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出世・上司・部下・転職・副業・独立―切り口は多岐にわたるがインパクトはやや弱い。

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人生100年時代の「出世」のカラクリ (日経プレミアシリーズ)』['14年] 『出世する人は人事評価を気にしないリ (日経プレミアシリーズ)』['18年]

 人事コンサルタントによる本書は、人生100年時代と言われる今、日本人の働き方も、卒業→就職→引退という「3ステップ型」から、働きながらも、転職・副業・学び直し・趣味といったさまざまな選択肢を持てる「マルチステージ型」へと大きく変わろうとしているとし、会社の言う通り働くだけでは将来が危ないこの時代に、どのように自らの人材価値を高めていけばいいのか、「働き方」と「出世」のヒントを示した本であるとのことです。

 第1章「『会社人間』はキケンですか?」では、会社のビジョンやミッションに深く共感し、社内で人脈を作り、自社のビジネスやサービスに対すると知見を深めていく人たちを「企業人材」とし、一方で、自分自身の専門性を軸にして転職を繰り返し、よりレベルの高い仕事をするようになる人たちを「マーケット人材」としています(企業人材で、マーケット人材でもあるというハイブリッド型もあるとしている)。その上で、「できそうなのにできない人」と「本当にできる人」との違いは何か、「組織にいらないおじさん」はどうやって生まれるのかを考察してみます。

 第2章「会社は教えてくれない『出世』のこれから」では、管理職になることだけが「出世」ではないとしています。また、社内で顔が広く、業務を熟知した人が出世できる時代は終わりつつあり、今求められる人間関係や経験などの人的資本は、かけた時間によって得られるものではなくなっているとしています。

 第3章「『周回遅れ」人材にならないために今できること」では、デキない上司についた場合にどうしのぐかなど、上司・部下・自分との付き合い方を指南し、できる人ほどストレスとうまく付き合い、それを乗り切っているとしています。また、時代に合わせた実力を得るにはどうすればよいか、そのために必要な「論理力・説明力・決断力」という3つのスキルについて解説しています。

 第4章「転職・副業・独立......選択肢とどう向き合うか」では、転職・副業・独立といったものとそれぞれどう向き合うべきか、副業は本当に検討すべきか、資格取得は大事なのか、独立という選択肢は有効か、といったことを考察しています。

 第5章「経営者視点でさらなる高みを目指す」では、経営者は資本の論理だけでは企業を長く存続させることはできず、経営には志というものが必要であり、会社で働く人も、同じように、自らの志を自身に問うてみることが必要であるとしています。その上で、会社とは「稼ぐ場」ではなく「稼がせる仕組みの場」であって、「稼がせる」考え方を身につけることができれば、社内での出世も、独立や起業も難しくなくなるとしています(そのための学問がHRM(人材マネジメント)であるとしている)。

 著者は、前著『世する人は人事評価を気にしない』('14年/日経プレミアシリーズ)でもそうでしたが(前著の趣旨は、社内外に関わらずプロフェッショナルを目指せということだっったのではないか)、「出世」という言葉を社内での昇進のことだけではなく、起業して成功したり、転職して新たなキャリアやさらに高いポジションを得ることも含めて指すものとして用いています。

 出世・上司・部下・転職・副業・独立・資本・経営・人事評価と切り口は多岐にわたり、働く人にとっても啓発的な内容かと思いますが、人事パーソンが読んでも気づきを促される箇所はあったように思われます。ただし、全体としては、世間で多く行われているキャリア・セミナーを聴いているような感じで、インパクトはやや弱かった気がします(「人材マネジメント・人事本」というよりは「一般ビジネス書」)。

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「日本型フォロワーシップ」の類型を提唱。「日本型」研究の嚆矢となるか。

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次世代型組織へのフォロワーシップ論:リーダーシップ主義からの脱却

 本書は、戦略的人的資源管理論や組織行動論を専門とする著者が、リーダーと比べてこれまでネガティブなレッテルが貼られ続けてきたフォロワーというものに着眼しています。フォロワーが自律的貢献の主体者となり得ることを明らかにし、フォロワーおよびフォロワーシップの概念を改めて定義するとともに、日本的なフォロワーシップとはどのようなものかを探求しています。

 全7章の構成で、第1章では、人事労務管理の歴史を振り返り、今日、日本をはじめとする先進国では、フォロワーたる労働者の地位が向上してきているとしています。一方で、組織においてリーダーは疲弊し、リーダーを目指す若手も減少してきているため、リーダー偏重の組織運営は限界にきており、今こそ、フォロワーに注目し、真摯なフォロワーシップ論を展開すべきであるとしています。

 第2章では、フォロワーとは誰のことなのか、フォロワーは何に従い、また、なぜ従うのかをアンケート調査などを基に考察しています。さらには、社会の見方が歴史的にどのように変化を遂げてきたにかについても検討しています。

 第3章では、フォロワーシップとは何かということを、バーナード、サイモンなどの古典的な研究を踏まえて考察し、さらに、現代のフォロワーシップ論について、役割理論アプローチと構造主義アプローチの観点から、その主要な研究を紹介しています。

 第4章では、日本におけるフォロワーシップについて、海外の研究者らの「忠臣蔵」や「葉隠」を取り上げた研究を紹介し、日本的フォロワーシップと日本人労働者特有の忠誠心について考察、その心理的メカニズムとしての"観我"と"従我"を想定した「観従二我論」という著者なりの理論を提唱しています。

 第5章では、これまでの議論を踏まえて、「受動的忠実型F」「能動的忠実型F」「統合(プロアクティブ)型F」という、わが国における三つのフォロワー・タイプのモデルを抽出し、調査の結果から、統合型のプロアクティブ性が、モチベーションおよびメンタルヘルスにポジティブな影響力を有するとしています。

 第6章では、日本人に最も多いと考えられる能動的忠実型フォロワーに注目し、その特徴ともいえる、メンタルヘルスに対する好ましくないインパクトについて考察しています。

 第7章では、これまでの議論を振り返りながら、日本人特有の心理構造や組織との関係性を検討し、労働者の人格を(例えば"組織人格""家庭人格""趣味人格"といった)多層的な自然人として捉えることを提唱、さらにそこから、フォロワーシップ・マネジメントを日本的HRMに応用すると、採用や配属、異動や人材開発などはどうなるか、また、フォロワーシップ・マネジメントがリーダーや管理者を置かないことを理想とするならば、進化型組織とはどのようなものになるかを展望しています。

 役割理論アプローチのところで紹介されている、ケリーの5つのフォロワ・ータイプ(「模範的」「孤立型」「消極的」「順応型」「実務型」)や、チャレフの4つのフォロワー・タイプ(パートナー・個人主義者・実行者・従属者)などはよく知られているものでもあります。一方で、「忠臣蔵」や「葉隠」を、海外のフォロワーシップ研究者が研究対象としていることは、本書で初めて知りました。

 著者は、学部生の時は臨床心理学が専攻であったようです。「おのずから」の我を「従う我(従我)」、「自ら」の我を「観る我(観我)」とする「観従二我論」は、哲学的な概念との印象も受けますが(実際、本書には西田幾多郎なども登場する)、読んでいくうちに、ある種の日本人論に毛戸なっているように思いました。

 本書の意義は、日本でこれまでほとんど議論されてこなかったフォロワーおよびフォロワーシップについて取り上げ、日本人の精神に適合したマネジメントを探っていることにあるかと思います。その際に、観我と従我という心理的メカニズムをもとに日本型のフォロワー・タイプの類型を提唱している点が特徴的であると言えます。

 思えば、リーダーシップ理論もこれまで"輸入モノ"ばかりだったような気がしなくもないです。今後、こうした「日本型フォロワーシップ」の研究はもっと盛んになっていいのではないかと思われ、その嚆矢であろうとする意気込みが感じられる本でした。

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リーダーがチームの安全基地(セキュア・ベース)のような存在となることを提唱。

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セキュアベース・リーダーシップ ―〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる

 本書は、リーダーがチームの安全基地(セキュア・ベース)のような存在となることで、メンバーの才能、意欲、創造力、エネルギーを解き放つ、いう考え方に基づいたリーダーシップ論を提唱したものです。セキュアベース・リーダーとは単に優しいリーダーではなく、部下の安全基地となると同時に各自の力を最大限に発揮してはじめて達成できるような高い目標を与えることで、チームのパフォーマンスを上げるリーダーのことを指すとしています。

 第Ⅰ部では、第1章で、セキュアベースとは安全と安心感を提供し、加えて、冒険やリスクをとることや挑戦への意欲をもたらすものであるとし、第2章で、セキュアベース・リーダーの9つの特性を挙げています。それらは、① 冷静でいる、②人として受け入れる、③可能性を見通す、④傾聴し、質問する、⑤力強いメッセージを発信する、⑥プラス面にフォーカスする、⑦リスクを取るように促す、⑧内発的動機で動かす、⑨いつでも話せることを示す、の9つであり、これらの特性は後天的に習得することができるとしたうえで、第1の特性(①冷静でいる)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。

 第Ⅱ部では、第3章で、人と人の「絆」こそがセキュアベース・リーダーシップの中心であるとして、信頼を構築するために役立つ2つの特性(②人として受け入れる、③可能性を見通す)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。第4章では、社会的感情としての「悲しみ」に注目して、悲しみを受け止め、組織に変化を起こすために役立つ2つの特性(④傾聴し、質問する、⑤力強いメッセージを発信する)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。

 第5章では、「心の目」をコントロールすることが、自分自身のコントロールには欠かせないとして、心の目で見るために役立つ2つの特性(⑥プラス面にフォーカスする、⑦リスクを取るように促す)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。第6章では、「勝利を目指す」リーダーシップ・アプローチの特性を説き、「勝利を目指す」ために役立つ2つの特性(⑧内発的動機で動かす、⑨いつでも話せることを示す)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。

 第Ⅲ部では、第7章で、自分のセキュアベースを強化するには自己認識が重要であることを説き、第8章では、自身が他者のセキュアベースになるには、9つの特性のうち、何が自分の強みかを明確にすることが必要であるとしています。第9章では、組織が人間関係と結果の両方を大切にするとき、その組織は従業員にとってのセキュアベースとなり得るとしています。最終第10章では、組織の人間性を高める取り組みは、リーダー自身が自分の人間性に注意を向け、他者に対して自分自身をオープンにすることから始まるとしています。

 本書によれば、成功したリーダーと失敗したリーダーの大きな違いは、人生にセキュアベース(安全基地)が存在したかどうかという点であり、安全基地を持つことで、不安や恐れが減少し、信じること、リスクをとることが増えていくとのことです。この意欲とエネルギーによって、人は居心地のよい領域から踏み出して、自身のまだ開拓されていない可能性を現実のものにしようと努力するし、人生においてセキュアベースの力を経験したならば、それを「モデル」として他の人のセキュアベースとなることができるとしています。

 著者の専門は組織心理学であるとのことですが、本書の趣旨を一言で言えば、帯にあるように「人は、安全基地があればより遠くまで飛んでいける」ということなのでしょう。あるいは、サブタイトルにある「〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる」ということになるのかもしれません。

たいへん啓発的な内容ですが、まったく新しいリーダーシップ論と言うよりは、「PM理論」や「EQリーダーシップ」など既存のリーダーシップ論と重なる部分もあったように思います。個人的には、リーダーが部下にとっての安全基地になるためには、まず自分自身のセキュアベースを持つことが重要であるという考えに納得させられました。

《読書MEMO》
●目次
第Ⅰ部
第1章 安全とリスクのパラドックス
第2章 セキュアベース・リーダーの9つの特性
第Ⅱ部
第3章 信用構築サイクル
第4章 社会的感情としての「悲しみ」
第5章 「心の目」で見る練習
第6章 「勝利を目指す」マインドセット
第Ⅱ部
第7章 自分のセキュアベースを強化する
第8章 他者のセキュアベースになる
第9章 「安全基地」としての組織
第10章 人間の顔をした組織をつくる

●セキュアベース・リーダーの9つの特性(第2章)
① 冷静でいる
②人として受け入れる
③可能性を見通す
④傾聴し、質問する
⑤力強いメッセージを発信する
⑥プラス面にフォーカスする
⑦リスクを取るように促す
⑧内発的動機で動かす
⑨いつでも話せることを示す

●特性①(冷静でいる)を伸ばすためのヒント(第2章)
1.気分を変える
2.何をどのように言うか注意する
3.マインドフルネスの練習をする
●特性②(人として受け入れる)を伸ばすためのヒント(第3章)
1.自分を律する
2.社員としての役割を超えて、その人の個性を知る
3.失敗を学びに変える
4.問題とその人自身を切り離す
●特性③(可能性を見通す)を伸ばすためのヒント(第3章)
1.チームや組織の全員の可能性についてのビジョンを作成する
2.高い期待を持つ
3.自分を超える可能性を持っている人を採用する
●特性④(傾聴し、質問する)を伸ばすためのヒント(第4章)
1.積極的に話を聞く練習をする
2.自由回答式の質問をする
3.沈黙の間を使う
4.話をする環境にも気を遣う
●特性⑤(力強いメッセージを発信する)を伸ばすためのヒント(第4章)
1.言葉だけでなく、非言語のメッセージにも気を遣う
2.その一瞬を見逃さない
3.力強いメッセージをはっきりと、簡潔に、ゆっくり伝える
4.力強いメッセージを書く
5.力強いメッセージをノートに書きためておく
●特性⑥(プラス面にフォーカスする)を伸ばすためのヒント(第5章)
1.自分自身の心の目をチェックする
2.自分の脳をだます
3.前向きになるように影響を及ぼしたい人物を3人選ぶ
4.他者をビジョンに巻き込む
●特性⑦(自分のセキュアベースを強化する)を伸ばすためのヒント(第5章)
1.リスクをとるロールモデルとなる
2.失敗に公正かつ明確に対応する
3.リスクをとるチャンスを一貫して提供しているかを意識しよう
4.自分の状態に注意する
●特性⑧(内発的動機で動かす)を伸ばすためのヒント(第6章)
1.どのように部下を動機づけているかを振り返る
2.一人の人間として部下を理解する
3.「所属」と「達成」という2つの欲求を満たす
●特性⑨(いつでも話せることを示す)を伸ばすためのヒント(第6章)
1.フォロワーと過ごす時間の長さではなく、その質を大切にする
2.歩き回って指揮を執る
3.短いやりとりを行う
4.本当に近づいていいことを示す

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主要な著者(経営思想家)の代表的な著作(主張)のエッセンスを抽出。

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ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書

 リーダーシップは、どうすれば、習得できるか。本書は、マネジメント誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」に発表された、リーダーシップ論の権威とされる経営思想家などの論文から10選を、同誌編集部が選び抜いたものです。

John Kotter2.jpg 第1章では、「リーダーシップとマネジメントの違い」についてジョン・P・コッターが、マネジメントは複雑な状況に対処するために必要であり、リーダーシップは変化に対応するために必要なものであるとしています。第ピーター・F・ドラッカー031.jpg2章「プロフェッショナルマネジャーの行動原理」ではピーター・ドラッガーが、有能な経営者は、「何をしなければならないか」「この企業にとって正しいことは何か」を自問自答し、アクションプランをきちんと策定し、意思決定やコミュニケーションの責任をまっとうし、問題ではなくチャンスに焦点を当て、会議を生産的に進行し、「私」ではなく「我々」として発言するとしています。

ロナルド・A・ハイフェッツ2.jpg 第3章「リーダーシップの新しい使命」ではロナルド・A・ハイフェッツらが、人々を適応へとリードするはロブ・ゴーフィー/ガレス・ジョーンズ2.jpgための6原則として、リーダーは、「バルコニー」に上がり、適応への挑戦を見極め、人々の苦痛や苦悩を調整し、自身の注意力を磨き続け、仕事への責任を現場に戻し、組織の中から聞こえてくるリーダーシップの産声に耳を傾けるとしています。第4章「共感のリーダーシップ」ではロバート・ゴーフィーとガレス・ジョーンズが、部下をやる気にさせるリーダーの資質として、「みずからの弱点を認める」「直観を信じる」「タフ・エンパシーを実践する」「他人との違いを隠さない」の4つを挙げています。

ウォーレン・ベニス2.jpg 第5章「挫折がリーダーシップの糧となる」ではウォレン・G・ベニスらが、リーダーらが真のリーダーになるまでに、その人ジム・コリンズ2.jpgたちが「クルーシブル」(厳しい試練)をいかに成長の機会に変えてきたかを説いています。第6章「レベル5のリーダーシップ」ではジム・コリンズが、「まあまあ」の企業を超一流の企業に変えたリーダーたちには、有能な個人、貢献度の高いチームメンバー、有能なマネジャー、効果的なリーダーという4段階があり、さらにその上のレベル5のリーダーシップとして、スタッフを称賛し自らを語らない謙虚さと、プロフェッショナルとしての意思の強さを併せ持っているとしています。

ビル・ジョージ2.jpg 第7章「変革リーダーへの進化」ではデイビッド・ルークらが、リーダーシップを左右する行動原理の7種類の類型を示し、第8章「自分らしいリーダーシップ」ではビル・ジョージらが、最近の潮流である「オーセンティック・リーダーシップ」について論じています。

ダニエル・ゴールマン2.jpg 第9章「完全なるリーダーはいらない」ではマサチューセッツ工科大学の教授陣が、独自の調査から「分散型リーダーシップ」という新たなモデルを提唱するとともに、その分散型リーダーシップは、「状況認識」「人間関係の構築」「ビジョンの策定」「創意工夫」の4つの能力から成るとしています。第10章「心の知能指数『EQ』トレーニング法」ではダニエル・コールマンが、自身が提唱した「EQ」を構成する、自己認識、自己統制、モチベーション、共感、ソーシャルスキルの4つの因子について解説しています。

 以上のように、本書一冊が丸ごとリーダーシップ育成のための指南書となっいますが、その中に論じる人の数だけリーダーシップ論があり、それらを無理やり繋げて読む必要もないと思います。むしろ、"リーダーシップ論の潮流を読む"という感じで読めばいいのではないでしょうか。

 また、本書を読むだけでも啓発される要素はあるか思いますが、同時に、主要な著者(経営思想家)の代表的な著作(主張)のエッセンスを抽出したものにもなっているため、関心を持った論者がいれば、その著作(日本でもベストセラーやロングセラーになっているものも少なからずある)に触れてみるのもいいのではないか思います。

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ただ試験に受かるためでなく、自らの人事的な知識・センスを磨く上でもお薦め。

『ビジネス・キャリア検定試験過去問題集』.JPGビジネス・キャリア®検定試験 過去問題集.jpg
人事・人材開発 2・3級 (ビジネス・キャリア®検定試験 過去問題集(解説付き))

 「ビジネス・キャリア検定試験」は、事務系職種のビジネス・パーソンを対象に平成6年(1994年)にスタートした、中央職業能力開発協会(JAVADA)が実施する公的資格試験で、事務系職業の労働者に求められる能力の高度化に対処するために、段階的・計画的に自らの職業能力の習得を支援し、キャリアアップのための職業能力の客観的な証明を行うことを目的としています。

 分かりやすく言えば、同じくJAVADAが実施する「技能検定」のホワイトカラー版といったところでしょうか。検定分野は「人事・人材開発・労務管理」「企業法務・総務」など8分野に区分され、その中に「人事・人材開発」「労務管理」「企業法務」「総務」など18部門(2級)があり、2級と3級の試験がそれぞれ年2回実施されています。

ビジネス・キャリア®検定試験 過去問2.JPG 本書は「人事・人材開発」部門の2級(部長補佐・課長級か)・3級(課長補佐・係長級か)の過去問題集です。一部、労働法関連の問題も含まれていますが、当然のことながら、労働法分野も「人事」の出題範囲内です。こうした過去問題集の刊行は本書が初めてですが、近年、「人事・人材開発」部門の出題傾向として、2級・3級とも新規問題よりも過去問題をそのまま乃至は一部改変して出題するケースの方が出題数に占めるウェイトとして高くなっていますので、Amazon.comのレヴューに「3度以上読めば、40問のうち3問は、読まない人より上乗せできると思います」とありましたが、あながち大袈裟とは言えないと思います。

 JAVADAはこれまでの過去問をウェブサイトで公表し、新たに実施された試験もこれまでと同じように試験後それほど日を置かずに公表していますが、正解の解答のみで解説が無かったので、今一つ、過去問を検証する動機づけが弱かったように思います。この過去問集を読むと(一度自分で解いてみるのが理想だが)、どうしてそのような答えになるのか納得することが出来、作問者の意図を嗅ぎ取るセンスのようなものが身につくのではないかと思います。

『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 』.JPG そのうえで、(本書にすべての過去問が出ているわけではないので)その他の過去問をウェブサイトでチェックすれば、試験対策効果としては大きいと思います。もちろん、2級・3級についてはそれぞれ公式テキストがあるので、学習効果全体を向上させるためにはテキストの読み込みも欠かせないと思いますが、ほとんどの公的資格試験に当て嵌まることですが、より確実に合格ライン(当検定の場合は6割以上の正答率)を確保しようとするならば、過去問をやらない手はないと思われます。

 このように、活用すればしただけ試験で有利になるかと思いますが、ただ試験に合格するためというだけでなく、自らの人事的な知識・センスをチェックし、それをより一層磨きたいと思っている人にもお薦めです。

ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト 人事・人材開発2・3級

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AIを巡って今起きていることを知るにはいい。将来の予測は難しい?

『AI失業」前夜』.JPG「AI失業」前夜.jpg
「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること (PHPビジネス新書)』['18年]

「月刊 人事マネジメント」2018年5月号
月刊 人事マネジメント  2018年5号.JPG 人事マネジメント系の雑誌でも、「AI人材の育て方」といった特集が組まれたりする昨今ですが、本書は、「AIが引き起こす労働環境の大変化はすでに始まっている。特にホワイトカラーは今後5年で残酷な変化に襲われることになる」と言います。前半部分で、現在の労働市場にAI(人工知能)が起こしている諸問題の構造を解明し、後半部分では、この後、どのようなことが我々の社会に起きるのかを論じています。後半部分は、著者の前著『仕事消滅―AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』('17年/講談社+α新書)で現在から2045年の未来までカバーしたテーマの改訂版で、今回は20年先ではなく、5年から10年先の未来に絞って予測したものであるとのことです。

 AIの普及による「仕事の消滅」の問題についても最近ビジネス誌などでもよく特集されるようになってきましたが、こちらの方はいずれも数ページばかりで、内容も"八卦見"みたいな印象で今一つのものが多かったのが、こうしてまとめて1冊の本として読むと、おおまかなトレンドが掴めて(掴めた気分になって?)、その点では良かったです。

 今、AIを巡って起きていることを知るにはいい本だと思います。ただし、将来何が起きるかはいろいろ予測できるにしても、それらがどのような順番でどの程度起きるのかということを厳密に予測するのは難しいようで、結局、ビジネス誌の記事をまとめ読みしたような印象になってしまったのも否めません。

 本書によれば、日本が開発したスーパーコンピュータ「京」は、開発時は世界最速で、また、世界初の「人間の脳の情報処理速度を超える」コンピュータでしたが、今は世界で10番目までランクが落ちているそうです。ただし、逆に言えば、「人間の脳を超える」コンピュータはまだ世界に10台しかないわけで、何にそれが使われているかと言うと、弁護士や行政書士の仕事を代替するにはマーケットが小さすぎて意味がなく、投資効率の大きい市場にそれは投入されていて、その市場とは、セルフドライビングカー(自動運転車)市場とフィンテックだそうです(次に進行しているのが医療のようだ)。

 それでも、いつか今のスーパーコンピュータと同性能のものが10万円程度で買えるようになれば、多くの分野でAIは活用され、遅かれ早かれ、人類の仕事の量は半分以下になるとのことです。ただし、本書の後半の方に出てきますが、人間の「手」の機能をAI化するのはかなり難しいということと、人間の脳を完全にシュミレートするようなニューロコンピュータの開発が5年後には見込まれるものの、実際それが、人間と同等の仕事を100%こなす汎用コンピュータとなるのは2035年以降だと言われているそうです。

 急速にコンピュータによる自動化が進んでいる様々な産業分野を紹介しつつ、一方で、このようにまだまだの部分もあって、読む側としては安心したり焦ったり、また安心したりですが、やはり今の若い人は、そうしたAI社会を見据えて自分のキャリアを構築した方がいいようです。その点についても著者は助言をしていて、ジャンル的には、①AIを使った事業開発、 ②コミュニケーション力を生かした仕事 、③メカトロ系の頭と身体を同時に使う仕事の3つが有望であるとのことです。

 著者は、仕事が消滅してもAI失業を起こさない策として、仕事が減ってGDPが減少すると予想される170兆円分と同じ額を、国がベーシックインカムとして国民に提供することを提案していて、そのためにAIと人間を「同一労働、同一賃金」にすること、つまり、AIが労働者の賃金を奪った分だけ、国は企業から徴収し、それを国民に提供するベーシックインカムの財源に充てるとよいとしています。本書で最も"提案的"な部分ですが、どれくらい実現可能性があるのか、個人的にはやや疑問でした。

 全体としてはやはり、トレンドウォッチング的な本だったでしょう。AIを巡って今起きていることを概観するにはいいですが、将来の予測となると(ざっくり言って大規模な"ワーク・シフト"が起きるのは間違いないが)時期や分野など細かい点はかなり不確定要素が多いように思いました。まあ、未来を知るには今何が起きているかを知らなければならないわけですが、それでも未来予測って難しい。むしろ、何が起きても大丈夫なように備えよ、という啓発書的な本であったように思います。

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述べられていることに普遍性があるから「ベストセラー」になったのだと思わされた。

プロがすすめるベストセラー経営書9.JPGプロがすすめるベストセラー経営書.jpg  マネジメントの名著を読む.jpg リーダーシップの名著を読む.jpg 企業変革の名著を読む.jpg
プロがすすめるベストセラー経営書 (日経文庫)』 『マネジメントの名著を読む』『リーダーシップの名著を読む』『企業変革の名著を読む

プロがすすめるベストセラー経営書10.JPG 本書は経営書を紹介したものであり、読む前は、同じ日経文庫の『マネジメントの名著を読む』('15年)、『リーダーシップの名著を読む』('15年)など「名著を読む」シリーズと"同系統"かと思いましたが、一方で、タイトルの付け方やカバーデザインが少し違っているので"別系統"かなとも思ったりしました。

 実際のところ、手にしてみれば、『マネジメントの名著を読む』や『リーダーシップの名著を読む』、同じく「名著を読む」シリーズの一冊である『企業変革の名著を読む』('16年)と同様に、オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」であり、経営学者やコンサルタントがマネジメントやリーダーシップに関する本を選んで解説したネットの連載に加筆したものでした。

 今回の特徴は、"ベストセラー"という選び方をしている点ですが、取り上げられている本のうち、『ワーク・シフト』『採用基準』が'12年刊行、『HARD THINGS』が'15年刊行と比較的最近のベストセラーであるものの、中にはベストセラーと言われてもピンとこないものもあるかも。因みに『イノベーションと企業家精神』は'15年刊行の「エッセンシャル版」を底本としています。

『サーバントリーダーシップ』三省堂 3.jpg ロバート・K・グリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』なども'08年の翻訳刊行で、当時はベストセラーだったかもしれませんが、今は"定番""ロングセラー"と言った方がいいかもしれません。ただし、この本、リーダーシップの"定番"でありながら、『リーダーシップの名著を読む』では取り上げれていなかったので、ここで取り上げてもらえるのは有難いです(元本は571ページの大著で、読み手側からすれば、何らかの参考となる切り口が欲しいということもある)。

 これまでの「名著を読む」シリーズと同じく、本ごとに複数のケーススタディを示して解説していますが、今回は紹介している本が全8冊とやや少ないものの、1冊当たりの解説は充実してたように思います。述べられていることに一定の普遍性があるから「ベストセラー」になったのだろうなあと思わせるものがありました。

 国内・国外の「ベストセラー」が混ざっていますが、「ベストセラー」を近年の新刊に限定せず"広義"に解したのは正解だったでしょう。むしろ、連載時点で選者らが、単にベストセラーであるということより、「名著」乃至は「名著となりそうなもの」を選んでいるということなのでしょう。

【読書MEMO】
●取り上げている本
プロがすすめるベストセラー経営書00_.jpgFlag_of_日本.png『戦略プロフェッショナル』三枝匡著(日経ビジネス人文庫、2002年)―原理原則と熱い心がリーダーを作る(清水勝彦(慶應義塾大学ビジネススクール))
ワーク・シフト ―00_.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngワーク・シフト』リンダ・グラットン著(邦訳・プレジデント社、2012年)―明るい未来を切り開くためのシフトチェンジ(岸田雅裕(A・T・カーニー))
採用基準 伊賀泰代.jpgFlag_of_日本.png『採用基準』伊賀泰代著(ダイヤモンド社、2012年)―リーダーシップが自分の人生を切り開く(大海太郎(ウイリス・タワーズワトソン・グループタワーズワトソン))
Flag_of_日本.png『ストーリーとしての競争戦略』楠木建著(東洋経済新報社、2010年)―3枚の札でビジネスに勝つ(小川進(神戸大学、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院))
『サーバントリーダーシップ』 -2.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngサーバントリーダーシップ』ロバート・K・グリーンリーフ著(邦訳・英治出版、2008年)―「良心」が会社を動かす(森洋之進(アーサー・D・リトル))
HARD THINGS.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngHARD THINGS(ハード・シングス)』ベン・ホロウィッツ著(邦訳・日経BP社、2015年)―人、製品、利益、の順番で大事にする(佐々木靖(ボストンコンサルティンググループ))
Flag_of_アメリカ合衆国png.png『イノベーションと企業家精神』ピーター・ドラッカー著(邦訳・ダイヤモンド社"エッセンシャル版"、2015年)―一つの目標に資源を集中させよ(森下幸典(PwCコンサルティング))
Flag_of_日本.png『経営戦略の思考法』沼上幹著(2009年、日本経済新聞出版社)―考え続けることが英断を生む(平井孝志(筑波大学大学院ビジネスサイエンス系))

「●キャリア行動」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【177】 高橋 俊介 『キャリア論
○経営思想家トップ50 ランクイン(ハーミニア・イバーラ)

キャリア・チェンジ成功の鍵は、「計画して実行する」ではなく「試して学ぶ」。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術7.JPGハーバード流 キャリア・チェンジ術.jpg  working identity.png  ハーミニア・イバーラ.jpg
ハーバード流 キャリア・チェンジ術』 "Working Identity: Unconventional Strategies for Reinventing Your Career" ハーミニア・イバーラ (Herminia Ibarra)

 長い年月やってきた仕事に対し、職業人生半ばにしてふとこのままでいいのか、自分のやりたいことは別にあるのではないか、といった疑問を抱くことは誰にもあるのではないかと思われるが、その時からでもキャリアを変更することは可能なのか―本書(原題:Working Identity: Unconventional Strategies for Reinventing Your Career,2003)の著者は、ここで従来のように綿密に計画を立て、自己分析をし、信頼できる人に相談しながら行動しても、多くの場合は徒労に終わってしまうだろうとしています。本書では、様々な状況においてキャリアの転換を試み、成功した39人の例を取り上げ、自分に合った道を探すキャリア・チェンジ術を紹介しています。

 第1章「新しい可能性を見つける」では、キャリア・チェンジにうまく対処するには、つきたい仕事を把握し、その認識に基づいて行動することだと考えがちだが、実際の変化は、行動が最初で、認識はその次となるとしています。なぜならば、キャリア・チェンジとは自分の「キャリア・アイデンティティ」を修正することだからだと。キャリア・アイデンティティとは、キャリアを通じた「自己像」(セルフイメージ)のことであり、具体的には、
 ①職業人の役割を果たす自分をどう見るか、
 ②働く自分を人にどうに伝えるか、
 ③最終的には職業人生をどうに生きるか、
といったことを指すとしています。新しい「将来の自己像」を思い描いたら、新しい自己像のために、これまでのいくつかの自己像を手放さなければならず、また、「新旧のアイデンティティの間」でかなりの時間を過ごすことになるとしています。そして、こうした将来の自己像がさまざまに変わる過渡期に変化を生み出す方法について概説しています。新しいキャリア・アイデンティティを確立するポイントとして、
 ①さまざまなことを試みる、
 ②人間関係を変える、
 ③深く理解し納得する、
の3つを掲げ、以下の第1部からの各章において、キャリア・チェンジを図った人が、職業人生の次の段階にどう進むことによってそのことを成し得たかを、具体的に説明していきます。

 第1部の「キャリア・チェンジ入門編」では、新しいキャリア・アイデンティティを確立できるかどうかを試しながら、最終的には想像以上に大きな変化を遂げる過程を見ています。第2章「将来の自己像」では、一歩踏み出す際の考え方に焦点を当て、「本当はどういう人を目指したいのか」という問いから始めるのではなく、「いろいろな将来の自己像のうち、まずどれを探るべきか。どうすればそれを試せるか」を考えるべきであるとしています。第3章「新旧のアイデンティティの間」では、将来の自己像を試した時から始まる長く混乱した過渡期について取り上げています。第4章「大きな変化」では、このつらい過渡期が必要なものであることの理由を説明し、アイデンティティを修正するには、それを根底から見直すことが必要であるとしています。

 第2部「キャリア・チェンジ実践編」では、過渡期にどう行動すれば転職に成功するかを見ています。第5章「さまざまなことを試みる」では、漠然とした可能性を具体的な計画に変え評価できるようにし、それによって将来を検討する方法を述べています。第6章「人間関係を変える」では、新しい指導者、手本になる人、仕事仲間を見つけることで、新しい世界への不安が少なくなることを説明しています。第7章「深く理解し納得する」では、人生の「物語」を書き換える方法について詳しく述べています。

 最後の第3部「キャリア・チェンジの型破りな戦略」・第8章「自分自身になる」では、これまでに紹介した「型破りな(Unconventional)」キャリア・チェンジ術における以下の9つの戦略をまとめています。
 ・型破りな戦略1 行動してから考える。
 ・型破りな戦略2 本当の自分を見つけようとするのはやめる。
 ・型破りな戦略3 「過渡期」を受け入れる。
 ・型破りな戦略4 「小さな勝利」を積み重ねる。
 ・型破りな戦略5 まずは試してみる。
 ・型破りな戦略6 人間関係を変える。
 ・型破りな戦略7 きっかけを待ってはいけない。
 ・型破りな戦略8 距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。
 ・型破りな戦略9 チャンスの扉をつかむ。

 各章とも、キャリアの転換を試み、成功した人の事例をベースに話を進めているため、分かり易く、また、説得力がありました。よく、転職で失敗する人は「自分探し」をする人だと言われますが、本書はその逆を行ってキャリア・チェンジに成功した人の事例集としても読め、体系的にもよく纏まっていて、すんなり腑に落ちるように思いました。従来のキャリア理論の基本的な考え方であった「計画して実行する」ではなく、まず「試して(自分の自己像が何かを)学ぶ」ことを提唱しているという意味では確かに「型破り」なのかもしれません。個人的には、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性(プランド・ハップンスタンス)理論」に通じるところもあるように思いました。「キャリア・チェンジ術」とありますが、テクニカルな話に止まらず、例えばキャリアとは何かといったことを改めて考える上でも奥が深かったです。

 因みに、著者はフランスとシンガポールに拠点を置くビジネス・スクールINSEADの教授ですが、タイトルに「ハーバード流」とあるのは、ISEADの前にハーバード・ビジネス・スクールで13年間教鞭をとっていることに由来しているようです(「ハーバード流」とあることの理由は他に見当たらなかった。原題は"Working Identity: Unconventional Strategies for Reinventing Your Career"(2003))。

《読書MEMO》
●型破りな戦略1 行動してから考える。
行動することで新しい考え方が生まれ、変化できる。自分を見つめても新しい可能性は見つけられない。
まず一歩踏み出して違う道を試してみる。行動を起こした後、その結果を振り返り(フィードバック)、自分の本当の考え方や気持ちをはっきりさせる。新しいキャリアへの道を分析したり、計画を立てたりしない方がいい。
●型破りな戦略2 本当の自分を見つけようとするのはやめる。
「将来の自己像」を数多く考え出し、その中で試して学びたいものいくつかに焦点を合わせる。
じっくり考えることは大切だが、試さないためのいい訳として利用されがち。自分がどんな人間かを考えるより、欲しいと思っているものが本当に欲しいかどうかを検討する方が重要になる。行動すれば、自分の言動から自分を理解する機会が得られるし、学ぶたびに予想を修正できる。
●型破りな戦略3 「過渡期」を受け入れる。
執着したり手放したり、行動に一貫性がなくてもいいことにする。早まった結論を出すよりは、矛盾を残しておいた方がいい
キャリア・チェンジを実践するまでの何年かは、苦痛や不安、混乱、疑念がどうしても伴う。かなりつらいことだが、目標をすぐには達成できないと分かってもあきらめないこと。急いで結論を出さないように気を付けた方がいい。特に、唐突に転職を打診された場合には注意する。新しいものへ移行するには時間がかかるものと考えておこう。
●型破りな戦略4 「小さな勝利」を積み重ねる。
「小さな勝利」を積み重ねることで、仕事や人生の基本的な判断基準がやがて大きく変わっていく。一気にすべてが変わるような大きな決断をしたくなることもあるが、そうした誘惑には耐えよう。曲がりくねった道を受け入れよう。
小さな一歩が大きな変化を導く。最初から正しい「答え」を見つけようとして、時間や気力、お金を無駄にしない方がいい。押せば劇的な変化が得られる「レバー」はない。初めに試したことですぐに変化を遂げられる人はほとんどいない。直線的に進もうと考えないこと。
●型破りな戦略5 まずは試してみる。
新しい仕事の内容や手法について、感触をつかむ方法を見つけよう。いまの仕事と並行して実行に移せば、結論を出す前に試すことができる。
最初からこれだと決め付けるのではなく、副業や一時的に試す方法を考えてみる。本気で追求するが、決断は後にする。必ずいくつかの選択肢を試して、経験を比較してから選ぶ対象を絞るようにする。
●型破りな戦略6 人間関係を変える。
仕事以外にも目を向ける。あんなふうになりたいと思う人や、キャリア・チェンジを手助けしてくれそうな人を見つけだす。
いま持っているネットワーク(人脈)の外にアンテナを突き出すようにする。
目指したいものを気付かせてくれる人、別の働き方やライフスタイルの実例を見せてくれる人など、手本になる人を見つける。
●型破りな戦略7 きっかけを待ってはいけない。
キャリア・チェンジのきっかけを待っていてはいけない。いま経験している変化の意味を見いだすようにする。
キャリアを大幅に方向転換するには、3年から5年かかる。大きな転機がある場合、後半に訪れることが多い。この過渡期の間、触発される決定的なきっかけを待つのではなく、すべてのものを何らかのきっかけととらえ、その意味を考える。自分の物語(自己像についての)をつくり、人に何度も話してみる。
●型破りな戦略8 距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。
考えに行き詰まって、どうしたらいいか分からなくなったら、変化の動機や過程ばかりを思い詰めている状態から離れてみよう。
1日郊外に出掛けるといった短い休息でも、考え方の習慣がもたらす一面的な見方を外すことができる。ただし、離れている状態を長く続けない方がいい。自分の可能性を見つけるには、実際の社会に前向きに参加し、現実から影響を受けていくしかない。
●型破りな戦略9 チャンスの扉をつかむ。
変化は急激に始まるもの。大きな変化を受け入れやすいときもあれば、そうでないときもあるから好機を逃さない。
チャンスの扉は開いたり閉じたりする。例えば、何かの講座を修了した直後や新しい職務を引き受けたとき、節目となる誕生日などは、絶好の機会として一歩を踏み出すために利用する。

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どうすれば変われるのか。「免疫マップ」という変革アプローチを提案した啓発度の高い本。

なぜ人と組織は変われないのか9.JPGなぜ人と組織は変われないのか.jpg  Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey.jpg
Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey
なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか2.jpg Harvard Graduate School of Educationの発達心理学と教育学の専門家による本であり(原著:Immunity to Change: How to Overcome It and Unlock the Potential in Yourself and Your Organization,2009,Harvard Business Review)、二人の近著には『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(2017/08 英治出版)があります。本書によれば、変わる必要性を認識していても85%の人が行動すら起こさないとのことで、それは何故かというと"変革を阻む"免疫機能"が働くからであるとのことです。著者たちは、変革が進まないのは「意志」が弱いからではなく、「変化⇔防御」という拮抗状態を解消出来ないからだと説きます。そのうえで、30年にわたる研究と実践のなかで編み出された「免疫マップ」という変革アプローチを提案しています。これは、「変わりたくても変われない」という心理的なジレンマの深層を掘り起し、変化に対して自分を守ろうとしているメカニズムを解き明かす手法であり、自分のもっている「免疫マップ」、つまり「改善目標や阻害行動、裏の目標、強力な固定観念」を、事実と自分に向き合いながらみんなで見つけ出すことで、様々なレベルでの改革を効果的に展開できるとしています。

 全体で3部構成であり、第1部「"変われない"本当の理由」で「免疫マップ」による変革アプローチの概念を説明し、第2部「変革に成功した人たち」で実際の成功事例を紹介、第3部「変革を実践するプロセス」で自分もやってみようという読者にその実践方法を紹介しています。

 第1部「"変われない"本当の理由」では、大人の知性の発達に関してこの30年間で明らかになった新しい真実、そして、その発見が職業生活に対してもつ意味を簡単に解説しています。第1章では、本書で提案するアイデアと手法の理論的・実証的土台を整え、第2章では、「どうして人は本当に望んでいる変革を実現できないのか」という点について、これまで知られてこなかったメカニズム"変革をはばむ免疫機能"を紹介し、第3章では、本書の考え方を職場で実践し、成果をあげたビジネス界と政府機関の2人のリーダーの実例を取り上げています。

 第2部「変革に成功した人たち」では、"変革をはばむ免疫機能"に対処すれば、個人と組織がどのような変化を遂げられるかを詳しく説明しています。取り上げている事例は、当事者の業種や分野も、実現しようとする目標も様々です。第4章では、グループが集団レベルの"変革をはばむ免疫機能"に対処したケース、第5章と第6章では、2人の個人がそれぞれの"変革をはばむ免疫機能"に対処したケースを紹介し、第7章では、最も野心的な取り組みである、職場グループ全体の成果を高めるためにメンバーの一人ひとりが個人レベルの"変革をはばむ免疫機能"に対処したケースを紹介しています。

 第3部「変革を実践するプロセス」では、読者が個人レベルと集団レベルで"変革をはばむ免疫機能"に対処するための手引きを示しています。第8章では、このアプローチを実践するために必要な3つの要素を指摘し、第9章と第10章では、免疫機能を診断するためのプロセスを段階ごとに説明して、読者が個人レベルの免疫機能を乗り越えるよう導いています。第11章では、チームや組織のレベルで免疫機能を克服するプロセスと、そのために役立つ方法論を紹介しています。そして終章では、チームのメンバーとチーム全体が能力を高められる土壌を作るために、リーダーが備えるべき7つの資質を論じています。

 個人と組織が成功するために避けて通れない変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにし、「免疫マップ」を用いた変革のアプローチとその効果を多くの事例を通して明らかにし、更に本書を手にした読者に対し、自分とチームのメンバーが職場で能力を目覚ましく発揮できるようにするにはどうすればよいかまでを説いた啓発度の高い本です(個人的には、「免疫マップ」の手法は、心理療法における「認知療法」とも共通点があるように思った)。実際に行われたワークやエクササイズなどの事例ベースで解説が進むため、読み物を読むように読めてしまうのもいいところでしょうか。それでいて、ポイントはしっかり要約されています。組織を率いるリーダーにとっての組織と自分を変える処方箋となり得る要素があり、個人的にも折々に再読してみたい本でもあると思いました。

なぜ人と組織は変われないのか3.jpg《読書MEMO》
●免疫マップ:変革のプロセスに関する思考の地図というべきもの。
1)改善目標、
2)阻害行動(改善目標の達成を妨げる要因)、
3)裏の目標(不安も含む)、
4)強力な固定観念、
からなる
●変わるために必要な3つの要素(276p~295p)
要素1 心の底―変革を起こすためのやる気の源:目標を成し遂げたいという強力な本能レベルの欲求。ほかに、自己変革の原動力になりうる要素としては、たとえば目標の達成に自信があり、そのための方法がわかっていること。
要素2 頭脳とハート―思考と感情の両方にはたらきかける:"変革をはばむ免疫機能"は、特定の知性のレベルならではの思考と感情の両方を反映するものなので、適応を要する変化を本当に成し遂げようと思えばこの両方にはたらきかけなくてはならない。
要素3 手―思考と行動を同時に変える:既存の免疫機能と衝突する行動を意識的に取ってはじめて変革が可能になる。これを避けていては、既存の行動パターンの土台にある思考様式の妥当性を検証できないからだ。
●リーダーが備えるべき7つの資質(402p~418p)
①大人になっても成長できるという前提に立つ
②適切な学習方法を採用する
③誰もが内に秘めている成長への欲求をはぐくむ
④本当の変革には時間がかかることを覚悟する
⑤感情が重要な役割を担っていることを認識する
⑥考え方と行動のどちらも変えるべきだと理解する
⑦メンバーにとって安全な場を用意する

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「働きがい」を構成するの「信頼(信用・尊敬・公正)」「誇り」「連帯感」。

The Great Workplace.jpg最高の職場 ロビン.jpg最高の職場 ロビン2.jpg
最高の職場―いかに創り、いかに保つか、そして何が大切か
"The Great Workplace: How to Build It, How to Keep It, and Why It Matters"
Great Place to Work HPより
「働きがいのある会社」モデル.jpg 本書(原題:The Great Workplace: How to Build It, How to Keep It, and Why It Matters,2011)は『フォーチュン』誌の「米国で最も働きがいのある会社ベスト100」を認定する、サンフランシスコに本部を置く《Great Place to Work (働きがいのある会社)Institute(GPTWI)》による「最高の職場」に関する調査報告書であり、いわゆるGPTWモデルというものを提唱したものです。

 第1章では、GPTWIが、長年にわたる研究から定義したGPTWモデルの「働きがい」の構成要素を5つ挙げています。その5つとは、①信用、②尊敬、③公正、④誇り、⑤連帯感であり、そのうち①~③までを一緒にした概念が「信頼」であり、「信頼」「誇り」「連帯感」の3つは、組織におけるプラットフォームで、それがない組織では、どんな制度や仕掛けを導入してもうまく機能しないとしています。以下、第2章から第7章にかけて、これら5つの要素について、それぞれのチェックポイントを解説しています。

 第2章は「信用」について述べられており、リーダーに対する信用を構築するのに欠かせないものとして、オープンで気さくな「双方向コミュニケーション」、人材とその他のリソースを調整する際の「有能さ」、一貫性をもってビジョンを遂行する「誠実さ」の3つを挙げています。第3章は「尊敬」について解説しており、リーダーの行動が従業員の尊敬の念に影響を与える3つの領域に、専門性の育成のための「支援(サポート)」、関係する意思決定における従業員との「協働(コラボレーション)」、従業員の家庭や生活への「配慮(ケアリング)」をがあるとしています。第4章は「公正」について述べられており、報酬が整合性のとれた方法で配分されているという「公平感」、採用や昇進でのえこひいきがない「偏りのなさ」、差別がなく、意見や不満をアピールすることができる「正義」の3つが公正な職場環境を構築するとしています。

 第5章は「誇り」について説いており、社員を育む誇りには、「自分の仕事」に対する誇り、「チーム」が行った仕事に対する誇り、「組織」が生み出す製品や地域社会での位置づけに対する誇りの3つがあるとしています。第6章では「連帯感」について述べられており、自分らしくいられる環境が整っている「親しみやすさ」、楽しみと歓迎する雰囲気がある「思いやり」、《家族》意識や《チーム》意識といった「仲間意識」の3つが、職場の連帯感を構築するとしています。

 第7章ではグローバルな視点に立ち、こうしたGPTWモデルが世界共通にビジネス上の恩恵をもたらしていることが、世界各国にあるGPTWIのオフィスで行われた調査結果から判明しているとしています。第8章では、では最高の職場を作るにはどうすればよいのかを説き、最高の職場におけるリーダーは、責任感と謙虚さ、熱意と忍耐力、人と成果のそれぞれについて、これかあれかの選択をするのではなく、それら二つの見方のバランスをとっているとしています。

 本書で挙げた「働きがい」の構成要素のそれぞれについて、その分野で秀でた会社の事例が数多く紹介されており、多様な学習機会や楽しいイベントを用意している会社が多くあります。例えばバーモント州のコーヒー豆販売会社は、社員をコーヒーの生産国に招待し、コーヒーの木がどのような険しさの中で成長するのかを教え、そして旅の思い出を共有するようにしています。ギリシャでスイミングプールの建設と保守をしている会社の場合は、大学院に行きたい者には学費を払い、フランチャイズ事業を立ち上げたい者には資金援助をしていて、またグローバルな法律事務所では、1000人を超える弁護士が1人当たり77時間の無料法律相談をしていたりします。

 本書で挙げられている「働きがい」の構成要素の中には、かつて日本的経営の強みと言われた要素も少なからず見られたように思いました。また、リーダーシップとはバランス感覚なのだという思いも抱かされました。「働きがいのある会社」とはどのような会社なのかということをデータに基づいて述べているわけであって、人事パーソンは一度は読んでおきたい本です。

《読書MEMO》
●目次
第1章 序論 最高の職場を創り上げることがもつ価値
 Case study SASインスティチュート-最高の資産に配慮する
第2章 信用 「私はリーダーを信じる」
 Case study プライスウォーターハウスクーパース-優秀な社員の鼓舞
 Case study グーグル-巨大な干し草の山からグーグラーを探し出す
第3章 尊敬 「私はこの組織の価値ある一員です」
 Case study ジェネラル・ミルズ-優秀な管理職の育成
 Case study SCジョンソン-ファミリー企業
第4章 公正 「皆が同じルールでプレーする」
 Case study スクリップス・ヘルス病院-全員は一人のために、一人は全員のために
 Case study CH2Mヒル 所有権をもつ生き方
第5章 誇り 「私は本当に意味あることに貢献します」
 Case study ウェグマンズ・フード・マーケッツ-地域社会への貢献を誇りとする
 Case study WLゴア&アソシエイツ-革新的な文化と革新のための文化
第6章 連帯感 「わが社の社員はすばらしい」
 Case study カムデン・プロパティ・トラスト-社員と同社製住宅の住民にとって楽しいコミュニティの構築
 Case study マイクロソフト-天才大歓迎
第7章 グローバルな視点 世界各国にある最高の職場
第8章 行動を起こす 最高の職場を創り上げる
●GPTWモデルの「働きがい」の5つの構成要素とチェックポイント
①信用
・コミュニケーション:オープンで気さくなコミュニケーション
・有能さ:人材とその他のリソースを調整する際の有能さ
・誠実さ:誠実さを重視し、一貫性をもってビジョンを遂行している
②尊敬
・支援:専門性の育成への支援と感謝の表明
・協働:関係する意思決定における従業員との協働
・配慮:従業員の家庭や生活への配慮
③公正
・公平感:全員に対する公平な報酬
・偏りのなさ:採用・昇進でえこひいきをしない
・正義:差別がなく、意見や不満をアピールする方法が整っている
④誇り
・自分の仕事:自分の仕事と個人的貢献に対する誇り
・チーム:自分のチームやワークグループが行った仕事に対する誇り
・組織:組織の製品や地域社会での位置づけに対する誇り
⑤連帯感
・親しみやすさ:白分らしくいられる環境が整っている
・思いやり:社交的で親しみやすく、歓迎する雰囲気がある
・仲間意識:《家族》意識や《チーム》意識

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第1部41冊の紹介・解説が丁寧。MBAテキストの"定番"を知るのに良い。
トップMBAの必読文献.jpgトップMBAの必読文献5.JPG トップMBAの必読文献8.JPG
トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊

 本書は3部構成になっていて、第1部「トップMBAの必読文献」では、「世界の経営バイブル」呼べるものを、アカウンティング、統計と分析、経済学、ファイナンス、マーケティング、オペレーションズ、 組織行動、戦略、ゼネラル・マネジメントの9ジャンルから41冊選んで解説しいます。

 第2部「各ビジネス分野における主要なテキスト」では、主要MBAのカリキュラムで使用されるテキストを、第1部と同じようなジャンル区分に沿って75冊、どこの大学で使用しているかも含め紹介するとともに、内容を簡単に解説しています。

 第3部「トップMBAで使用されている500のテキスト」では、さらにMBAで称されているテキスト500冊を、第1部、第2部と同様のジャンル区分に沿って紹介しています(タイトルの紹介のみ)。第2部、第3部については、翻訳されていないものも多く含まれています、

 ページ数で全体の半分強を占める第1部の文献紹介が充実していて、本ごとに「バイブル特性マップ」として「難易度(高・低)」と「領域の幅(基本・専門)」を2軸で表し、テキスト使用大学、著者の略歴を紹介、さらに、その本の読みどころ、その本がどのようなメッセージを伝えようとしているのか、その本の概要―といった具合に、かなり突っ込んだ解説になっています。

 第1部で紹介されている41冊(すべて翻訳されている)の「バイブル書」の定義は、世界のトップMBAでテキストとして使用されているということだけでなく、一時の流行ではなく「世界34カ国で翻訳」「各国で100万部突破」「第12版」など定番として売れ続けている原典で、「体系的」かつ「深堀り」された名著であるとのことで、その定義に応えるラインアップとなっているように思います。

『ハーバード流交渉術』.jpgEQリーダーシップ2.jpg 第1部ではマーケティング分野が比較的充実していたでしょうか。ただし、第2部、第3部にもマネジメントやリーダーシップ関連の良書はあって、第1MBAの人材戦略.jpg巨象も踊る.jpg部と重複していないもので、第2部では、ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリーらの『ハーバード流交渉術』、ダニエル・ゴールマンらの『EQリーダーシップ』、第3部では、デイビッド・ウルリッチの『MBAの人材戦』、ルイス・V・ガースナーの『巨象も踊る』といったアメリカCEOのベストビジネス書100.jpg本もありました。『巨象も踊る』は、本書と同年同月に翻訳が刊行された『アメリカCEOのベストビジネス書100』(講談社)でも取り上げられていましたが、こういう特定企業の成功事例本でもMBAのテキストなるのだなあと改めて思いました。

あらすじで読む世界のビジネス名著.jpg 第1部の41冊の選本については、同じグローバルタスクフォースによる『あらすじで読む 世界のビジネス名著』('04年/総合法令)とややダブる傾向にあったかも(因みに、同じグローバルタスクフォースの『世界のエリートに読み継がれているビジネス書38冊』('15年)ともダブりが多い)。本書も2009年刊行と刊行やや年数が経っているため、MBAテキストの最新動向とまではいかないと思いますが、どのような本がMBAテキストの"定番"とされているのかを知るのには良い本だと思います。

《読書MEMO》
●第1部で紹介されている41冊
第1章アカウンティング
01『企業分析入門』K・G. パレプ 、V・L・ バーナード、P・M・ヒーリー
02『ABCマネジメント革命』ロビン クーパー ほか
第2章 統計と分析
03『ビジネス統計学』アミール・アクゼル、ジャヤベル・ソウンデルパンディアン
第3章 経済学
04『ゲーム理論で勝つ経営』B・J・ネイルパフ、 A・M・ブランデンバーガー
05『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー
第4章 ファイナンス
06『EVA創造の経営』G・ベネツト・スチュワートⅢ
07『企業価値評価』マッキンゼー・アンド・カンパニーほか
08『決定版 リアル・オプション』トム コープランド、ウラジミール アンティカロフ
09『コーポレート ファイナンス』リチャード・ブリーリー、スチュワート・マイヤーズ
第5章 マーケティング
10『価格戦略論』ヘルマン・サイモン、ロバート・J. ドーラン
11『サービス・マーケティング原理』クリストファー・ラブロック、ローレン ライト
12『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』フィリップ・コトラー、ケビン・レーン ケラー
13『ブランド・エクイティ戦略』デービッド・A・ アーカー
14『戦略販売』R・ B・ミラー、S・ E・ハイマン
15『マーケティング・リサーチの理論と実践』ナレシュ・K. マルホトラ
16『刺さる広告』レックス・ブリッグス、グレッグ・スチュアート
17『アイデアのちから』チップ・ハース、ダン・ハース
18『顧客ロイヤルティのマネジメント』フレデリック・F・ライクヘルド
第6章 オペレーションズ
19『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン
20『イノベーションへの解』クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー
21『知識創造企業』野中 郁次郎、竹内 弘高
22『サプライチェーン・デザイン』チャールズ・H・ファイン
23『企業のレジリエンシー』ヨッシー・シェフィー
第7章 組織行動
コンピテンシーマネジメントの展開.gif24『コンピテンシー・マネジメントの展開』ライル・M・スペンサー、シグネ・M・ スペンサー
ハーバードで教える人材戦略2.jpg25『ハーバードで教える人材戦略』M・ビアー、P・R・ローレンス、R・E・ウォルトン、B・スペクター、D・Q・ミルズ
【新版】組織行動のマネジメント.jpg26『組織行動のマネジメント』ステファン・P・ロビンス
最強組織の法則 - 原著1990.jpg27『最強組織の法則』ピーター・M・センゲ
第8章 戦略
28『競争の戦略』M・E・ポーター
29『競争優位の戦略』M・E・ポーター
30『企業戦略論』ジェイ・B・バーニー
第9章 ゼネラル・マネジメント
31『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』M・グラッドウェル
32『ベンチャー創造の理論と戦略』ジェフリー・A ティモンズ
ドラッカー名著集2.jpgドラッカー名著集3.jpg33『現代の経営』P・F・ドラッカー
34『考える技術・書く技術』バーバラ・ミント
35『無理せずに勝てる交渉術』G・リチャード・シェル
36『影響力の武器』ロバート・B・チャルディーニ
37『バイアスを排除する経営意思決定』マックス・ベイザーマン
38『実行力不全』ジェフリー・フェファー、ロバート・I・サットン
第10章 リーダーシップ
39『企業変革力』ジョン・P・コッター
ミッション・リーダーシップ .JPG40『ミッション・リーダーシップ』ビル・ジョージ
ビジョナリー・カンパニー1.jpg41『ビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス

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「中央集権」から「分権」へ。「ハイブリッド型」もあり。組織論の新たな視点。

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ヒトデはクモよりなぜ強い』['07年] Ori Brafman / Rod Beckstrom

 本書(原題:The Starfish and the Spider: The Unstoppable Power of Leaderless Organizations,2006)では、階層的な指揮命令系統が定められている中央集権的な組織を「クモ型」、権限が分散し階層構造を持たないネットワークの総体を「ヒトデ型」とし、「ヒトデ型」を「ヒトデ型」たらしめるものは何で、「ヒトデ型」を有効に機能させる要素は何かの解明を試みています。

 第1章「MGMの失敗とアパッチ族の謎」では、MGMなどのレコード会社が違法なダウンロードをユーザーにさせるP2Pサービス会社を排除できなかった事例を、スペイン軍がアパッチ族を制圧できなかった事例に照らして分析し、「分権型の組織が攻撃を受けると、それまで以上に開かれた状態になり、権限をそれまで以上に分散させる」(分権の第1の法則)としています。

 第2章「クモとヒトデとインターネットの最高責任者」では、インターネットの概念はまさにヒトデ型であるが、インターネットが登場した際に、クモ型組織に馴れ親しんだ人が初めてそれに接して、インターネットの最高責任者は誰かと訊ねたように、「ヒトデを見てもクモだと勘違いしやすい」(分権の第2の法則)ものであり、「開かれた組織では情報が一カ所に集中せず、組織内のあらゆる場所に散らばっている」(分権の第3の法則)としています。また、分権型組織の構造の特徴として、「開かれた組織は簡単に変化させることができる」(分権の第4の法則)、「ヒトデたちは、誰も気づかないうちにそっと背後から忍び寄る性質がある」(分権の第5の法則)とし、「業界内で権力が分散すると、全体の利益が減少する」(分権の第6の法則)としています。また、ヒトデとクモを見分ける方法として、誰かひとり、トップに責任者がいるか?など、10のポイントを挙げています。

 第3章「ヒトデでいっぱいの海」では、ウィキペディアなどを例に、「開かれた組織に招かれた人たちは、自動的に、その組織の役に立つことをしたがる」(分権の第7の法則)としています。

 第4章「5本足で立つ」では、分権型組織は五本足で立つ動物のようなものだとし、その5つの足とは、①サークル(ヒエラルキーのないグループ。自主性にゆだねられる)、②触媒(サークルを創設し、そのあとは身を引いて、表舞台から消えてしまう人物)、③イデオロギー(分権型の組織をまとめる接着剤の役割を果たす)、④既存のネットワーク(インターネットが、新しいヒトデの繁殖地)、⑤推進者(新しい概念を執拗なまでに推し進める)であるとしています。

