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社会保険労務士の仕事と役割を丁寧に解説。

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労働・社会保障実務講義: 社会保険労務士の仕事と役割

 「社会保険労務士稲門会」編の、社会保険労務士の仕事と役割を丁寧に解説した本で、「第Ⅰ部・労働法と人事労務管理の今日的課題」と「第Ⅱ部 社会保障制度の今日的課題」の2部構成、全14講から成り、第1講で、社会保険労務士とはどのような資格・士業なのかについて、社会保険労務士法を基本に、その役割と業務内容、社会的使命について述べています。

 第Ⅰ部の言わば「労働法編」の第2講では、労働法規の成立過程と日本の社会を形作ってきた特徴が概括的に述べられています。第3講から第7講は、労務・人事関係です。採用・募集、就業規則、賃金・労働時間等の労働条件に加え、雇用形態の多様化と人事労務管理について述べています。労働の意義とそこから派生する問題点を社会保険労務士ならではの労使双方からの視点により、実務に即した課題解決の指針を示しています。

 第Ⅱ部の言わば「社会保障編」の第8講では、社会保障関連法規の成立過程と日本の社会を形作ってきた特徴が概括的に述べられています。第9講からは、主に社会保障制度を形作る法律に関係する各論となり、第11講までに安全衛生・労災・雇用の各関連法規について触れ(セーフティーネットとしての広義の社会保障制度という捉え方で、ここでは労災保険や雇用保険が社会保障制度の一環として区分されている)、第12講と第13講では、医療保険・年金制度の問題点が学究的切り口から整理されています。

 社会保障制度の中心をなす諸法について、社会保険労務士の今後の活動の中で共に解決すべき課題を提起するとともに、読者に社会保険労務士の業務や実務を知ってもらうために、「コラム」として、各講の中では触れられなかった社会保険労務士の専門性の能力発揮例として、社会保険労務士が行うコンサルティング業務、個別労働紛争解決で特定社労士が果たす役割、賃金に関する考察といった個別的具体的なテーマについて述べています。

労働・社会保障実務講義4.jpg 「社会保険労務士稲門会」とは、早稲田大学校友会認定の職域稲門会(早稲田大学卒業生の会)であり、会員相互の親睦と情報交換を図り、定期的な研修会等を通じて社会保険労務士業務の発展に寄与している全国組織です。個人的には自分が関与している組織でもあるため、そこが編纂した本の"評者"としては不適格かもしれませんが、普及・販促に協力する立場からも、星5つとさせていただきました。

 手前味噌になりますが、社会保険労務士資格を取ったばかりの人やこれからこの資格を目指そうとしている人には、多くの示唆と何らかの指針を与えてくれる本ではあるかと思います。実際、社労士稲門会が早稲田大学で毎年、士業の業務の内容や社会的役割を学生に伝えるために行っている支援講座のテキストとなっている本でもあります。執筆陣の熱い思いを通して、社会保険労務士の社会的使命を考えるヒントとなれば幸いです。

《読書MEMO》
●目次
第1講 序論――社会保険労務士とは(林智子・若林正清)
第Ⅰ部 労働法と人事労務管理の今日的課題
第2講 労働法――その歴史的展開と現在(細川良)
第3講 募集・採用――従業員を雇用するということ(大津章敬)
第4講 就業規則――人材マネジメントにおける就業規則の機能(杉山秀文)
第5講 労働条件――賃金・労働時間など(若林正清)
 *コラム いま一度「賃金」をみてみよう(二宮孝)
第6講 雇用形態――雇用形態の多様化と柔軟な働き方(小泉孝之)
第7講 人事労務管理――企業への提案を成功させる(和田泰明)
 *コラム 社労士に求められるコンサルティング業務(大津章敬)
第8講 補論――労働紛争と特定社会保険労務(森岡三男)
第Ⅱ部 社会保障制度の今日的課題
第9講 社会保障――その歴史,目的・機能をふりかえる(細川良)
第10講 安全衛生――労働災害とその未然防止(大南弘巳)
第11講 労災保険――制度の現状と社会保険労務士の役割(鎌田勝典)
第12講 雇用保険――失業保険から雇用保険に至る時代背景(林智子)
第13講 医療保険――制度の歴史・現状と社会保険労務士の役割(曽布川哲也)
第14講 公的年金――制度の歴史・現状と社会保険労務士の役割(曽布川哲也)

