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社会保険労務士の仕事と役割を丁寧に解説。

労働・社会保障実務講義.jpg労働・社会保障実務講義 0.JPG
労働・社会保障実務講義: 社会保険労務士の仕事と役割

 「社会保険労務士稲門会」編の、社会保険労務士の仕事と役割を丁寧に解説した本で、「第Ⅰ部・労働法と人事労務管理の今日的課題」と「第Ⅱ部 社会保障制度の今日的課題」の2部構成、全14講から成り、第1講で、社会保険労務士とはどのような資格・士業なのかについて、社会保険労務士法を基本に、その役割と業務内容、社会的使命について述べています。

 第Ⅰ部の言わば「労働法編」の第2講では、労働法規の成立過程と日本の社会を形作ってきた特徴が概括的に述べられています。第3講から第7講は、労務・人事関係です。採用・募集、就業規則、賃金・労働時間等の労働条件に加え、雇用形態の多様化と人事労務管理について述べています。労働の意義とそこから派生する問題点を社会保険労務士ならではの労使双方からの視点により、実務に即した課題解決の指針を示しています。

 第Ⅱ部の言わば「社会保障編」の第8講では、社会保障関連法規の成立過程と日本の社会を形作ってきた特徴が概括的に述べられています。第9講からは、主に社会保障制度を形作る法律に関係する各論となり、第11講までに安全衛生・労災・雇用の各関連法規について触れ(セーフティーネットとしての広義の社会保障制度という捉え方で、ここでは労災保険や雇用保険が社会保障制度の一環として区分されている)、第12講と第13講では、医療保険・年金制度の問題点が学究的切り口から整理されています。

 社会保障制度の中心をなす諸法について、社会保険労務士の今後の活動の中で共に解決すべき課題を提起するとともに、読者に社会保険労務士の業務や実務を知ってもらうために、「コラム」として、各講の中では触れられなかった社会保険労務士の専門性の能力発揮例として、社会保険労務士が行うコンサルティング業務、個別労働紛争解決で特定社労士が果たす役割、賃金に関する考察といった個別的具体的なテーマについて述べています。

労働・社会保障実務講義4.jpg 「社会保険労務士稲門会」とは、早稲田大学校友会認定の職域稲門会(早稲田大学卒業生の会)であり、会員相互の親睦と情報交換を図り、定期的な研修会等を通じて社会保険労務士業務の発展に寄与している全国組織です。個人的には自分が関与している組織でもあるため、そこが編纂した本の"評者"としては不適格かもしれませんが、普及・販促に協力する立場からも、星5つとさせていただきました。

 手前味噌になりますが、社会保険労務士資格を取ったばかりの人やこれからこの資格を目指そうとしている人には、多くの示唆と何らかの指針を与えてくれる本ではあるかと思います。実際、社労士稲門会が早稲田大学で毎年、士業の業務の内容や社会的役割を学生に伝えるために行っている支援講座のテキストとなっている本でもあります。執筆陣の熱い思いを通して、社会保険労務士の社会的使命を考えるヒントとなれば幸いです。

《読書MEMO》
●目次
第1講 序論――社会保険労務士とは(林智子・若林正清)
第Ⅰ部 労働法と人事労務管理の今日的課題
第2講 労働法――その歴史的展開と現在(細川良)
第3講 募集・採用――従業員を雇用するということ(大津章敬)
第4講 就業規則――人材マネジメントにおける就業規則の機能(杉山秀文)
第5講 労働条件――賃金・労働時間など(若林正清)
 *コラム いま一度「賃金」をみてみよう(二宮孝)
第6講 雇用形態――雇用形態の多様化と柔軟な働き方(小泉孝之)
第7講 人事労務管理――企業への提案を成功させる(和田泰明)
 *コラム 社労士に求められるコンサルティング業務(大津章敬)
第8講 補論――労働紛争と特定社会保険労務(森岡三男)
第Ⅱ部 社会保障制度の今日的課題
第9講 社会保障――その歴史,目的・機能をふりかえる(細川良)
第10講 安全衛生――労働災害とその未然防止(大南弘巳)
第11講 労災保険――制度の現状と社会保険労務士の役割(鎌田勝典)
第12講 雇用保険――失業保険から雇用保険に至る時代背景(林智子)
第13講 医療保険――制度の歴史・現状と社会保険労務士の役割(曽布川哲也)
第14講 公的年金――制度の歴史・現状と社会保険労務士の役割(曽布川哲也)

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「問題社員」レベルを遥かに超絶した「モンスター社員」の事例が"強烈"。

あなたの隣のモンスター社員.jpgあなたの隣のモンスター社員 (文春新書)

 社会保険労務士による本ですが、全6章構成の第1章「本当にあったモンスター社員事件簿」に出てくる、"ファイルNO.1 見事な演技力で同僚をセクハラ加害者に仕立て上げた清楚な女性社員"をはじめとする5つの事例がどれも"強烈"で、著者の言う「モンスター社員」というのが、一般的に「問題社員」と呼ばれるもののレベルを遥かに超絶した、企業や職場にとって極めてやっかいな存在であることを再認識させられます。この5つの事例だけで本書の前半部分を割いていますが、それだけの意義はあるように思いました。

 著者によると、モンスター社員の特徴は、「社会人としてのモラルが低く、ルールも無視、注意を受けると逆切れする」「対人関係や精神状態が不安定で、常に周囲とトラブルを引き起こす」「平気で嘘をつき、良心や倫理観が欠如している」「自己愛が異常に強く、虚言や自慢話で周囲を振り回す」というようなもので、このような特異な存在を類型化できるのかという気もしますが、第2章「タイプ別モンスター社員の特徴とその対処法」で、「A.親、配偶者がモンスター化している社員」「B.演技力で周囲を掻き回す社員」「タイプC.モラル低下型社員」「タイプD.職場環境を悪化させるハラスメント社員」「タイプE.常に注目を浴びたい自己愛型モンスター社員」に分類し、それぞれについての対処法を述べています。

 第3章「職場のモンスターの仮面の下」で、ほとんどのモンスターは第一印象がいいが、実は仮面の下に、歪んだ自己愛や自身の無さ、コンプレックス、嫉妬、不満・怒り、傷つきやすさ、依存心などがその心理としてあり、それが会社を批判したり、部下や同僚をいじめたり、自分の事を自慢したりする行動にどう結びついていくのかを解説しています。

 第4章「モンスターの見分け方」で、こうしたモンスター社員であってもクビにするのはそう簡単ではないため、それではどうしたら採用の際に見抜けるかをアドバイスし、第5章「モンスター社員への対処方法」では、それでも実際に入ってしまったからモンスターだと分かった際の対処法を示していますが、この辺りはまあオーソドックスな解説と言えるでしょうか。

 やはり、第1章の事例編が"強烈"であり、こんな人格障害そのもののような相手に対して普通の対処法で解決できるのかなあという気もしました。実際、事例の中にも、対処策を講じきれないうちに、時間が何となく解決してしまったような例もあったかと思います(注:著者が事の発端から最後まで関与していた事例ばかりとは限らない)。

 一方で、その中には、パワハラをした社員を辞めさせるのに金銭的解決を持ちかけ、「金を払って」辞めてもらった例もあり、従来の発想だと、経営者は「どうしてそんなヤツに金を払わなければならないんだ」「周りに示しがつかない」的な発想になりがちですが、モンスター社員のことで経営者や管理者が費やす時間と労力の無駄を考えると、こうした対象方法も場合によってはありかなと思いました(後の方の事例で、一度金を払ったがためにその後も金を請求されるという事例も出てくるように、1回でケリをつけることが肝要か)。

 こうしたモンスター社員は、経営者や管理者が頭を悩ますだけでなく、どの職場に行っても周囲の人たちが大いに疲弊させられ、そのことの損失もこれまた大きいように思います。病気ならば治る可能性はありますが、人格障害的なものはそう簡単には変わらないため、やはり早期に対応し、周囲が迷惑を受ける期間を出来るだけ圧縮することが望ましいかと思います。

 第6章「モンスターを生まない会社へ」にあるように、会社に共有ビジョンが無かったり、コンプライアンス意識が欠けていることによって、普通の社員がモンスター化していくことも確かにあるでしょうが、むしろ、元々潜在的に"モンスター資質"を持った人が、そうした環境の中でその"資質"部分を触発され、自己アピールの場として職場に固執したり、自分の居場所として会社に居ついてしまうといったこともあったりするのではないでしょうか。

 その分、退職を勧奨したり、異動を命じたりすることは難しかったりしますが(本書は、社会保険労務士による本であるため、必要に応じて法的な留意点についても触れられている)、但し、放置しておくと職場のモラールに影響し、最悪の場合は「割れ窓の論理」で同じような話があちこちで起きてくる可能性もあるように思います。そうした意味では、「モンスター社員」問題は、個人の人格の問題に近い要素と、組織の問題との複合問題でもあるように思いました。

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入門書として分かり易く、また全体にバランスよく纏まっている。将来予測は興味深かった。

これだけは知っておきたい働き方の教科書.jpg
  あんどう・むねとも.jpg 安藤至大(あんどう・むねとも)氏[from ダイヤモンド・オンライン
これだけは知っておきたい働き方の教科書 (ちくま新書)

 NHK(Eテレ)の経済学番組「オイコノミア」やBSジャパン「日経みんなの経済教室」などにも出演している新進気鋭(だと思うが)の経済学者・安藤至大氏による「働き方」の入門解説書。1976年生まれの安藤氏は、法政大学から東京大学の大学院に進み、現在は日本大学の准教授ですが、最近はネットなどで見かけることも多く、売出し中という感じでしょうか。

 第1章で、「なぜ働くのか?」「なぜ人と協力して働くのか?」「なぜ雇われて働くのか?」といった基本的な疑問に答え、第2章で、「働き方の現状とルールはどうなっているのか?」「正社員とは何か?」「長時間労働はなぜ生じるのか?」「ブラック企業とは何か?」といった日本の「働き方の現在」を巡る問題を取り上げ、第3章で「働き方の未来」についての予見を示し、最終第4章で今自分たちにできることは何かを説いています。

 経済学者として経済学の視点から「労働」及びそれに纏わる今日的課題を分かり易く説明するとともに、労働法関係の解説も織り交ぜて解説しており(この点においては濱口桂一郎氏の著作を想起させられる)、これから社会人となる人や既に働いている若手の労働者の人が知っておいて無駄にはならないことが書かれているように思いました。

 まさに「教科書」として分かり易く書かれていて、Amazon.comのレビューに、「教科書のように当たり前なことの表面だけが書かれていて退屈だった」というものがありましたが、それはちょっと著者に気の毒な評価ではないかと。元々入門解説書として書いているわけであって、評者の視点の方がズレているのではないでしょうか。個人的には悪くなかった言うか、むしろ、たいへん説明上手で良かったように思います。

 例えば「正規雇用」の3条件とは「無期雇用」「直接雇用」「フルタイム雇用」であり、それら3条件を満たさないものが「非正規雇用」であるといったことは基本事項ですが、本書自体が入門解説的な教科書という位置づけであるならばこれでいいのでは。労働時間における資源制約とトレードオフや、年功賃金と長期雇用の関係などの説明も明快です。

 第2章「働き方の現在を知る」では、こうした基本的知識を踏まえ、日本的雇用とは何かを考察しています。ここでは、「終身雇用」は、高度成長期の人手不足のもとでのみ合理的だったと思われがちだが、業績変動のリスクを会社側が一手に引き受けることにより、平均的にはより低い賃金の支払いで労働者を雇うことができ、その企業に特有な知識や技能を労働者に身につけさせるという点においても有効であったとしています。また、法制度の知識も踏まえつつ、解雇はどこまでできるか、ブラック企業とは何かといったテーマに踏み込んでいます(著者は、解雇規制は緩和する前に知らしめることの方が重要としている)。

 更に第3章「働き方の未来を知る」では、著者の考えに沿って、まさに「働き方の未来」が予測されており、この部分は結構"大胆予測"という感じで、興味深く読めました。

 そこでは、少子高齢社会の到来によって近い将来、労働力不足が深刻化し、高齢者は働けるうちは働き続けるのが当たり前になると予測しています。更に、妻や夫が専業主婦(夫)をしているというのはとても贅沢なことになるとも。一方で、労働力不足への対処として外国人労働者や移民の受け入れが議論されるようにはなるが、諸外国の経験も踏まえて議論はなかなか進まないだろうともしています。

 また、機械によって人間の仕事が失われる可能性が今より高くはなるが、仕事の減少よりも人口の減少の方が相対的にスピードが速く、やはり、労働力を維持する対策が必要になるとしています。

 雇用形態は多様化し、安藤至大 (あんどうむねとも) (@munetomoando).jpg限定正社員は一般化して、非正規雇用も働き方の1つの選択肢として考えられ、また、社会保障については、企業ではなく国の責任で行われる方向へ進み、職能給や年功給は減少して職務給で雇われる限定正社員が増えるなどの変化が起きる一方で、新卒一括採用は、採用時の選別が比較的容易で教育コストなども抑えられることから、今後もなくならないだろうとしています。

 入門書の体裁をとりながらも、第3章には著者の考え方が織り込まれているように感じられましたが、若い人に向けて、今だけではなく、これからについて書いているというのはたいへん良いことだと思います。個別には異論を差し挟む余地が全く無い訳では無いですが、全体としてはバランスよく纏まっており、巻末に労働法や労働経済に関するブックガイドが付されているのも親切です(「機械によって人間の仕事が失われる」という事態を考察したエリク・ブリニョルフソン、 アンドリュー・マカフィー著『機械との競争』('13年/日経BP社)って最近結構あちこちで取り上げられているなあ)。
安藤至大 (あんどうむねとも) (@munetomoando)

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 働き方の仕組みを知る
1 私たちはなぜ働くのか?
生活のために働く
稼得能力を向上させるために働く
仕事を通じた自己実現のために働く
2 なぜ人と協力して働くのか?
自給自足には限界がある
分業と交換の重要性
比較優位の原理
比較優位の原理と使い方
「すべての人に出番がある」ということ
3 なぜ雇われて働くのか?
なぜ雇われて働くのか
他人のために働くということ
法律における雇用契約
雇われて働くことのメリットとデメリット
4 なぜ長期的関係を築くのか?
市場で取引相手を探す
長期的関係を築く
5 一日にどのくらいの長さ働くのか?
「収入-費用」を最大化
資源制約とトレードオフ
限界収入と限界費用が一致する点
6 給料はどう決まるのか?
競争的で短期雇用の場合
長期雇用ならば年功賃金の場合もある
取り替えがきかない存在の場合
給料を上げるためには
コラム:労働は商品ではない?

第2章 働き方の現在を知る
1 働き方の現状とルールはどうなっているか?
正規雇用と非正規雇用
正規雇用の三条件
7種類ある非正規雇用
非正規雇用の増加
2 正社員とはなにか?
正規雇用ならば幸せなのか
正社員を雇う理由
正規雇用はどのくらい減ったのか
3 長時間労働はなぜ生じるのか?
長時間労働の規制
長時間労働と健康被害の実態
なぜ長時間労働が行われるのか
一部の労働者に仕事が片寄る理由
4 日本型雇用とはなにか?
定年までの長期雇用
年功的な賃金体系
企業別の労働組合
職能給と職務給
中小企業には広がらなかった日本型雇用
5 解雇はどこまでできるのか?
雇用関係の終了と解雇
できる解雇とできない解雇
日本の解雇規制は厳しいのか
仕事ができる人、できない人
6 ブラック企業とはなにか?
ブラック企業はどこが問題なのか
なぜブラック企業はなくならないのか
どうすればブラック企業を減らせるのか
コラム:日本型雇用についての誤解

第3章 働き方の未来を知る
1 少子高齢社会が到来する
生産年齢人口の減少
働くことができる人を増やす
生産性を向上させる
2 働き方が変わる
機械により失われる仕事
人口の減少と仕事の減少
「雇用の安定」と失業なき労働移動
3 雇用形態は多様化する
無限定正社員と限定正社員
働き方のステップアップとステップダウン
非正規雇用という働き方
社会保障の負担
4 変わらない要素も重要
日本型雇用と年功賃金
新卒一括採用
コラム:予見可能性を高めるために

第4章 いま私たちにできることを知る
1 「労働者の正義」と「会社の正義」がある
「専門家」の言うことを鵜呑みにしない
目的と手段を分けて考える
会社を悪者あつかいしない
2 正しい情報を持つ
雇用契約を理解する
労働法の知識を得る
誰に相談すればよいのかを知る
3 変化の方向性を知る
働き方は変わる
失われる仕事について考える
「機械との競争」をしない
4 変化に備える
いま自分にできることは何か
これからどんな仕事をするか
普通に働くということ

おわりに

ブックガイド:「働くこと」についてさらに知るために

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「一見、労働者の保護のためになりそうな政策が逆効果となるおそれがある」。

雇用改革の真実3.jpg大内 伸哉 『雇用改革の真実』2.jpg大内 伸哉 『雇用改革の真実』.jpg雇用改革の真実 (日経プレミアシリーズ)

 労働法の研究者による本書は、解雇、限定正社員、有期雇用、派遣、賃金、労働時間、ワークライフバランス、高齢者という8つのトピックを取り上げ、政府がどのように雇用政策を進めようとしているのか、それについてどう評価すべきなのか、また、それらが働く人の今後の働き方にどのように影響するのかを読み解いていくことを目的として書かれています。

雇用社会の25の疑問.jpg 本書の特徴として、政府の様々な雇用施策がかえって労働者の利益を損ねたり企業の自発的努力を阻害したりし、また、労使自治を揺るがすことにもなりかねないという懸念を表明している点が挙げられます。こうした考え方は、同著者の『雇用社会の25の疑問―労働法再入門』(2007年/ 弘文堂)においてもすでに示されていましたが、前著が入門書の形をとりつつ、こうした問題に対する多角的な視点を提示したものであったのに対し、今回は、近年の法改正の動きや雇用施策を巡る論議を踏まえ、トピカルなテーマについてのさらに踏み込んだ論考となっています。