 第5章「触媒のもつ不思議な力」では、第4章で挙げた分権型組織における5つの要素のうち、「触媒」に必要なものとして、他人に対する純粋な興味や緩やかなつながりの許容など、12の「道具」を挙げています。

 第6章「分権型組織と戦う」では、「攻撃されると、集権型組織は権限をさらに集中させる傾向がある」(分権の第8の法則)が、これはうまくいかないとし、ヒトデによる侵略に対抗する具体的な戦略として、①イデオロギーを変える、②権限を中央に集めさせる、③自らも分権型に変わって対抗する、の3つを挙げています。

 第7章「ハイブリッドな組織」では、純粋なヒトデ型組織でも、クモ型組織でもない、ハイブリッド型組織というものもあるとし、そのハイブリッド型組織には、①顧客経験価値を分散させた中央集権型企業(イーベイ、アマゾン、グーグル)、②中央集権型企業でありながら、ビジネスの一部に分権を取り入れている企業(GE、DFJ、トヨタ)の2種類があるとしています。

 第8章「スイートスポットを探して」では、トヨタ方式の例(生産性の低かったGMの工場をいわゆるトヨタ生産方式の分権的な現場作業で劇的に改善させたケース)を挙げ、企業はどの部分を分権化するか、分権の「スイートスポット」を追い求めるべきであるとしています。

 第9章「新しい世界へ」では、これまで述べてきたことのまとめとして、今日の企業競争には新しいゲームのルールが誕生しているとして、規模の不経済、ネットワーク効果、無秩序の力など10のルールを挙げています。

 本書では権力分散の成功例が豊富に紹介されていますが、今日において活発に活動している企業の多くが、はっきりした命令系統のある組織でありながら、サービスや経営に権限分散の要素を取り入れた「ハイブリッド型」であり、社内で一貫性を保ち、きちんと管理するには集権型のマネジメントが必要だが、人々が創造力を発揮しやすいのは、秩序よりも柔軟性を重んじる分権型の環境であることも示唆しています。組織論に新たな視点を提供しているという意味で、一読をお薦めします。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 MGMの失敗とアパッチ族の謎
第2章 クモとヒトデとインターネットの最高責任者
第3章 ヒトデでいっぱいの海
第4章 5本足で立つ
第5章 触媒のもつ不思議な力
第6章 分権型組織と戦う
第7章 ハイブリッドな組織
第8章 スイートスポットを探して
第9章 新しい世界へ
注釈・謝辞・訳者あとがき・索引
●分権についての重要な8つの法則(第1章~第3章)
①分権型の組織が攻撃を受けると、それまで以上に開かれた状態になり、権限をそれまで以上に分散させる(第1章)
②ヒトデを見てもクモだと勘違いしやすい(第2章)
③開かれた組織では情報が一カ所に集中せず、組織内のあらゆる場所に散らばっている(第2章)
④開かれた組織は簡単に変化させることができる(第2章)
⑤ヒトデたちには、誰も気づかないうちに、そっと背後から忍び寄る性質がある(第2章)
⑥業界内で権力が分散すると、全体の利益が減少する(第2章)
⑦開かれた組織に招かれた人たちは、自動的に、その組織の役に立つことをしたがる(第3章)
⑧攻撃されると、集権型組織は権限をさらに集中させる傾向がある(第6章)
●ヒトデとクモを見分ける10のポイント(第2章)
①誰かひとり、トップに責任者がいるか?
②本部があるか?
③頭を殴ったら死ぬか?
 ④明確な役割分担があるか?
 ⑤組織の一部を破壊したら、その組織が傷つくか?
 ⑥知識と権限が集中しているか?、分散しているか?
 ⑦組織には柔軟性があるか、それとも硬直しているか?
 ⑧従業員や参加者の数がわかるか?
⑨各グループは組織から資金を得ているか、それとも自分たちで調達しているか?
⑩グループは直接連絡をとるか、それとも仲介者を通すか?
●信頼感とコミュニティ(第3章)
 クレイグズリストを使ってタダで箱を手に入れるということは、クレイグズリストというコミュニティにちょっとした借りができるようなものだ。
開かれた組織では、最も重要なのはCEOではなく、組織のリーダーが、組織を構成するメンバーをどれだけ信頼し、その自主性に任せるかなのだ。
●分権型組織における5つの根本的要素(第4章)
①サークル(ヒエラルキーのないグループ。自主性にゆだねられる)
②触媒(サークルを創設し、そのあとは身を引いて、表舞台から消えてしまう人物)
③イデオロギー(分権型の組織をまとめる接着剤の役割を果たす)
④既存のネットワーク(インターネットが、新しいヒトデの繁殖地)
⑤推進者(新しい概念を執拗なまでに推し進める)
●触媒に必要なもの(第5章)
①他人に対する純粋な興味
 ②緩やかなつながりの許容
 ③(知り合いのネットワークの)地図づくり
 ④役に立ちたいという欲求
 ⑤情報
 ⑥説得せず、肯定するスタンス
 ⑦感情的知性
 ⑧信頼
 ⑨他人にインスピレーションを与えること
 ⑩曖昧さへの寛容さ
 ⑪干渉しないこと
 ⑫立ち去ること
●ヒトデ型組織に対抗する戦略(第6章)
①イデオロギーを変える
 ②権限を中央に集めさせる(牛型アプローチ)
 ③自らも分権型に変わって対抗する(奴らに勝てないなら奴らの仲間になれ)
●ハイブリッド型組織(第7章)
①顧客経験価値を分散させた中央集権型企業(イーベイ、アマゾン、グーグル)
②中央集権型企業でありながら、ビジネスの一部に分権を取り入れている企業(GE、DFJ、トヨタ)
●肯定的な問いかけ(AI=アプリシエイティブ・インクワイアリー)(第7章)
 人々がお互いに意義のある質問をしあう、組織の権限を分散させるための手法。
組織について自分がもつ夢を、どんなに実現不可能なものでも良いから話し合う。
●新しい世界のゲームのルール(第9章)
①規模の不経済
②ネットワーク効果
③無秩序の力
④組織の端の知識
⑤誰もが貢献したがる
⑥ヒュドラの反撃に気をつけろ
⑦触媒が触発する
⑧価値こそが組織
⑨測定して、観察して、仕切る
⑩フラットにせよ―でないと負ける

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鋭い人間行動観察を通してアファーマティブ(ポジティブ)・アクションクションを擁護。

企業のなかの男と女.jpgMen and Women of the Corporation.jpg Rosabeth Moss Kanter  .jpg Rosabeth Moss Kanter.jpg Rosabeth Moss Kanter
"Men and Women of the Corporation: New Edition"(2nd ed.1993)
企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』['95年]

ロザベス・モス・カンター    .jpg 本書は、社会学者である著者が、1970年代に約5年間外部コンサルタントとして働いたある大企業での男性・女性社職員について描いたエスノグラフィ(行動観察記)であり、1977年の原著(Men and women of the corporation)出版から16年を経た1993年に社会的変化を追記し改訂新版が刊行されています(以下の章はこの改訂新版の邦訳版(1995年/生産性出版)に準拠する)。

 本書での議論を貫いているコンセプトは「職務が人を作る」というものであり、「人が置かれた状況の特徴が行動を作る」のであって、よって「人は同じ状況に置かれれば男性も女性も同じ行動や態度を示す」としており、その状況を規定するものとして「機会」「権力」「数」の3つを挙げています。

 第1章「企業のなかの男と女‥そこに住む人々」では、企業の発展と経営精神や経営学の発展を、経営精神の男性化という視点から捉えています。第2章「インダストリアル・サプライ・コーポレイション‥舞台装置(要約)」では、本書の舞台となった「インダスコ社」(仮称)のオフィスや文化、階級システムなどを紹介しています。第3章「管理者たち」では、その中で働く人々、特に管理監督職につく男女の問題を扱っています。

 第4章から第6章にかけては、著者の理論を説明する3つの要因である「機会」「権力」「数」について述べています。そして、第7章「理論への貢献‥組織行動を決定する構造的な要因(要約)」では、経営学の2つの流れと、マルクス主義からの視点、また女性論として本理論と対立する理論を紹介し、検討を加えています。第8章「実践への貢献‥組織的変革、アファーマティブ・アクション、職業生活の質(要約)」では、政策への応用が論じられ、企業組織の改革や女性の数を増やすための施策が提起されています。

1977-08-Rosabeth-Moss-Kanter.jpg 本書が出版された1977年は、米国がアファーマティブ・アクション(欧州ではポジティブ・アクションと呼ばれている)を制定して10年目にあたっており、当初は人種間の不平等を是正するためのこの政策が女性にも適用が拡大され、それまで男性の職場と考えられていた管理職や多くの専門職、ブルーカラー的職種に女性も積極的に雇用することが義務付けられたり奨励されたりしたわけですが、その結果、広い分野に女性が現われ始めていたものの、その数はまだ少なく、「初の女性」という冠がつきまとう珍しいものであったようです(特に、高給を伴う職務では、なかなか女性の進出が進まない現状があったようだ)。

1977 08 Rosabeth Moss Kanter

 そうした中で、著者の主張は、第一に、女性の問題とされる企業における機会や地位の問題を男性の問題でもあるとし、職場において男性に特有とされる態度や行動が、実は機会や権力の有無や数の不均衡から生じているとしている点に大きな意味があります。そして、第二に、トークニズムという概念を発展させ、男女の人数の比率の不均衡は、多くのプレッシャーを少数派であるトークンに与え(トークンとは、本来は、目につきやすいもの、象徴という意味)、男性でも女性でも少数派に属する方に不利を与えるので、外部からの介入によって人数の平等を積極的に図らねばならないとしています。

 つまり、著者は、企業の中の大多数派(男性)とトークン(女性)の組織行動の中に見られるこの現象を本書において理論化し、トークンはトークニズムのプレッシャーのため、いつまでも力を発揮できず、発揮しても例外としか評価されないため、社会の固定観念を変化させる力とはならず、これが「最初の女性○○」が現われてもその後になかなか人数が増えないことの1つの理由であり、トークンを増やすには、外部からの圧力を使っう必要があるとしてアファーマティブ・アクション(ポジティブ・アクション)を擁護しているわけです。

 こうしたトークニズムの概念に踏み込んでいくのは本書の中盤以降にかけてですが、本書で描かれている「インダスコ社」の職員の企業生活が、1980年代の米国にとっての不況の時代以前のものであり、長期雇用を前提とした従来の日本型雇用の下での企業生活と似ているため、意外と身近な印象を抱きつつ読み進むことができるのではないかと思います。また加えて、著者の組織の中での人間の行動に対する鋭い観察の成果が組織行動論として冒頭から冒頭から随所に散りばめられており、人事パーソンであれば啓発される面も多いかと思います(個人的には第3章「管理者たち」における管理職の分析などは優れていると思った)。

《読書MEMO》
●目次
第1章 企業のなかの男と女‥そこに住む人々
第2章 インダストリアル・サプライ・コーポレイション‥舞台装置(要約)
第3章 管理者たち
第4章 機会
第5章 権力
第6章 数‥少数派と多数派
第7章 理論への貢献‥組織行動を決定する構造的な要因(要約)
第8章 実践への貢献‥組織的変革、アファーマティブ・アクション、職業生活の質(要約)

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ロブ・ゴーフィー/ガレス・ジョーンズ)

「自分自身に忠実であれ」という困難なチャレンジにどう向き合うかをガイドしている。

なぜ、あなたがリーダーなのか?.jpgなぜ、あなたがリーダーなのか 旧版2.jpgなぜ、あなたがリーダーなのか 旧3.JPGRob Goffee & Gareth Jones.jpg Rob Goffee & Gareth Jones
なぜ、あなたがリーダーなのか[新版]――本物は「自分らしさ」を武器にする』['17年]/
なぜ、あなたがリーダーなのか? (ADL経営イノベーションシリーズ)』['07年]
"Why Should Anyone Be Led by You? With a New Preface by the Authors: What It Takes to Be an Authentic Leader"(2019)
Why Should Anyone Be Led by You?:What It Takes To Be An Authentic Leader.jpg ロンドン・ビジネススクール教授らが自らのリーダーシップ研究について纏めたもので(原題"Why Should Anyone Be Led by You?: What It Takes To Be An Authentic Leader" 2006)、日本でも2007年に一度邦訳が刊行されています(実は個人的にはそちらを読んだ)。内容的には、優れたリーダーに共通する資質を探るのではなく(所謂"特性論"を否定している)、各自が自分の持ち味を生かしてリーダーシップを発揮するためにはどうすればよいかを考えています。

 第1章「自分自身に忠実であれ」では、「みんながジャック・ウェルチになれるわけではない」として、いつ何時でもあてはまるようなリーダーシップ特性というものの存在を否定し、リーダーシップは状況に左右されるとしています。そして、「リーダーであるためには、自分自身に忠実でなければならない」ということをテーマに掲げ、優れたリーダーは、役割を果たす上で役立ちうる「自分ならではの持ち味」を認識し、活用しているとしています。また、「リーダーシップに関わる三つの原理原則」として、以下を挙げています。
 ①リーダーシップは状況に左右される
 ②リーダーシップは肩書きを問わない
 ③リーダーシップは関係性に根ざす

 第2章「自分らしく振る舞え」では、良いリーダーは自らの持ち味にいかにして気づき、活かすようになっていくのかを考察しています。そして、優れたリーダーは、周りの環境が著しく変化していく中にあっても、自分にとって無理なく心地よい「らしさ」を見失わないとしています。そして、その「らしさ」を周囲は評価するとして、自分らしくあるための実践的な取り組みのコツを、
 ①新たな状況、新たな経験に身をさらす
 ②フィードバックを正しく得る
 ③歩んできた道をみつめなおす
 ④生い立ちを振りかえる
 ⑤(仕事、家庭に次ぐ)第三の場所を見つける

 第3章「リスクに身をゆだねよ」では、リーダーとしての自分らしさの打ち出しが必然的に伴う、個人的なリスクテイクを論じています。リーダーとしての自分をさらけ出せば必然的に、その強みと共に弱みも見せることになるが、それはリーダーとしての魅力を損なわせるものではないとしています。そして、リーダーは、「自らのおかれた状況を前提とした上で」自分らしくあらねばならないとしています。

 第4章「おかれた状況を感知せよ」では、状況感知を考察しています。リーダーは、ものごとを察する力と見極める力を駆使して、今何がおこっているかを示すシグナルを捉え続けなくてはならず、状況を感知する力は、次の三つの相関しあう要素に分け得るとしています。
 ①観察すること、認識すること
 ②行動すること、適応すること
 ③状況を変えていくこと

 第5章「相応に妥協せよ」では、「状況にほどよく同調する」ことを論じています、リーダーとして自分らしさを押し出していくことは大切だが、しかし同時に、いつ、どこで、どれほど現状と折り合いをつければよいかも正しく判断できなければならず、良いリーダーは、状況への同調を通じて周囲に馴染もうとするとしています。また、ここでは、組織文化の基本的な形として、次の四つを挙げ、それぞれにプラス面。マイナス面があるとしています。
 ①ネットワーク型(社交性が高く連帯性が低い文化)
 ②傭兵型(社交性が低く連帯性が高い文化)
 ③断片型(社交性・連帯性ともに低い化)
 ④共同体型(社交性・連帯性ともに高い化)

 第6章「距離感を操れ」では、距離感のコントロールを論じています。思いやりや愛情を持って歩み寄るべきとき。ぬるま湯的な雰囲気に喝を入れるために距離をおくべきとき。優れたリーダーがこれをどう判断し、行動しているのかを明らかにしています。そして、距離感に関して留意すべきリスクとして、以下を挙げています。
 ①歩み寄り過ぎて同化してしまう
 ②親しさが未熟ことに気づかない
 ③本来の目的を見失う
 ④歩み寄るべきときに遠くにいる
 ⑤素晴らしくやり過ごしてしまう

 第7章「組織にリズムを刻め」では、コミュニケーションを考察しています。社会的距離の意図的なコントロールを破綻なくやりとげるには、熟達した意思疎通能力が必要となり、良いリーダーは、自分自身を皆がどう見ているか・感じているかに細心の注意を払うとしています。そして、良いリーダーのコミュニケーションのガイドラインを以下のように示しています。
 ①変化を必要十分に強いる
 ②心をつかみビジョンを届ける
 ③もてる「ヒト」資産を量る
 ④ゆっくりと急ぐ
 ⑤しかるべく報いる

 第8章「部下は何を望むか」では、フォロワーシップについて検討しています。リーダーシップは関係性に根ざすため、フォロワーについて知ることは大切であり、部下がリーダーに何を求めるかは、次の四つに括られるとしています。
 ①「本物」であること
 ②認めてくれること
 ③胸の高まりを呼びさましてくれること
 ④つつみこんでくれること

 第9章「リーダーシップ―その代償と褒賞」では、本書のまとめとして、物事がうまくいかないようなときに何がおこりうるかに触れ、また、リーダーに求められる倫理性についても述べています。

 リーダーシップ特性論に対する否定的な見解は決して新しいものではありません。但し、本書は、「自分自身に忠実であれ―そしてその自分らしさを磨けよ」ということがリーダーにとっていかに困難なチャレンジを伴うものであるか、そしてそれにどう向かうべきかを丹念に描き出したものであると言えます。そうした意味で自己啓発度の高い本ですが、心理学的アプローチだけでなく社会学的アプローチも駆使し、調査による裏付けもあるなどアカデミックな側面もあります。

 今回約10年ぶりに「新版」が"復刻"刊行されていることなどは、読者にとっても一定の普遍性と説得力を持って受け止められる内容であるということの証しではないでしょうか。個人的には、「他人に影響を与えうる」自分らしい「何か」を認識し活用することが一つポイントになるように思われました。

《読書MEMO》
●目次
序章 なぜ、あなたがリーダーなのか?
第1章 自分自身に忠実であれ
第2章 自分らしく振る舞え
第3章 リスクに身をゆだねよ
第4章 おかれた状況を感知せよ
第5章 相応に妥協せよ
第6章 距離感を操れ
第7章 組織にリズムを刻め
第8章 部下は何を望むか
第9章 リーダーシップ――その代償と褒賞
付録A――自らのポテンシャルを考えてみる
付録B――自分の立ち位置を考えてみる

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リーダーシップに不可欠なものは経営者マインドと積極的に学び続ける姿勢。

ハーバードのリーダーシップ講義.jpgハーバードのリーダーシップ講義2.JPG 『ハーバードのリーダーシップ講義』.jpg
ハーバードのリーダーシップ講義 「自分の殻」を打ち破る』['16年]/「本to美女」2017.02.16 「悩める人のリーダーシップ」より

 本書(原題:What You Really Need to Lead: The Power of Thinking and Acting Like an Owner,2015)は、ハーバード大学のMBAプログラムでさまざまなリーダーシップ講座を担当し、管理職向けのプログラムでも教えていた著者によるもので、リーダーシップ能力は伸ばすことも習得することもできるというハーバードの自分を知る技術.jpgハーバードの正しい疑問を持つ技術.jpgことを前提とし、リーダーシップを定義することよりも、リーダーシップのベストプラクティスに重きを置いて、リーダーであり続けるための極意を説いた本です(『ハーバードの自分を知る技術 悩めるエリートたちの人生戦略ロードマップ』('14年/CCCメディアハウス、『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術―成果を上げるリーダーの習慣』('15年/CCCメディアハウス)に続く同著者のハーバード・シリーズ第3弾)。
ハーバードの自分を知る技術 悩めるエリートたちの人生戦略ロードマップ』['14年]/『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術 成果を上げるリーダーの習慣』['15年]

 第1章「経営者マインドをもつ―経営者になったつもりで考え、行動する」では、リーダーシップに不可欠なものは経営者マインドであり、経営者マインドとは、意思決定者の立場でものを考え、自分の信念に従って行動し、自分の行動の結果に責任をもつことであるとしています。リーダーシップとは、人々にメリットをもたらすような価値を提供することであり、意思決定者としての自分の信念を見極め、勇気を出して行動し、人々に価値を提供することに注力するのがリーダーシップの柱であり、リーダーシップを発揮するのに地位も肩書も必要ではなく、リーダーシップの本質は心構えであり、それは地位でなく行動で決まるとしています。

 第2章「自分の殻を破る―意欲的に学び、〝正しい疑問〞をもち、アドバイスを求め、孤立を避ける」では、リーダーであり続けることは並大抵ではなく、リーダーシップには努力が必要であり、常に学ぼうとする姿勢が必要であるとしています。学ぶ意欲を持続するには、わからないことを質問し、人の話を聴くことが大切であり、説得力のある主張を聴いたとき、それに耳を傾けて自分の意見を考え直す、そうした「自分の殻」を打ち破る柔軟な姿勢が、リーダーが陥りやすい孤立というリスクを回避し、ものごとの転換点を察知することにつながるとしています。

 第3章「リーダーとしてのスキルを伸ばす―二つのプロセスをマスターする」では、リーダーシップ能力を向上させ、リーダーが犯しやすい過ちを回避するには2つのプロセスがあるとしています。1つは、「明確なビジョンを描く」「優先事項を3~5項目選び出す」「方向性から外れていないか分析する」ことであり、これらのプロセスを行うと、リーダーとしての手腕を格段に向上させることができるとしています。2番目のプロセスは、「自分を知ること」であり、自分の強みと弱みは何か、自分は何が好きか、何に情熱を抱くかを知ることは、リーダーになるのに欠かせない土台のようなものであるとしています。

 第4章「真の人間関係を築く―自分をさらけ出し、グループの力を活用する」では、リーダーが孤立を避けるには、人々の協力が必要であり、真の人間関係を築くには、「相互理解」「互いへの信頼」「互いに対する尊敬の念」の3つの要素が必要であるとしています。また、人間関係を深めるには、「自分をさらけ出す」「相手に質問する」「アドバイスを求める」の3つを行う必要があるとしています。さらに、1人の人間が決定を下すよりも、グループのほうがより優れた分析結果や解決策を導き出すことができ、この「グループの力」を利用するには、多様な人材を集めて、問題を1つ提起して彼らに議論してもらうのがよいとしています。

 第5章「終わりなき旅をする―もう一段階上のリーダーをめざして」では、もう一段階上のリーダーをめざすための心構え(マインドセット)として、自分の人生に責任をもつこと、「正しい行為は報われる」と信じること、価値創造に目を向けることを挙げています。また、学習意欲を妨げる壁を乗り越え、窮地を脱するにはどうすればよいか、より良いリーダーになるためのツールを幾つか提案し、「世の中はあなたを必要としている」という激励の言葉で本書を締め括っています。 

 本書の目的は、読者にリーダーになるための習慣を身につけ、リーダーシップスキルを伸ばし続けてもらうものであり、そのためにとりわけ重要なのは、経営者マインドを身につけることと、積極的に学び続ける姿勢であるとしています。よりよきリーダーシップの発揮をめざす人にとって、マインセットを促す啓発度の高い内容であるとともに、ヒントとなるスキルが紹介されている実践の書でもあるかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに ――誰でもリーダーになれる 
リーダーシップは素質の問題? 
リーダーシップは習得できる? 
あなたにとってリーダーシップとは? 
リーダーシップの定義 
リーダーシップの共通認識を求めて 
問題点 
リーダーシップの基本は経営者マインド
さあ、始めよう
第1章 経営者マインドをもつ――経営者になったつもりで考え、行動する
経営者マインドとは 
意思決定者になったつもりで考える 
確信を実行に移すには 
価値創造に注力する 
リーダーに幻滅するとき 
地位も肩書きも関係ない 
リーダーがいない? 
リーダーシップになくてはならない要素 
第2章 自分の殻を破る――意欲的に学び、〝正しい疑問〞をもち、アドバイスを求め、孤立を避ける 
成長の分岐点 
質問しますか? 助言を求めますか? 
積極的に学び続ける姿勢 
孤立というリスク 
自分をさらけ出すのが怖い 
孤立に気づくとき 
練習あるのみ
第3章 リーダーとしてのスキルを伸ばす――二つのプロセスをマスターする
二つのプロセス 
ビジョン、優先事項、方向性の確認 
二番目のプロセス――自分を知ること 
嘘をついてもいいですか? 
二つのプロセスを行う意味 
第4章 真の人間関係を築く――自分をさらけ出し、グループの力を活用する
孤立のリスク 
人間関係で重要な三つのこと 
頼れる人がいない 
人間関係の築き方 
知っているようで実は知らない 
フィードバックを求める 
孤立する起業家 
昇進のジレンマ 
グループの力 
多様な人材をそろえる 
ブレインストーミングの力 
白紙の状態から構想を練る演習 第二弾 
人と協力して働くことを学ぶ 
第5章 終わりなき旅をする――もう一段階上のリーダーをめざして
自分の人生に責任をもつ 
「正しい行為は報われる」と信じる 
価値創造に目を向ける 
学習意欲を妨げる壁 
窮地を脱するには 
より良いリーダーになるためのツール 
世の中はあなたを必要としている

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従業員を大人として扱い、「自由と責任の文化を築く」ことこそが重要と説く。

NETFLIXの最強人事戦略.jpgNETFLIXの最強人事戦略1.JPG netflix image.jpg
NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く
Patty Mccord
Patty Mccord.jpg 本書(原題:Powerful: Building a Culture of Freedom and Responsibility,2018)は、世界最大級の動画ストリーミング配信事業会社ネットフリックスにおける先進的な人事戦略について、同社で長年CHO(最高人事責任者)を務めた著者がまとめた一冊で、シリコンバレーで話題になったスライド資料で、著者自身も作成に関わった「ネットフリックスカルチャーデッキ」を書籍化したものとも言える本です。

 本書で紹介されているネットフリックスが開発した新しい人材管理手法が前提としているのは、従業員の忠誠心を高め、会社につなぎ止め、やる気と満足度を上げるための制度を導入することが人材管理であるという一般的な考え方のものではなく、ビジネスリーダーの役割は、すばらしい仕事を期限内にやり遂げる、優れたチームをつくることであり、そのために、まず従業員に一貫してとってほしい行動をはっきり打ち出し、それを実行するための規律を定着させる「自由と責任の文化を築く」ことこそが経営陣のやるべきことであるとの考えです。

 第1章では、チームが最高の成果を挙げられるのは、メンバー全員が最終目標を理解し、その目標に達するために思うまま創造性を発揮して問題解決に取り組めるようにしなければならず、チームのやる気を最大に高めるのは、ともに切磋琢磨できる優れたチームメンバーが揃っていることであるとしてしています。

 第2章では、従業員一人ひとりが、自分とチームの任務だけでなく、事業全体の仕組みや会社が抱える課題を大局的に理解することが大切で、そのためには、経営陣と従業員の双方向のコミュニケーションが常に必要であるとしています。

 第3章では、従業員は事業や自分の業績について、ありのままの真実を聞く必要があり、またそれを願っていて、正直に、適切なタイミングで、面と向かって気になる点を伝えることに勝る問題解決はないとしています。

 第4章では、意見を育み、事実に基づいて議論を行うことの重要性を説き、経営判断をめぐる白熱したオープンな議論に参加するのは、チームにとってスリリングな体験であり、チームは分析力を最大限に発揮してこれに応えるだろうとしています。

 第5章では、徹底して未来に目を向け、未来の理想の会社を今からつくり始めるべきであって、俊敏さを保ち、変化に素早く対応するために、将来必要となる人材を今から雇うべきであるとしています。

 第6章では、採用担当者の最も重要な仕事は、ハイパフォーマーを採用することであり、人材定着率はチームづくりの成功を測る指標にはならず、最もよい指標は、すべての職務に優れた人材を配置できているかどうかであるとしています。

 第7章では、その人材が会社にもたらす価値をもとに報酬を決めるべきであって、会社の成長のカギを握る職務に携わる人材には、その分野のトップレベルの給与を支払うことを検討すべきであるとしています。

 第8章では、「積極的に解雇する」というのはネットフリックス文化の中でもマネジャーにとって慣れるのが難しい部分ではあるが、必要な人材変更は迅速に行うことは重要であり、「過去に多大な貢献」をした人でも、「もっているスキルが会社に必要なくなれば」解雇せねばならず、また、円満な解雇のためには、その会社で働いていたことを誇れるような組織にすることが大事であるとしています。

 高給を用意するが、自分のキャリは自分でコントロールすることを求め、会社として従業員のキャリア開発をすることはせず(むしろ定期的に他社の面接を受けることを奨励している)、人事考課も経費規定もなく、休暇も自由裁量―ネットフリックスのこうした進歩的な人事管理手法は、米国企業の間でも自社では導入できないといった声が少なからずあったとのことですが、「従業員を大人として扱う」という考え方は、これまでの日本的経営における会社と従業員の関係の在り方が「働き方改革」等の流れの中で見直しを迫られている中で、我々に何らかの啓発的なヒントを与えてくれるようにも思いました。

《読書MEMO》
●章立て
序章  新しい働き方―自由と責任の文化を育む
第1章 成功に貢献することが最大のモチベーション
第2章 従業員一人ひとりが事業を理解する
第3章 人はうそやごまかしを嫌う
第4章 議論を活発にする
第5章 未来の理想の会社を今からつくり始める
第6章 どの仕事にも優秀な人材を配置する
第7章 会社にもたらす価値をもとに報酬を決める
第8章 円満な解雇の方法
結論

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2717】 海老原 嗣生 『即効マネジメント
○経営思想家トップ50 ランクイン(シドニー・フィンケルシュタイン)

人材を次々と発掘して育てる"スーパーボス"の戦略の秘密を解き明かしている。

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SUPER BOSS (スーパーボス)―突出した人を見つけて育てる最強指導者の戦略』 Sydney Finkelstein
名経営者が、なぜ失敗するのか?』('04年/日経BP社)
名経営者が、なぜ失敗するのか?.jpg リーダーシップ論の大家で、著書『名経営者が、なぜ失敗するのか?』('04年/日経BP社)でも知られる著者によれば、どの業界においても、一流と呼ばれる50人のうち半数近くは、1人かせいぜい2、3人の同じ才能養成者のもとで教えを受けていことが調査によって明らかになったとのことです。本書では、そうした、部下や弟子を次々と育てて、成功させる偉大なコーチ、才能の発掘者をスーパーボスと呼び、オラクルのラリー・エリソン、インテル創業者のロバート・ノイス、デザイナーのラルフローレン、映画監督のジョージ・ルーカスなど、ビジネス、スポーツ、ファッション、料理などの分野における18人のスーパーボスについての調査から、その戦略の秘密を解き明かしています。

 第1章では、スーパーボスは、①因習打派主義者(目的はあくまでも自分の仕事と情熱だが、関わっているうちに情熱が伝わって直感的に教育できるタイプ。芸術家肌のスーパーボスで、創造的天才と見なされやすい)、②栄誉あるろくでなし(勝利こそが至上命題であり、部下をこき使い、失敗も容赦なくとがめるタイプ。ただ、勝利のためには最高のチームが必要であることを理解しているため、人材はきっちりと育てあげる)、③養育者(部下の成功を心の底から気にかけ、自分の育成能力を誇りに思っているタイプ。善意にあふれ、活動家肌のボスである)の3つの種類があるとし、すべてのスーパーボスに共通する要素として、「恐れ知らずなほどの自信」「旺盛な競争力」「たくましい創造力」の3つがあるとしています。そして、以下、第2から8章で、並みのリーダーは使っていないテクニック、マインドセット、哲学、秘訣といったスーパーボスの戦略を示しています。

 第2章では、特別な何かを「持っている人を見つけ出す」のがスーパーボスであるとしています。スーパーボスが求める「特別な何か」とは、ずば抜けた知性、創造力、高い柔軟性を指し、スーパーボスはそうした資質を持っている人を見抜いて雇うとしています。

 第3章では、スーパーボスは「優秀な人材に限界を超えさせる」としています。スーパーボスは部下をオリンピック選手のように扱い、限界のその先を目指すようその背中を押すとしています。

 第4章では、「がんこなのに柔軟」であるのがスーパーボスの特長であるとしています。彼らが部下から新しいアイデアを絶えず引き出すことでビジネスを成功に近づけられるのは、ぶれないビジョンと変化への柔軟性を両立できるからだとしています。組織の目的は守りつつも、手段はあらゆる面で絶えず改良するというのが、彼らの心構えであるとのことです。

 第5章では、スーパーボスは「師匠と弟子のようにそばで教える」としています。スーパーボスは普通のボスよりも部下の成長に対して個人的な責任を大きく取り、部下やチームメンバーとの距離を縮めることに腐心するとしています。

 第6章では、スーパーボスは「細部を見ながら部下に任せる」としています。スーパーボスは口出しせずに監督・統制する巧みなスキルを持っていて、最初に絶対的なビジョンを示してゴールを明確にしたら、あとは一歩下がってなりゆきを見守るとしています。ここでは、部下を信じないせいで権限委譲に及び腰になるマネジャーではなく、かと言って仕事を丸投げするフリーライダーでもない、第三の道としての「関与型権限委譲」という概念が示されています。

 第7章では、「部下同士を競わせる、助け合わせる」といったことも、スーパーボスが取る戦略であるとしています。スーパーボスは、チームに強い競争心を植えつけつつも、部下の間に団結の精神が根づくようなメッセージを発し、その際に率先して成長の手助けをすることで、部下同士が助け合うための「コホート効果」を生み出すとしています。

 第8章では、スーパーボスは「優秀な元部下のネットワークをつくる」としています。スーパーボスの元部下は、スーパーボスから巣立っても完全には離れず、そうしたネットワークは、元部下が数年、数十年たってもスーパーボスに抱く深い感情のつながりの上に成り立っているのだとしています。

 第9章では、これまでの総括としての「スーパーボスになる方法」として、キャリア、監督業務、組織にスーパーボスのアプローチを最大限取り入れるにはどうすればいいか、"スーパーボス指数"の測り方や、"スーパーボスの戦略集"を実践に移すためのアイデアや取り組みを紹介し、さらに、経営者がスーパーボスを見つけるための質問項目や、従業員がスーパーボスのもとで成功するための基本原則を示しています。

 読んでいて、"スーパーボス"ってかなり超人的というかモーレツだなあという印象もありました。ただ、日本の企業はどうしても、組織に害を与えない人を優先して管理職にしがちな面もあると思われ、それでも一方で、本書で言う"スーパーボス"への期待も厳然とあるのではないかと思います。あとは、漫然とそうした期待を抱き続けているだけか、組織戦略として、そうした人材を発掘して育て、リーダーとしてのローモデルを確立し、スーパーボスを起点として人材育成の連鎖を築いていけるかの違いでしょう。その意味で、スーパーボスの戦略集とも言える本書は、突出した人を見つけて育てることができるスーパーボス像というものを把握する上でも、また、そうしたスーパーボスをどうやって見出すかということにおいても参考になるだけでなく、読者自身がスーパーボスの手腕に学び、どのように部下を育てていくかを考えるうえでも示唆に富むように思います。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(リズ・ワイズマン)

リーダーにおける「消耗型」と「増幅型」の2類型を示す。啓発的で、分かり易く説得力がある。

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メンバーの才能を開花させる技法』['15年]/"Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart"/リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)
Liz Wiseman Recognized By Thinkers50 As Top Leadership Thinker
リズ・ワイズマン 2.jpgオラクル.png 本書(原題:Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart)の著者リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)は、元オラクル社の重役であり、17年に渡ってオラクル・ユニバーシティのバイス・プレジデントとして、グローバル・リーダーの養成に携わった人で(現在は、シリコン・バレーに本社を置くワイズマン・グループの社長として、世界各国でエグゼクティブ向けにリーダーシップを教える)、「Thinkers50」(最も影響力のある経営思想家トップ50)にも'13年、'15年、'17年と3期続けて選出されるなど、今、リーダーシップ分野で世界的に注目される女性の1人でもあり(共著者のグレッグ・マキューンはその著書『エッセンシャル思考』('14年/かんき出版)で日本でも知られる)、本書には、『7つの習慣』のスティーブン・R・コヴィー、『本物のリーダーとは何か』のウォレン・ベニスなど、錚々たる顔ぶれが推薦の言葉を寄せています。

 第1章「なぜ、今『増幅型リーダー』なのか」では、リーダーの2つの類型として「消耗型リーダー」「増幅型リーダー」があるとし、消耗型リーダーは自分の知性に溺れ、メンバーを低く見て、組織にとって大切な知性と能力を損ない、一方、増幅型リーダーは天才をつくり、メンバーの知識を引き出すことで、組織の中に伝染力のある集合知を築くとしています。そして、増幅型リーダーの習慣として、①才能のマグネット:人を惹きつけ、その才能を最大限に発揮させる、②解放者:最高のアイデアを求める、③挑戦者:難しい課題に挑戦させる、④議論の推進者:議論を通して決定する、⑤投資家:責任を明確にする、の5つを掲げ、メンバーの能力を最大限に引き出すことで、増幅型リーダーは消耗型リーダーの二倍の能力を手に入れるとしています。

 第2章「『才能のマグネット』としての技法」では、消耗型リーダーは「帝国の構築者」として優秀な人材を獲得しながら、彼らを囲い込んで自分の利益のためにしか使わず、せっかくの才能を浪費するのに対し、増幅型リーダーは「才能のマグネット」として最高の人材を手に入れ、チームメンバーは十二分に活用され、次の舞台に飛躍できるとわかり、多くの人材がここに集ってくるとしています。そして、才能のマグネットとして、①どこにでも人材を探す、②天賦の才を発掘する、③才能を最大限に活用する、④障害を取り除く、の4つの実践を掲げ、才能のマグネットになるためには、①才能の発掘者になるとともに、②"雑草を抜く"ことも必要であるとしています。

 第3章「『解放者』としての技法」では、消耗型リーダーは「独裁者」として人々のアイデアや能力を抑え込むような、威圧的な環境を作りだし、その結果メンバーは自分を抑え、リーダーが賛成するような安全なアイデアばかり出し、委縮しながら働くようになるのに対し、増幅型リーダーは「解放者」として人々のアイデアと仕事を引き出すような、緊張感のある環境を作り出し、その結果、メンバーは最も大胆で素晴らしいアイデアを提案し、最善の努力を注ぐようになるとしています。そして、解放者として、①居場所を作る、②最高の仕事を求める、③素早い学びのサイクルを生み出す、の3つの実践を掲げ、解放者になるためには、①チップを上手に使う、②意見を区別して伝える、③自分の失敗を語る、の3つを挙げています。

 第4章「『挑戦者』としての技法」では、消耗型リーダーは「全能の神」として自分の知識の豊富さをひけらかすような指示を与え、その結果、組織はリーダーがやり方をわかっていることしか成し遂げられなくなり、上司の考えを憶測することに組織のエネルギーが消耗されるのに対し、増幅型リーダーは「挑戦者」として自分の知識を超えて行動できるチャンスを人々に提示し、その結果、組織全体が挑戦を理解し、それを受け入れる集中力とエネルギーを持つようになるとしています。そして、挑戦者として、①チャンスの種を撒く、②挑戦を掲げる、③自身を植えつける、の3つの実践を挙げています。

 第5章「『議論の推進者』としての技法」では、消耗型リーダーは「意思決定者」として少人数の内輪の人間で効率よく結論を出すが、組織の大部分を置き去りにするため、決定の健全性が疑われ、実行にいたらないのに対し、増幅型リーダーは「議論の推進者」として人々を議論に引き入れ、それがよりよい決定につながり、理解と実行が進むとしています。そして、議論の推進者として、①問題の枠組みを示す、②議論を盛り上げる、③「開かれた決定」を徹底する、の3つの実践を掲げ、議論の推進者になるためには、①厳しい問いを投げかける、②根拠を示させる、③全員を参加させる、の3つを挙げています。

 第6章「『投資家』としての技法」では、消耗型リーダーは「マイクロマネジャー」として重箱の隅をつつくようにメンバーを管理し、リーダーへの依存を生み出し、リーダーなしでは成果の出ない組織を作るのに対し、増幅型リーダーは「投資家」として人に投資して責任を与え、リーダーがいなくても自分自身の力で結果が出せるようにするとしています。そして、投資家として、①責任の所在を明らかにする、②人的資源に投資する、③最後まで責任を預ける、の3つの実践を掲げ、投資家になるためには、①誰がボスかをはっきり知らせる、②流れを見守る、③解決はメンバーの力で、④ペンを返す、の4つを挙げています。

 第7章「『増幅型リーダー』を目指すあなたに」では、正しい原則とツールを使って、適度な努力で最大の結果を得るにはどうすればよいかを説いており、「加速ツール」として、①両極を改善する:リーダーとしての自分の習慣を振り返り、両極を改善することに力を注ぐ、②あえて思い込みから始める:増幅型リーダーの思い込みを取り入れ、それに従って行動する、③ひとつの課題を30日間続けてみる:5つの習慣から1つを選び、更にその中から1つの実践項目を選択し、それを30日間続ける、の3つを掲げ、また、勢いを持続するため、①1つ1つ層を重ねる、②1年間問い続ける、③コミュニティを作る、の3つを挙げています。

 消耗型リーダーの性質を持つ人物が、増幅型リーダーに変身できるものなのか。これについて著者は、変身するには、次の段階を経なければならないとし、①増幅型リーダーに共感する、②自分の中の消耗型リーダーに気づく、③増幅型リーダーになることを決意する―の3段階を挙げています。また、増幅型リーダーになるために1つだけ何かするとしたらそれは何かという質問に対し、1つだけ挙げるとすれば「質問」であり、メンバーに考えを促すような、洞察に満ちた教務深い質問を心掛けることから始めることを促しています。

 消耗型リーダーvs.増幅型リーダーという対比を、帝国の構築者vs. 才能のマグネット、独裁者vs. 解放者、全能の神vs. 挑戦者、意思決定者vs. 議論の推進者、マイクロマネジャーvs. 投資家という対比に落とし込んでいるのが分かり易く、非常に啓発的な内容で、かつ、実在するリーダーを調査して書かれているため説得力があり、また、実例が多く記載されているため理解し易く、更には、増幅型リーダーと消耗型リーダーの考え方や行動が具体的に纏められている点で実践し易いという、なかなかスグレモノの1冊です(リズ・ワイズマンの近著『ルーキー・スマート』('17年/海と月社)も、ルーキー"というものを従来とは異なる視点で捉えており、お薦め)。

《読書MEMO》
序文──スティーブン・R・コヴィー
第1章 なぜ、今「増幅型リーダー」なのか
 メンバーを活かすリーダーは、たしかにいる
 ふたりのリーダーの物語
 「増幅型リーダー効果」とはなにか?
 増幅型リーダーの考え方
 増幅型リーダーの五つの習慣
 三つの発見
 実践法に入る前に
 より効果を上げる読み方
 *増幅型リーダーの方程式
第2章 「才能のマグネット」としての技法
 あなたは「帝国の構築者」か「才能のマグネット」か
 「才能のマグネット」とは?
 才能のマグネットの四つの実践
 消耗型リーダーはメンバーをどう扱っているか
 メンバーはやりがいを求めている
 才能のマグネットになるために
 *増幅型リーダーの方程式
第3章 「解放者」としての技法
 あなたは「独裁者」か「解放者」か
 「解放者」とは?
 解放者の三つの実践
 消耗型リーダーは環境作りができない
 「自発性」がカギになる
 解放者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第4章 「挑戦者」としての技法
 あなたは「全能の神」か「挑戦者」か
 ある挑戦者の失敗と喜び
 挑戦者の三つの実践
 消耗型リーダーはチャンスをつぶす
 「全能の神」と「挑戦者」を比較すると──
 挑戦者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第5章 「議論の推進者」としての技法
 あなたは「意思決定者」か「議論の推進者」か
 「議論の推進者」とは?
 議論の推進者の三つの実践
 消耗型リーダーは議論を避ける
 議論を盛り上げることの真意
 議論の推進者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第6章 「投資家」としての技法
 あなたは「マイクロマネジャー」か「投資家」か
 「投資家」とは?
 投資家の三つの実践
 消耗型リーダーは依存体質を好む
 投資家には多くのリターンが待っている
 投資家になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第7章 「増幅型リーダー」を目指すあなた
 「共感」で終わらず、「決意」しよう
 「手抜き」を成功させる三つのポイント
 勢いを維持するには?
 もう一度、効果を確認する
 かならず、変われる
 *増幅型リーダーになるために
資料──頭を整理し、実践に勢いをつけるために
資料A:調査プロセスについて
資料B:よくある質問
資料C:増幅型リーダーの顔ぶれ
資料D:議論の手引き
*自己評価したいなら......

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「模範的リーダーシップの5つの実践」を示す。豊富なケーススタディにより啓発される。

リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版] .jpgリーダーシップ・チャレンジ[原書第五版]2.jpg  The Leadership Challenge.jpg  リーダーシップ・チャレンジ0_.jpg
リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版]』['14年]/The Leadership Challenge: How to Make Extraordinary Things Happen in Organizations (J-B Leadership Challenge: Kouzes/Posner)(第6版,2017)/『リーダーシップ・チャレンジ』['10年]
James M. Kouzes, Barry Z. Posner
James M. Kouzes,  Barry Z. Posner.jpg 本書は、1987年に初版が刊行され全世界で200万部を超えて読み継がれている本であり、著者らは1980年代のはじめから、数千もの「自己最高のリーダーシップ体験」を聞き集め分析したといいます。今回の第5版も100を超すケーススタディを盛り込み、今日のリーダーが直面する課題にも応えるものになっているとのことです(原著は何年かごとに改版されていて既に2017年に第6版が出されている)。

 1章では、リーダーシップの基本原則を示しています。非凡なことを成し遂げるリーダーは例外なく「模範的リーダーシップの5つの実践」を行っており、それは、●模範となる、●共通のビジョンを呼び起こす、●プロセスに挑戦する、●人々を行動にかりたてる、●心から励ます、の5つであるとしています。また、一握りの偉大なリーダーが人々を高みに導くという考えは、明らかに間違っているし、リーダーが組織の規模や種類や経済環境によって生まれると考えるのも間違いであって、実のところ、リーダーシップとは誰にでも実践できるスキルと能力の組み合わせであるとしています。そして、ついていきたいリーダーに共通する4つの特質として、●正直である、●先見の明がある、●仕事ができる、●やる気にさせる、が挙げられるが、これらは、先に挙げた「模範的リーダーシップの5つの実践」と表裏一体であるとしています。そのうえで、以下の章で「リーダーシップの5つの実践と10の原則」をそれぞれ解説しています。

 2章と3章では、「模範となる」ための原則と行動を示しており、それは「価値観を明らかにする」ことと「手本を示す」こと、つまり「①自分の言葉で語り、共通の理想を確認することで、価値観を明らかにする」ことと、「②共通の価値観に従って行動することで、手本を示す」ことであるとしています。

 4章と5章では、「共通のビジョンを呼び起こす」ための原則と行動を示しており、それは「未来を描く」ことと「人々を引き入れる」こと、つまり「③心踊るような崇高な可能性を想像し、未来を描く」ことと、「④共通の夢に訴えて、人々を引き入れる」ことであるとしています。

 6章と7章では、「プロセスに挑戦する」ための原則と行動を示しており、それは「チャンスを模索する」ことと「実験しながらリスクをとる」こと、つまり「⑤自発的に行動し、革新的な改善策を外部に求めることで、チャンスを模索する」ことと、「⑥小さな勝利を積み重ね、経験から学ぶことで、実験しながらリスクをとる」ことであるとしています。

 8章と9章では、「人々を行動にかりたてる」ための原則と行動を示しており、それは「協働を育む」ことと「力を与える」こと、つまり「⑦信頼を築き、絆を強めることで協働を育む」ことと、「⑧意思決定の権限を与えることで、人々の能力を高める」ことであるとしています。

 10章と11章では、「心から励ます」ための原則と行動を示しており、それは「貢献を認める」ことと「価値と勝利を讃える」こと、つまり「⑨卓越した成果を褒め、貢献を認める」ことと、「⑩共同体精神をつくりだし、その価値と勝利を讃える」ことであるとしています。

 終章の12章では、誰もがすばらしいリーダーになれるとし、そのためには自分の重要性を知ること、そして何よりもリーダーシップを実践することが大切であるとしています。また、リーダーは常に謙虚で人間らしくあるべきであり、リーダーシップとは頭で考えるものではなく、心で感じるものであるとしています。

 「世界で最も読まれているリーダーシップのテキスト」とも言われ、構成上非常にかっちり纏まっているようにも見えますが、体系的な理論書と言うよりは、リーダーのための啓発書であるとともに、実践的ガイドブックであると言ってよいかと思います。そのことは、著者ら自身がイントロで、まず1章を読んだならば、その先はどの順番で読んでも構わないと述べていることにも表れているかと思います。但し、調査研究から生まれた本であると著者らが自負する通り、豊富なケーススタディはいずれもシズル感に溢れ、啓発度が高いものであり、「模範的リーダーシップの5つの実践」を説得力のあるものとしているように思いました。前向きのリーダーにお薦めしたい本です。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)


《読書MEMO》
◇模範的リーダーシップの5つの実践と10の実践
●模範となる
 ①自分の言葉で語り、共通の理想を確認することで、価値観を明らかにする
 ②共通の価値観に従って行動することで、手本を示す
●共通のビジョンを呼び起こす
 ③心踊るような崇高な可能性を想像し、未来を描く
 ④共通の夢に訴えて、人々を引き入れる
●プロセスに挑戦する
 ⑤自発的に行動し、革新的な改善策を外部に求めることで、チャンスを模索する
 ⑥小さな勝利を積み重ね、経験から学ぶことで、実験しながらリスクをとる
●人々を行動にかりたてる
 ⑦信頼を築き、絆を強めることで協働を育む
 ⑧意思決定の権限を与えることで、人々の能力を高める
●心から励ます
 ⑨卓越した成果を褒め、貢献を認める
 ⑩共同体精神をつくりだし、その価値と勝利を讃える

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チームを機能させるためには何が必要なのか、学習力・実行力を高める実践アプローチを説く。

チームが機能するとはどういうことか2.jpg チームが機能するとはどういうことか.jpg Teaming.jpg エイミー・C・エドモンドソン2.jpg Amy C. Edmondson
チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(2014/05 英治出版)/"Teaming: How Organizations Learn, Innovate, And Compete In The Knowledge Economy"(2012)

 病院、工場、役員室、災害現場など20年以上にわたって多様な人と組織を見つめてきた著者が、「チーミング」という概念をもとに、学習する力と実行する力を兼ね備えた新時代のチームづくりを描いた本です(Amy C. Edmondson,Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy,2012)。

 本書の原題は「チーミング」ですが、チーミングとは、組織が相互に絡み合った仕事をするために協働する「活動」を表す造語であり、それはチームといった静的なものとは異なり、動的な活動プロセスをさすものであるとのことです。本書では、組織がチーミングを通して成功するのに役立つ基本的な活動と条件について述べていて、以下のように全3部8章構成になっています。
(第1部)チーミング
  第1章 新しい働き方
  第2章 学習とイノベーションと競争のためのチーミング
(第2部)学習するための組織づくり
  第3章 フレーミングの力
  第4章 心理的に安全な場をつくる
  第5章 上手に失敗して、早く成功する
  第6章 境界を超えたチーミング
(第3部)学習しながら実行する
  第7章 チーミングと学習を仕事に活かす
  第8章 成功をもたらすリーダーシップ

 第1部ではチーミングに焦点を当て、チーミングをしっかり行うための中心的活動について述べるとともに、チーミングとはどのように機能するものなのか、チーミングの仕方を学ぶにはどれくらい時間がかかるのか、チーミングをしているとき人々はどのような行動をとるのか、チーミングは一体どのようにして組織学習を生み出すのかといった疑問に答えています。第1章ではまずチーミングとは何かを明らかにし、今日の複雑な組織においてなぜそれが不可欠なのかを探り、次いで学習と知識を理解するための新たな枠組みを示しています。第2章では、チーミングの段階的プロセスをさらに詳しく述べ、成功しているチーミングは、次の4つの特別な行動を伴っているとし、さらに、チーミングと学習を可能にする、以下の4つのリーダーシップ行動を明らかにしています。
(成功しているチーミングにおける4つの特別な行動)
 ・率直に意見を言う
 ・協働する
 ・試みる
 ・省察する
 (チーミングと学習を可能にする4つのリーダーシップ行動)
 ・行動1 学習するための骨組みをつくる
 ・行動2 心理的に安全な場をつくる
 ・行動3 失敗から学ぶ
 ・行動4 職業的、文化的な境界をつなぐ

 第2部では、その4つのリーダーシップ行動について、さらに詳しく述べています。ここではチーミングの人間的な側面に焦点を当て、様々な組織的背景の中で人々がどのように協力するのかを詳細に見ています。具体的には、第3章でフレーミングの力を探り、効果的な協働と学習を促すためにリーダーはフレーミングによってどのようなことが出来るのかを説き、第4章では、心理的安全によって、チーミングの成功に必要な考え方やスキルや行動がどのように促進されるのかを見ています。第5章では、なぜ失敗が組織学習の根幹であるかを示し、失敗によって生まれるチャレンジを乗り越えるための具体的な行動を紹介しています。第6章では、様々な分野や部署、企業、さらには国の間にある境界をつなぐ重要性と課題を検証しています。そして、実際につなぐとどんなことが可能になるかを、2010年にチリのサン・ホセ鉱山で起きた、地下600メートルの岩の中に閉じ込められた33人の作業員の「不可能な」救出劇を糸口に検証しています。

 第3部では、個人や個人間の行動から組織としての実践に焦点を移しています。第7章では、それまでの章で述べた「実行」の新たなモデルとなる教訓や戦略をまとめ、たゆまぬ学習と改善を確実にする反復プロセスを診断、デザイン、実践するための具体的な手順を紹介し、第8章では、3つのケーススタディを通して、プロセス改善、問題解決、イノベーションなど得られるだろう様々な学習の結果を考察しています。1つ目のケースでは、他社にリードを許してしまった企業において業績を改善させるリーダーシップに注目し、2つ目のケースでは、組織中の人を協働させ、複雑な業務における難しい問題を解決するリーダーシップについて述べ、3つ目のケースでは、イノベーションを支援して、先駆的な製品やプロセスを生み出すようなチーミングを成功させるリーダーシップに焦点を当てています。

 以上が本書の"あらすじ"ですが、要するに、チーミングとは、新たなアイデアを生み、答えを探し、問題を解決するために人々を団結させる働き方のことであり、また、組織間の境界を超えてつながり合うこと、つまり境界をつなぐことでもあるということになります。

 成功しているチーミングの特別行動を、「率直に意見を言う、協働する、試みる、省察する」の4つに定義し、学習するための組織づくりには「学習するための骨組みをつくる、心理的に安全な場をつくる、失敗から学ぶ、職業的、文化的な境界をつなぐ」という4つの行動が不可欠であるというのが著者の主張であり、また、そうした主張が、以下に展開される様々なケーススタディを通して説得力を持つものとなっており、また、各章の章末に「リーダーシップのまとめ」と「Lessons & Actions」というコーナーが設けられているという点でも分かり良いものとなっています。協働を推し進め、パフォーマンスを向上させたいと考えるリーダー、協働を後押ししたり、チームづくりの訓練をしたり、組織学習を実践したりする人事パーソンに是非お薦めしたい本です。

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タイトルの疑問に答えるブラック・アンド・ホワイト企業論。「日本企業論」として説得力はあった。

「優良企業」でなぜ過労死・過労自殺が.JPG「優良企業」でなぜ過労死・過労自殺が?.jpg 電通事件.jpg
「優良企業」でなぜ過労死・過労自殺が?:「ブラック・アンド・ホワイト企業」としての日本企業 (シリーズ・現代経済学)』(2018/08 ミネルヴァ書房)「電通事件」産経ニュース

 ブラック企業に関する多くの本が出版されていますが、ブラック企業とは、ブラック企業被害対策弁護団の定義によれば、「新興産業において、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業」であるとのこと。しかし、従業員を過労死・過労自殺まで追い込む企業はこうした企業だけではなく、例えば、世間に大きな衝撃を与えた女性新入社員の過労自殺事件があった大手広告代理店(電通)は、権威ある人気企業であって狭義のブラック企業に当たらず、それ以外にも、過労死・過労自殺が発生する現場は多くの一流企業であるとのこと。こうした状況を捉え、本書では「ブラック・アンド・ホワイト企業」という概念を提起しています。

 著者によれば、世間体が良くて高給だけれども労働条件が劣悪であるという、ブラックな部分とホワイトな部分の両面を持つ企業がブラック・アンド・ホワイト企業の範疇に入り、実は日本の多くの企業は白か黒かという二分法で分類できるものではなく、大手企業の大半はこのブラック・アンド・ホワイト企業に当てはまるとのことです。そこで本書は、なぜ世間で一流とされている企業の多くも、こうしたブラック企業的特性を持たざるを得なくなったのかを考察しています。

 第1章では、日本企業独特の定期採用について、第2章では入社式と新入社員研修について文献等から考察し、それらが諸外国との比較において極めて特異な性質を帯びたものであることを指摘しています。そして、第3章において、日本企業は共同体(ゲマインシャフト)的上部構造と利益組織(ゲゼルシャフト)的土台から成り、ブラック・アンド・ホワイト企業は共同体的上部構造を利用しながら利益組織という本質を実現しようとしているとしています。

 さらに第4章では、日本企業の労働組合の多くは、戦後に始動したときは実は労働組合ではなく、会社の一部としての「従業員組合」あり、それは今も変わらず、組織率と活力が長期低落するのは必然だったと、この従業員組合について歴史的に俯瞰し、経営と相対的に未分化な従業員組合が、共同体的上部構造が支配的なものとなる要因となったとしています。続く第5章では、その結果として、会社が従業員の全時間を掌握することになり、その行きつく先がブラック・アンド・ホワイト企業であると指摘しています。

 つまり、ブラック・アンド・ホワイト企業が求めるものは「24時間の企業人」であり、その入り口が定期採用であり、会社への従属感は入社式・新入社員研修で決定的となるとのこと。「24時間の企業人」になれば、その人の主体的行動が自ずから会社の利益組織的土台と共同体的上部構造に寄与することになり、社風を内面化した従業員にとっては会社はいい会社(ホワイト企業)であるが、「24時間の企業人」になってしまえば、不払い残業も含めた労働時間は無限になり、限界の手前で止まれず、過労死・過労自殺が起きる―これが、大半の従業員によってホワイト企業と思われていた会社で過労死・過労自殺が起きる、ブラック・アンド・ホワイト企業の論理であるとことです。

 なぜ会社への従属感が形作られ、社風は内面化されてしまうのか。「24時間の企業人」が、会社を責めるのではなく、自らの至らなさを遺書に書いて自殺するような異常な事態の背景には、日本の社会と会社の相互関係から生み出されたブラック・アンド・ホワイト企業が、日本社会の旧来の価値観と慣行を再生産しているということがあり、さらに、会社人間を「企業戦士」と呼ぶような、日本における異常なまでの精神主義にも問題があるとしています。

 著者は、過労死の防止では罰則規定の整備などの法改正を進めるべきだとしつつ、一方で、法改正が進んでも現実の改善はゆっくりとしか進まないだろうとしています。それは、本書で詳しく述べられている、日本の会社や社会が有する歴史的体質のためであり、やや悲観的な見方でもありますが、まず、そうした歴史的見地から日本企業の在り方を見直してみるのも必要なことではないかと思いました。「日本企業論」としては説得力はありました。

《読書MEMO》
●目次
序 章 ブラック企業論への疑問
第1章 特異な日本の採用・就職
 「定期採用」と「中途採用」
 ウソがまかり通る定期採用の世界
 採用スケジュール
 「初任給」
 学歴フィルター
 採用差別
 過剰な自己PRの強要
 1990年代以降のいっそうの苛酷化
 身元保証という江戸時代からの悪習
 定期採用の本質
第2章 入社式と新入社員研修
 入社式
 戦前の新入社員
 ドーアによる新入社員研修の観察
 ローレンによる新入社員研修の観察
 「ウエダ銀行」の新入行員研修
 伊藤忠商事の新入社員研修
 ローレンによる日米比較
 新入社員研修の日本的特色
 会社の修養主義
第3章 会社の共同体的上部構造
 ゲマインシャフトとゲゼルシャフト
 共同体的上部構造と利益組織的土台
 共同体的上部構造としての「社風」
 松下電器産業と本田技研工業の交流研修会
 尾高邦雄の日本的経営=共同体論
 「経営家族主義」の「実証的」根拠
 戦前における「終身雇用制」?
 経営家族主義イデオロギーの不存在
 高度成長期における「終身雇用制」の成立
 戦前の会社身分制
 俸給と賃金
 身分制下の目に見える差別
第4章 従業員組合----「非常に非常識」な「労働組合」
 敗戦後における従業員の急速な組織化
 戦後に結成された組合を何と呼ぶべきか
 従業員組合の特徴
 従業員組合の成立根拠にかんする二村説
 従業員組合の原形
 末弘厳太郎による観察
 藤林敬三による観察
 従業員組合の自然な感情
 労働組合として「非常に非常識」な行動様式
 争議中の賃金の後払い
 改正労組法と従業員組合への利益供与・便宜供与
 従業員組合の本質
 従業員組合による共同体的上部構造の形成
 従業員組合の興隆と衰退
 「労働組合」の重層的定義
 会社による共同体的上部構造の維持・展開
 トヨタにおける「労使宣言」
第5章 会社による従業員の全時間掌握
 利益組織的土台に奉仕する共同体的上部構造
 労働時間とは何か
 戦前における工場労働者の労働時間
 ILO条約と8時間労働制
 トマス・スミスの指摘
 官吏の執務時間
 社員の執務時間
 労働時間をめぐる戦前の負の遺産
 社員の執務時間と労働者の労働時間の「統一」
 軟式労働時間制
 執務時間と労働時間の融合
 長時間の不払労働
 「自主的な」QCサークル
 低い有給休暇の取得率
 トヨタ過労死事件
 名古屋地裁の判決
 会社による共同体的上部構造把握の行きつく先
 過労死・過労自殺とジェンダー
終 章 自己変革できないブラック・アンド・ホワイト企業
 ブラック企業の指標
 ブラック・アンド・ホワイト企業への道

