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いわばリクルート流のSL理論(状況対応型リーダーシップ理論)。分かり易く書かれている。

部下育成の教科書 00.jpg
   
   
    
   
   
   
部下育成の教科書』(2012/03 ダイヤモンド社)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第7弾(エントリー№2277)。表紙折り返しに「自立しない若手、伸び悩む中堅、やる気のないベタラン社員にも効く育て方の『「ものさし」』とあるように、ビジネスパーソンを10の「段階」に分け、その段階に合わせた育成方法を指南しています。その10の段階=ステージとは以下の通り。

部下育成の教科書 図.jpg

●一般社員層:4つのステージ(段階)
(1)スターター(Starter/社会人):ビジネスの基本を身につけ、組織の一員となる段階
(2)プレイヤー(Player/ひとり立ち):任された仕事を一つひとつやりきりながら、力を高める段階
(3)メインプレイヤー(Main Player/一人前):創意工夫を凝らしながら、自らの目標を達成する段階
(4)リーディングプレイヤー(Leading Player/主力):組織業績と周囲のメンバーを牽引する段階
●マネジャーとして部下を持つ管理職層:4つのステージ(段階)
(1)マネジャー(Manager/マネジメント):個人と集団に働きかけて、組織業績を達成しながら変革を推進していく段階
(2)ダイレクター(Director/変革主導):対立や葛藤を乗り越えながら、変革・改革を起こし、組織の持続的成長を実現する段階
(3)ビジネスオフィサー(Business Officer/事業変革):戦略的な資源配分を通じて、自ら描いた事業構想を実現する段階
(4)コーポレートオフィサー(Corporate Officer/企業変革):社会における自社の存在意義を絶えず問い直し、自社の針路を決める段階
●部下を持たない管理職層:2つのステージ(段階)
スペシャリストとして部下を持たない管理職層:2つのステージ(段階)
(1)エキスパート(Expert/専門家):高い専門性を発揮することを通じて、組織業績と事業変革に貢献する段階
(2)プロフェッショナル(Professional/第一人者):卓越した専門性を発揮することを通じて、事業変革に道筋をつける段階
部下育成の教科書 図1.jpg
 「10」と聞いてやや多過ぎか?と思いましたが、上記のように一般社員層4、部下を持つ管理職層4、部下を持たない管理職層4ということで納得。これを全部均等に解説していくと"総花的"になってしまうところを、一般社員層の4段階を特に詳しく説明し、更にステージの変わり目(トランジッション)をどう見極め、上司としてどう対処するかを説いたりもしているため、総花感は回避されているように思いました。

 部下の成長の段階の違いによって育成方法や指導に関する関与の在り方を違えるべきだという気付きを与えるという意味では、啓発される要素は多い本であるし、何よりも分かり易く書かれています。

 一般社員について、スターター、プレイヤー、メインプレイヤー、リーディングプレイヤーの4段階に分かれているというのは、SL理論(Situational Leadership Theory)との対比で捉え直してみると面白いのではないでしょうか。

 著者らは何れもリクルートマネジメントソリューションズ(前HRR、旧人事測定研究所)の所属。本書はいわばリクルート流のSL理論(状況対応型リーダーシップ理論)であり、一般職の部分に更に管理職層の部分を繋げて作ったものとも言えるのではないかと思いました。

 個人的なツン読本、または読み残しや書評の書き残しを改めて振り返った「"やや中古"本に光を」シリーズはここまで下記の通り。
【2270】 × 中澤 二朗 『働く。なぜ? (2013/10 講談社現代新書) ★☆
【2071】 △ 齋藤 孝 『雑談力が上がる話し方―30秒でうちとける会話のルール』 (2010/04 ダイヤモンド社) ★★★
【2272】 △ 近藤 圭伸 『上司の「人事労務管理力」―部下との信頼関係を築くために大切なこと』 (2012/09 中央経済社) ★★★
【2273】 △ 奥山 典昭 『間違いだらけの「優秀な人材」選び (2012/11 こう書房) ★★★
【2275】 ○ 三菱UFJ信託銀行退職給付会計研究チーム 『図解 退職給付会計はこう変わる! (2013/08 東洋経済新報社) ★★★★
【2276】 ◎ 笹島 芳雄 『最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの』 (2008/04 日本経団連事業サービス) ★★★★★
【2277】 ○ 山田 直人/木越 智彰/本杉 健 『部下育成の教科書 (2012/03 ダイヤモンド社) ★★★★(本書)

《読書MEMO》
sl理論.gif●SL理論(「INVENIO LEADERSHIP INSIGHT」より)
(1977年にハーシィ(P.Hersey)とブランチャード(K.H.Blanchard) が提唱したリーダーシップ条件適応理論の1つ)
S1:教示的リーダーシップ/ 具体的に指示し、事細かに監督する 
(タスク志向が高く、人間関係志向の低いリーダーシップ)
→部下の成熟度が低い場合
S2:説得的リーダーシップ/こちらの考えを説明し、疑問に応える 
(タスク志向・人間関係ともに高いリーダーシップ)
→部下が成熟度を高めてきた場合
S3:参加的リーダーシップ/ 考えを合わせて決められるように仕向ける 
(タスク志向が低く、人間関係志向の高いリーダーシップ)
→更に部下の成熟度が高まった場合
S4:委任的リーダーシップ/ 仕事遂行の責任をゆだねる
(タスク志向・人間関係志向ともに最小限のリーダーシップ)
→部下が完全に自立性を高めてきた場合

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やらないことには始まらないし、やっている人はすでにやっているといった感じも。

マネジャーのための人材育成スキル.jpgマネジャーのための人材育成スキル2.jpgマネジャーのための人材育成スキル (日経文庫)

 企業の管理職やグループリーダーが、部下の人材育成にどのように取り組めばよいかを説いた入門書です。著者はこれまでも、書籍やネットなどで同様のテーマについて多くの発信をしており、まあ、こなれていると言えばこなれているし、お手の物と言えばお手の物という感じでしょうか。

 第1章で「人を育てられるマネジャーになるということ」とはどういうことを解説し、以降、人材育成のスキルについて、第2章では「新人」を預かった場合、第3章では「若手」を鍛える場合、第4章では「中堅」を伸ばす場合についてそれぞれ解説しています。

 更に第5章では多様な人材をどうマネジメントするかを、部下の種類別に、有期社員の部下、女性社員の部下、同期や年上の部下、外国人社員の部下について解説しています。

 最後の第6章では、もう一度、人材育成とは何かを、「育てる人」と「育てられる人」の関係について焦点を当てて解説しています。

 全体で180ページ余りとコンパクトに纏まっていて手頃です。解説も、「入門書」という趣旨に沿ってオーソドックスなものではないでしょうか。「組織に馴染ませる」「褒める」「叱る」「チャレンジさせる」「「目標を設定させる」「支援する」「見守る」など、適切なコミュニケーション手法を具体的に説明しています。

 一方で、このページ数にこれだけ詰め込んでいるため、「スキル」という観点から見ると基本的なものばかりで(入門書であるからそれでいいのかもしれないが)、まあ、書かれていることは、やらないことには始まらないし、やっている人はすでにやっているといった感じでしょうか(第6章の「早い返信」とか「ラポール」とか...。自己啓発書を読んだ読後感に近い?)。

 そういった意味で、管理職自身よりも、人事部員やその中の研修担当者が、管理職やリーダーに対して部下育成研修を行う際の、切り口や内容のチェック、漏れが無いかの確認という意味で読むのにはいいのではないかという気がしました(この著者の書く本はもともと大体が人事部インナー向けの性格を帯びたものが多いのではないか)。

 個人的には、第1章で、物語論という学問分野から、ウラジミール・プロップの、成長物語の共通構造として、①敵対者、②贈与者、③補助者、④王女(とその父)、⑤派遣者、⑥主人公、⑦ニセ主人公の7種類の登場人物が出てくるという説を引いているのが興味深かったですが、これはまあ余談の部類でしょうか。

