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入門書として分かり易く、また全体にバランスよく纏まっている。将来予測は興味深かった。

これだけは知っておきたい働き方の教科書.jpg
  あんどう・むねとも.jpg 安藤至大(あんどう・むねとも)氏[from ダイヤモンド・オンライン
これだけは知っておきたい働き方の教科書 (ちくま新書)

 NHK(Eテレ)の経済学番組「オイコノミア」やBSジャパン「日経みんなの経済教室」などにも出演している新進気鋭(だと思うが)の経済学者・安藤至大氏による「働き方」の入門解説書。1976年生まれの安藤氏は、法政大学から東京大学の大学院に進み、現在は日本大学の准教授ですが、最近はネットなどで見かけることも多く、売出し中という感じでしょうか。

 第1章で、「なぜ働くのか?」「なぜ人と協力して働くのか?」「なぜ雇われて働くのか?」といった基本的な疑問に答え、第2章で、「働き方の現状とルールはどうなっているのか?」「正社員とは何か?」「長時間労働はなぜ生じるのか?」「ブラック企業とは何か?」といった日本の「働き方の現在」を巡る問題を取り上げ、第3章で「働き方の未来」についての予見を示し、最終第4章で今自分たちにできることは何かを説いています。

 経済学者として経済学の視点から「労働」及びそれに纏わる今日的課題を分かり易く説明するとともに、労働法関係の解説も織り交ぜて解説しており(この点においては濱口桂一郎氏の著作を想起させられる)、これから社会人となる人や既に働いている若手の労働者の人が知っておいて無駄にはならないことが書かれているように思いました。

 まさに「教科書」として分かり易く書かれていて、Amazon.comのレビューに、「教科書のように当たり前なことの表面だけが書かれていて退屈だった」というものがありましたが、それはちょっと著者に気の毒な評価ではないかと。元々入門解説書として書いているわけであって、評者の視点の方がズレているのではないでしょうか。個人的には悪くなかった言うか、むしろ、たいへん説明上手で良かったように思います。

 例えば「正規雇用」の3条件とは「無期雇用」「直接雇用」「フルタイム雇用」であり、それら3条件を満たさないものが「非正規雇用」であるといったことは基本事項ですが、本書自体が入門解説的な教科書という位置づけであるならばこれでいいのでは。労働時間における資源制約とトレードオフや、年功賃金と長期雇用の関係などの説明も明快です。

 第2章「働き方の現在を知る」では、こうした基本的知識を踏まえ、日本的雇用とは何かを考察しています。ここでは、「終身雇用」は、高度成長期の人手不足のもとでのみ合理的だったと思われがちだが、業績変動のリスクを会社側が一手に引き受けることにより、平均的にはより低い賃金の支払いで労働者を雇うことができ、その企業に特有な知識や技能を労働者に身につけさせるという点においても有効であったとしています。また、法制度の知識も踏まえつつ、解雇はどこまでできるか、ブラック企業とは何かといったテーマに踏み込んでいます(著者は、解雇規制は緩和する前に知らしめることの方が重要としている)。

 更に第3章「働き方の未来を知る」では、著者の考えに沿って、まさに「働き方の未来」が予測されており、この部分は結構"大胆予測"という感じで、興味深く読めました。

 そこでは、少子高齢社会の到来によって近い将来、労働力不足が深刻化し、高齢者は働けるうちは働き続けるのが当たり前になると予測しています。更に、妻や夫が専業主婦(夫)をしているというのはとても贅沢なことになるとも。一方で、労働力不足への対処として外国人労働者や移民の受け入れが議論されるようにはなるが、諸外国の経験も踏まえて議論はなかなか進まないだろうともしています。

 また、機械によって人間の仕事が失われる可能性が今より高くはなるが、仕事の減少よりも人口の減少の方が相対的にスピードが速く、やはり、労働力を維持する対策が必要になるとしています。

 雇用形態は多様化し、安藤至大 (あんどうむねとも) (@munetomoando).jpg限定正社員は一般化して、非正規雇用も働き方の1つの選択肢として考えられ、また、社会保障については、企業ではなく国の責任で行われる方向へ進み、職能給や年功給は減少して職務給で雇われる限定正社員が増えるなどの変化が起きる一方で、新卒一括採用は、採用時の選別が比較的容易で教育コストなども抑えられることから、今後もなくならないだろうとしています。

 入門書の体裁をとりながらも、第3章には著者の考え方が織り込まれているように感じられましたが、若い人に向けて、今だけではなく、これからについて書いているというのはたいへん良いことだと思います。個別には異論を差し挟む余地が全く無い訳では無いですが、全体としてはバランスよく纏まっており、巻末に労働法や労働経済に関するブックガイドが付されているのも親切です(「機械によって人間の仕事が失われる」という事態を考察したエリク・ブリニョルフソン、 アンドリュー・マカフィー著『機械との競争』('13年/日経BP社)って最近結構あちこちで取り上げられているなあ)。
安藤至大 (あんどうむねとも) (@munetomoando)

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 働き方の仕組みを知る
1 私たちはなぜ働くのか?
生活のために働く
稼得能力を向上させるために働く
仕事を通じた自己実現のために働く
2 なぜ人と協力して働くのか?
自給自足には限界がある
分業と交換の重要性
比較優位の原理
比較優位の原理と使い方
「すべての人に出番がある」ということ
3 なぜ雇われて働くのか?
なぜ雇われて働くのか
他人のために働くということ
法律における雇用契約
雇われて働くことのメリットとデメリット
4 なぜ長期的関係を築くのか?
市場で取引相手を探す
長期的関係を築く
5 一日にどのくらいの長さ働くのか?
「収入-費用」を最大化
資源制約とトレードオフ
限界収入と限界費用が一致する点
6 給料はどう決まるのか?
競争的で短期雇用の場合
長期雇用ならば年功賃金の場合もある
取り替えがきかない存在の場合
給料を上げるためには
コラム:労働は商品ではない?

第2章 働き方の現在を知る
1 働き方の現状とルールはどうなっているか?
正規雇用と非正規雇用
正規雇用の三条件
7種類ある非正規雇用
非正規雇用の増加
2 正社員とはなにか?
正規雇用ならば幸せなのか
正社員を雇う理由
正規雇用はどのくらい減ったのか
3 長時間労働はなぜ生じるのか?
長時間労働の規制
長時間労働と健康被害の実態
なぜ長時間労働が行われるのか
一部の労働者に仕事が片寄る理由
4 日本型雇用とはなにか?
定年までの長期雇用
年功的な賃金体系
企業別の労働組合
職能給と職務給
中小企業には広がらなかった日本型雇用
5 解雇はどこまでできるのか?
雇用関係の終了と解雇
できる解雇とできない解雇
日本の解雇規制は厳しいのか
仕事ができる人、できない人
6 ブラック企業とはなにか?
ブラック企業はどこが問題なのか
なぜブラック企業はなくならないのか
どうすればブラック企業を減らせるのか
コラム:日本型雇用についての誤解

第3章 働き方の未来を知る
1 少子高齢社会が到来する
生産年齢人口の減少
働くことができる人を増やす
生産性を向上させる
2 働き方が変わる
機械により失われる仕事
人口の減少と仕事の減少
「雇用の安定」と失業なき労働移動
3 雇用形態は多様化する
無限定正社員と限定正社員
働き方のステップアップとステップダウン
非正規雇用という働き方
社会保障の負担
4 変わらない要素も重要
日本型雇用と年功賃金
新卒一括採用
コラム:予見可能性を高めるために

第4章 いま私たちにできることを知る
1 「労働者の正義」と「会社の正義」がある
「専門家」の言うことを鵜呑みにしない
目的と手段を分けて考える
会社を悪者あつかいしない
2 正しい情報を持つ
雇用契約を理解する
労働法の知識を得る
誰に相談すればよいのかを知る
3 変化の方向性を知る
働き方は変わる
失われる仕事について考える
「機械との競争」をしない
4 変化に備える
いま自分にできることは何か
これからどんな仕事をするか
普通に働くということ

おわりに

ブックガイド:「働くこと」についてさらに知るために

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上から目線で尚且つ分かりにくい。昭和的なものに凝り固まっている旧来型人事の体現者か。

働く。なぜ? 講談社現代新書1.jpg 中澤 二朗 『働く。なぜ?』.JPG働く。なぜ? (講談社現代新書)「働くこと」を企業と大人にたずねたい.jpg 『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』['11年]