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新任管理職が最初の90日を乗り切るためのロードマップ。管理章にとって多くの示唆を含む本。

90日で成果を出すリーダー2.jpg90日で成果を出すリーダー.jpg   The First 90 Days.jpg   ハーバード・ビジネス式 マネジメント.jpg
ハーバード流マネジメント講座 90日で成果を出すリーダー (Harvard Business School Press)』['14年/翔泳社(伊豆原 弓:訳)]/"The First 90 Days, Updated and Expanded: Proven Strategies for Getting Up to Speed Faster and Smarter"(2013)/『ハーバード・ビジネス式 マネジメント - 最初の90日で成果を出す技術』['05年/アスペクト(村井 章子:訳)]
Michael D. Watkins
マイケル・D・ワトキンス.jpg リーダーシップ教育で知られるIMDビジネススクールの教授である著者による本書は、昇進した新任管理職が最初の90日を乗り切るためのロードマップであり、90日という期間でリーダーが何をすべきか、そのことを実践的かつ体系的に学べる本として以前ベストセラーとなった原書('The First 90 Days: Critical Success Strategies for New Leaders at All Levels'(2003)/『ハーバード・ビジネス式 マネジメント―最初の90日で成果を出す技術』('05年/アスペクト))の、刊行10周年記念増補改訂版('The First 90 Days: Proven Strategies For Getting Up to Speed Faster and Smarter'(2013))の邦訳です。

 はじめに、職務移行に成功するための重要な作業として、①「準備をととのえる」(新しい任務に合わせて思考回路を切り替える)、②「効率よく学ぶ」(必要な知識や情報を効率よく学ぶ)、③「状況に合った戦略を立てる」(正しくリーダーシップをとるために状況に合った戦略を立てる)、④「上司と成功条件を交渉する」(上司と関係を築いて下地づくりをする)、⑤「初期の成果をあげる」(まず小さな成果をあげて流れをつくる)、⑥「組織のバランスをととのえる」(組織のバランスに歪みがないか見きわめて調整する)、⑦「理想のチームをつくる」(部下を評価してチームづくりをする)、⑧「味方の輪をつくる」(内外の支持基盤を確立する)、⑨「自己管理の意味を考える」(私生活を管理する)、⑩「組織全体の移行を速める」(組織に対する移行支援)を挙げ、以下、各章で、実践的なガイドラインやツールを紹介していきます。

 第1章「準備をととのえる」では、「昇進」と「新しい会社への転職」の2種類の移行について、どのような課題に直面しそれをどう乗り越えるか、その準備をととのえる際の基本原則をまとめています。

 第2章「効率よく学ぶには」では、新任リーダーが失敗するのは、たいていは効果的に学習ができなかったことに要因があるとし、学習の障害を克服し、効率よく学ぶにはどうすればよいかを説いています。

 第3章「状況に合った戦略を立てる」では、正しくリーダーシップをとるには、状況に合った戦略を立てる必要があるとし、そのためのSTARSモデルというものを紹介しています。
  S (Start-up)     立ち上げ
  T (Turnaround)    立て直し
  A (Accelerated)   急成長
  R (Realigment)    軌道修正
  S (Sustaining success) 好業績をあげて次の段階進もうとする組織の継承

 第4章「上司と成功条件を交渉する」では、新しい上司と生産的な関係を築くためにしてはならないことと、基本的にやるべきことを列挙し、その中で、自分に対する期待を繰り返し確認せよと言っています。また、上司との会話の中心となる基本的話題として、移行に関して計画的に織り込むべき5つの会話を掲げています。

 第5章「初期の成果をあげる」では、移行期の計画を立てるにあたっては、連続的に変革の波を起こすことに重点を置くべきであり、最初の変革の波は、初期の成果をあげることが目標であるとしています。ただし、手近な成果の罠にはまらないようビジネスの優先課題に注目すべきであるとし、正しいやり方で成果をあげるための基本原則を示しています。

 第6章「組織のバランスをととのえる」では、組織がアンバランスになる過程はさまざまであり、最初の90日間の目標は、潜在的なアンバランスを突き止め、それらを修正する計画を立てることであるとしています。組織のバランスには論理があり、方向性が正しいかどうかを考えずに構造を変えようとすると問題を引き起こす可能性が高いとし、戦略的方向をどのように定義し、その妥当性や実施面での評価をどのように行うかを説いています。

 第7章「理想のチームをつくる」では、チームをつくる段階でリーダーが失敗する、陥りやすい落とし穴の例を挙げ、落とし穴にはまらないようにするためにはどうすればよいかを説いています。また、部下を評価してチームづくりをし、チームを進化させるにはどうすればよいか、インセンティブのバランスはどのようにとったらよいのかを説いています。

 第8章「味方の輪をつくる」では、具体的に誰を味方につけるべきか見定め、組織に対する影響力の全体を把握すべきであるとし、影響力のネットワークにおける重要人物を理解し、相手を動かす戦略を立てることが重要であるとしています。

 第9章「自己管理の意味を考える」では、自分が置かれている状況を検討するための「構造的内容」のガイドラインを示すとともに、自己管理の3本の柱を掲げています。

 第10章「組織全体の移行を速める」では、組織全体の移行を速めるにはどうすればよいか、そのポイントとして、重要な移行を特定し、また、失敗が決定づけられているケースも特定するとともに、既存の移行支援を診断し、共通の核となるモデルを採用すること、タイムリーに、移行のタイプやリーダーの階層に合わせて支援をすることを挙げています。

 各章の冒頭にケーススタディがあり、読み易く、また、実践的な内容であると思いました。柔軟なフレームワークを示しながら、上司との関係、部下の評価、組織戦略などを掘り下げていて、あらゆるレベルの管理職に役立つ、多くの示唆を含む本であると思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 最初の90日
 キャリア移行能力を身につける
 ブレイクイーブンポイントに達する
 移行の落とし穴にはまらない
 流れをつくる
 基本原則を理解する
 移行リスクを評価する
 最初の90日を計画する
 早速はじめよう
第1章 準備をととのえる
 昇進する
 新しい会社に溶け込む
 コラム 文化規範を見きわめる
 準備をととのえる
 まとめ
 チェックリスト
第2章 効率よく学ぶには
 学習の障害を克服する
 学習を投資プロセスと考える
 学習課題を決める
 コラム 過去に関する質問
 コラム 現在に関する質問
 コラム 未来に関する質問
 知識を得るために最高の情報源を見きわめる
 構造化学習法を取り入れる
 コラム 新任リーダーの同化
 学習計画の作成
 コラム 学習計画のテンプレート
 支援を得る
 まとめ
 チェックリスト
第3章 状況に合った戦略を立てる
 STARSモデルを使う
 STARSポートフォリオを診断する
 変革を主導する
 自己管理
 成功に報いる
 まとめ
 チェックリスト
第4章 上司を成功条件を交渉する
 基本的なことに注意する
 5つの会話を計画する
 組織の状況についての会話を計画する
 上司の期待についての会話を計画する
 資源についての会話を計画する
 仕事のスタイルについての会話を計画する
 自己啓発についての会話を計画する
 複数の上司と協力する
 離れて働く
 まとめー90日計画を交渉する
 チームと5つの会話を計画する
 コラム 移行の黄金律
 チェックリスト
第5章 初期の成果をあてる
 波をつくる
 目標から始める
 基本原則を使う
 初期の成果を見きわめる
 コラム かつての同僚の上司になる
 変革を主導する
 予測可能な不意打ちは避ける
 チェックリスト
第6章 組織のバランスをととのえる
 落とし穴にはまらない
 組織構造を設計する
 アンバランスを診断する
 さあ、漕ぎだそう
 戦略的方向性を定義する
 コラム SWOTからTOWSへ
 グループの構造を形成する
 コアプロセスのバランスをとる
 グループのスキルベースを開発する
 文化を変えるために構造を変える
 バランスをとってみよう
 チェックリスト
第7章 理想のチームをつくる
 落とし穴にはまらない
 チームを評価する
 チームを進化させる
 チームのバランスをとる
 コラム インセンティブの方程式
 コラム オフサイト・ミーティグ計画のチェックリスト
 チーム主導する
 チームを始動させる
 チェックリスト
第8章 味方の輪をつくる
 影響力の目標を定める
 影響力の全体を把握する
 重要人物を理解する
 相手を動かす戦略を立てる
 まとめ
 チェックリスト
第9章 自己管理の意味を考える
 現状を検討する
 コラム 構造的内省のガイドライン
 自己管理の3本の柱を理解する
 軌道を外れないために
 チェックリスト
第10章 組織全体の移行を速める
 重要な移行を特定する
 失敗が決定づけられているケースを特定する
 既存の移行支援を診断する
 共通の核となるモデルを採用する
 タイムリーに支援する
 構造化プロセスを使う
 移行のタイプに合わせて支援する
 リーダーの階層に合わせて支援する
 コラム 移行コーチングと開発コーチング
 役割をはっきりさせインセンティブのバランスをとる
 ほかの人材管理システムと統合する
 まとめ
 チェックリスト

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○経営思想家トップ50 ランクイン(バーバラ・ケラーマン)

リーダーからフォロワーに力と影響力が移動し、リーダーシップ教育の見直しが求められていることを指摘。

Iハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代8.JPGハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代.jpg バーバラ・ケラーマン.jpg Barbara Kellerman
ハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代
"The End of Leadership"[Kindle版]
the end of leadership.jpg 著者はハーバード大学ケネディスクールの社会リーダーシップの授業で、ジェームズ・マグレガー・バーンズ論を担当する講師であり、本書(The End of Leadership HarperBusiness 2012)は「リーダーシップ」が一大産業になるまでの変化の歴史と、変化によって起きた現代社会の問題点について触れた本です。本書では、リーダーシップ教育は過去に例を見ないほど盛んに行われているのに、なぜリーダーの影響力は低下したのだろうかという疑問を呈し、リーダーシップの歴史と社会情勢の変化を分析したうえで、一大産業と化したリーダーシップ教育の問題点を洗い出し、未来のリーダーシップについて警鐘を鳴らしています(全三部構成で、第一部、第二部でリーダーからフォロワーに力と影響力が移動しその関係が変化していることを説き、第三部で、そうした時代の状況を鑑みた場合の、現在のリーダーシップビジネスにおける問題点を指摘している)。

 第一部「パワーシフト」第一章「歴史的軌跡―衰えゆくリーダーの力」では、リーダーシップには長い歴史があり、たどってきた軌跡にははっきりした流れがあるとして、紀元前から現在までのリーダーシップの歴史を振り返るとともに、近年の傾向として、フォロワーが力をつけ、リーダーは弱体化しつつあるとしています。

 第二章「文化的制約―対等な立場で勝負する」では、フォロワーの力の増大の裏側には、リーダーのさまざまな限界があり、リーダーは、どんなときでも誰もが振り返って指示を仰ぐような道しるべ的な役割から、その力と影響力をフォロワーに委譲しつつあり、リーダーとフォロワーの形が変わってきているとうのが現代の歴史であり、時代(文化)の状況であるとしています。

 第三章「避けられない技術革命―テクノロジーに振り回される」では、そうした過去30年間から40年間のリーダーシップとフォロワーシップの変化は、文化的変化と併せて、通信技術の進歩などの技術的変化によって進行したことを、多くの事例によって説明しています。

 第二部「時代の変遷」第四章「社会契約―むしばまれる信頼関係」では、リーダーとフォロワーの関係の基礎となるのは、リーダーの資質に対するフォロワーの信頼であるが、今その信頼が宗教界、政界、経済界の各方面において損なわれつつあることを例証しています。

 第五章「今アメリカで―弱体化するリーダー」では、とりわけ今アメリカで起きているリーダーの弱体化現象について述べています(この部分は、ドナルド・トランプのような人物が大統領となることを"予言"しているとまでは言えないが、ある意味"予感"させるものであてって興味深い)。

 第六章「世界的な動き―勢いづくフォロワー」では、多くのヨーロッパ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々で、30年から40年前に比べて、アメリカ以上に、リーダーが弱くなりフォロワーが強くなっていることを検証していて、アメリカはリーダーが弱体化したためにリーダーとフォロワーのバランスが変化したが、これらの国々は、フォロワーが強くなることで、力の均衡に変化が起きたとしています。

 第三部「パラダイムシフト」第七章「リーダーシップビジネス―リーダーシップ大流行の中で」では、リーダーシップビジネスはこの30年から40年の間に爆発的に成長しているが、莫大な資金がリーダーシップビジネスに流れこみ、莫大な時間がリーダーシップ教育、研究に費やされているにも関わらず、リーダーシップの成功例は少なく、失敗例には事欠かないとし、その問題の一つは、有能なリーダーを育成することに固執していることにあるとしています。

 第八章「特別講義完了―現代に求められるリーダーとは」では、これまでの「救世主探し」のようなリーダー中心のリーダーシップ教育ではフォロワーの重要性が忘れられており、今リーダーシップ育成事業そのものを全体的に考え直す必要があるとして、今のリーダーシップ産業を支えている「前提」の数々について、著者が疑問を抱いているものをリストアップし、それらはリーダーシップの危機を促進こそすれ、緩和はしないとしています。

 本書は、リーダーとフォロワーの関係の変化、そして、リーダーシップビジネスがなぜ意図した結果を生んでいないのかについて述べる一方で、これは簡単に解決できる問題ではないとして、「お定まりの処方箋」を描くことはしていません。リーダーシップを否定しているわけではなく、これまでのリーダーシップは時代遅れになる危険があるとしているわけです。リーダーの存在を否定するのではなく、、リーダーはいつの時代にも存在するが、フォロワーシップより重要な存在としてのリーダーシップ、授業料を払って習得するようなリーダーシップ、普通の仕事より優れたものとしてのリーダーシップ、どんな問題でも解決するリーダーシップ、業績を出すのが当たり前だと皆が思っているリーダーシップ―そのようなリーダーシップはもう古いとしていて、相当に示唆的な内容であると言えます。

 リーダーシップビジネス(教育)について詳細に(批判的に)語っていることも本書の特徴であり、それらはアメリカ社会を中心に書かれていますが、次世代リーダーの育成が急務の日本の企業にとっても参考になるように思われます。著者はリーダーシップビジネスが衰退しないようにするには、少なくとも次の四つの改革をしなければならないとして本書を結んでいます。

 ・会話を阻害する、リーダー中心主義を終わりにすること。
 ・近視眼的な状況の特定から脱却すること。
 ・リーダー教育自体を厳しい分析の対象とすること。
 ・影響力の対象を反映しなければならない、移りゆく時代とともに変わること。

《読書MEMO》
●目次
プロローグ──二十一世紀のリーダーシップ、そしてフォロワーシップ
第一部 パワーシフト
 第一章 歴史的軌跡―衰えゆくリーダーの力
 第二章 文化的制約―対等な立場で勝負する
 第三章 避けられない技術革命―テクノロジーに振り回される
第二部 時代の変遷
 第四章 社会契約―むしばまれる信頼関係
 第五章 今アメリカで―弱体化するリーダー
 第六章 世界的な動き―勢いづくフォロワー
第三部 パラダイムシフト
 第七章 リーダーシップビジネス―リーダーシップ大流行の中で
 第八章 特別講義完了―現代に求められるリーダーとは

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リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるもの。

リーダーの使命とは何か.jpgHesselbein.jpg あなたらしく導きなさい.jpg
リーダーの使命とは何か』['12年]Frances Hesselbein at TEDあなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』['13年]

Hesselbein2.jpg 本書(原題:Hesselbein on Leadership)は、17歳で父が他界、大学進学を断念して就職、22歳で結婚、出産後にガールスカウトのボランティアを始めて頭角を現し、ついには全米ガールスカウト連盟初の現場出身CEOとなり、さらにドラッカー財団の初代プレジデント兼CEOとなり、大統領自由勲章を受勲し、『アメリカ陸軍リーダーシップ』('10年/生産性出版)の共著者でもあるというフランシス・ヘッセルバイン(1915年生まれ、2018年12月現在満103歳)が、リーダーシップについて述べたエッセイをまとめたものです。

 Ⅰ「『どうやるべきか』から『どうあるべきか』」では、リーダーシップとは「どうやるべきか」ではなく「どうあるべきか」の問題であるとしています。1章では、これからのリーダーは、「どうあるべきか」に専心する人であるとして、その行動特性を列挙し、2章では、今の若者はシニカルになりがちだが、実はこうしたリーダーは身近にいるものだとしています。3章では、自らはリーダーとして「イノベーション」「融合」「機会」「価値観」という四つのカゴを持つようにしてきたとし、4章では、リーダーには女性も男性もなく、もし仮に女性的と形容されるマネジメントの特長があるとすれば、それは男女関係なく、有能なリーダーの共通の資質であるとしています。5章では、よいマナーや礼儀正しさは、組織全体によい人間関係を確立するために不可欠であるとし、真摯に人と向き合い、尊敬の念を表すことのできるリーダーが求められるとしています。6章では、リーダーには自分でつくりだす壁と組織がつくりだす壁の2つの壁があるとして、それぞれの壁について解説し、壁を見極め、乗り越えなければならないとしています。7章では、リーダーが交代する際に、称賛される交代となるために必要な四つのステップを挙げています。

 Ⅱ「新時代のリーダーは、こうなる」では、これからのリーダーはどのようになっていくかを述べています。8章では、リーダーがピラミッドの上に立つ時代は終わり、リーダーは円の中心的存在として、ミッションの達成やイノベーション、ダイバーシティを目指すマネジメントを行うことになるとしています。9章では、これからのリーダーはミッションを常に意識し、絶えず学び、絶えず教え、才能よりも勤勉さを尊ぶとしています。10章では、ひとつの組織が理想の組織に変わるための八つのポイントを示しています。11章では、組織には「家をきれいに保っておく」ことが求められるとし、それはどういうことか、そのための三つの要件を挙げています。12章では、今日の組織は本気でリーダーを育成することが求められており、すぐれた組織の共通点として、リーダーシップ養成に力を入れていることが挙げられるとしています。13章では、組織が10年後も成長しているためのチェックリストを示しています。

 Ⅲ「外に飛び出し、社会を変えよう」では、あらゆる組織のリーダーたちは、自分の組織の壁を越えたリーダーシップも発揮しなければならないとしています。14章では、官・民・NPOのトライアングルの構築の実例を挙げています。15章では、組織を超えて「共通の言葉」で話し、協力し合う必要があるとしています。16章では、これからの企業人は非営利組織に注目すべきであるとしています。17章では、多様性の時代の組織づくりはどうあるべきかを考察し、生産性のある組織を実現する五つの条件を挙げています。18章では、リーダーとは、献身的なリーダーシップを発揮して初めて真のリーダーになるとし、とりわけ、こどもたちを救うということをリーダーの使命として挙げています。19章では、ドラッカーが『未来社会の変革』の冒頭で書いた「都市を文明化する」という仕事に関して、現実にどこから手をつければよいか、コミュニティとのパートナーシップの規範となる事例を紹介しています。

 200ページ足らずのソフトカバー本ですが、密度は濃いです。リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるものであり、ただし、リーダーを育てるには相当の時間を投入する必要があり、それによって、リーダーが育成される―ということを改めて思い知らされる、啓発度の高い本です。また、同著者の『あなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』('13年/海と月社)も280ページ程度と本書よりはやや厚いですが、本書同様に読みやすく説得力のある本です。

《読書MEMO》
目次
世界の重鎮たちはなぜ、ヘッセルバインに一目置くのか。―ジム・コリンズ
困難から逃げないあなたへ
Ⅰ「どうやるべきか」から「どうあるべきか」へ
  1章 「どうあるべきか」のリーダーとは?
  2章 ヒーローは身近にいる
  3章 四つのカゴを持ち歩く
  4章 リーダーに、女性も男性もない
  5章 礼儀正しさの効用
       よいマナーはリーダーの味方
       メンバーへの敬意の示し方
  6章 リーダーに立ちはだかる二つの壁
  7章 称賛されるリーダー交代の方法
       理事会とのやり取り
       交代までの四つのステップ
Ⅱ 新時代のリーダーは、こうなる
  8章 ピラミッドを円に変える
  9章 あなたは「善きサマリア人」か?
       お題目だけのミッションならいらない
       絶えず学び、絶えず教える
       才能より勤勉さを尊ぶ
  10章 理想の組織に変わるための八つのポイント
  11章 「家」をきれいに保つ
       三つの要件を満たす
       自分の「家」をじっくり見つめる
  12章 本気でリーダーを育成する
       すぐれた組織の共通点
       五つの質問に答える
  13章 一〇年後も成長しているためのチェックリスト
Ⅲ 外に飛び出し、社会を変えよう
  14章 官・民・NPOのトライアングル
  15章 「共通の言葉」で話せる人に
  16章 企業人は非営利組織に注目せよ
       NPOを評価すべき理由
       メンバーのやる気をかきたてる態度
  17章 多様性の時代の組織づくり
       口先だけでは通用しない
       生産性のある組織を実現する五つの条件
       新たな現実をチャンスに変える
  18章 子どもたちを救う、という使命
       企業も無縁ではない
       なぜ、献身が必要なのか
       子どもを気にかけない社会の不幸
  19章 実例なら、ここにある
理想の組織に変わるための八つのポイント(10章)
①周囲に目を配る
いろいろな本や記事、調査結果などから、自分達の組織に影響を及ぼしそうなトレンドを見極める。常にこうした姿勢でいれば、転換プランに欠くことのできない情報も得られるようになる。
②ミッションを再確認する
周囲の環境や顧客のニーズは変化するため、ミッションは見直し、必要に応じて改訂する必要がある。ミッションステートメントとは、自分達の存在意義、目的の説明である。リーダーは、マネジメントとは目的ではなく手段であることを理解し、自分勝手なマネジメントのためのマネジメントではなく、ミッシ ョンのためのマネジメントを行わなければならない。
③階層を禁じる
組織を転換するためには、メンバーを組織の箱から解放し、柔軟で流動的なマネジメント体制をつくりだす必要がある。スタッフの役割や地位を同心円状に、系統的に配置することで、職務をローテーション化することが可能となる。これによってメンバーは円を描くように移動し、新しいスキルを学び、経験の幅を広げていく。
④「天の声」に疑問をもつ
絶対神聖なタブーなどつくってはならない。どんな方針や慣行、前提に対しても、疑問の声をあげていくべきである。本気で組織を変えようとするなら、「計画的廃棄」も実行すること。
⑤言葉の力を駆使する
リーダーは明瞭で首尾一貫したメッセージを何度も送らなくてはならない。メンバーや顧客の心を明るく照らし出すような強力なメッセージを発しながら、自分の声で組織を導き、よりよいコミュニケーションをとっていくこと。
⑥リーダーシップを分散させる
いかなる組織も、一人のリーダーではなく、多くのリーダーを持たなくてはならない。リーダーを育成し、組織のあらゆるレベルで力を発揮してもらうこと。
⑦「後ろから押す」ではなく、「真正面から導く」
リーダーは何もせず、風見鶏のようにただ待っていたりはしない。組織に影響を及ぼしそうな問題に立場を明言し、企業やその価値観、原則を具現化した存在としてふるまう。
⑧業績を評価する
進歩のためには、自分自身を評価することが不可欠である。転換のプロセスにおける、ミッション、目標、目的は最初に明確にしておく。目標と評価の尺度を設定して初めて、転換への道のりを歩み出すことができる。

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奉仕型のリーダーシップとは、自らを人間的に成長させる素晴らしい"スキル"であると。

サーバント・リーダー  ハンター.jpgサーバント・リーダー  ハンター7.JPG サーバント・リーダー  ハンターl2.jpg James Hunter.jpgサーバント・リーダー 「権力」ではない。「権威」を求めよ』['12年] "The Servant: A Simple Story About the True Essence of Leadership"(1998) James Hunter

サーバント・リーダーシップ ハンター.jpg 本書(原題:The Servant: A Simple Story About the True Essence of Leadership,1998)は、『サーバント・リーダーシップ』('04年/PHP研究所、石田量訳)の新訳です。物語仕立てになっていて、世界的なガラスメーカで異例の若さで工場を任され、順調なキャリアを歩むゼネラル・マネジャーが、ビジネスとプライベートの両面で危機を迎え、妻から教会の牧師に相談することを勧められ、牧師から修道院の修道会に参加することを提案され、気乗りはしなかったが、その修道院に伝説の経営者がいることに興味をひかれて参加し、そして、その伝説の経営者から、リーダーシップを学ぶというストーリーになっています。

サーバント・リーダーシップ』('04年/PHP研究所、石田量訳)

 1日目は、主人公は、修道院の中ではシメオンと呼ばれるその伝説の経営者の導きにより、他の5人の参加者との討議を通して、リーダーシップとは「共通の利益になると見なされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能」であるとの定義に至ります。シメオンは、リーダーシップは"技能"であるので、学んだり身につけたりすることができるものだとし、リーダーシップを身につけるという行動には"大きな努力"が必要とされるとも言います。なぜならば、リーダーシップが他人を動かすことだとしたら、人を動かす影響力をどのように身につければよいのかを常に考える必要があるからです。そこで重要になるキーワードは"影響力"というものであり、この影響力に関して「権力」と「権威」という二つの言葉が持つ意味の違いを正しく理解することの重要性を述べます。「権力」は、たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力であり、「権威」は、個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能であるとし、権力に頼らなければならないのは、権威が崩れたからであって、では権威あるリーダーの特質とは何かを参加者に考えさせ、その結果「正直で信頼できる」ことなど10の特質が抽出されます。シメオンは、これら10の特質は全て「行為」であり、このような「行為を実践する」ことができるのならば「権威を持つ」ことができるとします。シメオンは、リーダーシップとは、人々を通して何かを成し遂げることであり、人と共に働き、人に何かをさせるときには「任務」と「関係」というものが必ず関わってくると説きます。「任務」と「関係」はどちらも重要で、いずれか一方だけを重要視するとバランスが崩れてしまい望まない結果がもたらされることになるので注意が必要だということを常に心に留め置く必要があるとします。関係を顧みずに任務にだけ集中していると、退職、反抗、品質の低下、やる気の無さ、信用低下といった問題が起き、一方、関係性のみに注力をするならば、任務を成し遂げることができず、つまり、リーダーシップとは「関係を築きながら任務を成し遂げる」ことを指すということになるとし、関係性を維持するために最も必要なものは「信頼」であると説きます。

 2日目は、シメオンはまず、人に最後まで話をさせずに自分の意見を言い始めることの弊害を説きます。そして、尊敬の気持ちには、尊敬の行動が伴わなければならないとします。また、もし10の特質を本当に実践するのであれば、「パラダイム:規範」(人生を進んでいくにあたって用いる心の図式・モデル・地図)の見直しの必要性に迫られるとし、このパラダイムは上手に使えば人生を渡っていくのに非常に役立つが、時代遅れの古いパラダイムに捉われてしまうと世界に取り残されてしまう危険性があるとします。例えば、父親に虐待された女の子は「大人の男性は信用できない」というパラダイムを持ち、成長後もそのパラダイムを持ち続けるならば男性との付き合い方に深刻な支障をきたすことになり、この場合、「すべての男性は信用できない」というものから「信用できない男性もいる」といったパラダイムの変換が必要になります。従って、常に自分自身や自分を取り巻く環境に関するパラダイムを自ら見直す必要があり、多くが現在身につけている組織運営に関するパラダイムは、「ピラミッド型:上から下へ」というものであって、CEOを最上位とし、[上]CEO→副社長→中間管理職→監督者→従業員[下]と続いて、最下層の従業員が「顧客」への対応を行うが、この従来型モデルの場合、組織のメンバーには、顧客ではなくて「上」つまり上司を見よというメッセージになるだろうと。そこで、このパラダイムの変換が必要になり、それは「逆ピラミッド型:下から上へ」というもので、[上]従業員→監督者→中間管理職→副社長→CEO[下]というものであると。顧客に目を向けるために顧客を最上位に置き、その対応する従業員を上に配置するならば、リーダーの役割は支配したり下層のメンバーに威張り散らしたりすることではなく、むしろ従業員に対して"奉仕する"ということになるとしています。ここでの「奉仕する」の本当の意味は、相手の欲求に応えるということではなくて"ニーズに応える"ということを意識しなければならないといとしています。欲求とは「心身におよぼす影響をまるで考えない願い、希望」で、ニーズとは「人間としてよい状態にあるために、心身が正当に求めるもの」であり、例えば、従業員が時給20ドルを求めることは欲求であり応える必要はないが(なぜならば、その要求を満たすことになれば企業の存続が危うくなり、安定した長期の雇用という彼らのニーズに応えることができなくなるから)、リーダーは常に自分が導いている人々のニーズに応えるべく、それらをきっちりと把握する努力をする必要があるとしています。そのためには「マズローの欲求5段階説」を知ることは有益であるとしています。欲求ではなくニーズに応える、つまり、隷属するのではなくて奉仕者になる、ということを心に留め置くべきだというのが、2日目の講義のポイントです。

 3日目は、「奉仕」と「犠牲」のリーダーシップに踏み込んでいきます。リーダーシップに関して、それをどのように身につけるかを、[上]リーダーシップ→権威→奉仕と犠牲→愛→意志[下]というピラミッド型モデルで学ぶことができるとしています。まず、有効なリーダーシップは、「権威」の上に打ち立てられなければならず、権威は「奉仕と犠牲」の上に成り立ち、その奉仕と犠牲は「愛」の上に、愛は「意志」の上に作られるとしています。この意志とは「意図 + 行動」を意味し、意図は行動を伴って初めて意味を成すとしています。つまり、リーダーシップとは、意志から始まり、それは、意図に添った行動をし、行為を選ぶという人間ならではの能力であり、正しい意志があれば愛を選ぶことができる。この愛というのは動詞で、人々の欲求ではなく、正当なニーズを見極めてそれに応えることを指し、人々のニーズに応えるとき、奉仕し、犠牲を払うことさえ求められるが、他人に奉仕して犠牲を払うと、権威あるいは影響力を手にすることができるということです。つまり、もっとも偉大なリーダーとは、もっとも奉仕した人物ということになるとのことです。

 4日目は、「行為」としての愛に踏み込んでいきます。「行為を示す動詞の愛」について理解を深めることは、リーダーシップを理解することへの大きな助けになるとしています。ギリシャ語には愛を表すのに幾つかの異なる単語があり、性的な魅力や欲望、切望といった感情を指す「エロス」、家族の間の感情を指す「ストルゲ」、「あなたが私に親切にしてくれたら、わたしもあなたに親切にします」といった条件付きの親密な相互の愛である「フィロス」、見返りを考えない、他人への行為の基になる無条件の愛である「アガぺ」のうち、奉仕と犠牲のリーダーシップの中で用いられる「愛」とは「アガぺ」を意味する、行為と選択の愛なのだとしています。そして、自分が人に対してどう感じるかはコントロールできないが、人に対してどのように振る舞うかは、きちんとコントロールができるということを意識することが必要であるとしています。そして「アガぺの愛」は、次のように、先のリーダーシップが求める10の特質と重なるとしています。
  忍 耐:自制すること
  優しさ:注意を払い、評価し、励ますこと
  謙 虚:信頼でき、虚偽や高慢さがないこと
  敬 意:他者を重要な人物として扱うこと
  無 私:他者の必要に応えること
  許 し:悪いことをされたときに怒りを捨てること
  正 直:欺かないこと
  献 身:選択を貫くこと
 以上のことは「奉仕と犠牲」を意味し、それは「自分の欲求や必要を脇にやり、他者のために最高の利益を求めること」であって、つまり、権威をもって導くためには、努力をして愛し、奉仕し、時には他人のために犠牲を払うことさえ求められるが、その際の愛が意味するものは、他者に対してどう感じるかではなくて、他者に対してどう行動するのかということであり、それは「メンバーの正当なニーズを見極め、それに応えることによって、人のために努力する」という行為を意味するとしています。

 5日目は、メンバーが成長できる環境について踏み込んでいきます。シメオンは、具体的にはどのように行動することが求められるかを「園芸」を比喩として用い、自分の影響が及ぶ範囲を「世話をする必要のある庭」だと考え、庭には注意と世話を欠かすことはでず、この庭には何が必要だろうか? 評価や認知や賛美などで養分を与える必要があるのではないか? 雑草を取り除く必要は? 害虫の駆除は? などと常に自問して自分の役割を果たして育んでいくのならば、きっと豊かな実を得られることができるとしています。ここで注意すべきは、実がなるまでの期間を事前に知ることは誰もできないということを知っておくことであり、そのためにリーダーシップには、未来を信じて努力を続けるという「献身」という行動を欠かすことはできないとしています。

 6日目は、どう行動するかどう行動するかを選ばなければなたないときのことについて触れています。奉仕のリーダーシップを採ることによって、権力に頼る人からの迫害を受ける可能性があり、なぜならば、彼らはたいてい権威に基づく人々によって地位を脅かされないか怯えて不快感を覚えているからであるが、しかし、自分がどのように扱われようと、愛と敬意をもって人と接することができない場所などほとんどないことも覚えておくべきであるとしています。なぜならば、私たちは誰でも、自分自身の行動においてのみ「周囲に影響を与えることができる」からだと。そう考えるならば、リーダーシップという務めと愛は、人格の問題であり、長い時間に耐えうる卓越したリーダーになりたければ、忍耐、優しさ、謙遜、無私、敬意、許し、正直、献身という、こうした人格の基礎を習慣として身につけ、成熟させなければならないとしています。

 最後の7日目は、リーダーは、はたしてこのような大変な努力をする価値が本当にあるのかを考察しています。この奉仕のリーダーシップがもたらす真の報酬とは何なのか。もちろん、人々に対する影響力を身につけることもあるが、それよりも「日々の使命/人生の使命」を明確にしてくれるということも報酬であるとしています。なぜならば、高齢者を対象にした「もう一度人生をやり直すとしたら、自分の行動をどう変えたいですか?」という調査結果の上位の回答の一つに「もっと後世に残すことをする」があるように、使命感を持ち他人に影響を与えることは私たちの大きな満足に繋がるからであると。加えて、外部の状況に基づかない、内面から湧き出る"歓び"という感情を得ることができることも、とても大きな報酬の一つであるとしています。歓びは、心の中の満足、自分が人生の深遠な不変の原理に本当に連携できたと確信できるからです。それは、私たちが自己中心的な利己主義を克服するのに役立つとしています。

 物語形式で「リーダーシップ」について理解が進められるように話が進んでいくのが本書の特長ですが、ここでいうリーダーシップとは、従来のリーダーシップとは異なる奉仕型のリーダーシップを指していて、主人公やセミナーの参加者たちも、初めはこの常識とは真逆のリーダーシップに戸惑いつつも、それぞれの経験を鑑みながら講義を進めていくにつれて、奉仕型のリーダーシップが持つ意味や、それがもたらす効果の大きさを理解するようになっていきます。突き詰めるならば、この奉仕型のリーダーシップとは、自らを「人間的に」成長させる素晴らしい"スキル"でもあり、それが日々を充実させる使命感や大きな歓びをもたらすことを、学ぶことができるかと思います。「奉仕型のリーダーシップ」は経営者や管理職のみならず、誰にでも必要な「技能/スキル」であることを認識させる本であり、リーダーを目指す人に広くお薦めします。

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《読書MEMO》
●目次
プロローグ このわたしが修道院へ?
1日目 リーダーが見落としているもの
2日目 殻を破り、逆転の発想を
3日目 「奉仕」と「犠牲」とリーダーシップ
4日目 「行為」としての愛について
5日目 メンバーが成長できる環境とは
6日目 どう行動するかを選びとるとき
7日目 リーダーにたいする真の報酬
エピローグ あらたな旅路へ
●リーダーシップ・権力・権威(1日目)
「リーダーシップ」:共通の利益になるとみなされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能。
「権力」:たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力。
「権威」:個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能。
●権威あるリーダーの10の特質(1日目)
正直で信頼できる/いいお手本/愛情深い/献身的/話をよく聞く/人に責任を持たせる/敬意をもって人に接する/人を励ます/肯定的で熱心な態度/人の価値を認める
●古いパラダイムと新しいパラダイム(2日目)
「古いパラダイム」<ピラミッド型:上から下へ>
[上]CEO→副社長→中間管理職→監督者→従業員→(顧客)[下]
「新しいパラダイム」
[下](顧客)→従業員→監督者→中間管理職→副社長→CEO[下]
●<リーダーシップのモデル>(3日目)
[上]リーダーシップ→権威→奉仕と犠牲→愛→意志[下]
●「行為」としての愛について(4日目)
「選手や仲間をかならずしも好きになる必要はないが、リーダーとしては彼らを愛さなければならない。愛は忠義、愛はチームワーク、愛は個人の威厳を尊重する。これはどんな組織にとっても強みだ。」―ヴィンス・ロンバルディ(アメリカンフットボール・コーチ)(p103)
●どう行動するか選びとるとき(6日目)
「リーダーシップという務めと愛は、人格の問題です。忍耐、優しさ、謙遜、無私、敬意、許し、正直、献身。長い時間に耐えうる卓越したリーダーになりたければ、こうした人格の基礎を習慣として身につけ、成熟させなければなりません。」(p186)
●リーダーに対する真の報酬(7日目)
「権威によって導くこと、正当なニーズに応えて他者に奉仕することには大きな歓びがあるということです。そしてこの歓びが、地球という名の精神の基礎訓練キャンプを生きていくにあたって、わたしたちを支えてくれるのです。・・・人間としての真の目的は、心理的、そして霊的な成熟に向かって成長することです。愛し、奉仕し、他者のために努力するなかで、わたしたちは自己中心的な考えを捨て去っていきます。(中略)他者を愛することでみずからが成長するのです。」(p202)

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ティール組織入門書としては良いが、ホクラシーの概念と混在してやや複雑になった?

実務でつかむ! ティール組織.jpg実務でつかむ! ティール組織  .jpg     ティール組織.jpg
実務でつかむ! ティール組織 "成果も人も大切にする"次世代型組織へのアプローチ』['18年]『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』['18年]
「月刊 人事マネジメント」2018年9月号
「月刊 人事マネジメント」2018年9月号.JPG フレデリック・ラルー著『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(2018年/ 英治出版)が刊行されて以来、人事専門誌などでも「自立分散型組織」に関する特集が組まれたりするようになりました。本書は、この本で提唱されているティール組織とはどのようなものであるか、これまで巷で次世代型組織と言われてきたホラクラシー組織とはどのような関係にあるのかを解説した本であり、著者は、日本初のホラクラシー認定ファシリテーターであるとのことです。

 1章では、『ティール組織』の中で示されているレッド、コハク、オレンジ、グリーン、ティールの5つの組織モデルについての概要を紹介するとともに、次世代型組織にあたるティール組織の、①進化する目的(エボリューショナルパーパス)、②「自主経営」が可能となる仕組みを有していること、③個人としての全体性の発揮(ホールネス)、という3つの要点について解説しています。さらに、ホラクラシー組織とはティール組織の1つの形態であるため、ティール組織同様、「社内上、社長や役員、部長等の役職自体を持たずに、組織の目的実現に向けてメンバーが進むことができるような独自の仕組みや工夫が溢れている」ことが特徴であるとし、ホラクラシー組織における「進化する目的」「自主経営」「個人としての全体性の発揮(ホールネス)」とは何かを解説しています。

 2章では、5つの組織モデルのうちオレンジ組織、グリーン組織、ティール組織について、それぞれトップダウン型組織(オレンジ)、ボトムアップ志向の組織(グリーン)、次世代型組織(ティール)と位置づけ、その特徴と移行の際の要点を実務的に解説しています。さらに、著者自身がボトムアップ志向の組織と次世代型組織との間に距離感を感じたことから、グリーン組織からティール組織への移行段階で、役職は残しまま次世代組織への土台をつくる「プレティール組織」という概念を設定しています。

 3章では、次世代型組織の3つの土台づくりとして必要な、①心の奥底の想いに気付き、互いに対話する、②目的地図と重要指標の透明化、③行動と目的の循環サイクル、の3つについて解説しています。

 4章では、次世代型組織の事例として、『ティール組織』でも取り上げられていたザッポス社のホラクラシーの活用例を紹介し、5章では、次世代組織の土台づくりに繋がる事例として、従来のマネジャーをなくし、"カタリスト(媒介役)"という役割を設定した株式会社ネットプロテクションズの事例などを紹介しています。

 ティール組織に関する解説は『ティール組織』に準拠しているため、同書の解説になっていると言えます。一方、ホラクラシー組織については、著者自身がティール組織の考え方との融合を試みたとも言えるのではないかと思います。ティール組織やホラクラシー組織の基本概念を整理し、何がその要点となるかを理解するには良い本だと思います。

 一方で、事例編の方は、次世代型組織(ティール組織)の事例として紹介されているのは『ティール組織』でも取り上げられていたザッポス社1社のみで、一方で、著者が設定した「プレティール組織」という概念に該当する「次世代型組織の土台に繋がる事例」は、日本企業やNPO法人などいくつかの事例が紹介されていますが、いずれもティール組織と言うより、どちらかと言うとホラクラシー組織の事例解説となっているように思いました。

 ティール組織というのがまだ事例が少ないため、理解しようとする側にとってもやや抽象的なイメージになりがちなのが今の段階であり、「プレティール組織」という過渡期的な概念を用い、それに該当する事例を紹介して解説した工夫は買いたいと思います。ただし、それらがティール組織とは実務上どのようなものかを理解するうえでの助けになったかもしれませんが、ティールとホラクラシーの両概念が混在して、概念的にはやや複雑になってしまった印象も受けました。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(リンダ・A・ヒル)

優れた上司であり続けるための3つの要素。説得力があり、啓発書として優れている。

Being Boss Linda A. Hill.jpgハーバード流ボス養成講座2.jpgハーバード流ボス養成講座.jpg  リンダ・A・ヒル.jpg Linda A. Hill
ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素
"Being the Boss, with a New Preface: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader"
Linda Hill: How to manage for collective creativity | TED
Linda Hil:How to manage for collective creativity  TED.jpg 本書は、ハーバード・ビジネススクールのリーダーシップ部門主任教授リンダ・A・ヒル(Linda A. Hill)と著述家ケント・ラインバック(Kent Lineback)の共著("Being Boss"(ボスになる)(2011))で、ウォールストリート・ジャーナル紙によって、「2011年に読むべきビジネス書5冊」に選ばれています。

 1章で、できるマネジャーの課題として、1.自分をマネジメントする、2.人脈をマネジメントする、3.チームをマネジメントする、の3つを挙げ、この3つの課題は、マネジャーとしての責任を果たそうとするうえでなすべきことのエッセンスをまとめたものであり、部下とそれ以外の人々の両方に自分の望む行動をとってもらうための、基本的なテコの役割を果たすとしています。パートⅠ以降では、この3つの課題を中心に話を進め、各課題に3~4の章を割り当てています。

 パートⅠ「自分をマネジメントする」では、他人、とりわけ部下との1対1の関係に照準を合わせています。2章では、長期にわたって効果的に影響力を発揮しようとするには、公式の権限だけに頼ったのでは限界があるとしています。3章では、友情に訴えかけて影響力を行使しようとする際には落とし穴があることを説いています。4章では、影響力の真のよりどころは信頼であるとしています。

 パートⅡ「人脈をマネジメントする」では、組織につきものの政治的駆け引きを念頭に置きながら、建設的な目的に沿って誠実に影響力を行使する術を説いています。5章では、助けを求めて一緒に働かなくてはならない相手との人脈を細心の注意を払って築き、維持していくことがたいへん重要であるとし、6章では、こうした人脈の築き方を詳しく述べています。7章では、上司との大切な関係について述べています。

 パートⅢ「チームをマネジメントする」では、部下たちとともに真のチームを作り上げるには何が必要かに焦点を当てています。8章では、水先案内人としてチームに目的意識を与えるには、文書になったプランとそうでないプランの両方を作る必要があるとしています。9章では、チームの文化と、適切な規範、理念、実り多いチームワークの条件について取り上げています。10章では、チームメンバー1人ひとりを管理しながらともに働く方法を説明しています。11章では、上司としての行動の核となる基本的な行動モデル〈準備→実行→反省〉を紹介し、それが懸案や想定外の出来事などあらゆる状況をマネジメント課題の追求に活かすのに、どう役立つのかを紹介しています。

 結びの12章では、3つの課題に照らして自分を眺め、強みは何か、旅の途上で更なる進歩が求められる分野は何かを見極める助けをし、日々の経験から学ぶためのアドバイスもしています。

 各章の冒頭に事例があって、それらが連続するストーリーのようになっていて課題の状況がイメージしやすくなっていますが、全体の構成がかっちりしているため、それが無かったとしても十分読みやすいのではないでしょうか。内容的にも「チームをマネジメントする」の前に、まず「自分をマネジメントする」ことから始まって、次に「人脈をマネジメントする」ことが来ていて、説得力がありました。啓発書として優れていると思います。

 本書で著者らが「3つの課題」と呼ぶもの―「自分をマネジメントする」「人脈をマネジメントする」「チームをマネジメントする」は、マネジャーの能力が最も未熟な分野であるというだけでなく、「人々に影響を及ぼす」という上司の最も根本的な役割を果たすうえでも役に立つものであり、3つの課題はマネジメントとリーダーシップの核心であり、できる上司になるうえで欠かせないすべての要素を含む、行動指向型のフレームワークであるとしています。

 また、優れた上司になるまでの過程を理解し、その行動様式を知るだけでは十分とは言えず、本当に重要なのは、リーダーシップの旅で、自分をどう成長させるかであって、成長は、自分の現在の実力をしっかり把握するところから始まるというスタンスに立っています。これを1度きりではなく継続的に行っていくためには、自分の能力や行動を常に見直し、正直な自己評価を行い、間違いを認めそこから学び、周りから率直な意見を求め吸収していくことが必要となるということです。

 自分は有能な上司の要件を満たしているだろうか。部下や、自分の管理下にはないが必要な人材を、最大限に活用できているだろうか。会社や顧客からの高まり続ける期待に、十分に応えているだろうか―そうしたことを自問してみるによい本であり、優れたマネジャー、リーダーを目指す全ての人にとって役立つ本であると思いますが、とりわけ、新任マネジャーや中間管理職がどのようにマネジメントを実践すれば良いかが書かれていたように思いました。でも、中間管理職に限らず、優れたリーダーを目指す人に広くお薦めできる本です。

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いかにして部下の潜在能力を最大限まで引き出し、強力な組織をつくるかを説く優れた啓発書。

響き合うリーダーシップ  .jpg 響き合うリーダーシップ.jpg Max De Pree.jpg ハーマンミラー.jpg
"Leadership Is an Art"(2004)『響き合うリーダーシップ』 Max De Pree(1924-2017/享年97)

響き合うリーダーシップ6.JPGハーマンミラー  .jpg 本書は、数多くの世界的デザイナーを率いて、ハーマンミラー社を「もっとも働きがいのある企業」「もっとも称賛される企業」と呼ばれる世界的家具メーカー(自分が今使用しているアーロンチェアを作った会社でもあるのだが)に育て上げた伝説のCEOマックス・デプリー(2017年没)が説くリーダーシップ論です。初版は1987年で(原題:Leadership Is an Art、1989年版の邦訳『リーダーシップの真髄』('99年/経済界))、本書は2004年改訂新版の訳本。裏表紙に、その間に寄せられたドッラカーやビル・クリントンなどによるこの本への賛辞が載っている)。

 先ず「はじめに」で、「リーダーシップは『アート』だ。時間をかけて身につけるものであり、たんに本を読んで学ぶものではない。リーダーシップは科学というより伝承であり、情報の蓄積というより関係の構築なので、その意味では、私はそのすべてを明らかにする方法を知らない」としています。

 1章「ある親方の死」では、「工場の操業全体を担うキーパーソン」である親方が亡くなり、弔問に自宅を訪ねたところ、実はその親方は美しい詩をつくる詩人であることが分かったというエピソードを引いて、リーダーは一人ひとりの才能、力量、スキルの多様性、つまり人間の個性、多様性といったものを認めなくてはいけないとし、リーダーに多様性への理解と受容があれば、社員一人ひとりが、自分は大切にされていると感じることができ、その結果、社員は、① 職場で機会や平等やアイデンティティを求められていることがわかる、② 仕事に意味、充実感、目的を見出すことができる、③ 目標と報酬が根本的に異なることを理解するのに役立つ、というようになるとしています。
 
 2章「リーダーシップの『アート』とは?」では、「リーダーは、まず最初に現実を明らかにしなければならない。そして最後にありがとうと言わなければならない。その間、リーダーは部下に奉仕し、部下に借りをつくる。すぐれたリーダーはこうして成長する」とし、次に、リーダーシップのアートを身につけるには、リーダーを「世話役」として考えるべきであるとし、具体的には、「資産と遺産」を残し、組織に「推進力」を与え、「効果」に責任を持ち、「礼節と価値観」を育まなければならないとしています。

 「資産」は財務の観点からのそれだけでなく、従業員(人)、組織の価値観(価値体系)、未来のリーダー(の育成)、質に対する意識、心の関係、リーダーの成熟した人間性、筋道を通す姿勢、ビジネス・リテラシー、才能を生かせる「場」の提供なども入ってくるとし、「変化への対処法」を確立するために「リーダーは反対意見を奨励する」が、それは「重要な活力源」となり、このことが「組織の基礎を固め、組織の存続を意識し、組織文化を築く」ことにつながるとしています。

 次に、「リーダーは組織内に『心の関係』をつくらなければならない。組織は結局、人の集まりだ。思いやりがあり、目的を持ち、熱意のある人が組織のなかでどうなりうるか。リーダーは彼らを正しく評価する新しい基準を示さなければならない」とし、また、「リーダーは筋道を通さなければならない。それによって企画や人間関係に理由や共通の理解が生まれる。筋道を通せば、秩序ができる。秩序のあるところでしか、人々のすぐれた面や熱意や能力は引き出せない。秩序だった環境では、信頼と人の尊厳が重んじられ、組織の目標を達成しようとする人々に自己啓発と自己実現の機会が与えられる」としています。

 「推進力」については、推進力の元になるのは、明確なビジョン、周到な戦略、そして「慎重に考えられ、従業員に伝えられた」方針や計画の3つであり、ビジョン→戦略→方針・計画という流れで実施すべきであるとしています。また、すぐれた才能を持つ人々が、適切で柔軟な研究開発プログラムを進めるかどうかで、推進力はちがってくるとしています。更に「効果」については、「リーダーは『効率性』は人にまかせてもいいが、『効果』にはみずから取り組まなければならない」としています。

 3章「参加型マネジメントで組織を変える」では、マネジメントで最も効果的なのは「参加型マネジメント」であり、それは人々の潜在能力を信じるところから始まり、理想的な関係を生み出すアプローチとして、①人を救う、②方針や業務より、自分たちの信念を優先させる、③仕事上の権利を認める、④「契約関係」と「心の関係」の役割と両者の関係を理解する、⑤「関係」は「構造」より重要であることを理解する、の5つを挙げています。

 4章「『愛着』について」では、「人の能力(コンピテンス)の中心には、愛着(インティマシ―)がある。愛着によって理解や信念が生まれ、仕事が充実したものになる。愛着は、あなたと仕事の関係を築く」としています。

 5章「投手と捕手」では、仕事とは何かという問題は、投手と捕手の関係に照らして考えるとわかりよいとし、仕事の意味、仕事上の役割から「すぐれた投手にはすぐれた捕手が必要」であるとして、その際に、双方に不可欠な、「組織にとって必要とみなされる権利」などの8つの権利を掲げています。

 6章から8章をそれぞれ要約すると、6章「遊軍リーダーを活かせ」では、そのときそのときの力を発揮できる人を活用することを説き、7章「資本主義の未来のために」では、参加型について考察をめぐらし、資本主義は排他的仕組みの中では生き残れないだろうとし、だからこそ参加型のアプローチが必要であるとし、8章「これが『偉人』だ」では、著者の父親を含め、先人らの示した様々なリーダーシップ例を挙げています。

 この内、6章「遊軍リーダーを活かせ」では、「遊軍リーダーとは、日常生活のなかで必要とされるときにその場にいる、欠くことのできない人々のことだ。彼らは日々多くの組織で、程度こそさまざまだが、主導権を握っている」とし、リーダーには、ヒエラルキー上のリーダーと遊軍リーダーの2種類があるが、「特別な状況においては、ヒエラルキー上のリーダーが遊軍リーダーを認め、サポートし、その指示にしたがわなければならない。また、潔く遊軍リーダーに主導権を譲らなければならない」としています。「遊軍リーダーシップは『問題』に焦点を当てた考え方だ。遊軍リーダーシップが発揮されるということは、ヒエラルキー上のリーダーに、問題を共有する能力(言い換えれば、他人にある状況をゆだねることができる能力)があるということにほかならない」としています。そして、遊軍リーダーシップが発揮されるには、「深い信頼と、自分たちは依存しあっているという自覚」と「規律」の2つが求められ、重要なのはある目標を達成するかどうかではなく、「個人としても集団としても、潜在能力をフルに発揮する」ことであり、「健全な心、開かれた態度、高い能力、経験に対する信頼―これらが仕事に活力を与え、人生に意味をもたらし、遊軍リーダーシップを可能にする。そして遊軍リーダーシップは、私たちが自由かつ率直な態度で協力し合うとき、潜在能力をフルに発揮するための手段となる」としています。

 9章「『語り部』の役割」には、著者がCEO、会長をつとめた会社、ハーマンミラー社の価値観が、研究主導型からスキャンロン・プランまで9つ紹介されています。本書におけるスキャンロン・プランとは、「参加型マネジメントを実現する、生産性向上を考慮した成果配分方式で、アメリカではかなりの数の企業で実施されている(中略)。スキャンロン・プランによって、従業員は創造性と創造プロセスを重視しながら、多様な才能を発揮することができる。この方式を原動力としてアイデアを生み、問題を解決し、変化と争いに対処することができる」としています。「ハーマンミラーのような集団には、個人としての多様性と、企業としての多様性がある。企業としての多様性とは、各個人が集団に役立てるために持ち寄る才能、能力、熱意のことだ。その多様性を正しい方向に導き、うまくまとめれば、集団の最大の強みとなる(中略)。多様性をまとめるプロセスとは、思いきって他人の強みに頼ることである。何かについて自分よりすぐれた人がいれば、その人に対して自分の弱みを認めればいい」としています。

10章「オーナーと従業員の理想の関係」では、オーナーシップの考え方を示し、オーナーとは有形資産だけでなく、企業の後継者への遺産に対しても責任を負うとし、ハーマンミラー社では、「オーナー」と「従業員」と「後継者」は同じものをさすことが多いとしています。

 以下、各論に入り、11章「リーダー必須のコミュニケーション術」では、「活力のある組織には、たいてい連帯感がある。相互依存、相互利益、互いへの貢献、そしてシンプルな喜びからなる連帯感だ。これが保たれ、強まるように配慮するのも、リーダーシップの『アート』のひとつだ」が、「とはいえ、連帯感を保ち強めるには「すぐれたコミュニケーションがぜったいに欠かせない」として、意味合い、効果、機能、運用ポイント、義務の5つの視点から、そのノウハウが示されています。「組織の連帯感や価値観の基本を伝えるいちばんの方法は、態度によるコミュニケーションだ」とし、「すぐれたコミュニケーションとは、相手の一人ひとりに敬意を払うことにほかならない」「すぐれたコミュニケーションは、人々が教え、学ぶための必須条件だ。成長する会社に生じるギャップを埋める方法であり、人々が連絡をとり合い、信頼を築き、助けを求め、業績を監視し、ビジョンを共有できる方法だ」「すなわち、すぐれたコミュニケーションの効果とは、相互連絡、信頼構築、サポート要請、業績モニター、ビジョン共有の5つの面で役立つことであるといえよう。 コミュニケーションの機能はふたつあり、教育機能と『解き放つ』機能である」としています。

 12章「『ピンクの氷』は危険の兆し」では企業の衰退の兆候が挙げられており、「危険の兆し」として、お祝いや儀式の時間がなくなる、従業員が、貢献、精神、美徳、美、喜びなどを大切にする価値観ではなく、ビジネス・スクールで学んだドライな基準にしたがおうとする、過去と将来に対する考えを数字で示したくなる、指標を設けたくなる、リーダーが、人でなく組織構造に頼る、などが挙げられています。

 13章「勤務評定のポイント」14章「会社の施設のあり方」15章「後継者の選び方」の各章とも、各テーマに沿って著者の、リーダーシップの観点に立った有意義なノウハウとポリシー、信条が示されています。

 16章「あなたは泣いていますか?」では、「上っ面だけの態度」をはじめワ私たちにとって「涙を流すべき」こと(会社にとっても)が18項目挙げられていて、この中には、「顧客を邪魔者と見なすこと」「態度を見ず、結果だけを見るリーダー」「決して『ありがとう』と言わないリーダー」「のびのびとベストを尽くせない仕事を押しつけられること」などといった項目もあります。

 17章「品格のしるし」では、「品格のある会社は社員に自由を与え、自己実現をさせる。同様に、品格のあるリーダーは部下に自由を与える」とし、「品格のあるリーダーはつねに完全を求める」ともして、「品格のしるし」として、「契約はさまざまな関係のなかのごく一部である。完全な関係には『心』が必要だ」「知性と教育は『事実』を教えてくれる。知恵は『事実』を教えてくれる。企業生活にはどちらも必要だ」「時間をさいているからといって、かならずしも関与していることにはならない」など8項目が示されています。

 200ページ足らずの本であり、たいへん分かり易い言葉で書かれていますが、非常に奥深い本でもあります。リーダーシップの本であるとともに、マネジメントの本でもあり、また、自らの実践に基づいて書かれた優れた啓発書であり、いかにして部下の潜在能力を最大限まで引き出し、強力な組織をつくるかを考えるうえで多くの示唆が含まれていると思われ、お薦めです。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●章立て
はじめに
1章 ある親方の死
2章 リーダーシップの「アート」とは?
3章 参加型マネジメントで組織を変える
4章 「愛着」について
5章 投手と捕手
6章 遊軍リーダーを活かせ
7章 資本主義の未来のために
8章 これが「偉人」だ
9章 「語り部」の役割
10章 オーナーと従業員の理想の関係
11章 リーダー必須のコミュニケーション術
12章 「ピンクの氷」は危険の兆し
13章 勤務評定のポイント
14章 会社の施設のあり方
15章 後継者の選び方
16章 あなたは泣いていますか?
17章 品格のしるし
あとがき

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従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチ。リーダー個人の動機や視点に注目。

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静かなリーダーシップ (Harvard Business School Press)』['02年]『企業変革の名著を読む (日経文庫)』['16年]

 本書(原題:Leading Quietly: An Unorthodox Guide to Doing the Right Thing,2002)では、特殊な能力を持つリーダーが組織の目的を達成するために力を発揮する従来の「ヒーロー型リーダーシップ」に対して、日常生活やビジネスの意思決定を正しく行い、地道な努力と絶妙な妥協によって目的を達成する能力を「静かなリーダーシップ」とし、目を引くヒーロー型リーダーよりも、静かなリーダーが社会で果たす役割の方が大きいと主張しています。そのうえで、第1章から第8章にかけて、静かなリーダーの8つの特徴的な考え方や行動特性について述べています。

 第1章では、静かなリーダーは「現実を直視する」としています。静かなリーダーは、現実的であるとともに自分の理解を過大評価せず、計画を立てるが予想外の事態にも備え、組織内のインサイダー(事情通)に目を光らせ、人を信頼しすぎないことがないのと同じく、人を信頼しすぎることもなく、信頼してもどこかで切り札を残しておくとしています。