 最近よく、ビジネスパーソンに向けて「プロフェッショナルを目指せ」などということが言われますが、第4章(中堅社員を伸ばす)でプロとして活躍する姿をイメージさせることが大事としつつ、単に言い放しにせず、プロフェッショナルのタイプをT型(ビジネスリーダー型)、H型(プロデューサー型)、V型(エキスパート型)に分けて解説しているのは良かったです。
 このT型、H型、V型というのは「私」による分類としていますが、例えば第5章(多様な人材のマネジメント)では、リーダーシップの幅を広げることの大切さを説くなかで、状況対応型リーダーシップなど著名な理論も紹介しています。

 しかし、こうした解説もそれぞれ一表一図で済ませるだけで、やや浅いレベルで終わっているかなという印象も。「スキル」がテーマだから「理論」をあまり詳しく解説しても...というのがあるのかもしれません。Amazon.comのレビューでは好評のようですが、個人的には、さらっと読めて入門書としてスタンダードだとは思うけれども、「理論」についても「スキル」についても網羅的になった分、深さと目新しさがあまり感じられなかったかなあという印象です。

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「企画書のスタイルで書かれた"啓発書"」との印象だが、気づきを促す意味で読むには悪くない。

博報堂大学 『「自分ごと」だと人は育つ』.jpg「自分ごと」だと人は育つ 「任せて・見る」「任せ・きる」の新入社員OJT

 博報堂の「社内大学」の編による本書は、「日本の人事部」主催の「HRアワード2014」の書籍部門で最優秀賞を受賞した本でもありますが、同社の新入社員OJT(On the Job Training)の新しい考え方とその取り組みを紹介した本であり、新入社員の育成トレーナー(先輩社員)や、新入社員の人材育成担当者を読者層として想定しています。

 第1章で新入社員OJTの今日的環境について概説し、第2章で本書のOJTの考え方の全体像を紹介しています。さらに、具体的な実践についての考え方と方法論について第3章(OJT前半)、第4章(OJT後半)で解説し、第5章で新人の育成時点での課題、第6章でフィードバックの実践について解説、最後に第7章で、OJT期間で大切な5つの要素をと1年間の育成ストーリーを紹介しています。

 かつて日本企業における人材育成の主要施策とされてきたOJTが、近年は"効かなくなっている"と言われるその理由として、職場で起こっている変化、新人=若者の価値観や学習姿勢の変化、新種類の仕事が全社員に同時に降りかかってくる変化を挙げています。そして、そうした変化へ対応するために、今の時代には「自分ごと」意識に着目したOJTがフィットするとしています。

 「自分ごと」とはどのような意識や状態かというと、仕事のオーナーシップを持ったうえでのアウトプット、未経験の仕事でも「やり遂げてみせる」という姿勢、仕事に自分なりの意味を持って取り組む状態を指し、それらは所属チームに対する安心感や信頼感が前提となるとしています。

 そして、「自分ごと」意識を育て、定着させるためには、「任せて・育てる」ことが効果的であるとし、1年間のOJTの前半においては「任せて・見る」、OJTの後半においては「任せ・きる」という2つの任せ方を通じて、そうした意識は育つとして、さらに、それぞれの方法論や留意点を解説しています。

 全体として、「新しい」OJTの在り方の、"テクニック"というよりはその"コンセプト"を詳(つまび)らかにしたものであり、個人的には、半ば「企画書のスタイルで書かれた"啓発書"」との印象も受けました。コンセプト・ワークが重要な位置を占める広告会社らしいスタイルであり、また、読者へのその伝え方も洗練されていて、分かりやすいと思います(「自分ごと」といったキーワードを編み出すところは、「博報堂生活総研」みたいだなあ)。

 提案されている内容そのものは、リーダーシップ理論等において従来から言われているエンパワーメント(権限委譲)やSL理論(ライフサイクル理論)の応用であったりもするように思いましたが、1年間のOJTの中にそれを落とし込み、懇切丁寧に解説されている点が特徴的であると言えるでしょうか。

 ただ、広告会社の場合、その仕事がやりたくて会社に入ってくる新人がほとんどであり、また、仕事における現場の裁量も大きいため、本書で言うところの「自分ごと」意識は、これまでも自ずと醸成され易かったのではないかと思われます。その広告会社が、人材育成コンセプトを4年がかりで再構築し、新入社員の育成トレーナーに対して啓発を行っているということの方が、むしろ注目すべきことなのかもしれません。

 新入社員の人材育成担当者、とりわけ、ナレッジ・ワーカーが主体の職場の人事パーソンや育成トレーナーは、自らの気づきを促すという意味で、一読されるのも良いかと思います。

《読書MEMO》
●目次
■第1章 「人が育ちにくい時代」の認識から始める
1 OJTが効かなくなっている? 
2 新しいOJTが求められる理由〈論点①〉──職場で起こっている変化への対応
3 新しいOJTが求められる理由〈論点②〉──新人=若者の価値観や学習姿勢の変化への対応
4 新しいOJTが求められる理由〈論点③〉──新種類の仕事が全社員に同時に降りかかってくる変化への対応
5 「自分ごと」意識に着目したOJTが、今の時代にフィットする
■第2章 育成・指導者と新入社員が同じゴールを持つ――今の時代に合った新しいOJTの考え方
1 「自分ごと」とはどのような意識か 
2 2つの任せ方を通じて「自分ごと」の意識は育ち、定着する 
3 1年間のOJTの基本となる考え方 
4 「任せて・育成する」ことの効用 
5 「任せて・見る」「任せ・きる」のOJTが、なぜ新しい考え方なのか? 
6 1年間のOJTでトレーナーが実際にすること
■第3章 「任せて・見る」――「自分ごと」を習慣化する
1 OJTをスタートする前に考えてほしい点 ──新人の気持ちと前期OJT終了時の理想イメージ
2 「任せて・見る」育成・指導のキーワード
3 「任せて・見る」育成・指導で、仕事をどう選ぶか(選定の視点) 
4 「任せて・見る」仕事を通じての新人の学びとは──実例で考える 
5 「任せて・見る」仕事を通じて何を経験して何を学ぶのか
6 「任せて・見る」指導面で求められる見守りのスタンス 
7 次の育成ステップを考えるための観察 
■第4章 「任せ・きる」――「自分ごと」をマスターする
1 OJT折り返し時点の新入社員について考える 
2 「任せ・きる」とはどのようなことか 
3 「任せ・きる」に進むための前提条件 
4 「任せ・きる」育成・指導上の5つのキーワード
5 「任せ・きる」仕事を選定する5つの視点
6 「自分ごと」を本人が体感するために支援者として考えること 
7 成否のカギを握るのは実はトレーナー側
■第5章 「任せて・見る」と「任せ・きる」の合間に考えるべきこと
1 最年少の若手メンバーとしての存在感を確立する
2 担当する仕事の本質を理解したうえでの実行力 
3 新人の成長課題とトレーナーの育成課題 
■第6章 フィードバックの効用と具体的な方法
1 経験から学びを促すフィードバックの方法
2 フィードバックを継続すると気づきが変わる
3 フィードバックの持つ2つの大きな意味 
4 2つの任せ方とフィードバックの関係性
■第7章 OJTの1年間でトレーナーが考えること――5つの軸と1年間のストーリー
1 OJTを進めるうえでの大切な要素と前提となる考え方 
2 「育成の5つの軸」の意味とポイントを考える 
3 「5つの軸」を1年間のOJTのストーリーに沿って考えてみる 
博報堂の新入社員OJTの概要 
あとがき
解説──人材開発部門発、「新たなOJT」創造の「旅」......中原 淳

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ホールシステム・アプローチの"思想"と"枠組み"を理解するうえでは良かった。

俊敏な組織をつくる10のステップ5.JPG
俊敏な組織をつくる10のステップ2.jpg
       ホールシステム・アプローチ.jpg  ワールド・カフェをやろう.jpg
俊敏な組織をつくる10のステップ』['12年]『ホールシステム・アプローチ―1000人以上でもとことん話し合える方法』['09年]『ワールド・カフェをやろう!』['11年]

 本書は同じ著者らの前著『決めない会議―たったこれだけで、創造的な場になる10の法則』('09年/ビジネス社)、『ワールド・カフェをやろう!』('09年/日本経済新聞出版社)、『ホールシステム・アプローチ―1000人以上でもとことん話し合える方法』('11年/日本経済新聞出版社)などに続く、「ホールシステム・アプローチ」の入門書です。

