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同一労働同一賃金の法的要請を人事管理の観点から解説している点がユニーク。

同一労働同一賃金を活かす人事管理2.jpg同一労働同一賃金を活かす人事管理.jpg
同一労働同一賃金を活かす人事管理』['21年]

同一労働同一賃金を活かす人事管理p.jpg 本書は、同一労働同一賃金の法的要請は人事管理に大きな影響を及ぼすが、人事管理の在り方を決めるものでもないし決めるべきものではないとの考え方のもと、人事管理の観点からすると同一労働同一賃金の法的要請はどう解釈するべきなのか、同一労働同一賃金は、賃金を合理的に決めるうえでどのような意味があるのかを検討し、企業のとるべき非正社員の人事管理・賃金管理の方向を解説したものです。

 第1章「非正規労働者の雇用と賃金」では、非正規労働者の雇用について、労働市場全体における位置やその構成、正規労働者との賃金格差や仕事のレベルなどの実態を統計資料から読み解くとともに、それらを踏まえ、同一労働同一賃金を検討するにあたっての留意点ついて、賞与、退職金など基本給以外の賃金要素と、役職等の高レベルの仕事に就く非正規労働者の基本給を挙げています。

 第2章「同一労働同一賃金の法規制の捉え方」では、パートタイム・有期雇用労働法によって策定された「同一労働同一賃金ガイドライン」を人事管理の観点から読み解き、そのポイントを整理するとともに、人事管理からみたガイドラインに欠ける3つの視点として「賃金の全体性」「賃金の関連性」「市場均衡」の3つの視点を挙げてそれぞれ解説し、その上で、企業が同一労働同一賃金に対してどう取り組むべきか、その基本姿勢を示しています。

 第3章「派遣労働者の同一労働同一賃金」」では、派遣労働者の同一労働同一賃金について、ガイドラインによれば賃金や賃金以外の待遇の決定のルールはどうなるのかを解説し、人事管理からみた賃金決定のポイントを整理しています。

 第4章「同一労働同一賃金のための賃金の基礎理論」では、企業にとっての「あるべき賃金」は多様性を持つが、その多様性を超えた「基本理論」があるとし、人事管理にとっての同一労働同一賃金の意味を解説するとともに、賃金決定の2つの原則としれ、「内部公平性原則」と「外部競争性原則」を挙げ、この2つの原則は緊張関係にあるとしています。

 第5章「制約社員と人事管理」では、同一労働同一賃金を実現するために人事管理は何をすべきであるのか、同一労働同一賃金を考える上で「同一労働同一賃金は人事管理の一部」であるとの視点と、「非正社員は制約社員の1タイプ」であるとの視点の2つの視点を示すとともに、伝統的人事の特徴とその崩壊について述べた上で、人事管理改革の今後の方向性としての「多元型人事管理」のもとでの賃金決定の諸原則を解説しています。

 第6章「総合職の制約社員化と人事管理」では、総合職が制約社員化してきている現状において、正社員の制約社員化における課題と、これからの人事管理の方向を示しています。

 第7章「同一労働同一賃金に応える賃金」では、正社員の賃金の現状と今後の行方、同一労働同一賃金を実現するためのパート社員の賃金、同じく高齢社員の賃金、さらに賞与、退職金、諸手当の同一労働同一賃金について解説しており、パートについては「逆Y字型」の人事管理モデルを提唱しています。

 法律が求める同一労働同一賃金とは何かを人事管理の観点から解説している点がユニークであると思いましたが、それにとどまらず、企業が同一労働同一賃金に対してどう取り組むべきか、その基本姿勢を示した上で、今後の人事管理の在り方や制度策定の方向性まで示している良書であるように思いました。人事パーソンにはご一読をお勧めします。

 後半部分は、前著『正社員消滅時代の人事改革―制約社員を戦力化する仕組みづくり』('12年/日本経済新聞出版社)や『高齢社員の人事管理―戦力化のための仕事・評価・賃金』('14年/中央経済社)に書かれていることとダブったりもしますが、冒頭で、同一労働同一賃金の法的要請はどう解釈するべきなのかということを今回新たに論じた上で、ちゃんと論旨が繋がっていくのは、著者の理論体系がしっかりしているためではないかと思いました。

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「教科書」であると同時に、コンサルティング会社の「販促本」でもある?

ジョブ型人事制度の教科書1.jpg 『ジョブ型人事制度の教科書 日本企業のための制度構築とその運用法』['21年]

 ヘイグループを一部前身とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」に属する著者らによる本書は、「ジョブ型」人事制度について書かれた初めての専門書であるとのことです。本書で言うジョブ型人事制度とは、人事制度を構成する等級制度・評価制度・報酬制度が「ジョブサイズ(職務価値)」を核として構成される仕組みで、ヘイグループが開発したものです。

 第1章では、ジョブ型人事制度はここ数年、第3次ブームを迎えているとしています(第1次ブームは2000年前後の「成果主義ブーム」、第2次ブームは2010年~2015年の「グローバル人事ブーム」)。いまジョブ型人事制度が求められる背景として、変化の激しい事業環境への対応、同一労働同一賃金の要請、高齢化社会の到来などを挙げています。

 第2章では、日本企業でもジョブ型制度の普及が進んでいて、その狙いは、年功序列の打破、適所適材の実現、スペシャリスト人材の活用にあるとしています。また、非管理職にも広がりつつあるとしながらも、新卒一括採用・ゼネラリスト育成はジョブ型に馴染まないとしています。さらに、日本企業が簡単にジョブ型制度へ移行することができない理由として、企業文化の問題、異動の柔軟性の阻害、運用負荷の増大の3つを挙げています。

 第3章では、日本企業の労働慣行とジョブ型制度のギャップを分析しています。ジョブ型制度において異動は類似した職種になるのが原則であるとし、新卒一括採用・ゼネラリスト育成との兼ね合いについて考察、日本企業に合ったジョブ型制度として、職能型からスタートしてジョブ型にシフトしていくハイブリッド型の制度を提案しています。

 第4章では、ジョブ型制度における等級制度について解説しています。その根幹は職務等級であり、職務評価の仕方やそれを踏まえた等級体系の構築、職務記述書の作成方法などについて解説しています。

 以下、第5章と第6章で、ジョブ型制度における評価制度と報酬制度について、第7章と第8章で導入コミュニケーションと運用体制・プロセスについてそれぞれ解説し、第9章でジョブ型制度の導入事例を紹介しています。最終章の第10章では、ジョブ型制度の導入における課題として、メンバーシップ型雇用の発想を転換する必要があるとしています。

 以上の通り、ジョブ型制度とは、職務等級制度を基本人事制度とする制度であり、本書は、職務等級制度の「教科書」とも言えるものでした。その意味ではオーソドックスな内容ですが、特に目新しいものではないように思いました。

 2000年前後に多くの企業が職能資格制度から職務等級制度への移行を図り、必ずしもうまくいかなかった結果として、両方を中和したような役割等級制度が主流になっていたという経緯があるかと思います。中には、役割給が総合決定給化して、賃金制度が年功的な運用になっていることが問題化しているケースもあるかと思われます。そうした状況を打開するうえで本書は参考になるかもしれません。ただし、「メンバーシップ型雇用の発想を転換する」ということにまでなると、制度だけ入れれば済むというものではなく、まだまだ多くの議論の余地があるようにも思います。

 「ジョブ型」の意味ですが、「日本企業でもジョブ型制度の普及が進んでいる」という言い方をする際には「役割・職務給」という捉え方をし、そのほかのところでは、職務等級制度という意味で使っているのが気になりました。

 「教科書」であると同時に、コンサルティング会社の「販促本」でもあるように思われました。職務主義のベクトルを全否定はしませんが、自社に企業風土改革の素地が無いのに安易に飛びつくと上手くいかないこともあるだろうし、自分のところだけでは出来ないということでコンサルティング会社の協力を仰ぐと、費用ばかり高くついて自社に合わないものが出来上がってしまう可能性もあると思います。

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人事賃金コンサルタントとしての成功の秘訣は? 人事賃金コンサルを目指す人にお薦め。

「同一労働同一賃金」の具体的な進め方.jpg 『企業経営を誤らない、「同一労働同一賃金」の具体的な進め方』['20年]

 本書によれば、2014年頃から人事コンサルティングのニーズが再び高まっているとのこと。但し、今、企業が求めているのは、他社に追随する表面的な成果主義人事制度などではなく、将来に向けて新たな成果を創出していくための「社員が理解し、やりがいが持て、定着する」独自の人事制度であるとのことです。

 著者はこれまで「実際に運用できて十分に機能しえる人事制度」を目指してきたとのことで、本書では、著者の25年にわたる人事コンサルタントとしての実体験を基に、コンサルタントとしての基本的な心構えから、中小企業を中心とした人事制度・賃金設計の知識や手順、運用・企画提案の仕方から業務の進め方まで、広く、また重要ポイントを追って解説しています。

 特に第Ⅰ編「人事コンサルタントの基本」では、人事コンサルタントとしてのスタンスや企業との接点の場においてどのようなことに留意すべきかを、自らの経験に基づき余すところなく披露しており、人事コンサルタントとしての「成功の秘訣を伝授」という帯書きは決して大袈裟ではないように思いました。

 第Ⅱ編「人事コンサルティングの実行と手順」は人事コンサル、賃金コンサルの実務編であり、テキストとして著者のノウハウを丁寧に解説し、また、実際に活用しているコンサル資料も数多く添付する一方で、ここでも単なるテクニカルスキルの範疇に止まらず、制度に込められた意図や導入に際して留意すべき心構えなども併せて解説しています。

 そして第Ⅲ編「人事賃金コンサルタント(社外・社内)としてのスキルアップ」では、コンサルタントの役割とはを改めて問い直すとともに、コンサルタントの資質の磨き方、コンサルティングのきっかけづくりなどについて解説しています。個人的には、著者がその中で示している、従来の企画提案型のコンサルティングに対する新たなアドバイザリー(側面支援)型のコンサルティングというスタイルに関心を持ちました。

 全体を通して、全てのケースに同じことが当てはまるわけではないが、自らの経験上こうした方がうまくいくことが多かった―といった謙虚なスタンスの解説になっていて、一つの考えを読者に押しつけることをしないながらも、そのベースに四半世紀もの実地経験があるかと思うと、却って述べられていることに説得力が感じられました。

 人事賃金コンサルタントを目指すには格好の書であり、特に社会保険労務士などの開業者で、人事賃金コンサルを付加価値業務として行いたい人、或いは人事賃金コンサルを主体としてやったいきたいと考えている人にお薦めですが、その道に進んで暫くしてから振り返って本書を読むと、また更に得心する箇所が多くあるかもしれません。

 また、例えば賃金制度の解説部分などは、時代の流れに適合した制度の説明がしっかりなされているため、社会保険労務士に限らず、企業内の人事パーソンが読んでも参考になる部分は多いかと思います。企業に勤務している社会保険労務士であったも必ずしも人事賃金制度の策定等に携わっているわけではないので、そうした人に賃金制度策定等に関心を持っていただき、3号業務を身近に感じるようになっていただく上でもお薦めできる本かと思います。

《読書MEMO》
●目次 :
第Ⅰ編 人事コンサルタントの基本(はじめに/ マネジメントコンサルタントという仕事/ 人事コンサルタントとしてのスタンス ほか)/
第Ⅱ編 人事コンサルティングの実行と手順(現状分析の手順とポイント/ 基本人事制度の設計手順とポイント/ 賃金設計 ほか)/
第Ⅲ編 人事賃金コンサルタント(社外・社内)としてのスキルアップ(コンサルタントの役割とは/ コンサルタントの資質の磨き方/ コンサルティングのきっかけづくり ほか)

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社員とその家族の幸福・利益・生活を優先させた結果、企業が成長するという流れがミソ。

日本でいちばん社員のやる気が上がる会社.jpg日本でいちばん社員のやる気が上がる会社: 家族も喜ぶ福利厚生100 (ちくま新書)』['16年]

日本でいちばん社員のやる気が上がる会社2.jpg 中小企業のユニークな福利厚生制度の数々を紹介した本です。まず、全3章構成の第1章「中小企業の福利厚生制度の現状」で、本書執筆のために実施したウェブ調査をもとに、中小企業の福利厚生制度の現状と課題を分析しています。

 そして、本書の中核となる第2章「社員と家族が飛び上がって喜ぶ福利厚生制度100」では、社員とその家族を幸せにしている100の事例を選び、子育て、メモリアル、就業条件、職場環境、親睦、教育、生活、健康、食事、その他の10のジャンルにわたって紹介しています。取り上げた事例の中には、「これが福利厚生か?」と思あれるものもあるかもしれませんが、本書では、福利厚生を、「賃金など労働の対価以外の、社員とその家族の幸福・利益・生活などの向上に資する制度」と、敢えて拡大解釈したとのことです。

 例えば子育て面の事例では、「300万円の出産祝い金を支給」といったスケールの大きなものから、「オフィスに授乳室を設置」「いつでもいつでも子連れ出勤可能」といった現実対応的なものまであり、メモリアル面では、「配偶者の誕生日に特別休暇」「誕生日に10万円をプレゼント」といったものから、「子供に誕生日に図書カードと社長からのメッセージ」が贈られるという、細やかな配慮が感じられる事例なども紹介されています。

 就業条件面では、「4年に一度のオリンピック休暇」「最長1ヵ月の長期リフレッシュ休暇」といった休暇に関するものから、「週1回、出勤を1時間遅くできる"ニコニコ出勤制"」「ほぼ全員が定時前に退社」といった労働時間に関するもの(「残業削減分を賞与で還元」するという事例もある)、さらには、「生涯現役・定年なし」といった雇用契約そのものに関わる大胆な施策も見られます。

 職場環境面では、「社員のために景色の良い職場へ移転」したといったユニークなものもあり、また、親睦面でも、「全社員がドレスアップしてパーティーを楽しむ」といった、これまたユニークな例も。「会社でいちばん快適な場所が、社員食堂兼休憩室」になっているという事例もあります。

 教育面で、「読みたい本はすべて企業が購入」するという事例もあれば、生活面では、「最長6年間の介護休暇」というのもあります。健康面で、「朝ヨガ教室で心と体の健康をサポート」している企業もあれば、食事面では、「会社の負担でおやつ食べ放題」などといったものもあって、こうして見ていくとなかなか興味深いです。

 第3章「今後の福利厚生制度導入・運営の五つの視点」では、社員とその家族の幸せを念じた福利厚生制度の存在は、彼らの愛社心を高め、結果として業績を高めることは明白ではあるが、企業経営の考え方や進め方を大して変えず、安直にその導入や充実強化を図るのは早計であり、逆効果のこともあるとしています。確かに、こうした事例の中には、経済的事情や業態その他の違いにより簡単には導入できないものもある一方、中小企業などで比較的導入しやすいのではないかと思われる施策例もあります。しかし、簡単に導入できるから導入してみるというのではなく、その制度の根底にしっかりした経営の考え方がなければ、単なる企業内慣習に過ぎなくなってしまうのでしょう。

 この章では、真に社員とその家族のためになる福利厚生制度の導入と運営についての効果的視点を次の5つに絞り込んでいます。
 ①業績向上の手段ではなく社員とその家族の幸せのため、
 ②制度の導入よりも企業風土が大切、
 ③全体対応より個別対応、
 ④社員だけでなくその家族も
 ⑤金銭より心安らぐ福利厚生制度を

 福利厚生を真の意味で充実させることで社員の定着率が改善し、社員のモチベーションも高まって、仕事の質も向上するので売り上げも伸びる―そうした因果関係を、多くの事例を集めることで帰納的に検証しようとした試みとも言える本であるように思いました(但し、いわば衛生要因であるところの福利厚生が直接売上げ向上に繋がるのかは議論の分かれるところ)。どの施策も企業業績の向上を直接の目的とするのではなく、社員とその家族の幸福・利益・生活を優先させた結果、企業が成長するという流れが成立しているという点がミソなのでしょう。取り上げられている事例が(冒頭で本書における福利厚生の定義があったように)従来の"福利厚生"の概念に止まっていない点に留意すべきなのかもしれません。

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事例が豊富で「働き方改革」を(問題点を含め)具体的にイメージするうえで示唆的。

御社の働き方改革、ここが間違ってます7.JPG御社の働き方改革、ここが間違ってます.jpg
御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社 (PHP新書)

 政府の働き方改革実現会議で有識者議員を務めた著者は、「見せかけの働き方改革では社員は疲弊し、生産性は落ち、人が辞めていく」とし、真の働き方改革とは言わば「会社の魅力化プロジェクト」であって、それは経営改革であり、「昭和の活躍モデル」からの脱却なのだとしています。

 第1章「働き方改革はどうすれば成功するのか」では、今「働き方改革」が叫ばれている背景を探るとともに、いち早く働き方改革に着手した企業の成功の要因を分析し、働き方改革とは実は企業が生き残るための競争戦略であり、イノベーションの源泉なのだとしています。

 第2章「先端事例に『働き方改革』実際を学ぶ」では、働き方改革先進企業では、改革を経てどのような変化が起きたのか、大和証券における子育て社員の活躍、アクセンチュアにおける職場の雰囲気改善と業績アップ、サイボウズにおける「働き方を選べる」制度による離職率の低下、リクルートによるテレワーク導入による仕事の質の向上、カルビーにおけるダイバシティ経営戦略による低迷商品の売上V字回復などの事例を紹介しています。

 第3章「現場から働き方をこう変える!」では、テレワークやITを使ったスケジュール・タスク共有、イクボス宣言など、現場で実践できる働き方改革の試みを紹介しています。アンケート調査の結果、効果があった効率性の高い施策の第1位が「PC強制シャットダウン」で効果率は100%、一方、ほとんど効果がなかった施策の第1位が「社内パンフレット、イントラ、掲示物による長時間労働是正の啓発」で効果率5%だったなど、大事なのは「強制」で、「啓蒙」だけでは効果がないことを具体的に示しているのが示唆的です。

 第4章「なぜ『実力主義』の職場はこれから破綻するのか」では、第1部で、霞が関の官僚たちが働き方改革に立ちあがったことを紹介し、第2部で、大手マスコミは働き方を変えられるかを、テレビ局と新聞社に勤務する4人の女性記者たちの覆面座談会形式で論じています。とりわけ後者の座談会から、マスコミの現状は旧態依然としたものであることが窺えましたが(TVのワイドショーで働くママの企画を出すと「おばあちゃんたちは働く女の人が嫌いだから」とはねられ、こうして「子育ては女性がするもの」と言う固定観念が番組を通じて広まっていくというのにはナルホドなあと)、こうした霞が関やマスコミのこれまでの「(長時間労働できる人のみの)実力主義」はこれからなぜ破綻するのかを探っています。

 第5章「『女性に優しい働き方』は失敗する運命にある」では、働き方改革で、子育て中の「制約社員」が活躍できる環境を整えても、やはり女性社員が辞めていくのはなぜか、なぜ管理職になりたがらないのかについて、「資生堂ショック」「マミートラック」問題についての考察と併せて分析し、女性リーダー育成のためのユニークな試みを紹介しています。

 第6章「社会課題としての長時間労働」では、長時間労働の是正で少子化に歯止めがかかると考えられることを統計的に示し、さらには、父親の育児参加で国の競争力も上がるとしています。また、地方企業や中小企業も、働き方改革で驚くほど人材が集まるとしています。働き方改革が少子化改善や地方創生にも効果を発揮することが分かってきたということ、つまり、働き方改革は社会も変えるというのが著者の考えです。

 最終の第7章「実録・残業上限の衝撃 『働き方改革実現会議』で目にした上限規制までの道のり」では、著者が参画してきた「働き方改革実現会議」の実態をレポートしています。

 安倍首相の私的諮問機関である「働き方改革実現会議」のメンバーであるジャーナリストによる著書ということになると、先進事例に傾きがちで綺麗ごとばかりの内容ではないか(?)との危惧も無きにしも非ずでしたが、働き方改革が進まない風土についても、目をそらすことなく取り上げています。働き方改革を、第1次均等法(女性のみ)、両立支援(女性のみ)に次ぐ、女性活躍推進の第3ステージ(男女)として捉えている点が、特徴的であるとともに、たいへん示唆的であるように思いました。「働き方改革」というものについて、キャッチ先行で具体的なイメージが今一つ湧かないというビジネスパーソンも少なからずいるかもしれませんが、本書は施策や制度について多くの事例が挙げられているため、そうした漠たる状態から一歩抜け出すにはいい本だと思います。