 自分で勝手に名付けた「"やや中古"本に光を」シリーズ第1弾(エントリー№2270)。以前に著者の『「働くこと」を企業と大人にたずねたい―これから社会へ出る人のための仕事の物語』('11年/東洋経済新報社)を読み、巷ではそこそこ好評であるのに自分には今一つぴんと来ず、自分の理解力が足りないのか、或いはそもそも相性が悪いのかなどと思ったりもしました。文中にあまりに"考え中"のことが多いような気がして、しかもその"考え中"のことを"考え中"のまま書いているような気がし、そのモヤっとした感じが全体にも敷衍されていて、図説等にもその傾向がみられたように思います。

 今回、同じ著者の本書を読んでみて、また同じような印象を持ちました。前著を読んだ際も感じましたが、著者は真面目な人なのでしょう。今回も、停滞する日本経済がアジア全体の成長に置いていかれ気味な今日、日本で働くことの意味を今一度見つめ直し問い直そうとする真摯な姿勢は感じられました。しかし、如何せん、"考え中"のことを"考え中"のまま書いているという前著での著者のクセは治っていないどころか進行しており、理解に苦しむ図説が再三登場します。

 今回も自分だけが物分かりが悪いのかと思って(ちょっと心配になって?)Amazon.comのレビューなどを見ると、ほかにもそういう人は多くいたようです。まあ、前著同様に良かったという人もいるようですが、個人的には、あまりに我田引水、唯我独尊的な論理展開並びに見せ方に感じられ、大企業の人事出身者に時折見られる上から目線的なものを感じました。

 今まで1万人と面接したとか、ベンチャー企業を起こして売り込みをかけているわけでもないのに、そんなことを誇ってはいけません。冒頭の留学生の疑問に対する回答をはじめ、「日本型雇用の素晴らしさ」を説き、「40年ひとつの会社で働くことの意味」を語っているところなど、逆にこれまでの経験が仇(あだ)になって、昭和的なものに凝り固まってそこから抜け出せないでいる旧来型の人事の体現者のように思えてしまいます。

 「日本は就職ではなく就社」なんて今頃言っているし、「石の上にも三年、下積み十年」という考えが著者の職業人生の礎でありモットーであったのかもしれないけれど、それを上から目線で人に押しつけるのはマズイのではないでしょうか(人事の人って自分が特別な人間だと思い込んでいる人がたまにいるけれど)。

 後半になると「名著名言」の引用だらけで、う~ん、「第2の佐々木常夫」を目指しているのか、この人は。それは著者の勝手ですが、Amazon.comのレビューでも指摘されていたように、M.ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」について致命的な誤読があります。それも旧約聖書と読み間違えたのかというくらい真逆の読み方になっていて、あとがきで謝辞を献じられている大先生らは本書についてどう思っているのか、老婆心ながらもやや心配になりました。本書に関して言えば、「中古本」に光は当たらずじまいか。

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多すぎる「正論」が社員の働く気力を削ぐという切り口は興味深かったが...。

会社が正論すぎて、働きたくなくなる90.JPG会社が正論すぎて、働きたくなくなる.jpg
会社が正論すぎて、働きたくなくなる 心折れた会社と一緒に潰れるな (講談社+α新書)』['14年]

細井 智彦 使える人材」を見抜く 採用面接.jpg 『「使える人材」を見抜く 採用面接 』('13年/高橋書店)などの著書のある大手人材支援会社(リクルート系)に属する面接コンサルタントによる本書は、前半部分で、効果・効率を追求するあまりに「正論」がはびこる会社の現状と、それに追い詰められることによって、働く人ばかりでなく会社自体が"うつ化"しやすくなっていることを訴えています。そして、後半部分では、働く人が「心が折れるような状態」から脱するための対処法を示しています。
「使える人材」を見抜く 採用面接』['13年]

 著者がここで言う「正論」とは、「ポジティブ思考」「効果・効率」「イノベーション」「コンプライアンス」といったものであり、そうした「正論」に取り囲まれているゆえに、まともに抵抗すると個人の心が折れてしまい、働く気力を削がれ、疲弊感が再生産されて、それが、会社自体の"うつ化"に繋がっているということです。

 会社の"うつ化"のサインとして、「上司の態度が変わりパワハラが増えた」「会社が現場を無視し生の声を聞かなくなった」「以前にも増してマニュアル支配が強まった」「不正防止が強化され罰則が目立つようになった」等々が挙げられています。逆に"うつ化"しにくい企業の特徴は、「会社が目指したい将来像や姿勢、こだわりを明文化したものがあり、実際に事業の判断で活かされている」「数字や効率だけでなく、人の気持ちを大切にし、それを最大限活かすために金銭以外で社員にやりがいを与えることができている」――つまり、「ビジョン」が示され「働きがい」があるということになるようです。

 組織を論じるにあたって"うつ化"という言葉を使用することの是非はあるかと思いますが(著者は"比喩"だと断っているが)、「閉塞感」として捉えれば、それほど抵抗はなく読めるかと思います。「ノベーション」「グローバル」「チャレンジ」といった抽象的な言葉が、ホームページや会社のパンフレットに矢鱈に多く使われている企業は要注意であるという指摘などは興味深いものでした。

 一方で"うつ化"しにくい企業の事例は幾つか挙げられているものの、その中にも「燃え尽き症候群」を引き起こしそうなものもあり、実際には多くの企業が、多かれ少なかれ "うつ化"しやすい要素としにくい要素の両面を持っているようも思いました。

 働く個人が"うつ化"しやすい組織にいる場合のアドバイスとしては、自分のこだわりを大事にし、息抜きの時間を作ったりするなど、会社から距離を置く客観的姿勢も有効だとしていますが、処方箋としてはやや弱いかなという印象も。最後に「6ヵ月後に転職すると決める」というのがきているのは、それも一手だと思う一方で、著者の仕事柄からくる意見ともとれます。

 著者としては、これまでの「採用本」から一皮剥けたというか、新境地の著書といった感じ? 全体としてさらっと読めましたが、分析部分はまあまあなのに対し、提言部分のインパクトが弱いのは、リクルート系の著者らに共通することなのでしょうか。一応、部下を持つ上司や企業側に対しても提言をしていますが...。

 企業側に対しては、経験値を持つベテランを評価し、人の非効率を評価する余地を残し、「社内外のコミュニュケーションを改善する」「否定的な意見を含めて多様な意見を出しやすくする」などして"働きがいを最大化する社風"を築くことを提言してはいますが、多分に示唆的ではあるものの、それらの提言自体がさほど具体性をもって述べられていないため、どうしても読後にもの足りなさを覚えざるを得ませんでした。多すぎる「正論」が社員の働く気力を削ぐという切り口は興味深かっただけに、分析部分に比べて提言部分のインパクトが弱いのがやはり残念です。

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定年起業の勧めと心構え。読後感は悪くないが目新しさはないか。内容ズレしたタイトルが気になった。

65歳定年制の罠.jpg65歳定年制の罠 (ベスト新書)』['13年]

 全6章構成で、第1章で、「65歳定年時代」の隠された罠―つまり、65歳定年と言っても再雇用制度が中心で、給料は半分近くに激減し、不安定な身分と理不尽な配属が待っていて、場合によっては「追い出し部屋」に入れられるかもしれない、といった"怖い"話が続き、一方、第2章では、そうは言っても年金だけでやっていくのは難しく、定年延長後も働かなければならない現実があることを、年金制度についての解説を交えながら説明し、第3章では、そうした老後の破綻リスクに備えるために、今の内からマインドセットをして定年後に備えておくことが必要であるとするとともに、米国では50代で独立して会社をスタートさせる人が多く、日本にもアクティブなシニア経営者がいることを紹介しています。

 それを受けるような形で、後半部分の第4章では、「個人のキャリアをフルに活かす」「借金は最大のリスクであると知る」といった、定年起業を成功に導くための10か条について説き、第5章では、起業家たちの事例から失敗から立ち上がる者が成功することを示し、第6章では、定年を機に起業した先輩たちについてのより突っ込んだ取材に基づく事例を紹介するとともに、趣味を活かした起業の注意点をこれも具体的な取材例を掲げて述べ、最終第7章では、ボランティアやNPOという道もあることを示しています。
 
