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「●労働法・就業規則」の インデックッスへ

ただ試験に受かるためでなく、自らの人事的な知識・センスを磨く上でもお薦め。

『ビジネス・キャリア検定試験過去問題集』.JPGビジネス・キャリア®検定試験 過去問題集.jpg
人事・人材開発 2・3級 (ビジネス・キャリア®検定試験 過去問題集(解説付き))

 「ビジネス・キャリア検定試験」は、事務系職種のビジネス・パーソンを対象に平成6年(1994年)にスタートした、中央職業能力開発協会(JAVADA)が実施する公的資格試験で、事務系職業の労働者に求められる能力の高度化に対処するために、段階的・計画的に自らの職業能力の習得を支援し、キャリアアップのための職業能力の客観的な証明を行うことを目的としています。

 分かりやすく言えば、同じくJAVADAが実施する「技能検定」のホワイトカラー版といったところでしょうか。検定分野は「人事・人材開発・労務管理」「企業法務・総務」など8分野に区分され、その中に「人事・人材開発」「労務管理」「企業法務」「総務」など18部門(2級)があり、2級と3級の試験がそれぞれ年2回実施されています。

ビジネス・キャリア®検定試験 過去問2.JPG 本書は「人事・人材開発」部門の2級(部長補佐・課長級か)・3級(課長補佐・係長級か)の過去問題集です。一部、労働法関連の問題も含まれていますが、当然のことながら、労働法分野も「人事」の出題範囲内です。こうした過去問題集の刊行は本書が初めてですが、近年、「人事・人材開発」部門の出題傾向として、2級・3級とも新規問題よりも過去問題をそのまま乃至は一部改変して出題するケースの方が出題数に占めるウェイトとして高くなっていますので、Amazon.comのレヴューに「3度以上読めば、40問のうち3問は、読まない人より上乗せできると思います」とありましたが、あながち大袈裟とは言えないと思います。

 JAVADAはこれまでの過去問をウェブサイトで公表し、新たに実施された試験もこれまでと同じように試験後それほど日を置かずに公表していますが、正解の解答のみで解説が無かったので、今一つ、過去問を検証する動機づけが弱かったように思います。この過去問集を読むと(一度自分で解いてみるのが理想だが)、どうしてそのような答えになるのか納得することが出来、作問者の意図を嗅ぎ取るセンスのようなものが身につくのではないかと思います。

『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 』.JPG そのうえで、(本書にすべての過去問が出ているわけではないので)その他の過去問をウェブサイトでチェックすれば、試験対策効果としては大きいと思います。もちろん、2級・3級についてはそれぞれ公式テキストがあるので、学習効果全体を向上させるためにはテキストの読み込みも欠かせないと思いますが、ほとんどの公的資格試験に当て嵌まることですが、より確実に合格ライン(当検定の場合は6割以上の正答率)を確保しようとするならば、過去問をやらない手はないと思われます。

 このように、活用すればしただけ試験で有利になるかと思いますが、ただ試験に合格するためというだけでなく、自らの人事的な知識・センスをチェックし、それをより一層磨きたいと思っている人にもお薦めです。

ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 人事・人材開発2・3級

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従業員を大人として扱い、「自由と責任の文化を築く」ことこそが重要と説く。

NETFLIXの最強人事戦略.jpgNETFLIXの最強人事戦略1.JPG netflix image.jpg
NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く
Patty Mccord
Patty Mccord.jpg 本書(原題:Powerful: Building a Culture of Freedom and Responsibility,2018)は、世界最大級の動画ストリーミング配信事業会社ネットフリックスにおける先進的な人事戦略について、同社で長年CHO(最高人事責任者)を務めた著者がまとめた一冊で、シリコンバレーで話題になったスライド資料で、著者自身も作成に関わった「ネットフリックスカルチャーデッキ」を書籍化したものとも言える本です。

 本書で紹介されているネットフリックスが開発した新しい人材管理手法が前提としているのは、従業員の忠誠心を高め、会社につなぎ止め、やる気と満足度を上げるための制度を導入することが人材管理であるという一般的な考え方のものではなく、ビジネスリーダーの役割は、すばらしい仕事を期限内にやり遂げる、優れたチームをつくることであり、そのために、まず従業員に一貫してとってほしい行動をはっきり打ち出し、それを実行するための規律を定着させる「自由と責任の文化を築く」ことこそが経営陣のやるべきことであるとの考えです。

 第1章では、チームが最高の成果を挙げられるのは、メンバー全員が最終目標を理解し、その目標に達するために思うまま創造性を発揮して問題解決に取り組めるようにしなければならず、チームのやる気を最大に高めるのは、ともに切磋琢磨できる優れたチームメンバーが揃っていることであるとしてしています。

 第2章では、従業員一人ひとりが、自分とチームの任務だけでなく、事業全体の仕組みや会社が抱える課題を大局的に理解することが大切で、そのためには、経営陣と従業員の双方向のコミュニケーションが常に必要であるとしています。

 第3章では、従業員は事業や自分の業績について、ありのままの真実を聞く必要があり、またそれを願っていて、正直に、適切なタイミングで、面と向かって気になる点を伝えることに勝る問題解決はないとしています。

 第4章では、意見を育み、事実に基づいて議論を行うことの重要性を説き、経営判断をめぐる白熱したオープンな議論に参加するのは、チームにとってスリリングな体験であり、チームは分析力を最大限に発揮してこれに応えるだろうとしています。

 第5章では、徹底して未来に目を向け、未来の理想の会社を今からつくり始めるべきであって、俊敏さを保ち、変化に素早く対応するために、将来必要となる人材を今から雇うべきであるとしています。

 第6章では、採用担当者の最も重要な仕事は、ハイパフォーマーを採用することであり、人材定着率はチームづくりの成功を測る指標にはならず、最もよい指標は、すべての職務に優れた人材を配置できているかどうかであるとしています。

 第7章では、その人材が会社にもたらす価値をもとに報酬を決めるべきであって、会社の成長のカギを握る職務に携わる人材には、その分野のトップレベルの給与を支払うことを検討すべきであるとしています。

 第8章では、「積極的に解雇する」というのはネットフリックス文化の中でもマネジャーにとって慣れるのが難しい部分ではあるが、必要な人材変更は迅速に行うことは重要であり、「過去に多大な貢献」をした人でも、「もっているスキルが会社に必要なくなれば」解雇せねばならず、また、円満な解雇のためには、その会社で働いていたことを誇れるような組織にすることが大事であるとしています。

 高給を用意するが、自分のキャリは自分でコントロールすることを求め、会社として従業員のキャリア開発をすることはせず(むしろ定期的に他社の面接を受けることを奨励している)、人事考課も経費規定もなく、休暇も自由裁量―ネットフリックスのこうした進歩的な人事管理手法は、米国企業の間でも自社では導入できないといった声が少なからずあったとのことですが、「従業員を大人として扱う」という考え方は、これまでの日本的経営における会社と従業員の関係の在り方が「働き方改革」等の流れの中で見直しを迫られている中で、我々に何らかの啓発的なヒントを与えてくれるようにも思いました。

《読書MEMO》
●章立て
序章  新しい働き方―自由と責任の文化を育む
第1章 成功に貢献することが最大のモチベーション
第2章 従業員一人ひとりが事業を理解する
第3章 人はうそやごまかしを嫌う
第4章 議論を活発にする
第5章 未来の理想の会社を今からつくり始める
第6章 どの仕事にも優秀な人材を配置する
第7章 会社にもたらす価値をもとに報酬を決める
第8章 円満な解雇の方法
結論

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「●光文社新書」の インデックッスへ

「働き方改革」は組織風土改革。自社における「意識・制度」両輪での働きかけを紹介。

残業の9割はいらない2.JPG残業の9割はいらない.jpg
残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方 (光文社新書)』['18年]

 ヤフー上級執行役員として数々の人事施策を提唱してきた実務家であり、立教大学経営学部の中原淳教授との共著『会社の中はジレンマだらけ』('16年/光文社新書)などの著書もある著者が、「企業が勝つため」「社員が幸せになるため」の働き方改革論を述べた本です。

 第1章では、ヤフーが導入した「週休3日制(選べる勤務制度)」を例に、働き方改革の本質や目的について述べています。著者は、この「週休3日制」という制度の裏側には「成果主義の徹底」というコンセプトがあり、「時間にとらわれずに自由な働き方をしてください。だけど会社はあなたの成果をもとに評価しますよ」というのが、ヤフーの進めようとしている働き方改革にほかならないとしています。つまり、働き方改革と成果主義は表裏一体であるということです。また、ヤフーは、「企業が成長しなくてはならないのは、企業の幸せと社員の幸せのため」とし、働く社員が幸せになれない企業が長期的に成長するのは難しいとしています。

 第2章では、週休3日制のほかに、テレワーク、1on1ミーティング、新幹線通勤、サバティカル制度など、ヤフーが採り入れている制度と、そのバックにある考え方を紹介しています。また、こうした制度の成否のカギを握るのは、職場の上司など、現場の人事力であるとしています。

 第3章では、働き型改革を進めていくうえでの諸課題に目を向け、働き方改革がうまくいかないとしたら、その原因の一つは成果主義の不徹底にあるのではないかとしています。部下を成果ではなく貢献で評価していないか、そもそも部下の「成果」とは何かを理解しているか、「あいつは頑張っている」は評価に値するか、未読メールがなくなると達成感をおぼえるか、チームワークは大切か、といったさまざまな問いかけをしつつ、頑張れば報われるという日本の文化や過剰なおもてなしの精神、同質的チームワークが重視され、その中で
キャリア自律できていないビジネスパーソン、といった日本の企業社会に特徴的な現象と、その背後にあるものを読み解いています。

 第4章では、働き方改革を成功に導くための条件は現場の人事力を磨くことであるとし、企業経営者はもっと人事に関心を持つことが大事であるとしています。人事担当者に向けては、人事制度の抜本的な改革が必要であり、そのために必要なものはデータとファクトであり、ヤフーでは、「データによる経営判断」の反対語が「権威主義」であると。また、人事こそ働き方改革をすべきだとし、更に、マネジャー層に向けては、自らのミッションを知り、「プレイングマネジャー化」することで逃げてはならないとしています。

 終章では、30年後の未来を予測し、そのころ日本の社会や企業はどのように変化し、人々はどのように働いているかを予測して、人生100年時代の生き方を展望しています。

 以上、第1章、第2章で、ヤフーの週休3日制を例に、その背後にある考え方を紹介し、働き方改革のあるべき方向を示しつつ、ヤフーが採り入れているそのほかの制度についても紹介しながら、同様に解説しています。さらに、第3章で、働き方改革を進めていくうえで、現在の日本の企業や社会が抱える課題を文化論的な視点も交えながら読み解き、第4章では、日本のビジネスパーソンのこれからの働き方、生き方までも考察するというように、単に自社の制度の紹介に止まらず、大局的見地に立った啓発書になっています。

 文中で紹介されている人事関連の書籍なども、人事における"定番"から近年の"トレンド"を代表するものまで押さえていて、人事の現在とこれからを考えるうえで参考になります。「働き方改革」関連の本が少なからず刊行されている昨今ですが、人事制度改革の重要性、人事の重要性をここまで明確に説いた本は少ないのではないでしょうか。働き方改革を進めるうえで、人事パーソンにマインドセットを促す本、励ましを与え、覚悟を促す本であると思います。

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人的資源管理(HRM)の基本項目と、それらを実行し、成功に導くためのポイントを示す。

ハーバード流人的資源管理「入門」0.jpgハーバード流人的資源管理「入門」.jpg   D. Quinn Mills.jpg D. Quinn Mills
ハーバード流人的資源管理「入門」

ハーバード流リーダーシップ[入門].jpgハーバード流マネジメント[入門].jpg ハーバード・ビジネススクールでリーダーシップや経営戦略を教えるダニエル・クイン・ミルズ教授による、『ハーバード流リーダーシップ[入門]』『ハーバード流マネジメント[入門]』に続く[入門]シリーズの第3弾であり(D. Quinn Mills"Principles of Human Resource Management"(2006))、人的資源管理(HRM)の基本項目や課題と、それらを実行し、成功に導くためのポイントを示した本です。

ハーバード流リーダーシップ「入門」』『ハーバード流マネジメント「入門」 (マインドエッジ)
   
ハーバード流人的資源管理「入門」2.jpg 序章においてまず、本書は、ライン・マネジャーと人事部門の協力関係について書かれた本であるとしています(本書は、人的資源管理は、ライン・マネジャーと人事部門の協力関係なしには成立しないとの考えに立っている)。ライン・マネジャーの役割は、人事制度は何を目的に設計されているかを理解したうえで、それを十分に活用し、担当部門の業績を向上させることにあり、一方、人事部門の役割は、ライン・マネジャーを助け、カウンセリングを行い、サポートすることであるとしています。そのうえで、人的資源管理には、1.チームの編成と育成、2.チームへのインセンティブ、3.公正な待遇、4.ワーク・ライフ・バランスの4つの分野があるとし、以下4章にわたり、各分野にどういった基本項目が含まれるか、それらを効果的に実行していくにはどうすればよいか、その際の人事部門とライン・マネジャーのそれぞれの役割は何かを解説しています。

 第1章「チームの編成と育成」では、①人的資源計画、②採用、③人的資本の形成、④コミュニケーションの4つの項目について解説しています。この章では、まず、人的資源計画を立てる際にはマネジャーを参画させ、また、人的資源計画の目標を長期事業計画と連動させることが重要であるとしています。また、人材争奪戦に勝つためにはどうすればよいか、効果的な採用活動を行うための手法や考え方を説いています。更に、人的資本とは何か、研修や教育においては大切なことは何かを説き、また、コミュニケーションによって従業員の満足度を高めるにはどうすればよいかを、ステップごとに解説しています。

 第2章「チームへのインセンティブ」では、①パフォーマンス・マネジメント(社員の業績管理)、②報酬、③福利厚生の3つの項目について解説しています。会社の成否はパフォーマンスにかかっており、では、パフォーマンスを改善する人事考課とはどのようなものかをまず解説しています。また、報酬制度について、一般的な給与体系を説明するとともに、その仕組みの意義や重要性を解説し、勤労意欲を高めるための報酬制度などを紹介しています。更に、福利厚生とは何か、その主なものを取り上げ、解説しています。

 第3章「公正な待遇」では、①均等な雇用機会、②従業員の権利の2つの項目について解説しています。この章では、均等な雇用機会を与えることの重要性を説くとともに、従業員とパートナーとして関係を築くためには、従業員の権利を尊重することが大切であるとしています。

 第4章「ワーク・ライフ・バランス」では、ワーク・ライフ・バランスの重要性を考え、従業員に対してカウンセリングを行って、仕事と生活のバランスをとることなどを提案しています。

 経営戦略と人的資源管理の融合から、適切な人材の採用、配置、育成、評価まで、人的資源管理の課題や基本項目を広くカバーした入門書でありながら、真に人を育成し、自己実現をサポートすることで、企業も伸びていけるという確信のもと、人事部門の役割を非常に能動的(戦略的)なスタンスで説いている本であり、通常の入門書にありがちな無味乾燥感はありません。それどころか、ライン・マネジャーと協働して人的資源管理を成功に導くために、人事パーソンとして知っておくべき多くのヒントが含まれているように思いました。

 例えば、人的資本の形成(研修)のところでは、ともすれば「社員教育」で一括りにさえがちな概念を、WAHTを学ぶ「訓練」と、WHYを学ぶ「教育」に分けていますが、この違いが認識されるだけでも、本書を読む価値はあるのではないかと思われます。

 法律に関する記述などの面で日米の違いはあるかと思いますが、本書を読んでいてそれほど突っかかり無く読めるということは、人事部の役割=人的資源管理(HRM)という面で、かつてほどの日米の違いは無くなってきているのかもしれません。

《読書MEMO》
●訓練とは、物事をどのように行うかを教えることである。教育は、それになぜかが加わる。この違いは重要である。ほとんどの組織で は幹部と有望な幹部候補だけが教育を受ける。それ以外の社員が受けるのは訓練である。
●人的資源計画で重要な3つの活動
・適切なスキルを備えた人材を特定し、適正な数だけ揃える
・彼らの勤労意欲を高め、優れた業績を達成する
・事業目標と人的資源計画のお互いの連動をはかる
●(研修の)真価を評価するためには、次の三つの評価を行うとよい。 第一に、参加者が何を学んだかを直接テストする。第二に、学んだ ことを使って職場で以前と異なる行動をとっているかを研修後に調 査する。第三に、研修後、個人あるいはグループの業績は向上した かを評価する。
●組織が学習する方法はいくつかあるが、その主なものは、個人が学習し、個人から集団へと知識を移転する方法である。その仕組みが整っていれば、組織にとって大きな強みになる。
●メンタリングは、後輩にとって非常に貴重な経験となることが多い。経験を積んだ人に自分自身のキャリアについて、あるいは自分が抱えている問題について質問を投げかけ、相談する機会である
●給料を補足する目的の賞与は、社員の業績に基づく場合が多い。これは一般的に三種類ある。標準的な一時金、利益分配、成果分配である。こうしたものに多額の費用をかける企業は多いが、残念ながらモチベーション効果は大方失われている。

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コンピテンシー・モデルを作成するような立場になれば、必読書としてトップにくる本。

コンピテンシーマネジメントの展開.gifコンピテンシー・マネジメントの展開1_3006.JPGコンピテンシー・マネジメントの展開1.jpg  コンピテンシー・マネジメントの展開 完訳版.jpg
コンピテンシー・マネジメントの展開―導入・構築・活用』[701年]/『コンピテンシー・マネジメントの展開(完訳版)』['11年]

 本書は、コンピテンシー・モデルについて、コンピテンシーとは何か、どのような内容が含まれるか、各職務に適切なコンピテンシー・モデルをどのように導入するかなどを具体的に提示した基本書です。

 第Ⅰ部では、産業・組織心理学におけるコンピテンシー追求の歴史を紹介し(第1章)(この第1章は、コンピテンシーの概念の提唱者であるデイビッド・マクレランドによるもので、彼が1973年に「インテリジェンスではなくコンピテンシーを評価する:Testing for Competence rather than~~ Intelligence」という論文を書いた経緯が書かれている)、さらに「コンピテンー」とは何かが定義されています(第2章)。

 第Ⅱ部では、コンピテンシーの測定尺度を定義し(第3章)、中間、上位層レベルの職務を調査した研究から発見された、平均的なパフォーマーから卓越したパフォーマーを峻別する20のコンピテンシーについて、達成とアクション(第4章)、支援と人的サービス(第5章)、インパクトと影響力(第6章)。マネジメント・コンピテンシー(第7章)、認知コンピテンシー(第8章)、個人の効果性に関わるコンピテンシー(第9章)の6群に分けて、一般的なコンピテンシー・ディクショナリーを紹介しています。

 第Ⅲ部では、コンピテンシー研究をデザインする際の指針を示しています(第10章)。さらに、行動結果面接(BEI)の実施(第11章)と、コンピテンシー・モデルの構築に向けてのデータ分析(第12章)について説明しています。実際にこれらの方法を実施するためには訓練と実習が要求されますが、本書ではそこまでは触れず、この方法がある状況でどれだけ適切であるかを決める際に役立つ指針を提供しています。

 第Ⅳ部では、それぞれの職種での成功を予見するコンピテンシーに関する発見を紹介しています。ここでは、技術職および専門職(第13章)、セールス職(第14章)、支援・人的サービスの従事者(第15章)、管理者(第16章)の各職種についての、一般的コンピテンシー・モデルが紹介されています。

 第Ⅴ部では、人材マネジメントに対するコンピテンシー・データの活用について、採用・配属・定着・昇進・評価・選考(第17章)、パフォーマンス・マネジメント(第18章)、後継者育成計画(第19章)、能力開発とキャリアパス(第20章)、報酬(コンピテンシー・ベース・ペイ)(第21章)のそれぞれについて紹介し、さらに、コンピテンシー・ベースの人事管理(HRM)の将来の方向性について述べています。

 コンピテンシーに関する研究を整理し、詳細なコンピテンシー・ディクショナリーを提示している本であり、コンピテンシー・モデルやコンピテンシー・マネジメントの議論をする際には、この本で提示されているコンピテンシー・ディクショナリーをベースにすることが多いのではないでしょうか。さらに、この本では、コンピテンシー・モデルの開発の方法論についても詳しく議論されており、コンピテンシー・モデルの活用方法についても詳しく述べられていいます。要約すれば、この本1冊あれば、コンピテンシーマネジメント(コンピテンシー・ディクショナリーの開発・活用)に関する一通りの知識を身につけることのできる本であり、仮にコンピテンシー・モデルを作成するような立場になれば、本書は必読書としてトップに位置するかと思います。

 原著"Competence at work"(1993)と比較すると第17章・第23章・第24章の3章分、丸々省かれています。そのことは訳者前書きで予め断られていますが、原著者らが選んだ21のコンピテンシーというのが訳書では20になっているのが、割愛された章とは関係が無いはずはないだけに、ちょっと気に掛かりました。やはり原著もちょっとだけでも見た方がいいのかと思ったら、2011年に完訳版が刊行されました。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)

《読書MEMO》
●目次
第1部 コンピテンシーの考え方(序に代えて(デイビッド・C・マクレランド)(コンピテンシーとは何か)
第2部 コンピテンシー・ディクショナリー(コンピテンシー・ディクショナリーの構築、達成とアクション ほか)
第3部 コンピテンシー・モデルの開発(コンピテンシー研究をデザインする、行動結果面接(BEI)の仕方 ほか)
第4部 研究結果の検討:一般コンピテンシー・モデル(技術者および専門職、セールス職 ほか)
第5部 コンピテンシー・ベースの応用(採用、配属、定着、昇進における評価と選考、パフォーマンス・マネジメント ほか)

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「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(アンドリュー・S・グローブ)

IT企業の経営者が読んでもいいが、むしろ人事パーソンにお薦めの準古典的名著。

HIGH OUTPUT MANAGEMENT4.JPGHIGH OUTPUT MANAGEMENT.jpg ハイ・アウトプット・マネジメント―インテル経営の秘密.jpg インテル経営の秘密3.jpg
HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント』['17年]『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密 (1984年)』['84年]『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』['96年]

アンドリュー・グローヴ .jpgHIGH OUTPUT MANAGEMENT  .jpg 本書『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、2016年に亡くなったインテル元CEO・アンドリュー・グローヴ(1936-2016/享年79)による本で、1984年に発刊された『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密』(早川書房)に加筆修正して1996年に発行された『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』(早川書房)の原書"High Output Management"をもとに、2015年に米国で出版されたペーパーバック版を翻訳したものです。

 アンドリュー・グローヴはユダヤ人で、ハンガリーから無一文で英語も話せないままアメリカに亡命し、インテルに3番目の社員として入社、1979年に社長、1987年に社長兼CEO、1998年に会長兼CEOとなった言わば〈立志伝中の人〉であり、本書の帯には「シリコンバレーのトップ経営者、マネジャーに読み継がれる真の傑作、待望の復刊!」とあり、ピーター・ドラッカーやマーク・ザッカーバーグが寄せた讃辞があります。実際、『インテル経営の秘密』のタイトルで改版された際に日本でも多くの人に読まれ、「準古典的名著」と言ってよいかと思います。

HIGH OUTPUT MANAGEMENT  .jpg 今回の新版は、本編は1983年に当時インテルの現役社長であった著者が著したもので、その前に1995年に著者自身がその後の80年代から90年代にかけての大きな環境変化(日本企業によるメモリー事業への攻勢を主としたグローバル化と電子メールの発展によるコミュニケーションの変化)について記した「イントロダクション」があり、更にその前に1995年に本書を読んだというベン・ホロウィッツによって2015年に書かれた「序文」が付いています。

 「イントロダクション」において著者は、「本書には3つの基本的なアイデアを盛り込んである」とし、それは、1つ目のアイデアは、マネジメントに対する成果(アウトプット)への志向性であり(マネジメントは成果志向であれということ)、2つ目は、そのアウトプットは個人というよりもチームによって追求されるということであり、そこで、チームのアウトプットを増大させるためマネジャーは何が出来るかとの問いが出てくるとしています。そして、チームは、そのメンバーである各個人の業績遂行活動が導き出された時に、最もよく機能して、その業績を高める―というのが、3つ目のアイデアであるとのことです。

 第1部「朝食工場―生産性の基本原理」では、3分ゆでのゆで卵とトーストとコーヒーを出すごく普通の食堂が設備投資をして「朝食工場」となり、さらにその「朝食工場」をフランチャイズ制によって全国展開していくという架空のケースを用い、その中にインテルでの事例なども織り交ぜながら、著者自身が考えるマネジメントの原理原則を体系的に説明しています(この部分は個人的には、「科学的管理法」に近いものを感じた)。

 第2部「経営管理はチーム・ゲームである」では、マネジャーのアウトプットとは、自分の組織のアウトプットと自分も影響力が及ぶ隣接諸組織のアウトプットの和であるとし、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示しています。また、ミーティングはマネジャーにとっての大事な手段であるとし、インテルで行われている「ワン・オン・ワン」という監督者と部下のミーティングを紹介しています(「ワン・オン・ワン」についてだけで『ワン・オン・ワン―快適人間関係を作るマネジメント手法』('90年/パーソナルメディア)という本になっている)。更に、決断を行う際に陥りがちな"同僚グループ症候群"というものを指摘するとともに、明日のアウトプットのために今日どういった行動をとるべきかを、3つのステップから考える計画策定方式(プランニング プロセス)というものを提唱し、これを日常業務に適用したものが目標による管理(MBOシステム)であるとしています。

 第3部「チームの中のチーム」では、冒頭の「朝食工場」が全国展開するような会社になったとき、自ずとそれは"使命中心"と"機能別"のハイブリッド型組織になるとし、インテルのハイブリッド型組織を紹介するとともに、二重所属制度という考え方を紹介しています(「グローブの法則」として「共通の事業目的を持つすべての大組織は、最後にはハイブリッド組織形態に落ち着くことになる」としている)。また、われわれの行動がコントロールされ、影響される過程を考え、われわれの行動は、自由市場原理の力、契約上の義務、文化的価値の3つの方法でコントロールされるとし、最も適切な仕事のコントロール方式とはどのようなものかを考察しています。

 第4部「選手たち」では、モチベーションの問題を取り上げています。マズローの欲求段階説を改めて解説し、仕事とスポーツを対比させて、マネジャーが部下から最高の業績を引き出せるようにするには、部下のタスクへの習熟度を高めることが肝要であり、それが効果的なマネジメントスタイルの基本的要因となるとしています。そこで人事考課が重要になってくるわけであり、マネジャーが考課するときに判断すべきことは何か、避けなければならない大きな落とし穴は「可能性(ポテンシャル)の罠」であるとして、"潜在能力"を評価することに警告を発しています(時期的には日本企業が職能資格制度を盛んに採り入れていた頃になる)。また、査定内容の伝え方についても指南し、それとは別に問題社員の場合の対応や、更にはエース社員の考課の仕方についても述べています。また、マネジャーにとっての2つ困難な仕事である、採用面接と、貴重な人材が退社しないようにする話し合いついても助言しています。そして、タスクに対するフィードバックとしての報酬の考え方および昇進について論じるとともに、なぜ教育訓練が上司の仕事なのかを説いています。最後には、「これからの行動指針チェックリスト」が付されています。

 かなり以上前に書かれた本でありながら、古さを感じさせないのはすごいことかも。全体として、最初に生産管理の話から入っていき、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示し、業績達成のために部下のモチベーションやタスク習熟度をどのように管理し、部下をどのように考課し、どうフィードバックするかという話の流れになっていて、後半にいけばいくほど「人事」の話になってきます。「人を育て、成果を最大にするマネジメント」というサブタイトルは極めて妥当であり、『インテル経営の秘密』というタイトルから、変化の激しいIT業界について書かれた本だと思われているフシもありますが、実は「人事」の根幹について書かれた本であるということ。だから「経年劣化しない」と言うより「人事の本質が分かる」と言った方がいいかもしれません。従って、IT企業の経営者が読むのもいいですが、人事パーソンにもお薦めの本です。
 
《読書MEMO》
目次
序文 ベン•ホロウィッツ
イントロダクション
第1部 朝飯工場~生産の基本原理
1章 生産の基本
3分間ゆで卵の生産原理は/製造作業の実際\状況が複雑になると/大量生産の場合は/付加価値をつけること
2章 朝食工場を動かす
インディケーターこそ大事なカギ/ブラックボックスの中をのぞくには\将来のアウトプットをコントロール/品質の保証/生産性を高めるために
第2部 経営管理はチーム・ゲームである
3章 経営管理者のテコ作用
マネジャーのアウトプットとは/「パパ、本当はどんなお仕事をしているの?」/社内情報の収集と提供/経営管理活動のテコ作用/マネジャーの活動速度を速めること―ラインのスピードアップ/組織内に組み込まれたテコ作用―マネジャーの部下は何名が適切か/仕事の中断―マネジャーを悩ますもの
4章 ミーティング-マネジャーにとっての大事な手段
プロセス中心のミーティング/使命中心のミーティング
5章 決断、決断、また決断
理想的なモデルは/同僚グループ症候群/アウトプットへの努力
6章 計画化―明日のアウトプットへの今日の行動
計画策定方式/プランニング・プロセスのアウトプット/目標による管理―日常業務にプランニング プロセスを適用すると
第3部 チームの中のチーム
7章 朝食工場の全国展開へ
8章 ハイブリッド組織
9章 二重所属制度
工場保安係はどこに所属すべきか/ハイブリッド組織を働かせる\もうひとつの妙案―二面組織
10章 コントロール方式
自由市場原理の力/契約上の義務\文化的価値/マネジメントの役割/最も適切なコントロール方式/仕事のコントロール方式
第4部 選手たち
11章 スポーツとの対比
生理的欲求/安全―安定への欲求/親和―帰属への欲求/尊敬―承認への欲求/自己実現への欲求/金銭およびタスク関連のフィードバック/不安/スポーツとの対比
12章 タスク習熟度
マネジメント•スタイルとマネジャーのテコ作用/良いマネジャーになるのは容易ではない
13章 人事考課―裁判官兼陪審員としてのマネジャー
なぜ、悩むのか/業績の査定\査定の内容を伝えること/「 一方では......他方では......」/問題社員/エースの考課の仕方/その他の考え方と実際のやり方
14章 2つのむずかしい仕事
面接/「私、辞めます」
15章 タスク関連フィードバックとしての報酬
16章 なぜ教育訓練が上司の仕事なのか
最後にもうひとつ―これからの行動指針チェック・リスト

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「時間」「人材」「意欲」の3つのリソースをないがしろにしてはならないと教唆。

TIME TALENT ENERGY  e.jpgTIME TALENT ENERGY.jpg Michael Mankins.jpgEric Garton.jpg
TIME TALENT ENERGY ―組織の生産性を最大化するマネジメント』 Michael Mankins & Eric Garton
"Time, Talent, Energy: Overcome Organizational Drag and Unleash Your Team’s Productive Power"

TIME TALENT ENERGY.png 本書では、ほとんどの企業にとって本当に稀少な経営資源は「時間」「人材」「意欲」であるとしています。パート1「時間」(第2章・第3章)では、時間管理の問題をテーマとし、会議、オンラインコミュニケーション、厄介な官僚体質の構造など、大企業病の原因を探っています。パート2「人材」(第4章・第5章)では、社員の能力とチームづくりに焦点を当て、効果的な人材管理の威力を探っています。パート3「意欲」(第6章・第7章)では、当事者意識の意欲、やる気が生み出す効果について、現実的な視点で考察しています。

TIME TALENT ENERGY38.jpg さらに詳しく見ていくと、パート1「時間」では、第2章で、時間が失われてしまうからくりを示すとともに、失われた時間の大部分をシンプルな時間管理のツールやテクニックで取り返す方法について考察しています。第3章では、無駄に複雑な組織構造が、無用な会議や連絡などのやりとりの原因となっているとして、オペレーティングモデルを簡素化して、効果的な時間マネジメントで成果を上げた企業の事例を紹介しています。

 パート2「人材」では、第4章で、本当に必要なのは、誰よりも組織の使命を理解し、戦略を実行に移すことの出来る人材であるとして、いるといないとでは大きな差が出る「違いを生み出す人材」(ディファレンスメーカー)を、最大の効果を発揮できる職務に配置することが大切だとしています。しかしながら、従来の人事管理はこれに対処しきれていないとし、傑出した企業では、理論面や実践面でどのようにこれに対処しているかを紹介しています。第5章では、最も優秀な人材でチームを編成すべきだとし、また、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしています。さらに、オールスターチームには優秀なリーダーと手厚いサポートが欠かせないとしています。

 パート3「意欲」では、第6章で、社員のやる気を奮い立たせるためのステップとして、①人間性溢れる理念を策定・導入する、②社員の自律性と組織のニーズのバランスを追求する、③成果を上げ、やる気を奮い立たせるリーダーを育成せよ、の3つを挙げ、優良企業の成功事例などを紹介しながら、それぞれのステップを解説しています。第7章では。社員の意欲を引き出して成果を達成させる優良企業の企業文化に着目し、読者が同じような企業文化を醸成するための方法を紹介しています。

 企業の競争優位につながるのは「資金」ではなく、「時間」「人材」「意欲」の3つであるというのが筆者らの主張ですが、時間・人材・意欲のそれぞれについて、「傑出した企業」とそうでない企業を比較したうえで、詳細な理由を述べ、具体的な解決策までが示されているので分かり易く、また参考になります。特に人事パーソンにとってパート2の「人材」とパート3の「意欲」は、興味深く読めるのではないでしょうか。

 例えば、パート2の「人材」では、「違いを生み出す人材」を集めてチームを作り、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしていますが、どちらかと言えば、各部署に優秀な人材を均等に配置する傾向にある日本の企業にとっては、発想の転換を促すヒントになるように思います。

 「時間」「人材」「意欲」という3つの指標は必ずしも目新しいものではなく、また、本書で紹介されている優良企業の事例には、ミレニアル企業と呼ばれる新興企業のものが多かったりもし、読者にとっては、自社とは環境が違い過ぎるとの思いに駆られたりするかもしれません。実際、本書で示されたすべての策が、あらゆる企業に当てはまる汎用性を持つとは言えないと思われます。

 しかしながら、巻末で「日本企業への示唆」として、「組織生産力指数は平均で92にとどまり、グローバル平均の113を大きく下回る」という日本企業の組織生産力マネジメントの課題と、今後向かうべき方向について論じているよように、本書を通して「時間」「人材」「意欲」という3つのリソースをないがしろにしている事実に気づき、なぜそれが問題なのかをしっかりと理解し、具体的に何をすべきかと考える機会を得ることは、それなりに意義があるように思います。

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新たなる「ホワイト企業」の定義? これからの人事部の役割という観点からも啓発的。

ホワイト企業.jpgホワイト企業 創造的学習をする「個人」を育てる「組織」』(2015/11 日経BP社)

 本書では、低賃金で長時間労働を強いる「ブラック企業」について、厳しい競争環境の中で、大量生産大量流通型モデルで付加価値の低い商品やサービスを提供する企業が、徹底的に利益水準を高めようとした際の現実的な選択肢であったとし、誰でもできる仕事しかしないヒューマンリソース的な人がブラック企業に搾取される構図は、産業革命以来続くものであるとしています。

 これに対し、21世紀の企業経営の要は、社員がイノベーション力の高い「クリエイティブ・キャピタル」になることに力を入れる、つまり、イノベーションを学習する組織=「ホワイト企業」に生まれ変わることであり、また、働く個人が職業人生をサバイバルする最良の道は、イノベーションを産み出す「創造的学習力」を高めることであるとしています(因みに、本書では「イノベーション」という言葉を「技術革新」の意味でなく「価値創造(社会や顧客にとって新しい価値を産み出すこと)」の意味で使っている)。その上で、価値創造に向けた「創造的学習」を促す仕組みや取り組みの在り方について、調査データ、企業や学校組織の事例も取り上げながら、具体的に述べています。

 3部構成の第1部では、「日本の雇用や働き方が、今後どのように変わるのか」を概観しています。主な変化の波は、技術革新、グローバル化、長寿化・高齢化、都市化の4つであるとし、こうした変化の潮流を踏まえた上で、世界経済フォーラムが唱える「人的資本指数」を構成する雇用・労働(働き方)、教育・学習(教育や学習のあり方)の視点から、日本の現況と将来を考察しています。

 第2部では個人の立場から、長いキャリア人生を通してイノベーション力を蓄えた「クリエイティブ・キャピタル」になるために求められる学習の在り方=「創造的学習」とはどのようなものかを探っています。ここでは、孤独な「勉強」をやめ、学習のサイクルを回すことが肝要であるとし、イノベーション力を高めるための「創造的学習」のカギとして、①テーマを見つける、②没頭して楽しむ、③実体験する、④他者と交わる、⑤教え合う、の5つの要素を挙げています。

 第3部では企業の立場から、まず日本企業のイノベーション持続にとって最大の障害である「組織文化の現状」を示し、20世紀に主流だった大量生産大量流通型工業社会で成功を収めた組織運営の在り方や個人の働き方が、21世紀の知識・コミュニケーション型知識社会では大きな足枷になっているという課題を提示した上で、コスト削減や業務能率向上を優先した20世紀型の工業社会とは異なる、知識社会の企業経営の在り方を探っています。

 この中では、イノベーションを拒むものとして、「管理統制信仰」「刻苦勉励好き」「組織の論理と人事権の優先」「本業意識」「目先の利益優先」「リスク回避の権威主義」「職場のコミュニケーション不全」の7つの組織文化の壁を指摘するとともに、イノベーションを継続する力を高める「ホワイト企業」になるには、社員の専門性と自律の促進がカギになり、人、職場、組織、文化の4つの経営の土台づくりが求められるとしています(とりわけ、日本企業に根づいた7つの組織文化の壁を崩すため、文化づくりが大切であるとしているのが興味深い)。

 これまで「ホワイト企業」と言えば、「ブラック企業」の対語として、法令を順守した就業規則が整備され、実際に労務面に反映されているとか、新卒3年後定着率が高いといった現象面のみで捉えられることも多かったように思いますが、本書では、社員をヒューマンリソース(人件費)として位置づけるかクリエイティブ・キャピタル(人的資本)として位置づけるかに"ブラック"と"ホワイト"の違いを見出している点が興味深く(新たなる「ホワイト企業」の定義?)、また、なぜ、イノベーションを学習する組織=「ホワイト企業」に生まれ変わる必要があるのか、そのためにはどうすればよいのかということについても、よく纏まって書かれているように思いました。更には、それらが机上の空論ではなく、調査データ、企業や学校組織の事例も取り上げながら、具体的に述べられている点もいいです。実際にマネジメント研修やリーダーシップ研修を数多くこなしてきた実務家によって書かれているだけに、説得力があるように思いました。

 これからの企業が目指すべき方向という意味で啓発度の高い本であり、また、組織論、人材育成論、さらにはこれからの人事部の役割という観点からみて、人事パーソンに限っても同様のことが言えるかと思います。

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「働き方改革」は組織風土改革。自社における「意識・制度」両輪での働きかけを紹介。

アクセンチュア流 生産性を高める「働き方改革」8.JPGクセンチュア流 生産性を高める「働き方改革」1.png クセンチュア流 生産性を高める「働き方改革」2.jpg
アクセンチュア流 生産性を高める「働き方改革」』['17年/日本実業出版社]

 コンサルティング業界は、「徹夜しないなんて、週末に仕事を持ち帰らないなんて、コンサルじゃない!」と言われるくらいの激務が当たり前であると言われ、外資系コンサルティング会社に憧れる大学生が多い一方で、ハードワークのイメージゆえに敬遠する人も多いとのことです。そうした風土の中、コンサルティング会社のアクセンチュアがここ数年にわたり積極的に取り組んできた、生産性を高める働き方改革「プロジェクト・プライド」の軌跡を、それを推し進めてきたトップ自らが紹介した本です。

アクセンチュアChallenges.png 第1章では、業績好調ながらも、人材不足や長時間労働など、さまざまな課題を抱えていた会社で、カルチャーを変えなければ次のステージはないとの危機感のもと、アンケート等による現状把握をもとに優先課題をフォーカスして、「ダイバーシティ」「リクルーティング」「ワークスタイル」の3つのチャレンジを設定し、"なりたい姿"を具体的に定義したとしています。そして、それを社内で共有することから始め、プロフェッショナルとしての誇りのもと、「世の中から認められ、働きやすく、フェアな会社」を目指すことをプロジェクトの方向性としたとしています。

アクセンチュアHPより

 第2章では、プロジェクトを推進する「改革のフレームワーク」として、「第1象限:方向性提示と効果測定」「第2象限:リーダーのコミットメント」「第3象限:仕組み化・テクノロジー活用」「第4象限:文化・風土の定着化」という4つの象限を設定し、3年を目標に改革に至るロードマップを策定したとしています。「改革のフレームワーク」は、会社がビジネスとして顧客に提供している組織改革の方法論を活用したものであり、いわばコンサルティング会社が自社をコンサルティングするかたちになっているのが興味深いです。

アクセンチュアCore-value.jpg 第3章では、プロジェクトが本格始動するに際して、どのようなメッセージをどのような方法で社員に伝えたのか、キックオフやそれに続く「コミュニケーション強化月間」の実施内容を紹介しています。プロジェクトの方向性を高いプロフェッショナリズムの実現に置き、「クライアント価値の創造」「ワン・グローバル・ネットワーク」「個人の尊重」「ベスト・ピープル」「インテグリティ」「スチュワードシップ」の6項目から成るコアバリューの浸透を図ったとしています。

 第4章では、「改革のフレームワーク」の第1象限から第4象限までを具体的にどのように進めていったのかが象限ごとに紹介されていて、この部分が本書で最もページ数が割かれています。例えば、第2象限(リーダーのコミットメント)では労働時間に関する法的なボーダーラインを示したり、第3象限(仕組み化・テクノロジー活用)では、給与制度の変更や短時間勤務制度の導入などを行っていますが、強調されているのは、組織風土改革において「意識」と「制度」の両輪での働きかけを行ったということです。

アクセンチュアHPより

 第5章では、冒頭で八丈島に在宅勤務する社員の例を紹介するとともに、プロジェクトによってもたらされた、ダイバーシティ、リクルーティング、ワークスタイルの3つのチャレンジの成果を掲げ、働き方改革と業績アップは両立できるとし、会社は働き方改革で次なる成長のステージへ動き出しているとしています。

 世間で「働き方改革」が声高に叫ばれるようになる前の、2015年1月にプロジェクトがスタートしているという点で先駆的であり、その分、説得力もあります。「働き方改革」が目指すのは単なる"早帰り運動"ではなく、組織風土改革であることが実感でき、また、コンサルティング会社という知識集約型産業の("紺屋の白袴"になりがちな?)企業における事例であることが関心を引きます。コンサルティング会社であるだけに、概念的に整理するのはお手の物という気がしなくもないですが、それを実地に落とし込むまでの具体的な働きかけや仕組みづくりが数多く紹介されており、人事パーソンにとっても啓発されるだけでなく、具体的に参考になる面も多い本であると思いました。

《読書MEMO》
●目次
1 現状把握から"なりたい姿"を定義する(カルチャーを変えなければ、次のステージはない!;社員のヒアリングで、次々と不満の声が... ほか)
2 改革までのロードマップと体制づくり(プロジェクトを推進する「改革のフレームワーク」;3年を目標にロードマップ策定 ほか)
3 『プロジェクト・プライド』本格始動!(全社集会でのキックオフ宣言;オリジナル映像でビジョンを印象づける ほか)
4 「制度」と「意識」の両輪で働きかける(改革のフレームワーク・第一象限 方向性提示と効果測定;改革のフレームワーク・第二象限 リーダーのコミットメント ほか)
5 働き方改革で次なる成長ステージへ(ケース・スタディ 人材活用の可能性を広げたテレワーク―充実した制度をどう活用するか? 八丈島で働く女性マネジャーのストーリーから探る;ダイバーシティ・チャレンジの成果 ほか)
解説編 『プロジェクト・プライド』の示唆

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人事データ活用の重要性とそのための統計的センスとは何かをテーマごとに説く。

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日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用』(2017/06 日本経済新聞出版社)

 著者によれば本書は、人事・人事企画に携わる人や、経営戦略に関わる経営コンサルタント、人事制度の設計・改善に関心のある実務家・学習者などに向けて書かれた、科学的なフレームワークで人事データを分析し、その結果を解釈するための方法と実例を紹介した本であるとのことです。

 まず第1章で、人事部が抱える問題として、人事データが十分に活用されていないため、PDCAサイクルがうまく回っていないことを指摘しています。著者は、人事データを活用するためにすべきこととして、
1.人事データをすべてデジタル情報として保存する
2.人事データを1つのシステムの中で一元管理する
3.統計リテラシーの高い人間を1人くらい人事に配置する
4.統計ソフトを1つ購入する
の4つを挙げていますが、そもそも、人事データで課題を解決するには、問題意識がなければならず、勝負の分かれ目は、問題意識をもち、問題点に気づけるかどうかにあるとしています。

 第2章では、統計的センスを身につけるためのポイントとして、視覚的に捉えることの重要性を説くとともに、データの相関と因果を探る上で、回帰分析がデータ活用の基本となるとしています。因果関係を正しく見出すためには、回帰分析などを正しく使い、外的な環境や影響を与える他の要素をある程度コントロールしていく必要があり、また、グラフを描く技術や統計ツールを身につけ、気づきをエビデンスに変えていく力こそが統計的センスであり、今後データの利用が各方面で高まるにつれ、こうした統計的センスはさらに必要な能力となるとしています。

 第3章から第8章では、女性活躍推進の効果をどう測るか、働き方改革の効果をどう測るか、採用施策をどう評価するか、優秀な社員の定着率を上げるためには何が必要か、中間管理職の貢献をどう測定するか、高齢化に対応した長期施策をどう考えるか、という6つのテーマを取り上げ、実際にデータ分析の手法を用いて諸データを解析し、何が課題であり、その課題の解決に向けてどういった施策が考えられるかを示唆しています。

 そして第9章では、人事におけるデータ活用の今後の展開として、人事機能の分権化やサクセッション・プランの導入などによってその重要性は増し、さらには、メール交信や社内SNSなど社員間のネットワーク情報の活用が進むことも考えられるとしています。一方で、雇い主である企業が、雇用関係を通じて知り得た従業員の個人情報をどこまで自由に利用してよいのかという倫理的な問題もあるとしています。

 データ分析に関する解説で、数学的要素については、必要な箇所に、2ページのテクニカルノートを含めることで、統計学、計量経済学の手法に軽く触れています。また、さらに学びたい読者のために、第2章から第8章の各章末で関連する参考図書を紹介し内容を簡単に説明するとともに、第3章と第5章では「特別コラム」として、佐藤博樹・武石恵美子著『職場のワーク・ライフ・バランス』と服部康宏著『採用学』を取り上げ、その内容を詳しく解説しています。

 これからの人事においては統計データの活用がますます重要になり、統計データを活用するには統計センスが求められるということ、その統計センスとはいかなるものであるかを示した本であるように思いました。個人的には、第6章の採用と第8章の高齢者雇用のところが分かり易くて腑に落ちましたが、これは、説明上、賃金カーブが出て来る点や、概要説明が、以前読んだエドワード・P・ラジアーの『人事と組織の経済学』('98年/日本経済新聞社)と重なるためだったろうと思います(第6章の参考図書として、『人事と組織の経済学・実践編』('17年/日本経済新聞出版社)が挙げられている)。

 人事データ活用の重要性とそのための統計的センスとは何かを説いた本ですが、データ分析は「習うより慣れろ」で、まずは興味を持ってこうしたデータに触れることが第一であるとも言っています。その意味では、第3章から第8章のテーマごとの"実践編"については、読者の関心が強いものから順に読んでいってもよいように思います。

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初任または若手の人事部員にお薦めだが、上司が読んでもいい。

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会話でマスター 人事の仕事と法律』(2017/04 中央経済社)

 本書は、初めて人事労務に携わる人や初めて人事労務を学ぶ人のために、人事労務のアウトラインを会話形式で示したものです。舞台は化学品メーカーで、主要な登場人物は、新卒入社して支社で3年間営業に携わった後に新たに本社の人事部に配属になった若手社員と、2年前まで人事部長を務め今は役職定年で専任部長になっている人事一筋35年のベテランの2人で、ベテラン専任部長が人事部1年生に定期的な会話の場を通して(時に居酒屋で)、人事労務や労働法についてレクチャーするという形式をとっています。

 かつて経営団体に勤務し、現在は大学で教鞭を執る著者は、1つの人事労務の問題に対して常に経営的側面と労働法的側面から検討する必要性を感じていたとのことで、その両者を一冊にまとめた書物がなく、著者自身が以前にそうした本を著したものの、それはあくまで学生向けのものであったため、この度、初任実務者にとっても参考になる本を刊行することを狙いとして、本書を著したとのことです。

 全30講+補講から成り、前20講が「人事労務編」、後10講「法律編」となっています。「人事労務編」では、人事労務の目指すものは何かということから始まって、募集・採用、異動・配置、人事考課、教育・訓練、昇進・昇格、定年・退職・解雇、懲戒、賃金、賞与・退職金、福利厚生、労働時間、労働組合などを扱っています。特に労働組合関連に7講を費やして丁寧に解説しています。後半の「法律編」では、労働法の体系から入って、労働基準法、労働契約法、労働組合法、雇用機会均等法・育介法などを扱い、人事労務に関係する法律の主要なものは押さえていると言えるかと思います。