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中小企業の経営者向けに人事の要諦から実務までを分かり易く解説。

中小企業のための人事労務ハンドブック.jpg 『中小企業のための人事労務ハンドブック (DO BOOKS)』(2011/08 同文館出版)

 社会保険労務士であり中小企業診断士でもある著者によって、中小企業向けに書かれた人事労務全般の手引書ですが、この手の類書の多くが主に人事労務の実務担当者向けに書かれているのに対し、本書の場合は、中小企業の経営トップや経営管理者を読者層として想定して書かれているのが特徴です。

 経営資源にはヒト・モノ・カネの3つがあるとされていますが、著者によれば、特に創業して間もない中小企業などにおいては、事業を拡大していくために、どうしても「カネ」のことで頭が一杯で、「ヒト」のことは"二の次"と考えている経営者が少なからず見られるとのことです。そうなってしまう理由は、ヒトよりもカネに関する知識を持った人が経営者の周りにいるためであり、更には、ヒトは"不可測"な経営資源であるためとしています。

 本書ではまず、ヒト・モノ・カネの中で一番大切な経営資源はヒトであると明言し、ヒトには投資が必要であり、ヒトを育てるには手間がかかり、またヒトには心があることを念頭に置かなければならないと戒めています。

 そのうえで、リーダーシップ理論(PM理論、ライフサイクル理論など)やモチベーション理論(X理論・Y理論、動機付け・衛生要因理論など)を分り易く紹介・解説し、こうした理論を習得し、それを実践に役立てることを説いていますが、このような"前置き"がされている点が、類書と比べてユニークと言えばユニークであり、本来的であると言えば本来的です。

 序章において、こうした人的資源管理の要諦を説いたうえで、本編では、採用における要員計画の立て方から説き起こし、更に、雇い入れ、勤務時間、給与、労働保険・社会保険管理、その他労務管理から退職・解雇に至るまで、これら多岐にわたる人事労務の仕事において、実務に欠かせない知識や情報を50項目に分類し、順次解説しています。

 個人的には、「給与」のところで、中小企業には「職能資格制度」は向かず、「役割等級制度」がお薦めであるとしている点に興味を引かれ、この点は概ね同感です。賃金制度については、範囲給型の号俸給を提唱しながらも、全等級を「昇給」対象とする方式と併せて、上位等級については「昇給」の概念を無くし、洗い替え方式とするパターンも提示しています(後者はかなりドラスティックなものとなる)。

 評価制度については、目標管理制度とリンクさせた運用を提唱する一方で、評価要素の類型を挙げて解説しながらも、従業員規模の小さな会社では必ずしもそれら全てを評価表に盛り込む必要は無く、能力効果的要素と情意効果要素を統合してしまうなど、シンプル且つ自社にとって使い勝手のよい評価制度にすればそれでよいとするなど、柔軟かつ現実対応的な内容となっています。

 労働保険・社会保険の諸手続きについても役所への提出書類の書き方などが分かりやすく示されており、病欠者や療養休職者への対処なども、中小企業の実情に応じたアドバイスがされているとともに、「勤怠不良、成績不良の労働者の辞めさせ方」などの突っ込んだ解説もなされています。

 中小企業の人事労務は、経営トップが実務面も含め積極的に関与していくしかなく、そのためには、トップが自ら人事労務に必要なことを勉強する必要があるというのが著者の考えですが、まさに、そうしたニーズ応えるためのハンドブックとして、見易く分かりよいものとなっているように思いました。

 経営トップに限らず実務担当者が読んでも参考になるかと思いますし、社会保険労務士などが中小企業に対し、手続業務だけでなく、経営・人事のより広い観点から相談業務やコンサルティング(制度設計)を行うための参考書としても使えるものとなっており、お薦めできる本です。

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一般読者にも分かり易く書かれている一方、プロの社労士の実務にも供する。

障害年金の受給ガイド2486.JPG 『障害年金の受給ガイド』(2008/12 パレード)

 障害年金は、福祉の手当ではなく公的年金であるため、身体障害者手帳の有無や等級とは全く関係のないものですが、その辺りからして一般にはよく理解されていなかったりもします。ところが、いざ自分自身や家族が障害者となった場合、障害者の生活を支えるという意味では福祉関連の手当よりもずっと手厚いものであるため、初めてその受給の可否が重大な焦点になってくるというのが、しばしば見られる状況ではないでしょうか。