 タイトルから"怖い"ことばかりが書かれた本だと思われがちですが、後半部はシニア起業、定年起業に関する指南書的な内容で、取材事例には励まされるものが多く、読後感は意外と爽やかなものでした。

 著者自身は、日本興業銀行か勤務時代にMBAを取得し、その後、J・P・モルガン、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズの投資銀行各社のマネージング・ディレクターを経て経営コンサルタン会社を立ち上げた人で、そうなると、一般の人はちょっと引いてしまいそうな印象もありますが、著者の同新書の前著が『自分の年金をつくる』であることからも窺えるように、金融アドバイザリーからシニア・ライフ・コンサルティングへ主業が移りつつある模様。本書も、通して読めば、「定年起業」に関する本だったのだなあと(本題ではなく、その前提状況がタイトルになっていたのだという感じで、タイトルの方が内容からズレ気味?)。

 第3章の終わりに、50代以降に独立して会社をスタートさせた米国人の事例として、レイモンド・クロック、スコット・マクネリー、バートン・ビックスの3人が出てきますが、スコット・マクネリーは56歳で起業したといっても、それ以前に27歳でサン・マイクロシステムズを創業した実績があり、バートン・ビックスは70歳でモルガンを辞めて新たなヘッジファンドを立ち上げたと言っても、それまでにストラテジストとしての確固たる名声と巨万の富を築いていて、殆どゼロから起業と言えるのは、レイモンド・クロックだけではないかなあ。

 レイモンド・クロックは、1954年、ミルクシェイク用のミキサーを売り歩いていた当時52歳のある日、カリフォルニア州のあるレストランから8台ものミキサーの注文を一度に受け、素朴な疑問からその店を訪ね、その効率的なサービスの提供システムに感嘆、ここほど将来性のある店はないと考え、その店の経営者だったマクドナルド兄弟に自分と組んでチェーン展開することを提案したことが、巨大外食チェーン「マクドナルド」の始まりだった―但し、これは、知ってる人は知ってるという、かなり有名な話です。

 まあ、定年起業を勧める本というか、心構え的なガイドブックとしてはオーソドックスですが、どちらかというと実務書と言うより啓蒙書。年金に関する解説も、ざっくりではありますが、それに絞った前著もあるだけに、間違ったことは言っていません。

 但し、読後感は悪くないのですが、トータルでみてさほどの目新しさは感じられず、前に述べたように、内容ズレしているとも言えるタイトルばかりが気になりました(おそらく版元の編集者が考えたものだと思うが)。

レイ・クロック - .JPG資料:
俵山 祥子 氏

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巷の評価が高かった割には、個人的には相性がイマイチだった2冊。

『破壊と創造の人事』.jpg破壊と創造の人事』['11年] 「働くこと」を企業と大人にたずねたい.jpg 『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』['11年]

破壊と創造.JPG 『破壊と創造の人事』('11年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、帯には守島基博・一橋大学教授推薦とあり、Amazon.comでレビューでは高い評価で、『労政時報』のアンケートでも、人事パーソンが推薦する本に入っていました。

 第1章で「日本の人事」の歴史を辿り、バブル崩壊以降、2度の転換期を経ていることを指摘していて、このあたりはまあまあ導入部としてはよく纏まっていたように思います。第2章は、第1章の状況を踏まえ、これからの人事が、戦略人事として成果を上げるにはどうすればよいかを「教育・人材開発」「コーポレイトユニバーシティ」「採用」「グローバル化」「グループ人事」「メンタルヘルス」といったキーワードに沿って考察したとのことですが、この部分もキーワードとして挙げたテーマを巡る問題の解説としてはよく纏まっていたと思いますし、個人的には、「人材データベース」の節などは"我が意を得たり"という感じでした。

 それでいよいよ本論かと思ったら、第3章として、グローバル人材、経済、コーチング等いろいろな分野で活躍する第一人者へのインタビューが挿入され、第4章でやっと本論に、という感じ。ところが、この第4章の実際の中身は、人事担当者が現在おかれている位置と今後のキャリア形成について概観的に20ページぐらい述べられているだけで、その後すぐ、第5章として、著者が2年間で大企業を1000社以上廻って取材したという人事部長や人事部の各担当者のインタビューからの抜粋があり、これでお終わり。

 インタビュー集にするならインタビュー集で1冊に纏めた方が良かったような気もしますが、1000社以上廻った中から選んだという割には、インタビューの内容にもムラがあり、"玉石混交"感が。インタビューのテーマがあっちこっち飛ぶのも困りますが、そもそも、本論がどこにあるのか分からないような変則的な構成の本だったように思われました。

 『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』('11年/東洋経済新報社)は、これから就職しようとする人や若い人々に向けて、働くとはどんなことか、良き企業人とは、良き社会とはについて、さまざまな角度より論じた本で、著者は、企業の人事担当として、30年間のべ1万人にわたる人事・採用面接に立ち会ってきたとのことですが、まず、あまりこうした数字を誇示しない方がいいと思うなあ。著者の会社はしっかり面接していたのかもしれないけれど、世の中には、いい加減な面接で数だけは何万とこなしている採用担当者もいるかも知れないし。

 本の中身自体は、書いている人はすごく真面目そうだなあという感じがしましたが、あまりに"考え中"のことが多いような気がして、そもそも、コンサルタントでも評論家でもなく、現役の人事マンなのだから、あまり結論めいたことばかり言うのも変なのですが(その意味では自分に正直な人なのだろう)、しかしながら、"考え中"のことを"考え中"のまま書いているような気がしなくもありませんでした。

 冒頭の小説風の文章などはその典型で、そのモヤっとした感じが全体にも敷衍されていて、図説にもその傾向がみられたように思います。部分部分においてはそれなりの示唆を得られた箇所もありましたが、チャート図的に矢印で関連づけられていてその部分の解説が無かったりすると、どうしても引っ掛かってしまいました。

 読む人が読むと嵌るのでしょうが(自分が読者として未熟なだけかも)、全体に「思考ノート」みたいで、本にするのはちょっと早かったのではないかなあ。ただ、こちらもAmazon.comでレビューでは高い評価であり、玄田有史・東大教授の解説も付されています。

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「上司が若手に読ませたい」というのは、ある意味、核心(現実)を衝いているかも。

上司が若手に読ませたい働く哲学6.JPG上司が若手に読ませたい働く哲学.jpg               社畜のススメ.jpg
上司が若手に読ませたい働く哲学』(2011/02 同友館)/藤本篤志 『社畜のススメ (新潮新書)』(2011/11)

 「自立・自責(他責で損をするのは自分)」「会社はお金儲けの筋力トレーニング事務所」「期待値(ビジネスには全て期待値がある)」「教えられ上手・育てられ上手・叱られ上手」という4つの考え方を基本ベースに、「社会で働くために知っておくべき考え方」「仕事との向き合い方」「コミュニケーション」「キャリアアップ」「ビジネスマナー」「プライベート」の6つのカテゴリーについて、若手社員からの全75項目の質問に著者が答える形の構成となっています。

 基本的には20代の若者を対象に、今の仕事がつまらないからといって腐るなと説いており、「個性的でキツイ上司の下で働くことが将来的にすべて自分のためになる」「コピー取り、ティッシュ配りでもプロフェッショナルは断然かっこいい!」「上司や会社の悪口を言って損するのは自分」といった感じで続いていきます。

 著者が説いていることは、ビジネスの世界に一定の年数身を置いた人には尤もなことと聞こえるように思いますが、これを読んでいて、今たまたま多くの人に読まれている、藤本篤志氏の『社畜のススメ』('11年11月/新潮新書)を想起しました。

 藤本氏は、「自分らしさ」を必要以上に求め、自己啓発本を鵜呑みにすることから生まれるのは、ずっと半人前のままという悲劇であり、そうならないためには敢えて意識的に組織の歯車になれ、としていて、世阿弥の「守破離」の教えを引き、サラリーマンの成長を、師に決められた通りのことを忠実に守る「守」、師の教えに自分なりの応用を加える「破」、オリジナルなものを創造する「離」の三つのステージに分け、この「守→破→離」の順番を守らない人は成長できないとしています。

 本書は、言わば、その「守」の部分を、より具体的に噛み砕いて説いたものであるとも言え、藤本氏(1961年生まれ)は、IT企業に18年間勤めた上でそう述べているのですが、この著者(1977年生まれ)の場合は、専門学校卒業後、就職活動に失敗し、その際に逆転の発想で、大学に対する就職支援、企業に対しる人財育成支援の事業を起こし、今に至っているとのこと。