 「ホールシステム・アプローチ」とはアメリカ生まれの会議の手法であり(ベースにはピーター・センゲの「学習する組織」の考え方がある)、検討すべき課題に関係するすべての関係者を集めて、共通の課題や目指したい未来などについて話し合う大規模な会話の手法の総称であるとのことですが、今回の本書では、ホールシステム・アプローチを単なる会議の手法として取り上げるのではなく、組織変革プロセスの視点から加筆されています。

The World Café.jpg ホールシステム・アプローチの代表的な手法には、ワールド・カフェやOST(オープンスペース・テクノロジ―)、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリ)、フューチャー・サーチなどがあり、これらの会議の特徴は、無理に結論を出そうとしたり、結果を出すことに最初からこだわらないで、むしろ話し合いの質やプロセスに気を配り、参加者同士の関係の質を向上させることを大切にしているところであり、こうした「決めない会議(決めようとしなくても決まってしまう会議)が今注目されているとのことです。

The World Café(上・イメージイラスト/下・解説図)

ワールドカフェ01.gif 本書によれば、ホールシステム・アプローチによる組織改革においては、組織の階層や部門の違いを超えた密接な社内コミュニケーションを維持し、多様なものの見方や意見を尊重し、自由活発な意見交換がなされ、また、組織が何を実現したいのか。そのために何が必要なのかを全員が共有することを目的とするとのことで、それが、本書のタイトルにある「アジャイル(俊敏)な組織をつくる」ということになります。
 
 本書では、そのためのホールシステム・アプローチによる組織改革プロセス、並びに、ワールド・カフェやOSTといった手法がそのプロセスのどの手法をカバーするかを示すとともに、ホールシステム・アプローチによる変革プロセスを組み立てる際のポイントとなる10の視点を挙げていて、それらについての解説が、実質的な本書の"本編"となっています。

 また、後半は、ホールシステム・アプローチのワークショップを組み入れて組織や地域の変革をプロセスとして展開している企業、自治体、業界、海外の事例が詳しく紹介されており、ワークショップの在り様がイメージしやすくなっています。

 前著から続編的な側面があり、AIやOSTといった用語がいきなり出てきますが、それらについては巻末で解説されているため、この分野が初めての読者は、先にそちらに目を通した方がいいかもしれません。

 ホールシステム・アプローチの"思想"と"枠組み"を理解するうえでは良かたと思います。人事パーソン的な視点からすれば、ファシリテーターとして社内ワークショップを成功させるためのテクニカルなポイントについてもう少しあれば、例えば社内ワークショップの運営を想定した際のイメージが掴みやすかったのではないかという気もしますが、そうなると、一冊の入門書にあまりに多くのことを求め過ぎることになるのかも。

 本書とは別の切り口からホールシステム・アプローチの"思想"を解説するとともに、リーダーシップ研修にホールシステム・アプローチを採り入れた事例なども紹介されている、高間邦男 著『組織を変える「仕掛け」―正解なき時代のリーダーシップとは』(2008年/光文社新書)などを併せて読んでみるのもいいのではないかと思います。

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「コーチング・アワセルブズ」という「第三世代」のマネジメント教育の方法を物語風に解説。

ミンツバーグ教授のマネジャーの学校.jpg 『ミンツバーグ教授の マネジャーの学校』(2011/09 ダイヤモンド社)

 IT企業のマネジャーであった著者(フィル・レニール Phil LeNir)は、自分のいた会社が買収の憂き目に遭い、リストラや経費削減で職場モラールが低下する中、ミドルマネジャーが元気を取り戻し、活き活きと仕事するにはどうすればよいかを模索していた。そんなある日、母親の再婚相手が経営学者であったことを思い出して、義父のもとへ相談に行く―。

 その(著者の義父にあたる)経営学者というのが、偶然にも『MBAが会社を滅ぼす』で有名なヘンリー・ミンツバーグ教授であったわけですが、本書は、著者がミンツバーグの教えに従い実践した「コーチング・アワセルブズ」というマネジャー育成方法について、自分の職場への導入の実際から、その浸透により得られた効果までが、実体験に基づき物語風に綴られていて、たいへん読みやすいものとなっています。

 「コーチング・アワセルブズ」というプログラムの要となるのは、マネジャーたちが互いに自身のマネジメント経験を語り、それを振り返る「内省(リフレクション)」であり、これを習慣化し、そこから今まで気づかなかった学びを得るとことで、各自がマネジャーとしての大局観を養うとともに、マネジャー同士のコミュニティシップを形成し、組織変革の起点にしていくというのがその狙いです。

 重光直之氏の解説にもあるとおり、ミンツバーグはかねてより、マネジメント教育は「自分の経験を内省する」ことを中心にすべきであると主張しており、こうした自身の唱える「日々の自分の経験から学ぶ」マネジメント教育の方法を、教室において座学で理論を学ぶ「第一世代」のマネジメント教育、アクションラーニングなど実際のプロジェクトを教室に持ち込む「第二世代」のマネジメント教育に対し、「第三世代」のマネジメント教育としています。

 本書からも窺えるように、実際の経緯としては、以前からミンツバーグが提唱していたマネジメント教育の在るべき姿を、著者が実践に落とし込むことにより、「コーチング・アワセルブズ」というスタイルが出来あがったわけであり、著者自身は会社を辞め、この手法を広めるための会社を設立し、解説の重光直之氏の属する会社は、その日本におけるパートナーとなっています(日本では「リフレクション・ラウンドテーブル」という名称で展開)。

 そうなると、この本は"宣伝本"ではないかと見るむきもあるかもしれませんが、著者の実体験を書くことで、そのノウハウがほぼ開示されているため、内製的に実施することが可能であるように思われ、また、これからの企業内研修の在り方にユニークな示唆を提供しているように思えました。実際に日本でも、一部の大手企業では導入済みであるとのこと、社内研修の担当者などは、本書から、マネジメント研修の実施方法についての新たなヒントが得られるかもしれません。一読して損はないかと思います。

 「コーチング・アワセルブズ」、次回の管理職研修で採り入れてみようかなあ。

マネジャーの実像.jpg 因みに、ミンツバーグ自身の近著『マネジャーの実像』(日経BP社 2011年1月刊)の中でも、この「コーチング・アワセルブズ」は紹介されていましたが、本書自体は、彼の膨大な経営思想を網羅的に要約したものではなく、あくまでも「コーチング・アワセルブズ」とういうマネジャー育成プログラムにフォーカスして、それを、ごく分かりやすく紹介したものであると言えます。

 ただし、巻末にはミンツバーグの主著が紹介されており、また、自然をこよなく愛するという彼の人柄などにも触れられており、経営思想の泰斗をこれまでより身近に感じることで、本書が彼の著作への手引きとなるかもしれません。

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モチベーション・タイプ別の自律的人材になるための処方箋を示す。

自律的人材になるためのキャリア・マネジメントの極意3.JPG自律的人材になるためのキャリア・マネジメントの極意.jpg自律的人材になるためのキャリア・マネジメントの極意』(2009/09 ナカニシヤ出版)

 先行き不透明な経済・経営環境のもと、企業にとってこれからは自律的人材が求められるとは、昨今よく言われることですが、本書では、自律的人材とはどのような人材なのか、自律的人材とモチベーションはどのような関係にあるのかを示したうえで、個人のモチベーションのタイプ別に、自らやる気を高める方策をまとめています。

 本書によれば、自律的人材とは、「自分が何をすべきかの方向を定め、他者から指示・コントロールされなくても、責任感をもって主体的に物事を進めていく人材」であり、モチベーションの効果が比較的短期間であるのに対し、自律意識(自律的人材であろうとする意識)は一定期間持続するとしています。

モチベーションのタイプ.jpg そのうえで、モチベーションをタイプ分けするために、まず「やる気のエンジン」がどこにあるか、つまり、内発的動機づけによるもの(目的的)か外発的動機づけによるもの(手段的)かで区分し、それぞれに、自己決定が可能な自律的ケースと、他からの支援など関係性に依存する他律的ケースがあるとしています。

