Recently in ■人事・マネジメント・キャリア Category

「●人事・賃金制度」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●退職金・企業年金」【041】 小林 伸行/他 『図解 ひとめでわかる退職給付会計

人事賃金コンサルタントとしての成功の秘訣を伝授。人事賃金コンサルを目指す人などにお薦め。

人事賃金コンサルタントになるための教科書8.JPGプロの人事賃金コンサルタントになるための教科書.jpg
プロの人事賃金コンサルタントになるための教科書』[日本法令]

 本書によれば、2014年頃から人事コンサルティングのニーズが再び高まっているとのこと。但し、今、企業が求めているのは、他社に追随する表面的な成果主義人事制度などではなく、将来に向けて新たな成果を創出していくための「社員が理解し、やりがいが持て、定着する」独自の人事制度であるとのことです。

 著者はこれまで「実際に運用できて十分に機能しえる人事制度」を目指してきたとのことで、本書では、著者の25年にわたる人事コンサルタントとしての実体験を基に、コンサルタントとしての基本的な心構えから、中小企業を中心とした人事制度・賃金設計の知識や手順、運用・企画提案の仕方から業務の進め方まで、広く、また重要ポイントを追って解説しています。

 特に第Ⅰ編「人事コンサルタントの基本」では、人事コンサルタントとしてのスタンスや企業との接点の場においてどのようなことに留意すべきかを、自らの経験に基づき余すところなく披露しており、人事コンサルタントとしての「成功の秘訣を伝授」という帯書きは決して大袈裟ではないように思いました。

 第Ⅱ編「人事コンサルティングの実行と手順」は人事コンサル、賃金コンサルの実務編であり、テキストとして著者のノウハウを丁寧に解説し、また、実際に活用しているコンサル資料も数多く添付する一方で、ここでも単なるテクニカルスキルの範疇に止まらず、制度に込められた意図や導入に際して留意すべき心構えなども併せて解説しています。

 そして第Ⅲ編「人事賃金コンサルタント(社外・社内)としてのスキルアップ」では、コンサルタントの役割とはを改めて問い直すとともに、コンサルタントの資質の磨き方、コンサルティングのきっかけづくりなどについて解説しています。個人的には、著者がその中で示している、従来の企画提案型のコンサルティングに対する新たなアドバイザリー(側面支援)型のコンサルティングというスタイルに関心を持ちました。

 全体を通して、全てのケースに同じことが当てはまるわけではないが、自らの経験上こうした方がうまくいくことが多かった―といった謙虚なスタンスの解説になっていて、一つの考えを読者に押しつけることをしないながらも、そのベースに四半世紀もの実地経験があるかと思うと、却って述べられていることに説得力が感じられました。

 人事賃金コンサルタントを目指すには格好の書であり、特に社会保険労務士などの開業者で、人事賃金コンサルを付加価値業務として行いたい人、或いは人事賃金コンサルを主体としてやったいきたいと考えている人にお薦めですが、その道に進んで暫くしてから振り返って本書を読むと、また更に得心する箇所が多くあるかもしれません。

 また、例えば賃金制度の解説部分などは、時代の流れに適合した制度の説明がしっかりなされているため、社会保険労務士に限らず、中小企業等の人事パーソンが読んでも参考になる部分は多いかと思います。更には、企業に勤務している社会保険労務士であっても必ずしも人事賃金制度の策定等に携わっているわけではないので、そうした人に賃金制度策定等に関心を持っていただき、3号業務を身近に感じるようになっていただく上でもお薦めできる本かと思います。

《読書MEMO》
●目次 :
第Ⅰ編 人事コンサルタントの基本
  はじめに/ マネジメントコンサルタントという仕事/ 人事コンサルタントとしてのスタンス ほか
第Ⅱ編 人事コンサルティングの実行と手順
  第1章 現状分析の手順とポイント
  第2章 基本人事制度の設計手順とポイント
  第3章 賃金設計
  第4章 人事評価制度設計の手順とポイント
  第5章 人事ビジョンに沿ったオリジナル評価制度の設計方法
第Ⅲ編 人事賃金コンサルタント(社外・社内)としてのスキルアップ
  コンサルタントの役割とは/ コンサルタントの資質の磨き方/ コンサルティングのきっかけづくり ほか
巻末資料 (16点)

「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●年金・社会保険」【726】 久野 万太郎 『年金の常識
「●年金・社会保険」の インデックッスへ

社会保険労務士の仕事と役割を丁寧に解説。

労働・社会保障実務講義.jpg労働・社会保障実務講義 0.JPG
労働・社会保障実務講義: 社会保険労務士の仕事と役割

 「社会保険労務士稲門会」編の、社会保険労務士の仕事と役割を丁寧に解説した本で、「第Ⅰ部・労働法と人事労務管理の今日的課題」と「第Ⅱ部 社会保障制度の今日的課題」の2部構成、全14講から成り、第1講で、社会保険労務士とはどのような資格・士業なのかについて、社会保険労務士法を基本に、その役割と業務内容、社会的使命について述べています。

 第Ⅰ部の言わば「労働法編」の第2講では、労働法規の成立過程と日本の社会を形作ってきた特徴が概括的に述べられています。第3講から第7講は、労務・人事関係です。採用・募集、就業規則、賃金・労働時間等の労働条件に加え、雇用形態の多様化と人事労務管理について述べています。労働の意義とそこから派生する問題点を社会保険労務士ならではの労使双方からの視点により、実務に即した課題解決の指針を示しています。

 第Ⅱ部の言わば「社会保障編」の第8講では、社会保障関連法規の成立過程と日本の社会を形作ってきた特徴が概括的に述べられています。第9講からは、主に社会保障制度を形作る法律に関係する各論となり、第11講までに安全衛生・労災・雇用の各関連法規について触れ(セーフティーネットとしての広義の社会保障制度という捉え方で、ここでは労災保険や雇用保険が社会保障制度の一環として区分されている)、第12講と第13講では、医療保険・年金制度の問題点が学究的切り口から整理されています。

 社会保障制度の中心をなす諸法について、社会保険労務士の今後の活動の中で共に解決すべき課題を提起するとともに、読者に社会保険労務士の業務や実務を知ってもらうために、「コラム」として、各講の中では触れられなかった社会保険労務士の専門性の能力発揮例として、社会保険労務士が行うコンサルティング業務、個別労働紛争解決で特定社労士が果たす役割、賃金に関する考察といった個別的具体的なテーマについて述べています。

労働・社会保障実務講義4.jpg 「社会保険労務士稲門会」とは、早稲田大学校友会認定の職域稲門会(早稲田大学卒業生の会)であり、会員相互の親睦と情報交換を図り、定期的な研修会等を通じて社会保険労務士業務の発展に寄与している全国組織です。個人的には自分が関与している組織でもあるため、そこが編纂した本の"評者"としては不適格かもしれませんが、普及・販促に協力する立場からも、星5つとさせていただきました。

 手前味噌になりますが、社会保険労務士資格を取ったばかりの人やこれからこの資格を目指そうとしている人には、多くの示唆と何らかの指針を与えてくれる本ではあるかと思います。実際、社労士稲門会が早稲田大学で毎年、士業の業務の内容や社会的役割を学生に伝えるために行っている支援講座のテキストとなっている本でもあります。執筆陣の熱い思いを通して、社会保険労務士の社会的使命を考えるヒントとなれば幸いです。

《読書MEMO》
●目次
第1講 序論――社会保険労務士とは(林智子・若林正清)
第Ⅰ部 労働法と人事労務管理の今日的課題
第2講 労働法――その歴史的展開と現在(細川良)
第3講 募集・採用――従業員を雇用するということ(大津章敬)
第4講 就業規則――人材マネジメントにおける就業規則の機能(杉山秀文)
第5講 労働条件――賃金・労働時間など(若林正清)
 *コラム いま一度「賃金」をみてみよう(二宮孝)
第6講 雇用形態――雇用形態の多様化と柔軟な働き方(小泉孝之)
第7講 人事労務管理――企業への提案を成功させる(和田泰明)
 *コラム 社労士に求められるコンサルティング業務(大津章敬)
第8講 補論――労働紛争と特定社会保険労務(森岡三男)
第Ⅱ部 社会保障制度の今日的課題
第9講 社会保障――その歴史,目的・機能をふりかえる(細川良)
第10講 安全衛生――労働災害とその未然防止(大南弘巳)
第11講 労災保険――制度の現状と社会保険労務士の役割(鎌田勝典)
第12講 雇用保険――失業保険から雇用保険に至る時代背景(林智子)
第13講 医療保険――制度の歴史・現状と社会保険労務士の役割(曽布川哲也)
第14講 公的年金――制度の歴史・現状と社会保険労務士の役割(曽布川哲也)

「●ビジネス一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2256】 出口 治明 『ビジネスに効く最強の「読書」
「●新人・若手社員向け」の インデックッスへ 「●本・読書」の インデックッスへ

ジャンルを幅広く取って簡潔にポイントを解説。極々スッキリしたスタイル。

明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む.jpg明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む3.jpg
明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』(2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

 ビジネス書の分析・解説がほぼメインの仕事になっていると思われる著者が、「明日から使える世界のビジネス書」を99冊セレクトし、あらすじと名著である理由を解説したもので、今回は海外のビジネス書に限定して、(1)ビジネス理論 Theory、(2)自己啓発 Self-Help、(3)経営者・マネジメント Management、(4)哲学 Philosophy、(5)古典中の古典 Classics、(6)投資 Investment の6つのジャンルに分類して取り上げ解説しています。

明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む2.jpg 見開き2ページ毎に各1冊紹介する形で、左ページにその本の「著者略歴」の紹介と「この本を一言でいうと」どういう本なのか、また「この本が名著とされる理由」、更にはわかりやすさ度、有名度、お役立ち度、エンタメ度をそれぞれ★で5段階評価しています。

 そして右ページにその本のポイントを2つに絞って解説をしていますが、確かにスッキリしたスタイルではあるものの、そうなるとあまりに簡単にしか本の内容の紹介ができないのではないかという気もしますが、著者の考え方は、「本書ではざっくり言って、1冊の本に書かれている真実の量は1%程度だと結論づけている。つまり200ページの本であれば、2ページの自分にとって役立つ知識が吸収されれば十分なのだ」「したがってこの本では、筆者が厳選した"100冊のビジネス書"をジャンル分けしたうえで、内容を1%で要約し、"本書から得るべき真実"を抽出した」(水野俊哉,ITmediaより)とのことです。

 ナルホド、言い得ているなあと思われる面もあるし、何ページにもわたって解説したところで、結局のところ、元の本そのものに当たってみないと分からない(体感できない)エッセンスのようなものは残るものでしょう。短く纏める方が却って難しい場合もあるでしょうし、著者(水野氏)の視点での"纏め"ということで読めば(誰が纏めても"その人の纏め方"にしかならないわけだが)これはこれでいいのではないでしょうか(タイトルにある「あらすじ」とまではいっていない気もするが)。「この本がどうしてこのジャンル?」というのもありますが、ビジネス書って元々読み手によってどのジャンルに属するか違ってくる面もあるかもしれず、その点も含めて、著者の一視点と見ればいいのでは。

 著者のデビュー作が『成功本50冊「勝ち抜け」案内』('09年/光文社ペーパーバックスBusiness)であることからも窺えるように、著者はこれまでビジネス書の中でも「成功本」的な本を数多く取り上げているようです。元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏が『本は10冊同時に読め!』('08年/知的生きかた文庫)の中で、「家にある成功者うんぬんといった本を捨てるべきである」としていますが、個人的にむしろそっちの考え方に近く、従って著者の選評本をまともに読むのは今回が初めてですが、この本に限れば、ジャンルを幅広く取っているため「成功本」指向はそれほど鼻につきませんでした。

 「哲学」や「古典中の古典」といったジャンルがあり、『銃・病原菌・鉄』や『奇跡の脳』『利己的な遺伝子』といった本なども取り上げられているのは興味深いですが、所謂「教養系」となると、成毛眞氏の編による『ノンフィクションはこれを読め!―HONZが選んだ150冊』('12年/中央公論新社)もそうですが、ライフネット生命の会長兼CEOの出口治明氏の『ビジネスに効く最強の「読書」―本当の教養が身につく108冊』('14年/日経BP社)など、筋金入りの読書人による更に"上手(うわて)"の(よりハイブローな)読書案内があるので、そうした本を指向する人はそちらの方がいいと思います。

 本書は本書で、これまでの著者の本との比較ではそう悪くないのではと思います。と言っても、これまで著者の本は書店の立ち読みでしか読んでいないのですが...(随分といっぱい書いてるなあ)。

《読書MEMO》
●目次と内容
1 ビジネス理論 Theory
・『ビジネスモデル・ジェネレーション』アレックス・オスターワルダー/イヴ・ピニュール
モチベーション3.0.bmp・『モチベーション3.0』ダニエル・ピンク
・『ザ・プロフィット』エイドリアン・スライウォツキー
・『ハイパワー・マーケティング』ジェイ・エイブラハム
・『MAKERS』クリス・アンダーソン
ビル・ゲイツの面接試験.jpg・『ビル・ゲイツの面接試験』ウィリアム・パウンドストーン
 ほか
2 自己啓発 Self-Help
・『ハーバードの人生を変える授業』タル・ベン・シャハー
・『一瞬で「自分の夢」を実現する方法』アンソニー・ロビンズ
・『スタンフォードの自分を変える教室』ケリー・マクゴニガル
 ほか
3 経営者・マネジメント Management
・『スティーブ・ジョブズ』ウォルター・アイザックソン
・『ストレスフリーの整理術』デビッド・アレン
LEAN IN(リーン・イン)3.jpg・『LEAN IN(リーン・イン)』シェリル・サンドバーグ
 ほか
4 哲学 Philosophy
・『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル
EQリーダーシップ2.jpg・『EQ リーダーシップ』ダニエル・ゴールマン
・『フリーエージェント社会の到来』ダニエル・ピンク
・『ワーク・シフト』リンダ・グラットン
奇跡の脳.jpg・『奇跡の脳』ジル・ボルト・テイラー
・『なぜ選ぶたびに後悔するのか』バリー・シュワルツ
 ほか
5 古典中の古典 Classics
・『7つの習慣』スティーブン・R・コビー
ドラッカーマネジメント.jpg・『マネジメント[エッセンシャル版]』ピーター・F・ドラッカー
フロー体験 喜びの現象学1.jpg・『フロー体験 喜びの現象学』ミハイ・チクセントミハイ
ピーターの法則.jpg・『ピーターの法則』ローレンス・J・ピーター/レイモンド・ハル
 ほか
6 投資 Investment
・『となりの億万長者〔新版〕』トマス・J・スタンリー/ウィリアム・D・ダンコ
 ほか全99冊

「●ビジネス一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2298】 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む
 「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

シニアの問題を、本人の意識・心構えの問題にすり替えてはならないというのが趣旨だが...。

劣化するシニア社員2.JPG劣化するシニア社員4.JPG  「新型うつ」な人々.jpg
劣化するシニア社員 (日経プレミアシリーズ)』 『「新型うつ」な人々 (日経プレミアシリーズ)

 『「新型うつ」な人々』('11年/日経プレミアシリーズ)などの著書のある産業カウンセラーによる本書は、仕事を選り好む、マネジメントに口を出す、「あと数年だから」と無気力に陥る、過去の経験や職位を振りかざす、「もう年だから」を理由に努力をしない等々、シニア社員の"問題児化"を六つのタイプに分類し、筆者が遭遇した実例を交えながら、シニア問題の根本要因に迫っています。

 第1章「『縦横無尽』に振る舞うシニア社員たち」で、その6タイプを示し、ケースを挙げて典型的な口癖などと示すとともに、そのケースの最後に周囲の声が付されており、それらは以下の通りです。
 ①自分の不遇への共感を周囲に求める「嘆きタイプ」
 「その仕事はちょっとね...」
  そんな人には「そんなに仕事をしたくなければ辞めてしまえ!」と叫びたくなる。
 ②年下の社員に対する依存が止まらない「おんぶに抱っこタイプ」
 「ねえねえ、パソコン教えて」
  「私はあなたのパソコンインストラクターではない!」と叫びたくなって、結局「そんなに働きたくないなら、早く辞めてよ!」と叫びたい。
 ③自分で選んだ仕事しかしない「わが道を行くタイプ」
 「1人でできる仕事がしたい」
  「いい加減、チームで働くことを覚えろ!」と叫びたい。
 ④職場を地域のサークルと勘違い「ご隠居タイプ」
 「その指輪、彼氏のプレゼント?」
  「頼むから、1日も早く全員辞めてほしい。その仕事は無償で引き受けてやる!」と叫びたい。
 ⑤安請け合いが最悪のトラブルを生む「無責任タイプ」
 「まあ、なんとかしますよ」
  「1日も早く、辞めてくれ!」と叫びたい。
 ⑥権限を超越し暴走する「勘違いやり過ぎタイプ」
 「俺が若手にビシッと言ってやる」
  「あなたにそんなことは期待していない、自分の身分をわきまえろ!」と叫びたい。
う~ん、これを読んで、確かにこういうシニアはいるなあと思った人は多いのでは。
 第2章「なぜ『問題児』化するのか」では、タイプごとに本人の抱える意識面での背景要因を分析していますが、これ読むと、本人の人格的要素が占める割合が大きいような...。

 ここまで本人責任論っぽいですが、第3章「ほんとうは本人が苦しい」では一転してシニア本人の側に立ち、上司サイドに問題があって職場適応でつまずいたり、更に職場適応への失敗からメンタル不調に陥ったりするケースなどが紹介されています。

 そして、第4章「その職場環境がやる気を奪う」では、無視できない環境・状況面での問題を取り上げ、第5章「周囲の社員の危険な思い込み」では、周囲の様々な思い込みが状況をますます悪化させることに繋がる場合があることを示唆しています。

 更に「実践編」として、シニア社員を受け入れる側からとシニア社員本人からのアプローチを示し(チェックリストのようなもの)、終章「『「意味』があれば仕事はつらくない」で、「価値観の創造」ということについて述べています。

 全体を通して、シニア社員の職場で問題になるケースや本人が辛い思いを抱えているケースを具体的に示し、環境・状況面の問題性、本人の意識の問題性、周囲の意識の問題性など幅広い観点から分析することで、シニアの問題を、本人の意識・心構えの問題にすり替えて考えてはならないことを訴えています。周囲が「いい大人なのだから、周囲にとけ込む努力をしてほしい」「わからないときは、本人から教えを請うべきである」と明らかな上から目線から捉えているとしたら、それはシニア社員を完全に拒絶する意識とも言え、"厄介者"発想に根ざして、はじめから配慮するつもりがないのなら、摩擦が起きてくるのも当然だというのは穿った指摘でした。

 但し、第1章「『縦横無尽』に振る舞うシニア社員たち」が全体の中で相対的にインパクトあり過ぎて(マンガ的であり過ぎて?)、"あるある本"みたいな(うっ憤解消本みたいな)印象が強くなってしまった感じもします(タイトルもさることながら、帯にも「"問題シニア"の驚くべき生態とは?」とあるくらいだからなあ)。それに比べると、後半は、産業カウンセラーという立場からなのか、企業内外の制度や仕組みには触れず、ヒューマンスキルでの対応のみで事を解決しようとしている分、ちょっと弱かったように思われました。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1672】 ウォレン・ベニス/他 『本物のリーダーとは何か

リーダーシップに対する「思い込み」を解く。分かり易さ、理論的なバックボーン、現場のシズル感がいい。

マネジャーになってしまったら読む本.JPGマネジャーになってしまったら読む本 2.jpg

 
 

永禮弘之 氏.jpg 永禮 弘之 氏 (エレクセ・パートナーズ)
マネジャーになってしまったら読む本―リーダーシップに自信が持てる7つの方法

 本書Part1第1章によれば、最近のマネジャー研修やリーダーシップ研修などで、参加者の中から、そもそもリーダーシップに興味が無いとか、元々"損な役回りである"マネジャーにはなりたくなかったとかいう声が聞かれることがあるとのことですが、これは個人的にも少なからず感じます。続く第2章では、こうした傾向は、日本人のマネジャーのリーダーシップに対する自信の無さからくるとし、その根底にリーダーシップへの「思い込み」があるとしています。

 Part2(第3章から第9章)では、新任マネジャーがよく抱く「リーダーシップに対する7つの思い込み」(1.自分にはリーダーシップがない、2.常に、部下には仕事で勝たなければならない、3.指導力が高くなければならない、4.人望を高めなければならない、5.リーダーシップのスキルやテクニックを身につけなければならない、6.自分を犠牲にしなければならない、7.自分の分身をつくらなければならない)が、リーダーシップへの過大な期待や要求につながり、多くの人の自信を失わせる原因となっていることを解き明かしています。

