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○経営思想家トップ50 ランクイン(ゲイリー・ハメル)

「一人ひとりの主体性と創造性を解放させ、個人と組織の持つ自己組織化能力を開花させていく」

経営の未来 マネジメントをイノベーションせよ.jpg経営の未来The Future of Management.jpg"The Future of Management"ゲイリー・ハメル.jpg Gary Hamel

 ロンドン・ビジネススクール客員教授で、シカゴを本拠地とする国際的なコンサルティング会社ストラテゴスの創設者であり、『コア・コンピタンス経営』などの著書で知られるゲイリー・ハメルの、その『コア・コンピタンス経営』と並ぶ世界的なベストセラーになった経営書です(原題: The Future of Management、2007)。

 第Ⅰ部「なぜ経営管理イノベーションが重要なのか」では、まず第1章で、経営管理は終わったのかと問いかけ、これからの変化の時代においてこそ経営管理イノベーションの重要性が増すことを説いています。第2章ではイノベーションには業務イノベーション、製品イノベーション、戦略イノベーション、経営管理イノベーションという種類があり、どのイノベーションもそれぞれ独自の形で成功に貢献するが、これらのイノベーションを上に行くほど価値創造と競争上の防御力が高くなる階層図で示すとしたら、経営管理イノベーションが一番上にくるとしています。第3章では、経営管理イノベーションの挑戦課題は、戦略変更のペースを劇的に加速させること、イノベーションをすべての社員の日常的な業務にすること、すべての社員が自分の最高の力を出す企業を築くことであるとしています。そしてこれらを実現しようとしたとき、「よりよく」「より早く」「より迅速に」「より安く」をめざしてきた近代経営管理では無理であり、経営管理そのもののイノベーションが重要になるとしています。

 第Ⅱ部「経営管理イノベーションの実行例」では、第4章で、目的で結ばれたコミュニティを築くことで社員の活力と参加意識が最も高い企業の一つとなったホールフーズ・マーケットの事例を、第5章で、上司はいないがリーダーは大勢いるという世界中で最も風変りで最も効率的な組織を築くことでイノベーションの民主化を実現したW.L.ゴア(ブランド名:ゴアテックス)の事例を、第6章で、他の何よりも適応力(レジリエンス)を重視する経営管理システムを構築することで、優位性を進化・持続させ続けてきたグーグルの事例を取り上げています。これら企業の共通点として、既成の経営管理の概念に捉われず、時には従来の常識を根底から覆すような独自の経営管理イノベーションを行っていること分かり、いずれも興味深い事例かと思われます。

 第Ⅲ部「経営の未来を思い描く」では、第7章で、いかにして前例の束縛から逃れ、従来の中核的な経営原理に反旗を翻すかを説き、第8章では、新しい経営原理をどのようにして見つけ実行に移していくかを説き、第9章では、新しい視点や見方を得るために「周縁から学ぶ」という考え方を提起しています。

 第Ⅳ部「経営の未来を築く」では、第10章で、経営管理プロセスの改革に取り組み経営管理イノベータ―になるためにはどうすればよいか、IBMの「新規事業機会(EBO)」育成事例を基に10の教訓を導き出し、更に最終第11章で、ウェブの進化に対応し、未来の適者となるためのマネジメント2.0という概念を提起しています。

 本書は、「一人ひとりの主体性と創造性を解放させ、個人と組織の持つ自己組織化能力を開花させていく」、そして「過去から未来を描くのではなく、未来から学び現在を築きあげていく」というのがこれからのマネジメントのあり方(イノベーションの方向性)であるということを、企業事例を掲げることで具体的なイメージとともに分かり易く伝えていて、人事パーソンにとっても示唆に富む啓発書であるように思います。

《読書MEMO》
●我々が過去半世紀の間に目にしてきた技術やライフスタイル、地政学の途方もない変化に比べると、経営管理の手法は亀のようにのろのろとしか発展してこなかったように感じられる。残っている中間管理職は、管理者が昔からやってきたことをそのままやっている。つまり、予算を作成し、作業を割り当て、業績を評価し、部下をおだててもっと成果を上げさせようとしているわけだ。(p3)
●経営管理を構成する要素
•目標を設定し、そこに到達するための計画を立てる。
•動機づけをし、努力の方向を一致させる。
•活動を調整・管理する。
•人材を開発・任命する。
•知識を蓄積・応用する。
•資源を蓄積・配分する。
•関係を構築・育成する。
•利害関係者の要求を、うまくバランスをとりながら満たす。(p22)
●第二に、多くの経営幹部が大胆な経営管理イノベーションが実際に可能であるとは思っていない。奇妙なことに、管理職は科学が長足の進歩を遂げることは当然のように思っているのに、経営管理の手法が進歩しないことは少しも気にしていないようだ。(p42)
●つまり、前例を破る経営管理イノベーションの可能性を最大にするために、重要で興味をそそり、本質的で賞賛に値する問題に取り組むべきなのだ。
1.あなたの会社がこの先直面することになる新しい課題は何か。
2.あたたの会社がうまくやれそうにない難しい両立課題は何か。
3.あなたの会社の理論と現実のギャップのうち、最大のものは何か。
4.あなたは何に憤りを感じているか。(p47)
●ほとんどの企業で、管理職の権限は、その人物が管理している資源と直接的な相関関連があり、資源を失うことは地位や影響力を失うことを意味する。そのうえ、個人の成功は通常その人物の事業部門やプロジェクトの業績だけで決まる。そのため、プログラム・マネージャーは「自分の」資本や人材を新しいプロジェクトに配分しようとする動きには―その新プロジェクトがどれほど魅力的あるかに関係なく―抵抗する。第二に、資源配分のプロセスは一般に新しいアイデアに不利になっている。既存事業の延長線上にあるプロジェクトはリターンを予想しやすいが、まったく新しいアイデアのリターンはいつだって計算を立てにくい。ところが大企業は、新しいアイデアの一つひとつを、それぞれ独立した投資とみなす傾向があり、そのため既存の活動をほんの少し拡大しただけのプロジェクトしか満たせないような高レベルの確実さを要求する。その一方で、既存事業を運営している幹部は、徐々に衰退しているビジネスモデルに大金を注ぎ込とき、あるいはすでに収益が減少しつつある活動に過度に資金を投入するとき、その戦略的リスクを弁明するよう求められることはめったにないのである。(p57)
●イノベーションを阻む真のブレーキは、古いメンタルモデルの足かせなのだ。長年その会社に勤めている幹部は、概して既存の戦略に強い思い入れを持っている。その会社の創業者ともなると、なおさらだ。多くの起業家があまのじゃくとしてスタートするのだが、成功はともすると彼らを、唯一の真の信仰を守ろうとする枢機卿に変えてしまう。(p66)
●肩書に頼って物事を進めることに慣れているリーダーは、ゴアのモデルを羨望だけでなく、それに劣らぬ大きな恐怖をもって眺めることだろう。従来どおりの考え方をしている管理職は、権力が地位から切り離されている組織という現実を前にすると、無理からぬことではあるが、あわてふためく。そのような組織では、より上の階層にいるというだけで決定を押し通すことはできないし、自分が命令を下せる「直属の部下」もいない。その人に従いたいと思う人間が誰もいなければ、その人の権力はまたたく間に消えうせる。おまけに、資格や知的優位が立派な肩書という栄誉で認められることもない。(p121)
●彼らの論理は単純明快だ。Aレベルの人間はAレベルの人間と、つまり自分の思考を刺激し、自分の学習を加速してくれる優秀な同僚と働きたがる。だが、Bレベルの人間は、Aクラスの人間に脅威を感じるので、ひとたび入社したら、自分と同程度の凡庸な同僚を採用する傾向がある。さらに悪いことに、自信の面で若干問題のあるBクラスの社員は、自信がなくて誰の意見にも反対できない℃クラスの社員を採用することさえある。凡庸な社員が多くなると、本当に非凡な連中を引き寄せたり引き止めたりすることは難しくなる。そして、いつのまにか社員の質の低下という流れが反転不可能になっている、というわけだ。(p136)
●小規模なチームは、グーグルを和気あいあいとした企業に―膨れ上がった官僚型組織ではなく新規企業のように―感じさせる働きもしている。大規模なチームでは、個人の抜きん出た貢献がえてして上司の手柄にされたり、まぬけな同僚によって帳消しにされたりする。グーグルの小規模なチームは、個人の努力とその人の業績の密接なつながりを維持するのに役立っているのである。(p142)
●実をいうと、「エンプロイー(従業員)」という概念は近代になって生み出されたもので、時代を超越した社会慣行ではない。強い意志を持つ人間を従順な従業員に変えるために、二十世紀初頭にどれほど大規模な努力がなされ、それがどれほど成功したかを見ると、マルクス主義者でなくてもぞっとさせられる。近代工業化社会の職場が求めるものを満たすためには、人間の習慣や価値観を徹底的に作り変える必要があった。生産物ではなく、時間を売ること、仕事のペースを時計に合わせること、厳密に定められた間隔で食事をし、睡眠をとること、同じ単純作業を一日中際限なく繰り返すこと―これらのどれ一つとして人間の自然な本能ではなかった(もちろん、今もそうではない。)したがって、「従業員」という概念が―また、近代経営管理の教義の他のどの概念であれ―永遠の真実という揺るぎないものに根ざしていると思い込むのは危険である。(p163)
●つまり、次の四つの条件が満たされていれば、トップダウンの規律はあまり必要ないのである。
1.現場の社員が結果に責任を負わされている。
2.社員がリアルタイムの業績データを入手できる。
3.業績に影響を及ぼす主要変数について社員が決定権を持っている。
4.結果、報酬、評価の間に密接な関連がある。(p172)
●企業においても同じことが言える。新しいアイデアは古いアイデアを少しばかり拡大したアイデアと同じ間接費を負担することはできないし、同じリスク・ハードルを満たすことこともできない。また同じ短い期間で投下資本を回収することもできない。この点を認識していない経営管理システムや間接費配分ルールは、イノベーションを抑圧することになる。これに劣らず重要な点として、最先端のアイデアに取り組んでいる人たちは、同じものをたくさん生み出すことを担っている人たちと日々触れ合う必要があり、後者もまた前者と日々触れ合う必要がある。都市の場合と同様、新しいものや奇抜なものが、時の試練を経たものや、まともなものと隣り合っていれば、誰もが得をするのである。(p228)

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ダニエル・ゴールマン)

「集団に共鳴現象を起こし組織に前向きの雰囲気を醸成する」EQリーダーシップ。感情こそが組織の命との考えは意外と附落ちする。

EQリーダーシップ0.JPGEQリーダーシップ3.jpg ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman).jpgダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman、1946‐ )
EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方

 1995年に『EQ-こころの知能指数』("Emotional Intelligence")ダニエル・ゴールマンが思いやりを語る Talk Video TED.com.jpgを発表し、日本を含む全世界でベストセラーとなったダニエル・ゴールマンが、コンピテンシー研究者のリチャード・ボヤツィスらと共に著した本で、EQ(感じる知性)の高いリーダーが集団に共鳴現象を起こし業績を伸ばすことができるのはなぜか、という問いを解明したもの("Primal Leadership: Realizing the Power of Emotional Intelligence"、2002)。

ダニエル・ゴールマンが思いやりを語る | Talk Video | TED.com

 第1部「六つのリーダーシップ・スタイル」の第1章「リーダーの一番大切な仕事」において、優れたリーダーは、人の心を動かし、人の情熱に火をつけ、最高の力を引き出すとしています。リーダーの影響力はその発言だけにとどまらず、発言していないときもリーダーは注目されていて、特に人によって異なる反応を示すような微妙な状況下では人々はリーダーを見るのであって、ある意味、リーダーは感情の基準を作るのであるとし、優れたリーダーは集団の協調意識を高く保つことができ、メンバーを目標達成に駆り立てることができるとしています。

 第2章「共鳴型リーダーと不協和型リーダー」において、共鳴型リーダーと不協和型リーダーのそれぞれの例を挙げています。リーダーの基本的な役割は、良い雰囲気を醸成して集団を導くことであって、そのためには、集団に共鳴現象を起こし、最善の資質を引き出してやることが肝要であるとしています。共鳴は前向きの感情をより長引かせる効果があり、EQの高いリーダーは、ごく自然に共鳴を起こすことができ、熱意と行動力を示して、グループ全体を共鳴させるとしています。

 また、知と情は別々の神経回路でコントロールされているが、両者は緊密に絡み合っているとし、この知性と情動を統合する脳の回路こそ、EQリーダーシップの基礎であるとしています。ビジネスの世界は感情より知性を重視したがりますが、人間の感情は知性よりも強く、非常事態が起こったときに脳をコントロールするのは、情動をつかさどる脳(大脳辺縁系)であって、情動をつかさどる脳と前頭葉前部との対話は、思考と感情を統御する役割をもつ脳内のスーパーハイウェイとも呼ぶべき神経回路を通して行われるため、リーダーシップに不可欠なEQが発揮できるかどうかは、前頭葉前部と大脳辺縁系を結ぶ神経回路がスムーズに機能するかどうかにかかっているとのことです。

 さらに、EQには「自分の感情を認識する」「自分の感情をコントロールする」「他者の気持ちを認識する」「人間関係を適切に管理する」という4つの領域があり、それぞれが共鳴的リーダーシップに不可欠なスキルを提供しており、この4つの領域は密接に撚りあわされ連繋して動くものだとしています。

 第3章「EQとリーダーシップ」では、「自己認識」「自己管理」「社会認識」「人間関係の管理」というEQの4領域とそれに関連する18のコンピテンシーについて解説しています。例えば「自己認識」とは、自分の長所や限界、自分の価値観や動機について深い理解を有している、ということであり、自己認識の優れた人間は、自分の価値観に合った決断ができるので、仕事に対していつも前向きでいられるし、自己認識ができてはじめて、自己管理が可能になるのであって、自分が何を感じているかがわからなければ、自分の感情を管理できるはずがないとしています。

 第4章「前向きなリーダーシップ・スタイル」では、6種類の代表的なEQリーダーシップ・スタイルを紹介、この内、「ビジョン型リーダーシップ」「コーチ型リーダーシップ」「関係重視型リーダーシップ」「民主型リーダーシップ」の4つを業績を向上させる共鳴を起こす"前向きなリーダーシップ・スタイル"として解説し、第5章「危険なリーダーシップ・スタイル」では、「ペースセッター型リーダーシップ」「強制型リーダーシップ」の2つを、特殊な状況下では有用であるが注意して使う必要があるものとして解説しています。