 例えば、労働契約法における無期転換制度について、一般には、本来は無期雇用で働くべき労働者が使用者による有期雇用制限によって不利益を受けていた状況が、この制度により改善が図られると評価されていますが、著者は、この制度は企業に対して無期転換が起こらないように短期に雇用を打ち切るという行動を誘発する危険があるとして批判的に「再評価」しています。個人的には、この章はたいへん説得力があるように思えました(第3章「有期雇用を規制しても正社員は増えない」)。

 このほかに、それぞれのテーマに絡めて、「解雇しやすくなれば働くチャンスが広がる」「政府が賃上げをさせても労働者は豊かにならない」といった刺激的な章タイトルが並びますが、各章を読んでみれば、概ねナルホドと思える論考になっているように思えました。「ホワイトカラー・エグゼンプションは悪法ではない」という章もあれば(実は自分自身も、相当以前からホワイトカラー・エグゼンプションは悪法ではないと思っているのだが)、「育児休業の充実は女性にとって朗報か」という章などもあり、一方的に政府の雇用施策を非難したりまたは受け容れたりするのではなく、テーマごとに著者の考えを示しています。従って読者も、著者の問題提起を受け、自分なりに「再評価」を試みる読み方になるかと思います。

濱口桂一郎 日本の雇用終了.jpg『日本の雇用終了―労働局あっせん事例から』(2012年)などを読むと、中小企業における労働紛争の解決策として、実態的にはすでに行われているようにも思いました。ただし、著者は、法制度として解雇の金銭的解決が認められた場合の効果という視点から論じており、政府の雇用流動化施策やセーフティネットの拡充ということを付帯条件として挙げています。ただし、この付帯条件の部分が現実にはなかなか難しいのではないかという思いもしなくはありませんでした。

 「一見、労働者の保護のためになりそうな政策が逆効果となるおそれがある」という視点を提示している点では、著者の本を初めて読む読者には章タイトルに相応の"刺激的"な内容であり、実務者にとってただただ法改正を追いかけるのではなく、いったん自身でその意義と問題点を考えてみる契機となる本かと思います。その意味で人事パーソンを初め労働法の実務に携わる人にとっては「教養」とし押さえておきたい本です。

 以前、別のところで本書の書評を書いて、『雇用社会の25の疑問』をはじめ著者の本を何冊か読みつけている読者からすれば、「新機軸」と言うよりは「続編」といったという印象も受けるとしたところ、著者のブログの中で、著者が同じであるという意味では続編であるけれども、「『雇用改革の真実』はもっぱら政策論で、著者としては『雇用社会の25の疑問』とはかなり異なるテイストの本だと思っている」とのコメントがあり、言われてみれば確かにその通りであると思いました(タイトルの示す通りでもある)。

 この「日経プレミアシリーズ」は、「プレミア」を「プライマリー」ととれば丁度それに当て嵌まるラインアップという感じがじなくもありません。本書はそうした中では、読み易いばかりでなく鋭く本質をついており、重いテーマを突き付けてきます。著者の本を読んだことがある人にも、まだ読んだことが無い人にもお薦めです。

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前著『労働契約法入門』の改定だが、タイトル通りの入門書としてスッキリした。

労働法の基本36.JPG労働法の基本 (日経文庫)』〔'13年〕労働契約法入門 山川隆一.jpg労働契約法入門 (日経文庫)

 '08(平成20)年3月に労働契約法施行された際に、日経文庫で、大学教授(昨年['13年]、慶應大学から東大に移った)の山川隆一氏の『労働契約法入門』と弁護士の浅井隆氏の『労働契約の実務』がほぼ同時に刊行されましたが、今度は、その労働契約法の'12(平成24)年の改正に伴って、同じ日経文庫で浅井氏の『Q&A 管理職のための労働法の使い方』が'13年3月に刊行され、それに続くかのように山川氏による本書『労働法の基本』が刊行されました。

 日経文庫編集部は、法制定及び改正のごとに弁護士と大学教授でセットにして書かせているのか? ('12年の法改正については、同じく日経文庫で、安西愈弁護士による『雇用法改正―人事・労務はこう変わる』が今年['13年]2月に刊行されている)。日経文庫編集部は、法制定及び改正のごとに弁護士と大学教授でセットにして書かせているのか?(悪くない試みだと思うが)

 今回の浅井氏と山川氏の著書を比べると、浅井氏の本は「職場の管理職」向けで、山川氏の方は「初学者」向け(人事部の初任者なども含まれるか)と、多少読者層を変えてきているようです。

 山川氏の前著『労働契約法入門』は、「労働契約法」に的を絞ったものと言うより労働法全般の入門書として読めるもので、その分、はっきり言ってややタイトルずれの感もありましたが(労働契約法だけだと、規定を置いた事項が限られている上に判例は未だ無い状況だったので、労働基準法などについても取り上げ、個別的労働関係法全般を概観するものとした―と本書まえがきにもあるが)、本書『労働法の基本』は前著『労働契約法入門』を改定し、平成24年の労働契約法の改正など最近の法改正の状況を織り込みつつ、個別的労働関係法の解説を充実させるとともに、労働組合法など集団的労働関係法における法的ルールについてもとり上げたとのことです。

 その分、網羅的であるとともに、タイトルずれが無くなって、入門書としてスッキリしたという感じでしょうか。労働法とは何かということから始まって、労働契約の基礎と労働条件の決定・変更、人事をめぐる法的ルール、労働契約の終了と続き、労働条件(賃金・労働時間・労災補償)、更に、雇用平等・ワークライフバランス、様々な雇用形態といった今日的テーマを取り上げ、最後に、労働組合と労使関係についての解説がきています。

 工夫されていると思ったのは、本文の各所にQ&A形式の「チェックポイント」が設けられていて、自学自習ででも理解度を確認することできるようになっていることです(質問の解答は巻末に纏められている)。

 例えば第1章の章末には次の4つの問いがあります。
 Q1 労働基準法の定める基準を下回る労働条件も、労働者が自由な意思で合意した場合には有効となる。
 Q2 使用者が労働契約法の規定に従わない場合、労働基準監督官が是正勧告をすることがある。
 Q3 労働審判制度は、労働組合が使用者に対する権利を実現するためにも利用できる。
 Q4 都道府県労働局における個別労働紛争解決制度では、当事者に対して法に従った紛争解決を強制することはできない。
 解答は、
 Q1 × 労働基準法13条により無効となる。
 Q2 × 労働契約法は労働基準監督制度による実現は予定されていない。
 Q3 × 労働審判制度の対象は労働者個人が当事者となる個別紛争のみである。
 Q4 ○ 個別労働紛争解決促進制度のもとでの助言・指導もあっせんも、自主的な紛争解決を促進するための制度である。

 知ってる人は知ってるけれど、知らない人は知らないといった感じの問題が多いかな。設問文自体が本文テキストの延長及び要約としてあるようにもとれる良問が揃っているように思います。
 ベテランの人事パーソンは、部下である人事部の初任者に本書を読ませる前に、取り敢えず自身でこれらの設問に解答してみましょうね。

《読書MEMO》
●章立て
第1章 労働法とは何か
第2章 労働契約の基礎と労働条件の決定・変更
第3章 人事をめぐる法的ルール
第4章 労働契約の終了
第5章 労働条件--賃金・労働時間・労災補償
第6章 雇用平等・ワークライフバランス
第7章 様々な雇用形態
第8章 労働組合と労使関係

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地味め(?)だが意外と"優れもの"。職場管理者だけでなく人事パーソンも一読を。

Q&A 管理職のための労働法の使い方2.jpgQ&A 管理職のための労働法の使い方.jpg
Q&A 管理職のための労働法の使い方(日経文庫)』(2013/03 日経文庫)

 職場で起きる労務問題について、管理職としてどう対応したらよいかを、Q&A形式で具体的にまとめたものです。労働時間・残業管理、休暇の管理等について、労働法の知識を頭から順番に教科書的に解説するのではなく、現実に起こり得る問題を具体的に想定して、どのタイミングで何をすればいいのかを、実践的な観点から解説しています。

 法律の解説部分は、人事パーソンにとっては"おさらい"的なレベルでしょう。しかしながら、人事部とどう連携するかという視点から解説されているため、職場の管理職が単独であるいは人事部と連携して対応していくそのやり方が分かるだけでなく、それを引き取った人事部が、引き続き職場の管理職と連携して、どのような形で問題への対応に当たるのが望ましいのかを知る上でも、多くの示唆が含まれているように思いました。

 例えば、「労働時間・残業の管理」について解説した第1章には、朝、勝手に早い時間に出社し、早出残業をつけている社員がいて、そのやめさせ方をどうすればよいかという問いに対し、「始業時間までは勤務に入らず、始業時刻になったらただちに勤務=仕事に取りかかれるように、それ以上はしないように、と指示すればよい」としていますが、こうした問題などはまさに、法律問題というより、その職場に合ったルールづくりの在り方の問題なのでしょう。

 「さぼる社員、言うことを聞かない社員をどうただすか」を解説した第3章では、社外の人への態度が悪く、評判の悪い社員に対して、その態度を改めさせるためにどうすればよいかという問いに対し、業務指示として将来の行動規範を具体的に示すことで、改善指導の対象・目的を明確にするのがよいとし、更に、「なぜ、私だけにそういう指示をするのか」といった社員の反撃に対する対処の仕方も具体的に書かれています。

 無断欠勤が続いている社員を解雇せざるを得ない場合、長期無断欠勤が自然退職事由になっておらず普通解雇事由になっている場合は、解雇の意思表示が本人に到達しなければなりませんが、配達証明付内容証明郵便で解雇通知を発送して本人が受け取り拒否した場合は"未到達"になるため、解雇の効力が発生せず、このような場合においては、内容証明郵便ではなく普通郵便で発送するようにする―といった具体的な方法論についても触れられており、この辺りはむしろ人事部マターとしての基礎知識と言えるかと思います。

 以下、病気の社員、問題行動のある社員への対応、セクハラ・パワハラの防止、有期労働者の管理、派遣労働者の管理、請負労働者の管理、トラブル発生への予防と対応、外部の労働組合への対応など幅広い問題について、ともすると職場の管理者だけでなく人事パーソンでさえ判断を誤りがちなケースを設問形式で取り上げ、最新の改正法を踏まえつつ、予防や事後のフォローなども含め丁寧に解説しています。

 日経文庫という地味め(?)のレーベルの一冊である上に、タイトルに「管理職のための」とあるため、人事パーソンはついスルーしてしまいがちな本かもしれませんが、(職場管理者を啓発していく上では勿論のこと)人事パーソン自身が職場の管理者とともに労務問題への対処の在り方を考えていくうえで、改めて気づかされる点、考えさせる点が少なからずある本でした。

 ということで、意外と"優れもの"だったという印象。新書版という手軽さ、労働法の関係する実務に直接は携わっていない現場の管理者向けに平易に書かれているということもあり、ふだん労働法関連の本をあまり読まない人は(人事パーソンの中にもいるかもしれないけれど)一読されることをお勧めします(設問に対して、自分だったらこう対処する―とまず回答を想定してから、その後に解説に読み進むといい)。

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懲戒基準の世間相場や判例上の適否判断基準を把握しておくことは、意外と重要なことかも。

懲戒処分.JPG 『懲戒処分 適正な対応と実務(労政時報選書)』(2013/03 労務行政)

 日々さまざまな事案や問題が発生する職場においては、人事管理的側面はもとより、企業秩序維持のためにも懲戒を検討しなければならないケースがありますが、社員の起こす非違行為は多様であり、それらについてどのように対応すべきかであるかは、そう簡単な問題ではないように思います。本書では、企業における懲戒処分の基本的事項、判断の分岐点等について、豊富な判例を基に弁護士が丁寧に解説しています。

 第1章「懲戒の種類・基本的考え方と実務上のポイント」では、懲戒処分とは何か、その根拠と限界並びに有効性について解説するとともに、「一事不再理の原則」など懲戒処分を適正に行うために知っておくべきこと、実際の懲戒処分の進め方、懲戒の種別や懲戒事由にはどのようなものがあるかなどの基本的事項を解説しています。

 第2章「労働判例に見る懲戒の有効・無効の分岐点」では、懲戒処分の基本的な考え方や懲戒権行使の限界を再確認すると共に、これまでの裁判例から、無断欠勤、業務命令違反、セクハラ・パワハラなど職場秩序を乱す行為、会社に損害を与える行為、私生活上の問題行為などに関する具体的事案について、それらが懲戒処分になるかならないのか、その分岐点を探っています。

 第3章「懲戒制度の最新実態調査」では、労務行政研究所のオリジナル調査として、企業における最近5年間の懲戒制度の変更状況や、懲戒段階の設定状況、処分の種類、賞罰委員会など審査期間の設定状況をはじめ、「無断欠勤日数と懲戒処分」「出勤停止日数」と賃金の支給状況」「解雇における退職金の支給状況」などのアンケート結果を示すとともに、「売上金100万円を使い込んだ場合」は77.9%が「懲戒解雇」を適用―といったように、モデルケース別にみた懲戒措置の回答をまとめることで、懲戒処分の"世間相場"を浮き彫りにしています。

 第4章「懲戒処分にまつわる実務Q&A」では、「痴漢を理由に懲戒処分を受けた後、再犯した社員の処分は?」「メールを私的利用している社員の処分は?」など、企業で実際に想定される21の懲戒対象のケースについて、その実務のポイントを、これも判例等を引用しつつ解説しています。

 最終第5章「懲戒に関する文書・書式例」では、セクハラ事案の場合の「譴責処分通知書」や残業命令拒否の場合の「譴責処分通知書」など、懲戒に関する具体的な文書・書式例が掲載されています。

 懲戒処分に関する実務的な解説書が少ない中、実務に供することを狙いとして多角的見地からよくまとめられているように思いました。
 ある程度の実務経験のある人事パーソンにとっての読みどころは第2章、第4章であるかと思われますが、第1章の基本解説の中にも、懲戒処分の「社内発表」に際しては、氏名の公表や、個人を特定し得る具体的事実の公表は原則として差し控えるべきであるといった、著者らの考えが織り込まれていたりもします。殆どの企業で氏名公表しているのではないかなあ(或いは、懲戒そのものを発表しないとか―これはこれでどうかなあと思うが)。

 懲戒をめぐる裁判例について、とりわけ近年のものがよく網羅されているのも本書の特長であり、実務担当者としては手元に置いておきたい一冊。
 企業によっては、取締役会や賞罰委員会が、懲戒すべき事案をうやむやにしたり、逆に暴走気味に厳しい処分を下したりすることもあるんだよなあ(そうした場合、少なからず社内ポリティックスが働いていることがある)。懲戒基準の世間相場や判例における適否判断基準を把握しておくことは、意外と重要なことかも。

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実務に役立てながら、法改正の意義と問題点をも知ることができる入門書。「無期転換」関連は読み処多し。

雇用法改正34 .JPG雇用法改正 安西.jpg雇用法改正 人事・労務はこう変わる (日経文庫)

 平成24年に改正された、人事・労務に大きな影響を及ぼす3つの労働関係の法律について、それらの改正によって企業の人事労務はどう変わるのか、人材活用や雇用のリスク管理はどうすべきであるかという観点から、それぞれの法改正の背景やその具体的内容、実務対応の在り方を解説した本です。

 第一は、労働契約法の改正であり、有機労働契約を5年を超えて継続更新した場合における、無期雇用転換申込制度を定めました。第2は、労働者派遣法の改正であり、日雇い派遣の禁止、派遣先の1年以内の離職労働者の派遣禁止などが定められました。第3は、高年齢者雇用安定法の改正で、老齢厚生年金の支給年齢の引き上げに伴い、「65歳までの高年齢者雇用確保措置」が義務化され、継続雇用の対象者を労使協定による基準で定める制度が廃止されました。

 同じ日経新書に『人事の法律常識』(2013年、第9版)などの著書もある、第一人者の弁護士による解説書ですが、新書でありながらも詳しい解説がされていて、とりわけ改正労働契約法については、無期雇用転換のほかに、有期労働雇止め法理、期間労働者への不合理な労働条件の禁止のそれぞれについても単独で1章を割き、丁寧な解説がされています。

例えば、「無期転換申込みの手続」について、「無期転換申込みは契約期間満了前1ヵ月前までに行わなければならな い」といった手続の制限を設けることは、使用者が雇止めする場合の予告期間として定められている「少なくとも30日前」とのパラレルな関係からみて、「合理的であろうと解します」と書かれています。

 また、「更新5年の期間満了をもって、雇用契約は終了する」との定めが有効であるかについては、労働契約は使用者と労働者の合意によって成立するものであるから、このような労働契約は有効であるとし、ただし、当初からこの契約の趣旨に従い、例えば契約期間が1年毎であるなら、その都度更新について労働者と労使間で協議して、きちんと有期労働契約を締結し、「更新5年まで」ということを明白にしておく必要があるとのこと。労働者に対し、最長更新の限度を超える合理的期待を発生させるような言動をしたり、さらに5年を超えて更新したりすると、「5年の期間限定」の効力は全くなくなるとしています。

 それでは、現在の有期雇用者に「5年まで」の更新制限をつけられるか―この問題については、「更新日から5年を超える期間の更新は行わず、最終更新日の満了を以って終了する」旨の新たな契約条項に合意した場合は。この契約は有効となり、合意しなかった場合は、使用者としては、雇用の終了(雇止め)という方法をとるか、法的リスクを避けるため、一応は更新して、今後5年間の間に本人と協議を続け、最終更新日までに合意を得るという方法もあるとしています。

 以下、有期労働雇い止め法理がどのような場合に適用されるかといったことから、期間労働者への不合理な労働条件の禁止における「不合理な労働条件」とは何か、さらに、労働者派遣法の改正によって派遣先で必要となる対応や、高年齢者雇用安定法の改正に対する対応まで、実務に沿ってかなり突っ込んだ解説がされています。

 今回の労働契約法の改正は「雇用体系を混乱させる法改正」であるとし、期間労働者への不合理な労働条件の禁止における「不合理と認められるものであってはならない」という規定について、この規定の効力が争われた場合、いったい裁判所はどんな判決を下すべきか全く不明であるとするなど、著者らしい批判精神が織り込まれている点でも、入門書の枠を超えています。