 全体を人事編、労務編と分けるのでなく、前20講の「人事労務編」の中で、必ずしも答えは1つとは限らないマネジメントの問題も扱えば、法律で決まりごととして定められている労働法の問題も扱っていて、それが自然な流れとして感じられ、改めてこの両者が密接な関係にあり、不可分なものであることを感じました。その上で、それらとは別に、体系的に解説した方が分かりやすい法律のポイントを、後半部の10講で、これも会話形式ですっきりまとめています。

 網羅している範囲は広いですが、全体を通して会話形式であるため分かりやすく、また時に新人と専任部長のユーモラスなやりとりもあって読みやすいです。基本的には入門書ですが、最近の人事とそれを取り巻く環境の変化や今後の課題なども織り込まれていて、内容的には密度が濃いように思いました。

 人事マネジメントや人事の制度等については、概ねオーソドドックスなことが語られたりスタンダードなものが紹介されたりしていますが、外資系の会社ではまた違ってくるといった話があったりし、また、専任部長の言葉を借りて著者の考え方が示されている箇所もあるように思いました。

 読み手の側からすれば、「ウチの会社はちょっと違うな」と思われる部分もあるかもしれませんが、それはあって当然ではないかと思います。初任または若手の人事部員に本書を読んでもらい、どの点が納得でき、どの点がすんなり飲み込めなかったかを話し合ってみるのも良いかと思います。そのためには上司も本書を読まなければなりませんが、人事・労務の基本をおさらいするとともに、自社の人事マネジメントや人事制度を一般の会社のそれらと比較した場合の相対的位置づけを探るという意味では、いずれの職層の人事パーソンにとっても読む価値があるのではないかと思います。

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「ベテラン社員は少し背中を押せばイキイキ動き出すようになる」。啓発的だった。

「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント.jpg     マイ・インターン dcd.jpg マイ・インターン01.jpg
なんとかしたい! 「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント』['16年]「マイ・インターン [DVD]」['15年]ロバート・デ・ニーロ/アン・ハサウェイ
「月刊 人事マネジメント」2018年6月号
「月刊 人事マネジメント」2018年6月号.JPG「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント .jpg 人事マネジメント系の雑誌でも、「シニア社員 [戦力化] ノート」といった特集が組まれたりする昨今ですが、本書によれば、多くの企業で50歳代の非管理職層が年々増加していくなか、そうしたベテラン社員についての「モチベーションが低く職場の問題児になっている」「新たなスキル開発が進んでおらず、やれる仕事が限られている」「年下上司の言うことを聞かずに困っている」といった(これまでもあった)定番的な問題が、これまでは成果を出すのは難しいとして放置されてきてきたのが、もはや放置しておけない状況になってきているとのことです。本書はそうしたベテラン社員(40代後半から65歳で、部下と責任部署を持つ管理職でない人を想定)をどう活性化していくか、或いはまた、50歳目前から、60歳以降も働き続ける人が元気に職場で活躍する状態を、どうやって作りだしていくかをテーマとしたものです。

 まず序章において、そうした問題の背景や原因を分析し、ベテラン社員がイキイキと働くために必要なものとして以下の3つを挙げています。
  ①やりがいのある仕事
 ②信頼できる上司
 ③職場の人間関係

 そしてこれらを実現するための、ベテラン社を活性化させる5つのマネジメント・ステップとして次の5つのステップを掲げ、以 下第1章から第5章で、5つのステップのポイントを解説しています。
 [ステップ1]土台をつくる...向き合い、気づき、知り合う 
  [ステップ2]目標を設定する...「与える」から、「考えさせる」へ
 [ステップ3]心に火をつける...プライドをシフトする
 [ステップ4]達成に向け支援する...仲間として支援する
  [ステップ5]フィードバックする...感謝と期待を伝える

 第1章(ステップ1:土台をつくる)では、ベテラン社員一人ひとりが個性的な人生を歩んできたのであり、そうした相手を知るために「仕事年表」を作成してもらい、それを共有することで、相手の思いや真実を引き出すことを勧めています。

 第2章(ステップ2:目標を設定する)では、いきなり課題を与えるとベテラン社員は逃げていくとし、目標設定の前に会議を通して組織の未来を考えてもらい、その上で目標を個別に考えてもらうことを推奨しています。また、自身のマネジメントについてベテラン社員がどう思っているか、自身がフィードバックを受けることができれば、まさに本物であるとしています。

 第3章(ステップ3:心に火をつける)では、ベテラン社員の持つ自分へのプライドを、自分の仕事を守るためのネガティブなプライドから、志を達成するためのものへとシフトさせることが肝要であり、自問自答を通してそのための気づきを促す「自己探求シート」というものを用いた面談を提唱しています。

 第4章(ステップ4:達成に向け支援する)では、メンバーの能力を120%引き出すためには、メンバーに敬意を持ち、メンバーを「部下」という上下の関係ではなく、お互いの成長を支援できる「仲間」に進化させていくことで一体感をつくることが大切であるとしています。

 第5章(ステップ5:フィードバックする)では、ベテラン社員は褒められたいと思っているのではなく、期待されたりと感謝されたりすることがその行動を変えるとして、対象者への感謝や期待を本人にフィードバックするための「フィードバックシート」というものを例示しています。

 また、巻末には、ベテラン社員の活性化に取り組み、成果を出している企業例として、トヨタファイナンス、NTTコミュニケーションズ、テルモ、サトーホールディングスの4社について、その取り組みが紹介されています。

 マネジャーや人事担当者とベテラン社員との間に仕事や働き方に対する共通の理解を育むことで、ベテラン社員は少し背中を押すだけでイキイキ動き出すようになるというのは、たいへん啓発的であるように思いました。もやっとした話になりがちなところを、「仕事年表」「自己探求シート」などのツールが紹介されていて、やるべきことが「見える化」されているのは良かったように思います。ただし、あくまでもそれらはツールであって、マネジャーや人事担当者が本書に書かれていることを実践するに際しては、個々人に相応のヒューマンスキルが必要になってくるようにも思いました。「ベテラン社員」問題が先送りされているような企業の人事担当者は、読んでおくのもいいのではにでしょうか。
        
マイ・インターン s.jpg ナンシー・マイヤーズが監督・脚本・製作を担当し、ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイが主演を務めた「マイ・インターン」('15年/米)という映画がありました。ニューヨークでファッション通販サイトを運営している女社長のジュールズ(アン・ハサウェイ)が、短期間で会社を拡大させることに成功し、そんな彼女の会社に、社会貢献の一環としてのマイ・インターン2.jpgシニア・インターン制度で採用された70歳の老人ベン(ロバート・デ・ニーロ)がやってきて、ジュールズは最初から本気でベンに仕事を任せる気はなく、ベンも最初は若者ばかりの職場で浮いた存在だったが、いつしか彼はその誠実で穏やかな人柄によって社内の人気者になっていき、さらには公私にわたって困難の壁に直面したジュールを支える大きな柱になっていくという話でした。

マイ・インターン ド.jpg 何と言ってもコメディ映画であるし、ロバート・デ・ニーロ演じるベンは70歳ながら「背中を押す」どころか何も指示されなくても社内を変えていく"スーパー老人"的存在ですが、最初からシニアは使えないと思い込まないこと、また、当のシニア自身も人が与えてくれるのを待つのではなく自分から努力しなければならないということを示唆しているという意味では教訓的だったかもしれません(身だしなみに気を使っていたなあ)。

 基本的には予定調和のストーリーは予測の範囲内なので、ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイという世代の異なる二人の演技派俳優の演技を楽しむ映画として観ましたが、ロバート・デ・ニーロは、同じコメディ映画であるデヴィッド・O・ラッセル監督の「世界にひとつのプレイブック」('12年/米)でジェニファー・ローレンスと共演し(ジェニファー・ローレンスはこの作品でアカデミー主演女優賞を受賞、ロバート・デ・ニーロも助演男優賞にノミネートされた)、この「マイ・インターン」では、ジェニファー・ローレンスと同時に「レ・ミゼラブル」('12年/英)でアカデミー女演女優賞を受賞したアン・ハサウェイと共演と、積極的に演技派女優と共演しているのがスゴイなあと思います。相手もロバート・デ・ニーロとの共演を名誉なこととして望むのでしょう。アン・ハサウェイはロバート・デ・ニーロとの対談で「あなたは伝説です」と述べているし、また、撮影所でもロバート・デ・ニーロは謙虚で、全然偉ぶってなかったと言っています。ロバート・デ・ニーロ自身がまさに理想のシニアといったところでしょうか。

マイ・インターン(字幕版)
マイ・インターン 3.jpgマイ・インターン dcd.jpg「マイ・インターン」●原題:THE INTERN●制作年:2015年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ナンシー・マイヤーズ●製作:ナンシー・ママイ・インターン  s.jpgイヤーズ/スザンヌ・ファーウェル●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:セオドア・シャピロ●時間:121分●出演:ロバート・デ・ニーロ/アン・ハマイ・インターン .jpgサウェイ/レネ・ルッソ/アンダーズ・ホーム/ジョジョ・クシュナー/アンドリュー・ラネルズ/アダム・ディヴァイン/ザック・パールマン/ジェイソン・オーリー/クリスティーナ・シェラー●日本公開:2015/10●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)

会社専属マッサージ師フィオナ=レネ・ルッソ(「アウトブレイク」('95年))/ロバート・デ・ニーロ

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今後の人事の潮流を(コンセプチャルに)俯瞰するうえでお薦め。

個性を活かす人材マネジメント.jpg   谷内 篤博.jpg 谷内 篤博・実践女子大学教授
個性を活かす人材マネジメント: 近未来型人事革新のシナリオ』(2016/09 勁草書房)

 グローバル化した企業・社会で必要な人材マネジメントとはどのようなものか。本書は、企業の人事部、コンサルティング会社を経て、現在大学で教鞭を執る著者が、従来の人事管理論を超えて、今後求められるキャリア形成や新たなマネジメントシステムを解説したものであり、全体的な流れとしては集団主義から個性尊重主義へのパラダイムシフトを提言しています。

 まず序章では、企業を取り巻く環境の変化を概観するとともに、これまでのわが国の人材マネジメントの特徴を踏まえ、その変革の方向を大きく
①組織的管理(コントロール)から自律的管理(ディベロップメント)へ
②集団主義から個人尊重主義へ
③会社主導のキャリア形成から個人の自律性を重視したキャリア形成へ
④中央集権的な人事部から戦略的・分権的な人事部へ

の4つに集約し、本書の論理展開に結びつけています。

 第1章では、環境の変化を大きく2つに分け、1つは市場や消費者の変化と経営のグローバル化、もう1つは働く人々の社会観・組織観や仕事観の変化を取り上げ、こうした変化に応えていくために、人事パラダイムを集団主義から個人主義へと転換していく必要があるとしています。

 第2章では、わが国の戦後の人事制度の歴史的変遷を概観し、人事制度の発展段階を4段階に分け、その特徴を明らかにしています。
 (1)第1段階:戦後復興期(1945~1959年)――年功主義人事
 (2)第2段階:高度経済成長期(1960~1969年)――職務主義人事
 (3)第3段階:経済変動期(1970~1990年)――能力主義人事
 (4)第4段階:バブル経済崩壊後(1991~2010年)――成果主義人事

また、コンピテンシーモデルの人事制度としての妥当性、信頼性についても言及するとともに、第5段階としての新たな人事制度を提言しています。それが、個性尊重主義であるということです。

 第3章では、これまでの組織的管理を中心とする人材マネジメントから、個人の自律的管理を重視した人材マネジメントに転換していくことを強調するとともに、自律的管理の人材マネジメントの大きな枠組みを提示し、また、自律的管理に求められるキャリア・アドバイザーとしてのミドル像についても解説しています。

 第4章では、前章の提言に基づき、自律的管理の人材マネジメントを展開するための具体的なインフラ整備として、個人と組織の新たな関係づくりと人事部に求められる新たな役割・機能について解説するとともに、キャリア・オプションの多様化や個人の自律性を重視した新たなワークシステム(複線型人事制度、職種別採用とドラフト会議、社内公募制とFA制度等)について解説しています。

 第5章では、キャリア自律に基づく具体的なキャリア形成のあり方を、最新の理論や考え方を踏まえ解説しています。同時に、自立した個の組織外への流出を阻止する人事施策(A&R施策)についても先進事例を踏まえ、経済的インセンティブ、心理的インセンティブの両面から解説しています。

 第6章では、組織イノベーションの創出に向けた個人尊重主義人事の展開に求められる組織マネジメントとリーダーシップについて解説しています。まず、組織イノベーションを生み出すためにはミドルが戦略ミドルに脱皮するとともに、組織形態もネットワーク型オーケストラ組織に転換する必要性を述べています。また、戦略ミドルに求められるリーダーシップスタイルも創造的リーダーシップに転換していくべきことを、先行研究から著者なりの結論として導き出しています。

 終章では、本書で提唱した人事革新の今後の展望と残された課題について解説しています。

 コンセプチャル度の高い本ですが、企業経営者や人事担当者、経営コンサルタントや研究者、学生などターゲットは広く想定して書かれているとのこと。著者も述べているように、第5章・第6章が本書で提示されている人事革新の核心部分であり(この部分をもっと膨らませて欲しかった気もする)、第5章ではキャリア形成のあり方とA&R施策について、第6章では組織マネジメントとリーダーシップについて書かれています。

 集団主義から個性尊重主義への転換という大きな流れに沿ってかっちりと纏まった内容であり、やや堅めの内容ですが、人事パーソンであれば、今後の人事の潮流を(コンセプチャルに)俯瞰するうえで、こうした本を読んでみるのもいいのではないでしょうか。本書に書かれている変革の方向性は的確な指摘であり、現役の人事パーソンであれば、「近未来型」と言うより、もう既に起きていることとして捉えられるのではないでしょうか。個性尊重主義の人事は2000年代から言われ続けていることであり、先進事例なども紹介されていますが、そうした事例を参照しつつ、自社の中ではどうやって人事革新を進めていくべきかを具体的に検討し、実施して行く時期に来ているように思います。

《読書MEMO》
●戦略ミドルに求られる新たな役割・機能(第6章・216p)
①ビジョン策定機能
 内外の経営環境、自社の競争力の分析の中から戦略課題を抽出し、その達成に向けたビジョン(ロードマップ)を策定する
②コンダクター(旗振り役)機能
 策定されたビジョンや目標の達成に向け、組織メンバーを組織化するとともに、自ら先頭に立ってメンバーを引っぱっていく
③チャネラー機能
 組織内外の情報ネットワークを駆使し、コミュニケーションセンターとしての情報の中枢機能を果たす
④バッファー機能
 ビジョンや目標達成のプロセスで発生する組織間のコンフリクトや、上司と部下の期待する役割のズレなどの調整を行い、組織全体の協働へと導いていく。
⑤カタライザー(触媒)機能
 ナレッジの創出に向け個人の自律性を促すとともに、集団や個人の間に化学反応を引き起こし、組織の創造力を高める。

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ポスト成果主義・人材多様性に対応する「第三の報酬」=社会的報酬(キャリア的&時間的報酬)。

人事管理論再考0.JPG人事管理論再考.jpg
「人事管理論」再考――多様な人材が求める社会的報酬とは』(2016/09 生産性出版)

 本書は、これからのポスト成果主義と人材多様性に対応できる人事管理の姿とはどのようなものかを考察したものです。著者によれば、人事管理に関する研究は、組織論、もしくは組織行動論および人的資源管理論において活発であり、成果主義の破綻やダイバーシティ・マネジメントの内容を取り扱うものも少なくないが、ポスト成果主義のあるべき人事管理の姿とダイバーシティ・マネジメントによって引き起こされる人事管理の具体的な変容とを接合する研究は少ないとのことです。

 著者は、もはや人々は「賃金」と「やりがい」といった従来の二大報酬のみによって動機づけられる存在ではなくなっているとし、生活の充実を求める人々にとって不可欠な「時間的余裕」と短期的なやりがいや刹那的な充実感とは異なる「成長の実感」が第三の報酬として求められており、このことを可能にするワーク・ライフ・バランス施策、公正な評価・処遇制度、中長期的なキャリア支援策によって、これまでの報酬体系を再構築することが必要であるとしています。本書は、これらの報酬を新たな「社会的報酬」と名づけ、今後の本格的な研究の起点となることを意図して書かれたものであるとのことです。

 前半にあたる第1章から第4章は、主に欧米と日本の人事管理の系譜を辿りながら、今日の人的資源管理および成果主義の抱える課題を抽出して仮説を構築し、その検証と補強をしています。「第1章 人事管理が抱える限界」では、20世紀初頭の科学的管理法を契機とした欧米における人事管理の発生から人事労務管理の特徴を概観し、1980年以降に登場した人的資源管理(HRM)の概要を詳らかにし、更に現在の人事管理が抱える限界である、①人事管理における社会的視点おの欠落、②金銭面と心理面のみによる報酬制度の限界、②フルタイム労働者と男性正社員を基軸とした管理構造を指摘、ポスト成果主義と人材多様性に対応できる新たな報酬管理の必要性を提起しています。

 「第2章 社会的視点の欠落」では、第1章で指摘した「社会的視点の欠落」について検討しています。社会における企業の役割の変化を企業の社会的責任(CSR)の概念から吟味し、従業員の両面性を踏まえた人事管理を設計する意義を指摘しています。「第3章 金銭的報酬と心理的報酬の偏重」では、従来の報酬制度の限界につて検証しています。従来の年功制、職能資格制度、成果主義の特徴を報酬管理の視点から明らかにし、従来の報酬体系の分解・再編から帰結する社会的報酬の概念を提起しています。「第4章 男性正社員に基軸を置いた管理構造」では、「従業員の同質性を前提とした人事管理」について検証しています。ダイバーシティ・マネジメントの概念を概観した上で、個人の内なる多様性としてのワーク・ライフ・バランスの重要性と多様な人材への対応が企業業績の面からも急務であることを指摘しています。

 ここまでの検証により、ポスト成果主義と人材多様性に必要とされる新たな報酬がキャリア的報酬と時間的報酬からなる社会的報酬であることが明らかになり、「第5章 ケーススタディ―A社における人事改革」では、著者が実際に企業内で実務責任者として携わった人事改革事例を取り上げ、社会的報酬に基づく人事管理の方向を導いています。『第6章 第1の報酬:「キャリア的報酬」』においては、従来の日本企業が行ってきた人事管理を"長期的な将来価値に基づく見なし型人事管理"とし、プロフェッショナルに対応する人材価値型人事管理によってキャリア的報酬を提供すべきことを指摘しています。さらに『第7章 第2の報酬:「時間的報酬」』では、働き方の変化を企業や政府のワーク・ライフ・バランス(WLB)施策の動向から吟味し、働くすべての人々が何らかの制約を抱えていることを明らかにし、多様な制約社員に対応するWLBマネジメントによって時間的報酬を提供すべきことを指摘しています。

 以上の検証とモデル化を踏まえた本書の結論として、「終章 社会的報酬に基づく人事管理の展開」では、①企業の社会的合理性と従業員の両面性を重視する新たな報酬体系、②プロフェショナルを公正に評価・処遇。育成する人材価値管理に基づくキャリア的報酬、③多様な働き方を許容するWLBマネジメントによる時間的報酬の必要性を主張しています。

 これからの人事管理の在り方を大きなスケールで新たなパラダイムで捉えており、それでいて、明確な方向性を示している本だと思いました。ポスト成果主義と人材多様性に必要とされる新たな報酬が、キャリア的報酬と時間的報酬からなる社会的報酬であるとの指摘は、本書で示された数々の検証によって理解されやすいものとなって、また、示唆に富むものでもあるように思いました。著者が述べているように、こうしたコンセプトが学界で今後の研究の起点となることは歓迎されることだと思われますし、また、実務家の間でも強く意識し、更には、次に何をすべきかを考える起点としていくべきだとの印象を抱きました。

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「グローバル人材のHRMを初めて体系化」したテキスト。

国際人的資源管理 (ベーシック+) .JPG国際人的資源管理 (ベーシック+).jpg
国際人的資源管理 (【ベーシック+】)』(2016/07 中央経済社)

 本書のまえがきによれば、これまでに国際人的資源管理について書かれた本の多くは、学究的な研究をベースにした学術書か、実務家をターゲットにした実務書のどちらかであり、例えば大学の授業などで、国際人的資源管理についての基本的概念や理論的枠組みを平易なかたちで解説するテキストがなかったとのことです。

 本書は、国際人的資源管理の基礎を身につけたい学生をターゲットとした入門テキストであるとともに、企業などで国際人的資源管理に取り組む実務家が、さまざまな実務の背景にある基本的な考え方や枠組みを押さえておく上で役立つテキストであることも狙いとしているとのことです。

 第Ⅰ部「基本フレームワーク」では、国際人的資源管理を全体的に俯瞰し、多国籍企業による国際人的資源管理の在り方についての重要な知識やフレームワークを概観しています。具体的には、国際経営の知識、人的資源管理一般に関する知識の獲得を踏まえ、国際人的資源管理特有の理論的枠組みが示され、また、世界の各地域での人的資源管理がどのような特徴を持っているのか国際比較しています。

 第Ⅱ部「国際的資源管理のサブシステム」では、第Ⅰ部における国際人的資源管理の全体的な俯瞰を踏まえた上で、国際人的資源管理を構成する各サブシステムについて解説されています。国際的な人材配置、人材育成、報酬、人事評価、労使関係の在り方について解説され、最後に、国境を越えて移動する海外派遣者のマネジメントについて書かれています。

 第Ⅲ部「スペシャル・トピックス」では、国際人的資源管理を経営戦略の視点から捉える理論的枠組みを紹介した後、近年の国際人的資源管理に特有なトピックスについて扱っています。具体的には、多国籍企業における使用言語・コミュニケーションの問題、国際的M&Aにおける人的資源管理、新興国発多国籍企業による人的資源管理の特徴を挙げ、最後に、日本企業の国際人的資源管理の状況を説明しています。

 テキストであるため、体系的に構成されている上に(帯には「グローバル人材のHRMを初めて体系化」とある)、各章の冒頭に学習ポイントやキーワードが整理されているとともに、章末には、さらに理解を深めるためにどのようなことを調べ、どのような議論したらよいか、さらに、どのような本に読み進めばよいかが挙げられており、参考文献も数多く列記されています。

 内容的には、例えば第Ⅰ部で言えば、、先に示したように、国際人的資源管理のフレームワークを示す前に人的資源管理のフレームワークを解説するなど、一般的な「人的資源管理」論と重なる部分もあり、学生はともかく、人事パーソンが本書を読む場合は、復習的な側面もあるかもしれません。一方で、本文やコラムの中で実際の企業事例も多く紹介しており、近年の国際人的資源管理のトレンドが網羅的に把握できるなど、人事パーソンが読んでも新たな知見が得られる本ではないかと思われます。

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ローパフォーマー対応がなされず、放置しっ放しの企業にとっては、啓発される要素を含んだ本。

人事コンサルタントが教える ローパフォーマー対応.jpg人事コンサルタントが教える ローパフォーマー対応』(2016/03 日本経済新聞出版社)

人事コンサルタントが教えるローパフォーマー対応1.jpg 本書で扱っているローパフォーマーとは、当人の「低業績」に加えて、「低評価」となっている社員のことであり、いわゆる問題社員やモンスター社員などは含まれていません。本書では、低業績・低評価のローパフォーマーは、しかるべき対応と本人の自覚・努力があれば充分に再生可能であり、また、再生の道を考えていかねばならないとしています。著者は、「今や、誰でもローパフォーマーになる時代である」とし、レッテルの貼りっ放し、放置しっ放しにするのではなく、ローパフォーマーを支援し、戦力化していくことが必要だとしています。

 まず、第1章では、ローパフォーマーを、「年齢(ベテラン・若手)」と「力を出せない・力を出さない」という2軸の掛け合わせの中で、①採用ミス・放置型、②基本能力不足型、③言われたことだけ・やる気なし型、④センス・スキル陳腐化型、⑤青い鳥探し型、⑥人間関係悪化型、⑦部署・仕事・事業消滅型の7つのタイプに分類し、それらに共通する特徴として、「組織の期待に応えない」「人間関係が悪い」「柔軟性がない」の3点を挙げています。

 また、第2章では、ローパフォーマーの存在は、本人だけの問題でなく、ハイパフォーマーが流出したり管理職の活躍の場が奪われたりするなどの弊害も生み、そうしたローパフォーマー化は、学ばない・変わらない本人のせいだけでなく、放置する上司や会社の曖昧な戦略にも原因があるとしています。

 そのうえで、第3章では、上司が部下の可能性を信じて変わらなければ、部下も変わらないとして、問題解決へのアプローチとして、現場レベルでできること、上司がやるべきこと、会社としてやるべきことを整理しています。たとえば会社としてやるべきこととしては、①ローパフォーマーの定義を明確化し、②該当者のリストを作成して、③再生に向けてのコミットメントを打ち出し、④再生に向けた仕組み作りをすることであるとしています。具体的な支援プログラムの概要として、①上司研修、②対象者本人研修、③上司のOJT指導面談+外部カウンセラー面談、④判定会議という流れを解説しています。さらに、先に挙げた7つのタイプ別の対応方法を示しています。

 さらに、第4章では、5人のローパフォーマーの再生例を示し、その成功要因はどこにあったのか、再生できる人とできない人の違いを分析しています。第5章では、70歳定年時代の到来に向けて、自分を劣化させないためにはどうすればよいかを説いています。

 最終第6章では、自社でローパフォーマーを生まないための処方箋として、主体的なキャリア設計の重要性を説き、自律的人材を生み出す施策として、CDP制度などを紹介しています。また、活躍場所とのマッチング(戦略的再配置)が企業力を強化するとし、これからはキャリアコンサルティングの体制を国レベルでも整備していくことが必要であるとしています。

 冒頭のローパフォーマーのタイプ分けは興味深かったです。全体としては、ローパフォーマーを抱える企業の人事パーソンのみならず、上司や同僚、さらには働く個人に向けても書かれている本であり、啓発的要素の比重が高い内容となっています。ローパフォーマーを支援し、戦力化していくことの必要性を説き、小手先の対応ではなく、キャリア開発という大きな視野で捉えているのはよいと思いますが、「キャリア開発研修」だけでローパフォーマー対応が可能か、もう少し現場のマネジメントに踏み込んだ対応も必要ではないかという気もしました(著者は、株式会社日本マンパワーのキャリア開発研修のスペシャリストなので、こうした本の中身になるのだろう)。

 ローパフォーマーの存在を認識しながらも、具体的な対応がなされず、そうしたレッテルの貼りっ放し、放置しっ放しになりがちな企業にとっては、啓発される要素を含んだ本であると思います。

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「左遷」を通して日本企業の組織風土的な特質を分析。附落ちする分、既知感もあり。

左遷論73.JPG左遷論.jpg     楠木 新.jpg 楠木 新 氏
左遷論 - 組織の論理、個人の心理 (中公新書)』['16年]

 著者は、これまで『人事部は見ている』('11年/日経プレミアシリーズ)、『働かないオジサンの給料はなぜ高いか』('14年/新潮新書)、『知らないと危ない、会社の裏ルール』('15年/日経プレミアシリーズ)などで、日本的人事の仕組みを分かりやすく解説してきましが、本書では「左遷」という視点から"日本的人事"なるものを分かりやすく解説するとともに、そのベースにある日本企業の組織風土的な特質を分析しています。

 菅原道真の大宰府転任や森鷗外の「小倉左遷」からはじまって、企業小説に見られる左遷や、著者が取材したビジネスパーソンの経験した生々しい左遷の体験談などを数多く取り上げていて、(テーマがテーマだけに?)読み物を読むように読み進むことができます。

 著者は、当人にとって不本意で、理不尽と思える人事も、組織の論理からすれば筋が通っている場合は少なくないとし、そうした意識が生じる背景に、人は誰しも自分を高めに評価し、客観視は難しいという側面があることを指摘しています。

 また、定期異動日には大騒ぎになる日本企業と、左遷という概念そのものが無い欧米企業―という対比から、左遷を生み出す仕組みを企業組織の中で考えていくと、終身雇用(長期安定雇用)、年次別一括管理、年功制賃金といった日本独自の雇用慣行が浮かび上がってくるとしています。

 但し、左遷は世代によっても異なり、同質的な構成員の中での競争を基礎とした旧来型の左遷(代表例として江坂彰氏の企業小説『冬の火花』(1983年)が何度も出てくる)と、経営の効率化によって生まれる新型の左遷があって、ただ、旧来型の左遷が一気に消滅するわけではなく、新型の左遷も企業によってその進み方は大いに異なるようだとしています。

 終盤では、NHKを辞めてフリーのジャーナリストとして活躍中の池上彰氏など、"左遷"をチャンスに変えた人の例を取り上げています。「お任せする」「空気を読む」といった組織の均衡を保つための態度が暗黙の了解となっていて、また、40歳以降になると自力での敗者復活が難しい日本の伝統的な企業において、自ら「会社を降りる」ことも難しいとしながらも、一方で、組織の枠組みを外し、あるいは会社や上司との関係を見直すことで、左遷をチャンスに変えた人も多くいて、そうした人々に通底するのは、自己への執着や他者への関心であったとしています(病気をしたことが転機になった人も含む)。

 また、終章においては、「道草休暇」という、育児休業、介護休業のような目的のある休暇ではなく、理由のいらない休暇を提唱しています。人事異動や配置転換、出向などは会社の業務命令で、正当な理由なく拒むことが出来ないとはどこの企業の就業規則にも書かれていることで、実質的に強制力を持っているわけですが、とは言え、企業の立場から、今後の人事制度や人事評価は、一律対応から個別対応に向かい、「選択と個別交渉」がキーワードになるとしています。

 日本の組織において、先に述べた「お任せする」「空気を読む」といった態度が生じやすいのは、誰かがそうした雰囲気を作っているのではなく、自然と出来上がっているものなので、自分で払拭するのは難しく、ならば働く個人の立場からは、、そこから離れてもう一人の自分が個性を発揮する場所を探すべきであるとし、また、その「もう一人の自分」の形は多様であって、もう一人の自分が社外でイキイキできれば、社内の自分もイキイキできるとしています。著者は昨年('15年)36年間勤めた生保会社を定年退職したとのこと。会社勤めと著述業の二足の草鞋(わらじ)を履いた著者らしい言葉とも言えるかと思います。

 全体としては、人事パーソンにとっては腑に落ちる内容と言うか、本書にもありますが、人事上オフィシャルには左遷というものは無いことになっており、本人がそう思っているだけで、会社は本人の将来を考えて幅広い能力を身につけさせようとして配置転換させたのが、専門性を高めるために今のキャリアを継続したいと思っていた社員にはそう映りがちであるというのが大概のところではないでしょうか。

 附落ちする分、既知感があり、それだけインパクトは弱かったかもしれません。但し、左遷されたと思っている社員への対応として、感情的なケアが一番効果的であるというのは、確かにその通りだと改めて思った次第です。

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どこの企業でも考える人事施策を1つ1つ積み上げてきた。結局、やるかやらないかの違いだろう。

ワーク・ルールズ! .jpgワーク・ルールズ!  .jpg Laszlo Bock.jpg Laszlo Bock
ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』['15年]

グーグル logo.jpg 本書は、1972年、共産主義政権下のルーマニアに生まれ、マッキンゼーやGE勤務を経て2006年にグーグルに入社、9年間に従業員が6千人から6万人に増えていく過程で、グーグルの人事システムを設計し進化させてきた、同社の人事担当上級副社長によるものです。グーグルにおける採用・業績評価・人材育成・福利厚生の仕組みや考え方を通して、人材を活かし、組織を有効に機能させるうえで効果的であると考えられるワーク・ルールの数々を示しています。

 第1章・第2章では、グーグルの創業エピソードなどを紹介しながら、社員が創業者のように行動すること、自分の仕事は重要なミッションを持つ天職だと考えること等をルールとして掲げています。第3章から第5章にかけては、採用について書かれており、時間をかけて最高の人材だけを雇うこと、何らかの点で自分より優れた人材だけ雇うこと、マネジャーに自チームのメンバーの採用を任せないこととし、卓越した採用候補者を見つけるにはどうしたらよいか、最高の採用テクニックを発揮するにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、マネジャーから権力を取り上げ、社員を信頼して運営を任せるにはどうすればよいかを説き、第7章では、評価や報酬でなく、個人の成長に焦点を合わせることで業績を改善せよとして、そのための業績評価のポイントを示しています。第8章では、最大のチャンスは最低(ボトムテール)の社員と最高(トップテール)の社員にあるとし、この2本のテールを管理することの重要さを説いています。第9章では、最良の教師は社内にいるとして、学習する組織を築くにはどうすればよいかを説いています。

 第10章・第11章では、報酬には大きな差があってよく、一方、社員がいちばん必要としている時には社員に寄り添う必要であるとしています(グーグルの社員が亡くなった場合、遺族に社員の死後10年間、給与の50%が支給されるという制度が紹介されている)。第12章・第13章では、社員を健康と富と幸福に導くにはどのような選択肢を設ければよいか、失敗に直面したときはどうすればよいかを説いています。第14章では、これまで述べてきたことを総括し、チームと職場を変えるための10のステップとしてまとめています。

 本書を読む前は、グーグルという極めてイノベーティブな文化を持つ企業のワーク・ルールが、普通の企業にとっては果たして参考になるのかという思いがありましたが、読んでみたら、確かにグーグルならではの話もなかった訳ではないですが、むしろ大部分は、どこの企業でも考えるであろう人事施策であり、それらを試行錯誤や失敗を繰り返しながら1つ1つの積み上げていた先に、官僚主義に陥らず、ベンチャースピリットを保ち続ける、今日のグーグルがあることが理解できました(著者も「グーグルのプログラムの大半は誰でも真似できる」としている。結局、やるかやらないかの違いだろう)。

 個人的には、第3章から第5章にかけて「採用」について3章を割き。なぜ採用は組織における唯一にして最重要の人事活動なのか、いかにして最高の人材を採用するか、その難しさについて説いているのが印象的でした(グーグルは、世界で入社するのが最も困難な会社の1つであり、本書でも、「まずは100万人から300万人の求職者からの応募を受け付け(中略)約0.25%しか雇わない」、「ハーバード大学は志願者の6.1%に入学許可を出した(中略)(ハーバードはグーグルの)25倍も簡単なのである」としている)。

 550ページを超す大著ですが、これからの企業の人事マネジメント(本書では「ピープル・オペレーションズ」という言葉を使っている)やそこで働く人々の働き方の在り方について考えるうえで様々な刺激と示唆を与えてくれる本であり、人事パーソンにお薦めしたい1冊です。

《読書MEMO》
●社員への権限委譲のために(第6章/241p)
□ステータスシンボルを廃止する
□マネジャーの意見ではなく、データにもとづいて意思決定を行う。
□社員が自分の仕事や会社の指針を定める方法を見つける。
□期待は大きく。
●業務評価のために(第7章/286p)
□目標を正しく設定する。
□同僚のフィードバックを進める。
□キャリブレーションを活用して評価を完了させる。
□報酬についての話し合いと人材育成についての話し合いを分ける。
●プロジェクト・オキシジェンの8つの属性(第8章/312p)
1 良いコーチであること。
2 チームに権限を委譲し、マイクロマネジメントしないこと。
3 チームのメンバーの成功や満足度に関心や気遣いを示すこと。
4 生産性/成果思考であること
5 コミュニケーションは円滑に。話を聞き、情報は共有すること
6 チームのメンバーのキャリア開発を支援すること
7 チームに対して明確な構想/戦略を持つこと。
8 チームに助言できるだけの重要な技術スキルを持っていること。
●2本のテールを管理するために(第8章/324p)
□困っている人に手を差し伸べる
□最高の社員をじっくり観察する
□調査やチェックリストを使って真実をあぶり出し、改善するように社員をせっつく
□自分のフィードバックを公表し、至らなかった点について改善するよう努力して範を垂れる。
●チームや職場を変える10のステップ(第14章/521p)
①仕事に意味をもたせる
②人を信用する
③自分より優秀な人だけを採用する
④発展的な対話とパフォーマンスのマネジメントを混同しない
⑤「2本のテール」に注目する
⑥カネを使うべきときは惜しみなく使う
⑦報酬は不公平に払う
⑧ナッジーきっかけづくり
⑨高まる期待をマネジメントする
⑩楽しもう!(そして、①に戻って繰り返し)

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「LGBT」について知ることからはじめ、対応施策を分かりやす説いたハンドブック。

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職場のLGBT読本:「ありのままの自分」で働ける環境を目指して』(2015/07 実務教育出版)

村木 真紀氏(朝日新聞2016年6月11日付「フロントランナー」)
職場のLGBT読本 著者.jpg 「LGBT」とは、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)をはじめとする性的マイノリティの総称であり、調査(電通総研)によると全人口のおよそ5%~7%強存在するといわれています。その意味で、1人でも多くの人がLGBTであることを隠さず、ストレスなく働けるという、性的マイノリティと共に気持ちよく働く職場づくりというのは、最先端の経営課題であると言え、本書は、そのあとがきによれば、おそらく日本で初めて「ビジネス書・人事」の棚に置かれるLGBTの本であるとのことです。

 第1章「LGBTについて理解を深めよう」と第2章「LGBT当事者アンケートで見る職場環境の現状」では、LGBTに関する一般的な情報が提供されています。第1章では、LGBTとは何か、その直面しがちな困難や苦悩は何か、LGBT人口はどのくらいいるのか、人はなぜ同性愛者に生まれるのか、LGBTはなぜ差別されるのか、国際的な基準はどうなっているのか、同性愛者やトランスジェンダーの社会的課題は何か、といったことを解説し、更には、LGBTの世界史、日本史を概観することで、LGBTに関する基礎知識を網羅しています。

 第2章「LGBT当事者アンケートで見る職場環境の現状」では、具体的にLGBTを取り巻く職場環境の現状がアンケート調査により明らかにされており、求職時から実際の勤務までLGBTが直面する様々な問題と、それに対してどのような施策が求められ、また、実際そうした施策がLGBTの勤労意欲にどう関係しているかを示すとともに、LGBT施策は当事者に限らず、ほかの人の職場環境にもプラスの効果があるとしています。

 第3章「LGBTが職場で抱える10の課題」では、LGBTが働く上で抱えている具体的な問題を当事者の声を交えて紹介し、LGBTのそれぞれの悩みに対して相談窓口、福利厚生、社会保障の各面からどのような対応が可能か、また、LGBTのキャリア設計や取引先・顧客との関係の在り方などについても解説しています。

 第4章「先進的な企業の取り組み事例10選」では、LGBTの存在を認め、支援し、積極的に取り込もうとする、そうしたダイバーシティ&インクルージョン施策を実施している企業の取り組み事例を紹介しています。

 第5章「職場環境整備における10のポイント」では、2014年7月から男女雇用機会均等法のセクハラ指針が改正され、LGBTへの差別もセクハラの対象であるされていることを前提に、企業としてLGBT差別をどう認知し、どのような対策をとっていくべきか、実務的なフレームワークが紹介されています。

 第6章「当事者やアライが語る自分らしく働ける社会」では、LGBT当事者や、その人たちと共に働く人たちへのインタビュー集になっており、理解がある職場に恵まれ、すでに自分らしくいきいきと働くことができているLGBT当事者や、その上司や同僚などアライ(LGBTを応援するストレート)の人たちの話も収められています。

 本書によれば、LGBTがストレートと共に互いに気持ちよく働ける職場をつくるということは、最先端の経営課題であるとともに、そのことをCSRの1テーマであると見なす動きが日本でも出てきたとのことです。一方で、LGBT対策にまったく手つかずで、どこから手をつけていいのかわからないという企業も多くあるように思われますが、本書は、そうした企業の人事担当者のみならず、マネジャーや一般ワーカーにも分かり易いハンドブックとなっています。

 まずLGBTについて知ることからはじめ、人事におけるLGBT施策をどのような流れで進めていけばよいか、LBGTフレンドリー化(アライ化)への流れなどについても解説されていますが、アライになるには、理解(LGBTをよく知ること)と共感(LGBTと実際に触れ合うこと)が必要であるとの視点に立っています。知識的側面及び啓発的側面、個人の行動的側面及び企業としての施策的側面をカバーした、バランスのとれた入門書であるように思いました。

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老年学の観点からシニア人材マネジメントに言及した初の本。

シニア人材マネジメントの教科書.jpgシニア人材マネジメントの教科書 ―老年学による新アプローチ』(2015/05 日本経済新聞出版社)

 本書では、これまで企業で行われてきたシニア人材に向けた施策だけでは、シニア人材を活かし組織パフォーマンスを上げることは難しいとしています。なぜならば、そこにはシニア人材そのものを理解するという根本的な部分、すなわち「世代」という観点が抜け落ちているからであるとのことです。

 シニアには心理、身体、キャリアスタイルなど、若年層とは全く異なる特徴があり、OJTのやり方一つにしても若年層とはやり方を変える必要があるが、そうした「世代によって、学習方法、学習の成果の活かし方は違う」といった観点が、企業研修に携わる人の間ですら抜け落ちていたりするとのことです。

 そこで本書では、「老年学」(ジェンロントロジー)における近年の成果が、シニア人材を理解する上で有益であるとしています。老年学とは、人は加齢とともにどのように変化するかを、心理、教育、経済、労働、医学など各分野から学際的に研究する学問であり、本書は、老年学の観点からシニア人材マネジメントに言及した初の本であるとのことです。

 第1章、第2章で、シニア社員はなぜお荷物扱いされるのかを考察するとともに、シニア社員は若い社員とどう違うのかを解説しています。第3章、第4章では、ジェロントロジーの観点からシニアという存在を改めて捉え直すとともに、「シニア社員に対するジェロントロジー的対応術」を解説しています。第5章では、シニアマネジメントで成功している会社を事例で紹介し、最終第6章では、シニア人材を活かすためには管理者に対するジェロントロジー教育が必要であると訴えています。

 特に第4章の「シニア社員に対するジェロントロジー的対応術」は、シニアに対してはOff-JTよりOJTの方が効果的であるとか、「分かり合おう」という気持ちは持たない方が逆にうまくいくとか、相手のことをじっくり傾聴してしまうと自分がすり切れてしまう恐れがあるとか、これまで良かれと思ってやっていたことが、意外とそうではなかったりする場合もあることを教えてくれます。

 また、10.5ポイントの活字で作成された資料はシニアには読みたくない気持ちを抱かせるとか、研修中のトイレ休憩は長めにとるとか、シニアに集中して話を聞いてもらえるようにするために、すぐにでも使えるようなテクニックも紹介されています。聴力の関係から、若い女性の高い声がシニアにはウケないというのは、今まで全く気がつきませでした。

 終章にあるように、シニア人材を活用するためには、ミドル層向けの教育・研修が必要であり、そのことからすると、本書のメインターゲットはミドル層かもしれません。しかしながら、著者も述べているように、シニア層も、老年学の当事者として、その伝道師になっていただくために、本書を読まれるとよいかと思います。やや、身につまされる思いをする箇所もあるかもしれませんが...。

《読書MEMO》
●目次
〈目次〉
第1章 シニア社員はなぜ、お荷物扱いされるのか?
 部下を失った途端に、やる気がなくなるというのは本当か?
 「成功体験が自分を育てる」は嘘 ほか
第2章 60歳新入社員と新卒新入社員はこう違う
 60歳新入社員の3タイプ(転職組・再雇用組・雇用延長組) ほか
第3章 ジェロントロジーでシニアを理解する
 衰える能力と伸びる能力
 若年層よりも、ストレスに弱いシニア世代 ほか
第4章 シニア社員に対するジェロントロジー的対応術
 シニアに向いている仕事、向かない仕事
 「分かり合おう」という気持ちは、今すぐ捨てる
 「じっくり傾聴」は自分がすり切れる
 タブレットが反応しない! 操作下手はエイジングの証拠
 「聞いていない」は大きな誤解。原因は加齢性難聴
 労災防止と持病の関係
 「座っているから疲れない」は若年世代の思い込み
 この運搬姿勢が労災を招く ほか
第5章 ケースで見る シニアマネジメントで成功する会社
 1. 株式会社ゆうちょ銀行
 2. 株式会社ハードオフコーポレーション
 3. マンション管理・清掃業務企業
 4. 株式会社モスフードサービス
第6章 シニア人材を活かす管理者の養成
 「老化」が引き起こすリスクを先読みする
 管理職世代に対するジェロントロジー教育 ほか

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「メタ研修」本として読んだ。人材開発に関する知的な刺激が得られるか。

人事よ、ススメ!.jpg人事よ、ススメ! ―先進的な企業の「学び」を描く「ラーニングイノベーション論」の12講 (碩学舎ビジネス双書)』['15年]

 本書は、「人材開発の専門知識・スキル」を学ぶことを目的にした社会人向け講座「ラーニングイノベーション論」での講義の様子を紙上に再現したものです。本書の編者の中原淳氏が主任講師を務めるこの講座は、慶應丸の内シティキャンパスで行われており、企業の人事・人材開発担当者が半年のセッションを通して「人材開発の基礎理論・知識・事例」を学び、それらを活かして、自社の「人材開発のあり方」を改善する提案を最後に行う、アクションラーニング型の授業を特徴としており、毎回それぞれの領域で活躍する研究者、実務家を招き、最先端の講義や実習をしているとのことです。

 編者を含む各領域で活躍する研究者、実務家がリレー講義をしています。各講の冒頭に編者によるイントロダクションがあり、講義後は、編著者がファシリテーションをつとめるディスカッションやワークショップが用意されているというスタイルです。

 セッション1で北海道大学の松尾睦教授が、「経験学習とOJT研究の現在~育て上手のマネジャーの指導法」とのテーマのもと、「人が仕事の現場で学ぶこと」即ち「経験学習」について講義し、経験と挑戦は学びを促進するとしています。セッション2では玉川大学の難波克己准教授が、「非日常のアドベンチャーを通し、できる自分に出会う」というテーマのもと、非日常的なグループワーク(体験)を通して、チームワークや信頼を学び、自分の本質を知っていくアドベンチャーアプローチという手法を紹介しています。

 セッション3では一橋大学の守島基博教授が、「日本型戦略人的資源論とはなにか」というテーマのもと、企業の経営戦略と人材マネジメントの関係について講義し、戦略達成支援、組織強化、人材サポートの3つの人材マネジメントが相俟ってこそ、企業における経営に資する人材マネジメントは作られるとしています。セッション4ではスターバックス コーヒー ジャパンの久保田美紀・人材開発部部長が、受講者を自社のサポートセンター(本社)に招き、「やる気をひきだすマネジメント~社員自ら創り育てるわたしたちの働く場」というテーマで講義しています。

 セッション5以降は、主に人事・人材開発における体系的な知識に関する講義となっています。セッション5ではSAPジャパンのアキレス美知子・人事本部長が、現場と経営を結ぶ「ネットワーカーとしての人材開発部門のあり方」について講義し、人事が職場を元気にするとしています。セッション6では神戸大学の金井壽宏教授が、「提供価値(デリバラブル)と支援を手かかりに人材開発部門のあり方を考える」というテーマで、誰かに何かを届け、役に立つことが、「提供価値(デリバラブル)」であると説いています。
 
 セッション7は編者による「職場の学を科学する」という講義で、ここでは職場の人材育成に関する様々なエピソードが紹介され、セッション8では東京工業大学大学の妹尾大准教授が、「知識創造理論の現在~知識創造をめざす「場」のデザインとは」というテーマで講義しています。

 セッション9は東京学芸大学芸術の高尾隆氏による「創造的なコラボレーションを生む~インプロビゼーション(即興演劇)の展開」という講義であり、ここでは身体を通して創造を考えています。セッション10は再び編者による講義で、「教える」とは何かについての原理原則の確認であり、一番大切なことは学習者中心主義であり、学習者が変化すること、考えさせることが欠かせないとしています。

 セッション11で再び現場に戻り、サイバーエージェントの曽山哲人・人事本部長が、サイバーエージェントの人事制度をケーススタディとして紹介し、人事が組織を元気にするエンジンになるべきだとしています。そして最後に、セッション12で法政大学の長岡健教授と編者が対談し、「ラーニングの現在」について、企業に「実験室」はあるのかというテーマで語り合っています。

 400ページを超える本ですが、講義録のような感じなのですらすら読めます。それでいて、人材開発に関する知的な刺激も一応は得られます。敢えて言えば、1つ1つの講義の内容の全てを収録はし切れなかったと思われ、それぞれがややあっさりし過ぎになっているようにも感じられました。実務と理論のバランスはよく取れていると思います。

 個人的には、本書自体を研修の新たな在り方を示した「メタ研修」本として読んだきらいもあります。でも、だったら実際にこの「ラーニングイノベーション論」の講座を受講してみるのが一番なのだろなあ。本書でもシズル感はそれなりに伝わるよう工夫はされていますが。