 第2部「EQリーダーへの道」では、EQリーダーは育つものであるとし、リーダーシップ育成の中でも最も重要なのは自発的学習であって(第6章)、自分の理想像を見出すことから変化は始まり(《第1の発見》)、続いて現実をしっかり見ることが大切であり(《第2の発見》)(第7章)、さらに理想のリーダーシップを目指して学習計画を作り(《第3の発見》)、脳の構造を変え(《第4の発見》)、人間関係の力(《第5の発見》)を活かすことで、チーム全体を巻き込んでいくというステップを踏むとしています(第8章)。

 さらに、第3部「EQの高い組織を築く」では、リーダーシップの育成を最も効果的に実現させるには。リーダーと並行して組織も変化していかなければならないとして、集団のEQを高めるにはどうすればよいか(第9章)、さらに、組織の現実と理想をどう結び付けていくか(第10章)、また、長期に渡って持続する共鳴を起こすためにリーダーたちは何をすればよいか、進化し続ける組織とはどのようなものであるか(第11章)を示しています(意外とこの考え方が、日本人である自分にはすっきり腑に落ちる)。

EQリーダーシップ88.JPG 本書は、EQが共鳴的リーダーシップの最も重要なコンピテンシーであり、個人レベルでも集団レベルでもこうした能力を強化することは可能であるという観点に立つとともに、今日では、力だけで企業を率いるリーダーは少なくなり、人間関係にきちんと対応できるリーダーが増えていることなどからみても、協調を呼びかけるべきとき、ビジョンを提示すべきとき、傾聴すべきとき、命令を下すべきときを知っている共鳴的リーダーは不可欠となり、EQリーダーシップはますます重要になるとしています。

 「EQリーダーシップ」のユニークさは、著者によれば、リーダーシップ理論と脳のメカニズムを関連づけた点にあるとのことですが、個人的にはむしろ、著者らがEQリーダーシップを、「集団に共鳴現象を起こし、組織に前向きの雰囲気を醸成するマネジメント」として定義することで、経営の世界に「感情」といったそれまであやふやであるとして回避されていたものを持ち込み、それどころか更に、感情こそが組織の生命だとの考えに立っていることの方に注目したいと思います。また、本書の考え方は、日本人であるわれわれには、意外と腑に落ちるものであるという点でもたいへん興味深いと思います。

 自己啓発書的要素が多分にある本でもありますが、人事パーソン目線で見るならば、人材アセスメントの観点から参考になる部分は多いように思います。

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

《読書MEMO》
●6つのEQリーダーシップ
【ビジョン型リーダーシップ】 共通の夢に向かって人々を動かす
 A:<共鳴の起こし方> 共通の夢に向かって人々をうごかす
 B:<風土へのインパクト> 最も前向き
 C:<適用すべき状況> 変革のための新ビジョンが必要なとき、または明確な方向が必要なとき
【コーチ型リーダーシップ】 個々人の希望を組織の目標に結びつける
 A:個々人の希望を組織の目標に結びつける
 B:非常に前向き
 C:従業員の長期的才能を伸ばし、パフォーマンス向上を援助するとき
【関係重視型リーダーシップ】 人々を互いに結びつけハーモニーを作る
 A:人々を互いに結びつけてハーモニーを作る
 B:前向き
 C:亀裂を修復するとき、ストレスのかかる状況下でモチベーションを高めるとき、結束を強めるとき
【民主型リーダーシップ】 提案を歓迎し、参加を通じてコミットメントを得る
 A:提案を歓迎し、参加を通じてコミットメントをえる
 B:前向き
 C:賛同やコンセンサスを形成するとき、または従業員から貴重な提案を得たい時
【ペースセッター型リーダーシップ】 難度が高く、やりがいのある目標の達成を目指す
 A:難度が高くやりがいのある目標の達成をめざす
 B:使い方が稚拙なケースが多いため、非常にマイナスの場合が多い
 C:モチベーションも能力も高いチームから高いレベルの結果を引き出したい時
【強制型リーダーシップ】 緊急時に明確な方向性を示すことで恐怖を鎮める
 A:緊急時に明確な方向性を示すことによって恐怖を鎮める
 B:使い方を誤るケースが多いため、非常にマイナス
 C:危機的状況下、または再建始動時、または問題のある従業員に対して

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「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(エドガー・H・シャイン)

キャリア・アンカーの大切さ、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかを説く。

キャリア・ダイナミクス.jpg エドガー・シャイン.jpg エドガー・シャイン ph0to.jpg エドガー・H・シャイン(マサチューセッツ工科大学スローンスクール名誉教授) 『キャリア・ダイナミクス―キャリアとは、生涯を通しての人間の生き方・表現である。

 エドガー・ヘンリー・シャイン(Edgar Henry Schein、1928 - )による本書(原題:Career Dynamics、1978年)は、現在のキャリア論の礎ともなった、このジャンルおけるバイブル的著書と言ってもいいのではないでしょうか。

 訳者による概説によれば、「人は仕事だけでは生きられず、ライフサイクルにおいて、仕事と家族と自分自身が個人の内部で強く影響し合う。この相互作用は成人期全体を通じて変化する。ここですでに、動態的なダイナミクスがあることになろう。しかし、他方、多くの場合そうであるように、組織に雇われて働けば、個人を受け入れる組織には組織自体の要求があり、これが、個人の持つ要求と調和されなければならない。シャインの言う個人と組織の相互作用である。そして、組織の要求も時の経過とともに変化する。また、個人も組織も複雑な環境のなかに置かれており、両者の相互作用は一部外的諸力によっても決定される。こうして、仕事の決定について、きわめて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになる。これが『キャリア・ダイナミクス』だということができる」とのことであり、この考えが本書のフレームワークとなっています。

 全3部から成る本書の第1部の前にある第1章は、第2章以下第17章までの本編全体の序論に該当し、ここではキャリア開発の視点を提起しています。やや抽象的な記述が続きますが、第1部第2章からは様々な具体例を交えた記述となり、ずっと読み易くなりますので、この部分はざっと読み、全編を読み終えた後に振り返って読んでもよいかと思います。

 第1部「個人とライフサイクル」では、第2章から第6章において、個人が直面する主要なライフサイクル問題について、生物社会的サイクル、キャリア・サイクル、家族の段階と状況の3つの側面からそれぞれの段階と課題を検討するとともに、これらの様々な人生の課題群間の複雑な相互作用についても説明しています。
 人は、個人としての発達の欲求、実行可能なキャリアを開発する欲求、及び、満足な家庭生活を展開する欲求、の3つを均衡させ満たす方法を見つけなければならず、社会の大部分の人々にとって、こうした「欲求の満足」の主要部分は、キャリアを築き維持していく過程で生じ、それゆえ、個人は「組織」と直接的な相互作用を持つに至るとしています。
 組織の要求も時の経過とともに変化し、また、個人も組織も複雑な環境に置かれているため、仕事の決定についての極めて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになりますが、これがまさに「キャリア・ダイナミクス」であるということです。

 第2部「キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用」では、まず第7章から第9章にかけて、そうした相互作用及び個人・組織の両者にとってのその影響を検討したうえで、第10章から第12章にかけて、キャリア初期における重要な概念として「キャリア・アンカー」、即ちキャリアの諸決定を組織し制約する自己概念を提唱しています。
 キャリア・アンカーは、①自覚された才能と能力(様々な仕事環境での実際の成功に基づく)、②自覚された動機と欲求(現実の場面での自己テストと自己診断の諸機会、及び他者からのフィードバックに基づく)、③自覚された態度と価値(自己と、雇用組織及び仕事環境の規範及び価値との、実際の衝突に基づく)から成る自己概念です。 
Career Anchors2.jpgCareer Anchors.jpg 分かり易く言えば、
 1.何が得意か (能力・才能についての自己イメージ)
 2.何がやりたいか (動機・欲求についての自己イメージ)
 3.何をやっているときに意味を感じ、社会に役立っていると実感できるか (意味・価値についての自己イメージ)
 といったことになるでしょうか。
 そうしたアンカーの形成について、MITスローンスクール同窓生の長期にわたるデータが報告されているとともに、第2部終章(第12章)では、キャリア中期の諸問題とその基本的原因を検討しています。

 第3部「人間資源の計画と開発の管理」では、視点を管理者に移し、第14章から第17章にかけて、組織全体の立場と人間資源への組織の要求の立場からすると、全キャリア・サイクルを通じて人間資源を開発し管理する全体的なシステムについて、我々はどのように考えることができ、また、これをどのように生み出せるかを考察し、更に、こうしたシステムにおいて個々の管理者はどのような役割を担うか、また、システムはどう編成されるべきかを探っています。

 キャリア・アンカーの大切さなどキャリア決定のメカニズムを論理的に解き明かしている一方で、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかという点において、近年の人事的課題であるワークライフバランスなどを考えるに際して多くの啓発的示唆を与えてくれる本であり、まさに「現代の古典」と呼ぶに相応しい1冊であるかと思います。

《読書MEMO》
●構成
第1部 個人とライフサイクル(第2章:個人の成長/第3章:生物社会的ライフサイクルの段階と課題/第4章:キャリア・サイクルの段階と課題/第5章:家族の状態、段階、および課題/第6章:建設的対処)
第2部 キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用(第7章:組織キャリアへのエントリー/第8章:社会化および仕事の習得/第9章:相互受容/第10章:キャリア・アンカーの開発/第11章:キャリア・アンカーとしての保障、自律、および創造性/第12章:キャリア・アンカーの総合的検討/第13章:キャリア中期)
第3部 人間資源の計画と開発の管理(第14章:人間資源の計画と開発/第15章:人間資源の計画とキャリアの諸段階/第16章:職務・役割計画/第17章:人間資源の計画と開発の統合的な見方に向かって)
●管理的能力
自分の能力は、以下の3つのより一般的な領域の"結合"にある。
(1)分析能力:不完全情報と不確実性の状況で問題を明らかにし分析し解決する能力
(2)対人関係能力:組織目標のより効果的な達成に向けて組織の全階層の人々に影響を与え、人々を監督し、導き、巧みに扱いかつ統制する能力
(3)情緒の能力:情緒および対人関係の危機によって、疲れ果てたり衰弱したりせず、むしろ刺激される能力、無力にならずに高度の責任を担う能力、および、罪悪感や羞恥心を抱かずに権力を行使する能力
●「助言」の責任を引き受ける
(1)教師、コーチ、あるいは訓練者としての助言者
「あの人はこの辺の物事をどう処理するかについて、多くのことを教えてくれた」
(2)肯定的な役割モデルとしての助言者
「私は、あの人の活動をみて多くのことを学んだ。実際、物事をどうやるかのよい手本を示してくれた」
(3)才能開発者としての助言者
「あの人は実際、やりがいのある仕事を与えてくれ、私は非常に多くのことを学んだ。私は伸び伸びするよう仕向けられ、またそう強いられた。」
(4)門戸解放者としての助言者
 やりがいがあって、成長もできる仕事につく機会が、若者に確実に与えられるように「上位の人たち」と闘う人である。
(5)保護者(母鶏)としての助言者
「私が学んでいる間、あの人は私を世話し護ってくれた。私は、職務を危険にさらすことなく、間違いをしたり学んだりできた。」
(6)後援者としての助言者
 被保護者達を目立たせ、彼らが気付こうと気付くまいと、新しい機会が現れるときには彼らが思い起こされるよう、確実に彼らによい「評判」をとらせ、より高いレベルに人々の目にふれさせる人。
(7)成功したリーダーとしての助言者
自分自身の成功で、その支持者たちも確実に「自分のおかげでうまくいく」ようにする人であり、こうした支持者たちを向上させる人。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ラム・チャラン)

「人材最優先企業」(タレントマスター)は、その根底に、リーダーを選定し育成するという考え方が根づいている。

人材管理のすすめ7.JPG人材管理のすすめ.jpg   Ram Charan.jpg Ram Charan
人材管理のすすめ』(2014/03 辰巳出版)

 原著タイトルは"The Talent Masters: Why Smart Leaders Put People Before Numbers"(2010)。著者の一人ラム・チャラン(Ram Charan)はアメリカでは人材育成コンサルタントとして知られた人物であり、『経営は「実行」―明日から結果を出す鉄則』('03年/日本経済新聞社、改訂新版:'10年/日本経済新聞出版社)などの邦訳されている著書があります。もう一人の著者ビル・コナティは、ゼネラル・エレクトリック社(GE)で長い間人事部門の責任者を務め、GEを世界に名だたる人材輩出企業に押し上げたとされる人物です。

 本書では、人材管理に際立って優れた企業を「人材最優先企業」(タレントマスター)と呼び、その実際を探求して読者に伝えることを狙いとしています。本書で言う「人材管理」は「リーダー育成」と捉えてよいかと思われ、「タレントマスター」は、「リーダー育成において優れている企業または人」と捉えてよいかと思います。

 第1部では、GEの人材管理システムを通してタレントマスターは何をしているのかを事例で具体的に解説し(その筆頭にくるのがあのジャック・ウェルチ)、第2部では、P&Gなど、ユニークな手法で効果を上げているタレントマスター企業を紹介しています。さらに第3部においても4社の事例を挙げて、タレントマスター企業になるための戦略を紹介しており、このように豊富な事例から帰納法的(実証的)に「タレントマスターの原則」を導き出している点は、アメリカのビジネス書らしいかと思われます。

 そのようにして導き出されたタレンントマスターの原則とは、①CEOを頂点とした優秀なリーダーシップ、②実績を重視した能力主義、③企業の価値観の明確な定義、④率直さと信頼、⑤人材評価/育成システム(厳格さと規則性)、⑥人事責任者(CEOのビジネスパートナーとしての機能)、⑦継続的な学習と改善、の7つに纏められています。

 それらの原則の前提として掲げている「人事考課の"システム化"」などは、日本企業においても劣るものではないと思われますが、常にその根底に、リーダーを選定し育成するという考え方が根づいている点が、本書で紹介されているタレントマスター企業の特徴でしょうか。本書では、人材を深く理解し、定期的にレビューをすることで、組織は中間管理職からCEOに至る、あらゆるレベルのリーダーを輩出し続けられるようになるとしています。