 それでも形態上は新書であるため、手元に置いて実務の参考にするのに便利であり、実務に役立てながら、法改正の意義と問題点をも知ることができる本―といったところでしょうか。

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人事マネジメント、労働法それぞれの分野の第一人者による"相互乗り入れ"的討議。興味深い。

人事と法の対話 .JPG人事と法の対話 有斐閣.jpg
人事と法の対話 -- 新たな融合を目指して』(2013/10 有斐閣)

 企業内で実務携わる人事パーソンの立場からすると、労働法が次々とハードルを設定するために人事管理がやりにくいと感じられたり、また、人事管理上の課題や案件の解決に際して、労働法の規制があるがためにその選択肢が限定されたりすることもあるのではないかと思います。

 そうしたことから、ともすると人事管理(HRM)と労働法は対立する関係にあると捉えられがちですが、元をたどればいずれも労働者に資することを目的としている点では同じはずであり、ただし、人事管理においては企業経営に資することも併せて求められるために、そこが"対立"の起点となるように思われます。

 本書は、守島基博氏、大内伸哉氏という人事マネジメント、労働法それぞれの分野の第一人者による対談の形式をとっており、「限定正社員」「雇用の多様化」「解雇規制緩和」「高齢者の活用」などの人事管理におけるテーマを取り上げて、人事マネジメント、労働法それぞれの立場からこうした課題を論じることで、新たな人材マネジメントのあり方を考察したものです。

 ワーク・ライフ・バランス、メンタルヘルス、グローバル化対応など、取り上げているテーマが非常に今日的なものであるばかりでなく、守島氏が企業における人事マネジメントの実情を具体的に解説し、また、時に企業の実務者や産業医を交えた鼎談のかたちで、先進企業の具体的取り組み事例などをも紹介しているため、実務家が読んで充分にシズル感のある議論になっているように思いました。

 一方の大内氏も、そうした多様な企業の実情を新たな知見として謙虚に受け止め、それらを踏まえて今後の労働法が果たすべき役割について深く突っ込んだ見解を述べるなどしており、まさに「人事と法の対話」というタイトルに沿った内容になっているように思いました。

 対談を通して興味深く感じられたのは、守島氏もあとがきで指摘しているように、労働法が目指す人材管理のあり方は、正社員の雇用維持努力など多くの優良企業ではこれまでも実施されてきており、ただし、競争環境や働く人の意識の変化によって、わが国の人材マネジメントそのものが変化する必要に迫られているという実情があるということです。

 例えば「限定正社員」のような考え方が出てくると、従来のような正社員・非正社員といった二分法での人事管理では対応しきれなくなるわけであり、一方、労働法の方も、働き方の多様化に対応するようなかたちに少しずつ変化していくのではないかということが、両者の対談から示唆されているのが興味深いです。

 人事管理における今日的テーマを俯瞰し、自社の相対的位置づけを把握するうえでも参考になりますが、ただそれだけに終わらず、人事マネジメントのこれからのかたちを思い描き、さらに、労働法とどう付き合っていけばいいかについて考えをめぐらせることができる本であると思います。

 その答えは必ずしも容易に見つかるものではなく、また本書も安易に答えを導き出そうという姿勢はとっていませんが、人事マネジメントにおける個別の課題を時代の流れに沿って整理し、将来的な見識に基づいた課題解決のヒントを見出す一助となり得るという意味では、広く人事パーソンにお薦めしたい一冊です。

 対談形式なので読み易いというのもありますが、これまで、こうした人事マネジメント、労働法それぞれの分野の第一人者による"相互乗り入れ"的討議というものがあまりなかっただけに、個人的にもたいへん興味深く読めました。

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初学者だけでなくベテランにも。まさに「初級入門者から上級の実務担当者まで必携」。

『基礎から学ぶ賃金・賞与・退職金の法律実務』.JPG基礎から学ぶ賃金・賞与・退職金の法律実務.jpg
基礎から学ぶ賃金・賞与・退職金の法律実務』(2013/04 日本法令)

 産労総合研究所の定期刊行誌「賃金事情」に、平成17年4月から平成19年6月までの約2年間にわたって連載された「基礎から学ぶ賃金と法律」を単行本化したものですが、連載が終了してから6年経っているわけで、当然のことながら、その間の労働関連法令の改正、労働契約法の創設などを前提に、専門誌掲載記事の内容を大幅にリニューアルしてあります。

 第1章から第6章までは、賃金の定義や賃金の支払いに係る法的制度をはじめ、賃金の決定や計算、支払い等の実務について分かり易く解説しています。また、第7章では平均賃金、第8章では賞与、第9章では退職金の法律実務をそれぞれ解説しています。

 また、最近の社会経済情勢を背景に、企業が直面する人事労務の問題や、M&Aに伴う賃金の不利益変更の問題など、現場で人事労務の問題に対応している人事パーソンの実務に供するよう、「補章」として、賃金の不利益変更に関する諸問題を取り纏めて解説しています。

 法令の条文だけでなく、行政通達や裁判例がふんだんに織り込まれていて(賃金に関する全通達の内のかなりのものが取り上げられているのではないか)、さらに関連するコンサルティング事例なども載っています。

 職場の管理職や一般の従業員にも分かるように心掛けて執筆したとのことで、2色刷りで図説がたいへん多くて分かり易いですが、前述の通り、法律や通達に関してかなり突っ込んで解説しており、更に、年俸制、インセンティブ手当と割増賃金、固定残業代の支払い方などの個々のテーマに関しても、実務上発生する課題に対し、"並みの"実務書には見られない詳細な解説がなされています。

 法律についてある程度突っ込んで書かれた本は少なからずあり(弁護士や大学教授が書き手であることが多い)、また、「残業代」や「不利益変更」などの賃金労務に関するテーマに沿って実務寄りに書かれた指南書的な本もあることはありますが(コンサルファームや社労士が書き手であることが多い)、ここまで法律に関して突っ込んで書かれていて、且つ、そのことをきちんとベースにしつつ実務対応についても踏み込んで書かれている本というのは、実際には殆どないように思われます。

 帯にも「初級入門者から上級の実務担当者まで必携!」とありますが、初学者だけでなく、ベテランの人事パーソンや社労士にとっても専門能力を深めるうえで大いに参考になると思われ、まず通読して("ベテラン"を自負する人ほど、内容の深さにおいて相当の読み応えがあるのではないか)、その後も必要に応じて読み返したり、手引き的な使い方をされることをお勧めします。
 
《読書MEMO》
●目次
第1章 賃金とはなにか
第2章 賃金支払いにかかる規制と保護
第3章 賃金決定の実務
第4章 賃金計算の実務
第5章 賃金支払いの実務
第6章 割増賃金の実務
第7章 平均賃金の実務
第8章 賞与支払いの実務
第9章 退職金支払いの実務
補章 賃金の不利益変更等に関する諸問題

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1冊で法改正のポイントも、制度設計も、企業の対応動向も分かるという点では便利。

改正法対応版 高年齢者処遇の設計と実務8.JPG改正法対応版 高年齢者処遇の設計と実務.jpg改正法対応版 高年齢者処遇 の設計と実務 (労政時報選書)』 (2013/03 労務行政)

 労使協定で定める基準により継続雇用制度の対象となる高年齢者の選別を認める仕組みを廃止した改正高年齢者雇用安定法(平成24年8月成立)の平成25年4月施行に合わせて刊行された解説書です。

 法改正のポイントを纏めた「法律・判例解説・規定例」と、60歳超雇用者の処遇に関する「実務解説」と、企業の対応をアンケート調査した「緊急調査」の、概ね"均等比重"の3部構成で、これ1冊で、法律も制度設計も企業の対応動向も分かるという点では便利です。

 特に、安西法律事務所の渡邉岳・小栗道乃の両弁護士が書いている法律解説の部分はコンパクトに纏まっていて、「改正法における継続雇用に関わるQ&A」が10問ありますが、これは必読箇所という印象で、定年後の雇用と処遇に関する判例解説も、これまた同じく、よく纏まっています。

 一方、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのコンサルタント2人が執筆している「実務解説」も、60歳超の報酬パターンを図に示したり、年金支給開始年齢の繰り延べを踏まえた公的給付の活用と自社賃金の在り方を示したりと、丁寧ではありますが、ややごちゃごちゃした印象でしょうか。公的給付を活用しないパターンなども例示しているのは良いと思いましたが、紙数が足りなくなった印象も...。

 残り3分の1を「緊急調査」と、改正法に関する法律、施行規則、更に行政が出した指針及びQ&Aで費やしていますが、これ1冊で全て事足りるようにしようという意図は感じられるものの、結果的に、やや"専門誌の特集"的な本の作りになったよう気もします(「労政時報」の特集記事における調査とダブっているのでは。まあ、専門誌を購読せず、本書のみ買う人もいるだろうけれど、制度解説にもう少し比重を置いて欲しかった気もする)。全体に総花的と言うか...。その割には(だからこそか)3,900円(税込)はやや高いかな。

 改正法の成立時から年末にかけては、各企業どうやって対応するのだろうという印象でしたが、本書の調査結果にもあるように、改正法施行時期までには大手・中堅企業の大部分は方向性を打ち出したという印象で、今後は、60歳超の社員との接続において、60歳前の中高年社員の処遇の在り方が課題になってくるのではないでしょうか。

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数値・類型化によって雇止めを巡る司法の判断を浮き彫りにした点がユニーク。

「雇止めルール」のすべて.jpg  雇止めルールのすべて.JPG雇止めルールのすべて』['12年/日本法令]

 安西法律事務所所属の渡邉岳弁護士による、雇止め法理を中心に解説した実務書です。三部構成の第1部で、労働契約における期間の意義ならびに裁判所が確立した雇止め法理の内容及び雇止めをめぐる近時の問題を取り上げ、第2部で、平成24年の労働契約法の改正内容と労働契約法における雇止め法理に関する解釈上の諸問題に触れています。

 ここまではテキスト的内容ですが、雇止めに関する裁判例を整理した第3部がたいへん特徴的であり、解雇に関する法理の類推適用の有無の"予測方法"を独自に示したうえで、雇止めをめぐる裁判例を、「解雇に関する法理の類推適用の可否」が決め手となったケースと、「解雇に関する法理を類推適用した結果」がどう判断されたかが決め手となったケースに分け、それぞれ分析しています(この約200例の判例分析が本書全体の後半3分の2を占める)。

 まず、「解雇に関する法理の類推適用の可否」が決め手となった裁判例については、事案ごとに、継続雇用の期待度を、①業務の永続性、②更新回数・継続雇用期間、③正社員の職務、権限ないし責任との同一性、④契約更新手続きの実施、⑤契約における更新条件についての合意の内容、⑥使用者による契約更新を期待させる言動の有無、⑦同様の立場にある者に対する雇止め実績、の7つの要素について±(プラスマイナス)でスコア評価して、「期待指数」の総合スコアを求め、実際の判旨はどうであったのかを示すとともに、それに対する著者のコメントが付されています。

 こうしてみると、「期待指数」がプラスのスコアとなっているものは、裁判においても解雇に関する法理が類推されて、雇用契約の継続への期待に合理性があると判断され、一方、マイナスのスコアのものは、それが否定されて雇用契約の継続への期待に合理性があったとは認められないとされているという傾向がはっきりみられ、著者の「期待指数」の要素設定に一定の合理性・納得性があることを窺わせるものとなっています。

 また、「解雇に関する法理を類推適用した結果」がどう判断されたかが決め手となった裁判例については、事案内容に沿って概ね「合理的期待型」と「実質無期型」に区分し、実際の判旨を紹介するとともに、雇止めによる契約終了が認められなかったものと認められたものに区分しています。
 
 興味深かったのは、裁判所が解雇に関する法理を前提にしたからといって、雇止めによる契約終了は認められないとされたケースばかりでもなく、解雇法理を類推適用しつつ勘案した結果、"やむを得ない事情"が考慮されたり、解雇法理を"厳格に"適用する事案ではないとされたりして、雇止めによる契約終了が認められたケースが、「合理的期待型」「実質無期型」の双方に散見される点でした(考えてみれば、そうした判断もあり得るのは当然といえば当然だが)。

 ともすると「事案の個別事情に拠る」というのが通念のようになっている雇止めをめぐる紛争及び裁判例ですが、本書は、数値・類型化によって雇止めをめぐる司法の判断を浮き彫りにしてみせたという点でユニークな試みであるとともに、実務において、雇止めの要件が整備されているかどうかをチェックする際の参考になり、また、現実の紛争に直面した際などに、司法の判断を予測する指標ともなる本かと思われます。

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労働法から遠い世界にある雇用終了の実情? 判例規範とは別ルールが存する「あっせん」の場の実態を示す。

濱口桂一郎 日本の雇用終了.jpg  121201 講演と渾身の夕べ1 (2).JPG 濱口桂一郎氏 (社会保険労務士稲門会・第12回「講演と渾身の夕べ」 1212年12月1日/ホテル銀座ラフィナート)
日本の雇用終了―労働局あっせん事例から (JILPT第2期プロジェクト研究シリーズ)』[労働政策研究・研修機構]

 労働政策研究・研修機構の編集による本ですが、実質的には同機構統括研員の濱口桂一郎氏の執筆によるものです。労働局の個別労働紛争のあっせん事例の紹介が本書の大半を占めますが、今まであまり触れられることのなかった実証的な記録であるとともに、日本の雇用社会の実態が浮き彫りにされていて興味深く読みました。

 紹介されているあっせん事案の調査対象年度は2008年度で、この年の総合労働相談件数は約107万件、内、あっせんに至ったものは8,475件(1%未満)。その中から1,144件のあっせん事案を抽出して紹介・分析していますが、その多くは、解雇、雇止め、退職勧奨、自己都合退職などの雇用終了事案であり、そのため「日本の雇用終了」というタイトルになっているわけです。

 紹介されている事案の約7割が100人未満の中小企業におけるあっせんであると見込まれ(労働組合の組織率の低さが背景にあると考えられる)、著者はそれらの事案から、裁判に至らないこうしたあっせんの段階では、職場の暗黙のルールとしての法(「フォーク・レイバー・ロー」)が、司法上の「判例規範」とは別に存在しているということを指摘しています。

 その最たるものが「態度」が悪ければ雇用終了となるというルールであり、「能力」不足による解雇とされた事案であっても、「能力」の捉え方の主観・客観の判断区別が曖昧であることも相俟って、実は「態度」が悪いから解雇に至ったというような事案が多くみられます(コミュニケーション不全や職場仲間との協調を乱すことを含む)。

 興味深いのは、判例法理上は「態度」や「能力」だけを解雇理由とするのは認められ難いというのが一般論であるのに対し、あっせんの場では、そうしたことが企業側の主張にとどまらず、ひとつのア・プリオリな規範になっているということです。また、立法府によって2007年に成立した労働契約法において、法案審議過程で討議されることもあったものの最終的には条文に織り込まれなかった「金銭補償による雇用契約の終了」が、行政が主導するあっせんの場においては、少なくとも裁判例の数十倍もの規模でそのことが行われているという見方ができる点でも興味深いです。

 中小企業の実態と労働法や判例法理との乖離は、多くの中小企業が、経営不振という理由だけで極めて簡単に「整理解雇」を行っていて、真に経営上の理由であるかどうか疑わしいケースも中には含まれていると考えられる点についても言えます。

 しかしながら実際のあっせんの場では、そうしたことの正否よりも労働者側と会社側の合意とりつけに重きが置かれていること、日本は整理解雇に対する判例法理上の規制が強いという一般通念とは別の次元で、解決金という名の下に、金銭補償による雇用契約の終了が行われていることが、本書から如実に窺えます(あっせんという制度そのものがそうした性格を帯びているとも言える。弁護士などが行っているADRでも同じようなことはあると思うが、今それを行政が率先して行っている)。

 現行の労働法制の在り方、労働行政との乖離に対する問題提起にもなっており、こうした乖離の実態をどうすればよいかについては様々な論議があるかと思いますが、個人的に気になったのは、1,114件のあっせんの内、被申請人(企業側)の不参加によりあっせんが打ち切られたケースが42.7%と半数近くにのぼることです。

 労働審判と異なり、任意の制度として被申請人の不参加が認められている以上やむを得ないのかもしれませんが、実質的なあっせんの手続きにすら入ろうとしない企業が多いのはいかがなものかと(大企業・中堅企業でも、不参加企業がある)。

 こうした係争に費やす労務コストは少なからずのものがあるかと思いますが、解決金の額は平均水準ではそれほど高額にはなっておらず(10万円以上20万円未満が最も多い)、係争を長引かせ労働審判や裁判に持ち込まれるよりは(或いはユニオンに駈け込まれるよりは)、企業側もあっせんの場を"積極利用"して早期に決着した方が、代理人を立てた場合の費用なども含めトータルでは安く済むのではないでしょうか。

 企業側不参加の事案であっても、企業側が事前に「回答書」を提出するなどしているケースが多いため、必ずしも申請人(労働者側)の主張のみしか分からないというものばかりではありません。それらを併せ読むと、労使「相互被害者意識」のトラブルが多く、中には、申請人が所謂「モンスター社員」ではないかと疑われるケースもあります。こうした社員は、企業規模に関わらずどの会社にも一定割合でいるのではないでしょうか。企業側からすれば、「こんなヤツに解決金を払ったんじゃ他の社員に示しがつかない」ということで、あっせんそのものに乗り気でない(或いはあっせん内容に満足しない)ケースもあるではないかと思いました。そうした事情があったとしても、個人的には、これは企業側も大いに活用すべき制度であると考ます。

 濱口氏の本は、一般向けであっても堅めのものが多いのですが、本書は事例集なのでとっつき易く、また、著者なりの分析も簡潔明瞭で、企業規模を問わずお薦めです。

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自主ゼミ形式になっていて、シズル感をもって読める。通学・通勤用?