《読書MEMO》
●収録されている全12講と講師
(1)経験学習とOJT研究の現在~育て上手のマネジャーの指導法
 北海道大学大学院経済学研究科教授 松尾睦
(2)「非日常のアドベンチャー」を通し、「できる自分」に出会う
 玉川大学学術研究所・心の教育実践センター准教授 難波克己
(3)日本型戦略人的資源論とはなにか
 一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博
(4)やる気をひきだすマネジメント~社員自ら創り育てるわたしたちの働く場
 スターバックス コーヒー ジャパン (株)人事本部人材開発部部長 久保田美紀
(5)ネットワーカーとしての人材開発部門のあり方
 SAPジャパン(株) 常務執行役員人事本部長 ほか アキレス美知子
(6)提供価値(デリバラブル)と支援を手かかりに人材開発部門のあり方を考える
 神戸大学大学院経営学研究科教授 金井壽宏
(7)「職場の学び」を科学する
 中原淳
(8)知識創造理論の現在~知識創造をめざす「場」のデザインとは
 東京工業大学大学院准教授 妹尾 大
(9)創造的なコラボレーションを生む~インプロビゼーション(即興演劇)の展開
 東京学芸大学芸術・スポーツ科学系音楽・演劇講座演劇分野 准教授 高尾隆
(10)研修のデザイン~教えることを科学する
 中原淳
(11)"成長するしかけ"を創る
 (株)サイバーエージェント 執行役員 人事本部長 曽山哲人
(12)特別対談 ラーニングの現在~企業に「実験室」はあるのか
法政大学経営学部教授 長岡健×中原淳

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「タレント」とはどういう人たちなのかを説明した部分が興味深かった。

「タレント」の時代.jpg「タレント」の時代 .jpg
「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論 (講談社現代新書)』['15年]

 本書の著者は、タレントマネジメント分野の人材コンサルタントとして、日本の優秀な技術者が「ものづくり敗戦」の過程でリストラされる場面を散々見てきたとのことです。著者は、日本企業の多くは「タレントを生かす仕組み」を持たずにここまできてしまったとし、今日の変化と競争の激しい時代におけるタレントマネジメントの重要性とその在り方を、本書では掘り下げています。

 3部構成の第1部では、日本企業がおよび日本がうまくいかなくなっている現状の分析を通して、ものつくりやサービスにおいて人々が求めるものがどう作りだされるのかを解説し、そこにおいては設計情報の質が決定的に重要であり、設計情報を作っていく過程で中心的な役割となる優れた人材、すなわち「タレント」が重要になるとしています。そのことを受け、第2部で、タレントとはどういう人たちなのかを説明し、さらに第3部では、タレントを生かす仕組みについて解説しています。

 著者は、優秀な人材を集めても利益に結びつけられず、グローバル競争に敗れた日本企業に対し、「売れないモノを高品質に作り上げたのでは、はじめから終わっている」として、自身の属したことのある通信業界や、凋落を続ける電機産業が犯した誤りを分析し、市場の成熟化や、世の中の情報化・知識化・グローバル化といった流れの中で、そうしたトレンドを正しく読み取って今でも勝ち続けているトヨタと、負け続けている日本のエレクトロニクス産業、あるいはソニーの迷走とアップルの躍進といったように対比的に捉え、「タレントを生かす仕組み」のどこに違いがあったかを解説しています。

 第2部終わりから第3部にかけて、タレントとそれ以外の人の知の領域の違いを示し、タレントを生かすのが難しい理由として、B級人材はA級人材を評価できない、ゆえに採用しない、登用しない、排除する―といった悪循環の構図を分かりやすく解説しています。また、第3部にある、「リーン・スタートアップ」というシリコンバレー発として日本でも注目されている方法が、実は米国が日本企業(トヨタ)に学んだものだったといった話なども興味深いのですが、後半になるとこうした生産工学的な視点からの分析が多くなり、成功モデルとしてトヨタの「主査」制度に注目している点などもやや特定のケーススタディに寄った考察のように思えました。

 人事パーソンの読み処としては、第1部の現状分析と第3部の解決編の繋ぎの部分にあたる第2部での、タレントとはどういう人たちなのかを規定している箇所であるかもしれません。

 第2部で著者は、労働の内容別の賃金相場について、①知識を伴わない定型労働-時給1000円、②改善労働を伴う非定型労働-年収300万~500万円、③知識を伴う定型労働-年収400万~600万円、④複数分野の知識を伴う創造的知識労働-年収1000万~数億円とし、日本ではほとんどの公務員はハタラキに対して賃金が割高であるのに対し、年収的には3000万円~5000万円程度貰っていても不思議でないタレントが、年収600万円~1000万円くらいしか貰っていないとしています。

 それでは、タレントとはどういう人たちなのか―著者によれば、タレントとプロフェッショナルやスペシャリストの違いは、「知識あり・定型労働、既知の事柄を確実にこなす」のがプロフェッショナルであり、「知識あり・定型労働、特定分野の知識に詳しい専門家」スぺシャリストであるのに対し、「複数分野の知識あり、創造的知識労働、目的的・改革・改善・地頭・洞察・未知を既知に変える能力」タレントであるとのこと、単なるスペシャリストは、知識を活用する「目的」よりも「知識そのもの」にアイデンティティを持っている人が多く、プロフェッショナルも同様であるのに対し、優れたタレントは、知識にせよ職業にせよ、「目的」を達成するための「手段」だと考えているところに、際立った特徴があり、そのため、タレントは目的的に知識を獲得し、獲得した知識を手段として使うとしています。

 Amazon,comでの本書の評価は高いようですが、どちらかというと、第1部と第3部はケーススタディ的な要素のウェイトが高く、本書の繋ぎにあたる第2部が、ある意味で最もコンセプチュアルで且つすっきりした(個人的に腑に落ちるといった)論考がなされているように思いました。

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処世術ではなく、従来の日本的人事を一旦対象化して、功罪を捉え直してみるという意味で○。

知らないと危ない、会社の裏ルール.jpg知らないと危ない、会社の裏ルール (日経プレミアシリーズ)』['15年] 働かないオジサンの給料はなぜ高いのか.jpg働かないオジサンの給料はなぜ高いのか: 人事評価の真実 (新潮新書)』['14年]

 『人事部は見ている』('11年/日経プレミアシリーズ)、『働かないオジサンの給料はなぜ高いか』('14年/新潮新書)などで、日本的人事の仕組みを分かりやすく解説してきた著者が、本書においても、日本企業における社内のヒト同士の関係や組織の在り方に就業規則や社内規定からは窺い知ることのできない「奇妙なルール」があることを指摘することで、"日本的人事"なるものを分かりやすく解説するとともに、そのベースにある日本企業の組織風土的な特質を鋭く分析しています。

 例えば、日本企業においては懲戒処分よりも仲間はずれにされることの方が恐ろしく、公私の区分よりも一体感が重視され、「親分―子分」構造が階層型組織を支えているとのことです。こうした日本企業特有のメンタリティの数々を解き明かすとともに、専門職制度がうまくいかないのはなぜか、問題社員でも昇給してしまうのはなぜか、といったことなども分析されています。

働かないオジサンの給料はなぜ高いのか7.JPG 前著と重なる内容も多く、サラリーマンの出世のシステムについては『人事部は見ている』以来繰り返されており、日本企業固有のメンバーシップ契約や「同期」についての考察は、テーマ自体はユニークですが『働かないオジサンの給料はなぜ高いか』でもすでに取り上げており、「働かなくても」中高年の給与が高い理由も、(タイトル通り)同書において既に「ラジアーの理論」でもって解説されています。

 但し、読み物としても組織論としても『働かないオジサンの給料は...』より洗練されているような気がしました。「同期」についての考察では、人気を博したTVドラマ「半沢直樹」で同期入社の社員同士が協力し合う姿が描かれていることを指摘していますが、何気なく見ているドラマの一場面から始まって、「同期」が日本型雇用の一要素であることを説いてみせているのは巧み。詰まるところ、日本型雇用システムは1つのパッケージであり、組織を動かすボタンの押し方にもルールがあるということになるようです。

 著者は最後に、日本型雇用システムは女性からも外国人からも見捨てられるとして、グローバル化が進展する今日において「日本型」をどう変えるのかについて論じていますが、この部分は10ページも無く、やや付け足し風であり、主たる読者ターゲットが一般サラリーマンであることを考えれば、この辺はやむを得ないところでしょうか。

 いわゆるサラリーマンを対象にこうした「見えないルール」を説くことは、本書を100パーセント「処世術の書」として読んでしまうような読者がいた場合、「男性正社員モデル」を再生産することに繋がるのではないかとの危惧もあるかもしれませんが、むしろ若い世代ほど、組織の「ルール」やその根底のある風土を認識することと、そうした「ルール」や風土に対する個人的な見方はどうかということは別問題として捉えることが出来るのではないかという気もします。

 一方で、人事パーソンの中には、こうした「ルール」を所与のものとして受け容れてきた人も結構いるような気がして、従来の日本的人事の仕組みや「男性正社員モデル」をベースとした社内価値観というものを一旦対象化して、その功罪を捉え直し、これからの人事の在り方を考えてみるという意味で(解説策まで充分には示されていないまでも)本書は意義があるかもしれません。

 著者は企業に勤めながらペンネームで執筆業をしているとのことで、内部にいるワーカーとして(役職に就きながら一度それを外された経験を持つ)こうした日本的な会社内のヒトや組織構造の在り方を目の当たりにしてきたであろうことは、本書の随所から窺えます。そして、それらを所与のものとして全肯定するのでなく、一方で、外から見ている評論家のようにそれらをあっさり全否定してしまうわけでもない、そうした、体験的現実感に基づくバランスの上に立っているのが、著者ならではの視点であり、『サラリーマンは二度会社を辞める』('12年/日経プレミアシリーズ)などが読者の共感を呼ぶのもそのためでしょう。

 著者は本書を上梓した2014年3月で定年とのこと、その後どのようなテーマを扱い、どのような展開を著作において見せるのか、個人的に注目したいと思ってましたが、じやはり「定年&定年後」にその関心はいったようです。

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日本的雇用慣行や人事管理が急速にガラパゴス化しつつあるという危機とその解決策を示している。
日本企業の社員は、なぜこんなにも.jpg  ロッシェル・カップ  .jpg ロッシェル・カップ  2.jpg
日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』(2015/01 クロスメディア・パブリッシング)/ロッシェル・カップ氏(2015年6月29日付日本経済新聞)

 本書の著者ロッシェル・カップは、職場における異文化コミュニケーションと人事管理が専門の経営コンサルタントですが(さらに言うと、「アメリカ式上司を期待しているアメリカ人社員」を管理する日本人マネジャーが彼女の仕事の対象であるとのこと、『反省しないアメリカ人をあつかう方法』('98年/アルク新書)という著書もある)、序章でいきなり、日本のこれまでの人事管理は持続が不可能であり、完全に考え直す必要があるとしています。

日本企業の社員は、なぜこんなにも605.JPG 第1章「日本人の働き方」では、エンゲージメントを社員のモチベーションを測定する鍵であるとして、日本企業で働く社員のエンゲージメントや労働生産性の低さを諸外国との比較データで示し、その根源にある雇用スタイル、人事管理の慣行、人材育成の方法、企業文化の問題を指摘しています。

 第2章「社員のモチベーションとパフォーマンスをいかに高めるか」では、モチベーションやエンゲージメント向上の要因は何かを解説し、社員を一人前として扱い、信頼を置くことを重視した企業の事例、公平・自由・柔軟性のあるチームづくりをすることで社員のモチベーションやエンゲージメントを高めた企業の事例を紹介しています(以下、各章末で、それぞれのテーマに関連した先進海外企業のケーススタディが紹介されている)。

 第3章「雇用関係の構造」では、日本企業が非正規社員への依存度が高いことの問題を指摘するとともに、正社員も非効率な人事異動によりキャリアが追求しにくいとして、異動・昇進に関する外国企業の優れた取り組みを紹介しています(日本企業の人事異動の慣行は、江戸時代の参勤交代がそのまま引き継がれたのではないかと思われるとしている)。

 第4章「仕事中毒の日本人」では、日本企業の長時間勤務は当たり前とされている環境やサービス残業の横行を問題視し、また日本人のライフスタイルが長時間労働を助長しており、さらに仕事慣行が非効率で、仕事の時間帯と場所に関する自由がないとしています(威圧的状況と長時間労働の文化が排除されないままでのホワイトカラーエグゼンプションの導入に反対しているのが興味深い)。

 第5章「日本におけるマネージメントスキルとリーダーシップの現状」では、日本人マネジャーは個人のエンパワーメントに欠けるとし、日本で励行されているホウレンソウは、アメリカではマイクロマネジメントと呼ぶものに近く、マイクロマネジメントはエンパワーメントの対極にあるものとして忌避されるとしています。また、日本では、マネジャーはヒエラルキーによって部下に接する一方、フィードバックは欠如しており(日本のマネジャーはダグラス・マグレガー言うところのⅩ理論のマネジャーであると)、企業の上層にいるマネジャーがリーダーシップを発揮していないことも、社員のモチベーションが低い要因であるとしています。

 第6章「人事管理システムのあり方」では、職務内容記述書、求人活動、報酬、業務管理、段階的懲罰制度、キャリアパスなどについて、具体的に言及し、さらに、社員の意識を測定して、潜在的な問題を把握し、是正措置をとることの大切さを説いています。とりわけ職務内容記述書については、序章においても、仕事の定義を明確にすることの重要性を説いています。

 第7章「多様な社員の有効活用のあり方」では、切迫した労働者不足とグローバル化に対応するために、女性、高齢労働者、非日本人労働者、多様な背景を持つその他の労働力の4種類の人材をどう活用していくべきか、そのポイントを述べています。

 第8章「自ら進路を選択し、やる気を出す」では、世界の変化は続き、日本も変化の波は避けられないのであって、個人はキャリアの目標を自分で立て、自己の能力を開発し、ネットワークを広げていかなければならないとしています。

 日本の企業文化や労働慣行に対する批判が続き、日本企業は、人事管理の仕方に関して「典型的」な欧米の企業を模倣するより、最先端を行く例から学んだ要素を取り入れることは一考に値するとして、第2章位以下各章末で、それぞれのテーマに関連した先進海外企業のケーススタディが紹介されています。それが「新しい働き方」の事例として何れも新鮮に感じられました。

 著者自身、人材の長期的な育成など、日本的人事管理の良い点は残せとは言っていますが、これだけ日本的人事管理に対する批判が続くと(書かれていることの1つ1つは以前にもどこかで聞いたことがあるようなものであったとしても、これだけまとめて言われると)、しかも、そうした企業文化や労働慣行のギャップを埋めることをサポートする仕事をしている知日派の外国人からそれが語られると(本書は翻訳書ではないということになっている)、やはり日本も変わっていかなければならないのだろうなあと思わざるを得ません。

 本書で述べられていることは、日米の違いと言って済まされるものではなく、日本の雇用慣行や人事管理が世界に対して急速にガラパゴス化しつつあるという危機を如実に示しているとも言え(ケータイだけの話じゃないね)、そうした危機感が喚起させられたという意味で、個人的には、啓発度の高い本でした。また、問題をあげつらうだけでなく、それに対して解決策も提示しているという点でも(こちらの方は、個人的には一部、そうは言ってもその前に...というのが幾つかあった―外部市場の問題や労働法の問題など―が)一定の評価はできるかと思います。

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日本型タレントマネジメントの概念的フレームワークをきっちり示していると言えるのでは。

タレントマネジメント概論ド.jpgタレントマネジメント概論.jpg
タレントマネジメント概論---人と組織を活性化させる人材マネジメント施策』(2015/01 ダイヤモンド社)

 近年その重要性が注目されながら、一方で、どことなくもやっとしたイメージでしか受け止められていないフシもある「タレントマネジメント」について、人事戦略的な観点から解説した本です。因みに、本書でも紹介されている米国人材マネジメント協会(SHRM)によるタレントマネジメントの定義は、「人材の採用、選抜、適材適所、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の人材マネジメントのプロセス改善を通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、現在と将来のビジネスニーズの違いを見極め、優秀人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムデザインを導入すること。」となっています。

 チャプター1「変化を勝ち抜くためのタレントマネジメント」では、外国企業のタレントマネジメントが次世代の経営者を育てるサクセッションプランに近いものであるのに対し、日本におけるタレントマネジメントは、労働人口の急速な減少傾向などを考慮すると、後継者候補やマネジメント人材、有能なリーダーといった特定人材だけではなく、アルバイトやパートを含めた全ての従業員にあてはめなければならないという考えを示しています。HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)からHC(ヒューマン・キャピタル)そしてTM(タレントマネジメント)への「人材→人財→個」という潮流の変化についての解説はオーソドックスですが、人口構造の変化のみならず、サービス産業の隆盛、情報・IT産業の急伸、グローバル競争の激化、ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランスの浸透、労働価値の変化などを考え併せると、日本においては全ての階層においてタレントマネジメントが求められるとしているのが本書の特徴であり、一方で、「個」の認識について日本は欧米に比べ10年の遅れがあり、一部IT企業や大手企業ではERPシステムを導入するなどの動きはあるものの、全体としてまだまだタレントマネジメントは浸透が浅いとしています(中小企業ほどタレントマネジメントを使いこなしたいともしている)。

 チャプター2「タレントマネジメント実践編」では、タレントマネジメントの実践に際しては 設計・活用・開発・運用という4つのフェーズがあるとして、導入事例なども交えつつそれぞれのフェーズについて解説するとともに、タレントマネジメントを採り入れることで、管理職はタレントマネジャーになり、人事部は処理の人事から「戦略的人事」を担う部門へ変化するとともに、従業員個人にも自らのキャリアへの責任とタレントマネジメントに向き合う姿勢が求められるとしています。

 チャプター3「真の競争力とエンゲージメントのある組織へ」では、個を活かしたタレントマネジメントにより飛躍する企業の事例を、それぞれ〈事象〉〈課題〉〈設計〉〈活用〉〈運用〉〈開発〉〈効果〉という流れで4社紹介するとともに、タレントマネジメントではとりわけ運用のPDSサイクルと開発のPDSサイクルがエンジンとして重要であり、また「人事と現場」(企画と実行)の両輪を回し続けなければならないとしています。更に、タレントマネジメントは会社と個人に大きな変化をもたらし(例えば年功制は無くなるし、過度の成果主義も無くなり、男性・女性の区別も無くなるとしている)、会社は従業員と対等な関係を築くことによりエンゲージメントの高い組織を構築していくことが可能になるとしています。

 単にデータベースを導入しましょうとかいった話ではなく、タレントマネンジメントというものの概念的なフレームワークをきっちり整理したうえで、更に日本的な独自性を備えたタレントマネンジメントというものも打ち出している点は評価できるかと思います。経営戦略としてのタレントマネンジメントというものを考える上で参考になり、ややコンサルファーム出身者系の概念先行的な部分も無きにしもあらずですが、一応、事例を通して制度への落とし込みがされています。タレントマネンジメントに限定せず、これからの人事の在り方を探る上で、啓発的な要素はある本かと思います。

【著者紹介】
大野順也 : 株式会社アクティブアンドカンパニー代表取締役社長兼CEO。1974年生まれ。大学卒業後、株式会社パソナ(現パソナグループ)に入社。営業を経て、営業推進、営業企画部門を歴任し、同社の関連会社の立ち上げなども手掛ける。後に、トーマツコンサルティング株式会社(現デロイトトーマツコンサルティング株式会社)にて、組織・人事戦略コンサルティングに従事し、2006年1月に『株式会社アクティブアンドカンパニー』を設立し、代表取締役に就任。

《読書MEMO》
●目次
第1章 変化を勝ち抜くためのタレントマネジメント(あなたの会社の「タレント」は眠っている/ HRM、HC、そしてタレントマネジメント―世界はいかにタレントマネジメントに行き着いたか/ 日本には日本独自のタレントマネジメントが求められている/ まだまだ浸透が浅い日本企業)
第2章 タレントマネジメント実践編(タレントマネジメントの全体像/ 設計/ 活用・開発/ 運用と役割―各部署の仕事はどれほど変わるのか)/
第3章 真の競争力とエンゲージメントのある組織へ(個を活かして飛躍する企業/ PDSサイクルを回せ/ 経営と従業員の良好な関係―エンゲージメントの実現を)

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努力の「量」ではなく「質」が求められる時代に。あとはどう実践するかか?

がんばると迷惑な人.jpgがんばると迷惑な人 (新潮新書)』['14年]

 かつては企業内でがんばっていさえすれば報われたものが、今日においては成果を出さなければ報われないというのは、『雇用の未来』の著者ピーター・キャペリが「ニューディール」と呼んだ、社員が企業に貢献できる限りは雇用するが、そうでなくなれば雇用は保証しないという欧米の雇用スタイルが、日本にも徐々に浸透しつつあることを示しているとも言えるし、また、まだ日本企業はそこまではいっておらず、報われないながらにも雇用の保証は相対的にみて欧米企業などよりは保たれているとも言えるのかもしれません。しかし何れにせよ、努力量よりも結果が求められる時代になりつつあることは間違いないかと思います。

がんばると迷惑な人06.JPG 本書は、はりきるほどズレる、意欲はあるのにスベる、やる気ばかりでツカえない、そんな人っていませんか(カバー折り返し)と読者に問いかけることから始まり、"がんばり"が価値を生む時代から、がんばることが価値を生まないばかりか、逆に価値を損ないかねない時代になり、努力の「量」ではなく「質」が求められる時代へのドラスティックな変化が起きたにも関わらず(著者はその変化の起きた時期を、1990年代を境にそうなったとしている)、実際にはがんばりの量に価値を見出す"がんばり病"からまだ抜け出せないでいる人がいて、この"がんばり病"が組織に蔓延すると、がんばることが自己目的化して、「手抜き」ならぬ「頭抜き」状態に陥ると警告しています。

 第1章では90年代に起きた変化と、なぜわが国がそこで選択を誤ったかを解説し、第2章では実際に組織や会社の中でどれだけ"がんばり病"が蔓延し、害を与えているかを解説しています。第3章では具体的な研究成果や事例などを紹介しながら、"がんばり病"を撃退し、良質なモチベーションを引き出すための方法を紹介しています。第4章では、同じ視点から機能しなくなったチームワークにメスを入れ、機能するチームワークづくりのポイントについて説明しています。

 第2章では、「時代遅れのモットーを部下に押しつける課長」などといった身近にいそうな"がんばり病"の弊害例を挙げ、"がんばり主義"が暴走し、周囲が多大な迷惑をこうむっている構図を浮き彫りにするとともに、日本人の場合、評価に情が入り易いことに加えて、法律などの制度が努力の量で評価することを陰で後押ししているとしています。

 第3章では、ムダながんばりをどう防ぐかについて書かれていて、過剰な管理をやめ、オフィスのレイアウトを、壁や窓の方に向いて座る方式、更には、隣人が気にならないような六角形や八角形に変えてみることなどを提案しています。また、思い切って時間外労働の割増率を引き上げた方がコスト意識から残業は減るだろうし、残存有給休暇を買い取れるようにした方が、会社に恩を売るような意識を捨てさせ有給休暇の取得促進につながるだろうとしているのは興味深いです。

 更にこの章では、質の高い努力をどう引き出すかについても書かれていますが、まず仕事が楽しい、面白いと感じられることが大事であり(内発的動機づけ)、その楽しさ、面白さの背後には、夢や目標があるはずだとしています。夢や目標は達成されてしまえばそれでモチベーションは終わるため、それを維持させるには夢や目標が青天井であることが必要であって、「野心」が努力の質を高めるとしています。では、「野心」の中心には何があるか―それは、承認欲求の一種である名誉欲であるとし、"がんばり"ではなく、実績を讃える表彰制度などを推奨しています。

 第4章では、"がんばり病"がチームまで冒す例を挙げています。またここでは、チームワークには「同質性を軸に成り立つチームワーク」と「異質性を軸に成り立つチームワーク」の2種類があり、日本人が今まで得意としてきたのは「同質性を軸にしたチームワーク」だが、これからは「異質性を軸に成り立つチームワーク」が求められるとしています。そして、ヒロイズムを肯定的に捉え、健全なヒロイズムはチームを強くするとしています。

 著者によれば、本書で述べていることは、最近説く人が多い「スローライフ」や「がんばらない生き方」といったものとはある意味で真逆であるとのことですが、確かに「がんばらないで」と言っているわけではなく、「がんばる」時間とエネルギーを「考える」ことに振り向けろと、「量」より「質」だと言っているわけです。

 全体を通して平易に書かれていて読み易かったし、ユニークな視点の提示によって啓発される要素も多々ありました。帯に「画期的仕事論」とありますが、あとは、こうした考えをどのように日々の仕事において実践していくか、そのためには常に「考える」ことが必要なのでしょうが、これがなかなかたいへんかも。但し、そうしたことを考える際の一定の視座は提供している本ではあると思います。

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「社内出世」と「プロとして生きること」の両方を論じている分、インパクトに欠けるか。

出世する人は人事評価を気にしない.jpg出世する人は人事評価を気にしない2.JPG
出世する人は人事評価を気にしない (日経プレミアシリーズ)

 本書では、冒頭で、経営層に出世した人たちの特徴として、自分の人事評価を気にしていなかったことを挙げています。そして、その背景には彼らに共通した行動があり、それを整理する試みが本書であるとのことです。

 企業内では、目の前の仕事で結果を出していてもある日昇進できなくなることがあり、一方で、それまで評価の低かった人がいきなり出世することがあるとしています。なぜそうしたことが起きるのかというと、一般社員層の間の昇進基準は、今担当している仕事での評価結果に基づくのに対し、管理職になるときには、別の昇進基準が用いられる――つまり、上位者から「使われる側」でいる間は「競争」が基本だが、それ以上の「使う側」になるには「選ばれる」ルールが変わる、すなわち互いに選び合う立場になる「協奏」になるタイミングがあると指摘しています。

 一般社員の間は「卒業基準」で、課長からは「入学基準」となり、「職務主義」のもとでは、課長として優秀でも部長にはなれないといった本書の指摘は、一般のビジネスパーソン(とりわけ若い人たち)にとっては新たな知見として受け止められる面もあるかもしれませんが、人事パーソンにとってはある種コモンセンスに近いものではないでしょうか。ただし、ケース・ストーリーも交え、そうしたことが分かりやすく書かれているため、おさらい的に読むにはいいかもしれません。

 課長の手前までは「できる人」が出世するが、さらに上にいくには「できる」だけでよいのか、管理職止まりの人と経営陣になる人は何が違うのかといったことが、会社側のアセスメント基準として、また、ビジネスパーソンに対する啓発的示唆として説かれています。因みに、「出世する人」の行動パターンとして著者は、第一につながりを大事にしていること、第二に質問を繰り返していること、を挙げています。

 さらに、40歳からの10年間、課長時代の働き方がその後の人生を決定するとして、40歳は第二のキャリアの出発点であるとし、第二のスタートを切るにあたって自ら人的資本の棚卸しを行い、キャリアの再設計を行うことを提唱しています。

 その上で、40歳からのキャリアの選択肢として、社内プロフェッショナルになるという生き方を提唱しています。併せて、企業におけるプロフェッショナルの処遇の在り方が、本来の専門性を評価する方向に変わってきていることも指摘しています。ただし、プロフェッショナルとして認められるには高い評価を得る必要があり、では、評価を意識せずに専門性を認められるには、組織でどう働けばよいかといったことを、最終章にかけて指南しています。

 そして、プロフェッショナルとして認められるには、「明確な専門性がある」ことが第一条件であり、プロフェッショナルを目指す人なら、この条件はクリアしやすいだろうが、テクニックが求められるのは第二の条件の「ビジネスモデルに貢献する」ことであるとしています。

 以上の流れでも分かるように、途中までは「出世する」にはどうすればよいかということが書かれていたのが、途中から、組織の中でプロフェッショナルとして生きるにはどうすればよいか、言い換えれば、部下のいない管理職としての地位にあり続けるにはどうすればよいかという話に変わってきているように思いました。

 本書では、「出世」という言葉を社内での昇進のことだけではなく、起業して成功したり、転職して新たなキャリアやさらに高いポジションを得ることも含めて指しているとのことです。ならば、結局、本書の本来の趣旨は、社内外に関わらずプロフェッショナルを目指せということになるのでしょうか。

 プロフェッショナルとは、自分で自分の仕事に評価を下す人と解すれば、必ずしもタイトルから大きく外れるものではないともとれますが、「出世する人は―」というタイトルは間違いなくアイキャッチになっていると言えるでしょう。

 若年層向けの啓発書としてはそう悪くないと思いました。ただ、結局、前半部分は基本的に社内での出世について書かれていて、「それが叶わなくなった場合」に備えて今のうちにどうしておけばよいかということが後半部分に書かれているような気もしました。

 これでは、「とりあえず社長レースに参加しておこう」という"従来型サラリーマン"の発想を変えるものではなく、「本旨」であるべきところの後半部分が前半部分の「保険」に思えてしまう分、インパクトは弱かったように思います(ゼネラリストを目指す人、スペシャリストを目指す人、ゼネラリストを目指してダメだったらスペシャリストを目指す人の全てを読者ターゲットとして取り込もうとした?従来型サラリーマン"マジョリティ"との相性は良さそうだけれど)。

《読書MEMO》
●目次
第1章 評価が低いあの人が、なぜ出世するのか――「使う側」「使われる側」の壁
第2章 課長手前までは「できる人」が出世する――組織における人事評価と昇進のルール
第3章 役員に上がるヒントは、ダイエット本の中にある――経営層に出世する人たち
第4章 採用試験の本番は40歳から始まる――課長ポストからのキャリアの見直し
第5章 飲みに行く相手にあなたの価値は表れる――第二のキャリアを設計する
第6章 レースの外で、居場所を確保する方法――組織内プロフェッショナルという生き残り方
第7章 「求められる人」であり続けるために――会社の外にあるキャリア
おわりに 「あしたの人事の話をしよう」

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エグゼンプションという切り口で「日本型雇用」を変える「構造」を提案している。

いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる.jpg                         雇用の常識 決着版.jpg
いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる (PHP新書)』['14年]『雇用の常識 決着版: 「本当に見えるウソ」 (ちくま文庫)』['12年]

 2009年に刊行された『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(プレジデント社、'12年/ちくま文庫)が注目され、その後も『「若アベノミクスで「雇用」はどうなる.jpg者はかわいそう」論のウソ』('10年/扶桑社新書)、『就職、絶望期』('11年/扶桑社新書)、『女子のキャリア―"男社会"のしくみ、教えます』('12年/ちくまプリマー新書)、『日本で働くのは本当に損なのか』('13年/PHPビジネス新書)などを多くの著書を発表している著者(元リクルート ワークス研究所勤務)による本です(先に取り上げた(エントリー№2284)経済学者の安藤至大氏と「ニコ生」に出ていたこともあった)。この他にもいくつもの著書があってそれらの内容が重複しているきらいが無きしもあらずですが、 本書は単独でそれなりに読みでがありました。

「ニコ生×BLOGOS」"アベノミクスで「雇用」はどうなる"(2013年)海老原嗣生氏&安藤至大氏(経済学者)

 ホワイトカラーエグゼンプションを巡る議論が再び活発化している昨今ですが、残業代の不支給と、その対象となる年収について議論が費やされてきたという経緯は、これまでとあまり変わっていないようです。これについて、本書では、今回のエグゼンプション論議は、「定期昇給・昇級・残業代の廃止」という経営都合の日本型の変更のみが念頭に置かれているとしています。

 そして、そこには、もう一つの日本型の問題――残業代を払い続け、定期昇給を維持する分、長時間労働や単身赴任で疲弊し、働く人のキャリアや家庭生活の面にもマイナス寄与しているという問題――をも取り除くという視点が欠如しているといいます。つまり、エグゼンプションを契機として、給与・生活・キャリアの三位一体の改革をすべきであるとしています。

 著者は、エグゼンプションの本質に迫ると、多くの企業に根ざす「日本型雇用」の綻(ほころ)びが見えてくるといいます。例えば、日本企業はこれまで全員を幹部候補として採用し、年功昇給によって処遇してきたため、企業の熟年非役職者が高収入となって、そのため転職が困難になっているとしています。そこで、エグゼンプション導入を機に、「同一職務=同一給与=同一査定」「職務の自律性・固定制」「習熟に応じた時短」といった「欧米型」雇用の本質も、同時に実現すべきであるとしています。

 但しし、すべての階層を一時(いちどき)に「欧米型」に移行させるのではなく、「欧米型雇用」と「日本型雇用」の強み・弱みをそれぞれ吟味し、日本人と欧米人の「仕事観」の違いや、欧米企業における人事異動のベースとなっている「ポスト雇用」という考え方を分かりやすく説明したうえで、まず、習熟を積んだキャリア中盤期以降を「欧米型」のポスト雇用に切り替えていくことを提案しています。

 エグゼンプションは、その「日本型」と「欧米型」の"接ぎ木"のつなぎ目として機能するものであり、キャリア中盤期以降は、時間管理ではなく成果見合いの職務給制となる一方、エグゼンプション導入の際には、労働時間のインターバル規制や異動・配転の事前同意制、休日の半日取得などの措置がとられるべきであるとしています。ここには、エグゼンプションにまつわる「制約」によって、「全員が階段を昇る」日本型の人事管理を終わらせるということも、狙いとして込められているようです。

 エグゼンプションという切り口で「日本型雇用」を変える(終わらせる)ことを提案していて、しかも、従来よくあった「日本型全否定」ではなく「途中まで日本型肯定」のハイブリッド型になっているのが興味深く、また現実味を感じさせるところですが、入り口が日本型のままであることによって生じる諸問題についての解決策も提示されています。

 個人的には、論旨が「中高年問題」にターゲティングされていることを強く感じましたが、つまるところ、「日本型雇用」の最大の問題はそこにあるということになるのでしょうか。エグゼンプションというテーマからすると、業態などによっても読者によって受け止め方の違いはあるかもしれません。但し、「ジョブ型社員」「限定社員」といった最近話題の人事テーマに関して、従来の議論から踏み込んで具体的な「構造」を提案しているという点で、これからの議論や制度設計の一定の足掛かり乃至は思考の補助線となるものと思われます。

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「福祉雇用型」から「仕事ベース短期決済型」へ。理論的な枠組み、方向性を示す。

高齢社員の人事管理 今野浩一郎.jpg高齢社員の人事管理』(2014/08 中央経済社)

 「70歳まで働ける企業」基盤作り推進委員会(高齢・障害者雇用支援機構)の座長なども歴任した著者が、労働者の5人に1人は高齢者であるという世界の先進国の中でも未曾有の高齢化を迎えた日本における今後の「高齢社員の人事管理」の在り方を考察・示唆した本です。

 著者によれば、これまでも多くの実務家が制度や施策を提案しているし、研究者も解決策を提案しているが、実務家の提案は「いま役に立つ」を重視するあまり人事管理の基本となる理論的な枠組みの部分が弱く、一方、研究者は現状分析や課題の捉え方には優れるが、制度を具体的に構築する手掛かりにはなりにくい―本書は実務家と研究者の両者を繋ぐべく、研究者の成果を踏まえて実務家たちが人事管理の制度構築を行ううえにおいて灯台の役割を果たす考え方、視点、進むべき方向を提示する狙いで書かれたものであるとのことです。

 第1章「人事管理のとらえ方」で、人事管理の構造を体系的に整理し、高齢社員の人事管理を考えるうえで「ことの重要性」「全体の中の一部」「戦略と戦術を区分する」という3つの視点を提示しています。さらに、経営ニーズの変化による人事管理の再編の方向性として、社員が意欲をもって新しい働き方に取り組むことを支援する人事管理、また、それを担う人材を確保・育成するための人事管理を構築することが求められるとしています。

 第2章「社員の多様化と人事管理」では、会社の指示があればどこへでも転勤し長時間労働も厭わない「無制約社員」と働く場所や時間に何らかの制約がある「制約社員」を区分して管理するこれまでの伝統的な「1国2制度型」は、基幹社員が無制約社員から制約社員化する中でその基盤が崩壊しつつあり、基幹社員の中にも制約社員がいることを前提にした多元的人事管理の方が経営パフォーマンス上優れているとし、また、交渉ベースの雇用管理、仕事基準の報酬管理というものがこれからの主流になるであろうとの見通しのもと、賃金制度はどのように変わっていくか、また、その際にどういった配慮をしなければならないかを、「リスクプレミアム手当」といった概念を用いて解説しています。

 第3章「高齢化からみる労働市場の現状と将来」では、「ことの重要性」の観点から。高齢化が人事管理にとってどの程度重要な課題であるのか、労働市場や人口構成に関するデータから、その重要性を確認し、高齢者の活用に企業も高齢者も「本気になること」が解決の出発点であるとしています。

 第4章「高齢社員の伝統的人事管理の特徴」では、企業がこれまで高年齢者の雇用確保措置をどのように行ってきたかを確認し、これまでの「1国2制度型」の人事管理の実情を検証するとともに、単に高齢者に雇用機会を提供するだけの「福祉雇用型」の人事管理には限界があり、高齢者を戦力化することに「本気になること」が必要であるとしています。

 第5章「人事改革の視点」では、高齢者を戦力化する新たに構築される戦略人事管理を「S型人事管理」と略称し、それは高齢社員の制約社員化を踏まえて作られる必要があり、また、「いまの働き対していま払う」短期決済型であるべきだとして、人事改革の基本施策、賃金の基本的な視点と制度の基本的方向を示しています。

 第6章「高齢社員を活かす賃金」では、「S型人事管理」における現役社員の賃金との関連性の視点の必要性を説いたうえで、現役社員と高齢社員の賃金制度の組み合わせ類型において、「年功的長期決済型+福祉雇用型」《P1型》→「年功的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P2型》→「成果主義的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P3型》といった賃金プロファイルの改革のベクトルを示すとともに(最終段階は「1国1制度」《P4型》)、定年を契機に賃金が低下するという問題への対応策を示唆しています。

 第7章「高齢社員に求められること」では、今後は高齢者の側も働き続ける覚悟が求められ、「働くことは稼ぐこと」であって、高齢者それぞれに「どのように貢献するか」という視点が求められているとしています。また、高齢者が職場の戦力となるキャリアを実現するために、企業側も、キャリア転換を促進し支援する仕組みやマッチングのための施策を講じていく必要があり、その際に「マッチングの市場化」(社内労働市場)の仕組み作りなども必要になってくるとしています。

正社員消滅時代の人事改革.jpg 本書は、著者の前著『正社員消滅時代の人事改革-制約社員を戦力化する仕組みづくり』('12年/日本経済新聞出版社)の「高齢社員の人事管理」に的を絞った続編ともとれますが、著者自身が前書きで述べているように、これからの人事管理の「進むべき方向を確認するための灯台としての役割を果たすためのモデルとして提案」したものであり、具体的に個々の制度の詳細を解説したりすることは目的としていません。その点を踏まえておかないと、実務書として読んでしまうと物足りないものとなってしまうでしょう。

 個人的感想としては、「高齢社員の人事管理」の在り方を通してこれからの人事管理の在り方を理論的な枠組みの中できっちり示しており、実務家にとって自社制度の立ち位置や今後の方向性を探る上での理論強化に繋がる本であるように思えた一方で、出された結論はそれほど斬新なものでもなく、大方の実務者が今後はこうならざるを得ないだろうと予想していたものに近いと言えるのではないかと思った次第です。

 ただ、現状がどうかという問題は当然のことながらあると思われ、平成25年施行の改正高年者齢雇用安定法に対する各企業の対応が、「福祉雇用型」的な対応でばたばたっと決着して一息ついたようになっている現況において、次のステップに移行するための示唆と動機づけを与えてくれる本ではあると思います(実務書と言うより啓蒙書・啓発書に近いか)。

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制度をぽんぽん作ることがイコール「クリエイティブ」であるともとられかねない論調?

クリエイティブ人事19.JPGクリエイティブ人事.jpgクリエイティブ人事 個人を伸ばす、チームを活かす (光文社新書)

 本書は、サイバーエージェントの取締役人事本部長の曽山哲人氏が、組織行動研究の第一人者である金井壽宏氏との対談も交え、自社の人事制度を紹介しつつ、人事の在り方や人事制度の本質について語った本です。

 曽山氏は、自社の創業7年後の2005年の人事本部の発足と同時に人事本部長に抜擢され、すでに急成長を遂げベンチャーらしさが失われつつあった社内の雰囲気に危機感を覚え、日常業務を回すだけの「機能人事」からの脱却を図ることを目指したとのことです。そして、半年ごとの新事業提案コンテスト「ジギョつく」、役員と社員がチームを組み「あした(未来)」につながる新規事業を考え提案する「あした会議」、サービスアイディアを「モックアップ(試作品)」に落とし込んで提案するコンテスト「モックプランコンテスト」など、イノベーションと組織活性化を促すさまざまな仕組みを打ち出してきました。

 人事本部のミッションを「コミュニケーション・エンジン」と定義し、自らに月に100人の社員と話すことを課すとともに、懇親会支援制度や部活動支援制度などを導入し、インフォーマル・コミュニケーションの活性化に力を入れている点などは、個人的には興味深く感じましたが、様々な経歴の人材が集まるベンチャー企業などではそれほど珍しくない施策かもしれません。「キャリチャレ」と呼ばれる社内異動公募制度なども含め、本書にあるこうした制度は、同業他社や他業種の企業でも多くが導入しているように思います。

 序章を金井教授と曽山氏が交互に執筆して、終章(第5章)に両者の対談があるのを除き、残りの部分は曽山氏によるこうした社内の人事制度やその考え方の紹介となっていますが、結果的に、制度を紹介する企業ガイダンス的な内容になってしまっている面があるとともに、人事部目線で見ると、ある特殊なケースにおける「成功体験」を聞かされているような印象も受けました。

 「2駅ルール」というオフィスの最寄り駅から2駅以内に住む社員に補助をする仕組みを社員の5割弱が利用しているといったことも、急成長を遂げたベンチャー企業で、規模のわりには社員の平均年齢が若いという特殊性の現れではないかと。中には、やや思いつき的な発想からきたのではと思われるような制度もあり、ある程度の遊び心があってこそのベンチャーと言えなくもありませんが、制度をぽんぽん作ることがイコール「クリエイティブ」であるともとられかねません。

 本書自体、制度はあくまで表層であって、人事における「クリエイティブ」とは本質的にはもっと深いものであるという立場であるかと思いますが、第4章から終盤の対談にかけては、むしろ、人事パーソンに求められる資質といった自己啓発的観点からの論調になって、それはそれで参考になる部分もあったものの、「クリエイティブ」ということに関してはややもやっとしたまま終わってしまったようにも思えました。

 結局これ、自らのブログから引用して本人が書いた部分もあるけれども、大方は本人の語りを編集者が文章にしたのだろうなあ。金井壽宏氏が手を入れているにしても、平板な印象が拭いきれないのは、やはり先ほども述べたように、本人が専ら過去の成功体験を中心に語っているからなのでしょう。

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マネジャーの視点から人材戦略を追ったテキスト。時を経た今も全く色褪せていない。

ハーバードで教える人材戦略.bmpハーバードで教える人材戦略6.JPG
ハーバードで教える人材戦略―ハーバード・ビジネススクールテキスト』['90年]

 本書(原著タイトル"Managing Human Assets")は、1981年にハーバード・ビジネススクールで初めてMBAの必修科目として「HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)」が開設された際に作られた教科書を原典としています。それまでは同校には、「人事労務関係」「生産オペレーション管理」「組織行動」の3科目はあったものの、ゼネラル・マネジャーの視点から人材戦略を追う科目は無かったとのことです。本書が多くの理論書と異なる点は、HRMを単なる人事・労務の専門マネジメントとしてではなく、あくまで「経営」の中で最も重要な資源として戦略の中心に置き、組織行動、組織開発、労務管理、人事管理などの理論を統合しながらも、ゼネラル・マネジャーの視点から纏められている点にあります。

 第1章「ヒューマン・リソース・マネジメントとは何か」において、HRMのアプローチにおいて本書で取り組む諸領域として、HRMを、①従業員のもたらす影響、②ヒューマン・リソース・フロー、③報償システム、④職務システムの4つの領域に分け、三角形を描き、それぞれの頂点にヒューマン・リソース・フロー、報償システム、職務システムを置き、その三角形の中心に従業員からの影響を据えた概念図を描いています。つまり、本書は、経営における中心的な役割を果たすのは従業員であるとの考え方に立っているわけです。

 第2章「HRMの概念的枠組み」では、ゼネラル・マネジャーとして、その企業にどのようなHRM制度を導入すべきかを決定する際には、諸制度の妥当性や効果性を評価する方法が必要であるとし、企業、社会、従業員の福祉の実現を、ゼネラル・マネジャーがその企業のHRM諸制度の効果性を測る際の長期的基準として用いるべきであるとし、①従業員のコミットメント、②能力、③コスト効果性、④整合性の4つのCがその指標となるとしています。

『ハーバードで教える人材戦略』.JPG 第3章「従業員からの影響」では、どのように従業員の影響行使・参加のための仕組みを作りだすか、労組・経営間の協調を可能とするかを解き明かしつつ、その成功のためには、マネジャーの技量や能力が欠かせないとしています。

 第4章「ヒューマン・リソース・フローをマネジする」では、インフロー(採用)、内部フロー(昇進・異動・能力開発)、アウトフロー(退職)といった人材フローをどう構築し管理していくかを説き、企業の現在および将来の労働力に対する要求と、従業員のキャリア開発のニーズの両方に応えていくことが肝要であるとしています。従業員のキャリア・ディベロップメントのための方法に重点を置いて書かれており、ゼネラル・マネジャーは、個々の従業員の抱く考え方、彼らにとってキャリア・ディベロップメントと満足感が何を意味するのかをしっかり理解していくべきであるとしています。また、ヒューマン・リソース・フローの3つのタイプとして、①終身雇用システム、②昇進もしくは退社というシステム、③不安定なイン・アウトのシステムがあり、第4のタイプとしてそれらの混合型があるとしています。

 第5章「報償システム」では、どのような報償システムによってHRM制度の変化を支えていくかを解き明かしています。報償は、外的(金銭的)・内的(非金銭的)なものを問わず、企業としてどのような組織を作って維持し、また従業員にどのような行動、態度をとって欲しいか明確な期待を与えるものであるが、内的報償への不満が外的報償への不満となって表れることがあるなど、ゼネラル・マネジャーにとってHRMの中でも難しい分野であるとしています。この章では、給与とメンバーシップ、モチベーションとの関係などを通して、そうした報酬システムのジレンマを解明し、報酬の組み合わせた厚生制度(カフェテリアプランなど)や公平性を保つためのシステム(職務評価、技能本位評価など)、業績給システムとそのジレンマなど具体的な課題にまで言及されています。一方で、章末においては、報償システム制度はほとんどの場合、他のヒューマン・リソース制度を導くものではなく、後づけすべきものであるとしています。

 第6章「職務システム」では、マネジャーは職務を定義し、設計することで組織をまとめていく必要があり、では、どのような職務システムが従業員の能力、コミットメントを高めるかを様々な角度から分析し、包括的な職務システムの再設計を提唱しています。

 最後の第7章「HRM制度の統合」において、数多くのHRM諸制度と運用法を、その企業のビジネスの他の分野としっかり関連づける形で、総体としてまとめていくという、マネジャーにとって最も難しい責任についての検討を行っています。ここでは、HRM制度を統合していく方法として、①官僚主義的、②市場的、③協調的、の3つのアプローチを示しています。

 所謂「日本的経営」が米国企業にとって1つの研究・参照例とされていた当時のケーススタディなども出てきますが、教科書としては30年以上経った今も全く色褪せていないのは、それだけ分析やセオリーがしっかりしているからでしょう。「経営」におけるHRMとはなにかを考えてみる上で良書であると思います。また、本書が主にライン・マネジャーに向けて書かれたものであるという点で、アメリカらしさを感じました(アメリカのライン・マネジャーは日本の人事部の仕事に相当することをかなりやっているし、それだけの権限を与えられている)。意識の高いマネジャーにも薦めたい本ですが、その前に、とりあえず人事パーソンには是非とも読んで欲しい本です。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著 (2004/07 総合法令)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)

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経済学のアプローチにより人事を定量的に捉えた本。「人事は科学できる」!