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人事賃金コンサルタントとしての成功の秘訣を伝授。人事賃金コンサルを目指す人などにお薦め。

人事賃金コンサルタントになるための教科書8.JPGプロの人事賃金コンサルタントになるための教科書.jpg
プロの人事賃金コンサルタントになるための教科書』[日本法令]

 本書によれば、2014年頃から人事コンサルティングのニーズが再び高まっているとのこと。但し、今、企業が求めているのは、他社に追随する表面的な成果主義人事制度などではなく、将来に向けて新たな成果を創出していくための「社員が理解し、やりがいが持て、定着する」独自の人事制度であるとのことです。

 著者はこれまで「実際に運用できて十分に機能しえる人事制度」を目指してきたとのことで、本書では、著者の25年にわたる人事コンサルタントとしての実体験を基に、コンサルタントとしての基本的な心構えから、中小企業を中心とした人事制度・賃金設計の知識や手順、運用・企画提案の仕方から業務の進め方まで、広く、また重要ポイントを追って解説しています。

『プロの人事賃金コンサルタントになるための教科書』.JPG 特に第Ⅰ編「人事コンサルタントの基本」では、人事コンサルタントとしてのスタンスや企業との接点の場においてどのようなことに留意すべきかを、自らの経験に基づき余すところなく披露しており、人事コンサルタントとしての「成功の秘訣を伝授」という帯書きは決して大袈裟ではないように思いました。

 第Ⅱ編「人事コンサルティングの実行と手順」は人事コンサル、賃金コンサルの実務編であり、テキストとして著者のノウハウを丁寧に解説し、また、実際に活用しているコンサル資料も数多く添付する一方で、ここでも単なるテクニカルスキルの範疇に止まらず、制度に込められた意図や導入に際して留意すべき心構えなども併せて解説しています。

 そして第Ⅲ編「人事賃金コンサルタント(社外・社内)としてのスキルアップ」では、コンサルタントの役割とはを改めて問い直すとともに、コンサルタントの資質の磨き方、コンサルティングのきっかけづくりなどについて解説しています。個人的には、著者がその中で示している、従来の企画提案型のコンサルティングに対する新たなアドバイザリー(側面支援)型のコンサルティングというスタイルに関心を持ちました。

 全体を通して、全てのケースに同じことが当てはまるわけではないが、自らの経験上こうした方がうまくいくことが多かった―といった謙虚なスタンスの解説になっていて、一つの考えを読者に押しつけることをしないながらも、そのベースに四半世紀もの実地経験があるかと思うと、却って述べられていることに説得力が感じられました。

 人事賃金コンサルタントを目指すには格好の書であり、特に社会保険労務士などの開業者で、人事賃金コンサルを付加価値業務として行いたい人、或いは人事賃金コンサルを主体としてやったいきたいと考えている人にお薦めですが、その道に進んで暫くしてから振り返って本書を読むと、また更に得心する箇所が多くあるかもしれません。

 また、例えば賃金制度の解説部分などは、時代の流れに適合した制度の説明がしっかりなされているため、社会保険労務士に限らず、中小企業等の人事パーソンが読んでも参考になる部分は多いかと思います。更には、企業に勤務している社会保険労務士であっても必ずしも人事賃金制度の策定等に携わっているわけではないので、そうした人に賃金制度策定等に関心を持っていただき、3号業務を身近に感じるようになっていただく上でもお薦めできる本かと思います。

《読書MEMO》
●目次 :
第Ⅰ編 人事コンサルタントの基本
  はじめに/ マネジメントコンサルタントという仕事/ 人事コンサルタントとしてのスタンス ほか
第Ⅱ編 人事コンサルティングの実行と手順
  第1章 現状分析の手順とポイント
  第2章 基本人事制度の設計手順とポイント
  第3章 賃金設計
  第4章 人事評価制度設計の手順とポイント
  第5章 人事ビジョンに沿ったオリジナル評価制度の設計方法
第Ⅲ編 人事賃金コンサルタント(社外・社内)としてのスキルアップ
  コンサルタントの役割とは/ コンサルタントの資質の磨き方/ コンサルティングのきっかけづくり ほか
巻末資料 (16点)

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非正規社員を含めた自社の賃金制度の将来的な在り方を考えていくうえでの指標になるか。

『これからの賃金』.JPG遠藤公嗣『これからの賃金』.jpgこれからの賃金』(2014/10 旬報社)

 これからの日本の賃金には、日本で働くすべての労働者の均等処遇をめざす賃金制度が必要であり、その賃金制度は「範囲レート職務給」が中心になるはずであって、それに必要な職務評価は「同一価値労働同一賃金」の考え方で実施すべきであるというのが本書の主張です。

 著者の言う「日本で働くすべての労働者」とは、正規労働者だけでなく非正規労働者も、男性労働者だけでなく女性労働者も、日本人労働者だけでなく外国人労働者も含むことを意図しています。

 第1章「日本企業における賃金の動向」では、そのことを象徴するように、非正規労働者の賃金制度から考察を始めています。また、この第1章では、正規のホワイトカラーの労働者の賃金改革の歩みを振り返るに際して、「成果主義」と「コンピテンシー」の2つを"言説"として捉え、その実態はどうであったかを述べるとともに、「役割給」が普及した経緯を分析し、その特徴として「ミッション」の概念を重視していることを指摘している点は、実務者にとってもたいへん興味あるものではないでしょうか

 第2章「賃金形態の分類を考える」では、最近の賃金制度改革の方向性を議論するための前提として、賃金形態を理論的に分類していますが、雇用慣行並びにそれに対応する賃金形態を「属人基準」と「職務基準」に大別し、さらに「属人基準賃金」を「年功給」と「職能給」に(「職能給」を「職務基準」ではなく「属人基準」としている点に注目)、「職務基準賃金」を「職務価値給」(職務給、職務価値給の労働協約賃金、時間単位給)と「職務成果給」(個人歩合給・個人出来高給、集団能率給、時間割増給)に分類したうえで、現在の日本の賃金は、全体として、「職務価値給」の1つである「範囲レート職務給」に移行しつつあるとしています。

 この第2章では、「成果主義賃金」「コンピテンシー」の流行が終わったと捉え、正規ホワイトカラー労働者については「役割給」が主流となったとしていますが、その「役割給」というものを「範囲レート職務給」に近いとしながらも、「ミッション」概念が付与されているという意味で、「範囲レート職務給」まがいのものであるとしているのが興味深かったです。

 第3章「賃金制度改革の背景」では、賃金制度改革が主張される背景として、「日本的雇用慣行」と「男性稼ぎ主型家族」の組み合わせた従来型の社会システムである「1960年代型日本システム」が崩壊しつつあることを指摘しています。そうした旧来のシステムが崩壊したことの原因と労働者への影響を探る中で、正規も非正規も階層化が進んでいることを指摘している点が興味深かったです。

これからの賃金6.JPG 第4章は本書の結論部分であり、1960年代型日本システムに代わる新しい社会システムが「職務基準雇用慣行」と「多様な家族構造」の組み合わせであること、冒頭に述べたとおり、そこで適用されるべき賃金制度は「範囲レート職務給」であり、その社会的規制は「同一価値労働同一賃金」の考え方の職務評価であることを主張しています。

 ホワイトカラーエグゼンプションや地域限定正社員、有期雇用社員の無期転換など、多様な働き方の推進が議論されている昨今、また、「日本的雇用慣行」と「男性稼ぎ主型家族」の組み合わせである「1960年代型日本システム」の崩壊が進む中で、著者が提唱する「同一価値労働同一賃金」に基づく職務評価をベースとした職務基準賃金という方向性は、現状における正社員と有期非正規社員の賃金形態や賃金水準の大きなギャップを埋めていく上でも、概念的な示唆を含むものと思われ、非正規社員を含めた自社の賃金制度の将来的な在り方を考えていくうえでも一つの指標になるかもしれません。お薦めです。

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エグゼンプションという切り口で「日本型雇用」を変える「構造」を提案している。

いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる.jpg                         雇用の常識 決着版.jpg
いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる (PHP新書)』['14年]『雇用の常識 決着版: 「本当に見えるウソ」 (ちくま文庫)』['12年]

 2009年に刊行された『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(プレジデント社、'12年/ちくま文庫)が注目され、その後も『「若アベノミクスで「雇用」はどうなる.jpg者はかわいそう」論のウソ』('10年/扶桑社新書)、『就職、絶望期』('11年/扶桑社新書)、『女子のキャリア―"男社会"のしくみ、教えます』('12年/ちくまプリマー新書)、『日本で働くのは本当に損なのか』('13年/PHPビジネス新書)などを多くの著書を発表している著者(元リクルート ワークス研究所勤務)による本です(先に取り上げた(エントリー№2284)経済学者の安藤至大氏と「ニコ生」に出ていたこともあった)。この他にもいくつもの著書があってそれらの内容が重複しているきらいが無きしもあらずですが、 本書は単独でそれなりに読みでがありました。

「ニコ生×BLOGOS」"アベノミクスで「雇用」はどうなる"(2013年)海老原嗣生氏&安藤至大氏(経済学者)

 ホワイトカラーエグゼンプションを巡る議論が再び活発化している昨今ですが、残業代の不支給と、その対象となる年収について議論が費やされてきたという経緯は、これまでとあまり変わっていないようです。これについて、本書では、今回のエグゼンプション論議は、「定期昇給・昇級・残業代の廃止」という経営都合の日本型の変更のみが念頭に置かれているとしています。

 そして、そこには、もう一つの日本型の問題――残業代を払い続け、定期昇給を維持する分、長時間労働や単身赴任で疲弊し、働く人のキャリアや家庭生活の面にもマイナス寄与しているという問題――をも取り除くという視点が欠如しているといいます。つまり、エグゼンプションを契機として、給与・生活・キャリアの三位一体の改革をすべきであるとしています。

 著者は、エグゼンプションの本質に迫ると、多くの企業に根ざす「日本型雇用」の綻(ほころ)びが見えてくるといいます。例えば、日本企業はこれまで全員を幹部候補として採用し、年功昇給によって処遇してきたため、企業の熟年非役職者が高収入となって、そのため転職が困難になっているとしています。そこで、エグゼンプション導入を機に、「同一職務=同一給与=同一査定」「職務の自律性・固定制」「習熟に応じた時短」といった「欧米型」雇用の本質も、同時に実現すべきであるとしています。

 但しし、すべての階層を一時(いちどき)に「欧米型」に移行させるのではなく、「欧米型雇用」と「日本型雇用」の強み・弱みをそれぞれ吟味し、日本人と欧米人の「仕事観」の違いや、欧米企業における人事異動のベースとなっている「ポスト雇用」という考え方を分かりやすく説明したうえで、まず、習熟を積んだキャリア中盤期以降を「欧米型」のポスト雇用に切り替えていくことを提案しています。

 エグゼンプションは、その「日本型」と「欧米型」の"接ぎ木"のつなぎ目として機能するものであり、キャリア中盤期以降は、時間管理ではなく成果見合いの職務給制となる一方、エグゼンプション導入の際には、労働時間のインターバル規制や異動・配転の事前同意制、休日の半日取得などの措置がとられるべきであるとしています。ここには、エグゼンプションにまつわる「制約」によって、「全員が階段を昇る」日本型の人事管理を終わらせるということも、狙いとして込められているようです。

 エグゼンプションという切り口で「日本型雇用」を変える(終わらせる)ことを提案していて、しかも、従来よくあった「日本型全否定」ではなく「途中まで日本型肯定」のハイブリッド型になっているのが興味深く、また現実味を感じさせるところですが、入り口が日本型のままであることによって生じる諸問題についての解決策も提示されています。

 個人的には、論旨が「中高年問題」にターゲティングされていることを強く感じましたが、つまるところ、「日本型雇用」の最大の問題はそこにあるということになるのでしょうか。エグゼンプションというテーマからすると、業態などによっても読者によって受け止め方の違いはあるかもしれません。但し、「ジョブ型社員」「限定社員」といった最近話題の人事テーマに関して、従来の議論から踏み込んで具体的な「構造」を提案しているという点で、これからの議論や制度設計の一定の足掛かり乃至は思考の補助線となるものと思われます。

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「福祉雇用型」から「仕事ベース短期決済型」へ。理論的な枠組み、方向性を示す。

高齢社員の人事管理 今野浩一郎.jpg高齢社員の人事管理』(2014/08 中央経済社)

 「70歳まで働ける企業」基盤作り推進委員会(高齢・障害者雇用支援機構)の座長なども歴任した著者が、労働者の5人に1人は高齢者であるという世界の先進国の中でも未曾有の高齢化を迎えた日本における今後の「高齢社員の人事管理」の在り方を考察・示唆した本です。

 著者によれば、これまでも多くの実務家が制度や施策を提案しているし、研究者も解決策を提案しているが、実務家の提案は「いま役に立つ」を重視するあまり人事管理の基本となる理論的な枠組みの部分が弱く、一方、研究者は現状分析や課題の捉え方には優れるが、制度を具体的に構築する手掛かりにはなりにくい―本書は実務家と研究者の両者を繋ぐべく、研究者の成果を踏まえて実務家たちが人事管理の制度構築を行ううえにおいて灯台の役割を果たす考え方、視点、進むべき方向を提示する狙いで書かれたものであるとのことです。

 第1章「人事管理のとらえ方」で、人事管理の構造を体系的に整理し、高齢社員の人事管理を考えるうえで「ことの重要性」「全体の中の一部」「戦略と戦術を区分する」という3つの視点を提示しています。さらに、経営ニーズの変化による人事管理の再編の方向性として、社員が意欲をもって新しい働き方に取り組むことを支援する人事管理、また、それを担う人材を確保・育成するための人事管理を構築することが求められるとしています。

 第2章「社員の多様化と人事管理」では、会社の指示があればどこへでも転勤し長時間労働も厭わない「無制約社員」と働く場所や時間に何らかの制約がある「制約社員」を区分して管理するこれまでの伝統的な「1国2制度型」は、基幹社員が無制約社員から制約社員化する中でその基盤が崩壊しつつあり、基幹社員の中にも制約社員がいることを前提にした多元的人事管理の方が経営パフォーマンス上優れているとし、また、交渉ベースの雇用管理、仕事基準の報酬管理というものがこれからの主流になるであろうとの見通しのもと、賃金制度はどのように変わっていくか、また、その際にどういった配慮をしなければならないかを、「リスクプレミアム手当」といった概念を用いて解説しています。

 第3章「高齢化からみる労働市場の現状と将来」では、「ことの重要性」の観点から。高齢化が人事管理にとってどの程度重要な課題であるのか、労働市場や人口構成に関するデータから、その重要性を確認し、高齢者の活用に企業も高齢者も「本気になること」が解決の出発点であるとしています。

 第4章「高齢社員の伝統的人事管理の特徴」では、企業がこれまで高年齢者の雇用確保措置をどのように行ってきたかを確認し、これまでの「1国2制度型」の人事管理の実情を検証するとともに、単に高齢者に雇用機会を提供するだけの「福祉雇用型」の人事管理には限界があり、高齢者を戦力化することに「本気になること」が必要であるとしています。

 第5章「人事改革の視点」では、高齢者を戦力化する新たに構築される戦略人事管理を「S型人事管理」と略称し、それは高齢社員の制約社員化を踏まえて作られる必要があり、また、「いまの働き対していま払う」短期決済型であるべきだとして、人事改革の基本施策、賃金の基本的な視点と制度の基本的方向を示しています。

 第6章「高齢社員を活かす賃金」では、「S型人事管理」における現役社員の賃金との関連性の視点の必要性を説いたうえで、現役社員と高齢社員の賃金制度の組み合わせ類型において、「年功的長期決済型+福祉雇用型」《P1型》→「年功的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P2型》→「成果主義的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P3型》といった賃金プロファイルの改革のベクトルを示すとともに(最終段階は「1国1制度」《P4型》)、定年を契機に賃金が低下するという問題への対応策を示唆しています。

 第7章「高齢社員に求められること」では、今後は高齢者の側も働き続ける覚悟が求められ、「働くことは稼ぐこと」であって、高齢者それぞれに「どのように貢献するか」という視点が求められているとしています。また、高齢者が職場の戦力となるキャリアを実現するために、企業側も、キャリア転換を促進し支援する仕組みやマッチングのための施策を講じていく必要があり、その際に「マッチングの市場化」(社内労働市場)の仕組み作りなども必要になってくるとしています。

正社員消滅時代の人事改革.jpg 本書は、著者の前著『正社員消滅時代の人事改革-制約社員を戦力化する仕組みづくり』('12年/日本経済新聞出版社)の「高齢社員の人事管理」に的を絞った続編ともとれますが、著者自身が前書きで述べているように、これからの人事管理の「進むべき方向を確認するための灯台としての役割を果たすためのモデルとして提案」したものであり、具体的に個々の制度の詳細を解説したりすることは目的としていません。その点を踏まえておかないと、実務書として読んでしまうと物足りないものとなってしまうでしょう。

 個人的感想としては、「高齢社員の人事管理」の在り方を通してこれからの人事管理の在り方を理論的な枠組みの中できっちり示しており、実務家にとって自社制度の立ち位置や今後の方向性を探る上での理論強化に繋がる本であるように思えた一方で、出された結論はそれほど斬新なものでもなく、大方の実務者が今後はこうならざるを得ないだろうと予想していたものに近いと言えるのではないかと思った次第です。

 ただ、現状がどうかという問題は当然のことながらあると思われ、平成25年施行の改正高年者齢雇用安定法に対する各企業の対応が、「福祉雇用型」的な対応でばたばたっと決着して一息ついたようになっている現況において、次のステップに移行するための示唆と動機づけを与えてくれる本ではあると思います(実務書と言うより啓蒙書・啓発書に近いか)。

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制度をぽんぽん作ることがイコール「クリエイティブ」であるともとられかねない論調?