レッスン労働法.jpgレッスン労働法』(2013/04 有斐閣)

 大学の労働法の教授の研究室を舞台に、自主ゼミ形式で4人の若者が労働法を学んでいくというスタイルをとっていて、まず重要なテーマごとにメンバーの一人が報告(レポート)をし、そのあと全員でディスカッションを行い(レッスン)、最後に報告者作成の「まとめ」を掲げるという構成をとっています。

 法科大学院のテキストに見られるようなケーススタディをベースに論点を提示する形式において、そこで交わされた議論を含めて再構成した感じと言えなくもないですが、本書では、一つ一つのケースから議論を進めるのではなく、前期15回は「労働法の基本と個別労働的労働関係法」について、後期15回は「労使関係法と労働法の現代的課題」について、例えば前期の第1回であれば「労働法の定義と憲法上の規定」といったように、労働法における包括的なテーマから、採用や賃金、労働時間・休日・休暇などの個々のテーマにブレイクダウンしていっています。

 学部授業の延長としてあるゼミ講習という感じでしょうか。あくまでも「労働法のテキスト」を、ゼミレポートとそれを巡る討議という形式に置き換えたものと言えます。但し、こうしたゼミ討議形式をとっているとともに、レポートや討議の中でテーマに関連する主要な判例などにも触れられており、判例についても学びながら、学生の様々な視点を交えつつシズル感をもって読み進むことができるのが、本書の長所ではないでしょうか。

 ゼミ生のコメントの頭に発言者の顔がイラストで描かれているのも、親しみやすさを覚えます。また、学生自身のアルバイトの経験なども話として織り込まれていて、大学で講義をする機会がある人には、講義において学生の関心を引き付けるうえでの参考になるかと思います。

 新書版よりちょっと幅があって大きめであるぐらいのハンディな体裁で、それでいて内容が盛り沢山なために、余白が小さくてやや活字が詰まっている印象を受けますが、学生や社会人が通学や通勤の途中で読む分には手頃かと思われます。

 それでいて解説は結構奥が深いと言えるのではないかと思われ、表紙の柔らかい印象に比べ、内容はかっちりしていると言えます(版元名からそのことは察せられるが)。

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労働時間法に関する判例に絞って、コンパクトに纏まっているが...。

判例の中の労働時間法法.jpg判例の中の労働時間法 実務家のための判例入門』(2013/01 旬報社)

 労働判例の中から労働時間法に関するものを抽出して解説したもので、「労働時間」と「休日・休暇」に関する判例を集め1冊で解説したものは過去にもあったように思いますが、「労働時間」に絞ったものは殆ど無かったのではないかと思います。判例を通して、労働時間法制のポイントを理解するというのが本書の狙いです。

 労働時間問題を更に「労働時間の概念」「時間外労働・休日労働の労働時間性」「労働時間の適正把握・管理義務と算定」「時間外・休日労働義務の法的根拠」「時間外割増賃金などの基本給組み入れや定額払いの適法性」「管理監督者の労働時間」「事業場外労働のみなし労働時間制」の7つのテーマに分けて扱っているため、関心があるテーマから読み進むこともできます。

 全体で167ページと手頃で、紹介されている判例は、メインで解説されているものは最高裁判例を中心とした25例です(但し、高裁・地裁判決も少なからず含まれている)。判例ごとに、【事実の概要】【判旨】【どう読むか】に分かれていて、事実と判旨の部分は「判例時報」などの判例紹介スタイルと似ていると言えば似ています。

 そうした裁判例を読み慣れている人には、事実と判旨がよりコンパクトに纏まっているうえに「どう読むか」が書かれているため、判決においてポイントとなった法的ルールが掴みやすい本だと思いますが、判例集を読み付けていない人には、「Y社は」「Ⅹは」といった表現に慣れるまでにやや時間を要すかも(判決文のパターンを把握する訓練にはなる)。

 こうしてみると、労働時間法制というのは奥が深いなあと。紹介判例数「25」というのは、むしろ絞り込み過ぎのような気もして、個人的には「あの判例が出ていないのはなぜ?」といた箇所もありました(最高裁判例を優先したとか、特殊ケースを除いたとか、大学教授である執筆者なりの基準はあるのだろうが)。

 巻末30ページ以上を労働時間に関する条文・行政解釈の掲載に費やしていて(解説の中で、判例と行政解釈との関係について触れられたりもするので、これはこれで必要なのだろうけれど)、その部分を差し引くと正味130ページ弱であり、もう少し本編のページ数を増やして多くの判例を取り上げても良かったような気もします。

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労働基準法に加え労働契約法の解説もプラス。丁寧なリニューアル。

実務コンメンタール 労働基準法・労働契約法8.JPG実務コンメンタール 労働基準法・労働契約法.jpg   労働基準法の教科書 労務行政研究所.jpg新訂版 労働基準法の教科書 (労政時報選書)』(2011/07 労務行政)

実務コンメンタール 労働基準法・労働契約法』(2013/03 労務行政)

 「労働法コンメンタール・労働基準法」は、厚生労働省労働省労働基準局編の最も詳しい条文の逐条解説書であり、以前から先輩の社労士などから読むようにと言われつつも、その大部さから敬遠していましたが(実はその先輩もツン読状態だったみたいだが)、「一般の人事担当者向けのダイジェスト版を」という要望に応え、2011年に労務行政研究所から『新訂版 労働基準法の教科書(労政時報選書)』が刊行されたのは有難かったです(コンメンタール原本は縦書きであるのに対し本書は横書き)。

 本書は、その「"実務で使える逐条解説書"という思想を継承し」、2008年に施行された「労働契約法」の解説も新たに加えて、より現代的な視点に立って特別編纂した「普及版」とのことです。

 基本的には全600ページ弱の内500ページ強は「労働基準法」の解説が占め、残り100ページ弱が「労働契約法」の解説となっていますが、これは条文数の圧倒的な差からくるもので、「労働契約法」も、決して付け足したという程度ものではなく、2012年に法改正があった部分も含め、十分に解説されているとみていいかと思います。

 『新訂版 労働基準法の教科書』が「労働基準法」だけで700ページ弱あったのを、今回は、「第6章 年少者」(56条~64条)、「第6章の2 妊産婦等」(64条の2~68条)、「第7章 技能者の養成」(69条~74条)、「第10章 寄宿舎の養成」(94条~96条の3)などの各条文解説を省略していますが、確かにこの辺りは日常業務では殆ど使わないです。

 また、解説を残した部分についても、より簡潔に纏められる部分は纏めるようにしていて、一方で、時代の必要を鑑みて新たに付け加えられたQ&Aなどもあり、丁寧なリニューアルと言えます。

 但し、『新訂版 労働基準法の教科書』が2色刷りで4,700円(税込)だったのに対し、今回は単色で100ページ圧縮されているにも関わらず5,460円(税込)と値上がりしているのがちょっとキツイかなあと(「労働契約法」の解説が加わった分を前著にオンした感じか?)。しっかり読めば、これぐらいの値上がり分の元は十分に取れるとは思いますが...。

 個人的には、暫くは『新訂版 労働基準法の教科書』との併用になりそう...。いずれせよ、労働法に携わる人の必携書には違いありません。

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重改正3法の要点が1冊に纏まっていて便利。実務テキストとしてスタンダードかつ丁寧。

2012年労働法改正と企業の実務対応9.JPG2012年労働法改正と企業の実務対応.jpg待ったなし! 2012年労働法改正と企業の実務対応 ~相次ぐ雇用の規制強化に、どこを見直せばよいか~ (労政時報選書)

 2012年に国会で成立した改正労働法の内、労働契約法、高年齢雇用安定法、労働者派遣法にかかる改正を中心に、実務に精通する社会保険労務士の視点から、改正内容のポイントを整理した本で、まあ、これらの法改正とその内容については、人事労務の専門誌やセミナーなどで既にかなり解説されてはいるわけですが、本書の場合、改正3法の要点が1冊に纏まっているという点で便利です。

 全3章構成の内、本書の中核となるのは、改正3法を解説した第2章ですが、第3章また、加えて第3章で、これらの法律に共通するテーマと言える「非正規雇用」に関して、人材ポートフォリオや労働条件整備のポイントといった事項も収録されています。

 改正3法については、Q&Aやチェックリストなども織り込み、実務に沿った丁寧な解説で、社会保険労務士法人の編著らしく、関連する社会保険の手続き等についても言及・解説されています。

 一方で、例えば、労働契約法における無期転換権の行使における転換権放棄条項を入れた契約書の適否の問題等、法的論争が発生しているものの未だ裁判所の判例が無いような問題は、触れるのを避けている印象も受けます。

 今回の法改正では、高年齢雇用安定法に改正労働契約法が絡んでくるケースが考えられます。65歳超の継続雇用が発生する場合は、更なる定年年齢(70歳など)を定めることで、66歳以上の一定年齢(70歳など)までに雇用契約を終了させることができるとしている点などは、法律家の間で定年とは何ぞやという議論もありますが、弁護士なども大方がそうした方法を教唆しており、本書もそれに倣っています。

 実務テキストとしてはスタンダードである、というか、かなり詳しく書かれている部類に属するかと思われ、一冊手元にあってもいい本。置いておくだけでなく、改正法への未対応の場合は、すぐにでも対応に取り掛からなければならないわけですが...。

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セクハラ・パワハラ100事例を分かりやすく解説。読みやすいが、価格がややネック。

IMG_3760.JPG裁判例にみる企業のセクハラ1.jpg裁判例にみる 企業のセクハラ・パワハラ対応の手引

 セクハラ・パワハラに関して、最近の裁判における紛争例を事実関係を含めて取り上げ、実務上留意すべきポイントを抽出し、解説を試みたもので、約480ページの中でセクハラに関する裁判例を73事例、パワハラ、モラルハラスメントに関する判例を27事例、計100事例取り上げ、編者2名を含む10名の弁護士が執筆分担しています。

 セクハラ事案については、会社の調査・認定、会社の措置、会社の責任といった時系列的な順序で判例をグループ化しており、まあオーソドックスな分類方法ではないでしょうか。

 一方、未だ今一つ概念が明確でないパワハラに関する事案については、「原因」(上司の立場を利用した問題行動・問題発言、本人の態度・対応にきかっけがある場合、労働組合・一定の思想を背景とする嫌がらせ)と「行動様態」(いじめの事例、指導かパワハラか、嫌がらせ配転、退職勧奨、内部告発等)の2つの視点から分類しています。

 また、セクハラ、パワハラそれぞれについて、肯定された裁判例だけでなく、否定された裁判例も相当数取り上げられていてバランスがいいように思いましたが、こうした分類や取り上げ方の配慮が出来るようになったのは、それだけ裁判例が急増した(現在もしている)ということなのだろうなあと。
「判例時報」などを読んで、セクハラ事案の数の多さに驚かされるし、パワハラ事案もかつてと違って全然珍しいものではなくなってきました(本書で取り上げられているパワハラ事例の多くは平成19年から22年にかけてのもの)。

 これら判例を読むと、セクハラ・パワハラ事案とも主に人間関係上の問題に端を発していて、当事者の主観が先行して事実認定が難しいケースが多いことを思い知らされますが、類似裁判例を取り上げるなどして、その傾向や判決のポイントが把握できるようになっています。

 解説が簡潔にまとまっているだけでなく、字も大きくて、行間もゆったりとってあって読み易いです(いつでも、どこからでも読める)。
但し、その結果、500ページ弱で5,250円(税込み)という価格になってしまっており、この価格ゆえに刊行後1年で絶版になっているのでは(今後改版されるかもしれないが)。

 個人的には、セクハラ・パワハラ研修の"基礎編"を終えて、次に何をやろうかということで、ヒントになる判定がないかと思って購入。中古品でもあまり安くなく、時々マーケットプレイスを見ると、今でもいい値段みたい。
こうした本って、コンサルタントに限らず企業内実務者にとっても、本が出されたその時にはすぐには必要ないけれど、ある時急に必要になったりするのかなあ。

 個人的評価は価格面も考慮して星4つですが、まだ全部読みこめていない段階での評価。研修準備のためにこれから読み進んでいくと、意外と使える判例があったりして、星5つになるかも。

 でも、その会社でどのようなセクハラ・パワハラが起きるかなんて、なかなか想像できるものではないです。何となくそうしたことが起きそうな職場でも、「ウチはその手のセクハラはありません」とか言われたりするし。大体、そうした研修をやろうというところは、コンプライアンス意識が高くて、セクハラ・パワハラは起きにくいのではないかと思うけれどどうなのだろうか(内部監査の一環としてただ形式的に研修をやっている会社もあるが)。

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自らが扱った事例が紹介されているため臨場感があり、労働審判や裁判の実際が伝わってくる。

それ、パワハラです―何がアウトで、何がセーフか55.JPG
 

               笹山 尚人.jpg 笹山 尚人 氏 (弁護士/略歴下記)

それ、パワハラです 何がアウトで、何がセーフか (光文社新書)』 ['12年]

 パワーハラスメントは、「職場において、地位や人間関係で有利にある立場の者が、弱い立場の者に対して、精神的又は身体的な苦痛を与えることによって働く権利を侵害し、職場環境を悪化させる行為」と一般的に定義されています。

 本書によれば、労働局に寄せられる「職場のいじめ・嫌がらせ」と分類される問題の相談件数は、平成23年度には約4万6千件に達し、この数は、解雇に関する相談に次ぐ相談件数であるとのことです。

 著者は、労働者の代理人として労働事件を扱っている弁護士ですが、全10章から成る本書の各章は、著者自身が扱った事例の紹介が中心となっています(著者自身、自分の体験をもとにした「パワーハラスメント事件簿」の色合いが濃いかもしれないとしている)。

 第1章・第2章に紹介されているのは「言葉の暴力」によるパワーハラスメントの事例で、これがパワハラ事例では最も多い、いわば典型例であるとことですが、こうした事例を取り上げながら、労働審判の仕組みやその特性、パワハラ判定の難しさや、何がその根拠となるかなどについても解説しています。

 さらに第3章で長時間労働を巡る問題を取り上げ(著者は、長時間労働は「過大な業務の強要」であり、パワハラであると捉えている)、第4章でパワハラ問題の基本的な視点や考え方について整理しています。

 第5章から第7章にかけてはパワハラのパターン例として、労働契約を結ぶ際の嫌がらせの事例と、再び言葉の暴力の事例を、さらに、従来の仕事をさせず、本人にふさわしくない仕事を強要した事例を取り上げ、これを受けて第8章では、「退職強要」をどう考えるかを考察しています。

 第9章では、パワーハラスメントに取り組む際の視点、方法、具体的なノウハウを、第10章ではそれを補う形で、精神疾患を発症した場合の労働災害の認定に関する近年の実務動向や注意点を述べています。

 以上に概観されるように、「典型例」を示す一方で幅広い事例を扱っていて、またそれらと併せて、基本概念の整理や知っておくべき実務知識にも触れている点がいいです。

 また、著者の前著『人が壊れてゆく職場―自分を守るために何が必要か』(2008年/光文社新書)も労働者から相談を持ち込まれて、弁護士やユニオンがどのような対策をとるのか、その経緯や戦略がリアルに描かれているためかなり面白く読めましたが、本書も、著者自身が扱った事例を取り上げているため、紛争として公然化するまでの経緯(相談者が相談に来てから労働審判などの申し立てをするまでの経緯)や、労働審判や裁判での裁判官の言葉や代理人としての著者の論述が具体的に書かれていて、臨場感をもって読み進むことができました。

 さらに、そうした事例を通して、代理人としてのどのような戦略で紛争解決や係争に臨み、何があっせんや判決の決め手となったかが分かるため、企業側の人間が読んでも参考になる部分は多く、また全体としても、労使の視点でパワハラ予防にどう取り組むべきかが説かれており、人事のヒトが読んでも、前著共々、読んでムダにはならないと思います。

◎ 著者プロフィール
笹山尚人(ささやまなおと)
1970年北海道札幌市生まれ。1994年、中央大学法学部卒業。
2000年、弁護士登録。第二東京弁護士会会員。東京法律事務所所属。
弁護士登録以来、青年労働者や非正規雇用労働者の権利問題、労働事件や労働運動を中心に扱って活動している。
著書に、『人が壊れてゆく職場』(光文社新書)、『労働法はぼくらの味方! 』(岩波ジュニア新書)、
共著に、『仕事の悩み解決しよう! 』(新日本出版社)、『フリーターの法律相談室』(平凡社新書)などがある。

《読書MEMO》
● 目 次
はじめに
第1章 言葉の暴力 ――― パワハラの典型例
第2章 パワハラ判定の難しさ ――― 「証拠」はどこにある?
第3章 長時間労働はパワハラか? ――― 「名ばかり管理職」事件
第4章 そもそも、「パワハラ」「いじめ」とは何か ――― 法の視点で考える
第5章 パワハラのパターンI ――― 労働契約を結ぶ際の嫌がらせ
第6章 パワハラのパターンII ――― 再び、言葉の暴力を考える
第7章 パワハラのパターンIII ――― 仕事の取り上げ、本人にふさわしくない仕事の強要と退職強要
第8章 「退職強要」をどう考えるか ――― 「見極め」が肝心
第9章 では、どうするか ――― 問題を二つに分けて考える
第10章 精神疾患を発症した場合の労災認定 ――― 文字に残すことの重要性
おわりに

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コンパクトな解説の中で的確に判例を抽出し、分かり易く解説している。増補改訂が望まれる。

異動・配転・出向Q&A7.JPG異動・配転・出向Q&A.jpg   安西法律事務所 岩本充史 弁護士.jpg 岩本充史 弁護士(安西法律事務所)2012年10月6日リーガロイヤルホテル東京
異動・配転・出向Q&A (労働法実務相談シリーズ3)

 労務行政の「労働法相談シリーズ」(Q&Aシリーズ)の一冊で、215ページに80問のQ&Aを収めており、3千円という価格との対比において数量的にはもう少しQ&Aがあってもいいかなという気もしなくもないですが、「賃金」や「労働期間・休日・休暇」などよりはQ&Aが立てにくい「異動・配転・出向」に絞ってこれだけのQ&Aを扱っているという意味では、むしろ有難いと見るべきでしょう。

 3章構成の第1章で「配転をめぐる問題」、第2章で「出向・転籍」を扱っていて、ここまでで70問、更に、第3章には「分割・合併・事業譲渡における雇用関係」をもってきています。
 
 「配転」では、「職種を特定して採用した社員の配置転換は可能か」といったオーソドックスな問いから「職場内結婚をした場合、どちらか一方を他部署・他支店に配転することは問題ないか」といった、法律上の問題と配転命令の問題が含まれる微妙なものまで。

 「出向・転籍では、「入社時において予想されない会社への出向命令は有効か」といった就業規則絡みの問いから、「出向先が事実上倒産した場合、出向労働者を当然い出向元に復帰させなければならないのか」といった出向契約の定めによるものまで。

 「分割・合併・事業譲渡」では、「会社合併にあたり、新会社の労働条件は合併前・合併後のどちらに変更すべきか」等々。

 この分野としては基本的なテーマを扱っているかと思いますが、「賃金」や「労働期間・休日・休暇」ように法令でスパッと適法・違法の答えが出せるもものが少ないだけに、判例の引き方が重要になってきます。その点は、コンパクトな解説の中で可能な限り的確に判例を抽出し、分かり易く解説しているように思いました。

 刊行されて5年。増補改訂が望まれますが、その際にあまり価格は上げないで欲しいね。

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司法と現実の狭間でどこに落としどころを見出すべきかを丁寧に指南。

『社長は労働法をこう使え!』.JPG◆『社長は労働法をこう使え!』.jpg            会社は合同労組・ユニオンとこう闘え.jpg
社長は労働法をこう使え!』['12年]『会社は合同労組・ユニオンとこう闘え!