 90年代から00年代にかけて、それまで従業員の存在を無視して、事業売買やダウンサイジングなど競争に勝つための戦略にばかり気をとられてきたアメリカ企業が、人材重視の経営へと大きく方針転換した、その流れを汲む本と見てもいいのではないでしょうか。

 著者の1人がGE出身ということもありますが、「CEOを頂点とした優秀なリーダーシップ」がタレントマスター企業の原則の筆頭にきて、CEOの継承者を見つけ育てることが人事の大きな役割とされているという点に、アメリカ企業の人事の特色を感じます。

 経営書と言うよりは、人事パーソンのための啓蒙書と言えるかと思います。事例のオンパレードで、もう少し体系的に纏めてほしかった気もしますが、その分、読み物を読むように読めるのは確かです。賃金制度の改定や評価制度の策定・見直しなど、ともすると制度づくりそのものが目的化しがちな日常において、人事は何のためにあるのか、これからどういった方向を目指していくべきかを考える上で、"啓蒙"される要素はある本かと思います。
 
《読書MEMO》
【主な内容】
●タレントマスターの秘密を解き明かす
GE、P&G、ヒンドゥスタン・ユニリーバなどの一流企業は、どのように人材の見極めと育成のためのシステムを構築し、それによって目覚しい成果をあげていったのか。
●徹底的に人材を理解する
人材を深く理解し、定期的にレビューをすることで、組織は中間管理職からCEOに至る、あらゆるレベルのリーダーを輩出し続けられるようになる。
●人材に永続的な価値がある
業績、市場シェア、ブランド、製品には寿命がある。唯一、永続的なもの、それは、人材と、人材を育てる仕組みのみである。人材は人財なり。
●実践的なアドバイス
タレントマスター「ツールキット」が、あなたの企業をタレントマスターにするための具体的な方法を提供。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(シェリル・サンドバーグ)

女性のためのキャリア指南書。男性が読んでも啓発される要素は多い。

LEAN IN(リーン・イン).jpgLEAN IN(リーン・イン)2.jpg LEAN IN(リーン・イン)3.jpg Sheryl Sandberg.jpg
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』 Sheryl Sandberg in TED
              
シェリル・サンドバーグはいかにして野心を抱き.jpg 本書の著者シェリル・サンドバーグは、財務省で首席補佐官を務め、その後グーグルで6年半働いてグローバル・オンライン・セールスおよびオペレーション担当副社長を歴任した後、あのマーク・ザッカーバーグによりフェイスブックにスカウトされ、今現在はフェイスブックのCOO(最高執行責任者)の地位にある人であり、2011年8月のフォーブズ誌「World's 100 Most Powerful Women」で5位になった人でもあり(ミッシェル・オバマ大統領夫人よりも上に位置していた)、2013年には「経営思想家トップ50(Thinkers50)」にランクインしています。

「シェリル・サンドバーグはいかにして野心を抱きすべてを手に入れたのか」(米「TIME」誌→「COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2013年 08月号 [雑誌]」)

 こうした著者の華々しい経歴から、本書は、スーパーウーマンが自らの成功体験をもとに、フツーの人にはちょっと真似できないようなことが書かれた自己啓発書かと思われがちですが、実際に読んでみると、著者自身、自らのキャリアが恵まれたものであることを率直に認めつつも、現在の地位にたどりつくまでにさまざまな苦労や葛藤があったことが、実に赤裸々に、時にユーモアを交え描かれています。

 また、アメリカ社会において女性が仕事をしていくことがいかに困難かを多くのデータや文献から裏付けるとともに、その原因を、社会の仕組みだけでなく、働く女性の心理面からも分析し、女性たちがそうした内面の壁を突破するにはどうしていけばいいかを考える内容となっています。

 著者によれば、男女差別はアメリカ社会の中にも隅々まで根付いていて、優秀な女性たちは、自分たちの優秀さについて一種の罪悪感を抱いており(著者自身、ハーバード大学で最優秀学生の1人に選ばれた際に、「優秀な女は嫌われる」という思い込みから、周囲にはそのことを隠していたという)、女性たちはまず、この内なる敵と闘わなければならないのとしています。

 その上で、「キャリアは梯子ではなくジャングルジム」「笑っていれば気分が明るくなる」「ロケットの座席をオファーされたらまず座ってみる」「正直なリーダーになる」「完璧を目指すよりもとにかくやり遂げること」という「5つのマインドチェンジ」を提唱しています。

 女性がキャリアで成功する上での障害と、それを取り除くためにどうすればよいかということについて多くのページを割いていて、報酬の交渉をする際のポイント、夫を協力的なパートナーにするためのコツや、子供が生まれるまさにその時まで仕事を辞めてはいけないというアドバイスなど、いずれも具体的かつ有用なものばかりです。

シェリル・サンドバーグ1.jpg プレゼンテーション・カンファレンスとして知られる「TED」で著者が講演した際の話がでてきますが、著者が本書を著すきっかけとなったのは、TEDでの著者の「なぜ女性のリーダーは少ないのか?」と題された(周囲はなぜ彼女は成功したのかを聞きたがっていたが、彼女は敢えてこのテーマを演題に選んだ)トークの反響が大きかったためで(トークの模様はインターネットで視聴できる)、本書もアメリカでベストセラーとなり、女性のキャリアについて大きな論争が起きているとのことです。

 論争の元となる1つの要素として、例えば著者が、自分のことを特別な女性と崇め奉り「メンターになってくれませんか?」と言い寄ってくる女性に対して、力のある人間にすり寄っていけば誰かが自分を引き上げてくれるだろうという、その受け身の姿勢が気に入らないとぶちまけていたりすることもあるのかもしれません。また、男性優位社会との対立項として自らの考えを述べているように捉えられる点もあるのかも。

 但し、単に声高に女性の権利を主張するのではなく、本当に必要なのは相互理解であり、女性は女性で、まず出来ること、やるべきことをやりましょう、と言っているように思えました。その上で著者は、「いまこそ私は、誇りをもって、自分をフェミニストと呼ぼう」と宣言しています。結婚や出産といったライフイベントを機に、キャリアを諦めてしまう女性が多いのは日本も同じであるという、データに基づいた指摘もあり、アメリカ国内だけでなく、世界の女性に呼びかけているところに、メッセージ性、発信力のスケールの大きさを感じます。

 著者は本書を自分の領域でトップに就く可能性を高めたい、全力でゴールを目指したい、そう考えている女性に向けて書いたそうです。女性のためのキャリアの指南書として読めるばかりでなく、男性にとっても、一緒に働く女性のことを考える契機となる本であり、また、男女を問わず、キャリアやリーダーシップに関する示唆に富むものとなっています。更に、女性リーダーのロールモデルを増やしていくことは、今後の企業の人材活用における大きな課題になっていくことは間違いなく、人事パーソンの視点からみても、啓発される要素を多分に含んだ本であると思います。

photo3377-2.jpg それにしてもこの人、TEDのプレゼンもNHKの「クローズアップ現代」でのインタビューも見ましたが、コミュニケーション能力がやはり抜群に長けているのではないでしょうか、「1対多」でも「1対1」でも。その年俸22億円はカルロス・ゴーンの倍以上ですが、確かにハーバードを首席で卒業した秀才ではあるし、おそらくマーケティングなどの知識も豊富だとは思われるのですが、やはりこの人をこうした地位まで押し上げたのは、リーダーシップとコミュニケーション能力だろうなあと思います。

「クローズアップ現代 女性のリーダーはなぜ少ない?~米企業トップ サンドバーグさんのメッセージ~」(2013年7月9日放送)

Facebook COO Sheryl Sandberg Commencement Speech | Harvard Commencement 2014


【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

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○経営思想家トップ50 ランクイン(デイビッド・ウルリッチ)

人事担当者の役割とは何かを明確に打ち出すとともに、その役割の重さを改めて認識させられる本。
MBAの人材戦略2.JPGMBAの人材戦略.jpgMBAの人材戦略』 デイビッド・ウルリッチ.jpg デイビッド・ウルリッチ

 ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ(David Ulrich)教授による本書『MBAの人材戦略』(原題:Human Resource Champions,1997)は、「人事の役割」を、①戦略パートナー(Strategic Partner)、②管理のエキスパート(Administrative Expert)、③従業員のチャンピオン(Employee Champion)、④変革のエージェント(Change Agent)という4つの分類に定義したことで人事パーソンの間では広く知られる本です。

 第1章「人材経営―競争力を築くための新しい行動計画」では、競争力を備えた企業を築くために、ライン管理者と人材経営専門職に求められる行動指針とは何かを解明することが本書の目的であるとするとともに、本書では、従来の人材経営について書かれた本に見られる人材経営専門職は何を遂行すべきか(手段)という視点からの転換を図り、何を達成すべきか(目的)という人材経営の生み出すべき成果、それらの成果を生む際に求められる活動に沿って構成されているとしています。

 第2章「変化を続ける人材経営―複合的な役割を担う人材経営モデル」においては、人材経営の実践から生じる結果として、①戦略の実現、②効率的経営の実現、③従業員からの貢献の促進、④変換の推進、の4つの成果の領域を掲げ、将来の人材経営専門職の役割を表現するイメージは、「戦略パートナー」「管理のエキスパート」「従業員のチャンピオン」「変革のエージェント」で4つの複合的なものとなるとしています。そのうえで、以下、第3章から第6章にかけて、これらの役割について詳しく検討しています。

 第3章「戦略パートナーになる」では、人材経営が戦略の実現に対していかに支援し得るかを検討し、ビジネス上の戦略を具体的にアクションとして展開していく際に、ライン管理者と共同して人材経営専門職が戦略実現のパートナーとしてどのような役割を果たすべきかを検討しています。そして、人材経営専門職は、きちんと確立された組織監査を遂行する手法を身につけることが求められるとしています。

 第4章「管理のエキスパートに」では、人材経営部門がいかに効率的経営の実現に貢献できるかを検討し、効率的経営のエキスパートとしての人材経営部門の役割を解明しています。そして、管理のエキスパートになるためには、「プロセスの改善」と「人材経営の価値創造の再検討」という2つの段階をマスターすることが求められるとしています。

 第5章「従業員のチャンピオンになる」では、人材経営部門が従業員からの貢献をいかに最大限に引き出すことができるかを検討しています。そして、従業員のチャンピオンとして機能するためには、従業員に対して、牧師の示す確信と信頼、心理学者の示す感受性、芸術家の示す創造性、航空機パイロットの示す厳格な規律のすべてを明示し、管理者と従業員の双方と協力して、従業員が彼らに期待されていることのすべてを達成するように導いていかなければならないとしています。

 第6章「変革推進者になる」では、人材経営が企業に変革を推進する際に、どのように貢献し得るかを説明しています。そして、企業がさまざまな変革の試み、プロセスの変革、文化変容を効果的に取り組むことを支援するためには、ライン管理者と人材経営専門職は、変化に関する理論と実際の方法の両方を学んでいく必要があるとしています。

 第7章「人材経営部門のための人材経営」では、人材経営に伴う基本的機能を再検討しています。著者によれば、人材経営専門職は、他部門を援助することに熱心なあまり、自部門に眼を向けない傾向が強いが、企業経営に貢献する人材経営理念が自部門に適用されれば、人材経営部門も疑いなく向上するとして、人材経営の諸機能をトランスフォームすることに成功を収めた数多くの企業の実例を紹介し、人材経営部門が取り組むべき活動を示唆しています。

 第8章「人材経営の将来」では、人材経営の方法、機能、専門職・ライン管理者に将来何が求められているのかを検討しています。ここでは、「何が問題か」「ではどうするべきか」「どのような改善を進めるべきか」の3つの問いを取り上げることで、人材経営の将来像を探っています。

 人事専門職が何を達成すべきかを、戦略の実現、効率的経営の実現、従業員からの貢献の促進、変換の推進の4つに絞って検討することで、人事担当者は、戦略パートナー、管理のエキスパート、従業員のチャンピオン、変革のエージェントという4つの役割を担うことを期待されていることを明確に打ち出し、人事担当者そのものが最も重要な経営資源であることを浮き彫りにした名著と言えます。
 但し、正確を期そうとするためか、翻訳がこなれていないのがやや残念です。「人材経営部門」は「人事部」と訳し、「人材経営専門職」は「人事担当者」「人事パーソン」と解していいのではないでしょうか(殆どの読者がそのようにとって読むではあろうが)。

 本書で示された人事パーソンの4つの役割について、日本企業の人事パーソンに自分自身はどの部分に強みを持っていると思うかというアンケートをとると、「管理のエキスパート」としては自分でも満足しているが、「変革のエージェント」としてはやや力を発揮しきれていないという自己評価結果が出ることが多いようです。 
 また、「従業員のチャンピオン」ということ関しても、あまり自分には当て嵌まらないという結果が出ることが多いようですが、一部にはこの言葉が俗に言う「社内エリート」であることという風に誤解されている向きもあるようです。著者が言うところの「従業員のチャンピオン」としての人事パーソンに求められる資質とは、従業員の発言に耳を傾け、従業員の信頼感を尊重し、従業員との信頼関係を築くことができて、そのことによって、従業員の企業に対する貢献を高めることができる能力のことを指します。

 1997年に書かれた本書「日本語版への序」において、著者は、日本企業の人材経営職は、常に「戦略パートナー」の役割を果たしてきたと評価したうえで、但し、「最近、日本企業でも、1980年代と90年代前半における成功が思い通りに実現していない現実が存在する。推論するに日本企業の人材経営専門職は、うぬぼれあるいは自己満足に陥っているのかもしれない」としています。実際、近年においては、外資系企業の人事担当者から見た場合、日本企業の人事部は、「戦略パートナー」としての機能を充分に果たしていないとの指摘もあるようです。

 著者は、グローバル競争が激しさを増す中で、ある国で開発されたベストプラクティスは瞬く間に世界各国で学習され、移転が進む現代にあって、期待される成果とは、「新しい人材経営の方法の探求」であるとしています。原著の「序」で、目指す新しい役割をマスターしていくためには、学習とともに忘れ去ること(過去からの脱却)も求められるとしているのが関心を引きます。