 ところが、その受給申請(裁定請求)の煩雑さ、年金・手当との選択・調整等は、とても素人の理解の及ぶところではないように思われており(帯には「役所もまちがう煩雑な障害年金」とあるが、実際そうした話はよく耳にする)、また、そうしたことについて実務レベルで書かれた本は少なく、あったとしても殆どが社労士などのプロ向けのものではないでしょうか。

障害年金の受給ガイド2487.JPG 本書は、障害年金について素人であっても読めるようにと、敢えて一般読者の側に立って分かり易く解説するよう配慮されており、障害年金の受給に関する殆ど全ての事柄を網羅しながらも、読者層をプロに絞り込まないように意識して書かれています。

 冒頭の「本書の特徴」のところで、「障害年金に関する情報量とわかりやすさの双方を満たすという点においては、現時点で、本書より優れている本はありません」と著者自身が書いていますが、障害年金を扱っているプロの社労士の中にも、本書を、「これ1冊あればOK」ということで、社労士仲間に薦める人もいるようです。

 個人的にも著者の自負するところに同感であり、解説の丁寧さもさることながら、大判であるため、申請書類の記載例などが読み易いのが、またいいです(本文の活字が大きめで、全てゴチックなのは、中高年の読者への配慮か)。

 最近、所謂"心の病"による精神障害に係る障害年金の裁定請求の煩雑さが取り沙汰されることが多いですが(都道府県によって審査基準にムラがあったりする)、著者が言うように、福祉関係者は年金そのものに詳しくなく、病院の相談員でも、精神病院ならともかく総合病院の相談員は心許無い場合が多いというのは、確かにそうだろうと思われます。

 実際の受給申請に際しては、必ずしも全部自分で申請手続きをやる必要も無く、プロの社労士に依頼すればいいかと思いますが、手続きの前提となる基礎知識については、本書の中の関連する部分を通読しておくとよいかと思います。

 自費出版レーベルであることに、却って社会的自負と信頼感を感じる本。勿論、社労士が社労士に薦めるぐらいですから、プロの社労士が読んでも、大いに実務の参考になるかと思います。

【2012年・平成24年9月障害認定基準一部改正準拠 (Parade books)版】

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確かに分かり易いが、分かり易さゆえにプロパガンダ的役割を担っている?

「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?.jpg             未納が増えると年金が破綻するって誰が言った.jpg
「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~ (扶桑社新書)

 新書で縦書き2段組というコンパクトな体裁ながらも、パンダとかクマのイラストが出てきて図解と併せて解説するパターンは、『経済のニュースが面白いほどわかる本 日本経済編』('99年/中経出版)以降のシリーズのスタイルを踏襲しています。

 扱っているテーマは、「なぜ人は宝くじの行列に並んでしまうのか?」、「なぜアメリカの住宅ローン問題で私たちの給料まで下がるのか?」、そして表題の「未納が増えると年金が破綻するって誰が言った?」の3つで、前フリ(?)として、『細野真宏の数学嫌いでも「数学的思考力」が飛躍的に身に付く本!』('08年/小学館)のテーマをもってきているようですが(小学館の本の広告が扶桑社新書のカバーに入っているのはタイアップ広告?)、最も「経済」に近いテーマであるサブプライムローン問題の話よりも、表題の「年金」の方に多くページを割いています。

 著者自身も、一番書きたかったのは「年金」についてだったとしており、これは著者が首相直轄の「社会保障国民会議」のメンバーだったことに関係しているようですが、年金のことを何も知らないで委員になって、1年後には年金について解説した本が書店に並んでいるというのは、さすが著者ならでは。
 読んでみて、年金の仕組みを語るにはあまりに少ないページ数ではあるものの、コンパクトで分かり易かったです(その分かり易さが問題の部分もあるが)。

 「社会保障国民会議」において、「未納が増えると年金が破綻する」と言った日経新聞の論説委員に対し、保険料の徴収率が65%だろうが90%だろうが、年金財政に殆ど影響は無いというデータを示してやり込めたようなことが書かれていますが、この背景には、年金財政は収入より支出が多くなる構造のため、現在の未納者が年金を納めて受給権を得ると、それだけの給付しなければならず、従って年金財政上において未納者は"問題にならない"ということがあり、むしろ、赤字構造の制度そのものがおかしいのでは。