 こっちの方が根っからのベンチャーのような気もしますが、20歳から働き始めて会社設立が25歳、その時初めて給料を手にしたとのことで、まだ30代ですが、それなりに苦労はしているわけだなあと。

 「個性を大切にしろ」「自分らしく生きろ」と一見若者受けすることばかり唱え、その結果どうなろうと何も担保しない、所謂、巷に溢れる「自己啓発本」とは一線を画しているというか、ある意味逆方向であり、その意味でも、藤本氏の本と同趣旨と言えます。

 藤本氏の本を読んで概ね共感はしたものの、これが若い人に伝わるかなあという懸念もありましたが、この本の著者は、こうした「守」の時代、修行の時期の大切さをセミナーや社員研修を通して、若手のビジネスパーソンに訴えているようです。

 まだ30代という若さである分、言っていることが若い人に伝わり易いのかも知れないけども(「新聞は読むな!携帯のモバイルサイトに登録を」などと言っているのも30代前半っぽい)、それでも、「腐る」ことなく、全てが将来に役立つと思って取り組めという言葉に頷くのは中堅以上の社員ばかりで、若い人にはピンとこない面もあるのではないかとの危惧は、個人的には拭い去れませんでした。
 
 その意味でも、「上司が若手に読ませたい」というのは、多少皮肉を込めて言えば、核心(現実)を衝いているかも。

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労働経済学者による社会哲学の本。自己啓発本にみたいな印象も。

希望のつくり方.jpg 『希望のつくり方 (岩波新書)

 労働経済学者で、『仕事の中の曖昧な不安』('01年/中央公論新社)などの著書のある著者の本ですが、『ニート―フリーターでもなく失業者でもなく』('04年/幻冬舎、曲沼美恵氏と共著)で「ニート」論へ行き、今度は「希望学」とのこと。
 但し、いきなりということではなく、東京大学社会科学研究所で'05年度に「希望学プロジェクト」というものを立ち上げており、既に『希望学』(全4巻/東大出版会)という学術書も上梓されているとのことです。

 冒頭で、希望の有無は、年齢、収入、教育機会、健康が影響するといった統計分析をしていますが、この人の統計分析は、前著『ニート』において、フリーターでも失業者でもない人を「ニート」と呼ぶことで、求職中ではないが働く意欲はある「非求職型(就職希望型)」無業者(本質的にはフリーターや失業者(求職者)に近いはず)を、(働く予定や必要の無い)「非希望型」無業者と同じに扱ってしまい、それらに「ひきこもり」や「犯罪親和層」のイメージが拡大適用される原因を作ってしまったと、同門後輩の本田由紀氏から手厳しく非難された経緯があり、個人的には、やや不信感も。

 但し、本書では、そうした数値で割り切れない部分に多くの考察を割いており、希望を成立させるキーワードとして、Wish(気持ち)、Something(大切な何か)、Come True(実現)、Action(行動)の4つを見出し、「希望とは、行動によって何かを実現しようとする気持ち」(Hope is a Wish for Something to Come True by Action)だと定義づけています。

 更に、これに「他者との関係性」も加え、社会全体で希望を共有する方策を探ろうとしていて、個人の内面で完結すると思われがちな希望を、「社会」や「関係」によって影響を受けるものとして扱っているのが、著者の言う「希望学」の特色でしょう。

 学際的な試みではあるかと思われ、「希望の多くは失望に終わる」が、それでも「希望の修正を重ねることで、やりがいに出会える」という論旨は、労働経済学やキャリア学の本と言うより「社会哲学」の本と言う感じでしょうか。

 実際、主に、キャリアの入り口に立つ人や、10代・20代の若い層に向けた本であるようで、語りかけるような平易な言葉で書かれていて(但し、内容的には難解な箇所もある)、本書文中にもある、'10年4月にNHK教育テレビで「ハーバード白熱教室」として放送されたマイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』('10年/早川書房)を意識した感もあります(あっちは「政治哲学」の話であり、ベストセラーになった翻訳本そのものは、そう易しい内容ではないように思ったが)。

 「希望は、後生大事に自分の中に抱え込んでいては生きてこない」「全開にはせずとも、ほんの少しだけでも、外へ開いておくべきだ」といった論調からは、啓蒙本、自己啓発本に近い印象も受け、『希望学』全3巻に目を通さずに論評するのはどうかというのもありますが、結局「希望学」というのが何なのか、もやっとした感じで、個人的にはよくわからなかったというのが正直な感想です。

 どちらかと言うと、中高生に向けて講演し、彼を元気づけるような、そんなトーンが感じられる本で、この人、労働経済学よりこっちの方面の方が向いているのではないかと思います。

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「働き方」を今一度考えさせられると共に、「仕事術」の体験的指南書でもある。

働き方革命.jpg   駒崎 弘樹.jpg 駒崎 弘樹 氏(略歴下記) NPO法人フローレンス.jpg http://www.florence.or.jp
働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)』 ['09年] 

 著者は、学生時代に起業したITベンチャー出身の人で、今は、自らが立ち上げた会社を共同経営者に譲渡し、子供が病気になり普通の保育園などで預かってもらず、そのために仕事を休まねばならないようなワーキングマザーのために、そうした子供を預かる所謂"病児保育"専門の託児所のネットワーク作りをしているNPO法人「フローレンス」の代表、と言っても、まだ29歳の若さです。

 今までの日本人の働き方、人生を会社に捧げるような仕事中心の人生観、その割には低い生産性、といったことに対する疑問からスタートし、ITベンチャーの経営者として、それこそ身を粉にして仕事をしてきた自分を振り返り、そこから脱却していく思考過程が1つ1つ内省的に綴られていて、「働く」ということに対する根源的な思索となっている上に、新たに自分が描いたライフビジョンをどう行動に移していったかが、ユーモアを交えて語られています。

 自分だけが自己実現やワークライフバランスの実現をすればいいというのではなく、社会実現(あるべき社会像の実現)を通しての自己実現ということを念頭に置き、社員、パートナーや親・家族、社会が豊かな人生を享受できるようにするためには自分がどうしたらよいかということを具体的に行動に移しています。

 その手始めとして、自らが経営者である会社の「働き方」(仕事のやり方)をどう変えていったか、どう仕事の「スマート化」していったかということが、論理的・実践的に紹介されていて(いきなり「とりあえず定時に帰れ、話はそれからだ」というのも凄いといえば凄いけれど)、仕事術(メール術・会議術・報告術・残業しない術...etc.)の指南書にもなっています。

 ここで言う「スマート化」が、例えば「『長時間がむしゃら労働』から『決められた時間で成果を出す』」ということとして表されているように、個人的にはこの著者に対して、やはり何事においても徹底してやる「モーレツ」ぶりを感じなくもないし、著者の抱く家族観や人生観も、新たなことを提唱しているのではなく、ある種"原点回帰"的なものに過ぎないような気もしなくもありませんでした。

 でも、「働く」とは「傍」を「楽」にすることであり、その「傍」とは家族だけなく地域や社会に及ぶという発想や、「『成功』ではなく『成長』」、「『目指せ年収1000万円』ではなく『目指せありたい自分』」、「『キャリアアップ』ではなく『ビジョンの追求』」、「『金持ち父さん』ではなく『父親であることを楽しむ父さん』」といったキーワードの整理の仕方などに、通常の啓蒙書(著者は啓蒙書が好きでないみたいだが)には無い視座が感じられました。

 「働き方革命」をしたら、会社でトラブルがあって倒産の危機に見舞われる、こうなったのも「働き方革命」したせいだと、今までやってきたことを全否定するような心境になった、というその話の落とし処も旨い、とにかく全体に読むものを引き込んで離さない文章の巧みさ(自分を3枚目キャラとした小説のように描いている)、もしかしたら、その点に一番感服したかも。

 ただ、そうした文章テクニックはともかく、「働くということ」「働き方」について今一度考させられると共に、「仕事術」の体験的指南書としても、一読して損は無い本でした。
_________________________________________________
駒崎 弘樹 (コマザキ ヒロキ)
1979年生まれ。99年慶応義塾大学総合政策学部入学。在学中に学生ITベンチャー経営者として、様々な技術を事業化。同大卒業後「地域の力によって病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくれまいか」と考え、ITベンチャーを共同経営者に譲渡し、「フローレンス・プロジェクト」をスタート。04年内閣府のNPO認証を取得、代表理事に。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)がある。2012年までに東京全土の働く家庭をサポートすることを志す。