 人材経営職は、機会と将来方向が示されたときこそ専門職としての力を発揮し、どのように付加価値を生み出すかを理解していれば、必ず付加価値を生み出すであろうという著者の信念が根底にあることが窺え、人事担当者にとっては、自らの役割の方向性を見定める指針となるともに、その役割の重さを改めて認識させられる本であると思います。翻訳にやや硬さはありますが、一度は読んでおきたい一冊です。

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「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ピーター・M・センゲ)

「組織学習」の名著。核となる提案部分(5つのディシプリン)は旧版と同じ。旧版でも問題ない。
学習する組織0.JPG学習する組織 2011.jpg  最強組織の法則 - 原著1990.jpg  Peter M Senge .jpg
学習する組織―システム思考で未来を創造する』(2011/11 英治出版)/『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』(1995/06 徳間書店) Peter M Senge

Peter M Senge 2.jpg 著者のピーター・M・センゲ(Peter M. Senge)はマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院の組織センター長であり、本書のオリジナルに当たる1990年にセンゲが発表した『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か(The Fifth Discipline : The Art & Practice of The Learning Organization)』('95年/徳間書店)は、「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」というコンセプトを提唱したことで知られています。本書『学習する組織―システム思考で未来を創造する』('11年/英治出版)は、原著の2006年改訂版(原題同じ)であり、書き加えられた「学習する組織」の実践上の課題やそれを乗り越える事例と併せて、旧版の翻訳で一部割愛されていた内容を補完したものです。

 全5部構成の第Ⅰ部において、著者は、世界では物事の相互の繋がりは一層深まり、ビジネスは複合的でダイナミックになっていて、そうした中、仕事はもっと「学習的」にならなければならず、それは、会社のために誰か1人が学べばいいというものでもなく、また、トップが解決策を見つけ、社員がその大戦略家に付き従うという方法でももはや成功できず、これからはあらゆるレベルの社員から学習する意欲と能力を引き出すことができる企業こそ成功していくだろうとしています。

 従って、マネジャーは社員に①新しいアイデアに柔軟に対応する、②互いに気兼ねなく率直にコミュニケーションする、③企業がどのように運営されるべきか、深く理解する、④集団的なビジョンを構築する、⑤共通の目的を達成するために力を合わせる、といったことを奨励すべきだとしています。

 そのうえで、学習する組織には5つの基本的なディシプリン(構成要素)があるとしており、それらは以下の通りであるとともに(本書で意味する"ディシプリン"とは、学習し習得すべき理論及び技術の総体を指す)、第Ⅱ部において「システム思考」(第1のディシプリンとして重要視されるこのシステム思考は、これに続く他の4つを統合するものとされる)、第Ⅲ部において残りの4つのディシプリンについて解説しています。

①システム思考:全体のパターンを明らかにし、それを有効に変えていく視点でものを考えること。このシステム思考によって全体を纏め、一貫した実行プランが構築できる。
 センゲの組織研究のアプローチは一貫して、組織を独自の行動様式と学習パターンを持つ一個の生きた存在と捉えるシステムアプローチであると言えます。彼はここで、問題を頻発させたり成長を抑制したりする反復性のパターンをマネジャーが見抜くのに役立つ「システムの原型」の考え方を紹介しています。

②自己マスタリー:現実を客観的に捉える。そのために、個人の視野を拡げ、常に現実への理解を深めていくことの重要性を意識的に認識する必要がある。
 現代のマネジャーは誰でも個人のスキルや強みを開発することの大切さを認識していますが、センゲはこの考えからさらに一歩踏み込んで、学習する組織における個人の心の成長の重要性を強調しています。真に心が成長すれば、現実をよりはっきりと認識するようになるとして、心の成長によって現実をもっとはっきりと見据えることを教え、ビジョンと現実との違いを際立たせることにより、創造的な緊張関係を生み出すことが出来るとしています。そしてこの緊張関係から効果的な学習が生まれると。センゲの言う「学習する組織」とは、「自分が大切だと思うことを達成できるように自分を変える」ことにより「自分の未来を創造する能力を絶えず充実させている人々の集団」であると。

③メンタル・モデルの克服:自分たちの心に知らないうちに固定化されたイメージや概念(メンタル・モデル)を分析し、精査する。
 システムアプローチの次なる要素としてセンゲが強調しているのは、メンタル・モデルであり、センゲは、マネジャーたちに組織の価値観や理念を裏で支えるメンタルモデルを構築することを要求しています。組織レベルで培われてきた既成の思考パターンの影響力の大きさに注意を促し、これらのパターンの性質を検証するオープンな仕組みづくりが必要であるとしています。

④共有ビジョンの構築:組織内で共通のアイデンティとミッションのもとに個人を結束させる。そのためには、お題目だけのビジョンではなく個々が心から納得し、参加できるような共通の「将来像」を掘り起し、コミュニケーションを続ける必要がある。
 真の創造性やイノベーションは集団の創造性に基づくものであり、また、集団のビジョンはメンバーの個人的なビジョンの上に構築されるものであって、メンバーが集団のビジョンを自分と切り離すことなく考え始めたときにビジョンの共有が可能になるとしています。

⑤チーム学習:現代の組織では、個人ではなくチームで成果を出し、そのための学習の基礎を構築する。そのために対話と議論という2つの実践が伴う。チームが学び、成長できなければ集合体としての組織も成長できない。
 ここでは、効果的なチーム学習のためには、「ダイアローグ」(dialogue)と「ディスカッション」(discussion)という2つの異なる対話方法をうまく使い分けることが必要であるとしています。ダイアローグ(意見交換)は問題点をどんどん探し出してゆくことであり可能性を広げるものであり、ディスカッションとは将来の意思決定のために最善の選択肢を絞り込む作業であると。これらの2つのプロセスは相互補完的ではあるが、別々のものとして考えなければならず、実際には両者を意識して使い分けられるチームは残念ながら殆ど見当たらないとしています。

 本書で挙げられている事例を見ればわかる通り、企業をラーニング・オーガニゼーションに変身させるのは簡単なことではなく、それは何故かと言うと、最大の理由は、マネジャーが今まで持っていた権力や権限を手放し、学習している人に渡さなければならないからだとしています。社員が学習するためには試行錯誤が必要であり、とりわけ(旧来型の)責任追及型の企業文化であればそれは大胆な変革が必要となると。また、ラーニング・オーガニゼーションを築くには、信頼と関与が必要であり、これも多くの企業で欠けているとも言っています。

 旧版『最強組織の法則』第Ⅳ部では、「創造への課題」を取り上げ、この中では「仕事と家庭の対立は終わる」といったワーク・ライフ・バランスに対する早くからの炯眼を窺わせる記述もあり、第Ⅴ部では。「組織学習の新しいテクノロジー」を事例を交えて解説していました。新版『学習する組織』第Ⅳ部は、「実践から振り返り」となっており、第Ⅴ部が「結び」となっています。

 基本となる第Ⅰ部から第Ⅲ部までは『最強組織の法則』も『学習する組織』も同じ内容なので、どちらを読んでも構わないかと思います。取り上げている事例の部分で旧版の方が「アメリカ企業はなぜ日本企業に敗れたのか」といった例が多くなっているのが、やや時代を感じさせるぐらいしょうか。「組織学習」の名著としての評価は定着しているのではないかと思います。
 旧版1,900円、新版3,500円(何れも本体価格)。旧版の日本語タイトルは不評でしたが、旧版の方の訳が古びているとか硬いとかいったことはなく、読む上では旧版でも全く問題ないかと思います(むしろ旧版の方が単独翻訳者なので、訳調が統一されているかも)。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●企業が抱える7つの学習障害
①「職務イコール自分」:
 個人が自分の職務だけに気を取られると、全ての職務が関連し合って生まれる結果に対して責任が薄れ、職務間の連携が阻害される。
②「敵は向こうに」:
 自分の仕事にしか目が向かないと、何のために仕事しているのかという本質的な目的や、自分の行動の影響が職務の範囲を超えてどう拡がっていくのかを認識できなくなる。そんな中、自分の仕事の結果が悪い形で出てくると、理由を外に向け、自分以外のせいにしようとする。
③積極策の幻想:
 「向こうの敵」と戦かおうとひたすら攻撃的になるとすれば、人は受身に反応しているということになる。これは積極策の幻想であり、真の積極性は、自分の抱える問題にどのように寄与するかの見通しから生まれる。
④個々の出来事に捉われる:
 我々の組織及び社会の生き残りにとっての中心的脅威は、不意の出来事からではなく、徐々にゆっくり進行するプロセスからくること。
⑤茹でられた蛙の寓話:
 徐々に変化していくプロセスを見極める力を養うには、現在の慌ただしいペースを緩め、全体像を見極めた上で、派手なものだけでなく目立たないものにも注意を払う必要がある。
⑥体験から学ぶという錯覚:
 人は経験から最も多くのことを学ぶが、重要な決定の場合は大抵(その影響が長期にわたるため)、その帰結を直接には経験しない。
⑦経営チームの神話:
 経営チーム=組織の様々な機能と専門分野を代表する有能で経験豊富な管理職の一団のはずが、実際には会社の現状を擁護し、保身のための能力だけに長けた「熟練した無能」集団と化す。
●システム思考の法則
①今日の課題が昨日の「解決策」からくる。
②システムは押せば押すほど強く押し返す(補償的フィードバック)
③状況は一旦好転してから悪化する
④安易な出口は通常元に戻る
⑤治癒策が病気そのものより問題になることがある
⑥急がば回れ
⑦原因と結果は時間的・空間的に近隣しているとは限らない
⑧小さな変化が大きな結果を生むことがある。しかし一番効果のある手段はしばしば一番見えにくい。
⑨ケーキを手に入れ、しかも味わうことができる(同時にではないが)
⑩1頭の象を分割しても2頭の小象にはできない
⑪罪を着せる外部はない...etc.

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○経営思想家トップ50 ランクイン(スチュワート・D・フリードマン)

リーダーシップとWLBの統合。仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の「四面勝利」を目指す。

トータル・リーダーシップ.jpg


 

 
 


    スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman).jpg スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman)
トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』(2013/04 講談社)

Total Leadership.jpg 著者は、ペンシルベニア大学ウォートン・スクール教授で、リーダーシップ開発とワーク・ライフ・バランスに関する第一人者であり、"Integrating Work and Life: The Wharton Resource Guide"(1998年、「仕事と人生の統合」)、"Work and Family - Allies or Enemies? "(ジェフ・グリーンハウスとの共著、2000年、「仕事と家庭は両立するのか」)など、ワーク・ライフ・バランス、リーダーシップ、変革のダイナミズムについての単著や共著が数多くあるそうですが、何れの著書も、人生のあらゆる面においてパフォーマンスを向上させるにはどうすればよいかをテーマとし、職場、家庭、地域社会、自分自身の間に共通する価値を見出すことを説いているようです。

 本書はそうした著者の近著で、米国でベストセラーとなった"Total Leadership: Be a Better Leader, Have a Richer Life"(2008年、「トータル・リーダーシップ:より良いリーダーになり、より良い人生を過ごす」)の翻訳であり、著者が唱えるところの、リーダーシップとワーク・ライフ・バランスを統合させた「トータル・リーダーシップ」の強化ステップやその内容等について、著者がペンシルバニア大学で実際に行っている講義に沿ってテキスト化したものです。

 「トータル・リーダーシップ」の目的は、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の4つの領域における「四面勝利」であり、一般にはレード・オフと思われがちなこれら4領域が実は相互連関しているとの新発見から、新たな人生は始まるとしています。

 本書で示された「トータル・リーダーシップ」の3つのステップは、
  1.自分の価値観に基づくビジョンを抱き(Be Real)
Total Leadership Be a Better Leader Have a Richer Life.png  2.そのビジョンに向けてまわりを巻き込み(Be Whole)
  3.ビジョンの実現に向けて行動する(Be Innovative)
であり、学べる内容は、
  ・自分の価値観を知るための考え方
  ・自分のストーリーを語って人を巻き込む方法、
  ・価値あるゴールやビジョンを生み出す方法
などとなっています。

 仕事、家庭、コミュニティ、自分自身で各「円」を描かせて、その大きさや重なり具合から、その人の人生における比重の置き方や価値観の一致度をみるやりかたは興味深いですが、これも、キャリアカウンセリングなどでは随分以前から用いられている手法ではないでしょうか。

岡本祐子氏(広島大学教授)の「成人期の発達を規定する2軸・2領域」
アイデンティティ.jpg リーダーシップとワーク・ライフ・バランスの統合という意味で一見新しさを感じる一方、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の4つの領域の「調和」という考え方は、これも日本のキャリア心理学の研究者の中に既にかなり以前から提唱している人がいるように思われ(岡本祐子氏の「アイデンティの螺旋式モデル」など)、但し、目指すところが「四面勝利」といった具合に、「勝利」を強調しているところがアメリカ的かもしれません(「自分の夢を磨き上げる力、周りの人を巻き込む力、変化を起こす力を強化する全く新しいメソッド」という言い方は、何となく自己啓発セミナーみたい)。

 本書の内容自体も、講義と言うよりワークショップでの実践を開示している部分が主で、そのワークショップには、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の4つの領域において様々な局面にある人々が集い、彼ら(彼女ら)がワークショップを通じてどのように変わっていったかが書かれており、理論よりも、この問題にどう取り組み、それをどう実生活に生かしていくかというプラグマティカルな視点が前面に出されています。

 ワークショップ型のカウンセリングみたいな感じでしょうか(ところによってはセラピーみたいな印象も)。このやり方でのワークショップを運営していくには、相当のファシリテーションやカウンセリング、コーチングのスキルが求められる気がしますし、そうしたものが盛んに行われているアメリカと、そうでもない日本との背景の違いは感じざるを得ません(著者の講義風景をウォートン・スクールのサイトの動画で見ると、この人、プレゼンテーションも上手みたい)。

 著者の本邦初訳本(本書は5年前に『ワーク・ライフ・バランスの実践法―仕事も私生活も犠牲にしない』('08年/ダイヤモンド社)として邦訳されているようだが旧版は絶版になっていたようだ)の内容がいきなりこうした実践編であることの良し悪しはあるように思いましたが(訳者は、ウォートン校でMBA課程修了し、その間、日本人初の学生自治会長も務めたという長島・大野・常松法律事務所の塩崎彰久弁護士)、先に挙げた日本の学者の論文もあるように、理論部分にはそう新しいものでもないのかも。従って、日本人個人にとっても、考え方が応用できる部分はあるようには思いましたが、これをメソッドとして、大学の授業の中で展開するところがアメリカ流と言うかウォートン流なのかも。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ジム・コリンズ/モートン・ハンセン)