この区分に沿って、モチベーション・タイプを「目的的‐手段的」と「自律的‐他律的」の2軸に分け、内発的動機づけによるものは自律的‐他律的を問わず「内発的モチベーション」(目的的)として1つのタイプとし、外発的動機づけによるもののうち、自律的なものを「役割自発型モチベーション」、他律的なものを「外発的モチベーション」とし、これに、まだ動機づけられていない「アパシー状態」を加えた4つのタイプを規定したうえで、各タイプごとに章分けして、自律的人材になるための最適方法を教唆しています。

心理学の考え方が各章に織り込まれていますが、例えば「内発的モチベーション・タイプ」ではキャリア・マネジメントの方法論そのものがに書かれているのに対し、「役割自発型モチベーション・タイプ」においては、「自己追究型アプローチでキャリアをマネジメントする」といった具合にアイデンティティの追究にウェイトが置かれています。

「外発的モチベーション」では「有能感を貯める」「行為の主体になる」といったことが、さらに「アパシー状態」においては、「できない気持ちを学ばない」などとなっていて、このように、タイプごとに"処方箋"レベルが明確に区分されているのが興味深かったです。

 個人においても仕事や課題の違いによって異なるタイプの状態になるであろうし、部下を使う側に立てば、部下1人1人は違ったタイプに分けられるかもしれませんが、このタイプ区分を前提に、部下ごとに「やる気の引き出し方」が違ってくることを意識してみるのもいいのではないか、そうした意識を持つことが、人材マネジメント・スキルの向上にも繋がるのではないかと思いました。

 モチベーションのタイプ分け自体が1つの仮説であるともとれますが、むしろ、概念整理の方法および心理学をベースとした方法論と読み手との相性によって、この本の評価は分かれるかも知れません(ハマる人はハマる)。

 言えることは、ただただ"自律的人材たれ"と連呼するだけでなく、1つの仮説からスタートしてでも、より多くの社員が自律的人材となるべく方向付けをしていくことが、仕事に対する価値観や関わり方の違いという"目に見えない"ダイバーシティをマネジメントしていくうえでの、管理職や人事担当者のこれからの課題ではないかと思いました。

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後輩をどう育てるか。すらすら読め示唆にも富むが、結局行動に移さないとだめ。その意味では「啓蒙書」。

9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方2.jpg9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方1.jpg 『9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方』['10年]

 以前、『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』(香取貴信 著、'02年/こう書房)という本がありましたが、何年かごとにこうした「ディズニー本」が出され、そのたびによく売れるなあと。
 個人的にも、10数年来、株主優待で毎年2回はディズニー・リゾートへ行くということもあり、そのせいもあってついつい買ってしまいます。

 本書も『社会人として...』と同様に元従業員によるもので、「9割がバイトでも...」というタイトルの付け方も旨いと思いましたが、著者自身は、東京ディズニーランドがオープンした1983年に第1期の正社員としてオリエンタルランドに入社し、ジャングルクルーズの船長などを務め、その後人事課などで社員教育畑を歩み、2007年まで在職していたというから、正社員としての年季は入っています。

 CS(顧客サービス)やホスピタリティをテーマにした本では、リッツ・カールトンを扱ったものがありますが(例えば、『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』(高野登 著、'05年/かんき書房)など)、本書はそれらを意識してか、リッツ・カールトンの場合は採用段階でサービス業に向く人向かない人を峻別する厳選採用を行っているが、ディズニーの場合は、アルバイト採用に応募してきた人を基本的に全員採用する方向で対応していると、その違いを明確にしています(但し、退職するバイトも大量にいることを考慮に入れる必要があるだろう。その意味では「9割」という表現には裏があるとも言える)。

 詰まる所「後輩をどう育てるか」という本であるのですが、非常に読み易く書かれていて、まず「育てる前に教える側の『足場』を固める」として、「理想の上司、先輩」とは、リーダーシップを持っていて、ゲストをよく見ている共に、後輩をもよく見ていてまめに声を掛け、改善点を見つけたら、すぐに改善するための行動を起こす人であるとしています(確かにディズニー・リゾートではキャスト同士が"声掛け"しているのを見かける)。
 逆に最悪の上司、先輩とは、自分のことしか考えない人、言うこととやることが違う人、面と向かって注意をしない人であるとのこと。

 「『教える喜び』を感じないと後輩は育たない」とし、ディズニーでは、熱意のある先輩が指導役に抜擢され、論理的に教えられること、心理的な工夫を施すこと、教えることに熱意をもつことが求められ、自分が扱われたように後輩は人を扱うため、先輩が後輩に笑顔で接するのは当たり前であるとされているとのこと。
 「見て覚えろ」では後輩は育たず、顧客満足度やモチベーション低下に繋がるだけであり、「すべての人にハピネスを提供する」というミッションを正しく理解したうえで後輩に伝え、先輩・上司が相互にきっちり理解していることが肝要であると。そのためには、リーダーが行動指針をもち、優先順位をはっきりさせると、後輩に迷いは無くなるとしています。

 「後輩との信頼関係を築く」には、リーダーシップをもって後輩と接することが大事で、まず自分が模範になるとともに、後輩に「いつも見てくれている」と意識させることが大切であり、その場合、気づくように堂々とみる、公平感・納得感を与える、といったことがモチベーションを高めることに繋がると。後輩の行動に何か感じたら声を掛け、また、成果だけに注目しないようにすると。

 間違った考えに染まった後輩を変えるにはどうすればよいかということも、自らの経験を織り交ぜて書かれていて、容易ではないが「人は変わる、人は育つ」ものあるとしています。

 「後輩のコミュニケーション能力を高める」には、まず後輩の"存在"を認め、顔を合わせて対応するようにし、思いやりをもって行動させるべきだとし、思いやりに行動がプラスされ相手は初めて感動するのであって、思いやる気持ちを育てるためのルールを作ることが大事であるとしています。また、価値観を共有させることが出来れば、人間関係が良くなるとも。

 後輩との面談・話し合い際しては、安心して話せる場所を選ぶことが大事だとしていますが、大勢のゲストがいる現場でそうしたことが発生した場合の対処法などもあり、これは、実際にパレードなどの現場でやっているのを見たことがあります(リーダーとスタッフが互いに背中合わせで話していたなあ)。

 「後輩のモチベーションを高める」にはどうすればよいか、「後輩の自立心、主体性を育てる」にはどうしたらよいかということにも触れられていて、それぞれ示唆に富む内容だったと思います。

 全体を通してすらすら読めてしまう本ですが、本書に書かれていることの大部分は「コーチング」の前段階である「ティーチング」になるのだろうなあ。ディズニーの場合、先輩がティーチャーとなり、その部分を徹底してやっているわけですが、パーク業務に限らず一般企業においても、コーチング以前のティーチングをもっとしっかりやった方がよさそうな会社がありそうな気がします。

 結局、頭で理解しても、実際に行動に移さないとだめなわけで、そうした意味では、テクニカルな本では無く、「啓蒙書」と言っていいのでは。

【2012年文庫化[中経文庫]】

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著者の会社に研修コンサルティングを誘引するための"宣伝本"。

「新・ぶら下がり社員」症候群.jpg 『「新・ぶら下がり社員」症候群』(2011/01 東洋経済新報社)

 結論から先に言えば、買わなくていい本だと思います。

 帯に「辞めません。でも、頑張りません。」とあります。人材育成コンサルタントである著者は、本書において、会社を辞める気はないが会社のために貢献するつもりもないという、そんな30歳前後の社員が増えているとし、彼らのことを「新・ぶらさがり社員」と呼んでいます。

 「新・ぶらさがり社員」は目的を持たず、目的がないゆえに、会社では時間を潰すことに明け暮れ、常に70%の力で仕事に取り組むとのこと。本書では、彼らのマインド低下を表すデータを紹介するとともに、こうした社員が増えているのは、①バブル崩壊の経験、②就職氷河期の試練、③成果主義の洗礼、④転職機会の喪失、⑤昇進・昇格の減少といった時代の潮流が背景要因としてあるとしていますが、このような分析は、人事パーソンであれば思い当たるフシはあると思われますし、特に目新しい指摘でもないと言えるでしょう。

 本書の後半部分は、こうした「新・ぶらさがり社員」の目の色を変えさせる処方箋は何かということが書かれていますが、ミッション・クエストに基づく著者の会社の人材育成プログラムによって、「新・ぶらさがり社員」がやる気に満ちた社員に変身するとのことです。