 Part3(第10章)では、自信を失う原因である「7つの思い込み」への対処方法を示すことで、自ら考え、行動するリーダーとして自信が湧いてくるよう読者を導くとともに、エピローグでは、更にリーダーとして成長していくための4つのステージ(セルフ・リーダーシップ → ワン・トウ・ワン・リーダーシップ → チーム・リーダーシップ → オーガニゼーション・リーダーシップ →ソサエティ・リーダーシップ )を示しています。

 労政時報の人事ポータル「ジンジュール」で著者の人材育成、教育・研修に関する連載を読み、本書を思い出しました。著者は数多くのセミナーやマネジャー・リーダーシップ研修をこなしており、個人的にも著者の人事担当者向けの企業内研修企画作成セミナーを聴いたことがありますが、双方向性の講義とワークショップ方式のグールプ作業から成り、たいへん分かり易く、また、身に付くものでした。

 こうした研修主体の仕事をしている所謂「セミナー講師型コンサルタント」が本を書くと、ともすると本がセミナーの内容そのものになってしまって、しかも "企業秘密"に属するメソッドの中核の部分は明かさないといった研修誘引型の(結果としてスカスカの内容の)本になりがちであるのに対し、本書は「指南書」としてきちんと纏まっているうえに、各章末のコラムなどでリーダーシップ理論などを紹介していることから窺えるように、理論的なバックボーンもしっかりしています。そのうえで分かり易くか書かれているので、新任マネジャーには是非ともお薦めですが、人事パーソンが読んでも得られるものは多分にあるのではないでしょうか。

 これは著者のセミナーや研修についても言えることですが、理論的なバックボーンをしっかり持ちながらも、多くのマネジャーや人事担当者のナマの声をしっかり吸い上げ反映させていてるシズル感があり、読み易い、分かり易いというのが共通する特長でしょうか。セミナー講師だけでなく、実際に人材育成や組織風土改革に関わっているコンサルタントであることがよく分かります。

 また、世の流れとして、リーダーシップとマネジメントを分けて考える風潮がありますが、本書では最初から「リーダーシップに対する思い込み」がマネジャーの自信を失わせているとして、マネジャーに欠かせないものとしてのリーダーシップという捉え方になっています。やみくもにスキルや知識を身につけても、他人に使われる器用な道具にはなれても、自分の人生の主役にはなれない―という著者の考えなどと併せて、個人的にはしっくりくるスタンスでした。刊行されてから何度か読み返しているため、却って取り上げるのが遅くなりましたが、五つ星です。

「●採用・人材確保」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●リストラクチャリング」【064】 キングズレー 『上手なクビの切り方

就活後ろ倒しの影響を企業の対応までを含めて概観するのにいい。

こう変わる! 新卒採用の実務.jpgこう変わる! 新卒採用の実務 (労政時報選書)』(2014/12 労務行政)

こう変わる! 新卒採用の実務- 新卒採用の実務 -2.JPG 先に取り上げた『新卒採用の実務』(2014/11 日経文庫)のところでも触れた1冊。 2016年新卒採用(2015年度の大学4年生)から、採用広報の開始が3月1日(従来は12月1日)、採用選考の開始が8月1日(同4月1日)に、それぞれ広報が3ヵ月、選考が4ヵ月後ろ倒しされることを受け、予想される影響やそのことへの企業の対応にフォーカスして編集されています。

 「総論解説」「各論解説」「最新調査にみる採用の現状とこれから展望」「企業事例」「採用関連実務Q&A」の5部構成で、「総論解説」はスケジュール変更の影響についてHRプロ㈱の寺澤康介氏が、新卒採用の今後の在り方についてリクルートワークス研究所の大久保幸夫氏が寄稿しています。

 個人的には寺澤氏が、経団連の「指針」は縛りが緩いルールであって、8月1日「解禁」前に6割以上の企業が選考を始めるだろうとし、インターンシップを採用に繋げる企業が増えるだろうとしているのが関心を引きました。

 こうした見通しは既に類書などでも言われていますが、自社のアンケートでもって、「指針」が守られると思っている企業が4割以下なのに対し、「指針」が守られないと思っている企業が6割近くあると示しているのは説得力があるように思われました(「どちらとも言えない」と答えた企業の中にも「今も守られていない」という声があったとのこと)。

 「各論解説」ではインターンシップやリクルーター制度、内定者フォロー、キャリアセンターとの連携などについて各分野の専門家や実務家が解説し、「最新調査」としては調査会社による調査結に加え、労務行政研究所オリジナルで企業の動向や人事担当者のホンネを探る調査を載せています。ここでも「早めに広報活動や学生の接触、選考を行う」32.2%、「指針に示された時期にとらわれず、独自のスケジュールで活動する」27.6%と、両方を合わせると約6割になるという結果が出ています。

先進の「企業事例」としてはネスレ日本、タカラトミー、ワークスアプリケーションズなど5社の採用の実情を紹介しています。ワークスアプリケーションズの「入社パス」などはすっかり有名になったように思いますが、その他にも各社さまざまな工夫をしていることが窺えます。

 「実務Q&A」では、「インターンシップの学生に報酬を払えば労働者とみなされるか」など5つのQ&Aが付されています。

 今回の「就活後ろ倒し」は、インターンシップが選考の場と化すなど、採用活動のアンダーグランド化を招く恐れがあるとして評判はあまりよくないようですが、そうは言っても、大学および学生、並びに企業は、も対応をしなければならないのが現実でしょう。本書はやや総花的な印象もありますが、就活後ろ倒しの影響だけでなく、企業の対応までを含めて概観するのにはちょうど良く、「調査結果」と併せて解説することでより説得力のあるものになっていると思いました。

 先に挙げた寺澤氏は、8月1日の「解禁」までのんびり構えて、出遅れる学生が増えると警告する一方、企業に対し、自社のスタンスを決めて採用戦略を立て柔軟に動ける準備をするようアドバイスしていますが、尤もだと思いました。

「●人事・賃金制度」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2300】 二宮 孝 『プロの人事賃金コンサルタントになるための教科書

非正規社員を含めた自社の賃金制度の将来的な在り方を考えていくうえでの指標になるか。

これからの賃金6.JPG遠藤公嗣『これからの賃金』.jpgこれからの賃金』(2014/10 旬報社)

 これからの日本の賃金には、日本で働くすべての労働者の均等処遇をめざす賃金制度が必要であり、その賃金制度は「範囲レート職務給」が中心になるはずであって、それに必要な職務評価は「同一価値労働同一賃金」の考え方で実施すべきであるというのが本書の主張です。

 著者の言う「日本で働くすべての労働者」とは、正規労働者だけでなく非正規労働者も、男性労働者だけでなく女性労働者も、日本人労働者だけでなく外国人労働者も含むことを意図しています。

 第1章「日本企業における賃金の動向」では、そのことを象徴するように、非正規労働者の賃金制度から考察を始めています。また、この第1章では、正規のホワイトカラーの労働者の賃金改革の歩みを振り返るに際して、「成果主義」と「コンピテンシー」の2つを"言説"として捉え、その実態はどうであったかを述べるとともに、「役割給」が普及した経緯を分析し、その特徴として「ミッション」の概念を重視していることを指摘している点は、実務者にとってもたいへん興味あるものではないでしょうか

 第2章「賃金形態の分類を考える」では、最近の賃金制度改革の方向性を議論するための前提として、賃金形態を理論的に分類していますが、雇用慣行並びにそれに対応する賃金形態を「属人基準」と「職務基準」に大別し、さらに「属人基準賃金」を「年功給」と「職能給」に(「職能給」を「職務基準」ではなく「属人基準」としている点に注目)、「職務基準賃金」を「職務価値給」(職務給、職務価値給の労働協約賃金、時間単位給)と「職務成果給」(個人歩合給・個人出来高給、集団能率給、時間割増給)に分類したうえで、現在の日本の賃金は、全体として、「職務価値給」の1つである「範囲レート職務給」に移行しつつあるとしています。

 この第2章では、「成果主義賃金」「コンピテンシー」の流行が終わったと捉え、正規ホワイトカラー労働者については「役割給」が主流となったとしていますが、その「役割給」というものを「範囲レート職務給」に近いとしながらも、「ミッション」概念が付与されているという意味で、「範囲レート職務給」まがいのものであるとしているのが興味深かったです。

 第3章「賃金制度改革の背景」では、賃金制度改革が主張される背景として、「日本的雇用慣行」と「男性稼ぎ主型家族」の組み合わせた従来型の社会システムである「1960年代型日本システム」が崩壊しつつあることを指摘しています。そうした旧来のシステムが崩壊したことの原因と労働者への影響を探る中で、正規も非正規も階層化が進んでいることを指摘している点が興味深かったです。

 第4章は本書の結論部分であり、1960年代型日本システムに代わる新しい社会システムが「職務基準雇用慣行」と「多様な家族構造」の組み合わせであること、冒頭に述べたとおり、そこで適用されるべき賃金制度は「範囲レート職務給」であり、その社会的規制は「同一価値労働同一賃金」の考え方の職務評価であることを主張しています。

 ホワイトカラーエグゼンプションや地域限定正社員、有期雇用社員の無期転換など、多様な働き方の推進が議論されている昨今、また、「日本的雇用慣行」と「男性稼ぎ主型家族」の組み合わせである「1960年代型日本システム」の崩壊が進む中で、著者が提唱する「同一価値労働同一賃金」に基づく職務評価をベースとした職務基準賃金という方向性は、現状における正社員と有期非正規社員の賃金形態や賃金水準の大きなギャップを埋めていく上でも、概念的な示唆を含むものと思われ、非正規社員を含めた自社の賃金制度の将来的な在り方を考えていくうえでも一つの指標になるかもしれません。お薦めです。

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2205】 ピーター・M・センゲ 『学習する組織』(『最強組織の法則』)

プロフェッショナル・マネジャーの資質とやるべきことを実証的に説いたこの上ない指南書。

プロフェッショナルマネジャー ハロルド ジェニーン.jpg プロフェッショナルマネジャー ハロルド ジェニーン 2.jpg       ハロルド・ジェニーン.png Harold Geneen(1910-1997)
プロフェッショナル マネジャー―わが実績の経営』(1985/11 早川書房)田中融二:訳
プロフェッショナルマネジャー』(2004/05 プレジデント社)

ハロルド・ジェニーン2.jpg 本書は、かつての巨大コングロマリット米ITT(International Telephone and Telegraph)の社長兼CEO(最高経営責任者)として「58四半期連続増益」を遂げたハロルド・ジェニーン(Harold Sydney Geneen、1910年1月22日 - 1997年11月21日/享年87)の経営論です(原題: Managing、1984,Garden City,NY)。

 ハロルド・ジェニーンは1910年に米国生まれ、父は実業家でしたが、土地投機で破産、16歳からニューヨーク証券取引所のボーイとして働きながらNY大学で会計を学び、'50年にエレクトロニクスの会社レイセオン社の副社長となり、会社業績を飛躍的に伸ばした実績で'59年にITT社長に就任、在任中に利益を7.6億ドルから170億ドルまで、14年半連続増益というアメリカ企業史上空前の実績を上げ(これが邦訳サブタイトル「58四半期連続増益の男」に繋がる)、「経営の鬼神」とも言われたそうです。本書は1985年早川書房刊行の邦訳を復刊したもので、本邦初訳時から本書を経営の教科書とする柳井正ファーストリテイリング会長兼CEOが解説を加えています。

 第1章「経営に関するセオリーG」では、当時の日本的経営を礼賛する風潮や「セオリーZ」の流行を引き合いに、ビジネスはもちろん、他のどんなものでも、既成のセオリーなどで経営できるものではないとしています(Gはジェニーンの頭文字であり、"ジェニーン理論"、つまり"セオリー俺"という意味である)。

 第2章「経営の秘訣」では、《三行の経営論》を説いていますが、それは、本を読む時は、初めから終わりへと読むのに対し、ビジネスの経営はそれとは逆であり、終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだというものです。

 第3章「経験と金銭的報酬」では、ビジネスの世界では、誰もが2通りの通貨―金銭と経験―で報酬が支払われるが、金は後回しにして、まずは経験を取れとし、さらに、ビジネスで成功したかったら上位20%のグループに入るこよが必要だとしています(上位3%とは言っていない点がミソ)。この章は、ジェニーンがITTに入るまでのキャリアの振り返りにもなっていて、非常に面白く読めます。

 第4章「二つの組織」では、どの会社にも二つの組織があり、一つは組織図に書き表すことができる公式のもの、そしてもう一つは、その会社に所属する男女の、日常の血の通った関係であるとしています。この章は、ジェニーンがITTに来てから何をやったかが書かれています(これらの章に限らず、全体として実証的に書かれている点が、経営学者ではなく経営者の視点から書かれた本書の特長でもある)。

 第5章「経営者の条件」では、「経営者は経営しなくてはならぬ!」ということを繰り返し強調しています。「しなくてはならぬ」とは、それをやり遂げなくてはならぬという、経営者としての信条を信条たらしめている能動的な言葉であるとしています。

 第6章「リーダーシップ」では、リーダーシップは伝授できるものではなく、各自が自ら学ぶものであって、ビジネス・スクールで編み出された最新の経営方式を適用するだけでは経営はできず、なぜならば、経営は人間相手の仕事であるからだとしています。

 第7章「エグゼクティブの机」では、机を見れば人がわかるとし、マネジメントに属する人間にとって、当然なすべき程度と水準の仕事をしながら、同時に机の上をきれいにしておくことなど、実際には不可能であるとしています。

 第8章「最悪の病―エゴチズム―」では、現役のビジネス・エグゼクティブを侵す最悪の病は、アルコール依存症ではなくエゴチズムであるとし、自分の成功を盾にエゴチズムを撒き散らす社員、全体最適を考えず、自己最適に走る社員をどうすべきかを論じています。

 第9章「数字が意味するもの」では、数字が強いる苦行は自由への過程であるとし、数字自体は何をすべきか教えてくれず、企業経営において肝要なのは、そうした数字の背後で起こっていることを突き止めることであるとしています。

 第10章「買収と成長」では、自らが行ってきたM&Aを振り返り、難点は皆が同じ戦略を思いつくことであり、その結果、巨大市場をめぐって、トップメーカー同士で争うことになるのだとしています。そして、そうした中、投資に対するリターンが最も大きくなる選択は何かを、自分の目と頭で見極めることが大事だとしています。

 第11章「起業家精神」では、起業家精神は大きな公開会社の哲学とは相反するものであり、大企業を経営する人々は大方、何よりもまず過ちを(たとえ小さな過ちでも)犯さないように心掛けるものであるとしています。「起業家精神が大事だ」とか「シリコンバレーに学べ」などとは決して言わないところに、ジェニーンの"経営の個性"が感じられます。

 第12章「取締役会」では、勤勉な取締役会は、株主のために、その会社のマネジメントの業績達成の基準をどこに置くか、去年または今年、会社がどれだけ収益を(上げたかではなく)上げるべきであったかという基本問題に取り組まなければならないとしています。

 第13章「気になること―結びとして―」では、良い経営の基本的要素は、情緒的な態度であり、マネジメントは生きている力であって、それは納得できる水準(その気があるなら高い水準)に達するよう物事をやり遂げる力であるとしています。

 第14章の「やろう!」は1ページに満たない終章ですが、実績のみが実在する―これがビジネスの不易の大原則であるとして、本書を締め括っています。

 経営は成果が全てであるという強烈なリアリズムに立脚しながら、そうした冷徹な経営哲学の根本に、人間への深い洞察があることが窺えます。

 部下の報告には「5つの事実」が含まれているとか、リーダーシップの発揮においては現場の間に「緊張感ある対等関係」を作ること鍵になるとか、部下の指導法に際しては「オレオレ社員」の台頭を許すなとか、後継者の育成法としては「社員FC制度」が究極の形である、などといった、リーダーシップや部下の指導・育成に関する示唆に富み、また、「本来の自分にないものの振りをするな」「事実と同じくらい重要なのは、事実を伝える人間の信頼度である」「組織の中の良い連中はマネジャーから質問されるのを待っている」といったマネジャーとしての気づきを促す指摘も数多く含まれています(個人的には、できるエグゼクティブの机は散らかっているというのが面白かった)。

 人事パーソンの視点で見るならば、マネジャーとしての資質とやるべきことは何か、それも、プロフェッショナルなマネジャーとしてのそれらは何かということを実証的に説いたこの上ない指南書であると言えるかと思います。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1657】 望月 護 『ドラッカーの実践経営哲学
○経営思想家トップ50 ランクイン(ゲイリー・ハメル)

「一人ひとりの主体性と創造性を解放させ、個人と組織の持つ自己組織化能力を開花させていく」

経営の未来 マネジメントをイノベーションせよ.jpg経営の未来The Future of Management.jpg"The Future of Management"ゲイリー・ハメル.jpg Gary Hamel

 ロンドン・ビジネススクール客員教授で、シカゴを本拠地とする国際的なコンサルティング会社ストラテゴスの創設者であり、『コア・コンピタンス経営』などの著書で知られるゲイリー・ハメルの、その『コア・コンピタンス経営』と並ぶ世界的なベストセラーになった経営書です(原題: The Future of Management、2007)。

 第Ⅰ部「なぜ経営管理イノベーションが重要なのか」では、まず第1章で、経営管理は終わったのかと問いかけ、これからの変化の時代においてこそ経営管理イノベーションの重要性が増すことを説いています。第2章ではイノベーションには業務イノベーション、製品イノベーション、戦略イノベーション、経営管理イノベーションという種類があり、どのイノベーションもそれぞれ独自の形で成功に貢献するが、これらのイノベーションを上に行くほど価値創造と競争上の防御力が高くなる階層図で示すとしたら、経営管理イノベーションが一番上にくるとしています。第3章では、経営管理イノベーションの挑戦課題は、戦略変更のペースを劇的に加速させること、イノベーションをすべての社員の日常的な業務にすること、すべての社員が自分の最高の力を出す企業を築くことであるとしています。そしてこれらを実現しようとしたとき、「よりよく」「より早く」「より迅速に」「より安く」をめざしてきた近代経営管理では無理であり、経営管理そのもののイノベーションが重要になるとしています。

 第Ⅱ部「経営管理イノベーションの実行例」では、第4章で、目的で結ばれたコミュニティを築くことで社員の活力と参加意識が最も高い企業の一つとなったホールフーズ・マーケットの事例を、第5章で、上司はいないがリーダーは大勢いるという世界中で最も風変りで最も効率的な組織を築くことでイノベーションの民主化を実現したW.L.ゴア(ブランド名:ゴアテックス)の事例を、第6章で、他の何よりも適応力(レジリエンス)を重視する経営管理システムを構築することで、優位性を進化・持続させ続けてきたグーグルの事例を取り上げています。これら企業の共通点として、既成の経営管理の概念に捉われず、時には従来の常識を根底から覆すような独自の経営管理イノベーションを行っていること分かり、いずれも興味深い事例かと思われます。

 第Ⅲ部「経営の未来を思い描く」では、第7章で、いかにして前例の束縛から逃れ、従来の中核的な経営原理に反旗を翻すかを説き、第8章では、新しい経営原理をどのようにして見つけ実行に移していくかを説き、第9章では、新しい視点や見方を得るために「周縁から学ぶ」という考え方を提起しています。

 第Ⅳ部「経営の未来を築く」では、第10章で、経営管理プロセスの改革に取り組み経営管理イノベータ―になるためにはどうすればよいか、IBMの「新規事業機会(EBO)」育成事例を基に10の教訓を導き出し、更に最終第11章で、ウェブの進化に対応し、未来の適者となるためのマネジメント2.0という概念を提起しています。

 本書は、「一人ひとりの主体性と創造性を解放させ、個人と組織の持つ自己組織化能力を開花させていく」、そして「過去から未来を描くのではなく、未来から学び現在を築きあげていく」というのがこれからのマネジメントのあり方(イノベーションの方向性)であるということを、企業事例を掲げることで具体的なイメージとともに分かり易く伝えていて、人事パーソンにとっても示唆に富む啓発書であるように思います。