 更に、「税方式」を主張する日経側に対する批判が展開されていますが、本書にあるように、年金財源を消費税化すれば厚生年金の負担が減るので、企業側は負担減となり、結果的に従来の企業負担分も含め、我々庶民の負担が重くなるというのも、ある程度知られているところ。

 著者の論理の展開はオーソドックスなのですが、但し、細かいところは(国によって?)ボカされていて、例えば、未納者(保険料免除者)が本来支払うべき国民年金保険料を厚生年金が実質的に肩代わりしていることなどは省かれているし(保険料免除者というのも、おかしなマニュアル本も出てたりして、その実態が気になるところ)、また、現在の完全未納者が将来において受給権を獲得する確率をどう見積っているのかも不明です(国民年金保険料を納めなくてもまず罰せられることはない現況を鑑みると、厚労省の思惑は、未納者は未納のままでいてくれることを願っているともとれる)。

 また、将来給付について、「物価スライドがあるから大丈夫」的な言い方は、本当に"大丈夫"なのかなあと。
 過去分を再評価により大盤振る舞いしてきたツケで年金財政が厳しくなったわけで、将来において急激な物価上昇があったとしても、それに給付がついていけるか(これも、年金積立金があるから大丈夫との論で切り替えしてくるのだろうが)。

 一般書であるため、ここはあまり細部にまで立ち入って書く場でもないのかも知れず、若い読者に年金について関心を抱いてもらうには、変わり映えのしない定型的な解説書の中にこうした切り口の本があってもいいのかなとは思います(従って、一般書としては"一応は○"という感じ)。

 但し、'04年改正の「マクロ経済スライド」を過剰に高く評価しているなど、いろいろな面で国(厚労省)のプロパガンダ的役割を担ってしまっている印象も受けなくもなく、やっぱりちょっと気になるんだよなあ。

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パート労働法の改正を見越したような内容。効果的人材活用を制度として推進するという考え方。

I「パート・アルバイト・派遣の使い方」ここが間違いです!8.jpg「パート・アルバイト・派遣の使い方」ここが間違いです!.jpg 『「パート・アルバイト・派遣の使い方」ここが間違いです!』 ['06年/かんき出版]

 パート・アルバイト・派遣社員の雇用・労務管理について社会保険労務士がQ&A方式に纏めたもので(全81問)、社会保険に関しても解り易く解説されていますが、それだけでなく、むしろ1:2ぐらいの比率で労働基準法を中心に労働法全般に関わることに重点が置かれていて、採用から退職までの労務管理から賃金その他処遇等の人事管理全般にまでトータルに解説されているのが特長です。

 '08年4月施行の改正パート労働法の2年前に刊行された本ですが、パート・アルバイト・派遣社員の効果的な人材の活用に繋がる雇用改善を社内制度として推し進めるという考え方が全般を通して貫かれていて、具体的な施策の提示も含めたQ&Aも幾つか用意されており、まるで予めパート労働法の法改正を見込んだような内容になっています。

 法的な義務があるものについてはそのように明記する一方、「法的な義務ではないが、労使トラブルを回避するためにはこうした方が望ましい」、更に、パート・アルバイト等のモチベーションを喚起するためにはこうしたことが「望まれます」といった言い方が多くされているのが、弁護士などが書いた本とは異なる点でしょうか。

 「家計補助的な理由で働いている」から「家計補助的な就労意欲だろう」、だから時給を安く設定していいかという問いに対し、同一労働同一賃金の原則を以ってきっちり回答していたりして、企業内の人事担当者だけでなくコンサルタント側にも経営者の考えに靡いてしまい、自分の中でこうした抵触する怖れのある法律との関連が弱くなってしまっているケースがままあることを思えば、読んでいて襟を正したくなるような思いも。

 「1日6時間勤務のパートが配偶者の被扶養者になることを望んでいるが社会保険は入れなくてよいか」とか、「昼間部の学生に毎晩勤務させている場合、雇用保険はどうなるか」とか、「配達されるお弁当代を給与から引いていいか」とか、それぞれ、健康保険法、雇用保険法、労働基準法に関わる問題ですが、そうしたことが大いにありそうだなあというリアルな事例で設問が構成されています。

 非正規雇用の全労働者数に占める割合は'08年で約35%、殆どの会社に非正規社員がいるわけで、まさに「総務部・店長必携」と言える本かも(逆に、コンサルタント側は、本書に書かれている事は社会保険関連も含め全て押さえておきたいところ)。