 その"劇的"に変化を遂げた社員の事例がいくつも紹介されていますが、ミッション・クエスト自体については、その成功のポイントは「本人の変革を心から信じて応援する」「本気になることの素晴らしさに気づかせる」「自分の中の壁を壊させる」ということだそうです。それ自体がやや抽象的であり、そこから先の育成プロセスが具体的にはほとんど書かれておらず、"変わった"という"効果"だけが強調されているように思います。

 その後にも「ぶれない自分の軸をみつけさせる」とか「型から入るのではなく、関係から入れ」といった"啓蒙的"なフレーズが続くばかりで、読んでいて、あまり内容が深化していかないように思いました。

 また、そうした育成研修は自社でもできるとしながらも、何らかのフォーマットやスケールが示されるわけではなく、最後まで「上司のひと言で部下のやる気は左右される」とか「コミュニケーションとは想像力である」といったトーンで貫かれています。

 非常に目立つ帯で、関心を引くコピーと併せてのアイ・キャッチ効果はありますが、内容的には、要するに著者の会社に研修コンサルティングを誘引するための"宣伝本"ではないか、ととられても仕方がないのではないでしょうか。

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啓発セミナーに近いような引用方法と、タイトルからして表れている"宣伝臭さ"が気になった。

日本で最も人材をi99.JPG「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト.jpg 『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書)』['10年]

 著者は「フリービット」というIT企業の人事担当者で、その会社は「日本で最も人材を育成する会社」を"めざして"いるということであり、本書の内容自体は、その会社のテキストというより、一般的な企業における、これからの時代の人材育成論になっています。

 実質的に「人材の現場への放置」を意味していたOJTの時代は終わって、これからの人材育成の実務は「研修のデザイン」から「経験のデザイン」へ向かうという視点には目新しさが感じられますが、人材育成の目的から説き始め、育成ターゲットの選定、育成のタイミング、育成プログラムの設計思想、人材育成の責任―と進んでいく解説は、流れとしてはオーソドックスであり、MBAのテキストから持ってきたような図表が幾つかあるものの、さほど難しい専門用語も使っておらず、すらすら読めます。

 但し、章立てほどに中身が体系的かというと、必ずしもそうとは思えず、既存の人材育成理論を多くの書籍などから引用的に詰め込んだだけで、その詰め込み方がやや雑な感じがしなくもありませんでした(ブログがベースになっているためか?)。
 また、解説の多くが抽象段階に止まっているため、個々の課題に対する気づきを促す啓発書として、という点ではそう悪くはないのですが、実務への落とし込みという面では弱い気がしました。

 例えば、部下の状態を判断するの用いられるWill-Skill Matrixを、リーダーシップ理論の1つであるSL理論(名称は本書に出てこない)と組み合わせて解説しているのは著者のオリジナルの部分のかも知れませんが、これがなぜ「月単位のタイミング計画」という項で解説されているのかよく分からないし、いきなりミラーニューロンなどといった話が出てくるのも唐突感があります(どちらかというと講演調?)。

 全体としては「学習する組織」に近い考え方に収斂しているのが窺え、考え方自体に異を唱えたくなるような部分は少なかったものの、書かれていることの多くはそうした"考え方"の提示に止まっていて、各企業における具体的な施策については、こうした"考え方"に「賛同していただける企業がございましたら、是非、ご連絡いただければと思います」(P154)ということなのか(あれっ、IT企業じゃなかったの? 株式情報を見たら「法人向け中心に各種ネットサービス提供。ネット接続業者向け接続代行に強み。」と書いてあるけれど、本書の終わりの方に出てくる「教育効果測定」メソッドが、著者の会社の商品になるわけ?)。

 目の前の人がMBAかどうかは、目の奥に「田の字」が見えればMBA、というジョークがありますが(著者はMBAホルダーではないが海外での企業勤務経験あり)、2×2のマトリックスでの説明は確かに分かり易い、しかしマトリックスで人材育成が出来るならば、人材育成なんて簡単にできてしまうことになり、現実の複雑な環境や制約の中で、人材育成の手法としてどういった選択肢を選び採るかということは、そう容易ではないように思います。

 書籍を引用するにあって「有名な」「著名な」という言葉が多用されていて、この傾向は著者のブログでも多く見られ、著者の口癖なのかと思ってしまうほどで、個人的には、コンサルティング誘引のための啓発セミナーを聞いているような印象を助長することに繋がってしまいました。

 企業における人材育成及び人材育成「論」のトレンドを掴むうえでは、そう悪い内容の本ではないと思いますが、こうした啓発セミナーに近いような引用方法と、タイトルからして表れている"宣伝臭さ"が気になって仕方がなかった...。

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人材育成・社員教育に力を注ぐ会社の施策を紹介。大企業・有名企業ばかりなのが少し気になる。

会社を利用してプロフェッショナルになる.jpg会社を利用してプロフェッショナルになる Excellent System of Human Resources Development (光文社ペーパーバックス)

 人事専門誌などに、企業の人事制度や施策等を紹介する記事を書かせたら、その分野では"第一人者"であろうと思われる著者ですが、光文社ペーパーバックスの前著『隣りの成果主義』('04年)は、殆ど図表等を用いずに賃金制度などの紹介をしていて、プロでも時には内容を把握するのが困難な他社の人事制度を、字面だけで一般読者に理解させるのは難しいように思え、結果として、著者の持ち味が活かされていなかったように思います。

 それに比べると、各社の人材育成・社員教育施策を紹介した本書は、テーマ的にも文章記述だけでカバー出来る部分が多い上に、今度は2色刷りになって図表(概念図)も多く取り入れられているため、前著よりは解りよいものになっているかと思います。

 前半のトヨタや東レ、日本ユニシスなどの超優良企業9社の事例紹介は、ほんのサワリだけで、また数だけ詰め込みすぎたかと思われましたが、後半の、"3年で「プロの専門職」に育てる会社"としての4社(ゴールドマンサックス、アクセンチュア、キーエンス、資生堂)と、"10年でプロのマネジメントに育てる会社"としての3社(ユニクロ、伊藤忠商事、住友商事)は、そうした分類の仕方も興味深く、また、著者らしい取材力が活かされているように思いました。

 これらの事例紹介の幾つかは、'06年から'07年にかけての雑誌「プレジデント」の連載がベースになっているようで、道理でそれぞれ突っ込んで書かれているというか、それなりに時間をかけて取材したものなのだなあと(ここでは1つ1つについて述べないが、個人的には参考になった)。

 但し、本書自体は、タイトルからも窺えるように、就職・転職を意識している一般のビジネスパーソンに対して、自分をプロフェッショナルにしてくれる会社を選びなさいと呼びかけるスタイルをとっているため、冒頭で、「知名度や規模」で会社選びをしてはならないとしながら、紹介されているのがそれなりの大企業・有名企業ばかりである(且つ、人材育成制度も充実しているのだが)という結果になっている、この辺りの事例の選択方法がが、ちょっとどうなのかなと。

 「プレジデント」という雑誌の性格や。「人材育成制度」というテーマからするとこうならざるを得ないのだろうけれども、本書を読むと、やはりプロ人材になりたければ、世に言う"一流企業"に行くにこしたことはないととる人も多いのではないでしょうか。

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「技術」以前にコーチングの本質とは何かということが読み易く書かれている。

人の力を引き出すコーチング術.jpg人の力を引き出すコーチング術2.jpg人の力を引き出すコーチング術 (平凡社新書)』['08年] 原口 佳典.jpg 原口 佳典 氏(コーチングバンク代表/略歴下記)

 全5章の構成で、まず第1章で、コーチングとは「自然習得力を向上させ」「自己成長を促す」ものであるということを、アメリカにおけるコーチングの誕生と発展の歴史的経緯から辿り、それが日本にどのような形で入ってきて現状はどうであるかを解説、第2章では、ビジネス現場へコーチングを導入する際の留意点は何かを成功例・失敗例を挙げて解説するとともに、以上を通して、コーチングとはコミュニケーションを改善させる媒体(手段)であってコンテンツ(目的)ではないこと、人を操る手段ではなくてモチベーションをアップさせるものであることを述べています。

