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「社内出世」と「プロとして生きること」の両方を論じている分、インパクトに欠けるか。

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出世する人は人事評価を気にしない (日経プレミアシリーズ)

 本書では、冒頭で、経営層に出世した人たちの特徴として、自分の人事評価を気にしていなかったことを挙げています。そして、その背景には彼らに共通した行動があり、それを整理する試みが本書であるとのことです。

 企業内では、目の前の仕事で結果を出していてもある日昇進できなくなることがあり、一方で、それまで評価の低かった人がいきなり出世することがあるとしています。なぜそうしたことが起きるのかというと、一般社員層の間の昇進基準は、今担当している仕事での評価結果に基づくのに対し、管理職になるときには、別の昇進基準が用いられる――つまり、上位者から「使われる側」でいる間は「競争」が基本だが、それ以上の「使う側」になるには「選ばれる」ルールが変わる、すなわち互いに選び合う立場になる「協奏」になるタイミングがあると指摘しています。

 一般社員の間は「卒業基準」で、課長からは「入学基準」となり、「職務主義」のもとでは、課長として優秀でも部長にはなれないといった本書の指摘は、一般のビジネスパーソン(とりわけ若い人たち)にとっては新たな知見として受け止められる面もあるかもしれませんが、人事パーソンにとってはある種コモンセンスに近いものではないでしょうか。ただし、ケース・ストーリーも交え、そうしたことが分かりやすく書かれているため、おさらい的に読むにはいいかもしれません。

 課長の手前までは「できる人」が出世するが、さらに上にいくには「できる」だけでよいのか、管理職止まりの人と経営陣になる人は何が違うのかといったことが、会社側のアセスメント基準として、また、ビジネスパーソンに対する啓発的示唆として説かれています。因みに、「出世する人」の行動パターンとして著者は、第一につながりを大事にしていること、第二に質問を繰り返していること、を挙げています。

 さらに、40歳からの10年間、課長時代の働き方がその後の人生を決定するとして、40歳は第二のキャリアの出発点であるとし、第二のスタートを切るにあたって自ら人的資本の棚卸しを行い、キャリアの再設計を行うことを提唱しています。

 その上で、40歳からのキャリアの選択肢として、社内プロフェッショナルになるという生き方を提唱しています。併せて、企業におけるプロフェッショナルの処遇の在り方が、本来の専門性を評価する方向に変わってきていることも指摘しています。ただし、プロフェッショナルとして認められるには高い評価を得る必要があり、では、評価を意識せずに専門性を認められるには、組織でどう働けばよいかといったことを、最終章にかけて指南しています。

 そして、プロフェッショナルとして認められるには、「明確な専門性がある」ことが第一条件であり、プロフェッショナルを目指す人なら、この条件はクリアしやすいだろうが、テクニックが求められるのは第二の条件の「ビジネスモデルに貢献する」ことであるとしています。

 以上の流れでも分かるように、途中までは「出世する」にはどうすればよいかということが書かれていたのが、途中から、組織の中でプロフェッショナルとして生きるにはどうすればよいか、言い換えれば、部下のいない管理職としての地位にあり続けるにはどうすればよいかという話に変わってきているように思いました。

 本書では、「出世」という言葉を社内での昇進のことだけではなく、起業して成功したり、転職して新たなキャリアやさらに高いポジションを得ることも含めて指しているとのことです。ならば、結局、本書の本来の趣旨は、社内外に関わらずプロフェッショナルを目指せということになるのでしょうか。

 プロフェッショナルとは、自分で自分の仕事に評価を下す人と解すれば、必ずしもタイトルから大きく外れるものではないともとれますが、「出世する人は―」というタイトルは間違いなくアイキャッチになっていると言えるでしょう。

 若年層向けの啓発書としてはそう悪くないと思いました。ただ、結局、前半部分は基本的に社内での出世について書かれていて、「それが叶わなくなった場合」に備えて今のうちにどうしておけばよいかということが後半部分に書かれているような気もしました。

 これでは、「とりあえず社長レースに参加しておこう」という"従来型サラリーマン"の発想を変えるものではなく、「本旨」であるべきところの後半部分が前半部分の「保険」に思えてしまう分、インパクトは弱かったように思います(ゼネラリストを目指す人、スペシャリストを目指す人、ゼネラリストを目指してダメだったらスペシャリストを目指す人の全てを読者ターゲットとして取り込もうとした?従来型サラリーマン"マジョリティ"との相性は良さそうだけれど)。

《読書MEMO》
●目次
第1章 評価が低いあの人が、なぜ出世するのか――「使う側」「使われる側」の壁
第2章 課長手前までは「できる人」が出世する――組織における人事評価と昇進のルール
第3章 役員に上がるヒントは、ダイエット本の中にある――経営層に出世する人たち
第4章 採用試験の本番は40歳から始まる――課長ポストからのキャリアの見直し
第5章 飲みに行く相手にあなたの価値は表れる――第二のキャリアを設計する
第6章 レースの外で、居場所を確保する方法――組織内プロフェッショナルという生き残り方
第7章 「求められる人」であり続けるために――会社の外にあるキャリア
おわりに 「あしたの人事の話をしよう」

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エグゼンプションという切り口で「日本型雇用」を変える「構造」を提案している。

いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる.jpg                         雇用の常識 決着版.jpg
いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる (PHP新書)』['14年]『雇用の常識 決着版: 「本当に見えるウソ」 (ちくま文庫)』['12年]

 2009年に刊行された『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(プレジデント社、'12年/ちくま文庫)が注目され、その後も『「若アベノミクスで「雇用」はどうなる.jpg者はかわいそう」論のウソ』('10年/扶桑社新書)、『就職、絶望期』('11年/扶桑社新書)、『女子のキャリア―"男社会"のしくみ、教えます』('12年/ちくまプリマー新書)、『日本で働くのは本当に損なのか』('13年/PHPビジネス新書)などを多くの著書を発表している著者(元リクルート ワークス研究所勤務)による本です(先に取り上げた(エントリー№2284)経済学者の安藤至大氏と「ニコ生」に出ていたこともあった)。この他にもいくつもの著書があってそれらの内容が重複しているきらいが無きしもあらずですが、 本書は単独でそれなりに読みでがありました。

「ニコ生×BLOGOS」"アベノミクスで「雇用」はどうなる"(2013年)海老原嗣生氏&安藤至大氏(経済学者)

 ホワイトカラーエグゼンプションを巡る議論が再び活発化している昨今ですが、残業代の不支給と、その対象となる年収について議論が費やされてきたという経緯は、これまでとあまり変わっていないようです。これについて、本書では、今回のエグゼンプション論議は、「定期昇給・昇級・残業代の廃止」という経営都合の日本型の変更のみが念頭に置かれているとしています。

 そして、そこには、もう一つの日本型の問題――残業代を払い続け、定期昇給を維持する分、長時間労働や単身赴任で疲弊し、働く人のキャリアや家庭生活の面にもマイナス寄与しているという問題――をも取り除くという視点が欠如しているといいます。つまり、エグゼンプションを契機として、給与・生活・キャリアの三位一体の改革をすべきであるとしています。

 著者は、エグゼンプションの本質に迫ると、多くの企業に根ざす「日本型雇用」の綻(ほころ)びが見えてくるといいます。例えば、日本企業はこれまで全員を幹部候補として採用し、年功昇給によって処遇してきたため、企業の熟年非役職者が高収入となって、そのため転職が困難になっているとしています。そこで、エグゼンプション導入を機に、「同一職務=同一給与=同一査定」「職務の自律性・固定制」「習熟に応じた時短」といった「欧米型」雇用の本質も、同時に実現すべきであるとしています。

 但しし、すべての階層を一時(いちどき)に「欧米型」に移行させるのではなく、「欧米型雇用」と「日本型雇用」の強み・弱みをそれぞれ吟味し、日本人と欧米人の「仕事観」の違いや、欧米企業における人事異動のベースとなっている「ポスト雇用」という考え方を分かりやすく説明したうえで、まず、習熟を積んだキャリア中盤期以降を「欧米型」のポスト雇用に切り替えていくことを提案しています。

 エグゼンプションは、その「日本型」と「欧米型」の"接ぎ木"のつなぎ目として機能するものであり、キャリア中盤期以降は、時間管理ではなく成果見合いの職務給制となる一方、エグゼンプション導入の際には、労働時間のインターバル規制や異動・配転の事前同意制、休日の半日取得などの措置がとられるべきであるとしています。ここには、エグゼンプションにまつわる「制約」によって、「全員が階段を昇る」日本型の人事管理を終わらせるということも、狙いとして込められているようです。

 エグゼンプションという切り口で「日本型雇用」を変える(終わらせる)ことを提案していて、しかも、従来よくあった「日本型全否定」ではなく「途中まで日本型肯定」のハイブリッド型になっているのが興味深く、また現実味を感じさせるところですが、入り口が日本型のままであることによって生じる諸問題についての解決策も提示されています。

 個人的には、論旨が「中高年問題」にターゲティングされていることを強く感じましたが、つまるところ、「日本型雇用」の最大の問題はそこにあるということになるのでしょうか。エグゼンプションというテーマからすると、業態などによっても読者によって受け止め方の違いはあるかもしれません。但し、「ジョブ型社員」「限定社員」といった最近話題の人事テーマに関して、従来の議論から踏み込んで具体的な「構造」を提案しているという点で、これからの議論や制度設計の一定の足掛かり乃至は思考の補助線となるものと思われます。

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「福祉雇用型」から「仕事ベース短期決済型」へ。理論的な枠組み、方向性を示す。

高齢社員の人事管理 今野浩一郎.jpg高齢社員の人事管理』(2014/08 中央経済社)

 「70歳まで働ける企業」基盤作り推進委員会(高齢・障害者雇用支援機構)の座長なども歴任した著者が、労働者の5人に1人は高齢者であるという世界の先進国の中でも未曾有の高齢化を迎えた日本における今後の「高齢社員の人事管理」の在り方を考察・示唆した本です。

 著者によれば、これまでも多くの実務家が制度や施策を提案しているし、研究者も解決策を提案しているが、実務家の提案は「いま役に立つ」を重視するあまり人事管理の基本となる理論的な枠組みの部分が弱く、一方、研究者は現状分析や課題の捉え方には優れるが、制度を具体的に構築する手掛かりにはなりにくい―本書は実務家と研究者の両者を繋ぐべく、研究者の成果を踏まえて実務家たちが人事管理の制度構築を行ううえにおいて灯台の役割を果たす考え方、視点、進むべき方向を提示する狙いで書かれたものであるとのことです。

 第1章「人事管理のとらえ方」で、人事管理の構造を体系的に整理し、高齢社員の人事管理を考えるうえで「ことの重要性」「全体の中の一部」「戦略と戦術を区分する」という3つの視点を提示しています。さらに、経営ニーズの変化による人事管理の再編の方向性として、社員が意欲をもって新しい働き方に取り組むことを支援する人事管理、また、それを担う人材を確保・育成するための人事管理を構築することが求められるとしています。

 第2章「社員の多様化と人事管理」では、会社の指示があればどこへでも転勤し長時間労働も厭わない「無制約社員」と働く場所や時間に何らかの制約がある「制約社員」を区分して管理するこれまでの伝統的な「1国2制度型」は、基幹社員が無制約社員から制約社員化する中でその基盤が崩壊しつつあり、基幹社員の中にも制約社員がいることを前提にした多元的人事管理の方が経営パフォーマンス上優れているとし、また、交渉ベースの雇用管理、仕事基準の報酬管理というものがこれからの主流になるであろうとの見通しのもと、賃金制度はどのように変わっていくか、また、その際にどういった配慮をしなければならないかを、「リスクプレミアム手当」といった概念を用いて解説しています。

 第3章「高齢化からみる労働市場の現状と将来」では、「ことの重要性」の観点から。高齢化が人事管理にとってどの程度重要な課題であるのか、労働市場や人口構成に関するデータから、その重要性を確認し、高齢者の活用に企業も高齢者も「本気になること」が解決の出発点であるとしています。

 第4章「高齢社員の伝統的人事管理の特徴」では、企業がこれまで高年齢者の雇用確保措置をどのように行ってきたかを確認し、これまでの「1国2制度型」の人事管理の実情を検証するとともに、単に高齢者に雇用機会を提供するだけの「福祉雇用型」の人事管理には限界があり、高齢者を戦力化することに「本気になること」が必要であるとしています。

 第5章「人事改革の視点」では、高齢者を戦力化する新たに構築される戦略人事管理を「S型人事管理」と略称し、それは高齢社員の制約社員化を踏まえて作られる必要があり、また、「いまの働き対していま払う」短期決済型であるべきだとして、人事改革の基本施策、賃金の基本的な視点と制度の基本的方向を示しています。

 第6章「高齢社員を活かす賃金」では、「S型人事管理」における現役社員の賃金との関連性の視点の必要性を説いたうえで、現役社員と高齢社員の賃金制度の組み合わせ類型において、「年功的長期決済型+福祉雇用型」《P1型》→「年功的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P2型》→「成果主義的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P3型》といった賃金プロファイルの改革のベクトルを示すとともに(最終段階は「1国1制度」《P4型》)、定年を契機に賃金が低下するという問題への対応策を示唆しています。

 第7章「高齢社員に求められること」では、今後は高齢者の側も働き続ける覚悟が求められ、「働くことは稼ぐこと」であって、高齢者それぞれに「どのように貢献するか」という視点が求められているとしています。また、高齢者が職場の戦力となるキャリアを実現するために、企業側も、キャリア転換を促進し支援する仕組みやマッチングのための施策を講じていく必要があり、その際に「マッチングの市場化」(社内労働市場)の仕組み作りなども必要になってくるとしています。

正社員消滅時代の人事改革.jpg 本書は、著者の前著『正社員消滅時代の人事改革-制約社員を戦力化する仕組みづくり』('12年/日本経済新聞出版社)の「高齢社員の人事管理」に的を絞った続編ともとれますが、著者自身が前書きで述べているように、これからの人事管理の「進むべき方向を確認するための灯台としての役割を果たすためのモデルとして提案」したものであり、具体的に個々の制度の詳細を解説したりすることは目的としていません。その点を踏まえておかないと、実務書として読んでしまうと物足りないものとなってしまうでしょう。

 個人的感想としては、「高齢社員の人事管理」の在り方を通してこれからの人事管理の在り方を理論的な枠組みの中できっちり示しており、実務家にとって自社制度の立ち位置や今後の方向性を探る上での理論強化に繋がる本であるように思えた一方で、出された結論はそれほど斬新なものでもなく、大方の実務者が今後はこうならざるを得ないだろうと予想していたものに近いと言えるのではないかと思った次第です。

 ただ、現状がどうかという問題は当然のことながらあると思われ、平成25年施行の改正高年者齢雇用安定法に対する各企業の対応が、「福祉雇用型」的な対応でばたばたっと決着して一息ついたようになっている現況において、次のステップに移行するための示唆と動機づけを与えてくれる本ではあると思います(実務書と言うより啓蒙書・啓発書に近いか)。

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制度をぽんぽん作ることがイコール「クリエイティブ」であるともとられかねない論調?

クリエイティブ人事19.JPGクリエイティブ人事.jpgクリエイティブ人事 個人を伸ばす、チームを活かす (光文社新書)

 本書は、サイバーエージェントの取締役人事本部長の曽山哲人氏が、組織行動研究の第一人者である金井壽宏氏との対談も交え、自社の人事制度を紹介しつつ、人事の在り方や人事制度の本質について語った本です。

 曽山氏は、自社の創業7年後の2005年の人事本部の発足と同時に人事本部長に抜擢され、すでに急成長を遂げベンチャーらしさが失われつつあった社内の雰囲気に危機感を覚え、日常業務を回すだけの「機能人事」からの脱却を図ることを目指したとのことです。そして、半年ごとの新事業提案コンテスト「ジギョつく」、役員と社員がチームを組み「あした(未来)」につながる新規事業を考え提案する「あした会議」、サービスアイディアを「モックアップ(試作品)」に落とし込んで提案するコンテスト「モックプランコンテスト」など、イノベーションと組織活性化を促すさまざまな仕組みを打ち出してきました。

 人事本部のミッションを「コミュニケーション・エンジン」と定義し、自らに月に100人の社員と話すことを課すとともに、懇親会支援制度や部活動支援制度などを導入し、インフォーマル・コミュニケーションの活性化に力を入れている点などは、個人的には興味深く感じましたが、様々な経歴の人材が集まるベンチャー企業などではそれほど珍しくない施策かもしれません。「キャリチャレ」と呼ばれる社内異動公募制度なども含め、本書にあるこうした制度は、同業他社や他業種の企業でも多くが導入しているように思います。

 序章を金井教授と曽山氏が交互に執筆して、終章(第5章)に両者の対談があるのを除き、残りの部分は曽山氏によるこうした社内の人事制度やその考え方の紹介となっていますが、結果的に、制度を紹介する企業ガイダンス的な内容になってしまっている面があるとともに、人事部目線で見ると、ある特殊なケースにおける「成功体験」を聞かされているような印象も受けました。

 「2駅ルール」というオフィスの最寄り駅から2駅以内に住む社員に補助をする仕組みを社員の5割弱が利用しているといったことも、急成長を遂げたベンチャー企業で、規模のわりには社員の平均年齢が若いという特殊性の現れではないかと。中には、やや思いつき的な発想からきたのではと思われるような制度もあり、ある程度の遊び心があってこそのベンチャーと言えなくもありませんが、制度をぽんぽん作ることがイコール「クリエイティブ」であるともとられかねません。

 本書自体、制度はあくまで表層であって、人事における「クリエイティブ」とは本質的にはもっと深いものであるという立場であるかと思いますが、第4章から終盤の対談にかけては、むしろ、人事パーソンに求められる資質といった自己啓発的観点からの論調になって、それはそれで参考になる部分もあったものの、「クリエイティブ」ということに関してはややもやっとしたまま終わってしまったようにも思えました。

 結局これ、自らのブログから引用して本人が書いた部分もあるけれども、大方は本人の語りを編集者が文章にしたのだろうなあ。金井壽宏氏が手を入れているにしても、平板な印象が拭いきれないのは、やはり先ほども述べたように、本人が専ら過去の成功体験を中心に語っているからなのでしょう。

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マネジャーの視点から人材戦略を追ったテキスト。時を経た今も全く色褪せていない。

ハーバードで教える人材戦略.bmpハーバードで教える人材戦略6.JPG
ハーバードで教える人材戦略―ハーバード・ビジネススクールテキスト』['90年]

 本書(原著タイトル"Managing Human Assets")は、1981年にハーバード・ビジネススクールで初めてMBAの必修科目として「HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)」が開設された際に作られた教科書を原典としています。それまでは同校には、「人事労務関係」「生産オペレーション管理」「組織行動」の3科目はあったものの、ゼネラル・マネジャーの視点から人材戦略を追う科目は無かったとのことです。本書が多くの理論書と異なる点は、HRMを単なる人事・労務の専門マネジメントとしてではなく、あくまで「経営」の中で最も重要な資源として戦略の中心に置き、組織行動、組織開発、労務管理、人事管理などの理論を統合しながらも、ゼネラル・マネジャーの視点から纏められている点にあります。

 第1章「ヒューマン・リソース・マネジメントとは何か」において、HRMのアプローチにおいて本書で取り組む諸領域として、HRMを、①従業員のもたらす影響、②ヒューマン・リソース・フロー、③報償システム、④職務システムの4つの領域に分け、三角形を描き、それぞれの頂点にヒューマン・リソース・フロー、報償システム、職務システムを置き、その三角形の中心に従業員からの影響を据えた概念図を描いています。つまり、本書は、経営における中心的な役割を果たすのは従業員であるとの考え方に立っているわけです。

 第2章「HRMの概念的枠組み」では、ゼネラル・マネジャーとして、その企業にどのようなHRM制度を導入すべきかを決定する際には、諸制度の妥当性や効果性を評価する方法が必要であるとし、企業、社会、従業員の福祉の実現を、ゼネラル・マネジャーがその企業のHRM諸制度の効果性を測る際の長期的基準として用いるべきであるとし、①従業員のコミットメント、②能力、③コスト効果性、④整合性の4つのCがその指標となるとしています。

 第3章「従業員からの影響」では、どのように従業員の影響行使・参加のための仕組みを作りだすか、労組・経営間の協調を可能とするかを解き明かしつつ、その成功のためには、マネジャーの技量や能力が欠かせないとしています。

 第4章「ヒューマン・リソース・フローをマネジする」では、インフロー(採用)、内部フロー(昇進・異動・能力開発)、アウトフロー(退職)といった人材フローをどう構築し管理していくかを説き、企業の現在および将来の労働力に対する要求と、従業員のキャリア開発のニーズの両方に応えていくことが肝要であるとしています。従業員のキャリア・ディベロップメントのための方法に重点を置いて書かれており、ゼネラル・マネジャーは、個々の従業員の抱く考え方、彼らにとってキャリア・ディベロップメントと満足感が何を意味するのかをしっかり理解していくべきであるとしています。また、ヒューマン・リソース・フローの3つのタイプとして、①終身雇用システム、②昇進もしくは退社というシステム、③不安定なイン・アウトのシステムがあり、第4のタイプとしてそれらの混合型があるとしています。

 第5章「報償システム」では、どのような報償システムによってHRM制度の変化を支えていくかを解き明かしています。報償は、外的(金銭的)・内的(非金銭的)なものを問わず、企業としてどのような組織を作って維持し、また従業員にどのような行動、態度をとって欲しいか明確な期待を与えるものであるが、内的報償への不満が外的報償への不満となって表れることがあるなど、ゼネラル・マネジャーにとってHRMの中でも難しい分野であるとしています。この章では、給与とメンバーシップ、モチベーションとの関係などを通して、そうした報酬システムのジレンマを解明し、報酬の組み合わせた厚生制度(カフェテリアプランなど)や公平性を保つためのシステム(職務評価、技能本位評価など)、業績給システムとそのジレンマなど具体的な課題にまで言及されています。一方で、章末においては、報償システム制度はほとんどの場合、他のヒューマン・リソース制度を導くものではなく、後づけすべきものであるとしています。

 第6章「職務システム」では、マネジャーは職務を定義し、設計することで組織をまとめていく必要があり、では、どのような職務システムが従業員の能力、コミットメントを高めるかを様々な角度から分析し、包括的な職務システムの再設計を提唱しています。

 最後の第7章「HRM制度の統合」において、数多くのHRM諸制度と運用法を、その企業のビジネスの他の分野としっかり関連づける形で、総体としてまとめていくという、マネジャーにとって最も難しい責任についての検討を行っています。ここでは、HRM制度を統合していく方法として、①官僚主義的、②市場的、③協調的、の3つのアプローチを示しています。

 所謂「日本的経営」が米国企業にとって1つの研究・参照例とされていた当時のケーススタディなども出てきますが、教科書としては30年以上経った今も全く色褪せていないのは、それだけ分析やセオリーがしっかりしているからでしょう。「経営」におけるHRMとはなにかを考えてみる上で良書であると思います。また、本書が主にライン・マネジャーに向けて書かれたものであるという点で、アメリカらしさを感じました(アメリカのライン・マネジャーは日本の人事部の仕事に相当することをかなりやっているし、それだけの権限を与えられている)。意識の高いマネジャーにも薦めたい本ですが、その前に、とりあえず人事パーソンには是非とも読んで欲しい本です。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)

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経済学のアプローチにより人事を定量的に捉えた本。「人事は科学できる」!

