」は紹介されていましたが、本書自体は、彼の膨大な経営思想を網羅的に要約したものではなく、あくまでも「コーチング・アワセルブズ」とういうマネジャー育成プログラムにフォーカスして、それを、ごく分かりやすく紹介したものであると言えます。

 ただし、巻末にはミンツバーグの主著が紹介されており、また、自然をこよなく愛するという彼の人柄などにも触れられており、経営思想の泰斗をこれまでより身近に感じることで、本書が彼の著作への手引きとなるかもしれません。

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