 第3章では、「聴く」「語る」「質問する」というコーチングの3つの基本スキルについて解説し、第4章では、コーチングによって「自然習得力を向上させ」「自己成長を促す」には、この3つに加えて「想像する/想像させる」「提案する/提案させる」「決定する/決定させる」ということが大切であり、それはどのようなことを指すのかを会話例などで解り易く解説、第5章では「コーチングが効果的な10の分野」を挙げ、コーチングがビジネスのためだけのものではないことを示しています。

インナーテニス.jpg 著者も述べているように、本書はコーチングの個々のスキルについて書いたノウハウ本ではなく、「技術」以前のコーチングの本質とは何かということを中心に体系的に書かれていて、それでいて読み易く、また一読した後にどこからでも再読できるという"優れもの"、とりわけ冒頭の、コーチングの起源とされるテニスプレイヤーのW・ティモシー・ガルウェイ(W.Timothy Gallway)の書いた『インナーテニス』('72年)に関する記述は詳しく、この本の中でガルウェイが述べている「自然習得力を向上させ」「自己成長を促す」というコーチングの概念は、本書全体を通して繰り返されています。

Tiger Woods.bmp 事例やエピソードも豊富で、最終状態を「想像する/想像させる」ことが目標達成を早めることになることをゴルフを例とし、殆どのゴルファーが良いバックスウィング、良いダウンスウィングをすれば良いショットができると考えるのに対し、タイガー・ウッズは、どういうインパクトをすれば良いかから考え始めるといい、彼の父親のアール・ウッズは、息子にゴルフを教えるに際して、ドライバーから練習を始めるのが通常であるのに対し、「ゴール」であるパットから練習させたとのこと。ゴルフの目的はカップにボールを沈めることであり、上手にスウィングすることではないからであると。

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原口 佳典 (はらぐち・よしのり)
1971年福岡県生まれ。愛知県立旭丘高等学校卒。早稲田大学第一文学部社会学専修(宗教社会学・物語社会学) 卒業後、株式会社三省堂書店に入社。医学書販売を担当。その後、店舗設計に携わり新店を開発した後、1999年2月、インターネットの世界に魅力を感じ転身。ビズナレッジ(株)・(株)コーチングバンク代表。(財)生涯学習開発財団認定コーチ、経営品質協議会認定セルフアセッサー。

《読書MEMO》
●「相手の価値観を尊重すれば、よりよいコミュニケーションをとることができる」(W・ティモシー・ガルウェイ)(33p)
●コーチングが目指すのは、純粋に「自然習得力」を持った、自立した人間である。コーチはあくまで援助者であって、先生やトレーナーではない(51p)
●コーチングはあくまでコミュニケーションの改善を行うだけのもの(95p)
●コーチングをビジネスに活かす方法(103p)
1.M&Aや経営改革を強烈なリーダーシップで引っ張りたいとき(コーチング型のマネジメントは変革で生じるストレスを緩和させる方法として有効)
2.コーチングの導入目的を単にコミュニケーションスキルの向上と捉える(チームや部署内の空気を良くするために、或いは、コミュニケーションスキルを向上させるためにためにコーチングを研修の一環として取り入れる)
●クライアントは語ることによって、自分の行動や感情、体験や気持ちをはっきりと認識する。その語りを未来につなげ、次のステップを明らかにする。(131p)
●最終状態をイメージすることで、自ずとその方向に向かおうとする。この「想像させる」ことが、目標達成を早めることになる(146p)

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理念的に纏まっていて、且つ、地に足のついた組織変革の実践論・手法論となっている。

組織を変える「仕掛け」.jpg 『組織を変える「仕掛け」 (光文社新書)』 ['08年]  リーダーシップの旅.jpgリーダーシップの旅 見えないものを見る (光文社新書)』 ['07年]

 『組織を変える「仕掛け」-正解なき時代のリーダーシップとは』は経営コンサルタントの高間邦男氏による組織変革並びにリーダーシップに関する本で、同じくAmazon.comのレビューの評価が高かった『リーダーシップの旅-見えないものを見る』(野田智義・金井壽宏著/'07年)と共に読みましたが、『リーダーシップの旅』は、リーダーシップは先天的なものか後天的なものかという論争には意味がなく、後天的な環境がリーダーを育むものであり、「すごいリーダー幻想」に惑わされてはいけないと説きながらも、例に引いてくるのが歴史上の偉人や有名な経営者など「すごい」人物ばかりで、却って「すごいリーダー幻想」を助長しているような気もしました(横文字がやたら多いにも気になった)。

 斬って捨てるような本ではないし、部分部分では共感するのですが、何となく肌に合わなかったというか、自分はこの本向きの読者では無かったのかも。

 一方、高間氏の『組織を変える「仕掛け」』の方にも横文字は少なからず出てきますが、こっちの方がかっちりと理念的に纏まっていて、且つ、より地に足のついた組織変革の実践論となっているように思えました(最後にリーダーシップ論も出てきますが、メインは組織改革の手法を説いた本だった)。

 従来のトップダウンやボトムアップに替わる手法として〈ホールシステム・アプローチ〉という「経営トップから管理者層、メンバー、協力会社まで、ステークホルダーが全員集まり、状況や背景を共有し、全員が話をし、人の話を聴くことで、全員で自分たちのありたい姿を考え、新しいアイディアや施策を生み出していく」方法を提唱していて、更に、このアプローチの背景になる思想は、従来型の問題解決アプローチ(ギャップアプローチ)では限界があり、人の「強み」や「価値」に焦点を当てていく〈ポジティブアプローチ〉であるべきだとしています。

 前半部分だけだとやや抽象的ですが、後半において、「ポジティブアプローチの6つの原則」として、〈ポジティブアプローチ〉を更に具体的な幾つかの手法に落とし込み、研修場面などを想定しながら話を進めていくので、非常にわかり易いし、最後の「組織変革の9つのステップ」もしっくりくるものでした(但し、あまりに多くのことに触れているので、一読して全てを習得するのは難しいかもしれないが、取り敢えず要点と流れだけ掴めば、それだけでも随分違うのでは)。

 『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』('08年/講談社現代新書)を読んだ際にも思ったのですが、結局、これからはリーダーシップ研修というよりメンバーシップ研修が大切になってくるのだろうと思わされた1冊でした。

《読書MEMO》
インクルージョン(⇔イクスクルージョン)-境界を外していく(⇔閉じている)
「女性の活用」といい続けるのは、「女性」というラベルを貼って区別していることになる(49p)
●生物学的な統合的(シンセシス)アプローチ(⇔分析的(アナリシス)アプローチ)
私たちを取り囲むシステムの変化や影響関係を、物語や映画のように全体の流れの中でとらえ、感性や皮膚感覚といったもので、察知していきます。自分たちは何者であるのか、一人ひとりがどうありたいのか、自分たちの組織や、社会がどうなったらいいのかを共有するところから、行動を生み出していく(53p)
●ミツバチの生態系の破壊
 アーモンドの需要増→5キロ四方のアーモンド畑→単一の花の蜜ばかり食べる→免疫力低下(70p)
●アポトーシス
 新規プロジェクトが100ぐらい走っているが、その多くが失敗。非効率に見えるが、どうも社内的にアポトーシスを持っているようで、長い時間軸で見るといい結果に(74p)
●ポジティブアプローチの6つの原則
原則1:信頼感のある対話の場をつくる(108p)
組織のメンバーの関係性を徐々に高めながら、メンバーの思いを引き出し、共有できるコミュニケーションの場をつくる。(「怒ってはいけない」「根に持たない」「自分のことは棚に上げてよい」)
原則2:メンバーの「察知力」を高める(129p)
メンバー自身が自己の認知の癖を知り、また、他者のことを自分のことのように捉える力を磨く。そのために自己に向き合うプログラムを取り入れる(内観/トイレ掃除/身体性を高める/瞑想をする)。
原則3:一人ひとりをリスペクトし、強みを認める(138p)
組織の一人ひとりに一人の人間として関心を寄せ、尊重する(問題解決の責任は問題に気づいた人にある/ミーティングで一人ひとりをリスペクトする/必ず全員が話しするようにする/メンバーの強みを引き出す手法―アプリーシアティブ・インクワイアリー(AI)のハイポイント・インタビュー(フロー体験(生きがいや達成感を抱いた体験)を語る)。
原則4:主体性を引き出す(161p)
メンバーが主体的に学習に取り組んだり、ミーティングに参加したりする工夫をする。(プロセス・ガーディナー/ファシリテーターはごみ拾いが理想)
原則5:自他非分離の場を作る(177p)
組織の一体感を高める活動を。組織変革を促すミーティングの場ではディスカッショよりも、メンバーの思いが表出するストーリーテリングが大切(ストーリーを共有する→個々のメンバーに内在するコンテクストが浮き彫りに→共感が生まれる)
原則6:暗在的リーダーシップでサポートする(192p)
組織メンバーの良い面を引き出し、サポートしていくことに徹することができるリーダーが組織変革には不可欠(顕在的リーダー(カリスマ)ではなく、メンバーを励ましていけるリーダーシップ)
●組織変革の9つのステップ(214p)
ステップ1:全体観を持ち、状況の共有によって視座の向上を図る
ステップ2:みなのありたい姿、夢を共有する
ステップ3:関係性の向上を図る
ステップ4:目的・ゴールを共有する
ステップ5:否定と創造
ステップ6:新しい意味の創造
ステップ7:アクションプランをつくる
ステップ8:行動する
ステップ9:振り返り、成果を実感する
●「メンバーが好きに目標を立てたら、組織目標が達成できないだろう」と危惧するマネージャーも多いが、それは思い込み。AIミーティングで主体的に売上げ目標を立ててもらったら、組織目標をはるかに上回った(215p)
●魂の入ってないプランをサラサラつくらないようにスピードを落とす。メンバーが本当に考え、腹に落ちている言葉であれば、稚拙な表現でもよい(232p)