不確実性の時代に高成長を遂げた企業及びリーダーの特質を、実証的に検証。

ビジョナリー・カンパニー44.JPG
ビジョナリー・カンパニー4.png
 ビジョナリー・カンパニー1.jpg ビジョナリー・カンパニー2.jpg ビジョナリー・カンパニー3.jpgビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる』['12年]  『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』['95年] 『ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則』['01年]『ビジョナリーカンパニー3 衰退の5段階』['10年]
    
ジム・コリンズ(Jim Collins).jpg ビジョナリー・カンパニーシリーズの第4弾となる本書(原題:"Great by Choice: Uncertainty, Chaos, and Luck--Why Some Thrive Despite Them All"、2011)では、「経営規模が脆弱な状況でスタートし」、「不安定な環境下で目覚ましい成長を遂げ、偉大な企業となった」事例を調査対象として選抜しています。

ジム・コリンズ(Jim Collins)元スタンフォード大学経営大学院教授

モートン・ハンセンMorten_Hansen.jpg そして、それらの企業が業界の株価指数を少なくとも10倍以上も上回る株価パフォーマンスを示していることから、それらを「10X(10倍)型企業」と命名し、一方、同じ環境下で、かつては優位にありながら「偉大になれなかった企業」(衰退した企業)を「比較対象企業」として挙げ、両者を歴史分析することによって、「10X倍型企業」および「10X型リーダー」の特質とは何かを分析してします。

モートン・ハンセン(Morten Hansen)UCBerkeleyおよびINSEAD教授。ボストンコンサルティング出身。

 高成長企業とダメになってしまった企業の比較歴史分析という点では、『ビジョナリー・カンパニー―時代を超える生存の法則』('95年/日経BP社)、『ビジョナリー・カンパニー2-飛躍の法則』('01年/日経BP社)などと同じですが、高成長や卓越さといった視点に加えて、置かれた環境の厳しさを指標に加えて事例を選んでいるのが本書の特徴です(衰退した企業をも調査対象としている点では、『ビジョナリー・カンパニー3-衰退の5段階』('10年/日経BP社)とも同じ)。

 例えば航空業界であれば、サウスウェスト航空(10X倍型企業)とPSA(比較対象企業)を、コンピュータ業界ではマイクロソフト(10X倍型企業)とアップル(比較対象企業)を取り上げ、歴史データをもとにリーダーのとった経営戦略の推移から対比するなどし、そのほかにフトウェア、バイオ、半導体、保険、医療機器の各業界から「10X型企業」と「比較対象企業」をそれぞれ1社ずつ選んで対比させています(アップルは、調査対象期間の関係で「比較対象企業」とされているが、スティーブ・ジョブズの復帰後の彼の行動は、「10X型リーダー」のそれとして解説されている)。

 それらの企業研究から、10X型リーダーの特徴的行動パターンとして、「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」の三つを抽出し、それぞれを「二十マイル行進」「銃撃に続いて大砲発射」「死線を避けるリーダーシップ」というキー・フレーズのもとに解説しています。

 「二十マイル行進(狂信的規律)」においてはリスクマネジメントと持続的改善活動の重要性を説き、「銃撃に続いて大砲発射(実証的創造力)」では、具体性のある創造力の重要性、「死線を避けるリーダーシップ(建設的パラノイア)」では、最大限の準備を怠らないことの大切さを説いています。

 そうした中で、例えば「大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー」であるといった"神話"に対し、現実には、未来を予測できるビジョナリーではなく、「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前に進んだのであって、比較対象企業のリーダーよりリスク志向でも大胆でもなく、またビジョナリーでも創造的でもない。より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである―といったように、従来の"神話"を幾つも覆している点も興味部深いです。

 また、「10X倍型企業」には、「具体的で整然とした一貫レシピ」<SMaC(Specific Methodical and Consistent)>があり、「10X型リーダー」は運だけで成功したのではなく、成功する原則を死守したから「偉大」になれたのであって、言い換えれば「自分の意思によって偉大に」なったのであるとしています。

 『ビジョナリー・カンパニー2』で「バスに乗せる人」と「降ろす人」を厳格に決めることが重要であると説いた「まず人選ありき」といった概念をはじめ、これまでのシリーズにあった「ハリネズミの概念」「基本的価値観」「BHAG(不可能なぐらい高い目標)」「カルト的文化」「ストックデールの逆説」「時を告げるのではなく、時計を作る」「衰退の五原則」「弾み車」と言った概念については、前作で十分説明されているとして、本書では意識的に触れていませんが、本書で述べられていることは、それらを具体的な行動レベルに落とし込んだものとも言えます。

 広い意味で「経営書」と言うより「啓蒙書」ですが、著者が師とするドラッカーの著作に倣って、データによる裏付けがきっちりしていて説得力のあるものとなっているうえに、世界で初めて南極点に到達したアムンゼンと、遅れて南極点に到達した後に隊員が全員死亡したスコットの詳細な比較分析例などを用いて、「10X倍型企業」と「比較対象企業」の違いにあてはめながら解説したりするどしているため、読みやすく、また、分かりやすいものとなっています。

 ベンチャー企業の経営者などに人気のあるシリーズですが、この不確実性の時代においては、どういった企業の経営者が読んでも啓発される要素がある本であると思われ、また、「経営者を支える」経営専門家(役員・経営幹部がそれに該当すると思われるが)にも読んでほしい本である―ということは、とりもなおさず、人事パーソンにも読んでほしい本、ということになります。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)

《読書MEMO》
●崩れ去った神話(31‐33p)
○【神話】大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー。
【意外な現実】我々の調査対象になった10X型リーダーは、未来を予測できるビジョナリーではない。「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前に進む。比較対象リーダーよりリスク志向ではなく、大胆でもなく、ビジョナリーでもなく、創造的でもない。より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである。
○【神話】:刻々と変化し、不確実で混沌とした世界で10X型リーダーが際立つのはイノベーションのおかげ。
【意外な現実】驚いたことに、イノベーションは成功の鍵ではない。確かに10X型企業も多くのイノベーションを起こす。しかし、我々の調査では「10X型企業が比較対象企業よりもイノベーション志向である」という前提を裏付けるデータは出てこなかった。10X型企業が比較対象企業よりもイノベーションで劣るケースさえあった。我々の予想に反し、イノベーションだけでは切り札にならないのだ。より重要なのは、イノベーションをスケールアップさせる能力、すなわち創造力と規律を融合させる能力である。
○【神話】脅威が押し寄せる世界ではスピードが大事。「速攻、そうでなければ即死」ということ。
【意外な現実】環境が急変する世界では、素早い判断と素早い行動が求められるから、「どんなときでも即時・即決・即行動」という哲学を取り入れる、これは破滅を招く効果的な方法だ。10X型リーダーはいつアクセルを踏み、いつ踏んではならないかを理解している。
○【神話】外部環境が根本的に変化したら自分も根本的に変化すべき。
【意外な現実】外部環境が急変しても、10X型企業は比較対象企業ほど変化しない。劇的変化に見舞われて世界が揺れ動いたからと言って、自分自身が劇的変化を遂げる必要はない。
○【神話】10X型成功を達成した偉大な企業は多くの運に恵まれている
【意外な現実】全体として見ると、10X型企業が比較対象企業よりも強運であるとは限らない。幸運だろうが不運だろうが、10X型企業も比較対象企業も共に同じ程度に多くの運に遭遇している。成功の鍵を握っているのは、運に恵まれているかどうかではなく、遭遇した運とどのように向き合うかである。

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「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(マーカス・バッキンガム)

マネジャー論(育成本能)、リーダーシップ論(未来志向)としても、啓蒙書としても上質。

The One Thing You Need to Know: About Great Managing, Great Leading and Sustained Individual Success.jpg最高のリーダー2.jpg 最高のリーダー.jpg マーカス・バッキンガム(Marcus Buckingham).jpg マーカス・バッキンガム     
The One Thing You Need to Know: ... About Great Managing, Great Leading, and Sustained Individual Success (English Edition)最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』('06年/日本経済新聞社)
Marcus Buckingham
Marcus Buckingham2.jpgMarcus Buckingham.jpg こうした「最高の」とか「たったひとつの」のとかをタイトルに冠した最近の本は、中身を読んでも、その「最高」や「たったひとつの」が当たり前過ぎてしょうも無かったり、或いは沢山のことを取り上げ過ぎていて結局は何が「たったひとつ」なのかよく分からなかったりすることが多いのですが、少し以前('06年)に刊行された本書は、至極まともなマネジャー論、リーダーシップ論であり、啓蒙書です。

 原題は"The One Thing You Need To Know...About Great Managing, Great Leading, and Sustained Individual Success"(2005)で、ギャラップの調査員だった著者(Marcus Buckingham(左写真)、現在は作家兼コンサルタントとして執筆・講演活動を行っている)が、多くのマネジャー、リーダー、仕事面での成功者へのインタビューを通して得た知見に基づいて、優れたマネジャー、優れたリーダー、個人として継続して成功を収めている人に共通する特性を、それぞれに端的に絞り込んで示しており、まさにタイトル通りの内容となっています。

 まずマネジャーとリーダーの違いについての考察から入って、ドラッカーら先人達のマネジメント論やリーダーシップ論を引きつつ、すぐれたマネジャーは部下の成功を手助けせずにはいられない「教育本能」を持っていることを示しています。

ウォルグリーン1.jpg ケーススタディとして挙げている、「ウォルグリーン」(Walgreens、米国最大のドラッグストア・チェーン)で、販売員として最高成績を収めている店員の話が大変面白い。この店員はインド人の女性で、昼間コンピュータの専門学校に通いながら、夜間零時過ぎから朝まで働いていて、要するに夜間パートなのですが、その彼女がどうして多くの店員の中でトップの成績を収めることができたのか、そこに、上司である日系人店長の、彼女の能力を最大限に引き出し、それを業績に結び付ける創意と工夫があることが分かり、優れたマネジャーは「部下一人ひとりの個性」に注目し、その個性が活かせるように、彼らの役割や責任の方を作り変えるとしています(これを「チェスをする」という表現をしている)。

鉱山事故.jpg最高のリーダー、マネジャーがいつも 事例.jpg 一方、優れたリーダーは、今どこに向かっているのかを明確にすることで、皆が抱く未来への不安を取り除くとしていて、ここでは、2002年に起きたペンシルバニア州ケイクリーク鉱山事故で、坑内に閉じ込められた作業員らの生きる望みを繋いだ男性のケーススタディが出てきますが('10年のチリの鉱山で落盤事故で33人が奇跡の生還を遂げた出来事を彷彿させる)、これも凄く説得力があります。

 そのケーススタディを通して言えることは、優れたリーダーとは、「部下達に共通する不安を取り除いて」今とれる行動は何かを明らかにすることで「未来を描く」ことができる人であるということです。不安は将来が不明確であることから生じるものであり、そのために、人々が一番明確さを求めているのはどこかを探ることが、リーダーの最初の役割ということになります。

 優れたマネジャーが「部下一人ひとりの個性」に注目するのに対し、優れたリーダーは「部下達に共通する不安」に注目する、優れたマネジャーは、個人の特色を発見し活用するのに対し、優れたリーダーは、将来の不安を取り除いてより良い未来に向けて皆を一致団結させる、優れたマネジャーは会社の指示や業績よりも「人間」そのものに関心があり、一方、優れたリーダーは「未来」志向であり、現実を冷静に見極めながらも、その未来に対しては楽観的な姿勢を失わない―こうした対比が(図表など一枚も用いていないが)スンナリ飲み込める内容となっています。

 著者自身は、リーダー「素質」論者のようですが、一方で、生まれつきのリーダーはいないという考えで(本書では遺伝学や脳科学的な考察もあって、これもトンデモ本にあるようないい加減なものではなく、知的関心をそそられるもの)、より良きリーダーとなるには、情熱的でも魅力的でなくてもいい、弁舌に長けてなくてもいい、ではより良きリーダーとなるにはどのようなことに関心を払い努力すればよいのかということについても書かれています。

 マネジャー論、リーダーシップ論として纏まっており、啓蒙書としても上質、且つ面白く読める本だと思います。

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ジョブズの多面性をそのままに描く。こんな劇的な話があっていいのかと思うくらい面白かった。

スティーブ・ジョブズ 偶像復活.jpg スティーブ・ジョブズ 偶像復活2.bmp スティーブ・ジョブズ 1977.jpg Steve Jobs.jpg Steve Jobs
スティーブ・ジョブズ-偶像復活』['05年/東洋経済新報社] AppleⅡを発表するスティーブ・ジョブズ(1977)本書より

ウォルター・アイザックソン スティーブ・ジョブズ.jpg アップル創業者スティーブ・ジョブズ(1955-2011/享年56)の半生記であり、ジョブズの伝記はこれまでも多く刊行されていますが、昨年['11年]10月にジョブズが亡くなったことで、ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ(上・下)』('11年10月/講談社)をはじめ、多くのジョブズ関連本がベストセラーにランクインすることとなりました。

 アイザックソン版は絶妙のタイミングでの邦訳刊行でしたが、取材嫌いのスティーブ・ジョブズが唯一全面協力した「本人公認の決定版評伝」とのことで、スティーブ・ジョブズという人の評伝を読むに際し、彼のキャラクターからみて果たしてそのことがいいのかどうか。上下巻に渡る長さということもあり、翻訳の方もかなり急ぎ足だったことが窺えるようで、同じ井口耕一氏の翻訳によるものですが、本書の方を読むことにしました。

 本書は、原著も'05年刊行であり、ジョブズの生い立ちから始まって、一度はアップルを去った彼が倒産寸前のアップルに復帰し、iPod等で成功を収めるまでが描かれていますが、翻訳はこなれていて読み易く、ジョブズの歩んできた道が成功―挫折―復活の繰り返しであったこともあって、とにかく内容そのものが波瀾万丈、こんな劇的な話があっていいのかというくらい面白かったです。