人事と組織の経済学.jpg  Personnel Economics for Managers.png    Edward P. Lazear.jpg Edward P. Lazear
"Personnel Economics for Managers"(1997)
人事と組織の経済学』(1998/09 日本経済新聞社)

Edward P. Lazear2.jpg スタンフォード大学ビジネススクールのエドワード・ラジアー(Edward P. Lazear)教授による本書は、経済学のアプローチから人事制度を分析したものですが、"Personnel Economics for Managers"(1997)という原題からも窺える通り、学術書ではなくマネジャー向けの解説書として書かれています。

 著者は、前著"Personnel Economics"(The MIT Press,1995)において「人事経済学」というものを提唱しており、それは、「人事に関する政策や慣行は人間の関わることであり、どこにでも当てはまる一般的、客観的な解答などない」という考え方に対し、確かに具体的解決策はケースによって異なるが、それは企業の置かれた環境が異なるためであり、解決策を導き出すまでの思考方法は、一般的普遍性を持っているとの考え方に立って、人事制度や組織を分析するにあたって経済学の手法を用いることで、物理学や生物学と同じようにその「解」に辿りつけることを示したものであるようです(訳著がない!)。

 本書はそうした科学としての「人事経済学」というものを、企業における人事パーソンやマネジャーにも分かり易いように噛み砕いて解説したものと言えるかと思います。各章の冒頭には、人事に関する制度や施策についてのケース課題と、それに対する様々な立場からの意見を収めた会話が配されていて、人事の実務者の観点から見ても、おそらくそれらは、かつて自らがそうした議論の場に直面したことがあったかと思われるような具体的なテーマであり、また議論の分岐点でもあり、そうした問題の解明のプロセスにおいてはやや複雑な数式等が用いられたりはしているものの、少なくとも各章の導入部は、実務者が入り込みやすいものとなっているように思われます。

 第1章の序論では、人事担当者にとって極めて重要な話題であっても、「従業員の解雇の仕方」「労働組合との交渉術」「モラール低下の改善方法」「従業員に対するキャリア機会のカウンセリング方法」といった経済学的アプローチが不向きなものについては他の専門家に任せるとして、本書で扱っている主なトピックスは、求人および採用、転職、合理化、生産性向上のための動機づけ、チーム、年功制、評価、付加給付、権限、任務の割当などについてであると断っています。

 第2章では、「採用基準の設定」(高熟練労働者と不熟練労働者のトレードオフ、データが簡単に入手できないときの意思決定...etc.)、第3章では「適任者の採用」(自己選択、モニタリング・コスト及び労働者選別の詳細)について考察し、第4章では「労働者の生産性を知る」(非対称性情報と対称的無知...etc.)ということ、第5章では、「変動給与それとも固定給与?」(インセンティブ...etc.)ということについてそれぞれ述べ、第6章で「人的資本理論」(基本理論の概要、学校教育、職場における実地訓練...etc.)について解説しています。

 更に、第7章では「離職、解雇および希望退職」(企業特殊的人的資本...etc.)について、第8章では「情報、シグナル及び引き抜き」(シグナリング仮説...etc.)、第9章では「動機づけとしての昇進」(トーナメント・モデル...etc.)について解説し、第10章では「社内における利害行動」(トーナメントと競争...etc.)について考察しています。

『人事と組織の経済学』6.JPG 第11章では、「年功型インセンティブ制度」について考察し、第12章では、「チーム」(チームの活用、チームにおけるインセンティブ...etc.)について解説、第13章では「雇用関係についての再考」としてアウトソーシング、契約、フランチャイズなどについて考察し、第14章で「非金銭的報酬」、第15章で「付加給付」を取り上げています。「年功型インセンティブ制度」の章では、賃金と生産高が経験年数で逆転し、一定年齢以降は、企業は負債を負うことになるという、有名な「暗黙の負債と見返り」論(別名「ラジアーの理論」)が展開されています(この理論は、所謂「日本的経営」における年功賃金と長期的雇用の関係を説明する際にしばしば用いられることで知られている)。

 第16章「職務:課題と権限」では、人に職務を合せるのか、職務に人を合せるのかを考察し、また、第17章「評価」において評価の目的やルール、昇進かさもなければ退職か、などといった評価の使い道などについて考察し、最終の第18章では「労働者の権限強化」について経営者から労働者への意思伝達などの課題を取り上げています。

 このように、人事の重要課題の全てを扱っているわけではないとしながらも、広範な実務課題を取り上げており、また、一部において課題同士が重複・隣接しながらも、その取り上げ方において異なる視点を入れることなどもしています。

 個人的には、人事における極めて実務的な諸課題を、ちょうど物理学などでいうところの「思考実験」のような形で提示している点が興味深く思われました。また、著者は、「人事制度とはモチベーションとコストの両面から検討されねばならない」としていますが、経済学の手法を用いながらも、一般的推察が妥当と思われる範囲で心理学的要素や社会学的要素をも考察に織り込むことにより、そのことを実践しているように思われました。同時に、そうした考察を明快なロジックとして展開してみせることで、説得力のある内容となっているように思います(「人事は科学できる」!)。各章の章末には、そうして得られた「解」を要約して解説しており、これもまた示唆に富むものとなっています。

 600ページ近い大著ですが、各章は30ページ程度であるため、全体を通読した上で、関心のある項目について再度拾い読みしていくという読み方もあるかと思います。そうした読み方を通して、実際に人事パーソンが人事を巡る諸課題に直面した際に、課題の認識方法や解決法を探る上でのヒントとなる箇所も多いように思われます。その意味では、人事パーソンが是非とも手元に置いておきたい1冊であると言えます。

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人事パーソンが読んでも、"おさらい"を兼ねつつ、新たに得られる知見もあるのではないか。
マネジメントの心理学2.jpg
 

伊波和恵 教授 臨床心理士.jpg 伊波和恵氏(東京富士大学教授・臨床心理士)東京富士大学サイトより
マネジメントの心理学: 産業・組織心理学を働く人の視点で学ぶ

 本書は、主に学生やビジネスパーソンらを対象としたマネジメントの心理学(産業・組織心理学)に関する初学者向け入門書です。著者らは、会社で働き始めてから心理学をもっと学んでおくべきだったというビジネスパーソンの声をよく耳にする一方で、大学で学んだことはあまり役に立たないという声も聞くことから、ビジネスの現場で活用しうる考えや知識を、学生自身が今後の社会人生活をイメージしながら学ぶことができて、大学での学びが社会での実践に結びつくようにするにはどうすればよいかということを意識したうえで、産業・組織心理学の入門書として本書を企画したとのことです。

 心理学を専攻したことがない読者を主に想定して書かれており、心理学の基本的で重要な内容を一通り学びつつ、その知見の持つ意味や、実生活の中でそれがどのように役立つのかを具体的に分かるように解説したものとなっています。また、「働く人の文脈、働く人の視点」を強調し、「働くこと」に関する心理学の知見をもとに、企業組織におけるマネジメントのあり方までを考えるものともなっています。

 本編は、第1章「働くということ」からはじまり、「採用と就職」「組織と私」「リーダーシップ」「ワーク・モチベーション」「コミュニケーション」「キャリア発達」「人事マネジメント・教育研修」「起業」「経営革新」「心の健康」「働く環境の質」の全12章から成りますが、各章の冒頭に、ある学生が就職して、さまざまな人とのかかわりの中で「働く人」として成長していく姿が、各章の内容と関連したストーリーで描かれています。

 そのため、テキストではありますが読み物を読むような感覚でも読めて、また、章末には参考文献を掲げるとともに、働くことに関する現代社会の状況が反映されたケーススタディを載せることで、学習した理論の実践への応用を助ける(自分で考えてみる)ものとなっています。

 参考文献は「もっと詳しく知りたい人の文献紹介」と「文献」の二段構成で、後者がいわゆる"参考文献"の列挙であるのに対し、前者は、例えば「キャリア発達」の章であれば、シャインの『キャリア・ダイナミクス』(1991年/白桃書房)と金井壽宏氏の『働く人のためのキャリア・デザイン』(2002年/PHP新書)の2冊に絞って内容の概略まで紹介するなどしており、次に何を読むべきかという実践的な読書ガイドとなっているように思いました。

 全体を通して、産業・組織心理学の基本から近年の新たな知見まで網羅されている点でオーソドックスであるとともに、組織から個人を捉えるというアプローチではなく、個人から組織を捉えるというアプローチが強調されている点が、類書と比較してユニークかと思います。

 主に人事部門の初任者にお薦めですが、リーダーシップやモチベーション、コミュニケーションといったものの人事マネジメントにおける重要性がより高まっていると考えられる今日、人事パーソンが「実務に役立つ教養」として身につけておきたい知識がふんだんに織り込まれているという意味で、初任者に限らず各層の人事パーソンが本書を読むことで、"おさらい"を兼ねつつ、新たに得られる知見もあるのではないかと思います。

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企業並びに人事パーソンにとって警鐘を鳴らす書。啓発される要素を多く含む。

企業の人事力.jpg
  
  林 明文.jpg 林 明文 氏(トランストラクチャ代表取締役)
企業の人事力---人事から企業を変革させる

 再就職支援会社の設立に参画して同社のトップを務めた後、人事コンサルティング会社を起こし企業に人事コンサルティングサービスを提供してきた著者が、これまでホームページなどに掲載した人事管理のあり方についての新たな見解や問題提起などのコラムを、1冊の"読み物"としてまとめた本です。

 第1章で、「人事は遅れた分野」になっているとしています。日本企業の人事管理は変革を迫られているにもかかわらず、その多くは過去の延長で行われているとし、企業成長に必要な人事を考えた場合、むしろ、これまでの常識は通用しないと認識すべきだとしています。また、ここでは、多くの企業に流通している"次世代リーダー育成"や"選抜型教育"という概念に疑念を呈するとともに、ワークライフバランスについても、それは、今まで以上に生産性を上げることが要求されるものであるとしています。

 第2章では、「あるべき人事」について述べています。建前で語る人事は意味がないとし、ポートフォリオとパフォーマンスの観点から人事組織を再編せよとしています。日本企業には正社員が多すぎるとして、肥満化した企業のリスクを指摘し、日本企業で"成果主義"が受け入れられにくい理由を考察するとともに、生温いマイナス成長気運を実力主義で吹き飛ばす必要があるとしています。また、人事管理には長期継続性が求められ、短期的な人事は企業を滅ぼすとしています。

 第3章では、日本企業が存在感を取り戻すために、今こそ経営改革の絶好のタイミングであり、そのためには「経営者こそ変革すべき」であるとしています。そのためには取締役の選抜・処遇のあり方から改革せねばならず、経営陣こそ教育が必要だとしています。そして、人事は多くの社員の中から、"真の経営者"を検索・育成しなければならないとしています。

 第4章では、「今後の人事課題とソリューション」について述べています。まず、人事管理として検討すべきことについて、ギャップの代表的なパターンとその解決策を述べた上で、人事制度改革のあり方を、社員の能力と処遇についてのソリューション、少子高齢化への対応、早急に改善が求められる評価、の3つのポイントから解説し、さらに、雇用管理の時代的変化にどう対応すべきかを考察しています。また、人事改革は早ければ早いほどよいとし、あるべき人事管理構築のために、人事はより経営に近くなることを求められるとしています。

 本書のベースがウェブで一般に公開されているコラムであるということもあって、現在の人事管理の問題点や今後の人事管理を考える上での視点などが、平易かつコンパクトにまとめられていますが、その分、密度は濃いように思われました。

 最近では、景況感が改善した上に、東京での2020年オリンピック開催が決定したことで、景気上昇に対する期待は高まっていますが、著者は、そのことが高齢化の進行に対応するダイナミックな人事管理の改革を遅らせてしまい、人件費高騰などの問題が悪化の一途を辿る可能性があると警告しています。

 企業並びに人事パーソンに対して警鐘を鳴らす書であり、啓発される要素を多く含んでいますが、単に漠然とした抽象的な啓発に止まらず、高齢化を見据えた「50歳管理職登用」「人事評価に体力測定を導入する」といったユニークな施策への落とし込みもみられ、今後の人事のあり方を考える上でお薦めできる本です。

《読書MEMO》
●目次
第1章 人事は遅れた分野(経営管理の中での人事--人事管理の重要性は認識されているか、間違っている人事施策--人事管理は過去の延長で行なわれている ほか)
第2章 あるべき人事管理とは(経営戦略と人事管理--建前で語る人事に意味はない、ポートフォリオとパフォーマンス--人事組織を再編せよ ほか)
第3章 経営者こそ変革すべき(日本企業は優秀か--平時の経営が企業の行く末を左右する、経営者の人事常識を疑う--慣習的な戦術から脱却せよ ほか)
第4章 今後の人事課題とソリューション(人事課題と改革のスタンス--人事管理として検討しなくてはいけないこと、人事制度改革のポイント(1)--社員の能力と処遇についてのソリューション ほか)

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人事パーソンが自ら自己啓発のために読んでも、人事スタッフに読むのを勧めてもよい。

ビジキャリ テキスト.JPG ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 人事・人材開発2.jpg ビジネス・キャリア検定試験 標準テキスト 人事・人材開発3.jpg
ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 人事・人材開発2級』『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 人事・人材開発 3級

 「ビジネス・キャリア検定試験」は、事務系職種のビジネス・パーソンを対象に平成6年(1994年)にスタートした、中央職業能力開発協会(JAVADA)が実施する公的資格試験で、事務系職業の労働者に求められる能力の高度化に対処するために、段階的・計画的に自らの職業能力の習得を支援し、キャリアアップのための職業能力の客観的な証明を行うことを目的としています。

 分かりやすく言えば、同じくJAVADAが実施する「技能検定」のホワイトカラー版といったところでしょうか。検定分野は「人事・人材開発・労務管理」「企業法務・総務」など8分野に区分され、その中に「人事・人材開発」「労務管理」「企業法務」「総務」など18部門(2級)があり、2級と3級の試験がそれぞれ年2回実施されています。

 本書は「人事・人材開発」部門の2級と3級の標準テキストの改定版です。「2級」は課長・マネジャー等を目指す人またはシニアスタッフを対象とし、「3級」は係長・リーダー等を目指す人または新入社員等担当職務を的確に遂行することを目的とする人を対象としているとのことです。直近の試験問題と解答は「ビジネス・キャリア検定」のサイトで確認することができます。

 旧版(平成19年刊行)と比較すると、人事・人材開発の最近のトレンドを一部織り込むとともに、近年の労働法等の法改正にも対応させ、労働経済データなども必要に応じて新しいものに差し替えられています。また、2級テキストの章立ては、人事企画、雇用管理、賃金管理、人材開発、3級テキストは、人事企画の概要、雇用管理の概要、賃金・社会保険の概要、人材開発の概要と、各4章立になっていて、2級が6章、3級が11章に分かれていた旧版よりすっきりしたものとなっているとともに、試験の出題要領により即した区分となっています。

 試験の問題は、単に基礎知識を問うだけでなく、実務に沿った内容を指向しており、テキストの内容から一歩踏み込んだ専門知識問題や、相応の実務センスが求められる応用問題なども一部に含まれていますが、合格基準が「正答率概ね60%以上」とされていることから、まずはテキストの内容を理解することが基本かと思われ、、今現在「人事・人材開発」の業務に携わっている人であれば、テキストを充分に読み込んでさえいれば、試験に合格することはそう難しくないかと考えます。

 企業によってはすでに、社内の「公的資格制度」や「昇格試験制度」に当試験制度を織り込んで、社員に対して受験を奨励したり義務づけたりしている例もあるかと思われますが、そうでない企業の人事パーソンであっても、自らの自己啓発のために本テキストを読んでみるのもよいのではないでしょうか。あるいは、人事スタッフに人事の基本を学ばせるために読むことを勧めるのもよいかと思います。試験の受験・合格を目標にすれば、習得効果はより高まるものと思われます。お薦めです。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ラム・チャラン)

「人材最優先企業」(タレントマスター)は、その根底に、リーダーを選定し育成するという考え方が根づいている。

人材管理のすすめ7.JPG人材管理のすすめ.jpg   Ram Charan.jpg Ram Charan
人材管理のすすめ』(2014/03 辰巳出版)

 原著タイトルは"The Talent Masters: Why Smart Leaders Put People Before Numbers"(2010)。著者の一人ラム・チャラン(Ram Charan)はアメリカでは人材育成コンサルタントとして知られた人物であり、『経営は「実行」―明日から結果を出す鉄則』('03年/日本経済新聞社、改訂新版:'10年/日本経済新聞出版社)などの邦訳されている著書があります。もう一人の著者ビル・コナティは、ゼネラル・エレクトリック社(GE)で長い間人事部門の責任者を務め、GEを世界に名だたる人材輩出企業に押し上げたとされる人物です。

 本書では、人材管理に際立って優れた企業を「人材最優先企業」(タレントマスター)と呼び、その実際を探求して読者に伝えることを狙いとしています。本書で言う「人材管理」は「リーダー育成」と捉えてよいかと思われ、「タレントマスター」は、「リーダー育成において優れている企業または人」と捉えてよいかと思います。

 第1部では、GEの人材管理システムを通してタレントマスターは何をしているのかを事例で具体的に解説し(その筆頭にくるのがあのジャック・ウェルチ)、第2部では、P&Gなど、ユニークな手法で効果を上げているタレントマスター企業を紹介しています。さらに第3部においても4社の事例を挙げて、タレントマスター企業になるための戦略を紹介しており、このように豊富な事例から帰納法的(実証的)に「タレントマスターの原則」を導き出している点は、アメリカのビジネス書らしいかと思われます。

 そのようにして導き出されたタレンントマスターの原則とは、①CEOを頂点とした優秀なリーダーシップ、②実績を重視した能力主義、③企業の価値観の明確な定義、④率直さと信頼、⑤人材評価/育成システム(厳格さと規則性)、⑥人事責任者(CEOのビジネスパートナーとしての機能)、⑦継続的な学習と改善、の7つに纏められています。

 それらの原則の前提として掲げている「人事考課の"システム化"」などは、日本企業においても劣るものではないと思われますが、常にその根底に、リーダーを選定し育成するという考え方が根づいている点が、本書で紹介されているタレントマスター企業の特徴でしょうか。本書では、人材を深く理解し、定期的にレビューをすることで、組織は中間管理職からCEOに至る、あらゆるレベルのリーダーを輩出し続けられるようになるとしています。

 90年代から00年代にかけて、それまで従業員の存在を無視して、事業売買やダウンサイジングなど競争に勝つための戦略にばかり気をとられてきたアメリカ企業が、人材重視の経営へと大きく方針転換した、その流れを汲む本と見てもいいのではないでしょうか。

 著者の1人がGE出身ということもありますが、「CEOを頂点とした優秀なリーダーシップ」がタレントマスター企業の原則の筆頭にきて、CEOの継承者を見つけ育てることが人事の大きな役割とされているという点に、アメリカ企業の人事の特色を感じます。