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「キャリア発達支援」というメンタリングの本筋を押さえた入門書。

メンタリング入門.jpg 『メンタリング入門』 日経文庫 〔'06年〕

mentor.bmp 「メンタリング」について書かれた本の中には、リーダーシップ論やコーチングの技法論とまったく同じになってしまっているものも散見し、「高成果型人材を育成する」といった、短期間でパフォーマンスの向上を求めることが直接目的であるかのような書かれ方をしているものもあります。

 本書は、キャリア・カウンセリング理論の第一人者による「メンタリング」の入門書ですが、 「メンタリング」の目的は、メンティ(メンタリングを受ける人)の「キャリア発達を援助する」ことであるとしています。

 企業内で良いメンター役になるにはどうすればよいかということについて、相手に関心を持ち、自分の価値観を押しつけず、自らも誠実かつ寛大であり、相手から学ぶ態度を持つなどといった、メンターがメンティに向き合う際の姿勢を重視し、またメンターが自身のキャリアの棚卸しをすることなどを通して自身の成長をも促すとしていて、そうした考え方のベースにカウンセリング理論があることが読み取れます。

 最終章では、企業内で「メンター制度」として導入し運用する際のポイントが述べられていて、その中で提唱している、メンティに希望するメンターを選ばせる「ドラフト会議方式」などは、メンターの本来の姿は自然発生的な私的なものであり、制度はその仕掛けであるという考え方からすれば、納得性の高いものと言えます。

 新書ゆえの簡潔さで、物足りなさを感じる部分もありますが、入門書ほど著者の「見方」が入るものはないかもしれず、個人的には著者の「見方」は「メンタリング」の本筋を押さえたものだと思います。
 メンターを志す方は、本書を足掛かりにカウンセリング心理学の本などに読み進むのもいいのではないでしょうか。
 
 ただし、1つ付け加えるならば、メンターとカウンセラーはまた少し異なるということも意識しておくべきでしょう(メンターはメンティを「組織」の目指す方向に向かわせるべきものでもある)。 
キャリアカウンセリング入門.jpg
 著者の渡辺氏も『キャリアカウンセリング入門-人と仕事の橋渡し』('01年/ナカニシヤ書店)の中で、コーチングやメンタリングとカウンセリングの違いを詳説していますし、日本の企業社会では、「上司はカウンセラーよりもメンターになることの方が現実的である」と思われる(同書111p)と書いています。

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大切なのは研修対象者の明確化と英語学習の「空気づくり」。

日産を甦らせた英語.jpg 『日産を甦らせた英語』 光文社ペーパーバックス 〔'04年〕ゴーン社長.jpg

 前半部分で、日産がどのように企業内英語研修に取り組んできたかを軸に、「成功する企業」の英語研修というものを検証していますが、その過程で、日産のリバイバルプランと社内英語の関係や、クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)やコミットメント(必達目標)という言葉が何を指すかなどもおおまかに掴めます。

 実際に自社で効果的な英語研修を行おうとする場合、「全体的な底上げか?ピンポイント式か?」研修対象者を明確にしておかないと、教える側も辛いものがあり、研修自体も非効率なものになるというのは、よくわかります。

 もう1つ、大切なのは英語学習の「空気づくり」であるとのことですが、これが一番難しいのではないでしょうか。
 この点では日産の場合、ゴーン氏が来たことで、自ずとそうしたグローバル志向の社内雰囲気になったのではないでしょうか(他のフツウの企業に比べれば条件がいいと言えばいい...)。
 研修担当者の立場から見ると、本書で推奨している「習熟に応じて」費用援助するというのは、なかなかいいやり方ではないかと思いました。 

 後半は、英語を学習するビジネスパーソン向けの効果的な学習方法について触れ、さらに「異文化間コミュニケーション」について書かれています。

 〈a〉と〈the〉の使い分けにおいて、ある会社の社長 president は知らなくても1人しかいないから the president であり、特定されてないマネジャーを the manager とやると、「どのマネジャーか?」と訊かれてしまうなど、ビジネスの現場に沿った解説はわかりやすく、日本は予め基本認識が共有されている「高コンテキスト(文脈)文化」で"以心伝心"への依存度が高いが、アメリカなどは「低コンテキスト文化」であることを踏まえよ、等々の話は、読み物としても面白ものですが、体系的に論じるには紙数不足か。
 
 企業内での英語研修のあり方を模索する担当者にとっても、日産の再生について興味がある人にも、、ビジネス英語の学習者にとっても役立つ本...と言いたいところですが、ピンポイント的には参考になる指摘はあったものの、総体的には読者ターゲットが拡散し、何れに対してもやや浅い内容のものとなっていることは否めないと思います。

 企業内英語研修の専門家で、日産のそれを担当したという著者が、当事者としていろいろ書きたかったのは分かりますが...。

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コーチング及びメンタリングについてよく整理されているが、効果測定がどれぐらい浸透し得るのかはこれからの課題。

パフォーマンス・コーチング―会社が変わる・組織が活きる.jpg 『パフォーマンス・コーチング―会社が変わる・組織が活きる』(2004/05 日本実業出版社)

 本書は従来のコーチングの中に「パフォーマンス」の概念を新たに導入し、コーチングのプロセスなどを重視することでパフォーマンスを改善する意識を高めることに力点を置いています。
 著者によれば、すでに欧米ではこうした考えに基づくコーチング手法が普及しているとのことです。

personal-executive-coaching.jpg 本書の興味深い特徴の1つは、上司や部下といった年功序列的な階級意識の強い言葉を使うのをできるだけ避けているということです。
 高業績を生み出すチームとは自律型組織であり、今後は支援型のリーダーシップ、つまりメンターが求められるという考えです。
 著者によれば、コーチングはメンタリングに包括され、さらに今後は、全組織的・戦略的なメンタリングによる人材開発が重要になるとしています。
 このことは、コーチングにおいて「協働環境の確立」が重要な要素であることなどとも繋がってくるのだなあと納得。

070103.jpg パフォーマンス・コーチング及びメンタリングについての理解を(理論上)深める上で、よく整理された本だと思います。
 ただ、本書で言うメンタリングの効果測定のようなものが、どれぐらい日本で浸透し得るのか、また、上司以外にメンターを配するというところまで果たしていけるのか。
 コーチング研修は盛んですが、"やっている人"は既にやっているだろう。ただし本書のように、組織のテーマとして捉えた場合、理想と現実の谷間を埋めていく作業はこれからではないかという気がしました。