クリエイティブ人事19.JPGクリエイティブ人事.jpgクリエイティブ人事 個人を伸ばす、チームを活かす (光文社新書)

 本書は、サイバーエージェントの取締役人事本部長の曽山哲人氏が、組織行動研究の第一人者である金井壽宏氏との対談も交え、自社の人事制度を紹介しつつ、人事の在り方や人事制度の本質について語った本です。

 曽山氏は、自社の創業7年後の2005年の人事本部の発足と同時に人事本部長に抜擢され、すでに急成長を遂げベンチャーらしさが失われつつあった社内の雰囲気に危機感を覚え、日常業務を回すだけの「機能人事」からの脱却を図ることを目指したとのことです。そして、半年ごとの新事業提案コンテスト「ジギョつく」、役員と社員がチームを組み「あした(未来)」につながる新規事業を考え提案する「あした会議」、サービスアイディアを「モックアップ(試作品)」に落とし込んで提案するコンテスト「モックプランコンテスト」など、イノベーションと組織活性化を促すさまざまな仕組みを打ち出してきました。

 人事本部のミッションを「コミュニケーション・エンジン」と定義し、自らに月に100人の社員と話すことを課すとともに、懇親会支援制度や部活動支援制度などを導入し、インフォーマル・コミュニケーションの活性化に力を入れている点などは、個人的には興味深く感じましたが、様々な経歴の人材が集まるベンチャー企業などではそれほど珍しくない施策かもしれません。「キャリチャレ」と呼ばれる社内異動公募制度なども含め、本書にあるこうした制度は、同業他社や他業種の企業でも多くが導入しているように思います。

 序章を金井教授と曽山氏が交互に執筆して、終章(第5章)に両者の対談があるのを除き、残りの部分は曽山氏によるこうした社内の人事制度やその考え方の紹介となっていますが、結果的に、制度を紹介する企業ガイダンス的な内容になってしまっている面があるとともに、人事部目線で見ると、ある特殊なケースにおける「成功体験」を聞かされているような印象も受けました。

 「2駅ルール」というオフィスの最寄り駅から2駅以内に住む社員に補助をする仕組みを社員の5割弱が利用しているといったことも、急成長を遂げたベンチャー企業で、規模のわりには社員の平均年齢が若いという特殊性の現れではないかと。中には、やや思いつき的な発想からきたのではと思われるような制度もあり、ある程度の遊び心があってこそのベンチャーと言えなくもありませんが、制度をぽんぽん作ることがイコール「クリエイティブ」であるともとられかねません。

 本書自体、制度はあくまで表層であって、人事における「クリエイティブ」とは本質的にはもっと深いものであるという立場であるかと思いますが、第4章から終盤の対談にかけては、むしろ、人事パーソンに求められる資質といった自己啓発的観点からの論調になって、それはそれで参考になる部分もあったものの、「クリエイティブ」ということに関してはややもやっとしたまま終わってしまったようにも思えました。

 結局これ、自らのブログから引用して本人が書いた部分もあるけれども、大方は本人の語りを編集者が文章にしたのだろうなあ。金井壽宏氏が手を入れているにしても、平板な印象が拭いきれないのは、やはり先ほども述べたように、本人が専ら過去の成功体験を中心に語っているからなのでしょう。

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内容的に他の追随を許さない水準ながら学術書っぽさがない。デューデリ担当者には必読書か。

最新アメリカの賃金・評価制度4.JPG最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの.jpg最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの』(2008/04 日本経団連事業サービス)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第6弾(エントリー№2276)。長年にわたってアメリカの賃金制度の研究に携わってきた著者が、80社以上に及ぶ企業・労働組合をヒアリング調査した成果を纏めたものであり、限られた情報に基づき一面的に捉えがちだったアメリカの賃金の現状制度について、データの裏付けの下、総合的、客観的に分析しています。

 本書は同著者による『アメリカの賃金・評価システム』('01年/日本経団連出版)の続編であり、前著はアメリカの賃金制度を分かり易く紹介するとともに、アメリカの賃金制度の変容にも触れ、同時に、曲がり角にある日本の賃金制度の方向性を示唆していましたが、本書も同じような趣旨ながら、データのみならず具体的な企業事例がぐっと増えて、より実務に供する内容となっています。

 前著でも、文章が簡潔明快で読み易く、参考文献も充実していましたが、本書ではさらに図解や資料が多く挿入されていて、それらが何れも見易く纏まっているのが有難いです。内容的に他の追随を許さない水準でありながら、学術書っぽさがないのがいいです。

 日本人事労務研究所刊行の『月刊人事労務』に2001年から2006年まで断続的に連載した原稿がベースになっているとのことですが、著者は2007年にアメリカ報酬管理協会のワールドアトワークの年次カンファランスに日本からただ一人参加しており、そうした本書刊行時点での直近の調査結果や報告なども織り込まれているため、"やや中古"本(2008年刊)といっても、あまり古さは感じさせません。

 むしろ、本書を超えるレベルのものがその後に見当たらないので、これから企業規模を問わずどの企業にもグローバル化の波が押し寄せる公算が大きい「今日的」乃至「近日的」状況に際して、アメリカの賃金・評価システムがどのようなものであるかを知っておくことは無駄にはならず、その手引きとしては絶好の書と言えるのではないかと思います。アメリカ企業とのM&Aにおけるデューデリジェンス担当者などにはとっては必読書ではないかと(とりわけ米国企業では個々の賃金決定は現場のライン管理職に任されていることもあってか、デューデリで賃金制度を最初から重点的に議論し合うことは稀のように思う)。「"やや中古"本に光を」シリーズ第6弾にしてやっと5つ星です(どちらかと言うとリアルタイムで取り上げるべき本だった)。

 最近話題になっているホワイトカラー・イグゼンプションや非正規雇用の問題などについても(たまたま本書刊行時もそれぞれテーマについての時期的な議論のヤマ場があったりしたということもあるが)、アメリカを参照しつつ日本の場合はどうかという視点から解説しています。

 とりわけ、ホワイトカラー・イグゼンプションの導入に関しては、真っ向から反対はしていませんが、労働時間規制を一旦強化し、長時間労働や恒久的残業が極めて例外的な現象とされる社会構造を構築したうえで導入すべきだという慎重な見解を示しているのは、アメリカの労働社会や人事賃金諸制度に通暁している著者が言っていることだけに重いものがあります(個人的にはホワイトカラー・イグゼンプションは賛成だが、年収いくら以上とかいうことよりも、そうした社会構造のチェックとでもいうべき付帯条件が確かに必要と思う。そのチェック自体が難しいという問題があるにしても)。
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〈著者紹介〉
笹島芳雄
1967年東京都立大学卒業後、労働省(現厚生労働省)入省。73年ブラウン大学大学院修了。経済企画庁、OECD出向などを経て、89年より明治学院大学教授。厚生労働省「これからの賃金制度のあり方に関する研究会」「男女間の賃金格差に関する研究会」などの座長を歴任。中央労働委員会関東地方調整委員会委員長。著書「アメリカの賃金・評価システム」(日本経団連出版)、「現代の労働問題」「賃金決定の手引」(現・明治学院大学名誉教授)

《読書MEMO》
・第1章  アメリカの賃金の全体像
・第2章  職務グレード制と基本給の決定
・第3章  職務評価の手法と実態
・第4章  労働組合員の賃金
・第5章  ボーナス制度の仕組み
・第6章  人事評価制度の実情
・第7章  ペイ・フォー・パフォーマンスの構造と特色
・第8章  日米賃金制度比較からの示唆

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人事・賃金・考制度のオーソドックスかつ木目の細かいテキストであるとともに、今後のあり方を探るうえでの啓発書でもある。

65歳全員雇用に対応する人事・賃金・考課の知識と実務9.JPG65歳全員雇用に対応する人事・賃金・考課の知識と実務.jpg65歳全員雇用に対応する人事・賃金・考課の知識と実務

 本書の著者の小柳(おやなぎ)勝二郎氏は、日本経営者団体連盟の元理事で、賃金部長、労務部長などを歴任し、日経連を退職した後はコンサルタント(なMMC総研代表)として活躍している人ですが、65歳雇用に限らず(もちろんその問題は念頭に置きながら)、人事・賃金・考課についての基礎知識全般を網羅したうえに、実務に沿ったオーソドックスかつ木目の細かい解説がなされているように思いました。

 第1部「65歳までの雇用確保措置と人事・賃金等の具体的対策」では、高年齢者雇用安定法の改正のポイント、雇用確保の考え方、制度化に当たっての留意点、具体的対応策を整理してまとめています。継続雇用の問題をマクロ的な観点や人事施策的な面から解説する一方で、例えば再雇用制度の導入に伴う賃金カーブの見直しについては4つの方法に分けて解説しており、さらに、定年延長の実施についても4つの方法を示すなど、それぞれの企業の人事戦略の違いに対応できる制度解説となっており、また、今後の人事管理の動向を見据えた提案的な要素も多分に含まれたものとなっています。

 第2部「これからの人事制度のあり方と具体策」では、人事制度の導入・運用・管理の方法を解説するとともに、人事制度導入についての基礎知識、等級制度の導入方法について詳しく述べ、さらに、グローバル人材の確保・育成・活用と処遇制度についても触れられています。特に、成果主義の問題点と対策について述べている箇所で、職務・役割・成果主義の制度の内容をよく理解し、従業員に十分説明して制度作りや管理・運用をすれば、公正で納得できる制度として従業員からも評価されるだろうとしている点はしっくりきました。

 以降、第3部「目標管理制度の導入・活用方法」、第4部「納得性を高める人事考課制度の導入・活用のポイント」、第5部「賃金制度の導入・見直しのポイント」、第6部「賞与・一時金制度見直しのポイント」、そして最後の第7部「退職一時金の見直し方向」まで、人事・賃金・目標管理・人事考課等を広く網羅しており、また、制度設計における実務入門書としてもかなり深いレベルまで踏み込んでいますが、それら技術面の解説の前にまず人事理念や制度背景の説明から入り、そうした制度を入れることの意義をしっかり解説しているため、技術的なテキストとして読めるだけでなく、人事・賃金・考課制度のあり方を根本的におさらいする啓発書にもなっているように思いました。

 何よりも制度解説が具体的であり、その意味では、制度設計に携わる人にとってリジッドな(手堅い)指南書であることは疑いの余地はないと思われますが、人事パーソン全般にとっても、これからの超高齢社会を念頭に置きながら人事制度のあり方を探る啓発書として読める本であり、これだけの"濃い"内容で2,000円という価格はかなり良心的であるとみていいのではないでしょうか。全体を通読し(かなり読みではあるが)、その上で手元に常備しておいて必要に応じて参考書として使う、あるいはさらなる自己啓発のために再読するといった使い方になるのではないでしょうか。役職階層を問わずお薦めしたい良書です。

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高年齢者雇用時代の人事・賃金制度を考えるに際し、多くの示唆を含んだ本。

1高年齢者雇用時代の人事・賃金管理.png高年齢者雇用時代の人事・賃金管理.jpg 二宮孝.png 二宮 孝 氏(㈱パーソネル・ブレイン)
高年齢者雇用時代の人事・賃金管理』(2013/04 経営書院)

 2013年4月1日の改正高年齢者雇用安定法の施行に合わせて刊行された本で、第1章で改正高年法の内容を解説し、第2章で高年者雇用の社会的背景を、第3章で高年齢社員雇用に向けた企業経営の在り方を説いていますが、第1章はおさらいという感じで、一方、第2章と第3章は、ディーセント・ワーク、ワークライフバランス、ダイバーシティマネジメントといった社会的背景を解説するとともに、企業経営において高年齢者を積極的に活用するにはどういったことに留意すべきかを、人事マネジメント、組織再整備、ワークシェアリング、管理職の労務管理の在り方などの観点から説いていて、著者の視野の広さが感じられ、たいへん啓発される内容でした。

 第4章から第7章までは何れも高年齢者雇用を念頭に置いた制度解説で、社員全体の人事・賃金制度の在り方を具体的に説いており、基本人事制度、評価制度、賃金制度、関連する諸制度の順で解説し、第8章では、高年齢社員雇用の運用方法(「さん」付け運動、カウンセリングマインドの醸成、メンタルヘルス対策、パワーハラスメント対策、働きやすい職場づくり等)を解説、第9章では、安全衛生法や労働契約法、労働者派遣法など関連する法律の解説及び不利益変更への対応や成果主義人事制度に関する判決について解説、最終第10章では、定年延長や65歳までの希望者全員の継続雇用、経過措置を活用した当面対応などタイプ別にみた制度導入方法を纏め、また在職老齢年金との併給を視野に入れた手取り賃金からの個別管理について解説しています。

 著者は人事コンサルタントで社会保険労務士でもあり、法律に関する事柄も含め、これだけ広い観点で高年齢者雇用時代の人事・賃金管理制度の在り方を説いた解説書は少ないかも。但し、総花的にはならず、本書の核となる基本人事制度、評価制度、賃金制度の部分は、かなり具体的に突っ込んで書かれており、また、著者なりの考え方が示されています。

 基本人事制度(等級制度)においては、能力と役割基準によるクラス分けを提唱しており、クラスはブロードバンドで、細かくは級の設定で行う「役割能力等級制度」を提唱しており(これは著者が従来から提唱してきたもの)、更に、「能力等級」と「役割等級」を別建てとするダブルスタンダード型も示すとともに、昇格・昇進(降格・降職)制度の運用についても、丁寧に解説されています。

 評価制度は、成績(業績)評価、勤務態度評価、能力評価の3つを柱とし、また、これとは別に、役割評価の考え方なども示していますが、評価パターンごとに評価シートの具体例が示されていて分かりよいものとなっています。

 賃金制度は、能力給、役割給、業績給を3つの柱とし、諸手当を見直した後にどのようにして基本給制度を再設計するかを具体的に解説していますが、能力給は範囲給の中で定期昇給させ、役割給(役割手当)を責任度に応じて可変的に能力給に付加する方式を提唱する一方、その発展型として、役割給を役割レベルに応じた範囲(ゾーン)でもって設定する、より本格的な役割給制度も示しています。

 その他、賞与制度については、役割と業績に応じたポイント制業績賞与制度を提唱しており、また、管理専門職用の複線型賃金制度や年俸制についても解説されています。

 その他にも参考になる部分は多くありましたが、著者なりの考え方とそれに基づく制度の具体例が分かり易く示されているのが本書の特長であり、また、それがおそらく永年のコンサルティング経験によるものと思われますが、独善ではなく多くの企業で使えるものとなっている点がいいです(第一基本給を役割給とするのが大企業のメジャーな考えというふうに思われているが、実際に、中小企業に限らず大企業でも、著者が提唱しているのとほぼ同タイプの賃金制度を採り入れている企業はある)。

 改正高年法への対応は、大手・中堅企業の大部分は一定の方向性を打ち出し一段落したという印象で、今後は、60歳超の社員との接続において、管理職や一般の社員の処遇の在り方が課題になってくるのではないでしょうか。何も、本書のままに人事・賃金制度を改定する必要はなく、あくまでも自社適合を図るべきですが、そうしたことを考えるにあたって、多くの示唆を含んだ良書であるように思います。

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オーソッドックスで現実的。著者らのノウハウをふんだんに開示している姿勢には好感を持てた。

1デフレ時代の「人事評価・賃金制度」の作り方.pngデフレ時代の「人事評価・賃金制度」4.jpg6ヶ月間で人事制度改革が実現できるデフレ時代の「人事評価・賃金制度」の作り方』(2012/08 中央経済社)

 「実質65歳定年時代」を念頭に置いた、比較的オーソッドックスで、かつ中小企業でも導入可能な現実的な「人事評価・賃金制度」の作り方解説書になっているように思いました。

 1ヵ月目が「現状分析と人事方針を決定する」、2ヵ月目が「職種別の等級制度と人事評価制度を作る」、3ヵ月目が「デフレ対応型・給与制度を作る」、4ヵ月目が「収益強化のための業績連動賞与を作る」、5ヵ月が「退職金と周辺制度改定で人件費を逓減する」、6ヵ月目が「効果的に社員に説明し、新制度を導入する」となっていて、要するに、等級制度・評価制度・給与制度・賞与制度・退職金制度の全てにわたるトータル人事制度の設計であるわけで、「6ヵ月」というのは"最短・最速"期間ということになるかと思います。

 等級制度の作り方において、業種別に解説されているほか、職種別に等級基準を作ることを比較的詳しく解説していて、一方で、職能基準にするか職務基準にするかについては会社ごとに事情が異なるとしていていますが、この辺りはコンサルティングにおける著者らの経験が反映されているのだと思います。

 賃金制度の解説のところで号俸表が出てきて、職能給制度で号俸表を用いると、範囲給のレンジ幅が大きくなったり、上限額に到達してしまう者が多発したりしないかと、その辺りが気になるところですが、これについては、評価点をダイレクトに反映させた洗い替え方式の給与事例を示しています。
これこそまさに「デフレ」対応なのでしょう。しかし、それだとあまりにドラスティックになってしまうので、現実対応を念頭に様々な緩和パターンも示していますが(最終的には所謂「多段階洗い替え」方式になるのか)、号俸表を用いることによってやや複雑になってしまっている印象も受けました。

 実務書なので、テクニカルな部分はある程度突っ込まざるを得ないというのはありますが、全体を通しては、それぞれコンパクトに纏まっていて、概ね分かり易く書かれているように思いました。
更には、例えば「退職金と周辺制度」のところでは、定年再雇用後の賃金制度の見直し例や、契約社員・パート社員の人事制度事例も紹介するなど、至れり尽せりという感じです。

 「評価連動型の役職手当」などといった例も紹介されていますが、全体を通してみた場合、目新しい提案がそうあるというわけでもないものの基本は押さえている感じで、何よりも、事例等を通して著者らのノウハウをふんだんに開示している姿勢には好感を持てました(オーソドックスではあるが、ここまで詳しく解説されているものは少ないかも)。

 制度設計のことを学びたい人にも参考になるかと思いますが、200ページで2,520円(税込)というのは「会社買い」の価格設定ではないでしょうか。著者らの、自らのノウハウをこの1冊に凝縮させたという思いが価格に反映されているのか(それなりに密度は濃いけれど)、それでも本書と同じソフトカバー版の類書に比べると価格がやや高い印象も受けました。

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1冊で法改正のポイントも、制度設計も、企業の対応動向も分かるという点では便利。

1改正法対応版 高年齢者処遇の設計と実務.png改正法対応版 高年齢者処遇の設計と実務.jpg改正法対応版 高年齢者処遇 の設計と実務 (労政時報選書)』 (2013/03 労務行政)

 労使協定で定める基準により継続雇用制度の対象となる高年齢者の選別を認める仕組みを廃止した改正高年齢者雇用安定法(平成24年8月成立)の平成25年4月施行に合わせて刊行された解説書です。

 法改正のポイントを纏めた「法律・判例解説・規定例」と、60歳超雇用者の処遇に関する「実務解説」と、企業の対応をアンケート調査した「緊急調査」の、概ね"均等比重"の3部構成で、これ1冊で、法律も制度設計も企業の対応動向も分かるという点では便利です。

 特に、安西法律事務所の渡邉岳・小栗道乃の両弁護士が書いている法律解説の部分はコンパクトに纏まっていて、「改正法における継続雇用に関わるQ&A」が10問ありますが、これは必読箇所という印象で、定年後の雇用と処遇に関する判例解説も、これまた同じく、よく纏まっています。

 一方、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのコンサルタント2人が執筆している「実務解説」も、60歳超の報酬パターンを図に示したり、年金支給開始年齢の繰り延べを踏まえた公的給付の活用と自社賃金の在り方を示したりと、丁寧ではありますが、ややごちゃごちゃした印象でしょうか。公的給付を活用しないパターンなども例示しているのは良いと思いましたが、紙数が足りなくなった印象も...。

 残り3分の1を「緊急調査」と、改正法に関する法律、施行規則、更に行政が出した指針及びQ&Aで費やしていますが、これ1冊で全て事足りるようにしようという意図は感じられるものの、結果的に、やや"専門誌の特集"的な本の作りになったよう気もします(「労政時報」の特集記事における調査とダブっているのでは。まあ、専門誌を購読せず、本書のみ買う人もいるだろうけれど、制度解説にもう少し比重を置いて欲しかった気もする)。全体に総花的と言うか...。その割には(だからこそか)3,900円(税込)はやや高いかな。

 改正法の成立時から年末にかけては、各企業どうやって対応するのだろうという印象でしたが、本書の調査結果にもあるように、改正法施行時期までには大手・中堅企業の大部分は方向性を打ち出したという印象で、今後は、60歳超の社員との接続において、60歳前の中高年社員の処遇の在り方が課題になってくるのではないでしょうか。

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コア人材対象の「ジョブ・キャリア人事システム」を提唱。概念整理から制度への落とし込みまでかっちりしている。

『コア人財の人事システム』.JPGコア人財の人事システム 02.jpg 『コア人財の人事システム』(2011/11 生産性出版)

 グローバル化が進行する経済環境下にありながらも、日本企業の経営・人事システムは、日本固有の規制や慣行に縛られ、また守られている面が少なからずあり、問題や改革課題を先送りしている企業は多いと思われます。

 ベテランのコンサルタントである著者は、そうした認識のもと、本書の冒頭において、これまでの日本的経営・人事システムで戦って勝てるのか、社内の若年層はプロフェッショナルとして精鋭化しているか、コア人財がどれだけいて、コア人財に適合した公正な人事システムとなっているか、といった問いかけをしています。

役割業績主義人事システム.jpg役割業績主義人事システム 新版.jpg 著者は以前より、人事管理の基準を役割と業績に置く「役割業績主義人事システム」を提唱していましたが(『役割業績主義人事システム』('05年/生産性出版、'09年新版))、本書ではこうした日本企業の現状を踏まえ、それに加えて新たに、経営層、マネジャー、ビジネスリーダー、プロフェッショナルなどあらゆるコア人財を育成し、活用し、評価し、処遇するための、コア人財を対象とした「ジョブ・キャリア人事システム」を提唱しています。

役割業績主義人事システム』(2009/09 新版)

 本書におけるコア人財とは、「企業において、事業や経営におけるコアポジション・コアジョブを担当し、高度なスキル・キャリアと自ら動機づけられた'事業家あるいは経営マインド・志'を持ち、自立的にそのミッションを果たす人財のことをいう」とされており、ここでいう「キャリア」とは、「実践能力」と「職務実績、すなわち職歴・職務経験や実績」という2つの意味があるとのことです。

 コア人財の人事システムは、各ジョブステージにおいてキャリア能力を極め、キャリア実績を積み上げていくことをベースとしたものとなり、これが「ジョブ・キャリア人事システム」であるとのことですが、そうしたコア人財の人事フレームの概念図が詳細に解説されているばかりでなく、目標管理・人事考課・賃金・賞与などの各制度に落とし込んだ場合、それらはどのようなものであるべきかについても丁寧に解説されています。