 第2章では、静かなリーダーの「行動はさまざまな動機に基づく」としています。複雑でさまざまな動機が静かなリーダーの成功のカギとなり、また、リーダーであり続けるためには、自分の地位を守って交渉の場にとどまり続けなければならず、そのため健全な利己主義の感覚が必要であるとしています。

 第3章では、静かなリーダーは「時間を稼ぐ」としています。静かなリーダーは、難問に直面しても、問題に突進するのではなく、何とかして時間を稼ぐ方法を考えるとのことです。なぜならば、常に変化する予想不可能な世界では、流動的で多面的な問題に対して、即座に対策を考えるのは無理であるからだとしています。

 第4章では、静かなリーダーは「賢く影響力を活用する」としています。ここでいう影響力とは、主に人の評判と仕事上の人間関係で構成され、静かなリーダーは現実主義者であるため、自分の影響力を危険さらす前に、リスクと報酬(見返り)を考えるとしています。

 第5章では、静かなリーダーは「具体的に考える」としています。つまり、複雑な問題に直面した場合、忍耐強さと粘り強さをもって、自分が何を知っているのか、何を学ぶ必要があるのか、だれからの支援が必要なのかを理解しようとするとしています。

 第6章では、静かなリーダーは「規則を曲げる」としています。静かなリーダーは、規則について真剣に考え、創造性と想像力を駆使して規則を曲げながら、規則の目的を果たす方法を探すとしています。規則をないがしろにするのではなく、規則の解釈の余地を探すということです。

 第7章では、静かなリーダーは「少しずつ徐々に行動範囲を広げる」としています。今後の展開が不明な状況下で、リーダーシップが成功するかどうかは、事態を把握できるかどうかにかかっていて、そのためには、些細なステップを適切に実行する必要があり、静かなリーダーは探りを入れながら、物事の流れ、避けるべき危険、活用できるチャンスを徐々に理解するとしています。

 第8章では、静かなリーダーは「妥協策を考える」としています。静かなリーダーにとって妥協をを考えるということは、実践的な知識を習得して実行に移すことであり、多くの場合、妥協を考えることが、目的を達成する最善の方法であるとしています。

 第9章では、これまでの振り返りとして、静かなリーダーには「三つの静かな特徴」があり、それは、自制、謙遜、粘り強さであって、ほぼだれでも静かなリーダーシップ特徴を実践できるとして、これまで述べてきたことを振り返りつつ、この三つの特徴について解説しています。

 第1章から第8章にかけて各章ごとに、「静かなリーダー」のケーススタディとなる人物が1人または2人登場し、読みやすいものとなっています。一方で、あまり体系的に本書を理解しようとすると、却って読みずらいかも。著者自身、本書の"付録"で、「本書はエッセイである。理論構築、仮設の検証、結論の証明を行っているのではない」とし、「本書はガイドラインの形で、実践的なアドバイスも提供している」としています。

 従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチで、リーダーシップ論に新たな視点を与えているとともに、リーダー個人の動機や視点に注目し、そこからリーダーシップ論を展開しているという点でもユニークです。従来の「ヒーロー型リーダーシップ」が組織目標の達成というトップダウンの組織に動かし方であるのに対して、静かなリーダーシップはボトムアップ型の個人の目的達成を中心とした組織の動かし方であり、解説の渡邊有貴氏も書いているように、個人を視点としたリーダーシップ指向は強まると思われます。内部昇進でミドルがトップになっていく日本には理解しやすい内容であると思います。ミドルマネジメントにお薦めですが、もちろん人事パーソンが読んでも良いと思います。

 因みに本書は、『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)において紹介されていて、こちらはコンサルタントやビジネススクールの人気教員たちが企業や組織の変革をテーマにした本をそれぞれ選んで解説したものですが(オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」のうち2014年から2016年にかけて掲載のもの)、その11人12選のラインアップのうちの1冊となっています。いずれの紹介者たちも、本の内容を紹介するにあたって、コンサルなどで経験した本の内容に呼応するような事例を複数、ケーススタディとして交えながら解説するスタイルになっていて、『静かなるリーダーシップ』の紹介者はPwCコンサルティングの森下幸典氏ですが、分かりやすい解説でした(事例に関しては、元本の『静かなるリーダーシップ』自体が事例構成になっているので、元本を読んだ方が早い?)。

 『静かなるリーダーシップ』というタイトルでもあり、個人的にはリーダーシップの本として手にしましたが、ミドルマネジメント向けに書かれていて、個人の動機などに着眼していることが特徴として挙げられながらも、最終的には組織変革が目的となっているため、「企業変革」をテーマにした本と言えなくもないです。『企業変革の名著を読む』は、日経文庫の「名著を読む」シリーズの1冊でもありますが、テーマが「企業変革」とあるのにあまり「企業変革」らしくない内容の本も納められていて、そうした中で本書は、比較的オーソドックスな選本ということになるのかもしれません。

《読書MEMO》
● 『企業変革の名著を読む』で取り上げている本
企業変革の名著を読む9_1.jpg1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
倫理の死角2.jpg8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』

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リーダーシップの発揮は危険だが、やるだけの価値はあるとして、そのプロセスを説く。

最前線のリーダーシップ  .jpg 最前線のリーダーシップ―2.JPG   最前線のリーダーシップ sin.jpg ロナルド・A・ハイフェッツ.jpg
最前線のリーダーシップ』['07年]『[新訳]最前線のリーダーシップ―何が生死を分けるのか』['18年]ロナルド・A・ハイフェッツ in NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(全6回)(2016)
ハーバードリーダーシップ白熱教室2.jpgハーバードリーダーシップ白熱教室.jpg 本書は、ハーバード・ケネディスクールの教授らによるものであり(著者の一人ロナルド・ハイフェッツ教授は「NHK白熱教室〕シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られている)、原著("Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading")刊行は2002年です(2017年に改版された)。人はいかにしてリーダーシップ行動を起こすことができるか、また、リーダーシップ行動に伴う危機をどう乗り越えるのか、その方法や技術について説いた本ですが、本書では、そもそも、リーダーシップを発揮するということは、危険な生き方をするということであるというところから始まります。つまり、真のリーダーは、未解決の問題を表面化させ、長きにわたる慣習に挑戦し、人々に新しいやり方を要求せねばならず、脅威にさらされた人々は、変化を要求する人間に狙いを定め、その結果リーダーは、個人的にも職業的にも傷つくことになるのだと。しかし、周囲の人々の生活をよりよくし、人々にとって価値のある「将来の可能性」を提供できるがゆえに、リーダーシップはリスクに見合う価値があるというのが著者らの考えです。

ロナルド・ハイフェッツ3.jpg 第1部「リーダーシップには危険がいっぱい」では、なぜリーダーシップがそれほど危険なのか、どのようにしてリーダーシップを発揮した人々が表舞台から排除されるかについて取り上げています。
 第1章「危険の本質とは」では、リーダーシップを発揮することの危険は、リーダーシップを必要とする問題の本質に由来し、適応を必要とする問題に取り組むことは、人々の習慣、考え方、価値基準の変化を迫ることになるため、抵抗を招くのだとしています。
 第2章「迫りくる4つのリスク」では、組織や社会が示す抵抗の4つの形として、リーダーシップには「脇に追いやられる」「注意をそらされる」「個人攻撃される」「誘惑される」という4つのリスクがあるとしています。

ロナルド・ハイフェッツ5.jpg 第2部「リーダーシップを発揮しながら生き延びる5つの方法」では、排除されるリスクを減らすためにどのような行動をとるべきかについて取り上げています。
 第3章「全体像をつかむ―方法1」では、「ダンスフロアから1歩出てバルコニー席に上がる」という表現を用いて、まず起きていることの全体像を知るべきであるとし、①技術的な問題か、適応が必要な問題かをみきわめる、②人々の立ち位置を知る、③言葉の奥に潜む歌に耳を傾ける、④権威者の行動を読む、の4つを説いています。
 第4章「政治的に考える―方法2」では、政治的に考えることの重要性を説き、そのうえでの6つの基本的な視点として、①パートナーを見つける、②反対派を遠ざけない、③自分が問題の一部であったことを認める、④喪失を認識する、⑤自らモデルになる、⑥犠牲を受け入れる、を挙げています。
 第5章「衝突を指揮する―方法3」では、破壊的側面を最小化し、建設的なエネルギーを確保するための方法として、①適応を促す環境を確保する、②熱気を調整する、③ペースをつくる、④将来像を見せる、の4つを挙げています。
 第6章「当事者に作業を投げ返す―方法4」では、作業を自分の方から下ろしてあるべき場所に戻すべきあるとする一方、リーダーシップを発揮する際には必ず介入が必要になるが、その介入には、①観察する、②問いを投げかける、③見解を示す、④行動に移す、の4種類があるとして、介入し、結果を評価し、介入を修正し、再評価し、再び介入するという、リーダーシップの継続的な行動において、自分の行動がどう受け取られたか、それに対する反応に常に耳を傾ける必要があるとしています。
 第7章「攻撃を受けても踏みとどまる―方法5」では、攻撃を受けても踏みとどまるには、①ほかのどのような懸念事項が問題にかかわる人を忙しくしてしまっているか、②その問題を取り上げることで、どのくらい深く人々が影響を受けるか、③人々は取り上げられる問題をどの程度深く学ぶ必要があるか、④権威ある立場の人は、その問題についてどのような意見を持っているか、の4つの問いかけをせよとしています。

ロナルド・ハイフェッツ4.jpg 第3部「リーダーシップの原点、心を見つめる」では、人々がどのようにして自ら墓穴を掘るような行動をとってしまうのかについて論じ、これらの状況を見きわめて行動に移る方法に加え、リーダーシップに課されるストレスに持ちこたえるための個人的な挑戦について、考え方と実践の両面から対処法を提示しています。
 第8章「渇望をコントロールする」では、渇望(欲望)に屈しないためにためにはどうすればよいか、渇望を抑制するにはどうすればよいかを説いています。
 第9章「自分自身をつなぎ止める」では、役割と自己を区別し、自由と強さを得るための方法として、相談役を協力者と区別して確保すること、肉体的にも精神的にも安心できる聖域を探すことなどを説いています。
 第10章「原動力を把握する」では、リーダーシップを発揮することは、人々の人生に貢献することによって、自分の人生に意味を与える方法の1つであり、最も良いのは、リーダーシップが愛情を原動力とした行動であるときであるとしています。
 第11章「神聖な心を保つ」では、自己防衛的な姿勢は、無邪気さを皮肉に、好奇心を傲慢に、哀れみを冷淡に変えてしまうが、神聖な心とは、人間のあらゆる活動に対して包容力を持ち続けることであり、無邪気さ、好奇心、哀れみは開かれた心の美徳なのであるとしています。

 リーダーシップを発揮する際のプロセス全体を俯瞰するとともに、反対派のさまざまな行動に対して戦略的に対処して、人々が課題と向き合って自らを変えていくための環境をつくりこんでいくという、リーダーシップの本質的な作業を的確に捉えた本であると言えます。啓発的であると同時に実践的であり、本書に示されているリーダーシップのプロセスを押さえておくことは、我々が実際にリーダーシップを発揮する際に役に立つものと思われ、本書の姉妹書とも言えるハイフェッツ教授らの新著『最難関のリーダーシップ―変革をやり遂げる意志とスキル』('17年/英治出版)と併せお薦めできる本です。

《読書MEMO》
●英治出版 公式Twitterより(2018年10月5日)
紀伊國屋書店 梅田本店さんでは、最新刊『[新訳]最前線のリーダーシップ』を新刊話題書棚やリーダーシップ棚など多面で展開くださっています!!
時代を超えて絶大な支持を集めるリーダーシップ論の金字塔!
最前線のリーダーシップ  kinokuniya.jpg

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パワハラについて分かりやすくまとまっている。職場の上司には読み(読ませ)やすい本。

パワーハラスメント 〈第2版〉.jpg岡田 康子.jpg 岡田 康子 氏 パワーハラスメント イメージ.jpg image
パワーハラスメント〈第2版〉 (日経文庫)

 本書は、コンサルティング会社の代表で、「パワーハラスメント」という言葉を生み出し、厚生労働省・パワハラ防止対策検討会の委員も務めた著者によるもので、2011年に刊行された第1版を、厚生労働省の報告書や最近の裁判例など、直近の状況を踏まえて全体的に見直し改定した第2版です。

 第1章では、近年パワハラ相談は急増し、労災認定されて会社の責任が認められるケースも多くなっていることをデータで示しています。背景には、パワハラという言葉が普及したことで、何でもパワハラにする部下もでてきたりしたこともあり、一方で裁判例を見ると、加害者だけでなく企業にも責任が問われるケースも増えており、パワハラは今や社会問題化しているとしています。

 第2章では。パワハラとはそもそも何か、厚生労働省・パワハラ防止対策検討会の討議などを経て定められた定義を改めて詳しく説明するとともに、実際に職場でのどのような言動がパワハラとされているのか、自社の調査結果をもとに分析しています。著者は、パワハラは、特別の人が起こす特別な問題ではなく、仕事熱心な上司が結果的にパワハラをしてしまうことが多いとして、指導がパワハラへとエスカレートするステップを示すとともに、パワハラが起きる心理的メカニズムから、そうした行動を変えるヒントを探っています。また、パワハラが起きやすい職場として、閉鎖的な職場、忙しすぎる(暇すぎる)職場、マネジメントが徹底されていない職場を挙げています。

 第3章では、セクシュアルハラスメント、モラルハラスメント、マタニティハラスメント、ジェンダーハラスメントなど、職場で起きるさまざまなハラスメントを整理しています。そして、これらのうち、モラルハラスメントはパワハラと同じ意味であるとしています。また、これらの職場で起きるハラスメントに見られる共通点として、①NOと言えない力関係がある、②侮辱された感覚をともなう、③だれもが被害者にも加害者にもなる、④エスカレートする、⑤言語と非言語で行われる、といった特徴があるとしています。

 第4章では、パワハラと指導の違いはどこにあるのかを、判例をもとに創作したケースや新聞報道などから、11のケースについて考察しています。著者は、各ケースに共通する部分を見ていくと、裁判においてパワハラかどうかを判断する決め手としては、「加害者の行動が、客観的に見て指導の範囲を逸脱しているかどうか」が最も重視されているとしています。

 第5章では、パワハラ問題への対象法を考察しています。まず、必ず対処すべきレベルのパワハラ問題(レベル1:犯罪行為にあたる、レベル2:労働法にからむ問題がある、レベル3:社員がメンタル不全になる)と、会社や部門によって対応が異なるレベル(レベル4:排除―嫌悪や怒りを部下にぶつけてしまう、レベル5:過大要求、レベル6:誘発―部下側の問題から誘発されるパワハラ)に分け、それぞれについての対処法を示すとともに、常識のない部下をどう指導するかを説いています。

 最終章である第6章では、パワハラにならないコミュニケーション術について考察しています。ここでは、効果的なコミュニケーション法について書かれていて、メールやLINEなどで叱責を伴う指導をしないこと、部下への指示が「業務上必要なのか」を常に問うことを説き、どのような言葉で伝えたらいいのかを解説しています。さらに、言葉以外のメッセージも重要であることなどを説いています。

 「やってはいけない行為を列挙するようなパワハラ防止対策」には限界があるとし、また、上司と部下の関係もが変わってきており、「叱る」ということが有効かどうかも検討してみる必要があるとしているのが、個人的には印象に残りました。

職場のハラスメント 中公新書.jpg 以前に『職場のハラスメント』(2018/02 中公新書)を読みましたが、そこでは「パワハラ」という言葉の問題点(コンサルタンタントの造語が普及し、厚生労働省がそれに便乗するような形で意味づけしたため、世界基準である「ハラスメント」とは別の日本独自の概念になってしまっているということ)を指摘し、「ハラスメント」という包括的な概念を用いることを提案していました。その「パワハラ」という言葉を生み出したのが本書の著者である岡田康子氏です。

 ただし、本書においては、第3章の「モラルハラスメント」の説明の所で、著者らは、モラルハラスメントという概念を提唱したフランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌと2004年に会談し、パワハラとモラハラは、職場に限定して考えると、ほとんど同じことを言っていると合意したとのこと。この辺りは、学者と実務者の違いもあるかもしれません。

 『職場のハラスメント』も本書も啓発書としてはオーソドックスであり、またハラスメントの事例も豊富で、類型整理などもよくまとまっている点では同じですが、『職場のハラスメント』の方が"教養系"の色合いがやや濃いように思われたのに対し、こちらはより実践的で、かつ分かり易く書かれていて、職場の上司である人が手に取って読み易いものとなっています。もちろん人事パーソンも一読しておいて損はないかと思います。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ビル・ジョージ)

企業の持続的成長に求められる本物のリーダーシップについての実証的考察。

ミッション・リーダーシップ1.JPG82011793.jpg  ビル・ジョージ.jpg Bill George
ミッション・リーダーシップ―企業の持続的成長を図る』(2004/08 生産性出版)

 先端医療テクノロジー企業メドトロニック社のCEO及び会長を務め、何度もベスト経営者賞を受賞した著者による本書(原題:Authentic Leadership: Rediscovering the Secrets to Creating Lasting Value)は、自分流のリーダー像を各自がどう模索すべきかを実証的に説いた啓蒙書であり、著者は経営者時代にいち早くCSRを重視し、利益追求のみならず、企業組織が暴走せずに倫理を順守できる体制づくりに奔走するなど企業が持続的に成長するための組織づくりを啓発してきた人物です。

 序章では、エンロンやワールドコムなどの企業不祥事や、M&Aを中心とした安易な企業買収、事業売却やリストラなどの背景にある最近のリーダーシップの危機がいかに発生してきたかについての見解を述べ、この危機の解決には新しい法律ではなく、新しいリーダーシップが要請されているという考えを示しています。

 第Ⅰ部は、本物のリーダーの特性を記述し、変革を求める経験を通じていかにリーダーが自己を成長させるかを示し、加えて彼らが仕事と私生活をバランスさせていかに本物の人生を送っているかを明らかにしています。

 第1章では、リーダーシップはスタイルではなく、本物を目指すことから生まれるとし、第2章では、リーダーに成長するには自己をどう高めるかを説き、第3章では、バランスの取れた生活がすぐれたリーダーを生むとしている。

 第Ⅱ部では、これらの経営リーダーがいかに本物の企業を築くのかを検討しています。ここでは、ミッション重視の企業は、財務的利益を追求する企業に比べて、長期的に見てより大きな株主価値を創造するという考え方を述べています。また、なぜ、価値重視の企業が卓越した業績を上げる企業になり得るのか、さらに自社の人材をエンパワーすることに努める企業がなぜすぐれた顧客サービスを提供する企業になるのかについても解明しています。加えて第Ⅱ部では、偉大な組織を築くのは、カリスマ性の高いCEOではなく、偉大な経営チームやそのほかのチームであることを実証しています。第Ⅱ部の最後の章でも、本物の企業がいかにすべてのステークスホルダーに卓越した成果をもたらすかについて言及しています。

 第4章では、ミッションは人材をモチベートするが、お金はモチベーとしないとし、第5章では、価値観はうそをつかないとしている。第6章では、カスタマーが最も重要であるとし、第7章では、すぐれたチームが企業を生むのであってCEOだけの貢献ではないとし、第8章では、本物の企業がいかにステークスホルダーに成果をもたらすかを説いている。

 第Ⅲ部では、本物の企業がいかに市場で競争力を発揮するのかを検証しています。まず成功を収めてきた企業が成長を止める7つの落とし穴を検討しています。それに続く各章では、各企業がそのミッションを実現するために何をなすべきかを探り、さらに企業がぶつかる倫理上のジレンマ(葛藤)とその解決法を明らかにし、加えて数多くのブレークスルーに値する革新を生むプロセスを検証しています、第Ⅲ部の結論を述べる数章では、企業買収や合併はお金のためではなく、組織を築くために行われるべきことを提案し、さらにさまざまなステークスホルダーの各グループから出されるさまざまなニーズに応えるチャレンジを紹介しています。

 第9章では、成長に伴う7つの落とし穴を挙げ、第10章では、さまざまな障害を乗り越えるにはどうすればよいか、第11章では、倫理上のジレンマをどう克服するか、第12章では、心のこもったイノベーションとは何かを述べている。続く第13章では、企業買収はお金のためだけのものではないとし、第14章では、株主は、カスタマー、社員に次ぐ第三順位であるとしている。

 第Ⅳ部では、「利益」を超えて存在する諸問題を取り上げています。つまりガバナンスとマネジメントとの間に見いだせる大きな差異を解明しています。また、経営リーダーはいかなるときに自らの課題を公けの場に持ち出すべきかを検討し、さらに経営者をいかに育て、新しい挑戦に挑み続けるかを検討しています。

 第15章では、企業ガバナンスにための制度を作ることを、第16章では、自社の立場を明確に主張することの重要性を説き、第17章では、後継者を準備し、さらに前進することを説いている。

 序章でも述べられているように、現在、CSRやコンプライアンスが注目されたきっかけはエンロンやワールドコムなどの企業不祥事であり、M&Aを中心とした安易な企業買収やリストラによる一時的な利益の増加を通した株主価値市場主義に基づく短期的利益志向そのものでした。本書は、そうしたことが日常化していた企業の状況に一石を投じ、企業のミッションを追求することが事業の成長やイノベーションを生むとし、そのことをメドトロニック社において実証的に示したものあり、企業においてミッションやビジョンとは単なるお題目ではなく、まず最初に考えるべきものであるとしています。

 成長への7つの大罪を避けるための、成長の維持に貢献する「規律を守るリーダーシップ」を示した著者は、たとえ成長が鈍ったときも、リーダーはコスト削減に走る誘惑に勝ちながら成長への意欲を新たにし、そのためのあらゆる手を考えるべきであるとしています。本書で提案されるさまざまなアイデアは、新しいリーダーたちが本物のリーダーシップを発揮し、本物の企業を築くことに意欲を燃やす面で大いに貢献するものと思われます。

【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)


《読書MEMO》
●7つの大罪―成長に伴う落とし穴
1.明確なミッションを持たずに進む
2.コア・コンピタンスを過少評価する
3.単一の製品ラインに頼り過ぎる
4.技術とマーケットの変化を見落とす
5.企業文化を変えずに戦略を変える
6.自社のコア・コンピテンシーから逸脱する
7.成長のために企業買収に依存する

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ロジャー・マーティン)

組織に蔓延する「無責任ウイルス」への4つの対処ツールを示す。実践的・啓発的な本。

頑張りすぎる人が会社をダメにする .jpg頑張りすぎる人が会社をダメにする 2.jpg  ロジャー・マーティン.jpg Roger L. Martin
「頑張りすぎる人」が会社をダメにする―部下を無責任にしてしまう上司の法則』(2003/12 日本経済新聞社)
「頑張りすぎる人」が会社をダメにする0.JPG 原題は"Responsibility Virus(無責任ウイルス)"。責任感の強いリーダーが必死で働けば働くほど、同僚や部下がやる気を失い、職場の人間関係が壊れ、組織全体の業績が悪化していくのはなぜかという疑問を、この「無責任ウイルス」という比喩を用いて分析したものであり、職場に「無責任ウイルス」がどのように蔓延していくかを実例を用いて解き明かすとともに、その予防と治療のためのマネジメント・ツールを示しています。

 第1部「無責任ウイルスとは何か」では、雑誌の業績を好転させる名人で華々しいキャリアを持つリーダーの、部下の責任を引き受けていった末の業績悪化と失脚、IDA(国際開発機関)に勤めるエリートの、開発途上国担当者に対する熱心なアプローチが生む相互不信と挫折など3つの事例を紹介し、これらを通して、頑張り過ぎた上司の下に頑張らない部下が生まれるのは、上司の「失敗への恐れ」が部下への「支配価値」を生むためであり、また上司・部下トータルの責任量は変わらないとする「責任量保存の法則」を提示しています。

 第2部「無責任ウイルスの症状」でも、自信と能力にあふれた弁護士の、事務所の浮沈を背負い込むあまりの組織不和と変革の失敗などの強い責任感で周囲を引っ張るリーダーとその組織が、それゆえに挫折し、衰退していった例など3つの事例を紹介し、これらを通して、①協働の死滅、②不信と誤解の発生、③選択決定スキルの低下という、「無責任ウイルスの症状」を示しています。

 第3部「無責任ウイルスへの4つの処方箋」では、「無責任ウイルスの症状」に陥りながらもそれを克服した、著者自身の経験も含めた4つの事例を紹介し、それらを通して、①意思決定プロセス、②枠組み実験、③責任のハシゴ、④リーダーシップとフォロワーシップの再定義という4つのマネジメント・ツールを示しています。第一のツールである「意思決定プロセス」とは、グループのメンバーが、ヒーロー型リーダーシップや言いなりのフォロワーシップに反射的に飛びこむのではなく、生産的な協議を促すためのものであり、グループの力を上手に利用して、より生き生きした強固な決定を下して実行し、一人では到達できない成果をあげるためのものであるとのことです。第二のツールである「枠組み実験」とあh、責任過剰や無責任にはまり込んで不信感や誤解を抱いているものが、問題になっている相手との関係や協働能力の改善を助けるためのものであるとしています。第三のツールである「責任のハシゴ」とは、部下が上司とともに責任をとる能力を構築し、上司が責任過剰になるのを防ぐ能力開発型のツールであるとのことです。第四のツールである「リーダーシップとフォロワーシップの再定義」は、リーダーとフォロワーが責任過剰/責任過少という極端な状態に陥るのを防ぐツールであるとしています。

 第4部「無責任ウイルスをやっつけろ」では、ここでも事例を紹介しつつ、過少責任からいかにして脱出するか、責任過剰からいかにして脱出するかを説くとともに、プロフェッショナルが抱える「何でも仕切りたがる」という危険に陥らないために先に挙げた4つのツールをどう使うか、また、CEOと役員会の関係においてCEOが同様の危機に陥らないために先に挙げた4つのツールをどう使うかを示し、更には、日常生活において、妻と夫、親と子、友人や同僚との間で生じる無責任ウイルスから来るさまざまな問題も、4つのツールを使うことで解決できるとして、その例を示しています。

 最後に「結び」として、これまで述べてきたことを総括し、失敗への恐れが失敗を生むこと、支配価値の存在とそのマイナス面を思い起こすことなどを説き、「負けずに勝つ」ことにばかりこだわるのではなく「十分な知識に基づく選択」をし、「困惑の回避」に走るのではなく「オープンな基準による検証」を行い、「理性の保持」にばかり気をとられるのではなく「真の自分らしさ」に沿った行動をとるといった、新しい支配価値を身につければ、自ずと能力の最先端で、つまり強みや優位性の上で生きることになり、個人の集まりである組織が、新しい支配価値に従って生き、再定義されたリーダーシップモデルに取り組み、責任についてより高度の対話を維持することによって、着実に能力を伸ばすことができる競争を、確実に「求める」ようになるとしています。

 全体を通して事例を通じて解説されており、実践的(プラクティカル)な内容ですが、同時に啓発的であり、また、概念的(コンセプチュアル)でもある本であり、その点は邦訳タイトルから受ける印象とは少し違いました(著者の近著の邦訳タイトルは『インテグレーティブ・シンキング』('09年/日本経済新聞出版社))。書かれていることに相当する職場でのイメージを思い浮かべながら読まないと、今読んだ内容がすっとどこかへ流れていってしまうかも。

 一方が過剰に責任をとろうとすると、別の方は責任を過少にとってバランスを保とうとするという「責任量保存の法則」という観点は面白いと思いました(但し、本書は単なる「エンパワーメント」に対しては否定的である)。肝は、無責任ウイルスに対処するための4つのマネジメント・ツールを示した第3部でしょうか。やや高度に概念的な部分もあり、応用は少し難しいかもしれませんが、習得できれば役立つと思われ、多くの人にとって読む価値はあるのではないかと思います。

《読書MEMO》
●目次
まえがき
序 もう英雄はいらない?
第1部 無責任ウイルスとは何か
 1 頑張りすぎた上司と頑張らない部下
 2 「失敗への怖れ」と「支配価値」の役割
 3 責任量保存の法則
第2部 無責任ウイルスの症状
 4 協働の死滅
 5 不信と誤解の発生
 6 選択決定スキルの低下
第3部 無責任ウイルスへの4つの処方箋
 7 [ツール1]選択決定プロセス
 8 [ツール2]枠組み実験
 9 [ツール3]責任のハシゴ
 10 [ツール4]リーダーシップとフォロワーシップの再定義
第4部 無責任ウイルスをやっつけろ
 11 責任過少からの脱出法
 12 責任過剰からの脱出法
 13 プロフェッショナルが抱える危険性
 14 役員会の危機
 15 日常生活と無責任ウイルス
結び 新しいリーダーシップへの道
訳者あとがき

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グリッド理論による人間のタイプ分けと対処法。理想の管理者像を示したリーダーシップ論。

BlakeMoutonPhoto.png期待される管理者像9.JPG期待される管理者像.jpg
期待される管理者像―新・グリッド理論』 ロバート・R・ブレーク/ジェーン・S・ムートン

 マネジリアル・グリッド論(Managerial grid model)とは、リーダーシップ行動論の1つで、1964年にロバート・R・ブレーク(Robert.R.Blake,1918-2004)とジェーン・S・ムートン(Jane.S.Mouton,1930-1987)によって提唱されたものです。エクソン社でコンサルタント業務を担当し、人間の行動について調べたブレークらは、管理の理論化手法、特にリーダーシップと動機づけに関して、現実との大きな開きがあると結論づけています。当時もてはやされていたモチベーション理論は、ダグラス・マグレガーのⅩ理論・Y理論でしたが、ブレークらは多くの社員の行動やモチベーションが、ⅩとYの中間にあり、Ⅹ理論・Y理論は、組織行動の全体像の一部にすぎないとして、「業績に関する関心」「人間に関する関心」「モチベーションに関する関心」の3本の軸を用いたモデルこそが現実をより正確に表すと結論づけています。

Leadership Dilemmas- Grid Solutions.jpg ブレークとムートンは、1964年発表の"The Managerial Grid"(『期待される管理者像』('65年/産業能率短期大学))に続いて、1978年に"New Managerial Grid"(『新・期待される管理者像』('79年/産業能率大学出版部))、1985年に"The Managerial Grid Ⅲ"(本邦未訳)を上梓していますが、本書はさらに1987年のムートン女史の急逝(享年58)後に改訂された1991年版("Leadership Dilemmas- Grid Solutions")の翻訳になります。

"Leadership Dilemmas- Grid Solutions: a visionary new look at a classic tool for defining and attaining leadership and management excellence (Blake/Mouton Grid Management and Organization Development Series)"(1991)
5つのグリッド・スタイル(リーダーシップ・スタイル)
マネジリアル・グリッド論.gif グリッド理論とは、リーダーシップの行動スタイルについて、「業績に対する関心」と「人間に対する関心」という2軸に注目し、横軸に「業績に対する関心」、縦軸に「人間に関する関心」をとり、それぞれにどの程度関心を持っているか、それぞれの軸を9段階に分け、ここにできる計81の格子(グリッド)をマネジメント・グリッドと称し、典型的な5つのリーダーシップ類型(9・1型、1・9型、1・1型、5・5型、9・9型)に分類したものでした。

 そして、この改訂版では、これまで強調されてきた5つのグリッド・スタイル(リーダーシップ・スタイル)に、さらにこれまでのタイプを複合した「温情主義(9+9型)」と「日和見主義」の2つが加えられ、7つのグリッド・スタイルが浮き彫りにされています。

 第1章では、リーダーシップを構成する6つのエレメント(葛藤処理・イニシャティブ・探究心・意思表示・意思決定・クリティーク)について解説しています。

 第2章では、横軸に「業績に対する関心」、縦軸に「人間に関する関心」をとり、業績と人間に関する関心がリーダーシップのスタイルを決めるとするグリッド理論によるリーダーシップの7つの分類が紹介されています。
 ・「9・1型」...「権威服従型」
 ・「1・9型」...「カントリー・クラブ型」
 ・「温情主義(9+9型)」
 ・「1・1型」...「無関心型」
 ・「5・5型」...「中道型」
 ・「日和見主義」
 ・「9・9型」...「チームマネジメント型」
 さらに、リーダーと同様に部下のタイプも、このグリッドに沿って7つに分類されるとしています。
 ・「9・1型」...「こわもて型」
 ・「1・9型」...「ご機嫌とり型」
 ・「温情主義(9+9型)」...「高級参謀型」
 ・「1・1型」...「無関心型」
 ・「5・5型」...「堅実型」
 ・「日和見主義」...「抜けがけ型」
 ・「9・9型」...「問題解決型」

 第3章以降、これら7つのリーダーシップの各スタイルの特徴を述べ、リーダーシップを構成する6つのエレメントはそれぞれどう表れるか、また、上司に対する部下の反応は部下のそれぞれのタイプごとにどうなるかを述べています。

 第3章では「9・1型」について、このタイプは「権威服従型」とも言われ、この型のマネジャーは業績を重視し、権限とコントロールシステムを強化するが、人間的要素を顧みない、とにかく「強い者が勝ち!」というタイプであるとしています。

 第4章では「1・9型」について、このタイプは「カントリー・クラブ型」とも言われ、この型のマネジャーは人間関係に十分気を配るが、業績に対する関心は低く、「楽しくやろう」というタイプであるとしています。

 第5章では「温情主義(9+9型)」について、このタイプのマネジメントでは、忠誠と服従の代償として厚遇が与えられるが、従わない者は罰せられる、「俺は偉いのだ!」というタイプであるしています。

 第6章では「1・1型」について、このタイプは「無関心型」とも言われ、組織の一員としての身分を保つために、仕事をやり遂げるための最低限の努力しかせず、人間に対しても業績に対しても関心が薄い、「触らぬ神に祟りなし」というタイプであるとしています。

 第7章では「5・5型」について、このタイプは「中道型」とも言われ、コツコツと平凡な仕事に精を出す組織人で、業績達成と人々の気持ちへの配慮をバランスよく保てば組織はうまく機能し、自らの帰属欲求も充足される、「これだけやれば十分だ...」というタイプであるとしています。

 第8章では「日和見主義」について、このタイプは、自分の利益追求のためにあらゆるグリッド・スタイルを使い分けるタイプで、とにかく「自分の得になることがあるか」を最優先するタイプであるとしています。

 ここまで(第3章から第8章)は、業績にあまり貢献しない6つのリーダーシップ・スタイルについての説明でしたが、第9章では、本書が理想のリーダーシップ・スタイルとする「9・9型」について解説しています。このタイプは「チームマネジメント型」とも言われ、仕事に打ち込んだ人によって成果を上げてもらうタイプで、組織目的という共通の利害関係を通じてお互いに依存し合うことによって、信頼と尊敬による人間関係を樹立する、「一人は全員のために、全員は一人のために」というタイプであるとしています。第10章では、「9・9型」のリーダーシップを発揮するための実務的な着眼点や具体的なやり方について述べています。

 第11章では、「あなたも9・9型のマネジャーになれる」として、9・9型のリーダーシップを身につけるためにはどうすればよいかを説いています。第12章では、チームワークを改善するにはどうすればよいかを説き、第13章では、グリッド方式が組織開発にどう応用できるかを、最終第14章では、組織開発にどのような効用があるのかを説いています。

 リーダーシップおよび組織開発の名著とされる本ですが、7つのリーダーシップ・スタイルにそれぞれ対応する7人のメンバーから成る組織を舞台としたストーリー仕立ての解説になっているため、読み易く(しかも翻訳ではその7人が日本人の名になっている!))、一度は目を通しておきたい本。ほぼ同じ時期に三隅二不二が提唱した「PM理論」と似ているところもありますが、発表されてから何度か時代に対応して改訂されているところが米国らしいと言えるかもしれません。但し、この「全改訂」版で"古典"として確立した印象もあり、入手できる内に読んでおきたいものです。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●内容説明(表紙カバー 折り返し)
本書は、いろいろな面で進展を遂げてきたグリッド理論を、時代に対応して集大成・再構築した最新版の完訳である。特に、変革しつつある現代のマネジメントを踏まえたリーダーシップのあり方を、従来の五つのグリッド・スタイルに新たに二つを追加、動機づけ要因の分析、クリティークとスタイル改善への着眼点の掘り下げを行いつつ、追究する。21世紀に向けて、理想の管理者像を明示した究極のリーダーシップ論。
●目次
第1章 人的資源を活かす鍵―リーダーシップ
第2章 グリッド理論によるリーダーシップの分類
第3章 9・1型―強い者が勝ち!
第4章 1・9型―楽しくやろう
第5章 温情主義(9+9型)―俺は偉いのだ!
第6章 1・1型―触らぬ神に崇りなし
第7章 5・5型―これだけやれば十分だ
第8章 日和見主義―自分の得になることがあるか
第9章 9・9型―一人は全員のために、全員は一人のために
第10章 9・9型の実務適用の着眼点と具体的やり方
第11章 あなたも9・9型のマネジャーになれる
第12章 チームワークの改善法
第13章 グリッド方式による組織開発
第14章 組織開発の効用と将来の展望

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提唱者自身による「状況対応型リーダーシップ」入門書。
1分間リーダーシップ8.JPG1分間リーダーシップ 旧.jpg  1分間リーダーシップ 新.jpg
1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』['85年]『新1分間リーダーシップ』['15年]

SL理論ード.png 1985年に発表された本書は、リーダーシップのあり方を4類型にまとめ、それぞれ相手の状況、担当する事業の経験等、習熟段階に合わせて適切に使い分けると良いとする「状況対応型リーダーシップ」を提唱したものとして知られています。本の記述スタイルとしては、ある起業家が、熟練したマネジャー(1分間マネジャー)に助言を求めにいくという、「1分間シリーズ」の他の本と同じ物語風のスタイルとなっています。

 第1章「ある企業化の来訪」では、〈1分間マネジャー〉は、成功するためには「より懸命(ハード)に働くな。より賢明(スマート)に働け」と言い、「違った相手には違った触れ方(ストローク)を」するように助言しています。

 第2章「部下は〈1分間マネジャー〉をどう見ているか」では、〈1分間マネジャー〉の3人の部下が登場し、それぞれが〈1分間マネジャー〉との間で仕事上どのような管理スタイルになっているのかを話し、そこから〈1分間マネジャー〉が部下によってリーダーシップ・スタイルを使い分けていることが窺えるようになっています。

 第3章「リーダーシップ・スタイルを使い分ける」では、状況対応型リーダーになるには、
  ①リーダーシップ・スタイルを柔軟に使い分ける「柔軟性」、
  ②部下たちの要求(ニーズ)を診断する「診断力」、
  ③部下たちと何らかの合意を取り付ける方法を知る「取り決め」の3つのスキルが必要であるとしています。

situational-leadership-model.jpg そのうえで、
  ①指示型(リーダーは具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督する)、
  ②コーチ型 (リーダーは引き続き指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督するが、決定されたことも説明し、提案を出させ、前進できるように援助する)、
  ③援助型(リーダーは仕事の達成に向かって部下の努力を促し、援助し、意思決定に関する責任を部下と分かち合う)、
  ④委任型(リーダーは意思決定と問題解決の責任を部下に任せる)
の4つの基本的なリーダーシップ・スタイルを示し、「平等でないものを平等に扱うことほど不平等なことはない」としています。

 第4章「部下を診断する」では、部下の発達の段階を診断して、
  D1: <低>適正能力 x 高いやる気
  D2: <中>適正能力 x 低いやる気
  D3 : <高>適正能力 x まちまちなやる気
  D4: <高>適正能力 x 高いやる気
の4つの段階に分類し、
  D1の人はやる気はあるがやり方が分からないので、指示型を用い、始動をかけてあげる(S1:指示型)
  D2の人は能力はついてきているが、やる気が低いので、指示とともに援助・称賛・意思決定への参画による意欲向上をはかる(S2:コーチ型)
  D3の人は能力は高水準なため指示は少なくても良くなるが、自分自身に対する動機づけが弱い分、援助により自身と意欲を向上させる(S3:援助型)
  D4の人はすでに独り立ちして行動が出来るため、業務を委任する(S4:委任型)
という具合に、部下の発達の段階に応じたリーダーシップ・スタイルの使い分けをすると良いとしています、

 第5章「〈1分間マネジャー〉と状況対応型リーダーシップ」では、部下の適性能力とやる気を伸ばすには、部下への観察を通じて指示型・コーチ型から援助型・委任型にリーダーシップ・スタイルからを変えていくべきであるとしています。

 第6章「部下と取り決めをする」では、「状況対応型リーダーシップとは、部下に対して何をするかではない。部下といっしょに何をするかである」とし、また、目標設定に際して、
  S:Specific(具体的な)
  M:Measurable(測定可能な)
  A:Attainable(達成可能)
  R:Relevant(適切な関連がある)
  T:Trackable(追跡可能)
以上のSMART(スマート)になるようにすると良いとしています。

 終章である第7章「状況対応型マネジャーになる」では、「知りすぎて使わざるは、なお知らざるがごとし」とし、状況対応型リーダーシップを実際に使い、役立てることが大切であるとしています。

 本書で提唱されている「状況対応型リーダーシップ」は、人事パーソンにとって、とりわけリーダーシップ研修などを実施するに際しては、基本知識の部類に属するものと思われます。部下の目標を決め、目標に対する現在の部下の発達度から、リーダーシップのスタイルを使い分けるべきである、というのが本書の趣旨であり、マネジャーがリーダーシップを効果的に発揮するうえで実際に参考になると思われます。

 個人的には、先行の『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』 ('83年/ダイヤモンド社)で言っていた、部下マネジメントにおいて大切なのは、「目標設定、褒めること、叱ること」であるというのに比べれば、こちらの方がずっと研修や実務で使える洗練された理論のように思います。

 本書は、30年余りの時を経て『新1分間リーダーシップ―どんな部下にも通用する4つの方法』('15年/ダイヤモンド社)として改定されており、状況対応型リーダーに必要な3つのスキルが「柔軟性・診断力・取り決め」から「目標設定・診断・マッチング」に変わったり、SMARTの「M」が'Measurable'から'Motivating'に変更になったりしていますが、4種類のリーダーシップ・スタイルや、それぞれの部下の発達段階との対応関係など、基本的・中核的な部分では大きく変わっていません。「状況対応型リーダーシップ」を理解する上で、旧版・新版のどちらを読んでも差し支えないのではないかと思われます。本書の場合は、理論の提唱者によって書かれている本であること自体に意義があると思います。

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「●光文社新書」の インデックッスへ

「働き方改革」は組織風土改革。自社における「意識・制度」両輪での働きかけを紹介。

残業の9割はいらない2.JPG残業の9割はいらない.jpg
残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方 (光文社新書)』['18年]

 ヤフー上級執行役員として数々の人事施策を提唱してきた実務家であり、立教大学経営学部の中原淳教授との共著『会社の中はジレンマだらけ』('16年/光文社新書)などの著書もある著者が、「企業が勝つため」「社員が幸せになるため」の働き方改革論を述べた本です。

 第1章では、ヤフーが導入した「週休3日制(選べる勤務制度)」を例に、働き方改革の本質や目的について述べています。著者は、この「週休3日制」という制度の裏側には「成果主義の徹底」というコンセプトがあり、「時間にとらわれずに自由な働き方をしてください。だけど会社はあなたの成果をもとに評価しますよ」というのが、ヤフーの進めようとしている働き方改革にほかならないとしています。つまり、働き方改革と成果主義は表裏一体であるということです。また、ヤフーは、「企業が成長しなくてはならないのは、企業の幸せと社員の幸せのため」とし、働く社員が幸せになれない企業が長期的に成長するのは難しいとしています。

 第2章では、週休3日制のほかに、テレワーク、1on1ミーティング、新幹線通勤、サバティカル制度など、ヤフーが採り入れている制度と、そのバックにある考え方を紹介しています。また、こうした制度の成否のカギを握るのは、職場の上司など、現場の人事力であるとしています。

 第3章では、働き型改革を進めていくうえでの諸課題に目を向け、働き方改革がうまくいかないとしたら、その原因の一つは成果主義の不徹底にあるのではないかとしています。部下を成果ではなく貢献で評価していないか、そもそも部下の「成果」とは何かを理解しているか、「あいつは頑張っている」は評価に値するか、未読メールがなくなると達成感をおぼえるか、チームワークは大切か、といったさまざまな問いかけをしつつ、頑張れば報われるという日本の文化や過剰なおもてなしの精神、同質的チームワークが重視され、その中で
キャリア自律できていないビジネスパーソン、といった日本の企業社会に特徴的な現象と、その背後にあるものを読み解いています。

 第4章では、働き方改革を成功に導くための条件は現場の人事力を磨くことであるとし、企業経営者はもっと人事に関心を持つことが大事であるとしています。人事担当者に向けては、人事制度の抜本的な改革が必要であり、そのために必要なものはデータとファクトであり、ヤフーでは、「データによる経営判断」の反対語が「権威主義」であると。また、人事こそ働き方改革をすべきだとし、更に、マネジャー層に向けては、自らのミッションを知り、「プレイングマネジャー化」することで逃げてはならないとしています。

 終章では、30年後の未来を予測し、そのころ日本の社会や企業はどのように変化し、人々はどのように働いているかを予測して、人生100年時代の生き方を展望しています。

 以上、第1章、第2章で、ヤフーの週休3日制を例に、その背後にある考え方を紹介し、働き方改革のあるべき方向を示しつつ、ヤフーが採り入れているそのほかの制度についても紹介しながら、同様に解説しています。さらに、第3章で、働き方改革を進めていくうえで、現在の日本の企業や社会が抱える課題を文化論的な視点も交えながら読み解き、第4章では、日本のビジネスパーソンのこれからの働き方、生き方までも考察するというように、単に自社の制度の紹介に止まらず、大局的見地に立った啓発書になっています。

 文中で紹介されている人事関連の書籍なども、人事における"定番"から近年の"トレンド"を代表するものまで押さえていて、人事の現在とこれからを考えるうえで参考になります。「働き方改革」関連の本が少なからず刊行されている昨今ですが、人事制度改革の重要性、人事の重要性をここまで明確に説いた本は少ないのではないでしょうか。働き方改革を進めるうえで、人事パーソンにマインドセットを促す本、励ましを与え、覚悟を促す本であると思います。

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成功し続ける企業が重視しているソフトエッジ(信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリー)。

グレートカンパニー.jpg The Soft Edge.jpg 
グレートカンパニー――優れた経営者が数字よりも大切にしている5つの条件』(2015/09 ダイヤモンド社)"The Soft Edge: Where Great Companies Find Lasting Success"

ソフトエッジ グレートカンパニー.png 「フォーブス」誌の発行人でコラムニストでもあり、これまでに数多くの経営者に取材し、自らもアントレプレナーとして成功している著者による本書(原題:The Soft Edge―Where Great Companies Find Lasting Success、2014)は、成功し続ける企業(「グレートカンパニー」)に共通する原則とは何かを観察を通して探り、「優れた経営者が数字よりも大切にしている5つの条件」を紹介しています。

 第1章では、企業の持続的競争優位を導く「三角形」として、戦略的基盤、ハードエッジ、ソフトエッジの3つを挙げ、戦略のない企業が淘汰されるのはもちろんであるが、現代の経営者は、インフラやシステムを整備、活用しスピードや効率を重視した経営を目指すあまりハードエッジ(スピード、コスト、サプライチェーン、流通、資本効率)を重視しがちであり、一方、ソフトエッジ(信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリー)はその真価が最も認められていない側面であるとしています。

 第2章では、企業がハードエッジに多くの予算を割く理由を、経営学の発展の歴史を辿ることで探り、ハードエッジの優位性は永遠には続かず、成長し続ける優れた組織は、ハードエッジとソフトエッジの両方で卓越しているとし、本書のテーマであるソフトエッジにも留意を払うべきであり、むしろ、このソフトエッジの重要性がより一層高まっているとしています。つまり、ソフトエッジを構成する信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリーの5つの要素こそ「グレートカンパニー」が持つ成長し続ける条件であるとし、以下、第3章から第7章にかけて、ソフトエッジの5要素について章ごとに解説しています。

 第3章では「信頼」について解説しています。社外の人(顧客、サプライヤー、株主)との信頼関係の構築が大切なのはもちろんであるが、優れた会社は社内の人(従業員)との信頼関係の構築をより重視し、それにより社員は働きがいを得て目標達成のための努力し、またイノベーションを生むのも信頼という基盤があってのこととしています。

 第4章では「知性」について解説しています。ビジネスにおける「知性」とはIQの高さではなく、粘り強さや気概のことであり、やり遂げる力こそが「知性」であるとしています。さらに、「知性豊か(スマート)」なリーダーは、業界を問わず革新的な考えを持つ人からどんどん学ぼうとし、スマートな企業は、してしまったミスとその経験から学んだことについて話すよう、従業員に求めるとしています。

 第5章では「チーム」について解説しています。ここでは、大企業においてさえも、多様な10人前後の少人数チームが最もパフォーマンスが高いこと、メンバーの思考スタイルなども含めた多様性が、チームが全力を出すことを促進すること、チームリーダーがメンバーに大きな期待というプレゼントを与えるべきであること、などを挙げています。

 第6章では「テイスト」について解説しています。テイストとは、その企業が生む出す製品やサービスの味わいであり、それはデザインを超える美学であって、人々を幸せな気持ちにし、驚きや喜びを与えるとしています。つまり、デザインや機能だけでは持続的な優位性は築けず、顧客との特別なつながりをもたらす意味が必要となるが、テイストはこれら三大要素を統合したものであるとしています。

 第7章では「ストーリー」について解説しています。グレートカンパニーには心に響くストーリーがあり、ストーリーは人の心に訴えかけるのに最適の手段であって、従業員を一致団結させ、強力なリーダーシップ・ツールにもなるなど、ビジネスに関して行うあらゆることに影響を及ぼすとし、ストーリーテリングの6つコツを紹介しています。

 最後に結論として、データと感性の融合が最強のチームをつくるとしています。経営幹部レベルの人間関係が壊れている会社が、ソフトエッジへの投資をおろそかにしてきたことは間違いなく、ソフトエッジを大切にする会社には「対話」があり、それを支えているのが信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリーの5つの要素であるとしています。

 ソフトエッジの5要素は、日本企業がこれまで大切にしてきたものと重なる部分も多いように思われます。著者は、テクノロジーや競争のレベルが上がるにつれ、この5つの要素がさらに重要になってくるとしています。本書にある多くの示唆の中には、日本企業の復活に繋がるヒントになる部分もあるように思われ、一読をお薦めします。

《読書MEMO》
●ストーリーテリングの6つコツ(第7章)
(1)シンプルにする
 多ければ多いほどよいと、たいていの人が思い違いをしている。視覚に訴えるものがあればあるほど、目立てば目立つほど、華やかであればあるほどよい、と。実際には、シンプルであることが、どんなものを生み出すプロセスにとってもカギになる。/小説家であれ画家であれデザイナーであれ、みなオッカムの剃刀で不要なものを削ぎ落としながらイノベーションを図る。そしてシンプルであればあるほど解決策はよりよいものになる。
(2)聴き手についてよく知る
 優れたストーリーの語り手はみな、聴き手がどういう人かをしっかり判断することができる。/「分析好きな人たちに向かって話すなら」とナンシー・デュアルテは言った。「感情に訴えるのを控えて信頼を保つ必要がある。逆に、感動しやすい人たちに向かって話す場合は、分析的な話し方にならないようにする必要がある」。読者のみなさんにしても、ロッカールームでするような話を、よもや会議室ではしないだろう。
(3)ネガティブな要素を強調しない
 ストーリーを語るときは、未来を推測するのは避けよう。むろん、大変なことは起きるかもしれない。今より状況が悪くなる場合もあるだろう。それは間違いないかもしれないが、メッセージは穏やかに伝えよう。不誠実になれとか率直な対話をすべきでないなどと言っているのではない。/誠実であるべきだし、また率直であるべきだ。ただ、欺瞞だとか人の心を操ろうとしているとしてさっさと退けられてしまうような、過激な予想はしないこと。
(4)偽りのない話に聞こえるようにする
 ストーリーを語るうえで、本当らしさは常に重要だ。リアリズムを加えることで言いたいのは、細かい点を詳細に述べると、場面を設定し、読者や聴き手を新しい場所へいざないやすくなるということだ。/しかし、詳細を話して共感を誘えばそれでいいわけではない。製品や事業の背景、つまりそれらが生まれた由来も語る必要があるのだ。アップルの元チーフ・エバンジェリストで『人を魅了する』(海と月社)を著したガイ・カワサキは、社史を語るときは「始まりの物語」を加えることを勧めている。
(5)苦難や失敗を正直に語る
 ストーリーを語って自分をさらけ出すことは、人々を魅了し、その心をつかむ強力な手段になる。成功までの道のりがそれほど簡単ではないことを、聴き手はよく知っている。そのため、ストーリーを語って自分をさらけ出すことは、人々を魅了し、その心をつかむ強力な手段になるのである。
(6)一に練習、二に練習、三、四がなくて五に練習
 ストーリーをうまく語る人は、みな練習を重ねている。それも、少しではなく、大変な量を積む。/スティーブ・ジョブズの伝説的なスピーチ力について私が尋ねると、ネスト・ラボのトニー・ファデルはこう答えた。「伝説的? まさか。マックワールドでプレゼンをするまでに、スティーブは五〇〇〇回も練習したんだ」/ほとんどの人は、最初に一〇回、二〇回あるいは三〇回話しても、下手だったものが並みのレベルになるくらいだろう。しかし、自分が自信と情熱を持っているテーマについて話すなら、TEDトークで証明されているとおり、誰もがとてもうまく語れるようになる─初めのちっともうまくできない間もめげずに努力を続けるならば。

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CEO向けだが、管理職・リーダー、人事パーソンにとっても啓発される箇所の多い本。

HARD THINGS.jpgHARD THINGS2.jpg HARD THINGS60_.jpg ベン・ホロウィッツ.jpg
HARD THINGS』(2015/04 日経BP社) べン・ホロウィッツ

 本書は、起業家、CEOを経て、シリコンバレーの最強ベンチャーキャピタルリストとして知られるようになった著者が、これまで自らが直面した困難(HARD THINGS)を語るとともに、それらを切り抜けてきた経験から得られた教訓をまとめた本です。イントロダクションで著者は、経営の自己啓発書は対処法を教えるところに問題があるとし、「ハード・シングス」に決まった対処法はないが、共通したパターンはあるとしています。

 第1章から第3章までは、著者が、起業したIT企業を成長させ、ピンチを切り抜けて会社を売却するまでの経験が述べられています。具体的には、世界初のウェブブラウザ「モザイク」を開発したマーク・アンドリーセンと共に1999年にラウドクラウド社を設立し、世界初のクラウド・コンピューティングのサービス企業として急成長を遂げますが、2000年にITバブルが破裂し、資金調達が困難になった絶望的な状況に陥り、クラウドサービス事業を売却、データセンターの管理ソフトを提供する新会社オプスウェア社として生まれ変わらせ、最終的には16億ドル超(1700億円超)で売却することに成功するまでの間、社員のレイオフや事業の売却など、幾度となく苦渋の決断を迫られてきた経緯が書かれています。そして、以下、第4章から第8章で、ラウドクラウドからオプスウェアまでの8年の道のりで得られたCEOとしての教訓を語っています。
 
 第4章では、物事がうまくいかなくなるときどうするかについて、「ひとりで背負い込んではいけない」など、つらいときに役に立つかもしれない知識を披歴しています。また、CEOは、会社の問題をありのまま伝えることが重要であるとし、隠さない方が良い理由を挙げています。更には、人を正しく解雇(レイオフ)する方法を6つステップで示し(この中では、最後の、逃げ隠れせず「みんなの前にいる」というのが印象的だった)、また、幹部を解雇する際に踏むべき4つのステップを示しています。

 第5章では、人、製品、利益の順番で大事にすることを説いています。人を大切にするのは「自分の会社を働きやすい場所にする」ためであり、そうできなければ「製品」と「利益」は意味を持たないとしています。また、会社は全員が同じ考えを持ち、全員が常に改善していればうまく回っていくとして、そのためには教育プログラムの実施が重要となるとしています。更には、大企業の幹部が小さな会社で活躍できない理由を指摘し、無残な失敗を防ぐにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、会社が成長し人が増えると正しい方針も変化するため、事業を継続するには、社内政治を最小限に抑え、採用や昇進に常に注意を払うべきであるとしています。また、優秀なはずの人材が最悪の社員になるのはどのような場合か、個人面談で役に立つ質問とはどのようなものかなどを例示し、自分自身の企業文化を構築するにはどうすればよいか、会社を急速に拡大させるにはどうすればよいかを説き、一方で、成長への過剰な期待の誤りも説いています。

 第7章では、CEOとして最も困難なスキルは、自分の心理をコントロールすることであるとしています。また、CEOに必要とされる唯一の資質はリーダーシップであり、「ビジョンをいきいきと描写できる能力」「正しい野心」「ビジョンを現実化する能力」の3つの資質が重要であるとしています。更に、自身をCEOとして鍛えるうえで、社員にフィードバックを与えることの重要性を説いています。

 第8章では、困難な問題を解決する法則はないことを改めて強調しながらも、だだし、CEOが困難な決断をしなければならない時に備えて、倫理面、感情面も含めどのような準備をしておくことが役に立つかを説いています。

 最後の第9章では、「苦闘を愛せ」「自分の独特の性格を愛せ。生い立ちを愛せ。直感を愛せ。成功の鍵はそこにしかない」とし、困難に立ち向かう人々に「幸多かれ、夢の実現あれ」という言葉を贈って本書を締め括っています。

 内容的には起業家やCEO向けに書かれた問題解決法が主であり、スタイル的にもCEO向けに書かれていますが、マネジメントに悩む人に共通するテーマも多く扱われていて、経験に基づいた説得力のあるアドバイスの数々は、一般の管理職やリーダーにとって参考になる部分も多いように思います(実際、ベンチャー経営者向けの本と思われているフシもある一方で、「ビジネス書大賞2016」と「ベスト経営書1位」の2冠を達成しているということは、広く読まれたということでもあるだろう)。取り上げられている諸問題の中には人事マネジメントに関するテーマも少なからずあり、と言うより半分以上は人事関係なので、人事パーソンにとっても啓発される箇所の多い本、大いに示唆に富む本ということになるかと思います。

【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

《読書MEMO》
●目次
第1章 妻のフェリシア、パートナーのマーク・アンドリーセンと出会う
第2章 生き残ってやる
第3章 直感を信じる
第4章 物事がうまくいかなくなるとき
第5章 人、製品、利益を大切にする―この順番で
第6章 事業継続に必須な要素
第7章 やるべきことに全力で集中する
第8章 起業家のための第一法則
第9章 わが人生の始まりの終わり
●つらいときに役に立つかもしれない知識(98p)
・ひとりで背負い込んではいけない。
・単純なゲームではない。(苦闘は戦略が必要なチェスだ。)
・長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない。
・被害者意識を持つな。
・良い手がないときに最善の手を打つ。
●人を正しく解雇する方法(106p)
・ステップ1 自分の頭をしっかりさせる
・ステップ2 実行を先送りしない
・ステップ3 レイオフの理由を自分の中で明確にしておく
・ステップ4 管理職を訓練する
・ステップ5 全員に説明する
・ステップ6 みんなの前にいる
●幹部を解雇する準備(112p)
・ステップ1 根本原因分析
・ステップ2 取締役会に報告する
・ステップ3 解雇通告の準備
・ステップ4 社内コミュニケーションの準備
●なぜ部下を教育するのか(154p)
1.生産性
2.業績管理
3.製品品質
4.社員をつなぎとめる
●「もっとも頭のいい人間が最悪の社員になる」3つの例(232p)
例1.異端者(1 無力感。2 性格が本質的に反乱者。3 未成熟で衝動的。
例2.信頼性のなさ
例3.根性曲がり

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1881】 ジム・コリンズ/モートン・ハンセン 『ビジョナリー・カンパニー4
○経営思想家トップ50 ランクイン(ヴィニート・ナイアー)

HCLテクノロジーズが歩んだ「従業員第一、顧客第二」への旅の4段階を説く。

社員を大切にする会社0.JPG社員を大切にする会社 1.jpg社員を大切にする会社 2.jpg ヴィニート・ナイアー Vineet Nayar.jpg
社員を大切にする会社 ―― 5万人と歩んだ企業変革のストーリー』(2012/02 英治出版)ヴィニート・ナイアー

 インドに本社を置く大手グローバルIT企業HCLテクノロジーズ(HCLT)の総帥として、「従業員第一主義―EFCS (Employees First, Customers Second)」を経営理念として掲げ、5年間で同社を目覚ましい転換へと導いたヴィニート・ナイアー(Vineet Nayar,2005年、HCLT社長に就任。2007年、同社CEOに就任)による本です(原題"Employees First, Customers Second: Turning Conventional Management Upside Down",2010)。本書では、HCLTが歩んだ「従業員第一、顧客第二」への旅の4段階について、
 ・鏡よ鏡―変革の必要性を見出す
 ・透明性による信頼―変革の文化を生み出す
 ・組織のピラミッドを逆さまにする―変革の構造を築く
 ・CEOの役割を変える―変革の権限を委譲する
の順に述べています。