《読書MEMO》
●我々が過去半世紀の間に目にしてきた技術やライフスタイル、地政学の途方もない変化に比べると、経営管理の手法は亀のようにのろのろとしか発展してこなかったように感じられる。残っている中間管理職は、管理者が昔からやってきたことをそのままやっている。つまり、予算を作成し、作業を割り当て、業績を評価し、部下をおだててもっと成果を上げさせようとしているわけだ。(p3)
●経営管理を構成する要素
•目標を設定し、そこに到達するための計画を立てる。
•動機づけをし、努力の方向を一致させる。
•活動を調整・管理する。
•人材を開発・任命する。
•知識を蓄積・応用する。
•資源を蓄積・配分する。
•関係を構築・育成する。
•利害関係者の要求を、うまくバランスをとりながら満たす。(p22)
●第二に、多くの経営幹部が大胆な経営管理イノベーションが実際に可能であるとは思っていない。奇妙なことに、管理職は科学が長足の進歩を遂げることは当然のように思っているのに、経営管理の手法が進歩しないことは少しも気にしていないようだ。(p42)
●つまり、前例を破る経営管理イノベーションの可能性を最大にするために、重要で興味をそそり、本質的で賞賛に値する問題に取り組むべきなのだ。
1.あなたの会社がこの先直面することになる新しい課題は何か。
2.あたたの会社がうまくやれそうにない難しい両立課題は何か。
3.あなたの会社の理論と現実のギャップのうち、最大のものは何か。
4.あなたは何に憤りを感じているか。(p47)
●ほとんどの企業で、管理職の権限は、その人物が管理している資源と直接的な相関関連があり、資源を失うことは地位や影響力を失うことを意味する。そのうえ、個人の成功は通常その人物の事業部門やプロジェクトの業績だけで決まる。そのため、プログラム・マネージャーは「自分の」資本や人材を新しいプロジェクトに配分しようとする動きには―その新プロジェクトがどれほど魅力的あるかに関係なく―抵抗する。第二に、資源配分のプロセスは一般に新しいアイデアに不利になっている。既存事業の延長線上にあるプロジェクトはリターンを予想しやすいが、まったく新しいアイデアのリターンはいつだって計算を立てにくい。ところが大企業は、新しいアイデアの一つひとつを、それぞれ独立した投資とみなす傾向があり、そのため既存の活動をほんの少し拡大しただけのプロジェクトしか満たせないような高レベルの確実さを要求する。その一方で、既存事業を運営している幹部は、徐々に衰退しているビジネスモデルに大金を注ぎ込とき、あるいはすでに収益が減少しつつある活動に過度に資金を投入するとき、その戦略的リスクを弁明するよう求められることはめったにないのである。(p57)
●イノベーションを阻む真のブレーキは、古いメンタルモデルの足かせなのだ。長年その会社に勤めている幹部は、概して既存の戦略に強い思い入れを持っている。その会社の創業者ともなると、なおさらだ。多くの起業家があまのじゃくとしてスタートするのだが、成功はともすると彼らを、唯一の真の信仰を守ろうとする枢機卿に変えてしまう。(p66)
●肩書に頼って物事を進めることに慣れているリーダーは、ゴアのモデルを羨望だけでなく、それに劣らぬ大きな恐怖をもって眺めることだろう。従来どおりの考え方をしている管理職は、権力が地位から切り離されている組織という現実を前にすると、無理からぬことではあるが、あわてふためく。そのような組織では、より上の階層にいるというだけで決定を押し通すことはできないし、自分が命令を下せる「直属の部下」もいない。その人に従いたいと思う人間が誰もいなければ、その人の権力はまたたく間に消えうせる。おまけに、資格や知的優位が立派な肩書という栄誉で認められることもない。(p121)
●彼らの論理は単純明快だ。Aレベルの人間はAレベルの人間と、つまり自分の思考を刺激し、自分の学習を加速してくれる優秀な同僚と働きたがる。だが、Bレベルの人間は、Aクラスの人間に脅威を感じるので、ひとたび入社したら、自分と同程度の凡庸な同僚を採用する傾向がある。さらに悪いことに、自信の面で若干問題のあるBクラスの社員は、自信がなくて誰の意見にも反対できない℃クラスの社員を採用することさえある。凡庸な社員が多くなると、本当に非凡な連中を引き寄せたり引き止めたりすることは難しくなる。そして、いつのまにか社員の質の低下という流れが反転不可能になっている、というわけだ。(p136)
●小規模なチームは、グーグルを和気あいあいとした企業に―膨れ上がった官僚型組織ではなく新規企業のように―感じさせる働きもしている。大規模なチームでは、個人の抜きん出た貢献がえてして上司の手柄にされたり、まぬけな同僚によって帳消しにされたりする。グーグルの小規模なチームは、個人の努力とその人の業績の密接なつながりを維持するのに役立っているのである。(p142)
●実をいうと、「エンプロイー(従業員)」という概念は近代になって生み出されたもので、時代を超越した社会慣行ではない。強い意志を持つ人間を従順な従業員に変えるために、二十世紀初頭にどれほど大規模な努力がなされ、それがどれほど成功したかを見ると、マルクス主義者でなくてもぞっとさせられる。近代工業化社会の職場が求めるものを満たすためには、人間の習慣や価値観を徹底的に作り変える必要があった。生産物ではなく、時間を売ること、仕事のペースを時計に合わせること、厳密に定められた間隔で食事をし、睡眠をとること、同じ単純作業を一日中際限なく繰り返すこと―これらのどれ一つとして人間の自然な本能ではなかった(もちろん、今もそうではない。)したがって、「従業員」という概念が―また、近代経営管理の教義の他のどの概念であれ―永遠の真実という揺るぎないものに根ざしていると思い込むのは危険である。(p163)
●つまり、次の四つの条件が満たされていれば、トップダウンの規律はあまり必要ないのである。
1.現場の社員が結果に責任を負わされている。
2.社員がリアルタイムの業績データを入手できる。
3.業績に影響を及ぼす主要変数について社員が決定権を持っている。
4.結果、報酬、評価の間に密接な関連がある。(p172)
●企業においても同じことが言える。新しいアイデアは古いアイデアを少しばかり拡大したアイデアと同じ間接費を負担することはできないし、同じリスク・ハードルを満たすことこともできない。また同じ短い期間で投下資本を回収することもできない。この点を認識していない経営管理システムや間接費配分ルールは、イノベーションを抑圧することになる。これに劣らず重要な点として、最先端のアイデアに取り組んでいる人たちは、同じものをたくさん生み出すことを担っている人たちと日々触れ合う必要があり、後者もまた前者と日々触れ合う必要がある。都市の場合と同様、新しいものや奇抜なものが、時の試練を経たものや、まともなものと隣り合っていれば、誰もが得をするのである。(p228)

「●メンタルヘルス」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●労働法・就業規則」【071】 外井 浩志 『社員のための労働法

「ストレスチェック制度」と不調者の早期発見、職場運営、応用的対応の解説。

管理職のためのメンタルヘルス・マネジメント.jpg管理職のためのメンタルヘルス・マネジメント人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援20.JPG人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援~リスクを最小化するためのルールとステップ~(労政時報選書)

 産業医であり、企業におけるメンタルヘルスに関する分かり易い解説で定評のある著者による本。

 以前の同著者の著書『人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援―リスクを最小化するためのルールとステップ』('12年/労政時報選書)では、メンタルヘルスの復職支援を中心に、人事労務担当者をナビゲーションするという意味で、ルールやステップの実務パッケージを「メンタルヘルス・ナビ」と呼び、その4つのステップとして、1.対応ルール策定、2.管理職研修、3.産業医の役割決め、4.不調者への対応ルールの適用・運用の順で解説をしていました。

 今回は、2014年の労働安全衛生法の改正により「ストレスチェック制度」が企業に義務付けられたことを受けて(実施は2015年12月から)、管理職向けに、第1章でその「ストレスチェック」の概要を解説するとともに、第2章で「不調者への対応と早期発見のコツ」について、第3章で「職場ストレスを最小化する職場運営」について、第4章で「生産性向上とリスク管理に役立つメンタルヘルス対応(応用編)」について解説しています。

 このように前著同様に全体を4つのステップに分け、尚且つ管理職向けということで、より分かり易くなっているだけでなく、単なるメンタルヘルスの解説本ではなく、冒頭の著者自身の定義にもあるように、「職場のストレスやメンタルヘルス不調を考えながら、マネジメントやリーダーシップを強化するための本である」となっています。

 とりわけ著者が主張しているのは、メンタルヘルス不調社員に対して「思考停止」してしまうのではなく、問題を要素(職場に発生している問題点、疾病性、会社責任、職務適性など)に切り分けて実務的に対応していくべきであるという方法論です。そして、事例ごとにリスクと損失を最小化するゴール・落としどころを設定していくことを求めています。そうした意味では、管理職に限らず、人事労務担当者や経営者が読んでも啓発される要素は多いかと思います。

 「ストレスチェック」においてどのような調査票を用いるかは事業者が自ら選択可能ですが、国では標準的な調査票として、本書でも第1章でその中身について解説されている「職業性ストレス簡易調査票(57項目) 」を推奨しています。この「ストレスチェック」については各章末にもコラムがありますが、巻末のコラムで著者が指摘しているように、企業に実施は義務づけられるものの、それを受けるかどうかは労働者の自由であり、また、対応する専門家の不足から、50人未満の事業場では当面は、その実施は努力義務に留まることとなっています。プライバシー等との関係で難しい問題はあるかと思われますが、受けるのは労働者の任意みたいな捉えれ方になってしまうと、この辺りでの実効性はどうなのかという懸念もあります。

 また、ストレスチェックの結果の通知を受けた労働者のうち、高ストレス者として面接指導が必要と評価された労働者から申出があったときは、医師による面接指導を行うことが事業者の義務になりますが、これなどは、先の労働安全衛生法の改正で定められた長時間労働者に対する「医師による面接指導」(第66条の8)が、1週 40時間超の労働時間が1カ月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる労働者に対しては、その要件に該当する労働者からの申出があったときは、面接指導を実施しなければならないとされているのとパラレルであって、何れも労働者からの申し出がない場合は義務とされていない(長時間労働者に対する「医師による面接指導の場合は"努力義務")というのが、ともすると"ザル法"となってしまう恐れもあるのではないかと、個人的には危惧するところです。

 何れにせよ、制度の施行を控えて管理職向けにこうした本が出ているくらいですから、人事労務担当者はそれ以前にその内容を把握し、まず自らを啓発すると共に、具体的な施策についての見通しをイメージしておくべきでしょう。

「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●働くということ」 【097】 黒井 千次 『働くということ
「●社会問題・記録・ルポ」の インデックッスへ 「●講談社現代新書」の インデックッスへ

読んでいて気が滅入るルポだが、知っておくべき日本の労働現場の一面。

中高年ブラック派遣.jpg中高年ブラック派遣 講談社現代新書.jpg 中沢 彰吾.jpg 中沢 彰吾 氏 [Yahoo ニュース これではまるで「人間キャッチボール」!安倍官邸が推し進める規制緩和の弊害と人材派遣業界の闇

中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇 (講談社現代新書)

 ノンフィクションライターによる日雇い派遣業の実態の体験的ルポルタージュですが、甘い言葉(労働条件・待遇)を示して中高年を勧誘し、それが仕事場に行ってみれば年長者であることに配慮するどころか、ヒトをヒトとしてではなく単なる労働力として扱い、反抗すれば恫喝し、気に入らなければ切り捨てていくという、まさに著者が言うところの「奴隷労働」市場のような状況が業界内において蔓延していることが窺える内容でした。

ブラック企業1.jpg 「大佛次郎論壇賞」を受賞した今野晴貴氏の『ブラック企業―日本を食いつぶす妖怪』('12年/文春新書)で、「ブラック企業」の特徴として、正社員を大量に採用して労働基準法ぎりぎりのラインで酷使、消耗、スポイルしてはまた新たな採用を繰り返していることが指摘され、「非正規」ではなく「正社員」が、また、「基準法違反」ではなく「基準法ぎりぎり」というのが新たな着眼点としてクローズアップされましたが、一方で非正規雇用労働者を酷使、消耗する"ブラック企業"も現に多くあるわけであり、同著者の『ブラック企業2―「虐待型管理」の真相』('12年/文春新書)では「ブラックバイト」という言葉が使われています。

 そして、非正規雇用のもう1つの柱である派遣労働者について取り上げたのが本書です。といっても、日雇い派遣の実態が社会問題化され始めたころから、こうした実態を問題視する声はあったように思われますが、本書の場合、その中でも「中高年」にフォーカスしている点が1つの大きな特徴だと思います。

 著者は東京大学卒業後、毎日放送(MBS)に入社し、アナウンサーや記者として勤務した後、身内の介護のために退職し、著述業に転じた人。58歳にして体験した派遣労働の現場では、自分の息子のような年齢の若者に、「ほんとにおまえは馬鹿だな」「いい年して、どうして人並みのことができないんだ!」「いったいここへ何しに来てんだ」「もう来るなよ。てめえみたいなじじい、いらねえから」などと口汚く罵詈雑言を浴びせられたこともあたっということです。

 ここまで言われたら、企業名を出してもいいのではないかという気もしますが、暴露ジャーナリズムとは一線を画すつもりなのか、業界内の特定の1社2社に限ったことではないことを示唆するためか、新聞記事になったような超有名どころのブラック企業はともかく、自らが潜入した"ブラック派遣"会社の名前は明かしていません(再潜入するつもり?)。

 派遣法の改正案が国会で審議される折でもあり、改正のドラフトとしては、労働政策審議会(職業安定分科会労働力需給制度部会)が昨年('14年)に報告(建議)した、専門26業務の撤廃、新しい期間制限(個人単位と事業所単位)、派遣先の事業所単位の期間制限(3年、組合等の意見聴取で延長可)などが骨子としてあり、その中にも幾つかのパターン案があって最終的にどうかなるか、そもそも法案そのものが可決されかどうかも分かりませんが['15年5月末現在]、何れにせよ、政府は経済界の意向を受け、規制緩和の方向へ舵を切ろうとしているのは違いありません。

 今回の改正に関しては、賛否両論ありますが、民主党政権下で、非正規労働者の雇用を安定させようと制定された「無期転換ルール」が平成25年春に施行され、一方が申入れをしただけで本来は合意の上になりたつべきである「契約」が成立してしまうということの方が、個人的には、労働契約の本筋からしてむしろどうだったかなという思いがあります。それさえも早期の契約打ち切りを招いて雇用が不安定になる危険性を孕んでいるとの指摘がありましたが、今回も同様の指摘があり、規制強化路線の揺り戻しであるかのように派遣法を改正するというのは、非正規労働者の問題を政府は本気になって取り組もうとはしていないのではないかという「労側」の声もあります。個人的には、今回の改正案は、派遣労働者の保護よりも派遣先の常用労働者の保護を重視する「常用代替防止」思想からやっと抜け出すと共に、「専門26業務」というとっくに使えなくなっているフレームからも脱却出来るという意味で、法改正の趣旨そのものには肯定的に捉えています。あとは、人材派遣業の業界内の各企業の質のバラツキの問題と、派遣労働者を使う企業側の質のバラツキの問題かなあと。

塩崎恭久厚生労働大臣.jpg 塩崎恭久厚生労働大臣が全国の労働局長にブラック企業の公表を指示したというニュースが最近ありましたが(2015年5月18日)、一方で、働く側も派遣などの「多様な働き方」を望んでいるとしており、そうなると、本書にあるブッラク派遣の実態は企業名の公表で対処出来るような業界内での極めて局所的・例外的実態ということなのでしょうか。個人的にはそうは思えず、人材派遣業界のある一定数の企業は、こうした再就職難の中高年を更にスポイルし消耗するという構造の上に成り立っているように思えます。たとえそのことを糾弾されても、そうした企業は、自分たちが再就職難の中高年の受け皿になっているのだとかいった理屈を捏ねるんだろなあ。

 読んでいて気が滅入るルポですが、知っておくべき日本の労働現場の一面でしょう。

「●目標管理・人事考課」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●人材育成・教育研修・コーチング」【053】 池田 隆寛 『実践・企業内研修

評価の曖昧性さは不可避的なもの。「公正さ」だけでは物事は回らないと。。

人事評価の「曖昧」と「納得」.jpg人事評価の「曖昧」と「納得」 (NHK出版新書 447)

 人事評価とは従業員にとって不満の対象としかなり得ないものなのか。本書によれば、人事評価には、評価者や人事担当者がどれだけ頑張っても、どうしても克服できない「組織の事情」とも言うべき難点があり、その最も端的なものが、自分(従業員)の評価の背景が「曖昧」にしか伝わってこない、というものであるとのことです。

 こうした評価の曖昧性は、必ずしも評価者や人事担当者に問題があるから生じるというものではなく、個人の評価が所属する部門や企業全体の動向に大きく左右されるものでありながら、その動向を正確に把握・統制できる主体は存在しないために生じるものであって、評価の曖昧性は、人事評価が抱える構造的な制約であるとしています。

 そこで本書では、人事評価の理想的な在り方といった考えからある意味で距離を置き、こうした曖昧性を人事評価における「真実」として評価者・被評価者の双方が理解するところから、評価に対する不満という問題の克服が始まるとしています。端的に言えば、人事評価の現実的な目標は「満足感や公正感の最大化」ではなく「不満感や不公正感の最小化」に置かれるということです。

 第1章では「人事評価の成り立ち」をおさらいし、従業員に納得してもらうための「公正な評価」とは何か、そこから見えてくる人事評価が目指すべき現実的目標は何かを考察し、第2章「曖昧化する人事評価」では、人事評価への不満と不安の背景には、人事評価における曖昧さの問題があるとしています。

 第3章「曖昧さの中での納得」では、曖昧にならざるを得ない評価に従業員が納得する道筋にどのようなものがあるかを分析し、そこには、評価制度のねらいが部分的に外れるのは仕方がない、実際に受ける評価や報酬はそう悪いものではない、自己評価を過信しない、などといった従業員自身の「現実主義的な評価観」があるとしています。

 では、どのような経験を積めば、従業員は人事評価における曖昧な状況を当然視したりするなどして、評価の曖昧さを受け入れるのか。著者は、そこには、部下である従業員と上司である管理者との関係性が決定的に重要な要因として働くとしています。それは具体的には、非公式的・日常的に上司から評価を受けていることであったり、仕事に対して充実感を抱き、自身の成長を目指していることであったり、評価者=上司に信頼感を抱いていることであったりするとしています。

 そのことを受け、第4章「職場や従業員に寄り添う人事評価」において、人事部門と現場の関係を編み直すために、人事部門の新たな役割として、地に足着いた「戦略パートナー」という考えを提唱しています。また、人事評価を「パフォーマンス・マネジメント」の手段として捉えることで、従業員の挑戦や成長への意欲を引き出し、企業の目標達成に結びつけることも重要であるとしています。

 評価の曖昧性を不可避的なものとしていったん肯定するところから議論を始め、従業員が人事評価における曖昧な状況をどう受け入れているかを分析したうえで、それでは人事部門はどう対処すべきか、どのようなスタンスで人事評価というものを捉えるべきかという順で説いているのが興味深かったです。

 研究者の書いたものですが、考察のベースには一定のフィールドワークが裏付けとしてあることが感じられ、複雑な状況を理解しているだけに、本書はまだ「中間総括」であるとの自覚もあるようです。「公正さ」だけでは物事は回らず、それ以外の大事なこともあるということを述べている点において、啓発的示唆に富むものであると思われました。
 
《読書MEMO》
●目次
第1章 人事評価の成り立ち(人事評価が目指すもの;人事評価制度の作り込み;日本企業における二大評価法;人事評価における公正と納得)
第2章 曖昧化する人事評価(人事評価への不満と不安;「職務遂行能力」をめぐる苦闘―能力評価の曖昧化;「過程の公正」は実現するか?―業績評価の曖昧化;再説:人事評価への不満と不安)
第3章 曖昧さの中での納得(「シロ」とも「クロ」とも言える曖昧さの前で;「曖昧な中での納得」とは;どうやって従業員は曖昧さを受け入れるか―上司と部下の関係性;従業員にとって人事評価とは何か)
第4章 職場や従業員に寄り添う人事評価(人事部門と現場の関係を編み直す;優劣比較を伴わない評価;パフォーマンス・マネジメントとしての人事評価;不満の芽を飼い馴らす)

著者紹介
江夏幾多郎[エナツイクタロウ]
1979年、京都府生まれ。名古屋大学大学院経済学研究科准教授。博士(商学、一橋大学)。専門は、人事管理論。主な論文「人事システムの内的整合性とその非線形効果」(第13回労働関係論文優秀賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT 【2299】社会保険労務士稲門会 『労働・社会保障実務講義
「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ 「●文春新書」の インデックッスへ

「問題社員」レベルを遥かに超絶した「モンスター社員」の事例が"強烈"。

あなたの隣のモンスター社員.jpgあなたの隣のモンスター社員 (文春新書)

 社会保険労務士による本ですが、全6章構成の第1章「本当にあったモンスター社員事件簿」に出てくる、"ファイルNO.1 見事な演技力で同僚をセクハラ加害者に仕立て上げた清楚な女性社員"をはじめとする5つの事例がどれも"強烈"で、著者の言う「モンスター社員」というのが、一般的に「問題社員」と呼ばれるもののレベルを遥かに超絶した、企業や職場にとって極めてやっかいな存在であることを再認識させられます。この5つの事例だけで本書の前半部分を割いていますが、それだけの意義はあるように思いました。