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俗説の誤謬を検証している点では「最強の書」か。

年金問題の正しい考え方 福祉国家は持続可能か.jpg 『年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)』 〔'07年〕

 長年にわたり年金問題を研究してきた著者が(と言っても本来は社会階層論やリベラリズム研究など社会学が専門の東大教授)、公的年金の制度的問題を鋭く且つ緻密に説いた書。
 たまたま社保庁の年金記録問題に揺れる世情の中での刊行となりましたが、社保庁や年金制度に対するワイドショー的な批判や不信とは一線を画し、様々な角度から現行制度を数値的にシミュレーションすることで、巷に溢れる俗説や識者と言われる人たちの見解の誤謬を指摘し、中長期的に持続可能な制度の確立こそ重要であるとして、その方向性(と同時にその難しさ)を示しています。

 まず「年金は得か損か」という疑問に対して「個人ベースでは国民年金も厚生年金も得」ということを具体的シミュレーションで示し(年金というのは長生きするということに対する保険なのだなあと再認識)、では世代間格差がなぜ生じたのかを、現役世代の賃金上昇に合わせ年金支給額の計算基礎となる受給者の過去の賃金を再評価する「賃金再評価制」と、物価上昇に合わせて支給額を調整する「物価スライド制」が導入された1973年の改正が、そもそも「大盤振る舞いスキーム」だったとしています(「賦課方式」や「少子高齢化」が"犯人"ではないことを数値と計算式を以って明快に検証している)。

 一方、2004年改正のスキームについても、「マクロ経済スライド調整率」の導入に対し、一定の評価をしながらも政府が言う「100年安心」と呼ぶには程遠いことを示しています。

 巷で言われる国民年金の未納者の問題や保険料を支払わなくてよい3号被保険者(専業主婦)の問題については、実際には国民年金の未納が減れば年金収支は悪化し(要するに国民年金は構造的に赤字ということになる)、また、専業主婦は別に得をしているわけではないことを証明し、識者の唱える基礎年金の消費税化が世代間格差の是正には繋がらないことを(「民営化」することなどはもってのほか)、また、年金の一元化がそう簡単に出来るものではないことを論証しています。

 現行制度は経済成長の如何によって大きく左右されるが、経済成長があれば大丈夫というものでもなく、と言って安易な賦課方式批判や税方式導入論にも釘をさし、異なる世代間での"相対的"年金水準(これは著者独自のユニークな視点)を一定に保つことが年金制度存続の要としているように思えますが、では具体的にどうすればいいのか―、その点は考え方の方向性を示して終わっているような感じもします。

 でも、そうした考え方の基点を示しているだけでも良書だと言えるし、俗説の誤謬を「検証」している点では現時点で「最強の書」かもしれず、結構、目からウロコ...の思いをしました(数値と計算式が多いので、それらを理解するのにはまず公的年金制度全体の仕組みを大まかに知っておく必要があるように思える)。 

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初学者向けの参考書として使える。よく網羅している分、基本ポイントの解説にとどまる。

65歳雇用延長時代の人事担当者のための年金ガイド.jpg 『65歳雇用延長時代の人事担当者のための年金ガイド』〔'07年〕 60代社員の手取りを下げずに人件費を下げる方法教えます.jpg 『60代社員の手取りを下げずに人件費を下げる方法教えます!―5年間で1人あたり最大1,000万円の削減も!』〔'06年〕

 全10章の構成で、厚生年金だけでなく国民年金についても、また老齢給付だけでなく障害給付、遺族給付についても解説されていて、初学者向けの参考書としても使えます。

 その中で、タイトルの「65歳雇用延長時代」ということに最も深く関わってくるのが第8章の「高齢者雇用における最適賃金設計」で、在職老齢年金、高年齢雇用継続基本給付金、併給調整について解説したうえで、60歳以降の最適賃金設計について実務的観点から解説されています。

 さらに、法改正等を踏まえ、第9章で「年金の繰り上げ・繰り下げ受給」、第10章で「離婚時の年金分割」について解説されていて、よく網羅されているという印象を受けました。

 網羅的である分、章あたりの解説があっさりしたものになってしまった感じもしますが、基本的なポイントを押えるという意味では、かえってこの方が簡潔明瞭でわかりよいということも言えるかも知れません。
 