 それら制度の具体的な姿は、これまで著者が「役割業績主義人事システム」における各制度として提唱してきたものと重なる部分はありますが、最後に、属人的人事制度(職能制度)や、一般的な属職的人事制度(職務・役割等級制度)とジョブ・キャリア人事制度の違いなどが一覧にされているため、根本概念におけるその特徴や従来制度との相違点が改めて確認できるようになっています。

 コア人財に特化した人事コースを想定していることが本書の特徴であり、職群管理の一種と言えるかと思いますが、従来型の役割等級制度と比較して、コア人財に早期にキャリアを積ませるという"育成"のベクトルが強く織り込まれているため、役割等級制度が「静態」的であるとすれば、「ジョブ・キャリア人事システム」は「動態」的であるとの印象を、個人的には抱きました。

 若年層からのグローバル人材の育成は、多くの企業にとって喫緊の課題であり、本書はそうしたニーズに応え、人事システム改革の方向性を示すとともに、具体的な制度の策定において多くの示唆を与えるものとなっているように思いました。

《読書MEMO》
●目 次
第1編 経営・人事の戦略的課題
 第1章 日本的経営・人事システムのパラダイムシフト
 第2章 グローバル化への人事の対応
 第3章 若年層の活用とエイジフリーへの対応
 第4章 コア人財の人事の構築
 第5章 属人的システムから属職的システムへの転換
 第6章 コア人財の人事システムの確立
第2編 コア人財のための人事フレーム
 第7章 戦略的経営におけるコア人財とは
 第8章 コア人財のプロフェッショナル職群における概念
 第9章 ジョブ・キャリア人事システムとは
 第10章 ジョブ・キャリア人事フレームの構築
 第11章 コア人財の人事システムの運用
第3編 ジョブ・キャリア人事システムの目標管理・考課・賃金
 第12章 コア人財の目標管理
 第13章 コア人財の人事考課
 第14章 ジョブ・キャリア人事システムにおける賃金制度
 第15章 ジョブ・キャリア人事システムにおける賞与制度と年俸制

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中小企業の経営者向けに人事の要諦から実務までを分かり易く解説。

中小企業のための人事労務ハンドブック.jpg 『中小企業のための人事労務ハンドブック (DO BOOKS)』(2011/08 同文館出版)

 社会保険労務士であり中小企業診断士でもある著者によって、中小企業向けに書かれた人事労務全般の手引書ですが、この手の類書の多くが主に人事労務の実務担当者向けに書かれているのに対し、本書の場合は、中小企業の経営トップや経営管理者を読者層として想定して書かれているのが特徴です。

 経営資源にはヒト・モノ・カネの3つがあるとされていますが、著者によれば、特に創業して間もない中小企業などにおいては、事業を拡大していくために、どうしても「カネ」のことで頭が一杯で、「ヒト」のことは"二の次"と考えている経営者が少なからず見られるとのことです。そうなってしまう理由は、ヒトよりもカネに関する知識を持った人が経営者の周りにいるためであり、更には、ヒトは"不可測"な経営資源であるためとしています。

 本書ではまず、ヒト・モノ・カネの中で一番大切な経営資源はヒトであると明言し、ヒトには投資が必要であり、ヒトを育てるには手間がかかり、またヒトには心があることを念頭に置かなければならないと戒めています。

 そのうえで、リーダーシップ理論(PM理論、ライフサイクル理論など)やモチベーション理論(X理論・Y理論、動機付け・衛生要因理論など)を分り易く紹介・解説し、こうした理論を習得し、それを実践に役立てることを説いていますが、このような"前置き"がされている点が、類書と比べてユニークと言えばユニークであり、本来的であると言えば本来的です。

 序章において、こうした人的資源管理の要諦を説いたうえで、本編では、採用における要員計画の立て方から説き起こし、更に、雇い入れ、勤務時間、給与、労働保険・社会保険管理、その他労務管理から退職・解雇に至るまで、これら多岐にわたる人事労務の仕事において、実務に欠かせない知識や情報を50項目に分類し、順次解説しています。

 個人的には、「給与」のところで、中小企業には「職能資格制度」は向かず、「役割等級制度」がお薦めであるとしている点に興味を引かれ、この点は概ね同感です。賃金制度については、範囲給型の号俸給を提唱しながらも、全等級を「昇給」対象とする方式と併せて、上位等級については「昇給」の概念を無くし、洗い替え方式とするパターンも提示しています(後者はかなりドラスティックなものとなる)。

 評価制度については、目標管理制度とリンクさせた運用を提唱する一方で、評価要素の類型を挙げて解説しながらも、従業員規模の小さな会社では必ずしもそれら全てを評価表に盛り込む必要は無く、能力効果的要素と情意効果要素を統合してしまうなど、シンプル且つ自社にとって使い勝手のよい評価制度にすればそれでよいとするなど、柔軟かつ現実対応的な内容となっています。

 労働保険・社会保険の諸手続きについても役所への提出書類の書き方などが分かりやすく示されており、病欠者や療養休職者への対処なども、中小企業の実情に応じたアドバイスがされているとともに、「勤怠不良、成績不良の労働者の辞めさせ方」などの突っ込んだ解説もなされています。

 中小企業の人事労務は、経営トップが実務面も含め積極的に関与していくしかなく、そのためには、トップが自ら人事労務に必要なことを勉強する必要があるというのが著者の考えですが、まさに、そうしたニーズ応えるためのハンドブックとして、見易く分かりよいものとなっているように思いました。

 経営トップに限らず実務担当者が読んでも参考になるかと思いますし、社会保険労務士などが中小企業に対し、手続業務だけでなく、経営・人事のより広い観点から相談業務やコンサルティング(制度設計)を行うための参考書としても使えるものとなっており、お薦めできる本です。

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中核は自社メソッドの紹介だが、周辺部分において読みどころがあった。自社メソッドについては隔靴掻痒の感。

「育成型人事制度」のすすめ.jpg 『育成型人事制度のすすめ』(2011/06 東洋経済新報社)

 本書は、全4章から成り、第1章で日本の人事制度の変遷をたどり、第2章で、今後あるべき人事制度の骨格としての「育成型人事制度」について、その必要性と枠組みを解説、さらに、第3章で、「育成型人事制度」の柱となる組織診断ツールとしての「ヒューマン・アセスメント」について、その理論や歴史、方法論を解説、最後の第4章では、人事制度の運用例として2つの事例を紹介しています。

 日本の人事制度の変遷を追った第1章は、その源流から戦前まで、さらに戦後の混乱期、高度成長期を経て70年代の低成長期、80年代のバブル期、バブル崩壊から成果主義の進展、アンチ成果主義の展開に至る流れをたどるとともに、職務等級制度の復活、定期昇給の廃止、目標管理と報酬のリンク、コンピテンシーの導入といったトピックも併せて解説しており、簡潔かつよく整理されていて、人事パーソンの"一般常識"として読めるように思えました。

 そうした日本の人事制度の歴史を通して、第2章では、「成果主義人事制度」が曲がり角に来ている現在、企業がグローバル新時代に対応していくために人事面で目指すべきゴールは「人材の育成」であるとし、その必要性の根拠を、経済合理性、労働人口の減少、モチベーションの向上、日本的徒弟制度という4つの視点から述べるとともに(ここまでは、きっちりした内容)、「育成型人事制度」の枠組みを、組織診断、経験のDB化、個別人事制度の構築、制度の運用、効果の検証という5つのステップで示しています(この辺りからやや"商売"っぽい感じが...)。

 そして第3章で、「育成型人事制度」の柱となる組織診断ツールとしての「ヒューマン・アセスメント(HA)」とはどのようなプログラムなのか、その理論的背景や方法論が解説されていますが、本書で言うところの「ヒューマン・アセスメント(HA)」とは、米国のDDI社が開発し、日本では、著者の所属するMSC社が企業や官公庁にサービス提供を行っているメッソドを指しています(要するにこの部分は"自社メソッド"の紹介であるということか)。

 「ヒューマン・アセスメント(HA)」の実際について、例えば演習課題がどのように行われるかということが解説されており、アセスメント実施中の各人の演習行動を観察・記録し評価するアセッサーは、自社の人材を社内アセッサーとすることも可能であるとしていますが、アセスメントの実際についての解説がそれほど具体的に書かれていないため、本書を読んだだけでいきなりというのはまず無理なように思われ、このメソッドを用いるのであれば、やはり最初は著者のそのMSC社に指導を仰ぐことになるのではないかと思われました。

 むしろ第4章で、育成型人事制度を成果に結びつけるための施策として挙げている2つの事例(「目標管理におけるブレイクダウンミーティング」と「管理職養成を図る多面評価の効果的活用」)の方がより具体的に書かれていて分かり易く、個人的には、「目標管理におけるブレイクダウンミーティング」(上司と部下全員が一堂に会して組織目標達成のための方策をディベート形式で検討し、各人の目標を決めるというスタイル)に関心を持ちました。

 本書の中核部分は「ヒューマン・アセスメント(HA)」(自社メソッド)の紹介なのでしょう。それ以外の周辺部分での分かりやすさ(実際に示唆を得られる部分もあった)とは逆に、その中核部分については"隔靴掻痒"感があり、自社メソッドについて全部を本には書いてしまわないという、こうした類の本のパターンを踏襲しているように思えました。

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報酬制度改革がまだ不十分というのは現場感覚に近い。人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっている。

『2013年、.jpg2013年、日本型人事は崩壊する.jpg2013年、日本型人事は崩壊する! 企業は「年金支給ゼロ」にどう対応すべきか』(朝日新聞出版)

 タイトルにある「2013年」問題というのは、「2013年度からは60歳になっても厚生年金が受給できなくなる」ことにより起きると予想される問題を指しています。現在も、60歳から64歳までの間に支給される特別支給の老齢厚生年金は、1階の定額部分相当の支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられていますが、2013年度からは、2階の報酬比例部分も60歳から65歳へと引き上げられることになっています。

 但し、こちらも支給開始年齢の引き上げは段階的に行われるため、完全に65歳支給開始となるのは2025年度であり、ちょうどその時に64歳になる人については、その年も含めた前5年間(2021年度~2025年度)は年金が支給されないことになります。2013年度から60歳到達者がすぐに年金をもらうことができなくなるのは確かですが、2013年度に60歳になる人は、2014年度からは報酬比例部分の支給が始まります。60歳到達者を基準に、その人に報酬比例部分が支給されるのはいつかと考えると、それは2013年度から2021年度にかけて段階的に起きる問題であるととれなくもありません。

 しかし、いずれにせよ企業は、被用者の65歳までの雇用を実現し、さらには70歳までの雇用を考えていく必要があり、その1つの節目が2013年であることに異論はありません。こうした時代を迎え、わが国の人事制度や人材戦略は大きく変わらざるを得ないだろうと著者は予測しています。

 著者によれば、成果主義が流行したといえ、真の報酬改革を断行した企業は少なく、リーマンショックの影響で人材育成や人材活用への取り組みも道半ばであり、多くの企業で、嘱託者の処遇是正、実力主義への転換、若年層の効率的育成、高齢者や女性の活用といった課題が残されているとのことです。

 その上で、これからの報酬制度は、能力によって報酬が変わる制度から、同一労働同一給与の原則に基づく職務給制度への転換が求められるとし、給与については、職務評価をシンプルにして要員管理にも応用可能な日本型職務給制度を、賞与については、業績と賞与総原資との相関を強めた業績連動賞与を提唱しています。

 この部分はオーソドックスな提案であるがゆえに、2000年代前半までに何度もなされてきたものと重なる部分は多いのですが、企業の関心事はリーマンショック前にはすでに人材開発の充実やES(従業員満足度)の向上に移行しており、報酬制度改革はそれ以前に完了しているという認識が風潮としてある中、その改革は充分なものではなく、例えば年功的賃金などは実態として今でも残っているという著者の主張は、大方の人事の現場の実感に近いものではないでしょうか。

 報酬制度改革に伴い、人事部の人材採用や人材育成にも変化が現れるであろうとし、後半部では、人材育成やキャリア開発の進め方についても実務的な視点から解説しています。例えば、20歳代後半から選抜型エリート教育を開始し、自主性に任せるのではなく、半強制的に教育をする必要があるとし、内部講師を起用する機会が増えるだろうが、嘱託者に先生になってもらうのも一案であるといった具合に、高齢者の活用なども視野に入れた提言がなされ、さらに、中堅層や高齢層のキャリア開発のポイント、女性の活用支援策も提言されています。

 最後に、「日本企業に必要な価値観/風土」として、①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる、②年長者を敬う、③部下をリスペクトする、④助け合いの精神を共有する、⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識をもち続ける、の5つを掲げていますが、日本的風土として"守るべきもの"があり、それを失ってはならないという著者の考えが織り込まれているように思います。

 書名自体は煽り気味ともとれますが、人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっていると思います。企業が国際競争力を身につけるうえで、報酬制度改革は避けて通れない課題であり、2013年問題がそうした改革の契機になればという思いが込められているように思われました。併せて、次なる改革においては、報酬制度だけではなく、人材育成・キャリア開発といった課題にも人事は目を向けなければならないことを示唆した良書だと思います。

 《読書MEMO》
●日本企業が抱える人事・報酬システムの課題(62p)
①"55歳定年"が根底に残っている
② 給与カーブが年功的である
③ 人件費が変動費化されていない
④ マスメディアさえ報酬ポリシーを誤解している
⑤ 嘱託者が活躍していない
⑥ 女性がまだまだ活躍していない
⑦ 大学全入世代の受け入れ体制が整っていない
⑧ ハングリー精神などの面で中国人に完敗している
⑨ 諸施策がモチベーション向上につながっていない
⑩ コア人材の育成が遅れている
●これからの人材育成キーワード(153p)
① 半強制
② 基礎
③ 体験
④ 終身教育
⑤ PDCA
●日本企業に必要な価値観/風土
①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる
②年長者を敬う
③部下をリスペクトする
④助け合いの精神を共有する
⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識を持ち続ける

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"自己啓発本"ではなく、人事制度に関する基礎知識を得るためのオーソドックスな入門書。

こうすればあなたの評価は上げられる2899.JPGこうすればあなたの評価は上げられる.jpg 『こうすればあなたの評価は上げられる―人事制度から読み解く』(2009/04 ダイヤモンド社)

 トータルな意味での人事制度の入門書であり、企業理念と人事制度の関係から始まって、経営計画・人件費予算と人事制度、職種と人事制度、社員モチベーションと人事制度、人材構成と人事制度の各関係を、章ごとにそれぞれ事例などを織り込みながら、分かり易くコンパクトに解説しています。

 テーマ(章)ごとに、「人事制度を読み解く考え方」「自社の人事制度を理解し行動するためのポイント」という節があり、一般社員の側から見た解説がされていますが、これも、社員側・会社側どちらからの視点でも読めるものであり、実質的には、何か突飛な秘策のようなものが明かされているというよりは、それまでに述べたことを踏まえ、より掘り下げた解説がされている箇所とみていいでしょう。

 会社で働く人間が自社の人事制度のことをよく理解しておくことは大事ですが、自己啓発本のようなタイトルとは異なり、その内容はかっちりしたもので、いかにも「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」という感じであり、むしろ人事部初任者の入門書といった感じでしょうか(このシリーズはどれも、オーソドックスな入門書みたいな感じのようだが)。

 巻末には、資格等級制度、人事考課制度、報酬制度、人事異動・配置に関する仕組み、人材育成制度、就業体系、福利厚生制度、退職金制度など、具体的な制度の中身人事の解説があり、その中で更に、複線型人事制度とか社内公募・社内FA制度、カフェテリアプランなどが解説されていて、人事制度の入門書としては実にまっとう。

 「評価が上げられる」かどうかはともかく、人事制度についての一般的な基礎知識が偏りなく得られる本です。
 そうした意味では、人事の仕事をしたいと考えている人向きか。それでは読者ターゲットが限定されると考え、版元がこうした"自己啓発本"っぽいタイトルを付けたんだろなあ(評価は、タイトルずれで星半個マイナス)。

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人事の基本に原点回帰し、今日的かつ納得性の高い人事制度の再構築を探究した良書。

雇用ボーダーレス時代の最適人事管理マニュアル17.JPG雇用ボーダーレス時代の最適人事管理マニュアル.jpg 『雇用ボーダーレス時代の最適人事管理マニュアル』(2010/07 中央経済社)

 脱年功序列型賃金から成果主義への懐疑を経て、近年のダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランス、ES(従業員満足)など、人事のとらえ方もいっそう多様化、複雑化していますが、ベテランの人事コンサルタントによる本書は、今求められているのは「強い会社」にするための「柔軟な」人事制度であるとし、トータルかつ実務的な観点からそれらを提案しています。

 第1編の「人事の新しい動きを解析する」においては、ダイバーシティ・マネジメント、エンプロイアビリティ、ジェンダーフリー、ワーク・ライフ・バランスなど、人事の最近のトレンドを表す概念をとりあげ、実態に沿ってその裏側を読み解き、「全体」か「個」か、「仕事」か「プライベート」かといった二者択一、オールオアナシング的な発想には限界があること指摘しています。

 それらの概念に限らず、管理職と一般社員、正規と非正規、日本人と外国人など、人事の世界に従来あった多くの価値基準のボーダー(境目)が今揺らいでいるとし、こうした"ボーダーレス"な時代において、人事担当者には、多元的な見方を養い、TPOを踏まえたバランス感覚が求められるとしています。

 第2編の「人事システム再構築の実践」においては、マネジメントシステムと連動する人事のフレームワーク(等級制度)、賃金システム、評価システム、能力開発とコミュニケーション・システム、パート社員の人事システムなどについて、制度構築のあり方を具体的に提案しています。

 例えば人事のフレームワークについては、縦に等級等の階層、横に職種を大ぐくりにした職掌を設定した骨格図をもとに、「能力」をベースに「役割」という概念を組み合わせた等級制度を提唱しており、ここにも「属人」か「仕事」かという従来の二者択一的な発想を超えた柔軟性が見てとれます。

 これに呼応するかたちで、賃金システムにおいては、例えば月例賃金制度の場合、能力給・役割給・業績給の3つの要素を階層別・職掌別にウェイトを考慮し構成する「複合型賃金体系」を、いくつかのバリエーションのもと提唱しています。

『雇用ボーダーレス時代の最適人事管理マニュアル』.JPG 賞与制度、退職金制度についても独自の提案がされており、評価システムについても60ページを割いて詳説、そのうえで、能力開発や非正規雇用の活用についても言及するなど、カバーしている範囲は広いですが、1つ1つの提案が、多くの図表をまじえ非常に具体的に記されているため、"総花的"な印象はなく、あくまでも、トータル人事制度という観点で書かれた、かっちりした実務書であると言えます。

 トータル人事制度について書かれた本があまり多く出版されていない中、小手先の制度改革ではなく、人事の基本に原点回帰し、今日的かつ納得性の高い人事制度の再構築を探究した良書だと思われ、また、徒(いたずら)に制度を複雑化させることをしていないため、中小企業においても、制度導入の参考にし易い本でもあるかと思います。

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まさに「教科書」だが、実務にも供する。時代遅れにならず、廻り道せず、偏らないために。

賃金制度の教科書2908.JPG賃金制度の教科書.jpg 『賃金制度の教科書』(2010/06 労務行政)

 '08年に労務行政から刊行された『人事評価の教科書』に続く「教科書」シリーズの第2弾で、本書『賃金制度の教科書』の後に『等級制度の教科書』『人材育成の教科書』と続きますが、いずれも実務者を読者層として念頭に置き、かつ、「教科書」と銘打っているだけに、分かりやすく書かれているのが特徴。また、この『賃金制度の教科書』は、シリーズの中でもややページ数は多い目です(336頁)。

 企業人事に携わる人事部門のマネジャーや賃金実務を担う担当者に向けて書かれた入門書であり、賃金の基本知識や、人事制度における賃金制度の位置づけ、制度の内容、これまでの賃金制度の変遷から、これからの賃金制度のあり方までを網羅しています。

 各論においては、基本給、諸手当、賞与、退職金について各1章を割いて、戦略的人材マネジメントという観点から、その政策的あり方や近年の動向、制度設計の実際までを解説しており、入門書でありながら、そのも密度はかなり濃いものです。