人事と組織の経済学.jpg  Personnel Economics for Managers.png    Edward P. Lazear.jpg Edward P. Lazear
"Personnel Economics for Managers"(1997)
人事と組織の経済学』(1998/09 日本経済新聞社)

Edward P. Lazear2.jpg スタンフォード大学ビジネススクールのエドワード・ラジアー(Edward P. Lazear)教授による本書は、経済学のアプローチから人事制度を分析したものですが、"Personnel Economics for Managers"(1997)という原題からも窺える通り、学術書ではなくマネジャー向けの解説書として書かれています。

 著者は、前著"Personnel Economics"(The MIT Press,1995)において「人事経済学」というものを提唱しており、それは、「人事に関する政策や慣行は人間の関わることであり、どこにでも当てはまる一般的、客観的な解答などない」という考え方に対し、確かに具体的解決策はケースによって異なるが、それは企業の置かれた環境が異なるためであり、解決策を導き出すまでの思考方法は、一般的普遍性を持っているとの考え方に立って、人事制度や組織を分析するにあたって経済学の手法を用いることで、物理学や生物学と同じようにその「解」に辿りつけることを示したものであるようです(訳著がない!)。

 本書はそうした科学としての「人事経済学」というものを、企業における人事パーソンやマネジャーにも分かり易いように噛み砕いて解説したものと言えるかと思います。各章の冒頭には、人事に関する制度や施策についてのケース課題と、それに対する様々な立場からの意見を収めた会話が配されていて、人事の実務者の観点から見ても、おそらくそれらは、かつて自らがそうした議論の場に直面したことがあったかと思われるような具体的なテーマであり、また議論の分岐点でもあり、そうした問題の解明のプロセスにおいてはやや複雑な数式等が用いられたりはしているものの、少なくとも各章の導入部は、実務者が入り込みやすいものとなっているように思われます。

 第1章の序論では、人事担当者にとって極めて重要な話題であっても、「従業員の解雇の仕方」「労働組合との交渉術」「モラール低下の改善方法」「従業員に対するキャリア機会のカウンセリング方法」といった経済学的アプローチが不向きなものについては他の専門家に任せるとして、本書で扱っている主なトピックスは、求人および採用、転職、合理化、生産性向上のための動機づけ、チーム、年功制、評価、付加給付、権限、任務の割当などについてであると断っています。

 第2章では、「採用基準の設定」(高熟練労働者と不熟練労働者のトレードオフ、データが簡単に入手できないときの意思決定...etc.)、第3章では「適任者の採用」(自己選択、モニタリング・コスト及び労働者選別の詳細)について考察し、第4章では「労働者の生産性を知る」(非対称性情報と対称的無知...etc.)ということ、第5章では、「変動給与それとも固定給与?」(インセンティブ...etc.)ということについてそれぞれ述べ、第6章で「人的資本理論」(基本理論の概要、学校教育、職場における実地訓練...etc.)について解説しています。

 更に、第7章では「離職、解雇および希望退職」(企業特殊的人的資本...etc.)について、第8章では「情報、シグナル及び引き抜き」(シグナリング仮説...etc.)、第9章では「動機づけとしての昇進」(トーナメント・モデル...etc.)について解説し、第10章では「社内における利害行動」(トーナメントと競争...etc.)について考察しています。

『人事と組織の経済学』6.JPG 第11章では、「年功型インセンティブ制度」について考察し、第12章では、「チーム」(チームの活用、チームにおけるインセンティブ...etc.)について解説、第13章では「雇用関係についての再考」としてアウトソーシング、契約、フランチャイズなどについて考察し、第14章で「非金銭的報酬」、第15章で「付加給付」を取り上げています。「年功型インセンティブ制度」の章では、賃金と生産高が経験年数で逆転し、一定年齢以降は、企業は負債を負うことになるという、有名な「暗黙の負債と見返り」論(別名「ラジアーの理論」)が展開されています(この理論は、所謂「日本的経営」における年功賃金と長期的雇用の関係を説明する際にしばしば用いられることで知られている)。

 第16章「職務:課題と権限」では、人に職務を合せるのか、職務に人を合せるのかを考察し、また、第17章「評価」において評価の目的やルール、昇進かさもなければ退職か、などといった評価の使い道などについて考察し、最終の第18章では「労働者の権限強化」について経営者から労働者への意思伝達などの課題を取り上げています。

 このように、人事の重要課題の全てを扱っているわけではないとしながらも、広範な実務課題を取り上げており、また、一部において課題同士が重複・隣接しながらも、その取り上げ方において異なる視点を入れることなどもしています。

 個人的には、人事における極めて実務的な諸課題を、ちょうど物理学などでいうところの「思考実験」のような形で提示している点が興味深く思われました。また、著者は、「人事制度とはモチベーションとコストの両面から検討されねばならない」としていますが、経済学の手法を用いながらも、一般的推察が妥当と思われる範囲で心理学的要素や社会学的要素をも考察に織り込むことにより、そのことを実践しているように思われました。同時に、そうした考察を明快なロジックとして展開してみせることで、説得力のある内容となっているように思います(「人事は科学できる」!)。各章の章末には、そうして得られた「解」を要約して解説しており、これもまた示唆に富むものとなっています。

 600ページ近い大著ですが、各章は30ページ程度であるため、全体を通読した上で、関心のある項目について再度拾い読みしていくという読み方もあるかと思います。そうした読み方を通して、実際に人事パーソンが人事を巡る諸課題に直面した際に、課題の認識方法や解決法を探る上でのヒントとなる箇所も多いように思われます。その意味では、人事パーソンが是非とも手元に置いておきたい1冊であると言えます。

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人事パーソンが読んでも、"おさらい"を兼ねつつ、新たに得られる知見もあるのではないか。
マネジメントの心理学2.jpg
 
  
     
伊波和恵 教授 臨床心理士.jpg 伊波和恵氏(東京富士大学教授・臨床心理士)東京富士大学サイトより
マネジメントの心理学: 産業・組織心理学を働く人の視点で学ぶ

 本書は、主に学生やビジネスパーソンらを対象としたマネジメントの心理学(産業・組織心理学)に関する初学者向け入門書です。著者らは、会社で働き始めてから心理学をもっと学んでおくべきだったというビジネスパーソンの声をよく耳にする一方で、大学で学んだことはあまり役に立たないという声も聞くことから、ビジネスの現場で活用しうる考えや知識を、学生自身が今後の社会人生活をイメージしながら学ぶことができて、大学での学びが社会での実践に結びつくようにするにはどうすればよいかということを意識したうえで、産業・組織心理学の入門書として本書を企画したとのことです。

 心理学を専攻したことがない読者を主に想定して書かれており、心理学の基本的で重要な内容を一通り学びつつ、その知見の持つ意味や、実生活の中でそれがどのように役立つのかを具体的に分かるように解説したものとなっています。また、「働く人の文脈、働く人の視点」を強調し、「働くこと」に関する心理学の知見をもとに、企業組織におけるマネジメントのあり方までを考えるものともなっています。

 本編は、第1章「働くということ」からはじまり、「採用と就職」「組織と私」「リーダーシップ」「ワーク・モチベーション」「コミュニケーション」「キャリア発達」「人事マネジメント・教育研修」「起業」「経営革新」「心の健康」「働く環境の質」の全12章から成りますが、各章の冒頭に、ある学生が就職して、さまざまな人とのかかわりの中で「働く人」として成長していく姿が、各章の内容と関連したストーリーで描かれています。

 そのため、テキストではありますが読み物を読むような感覚でも読めて、また、章末には参考文献を掲げるとともに、働くことに関する現代社会の状況が反映されたケーススタディを載せることで、学習した理論の実践への応用を助ける(自分で考えてみる)ものとなっています。

 参考文献は「もっと詳しく知りたい人の文献紹介」と「文献」の二段構成で、後者がいわゆる"参考文献"の列挙であるのに対し、前者は、例えば「キャリア発達」の章であれば、シャインの『キャリア・ダイナミクス』(1991年/白桃書房)と金井壽宏氏の『働く人のためのキャリア・デザイン』(2002年/PHP新書)の2冊に絞って内容の概略まで紹介するなどしており、次に何を読むべきかという実践的な読書ガイドとなっているように思いました。

 全体を通して、産業・組織心理学の基本から近年の新たな知見まで網羅されている点でオーソドックスであるとともに、組織から個人を捉えるというアプローチではなく、個人から組織を捉えるというアプローチが強調されている点が、類書と比較してユニークかと思います。

 主に人事部門の初任者にお薦めですが、リーダーシップやモチベーション、コミュニケーションといったものの人事マネジメントにおける重要性がより高まっていると考えられる今日、人事パーソンが「実務に役立つ教養」として身につけておきたい知識がふんだんに織り込まれているという意味で、初任者に限らず各層の人事パーソンが本書を読むことで、"おさらい"を兼ねつつ、新たに得られる知見もあるのではないかと思います。

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企業並びに人事パーソンにとって警鐘を鳴らす書。啓発される要素を多く含む。

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  林 明文.jpg 林 明文 氏(トランストラクチャ代表取締役)
企業の人事力---人事から企業を変革させる

 再就職支援会社の設立に参画して同社のトップを務めた後、人事コンサルティング会社を起こし企業に人事コンサルティングサービスを提供してきた著者が、これまでホームページなどに掲載した人事管理のあり方についての新たな見解や問題提起などのコラムを、1冊の"読み物"としてまとめた本です。

 第1章で、「人事は遅れた分野」になっているとしています。日本企業の人事管理は変革を迫られているにもかかわらず、その多くは過去の延長で行われているとし、企業成長に必要な人事を考えた場合、むしろ、これまでの常識は通用しないと認識すべきだとしています。また、ここでは、多くの企業に流通している"次世代リーダー育成"や"選抜型教育"という概念に疑念を呈するとともに、ワークライフバランスについても、それは、今まで以上に生産性を上げることが要求されるものであるとしています。

 第2章では、「あるべき人事」について述べています。建前で語る人事は意味がないとし、ポートフォリオとパフォーマンスの観点から人事組織を再編せよとしています。日本企業には正社員が多すぎるとして、肥満化した企業のリスクを指摘し、日本企業で"成果主義"が受け入れられにくい理由を考察するとともに、生温いマイナス成長気運を実力主義で吹き飛ばす必要があるとしています。また、人事管理には長期継続性が求められ、短期的な人事は企業を滅ぼすとしています。

 第3章では、日本企業が存在感を取り戻すために、今こそ経営改革の絶好のタイミングであり、そのためには「経営者こそ変革すべき」であるとしています。そのためには取締役の選抜・処遇のあり方から改革せねばならず、経営陣こそ教育が必要だとしています。そして、人事は多くの社員の中から、"真の経営者"を検索・育成しなければならないとしています。

 第4章では、「今後の人事課題とソリューション」について述べています。まず、人事管理として検討すべきことについて、ギャップの代表的なパターンとその解決策を述べた上で、人事制度改革のあり方を、社員の能力と処遇についてのソリューション、少子高齢化への対応、早急に改善が求められる評価、の3つのポイントから解説し、さらに、雇用管理の時代的変化にどう対応すべきかを考察しています。また、人事改革は早ければ早いほどよいとし、あるべき人事管理構築のために、人事はより経営に近くなることを求められるとしています。

 本書のベースがウェブで一般に公開されているコラムであるということもあって、現在の人事管理の問題点や今後の人事管理を考える上での視点などが、平易かつコンパクトにまとめられていますが、その分、密度は濃いように思われました。

 最近では、景況感が改善した上に、東京での2020年オリンピック開催が決定したことで、景気上昇に対する期待は高まっていますが、著者は、そのことが高齢化の進行に対応するダイナミックな人事管理の改革を遅らせてしまい、人件費高騰などの問題が悪化の一途を辿る可能性があると警告しています。

 企業並びに人事パーソンに対して警鐘を鳴らす書であり、啓発される要素を多く含んでいますが、単に漠然とした抽象的な啓発に止まらず、高齢化を見据えた「50歳管理職登用」「人事評価に体力測定を導入する」といったユニークな施策への落とし込みもみられ、今後の人事のあり方を考える上でお薦めできる本です。

《読書MEMO》
●目次
第1章 人事は遅れた分野(経営管理の中での人事--人事管理の重要性は認識されているか、間違っている人事施策--人事管理は過去の延長で行なわれている ほか)
第2章 あるべき人事管理とは(経営戦略と人事管理--建前で語る人事に意味はない、ポートフォリオとパフォーマンス--人事組織を再編せよ ほか)
第3章 経営者こそ変革すべき(日本企業は優秀か--平時の経営が企業の行く末を左右する、経営者の人事常識を疑う--慣習的な戦術から脱却せよ ほか)
第4章 今後の人事課題とソリューション(人事課題と改革のスタンス--人事管理として検討しなくてはいけないこと、人事制度改革のポイント(1)--社員の能力と処遇についてのソリューション ほか)

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人事パーソンが自ら自己啓発のために読んでも、人事スタッフに読むのを勧めてもよい。

ビジキャリ テキスト.JPG ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 人事・人材開発2.jpg ビジネス・キャリア検定試験 標準テキスト 人事・人材開発3.jpg
ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 人事・人材開発2級』『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 人事・人材開発 3級

 「ビジネス・キャリア検定試験」は、事務系職種のビジネス・パーソンを対象に平成6年(1994年)にスタートした、中央職業能力開発協会(JAVADA)が実施する公的資格試験で、事務系職業の労働者に求められる能力の高度化に対処するために、段階的・計画的に自らの職業能力の習得を支援し、キャリアアップのための職業能力の客観的な証明を行うことを目的としています。

 分かりやすく言えば、同じくJAVADAが実施する「技能検定」のホワイトカラー版といったところでしょうか。検定分野は「人事・人材開発・労務管理」「企業法務・総務」など8分野に区分され、その中に「人事・人材開発」「労務管理」「企業法務」「総務」など18部門(2級)があり、2級と3級の試験がそれぞれ年2回実施されています。

 本書は「人事・人材開発」部門の2級と3級の標準テキストの改定版です。「2級」は課長・マネジャー等を目指す人またはシニアスタッフを対象とし、「3級」は係長・リーダー等を目指す人または新入社員等担当職務を的確に遂行することを目的とする人を対象としているとのことです。直近の試験問題と解答は「ビジネス・キャリア検定」のサイトで確認することができます。

 旧版(平成19年刊行)と比較すると、人事・人材開発の最近のトレンドを一部織り込むとともに、近年の労働法等の法改正にも対応させ、労働経済データなども必要に応じて新しいものに差し替えられています。また、2級テキストの章立ては、人事企画、雇用管理、賃金管理、人材開発、3級テキストは、人事企画の概要、雇用管理の概要、賃金・社会保険の概要、人材開発の概要と、各4章立になっていて、2級が6章、3級が11章に分かれていた旧版よりすっきりしたものとなっているとともに、試験の出題要領により即した区分となっています。

『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 』.JPG 試験の問題は、単に基礎知識を問うだけでなく、実務に沿った内容を指向しており、テキストの内容から一歩踏み込んだ専門知識問題や、相応の実務センスが求められる応用問題なども一部に含まれていますが、合格基準が「正答率概ね60%以上」とされていることから、まずはテキストの内容を理解することが基本かと思われ、、今現在「人事・人材開発」の業務に携わっている人であれば、テキストを充分に読み込んでさえいれば、試験に合格することはそう難しくないかと考えます。

 企業によってはすでに、社内の「公的資格制度」や「昇格試験制度」に当試験制度を織り込んで、社員に対して受験を奨励したり義務づけたりしている例もあるかと思われますが、そうでない企業の人事パーソンであっても、自らの自己啓発のために本テキストを読んでみるのもよいのではないでしょうか。あるいは、人事スタッフに人事の基本を学ばせるために読むことを勧めるのもよいかと思います。試験の受験・合格を目標にすれば、習得効果はより高まるものと思われます。お薦めです('16年に『ビジネス・キャリア検定試験過去問題集(解説付き) 人事・人材開発2級・3級』が刊行された)

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ラム・チャラン)

「人材最優先企業」(タレントマスター)は、その根底に、リーダーを選定し育成するという考え方が根づいている。

人材管理のすすめ7.JPG人材管理のすすめ.jpg   Ram Charan.jpg Ram Charan
人材管理のすすめ』(2014/03 辰巳出版)

 原著タイトルは"The Talent Masters: Why Smart Leaders Put People Before Numbers"(2010)。著者の一人ラム・チャラン(Ram Charan)はアメリカでは人材育成コンサルタントとして知られた人物であり、『経営は「実行」―明日から結果を出す鉄則』('03年/日本経済新聞社、改訂新版:'10年/日本経済新聞出版社)などの邦訳されている著書があります。もう一人の著者ビル・コナティは、ゼネラル・エレクトリック社(GE)で長い間人事部門の責任者を務め、GEを世界に名だたる人材輩出企業に押し上げたとされる人物です。

 本書では、人材管理に際立って優れた企業を「人材最優先企業」(タレントマスター)と呼び、その実際を探求して読者に伝えることを狙いとしています。本書で言う「人材管理」は「リーダー育成」と捉えてよいかと思われ、「タレントマスター」は、「リーダー育成において優れている企業または人」と捉えてよいかと思います。

 第1部では、GEの人材管理システムを通してタレントマスターは何をしているのかを事例で具体的に解説し(その筆頭にくるのがあのジャック・ウェルチ)、第2部では、P&Gなど、ユニークな手法で効果を上げているタレントマスター企業を紹介しています。さらに第3部においても4社の事例を挙げて、タレントマスター企業になるための戦略を紹介しており、このように豊富な事例から帰納法的(実証的)に「タレントマスターの原則」を導き出している点は、アメリカのビジネス書らしいかと思われます。

『人材管理のすすめ』.JPG そのようにして導き出されたタレンントマスターの原則とは、①CEOを頂点とした優秀なリーダーシップ、②実績を重視した能力主義、③企業の価値観の明確な定義、④率直さと信頼、⑤人材評価/育成システム(厳格さと規則性)、⑥人事責任者(CEOのビジネスパートナーとしての機能)、⑦継続的な学習と改善、の7つに纏められています。

 それらの原則の前提として掲げている「人事考課の"システム化"」などは、日本企業においても劣るものではないと思われますが、常にその根底に、リーダーを選定し育成するという考え方が根づいている点が、本書で紹介されているタレントマスター企業の特徴でしょうか。本書では、人材を深く理解し、定期的にレビューをすることで、組織は中間管理職からCEOに至る、あらゆるレベルのリーダーを輩出し続けられるようになるとしています。

 90年代から00年代にかけて、それまで従業員の存在を無視して、事業売買やダウンサイジングなど競争に勝つための戦略にばかり気をとられてきたアメリカ企業が、人材重視の経営へと大きく方針転換した、その流れを汲む本と見てもいいのではないでしょうか。

 著者の1人がGE出身ということもありますが、「CEOを頂点とした優秀なリーダーシップ」がタレントマスター企業の原則の筆頭にきて、CEOの継承者を見つけ育てることが人事の大きな役割とされているという点に、アメリカ企業の人事の特色を感じます。

 経営書と言うよりは、人事パーソンのための啓蒙書と言えるかと思います。事例のオンパレードで、もう少し体系的に纏めてほしかった気もしますが、その分、読み物を読むように読めるのは確かです。賃金制度の改定や評価制度の策定・見直しなど、ともすると制度づくりそのものが目的化しがちな日常において、人事は何のためにあるのか、これからどういった方向を目指していくべきかを考える上で、"啓蒙"される要素はある本かと思います。
 
《読書MEMO》
【主な内容】
●タレントマスターの秘密を解き明かす
GE、P&G、ヒンドゥスタン・ユニリーバなどの一流企業は、どのように人材の見極めと育成のためのシステムを構築し、それによって目覚しい成果をあげていったのか。
●徹底的に人材を理解する
人材を深く理解し、定期的にレビューをすることで、組織は中間管理職からCEOに至る、あらゆるレベルのリーダーを輩出し続けられるようになる。
●人材に永続的な価値がある
業績、市場シェア、ブランド、製品には寿命がある。唯一、永続的なもの、それは、人材と、人材を育てる仕組みのみである。人材は人財なり。
●実践的なアドバイス
タレントマスター「ツールキット」が、あなたの企業をタレントマスターにするための具体的な方法を提供。

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人事マネジメント、労働法それぞれの分野の第一人者による"相互乗り入れ"的討議。興味深い。

人事と法の対話 .JPG人事と法の対話 有斐閣.jpg
人事と法の対話 -- 新たな融合を目指して』(2013/10 有斐閣)

 企業内で実務携わる人事パーソンの立場からすると、労働法が次々とハードルを設定するために人事管理がやりにくいと感じられたり、また、人事管理上の課題や案件の解決に際して、労働法の規制があるがためにその選択肢が限定されたりすることもあるのではないかと思います。

 そうしたことから、ともすると人事管理(HRM)と労働法は対立する関係にあると捉えられがちですが、元をたどればいずれも労働者に資することを目的としている点では同じはずであり、ただし、人事管理においては企業経営に資することも併せて求められるために、そこが"対立"の起点となるように思われます。

 本書は、守島基博氏、大内伸哉氏という人事マネジメント、労働法それぞれの分野の第一人者による対談の形式をとっており、「限定正社員」「雇用の多様化」「解雇規制緩和」「高齢者の活用」などの人事管理におけるテーマを取り上げて、人事マネジメント、労働法それぞれの立場からこうした課題を論じることで、新たな人材マネジメントのあり方を考察したものです。

 ワーク・ライフ・バランス、メンタルヘルス、グローバル化対応など、取り上げているテーマが非常に今日的なものであるばかりでなく、守島氏が企業における人事マネジメントの実情を具体的に解説し、また、時に企業の実務者や産業医を交えた鼎談のかたちで、先進企業の具体的取り組み事例などをも紹介しているため、実務家が読んで充分にシズル感のある議論になっているように思いました。

 一方の大内氏も、そうした多様な企業の実情を新たな知見として謙虚に受け止め、それらを踏まえて今後の労働法が果たすべき役割について深く突っ込んだ見解を述べるなどしており、まさに「人事と法の対話」というタイトルに沿った内容になっているように思いました。

 対談を通して興味深く感じられたのは、守島氏もあとがきで指摘しているように、労働法が目指す人材管理のあり方は、正社員の雇用維持努力など多くの優良企業ではこれまでも実施されてきており、ただし、競争環境や働く人の意識の変化によって、わが国の人材マネジメントそのものが変化する必要に迫られているという実情があるということです。

 例えば「限定正社員」のような考え方が出てくると、従来のような正社員・非正社員といった二分法での人事管理では対応しきれなくなるわけであり、一方、労働法の方も、働き方の多様化に対応するようなかたちに少しずつ変化していくのではないかということが、両者の対談から示唆されているのが興味深いです。

 人事管理における今日的テーマを俯瞰し、自社の相対的位置づけを把握するうえでも参考になりますが、ただそれだけに終わらず、人事マネジメントのこれからのかたちを思い描き、さらに、労働法とどう付き合っていけばいいかについて考えをめぐらせることができる本であると思います。

 その答えは必ずしも容易に見つかるものではなく、また本書も安易に答えを導き出そうという姿勢はとっていませんが、人事マネジメントにおける個別の課題を時代の流れに沿って整理し、将来的な見識に基づいた課題解決のヒントを見出す一助となり得るという意味では、広く人事パーソンにお薦めしたい一冊です。

 対談形式なので読み易いというのもありますが、これまで、こうした人事マネジメント、労働法それぞれの分野の第一人者による"相互乗り入れ"的討議というものがあまりなかっただけに、個人的にもたいへん興味深く読めました。

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人事部長は「社風」の代理人。人事がリアルタイムでは回避している視点を突いている点で示唆に富む。

日本の人事は社風で決まる.jpg日本の人事は社風で決まる---出世と左遷を決める暗黙知の正体』(2014/02 ダイヤモンド社)

 著者は、大手銀行、セブン‐イレブン、楽天で人事部長などを歴任した人であり、現在は、様々な人材サービスを行っている企業グループの持ち株会社の社長を務めています。本書ではまず、出世した人は、その会社の社風が自分に合っていた人であるとしています。そして、社風とは言葉にはできない「暗黙知」であり、それを決めるのは、①ビジネスモデルを規定する顧客との距離、②資本形態、③会社の歴史の3つであるとしています。

 第1章から第3章までの前半部分では、そうした観点から、業界による社風の違いや、同じ業界内における企業間の社風の違いとそういsた違いがどうして生まれたのかを、幾つもの具体的事例を挙げて解説しており、この部分は読み物として興味深く読めるとともに、社風を決める要素は何かということの裏付けにもなっています。

 著者によれば、社風は会社を支配していて、会議の結論を決めるのも社風であるならば、飲み会・接待にも社風の違いがみえるとのことです。そして、その支配者である社風が最も力を発揮するのが人事分野であり、人事部長は「社風」の代理人であるとしています。従って、人事部長に期待される役割は、目から鼻に抜けるような先進的な人事制度を作ることでも、また、高邁な人事理念を浸透させることでもなく、まずは社内に吹く風、声なき社内世論を適切に読み取ることになるとしています。

 第4章では、社風と人事制度の関係について述べていますが、結論としては、社風に合致した人を偉くする仕組みが日本の人事制度であるとしています。従って「コンピタンシー」評価は「好き・嫌い」に近い感覚的評価となり、「成果主義」も結局は定着しておらず、伝統的な概念である「人物主義」が脈々と生き残っているとし、さらに、「目標管理制度」も、本来は絶対評価であるべきものを「相対評価で運用する」という建前と本音の使い分けが行われているとしています。

 第5章では、社風と採用の関係について述べていますが、人事部は採用のリスクを少なくするために「社風に合致した人」を感覚的に選び、この点においては採用も出世も同じであるとしています。その上で、どうやって企業を選べばいいのかを指南し、また、第6章では、入社してから社風とどう向き合えばよいのかを新人や中堅社員に向けてアドバイスしています。

 著者は、社風というものを必ずしも否定的には捉えておらず、むしろビジネスパーソン個々の立場としては、社風との間の「距離感」をコントロールすることが大事であるとしています。また、「日本的雇用」の終わりが説かれる今日においても、社風がコア人材を通じて会社を支配していく構造自体は変わらないだろうとしています。

 人事のベテラン・プロによる本であり、全体を通して説得力があるように思いました。人事パーソンとしての読みどころは第4章、第5章でしょうか。人事パーソンは概ね本書に書かれているようなことは何となく「肌で感じて」いながらも、人事制度や採用のあり方を一つの完成された中立的なシステムとして見なし(或いはそのことを指向して)、その何となく肌で感じているはずの部分は、リアルタイムでは意図的に頭の隅へ追いやる傾向にあるのではないでしょうか。本書は、社風が人事に直接的な影響を与えていることを解き明かしている点で、人事というものに対するリアル且つ独自の視座を提供しており、示唆的な内容かと思います。

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グローバル人事におけるトラブル防止、優秀人材の有効活用等。啓蒙レベルと実務レベルの話がリンクされている。

アメリカ企業には就業規則がない.jpgアメリカ企業には就業規則がない: グローバル人事「違い」のマネジメント』(2013/09 国書刊行会)

 日系・外資系銀行、外資系IT企業で人事の仕事に携わり、現在はコンサルティング会社と社会保険労務士事務所の代表を兼務し、外資系企業や海外に進出する日系企業へのサポートやコンサルティングをしている著者による本です。

 「アメリカ企業には就業規則がない」というタイトルを見て「そんなこと知っているよ」と思う人も多いかと思いますが、このタイトルは、日本企業とアメリカ(欧米)企業の雇用契約の在り方の違いの一例として挙げたものであり、雇用契約だけでなく、採用、給与、人事考課の在り方から、セクシャル・ハラスメント、ダイバシティ・マネジメントへの対応、優秀人材の確保方法まで、アメリカを中心とする海外企業の人事労務と日本企業の人事労務の取り組みや考え方の違い、それぞれの法的背景などについて紹介および解説されています。

 さらには、外国人と日本人の労働意識の違いなども、具体例をもって分かりやすく解説されていて、読者の中には、自分自身が外国人と仕事した際に経験したり感じたりしたことを、改めて自らの中で体系的に整理・理解する助けになる人もいるのではないかと思われます。

 著者は、これからの日本企業に必要なのは、異文化を日本文化と融合させるという日本人がこれまで用いてきたプロセスではなく、日本という核はしっかりと保ちつつも、相手の文化はそのまま受け入れる「多様性への適応力」であるとしています。グローバル人事を成功させる秘訣は「違い」のマネジメントにあり、自分と相手が違うということを受け入れマネージすることが重要であるということです。

 そうしたマネジメントのポイントとして、海外の人事労務と日本型の人事労務との違いを紹介し、この「違い」の原因の一つとして、諸外国と比べて、労働基準法を始めとする日本の労働法がユニークなものであることを指摘しています。また、労務管理における日本の常識が、海外では非常識となってしまう事例を紹介し、「違い」を認識することがグローバル人事の出発点であると説いています。

 グローバル人事を担うこれから日本企業の人事部のあり方にまで踏み込んで書かれていますが、これらの考察に際して、具体的に裏付けとなるデータを掲げ、また、中国における労働法や労務管理の解説している箇所に見られるように、法律・実務に関する部分についてもきちんとフォローされています。

 グローバルビジネスの行方を見据えた啓蒙的・教養的とも言える内容でありながらも、文章的にも内容的にも、学者や法律家の本によく見られるスタイルとは異なり、あくまでも実務家のもの、実務に近いところで書かれているのがいいです。

 グローバル人事におけるトラブルを未然に防ぐだけでなく、優秀な人材を有効に活用するためにはどのような労務管理を行えばよいのかといったことも含め、自らの経験も交えながらアドバイスされており、啓蒙レベルと実務レベルの話がしっかりリンクさているので、今そうしたグローバルな人事実務に携わっている人にも、近い将来に向けて対応への心構えをしておきたいという人にも、一読をお勧めします。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 日本とアメリカの雇用契約の違い
第2章 採用、給与、人事考課に見る日本と欧米の違い
第3章 セクシャル・ハラスメント
第4章 ダイバシティ・マネジメントの考察
第5章 海外で優秀な人材を確保する方法
第6章 外国人と日本人の労働意識
第7章 英語は国際ビジネスの公用語
第8章 グローバル人材の育成と活用
第9章 日本人の海外駐在者と単身赴任者
第10章 中国の労働法
第11章 中国の労務管理
第12章 国際人事管理
第13章 ゼネラリストとスペシャリスト
第14章 日本と海外の違いの大きな原因は労働基準法にある
第15章 グローバル人事について
第16章 雇用契約書の内容
終 章 グローバルカンパニーへの道

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これからの人事の在り方、企業の枠組みを超えた働く理論の再構築に一石を投じた、啓発される要素の多い本。

社会的人事論.JPG社会的人事論2.jpg  木谷宏氏.jpg 木谷 宏 氏(麗澤大学教授)
社会的人事論 (年功制、成果主義に続く第3のマネジメントへ)』(2013/03 労働調査会)

 本書では、企業の利益追求を目的とする経営戦略が行き詰まりを見せ、社会環境の変化に対応した企業・人材・働き方が求められている今日では、人事管理の枠組みも、従来の経済的合理性から社会的合理性へとそのフレームワークを変えていく必要があるとして、年功制、成果主義に続く第3のマネジメントとして、「社会的人事論」という考え方を提唱しています。

 「社会的人事論」とは、第1に、社会的存在としての企業の枠組みを変えていくことであり、そのためにはすべての企業がCSR(企業の社会的責任)を果たすべく、経済・社会・環境のトリプル・ボトム・ラインによる企業経営を行うことが不可欠になるとしています。第2には、個々の働く人のすべてがプロフェッショナルへと変身することであり、エリートやスター社員を育成・選抜するための人事管理ではなく、パートタイマーやアルバイト、若年者や高齢者、そして男性も女性も全員が活躍できる企業風土、処遇、育成が不可欠なるとしています。第3は、多様な働き方の実現であり、それは、企業が預かっていた人々の24時間を個人に返還する試みであるといってもよいとしています。

 本書全体は5つの章から構成されており、第1章で人事管理の系譜と行く末を概観し、以下の章で、新たな人事の枠組みを企業、人材、働き方の3つのアプローチから考察しています。第2章では企業のこれからの姿をCSRの視点から考え、第3章ではあるべき人材の姿についてプロフェッショナル論を展開し、第4章では働き方の未来をワーク・ライフ・バランスとダイバーシティ・マネジメントの観点から考察し、最終の第5章では、新たな時代の人事管理のトピックを幾つかとり上げています。

 著者は大学教授であり、本書は人事管理のこれまでと今後の在り方について説いたテキストとしても読めますが、一方で、大手企業での長年の勤務の間、米国現地法人でCOOを務めたり、人事部で成果主義の導入、ポジティブ・アクションの実現をはじめ様々な人事改革に携わったりした実績の後にアカデミズムの世界に転身した人でもあり、幅広いテーマを扱いながらも、各章において、「現場」「実務」への落とし込みがなされているため、その提案に空疎感はなく、まさに、これからの人事の在り方、さらにいえば、企業の枠組みを超えた働く理論の再構築に一石を投じた、啓発される要素の多い本だと思います。

 個人的には、「小さなプロフェッショナル」という提案が非常に興味深く、その他にも、「時間とは第3の報酬である」という考え方や、ダイバーシティにおける個人の内なる多様性、根源的(個人的)ダイバーシティに着眼し、その重要性を説いている点などに大いに啓発されました。

 本文の冒頭には「多様な人材をマネジメントする20の問い」というリストがあり、「Q4 日本における成果主義はなぜ失敗したか?」「Q8 能力は正しく定義されているか?」「Q16 短時間正社員とは何か?」といった問いが並んでいますが、本書のすべてのページの右上ハシラに内容に対応する「問い」が示されており、学生や初学者は「20の問い」を先に見た方が本書の内容が概観しやすいかもしれません。

木谷先生.png 関心がある「問い」に対応している節から読み始めても読めてしまうという"優れもの"。ベテラン、中堅、初学者を問わず、人事パーソンにお奨めです。


ヒューマン21 EC-Net 第25回研究会
「多様な人材のマネジメント ー企業アドバイザリーのスタンスとはー」
日 時:2012年11月3日(土) 10:00-17:00
講 師:木谷 宏教授(麗澤大学経済学部)
開催場所:日本青年館ホテル「504」会議室(新宿区霞ヶ丘町)

《読書MEMO》
●目次
はじめに~「社会的人事論」とは何か?
第1章 人事管理の過去、現在、未来
 1 企業は人材をどのように管理してきたのか?
 2 今日の人事管理の問題は何か?
 3 日本における成果主義はなぜ失敗したのか?
 コラム① 聖職としての人事
 コラム② 経営者を蝕む5つの病
第2章 社会的存在としての企業
 1 企業とはいったい何か?
 2 企業の社会的責任(CSR)と人事はどのように関係するのか?
 3 東日本大震災が人事に与えた影響とは何か?
 コラム③ 柏の研究室にて
 コラム④ 企業経営におけるボランティア活動の意義
第3章 小さなプロフェッショナルの育成
 1 能力は正しく定義されているか?
 2 日本企業は本当に人材開発に熱心だったのか?
 3 小さなプロフェッショナルとは何か?
4 これからの採用はどのように変わっていくのか?
 コラム⑤ 小さなプロフェッショナルに惹かれて
 コラム⑥ 自己啓発はすでに脇役ではない
第4章 多様な働き方の実現
 1 ワーク・ライフ・バランスの本質とは何か?
 2 ポジティブ・アクションを機能させるにはどうすればよいか?
 3 ダイバーシティ・マネジメントは正しく理解されているのか?
4 組織や人はなぜ多様性を拒むのか?
 コラム⑦ シアトルのオフィスにて
 コラム⑧ 第3の報酬としての時間
第5章 新たな時代の人事管理
 1 短時間正社員とは何か?
 2 目標管理制度は本当に企業業績に結びつくのか?
 3 なぜ働く人々のモチベーションは上がらないのか?
 4 本当に成功した人事改革は存在するのか?
 コラム⑨ 明日の人事を読み解く名著
       ・デイビッド・ウルリッチ『MBAの人材戦略』
       ・エドワード・ラジアー『人事と組織の経済学』
       ・高橋俊介『成果主義』
       ・桑田耕太郎・田尾雅夫『組織論 補訂版』
       ・三品和広『経営戦略を問いなおす』
       ・エドガー・シャイン『キャリア・ダイナミクス』
       ・金井壽宏『働く人のためのキャリア・デザイン』  
さいごに ~ 新たな社会のために個人、企業、国がなすべきことは何か?

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「閉塞感発生のメカニズム」とそれを乗り越える"手だて"を示す。"特効薬"はないということか。

IMG_4755.JPGやる気もある! 能力もある! でもどうにもならない職場2.jpgやる気もある! 能力もある! でもどうにもならない職場: 閉塞感の正体』(2013/06 東洋経済新報社)

 本書のテーマは「職場の閉塞感」であり、閉塞感という言葉は、個人が抱く「感覚」ですが、その「狭いところに閉じ込められ」「身動きができない」そして「手の打ちようがない」雰囲気は、社会や企業の構造的な問題から発生しているため、働く個人としては簡単には対処のしようがなく、不条理感に近いものがあるとし、従って、閉塞感を発生させている根源的原因を解決しないかぎり、いくら社員を元気づける研修を行なっても無駄になるとしています。そこで、働く人々の「成長意欲があるにもかかわらず、企業内の構造がそれを阻害しているのではないか」という問題意識に基づき、職場に蔓延する閉塞感と日本企業が抱える構造的な問題点の関係を解明していくことが本書の狙いであり、「閉塞感発生のメカニズム」と「閉塞感を乗り越えるための手だて」を示した本であるとのことです。

 全4章構成の第1章「今そこにある閉塞感―4つのケース」では、20代から50代までの幅広い世代のビジネスパーソンが、どのような場面で閉塞感を抱いてしまっているのか、その状況をストーリー仕立てで描写しています。就職氷河期に入社後頑張ってきたもののキャリアの危機に立たされる30代、入社後バブル期を謳歌しつつも事業不振の渦の中でやむを得ず今の仕事を続ける40代、終身雇用を約束されながらも人事担当者としてそれを自ら反古にする役割を割り当てられて苦悩する50代、様々な理由の中ジョブホップをし続ける中で知らず知らずのうちに報われない階層に押し込められている20代の4人が主人公で、それぞれが閉塞感に陥っている状況をリアルに描いていて、状況は極めて深刻なのですが、導入部としてスンナリ入っていける、読み易いものとなっています。

 第2章「職場の閉塞感はどこからやってきたのか」では、第1章の各ケースで描写された情景の背景で、どのような閉塞感が立ち現われているのか、その背景を炙り出し、多種多様な要因が相まった結果、閉塞感が生まれていることを示しています。

 第3章「社員を蝕む閉塞感の構造」では、第1章と第2章で見てきた閉塞的な状況を、より構造的・立体的に、メカニズムとして解説していきます。ここでは、閉塞感の発生源と元凶をそれぞれ「心理的なカベ」「構造的なカベ」と名付け、閉塞感の構造の全容を明らかにする試みがなされています。

 最後の第4章「閉塞感に立ち向かう―カベを乗り越えるために」では、個人、企業、そして社会が閉塞感を乗り越えていくための、具体的な処方箋を提示していますが、「これだけやればうまくいく、といった特効薬は残念ながら存在しないとしない」としながらも、当事者意識を持って主体的に取り組む際の、実践的なアドバイス集として読者に活用してもらうことを狙いとしています。

 「閉塞感」というキーワードで企業や人事、働く個人が抱えている今日的な課題に斬り込んでいるアプローチの仕方がユニークで、それでいて、第1章のケーススタディも極めてリアルであるため、読者は違和感なく著者らが提示した課題を共有できるのではないでしょうか。そのケーススタディとの関連において、第2章、第3章で展開される、日本企業の人事制度の歴史的変遷や、人材フローの過去と現在といった比較分析などもクリアで、閉塞感の構造といったものが大掴みに把握でき、テキストとしても、変革を促す啓発書としても、オーソドックス且つ良質であるるように思いました。

 第4章も、企業として、人事として何をすべきなのかということと、個人としてどうすればよいかという両方の視点から書かれているのはいいのですが、どちらかというと個人としての処方箋はかなり具体的に書かれているのに対し、企業として組織をどう変えていくかということついては、変革の必要性を啓発するレベルに留まっているようにも感じられました。「特効薬は残念ながら存在しないとしない」というのは、著者らの偽らざる気持ちかと思われます。

 トータルで見ると、「閉塞感発生のメカニズム」は分かり易く解説されていて、「閉塞感を乗り越えるための手だて」についても、個人に対しては冒頭のケーススタディから一貫して具体的に書かれている一方、企業に対しては、"手だて"の面での解説がややもの足りなかったかも。結果として"自助努力"中心に近くなっている? 但し、一般の読者がすぐに出来ることと言えば"自助努力"しかないわけですが。

 惹句的なタイトルですが、「閉塞感の正体」はきちんと解明しているわけであってタイトルずれはしておらず、"解決法"を無責任に安売りしていない分、却って著者らの誠意を感じました(問題の根の深さも)。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(デイビッド・ウルリッチ)

人事担当者の役割とは何かを明確に打ち出すとともに、その役割の重さを改めて認識させられる本。
MBAの人材戦略2.JPGMBAの人材戦略.jpgMBAの人材戦略』 デイビッド・ウルリッチ.jpg デイビッド・ウルリッチ

 ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ(David Ulrich)教授による本書『MBAの人材戦略』(原題:Human Resource Champions,1997)は、「人事の役割」を、①戦略パートナー(Strategic Partner)、②管理のエキスパート(Administrative Expert)、③従業員のチャンピオン(Employee Champion)、④変革のエージェント(Change Agent)という4つの分類に定義したことで人事パーソンの間では広く知られる本です。

 第1章「人材経営―競争力を築くための新しい行動計画」では、競争力を備えた企業を築くために、ライン管理者と人材経営専門職に求められる行動指針とは何かを解明することが本書の目的であるとするとともに、本書では、従来の人材経営について書かれた本に見られる人材経営専門職は何を遂行すべきか(手段)という視点からの転換を図り、何を達成すべきか(目的)という人材経営の生み出すべき成果、それらの成果を生む際に求められる活動に沿って構成されているとしています。

『MBAの人材戦略』.JPG 第2章「変化を続ける人材経営―複合的な役割を担う人材経営モデル」においては、人材経営の実践から生じる結果として、①戦略の実現、②効率的経営の実現、③従業員からの貢献の促進、④変換の推進、の4つの成果の領域を掲げ、将来の人材経営専門職の役割を表現するイメージは、「戦略パートナー」「管理のエキスパート」「従業員のチャンピオン」「変革のエージェント」で4つの複合的なものとなるとしています。そのうえで、以下、第3章から第6章にかけて、これらの役割について詳しく検討しています。

 第3章「戦略パートナーになる」では、人材経営が戦略の実現に対していかに支援し得るかを検討し、ビジネス上の戦略を具体的にアクションとして展開していく際に、ライン管理者と共同して人材経営専門職が戦略実現のパートナーとしてどのような役割を果たすべきかを検討しています。そして、人材経営専門職は、きちんと確立された組織監査を遂行する手法を身につけることが求められるとしています。

 第4章「管理のエキスパートに」では、人材経営部門がいかに効率的経営の実現に貢献できるかを検討し、効率的経営のエキスパートとしての人材経営部門の役割を解明しています。そして、管理のエキスパートになるためには、「プロセスの改善」と「人材経営の価値創造の再検討」という2つの段階をマスターすることが求められるとしています。

 第5章「従業員のチャンピオンになる」では、人材経営部門が従業員からの貢献をいかに最大限に引き出すことができるかを検討しています。そして、従業員のチャンピオンとして機能するためには、従業員に対して、牧師の示す確信と信頼、心理学者の示す感受性、芸術家の示す創造性、航空機パイロットの示す厳格な規律のすべてを明示し、管理者と従業員の双方と協力して、従業員が彼らに期待されていることのすべてを達成するように導いていかなければならないとしています。

 第6章「変革推進者になる」では、人材経営が企業に変革を推進する際に、どのように貢献し得るかを説明しています。そして、企業がさまざまな変革の試み、プロセスの変革、文化変容を効果的に取り組むことを支援するためには、ライン管理者と人材経営専門職は、変化に関する理論と実際の方法の両方を学んでいく必要があるとしています。

 第7章「人材経営部門のための人材経営」では、人材経営に伴う基本的機能を再検討しています。著者によれば、人材経営専門職は、他部門を援助することに熱心なあまり、自部門に眼を向けない傾向が強いが、企業経営に貢献する人材経営理念が自部門に適用されれば、人材経営部門も疑いなく向上するとして、人材経営の諸機能をトランスフォームすることに成功を収めた数多くの企業の実例を紹介し、人材経営部門が取り組むべき活動を示唆しています。

 第8章「人材経営の将来」では、人材経営の方法、機能、専門職・ライン管理者に将来何が求められているのかを検討しています。ここでは、「何が問題か」「ではどうするべきか」「どのような改善を進めるべきか」の3つの問いを取り上げることで、人材経営の将来像を探っています。

 人事専門職が何を達成すべきかを、戦略の実現、効率的経営の実現、従業員からの貢献の促進、変換の推進の4つに絞って検討することで、人事担当者は、戦略パートナー、管理のエキスパート、従業員のチャンピオン、変革のエージェントという4つの役割を担うことを期待されていることを明確に打ち出し、人事担当者そのものが最も重要な経営資源であることを浮き彫りにした名著と言えます。
 但し、正確を期そうとするためか、翻訳がこなれていないのがやや残念です。「人材経営部門」は「人事部」と訳し、「人材経営専門職」は「人事担当者」「人事パーソン」と解していいのではないでしょうか(殆どの読者がそのようにとって読むではあろうが)。

 本書で示された人事パーソンの4つの役割について、日本企業の人事パーソンに自分自身はどの部分に強みを持っていると思うかというアンケートをとると、「管理のエキスパート」としては自分でも満足しているが、「変革のエージェント」としてはやや力を発揮しきれていないという自己評価結果が出ることが多いようです。 
 また、「従業員のチャンピオン」ということ関しても、あまり自分には当て嵌まらないという結果が出ることが多いようですが、一部にはこの言葉が俗に言う「社内エリート」であることという風に誤解されている向きもあるようです。著者が言うところの「従業員のチャンピオン」としての人事パーソンに求められる資質とは、従業員の発言に耳を傾け、従業員の信頼感を尊重し、従業員との信頼関係を築くことができて、そのことによって、従業員の企業に対する貢献を高めることができる能力のことを指します。

 1997年に書かれた本書「日本語版への序」において、著者は、日本企業の人材経営職は、常に「戦略パートナー」の役割を果たしてきたと評価したうえで、但し、「最近、日本企業でも、1980年代と90年代前半における成功が思い通りに実現していない現実が存在する。推論するに日本企業の人材経営専門職は、うぬぼれあるいは自己満足に陥っているのかもしれない」としています。実際、近年においては、外資系企業の人事担当者から見た場合、日本企業の人事部は、「戦略パートナー」としての機能を充分に果たしていないとの指摘もあるようです。

 著者は、グローバル競争が激しさを増す中で、ある国で開発されたベストプラクティスは瞬く間に世界各国で学習され、移転が進む現代にあって、期待される成果とは、「新しい人材経営の方法の探求」であるとしています。原著の「序」で、目指す新しい役割をマスターしていくためには、学習とともに忘れ去ること(過去からの脱却)も求められるとしているのが関心を引きます。

 人材経営職は、機会と将来方向が示されたときこそ専門職としての力を発揮し、どのように付加価値を生み出すかを理解していれば、必ず付加価値を生み出すであろうという著者の信念が根底にあることが窺え、人事担当者にとっては、自らの役割の方向性を見定める指針となるともに、その役割の重さを改めて認識させられる本であると思います。翻訳にやや硬さはありますが、一度は読んでおきたい一冊です。

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初めて企業の人事管理を学ぶ人にはぴったりの本。すでに人事にいる人にも参考になる。

マネジメント・テキスト 人事管理入門.png 『マネジメント・テキスト 人事管理入門<第2版>』 (2009/12 日本経済新聞出版社)

 今野浩一郎・学習院大学教授の『正社員消滅時代の人事改革』('12年/日本経済新聞出版社)を読んで、本書を思い出し、久しぶりに通読しました。

 本書は、人事管理は経営管理の一分野であるという視点に立って書かれた、「人事管理の今を知ることができる」標準的なテキストであるとのことで、個人的にも、初めて企業の人事管理を学ぶ人にはぴったりの本と言えるのではないかと思っています。

 本書を出発点にして、より専門的なことを勉強したり、研究したりするための標準的なテキストになればということとともに、これから企業で働く学生にも、現在すでに企業で働いている人にも、人事管理の仕組みを理解するうえで役立つ教科書であって欲しいという著者らの思いから、あまり理論的なことに偏らず、もっぱら企業は何を狙って、そのような仕組みを作り、それがどのように機能しているか、という人事管理の実際とその背景を知ってもらうことを主眼として書かれています。

 「マネジメント・テキスト」シリーズの名の通りに、マネジメントの意識が全編にわたって織り込まれているとも言え、そのため、現在すでに人事部にいる人が読んでも、「人事は何をするところなのか」という原点回帰的な意味で、目を通す価値はあるかと思います。

 初版の刊行は'02年で、その後も人事をめぐる社会や経済環境は変遷を遂げているわけですが、2009年刊行の第2版では、企業の人材活用とワークライフバランス支援に新たに一章を割いたりするとともに、直近の先進企業事例を織り込むなどして、近年の人事のトレンドをより反映させた内容に追補・改定されており、その意味でも、今人事部で仕事している人が読んでも、得られるものはあるのではないかと思われます(改版期間7年はやや長いか。願わくば、もっと短いサイクルで改版して欲しい気もする)。

 同趣旨のテキストとして、今野浩一郎教授の監修による「ビジネス・キャリア検定試験 標準テキスト」(中央職業能力開発協会・編)の『人事・人材開発2級』『人事・人材開発3級』もお薦めです。
 こちらはタイトル通り、中央職業能力開発協会(JAVADA)が年2回実施している公的試験のテキストであり、この試験は同じくJAVADAが行っている「技能検定」のホワイトカラー版のようなもので、公的検定ではあるが国家検定ではないため合格しても「技能士」に類する資格が与えられるわけではありませんが、大企業で若手社員に受験させている企業も多く、学生や若手社員などで既に特定分野試験に合格していれば、就職や希望する部署への配転で有利に働くかもしれません。
 「人事・人材開発」は2級・3級とも、近々テキスト改訂が予定されているとのことで、その際にまた取り上げたいと思います。