会社は合同労組・ユニオンとこう闘え 向井弁護士.jpg "企業側"の労務専門の弁護士によって書かれた、主に中小企業の経営者向けの労務トラブル回避のためのガイドブックであり、著者の向井蘭弁護士は、合同労組・ユニオン対応のあり方についてのセミナーや著書などでも、自らの経験に基づく実際的なノウハウを示して好評を博している気鋭の若手弁護士です。
 本書では、「経営者が理解すべき労働法の基礎」「労働法の意外な常識」「残業代トラブルの予防法」「問題社員の辞めさせ方」「労働組合・団交への対応法」「もめる会社・もめる社員の特徴」などを解説しています。

 例えば「突然、多額の残業代を請求された」「非常識な社員を辞めさせたい」といった状況にどう対処すればよいか、また、そのような事態を未然に防ぐにはどうすればよいかといったことが、帯に「誰も書かなかった司法のホンネ」「法律と現実のズレはこうしのぐ!」とあるように、裁判例の傾向やグレーゾーンの扱いを念頭に置きながら、実務的な視点で指南されています。

 弁護士が書いたもので、中小企業の厳しい経営状況を鑑みつつ、ここまで実務に踏み込んで書かれているものは少ないかもしれません。弁護士のセミナーなどに行けば、そうした実務寄りの話も聞けるかもしれませんが、中小企業の社長はなかなかそうした時間もとれないだろうし、労務専門の弁護士と顧問契約する余裕も無いかもしれません。その意味では、中小企業経営者には有難い内容かも知れません(著者の合同労組対策をテーマとしたセミナーを聴いたが、来ていたのは従業員1000人以上の大企業の人事労務担当者ばかりだった)。

 基本的には、正社員の解雇は難しいという見方であり、「正社員を解雇すると2000万円かかる」といった表現もあります。その説明において、解雇を巡る裁判で、仮処分後に会社側が敗訴した場合、仮処分の決定以降に払わなければならない賃金と、敗訴した際に解雇時に遡及して支払う給与とを二重に支払うことになるとの計算になっていて、この部分に関しては、おかしいのではないかということが、本書を読んだ人の間で、ネット上で話題になったようです。

 これについては、版元のサイト内での著者の補足説明によると、著者自身が受任した案件で、敗訴後に遡及払いすることになった給与から、仮処分以降すでに支払われた金額を控除することを認めない命令が某地裁で下されたとのことですが、著者自身がその命令に疑問を呈しており、また、仮にそうであっても、その場合には、会社側が本人に支払い済みの金額を請求する権利はあるとしています(但し、労働者の資力によっては回収が難しいことも考えられると...)。そういうことであるならば、やはりこの部分は、やや著者の説明が不足しているというのは否めないのではないかと思います。

 多くの中小企業経営者が、労務トラブルが会社経営に及ぼす潜在的危険性に対しての認識が足りていないという思いから、その危険性を強調するあまり、極端なケースを取り上げ、全体に煽り気味になっているキライはあります。

 一方、退職勧奨については、裁判所は寛容であるという見方であり、労働者が退職勧奨を拒否した場合、その労働者に自宅待機を命じ、賃金は100%払うと同時に、例えば1カ月以内に退職すれば退職金を上積みするけれども、1カ月を過ぎて2カ月以内なら上積み分は50%に減額するといった「ロックアウト型」の退職勧奨を提案しています。

 著者が事例として掲げているのは、全般にその多くが、労使がそれぞれ代理人を立てての係争に至るようなケースであると思われ、また、「『六法』を持ち歩き、『教授』と社員から呼ばれていたモンスター社員」とか「『仮処分』を繰り返し受けることで、働かずに生活しようとする人」といった表現に見られるように、通常の問題社員のレベルを遥かに超える、まさに"モンスター社員"レベルへの対処方法とみた方がいいのではないかと思われます。

 但し、そうした極端な事例が多いのが気になることを除けば、全体としては、中小企業の実情を踏まえ、現場でアドバイザリーを行うようなスタンスで書かれていて、経営者だけでなく、人事労務担当者にとっても参考になる部分は多いのではないかと思われます。根拠となる法理論の解説もしっかりしています。

 労使紛争が起きやすいのは、それまで創業者社長が睨みをきかせていたのが、2代目の人柄のいい"草食系"の若社長に変わった場合などで、裕福な会社であればあるほど労働者もお金を引きだそうとする一方、所謂"ブラック企業"と呼ばれる会社などは、逆に労働者がすぐに辞めてしまうため、紛争が起きにくいという指摘などは、実情をよく踏まえていると思いました。

 裁判の前段階である労働局のあっせんや労働審判についても触れられていて、親切に書かれていると言えば親切ですが、後は、通常レベルの労務トラブルに、本書で示されているような極端なケースへの対処方法を適用してしまうことのないよう、或いは、「人事異動は自由にできる」「パワハラの訴えに怯える必要はない」といったことをそのまま鵜呑みにするのではなく、自社で起きている問題のレベルとそのレベルに沿った最適の対処方法を慎重に考えてみる姿勢が大切ではないかと思いました。

 司法と現実の矛盾を突いている点でも興味深いし、参考にもなりました。実務では個々のケースによって事情が違うので、本書に書かれていることをオーバーゼネラリゼーション(過大に一般化)し過ぎると大やけどをすることも考えられるかも。その点を除けば、基本的には、司法と現実の狭間でどこに落としどころを見出すべきかを丁寧に指南した本であると言えます。

 因みに、労務管理上のグレーゾーンを扱った本では、同じく弁護士による野口大 著『労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応』('11年/日本法令)があり、労働局のあっせんや労働審判については、山川隆一 著『労働紛争処理法』('12年/弘文堂)などに詳しく書かれています。

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「重要判例を読む」というタイトルに相応しく、リーディング・ケースの解説が丁寧。

新版 労働法重要判例を読む2.jpg   新版 労働法重要判例を読む1.jpg新版 労働法重要判例を読む1: 総論・労働組合法関係

新版 労働法重要判例を読む2: 労働基準法・労働契約法関係

 2008年に第1版が刊行されて約5年ぶりの改版。労働法専門の大学教授20数名による重要判例の解説で、全2巻で50の判例は取り上げられていますが、第1巻の総論・労働組合法関係に続き、この第2巻では労働基準法・労働契約法関係の判例を中心に25の判例が纏められています。

 実際の章立ては、(1巻から通しての章立て)第6章「賃金」、第7章「労働時間」、第8章「人事異動」、第9章「プライバシー・懲戒」、第10章「労働災害」、第11章「労働契約の終了」となっていて、まさに実務の中核にあたる部分であり、「賃金」で言えば、パートタイム労働者の賃金差別が争われた「丸子警報器事件」、「労働時間」で言えば、労働時間の概念が争点となった「大星ビル管理事件」、「人事異動」で言えば、配転命令の根拠と限界が示された「東亜ペイント事件」など、取り上げられているのは何れも重要判例ばかりです(「丸子警報器事件」など一部を除いては殆どが最高裁判決)。

 各判例について、「事実(と下級審判決)」と「判旨」を記したうえで、その後に「解説」(乃至「検討」)がきていて、この「解説」の部分が丁寧であり(まさに「重要判例を読む」というタイトルに相応しい)、類似判例の引用等もよくなされていて、法学部生、法科大学院生のテキストとなるよう意識して書かれていることが窺え、実務担当者が読むも適したものとなっているように思います。

 一方で、労働契約法の改正をはじめ、労働者派遣法、高年齢者雇用安定法など労務に大きな影響を及ぼす法律の改正が行われたわけですが、そうした改正法に関する判例はまだ出されていないわけであって、例えば、第11章「労働契約の終了」で取り上げられている判例は、有期契約と雇止めの問題が争われた「日立メディコ事件」など、殆どが昭和のものです。

 あくまでも、リーディング・ケースとしての位置づけが定まった判例を扱ったテキストとしての本とみるべきでしょう。ジュリストの『労働判例百選』の単行本版みたいな感じか。こっちの方が『判例100選』などよりは読み易いです。

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「非正規」の法的な枠組みから労務管理の実務までを実務の枠組みに沿って詳説。

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非正規社員の法律実務 第2版.jpg
  『非正規社員の法律実務〈第2版〉

 非正規社員の法律実務に絞って、法的な枠組みから労務管理の実務までをこれだけ網羅的に解説した本は少ないため、やや値段は張るものの貴重な一冊です。

 この本、元々は『パートタイマー・期間雇用者・契約社員等の法律実務』というタイトルで'98年に刊行されたのがスタートで、その時は219ページ。それが、'01年に『パートタイマー・契約社員等の法律実務』となって235ページに('04年に第2版刊行)。'07年には『パート・派遣・業務委託等の法律実務』となって335ページに('08年に第2版刊行)。そして、'10年刊行の際に今のタイトル『非正規社員の法律実務』となり、初版が約760ページあって分厚く感じたのですが、今回は920ページと更にまた分厚くなったなあと。

 今回の第2版は、平成24年10月施行の改正労働者派遣法、平成25年4月施行の改正高年齢者雇用安定法、平成24年8月公布の改正労働契約法を織り込んだ内容となっており、何れも非正規社員に深く関係する法改正です。

 本書の特長としては、パートタイマーとの対比でフルタイマーという言葉を用いて有期雇用労働者の労務管理を解説し、更に、高年齢者、アルバイト・フリーター、契約社員(専門能力者)といった具合に実務上の雇用区分に近い形できめ細かく章立てして解説がされている点で、労働者派遣についても、その部分だけで150ページに渡って解説されています。

 業務委託についても、業務処理請負と個人業務委託に章を分けて解説しており、最後に外国労働者がくるといった構成で、あらゆる「非正規雇用」を網羅している観があります。

 敢えて言えば、(これまでもそうだが)オーソドックスにテキスト的で、法改正部分について編者の考えのようなものはさほど介在しておらず(共著ということもあるが)、むしろ実務面での制度の在り方等にそれが反映されています。

 一気に読むのはキツイかもしれませんが、傍らに置いて辞書的に使いながら少しずつ読んでいくといった感じでしょうか。ちゃんと使えば7千円の元は十分に取れる?

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中小企業の経営者向けに人事の要諦から実務までを分かり易く解説。

中小企業のための人事労務ハンドブック.jpg 『中小企業のための人事労務ハンドブック (DO BOOKS)』(2011/08 同文館出版)

 社会保険労務士であり中小企業診断士でもある著者によって、中小企業向けに書かれた人事労務全般の手引書ですが、この手の類書の多くが主に人事労務の実務担当者向けに書かれているのに対し、本書の場合は、中小企業の経営トップや経営管理者を読者層として想定して書かれているのが特徴です。

 経営資源にはヒト・モノ・カネの3つがあるとされていますが、著者によれば、特に創業して間もない中小企業などにおいては、事業を拡大していくために、どうしても「カネ」のことで頭が一杯で、「ヒト」のことは"二の次"と考えている経営者が少なからず見られるとのことです。そうなってしまう理由は、ヒトよりもカネに関する知識を持った人が経営者の周りにいるためであり、更には、ヒトは"不可測"な経営資源であるためとしています。

 本書ではまず、ヒト・モノ・カネの中で一番大切な経営資源はヒトであると明言し、ヒトには投資が必要であり、ヒトを育てるには手間がかかり、またヒトには心があることを念頭に置かなければならないと戒めています。

 そのうえで、リーダーシップ理論(PM理論、ライフサイクル理論など)やモチベーション理論(X理論・Y理論、動機付け・衛生要因理論など)を分り易く紹介・解説し、こうした理論を習得し、それを実践に役立てることを説いていますが、このような"前置き"がされている点が、類書と比べてユニークと言えばユニークであり、本来的であると言えば本来的です。

 序章において、こうした人的資源管理の要諦を説いたうえで、本編では、採用における要員計画の立て方から説き起こし、更に、雇い入れ、勤務時間、給与、労働保険・社会保険管理、その他労務管理から退職・解雇に至るまで、これら多岐にわたる人事労務の仕事において、実務に欠かせない知識や情報を50項目に分類し、順次解説しています。

 個人的には、「給与」のところで、中小企業には「職能資格制度」は向かず、「役割等級制度」がお薦めであるとしている点に興味を引かれ、この点は概ね同感です。賃金制度については、範囲給型の号俸給を提唱しながらも、全等級を「昇給」対象とする方式と併せて、上位等級については「昇給」の概念を無くし、洗い替え方式とするパターンも提示しています(後者はかなりドラスティックなものとなる)。

 評価制度については、目標管理制度とリンクさせた運用を提唱する一方で、評価要素の類型を挙げて解説しながらも、従業員規模の小さな会社では必ずしもそれら全てを評価表に盛り込む必要は無く、能力効果的要素と情意効果要素を統合してしまうなど、シンプル且つ自社にとって使い勝手のよい評価制度にすればそれでよいとするなど、柔軟かつ現実対応的な内容となっています。

 労働保険・社会保険の諸手続きについても役所への提出書類の書き方などが分かりやすく示されており、病欠者や療養休職者への対処なども、中小企業の実情に応じたアドバイスがされているとともに、「勤怠不良、成績不良の労働者の辞めさせ方」などの突っ込んだ解説もなされています。

 中小企業の人事労務は、経営トップが実務面も含め積極的に関与していくしかなく、そのためには、トップが自ら人事労務に必要なことを勉強する必要があるというのが著者の考えですが、まさに、そうしたニーズ応えるためのハンドブックとして、見易く分かりよいものとなっているように思いました。

 経営トップに限らず実務担当者が読んでも参考になるかと思いますし、社会保険労務士などが中小企業に対し、手続業務だけでなく、経営・人事のより広い観点から相談業務やコンサルティング(制度設計)を行うための参考書としても使えるものとなっており、お薦めできる本です。

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就業規則の括りに沿って労働法や判例を解説。オーソドックス。『キーワードからみた労働法』の方が面白い。

就業規則からみた労働法 第三版9.JPG就業規則からみた労働法.jpg      キーワードからみた労働法.jpg
就業規則からみた労働法 第三版』『キーワードからみた労働法』('09年/日本法令)

 同著者の『キーワードからみた労働法』('09年/日本法令)などの姉妹版ですが、こちらの方が初版の刊行は早く('04年)、今回で第3版。労働基準法、育児介護休業法などの法改正に対応するとともに、最近の判例なども新たに盛り込んでいます。

 2章構成で、第1章で就業規則の作成・変更について解説したあと、第2章で、総則規定、採用、人事、賃金、労働時間・休憩時間、休日・休暇・休業、服務規律、表彰、懲戒、退職・解雇、安全衛生・災害補償...といった具合に、一般的な就業規則の規程の括りごとに、労働法上留意すべき点を解説し、必要に応じて」、条文例とそうした条文の下で発生した労務問題のケーススタディを設け、この部分は概ね実際の判例に準拠した解説になっているようです。

 就業規則の条文の表現・表記方法を、パターンをいくつも示して解説した就業規則作成のためのマニュアル本では無く、あくまで、労働法をより実務の沿った形で理解してもらうために、解説の括りを就業規則のそれに合わせたものと言えるかと思います。

日本法令.JPG 『キーワードからみた労働法』より若干大判で、字も大きめの横書き。読み易いですが、やはり読みどころは著者の判例解説になるのではないでしょうか(著者の判例解説は、一般の労働法学者が書くものに比べ読み易い)。

 但し、全体的に『キーワードからみた労働法』よりは"入門編"的な感じで、「最低賃金」「均等待遇」「雇止め」といった雇用・労働に関するキーワードを取り上げ、それらにおける一般常識や俗説をなで斬りしていた『キーワードからみた労働法』と比べると、オーソッドックスな解説書になっています。

 これはこれで、テキストとしては悪くない本だと思いますが、読んでいて面白いのは、やはり『キーワードからみた労働法』の方で、これを読んで面白く感じられた人は、更に、同著者の『雇用者会の25の疑問―労働法再入門』('07年初版、10年第2版/弘文堂)へ読み進むことをお勧めします。

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6年間連載した基本事項のQ&Aを、項目順を整理し、最新の法令に準拠し直した集大成。

労働法実務Q&A セット.jpg     労働法実務Q&A 上.jpg 労働法実務Q&A下.jpg
労働法実務Q&A 全800問(上)(下) セット (労政時報選書)』『労働法実務Q&A 全800問(上) 人事・労務管理 (労政時報選書)』『労働法実務Q&A 全800問(下) 賃金・労働時間 (労政時報選書)』 『労製時報』連載のファイリング(下写真)