 年俸制についても1章を割いて解説していますが、年俸制は、これからの時代に大いに活用価値のある賃金の決め方であると思われ、個人的には、たいへん参考になりました。

 最後に、「多様な働き方の戦略」をキーワードとして、高齢者雇用制度の設計方法から入って、ダイバーシティに対応した「トータル人材マネジメント体系」の再編を提唱して締めくくっています。

 本書の位置づけは、「初めて賃金の実務を担当する人や労使の賃金担当者が、賃金決定の理論と実務の体系を学ぶことができる入門書」とのことですが、人事の最新トレンドを捉えながらも、先走りし過ぎること無くオーソドックスであり、かつ項目上も、理念と実務の関係上も、バランス良くまとまっていると思います。

 こうした入門書を初学者が読む場合、読む本によっては書かれていることが時代遅れで、かえって廻り道になったりすることもありますが、本書に関してはその心配はなく、アップトゥデートで偏りのない、"安心感"のあるテキストです(と思ったら、帯に、「もう旧い賃金テキストは捨てましょう!」とあった。確かに)。

 人事部門のマネジャーが新任の人事担当者などに薦めやすい本だと思いますが、その前に、まず自分自身が、制度づくりの理念的な面などを、本書を通して再チェックしてみるのもいいでしょう。

 また本書では、賃金制度の設計・運用等については、実務にストレートに供するような方法論や重点ポイント、具体的な事例などが、図説等を用いてかなり突っ込んで解説されています。
 
 かなり詳しく圧縮して書かれているため、全体を教科書的に一度通読しておいて、人事部に共有の参考書として部門に置いておき、課題が生じた際に参照するなり、勉強会のテキストとして用いるなりするといった利用法も考えられるかも知れません。

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50歳を過ぎたら管理者を除いて評価をやめ、給料も固定給にするというユニークな提言。

65歳定年時代に伸びる会社 ード.jpg65歳定年時代ロード.jpg65歳定年時代に伸びる会社.jpg
65歳定年時代に伸びる会社 (朝日新書)』['10年]

 産労総合研究所の人事専門誌「労務事情」の2009年3月1日号から9月1日号にかけて7回に分けて連載されたものに加筆修正して、1冊の新書にまとめたものです(連載時のタイトルは「定年前OB化―50代からのモチベーションアップにどう取り組むか」)。

 これまで多くの企業の人事制度を取材してきた著者によれば、企業に勤める社員は50代になると自分のゴールが見えてきてしまうために、定年前であるにもかかわらず、気分的に"OB化"してしまいがちであり、活躍の場を失って評価も給与も下がり、将来への希望も絶たれることから、「上昇停止症候群」「空の巣症候群」といったある種のうつ状態に陥るケースも少なくないと。

 本書では、そうした50代60代の社員の活性化を図るために、①中高年コーチ制度、②社内ダブルワーク制度、③マイスター制度、④NEWジョブタイトル制度、⑤社内人材マーケット制度などの多くの施策が提案されています。

 数ある本書の提案の中で最も目を引くのは、50歳を過ぎたら管理者を除いて評価制度の適用を廃止し、給料も固定給にすべきであるというものではないでしょうか。

 50代60代の社員を評価対象外とする理由として、①評価が処遇に反映されていないという現実からみて、評価する必要性があると思えない、②通常の評価制度では50代60代の社員に期待される役割能力を適正に評価することができない、③50代60代の社員を評価することのメリットよりも、かつての部下に評価されることで、プライドが傷つきモチベーションが下がるデメリットの方が大きいと考える、という3つを挙げています。

 そして、評価しないのであれば、50歳以降は固定給としてその後の昇給は行わず、そのかわり定年を65歳まで延長して、65歳まで50歳時の年収を固定することを提案しています。
そうすると、社員側からすれば、50歳以降の昇給分がなくても従来通りの生活水準を維持することは可能であり、企業側としても、人件費の伸びを抑えたまま65歳定年制を実現できるとしています。

 また、50歳以降は評価も昇給もしないという案に反発が予想される場合の施策として、評価は行うが、その結果を賃金にではなく労働時間(時短)やフリンジベネフィット(金銭外報酬)に反映させることなども提案しています。

 著者の新書での前著『人事制度イノベーション』('06年/講談社現代新書)では、同評価であれば上位職層ほど多く昇給するのが当然という従来の考えでは、バブル崩壊後に入社した社員は、いつまでたっても今の中高年の賃金水準に届かないと指摘し、若年層ほど成果主義の色合いが強い賃金制度にすべきであるという「世代別逆転」成果主義という考えが提唱されていて、企業の賃金制度の運用実態をよく知ったうえでの、パラダイム変革的な提言に思えました。

 本書での提言は、前著での提言と相互補完関係にあるともとれますが、同様にユニークかつ検討に値するものであるように思えました。
 但し、50歳以降は、上司と部下との間で定期的なコミュニケーション&カウンセリングの機会を持つことさえできれば、必ずしもそこに評価が介在する必要はないという考えは理解できる一方、50歳以降は昇給もしないということになると、中高年のモチベーションアップを図るための、中高年に特化した研修をそれなりに工夫しなければならないでしょう。

 本書はそのことをも踏まえ、そうした研修の在り方についても多角的な提案がなされています。賃金制度の在り方についての提案に目が行きがちですが、本書を読むに際しては、この部分を読み落とさず、自社適合を探ることが大切なのかも知れません。

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人事制度設計の実務テキストとして読め、現時点の傾向を再確認する上でも良書。

『役割・貢献度賃金―成果主義人事賃金制度の再設計』.JPG役割・貢献度賃金.jpg 
役割・貢献度賃金―成果主義人事賃金制度の再設計』['10年]

 日本経団連が2007年5月に「今後の賃金制度における基本的な考え方」として発表した、〈年齢や勤続年数を基軸とした賃金制度〉から〈仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度〉へ転換せよとの提言を受けて、日本経団連傘下の「人事賃金センター」が、人事処遇システムのあり方を、企業の実務担当者を交えて討議し、その内容を実務的な視点で取り纏めたものです。

 これからの成果主義人事・賃金制度のあり方を3つの視点(公平性・納得性の視点、仕事・役割・貢献度の視点、中長期的な人材育成の視点)から概説した後、「賃金体系」「等級制度」「賞与制度」「人事評価制度」のそれぞれについて、その目的や機能、今後の方向性や制度設計上の留意点等を、実務的な観点から解説、後半は、このワーキンググループに参加した企業の制度事例集になっています。

 賃金、等級、賞与、評価の4つのテーマそれぞれに1章を充てていますが、本のタイトルからみても、とりわけ「賃金」が核になるのではないでしょうか。
 定型職務、非定型職務のそれぞれについて、職群ごとにいくつかの賃金体系を提案していて、その内容は、概ね以下の通りとなっています。

◆定型的職務
 ① 一般事務職・現業技能職・販売職等
   ・職務給(単一型)+習熟給(積み上げ型)または職務給(範囲型)
   ・職務給(単一型)+習熟ランク給(習熟レベル別定額)
 ② 着任時に完全な職務遂行能力が求められる定型的職群
   ・職務給(単一型)
   ・職務給(単一型)+経験加給(積み上げ型)
 ③ 現業監督職
   ・職務給もしくは職能給(単一型)+成果給(業績給)
◆非定型職務
 ① 担当者の職務伸長等に応じて課業配分の一部分が変わる職務群(企画職、総合職等)
   ・職能給(範囲型)
   ・職務給(範囲型)
 ② 職務が一定レベルに達し自己裁量で職務を遂行できる職務群
   ・上限職能給+業績給(洗い替え方式)
 ③ 経営目的を達成するために役割等が予め決められた職位(管理職、営業職等)
   ・職務給(役割給)+業績給(洗い替え方式)
   ・職務給(役割給)+業績給(積み上げ方式)

 日本経団連の提言には、「従業員の異動などを容易にするためには、1つの職務に1つの賃金額を設定する"単一型"ではなく、同一の職務等級内で昇給を見込んで賃金額に幅を持たせる"範囲型"の制度とすることが一般的である」とある一方で、「職群ごとに賃金制度の基軸を変えるなど、自社の実情に合ったバランスのとれた制度とすることが望ましい」とあり、賃金制度に関するこうした木目細かい解説は、その提言に即したものであると言えるでしょう。

 また、このように仕事内容によって賃金制度に柔軟性と多様性を持たせるという考え方は、後半の企業事例(NEC、山武、JTなど大手企業中心)もほぼその考え方に沿ったものであることから、(先進的と言うよりは)現時点でのスタンダードであると思われます。
 コンパクトに纏められていて、賃金表の見本なども添えられていることから、賃金制度の設計に際しての実務上のテキストとなる本だと思います(但し、ページ数は多くないが、その分詰め込み気味なので、ある程度の実務経験者でないと、内容を十分に理解するのはきついかも)。

 このことは、「賃金」についてに限らず、等級、賞与、評価について書かれている部分にも当て嵌まり、それら制度のあり方についての自社適合を探る上で、本書に書かれていることは何れも押さえておきたいし、また、現在の人事制度設計の傾向を再確認する上でも、バランスのとれた(時代遅れでもなければ、進み過ぎでもない)内容であるように思いました。

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人事の課題について1テーマごとによく纏まって解説されている"テキスト"。

人事再考2909.JPG人事再考.jpg 『人事再考 ~プロが切り込む人事の本質~』['10年]

 同じコンサルティング会社(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に所属する人事コンルタント(所謂"人事のプロ")が自主的に集い、人事制度・人事施策に関する近年の重点テーマを抽出し、自らの研究成果を共同執筆したもので、テーマごとに、その基本的な考え方から本質まで、理論から実務的な課題の解決方法までを解説しています。

人事フレーム」「目標管理制度」「業績連動賞与」「人事評価制度」「グローバル人材管理」「業務改善と人材育成」「モチベーション管理とES調査」「給与制度」「退職給付制度」の9つのテーマで、1人のコンサルタントが1章を執筆担当しています。

 各章とも、①テーマの本質、②テーマの本来の目的・意義、③テーマの具体的な設計法、④テーマのスムーズな運用方法、⑤まとめ(プロとしての主張)という構成で統一されているため読み易く、また再読し易いものとなっています。

 例えば「人事フレーム」について書かれた章では、能力・職務・役割に基づく等級制度のそれぞれの特徴を比較しつつ、「役割等級制度」の設計について具体的に解説するなど、人事制度の在り方の現時点でのスタンダードに即した内容であり、また、何れのテーマについても、それらについて再考することが企業の成長・発展に繋がっていくという考え方が貫かれているのがいいです。

 但し、「再考」という観点からすると、「目標管理制度」など一部で運用の形骸化が見られるものについては、本来の目的・意義に立ち返るという意味においてその言葉が当て嵌りますが、全般的には、1テーマ20ページそこそこという限られた紙数の中で実務的なポイントに触れ、事例なども掲げているいるため、紙数不足になってしまったと言うか、その分、今後に向けての提言という面ではやや弱いようにも思いました。

 テーマごとに要点整理され、簡潔に纏まっているという点では、経営者や一般のビジネスパーソンにも手にし易い本であると思われ、実務面での留意点を抽出し、ポイント解説しているという点では、これまで人事制度の策定にあまり携わった経験がない人事・経営企画の新任担当者にも読みやすい"テキスト"であると思います。

 書かれていることは何れも筋(すじ)論であり、そうした意味では良書だとは思います("一応"、評価は★4つ)、ハードカバー製本、関心を引くタイトルの割には、「論考」というよりむしろ「教科書」的な色合いの強い本のように、個人的には感じました(このままの内容で、日経文庫の1冊として刊行されていても違和感のない内容)。
 実際、実務面に関する記述のウェイトがそれなりに高いのですが、人事部以外の読者をも想定して、ビジネス書っぽい体裁にしたということでしょうか。

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シンプル・イズ・ベスト。制度コンサルティングの初学者にはうってつけのテキスト。

続・中小企業の人事制度・考課制度設計コンサルティング.jpg続・中小企業の人事制度・考課制度設計コンサルティング―制度設計の手法をすべて見せます! (アスカビジネス)』(2009/07 明日香出版社)

 '06年刊行の『中小企業の人事制度・考課制度設計コンサルティング』の続編、と言うより"改訂版"に近い内容ですが、シンプルによく纏まったテキストで(全体で約160ページ)、コンサルタントに限らず、中小企業の人事担当者でも読める内容です。

 冒頭で人事制度・考課制度の現状と問題点を解説し、以下、賃金・等級・評価制度の設計の進め方の基本をコンパクトに解説、賞与制度・退職金制度にも触れていますが、ここまでで67ページしか使っておらず、後半の約90ページは、新人事制度の実例と、就業規則及び諸規程(賃金規程・退職金規程・育児介護休業規程・旅費規程)のサンプルや届出書式集になっています。

 冒頭で職能資格制度の考え方や留意点に触れていますが、実際の制度設計の進め方に関する章(第2章「新制度設計コンサルティング)で解説されていたり、制度事例として取り上げられているものは、「職務グレード制」乃至「役割グレード制」です。

 賃金分析の手法や範囲給の設定の仕方など、制度設計コンサルティングの"手の内"を分かり易くオープンにしている姿勢に好感が持て、図表を効果的に用いているため、少ないページながらも、イメージが掴み易いものとなっています。

 考課制度も、業績評価と行動評価(又はコンピテンシー評価)の2本立てで、それぞれ評価シートのサンプルが掲げてあり、賞与については、ポイント制賞与制度の基本的なパターンを、退職金については、「中退共」や成果型退職金制度を解説しています。

 後半、規程例に多くのページを割いているのは、一見やっつけ仕事のように見えますが、実務対応の観点からすればむしろ親切であると言え、その前に、新人事制度の実例として、等級・賃金・評価などの諸制度の運用規程が掲げてあるのも丁寧。

 ある程度の経験を積んだコンサルタントにはやや物足りない面もあるかと思いますが、制度コンサルティングの初学者にはうってつけの本だと思います。

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人材育成・社員教育に力を注ぐ会社の施策を紹介。大企業・有名企業ばかりなのが少し気になる。

会社を利用してプロフェッショナルになる.jpg会社を利用してプロフェッショナルになる Excellent System of Human Resources Development (光文社ペーパーバックス)

 人事専門誌などに、企業の人事制度や施策等を紹介する記事を書かせたら、その分野では"第一人者"であろうと思われる著者ですが、光文社ペーパーバックスの前著『隣りの成果主義』('04年)は、殆ど図表等を用いずに賃金制度などの紹介をしていて、プロでも時には内容を把握するのが困難な他社の人事制度を、字面だけで一般読者に理解させるのは難しいように思え、結果として、著者の持ち味が活かされていなかったように思います。

 それに比べると、各社の人材育成・社員教育施策を紹介した本書は、テーマ的にも文章記述だけでカバー出来る部分が多い上に、今度は2色刷りになって図表(概念図)も多く取り入れられているため、前著よりは解りよいものになっているかと思います。

 前半のトヨタや東レ、日本ユニシスなどの超優良企業9社の事例紹介は、ほんのサワリだけで、また数だけ詰め込みすぎたかと思われましたが、後半の、"3年で「プロの専門職」に育てる会社"としての4社(ゴールドマンサックス、アクセンチュア、キーエンス、資生堂)と、"10年でプロのマネジメントに育てる会社"としての3社(ユニクロ、伊藤忠商事、住友商事)は、そうした分類の仕方も興味深く、また、著者らしい取材力が活かされているように思いました。

 これらの事例紹介の幾つかは、'06年から'07年にかけての雑誌「プレジデント」の連載がベースになっているようで、道理でそれぞれ突っ込んで書かれているというか、それなりに時間をかけて取材したものなのだなあと(ここでは1つ1つについて述べないが、個人的には参考になった)。

 但し、本書自体は、タイトルからも窺えるように、就職・転職を意識している一般のビジネスパーソンに対して、自分をプロフェッショナルにしてくれる会社を選びなさいと呼びかけるスタイルをとっているため、冒頭で、「知名度や規模」で会社選びをしてはならないとしながら、紹介されているのがそれなりの大企業・有名企業ばかりである(且つ、人材育成制度も充実しているのだが)という結果になっている、この辺りの事例の選択方法がが、ちょっとどうなのかなと。

 「プレジデント」という雑誌の性格や。「人材育成制度」というテーマからするとこうならざるを得ないのだろうけれども、本書を読むと、やはりプロ人材になりたければ、世に言う"一流企業"に行くにこしたことはないととる人も多いのではないでしょうか。

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分り易く書かれた「人事の奥義書」。人事パーソン育成の「定本」としてお薦めできる。

『人事担当者が知っておきたい、⑧の実践策』.JPG人事担当者が知っておきたい、⑧の実践策。⑦つのスキル。.jpg
人事担当者が知っておきたい、8の実践策。7つのスキル。』(2010/08 労務行政)

 本書は、人事の仕事に携わる人を対象とした解説書で、姉妹本『人事担当者が知っておきたい、⑩の基礎知識。⑧つの心構え。』が「基礎編(人事の赤本)」であるのに対し、「ステップアップ編(人事の青本)」という位置づけになります。

 前半部分では、日本の人事管理の変遷についての解説があり、続いて「8つの実践策」として、人事部門の役割と仕事内容が解説されています。
 具体的には、人事部門の構築と機能、人事ポリシーの明確化、人材配置、採用・選考、人事制度の企画・運用、労務問題の種類と対応、人材育成(教育・研修)の7つのテーマについて、それぞれの考え方のフレームや運用を見据えた企画、運用時の留意事項など、戦略立案から企画の実際までを解説し、8つ目に、プロの人事担当者になるためにはどうあればよいかが書かれています。

 この「8つの実践策」の部分は、カバーする範囲は以上の通り広いのですが、実務経験豊かな人事コンサルタントが単独で執筆担当しているため論旨に一貫性があるとともに、『基礎編(人事の赤本)』の「10の基礎知識」と同じ執筆者であるため、シリーズとしての一貫性もあるように思いました。

 また、例えば冒頭の、人事部門の構成と機能について解説している部分では、人事部門の"三権分立"として、人事企画を「立法」に、人事運用を「司法」に、オペレーションを「行政」になぞらえ、そのバランスの重要性を説くなど、ユニークで分りやすい解説が随所に見られ、人事部門と経営企画部門など他の管理部門との関わり方など、これまでの入門書ではあまり触れられていなかったようなことについて書かれているのも、本書の特長ではないかと思います。

人事担当者が知っておきたい.jpg 採用・選考などその外のテーマについても、実際に実務で起こり得る場面を想定して、"実践テクニック"的なことにまで踏み込んで解説されていて、執筆者個人の見解も織り込まれていたりし、執筆者の経験からくる思い入れが随所に込められている点が、本書の、一見「教科書」のようで通常の教科書らしからぬところではないでしょうか。

 後半部分の「7つのスキル」は、人事担当者に求められるビジネスマインド・スキルや人事管理の現状分析の進め方、コミュニケーション・スキルの高め方、さらには、労働法・労働判例の見方、労働組合・労使関係対応の基礎知識などについて、それぞれの分野の専門家が執筆分担をして解説していますが、こちらも、定型的・表面的な解説に留まらず、重点ポイントを絞り込んで、執筆陣のそれぞれの思いが込められた解説がなされているように思いました。

 全体としてはバラエティに富む内容となっていますが、確かに「テキスト」ではあるが、総花的な「入門書」という印象は無く、むしろ実務に沿って分り易く書かれた「奥義書」といった感があり、図説が多用されていてコラムなども充実しているため、そのことがさらに内容の理解を促し、関心を持って読めることの助けになっているように思います。

 400頁というボリュームの割には価格も手ごろ(2,900円。「労政時報」の別冊の割には安い?)で、人事パーソン育成の「定本」としてお薦めできる1冊です。

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ちくま新書というより「日経文庫」的。もっとコンサルタント的視点や提言を入れてもよかった。

日本の賃金9.jpg日本の賃金.jpg 『日本の賃金―年功序列賃金と成果主義賃金のゆくえ (ちくま新書)』 ['08年]

 人事・賃金コンサルタントによる本で、日本の賃金の歴史、日本の賃金が抱えている問題点、日本企業にとって望ましい賃金制度とはどのようなものか、基本給や諸手当は今後どうなっていくか、賞与制度の方向性や賃金格差の今後、退職金制度の将来などについて書かれていますが、あまりに網羅的・教科書的で、「日経文庫」を読んでいるよう錯覚を感じました。