 著者によると、モンスター社員の特徴は、「社会人としてのモラルが低く、ルールも無視、注意を受けると逆切れする」「対人関係や精神状態が不安定で、常に周囲とトラブルを引き起こす」「平気で嘘をつき、良心や倫理観が欠如している」「自己愛が異常に強く、虚言や自慢話で周囲を振り回す」というようなもので、このような特異な存在を類型化できるのかという気もしますが、第2章「タイプ別モンスター社員の特徴とその対処法」で、「A.親、配偶者がモンスター化している社員」「B.演技力で周囲を掻き回す社員」「タイプC.モラル低下型社員」「タイプD.職場環境を悪化させるハラスメント社員」「タイプE.常に注目を浴びたい自己愛型モンスター社員」に分類し、それぞれについての対処法を述べています。

 第3章「職場のモンスターの仮面の下」で、ほとんどのモンスターは第一印象がいいが、実は仮面の下に、歪んだ自己愛や自身の無さ、コンプレックス、嫉妬、不満・怒り、傷つきやすさ、依存心などがその心理としてあり、それが会社を批判したり、部下や同僚をいじめたり、自分の事を自慢したりする行動にどう結びついていくのかを解説しています。

 第4章「モンスターの見分け方」で、こうしたモンスター社員であってもクビにするのはそう簡単ではないため、それではどうしたら採用の際に見抜けるかをアドバイスし、第5章「モンスター社員への対処方法」では、それでも実際に入ってしまったからモンスターだと分かった際の対処法を示していますが、この辺りはまあオーソドックスな解説と言えるでしょうか。

 やはり、第1章の事例編が"強烈"であり、こんな人格障害そのもののような相手に対して普通の対処法で解決できるのかなあという気もしました。実際、事例の中にも、対処策を講じきれないうちに、時間が何となく解決してしまったような例もあったかと思います(注:著者が事の発端から最後まで関与していた事例ばかりとは限らない)。

 一方で、その中には、パワハラをした社員を辞めさせるのに金銭的解決を持ちかけ、「金を払って」辞めてもらった例もあり、従来の発想だと、経営者は「どうしてそんなヤツに金を払わなければならないんだ」「周りに示しがつかない」的な発想になりがちですが、モンスター社員のことで経営者や管理者が費やす時間と労力の無駄を考えると、こうした対象方法も場合によってはありかなと思いました(後の方の事例で、一度金を払ったがためにその後も金を請求されるという事例も出てくるように、1回でケリをつけることが肝要か)。

 こうしたモンスター社員は、経営者や管理者が頭を悩ますだけでなく、どの職場に行っても周囲の人たちが大いに疲弊させられ、そのことの損失もこれまた大きいように思います。病気ならば治る可能性はありますが、人格障害的なものはそう簡単には変わらないため、やはり早期に対応し、周囲が迷惑を受ける期間を出来るだけ圧縮することが望ましいかと思います。

 第6章「モンスターを生まない会社へ」にあるように、会社に共有ビジョンが無かったり、コンプライアンス意識が欠けていることによって、普通の社員がモンスター化していくことも確かにあるでしょうが、むしろ、元々潜在的に"モンスター資質"を持った人が、そうした環境の中でその"資質"部分を触発され、自己アピールの場として職場に固執したり、自分の居場所として会社に居ついてしまうといったこともあったりするのではないでしょうか。

 その分、退職を勧奨したり、異動を命じたりすることは難しかったりしますが(本書は、社会保険労務士による本であるため、必要に応じて法的な留意点についても触れられている)、但し、放置しておくと職場のモラールに影響し、最悪の場合は「割れ窓の論理」で同じような話があちこちで起きてくる可能性もあるように思います。そうした意味では、「モンスター社員」問題は、個人の人格の問題に近い要素と、組織の問題との複合問題でもあるように思いました。

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●人事・賃金制度」【021】 宮本 真成 『年俸制の実際
「●目標管理・人事考課」の インデックッスへ 「●ビジネス一般」の インデックッスへ  「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

「社内出世」と「プロとして生きること」の両方を論じている分、インパクトに欠けるか。

出世する人は人事評価を気にしない.jpg出世する人は人事評価を気にしない2.JPG
出世する人は人事評価を気にしない (日経プレミアシリーズ)

 本書では、冒頭で、経営層に出世した人たちの特徴として、自分の人事評価を気にしていなかったことを挙げています。そして、その背景には彼らに共通した行動があり、それを整理する試みが本書であるとのことです。

 企業内では、目の前の仕事で結果を出していてもある日昇進できなくなることがあり、一方で、それまで評価の低かった人がいきなり出世することがあるとしています。なぜそうしたことが起きるのかというと、一般社員層の間の昇進基準は、今担当している仕事での評価結果に基づくのに対し、管理職になるときには、別の昇進基準が用いられる――つまり、上位者から「使われる側」でいる間は「競争」が基本だが、それ以上の「使う側」になるには「選ばれる」ルールが変わる、すなわち互いに選び合う立場になる「協奏」になるタイミングがあると指摘しています。

 一般社員の間は「卒業基準」で、課長からは「入学基準」となり、「職務主義」のもとでは、課長として優秀でも部長にはなれないといった本書の指摘は、一般のビジネスパーソン(とりわけ若い人たち)にとっては新たな知見として受け止められる面もあるかもしれませんが、人事パーソンにとってはある種コモンセンスに近いものではないでしょうか。ただし、ケース・ストーリーも交え、そうしたことが分かりやすく書かれているため、おさらい的に読むにはいいかもしれません。

 課長の手前までは「できる人」が出世するが、さらに上にいくには「できる」だけでよいのか、管理職止まりの人と経営陣になる人は何が違うのかといったことが、会社側のアセスメント基準として、また、ビジネスパーソンに対する啓発的示唆として説かれています。因みに、「出世する人」の行動パターンとして著者は、第一につながりを大事にしていること、第二に質問を繰り返していること、を挙げています。

 さらに、40歳からの10年間、課長時代の働き方がその後の人生を決定するとして、40歳は第二のキャリアの出発点であるとし、第二のスタートを切るにあたって自ら人的資本の棚卸しを行い、キャリアの再設計を行うことを提唱しています。

 その上で、40歳からのキャリアの選択肢として、社内プロフェッショナルになるという生き方を提唱しています。併せて、企業におけるプロフェッショナルの処遇の在り方が、本来の専門性を評価する方向に変わってきていることも指摘しています。ただし、プロフェッショナルとして認められるには高い評価を得る必要があり、では、評価を意識せずに専門性を認められるには、組織でどう働けばよいかといったことを、最終章にかけて指南しています。

 そして、プロフェッショナルとして認められるには、「明確な専門性がある」ことが第一条件であり、プロフェッショナルを目指す人なら、この条件はクリアしやすいだろうが、テクニックが求められるのは第二の条件の「ビジネスモデルに貢献する」ことであるとしています。

 以上の流れでも分かるように、途中までは「出世する」にはどうすればよいかということが書かれていたのが、途中から、組織の中でプロフェッショナルとして生きるにはどうすればよいか、言い換えれば、部下のいない管理職としての地位にあり続けるにはどうすればよいかという話に変わってきているように思いました。

 本書では、「出世」という言葉を社内での昇進のことだけではなく、起業して成功したり、転職して新たなキャリアやさらに高いポジションを得ることも含めて指しているとのことです。ならば、結局、本書の本来の趣旨は、社内外に関わらずプロフェッショナルを目指せということになるのでしょうか。

 プロフェッショナルとは、自分で自分の仕事に評価を下す人と解すれば、必ずしもタイトルから大きく外れるものではないともとれますが、「出世する人は―」というタイトルは間違いなくアイキャッチになっていると言えるでしょう。

 若年層向けの啓発書としてはそう悪くないと思いました。ただ、結局、前半部分は基本的に社内での出世について書かれていて、「それが叶わなくなった場合」に備えて今のうちにどうしておけばよいかということが後半部分に書かれているような気もしました。

 これでは、「とりあえず社長レースに参加しておこう」という"従来型サラリーマン"の発想を変えるものではなく、「本旨」であるべきところの後半部分が前半部分の「保険」に思えてしまう分、インパクトは弱かったように思います(ゼネラリストを目指す人、スペシャリストを目指す人、ゼネラリストを目指してダメだったらスペシャリストを目指す人の全てを読者ターゲットとして取り込もうとした?従来型サラリーマン"マジョリティ"との相性は良さそうだけれど)。

《読書MEMO》
●目次
第1章 評価が低いあの人が、なぜ出世するのか――「使う側」「使われる側」の壁
第2章 課長手前までは「できる人」が出世する――組織における人事評価と昇進のルール
第3章 役員に上がるヒントは、ダイエット本の中にある――経営層に出世する人たち
第4章 採用試験の本番は40歳から始まる――課長ポストからのキャリアの見直し
第5章 飲みに行く相手にあなたの価値は表れる――第二のキャリアを設計する
第6章 レースの外で、居場所を確保する方法――組織内プロフェッショナルという生き残り方
第7章 「求められる人」であり続けるために――会社の外にあるキャリア
おわりに 「あしたの人事の話をしよう」

「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2290】 中沢 彰吾 『中高年ブラック派遣
「●社会問題・記録・ルポ」の インデックッスへ 「●文春新書」の インデックッスへ

「1」ほどインパクトはないが、より深く問題に斬り込み、重層的に考察を進めている「2」。

ブラック企業2 文春新書.jpg                   ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか.jpg
ブラック企業2 「虐待型管理」の真相 (文春新書)』  渡辺 輝人 著『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか? ナベテル弁護士が教える残業代のカラクリ

 「大佛次郎論壇賞」を受賞した『ブラック企業―日本を食いつぶす妖怪』('12年/文春新書)の第2弾で、前著のサブタイトルも凄かったけれど(著者が考えたのか、はたまた編集者が考えたのか)、今回もなかなかという感じ。でも、「虐待型管理」というのは、確かに本書に書かれている「ブラック企業」の実態を表していると言えるかも。

 前著では、「ブラック企業」の第一の問題は、若くて有益な人材を使い潰していることであり、その特徴は、正社員を大量に採用して労働基準法ぎりぎりのラインで酷使、消耗、スポイルしてはまた新たな採用を繰り返していることであり、そうした新卒の「使い捨て」の過程が社会への費用転嫁として行われていることに問題あるとしていました。

 このように、単なる告発ジャーナリズムとは一線を画す姿勢を取り(但しサブタイトルはややその気を感じさせなくもないが)、従来の「ブラック企業」という言葉の、非正規社員が労働基準法違反の処遇条件で酷使されているというイメージに対し、正社員採用された労働者が、労基法に明確に違反するのではなく、「ぎりぎりで合法」乃至「違法と合法の間」のグレーゾーンで働かされているのがその実態であると指摘したのは画期的だったかもしれません(一方で、非正規も酷使されている実態があり、本書「2」では「ブラックバイト」という言葉が出てきてややこしいが)。

 今回は、こうした「ブラック企業」問題が依然解決されておらず、過労死や過労自殺が後を絶たない実態を踏まえ、どうして解っていてもそうした会社に入ってしまうのか(第1章)、どうして死ぬまで辞められないのか(第2章)といった働く側の心理面に実際にあった事例から迫り、それに呼応したブラック企業側の絡め取り搾りつくす手法を解析(第3章)、ブラック企業は国家戦略をも侵略しつつあるとし(第4章)、ではなぜそれらを取り締まれないのかを考察(第5章)しています。更に、規制緩和でブラック企業が無くなるといった「雇用改革論」を"奇想天外"であると非難し(第6章)、ブラック企業対策として親・教師・支援者がなすべきことを提案(第7章)しています。

 「ブラック企業」の定義にパラダイム転換をもたらした前著ほどのインパクトがあるかどうかはともかく、より深く問題に斬り込み、重層的に考察を進めていることは窺えるのではないでしょうか。前著に匹敵する力作である(単なる告発ジャーナリズムとは一線を画す姿勢は維持されている)と思う一方で、丁寧に紹介されている数々の過労自殺や過労死の事例には胸が蓋ぎます(社員をうつにして辞めさせる手法などについても、前著より詳しく紹介されている。コレ、かつて高度経済成長期に流行った感受性訓練(ST)の変形悪用だなあ)。

ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか? 帯.jpg 本書の著者である今野氏が帯に推薦文を書いている本に、『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか?』('14年/旬報社)がありましたが(著者は日本労働弁護団等で活躍する弁護士とのこと)、固定残業制のカラクリなどは『ブラック企業』で既に紹介済みで、事例企業が「大庄(日本海庄や)」から「ワタミ」に替わっただけか。但し、その仕組みの説明の仕方が分かりにくく(今野氏の推薦文には「残業代のプロフェッショナル」とあるのだが)、普通の人が読んでも時間外割増と深夜割増の違いなんて分からないのではないかと思ったりもしました(老婆心ながら、『ブラック企業』で言っている「大庄」の例と本書で言っている「ワタミ」の例を大まかに図示してみた)。

大庄(日本海庄や)の初任給の構成.jpg ワタミの初任給の構成.jpg

 「ワタミ」の例で著者は、深夜割増相当分を全部使い切る試算をしているため(「深夜手当」3万円を時給相当額の2割5分で除している)、通常割増分(月45時間分)より深夜割増分(月128時間)の方が当該時間数が圧倒的に多くなっていますが、こうしたことは深夜勤務主体でないと起こり得ず、その前提がどこにも書かれていないのは不親切かも(一応、著者の説明に沿って図を作ったが、深夜手当を0.25でなく1.25で割って計算する方が、"相対的に見て"ノーマルなのだろう)。ワタミの酷さを「天狗」と比較しているけれど、「天狗」の実態をきちんと調べた形跡も無し。相対的にマシならばそれでいいとするならば、80時間の残業に満たないと固定残業代が一切払われなかった「大庄(日本海庄や)」に比べれば、「ワタミ」はまだマシということにもなってしまうのではないでしょうか。

 更には、残業を巡る未払い賃金の相談は、社会保険労務士ではダメで弁護士にしなさいと書いていますが、弁護士だって色々でしょう。社労士を一括りにして相談すべき相手ではないとしているのもどうかと思うし、自らが開発に関わったという残業代自動計算ソフト(「給与第一」)の話なども含め、未払い賃金(未払い残業代)請求という「自らのビジネス」への誘引を促すという目的が前面に出てしまった本であり、その割には、先にも述べたように、解説は親切ではないように思いました(「ナベテル弁護士」の事務所に相談に来てもらえれば、じっくり説明するということか)。

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2287】 平康 慶浩 『出世する人は人事評価を気にしない
「●人事・賃金制度」の インデックッスへ 「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ 「●PHP新書」の インデックッスへ

エグゼンプションという切り口で「日本型雇用」を変える「構造」を提案している。

いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる.jpg                         雇用の常識 決着版.jpg
いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる (PHP新書)』['14年]『雇用の常識 決着版: 「本当に見えるウソ」 (ちくま文庫)』['12年]

 2009年に刊行された『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(プレジデント社、'12年/ちくま文庫)が注目され、その後も『「若アベノミクスで「雇用」はどうなる.jpg者はかわいそう」論のウソ』('10年/扶桑社新書)、『就職、絶望期』('11年/扶桑社新書)、『女子のキャリア―"男社会"のしくみ、教えます』('12年/ちくまプリマー新書)、『日本で働くのは本当に損なのか』('13年/PHPビジネス新書)などを多くの著書を発表している著者(元リクルート ワークス研究所勤務)による本です(先に取り上げた(エントリー№2284)経済学者の安藤至大氏と「ニコ生」に出ていたこともあった)。この他にもいくつもの著書があってそれらの内容が重複しているきらいが無きしもあらずですが、 本書は単独でそれなりに読みでがありました。

「ニコ生×BLOGOS」"アベノミクスで「雇用」はどうなる"(2013年)海老原嗣生氏&安藤至大氏(経済学者)

 ホワイトカラーエグゼンプションを巡る議論が再び活発化している昨今ですが、残業代の不支給と、その対象となる年収について議論が費やされてきたという経緯は、これまでとあまり変わっていないようです。これについて、本書では、今回のエグゼンプション論議は、「定期昇給・昇級・残業代の廃止」という経営都合の日本型の変更のみが念頭に置かれているとしています。

 そして、そこには、もう一つの日本型の問題――残業代を払い続け、定期昇給を維持する分、長時間労働や単身赴任で疲弊し、働く人のキャリアや家庭生活の面にもマイナス寄与しているという問題――をも取り除くという視点が欠如しているといいます。つまり、エグゼンプションを契機として、給与・生活・キャリアの三位一体の改革をすべきであるとしています。

 著者は、エグゼンプションの本質に迫ると、多くの企業に根ざす「日本型雇用」の綻(ほころ)びが見えてくるといいます。例えば、日本企業はこれまで全員を幹部候補として採用し、年功昇給によって処遇してきたため、企業の熟年非役職者が高収入となって、そのため転職が困難になっているとしています。そこで、エグゼンプション導入を機に、「同一職務=同一給与=同一査定」「職務の自律性・固定制」「習熟に応じた時短」といった「欧米型」雇用の本質も、同時に実現すべきであるとしています。

 但しし、すべての階層を一時(いちどき)に「欧米型」に移行させるのではなく、「欧米型雇用」と「日本型雇用」の強み・弱みをそれぞれ吟味し、日本人と欧米人の「仕事観」の違いや、欧米企業における人事異動のベースとなっている「ポスト雇用」という考え方を分かりやすく説明したうえで、まず、習熟を積んだキャリア中盤期以降を「欧米型」のポスト雇用に切り替えていくことを提案しています。

 エグゼンプションは、その「日本型」と「欧米型」の"接ぎ木"のつなぎ目として機能するものであり、キャリア中盤期以降は、時間管理ではなく成果見合いの職務給制となる一方、エグゼンプション導入の際には、労働時間のインターバル規制や異動・配転の事前同意制、休日の半日取得などの措置がとられるべきであるとしています。ここには、エグゼンプションにまつわる「制約」によって、「全員が階段を昇る」日本型の人事管理を終わらせるということも、狙いとして込められているようです。

 エグゼンプションという切り口で「日本型雇用」を変える(終わらせる)ことを提案していて、しかも、従来よくあった「日本型全否定」ではなく「途中まで日本型肯定」のハイブリッド型になっているのが興味深く、また現実味を感じさせるところですが、入り口が日本型のままであることによって生じる諸問題についての解決策も提示されています。

 個人的には、論旨が「中高年問題」にターゲティングされていることを強く感じましたが、つまるところ、「日本型雇用」の最大の問題はそこにあるということになるのでしょうか。エグゼンプションというテーマからすると、業態などによっても読者によって受け止め方の違いはあるかもしれません。但し、「ジョブ型社員」「限定社員」といった最近話題の人事テーマに関して、従来の議論から踏み込んで具体的な「構造」を提案しているという点で、これからの議論や制度設計の一定の足掛かり乃至は思考の補助線となるものと思われます。

「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2286】 今野 晴貴 『ブラック企業2
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ 「●働くということ」の インデックッスへ 「●ちくま新書」の インデックッスへ

入門書として分かり易く、また全体にバランスよく纏まっている。将来予測は興味深かった。

これだけは知っておきたい働き方の教科書.jpg
  あんどう・むねとも.jpg 安藤至大(あんどう・むねとも)氏[from ダイヤモンド・オンライン
これだけは知っておきたい働き方の教科書 (ちくま新書)

 NHK(Eテレ)の経済学番組「オイコノミア」やBSジャパン「日経みんなの経済教室」などにも出演している新進気鋭(だと思うが)の経済学者・安藤至大氏による「働き方」の入門解説書。1976年生まれの安藤氏は、法政大学から東京大学の大学院に進み、現在は日本大学の准教授ですが、最近はネットなどで見かけることも多く、売出し中という感じでしょうか。

 第1章で、「なぜ働くのか?」「なぜ人と協力して働くのか?」「なぜ雇われて働くのか?」といった基本的な疑問に答え、第2章で、「働き方の現状とルールはどうなっているのか?」「正社員とは何か?」「長時間労働はなぜ生じるのか?」「ブラック企業とは何か?」といった日本の「働き方の現在」を巡る問題を取り上げ、第3章で「働き方の未来」についての予見を示し、最終第4章で今自分たちにできることは何かを説いています。

 経済学者として経済学の視点から「労働」及びそれに纏わる今日的課題を分かり易く説明するとともに、労働法関係の解説も織り交ぜて解説しており(この点においては濱口桂一郎氏の著作を想起させられる)、これから社会人となる人や既に働いている若手の労働者の人が知っておいて無駄にはならないことが書かれているように思いました。

 まさに「教科書」として分かり易く書かれていて、Amazon.comのレビューに、「教科書のように当たり前なことの表面だけが書かれていて退屈だった」というものがありましたが、それはちょっと著者に気の毒な評価ではないかと。元々入門解説書として書いているわけであって、評者の視点の方がズレているのではないでしょうか。個人的には悪くなかった言うか、むしろ、たいへん説明上手で良かったように思います。