《読書MEMO》
●パフォーマンス・コーチングの基本姿勢...自立/自己支援/プラス志向/イメージの創造/協働環境の確立
●パフォーマンス・コーチングの効果を最大にするには...企業理念を明確に伝える余=バリュー、ミッション、ビジョンを明確化する
●パフォーマンス・コーチングの基本スキル...質問する/傾聴する/(相手の心を)観る/伝える(オウム返し→要約・置換え→掘り下げ質問→フィードバック→選択肢の決定)

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「コーチング=組織文化」と説く基本姿勢には共感。よく網羅されている分、やや浅いかも。

コーチングの技術 上司と部下の人間学.jpg コーチングの技術―上司と部下の人間学.jpg    菅原裕子 (ワイズコミュニケーション代表取締役).jpg 菅原 裕子氏(ワイズコミュニケーション代表取締役)
コーチングの技術―上司と部下の人間学』 ['03年/講談社現代新書]

 コーチングについて、その〈基本的な考え方〉、〈実践での技術〉、〈グループや自分自身への応用〉のそれぞれに3分の1ずつを充てた構成です。

 コーチングは"技術"である以上に"組織の文化"であり、組織全体にコーチングマインドが浸透しているときに、初めてその"技術"が活きると著者は言っています。
 そのためには、個人が自らのビジョンを語ることができる、コミュニュケーション環境の整備された企業(状況)でなければならないと。
 また、「相手をサポートしようとする気持ちが、働きやすい組織や、一緒にいて喜びの感じられる関係を創る」とも言っています(要するに相互作用なのです)。

business_coaching.bmp こうした前提を踏まえたうえで、実践的な事例を挙げつつ、ミラーリング、ベーシング、バックトラッキングといった"技術"論に入る姿勢には好感が持てました。
 さらに応用として、グループ・コーチング(ファシリテーション)やセルフコーチングにも触れています。
 結果として網羅する範囲が広い分、それぞれの突っ込みは浅くなったような気がしますが、それはあくまでも入門書であるから仕方がないのかも。

後輩が会社に慣れ、仕事に前向きになれるような工夫.jpg コーチングの人間観は、相手をまず「能力を有する存在であると捉える」ということだと著者は述べていますが、カウンセリングとの共通点を感じました(カウンセリングの立場では、コーチングは「職場」への適応を通して個人の発達を支援するものという捉え方をし、一方カウンセリングの場合は、個人の発達を通して、仕事や職場への適応を促進するとされているのですが)。
 
 また、この本にはメンタリングという言葉が出てきませんが、著者の言うコーチングには、そうしたものと重なっている部分もあるように思えました。
 「まず、コーチとしての資質を自身の中に見つけなさい。ただし、その資質が完全に発揮できる時を待つのではなく今すぐ始められる何かを始めましょう」という著者の言葉に異論はありませんが、それとは別に、今後、より明確なコーチングの定義が必要になるのではないかという気がします。

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「職業的コーチ」を目指す人にとっては良書だが...。

コーチ1.jpg                    Co-Active Coaching.jpg 
コーチング・バイブル―人がよりよく生きるための新しいコミュニケーション手法』/"Co-Active Coaching: New Skills for Coaching People Toward Success in Work And Life"

 本書はコーチングのプロを目指す人のための入門書で、"コーアクティブ・コーチング"というものが提唱されているように(原題は"Co-Active Coaching")、コーチとクライアントが協働してコーチングを進めていくことを重視し、「クライアントが答えを持っている」ということを鍵(前提)にしています。 
 さらに具体的なコーチングの進め方として、傾聴、直感、好奇心、行動と学習、自己管理といったコーチとしての技術的ステップについて、それぞれモデルを紹介しつつ丁寧に解説しています。

 全体を通してカウンセリング理論がベースになっていて、中途半端に参照しているという程度ではなく、しっかりとそれに根ざした記述内容です。
 「クライアントの人生全体を取り扱う」という考え方を鍵として、仕事・キャリアだけでなく、健康や家族、余暇や自己啓発などもバランスよく充実させるべき対象分野であるとしている点は、ライフキャリア・カウンセリングの考え方と同じです。

 また、コーチングの初期段階では傾聴を重視し、その深化・全方位化に注力すべきとしている点や、好奇心、自己管理(何れもコーチ自身のです)を技術項目に入れている点でもカウンセリングと重なり、本書にあるクライアントの自己変容を阻害する"グレムリン"というのも、論理療法における"イラシャナル・ビリーフ"の1種と見てよいのではないでしょうか。

business coaching MP.jpg 毎週1回、30分から1時間ぐらいのセッションを繰り返し、それを3ヶ月から半年続けるような"有料"のスタイルが前提となっているようで(休憩の取り方まで書いてある)、プロのコーチを目指す人にとっては良書だと思いますし、将来こうした職業的コーチの需要は増えるでしょう。
 また、社内コーチを目指す人にも、カウンセリングの理論と実践に触れた本として役立つとは思います。
 
 ただし、社内コーチの場合はこうしたカウンセリングと同じような状況設定は難しい場合が多く、またパフォーマンスを改善することが活動目標になるため、本書を読んで"バイブル"として期待したものとのズレを感じるのではないでしょうか(カウンセリング理論にさほど触れたことのない人は、新鮮味を感じるかもしれませんが)。
 
 本書を手にしただけでは、そこのところの違い(つまり基本的にはプロ用に書かれたものであるということ)がわかりにくいのが、少しひっかかります。

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あくまでも"企業内"で独自に研修を企画し実施するために必要な知識を紹介。

企業内研修.jpg 実践・企業内研修.jpg 『実践・企業内研修』 (1996/02 生産性出版)

seminar.bmp 本書の特徴は、あくまでも"企業内"で独自に研修を企画し実施することを前提にしていることで、それは「企業文化を創造し発展するも目的を外部者に依存するわけにはいかない」という考え方に基づいています。

 この考えが100%正しいかどうかは別として、コンサル会社の書いた研修本にはすぐに外部講師が登場し、また実際に大企業の研修などで、企画も実施も全部外部に丸投げし、頭と終わりの挨拶だけ社内講師がやるというのも珍しくないので、この姿勢にまず一定の共感を覚えます。

 構成は、第1部が企業内研修について(企業研修概要、社内インストラクターの実務)、第2部が企業内で実施できる研修(新入社員研修、管理者研修、営業研修、プロジェクト管理、企業戦略、ビジネス文書作成、プレゼンテーション・スキル、ビジネス・コミュニケーション・スキル、クリエイティブ・マインド、ビジネス・キャリアアップ、EM法)、第3部が研修コースの開発(ビジネス・コミュニケーション、創造性開発)となっていて、2部、3部のそれぞれの研修については、その目的、コース概要、研修の進め方、基本的な知識がまとめられています。

 切り口が多岐にわたり、網羅している範囲が広い。多少以前に出た本ですが、流行(ハヤリ)ではなく普遍的な事柄を扱っているので、今でも充分通用する内容だと思います。
 ただし、読み物風にまとめられている部分もあり、読者によって合う、合わないはあるかもしれません。

 大体、「研修」というもの自体が、誰にでも善し悪しを論評できるので、その辺りが担当者には頭の痛いところではないでしょうか(法律問題なら、法でこうなっています、で済んでしまいますが)。
 個人的には、「管理者研修」と「企業戦略研修」の章がたいへん参考になりました。

《読書MEMO》
●ランチェスターの法則(田岡信夫著『ランチェスターの法則』サンマーク出版)
 ・第1法則=一騎打ちの法則=兵器や戦術が同じなら兵力数の差が行き残りの差に
 ・第2法則=ただし広域の総合戦、近代戦では、戦力差は2乗の差で現れる
 ・第1法則は弱者の法則、第2法則は強者の法則
 《事例》
 第2次世界大戦...米国にとって戦略力6.7:戦術力3.3が理想、戦略力とは戦略物資の補給力(B29が決め手)、戦術力とは部隊編成、兵士の訓練、兵器の性能(124p)
●EM法(Effective Management)...KT(ケプナー・トリゴー)法を飯久保氏が改定したもの-さまざまな業務の問題を状況分析で分類し、原因分析(過去)、結果分析(現在)、リスク分析(将来)の3つで解析し、最適の解を求める(226p)

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