IMG_2734.JPG 人事専門誌 『労政時報』の付録として連載されていた「実務家のための法律基礎講座」のQ&Aを、単行本上下巻に収録したものです。
 上巻の「人事・労務管理」では、就業規則、採用、試用期間、教育・研修など22項目について、下巻の「賃金・労働時間」では、賃金、賞与、退職金、年俸制など20項目について、職場で問題となりがちな事柄をQ&A形式で取り上げ、弁護士や社会保険労務士など第一線で活躍中の多くの専門家が、執筆分担し解説しています。

 『労政時報』を購読している企業の人事・労務担当者の中には、本誌の毎号の巻末にある「相談室Q&A」に目を通しながらも、月の前半号に付録としてあったこの「実務家のための法律基礎講座」も読み、さらには、'05年8月の連載開始時からずっとファイリングしていた人もいるかと思いますが、自身が労働法の知識の確認・研鑽をするために読むのにもいいし、新任担当者に読ませるのにも適していると思っていました。

 6年間に及んだ連載の第1回のテーマは「賃金」であり、その後「普通解雇」「時間外・休日労働」「就業規則」......と続きました。時系列でファイリングしていくと、労働法の分野内とは言え、読み返す際にあちこちに"飛ぶ"ということになり、また、この6年の間に労働法規等の改正も相当にありました。
 この度の連載完結を機に、大括りのテーマごとに項目の順番を整理し、かつ最新の法令に準拠したものを単行本化してもらえればありがたいとは思っていましたが、今回の本書の刊行は、まさにそうした要望に応えるものでした。

 計800問というのは相当数の設問だと思いますが、これが2分冊で読めるのがコンパクトで便利であり、また、2色刷りとなってさらに読みやすくなっています。

 内容的にも、もともと執筆分担制で書かれたものであるため、各項目とも、取り上げるQ&Aが十分に厳選されているように思います。
 重要度の高い問題、実務家が直面する可能性の高い問題を優先的に取り上げており、極端な"レアケース"や、法律家が言うところの所謂"マニアック"なQ&Aに偏ることなく、結果として、実務において必要な労働法の基礎知識を、一通り網羅し解説していることにもなっています。

 単に項目数が多いというだけではなく、例えば「不利益変更」や「パートタイマー」「契約社員」など、横断的な切り口のテーマが設けられているのも、実務での利用に適っているように思います。

 全編を通して、専門家以外の人にも伝わるような分かりやすい言葉で書かれているため、実際の案件についての法的な取り扱いが知りたい場合の手引書として「引いて使う」だけでなく、労働法の解説書、知識基盤拡充のための学習書として「通して読む」のにも適していると言えます。

 また、社内で労務上のトラブルが生じた際などに、初心者や職場の管理者に対し、それが法的にはどのような扱いになり、どう対処すべきなのかということを、該当する事柄を解説した箇所を指し示すことで、できるだけ正確に伝えるといった使い方もできるかと思います。
 
 労務に携わる人にお薦めと言うか、是非手元に置いておきたいセット(置いとくだけでなく、時々でもいいから読みましょう!)。

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「●岩波新書」の インデックッスへ

今まで、岩波新書に無かったなあ。「読む教科書」としてはやや硬いが、優れモノではないか。

労働法入門5.JPG労働法入門 水町.jpg 『労働法入門 (岩波新書)』 水町 勇一郎.bmp 水町勇一郎 氏(略歴下記)

 随分ストレートなタイトルですが、今まで岩波新書に同様のものが無かったからこのタイトルが使えるのかなあ(なぜ無かったのか、やや不思議。永らく、労働法というものをそれほど意識しなくても済んだ時代が続いたということ?)。
 
 本書は、気鋭の労働法学者が、労働法は働く者にとってどう役に立つのかという観点から、大学で労働法を勉強したことがない一般社会人にも身近に感じられるようにとの考えのもと、労働法の全体像を解説した入門書です。

 まず、労働法の背景や基礎にある思想や社会のあり方から、労働法の構造や枠組みを掘り起こしたうえで、採用・人事・解雇・賃金・労働時間・雇用差別・労働組合・労働紛争などについて、近年の新しい動きも含めて、労働法の全体像を解き明かしています。

 「はじめに」の部分にある、聖書において、神によってアダムとイブに『罰』として課されたとされていた「労働」が、マルチン・ルターのよって『天賦』としての「労働」という新たな解釈になったという話や、日本の労働観は「家業」としての労働であり、日本における「労働」とは、イエという共同体に結びつき、家族のための「生業」と、自分の分を果たすという「職分」の二面が合体したものを指すという著者の見解などは、興味深いものでした。

 本編に入ると、「入門」と謳っていながらも専門書を圧縮したような感じで(「入門」だからこそ当然そうなるのかも知れないが)、労働法の全体像を網羅した、堅実且つオーソドックスな内容ではあるものの、やや硬いかなあという感じも(著者もそのことを意識したのか、その"硬さ"を和らげるかのように、各章の冒頭にエッセイ風のプロローグがあるが)。

 それでも、テーマごとに重要判例などを交えながら、これだけの内容が新書1冊にコンパクトに纏られているのは流石その著書が「水町・労働法」と呼ばれている著者という感じで、「読む教科書」として手頃な"優れモノ"ではないでしょうか。欧米諸国との比較なども随所に織り込まれていて、日本の労働法の特徴が、分かり易く浮き彫りにされているのもいいです。

 本書の中では、判例法理等が労働者にも会社にもきちんと認識されておらず、大学などで学ぶ「労働法」と実際に企業に入って味わう「現場」のギャップこそが、日本の労働法の最大の問題であるかもしれないとしていますが、そうなんだよなあと。
 
 最後には今後の労働法の方向性について述べられていて、「集団としての労働者」から「個々人としての労働者」に転換しつつある状況を踏まえて、労働法も「個人としての労働者」をサポートするシステムにシフトとしていくべきであるとする考え(菅野和夫・諏訪邦夫教授)と、労働者の自己決定を保障するためには国家による法規制が不可欠であり、とりわけ労働組合が脆弱な日本では国家法(労働法)がその役割を果たすべきであるとする考え(西谷敏教授)を紹介しています。

 その上で、著者は、「国家」と「個人」の間に位置する「集団」(労働組合や労働者代表組織など)に注目し、「集団」的な組織やネットワークによって問題の認識と解決・予防を図っていくこと、そのための制度的な基盤づくりが重要な課題であるとしています。

 こうした提言部分もありますが、全体としては、タイトル通りの「入門書」としてのウェイトが殆どでしょうか。本書の中で、使用者も労働者も労働法を知らな過ぎることを問題の1つに挙げていますが、近年、労働社会の変化に応じて労働法制にも変化が見られるにも関わらず、またそれは、労働者全般に関わる問題であるにも関わらず、こうした「入門書」が岩波新書に無かったことを考えると、意義ある刊行と言えるのではないかと。

 岩波新書にこのタイトル・ポジションを確保したということは、これから更に法改正があると、その都度改版していくのかなあ。

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水町勇一郎 1967年生まれ 東京大学教授

1986年 - 佐賀県立佐賀西高等学校卒業
1990年 - 東京大学法学部卒業
1990年 - 東京大学法学部助手
1993年 - 東北大学法学部助教授
2004年 - 東京大学社会科学研究所助教授
2007年 - 東京大学社会科学研究所准教授
2010年 - 東京大学社会科学研究所教授

《読書MEMO》
●「アダムとイブ-『罰』として課された労働」と「ルター-『天賦』としての労働」という対比―前者は、フランスのバカンスの権利につながり、後者はドイツの就労請求権につながる(まえがき)
●日本の労働観は「家業」としての労働―日本における「労働」とは、イエという共同体に結びつき、家族のための「生業」と、自分の分を果たすという「職分」の二面が合体したものをさす(まえがき)
●大学などで学ぶ「労働法」と、実際に企業も入って味わう「現場」とのギャップこそが、日本の労働法の最大の問題(85p)
●以下、章立て
第1章 労働法はどのようにして生まれたか―労働法の歴史
1労働法の背景―二つの革命と労働者の貧困
2労働法の誕生―「個人の自由」を修正する「集団」の発明
3労働法の発展―「黄金の循環」
4労働法の危機―社会の複雑化とグローバル化
第2章 労働法はどのような枠組みからなっているか―労働法の法源
1「法」とは何か
2人は何を根拠に他人から強制されるのか
3労働法に固有の法源とは
4日本の労働法の体系と特徴
第3章 採用、人事、解雇は会社の自由なのか―雇用関係の展開と法
1雇用関係の終了―解雇など
2雇用関係の成立―採用
3雇用関係の展開―人事
第4章 労働者の人権はどのようにして守られるのか―労働者の人権と法
1雇用差別の禁止
2労働憲章
3人格的利益・プライバシーの保護
4内部告発の保護
5労働者の人権保障の意味
第5章 賃金、労働時間、健康はどのようにして守られているのか―労働条件の内容と法
1賃金
2労働時間
3休暇・休業
4労働者の安全・健康の確保
5労働者の健康を確保するための課題
第6章 労働組合はなぜ必要なのか―労使関係をめぐる法
1労働組合はなぜ法的に保護されているのか
2労働組合の組織と基盤
3団体交渉と労働協約
4団体行動権の保障
5不当労働行為の禁止
6企業別組合をどう考えるか
第7章 労働力の取引はなぜ自由に委ねられないのか―労働市場をめぐる法
1なぜ労働市場には規制が必要か
2雇用仲介事業の法規制
3雇用政策法
4日本の労働市場法をめぐる課題
第8章 「労働者」「使用者」とは誰か―労働関係の多様化・複雑化と法
1労働関係が多様化・複雑化するなかで
2「労働者」―労働法の適用範囲
3「使用者」―労働法上の責任追及の相手
4「労働者」という概念を再検討するために
第9章 労働法はどのようにして守られるのか―労働紛争解決のための法
1裁判所に行く前の拠り所
2最後の拠り所としての裁判所
3紛争解決の第一歩
第10章 労働法はどこへいくのか―労働法の背景にある変化とこれからの改革に向けて
1日本の労働法の方向性
2「個人」か「国家」か―その中間にある「集団」の視点
3これからの労働法の姿―「国家」と「個人」と「集団」の適切な組み合わせ
4労働法の未来の鍵

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『労働法コンメンタール』を買わずとも、これで十分か。検索機能が充実している。

新訂版 労働基準法の教科書81.JPG 労働基準法の教科書 労務行政研究所.jpg 
新訂版 労働基準法の教科書 (労政時報選書)』(2011/07 労務行政)

 「労務に携わる者、労働法を学ぼうとする者は『労働法コンメンタール』を読め」とはよく言われることですが、確かに、例えば労働基準法に関しては、厚労省労働基準局編の『労働法コンメンタール③ 労働基準法』(労務行政研究所)が最も詳しい解説書ということになるでしょう。

 しかし、上下刊で1100ページを超える大著で、「寄宿舎」とか「監督機関」など、一般の民間会社の人事労務担当者には関係の薄いジャンルの記述も含まれており、学者はともかく実務家にどれくらい利用されているのかなあと(冒頭の言葉は、実務家の人に言われたのだが、その人自身、あまり『コンメンタール』を読み込んでいるようには思えなかった)。

 本書は、『労働法コンメンタール③ 平成22年版 労働基準法』をベースとしながらも、一般の人事担当者が実務であまり使うことの無い部分の解説を省略し、労基法全119条の内、詳細な逐条解説は"日常よく使う"55条に絞ったもので、それでも700ページあり、実務に使う分にはこれで十分ではないかと思います。

 コンメンタール原本は縦書きであるのに対し本書は横書きであり、2色刷りで図解も多くて読み易く、また、条文の中のキーワードの右肩に青字の数字が記されていて、それが条文の後に続く解説の番号と対応しているなどの使い易さにも配慮されています。

 その他に、巻末に事項別の索引があり、更に「年次別通ちょう索引」も付されているため、行政通達の周辺事項を知るのに便利。判例索引も、判決の日付・事項番号・事件名が分かっている場合に、労働基準法との関係が分かるようになっているなど、検索機能については至れり尽くせりの充実ぶり。

 『コンメンタール』を買って積(つん)読になってしまうよりは、こっちを買って、線を引いたりタグを貼ったりして、ばんばん使った方がいいし、全1巻なので、携帯にもさほど負担にならないかと思います。

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「緊急時の実務Q&A」からルポルタージュ、アンケート調査まで、よく網羅されている。

震災対応の実務.JPG 人事担当者のための震災対応の実務.jpg         Q&A震災と雇用問題 野川.jpg 
人事担当者のための震災対応の実務 (労政時報選書)』(2011/06 労務行政)/野川忍『Q&A 震災と雇用問題』(2011/06 商事法務)

 '11年3月11日発生の東日本大震災を受けての刊行で、第1部の「緊急時の実務Q&A」で、震災下における陳賃金・労働時間等に関するとるべき対応や、やむなく退職・解雇せざるを得ない場合の手続き、労働保険や社会保険の特例等について、50のQ&Aで実務的な解決策を示しています。

 第2部にあたる「実務解説」では、「大震災 その時、人事部はどう動いたか」というジャーナリストの溝上憲文氏によるルポルタージュや、「危機管理における職場のメンタルヘルス」という医師の亀田高志氏による解説など、4本の寄稿があり、第3部にあたる「オリジナル調査」では、休職時の賃金等の支払いから、見舞金、住宅融資などの扱いについて、震災後に企業に対して行った緊急アンケートの結果を掲載しているほか、ビジネスパーソン412人に聞いた、震災当日の行動から会社の備え、震災後の状況までを集計し、分析結果とともに載せています。

 多岐にわたる内容で、しかも、震災後のアンケート結果を掲載したうえでの刊行ということで、この素早さの背景には、刊行元がネット上に有する数多くの人事パーソン、ビジネスパーソンとのネットワークがあるかと思います。

 「50のQ&A」を見ても、賃金、賞与、退職金、労働時間、退職・解雇から介護、社会保険、安衛法、労災保険法、給付金まで幅広く扱っており、この部分がやはり実務上の核ではないかと思いました。

 オリジナルアンケートは、計画停電への各社の対応動向を把握するなどには重宝し、法律の解釈とは別に、やむえない休業であっても大体の企業がほぼ満額の賃金保障をしていることが分かります(一方で、派遣社員などは多くが契約を切られているという事実はあるのだろうが)。結局、当初危惧された、夏場の計画停電はありませんでしたが。

 溝上憲文氏によるルポルタージュや、ビジネスパーソンへのアンケートにはシズル感があり、記録としての意味もあるかも。一方で、常見陽平氏の「大震災は就活を変えたのか」などのリポートは、必ずしも無くてもよかったような気もします。

 震災と労災等を含む労働法との関連については、ほぼ同時期に刊行された野川忍氏の『Q&A震災と雇用問題』(商事法務)の方が、ほぼ同じ価格ながら、丸々1冊それに充てているため、そちらの方がQ&Aの数も多いし(100項目)、一つひとつの解説も詳しいように思います。

 こちらは、広く浅くという感じでしょうか。緊急出版にしては、色々とよく網羅されているという点では評価したいと思います(「専門誌における「特集」的な感覚の編集か)。

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震災関連のQ&A集。労基法・労災法関連はよく網羅されている。実用書、参考書としてはお奨め。

Q&A震災と雇用問題 野川.jpg 『Q&A 震災と雇用問題』(2011/06 商事法務)

 東日本大震災の発生を受けて、労働者と企業のそれぞれが震災時に直面する雇用上の問題の解決策をQ&A形式で解説した「緊急出版」本ですが、判例解説等の第一人者によるものだけに、しっかりした、かつ分かりやすい内容です。

 Q&Aは全部で100項目あり、震災関連の各種給付特例や、今回の震災で企業が直面した特徴的な問題を紹介・解説するとともに、派生する給料・休業手当、解雇、不利益処分、リストラ、時間外・休日労働、自宅待機命令、有給休暇取得などの問題、労働災害の問題、震災後の事業継続と制度の導入・変更などを扱っています。

 主に労働基準法に関連する問題ということになりますが、労働災害についても15問のQ&Aが設けられており、震災後に刊行された同種の実務書の中でも、労基法・労災法関連分野に関しては、かなり網羅されている方だと思われます。

 労基法関連の諸問題については、法律ではどこまでが制限されており、どこまでが許容されるかを示しながらも、「可能な限り、労使の対等な話し合いによって事態を切り抜ける」のが望ましいという考え方がベースになっていることに共感しました。

 労災法関連では(とりわけ当該案件が「通勤災害」「業務災害」に該当するかどうかということに関して)、通常ならば法律の考え方を説明するために無理やり作ったように思えるような設問事例が、今回のような震災を想定した場合には、実際にそのようなケースがあり得るように思われ、現実感を持って読むことができました。

 例えば、「出張先の仙台市内で仕事の打ち合わせを終えて、帰りの新幹線を待つ間、改札内の書店で趣味の雑誌を立ち読みしていたところ」地震が発生し、「体のバランスを崩して書棚に頭をぶつけて全治2週間のケガをした」というような場合、労災保険が適用される可能性はあるかとか、かなりマニアックな質問と言えばマニアック、回答の方も、原則として労災とは認められないが、すでに新幹線の改札内に来ていて、「新幹線が予約されていて、ホームで待っている時間もわずかであったという場合」は、出張に伴う通常の行動であると考えられ、労災が認められる可能性もあると(ナルホドね。改札内の書店なら"中断中"には該当せずOKなのか。自由席飛び乗りだとダメなのかなあ)。

 「実用書」ではあるものの、全体を通して読むことで、法律の趣旨や考え方というものを再確認することができ、そうした意味では「参考書」としても読めるのではないかと、個人的には思いました。

 タイトルに「雇用問題」と銘打っているのは、「あとがきに代えて」の中で、今回の震災のような大災害の可能性も雇用政策に織り込むべきだという提案がなされていることによるものでしょう。

 こうした大災害の場合、企業における従来の長期雇用保護システムは機能せず、実際に今回は一挙に大量の失業者が出ることになったわけですが、「それまで就労していた企業固有のキャリアしか身につけていなければ、就業転換をスムーズに進めることができない」としています。

 そのため、「労働者が速やかに転職先を見つけることができるような普遍的職業能力を普段から身に着けることを促進・助成すること、および転職市場の拡充、そして不安定雇用に定着してしまわないように常にキャリアアップの道を開いておくこと」などが提案されていますが、もっともであると思いました。