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またまたタイトルずれ? 特殊な人だけ拾っても...。

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか.jpg 
若者はなぜ3年で辞めるのか?.jpg若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)』['06年]
3年で辞めた若者はどこへ行ったのか アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』['08年]

 『若者はなぜ3年で辞めるのか』('06年/光文社新書)の続編と思われますが、今度は〈ちくま新書〉からの刊行で、〈webちくま〉の連載に加筆修正して新書化したものとのこと。

 前著では、「年功序列」を日本企業に未だにのさばる「昭和的価値観」としていて、そこから企業のとるべき施策が語られるのかと思いきや、働く側の若者に対し「昭和的価値観」からの脱却を呼びかけて終わっていましたが、本書では、実際にそうして企業を辞め、独立なり転職なりした、著者が言うところの「平成的価値観」で自らのキャリアを切り拓いた人達を取材しています。

 ですから、タイトルからすると労働問題の分析・指摘型の内容かと思われたのですが、後から書き加えたと思われる部分にそうした要素はあったものの、実際には、どちらかというと働き方、キャリアの問題を扱っていると言えるかも知れず、こちらも少しずつタイトルずれしているような気が...。

 紹介されている人の全てがそうだとも言えないけれど、(著者同様に)高学歴でもって世で一流と言われる企業に勤め、業界のトップの雰囲気や先端のノウハウに触れた上で起業なり独立なりを果たした人が中心的に取り上げられているような気がし、同じ「若者」といっても産業社会の下層で最初からそうしたものに触れる機会の無かった人のことは最初から眼中にないような印象を受けました。

 こうした特殊な人ばかり取り上げて(その方向性の散漫さも目につく)、「辞めた若者」の一般的な実態には迫っていないんじゃないかなという気がしますが、転職に失敗した人に対しては、前著『若者はなぜ3年で辞めるのか』にある"羊 vs.狼"論で、「彼ら"転職後悔組"に共通するのは、彼らが転職によって期待したものが、あくまでも『組織から与えられる役割』である点だ。言葉を換えるなら、『もっとマシな義務を与えてくれ』ということになる。動機の根元が内部ではなく外部に存在するという点で、彼らは狼たちと決定的に異なるのだ」と既にバッサリ斬ってしまっていたわけです。

 元々著者自身が、企業の中で学習機会に恵まれた環境のもと大事に育てられた人なわけで、この人が「キャリア塾」的な活動をするとすれば、対象としては大企業に今いて一応レールに乗っかっている人に限られるのではないかと思われ、個人的にはそうした活動よりも、企業向けのコンサルティング的提言をしていく方がこの人には向いているのではないかと、老婆心ながらも思いました(『内側から見た富士通-「成果主義」の崩壊』('04年/光文社ペーパーバックス)は悪い本ではなかった。むしろ、大いに勉強になった)。

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キャリアの入り口に立ったばかりの人向け、と言うよりジュニア向け?

職業とは何か.jpg職業とは何か (講談社現代新書)』 ['08年]

 本書の趣旨は、職業とは「〜をやりたい」という主観だけではなく「〜を通じて社会の一員となる」という社会性がより重要であり、「自分に合った仕事探し」という考え方をやめて、社会が要請している仕事を探すべきであるということで、この内容からも察せされるように、キャリアの入り口に立ったばかりの人向けの本とでも言うべきものなのでしょう。

 キャリア教育の専門家が書いた真面目な本であり、書かれている内容も正論だと思いますが、「自分探し」なんてやめろということは養老孟司氏なども以前から言っていることであってあまりインパクトが感じられず、「職業とは何か」と言うことを「仕事とは何か」ということから考察している部分は、むしろ「仕事とは」の方にウェイトがいってしまっている感じもしました。

 「キャリアの入り口に立ったばかりの人向け」と最初に書きましたが、就職を間近に控えた人が読んでも、即“応用”という風にはならないかも。
 むしろ、イチロー、三浦和良、マザー・テレサから大前研一、三木谷浩史、小椋佳まで(誰彼と無くと言っていいほど多くの)有名人の歩んだキャリアや仕事観がその発言や著作などから引用されていて、こういうのってジュニア向けの書籍によくあるパターンではないかと。

 それでいて、冒頭にフランク・パーソンズの「職業選択」理論が出てきて、終わりの方では「ライフサイクル」論のダニエル・レビンソンの著作を紹介していたりもしていますが、但しそれらの解説も浅いもので、キャリア論を深く展開するというところまでは行っておらず、本全体として総花的一般論という感じは拭いきれませんでした。

 大学に入学したばかりぐらいの人向けか、あるいは高校生向けといったところかも知れません。

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"体験小説"風「就活記録」。「読み物」を書くことが目的化している本?

若者はなぜ正社員になれないのか.jpg  『若者はなぜ正社員になれないのか (ちくま新書)』 ['08年] 高学歴ワーキングプア.jpg 水月 昭道 『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

 本書は、「大学を出た後、2年近くふらふらしていた人間が心を入れ替えて開始した一連の就職活動」の顛末の記録ということで、著者は大学院卒であることから、水月昭道氏の『高学歴ワーキングプア』('07年/光文社新書)の実体験版と言えなくも無く、但し、「若者はなぜ正社員になれないのか」という労働問題上の一般論的なタイトルを謳いながら、「いかにも新書的に社会を俯瞰する形で解答を提示することを僕はしない」として、結果として"体験小説"風の本に仕上がっている(それに終始している)のはいかがなものでしょうか。

 企業の採用活動の現場やそこに集まる学生達の様子が結構生々しく綴られていて、読み物としてはまあまあ面白かったりもするのですが、そうした「読み物」を書く事が目的化しているみたいで、ああ、結局この著者は文筆業で身を立てていくつもりでいて、本書はその足掛かりなのだなあと勘繰りたくなってしまいます(その分、書かれている就職活動の内容に、今ひとつ著者自身の真剣さが感じられない)。

 どういう本にするのか編集者ともう少し詰めて欲しかった気がし、編集者側から提示されたタイトルをそのまま受け入れ、但し、内容は自分の書きたいことを書いているという感じ。
 本来ならばタイトルそのものを拒否すべきだろうけれども、こうした"妥協"ぶりも、著者の就職活動いい加減ぶりと重なるような...(著者自身も、内容との整合性を重視するより、"売れそうな"タイトルを選択した?)。

 本書に対する個人的評価を星1つにせず星2つとしたのは、採用面接で落ちまくる自分のダメさ加減や、企業の担当者や一緒に受けた周囲の学生に対する印象などが素直に描き表わされていて、気持ち的には大いに共感(同情?)をそそられる面があったため(やっぱり小説なんだなあ、これ)。

 但し、最後の方にある就職活動者に対するアドバイスなどになると、やけに保守的な部分とフザケ気味な部分が混在していて、著者自身がやや分裂している感じもし(就職試験で落ちまくる学生も、就活の終盤に来ると分裂状態を呈することがあるが)、「不安定の意義」なんて考え始めるとドツボに嵌るのであんまりそんなことは考察しないで、是非、自分の身の丈に合った「安定」を追求していただきたいと思います。

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「●働くということ」の インデックッスへ ○日本人ノーベル賞受賞者(サイエンス系)の著書(中村 修二)

「松井選手を監督にするのが日本型処遇」だと批判。過激だが示唆に富む。

大好きなことを「仕事」にしよう.jpg大好きなことを「仕事」にしよう』〔'04年〕 成果を生み出す非常識な仕事術.jpg成果を生み出す非常識な仕事術

 青色発光ダイオードの開発者・中村修二氏の本で、たまたま図書館でみかけて借りてみたら結構面白かったです。

 本書刊行後ですが、'04年の長者番付で外資系投資顧問会社に勤めるサラリーマンがトップになったという報道がありました。
 中村氏は本書で、「アメリカの評価基準はお金である」と断言しています。
 彼に言わせれば、例えばメジャーリーグで松井秀樹選手が活躍すれば年俸を上げる。
 ビジネスの世界も同じであると。
 ところが日本では、いい仕事をしたら役職を上げる。
 これは松井選手をコーチや監督にするようなものだと言っています。
 この本は一応、小学校高学年向けになっていますが、ビジネスパーソン向けかと思ってしまいます。