 経営書と言うよりは、人事パーソンのための啓蒙書と言えるかと思います。事例のオンパレードで、もう少し体系的に纏めてほしかった気もしますが、その分、読み物を読むように読めるのは確かです。賃金制度の改定や評価制度の策定・見直しなど、ともすると制度づくりそのものが目的化しがちな日常において、人事は何のためにあるのか、これからどういった方向を目指していくべきかを考える上で、"啓蒙"される要素はある本かと思います。
 
《読書MEMO》
【主な内容】
●タレントマスターの秘密を解き明かす
GE、P&G、ヒンドゥスタン・ユニリーバなどの一流企業は、どのように人材の見極めと育成のためのシステムを構築し、それによって目覚しい成果をあげていったのか。
●徹底的に人材を理解する
人材を深く理解し、定期的にレビューをすることで、組織は中間管理職からCEOに至る、あらゆるレベルのリーダーを輩出し続けられるようになる。
●人材に永続的な価値がある
業績、市場シェア、ブランド、製品には寿命がある。唯一、永続的なもの、それは、人材と、人材を育てる仕組みのみである。人材は人財なり。
●実践的なアドバイス
タレントマスター「ツールキット」が、あなたの企業をタレントマスターにするための具体的な方法を提供。

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人事マネジメント、労働法それぞれの分野の第一人者による"相互乗り入れ"的討議。興味深い。

人事と法の対話 .JPG人事と法の対話 有斐閣.jpg
人事と法の対話 -- 新たな融合を目指して』(2013/10 有斐閣)

 企業内で実務携わる人事パーソンの立場からすると、労働法が次々とハードルを設定するために人事管理がやりにくいと感じられたり、また、人事管理上の課題や案件の解決に際して、労働法の規制があるがためにその選択肢が限定されたりすることもあるのではないかと思います。

 そうしたことから、ともすると人事管理(HRM)と労働法は対立する関係にあると捉えられがちですが、元をたどればいずれも労働者に資することを目的としている点では同じはずであり、ただし、人事管理においては企業経営に資することも併せて求められるために、そこが"対立"の起点となるように思われます。

 本書は、守島基博氏、大内伸哉氏という人事マネジメント、労働法それぞれの分野の第一人者による対談の形式をとっており、「限定正社員」「雇用の多様化」「解雇規制緩和」「高齢者の活用」などの人事管理におけるテーマを取り上げて、人事マネジメント、労働法それぞれの立場からこうした課題を論じることで、新たな人材マネジメントのあり方を考察したものです。

 ワーク・ライフ・バランス、メンタルヘルス、グローバル化対応など、取り上げているテーマが非常に今日的なものであるばかりでなく、守島氏が企業における人事マネジメントの実情を具体的に解説し、また、時に企業の実務者や産業医を交えた鼎談のかたちで、先進企業の具体的取り組み事例などをも紹介しているため、実務家が読んで充分にシズル感のある議論になっているように思いました。

 一方の大内氏も、そうした多様な企業の実情を新たな知見として謙虚に受け止め、それらを踏まえて今後の労働法が果たすべき役割について深く突っ込んだ見解を述べるなどしており、まさに「人事と法の対話」というタイトルに沿った内容になっているように思いました。

 対談を通して興味深く感じられたのは、守島氏もあとがきで指摘しているように、労働法が目指す人材管理のあり方は、正社員の雇用維持努力など多くの優良企業ではこれまでも実施されてきており、ただし、競争環境や働く人の意識の変化によって、わが国の人材マネジメントそのものが変化する必要に迫られているという実情があるということです。

 例えば「限定正社員」のような考え方が出てくると、従来のような正社員・非正社員といった二分法での人事管理では対応しきれなくなるわけであり、一方、労働法の方も、働き方の多様化に対応するようなかたちに少しずつ変化していくのではないかということが、両者の対談から示唆されているのが興味深いです。

 人事管理における今日的テーマを俯瞰し、自社の相対的位置づけを把握するうえでも参考になりますが、ただそれだけに終わらず、人事マネジメントのこれからのかたちを思い描き、さらに、労働法とどう付き合っていけばいいかについて考えをめぐらせることができる本であると思います。

 その答えは必ずしも容易に見つかるものではなく、また本書も安易に答えを導き出そうという姿勢はとっていませんが、人事マネジメントにおける個別の課題を時代の流れに沿って整理し、将来的な見識に基づいた課題解決のヒントを見出す一助となり得るという意味では、広く人事パーソンにお薦めしたい一冊です。

 対談形式なので読み易いというのもありますが、これまで、こうした人事マネジメント、労働法それぞれの分野の第一人者による"相互乗り入れ"的討議というものがあまりなかっただけに、個人的にもたいへん興味深く読めました。

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人事部長は「社風」の代理人。人事がリアルタイムでは回避している視点を突いている点で示唆に富む。

日本の人事は社風で決まる.jpg日本の人事は社風で決まる---出世と左遷を決める暗黙知の正体』(2014/02 ダイヤモンド社)

 著者は、大手銀行、セブン‐イレブン、楽天で人事部長などを歴任した人であり、現在は、様々な人材サービスを行っている企業グループの持ち株会社の社長を務めています。本書ではまず、出世した人は、その会社の社風が自分に合っていた人であるとしています。そして、社風とは言葉にはできない「暗黙知」であり、それを決めるのは、①ビジネスモデルを規定する顧客との距離、②資本形態、③会社の歴史の3つであるとしています。

 第1章から第3章までの前半部分では、そうした観点から、業界による社風の違いや、同じ業界内における企業間の社風の違いとそういsた違いがどうして生まれたのかを、幾つもの具体的事例を挙げて解説しており、この部分は読み物として興味深く読めるとともに、社風を決める要素は何かということの裏付けにもなっています。

 著者によれば、社風は会社を支配していて、会議の結論を決めるのも社風であるならば、飲み会・接待にも社風の違いがみえるとのことです。そして、その支配者である社風が最も力を発揮するのが人事分野であり、人事部長は「社風」の代理人であるとしています。従って、人事部長に期待される役割は、目から鼻に抜けるような先進的な人事制度を作ることでも、また、高邁な人事理念を浸透させることでもなく、まずは社内に吹く風、声なき社内世論を適切に読み取ることになるとしています。

 第4章では、社風と人事制度の関係について述べていますが、結論としては、社風に合致した人を偉くする仕組みが日本の人事制度であるとしています。従って「コンピタンシー」評価は「好き・嫌い」に近い感覚的評価となり、「成果主義」も結局は定着しておらず、伝統的な概念である「人物主義」が脈々と生き残っているとし、さらに、「目標管理制度」も、本来は絶対評価であるべきものを「相対評価で運用する」という建前と本音の使い分けが行われているとしています。

 第5章では、社風と採用の関係について述べていますが、人事部は採用のリスクを少なくするために「社風に合致した人」を感覚的に選び、この点においては採用も出世も同じであるとしています。その上で、どうやって企業を選べばいいのかを指南し、また、第6章では、入社してから社風とどう向き合えばよいのかを新人や中堅社員に向けてアドバイスしています。

 著者は、社風というものを必ずしも否定的には捉えておらず、むしろビジネスパーソン個々の立場としては、社風との間の「距離感」をコントロールすることが大事であるとしています。また、「日本的雇用」の終わりが説かれる今日においても、社風がコア人材を通じて会社を支配していく構造自体は変わらないだろうとしています。

 人事のベテラン・プロによる本であり、全体を通して説得力があるように思いました。人事パーソンとしての読みどころは第4章、第5章でしょうか。人事パーソンは概ね本書に書かれているようなことは何となく「肌で感じて」いながらも、人事制度や採用のあり方を一つの完成された中立的なシステムとして見なし(或いはそのことを指向して)、その何となく肌で感じているはずの部分は、リアルタイムでは意図的に頭の隅へ追いやる傾向にあるのではないでしょうか。本書は、社風が人事に直接的な影響を与えていることを解き明かしている点で、人事というものに対するリアル且つ独自の視座を提供しており、示唆的な内容かと思います。

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グローバル人事におけるトラブル防止、優秀人材の有効活用等。啓蒙レベルと実務レベルの話がリンクされている。

アメリカ企業には就業規則がない.jpgアメリカ企業には就業規則がない: グローバル人事「違い」のマネジメント』(2013/09 国書刊行会)

 日系・外資系銀行、外資系IT企業で人事の仕事に携わり、現在はコンサルティング会社と社会保険労務士事務所の代表を兼務し、外資系企業や海外に進出する日系企業へのサポートやコンサルティングをしている著者による本です。

 「アメリカ企業には就業規則がない」というタイトルを見て「そんなこと知っているよ」と思う人も多いかと思いますが、このタイトルは、日本企業とアメリカ(欧米)企業の雇用契約の在り方の違いの一例として挙げたものであり、雇用契約だけでなく、採用、給与、人事考課の在り方から、セクシャル・ハラスメント、ダイバシティ・マネジメントへの対応、優秀人材の確保方法まで、アメリカを中心とする海外企業の人事労務と日本企業の人事労務の取り組みや考え方の違い、それぞれの法的背景などについて紹介および解説されています。

 さらには、外国人と日本人の労働意識の違いなども、具体例をもって分かりやすく解説されていて、読者の中には、自分自身が外国人と仕事した際に経験したり感じたりしたことを、改めて自らの中で体系的に整理・理解する助けになる人もいるのではないかと思われます。

 著者は、これからの日本企業に必要なのは、異文化を日本文化と融合させるという日本人がこれまで用いてきたプロセスではなく、日本という核はしっかりと保ちつつも、相手の文化はそのまま受け入れる「多様性への適応力」であるとしています。グローバル人事を成功させる秘訣は「違い」のマネジメントにあり、自分と相手が違うということを受け入れマネージすることが重要であるということです。

 そうしたマネジメントのポイントとして、海外の人事労務と日本型の人事労務との違いを紹介し、この「違い」の原因の一つとして、諸外国と比べて、労働基準法を始めとする日本の労働法がユニークなものであることを指摘しています。また、労務管理における日本の常識が、海外では非常識となってしまう事例を紹介し、「違い」を認識することがグローバル人事の出発点であると説いています。

 グローバル人事を担うこれから日本企業の人事部のあり方にまで踏み込んで書かれていますが、これらの考察に際して、具体的に裏付けとなるデータを掲げ、また、中国における労働法や労務管理の解説している箇所に見られるように、法律・実務に関する部分についてもきちんとフォローされています。

 グローバルビジネスの行方を見据えた啓蒙的・教養的とも言える内容でありながらも、文章的にも内容的にも、学者や法律家の本によく見られるスタイルとは異なり、あくまでも実務家のもの、実務に近いところで書かれているのがいいです。

 グローバル人事におけるトラブルを未然に防ぐだけでなく、優秀な人材を有効に活用するためにはどのような労務管理を行えばよいのかといったことも含め、自らの経験も交えながらアドバイスされており、啓蒙レベルと実務レベルの話がしっかりリンクさているので、今そうしたグローバルな人事実務に携わっている人にも、近い将来に向けて対応への心構えをしておきたいという人にも、一読をお勧めします。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 日本とアメリカの雇用契約の違い
第2章 採用、給与、人事考課に見る日本と欧米の違い
第3章 セクシャル・ハラスメント
第4章 ダイバシティ・マネジメントの考察
第5章 海外で優秀な人材を確保する方法
第6章 外国人と日本人の労働意識
第7章 英語は国際ビジネスの公用語
第8章 グローバル人材の育成と活用
第9章 日本人の海外駐在者と単身赴任者
第10章 中国の労働法
第11章 中国の労務管理
第12章 国際人事管理
第13章 ゼネラリストとスペシャリスト
第14章 日本と海外の違いの大きな原因は労働基準法にある
第15章 グローバル人事について
第16章 雇用契約書の内容
終 章 グローバルカンパニーへの道

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これからの人事の在り方、企業の枠組みを超えた働く理論の再構築に一石を投じた、啓発される要素の多い本。

社会的人事論.JPG社会的人事論2.jpg  木谷宏氏.jpg 木谷 宏 氏(麗澤大学教授)
社会的人事論 (年功制、成果主義に続く第3のマネジメントへ)』(2013/03 労働調査会)

 本書では、企業の利益追求を目的とする経営戦略が行き詰まりを見せ、社会環境の変化に対応した企業・人材・働き方が求められている今日では、人事管理の枠組みも、従来の経済的合理性から社会的合理性へとそのフレームワークを変えていく必要があるとして、年功制、成果主義に続く第3のマネジメントとして、「社会的人事論」という考え方を提唱しています。

 「社会的人事論」とは、第1に、社会的存在としての企業の枠組みを変えていくことであり、そのためにはすべての企業がCSR(企業の社会的責任)を果たすべく、経済・社会・環境のトリプル・ボトム・ラインによる企業経営を行うことが不可欠になるとしています。第2には、個々の働く人のすべてがプロフェッショナルへと変身することであり、エリートやスター社員を育成・選抜するための人事管理ではなく、パートタイマーやアルバイト、若年者や高齢者、そして男性も女性も全員が活躍できる企業風土、処遇、育成が不可欠なるとしています。第3は、多様な働き方の実現であり、それは、企業が預かっていた人々の24時間を個人に返還する試みであるといってもよいとしています。

 本書全体は5つの章から構成されており、第1章で人事管理の系譜と行く末を概観し、以下の章で、新たな人事の枠組みを企業、人材、働き方の3つのアプローチから考察しています。第2章では企業のこれからの姿をCSRの視点から考え、第3章ではあるべき人材の姿についてプロフェッショナル論を展開し、第4章では働き方の未来をワーク・ライフ・バランスとダイバーシティ・マネジメントの観点から考察し、最終の第5章では、新たな時代の人事管理のトピックを幾つかとり上げています。

 著者は大学教授であり、本書は人事管理のこれまでと今後の在り方について説いたテキストとしても読めますが、一方で、大手企業での長年の勤務の間、米国現地法人でCOOを務めたり、人事部で成果主義の導入、ポジティブ・アクションの実現をはじめ様々な人事改革に携わったりした実績の後にアカデミズムの世界に転身した人でもあり、幅広いテーマを扱いながらも、各章において、「現場」「実務」への落とし込みがなされているため、その提案に空疎感はなく、まさに、これからの人事の在り方、さらにいえば、企業の枠組みを超えた働く理論の再構築に一石を投じた、啓発される要素の多い本だと思います。

 個人的には、「小さなプロフェッショナル」という提案が非常に興味深く、その他にも、「時間とは第3の報酬である」という考え方や、ダイバーシティにおける個人の内なる多様性、根源的(個人的)ダイバーシティに着眼し、その重要性を説いている点などに大いに啓発されました。

 本文の冒頭には「多様な人材をマネジメントする20の問い」というリストがあり、「Q4 日本における成果主義はなぜ失敗したか?」「Q8 能力は正しく定義されているか?」「Q16 短時間正社員とは何か?」といった問いが並んでいますが、本書のすべてのページの右上ハシラに内容に対応する「問い」が示されており、学生や初学者は「20の問い」を先に見た方が本書の内容が概観しやすいかもしれません。

木谷先生.png 関心がある「問い」に対応している節から読み始めても読めてしまうという"優れもの"。ベテラン、中堅、初学者を問わず、人事パーソンにお奨めです。


ヒューマン21 EC-Net 第25回研究会
「多様な人材のマネジメント ー企業アドバイザリーのスタンスとはー」
日 時:2012年11月3日(土) 10:00-17:00
講 師:木谷 宏教授(麗澤大学経済学部)
開催場所:日本青年館ホテル「504」会議室(新宿区霞ヶ丘町)

《読書MEMO》
●目次
はじめに~「社会的人事論」とは何か?
第1章 人事管理の過去、現在、未来
 1 企業は人材をどのように管理してきたのか?
 2 今日の人事管理の問題は何か?
 3 日本における成果主義はなぜ失敗したのか?
 コラム① 聖職としての人事
 コラム② 経営者を蝕む5つの病
第2章 社会的存在としての企業
 1 企業とはいったい何か?
 2 企業の社会的責任(CSR)と人事はどのように関係するのか?
 3 東日本大震災が人事に与えた影響とは何か?
 コラム③ 柏の研究室にて
 コラム④ 企業経営におけるボランティア活動の意義
第3章 小さなプロフェッショナルの育成
 1 能力は正しく定義されているか?
 2 日本企業は本当に人材開発に熱心だったのか?
 3 小さなプロフェッショナルとは何か?
4 これからの採用はどのように変わっていくのか?
 コラム⑤ 小さなプロフェッショナルに惹かれて
 コラム⑥ 自己啓発はすでに脇役ではない
第4章 多様な働き方の実現
 1 ワーク・ライフ・バランスの本質とは何か?
 2 ポジティブ・アクションを機能させるにはどうすればよいか?
 3 ダイバーシティ・マネジメントは正しく理解されているのか?
4 組織や人はなぜ多様性を拒むのか?
 コラム⑦ シアトルのオフィスにて
 コラム⑧ 第3の報酬としての時間
第5章 新たな時代の人事管理
 1 短時間正社員とは何か?
 2 目標管理制度は本当に企業業績に結びつくのか?
 3 なぜ働く人々のモチベーションは上がらないのか?
 4 本当に成功した人事改革は存在するのか?
 コラム⑨ 明日の人事を読み解く名著
       ・デイビッド・ウルリッチ『MBAの人材戦略』
       ・エドワード・ラジアー『人事と組織の経済学』
       ・高橋俊介『成果主義』
       ・桑田耕太郎・田尾雅夫『組織論 補訂版』
       ・三品和広『経営戦略を問いなおす』
       ・エドガー・シャイン『キャリア・ダイナミクス』
       ・金井壽宏『働く人のためのキャリア・デザイン』  
さいごに ~ 新たな社会のために個人、企業、国がなすべきことは何か?

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「閉塞感発生のメカニズム」とそれを乗り越える"手だて"を示す。"特効薬"はないということか。

IMG_4755.JPGやる気もある! 能力もある! でもどうにもならない職場2.jpgやる気もある! 能力もある! でもどうにもならない職場: 閉塞感の正体』(2013/06 東洋経済新報社)

 本書のテーマは「職場の閉塞感」であり、閉塞感という言葉は、個人が抱く「感覚」ですが、その「狭いところに閉じ込められ」「身動きができない」そして「手の打ちようがない」雰囲気は、社会や企業の構造的な問題から発生しているため、働く個人としては簡単には対処のしようがなく、不条理感に近いものがあるとし、従って、閉塞感を発生させている根源的原因を解決しないかぎり、いくら社員を元気づける研修を行なっても無駄になるとしています。そこで、働く人々の「成長意欲があるにもかかわらず、企業内の構造がそれを阻害しているのではないか」という問題意識に基づき、職場に蔓延する閉塞感と日本企業が抱える構造的な問題点の関係を解明していくことが本書の狙いであり、「閉塞感発生のメカニズム」と「閉塞感を乗り越えるための手だて」を示した本であるとのことです。

 全4章構成の第1章「今そこにある閉塞感―4つのケース」では、20代から50代までの幅広い世代のビジネスパーソンが、どのような場面で閉塞感を抱いてしまっているのか、その状況をストーリー仕立てで描写しています。就職氷河期に入社後頑張ってきたもののキャリアの危機に立たされる30代、入社後バブル期を謳歌しつつも事業不振の渦の中でやむを得ず今の仕事を続ける40代、終身雇用を約束されながらも人事担当者としてそれを自ら反古にする役割を割り当てられて苦悩する50代、様々な理由の中ジョブホップをし続ける中で知らず知らずのうちに報われない階層に押し込められている20代の4人が主人公で、それぞれが閉塞感に陥っている状況をリアルに描いていて、状況は極めて深刻なのですが、導入部としてスンナリ入っていける、読み易いものとなっています。

 第2章「職場の閉塞感はどこからやってきたのか」では、第1章の各ケースで描写された情景の背景で、どのような閉塞感が立ち現われているのか、その背景を炙り出し、多種多様な要因が相まった結果、閉塞感が生まれていることを示しています。

 第3章「社員を蝕む閉塞感の構造」では、第1章と第2章で見てきた閉塞的な状況を、より構造的・立体的に、メカニズムとして解説していきます。ここでは、閉塞感の発生源と元凶をそれぞれ「心理的なカベ」「構造的なカベ」と名付け、閉塞感の構造の全容を明らかにする試みがなされています。

 最後の第4章「閉塞感に立ち向かう―カベを乗り越えるために」では、個人、企業、そして社会が閉塞感を乗り越えていくための、具体的な処方箋を提示していますが、「これだけやればうまくいく、といった特効薬は残念ながら存在しないとしない」としながらも、当事者意識を持って主体的に取り組む際の、実践的なアドバイス集として読者に活用してもらうことを狙いとしています。

 「閉塞感」というキーワードで企業や人事、働く個人が抱えている今日的な課題に斬り込んでいるアプローチの仕方がユニークで、それでいて、第1章のケーススタディも極めてリアルであるため、読者は違和感なく著者らが提示した課題を共有できるのではないでしょうか。そのケーススタディとの関連において、第2章、第3章で展開される、日本企業の人事制度の歴史的変遷や、人材フローの過去と現在といった比較分析などもクリアで、閉塞感の構造といったものが大掴みに把握でき、テキストとしても、変革を促す啓発書としても、オーソドックス且つ良質であるるように思いました。