 だだし、実質「あとがき」の中で述べられているだけで、提案の具体的な展開については「次の機会に記述したい」とのことで、本書自体は、「実用書」の域を出るものではないでしょう(「実用書」「参考書」としてはお奨めです)。

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初任者・職場管理者だけでなく、これまで人事労務の仕事に携わってきた担当者にとっても得られるものがある。

職場トラブル解決の本2.JPG                 高谷知佐子.jpg 髙谷知佐子 氏(弁護士)
初任者・職場管理者のための職場トラブル解決の本 (労政時報選書)』(2011/06 労務行政) 

 職場におけるトラブルの種類は元から多岐にわたり、また近年は一層に複雑化している傾向がありますが、本書では、前半部分で、特に最近よく問題となる職場トラブルについて、解決のために必要な基本的な知識や考え方を説明し、後半部分では、著者が実務でよく聞かれるQ&Aを通じて、実際の職場のトラブル解決のヒントを提供しています。

 前半部分の解説は、「労働時間のマネジメント」「指揮命令と(パワー)ハラスメント・メンタルヘルス」「教育・社内外の活動、組合活動に関するトラブル」「情報のマネジメント」「退職に関するトラブル」という章立て(テーマ区分)になっており、サービス残業問題やパワハラ問題など、近年とりわけ多発傾向にある職場トラブルのタイプに応じた括りになっています。

 後半部分のQ&Aも、前半のテーマ区分に沿ってグループ化されていて、全体で42あるQ&Aの内、例えば、様々なタイプのトラブルケースがみられる「指揮命令・ハラスメント・メンタルヘルス」については、多い目に問いを設けて解説しています。そのため、入門書とはいえ、テーマや事案ごとにみるとかなり突っ込んだ解説となっているように思いました。

 全体を通して「法律先ずありき」ではなく、複雑多様化するそうした個々のトラブル例からスタートし、法律上はどのような扱いになるのか、過去の裁判例ではどのように判示されているのかを解説し、最善と思われる問題の解決策を示すとともに、同種または類似した問題の発生を防ぐにはどうしたらよいか、トラブル解決以降も良好な労使関係を維持していくにはどうしたらよいのか、といった視点も織り込まれているため、トータルでの実務的な解説となっているように思えます。

 こうした解説スタイルからも、著者が労務問題の現場に深く関わっている弁護士であることが窺えますが、加えて、職場トラブルへの対応をその場限りの「対処療法」で済まさず、問題の根本を見据え、担当者の意識改革も含めた抜本的な職場改善に繋げていくことが大事であるとの視点を、改めて示唆しているように思いました。

 企業内で職場トラブルに対処しなければならない担当者となった人を対象とし、初任者・職場管理者のためにわかりやすく解説することに留意されているようですが、最近のトラブル傾向に沿って書かれているため、初任者や職場管理者だけでなく、これまで人事労務の仕事に携わってきた人が読んでも、今後に向けて得られるものは充分あるように思いました。

 個人的には、とりわけ「ハラスメント」に関する問題の解説部分に、そのことを感じました。セクシャルハラスメントの判例法理がほぼ確立されてきたのに対し、パワーハラスメントの判例法理の形成は"現在進行形"であるように思われます。実際には、パワハラにせよセクハラにせよ、判断の難しいケースが少なからずあるかと思われますが、著者は敢えてそうした事例を取り上げ、所々に著者なりの見解も織り込みながら、それらについてきめ細かい解説をしています。

高谷 知佐子弁護士2.jpg 表記が分かり易いばかりでなく、テーマを絞っているために通読可能なボリュームでもあり、忙しい職場管理者にもお薦めですが、社会保険労務士、人事コンサルタントにもお薦めです。


ヒューマン21 EC-Net 第23回研究会
「職場トラブルへの対応実務ー最新判例を中心にー」
日 時:2012年2月25日(土) 10:00-17:00
講 師:高谷 知佐子弁護士(森・濱田松本法律事務所)
開催場所:日本青年館ホテル「504」会議室(新宿区霞ヶ丘町)

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労務の企業内スペシャストを目指すならば、これぐらいの本にはあたっておきたいところ。

事例判例 労働法.JPG 『事例判例 労働法―「企業」視点で読み解く』 (2011/03 弘文堂)

 著者は、本書刊行直後にも別の判例解説本を複数冊刊行するなど(改版を含む)、精力的に活動している労働法学者ですが、本書は「企業で働く人と、近い将来に企業で働こうとする人たちのために書かれた、労働法の基本書」であるとのことで、大学で長らく労働法を教えながらも、若い頃には企業(メガバンク)で従業員として働いた経験のある筆者が、自らの経験を活かして、大学の研究室の高みからではなく、企業の現場での発想を重視して作成したという、事例スタイルの解説書です。

 サブタイトルの「企業視点で読み解く」という目的のために、労働法の中身を「合意の原則」「ヒューマン・リソース」「ワーク・ライフ・バランス」「リスク・マネージメント」の4つのカテゴリーに分けているのが興味深く、例えば「合意の原則」の中には労働契約、採用、就業規則、解雇などの項目が含まれています。

 以下、「ヒューマン・リソース」の章では賃金、配置・異動、非正規労働者などが、「ワーク・ライフ・バランス」の章では労働時間、休日・休暇などが、「リスク・マネージメント」の章では安全衛生や労災補償、労働組合などが取り上げられており、このように全体を通して見ると、著者自身も述べているように叙述の順序は突飛なものではなく、また、それぞれの解説もオーソドックスな労働法のテキストとそう変わらないようにも思えました。

 本書のもう一つの特徴としては、各項の冒頭にある設問(事例)がすべて企業の人事担当者からの質問として構成されていることあり、せっかくなので、いきなり解説を読み始めるのではなく、まずこの部分を読んで自問自答してみることをお勧めします。
 但し、解説自体は、その質問に対する直接的な回答と言うよりは、各項目分野の総論的・網羅的な解説となっています。

 必要に応じてそれら解説に呼応する代表的な判例が要約されて紹介されており、更には、より学習を深めたい読者のために「発展文献」が紹介されています。テキストとして丁寧な作りであるとともに、2色刷りということもあって、読みやすいと思いました。

 このように、教科書としては信頼し安心して読めるものとなっていますが、「企業で働く人と、近い将来に企業で働こうとする人たちのため」というよりも、「労働法の初学者」のための本のようにも思えました。
 しかしながら、「企業の人事担当者にとって必要な労働法」という視点は、解説文中にも充分に織り込まれており、「法令順守」という観点だけでなく、「変容する企業社会と労働法」の関係や今後の方向性といった視点が盛り込まれているのもいいと思いました。

 それが特色として最も表れているのは、4つのカテゴリー別解説の前にある第1章の「企業の中の労働法」であり、労働者とは何か、使用者とは何か、事業場とは、企業とは、といった解説は、それぞれ興味深く読め、とりわけ、「企業」という労働法規には登場しない概念を、その存在意義や人的構成から分析・考察した箇所には大いに頷かされました。

 そうしたことも含め、学生や初学者にとってだけでなく、実務家にとっての知識修得のための基本書としても使える内容であり、また、企業内での労務のスペシャストを目指すならば、これぐらいの内容レベルの本にはあたっておきたいところ―といった感じの本でしょうか。

【2013年・第2版】

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このタイトル、どうなんだろうか。

ちょっと待った 社長 その残業代払う必要はありません.jpg 『ちょっと待った!! 社長!その残業代払う必要はありません!!』(2011/02 すばる舎)

 う~ん、あんまりこんなタイトルの本、出さないで欲しいなあという感じ。

 書かれている内容そのものは、残業代についてだけでなく、有給休暇や給料、解雇や退職金についても網羅されていて、著者の基本的なスタンスは、どこまでが法律で制限されていて、どこからは労使(実質的には経営者)に委ねられているか、それに対して御社の就業規則や賃金規程、労働慣行は、経費に余裕がないにも関わらず"過払い"になっているようなことはないかをチェックし、節約できるところは節約しましょう―ということなのでしょうが。

 こういう本が出るとAmazon.comのレビューなどでは、まず「中小企業の経営者にとっての福音の書」的なコメントが書き込まれ(発行日から間もない内に書き込まれるのものには、インナーによる宣伝の場合もあるが)、やがて今度は労働者側から、「経営者に理論武装される前に読んでおきましょう」的なコメントが並んだりもしますが、本書については、それに加えて、経営者におもねるような姿勢を揶揄するコメントもあったように思います。

 中には、著者は「所定労働時間を超えて法定の8時間までの部分は法内残業である」としているが「法内残業であっても割増がつかないだけで、残業代は払わなければならないのではないか」といったコメントも見受けられましたが、内容的にはその通りに(時間単価×1.25払う必要はないが、時間単価×1.00は払う必要があると)書かれています。

 その他にも、法的におかしなことが書かれているわけではないのですが、タイトルや「人件費削減」が先ずありき的な姿勢から、そう書いているように捉えられてしまうのだなあと。不況の折、中小企業の経営が厳しいのは解るけれど、とにかく人件費を減らせばいいってものでもないでしょう。本書にある削減策の中には、策を講じたとしても、削減額の知れているものもあるし。

その残業代払う必要はありません.jpg 裏表紙に「本書は、中小企業経営者のためだけに徹底的に解説しています。社員の皆様は、ご遠慮ください」と書かれているのも、良く言えばターゲットを明確にしているということなのかも知れませんが(書店に並ぶわけだから、穿った見方をすれば、労働者側も第2のターゲットにした戦術なのかもしれないが)、「売らんかな」的な姿勢が先行するあまり、法律の隙をついたテクニカルな解説に終始し、労使協調や従業員のモチベーションということが軽んじられているような印象を受けました。
 
 自社の就業規則のどの部分が法律の基準に沿ったものであり、どの部分が法律の基準を超えるものであるかを、経営者が知っておくこと自体は意味があると思います。確かに、中小企業などで、経営的に余裕があるわけではないのに、払わなくてもいいものを払っているケースは少なからずあります。

 但し、すでに就業規則や賃金規程で定められていることを改変する場合は、労働条件の不利益変更に該当する場合があり、その際には労働契約法9条・10条の規制を受けるということも、本書ではあまり突っ込んで解説されていません。
 
 残業代を減らしたければ、社内ルールの徹底、業務の改善・効率化が先でしょう。経営者が本書によって"ミスリード"され、却って労使関係に齟齬をきたすようなことのないことを祈るのみです。

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ストーリー仕立てで労働法を幅広く解説。著者自身の提言も織り込む。

君は雇用社会を生き延びられるか.jpg 『君は雇用社会を生き延びられるか―職場のうつ・過労・パワハラ問題に労働法が答える』(2011/10 明石書店)

 夫婦に幼い子2人の4人家族で、一家の大黒柱であった働き盛りの夫・真一が、過労のためクモ膜下出血で亡くなり、残された妻・幸子は、労災申請をするために労働法の勉強を始める―というストーリー設定で、前半は過労死、過労自殺と労災補償や民事賠償関係の解説が中心となっています。

 更に中盤から後半にかけては、労働時間規制や休息規制から健康保持、メンタルヘルス、セクハラ、パワハラといったテーマを扱い、最終的には労働法や働き方をめぐる今日的問題を広く網羅した入門書となっています。

 労働法学者でありながら、かなりのペースで一般向けの新著も発表している著者ですが、これまた"物語仕立て"という新たな枠組みであり、単なる入門書に止まらず、そこに著者なりの労働法に関する考え方も織り込んでいくというやり方はなかなかのもので、"新手"の手法と言っていいのでは。

 個人的には、基本的に従前からの著者の様々な提言に共感する部分が多く、労働法の知識を再確認しながら、著者の提言をも再確認するという形で読めましたが、初学者で著者の本を初めて読む人は、一応、本書が「入門書的な解説」の部分と「著者の提言」の部分で構成されていることを意識した方がいいかも(幸子が著者の持論の代弁者のような形になっているため)。

 今回、本書を読んで思ったのは、サブタイトルにも「労働法」とあるものの、それに限定されず、労働問題や社会保障全般に渡る著者の視野の広さを感じたということです(労働法学者でも社会保険等の知識は殆ど無いという人もいたりするからなあ)。

 特に最近問題となっている事柄を重点的に取り上げ、関連する過去から直近までの裁判上のリーディングケースを分かり易く解説しているという点でも優れモノで(過労自殺の判例だけで34例!)、実務家が読んでも参考になったり考えさせられる部分は多々あるかと思いますが、一方で、一般向けとしては、労働法を学ぼうという意思のある人以外(「初学者」以前の段階の人)には、やや難しい箇所もあったように思います(そのあたりは、コラムなどを挟んでバランスをとっているが、そのコラムにも"硬軟"両方がある)。

《読書MEMO》
●章建て
プロローグ
第1章 家族が過労で亡くなったら

第1節 労災編
 政府が助けてくれる?
 労災保険制度の生い立ち
 ○Break 立証責任
 労災保険による補償の内容
 ○Break 通勤災害
 ○Break 男女の容貌の違い
 ○Break 遺族補償年金の受給資格についての男女格差
 業務起因性
 ○Break 誰を基準とするか(過労死)
 ○Break 労働時間の立証
 不服申立
 闘うことの意義
 労災保険の申請をする

第2節 民事損害賠償編
 会社を訴える!
 時効の壁
 ○Break 第三者行為災害の場合
 安全配慮義務とは
 安全配慮義務法理のメリット
 ○Break 時効の壁を乗り越えた最高裁判所
 システムコンサルタント事件
 勝訴判決
 本人の落ち度?
 ○Break 因果関係
 裁判で勝つのはたいへん?
 損害額はいくらか?
 ○Break 素因減額
 ○Break 男女の逸失利益格差
 ○Break 死亡事例ではない場合の損害賠償
 どこまで控除されるの?
 ○Break どのように労災保険給付分が控除されるか
 ○Break 立法による是正
 過失相殺と損益相殺はどちらが先か

第3節 過労自殺
 人はそれほど強くない
 電通事件
 うつ病とは
 ○Break 最高裁判所で争う途は狭い
 ストレス―脆弱性理論
 因果関係は断絶しない
 安全配慮義務違反
 過失相殺
 電通事件の教訓
 労災認定
 ○Break 遺書があったために
 ○Break うつ病の診断ガイドライン
 ○Break 誰を基準とするのか(精神障害)
 ○Break 現在の判断指針の問題点

第2章 働きすぎにならないようにするために

第1節 労働時間規制
 幸子の疑問
 労働時間の規制は憲法の要請
 法定労働時間の原則と三六協定による例外
 三六協定は誰が締結するか
 ○Break 残業と時間外労働は少し違う
 時間外労働の限度
 ○Break 時間外労働をさせてはならない場合
 割増賃金
 ○Break 「労働者」であっても、「使用者」としての責任が課される
 割増率の引上げ
 ○Break 残業手当と割増賃金
 三六協定の効力
 労働契約上の根拠と就業規則
 ○Break 労基法の強行的効力と直律的効力
 就業規則の合理性
 ○Break 就業規則とは何か
 ○Break 弾力的な労働時間規制

第2節 日本の労働時間規制の問題点
 日本人は働きすぎ?
 時間外労働の事由
 限度基準の強制力
 ○Break 「限度時間」を超える時間外労働命令の効力
 労働時間規制が厳しすぎる?
 ○Break 労働時間とは何か
 管理監督者
 ○Break 裁量労働制

第3節 日本の休息制度
 休息は法定事項
 休憩時間
 ○Break 行政解釈
 休日
 ○Break 安息日
 年次有給休暇
 ○Break 出勤率の計算方法
 ○Break 年休の取得に対する不利益取扱い
 特別な休暇・休業

第4節 休息の確保のための制度改革の提言
 1日単位での休息の確保
 1週単位での休息の確保
 ○Break 労働時間・休息規制の例外
 年休制度の見直し
 ○Break バカンス

第3章 日頃の健康管理が大切

第1節 法律による予防措置
 幸子の後悔
 労働安全衛生法
 健康保持増進措置
 ○Break 安全衛生管理体制
 健康診断
 ○Break 採用時の健康診断
 ○Break 法定外健診について
 裁量労働制における健康確保措置

第2節 健康増悪の防止
 健康診断後の措置
 ○Break 労働時間等設定改善委員会
 ○Break 社員の自己決定は、どこまで尊重されるか
 面接指導
 休職をめぐる問題
 ○Break 自宅待機命令

第3節 メンタルヘルス
 メンタルヘルスはどこに?
 ○Break メンタルヘルスケア
 プライバシー保護

第4章 快適な職場とは?