 例えば「正規雇用」の3条件とは「無期雇用」「直接雇用」「フルタイム雇用」であり、それら3条件を満たさないものが「非正規雇用」であるといったことは基本事項ですが、本書自体が入門解説的な教科書という位置づけであるならばこれでいいのでは。労働時間における資源制約とトレードオフや、年功賃金と長期雇用の関係などの説明も明快です。

 第2章「働き方の現在を知る」では、こうした基本的知識を踏まえ、日本的雇用とは何かを考察しています。ここでは、「終身雇用」は、高度成長期の人手不足のもとでのみ合理的だったと思われがちだが、業績変動のリスクを会社側が一手に引き受けることにより、平均的にはより低い賃金の支払いで労働者を雇うことができ、その企業に特有な知識や技能を労働者に身につけさせるという点においても有効であったとしています。また、法制度の知識も踏まえつつ、解雇はどこまでできるか、ブラック企業とは何かといったテーマに踏み込んでいます(著者は、解雇規制は緩和する前に知らしめることの方が重要としている)。

 更に第3章「働き方の未来を知る」では、著者の考えに沿って、まさに「働き方の未来」が予測されており、この部分は結構"大胆予測"という感じで、興味深く読めました。

 そこでは、少子高齢社会の到来によって近い将来、労働力不足が深刻化し、高齢者は働けるうちは働き続けるのが当たり前になると予測しています。更に、妻や夫が専業主婦(夫)をしているというのはとても贅沢なことになるとも。一方で、労働力不足への対処として外国人労働者や移民の受け入れが議論されるようにはなるが、諸外国の経験も踏まえて議論はなかなか進まないだろうともしています。

 また、機械によって人間の仕事が失われる可能性が今より高くはなるが、仕事の減少よりも人口の減少の方が相対的にスピードが速く、やはり、労働力を維持する対策が必要になるとしています。

 雇用形態は多様化し、安藤至大 (あんどうむねとも) (@munetomoando).jpg限定正社員は一般化して、非正規雇用も働き方の1つの選択肢として考えられ、また、社会保障については、企業ではなく国の責任で行われる方向へ進み、職能給や年功給は減少して職務給で雇われる限定正社員が増えるなどの変化が起きる一方で、新卒一括採用は、採用時の選別が比較的容易で教育コストなども抑えられることから、今後もなくならないだろうとしています。

 入門書の体裁をとりながらも、第3章には著者の考え方が織り込まれているように感じられましたが、若い人に向けて、今だけではなく、これからについて書いているというのはたいへん良いことだと思います。個別には異論を差し挟む余地が全く無い訳では無いですが、全体としてはバランスよく纏まっており、巻末に労働法や労働経済に関するブックガイドが付されているのも親切です(「機械によって人間の仕事が失われる」という事態を考察したエリク・ブリニョルフソン、 アンドリュー・マカフィー著『機械との競争』('13年/日経BP社)って最近結構あちこちで取り上げられているなあ)。
安藤至大 (あんどうむねとも) (@munetomoando)

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 働き方の仕組みを知る
1 私たちはなぜ働くのか?
生活のために働く
稼得能力を向上させるために働く
仕事を通じた自己実現のために働く
2 なぜ人と協力して働くのか?
自給自足には限界がある
分業と交換の重要性
比較優位の原理
比較優位の原理と使い方
「すべての人に出番がある」ということ
3 なぜ雇われて働くのか?
なぜ雇われて働くのか
他人のために働くということ
法律における雇用契約
雇われて働くことのメリットとデメリット
4 なぜ長期的関係を築くのか?
市場で取引相手を探す
長期的関係を築く
5 一日にどのくらいの長さ働くのか?
「収入-費用」を最大化
資源制約とトレードオフ
限界収入と限界費用が一致する点
6 給料はどう決まるのか?
競争的で短期雇用の場合
長期雇用ならば年功賃金の場合もある
取り替えがきかない存在の場合
給料を上げるためには
コラム:労働は商品ではない?

第2章 働き方の現在を知る
1 働き方の現状とルールはどうなっているか?
正規雇用と非正規雇用
正規雇用の三条件
7種類ある非正規雇用
非正規雇用の増加
2 正社員とはなにか?
正規雇用ならば幸せなのか
正社員を雇う理由
正規雇用はどのくらい減ったのか
3 長時間労働はなぜ生じるのか?
長時間労働の規制
長時間労働と健康被害の実態
なぜ長時間労働が行われるのか
一部の労働者に仕事が片寄る理由
4 日本型雇用とはなにか?
定年までの長期雇用
年功的な賃金体系
企業別の労働組合
職能給と職務給
中小企業には広がらなかった日本型雇用
5 解雇はどこまでできるのか?
雇用関係の終了と解雇
できる解雇とできない解雇
日本の解雇規制は厳しいのか
仕事ができる人、できない人
6 ブラック企業とはなにか?
ブラック企業はどこが問題なのか
なぜブラック企業はなくならないのか
どうすればブラック企業を減らせるのか
コラム:日本型雇用についての誤解

第3章 働き方の未来を知る
1 少子高齢社会が到来する
生産年齢人口の減少
働くことができる人を増やす
生産性を向上させる
2 働き方が変わる
機械により失われる仕事
人口の減少と仕事の減少
「雇用の安定」と失業なき労働移動
3 雇用形態は多様化する
無限定正社員と限定正社員
働き方のステップアップとステップダウン
非正規雇用という働き方
社会保障の負担
4 変わらない要素も重要
日本型雇用と年功賃金
新卒一括採用
コラム:予見可能性を高めるために

第4章 いま私たちにできることを知る
1 「労働者の正義」と「会社の正義」がある
「専門家」の言うことを鵜呑みにしない
目的と手段を分けて考える
会社を悪者あつかいしない
2 正しい情報を持つ
雇用契約を理解する
労働法の知識を得る
誰に相談すればよいのかを知る
3 変化の方向性を知る
働き方は変わる
失われる仕事について考える
「機械との競争」をしない
4 変化に備える
いま自分にできることは何か
これからどんな仕事をするか
普通に働くということ

おわりに

ブックガイド:「働くこと」についてさらに知るために

「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【089】 脇坂 明 『日本型ワークシェアリング

長期的な雇用関係(オールドディール)を捨てニューディールに移行した米国企業が直面した課題を精緻に分析。

雇用の未来 キャペリ.jpg雇用の未来 P・キャペリ.JPG雇用の未来Peter Cappelli.jpg Peter Cappelli

The New Deal at Work.jpg 終身雇用(長期的な雇用)は日本企業独自のものであって、米国企業にはそうした雇用慣行は無かったかのように思われているフシもにありますが、実は米国でも1970年代くらいまでは終身雇用をベースにした企業が殆どだったと言われています。それが、1980年代に米国は深刻な不況に陥り、企業は人員削減の必要に迫られ、従業員が企業に貢献できる限りは雇用するが、そうでなくなれば雇用は保証しないという新たな雇用スタイルに移行したとされています。
"The New Deal at Work: Managing the Market-Driven Workforce"

 1999年にピーター・キャペリ(Peter Cappelli)が著した本書(原題:"The New Deal at Work")は、米国企業が雇用においてそうした旧来型の長期的な雇用関係(オールドディール)をどのような経緯と理由で捨て、雇用者と労働者が雇用契約の内容を状況に応じて書き改めるオープン型の新たな関係(ニューディール)に移行したか、また、その結果としてどのような問題が生じ、それをどう乗り越えようとしているか(したか)が書かれています。

 第1章「雇用のニューディール」では、職場における「ニューディール」の概略を紹介し、企業は社員との暗黙の了解をいかに書き改めたのかを概説するとともに、それによって進行した社員の離職や無断欠勤の増加などの行動変化により経営者が抱えるようになった問題の領域―コア社員の維持、コミットメント、スキル開発―について解説しています。

雇用の未来  キャペリ.jpg 第2章「置き去りにされてきた雇用契約」では、米国における雇用慣行の歴史を遡ることで、「伝統的」だと考えられている長期的な雇用関係は、実はある経済状態に応じて比較的最近に出現し70年代末期から80年代初頭にかけて一層活発化したものであること、そしてそれがその後10年もしないうちに終焉を迎えることになったことを示しています(「オールドディール」以前には「ニューディール」に近い状態があったというのが興味深い)。

 第3章「何が雇用のリストラクチャリングを引き起こしたのか」では、長期的な雇用関係を徐々に崩壊させたその原因の多くは経済全体に関わるものであるが、最も重要な圧力は経営のイノベーションに関わるものであったとし、それゆえに、リストラクチャリングは継続的な変化を意味し、そのことは同時に、雇用主と労働者が相互にコミットメントし合う長期的な雇用関係の終焉を意味するとしています(つまり、長期的な雇用関係にはもう戻れないというのが著者の考えとみてよい)。

 第4章「変化の大きさ」では、こうした圧力が実際にはどの程度のものであったのか、雇用関係や社員自身にどのような影響を与えたかを、職場における変化の具体的な事例を取り上げながら解説しています。この中では特に、企業が新入社員に対する人材育成投資を手控えるようになったことに注目しています(今後は、企業が教育訓練に投じてもよいと考える額は、外部市場からの採用がどの程度困難かよって決まるだろうとしている)。

 第5章「市場原理に基づく雇用関係―外部労働市場はどう機能するか」では、以前からニューディール的な雇用関係が成立している業界や職種に着目し(航空パイロット、高等教育機関、シリコンバレーなど)、雇用・人事面の問題を克服するために必要となった調整手段について概説しています(例えばシリコンバレーの外部人材開発の事例では、様々な社員の評価を共有する情報ネットワークなど、外部インフラが自然発生的に出来あがったことに着眼している)。

 第6章「ニューディールが突きつけた課題にどう対処するか」では、コア社員の維持、コミットメント、スキル開発の問題を企業がどのような調整をもって克服しようとしたかを取り上げています。そして、ニューディールの下では、社員の組織に対するコミットメントは、今後ますます外部要因によって左右されるようになるとしています(社員のモラール維持に努めコミットメントの向上を意図した施策を講じても、労働市場が逼迫し、人材の引き抜きが盛んになれば、社員のコミットメントは低下せざるを得ないということ)。

 第7章「雇用の未来」では、社員に対して以前よりも多くの決断やリスクを迫る新しい雇用関係が個人や社会全体に与える影響など、マクロ的観点から考察しています。ニューディールがもたらす社会的影響については、就業に向けた万全の準備を学生たちに求める圧力が強まることなどを挙げています。
 ニューディールがもたらす結果について多くの人は不平等の拡大の問題を懸念するが、「市場性」の高い社員は、就職や昇進の見通しが明るくなる―、雇用の変動性と人材の内部育成に対する企業能力の低下が相俟って、個人が自分で自分のスキルを磨くことが求められる―こうした変化を「よい」とするかどうかは「よい」をどう定義するかによって答えが違ってくるわけであり、良し悪しの枠組みで議論するには限界があるとしています(良し悪しは別として企業や個人が対応しなければならない問題だということか)。
 著者は、ニューディールもいずれは過去のものとなるかもしれず、長期的な見方をすることをニューディールに関する最後の忠告として本書を結んでいます。

 バブル崩壊後、「失われた10年」と言われた平成不況に入った日本企業は、まさに本書にある米国のニューディールを追いかけたと言えるでしょう。リストラの嵐が吹き荒れ、成果主義賃金が叫ばれる中で、終わってみれば今もって「働かないオジさんの給料はなぜ高いか」などと言われているくらいですから、それは必ずしもオールドディールを全面的にひっくり返すほどではなかったかもしれませんが、一方で、人材の流動化や雇用形態の多様化、全労働者に占める非正規社員の比率の増大などは、当初の予想を超えて大幅に進行したと言えるかと思います。

 80年代、日本より10年先行してニューディールに移行した米国企業でも、90年代に入って雇用保障や内部人材の教育・育成の重要性が見直され、実際そうした「人材を活かす企業」こそがいち早く構造不況を脱したといったフェッファー(Jeffrey Pfeffer)などの研究報告もあります(『人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか?』(1998年/トッパン)。このいち早く構造不況を脱した企業の中にアメリカ・トヨタなども入っている)。そして、日本企業でも、2000年代に入って人材の重視が再び言われるようになり、2010年代に入ってそれがモチベーションアップなどのための様々な施策として具現化されてきているよう思います。

 日本と米国の雇用環境の決定的な違いは、人材の外部市場(人材情報の外部インフラ)の形成という面で日本が決定的に遅れているということでしょう。この差はすぐに埋まるものではなく、そうした所与の条件が違う中で、全てにおいて米国型を追っかけるのは無理があるし、その必要もないですが、多少の揺り戻しがあっても、当面は本書にあるニューディール自体がグローバルな流れであることは、見据えておく必要があるように思われます。その意味で本書は、これからの雇用のあり方、経営者と社員の関係のあり方を探る上で参考になる点が多いかと思います(一応断っておくと、書かれていることは「未来」ではなく、書かれた当時の「現在」なのだが)。

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●経営財務・企業会計」【117】 大濱 裕 『ビジネス キャッシュフロー戦略入門

名著『マネジャーの実像』の著者自身による"エッセンシャル版"。読みやすいが深い。

エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論1.JPGエッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論2.jpgエッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論  .jpg  
 
     マネジャーの実像.jpg
エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論』['14年/日経BP社] 『マネジャーの実像 「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』['11年/日経BP社]

 本書は、実際にマネジャーの役割を担っている人や、そのマネジャーの行動に影響を受け、その活動に関心を持つすべての人たちを対象に、「マネジメントとは何か」を記したものであり、著者が2009年に発表した『マネジャーの実像』(2011年/日経BP社)の内容を、忙しい読者のために大幅に圧縮し(『マネジャーの実像』は500ページ近い大著である)、いくらか新しい内容を加えたものです。

 第1章「マネジャーにまつわる定説」では、「マネジメントよりリーダーシップの方が重要だ」などといった一般に流布する定説(思い込み)を1つずつ論破するとともに、マネジメントとは、アート、サイエンス、クラフトの3つの要素が合わさった仕事であり、実践の行為と呼ぶべきものであるとしています。

 第2章「時間に追われるマネジャーたち」では、マネジャーに絶えずのしかかる、慌ただしい日々、頻繁に強いられる中断、解決しなくてはならない混乱といったプレッシャーに焦点を当て、マネジメントを成功させるには、計算と混沌、統制と無秩序の間で微妙なバランスをとることが不可欠だとしています。

 第3章「情報、人間、行動をマネジメントする」では、マネジャーはどういう理由で、どういう活動をしているのか、マネジャーの仕事の基本的な構成要素を見ていて、具体的には、マネジメントは、情報、人間、行動の3つの次元で行われるとしています。

 第4章「いろいろなマネジメント」では、マネジメントの多様性―文化や職階などによる違い、アート、サイエンス、クラフトの3要素への比重の置き方によるマネジメントのスタイルの違いなど―について論じています。

 第5章「マネジャーの綱渡り」では、マネジメントが容易でない理由の核心に切り込み、マネジャーにいくつもの綱渡りを同時に強いるジレンマの数々を検討するとともに、それらのジレンマは解決不能なものであって、マネジメントと切っても切り離せない(マネジメントそのものと言ってもいい)ものであるとしています(著者は、この章が本書の中で最も重要であると思うとしている)。

 第6章(最終章)「有効なマネジメントとは」では、マネジャーの選考は、長所ではなく短所を見て決めるべきであり、その短所を最もよく知っているのはその人物の部下であるとし、また、優れたマネジャーとはたいてい、情緒面で健全な人物であることなどを指摘し、本当に求められているのは、人々を関わらせることができるマネジャーであり、ヒーロー型のリーダーはもういらないとしています。

 帯に「悩めるマネジャー(社長・部長・課長・現場責任者)に捧げる福音の書!」とありますが、ベースとなっている『マネジャーの実像』に比べてかなり読みやすくなっていて、但し、だからといって言っていることがやさしいかというと必ずしもそうともいえず、結構"深い"ことを言っており、別な言い方をすれば、全体を端折ってしまって本質まで違えてしまうようなことはしていないという意味で、原著者自身がまとめた"エッセンシャル版"であるということの意義は大きいと思います。

 ただ、本書自体、マネジャー研修の教材として使えるような内容である一方で、表向きには比較的さらっと読めてしまう分、『マネジャーの実像』のように、時間をかけながら読み進んでいくことで(読むという行為を通して)啓発されていく要素というのは若干弱くなったようにも思います(ミンツバーグの経営思想の体系を解さずとも、普通の啓発書として読めてしまうかも)。マネジャー研修等を企画する側にある人事パーソンとしては(或いは人事パーソンであれば研修担当者でなくとも)、『マネジャーの実像』の方に読み進むことで、自身のミンツバーグの経営思想へのより深い理解に繋がるのではないかと思います。

「●ビジネス一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【141】 トム・コネラン 『ディズニー7つの法則
「●マネジメント」の インデックッスへ 「●心理学」の インデックッスへ

忘我の境地こそ「フロー」の感覚。フロー体験についての原典的な本。

Flow:The Psychology of Optimal Experience.jpgフロー体験 喜びの現象学1.jpg  フロー体験 喜びの現象学2.jpg
フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)
"Flow: The Psychology of Optimal Experience"by Mihaly Csikszentmihalyi

ミハイ・チクセントミハイ.jpg 「フロー理論」とは、1960年代に当時シカゴ大学の教授であったハンガリー出身のアメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly.Csikszentmihalyi)が提唱したもので、人が喜びを感じるということを内観的に調べていくと、仕事、遊びにかかわらず何かに没頭している状態であるというものであり、本書("Flow: The Psychology of Optimal Experience"1990)は、その考えを体系的に纏め上げたものです。

 チクセントミハイが「フロー」と呼ぶのは、完全に何かに集中し没頭している忘我の境地のことであり、このフローを手に入れる時、人は恋焦がれてやまない幸福という状態を手に入れるとのことです。活動の経験そのものがあまりに楽しいので、人はただ純粋に、何としてもそれを得ようとするとのことです。

 このような機会は、はかなくて予測不可能に思われがちですが、本書第1章「幸福の再来」で著者は、それは偶然に生じるものではなく、ある種の仕事や活動はフローの状態になりやすいとしています。以下、本書では、内面生活の統制による幸福への達成過程を検討しています。

 第2章「意識の分析」では、我々の意識はどのように働き、どのように統制されるのかについて述べています。我々が経験する喜びまたは苦しみ、興味または退屈は心の中の情報として現れ、この情報が統制できれば、我々は自分の生活がどのようなものになるかを決めることができるとしています。

 第3章「楽しさと生活の質」では、内的経験の最適状態とは、意識の秩序が保たれている状態であって、これは心理的エネルギー(注意)が目標に向けられている時や、能力や挑戦目標と適合している時に生じるとしています。1つの目標の追求は意識に秩序を与え、人は当面する目標達成に取り組んでいる時が、生活の中で最も楽しい時であるとしています。

 第4章「フローの条件」では、フロー体験が生じる条件を概観し、「フロー」とは意識がバランスよく秩序づけられた時の心の状態であるとしています。たえずフローを生み出すいくつかの行動―スポーツ、ゲーム、芸術、趣味―を考えれば、何が人々を楽しくするかを理解することは容易だとしています。

 第5章「身体のフロー」及び第6章「思考のフロー」では、心の中に生じることを統制することで、人は例えば競技や音楽からヨーガに至る身体的能力や感覚的能力の使用を通して、または詩、哲学、数学などの象徴的能力の発達を通して、殆ど無限の楽しみの機会を利用できるとしています。

 第7章「フローとしての仕事」第8章「孤独と人間関係の楽しさ」では、殆どの人々は生活の大部分を労働や他者との相互作用、特に家族との相互作用に費やしており、仕事をフローが生じる活動に変換すること、及び両親、配偶者、子供たち、そして友人との関係をより楽しいものにする方法を考えることが決定的に重要であるとしています。

 第9章「カオスへの対応」では、多くの生活が悲劇的な出来事によって引き裂かれ、最高の幸運に恵まれた人々ですら様々なストレスに悩まされるが、不幸な状態から益するものを引き出すか、惨めな状態に留まるかを決定するのは、ストレスにどう対応するかによるとし、人は逆境の中でどのようにして生活に楽しみを見出すかについて述べています。

 第10章「意味の構成」では、どうすればすべての体験を意味のあるパタンに結びつけることができるかというフローの最終段階について述べています。それが達成され、自分自身の生活を支配していると感じ、それを意味あるものと感じる時、それ以上望むものは何も無くなるとしています。