 第4章も、企業として、人事として何をすべきなのかということと、個人としてどうすればよいかという両方の視点から書かれているのはいいのですが、どちらかというと個人としての処方箋はかなり具体的に書かれているのに対し、企業として組織をどう変えていくかということついては、変革の必要性を啓発するレベルに留まっているようにも感じられました。「特効薬は残念ながら存在しないとしない」というのは、著者らの偽らざる気持ちかと思われます。

 トータルで見ると、「閉塞感発生のメカニズム」は分かり易く解説されていて、「閉塞感を乗り越えるための手だて」についても、個人に対しては冒頭のケーススタディから一貫して具体的に書かれている一方、企業に対しては、"手だて"の面での解説がややもの足りなかったかも。結果として"自助努力"中心に近くなっている? 但し、一般の読者がすぐに出来ることと言えば"自助努力"しかないわけですが。

 惹句的なタイトルですが、「閉塞感の正体」はきちんと解明しているわけであってタイトルずれはしておらず、"解決法"を無責任に安売りしていない分、却って著者らの誠意を感じました(問題の根の深さも)。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(デイビッド・ウルリッチ)

人事担当者の役割とは何かを明確に打ち出すとともに、その役割の重さを改めて認識させられる本。
MBAの人材戦略2.JPGMBAの人材戦略.jpgMBAの人材戦略』 デイビッド・ウルリッチ.jpg デイビッド・ウルリッチ

 ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ(David Ulrich)教授による本書『MBAの人材戦略』(原題:Human Resource Champions,1997)は、「人事の役割」を、①戦略パートナー(Strategic Partner)、②管理のエキスパート(Administrative Expert)、③従業員のチャンピオン(Employee Champion)、④変革のエージェント(Change Agent)という4つの分類に定義したことで人事パーソンの間では広く知られる本です。

 第1章「人材経営―競争力を築くための新しい行動計画」では、競争力を備えた企業を築くために、ライン管理者と人材経営専門職に求められる行動指針とは何かを解明することが本書の目的であるとするとともに、本書では、従来の人材経営について書かれた本に見られる人材経営専門職は何を遂行すべきか(手段)という視点からの転換を図り、何を達成すべきか(目的)という人材経営の生み出すべき成果、それらの成果を生む際に求められる活動に沿って構成されているとしています。

 第2章「変化を続ける人材経営―複合的な役割を担う人材経営モデル」においては、人材経営の実践から生じる結果として、①戦略の実現、②効率的経営の実現、③従業員からの貢献の促進、④変換の推進、の4つの成果の領域を掲げ、将来の人材経営専門職の役割を表現するイメージは、「戦略パートナー」「管理のエキスパート」「従業員のチャンピオン」「変革のエージェント」で4つの複合的なものとなるとしています。そのうえで、以下、第3章から第6章にかけて、これらの役割について詳しく検討しています。

 第3章「戦略パートナーになる」では、人材経営が戦略の実現に対していかに支援し得るかを検討し、ビジネス上の戦略を具体的にアクションとして展開していく際に、ライン管理者と共同して人材経営専門職が戦略実現のパートナーとしてどのような役割を果たすべきかを検討しています。そして、人材経営専門職は、きちんと確立された組織監査を遂行する手法を身につけることが求められるとしています。

 第4章「管理のエキスパートに」では、人材経営部門がいかに効率的経営の実現に貢献できるかを検討し、効率的経営のエキスパートとしての人材経営部門の役割を解明しています。そして、管理のエキスパートになるためには、「プロセスの改善」と「人材経営の価値創造の再検討」という2つの段階をマスターすることが求められるとしています。

 第5章「従業員のチャンピオンになる」では、人材経営部門が従業員からの貢献をいかに最大限に引き出すことができるかを検討しています。そして、従業員のチャンピオンとして機能するためには、従業員に対して、牧師の示す確信と信頼、心理学者の示す感受性、芸術家の示す創造性、航空機パイロットの示す厳格な規律のすべてを明示し、管理者と従業員の双方と協力して、従業員が彼らに期待されていることのすべてを達成するように導いていかなければならないとしています。

 第6章「変革推進者になる」では、人材経営が企業に変革を推進する際に、どのように貢献し得るかを説明しています。そして、企業がさまざまな変革の試み、プロセスの変革、文化変容を効果的に取り組むことを支援するためには、ライン管理者と人材経営専門職は、変化に関する理論と実際の方法の両方を学んでいく必要があるとしています。

 第7章「人材経営部門のための人材経営」では、人材経営に伴う基本的機能を再検討しています。著者によれば、人材経営専門職は、他部門を援助することに熱心なあまり、自部門に眼を向けない傾向が強いが、企業経営に貢献する人材経営理念が自部門に適用されれば、人材経営部門も疑いなく向上するとして、人材経営の諸機能をトランスフォームすることに成功を収めた数多くの企業の実例を紹介し、人材経営部門が取り組むべき活動を示唆しています。

 第8章「人材経営の将来」では、人材経営の方法、機能、専門職・ライン管理者に将来何が求められているのかを検討しています。ここでは、「何が問題か」「ではどうするべきか」「どのような改善を進めるべきか」の3つの問いを取り上げることで、人材経営の将来像を探っています。

 人事専門職が何を達成すべきかを、戦略の実現、効率的経営の実現、従業員からの貢献の促進、変換の推進の4つに絞って検討することで、人事担当者は、戦略パートナー、管理のエキスパート、従業員のチャンピオン、変革のエージェントという4つの役割を担うことを期待されていることを明確に打ち出し、人事担当者そのものが最も重要な経営資源であることを浮き彫りにした名著と言えます。
 但し、正確を期そうとするためか、翻訳がこなれていないのがやや残念です。「人材経営部門」は「人事部」と訳し、「人材経営専門職」は「人事担当者」「人事パーソン」と解していいのではないでしょうか(殆どの読者がそのようにとって読むではあろうが)。

 本書で示された人事パーソンの4つの役割について、日本企業の人事パーソンに自分自身はどの部分に強みを持っていると思うかというアンケートをとると、「管理のエキスパート」としては自分でも満足しているが、「変革のエージェント」としてはやや力を発揮しきれていないという自己評価結果が出ることが多いようです。 
 また、「従業員のチャンピオン」ということ関しても、あまり自分には当て嵌まらないという結果が出ることが多いようですが、一部にはこの言葉が俗に言う「社内エリート」であることという風に誤解されている向きもあるようです。著者が言うところの「従業員のチャンピオン」としての人事パーソンに求められる資質とは、従業員の発言に耳を傾け、従業員の信頼感を尊重し、従業員との信頼関係を築くことができて、そのことによって、従業員の企業に対する貢献を高めることができる能力のことを指します。

 1997年に書かれた本書「日本語版への序」において、著者は、日本企業の人材経営職は、常に「戦略パートナー」の役割を果たしてきたと評価したうえで、但し、「最近、日本企業でも、1980年代と90年代前半における成功が思い通りに実現していない現実が存在する。推論するに日本企業の人材経営専門職は、うぬぼれあるいは自己満足に陥っているのかもしれない」としています。実際、近年においては、外資系企業の人事担当者から見た場合、日本企業の人事部は、「戦略パートナー」としての機能を充分に果たしていないとの指摘もあるようです。

 著者は、グローバル競争が激しさを増す中で、ある国で開発されたベストプラクティスは瞬く間に世界各国で学習され、移転が進む現代にあって、期待される成果とは、「新しい人材経営の方法の探求」であるとしています。原著の「序」で、目指す新しい役割をマスターしていくためには、学習とともに忘れ去ること(過去からの脱却)も求められるとしているのが関心を引きます。

 人材経営職は、機会と将来方向が示されたときこそ専門職としての力を発揮し、どのように付加価値を生み出すかを理解していれば、必ず付加価値を生み出すであろうという著者の信念が根底にあることが窺え、人事担当者にとっては、自らの役割の方向性を見定める指針となるともに、その役割の重さを改めて認識させられる本であると思います。翻訳にやや硬さはありますが、一度は読んでおきたい一冊です。

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初めて企業の人事管理を学ぶ人にはぴったりの本。すでに人事にいる人にも参考になる。

マネジメント・テキスト 人事管理入門.png 『マネジメント・テキスト 人事管理入門<第2版>』 (2009/12 日本経済新聞出版社)

 今野浩一郎・学習院大学教授の『正社員消滅時代の人事改革』('12年/日本経済新聞出版社)を読んで、本書を思い出し、久しぶりに通読しました。

 本書は、人事管理は経営管理の一分野であるという視点に立って書かれた、「人事管理の今を知ることができる」標準的なテキストであるとのことで、個人的にも、初めて企業の人事管理を学ぶ人にはぴったりの本と言えるのではないかと思っています。

 本書を出発点にして、より専門的なことを勉強したり、研究したりするための標準的なテキストになればということとともに、これから企業で働く学生にも、現在すでに企業で働いている人にも、人事管理の仕組みを理解するうえで役立つ教科書であって欲しいという著者らの思いから、あまり理論的なことに偏らず、もっぱら企業は何を狙って、そのような仕組みを作り、それがどのように機能しているか、という人事管理の実際とその背景を知ってもらうことを主眼として書かれています。

 「マネジメント・テキスト」シリーズの名の通りに、マネジメントの意識が全編にわたって織り込まれているとも言え、そのため、現在すでに人事部にいる人が読んでも、「人事は何をするところなのか」という原点回帰的な意味で、目を通す価値はあるかと思います。

 初版の刊行は'02年で、その後も人事をめぐる社会や経済環境は変遷を遂げているわけですが、2009年刊行の第2版では、企業の人材活用とワークライフバランス支援に新たに一章を割いたりするとともに、直近の先進企業事例を織り込むなどして、近年の人事のトレンドをより反映させた内容に追補・改定されており、その意味でも、今人事部で仕事している人が読んでも、得られるものはあるのではないかと思われます(改版期間7年はやや長いか。願わくば、もっと短いサイクルで改版して欲しい気もする)。

 同趣旨のテキストとして、今野浩一郎教授の監修による「ビジネス・キャリア検定試験 標準テキスト」(中央職業能力開発協会・編)の『人事・人材開発2級』『人事・人材開発3級』もお薦めです。
 こちらはタイトル通り、中央職業能力開発協会(JAVADA)が年2回実施している公的試験のテキストであり、この試験は同じくJAVADAが行っている「技能検定」のホワイトカラー版のようなもので、公的検定ではあるが国家検定ではないため合格しても「技能士」に類する資格が与えられるわけではありませんが、大企業で若手社員に受験させている企業も多く、学生や若手社員などで既に特定分野試験に合格していれば、就職や希望する部署への配転で有利に働くかもしれません。
 「人事・人材開発」は2級・3級とも、近々テキスト改訂が予定されているとのことで、その際にまた取り上げたいと思います。

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人事管理の現況と課題を俯瞰するテキストとしては良書。改革指針も示されている(但し、タイトルが...)。

正社員消滅時代の人事改革2.JPG正社員消滅時代の人事改革.jpg     今野浩一郎.jpg 今野浩一郎 氏 
正社員消滅時代の人事改革─制約社員を戦力化する仕組みづくり』 (2012/12 日本経済新聞出版社)

 著者は、バブル崩壊以降の20年は、人事管理の分野でも「失われた20年」であったかもしれないとしながらも、伝統的な人事管理に代わる新しい人事管理を構築するための準備期間でもあったとし、本書において、これまでの経験を通して得られた成果を組み合わせて、新しい人事管理のモデルを構想することを試みています。

 伝統的な人事管理に代わる新しいモデルは、経営の進むべき方向からすると成果主義を軸に形成され、時代もおおむねそれに沿って流れているが、一方で、ワークライフバランス、女性活用、パートタイマー問題等、働く側のニーズや事情の変化にどう対応するかが重要な課題として登場してきたとし、そうしたことを踏まえ、本書では、経営のニーズと社員のニーズのそれぞれの観点から、人事管理の方向性を検討しています。

 まず、企業のニーズ面の観点から、経営環境の変化に伴い企業の求める人材や働き方がどのように変わるかを確認し、伝統的人事管理の特徴を整理したうえで、伝統的な人事管理が限界を迎えていることを検証し、さらに社員のニーズの観点からも、労働市場の変化を背景に社員の働くニーズと求める働き方を確認し、こうした変化に伝統的な人事管理では対応できないとしています。

 本書では、女性や高齢社員、派遣社員、パート社員など、働く場所・時間・仕事について何らかの制約をもつ社員を「制約社員」と呼び、多様化する労働市場の中で、どこへでも異動し、長時間労働もいとわない無制約社員は少数派となり、労働者の多数派が制約社員になる傾向は、ますます強まるであろうとしています。

 一方、伝統的な人事管理は、制約社員と無制約社員で異なる人事管理を適用することを基本としてきた、いわば「1国2制度」の人事管理であったとし、そのことを、正社員とパート社員、現役社員と高齢社員、総合職と一般職のそれぞれの従来の人事管理の在り方を対比させることで示しつつ、基幹社員の制約社員化および制約社員の基幹社員化が進行によってその基盤は崩壊しようとしており、これからとるべき方向は「多元型」であり、制約社員を基幹社員として活用することこそが第一に達成すべきことであるとしています。

 そのための人事管理の新たな方向性として、仕事配分・人材配置を交渉化・市場化ベースとすることと、仕事基準の報酬管理に一元化することの2つの改革指針を提示し、前者については目標管理制度、自己申告制度、社内公募制度や教育訓練に落とし込み、後者についてはパート、高齢社員の社員格付け制度の具体例や仕事ベースの賃金制度の方向性を示しています。

 人事管理に関するテキスト的著書などでも知られる著者ですが、本書からは、時代の変化に合わせたそれらテキストの"追補版"的意味合いも感じられ、人事管理を学ぶ人が、その現況と課題を俯瞰する上では、まさにその道の権威による良書だと思います。

 また、企業に対して、無制約社員=基幹社員とする「1国2制度」を続けるか、「多元型」への転換を検討するかを問うている本とも言え、経営ニーズ、社員ニーズの変化に沿って人事管理や報酬管理の枠組みを見直そうとする際の「思考の補助線」としても有効な本。但し、実務上のテキストになり得るかというと、終盤、ばたばたと詰め込んで、やや中途半端な終わり方をしている印象も受けました。

 学者だから、方向性だけ示して、それ以上は踏み込まない? (テキストとしても、実務書としても、文体が若干堅めで論文調なのも気になった)。但し、各章で内容に呼応する先進企業の事例を紹介するなどの配慮は、一応はなされています。

 むしろ別の点で気になるのは、タイトルの「正社員消滅時代」というのは、ちょっと内容とズレがあるのではないかということで、これも版元の編集者が売らんかなでつけたタイトルなんだろなあ。どこにも、正社員が消滅するなんて書いてないんだよね。「制約社員」という概念及び言葉を定着させたいならば、帯の「『制約社員』を活かす会社になる」の方をメインタイトルにすべきだったでしょう。

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管理職研修のテキストを読んでいるような印象だが、テキストとしてはよく纏まっている。

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                     日沖 健.jpg 日沖 健 氏
変革するマネジメント - 戦略的人的資源管理』 (2012/10 千倉書房)

 本書は、企業内における人材マネジメントの主役はマネジャーであるとの考えのもとに、企業内の組織や職場のマネジャー、およびその役割・ポジションを目指す中堅・若手社員を対象に、人材マネジメントの基本理論と実践技法を解説したものです。

 人材マネジメントを学ぶ教材については、学者が人事部門担当者向けに書いた理論書・専門書や、コンサルタントや人事部門OBなど実務家が体験談と経験則を紹介したものが主で、理論と実務をバランス良く融合したテキストが少ないというのが、本書執筆の動機であるとのことです。

 著者自身の経歴は、企業内で実務を経験した後にコンサルタントに転じ、産業能率大学などで講師も務めてきたと人であるとのことですが、戦略的人的資源管理(SHRM)について、組織論から人事制度の設計と運用、マネジャーの職場集団や部下への働きかけの技法まで、ひととおり広く網羅され、分かりやすく解説されているように思いました。

 「組織管理の5原則」から始まって、官僚制組織や機能別組織などの組織構造の類型など組織の構造とそのプロセス、組織文化の形成と変革などについて解説し、人材ポートフォリオを念頭に置いた人材育成やキャリア支援、定年再雇用制度と高齢者雇用、早期退職制度とリテンション施策、人事評価と目標管理などの基本ポイント、賃金制度とその動向などについて述べ、さらに、リーダーシップ理論やコミュニケーション理論、モチベーション理論などの主だったものを紹介しています。

 文中に多くの経営書から引いて、先人たちが提唱した様々な理論が紹介されています。そうすると何だか「理論」解説ばかりのようにも思えますが、各章の冒頭に企業組織内あるいはマネジャー個人について発生した課題をケーススタディ的に取り上げており(この辺りは企業出身者ならでは?)、以降に述べる理論が実務と深く結びついていることを示唆しています。

 個人名で刊行されたハードカバー本で、タイトルからして何か奇抜な提案でもあるのかと思いましたが、思いのほかに堅いというか、オーソドックス且つリジッドな内容であり、管理職研修のテキストを読んでいるような印象も受けました。

 ただし、テキストとしてはよく纏まっているのではないでしょうか。クルト・レヴィンの「良い理論ほど実践的なものはない」という言葉が紹介されていますが、まさにその言葉に沿って書かれている本である思います。

 全体としてはやはり理論中心という印象は否めませんが、場当たり的に自己啓発書や実務書などを読むよりは、先に理論や体系を押さえてしまった方が、何かと効率がいいように個人的にも思います。リーダーシップ理論などはその典型ではないかと。

 トップマネジャーにより求められるのはコンセプチュアルスキルである、という概念図が本書にも出てきますが、結局コンセプチュアルスキルとは、単に概念を概念として理解する能力を指すのではなく、事象を抽象化して理論に結び付け、また、理論を敷衍化して事象に結びつける、そうした理論と事象の間を行き来できる能力のことなのだろうなあと、こうした本を読んで改めて思った次第。

 人事部の人にとっては、管理職研修などにおける押さえるべきポイントをオーソドックスに網羅した本であるとともに、自身の「おさらい」本でもあるということになるのではないでしょうか。

【2017年第2版】

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人件費・要員管理のための「戦略」「財務」「業務」の3つのアプローチを解説。管理会計に偏っていないのがいい。

『人件費・要員管理の教科書 (労政時報選書)』.JPG
人件費・要員管理の教科書2.png
人件費・要員管理の教科書 (労政時報選書)』(2012/07 労務行政)

 本書の「まえがき」にもその指摘があるように、「適正な要員数と人件費」についてこれまで書かれた本は、管理会計の視点から技術的な解説をしたものが多いように思います(リストラのための余剰人員の算出方法に絞ったものも少なからずあるネ)。

 しかし、実際にそうした実務を行っている側からすると、管理会計以外の要素がモロモロ絡んでくることも多いと感じられるのではないでしょうか。

 例えば、企業として今どのような仕事に取り組むことが重要であるのか、あるいは、今の業績を維持しようとするとどれぐらいの業務量をこなさないといけないのか、また、現在その業務は本当にムリ・ムダなく最適に遂行されているのか、更には、企業を成長させるために新たにチャレンジしなければならないことは何か、といったことも考えるべき要素に含まれるでしょう。

 これらは、どれをとっても結論を出すのが難しいものですが、少なくとも、労働分配率がどうのこうのといった管理会計技術だけでは結論は導き出せないと考えられます。

 こうしたことを踏まえ、本書の著者は、スピードが求められる現在の企業経営においては、経営者の(言わば、将棋の世界で言うところの)"大局観"に基づく判断(著者はこれを「プロフェッショナル・ジャッジメント」と呼んでいる)に頼るところが多くあり、実際、この"大局観"に基づく「判断」は大事であって、その養成に注力することが求められるとしています。

 本書では、要員計画策定と総額人件費管理において、正しい"大局観"を持ち、的確な「判断」を行なうためには、「戦略アプローチ」「財務アプローチ」「業務アプローチ」の三つのアプローチの、それぞれの基本とその組合せの必要性を理解し、「管理技術」を身につけることが肝要であるとしています。

 「戦略アプローチ」とは、会社の投資を考えて、経営判断によって決定していくアプローチであり、「財務アプローチ」とは、きちんと利益が出るようにするために要員を算出するアプローチであり、「業務アプローチ」とは、発生する業務量をしっかりこなしていけるためのアプローチを指します。

 本書は、これら「管理技術」の解説に主眼を置き、人件費・要員計画の策定の基礎から応用までを分かりやすく解説しており、4章・5章・6章での三つのアプローチの各解説に入る前に、2章・3章で「適正要員数と適正人件費算定の基本」や、人件費とは何かについても解説していますが、管理会計の専門的な技術解説には深入りせず、後半の三つのアプローチについて説いた部分の理解を助けるための程度に止めています。

 幅広い視野に立って解説されているだけでなく、基本解説および各アプローチの解説において、逐一、事例を掲げながら説明しており、読み終えると一冊"ドリル"を仕上げたような読後感がありました(購入特典として、現状分析から計画策定、将来予測まで、そのまま使える各種エクセルツールも、ウェッブでダウンロードすることが可能)。