ジョブズ nhk.bmp 個人的には、ちょうどNHKスペシャルで「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」('11年12月24日放送)を見たところでしたが、それと照らしても、偏りの少ない伝記と言えるのではないでしょうか。元々が毀誉褒貶の激しいジョブズですが、そのスゴイ面、人を強烈に引きつける面と、ヒドイ面、友人や上司にはしたくないなあと思わせる面の両方が書かれていて、それでいて、ジョブズに対する畏敬と愛着が感じられました。

 単巻ながらも約500ページの大著ですが、アップル創業時代を描いた第1部(21歳でアップルを創業し、僅か4年で「フォーチュン500」に名を連ねる企業にするも、経営予測を誤り'85年に同社を追われる)、追放時代を描いた第2部(NeXT社を設立する一方、ルーカス・フィルムの子会社を買収して設立したピクサーで成功を収め、表舞台に復帰する)、アップル復帰以降の第3部(13年ぶりにアップルに復帰するやiMac('98年)をヒットさせ、更にiPod('01年)、iTunesなどのヒットをも飛ばす)とバランスよく配分されています。

「マッキントッシュ」新発売コマーシャルと発表するジョブズ(1983)
steve jobs 1983.jpg アップルの共同創業者や自らが引き抜いた経営陣との確執のほかに、同年代のライバルであるビル・ゲイツとの出会いや彼との交渉、Windowsの牙城を切り崩そうするジョブズの攻勢なども描かれていますが、ピクサーでの仕事におけるディズニー・アイズナー会長との様々な権利を巡るビジネス面での交渉が特に詳しく描かれており、アメリカのコンピュータ業界の内幕を描いた本であると同時に、映画ビジネス界を内側から描いたドキュメントにもなっています。

Luxo Jr.(1986)
Luxo Jr.jpg NHKスペシャルの「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」を見て、彼の人生には幾つかの印象的な場面が印象的な映像と共にあったように思われ、とりわけ、'84年のマッキントッシュ発売の際のジョージ・オーエルの『1984』をモチーフとしたコマーシャル(CM監督は「ブレードランナー」('82年)のリドリー・スコット)や、'86年のCGの可能性を如実に示した"電気ランプ"の親子が主人公の短篇映画「ルクソーJr.」(Luxo Jr.)、'95年の「世界初のフル3DCGによる長編アニメーション映画「トイ・ストーリー」などが個人的には脳裡に残りました。

「トイ・ストーリー」(1995)
トイ・ストーリー1.jpg 「トイ・ストーリー」以外は番組で初めて見ましたが、そうした映像のイメージもあって本書を比較的身近に感じながら読むことができ、「トイ・ストーリー」も、初めて観た時はCGが進化したなあと思っただけでしたが、ジョブズが買収も含め個人資産を10数年も注ぎこむも全く利益を生まなかったピクサーが、土壇場で放った"大逆転ホームラン"だったと思うと、また違った感慨も湧きます(この作品だけでも公開までの4年間の投資額は5千万ドルに及び、「こんなに金がかかるなら投資しなかった」とジョブズは語っているが、本作のヒットでピクサー株は高騰し、結果的にジョブスの資産は4億ドル増えた)。

 そもそも、ジョブズのアップル復帰そのものが、次世代マッキントッシュの開発に失敗したジョブズ無き後のアップルが、次世代OSを求め、その開発に当たっていたNeXT社を買収、それに伴いジョブズの非常勤顧問という形でのアップル復帰が決まったわけで、それを機にジョブズは経営の実権を握るべくポリティックな画策をするわけですが、この「トイ・ストーリー」のヒットが、ジョブズの立場を押し上げ強固なものとする追い風になったのは確かでしょう。

 「トイ・ストーリー」に続くピクサー作品も、興行記録を次々塗り変えるヒットで、その生み出す利益があまりに膨大であるため、本書にあるようなディズニー・アイズナー会長との確執ということに繋がっていったのでしょうが、その後アイズナーの方は会長職を追われ、ジョブズはピクサーをディズニーに売却すると共に、ディズニーの筆頭株主に収まるという決着となっています。

iMacを発表するジョブズ(1998)
iMac 1998.jpg 人々を惹き付ける素晴らしいプレゼンテーションをする一方で、傲慢な人柄で平気で人を傷つけ、また、類まれなイノベーターとして製品のデザインや性能への完璧主義的なこだわりを持つ一方で、相手の弱みに付け込む政治的画策も厭わない冷酷な経営者という一面も持つ―こうしたジョブズの多面性が、本書では充分に描かれているように思いました。

 彼の次の視野には、マイクロソフトからコンピュータ業界の覇権を奪回すべく、Windows及びOfficeに匹敵するようなOSやアプリの開発があることが本書では示唆されていますが、実際に彼が'07年1月のMacworld 初日の基調講演で発表した新製品は、次世代携帯端末のiPhoneだった―徹底した秘密主義というのもあるかと思いますが、ほんの1年か2年後にどんな(しかもメガヒットとなる)製品を出すのか、誰も予測がつかなかったということなのでしょうか。

トイ・ストーリー17.jpgトイ・ストーリー dvd.jpg「トイ・ストーリー」●原題:TOY STORY●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ラセター●製作:ラルフ・グッジェンハイム/ボニー・アーノルドズ●脚本:ジョス・ウィードン/アンドリュー・スタントン/ジョエル・コーエン/アレック・ソコロウ●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ランディ・ニューマン●時間:81分●出演:トム・ハンクス/ティム・アレン/ドン・リックルズ/ジョン・モリス/ウォーレス・ショーン/ジョン・ラッツェンバーガー/ジム・バーニー●日本公開:1996/03●配給/ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン(評価★★★☆)
トイ・ストーリー [DVD]

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「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ウォレン・ベニス)

『リーダーシップの王道』の最新版。"原著"の中ではかなり読み易い方。

ウォレン・ベニス 本物のリーダーとは何か.jpg 『本物のリーダーとは何か』['11年]リーダーシップの王道.jpg 『リーダーシップの王道』['87年]

ウォーレン・ベニス.jpg リーダーシップ論を語るに際して必ずその名が挙がるウォレン・ベニス(Warren Bennis)とバート・ナナス(Bart Nanus)ですが、本書は、1985年に原著が刊行された"Leaders"(邦訳『リーダーシップの王道』('87年/新潮社))の'07年改定版の翻訳で、本書以前に'95年に第2版、'03年にペーパーバック版が刊行されていますが、旧著を何度かブラッシュアップし、時代に適合させている点は、ピーター・ドラッカーなどと"やり方"が似ているかも(但し、ドラッカーがリーダーシップを単独テーマとして取り扱うようになったのは、かなり後の方だが)。

Warren Bennis

リーダー.jpg 本書の前半部においては、「リーダーであるかどうかは生まれつきの資質による」というリーダーシップに関する従来の「誤解」を解くとともに、優れたリーダーが組織を導くための戦略として、
 戦略Ⅰ:人を引きつけるビジョンを描く、
 戦略Ⅱ:あらゆる方法で「意味」を伝える、
 戦略Ⅲ:「ポジショニング」で信頼を勝ち取る、
 戦略Ⅳ:自己を創造的に活かす、
 の4つを挙げています。
 この4項目が彼らのリーダーシップ観の核であり、本書の後半部は、この4項目に各1章を割いて解説するものとなっています。

 「ビジョンなき組織に未来はない」というのはその通りだと思いますが、特徴的だと思われる点は、リーダーはビジョンを描くだけではなく、組織のメンバーがビジョンを理解し、参加し、自分のものとしてもらうために、組織の「社会構造」を設計しなければならないとしている点で、社会構造の形態としては3つあり、合理的組織、個人的組織、形式的組織があるとしています。
 リーダーは、組織全体が自分のビジョンを受け入れサポートするよう、組織の社会構造を管理し、必要に応じて変えることができなければならないということであり、これが、あらゆる方法で「意味」を伝えるということに当たります。

 その際に重要なのが、組織の「ポジショニング」を明確にするということであり、組織を取り巻く環境の中で組織が生き残っていくのに最適な場所を確立しなければならないとのことですが、環境とは常に変化するものであり、その変化に対応するための、選択可能な戦略と実際的な方法をも示しています。

 4つ目の「自己を創造的に活かす」の部分は、組織の学習能力の向上に主眼を置いて説かれており、学習する組織を作るためのポイントを、「オープン」と「参加」という2つのキーワードで解説しています。

 最後に、リーダーシップに関する5つの神話が示され、「リーダーシップは、一握りの人にしかない技術である」といった「神話」を再度否定していますが、本書は、こうした旧来のリーダーシップ観のパラダイム変革を促しただけでなく、ジョン・コッターの「変革のリーダーシップ」論やピーター・センゲの「学習する組織」論の先駆け的要素をも含んでいます。

 また、マネジメントとリーダーシップの違いを明確にした点でも、ジョン・コッターなどに与えた影響は大きいかと思われますが、一方で、ヘンリー・ミンツバーグなどからは、まさにその点を批判されています

 このように、リーダーシップ論は、ドラッカーならドラッカーだけを読んでいればいいといいうものではないでしょう。また、理論をそのまま適用するのではなく、基本的エッセンスを応用の足がかりとすることが肝要なのでしょう。

 できれば多くの先人達が自ら著した本を読むことが、環境の変化に対応可能な、自分なりの「基本」を持つことができるようになる近道ではと思います。そうした意味では、本著は"原著"の中ではかなり読み易い(元々の英語版も読みやすい方だと思うが、改版を重ねる内に翻訳の方も更に読み易くなった?)方だと思います。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ヘンリー・ミンツバーグ)

マネジャーの仕事ぶりの観察研究からマネジャーの実像を探った、啓発される要素の多い本。

Managing Henry Mintzberg .jpgマネジャーの実像.jpg  ヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg).jpg ヘンリー・ミンツバーグ マネジャーの仕事.jpg
マネジャーの実像 「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』(2011/01 日経BP社)『マネジャーの仕事』('93年/白桃書房)
Managing by Henry Mintzberg

マネジャーの実像2.JPG  ヘンリー・ミンツバーグ(Mintzberg, H.)の"Managing"(2009)の訳書で、ミンツバーグには『マネジャーの仕事("The nature of managerial work"、1973)』('93年/白桃書房)という名著がありますが、前著は、5人の企業経営者に密着してその仕事ぶりを1週間観察研究することで、マネジャーの仕事の在り方を考察したものでした。36年ぶりに書き改められた今回のこの本では、29人のマネジャーの仕事ぶりを29日間観察研究し、そこからより深くマネジャーの実態を探っています。

 400ページを超える大著ですが、マネジメントに関心を持つすべての人に向けて書かれたものであり、マネジメントとは何か、マネジャーは日常どう行動し、それはどのような意味を持つかが分かり易く説かれているため、今現在マネジャー職に就いている人が自分の普段の行動や役割を振り返るうえで参考になるだけでなく、マネジャーと一緒に仕事をしている人、マネジャーの選考や評価、育成に携わる人にとっても、啓発される要素の多い本であると思います。

 前著『マネジャーの仕事』では、マネジャーの仕事を、過酷なペース、頻繁な中断、書面以外のコミュニケーションの多さ、行動志向の強さなど、「マネジャーの仕事の特徴」面からと、看板役、障害処理役など、「マネジャーの仕事の基本的役割」面という2つの視点から論じていましたが、本書でマネジャーの仕事の特徴面を分析している箇所は、基本的に前著に準拠しています(つまり、マネジャーが仕事に追われている状況は、現在も当時と何ら変わっておらず、むしろ強化されていると)。

 一方、マネジメントという仕事の内容(マネジャーの役割)については、「情報」「人間」「行動」という3つの次元でその仕事をとらえるモデルを提唱するとともに、29人のマネジャーの仕事ぶりを観察研究することから得られた、マネジャーが取る「基本姿勢」の類型(例えば、業務の円滑な進行を重視する姿勢、ミドルマネジメント層の枠内でマネジメントを行う姿勢、組織を外部環境と結びつける姿勢など)を示しています。

 更に、マネジメントに際して陥る、上っ面症候群、現場との関わりの難題、権限委譲の板挟みなどの避けて通れないジさまざまなジレンマを31項目にわたって論じたうえで、「有効なマネジメントとは何か」というテーマに挑み、マネジャーとして成功する人とは、MBA教育やリーダーシップ礼讃論に毒されているナルシストではなく、経験と常識を備えた「普通の人物」であり、マネジャーには飛び抜けた才能よりも、常識的に、そして明晰にものを考えられる頭脳が必要なのかもしれないと結論づけています。

 著者によれば、マネジメントとは、決して解決しないパラドックスと矛盾とミステリーに向き合う仕事であり、本書は、マネジメントに関する既存の常識を補強するために書かれた本ではなく、マネジメントについての新しい見方を世に問い、みんなで考えるように背中を押すことを目的としたものであるとのことです。

 本書では、リーダーシップをマネジメントの一つの要素として位置づけていて、ウォーレン・ベニスやジョン・コッターのようなMBAを席捲したリーダーシップ理論とは異なる立場をとっており、ドラッガーすら批判の対象となっています。

 そうしたリーダーシップ論への関心から本書を手にするのもいいし、サブタイトルにある「管理職」はなぜ仕事に追われているのかという素朴な疑問から読み始めても、随所で頷かされることの多い本ではないかと思います。

マネジャーの仕事.jpg【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)


《読書MEMO》
●リーダーは、マネジメントを他人まかせにしてはいけない。マネジャーとリーダーを区別するのではなく、マネジャーはリーダーでもあり、リーダーはマネジャーでもあるべきなのだと、理解する必要がある(13p)
●私たちがリーダーシップにこだわればこだわるほど、好ましいリーダーシップの実例が減っていくように見える(13p)
●マネジメントはサイエンスでもなければ専門技術でない。マネジメントは実践の行為であり、主として経験を通じて習得される(14p)
●マネジメントとは「いまいましいことが次々と降りかかる仕事なのだ(30p)
●マネジメントの現場では、重要な仕事とありきたりの雑務が不規則に混ざり合っているように見える。そのためマネジャーには、頻繁に、しかも素早く気持ちを切り替えることが求められる(32p)
●マネジャーは経済学で言う「機会損失」を恐れているようだ。ほかの仕事を放置して一つの仕事に専念すると、好ましい結果を得そこなうのではないかという不安に駆られているのだ(35p)
●マネジャーは、電話や会議や電子メールを終えて「仕事に戻る」のではない。こうしたコミュニケーションこそがマネジャーの仕事なのだ(40p)
●マネジャーは指揮者でもなければ、マリオネットでもない。状況をすべてコントロールできるわけではないが、まったくコントロールできないわけではない(49p)
●インターネットはマネジャーの仕事の性格を根本から変えるのではなく、この仕事に以前から見られる傾向を強化している(インターネットの影響でマネジャーはますます仕事に追われるようになった)(60p)。
●マネジャーにとって重要なのは、コントロールすることではなく、コントロールすることばかりを考えないようにすることだ(86p)
●《マネジャーの失敗のパターン》ザル型マネジャー(あまりにやすやすと外部の影響を組織内に流れ込ませる)、ダム型マネジャー(外部から影響を受けることを自分のところでとどめすぎる)、スポンジ型マネジャー(重圧をほとんど自分自身で受け止める)、ホース型マネジャー(ホースで水をまき散らすように、外部の人たちに強力な圧力をかける)、水滴型マネジャー(外部に対して、水がポタポタ落ちる程度にしか圧力をかけられない)
●バランスのとれたマネジメントは、そのときどきに直面する課題に合わせて、さまざまな役割の比重を絶えず変化させることによって実現する(146p

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジェフリー・フェファー)

「人材を活かす企業」になるための条件を示す。いま日本で注目されるのは、ある意味、皮肉?