 青色発光ダイオード開発の裏話も興味深いのですが、日亜化学工業を辞めてアメリカへ渡ったのが46歳のとき。
 意外と遅かったのだなあという感じで、アメリカで著者が「20年同じ会社に勤めていた」と言うと、アメリカ人から「そんなにいたら飽きてしまうのではないか」と驚かれたという話が『成果を生み出す非常識な仕事術』('04年/メディアファクトリー)に紹介されていますが、このあたりにも、渡米してアメリカナイズされた彼にとっての、元いた会社に対するルサンチマン(怨念)の源があるのかもと思ったりもします。

 「一般教養なんて無理に教える必要はまったく無い」とか、個々の主張は過激で賛否両論あるかと思いますが、氏が自身の歩んできた道を率直に振り返って、後に続く世代には出来るだけ後悔しない生き方をして欲しいという気持ちは伝わってきました。

 単に、「特許裁判前のアジテーション活動としてこの類の本を書きまくっているのだ」という先入観で、この人の一般向けの著作を切り捨ててしまう人がいるのはモッタイナイ感じがします(この裁判は、'04年1月に東京地裁が日亜化学に対して中村氏に200億円を支払うよう命じたものの、'05年1月に東京高裁において日亜化学側が約8億4千万円を中村氏に支払うということで和解が成立した)。

 子ども向けに書かれたものですが、主張がはっきりしていて、毒にもクスリにもならないような本よりはよほど示唆に富んでいると思いました。

《読書MEMO》
中村修二 氏 - コピー.jpg中村修二 ノーベル賞2.jpg中村 修二 氏 2014年(平成26年)世界に先駆けて実用に供するレベルの高輝度青色発光ダイオードや青紫色半導体レーザーの製造方法を発明・開発した功績により赤崎勇氏、天野浩氏らと共にノーベル物理学賞受賞。

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グローバル化による「市場個人主義」の台頭に、疑念を提示している。

働くということ グローバル化と労働の新しい意味.jpg 『働くということ - グローバル化と労働の新しい意味』〔'05年〕ロナルド・ドーア.bmp ロナルド・ドーア

 英国人である著者は50年来の日本研究家で(個人的には、江戸後期の寺子屋の教育レベルが当時の英国以上のものであったことを示した『徳川時代の教育』('65年)を鶴見俊輔が高く評価していたのを覚えている)、日本の社会や労働史、最近の労働法制の動向にも詳しく、また、日本企業の年功主義が「年=功」ではなく「年+功」であるとするなど、その本質を看過しているようです。

 自国でもこうした「日本型」志向が強まるのではと予測していたところへ新自由主義的な「サッチャー革命」が起き、官の仕事の民への移行、競争主義原理の導入、賃金制度での業績給の導入などを、官が民に先んじて行うなど予測と異なる事態になり、その結果、所得格差の拡大など様々な社会的変化が起きた―。

 著者から見れば、日本の小泉政権での官の仕事の民営化や市場競争原理の導入、あるいは企業でのリストラや成果主義導入が、20年遅れで英米と同じ"マラソン・コース"を走っているように見えるのはもっともで、それはまさに米国標準のグローバル化の道であり、そうした「改革」が、従来の日本社会の長所であった社会的連帯を衰退させ、格差拡大を招く恐れがあるという著者の言説は、先に自国で起きたことを見て語っているので説得力があります。

 著者は、こうした社会的変化の方向性を「市場個人主義」とし、不平等の拡大を"公正"化するような社会規範の変化とともに、「日本型」など従来の資本主義形態の多様性が失われ米国の文化的覇権が強まる動向や、「勝つためには人一倍働くことが求められる」といった単一価値観の社会の現出が、働く側にとって本当に良いことなのか疑念を抱いています。

 グローバル化が加速するなかで、「働くこと」の意味は今後どう変遷していくかを考察するとともに、日本は、これまでの日本的な良さを捨ててこの流れに追随するのか、またその方向性でしか選択肢はないのかを鋭く突いた警世の書と言えます。

 因みに、著者の日本研究は、第2次大戦終結の10年後、山梨県の南アルプス山麓の集落を訪ね、6週間泊まり込みで集落の家々をくまなく回り、聞き取り調査を行ったことに始まりますが、調査で威力を発揮した日本語を、彼は戦争中に学んでいます。

 開戦後、前線での無線傍受や捕虜の尋問ができる人材が足りないと感じた英国軍が、ロンドン大学に日本語特訓コースを作り、語学が得意な学生を集めた、その中の一人が著者だったわけで、このコースは多くの知日派を輩出することになり、著者もまた、今も自宅のあるイタリアと日本を行き来し、日本語で原稿を書き、日本を励まし続けています。


《読書MEMO》
●仕事の満足感...知的好奇心を満足させるもの、芸術的喜びが見出せるもの、競争・対抗の本能を満足させるもの、リーダーシップや指導力が行使できるもの...加えて、ヘッジファンドの運用者などに典型的に見られる「ギャンブラーの興奮」など(63p)
●渋沢栄一...『論語』注釈を通じて、企業家リスクと投機家リスクの道徳的違いを説く→「小学生に株を教えるのは悪くないアイデア」とする竹中平蔵教授には、企業家リスクと投機家リスクの道義的違いは無意味?(68p)
●日本人にとって大事なのは、日本がその(文化・倫理的伝統、民情、行動特性といった)特徴を維持すべきかどうか、維持できるかどうか(83p)
●経済学がますます新古典派的伝統によって支配されるようになるにつれて、市場志向への傾斜が促され、自由化措置を正当化する力が増してきた(104p)
●同質化の傾向は、グローバルなエリートを養成するアメリカのビジネス・スクールによって強化されている(176p)

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社会学的視点で若者の職業意識を探るが、マーケッターの域を出ていない。

仕事をしなければ、自分はみつからない.jpg  『仕事をしなければ、自分はみつからない。』 マイホームレス・チャイルド.jpg 『マイホームレス・チャイルド―今どきの若者を理解するための23の視点

 増え続けるフリーターの問題をどうするかというよりも、フリーターの"生態"のようなものを書いた本で、この本を読んで一番よくわかることは、著者がマーケッターであるということだったかも知れません。
 社会学的視点でフリーターの職業意識を探ろうとしていますが、マーケッターの域を出ず、タイトル(「生きる道」)にも充分に応えているとは言えないのでは。

 『マイホームレス・チャイルド』('01年/クラブハウス)の中でフォーカスした「真性団塊ジュニア世代」('75〜'79年生まれ、本書執筆時の20代前半)を「フリーター世代」とし、その職業意識をインタビューなどから探ろうとしていますが、「若者の農民化」とか「常磐線スタイル」「週刊自分自身」といった表現はいかにも"それ"らしく、一方、提言の部分は、若者に対しては「自分探し」にこだわるな、社会(教育)に対しては「中学六年制」だけというのはいかにも弱い。

 著者の本は統計の用い方が我田引水ではないかという批判がありますが、マーケッターというのは多分に自らの直感をもとに論理を展開するという面もあり、またプレゼンなどでは、統計をずらずら並べるより、第2部「若者のいる場所」のように写真などビジュアルで示した方が、その場での訴求力はあったりする(聞き手が眠らない)...。ただしこうした手法は、学者らから見れば、"俗流"若者論と言われる所以となるのでは。

 第2部以降は文化社会学、家族社会学的な視点に立とうとしているようでもありますが、やはり"ウォッチャー"的立場を出ていません。
 だだし、フリーターへのインタビューがうまくまとめられていて、この部分ではある意味端的に若者の職業意識をあぶり出しているのと、「三浦半島ってどこですか?」などの"オヤジ"的な憤りにやや共感を覚えた部分もありましたが(この部分が教育論ときちんとリンクしていないのが残念)、これもやりすぎると若者への生理的偏見の持ち主ととられかねないかと思います。

《読書MEMO》
●「"できちゃった婚"の増加は若者の"農民化"のため」(32p)...現状の中で停滞
●「歩き食べ」...3食"歩き食べ"ですませる若者も。携帯電話を使う時、ふと立ち止まるかどうかが世代の分かれ目(121p)
●「常磐線スタイル」(140p)...車内飲食
●「週刊自分自身」(194p)...携帯電話で交わされる情報は、自分自身で週刊誌をつくっているようなもの