 結局、ここで言う"大局観"とは、単なる経験に基づく"ヤマ勘"を指すのではなく(もちろん経験も大事だろうが)、多角的な視点に立った「管理技術」に裏付けされたものであるということになるのでしょう。"大局観"を"センス"という言葉に置き換えれば、"技術あってのセンス"ということになるのでは。

 経営者の頭の中にあるイメージのレベルも含めれば、要員管理・人件費管理を行っていない会社というのは、まず皆無かと思うのですが、例えば「業務アプローチ」のレベルでどこまで突き詰めて行っているかというと、心許無くなる会社もあるのではないでしょうか。

 実際、赤字だからと言ってリストラして、リストラしたら黒字になって、黒字になったからと言って人を採用したら赤字になってまたリストラ...といったことを繰り返している会社もあることだし...(「業務改善」といった業務アプローチどころか、「選択と集中」といった戦略アプローチからして無かったりする)。

 「戦略的アプローチ」「財務アプローチ」「業務アプローチ」の三つのアプローチの理解およびその組み合わせによってこうした"大局観"(センス)を養うことは、経営者に限らず、人事や財務の担当者にとっても重要なことであると思われ、本書を読むことが、自身の知識の充実やち啓発だけでなく、自社の要員管理・人件費管理の在り方をチェックすることに繋がる場合もあるかもしれませんね。

 最終章・第7章の「より一層の組織効率の向上に向けて」に、「日本的経営」と言われるイデオロギーの中に「事業戦略と人事戦略の連動性の弛緩」というのがあって、事業戦略と経営戦略の連動性を否定するものではないが、デジタルには連動させない特質があり、これを"腹芸"のような知恵として評価し、むしろ「事業戦略と人事戦略の連動性の弛緩」をマネジメントの基礎概念の中に入れておくべきだとしているのには、ナルホドと思いました。

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〈キャリア志向〉の強い社員の転職をバックアップするという発想転換を提唱。

社員が「よく辞める」会社は成長する!.jpg社員が「よく辞める」会社は成長する! (PHPビジネス新書)

 長引く不況で若者の安定志向が強まっていると言われ、調査でも「定年まで働き続けたい」と答える人の割合が増えているとされていますが、実際には就活中の学生や若いサラリーマンの〈キャリア志向〉は驚くほど強いと、著者は述べています。

 今の若者は、自分らしいキャリアを積むのが当たり前だと考えていて、「ステップ型就職」という意識で企業に入社してくるため、入った会社が自分の「適職」ではない、「自己実現」できそうにないと感じたら辞めることにためらいはなく、また、ある仕事で能力を高めたら、転職・独立してさらなる成功を目指す傾向にあるとのこと、しかも、優秀な社員ほどこうした〈キャリア志向〉が強いとのことです。

 そこで企業側も、辞めていく人に向かって塩をまいたり、石もて追うたりしても何の得にもならず、転職・独立が当たり前の時代を迎えた今、スマートで合理的な送り方を身につけるとともに、スピンアウトするエネルギーを、企業の活力と成長につなげるマネジメントモデルを構築していくことが求められるとしています。

太田 肇 『社員が「よく辞める」会社は成長する!』2.JPG これまでの日本企業は、少なくとも高度成長期以来、長期雇用を前提に、何はともあれ、まず人材を確保し、使い方はあとで考えるという「ストック型」雇用システムを維持してきたが、これからの人材活用の最適解は「フロー型」マネジメントの中にあるとし、実際、伸びている会社は「フロー型」マネジメントを行っているところが多いとのこと、著者は「できる二割」の社員が抜ける組織は活力があるとまで言い切っています。

 個人にとって転職・独立に必要な年数と、会社側から見た「元がとれる」年数との間にはギャップがあるにしても、そのギャップは妥協が困難なほど大きくはないとし、目安として、入社3年で一人前に育て、10年で巣立たせ、その間の働きで上司も成果を手に入れる――要するに5年~10年程度を「適職選びの期間」と定め会社と個人の双方が損をしない仕組みを作れば、その期間に退職したとしてもそれまでに会社にかなりの貢献をしてくれるであろうし、また、そうした施策は女性や外国人留学生、非正規雇用社員の格差問題の解消にもつながり、社会的メリットもあるとしています。

 そのうえで、どうしても社員を流出させたくなければ社内に疑似的な労働市場をつくり、自分で仕事やキャリアを選択できるようにすればいいとしていますが、ただし、こうなると、やはり全社的には一定のストック人材を確保しておく必要もあるように思われました。

 また、「巣立ちのパワー」を生かすメカニズムの例として、ラーメン店の「のれん分け」制度や美容院の独立支援制度の事例が出てくるのが、かえって、こうした制度を入れる際に業種や職種が限定される印象を与えかねないような気もしました。

 社員の「巣立ち」を支援することは短期的・中期的に大きなモチベーションを引き出し、そのモチベーションが成果を大きく左右するのは、研究開発、デザイン、企画といった情報・ソフト系の仕事であると、著者自身そう述べているので、そのあたりの事例ももう少し欲しかった気がします。

 社員、企業、上司のそれぞれの立場から分かりやすく書かれていて、たとえば部下に「自立能力」をつけさせるには、異業種交流会やセミナー等を通じて「外の世界をわからせ」、そのことによって、本人にあらためて転職・独立の意思確認をし、また、自分の強みや弱みをわからせる、そして、第2テージとしてその「強みを生かし」、第3ステージとして、「強み」を伸ばしていくために実戦を経験させる―個人が自立すると、チームワークも良くなり、組織に対する帰属意識や愛着も、転職・独立する人のほうがより積極的な性質を帯びてくる―という論旨は、腑に落ちるものがありました。

 最後に、これからのリーダー像として「キャリア志向の部下を羽ばたかせる上司」像を提唱し、部下を育て、羽ばたかせることによって上司自身も成長できるとしています。

 優秀な社員をいかにして引き留めるかというリテンション施策に目が行きがちなところ、〈キャリア志向〉の強い社員の転職をバックアップすることで、会社と社員の間に「Win‐Winの関係」を築くというように発想の転換を促している点は、パラダイム変革的な提言として注目されていいかも。

 労働経済学ではスキルを、一つの会社でしか通用しない「企業特殊的スキル」と、どこでも通用する「一般スキル」に分類し、転職・独立するには「一般スキル」が必要だと言われていますが、著者は「外部通用性のある特殊的スキル」こそが転職や独立に役立つとしていて、このことは、当事者である社員自身が最もよく知っているのではないでしょうか。

 こうしたスキルは、伸び盛りの会社、業界内でも先端をいく企業においてこそより身につきやすいものであり、社員が「よく辞める」会社が成長するのではなく、成長している会社の社員は「よく辞める」ということになるんじゃないか。タイトルは「よく」に「良く」を懸けているのかもしれませんが、やや違和感あり、です。

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「人事の緑本(入門編)」。「人事の赤本(基礎編)」の"前"であり、「人事の青本(応用編)」と並んでお薦め。

はじめて人事担当者になったとき知っておくべき7つの基本3.JPGはじめて人事担当者になったとき知っておくべき.JPG人事担当者が知っておきたい、10の基礎知識。8つの心構え。』(人事の赤本)

はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割。(入門編) (労政時報選書)』(人事の緑本)

 企業が継続的に成長していくうえで欠かせない経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報のうち、最も重要なのが「ヒト」であることはドラッカーの指摘を待つまでもありませんが、経営管理においてその「ヒト」の部分を担うのが人事労務管理の役割であるといえるでしょう。

 では実際問題として、人事に新たに配属になった若手社員がいたとして、人事労務管理(人材マネジメント)の全体像がどれぐらい把握されているかというと、とりあえずは目の前の仕事をこなすことに忙殺され、近視眼的な視野でしか自らの仕事を捉えられていないということもあるのではないでしょうか。

 本書は、人事労務管理を担当する初心者から中堅クラスを対象に、人事の業務全般が体系的に把握できるように解説された入門書であり、2010年刊行の『人事担当者が知っておきたい、⑩の基礎知識。⑧つの心構え。―基礎編(人事の赤本)』『人事担当者が知っておきたい、⑧の実践策。⑦つのスキル。―ステップアップ編(人事の青本)』の姉妹本になります。

 第1章で「人事の基本」として7つの仕事を挙げ、第2章以下、人材確保から、人材活用、人材育成、働き方や報酬マネジメント、働きやすい環境、労使関係など、人事にとって重要な8つの役割について解説されています。

 原則として見開きごとに1テーマとなっていて、要点を絞って簡潔に解説されているうえに図説もふんだんに使用されていて、入門書としてたいへん読みやすく、内容的にもオーソドックスであり、新任の人事パーソンなどにも読みやすいものとなっているように思いました。

 こうした入門書において「読みやすさ」と「内容に漏れがなく一貫性があること」は大きなアドバンテージになるかと思われますが、本書はその両方を満たしており、人材マネジメントの基本的なコンセプトから、諸制度の枠組み、「採用」から「退職」までの業務の流れ、労働法・社会保険に関する基礎知識などが、バランスよくコンパクトに網羅されています。

 また、最終章では、環境の変化に伴うこれからの人事の課題として、少子高齢化、グローバル化、企業の社会的責任などを挙げ、それらに絡めて、これからの人事労務管理に在り方も説いていて、まさに「今」読むに相応しい入門書となっています。

 従来の人事労務管理の入門書が、実際には「マネジメント」領域までは踏み込んでおらず、実務中心のいわば「アドミニストレーション」偏重であるものが多いのに対し、この「緑本」「赤本」「青本」のシリーズを通して感じるのは、何れも人材の「マネジメント」という視座がしっかり織り込まれているという点です。

 部下に人事部の役割や仕事を教える際に、実は伝えるのに最も苦労するのがその「マネジメント」の部分であり、その点を含めてカバーしている点にこのシリーズの特長があるように思います。

【2017年第2版】

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日本における人事のフレキシビリゼーションの分析は秀逸。ディーセント・ワーク実現を提唱。

フレキシブル人事の失敗.jpgフレキシブル人事の失敗 日本とアメリカの経験』(2012/05 旬報社)

 明治大学経営学部教授の黒田兼一氏(1948年生まれ)と独立行政法人労働政策研究・研修機構の国際研究部勤務の山崎憲氏の共著(二人は山崎氏が明治大学経営学部経営研究科黒田教室で学んで以来の師弟関係にあるよう)です。
 著者らによれば、80年代後半以降、ICT(情報通信技術)の発展とアメリカ発のグローバリゼーションという二つの大波が押し寄せる中、企業経営においては、市場動向にフレキシブルに対応することが競争に打ち勝つ必須条件であるとされるようになったとしています。
 さらに、働く人びとの「働き方、働かせ方」も市場動向に合わせてフレキシブルにならなければならないとの考えのもと、人事労務「改革」によって、従来型人事労務管理のフレキシブル化が図られてきたとのことです。
 その「改革」とは、フレキシビリティに欠けるリジッドなあり方や慣行を見直し、変更するということですが、人事労務のあり方や労働慣行は国によって異なり、また、リジッドな領域も同じではないため、「改革」の狙いは同じでも、フレキシビリティの課題は違ってくるとのことです。

 本書では、第1章(黒田氏執筆)で日本の人事労務「改革」に、第2章(山崎氏執筆)で1980年代以降のアメリカの人事労務「改革」にそれぞれ焦点を充て、人事労務のフレキシビリゼーションの具体的な内容を探ることで、人事労務「改革」の中身を検討するとともに、第3章(共同執筆)で、その「改革」が市場動向に雇用と人事=処遇を合わせることによって働く人びとに苦難を強いるものであるとしたら、その現実の中から、働く人びとの「働きがいのある人間らしい仕事」(ディーセント・ワーク)を実現するには何が必要かを展望したものです。


 第1章「日本はアメリカを追っているのか―人事労務「改革」の末路」では、年功序列に見られるようなリジッドな「ヒト」基準の雇用・人事処遇制度にメスを入れ、市場動向にフレキシブルに対応する人事労務システムの構築することが、日本における人事労務「改革」の課題であるとするならば、日本は人事労務管理において、「ヒト」基準から「仕事」基準に雇用・処遇制度を移行することで「アメリカを追っている」ということになるのかを考察しています。
 そして、「雇用管理」における非正規雇用の広がりと多様化、「処遇制度」における「成果主義」の躓きと役割給の台頭、「時間管理」における長時間労働と残業など関する法規制の緩和などの流れをそれぞれ検証しています。
 そのうえで、日本におけるフレキシビリゼーションのターゲットは、リジッドな長期雇用慣行と「ヒト基準」の処遇であったとし、リジッドな長期雇用慣行に対しては、雇用の多様化、コア人材の絞り込み、非正規雇用の拡大という戦略がとられたとしています。
 一方、もう一つのターゲットである「ヒト基準」の処遇は、当初は「成果主義」というかたちで「ヒト基準」からの離脱を志向したがうまく機能せず、かえって従業員の労働意欲を減退させてしまい、そのため、従業員の労働意欲がもつメリットを損なわないようにするため、「ヒト基準」にとどまりながら、「ヒト基準」の中身を「年功と能力」から「役割貢献度」に移行させることで対処した(市場動向を反映させることができる「ヒト基準」に変更した)とし、「ヒト基準」を積極的に採用したのが日本型の賃金・人事処遇のフレキシビリゼーションであったとしています(「役割給」を「ヒト基準」と規定している点が興味深い)。


 第2章「アメリカン・ドリームの崩壊」では、1980年代以降のアメリカの人事労務「改革」を探るために、アメリカ型の人事労務管理の主流が形成された1930年代まで遡り、安定した労使関係を基盤とした社会政策の実現という考え方がしばらくは続いたものの1970年代以降ゆらぎを見せ、そうした中、1960年代から人的資源管理論が発展し、「労働の人間化(QWL)」施策などがとられたとしています。

 1980年代以降は、製造業の国際競争力低下という局面に際して、競争相手となった日本の人事労務管理なども参照しながら、労働組合の無い企業では「低賃金型」「官僚型」「人的資源型」「進出日本企業型」、労働組合のある企業では「伝統的ニューディール型」「(労使)対決型」「ジョイントチーム型」といった人事労務管理の多様化が進み、今日に至っているとのことです。
 そうした中、アメリカ企業における賃金・評価制度、職業訓練と能力評価、人事部の役割はどのように推移してきたかを解説し、その中で「職務基準」から「ヒト基準」への変更が見られることを指摘しています。

 また、高卒であっても企業で働くことができ、労働組合に守られ、一定の収入を得て家やクルマを買い、家族を養い、子どもに充分な教育を受けさせることが出来る―これこそがまさに「アメリカン・ドリーム」の真実の姿であり、これが崩壊したのが1980年代であり、その大きなきっかけとなったのが、日本企業の北米進出の成功とその影響によるアメリカの人事労務管理の日本化(ジャパナイゼーション)であったとしています。


 第3章「企業競争力を超えたディーセント・ワークに向かって」においては、まず冒頭で、これまでの分析を振り返り、日本とアメリカの人事労務管理はともにフレキシブル化に向かっているが、日本の場合は処遇に市場動向を反映させるための「ヒト基準」のフレキシブル化、アメリカの場合は「職務基準」から「ヒト基準」への変更と、総じて言えば、職務基準からヒト基準へ「収斂」してきていると概観しています(また、双方とも個人請負、パートタイム、派遣などの非正規雇用労働者の活用の動きは拡大しているとも)。
 そして、日本においては、人事労務管理のフレキシビリゼーション「改革」が、もっぱら企業競争力強化のために雇用と人事処遇を市場動向に合わせる「改革」であったから、働く人びとに格差と貧困、精神的圧迫と苦難を強いるものになったのであり、この問題を解決するには、「働きがいのある人間らしい仕事」(ディーセント・ワーク)を実現することが望まれるとしています。

 とりわけ、働く人びとにとって最も重要な課題である「雇用」の安定と企業内での「人事処遇」に的を絞って検討がされており、雇用に関しては、企業が求める「働かせ方」の多様化は避けられないように見えるが、それが不安定雇用層の大量創出となってはならず、そのために、原則として、一時的な仕事以外はすべて「雇用期間の定めのない雇用」とし、その中で、雇用調整のルールをどうするかなどを、時代の要請に沿って具体化していくことを提案しています。

 また、このことを前提に、賃金制度においては、正規・非正規の均等待遇、性差別賃金の解消に向け、「同一"価値"労働同一賃金」を実現すべきであるとし、そのためには、公平・公正な処遇が図れるよう、人事査定制度を規制していかねばならないとしています。
 そもそも人が人を正しく評価できるわけはない―にも関わらず、評価なしには処遇も報酬もできないとすれば、必要なことは評価の納得性であり、納得性という面を重視すれば、個人の問題ではなく、上司と部下、従業員相互の関係、更に言えば労使関係の問題として捉え直す必要があり、人事査定のあり方について、働く側からの規制・介入の道を探るべきであり、その役割は労働組合が果たすべきであるとしています。


 全体を通して、よく分析・整理されており、中でも、日本の人事労務管理の変遷の中で、リジッドな「ヒト基準」を市場動向に合わせで対応できるものに見直したのが、日本におけるフレキシビリゼーションであり、「仕事基準」に移行したわけではないことを、「役割給」の本質に絡めて解説している部分は極めて明快で、納得性の高い分析であると感じました。

 日本ではリジッドな「ヒト基準」を修正することがフレキシブル化であり、アメリカではリジッドな「仕事基準」を見直すことがフレキシブル化であった―どちらも市場の変化への対応を目指しているわけですが、基本の部分は堅持しているということになるのでしょうか(グローバゼーションへの対応度の日米間の格差は拡大しているという見方があるのだなあと)。

 しかしながら、「職務給」が日本に馴染まないことが「成果主義の躓き」によって再確認されたとするならば、「ヒト基準」の処遇制度の中で、どうやって評価の納得性を担保していくかということが課題になるわけで、そうした規制づくりを使用者側が一方的に行えば恣意的なものとなる恐れがあり、「査定される側、つまり労働組合による人事査定への介入と規制が決定的に重要となってくる」というのが著者らの提言です。

 要するに、集団的労使関係の中でそうした規制を定めていくということですが、この部分は、提言と現実の間に、「評価の開示」等に関しての埋めなければならない課題がまだまだあるように思われました(分析に優れる一方で、逓減部分がやや弱いか)。

《読書MEMO》
●目次
序 企業経営と雇用の世界で何が起こっているのか
  ウォール街を占拠せよ!/すべてがフレキシビリティの名の下に/本書のねらいと構成
第1章 日本はアメリカを追っているのか 人事労務「改革」の末路
  1 ドーアの嘆きとジャコービィの問題提起
  2 「改革」を促したもの
  フォーディズムの好循環/「改革」のはじまり――フォーディズムの危機/日本における新自由主義(ネオ・リベラリズム)の台頭と「日本的経営」ブーム/改革への本格的な導引――ICTとグローバリゼーション/フレキシビリティ
  3 「改革」の始まり 日経連の「新時代の『日本的経営』」
  日経連の人事新戦略/フレキシビリゼーションの課題/年功制打破と個別化/雇用ポートフォリオと能力・成果重視の人事制度
  4 人事労務管理「改革」の現実
   �雇用管理――正規雇用と非正規雇用
    雇用形態の多様化とフレキシビリティ/非正規雇用の広がりと多様化/確実に進んだ雇用のフレキシビリティ
   �人事と処遇制度――成果主義の混迷と役割給の台頭
   「ヒト基準」賃金とフレキシビリティ/「成果主義」賃金の混迷/「役割給」の台頭
   �時間管理――長時間労働と規制緩和
   労働時間のフレキシビリゼーション/脱法行為を含んだ時間管理のフレキシブル化の進行
 5 市場志向とアメリカ化の実相
第2章 アメリカン・ドリームの崩壊
 1 アメリカが追いかけてきたもの 一九八〇年代以前
  ウェルフェア・マネジメントと日本的経営/アメリカ型人事労務管理の主流/安定した労使関係を基盤とした社会政策の実現/もう一つの選択――人的資源管理/人的資源管理の導入と働きかたの変化/一九七〇年代――ゆらぎの始まり/労働の人間化(QWL)
 2 アメリカの変化 一九八〇年代以降
  競争相手としての日本/ダンロップ委員会
 3 アメリカの人事労務管理「改革」の現実
�多様化する人事労務 �賃金・評価制度 �職業訓練と能力評価 �人事部の役割
 4 分水嶺としての一九八〇年代
第3章 企業競争力を超えたディーセントワークに向かって
 1 アメリカの可能性
  社会と共生する人事労務管理の必要性/新しいパートナーシップの構築/
  太平洋を挟んだスパイラル
 2 日本の可能性
  新しい時代の雇用安定への模索/新しい賃金制度と均等処遇への道/労働時間短縮と
  ワーク・ライフ・バランス/日本におけるディーセントワークへの道

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経験に裏打ちされた八木氏の話は、これからの人事のあり方を示して大いに啓発的。