 第1章「鏡よ鏡―変革の必要性を見出す」では、第一段階の変革の必要性を見出すステップとして、鏡に映る自分たちの姿を見て、自分の気にいらないものを探したといいます。HTCLは、成長はしているが、他のITベンダーの成長と比較すると成長が小さいという微妙なポジショニングの中で、あえて自分たちは後続集団にいるという現実と向き合うという決断をしたとのことです。そして、「鏡よ鏡」というエクスサイズを繰り返し、見つかった問題がいくつかあったといいます。その中で、これからは、イノベーションは「何を提供するか」と「どのように提供するか」の両方がうまく機能しなくてはできなければならず、そのような視点で現状を見ると、「バリューゾーンにもっとも近い従業員を会社が支えていないことに問題がある」ことに気づき、会社全体がバリューゾーン(顧客に価値を提供している人たち)に仕えることが必要であるとの考えから、「従業員第一、顧客第二」というコンセプトができたとのことです。

 第2章「透明性による信頼―変革の文化を生み出す」では、変革の必要性が生まれても、「変化したい」という意志と実際に「変化する」という行為との間にはしばしば大きなギャップがあり、このギャップの理由の一つは、経営者と従業員の間における信頼の欠如であり、信頼の文化を築く必要があったとしています。HCLTでは、組織構造が従業員の足枷になり、才能の発揮を妨げていて、この状況を解決するためには、信頼の文化が必要であり、そのためには透明性を高めることが必要だったとしています。そのために、各利害関係者が企業のビジョンを知り、自分の貢献が具体的にどれだけ組織の目標達成に役立ったかを理解できるようにするとともに、各利害関係者が企業の目的に対し、個人的で深い責任感を持てるようにしたといいます。また、組織の外部から要員を投入し、特定のプロジェクトや任務を担当させ、これらの外部要員がすぐにスピードを上げて、できるだけ効率よくプロジェクトに着手できる唯一の方法は、企業が情報を隠さず、プロジェクトが抱える長所、短所、問題点、懸念などを完全に透明化することであり、それが信頼に繋がるとし、このために、CEOのオフィスを開放するなど、様々な方策を講じたとしています。

 第3章「組織のピラミッドを逆さまにする―変革の構造を築く」では、変革への必要性を理解し、信頼の文化を生み出し、従業員が前向きな変化に向けて行動を起こしても、組織風土の欠陥が最善の結果が生まれるのを妨げていることがあり、HCLTの問題は「バリューゾーンにもっとも近い従業員を会社が支えていないこと」であって、この問題を解決するために、HCLTは逆ピラミッド型の組織を構築したとのことです。単にサーバント・リーダーシップにとどまらず、アカウンタビリティを逆転させたが、その仕組みを実現しているが、先に述べた徹底的な透明化であり、なかでも、効果的だったのがスマートデスクサービスである。スマートデスクサービスは、顧客用に構築された問題管理システムをバックオフィスと従業員の間の社内的な懸案事項に対応しようというものであり、従業員に何か問題が生じたり、情報が必要になれば、従業員は対応を求めて、担当部署にチケットを発行し、チケットにはデッドラインが示されていて、誰もが閲覧でき、解決したかどうかの判断は発行者にしかできないというものであるとのことです。

 第4章「CEOの役割を変える―変革の権限を委譲する」では、最後のステップはCEOの役割を変えることだったとし、まずは、変革の権限をリーダーに委譲すること、そのために、バリューゾーンの近くにいるリーダーに質問を投げかけ、彼らに解決を委ね、それによって、自己管理、自己統制が可能な企業に生まれ変わることができるとしています。そこでは従業員自身が経営者であるように感じながら、仕事に情熱を燃やし、絶えず変革とイノベーションに力を注ぐようになるとしています。「社員に責任と権限を与え、社員の英知や情熱の邪魔をしないこと」が経営者の仕事であるということです。

 最後の第5章「誤解から理解する―変革のサイクルを繰り返す」では、「従業員第一、顧客第二」に関する、「困難な時期においては通用しない」「景気のいい時には必要ない」「顧客には価値がわからない」「実行には大規模な戦略が必要になる」「企業の業績が上がるわけではない」という5つの誤解に対して反論しています。そして、ここまで「従業員第一、顧客第二」の旅を通して、鏡の中をのぞくこと、透明性を通して信頼を築くこと、ピラミッドを逆さまにすること、変革の権限を全員に委譲すること、という4つの段階を通過してきたわけだが、「従業員第一、顧客第二」とは、ひと連なりの活動のサイクルとして捉えるべきであって、何度も繰り返されるべき旅であるとしています。最後に自らの経験から、「人は自分のしていることに情熱と責任を感じるとき、会社を変革できるだけでなく、自分自身をも変革できる」としています。

 就任4年で売上3倍、利益3倍、顧客5倍、離職率半減...と大企業を見事に再生させた経営者がその歩みを自らが語った回想記ですが、自慢話などではなく、組織風土改革のテキストとして読めるかっちりした内容で、多くの企業にとって普遍性のある示唆に富んでいるように思います。外資系企業では、サウスウェスト航空、スターバックスが「従業員第一、顧客第二」を掲げ、日本でもケーズデンキが「従業員第一、顧客第二」を掲げています。こうした企業がちらほら見られるにしても、まだまだ「顧客第一主義」を謳っている企業の方が圧倒的に多いかと思います。やはり、どこか「従業員第一、顧客第二」というものに対する誤解や疑念があるのかもしれません。そうした自らの誤解や疑念を解く上で一読の価値がある、啓発度の高い本であると言えます。


《読書MEMO》
●目次
イントロダクション
第1章 鏡よ鏡―変革の必要性を見出す
第2章 透明性による信頼―変革の文化を生み出す
第3章 組織のピラミッドを逆さまにする―変革の構造を築く
第4章 CEOの役割を変える―変革の権限を委譲する
第5章 誤解から理解する―変革のサイクルを繰り返す

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ロバート・S・キャプラン/デビッド・P・ノートン)

バランスト・スコアカードに関する知識を得たいと考えている人には必読の書。

キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード1.JPGキャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード.jpg  ロバート・キャプラン/デビッド・ノートン.jpg Robert Kaplan & David Norton
キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード』['01年]

バランス・スコアカード 1997.jpgバランス・スコアカード―戦略経営への変革.jpg 著者であるロバート・S・キャプラン(Robert Kaplan、ハーバード・ビジネススクール教授)、 デビッド・P・ノートン(David Norton、コンサルタント会社社長)が、企業を財務、顧客、内部ビジネス・プロセス、学習と成長という4つの視点から評価していくバランスト・スコアカードを1992年に発表したのは、それまでの企業の業績評価が財務諸表(損益計算書、貸借対照表など)に偏っていたのではないかとの反省に基づくものであり、このバランスト・スコアカードの理論と事例を纏めたものが"Balanced Scorecard: Translating Strategy into Action《1996》"(吉川武男:訳『バランス・スコアカード』('97年/生産性出版))でした(2011年に同訳者による新訳版が刊行された)。
バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革』['97年]『バランス・スコアカード―戦略経営への変革』['11年]

The Strategy-Focused Organization.jpg その当時のバランスト・スコアカードの目的は、業績測定問題を解決することにありましたが、しかし、実際の導入例においては、業績の測定よりも更に重要な戦略の実行を目的として導入されており、つまり、戦略と行動のギャップを埋め、具体的な活動に繋げていくためのフレームワークとして、戦略と行動の関連付けを明確にし、その上で、効果測定に活用することで導入企業は、1、2年の間に大きく業績を向上させていました。

 本書(原題:The Strategy-Focused Organization: How Balanced Scorecard Companies Thrive in the New Business Environment《2000》)では、そうした導入事例を踏まえて、企業がバランスト・スコアカードを通して重要なマインド・プロセスを戦略に方向づけ、戦略を実行し、業績向上に役立たせるための理論的で包括的なアプローチを提供しています。

"The Strategy-Focused Organization: How Balanced Scorecard Companies Thrive in the New Business Environment"

 まず第1章で、戦略実行のためのバランスト・スコアカードの導入事例を挙げ、バランスト・スコアカードによって戦略志向の組織体となるための原則として、①戦略を現場の言葉に置き換える、②組織全体を戦略に向けて方向づける、③戦略を全社員の日々の業務に落とし込む、④戦略を継続的なプロセスにする、⑤エグゼクティブのリーダーシップを通じて変革を促す、の5つを挙げています。そして、第2章で、第1章で紹介した事例の中からモービルの事例について、更にこの5つの原則に沿って詳しく紹介しています。

 以下、第1部(第3章~第5章)で「戦略を現場の言葉に置き換える」、第2部(第6章~第7章)で「シナジー効果を創造するために組織体を方向づける」、第3部(第8章~第10章)で「戦略を全社員の日々の業務に落とし込む」、第4部(第11章~第12章)で「エグゼクティブのリーダーシップを通じて変革を促す」について、第5部(第13章~第14章)で「エグゼクティブのリーダーシップを通じて変革を促す」についてそれぞれ解説しています。

第3章 戦略マップの構築「戦略の因果関係を定義づける」(109p)
図 1 BSCの4つの視点の関係(水平構造).gif 第1部「戦略を現場の言葉に置き換える」の第3章では、戦略マップをどのように構築するか、第4章では、営利企業における戦略マップの構築、第5章では、非営利組織、政府、ヘルスケア機関における戦略マップの構築について、それぞれ、ナショナル・バンク・オンライやシャーロット市、デューク小児科医院などの事例を挙げながら解説しています。

 第2部「シナジー効果を創造するために組織体を方向づける」の第6章では、ビジネス・ユニットのシナジー創造について、第7章では、シェアードサービスを通じてのシナジー創造について、それぞれFMC社、モービルNAM&Rなどの事例を挙げながら解説しています。

 第3部「戦略を全社員の日々の業務に落とし込む」の第8章では、戦略意識の高揚を図るにはどうすればよいか、第9章では、個人レベルとチーム・レベルの目標をどう定義づけるか、第10章では、バランスト・スコアカードに基づく報酬制度はどうあるべきかを、それぞれ、ノバ・スコシア電力会社などの事例を挙げながら解説しています。

 第4部「戦略を継続的なプロセスにすること」の第11章では、計画設定と予算管理について、第12章では、フィードバックと学習のさせ方について、ABBスイスなどの事例を挙げながら解説しています。

 第5部「エグゼクティブのリーダーシップを通じて変革を促す」の第13章では、リーダーシップと活性化について、第14章では、失敗を回避するための留意点について解説しています。

 改めて要約すると、バランスト・スコアカードを単に業績評価の新たなツールとしてではなく、企業のビジョン・戦略に沿って各階層の意識や方向性の具体化を図るために、このバランスト・スコアカードを戦略に組み込み、戦略をマネジメントするツールとして、戦略の実効性を支援する機能を果たさせることが重要であるとし、その考え方や手法を説いているのが本書です。前著が理論書であったのに対し、本書は実務書であると言え、事例や文献を豊富に提供しているのが特徴で、これから実際にバランスト・スコアカードを導入する企業やそれを支援するコンサルタント、バランスト・スコアカードに関する知識を得たいと考えている人事パーソンには必読の書と言えます。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)


《読書MEMO》
●個人レベルのバランスト・スコアカードは、
①全社目標と業績測定尺度
②全社目標を特定の目標に落とし込むための箇所
③個人やチームが自分達たちの目標とそれを達成するためのステップ
という3つのレベルの情報が入れられる(第3部・第9章、310p)

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2798】 ○ ジョージ・コーリーザー/他 『セキュアベース・リーダーシップ

ファシリテーター型リーダーシップを提唱、その発揮ノウハウを噛み砕いて解説。

なぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?.jpgなぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?――内なる力を引き出す「ファシリーダーシップ」 (DOBOOKS)』(2018/06 同文舘出版)

 組織コンサルタントによる本書は、従来の「トップダウン型」のリーダーシップから、メンバーやチームの力を引き出す「ファシリテーター型」のリーダーシップへの転換を提唱しています。そして、ファシリテーター型リーダーシップの発揮には、人の部位になぞらえると、「耳:聴く、目:観る、口:問う/語る、手:手と手をつなぐ、足:踏み込む、頭:考える」の6つの機能の実践が伴うとして、この6機能の実践から成る新たなリーダーシップ・スタイルを、「ファシリーダーシップ」と名づけ、以下、6機能を章ごとに解説しています。

 1章では、耳:聴く(Listen)ということについて述べています。ここでは、リーダーは、メンバーに力を与え相互作用を生み出すために、話す前に「聴く」ことが必要であるとし、「聴く」力を高めるための7つの秘訣や、カウンセラーマインドなどリーダーが知っておくべき実践心理学の知識、「聴き合い、響き合う」ための場づくりの手法としての「1on1ミーティング」「リーダーズインテグレーション」「プラウド&ソーリー」などを紹介しています。

 2章では、目:観る(Insight)ということについて述べています。ここでは、リーダーとメンバーではもともと異なる視界を有しており、それを一致させるのがリーダーの役割であるとし、また、チェスター・バーナードの定義したグループとチームを分かつ組織成立の3要素(共通の目的・協同意志・コミュニケーション)を紹介しています。さらに、個人や組織の持つバイアス(偏見)にどのようなものがあるか、グループシンク(集団浅慮)を回避する「悪魔の代弁者」と呼ばれる手法や、ピーター・センゲが言うところメンタルモデルを見直す「5P」の観点、ジェームズ・C・コリンズ等が言うところの「企業衰退の5段階のシグナル」、エドワード・デノボの「6色の帽子思考法」などを解説し、著者自身の経験を基に、組織を見極めるための16の危険シグナルを紹介しています。

 3章では、口:問う(Inquire)/語る(Tell)ということについて述べています。ここでは、4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と4つの陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)、対話・議論・会話の違いと対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル、聞き手が奮い立つパワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」、職場で実践できる「問う、語る」ための対話の場づくりの手法としての「他己紹介インタビュー」や「ポジションチェンジ・ダイアログ」などの手法を紹介しています。

 4章では、手:つなぐ(Connect)ということについて述べています。ここでは、リーダーに必要なシステムを活かす力として、物事をつながりで捉える力(「因果」で捉える、「循環」で捉える、「クリティカルパス」で捉える)、「抵抗勢力」とつながる力(イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬)を紹介し、さらに、ジョン・ゴットマンが言うところの「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因(①避難、②侮辱、③自己弁護、④逃避)を解毒する方法や、ミハイ・チクセントミハイが提唱したフロー理論を紹介し、キース・ソーヤーが提唱した、チームで力がみなぎるフロー状態「グループ・フロー」が起こりやすい10の条件を紹介、さらには、職場で集合知を生み出すための手法として、「TEA TIME/BAR TIME」などを紹介しています。

 5章では、足:踏み込む(Step into)ということについて述べています。ここでは、部下のやる気に火を灯す「ダメ出しフィードバック」とその黄金則「薪+FIRE」、承認力を高める「ポジティブフィードバック・ピラミッドモデル」、「承認」「改善」「表彰」のための場づくりの手法として、興味と思いやりある承認風土を創る「おかくれさん」、健全なダメを出し、改善活動につなげる「きらいなことボード」などを紹介しています。

 6章では、考える(Think)ということについて述べています。ここでは、「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」を紹介し、マインドフルネス瞑想で物事の本質を捉えることを勧めています。また、直感やひらめきを起こすための5つのステップや、潜在意識にアクセスするビジュアリゼーションという手法、衆知を集め、創造的に考える会議の場をつくっていくコツなどを紹介しています。

 以上のように、「ファシリーダーシップ」という考えを軸に、網羅的にリーダーシップ発揮のノウハウを解説しており、その密度は濃いように思いました。リーダーにとっての教科書となる本ですが、実践にまで落とし込んでおり、ファシリテーションに関わる人には役立つ知識や手法がぎっしりという感じ。書かれていることを一度に全部実践できるわけではないとは思いますが、知っておけばいつか使える時があるかもしれません。テキスト的な内容でありながらも分かりやすく噛み砕いて解説されており、さらに、合間に20の「小咄」が挿入されていて、例えばワンパターンから抜け出す「あいづち」を九九で81個並べて紹介したりしており、肩肘張らず楽しみながら読めて役に立つ本と言えます。

《読書MEMO》
●内容紹介
はじめに
・耳:聴く(Listen)メンバーに力を与え、相互作用を生み出すために、話す前に聴く
・目:観る(Insight) さまざま次元、角度、距離感で観ることで、行き詰まりを突破する
・口:問う/語る(Inquire/Tell)問いかけ、ストーリーを語り理屈を超え感情を揺さぶる
・手:手と手をつなぐ(Connect)境界線を越えたつながりの土壌を耕し組織を進化させる
・足:踏み込む(Step into)踏み込んだフィードバックで、本音が行き交う組織を作る
・頭:考える(Think)過去の成功体験を健全に疑い、今ここに立ち止まり、考え抜く
1章 耳:聴く(Listen)
・ 「聴く」力を高める7つの秘訣
・ 承認が与えられないと無自覚に展開される「心理ゲーム」
・ 「リーダーズインテグレーション」でチームを統合しよう!
・ 「プラウド&ソーリー」で真実の声に耳を傾けよう!  ほか
2章 目:観る(Insight)
・ グループとチームを分かつ組織成立の3要件
・ グループシンクを回避する「悪魔の代弁者」
・ メンタルモデルを見直す「5P」の観点
・ 16の危険シグナルであなたの組織を見極めよう!  ほか
3章 口:問う(Inquire)/語る(Tell)
・ 4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)
・ 対話、議論、会話の違いと 対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル
・ 聞き手が奮い立つ、パワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」
・ 「ポジションチェンジ・ダイアログ」で立場を超えた納得解を作ろう!  ほか
4章 手:つなぐ(Connect)
・ 「抵抗勢力」とつながる力~イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬
・ 「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因を解毒する
・ チームで力がみなぎるフロー状態に入ろう!
・ 職場で集合知を生み出そう! TEA TIME/BAR TIME  ほか
5章 足:踏み込む(Step into)
・ ダメ出しフィードバックの黄金則「薪+FIRE」
・ 承認力を高めるポジティブフィードバック・ピラミッドモデル
・ 「おかくれさん」で興味と思いやりある承認風土を創ろう!
・ 「きらいなことボード」で健全なダメを出し、改善活動につなげよう!  ほか
6章 頭:考える(Think)
・ 「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」
・ マインドフルネス瞑想で本質を捉える
・ ひらめきの神、ミューズを降臨させる5つのステップ
・ 衆知を集め、創造的に考える会議の場を開こう!  ほか

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「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(スマントラ・ゴシャール)

新しい企業モデルとしての「個を活かすマネジメント」を提唱。

個を活かす企業1.JPG個を活かす企業.jpg 個を活かす企業2.jpg christopher-bartlett-sumantra-ghoshal.jpg
個を活かす企業―自己変革を続ける組織の条件』['99年]/『【新装版】個を活かす企業』['07年]Christopher Bartlett & Sumantra Ghoshal
"The Individualized Corporation: A Fundamentally New Approach to Management"
企業のグローバル化の4類型.pngThe Individualized Corporation.jpg 「企業のグローバル化の4類型」の提唱者としても知られる著者らよる本書(原著"The Individualized Corporation"1997年)によれば、1980年代後半ごろから、世界中の企業はリストラ、組織階層の削減や事業の再編といった波にさらされてきたが、これは、グローバル競争の本格化によって市場の形態が変わり、技術革新のペースが速まり、情報化社会が急速に進展したことによるものであるとのことです。そうした情勢の中、本書では、世界の20社以上の企業のマネジャーにインタビュー取材し、これからの新しい企業モデルはどうあるべきかを探っています。

 第1部「新しい企業モデルの誕生」第1章「マネジメントの再発見―成熟企業から成長企業へ」では、ウェスチングハウスが送変電・配電部門をABBに買収された事例を通して、ABBがウェスチングハウスには存在しなかった個人に対する揺るぎない信頼を通して、そこで働く人の行動を変え、業績を好転させた、その新たなマネジメントの在り方を、元ウェスチングハウスのマネジャーの立場から描いています。

 第2部「『組織の中の個』から『個を活かす組織』へ」第2章「個人への信頼―自発性と起業家精神を育てる」では、3Mにおける「制度化された起業家的な行動」の3つの特徴(①「当事者意識」、②「自己規律」、③「支援的な文化」)を紹介し、閉じ込められた起業家精神を解放し、その潜在能力を発揮することができるようにするには、単なるエンパワーメント・プログラムを超えた、個を活かす企業の魂ともいえる、個人への信頼が重要となってくるとしています。

 第3章「知識の創造と利用―個人のノウハウを組織学習へ」では、マッキンゼーなどの例を挙げ、個を活かす企業は、個人の自発性と専門性を発揮させるだけではなく、組織の中に分散している自発性を結合させることが必要であり、組織学習によって個人のノウハウを育成するとともに、人材の採用を戦略的意思決定と考える必要があるとしています。また、組織横断的な情報の流れを作るとともに、信頼に基づく企業文化を築いて、組織の価値観を共有しなければならないとしています。

 第4章「継続的な自己変革―改善から再生へ」では、花王における継続的な自己変革の例を紹介し、自己変革能力に不可欠な要素として、①内部エネルギー引き出すストレッチを根づかせる、②柔軟な組織をつくる、③(伝統的な役割と組織に不均衡をもたらす)動態的な不均衡状態をつくり出す、の3つを挙げています。

 第3部「個を活かす企業の構築とそのマネジメント」第5章「社内の行動環境を変える―変革に必要な四つの特性」では、社員の行動をむしばむのは、「服従」「コントロール」「契約」「制約」という古臭い環境であり、それに代わって「規律」「サポート」「信頼」「ストレッチ」という4つの要素が相互に作用し共に進化するような変革の環境によって、変革のダイナミクスが生まれるとしています。 

 第6章「組織力の構築―プロセスのポートフォリオとしての企業」では、たとえ古い組織構造であっても変革は可能であり、企業を表向きの組織構造の観点から理解することは不可能であって、「起業プロセス」(現場のマネジャーが機会を求めて外を向く)、「統合プロセス」(企業内に分散する資源・競争力をビジネスに結び付ける)、「変革プロセス」(絶えず自分の信念や慣行に挑戦する)の3つのプロセスのポートフォリオとして考えるべきであるとしています。

 第7章「個人のコンピタンシーの開発―新しいマネジャーの役割」では、新しいマネジメントの役割に必要なコンピタンシーを「態度・特性」「知識・経験」「スキル・能力」の3つのカテゴリーに分類し、マネジメントにとっての最重要課題は、異なる役割において成功できる個人特性を見極め、素養があることが明らかなら、その望ましい資質をサポートし活用するための知識やノウハウを開発することであるとしています。

 第8章「変革プロセスのマネジメント企業―企業再生の三段階」では、個を活かす企業への変革を遂げるには、第一段階:合理化 起業家的な動きを創り出す、第二段階:再活性化 統合とシナジーを創り出す、第三段階:再生 継続的な自己変革を達成する、の3段階のプロセスをマネジメントすることが必要であるとしています。

 第4部「新しい企業の時代」第9章「会社と個人の新たな関係―価値創造者としての企業」では、個を活かす企業の経営哲学は、人のために価値を創造する「価値創造者としての企業」というコンセプトに繋がり、それは従来の雇用契約とは異なる新しい道徳契約に立脚しているとし、株主、顧客、社員、政府、地域社会などのステークスホルダーの間で未来を共有する関係を築き上げることが、その目的となるとしています。

 第10章「変わるトップ・マネジメントの役割―企業目的、プロセス、社員への視点」では、これからのマネジメントの役割は、ハードウエアである3S(戦略、組織、経営システム)から、ソフトウエアである3P(目的:Perpose、経営プロセス:Process、人:People)に関心を変える必要があるとしています。

 本書で提唱されている新しい企業モデルは、「組織の中の個」から「個を活かす組織」を作りあげることであり、個を活かす組織を構築するためには、マネジャーの役割を新たに創出しなければならず、そこから会社と個人の新しい関係が生まれてくるというのが本書の主張です。そして、社員個人が起業家精神を持つこと、タテの管理からヨコのつながりを重視した組織を作ること、そして、その組織はマネジャーを中心とした小さなグループの集合体であること―これが、企業を活き活きと活性化するカギであることを明らかにしています。

 '90年代に刊行された本であり、著者の一人スマントラ・ゴシャールは2004年に55歳の若さで他界していますが、いま企業には日々学習し、自己変革を続ける個の集まりとなることが求められているという意味では、今世紀においてもまったく色褪せていない、と言うよりますます重みを増している内容であり、そのことを裏付けるかのように、本邦でも2007年に新装版が刊行されています。

《読書MEMO》
●目次
第1部 新しい企業モデルの誕生
第1章 マネジメントの再発見―成熟企業から成長企業へ
 ある熟練マネジャーの転機
 老いた事業に新たな生命を吹き込む
 マネジメントの再発見
 トップ・マネジメントの率先垂範
 異端児か、それとも模範生か
第2部 「組織の中の個」から「個を活かす組織」へ
第2章 個人への信頼―自発性と起業家精神を育てる
 制度に組み込まれた3Mの起業家精神
 当事者意識を育てる
 自己規律を育てる
 支援できる環境をつくる
 閉じ込められた起業家精神を解放する
第3章 知識の創造と利用―個人のノウハウを組織学習へ
 戦略立案を超えた組織学習
 マッキンゼーにおけるグローバルな知識の活用
 個人のノウハウを養成する
 組織横断的な情報の流れを作る
 信頼に基づく企業文化を築く
 組織の価値観を共有する
 統合されたネットワークとしての組織
第4章 継続的な自己変革―改善から再生へ
 花王の継続的な自己変革
 ストレッチを根づかせる
 柔軟な組織を作る
 動態的な不均衡状態をつくり出す
 「酸い」と「甘い」を調合するマネジメント
第3部 個を活かす企業の構築とそのマネジメント
第5章 社内の行動環境を変える―変革に必要な四つの特性
 重要な「職場のにおい」
 変革のための環境
 フィリップス半導体事業部の変革
 環境から行動へ
第6章 組織力の構築―プロセスのポートフォリオとしての企業
 古い組織構造でも変革はできる
 ABBの組織
 プロセスのポートフォリオとしての企業
 新しい組織モデル
第7章 個人のコンピタンシーの開発―新しいマネジャーの役割
 新しいマネジメントの役割と個人の能力
 新しい個人のコンピタンシーと人事の役割
 個人の潜在能力を発見する
第8章 変革プロセスのマネジメント企業―企業再生の三段階
 変革の過程
 第一段階:合理化 起業家的な動きを創り出す
 第二段階:再活性化 統合とシナジーを創り出す
 第三段階:再生 継続的な自己変革を達成する
 個を活かす企業への変身
第4部 新しい企業の時代
第9章 会社と個人の新たな関係―価値創造者としての企業
 個を活かす企業の経営哲学
 人のために価値を創造する
 「未来を共有する」関係を築く
第10章 変わるトップ・マネジメントの役割―企業目的、プロセス、社員への視点
 戦略、組織構造、システムを超えて
 マネジャーの新たな任務

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○経営思想家トップ50 ランクイン(チャールズ・ハンディ)

あるべき資本主義を説いた経営論であるとともに、企業人のための人生論でもある。

もっといい会社、もっといい人生67.JPGもっといい会社、もっといい人生0_.jpg The Hungry Spirit.jpg チャールズ・ハンディ.jpg Charles Handy
もっといい会社、もっといい人生―新しい資本主義社会のかたち』(1998/11 河出書房新社)"The Hungry Spirit" (1997)

チャールズ・ハンディ ド.jpg 「イギリスのドラッカー」とも呼ばれ、英国のみならず欧州を代表する経営思想家であるチャールズ・ハンディ(Charles Handy、1932年生まれ)の著作(原題:The Hungry Spirit: Purpose in the Modern World,1997)で、チャールズ・ハンディはオックスフォード大学で哲学を専攻した後シェル石油の幹部となるも早々に辞めてMITのスローンスクールを経て、ロンドン・ビジネススクールの設立に関わった現代経営学の権威です。彼の著作の本邦訳は『ディオニソス型経営―これからの組織タイプとリーダー像』('82年/ダイヤモンド社)、『ビジネスマン価値逆転の時代―組織とライフスタイル創り直せ(The Empty Raincoat)』('94年/阪急コミュニケーションズ)、『パラドックスの時代―大転換期の意識革命(The Age of Paradox)』('95年/ジャパンタイムズ)がありますが、「英国のドラッカー」と称される割には日本ではあまり知られていないかもしれません。本書は1997年の著作ですが、当時から市場至上主義・新自由主義の陥穽を的確に捉え、それに警鐘を鳴らしています。

 第1部「きしむ資本主義」では、資本主義社会の難問と懸念について探究しています。第1章「市場原理だけではうまくいかない」で、理論的には、市場はあらゆるものを平準化させ、最終的には、すべてのものが最も優れた、あるいは最も安価なものに追いつくはずだが、実際に起きている事態はそうなってはいないとし、市場原理に基づく効率性の追求は、社会全体としては大きな歪を生み出した(28p)としています。

 第2章「効率追求の落とし穴」では、日本のメーカーの「ジャスト・イン・タイム」方式は、「工場の生産にあわせた部品を運ぶトラックの列が付近の道路の大渋滞を引き起こし、結果、税金による道路整備が必要になった」、つまりメーカーは自らの改善コストを国民にツケ回ししたとし(44p)、また、こうした歪みは日本だけの事象ではなく、ジョン・F・ケネディ大統領の「上げ潮にのればすべての船が上がっていく」という想定も、一部の船が、他のものよりずば抜けて高く上がることになったとして(46p)、効率の追求は、社会をそうした一握りの者向けには有利に、ほかの多数の人々には不利なように傾斜させることから間違っていたことがわかったとし、効率は経済成長を生み出すが、その偏重は破滅への道に繋がるとしています。。

 第3章「資本主義の欠点を押さえて長所を生かす」では、市場経済と効率には欠点があるが、資本主義の欠点を直そうとして、資本主義自体まで失ってはならないとして、経済の発展を促し、起業家に自己表現の機会を提供しているシリコンバレー企業の例を挙げています。また、資本主義は手段にすぎず、何を目的にするか決めるのは私たちであって、自分やほかの人々のために人生から何を得ようとしているのかを私たちが十分に理解することなしには何も変わらず、人生観はカネに正当な位置づけを与えるが、それ以上に重視されるものではないとしています。

 第2部「人生の意味を位置づけ直す」では、人生の目的を探究し、「世界を現状より少しでも良くすることが目的でなくてはならない」としています。第4章「個人が主権者となる時代」では、自分の人生の台本を自ら書くことの重要性を説き、また、企業にも個人と同様に、自分の行動と運命に責任があるとしています。

 第5章「自分の夢と社会の夢の両立」では、ゆらぐ自己同一性を確立することの重要性を説き、人生の真の目的に至るまでには「生計維持型」「外部志向型」「内部志向型」の3段階の心理学的類型があり、これはマズローや多くの発達心理学者の教えとも一致するとしています。そして、「適正な自己中心性」は善と他者の利益を求めるとしています。

 第6章「生きる意味を探究する」では、カネ、モノ、地位への欲望はほどほどにすべきで、成長とは量的拡大より質的向上をすることであって、本来的に人はカネよりも美と善を求めるものであるとしています。また、世界に貢献することで自分の人生を永遠化することができるとしています。

 第7章「ほかの人なしに自分もない」では、ほかの人々といっしょに働くことで自分の能力が発揮でき、また、自分の関心にもとづいた活動の仲間が新しい"家族"になるとしています。

 第3部「よりよき資本主義者社会を求めて」では、第2部で展開した概念を、個人にだけでなく、社会制度にあてはめて考察し、資本主義は社会を品位あるものにするために解釈し直される必要があり、資本主義のカギとなる制度である会社についても考え直されなければならないとしています。第8章「もっといい資本主義を求めて」では、永続性のある会社を通して会社にとっての本当の目的とは何かを考察するとともに、そこで働く人がその会社の価値を決めるとし、社会にとっての一市民としての企業の在り方を探っています。

 第9章「社会にとっての良き市民としての会社」では、市民性とは才能ある社員をどうまとめるかであり、そこには信頼というものが大きく関わってくるとして、信頼についての7つの基本原理を挙げるとともに、「社員の可能性をフルに引き出す魔法」を引き出すものは何かを考察しています。

 第10章「適正な自己中心性を育てるための教育」では、自分自身と他者に対する責任感を育てる教育の必要性を説き、人生や仕事のための学校が同意すべきことして
 1.自己発見が世間を発見することより大切だ
 2.だれにも何かしら得意なことがある
 3.人生はマラソンだ。競馬ではない
 4.何を学ぶカより、いかに学ぶカに本質がある
 5.学校は職場から学び、職場は学校を真似るべきだ
 6.人生は家庭から出発する旅
 7.体験と思索が相まって学習が生まれる
という7つの命題を掲げています。

第11章「個人と会社が羽ばたくための政府の役割」では、個人や企業と官のバランスの修正が必要であり、また、働くことで学び、責任感を育てることができるとしています。そして、エピローグでは、企業と社会と人生の理想的な関係をどう構築していくかを考察し、私たちの魂はもっとよい会社ともっとよい人生を希求しているとしています。

 本書で、著者は「適正な自己中心性」というキーフレーズをよく用いています。個人としては「利己と利他とがバランスよく調和した姿」であり、同様の姿勢を企業にも求めています。それにより「品位のある資本主義」が実現されるというのが著者の主張です。著者は、「あるべき社会」について、信頼というものが成り立つ社会でなければならないとし(第9章)、疑いに満ち、自己主張と利己主義にもとづいた競争が行われれば社会は収拾がつかず、「悪しき資本主義」に陥るとし、個人は、利己と利他と責任感がバランスよく調和した「適正な自己中心性」をもった存在になるべきだと主張しています、企業も、利益だけでなく、社員の雇用、取引先、社会や環境などへの配慮も怠らない企業となることで、品位ある資本主義が成り立つと。そして、適正な自己中心性を体得できるようにするには、教育の改革から始めなければならず(第9章)、市場化が進展し、規制の撤廃が進んでも、こうした意味で政府の役割は残るとしています(第11章)。

 本書は、あるべき資本主義を説いた経営論、企業論であるとともに、著者の経験にもとづく人生訓も豊富に語られています。資本主義の限界を分析して「あるべき社会」を探るとともに、企業人がいい人生を送るには自らの人生をどう生きるべきかをと説いた本であり、(人事パーソンに限らず)ビジネスパーソンに広くお薦めできる本です。

《読書MEMO》
The Hungry Spirit00_.jpgチャールズ ハンディ.jpg●小さな白い石
私は机の上に小さな白い石を置いている。これは聖書のヨハネ黙示録のなかの神秘的な一節を指している。それは次のようなものだ。「霊が告げた。勝利を得るものには、白い石を与えよう。その石には、これを受ける者だけが知りうる新しい名が記されている」。私は聖書学者ではない。しかし、私がこれを自分でどう解釈するかは知っている。もし「勝利を得る」なら、その結果として、私の真にあるべき姿、すなわちもう一つの隠された自己を見出すだろう、ということを意味しているのだ。人生は、白い石の探求なのである。人によってその白い石は異なる。もちろん、「勝利する」ということが何を意味するかにもよる。思うに、これは、人生のささやかな試練を通過することを意味する。そうして初めて自由に完全に自分自身になれる。そしてそのとき、自分の白い石を手にすることができる。

The Hungry Spirit

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○経営思想家トップ50 ランクイン(トム・ピーターズ/ロバート・ウォーターマン)

超優良企業の観察をもとに8つの基本的特性を示す。企業文化論のベストセラー。

エクセレント・カンパニー 講談社.jpgエクセレント・カンパニー 講談社文庫 上.jpg エクセレント・カンパニー 講談社文庫下.jpg エクセレント・カンパニー_.jpg
エクセレント・カンパニー―超優良企業の条件』['83年]/『エクセレント・カンパニー〈上〉 (講談社文庫)』『エクセレント・カンパニー〈下〉 (講談社文庫)』['86年]/『エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)』['03年]
トム・ピーターズ(Tom Peters)/ロバート・ウォーターマン(Robert Waterman)
トム・ピーターズ ド.jpgトム・ピーターズ.jpgrobert waterman.jpg 本書(原題:In Search of Excellence、1982)は、マッキンゼーで(出版当時)コンサルタントをしていたトム・ピーターズとロバート・ウォーターマンの2人が、米国の革新的超優良企業(エクセレント・カンパニー)に共通する8つの基本的特性を導きだしたものです。日本企業の躍進と米国企業の衰退が対比的であった1980年代前半に出版され、当時で100万人以上のビジネスパーソンが読んだと言われる世界的ベストセラーとなりました(トム・ピーターズは一時カリスマ的人気を博し、その啓発書は日本でもかなり売れた)。
エクセレントな仕事人になれ! 「抜群力」を発揮する自分づくりのためのヒント163

 著者らは、エクセレント・カンパニーの事例を最終的に62社に絞り込んでいますが、選ばれた企業のリスト自体はそう驚くようなものではなく、IBMやHP(ヒューレット・パッカード)、ウォルマート、GE(ゼネラル・エレクトリック)など、日本でもよく知られている大企業が多いです。本書の特徴は、大手企業などを称えながらも、冷淡な近代マネジメント刊行の行き過ぎを批判し、よりシンプルな基本に戻ることを説いている点にあります。

 第1部「優良企業の条件」第1章「成功しているアメリカ企業」では、自らが行った調査を元に、エクセレント・カンパニーに共通する8つの基本特性を挙げています。
1.行動の重視
2.顧客に密着する
3.自主性と企業家精神
4."ひと"を通じての生産性向上
5.価値観に基づく実践
6.基軸から離れない
7.単純な組織、小さな本社
8.厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ


 第2部「新しい理論の構築を求めて」第2章「『合理主義』的な考え方」では、行き過ぎた合理的な経営モデルを批判しています。
「私たちが異論を唱えたいのは、方向を誤った分析、複雑すぎて実用にならない分析、厳密すぎて扱いにくく柔軟性のない分析、本質的に予知不可能な分析、現場から離れた管理者が現場に対して管理中心の考え方で展開した分析などである。」

 第3章「人々は動機づけを望んでいる」では、プラスの動機づけを強化することの重要性を説き、超優良企業が超優良であるのは、平凡な人々から非凡な力を引き出すような組織を作っているからであり、そこには非凡なリーダーシップが働いているとしています。それは、「意味づけ」を求める人間の欲求に応え、組織の目標を創造するような「変容のリーダーシップ」であるとしています。
「『不合理な』人間欲求を満足させている超優良企業の体質をよく見るとき、その歴史の中には必ず、この『変容のリーダーシップ』を発見することができる。」

 本書の後半3分の2を占める第3部「基本に戻る」では、まず第4章「曖昧さと矛盾を扱う」で、これまでの経営理論の進展を顧みつつ、超優良企業にもしひとつの顕著な特徴があれば、それはこの、曖昧さと矛盾をうまく包括し、管理していく能力であるとし、第5章以下第12章までにおいて、先に挙げたエクセレント・カンパニーの8つの基本特性を、細かく検証・解説しています。

 第5章「行動の重視」では、行動の重視が8つの基本特性の中で最も重要であり、エクセレント・カンパニーは、非常に行動志向が強いとしています。
「『打ち方用意!撃て!狙え!』そして、『狙わずに撃ってしまったあとで、試行から学べ』。それで十分なのである。」

 第6章「顧客に密着する」では、エクセレント・カンパニーは顧客から学ぶとしています。IBMはテクノロジーではなく、顧客とマーケット優先主義を徹底し、ディズニーはひとを通じてのサービスを実践しているとのことです。
「顧客の声を聞き、顧客を会社に招き入れる。顧客をパートナーとする会社は優良な会社であり、その逆も真である。収益は顧客志向の結果として生まれるのである。」

 第7章「自主性と企業化精神」では、エクセレント・カンパニーは、社内に大勢のリーダーと創意ある社員をかかえており、それは私たちが「チャンピオン」と呼ぶ人々の巣箱であるとしています。GE:では大プロジェクトに自主参加できる仕組みがあり、3Mには失敗を支持する仕組みがあるとのことです。
「チャンピオンは先駆者であり、先駆者が力を発揮できるような、十分なバックアップが必要。バックアップがなければチャンピオンは生まれない。チャンピオンがいなければ革新はない。」

 第8章「"ひと"を通じての生産性向上」では、エクセレント・カンパニーは、ごく端末にいる一般社員を、品質および生産性向上の源泉のように扱っているとしています。例えば、ディズニーのファースト・ネーム・タグやキャストという呼称などは、企業をひとつの(拡大)家族であると見ている証しであるとしています。
「従業員を十分に教育し、妥当かつはっきりとした目標を与える。従業員に自主性を持たせ、すすんで業務改善、業績向上につとめるようにしむける。そうした意志と責任感を企業側が持つという意味で、人を大切にせよと言っているのである。」

 第9章「価値観に基づく実践」では、エクセレント・カンパニーは、エクセレント・カンパニーは、価値観を非常に大切にし、その指導者たちは、組織の末端にいたるまで、その価値観にもとづいた活気にみちた環境を作り出しているとしています。IBMのトーマス・ワトソン・ジュニアは、基本的な哲学、精神、組織としての推進力は、技術ないし経済的能力、組織構造、イノヴェーション、タイミングといったことより、組織としての成功にずっと深い関わりをもっていると述べているとのことです。
「自社の価値体系を確立せよ。自社の経営理念を確立せよ。働く人の誰もが仕事を誇りを持つようにするためになにをなしているか自問せよ。10年、20年先になって振り返ってみるとき、満足感をもって思い出せることをしているかと自問せよ。」

 第10章「基軸から離れない」では、エクセレント・カンパニーは、自分たちが熟知している業種(本業)に固執するとしています。そして、そんあ企業は、複雑化に向かう種々のプレッシャーにもかかわらず、ものごとをシンプルにしておくことの重要性を理解しているとのことです。ジョンソン&ジョンソンの創業者バード・ウッド・ジョンソンは、どんなビジネスにせよ、どう運営してはいいかわからないものに手を出してはいけないと述べていると。
「エクセレント・カンパニーでは、成長のほとんどすべてが、内部的に、自前の努力で達成されてきた。小さな会社を買ったり新しいビジネスに乗り出したりするのだが、十分に管理できる規模で行う。そして、明らかにリスクを小さくするのである。」

 第11章「単純な組織、小さな本社」では、エクセレント・カンパニーは、エクセレント・カンパニーの支柱になっている機構と体制は、すっきりと単純なものが多く、管理階層が薄く、本社の管理部門も小さいとしています。また、そうした企業では、"Small is beautiful"という考えに沿って、チーム制、プロジェクト制や自立型組織が機能し、 スピンオフや独立が奨励されているとしています。
「遺憾なことに、企業は大きくなるとともに複雑性を増す。そして、大会社のほとんどは、本質的な複雑さに対応するため、複雑なシステムと組織を考えだす。その結果、スタッフを増やしてその複雑さと取り組もうとするのだが、ここから誤りが始まるのである。」

 第12章「厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ」では、エクセレント・カンパニーは、工場の現場から製品開発チームにいたるまで、自主性を強調している反面、起業精神の中核となるいくつかの価値観については、狂信的ともいえるほど中央集権がきついとしています。共有された価値観が枠組を提供し、その範囲内の中で具体的な自主性が日常的に発揮され、外部を重視すること、外への視点、顧客への関心が、あらゆることのうちでもっとも厳しい自己規制の特性のひとつとなっていると。
「著しく厳格な文化が原動力となり、文化に管理される特性が、エクセレント・カンパニーを際立たせている。」

 著者ら掲げた優良さの判断基準には議論の余地もあり、また、本書で取り上げられた優良企業の中から業績不振に陥るものが出てくると批判に晒されたりもしました。しかし、著者ら自身が、「私たちは革新的な企業文化を持つ企業を挙げたが、それらの企業がいつまでも革新的といえるのかと聞かれる。答えはノーだ」(「ビジネスウィーク誌」1984)と警告しています。

 ビジネス書の進化の歴史の中でもターニング・ポイントなった本ですが。その理由の1つとして、組織の成功に関し、"人間は不合理で、人間をまとめる組織はその責任をとらなければならない"という考えのもとに、意義、最小限の管理など人道的価値観を唱え、ビジネスのソフト面、文化、社員が大事であるという結論を説いている点が、古典的な経営書と対照的であったということが挙げあっれるかと思います。

 また、著者らは、情熱的な観察者の視点から纏めているため、読んでいてまるで登場するエグゼクティブの話を役員会議室で聴いているような気持ちで読み進むことができるのも、本書の特長であるかと思います。

 従業員が、人間の不合理な行動や無分別ゆえに受け入れらる組織―本書はそうした時代を超えたビジネス組織のあり方を提示し、人間の変わり易い性質こそが組織を動かすエネルギーであることを示しているように思いました。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)
【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)
【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

【1986年文庫化[講談社文庫(上・下)]】

《読書MEMO》
●効果的なサービス思考に共通してみられる3つの特徴
1. 経営幹部が徹底的かつ積極的に参加していること
2. 従業員志向がきわだって強いこと
3. 従業員のサービスのチェック評価とそのフィードバックが徹底してること
●ニッチ戦略によって顧客に密着している企業の5つの特徴
1. テクノロジーを抜け目のないほど巧みに利用している
2. 価格設定がうまいこと
3. マーケット細分化に1日の長があること
4. 問題解決指向が強いこと
5. 差別化のために費用をかけるのを惜しまぬこと

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組織の制度化に押し潰されないためのゲリラ戦を開始する方法について述べた箴言集。

ロバート・タウンゼンド組織に活を入れろil2.png組織に活を入れろ08.JPG  ロバート・タウンゼンド組織に活を入れろ il2.jpg
組織に活を入れろ (1970年)』"Up the Organization: How to Stop the Corporation from Stifling People and Strangling Profits"

 原題は"Up the Organization: How to Stop the Organization from Stifling People and Strangling Profits"(1970)。著者のロバート・C・タウンゼント(Robert Townsend,1920-98)は、終戦後アメリカン・エクスプレス社に入り(1948-62)、同社の専任副社長兼取締役を経て、その後、ハーツ(Hertz)に次ぐ全米第2位のレンタカー会社エイビス(Avis)の社長に就任、「わが社は業界第2位にすぎませんが懸命に頑張っています」という有名なキャッチコピーで宣伝し、"ミスター・№2"という綽名で呼ばれた人です。彼が社長に就任してから2、3年の間に、エイビス社は驚異の成長を遂げましたが、1965年に巨大コングロマリットITT(International Telephone and Telegraph)に買収されてしまい(当時ITTエイビスレンタカー.jpgは『プロフェッショナルマネジャー ~58四半期連続増益の男』(`04年/プレジデント社)のハロルド・ジェニーンがトップを務めていたが、そのITTも今は存在しない。ただし、オンライン予約のエイビスレンタカー・システムという会社はグローバル企業として残っていて、日本でもオーバーシーズ・トラベルが運営しており、エイビスレンタカー名義として存在する)、ロバート・C・タウンゼントはその買収された時に即座に社長を辞めています(本書刊行時点で49歳。まだ50代の手前だった)。

組織に活を入れろ (1970年)L.jpg 本書は、マネジメントの要諦を随想風に綴った箴言集とでも言えるものであり、「広告(Advertisement)」から「あいそをつかされるな(Wearing out Your Welcome)」まで、おおよそ100近くの章がタイトルのアルファベット順に並んでいて、目次を見て関心のあるタイトルを選び、どこから読んでも読めるようになっていて、また、何れも含蓄に富んだ内容となっています。

 「側近」(p28)の章では、側近であることが楽しくてたまらないやつは吸血鬼だけだと言い、併せて、最も良い組織形態のあり方を説いています。「組織内の衝突」(p49)では、衝突は組織が健全であることを示す証拠ではあるが、それには限度があり、すぐれたマネジャーは衝突をなくしようとはせず、ただ、そのために部下のエネルギーが浪費されるのを防ごうとするとしています。「権限の委譲」(p60)では、口先だけの信頼を示す人は多いけれども、重要な問題を処理する権限を委譲する人は少ないとしています。

 周知の通りアメリカは契約社会ですが、「雇用契約なんか、くそ食らえ」(p72)では、雇用契約がなければ、会社はたえず挑戦的な溌剌とした雰囲気を保って、報酬が業績と見合うようにしなければならず、その方がいいとしています。「株主にたえず報告を送れ」(p112)では、株主は、会社の経営状態が順調なときはこうるさい存在にすぎないが、状態が悪化してくると、会社の存立を脅かす絶大な脅威となりうるとし、株主に対する情報連絡のコツを示しています。

 「職務明細書」(p115)では、ジョブ・ディスクリプションは職務の"冷凍品"にすぎず、いちばんまずいのは、その職務を理解していない人事部門の人間によって作成されていることであり、しょっちゅう改訂するので、むやみに金がかかるばかりか、社員の士気を大いに阻喪させるとしています。「弁護士は負債になりかねない」(p120)では、正しい法律的な助言を受けられるかどうかは、法律事務所の選び方よりも、弁護士そのものの選び方にかかっているとしています。

 「指導者とは」(p122)では、「人々を導かんとするならば、人々の後を行くべし」という老子の言葉を引いて、指導者の任務は部下の利益をはかることであって、自分の懐を肥やすことではなく、戦場において将官は最後に飯を食うべきだとしています。現代の大会社の人々は、管理されているだけで指導されてはおらず、人間ではなく職員なのだとも。「二つの経営者層」(p125)では、"トップ"マネジメントとはフクロウがわんさかたむろしている樹木のようなものであり、社長以下のマネジメントが森の中で道を間違えたりするとぶうぶうわめきたてるが、森がどこにあるかを彼が知っていたという話は一度も聞いたことがないと皮肉っています。

 「経営コンサルタント」(p129)では、有能な経営コンサルタントは一匹狼だけで、徒党を組んでいるやつは破壊的であり、時間を浪費し、金を使わせ、優秀な社員たちの頭を混乱させて士気をくじき、何の問題も解決しないどころか、問題を増やすばかりだとしています。「社員」(p166)では、マグレガ―のⅩ理論とY理論を分かり易く説いています(この章は8ページで、これで長めの方)。「人事」(p175)では、あまり大きな会社でなければ人事課はいらないとし、人事管理の専門家の悪い癖は、職務明細書、配置転換チャートなどといったカラクリを弄ぶことだとしています。

 その他、「死後硬直状態の組織図」(p164)、「内部の者を抜擢しろ」(p191)、「再組織化」(p201)、「給料が不当に安いとき」(p237)といった、組織と人事に関する章が数多くあり、人事パーソンにとっても読み所は多いと思われます。また、最後に附録として、「あなたのボスの指導者としての価値の採点法」というものも付されています。

 ピーター・ドラッカーは著者タウンゼントを評して、「無類の革命家であり、無類の風刺化であり、恐れることを知らぬ正義の人である。彼はいかにして人々に働く意欲をわかせるかということに焦点をおかない経営学には、いっさい目をもくれない。彼は偉大な実業家あるいは偉大な経営者の一人として歴史に名をとどめることはないだろう。彼は偉大な将軍ではなく、それよりも難しい、偉大なゲリラ指導者であるからだ」としています。

 冒頭の著者自身による覚え書には、たいがいの会社では、働いている人に共通するのは、従順であること、退屈していること、そして生気のないことであり、彼らは組織系列の小さな囲いの中に閉じ込められたまま、誰も変えることができないために惰性で運用されている階級制度の奴隷となっているとし、本書は、こうした状況を打開するために、「われわれが奉仕している組織の装備を片っ端から剥ぎ取って、組織がわれわれに奉仕している部分だけを残す」そのための非暴力のゲリラ戦を開始する方法について述べたものであり、非マンモス会社ないしはマンモス会社の非マンモス部門を、従業員が人間として扱われるように運営させる勇気と、ユーモアとエネルギーをもった人々に、この本を捧げたいとあります。

 語られている言葉が今もって全く風化していないことに、著者の慧眼が窺えます。人事パーソンのみならず、企業組織やマネジメントに関わる人に遍(あまね)くお薦めできる本です。

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【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

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〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉。現代の若者のキャリア観、キャリア行動を俯瞰する上で参考に。

ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?.jpg  「ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?」 福島創太.jpeg
ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?: キャリア思考と自己責任の罠 (ちくま新書)』['17年]

ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?  .png 大卒3年以内の離職率が3割であることを表す「3年3割」という言葉がありますが、厚労省の調査結果を見ると、実ははじめの3年間で最も離職率が高いのは1年目であるとのことです。本書は、ゆとり世代と呼ばれる若者たちが歩むキャリアの実態を明らかにし、若者の転職が多くなった社会的背景を考察した本であり、著者は元リクルート社員で、大学院に籍を置く教育社会学者です。本書は、著者が、すでに転職をした20代へのインタビューなどを通して修士論文として書き上げ、担当教官である本田由紀・東京大学教授に提出したものに加筆修正したものです。

 第1章では、若者の転職が増えているという事実と社会的背景を確認したうえで、「伝統的キャリア」から「自律的キャリア」への労働者のキャリア観の変貌を踏まえ、インタビューした転職者を〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉〈伝統的キャリア系〉の3つに分類したうえで、本書では、自律的キャリア化する若者を追いかけるうえで、〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉に焦点を当てるとしています。

 第2章では、〈意識高い系〉には、自律的キャリア化した時期によって〈在学時意識高い系〉〈初戦入社後意識高い系〉〈転職後意識高い系〉の3パターンがあるとして、それぞれの転職活動の在り様を探るとともに、何れも「高い意識」のみに基づいて転職する傾向があるとして懸念を示しています。

 第3章では、〈ここではないどこか系〉は、環境適応としての転職をし、仕事に対する意義づけとともに職も変えるが、〈意識高い系〉が自分のキャリアに対して真摯なのに対し、自分の感情に対して真摯であり、よりよく働きたいという気持ちの強さは立派なことだが、いつまでもどこか探しが続くことが懸念されるとしています。

 第4章では、第2章、第3章を踏まえ、〈意識高い系〉には希望が実現できない、やり直しがきかないというリスクがあり、〈ここではないどこか系〉には、スキルや経験が蓄積されない、劣悪な労働環境を許容しいてしまうというリスクがあるとし、それらは「自分らしさ」にこだわることからくるもので、その背景には、社会によって煽られた「自律的キャリア意識」があるとしています。

 第5章では、自律的キャリア化のベースにある自己責任論は、社会の責任を見えづらくしている面もあるとし、そうした問題が凝縮されるのが「就活」であり、「就職できない若者がいる」という個人に問題にとどまるのではなく、その背景には社会構造の変化があるわけであり、社会の役割として支援の可能性を探っていかねばならないとしています。

 第6章では、社会が若者の転職者をどう支援できるかということの一つの手がかりとして、キャリアアドバイザーによるキャリア面談を取り上げ、実際に行われた面談記録の分析から、その可能性と課題を考察しています。

 そして、最終第7章では、第6章におけるキャリア面談の二面性考えるうえで「やりがいの搾取構造」「ブラック企業」という二つの問題を取り上げ、社会が若者のキャリア支援においてできることとして、「できること」を基準としたキャリア選択の可能性をひらいていくことを主張しています。

 〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉というのは、個人的には、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論にも対応しているように思いましたが、そうした理論を持ち出すまでもなく、社員の退職や採用と向き合っている人事パーソンにはしっくりくるのではないでしょうか。そこからさらに踏み込んで分析されているため、現代の若者のキャリア観、キャリア行動を俯瞰する上では参考になります。「自律的キャリア」を煽る社会や自己責任論に批判的な点は、やはり本田由紀氏の系譜でしょうか。サブタイトルも「キャリア思考と自己責任の罠」となっていますが、タイトルも含め、テーマは別のところにあったような気がしました。

 企業もまた社会の一部であり、「できること」を基準としたキャリア選択の可能性をひらいていくということは、企業の役割でもあるのかもしれません。では、どうすればよいかというところまでは(企業の人事担当者も読者として想定しながら)本書では具体的に踏み込んでいませんが、これは(著者が分析に巧みで社会提案に弱い元リクルート系であるからと言うより)ベースが修士論文であることの限界でしょうか。それでも、そうしたことを考える糸口となるような啓発的内容であったとは思います。

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「●組織論」の インデックッスへ

公式組織は非公式組織から。組織の要素は、(1)コミュニケーション、(2)貢献意欲、(3)共通目的。
新訳 経営者の役割7.JPG新訳 経営者の役割_.jpg  チェスター・I・バーナード.jpg Chester I. Barnard
経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)

 本書は、経営学(経営組織論・経営管理論)の古典であるチェスター・I・バーナード(Chester I. Barnard)の著書です(原題:The Functions of the Executive、1938)。内容は、大きな流れとして、まず組織論を展開し、それに基づいて管理論を展開するという構成になっていて、また、組織論においては、人間論→協働論(協働システム論)→組織論(公式組織論)という構成がとられています。

 第1部「協働体系に関する予備的考察」では、第1章「緒論」で、本書が公式組織を論じるものであること、公式組織とは、意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働であり、組織の存続は、環境が不断に変動するなかで、複雑な性格の均衡をいかに維持するかにかかっており、このためには組織の内的な諸過程の再調整が必要であるとしています。第2章「個人と組織」では、人間の特性として、活動、心理的要因、選択力、目的の4つを挙げ、この本では特定の協働体系の参加者としての人間を、純粋に機能的側面において、協働の局面とみなすとしています(協働を二人以上の人々の活動の機能的システムと考える考え方)。一方、なんらかの特定の組織の外にあるものとしての人間は、物的、生物的、社会的要因の独特に個人化したものであり、限られた程度の選択力をもつものとみなされるとしています(人間を協働的な機能もしくは過程の対象と考える考え方)。そして、組織はこれらの範疇のうちの1つを統制したり、影響を与えることによって、個人の行為を修正する結果を生じるとしています。第3章「協働体系における物的および生物的制約」では、協働が有効である時とその理由、協働の目的や性格について述べ、さらに、協働が環境や目的の変化に適応するために、管理者あるいは管理組織が必要になるとしています。第4章「協働体系における心理的および社会的要因」では、3章までの協働論では除外してきた心理的要因、社会的要因に関して述べられています。第5章「協働行為の諸原則」では、物理的、生物的、人格的、および社会的な諸要素や諸要因が、ひとつでも欠けているような協働体系は存在しないとし、協働体系はつねに動的なものであり、物的、生物的、社会的な環境全体に対する継続的な再調整のプロセスであるとしています。

 第2部「公式組織の理論と構造」では、第6章「公式組織の定義」で、協働体系とは、少なくとも一つの明確な目的のために二人以上の人々が協働することによって、特殊の体系的な関係にある物的、生物的、個人的、社会的構成要素の複合体であるとしています。第7章「公式組織の理論」では、組織は、(1)相互に意思を伝達できる人々がおり、(2)それらの人々は行為を貢献しようとする意欲をもって、(3)共通目的の達成をめざすときに成立し、従って、組織の要素は、(1)コミュニケーション、(2)貢献意欲、(3)共通目的であるとしています。第8章「複合公式組織の構造」では、構造的な見地から複合組織に関する一般的な記述を行い、第9章「非公式組織およびその公式組織との関係」では、非公式組織とは何か、その諸結果は何か、公式組織による非公式組織の創造や公式組織における非公式組織の機能について述べています。ここでは、公式組織における非公式組織の機能として、コミュニケーション機能、貢献意欲と客観的権威の安定とを調整することによって公式組織の凝集性を維持する機能、自律的人格保持の感覚、自尊心および自主的選択力を維持することなどを挙げています。

 第3部「公式組織の諸要素」から管理論に入っていき、第10章「専門化の基礎と種類」では、専門化(分業)と組織におけるその意義について述べ、第11章「誘因の経済」では、組織を構成する「貢献」は、組織が個人に与える誘因との交換の形で発生するものであり、つまり、組織と個人とは、誘因と貢献の交換関係になるとしています。第12章「権威の理論」では、権威の源泉は何か、権威が受容される条件とは何か、などについて述べています。ここでは、権威が受容される条件として、(a)コミュニケーションを理解でき、また実際に理解すること、(b)意思決定に当り、コミュニケーションが組織目的と矛盾しないと信ずること、(c)意思決定に当り、コミュニケーションが自己の個人的利害と両立しうると信ずること、(d)その人は精神的にも肉体的もコミュニケーションに従いうること、の4つを挙げています。第13章「意思決定の環境」では、バーナードの考える意思決定とは何かが論じられ、第14章「機会主義の理論」では、意思決定のプロセスの原則が論じられています。ここでは、意思決定は、最終的には、環境を変えるか、目的を変えるか、どちらかの行為に行き着くとしています。