 本書は、課題達成に向けたアプローチを幅広く考察するうえで大いに参考になるとともに、「フロー」体験は、生産性以上に幸福な時間を生み出すものであるという観点からも重要と言えるでしょう。忘我の境地へもっと頻繁に至るには、努力を怠ってはならないということも忘れてはならないように思います。

チクセントミハイの本.JPG 本書のほかに、フロー体験について著者自身が書いたものに、『フロー体験入門―楽しみと創造の心理学』("Finding Flow: The Psychology of Engagement With Everyday Life"1997、'10年/世界思想社)や『フロー体験とグッドビジネス―仕事といきがい』("Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning"2003、'08年/世界思想社)がありますが、ビジネス寄りに書かれていたりするものの、「フロー」というものが何かについて最も深く書かれているのは本書であり(「フロー」状態の例として、ロッククライミング自体に何の外発的報酬もなく観客の喝采も期待出来ないのに、命を賭してまで没入する人のことを書いているが、ミクセントミハイ自身、ロッククライマーであり、それにのめりこんだ経験を持つ)、やや大部ではあるが、先に原典的な本書を読んでおいてから『フロー体験フロー体験 喜びの現象学3.jpg入門』や『フロー体験とグッドビジネス』に読み進む方が、結果として効率が良かったりするのではないでしょうか。

フロー体験.gif
清水康太郎「ベンチャー企業で働く人たちのモチベーション」

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

《読書MEMO》
●著者のフロー関連本(出版順)
・Beyond Boredom and Anxiety: Experiencing Flow in Work and Play 1975
・The Meaning of Things: Domestic Symbols and the Self 1981
・Optimal Experience: Psychological studies of flow in consciousness 1988
・Flow: The Psychology of Optimal Experience 1990
・The Evolving Self 1994
・Creativity: Flow and the Psychology of Discovery and Invention 1996
・Finding Flow: The Psychology of Engagement with Everyday Life 1997
・Flow in Sports: The keys of optimal experiences and performances 1999
・Good Work: When Excellence and Ethics Meet 2002
・Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning 2002
●内、邦訳が入手可能なもの
・Beyond Boredom and Anxiety: Experiencing Flow in Work and Play 『楽しみの社会学』
・The Meaning of Things: Domestic Symbols and the Self 『モノの意味』
・Flow: The Psychology of Optimal Experience 『フロー体験 喜びの現象学』
・Finding Flow: The Psychology of Engagement with Everyday Life 『フロー体験入門』
・Flow in Sports: The keys of optimal experiences and performances 『スポーツを楽しむ フロー理論からのアプローチ』
・Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning 『フロー体験とグッドビジネス』

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2285】 海老原 嗣生 『いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる
「●人事・賃金制度」の インデックッスへ

「福祉雇用型」から「仕事ベース短期決済型」へ。理論的な枠組み、方向性を示す。

高齢社員の人事管理 今野浩一郎.jpg高齢社員の人事管理』(2014/08 中央経済社)

 「70歳まで働ける企業」基盤作り推進委員会(高齢・障害者雇用支援機構)の座長なども歴任した著者が、労働者の5人に1人は高齢者であるという世界の先進国の中でも未曾有の高齢化を迎えた日本における今後の「高齢社員の人事管理」の在り方を考察・示唆した本です。

 著者によれば、これまでも多くの実務家が制度や施策を提案しているし、研究者も解決策を提案しているが、実務家の提案は「いま役に立つ」を重視するあまり人事管理の基本となる理論的な枠組みの部分が弱く、一方、研究者は現状分析や課題の捉え方には優れるが、制度を具体的に構築する手掛かりにはなりにくい―本書は実務家と研究者の両者を繋ぐべく、研究者の成果を踏まえて実務家たちが人事管理の制度構築を行ううえにおいて灯台の役割を果たす考え方、視点、進むべき方向を提示する狙いで書かれたものであるとのことです。

 第1章「人事管理のとらえ方」で、人事管理の構造を体系的に整理し、高齢社員の人事管理を考えるうえで「ことの重要性」「全体の中の一部」「戦略と戦術を区分する」という3つの視点を提示しています。さらに、経営ニーズの変化による人事管理の再編の方向性として、社員が意欲をもって新しい働き方に取り組むことを支援する人事管理、また、それを担う人材を確保・育成するための人事管理を構築することが求められるとしています。

 第2章「社員の多様化と人事管理」では、会社の指示があればどこへでも転勤し長時間労働も厭わない「無制約社員」と働く場所や時間に何らかの制約がある「制約社員」を区分して管理するこれまでの伝統的な「1国2制度型」は、基幹社員が無制約社員から制約社員化する中でその基盤が崩壊しつつあり、基幹社員の中にも制約社員がいることを前提にした多元的人事管理の方が経営パフォーマンス上優れているとし、また、交渉ベースの雇用管理、仕事基準の報酬管理というものがこれからの主流になるであろうとの見通しのもと、賃金制度はどのように変わっていくか、また、その際にどういった配慮をしなければならないかを、「リスクプレミアム手当」といった概念を用いて解説しています。

 第3章「高齢化からみる労働市場の現状と将来」では、「ことの重要性」の観点から。高齢化が人事管理にとってどの程度重要な課題であるのか、労働市場や人口構成に関するデータから、その重要性を確認し、高齢者の活用に企業も高齢者も「本気になること」が解決の出発点であるとしています。

 第4章「高齢社員の伝統的人事管理の特徴」では、企業がこれまで高年齢者の雇用確保措置をどのように行ってきたかを確認し、これまでの「1国2制度型」の人事管理の実情を検証するとともに、単に高齢者に雇用機会を提供するだけの「福祉雇用型」の人事管理には限界があり、高齢者を戦力化することに「本気になること」が必要であるとしています。

 第5章「人事改革の視点」では、高齢者を戦力化する新たに構築される戦略人事管理を「S型人事管理」と略称し、それは高齢社員の制約社員化を踏まえて作られる必要があり、また、「いまの働き対していま払う」短期決済型であるべきだとして、人事改革の基本施策、賃金の基本的な視点と制度の基本的方向を示しています。

 第6章「高齢社員を活かす賃金」では、「S型人事管理」における現役社員の賃金との関連性の視点の必要性を説いたうえで、現役社員と高齢社員の賃金制度の組み合わせ類型において、「年功的長期決済型+福祉雇用型」《P1型》→「年功的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P2型》→「成果主義的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P3型》といった賃金プロファイルの改革のベクトルを示すとともに(最終段階は「1国1制度」《P4型》)、定年を契機に賃金が低下するという問題への対応策を示唆しています。

 第7章「高齢社員に求められること」では、今後は高齢者の側も働き続ける覚悟が求められ、「働くことは稼ぐこと」であって、高齢者それぞれに「どのように貢献するか」という視点が求められているとしています。また、高齢者が職場の戦力となるキャリアを実現するために、企業側も、キャリア転換を促進し支援する仕組みやマッチングのための施策を講じていく必要があり、その際に「マッチングの市場化」(社内労働市場)の仕組み作りなども必要になってくるとしています。

正社員消滅時代の人事改革.jpg 本書は、著者の前著『正社員消滅時代の人事改革-制約社員を戦力化する仕組みづくり』('12年/日本経済新聞出版社)の「高齢社員の人事管理」に的を絞った続編ともとれますが、著者自身が前書きで述べているように、これからの人事管理の「進むべき方向を確認するための灯台としての役割を果たすためのモデルとして提案」したものであり、具体的に個々の制度の詳細を解説したりすることは目的としていません。その点を踏まえておかないと、実務書として読んでしまうと物足りないものとなってしまうでしょう。

 個人的感想としては、「高齢社員の人事管理」の在り方を通してこれからの人事管理の在り方を理論的な枠組みの中できっちり示しており、実務家にとって自社制度の立ち位置や今後の方向性を探る上での理論強化に繋がる本であるように思えた一方で、出された結論はそれほど斬新なものでもなく、大方の実務者が今後はこうならざるを得ないだろうと予想していたものに近いと言えるのではないかと思った次第です。

 ただ、現状がどうかという問題は当然のことながらあると思われ、平成25年施行の改正高年者齢雇用安定法に対する各企業の対応が、「福祉雇用型」的な対応でばたばたっと決着して一息ついたようになっている現況において、次のステップに移行するための示唆と動機づけを与えてくれる本ではあると思います(実務書と言うより啓蒙書・啓発書に近いか)。

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2280】 今野 浩一郎 『高齢社員の人事管理
「●人事・賃金制度」の インデックッスへ 「●光文社新書」の インデックッスへ

制度をぽんぽん作ることがイコール「クリエイティブ」であるともとられかねない論調?

クリエイティブ人事19.JPGクリエイティブ人事.jpgクリエイティブ人事 個人を伸ばす、チームを活かす (光文社新書)

 本書は、サイバーエージェントの取締役人事本部長の曽山哲人氏が、組織行動研究の第一人者である金井壽宏氏との対談も交え、自社の人事制度を紹介しつつ、人事の在り方や人事制度の本質について語った本です。

 曽山氏は、自社の創業7年後の2005年の人事本部の発足と同時に人事本部長に抜擢され、すでに急成長を遂げベンチャーらしさが失われつつあった社内の雰囲気に危機感を覚え、日常業務を回すだけの「機能人事」からの脱却を図ることを目指したとのことです。そして、半年ごとの新事業提案コンテスト「ジギョつく」、役員と社員がチームを組み「あした(未来)」につながる新規事業を考え提案する「あした会議」、サービスアイディアを「モックアップ(試作品)」に落とし込んで提案するコンテスト「モックプランコンテスト」など、イノベーションと組織活性化を促すさまざまな仕組みを打ち出してきました。

 人事本部のミッションを「コミュニケーション・エンジン」と定義し、自らに月に100人の社員と話すことを課すとともに、懇親会支援制度や部活動支援制度などを導入し、インフォーマル・コミュニケーションの活性化に力を入れている点などは、個人的には興味深く感じましたが、様々な経歴の人材が集まるベンチャー企業などではそれほど珍しくない施策かもしれません。「キャリチャレ」と呼ばれる社内異動公募制度なども含め、本書にあるこうした制度は、同業他社や他業種の企業でも多くが導入しているように思います。

 序章を金井教授と曽山氏が交互に執筆して、終章(第5章)に両者の対談があるのを除き、残りの部分は曽山氏によるこうした社内の人事制度やその考え方の紹介となっていますが、結果的に、制度を紹介する企業ガイダンス的な内容になってしまっている面があるとともに、人事部目線で見ると、ある特殊なケースにおける「成功体験」を聞かされているような印象も受けました。

 「2駅ルール」というオフィスの最寄り駅から2駅以内に住む社員に補助をする仕組みを社員の5割弱が利用しているといったことも、急成長を遂げたベンチャー企業で、規模のわりには社員の平均年齢が若いという特殊性の現れではないかと。中には、やや思いつき的な発想からきたのではと思われるような制度もあり、ある程度の遊び心があってこそのベンチャーと言えなくもありませんが、制度をぽんぽん作ることがイコール「クリエイティブ」であるともとられかねません。

 本書自体、制度はあくまで表層であって、人事における「クリエイティブ」とは本質的にはもっと深いものであるという立場であるかと思いますが、第4章から終盤の対談にかけては、むしろ、人事パーソンに求められる資質といった自己啓発的観点からの論調になって、それはそれで参考になる部分もあったものの、「クリエイティブ」ということに関してはややもやっとしたまま終わってしまったようにも思えました。

 結局これ、自らのブログから引用して本人が書いた部分もあるけれども、大方は本人の語りを編集者が文章にしたのだろうなあ。金井壽宏氏が手を入れているにしても、平板な印象が拭いきれないのは、やはり先ほども述べたように、本人が専ら過去の成功体験を中心に語っているからなのでしょう。

「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2284】 安藤 至大 『これだけは知っておきたい働き方の教科書
「●社会問題・記録・ルポ」の インデックッスへ 「●岩波新書」の インデックッスへ

この問題に対する著者の真摯な姿勢が感じられる。「労側」の弁護士が書いた本との捉え方は意味をなさない。

過労自殺 第二版.jpg過労自殺 第二版 (岩波新書)』  過労自殺 .jpg過労自殺 (岩波新書)』 

 同著者の1998年刊行の『過労自殺』の16年ぶりの全面改訂版であり、第1章では事例をすべて書き換え、著者が直接裁判などを担当して調査を行った資料を中心に、過労自殺の実態を具体的に示しています。
 それらの事例と、続く第2章の統計から、20代や30代の若者や女性たちの間にも、仕事による過労・ストレスが原因と思われる自殺が拡大していることがわかり、そのことはたいへん危惧すべきことであるように思いました。また、旧版『過労自殺』にもそうした事例はありましたが、パワハラが絡んでいるものが少なからずあるということと、こうした事件がよく名前の知られた大企業またはその系列会社で起きているということも非常に気になりました。

 第2章では、新しい統計・研究を組み込んで、過労自殺の特徴・原因・背景・歴史を考察しています。旧版『過労自殺』によれば、1995~1997年度の過労自殺の労災申請は、それぞれ10件、11件、22件で、それに対し労災認定件数は各0件、1件、2件しかなかったとありました(有名な「電通事件」裁判も、労災申請を認めなかった労基署の判断が退けられたという形をとっている)。
 それが、本書によれば、2007~2012年度の間では毎年度63~93件の自殺労災認定があったとのこと。しかし、これは厚労省労働基準局統計による数字であって、警察庁・内閣府統計では、2007~2012年の間「勤務問題」が原因・動機の自殺が毎年2,500件前後あったとなっており、著者が過労自殺の被災者は実質的には年間2,000人以上になるとしているのは、必ずしも大袈裟とは言えないように思いました。

 第3章では、そうした実態も踏まえ、過労自殺と労災補償の関係を整理し、具体的にQ&A式で説明しています。基本的には労働者や被災者とその家族向けに書かれていますが、企業の人事労務担当者が基礎知識として知っておくべきことも含まれています。

 第4章では、今年成立した過労死等防止対策推進法(略称・過労死防止法)などの情勢の進展を踏まえ、過労自殺をなくすにはどうすればよいかについて、職場に時間的なゆとりを持たせることや、精神的なゆとりを持たせることなど、いくつかの観点から提言を行っています。個人的には、「義理を欠くことの大切さ」を説いているのが興味深かったです(版元のウェブサイトの自著の紹介でも、著者は、女優の小雪さんが語りかける「風邪?のど痛い?明日休めないんでしょ?」というCMを見て、風邪気味でのどが痛くとも、熱っぽい状態であっても、仕事を休まずに出勤することを前提にしていることに違和感を感じたとしている)。

 過労自殺はあってはならないというこの問題に対する著者の真摯な姿勢が感じられるとともに、この問題は企業と働く側の双方で(それと社会とで)解決していかなければならない問題であるとの思いを改めて抱きました(本書では、元トリンプ・インターナショナル・ジャパン社長の吉越浩一郎氏の『「残業ゼロ」の仕事力』(2007年/日本能率協会マネジメントセンター)や株式会社ワークライフバランス社長の小室淑恵氏の『6時に帰る チーム術』(2008年/日本能率協会マネジメントセンター)などの著書からの肯定的な引用もある)。
 ともすると、「労(働者)側」の弁護士が書いた本だと捉えられがちですが、著者は実際には企業のコンプライアンス委員会などにも関与しており、過労自殺を予防するといった観点からは、「労(働者)側」「使(用者)側」という見方はあまり意味を成さないのかもしれません。
 人事労務担当者としては押さえておきたい1冊です。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1858】 ドミニク・テュルパン/高津 尚志 『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか
「●人材育成・教育研修・コーチング」の インデックッスへ

いわばリクルート流のSL理論(状況対応型リーダーシップ理論)。分かり易く書かれている。

部下育成の教科書 00.jpg
   
   
    
   
   
   
部下育成の教科書』(2012/03 ダイヤモンド社)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第7弾(エントリー№2277)。表紙折り返しに「自立しない若手、伸び悩む中堅、やる気のないベタラン社員にも効く育て方の『「ものさし」』とあるように、ビジネスパーソンを10の「段階」に分け、その段階に合わせた育成方法を指南しています。その10の段階=ステージとは以下の通り。

部下育成の教科書 図.jpg

●一般社員層:4つのステージ(段階)
(1)スターター(Starter/社会人):ビジネスの基本を身につけ、組織の一員となる段階
(2)プレイヤー(Player/ひとり立ち):任された仕事を一つひとつやりきりながら、力を高める段階
(3)メインプレイヤー(Main Player/一人前):創意工夫を凝らしながら、自らの目標を達成する段階
(4)リーディングプレイヤー(Leading Player/主力):組織業績と周囲のメンバーを牽引する段階
●マネジャーとして部下を持つ管理職層:4つのステージ(段階)
(1)マネジャー(Manager/マネジメント):個人と集団に働きかけて、組織業績を達成しながら変革を推進していく段階
(2)ダイレクター(Director/変革主導):対立や葛藤を乗り越えながら、変革・改革を起こし、組織の持続的成長を実現する段階
(3)ビジネスオフィサー(Business Officer/事業変革):戦略的な資源配分を通じて、自ら描いた事業構想を実現する段階
(4)コーポレートオフィサー(Corporate Officer/企業変革):社会における自社の存在意義を絶えず問い直し、自社の針路を決める段階
●部下を持たない管理職層:2つのステージ(段階)
スペシャリストとして部下を持たない管理職層:2つのステージ(段階)
(1)エキスパート(Expert/専門家):高い専門性を発揮することを通じて、組織業績と事業変革に貢献する段階
(2)プロフェッショナル(Professional/第一人者):卓越した専門性を発揮することを通じて、事業変革に道筋をつける段階
部下育成の教科書 図1.jpg
 「10」と聞いてやや多過ぎか?と思いましたが、上記のように一般社員層4、部下を持つ管理職層4、部下を持たない管理職層4ということで納得。これを全部均等に解説していくと"総花的"になってしまうところを、一般社員層の4段階を特に詳しく説明し、更にステージの変わり目(トランジッション)をどう見極め、上司としてどう対処するかを説いたりもしているため、総花感は回避されているように思いました。

 部下の成長の段階の違いによって育成方法や指導に関する関与の在り方を違えるべきだという気付きを与えるという意味では、啓発される要素は多い本であるし、何よりも分かり易く書かれています。

 一般社員について、スターター、プレイヤー、メインプレイヤー、リーディングプレイヤーの4段階に分かれているというのは、SL理論(Situational Leadership Theory)との対比で捉え直してみると面白いのではないでしょうか。

 著者らは何れもリクルートマネジメントソリューションズ(前HRR、旧人事測定研究所)の所属。本書はいわばリクルート流のSL理論(状況対応型リーダーシップ理論)であり、一般職の部分に更に管理職層の部分を繋げて作ったものとも言えるのではないかと思いました。

 個人的なツン読本、または読み残しや書評の書き残しを改めて振り返った「"やや中古"本に光を」シリーズはここまで下記の通り。
【2270】 × 中澤 二朗 『働く。なぜ? (2013/10 講談社現代新書) ★☆
【2071】 △ 齋藤 孝 『雑談力が上がる話し方―30秒でうちとける会話のルール』 (2010/04 ダイヤモンド社) ★★★
【2272】 △ 近藤 圭伸 『上司の「人事労務管理力」―部下との信頼関係を築くために大切なこと』 (2012/09 中央経済社) ★★★
【2273】 △ 奥山 典昭 『間違いだらけの「優秀な人材」選び (2012/11 こう書房) ★★★
【2275】 ○ 三菱UFJ信託銀行退職給付会計研究チーム 『図解 退職給付会計はこう変わる! (2013/08 東洋経済新報社) ★★★★
【2276】 ◎ 笹島 芳雄 『最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの』 (2008/04 日本経団連事業サービス) ★★★★★
【2277】 ○ 山田 直人/木越 智彰/本杉 健 『部下育成の教科書 (2012/03 ダイヤモンド社) ★★★★(本書)

《読書MEMO》
sl理論.gif●SL理論(「INVENIO LEADERSHIP INSIGHT」より)
(1977年にハーシィ(P.Hersey)とブランチャード(K.H.Blanchard) が提唱したリーダーシップ条件適応理論の1つ)
S1:教示的リーダーシップ/ 具体的に指示し、事細かに監督する 
(タスク志向が高く、人間関係志向の低いリーダーシップ)
→部下の成熟度が低い場合
S2:説得的リーダーシップ/こちらの考えを説明し、疑問に応える 
(タスク志向・人間関係ともに高いリーダーシップ)
→部下が成熟度を高めてきた場合
S3:参加的リーダーシップ/ 考えを合わせて決められるように仕向ける 
(タスク志向が低く、人間関係志向の高いリーダーシップ)
→更に部下の成熟度が高まった場合
S4:委任的リーダーシップ/ 仕事遂行の責任をゆだねる
(タスク志向・人間関係志向ともに最小限のリーダーシップ)
→部下が完全に自立性を高めてきた場合