『戦略人事のビジョン―制度で縛るな、ストーリーを語れ』0.JPG
戦略人事のビジョン.jpg
   八木 洋介.jpg 八木 洋介 氏(LIXILグループ執行役副社長 人事総務・法務担当)
戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ (光文社新書)
LIXIL.jpg
GE.jpg 本書は、「日本GE」でHRリーダーなどを務め、'12年4月に住生活グループ(トステム、INAX、新日軽、東洋エクステリアの各社とLIXILが合併してできた会社。同年7月に社名を「LIXILグループ」に変更)に執行役副社長として転じ、人事・総務・法務を担当している八木洋介氏が、「人事」について語ったものに、「キャリア」「リーダーシップ」の研究者である神戸大学の金井壽宏教授が、章ごとに解説を加えた構成となっています。

 八木氏は、マネジメントには、「現在」を見て、勝つための戦略を立てる《戦略性のマネジメント》と、「過去」を見て、企業における歴史的継続性を重視する《継続性のマネジメント》があるとし、後者が行われている企業は世の中の変化に対して鈍感になりやすく、臨機応変な仕掛けよりも、以前につくった仕組みの温存にこだわりがちであり、そうした企業の人事部門は、前例踏襲を優先し、権限をたてに制度やマニュアルを固守するといった姿勢をとりがちであるとしています。

 そのうえで、いまだに職能資格制度を続けている企業や家族手当や通勤手当を払っている企業が多くあることなどを挙げ、多くの日本企業の人事部門は《継続性のマネジメント》に縛られていているとしています。

 では、《戦略性のマネジメント》とは何かいうと、「こうやって勝つ」という戦略ストーリーを分かりやすい言葉で語ることで、社員のやる気を最大化し、生産性を上げることであって、これこそが人事の役割であるとしています。

 制度は権限を生み出し、人事制度ができれば人事部に権限が生まれ、人事担当者はル―ルや権限に基づいて仕事しがちになるとし、戦略人事における最大の課題は制度を固守することではなく、マネジジャーやリーダーの育成であるとしています。

 そのためには、人事担当者も自らリーダーシップを発揮していくことを求められるとし、人事担当者にとってのリーダーシップとは、権限ではなく見識を持ち、正しいことを正しく主張することであり、この場合の正しいこととは、ストーリー化した戦略であり、企業が業績を上げて成長していくための大きな絵(ビッグピクチャー)であり、あるいは世の中の変化に合わせて会社に起こすべき変革の道筋であるとしています。

 GEは「勝ちの定義」がはっきりしている会社であり、GEにおける「勝ちの定義」とは、「グロース(成長)とリターン(利益)」の追求であって(「雇用を守ること」は含まれていない)、その戦略にはストーリー性があり、社員に納得感のあるものであると。

 面白いと思ったのは、GEは「建前の会社」だとしていて、従来の日本企業の以心伝心、お互いの本音を探り合うようなコミュニケーションスタイルではグローバル化には対応しきれず、むしろ本音を封印し、社員が「建前で働く」会社にすることが、会社のグローバル化を成功に導くとしている点です。

 また、GEはオリンピックで金メダルを狙うアスリート集団のような企業だとして、GEがどのような人材を集め、どんなやり方で社員を評価しているのかを紹介するとともに、会社はさしずめ集団で行う"狩り"の場であって、但し、ライオンだって四六時中狩りをしているわけではないのだから、人間もしっかり休養をとらなければならないとも。

 ここまで経験に裏打ちされたわかりやすい論旨となっており、更に中盤においては自らが歩んできたキャリアのストーリーを語るなどしていて、八木氏自身が社員のやる気を引き出すためにどのようなことをしてきたかが具体的に語られています。

 そのうえで、リーダーを育てるにはどうすればよいかということについて、GEのリーダー育成法を解説しながら、それを参照しつつ自らが考案した、リーダー候補者たちに「自分の軸」を明確化してもらうことに重点を置いた日本発のリーダー育成プログラムを紹介しています。

 最後に、競争に勝ち抜くことを目的とする「強い会社」という概念と、自社の使命や価値観を追求し、社会に対して存在意義を示せる「よい会社」という概念は融合できるとし、日本企業が「強くて、よい会社」になっていくためには、まず、それぞれの企業が社会に対してもたらす真の付加価値をもう一度見定め、それを前面に打ち出していく必要があるとし、更に、「強くて、よい会社」をつくっていくために人事担当者が果たすべき役割や、そうした人事のプロには「人のプロ」であることが資質として求められるとしています。

 全体を通して、GEにおける自らの経験をもとに、実務者の視点から分かりやすく説かれており、一方で、日本企業のこれからの人事のあり方や人材育成の考え方の方向性に多くの示唆を与える内容となっています。
『組織変革のビジョン』.jpg
 実は本書刊行とほぼ同じ時期に、八木氏がパネラーを務めたディスカションを聴講しましたが、そこでも八木氏は、「世界からものを見る vs.日本からもの見る」「建前によるマネジメント vs.本音によるマネジメント」「戦略性 vs.継続性」「強い会社 vs.よい会社」という4つの視点から、本書で書かれてることを一貫して強調していました。

 「権限は人事で握らず、全てラインマネジャーに渡せ」「権限ではなく見識、ルールではなくイクセプション」「"狩り"をするために休ませる」「綺麗事を言って実行する」「世界で一番難しい問題を解決する会社」..etc. 刺激的なフレーズが八木氏の口からポンポン飛び出し、ああ、こんなエネルギッシュな人が外資の人事責任者をやるのだなあと、大いに触発されました。

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巷の評価が高かった割には、個人的には相性がイマイチだった2冊。

『破壊と創造の人事』.jpg破壊と創造の人事』['11年] 「働くこと」を企業と大人にたずねたい.jpg 『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』['11年]

破壊と創造.JPG 『破壊と創造の人事』('11年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、帯には守島基博・一橋大学教授推薦とあり、Amazon.comでレビューでは高い評価で、『労政時報』のアンケートでも、人事パーソンが推薦する本に入っていました。

 第1章で「日本の人事」の歴史を辿り、バブル崩壊以降、2度の転換期を経ていることを指摘していて、このあたりはまあまあ導入部としてはよく纏まっていたように思います。第2章は、第1章の状況を踏まえ、これからの人事が、戦略人事として成果を上げるにはどうすればよいかを「教育・人材開発」「コーポレイトユニバーシティ」「採用」「グローバル化」「グループ人事」「メンタルヘルス」といったキーワードに沿って考察したとのことですが、この部分もキーワードとして挙げたテーマを巡る問題の解説としてはよく纏まっていたと思いますし、個人的には、「人材データベース」の節などは"我が意を得たり"という感じでした。

 それでいよいよ本論かと思ったら、第3章として、グローバル人材、経済、コーチング等いろいろな分野で活躍する第一人者へのインタビューが挿入され、第4章でやっと本論に、という感じ。ところが、この第4章の実際の中身は、人事担当者が現在おかれている位置と今後のキャリア形成について概観的に20ページぐらい述べられているだけで、その後すぐ、第5章として、著者が2年間で大企業を1000社以上廻って取材したという人事部長や人事部の各担当者のインタビューからの抜粋があり、これでお終わり。

 インタビュー集にするならインタビュー集で1冊に纏めた方が良かったような気もしますが、1000社以上廻った中から選んだという割には、インタビューの内容にもムラがあり、"玉石混交"感が。インタビューのテーマがあっちこっち飛ぶのも困りますが、そもそも、本論がどこにあるのか分からないような変則的な構成の本だったように思われました。

 『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』('11年/東洋経済新報社)は、これから就職しようとする人や若い人々に向けて、働くとはどんなことか、良き企業人とは、良き社会とはについて、さまざまな角度より論じた本で、著者は、企業の人事担当として、30年間のべ1万人にわたる人事・採用面接に立ち会ってきたとのことですが、まず、あまりこうした数字を誇示しない方がいいと思うなあ。著者の会社はしっかり面接していたのかもしれないけれど、世の中には、いい加減な面接で数だけは何万とこなしている採用担当者もいるかも知れないし。

 本の中身自体は、書いている人はすごく真面目そうだなあという感じがしましたが、あまりに"考え中"のことが多いような気がして、そもそも、コンサルタントでも評論家でもなく、現役の人事マンなのだから、あまり結論めいたことばかり言うのも変なのですが(その意味では自分に正直な人なのだろう)、しかしながら、"考え中"のことを"考え中"のまま書いているような気がしなくもありませんでした。

 冒頭の小説風の文章などはその典型で、そのモヤっとした感じが全体にも敷衍されていて、図説にもその傾向がみられたように思います。部分部分においてはそれなりの示唆を得られた箇所もありましたが、チャート図的に矢印で関連づけられていてその部分の解説が無かったりすると、どうしても引っ掛かってしまいました。

 読む人が読むと嵌るのでしょうが(自分が読者として未熟なだけかも)、全体に「思考ノート」みたいで、本にするのはちょっと早かったのではないかなあ。ただ、こちらもAmazon.comでレビューでは高い評価であり、玄田有史・東大教授の解説も付されています。

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現役の人事パーソンにとっても示唆に富むフレーズに満ちている。

人事部は見ている5.JPG人事部は見ている.jpg人事部は見ている。 (日経プレミアシリーズ)

 Amazon.com のレビューではそれほど評価が高くなかったのですが、読んでみたらなかなかよく、また、人事に関係する仕事をしている人の間では、「意外と優れもの」だったとの声も聴くことがあった本。
 基本的には一般ビジネスパーソン向けの体裁であるため、「出世の方程式」のようなものを期待して読んでしまった人もいたのかなあ。

 本書プロローグによれば、ビジネスパーソンに「人事」の仕事の実態を理解してもらい、自分自身のキャリアを考える際に役立ててもらうのが本書の狙いであるとのことで、帯には「企業で人事業務に携わった筆者が包み隠さず語ります」とありますが、実際、自らの体験や多くの人事担当者へのインタビューがベースとなっているため、読み物のように楽しく読めて、かつ、人事の"実態"を分かりよく解説しているように思いました。

 外から見た人事部と実際に人事部の中で行われていることの違いや、人事部員がどう思って仕事しているかなどは、キャリアの入り口にあり、人事の仕事を希望している人や、今は別部署で働いているけrども、将来は人事の仕事をやってみたいと考えている人には、大いに参考になると思われます。

 同じ人事部員でも、担当する業務によって性格傾向が異なることを著者なりに分析していて、例えば、異動や考課を担当する人事部員は、コミュニケーション能力とバランス感覚に優れた人が求められるといったように、それがそのまま、適性要件として示されているのが興味深いです。

 「公平な人事異動をしても7割は不満を持つ」「人は自分のことを3割高く評価している」といのは、まさに"実態"でしょう。「採用を左右するのは"偶然"や"相性"」であるというのも、経験者ならば思わず頷きたくなるのでは。

 「人事部の機能は担当する社員数に規定される」とし、人事部員にとって重要とされる能力が、企業規模によってその要素や重要度が異なってくることを統計で示すとともに、「社員と直接つながることがいいのか」を考察し、そのことに違和感を持つ人事部員も少なくないのではないかとしています。

 「目標管理だけでは真の評価はできない」とし、コミュニケーション・ツールとして割り切るべきだとの考えにも納得。評価されるポイントは職場内での評判だったりもするとして、様々な例を挙げて、人事部から見た「出世の構造」を解き明かしています。

 「人事は裁量権が残されている仕事だ」とし、「個別案件こそが人事部の存在意義」であるとしながらも、特定のマネジャーや部員の「正義の味方になるとしっぺ返しを受ける」というのも、身に覚えのある人事パーソンはいるのでは。

 最後に、現在、人事部は曲がり角に立っているとして、雇用リスクや働き方の多様化とどのように向かい合っていけばよいかを説くとともに、「社員の人生は社員が決める」ものであり、会社(人事)側も、社員のライフサイクルに応じたよりきめ細かな対応が求められるとしています。

 最初は、一般ビジネスパーソンに向けた「人事部の仕事」の入門書のように思えたのですが、読み終えて振り返ってみれば、現役の人事パーソンにとっても示唆に富むフレーズに満ちており、たいへんコストパフォーマンの良い本でした。
 人事部にいる人にとっては、"励ましの書"という感じかな。若手、ベテランを問わず、お奨めです(「人事部の仕事」のストレートな入門書としては、大南幸弘・稲山耕司・石原正雄・大南弘巳 著『人事部 改訂2版(図解でわかる部門の仕事)』('10年/本能率協会マネジメントセンター)がお奨めです)。


《読書MEMO》
●人事部員のキャラクターの違い(34p~42p)
・異動・考課を担当...コミュニケーション能力とバランス感覚に優れる(姿勢が真摯で誰に対しても公平)
・労働条件を担当...過去のいきさつや実際の運用事例も把握する必要(一人前になるには一定の時間を要す)
・労働組合との団体交渉担当...かけひきや揉め事が嫌いではないタイプ。
・人事制度の企画・立案担当...概念的な嗜好を好む傾向
・勤務管理・給与管理担当...縁の下の力持ち
・採用担当...明るくて感じのいい人(採用担当者の魅力が、応募者を惹きつける要素になるから)
●そもそも、人事評価は主観的であり感情面が大きくかかわってくる。求めるべきは、客観性や公平性ではなく、評価される社員の「うん、そうだ」という納得なのだ。
●一定の人数を超えると、直接個々の社員を知ることはできないので、所属長を通した伝聞情報で個々の社員を把握する。
●人事部の役割は、所属長をサポートすることであり、管理を代行することではない。
●どの職場を経験して、どのポストに就いているかが、現在の評価基準になり、将来の昇格の可能性を示唆する。
●どの職層においても、直接の上司との関係が基本的に重要だ。その上司の得意、不得意を観察すること。そのうえで、定期的にさまざまな報告をすること。
●人事権は、個人や役職者の権利ではなくて、経営権の一つなのだ。だから、人事権を自分の権限であると錯覚して、部下や後輩に威張り散らしたり、彼らの人生をコントロールできるなどとは決して思ってはいけない。

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人事パーソンへの応援歌であり、人事パーソンのキャリア形成に関する示唆に富む。

日本人事5.JPG 『日本人事 NIPPON JINJI~人事のプロから働く人たちへ。時代を生き抜くメッセージ~』(2011/08 労務行政)

 財団法人労務行政研究所の創立80周年を記念して発行された本とのことで、多彩な業界で活躍している15人の人事パーソンやOB・OGへのインタビュー集という構成をとっています。以前にパイロット版をちらっと読んで、なかなか興味深い企画のように思いましたが、今回通して読んでみて、共感させられる部分が予想以上に多くありました。

 インタビューの内容は、若い頃の苦労話、仕事での壁をいかに乗り越えたか、人事パーソンとしての信条や大切にしているもの、経営者や労働組合との関係構築方法など広範囲に及び、何れも示唆に富むエピソードやコメントを含んだもので、15人の話を一気に読んでしまいました。

 「人事」の仕事に携わる人事パーソンというのは、今まではあくまでも裏方という位置づけであり、個人がその「姿」を見せることは少なかったと思いますが、本書では、それぞれがビジネスパーソンとしてのキャリアをどのように積んできたかが自身の言葉で述べられていて、小説を読むように興味深く読めます。

 何れ錚々たる15人の顔ぶれですが、会社に入った時から人事をやるつもりだった人はおらず、社命等により人事に配属になった人が殆どであり、そうした中、"サラリーマン"という枠組みを超えて、どのように自分のやりたい仕事を発見し、自分を磨き、自己実現を図ってきたかが、体験的に語られています。

 大企業だからといって人事施策や諸制度がオートマチックに企画立案、導入されていくわけではなく、そこには人事パーソン一人ひとりの、社員にやる気を持って仕事をしてもらいたいという思いが込められており、また、経営層・労働組合との信頼関係がその支えになっていることを改めて感じました。

 登場する人事パーソンに共通していると思われた点は、人事部門にいながらも他部門への転出を希望するなど会社組織の現場を知りたいという意識の強い人や、人事のことだけを考えるだけでなく常に会社全体、世の中全体のことを考える志向を持った人が多いことです(人事=スペシャリストといった一般的なイメージとは随分異なる)。
 そう思いながら読んでいたら、堀場製作所の野崎治子氏が、自身へのインタビューの中で、「現場目線に立ち、多方面へアンテナを張ることが大事」としっかり要約していました。

 人事部門は社内でもエリートが集う部署という見られ方をすることが多いわけですが、ここに登場している人事パーソンは、その殆どが、入社以来ずっと順風満帆に陽の当たる道だけを歩んできたわけでなく、個々のキャリアの中では不遇の時代があったことが窺えます。そうした逆境を彼らが乗り越えることができたのは、それぞれが持つ強い意志と実行力の賜物であったと共に、メンターとなる経営者や上司との出会いが、そのキャリアの節目にあったことも見逃せないと思いました。

 「人事」の役割は、個人の能力を最大限に引き出し"人を活かす"ことに外ならないと、あとがきの「発刊によせて」で、齋藤智文氏と共に本書の取材及執筆を務めた溝上憲文氏が書いています。
 同僚をやる気にさせるにはどうすればよいか、部分最適に陥らず経営の方向性を見据えた全体最適を見据え、社員を一つのベクトルに導いていくにはどうすればよいのか、といったことについて、随所に経験に裏打ちされた提言が見られ、一般のビジネスパーソンや会社経営者が読んでも啓発されるものは多分にあるかと思われます(いわんや人事パーソンをや)。

 溝上憲文氏は、「人事部に元気がないと言われて久しい」とも書いていますが、個人的にもそれは感じられ、金融不況による緊縮財政、相次ぐM&Aなどによる先行き不透明な状況下で、非常に優秀なはずの人材が、極々短期的な視点でしか制度の改革にあたっていなかったりするのを見ることもあります。
 その制度改革すら課題山積で、やる気はある(或いは、やる必要は感じている)ものの、どこから手をつけていいのか分からず、途方に暮れているという状況も、少なからずあるかと思われます。

 本書は「人事」への応援メッセージが多分に込められているとともに、本が売れるとすれば、やはり「人事」はやや元気喪失気味なのかとも思ったりします。ただ、そうした中でも、次代のリーダーたらんという人は少なからずいるでしょう。あとがきで齋藤智文氏が書いているように、そうした人にとって「リーダーシップ発揮のためのよりどころ」となる本ではないかと思いました。

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報酬制度改革がまだ不十分というのは現場感覚に近い。人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっている。

2013年、日本型人事は崩壊する.jpg2013年、日本型人事は崩壊する! 企業は「年金支給ゼロ」にどう対応すべきか』(朝日新聞出版)

2013年、日本型人事は崩壊する27.JPG タイトルにある「2013年」問題というのは、「2013年度からは60歳になっても厚生年金が受給できなくなる」ことにより起きると予想される問題を指しています。現在も、60歳から64歳までの間に支給される特別支給の老齢厚生年金は、1階の定額部分相当の支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられていますが、2013年度からは、2階の報酬比例部分も60歳から65歳へと引き上げられることになっています。

 但し、こちらも支給開始年齢の引き上げは段階的に行われるため、完全に65歳支給開始となるのは2025年度であり、ちょうどその時に64歳になる人については、その年も含めた前5年間(2021年度~2025年度)は年金が支給されないことになります。2013年度から60歳到達者がすぐに年金をもらうことができなくなるのは確かですが、2013年度に60歳になる人は、2014年度からは報酬比例部分の支給が始まります。60歳到達者を基準に、その人に報酬比例部分が支給されるのはいつかと考えると、それは2013年度から2021年度にかけて段階的に起きる問題であるととれなくもありません。

 しかし、いずれにせよ企業は、被用者の65歳までの雇用を実現し、さらには70歳までの雇用を考えていく必要があり、その1つの節目が2013年であることに異論はありません。こうした時代を迎え、わが国の人事制度や人材戦略は大きく変わらざるを得ないだろうと著者は予測しています。

 著者によれば、成果主義が流行したといえ、真の報酬改革を断行した企業は少なく、リーマンショックの影響で人材育成や人材活用への取り組みも道半ばであり、多くの企業で、嘱託者の処遇是正、実力主義への転換、若年層の効率的育成、高齢者や女性の活用といった課題が残されているとのことです。

 その上で、これからの報酬制度は、能力によって報酬が変わる制度から、同一労働同一給与の原則に基づく職務給制度への転換が求められるとし、給与については、職務評価をシンプルにして要員管理にも応用可能な日本型職務給制度を、賞与については、業績と賞与総原資との相関を強めた業績連動賞与を提唱しています。

 この部分はオーソドックスな提案であるがゆえに、2000年代前半までに何度もなされてきたものと重なる部分は多いのですが、企業の関心事はリーマンショック前にはすでに人材開発の充実やES(従業員満足度)の向上に移行しており、報酬制度改革はそれ以前に完了しているという認識が風潮としてある中、その改革は充分なものではなく、例えば年功的賃金などは実態として今でも残っているという著者の主張は、大方の人事の現場の実感に近いものではないでしょうか。

 報酬制度改革に伴い、人事部の人材採用や人材育成にも変化が現れるであろうとし、後半部では、人材育成やキャリア開発の進め方についても実務的な視点から解説しています。例えば、20歳代後半から選抜型エリート教育を開始し、自主性に任せるのではなく、半強制的に教育をする必要があるとし、内部講師を起用する機会が増えるだろうが、嘱託者に先生になってもらうのも一案であるといった具合に、高齢者の活用なども視野に入れた提言がなされ、さらに、中堅層や高齢層のキャリア開発のポイント、女性の活用支援策も提言されています。