 高年齢者雇用対策に的を絞った再雇用制度の構築を検討するのであれば、同じ著者の前著『60代社員の手取りを下げずに人件費を下げる方法教えます!―5年間で1人あたり最大1,000万円の削減も!』('06年/九天社)の方が参考になるかも。
 本書は、そうした本を読む際の前提知識を得るための参考書的ガイドブックとみていいと思います。
 
《読書MEMO》
●章立て
序章 公的年金の概要
第1章 厚生年金に加入する事業
第2章 厚生年金・国民年金に加入する社員
第3章 厚生年金・国民年金の保険料
第4章 老齢基礎年金
第5章 老齢厚生年金
第6章 障害給付
第7章 遺族給付
第8章 高齢者雇用における最適賃金設計
第9章 年金の繰り上げ・繰り下げ受給
第10章 離婚時の年金分割

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意外と"プロ向け"の入門書? 「立ち止まれ」「甘く見ないで」というスタンス。

よくわかる離婚時年金分割.jpg 『よくわかる離婚時年金分割』 (2006/12 光村推古書院) 妻も夫も知っておきたい熟年離婚と年金分割.jpg 柴田崇裕 『妻も夫も知っておきたい熟年離婚と年金分割』 (2006/10 総合法令出版)

 社会保険労務士で金融機関等において年金相談を行っている著者が、「離婚時年金分割」についてわかりやすく書いた本で、1ページ当たりの文字数が少なくて読みやすいです。

 '07(平成19)年度からスタートした当制度は、2段階施行であったり(2種類の制度があると言うべきか)、「特定被保険者」という用語の使い方をしていたりして一見ややこしいけれども、そのややこしさは本来の年金制度の複雑さからくるものであり、図などに書いて理解すれば、「年金分割」そのものの骨子は把握できるのではないでしょうか。

 ただし、本書は図を一切用いておらず、言葉ですべて説明していて、それでいて様々なケースを想定し、かなり突っ込んだところまで書いてあります。
 ほとんどすべて、実際の相談場面を想定して書かれていることなどからも、穿った見方をすれば、"プロ(社会保険労務士)向けの入門書"ではないかと...。
 そうした意味では、相談の受け方、アドバイスの仕方などがよくわかる内容の本でもあります。

meoto zenzai.jpg 「離婚時年金分割」は、熟年離婚を考える女性にとって福音のように言われる向きもありますが、本書は、「立ち止まれ」「甘く見ないで」というスタンスで、ユーモアや現行制度に対する批判なども交えながら、「夫婦揃って年金をしっかり受けとり、最後まで仲良く添い遂げ、夫の寿命を全うさせてあげる」ことを推奨(?)しています。

 ただ、やはりもう離婚しか考えられないというケースもあるでしょう。
 離婚相談を専門に手掛ける行政書士の方が書いた『妻も夫も知っておきたい熟年離婚と年金分割』(柴田崇裕 著/'06年/総合法令出版)などは、同じ入門書でもそうした人向きで、離婚手続きそのものや離婚にまつわる金銭のこと全般(財産分与、慰謝料、養育費...etc.)に多くページを割いていて、タイトルにある年金分割自体の説明は僅かしかなく、似たようなタイトルでも著者のスタンスや専門性によって内容がかなり異なったものとなるのが、熟年離婚がテーマの本の特徴かも知れません。

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「日本版401k」の入門書。「術」というほど特別なことが書いてあるわけでもなく...。

年金術.jpg 『年金術』 文春新書 〔'03年〕

401k.jpg 「年金術」というタイトルですが、本文全5章のうち4章は日本版401kについて述べられていて、日本版401kについての加入者・受給者(つまり一般の人)の側に立った解説書と言えます。

 先行して導入した企業(主に大企業)の事例や金融機関の動きと運用の中心になりそうな商品、制度のあらまし及び仕組み、先例としてのアメリカの401kの歴史と現在の姿、日本版401kの今後のゆくえなどが解説されていて、本書刊行当時('03年)としては、まとまった入門書として読めたかも知れません。

 ただし、著者はジャーナリストということですが、日本版401kをあまりに肯定的に捉えるその姿勢には、同じ新書で『投資信託を買う前に』('00年)という前著もあるように、銀行系の金融コンサルタントのような色合いを強く感じます。