 「日経文庫」でもコンサルタントが書いているものがありますが(例えば、『職務・役割主義の人事』('06年/長谷川直紀 著)は外資系コンサルティング会社マーサー・ヒューマンリソース・コンサルティングのコンサルタントによるもの)、あちらは最初から入門書であることを意図したものであり、結果的に網羅的・教科書的であることがままあるのも仕方ないとして、本書については「ちくま新書」に収めるのにこの内容は如何なものかと思ってしまいました。

パートタイマーのトータル人事制度.jpg 実務書としては分かり易い良い本も書いている著者なので、もう少しコンサルタント的視点や提言を入れてもいいのではないかという気がしながら読んでいましたが(タイトルだけでは本書の企図が見えにくいのも難点)、そうしたものは終わりの方の賞与制度や賃金格差について述べたところで少し出てきたかなという感じで、個人的には肩透かしを喰った感じでした。

パートタイマーのトータル人事制度―資格・考課・賃金制度構築のすすめ方

 最初から「教科書」だと割り切って、勉強のつもりで読めばそれほど悪い本でもないと思うのですが、そうした「お勉強」志向で「ちくま新書」を手にする読者がどれぐらいの割合でいるだろうかとか、賃金制度の業務に携わったことの無い人には字面(じづら)だけではイメージしにくい部分があるのではないかとか、要らぬ気を揉んでしまいました(文章自体が読みにくいわけではないが)。

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ワークライフバランス施策としての人事諸制度を企画・立案する(その前にまずイメージする)上で役立つ本。

新しい人事戦略 ワークライフバランス.jpg             キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方.jpg 
新しい人事戦略 ワークライフバランスー考え方と導入法』['07年]/『超人気ワークライフバランスコンサルタントが教える キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方』['08年]

 著者は、最近では『キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方』('08年/ダイヤモンド社)などという本が好評の(その本のサブタイトルによると)"超人気ワークライフバランスコンサルタント"だそうですが、主に働く女性向けに自らの体験を綴ったその本に比べると、本書の方は、ワークライフバランス施策を体系的に論じているもので、具体的な制度にまで落とし込んでいるため、企業の人事部の人が読んで参考になる部分は多いのではないかと思います。

wlb.gif 前半の1・2章がワークライフバランスについての概説と先進企業の導入事例、後半の3・4章が、ワークライフバランス導入のステップと、「育児休業」「介護休業」「短時間勤務制度」などの各制度メニューの解説となっています(最終章(第5章)はデータ編)。

 前半部分では、脇坂明・学習院大学教授の「ファミリーフレンドリーな企業・職場とは」という研究成果が、〈ファミリーフレンドリー度〉と〈男女均等推進度〉との掛け合わせによる4象限で、「A.本物先進ワークライフバランス企業、B.モーレツ均等企業、C.見せかけのワークライフバランス企業、D.20世紀の遺物企業」というネーミングで括られているのが、個人的にはたいへん解り易かったです。

 先進各企業の施策を見ると、複数の施策を何年かもかけて実施していることがわかり、じゃあ今からという企業はどうすればよいかといことで、第3章に「変革の8ステップ」が示されていますが、最初に「プロジェクトチームを作る」というのがきて、「2人以上」で「専任者がいる」ことが望ましいと。
 確かにそうに違いないですが、大企業で人事部だけで何人も社員がいるような場合はともかく、中小企業にとってはこの辺りが1つのハードルになるかも。

wlb.jpg 但し、第4章で紹介されている「ワークライフバランスの各種制度とメニュー」の中には、中小企業でも出来なくはないと思われるものもあるし、中小企業向けの助成金なども紹介されています。

 「育児休業」といった基本的な制度も紹介されていますが、本書にもあるように、「育休」などは、法定の規定を超えて期間の延長などの独自の制度を設けることで、はじめてワークライフバランス施策を講じたと言えるのであって、その点は要注意、「介護休業」や「子の看護休暇」も然りです。

 また、休業期間中の人事評価をどうすれば、休業を取った社員のモチベーションを下げずに済むか、短時間勤務社員の評価はどうするかといった問題や、人事規定に盛り込むことが難しい「転勤配慮」にもキメ細かく触れられていて、ここでも先進企業の事例を紹介しているため、たいへん解りよいものとなっています。

『新しい人事戦略 ワークライフバランス―考え方と導入法』.JPG 個人的には、休業者の仕事の補填策として、「ドミノ人事制度」というものを提唱しているのが興味深く、これは、休業者の1つ下のランクの役職や経験の社員を代替要員として抜擢する方法で、代替要員となった社員の業務は、同様に1つ下のランクの社員に順次任せていくというものです。
 代替要員となった社員は一定期間1つ上位の業務を担当することが出来るので、ステップアップのためのOJT(実務による訓練)となり、若手社員にとってのチャンス、職場全体のモチベーションアップになるという―ナルホド。

 全体に読み易い中身で、ワークライフバランス施策としての人事諸制度を企画・立案する(その前にまずイメージする)上で役立つという点でお薦めです。

 しかし、この著者は1年に何冊本を出しているのだろう("第2の勝間和代"と化しつつある)。
 この人自身の現時点でのワークライフバランスが気にならなくもない...。

【2010年改訂版】

《読書MEMO》
●ワークライフバランス導入の8ステップ(108p-173p)
1 プロジェクトチームを作る
2 スケジュールを組む
3 社内ニーズを把握する アンケート実施。フィードバックは早めに。
4 導入プランを策定する
5 経営層の理解と承認を得る 中小企業こそ、ワークライフバランス施策にはコストがかからないものが多いこと、中小企業向け助成金などが整備されていること、機動性が高く、トップの意識次第で素早く大きな動きが起こせて、採用でも他者との差別化が図れる。
6 計画を実行し、告知する
7 マネジメント層の協力を得る
 ・短時間で高い付加価値をつけるアイデアと、広い視野や人脈を持つ社員が求められる
 ・社員が私生活を充実させ、会社以外のフィールドを持って活動することで、付加価値の高い仕事ができる
 ・個人の私生活を大切にできる職場環境は、うつ病や過労死の予防にもつながる
 ・そのための戦略がワークライフバランスである。という流れを確認する 
 「朝メールフォーマット」 今日の予定、今日の優先事項、今日の帰社予定
8 チェック&フォローを行う

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コンパクトでわかり易い。高年齢者処遇についての充分に的を射た内容。

65歳雇用延長の実務ポイント6.JPG65歳雇用延長の実務ポイント.jpg65歳雇用延長の実務ポイント2.jpg 
〔改正高年齢者雇用安定法〕 65歳雇用延長の実務ポイント

 '06(平成18)年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、その前後に65歳までの雇用延長を巡る法律・実務関係の本が何冊か刊行されましたが、本書は、人事制度(処遇制度)を中心に据えて書かれた本の中では最もわかり易く簡潔に纏められた類のものと言えるかと思います。
 法改正の概要や就業規則の整備、雇用契約書の作成方法などにも触れられていますが、中心となるのは、「高年齢者のやる気を引き出す人事・賃金制度のつくり方」についてです。

 この法改正に対し、殆どの企業は、定年の廃止や引き上げではなく、「再雇用制度」や「勤務延長制度」などの継続雇用制度で対応し、とりわけ、従来の定年嘱託制度に近い「再雇用制度」という形をとる企業が多かったのですが、「再雇用制度」において、希望者全員を再雇用するとはしない場合、労使協定によって再雇用の対象者をどのように絞るかが、議論の焦点になることが多かったように思います。

 本書でも、その辺りの諸制度の概念整理や手順解説をしつつ、「再雇用制度」が最も現実的であるとしていますが、単に、「法律への対応」としてではなく、「高年齢者を活用する」という視点から、再雇用後の人事処遇全般について検討し、賃金・インセンティブなどの効果的なノウハウを解説しています(この点こそ、企業の裁量権が最も発揮できる部分であるとも言える)。

 再雇用の賃金制度については、もっと分厚い解説書では、いきなり「一定率減額給」の様々なパターンが詳細に示されているものが多いように思えますが、本書ではそれ以前に、「一律固定給」という考え方が示されており、採用するかどうかは別として、先ずここから検討を始めるのがスジではないかと思い(高齢者の場合、前年度に比べて業績がどうであったかということ以前に、職務価値評価という観点を入れた方がいいと思う)、更に「時給・日給制」も検討の視野に入れている点などにも共感しました。

 昇給・賞与制度についても書かれていますが、インセンティブや退職金制度(所謂、第2退職金)は、一般社員とはまた異なる観点でのものとなり、独立支援的な制度の導入も提案されています。

 コンパクトで価格も手頃(127p、1,100円)、制度設計の初心者でも読めて、内容的には高年齢者処遇について充分に的を射たものになっていると思いました。

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法改正を見越したような内容の本。きっちりとした考え方と手順が示されている。

パートタイマーのトータル人事制度.jpg  パートタイマーのトータル人事制度9.JPG 
パートタイマーのトータル人事制度―資格・考課・賃金制度構築のすすめ方』 ['05年]

 '08(平成20)年4月にパートタイム労働法(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)が改正され、「正社員と同視すべきパート労働者」の待遇を差別的に取り扱うことが禁止されるとともに、パート労働者の賃金を決定する際に、正社員との均衡を考慮し、職務の内容、成果、意欲、能力、経験等を勘案すること、正社員と職務と一定期間の人材活用の仕組みが同じ場合は、賃金を正社員と同一の方法で決定することなどが努力義務化されましたが、'05(平成17)年11月刊行の本書は、パートタイマーの人事・処遇制度の考え方や具体的な設計方法について書かれたもので、非正規雇用の増加を背景としたパートタイマーの戦力化要請に応えつつ、結果として、この法改正を事前に見越したかのような内容になっています。

 150ページほどの本ですが、その限られたページ数の中で、事例を示しつつ制度設計の基本理念を確認したうえで、等級制度、人事考課制度、賃金制度のそれぞれの設計・運用方法を簡潔にわかり易く解説しており、「トータル人事」の標記に沿った内容になっているかと思われます。

 職能資格制度のもとでの職能考課と業績考課の組み合わせを提唱していますが、正社員の方は、職能資格制度から職務・役割等級制度への移行が世の流れであるなか、確かにパートタイマーについては、企業ごとの実態にもよりますが、職能資格制度的な考え方から入っていった方が制度設計し易いケースも多いように思いました(この著者は、正社員についても「能力・成果主義」という呼称にて同じような考えを別著で提唱しているのだが)。

 職能調査の実施や職能資格基準の作成、業績考課制度の設計、レンジ給と等級別昇給額の設定(レンジレートスタイル)など、やることは正社員の制度設計と変わりません。
 本書の内容自体には大いに賛同しますが、問題は、中小零細企業の場合、正社員においてすら、こうした制度の設計や運用がきちんとなされているかどうか、疑問に思われる点。
 賃金に関しては大部分が「努力義務」であること、制度設計を行う社内人材の不足問題などもあり、そのために、パート労働者の雇用管理の改善のため、評価・資格制度などを導入した場合の中小事業主向けの助成金制度が設けられたりはしていますが...。

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人事制度のグローバル化を感じた。1冊に詰め込み過ぎて項目主義的になったのが残念。

職務・役割主義の人事.jpg 『職務・役割主義の人事』 (2006/04 日経文庫)

 著者は外資系コンサルティング会社マーサー・ヒューマンリソース・コンサルティングのコンサルタントで、本書では職能主義に代わるものとして職務・役割主義の人事を提唱していますが、職務主義と役割主義の違いを、職務・役割の評価においてボトムアップの捉え方とトップダウンの捉え方というように区分し、基本的には役割主義をメインに提唱しています。

 人材マネジメントを人事制度と人材フローマネジメントという2つの構成要素に分け、例えば人事制度については、グレード制度(等級制度)、評価制度、報酬制度の3つのコンポーネントに分けて説明し、さらに、評価制度においては「プロセス・アウトプット」の考え方などが、報酬制度においては、報酬サーベイや「洗い替え方式とメリットインクリース方式」などが解説されていて、カタカナ用語は多いのですが、読んでみればそれほど違和感はなく、それだけ人事制度というものがグローバル化してきたということでしょうか。

 このほかに、役割主義の導入事例もあり、どうみても新書1冊にしては詰め込みすぎで、結果として項目主義になり、どうしてそうするのが良いのかという説明において紙数不足のような気がしました。
 書かれていることに異を唱えるようなものはありませんが、「入門書」であろうとするためか、「バランスドスコアカード」というテクニカルタームを使わずに同趣のことを解説していたりして、むしろもっと別の部分で気を使って欲しいという感じ。

10年後の人事.jpg 『10年後の人事』('05年) 実践Q&A戦略人材マネジメント.jpg 『実践Q&A戦略人材マネジメント』('00年)

 同社コンサルタントの舞田竜宣氏が『10年後の人事』('05年)という本で、等級制度において、職能等級と職務等級の混合型を提唱していたのが少し気になっていましたが、本書では、能力開発段階にある非管理職には「人基準」の考え方の適用も考えられるが、全体としては「仕事基準」(役割基準)の考え方を貫き通していて、ウィリアム・マーサー社という社名であった時代に刊行された『図解 戦略人材マネジメント』('99年)『実践Q&A戦略人材マネジメント』('00年)に書かれたことと内容は変わっておらず、むしろそれらの単行本を読んだ方が、内容の確実な理解が得られるのではないかと思います。

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特に1箇所、パラダイム転換となるユニークな提言があった。

人事制度イノベーション―「脱・成果主義」への修正回答.jpg 040.gif 滝田誠一郎.jpg
人事制度イノベーション』(2006/06 講談社現代新書)滝田 誠一郎 氏

 人事情報・人事政策専門誌のライターとして20年にわたり企業の人事戦略や人事制度改革を追い続けてきた著者による「成果主義」が抱える問題への回答試案といったところでしょうか。
 サブタイトルの意味は成果主義を否定しているのではなく、成果主義の歴史は脱・成果主義の歴史でもあり、あくまでも次なる成果主義はどうあるべきかという修正回答案です。

 その前に成果主義の歩みを振り返り、また現在の問題点として、成果に応じた報酬格差がキチンとついていないことを挙げているのは、現場を見てきた著者らしい指摘で、その原因として、評価・目標管理制度の運用問題と併せて、「差をつけられない」というメンタリティの問題を指摘しているのも鋭いです。

 第3章(90p-167p)の人事・賃金制度の提案部分で、メリハリのある処遇方法や人材活用のヒントとして幾つか示していますが、特権・特別待遇などの非金銭的報酬で報いるというのは巷でも論じられていることであり、「社内FA制度」なども既に大企業を中心に実施例は多い。

 個人的に、最も必要であり、ユニークかつ"パラダイム変革"的だと思ったのは、3章の冒頭で述べられている「世代別逆転」成果主義という考えで、若年層ほど成果主義の色合いが強い賃金制度にすべきであるというもの。

 同評価であれば上位職層ほど多く昇給するのが当然、という考えが、長く人事の仕事をしている人ほどあるのではないでしょうか。
 これではバブル崩壊後に入社した社員は、いつまでたっても今の中高年の賃金水準に届かず、そうした将来シナリオを理解した若い社員から順に会社を去っていく...。
 少子化による人材難はもう始まっており、「世代別逆転」成果主義というコンセプトは、ひとつ念頭に置くべきものであるように思いました。

《読書MEMO》
●第3章 人を活かす人事・賃金制度のヒント(90p-167p)
1.ジェネレーション・ギャップ賃金制度―「世代別逆転」成果主義
〈メリハリのある処遇方法 ①〜③〉
2.フリンジ・ベネフィット制度―プロセス評価に応じた特権・特別待遇
3.マイレージ制度―成果以外の貢献度をポイント化して特権・特別待遇
4.報酬ミリオネラ制度―報奨金で貢献に報いる
〈人材活用のヒント ①〜③〉
5.中高年コーチ制度-スタッフ管理職のモラールアップ
6.社内ダブルワーク制度-社内人材バンクを通じた社内アルバイト
7.社内人材マーケット制度-自己申告制度・社内人材公募・社内FA

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賞与制度構築・見直しの基本的ポイントを押さえる上での良書。

tyuuken.jpg 『中堅・中小企業の業績連動賞与』 (2005/10 日本経団連出版)

 本書は、中堅・中小企業を対象に、経営者にも従業員にも納得できる、わかりやすい賞与の決定・配分方式を実務的に解説したものです。

 賞与の意味や人件費、賃金制度の中での位置づけなどをしっかり整理したうえで、実力主義、短期決済型賞与の実現形としての業績連動賞与の方法論を示しているので、実務者にとっては、制度策定だけでなく、賞与制度変遷の流れの中で自社の賞与制度がどういう位置づけにあるかを探るうえでも参考になるかと思います(根拠データや解説図表も豪富です)。

 著者は賃金人事コンサルタントですが、労務行政研究所などの出身であるためか、内容的には本書出版時点でのオーソドックスとも言えるべきものです。
 例えば賞与の配分ロジックは、責任等級と成績にもとづき個々の貢献度をポイント評価し、賞与総原資にもとづくポイント単価を乗じて個人支給額を決定する「ポイント制」賞与を推奨していますが、併せて、成績評価において「分布規制」を行うことを唱えています。

 「ポイント制」賞与において評価がインフレ化すると、会社業績が良いのにポイント単価が下がってしまうという矛盾が生じるため「分布規制」という考え方はセットになってくる―こうした制度の瑕疵を未然に防ぐための見落としがちなポイントについても、きっちり言及されています。

 170頁余で1,700円という価格ですが、制度構築の基本的ポイントを押さえるためのテキストとしての密度は、価格に見合ったものだと思います。

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キャリアパスがどこまで描けるかがカギになるか。参考になる点は多い。

3時間でわかる「職種別賃金」入門.jpg  『3時間でわかる「職種別賃金」入門』 (2005/08 中央経済社)

Japanese Businessman.bmp 著者は、中堅・中小企業に適合する人事・賃金制度を紹介した書籍などで定評のある人事コンサルタントですが、本書では、成果主義の問題点を解消する切り札として「職種別賃金」制度の導入を提唱しています。

 必要性や概要だけでなく、管理職、営業職、販売接客職、技術職、SE職、製造職、事務職といった代表的な職種ごとに、具体的に賃金表や評価表の事例を示しながらわかりやすく解説していて、人事のキャリアが浅い担当者や経営者にとっても読みやすいかと思います。

 この本を読んで、自社にある職種の数だけ賃金制度を入れようとする人は少ないと思います。
 まず何のために変えるかということと、本書にもありますが、自社におけるキャリアパスをしっかり構築することが肝要かと思います。
 そうした意味では、「コース別人事制度」をすでに導入している企業では「職種別賃金」制度は導入しやすいだろうし、中小企業などで職種転換が頻繁に行われるような企業であれば、導入に慎重を期すべきでしょう。

 子会社などで、親会社とまったく業態が異なるのに、親会社と同じ賃金制度を採用している会社などでは、自社のメインとなる職種に合った賃金制度を検討する際に、本書が参考になるかもしれません。

 その他にも、賃金制度だけでなく、例えば管理職であれば「進路選択制度」といった具合に、職種別に「その他人事制度」についての提案が盛り込まれていて、参考になる点は多いかと思います。

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職務と役割を明確に区分。理論整理にだけでなく実践的参考書としても役立つ。

役割業績主義人事システム23.JPG07010002.jpg役割業績主義人事システム.jpg
役割業績主義人事システム』 〔'03年/生産性出版〕

 本書の最大の特徴は、一般に"「職能主義」から「職務・役割主義」へ"といった具合に一括りに言われる"職務"と"役割"を、明確に概念区分している点にあるかと思います。

 "役割"というのは、「職位・職務上の責任・権限である職責に、業務の拡大・革新等のチャレンジ度を付加したもの」で、"職務"というものが業務的な捉え方であるとすれば、"役割"というのは機能的な捉え方ということになり、等級制度の策定などにおいて従業員を格付け区分する際には、"職務"よりも"役割"という概念を入れた方が、制度策定 およびその後の制度運用に柔軟性を持たせることが可能であるということです。                                    

 また、役割における最終結果(アウトプット)しか見ない成果主義を不充分とし、最終成果に結びつく行動実績(インプット)を併せて見ること(業績主義)を提唱しています。
 こうした職能、職務、役割、業績といった概念が最初にわかりやすくまとめられています。