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人事管理の現況と課題を俯瞰するテキストとしては良書。改革指針も示されている(但し、タイトルが...)。

正社員消滅時代の人事改革2.JPG正社員消滅時代の人事改革.jpg   今野浩一郎.jpg 今野浩一郎 氏 
正社員消滅時代の人事改革─制約社員を戦力化する仕組みづくり』 (2012/12 日本経済新聞出版社)

 著者は、バブル崩壊以降の20年は、人事管理の分野でも「失われた20年」であったかもしれないとしながらも、伝統的な人事管理に代わる新しい人事管理を構築するための準備期間でもあったとし、本書において、これまでの経験を通して得られた成果を組み合わせて、新しい人事管理のモデルを構想することを試みています。

 伝統的な人事管理に代わる新しいモデルは、経営の進むべき方向からすると成果主義を軸に形成され、時代もおおむねそれに沿って流れているが、一方で、ワークライフバランス、女性活用、パートタイマー問題等、働く側のニーズや事情の変化にどう対応するかが重要な課題として登場してきたとし、そうしたことを踏まえ、本書では、経営のニーズと社員のニーズのそれぞれの観点から、人事管理の方向性を検討しています。

 まず、企業のニーズ面の観点から、経営環境の変化に伴い企業の求める人材や働き方がどのように変わるかを確認し、伝統的人事管理の特徴を整理したうえで、伝統的な人事管理が限界を迎えていることを検証し、さらに社員のニーズの観点からも、労働市場の変化を背景に社員の働くニーズと求める働き方を確認し、こうした変化に伝統的な人事管理では対応できないとしています。

 本書では、女性や高齢社員、派遣社員、パート社員など、働く場所・時間・仕事について何らかの制約をもつ社員を「制約社員」と呼び、多様化する労働市場の中で、どこへでも異動し、長時間労働もいとわない無制約社員は少数派となり、労働者の多数派が制約社員になる傾向は、ますます強まるであろうとしています。

 一方、伝統的な人事管理は、制約社員と無制約社員で異なる人事管理を適用することを基本としてきた、いわば「1国2制度」の人事管理であったとし、そのことを、正社員とパート社員、現役社員と高齢社員、総合職と一般職のそれぞれの従来の人事管理の在り方を対比させることで示しつつ、基幹社員の制約社員化および制約社員の基幹社員化が進行によってその基盤は崩壊しようとしており、これからとるべき方向は「多元型」であり、制約社員を基幹社員として活用することこそが第一に達成すべきことであるとしています。

 そのための人事管理の新たな方向性として、仕事配分・人材配置を交渉化・市場化ベースとすることと、仕事基準の報酬管理に一元化することの2つの改革指針を提示し、前者については目標管理制度、自己申告制度、社内公募制度や教育訓練に落とし込み、後者についてはパート、高齢社員の社員格付け制度の具体例や仕事ベースの賃金制度の方向性を示しています。

 人事管理に関するテキスト的著書などでも知られる著者ですが、本書からは、時代の変化に合わせたそれらテキストの"追補版"的意味合いも感じられ、人事管理を学ぶ人が、その現況と課題を俯瞰する上では、まさにその道の権威による良書だと思います。

 また、企業に対して、無制約社員=基幹社員とする「1国2制度」を続けるか、「多元型」への転換を検討するかを問うている本とも言え、経営ニーズ、社員ニーズの変化に沿って人事管理や報酬管理の枠組みを見直そうとする際の「思考の補助線」としても有効な本。但し、実務上のテキストになり得るかというと、終盤、ばたばたと詰め込んで、やや中途半端な終わり方をしている印象も受けました。

 学者だから、方向性だけ示して、それ以上は踏み込まない? (テキストとしても、実務書としても、文体が若干堅めで論文調なのも気になった)。但し、各章で内容に呼応する先進企業の事例を紹介するなどの配慮は、一応はなされています。

 むしろ別の点で気になるのは、タイトルの「正社員消滅時代」というのは、ちょっと内容とズレがあるのではないかということで、これも版元の編集者が売らんかなでつけたタイトルなんだろなあ。どこにも、正社員が消滅するなんて書いてないんだよね。「制約社員」という概念及び言葉を定着させたいならば、帯の「『制約社員』を活かす会社になる」の方をメインタイトルにすべきだったでしょう。

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管理職研修のテキストを読んでいるような印象だが、テキストとしてはよく纏まっている。

変革するマネジメント 日沖.jpg

 
 
  
                     日沖 健.jpg 日沖 健 氏
変革するマネジメント - 戦略的人的資源管理』 (2012/10 千倉書房)

 本書は、企業内における人材マネジメントの主役はマネジャーであるとの考えのもとに、企業内の組織や職場のマネジャー、およびその役割・ポジションを目指す中堅・若手社員を対象に、人材マネジメントの基本理論と実践技法を解説したものです。

 人材マネジメントを学ぶ教材については、学者が人事部門担当者向けに書いた理論書・専門書や、コンサルタントや人事部門OBなど実務家が体験談と経験則を紹介したものが主で、理論と実務をバランス良く融合したテキストが少ないというのが、本書執筆の動機であるとのことです。

 著者自身の経歴は、企業内で実務を経験した後にコンサルタントに転じ、産業能率大学などで講師も務めてきたと人であるとのことですが、戦略的人的資源管理(SHRM)について、組織論から人事制度の設計と運用、マネジャーの職場集団や部下への働きかけの技法まで、ひととおり広く網羅され、分かりやすく解説されているように思いました。

 「組織管理の5原則」から始まって、官僚制組織や機能別組織などの組織構造の類型など組織の構造とそのプロセス、組織文化の形成と変革などについて解説し、人材ポートフォリオを念頭に置いた人材育成やキャリア支援、定年再雇用制度と高齢者雇用、早期退職制度とリテンション施策、人事評価と目標管理などの基本ポイント、賃金制度とその動向などについて述べ、さらに、リーダーシップ理論やコミュニケーション理論、モチベーション理論などの主だったものを紹介しています。

 文中に多くの経営書から引いて、先人たちが提唱した様々な理論が紹介されています。そうすると何だか「理論」解説ばかりのようにも思えますが、各章の冒頭に企業組織内あるいはマネジャー個人について発生した課題をケーススタディ的に取り上げており(この辺りは企業出身者ならでは?)、以降に述べる理論が実務と深く結びついていることを示唆しています。

 個人名で刊行されたハードカバー本で、タイトルからして何か奇抜な提案でもあるのかと思いましたが、思いのほかに堅いというか、オーソドックス且つリジッドな内容であり、管理職研修のテキストを読んでいるような印象も受けました。

 ただし、テキストとしてはよく纏まっているのではないでしょうか。クルト・レヴィンの「良い理論ほど実践的なものはない」という言葉が紹介されていますが、まさにその言葉に沿って書かれている本である思います。

 全体としてはやはり理論中心という印象は否めませんが、場当たり的に自己啓発書や実務書などを読むよりは、先に理論や体系を押さえてしまった方が、何かと効率がいいように個人的にも思います。リーダーシップ理論などはその典型ではないかと。

 トップマネジャーにより求められるのはコンセプチュアルスキルである、という概念図が本書にも出てきますが、結局コンセプチュアルスキルとは、単に概念を概念として理解する能力を指すのではなく、事象を抽象化して理論に結び付け、また、理論を敷衍化して事象に結びつける、そうした理論と事象の間を行き来できる能力のことなのだろうなあと、こうした本を読んで改めて思った次第。

 人事部の人にとっては、管理職研修などにおける押さえるべきポイントをオーソドックスに網羅した本であるとともに、自身の「おさらい」本でもあるということになるのではないでしょうか。

【2017年第2版】

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人件費・要員管理のための「戦略」「財務」「業務」の3つのアプローチを解説。管理会計に偏っていないのがいい。

『人件費・要員管理の教科書 (労政時報選書)』.JPG
人件費・要員管理の教科書2.png
人件費・要員管理の教科書 (労政時報選書)』(2012/07 労務行政)

 本書の「まえがき」にもその指摘があるように、「適正な要員数と人件費」についてこれまで書かれた本は、管理会計の視点から技術的な解説をしたものが多いように思います(リストラのための余剰人員の算出方法に絞ったものも少なからずあるネ)。

 しかし、実際にそうした実務を行っている側からすると、管理会計以外の要素がモロモロ絡んでくることも多いと感じられるのではないでしょうか。

 例えば、企業として今どのような仕事に取り組むことが重要であるのか、あるいは、今の業績を維持しようとするとどれぐらいの業務量をこなさないといけないのか、また、現在その業務は本当にムリ・ムダなく最適に遂行されているのか、更には、企業を成長させるために新たにチャレンジしなければならないことは何か、といったことも考えるべき要素に含まれるでしょう。

 これらは、どれをとっても結論を出すのが難しいものですが、少なくとも、労働分配率がどうのこうのといった管理会計技術だけでは結論は導き出せないと考えられます。

 こうしたことを踏まえ、本書の著者は、スピードが求められる現在の企業経営においては、経営者の(言わば、将棋の世界で言うところの)"大局観"に基づく判断(著者はこれを「プロフェッショナル・ジャッジメント」と呼んでいる)に頼るところが多くあり、実際、この"大局観"に基づく「判断」は大事であって、その養成に注力することが求められるとしています。

 本書では、要員計画策定と総額人件費管理において、正しい"大局観"を持ち、的確な「判断」を行なうためには、「戦略アプローチ」「財務アプローチ」「業務アプローチ」の三つのアプローチの、それぞれの基本とその組合せの必要性を理解し、「管理技術」を身につけることが肝要であるとしています。

 「戦略アプローチ」とは、会社の投資を考えて、経営判断によって決定していくアプローチであり、「財務アプローチ」とは、きちんと利益が出るようにするために要員を算出するアプローチであり、「業務アプローチ」とは、発生する業務量をしっかりこなしていけるためのアプローチを指します。

 本書は、これら「管理技術」の解説に主眼を置き、人件費・要員計画の策定の基礎から応用までを分かりやすく解説しており、4章・5章・6章での三つのアプローチの各解説に入る前に、2章・3章で「適正要員数と適正人件費算定の基本」や、人件費とは何かについても解説していますが、管理会計の専門的な技術解説には深入りせず、後半の三つのアプローチについて説いた部分の理解を助けるための程度に止めています。

 幅広い視野に立って解説されているだけでなく、基本解説および各アプローチの解説において、逐一、事例を掲げながら説明しており、読み終えると一冊"ドリル"を仕上げたような読後感がありました(購入特典として、現状分析から計画策定、将来予測まで、そのまま使える各種エクセルツールも、ウェッブでダウンロードすることが可能)。

 結局、ここで言う"大局観"とは、単なる経験に基づく"ヤマ勘"を指すのではなく(もちろん経験も大事だろうが)、多角的な視点に立った「管理技術」に裏付けされたものであるということになるのでしょう。"大局観"を"センス"という言葉に置き換えれば、"技術あってのセンス"ということになるのでは。

 経営者の頭の中にあるイメージのレベルも含めれば、要員管理・人件費管理を行っていない会社というのは、まず皆無かと思うのですが、例えば「業務アプローチ」のレベルでどこまで突き詰めて行っているかというと、心許無くなる会社もあるのではないでしょうか。

 実際、赤字だからと言ってリストラして、リストラしたら黒字になって、黒字になったからと言って人を採用したら赤字になってまたリストラ...といったことを繰り返している会社もあることだし...(「業務改善」といった業務アプローチどころか、「選択と集中」といった戦略アプローチからして無かったりする)。

 「戦略的アプローチ」「財務アプローチ」「業務アプローチ」の三つのアプローチの理解およびその組み合わせによってこうした"大局観"(センス)を養うことは、経営者に限らず、人事や財務の担当者にとっても重要なことであると思われ、本書を読むことが、自身の知識の充実やち啓発だけでなく、自社の要員管理・人件費管理の在り方をチェックすることに繋がる場合もあるかもしれませんね。

 最終章・第7章の「より一層の組織効率の向上に向けて」に、「日本的経営」と言われるイデオロギーの中に「事業戦略と人事戦略の連動性の弛緩」というのがあって、事業戦略と経営戦略の連動性を否定するものではないが、デジタルには連動させない特質があり、これを"腹芸"のような知恵として評価し、むしろ「事業戦略と人事戦略の連動性の弛緩」をマネジメントの基礎概念の中に入れておくべきだとしているのには、ナルホドと思いました。

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〈キャリア志向〉の強い社員の転職をバックアップするという発想転換を提唱。

太田 肇 『社員が「よく辞める」会社は成長する!』2.JPG社員が「よく辞める」会社は成長する!.jpg社員が「よく辞める」会社は成長する! (PHPビジネス新書)

 長引く不況で若者の安定志向が強まっていると言われ、調査でも「定年まで働き続けたい」と答える人の割合が増えているとされていますが、実際には就活中の学生や若いサラリーマンの〈キャリア志向〉は驚くほど強いと、著者は述べています。

 今の若者は、自分らしいキャリアを積むのが当たり前だと考えていて、「ステップ型就職」という意識で企業に入社してくるため、入った会社が自分の「適職」ではない、「自己実現」できそうにないと感じたら辞めることにためらいはなく、また、ある仕事で能力を高めたら、転職・独立してさらなる成功を目指す傾向にあるとのこと、しかも、優秀な社員ほどこうした〈キャリア志向〉が強いとのことです。

 そこで企業側も、辞めていく人に向かって塩をまいたり、石もて追うたりしても何の得にもならず、転職・独立が当たり前の時代を迎えた今、スマートで合理的な送り方を身につけるとともに、スピンアウトするエネルギーを、企業の活力と成長につなげるマネジメントモデルを構築していくことが求められるとしています。

 これまでの日本企業は、少なくとも高度成長期以来、長期雇用を前提に、何はともあれ、まず人材を確保し、使い方はあとで考えるという「ストック型」雇用システムを維持してきたが、これからの人材活用の最適解は「フロー型」マネジメントの中にあるとし、実際、伸びている会社は「フロー型」マネジメントを行っているところが多いとのこと、著者は「できる二割」の社員が抜ける組織は活力があるとまで言い切っています。

 個人にとって転職・独立に必要な年数と、会社側から見た「元がとれる」年数との間にはギャップがあるにしても、そのギャップは妥協が困難なほど大きくはないとし、目安として、入社3年で一人前に育て、10年で巣立たせ、その間の働きで上司も成果を手に入れる――要するに5年~10年程度を「適職選びの期間」と定め会社と個人の双方が損をしない仕組みを作れば、その期間に退職したとしてもそれまでに会社にかなりの貢献をしてくれるであろうし、また、そうした施策は女性や外国人留学生、非正規雇用社員の格差問題の解消にもつながり、社会的メリットもあるとしています。

 そのうえで、どうしても社員を流出させたくなければ社内に疑似的な労働市場をつくり、自分で仕事やキャリアを選択できるようにすればいいとしていますが、ただし、こうなると、やはり全社的には一定のストック人材を確保しておく必要もあるように思われました。

 また、「巣立ちのパワー」を生かすメカニズムの例として、ラーメン店の「のれん分け」制度や美容院の独立支援制度の事例が出てくるのが、かえって、こうした制度を入れる際に業種や職種が限定される印象を与えかねないような気もしました。

 社員の「巣立ち」を支援することは短期的・中期的に大きなモチベーションを引き出し、そのモチベーションが成果を大きく左右するのは、研究開発、デザイン、企画といった情報・ソフト系の仕事であると、著者自身そう述べているので、そのあたりの事例ももう少し欲しかった気がします。

 社員、企業、上司のそれぞれの立場から分かりやすく書かれていて、たとえば部下に「自立能力」をつけさせるには、異業種交流会やセミナー等を通じて「外の世界をわからせ」、そのことによって、本人にあらためて転職・独立の意思確認をし、また、自分の強みや弱みをわからせる、そして、第2テージとしてその「強みを生かし」、第3ステージとして、「強み」を伸ばしていくために実戦を経験させる―個人が自立すると、チームワークも良くなり、組織に対する帰属意識や愛着も、転職・独立する人のほうがより積極的な性質を帯びてくる―という論旨は、腑に落ちるものがありました。

 最後に、これからのリーダー像として「キャリア志向の部下を羽ばたかせる上司」像を提唱し、部下を育て、羽ばたかせることによって上司自身も成長できるとしています。

 優秀な社員をいかにして引き留めるかというリテンション施策に目が行きがちなところ、〈キャリア志向〉の強い社員の転職をバックアップすることで、会社と社員の間に「Win‐Winの関係」を築くというように発想の転換を促している点は、パラダイム変革的な提言として注目されていいかも。

 労働経済学ではスキルを、一つの会社でしか通用しない「企業特殊的スキル」と、どこでも通用する「一般スキル」に分類し、転職・独立するには「一般スキル」が必要だと言われていますが、著者は「外部通用性のある特殊的スキル」こそが転職や独立に役立つとしていて、このことは、当事者である社員自身が最もよく知っているのではないでしょうか。

 こうしたスキルは、伸び盛りの会社、業界内でも先端をいく企業においてこそより身につきやすいものであり、社員が「よく辞める」会社が成長するのではなく、成長している会社の社員は「よく辞める」ということになるんじゃないか。タイトルは「よく」に「良く」を懸けているのかもしれませんが、やや違和感あり、です。

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「人事の緑本(入門編)」。「人事の赤本(基礎編)」の"前"であり、「人事の青本(応用編)」と並んでお薦め。

はじめて人事担当者になったとき知っておくべき7つの基本3.JPGはじめて人事担当者になったとき知っておくべき.JPG人事担当者が知っておきたい、10の基礎知識。8つの心構え。』(人事の赤本)

はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割。(入門編) (労政時報選書)』(人事の緑本)

 企業が継続的に成長していくうえで欠かせない経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報のうち、最も重要なのが「ヒト」であることはドラッカーの指摘を待つまでもありませんが、経営管理においてその「ヒト」の部分を担うのが人事労務管理の役割であるといえるでしょう。

 では実際問題として、人事に新たに配属になった若手社員がいたとして、人事労務管理(人材マネジメント)の全体像がどれぐらい把握されているかというと、とりあえずは目の前の仕事をこなすことに忙殺され、近視眼的な視野でしか自らの仕事を捉えられていないということもあるのではないでしょうか。

 本書は、人事労務管理を担当する初心者から中堅クラスを対象に、人事の業務全般が体系的に把握できるように解説された入門書であり、2010年刊行の『人事担当者が知っておきたい、⑩の基礎知識。⑧つの心構え。―基礎編(人事の赤本)』『人事担当者が知っておきたい、⑧の実践策。⑦つのスキル。―ステップアップ編(人事の青本)』の姉妹本になります。

 第1章で「人事の基本」として7つの仕事を挙げ、第2章以下、人材確保から、人材活用、人材育成、働き方や報酬マネジメント、働きやすい環境、労使関係など、人事にとって重要な8つの役割について解説されています。

 原則として見開きごとに1テーマとなっていて、要点を絞って簡潔に解説されているうえに図説もふんだんに使用されていて、入門書としてたいへん読みやすく、内容的にもオーソドックスであり、新任の人事パーソンなどにも読みやすいものとなっているように思いました。

 こうした入門書において「読みやすさ」と「内容に漏れがなく一貫性があること」は大きなアドバンテージになるかと思われますが、本書はその両方を満たしており、人材マネジメントの基本的なコンセプトから、諸制度の枠組み、「採用」から「退職」までの業務の流れ、労働法・社会保険に関する基礎知識などが、バランスよくコンパクトに網羅されています。

 また、最終章では、環境の変化に伴うこれからの人事の課題として、少子高齢化、グローバル化、企業の社会的責任などを挙げ、それらに絡めて、これからの人事労務管理に在り方も説いていて、まさに「今」読むに相応しい入門書となっています。

 従来の人事労務管理の入門書が、実際には「マネジメント」領域までは踏み込んでおらず、実務中心のいわば「アドミニストレーション」偏重であるものが多いのに対し、この「緑本」「赤本」「青本」のシリーズを通して感じるのは、何れも人材の「マネジメント」という視座がしっかり織り込まれているという点です。

 部下に人事部の役割や仕事を教える際に、実は伝えるのに最も苦労するのがその「マネジメント」の部分であり、その点を含めてカバーしている点にこのシリーズの特長があるように思います。

【2017年第2版】

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日本における人事のフレキシビリゼーションの分析は秀逸。ディーセント・ワーク実現を提唱。

フレキシブル人事の失敗.jpgフレキシブル人事の失敗 日本とアメリカの経験』(2012/05 旬報社)

 明治大学経営学部教授の黒田兼一氏(1948年生まれ)と独立行政法人労働政策研究・研修機構の国際研究部勤務の山崎憲氏の共著(二人は山崎氏が明治大学経営学部経営研究科黒田教室で学んで以来の師弟関係にあるよう)です。
 著者らによれば、80年代後半以降、ICT(情報通信技術)の発展とアメリカ発のグローバリゼーションという二つの大波が押し寄せる中、企業経営においては、市場動向にフレキシブルに対応することが競争に打ち勝つ必須条件であるとされるようになったとしています。
 さらに、働く人びとの「働き方、働かせ方」も市場動向に合わせてフレキシブルにならなければならないとの考えのもと、人事労務「改革」によって、従来型人事労務管理のフレキシブル化が図られてきたとのことです。
 その「改革」とは、フレキシビリティに欠けるリジッドなあり方や慣行を見直し、変更するということですが、人事労務のあり方や労働慣行は国によって異なり、また、リジッドな領域も同じではないため、「改革」の狙いは同じでも、フレキシビリティの課題は違ってくるとのことです。

 本書では、第1章(黒田氏執筆)で日本の人事労務「改革」に、第2章(山崎氏執筆)で1980年代以降のアメリカの人事労務「改革」にそれぞれ焦点を充て、人事労務のフレキシビリゼーションの具体的な内容を探ることで、人事労務「改革」の中身を検討するとともに、第3章(共同執筆)で、その「改革」が市場動向に雇用と人事=処遇を合わせることによって働く人びとに苦難を強いるものであるとしたら、その現実の中から、働く人びとの「働きがいのある人間らしい仕事」(ディーセント・ワーク)を実現するには何が必要かを展望したものです。


 第1章「日本はアメリカを追っているのか―人事労務「改革」の末路」では、年功序列に見られるようなリジッドな「ヒト」基準の雇用・人事処遇制度にメスを入れ、市場動向にフレキシブルに対応する人事労務システムの構築することが、日本における人事労務「改革」の課題であるとするならば、日本は人事労務管理において、「ヒト」基準から「仕事」基準に雇用・処遇制度を移行することで「アメリカを追っている」ということになるのかを考察しています。
 そして、「雇用管理」における非正規雇用の広がりと多様化、「処遇制度」における「成果主義」の躓きと役割給の台頭、「時間管理」における長時間労働と残業など関する法規制の緩和などの流れをそれぞれ検証しています。
 そのうえで、日本におけるフレキシビリゼーションのターゲットは、リジッドな長期雇用慣行と「ヒト基準」の処遇であったとし、リジッドな長期雇用慣行に対しては、雇用の多様化、コア人材の絞り込み、非正規雇用の拡大という戦略がとられたとしています。
 一方、もう一つのターゲットである「ヒト基準」の処遇は、当初は「成果主義」というかたちで「ヒト基準」からの離脱を志向したがうまく機能せず、かえって従業員の労働意欲を減退させてしまい、そのため、従業員の労働意欲がもつメリットを損なわないようにするため、「ヒト基準」にとどまりながら、「ヒト基準」の中身を「年功と能力」から「役割貢献度」に移行させることで対処した(市場動向を反映させることができる「ヒト基準」に変更した)とし、「ヒト基準」を積極的に採用したのが日本型の賃金・人事処遇のフレキシビリゼーションであったとしています(「役割給」を「ヒト基準」と規定している点が興味深い)。


 第2章「アメリカン・ドリームの崩壊」では、1980年代以降のアメリカの人事労務「改革」を探るために、アメリカ型の人事労務管理の主流が形成された1930年代まで遡り、安定した労使関係を基盤とした社会政策の実現という考え方がしばらくは続いたものの1970年代以降ゆらぎを見せ、そうした中、1960年代から人的資源管理論が発展し、「労働の人間化(QWL)」施策などがとられたとしています。

 1980年代以降は、製造業の国際競争力低下という局面に際して、競争相手となった日本の人事労務管理なども参照しながら、労働組合の無い企業では「低賃金型」「官僚型」「人的資源型」「進出日本企業型」、労働組合のある企業では「伝統的ニューディール型」「(労使)対決型」「ジョイントチーム型」といった人事労務管理の多様化が進み、今日に至っているとのことです。
 そうした中、アメリカ企業における賃金・評価制度、職業訓練と能力評価、人事部の役割はどのように推移してきたかを解説し、その中で「職務基準」から「ヒト基準」への変更が見られることを指摘しています。

 また、高卒であっても企業で働くことができ、労働組合に守られ、一定の収入を得て家やクルマを買い、家族を養い、子どもに充分な教育を受けさせることが出来る―これこそがまさに「アメリカン・ドリーム」の真実の姿であり、これが崩壊したのが1980年代であり、その大きなきっかけとなったのが、日本企業の北米進出の成功とその影響によるアメリカの人事労務管理の日本化(ジャパナイゼーション)であったとしています。


 第3章「企業競争力を超えたディーセント・ワークに向かって」においては、まず冒頭で、これまでの分析を振り返り、日本とアメリカの人事労務管理はともにフレキシブル化に向かっているが、日本の場合は処遇に市場動向を反映させるための「ヒト基準」のフレキシブル化、アメリカの場合は「職務基準」から「ヒト基準」への変更と、総じて言えば、職務基準からヒト基準へ「収斂」してきていると概観しています(また、双方とも個人請負、パートタイム、派遣などの非正規雇用労働者の活用の動きは拡大しているとも)。
 そして、日本においては、人事労務管理のフレキシビリゼーション「改革」が、もっぱら企業競争力強化のために雇用と人事処遇を市場動向に合わせる「改革」であったから、働く人びとに格差と貧困、精神的圧迫と苦難を強いるものになったのであり、この問題を解決するには、「働きがいのある人間らしい仕事」(ディーセント・ワーク)を実現することが望まれるとしています。

 とりわけ、働く人びとにとって最も重要な課題である「雇用」の安定と企業内での「人事処遇」に的を絞って検討がされており、雇用に関しては、企業が求める「働かせ方」の多様化は避けられないように見えるが、それが不安定雇用層の大量創出となってはならず、そのために、原則として、一時的な仕事以外はすべて「雇用期間の定めのない雇用」とし、その中で、雇用調整のルールをどうするかなどを、時代の要請に沿って具体化していくことを提案しています。

 また、このことを前提に、賃金制度においては、正規・非正規の均等待遇、性差別賃金の解消に向け、「同一"価値"労働同一賃金」を実現すべきであるとし、そのためには、公平・公正な処遇が図れるよう、人事査定制度を規制していかねばならないとしています。
 そもそも人が人を正しく評価できるわけはない―にも関わらず、評価なしには処遇も報酬もできないとすれば、必要なことは評価の納得性であり、納得性という面を重視すれば、個人の問題ではなく、上司と部下、従業員相互の関係、更に言えば労使関係の問題として捉え直す必要があり、人事査定のあり方について、働く側からの規制・介入の道を探るべきであり、その役割は労働組合が果たすべきであるとしています。


 全体を通して、よく分析・整理されており、中でも、日本の人事労務管理の変遷の中で、リジッドな「ヒト基準」を市場動向に合わせで対応できるものに見直したのが、日本におけるフレキシビリゼーションであり、「仕事基準」に移行したわけではないことを、「役割給」の本質に絡めて解説している部分は極めて明快で、納得性の高い分析であると感じました。

 日本ではリジッドな「ヒト基準」を修正することがフレキシブル化であり、アメリカではリジッドな「仕事基準」を見直すことがフレキシブル化であった―どちらも市場の変化への対応を目指しているわけですが、基本の部分は堅持しているということになるのでしょうか(グローバゼーションへの対応度の日米間の格差は拡大しているという見方があるのだなあと)。

 しかしながら、「職務給」が日本に馴染まないことが「成果主義の躓き」によって再確認されたとするならば、「ヒト基準」の処遇制度の中で、どうやって評価の納得性を担保していくかということが課題になるわけで、そうした規制づくりを使用者側が一方的に行えば恣意的なものとなる恐れがあり、「査定される側、つまり労働組合による人事査定への介入と規制が決定的に重要となってくる」というのが著者らの提言です。

 要するに、集団的労使関係の中でそうした規制を定めていくということですが、この部分は、提言と現実の間に、「評価の開示」等に関しての埋めなければならない課題がまだまだあるように思われました(分析に優れる一方で、逓減部分がやや弱いか)。

《読書MEMO》
●目次
序 企業経営と雇用の世界で何が起こっているのか
  ウォール街を占拠せよ!/すべてがフレキシビリティの名の下に/本書のねらいと構成
第1章 日本はアメリカを追っているのか 人事労務「改革」の末路
  1 ドーアの嘆きとジャコービィの問題提起
  2 「改革」を促したもの
  フォーディズムの好循環/「改革」のはじまり――フォーディズムの危機/日本における新自由主義(ネオ・リベラリズム)の台頭と「日本的経営」ブーム/改革への本格的な導引――ICTとグローバリゼーション/フレキシビリティ
  3 「改革」の始まり 日経連の「新時代の『日本的経営』」
  日経連の人事新戦略/フレキシビリゼーションの課題/年功制打破と個別化/雇用ポートフォリオと能力・成果重視の人事制度
  4 人事労務管理「改革」の現実
   �雇用管理――正規雇用と非正規雇用
    雇用形態の多様化とフレキシビリティ/非正規雇用の広がりと多様化/確実に進んだ雇用のフレキシビリティ
   �人事と処遇制度――成果主義の混迷と役割給の台頭
   「ヒト基準」賃金とフレキシビリティ/「成果主義」賃金の混迷/「役割給」の台頭
   �時間管理――長時間労働と規制緩和
   労働時間のフレキシビリゼーション/脱法行為を含んだ時間管理のフレキシブル化の進行
 5 市場志向とアメリカ化の実相
第2章 アメリカン・ドリームの崩壊
 1 アメリカが追いかけてきたもの 一九八〇年代以前
  ウェルフェア・マネジメントと日本的経営/アメリカ型人事労務管理の主流/安定した労使関係を基盤とした社会政策の実現/もう一つの選択――人的資源管理/人的資源管理の導入と働きかたの変化/一九七〇年代――ゆらぎの始まり/労働の人間化(QWL)
 2 アメリカの変化 一九八〇年代以降
  競争相手としての日本/ダンロップ委員会
 3 アメリカの人事労務管理「改革」の現実
�多様化する人事労務 �賃金・評価制度 �職業訓練と能力評価 �人事部の役割
 4 分水嶺としての一九八〇年代
第3章 企業競争力を超えたディーセントワークに向かって
 1 アメリカの可能性
  社会と共生する人事労務管理の必要性/新しいパートナーシップの構築/
  太平洋を挟んだスパイラル
 2 日本の可能性
  新しい時代の雇用安定への模索/新しい賃金制度と均等処遇への道/労働時間短縮と
  ワーク・ライフ・バランス/日本におけるディーセントワークへの道

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経験に裏打ちされた八木氏の話は、これからの人事のあり方を示して大いに啓発的。

『戦略人事のビジョン―制度で縛るな、ストーリーを語れ』0.JPG
戦略人事のビジョン.jpg
   八木 洋介.jpg 八木 洋介 氏(LIXILグループ執行役副社長 人事総務・法務担当)
戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ (光文社新書)
LIXIL.jpg
GE.jpg 本書は、「日本GE」でHRリーダーなどを務め、'12年4月に住生活グループ(トステム、INAX、新日軽、東洋エクステリアの各社とLIXILが合併してできた会社。同年7月に社名を「LIXILグループ」に変更)に執行役副社長として転じ、人事・総務・法務を担当している八木洋介氏が、「人事」について語ったものに、「キャリア」「リーダーシップ」の研究者である神戸大学の金井壽宏教授が、章ごとに解説を加えた構成となっています。

 八木氏は、マネジメントには、「現在」を見て、勝つための戦略を立てる《戦略性のマネジメント》と、「過去」を見て、企業における歴史的継続性を重視する《継続性のマネジメント》があるとし、後者が行われている企業は世の中の変化に対して鈍感になりやすく、臨機応変な仕掛けよりも、以前につくった仕組みの温存にこだわりがちであり、そうした企業の人事部門は、前例踏襲を優先し、権限をたてに制度やマニュアルを固守するといった姿勢をとりがちであるとしています。

 そのうえで、いまだに職能資格制度を続けている企業や家族手当や通勤手当を払っている企業が多くあることなどを挙げ、多くの日本企業の人事部門は《継続性のマネジメント》に縛られていているとしています。

 では、《戦略性のマネジメント》とは何かいうと、「こうやって勝つ」という戦略ストーリーを分かりやすい言葉で語ることで、社員のやる気を最大化し、生産性を上げることであって、これこそが人事の役割であるとしています。

『戦略人事のビジョンのビジョン』.JPG 制度は権限を生み出し、人事制度ができれば人事部に権限が生まれ、人事担当者はル―ルや権限に基づいて仕事しがちになるとし、戦略人事における最大の課題は制度を固守することではなく、マネジジャーやリーダーの育成であるとしています。

 そのためには、人事担当者も自らリーダーシップを発揮していくことを求められるとし、人事担当者にとってのリーダーシップとは、権限ではなく見識を持ち、正しいことを正しく主張することであり、この場合の正しいこととは、ストーリー化した戦略であり、企業が業績を上げて成長していくための大きな絵(ビッグピクチャー)であり、あるいは世の中の変化に合わせて会社に起こすべき変革の道筋であるとしています。

 GEは「勝ちの定義」がはっきりしている会社であり、GEにおける「勝ちの定義」とは、「グロース(成長)とリターン(利益)」の追求であって(「雇用を守ること」は含まれていない)、その戦略にはストーリー性があり、社員に納得感のあるものであると。

 面白いと思ったのは、GEは「建前の会社」だとしていて、従来の日本企業の以心伝心、お互いの本音を探り合うようなコミュニケーションスタイルではグローバル化には対応しきれず、むしろ本音を封印し、社員が「建前で働く」会社にすることが、会社のグローバル化を成功に導くとしている点です。

 また、GEはオリンピックで金メダルを狙うアスリート集団のような企業だとして、GEがどのような人材を集め、どんなやり方で社員を評価しているのかを紹介するとともに、会社はさしずめ集団で行う"狩り"の場であって、但し、ライオンだって四六時中狩りをしているわけではないのだから、人間もしっかり休養をとらなければならないとも。

 ここまで経験に裏打ちされたわかりやすい論旨となっており、更に中盤においては自らが歩んできたキャリアのストーリーを語るなどしていて、八木氏自身が社員のやる気を引き出すためにどのようなことをしてきたかが具体的に語られています。

 そのうえで、リーダーを育てるにはどうすればよいかということについて、GEのリーダー育成法を解説しながら、それを参照しつつ自らが考案した、リーダー候補者たちに「自分の軸」を明確化してもらうことに重点を置いた日本発のリーダー育成プログラムを紹介しています。

 最後に、競争に勝ち抜くことを目的とする「強い会社」という概念と、自社の使命や価値観を追求し、社会に対して存在意義を示せる「よい会社」という概念は融合できるとし、日本企業が「強くて、よい会社」になっていくためには、まず、それぞれの企業が社会に対してもたらす真の付加価値をもう一度見定め、それを前面に打ち出していく必要があるとし、更に、「強くて、よい会社」をつくっていくために人事担当者が果たすべき役割や、そうした人事のプロには「人のプロ」であることが資質として求められるとしています。

 全体を通して、GEにおける自らの経験をもとに、実務者の視点から分かりやすく説かれており、一方で、日本企業のこれからの人事のあり方や人材育成の考え方の方向性に多くの示唆を与える内容となっています。
『組織変革のビジョン』.jpg
 実は本書刊行とほぼ同じ時期に、八木氏がパネラーを務めたディスカションを聴講しましたが、そこでも八木氏は、「世界からものを見る vs.日本からもの見る」「建前によるマネジメント vs.本音によるマネジメント」「戦略性 vs.継続性」「強い会社 vs.よい会社」という4つの視点から、本書で書かれてることを一貫して強調していました。

 「権限は人事で握らず、全てラインマネジャーに渡せ」「権限ではなく見識、ルールではなくイクセプション」「"狩り"をするために休ませる」「綺麗事を言って実行する」「世界で一番難しい問題を解決する会社」..etc. 刺激的なフレーズが八木氏の口からポンポン飛び出し、ああ、こんなエネルギッシュな人が外資の人事責任者をやるのだなあと、大いに触発されました。

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巷の評価が高かった割には、個人的には相性がイマイチだった2冊。

破壊と創造.JPG『破壊と創造の人事』.jpg「働くこと」を企業と大人にたずねたい.jpg
破壊と創造の人事』['11年]『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』['11年]

 『破壊と創造の人事』('11年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、帯には守島基博・一橋大学教授推薦とあり、Amazon.comでレビューでは高い評価で、『労政時報』のアンケートでも、人事パーソンが推薦する本に入っていました。

 第1章で「日本の人事」の歴史を辿り、バブル崩壊以降、2度の転換期を経ていることを指摘していて、このあたりはまあまあ導入部としてはよく纏まっていたように思います。第2章は、第1章の状況を踏まえ、これからの人事が、戦略人事として成果を上げるにはどうすればよいかを「教育・人材開発」「コーポレイトユニバーシティ」「採用」「グローバル化」「グループ人事」「メンタルヘルス」といったキーワードに沿って考察したとのことですが、この部分もキーワードとして挙げたテーマを巡る問題の解説としてはよく纏まっていたと思いますし、個人的には、「人材データベース」の節などは"我が意を得たり"という感じでした。

 それでいよいよ本論かと思ったら、第3章として、グローバル人材、経済、コーチング等いろいろな分野で活躍する第一人者へのインタビューが挿入され、第4章でやっと本論に、という感じ。ところが、この第4章の実際の中身は、人事担当者が現在おかれている位置と今後のキャリア形成について概観的に20ページぐらい述べられているだけで、その後すぐ、第5章として、著者が2年間で大企業を1000社以上廻って取材したという人事部長や人事部の各担当者のインタビューからの抜粋があり、これでお終わり。

 インタビュー集にするならインタビュー集で1冊に纏めた方が良かったような気もしますが、1000社以上廻った中から選んだという割には、インタビューの内容にもムラがあり、"玉石混交"感が。インタビューのテーマがあっちこっち飛ぶのも困りますが、そもそも、本論がどこにあるのか分からないような変則的な構成の本だったように思われました。

 『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』('11年/東洋経済新報社)は、これから就職しようとする人や若い人々に向けて、働くとはどんなことか、良き企業人とは、良き社会とはについて、さまざまな角度より論じた本で、著者は、企業の人事担当として、30年間のべ1万人にわたる人事・採用面接に立ち会ってきたとのことですが、まず、あまりこうした数字を誇示しない方がいいと思うなあ。著者の会社はしっかり面接していたのかもしれないけれど、世の中には、いい加減な面接で数だけは何万とこなしている採用担当者もいるかも知れないし。

 本の中身自体は、書いている人はすごく真面目そうだなあという感じがしましたが、あまりに"考え中"のことが多いような気がして、そもそも、コンサルタントでも評論家でもなく、現役の人事マンなのだから、あまり結論めいたことばかり言うのも変なのですが(その意味では自分に正直な人なのだろう)、しかしながら、"考え中"のことを"考え中"のまま書いているような気がしなくもありませんでした。

 冒頭の小説風の文章などはその典型で、そのモヤっとした感じが全体にも敷衍されていて、図説にもその傾向がみられたように思います。部分部分においてはそれなりの示唆を得られた箇所もありましたが、チャート図的に矢印で関連づけられていてその部分の解説が無かったりすると、どうしても引っ掛かってしまいました。

 読む人が読むと嵌るのでしょうが(自分が読者として未熟なだけかも)、全体に「思考ノート」みたいで、本にするのはちょっと早かったのではないかなあ。ただ、こちらもAmazon.comでレビューでは高い評価であり、玄田有史・東大教授の解説も付されています。

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現役の人事パーソンにとっても示唆に富むフレーズに満ちている。

人事部は見ている5.JPG人事部は見ている.jpg人事部は見ている。 (日経プレミアシリーズ)

 Amazon.com のレビューではそれほど評価が高くなかったのですが、読んでみたらなかなかよく、また、人事に関係する仕事をしている人の間では、「意外と優れもの」だったとの声も聴くことがあった本。
 基本的には一般ビジネスパーソン向けの体裁であるため、「出世の方程式」のようなものを期待して読んでしまった人もいたのかなあ。

 本書プロローグによれば、ビジネスパーソンに「人事」の仕事の実態を理解してもらい、自分自身のキャリアを考える際に役立ててもらうのが本書の狙いであるとのことで、帯には「企業で人事業務に携わった筆者が包み隠さず語ります」とありますが、実際、自らの体験や多くの人事担当者へのインタビューがベースとなっているため、読み物のように楽しく読めて、かつ、人事の"実態"を分かりよく解説しているように思いました。

 外から見た人事部と実際に人事部の中で行われていることの違いや、人事部員がどう思って仕事しているかなどは、キャリアの入り口にあり、人事の仕事を希望している人や、今は別部署で働いているけrども、将来は人事の仕事をやってみたいと考えている人には、大いに参考になると思われます。

 同じ人事部員でも、担当する業務によって性格傾向が異なることを著者なりに分析していて、例えば、異動や考課を担当する人事部員は、コミュニケーション能力とバランス感覚に優れた人が求められるといったように、それがそのまま、適性要件として示されているのが興味深いです。

 「公平な人事異動をしても7割は不満を持つ」「人は自分のことを3割高く評価している」といのは、まさに"実態"でしょう。「採用を左右するのは"偶然"や"相性"」であるというのも、経験者ならば思わず頷きたくなるのでは。

 「人事部の機能は担当する社員数に規定される」とし、人事部員にとって重要とされる能力が、企業規模によってその要素や重要度が異なってくることを統計で示すとともに、「社員と直接つながることがいいのか」を考察し、そのことに違和感を持つ人事部員も少なくないのではないかとしています。

 「目標管理だけでは真の評価はできない」とし、コミュニケーション・ツールとして割り切るべきだとの考えにも納得。評価されるポイントは職場内での評判だったりもするとして、様々な例を挙げて、人事部から見た「出世の構造」を解き明かしています。

 「人事は裁量権が残されている仕事だ」とし、「個別案件こそが人事部の存在意義」であるとしながらも、特定のマネジャーや部員の「正義の味方になるとしっぺ返しを受ける」というのも、身に覚えのある人事パーソンはいるのでは。

 最後に、現在、人事部は曲がり角に立っているとして、雇用リスクや働き方の多様化とどのように向かい合っていけばよいかを説くとともに、「社員の人生は社員が決める」ものであり、会社(人事)側も、社員のライフサイクルに応じたよりきめ細かな対応が求められるとしています。

 最初は、一般ビジネスパーソンに向けた「人事部の仕事」の入門書のように思えたのですが、読み終えて振り返ってみれば、現役の人事パーソンにとっても示唆に富むフレーズに満ちており、たいへんコストパフォーマンの良い本でした。
 人事部にいる人にとっては、"励ましの書"という感じかな。若手、ベテランを問わず、お奨めです(「人事部の仕事」のストレートな入門書としては、大南幸弘・稲山耕司・石原正雄・大南弘巳 著『人事部 改訂2版(図解でわかる部門の仕事)』('10年/本能率協会マネジメントセンター)がお奨めです)。


《読書MEMO》
●人事部員のキャラクターの違い(34p~42p)
・異動・考課を担当...コミュニケーション能力とバランス感覚に優れる(姿勢が真摯で誰に対しても公平)
・労働条件を担当...過去のいきさつや実際の運用事例も把握する必要(一人前になるには一定の時間を要す)
・労働組合との団体交渉担当...かけひきや揉め事が嫌いではないタイプ。
・人事制度の企画・立案担当...概念的な嗜好を好む傾向
・勤務管理・給与管理担当...縁の下の力持ち
・採用担当...明るくて感じのいい人(採用担当者の魅力が、応募者を惹きつける要素になるから)
●そもそも、人事評価は主観的であり感情面が大きくかかわってくる。求めるべきは、客観性や公平性ではなく、評価される社員の「うん、そうだ」という納得なのだ。
●一定の人数を超えると、直接個々の社員を知ることはできないので、所属長を通した伝聞情報で個々の社員を把握する。
●人事部の役割は、所属長をサポートすることであり、管理を代行することではない。
●どの職場を経験して、どのポストに就いているかが、現在の評価基準になり、将来の昇格の可能性を示唆する。
●どの職層においても、直接の上司との関係が基本的に重要だ。その上司の得意、不得意を観察すること。そのうえで、定期的にさまざまな報告をすること。
●人事権は、個人や役職者の権利ではなくて、経営権の一つなのだ。だから、人事権を自分の権限であると錯覚して、部下や後輩に威張り散らしたり、彼らの人生をコントロールできるなどとは決して思ってはいけない。

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人事パーソンへの応援歌であり、人事パーソンのキャリア形成に関する示唆に富む。

日本人事5.JPG 『日本人事 NIPPON JINJI~人事のプロから働く人たちへ。時代を生き抜くメッセージ~』(2011/08 労務行政)

 財団法人労務行政研究所の創立80周年を記念して発行された本とのことで、多彩な業界で活躍している15人の人事パーソンやOB・OGへのインタビュー集という構成をとっています。以前にパイロット版をちらっと読んで、なかなか興味深い企画のように思いましたが、今回通して読んでみて、共感させられる部分が予想以上に多くありました。

 インタビューの内容は、若い頃の苦労話、仕事での壁をいかに乗り越えたか、人事パーソンとしての信条や大切にしているもの、経営者や労働組合との関係構築方法など広範囲に及び、何れも示唆に富むエピソードやコメントを含んだもので、15人の話を一気に読んでしまいました。

 「人事」の仕事に携わる人事パーソンというのは、今まではあくまでも裏方という位置づけであり、個人がその「姿」を見せることは少なかったと思いますが、本書では、それぞれがビジネスパーソンとしてのキャリアをどのように積んできたかが自身の言葉で述べられていて、小説を読むように興味深く読めます。

 何れ錚々たる15人の顔ぶれですが、会社に入った時から人事をやるつもりだった人はおらず、社命等により人事に配属になった人が殆どであり、そうした中、"サラリーマン"という枠組みを超えて、どのように自分のやりたい仕事を発見し、自分を磨き、自己実現を図ってきたかが、体験的に語られています。

 大企業だからといって人事施策や諸制度がオートマチックに企画立案、導入されていくわけではなく、そこには人事パーソン一人ひとりの、社員にやる気を持って仕事をしてもらいたいという思いが込められており、また、経営層・労働組合との信頼関係がその支えになっていることを改めて感じました。

 登場する人事パーソンに共通していると思われた点は、人事部門にいながらも他部門への転出を希望するなど会社組織の現場を知りたいという意識の強い人や、人事のことだけを考えるだけでなく常に会社全体、世の中全体のことを考える志向を持った人が多いことです(人事=スペシャリストといった一般的なイメージとは随分異なる)。
 そう思いながら読んでいたら、堀場製作所の野崎治子氏が、自身へのインタビューの中で、「現場目線に立ち、多方面へアンテナを張ることが大事」としっかり要約していました。

 人事部門は社内でもエリートが集う部署という見られ方をすることが多いわけですが、ここに登場している人事パーソンは、その殆どが、入社以来ずっと順風満帆に陽の当たる道だけを歩んできたわけでなく、個々のキャリアの中では不遇の時代があったことが窺えます。そうした逆境を彼らが乗り越えることができたのは、それぞれが持つ強い意志と実行力の賜物であったと共に、メンターとなる経営者や上司との出会いが、そのキャリアの節目にあったことも見逃せないと思いました。

 「人事」の役割は、個人の能力を最大限に引き出し"人を活かす"ことに外ならないと、あとがきの「発刊によせて」で、齋藤智文氏と共に本書の取材及執筆を務めた溝上憲文氏が書いています。
 同僚をやる気にさせるにはどうすればよいか、部分最適に陥らず経営の方向性を見据えた全体最適を見据え、社員を一つのベクトルに導いていくにはどうすればよいのか、といったことについて、随所に経験に裏打ちされた提言が見られ、一般のビジネスパーソンや会社経営者が読んでも啓発されるものは多分にあるかと思われます(いわんや人事パーソンをや)。

 溝上憲文氏は、「人事部に元気がないと言われて久しい」とも書いていますが、個人的にもそれは感じられ、金融不況による緊縮財政、相次ぐM&Aなどによる先行き不透明な状況下で、非常に優秀なはずの人材が、極々短期的な視点でしか制度の改革にあたっていなかったりするのを見ることもあります。
 その制度改革すら課題山積で、やる気はある(或いは、やる必要は感じている)ものの、どこから手をつけていいのか分からず、途方に暮れているという状況も、少なからずあるかと思われます。