人材を生かす企業.jpg人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式.jpg   ジェフリー・フェファー  『隠れた人材価値』.jpg ジェフリー・フェッファー(Jeffrey Pfeffer).jpg Jeffrey Pfeffer
人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか? (トッパンのビジネス経営書シリーズ (21))』『人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式』 『隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密 (Harvard Business School Press)

 本書は、1998年に米国で刊行され、同年に日本でも翻訳刊行された『人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか?』(トッパン)の12年ぶりの復刊本であり、原著は、MBAプログラムのコアカリキュラムと選択科目の両方で学ばれる古典的な名著です。
 著者のジェフリー・フェファー米スタンフォード大学教授は、同じスタンフォード大のチャールズ・オライリー教授との共著『隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密』('02年/翔泳社Harvard Business School Pressシリーズ)などの名著もある人です。

 そのフェファー教授は、本書において、人員削減によるコスト削減を批判し、優れた人材管理能力(人材の活用と育成が図られる企業のしくみ)に基づいた収益向上こそが重視されるべきであると主張しています。

人材を活かす企業1.jpg 今でこそ、人材価値に重きをおくことは、人材マネジメントの不変的トレンドとしてずっとあったかのように思われていますが、著者によれば、また、監修者の守島基博・一橋大学教授もあとがきで書いていますが、本書刊行当時の米国では、人材重視の経営は珍しいことであり、多くの企業は、従業員の存在を無視して、競争に勝つための戦略にばかり気をとられていたとのことです。

 その結果、事業の売買やダウンサイジング(規模縮小)が横行し、派遣社員やアルバイトなどの臨時雇用が急増して、社内の結束力が弱体化したとしています(参照しているのは主に80年代から90年代にかけての米国の企業事例だが、まるで2000年代の日本のことのように読める)。

 一方で、第2章では、人材重視の施策をとった一部の企業の成功事例を、業種別に引いています(その中には日本企業も含まれている)。
 更に、第3章では、「人材を活かす企業」になるための7つの条件として、①雇用の保証、②採用の徹底、③自己管理チームと権限の委譲、④高い成功報酬、⑤幅広い教育、⑥格差の縮小、⑦業績情報の共有を挙げていますが、何よりも、生産性を上げるためには雇用の保障が大切であるとしているのが目を引き、更に、社員教育の重要性を説いているのが印象に残りました。

 人材マネジメント全般を扱った本ですが、畳みかけるように豊富な事例を繰り出す一方で(こうした事例を多く読むことも啓発効果に繋がるかも)、章ごとに論旨が分かりやすく結論づけられていますし、例えば、第6章のでは、安易なダウンサイジングを批判しながらも、どうしてもリストラをしなければならない場合の望ましい方法について述べるなど、現実対応にも触れています。

 賃金制度の立案・運用に携わっている人事担当者などは、第7章の「給与問題へのアプローチ」から重点的に読んでみる読み方もあるのではないでしょうか。上記「人材を活かす企業」の7つの条件の「④高い成功報酬」とは異なる観点から、個人対象の業績給(成果に基づく変動給)の問題点を厳しく指摘しています(チームワークや信頼を損ない、社員が報酬を争って敵対すると)。

 守島氏があとがきで書いているように、この本が出た1998年当時まで、日本の多くの企業は、本書で著者が提唱する「人材を活かす企業」であり、それまで人材は、企業のなかで貴重な資源として、尊重され、育成され、ある程度の長期雇用を保証されてきた―それが、バブル崩壊以降、多くの日本企業は、短期的な雇用関係に移行しつつあった米国をモデルとして追従してしまった―という見方も成り立ち、本書から多くの示唆が得られるというのは、ある意味まさに皮肉であるように思います。

 日本企業も、「人材軽視」が当たり前になってしまったとは思いたくありませんが、本書の論旨が、「普通のこと」(=人材軽視の経営)をしていてはダメだという論調になっているのが興味深かったです。
 欧米には、「ベストプラクティス・アプローチ」の理論が伝統的に根強くあり、いま現在もそれを指向していて、日本企業もグローバル・スタンダードの潮流の中で、それに巻き込まれようとしているという見方もできるのではないでしょうか。

 この辺りに興味を持たれた読者には、須田敏子・青山学院大学教授の『戦略人事論―競争優位の人材マネジメント』('10年/日本経済新聞出版社)へ読み進まれることをお勧めします。 

 欧米における戦略人事の2大潮流であるベストプラクティス・アプローチとベストフィット・・アプローチをベースに置きながら、企業における人材マネジメントの形成・定着・変化のメカニズムを知るための包括的戦略人事のフレームワークを提示するとともに、日本型人材マネジメントの変化のメカニズムの分析を通して、日本型人材マネジメントの今後の課題を浮き彫りにした力作ですが、実はこの本では「フェファー理論」は差別化モデル(ベストフィット・モデル)ではなくハイ・パフォーマンス・モデル(ベストプラクティス・モデル)の一環として位置づけられています。

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要するに「内発的動機づけ」理論。読みやすいが、ほとんど新味が感じられない。プレゼン上手。

モチベーション3.0 .jpgダニエル・ピンク(Daniel Pink).jpg
モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(2010/07 講談社)
ダニエル・ピンク(Daniel Pink)著述家、ジャーナリスト、スピーチライター。 Daniel Pink in 「TED」

 タイトルから、新しいモチベーション論を展開している本かと思う人も多いのではないかと思いますが、そうではなく、これまでの動機づけ理論の流れを分かり易くまとめた1冊といった方が適切でしょう(読み易いことは読み易い)。

モチベーション3.0 週刊東洋経済.jpg 人を動かす力、つまりモチベーションを、コンピュータを動かす基本ソフト(OS)に喩え、〈モチベーション1・0〉が、生存(サバイバル)を目的としていた人類最初のOSだったのに対し、〈モチベーション2・0〉は、アメとムチ(信賞必罰)に基づく、与えられた動機づけによるOSであるとしています。
 そして、その〈モチベーション2・0〉は、ルーチンワーク中心の時代には有効だったものの、今日では機能不全に陥っているとしています。
from「週刊東洋経済」

 では、〈モチベーション3・0〉とは何かというと、それは、自分の内面から湧き出る「やる気」に基づくOSであり、活気ある社会や組織をつくるのは、この新しい「やる気=ドライブ」であるとしています(本書の原題は"Drive")。

 アメとムチによる〈モチベーション2・0〉がうまくいかない理由を、心理学の実験による検証例によって解説し、賞罰制度の問題点を指摘する一方、「内発的動機づけ」による"新しい"モチベーション論を展開していて、「全米大ベストセラー」の書とのことですが、6年前に日本でベストセラーになった、高橋伸夫氏の『虚妄の成果主義』(日経BP社)に書かれていたことと、成果主義に対する批判的検証の手法も含め、論旨はほぼ同じであるように思えました。

 「内発的動機づけ」理論は、高橋氏のあの本によって日本のビジネス界でも広く知られるところとなり、ある種の心理主義に過ぎないのはないかという批判もあった一方で、その後も、太田肇氏による「承認欲求論」や、キャリア発達論とリンクさせた「自律的人材論」として、より実務に近いかたちで理論的に深耕されてきたように思います。

 そうした中で本書を読んでも、それほど"新しさ"を覚えないのは当然であり(本書を読んで「目から鱗が落ちた」と今さら言う方が問題)、むしろ、行動心理学などの分野の多くの先達たちが唱えたことが分りやすく解説されているので、原点に立ち返る意味での復習と自己啓発にはいいかもしれません。

 事例紹介も豊富で、ベストバイの元役員が編み出したROWEという、仕事の成果さえあげればどこでいつ何をやろうが構わないという仕事のスタイルを、あるシステム会社で導入したところ、効率が大幅に向上し、しかもこの環境に慣れた人は年収が上乗せされても転職しない傾向が強いとか、アトラシアンというシステム会社では3カ月に一度「Fedex Day」というのを設けていて、これは「24時間、好きなことをしていいが、その成果を必ず上げること」というものですが、このFedex Dayから売れ筋商品が生まれることもしばしばだといった事例は、確かに、先進事例として分りやすいことは分かりやすいです。でも、どこかで読んだことがあるようなものばかりと言えなくもありません

Daniel Pink in TED.jpg また、〈モチベーション3・0〉の3つの要素として、「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」を挙げていますが、やりがいのある仕事を自律性のもとですることができて、さらにそのことによってスキルの向上が図れるのであれば、当然のことながら「やる気」は持続するであろうし、それが自らの人生の目的と合致するのであれば、なおさらのことであるという、言わば、当たり前のことを言っているに過ぎないともとれます。

 帯に、「時代遅れの成果主義型ver.2.0は創造性を破壊する」「停滞を打破する新発想!」とあり、この点での"新味"は感じられなかったものの、同じく帯に、「あなたは、まだver.2.0のままです」ともあり、頭ではわかっていても、実際にはまだ「信賞必罰」的な(マクレガーの「Ⅹ理論」的な)考え方に捉われがちな経営者やマネジメント層に向けた、"自己啓発本"とみていいでしょう(結局のところ、それほど悪い本ではないが、もの足りないといったところか)。

 訳者は大前研一氏(の名前になっている)。マネジメント誌などで取り上げられ、人事専門誌などでも、この「3.0」という考え方に沿った連載などもありましたが、流行ること自体は別に構わないと思うけれど...。

 ダニエル・ピンクは、2011年の「Thinkers50-経営思想家ベスト50」にランクイン(29位)。最近、自己啓発家色を強めているけれど、この人の代表作はやはり、米国クリントン政権下で労働長官の補佐官、ゴア副大統領の首席スピーチライターを務めた後、ホワイトハウスを出て1年間にわたり全米をヒアリング調査して纏めた現代社会論(同時に未来社会論でもある)『フリーエージェント社会の到来』('02年/ダイヤモンド社)でしょう(実務者が自己啓発家に転じる例は日本でも見られるが...)。

モチベーション3.0文庫.jpgモチベーション3.0 文庫.jpg【2015年文庫化[講談社+α文庫]】

   


モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)


【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント) 

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○経営思想家トップ50 ランクイン(アル・ゴア)

"プレゼン"上手。危機が今一つ実感できない人には(誇張表現に留意しながらも)「見て」欲しい本。

不都合な真実.jpg 『不都合な真実』['07年]         アル・ゴア.jpg Al Gore

 地球温暖化問題を提起した同名映画"An Inconvenient Truth"('06年)で紹介された映像やデータをもとに出版された本で、衛星写真を含む多くのカラー写真と斬新な切り口やレイアウトの図説は、この問題の深刻さをわかり易く短時間で見る者に伝えるものとなっています(本を読むというより、プレゼンテーション・スライドを見ているような感じ)。

パイプライン.jpg 例えばこの問題で、湖水面積が激減したチャド湖のことなどはよく引き合いにされますが、本書では、衛星写真でのチャド湖の10年刻みの変化を見せるなど、「対比」の手法を効果的に用いていて、"プレゼン上手"という印象を受けました。
 ロシアなどは、永久凍土が溶けて豊富な地下資源が入手しやすくなると喜んでいる人間が一部にいる、といった話を聞いたことがありますが、永久凍土が溶けて建物が崩れたり道路がぬかるみ化している写真を見ると、温暖化問題で得する国は(少なくとも国レベルでは)どこも無いように思えます(アラスカなどではパイプラインを支える支柱の陥没し、パイプに破損被害が生じているらしいが、ロシアも同じ状況だろう)。

An inconvenience truth.jpg 国内政治的な意図を含んだ本であり、人為的な気候変動のリスクに対する評価を行っている政府間機関(ICCP)の見解を容れながらも、映画同様、元大統領候補のゴア氏が前面に登場し、京都議定書を批准しないブッシュ政権を批判しています。

 最終的には政策提言にまで持っていくことが望ましく、その意図を否定はしませんが、映画でもなされた「グリーンランドの氷床が近いうちに全て溶け、海面位が7m上昇する」などといった記述は、映画の段階で既に英国高等法院が「科学的な常識から逸脱している」と指摘していて、ICCPの見解を超えた誇張表現が、映画にも本書にも少なからずある模様(英国高等法院は映画の「9つの誤謬」を指摘している)、本書が米国中心で書かれていることと併せて気になる点ではあります。

 ただ、個人的には、「見せ方」の旨さに感服させられた本でもあり、ビジュアル化するとややこしい話もこんなにすっと解るものかと感じ入った次第。
 そこが本書の危うい点でもあるかも知れませんが、英高等法院が注意を促したような部分はあるにしても、地球温暖化の危機が今一つぴんと来ない人には是非「見て」欲しい本です。