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「インディペンデント・コントラクター」を熱く語るが、現実問題を認識し解決への示唆にも富む。

インディペンデント・コントラクター.jpg 『インディペンデント・コントラクター 社員でも起業でもない「第3の働き方」』('04年/日本経済新聞社)
business2.jpg
 リクルートからセガに移り、その後インディペンデント・コントラクター(IC)となった秋山進氏と、『賃金デフレ』('03年/ちくま新書)の著者で日本総研の山田久氏が、ICとは何かについてその現況と今後を語っています(2人は同じ大学の同じ学部を'87年に卒業した同期生)。

 秋山氏の体験談をもとに、山田氏が労働経済的な観点などから補足しつつ対談は進められていますが、ICとして仕事する楽しさ、充実感だけでなく、社会制度面でのデメリットや、顧客との契約をとる難しさ、仕事が終れば契約は打ち切られることもあるという不安定さなど仕事上の悩みも語られています。

 ICの正確な定義は無いようですが、統計上は日本でも米国でも不況になるとその数が増えるようで、両者はこの数字の中には無理やり正社員の座を追われた「擬似IC」が相当数含まれているのではと見ています。
 またICと「フリーランス」の違いについて、「フリー」というのが会社の圧政を逃れ自由になるという意味合いなのに対し、会社から独立して一人前の個人として会社と契約する人と見ています(こうした評価には主観が入るので、正確な定義にはつながらないという気はしますが)。

 主に働く側からの見方で語られていますが、企業側も今後インディペンデント・コントラクターを活用していくには、企業の内と外の仕事をモジュール化し、ICを一種の業務モジュールとして使いこなしていくことが必要になっていくことを示唆しています。
 余計なものを持たずにリスクを軽減したい経営者にとって、インディペンデント・コントラクターは経済合理性を持つと説いています。
  
 両者とも既存の企業を否定しているのではなく、教育の場としての価値は認めていて、ICになったらお世話になった会社に恩返しできるような、そうした関係が理想であるとしています。
 会社を辞めて自分でベンチャーを起こすのも大変だし、ベンチャー企業などに転職しても、独裁的な経営者のもとに仕えるならば結局不満は解消されないでしょう。
 本書は「第3の働き方」について前向きに熱く語った本ですが、現実問題に対する認識とその解決に向けた示唆にも富んでいるものだと思います。

《読書MEMO》
●インディペンデント・コントラクター(IC)の3つの特徴(69‐70p)
 1.何を遂行するかについて自ら決定できる立場を確保している
 2.実質的に個人単位で、期間と業務内容を規定した、請負、コンサルティング、または顧問契約などを、複数の企業や各種団体と締結する
 3.高度な専門性、業務遂行能力を有している

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取材姿勢には概ね好感が持て、働くことの意味を考えさせられる。

働くということ.jpg 『働くということ』 (2004/09 日本経済新聞社)

 日経連載中から読んでいましたが、広い世代の人々の働き方を取材し、その多様化を如実に示すものとなっています。
 会社を辞めて独立したり、大企業からベンチャーへ行ったり、会社内でも新規事業を立ち上げたり...。

 92歳の「現役」エンジニアとか、居酒屋を開いた元「裁判官」とか、かなり特別じゃないかと思われる事例もありますが、成功して結果を出した人だけでなく、将来に向けて努力している真最中の人も追っています。
 ワークライフ・バランス的な問題も視野に入れ、またフリーターに対して頭ごなしに否定的な見方をしてはいないなど、取材姿勢には概ね好感が持てました。
 "ひとり「プロジェクトX」"みたいな話も多く、じっくり読むとグッとくるものもあります。

 こうしたワークスタイルの多様化は、本書の中で"元祖"『働くということ』('82年/講談社現代新書)の著者・黒井千次氏が指摘するように、
 「昔は企業に身売りしたが、今は企業が脆弱になり、全部を売ろうとしても買ってくれない」
 という状況と、ある意味で対応関係にあるのではないでしょうか。
 
 企業内で会社に対し"不満"を言っていた時代から、企業内にいること自体に"不安"を感じる時代へ社会的ムードがシフトする中、自らが働くことの意味は、困難ではあるが自らの経験を通じて探すしかないという時代が来たのだ思いました。

 【2006年文庫化[日経ビジネス人文庫〕】

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著者に悪意は無いが、あえて皮肉な見方をすれば...。

13歳のハローワーク.jpg13歳のハローワーク』〔'03年〕おじいさんは山へ金儲けに.jpgおじいさんは山へ金儲けに』('01年/NHK出版)

 親たちは何故こんなデカくて高い本を買って狭いウチに置いておくのでしょうか?(図書館で借りた人も多いとは思うが)

 経済書を500冊読破したとかいう著者は、本書と同じ画家とのコンビで『おじいさんは山へ金儲けに』('01年/NHK出版)を出しています。
 こちらの方は寓話による金融投資論で、そうした教育が日本でほとんど行われていない点を突いたものですが、著者のオーサーシップ(作家性)が全面に出すぎて『本当は恐ろしいグリム童話』みたくなってしまい不評でした―親が絶対買わない。

 "学習"した著者は『13歳〜』ではサーチャー(の統括ディレクター)に徹し、その内容の質的な善し悪しはともかく、職業情報を整理したものが学校になく、家庭でも職業教育のようなものが行われていないという日本の現状の虚を突いたかたちになって成功しました。
 ベースにあるのは労働経済学的な考え方で、受給バランスの発想です。サラリーマン以外の職業の多くは「買い手市場」であり、そう簡単になれるものではないと...。―親が安心して子供に買う。が、子供はそれほど読まない。
 
 本書の主な情報源となっているのがインターネットであることは明らかですが、インターネット情報というのは過去または現在に偏りがちで、どうしても未来というものの比重が小さくなるのではないでしょうか。 

 同様に本書には、"キャリア創生"といった考えが入る余地はほとんどなく、一定の過去から現在にかけて認知を得ている職業についてのみ語られているので(1人1人の読者は「へぇ〜、こんな職業もあるのか」と思うかもしれませんが)、それらの需給バランスを検証すれば、大方が「買い手市場」の、就くのが難しい職業ということにならざるを得ないのではないでしょうか。
 
 まあ、子供が、こういう仕事が世の中に存在しているということを知り、働いている人のことをイメージすることの教育上の意味が無いわけではないと思うので、星1つオマケという感じですが、本当に「子供」が読んでいるのかなあ。

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フリーター分析や漱石読解は興味深い。結論は「自助努力」論?

若者はなぜ「決められない」か.jpg  『若者はなぜ「決められない」か』 ちくま新書 〔'03年〕

 「フリーター」について考察した本書は、フリーター批判の書でも肯定の書でもないとのことですが、フリーターは早い時期に、自らの不安定な立場と可能性の実像を把握しておくべきだと冒頭に述べています。
 著者は、フリーターは労働意欲に乏しいのではなく、「本当の仕事」との出会いを求め "恋愛"を繰り返しているような人たちだとしていますが、「自由でいられる」などのメリットの裏に「単純労働にしか関われない」といったデメリットともあることを認識せよとし、「いろいろな仕事が出来て楽しい」と言っても、それぞれの仕事で関われる限界があるとしているのは、確かにそうだと思いました。

 でも彼らが、親の気持ち知らずでフリーターをしているのではなく、サラリーマンの親の苦労を見てきたからこそ社会に一歩踏み出せないでいる面もあり、また、それを支えるモラトリアム社会の土壌もあるが、これはやや異常な構造だと。
 一方、進路を「決められない」若者だけでなく、自分の将来はこれしかないと「決めつけている」ことで、現状フリーターをしている若者もいると指摘しています。

 著者はフリーリーターを「階級」として考えるようになったと言い、好きなことを仕事にしたいというのは「高等遊民」の発想とも言え、「労働=金儲け」とし勤労を尊敬しない伝統が日本はあるのではないかと。
 明治・大正の文豪の小説の登場人物を引き合いに出し、夏目漱石が「道楽=生き甲斐(小説を書くこと)」と「職業(教師)」を峻別しながらもその間で苦悩したことを、彼の作品の登場人物から考察していて、この辺りの読み解きは面白く読め、また考えさせられます(小説家としての彼自身も「業務目的」と「顧客満足」の間で悩んだと...)。