 と言って、タイトルに「術」と付けるほどの特別なことが書いてあるわけでもなく、前著もそうでしたが、読んでも概説的な知識が得られるだけで、具体的にどうすれば良いのかはあまり見えてきません。
 1章だけ公的年金についての問題点や改革の方向性について触れていますが、それらについても一般的な概説の域を出ていないように思えます。

 「日本版401k」という言葉も、現在では「確定拠出年金」と言った方が良いだろうし、加入者の一部についての拠出限度額や確定給付年金からの移換限度額など、すでに細部においては法律が改定されている部分もあり、こうした本をタイムリーであるというだけで新書として出版するのはどんなものだろうかという気がしました(著者にとっては大いに"箔付け"になるかもしれないが)。

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年金制度のアウトラインをつかむうえで参考になった。

年金の常識.jpg年金の常識』 講談社現代新書 河村 健吉 『娘に語る年金の話』.jpg 河村健吉 『娘に語る年金の話 (中公新書)』 〔01年〕

年金の常識2869.JPG 年金とはそもそもどのようなものであり、保険料の納付から受給までの仕組みはどのようになっているのか、年金制度はどのような問題を抱えているのか、厚生年金や国民年金の仕組みはどうなっているかなどをわかりやすく説いた入門書で、自分がまだ年金の知識がさほどない時期に読んで、公的年金制度のアウトラインをつかむうえで参考になりました。

 今後の保険料の逓増と給付の逓減のスケジュールがわかりやすく示されていますが、それでも少子高齢化が進行する状況においては、相当の経済成長がない限り一定給付水準の維持は難しいとし、社会保障制度の横断的見直しを訴えています。

 著者は毎日新聞社の経済部長、論説委員などを経てフリーになった方ですが(本書刊行直後に亡くなった)、新書本で200ページ、表現も平易で図表もふんだんに生かされており、法改正により、一部の記述は現在ではあてはまらなくなっているため、必ずしも今読む本としてはお薦めできませんが、個人的には、年金制度の基礎を理解するうえでたいへんお世話になった本です。

 本書の最後に示された"リッチ老人"問題-老人に対する過剰投資の問題は考えさせられ、当時読んでやや憤りを覚えましたが、この部分では、高齢者の所得に応じた給付調整などの法改正が行われる一方で、そのお金が今までは次世代に回流していたという見方もあり(結局のところ現役世代の負担は変わらないことになる)、なかなか一筋縄ではいかない問題だと、今になって思います。

 このほかの年金問題を扱ったものとしては、信託銀行出身の年金コンサルタント・河村健吉氏の『娘に語る年金の話』('01年/中公新書)が、年金制度の歴史(生成・発展・変質)を知る上で参考になり、また、社会政策の観点から広く年金問題を分析していて、とりわけ雇用問題・雇用政策との関連について述べているのが興味深かったです(少子化問題の背後には女性などの雇用条件の問題があるという論点)。 

 片や制度に関する入門書、片や年金問題を扱ったものとしての色合いが強いですが、社会保障制度全体の横断的見直しが急務であるという点では論点が一致しています。

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日経の「定年後大全」より広い範囲での実用性で優っている。

定年前2.jpg定年前―50代サラリーマン危機管理マニュアル』 ('05年/朝日新聞社) 定年後大全.jpg定年後大全 2005-06』 (日本経済新聞社)

 これから「大量定年時代」を迎えるにあたって、50代サラリーマンにとって、自分の周囲には、今後の雇用情勢はどうなるか、あるいは老後の年金はどうなるかなど、仕事、お金、健康、家族に関する諸問題が山積しているかように見えるのではないでしょうか。
 中高年社員の方々を見ていても感じますが、「知らない」ということへの不安がまず大きいように思えます。

定年前2.jpg 本書は「定年前」というのがひとつミソですが、その時になって慌てるのではなく、まだ時間のあるうちに予め知識を蓄え、心構えないし準備をしておく、つまり"自分でやる危機管理"という切り口で、今考えておくべき問題をとり上げていて、リストラへの対処から退職後の失業保険や健康保険、マネープラン、年金や生命保険に関すること、さらには老親・妻子を含めた家庭問題や生き方の指針まで、その内容は至れり尽くせりです。