 本書は「人事」への応援メッセージが多分に込められているとともに、本が売れるとすれば、やはり「人事」はやや元気喪失気味なのかとも思ったりします。ただ、そうした中でも、次代のリーダーたらんという人は少なからずいるでしょう。あとがきで齋藤智文氏が書いているように、そうした人にとって「リーダーシップ発揮のためのよりどころ」となる本ではないかと思いました。

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報酬制度改革がまだ不十分というのは現場感覚に近い。人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっている。

2013年、日本型人事は崩壊する27.JPG2013年、日本型人事は崩壊する.jpg2013年、日本型人事は崩壊する! 企業は「年金支給ゼロ」にどう対応すべきか』(朝日新聞出版)

 タイトルにある「2013年」問題というのは、「2013年度からは60歳になっても厚生年金が受給できなくなる」ことにより起きると予想される問題を指しています。現在も、60歳から64歳までの間に支給される特別支給の老齢厚生年金は、1階の定額部分相当の支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられていますが、2013年度からは、2階の報酬比例部分も60歳から65歳へと引き上げられることになっています。

 但し、こちらも支給開始年齢の引き上げは段階的に行われるため、完全に65歳支給開始となるのは2025年度であり、ちょうどその時に64歳になる人については、その年も含めた前5年間(2021年度~2025年度)は年金が支給されないことになります。2013年度から60歳到達者がすぐに年金をもらうことができなくなるのは確かですが、2013年度に60歳になる人は、2014年度からは報酬比例部分の支給が始まります。60歳到達者を基準に、その人に報酬比例部分が支給されるのはいつかと考えると、それは2013年度から2021年度にかけて段階的に起きる問題であるととれなくもありません。

 しかし、いずれにせよ企業は、被用者の65歳までの雇用を実現し、さらには70歳までの雇用を考えていく必要があり、その1つの節目が2013年であることに異論はありません。こうした時代を迎え、わが国の人事制度や人材戦略は大きく変わらざるを得ないだろうと著者は予測しています。

 著者によれば、成果主義が流行したといえ、真の報酬改革を断行した企業は少なく、リーマンショックの影響で人材育成や人材活用への取り組みも道半ばであり、多くの企業で、嘱託者の処遇是正、実力主義への転換、若年層の効率的育成、高齢者や女性の活用といった課題が残されているとのことです。

 その上で、これからの報酬制度は、能力によって報酬が変わる制度から、同一労働同一給与の原則に基づく職務給制度への転換が求められるとし、給与については、職務評価をシンプルにして要員管理にも応用可能な日本型職務給制度を、賞与については、業績と賞与総原資との相関を強めた業績連動賞与を提唱しています。

 この部分はオーソドックスな提案であるがゆえに、2000年代前半までに何度もなされてきたものと重なる部分は多いのですが、企業の関心事はリーマンショック前にはすでに人材開発の充実やES(従業員満足度)の向上に移行しており、報酬制度改革はそれ以前に完了しているという認識が風潮としてある中、その改革は充分なものではなく、例えば年功的賃金などは実態として今でも残っているという著者の主張は、大方の人事の現場の実感に近いものではないでしょうか。

 報酬制度改革に伴い、人事部の人材採用や人材育成にも変化が現れるであろうとし、後半部では、人材育成やキャリア開発の進め方についても実務的な視点から解説しています。例えば、20歳代後半から選抜型エリート教育を開始し、自主性に任せるのではなく、半強制的に教育をする必要があるとし、内部講師を起用する機会が増えるだろうが、嘱託者に先生になってもらうのも一案であるといった具合に、高齢者の活用なども視野に入れた提言がなされ、さらに、中堅層や高齢層のキャリア開発のポイント、女性の活用支援策も提言されています。

 最後に、「日本企業に必要な価値観/風土」として、①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる、②年長者を敬う、③部下をリスペクトする、④助け合いの精神を共有する、⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識をもち続ける、の5つを掲げていますが、日本的風土として"守るべきもの"があり、それを失ってはならないという著者の考えが織り込まれているように思います。

 書名自体は煽り気味ともとれますが、人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっていると思います。企業が国際競争力を身につけるうえで、報酬制度改革は避けて通れない課題であり、2013年問題がそうした改革の契機になればという思いが込められているように思われました。併せて、次なる改革においては、報酬制度だけではなく、人材育成・キャリア開発といった課題にも人事は目を向けなければならないことを示唆した良書だと思います。

 《読書MEMO》
●日本企業が抱える人事・報酬システムの課題(62p)
①"55歳定年"が根底に残っている
② 給与カーブが年功的である
③ 人件費が変動費化されていない
④ マスメディアさえ報酬ポリシーを誤解している
⑤ 嘱託者が活躍していない
⑥ 女性がまだまだ活躍していない
⑦ 大学全入世代の受け入れ体制が整っていない
⑧ ハングリー精神などの面で中国人に完敗している
⑨ 諸施策がモチベーション向上につながっていない
⑩ コア人材の育成が遅れている
●これからの人材育成キーワード(153p)
① 半強制
② 基礎
③ 体験
④ 終身教育
⑤ PDCA
●日本企業に必要な価値観/風土
①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる
②年長者を敬う
③部下をリスペクトする
④助け合いの精神を共有する
⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識を持ち続ける

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社員全般の問題として働き方改革を提起していて、WLB入門書として今日的スタンダード。

職場のワークライフバランス90.JPG職場のワーク・ライフ・バランス 日経文庫.jpg    男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット.jpg  人を活かす企業が伸びる 帯付き.jpg
職場のワーク・ライフ・バランス (日経文庫)』['10年]/『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)』['04年]/『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』['08年]

 働き方を見直し、仕事と仕事以外の生活のどちらも充実させるワーク・ライフ・バランス(WLB)支援が、人材マネジメントにおける今日的かつ重要な課題であるという認識は、企業間に急速に浸透しつつあると思われます。また学究的立場からも、多くの研究者がこの領域に"参入"しつつあるように思います。

 本書は職場の管理職層を主な読者層として書かれた入門書ですが、研究者である著者らには、『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』(2004年3月中公新書)、『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』(2008年11月 勁草書房)などの前著があり、早期からこの課題に取り組んできた執筆者であると言えます。
 
 第1章から第2章にかけて、なぜワーク・ライフ・バランスが必要なのかを再整理し、今日においては「時間制約」のある社員が増えているにもかかわらず、職場の時間管理は、いまだに「時間制約」のない"ワーク・ワーク社員"を想定している場合が多く、今後は"ワーク・ライフ社員"も意欲的に仕事に取り組め仕事が継続できるような、働き方の改革が必要であるとして、その在り方、改革の進め方を提唱しています。

 第3章では、その際の重要ポイントとして、組織のコミュニケーションの円滑化を掲げ、何がコミュニケーションを阻害し、それを取り除いて組織コミュニケーションを円滑化するにはどうすればよいかを、具体的事例なども織り込みながら解説しています。

 後半の第4章では、育児・介護休業や短時間勤務制度を利用しやすくするにはどうしたらいいかを、例えば、制度利用を人事処遇にどう反映させるか(休業制度利用者の期間中の評価をどうするか)といったことにまで踏み込んで解説し、第5章では、女性の活躍の場を拡大することの必要を説いています。
 WLB支援と均等施策を"車の両輪"として推進すべきであるとの考え方は著者らが以前から提唱していることですが、ポジティブアクションという施策的観点から再整理されているのが本章の特徴です。

 第6章では、男性の両立問題を考察し、男性の両立を支援することが女性の活躍の場を広げることにもつながるとし、最終章の第7章では、キャリアプラン、或いは更に推し広げて、ライフデザインという観点から働き方を見直すことを提唱しています。

 以上の流れからみてわかる通り、従来のこの分野の入門書が、育児や介護と仕事との両立支援の問題から説き起こし、実はこれはそうした特定の社員の問題ではなく、働く人全般に関わる問題であるとして、働き方の改革を進めなければならないという論旨になる傾向があったのに対し、本書では、前半部分で社員全般の問題として働き方改革の問題を提起しており、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の入門書としては、今日的なスタンダードではないかという印象を持ちました。

 旧著『男性の育児休業』は、人材マネジメントというより労働社会学的観点から書かれた本ですが、北欧諸国における男性の育児休業取得率が高い要因として、法律で一定の強制力を持たせていることなどが紹介されていて、これを読むと、日本での法改正が緩慢であると思わざるを得ず、今読んでも日本がまだまだ遅れていることにインパクトを受ける本です。

 一方、前著『人を活かす企業が伸びる』は、ワーク・ライフ・バランス支援が企業にとってどのようなメリットがあるかを、データ分析により実証的に明らかにしようとしたもので(そのことを通して、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であるという結論への落とし込みもなされている)、こうした検証が日本は欧米に比べて10年以上も遅れていることからみても、意義のある研究であるとは思いましたが、学術書の体裁であるため具体的な提案はそれほどなされておらず、むしろ、入門書である本書の方が具体的な提案要素は多いように思いました。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジェフリー・フェファー)

「人材を活かす企業」になるための条件を示す。いま日本で注目されるのは、ある意味、皮肉?

人材を生かす企業.jpg人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式.jpg   ジェフリー・フェファー  『隠れた人材価値』.jpg ジェフリー・フェッファー(Jeffrey Pfeffer).jpg Jeffrey Pfeffer
人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか? (トッパンのビジネス経営書シリーズ (21))』『人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式』 『隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密 (Harvard Business School Press)

 本書は、1998年に米国で刊行され、同年に日本でも翻訳刊行された『人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか?』(トッパン)の12年ぶりの復刊本であり、原著は、MBAプログラムのコアカリキュラムと選択科目の両方で学ばれる古典的な名著です。
 著者のジェフリー・フェファー米スタンフォード大学教授は、同じスタンフォード大のチャールズ・オライリー教授との共著『隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密』('02年/翔泳社Harvard Business School Pressシリーズ)などの名著もある人です。

 そのフェファー教授は、本書において、人員削減によるコスト削減を批判し、優れた人材管理能力(人材の活用と育成が図られる企業のしくみ)に基づいた収益向上こそが重視されるべきであると主張しています。

人材を活かす企業1.jpg 今でこそ、人材価値に重きをおくことは、人材マネジメントの不変的トレンドとしてずっとあったかのように思われていますが、著者によれば、また、監修者の守島基博・一橋大学教授もあとがきで書いていますが、本書刊行当時の米国では、人材重視の経営は珍しいことであり、多くの企業は、従業員の存在を無視して、競争に勝つための戦略にばかり気をとられていたとのことです。

 その結果、事業の売買やダウンサイジング(規模縮小)が横行し、派遣社員やアルバイトなどの臨時雇用が急増して、社内の結束力が弱体化したとしています(参照しているのは主に80年代から90年代にかけての米国の企業事例だが、まるで2000年代の日本のことのように読める)。

 一方で、第2章では、人材重視の施策をとった一部の企業の成功事例を、業種別に引いています(その中には日本企業も含まれている)。
 更に、第3章では、「人材を活かす企業」になるための7つの条件として、①雇用の保証、②採用の徹底、③自己管理チームと権限の委譲、④高い成功報酬、⑤幅広い教育、⑥格差の縮小、⑦業績情報の共有を挙げていますが、何よりも、生産性を上げるためには雇用の保障が大切であるとしているのが目を引き、更に、社員教育の重要性を説いているのが印象に残りました。

 人材マネジメント全般を扱った本ですが、畳みかけるように豊富な事例を繰り出す一方で(こうした事例を多く読むことも啓発効果に繋がるかも)、章ごとに論旨が分かりやすく結論づけられていますし、例えば、第6章のでは、安易なダウンサイジングを批判しながらも、どうしてもリストラをしなければならない場合の望ましい方法について述べるなど、現実対応にも触れています。

 賃金制度の立案・運用に携わっている人事担当者などは、第7章の「給与問題へのアプローチ」から重点的に読んでみる読み方もあるのではないでしょうか。上記「人材を活かす企業」の7つの条件の「④高い成功報酬」とは異なる観点から、個人対象の業績給(成果に基づく変動給)の問題点を厳しく指摘しています(チームワークや信頼を損ない、社員が報酬を争って敵対すると)。

 守島氏があとがきで書いているように、この本が出た1998年当時まで、日本の多くの企業は、本書で著者が提唱する「人材を活かす企業」であり、それまで人材は、企業のなかで貴重な資源として、尊重され、育成され、ある程度の長期雇用を保証されてきた―それが、バブル崩壊以降、多くの日本企業は、短期的な雇用関係に移行しつつあった米国をモデルとして追従してしまった―という見方も成り立ち、本書から多くの示唆が得られるというのは、ある意味まさに皮肉であるように思います。

 日本企業も、「人材軽視」が当たり前になってしまったとは思いたくありませんが、本書の論旨が、「普通のこと」(=人材軽視の経営)をしていてはダメだという論調になっているのが興味深かったです。
 欧米には、「ベストプラクティス・アプローチ」の理論が伝統的に根強くあり、いま現在もそれを指向していて、日本企業もグローバル・スタンダードの潮流の中で、それに巻き込まれようとしているという見方もできるのではないでしょうか。

 この辺りに興味を持たれた読者には、須田敏子・青山学院大学教授の『戦略人事論―競争優位の人材マネジメント』('10年/日本経済新聞出版社)へ読み進まれることをお勧めします。 

 欧米における戦略人事の2大潮流であるベストプラクティス・アプローチとベストフィット・・アプローチをベースに置きながら、企業における人材マネジメントの形成・定着・変化のメカニズムを知るための包括的戦略人事のフレームワークを提示するとともに、日本型人材マネジメントの変化のメカニズムの分析を通して、日本型人材マネジメントの今後の課題を浮き彫りにした力作ですが、実はこの本では「フェファー理論」は差別化モデル(ベストフィット・モデル)ではなくハイ・パフォーマンス・モデル(ベストプラクティス・モデル)の一環として位置づけられています。

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HRMが多様化した現状にマッチしたテキスト。実践に役立てようとしている社会人にも。

経験から学ぶ人的資源管理.jpg 『経験から学ぶ人的資源管理』 (2010/10 有斐閣ブックス)

 本書は、組織における人事マネジメントについて学ぼうとしている大学生や、実践に役立てようとしている社会人を念頭において書かれたテキストであり、大学生レベルの日常経験や感覚からでも、人事の世界の面白さや重要性が十分に理解できるよう、概念の説明や事例の選択に工夫を凝らし、平易で明快な説明となることを期したことから、「経験から学ぶ」と冠しているとのことです。

 3部構成の第1部で、人的資源管理とは何かを、日本のこれまでの「人のマネジメント」の歴史的流れも含めて概説し、第2部では、採用・配置、キャリア開発・人材育成・教育訓練、評価・考課、昇進・昇格、賃金・福利厚生、安全・衛生、労使関係、退職のそれぞれについて、章ごとにその仕組みを解説しています。

 ここまでは従来の人的資源管理論のテキストと項目的にはあまり変わりませんが、第3部で、「現代的トピックス」として、女性労働・高齢者雇用、非正規雇用、裁量労働・在宅勤務、ワーク・ライフ・バランスを取り上げており、人的資源管理が多様化している現状にマッチした、アップトゥデートな内容になっているように思いました。

 ここ数年における人事労務テーマの多様化は、『労政時報』(労務行政研究所)や『人事実務』(産労総合研究所)など人事専門誌の特集記事の推移からも窺え、以前は、賃金制度や諸手当などの金銭的処遇関連の特集が中心的だったのが、今は、コーチングや部下コミュニケーション、マネジメント層や組織全体の活性化、ワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティ、メンタルヘルス等々、そのカバー範囲の拡大ぶりは著しいものがあります。 
 人事パーソンが勉強しなければならないことがそれだけ多くなったということでしょうが、少なくとも、こうしたテキストが、少しでもそうした状況に即したものになることは、望ましいことだと思います。

 また、実践に近いところで書かれているのも本書の特徴であり、企業の最新の人事施策の事例なども多く紹介されていて、コラム(コーヒーブレイク)では、各章の領域に関する背景や時事トピックスについて説明しています。
 さらに、巻末の参考文献欄とは別に、各章末に、「さらに進んだ学習のために」として、日本語で書かれた比較的平易な書物に限定して、出版年の新しい順に5冊提示しており(話題になった単行本、新書本なども多く含まれている)、そうした意味でも、今"旬"のテキストと言えるかと思います。

 大学の授業やゼミナールで使われることを想定して、各章末には演習問題が設けられており、それらに答えが付されているわけではありませんが、「出題意図と解答のポイント」が、有斐閣のウェブサイトで、PCや携帯電話からでも見ることができるようになっています(親切だが、あくまでも考察を助けるための"親切"であって、そこにも答えが出ているわけではない)。

 大学のテキストとしては、図説も多く、比較的入り込み易い方ではないでしょうか。ざっと通読した後で、より関心のある部分をじっくり再読(精読)するという読み方も可能かと思います。
 とは言え、学生で、全く現場を知らないまま、このテキストに書かれていることを全部読んで、頭に入れ、企業に入社してくる新人ってどうなのだろう(ちょっと怖い?)というのは、正直あります(まあ、そんな頭のいい学生は、実際には企業に入らず「研究」方面に行くのかなあ)。
 むしろ、人事部に配属された学習意欲のある初任者、これから職務拡大を図ろうとする中堅・若手、人事のトレンドを把握しておきたい管理職など、各層にお薦めできる本です。

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要するに「内発的動機づけ」理論。読みやすいが、ほとんど新味が感じられない。プレゼン上手。

モチベーション3.0 .jpgダニエル・ピンク(Daniel Pink).jpg
モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(2010/07 講談社)
ダニエル・ピンク(Daniel Pink)著述家、ジャーナリスト、スピーチライター。 Daniel Pink in 「TED」(日本語訳)

 タイトルから、新しいモチベーション論を展開している本かと思う人も多いのではないかと思いますが、そうではなく、これまでの動機づけ理論の流れを分かり易くまとめた1冊といった方が適切でしょう(読み易いことは読み易い)。

モチベーション3.0 週刊東洋経済.jpg 人を動かす力、つまりモチベーションを、コンピュータを動かす基本ソフト(OS)に喩え、〈モチベーション1・0〉が、生存(サバイバル)を目的としていた人類最初のOSだったのに対し、〈モチベーション2・0〉は、アメとムチ(信賞必罰)に基づく、与えられた動機づけによるOSであるとしています。
 そして、その〈モチベーション2・0〉は、ルーチンワーク中心の時代には有効だったものの、今日では機能不全に陥っているとしています。
from「週刊東洋経済」

 では、〈モチベーション3・0〉とは何かというと、それは、自分の内面から湧き出る「やる気」に基づくOSであり、活気ある社会や組織をつくるのは、この新しい「やる気=ドライブ」であるとしています(本書の原題は"Drive")。

 アメとムチによる〈モチベーション2・0〉がうまくいかない理由を、心理学の実験による検証例によって解説し、賞罰制度の問題点を指摘する一方、「内発的動機づけ」による"新しい"モチベーション論を展開していて、「全米大ベストセラー」の書とのことですが、6年前に日本でベストセラーになった、高橋伸夫氏の『虚妄の成果主義』(日経BP社)に書かれていたことと、成果主義に対する批判的検証の手法も含め、論旨はほぼ同じであるように思えました。

 「内発的動機づけ」理論は、高橋氏のあの本によって日本のビジネス界でも広く知られるところとなり、ある種の心理主義に過ぎないのはないかという批判もあった一方で、その後も、太田肇氏による「承認欲求論」や、キャリア発達論とリンクさせた「自律的人材論」として、より実務に近いかたちで理論的に深耕されてきたように思います。

 そうした中で本書を読んでも、それほど"新しさ"を覚えないのは当然であり(本書を読んで「目から鱗が落ちた」と今さら言う方が問題)、むしろ、行動心理学などの分野の多くの先達たちが唱えたことが分りやすく解説されているので、原点に立ち返る意味での復習と自己啓発にはいいかもしれません。

 事例紹介も豊富で、ベストバイの元役員が編み出したROWEという、仕事の成果さえあげればどこでいつ何をやろうが構わないという仕事のスタイルを、あるシステム会社で導入したところ、効率が大幅に向上し、しかもこの環境に慣れた人は年収が上乗せされても転職しない傾向が強いとか、アトラシアンというシステム会社では3カ月に一度「Fedex Day」というのを設けていて、これは「24時間、好きなことをしていいが、その成果を必ず上げること」というものですが、このFedex Dayから売れ筋商品が生まれることもしばしばだといった事例は、確かに、先進事例として分りやすいことは分かりやすいです。でも、どこかで読んだことがあるようなものばかりと言えなくもありません

Daniel Pink in TED.jpg また、〈モチベーション3・0〉の3つの要素として、「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」を挙げていますが、やりがいのある仕事を自律性のもとですることができて、さらにそのことによってスキルの向上が図れるのであれば、当然のことながら「やる気」は持続するであろうし、それが自らの人生の目的と合致するのであれば、なおさらのことであるという、言わば、当たり前のことを言っているに過ぎないともとれます。

 帯に、「時代遅れの成果主義型ver.2.0は創造性を破壊する」「停滞を打破する新発想!」とあり、この点での"新味"は感じられなかったものの、同じく帯に、「あなたは、まだver.2.0のままです」ともあり、頭ではわかっていても、実際にはまだ「信賞必罰」的な(マクレガーの「Ⅹ理論」的な)考え方に捉われがちな経営者やマネジメント層に向けた、"自己啓発本"とみていいでしょう(結局のところ、それほど悪い本ではないが、もの足りないといったところか)。

 訳者は大前研一氏(の名前になっている)。マネジメント誌などで取り上げられ、人事専門誌などでも、この「3.0」という考え方に沿った連載などもありましたが、流行ること自体は別に構わないと思うけれど...。

 ダニエル・ピンクは、2011年の「Thinkers50-経営思想家ベスト50」にランクイン(29位)。最近、自己啓発家色を強めているけれど、この人の代表作はやはり、米国クリントン政権下で労働長官の補佐官、ゴア副大統領の首席スピーチライターを務めた後、ホワイトハウスを出て1年間にわたり全米をヒアリング調査して纏めた現代社会論(同時に未来社会論でもある)『フリーエージェント社会の到来』('02年/ダイヤモンド社)でしょう(実務者が自己啓発家に転じる例は日本でも見られるが...)。

モチベーション3.0文庫.jpgモチベーション3.0 文庫.jpg【2015年文庫化[講談社+α文庫]】

   


モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)


【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント) 

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経営人事課題の直近のトレンドをよく纏めているが、"おさらい"的な分析に終始しているとも。

「いい会社」とは何か.jpg『 いい会社」とは何か9.jpg
「いい会社」とは何か (講談社現代新書)』['10年]

 「いい会社」とは何かという視点は、経営者だけでなく、人事の仕事に携わる人にとっても欠かせないものだと思いますが、本書は、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所(RMS研究所)がこれを研究テーマとして取り上げ、「いい会社」とは何かを探ったものです。

 冒頭で、バブル経済以前から現在までの企業の置かれた環境と、その時々に試みられた人事施策を振り返り、企業における個人と組織の関係の変遷を追いつつ、現代においては、従業員の会社への信頼が低下し、働きがいは長期低落傾向にあるとしています。

 さらに個人の視点に立って「働きがい」とは何かを「マズローのZ理論」(マクレガーのY理論にX理論の強制的因と方向付けの要因を組み合わせた改良型Y理論)などを取り上げながら考察し、「働きがいのある会社」では、経営と働く人間との「信頼」が重要なファクターであることを指摘しています。

 以上を踏まえたうえで、財務的業績がいい企業が「いい会社」であることには違いないが、財務的に大きな飛躍はないものの、長く事業を継続している企業もまた「いい会社」であり、さらに、働く人の「働きがい」というのも、「いい会社」を考える上での大事な視点であるとし、「いい会社」とは何かを探る指標として、この「財務」「長寿」「働きがい」の3つを挙げています。

 さらに、「財務的業績がいい企業」と「長寿企業」に共通する特徴として、①時代の変化に適応するために自らを変革させている、②人を尊重し、人の能力を十分に生かすような経営を行っている、③長期的な視点のもと、経営が行われている、④社会の中での存在意義を意識し、社会への貢献を行っている、という4つを導き出し、それが、本書でいうところの「いい会社の条件」ということになるわけですが、以下、そうした「いい会社」に見られる経営者の考え方や経営人事面での施策を紹介しています。

 ③の「長期的な観点での施策」は、何らかのポリシーに基づかなければ長続きできず、そのよりどころとして、④の会社の「社会的存在意義」を挙げており、「いい会社」においては、企業理念や組織風土に「社会の中で生かされ、社会への貢献」という内容が組み込まれていて、そのことが企業の成長に一役買っていると分析しています。

 会社の「存在意義」を認識していることが信頼関係のベースであるということですが、その信頼関係をより強めるためには、「社員一人ひとりと向き合う」ことが大切であり、そのことが会社の業績を伸ばすことにも繋がるというのが、本書の言わんとするところでしょう。

 経営人事が抱える課題の直近のトレンドを探るうえではよく纏まっており(こうした、これまでの推移及び現状分析は、著者らの得意とするところ)、全体の論旨も、企業の社会的責任(CSR)から、働く人の多様な価値観(ダイバーシティ)へと旨く繋げているように思えました。

 ただ、あまりに旨く纏まり過ぎていて、突飛な主張に走っていないという意味では「抑制が効いている」とも言えますが、逆にあまり読み応えを感じないとうのが、個人的な感想です。

 「社員一人ひとりと向き合う」ことがいかに大変なことであるかは、筆者らも十分に認識しているのですが、その結論に至るまでの"おさらい"的な分析がメインとなり、結論部分の堀り下げは、やや中途半端なまま終わっている感じもしました。

 所謂「研究所」系のレポートみたい。最近の講談社現代新書って、こういうの多くないか?

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日本企業の強みを生かしつつ、時代の変化に対応するにはどうすればよいかということの処方箋。

人材の複雑方程式  日経プレミアム.jpg 『人材の複雑方程式(日経プレミアシリーズ)』(2010/05)

 '06年から'09年にかけてビジネス誌「プレジデント」に連載されたコラムがベースになっている本で、バブル崩壊後、2000年代初期(当連載の開始時期以前)にかけて導入された成果主義的な評価・処遇制度や人材ビジネスに関する規制緩和が、その後の企業の人材育成に複雑な変化をもたらしたことを、冒頭で指摘しています。

 具体的にどのような変化が起きたかというと、それは、人という資源の重要性、人材育成機能や働きがいの提供、働く人の経営に対する信頼など、人にまつわる基本要素が脆弱化したことであるとしていて、本書は全体を通して、そした傾向に警鐘を鳴らすとともに、そうした状況に対する多くの処方箋を示唆するものとなっています。

 前半部分では、日本企業の職場の特性とリーダーシップの関係について論じるとともに、なぜ日本企業においてリーダーが育たないのか、どのようなリーダー(フォロワーシップを含む)が今後は求められるのかを考察しています。

 中盤部分では、終身雇用への心情的回帰現象を踏まえつつ、会社と従業員の信頼関係の再構築を図るには何が鍵になるかを示し、また、その中での人的ネットワークのもつ経営上の価値というものを強調しています。

 そして、後半部分では、今後、人々の働き方の改革が始まるであろうことを前提に、企業はどのようにすれば、働きやすさや働きがいを従業員に提供することができるかを考察しています。

 本書で述べられている「リーダーシップの状況対応理論」などは、理論としては必ずしも目新しいものではありませんが、ベストリーダー像を固定観念で捉え、現場リーダーに過剰な期待を寄せてしまうことの危うさを説く論旨のなかで、「どこでもリーダー」という分かりやすい言葉で提唱されると、すとんと腑に落ちるものがありました。

 各論においても、個人情報保護、コンプライアンス、ワークライフバランスといった概念に対する盲従的な礼賛の危うさを、鋭く批判してしており、その箇所を読んで、それまで抱いていた何となくもやもやしたい印象が(やっぱりそうかということで)すっきり晴れる読者も多いのではないでしょうか。

 日本企業が長年にわたって培ってきた協働、人材の育成、コミュニティ、同質性の促進といった組織的な強み(こうしたものをいきなり否定してしまったのが2000年代初頭にかけての様々な施策だったとも言える。そうしたももの価値を再考させてくれるだけでも、本書の「価値」は高い)を生かしつつ、時代の変化に対応していくにはどうすればよいかということについて、多くの示唆を与えてくれる本だと思います。

 さらに、展開されているリーダー論、組織論、労働論に、現場で実際に仕事をしている人間の心理面に対する著者の洞察が織り込まれているのが良いです(組織行動論は著者の主たる専門分野)。

 但し、3年間の連載を1冊の新書に詰め込んだために、新書にしては密度が高い分、イシューが多すぎて「複雑」になったという感も否めなくはなく、内容が良いだけに、各論についてもっと踏み込んでもらいたかった気もしますが、新書では叶わぬ望みか。

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人事の課題について1テーマごとによく纏まって解説されている"テキスト"。

人事再考2909.JPG人事再考.jpg 『人事再考 ~プロが切り込む人事の本質~』['10年]

 同じコンサルティング会社(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に所属する人事コンルタント(所謂"人事のプロ")が自主的に集い、人事制度・人事施策に関する近年の重点テーマを抽出し、自らの研究成果を共同執筆したもので、テーマごとに、その基本的な考え方から本質まで、理論から実務的な課題の解決方法までを解説しています。

人事フレーム」「目標管理制度」「業績連動賞与」「人事評価制度」「グローバル人材管理」「業務改善と人材育成」「モチベーション管理とES調査」「給与制度」「退職給付制度」の9つのテーマで、1人のコンサルタントが1章を執筆担当しています。

 各章とも、①テーマの本質、②テーマの本来の目的・意義、③テーマの具体的な設計法、④テーマのスムーズな運用方法、⑤まとめ(プロとしての主張)という構成で統一されているため読み易く、また再読し易いものとなっています。

 例えば「人事フレーム」について書かれた章では、能力・職務・役割に基づく等級制度のそれぞれの特徴を比較しつつ、「役割等級制度」の設計について具体的に解説するなど、人事制度の在り方の現時点でのスタンダードに即した内容であり、また、何れのテーマについても、それらについて再考することが企業の成長・発展に繋がっていくという考え方が貫かれているのがいいです。

 但し、「再考」という観点からすると、「目標管理制度」など一部で運用の形骸化が見られるものについては、本来の目的・意義に立ち返るという意味においてその言葉が当て嵌りますが、全般的には、1テーマ20ページそこそこという限られた紙数の中で実務的なポイントに触れ、事例なども掲げているいるため、紙数不足になってしまったと言うか、その分、今後に向けての提言という面ではやや弱いようにも思いました。

 テーマごとに要点整理され、簡潔に纏まっているという点では、経営者や一般のビジネスパーソンにも手にし易い本であると思われ、実務面での留意点を抽出し、ポイント解説しているという点では、これまで人事制度の策定にあまり携わった経験がない人事・経営企画の新任担当者にも読みやすい"テキスト"であると思います。

 書かれていることは何れも筋(すじ)論であり、そうした意味では良書だとは思います("一応"、評価は★4つ)、ハードカバー製本、関心を引くタイトルの割には、「論考」というよりむしろ「教科書」的な色合いの強い本のように、個人的には感じました(このままの内容で、日経文庫の1冊として刊行されていても違和感のない内容)。
 実際、実務面に関する記述のウェイトがそれなりに高いのですが、人事部以外の読者をも想定して、ビジネス書っぽい体裁にしたということでしょうか。

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「GPTW1位企業」の経営者の人材採用・育成・定着施策。ITベンチャーらしいなあ。

君の会社は五年後あるか2.jpg 君の会社は五年後あるか 帯.jpg君の会社は五年後あるか? 最も優秀な人材が興奮する組織とは (角川oneテーマ21)』['10年]

 成長著しいIT企業(ワークスアプリケーションズ)の若きトップが、自社の人材戦略を自ら語ったもので、すでにこの会社のことは人事専門誌などでも紹介されていたりするため、さほど目新しさは感じませんでしたが、一般向けの新書ということで、読み易いことは読み易かったです。

 この会社が注目を浴びるようになったのは、「働きがいのある会社ランキング」で'09年に4位、'10年にはトップになったことも影響しているかと思いますが、これは、サンフランシスコに本部があるGreat Place to Work Institute(GPTW)のサーベイの、'07年から始まった「日本版」調査であり、企業の「働きがい」を高める具体的な施策について「採用する」「歓迎する」「触発する」「語り掛ける」「傾聴する」「育成する」「配慮する」「祝う」「分かち合う」といった組織風土面の従業員意識調査を行って採点し、ランキングを決めるものです。

 結構この調査は、毎年ランクイン企業の順位が入れ替わるので、1位になったタイミングでこうした本が出るパブリシティ効果は大きいし、また、それが出版の狙いであるという穿った見方も出来るわけですが('10年のトップ10のうち6社はIT企業であり、この業界の人材獲得競争の熾烈さを反映しているとも言える)、そうしたことは抜きにして、改めて参考になった面もありました。

 人材育成のコンセプトがしっかりしていて、「勉強ができた人を、仕事ができる人に育てる」ということですが、これ、グーグルとかマイクロソフトと同じだなあと。基本、先ず優秀な人材を採るわけですね、しかも新卒で(新卒採用に重きを置いているのは、'10年のGPTWで6位にランクインしているサイバーエージェントなども同じである)。そして、育成と定着を図る―。

 あと、評価(人事考課)に力を注いでいて、プロセス重視の「相互多面評価」を取り入れると共に、何をもって優秀な社員とするかを明確にしています。
 それと、こうした進取の気質溢れる会社では、社員が退職し独立するのはやむを得ないとしても、独立した後でまた出戻ってくるのは歓迎するとしています。
 もちろん、育児休業なども手厚く、産休から復帰した社員には特別ボーナスが出るとのことです。

 個人的に思うに、ソフト産業界には四年制大卒・文系女子がかなり流れるため、一から教育した投資分を人材の定着を図ることで回収しないと、初期の教育投資が無駄になってしまうというのもあるのでしょう。

 そうした業界特有の状況もあっていろいろ講じた施策(ある意味、"競争"的にそれをしている)が、現在の人事マネジメントのトレンドである「人を尊重する」或いは「ワークライフバランス」といったものに偶々合致したともとれますが、その結果、業績が伸びているのだから、ワークライフバランス施策を講じることが企業業績の向上に繋がるという恰好の見本であるとも言えるかと思います。

 経営者が自分で書いて、登場する人物が役員や幹部社員だったりするため、宣伝気味の感は拭えず(人事専門誌で読むとそうでもないのだが、こうして新書で読むとね)、実際には本書に書かれていない裏事情もあるのではないかと。

 でも、ベンチャーから大企業然とした会社になるのではなく、ベンチャーからメガベンチャーになるのだと最後に述べているのは、この会社のこれからの課題をよく認識しているように思えました。

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元暴走族、オタクと、所謂「不良社員」とでは、それぞれ違うのでは。著者自身に"レッテル貼り"傾向が。

「不良」社員が会社を伸ばす 太田肇.png 『「不良」社員が会社を伸ばす』(2010/09 東洋経済新報社)

 帯に「実戦力や独創性に欠ける〈優等生〉に替わって、元暴走族、元ヤンキー、元レディス、オタクなどが新たな価値を創造し会社を繁栄させる」とあります。

 〈不良〉が排除されてきた「組織の論理」や「人事部の損得勘定」に対する批判として、「やらされ感」に支配された〈優等生〉と、「やりたい感」に突き動かされてきた〈不良〉のモチベーションの違いを対比させ、企業はどちらを求めるべきかという問題提起の仕方をしています。

 元不良だったのが、今は企業で頑張っている、或いは企業を経営しているといった事例が紹介されていて、若いうちに社会からドロップアウトしてしまった人に対する、励ましや勇気づけにもなっているのかも。

 ただ、本書で取り上げている〈不良〉というのが、元暴走族・ヤンキーなどと元オタクであり、かなり型にハマってしまっていて、なお且つ、ヤンキーとオタクでは随分違うのではないかとも思いました。
 著者自身、この違いを認識しながらも、〈優等生〉に対するアンチテーゼとして、それらをほぼ一緒くたに論じていて、そうしたところに、逆にある種の"レッテル貼り""上から目線"的なものを感じてしまいました。

 一方で、本書における〈不良〉とは、「一流大学卒」に対する「三流大学卒」であったり、所謂「不良社員」であったりもし、最終的には(著者の持論である)"「承認欲求」を満たしてやることで「彼ら」の動機付けが図られ、それが会社や組織を変える"という論旨に繋がっていくわけですが、その「彼ら」の部分に、それら全て(元暴走族・ヤンキー、オタク、三流大学卒、所謂「不良社員」)が含まれるということのようです。

 前著『承認欲求―「認められたい」をどう活かすか?』('07年/東洋経済新報社)に重なるテーマですが、元暴走族と、オタクと、更に、いま現に社内にいる「働かない社員」とでは、それぞれ違うのではないかと思われ、やや乱暴な普遍化も見られるように思いました。

 むしろ、優等生ばかりで構成された組織の弱さ、危うさの指摘に説得力を感じましたが、この点においても、"分り易さ"を優先させたのか、やや論旨が粗いような気も。
 「受験秀才だが知恵がなく行動力もない〈優等生〉たちが日本を衰退させた」と著者が言う〈優等生〉は、優等生であることが直接の問題なのではなく、その優秀さ(能力)の組織内での使い方、使われ方が問題であるように思います(ここにも、著者の"レッテル貼り"傾向が見られる)。

組織戦略の考え方.jpg こうした問題については、一橋大学の沼上幹氏が、『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』('03年/ちくま新書)の中で、「育ちの良い優等生の〈大人〉たちが組織内で多数になると、厄介者の言うことがかなり理不尽であっても、組織として通してしまう場合が出てくる」(「厄介者の権力」)、或いは、「(スキャンダルで)密告者が権力を握るのではない。根性のない優等生たちが恐怖にとらわれ、その恐怖心を気持ちよく解消する〈美しい言い訳〉を創り上げる宦官が権力を握る」(「バランス感覚のある宦官」)などといったように、組織論的な観点から"分り易い"言葉で指摘しています。

沼上 幹(つよし)『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』 ちくま新書 〔'03年〕
 
 

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分り易く書かれた「人事の奥義書」。人事パーソン育成の「定本」としてお薦めできる。

『人事担当者が知っておきたい、⑧の実践策』.JPG人事担当者が知っておきたい、⑧の実践策。⑦つのスキル。.jpg
人事担当者が知っておきたい、8の実践策。7つのスキル。』(2010/08 労務行政)

 本書は、人事の仕事に携わる人を対象とした解説書で、姉妹本『人事担当者が知っておきたい、⑩の基礎知識。⑧つの心構え。』が「基礎編(人事の赤本)」であるのに対し、「ステップアップ編(人事の青本)」という位置づけになります。

 前半部分では、日本の人事管理の変遷についての解説があり、続いて「8つの実践策」として、人事部門の役割と仕事内容が解説されています。
 具体的には、人事部門の構築と機能、人事ポリシーの明確化、人材配置、採用・選考、人事制度の企画・運用、労務問題の種類と対応、人材育成(教育・研修)の7つのテーマについて、それぞれの考え方のフレームや運用を見据えた企画、運用時の留意事項など、戦略立案から企画の実際までを解説し、8つ目に、プロの人事担当者になるためにはどうあればよいかが書かれています。

 この「8つの実践策」の部分は、カバーする範囲は以上の通り広いのですが、実務経験豊かな人事コンサルタントが単独で執筆担当しているため論旨に一貫性があるとともに、『基礎編(人事の赤本)』の「10の基礎知識」と同じ執筆者であるため、シリーズとしての一貫性もあるように思いました。

 また、例えば冒頭の、人事部門の構成と機能について解説している部分では、人事部門の"三権分立"として、人事企画を「立法」に、人事運用を「司法」に、オペレーションを「行政」になぞらえ、そのバランスの重要性を説くなど、ユニークで分りやすい解説が随所に見られ、人事部門と経営企画部門など他の管理部門との関わり方など、これまでの入門書ではあまり触れられていなかったようなことについて書かれているのも、本書の特長ではないかと思います。

人事担当者が知っておきたい.jpg 採用・選考などその外のテーマについても、実際に実務で起こり得る場面を想定して、"実践テクニック"的なことにまで踏み込んで解説されていて、執筆者個人の見解も織り込まれていたりし、執筆者の経験からくる思い入れが随所に込められている点が、本書の、一見「教科書」のようで通常の教科書らしからぬところではないでしょうか。

 後半部分の「7つのスキル」は、人事担当者に求められるビジネスマインド・スキルや人事管理の現状分析の進め方、コミュニケーション・スキルの高め方、さらには、労働法・労働判例の見方、労働組合・労使関係対応の基礎知識などについて、それぞれの分野の専門家が執筆分担をして解説していますが、こちらも、定型的・表面的な解説に留まらず、重点ポイントを絞り込んで、執筆陣のそれぞれの思いが込められた解説がなされているように思いました。

 全体としてはバラエティに富む内容となっていますが、確かに「テキスト」ではあるが、総花的な「入門書」という印象は無く、むしろ実務に沿って分り易く書かれた「奥義書」といった感があり、図説が多用されていてコラムなども充実しているため、そのことがさらに内容の理解を促し、関心を持って読めることの助けになっているように思います。

 400頁というボリュームの割には価格も手ごろ(2,900円。「労政時報」の別冊の割には安い?)で、人事パーソン育成の「定本」としてお薦めできる1冊です。

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行動科学マネジメントによる職場ストレスへの対処法。内容的には浅く、一般啓蒙書レベル。

たった1つの行動が職場ストレスをなくし.jpg 『たった1つの行動が、職場ストレスをなくしモチベーションを高める -お金ではないトータル・リワードという考え方』(2010/06 東洋経済新報社)

 職場ストレスを会社のコストの問題として捉え、ストレスが職場に存在するとき、問題は労働者にあるのではなく、従業員がストレスに対処できるような職場設計をすることが肝要であるとして、マネージャーやリーダーが、或いは従業員自身がとるべき行動を、「行動科学マネジメント」の観点から示唆した本。

 外国人との共著ということで、ストレスマネジメントの手法が米国流のプラグマティックな行動科学をベースに解説されていますが、分かりやすいことは分かりやすいものの、内容的にそれほど深くはなく、よくある"洋モノ啓蒙書"みたいな印象を受けました(ハマる人はハマるんだろなあ)。

 「たった1つの行動」というのが何を指すのかよく分らないし、サブタイトルにあるトータル・リワードについては2ページぐらいしか触れられておらず(これでは具体性は望めない)、いかにもとってつけたような感じ。

 著者には『「続ける」技術』('06年/フォレスト出版)というベストセラーもあり、年に何冊もの啓蒙書を出しているようですが、固定ファンがいるみたいですね。

 本書はamazon.comのレビューでの評価も高いようですが、本の刊行と同時に5つ星評価のレビューが続き、何れも過去に数冊しかレビューしていないレビュアーなのに、その数冊の中にも著者の前著のレビューがあって、それも5つ星評価であるとなると、やらせ臭い感じがしないでもない...(まあ、ありがちなやり方だが)。

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"フリーライダーのタイプ分析までは良かったが、対策は抽象的で、最後は自己啓発書?

フリーライダー―あなたの隣のただのり社員4.jpgフリーライダー―あなたの隣のただのり社員.png 『フリーライダー あなたの隣のただのり社員 (講談社現代新書)』['10年]

 最近よく耳にする「フリーライダー」という言葉ですが、会社で、毎日何をしているかわからないようなことをやっても給料は一人前にもらう人、自分からは動かないで周囲の人をこき使って成果を手にしようとする人、部下が何か新しいことを始めようとしても仕事が増えるからと言ってそれを阻止し、それでいて自分の地位は安泰の人―などを、そう呼ぶようです。

 本書ではそうしたフリーライダーを、もうこれ以上出世できないからとだらだらゲームをやっているような「アガリ型」、人のアイディアを自分のこととしてうまく報告、部下には強いが人事権を持つ上の人には忠犬のように忠誠を見せる「成果・アイディア泥棒型」、自分の仕事を客観評価ができず(都合よく考え)自分を批判する人を攻撃する「クラッシャー型」、最低限の仕事だけこなし、現状維持、改革しようとする人を潰す「暗黒フォース型」の4タイプに分類しています。

 このタイプ分類までは興味深く読めたのですが、それぞれのタイプに対する組織としての問題解決策(対応の仕方)が、例えば、「アガリ型」に対しては、ビジョン、方針を明確化する(何を目指して努力をするのか、努力の先に何があるのかをわかりやすく伝える)とか、上から順番に厳しい成果プレッシャーを与えるとか(組織がポジションにふさわしい能力の人を登用し能力にふさわしい報酬を支払い、報酬に応じたプレッシャーを与えて責任を持たせる)...云々と、制度やシステムへの落とし込みにまでは至らず、抽象レベルで終わっているような印象を受けました。

 後半は、自分がフリーライダーにならないようにするにはどうしたらよいかということが書かれていて、要するに「人の振り見て我が振り直せ」的な自己啓発書だったのか―と。

 著者らは、同じ講談社現代新書の『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』('08年)の執筆メンバー4人の内の2人。残り2人の内の1人は『職場は感情で変わる』('09年)を著していますが、"スピンアウト"していくにつれ、自己啓発書みたいになっていって、最初の本が一番まともでした。

 講談社現代新書は、かつてはエスタブリッシュメントなイメージがあったけれども、最近は玉石混交気味で、この本なども、新書で出す意味がよく分からず、時たまと言うか、結構安易な本づくりをしているのではと思わざるを得ません。

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"目からウロコ"というよりは、極めて"まとも"。但し、啓蒙レベルを出ないが。

社長の人事でつぶれる会社、伸びる会社.jpg社長の人事でつぶれる会社、伸びる会社』(2009/11 幻冬舎)

 著者は日本ヒューレット・パッカードの人事部門で20年近く勤務し、現在は人事・採用コンサルティング会社を経営して11年になるという人で、本書は、とりわけ中小企業の経営者に向けて書かれた本とのことですが、帯に「経営者・管理職に読ませたい本」とあるように、管理職が読んでも違和感がないものです。

 「人材採用」「社員の育成」「女性社員の戦力化」「管理職の指導と育成」「後継者選び」の5つの人事マネジメント上の課題について、それぞれ10ずつの「鉄則」を掲げていて、「社員全員のモチベーションを高めようとするのは無意味」、「経験者の採用は常に賞味期限との戦い」、「平均的業績ならば給与は落ちていくと悟らせなければならない」といった刺激的なフレーズが並びますが、中身を読んでみて、内容的には、長年の経験に裏打されたその考え方は、ほぼ納得のいくものでした。

 特に共感したのは、「新卒採用をやめると5年後にツケがくる」として新卒採用の重要性を説くと一方で、「中途採用は"いつまでもつか"の予測が肝心」とし、更に、経営幹部の外部からの登用については「経営者はお金で買えない」「外部幹部の成功率は2割程度」と言って、その成功率が低いとしていることで、これは、著者の会社が採用業務のアウトソーシングを請け負っているだけに、真実味があるように思いました。

 また、女性社員の戦力化を5つの課題の1つにあげ、女性のキャリア形成に対する配慮や心理的なケアにまで踏み込んで書かれているのも、類書ではあまり見られないことなのではないかと思います。
 但し、「一人でランチをとる女性はリーダーの素質あり」などという表現になってくると、その会社と社員を見たうえで、状況に応じて経営者にそっと話すべき所謂クライアント・トークであって、これが活字になっているのはオーバー・ゼネラリゼーション(過剰な普遍化)ではないかとも思いました(この章がいちばん踏み込んで書かれていて興味深いのだが)。

新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか.jpg 著者の前著『新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか―失敗しないための採用・面接・育成』('09年/光文社新書)も、内容的にはオーソドックスで、採用に際して応募者に志望動機やキャリアビジョンを語らせても、将来性志向だけでは空回りするものであり、今まで何をしてきたか、どんな役割だったかを、掘り下げて雑談風に聞くのが良いというのは、本書にも「面接で志望動機を聞くのは時間のムダ」とあるのと、ほぼ同趣旨です。

新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか (光文社新書)』 ['09年]

 但し、前著には、そうした考えに基づく実際の「雑談形式」面接の進め方の例も出ていますが、これはこれで、面接する側に相当のヒューマンスキルが求められるような気もしました(そうしたスキルの習得についてのコンサルティングに応じるということか?)。

 本書では「セルフモチベーターを見極めなさい」と言っていますが、抽象的な啓蒙レベルに止まっているから違和感なく読めるのであって、具体策に踏み込んでいくと、納得できる部分もあれば、実際どうすればいいのかとか疑問を抱かざるを得ないような部分も出てくるのであり、その点で本書は、(経営者向けということもあるが)書かれていることの多くが啓蒙レベルの域を出ていないように思います。

『社長の人事でつぶれる会社、伸びる会社』.jpg 個人的には、本書の内容自体は、「啓蒙書」としては、"目からウロコが落ちる"と言うよりは、極めて"まとも"だと思います。
 但し、自分の会社が置かれている状況の中では、それらの「鉄則」(「提言」と言うべきか)の内、どれがどう当て嵌まるのか、また具体策に落とし込むにはどうしたらよいかをイメージしながら読まないと、本書を読んで1ヵ月後に振り返ったとき、「50の鉄則」のうち具体的な記憶としてどの程度の内容が残っているかは、甚だ心もとなくなるような気がします。

 例えば、前著の場合、「雑談形式」面接というのは、具体的な方法論であり、個人的には脳裏に残りました。でも、相応のヒューマンスキルが面接官に求められる気がする...。
 本書の場合も、「新卒採用の2チーム体制」といった具体的な方法論は、やはり印象に残ります。でも、採用業務にそてほど人手を割けないような中小企業の場合、どうやってそれをこなしていくかという問題が残るように思いました。

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内容は尤もだが、タイトルずれしている。総花的、且つ啓蒙的な、コンサル誘引のための本。

「即戦力」に頼る会社は必ずダメになる.bmp 『「即戦力」に頼る会社は必ずダメになる (幻冬舎新書)

 タイトルから、採用のあり方に関する本かと思いましたが、その部分について触れられているのは僅かで、むしろ社員の処遇のあり方、人材育成のあり方について主に書かれており、企業の組織風土改革にまで話は及んでいます。

 第1章で、巨人軍など野球選手の年俸の決定の仕組みを、大企業のサラリーマンの賃金決定のそれになぞらえ、給料と売上げの"カラクリ"を解説していますが、もともと労働者性の希薄なプロ野球選手の話を持ち出すこと自体にやや無理があるように感じました。

 第2章では、歩合給の会社がダメな理由を説いていますが、ここでも損益計算書などを持ち出してやや回りくどく、第3章では「ノルマ」「競争」「残業」の害悪を説いていて、ああ、「成果主義」批判が論旨なのだなあとようやく判ってきたのですが、その間に転職回数の多い人は生涯賃金が必ずしも高くないとか、一般サラリーマン向けの話も挿入されていて、この部分が「即戦力」に関する話なのかと思われましたが、読者ターゲットが見えにくい面も。

 後半、第4章は、企業内で「教えあう」風土を作ることの大切さを説き、最後の第5章は、組織内で「稼ぐ力」をつけるにはどうすればいいかという、一般サラリーマンに向けた啓蒙的な話になっています。

 非常に分かり易く書かれているし、書かれていることはどれも尤もなのですが、啓蒙レベルに止まっている感じで、テクニカルな面での新味はあまり感じられませんでした。

 著者の前著『上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか?』('08年/ナナ・コーポレート・コミュニケーション)も、リテンション(人材引き止め)について書かれたものと言うより、部下のモチベーションをどうやって維持するかという話であり、こう"タイトルずれ"が続くと、編集者ばかりでなく、著者の側にも責任があるように思えてきます。

 Eメールがもたらしたコミュニケーションの弊害など、部分的には共感できる箇所もありましたが、全体として、管理職や人事部のヒトが読むには物足りない内容ではないかと思います。

 総花的、且つ(具体性に欠けるという意味で)啓蒙的で、細かい施策については「弊社にご相談を」みたいな、コンサル誘引のための著者の講演会を聴いているような、そんな本でした。

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いろいろな点で、企業へのワーク・ライフ・バランス施策提案、個人への啓蒙の魁となった本。

会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案.jpg会社人間が会社をつぶす.jpg
会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案 (朝日選書)

 次世代育成支援対策推進法が'03年7月施行に施行され、以降、ワーク・ライフ・バランスに関する本が幾つか刊行されるようになり、今はワーク・ライフ・バランスという言葉もかなり定着したように思えますが、本書は'02年の刊行であり、ワーク・ライフ・バランスの"ブーム"の魁とも言える本。

 著者自身は'00年12月に"ワーク/ライフ・コンサルタント"として独立しており、日本で最初のこの分野の専門コンサルタントだそうですが、本書のしっかりした内容からしても、それは認めていいのではないでしょうか。

 本書には著者自身の経験が織り込まれていて、日本生まれの韓国人である著者は、米国留学を機にMBAを取得して米国系企業に就職、5年間の勤務の後、日本に戻って米国系運輸企業にて人事系の仕事を担当しましたが、そこで自らの仕事と家庭生活の両立が困難になり、会社を辞めざるを得なくなったとのことで、その際に、同じような悩みを抱えている人は多いはずと考え、ワークライフバランス・コンサルティングの会社を設立したとのこと(会社を辞めざるを得なくなって、自ら会社を作ることにしたというのが実にアクティブ!)