 内容構成は、等級制度(役割等級制度)→基本給(役割業績給)→賞与制度→退職金制度→目標管理制度→人事考課制度といった流れになっていますが、例えば役割業績給の運用についても7つのパターンを解説しているように、"簡潔かつ詳しい"記述となっています。

 とりわけ、7パターンの冒頭にある「評価替え(洗い替え)」方式や、その応用型である「複数グレード型評価替え」方式に、先進性と導入の実現性を感じます。

 目標管理の基本要素は、成果目標、課題目標、役割目標としていますが、人事考課においては、目標達成度以外に、プロセスの評価(マネージャーはマネジメント考課)と役割行動評価(コンピテンシー)を提唱しています。

 役割等級制度を入れる場合、一般職については職能主義を残すとすれば、職能資格制度とのダブルラダーになりますが、本書に示された「役割キャリア給」という"属人的役割給"の概念を用いることで、役割等級制度に一本化するやり方もあるなあ、とか、制度構築に際してのいろいろなヒントが得られ、理論の構築・整理にだけでなく実践的参考書として役立つ本だと思いました。

【2009年新版】

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ユニークな提案も多く含まれている。事業主、実務者、コンサルタントにお薦め。

新型〈人事制度・労務管理〉活用ガイドブック 多様な生き方を活かす人事制度のすすめ.jpg 『新型 人事制度・労務管理活用ガイドブック』 (2005/02 明日香出版社)

 人事労務管理の諸問題とその対応、特に中小零細企業が雇用の多様化・流動化のなかでとるべき人材戦略・制度を重点的に扱っています。

 採用/賃金/休暇/退社/勤務/育成/共伸のテーマ区分で、テーマごとに人事制度や労務管理の工夫、法規上の留意点などが書かれています。
 例えば賃金面では範囲給、ジョブロール(役割)の概念、年俸制、ポイント制退職金などを、制度面では在宅勤務、社内FA、目標管理、キャリアコンサル、社内メンター、社内ベンチャーなどの制度を提唱し、最近の人事潮流に沿ったものとなっています。

 さらに、中小零細企業のA&R(人材確保)戦略の一環として、サインオンボーナス(採用内定時に入社を条件に一時金を払う)のようなユニークな提案もあります。

 企業型401kの前段階としての「個人型」の提案や、就業規則とは別に個別労働契約の締結を推奨している部分に、人事労務管理の個別化傾向を実感しました。

《読書MEMO》
●プロフィットシェアリング(利益配分)とパフォーマンスボーナス(業績賞与)
●〔採用〕サインオンボーナス
 ・1.一定期間の就労の強要はできない(前借金の禁止)
 ・2.金銭貸借契約とするのは可能だが、返済額が高額で強度のプレッャーを伴う場合は問題
 ・3.一定期間内の退職の場合違約金(労働契約不履行の場合の違約金の契約は違法)/税法上は一時所得(社保控除しない・確定申告)(21p)
●〔休暇〕有給休暇の買い上げ→原則。法定外は可(法定日数を超える分、退職・解雇により消滅する分、時効により消滅したもの)(80p)
●〔退社〕年俸制社員→民法:6ヶ月以上の期間で報酬を定めた場合、3ヶ月前までに解約(退職・解雇)の申し入れが必要→年俸制でも毎月1回以上払いのため、解雇予告は30日前(月給制と同じ)と考えるべき。民法→1ヵ月の期間で報酬を定めた場合、月の前半で解約申し入れの場合は次期以降、月の後半の場合は次々期以降解約可能、期間の定めのない雇用の場合は2週間前、会社からの解約の場合は30日前、となっている(109p)

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改正高年齢者雇用安定法に対応しきれていない事例も...。

定年延長再雇用制度事例集.jpg  『定年延長再雇用制度事例集-高年齢者を活かす12社の取り組み』 ('05年/日本経団連出版)

 日本経団連が、大企業の人事部の中堅実務者を集めて研究会を開催し、並行してワークショップ方式で各社事例をとりまとめ本にしたもの。
 高齢者雇用に関して、石川島播磨重工業、JR東日本、富士電機、伊勢丹、日立製作所、三井造船など12社の施策が、定年延長、再雇用など具体的な人事制度を中心に紹介されています。

 高年齢者の継続雇用にあたっては、賃金制度だけなく、退職金制度、企業年金制度の改定をはじめ、能力開発やキャリア支援、ライフプラン研修、技能や技術の伝承、健康管理などの総合的な取り組み施策が必要なことがわかります。
 つまり会社の人事戦略の方針決定が重要であるということで、白元のように「年功型・能力主義・終身雇用」を打ち出した例もあるのは興味深いです。

 ただ紹介されている事例は、'01年度からの老齢厚生年金の支給開始年齢引き上げに対応しようと'90年代から制度改定を検討し導入されたものが多く、本書は'05年に入り出版されたものですが、'04年12月施行の改正高年齢者雇用安定法にまだ対応しきれていないものもあります。

 改正同法の実質的な施行は'06年4月で、通達などを通してその具体的な中身がある程度見えてきたのは'05年に入ってからではないでしょうか。
 仕方がない面もありますが、3,000円という本の価格が割高に感じられました。

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端的に言えば「事例集」なのだが、図表が少なくて読みにくい。

隣りの成果主義963.JPG隣りの成果主義.jpg 『隣りの成果主義』(2004/11 光文社ペーパーバックス)

force_01.jpg 普段は人事専門誌に賃金・人事制度の取材記事を執筆している著者が、一般向けに書き下ろしたものですが、内容的にはやはり賃金人事制度の"取材記事"であり、端的に言えば「事例集」です。
 当然のことながら、実名で登場する取材企業の制度に対する表立った批判はありません。
 本書内には成果主義の定義が見当たらないのですが、「成果主義人事」が「成果を持続的に高めていける組織・人材を創り出すための仕掛け・仕組みを創り出すこと」(ワトソンワイアット)であるならば、成果主義を具体化したものは仕組み(制度)であり、さらにその中心には賃金制度がくるかと思います。
 そうした意味では、本書のタイトルにほぼ偽りは無いということになりますが...。

 人事担当者が近況を俯瞰したり、経営者に「世の中こうなっていますよ」と示したりする分には一部使えるかも知れません。
 しかし如何せん、ただでさえこうした事例は読み解くのに苦労しますが、本書には図表が少なく、字面だけ追うにしては英語表記の部分が邪魔なために、読みにくいものとなっているのが残念です。
 
 著者がいつも人事専門誌に書いている賃金・人事制度の紹介記事は、理解の助けとなる図表が添えられていて、その内容もわかりやすいものです。
 "ペーパーバックス"での「事例集」という企画が、著者にとって気の毒な面もあったかも知れませんが、文章を削ってでも図表をもっと入れるべきだったのではないでしょうか。
 
《読書MEMO》
●ヤマダ電機・ソフトバンクBB...全社員年俸制(8p)
●近畿日本ツーリストの役員評価...役員も成果主義に→退職金廃止→報酬諮問委員会が中期的な「成果責任」(Accoutability)と毎期の「業績目標」達成度を評価(187p)
●高橋伸夫東大教授への疑問..."成果主義の失敗"ではなく"成果主義"そのものを批判、「仕事による動機づけ理論」「日本型年功制」のメリットは正しいが、「賃金原資」「職能給の運用」の2点で、「日本型年功制」の復活は困難(224p)
●1次評価だけでなく最終評価もフィードバックすべき

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人事部まかせでいい、給与だけいじればいい、といった考えを正す本。

経営者のための成果主義改革の正しい進め方.jpg 『経営者のための成果主義改革の正しい進め方-図で見てわかる成果主義賃金導入の具体例

 人事・労務の総合コンサルタントとして、中堅・中小企業向けの経営コンサルを手掛ける著者による成果主義改革の手引きであり、本書で言う「成果主義」とは、「成果を重視した組織の考え方」で、小手先の給料いじりでは改革にならず、人事制度改革は、組織改革、経営改革というソフトをサポートするハードであるべきものだとしています。

0013.gif そうした考えに沿って、管理者のレベルアップやトップの強いリーダーシップ、社員との信頼関係などが必要であるとし、プロジェクト方式での人事制度改革の導入の進め方や、成果を出せる風土・環境はどうやって作るのか、目標管理制度や人事考課はどうあるべきかなどを説いています。

 全体を通して経営者向けにやさしく書かれているように思え、「トップの関心、支援が成否を分ける」というのはまったく同感で、目標管理制度や人事考課など給与制度の「周辺制度」が実は大切であるという視点にも共感を覚えます。

 ただ、表紙のキャッチに「人と組織を活性化させる給与制度を実現する」とあるものの、給与制度については、「図でわかる成果主義賃金の具体例」として付録的にあるだけなので(コンパクトに纏まってはいるが)、実務者にはやや物足りないかも。

 人事部へ丸投げすればいいと思っている経営陣や、給与だけいじれば済むと思っている人事担当者がいるとすれば、その誤謬を説いて諭すという意味ではたいへん良い指南書だと思います。
 
《読書MEMO》
●《年俸制の具体例》
①職位、評価ランクによる年俸制...職位、評価による絶対額洗い替え方式
②等級、評価ランクによる年俸制...等級、評価によるく絶対額洗い替え方式
  (評価ランクは役割の大きさ×達成度で決める)
③職位、役割、評価による年俸制...職位・役割ランク別基準額×評価係数
④資格年俸+役割年俸...何に対して支給するかが明確(日本的)
⑤レンジマトリックス方式...本人の基本給レンジと評価によって増減額が異なる
●《月給制の具体例》
⑥等級、評価ランクによる月給制...等級、評価による絶対額洗い替え方式
⑦業績等級制...⑥において給与ランクを決める際に、改定前の給与ランクによって同じ評価でもどの給与ランクになるか異なる
 (レンジマトリックスと似た概念)
⑧職能給と洗い替え方式の併用...定昇型職能給+洗い替え業績給

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今世紀に入っても「職能資格制度」堅持を唱えているのは、ある意味ユニーク?

クス.jpg 『日本型成果主義の基盤 職能資格制度―その再点検・整備・リニューアル方策』 〔'03年〕

 「職能資格制度」の生みの親で、それを日本企業に広めた立役者であり"権威"とされる著者が、「成果主義」的な賃金制度は時代の流れであるとしながらも、その中での「職能資格制度」の在り方やリニューアル方法を示した本。
 「職能資格制度」の歴史や果たして来た役割を知ることが出来、また「職能資格制度」導入に際しての入門手引書としても読めます。

 ただし、例えば、社員格付け制度がまだ無いある企業において新たに何らかの等級制度を導入する場合に、今後の人事制度が「人基準」から「仕事基準」へ移行していくことがほぼ市場の要請でもあると考えれば、わざわざ今から新たに「職能資格制度」を入れることには、それなりの根拠と注意が必要かと思います。
 
 本書で示されている「職能資格要件書」やそれを作成するための「職務調査」の手法なども、1人1人の課業やそれをこなすために求められる職能がある程度固定的・階層的に捉えることが可能であることが前提で、本書の初版は'75年ですが、産業構造等の変化などにより、必ずしもこうしたやり方があてはめにくい業態が多くなっているのでは...。

 今世紀に入っても「職能資格制度」を中心に据えた本を書いているのは著者ぐらいで、「日本型成果主義」の条件を「人基準」とし「職能資格制度」は堅持すべきだという著者の主張はむしろユニーク(時代に逆行的?)なものであるという印象も受けます。

 ただし個人的には、最初から全否定することも、こうでなければならないと決め込むことも、ともに人事制度改革の選択肢の幅を狭めてしまうことになるのではないかと思います(やはり"一般論"的には「職能資格制度」は時代に逆行していると思うが、中小企業には様々な業態があるので、今在る制度を全面改定するのがいいのかどうかは最終的には個別に判断せざるを得ない)。

 「成果主義」を導入しても「職能資格制度」を残している企業は多くあり、それは移行期における激変緩和措置であったりするばかりでなく、"部分的"にはメリットがある場合も少なからずあることに一応は留意すべきでしょう。

 本書では「人基準=能力主義、仕事基準=成果主義」という枠組みが前提となっていますが、等級制度を軸に考えればわかるように、「仕事基準」は「職務・役割主義」であるのが正しく、「成果主義」はむしろ「能力主義(顕在能力)」に近いのではないかと思います。

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「職能給」を存続させながら、実質的には「職務・成果主義」を実現。

役割能力等級制度の考え方・進め方6.jpg役割能力.jpg
役割能力等級制度の考え方・進め方』['03年]

 役割能力等級制度」という考え方を軸に、等級制度だけでなく、評価制度、賃金制度(基本給・手当・業績連動賞与・年俸制・退職金制度)から昇進管理、能力開発、人事面接までをトータルな人事制度とみなして、それぞれについて、理念と実務の両方の観点から、最近の動向や事例にも触れながらわかりやすく解説しています。

 中核となる「役割能力等級制度」とは、
  ・等級数が多すぎて年功的な運用に陥りがちな従来型の職能資格等級を改め、
  ・等級区分を職能と役割を複合した観点から4〜5のクラスに絞込み、
  ・賃金管理の運用上、必要に応じて各クラスの中でさらに等級区分を行うものです。
 (各クラス・等級の「役割能力基準書」は、一般職は「職能基準」で、管理監督職は「役割基準」で作成する。)

 また本書では、基本給制度において、
  ・「職能給+役割手当」
  ・「職能給+役割給」
 というタイプを中心に提唱していますが、
  ・「職能給」を範囲給(等級別上下限額を決める)として厳密運用するとともに、
  ・前者の「役割手当」は、役職自体同じでも責任度によって金額が異なるものとし、
  ・後者の「役割給」は、職能給と同ウェイトの金額的比重を持つとともに、評価の変動によって毎回洗い替えされるものとしています。

 こうした制度および運用であれば、
  ・「職能給」を存続させながら、実質的には「職務・成果主義」の処遇が実現可能で、さらには
  ・「役割」重視の考え方を打ち出しながらも、成長過程にある一般職に対しては能力の伸長に応じた処遇が可能であるため、
  ・移行が比較的容易なうえに、従業員にも受け入れられやすい提案ではないかと思います。
 
 事業主にも読みやすい構成と文章で、かつ、人事制度のトレンドを踏まえながらも、小さな会社でも導入しやすいオリジナルな機軸を示した良書だと思います。

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執行役員制度導入にあたってまず何を決めるべきかがわかる。

執行役員制度―導入のための理論と実務.jpg執行役員制度―導入のための理論と実務』('03年改定版) 浜辺陽一郎 (はまべ・よういちろう).jpg 浜辺 陽一郎 氏(弁護士・早稲田大学大学院法務研究科教授)

030.gif 執行役員制度について、執行役との違いも含めた法的な位置づけから、規程の策定など導入の実務までが、詳しくわかりやすく書かれています。
 初版が'99年で、その後'00年、'03年と改版されていますが、当初から貫かれている本書の特徴として、執行役員とは委任契約なのか雇用契約なのかを先ず論じ、結局は導入する会社によって自由に定められるものであるとしていることがあげられるかと思います。
 そして、それぞれを採用した場合のメリット・デメリットを示し、以降に続く制度や規程の作り方、選任や解任、報酬や退職金の問題もすべて、委任型・雇用型・混合型に区分してそれぞれ説明していることにあります。

 わかりやすく言えば、「委任型」とは取締役に近いもので、就任するときに社員身分を喪失するため、退任したら役員と同じで後が無い(顧問や参与という形で残ることは考えられますが)もので、「雇用型」は社員としての雇用身分を維持しながらの就任となるため、退任しても原則として一般社員の身分に復帰するものです。
 
 執行役員制度を導入するにあたってまず決めること、それは委任契約とするか、雇用契約とするか、それとも双方が混合した契約とするかを明確にすること、それによって制度の意味合いから作り方まで大きく違ってくるということがよくわかる良書です。

 【1999年初版/2000年第2版/2003年第3版/2008年第4版】

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主張が明確で、戦略と実務の両面にわたってバランスのとれた本。

成果主義の人事・報酬戦略.jpg成果主義の人事・報酬戦略.jpg
成果主義の人事・報酬戦略―いかにして事業の成功につなげるか』('02年/ダイヤモンド社)

compensation.jpg 本書では、成果主義の人事・報酬システムをいかにして成功させるかということを「戦略」的視点から捉え、業績と人件費のバランスを図り、適正総額人件費の枠内で報酬を支払うためには、資格・等級はどうすべきか、賞与や月例給与はどうすべきか、業績評価はどう改革すべきかなどについて、具体的な制度策定や運用に踏み込んで述べられています。

 成果主義人事や「業績」「成果」といったものに対する考え方が明確に示されていて、「業績評価」を徹底して報酬に反映させるという考え方で貫かれており、能力評価は成果主義人事戦略の邪魔でしかないと言い切っています。

 一方で、昇進・昇格など「任免評価」は、業績評価と別のアセスメント評価とし、事業戦略の将来を見据えた未来志向の評価であるべきだとし、また昇進に代わる価値も有能な社員を失わないためには必要であると。

 「人件費」ではなく「総額人件費」という考え方のもとに、適正総額人件費、適正労働分配率を維持することの重要性を理論的に解明し、「賃金」ではなく「報酬」という考え方に沿って、月例給・賞与・退職金における報酬性を高めることを説いています。

 昇給査定の評価項目に「能力評価(理解力・判断力...)」「情意評価(積極性・協調性...)」などといった項目がまだ入っている企業の担当者には、パラダイム変換を促す本かも知れません。

 個人的にも、「上司と部下が面接で目標を決めると失敗する」とか「年俸制は経営者を選ぶ」といった著者の主張の論拠などは示唆に富むものだったし(著者の言う「年俸制」とは賞与固定型の「完全年俸制」のことだと思いますが)、戦略と実務の両面にわたってバランスのとれた本だと思います。

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日本型職務・成果主義を具体的に提唱。賃金コンサルを目指す方に最適。

I職務・成果主義による新賃金・人事制度改革マニュアル24.JPGふじ.jpg職務・成果主義による新 賃金・人事制度改革マニュアル』['02年]

force_03.jpg 本書は、アメリカの賃金・人事制度の特長から積極的に学びつつ、日本的な伝統を生かした日本型職務・成果主義を、豊富なコンサルティング経験に基づいて具体的に提唱しています。
 例えば、アメリカの伝統的なジョブ・グレード制度の問題点と90年代以降のブロードバンディングへの流れを分析しつつ、日本型の職務グレード制度を提唱していますが、その辺りの解説が、系統立っていて、実に理路整然としていると思いました。
 また、コンピテンシーやアカウンタビリティという米国から輸入された概念についても平易に解説しています。

 評価制度について、絶対評価法の一種である「成果認定制度」、つまり目標管理の項目と評価の項目の関係を1対1対応で捉えるのではなく、もっと柔軟性を持たせるものを提案しているのは、成果主義導入に際しての「目標」と「評価」の関係の問題を乗り越える良い方法ではないかと思いました(総合商社などで既に導入している企業もある)。  

 日本企業において、評価制度にコンピテンシーやアカウンタビリティを採り入れる場合には、業績評価、職務遂行評価(アカウンタビリティ)、行動プロセス評価(コンピテンシー)という位置づけとなるであろうという導きは、わかりやすさと実務面での説得力があります。 
 職種が多いために職種別の職務要件書が作成されていない場合は、職務遂行評価を行動プロセス評価の一項目としても差し支えないとするなど、理論的整合性と実効性、導入実現性を兼ね備えているという印象を持ちました。

 日本の賞与制度とアメリカのボーナス制度を対比させつつ、業績・成果反映型の賞与制度と併せて、インセンティブ・ボーナスやペイ・バック制度を提唱しており、ストック・オプションや年俸制の解説も、パターン別の説明によってわかりやすいものとなっているほか、法規上の留意すべきポイントがしっかり押さえられています。 
 また、ポイント制退職金制度や退職金前払い制度と併せて、確定拠出年金などの新企業年金への移行問題も丁寧に扱っています。

 日本型職務・成果主義をトータルな人事制度としていかに実現するかについてキッチリ書かれた数少ない本で、実務家や賃金コンサルを目指す方にはかなり使える1冊だと思います。

《読書MEMO》
●経営理念(58-60p)...経営理念は社会的使命(ミッション)、企業理念は経営姿勢・原則(プリンシプル)
 経営理念→行動理念、企業理念→基本理念が導き出される
 ビジョン=中長期の企業目標、ビジョン→経営戦略が導き出される
●成果認定法(136p)...
 1.業務目標に対する成果【目標管理】
 2.職務遂行レベルの達成度(≒【アカウンタビリティ】)→3.に含めても可
 3.行動プロセスの評価(≒【コンピテンシー】)