「●人事・賃金制度」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1199】 竹内 裕 『日本の賃金
「●人材育成・教育研修・コーチング」の インデックッスへ

内容的に他の追随を許さない水準ながら学術書っぽさがない。デューデリ担当者には必読書か。

最新アメリカの賃金・評価制度4.JPG最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの.jpg最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの』(2008/04 日本経団連事業サービス)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第6弾(エントリー№2276)。長年にわたってアメリカの賃金制度の研究に携わってきた著者が、80社以上に及ぶ企業・労働組合をヒアリング調査した成果を纏めたものであり、限られた情報に基づき一面的に捉えがちだったアメリカの賃金の現状制度について、データの裏付けの下、総合的、客観的に分析しています。

 本書は同著者による『アメリカの賃金・評価システム』('01年/日本経団連出版)の続編であり、前著はアメリカの賃金制度を分かり易く紹介するとともに、アメリカの賃金制度の変容にも触れ、同時に、曲がり角にある日本の賃金制度の方向性を示唆していましたが、本書も同じような趣旨ながら、データのみならず具体的な企業事例がぐっと増えて、より実務に供する内容となっています。

 前著でも、文章が簡潔明快で読み易く、参考文献も充実していましたが、本書ではさらに図解や資料が多く挿入されていて、それらが何れも見易く纏まっているのが有難いです。内容的に他の追随を許さない水準でありながら、学術書っぽさがないのがいいです。

 日本人事労務研究所刊行の『月刊人事労務』に2001年から2006年まで断続的に連載した原稿がベースになっているとのことですが、著者は2007年にアメリカ報酬管理協会のワールドアトワークの年次カンファランスに日本からただ一人参加しており、そうした本書刊行時点での直近の調査結果や報告なども織り込まれているため、"やや中古"本(2008年刊)といっても、あまり古さは感じさせません。

 むしろ、本書を超えるレベルのものがその後に見当たらないので、これから企業規模を問わずどの企業にもグローバル化の波が押し寄せる公算が大きい「今日的」乃至「近日的」状況に際して、アメリカの賃金・評価システムがどのようなものであるかを知っておくことは無駄にはならず、その手引きとしては絶好の書と言えるのではないかと思います。アメリカ企業とのM&Aにおけるデューデリジェンス担当者などにはとっては必読書ではないかと(とりわけ米国企業では個々の賃金決定は現場のライン管理職に任されていることもあってか、デューデリで賃金制度を最初から重点的に議論し合うことは稀のように思う)。「"やや中古"本に光を」シリーズ第6弾にしてやっと5つ星です(どちらかと言うとリアルタイムで取り上げるべき本だった)。

 最近話題になっているホワイトカラー・イグゼンプションや非正規雇用の問題などについても(たまたま本書刊行時もそれぞれテーマについての時期的な議論のヤマ場があったりしたということもあるが)、アメリカを参照しつつ日本の場合はどうかという視点から解説しています。

 とりわけ、ホワイトカラー・イグゼンプションの導入に関しては、真っ向から反対はしていませんが、労働時間規制を一旦強化し、長時間労働や恒久的残業が極めて例外的な現象とされる社会構造を構築したうえで導入すべきだという慎重な見解を示しているのは、アメリカの労働社会や人事賃金諸制度に通暁している著者が言っていることだけに重いものがあります(個人的にはホワイトカラー・イグゼンプションは賛成だが、年収いくら以上とかいうことよりも、そうした社会構造のチェックとでもいうべき付帯条件が確かに必要と思う。そのチェック自体が難しいという問題があるにしても)。
_________________________________________________

〈著者紹介〉
笹島芳雄
1967年東京都立大学卒業後、労働省(現厚生労働省)入省。73年ブラウン大学大学院修了。経済企画庁、OECD出向などを経て、89年より明治学院大学教授。厚生労働省「これからの賃金制度のあり方に関する研究会」「男女間の賃金格差に関する研究会」などの座長を歴任。中央労働委員会関東地方調整委員会委員長。著書「アメリカの賃金・評価システム」(日本経団連出版)、「現代の労働問題」「賃金決定の手引」(現・明治学院大学名誉教授)

《読書MEMO》
・第1章  アメリカの賃金の全体像
・第2章  職務グレード制と基本給の決定
・第3章  職務評価の手法と実態
・第4章  労働組合員の賃金
・第5章  ボーナス制度の仕組み
・第6章  人事評価制度の実情
・第7章  ペイ・フォー・パフォーマンスの構造と特色
・第8章  日米賃金制度比較からの示唆

「●退職金・企業年金」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●目標管理・人事考課」 【047】 遠藤 仁 『コンピテンシー戦略の導入と実践

改正全般へのターゲティングということで言えば、コンパクトに纏まっている。

図解 退職給付会計はこう変わる5.JPG図解 退職給付会計はこう変わる1.jpg図解 退職給付会計はこう変わる!』(2013/08 東洋経済新報社)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第5弾(エントリー№2275)。2013年4月以降適用の年金積立不足のBS計上義務づけ新会計基準に対応した入門書であり、日本基準とIFRS(国際税務報告基準)の改正内容を解説するとともに、具体的な対応例を示します。2015年4月現在でも退職給付会計基準は本書の通りであり、"やや中古"本といってもまだ100%現役であるわけですが...。

 退職給付会計の解説書は意外と少ないことに気づきますが、おそらく、改正のたびに改訂しなければならないのに対し、毎回どのレベルから説明していけばよいのか測りかねるというのもあるのではないでしょうか。基本的事項は一通り解っているとの前提でいくならば、大企業においても本当にその基本事項を押さえている人ですらそれほど多くはおらず、「一般書」として出すにしても読者ターゲットが絞られてしまうというのもあるのかもしれません。

退職給付債務の算定方法の選択とインパクト.jpg 以前に、井上 雅彦/江村 弘志著『退職給付債務の算定方法の選択とインパクト』('13年/中央経済社)を取り上げましたが、あちらは2013年改訂伴う退職給付債務の算定方法の選択(「期間定額基準」か「給付算定式基準」か)に絞って解説した参考書であり、一方、本書は、会計基準の今回の改正全般にフォーカスしたものです。その部分にターゲティングしているという点で言えば、本書は非常にコンパクトに纏まっていたように思いました。退職給付会計の基本について1章を割いたうえで、改正のポイントに移り、更に、日本基準とIFRSの相違点を解説し、最後に、会計基準変更の影響と今後の対応を解説しています。

図解 退職給付会計はこう変わる3.JPG この本よりももっと基本事項について遡って解説したもので且つ今回の改定に合わせて改訂されているものもありますが、そうなると結構ページ数が多くなります(井上雅彦著『キーワードでわかる退職給付会計(3訂増補版)』('13年/税務研究会出版局)などがそう)。自分も持っていますが、制度改定のごとに買い換えるのは効率が良くないかも。その点、本書は手頃ではあるかと思います(結局両方買ってしまったが、もっぱらこちらを読んでいる)。

 2012年6月発表の日本の会計基準の改正は、「貸借対照表での即時認識の導入」「退職給付債務の計算方法の変更」「退職給付制度運営に関する開示の充実」でしたが、IFRSの退職給付会計基準も2011年5月に「遅延認識の選択肢の排除(即時認識への統一)」「退職給付に関する費用の要素ごとの分解表示」「退職給付制度運営リスクに関する開示の充実」などの改正が行われていて、但し、日本基準ではこれが連結貸借対照表でしか適用されません。損益計算書においては遅延認識が認められており、貸借対照表も単独企業ベースでは変更なし。となると、「単独」のBSと「連結」のBSが合致しないというおかしなことが必然として生じることを許容しているということになるため、こうした状況が過渡期的なものであることは予想に難くありません。

 IFRSの退職給付会計基準改定に際してのキーワードは「透明性(=わかりやすさ)」。国際基準に簡単に合わせられないわが国独自の事情はあるかと思いますが、この複雑さは何とかして欲しいと思います。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2230】 鈴木 紀夫 『部下をつぶさない! アンチ体育会系リーダー術
「●ピーター・ドラッカー」の インデックッスへ

ストーリーがよく出来ていて、いいタイミングでドラッカーの言葉が出てくる。

まんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論.JPGまんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論2.jpg   まんがと図解でわかるドラッカーのリーダーシップ論.jpg
まんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論』『まんがと図解でわかるドラッカーのリーダーシップ論 (別冊宝島) (別冊宝島 1750 スタディー)

 東京での仕事で挫折し、失意のまま退職した赤井満は、いつのまにか生まれ故郷で村おこしのプロジェクトリーダー「特命村長」に任命されていた! 村役場から選ばれたメンバーを率い、彼らの強みを生かした成果が期待される満。彼女を支えたのは、経営学の父・ドラッカーが唱えたリーダーシップの真髄だった―。

 『まんがでわかる7つの習慣』('13年/宝島社)の第2弾ということですが、本書が刊行される以前に「別冊宝島」(ムック)として本書と同じ監修者による『まんがと図解でわかるドラッカーのリーダーシップ論』('11年)が刊行されており(その他に『まんがと図解でわかるドラッカー マネジメント、イノベーションなどが初心者でも簡単に理解できる!』('10年)や『まんがと図解でわかるドラッカー 使えるマネジメント論』('11年)などもある)、やや既知感のようなものもあってそれほど期待せずに読んだら、これが意外と"優れもの"でした。

まんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論21.JPG 『まんがと図解でわかるドラッカーのリーダーシップ論』も好評で文庫化されたりもしていますが、マンガは添え物で図解がメインといった感じでしょうか。テーマ項目ごとにきちんと纏まっていましたが、「項目主義」になってしまっていて、逆に本当の意味での理解に繋がらない面もあるのではないかという気もしました。

 その点本書は、マンガとしてのストーリーがよく出来ていて、いいタイミングでドラッカーの言葉が出てくるため、それがまた相互作用として活きているように思いました。ドラッカーの述べていることの中には時期によってニュアンスが少しずつ違っている部分もあり、その点、複数のドラッカーの著者から引用することで、ドラッカーがあたかも最初からそうしたことを提唱していたように捉えられてしまうのはどうかというのはムック版でもあり、本書でもありましたが、これくらいの入門レベルになると、そこまでこだわることもないでしょうか(むしろ、テンポが大事で、その点は合格点!)。

 こうした本は、普段本よりもマンガを読む人向けという捉えられ方をしがちですが、さらっと読めてドラッガーを身近に感じられるという点では、マンガへの親和度の高い低いに関わらずお薦めです。

《読書MEMO》
●コミュニケーションが成立するには経験の共有が不可欠だ...。組織においてコミュニケーションは手段ではない。組織のあり方である。―P.F.ドラッカー『マネジメント(中)』p157(本書23p)
●あまりに多くのリーダーが、自分のしていることとその理由は、誰にも明らかなはずだと思っている。そのようなことはない。多くのリーダーが自分の言ったことは誰もが理解したと思う。しかし誰も理解していない。―P.F.ドラッカー『非営利組織の経営』p 30(本書24p)
●重要なのはカリスマ性ではない。...リーダーが初めに行うべきは、自らの組織のミッションを考え抜き、定義することである。―P.F.ドラッカー『非営利組織の経営』p2(本書35p)
●人の配置は、あらゆる事業においてきわめて重要な事案である。...人が一人あるいは小さなチームとして、事細かな監督なしに自主的に働くとき、単に働きたいという意欲からより良い仕事をしたいという意欲に左右される。すなわち配置によって左右される。―P.F.ドラッカー『現代の経営(下)』p157(本書54p)
●専門職たる者は、自らの仕事が何であるべきか、優れた仕事とは何であるべきかを自ら決める。何を行うべきか、いかなる基準を適用すべきかについて、誰も彼に代わって決めることは出来ない。彼らは、誰からも監督されない。―P.F.ドラッカー『現代の経営(下)』p201(本書68p)
●専門職は一人で働こうとチームで働こうと、自らの貢献について責任をもつ。―P.F.ドラッカー『現代の経営(下)』p199-201(本書69p)
●上司は部下の仕事に責任をもつ。部下のキャリアを左右する。したがって、強みを生かす人事は、成果をあげるための必要条件であるだけでなく、倫理的な至上命令、権力と地位に伴う責任である。―P.F.ドラッカー『経営者の条件』p126(本書80p)
●人を問題や費用や脅威として見るのではなく、資源として、機会として見ることを学ばなければならない。管理(manage)で. はなくリード(lead)すること、支配(control)ではなく方向づけ. (direct)することを学ばなければならない。―P.F.ドラッカー『マネジメント(上)』p31(本書89p)
●成果をあげるための秘訣を1つだけあげるならば,それは集中である。成果をあげる人は最も重要なことから始め、しかも一度に一つのことしかしない。―P.F.ドラッカー『プロフェッショナルの条件』p138(本書111p)
●リーダーシップが発揮されるのは、真摯さによってである。範となるのも、真摯さによってである。真摯さは、取って付けるわけにはいかない。真摯さはごまかせない。―P.F.ドラッカー『マネジメント(中)』p109(本書127p)
●自らをマネジメントするということは、一つの革命である。...あたかも組織のトップであるかのように考え、行動することが要求される。―P.F.ドラッカー『明日を支配するもの』p231(本書166p)

「●採用・人材確保」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2236】 内海 正人 『会社で活躍する人が辞めないしくみ
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

総花的で実際の採用面接では使えない。今いる社員の見分け方としても読めるが斬新さはない。

間違いだらけの「優秀な人材」選び9.JPG間違いだらけの「優秀な人材」選び.jpg間違いだらけの「優秀な人材」選び』(2012/11 こう書房)

 あなたがデキると思っている部下は本当に利益を生む部下ですか? うわべの「優秀さ」に期待するもいつもだまされていませんか? その陰で「眠っている原石」のモチベーションを奪っていませんか? 会社に利益をもたらす本当の「優秀さ」とはなんでしょう? あなたの部下は「優秀」ですか? そしてあなた自身は...? すべての上司に一度は目を通してもらいたい本(「BOOKデータベース」より)。

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第4弾(エントリー№2273)。サブタイトルに「『誰が会社に利益をもたらすか』を正しく見極める法」とあるように、見かけの優秀さではなく、「本当に仕事ができる人材の要素」とは何か、「仕事力」というものを、①成果管理能力(組織のために働く力)、②概念化能力(思考する力)、③内部強化力(モチベーションを高める力)、④外部受容力(新たな情報を獲得する力)の「4つのキーポテンシャル」として提示しています。

 更に、「成果管理能力」には①当事者意識、②成果意識、③目標を定める力、④収束する力、⑤リーダーシップがあり、「概念化能力」には①思考する意欲、②情報を集める力、③情報を選ぶ力、④情報を結びつける力、⑤理論を高める力があり...ということで、言っていることは尤もなのですが、あまりに網羅的・総花的で、実際の採用面接等では充分に使い切れないのではないでしょうか。

 項目ごとに言葉の概念が重なり合っているように思える部分もあって、これを採用で使った場合、論理誤差が起きるのは避けがたいのではないでしょうか。本書とほぼ同時期に刊行された、マッキンゼーの伊賀泰代氏が書いた『採用基準―地頭より論理的思考力より大切なもの』 (12年/ダイヤモンド社)のように、求める人(要件)は「将来のリーダーとなる人」(リーダーシップ)と一本に絞ったものの方が、ずっとインパクトはあるし、可も無く不可も無いような人材ばかり採ってしまう愚は避けられるのではないでしょうか。

 但し、読み進むにつれて分かったのですが、本書は必ずしも採用時における人材の見分け方とういことに限定したものではなく、今社内にいる人材を職場での行動からどう見分けるかといことに中盤以降は比重がかかっているようです。

 採用面接時にこんな総花的なチェック項目で面接しても実効性は望めないように思いますが、今いる社員を見極めるということであれば、多少の現実味はあるかもしれません。後半は、「判明してしまった『仕事力』、さて、その人をどう扱うか?」といったように、ややネガティブ対応になっているキライもありますが、実際、採用時にその人の全てを見抜くのは不可能で、採ってしまってからどうしようかというケースは珍しくないかと思います。

 しかし、そうしたことを考慮しても、帯の「すべての上司に一度は目を通してもらいたい本」とのフレーズほどに書かれていることにそれほどの斬新さは無く、Amazon.comでの「人財についてかかれた究極の本」などといったレビューには"やらせ"感を覚えずにはいられません。個人的には敢えて「("やや中古"本に)光を」当てるほどのものでもなかったか。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2210】 小杉 俊哉 『リーダーシップ3.0

「労働法」の知識と「部下マネジメント」。そう悪くないが、Amazon での作為的な評価操作が信頼を損ねる。

司の「人事労務管理力」8.JPG上司の「人事労務管理力」 2.jpg上司の「人事労務管理力」』(2012/09 中央経済社)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第3弾(エントリー№2272)。第1章から第3章まで、上司の「人事労務管理力」の重要性を、事例等交えて分かり易く説き、第4章で「人事労務管理力」の中心にくる「ダメ上司と言われないための知識」について解説していますが、この部分は採用・配置、人事評価、賃金から服務規律、退職・解雇まで、主に労働法の実務知識の解説となっています。続く第5章から第8章までは、上司の「人事労務管理力」の中枢としての知識の周辺にくる、部下の信頼勝ち取るための4つの行動(実践力)―「観察力」「傾聴力」「対話力」「承認力」―について解説し、最後に部下と本物の信頼関係を築くにはどうすればよいかを説いて終わっています。

 著者は社会保険労務士・中小企業診断士であり、「人事労務管理力」について「労働法」の面からと「部下マネジメント」の面から語っているのは、まさに著者の特性に対応していると言えるかもしれません。書かれていること一つ一つは至極尤もであり、基本事項は押さえていると言えますが、逆にインパクトが弱い印象も。「労働法」(テクニカルスキル)と「部下マネジメント」(ヒューマンスキル)が1冊に纏まっているため、経営者や管理職の初学者層には便利な1冊かもしれませんが、こうした本をちょっと読み込んでいる人にはややもの足りないかもしれません。

 本書はツン読していたわけではなく、早い時期に購入して読了していたのですが、まあ、それほど悪くない内容かなと思いつつ、インパクトの弱さもあって、コメントを書かずにいました。今回、Amazon.comのレビューを見たら、10人中9人が星5つの評価をしていて、残りの1人は星4つ評価。随分高評価だけれど、それほどスゴイ本だったかなとか、経営者や管理職の初学者にはツボにハマったのかなとか思いつつよく見ると、5つ星評価を付けている人のうち7人は本が出てから間もない1週間の間に連日入れ替わるかのようにレビューを寄せていて、更に、レビュアー(評者)らがこれまでにどのような本にどれほどレビューを書いているのか見てみると、9人のうち7人は、本書以外は1冊しかレビューを書いていないか、或いは本書のみのレビューしかありませんでした。

 出版不況の折、著者としてはAmazon.comに好意的コメントを集めて、それを見た人に出来るだけ本を買わせたい気持ちは解らないでもないですが、これはちょっとやり過ぎではないかなあ(レビュアーは殆どサクラであるということではないか)。

上司の「人事労務管理力」2.jpg 最初に読んで、内容的にはまあまあではないかと思いつつ、後で再読したりコメントを書いたりすることが暫く無かったのは、労働法の部分だけでなく、「観察力」「傾聴力」「対話力」「承認力」の4つについて書かれていることの何れもに対しての何となく既知感があってややインパクトが弱かったのが原因かと思いますが(4概念が近接したものであるというのもあって)、こうしたAmazon.comでの作為的な評価操作を目の当たりにしてしまうと、書かれていることも必ずしも著者のオリジナルではないのかなという気さえしてしまいます(それは無いにしても、ややゲンナリといったところか)。

 別にこの著者に限らず似たようなことをしている人は大勢いますが、書かれていることに対する信頼さえ失わせるようなことは止めておいた方が良かったのではないかと思います(上司と部下との信頼関係も大事だけれど、著者と読者の信頼関係も大事)。個人的なツンドク本を改めて振り返るつもりが(この本は読了していたので正確にはツンドク本ではないが)、販促手法に対する批判めいたことになってしまいましたが、巷では本の中身自体はそれなりに評価されらしく、こうした作為を施すまでもなく結構売れたようですから、今ここでこれくらいのことは言っても今更殆ど影響はないかと思います。

「●文章技術・コミュニケーション」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1667】 高田 誠 『P&G式伝える技術 徹底する力
「●さ 齋藤 孝」の インデックッスへ

自分はこの本のあまりいい読者ではなかったかも。

雑談力が上がる話し方7.JPG雑談力が上がる話し方.jpg
雑談力が上がる話し方―30秒でうちとける会話のルール』['10年/ダイヤモンド社]