 米国及び日本国内の米国系企業で働いた経験と照らして、日本の一般の企業のワーク・ライフ・バランス事情が米国に比べいかに遅れているかということが、個人の経験だけでなく、実証データを用いて明らかにされていて、結論としては「社員の私生活を尊重することが企業の業績向上に繋がる」ということを言っています(これは、日本では最近になってやっと言われてきたことではないだろうか。しかも、現実には多くの経営者が、ワーク・ライフ・バランスをまだ福利厚生施策にの一環としてしか捉えていない)。

 その結論に至るまでに、様々なワーク・ライフ・バランス施策の類型、導入例などが紹介されていて、それらが、今現在、国や地方自治体が企業に対して助成金などを絡めて導入の働きかけをしているものをかなり先取りしており、且つ、より広い視野から、それを超える施策を提示しているのも注目に値します。

 経営戦略という観点からワーク・ライフ・バランス施策を提案することは、今は民間のコンサルタントもやっていますが、そういう言い方をした方が企業に受け容れられ易いという戦術的なものの、フォロアーの手本になっているかも。

 一方で本書は、「自己把握と自己実現のための演習」という最終章で、自己の意識改革をし、個人としてワーク・ライフ・バランスを確立することも強く勧めていますが、こっちの方も、働く側に向けた最近の啓蒙書の類型を先駆的に示しているように思えました。
 それが、勝間和代氏などになると、一発逆転を賭けた「成功本」に変質してしまい、相当ムチャなことを言うようになって...、一旦、本書に立ち返った方がいいのではないかと。

 個人的には著者に対しても、本書からも(前職では年10回以上の海外出張をこなすビジネスウーマンだった)、実際に会った印象からも、相当"モーレツ"な人だなあという印象は受けたのですが。

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ほぼオーソドックスだが、大企業、メーカーにやや偏っている。誰と比べて「プロ」なのか?。

人事のプロ.gif 『人事のプロ (THEORY BOOKS)』 ['09年]  人事はどこまで知っているのか.jpg 岩瀬達哉 『人事はどこまで知っているのか (セオリーブックス)』 ['08年]

 著者は企業の人事部を経て今は人事コンサルタントをしている人、企業における人事評価や出向・転籍、採用や昇格、賃金制度、労務問題への対応などについて、人事部の中でどのようなことが行われているか、また、それらの今あるべき姿というものがどのようなものであるかを書いていて、人事の内実を明かしたという点では、同じ講談社セオリーブックスの『人事はどこまで知っているのか』(岩瀬達哉著/'08年)と似てなくも無いですが、あちらはジャーナリストが書いたもので、一方のこちらは「人事のプロ」が書いたもの (とのことで、ある程度期待して読み始めたのだが...)。

 事例を入れて読み物風にわかり易く書いていますが、書かれていることの趣旨自体はオーソドックスである分、尤もであっても特に目新しさは無く、気になったのは、それぞれのテーマや話の背景として想定されているのが、大企業、生産部門を持つメーカー企業に限られていると思われる部分がある点と、人材教育・育成的な話にウェイトが置かれていて、制度的な話になるとそれほど専門的なことが書かれているわけではなく、運用論などで啓蒙的方面に逃げてしまっていること。
 また、全体として、社内コミュニケーションの大切さなどは説くが、企業も従業員も成長していくにはどうしたら良いかという大きな視点がやや希薄な印象を受けました。

 「人事のプロ」というのは、一般の人事部員に対して「プロ」なのか、一般の社員に対して「プロ」なのか、「セオリーブックス」(ビジネスパーソン全般がターゲット?)の1冊ということで、後者ともとれるわけで...。

 実際、著者の経歴を見ると、大手自動車部品メーカー(トヨタ系)の人材開発部出身で、そこに10年いたとのことですが、企業規模が大きいだけに、10年では経験できる業務領域は限定されるのではないかと思われ(本書に書かれているような人事が外からどう見られているかということは、人事部長まで経験しなくとも、人事に数年いれば分かる)、独立後も"メーカーを中心に"人事制度構築と浸透に関するコンサルティングを行っているとのこと、中小企業にいる人や非製造業にいる人が読んでも、ややぴんとこない部分があるのはいたし方ないかも。

 一般の人が「読み物」としてざっと読むにはまあまあですが、人事部に何年かいる人が読んでも、それほど多くのものが得られるようには思えませんでした。

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「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

人材登用のトレンドを探るが、人事専門誌に書かれていることの域を出ない。

人事と出世の方程式.jpg人事と出世の方程式.jpg 『人事と出世の方程式 (日経プレミアシリーズ)』 ['08年]

 ジャーナリストである著者が日本のトップ企業の人事の基本方針、主に幹部社員の登用のあり方について取材していて、新書のわりには取材量は豊富ですが、タイトルにあるような「出世の方程式」がそれらから導き出されるというものではなく、結局、人材登用を決める側は決める側で自社適合の仕組みを考えなければならないし、社員は社員で企業に寄りかかるのではなく自立した職業人として、或いはリーダーとして成長していかなければならないということでしょうか。

 社長に上り詰めた人、一旦置かれた苦境から立ち直ってヒット商品を生み出した人など華々しい例も出てきますが、そうしたこと以外に、最近の企業の人事・人材育成の動向などが、具体的な選抜方法や評価、研修制度、賃金制度なども含めて広く紹介されていて、その部分については参考になったと言えば参考になったし、オーソドックスと言えばオーソドックス。

 参考になった点は、成果主義の弊害ということが昨今言われるものの(経営トップの外向けの発言はともかくとして)企業の人事部は成果主義というものをさほどに否定していないように思えたこと、但し、仕事の結果だけでなく資質的なものを見る傾向にあること、また、大企業では幹部候補社員の選抜時期を早める傾向が近年見られるということなどでしょうか。

 更に、管理職への道がこれまで閉ざされていた女性や外国人などに対する処遇をダイバーシティマネジメントの観点から見直す傾向にもあるということですが、人事専門誌などにある近年の動向情報や今後の人事マネジメントの展開予測の域を出るものでは無く、まあ、再確認できたというぐらいでしょうか(この新書の"プレミア"の意味は実は"プライマリー"ではないかと、時々思う)。

 気になったのは、各社の人材登用の事例がいまだに人材の「選抜」という観点で紹介されていることで、人材にゆとりのある大企業ならともかく、中小企業では人材の「確保」そのものが大きな課題になっていて、少子高齢化社会の到来を考えれば、今後は限られた人材をどう生かすかということの方が、企業規模を問わず課題になってくるのではないかと思われたこと(大企業の方がすべてにおいて進んでいるとは限らない)。

 女性の活用だけでなく、コースに乗れなかったため目標を喪失している人、会社や仕事に対してコミットメントしきれていない人を、どう活性化し再生していくかということも、広い意味でのダイバーシティマネジメントだと思うのですが。

2008年06月19日 日経朝刊.jpg 2008年6月19日 日経朝刊

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日米の「働きがいのある会社」の比較は大いに参考に。調査の今後に期待できる。
 
働きがいのある会社65.JPG働きがいのある会社1.jpg 日本におけるベスト25.jpg 『働きがいのある会社―日本におけるベスト25』 (2008/06 労務行政)

 米フォーチュン誌がヘイグループと共同で毎年発表している「世界で最も賞賛される企業(The World's Most Admired Companies)」ランキングというのがありますが、これとは別に同誌は、サンフランシスコに本部があるGreat Place to Work Institute(GPTW)がサーベイしている「最も働きがいのある会社ベスト100(100 Best Companies to Work For)」というのを'98年からから発表しています。

 本書は冒頭で、この「働きがいのある会社ベスト100」がどのような経緯で始まり、何を基準としてそのように選ばれるか、過去にどのような企業が選ばれ、それらにはどのような特徴があるかが詳しく書かれていますが、やはり上位に来る企業はどれも、経営理念、人材育成理念がしっかりしている一方、ワーク・ライフ・バランス施策が充実しているのがわかります(アメリカのベスト100に選ばれた会社の29%は、社内託児所があるという)。

 '08年のランキングを見てみると、Googleが2年連続で1位で、以下、Quicken Loans、Wegmans Food Markets、Edward Jones、Genentech、Cisco Systems、Starbucks、Qualcommと続きますが(因みに、本書刊行後に発表されている'09年のサーベイではGoogleは4位。'09年の1位は'08年14位だったNetwork Appliance)、「世界で最も賞賛される企業」(こちらは'08年、'09年と連続してAppleが1位)と顔ぶれがかなり異なるように思え、また、1年間でかなり順位が変動するのも興味深いです(過去11年間全てランクインし、平均順位が最も高いのはSAS Instituteだが、'07年は48位、'08年は25位)。

 これと同趣の調査をGPTWが'07年から日本でも始め、本書はその'08年版の調査結果の取り纏めでもあるわけですが、「働きがいのある会社」の日本版の'08年のトップはマイクロソフトで、以下、ソニーマーケティング、モルガン・スタンレー証券、リクルートエージェント、アサヒビール、堀場製作所、日本郵船、キッコーマン、日本ヒューレット・パッカード・・・と続き、ただ野次馬的に見ていっても興味深いです。

 但し、本来注目すべきはこの調査の特徴で、「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」というGPTWの評価分類別要素を日本企業にも適用し、人材理念の質的な検証すると共に、「働きがい」を高める具体的な施策について「採用する」「歓迎する」「触発する」「語り掛ける」「傾聴する」「育成する」「配慮する」「祝う」「分かち合う」といった組織風土面の従業員意識調査を行っていて、これらはそれぞれの企業で従業員がどのような気持ちで働いているかを知るうえで大いに参考になります。

 その上で更に、労働時間(年間所定労働時間、年間総労働時間、フレックスタイム制度、在宅勤務制度)や年次有給休暇(日数・平均取得率)、育児・介護等の休暇の有無(法定期間を超える育児・介護・子の看護休暇、育児・介護のための短時間勤務制度・始業就業時間の繰上げ繰り下げ・時間外休日労働の免除など)といった客観数値、制度の有無も評価対象としていて(育児・介護については国の次世代育成支援推進策のガイドラインに沿っている感じ)、社風や経営理念など定性的なものから諸指標、具体的な制度の有無など定量的なものまでトータルで評価しランキングされていることが分ります。

 フォーチュン誌の「最も働きがいのある会社ベスト100」と比べると、「日本企業のベスト25」においてさえもまだまだ改善の余地があることを本書は物語っていますが、日本の企業が今後こうしたワーク・ライフ・バランス施策面における充実度を競い合っていくことは、その動機が企業PRのためであったとしても、日本人全体の働き方を変えていく契機になるのではないかと、個人的には、この調査の(まだ3年目だが)今後に期待を寄せる次第です。

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グローバル優良企業の何れもがバリューとコンピテンシーを大変重視していることが窺える。

世界で最も賞賛される人事  .jpg世界で最も賞賛される人事.jpg 『世界で最も賞賛される人事』 (2007/10 日本実業出版社)

 ヘイグループとフォーチュン誌が共同で毎年調査・公表する世界で最も賞賛される企業」(The World's Most Admired Companies)ランキングで常連で上位に位置するグローバル優良企業のヴァイスプレジデントやアジアの人事・組織戦略の責任者に、自社の人づくり・組織づくりの考え方や戦略を取材したものです。

 メインで取り上げられているのは、GE、ジョンソン&ジョンソン、アメリカン・エキスプレス、P&G、フェデックス、ネスレの6社で(その他、IBM、マイクロソフト、BMW、ノキアにも言及)、とりわけ担当者自身がレポートしている前半の3社は1社当り約50ページを割いてその企業の人材戦略が詳説されています(後半の3社はインタビュー形式)。

 読んで分かるのは、それぞれの企業が何れもバリューやコンピテンシーを大変重視していることで、とりわけ興味深かったのはGEでした。
 CEOがジャック・ウェルチからジェフ・イメルトになって更に様々な概念や手法が精緻化しており、例えば「評価」の仕組みについても、まずコミットメント以上の結果を出した人(エクセプショナル=優秀)、コミットメントどおりだった人(サティスファクトリー=満足)、コミットメントを達成できなかった人(ニーズ・インプルーブメント=要改善)の3グループに分け、次に各グループの中でGEバリューを非常に高く持っている人、普通の人と、改善が必要な人の3種類に分け、その結果、9つのブロックに分かれる「9(ナイン)ブロック」になっているほか、そうして選別されたトップ20%の中で更に競争をさせていくとうのがGEの人材育成の手法であるというイメージがあったものの、実は、ボトム10%の「レス・エグゼクティブ」とされた社員にも改善プログラムが用意されていること、ミドル70%の「ハイリー・バリュード」も大切にしなければならないというのが最近の考え方であること(この考え方はトヨタ、キャノンなどの日本企業から学んだとのこと)など、ウェルチの『わが経営』には見られなかった記述もありました。

 ジョンソン&ジョンソンの「クレドー」(「我が信条」)は有名ですが、アメックスなども評価の半分はコンピテンシーで決まるというから、人材評価においてバリューやコンピテンシーを重視しているのはGEだけではないということが窺え(アメックスの事例からは、コンピテンシーが一度定めたら不変というものではなく、時代の変化とともにブラッシュアップしていくものであるということも汲み取れる)、また、いくつかの企業がダイバーシティを重視しているのも興味深いです(P&Gは「5つの主要な行動目標」の第一が「多様性を確保する」)。

 何れにせよ、人材戦略の無い企業に発展は無いということ、グローバル優良企業におけるそれは極めて具体的なものであること、それらの企業はリーダー育成のための様々な仕組みを持っていることなどを実感させられる内容でした(当事者が書いている分、総花的で"手前味噌"感も無きにしも非ずだが)。

《読書MEMO》
●GE
・4つのアクション(イマジン(imagine創造する)・ソルブ(solve解決する)・ビルド(build築く)・リード(leadリードする))を支える8つのバリュー(情熱・工夫に富む・チームワーク・開かれた・好奇心・責任を持つ・コミットメント・鼓舞する)
・2年間で4つのビジネス課題を解決する「リーダーシップ・プログラム」―あえて異なるビジネス領域を転々とさせて「苦しい状況の中で短期間に打開する能力」を養わせる
・リーダーに求められる3つの要素(GEバリュー、専門知識・能力、経営への精通)
・大多数の70%にも目を向け、潜在能力を引き出す
・多様性(ダイバーシティ)のないところにイマジネーションはない
●ジョンソン&ジョンソン
・すべては「クレドー」(「我が信条」)のもとに―4つのパラグラフ、21のセンテンスから成るクレドー
・「我が信条」では、第1は医者や患者に対する責任、2番目に社員に対する責任、3番目に社会に対する責任、最後に株主に対する責任をあげている
・「任せる」ことで顧客への責任を実現できる―信頼されて任されるほど、人のやる気を喚起するものはない
・人事は全社的タレントへの責任を持つ
・ダイバーシティの進展は業績につながる
●アメリカン・エキスプレス
・コンピテンシーの変更に先立ちコーポレート・バリューを見直す―36項目あったコンピテンシーを(8つのバリューと)8つのコンピテンシーに
・評価の半分はコンピテンシーで決まる
●P&G
・PVP(Purpose, Values, Principles)
・5つの主要な行動目標(1.多様性を確保する、2.企業理念に基づく行動を徹底させる、3.社員の意欲と向上心を引き出す、4.人材は内部で育てる、
5.変化への適応力と生産性の高い組織をつくる)

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ワークライフバランス施策としての人事諸制度を企画・立案する(その前にまずイメージする)上で役立つ本。

新しい人事戦略 ワークライフバランス.jpg             キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方.jpg 
新しい人事戦略 ワークライフバランスー考え方と導入法』['07年]/『超人気ワークライフバランスコンサルタントが教える キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方』['08年]

 著者は、最近では『キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方』('08年/ダイヤモンド社)などという本が好評の(その本のサブタイトルによると)"超人気ワークライフバランスコンサルタント"だそうですが、主に働く女性向けに自らの体験を綴ったその本に比べると、本書の方は、ワークライフバランス施策を体系的に論じているもので、具体的な制度にまで落とし込んでいるため、企業の人事部の人が読んで参考になる部分は多いのではないかと思います。

wlb.gif 前半の1・2章がワークライフバランスについての概説と先進企業の導入事例、後半の3・4章が、ワークライフバランス導入のステップと、「育児休業」「介護休業」「短時間勤務制度」などの各制度メニューの解説となっています(最終章(第5章)はデータ編)。

 前半部分では、脇坂明・学習院大学教授の「ファミリーフレンドリーな企業・職場とは」という研究成果が、〈ファミリーフレンドリー度〉と〈男女均等推進度〉との掛け合わせによる4象限で、「A.本物先進ワークライフバランス企業、B.モーレツ均等企業、C.見せかけのワークライフバランス企業、D.20世紀の遺物企業」というネーミングで括られているのが、個人的にはたいへん解り易かったです。

 先進各企業の施策を見ると、複数の施策を何年かもかけて実施していることがわかり、じゃあ今からという企業はどうすればよいかといことで、第3章に「変革の8ステップ」が示されていますが、最初に「プロジェクトチームを作る」というのがきて、「2人以上」で「専任者がいる」ことが望ましいと。
 確かにそうに違いないですが、大企業で人事部だけで何人も社員がいるような場合はともかく、中小企業にとってはこの辺りが1つのハードルになるかも。

wlb.jpg 但し、第4章で紹介されている「ワークライフバランスの各種制度とメニュー」の中には、中小企業でも出来なくはないと思われるものもあるし、中小企業向けの助成金なども紹介されています。

 「育児休業」といった基本的な制度も紹介されていますが、本書にもあるように、「育休」などは、法定の規定を超えて期間の延長などの独自の制度を設けることで、はじめてワークライフバランス施策を講じたと言えるのであって、その点は要注意、「介護休業」や「子の看護休暇」も然りです。

 また、休業期間中の人事評価をどうすれば、休業を取った社員のモチベーションを下げずに済むか、短時間勤務社員の評価はどうするかといった問題や、人事規定に盛り込むことが難しい「転勤配慮」にもキメ細かく触れられていて、ここでも先進企業の事例を紹介しているため、たいへん解りよいものとなっています。

『新しい人事戦略 ワークライフバランス―考え方と導入法』.JPG 個人的には、休業者の仕事の補填策として、「ドミノ人事制度」というものを提唱しているのが興味深く、これは、休業者の1つ下のランクの役職や経験の社員を代替要員として抜擢する方法で、代替要員となった社員の業務は、同様に1つ下のランクの社員に順次任せていくというものです。
 代替要員となった社員は一定期間1つ上位の業務を担当することが出来るので、ステップアップのためのOJT(実務による訓練)となり、若手社員にとってのチャンス、職場全体のモチベーションアップになるという―ナルホド。

 全体に読み易い中身で、ワークライフバランス施策としての人事諸制度を企画・立案する(その前にまずイメージする)上で役立つという点でお薦めです。

 しかし、この著者は1年に何冊本を出しているのだろう("第2の勝間和代"と化しつつある)。
 この人自身の現時点でのワークライフバランスが気にならなくもない...。

【2010年改訂版】

《読書MEMO》
●ワークライフバランス導入の8ステップ(108p-173p)
1 プロジェクトチームを作る
2 スケジュールを組む
3 社内ニーズを把握する アンケート実施。フィードバックは早めに。
4 導入プランを策定する
5 経営層の理解と承認を得る 中小企業こそ、ワークライフバランス施策にはコストがかからないものが多いこと、中小企業向け助成金などが整備されていること、機動性が高く、トップの意識次第で素早く大きな動きが起こせて、採用でも他者との差別化が図れる。
6 計画を実行し、告知する
7 マネジメント層の協力を得る
 ・短時間で高い付加価値をつけるアイデアと、広い視野や人脈を持つ社員が求められる
 ・社員が私生活を充実させ、会社以外のフィールドを持って活動することで、付加価値の高い仕事ができる
 ・個人の私生活を大切にできる職場環境は、うつ病や過労死の予防にもつながる
 ・そのための戦略がワークライフバランスである。という流れを確認する 
 「朝メールフォーマット」 今日の予定、今日の優先事項、今日の帰社予定
8 チェック&フォローを行う

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学術書、調査リポート的体裁。両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であると。

人を活かす企業が伸びる.jpg 人を活かす企業が伸びる 帯付き.jpg 『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』 (2008/11 勁草書房)

 「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向けて企業が取り組む際には、従業員の多様なニーズを前提とした柔軟な施策展開が重要になりますが、多様な施策を展開することは、企業にとってコストとなり、コスト削減を要請する経営戦略と従業員の意欲を引き出す人事戦略がぶつかり合うことになり、企業は「ワーク・ライフ・バランス」の重要性を頭ではわかっていても、実際にやるとなると及び腰になってしまう―。

男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット.jpg 本書は「従業員のワーク・ライフ・バランスを支援することが企業にとってどのようなメリットがあるか」という課題設定のもとに、データ分析により実証的にそのことを明らかにしようとしたもので、ニッセイ基礎研究書が行った、両立支援を含むワーク・ライフ・バランスに関する企業調査を基に、主に大学教授らが分析を行っています(全体の編集は、『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』('04年/中公新書)佐藤博樹・武石恵美子の両氏)。

wlb1.png その分析結果として、先ず、女性の活躍の場を拡大するためには、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であることが明らかにされ、両立支援策を充実させている企業は、女性の活用に熱心であり、また、従業員のキャリア支援にも力を入れているということになるようです。
 更に、こうした企業の施策は、人材確保においても効果を及ぼし、従業員の定着率も高く、但し、20代前半で採用した大卒正社員については、両立支援の利用程度はそれほどでもないとのことです。

 後半では、均等施策や両立支援が企業収益に結びついているかという分析を行っていますが、結論としては、均等も両立支援(ファミフレ)も共に活用度が高い企業は、好業績を上げているが、両立支援を単独で入れた企業は、企業業績はかえってマイナスになっていると...。

 全体として、学術書のような感じも。結論的には、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であるということになるのでしょうが、だったら均等施策だけでも良いのではという気もしなくもありません。

 両立支援の企業に与える効果を検証しようとした意図そのものは評価すべきであるし、こうした検証は実際に必要だと思います。
 但し、両立支援策と均等施策のそれぞれの効果を因子分析するのは、均等施策を行っている企業は両立支援も行っているという相関が高いため、結構、難しい作業になっているような印象を受けました(そうした中では、第6章の脇坂明・学習院大学教授による「均等度とファミフレ度の関係からみた企業業績」は、よく分析・整理されている方ではあると思うが)。

 分析中心で、人事戦略の具体策にまで必ずしも落とし込めていないのは、本書が元々、調査リポート的性格のものであったということでしょうか。
 但し、両立支援策を効果的なものにするには、均等待遇との並立が肝要であるという、これはこれで、1つポイントを絞った指摘がなされている本ではあると思います。

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タイトルずれしている。分析・批判はともかく、著者の"立ち位置"がわかりにくい。

若者はなぜ3年で辞めるのか?.jpg 
3年で辞めた若者はどこへ行ったのか.jpg 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』['08年]
若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)』['06年]

 『日本型「成果主義」の可能性』('05年/東洋経済新報社)に続く著者の本でこのタイトルであったために、企業がとるべき人材引き止め策(リテンション戦略)について書かれたものだと思ってしまったのですが、「年功序列」を未だに日本企業の根底にのさばる「昭和的価値観」と規定したところで終わってしまっていて、何かそれに対する改善策が提示されているわけでないため、人材マネジメントに関する本ではなく、労働経済問題を社会学的な見地から指摘した類の本だったのかなと。

 それにしてはデータ的な裏付けがさほど無いままに著者の主観ばかりが先行しているようで、終わりの方では若者に向けて、そうした「昭和的価値観」に捉われている企業から脱出するように呼びかけているような内容であるため、著者の"立ち位置"というか、本書を通して何を言わんとしているのかが今ひとつ分りにくく、少なくともタイトルからは"肩透かし"的印象を抱かざるを得ませんでした。

 著者の言うように、年功序列のレールは90年代前半の時点で大方の企業で崩壊の兆しを見せており、成果主義の導入によってより顕著になったわけで、分析・批判そのものは必ずしも的を射ていないわけではないですが、平成不況下でも年功序列の負の遺産だけが残り、若者達にとっては企業に勤め続けても明るい未来は約束されていないというある種の閉塞状況があるという指摘や(それが本書ではやや端的に語られ過ぎている気がするが)、或いは「"席を譲らない老人"と"席に座れない若者"」といった世代間格差的な捉え方は、玄田有史氏の『仕事の中の曖昧な不安―揺れる若年の現在』('01年/中央公論新社)などとほぼ重なるように思えます(5年前に他の人が指摘済みのこととなると新味は薄い)。

 繰り返しになりますが、本書ではそこからの企業のとるべき施策が語られているわけではなく、働く側の若者に対し「昭和的価値観」からの脱却を呼びかけていて、そのためには自分なりの確固たる価値観を持たねばならないとかいった感じで、ああ、「キャリア塾」みたいなこと、やろうとしているのかな、この人は、と思った次第。
 続編の『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』('08年/ちくま新書)は、そんな感じの内容らしいし...。

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「好き嫌い」人事のバックにある明確なポリシーとキッチリした手順。

好き嫌いで人事.jpg 『好き嫌いで人事』 (2005/07 日本実業出版社)

 いち早くインターネット株取引に参入し、ネット証券の雄となった松井証券の松井道夫社長の本で、組織論、人材論、採用・教育論、評価論、分配論、リーダー論の6章に分かれていますが、売上高経常利益率60%というスゴイ業績を維持している秘密が簡潔によく分かる、経営啓蒙書と言えます。

 商人の気概を大事にし、ソツの無い人間よりは「ソツあり人間」を、デジタル人間よりはアナログ人間を重視するなど、一般的なネット業界のイメージとは異質のユニークさがあり、「社員研修は愚の骨頂」などと言った刺激的なフレーズも並びますが、読んでみるとナルホドという感じ。

 本書から示唆を受けた部分は多かったのですが、あえて人事・賃金制度面に絞って言うと、「退職金制度は奴隷制度だ」 として、'02年に会社退職金制度をやめ厚生年金基金も脱退して、退職金前払い制度に移行しています。
 「株屋だったら生涯の資産の運用・管理は自分でやれ」という考えで、本書には書かれていませんが、この会社は、退職金清算分が税法上の退職所得となるように当局と粘り強く交渉し、また、制度廃止後は、会社員の個人加入が可能な「(企業内個人型)確定拠出年金」を入れ、前払い制度との選択ができるようにしています。

 賃金制度は全社員年俸制で、金額査定の幅がかなり大きく、そうすると評価の公平性が通常は問題となるわけですが、、「評価は所詮好き嫌い」 であるとしていて、"客観的な評価ルール"など〈神学論争〉だと言っている―、では、社長が独断で社員の評価をしているか(この会社の規模なら出来なくはない)というとそうではなく、一般の被評価者は、1次評価者とも2次評価者とも面談をするシステムにするなど(これ、なかなか大変なことだと思う)、非常にキッチリしたやり方をしています。

 官僚主義の排除、消費者論理(顧客第一主義ではなく顧客中心主義)、強みを活かした経営、株主と経営者の関係など、マネジメント全般についての確固たるポリシーがあり、また、それを実践しているだけに説得力があります。
 内容的も小難しい話し方は一切しておらず、人にも薦められる本だと思います。

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本人責任論ではなく人事マネジメントの問題として取り上げていることには共感するが...。

ニート世代の人事マネジメント.jpg 『ニート世代の人事マネジメント』 (2006/01 中央経済社)  寺崎 文勝氏.jpg 寺崎 文勝 氏 (略歴下記)

 本書では、職場の若手社員の中にいる "隠れニート"の問題を取り上げていて、著者によれば、職場の"隠れニート"には、何かのきっかけで働く意欲を失ってしまうリスクのある「ニート予備軍」と、働く意欲や目的を失ったまま働き続ける「仮面ニート」がいるとのことですが、どうして職場の若手社員がこうした擬似ニート化するのかを分析し、ニート化を防ぐ人事マネジメントの在り方をソフト面、制度面から提案しています。

 "ニート"という、定義が不明確なまま乱用されている"はやり言葉"(と個人的は感じている)に、タイトル面では便乗している感もありますが、本人責任論ではなく主に人事マネジメントの問題としてこれを取り上げていることに共感しました(社内"ニート"を本人の責に帰してばかりいては、問題は解決しませんから)。

 ただし、職場での躓きや自己効力感の喪失が"ニート"化の要因になり、人間関係の悪化から働く意欲を失いメンタルヘルス問題にまで至るという分析は、特に"ニート"という言葉を使わなくても説明できる一般論のレベルではないかと。

 課題の解決策として挙げられているものも、インターンシップやトータル・リワードなど既に巷間で言われていたり、また一部企業で採り入れられ始めているものが多く、正攻法と言えば正攻法ですが、あまり目新しさは感じませんでした。

 主に心理学の見地からモチベーションの問題を分析し、欲求五段階説や動機付け理論、さらにキャリア理論から心理テストまで絡めて広く取り上げていますが、総花的な解説に終わっていて、1つ1つの突っ込みはやや浅い気がしました。

 人材定着というテーマに関するコンサルティングファームの提案メニューを読んでいるような感じもしましたが(著者はトーマツコンサルティングの"気鋭コンサルタント")、肯定的に捉えれば、これからの人材獲得難の時代を迎えるにあたり、現況を"おさらい"し、そうした動機付け理論やキャリア理論をなぞり、具体的な施策に落とし込むにはどうしたらよいかを俯瞰的かつ前向きに考えるうえでは、ヒントにはなる本だと思います。
_________________________________________________
寺崎 文勝 (日本総合研究所主席研究員)
早稲田大学第一文学部心理学科卒。事業会社の人事部門、金融系シンクタンク等を経て、2000年にトーマツコンサルティングに入社。幅広い業種において、組織人事戦略および役員報酬コンサルティングを手がける。08年2月より日本総合研究所主席研究員。セミナー講師としても活躍。
著書に『勝てる会社の人材戦略』(総合法令出版)、『人事マネジャーの仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)、『役員報酬マネジメント』『ニート世代の人事マネジメント』(以上、中央経済社)がある。その他、共著・人事専門誌等への寄稿多数。

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人事は「人」でなく「事」を見よ。同じアジア人の立場から「日本的人事」を批判。

これしかないよ日本の人事.gif  『これしかないよ日本の人事』 (2006/01 ビジネス社) book04.gif 『やっぱり変だよ日本の営業―競争力回復への提案』 〔'02年〕

 ソフトブレーン株式会社創業者で、営業支援ソフトを開発する一方、『やっぱり変だよ日本の営業』(’02年/日経BP企画)などの著書で、日本の営業の現場の非効率性などを指摘してきた著者が、今度は「日本の人事」のあり方を批判したもの。

 著者に言わせれば、日本企業にはまだまだ右肩上がり経済の“良き時代”の残滓が見られるとのこと。それは、①会社は家である という意識、②減点主義人事、③結果平等を旨とする、の3点セットとして表れており、これを「会社は経済活動の場である」というように意識転換し、加点主義人事、機会均等主義で臨まない限り、企業はやっていけなくなると。

 業績がストレートに評価に繋がる人事の計算式をつくり、個人的な好みや情を絡めず、人事は「人」でなく「事」を見よ、という指摘はわかりやすいものです(意識しないでいるとついつい「人」を見て判断してしまいがちであり、それだけに、「人事」という言葉に絡めての「『人』でなく『事』を見よ」というフレーズは、念頭に置くべき座右の銘として簡潔でいい)。

 これからの人事は、成果主義を基本にせざるをえず、そのためには社員レベルでは「個の自立」が、社会的に「人材の流動化」が必要であると。著者の目から見ると、日本の会社員はまだまだ個が自立していないように見えるようです。
 会社側に対しても、成果主義を導入するならば、社員に忠誠心など求めるな、と言っています(評価項目にやる気とか頑張りといった要素があれば削除せよとも)。

 若年層に対する成果主義の徹底導入を勧めている一方で、マネージャーに対しては人間性などを見よといている点が興味深く、また「成果主義100%」は失敗するとも言っていますが、これはリザルト・マネジメント(結果主義)では不十分で、プロセス・マネジメントをしっかりやれということでしょう。

 なにゆえに外国人からいろいろ指摘されなければならないのかという思いを抱く読者もいるかも知れませんが、日本で実業を立ち上げた人の言葉だけに説得力があり、同じアジア人である日本人と中国人の会社観の違いなどもわかって面白かったです(中国人は欧米人以上に成果主義的かも)。

《読書MEMO》
●会社にも社員にもそれぞれの事情があり、両者が100%満足できるような人事システムは現実にはありえない。そこで大切なのは「納得感」ということになる(116p)
●「3つのマネジメント戦略」…①仕事の設計図を書く、②部下を評価する、③結果に責任を負う、「3つのマネジメント戦術」…①働く環境づくり、②ヒントを出す、③応援体制づくり(171p)
●人事評価の原則=マネージャーの場合
・個人成績より率いるチームの業績を重視(チーム成績はマネージャーの人間性など「人」の部分が関わった結果として、数字がでてきたもの)
・部下たちが「数字80%、人20%」なら、マネージャーは「数字50%、人50%」の比重(172p)

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アウトラインとしてはまあまあ当たっていたが、細部においてはかなり粗っぽい楽観主義。

日下 公人 『人事破壊』.jpg人事破壊―新しい日本よ、こんにちは.jpg  人事破壊 bunnko.jpg   kusaka.jpg 日下 公人 氏
人事破壊―新しい日本よ、こんにちは』['94年〕 『人事破壊―新しい日本よ、こんにちは (PHP文庫)』['96年]

人事破壊 新しい日本よこんちにわ 日下公人.jpg '94年に刊行された本書は、企業における人事のあり方を将来予測したもので、これから滅びいくものとして〈人事権、正社員、会社人間〉、これから生まれてくるものとして〈デフレ時代、真の人本主義〉を挙げていますが、アウトラインとしてはまあまあ当たっていたのではないかと思います。

 しかし、少し意地悪な見方をすれば、バブル崩壊後すでに数年を経た当時において、正社員だけでは企業経営が成り立たなくなることや、デフレ時代が到来することを予測するのはさほど困難なことではなかったように思われます。
 さらに細部にこだわれば、それでも大方の企業において人事部は人事権を手放すことはしていないし、正社員中心主義も変わっていないと思う。だからこそ、非正社員はこぞって正社員になろうともがいているのではないかと。

 本書の主張の核である〈真の人本主義〉についても、デフレ時代がくると仲間主義が続けられず、資本家は支配力を強め、発展する会社は先端分野へ進出するが、そこ(先端分野)は人本主義の世界であり、資本家による支配よりも才能のある人間をまとめられる人が新しいリーダーとなり、そういう人の周りに優秀な人材がたくさん集まっていい会社ができあがる、という流れですが、必ずしもすべての業種・業態においてこうしたことが主流現象、成功事例として起きているとは思えません。

 「...45歳くらいの体力・気力・実力のある人間にトップの座を譲らなければならない。しかしそういう面は採用せず、相変らず70歳前後の人がトップに坐り、中高年社員だけに競争原理を強要して「実力がない者は出ていけ」と言ったのは、余りに都合がよすぎる」(15p)と企業にはびこる"老害"を喝破しているのは読者にとって気持ちよいけれど、でも、実際なかなか変わらないんだよね、会社って、という思いは残り、どこに具体的な問題があるかまで突っ込んでいないのは、一般書だから仕方ないのか。
 この人の本は現況およびトレンドを大掴みする上ではいいのですが、細部においてはかなり粗っぽい楽観主義が見られ、最近の著者においてはよりその傾向を増している気がします。

 長銀の取締役を経てソフト化経済センターの理事長となった氏でしたが、長銀は破綻し、ソフト化経済センターも'05年末に解散しています(それでも、大学教授として迎えられる―)。
 "予想屋"というのは極度に悲観的であるか、あるいは極度に楽観的であるか、いずれかの方が受けるのかも。

 【1996年文庫化[PHP文庫]】

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非正社員の活用に向けての新たな「人材ポートフォリオ」を提示している。

正社員時代の終焉-多様な働き手のマネジメント手法を求めて.jpg  『正社員時代の終焉-多様な働き手のマネジメント手法を求めて』  ookubo2.gif 大久保幸夫 氏

 この10年で全雇用者に占める非正社員比率は上昇を続け3割を超えましたが、企業はこうした非正社員を本当に有効に戦力化しているのだろうか、ただ人件費面での方策として非正社員を入れているだけで、人材育成などの戦略的観点が軽視されているのではないか、そうした思いから「多様な働き手のマネジメント手法を求めて」というサブタイトルに期待し、本書を手にしました。

 第3章で内田恭彦氏(ワークス研究所主任研究員・神戸大学大学院経営学研究科助教授)が、'95年に日経連が示した「雇用ポートフォリオ」の3グループ区分(長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型)の発展型として、米国のSHRM研究による分析をベースに、企業特殊性の高低と知識レベルの高低を軸とした4象限から成る新たな「人材ポートフォリオ」を提示していて、以降の分析はこの人材ポートフォリオをベースに進んでいきます。

 すでに"3グループ区分"では捉え切れなくなっているというのは実感としてあり、人材ポートフォリオというものを人材育成という観点でみると、働き手がこの人材ポートフォリオの象限間を移動するダイナミック(動的)なものであるとしているのも納得できます。
 ただし個々の経営者にとっては、現実にどの仕事、どの社員がどの"象限"に収まるべきものなのかをイメージすることが大切で、それが無ければ本書を読むことは単なる"お勉強"で終わってしまうのかも。

 非正社員のキャリア志向のさまざまな類型や、業務委託(インディペンダント・コントラクター)の拡大傾向示し、そのマネジメントの要点やリスク管理にも触れていますが、ここまで現状分析にページを割きすぎ、非正社員の活用等に悩む経営者にどこまで応えきれているか、全体としてやや物足りなさを感じます。

 余談ですが、労働法に規定されているわけではないのに、厳然と世の中にある〈正社員〉と〈非正社員〉の違いについて、江戸時代の商家の「丁稚」(長期契約)と「下男下女」(短期契約)の違いに由来していると本書の中にある。知らなかった。
 
《読書MEMO》
●企業は、派遣社員や業務委託の実態がつかめず、人件費にも反映されず、人材に対する全体像が霧の中に隠れてしまった(24p)
●戦略を起点に、必要な人材を労働市場から獲得する企業経営パターン(アングロサクソン系)と、企業内部に人的資源を蓄積し、環境に合わせて活用していく企業経営パターン(日本企業)(86p)
●ヒューマンリソース・アーキテクチャー(米国の戦略的HRM)の人材調達様式(組織と人材の関係/人事管理のあり方)(80p)
・第1象限(戦略価値:高、企業特殊性:高)...内部育成(投資的/コミットメント)
・第2象限(戦略価値:高、企業特殊性:低)...外部調達(共生的/市場価値)
・第3象限(戦略価値:低、企業特殊性:低)...契約(取引的/服従重視)
・第4象限(戦略価値:低、企業特殊性:高)...提携(パートナー/協働)
●新たな人材ポートフォリオの考え方
・第1象限(知識レベル:高、企業特殊性:高)...正社員
・第2象限(知識レベル:高、企業特殊性:低)...〈取引費用大〉正社員(期待)・契約社員、〈費用小〉アウトソース
・第3象限(知識レベル:低、企業特殊性:低)...〈取引費用大〉正社員(期待)・非正社員、〈費用小〉アウトソース
・第4象限(知識レベル:低、企業特殊性:高)...〈システム化できない〉正社員(期待)・非正社員、〈システム化できる〉第3象限へ

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“内向き・外向き”を軸に、サラリーマンの働き方や人事システムに言及。

外向きサラリーマン」のすすめ―ポスト成果主義の時代をどう生きるか.jpg 『「外向きサラリーマン」のすすめ』 〔'06年〕 囲い込み症候群.jpg 『囲い込み症候群―会社・学校・地域の組織病理』 ['01年] 

 本書の狙いは、〈内向き〉〈外向き〉をキーワードに、サラリーマンの働き方と人事システムを掘り下げて考えてみようというもので、前半で〈内向きサラリーマン〉の生む組織の病理を、後半で〈外向きサラリーマン〉の仕事や働きぶり、そしてそれらを生かす人事システムを述べています。

 著者は『囲い込み症候群』('01年/ちくま新書)の中で、そもそも個人では出来ないことを実現するためにつくられた組織が、いつの間に目的から外れ、組織が個人を縛る「囲い込み」症候群に陥るということを指摘していましたが、〈内向き〉という表現は、企業の「囲い込み」姿勢であると同時に、「囲い込まれた側」のとりがちな姿勢として捉えられるかと思います(冒頭の就職学生の急変ぶりは、著者の実感がこもっている)。

 要するに、会社側は「成果主義」を導入したが「囲い込み」は放棄しようとはしなかったわけで、そのために、社員が一体化して顧客や市場から評価を得ようとする「社外競争」よりも、社員間の壁を厚くし社内での限られたパイを奪い合う「社内競争」に拍車がかかり、その結果として成果主義の歪みと言われている現象が起きているが、これは成果主義が良いか悪いかという次元の問題よりも、こうした〈内向き〉の姿勢やシステムを排除しない限りは、これからの時代に生きる企業や人の姿は見えてこないというのが著者の考えです。

 〈外向き〉の人事政策をとった企業の事例は、全社員を個人事業主とするなどといった、一部の先行企業において、それもまだ緒についたばかりのものが多いという感じですが、いつまでも正社員・非正社員といった雇用形態の違いによって処遇の格差づけをしている日本の企業の人事施策に対する著者の批判には、考えさせられるものがあります。
 
 興味深かったのは、米国の人事管理においても組織の論理で個人を統制しているというのは同じであるとし(コンピテンシーなどを持ち出して知的労働まで標準化することに著者は批判的である)、むしろ参考にすべきは、年齢や性別による処遇格差が小さく、残業時間よりも成果を求める〈外向き〉の中国の人事システムや人々の働き方ではないかとしている点でした。
 
 組織論が専門で、「個人を生かす組織・社会、働き方」を研究テーマとしている著者らしい内容で、サラリーマン向けのビジネス書、生き方の本であると同時に、「人事部はいらない?」という章もあり、今ある人事システムの今後の方向性を探るという意味では、企業の人事担当者が読んでも得るものはあるかも知れません。
 photo_ota.jpg 太田 肇 氏 (略歴下記)
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太田 肇
1954年生まれ。同志社大学 政策学部 教授、経済学博士、日本労務学会常任理事。主な研究分野は組織論(「個人を生かす組織・社会、働き方」について)。
主著…お金より名誉のモチベーション論』東洋経済新報社 2007年、『「外向きサラリーマン」のすすめ』朝日新聞社 2006年、『認められたい!』日本経済新聞社 2005年、『ホンネで動かす組織論』ちくま新書 2004年、『選別主義を超えて』 中公新書 2003年、『囲い込み症候群』ちくま新書 2001年、『ベンチャー企業の「仕事」』中公新書 2001年 (中小企業研究奨励賞本賞受賞)、『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社 2000年、『仕事人(しごとじん)と組織』有斐閣 1999年(経営科学文献賞受賞)。

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職務主義一本から混合型へ"変節"? コンサルタントは機を見るに敏でなければならないのか?

10年後の人事928.JPG10年後の人事―成果主義はどう変わる?.jpg  舞田 竜宣.jpg 舞田竜宣 氏
10年後の人事―成果主義はどう変わる?』 ['05年/日本経団連出版]

10年後の人事p.bmp "10年後"と言うよりは、現在の人事制度の方向性とこれからの人事部のあり方といったところでしょうか。
 資格等級制度、報酬制度、評価、採用・育成、人事機能などについて書かれています。
 評価制度におけるコンピテンシーの位置づけや採用・育成におけるA&R戦略は、著者(現在はヒューイット・アソシエイツ株式会社社長)や著者が以前に属した戦略コンサルティングのマーサー社が書籍や専門誌で既に発表しているものとほぼ同じで、本書の中では「非金銭的報酬」について2章分を割いて説明しているのがひとつの特徴でしょうか。この部分は、ある程度参考になりました。

 個人的には資格等級制度において、職能等級と職務等級の混合型およびブロードバンドとナローバンドの組み合わせを提唱しているのに少し驚きました。
 マーサー社の最近までの主張は、職務主義(役割主義)一本のブロードバンドだったはず。これも"成果主義の揺り戻し"なのか。コンサルタントは機を見るに敏でなければならないのか?
 マーサー社の指導のもとに何とか職能資格制度を廃して職務主義に移行した結果、社内が少しギスギスしている会社があったとしたら、次はどうすればいいのだろうか?