《読書MEMO》
●英高等法院が注意を促した映画「不都合な真実」の9つの誤謬
(1) 西南極とグリーンランドの氷床が融解することにより、"近い将来"海水準が最大20フィート上昇する。
 《英高等法院判決》 これは明らかに人騒がせである。グリーンランド氷床が融解すれば、これに相当する量の水が放出されるが、それは1000年以上先のことである。
(2) 南太平洋にある標高の低いさんご島は、人為的な温暖化によって浸水しつつある。
 《英高等法院判決》 その証拠はない。
(3) 地球温暖化が海洋コンベアを停止させる。
 《英高等法院判決》 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、混合循環として知られるこの海洋コンベアは、鈍化することはあっても、将来停止することは可能性はかなり低い。
(4) 過去65万年間の二酸化炭素(濃度)の上昇と気温上昇の2つが正確に一致している。
 《英高等法院判決》 この関係性については、確かにおよその科学的合意が得られているが確立されたものではない。
(5) キリマンジャロ山の雪が消失していることには、地球温暖化が明確に関連している。
 《英高等法院判決》 キリマンジャロ山の雪の減少が主として人為的な気候変動に起因するとは確立されていない。
(6) チャド湖が乾上ったという現象は、地球温暖化が環境を破壊する一番の証拠。
 《英高等法院判決》 この現象が地球温暖化に起因すると確立するには不十分。それ以外の要因、人口増加、局地的な気候の多様性なども考慮すべき。
(7) 多発するハリケーンは地球温暖化が原因である。
 《英高等法院判決》 そう示すには証拠が不十分である
(8) 氷を探して泳いだためにホッキョクグマが溺死した。
 《英高等法院判決》 学術研究では「嵐」のために溺れ死んだ4匹のホッキョクグマが最近発見されたことのみが知られている。
(9) 世界中のサンゴ礁が地球温暖化やほかの要因によって白化しつつある。
 《英高等法院判決》 IPCCのレポートでは、サンゴ礁は適応できる可能性もある。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジョン・P・コッター)

リーダーシップとマネジメントは別、組織変革を促すのは前者だと指摘。

コッター.jpgwhatleadersdo.jpg  ジョン・コッター(John Kotter).jpg ジョン・コッター(John Kotter) ハーバード・ビジネススクール(松下幸之助記念リーダーシップ講座)名誉教授
リーダーシップ論―いま何をすべきか』(1999/12 ダイヤモンド社) John P. Kotter on What Leaders Really Do (Harvard Business Review Book)Executive Leadership Skills.bmp
 1999年に原著刊行の本書(原題:John P. Kotter on What Leaders Really Do)は、リーダーシップ論のバイブルとまで言われている本です。
 本書の要諦は序章にまとめられていて、つまり、リーダーシップとマネジメントは別物であり、「マネジメントの仕事は、計画と予算を策定し、階層を活用して職務遂行に必要な人脈を構築し、コントロールによって任務をまっとうすること」であるのに対し、「リーダーとしての仕事は、ビジョンと戦略をつくりあげ、複雑ではあるが同じベクトルを持つ人脈を背景とした実行力を築き、社員のやる気を引き出すことでビジョンと戦略を遂行することである」ということです(25p)。

 著者は本書で、リーダーシップの新しいスタイルを述べているのではなく、リーダーシップの普遍的性質を解き明かそうとしているのですが、その1つに、マネジメントがオフィシャルな組織ラインを通じて実行されるのものであるのに対し、リーダーシップはインフォーマルな人的ネットワークを構築して組織に働きかけるものであると言っています。 

 これは著者が有能とされるゼネラル・マネジャーに対するインタビューと実地調査をまとめた『ザ・ゼネラル・マネジャー』('82年発表)で、その行動特性としての「人的ネットワーク構築」を指摘していたことと符合します(本書の最終章に同趣旨の要約あり)。

 実際に組織を動かす人は、マネジメントとリーダーの仕事の両方をこなすわけですが、組織を変革しようとする際の原動力はリーダーシップにあり、変革が急がれる部門にマネジメント重視の管理者を置いても変革は進まないという著者の指摘は、経営者が社内ポストやプロジェクトへの人員配置を考える際のヒント乃至チェックポイントになるのではないでしょうか。

 個人的には、リーダーというのは素質的なものもあると思うのでが、著者は、リーダーは育成できるものだとしています(ただし、同時に不足しているとも言っている)。
 優れたリーダーというのはインフォーマルな人的ネットワークの構築ができ、そうした依存関係の中でパワーを発揮しているというのが著者の見方で、エンパワーメント(権限委譲)が次のリーダーを育成し、組織改革を促すという点は、大いに賛同するところです。

 本書の序章には、コッター教授の有名な「成果に導く組織変革の8段階」なども示されていますが、本書に書かれていることは何れも実地で生かされなければ意味が無いわけで、まずリーダーシップとマネジメントの違いを日常において意識することから始めてみてはどうでしょうか。

【2012年・第2版】【2208】 ◎ ジョン・P・コッター(黒田由貴子/有賀裕子:訳) 『第2版 リーダーシップ論―人と組織を動かす能力』 (2012/03 ダイヤモンド社) ★★★★★

《読書メモ》 
●成果に導く組織変革の8段階
 第1段階:「危機意識を高める」
 第2段階:「変革推進チームをつくる」
 第3段階:「ビジョンと戦略を掲げる」
 第4段階:「ビジョンと戦略を周知徹底する」
 第5段階:「行動の障害を取り除く」
 第6段階:「短期的な成果を生みだす」
 第7段階:「さらなる変革を推進する」
 第8段階:「新しい文化を定着させる」 

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マネジメントの総合書であり教科書であると同時に、質の高い啓蒙書。

ドラッカーマネジメント.jpgマネジメント 基本と原則 エッセンシャル版.jpg 抄訳マネジメント.jpg ピーター・F・ドラッカー03.jpg Peter Drucker
マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]』 〔'01年〕 『抄訳マネジメント―課題・責任・実践』 〔'75年〕

 1974年、ピーター・F・ドラッカー(1909‐2005)は大著『マネジメント-課題・責任・実践』('74年/ダイヤモンド社)において独自の経営論を体系化し、ドラッカー経営学ともいうべき大著に仕上げましたが、その「抄本」は、米国の大学やMBAコース、セミナーなどでもテキストとして使われており(ちなみに、この"圧縮版"も、著者とは別の人がサマリーを作ったのではなく、ドラッカー自身が書いている)、日本でも『抄訳マネジメント』('75年/ダイヤモンド社)として親しまれてきました。本書はその「抄訳」の内容をほぼ移植したものです。 

Peter Ferdinand Drucker.bmp ドラッカーは'70年代に既に、「経済学のフリードマン」と並び称される「経営学の泰斗」としてその名を馳せており、経営に「マネジメント」という考え方を入れたのも、「目標管理」という概念を開発したのもこの人ですが、にも関わらず「経営学者」というより「思想家」に近いかも知れず、'80年に出版されたThe Best of Everything という本では「教祖のベスト」としてその名が挙げられていて、本書なども「啓蒙書」的な感じがします。

 ただし、本書を読んで実感するのは、産業界の事実をよく観察した上でロジックをあてはめ、それに社会学や心理学的な視点からの人間的要素を加味し(この点が読者の共感を呼ぶ要因の1つだと個人的には思っていますが)、トータルな理論体系を構築している点です。

 企業とは何かということから説き起こしているように、先ず巨視的にマネジメントの使命・目的・役割論から入って、マネジメント課題の次元とそれぞれの次元に求められているものを整理したうえで、組織や人の問題、トップの役割やマネジメント戦略について語っています。

 企業の機能は「マーケティングとイノベーション」であるとスッパリ定義してみせるなど、切り口も纏め方も明快で読みやすく、マネジメントの総合書であり教科書であると同時に、ビジネスパーソンにとって質の高い啓蒙書でもあると思います。
 
【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

《読書MEMO》
●企業=営利組織ではない。企業の目的は社会貢献であり、ただし、高い利益をあげて、初めてそれができる(14p)
●「企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす」(16p)
●労働における5つの次元...生理的・心理的・社会的・経済的・政治的次元(59p)
●心理的支配...マクレガーの〈X理論とY理論〉に関し、産業心理学はY理論への忠誠を称するが、その前提たるやX理論そのものである(65p)
●働き甲斐を与えるのは「責任と保障」であり、責任の条件には
 1.生産的な仕事、
 2.フィードバック情報、
 3.継続学習
 の3つが不可欠(73p)
●「人こそ最大の資産である」必要なのは実際に行うことである(81p)
 1.仕事と職場に対して、成果と責任を組み込む
 2.共に働く人たちを生かすべきものとして捉える
 3.強みが成果に結びつくように人を配置する
●「目標管理の最大の利点は、自らの仕事ぶりをマネジメントできるようになることである」(140p)
●組織の条件(198p)...
 1.明快さ
 2.経済性
 3.方向づけの容易さ
 4.理解の容易さ  
 5.意思決定の容易さ
 6.安定性と適応性
 7.永続性と新陳代謝
●五つの組織構造(204p)...
 1.職能別組織
 2.チーム型組織
 3.連邦分権組織(事業部制?)
 4.擬似分権組織
 5.システム型組織(CFT?)

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジャック・ウェルチ)

話題になったウェルチ流の事業戦略・人材戦略・リーダーシップ。

ジャック・ウェルチわが経営.jpg ジャック・ウェルチわが経営 下.jpgジャック・ウェルチわが経営<上><下>』 ('01年/日本経済新聞社)

ジャック・ウェルチ.jpg 本国出版、日経連載、日本語出版の間が1ヶ月という早業だったと思いますが、文庫化('05年4月)も、M&Aが巷間に話題の折で、ある意味ジャストタイミングでした。

Jack Welch

 まず注目は事業戦略。「ナンバー1・ナンバー2戦略」は、実践例と共に読む者をひきつけますが、有名なこの戦略は、あのピーター・ドラッカーの言葉からヒントを得てるようです。
 たしかにすさまじい"M&Aぶり"ですが、一方で買収企業の企業文化がGEのそれと相容れるかどうかを重視していることもわかります。組織戦略、人材戦略においてもそうですが、"価値観"重視です。

 その人材戦略の1つ、トップ20%がAの人達で、活性化すべきは真ん中70%のBの人達、ボトム10%のCのの人達には会社を去ってもらうというのは、管理職に限っての話ですが、徹底しています。
 日本のS社では早速マネして社員に同じことを導入し、すぐさま解雇争議となり、会社側が敗訴しています。

 一時期"日本版ウェルチ待望論"がありましたが、大企業でどれだけそうした事例があったでしょうか。
 日本的リーダーシップとなるとまた違ってくるのでしょうか。
 競争心の強い彼の性格(自身が唱えるリーダーシップの4Eの1つ"Edge"(決断力)には競争心という意味合いもある)が随所に表れていますが、自分の上司やライバルがこんな人だったらちょっとキツイなあと、個人的には思ったりもして...。 

 ジャック・ウェルチ型の経営がいかに米国企業でもてはやされたかということについては、例えば冒頭の「ナンバー1・ナンバー2戦略」に関して、米国の家電メーカーなどはすべてGEに倣ってこれに追随したということにも表れているかと思います。
 ここで言われている「ナンバー1・ナンバー2戦略」とは、グローバル市場においてナンバー1・ナンバー2になり得ない分野からは撤退するという意味であり、1980年代の終わりまでには、米国の家電メーカーはカラーテレビや冷蔵庫を製造しなくなり、それらの製品について米国はすべてを輸入に頼っています。

 【2005年文庫化[日経ビジネス人文庫(上・下)]】

《読書MEMO》
●ナンバー1かナンバー2でなければ、再生、売却、もしくは閉鎖(上178p)
●活性化カーブ...Aプレイヤートップ20、Bバイタル70、Cボトム10(上250p)
●Aプレイヤーの4つのE...
 ・活力(Energy)
 ・周囲の活力を引き出す(Energize)
 ・決断力(Edge)
 ・実行力(Execute)
 各々Pationにより結びつく(上251p)

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 ○経営思想家トップ50 ランクイン(ビル・ゲイツ)

「面接本」としてより、「パズル本」としての充実度の方が高い?

ビル・ゲイツの面接試験.jpg 『ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?』(2003/06 青土社) Fuji.jpg "How Would You Move Mount Fuji?: Microsoft's Cult of the Puzzle--How the World's Smartest Companies Select the Most Creative Thinkers"

Bill Gates.jpgBill Gates.jpg 米国のコンピュータ会社の採用面接において「パズル問題」が用いられることは伝統的なもののようですが、マイクロソフトのそれは、ビル・ゲイツのパズル好き、パズルによって人の思考能力が測れるという信念に負うところ大であるという印象を、本書を読んで受けました。
Bill Gates

 マイクロソフトにおける面接の歴史だけでなく、米国におけるIQテストの歴史やそれに対する評価の変遷(それがもたらした悲喜劇)などについても触れられており、IQテストに限界があり、「あなたの強みと弱みは何ですか?」というありふれた質問にもさほど意味が無いとすれば、そんな質問をする代わりに「論理パズル」をしたほうが良いというのはわからないでもないです。

 マイクロソフトの採用試験で出された「論理パズル」が多く紹介されており、その中には純粋な「論理パズル」もあれば、サブタイトルの問題や「世界中にピアノの調律師は何人いるか」などといった正解の無い問題もあり、後者の問題は、「くだらない」「わかりっこない」と思ったら受験者の負けで、根気強く解答に行き着く道筋を考えていく、いわば問題解決への意志力を見ているように思えます(少なくとも〈右脳的〉発想力を見ている問題ではない)。
 何れにせよ、著者も述べているように、本書で取り上げているのは質問のたたき台であり、そのまま模範例として使えるものは少ないでしょう。

面接.jpg 面接の第一印象は、はじめの数秒で決まり、その印象が変わることはほとんど無いということはよく言われますが、それを実験データーで示しているのには説得力があり、また、面接の指針として「ストレス面接はしない」「面接評価は申し送りしない」など共感できる部分もありましたが、全体には今ひとつまとまりがなく、本書が結構売れたのはタイトルのお陰ではないかと思います。

 「面接本」としてよりも「パズル本」としての充実度の方が高いのは(本文中にあるマイクロソフトの「論理パズル」の解答に後半100ページ費やしている)、著者がゲーム理論の解説書『囚人のジレンマ』('95年/青土社)の著者と同じ人物であることも関係しているでしょう。

 「南へ1キロ、東へ1キロ、北へ1キロ歩くと出発点に戻るような地点は、地球上に何ヵ所あるか」という問題の答えが「北極点」だけでないことに、本書で初めて気づきました。
 読み物として楽しめるものの、そうしたことを知る目的で本書を手にしたわけではなかったのですが...。

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

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