第1節 職場のストレス
 人間関係は難しい?
 ○Break 個別労働紛争解決制度
 ○Break 嫌煙権
 快適職場指針

第2節 セクシュアルハラスメント
 セクシュアルハラスメントは新しい概念
 セクシュアルハラスメントに対する法的規制
 会社の損害賠償責任
 ○Break 自分から辞めてもあきらめてはダメ

第3節 パワーハラスメント
 パワーハラスメントとは
 パワーハラスメントと会社の責任
 ○Break 最初のいじめ自殺の裁判例
 パワーハラスメントと労災
 望ましいパワーハラスメント対策は
 ○Break 解雇規制とパワーハラスメント

 エピローグ

「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒【1165】 布施 直春 『イザというときの労働基準法

著者独自の見解もあるが、リーディングケースを掘り下げて学ぶのにいい本。改訂しないのか。

人事担当者が使う図解%20労働判例選集8.jpg人事担当者が使う 図解 労働判例選集.jpg 年間労働判例命令要旨集 平成23年版 労政時報選書.jpg
人事担当者が使う図解 労働判例選集 (労政時報別冊)』(2008/09 労務行政) 『年間労働判例命令要旨集 平成23年版 (労政時報選書)』(2011/09 労務行政)

 『人事担当者が使う図解 労働判例選集』は判例解説集ですが、3部構成の第Ⅰ部で「判例法理上重要なリーディングケース」として三菱樹脂事件(試用期間と本採用拒否)など27件、第Ⅱ部で「個別判断で重要な事案」として八洲測量事件(求人票に記載した見込み賃金の意義)など10件、第Ⅲ部で「最近の注目判例」として豊田労基署調(トヨタ自動車)事件など7件、計44の判例をとり上げています。

 各判例解説の冒頭に、「判旨の要点」と「実務上のポイント」を図解で表示してあり、続いて、「事件の概要」と「結論」を分かり易く、噛み砕いて表現してあって、更に、「判旨の要点」を文章で述べるとともに、主に法的知識の観点から判旨を「解説」したうえで、最後に、人事トラブルを防ぐための「実務上の留意点」が書かれています。

 このように、図説部分と文章による解説部分が対応関係になっているため、たいへん分かり易く、また、解説部分はかなり突っ込んだものとなっていて、判旨に対する著者の見解なども随所に織り込まれているのが興味深いです。

 本書は人事専門誌「労政時報」の別冊として刊行されたものですが。実は、著者が講師を務める判例解説のセミナーに参加したら、本書が付いてきました(書籍代はセミナー料金に含まれているということだろうが)。

 セミナーで話を聴くと、喋りは流暢で、内容的にもかなり面白く、また、本書の読み処を掘り下げて解説してくれるので、かなり参考になりました(但し、1回の終日セミナーで本書の3分の1ぐらいしか終わらないため、本書の判例を網羅するには、少なくとも3回以上、話を聞かなければならないということになるのか)。

 著者の見解の特徴の1つとして挙げられるのは、本書の東洋酸素事件(整理解雇の有効性の判断)の解説文中(71p)にある、「労働条件変更の利益(使用者)と雇用・賃金保障(労働者)のバランス」は、「長期雇用システム」の上に成り立ってきたものであるという捉え方でしょう。

 日本の場合、解雇権濫用法理によって、米国などに比べて厳しい解雇規制があるわけですが、こうした強い雇用保障や、或いは賃金保障などは、使用者側の有する労働条件変更(就業規則の不利益変更、配転・異動などの人事件、時間外・休日労働命令など)の利益とトレード・オフの関係にあるという見方です。

 ですから、長期雇用制度が不安定になってくると、この枠組み自体が崩れてくる可能性があり、既にその兆しがある現状において過去の判例を読み解く際に、その判決が下された時代の周辺環境が現在とは異なっていたことを考慮に入れるべきだと。

 なるほど。確かに、三菱樹脂の本採用拒否事件でも、東大生に内定を出した後で、学園紛争の活動家であったことを隠匿していたことを理由に本採用を拒否したのは、当時の学歴偏重、終身雇用制度においては、そうした採用によって(たとえ企業の意に沿わない採用であっても)生涯賃金数億円を払わなければならなくなり、それではあまりに理不尽だという背景があったわけで、今では、東大卒だからといって出世するかどうかは分からないし、定年前にリストラの対象になる可能性だっていくらでもあるわけだからなあ。

 「最近の注目判例」の最後が、「松下プラズマディスプレイ事件」(偽装請負と黙示の労働契約)で、当該労働者と派遣先との間に黙示の労働契約があったとした大阪高裁判決に疑問を呈していますが、これは最高裁で否認されており(労務行政研究所『年間労働判例命令要旨集 平成22年版』参照)、本書自体がやや古くなってしまったのが玉に疵。改訂しないのかなあ(「別冊」に改訂は無いのか。労務行政としては『年間労働判例要旨集』を刊行しているということもあるし)。

 個人的には著者の見解には賛同しかねる部分もありますが(例えば、これは、他の一部の弁護士にも見られることだが、職能資格制度における降格不可能性をパターナルに説いている点など)、本書自体は、リーディングケースを掘り下げて学ぶのにいい本だと思います。

年間労働判例.JPG 一方、『年間労働判例命令要旨集』も、「松下プラズマディスプレイ事件」のようなことがあるから、一応、毎年目を通しておいた方がいいことはいいのでしょう(「産労総研」が『重要労働判例総覧―労働判例・命令項目別要旨集』の刊行を'07年を最後にやめてしまっているので、同じタイプのものは「労務行政」版しかない)。

 労務行政の『年間労働判例命令要旨集』は、平成23年版(内容は平成22年の裁判例)が既に刊行されていますが今年度から「労時報別冊」ではなく「労政時報選書」となったけれども、価格は変わらず5,600円。

 その中での個人的注目は「ドコモ・サービス(雇止め)事件」(東京地裁・平成22.3.30判決)。契約社員の契約の更新に対して合理的な期待が認められるかどうか、新たに会社側が提示した条件(それをのまなければ雇止め)に変更の合理性があるかどうかが争われた裁判で、裁判所が労働条件の変更に合理性が無いと判断した事例ですが、その理由が就業規則の改定が行われていないことに依拠していて、裁判所ってこういう見方(手続き重視)をするのかという感じ(企業側には著名な弁護士がついていますが、今回は苦戦した模様)。

 それにしても、「うつ病」をはじめとする「心の病い」を巡る裁判例が増えているなあ。

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実務的観点から、中小企業の実務担当者などにも分かりよく書かれている。千円はお買い得。

新訂 人事・労務担当者のやさしい労務管理7.JPGやさしい労務管理 中川恒彦.jpg新訂 人事・労務担当者のやさしい労務管理』(2010/12 労働調査会)

 企業における労務管理は、以前は、労働基準法のみをチェックしていれば、労務管理における法的問題点は大体のところカバーできたのが、最近は、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法、労働者派遣法、高年齢者雇用安定法、労働契約法などもチェックしておかなければならず、更には、個人情報保護法や公益通報者保護法なども絡んできたりして、なかなか大変ですが、それは中小企業においても例外ではありません。

 本書は、労務管理という観点から、そうした中小企業の実務担当者等にも分かり易いように、チェックが必要なそれらの法律について解説するとともに、採用から退職まで労務管理の各ステージごとに法的な留意点を纏めたものです。

 全263ページ。実務に供することを狙いとしているため、官公庁への届出書式やその記載例なども盛り込まれており、巻末にはモデル就業規則も付されています。

 著者自身がまえがきで「これだけの内容を盛り込みながら、これだけのページに収めるのは困難な作業」だったと書いているように、コンパクトながらも密度が濃く、これで千円は良心的、買い得だと思います。

 初版なのに「新訂」とあるのは、10回以上もの改版を重ねた、同じ版元で同じタイトルの『人事・労務担当者のやさしい労務管理』(厚生労働省労働基準局監督課(監修)、労働調査会(編集))を内容的には引き継いでいるためでしょうか。

 本書の著者も、元労働省労働基準局監督課中央労働基準監察監督官(監督官の元締め)であり(但し、退官して10年以上経っている)、人事労務専門誌にも数多く寄稿していて、その知名度・信頼性は抜群。ホントは、この人の講演を聴くと、安西愈弁護士の講演などとはまた違ったベテランの味があって面白いんだけどね。

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「マニュアル本」ではなく「判例研究本」。判例を通して「パワハラ法理」を解説。
 
パワハラにならない叱り方.jpg 『パワハラにならない叱り方―人間関係のワークルール』(2010/10 旬報社)

 本書は、一見すると、「こんな場合は部下をどう叱ればよいか」を列挙した、一般の上司・管理者向けの「マニュアル本」のような体裁ですが、内容的には、著者が労働法が専門の大学教授であることからも察せられるように、職場いじめやパワハラを巡る「判例研究本」に近いものです。

 職場いじめやパワハラなどが紛争に発展したケースとしてどのようなものがあるか、その傾向を近年の裁判例を通して検証するとともに、それらの判例を読み解くことで、その背景にどのような判例法理が形成されているのかを解説しています。

 職場の人間関係を要因とする紛争が近年になって増えている背景には、非正規労働者の増加などにより、職場の人間関係が希薄になってきていることに加え、成果主義の導入による個人競争の激化や景気の悪化による労働条件の低下などにより、「職場全体が崩壊しつつある」という状況があるとしています。

 一方で、労働法はもっぱら労働条件や雇用保障を問題としており、職場の人間関係から生じる問題は対象外としているわけですが、労使間、労働者間の協調性を重視する日本の職場社会においては、法に拠らなくとも、こうした紛争をインフォーマルに解決してきた経緯があったと著者は言います。

 それが、職場組織の自浄能力や問題解決能力の低下に伴い、まずセクハラ訴訟が目につくようになり、これら紛争を通して、法理として「労働者人格権」や「プライヴァシー権」という概念が確立し、それが、その後の職場いじめの問題などの訴訟処理に強い影響を及ぼしたとのことであり、リストラを巡って、経験・知識に相応しくない配置をしたことが、「人格権の侵害」にあたるとされたケースなどが紹介されています。

 協調性欠如を理由とする解雇や、教育や指導に従わないことを理由とする解雇について争われたケースも紹介されていますが、それが解雇権濫用に該当するかどうかは、微妙な問題であることが多く、似たような事案でも、状況(様態)によって判決が異なるケースもあるようです。

 「叱る」ということは、通常は、指導・教育の一環として行われる行為でしょう。適切な指導をしないことにより「安全配慮義務違反」とされることもあり、指導・教育自体の必要性が認められているのは、本書でも当然であるとされていますし、教育や指導に従わないことを理由とする解雇について争われたケースで、裁判所が労働者の勤務態度に対して厳しい判断を下し、解雇を有効としたケースが紹介されています。

 一方で、会議中における人間性を否定するような暴言や非難、叱責をこえた罵倒に対して、裁判において使用者側にとって厳しい判断が下されたケースも紹介されています。

叱責の目的よりも、その内容や様態が問われるとのことですが、「パワハラ法理」というものは、現在はまだ形成過程にあり、裁判官も苦慮しているのではないかという印象を、本書を読んで持ちました。

 著者自身は、パワハラ法理は確立されているものと捉えているようであり、但し、違法性の基準の曖昧さ、職場内での自主的な紛争解決能力の後退などの限界や問題を孕んでいるとし、先ずもって法的な紛争となることを回避する工夫をすることが重要であり、そのためには、相互的な「コミュニケーション」が不可欠であるとしています。

 判例解説がなされているものについては丁寧に解説されていますが、それ以外の多くのケースについては、裁判名を列挙するに止まっており、ある意味、テキスト的な本(あとは自分で勉強しなさいと)。

 個人的には、他の判例についてもより多くの判決趣旨を読みたいようにも思いましたが、この出版社から刊行されている著者の「ワークルール」シリーズ(?)は、一般の読者にも手に取り易いようにという狙いなのか、何れも200ページ以下に抑えており、本書もそれに倣ったのか。
 
 とは言え、判例法理から今後の労働法の在り方を考察したとも言える、良書であると思います。

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労働契約法を実務に落とし込むことで、労働法と企業実務の新たな関係を浮き彫りに。

I『労働契約の視点から考える労働法と企業実務』.JPG労働契約の視点から考える労働法と企業実務.jpg 『労働契約の視点から考える労働法と企業実務』(2010/10 日本法令)

 労働法に精通した弁護士による共著(夫婦? 男性の方のセミナーは聴いたことがある)。全体で約200ページ、2部構成になっていて、第1部では労働契約法の概要を解説し(約60ページ)、第2部では労働契約に関するQ&Aを50取り上げ(約100ページ)、巻末に労動契約法とその施行通達がきています。

 第1部の労働契約法の解説部分では、労働契約法と労働基準法との差異、法の概要、法制定の背景を解説するとともに、労働契約に関して、その基本原則(①合意の原則、②均衡の原則、③仕事と生活の調和、④契約遵守・誠実義務、⑤権利濫用の禁止、⑥契約内容の理解促進、⑦契約内容の書面確認、⑧安全配慮義務)、労働契約の成立、変更、継続及び終了、期間の定めのある労働契約に関することを、労働契約法に照らしながら解説しています。

 「労働契約の法的理解の勘どころを的確に突く」と帯フレーズにもあるようにコンパクトな解説ながらも、随所において労働契約法の制定過程で審議・検討されたことも含めて解説されているため、「小さく産んで大きく育てる」と言われている労働契約法の今後のベクトルが浮き彫りにされているように思いました。

 後半部分のQ&Aは、日本法令の雑誌『ビジネスガイド』に連載されたものを纏めたものですが、単行本化にあたって大幅に加筆修正されたとのこと。各設問が、第1部の労働契約法の解説に沿ってグループ分けされていて、内容的にも、「労働契約とは何か」「労働契約上の権利行使は義務となるのか」「賃金と労働契約とはどのような関係に立つのか」といった概念的なものから、「退職の撤回を求める従業員への対応」「失踪者に対する解雇の意思表示」といった実務に近いものまで取り揃えられています。

 本書のタイトルが示唆し、また、著者らが冒頭で述べているように、労使関係を「契約」という視点で見ることで、これまでどちらかと言えば「支配従属」関係として捉られてきた労使関係のもう1つの側面が見えてくること方が考えられ、本書は、労働契約法を実務に落とし込むことで、労働法と企業実務の新たな関係を浮き彫りにしたものと言えます。

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約700ページに423のQ&A。類書に無いボリュームと詳しさ。

Q&Aでわかる育児休業・介護休業の実務.jpg 『Q&Aでわかる育児休業・介護休業の実務』(2010/09 日本法令)

 育児休業や介護休業等に関する制度の導入と、実際の運用を巡って生じる問題点について、どのように法ルールを理解し、どのように対応することが適切なのかを、実務の観点からQ&A形式にまとめたもので、約700ページに423ものQ&Aがあり、類書に無いボリュームと詳しさです。

 「パパ・ママ育休プラス」「パパ休暇」...といった法改正部分も分かり易く解説されていますが、それでもまだ分かりにくいなあと。法改正後の通達をみると100ページ以上もあり(まず普通は読む気がしないのでは)、こうした解説書なしには、普通の人には理解できないのではないかとも思ったりします。

 「パパ・ママ育休プラス」を子が1歳2カ月になるまでではなく、1歳6カ月になるまでとすれば、保育園に入所できないなどで育児休暇を延長する場合の期間と同じになって、もう少し分かり易くなったのではないかと(この2ヵ月というのは「産後8週間」相当。つまり、女性が正味1年間、育児休業が取得できるようになったということなのだろうが、それも、父親が育休を取った場合のこと)。

 例えば、同じ世帯で同時に「パパ・ママ育休プラス(1歳2カ月)」と「1歳6カ月休暇」の恩恵を享受することはできない、といった法ルールの前提となっているコンセプトを先に説明してくれると、分かり易いのだけどなあ。

 「1歳2カ月」の「2カ月」というのは、産後休暇の期間(8週間)を勘案してのことだと思いますが、産後休暇の期間も育児休業期間に含まれるわけだから、「親1人子1人につき通算1年」が限度という規定を変えない限り、あまり意味がないのではないか―まあ、あまり法律にケチばかりつけていても仕方がないですが...。

 本書に関して強いて言えば、図説が少ないのがやや難かなあと。厚労省の通達やリーフレットで使われた図以外は、Q&Aに関する独自の図説が殆ど無く、全部、文章記述のみで解説しているような感じ。

 それでも、文章自体はたいへん分かり易いし、制度づくりやその運用、特例的な状況への対応など、実務に踏み込んでの解説がなされて、法律や制度にまつわる大方の疑問は、それに相当するQ&Aに行きつくことができるのではないかと思います。

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ノウハウをオープンにしている姿勢に好感。チェックリスト方式で、「自社で使える」ものに。

労務2902.JPG まるわかり 労務コンプライアンス.jpg
まるわかり 労務コンプライアンス -チェックリストでわかる人事労務リスク対策

 マスコミで「サービス残業」「名ばかり管理職」「偽装請負」「過労死」といった労務問題が報じられ、社会問題化してからもう何年かになりますが、それでもこうした問題が後を絶たないのは、厳しい経営環境が続く中、企業内でそうした問題にまで手が回らずに解決が先延ばしになっていて、仮に問題あってもこれ以上悪くはならないだろう、或いは、問題が発覚しても対処療法的に切り抜けて済まそうとする思惑が、一部の経営者のどこかにあるためではないかと思われます。

 一方で、IPO(株式公開)やM&Aに際して、最近は財務的な監査だけでなく「労務監査」も重視されるようになっていますが、当初の頃はあくまでも、財務監査に付随して監査法人や法律事務所などが行うものであり、その型通りのやり方に複雑な実態との乖離や偏りを覚えた労務担当者もいたのではないでしょうか。

 社会保険労務士法人による本書は、、なぜ労務コンプライアンスが必要なのかを説くとともに、労務コンプライアンス経営を実現するために、自社で労務コンプライアンスに関する調査をどのように実行すればよいかについて書かれたものですが、具体的な項目についてどのような視点でもって調査すべきかが、分かりやすいチェックリストになっているのが大きな特長です。

 チェックの対象は、雇用管理、服務規律、賃金管理、労働時間・休日・休暇から就業規則や労使協定、パート・派遣労働者など特定層の扱い、健康・安全衛生、労働社会保険まで、人事労務全般を広くカバーし、また、それぞれのチェック項目に、労務管理を強化して労務リスクを減らすという視点と併せて、社員満足度を高めることで労務リスクを低減するという視点が織り込まれているのもいいと思います。

 人件費の抑制を迫られている企業が多い一方で、退職者からの未払い時間外手当請求の数は依然増え続けていますが、本書では最終章で、こうした"人件費"と"労務リスク"のジレンマに悩む企業のために、労務コンプライアンスを維持しつつ経営的視点をも重視する立場から、「固定払い時間外手当制度をどのように導入すればよいか」といったことについても分かりやすく解説されています。

まるわかりシリーズ2907.JPG もちろんそれと併せて、「長時間労働をどのように抑制していくか」「社員満足度をどのように高めればよいか」といったことも解説されていて、職場風土の改革が大事であることを、読者に常に忘れさせないのがいいです(時間外手当の削減について書かれた本の中には、裏表紙に「本書は中小企業経営者のためだけに徹底的に解説しています。社員の皆様はご遠慮ください」などとあるものもあるからなあ。ちょっとヒドくない?)。

 全体を通して、労務コンプライアンス調査が「自社で」できるように、ノウハウを余すところなくオープンにしている姿勢に好感が持て、チェックリスト方式をとることで、単なる啓蒙でなく実際に「使える」テキストになっていると思いました。

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