 その他にも、「オタク」や「ゆとり教育」などへの言及においては鋭い指摘がありましたが、全体結論としては、まず自分をよく見つめ、生計を何で立てるかを考えて、それから好きなことをやりなさいという感じでしょうか。
 当然、フリーター問題の具体的な解決策などすぐに見出せるわけでなく、著者の論は「自助努力」論で終わっている感じもしますが、開業歯科医であり評論家でもある著者の生き方と重なっている分、一定の訴求力はあったかと思います。

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「働くということ」とはどういうことなのかを哲学的に考察したい人に。

2602150.gif近代人の疎外』 岩波同時代ライブラリー 近代人の疎外 (1960年).jpg近代人の疎外 (1960年)』 岩波新書

 本書は、ヘーゲルからマルクス、フロム、サルトルなどへと引き継がれた「疎外論」とそれらの違いを追うとともに、「疎外」が近代生活において重要な問題であることを、テクノロジーや政治、社会構造の変化といった観点から分析しています。

 とりわけ著者は、マルクスが初期に展開した、資本主義の拡大による労働力の商品化や搾取、いわゆる商品支配の増大によって「疎外」が生じたとする労働疎外論に注目し、歴史的要因への固執に対し批判を加えながらも、それがドイツの社会学者テンニエスの「ゲマインシャフト(共同社会)」から「ゲゼルシャフト(利益社会)」への変化を本質意志から選択意志への移行と関連づけた考え方と重なるものとしています。
 そして、この疎外を克服するための方法は、宗教でも哲学でも教育でもなく、社会構造そのものが変わらなければならないだろうとしています。

近代人.jpg 原著は'59年の出版。著者はドイツで経済学、社会学、哲学を学んだ後、ナチスに追われ米国に亡命した人で、本書で展開される著者の「疎外論」は、アメリカ社会心理学の系譜にあるかと思われますが、哲学的かつ広い視野での社会分析がされています。

 当初、岩波新書('60年刊)にあり、'60年代の「疎外論」ブームで版を重ねましたが、実存主義やマルクス主義の沈滞と同調して忘れ去られかけていたものが、ライブラリー版で復活したものです。

 イギリス人の日本研究家であるR・ドーアも近著『働くということ―グローバル化と労働の新しい意味』('05年/中公新書)の中で「ゲマインシャフト」から「ゲゼルシャフト」への変化に触れていましたが、株主資本主義が幅をきかす昨今、企業内で働く個人、およびその個人と他者との関係はどうなるのかというテーマは、ますます今日的なものになってくるかと思います。

 また、マルクス、テンニエスの社会思想やサルトルの実存哲学などをわかりやすく解説しているという点でも良書。
 翻訳もこなれているので 「働くということ」とはどういうことなのかを哲学的に考察したい人にも良い本だと思います。

《読書MEMO》
●疎外=自分自身にとって見知らぬ他人となってしまった人間の状態(新書3p)
●疎外された人間はしばしば大いに成功を収めることがある。それはある種の無感覚を生み出す。したがって、その人が自分自身の疎外を自覚することはなかなかむずかしい。(新書5p)
●政治からの疎外...朝鮮戦争で戦場の兵士に何故この戦争に加わっているのかを聞くと「まあボールが跳ねているようなものさ」としか答えられなかった。(新書64p)
●本質意志⇔ゲマインシャフト、選択意志⇔ゲゼルシャフト(新書86p)
●動物は肉体的欲望に支配されて生産するが、人間は、肉体的欲望から自由である場合に初めて本当に生産する〔経済学・哲学草稿〕。(新書108p)
●作家フォークナーのエピソード...個人攻撃は悪趣味だが、売れ行きの良い商品となる(裁判費用は損失勘定、売れ行き増加は利益勘定に)(新書123p)→著述家さえも商品支配の下にある

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入社前よりも、社会人3年目以降何年かごとに読み返すような内容。

働くということ 旧版.jpg 〔'82年〕 働くということ 黒井.jpg  『働くということ (講談社現代新書 (648))―実社会との出会い』

働くということ 実社会との出会い1.jpg働くということ 実社会との出会い2.jpg 著者は作家であり、東大経済学部を卒業後富士重工業に入社し15年勤務しましたが、在職中に芥川賞候補になった人で、企業とその中で働く個人の人間性や生きることの意味を問う作品を書いていました。

 ただし、'70年に富士重工を退職して専業作家になってからは、当初は社会一般の問題に素材を拡げたりもしたものの、その後はどちらかというと都市における普通の人間の営みなどを描いた小説が多いような気がします(たまたま、自分の読んだのがその傾向の作品だったのかも知れないが)。

 本書では、自らの問題意識の原点に帰るようなかたちで、働くことの意味を、著者自身の会社勤めの経験を振り返りつつ考察しています。
 特に入社時の戸惑いや仕事に対する疑問が率直に綴られていますが、書かれたのが15年の会社勤めと専業作家としての12年を経た後であることを思うと、入社時の記憶というものはやはり強烈なのでしょうか。

 本書での著者の「労働」に対する疎外感の考察には、個人的には、F・パッペンハイムの近代的疎外論を想起させるような深みが感じられましたが、語られている言葉自体は平易かつ具体的で、結論的には「職業意識」という観点から、働くということが自己実現につながることを肯定的に捉えています。

 本書はよく「新社会人に贈る本」のように見られていて、それはそれでいいのですが、むしろ社会人3年目ぐらい以降、何年かごとに読み返すのにふさわしい内容ではないかと思います。

 かけがえのない読書体験に絞ったという引用の中に『イワン・デニーソヴィチの一日』の一節があり、極限状況においてさえ人を駆り立てる、著者の言う「労働の麻薬」というものには普遍性を感じます(実は自分も『イワン・デニーソヴィチの一日』の中でこの部分が一番印象に残ったのです)。

 ただし若者の中には、この「麻薬」にたどり着く前に、会社が"強制収容所"だと少しでも思えた段階で、転職または独立してしまう人も多いのではないかと思います(企業が脆弱化し、長期雇用が揺らぐ今日においては特に)。

 「仕事というのは単にお金を稼ぐために働くのではない」「働くことを通じて自己実現を図っていくことこそ働くということの重要さ」というのが著者の伝えたいメッセージですが、それ以外の考え方を必ずしも完全に否定していないところまども良いと感じました。

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“親向け就職ガイド”。「あ〜、とうとうこんな本、出ちゃった」という感じも。

大卒無業.jpg 『大卒無業―就職の壁を突破する本』 (2006/05 文藝春秋)

 本書は“親向けの大卒就職ガイド”であり、子どもが大学を卒業するにあたって、“大卒無業者”にならないようにするにはどうすれば良いかということが書いてあります。
 子どもをフリーターやニートにしないようにするにはどうすれば良いかという本は結構多く出版されていますが、本書の場合、大学卒業時に的を絞っているのが特徴でしょうか。

 著者はリクルート出身で、親向けの就職情報サイトを立上げ、大卒無業時代における「親のサポート力」の大切さを訴え続けているそうですが、本書では近年の大卒就職戦線の状況が、これまでの背景や流れとともに要領よくまとめられていて、そうしたことにこれまで疎かった人にもわかるように書かれています。

 本書によれば、子どもに対する「無知・無関心・過保護」が“働かない子ども”をつくるということですが、OB訪問の仕方からエントリーシートの書き方、面接時に留意すべきことまでこと細かく書いてある本書は、想定読者が親であることを考えると、ある意味これも「過保護」的では?

 「あ〜、とうとうこんな本、出ちゃった」という感じもしないではないですが、毎年卒業する大学生のうち、就職するのは僅か55%、5人に1人はフリーター(契約社員・派遣社員・アルバイト等)でもない「無業者」となっているという現実があるならば、こうした本が出てくるのも「むべなるかな」という感じ。

 いいことも書いてありました。
 「子どもの就職を成功させる条件」の中に「オフィスでアルバイトをさせよう」というのがあり、ファミレスやコンビニなど仕事仲間が同世代ばかりの環境では、異なる世代と円滑にコミュニケーションする能力は身につかないと。

 若者(と親?)に対する愛情溢れる本であるとの評価もありますが、著者は本書執筆時点でリクルート関連会社の新卒採用部門にいるわけで、人材会社の新たな市場開拓戦略というものが背後にあるようにも思えます。

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