 第4部「協働システムにおける組織の機能」ではさらに管理論を展開し、第15章「管理機能」では、管理者の果たすべき機能が論じられ、それは、組織伝達(コミュニケーション)の維持、必要な活動の確保、目的と目標の定式化の3つであるとしています。第16章「管理過程」では、管理過程において、全体という観点から考慮されなければならない二つの要因は、行為の有効性と能率であるとしています。第17章「管理責任の性質」では、協働の道徳的側面についての論考が展開されています。

 組織が成功するためにはコミュニケーションが不可欠であり、なぜならコミュニケーションが全員を諸目的に結びつけるからであるということが強調されています。本書に従えば、マネジメントの不可欠な機能とは、第1にコミュニケーション機能の提供、第2に目的達成のための不可欠な努力の促進、第3に目的を定義し定式化すること、ということになります。また、人的ネットワークである非公式組織に着目し、非公式組織に共通の意図や目的が与えられることによって公式組織に転化する一方で、公式組織はそれ自体が非公式組織を生み出し、それは、非公式組織が伝達、凝集、個人の保全の手段として公式組織の運営に必要であるからであることを初めて指摘した本でもあります。経営者は短期的な業績ばかりを重視する独裁者であってはならず、経営者には、組織や価値観や目標を育てる責任があり、さらに、マネジメントには道徳性に関わる面があるとしており、そうした意味でも、今読んでも啓発される面は多い名著であると思います。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●目次

日本語版への序文

第1部 協働システムに関する予備的考察
第1章 緒論
第2章 個人と組織
第3章 協働システムにおける物的および生物的制約
第4章 協働のシステムにおける心理的および社会的要因
第5章 協働行為の諸原則
第2部 公式組織の理論と構造
第6章 公式組織の定義
第7章 公式組織の理論
第8章 複合公式組織の構造
第9章 非公式組織およびその公式組織との関係
第3部 公式組織の諸要素
第10章 専門家の基礎と種類
第11章 誘因の経済
第12章 権威の理論
第13章 意思決定の環境
第14章 機会主義の理論
第4部 協働システムにおける組織の機能
第15章 管理機能
第16章 管理過程
第17章 管理責任の性質
第18章 結論

「●人材育成・教育研修・コーチング」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1582】 酒井 穣 『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト
○経営思想家トップ50 ランクイン(マーシャル・ゴールドスミス)

第一人者エグゼクティブ・コーチによる、CEO後継者選びとそのコーチングの在り方指南。

コーチングの神様が教える後継者の育て方2.jpg コーチングの神様が教える後継者の育て方.jpg   コーチングの神様が教える「できる人」の法則 2.jpg コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方 ,200_.jpg
コーチングの神様が教える後継者の育て方』『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』『コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方
マーシャル・ゴールドスミス.jpg 本書の著者マーシャル・ゴールドスミス(Marshall Goldsmith)は、エグゼクティブ・コーチングの第一人者であり、GEのジャック・ウェルチをはじめ、世界的大企業の経営者80人以上をコーチしたことで知られる人で、日本にも2008年、2011年、2013年、2014年と来日して講演やセミナーを行っています。著書の「コーチングの神様が教える」と冠したシリーズでは、本書『後継者の育て方』(原題:Succession: Are You Ready?)の前後に『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(原題:What Got You Here Won't Get You There)('07年/日本経済新聞出版社)と『コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方』(原題:Mojo: How to Get it, How to Keep it, How to Get it Back If You Lose it)('11年/日本経済新聞出版社)が訳出されています(共に共著)。

コーチングの神様が教える「できる人」の法則.jpgコーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方.jpg 最初の『「出来る人」の法則』では、経営トップになる目前の段階のエグゼクティブに見られる数々の"悪い癖"を指摘し、この癖を直さなければビジネスでも人生でも成功しないとして、そのためにはどうすべきかを説いています。後の『「前向き思考」の見つけ方』では、目標を達成するリーダーに必要なモジョ(アイデンティティ、成果、評判、受容)を手に入れるにはどうすればよいかを説いています。そして、(この真ん中にあたる)本書『後継者の育て方』では、後継者を選び、育て、地位をバトンタッチするという経営者としての最大の仕事を失敗しないようにするにはどうすればよいかを、後進に道を譲ることに備える、後継者を選ぶ、後継者をコーチングする、バトンを渡す、の4つの局面について説いています。

 パートⅠ「自分自身の準備をはじめる」では、第1章「ペースを落とす」で、後継者にリーダーシップのバトンを渡すには、まず、自分の「次の人生」を楽しく過ごす何かを計画しはじめ、自らの仕事のペースは落として次の人生に備えることが重要であるとしています。そして、第2章「手放して、前に進む」では、仕事から離れることは容易ではないが、特権、権力、ステータス、人間関係といったさまざまなものを手放して、自らが去る準備をするかたわら、別の形で人の役に立つ方法をみつけ、「次の人生」をすばらしいものにすべきであるとしています。交代のプロセスを始めたら、経営から手を引き、後継者を育成することに力を注ぎ、交代の時期が近づいたら、後継者の育成をやめ、新たな人生を築くことに力を注ぐようにとのことです。

 パートⅡ「後継者を選ぶ」では、まず、第3章「誰を後継者に選ぶか」で、外部から招聘したCEOが失敗したときのコストの大きさから、可能な限り社内で後継者を育成すべきであるとしています。そして、第4章「社内でコーチングする候補者を評価する」では、次期CEOのコーチングに際して、自分がその人物が次期CEOになることを心から望んでいるか、自分に正直に問うてみるとともに、その候補者は、重要な関わりを持つ人たちから公平な機会が与えられるか(重要な関わりを持つ人たちがその候補者に対して変えがたい否定的見解を抱いていないか)、候補者自身は心底変わろうと努力するか(昇進することしか考えていないといったことはないか)、といった評価のポイントを述べています。

 パートⅢ「後継者をコーチングする」では、第5章「コーチングにとりかかる」で、エグゼクティブ・コーチのあり方を説き、後継者は、CEOになる前にCEOとしてどのように行動するかを学んでおく必要があり、なった後では遅すぎるため、後継者の長所と課題を特定しなければならないとしています。そして、第6章「CEOのコーチ・ファシリテーターになる」では、後継者の過去の360度フィードバックなどを見直すことで、CEOの立場で成功するためのヒントを集め、育成の目標を設定しなければならないとしています。また、コーチングのプロセスに重要な関わりを持つ人を巻き込み、後継者が彼らから学ぶよう手伝う、言わばファシリテーターの役割を(現CEOが)担う必要があるとしています。

 パートⅣ「バトンを渡す」第7章「すばらしい門出」では、後継者に、彼が「選ばれた人」であることをどのように知らせるか、また、自分自身はどのようにして会社を去るべきかが書かれています。

 基本的には、トップがいかに後進に道を譲ればいいか、その際何を後継者に教え伝えるか、その心構えを含めて丁寧に書かれた啓蒙書です。エグゼクティブ・コーチングというのは、まだ日本ではそれほど行われていないかもしれません。CEOが一人の後継者を育成するケースに絞っているという意味では特殊であるかのように見えますが、著者自身が述べているように、人生の転換期にあるリーダーであれば誰でも使えるものとなっています。また、著者は、起業家タイプのリーダーの方が、大企業のCEOよりも、本書からヒント得られるところが大きいのではないかとも書いています。人事マニュアル本のように、リーダー交代を計画する際に考慮しなければならないことをすべて書き出したりはしていません。交代時の人間的な側面、行動に関わる側面に焦点を絞って書かれており、そのことが逆に、人事パーソンにとっては新鮮に感じられるかもしれません。コーチの視点を人事の視点というふうに置き換えて読めば、更に興味深く読めるかと思います

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人的資源管理(HRM)の基本項目と、それらを実行し、成功に導くためのポイントを示す。

ハーバード流人的資源管理「入門」0.jpgハーバード流人的資源管理「入門」.jpg   D. Quinn Mills.jpg D. Quinn Mills
ハーバード流人的資源管理「入門」

ハーバード流リーダーシップ[入門].jpgハーバード流マネジメント[入門].jpg ハーバード・ビジネススクールでリーダーシップや経営戦略を教えるダニエル・クイン・ミルズ教授による、『ハーバード流リーダーシップ[入門]』『ハーバード流マネジメント[入門]』に続く[入門]シリーズの第3弾であり(D. Quinn Mills"Principles of Human Resource Management"(2006))、人的資源管理(HRM)の基本項目や課題と、それらを実行し、成功に導くためのポイントを示した本です。

ハーバード流リーダーシップ「入門」』『ハーバード流マネジメント「入門」 (マインドエッジ)
   
ハーバード流人的資源管理「入門」2.jpg 序章においてまず、本書は、ライン・マネジャーと人事部門の協力関係について書かれた本であるとしています(本書は、人的資源管理は、ライン・マネジャーと人事部門の協力関係なしには成立しないとの考えに立っている)。ライン・マネジャーの役割は、人事制度は何を目的に設計されているかを理解したうえで、それを十分に活用し、担当部門の業績を向上させることにあり、一方、人事部門の役割は、ライン・マネジャーを助け、カウンセリングを行い、サポートすることであるとしています。そのうえで、人的資源管理には、1.チームの編成と育成、2.チームへのインセンティブ、3.公正な待遇、4.ワーク・ライフ・バランスの4つの分野があるとし、以下4章にわたり、各分野にどういった基本項目が含まれるか、それらを効果的に実行していくにはどうすればよいか、その際の人事部門とライン・マネジャーのそれぞれの役割は何かを解説しています。

 第1章「チームの編成と育成」では、①人的資源計画、②採用、③人的資本の形成、④コミュニケーションの4つの項目について解説しています。この章では、まず、人的資源計画を立てる際にはマネジャーを参画させ、また、人的資源計画の目標を長期事業計画と連動させることが重要であるとしています。また、人材争奪戦に勝つためにはどうすればよいか、効果的な採用活動を行うための手法や考え方を説いています。更に、人的資本とは何か、研修や教育においては大切なことは何かを説き、また、コミュニケーションによって従業員の満足度を高めるにはどうすればよいかを、ステップごとに解説しています。

 第2章「チームへのインセンティブ」では、①パフォーマンス・マネジメント(社員の業績管理)、②報酬、③福利厚生の3つの項目について解説しています。会社の成否はパフォーマンスにかかっており、では、パフォーマンスを改善する人事考課とはどのようなものかをまず解説しています。また、報酬制度について、一般的な給与体系を説明するとともに、その仕組みの意義や重要性を解説し、勤労意欲を高めるための報酬制度などを紹介しています。更に、福利厚生とは何か、その主なものを取り上げ、解説しています。

 第3章「公正な待遇」では、①均等な雇用機会、②従業員の権利の2つの項目について解説しています。この章では、均等な雇用機会を与えることの重要性を説くとともに、従業員とパートナーとして関係を築くためには、従業員の権利を尊重することが大切であるとしています。

 第4章「ワーク・ライフ・バランス」では、ワーク・ライフ・バランスの重要性を考え、従業員に対してカウンセリングを行って、仕事と生活のバランスをとることなどを提案しています。

 経営戦略と人的資源管理の融合から、適切な人材の採用、配置、育成、評価まで、人的資源管理の課題や基本項目を広くカバーした入門書でありながら、真に人を育成し、自己実現をサポートすることで、企業も伸びていけるという確信のもと、人事部門の役割を非常に能動的(戦略的)なスタンスで説いている本であり、通常の入門書にありがちな無味乾燥感はありません。それどころか、ライン・マネジャーと協働して人的資源管理を成功に導くために、人事パーソンとして知っておくべき多くのヒントが含まれているように思いました。

 例えば、人的資本の形成(研修)のところでは、ともすれば「社員教育」で一括りにさえがちな概念を、WAHTを学ぶ「訓練」と、WHYを学ぶ「教育」に分けていますが、この違いが認識されるだけでも、本書を読む価値はあるのではないかと思われます。

 法律に関する記述などの面で日米の違いはあるかと思いますが、本書を読んでいてそれほど突っかかり無く読めるということは、人事部の役割=人的資源管理(HRM)という面で、かつてほどの日米の違いは無くなってきているのかもしれません。

《読書MEMO》
●訓練とは、物事をどのように行うかを教えることである。教育は、それになぜかが加わる。この違いは重要である。ほとんどの組織で は幹部と有望な幹部候補だけが教育を受ける。それ以外の社員が受けるのは訓練である。
●人的資源計画で重要な3つの活動
・適切なスキルを備えた人材を特定し、適正な数だけ揃える
・彼らの勤労意欲を高め、優れた業績を達成する
・事業目標と人的資源計画のお互いの連動をはかる
●(研修の)真価を評価するためには、次の三つの評価を行うとよい。 第一に、参加者が何を学んだかを直接テストする。第二に、学んだ ことを使って職場で以前と異なる行動をとっているかを研修後に調 査する。第三に、研修後、個人あるいはグループの業績は向上した かを評価する。
●組織が学習する方法はいくつかあるが、その主なものは、個人が学習し、個人から集団へと知識を移転する方法である。その仕組みが整っていれば、組織にとって大きな強みになる。
●メンタリングは、後輩にとって非常に貴重な経験となることが多い。経験を積んだ人に自分自身のキャリアについて、あるいは自分が抱えている問題について質問を投げかけ、相談する機会である
●給料を補足する目的の賞与は、社員の業績に基づく場合が多い。これは一般的に三種類ある。標準的な一時金、利益分配、成果分配である。こうしたものに多額の費用をかける企業は多いが、残念ながらモチベーション効果は大方失われている。

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コンピテンシー・モデルを作成するような立場になれば、必読書としてトップにくる本。

コンピテンシーマネジメントの展開.gifコンピテンシー・マネジメントの展開1_3006.JPGコンピテンシー・マネジメントの展開1.jpg  コンピテンシー・マネジメントの展開 完訳版.jpg
コンピテンシー・マネジメントの展開―導入・構築・活用』[701年]/『コンピテンシー・マネジメントの展開(完訳版)』['11年]

 本書は、コンピテンシー・モデルについて、コンピテンシーとは何か、どのような内容が含まれるか、各職務に適切なコンピテンシー・モデルをどのように導入するかなどを具体的に提示した基本書です。

 第Ⅰ部では、産業・組織心理学におけるコンピテンシー追求の歴史を紹介し(第1章)(この第1章は、コンピテンシーの概念の提唱者であるデイビッド・マクレランドによるもので、彼が1973年に「インテリジェンスではなくコンピテンシーを評価する:Testing for Competence rather than~~ Intelligence」という論文を書いた経緯が書かれている)、さらに「コンピテンー」とは何かが定義されています(第2章)。

 第Ⅱ部では、コンピテンシーの測定尺度を定義し(第3章)、中間、上位層レベルの職務を調査した研究から発見された、平均的なパフォーマーから卓越したパフォーマーを峻別する20のコンピテンシーについて、達成とアクション(第4章)、支援と人的サービス(第5章)、インパクトと影響力(第6章)。マネジメント・コンピテンシー(第7章)、認知コンピテンシー(第8章)、個人の効果性に関わるコンピテンシー(第9章)の6群に分けて、一般的なコンピテンシー・ディクショナリーを紹介しています。

 第Ⅲ部では、コンピテンシー研究をデザインする際の指針を示しています(第10章)。さらに、行動結果面接(BEI)の実施(第11章)と、コンピテンシー・モデルの構築に向けてのデータ分析(第12章)について説明しています。実際にこれらの方法を実施するためには訓練と実習が要求されますが、本書ではそこまでは触れず、この方法がある状況でどれだけ適切であるかを決める際に役立つ指針を提供しています。

 第Ⅳ部では、それぞれの職種での成功を予見するコンピテンシーに関する発見を紹介しています。ここでは、技術職および専門職(第13章)、セールス職(第14章)、支援・人的サービスの従事者(第15章)、管理者(第16章)の各職種についての、一般的コンピテンシー・モデルが紹介されています。

 第Ⅴ部では、人材マネジメントに対するコンピテンシー・データの活用について、採用・配属・定着・昇進・評価・選考(第17章)、パフォーマンス・マネジメント(第18章)、後継者育成計画(第19章)、能力開発とキャリアパス(第20章)、報酬(コンピテンシー・ベース・ペイ)(第21章)のそれぞれについて紹介し、さらに、コンピテンシー・ベースの人事管理(HRM)の将来の方向性について述べています。

 コンピテンシーに関する研究を整理し、詳細なコンピテンシー・ディクショナリーを提示している本であり、コンピテンシー・モデルやコンピテンシー・マネジメントの議論をする際には、この本で提示されているコンピテンシー・ディクショナリーをベースにすることが多いのではないでしょうか。さらに、この本では、コンピテンシー・モデルの開発の方法論についても詳しく議論されており、コンピテンシー・モデルの活用方法についても詳しく述べられていいます。要約すれば、この本1冊あれば、コンピテンシーマネジメント(コンピテンシー・ディクショナリーの開発・活用)に関する一通りの知識を身につけることのできる本であり、仮にコンピテンシー・モデルを作成するような立場になれば、本書は必読書としてトップに位置するかと思います。

 原著"Competence at work"(1993)と比較すると第17章・第23章・第24章の3章分、丸々省かれています。そのことは訳者前書きで予め断られていますが、原著者らが選んだ21のコンピテンシーというのが訳書では20になっているのが、割愛された章とは関係が無いはずはないだけに、ちょっと気に掛かりました。やはり原著もちょっとだけでも見た方がいいのかと思ったら、2011年に完訳版が刊行されました。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)

《読書MEMO》
●目次
第1部 コンピテンシーの考え方(序に代えて(デイビッド・C・マクレランド)(コンピテンシーとは何か)
第2部 コンピテンシー・ディクショナリー(コンピテンシー・ディクショナリーの構築、達成とアクション ほか)
第3部 コンピテンシー・モデルの開発(コンピテンシー研究をデザインする、行動結果面接(BEI)の仕方 ほか)
第4部 研究結果の検討:一般コンピテンシー・モデル(技術者および専門職、セールス職 ほか)
第5部 コンピテンシー・ベースの応用(採用、配属、定着、昇進における評価と選考、パフォーマンス・マネジメント ほか)

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やや浅いが、リテンション・マネジメントのポイントを概観・再確認するには良い本。

なぜ、御社は若手が辞めるのか5.JPGなぜ、御社は若手が辞めるのか.jpg  山本寛 青山学院大学経営学部.jpg 山本寛・青山学院大学経営学部教授
なぜ、御社は若手が辞めるのか 日経プレミアシリーズ』(2018/06 日経プレミアシリーズ)

本書は、データや退職者の生の声をもとに、若手が辞めていく会社はどこに問題があるのか、社員が定着するためにはどのようなマネジメントが求められるのかを探った本です。

 第1章では、8割の上司が、「辞めてほしくない部下」の離職を経験しているというデータを示し、退職が退職を生むスパイラル「連鎖退職」や、若手がある日突然出社しなくなる「衝動的離職」といった問題を取り上げ、ハイパフォーマー社員が辞めた時の損失の実態を分析し、社員を「辞めさせない」ためのマネジメント(リテンション・マネジメント)の必要を説いています。

 第2章では、データやインタビューから若手・中堅の転職事情(退職を選ぶ理由等)を探り、悩みつつも辞めなかった人の本音も聞いて、辞めた社員との比較から見たリテンションのポイントとして、「働きがい」「会社の姿勢方針」「人間関係の良し悪し」を挙げています。

 第3章では、社員が辞める会社と辞めない会社の違いがどこにあるのかを分析し、「人を大切にする」「風通しが良い」社風では社員は辞めにくいとしています。その上で、「社員が辞めない会社」の組織風土とはどのようなものか、部下が辞めるのは上司の問題なのか、などをインタビューやデータから分析しています。社員の声と企業の声を比較すると、「適切な配置」の重要性について両者の考えは一致する一方、社員が重視するのは「給料」であるのに対し、会社が重視するのは「研修」であるが、社員は「教育は特に求めていない」というのが本音で、給与で大事なのは「納得感」であるとしています。

 第4章では、実際に社員定着のためにできることは何か、リテンション・マネジメントのポイントとして、①採用、②異動と「適性配置」、③報酬、④評価の仕方や方針、⑤労働時間、⑥研修、⑦福利厚生、⑧キャリア形成支援、⑨組織や職場でのコミュニケーション施策、⑩きめ細やかな退職管理、などを掲げ、それぞれについて働く人や人事部の声を拾い、また、テーマごとに企業の取り組み事例を紹介しています。

 第5章では、アンケート調査などを踏まえた上で、働き方改革とリテンションの関係について考察し、「副業OK」で会社の魅力は高まり、会社にもメリットをもたらすとしています。また、働き方改革には、「働きがい」と「働きやすさ」の2つの軸があるとして、ある企業の取り組みをこの2軸に沿って紹介しています。

 統計データやアンケート調査をフルに使い、働く人の生の声も多く取り上げて課題を抽出・整理しているため、分かりやすく説得力もあります。また、リテンション・マネジメントに取り組む会社の事例も数多く紹介されていて、実務上もある程度参考になると思います。一方で、分析がオーソドックスである分、分析結果にさほど目新しさはなく、また、紹介されている事例の数が多い分、1つ1つはやや浅い印象も受けました。

 リテンション・マネジメントのポイントを概観・再確認するには良い本であり、人事パーソンのみでなく、現場の上司(マネジャー)が読んでも啓発効果があると思われる点では、新書の特性を生かしているかと思います。

《読書MEMO》
●目次
第1章 社員に捨てられる会社(期待の若手が去った後...;8割の上司が、「辞めてほしくない部下」の離職を経験? ほか)
第2章 若手はこうして会社を辞める(「本音の見えない退職」が企業を苦しめる?;転職した人の半数以上は新しい会社に満足している? ほか)
第3章 社員が辞める会社・辞めない会社の境界線(辞めやすい会社・辞めにくい会社1 雇用主の魅力度;人材が定着する会社の共通点 ほか)
第4章 社員の定着のためにできること―リテンション・マネジメントのポイント(ポイント1 採用―入社してから対策していては遅い;「入社後のギャップ」は少ない方が良い? ほか)
第5章 働き方改革とリテンション(生産性の前にリテンション!;「副業OK」で会社の魅力は高まる ほか)

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物事の本質を見透かす力と逆説的なユーモアのセンスが光る。

パーキンソンの法則ー.JPG パーキンソンの法則.jpg パーキンソンの法則 上野訳.jpg
パーキンソンの法則 (至誠堂選書)』['96年]/『新編パーキンソンの法則―先進国病の処方箋 (1981年)
パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (1965年) (至誠堂新書)
パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (1965年).jpg 1958 年に原著が刊行された「パーキンソンの法則(Parkinson's law)」は、英国の歴史学者・政治学者シリル・ノースーコート・パーキンソン(Cyril Northcote Parkinson)が英国エコノミスト誌(1955/11/19 号)に発表した風刺コラム「Parkinson's law」から始まっています。彼は英国の官僚制度に関する研究を行い、官僚制度(企業の管理機構等も含む) に内包する問題点・非合理性を鋭い観察眼で指摘して、世の共感を得、日本でも「パーキンソンの法則」が流行語になるほど普及しました。

 「パーキンソンの法則」とは―、
第1法則: 仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する、
第2法則: 支出の額は、収入の額に達するまで膨張する、
第3法則: 拡大は複雑化を意味し、組織を腐敗させる、
凡俗法則: 組織はどうでもいい物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く、
 ―以上のようなものを指すとされていますが、第1法則も第2法則も官僚世界では「時間はあるだけ使ってしまう」「金はあるだけ使ってしまう」という「貴重な資源を使い切ってしまう」点で共通性があります。

 邦訳は、翻訳者によって取り上げる章とその順序が異なりますが、ここでは、原子核物理学者の森永晴彦氏の訳による至誠堂選書版『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』('81年4月)に概ね準拠します。

 第1章「パーキンソンの法則-公務員は如何にしてふえるか」では、役人の数は、仕事の量や有無に関係なく増えるとし(パーキンソンの第1法則)、①役人は部下を増やすことを望むが、ライバルは望まない、②役人は互いのために仕事をつくり合う、の2つがその動因だとしています。自分の仕事が過重だと感じるようになった役人Aは、1.辞めるか、2.同僚Bと仕事を分かち合うか、3.2人の部下C、Dの助力を求めるかで、この中で3番目の方法以外が選ばれたことは歴史的に殆どないとしています。そして、英国の植民地省の役人の人数が、英国の植民地が次々独立して植民地でなくなって行く過程でもその数は増え続けたという実証例に挙げ、時として大企業でも、役所と同類のこうした大企業病と言われる事態に陥ることがあるとしています。

 第2章「民衆の意思-中間派の理論」では、議会制度における(議題を理解する能力のない)中間派の操縦法を説いています。会議の決議においては中間派の票が最終的に重要であり、議会における勝利を得るためのキーは、反対者の説得ではなく、明確な意見を持たない中間層を引き込むことであり、それは会場の議席の配置によっても大きな影響を受けるとしています。

 第3章「高度財政術-関心喪失点」では、予算審議に必要な時間は、金額が巨大になりイメージが沸かなくなればなるほど短くなるとしています。内容が難しい事案ほど短時間で議決され、誰にでも判る簡単な事案の審議時間は長くなる、つまり、誰でも口を出せる事案では発言者が多くなり、審議時間が長くなるとしています(パーキンソンの凡俗法則)。本書では、原子力に関する議題は理解できる人が殆どいないために5分間で採決されてしまうが、役所で使う事務用品などの議題では誰もが一見識をひけらかし、採決に2時間もかかり、その後出席者は、自分は有益な仕事をしたとの満足感で議場を去る―と皮肉を込めて書かれています。

 第4章「閣僚の定数-非能率の係数」では、委員会の最適な人数は5人~7人程度で、20人を超えると運営不可能になるとしています。従って、内閣や委員会において、そのメンバーは22人未満とすべきであり、22人以上であればその組織は有効なものになり得ず、構成メンバーの機能としては、大蔵、外務、防衛、法務の5人に限ればそれが良いとしています。

 第5章「人選の原理―採用試験と求人広告」では、旧式の英国式面接では人材の採否は家柄で決定した一方、中国(科挙制度)では多くの選抜を経て官吏登用者が決まったとしています。今後の求人の在り方としては、人材取得に時間をかけることを避けたいのであれば、募集内容に具体的な内容を記載すれば良いとし、1人の求人に対して応募者1人というのが最も望ましいが、そのためにはどのような求人広告を出せばよいかをユーモラスに説いています。

 第6章「非建設的建築-行政のしこり」では、立派な建造物は組織の衰退の兆しであるとしています。ある組織の立派な建造物の建設計画はその組織の崩壊点に達成され、その建築が有効活用されることは少なくともそのとき必要とされた組織によってはされない。その完成は組織の終息や死を意味すること(パーキンソンの第3法則)を、ルイ王朝の宮殿を例に引いて説いています。

 第7章「人物映写幕―カクテル・パーティーの公式」では、カクテル・パーティーにおける重要人物の見分け方を説いています。その人物は、パーティ開始後75分から90分後に遅れてやって来て、E7(会場を左からA,B,...Eと分け、入り口から奥に向かって1,2,3...8と分けたときのE7の方形)の中におり、グループの中心となっている人物であるとしています。

 第8章「劣嫉症(インジェリティティス)-組織病理学」では、組織のマヒは、「劣嫉症の出現:劣嫉症(第1期)」→「優秀な人物の排除:独善(第2期)」→「劣嫉症のみの組織の形成:無関心(第3期)」の順で進行するとしています。治療の原則は、①治療を行うものと、治療をうけるものが同一人物ということはあってはいけない。②第1期と第2期は治療可能であるが、第3期は治療不可であること。治療の方向性として、第1期は、叱咤激励、報奨の実施、第2期は外部からの人材補充による組織の活性化、第3期は隔離し、速やかに組織を潰すことであるとしています。

 第9章「苦力(クーリー)百万長者の話―中国風成功」では、中国人のお金持ちは決して目立ってそれを表すことはなく、その理由は、目立てば、身代金、納税、マスコミ対策に対する出費がかさむからであり、逆に、目立ってそれを見せている人は、そのような対策を気にする必要も無いほどの権力を得た者たちであるとしています。

 第10章「恩給点の解析―退職の潮時」では、退職する側とその後を引き継ぐ者の年齢差から適切な退職時期について考察しており、退職させる方法としては、退職させるべき人を退職させるためには、海外の視察をハードスケジュールで行わすといったものが挙げられるとしています。

 本書の内容は、「膨大な研究のもとこれらが纏め上げられた」とのことですが、その中には確かに数学的根拠に基づいているものもありますが、むしろ、著者の経験則からくる物事の本質を見透かす力と逆説的でアイロニカルなユーモアのセンスが大きく反映されているように思います。

 本書が書かれた1950年代の終わりは、人間関係論学派が米国で開花し、大量生産と並んではびこっていた官僚主義が批判に晒されていた時期と一致します。マックス・ウェーバーの予言した「書類を生産する機会」という官僚モデルが現実のものとなり、何層にも重なる管理担当者によって組織の動脈硬化が進行していた時期に書かれたものではありますが、そうした1958年という企業における官僚主義の絶頂期において書かれたものが、今現在においても読む者の共感を呼ぶのは、人と組織の関係性というものは一定の普遍的特性を持っていて、変わろうとしてもそう簡単に変われるものではないということの証しではないでしょうか。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

パーキンソンの法則―はだかの経営学.jpgパーキンソンの第2法則.jpg
森永晴彦 訳[至誠堂]...【1961年6月単行本(『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』)/1965年新書版(『パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (至誠堂新書)』)/1981年選書版(『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本 (至誠堂選書2)』)】
上野一郎[ダイヤモンド社]...【1981年3月単行本(『新編 パーキンソンの法則―先進国病の処方箋』)】

パーキンソンの成功法則 (1963年)
パーキンソンの第2法則かねは入っただけ出る (1965年) (至誠堂新書)

《読書MEMO》
●至誠堂選書版『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』('81年4月)森永晴彦(原子核物理学者)氏訳
1 パーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるかパーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるか
2 民衆の意志―中間派の理論―
3 高度財政術―関心喪失点―
4 閣僚の定数―非能率の係数―
5 人選の原理―採用試験と求人広告―
6 非建設的建築―行政のしこり―
7 人物映写幕―カクテル・パーティーの公式―
8 劣嫉症(インジェリティティス)―組織病理学―
9 苦力(クーリー)百万長者の話―中国風成功法―
10 恩給点の解析―退職の潮時―
●ダイヤモンド社版『新編パーキンソンの法則―先進国病の処方箋』('81年3月)上野 一郎(学校法人産業能率大学理事長)氏訳
政府
1 パーキンソンの法則 ― 役人はどんどん増える(至誠堂版1 パーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるか)
2 二十一年後 ― 私の預言は当たったか
3 パーキンソンの第二法則 ― 金は入っただけ出る
財政
4 些事こだわりの法則 ― 関心得失の分岐点(至誠堂版3 高度財政術―関心喪失点)
5 課税の限界 ― 二0パーセントをこすと...
6 税金のがれ ― 節税と脱税
人事
7 適格者選択の原理 ― 総理大臣の選び方(至誠堂版5 人選の原理―採用試験と求人広告)
8 ナンバー2 ― あなたは社長になれるか
9 先輩を退陣させる法 ― 退職の潮時(至誠堂版10恩給点の解析―退職の潮時)
戦術
10 嫌な奴="ノー・マン" ― 役所でOKをもらう法
11 引延しの法則 ― 「ノー」といわずに「ノー」という法
12 大衆の意思 ― 中間派が決定を左右する(至誠堂版2 民衆の意志―中間派の理論)
組織
13 閣僚の数は何人が適性か ― 能率、非能率の分岐点(至誠堂版4 閣僚の定数―非能率の係数)
14 劣等感とやきもちの病 ― 停滞組織の治療法(至誠堂版8 劣嫉症(インジェリティティス)―組織病理学)
15 建物が豪華になると ― 組織衰退の徴候(至誠堂版6非建設的建築―行政のしこり)
法則
16 真空の法則 ― 打つ手が悪いと...

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○経営思想家トップ50 ランクイン(スコット・アダムス)

分かりやすいのは、コミックであるためだけでなく、企業組織が抱える問題の普遍性を突いているため。

ディルバートの法則011.jpg ディルバートビジネス社会の法則.jpg ディルバートの法則3004.JPG
ディルバートの法則 (MAC POWER BOOKS)』['97年]/『ディルバート ビジネス社会の法則―会社の備品をくすねて優雅に暮らそう』['96年] [下]ペーパーバック/『THE DILBERT PRINCIPLE―英和対照で読むディルバートの法則 (洋販E‐Jライブラリー)』['97年] Scott Adams
THE DILBERT PRINCIPLE_.jpg THE DILBERT PRINCIPLE―英和対照_.jpgスコット・アダムズ adamsscott.jpg 本書の元々のベースは、ディルバートというシステムエンジニアを主人公にしたコミックで、官僚的な職場や無能な上司を皮肉ったユーモアで知られる新聞連載のコマ割り漫画です(最近はどうかよく分からないが、日本でもかつて英字新聞などで読んだ人は結構いるように思う)。本書の原著である1996年の単行本刊行に際し、テーマごと分けられた全26章のそれぞれに、コマ割り漫画と併せて作者がユニークな解説を施し、また章末には、従業員から寄せられたメールなどが紹介されています(作者は単行本を出す直前1995年までパシフィック・ベル社勤務と兼業)。この本は刊行された年の秋までに130万部売れ、ウォールストリート・ジャーナルのベストセラー覧に43週間載り続けました。漫画そのものは、リストラ、ダウンサイジング、ハイテクとローテクの対立などをテーマにしています。日本の企業にはパーティション文化というのはあまり根付いていませんが、それでもSEである主人公のディルバートがパーティションの視点から見たボス、会議、流行の経営理論など"職場の苦痛"の数々とそれを回避しようとする彼の奮闘は、会社勤めの経験がある人ならば誰でも充分理解可能なのでは。翻訳者の山崎理仁氏はあとがきで「オフィスワーカーの知的健康飲料」としていますが、まさにそうと言えます(因みに、解説はデーブ・スペクター氏)。

 第1章「ディルバートの法則」では、「能力のある者は自分が無能となるレベルに達するまで昇進し続ける」という所謂"ピーターの法則"を引いて、今日では無能な人間がひとっ跳びで管理職に昇進しているとし、「もっとも無能な社員はもっとも実害を及ぼしにくいポスト―管理職へと組織的に異動させられる」という"ディルバートの法則"を打ち立て、ピーターの法則はディルバートの法則その地位を譲るとしています。つまり、この法則は、無能な者は害をなさないように意図的に昇進させられ、その結果、組織の上層部は実質の生産に殆ど寄与せず、大部分の現実的、生産的な仕事は下層部の人々によってなされているという考えに基づいていることになります。

 以下、各章において、オフィスで起きている様々な出来事への洞察から得られた、皮肉とユーモアに満ちた数多くの《知見》が、コマ漫画と併せてビジネス界で生き残るための自己防衛戦略のヒントとして提示されています。"ディルバートの法則"自体も風刺の一形式として見るべきでしょうが、第1章も含め、以下、各章で述べられていることのほとんどがアイロニー表現となっているのは言うまでもありません。

 第2章「屈辱」では、社員の士気は上がりすぎると危険であり、社員の生産性が最も上がる適度なレベルの士気とは、「幸福だが、あまりうぬぼれていない」状態のときであるとし、社員の満足度を損なわずに自尊心を"生産性の上がる"レベルに抑えるために、ビジネス界では社員の業績を過小に評価するなど、社員に屈辱を与える様々なテクニックが用いられるとしています。

 第3章「ビジネス・コミュニケーション」では、ビジネス・コミュニケーションの真の目的は情報の正確な伝達ではなく、自分のキャリアの発達を図ることであり、このことは「情報を明確に伝達する」発想とは相容れず、なぜならば、明確なコミュニケーションはトラブルの基であり、何も断言しなければ間違いを犯す可能性はないからだとしています。

 第4章「管理職の大ウソ」では、「社員こそもっとも大切な資産」「何でもオープンに話し合おう」「リスクを負う者には報いよう」など管理職が常用するウソの定番を掲げています。「君の提案が大切だ」という言葉もウソであり、「社員の提案=仕事の増加=悪」という等式が真であるとしています。

 第5章「マキャヴェリ的方法」では、アドバイスを求めてきた同僚に対し「似非アドバイスを与えよ」としており、それは同僚を会社の出世コースから蹴落とすチャンスなのだからとしています。第6章「従業員の戦略」では、「実労働+見かけの労働=総労働」という公式を打ち出し、実労働を増やさずに総労働を一定の値に保つよう心がけよとしています(コンピュータを使って多忙さを装うのもいいと)。

 第7章「勤務評定」では、勤務評定の目的は「あなたをローマの果樹園の奴隷のように働かせること」「生産性の罪を自白させ署名させること」「あなたの安月給を正当化すること」にあるとしています。第8章「働くフリ」では、実際には"忙しくない"のに"忙しそうに見せる"様々なテクニックを紹介しています(「チームのコンサルタントになる」というのは言い得て妙)。

 第9章「悪態」では、女性は悪態をつくことが出世の鍵となるとし、第10章「思い通りにコトを進める」では、会議で自分の意見だけがまともだと皆に分からせる「ツルの一声作戦」を紹介しています(わざと誰かに間抜けな提案をさせて、参加者が紛糾し疲れて会議終了時刻が迫ったところで、あたかも今までの議論の結論のように自分の意見を言う)。

 第11章「マーケティングとコミュニケーション」では、いい広告によって、ひどい製品でも人々に売りつけられるため、洗脳作業に投じる1ドルは製品改良に投じる1ドルよりも費用対効果が高いとしています。第12章「経営コンサルタント」では、コンサルタントとは、会社から金を取って社員をいらだたせ、ひたすらコンサルティング契約を引き延ばす手口について考えている人間だとしています。

 第13章「事業計画」では、事業計画は「1.情報の収集」と「2.収集した情報の無視」の2大ステップを踏んで作られるとし、第14章「エンジニア、科学者、プログラマー等の変人」では、彼らが普通の人とどう違うのかを解き明かしています。

 第15章「変革」では、変革はコンサルタントによって引き起こされ、そのうえ、変革をどう処理すればいいかを教えてもらうためのコンサルタントが必要となり、変革が終わると、また変革した方がいいと教えてくれるコンサルタントが必要になるとしています。

 第16章「予算編成」では、予算のパイから分け前を確実にもらうには、必要額を誇張することであり、自分の要求した予算を裏付ける分かりづらいグラフや表を常に提出せよと。そして、たとえ何をしようと、年度の終わりには予算を一銭たりとも残さないこと! だとしています。

 第17章「セールス」では、会社の製品が高すぎるうえに欠陥商品だとしても、出来のいい販売奨励プランを使ってその埋め合わせは可能であるとし、会社の売上げが低いのは営業部員に適切な動機付けがなされていないためであって、この状態を解決するにはノルマを引き上げ、営業部員に「A.欺瞞と背信に満ちた人生」と「B.ハウストレーラー生活」の二者択一を迫るだけでいいと。

 第18章「会議」では、会議は一種のパフォーマンス芸術であり、個々の俳優は、自明の達人、善意のサディスト、グチる殉教者、長々男、眠り居士などの役割を演じればよく、例えば「善意のサディスト」を演じるには正直と献身と反社会的態度を組み合わせればよいとしています。

 第19章「プロジェクト」では、プロジェクトの成功のカギを握るのは、「1.運」と「2.すごいプロジェクト名」であると。第20章「ISO9000」では、ISO900とは、退屈したヨーロッパ人がビールをがぶ飲みし、世界中の大企業をからかうことにした、そのイタズラが後にISO9000として知られるようになったのだと。

 第21章「ダウンサイジング」では、縮小を図る企業から最初に逃げ出すのはもっとも賢い連中で、彼らは"退職手当"を手に入れ、直ちに別のもっとマシな仕事にありつくが、残ったノロマ社員は、仕事の質は低いが長時間働いて埋め合わせをする―そして、優秀な人材がみな逃げたあと、企業はダウンサイジングに肯定的な響きを持たせて社員の士気を高めようとしてこれをライトサイジングなどと呼んだりすると。

 第22章「企業の破滅を見抜く法」では、破滅の前兆として、パーティション、チームワーク、管理職へのプレゼンテーション、組織再編、プロセス(管理)を挙げています。

 第23章「リエンジニアリング」では、リエンジニアリングは、企業がもともと抱えていた問題を、細かい品質管理ユニットとして処理する代わりに、けた外れの規模で解放してしまうリスクがある、つまり、企業の無能さが一気に解放されるとしています。

 第24章「チームワーク育成訓練」では、チームワーク育成訓練のルーツは監獄制度であり、典型的なチームワーク育成訓練では、従業員は団結力のあるチームかカージャックの一味になるまで、様々な不快な状況に置かれるとしています。

 第25章「リーダー」では、リーダーにとってもっとも大切な技能は、ひとりでにおこることを自分の手柄にする才能であり、リーダ-ーとは生まれつきの才能なのか、作られるものかという質問に対し、作られたものなら、保守期間内に返品することは可能なのだろうか?と問うています。また、リーダーとは、誰が見ても明らかに無意味か、あるいは危険でさえあるような選択ができる人種であり、そうした"平均的"人間から見て明らかに筋の通らない選択をするリーダーは、「1.あまりに賢く、誰もその先見の明を理解できない」か「2.マヌケ」かのいずれかだと断定できるとしています。

 第26章「新しい企業モデル―OA5」では(この最終章のみストレートに真面目な提案になっている)、5時に退社する従業員は尊敬されない現状を見直すべく、5時に帰る従業員が与えられた仕事を充分にこなし、誰もがそれを認めることを保証するのが新しい企業モデルであるとしています。

 風刺とユーモア満載ですが、働く側からすれば翻訳者の山崎理仁氏が言うように「オフィスワーカーの知的健康飲料」であり、逆にマネジメントする側から見れば、どうすればそうならずに済むかを探るうえで多くの気づきを与えてくれる「反面教師」的な書です。漫画がケーススタディとなっているため分かり易いです。しかし、元アップルのガイ・カワサキ氏が「企業には二種類ある。自社がディルバートに似ていることを自覚しているもの、そしてディルバートに似ているがそれをまだ自覚していないもの」と言っているように、分かり易さのベースには、企業の職場や組織が抱える問題の普遍性を突いているということがあるのではないかと思います。今までも触れることはありましたが、こうしてまとめ読みすると、漫画だからと言って侮れず、スコット・アダムス、恐るべし、といった感じ、MBAでも読まれていたりするようです。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

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○経営思想家トップ50 ランクイン(リンダ・グラットン)

働き方の未来を明るいものとするための3つのシフト。"意識高い" 系だが、示唆に富む。

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ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

ワークシフト1.jpg 2025年、われわれはどんなふうに働いているのか? ロンドンビジネススクール教授であり、経営組織論の世界的権威で働くことについて研究し続けてきた著者(英タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」のひとりでもある)が、「働き方に大きく影響する『五つの要因(32の要素)』」を基に、2025年を想定した働き方の未来を予測した本です。

 序章において、未来を理解し、未来ストーリーを描いて自分の選択の手掛かりにし、職業生活に関するいくつかの常識を根本から〈シフト〉させれば、より好ましい未来を迎える確率を高められるとして、働き方を変える三つの〈シフト〉を提唱しています。

 第1部「なにが働き方の未来を変えるのか」(第1章)では、働き方の未来を形づくる五つの要因として、①テクノロジーの進化、②グローバル化の進化、③人口構成の変化と長寿化、④社会の変化、⑤エネルギー・環境問題の深刻化、を挙げて、それぞれ解説しています。

 第2部と第3部では、これら五つの要因の組み合わせを基に、2025年の人々の働き方の予測シナリオを架空の人物ストーリーとして描いています。

 第2部「『漫然と迎える未来』の暗い現実」(第2章~第4章)では、暗い未来予測図として5人のストーリーがあり、3分間隔でいつも時間に追われ続ける未来(第2章)、人とのつながりが断ち切られ、孤独にさいなまれる未来(第3章)、繁栄から締め出された新たな貧困層が生まれる未来(第4章)が描かれています。

 第3部「『主体的に築く未来』の明るい日々」(第5章~第7章)では、明るい未来予測図として7人のストーリーがあり、みんなの力で大きな仕事をやり遂げるコ・クリエーションの未来(第5章)、積極的に社会と関わることで共感とバランスのある人生を送ることができる未来(第3章)、ミニ起業家が活躍し、創造的な人生を切り開く未来(第4章)が描かれています。

 第4部「働き方を〈シフト〉する」(第8章~第10章)では、冒頭に示した第一のシフトとして、ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ(第8章)、第二のシフトとして、孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ(第9章)、第三のシフトとして、大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ(第10章)という三つのシフトについて解説しています。

 第8章「第一のシフト―ゼネラリストから『連続スペシャリスト』へ」では、なぜ、「広く浅く」ではだめなのか? 高い価値をもつ専門技能の三条件とは何か、未来に押しつぶされないキャリアと専門技能とは何かを解説し、あくまでも「好きな仕事」を選ぶこと、移動と脱皮で専門分野を広げること、セルフマーケティングを通して、カリヨン・ツリー型のキャリアを築くことの重要性を説いています。つまり、1つの企業でしか通用しない技能で満足せず、高度な専門技術を磨き、他者との差別化をするために「自分ブランド」を築くことが肝要であるということです。

 第9章「第二のシフト―孤独な競争から『協力して起こすイノベーション』へ」では、未来に必要となる三種類の人的ネットワークを掲げ、ポッセを築くこと、ビッグアイデア・クラウドを築くこと、自己再生のコミュニティを築くことを勧めています。難しい問題に取り組む上で頼りになる少人数の「同志(ポッセ)」グループとイノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢のネットワーク(ビックアイデア・クラウド)と打算のない友人関係(自己再生のコミュニティ)という三種類のネットワークを構築することが求められるということです。

 第10章「第三のシフト―大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ」では、なぜ、私たちはお金と消費が好きになったのかを考察し、消費より経験に価値を置く生き方へシフトすることを説いています。経済・消費第一優先から、家族や趣味、社会との絆といった創造的経験を重んじる生き方に転換することになります。

 ある種「未来学」ではありますが、データの裏付けがあって説得力があり、また、働き方の未来図を人物ストーリーとして描いているために分かり易いです。一方で、著者が提唱する〈シフト〉は、あまりに"意識高い"系であり、ついていけないと感じる読者もいるかもしれません。しかし、世の中は次第に著者の描く未来図に近づいていくのではないでしょうか。それを「明るい未来」とするにはどうすればよいか考える上で多くの示唆を含んだ本であり、働き方のこれからやキャリアというもの考えるにあたって欠かせない1冊であることは間違いないと考えます。

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント) 
【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

ワーク・シフト LIFE SHIFT.JPG ライフ・シフト2.jpg リンダ・グラットン 来日1.jpgリンダ・グラットン 2016年10月来日『LIFE SHIFT』発売記念講演「100年時代の人生戦略」

《読書MEMO》
●未来を形づくる5つの要因と32の要
要因1.テクノロジーの進化
①テクノロジーが飛躍的に発展する。
②世界の50億人がインターネットで結ばれる。
③地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる。
④生産性が向上し続ける。
⑤「ソーシャルな」参加が活発になる。
⑥知識のデジタル化が進む。
⑦メガ企業とミニ起業家が台頭する。
⑧バーチャル空間で働き、「アバタ―」を利用することが当たり前になる。
⑨「人工知能アシスタント」が普及する。
⑩テクノロジーが人間の労働者に取って代わる
要因2.グローバル化の進展
①24時間・週7日休まないグローバルな世界が出現した。
②新興国が台頭した。
③中国とインドの経済が目覚ましく成長した。
④倹約型イノベーションの道が開けた。
⑤新たな人材輩出大国が登場しつつある。
⑥世界中で都市化が進行する。
⑦バブルの形成と崩壊が繰り返される。
⑧世界のさまざまな地域に貧困層が出現する。
要因3.人口構成の変化と長寿化
①Y世代の影響力が拡大する。
②寿命が長くなる。
③ベビーブーム世代の一部が貧しい老後を迎える。
④国境を越えた移住が活発になる。
要因4.社会の変化
①家族のあり方が変わる。
②自分を見つめ直す人が増える。
③女性の力が強くなる。
④バランス重視の生き方を選ぶ男性が増える。
⑤大企業や政府に対する不信感が強まる。
⑥幸福感が弱まる。
⑦余暇時間が増える。
要因5.エネルギー・環境問題の深刻化
①エネルギー価格が上昇する。
②環境上の惨事が原因で住居を追われる人が現れる。
③持続可能性を重んじる文化が形成されはじめる。

●ワーク・シフト:3つのシフト
第一のシフト:ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
•ゼネラリスト的な技能から専門技能の連続的習得へシフト
•資本:知的資本
•資質:①専門技能の連続的習得、②セルフマーケティング
•対応:広く浅い知識を持つのではなく、いくつかの専門技能を連続的に習得する。そのためには、時間とエネルギーをつぎ込む覚悟をする。
•高い価値を持つ専門技能の条件
①価値を生み出す、②希少性がある、③模倣されにくい。
•いくつもの小さな釣り鐘が連なって職業人生を形作る「カリヨン・ツリー型」のキャリアが主流となる。
第二のシフト:孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
・個人主義、競争原理から人間同士の結びつき、コラボレーション、人的ネットワークへシフト
・資本:人間関係資本、人的ネットワークの強さと幅広さ
・対応:高度な専門知識と技能を持つ人たちと繋がり合って、イノベーションを成し遂げることを目指す姿勢に転換する。仕事とそれ以外の要素のバランスを取り、新たに重要となる活動に時間を割く。
・人的ネットワーク
①ボッセ:同じ志を持ち、頼りになり、長期にわたる互恵的な関係(少人数)
②ビックアイデア・クラウド:大きなアイデアの源となる群衆
③自己再生のコミュニティ:頻繁に会い、リラックスしできる人達
第三のシフト:大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ
・貪欲に大量のモノを消費し続けるライフスタイルから質の高い経験と人生のバランスを重んじる姿勢へシフト
・資本:情緒的資本、自分の選択について深く考える能力、勇気ある行動を取るための強靭な精神を育む能力
•対応:際限ない消費に終始する生活をやめ、情熱を持って何かを生み出す生活に転換する。やりがいとバランスのとれた働き方に転換する。
・「お金のためだけに働く」という古い考えでなく、「働くのは、充実した経験をするためで、それが幸せの土台」となる。自分の生き方と選択に責任と理解を持つ。
自分の未来予想図を描くためのプロセス
1.不要な要素を捨てる。
2.重要な要素に肉づけをする。
3.足りない要素を探す。
4.集めた要素を分類し直す。
5.一つの図柄を見いだす。
未来に押しつぶされないキャリアと専門技能
1.今後価値が高まりそうなキャリアの道筋
・草の根の市民活動
・社会起業家
・ミニ起業家
2.特に重要性を増す専門技能
・生命科学・健康関連
・再生可能エネルギー関連
・創造性・イノベーション関連
・コーチング・ケア関連
第二のシフトは、難しい問題に取り組む上で頼りになる少人数の「同志(ポッセ)」グループとイノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢のネットワーク(ビックアイデア・クラウド)と打算のない友人関係(自己再生のコミュニティ)という三種類のネットワークを構築すること。
第三のシフトは家族や趣味、社会との絆といった創造的経験を重んじる生き方に転換すること。

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フリーエージェントになった人が読んで、フリーエージェントになって良かったと思える本。

フリーエージェント社会の到来 kyu.jpg  フリーエージェント社会の到来  sin.jpg フリーエージェント社会の到来7.jpg
フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』['02年]『フリーエージェント社会の到来 新装版---組織に雇われない新しい働き方』['14年]

フリーエージェント社会の到来 旧版.JPGFree Agent.JPG 本書は、米国クリントン政権下で労働長官の補佐官、ゴア副大統領の首席スピーチライターを務めた著者が、その後、ホワイトハウスを出て(自らが"フリーエージェント"となって退路を断って)1年間にわたり全米をヒアリング調査して纏めた現代社会論であり、高度成長期に王道とされた「大企業に所属する」という働き方を捨て、組織に頼ることなく、自分の知恵を頼りに独立して働く"フリーエージェント"が増えている実態を明らかにしています(2001年原著刊行)。

 第Ⅰ部では、企業に所属して働く「組織人間(オーガニゼーション・マン)」の時代は終わり、フリーエージェント時代が幕を開けたとしています(第1章)。フリーエージェントにはフリーランス、臨時社員、ミニ起業家の3タイプがあり、本書が書かれた時点で既に全米の労働人口の4人に1人にあたる3,300万人の人たちがフリーエージェントとして働いているとし(第2章)、今後も、コンピュータが安価になり携帯型端末が普及したおかげで、誰もがどこにいても働ける「デジタル・マルクス主義」が拡がるとしています(第3章)。

 第Ⅱ部では、働き方の新たな常識を問うています。フリーエージェントにとって重要なのは安定より自由であり(第4章)、フリーエージェントたちは、自分の人的資源を1つの会社に全てつぎ込むのではなく、仕事のポートフォリオと分散投資を考えるとしています(第5章)。また、フリーエージェントによって、午前九時から午後五時までの八時間労働は、臨機応変な労働時間に取って変わられ、フリーエージェントは、労働時間をそれぞれの志向に合わせて分配するとしています(第6章)。

 第Ⅲ部では、誰もが組織に縛られない生き方ができるとしています。フリーエージェントたちは、孤独に耐えるのではなく、人との新しい結びつき方を見出し(第7章)、利他主義によって互いに恩恵を受けることができるとしています(第8章)。巷にはオフィスに代わる「サードプレイス(第3の場所)」が生まれており(第9章)、フリーエージェントに役立つ仲介業者やエージェント、コーチなどの新ビジネスも盛んになっているため(第10章)、フリーエージェントたちは、仕事と家庭のバランスを取りながら、「自分サイズ」のライフスタイルをみつけることが可能になってきているとしています(第11章)。

 第Ⅳ部では、フリーエージェントを妨げる制度や習慣は変わるかを考察しています。確かに医療保険や税制面などでフリーエージェントが不利を被ることはあり、そうした 古い制度と現実のギャップはまだ大きく(第12章)、薄給で退屈な仕事をし将来の保証もない「テンプ・スレーブ」と呼ばれる臨時社員の惨状はマスコミなどでも報じられているものの、最近では、そうした労働者の間でも自発的な新しい労働運動の始まりが見られるとしています(第13章)。

 第Ⅴ部では、未来の社会はどう変わるのかを考察しています。著者によれば、 「定年退職」という概念は既に過去のものになっており(第14章)、教育はテイラーメードできるようになり(第15章)、生活空間と仕事場は緩やかに融合していくだろうと(第16章)。更に、個人が株式を発行する時代が訪れ(第17章)、ジャスト・イン・タイム政治が始まって(第18章)、このようにフリーエージェントで未来は大きく変わるだろうとしています(19章)。

 本書は、副大統領の首席スピーチライターとして多忙を極めていた著者が、過労のため、ホワイトハウス内の飾り瓶(デンマーク女王からの贈り物)の中に延々と嘔吐し、離職を決意したというエピソードから始まります。著者はその後、本書の他に『ハイ・コンセプト』(三笠書房)や『モチベーション3.0』(講談社)などの自己啓発色の強い著作を発表し、実際フリーエージェントとして単に成功しただけでなく、世界的に注目される存在となっていますが、スピーチ原稿の達人は、自己啓発書の達人でもあり、プレゼンの達人でもあるのだなあと思いました。

 そうしたことを踏まえ本書を読むと、本書の中にも多分に著者が仕掛けた啓発的要素があるかと思われますが、基本的には本書は、統計データやフリーエージェントとして働く人への取材などをもとに書かれていて、また、フリーエージェントとなることを闇雲に推奨するわけではなく、フリーエージェントの危険性もしっかり指摘しています。

 解説の玄田有史氏も指摘しているように、日本の労働社会の仕組みやルールは「正社員」を前提に作られており、今後そうした(低賃金の非正規雇用という意味ではなく)豊かな職業人生に繋がるプラスの意味でのフリーエージェントとしての働き方がどの程度拡がっていくか未知数の部分も多いかと思います。

 しかしながら、日本でも最近は"ノマドワーカー"などといった新しいワーキングスタイルが注目されていたりもし、また、本書では、リタイア年齢を過ぎてもインターネットを駆使してフリーエージェントとして働くことを「eリタイヤ」と呼んでいますが、こうした働き方は、高年齢者の働き方の選択肢の1つとして、日本でも現実的なものとなってきているようにも思います。

 アメリカで起きたことの全てがそのまま日本でも起きるとは限りませんが、アメリカで見られたことの多くがその後何年かして日本でも見られるようになるというのは傾向としてあることであり、本書は、初版から10年以上経過した今改めて読んでみても、今後の日本人の働き方や生き方を考えるうえで多くの示唆に富んでいるように思いました(そうしたこともあってか、2014年にソフトカバー新装版が刊行された)。

 自らの実感も含めて率直に言えば、フリーエージェントになって何年か経った人が読んで、フリーエージェントになって本当に良かったと思える本ではないでしょうか。企業内で人事に携わる人にとっても、人事パーソンとして掴んでおきたい今後の人々の働き方のトレンドを示した本であると言えますが、これ読んで、読んだ人自身がフリーエージェント志向になっても全然不思議ではない本でもあります。

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント) 

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「●中公新書」の インデックッスへ

定年後をイキイキとで過ごすためにはどうすればよいのかをエッセイ風に指南。

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定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)

 定年後をイキイキとで過ごすためにはどうすればよいのか、定年後に待ち受ける「現実」を著者自身の経験を踏まえ、また統計や取材等を通して明らかにし、真に豊かに生きるためのヒントを占めした、エッセイ風「指南書」といった感じの本です。著者のこれまでの人事関連の本に比べるとターゲットが広がっているし、また、多くのビジネスパーソンの関心事でもあるので、結構売れたようです。

 前半部分(第1章~第3章)では、取材を通して定年後もイキイキとした人生を送っている人を紹介しながらも、一方で、テレビのチャンネルを手放せず、妻から粗大ゴミ扱いされている人もいるなど、定年後でもイキイキと暮らしている人は2割未満(?)というのが現実ではないかという暗澹たる事実を提示しています。定年後の男性の人生の危機というのは(本書によれば女性より男性が危ないらしい)、本書で紹介されているように、定年が無いと言われるアメリカでも、ジャック・ニコルソン主演の「アバウト・シュミット」(2002年公開)という定年後の危機をテーマにした映画がありましたから、世界共通なのかもしれません。

 ただし、中盤以降(第4章~第6章)は、60歳から75歳までを「黄金の15年」として前向きに捉え、この15年を輝かせるにはどうすればよいかということを論じています。そうした中でとりわけ、社会とどうつながるか(第5章)、また、自分の居場所をどう探すか(第6章)ということについてそれぞれ具体的に検討しています。新聞記事からの引用であるとのことですが、定年になったシニアが、在職中の経験や人脈を生かして、短時間だけビジネスの相談に乗る「スポットコンサルティング」が増えているとのことで、そう言えば、最近テレビでもやっていたような。また、そうした需要と供給を仲介するビジネスも、あちこちで起こってきているようです。

定年後 image.jpg 最終章(第7章)「『死』から逆算してみる」では、定年後の目標は日々「いい顔」で過ごすことであり、人は「良い顔」で死ぬために生きているのだと。「定年学」っぽい切り口から始まって、殆ど人生論的エッセイみたいな終わり方になっていますが、これはこれで良かったのではないでしょうか。でも「定年」って日本的な、しかしながらずっと当たり前のように考えられてきた制度であるせいか、多くの人に関わりがあることであるにしては、あまり「学」として確立されておらず、そちらの方向でもっと突き詰めて書いてもらっても良かったようにも思います。但し、「学」として捉えると、あまりに扱うべき問題が多すぎて、茫漠とした論文になって終わってしまうので、それを避けて、わざとエッセイ調にしたのかも。

 まあ、本書はもともとすべてのビジネスパーソンを対象としているわけではなく、第1章で、36年間同じ会社で務め上げて定年退職した著者の経験が書かれているように、大企業をある意味「昭和的」な定年退職の仕方で辞め、再雇用の道を選ばなかったシニア層や(その内、社員が定年退職する日に皆の前で挨拶するような慣習も稀少になるのではないか)、或いは、これから60歳定年を迎えるが、同じ職場で同じ条件で再雇用される見通しが薄く、そのままリタイアメントまたは独自に転身することを考えている中高年をターゲットにしているフシはあります(大企業の方が小企業より定年再雇用への道のりは厳しいとも言われているし)。