 「非金銭的報酬の応用法」については、同社がこれまでにも提唱している"優秀人材の囲い込み"戦略の流れだと思いますが、本書ではより具体的ではあるものの、賃金や役職以外は極めて平等主義的な処遇をすることで、"そこそこの社員"を含むより大多数のモチベーションを維持してきた日本の企業風土の中で、どこまでこうした"仕掛け"が拡がっていけるのか未知数の部分も大きいと思います。
 とは言え、金銭的報酬での処遇には自ずと限界があるわけで、今後企業ごとに、自社に合ったいろいろな工夫が求められるようになるには違いないでしょう。

 むしろ評価のところで述べられているコンピテンシーとコーチングの結合(コンピテンシー・コーチング)という考え方に共鳴を覚えました。
 コーチングについてのノウハウが書かれた本は巷にあふれていますが、「How」の前に「What」があるべきであるという主張には頷かされ、今後の議論の深化を期待したいと思いました。

《読書MEMO》
●非金銭的報酬(71p)
A acknowledgement(感謝)/B balance of work/life (オンとオフのバランス)/C culture(組織文化)/D development (成長機会)/E environment(労働環境)
● 非金銭的報酬の応用法(73p)...すぐれた業績を上げた、またはすぐれた発明をした研究開発者に対し、
 1.予算報酬...さらなる研究開発のための自由に使える予算を与える
 2.環境報酬...望みどおりの設備や環境を整備する
 3.テーマ報酬...取り組む研究開発テーマを自由に選ぶ権利を与える
 4.時間報酬...自由な活動に使える時間や充電のための長期休暇を与える
 5.社会的報酬...トップの感謝や周囲による賞賛、表彰、特別な呼称の授与、記念の刻銘など(心理的報酬)
●目標管理(115p)
(「目標管理」はもともと、自分で考えて目標を立てるという発想に基づいているが、「目標参画」の理念は必ずしも正しくないことが、その後の行動心理学・組織心理学の研究でわかってきた。)
目標に対して社員がどれだけ情熱を燃やすかは、その目標にどれだけ納得感が得られるか、その目標をどれだけ受容できるかにかかっている。誰が目標を設定するかは一義的な要素ではない。
●コンピテンシー→プロセス評価→コーチング→コンピテンシー・コーチング(121p)
プロセス評価とは、処遇の決定のためだけではなく、教育的な意味も多分にあり、今日の成果に加えて将来の成果もめざす意味もある。→コンピテンシーを使った日々の教育が必要→コーチングにおける「What」の明確化→それぞれの職務におけるコンピテンシーをコーングの技法を使って日々、上司が部下に指導する

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「虚妄の成果主義」の主張の繰り返し。しかも、かなりケンカ腰?

〈育てる経営〉の戦略―ポスト成果主義への道.jpg 『"育てる経営"の戦略―ポスト成果主義への道』講談社選書メチエ〔'05年〕

FirstDay.gif 著者は本書で、成果主義は人材育成機能を破壊し、すべての成果主義は失敗すると断定し、 〈育てる経営〉を目ざすならば、社員の生活を守り、次の仕事の内容で報いるシステム「日本型年功制」を再構築すべきだと主張しています。

虚妄.jpg これらは前著『虚妄の成果主義』('04年/日経BP社)の主張と同じであり、本書ではさらに、『できる社員は「やり過ごす」』('96年/ネスコ)などで展開した人材論や、経営における競争優位の源泉とは何かという考察(やや唐突な感じ)、青色LED訴訟にみる発明対価の判決に対する疑問提示などを行っています。

 「日本型年功制」(年功序列とは別物であることを著者は強調)が今までに果たした役割というのはそれなりに認めるべきだとは思いますが、それを維持していくことが難しいという現状をもう少し重く認識すべきではないかと...。

 自らを「急進的な反成果主義者」とする著者の論は、まず成果主義を修正するのではなく否定するところから始まり、本来は経営のサブシステムに位置づけられるべき(つまり会社の経営理念や人事戦略に沿うべきものである)処遇制度のベクトルとしての成果主義が、イデオロギー論争のテーマのようになってしまっているが何だか変な気がします(しかも、かなりケンカ腰?です)。

 本書ではモチベーションの問題について、前著『虚妄の成果主義』同様、"内発的動機づけ理論"(実験室的状況での理論という気がする)への執着が見られますが、モチベーションを向上させる例として本書で挙げられているのは、むしろ承認願望の充足などの「健全な利己心」(太田肇『ホンネで動かす組織論』)をベースとした動機づけであり、"内発的動機づけ理論"の裏づけにはなってないのではと思われました。

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成果主義、目標管理、人事考課の混同が見られるのが残念。

日本型「成果主義」の可能性5.jpg日本型「成果主義」の可能性.jpg   内側.jpg    城 繁幸氏.jpg 城 繁幸 氏 
日本型「成果主義」の可能性』〔'05年〕               『内側から見た富士通』〔'04年〕

 べストセラーとなった『内側から見た富士通』('04年/光文社ペーパーバックス)の著者による第2弾で、出版元を変え、ペーパーバックスからハードカバーになりましたが、結論から言えば、前作ほど内容の濃さを感じませんでした。
 前半部分の前提となっている「日本企業の成果主義=目標管理」という見方はかなり表面的ではないかと思えました。
 「数値目標は一般社員にはなじまない」とする考え方にも、目標管理=人事考課という拡散的解釈が見られます(目標と評価をどうしてこう一緒くたにして論じてしまうのだろうか)。

 それでも一応は著者なりの立場で、一般社員の目標は数値目標にこだわらずチーム目標に対する個人の貢献度をアナログで評価すべきだなどの提案をしていますが、以前からそうしている企業は結構多いのではないでしょうか。
 管理者を評価される立場に立たせよ、「社内公募制度」や「FA制度」を設けよ、などといった主張も必ずしも目新しいものではなく、もう少し明確にオリジナリティのある著者の結論を示して欲しかったところですが、「可能性」というモヤっとしたタイトルからも察せられるとおり、「成果主義論争に終止符を打つ!」という帯の惹句に答えきれていない気がしました(自分が期待しすぎたか?)。

 「成果主義」というのは「業績・貢献度に基づく評価・報酬制度」であり、処遇制度の一方向性に過ぎないと思います。
 当然、良い成果主義もあれば、良くない(作り方や使い方の拙い)成果主義もあるでしょう。
 著者は実務経験者だけあって、サブシステムに過ぎない「成果主義」を、イデオロギーや理念のように論じる類書の轍は、ある程度踏まずにすんでいますが、本書において、日本型「成果主義」の体系的な展開が充分になされているとは思えませんでした。

 ベストセラーを出した後でもあり、「成果主義論争に終止符を打つ!」という帯の方が先に出来上がっていて、原稿の方は何かまとまりきらないうちに出版してしまったのかと勘繰りたくもなるような内容にも思えました。

《読書MEMO》
●「日本企業の成果主義=目標管理制度」(62p)
●目標管理制度が機能するための前提...1.目標が数値目標化できる/2.目標のハードルが同じ高さ/3.常に目標が現状にマッチしている/ 4.評価の際、達成度だけで絶対評価が可能→これらをすべて満たすには無理がある(75p)→最終的には相対評価になってしまう(90p)→目標の低レベル化と評価のインフレ(92p)
●数値目標は一般社員にはなじまない(132p)

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HRM基本フレームの理解に役立つが、発表済みのものの使い回しも。

ヒューマン・リソース・マネジメント.jpgヒューマン・リソース・マネジメント』(2004/10 ダイヤモンド社) 高橋 俊介.jpg 高橋俊介 氏

 ヒューマン・リソース・マネジメントについて、組織・人材・制度・報酬からキャリア・福利厚生まで最近のトレンドを入れて包括的に述べた入門書です。HRMの基本フレームの理解には役立つかも知れません。
 
 とは言え、全体的に一般論を教科書的に並べたという感じで、著者が今まであちこちで発表したものとも内容が重なるため、既に氏の著書を何冊か読んだ人には特に新鮮なものとして受けとめられないのではないでしょうか。 
 おさらい的に読むことはできますが、約200ページで2400円という価格は割が合わないと思います。

 ただ本書では、HRMに関する事例がわかりやすくとり上げられていて、スターバックスが顧客を装ったスパイによってサービスチェックをしているということや、リークルートの「じゃらん」の温泉紹介などは地元の主婦が書いていることなど、初耳の人には興味深いかも知れません。
 ただし、これら事例のほとんども、氏の他の著書で既にとり上げられているものです。

《読書MEMO》
●アメリカの職務主義は差別を禁じた公民権法('64)の影響が大きい。アメリカでは差別していると言われるリスクを回避するために「人」を見ず「仕事」を見る
●IBMのCEOガースナーが「巨象も踊る」や「私の履歴書」の中で披露した「青いシャツと白いシャツ」の話
●ケーススタディ
 ◆スターバックスコーヒー...アルバイトの定着を高めるためにストックオプション・フランチャイズなし直営店しかやらない・覆面調査(日本の400店でも実施)
 ◆GE...継続的リーダー育成機関クロントンビル
 ◆CSKコミュニケーションズ(沖縄)...採用は2次試験での点数の上昇度で決定
 ◆サウスウエスト航空...ビヘイビアインタビューで子どものころから人を喜ばせるのが好きだったかを聞く(企業ビジョンとの相性で採用)
 ◆ノードストローム(優れた接客で有名な百貨店)...販売員はすべてコミッション営業

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暴露本!? 結果として、「成果主義」導入の際の留意点を指摘している。

内側から見た富士通  城 繁幸.jpg内側.jpg   special0502070103.jpg 城繁幸氏
内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』光文社ペーパーバックス〔'04年〕

014.gif 元富士通の人事部社員の手によるもので暴露本という見方もできますが、「成果主義」の導入に伴う様々な問題点を具体的に指摘していて参考になりました。著者自身は「成果主義」を否定しているのではなく(冒頭にはそのメリットが述べられている)、ただそれが富士通の中ではうまくいかなかったと...。

 その原因は、ムラ社会的な企業風土の問題であったり、評価制度などシステムの問題であったり、管理職や人事部の問題であったりするのですが、何れも富士通に限らず普通の会社でもありそうなことなので、やや義憤にかられた記述が見られるものの(その部分がドキュメンタリーとして「あの富士通が...」という感じで読者の関心をそそる部分もあるのかも知れませんが)、結果として、一般の企業が「成果主義」を導入する際の留意点を示すことにもなっています。

 システムの問題に目をやると、評価制度は、相対評価からスタートしたためにどれだけ頑張った人がいても、部門や評価者に力がなければ好評価にはつながらないと(本社人事部は全員A評価)。そこで絶対評価に変えると、今度は評価のインフレを招いてしまったと。
 
 企画型裁量労働制は、本人に適用の拒否権があるわけですが、仕事量が多い社員は企画型裁量労働の適用を拒否し、従来どおり時間単価で支払われる方を選び、仕事の少ない人の方が適用を受諾したなどのことがあり、かえって人件費増につながったと。
 
 そのほかにも「成果主義」でありながら「降格制度」が無かったとか、人事部が目標シートをチェックしないで有給休暇の取得状況で評価修正していたとか、様々な問題点の指摘があります。 
 人事部が全員の目標シートをチェックするのは大企業では無理ではないかという気もします。ただし、休暇取得の多い社員の方の評価を下げるというのは論外でしょう。

 巻末には成果主義に対する提案もあり、著者は、目標管理制度の廃止や「公正評価委員会の設置」を訴えています。 
 裁量労働制については、それ以外の勤務制度との併存をやめるべきだと言っていますが、同感です。 
 ただし、現行法規下においては、"併存"を避けることが困難なケースの方が多いのではないかと思われます。

《読書MEMO》
●目標シートの達成度は人事ではノーチェック(これはいたしかたない?)、チェックするのは残業時間・年休・勤怠、「残業30時間なのにAはないでしょう」(これはひどい)(55p)
●F2成果主義の最大の欠陥は「降格制度」が存在しないこと(あっても機能しないのでは)(83p)
●有給休暇の取得が少ないこと、暗黙の定時(22時)までいることなどで評価(130p)
●目標管理をやめ、成果のみで評価を決めればいい(200p)
●完全裁量労働制にすべし、時間外手当がつく社員と混在させるな(賛成)(207p)

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趣旨には賛同するが、本としての纏まりに欠ける。

CHO-最高人事責任者が会社を変える.gif 『CHO―最高人事責任者が会社を変える』 (2004/05 東洋経済新報社)

CHO.jpg 産学協同(主催は人材会社)で行われたCHO(チーフ・ヒューマン・オフィサー)研究会の成果をまとめたものです。
 個人的にもそのセミナーに出席したことがあり、セミナー内容は、これからの人事部の役割についてのパラダイム変革を促すもので、その頃M&Aの仕事で外資系企業のCHOと交渉する機会などもあり、相手の立場を読み解くうえで参考になりました。
 ただ、そのとき受けたほどのインパクトが本書からは感じられないのは、こうした研究会報告にありがちなことですが、分担執筆のかたちをとりながら、執筆者のベクトルが不揃いなためでしょう。

 本書では、第1・2章で金井教授がこれからの人事部とCHOの役割を、最終章で守島教授が人材マネジメントにおけるバリュー(人材価値観)の問題をそれぞれ解説していますが、中盤の3人の企業出身者の執筆パートは、組織(人事部)診断の手法にウェイトが置かれたかと思うと「会社とは何か」という話にいきなり戻ったりして、うまく繋がっていない印象を受けます。

CHO2.bmp 基本的には、これからのCHO(「人事部(長)」と言った方がいい)の役割が、「管理エキスパート」であることに加えて、「戦略パートナー・変革エージェント」であるべきだという本書の趣旨には賛同します(「サーバント・リーダー」という言葉は、あまり好きになれない。一方で「従業員チャンピオン」であるべきも言っているし)。

 企業経営との関連においての人事部に求められる機能を、①戦略パートナー、②管理エキスパート、③従業員チャンピオン、④変革エージェントの4つに分けたのはデイビッド・ウルリッチであり("Human Resouce Champions " 邦訳:「MBAの人材戦略」)、これもまた"輸入モノ"のコンセプトの応用であることには違いありません。

 個人的に接した経験では、外資系企業の地域CHOは、採用や人事評価、個々の賃金決定よりもバリューマネジメントが主たる業務で、広告宣伝部門のブランドマネージャーの仕事(例えば、誤ったブランドイメージがどこかの国で作られていないかチェックするような仕事)と少し似ているように思います。
 日本企業の人事部(長)がやる仕事の大半は、外資では支社・支店長レベルで完了していますが、その支社・支店長であっても、R&Dなどの支援部門のマネージャーであっても、会社の人材理念(バリュー)については同じようにきちんと語ることができる―。

 片や日本企業の人事部の多くは、人事権(採用や評価に関する権限を含む)を保持することが組織目的化しているので、組織診断もいいけれど、そんな悠長なことをしている間にも、委譲できるところから順次、現場に権限を委ねていった方がいいし、そうすることによって次の仕事、つまり組織・企業文化改革という「変革エージェント」としての仕事が見えてくるのではないかと思います。

 本書のサブタイトル「最高人事責任者が会社を変える」は、まったく逆方向(管理面の権限強化)に受け取られる誤解を招くのでは...。

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著者の主張が"現実"に食い込んでこないのが残念。

虚妄の成果主義2.jpg虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ.jpg     高橋伸夫.jpg高橋 伸夫 氏(略歴下記)
虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 〔'04年〕

 '04年1月の刊行で、同年の(「週刊ダイヤモンド」の)「ベスト経済書」第1位に選ばれた本。
 「週刊ダイヤモンド」にしても「週刊東洋経済」にしても、「ベスト経済書」は学者やエコノミストに対するアンケート調査によって選出しているのですが(だから往々にして現場の感覚とズレたものが選ばれることがある?)、本書の場合、一般書店での売り上げもビジネス書としてはトップにきていた時期があり、「賃金による動機づけ」を"科学的根拠のない迷信"とスッパリ言い切ってしまうようなところが受けたのかもしれません。
 しかしながら、「そっかあ〜、なるほど」と思った"一般の社員"だって、「もっとお給料をあげてくれなきゃやる気湧かないヨ」とも思っているのが現実ではないでしょうか。

 ハーズバーグの「動機づけ衛生理論」において「賃金」が〈動機づけ要因〉ではなく〈衛生要因〉とされていることを、本書を読まずとも既に知っている人事部員にしても、「だから賃金は満足の対象ではなく、不満の対象にしかならないわけだ」と思うだけであって、火急の課題である賃金の問題を放置して、高橋教授が強調する「内発的動機づけ理論」や「未来傾斜原理」にそれこそ一方的に"傾斜"するなんてことは無く、仮にそうしたところで、今、社員の前に現実に何を提示できるのだろうかという問題が残ります(わが社は年功序列で行きます!って宣言するのだろうか?)。

 「望ましい動機づけの話と望ましい賃金制度の話は、本来は別次元の話」というのは正論だと思いますし、「次の仕事の内容」で報いるというのもわかります。
 しかし、論旨が「金銭的報酬で逆にやる気を失う」という負の相関の方へいってしまい(別次元の話じゃなかったのか?)、その査証に何ページもさいています。

 それはそれでたいへん解りやすく書かれていて、その後に続く「反復囚人のジレンマ・ゲーム」や「お返しプログラム」などといった話もたいへん面白いのですが、それらが、「読み物としては面白かったけどね」というある経営者の感想に表されるように、"現実"に食い込んでこないのが残念です。

 【2010年文庫化[ちくま文庫]】

《読書MEMO》
●望ましい動機づけの話と望ましい賃金制度の話は、本来は別次元の話(17p)
●年俸制導入企業の2つのタイプ...誕生まもなく、中途採用主体の会社と経営状態が危ない会社(給料が下がったのはお前の働きが悪いから、という論理)(19p)
●金銭的報酬で逆にやる気を失う...金銭で報いる仕組みよりも「次の仕事の内容」で報いるシステムの方が、人件費は安くすむ上に、動機づけの面でも優れている(30p)
●米国企業の創業者は強い文化が成功をもたらすと信じている(41p)
●達成感は仕事自体が与えてくれるものであり、金銭的報酬によるものではない

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高橋 伸夫
1957年生まれ。小樽商科大学卒業。筑波大学大学院社会工学研究科単位取得。学術博士(筑波大学)。東京大学教養学部助手、東北大学経済学部助教授、東京大学大学院経済学研究科助教授などを経て、現在は同大学大学院経済学研究科教授。専門は経営学・経営組織論。研究課題は日本企業の意思決定原理、組織活性化。特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンター理事長も務める。主な著書に『虚妄の成果主義――日本型年功制復活のススメ』(日経BP社)『できる社員は「やり過ごす」』(日本経済新聞社)など。近著に『〈育てる経営〉の戦略――ポスト成果主義への道』(講談社選書メチエ)。

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著者のウンチクは楽しいが...これでは単なるエッセイにすぎないのでは。

数字と人情―成果主義の落とし穴.jpg 『数字と人情―成果主義の落とし穴』PHP新書 〔'03年〕 shimizu.jpg 清水佑三 氏 (略歴下記)

 タイトルの意味は、数字ばかり追う成果主義を批判し、人情の復権を訴えるということだと思いますが...。
 随所に見られる著者のウンチクは面白く、こういうウンチクは個人的には嫌いではないのですが、本書の趣旨とどう関わるのかがわかりにくかったです。

 競争原理を否定するその帰結が、諺、落語、歌舞伎に耳を傾けよ、というのはどうでしょうか。
 「音楽を聴こう」「植木に水をやろう」で、成果主義が抱える問題が解決できるのでしょうか。

 書きたいことを書いただけのエッセイで、新書として(ましてや成果主義云々という副題で)出す類のものではないと思いました。

《読書MEMO》
●成績の時代...赤い羽根募金まで地域割当てが
●「虫の知らせ」を研究したベルグソンとユング
●オックスブリッジの入試はエッセイと面接が主体(言葉は階層を表す)
●アメリカで抗鬱剤セロトニンの服用者は2000万人
●ダイソンの掃除機
●川上弘美『センセイの鞄』に見る他者への気遣い
●山本常朝『葉隠』→隆慶一郎『死ぬことと見つけたり』と西洋人のユーモアへの執着
●プロジェクトX"伏見工業高校ラグビー部"
●韓国のべストセラー『カシコギ』父子ともに癌にかかる話

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清水 佑三 (日本エス・エイチ・エル社長)
1966年慶応大学工学部卒業、1968年同修士課程修了。多次元尺度構成法を専攻。河出書房新社、ダイヤモンド・ビッグ社を経て、文化放送ブレーンの創業とともに役員就任。20年の役員経験を経て、1987年日本エス・エイチ・エル社の創業とともに社長就任。『人は誰でもカリスマになれる』(東洋経済新報社)『数字と人情』(PHP研究所)『逆面接』(東洋経済新報社)等の著書がある。

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電機メーカーの人事制度の取材はそれなりに深いが、提案面は肩透かし。

成果主義を超える.jpg    江波戸哲夫.gif    集団左遷2.jpg 集団左遷3.jpg 
成果主義を超える』 文春新書〔'02年〕江波戸哲夫 氏 (作家)「集団左遷」('94年/東映)柴田恭平/中村敦夫

 『集団左遷』('93年/世界文化社)、『部長漂流』('02年/角川書店)などの企業小説や『会社葬送-山一証券最後の株主総会』('01年/新潮社)、『神様の墜落-"そごうと興銀"の失われた10年』('03年/新潮社)などの企業ドキュメントで知られる作家の江波戸哲夫氏が、企業を取材し、各社の成果主義人事制度の現状を分析、考察したものです。

 一般に人事制度の取材・とりまとめは専門のジャーナリストやライターが行うことが多いのですが、著者の取材はそれらに劣らない深さがあり、企業側だけでなく労働者や労働組合のコメントも取っているところにもバランスの良さを感じます。

 ただし、ある時期(2001年前後)のある業界の一定規模以上の企業のみを対象にした分析なので、確かに電機業界はいろいろな面で日本の産業のリーダー的役割を果たしてきた面はありますが(例えば週休2日制を最初に導入した大手企業は「松下」)、これが日本企業全体の動向かと言われると若干の疑問もあります。

 鳴り物入りで導入された新人事制度の中には、一応機能しているものもあれば尻すぼみになっているものもあることがわかり、この辺りの取材はかなり緻密で、個人的には、大企業の人事部の中には、トレンドに合わせて何か新しい制度を入れて、自社適合性のチェックは後回しになっていると言うか、軽んじられている風潮があるのではないかと考えさせられる節もあります。いや、"自社適合"にばかり重きを置いていたら、何も出来ないまま同業他社から遅れていく、という焦りもあるかも。

 著者は、企業がリストラをしつつも根本的には雇用延長を図っていることに着眼し、企業への帰属意識(愛社精神)の効果は確かに見過ごせないとしています。しかしながら結論的には、企業は、年功序列・終身雇用制を弱めて従業員の帰属意識の減退を図りながらも、仕事へのエネルギーを引き出さなければならないという難しい課題を抱えていると...。

 確かにその通りですが、こうしたやや"感想"的結論で終わっているため、タイトルから具体的な"提案"を期待した向きには肩透かしの内容となっていることは否めないと思います。現実は、小説や映画のようなスッキリした締めくくり方にはならないということか...。

集団左遷1.bmp 因みに江波戸氏の小説『集団左遷』('93年/世界文化社)は映画化もされていて、バブル崩壊後に大量の余剰人員を抱えた不動産会社が、新規事業部に余剰人員50人を送り込み、達成不可能な販売目標を課して人員の削減を図るというリストラ計画を実行し、そうした中での50人のリストラ社員たちが逆境に立ち向かっていく姿を描いたものでした。

 梶間俊一監督はヤクザ映画系の出身の人で、テンポはいいし、"成果主義を超えた"かどうかはどもかく、一応"スッキリした締めくくり方"にはなっていますが、そこに至るつくりはやや粗いような気もしました(原作は未読。読めば結構面白いのかも)。

「集団左遷」柴田強兵/高島礼子
i集団左遷 津川雅彦 13.jpg集団左遷2.bmp この映画で第37回ブルーリボン賞男優助演賞などを受賞したのは新規事業部のトップを演じた中村敦夫でしたが、柴田恭平がリストラされた社員のリーダーを熱演していて、この映画で「熱血ビジネスマン」のイメージが定着したとも言えるのではないでしょうか(脚本は'04年に自殺した野沢尚が書いている)。

「集団左遷」●制作年:1994年●製作:東映●監督:梶間俊一●脚本:野沢尚●撮影:鈴木達夫 ●音楽:小玉和之●原作:江波戸哲夫●時間:116分●出演:柴田恭平/中村敦夫/津川雅彦/高島礼子/小坂一也/河原崎建三/萬田久子/北村総一朗/江波杏子/伊東四朗/神山繁/湯江健幸/河原さぶ/丹波義隆/亀石征一郎/浜田滉一/佳那晃子/下絛アトム●劇場公開:1994/12●配給:東映 (評価★★★)

『集団左遷2.jpg集団左遷 tv.jpg「集団左遷」TBS系日曜劇場(2019年4月21日~6月23日(全10話)
出演:福山雅治/香川照之/神木隆之介/中村アン/市村正親 ほか
(原作『銀行支店長』『集団左遷』)

『集団左遷』...【2018年文庫化[祥伝社文庫]/2019年文庫化[講談社文庫]】

《読書MEMO》
映画に学ぶ経営管理論2.jpg●松山 一紀『映画に学ぶ経営管理論<第2版>』['17年/中央経済社]
目次
第1章 「ノーマ・レイ」と「スーパーの女」に学ぶ経営管理の原則
第2章 「モダン・タイムス」と「陽はまた昇る」に学ぶモチベーション論
第3章 「踊る大捜査線THE MOVIE2レインボーブリッジを封鎖せよ!」に学ぶリーダーシップ論
第4章 「生きる」に学ぶ経営組織論
第5章 「メッセンジャー」に学ぶ経営戦略論
第6章 「集団左遷」に学ぶフォロワーシップ論
第7章 「ウォール街」と「金融腐蝕列島"呪縛"」に学ぶ企業統治・倫理論

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残念ながら、人事部(企業)の代弁者が語っているようにしか聞こえない。

成果主義は怖くない.jpg成果主義は怖くない―「仕事人生」を幸せにするキャリア創造』〔'02年〕 高橋 俊介.jpg 高橋 俊介 氏(略歴下記)

成果主義は.bmp 内容は、前半7割が成果主義について、後半3割がキャリア創造についてといったところです。成果主義が陥りやすい過ちを、米国の職務主義の失敗やビジョニングによる成功例などを引き合いにしながら指摘しています。 

 精緻な評価基準をつくることに固執していないか、コンサルタントに丸投げしていないか、数値至上主義になっていないかなどの指摘は、著者の豊富なコンサル経験からくるものでしょう。ここまでの部分は、企業の経営者や人事担当者に向けてのアドバイスと見てよいでしょう。

 ただし、成果主義を推し進めるうえでどうしても生じる「弱者」をどうするかという問題については、オランダのワークシェアリングの事例を挙げるのみで、あまり問題解決についての考察がされていない気がしました。
 振り返って一般のサラリーマンに向かって、成果主義に振り回されないキャリアを構築しよう説いていますが、こちらの方の内容はかなり漠然としています。

 本書の中でのコンサルタント批判はリアリティがありますが、著者自身のコンサルタント時代の顧客が企業の人事部だったわけで、一般読者に突然向き直って、キャリアの自律を説き、ただし会社に期待する受身の姿勢ではいけないと言われても、単に人事部の代弁者が語っているようにしかとれない読者も多いのではないかという気がします。キャリアショック.jpg

 もちろん著者は『キャリアショック』('00年/東洋経済新報社)などビジネスパーソン向けの本も書いていますが、この『成果主義は怖くない』という本に関して言えば、1冊の本の中で、企業・経営者側と社員側の両方に向いて話をしているのが少しぎこちない気がしました。
 タイトルは完全にサラリーマンに向けだと思うのですが...。
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高橋 俊介
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
組織・人事に関する日本の権威の一人。プリンストン大学大学院工学部修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ザ・ワイアット・カンパニーに勤務後、独立。
人事を軸としたマネジメント改革の専門家として幅広い分野で活躍中。主な著書に「自由と自己責任のマネジメント」「自立・変革・創造のマネジメント」「キャリアショック」「組織改革」「人材マネジメント論」がある。

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むしろ、起業しようとしている人たちにとっての示唆を多く含んでいる本。

社員の幸せを追求したら社長も成果主義も不要になった.jpg 『社員の幸せを追求したら社長も成果主義も不要になった!』〔'02年〕 kusaka.jpg 日下 公人 氏

 日下公人氏が自らが注目する、広島市に本部を置き、西日本を中心に展開する安売りメガネチェーン「株式会社21(トゥーワン)」のユニークな経営方式を紹介した、ケーススタディ本と言える内容かと思います。

 タイトルに「成果主義も不要になった!」とありますが、この会社は創業当初からユニークな経営方式を採っていて、
 ◆利益は社員で山分け
 ◆管理職がゼロ
 ◆ノルマ・目標設定はなし
 ◆社長は4年交代
 ◆社長の年収は社員の最高年収を超えてはならない
 ◆パートも取締役になれる
 ◆退職金は前払い
 といった常識に囚われない独自の経営のスタイルを通じて、社員が金銭的にも精神的にも安心して楽しく仕事ができ、会社業績も順調である、その結果、「成果主義というものを今更のごとく入れる必要が無い」ということだと思いますが、社員を動機づける人事システムとはどのようなものかを具体的に示唆したものとなっていると思いました。                             

人事破壊1.jpg 「管理職がゼロ」など、日下氏が以前に書いた『人事破壊』('94年/PHP研究所)の内容を地でいくような感じです('05年に続編、『人事破壊―その後10年そして今から 』が刊行されている))。

 この会社の場合、社員は株主でもあるので、株主による共同経営の会社ともとれますが、そうすると合資会社や協同組合でも同じコンセプトは成り立つかと思います。
 ただしこの会社は、全国に125店舗を持つまでに急成長しているので、「社長交代制」などのシステムが今後どうなるのでしょうか。企業の規模の変化は、往々にして質の変化にも及ぶのが一般的ですから。

 この会社の設立経緯が、あるメガネチェーンのリストラ組が集結したものであったことも考慮しておく必要はあると思います。
 今在る会社をどうするかということよりも、むしろ、起業しようとしている人たちにとっての示唆を多く含んだ本だと思いました。

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「●講談社現代新書」の インデックッスへ

人と組織に対する冷静な分析は秀逸。組織心理学の本としても読める。

成果主義と人事評価 旧.jpg内田 研二 『成果主義と人事評価』.jpg 007.gif
成果主義と人事評価』 講談社現代新書 〔'01年〕

成果主義と人事評価4.JPG070115.jpg 企業内での人事実務の経験者の手による本で、内容は、著者が都銀から証券子会社に人事部課長として出向していたときの経験がベースになっているのではないかと思われますが、「成果主義」や「人事評価」に派生する問題に対しての、担当者として真摯な取り組み姿勢を感じます。

 本書の中で秀逸だと感じたのは、本書の主テーマよりもその周辺部分の説明にあたるのかも知れませんが、普通の会社でよくある、人と組織に関する様々な非合理的な事象に対する、著者の冷静な観察と分析で、例えば次のようなものです。

 ―現代の社員は、業務フィールドに貢献するように働こうとする意図がはたらきやすい。
 業務フィールドの人間関係の中でどのような役割を演じたいかを先に決め、仕事をそのために利用する場合さえある。(91p)

 個人的には、自分が個人の裁量度が比較的に高い業態である業界に身を置いていただけに、こうした事例をかなり見てきたような気がします。
 著者は本書執筆時30歳代で、比較的現場が見えているのかも知れないという気がしました。
 そうした意味では、組織心理学、組織行動学の本としても読めました。

《読書MEMO》
●社員の具体的行動を促すのが目標管理だが、評価に使うと、目標が低いほど評価が高くなるという問題が生じる(32p)
●職場ではなく「業務フィールド」で働く傾向(86p)
 ―業務フィールドでの人間関係を良好に保っている人は仕事をスムーズに進めることができ、コンスタントに成果も上げやすい。そして、自分が良い仕事をしているという満足感を得ることができる。ただときとして社員が自分の業務フィールドでの人間関係を重視するあまり、会社全体としての最適な判断がなされないことがある。」(90p)
●仕事にリアリティの乏しい会社では非常事態を歓迎する心理が働き、潜在意識で災害を求めてしまう。そして自ら引き寄せた災いに直面して始めて精神的な均衡を回復する(127p)

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年功制・終身雇用批判は旗幟鮮明! ヘイ・コンサルティング・グループの考え方が窺える。

まず、日本的人事を変えよ.jpg  0702004.gif 田中 滋.jpg
まず、日本的人事を変えよ!―「競争」と「評価」が活力を生む』〔'01年〕 田中 滋 氏

 著者の1人田中滋氏は、コンピテンシーモデルなどで知られる〈ヘイ・コンサルティング〉の社長で、当然予想されることながら、本書の前半部分で、日本企業の年功序列や終身雇用を厳しく批判しています。

 職能資格制度「日本の会社が飛びついた後ろ向きの制度」で「仲間主義に根ざした能力主義」であるとし、また情緒的な日本においては、「やる気」が高く評価され業績評価は軽視されてきたとも、家族手当は「後進国的発想の最たるもの」だとも言っています。

 著者の海外経験や旧日本軍を引き合いに、日本的人事競争と評価を避け、一方でエリートなら失敗をしても保護される仕組みであると徹底批判しています。
 外資系コンサルティングファームの社長が旧日本軍の話を持ち出すのは意外かもしれませんが、伝統的な日本の官僚的システムの問題点を指摘するために引き合いにしているのです。

 後半部分では、著者らが属するヘイ・グループの提唱する人事システム(ヘイ・システム)が示され、さらに日本的経営全般に対する改革に言及しています。
 ヘイ・システムには世間的にも賛否両論ありますが、そのバックにある考え方を知る上でも、本書に示された日本的「人と組織」に対する分析や批判は一読の価値があるかと思います。

 全体を通して旗幟鮮明で、その部分では爽快感さえ感じます。
 ただし、ヘイ・グループの"売り"は、企業における短期のドラスッティックな業績回復を実現させることであり、長期的観点での人材育成などにはさほど重きを置いていないことも念頭に置いて読むべきではないかと思います。

《読書MEMO》
●職能資格制度...日本の会社が飛びついた後ろ向きの制度、仲間主義に根ざす日本独特の「能力主義」(66p)
●情緒的な日本の人事(84p)...改めて業績評価をするのは他人行儀、「同じ釜の飯を食う」とういう表現は長期雇用を前提にしている/さまざまな手当に象徴される「競争排除の原理」(129p)...家族手当は後進国型発想の最たるもの
●ジョブ・ディスクリプション/ヘイ・システム...求められる「ノウハウ」「問題解決能力」「アカウンタビリティ(成果)」(139p)
●成果主義報酬...1.成果主義給与 2.プロフィット・シェア・ボーナス 3.ターゲット・ボーナス

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論旨に目的と手段の逆転が見られる。学者が描くユートピア的な発想という印象を受けた。

定年破壊.jpg 『定年破壊』 〔'00年〕  清家篤 (慶応大学教授).gif 清家 篤 氏 (略歴下記)

定年退職.jpg 著者は「生涯現役社会」の提唱者であり、本書でも定年制の非合理性とそれを廃止することのメリットを説いています。では定年制がなぜあるかというと、年功賃金での長期の収支勘定合わせのためにあり、また企業に雇用調整の自由度が少ないのもその理由であると。

  だから、こうした制度を変えて賃金をフラットにし、自らの選択による能力開発を可能にし、1社が雇用保障するのではなく労働市場を通じた雇用保障体制を築き、労働市場そのものを活性化すれば定年制は廃止でき、そのことがプロフェッショナルとしての職業人生を送ったり、早く引退することを選択したりして個人の手に人生設計を取り戻すことにつながると―。

 部分的には鋭い指摘もあると思いました。 しかし確かに著者の言うように、定年制には非合理的な面もあるだろうけれど、同じく著者の言うように、定年制を無くすためにはしなければならないことも随分あるわけです。
 
 定年制を無くすために賃金制度を見直すというのは、現実に即して考えると目的と手段が逆転しているともとれるし、定年を廃止した場合にどうなるか、ということについての考察があまりに楽天的で、学者が描くユートピアのような印象を受けました。

 玄田有史氏も『仕事のなかの曖昧な不安』('01年/中央公論新社)の中で「定年破壊」に批判的でしたが、問題は「それがすでに会社に雇われている人々の雇用機会を確保することにはなっても、新しく採用されようとする人から就業機会を奪うこと」にあると言っています。 企業の人を雇用する力が弱くなっている状況においては、そうしたことも考慮しなければならないでしょう。
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清家 篤
慶應義塾大学商学部教授。博士(商学)。専攻は労働経済学。1978 年、慶應義塾大学経済学部卒業後、同大学大学院商学研究科博士課程修了、同大学商学部助教授を経て、1992 年より現職。
この間、カリフォルニア大学客員研究員、日本労働研究機構特別研究員、経済企画庁経済研究所客員主任研究官等を歴任。
社会保障審議会委員(厚生労働省)、労働政策審議会委員(厚生労働省)、国民生活審議会委員(内閣府)、高齢社会対策の総合的な推進のための政策研究会座長(内閣府)、東京地方労働審議会会長(厚生労働省東京労働局)、日本銀行金融研究所顧問(日本銀行)などを兼務。
近著に『生涯現役社会の条件』中公新書(1998 年)、『人事と組織の経済学』(共訳)日本経済新聞社(1998 年)、『労働経済』東洋経済新報社(2002年)、『勝者の代償』(訳)東洋経済新報社(2002 年)、『生涯現役社会をめざして』日本放送出版協会(2003 年)、『高齢者就業の経済学』(共著)日本経済新聞社(2004年)などがある。

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「成果主義」の問題点分析は先駆的だったが、提案面では弱かった。

リストラと能力主義%20旧.jpgリストラと能力主義 旧.jpgリストラと能力主義.jpg  森永 卓郎.jpg 森永 卓郎 氏(略歴下記)
リストラと能力主義』 講談社現代新書〔'00年〕

Japanese businessmen.jpg 本書で言う「能力主義」とは、本文中にもある通り「成果主義」のことを指しています。どうしてこういうタイトルにしたかと言うと、出版当時においては「成果主義」という言葉がまだ"市民権"を得ていないという著者の判断だったそうです。

 確かに、経済学者の熊沢誠氏が本書の3年前に書いた『能力主義と企業社会』('97年/岩波新書)などを見ても、「成果主義」という言葉は使われておらず、「能力主義」を、潜在能力を重視する"狭義の能力主義"と、業績に基づく"実力主義的な能力主義"に概念区分して用いていますので、その3年後というのは、まだ「成果主義」という言葉の意味がどういったものを指すのか、一般的概念が不統一だったのかも知れません。

 それでもタイトルにやや納得のいかないものも感じますが、内容的には、人件費削減が目的化する日本型リストラの問題点や、成果主義にまつわる評価や人事部の中央集権的なあり方の問題、目標管理制度の陥りやすい欠点などを早くに指摘したと言えるもので、著者の慧眼はさすがだと思います。

 銀行系シンクタンクの研究員でありながら、親会社の銀行が融資先企業にリストラせよと煽っている時期に、リストラ批判(日本型リストラへの批判)をやってのけているという姿勢もいいし(それも銀行のイメージ戦略の1つかも知れませんが)、成果主義には「自由と自己責任」に基づく人事制度が必要という著者の主張は、すんなり納得できるものです。理念としては...。

年収300万円時代を生き抜く経済学.jpg しかし、本書の中にある、企業に向けた著者の「ワークシェアリング」や「定年制度」に対する提案は、具体面ではさほど実現されていません。ワークシェアリングは同一労働・同一賃金の法規制があるオランダだから出来たと言えますが、日本ではそのままの導入は難しいし、中高年齢層の勤務日を段階的に減らす「まだら定年制」も、発想としては面白いし、今後はどうなるか分かりませんが、今のところ導入企業は無いようです。

  一方、サラリーマンに説く自立・自営の道や副業のススメは、今や著者の十八番となり、年収300万円で生き抜けと言っている...。「空論家」と言われないように頑張ってほしいとは思っていたのですが...。
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森永 卓郎
1957年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局等を経て、91年から(株)三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)にて主席研究員、 現在は客員研究員。獨協大学教授。専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。ミニカー他、様々なコレクターとしても有名。

主著:『萌え経済学』(講談社 2005年)、『森永卓郎式ニュースの読み方』(日本証券新聞社 2005年)、『「所得半減」経済学』(徳間書店 2004年)、『「家計破綻」に負けない経済学』(講談社現代新書 2004年)、『辞めるな!キケン!!』(扶桑社 2004年)、 『ミニカーから全てを学んだ-人生から世界経済まで』(枻出版 2004年)、『二極化時代の新サラリーマン幸福術ー年収1億円でも不幸な人生、年収300万円でも楽しい人生』(経済界 2003年)、『続 年収300万円時代を生き抜く経済学 実践編!』(光文社 2003年)、『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社 2003年)、『日本経済最悪の選択-誰が日本をこんなにだめにしているのか』(実業之日本社 2002年)、『シンプル人生の経済設計』(中公新書 2002年)、『デフレとお金と経済の話』(実業之日本社 2001年)、『日銀不況』(東洋経済 2001年)、『リストラと能力主義』(講談社現代新書 2000年)、『バブルとデフレ』(講談社現代新書 1998年)、『〈非婚〉のすすめ』(講談社現代新書 1997年)

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「社長レースからだれも降りない理由」など、雇用マネジメントに冷静な洞察。

新・雇用革命.jpg Makino.gif 牧野 昇 氏 (略歴下記)
新・雇用革命―人材流動化時代の新しい労働形態(SOHOアウトソーシングナレッジマネジメント)とプロ人材の条件

営業.jpg 本書は'99年の出版ですが、終身雇用・年功序列の崩壊、失業率の上昇、転職・独立の気運、雇用の流動化により変化していく会社と社員の関係、多様化するだろう就業形態を見据え、そうした中で企業はどうすれば良いのか、また個人は「プロ人材」としてどう生きていくかを提唱したものでした。 

 著者の1人である牧野昇氏は工学系の出身ですが、三菱総合研究所の会長として経済と技術開発にその精通ぶりを発揮し、本書の随所にあるように雇用マネジメントにも深く冷静な洞察を示しています。

 例えば本書の中で、日本のサラリーマンが「社長レースからだれも降りない理由」は「負けても失うものが意外に少ないから」としています。

 「ゼネラリストとして成功しないより、スペシャリストとして成功した方が、それは幸福だろう。しかし、ゼネラリストとして成功しないことと、スペシャリストとして成功しないことの間には、大きな格差がある。だからスペシャリストを志向することはリスクなのである。少なくとも今まではそうであった。」
Business Man.jpg これを読み、なるほど、わかりやすく的確な指摘だと思った記憶があります。
 
 これからは変わっていくかもしれない、というのが本書の見方だったのですが、確かにこの頃から、日本企業における長期雇用は揺らぎを見せ、大企業を中心に「キャリアプランニング研修」などが行われ始めたのもこの頃からです。 

 しかし、少なくとも中高年に関しては、外部労働市場はその後もそれほど整備されず、自ら企業を飛び出してスペシャリストとして何かやるという人の数は限られていたのではないか、つまりは「社長レースからだれも降りない理由」というのが、「自ら会社を飛び出さない理由」に置き換えられて、根強く生き続けたと思われます。 
 
 結局のところ長期化する不況の中で、企業は、強制力を持った人的リストラというやり方で"余剰な"人員を外部へ押しやるという傾向が続いたのではないでしょうか。
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牧野 昇 (株式会社 三菱総合研究所 特別顧問)
1949年 東京大学大学院卒業。専門は経済及び産業政策・技術開発。著書「製造業は不滅です」(経済界)「環境ビジネス新時代「静脈産業」が巨大市場を切り拓く」(経済界)「オ-プン・リソ-セス経営勝ち残る企業像-バ-チャル・コ-ポレ-ション」(経済界)「総予測21世紀の技術革新」(工業調査会)「手にとるように経済用語がわかる本 新時代のキ-ワ-ド集」(かんき出版)「ITで世の中が変わる「iモ-ド」が創る新世紀」(PHP研究所)など。

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"雇用ポートフォリオ"や"成果主義"だけを提案していたわけではなかったのだが...。

新時代の日本的経営2.jpg 新時代の「日本的経営」  .JPG
『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策』 ['95年]

 日経連(現日本経団連)が企業参画による「新・日本的経営システム等研究プロジェクト」('93年12月発足)の報告として纏めた冊子で、'95年5月に刊行されています。平成不況の政治経済学―成熟化社会への条件 佐和隆光2.pngですからまさに、「バブル崩壊」で株価も低迷を続け、「平成不況」という言葉が定着し始めた時期にプロジェクト作業をしていたことになります('93年1月に日本経済新聞社から『平成不況は終わった』という本が、'94年1月に佐和隆光 著『平成不況の政治経済学』(中公新書)が出版されている)。

 経営側に対する主な提案としては(一部、行政への要望も含まれていますが)―、
 ◆雇用システムにおいては、職務構成と能力構成との関係をチャレンジ型のダイナミックな形態にしておくことで、各人の能力や勤労意欲を高め、活力ある企業経営を実現するために、"自社型雇用ポートフォリオ"の考え方を導入すべきだとし―、
 ◆人事諸施策については、職務にリンクした職能資格制度や専門職制度、目標管理・能力開発・人事考課制度などの拡充を―、
 ◆賃金制度については、年功的賃金や"定期"昇給を見直し、職能・業績重視の賃金制度、業績反映型・職務リンク型の賃金体系を―、
 といったことが唱えられており、その他にも裁量労働制の拡大や情報化時代に対応した動態的組織、個性重視の能力開発など、多くの提案がなされています。

situation_img01.gif この中で最も知られるところとなったのが、
1.長期蓄積能力活用型グループ
2.高度専門能力活用型グループ
3.雇用柔軟型グループ

の3タイプを想定した"雇用ポートフォリオ"(右図、出典:『新時代の「日本的経営」』(1995)日本経営者団体連盟)ですが、雇用システムの方向性として実際に以後の動きがそのようになっているのではないでしょうか。
 さらに言えば、パートの職務領域と契約社員、アルバイト(フリーター)の職務領域というように、より細分化してきている気がします。

 一部労働側からは、企業が生き残るための弱者切捨て、格差社会を招く市場原理主義の原点のような冊子内容に見られているムキもありますが、確かに今で言う「成果主義」を提唱しているものの、能力開発、企業福祉、新たな労使関係などの提案も含まれていて、あくまでも組織と人材を活性化するためのトータルな提案でした。
 
 しかし、やはり注目を集めたのはその「成果主義」の部分であり、本冊子刊行の'95年を〈「成果主義」元年〉とする見方もあるようです。

《追記MEMO》
●この報告書を書いた日経連(現日本経団連)の小柳勝二郎賃金部長は、「雇用の柔軟化、流動化は人中心の経営を守る手段として出てきた。これが派遣社員などを増やす低コスト経営の口実としてつまみ食いされた気がする」と語っている。(2007年5月19日付朝日新聞)
 経営側が雇用ポートフォリオなど、自分たちにとって都合のよい部分だけを「つまみ食い」したというのが、本当のところだったのかもしれない。

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人事管理のあり方の大きなトレンドに慧眼。「クラスター専門職」育成を説く。

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人事革命―組織・人が生き返る"クラスター戦略"』 〔'87年〕 

 '05年に79歳で亡くなった津田眞澂・一橋大名誉教授は、日本的経営論や人事管理論、労使関係論の権威でしたが、日本的人事管理に関する多くの著作を残されました(下段参照)。

 本書は、'87(昭和62)年の刊行とやや旧いものの、企業に対し産業構造の転換や高齢化社会の到来に備えるための人事制度改革の必要をわかりやすく説いています(ちょうどバブル期前の円高不況期で、この頃は企業側にもそれなりの危機感があったかと思われます)。
 また企業にだけでなくビジネスパーソンに向けても、そうした「人事革命」の際に求められる人材とはどういったものかが書かれた一般書で、著者の警告や予言の多くが今日的なものになっていることがわかり、人事マネジメントの大きなトレンドを見据えた慧眼が窺えます。

 著者は、情報化社会の到来で、重厚長大産業が育成してきたような 専門職能を持たない従来型のゼネラリストは不要になるとし、当時、伊勢丹や西武などの流通業で導入が始まった「全員専門職」制度を評価しつつ、そこからいかにゼネラルなものを引き出し、広域的な視野を持つマネジャーを育成するかが課題であるとしています。
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 著者が提案しているのは「クラスター専門職」制度で、"クラスター"には「ブドウの房」という意味もあるように、複数の職業能力を持つ専門職の育成を説いており、これは最近のキャリア開発論にある「T型人材からπ(パイ)型人材へ」という主張に重なるものです。

 具体的に人事ローテーションなどの計画的人材育成の段階的手法も示していますが、多くの日本企業が、好景気のときはあまりこうしたことを考えず、不況になるとローテーションするだけの人材ストックが無いという状況を呈したことは皮肉なことだと思います。

《読書MEMO》
●「これからは会社に行っても、社会的欲求を満たすことができない。社会的欲求を満たすだけのストックと能力を、自分のなかに持っていないと、生きていけない時代になったのである」(55p)
●親会社はあくまでも基地として機能し、対等の立場で子会社が機能する"本社・分社制度"が多くなる(80p)
●"何でも屋"でも"その道一筋"の人間でもだめなのである(92p)
●これからのサラリーマンは自立できる準備が必要(100p)

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