 「転籍命令は拒否できるか」「失業保険はいくらもらえるか」「退職後の健康保険はどれを選ぶか」「生命保険の保険額はいくら必要か」など57項目を4ページずつ簡潔にまとめ、定型マニュアル的文章ではなく読み物として読みやすいように、また見落としがちなことに注意を引くような書き方になっています。

 この本とほぼ同じ趣旨で出版されているものに『定年後大全 2005-06』('05年/日本経済新聞社)がありますが、奇しくも朝日VS.日経、価格も発刊月も同じで、日経版の方は経済部が書いたもので若干マネープラン寄りです。
 内容のバランスと30代・40代の人が読んでも損はないという実用性の点で、こちら朝日版の方をお薦めします。

 網羅している範囲が広く、年金のことなどは突っ込んで書かれており、企業の労務担当者やライフプランセミナー担当者にも"使える"1冊だと思います。

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この1冊で大方のケースに対応できる。問題は買い替えのタイミング。

年金相談標準ハンドブック.jpg  『年金相談標準ハンドブック』 2006年版

 国民年金、厚生年金だけでなく、厚生年金、共済組合の新制度から旧制度までカバーしていて、実務者が相談業務を行う際に、この1冊で大方のケースに対応できるかと思います。
 巻頭に年金相談ツールがあり、「一部繰上げ」や「全部繰り上げ」も表を見て説明できるのが便利です。

 しかし思えば、「特別支給の老齢厚生年金(在職老齢厚生年金)」というのは、将来の老齢厚生年金の給付額に影響しないという意味ではいい制度だったなあと。
 それは段階的に縮小されて何れ無くなり、それを補うものとして「繰上げ制度」があるものの、「一部繰上げ」や「全部繰り上げ」の仕組みを個々に説明して理解してもらうだけでも大変なのに、将来の年金給付額にも影響するとなると、「損益分岐年齢」という問題にぶつかり、「あなたは何歳まで生きますか」という話になってくるので、複雑さが増します。
 
 公的年金制度の仕組みを説明するにあたって、共済制度や旧制度まで加えると、基本事項を網羅するだけでこれだけのページ数になってしまうのか、という思いもあります。
 '01年に初版が出て、その後法改正に合わせて毎年改訂版を出しているのは親切なのですが、だんだん分厚くなってきて600ページ近くなり、価格も上がって4.000円近い値段となり安くないので、利用頻度との兼ね合いですがどこで買い換えるかが難しいかもしれません。 
 
 著者らが悪いわけではないのですが、年金制度をこんなに複雑にした張本人は誰だと言いたくもなります(と、ほとんど愚痴になってしまいました)。

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参考になる部分もあるが、かなり疑問を感じる部分もある。

社会保険料を安くする法.jpg 『社会保険料を安くする法―厚生年金・健康保険・雇用保険・労災保険』 2004年版

 年金・社会保険の専門家が、主に中小・零細企業の事業主に向けた書いた社会保険料の“節約”指南書で、参考になる部分もありますが、疑問を感じる部分もありました。

 例えば、社員を月末退職ではなく末日1日前に退職させれば、確かに会社にも社員にもその月の社会保険料負担は無いのですが、仮にその社員が翌月すぐ別の会社で勤務するとしても、辞めた月の国民年金保険料の納付義務は発生し、社員に保険料と手続きの負担を負わせることになり(手続きしなければ“空白の1ヶ月”となり給付に影響する)、医療保険についても空白期間が発生することになる―そうしたことを社員に説明しなければならないはずだけれど、そのことについては触れられていません。

 本書で紹介している、妻子で業務を営む法人会社の社長が60歳になったら個人会社を設立して報酬を分割したり、逆に個人会社が法人会社を設立して事業所得を分割して社会保険料を安くする方法は、法人所得税税との兼ね合いにおいてそれがトータルで得かどうかは、かなり複雑かつ不確定な話になってくるでしょう。

 定年社員や退任役員を個人事業主化する方法は一般にも行われていることですが、報酬や経費負担の取り決めの明確化および契約書作成などの労務コストをも考慮しておく必要があります。

 本書は1年から2年ごとに改訂版が出されていて、いかに事業主が社会保険料の負担を重圧と感じているかが窺えますが、雇用形態の見直しなどを検討するうえで参考になる部分もある反面、社保料の節減のみに偏り過ぎて近視眼的になっている印象を受け(ページの都合で端折ったのかも知れませんが)、本書を読んだ事業主さんまで近視眼的にならなければいいなあと危惧します。

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