 文章がこなれていて読みやすかったし、60歳から75歳までを「黄金の15年」としていることに励まされる人も多いのでは。一部、ナルホドなあと思わされた部分はあったものの、全体的には"情報"の面ではさほど目新しさは感じられませんでしたが、"啓発"の面ではまずまずでなかったでしょうか。

《読書MEMO》
●「アバウト・シュミット」(2002年公開、ジャック・ニコルソン主演)(62p)
●「空気を読むためには、微妙なニュアンスを把握する必要があるので、常に仲間の輪に入っていなければならない。この共有の場は、各社員が互いに助け合うという機能を持っているが、社員が会社から離れて何か物事をなそうとするときには大きな制約になる。(中略)この共有の場で身につけた受け身の姿勢が、定年後に新たな働き方や生き方を求めることも難しくしてしまうのである。(77p)

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「●ピーター・ドラッカー」の インデックッスへ

「読書会」で互いに刺激を受け、個々の研鑽がより効果的に深耕されることもあるかも。

小説でわかる名著『経営者の条件』   .jpg人生を変えるドラッカー7.JPG
小説でわかる名著『経営者の条件』 人生を変えるドラッカー―――自分をマネジメントする究極の方法』(2016/12 ダイヤモンド社)

 研修会社のベテランOL・青柳夏子。うっかりミスを社長にとがめられたことから、自分の仕事の仕方に悩みを抱き始める。広告会社に勤める杉並柊介もまた、制作部門から営業部門に異動となり、壁に突き当たっていた。そして、保険会社を脱サラしてカフェを始める堀川徹。起業間際のあまりの忙しさに、仕事も家庭もパンク寸前だった。ある日、夏子はふとしたきっかけから、1冊の赤い本を手に取る。ドラッカーの『経営者の条件』だった。しかし買ってはみたものの、難しそうでなかなか読めずにいた。そんなとき、ドラッカー読書会の存在を知る。何かに導かれるように―。(「Amazon内容紹介」より)

 ドラッカーの名著『経営者の条件』を通じて、登場人物たちが自分たちの悩みを解決していく、ストーリー仕立ての入門ガイドブックです。以前にベストセラーになった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(2009年/ダイヤモンド社)がドラッカーの『マネジメント―基本と原則[エッセンシャル版]』(2001年/ダイヤモンド社)1冊に絞って引用しているのと同様、本書も『経営者の条件―ドラッカー名著集1』(2006年/ダイヤモンド社)1冊を言わば「底本」としています。

 第1章では、研修会社のOLですでにベテランでありながら、みんなの前で社長からガツンと叱られた夏子、広告会社の制作部門から営業部門に異動になったものの、営業数字の未達に悩む柊介、保険会社を脱サラして念願のカフェ立ち上げのはずが、仕事も家庭もパンク状態の徹の3人が登場し、彼らがそれぞれ偶然に導かれるように東堂という人物が主催するドラッカーの読書会に集い、『経営者の条件』を読むことになります。そして、まず初回は、『経営者の条件』の章立てを確認しています。『経営者の条件』の章立ては以下の通りです。
 ・序 章 成果をあげるには
 ・第1章 成果をあげる能力は修得できる
 ・第2章 汝の時間を知れ
 ・第3章 どのような貢献ができるか
 ・第4章 人の強みを生かす
 ・第5章 最も重要大切なことに集中せよ
 ・第6章 意思決定とは何か
 ・第7章 成果をあげる意思決定とは
 ・終 章 成果をあげる能力を修得せよ

 以下、第2章では、その『経営者の条件』の読書会を通して各人が、誰もが「知識労働者」であることを確認し、「汝の時間を知れ」「どのような貢献ができるか」といったドラッカーの言葉の意味を探っていきます。第3章では、「人の強みを生かす」「最も重要なことに集中せよ」という言葉の意味を、第4章では「意思決定とは何か」「成果をあげる意思決定」をするとはどういうことなのか、それらの意味を探っていきます。

 同時並行で、登場人物たちが学んだことを自らの仕事や生活にどのように活かしていったかが描かれていて、例えば夏子は、「指示待ち」OLから脱却し、自ら会社の危機に立ち向かうようになりますが、このあたりは「実践編」と言えます。但し、「読書会」が、しかも1冊のテキストが軸になっているため、話が拡散することなく、コンパクトでありながらも、押さえるべきポイントは押さえているように思いました。著者は、ドラッカー読書会ファシリテーターでもあるとのことで、このあたりはさすがだと思いました。

 『経営者の条件』は、ドラッカーの著者の中でも体系がすっきりしていて読みやすく、また自己啓発度が高い一方で実践的であることもあって、応用もしやすい方ではないかと思われますが、まだ読んでいない人は、このような手引書から入って原典にあたるのもいいのではないかと思います。

 個人的に知る中小企業の経営者で、社員にドラッカーの著書を読ませて感想文を書かせている人もいますが、大企業の場合だと、それぞれが自分の意思で自己研鑽せよということになるのかもしれません。但し、ドラッカーをテーマにしたものに限らず、こうした「読書会」「勉強会」という形をとることで互いに刺激を受け、個々の研鑽がより効果的に深耕されることも考えられるのではないかと、本書を読んで感じました。

 著者自身、あとがきで「『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』の存在がまかったら、この小説が生まれることはなかったと思います」と書いていますが、『もしドラ』の"二番煎じ"ということではなく、ドラッッカーの読書会の主催者としての著者の経験が生かされたものとなっているように思いました。

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優れたリーダーはどんなに忙しくても本を読んでいる。女性が1人もいないのが残念。

私をリーダーに導いた250冊6.JPG私をリーダーに導いた250冊6_n.jpg
私をリーダーに導いた250冊 自分を変える読書』(2016/10 朝日新聞出版)

「リーダーたちの本棚」.jpg 2009年1月から2016年9月の間に「朝日新聞」の広告特集として掲載された連載「リーダーたちの本棚」から50回分を加筆修正して収録したものです。ビジネス界のトップリーダーが、自分が若い頃から今までに読んだ本の中で影響を受けた本について語り、他人に薦めたい本を5冊程選んで紹介するというものであり、延べ250冊がリストアップされています。

私をリーダーに導いた250冊SL.jpg リーダーがなぜその本を選んだのか、自らの幼少時代や学生時代、社会人になってからの新人時代や海外勤務時代、そして、組織のリーダーや企業のトップになった今におけるエピソードなどを交えて紹介しているので、その人がその本とどう出会い、それをどう読んだのか、そしてどういった影響を受けたのかなどが、その人の人生の軌跡とともに分かるのがいいです。

 50人のどの人についても、経営書だけで5冊選んでいる人はおらず、歴史書、小説、写真集、漫画までその種類は幅広く、また古典から比較的新刊の本まで多岐に及んでいます。よくこれだけの読書人を探したものだなあという気もするし、優れたリーダーというのは、どんなに忙しくても本を読んでいるものなのかもしれないと思ったりもしました。本を読むことを通して、勇気をもらったり、生き方を教わったり、ビジネスの参考にしたりしているのでしょう。

 「百冊の読書は百の人生経験、心に残れば生涯の指針です」「仕事にも息抜きにも本が助けに」「読書の妙味は仕事と同じ。自分にない価値観との出会いである」「読書せずに成長はない」「いろいろ読むほど先入観から解放される」「偏りなく読み、独自の道をさぐる」といったそれぞれの言葉には、実感と重みがあるように思いました。

 1人ずつの本の紹介の最後に、その人が選んだ5冊の書影と概要を整理して掲載してあり、さらに、本の最後の章で「こんな時読みたいブックリスト」として、それまでに紹介された本がジャンル・目的別にまとめられているため、ブックガイドとしても使いやすいものになっています。

 こうしてみると、確かにそれぞれのリーダーの本の選び方は個性的であり、選ばれた本も多様であり、昔のように山岡荘八の『徳川家康』に"一冊集中"するようなことはなくなっています(『徳川家康』を選んだ人も一人ぐらいいたが)。

司馬遼太郎.jpg ただ、それでも複数の人が推す本があったりします。例えば、ノンフィクションで言えば『失敗の本質』(野中郁次郎ほか)、『文明の衝突』(サミュエル・ハンチントン)、小説で言えば司馬遼太郎の『坂の上の雲』や童門冬二の『小説 上杉鷹山』などは3人から4人の人が薦めており(山岡荘八に代わるとすれば司馬遼太郎か。ただし、司馬遼太郎については、『峠』や『項羽と劉邦』、『竜馬がゆく』を選んだ人もいる)、そのほかに『成功の実現』(中村天風)、『道をひらく』(松下幸之助)、『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ)、『21世紀の資本』(トマ・ピケティ)なども複数の人が推しています。そうしたことから、伝統的な傾向に交じって新たな傾向が窺えるのも興味深いです。

 リーダーということに必ずしもこだわらなくとも、良書を読むことで得るものは何かと大きく、ビジネスの面でも広く人生全般においても、読書は無駄にならないということを改めて思わされるものでした。50人のリーダーが全員男性であり、女性が一人も取り上げられていないのが、海外などのこの種の本との大きな違いでしょうか。その点がやや残念でした。

《読書MEMO》
●本書で紹介されている本(一部)
『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(武居俊樹著)
『いい加減 よい加減』(野村万之丞著)
『いかに生くべきか』(安岡正篤著)
『生き方』(稲盛和夫著)
『1分間マネジャー』(K・ブランチャードほか著)
『宇宙は何でできているのか』(村山 斉著)
『得手に帆あげて』(本田宗一郎著)
『「空気」の研究』(山本七平著)
『栗の木』(小林秀雄著)
『Googleの脳みそ』(三宅伸吾著)
『錯覚の科学』(C・チャブリスほか著)
『少しだけ、無理をして生きる』(城山三郎著)
『政治と秋刀魚』(J・カーティス著)
『西洋紀聞』(新井白石著)
『世阿弥に学ぶ100年ブランドの本質』(片平秀貴著)
『全一冊 小説 上杉鷹山』(童門冬二著)
『組織を変える〈常識〉』(遠田雄志著)
『知識創造企業』(野中郁次郎ほか著)
『沈黙の春』(R・カーソン著)
『遠き落日』(渡辺淳一著)
『督促OL 修行日記』(榎本まみ著)
『ドラッカーと論語』(安冨 歩著)
『ノムさんの目くばりのすすめ』(野村克也著)
『裸の独裁者 サダム』(A・バシールほか著)
『晩年のスタイル』(E・W・サイード著)
『ヒトは食べられて進化した』(D・ハートほか著)
『陽のあたる坂道』(石坂洋次郎著)
『複合汚染』(有吉佐和子著)
『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(国末憲人著)
『忘れられた日本人』(宮本常一著)ほか

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応用はそう簡単ではない? 単なる「雑学本」として読んでしまった。

薀蓄雑学説教の事典.jpg薀蓄雑学 説教の事典』(2016/08 時事通信社)

 2010年から2011年にかけて警視総監を務めた著者による訓示集で、警察に入って訓示をしてきたある日「だれもちゃんと聞いていない」ことに気づいて、それから、雑学、薀蓄を思いきり入れて、記憶に沁み込む話にしようと考え、訓示に雑学を盛り込むようにしたともこと。著者はまさに博覧強記の人であり、吉本興業に誘われた過去を持つとのことです。

 ただ、読み物としてはそこそこ面白いのですが、こうした"薀蓄雑学"を、これから話を聞く側に伝えようとする趣旨にどのように絡めるかという応用ということになると、そのあたりは個々の創意というかセンスによるものではないかと。一応は、コミュニケーション、危機対応、マネジメント、計画立案、人事管理、人材育成、業務改善、広報戦略、複眼思考と、訓示の内容に沿って9つのジャンルに分けられていますが、本書に出てくるものは警視総監なりが警察幹部なりに話す訓示という枠組みがあるため、本書を読んだだけで読者がすぐに自らに応用するのは難しいかもしれません。

 知識の抽斗(ひきだし)を多く持つことは、ひとつの武器にはなると思いますが、ホントはどんな雑学を開陳するかということよりも、話の趣旨にどう繋げるのかがポイントなのでしょう。本来はそこを押さえながら読むべきなのでしょうが、自分には本書をそこまで敷衍する能力がないのか、単に「雑学本」として読んでしまった感じです(Amazon.comでの分類を見ると、「コミュニケーション」とか「ビジネス」とかでなく、「雑学・クイズ」になっていたりする)。雑学本としてはまずまずでしょうか。

《読書MEMO》
●乾杯は本来「毒殺防止」のために行われた。
●「ローマの休日」は、他人のドタバタを楽しむ悪趣味な人たちの意味
●「本日は晴天なり」(It's fine today)は英文の発音に多くの要素が入っているため使われた。
●NYヤンキースのマークの「Y」はヨークのY。
●エイトマンは警視庁捜査一課の8番目の刑事の意(本来はeighth man(エイスマン))。
●一寸法師の刀である針は、鍼灸師の使う鍼(はり)と考えるべき(鬼は病気の象徴)。
●「少年よ大志を抱け」の後には「この年老いた私のように」と続く。
●やくざ用語の「マッポ」の由来は「待つポリス」から。ヤバいの語源は「速い」からきているとも。
●パッションフルーツのパッションは「受難」の意(花の五本のおしべが十字架のキリストに見えるため)。
ゴディバ.jpg●サッポロビールの星のマークの星は北極星(北海道開拓使の旗のマークより)。
●パネリストは問題提起をする人、パネラーはただのパネルを貼る人。
●ゴディバのマークの由来は、馬に乗った裸のゴディバ伯爵夫人(ピーピング・トムの由来も同じ故事から)。

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「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(アンドリュー・S・グローブ)

IT企業の経営者が読んでもいいが、むしろ人事パーソンにお薦めの準古典的名著。

HIGH OUTPUT MANAGEMENT4.JPGHIGH OUTPUT MANAGEMENT.jpg ハイ・アウトプット・マネジメント―インテル経営の秘密.jpg インテル経営の秘密3.jpg
HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント』['17年]『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密 (1984年)』['84年]『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』['96年]

アンドリュー・グローヴ .jpgHIGH OUTPUT MANAGEMENT  .jpg 本書『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、2016年に亡くなったインテル元CEO・アンドリュー・グローヴ(1936-2016/享年79)による本で、1984年に発刊された『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密』(早川書房)に加筆修正して1996年に発行された『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』(早川書房)の原書"High Output Management"をもとに、2015年に米国で出版されたペーパーバック版を翻訳したものです。

 アンドリュー・グローヴはユダヤ人で、ハンガリーから無一文で英語も話せないままアメリカに亡命し、インテルに3番目の社員として入社、1979年に社長、1987年に社長兼CEO、1998年に会長兼CEOとなった言わば〈立志伝中の人〉であり、本書の帯には「シリコンバレーのトップ経営者、マネジャーに読み継がれる真の傑作、待望の復刊!」とあり、ピーター・ドラッカーやマーク・ザッカーバーグが寄せた讃辞があります。実際、『インテル経営の秘密』のタイトルで改版された際に日本でも多くの人に読まれ、「準古典的名著」と言ってよいかと思います。

HIGH OUTPUT MANAGEMENT  .jpg 今回の新版は、本編は1983年に当時インテルの現役社長であった著者が著したもので、その前に1995年に著者自身がその後の80年代から90年代にかけての大きな環境変化(日本企業によるメモリー事業への攻勢を主としたグローバル化と電子メールの発展によるコミュニケーションの変化)について記した「イントロダクション」があり、更にその前に1995年に本書を読んだというベン・ホロウィッツによって2015年に書かれた「序文」が付いています。

 「イントロダクション」において著者は、「本書には3つの基本的なアイデアを盛り込んである」とし、それは、1つ目のアイデアは、マネジメントに対する成果(アウトプット)への志向性であり(マネジメントは成果志向であれということ)、2つ目は、そのアウトプットは個人というよりもチームによって追求されるということであり、そこで、チームのアウトプットを増大させるためマネジャーは何が出来るかとの問いが出てくるとしています。そして、チームは、そのメンバーである各個人の業績遂行活動が導き出された時に、最もよく機能して、その業績を高める―というのが、3つ目のアイデアであるとのことです。

 第1部「朝食工場―生産性の基本原理」では、3分ゆでのゆで卵とトーストとコーヒーを出すごく普通の食堂が設備投資をして「朝食工場」となり、さらにその「朝食工場」をフランチャイズ制によって全国展開していくという架空のケースを用い、その中にインテルでの事例なども織り交ぜながら、著者自身が考えるマネジメントの原理原則を体系的に説明しています(この部分は個人的には、「科学的管理法」に近いものを感じた)。

 第2部「経営管理はチーム・ゲームである」では、マネジャーのアウトプットとは、自分の組織のアウトプットと自分も影響力が及ぶ隣接諸組織のアウトプットの和であるとし、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示しています。また、ミーティングはマネジャーにとっての大事な手段であるとし、インテルで行われている「ワン・オン・ワン」という監督者と部下のミーティングを紹介しています(「ワン・オン・ワン」についてだけで『ワン・オン・ワン―快適人間関係を作るマネジメント手法』('90年/パーソナルメディア)という本になっている)。更に、決断を行う際に陥りがちな"同僚グループ症候群"というものを指摘するとともに、明日のアウトプットのために今日どういった行動をとるべきかを、3つのステップから考える計画策定方式(プランニング プロセス)というものを提唱し、これを日常業務に適用したものが目標による管理(MBOシステム)であるとしています。

 第3部「チームの中のチーム」では、冒頭の「朝食工場」が全国展開するような会社になったとき、自ずとそれは"使命中心"と"機能別"のハイブリッド型組織になるとし、インテルのハイブリッド型組織を紹介するとともに、二重所属制度という考え方を紹介しています(「グローブの法則」として「共通の事業目的を持つすべての大組織は、最後にはハイブリッド組織形態に落ち着くことになる」としている)。また、われわれの行動がコントロールされ、影響される過程を考え、われわれの行動は、自由市場原理の力、契約上の義務、文化的価値の3つの方法でコントロールされるとし、最も適切な仕事のコントロール方式とはどのようなものかを考察しています。

 第4部「選手たち」では、モチベーションの問題を取り上げています。マズローの欲求段階説を改めて解説し、仕事とスポーツを対比させて、マネジャーが部下から最高の業績を引き出せるようにするには、部下のタスクへの習熟度を高めることが肝要であり、それが効果的なマネジメントスタイルの基本的要因となるとしています。そこで人事考課が重要になってくるわけであり、マネジャーが考課するときに判断すべきことは何か、避けなければならない大きな落とし穴は「可能性(ポテンシャル)の罠」であるとして、"潜在能力"を評価することに警告を発しています(時期的には日本企業が職能資格制度を盛んに採り入れていた頃になる)。また、査定内容の伝え方についても指南し、それとは別に問題社員の場合の対応や、更にはエース社員の考課の仕方についても述べています。また、マネジャーにとっての2つ困難な仕事である、採用面接と、貴重な人材が退社しないようにする話し合いついても助言しています。そして、タスクに対するフィードバックとしての報酬の考え方および昇進について論じるとともに、なぜ教育訓練が上司の仕事なのかを説いています。最後には、「これからの行動指針チェックリスト」が付されています。

 かなり以上前に書かれた本でありながら、古さを感じさせないのはすごいことかも。全体として、最初に生産管理の話から入っていき、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示し、業績達成のために部下のモチベーションやタスク習熟度をどのように管理し、部下をどのように考課し、どうフィードバックするかという話の流れになっていて、後半にいけばいくほど「人事」の話になってきます。「人を育て、成果を最大にするマネジメント」というサブタイトルは極めて妥当であり、『インテル経営の秘密』というタイトルから、変化の激しいIT業界について書かれた本だと思われているフシもありますが、実は「人事」の根幹について書かれた本であるということ。だから「経年劣化しない」と言うより「人事の本質が分かる」と言った方がいいかもしれません。従って、IT企業の経営者が読むのもいいですが、人事パーソンにもお薦めの本です。
 
《読書MEMO》
目次
序文 ベン•ホロウィッツ
イントロダクション
第1部 朝飯工場~生産の基本原理
1章 生産の基本
3分間ゆで卵の生産原理は/製造作業の実際\状況が複雑になると/大量生産の場合は/付加価値をつけること
2章 朝食工場を動かす
インディケーターこそ大事なカギ/ブラックボックスの中をのぞくには\将来のアウトプットをコントロール/品質の保証/生産性を高めるために
第2部 経営管理はチーム・ゲームである
3章 経営管理者のテコ作用
マネジャーのアウトプットとは/「パパ、本当はどんなお仕事をしているの?」/社内情報の収集と提供/経営管理活動のテコ作用/マネジャーの活動速度を速めること―ラインのスピードアップ/組織内に組み込まれたテコ作用―マネジャーの部下は何名が適切か/仕事の中断―マネジャーを悩ますもの
4章 ミーティング-マネジャーにとっての大事な手段
プロセス中心のミーティング/使命中心のミーティング
5章 決断、決断、また決断
理想的なモデルは/同僚グループ症候群/アウトプットへの努力
6章 計画化―明日のアウトプットへの今日の行動
計画策定方式/プランニング・プロセスのアウトプット/目標による管理―日常業務にプランニング プロセスを適用すると
第3部 チームの中のチーム
7章 朝食工場の全国展開へ
8章 ハイブリッド組織
9章 二重所属制度
工場保安係はどこに所属すべきか/ハイブリッド組織を働かせる\もうひとつの妙案―二面組織
10章 コントロール方式
自由市場原理の力/契約上の義務\文化的価値/マネジメントの役割/最も適切なコントロール方式/仕事のコントロール方式
第4部 選手たち
11章 スポーツとの対比
生理的欲求/安全―安定への欲求/親和―帰属への欲求/尊敬―承認への欲求/自己実現への欲求/金銭およびタスク関連のフィードバック/不安/スポーツとの対比
12章 タスク習熟度
マネジメント•スタイルとマネジャーのテコ作用/良いマネジャーになるのは容易ではない
13章 人事考課―裁判官兼陪審員としてのマネジャー
なぜ、悩むのか/業績の査定\査定の内容を伝えること/「 一方では......他方では......」/問題社員/エースの考課の仕方/その他の考え方と実際のやり方
14章 2つのむずかしい仕事
面接/「私、辞めます」
15章 タスク関連フィードバックとしての報酬
16章 なぜ教育訓練が上司の仕事なのか
最後にもうひとつ―これからの行動指針チェック・リスト

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「組織論」には違いないが、「こわい上司のひと言」集がいちばん印象に残ったか。

思考停止する職場3.JPG思考停止する職場.jpg
思考停止する職場 ~同じ過ちを繰り返す原因、すべてを解決するしかけ~』(2018/03 大和書房)

 スタンフォード大学工学博士であり、特定非営利活動法人「失敗学会」の副会長でもあるという著者による本書では、職場での思考停止を防ぐために、上司は何を考えなければならないか、部下の潜在能力を引き出し、自分のグループの活力を倍増させるために、部下とどうコミュニケーションをとればよいのかについて解説していています。また、そうした課題を解決するための手法として、「エムパワリング・コミュニケーション」というものを提唱しています。

 第1章では、コミュニケーション不足が引き起こす職場のリスクについて解説しています。ミスが起こったときには必ず原因があり、著者はその原因の分類として、「学習不足」「注意不足」「伝達不良」「計画不良」の4つを挙げています。その結果起きるのが「無知」「無視」「過信」であり、「無知」と「過信」は努力次第で何とか減らせるが、「無視」には無意識的なものと意識的なものがあって、どちらも解決は簡単ではないとしています。そこで、人の組織が頼ってしまうのが「周知徹底」「教育訓練」「管理強化」であるが、失敗学ではこれを「三大無策」といい、これらが通用しないばかりか、致命傷につながったり、最も職場を壊すことになったりする理由を解き明かしています。

 第2章では、自分で考える部下を育てるために、部下とどう接すればいいか、どう指導すると良いかを説いています。著者はマニュアルというものを否定しておらず、最初の仕事はマニュアル通りに作業を進めることを教え、マニュアルに疑問を感じたら、自分で解決しようとせず、相談するよう指導し、部下と一緒になってマニュアルの不備を見つけて修正する姿勢をとるのがいいとしています。指示待ち人間に対しては、根気よくその人が自分で考えるよう、まず簡単なタスクを与えて徐々に育てることを考えるべきで、急に考えるように仕向けると、無用なプレッシャーを与えてしまうとしています。

 また、部下にうまく育ってもらうための効果的サポートの方法として、「はい」という返事は真に受けず、経過を確認するとともに、自分の考えを押しつけず、部下が考えていい答えを出すチャンスを与えること、思考展開図をうまく使い、部下と一緒に作ることを心がけること、まず目標は何か、要求機能を正しい言葉で表現することなどが重要であるとし、どのような失敗が起こり得るか、チームで徹底的に考えることが逆境に強いチーム作りにつながるとしています。

 第3章では、どのような話し方が人の創造性を潰してしまうのかを解説しています。ここでは、「リスクがある」「前例がない」「成功例はあるの?」「それ、ニーズあるの?」「うちの業界はね......」「できない」「つべこべいうな」といった否定的、懐疑的で部下の活力を削ぐような言葉から、「かんたんだから」「期待してるよ」という抽象的な励ましや、「合理化・効率化」「コスト優先」「ノルマ達成」といった往々にして使いがちな言葉が、しばしば部下たちの思考を停止させたり、創造性を奪っていると指摘しています。

 この中で、「コンプライアンスの遵守」は、うかつに掲げると却ってあだとなるというのは、ハーバード・ビジネススクールのマックス・H・ベイザーマン教授らの著書『倫理の死角―なぜ人と企業は判断を誤るのか』('13年/エヌティティ出版)に述べられている指摘に通じるものがあるように思いました(けっして目新しい指摘ということでもないということになるが)。

 第4章では、それでは思考が動く職場とはどのような場所なのかを考察しています。作業の流れをグラフ化するなどの、思考停止に陥らない仕事の進め方や、成功事例よりも失敗事例に学ぶほど誤判断が減るとして、失敗の測定や分析方法、事後に生かすための報告書の書き方などを紹介し、職場での運用方法について解説しています。

 事故・不祥事の発生予防だけでなく、正しい組織運営の在り方を説いた本。但し、まえがきにあった「エムパワリング・コミュニケーション」というものが本文内で定義されておらず、それが本書のどの部分を指すのかよく分からなかったですが(おそらく本書全体?か)、「自分の保身しか考えない」上司が会社を破壊するといったことなど、しっくりくる部分は少なからずありました。

 創造性を発揮できるようにするためには、柔軟かつ科学的な組織運営が求められるとしており、基本的には組織論の本であると思います。仕事上のミスや誤認は、現場と司令塔のギャップや暗黙知の過信などのコミュニケーションの不具合から起きるということを、事例を交えて検証し、組織メンバーの潜在能力を引き出すポイントは、コミュニケーションの巧拙にかかっているとしています。その意味では、第3章の「こわいのは(創造性を潰してしまう)、上司のこのひと言」集は、いちばんストレートに気づきを促してくれる部分だったかもしれません。

《読書MEMO》
●自分で考える部下を育てるために、どう接すればいいか、どう指導すると良いか(155p)
・最初の仕事は真似から始まります。このときはマニュアル通りに作業を進めることを教えてください。
・マニュアルに疑問を感じたら、自分で解決しようとせず、相談するよう指導してください。一緒になってマニュアルの不備を見つけて修正する姿勢をとるのがいいでしょう。
・マニュアルを使用しながら、その内容を見直すことになりますが、そのとき、利用者の立場から、マニュアルがどうあるべきかを考えるよう指導してください。
・指示待ち人間に対しては、根気よくその人が自分で考えるよう、まず簡単なタスクを与えて徐々に育てることを考えること。急に考えるように仕向けると、無用なプレッシャーを与えてしまいます。
●うまく育ってもらうための効果的サポート(156p)
・「はい」という返事は真に受けず、経過を確認してください。
・自分の考えを押しつけず、部下が考えていい答えを出すチャンスを与えてください。
・思考展開図をうまく使い、部下と一緒に作ることを心がけてください。まず目標は何か、要求機能を正しい言葉で表現することが重要です。
・社会にある失敗事例をうまく利用し、仮想的な失敗に備える練習をチームで行ってください。
・どのような失敗が起こり得るか、チームで徹底的に考えることが逆境に強いチーム作りにつながります。

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'02年新訳の新装版。パラドックスというより「矛盾に見える真実」。今一度再読するのも良い。

ピーターの法則 sin .jpg ピーターの法則.jpg  The Peter Principle.jpg Laurence J. Peter.jpg
[新装版]ピーターの法則―「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』(2018/03 ダイヤモンド社)/『ピーターの法則』新訳版 〔'02年〕/The Peter Principle〔'84年版〕/Laurence J. Peter

[新装版]ピーターの法則5.JPG 教育学者ローレンス・J・ピーターが唱えた有名な「ピーターの法則」の原著『THE PETER PRINCIPLE』は1969年に出版され、1970年に邦訳されていますが、2002年に新訳が刊行され、さらに今回その〈新装版〉である本書が出たことになり、やはりインパクトは今でもあるのかと思われます。

 本書は、まず第1章で、「ピーターの法則」なるものを示しています。それは、《階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能のレベルに到達する》というものです。そして、《やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる》ことが必然であるとしています。では一体、誰が仕事をしているのか? それは、《仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われている》のであるとしています。

 第2章、第3章では、階層社会はこのピーターの法則に支配されていて例外はないとし、第4章から第6章にかけては、無能を生む昇進は実際どのようにして行われるのか、優秀なリーダーがいかにして排除されるのかを説き、第7章では、平等主義が昇進を促し、それだけ多くの無能を生み出すとしています。第8章では、先人たちの「無能の研究」を振り返り、第9章では、なぜ人は無能に突き進むのかを考察しています。

 第10章では、無能が無能を生むという悪循環について説き、第11章から第13章にかけては、成功した人(=無能レベルに達した人)はさまざまな病気を患っていることが多く、無能ゆえにいろいろ奇妙な行動をとるとし、無能レベルに達した人には現実を直視することは禁物で、健康と幸福を維持するためには、問題のすりかえを行うことが効果的であるとしています。

 第14章では、無能に陥らないためには、昇進拒否も一手ではあるが、それに勝る方法は、自分が無能レベルに達していることを周囲に印象づけること、つまり「創造的無能」こそが無敵の処世術であるとしています。そして、最終第15章では、「ピーターの特効薬」として、昇進を回避する方法や無能レベルでも健康と幸福を維持する方法などを紹介し、ピーターの法則は、滅亡に至る昇進の代わりに生活の質の向上をもたらすとして、本書を締め括っています。

ピーターの法則60.JPG すでに察せられるように、全体がある種パラドックスとなっており、ビジネスパーソンに対し、昇進するのが必ずしも良いことではなく、自分の適性を見極め、創造的な職業人生を送るよう示唆しているととれます。

 一方、人事パーソンの視点から見ると、本書におけるパラドックスは、「真実に見える矛盾」というより「矛盾に見える真実」としての色合いが、経験上より強く感じられるのではないでしょうか。プレーヤーとして優秀だという理由でマネジャーに昇進させたらダメだった、というのはまさにピーターの法則にあてはまるのでは。係長の仕事をしていた人が課長になり、課長の仕事をしていた人が部長になるというのが通常の昇進パターンである日本企業の場合、こうしたことは往々にしてありがちな気がします。

 多くの著名な経営思想家が、「ピーターの法則」に陥らないようにするにはどうすればよいかを説いています。「ピーターの法則」――多くの人事パーソンにとって既知ではあるかと思いますが、これを機に今一度読み直してみるのも良いと思いますし、未読の人も、知っておいて損はないかと思います。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)


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「組織論」には違いないが、思った以上に精神論的な「啓発書」だった。

生きている会社、死んでいる会社2.JPG生きている会社、死んでいる会社.jpg  『生きている会社、 死んでいる会社』  .jpg
生きている会社、死んでいる会社―ー「創造的新陳代謝」を生み出す10の基本原則』 遠藤 功 氏
生きている会社、死んでいる会社  image.jpg遠藤 功.jpg 30年にわたり経営コンサルタントとして多くの企業と接してきた著者による本書では、経営において本質的に大事なことはただ1つ、会社が「生きている」ことであり、経営とは「創造と代謝を繰り返す」ことであって、「死んでいる会社」は管理や抑制がメインになり、組織が停滞しているとしています。本書は、「生きている会社」になるための処方箋を明らかにしたものであるとのことです。

 第Ⅰ部では、「生きている会社」とは、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOが言うところのデーワン、つまり創業1日目の活力ある状態を保っている会社であるとしています。会社は「新陳代謝」しなければ創造はできず、「生きている会社」とは「新陳代謝」に長けている会社であり、「生きている会社」であり続けるには、「事業」「業務」「組織」「人」の4つを新陳代謝しなければならないとしています。また、会社は「生き物」であり、会社を「経済体」として捉えるだけでなく、「共同体」「生命体」としての会社を理解しなければならないとしています。

 第Ⅱ部では、「生きている会社」になるための必須条件として、「熱」「理」「情」の3つの要素を掲げています。まず、「生きている会社」は「熱」を帯びているとし、その「熱」の正体は何か、「熱」はどこからくるのか、どうしたら広がるのか、失ってしまった「熱」をどう取り戻すかを説いています。また、「生きている会社」は「理」を探究しているとし、会社は「合理的な存在」でなければならず、戦略レベルと実行レベルのそれぞれにおいて「理」をどう担保するかを説いています。さらに、「生きている会社」は「情」に満ち溢れているとし、「情」とは人の「心」であり、それを満たすことは最も合理的であるとして、仕事の「やりがい」をどう作り出すか、承認欲求をどう満たすかを説いています。

 第Ⅲ部では、どうすれば「生きている会社」を作ることができるかを説き、代謝のメカニズムを埋め込む、骨太かつシンプルな「大戦略」を定める等々、実践すべき「10の基本原則」を掲げています。また、会社が「生きている」かどうかは、ミドル(課長クラス)を見ればわかるとし、課長たちの「突破力」を磨くために必要な「6つの力」を掲げ、さらに、経営者の仕事とは何か、その「4つの仕事」(扇動者・羅針盤・指揮者・演出家)を説いています。

 会社というものを理解する際に、付加価値を生む「経済体」として捉えるほかに、そこにいる人たちの関係性(「共同体」)や人の営み(「生命体」)の集積としての会社に着眼している点は興味深かったです。「見た目の数字」や「業績」より「生きていること」が重要であるとし、「生きている会社」になるための必須条件に、「熱」「理」「情」の3要素を挙げているのは腑に落ちました。

 帯に「働き方が変わる!新しい組織論」とありましたが、全体としては、特に目新しいことを言っているわけではなく、オーソドックスと言えばオーソドックスな内容かと思います(結果的に"総花的"になった印象も)。前半部分は概念的で、かっちり纏まっていると思いましたが、それが中盤から後半にかけて具体的になっていくかと思ったら、確かに事例なども紹介されているものの、それほど深く突っ込んだ紹介でもなく、むしろ精神論の比重が高くなったような印象を受けました。経営コンサルタントの著書という先入観があったかもしれませんが、思いの外に"啓発書"であり、読み手によっては、もやっとした印象で終わってしまう可能性もあるかも。

《読書MEMO》
●生きている企業の3つの条件
「熱」...生きている企業は「熱」を帯びている。
「理」...生きている企業は「理」を探求している。
「情」...生きている企業は「情」に満ちている
●実践すべき「10の基本原則」
・代謝のメカニズムを埋め込む
・骨太かつシンプルな「大戦略」を定める
・「必死のコミュニケーション」に努める
・「言える化」を大切にし、管理を最小化する
●経営者の「4つの仕事」
・扇動者
・羅針盤
・指揮者
・演出家

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「ティール組織」という新しい組織モデル(パラダイム)を提唱して示唆に富む。

ティール組織51.JPGティール組織.jpg ティール組織ド.png
ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

 「ティール組織」という新しい組織モデルを提唱した本ですが、マッキンゼーで組織変革プロジェクトに関わり、現在はコーチ、ファシリテーターを生業とする著者による原著("Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness")は、2014年に自費出版されて以来、12か国語に翻訳されているビジネス書のベストセラーだそうです。著者は、組織の発展段階を色で表現していて、現在、世界中で五段階目の新たな進化型モデルが生まれ始めているとし、これを「ティール(鴨の羽色)」という色(本書カバーの色)で表現し、第Ⅰ部では、これまでの組織の歴史と進化を振り返っています。

ティール組織a.png それによれば、まず、組織形態の前段階として、「無色(グレー)」という血縁関係中心の小集団、「神秘的(マゼンタ)」という数百人の人々で構成される種族があり、組織形態の第一段階が「衝動型(レッド)」モデルで、これはマフィアやギャングなどに見られる、恐怖が支配するものであるといいます。第二段階は「順応型(アンバー)」モデルで、教会や軍隊に見られるように、ここでは規則、規律、規範による階層構造が支配していて、そして、現代の資本主義社会で主流になっているのが、第三段階の「達成型(オレンジ)」モデルであり、多国籍企業に見られるように、目標を設定して未来を予測し、効率を高めてイノベーションを起こすことで成果をあげようとするものであると。但し、達成型モデルにおいては、実力主義によって万人に機会が開かれているが、階層の上にいくほど権限が集中しやすいヒエラルキー構造になって、また、効率と成果を追求するあまり人間らしさを無視してしまいやすく、更には、ますます複雑化するビジネス環境において、計画と予測は機能しなくなる恐れがあるという欠点を抱えているとしています。そこで、達成型モデルへのアンチテーゼとして生まれたものが、第四段階の「多元型(グリーン)」モデルであり、人生には成功か失敗か以上の意味があるとして、平等と多様性を重視し、多様なステークホルダーを巻き込んで合意を形成して物事を進めようとするものであるといいます。しかし、このモデルの極端な平等主義は、多様な意見をまとめきれずに袋小路にはまってしまうリスクも孕んでいるとしています。そして、これらの問題を打破すべく生まれつつあるのが、第五段階の「進化型(ティール)」モデルであり、これは階層構造におけるトップダウン型の意思決定でも、ボトムアップ型の合意形成による意思決定でもない。上司も中間管理職もいなければ、組織図も職務権限規程も肩書もない、変化の激しい時代における生命型組織であるとしています。

 第Ⅱ部では、事例研究によって、ティール組織には、「自主経営(セルフ・マネジメント)」「全体性(ホールネス)」「存在目的」の三つの突破口(特徴)が備わっていること明らかになったとしています。つまり、組織を取り巻く環境の変化に対して、階層やコンセンサスに頼ることなく、適切なメンバーと連携しながら迅速に対応することが可能で(自主経営)、誰もが「本来の自分」の姿で職場に来ることができ、同僚、組織、社会との一体感を持てるような風土や慣行があって(全体性)、更に、組織自体が何のために存在し、将来どの方向に向かうのかを常に追求し続ける姿勢が見られる(存在目的)としています。そのうえで、そうしたティール組織が実際にどのように運営されているのかを、著者らが調査した12の組織の事例を通して"三つの突破口"の観点から紹介しています。

 例えば第Ⅱ部の第2章では、自主経営の例として、2006年に立ち上がったビュートゾルフという、在宅介護支援の新しいモデルを提供する組織の事例が紹介されていますが、その特徴は、マネジャーを持たないチームが、ビュートゾルフが進化するという目的のために完全に独立しているというもので、その特異な組織形態・介護システムによって、7年間で10名から7000名の介護士が働く組織に急成長を遂げたとのことです(より直近のデータによれば10年間で24ヶ国、850チーム、1万人以上)。他社の事例も含め、第3章にかけて、上司もミドルマネジメントも不在のチームが、どのように意思決定を行っているのかを紹介しています。第4章では、そうしたティール組織が全体性を支えるために、開放的な、真の意味で「安心」できる職場環境をどのように整えているのかなどを、第5章では、採用や研修、労働時間管理や評価など人事面でどのような慣行やプロセスを取っているのかを紹介しています。

 第Ⅲ部では、こうしたティール組織が機能するための条件は何か、新たにティール組織を立ち上げる際と、既存の組織をこの新たなパラダイムへと転換させる際のそれぞれについて、念頭に置くべきことは何かを示唆しています。

 本書によれば、ティール組織とは、社長や上司がマイクロマネジメントを行わなくても、組織の目的実現に向けて進むことが出来ている、独自の工夫に溢れた組織のことであり、実は、世界には既にそういった組織が実際に増えてきており、成果を上げている現状があるとのことです。序章で、こうした組織を、「昔のテレビ・シリーズに出てきたような親しみやすい宇宙人」に喩え、「人々の生活に溶け込み、超能力を備えているのだが、ほかの人々からはそのことを認知されていない」と言っています。とは言え、本書に出てくる12社もまだティール組織への移行段階にあり、「自主経営(セルフ・マネジメント)」「全体性(ホールネス)」「存在目的」の三つの条件の全てを完璧に満たしているわけではないとも言っています。

 わが国では現在「働き方改革」の議論は盛んですが、組織の在り方というのは、そうした議論の前提条件としてあるものではないかと思います。「ティール」という新しい組織モデルが(モデルと言うよりパラダイムに近いが)今後どれだけ浸透していくか、ひとつの潮流的なコンセプトとなり得るのか関心が持たれるとともに、これからの社会に適合した組織とはどのようなものかを考えるうえで、たいへん示唆に富む本であると思います。

《読書MEMO》 
ティール組織7colors.png
●組織形態の進化
・組織形態の前段階①=「無色(グレー)」:血縁関係中心の小集団
・組織形態の前段階②=「神秘的(マゼンタ)」:数百人の人々で構成される種族
・第1段階:「衝動型(レッド)」:ジャイアンの世界。人を動かすのには最も手っ取り早い豪族やマフィアによる支配。
・第2段階:「順応型(アンバー)」:ピラミッド時代のように身分で支配する世界。支持命令の組織。業務フローはここで登場した。
・第3段階:「達成型(オレンジ)」:技術が進化するとそれぞれの村や国が出会うようになり、武器を発明しないといけない時代。一人一人を測定した能力主義となり、上層部の指示に従う部品だけの人生を歩む人もいる。
・第4段階:「多元型(グリーン)」:家族をメタファとした組織。従業員としてではなく、家族・仲間としてみんなで話し合いエンパワーメントする。欠点としては、なかなか物事が決まらないことと、最終決定はトップ層が決める為、そことの溝だけは大きくなる。
・第5段階:「進化型(ティール)」:上司がおらず、一人一人が意思決定する信頼で成り立つ組織。
達成型パラダイムは組織を「機械」に喩えることが多く、多元型パラダイムでは組織は「家族」のようなものとされるが、進化型パラダイムにおいて組織は「生命体」や「生物」に喩えられる。
●進化型組織の三つの突破口
・「自主経営(セルフ・マネジメント)」:組織を取り巻く環境の変化に対して、階層やコンセンサスに頼ることなく、適切なメンバーと連携しながら迅速に対応すること。セルフ・マネジメントが浸透している組織では、お互いにアドバイスをしつつ、独立したひとり一人が積極的に意思決定をすることになる。
・「全体性(ホールネス)」:メンバーひとり一人が持っている潜在性を全て使って組織を運営することを指す。ここでは、誰もが「本来の自分」の姿で職場に来ることができ、同僚、組織、社会との一体感を持てるような風土や慣行がある。
・「存在目的」:創業者が決めたビジョンやミッション・ステートメントとは違い、変化に適応した方向性を指す。その方向性は一部の限られた人が決めて推し進めるのではなく、組織全体として探求し続けていく中で、組織自体が何のために存在し、将来どの方向に向かうのかを常に追求し続ける姿勢として立ち現れてくる。

●英治出版 公式Twitterより(2019年2月19日)
【速報!】
『ティール組織』が、読者が選ぶ #ビジネス書グランプリ 2019の【マネジメント部門】部門賞を受賞いたしました!! 投票いただきました皆さま、関係各者様、本当にありがとうございます!!
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ストーリー仕立てで組織開発のプロジェクトを追体験でき、啓発的であると同時に実践的。

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組織は変われるか――経営トップから始まる「組織開発」』(2017/12 英治出版)

 組織開発のコンサルティングをしている著者が、組織開発を実践しようとしている人(本書では「事務局」と呼んでいる)に向けて、その手順や方法を示した本です。事務局を主人公とした組織開発のストーリーが用意されていて、約1年におよぶ組織開発のプロジェクトを追体験できるようになっています。

 第1章では、コンサルタントが事務局と対話する形式で、事務局はまず何をすべきか、組織開発のタイミングをどう見極めるか、組織が変われない要因はどこにあるのか、問題をどう捉えなおすかを説いています。さらに、組織開発を進めるうえでの3原則として、「経営トップから始める」「各層のコンセンサス」「当事者主体」を掲げ、それらを解説しています。

 第2章では、経営トップである社長とのコミットメントを得るために、社長との対話のプロセスにおいて、①現状の認識をすりあわせる、②リスクシナリオを提示する、③組織課題の本質を見極める、④組織開発のプロジェクトを提案する、⑤トップの想いを引き出す、という5つのステップを意識するように説いています。そのうえで、トップの想いを社内に発信することを説き、初期の発信フェーズの仕上げとなるのが、役員合宿であるとしています。

 第3章では、その役員合宿の前に、役員一人ひとりの考えをインタビューで探る方法や、役員合宿の目的をどう明確化するか、合宿をどうプランニングするかについて解説しています。さらに、実際の2日にわたる役員合宿の事例を交えながら、合宿中に役員の本音の対話をどう引き出すか、それらの中に見られる変革と抵抗のシグナルにどう対応するかを述べ、それを、役員合宿の次のステップとしての、部長支援のワークショップに生かすことを説いています。

 第4章では、部長が置かれている現実と葛藤を理解したうえで、気づきと自覚を促すための部長支援のワークショップをどう設計するか、1日版の進行案を示しています。また、部長と課長数名で行う「智慧の車座」という対話の方法などを、これもまた事例で紹介しています。そして、ワークショップが終わった後、部長の意識改革を、部下にどう結びつけ、いかに変革の種をまくかが、事務局による現場支援の鍵のひとつであるとしています。

 第5章では、組織開発が自走し続けるにはどうすればよいか、それには組織を刺激しつづけることが大事であるとしています。また、組織開発においては、感情をマネジメントすることも重要であり、組織開発とはまさに「感情のマネジメント」であるとしています。最後に、組織開発部を立ち上げるならば、どのような人材が、ビジネス・パートナーたる組織開発部のメンバーに向いているのかを示しています。

 本書では、組織開発とは、経営トップから現場の管理職にいたる各層と対話を重ね、彼らのコミットメントを生み出すことであるとし、その第1段階が社長との対話にとなるとしています。そして、さらに、役員との対話、部長との対話と続き、最後は自分との対話、という流れになっています。

 堅くなりがちなテーマですが、ストーリー仕立てで読みやすく、また、合宿やワークショップの中身が具体的に書かれていて、理解しやすいものとなっています。組織開発で重視されるのは、組織で働く個々人の感情であるため、「対話」というものが非常に重要になってくるというのが、具体的な解説で読んでいて腑に落ちるものとなっています。組織開発の本質を突いて、啓発的であると同時に実践的であり、組織開発に携わる人にはお薦めしたい本であると思います。

 組織開発を小説仕立てで描いた名著とされる、三枝匡 著『Ⅴ字回復の経営―2年で会社を変えられますか』('01年/日本経済新聞社)を想起しましたが、『Ⅴ字回復の経営』の方が改革への抵抗勢力が手強くて、それに対する対応などが重点的に描かれているのに比べると、こちらは、抵抗勢力の役員はあっさり更迭されてしまって、ちょっと物足りなかった? でも、『Ⅴ字回復の経営』にもこんなに上手くいくかなという部分はあったし、まあ、互角というところでしょうか。

《読書MEMO》
●組織開発の三原則(第1章/37p)
「経営トップから始める」
「各層のコンセンサス」
「当事者主体」 
●社長のコミットメントを得るための対話のプロセス(第2章/59p)
・ステップ1 :現状の認識をすりあわせる
・ステップ2 :リスクシナリオを提示する
・ステップ3 :組織課題の本質を見極める
・ステップ4 :組織開発のプロジェクトを提案する
・ステップ5 :トップの想いを引き出す
●役員への「自己免疫システム」に関する質問(第3章/137p)
① 私は自組織をどう変えたいのか?
② そのために、私自身は何をするのか?(行動目標)
③ 行動目標を阻む日常の行動とは?(阻害行動)
④ ③の目的は何か?(裏目的)
⑤ 裏目的を支えている固定観念は何か?(思い込み)
⑥ だからこそ、自分はどう変わるのか?(私の成長課題)
(ロバート・キーガン/リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』)
●変革ストーリーとQPCA(第4章/177p)
1 現状認識 ⇒ Question (このままでいいのか?)
2 WHY ⇒ Purpose (どうありたいのか?)
3 HOW ⇒ Change  (どこを変えたいのか?)
4 WHAT ⇒ Action (何からやるか?)
●部長への「自己免疫システム」に関する質問(第4章/179p)
① 自組織を変えるために、私は何をしたいのか?
② 私自身は何をするのか?(行動目標)
③ 行動目標を阻む日常の行動とは?(阻害行動)
④ ③の目的は何か?(裏目的)
⑤ 裏目的を支えている固定観念は何か?(固定観念)
⑥ だからこそ、自分はどう変わるのか?(私の成長課題)
(ロバート・キーガン/リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』)

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「時間」「人材」「意欲」の3つのリソースをないがしろにしてはならないと教唆。

TIME TALENT ENERGY  e.jpgTIME TALENT ENERGY.jpg Michael Mankins.jpgEric Garton.jpg
TIME TALENT ENERGY ―組織の生産性を最大化するマネジメント』 Michael Mankins & Eric Garton
"Time, Talent, Energy: Overcome Organizational Drag and Unleash Your Team’s Productive Power"

TIME TALENT ENERGY.png 本書では、ほとんどの企業にとって本当に稀少な経営資源は「時間」「人材」「意欲」であるとしています。パート1「時間」(第2章・第3章)では、時間管理の問題をテーマとし、会議、オンラインコミュニケーション、厄介な官僚体質の構造など、大企業病の原因を探っています。パート2「人材」(第4章・第5章)では、社員の能力とチームづくりに焦点を当て、効果的な人材管理の威力を探っています。パート3「意欲」(第6章・第7章)では、当事者意識の意欲、やる気が生み出す効果について、現実的な視点で考察しています。

TIME TALENT ENERGY38.jpg さらに詳しく見ていくと、パート1「時間」では、第2章で、時間が失われてしまうからくりを示すとともに、失われた時間の大部分をシンプルな時間管理のツールやテクニックで取り返す方法について考察しています。第3章では、無駄に複雑な組織構造が、無用な会議や連絡などのやりとりの原因となっているとして、オペレーティングモデルを簡素化して、効果的な時間マネジメントで成果を上げた企業の事例を紹介しています。

 パート2「人材」では、第4章で、本当に必要なのは、誰よりも組織の使命を理解し、戦略を実行に移すことの出来る人材であるとして、いるといないとでは大きな差が出る「違いを生み出す人材」(ディファレンスメーカー)を、最大の効果を発揮できる職務に配置することが大切だとしています。しかしながら、従来の人事管理はこれに対処しきれていないとし、傑出した企業では、理論面や実践面でどのようにこれに対処しているかを紹介しています。第5章では、最も優秀な人材でチームを編成すべきだとし、また、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしています。さらに、オールスターチームには優秀なリーダーと手厚いサポートが欠かせないとしています。

 パート3「意欲」では、第6章で、社員のやる気を奮い立たせるためのステップとして、①人間性溢れる理念を策定・導入する、②社員の自律性と組織のニーズのバランスを追求する、③成果を上げ、やる気を奮い立たせるリーダーを育成せよ、の3つを挙げ、優良企業の成功事例などを紹介しながら、それぞれのステップを解説しています。第7章では。社員の意欲を引き出して成果を達成させる優良企業の企業文化に着目し、読者が同じような企業文化を醸成するための方法を紹介しています。

 企業の競争優位につながるのは「資金」ではなく、「時間」「人材」「意欲」の3つであるというのが筆者らの主張ですが、時間・人材・意欲のそれぞれについて、「傑出した企業」とそうでない企業を比較したうえで、詳細な理由を述べ、具体的な解決策までが示されているので分かり易く、また参考になります。特に人事パーソンにとってパート2の「人材」とパート3の「意欲」は、興味深く読めるのではないでしょうか。

 例えば、パート2の「人材」では、「違いを生み出す人材」を集めてチームを作り、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしていますが、どちらかと言えば、各部署に優秀な人材を均等に配置する傾向にある日本の企業にとっては、発想の転換を促すヒントになるように思います。

 「時間」「人材」「意欲」という3つの指標は必ずしも目新しいものではなく、また、本書で紹介されている優良企業の事例には、ミレニアル企業と呼ばれる新興企業のものが多かったりもし、読者にとっては、自社とは環境が違い過ぎるとの思いに駆られたりするかもしれません。実際、本書で示されたすべての策が、あらゆる企業に当てはまる汎用性を持つとは言えないと思われます。

 しかしながら、巻末で「日本企業への示唆」として、「組織生産力指数は平均で92にとどまり、グローバル平均の113を大きく下回る」という日本企業の組織生産力マネジメントの課題と、今後向かうべき方向について論じているよように、本書を通して「時間」「人材」「意欲」という3つのリソースをないがしろにしている事実に気づき、なぜそれが問題なのかをしっかりと理解し、具体的に何をすべきかと考える機会を得ることは、それなりに意義があるように思います。

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すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」(DDO)を提唱。

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Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey
"An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization"
なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる』(2017/08 英治出版)

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか2.jpg 30年以上にわたって「大人の発達と成長」を研究してきた著者らによる本で、前著『なぜ人と組織は変われないのか』('13年/ 英治出版)では、大人の知性の発達とはどのようなものであるかに言及しつつ、人と組織が持つ「変革をはばむ免疫システム」に着目して、個人と組織が成功するために避けて通れない変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにし、「免疫マップ」を用いた変革のアプローチを提唱するとともに、その効果を多くの事例を通して明らかにしていました。本書(原題:An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization、2016)では、すべての人が自己変革に取り組むことで、そうした大人の発達を組織全体で可能にする運営を行っており、かつ好業績を上げている3社の事例をもとに、発達指向型組織」(DDO=Deliberately Developmental Organization)と著者らが名づけた会社の実態とその可能性に迫っています。

 著者らは、ほとんどのビジネスパーソンが「自分の弱さを隠す仕事」に多大な労力を費やしているとしています。そのことは、そうした「もう一つの仕事」など誰もしていない組織を観察してはじめて、ありふれたことが実は「普通」ではないとわかるとし、本書で紹介する、人々の能力をはぐくむのに最も適した環境を持っている組織は、みんなが自分の弱さをさらけだせる、安全であると同時に要求の厳しい組織文化によって生み出される、などの特徴があるとして、このような組織を「発達指向型組織」(DDO=Deliberately Developmental Organization)と呼んでいます。

 第1章では、DDOとはどのようなものなのか、DDOに移行しようしている組織の現場を、3社の事例を通して紹介し、それらには、失敗が成功を加速する、「自分の成長+他者の成長=みんなの成長」となっている、リーダーがすぐに次のリーダーを育てる、人々の能力を開花させる場をつくっている、ものごとの根っこの原因をえぐり出す、といった特徴があることを示しています。

 第2章では、DDOにおける「発達」とは、社員のキャリアの発達ではなく、社員の人間としての発達に光を当て、組織を大きくすることより、組織を良くすることをまず考えるのだとしています。そのうえで、大人の知性には「環境順応型知性」「自己主導型知性」「自己変容型知性」の3つの段階があり、すべての人が知性のレベルを次の次元に向上させる必要があるとしています。

 第3章では、DDOというコンセプトを「ホーム」(発達を後押しするコミュニティ)、「グルーブ」(発達を実現するための慣行)、そして「エッジ」(発達への強い欲求)という3つのカテゴリーに分け、DDOに共通する12の特徴を挙げています。例えば、「ホーム」の側面であれば、「地位には基本的な特権がともなわない」「みんなが人材育成に携わる」など。「グルーブ」の側面であれば、「安定を壊すことが建設的な結果につながる場合がある」「ギャップに注意を払う」など。「エッジ」の側面であれば、「大人も成長できる」「弱さは財産にもなりうる。失敗はチャンスだ」など。

 第4章では、「グルーブ」の側面から、DDOの人々が具体的にどのようにして自分の限界に挑み続けているのか、人々がみずからの弱点をあぶり出し、行き詰まりの原因を掘り下げ、自分の足を引っ張ってきた思考・行動パターンを克服し続けるようにしているかを、3社の事例から探っています。

 第5章では、DDOの考え方ではたして営利企業が運営できるのかという疑問に対し、先に挙げた3社の例を分析し、それらは個人の成長を重んじているにもかかわらず成功しているのではなく、個人の成長を重んじているからこそ成功しているのだとしています。

 第6章では、「エッジ」の側面から、DDOでどのように成長が後押しされるのかを、2人の人物が「免疫マップ」の4枠(1.改善目標、2.阻害行動、3.裏の目標、4.強力な固定観念)を書き込んでいくエクササイズを通して例示し、さらに、読者自身がそれらを記す際の留意点を示し、第7章では、「ホーム」の側面から、DDOを目指す組織がその一歩を踏み出すための方法論を論じています。

 著者らの前著『なぜ人と組織は変われないのか』('13年/ 英治出版)は、個人と組織が成功するための変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにした本でしたが、本書も、著者らによれば、組織と個人の両方の潜在能力を開花させる方法を示すことを目的とした本であるとのことです。DDO企業にとっては、個人の発達が「付け足し」ではなく、発達指向の考え方が、組織のガソリンとエンジンの両方に浸透しているとのことです。かなり先進的な考えで、個人も組織もなかなかそこまでのレベルに達している例は少ないと思われますが(本書にもそう書いてある)、但し、企業が将来目指す方向性としてはそうなっていくべきだろうし、今後益々そういしたことが言われるようになるのだろうなあと思いました。

 「経営戦略としての組織文化」とはどういうものかを論じた本でもありますが、「発達」という考えを、社員のキャリアの発達ではなく、社員の人間としての発達として捉えているところに、先駆的かつ啓発的なものを感じました。『なぜ人と組織は変われないのか』と併せて読むとよいと思います。

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「分化」というコンセプトで、個を活かすこれからの組織と働き方を提唱。

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なぜ日本企業は勝てなくなったのか: 個を活かす「分化」の組織論 (新潮選書)

 著者によれば、これまで「全社一丸」を看板に掲げ、社員の勤勉さとチームワークを売り物に優れた製品を世界に送り出してきた日本企業が、労働生産性や競争力の国際的地位が1990年代から急落し、日本経済は20年以上に及ぶ長期の停滞からいまだ抜け出せず、喘ぎ続け、また、生産性だけの問題ではなく、近年、名だたる大企業で組織的不祥事が続発し、女性が活躍できる社会の実現や「働き方改革」も声高に唱えられながらも、現実には思うように進んでおらず、また、ストレスや過労死が深刻な問題になりながら、労働者の労働時間は減らず、有給休暇の取得率も低いままであるとのことです。

 本書では、これらの諸問題には共通する「病根」があるとし、それは、個人が組織や集団から「分化」されていないことであるとしています。ここで言う「分化」とは、個人が組織や集団から制度的、物理的、あるいは認識的に分別されていることであり、「未分化」とは逆に個人が組織や集団のなかに溶け込み、埋没してしまっている状態を意味しています。「働き方改革」「イノベーションの創出」「組織不祥事の撲滅」―これら現在の日本企業、日本社会が直面する重要課題を克服できるかどうかは、そうした空気を一掃し「分化」を実現できるか否かにかかっていると著者は言います。

 全5章の第1章と第2章では、「未分化」がどのような問題を引き起こしているかを説明し、第3章では実際に「分化」すると、組織と個人がどう変わるのかを多くの実例もまじえて紹介、第4章では、著者が長年にわたって取り組んできた「組織と個人の統合」という課題を踏まえ、「分化」と「統合」をどう両立させるかを述べ、第5章で、「分化」の過去を振り返り、未来を考察しています。

 第1章「『未分化』が引き起こしていること」では、企業不祥事の背景にある共同体の圧力、集団無責任体制や「たこつぼ」化した職場の病理、「ブラック企業一掃」の壁となっている長時間労働や、パワハラ・セクハラ、イジメ、さらには「女性活躍推進」や「同一労働同一賃金」の壁となっているさまざまな原因の背景も、そこに個人の「未分化」の問題があることを、多くの事例やエピソードを引き合いにしつつ指摘しています。

 第2章「日本企業の深層に残っているもの」では、日本企業が勝てなくなった理由として、日本的な共同体型組織が、かつてはさまざまな利点があったが、今は限界にきており、同調圧力がいい意味での突出を抑えるため、本来モチベーションというものは個人が組織から「分化」することで生まれるものであるのに、組織が「未分化」であるとそれが抑制されるため、有能な人材は外部に流出してしまうのだとしています。更に、成果主義が失敗したのも、成果の責任を問うには個人の「分化」が絶対条件であるのに、個人を未分化にしたままそれを取り入れたからだとしています。