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リサーチャー的視点で、先駆となった人事賃金制度をわかりやすく紹介。

これからの人事がわかる本.jpgこれからの人事がわかる本~1.JPG 『これからの人事がわかる本―ベアも定期昇給もなくなる!?正社員がいらなくなる!? (PHPビジネス選書)』PHP研究所

これからの人事.bmp 本書前書きにもありますが、人事制度の中でも特に賃金制度(報酬政策)の紹介に重点を置いて書かれています。

  読者層として若手・中堅サラリーマンを意識したということで、1項目3ページ単位で1つの話題をまとめるよう工夫されていて、専門用語の使用を最小限に抑えた文章と見やすい図表により分かりやすい内容となっています。

 人事賃金制度の新しい動きを追うだけでなく、「成果主義とのつきあい方」という章を設け、その受け止め方を考えるヒントを与えていますが、同調ないし反発する前にまず分析ありきという冷静なスタンスです。

 '00年の出版ですが、当時話題となった
 ◆〈日興證券〉〈住友商事〉〈博報堂〉の賃金制度
 ◆〈デンソー〉や〈ぴあ〉の評価制度
 ◆〈パソナ〉のカフェテリアプラン
 ◆〈ベネッセ〉の自己選択型能力開発制度
 ◆〈コニカ〉のポイント制退職金制度
 ◆〈コマツ〉の退職金前払い制度
 などが要点を絞って紹介されていて、その後これら制度に追随する企業が幾つか出たことを見ても、人事賃金制度の先行事例に対する著者の慧眼が窺えるかと思います。

 そうした制度やトレンドの良し悪し、つまり価値判断にはさほど踏み込まないので、何だか立場がハッキリしないなあという印象を持つ読者はいるかも知れませんが、新任の役員や人事担当者が人事・賃金制度の動向を大まかに把握したいという場合などには、各制度のポイントを押さえた良い本だと思いました。

 著者は、総合労働研究所勤務を経て'89年に独立、以後、雇用労働分野に関する取材記事・論説記事を「労政時報」「賃金実務」等の専門誌に寄稿する傍ら、調査・評論・講演活動を行っている人ですが、「PANフィールド・リサーチ」の所長(本書執筆当時)ということで(「PAN」は「鍋」、「フィールド」は「田」かからとったと著者の講演で聞いた)、その基本的立場は、人事制度のリサーチャー、トレンドウォッチャーであるとみてよいかと思います。

《読書MEMO》
●日経連の雇用ポートフォリオ
 1長期蓄積能力活用型グループ
 2高度専門能力活用型グループ
 3雇用柔軟型グループ
●複数賃率表(洗い替え方式)...毎年1号昇号するが同一レンジ内では一定号までしかなく、上限にいくとSからDの範囲で評価によっての塗り替えのみ(62p)
●賃金制度の3つのタイプ...職能給・職務給・成果給(または業績給)(79p)
●主な事例...日興證券・博報堂・ぴあ(ぴあアイデンティティーバリュー)・ベネッセ(能力開発ポイント)・コマツ

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本書はインディペンダント・コントラクターの「具体的」提唱の先駆け。

「人件費の構造改革」で会社は蘇る7.JPG「人件費の構造改革」で会社は蘇る.jpg 『「人件費の構造改革」で会社は蘇る―変動人件費を定着させる新しい雇用形態へのチャレンジ

契約.jpg 著者は本書において、人件費の構造改革の要を「人件費の変動費化」に置き、契約社員制度、社内請負契約、社内自立法人化、戦略的配置転換、戦略別会社設立などを提唱しています。
 これらは主に雇用形態に関するものですが、そのメリットや法的な立場の違いについてわかりやすくまとめ、営業委託契約書の見本なども載せています。

 インディペンダント・コントラクターのような概念がまだそれほど普及していなかった(あるいは一部の特殊な業態においてしか成り立たないものであると思われていた)'00年の出版であることを考えると、先駆性と具体性に優れ、今もって役立つ本だと思います。

 同時に、こうした多様な雇用の形態や新たな事業体を模索することが、大企業に限って求められている人材戦略・事業戦略ではなく、中小企業の経営者・管理者も、従来の固定概念を除いて取り組むべき問題であることを本書は示唆しています。

 著者は九州地方を中心に、主に中小企業を対象とした経営指導を行ってきた若手コンサルタントですが、「エネルギーをかけても変わらない人材に期待はできない」といった発言には過激さも感じるかも知れませんが(同じことはGEのジャック・ウェルチも言っていますが)、「経営者の善し悪しは、カネの使い方とプライベートの常態でわかる」などの言葉とともに、著者自らのコンサル経験を通して得られた教訓であることがわかるだけに、説得力があります。

《読書MEMO》
●これからの雇用形態...
 ・1.契約社員(94p)
 ・2.社内請負契約-契約社員との違いは雇用ではなく個人事業主(103p)
 ・3.社内自立法人化-グループ会社の法人経営者になる(123p)
●経営者の善し悪しは、カネの使い方とプライベートの状態でわかる(160p)
●小手先のリストラは、大きな時間の損失になる(230p)

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「基本給」パターン14例を具体例をあげて丁寧に解説。実践的で密度の濃い1冊。

「仕事給時代」の人事・賃金システム.jpg仕事給時代」の人事・賃金システム1.JPG「仕事給時代」の人事・賃金システム-新しい職能・業績給の実践手法』〔'00年/ダイヤモンド社〕

仕事給.bmp 本書では、人事・賃金制度のこれからを展望したうえで(第1章)、人事制度を策定するにあたっては、まず仕事をベースとする「職務基準」でいくのか能力をベースとする「職能基準」でいくのか、両者をミックスさせたものにするかを決めなければならないとし、それぞれの等級制度の具体例で説明しています(第2章)。

 さらに、賃金制度における「基本給」の構築においても、年功給から仕事給への移行を前提に、「職能給」「職務給」または「職務・職能給」をその中心に据えるべきとし(本書ではこれらを「仕事給」という概念で捉えている)、併存型を中心に「基本給」のパターンを14例あげています(第3章)。 

 「基本給」パターン14例の内訳は、「年齢給+職能給」が3つ、「職務給+職能給」が2つ、「職務・職能給」が2つ、「職務給+職務遂行給(業績給)」が2つ、職掌・職群により区分けした「混合型」が3つ、「業績給一本型」が1つ、「全社員年俸制」1つとなっています。

 以降(第4章〜第8章)、それぞれの「基本給」パターンを解説していますが、説明と企業での採用事例が密接に結びつき、具体性のある内容になっています(むしろ先行企業で採用されている事例などから14例を抽出したという印象で、この数の多さが本書の最大の特長だと思います)。 
 
 最初は基本パターンだけでこんなにあるのかという印象も受けますが、例えば同じ「職務給+職能給」型でも、職務給を固定的なものにするか変動的要素を入れるかで、制度の意味合いが異なってくることが、事例の解説などを通してよくわかり、これだけのパターンをあげていることにそれなりの意味があることが理解できます。

 「基本給」制度だけでなく、業績賞与制度(第9章)や新しいタイプの退職金制度(第10章〜第12章)、65歳継続雇用における人事賃金制度(第13章)、確定拠出年金制度(第14章)にも触れられていて、理解の助けとなる図表や資料も豊富で、賃金制度を策定する側から見て、実践的で密度の濃い1冊であると言えます。

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人材コンサルティング会社による本。たいへん実践的かつ戦略的だと思えた。

実践Q&A 戦略人材マネジメント4.JPG実践Q&A 戦略人材マネジメント.jpg 
実践Q&A 戦略人材マネジメント』(2000/04 東洋経済新報社)

business plans that they create will.bmp 戦略人材コンサルのウイリアムマーサー社(現マーサーヒューマンリソースコンサルティング社)による本書は、SHRM(戦略的人材マネジメント)がテーマですが、制度に踏み込んで書かれているため、書名どおり実践的です。

 それは、本書の95項目のQ&Aのうち、資格制度改革が27項目、報酬制度改革が12項目、評価制度改革が13項目、福利厚生・退職金年金制度が10項目という具合に、「制度」関連の項目が占める割合の高さにも表れています。
 
 ただし、「報酬制度はなぜ単純化した方が良いのか」「報酬レンジによって社員にどのようなメッセージを伝えるのか」「昇給マトリックスによって社員にどのようなメッセージを伝えるか」などといった設問の立て方からも窺えるように、制度について語る場合も常に戦略的思考をバックに据えているのがわかります。  
 このことは、制度策定において、大変重要なことであると思います(バックに戦略がなければ、制度のための制度になってしまいます)。 
  
 本書では、資格制度については基本的には"役割主義"を提唱しており、「役割評価」においてその評価基準となる6つのファクターを示し、その1つ1つについて1項ずつ(見開き2ページ)を割いて説明してます。  
 また、評価の核になる「コンピタンシー」についても、概念定義や測定方法を詳説し、"コンピタンシー・モデルを作るために必要なコンピタンシー"などといった項目もあり、評価におけるコンピタンシー以外の評価要素の選定とそれらとの組み合わせ方(一般的には目標管理制度との組み合わせとなる)、目標管理制度の機能のさせ方についても述べられています。  
 こうした説明の細やかさにも、「役割評価」「コンピタンシー」「目標管理制度」などが、目的概念の把握が充分でないまま制度策定がスタートした場合に、「導入すること」自体が目的化し、戦略的意図の伴わないのものになってしまう―これではでは意味が無いのだという本書のメッセージが感じ取れます。
 
 人事制度改革に取り組んでいる実務者にとってすぐに役立つばかりでなく、SHRM(戦略的人材マネジメント)に携わるすべての人にとって、戦略的HRM理論を概念整理する助けにもなるのではないかと思いました。

《読書MEMO》
●BSC(バランスドスコアカード)... 1.財務の視点 2.顧客の視点 3.社内ビジネスプロセスの視点 4.学習と成長の視点-企業価値向上へ向けての戦略的ストーリーを描くことを意図している(66p)
●役割評価の6つのファクター...◆知識.◆対人・マネジメントスキル◆分析・判断力◆相違・気転◆意思決定力 ◆影響力
●報酬制度は何故単純化した方が良いのか(112p)
●報酬レンジによって社員にどのようなメッセージを伝えるのか(116p)
●昇給マトリクスによって社員にどのようなメッセージを伝えるのか(120p)

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執行役員と取締役は兼務すべきでない。中小企業に向けた執行役員制制度の提唱は示唆に富む。

こんなに会社が変わる執行役員制4.JPGこんなに会社が変わる執行役員制.jpgこんなに会社が変わる執行役員制-即実行できる中堅・中小企業の役員・管理職改革』〔'99年〕

執行役員と取締役.jpg 執行役員制=大企業のものというイメージがある中で、中堅・中小企業に対する経営改革、取締役制度改革の一環としての執行役員制を、そのメリットや形態と併せて提唱しています。

 著者の提唱する執行役員制における〈執行役員〉とは米国のオフィサーに近いもので、〈取締役〉(ディレクター)は本来的な役割や求められる資質が〈執行役員〉とまったく違うことをわかりやすく説明し(日本企業の従来の〈取締役〉はオフィサーに近い)、社員の「上がり」は取締役でなく執行役員とすべきであるとしています。

 この本の出版当時('99年)、あいまいな「日本型」執行役員制の導入が多くの企業で見られましたが、著者の主張は明快で、〈執行役員〉と〈取締役〉は兼務しない方がいいい と言っています。
 
 確かに、オーナー会社などで、会社資産の処分など経営に関する重大な決定に際して実質的な発言権の無い取締役が役員会に出ていたり、取締役でありながら経営計画の策定にほとんど関与しておらず現業部門の管理・監督に明け暮れている人がいたりするわけで、この人たちは本来は〈取締役〉であるより〈執行役員〉であるべきでしょう。

 取締役・執行役員・管理職のそれぞれの評価のあり方にも踏み込んで書かれています。
 すでに執行役員にした社員に対し今更のように能力評価をしている会社もある(その必要があるのならば、彼らは〈執行役員〉ではなく、それ以前の〈社員〉であるべき)、そうした状況を見ると、今日でも示唆に富む本だと思います。

《読書MEMO》
●執行役員制は3点セットで威力を発揮(人員削減、社内分社化・カンパニー制、取締役会改革)(24p)
●役員はexecutive、その内、取締役はdirector、執行役員はofficer(28p)
●社長と代表取締役は違う-代取は商法上の名代にすぎない(44p)
●事業部制(P/Lのみ)とカンパニー制(B/Sも)は違う(49p)
●米国ではプレジデントは取締役会が任命する執行役員の筆頭のこと(通常CEOを兼ねる)(98p)
●執行役員はアカウンタビリティ・リスポンスビリティで評価すべきで、能力があるとか積極性があるとかで評価すべきではない

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中小企業向けだが、賃金・人事に関する筋(すじ)論が貫かれている。

経営が苦しいときの給料の払い方.jpg 『経営が苦しいときの給料の払い方―解雇を避けて企業と社員を守るマル秘テクニック』 (1999/06 東洋経済新報社)

 中小企業に対する豊富なコンサルティング経験に裏づけされた著者の、事業主に対する適切なアドバイスには定評があり、本書においても、オーナー事業主からよく出てきそうな無茶な(?)内容の相談に対し、時に優しく時に厳しく応えています。

 私見ですが、本書は賃金の制度や管理そのものについては、中小企業向けに何か特別の提案をしているわけでも、また特別の許容をしているわけでもありません。
 「解雇を避けて企業と社員を守る」という本書サブタイトルを含め、これらに貫かれているのは賃金・人事に関する筋論だと思います。

 なお、本書で述べられている人件費実績の個別管理は、中小企業における人件費管理の必須事項であると思います。
 全面的に賛成するとともに、人件費予算の管理も同じ考え方でやるべきだと思います(どちらかというと「予算」の方が先ではないか)。

《読書MEMO》
●会長職の父に役員報酬を払いながら、赤字で悩んでいる→会長は無給・年金を貰うべき
●歩合給にしたい→まず業績型賞与に
●管理職手当をカットしたい→残業のつくスタッフとの逆転が起きる
●賃下げしたいが退職金に響く→そんな退職金規程は早急に改定すべき
●賞与をゼロにしたい→年間2ヶ月は確保すべき、どうしてもというなら...
●退職金制度なんて古いのでは→中小企業では「老後資金」ではなく「手切れ金」
●一方的な賃下げは合法か?→同意ナシの引き下げが認められたのはスカンジナビア航空事件ぐらい

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論理的でありながら実務的。入手しやすく、読んで損しない。

年俸制の実際4.JPG宮本 眞成 『年俸制の実際』.jpg 19916538.jpg年俸制の実際』〔'97年〕

force_02.jpg 年俸制は、大企業の管理職層を中心に'90年代中盤から2000年にかけて一気に導入が進みましたが、年俸制にテーマを絞った実務者向けの書籍は意外に少ないのではないかと思います。

 それでも導入ブームの際に経済団体などから何冊か概論的なもの出版され、またその後も事例集などが出ましたが、値が張るものが多いのが難点です。それに対してより一般向けのものは、コンサルタントが独自の応用例をいきなり開示する技術論的なものであったりします。

 本書は、年俸制とは何かということから説き起こしつつ、制度の設計・導入や運用の実務(役割評価や目標管理、達成度評価など)のポイントがわかりやすくまとめられているのではないかと思います。

 導入のためにどういった環境整備が必要か(等級制度、評価制度、社内体制の整備など)に章を割くとともに、「将来展望」の章において、年俸制を体系的に分類し、分類にそった形で先行企業の事例を紹介するなど、理論的でありながら実務的であるのが本書の特徴でしょうか。

 著者は、日本IBMの人事管理部長(執筆時)ですが、日経連(現・日本経団連)の職務分析センター(現・人事賃金センター)の「年俸制研究部会」の座長を務めていたこともある人です。ですから、著者は外資系企業の人事部長ですが、この本の提案部分において示されているのは「日本型年俸制」です。

 '97年の出版ですが、新書版で購入できる「年俸制」に的を絞った本は、本書以外にはほとんど無い状態で、その点本書は実務者が概念整理や導入検討をする際には手にしやすい本であり、また読んでおいて損は無い本だと思います。

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職務主義一本から混合型へ"変節"? コンサルタントは機を見るに敏でなければならないのか?

10年後の人事928.JPG10年後の人事―成果主義はどう変わる?.jpg  舞田 竜宣.jpg 舞田竜宣 氏
10年後の人事―成果主義はどう変わる?』 ['05年/日本経団連出版]

10年後の人事p.bmp "10年後"と言うよりは、現在の人事制度の方向性とこれからの人事部のあり方といったところでしょうか。
 資格等級制度、報酬制度、評価、採用・育成、人事機能などについて書かれています。
 評価制度におけるコンピテンシーの位置づけや採用・育成におけるA&R戦略は、著者(現在はヒューイット・アソシエイツ株式会社社長)や著者が以前に属した戦略コンサルティングのマーサー社が書籍や専門誌で既に発表しているものとほぼ同じで、本書の中では「非金銭的報酬」について2章分を割いて説明しているのがひとつの特徴でしょうか。この部分は、ある程度参考になりました。

 個人的には資格等級制度において、職能等級と職務等級の混合型およびブロードバンドとナローバンドの組み合わせを提唱しているのに少し驚きました。
 マーサー社の最近までの主張は、職務主義(役割主義)一本のブロードバンドだったはず。これも"成果主義の揺り戻し"なのか。コンサルタントは機を見るに敏でなければならないのか?
 マーサー社の指導のもとに何とか職能資格制度を廃して職務主義に移行した結果、社内が少しギスギスしている会社があったとしたら、次はどうすればいいのだろうか?

 「非金銭的報酬の応用法」については、同社がこれまでにも提唱している"優秀人材の囲い込み"戦略の流れだと思いますが、本書ではより具体的ではあるものの、賃金や役職以外は極めて平等主義的な処遇をすることで、"そこそこの社員"を含むより大多数のモチベーションを維持してきた日本の企業風土の中で、どこまでこうした"仕掛け"が拡がっていけるのか未知数の部分も大きいと思います。
 とは言え、金銭的報酬での処遇には自ずと限界があるわけで、今後企業ごとに、自社に合ったいろいろな工夫が求められるようになるには違いないでしょう。

 むしろ評価のところで述べられているコンピテンシーとコーチングの結合(コンピテンシー・コーチング)という考え方に共鳴を覚えました。
 コーチングについてのノウハウが書かれた本は巷にあふれていますが、「How」の前に「What」があるべきであるという主張には頷かされ、今後の議論の深化を期待したいと思いました。

《読書MEMO》
●非金銭的報酬(71p)
A acknowledgement(感謝)/B balance of work/life (オンとオフのバランス)/C culture(組織文化)/D development (成長機会)/E environment(労働環境)
● 非金銭的報酬の応用法(73p)...すぐれた業績を上げた、またはすぐれた発明をした研究開発者に対し、
 1.予算報酬...さらなる研究開発のための自由に使える予算を与える
 2.環境報酬...望みどおりの設備や環境を整備する
 3.テーマ報酬...取り組む研究開発テーマを自由に選ぶ権利を与える
 4.時間報酬...自由な活動に使える時間や充電のための長期休暇を与える
 5.社会的報酬...トップの感謝や周囲による賞賛、表彰、特別な呼称の授与、記念の刻銘など(心理的報酬)
●目標管理(115p)
(「目標管理」はもともと、自分で考えて目標を立てるという発想に基づいているが、「目標参画」の理念は必ずしも正しくないことが、その後の行動心理学・組織心理学の研究でわかってきた。)
目標に対して社員がどれだけ情熱を燃やすかは、その目標にどれだけ納得感が得られるか、その目標をどれだけ受容できるかにかかっている。誰が目標を設定するかは一義的な要素ではない。
●コンピテンシー→プロセス評価→コーチング→コンピテンシー・コーチング(121p)
プロセス評価とは、処遇の決定のためだけではなく、教育的な意味も多分にあり、今日の成果に加えて将来の成果もめざす意味もある。→コンピテンシーを使った日々の教育が必要→コーチングにおける「What」の明確化→それぞれの職務におけるコンピテンシーをコーングの技法を使って日々、上司が部下に指導する

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