 最後に、「日本企業に必要な価値観/風土」として、①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる、②年長者を敬う、③部下をリスペクトする、④助け合いの精神を共有する、⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識をもち続ける、の5つを掲げていますが、日本的風土として"守るべきもの"があり、それを失ってはならないという著者の考えが織り込まれているように思います。

 書名自体は煽り気味ともとれますが、人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっていると思います。企業が国際競争力を身につけるうえで、報酬制度改革は避けて通れない課題であり、2013年問題がそうした改革の契機になればという思いが込められているように思われました。併せて、次なる改革においては、報酬制度だけではなく、人材育成・キャリア開発といった課題にも人事は目を向けなければならないことを示唆した良書だと思います。

 《読書MEMO》
●日本企業が抱える人事・報酬システムの課題(62p)
①"55歳定年"が根底に残っている
② 給与カーブが年功的である
③ 人件費が変動費化されていない
④ マスメディアさえ報酬ポリシーを誤解している
⑤ 嘱託者が活躍していない
⑥ 女性がまだまだ活躍していない
⑦ 大学全入世代の受け入れ体制が整っていない
⑧ ハングリー精神などの面で中国人に完敗している
⑨ 諸施策がモチベーション向上につながっていない
⑩ コア人材の育成が遅れている
●これからの人材育成キーワード(153p)
① 半強制
② 基礎
③ 体験
④ 終身教育
⑤ PDCA
●日本企業に必要な価値観/風土
①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる
②年長者を敬う
③部下をリスペクトする
④助け合いの精神を共有する
⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識を持ち続ける

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「●日経文庫」の インデックッスへ

社員全般の問題として働き方改革を提起していて、WLB入門書として今日的スタンダード。

職場のワークライフバランス90.JPG職場のワーク・ライフ・バランス 日経文庫.jpg    男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット.jpg  人を活かす企業が伸びる 帯付き.jpg
職場のワーク・ライフ・バランス (日経文庫)』['10年]/『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)』['04年]/『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』['08年]

 働き方を見直し、仕事と仕事以外の生活のどちらも充実させるワーク・ライフ・バランス(WLB)支援が、人材マネジメントにおける今日的かつ重要な課題であるという認識は、企業間に急速に浸透しつつあると思われます。また学究的立場からも、多くの研究者がこの領域に"参入"しつつあるように思います。

 本書は職場の管理職層を主な読者層として書かれた入門書ですが、研究者である著者らには、『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』(2004年3月中公新書)、『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』(2008年11月 勁草書房)などの前著があり、早期からこの課題に取り組んできた執筆者であると言えます。
 
 第1章から第2章にかけて、なぜワーク・ライフ・バランスが必要なのかを再整理し、今日においては「時間制約」のある社員が増えているにもかかわらず、職場の時間管理は、いまだに「時間制約」のない"ワーク・ワーク社員"を想定している場合が多く、今後は"ワーク・ライフ社員"も意欲的に仕事に取り組め仕事が継続できるような、働き方の改革が必要であるとして、その在り方、改革の進め方を提唱しています。

 第3章では、その際の重要ポイントとして、組織のコミュニケーションの円滑化を掲げ、何がコミュニケーションを阻害し、それを取り除いて組織コミュニケーションを円滑化するにはどうすればよいかを、具体的事例なども織り込みながら解説しています。

 後半の第4章では、育児・介護休業や短時間勤務制度を利用しやすくするにはどうしたらいいかを、例えば、制度利用を人事処遇にどう反映させるか(休業制度利用者の期間中の評価をどうするか)といったことにまで踏み込んで解説し、第5章では、女性の活躍の場を拡大することの必要を説いています。
 WLB支援と均等施策を"車の両輪"として推進すべきであるとの考え方は著者らが以前から提唱していることですが、ポジティブアクションという施策的観点から再整理されているのが本章の特徴です。

 第6章では、男性の両立問題を考察し、男性の両立を支援することが女性の活躍の場を広げることにもつながるとし、最終章の第7章では、キャリアプラン、或いは更に推し広げて、ライフデザインという観点から働き方を見直すことを提唱しています。

 以上の流れからみてわかる通り、従来のこの分野の入門書が、育児や介護と仕事との両立支援の問題から説き起こし、実はこれはそうした特定の社員の問題ではなく、働く人全般に関わる問題であるとして、働き方の改革を進めなければならないという論旨になる傾向があったのに対し、本書では、前半部分で社員全般の問題として働き方改革の問題を提起しており、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の入門書としては、今日的なスタンダードではないかという印象を持ちました。

 旧著『男性の育児休業』は、人材マネジメントというより労働社会学的観点から書かれた本ですが、北欧諸国における男性の育児休業取得率が高い要因として、法律で一定の強制力を持たせていることなどが紹介されていて、これを読むと、日本での法改正が緩慢であると思わざるを得ず、今読んでも日本がまだまだ遅れていることにインパクトを受ける本です。

 一方、前著『人を活かす企業が伸びる』は、ワーク・ライフ・バランス支援が企業にとってどのようなメリットがあるかを、データ分析により実証的に明らかにしようとしたもので(そのことを通して、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であるという結論への落とし込みもなされている)、こうした検証が日本は欧米に比べて10年以上も遅れていることからみても、意義のある研究であるとは思いましたが、学術書の体裁であるため具体的な提案はそれほどなされておらず、むしろ、入門書である本書の方が具体的な提案要素は多いように思いました。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジェフリー・フェファー)

「人材を活かす企業」になるための条件を示す。いま日本で注目されるのは、ある意味、皮肉?

人材を生かす企業.jpg人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式.jpg   ジェフリー・フェファー  『隠れた人材価値』.jpg ジェフリー・フェッファー(Jeffrey Pfeffer).jpg Jeffrey Pfeffer
人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか? (トッパンのビジネス経営書シリーズ (21))』『人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式』 『隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密 (Harvard Business School Press)

 本書は、1998年に米国で刊行され、同年に日本でも翻訳刊行された『人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか?』(トッパン)の12年ぶりの復刊本であり、原著は、MBAプログラムのコアカリキュラムと選択科目の両方で学ばれる古典的な名著です。
 著者のジェフリー・フェファー米スタンフォード大学教授は、同じスタンフォード大のチャールズ・オライリー教授との共著『隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密』('02年/翔泳社Harvard Business School Pressシリーズ)などの名著もある人です。

 そのフェファー教授は、本書において、人員削減によるコスト削減を批判し、優れた人材管理能力(人材の活用と育成が図られる企業のしくみ)に基づいた収益向上こそが重視されるべきであると主張しています。

人材を活かす企業1.jpg 今でこそ、人材価値に重きをおくことは、人材マネジメントの不変的トレンドとしてずっとあったかのように思われていますが、著者によれば、また、監修者の守島基博・一橋大学教授もあとがきで書いていますが、本書刊行当時の米国では、人材重視の経営は珍しいことであり、多くの企業は、従業員の存在を無視して、競争に勝つための戦略にばかり気をとられていたとのことです。

 その結果、事業の売買やダウンサイジング(規模縮小)が横行し、派遣社員やアルバイトなどの臨時雇用が急増して、社内の結束力が弱体化したとしています(参照しているのは主に80年代から90年代にかけての米国の企業事例だが、まるで2000年代の日本のことのように読める)。

 一方で、第2章では、人材重視の施策をとった一部の企業の成功事例を、業種別に引いています(その中には日本企業も含まれている)。
 更に、第3章では、「人材を活かす企業」になるための7つの条件として、①雇用の保証、②採用の徹底、③自己管理チームと権限の委譲、④高い成功報酬、⑤幅広い教育、⑥格差の縮小、⑦業績情報の共有を挙げていますが、何よりも、生産性を上げるためには雇用の保障が大切であるとしているのが目を引き、更に、社員教育の重要性を説いているのが印象に残りました。

 人材マネジメント全般を扱った本ですが、畳みかけるように豊富な事例を繰り出す一方で(こうした事例を多く読むことも啓発効果に繋がるかも)、章ごとに論旨が分かりやすく結論づけられていますし、例えば、第6章のでは、安易なダウンサイジングを批判しながらも、どうしてもリストラをしなければならない場合の望ましい方法について述べるなど、現実対応にも触れています。

 賃金制度の立案・運用に携わっている人事担当者などは、第7章の「給与問題へのアプローチ」から重点的に読んでみる読み方もあるのではないでしょうか。上記「人材を活かす企業」の7つの条件の「④高い成功報酬」とは異なる観点から、個人対象の業績給(成果に基づく変動給)の問題点を厳しく指摘しています(チームワークや信頼を損ない、社員が報酬を争って敵対すると)。

 守島氏があとがきで書いているように、この本が出た1998年当時まで、日本の多くの企業は、本書で著者が提唱する「人材を活かす企業」であり、それまで人材は、企業のなかで貴重な資源として、尊重され、育成され、ある程度の長期雇用を保証されてきた―それが、バブル崩壊以降、多くの日本企業は、短期的な雇用関係に移行しつつあった米国をモデルとして追従してしまった―という見方も成り立ち、本書から多くの示唆が得られるというのは、ある意味まさに皮肉であるように思います。

 日本企業も、「人材軽視」が当たり前になってしまったとは思いたくありませんが、本書の論旨が、「普通のこと」(=人材軽視の経営)をしていてはダメだという論調になっているのが興味深かったです。
 欧米には、「ベストプラクティス・アプローチ」の理論が伝統的に根強くあり、いま現在もそれを指向していて、日本企業もグローバル・スタンダードの潮流の中で、それに巻き込まれようとしているという見方もできるのではないでしょうか。

 この辺りに興味を持たれた読者には、須田敏子・青山学院大学教授の『戦略人事論―競争優位の人材マネジメント』('10年/日本経済新聞出版社)へ読み進まれることをお勧めします。 

 欧米における戦略人事の2大潮流であるベストプラクティス・アプローチとベストフィット・・アプローチをベースに置きながら、企業における人材マネジメントの形成・定着・変化のメカニズムを知るための包括的戦略人事のフレームワークを提示するとともに、日本型人材マネジメントの変化のメカニズムの分析を通して、日本型人材マネジメントの今後の課題を浮き彫りにした力作ですが、実はこの本では「フェファー理論」は差別化モデル(ベストフィット・モデル)ではなくハイ・パフォーマンス・モデル(ベストプラクティス・モデル)の一環として位置づけられています。

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HRMが多様化した現状にマッチしたテキスト。実践に役立てようとしている社会人にも。

経験から学ぶ人的資源管理.jpg 『経験から学ぶ人的資源管理』 (2010/10 有斐閣ブックス)

 本書は、組織における人事マネジメントについて学ぼうとしている大学生や、実践に役立てようとしている社会人を念頭において書かれたテキストであり、大学生レベルの日常経験や感覚からでも、人事の世界の面白さや重要性が十分に理解できるよう、概念の説明や事例の選択に工夫を凝らし、平易で明快な説明となることを期したことから、「経験から学ぶ」と冠しているとのことです。

 3部構成の第1部で、人的資源管理とは何かを、日本のこれまでの「人のマネジメント」の歴史的流れも含めて概説し、第2部では、採用・配置、キャリア開発・人材育成・教育訓練、評価・考課、昇進・昇格、賃金・福利厚生、安全・衛生、労使関係、退職のそれぞれについて、章ごとにその仕組みを解説しています。

 ここまでは従来の人的資源管理論のテキストと項目的にはあまり変わりませんが、第3部で、「現代的トピックス」として、女性労働・高齢者雇用、非正規雇用、裁量労働・在宅勤務、ワーク・ライフ・バランスを取り上げており、人的資源管理が多様化している現状にマッチした、アップトゥデートな内容になっているように思いました。

 ここ数年における人事労務テーマの多様化は、『労政時報』(労務行政研究所)や『人事実務』(産労総合研究所)など人事専門誌の特集記事の推移からも窺え、以前は、賃金制度や諸手当などの金銭的処遇関連の特集が中心的だったのが、今は、コーチングや部下コミュニケーション、マネジメント層や組織全体の活性化、ワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティ、メンタルヘルス等々、そのカバー範囲の拡大ぶりは著しいものがあります。 
 人事パーソンが勉強しなければならないことがそれだけ多くなったということでしょうが、少なくとも、こうしたテキストが、少しでもそうした状況に即したものになることは、望ましいことだと思います。

 また、実践に近いところで書かれているのも本書の特徴であり、企業の最新の人事施策の事例なども多く紹介されていて、コラム(コーヒーブレイク)では、各章の領域に関する背景や時事トピックスについて説明しています。
 さらに、巻末の参考文献欄とは別に、各章末に、「さらに進んだ学習のために」として、日本語で書かれた比較的平易な書物に限定して、出版年の新しい順に5冊提示しており(話題になった単行本、新書本なども多く含まれている)、そうした意味でも、今"旬"のテキストと言えるかと思います。

 大学の授業やゼミナールで使われることを想定して、各章末には演習問題が設けられており、それらに答えが付されているわけではありませんが、「出題意図と解答のポイント」が、有斐閣のウェブサイトで、PCや携帯電話からでも見ることができるようになっています(親切だが、あくまでも考察を助けるための"親切"であって、そこにも答えが出ているわけではない)。

 大学のテキストとしては、図説も多く、比較的入り込み易い方ではないでしょうか。ざっと通読した後で、より関心のある部分をじっくり再読(精読)するという読み方も可能かと思います。
 とは言え、学生で、全く現場を知らないまま、このテキストに書かれていることを全部読んで、頭に入れ、企業に入社してくる新人ってどうなのだろう(ちょっと怖い?)というのは、正直あります(まあ、そんな頭のいい学生は、実際には企業に入らず「研究」方面に行くのかなあ)。
 むしろ、人事部に配属された学習意欲のある初任者、これから職務拡大を図ろうとする中堅・若手、人事のトレンドを把握しておきたい管理職など、各層にお薦めできる本です。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ダニエル・ピンク) 「●マネジメント」の インデックッスへ

要するに「内発的動機づけ」理論。読みやすいが、ほとんど新味が感じられない。プレゼン上手。

モチベーション3.0 .jpgダニエル・ピンク(Daniel Pink).jpg
モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(2010/07 講談社)
ダニエル・ピンク(Daniel Pink)著述家、ジャーナリスト、スピーチライター。 Daniel Pink in 「TED」

 タイトルから、新しいモチベーション論を展開している本かと思う人も多いのではないかと思いますが、そうではなく、これまでの動機づけ理論の流れを分かり易くまとめた1冊といった方が適切でしょう(読み易いことは読み易い)。

モチベーション3.0 週刊東洋経済.jpg 人を動かす力、つまりモチベーションを、コンピュータを動かす基本ソフト(OS)に喩え、〈モチベーション1・0〉が、生存(サバイバル)を目的としていた人類最初のOSだったのに対し、〈モチベーション2・0〉は、アメとムチ(信賞必罰)に基づく、与えられた動機づけによるOSであるとしています。
 そして、その〈モチベーション2・0〉は、ルーチンワーク中心の時代には有効だったものの、今日では機能不全に陥っているとしています。
from「週刊東洋経済」

 では、〈モチベーション3・0〉とは何かというと、それは、自分の内面から湧き出る「やる気」に基づくOSであり、活気ある社会や組織をつくるのは、この新しい「やる気=ドライブ」であるとしています(本書の原題は"Drive")。

 アメとムチによる〈モチベーション2・0〉がうまくいかない理由を、心理学の実験による検証例によって解説し、賞罰制度の問題点を指摘する一方、「内発的動機づけ」による"新しい"モチベーション論を展開していて、「全米大ベストセラー」の書とのことですが、6年前に日本でベストセラーになった、高橋伸夫氏の『虚妄の成果主義』(日経BP社)に書かれていたことと、成果主義に対する批判的検証の手法も含め、論旨はほぼ同じであるように思えました。

 「内発的動機づけ」理論は、高橋氏のあの本によって日本のビジネス界でも広く知られるところとなり、ある種の心理主義に過ぎないのはないかという批判もあった一方で、その後も、太田肇氏による「承認欲求論」や、キャリア発達論とリンクさせた「自律的人材論」として、より実務に近いかたちで理論的に深耕されてきたように思います。

 そうした中で本書を読んでも、それほど"新しさ"を覚えないのは当然であり(本書を読んで「目から鱗が落ちた」と今さら言う方が問題)、むしろ、行動心理学などの分野の多くの先達たちが唱えたことが分りやすく解説されているので、原点に立ち返る意味での復習と自己啓発にはいいかもしれません。

 事例紹介も豊富で、ベストバイの元役員が編み出したROWEという、仕事の成果さえあげればどこでいつ何をやろうが構わないという仕事のスタイルを、あるシステム会社で導入したところ、効率が大幅に向上し、しかもこの環境に慣れた人は年収が上乗せされても転職しない傾向が強いとか、アトラシアンというシステム会社では3カ月に一度「Fedex Day」というのを設けていて、これは「24時間、好きなことをしていいが、その成果を必ず上げること」というものですが、このFedex Dayから売れ筋商品が生まれることもしばしばだといった事例は、確かに、先進事例として分りやすいことは分かりやすいです。でも、どこかで読んだことがあるようなものばかりと言えなくもありません

Daniel Pink in TED.jpg また、〈モチベーション3・0〉の3つの要素として、「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」を挙げていますが、やりがいのある仕事を自律性のもとですることができて、さらにそのことによってスキルの向上が図れるのであれば、当然のことながら「やる気」は持続するであろうし、それが自らの人生の目的と合致するのであれば、なおさらのことであるという、言わば、当たり前のことを言っているに過ぎないともとれます。

 帯に、「時代遅れの成果主義型ver.2.0は創造性を破壊する」「停滞を打破する新発想!」とあり、この点での"新味"は感じられなかったものの、同じく帯に、「あなたは、まだver.2.0のままです」ともあり、頭ではわかっていても、実際にはまだ「信賞必罰」的な(マクレガーの「Ⅹ理論」的な)考え方に捉われがちな経営者やマネジメント層に向けた、"自己啓発本"とみていいでしょう(結局のところ、それほど悪い本ではないが、もの足りないといったところか)。

 訳者は大前研一氏(の名前になっている)。マネジメント誌などで取り上げられ、人事専門誌などでも、この「3.0」という考え方に沿った連載などもありましたが、流行ること自体は別に構わないと思うけれど...。

 ダニエル・ピンクは、2011年の「Thinkers50-経営思想家ベスト50」にランクイン(29位)。最近、自己啓発家色を強めているけれど、この人の代表作はやはり、米国クリントン政権下で労働長官の補佐官、ゴア副大統領の首席スピーチライターを務めた後、ホワイトハウスを出て1年間にわたり全米をヒアリング調査して纏めた現代社会論(同時に未来社会論でもある)『フリーエージェント社会の到来』('02年/ダイヤモンド社)でしょう(実務者が自己啓発家に転じる例は日本でも見られるが...)。

モチベーション3.0文庫.jpgモチベーション3.0 文庫.jpg【2015年文庫化[講談社+α文庫]】

   


モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)


【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント) 

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「●講談社現代新書」の インデックッスへ

経営人事課題の直近のトレンドをよく纏めているが、"おさらい"的な分析に終始しているとも。

「いい会社」とは何か.jpg 『「いい会社」とは何か (講談社現代新書)』['10年]

 「いい会社」とは何かという視点は、経営者だけでなく、人事の仕事に携わる人にとっても欠かせないものだと思いますが、本書は、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所(RMS研究所)がこれを研究テーマとして取り上げ、「いい会社」とは何かを探ったものです。

 冒頭で、バブル経済以前から現在までの企業の置かれた環境と、その時々に試みられた人事施策を振り返り、企業における個人と組織の関係の変遷を追いつつ、現代においては、従業員の会社への信頼が低下し、働きがいは長期低落傾向にあるとしています。

 さらに個人の視点に立って「働きがい」とは何かを「マズローのZ理論」(マクレガーのY理論にX理論の強制的因と方向付けの要因を組み合わせた改良型Y理論)などを取り上げながら考察し、「働きがいのある会社」では、経営と働く人間との「信頼」が重要なファクターであることを指摘しています。

 以上を踏まえたうえで、財務的業績がいい企業が「いい会社」であることには違いないが、財務的に大きな飛躍はないものの、長く事業を継続している企業もまた「いい会社」であり、さらに、働く人の「働きがい」というのも、「いい会社」を考える上での大事な視点であるとし、「いい会社」とは何かを探る指標として、この「財務」「長寿」「働きがい」の3つを挙げています。

 さらに、「財務的業績がいい企業」と「長寿企業」に共通する特徴として、①時代の変化に適応するために自らを変革させている、②人を尊重し、人の能力を十分に生かすような経営を行っている、③長期的な視点のもと、経営が行われている、④社会の中での存在意義を意識し、社会への貢献を行っている、という4つを導き出し、それが、本書でいうところの「いい会社の条件」ということになるわけですが、以下、そうした「いい会社」に見られる経営者の考え方や経営人事面での施策を紹介しています。

 ③の「長期的な観点での施策」は、何らかのポリシーに基づかなければ長続きできず、そのよりどころとして、④の会社の「社会的存在意義」を挙げており、「いい会社」においては、企業理念や組織風土に「社会の中で生かされ、社会への貢献」という内容が組み込まれていて、そのことが企業の成長に一役買っていると分析しています。

 会社の「存在意義」を認識していることが信頼関係のベースであるということですが、その信頼関係をより強めるためには、「社員一人ひとりと向き合う」ことが大切であり、そのことが会社の業績を伸ばすことにも繋がるというのが、本書の言わんとするところでしょう。

 経営人事が抱える課題の直近のトレンドを探るうえではよく纏まっており(こうした、これまでの推移及び現状分析は、著者らの得意とするところ)、全体の論旨も、企業の社会的責任(CSR)から、働く人の多様な価値観(ダイバーシティ)へと旨く繋げているように思えました。

 ただ、あまりに旨く纏まり過ぎていて、突飛な主張に走っていないという意味では「抑制が効いている」とも言えますが、逆にあまり読み応えを感じないとうのが、個人的な感想です。

 「社員一人ひとりと向き合う」ことがいかに大変なことであるかは、筆者らも十分に認識しているのですが、その結論に至るまでの"おさらい"的な分析がメインとなり、結論部分の堀り下げは、やや中途半端なまま終わっている感じもしました。

 所謂「研究所」系のレポートみたい。最近の講談社現代新書って、こういうの多くないか?