 第3章「『分化』するとどう変わるのか」では、「分化」することのメリットとして、「やる気の天井」がとれて仕事が効率化し、「異質なチームワーク」からイノベーションが生まれるとともに、「集団無責任型」不祥事がなくなり、女性活躍の道も広がるし、オフィス環境も改善され、オーダーメイドのキャリアが形成できることなどを挙げています。また、「絆」「つながり」を唱え続けて無理に求心力を高めるよりも、むしろ「分化」することでつながるということを、①「自律」の欲求、②人間関係、③功利的な動機、④利他的な動機、という4つのキーワードで説明するとともに、個人のレベルでも、一人ひとりが個人の仕事や職業生活を分化することで、「未分化」では得られなかった生きがいが得られ、将来の展望が開けてくるとしています。

 第4章「『分化』と『統合』をどう両立させるのか」では、「組織と個人の統合」という課題を踏まえ、「分化も進めたいが統合も大事だ」というジレンマを克服するには、「行動」と「機能」を意識的に切り離して考える必要があり、行動を分化しながら機能として統合することで、企業の業績も社員の満足度も実際に上がる場合が多いことを指摘しています。更に、分化した個人は、それ以前よりも強く連帯することを、医療、映画製作、製品開発の具体例で説明しています。また、「分化」をどう仕掛けるかについて、外圧を利用する戦略や、「異分子」を投入したり、「ウチとソトの峻別」を逆手にとる方法などを紹介しています。

 第5章「『分化』の過去と未来」では、過去の「分化」の歴史を、タテに分化された前期工業社会、フラット化した後期工業社会、機械的組織から有機的組織へ、「人間的な労働」への改革、と振り返り、ポスト工業化社会では、これまでのタテの「階級」がヨコの「専門」に転換し、タテ方向の分化が勢いを失ってフラット化に転じる一方、ヨコ方向への分化が進んでいるとしています。そして、この分化ははるか未来を見据えても止まらないであろうとしています。

「分化」という1つのコンセプトで、これだけ多くの問題について具体例を挙げながら包括的に論じている点が、大胆かつユニークに思いました。すっきりしている一方で、読む側にある程度の概念化能力が求められる内容でもあるかもしれませんが、かつて日本企業の利点だった日本企業の「まとまる力」が、いま社員一人ひとりの能力を引き出すことの大きな妨げとなり、組織を不活性化させているとしており、必要なのは、まず組織や集団から個人を「引き離すこと」なのだという趣旨は分かったように思います。個の力を充分に活かすためには、これまでの働き方をドラスティックに変えなければならないことを示唆しており、啓発度の高い本であると言えます。

《読書MEMO》
●「分化」とは、個人が組織や集団から制度的、物理的、あるいは認識的に分別されていることであり、「未分化」とは逆に個人が組織や集団のなかに溶け込み、埋没してしまっている状態を意味する。(5p)
●IT革命とともに経済のソフト化やグローバル化も一気に進んだ1990年代の半ば以降、わが国の労働生産性や国際競争力は世界のなかでの順位が急落し、その状態が今でも続いている。その人的要因の一つとして、ポスト工業社会に入って人間に求められる能力や資質、モチベーションの質が大きく変化したことがあげられる。工業社会で強みを発揮した日本人の黙々として働く勤勉さや一体感、そしてある種の帰属意識やチームワークが、ポスト工業社会では通用しにくくなっているのである。(70p)
●一つの企業のなかでも研究開発、企画、広報、営業、マーケティングといった部署は階層が少ないほど自由に仕事ができ、身軽に動けるので組織をフラットにしたい。一方、慎重さを重んじる法務、契約、審査のような部署はフラット化しにくい。(中略)全社一律、悪しき画一的平等へのこだわりがしばしばネックになっている。そして全職種を対象として企業別に組織される企業別労働組合が、それと深く関わっている。(91p)
●わが国の共同体型組織では、行動と機能を一体化させるところに特徴があった。(中略)モノづくりにしても、事務の仕事にしても従来の集団作業においては、そのように文字どおり一丸になることが大切だったからである。(中略)行動と機能を切り離せば、個人の自由を尊重しながら仲間同士の協力や連帯ができるようになる。(163p)
●バーナードは、組織を「意図的に調整された人間の活動や諸力の体系」と定義しており、組織に人間そのものは含まれない。(中略)組織にとって人間の行動そのものを規制する必要がないことを示唆したバーナードの慧眼は敬服に値する。(165p)

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組織論から入って、リーダー(またはリーダーを志す人)へのアドバイスになっている。

DREAM WORKPLACE1.JPGDREAM WORKPLACE.jpg なぜ、あなたがリーダーなのか 旧3.JPG Rob Goffee & Gareth Jones.jpg
DREAM WORKPLACE(ドリーム・ワークプレイス)――だれもが「最高の自分」になれる組織をつくる』(2016/12 英治出版)『なぜ、あなたがリーダーなのか? (ADL経営イノベーションシリーズ)』['07年] Rob Goffee & Gareth Jones
"Why Should Anyone Work Here?: What It Takes to Create an Authentic Organization""Why Should Anyone Be Led by You? With a New Preface by the Authors: What It Takes to Be an Authentic Leader"(2019)
Why Should Anyone Work Here.jpgWhy Should Anyone Be Led by You?:What It Takes To Be An Authentic Leader.jpg 原題は"Why should Anyone Work Here?"(なぜみんながここで働かなければならないのか?)。本書では、世界で一番働きたいと思う組織は、有能な人材を引きつけ、留まらせる灯台のようなところであり、社員と会社そのものから、常に一番よいところ引き出す場となる組織であるとしています。そして、著者ら(『なぜ、あなたがリーダーなのか』(原題:"Why Should Anyone Be Led by You?: What It Takes To Be An Authentic Leader" 2006))の著者でもある)は、世界中の人々に、理想の組織、すなわち最高の自分になれる組織とはどのようなものであるのかを問い続けた結果、回答は大きく次の6つの原則に分類されることが判ったとしています。

 ①違い(Difference)ありのままの自分でいることができる
 ②徹底的に正直であること(Radical honesty)今現実に起きていることを伝える
 ③特別な価値(Extra value)社員の強みと利益を理解し、強化する
 ④本物であること(Authenticity)アイデンティティ、価値観、リーダーシップ
 ⑤意義(Meaning)日々の仕事にやりがいをもたらす
 ⑥シンプルなルール(Simple rule)余計なものを減らし、透明性と公平性を高める

そして、これらの頭文字をとってこれを「夢(DREAMS)」の原則と呼び、以下、第1章から第6章までは、この6つの原則をひとつずつ詳しく述べ、各章の中でそれぞれの原則に沿ったシンプルな組織診断ツールを示すとともに、末尾にリーダーがとるべきアクションを整理しています。

 第1章「ありのままでいられるように」では、「違い」は埋めずに、むしろ広げるべきであるとして、思考プロセスや人生経験の「違い」を理由に人を雇い、価値観に対する見解の一致を求めながらも、個人が創造的な表現をする余地を認めよとしています。

 第2章「徹底的に正直である」では、今現実に起きていることを伝えるべきであるとして、コミュニケーションは正直に、かつ迅速に行うことなどを説いています。

 第3章「社員の強みと利益を理解し、強化する」では、ひとりひとりのために特別な価値を創造せよとし、能力開発のチャンスを与えること、社員に価値を付加することなどを推奨しています。

 第4章「『本物』を支持する」では、アイデンティティや価値観を重視し、自分の中にある「本物であること(オーセンティシティ)」を行動で示すことを説いています。

 第5章「意義あるものにする」では、日々の仕事にやりがいをもたらすにはどうすればよいかを述べており、意義あるものを見つけようと思ったら、様々な経験を取り入れ、また、あらゆる機会を使って、自分の組織の取り組みと成果を、広くコミュニティにつなげていくことを推奨しています。

 第6章「ルールはシンプルに」では、余計なものを減らして、透明性と公平性を高めることに努めよとし、物事がうまくいかなくても、新しいルールをつくりたいと思う誘惑を退けなさいとしています。

 さらに第7章では、本物の組織を作り維持するにはどうすればよいか、6つの原則を自分の組織の現状にカスタマイズする際に、リーダーとして行わなければならないトレードオフのパターンなどを示しています。

著者らはロンドンの組織行動学とリーダーシップの研究者ですが、各章とも組織の在り方から入って、組織診断ツールを示した上で、リーダーがとるべきアクションを整理しており、最終的にはリーダー(またはリーダーを志す人)に啓発を促す内容になっています。

 「6つの原則」は、それだけではやや抽象的な人生訓のような印象も受けなくはありませんが、多くの事例を紹介することで、読み進んでいく中で具体的にどのようなことを指すのかがイメージ出来るようになっていて、そのことがリーダーへのアドバイスに繋がっていきます(中にはややもやっとした感じのままのものもあったが、一方で、感動的なエピソードも少なからずあった)。

 ただし、本書で挙げた組織は、「6つの原則」の少なくともひとつ以上の達成に向けて努力していると思われるから取り上げられたのであるとのことで、それらの中で「6つの原則」をすべて解決した企業はひとつもないとしています。ですから、「こんなのウチでは無理だ」などと思わないで、自分たちに出来ることは何かという感覚で読んでいった方が、割合受け入れられ易いのではないでしょうか。

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新たなる「ホワイト企業」の定義? これからの人事部の役割という観点からも啓発的。

ホワイト企業.jpgホワイト企業 創造的学習をする「個人」を育てる「組織」』(2015/11 日経BP社)

 本書では、低賃金で長時間労働を強いる「ブラック企業」について、厳しい競争環境の中で、大量生産大量流通型モデルで付加価値の低い商品やサービスを提供する企業が、徹底的に利益水準を高めようとした際の現実的な選択肢であったとし、誰でもできる仕事しかしないヒューマンリソース的な人がブラック企業に搾取される構図は、産業革命以来続くものであるとしています。

 これに対し、21世紀の企業経営の要は、社員がイノベーション力の高い「クリエイティブ・キャピタル」になることに力を入れる、つまり、イノベーションを学習する組織=「ホワイト企業」に生まれ変わることであり、また、働く個人が職業人生をサバイバルする最良の道は、イノベーションを産み出す「創造的学習力」を高めることであるとしています(因みに、本書では「イノベーション」という言葉を「技術革新」の意味でなく「価値創造(社会や顧客にとって新しい価値を産み出すこと)」の意味で使っている)。その上で、価値創造に向けた「創造的学習」を促す仕組みや取り組みの在り方について、調査データ、企業や学校組織の事例も取り上げながら、具体的に述べています。

 3部構成の第1部では、「日本の雇用や働き方が、今後どのように変わるのか」を概観しています。主な変化の波は、技術革新、グローバル化、長寿化・高齢化、都市化の4つであるとし、こうした変化の潮流を踏まえた上で、世界経済フォーラムが唱える「人的資本指数」を構成する雇用・労働(働き方)、教育・学習(教育や学習のあり方)の視点から、日本の現況と将来を考察しています。

 第2部では個人の立場から、長いキャリア人生を通してイノベーション力を蓄えた「クリエイティブ・キャピタル」になるために求められる学習の在り方=「創造的学習」とはどのようなものかを探っています。ここでは、孤独な「勉強」をやめ、学習のサイクルを回すことが肝要であるとし、イノベーション力を高めるための「創造的学習」のカギとして、①テーマを見つける、②没頭して楽しむ、③実体験する、④他者と交わる、⑤教え合う、の5つの要素を挙げています。

 第3部では企業の立場から、まず日本企業のイノベーション持続にとって最大の障害である「組織文化の現状」を示し、20世紀に主流だった大量生産大量流通型工業社会で成功を収めた組織運営の在り方や個人の働き方が、21世紀の知識・コミュニケーション型知識社会では大きな足枷になっているという課題を提示した上で、コスト削減や業務能率向上を優先した20世紀型の工業社会とは異なる、知識社会の企業経営の在り方を探っています。

 この中では、イノベーションを拒むものとして、「管理統制信仰」「刻苦勉励好き」「組織の論理と人事権の優先」「本業意識」「目先の利益優先」「リスク回避の権威主義」「職場のコミュニケーション不全」の7つの組織文化の壁を指摘するとともに、イノベーションを継続する力を高める「ホワイト企業」になるには、社員の専門性と自律の促進がカギになり、人、職場、組織、文化の4つの経営の土台づくりが求められるとしています(とりわけ、日本企業に根づいた7つの組織文化の壁を崩すため、文化づくりが大切であるとしているのが興味深い)。

 これまで「ホワイト企業」と言えば、「ブラック企業」の対語として、法令を順守した就業規則が整備され、実際に労務面に反映されているとか、新卒3年後定着率が高いといった現象面のみで捉えられることも多かったように思いますが、本書では、社員をヒューマンリソース(人件費)として位置づけるかクリエイティブ・キャピタル(人的資本)として位置づけるかに"ブラック"と"ホワイト"の違いを見出している点が興味深く(新たなる「ホワイト企業」の定義?)、また、なぜ、イノベーションを学習する組織=「ホワイト企業」に生まれ変わる必要があるのか、そのためにはどうすればよいのかということについても、よく纏まって書かれているように思いました。更には、それらが机上の空論ではなく、調査データ、企業や学校組織の事例も取り上げながら、具体的に述べられている点もいいです。実際にマネジメント研修やリーダーシップ研修を数多くこなしてきた実務家によって書かれているだけに、説得力があるように思いました。

 これからの企業が目指すべき方向という意味で啓発度の高い本であり、また、組織論、人材育成論、さらにはこれからの人事部の役割という観点からみて、人事パーソンに限っても同様のことが言えるかと思います。

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組織論になっていない。啓発書としては尤もなことばかりだが、目新しさに欠ける。

すべての組織は変えられる.jpgすべての組織は変えられる (PHPビジネス新書)』['15年]

 Amazon.comでのレビュー評価が比較的高かったのでつい買ってしまいましたが、買ってから「リンクアンドモチベーション」の執行役員の人が書いたものだということに気づきました(まさか、帯に推薦文を書いている人の会社に勤務している人の本であろうとは)。ただ、"推薦人"である人の本は書店で立ち読みしたことしかなかったので、まあこれを機会に読んでみるのもいいかと...。

 書かれていることは、啓発的で尤もなことばかりですが、タイトルからするに、著者自身は「組織論」のつもりで書いていると思われるものの、実際に組織全体の施策を説いている部分は終章の数ページだけではなかったでしょうか。

 例えば、「陰口や悪口がなくなるだけで組織は激変する」とありますが、これって「組織論」とは言えないのでは。「気まずいメンバーこそ、呑みに誘え」とか、リーダー論、部下コミュニケーション論だなあと。"メソッド"と言うほどのものでもなく、殆どこれまで幾多もあった自己啓発書の世界と変わらないと言っていいかも。内容的に目新しさはありませんでした。

 紹介されているマズローの欲求階層説などは、モチベーション理論でしょう。また、モチベーションの高さは「目標の魅力」×「達成可能性」×「危機感」で決まるとしていますが、これって、ビクター・ブルーム(V.Vroom)の、モチベーションの高さは「対象の魅力度」×「達成への直結度」×「実現可能性」で決まるとした「期待理論」を自社流にアレンジしたものでしょう。こうした亜流の理論から入るよりも、本来の「期待理論」を押さえておいた方が読者にとっては良いように思うのですが、どうでしょうか。著作権の無いことをいいことに、既存理論の一部を改変して、あたかも完全に自社オリジナルの理論のように見せるやり方というのは(多くのコンサルティング会社がやっていることだが)好きになれません。

 「リンクアンドモチベーション」系の本と言っていい? Amazon.comレビューの高評価から見て、嵌る人は嵌るのだろなあ。個人的には、組織論にもなっていないし、目新しさにも欠け、読んでもあまり得られるものはないように思いましたが、一定の「固定客」がいるのでしょう。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジョン・P・コッター)

階層組織とネットワーク組織を共存させた新しい組織への進化を提唱。

ジョン・P・コッター 実行する組織0.JPGジョン・P・コッター 実行する組織.jpg
ジョン・P・コッタ― 実行する組織―――大企業がベンチャーのスピードで動く (Harvard Business Review Press)』(2015/07 ダイヤモンド社)

Dual Operating System - image from the book.jpg リーダーシップ論の大家として知られるジョン・コッターによる本書("Accelerate: Building Strategic Agility for a Faster-Moving World"、2014)は、大組織が、変化のスピードが速く不確実性の高い事業環境で競争に先んじるための解決策として、「デュアル・システム」というものを提唱しています。これは、既存の「ピラミッド型組織」を維持しながらも、起業当時に慣れ親しんでいたはずの「ネットワーク型組織」を有機的に再導入する仕組みであり、このスタートアップのような俊敏な動きが取れる第二のシステムが加わることで、組織全体が機敏性とスピードを実現できるようになるとしています。

 このネットワーク型組織はきわめて動的でやすやすと変化し、「官僚的な階層もなければ、上下関係のタブーもなく」「個人主義、創造性、イノベーションがおおっぴらに許される」「ネットワーク組織を形成するのは、年齢や地位の上下を問わず社内のあちこちから集まってきた人間であり、階層やサイロごとに滞留していた情報が自由に行き交い、何物にも遮られず隅々まで勢いよく流れる」としています。そして、「従来はタスクフォースや戦略部門でしのいできた仕事の大半を、ネットワーク組織に移管することだ。これで階層組織の負担は減り、本来の仕事をよりよくこなせるようになる」としています。

 そして、デュアル・システムの成功のカギとして、①社内のさまざまな部門からたくさんのチェンジ・エージェントを動員する、②「命じられてやる」のではなく「やりたい」気持ちを引き出す、③理性だけでなく感情にも訴える、④リーダーを増やす、⑤階層組織とネットワーク組織の連携を深める、という「5つの原則」を挙げています。

 更に、ネットワーク組織が戦略的に重要なイニシアチブを加速させるために、①危機感を高める、②コア・グループを作る、③ビジョンを掲げ、イニシアチブを決める、④志願者を増やす、⑤障害物を取り除く、⑥早めに成果を上げて祝う、⑦加速を維持する、⑧変革を体質化する、という「8つのアクセラレータ」を挙げています(ジョン・コッターがその著書『リーダーシップ論』や『企業変革力』などで提唱している「変革の8つのステップ」と比較してみるのもよい)。

デュアル・システム2.jpg 本書で興味深いのは、大規模な組織運営として開発され実績を上げてきた階層型組織を捨てる必要はないとしている点であり、但し、ネットワーク組織は、階層組織内でその管理の下に活動するタスクフォースやタイガーチームなどとは全く異なるとしています。それでは、ネットワーク組織とは全く未知のものであるかというとそうではなく、どんな大企業も最初はネットワーク型組織で運営される果敢なベンチャー企業であったのであって、俊敏な動きで事業誕生の礎を築いたからこそ、生き残って今の大企業になっているのであり、つまり、企業が大規模化するプロセスで置いてきてしまった、ネットワーク型システムを、大企業は取り戻せ、というのがコッターの主張です。

 読んでいて、組織概念としての理屈は分かるものの、考えることは出来るが実践はそう容易ではないのではないか、実際にデュアル・システムを取り入れて成功している企業はあるのかという疑問が当然の如く頭をもたげますが、それに応えるかのようにコッターは、まだ数は少ないが成功事例はあるとして、その成功事例(匿名企業)において「5つの原則」「8つのアクセラレータ」がどのように機能し、回って行ったかを詳細に紹介しています。

 コッターは、組織というものは本来的に自己満足に陥るものであり、先ず、真の危機感を醸成することが大切であるとし、そのためには、心を開き、外の世界に気づかせることが大事であるとしています。また、トップこそがロールモデルになる必要があるとし、更に、成果はそれを祝うことによって前向きのエネルギーを生むとしています。

 デュアル・システムを成功させ組織を加速させるには、ビジョンや戦略目標よりは先ず、自分達には大きな機会、大きな可能性があることを示すことが重要であるとしています。その大きな機会を伝わり易く示すには、短い、論理的である、感情に訴える、前向きである、本音である、明快である、整合性がある、ということに気を配ることが大切であるとしています。

 既に、昨年['14年]、「階層組織とネットワーク組織を共存させる―これから始まる新しい組織への進化」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー論文)という論文がKindle版でリリースされていましたが、コッタ―が書いているとは気づきませんでした。書籍化された本書は「マッキンゼー賞金賞受賞」ということで、それがどれくらい凄いのかよくは分かりませんが、コッタ―は間違いなく経営思想に大きな影響力を持つ人なので(しかもハーバード学派のど真ん中にいる人)、このデュアル・システムという概念が、今後より浸透し、具現化していく可能性はあるかもしれません。それがいつ頃なのか予測するのは難しいかもしれませんが、ただ、「デュアル・システム」という考えは、何れにせよ、大企業病に陥った企業や組織が、これから機敏性のある組織への変革を目指すうえでは、大いに示唆的であるように思いました。

《読書MEMO》
●ジョン・コッターの「変革の8つのステップ」
 1.危機感を生み出す
 2.変革プロセスを主導できるだけの強力チームをつくる
 3.ビジョンを掲げ戦略を立てる
 4.ビジョンと戦略を全員に徹底する
 5.社員がビジョン実現に向けて行動するように、現場に任せる
 6.信頼を勝ち取り、批判を鎮めるために、早い時期に成果を出す
 7.手を緩めず、変革を成し遂げる上でのより困難な課題に挑む
 8.新しい行動様式を組織文化の一部として根付かせる


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分かり易く説得力もあったが、一方で、それほど目新しさも感じられなかったか。

腐ったリンゴをどうするか?.jpg腐ったリンゴをどうするか?』(2015/06 三五館)

 前著『人はなぜ集団になると怠けるのか―「社会的手抜き」の心理学』('13年/中公新書)で、「社会的手抜き」のメカニズムを社会心理学、行動心理学の立場から多様な心理学的実験の結果などを通して明らかにした著者による本で、今度はより「ビジネス書」としての体裁になっているという感じでしょうか。

 人は集団で仕事をする。しかし集団になると人は怠け、単独で作業を行うよりも一人当たりの努力の量が低下する―これを学術的には「リンゲルマン効果」と呼び、所謂「社会的手抜き」ということになるわけですが、「自分だけ頑張ってもしょうがない」「誰かがやるからいいだろう」という気持ちは誰の心にも存在するものの、度が過ぎると手抜きは感染し、そばにある"リンゴ"から次々に広がり、最後には箱全体を腐らせるようになる―そこで、「腐ったリンゴをどうするか」ということが重要な課題になってくるということです。

 まず、手抜き発生の要因として、次の4つがあるとしています。
 ①評価可能性...個人の努力が他者から評価されない場合、動機づけが高まらない。
 ②努力の不要性...他者が優秀であったり、一緒に作業している人数が多いので、努力してもムダと思ってしまう。
 ③手抜きの同調...多くの人が手抜きをしているので、一所懸命課題に取り組んでも馬鹿らしいと思ってしまう。
 ④他者の存在による緊張感の低下...同じことをしている人が他にもいると、自分一人くらい、やらなくても大丈夫だと思ってしまう。

 更に、手抜き対策として、次の8つがあるとしています。
 ①罰を与える
 ②社会的手抜きをしない人物を選考する
 ③リーダーシップにより仕事の魅力向上を図る
 ④パフォーマンスのフィードバック
 ⑤集団の目標を明示する
 ⑥パフォーマンスの評価可能性を高める
 ⑦腐ったリンゴの排除
 ⑧社会的手抜きという現象の知識を与える

 そしてこれらは、「個人―集団」「積極―消極」という2軸4象限に整理することが出来、著者が望ましいとする優先順位で並べると、
 第1位 ― 第1象限 ... 個人に対する積極的施策 ... ④⑥⑧
 第2位 ― 第2象限 ... 集団に対する積極的施策 ... ③⑤
 第3位 ― 第3象限 ... 個人に対する消極的施策 ... ⑦
 第4位 ― 第4象限 ... 集団に対する消極的施策 ... ①②
となるとのことです。

 非常に分かりよく整理されているように思われ、結局、手抜きを防ぐには、④パフォーマンスのフィードバック、⑥パフォーマンスの評価可能性を高めること、⑧社会的手抜きという現象の知識を与えること、が最も効果的で、①罰を与えること、②社会的手抜きをしない人物を選考することが、最も効果が薄いということになるようです。

 ネガティブな施策よりもポジティブな施策の方が望ましいことはもとより、③リーダーシップにより仕事の魅力向上を図る、や⑤集団の目標を明示する、といった集団に対する施策よりも、パフォーマンスをフィードバックしたり、評価可能性を高めるといった個人に対する施策の方が効果が大きいというのはそれなりに説得力がありましたが、一方で、「社会的手抜き」の理論を裏返しただけの結果にすぎないようにも思われ、さほど目新しさはなかったというのが正直なところでしょうか(但し、そのことを日常において意識することで、実践面では役に立つセオリーではあると思う)。

 エピローグが「『手抜き』にも役割がある」となっているように、個人レベルにおいても集団レベルにおいても「怠け」というものを100%ネガティブなものとしては捉えず、むしろ「無用の用」として捉えている点は前著の流れを汲んで言えるでしょうか(集団においては"多様性"の観点が織り込まれている)。Amazon.comのレビューなどには、いかにして手抜きを防ぐかと言う本書のそれまでの論旨とズレがあるのではないかと見る向きもあったようですが、「怠け者」を排除すれば組織は活性化するというものではないという点では、先にあげた、①罰を与えること、②社会的手抜きをしない人物を選考することは効果が薄いという論旨と理論上は合致しているように思いました。

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タイトルずれしている。組織論なのか、マネジメント論なのか、単なる「世間話」なのか。

高学歴社員が組織を滅ぼす.jpg 日本経済を滅ぼす「高学歴社員」という病.jpg 上念司 ニュース女子.jpg「ニュース女子」上念司・西川史子両氏
高学歴社員が組織を滅ぼす』(2015/06 PHP研究所)『日本経済を滅ぼす「高学歴社員」という病 (PHP文庫)』(2017/06 PHP文庫)

 Amazon.comでのレビュー評価が比較的高かったので、つい買ってしまいそうになりましたが、買わずに図書館で借りました。結果的に、借りるだけにしておいて良かった...という印象です。

 「高学歴社員」とはいったいどのような人間なのか、著者はその定義をしているわけですが、それがかなり恣意的で、殆ど"無茶苦茶"と言っていいです。著者自身、「本書における定義は著者である私自身の経験に基づき独断と偏見で行いたいと思います。それがたとえ、世間一般で言うところの高学歴の定義に当てはまらなかったとしても、...」と前置きし(この前置きそのものが無茶苦茶ではないか)、「私の提唱する高学歴社員の定義は次の通りです」として、
 1.リスク回避的である
 2.安定志向であり、自己保身主義である
 3.相手が誰であるかを判断するとき、世間で重んじられるヒエラルキーばかりを重視する(※世間の評価・評判、学歴、職歴、企業規模など)
 4.自分よりも「格上」と見做した相手には思考を停止しておもねる。身内に対しては自分が傷つきたくないので過剰に甘く、お互いに傷を舐め合う。
 5.「格下」の人間に対しては生死に関わる問題も含め極めて冷淡な態度をとる
としています。

 何ら論を待たずとも、こんな社員ばかり集まったら組織が衰退するか滅びるのは想像に難くないのではないでしょうか。実際、著者自身も、その後は「高学歴社員」論を展開することはなく、ダメになった組織の例を、企業不祥事や、はたまた、昔の戦記物語から引いてきているわけですが、少なくともそこから「高学歴社員」論に戻ることはなく、完全にタイトルずれしています。

 強いていえば、中盤以降の様々な事例は、"「脆弱なマネジメント」と「暴走する現場」の失敗の法則"に呼応していると言えなくもないですが、何れも歴史オタクや経済オタクが歴史書や経済書から引いてきたような話ばかりで、"居酒屋談義"を聞かされているような印象でした。

 結局、組織論なのか、マネジメント論なのか、単なるビジネス読み物なのかよく分からないような内容で、歴史的な出来事や社会的な事件の裏側を語るだけ語って、そのうち終わってしまったという印象です。

 Amazon.comのレビューにも少数派ですが「世間話の範疇を出るものではない」というのがありました。これ、真っ当なコメントだと思います。何故、Amazon.comでの他のレビューで高評価をつけた人が結構いるのか、タイトルずれを誰も怒らないのか、個人的には理解不能です。

【2017年文庫化[PH文庫(『日本経済を滅ぼす「高学歴社員」という病』)]】

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近年また脚光を浴びつつあるという「組織開発」に関する入門書。新書で読めるのが有難い。

入門 組織開発9.JPG入門 組織開発.jpg
入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる (光文社新書)

 本書によれば、「組織開発」とは、戦略や制度といった組織のハードな側面だけでなく、人や関係性といったソフトな側面に働きかけ、変革するアプローチを指し、アメリカで1950年代終盤に生まれ、欧米を中心に発展し、日本でも1960代に導入されたとのことです。近年また、この「組織開発」が脚光を浴びていて、組織開発をタイトルに掲げる研修や講座が増えているとのことです。

 一方で、一般に用いられている「人材開発」とは異なり、一部の人事パーソンにとって聞きなれない言葉であったり、また、多くの人事パーソンにとっても、言葉は聞いたことがあっても、コーチング研修やファシリテーション研修といった研修(トレーニング)とどう違うのか、具体的なイメージが湧きにくいという面もあったりするのではないでしょうか。

 実際、組織開発はその理論や手法が非常に多種多様であるため、その全体像を把握するには体系的な学びが必要とされるものの、組織開発をこれから学びたいという人に向けた本は日本にはまだないとのことです。そこで、本書は、その全体像を理解できるような入門書を目指したとのことで、いま、組織開発が必要とされる理由、特徴と歴史、理論と手法などを具体的な事例を交えて紹介し、なぜ、組織の人間的側面のマネジメントは重要な経営課題となるのかを説いています。

 第1章では、今、なぜ組織開発なのかを、組織を機能させるためには組織の人間的側面へのマネジメントが必要であるという心理学的な視点から考察するとともに、①活き活きとできない社員、②利益偏重主義、③個業化する仕事の仕方、④多様性の増大、といった日本の組織の現代的課題を取り上げ、組織開発が必要とされる状況について検討しています。

 第2章では、組織開発とは何か、その考え方や価値観について検討するとともに、アメリカにおける組織開発の歴史と日本における組織開発の歴史を概観し、さらには組織開発の手法を、その「あり方」はどうあるべきかという観点から述べ、組織開発の手法には代表的な4つの働きかけ(①戦略的な働きかけ。②技術・構造的な働きかけ、③人材マネジメントによる働きかけ、④ヒューマンプロセスへの働きかけ)があるとしています。

 第3章では、組織開発の手法の中から、リーダー養成型組織開発による取り組みを紹介した後に、「パートナー型組織開発」の進め方の例として、①データ・フィードバックによる取り組み、②プロセス・コンサルテーションによる取り組み、③対立解決セッション、④AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)による取り組みを紹介し、最後の第4章では、日本の企業が活性化するための鍵を、組織開発の観点からまとめています。

 組織開発の研究者によるオーソドックスな入門書であり、読者がその体系を理解しやすいように書かれていて、いまの日本の企業組織において、トレーニングから組織開発への広がりが必要とされている理由も理解できました。こうした本はややもすると概念的・抽象的になりがちなところを、第3章では、組織開発の代表的手法を、組織開発コンサルタントの取り組み例で示しているのも良かったです。あくまで仮想事例であり、もう少しシズル感が欲しかった気もしますが、大学の先生が書いた入門書としては妥当な線でしょうか(コンサルティングファームが書いた自社サービスの紹介ではないからね)。

 むしろ、新書でここまで読めるのは貴重かも。後は、「組織開発」への関心が企業内でどれぐらい拡がっていのかによって、本書への注目度も変わってくるのではないでしょうか(同じ光文社新書の高間邦男 著『組織を変える「仕掛け」―正解なき時代のリーダーシップとは』(2008/09 光文社新書)を併せて読まれることをお勧め)。

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現役の管理職にとっても次世代の管理職を育成するためのツールとして活用できる。

リーダーシップ徹底講座.jpgリーダーシップ徹底講座』(2018/04 中央経済社)

 本書は、マネジャーに求められるリーダーシップとマネジメントに関する知識を身につけることを目的として、リーダーシップやマネジメントを学ぶ学生や大学院生、次世代の管理職候補となる若手や中堅の社会人、さらに、現にマネジメントに関わっている現役管理職を対象に書かれたものです。

 第1章では、「マネジメントそしてマネジャーとは?」として、マネジメントとは何かということをドラッカーの主張などに基づいて説明し、『ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素』(2012/01 日本経済新聞出版社)の著者リンダ・A・ヒルらの研究から導き出されたマネジメントに関する誤解や、マネジメントに関するさまざまな論点を考察、また、組織の概念について、『経営者の役割―その職能と組織』 (1956/09 ダイヤモンド社)の著者チェスター・I・バーナードの近代組織論に基づいて解説しています。

 第2章では、「マネジメントの基本」として、マネジメントの基本となるマネジャーの人間観について、エドガー・H・シャインが『組織心理学』(1981/03 岩波書店)で論じている人間観のモデル(経済人・社会人・自己実現人・複雑人)に基づいて解説し、マネジメントを実行する上で必要不可欠なパワーに関するJ・フレンチとB・H・レイブンによる5類型を取り上げています。

 第3章では、「リーダーシップの基本」と題して、リーダーとは一体何かを、R・J・ハウスらが主張するリーダーシップが生まれる3つのパターン(任命されたリーダー、選挙で選ばれたリーダー、自然発生的リーダー)で解説、次に、マーティン・M・チェマーズの『リーダーシップの統合理論』(1999/02 北大路書房)など、リーダーシップ論の代表的なテキストにおけるリーダーシップの定義を比較検討し、また、リーダーシップを語る上で必要不可欠なフォロワーの存在について、『最前線のリーダーシップ―危機を乗り越える技術』 (2007/11 ファーストプレス)の著者ロナルド・A・ハイフェッツらの主張を紹介、さらに、『サーバントリーダーシップ』(2008/12 英治出版)の著者であるロバート・K・グリーンリーフのサーバント・リーダーシップについて解説しています。

 第4章では、「リーダーシップ論の展開」と題して、リーダーシップ論の歩みを、初期リーダーシップ研究における資質的アプローチ、行動アプローチ、状況アプローチの順でそれぞれの代表的研究を紹介し、それに続く、『カリスマ的リーダーシップ―ベンチャーを志す人の必読書』(1999/12 流通科学大学出版)の著者ジェイ・A・ コンガー、ラビンドラ・N・ カヌンゴらによるカリスマ的リーダーシップ論や、B・J・アボリオの変革型リーダーシップ論について解説しています。

 第5章は、「フォロワーの目から見たリーダーシップ」として、フォロワーの視点を重視したリーダーシップ研究を説明、具体的には、E・P・ホランダーの特異性―信頼理論を取り上げています。また、フォロワーのリーダーシップ認知について、B・コールダーのリーダーシップ原因帰属モデル、R・G・ロードのリーダーシップ情報処理モデル、L・R・オファーマンのフォロワーが抱く暗黙のリーダーシップ論について説明しています。また、J・R・マインドルの提唱したリーダーシップの幻想について解説しています。

 第6章では、「フォロワーシップについて考える」ということで、リーダーシップを受け入れるフォロワーに求められる行動としてのフォロワーシップについて考察し、『指導力革命―リーダーシップからフォロワーシップへ』(1993/11 プレジデント社)の著者ロバート・E・ケリーの提唱した「模範的なフォロワー」や、『フォロワーシップ―上司を動かす賢い部下の教科書』(2009/11 ダイヤモンド社))の著者アイラ・チャレフの提唱した「勇敢なフォロワー」を取り上げています。

 第7章は、「マネジャーに求められるもの」として、管理者行動論の諸研究を説明し、具体的には、『ザ・ゼネラル・マネジャー―実力経営者の発想と行動』(1984/03 ダイヤモンド社)の著者ジョン・P・コッタ―の「ゼネラル・マネジャー」、『マネジャーの実像―「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』(2011/01 日経BP社)の著者ヘンリー・ミンツバーグの「マネジャーの仕事」と「マネジャーの実像」の議論、リンダ・A・ヒルらによる「マネジャーの3つの課題」について説明しています。

 本書の前身である『リーダーシップ入門講座―まとめ役になれる!』(2011/03中央経済社)から7年ぶりの改訂であるとのことですが、リーダーシップ論だけでなくフォロワーシップ論についての解説がなされているのが特徴で、さらに最新のリーダーシップ理論も織り込まれてアップデートされています。また、前著に比べ、マネジメント及び管理者行動について掘り下げているのも特徴です。

 テキスト的な本ですが、序章で述べられているように、現役の管理職にとっても、管理職としての経験を振り返って整理し、次世代の管理職を育成するためのツールとして活用できる本であるかと思います(索引はあるが、文中のキーワードを太字にするようなことはしていないのは、読み物としても読めるようんすることを意識したのか)。

 初学者には、なぜリーダーシップ理論を学ぶのか、それが実務に何の役に立つのかといった抵抗感が往々にしてあるものですが、理論をそのまま現実に適用するのではなく、その理論の基本的エッセンスを応用の足掛かりとし、自分なりのリーダーシップ・スタイルを確立させ、自分自身のコアを持つことは大切であり、そのためには、理論体系をまず把握するのが、毎週のように刊行される自己啓発本みたいなものを読み漁るよりずっと効率的であると、個人的には考えます。

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目に見えにくいフォロアワーシップというものを自身の経験から可視化して解説。

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新版 リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』 中竹 竜二・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター
リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』['09年]
リーダーシップからフォロワーシップへ    .jpg 本書は、著者が2006年に清宮克幸氏の後を受け早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任し、2007年度から2年連続で全国大学選手権2連覇を成し遂げた際に刊行された本の新版であり、新版として刊行するにあたり、「いいリーダーの資質」についてまとめた終章が加わっています(第1~7章はほぼ旧版を踏襲)。

 第1章では、リーダーシップとフォロアワーシップを同じレベルで考えなければならない時代がやってきたとし、「リーダー」と「リーダー以外」を分けて考えると、組織に対してそれぞれの立場で考えなければならないことは、
 ①リーダーが考える自分自身のリーダーシップ(第2章)
 ②リーダーが考える自分以外のフォロワーシップ(第4章・第5章)
 ③フォロワーが考える自分自身のフォロワーシップ(第6章)
 ④フォロワーが考えるリーダーがとるべきリーダーシップ(第7章)
 の4つあるとしています。

 第2章では、リーダーのためのリーダーシップ論を説いています。まず、ストッグディルの特性論を紹介し、彼はリーダーの持つ特性として、「公正」「正直」「誠実」「思慮深さ」「公平」「機敏」「独創性」「忍耐」「自信」「攻撃性」「適応性」「ユーモアの感覚」「社交性」「頼もしさ」の14を挙げたとし、また、優秀なリーダーたちが持っている能力を、分かりやすく表現したシリーズとして「~力」という考え方があり、そこで挙げられる「力」には情報収集力、分析力、実行力、準備(段取り)力、決断力、対応力、論理力、創造力、マネジメント力、俯瞰力、交渉力、企画力、発想力、目標設定力、課題解決力...等々があるが、管理職研修ワークショップからの吸い上げなどから全ての要素がリーダーシップの大切な能力であることは確認できるものの、一つひとつが大切であることと、一人の人間がそれらの全ての要素を持つべきだということとは全く異なり、この両者を混同すると、「極めて万能で優秀な神様みたいな能力を備えたリーダー以外は、いわゆる理想のリーダーシップを発揮することは、非常に困難である」という矛盾に陥ってしまうとしています。一方、非理想のリーダー像には大きな共通項が見出しやすく、そこから逆説的に考えると、理想のリーダーの条件は、「ブレない」「言動に一貫性を持っている」ことであるとしています。

 これを受け、第3章では、リーダーとしてのスタイルを確立させることの必要性を説いています。ここでは、「中竹のスタイル」として、①日本一オーラのない監督、②期待に応えない、③ 他人に期待しない、④怒るより、謝る、⑤選手たちのスタイル確立を重視の5つを挙げ、さらに、スタイル確立の鉄則として、①多面的な自己分析、②できないことはやらない、③短所こそ光を!、④引力(周囲のプレッシャー)に負けない、⑤焦らず、勇気を持って、の5つを掲げ、また、Vision(ビジョン)・Story(ストーリー)・S cenario(シナリオ)の3つのフェーズを意識してマネジメントするVSSマネジメントというものを提唱しています。また、スタイルを作り上げるプロセスで起こりがちな失敗として留意すべきこととして、①「スタイルがないのがスタイル」は×、②スキルが全くなければスタイルなし、③安易なオンリーワン思考、④無謀な夢、⑤情報過多での混乱、の5つを挙げています。

 第4章は、リーダーのためのフォロワーシップ論です。ここでは、フォロワーを育てるためには、リーダーがまず理想のフォロワー像を描き、部下に主体性を持たせることが大切で、「マニュアル化」や「安全性」はむしろ自主性逓減に繋がることがあるとしています。部下の成長機会を手助けするのがリーダーの役目であり、そのためには、フォロワーの資質と目標に合った環境を整えるとともに、フォロワー一人ひとりのスタイル構築を支援しなければならないとしています。

 第5章では、具体的なフォロワーシップ実践の際の重要な思考スキルと手法を紹介しています。ここでは、(フォロワー育成の中竹メソッドとして)フォロワーとの個人面談におけるチェックポイントとして、①ポジティブ(前向き)で未来志向であるか、②弱点克服に偏りすぎていないか、③周りの引力に負けていないか、④スタイルがオンリーワンになっているか、⑤スタイルを発揮する状況をイメージできているか、の5つを挙げています。そして、自らの経験から、個人面談を通して、選手の短所に光を当ててあげ、相手の懐に入り込み、ワンサイズ大きなスタイルを目指させることで、お互いにとってエネルギーとなる面談となるとしています。また、フォロワーが自分たちで課題を見つけ、解決していくために欠かせないチームトークを推進するために必要なスキルと心構えについても述べています。

 第6章は、フォロワーの立場になって、どう組織を支えていくかが論じられています。ここではまず、組織と人間の関係性に注目し、日本と西洋における個人と組織の一般的な捉え方を比較したうえで、フォロワーの5つの選択肢として、①自分自身の個としての成長を最優先、②仲間(フォロワー)と共に成長する、③リーダーを成長させる、④リーダーを変える、⑤組織を脱退する、の5つを挙げ、前2つのパターンがフォロワーのためのフォロワーシップ行動であり(第6章で解説)、後3つは「フォロワーのためのリーダーシップ」の考え方であるとしています(第7章で解説)。そして、自分自身の個としての成長を考えるには、まず、フォロワーであることのメリットを理解しておくことが重要であるとし、また、自分だけでなく、仲間と共に成長したいと思った場合は、組織に存在する課題をプロジェクト化するとよいとしています。

 第7章は、フォロワーが考えるリーダーシップ論です。ここでは、リーダーのプライドをコントロールすることを説き、その一つの方法として、リーダーそのものの人格ではなく、リーダーと言う立場に敬意を払うポジションリスペクトという考え方を紹介しています。

 2009年刊の本書旧版の巻末にある「おそらくこれから数年の間に、多くの組織においてリーダーシップからフォロワーシップへと議論の焦点が移行するだろう」という著者の予測は、当たったと言えるかと思います。ただし、著者も指摘しているように、トップダウン型のリーダーシップは目に見えやすく、一方で、フォロワーシップは、努めて目を凝らさなければなかなか見えてこない面があり、ラグビーチームの監督としての著者自身の経験に基づいて書かれた本書は、そうした意味ではその見えにくい部分を、著者なりの切り口で可視化して解説しているように思いました(何よりも実績があるので説得力がある)。

 スポーツチームの監督がチームが優勝したりして本を出すのはよくあることですが、本を出した次の年にはリーグなどで最下位だったりすることもあり、個人的には何となくそうした本を読むことに対してそう積極的でなかったです。そうしたこともあり、本書も刊行時にはすぐに読みませんでしたが、こうして新版を読んでみると、この著者の本は当時から「ビジネス書」(ビジネスの世界に応用可能な普遍性を有する本)だったのだなあと思いました。

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部下を不調に追いやる「危険な上司」4タイプの特徴と対処法を分かりやすく説く。

『上司が壊す職場』.JPG上司が壊す職場.jpg  「新型うつ」な人々.jpg 劣化するシニア社員ード.jpg
上司が壊す職場 日経プレミアシリーズ』 『「新型うつ」な人々 (日経プレミアシリーズ)』『劣化するシニア社員 (日経プレミアシリーズ)

 本書は、産業カウンセラーであり、本書と同じ日経プレミアシリーズにも『「新型うつ」な人々』(2011/06)、『劣化するシニア社員』(2014/02)などの著書がある著者が、自身のカウンセラーとしての経験則をもとに、部下を不調に追いやる上司の特徴とその対処法に分かり易く説いた本です。

 第1章では、職場におけるメンタル不調の7割は、上司が原因で起こるとしています。そして、部下を不調にさせる管理職のおよそ半分(全体の3分の1)は、マネジメント能力の未熟さ、つまり「スキル不足」の問題を抱えているとしています。一方、残りの3分の1は、上司自身の特性、つまりキャラクターに偏りがあるケースであるとし、本書ではこの部分に注目し、このタイプを「危険な上司」と呼び、こうした上司が存在するだけで、そこは「心が折れる職場」となるとしています(「『部下も悪い』と考える会社は危ない」とも言っている)。

 著者は、そうした危険な上司は、自身に問題がある自覚もなければ、罪悪感もなく、他人に気を配れず、他罰的で、極度に「自己中心」な思考をする傾向にあり、無自覚にパワハラ問題を起こし続けるとしています(「『自然な言動』で部下を追い込む」と言っている)。そのうえで、「危険な上司」を、周囲が目に入らず、空気が読めない「機械型」、相手を"敵"と認識すると感情的に攻撃する「激情型」、常に賞賛を浴びたい、特別視されたい「自己愛型」、部下の気持ちよりも自己の目的を重視しすぎる「謀略型」の4タイプに分類し、第2章から第5章の各章で、それぞれのタイプを詳説するとともに、その対処法を示しています。

 「機械型」は、興味の幅が狭く、段取りが下手で、普段は部下の仕事に全く関心がないのに、融通は利かず、どうでもよいことを細かく注意してくるタイプです。周囲の目を気にせず、荷物が多くカバンがぱんぱん、デスクが異様に散らかっているか、逆にクリップ一つないほど片付き過ぎている人にこのような特徴が出やすいとのことです(その性格が変わらない場合は、「うちの上司はそういう人」と割り切って考えるのがお勧めとのこと)。

 「激情型」は、部下の些細な一言で、突然逆上し、罵声をあびせかける典型的なパワハラ上司で、自分が信頼する人にはとことん尽くすが、それが裏切られたと感じると、感情のコントロールができなくなって相手を攻撃してしまうタイプです。会社や職場への不満を話し出したら止まらず、何事も根に持ちやすいとのことです。ひどいケースでは、激昂の末に暴力を振るう場合もあり、こうなるとパワハラの域を超えるとしています(そもそも、激情型の人を上司に就かせないよう、会社側は見きわめる必要があると)。

 「自己愛型」は、「あの人は有能だ」と思われることが本人にとっての最大目標であり、「部下の手柄は自分の手柄」と考えているのに、自身のミスは、その責任を平気で部下へ押し付けるタイプです。電話の声が必要以上に大きく、周りに聞こえるように仕事を進めたり、「忙しさ自慢」をしてきたりするなど、面倒くさい「かまってちゃん」が多いとのことです(賞賛をし続ければ敵意の対象とはされないため、部下側の対応は比較的容易だと)。

 「謀略型」は、支配欲や権利欲がとても強く、「邪魔」と感じた部下は躊躇なく切り捨てられる「最も危ないタイプの上司」であり、他のタイプは自身の感情をコントロールできないため、部下や組織を壊してしまうという側面があるが、このタイプは、自分の目標を達成するために「理知的」に行動しているのが特徴。結果のためには手段を選ばず、部下の弱みを最大限利用し、自分のせいで部下がつらい目にあっていても良心が痛むことがない。口がうまく、自分を「できる上司」だと演出するのを得意とする人が多いとのことです(部下側の対処が最も難しいタイプで、「離職者の続出、職場の澱んだ空気」の責任者であると)。

 第6章では、こうした「危険な上司」がカウンセリングなどを通して変われるか、もし行動様式を変えようとするならば、どのようなカウンセリング内容になるかを、専門家の立場から4つのタイプごとに解説しています。また、こうした個別対応もさることながら、「危険な上司」を生み続け、メンタル不調者を多く出す組織、いわば「危険な会社」というものも多く目につくとしています(「危険な上司」の類型を大まかにでも理解しておけば、自らの職場で起こっている問題を明示的に認識する助けとなるが、最終的は組織的な取り組みが求められるということになる)。

 そこで、最終章の第7章では、「危険な上司」を生まない会社になるにはどうすればよいか、幾つかの提言をしています。この中で、ある職場で問題を起こしたりした上司を、同じ職位のまま別の職場に「たらい回し」するのは、問題の先送りであるとしています。また、ライン管理職中心の人事を見直すべき時代にきているのではないかとも述べています。

 本書では、カウンセリングの手法を示しつつも、カウンセラーの立場でできることには限界があり、「人事上の判断」でしか、真の解決はできないとしています。また、各章で、誰を管理職に登用するかの判断が非常に重要になってくるとしています。意外と、パワハラ上司になる危険性というのは、管理職登用に際してはあまりチェックされなかったりすることもあるのではないか思われます。その意味では教唆的な内容であり、人事パーソンとって自らの気づきを促すために一読してみるのもよいかと思います。

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前著『最前線のリーダーシップ』の実践編と言えるか。

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最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』ロナルド・A・ハイフェッツ in NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)
最前線のリーダーシップ
最前線のリーダーシップ.jpg 本書(原題:Practice of Adaptive Leadership: Tools and Tactics for Changing Your Organization and the World、2009)は、ハーバード・ケネディスクールの教授らによるもので、著者の一人ロナルド・ハイフェッツ教授はNHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られています。また、本書は、ハイフェッツ教授の『リーダーシップとは何か!』('96年/産能大学出版部、原題:Leadership Without Easy Answers、1998)や『最前線のリーダーシップ』('07年/ファーストプレス、原題:Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading" 2002、マーティ・リンスキーとの共著、先月['18年10月]新訳版刊行)の続編とも言える内容であり、前著で培われてきた考えを更に推し進め、「アダプティブ・リーダーシップ」というものを強く提唱するものとなっています。

 本書の第1部「イントロダクション:目的と可能性」の第2章で、アダプティブ・リーダーシップとは、難題に取り組み、成功するように人々をまとめあげ動かしていくことであるとしており、リーダーシップで失敗する最大の原因は、「適応課題」(問題の当事者が適応することによってのみ前進させられる課題)を「技術的課題」として対処してしまうことにあるとしています。そして、アダプティブ・リーダーシップでは、観察、解釈、介入という3つの主要な活動を反復するとし、ステージごとに、そのコツを身につけることが大切であるとしています。以下、第2部から第5部にかけてが、そのプロセスの実践編となっています。

 第2部「システムを診断する」では、第5章で、観察によってシステムをどのように診断するか、技術的要素と適応要素はどう判断するかを述べ、適応課題の類型を示しています。第6章では、政治的状況をどう診断するか、第7章では、適応力の高い組織にはどのような特性があるのかを述べています。

 第3部「システムを動かす」では、第8章で、システムを解釈する際の方法を述べ、第9章で、効果的な介入をどうデザインするのかを述べています。そして、第10第では政治的に行動する方法を、第11章では対立を組織化する方法を、第12章では適応力の高い文化を構築する方法を述べています。

 第4部「自分をシステムとして認識する」では、第13章で、どのようにして自分自身に目を向けるかを述べ、第14章では自分自身の忠誠心を特定する方法を、第15章では自分自身のチューニングを確認する方法を説いています。更に、第16章では自身の能力の容量を広げるにはどうすればよいか、第17章では自身の役割をどう把握するか、第18章ではどうやって目的を明確にするかを述べています。

 第5部「自分を戦略的に動かす」では、第19章で、目的とつながり続けることの、第20章で勇気をもって参画することの、第21章で人を鼓舞することの重要性とコツをそれぞれ説き、第22章では、リーダーシップを一つの実験として考える考え方を提唱しています。そして、最後の第23章では、成長し成功するためのポイントを述べています。

 著者の前著『最前線のリーダーシップ』では、「ダンスフロアから1歩出てバルコニー席に上がる」という表現を用いて、まず起きていることの全体像を知るべきであるとしていましたが、本書では、第2部以降、アダプティブ・リーダーシップにおける、観察、解釈、介入というプロセスの解説を進めていくうえで、随所で「バルコニーにて」というコーナーで観察すべきポイントを示し、「現場での実践演習」というコーナーで、実験へのヒントを紹介しています。それらヒントは啓発的であり、納得性が高いように思いました。

 第12章で、適応力の高い組織の特徴として、「エレファント(Elephant in the room):重大な問題でその場にいる誰もがその存在を認識しているが、見て見ぬふりをされているもの」の指摘が日常的行動としてなされていることをトップに挙げているのが個人的に印象に残りました。

 また、システムの診断と併せて、自分自身をシステムとして認識することを説いているのは興味深かったです(第2部がシステムの診断、第3部がシステムを対象とした行動、第4部が自分自身の診断、第5部が自分自身を対象とした行動について書かれていることになる)。一方で、スキルに比重を置いてはいるものの、全体を通しては、オーソドックスなリーダーシップ論であるようにも思いました(突飛なことは何一つ言っていない)。但し、示された多くのヒントは大いに啓発的であると思います。

 個人的には、『最前線のリーダーシップ』(個人的評価は◎)から先に読んだのが良かったかもしれません。『最前線のリーダーシップ』も、リーダーシップ行動に伴う危機をどう乗り越えるのか、その方法や技術について説いた本でしたが、『最前線のリーダーシップ』の方がよりコンセプチュアルで、本書の方は、それに比べると("実践の書"を謳っている分)テクニカルかもしれません。本書単独で読んでも得られるものは少なからずあるかと思います(但し、実践してこそ意味があることを忘れてはならない)。

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「科学的モチベーション論」入門。モチベーションの有無よりその理由に注目。

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会社でやる気を出してはいけない

 世界30カ国以上の国々でリーダーシップ・コンサルタント、コーチとしての仕事に携わった実績を持つという著者による本です。タイトルは刺激的ですが(原題"Why Motivating People Doesn't Work...and What Does")、本書のベースにある考え方は、「人間はどんな時でもモチベーションを持っている」ということ、問題は「モチベーションに有無ではなく、モチベーションの理由」であって、「仕事へのモチベーションがあればあるほど望ましいという考え方」は、単純すぎるどころか馬鹿げている」というものです。モチベーションには科学的な裏付けがあり、「科学的にモチベーションをマネジメントする方法」を示したものが本書であるとのことです。

 第1章「モチベーション・ジレンマ」では、他人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかない理由を解明し、その代替案となる「モチベーション・スペクトラム」というものを提案しています。モチベーション・スペクトラムとは、横軸に「心理的欲求」、縦軸に「自己制御力」を取り(この「心理的欲求」と「自己制御力」については第2章、第3章で改めて解説している)、その高低によって「無関心」「外発的」「義務的」「協調的」「統合的」「内在的」の6種類のモチベーションタイプを配したもので、前3タイプを「後ろ向きタイプ」、後3タイプを「前向きタイプ」のモチベーションとしています。

 第2章「モチベーションっていったい何?」では、人間に備わっているモチベーションの本質を知り、それを利用することで得られるメリット、それを省みないことによる代償を明らかにしています。ここでは、モチベーションの本質とは、「自律性」「関係性」「有能感」を満たしたいという人間の「心理的欲求」であるとしています。

 第3章「何かに駆り立てられる『ドライブ』の罠」では、結果を出そうとがむしゃらにならなくても、なぜかよりよい結果が出せる方法を紹介しています。そこで鍵になるのは「自己制御力」ですが、「マインドフルネス」「価値観」「目的」の3つが自己制御力を育む手段となるとしています。

 第4章「モチベーションはスキル」では、自らのモチベーションの質を変えていくために個人がなすべきことと、そのために役立つスキルとして、①現在のモチベーションタイプを見きわめる、②前向きタイプのモチベーションにシフトする、③自らを振り返る、という3つを挙げています。

 第5章「モチベーションをシフトする」では、部下のやる気をより質の高いものへと変えていくためのリーダーの会話術を披露し、第6章「前向きなモチベーションへのシフトを阻む5つの固定観念」では、リーダーとしての言動に悪影響を及ぼしている固定観念や価値観を見定め、部下が前向きなモチベーションを持てるよう促し支援する最善策を紹介しています。第7章「前向きなモチベーションが約束するもの」では、モチベーションに対する新たなアプローチに秘められた可能性を、「組織」「リーダー」「職場での成功を目指す人」の3つの観点から考察しています。

 前半部分が理論編で、後半にかけて実践編になっていくという感じでしょうか。全編を通じて事例を織り込んで解説しているため、読みやすいものとなっています。「マネジメントは科学である」というアメリカ的な考え方が、モチベーションも同様に科学的裏付けがあり、モチベーションを科学的にマネジメントすることで、自分や相手のモチベーションを前向きなものにすることが可能となる、という考え方に敷衍されている本と言えるのではないかと思います。

 これはこれで一つの考え方であると思いますが、「マズローの欲求五段階説」など古典的理論に拘泥されない新しいモチベーション理論であり、自分自身にも相手にも、またチームやプロジェクトにも当てはまる考え方でもあるように思いました。一方で、"理論書"というよりむしろ"啓蒙書"として読める面も多くあるかもしれません(個人的には多分にそう読んだ。リーダーに対する警句がいっぱい出てくる)。確かに、科学的なモチベーション論と精神論の境界は難しいように思いますが、本書において言語化された概念を、もう一度自らの頭の中で再整理してみるもの、その「科学的モチベーション」に一歩近づく手立てではないかと思います(帯に「『科学的モチベーション』のはじめ方」とある)。

 "啓蒙書"として読むと楽に読めるけれど、"理論書"として読むと結構コンセプチュアル・スキルを要する本であったかもしれません。

《読書MEMO》
●人はいかなる場合でもモチベーションを持っています。問題はやる気があるかどうかではなく、なぜやる気があるかなのです。
●リーダーとしてなすべきは、職場で部下が関係性を実感できるように計らうことです。それは、互いに尊重し合っていると思えるよう、誠意をもってつながっていると感じられるよう、自分より大きなものに貢献できるよう導くことにほかなりません。
●人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかないのは、関係性を感じるよう他人に無理強いすることができないからです。
●従業員は職場に関して、頼りになるか否か、安心できる場か不穏な場か、信頼できるか否か、というふうに絶えず評価を下しています。そして、信頼性があり安心できる職場環境のほうが高い自己制御能力を持てる可能性がずっと大きいのです。
●皮肉にも、後ろ向きタイプのモチベーションが生み出すエネルギーは中毒性を持っており、それと同時に人を疲弊させます。(中略)マイナスのエネルギーを維持するには、原因を問わず、怒りを燃やし、失望し続けるしかありません。
●前向きタイプのモチベーションが持つエネルギーは、後向きタイプのモチベーションが放つマイナスのエネルギーにはけっしてかないません。
●価値観は高い自己制御力を支える柱です。それなのに、仕事に関して自分はどんな価値観を持っているかと疑問を抱き、深く考えたことのある人はほとんどいません。
●従業員は外発的モチベーションに夢中になると、他人や物に操られるようになり、知らず知らずに自律性を失ってしまうのです。
●人は、自律性を損ねるような職場をつくるリーダーに対して憤りをかんじます。そのうえ、結果を出せと部下を追い立てる上司を利己的だとみなします。
●どんな感情でも容認するが、どんな行動でも容認できるわけではない、という姿勢を持ちましょう。感情を察知し、それを受け入れ、対処するのです。
自らの心の声に耳を傾けて、感情が重大な役割を果たしていることを認めて、自己制御力を鍛えてください。
●権力を手にしたのだから、けっしてそれを使ってはいけない。優れたリーダーになれるのは信頼と尊敬を集めるからであって、権力があるからではない
●リーダーとは部下が心理的欲求を満たしうる職場づくりを担う人間である。

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ルーキーの強み(ルーキー・スマート)はリーダーにこそ求められる。

ルーキー・スマート6.JPGルーキー・スマート.jpg  メンバーの才能を開花させる技法.jpg リズ・ワイズマン.jpg
ルーキー・スマート