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日本企業の強みを生かしつつ、時代の変化に対応するにはどうすればよいかということの処方箋。

人材の複雑方程式  日経プレミアム.jpg 『人材の複雑方程式(日経プレミアシリーズ)』(2010/05)

 '06年から'09年にかけてビジネス誌「プレジデント」に連載されたコラムがベースになっている本で、バブル崩壊後、2000年代初期(当連載の開始時期以前)にかけて導入された成果主義的な評価・処遇制度や人材ビジネスに関する規制緩和が、その後の企業の人材育成に複雑な変化をもたらしたことを、冒頭で指摘しています。

 具体的にどのような変化が起きたかというと、それは、人という資源の重要性、人材育成機能や働きがいの提供、働く人の経営に対する信頼など、人にまつわる基本要素が脆弱化したことであるとしていて、本書は全体を通して、そした傾向に警鐘を鳴らすとともに、そうした状況に対する多くの処方箋を示唆するものとなっています。

 前半部分では、日本企業の職場の特性とリーダーシップの関係について論じるとともに、なぜ日本企業においてリーダーが育たないのか、どのようなリーダー(フォロワーシップを含む)が今後は求められるのかを考察しています。

 中盤部分では、終身雇用への心情的回帰現象を踏まえつつ、会社と従業員の信頼関係の再構築を図るには何が鍵になるかを示し、また、その中での人的ネットワークのもつ経営上の価値というものを強調しています。

 そして、後半部分では、今後、人々の働き方の改革が始まるであろうことを前提に、企業はどのようにすれば、働きやすさや働きがいを従業員に提供することができるかを考察しています。

 本書で述べられている「リーダーシップの状況対応理論」などは、理論としては必ずしも目新しいものではありませんが、ベストリーダー像を固定観念で捉え、現場リーダーに過剰な期待を寄せてしまうことの危うさを説く論旨のなかで、「どこでもリーダー」という分かりやすい言葉で提唱されると、すとんと腑に落ちるものがありました。

 各論においても、個人情報保護、コンプライアンス、ワークライフバランスといった概念に対する盲従的な礼賛の危うさを、鋭く批判してしており、その箇所を読んで、それまで抱いていた何となくもやもやしたい印象が(やっぱりそうかということで)すっきり晴れる読者も多いのではないでしょうか。

 日本企業が長年にわたって培ってきた協働、人材の育成、コミュニティ、同質性の促進といった組織的な強み(こうしたものをいきなり否定してしまったのが2000年代初頭にかけての様々な施策だったとも言える。そうしたももの価値を再考させてくれるだけでも、本書の「価値」は高い)を生かしつつ、時代の変化に対応していくにはどうすればよいかということについて、多くの示唆を与えてくれる本だと思います。

 さらに、展開されているリーダー論、組織論、労働論に、現場で実際に仕事をしている人間の心理面に対する著者の洞察が織り込まれているのが良いです(組織行動論は著者の主たる専門分野)。

 但し、3年間の連載を1冊の新書に詰め込んだために、新書にしては密度が高い分、イシューが多すぎて「複雑」になったという感も否めなくはなく、内容が良いだけに、各論についてもっと踏み込んでもらいたかった気もしますが、新書では叶わぬ望みか。

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人事の課題について1テーマごとによく纏まって解説されている"テキスト"。

人事再考2909.JPG人事再考.jpg 『人事再考 ~プロが切り込む人事の本質~』['10年]

 同じコンサルティング会社(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に所属する人事コンルタント(所謂"人事のプロ")が自主的に集い、人事制度・人事施策に関する近年の重点テーマを抽出し、自らの研究成果を共同執筆したもので、テーマごとに、その基本的な考え方から本質まで、理論から実務的な課題の解決方法までを解説しています。

人事フレーム」「目標管理制度」「業績連動賞与」「人事評価制度」「グローバル人材管理」「業務改善と人材育成」「モチベーション管理とES調査」「給与制度」「退職給付制度」の9つのテーマで、1人のコンサルタントが1章を執筆担当しています。

 各章とも、①テーマの本質、②テーマの本来の目的・意義、③テーマの具体的な設計法、④テーマのスムーズな運用方法、⑤まとめ(プロとしての主張)という構成で統一されているため読み易く、また再読し易いものとなっています。

 例えば「人事フレーム」について書かれた章では、能力・職務・役割に基づく等級制度のそれぞれの特徴を比較しつつ、「役割等級制度」の設計について具体的に解説するなど、人事制度の在り方の現時点でのスタンダードに即した内容であり、また、何れのテーマについても、それらについて再考することが企業の成長・発展に繋がっていくという考え方が貫かれているのがいいです。

 但し、「再考」という観点からすると、「目標管理制度」など一部で運用の形骸化が見られるものについては、本来の目的・意義に立ち返るという意味においてその言葉が当て嵌りますが、全般的には、1テーマ20ページそこそこという限られた紙数の中で実務的なポイントに触れ、事例なども掲げているいるため、紙数不足になってしまったと言うか、その分、今後に向けての提言という面ではやや弱いようにも思いました。

 テーマごとに要点整理され、簡潔に纏まっているという点では、経営者や一般のビジネスパーソンにも手にし易い本であると思われ、実務面での留意点を抽出し、ポイント解説しているという点では、これまで人事制度の策定にあまり携わった経験がない人事・経営企画の新任担当者にも読みやすい"テキスト"であると思います。

 書かれていることは何れも筋(すじ)論であり、そうした意味では良書だとは思います("一応"、評価は★4つ)、ハードカバー製本、関心を引くタイトルの割には、「論考」というよりむしろ「教科書」的な色合いの強い本のように、個人的には感じました(このままの内容で、日経文庫の1冊として刊行されていても違和感のない内容)。
 実際、実務面に関する記述のウェイトがそれなりに高いのですが、人事部以外の読者をも想定して、ビジネス書っぽい体裁にしたということでしょうか。

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「GPTW1位企業」の経営者の人材採用・育成・定着施策。ITベンチャーらしいなあ。

君の会社は五年後あるか2.jpg 君の会社は五年後あるか 帯.jpg君の会社は五年後あるか? 最も優秀な人材が興奮する組織とは (角川oneテーマ21)』['10年]

 成長著しいIT企業(ワークスアプリケーションズ)の若きトップが、自社の人材戦略を自ら語ったもので、すでにこの会社のことは人事専門誌などでも紹介されていたりするため、さほど目新しさは感じませんでしたが、一般向けの新書ということで、読み易いことは読み易かったです。

 この会社が注目を浴びるようになったのは、「働きがいのある会社ランキング」で'09年に4位、'10年にはトップになったことも影響しているかと思いますが、これは、サンフランシスコに本部があるGreat Place to Work Institute(GPTW)のサーベイの、'07年から始まった「日本版」調査であり、企業の「働きがい」を高める具体的な施策について「採用する」「歓迎する」「触発する」「語り掛ける」「傾聴する」「育成する」「配慮する」「祝う」「分かち合う」といった組織風土面の従業員意識調査を行って採点し、ランキングを決めるものです。

 結構この調査は、毎年ランクイン企業の順位が入れ替わるので、1位になったタイミングでこうした本が出るパブリシティ効果は大きいし、また、それが出版の狙いであるという穿った見方も出来るわけですが('10年のトップ10のうち6社はIT企業であり、この業界の人材獲得競争の熾烈さを反映しているとも言える)、そうしたことは抜きにして、改めて参考になった面もありました。

 人材育成のコンセプトがしっかりしていて、「勉強ができた人を、仕事ができる人に育てる」ということですが、これ、グーグルとかマイクロソフトと同じだなあと。基本、先ず優秀な人材を採るわけですね、しかも新卒で(新卒採用に重きを置いているのは、'10年のGPTWで6位にランクインしているサイバーエージェントなども同じである)。そして、育成と定着を図る―。

 あと、評価(人事考課)に力を注いでいて、プロセス重視の「相互多面評価」を取り入れると共に、何をもって優秀な社員とするかを明確にしています。
 それと、こうした進取の気質溢れる会社では、社員が退職し独立するのはやむを得ないとしても、独立した後でまた出戻ってくるのは歓迎するとしています。
 もちろん、育児休業なども手厚く、産休から復帰した社員には特別ボーナスが出るとのことです。

 個人的に思うに、ソフト産業界には四年制大卒・文系女子がかなり流れるため、一から教育した投資分を人材の定着を図ることで回収しないと、初期の教育投資が無駄になってしまうというのもあるのでしょう。

 そうした業界特有の状況もあっていろいろ講じた施策(ある意味、"競争"的にそれをしている)が、現在の人事マネジメントのトレンドである「人を尊重する」或いは「ワークライフバランス」といったものに偶々合致したともとれますが、その結果、業績が伸びているのだから、ワークライフバランス施策を講じることが企業業績の向上に繋がるという恰好の見本であるとも言えるかと思います。

 経営者が自分で書いて、登場する人物が役員や幹部社員だったりするため、宣伝気味の感は拭えず(人事専門誌で読むとそうでもないのだが、こうして新書で読むとね)、実際には本書に書かれていない裏事情もあるのではないかと。

 でも、ベンチャーから大企業然とした会社になるのではなく、ベンチャーからメガベンチャーになるのだと最後に述べているのは、この会社のこれからの課題をよく認識しているように思えました。

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元暴走族、オタクと、所謂「不良社員」とでは、それぞれ違うのでは。著者自身に"レッテル貼り"傾向が。

「不良」社員が会社を伸ばす 太田肇.png 『「不良」社員が会社を伸ばす』(2010/09 東洋経済新報社)

 帯に「実戦力や独創性に欠ける〈優等生〉に替わって、元暴走族、元ヤンキー、元レディス、オタクなどが新たな価値を創造し会社を繁栄させる」とあります。

 〈不良〉が排除されてきた「組織の論理」や「人事部の損得勘定」に対する批判として、「やらされ感」に支配された〈優等生〉と、「やりたい感」に突き動かされてきた〈不良〉のモチベーションの違いを対比させ、企業はどちらを求めるべきかという問題提起の仕方をしています。

 元不良だったのが、今は企業で頑張っている、或いは企業を経営しているといった事例が紹介されていて、若いうちに社会からドロップアウトしてしまった人に対する、励ましや勇気づけにもなっているのかも。

 ただ、本書で取り上げている〈不良〉というのが、元暴走族・ヤンキーなどと元オタクであり、かなり型にハマってしまっていて、なお且つ、ヤンキーとオタクでは随分違うのではないかとも思いました。
 著者自身、この違いを認識しながらも、〈優等生〉に対するアンチテーゼとして、それらをほぼ一緒くたに論じていて、そうしたところに、逆にある種の"レッテル貼り""上から目線"的なものを感じてしまいました。

 一方で、本書における〈不良〉とは、「一流大学卒」に対する「三流大学卒」であったり、所謂「不良社員」であったりもし、最終的には(著者の持論である)"「承認欲求」を満たしてやることで「彼ら」の動機付けが図られ、それが会社や組織を変える"という論旨に繋がっていくわけですが、その「彼ら」の部分に、それら全て(元暴走族・ヤンキー、オタク、三流大学卒、所謂「不良社員」)が含まれるということのようです。

 前著『承認欲求―「認められたい」をどう活かすか?』('07年/東洋経済新報社)に重なるテーマですが、元暴走族と、オタクと、更に、いま現に社内にいる「働かない社員」とでは、それぞれ違うのではないかと思われ、やや乱暴な普遍化も見られるように思いました。

 むしろ、優等生ばかりで構成された組織の弱さ、危うさの指摘に説得力を感じましたが、この点においても、"分り易さ"を優先させたのか、やや論旨が粗いような気も。
 「受験秀才だが知恵がなく行動力もない〈優等生〉たちが日本を衰退させた」と著者が言う〈優等生〉は、優等生であることが直接の問題なのではなく、その優秀さ(能力)の組織内での使い方、使われ方が問題であるように思います(ここにも、著者の"レッテル貼り"傾向が見られる)。

組織戦略の考え方.jpg こうした問題については、一橋大学の沼上幹氏が、『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』('03年/ちくま新書)の中で、「育ちの良い優等生の〈大人〉たちが組織内で多数になると、厄介者の言うことがかなり理不尽であっても、組織として通してしまう場合が出てくる」(「厄介者の権力」)、或いは、「(スキャンダルで)密告者が権力を握るのではない。根性のない優等生たちが恐怖にとらわれ、その恐怖心を気持ちよく解消する〈美しい言い訳〉を創り上げる宦官が権力を握る」(「バランス感覚のある宦官」)などといったように、組織論的な観点から"分り易い"言葉で指摘しています。

沼上 幹(つよし)『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』 ちくま新書 〔'03年〕
 
 

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分り易く書かれた「人事の奥義書」。人事パーソン育成の「定本」としてお薦めできる。

人事担当者が知っておきたい、⑧の実践策。⑦つのスキル。.jpg 『人事担当者が知っておきたい、8の実践策。7つのスキル。』(2010/08 労務行政)

人事担当者が知っておきたい.jpg 本書は、人事の仕事に携わる人を対象とした解説書で、姉妹本『人事担当者が知っておきたい、⑩の基礎知識。⑧つの心構え。』が「基礎編(人事の赤本)」であるのに対し、「ステップアップ編(人事の青本)」という位置づけになります。

 前半部分では、日本の人事管理の変遷についての解説があり、続いて「8つの実践策」として、人事部門の役割と仕事内容が解説されています。
 具体的には、人事部門の構築と機能、人事ポリシーの明確化、人材配置、採用・選考、人事制度の企画・運用、労務問題の種類と対応、人材育成(教育・研修)の7つのテーマについて、それぞれの考え方のフレームや運用を見据えた企画、運用時の留意事項など、戦略立案から企画の実際までを解説し、8つ目に、プロの人事担当者になるためにはどうあればよいかが書かれています。

 この「8つの実践策」の部分は、カバーする範囲は以上の通り広いのですが、実務経験豊かな人事コンサルタントが単独で執筆担当しているため論旨に一貫性があるとともに、『基礎編(人事の赤本)』の「10の基礎知識」と同じ執筆者であるため、シリーズとしての一貫性もあるように思いました。

 また、例えば冒頭の、人事部門の構成と機能について解説している部分では、人事部門の"三権分立"として、人事企画を「立法」に、人事運用を「司法」に、オペレーションを「行政」になぞらえ、そのバランスの重要性を説くなど、ユニークで分りやすい解説が随所に見られ、人事部門と経営企画部門など他の管理部門との関わり方など、これまでの入門書ではあまり触れられていなかったようなことについて書かれているのも、本書の特長ではないかと思います。

 採用・選考などその外のテーマについても、実際に実務で起こり得る場面を想定して、"実践テクニック"的なことにまで踏み込んで解説されていて、執筆者個人の見解も織り込まれていたりし、執筆者の経験からくる思い入れが随所に込められている点が、本書の、一見「教科書」のようで通常の教科書らしからぬところではないでしょうか。

 後半部分の「7つのスキル」は、人事担当者に求められるビジネスマインド・スキルや人事管理の現状分析の進め方、コミュニケーション・スキルの高め方、さらには、労働法・労働判例の見方、労働組合・労使関係対応の基礎知識などについて、それぞれの分野の専門家が執筆分担をして解説していますが、こちらも、定型的・表面的な解説に留まらず、重点ポイントを絞り込んで、執筆陣のそれぞれの思いが込められた解説がなされているように思いました。

 全体としてはバラエティに富む内容となっていますが、確かに「テキスト」ではあるが、総花的な「入門書」という印象は無く、むしろ実務に沿って分り易く書かれた「奥義書」といった感があり、図説が多用されていてコラムなども充実しているため、そのことがさらに内容の理解を促し、関心を持って読めることの助けになっているように思います。

 400頁というボリュームの割には価格も手ごろ(2,900円。「労政時報」の別冊の割には安い?)で、人事パーソン育成の「定本」としてお薦めできる1冊です。

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行動科学マネジメントによる職場ストレスへの対処法。内容的には浅く、一般啓蒙書レベル。

たった1つの行動が職場ストレスをなくし.jpg 『たった1つの行動が、職場ストレスをなくしモチベーションを高める -お金ではないトータル・リワードという考え方』(2010/06 東洋経済新報社)

 職場ストレスを会社のコストの問題として捉え、ストレスが職場に存在するとき、問題は労働者にあるのではなく、従業員がストレスに対処できるような職場設計をすることが肝要であるとして、マネージャーやリーダーが、或いは従業員自身がとるべき行動を、「行動科学マネジメント」の観点から示唆した本。

 外国人との共著ということで、ストレスマネジメントの手法が米国流のプラグマティックな行動科学をベースに解説されていますが、分かりやすいことは分かりやすいものの、内容的にそれほど深くはなく、よくある"洋モノ啓蒙書"みたいな印象を受けました(ハマる人はハマるんだろなあ)。

 「たった1つの行動」というのが何を指すのかよく分らないし、サブタイトルにあるトータル・リワードについては2ページぐらいしか触れられておらず(これでは具体性は望めない)、いかにもとってつけたような感じ。

 著者には『「続ける」技術』('06年/フォレスト出版)というベストセラーもあり、年に何冊もの啓蒙書を出しているようですが、固定ファンがいるみたいですね。

 本書はamazon.comのレビューでの評価も高いようですが、本の刊行と同時に5つ星評価のレビューが続き、何れも過去に数冊しかレビューしていないレビュアーなのに、その数冊の中にも著者の前著のレビューがあって、それも5つ星評価であるとなると、やらせ臭い感じがしないでもない...(まあ、ありがちなやり方だが)。

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"フリーライダーのタイプ分析までは良かったが、対策は抽象的で、最後は自己啓発書?

フリーライダー―あなたの隣のただのり社員.png 『フリーライダー あなたの隣のただのり社員 (講談社現代新書)』['10年]

フリーライダー―あなたの隣のただのり社員4.jpg 最近よく耳にする「フリーライダー」という言葉ですが、会社で、毎日何をしているかわからないようなことをやっても給料は一人前にもらう人、自分からは動かないで周囲の人をこき使って成果を手にしようとする人、部下が何か新しいことを始めようとしても仕事が増えるからと言ってそれを阻止し、それでいて自分の地位は安泰の人―などを、そう呼ぶようです。

 本書ではそうしたフリーライダーを、もうこれ以上出世できないからとだらだらゲームをやっているような「アガリ型」、人のアイディアを自分のこととしてうまく報告、部下には強いが人事権を持つ上の人には忠犬のように忠誠を見せる「成果・アイディア泥棒型」、自分の仕事を客観評価ができず(都合よく考え)自分を批判する人を攻撃する「クラッシャー型」、最低限の仕事だけこなし、現状維持、改革しようとする人を潰す「暗黒フォース型」の4タイプに分類しています。

 このタイプ分類までは興味深く読めたのですが、それぞれのタイプに対する組織としての問題解決策(対応の仕方)が、例えば、「アガリ型」に対しては、ビジョン、方針を明確化する(何を目指して努力をするのか、努力の先に何があるのかをわかりやすく伝える)とか、上から順番に厳しい成果プレッシャーを与えるとか(組織がポジションにふさわしい能力の人を登用し能力にふさわしい報酬を支払い、報酬に応じたプレッシャーを与えて責任を持たせる)...云々と、制度やシステムへの落とし込みにまでは至らず、抽象レベルで終わっているような印象を受けました。

 後半は、自分がフリーライダーにならないようにするにはどうしたらよいかということが書かれていて、要するに「人の振り見て我が振り直せ」的な自己啓発書だったのか―と。

 著者らは、同じ講談社現代新書の『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』('08年)の執筆メンバー4人の内の2人。残り2人の内の1人は『職場は感情で変わる』('09年)を著していますが、"スピンアウト"していくにつれ、自己啓発書みたいになっていって、最初の本が一番まともでした。

 講談社現代新書は、かつてはエスタブリッシュメントなイメージがあったけれども、最近は玉石混交気味で、この本なども、新書で出す意味がよく分からず、時たまと言うか、結構安易な本づくりをしているのではと思わざるを得ません。

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