鍛えないと損するョ!雑談力.jpg 「"やや中古"本に光を」シリーズ第2弾(エントリー№2271)。本書は'10年の刊行で、以来そこそこ売れていたようですが、'13年になってNHKの朝の番組などで取り上げられて多くの注目を集め、一気に版を重ねるスピードが増したようです。自分の手元にあるのは家人が買ったものですが、2013年5月第18刷版で、帯には「28万部突破」とあります。
鍛えないと損するョ!"雑談力" NHK「さきドリ」2013年3月24日放送

 「雑談」に目をつけたニッチ戦略の巧みさと「雑談力」としたネーミングの妙が功を奏したのでしょうか。ネーミングの方は著者によるものか編集サイドでつけたものか分かりませんし、「○○力」というタイトルの本を著者は既に結構たくさん出しているけれども(「力」が著者のトレードマークになっている感じもする)、「雑談」をテーマにこれだけ書けるのは著者ならではなのかも。因みに、大学教授である著者の専門分野の1つがコミュニケーション論だそうです。

 NHKの番組では、企業などで研修に取り入れるところも出てきているといった紹介もありましたが、実際に地方の銀行で、窓口業務担当者の利用客対応の研修に使ったり、雑談力研修を開催している社団法人もあるようです。インターネットで調べると、その他にも、歯科クリニックで受付嬢にこの本を贈ったという歯医者さんの話がブログにあったりし、また、「雑談力」の向上を請け負う研修会社がいつの間にか誕生していたりもするようです。

 本書の中身はどうかというと、まず冒頭に「雑談のルール」として、①雑談は「中身のない話」であることに意味がある、②雑談は「あいさつ+α」が基本、③雑談に「結論」はいらない、④雑談は、サクッと切り上げるもの、⑤訓練すれば誰でもうまくなる、と5つに纏められているのが分かり易いです。

 ただ、その先、それほど深いことが書いてあるかと言うと、そうでもないような気がしました。殆ど自己啓発書的な感じで、ここに書かれていることに目から鱗が落ちる思いをして痛く共感するか、意外と目新しさが無いなあと思うかは、もう「個人の好み」乃至は「その人と本書の相性」の問題だと思いますが、個人的には、やっている人は既にそうしているだろうし、出来ない人は本書を読んでも出来ないだろうなあという気がしてしまいました。

 では、自分が「雑談力」が高いかというと、全然そんなことはないわけで、自分は「出来ない人」の部類だろうなあ。こうした本から教訓を汲み取らないからいつまでも進歩しないのかな? でも、全然何も得られる点が無かったということでもなく、「目の前の相手の、『見えているところ』を褒める」というのなどはナルホドなあと思いました(但し、『コメント力』('04年/筑摩書房)などで既に、承認欲求の充足に絡めて「褒める」ということを著者は強調済みであるわけだが)。

国分太一.jpg 国分太一がその例で出てきて、人をさりげなく褒めるのが上手いとのこと(著者はネクタイの柄を褒められたそうな)。更に、終わりの方でももう1回出てきて、前に会った時の雑談の内容をよく覚えているとして絶賛しています(国分太一に学ぶ「覚えている能力」)。

 本書にあるテクニックの1つ「芸能ネタにすり替える」を使うわけではないですが、ニホンモニターの調べでの2014年のタレント番組出演本数ランキングは国分太一が第1位で、国分太一は「初の年間王者を奪取!」だそうです(2位:設楽統(バナナマン)、3位:有吉弘行)。タレントと営業マンは、自分のキャラクターを売っているという点で重なるかもしれず、目の前の相手を褒めるというのは、次の仕事に繋がる秘策となり得るのかもしれません。

 何だか世知辛い気もしますが(この人の本の特徴は「プラグマティックな問題構成」にあると指摘する人もいるが、その指摘は的を射ているように思う)、著者自身は、雑談は話すことで人は救われ、聞いてもらうことで人は癒されるものであり、「雑談力」とは、社会に出てすぐに役立つ最強のスキルであり「生きる力」に繋がるものであるとしています。本書に関して言えば、自分自身はこの本のあまりいい読者ではなかったかも。まあ、自分がわざわざ光を当てなくとも、十分に光が当たった中古本ではありますが。

「●働くということ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2269】 細井 智彦 『会社が正論すぎて、働きたくなくなる
「●講談社現代新書」の インデックッスへ

上から目線で尚且つ分かりにくい。昭和的なものに凝り固まっている旧来型人事の体現者か。

働く。なぜ? 講談社現代新書1.jpg 中澤 二朗 『働く。なぜ?』.JPG働く。なぜ? (講談社現代新書)「働くこと」を企業と大人にたずねたい.jpg 『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』['11年]

 自分で勝手に名付けた「"やや中古"本に光を」シリーズ第1弾(エントリー№2270)。以前に著者の『「働くこと」を企業と大人にたずねたい―これから社会へ出る人のための仕事の物語』('11年/東洋経済新報社)を読み、巷ではそこそこ好評であるのに自分には今一つぴんと来ず、自分の理解力が足りないのか、或いはそもそも相性が悪いのかなどと思ったりもしました。文中にあまりに"考え中"のことが多いような気がして、しかもその"考え中"のことを"考え中"のまま書いているような気がし、そのモヤっとした感じが全体にも敷衍されていて、図説等にもその傾向がみられたように思います。

 今回、同じ著者の本書を読んでみて、また同じような印象を持ちました。前著を読んだ際も感じましたが、著者は真面目な人なのでしょう。今回も、停滞する日本経済がアジア全体の成長に置いていかれ気味な今日、日本で働くことの意味を今一度見つめ直し問い直そうとする真摯な姿勢は感じられました。しかし、如何せん、"考え中"のことを"考え中"のまま書いているという前著での著者のクセは治っていないどころか進行しており、理解に苦しむ図説が再三登場します。

 今回も自分だけが物分かりが悪いのかと思って(ちょっと心配になって?)Amazon.comのレビューなどを見ると、ほかにもそういう人は多くいたようです。まあ、前著同様に良かったという人もいるようですが、個人的には、あまりに我田引水、唯我独尊的な論理展開並びに見せ方に感じられ、大企業の人事出身者に時折見られる上から目線的なものを感じました。

 今まで1万人と面接したとか、ベンチャー企業を起こして売り込みをかけているわけでもないのに、そんなことを誇ってはいけません。冒頭の留学生の疑問に対する回答をはじめ、「日本型雇用の素晴らしさ」を説き、「40年ひとつの会社で働くことの意味」を語っているところなど、逆にこれまでの経験が仇(あだ)になって、昭和的なものに凝り固まってそこから抜け出せないでいる旧来型の人事の体現者のように思えてしまいます。

 「日本は就職ではなく就社」なんて今頃言っているし、「石の上にも三年、下積み十年」という考えが著者の職業人生の礎でありモットーであったのかもしれないけれど、それを上から目線で人に押しつけるのはマズイのではないでしょうか(人事の人って自分が特別な人間だと思い込んでいる人がたまにいるけれど)。

 後半になると「名著名言」の引用だらけで、う~ん、「第2の佐々木常夫」を目指しているのか、この人は。それは著者の勝手ですが、Amazon.comのレビューでも指摘されていたように、M.ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」について致命的な誤読があります。それも旧約聖書と読み間違えたのかというくらい真逆の読み方になっていて、あとがきで謝辞を献じられている大先生らは本書についてどう思っているのか、老婆心ながらもやや心配になりました。本書に関して言えば、「中古本」に光は当たらずじまいか。

「●働くということ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●マネジメント」 【1891】 フレデリック・W.・テイラー 『[新訳]科学的管理法

多すぎる「正論」が社員の働く気力を削ぐという切り口は興味深かったが...。

会社が正論すぎて、働きたくなくなる90.JPG会社が正論すぎて、働きたくなくなる.jpg
会社が正論すぎて、働きたくなくなる 心折れた会社と一緒に潰れるな (講談社+α新書)』['14年]

細井 智彦 使える人材」を見抜く 採用面接.jpg 『「使える人材」を見抜く 採用面接 』('13年/高橋書店)などの著書のある大手人材支援会社(リクルート系)に属する面接コンサルタントによる本書は、前半部分で、効果・効率を追求するあまりに「正論」がはびこる会社の現状と、それに追い詰められることによって、働く人ばかりでなく会社自体が"うつ化"しやすくなっていることを訴えています。そして、後半部分では、働く人が「心が折れるような状態」から脱するための対処法を示しています。
「使える人材」を見抜く 採用面接』['13年]

 著者がここで言う「正論」とは、「ポジティブ思考」「効果・効率」「イノベーション」「コンプライアンス」といったものであり、そうした「正論」に取り囲まれているゆえに、まともに抵抗すると個人の心が折れてしまい、働く気力を削がれ、疲弊感が再生産されて、それが、会社自体の"うつ化"に繋がっているということです。

 会社の"うつ化"のサインとして、「上司の態度が変わりパワハラが増えた」「会社が現場を無視し生の声を聞かなくなった」「以前にも増してマニュアル支配が強まった」「不正防止が強化され罰則が目立つようになった」等々が挙げられています。逆に"うつ化"しにくい企業の特徴は、「会社が目指したい将来像や姿勢、こだわりを明文化したものがあり、実際に事業の判断で活かされている」「数字や効率だけでなく、人の気持ちを大切にし、それを最大限活かすために金銭以外で社員にやりがいを与えることができている」――つまり、「ビジョン」が示され「働きがい」があるということになるようです。

 組織を論じるにあたって"うつ化"という言葉を使用することの是非はあるかと思いますが(著者は"比喩"だと断っているが)、「閉塞感」として捉えれば、それほど抵抗はなく読めるかと思います。「ノベーション」「グローバル」「チャレンジ」といった抽象的な言葉が、ホームページや会社のパンフレットに矢鱈に多く使われている企業は要注意であるという指摘などは興味深いものでした。

 一方で"うつ化"しにくい企業の事例は幾つか挙げられているものの、その中にも「燃え尽き症候群」を引き起こしそうなものもあり、実際には多くの企業が、多かれ少なかれ "うつ化"しやすい要素としにくい要素の両面を持っているようも思いました。

 働く個人が"うつ化"しやすい組織にいる場合のアドバイスとしては、自分のこだわりを大事にし、息抜きの時間を作ったりするなど、会社から距離を置く客観的姿勢も有効だとしていますが、処方箋としてはやや弱いかなという印象も。最後に「6ヵ月後に転職すると決める」というのがきているのは、それも一手だと思う一方で、著者の仕事柄からくる意見ともとれます。

 著者としては、これまでの「採用本」から一皮剥けたというか、新境地の著書といった感じ? 全体としてさらっと読めましたが、分析部分はまあまあなのに対し、提言部分のインパクトが弱いのは、リクルート系の著者らに共通することなのでしょうか。一応、部下を持つ上司や企業側に対しても提言をしていますが...。

 企業側に対しては、経験値を持つベテランを評価し、人の非効率を評価する余地を残し、「社内外のコミュニュケーションを改善する」「否定的な意見を含めて多様な意見を出しやすくする」などして"働きがいを最大化する社風"を築くことを提言してはいますが、多分に示唆的ではあるものの、それらの提言自体がさほど具体性をもって述べられていないため、どうしても読後にもの足りなさを覚えざるを得ませんでした。多すぎる「正論」が社員の働く気力を削ぐという切り口は興味深かっただけに、分析部分に比べて提言部分のインパクトが弱いのがやはり残念です。

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1658】 ヘンリー・ミンツバーグ 『マネジャーの実像
○経営思想家トップ50 ランクイン(ラリー・ボシディ(ローレンス・ボサイディー)/ラム・チャラン)

「実行」は人材・戦略・業務の3プロセスから成る。人事・経営企画に多くの示唆を与える本。

経営は「実行」 2010.jpg 経営は「実行」1.jpg        ローレンス・ボサイディー.jpg    Ram Charan.jpg
              Lawrence("Larry") Bossidy     Ram Charan
経営は「実行」―明日から結果を出すための鉄則』['03年]
経営は「実行」〔改訂新版〕』['10年/改訂新版]

Execution: The Discipline of Getting Things Done(2002)
Execution:The Discipline of Getting Things Done_.jpg 2002年原著刊行の『経営は「実行」』の改訂新版(2009)の訳本であり、著者のラリーボシディ(ローレンス・ボサイディー)はハネウエル・インターナショナル前会長兼CEOで、GE(ゼネラルエレクトリック)で副会長を務めたこともあり、一方のラム・チャランも著名なコンサルタントで、大学でも教鞭をとっている、つまり、アカデミックな立場の人物と、経営の実務者のコラボレーション的な作りになっている本です。

 第Ⅰ部の第1章と第2章では、経営においては、「実行」が大切であり、掲げた目標、実行項目は、常に「実行」されなくてはいけない、その「実行」を進めるために「人材プロセス」「戦略プロセス」「業務プロセス」を、それぞれ連動させる必要があるとし、なぜ今日実行の体系がこれほど重要なのか、どのようにして競争相手と差をつける手段になるかを説明しています。また、多くの企業で見られる失敗として、リーダーは実行を他人に任せ、もっと「大きな」問題に注力すべきだと考えている点にあるとしています。

 第Ⅱ部の第3章から第5章では、「実行」が自然に起こるわけではないことを示しています。基本的な要素を確立する必要があること、そして、特に重要な構成要素は、リーダー自身がとるべき行動、文化変革の社会的ソフトウェア、リーダーにとって最も大切な仕事である人材の選抜と評価であることを示しています。また、適材を適所にあてることは、他人に任せてはならないリーダーの仕事であるとしています。

 第Ⅲ部は実践編で、第6章から9章まで、人材、戦略、業務の3つのコア・プロセスについて論じています。これらのプロセスを効率的にするには何が必要か、各プロセスのプラクティスを、ほかの二つのプロセスと連動させ、どのように統合するかを示しています。第6章で扱う人材プロセスは、三つのプロセスの中でも最も重要であるとし、人材プロセスがうまくいけば、リーダーの遺伝子プールが生まれ、それによって実行可能な戦略を策定し、それを業務計画に落とし込み、各自の責任を明らかにすることができるとしています。

 第7章と第8章では戦略プロセスを取り上げ、有効な戦略を策定すれば、上空1万メートルの概念が現実に根ざしたものになることを示しています。このプロセスでは、実現の可能性を試しながら、戦略の柱をひとつずつ作っていきます。戦略プロセスは人材プロセスと結びついており、戦略やその背後の論理が、市場や経済、競争相手の現実に即したものなら、人材プロセスが生きることになる、つまり、適材が適所に配置されていることになるとしています。

 第9章では、どんな戦略も、具体的な行動に落とし込まなければ、結果を生まないことを示しています。業務プロセスは、戦略を実行するための段階を踏んで業務計画を策定する方法を示すものであり、戦略と業務計画はいずれも人材プロセスと結びついていて、業務計画の実行に必要な能力と組織の能力とが一致しているかどうかが問われることになるとしています。

 「実行」とは何をどうするかを厳密に議論し、質問し、絶えずフォローし、責任を求める体系的なプロセスであるということになります。経営環境を想定し、自社の能力を評価し、戦略を業務や、戦略を遂行する人材と結びつけ、様々な職種の人々が強調できるようにし報酬を結果と結びつける事であって、つまり、経営者は、常に細部まで理解する必要があり、絶えず質問を繰り返し理解を深め、部下に委任するのではなく積極的に関与する事が大切であると説いています。

 人事コンサルタントなどの人事パーソンにとっての読み処は第6章でしょうか。人材プロセスを戦略・業務プロセスとどう連動させるかを説いています。そこでは、4つの構成要素として、人材を戦略とどう結びつけるか、継続的改善・後継者層の充実・離職リスクの軽減を通して、リーダーシップ・パイプラインをどう形成するか、業績不振者にどう対処するか、人事部門を事業と結びつけることの重要性が説かれており、近年盛んな人材管理(タレント・マネジメント)論の嚆矢となったラム・チャランらしい論理展開からは、多くの示唆が得られるものと思われます。経営者、CEOが読んでもいい本ですが、人事・経営企画担当者はむしろ是非とも押さえておきたい本かと思われます。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●実行を支える第一の要素=「リーダーがとるべき7つの行動」
1.自社の人材や事業を知る
2.つねに現実を直視するよう求める
3.明確な目標を設定し、優先順位をはっきりさせる
4.最後までフォローする
5.成果を上げた者に報いる
6.社員の能力を伸ばす
7.己を知る
●実行を支える第二の要素=「企業文化の変革に必要な枠組みを作る」こと
・報酬と業績を連動させることで、社員の行動を変える。
・社員が新たに求められる行動を身につけるのを助ける。
・オープンで率直な議論によって、現実を浮き彫りにする。
●実行を支える第三の要素=「適材を適所にあてる」こと
・リーダー自ら、人材の選抜や評価に積極的に関与する。
・学歴や知性に惑わされず、実行力を重視した人選をする。
・個人の実績を評価する際には、どのような方法で目標を達成したかを詳しく検討する。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【131】 J・F・マンゾーニ/他 『よい上司ほど部下をダメにする
○経営思想家トップ50 ランクイン(ダニエル・ゴールマン)

「集団に共鳴現象を起こし組織に前向きの雰囲気を醸成する」EQリーダーシップ。感情こそが組織の命との考えは意外と附落ちする。

EQリーダーシップ0.JPGEQリーダーシップ3.jpg ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman).jpgダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman、1946‐ )
EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方

 1995年に『EQ-こころの知能指数』("Emotional Intelligence")ダニエル・ゴールマンが思いやりを語る Talk Video TED.com.jpgを発表し、日本を含む全世界でベストセラーとなったダニエル・ゴールマンが、コンピテンシー研究者のリチャード・ボヤツィスらと共に著した本で、EQ(感じる知性)の高いリーダーが集団に共鳴現象を起こし業績を伸ばすことができるのはなぜか、という問いを解明したもの("Primal Leadership: Realizing the Power of Emotional Intelligence"、2002)。

ダニエル・ゴールマンが思いやりを語る | Talk Video | TED.com

 第1部「六つのリーダーシップ・スタイル」の第1章「リーダーの一番大切な仕事」において、優れたリーダーは、人の心を動かし、人の情熱に火をつけ、最高の力を引き出すとしています。リーダーの影響力はその発言だけにとどまらず、発言していないときもリーダーは注目されていて、特に人によって異なる反応を示すような微妙な状況下では人々はリーダーを見るのであって、ある意味、リーダーは感情の基準を作るのであるとし、優れたリーダーは集団の協調意識を高く保つことができ、メンバーを目標達成に駆り立てることができるとしています。

 第2章「共鳴型リーダーと不協和型リーダー」において、共鳴型リーダーと不協和型リーダーのそれぞれの例を挙げています。リーダーの基本的な役割は、良い雰囲気を醸成して集団を導くことであって、そのためには、集団に共鳴現象を起こし、最善の資質を引き出してやることが肝要であるとしています。共鳴は前向きの感情をより長引かせる効果があり、EQの高いリーダーは、ごく自然に共鳴を起こすことができ、熱意と行動力を示して、グループ全体を共鳴させるとしています。

 また、知と情は別々の神経回路でコントロールされているが、両者は緊密に絡み合っているとし、この知性と情動を統合する脳の回路こそ、EQリーダーシップの基礎であるとしています。ビジネスの世界は感情より知性を重視したがりますが、人間の感情は知性よりも強く、非常事態が起こったときに脳をコントロールするのは、情動をつかさどる脳(大脳辺縁系)であって、情動をつかさどる脳と前頭葉前部との対話は、思考と感情を統御する役割をもつ脳内のスーパーハイウェイとも呼ぶべき神経回路を通して行われるため、リーダーシップに不可欠なEQが発揮できるかどうかは、前頭葉前部と大脳辺縁系を結ぶ神経回路がスムーズに機能するかどうかにかかっているとのことです。

 さらに、EQには「自分の感情を認識する」「自分の感情をコントロールする」「他者の気持ちを認識する」「人間関係を適切に管理する」という4つの領域があり、それぞれが共鳴的リーダーシップに不可欠なスキルを提供しており、この4つの領域は密接に撚りあわされ連繋して動くものだとしています。

 第3章「EQとリーダーシップ」では、「自己認識」「自己管理」「社会認識」「人間関係の管理」というEQの4領域とそれに関連する18のコンピテンシーについて解説しています。例えば「自己認識」とは、自分の長所や限界、自分の価値観や動機について深い理解を有している、ということであり、自己認識の優れた人間は、自分の価値観に合った決断ができるので、仕事に対していつも前向きでいられるし、自己認識ができてはじめて、自己管理が可能になるのであって、自分が何を感じているかがわからなければ、自分の感情を管理できるはずがないとしています。

 第4章「前向きなリーダーシップ・スタイル」では、6種類の代表的なEQリーダーシップ・スタイルを紹介、この内、「ビジョン型リーダーシップ」「コーチ型リーダーシップ」「関係重視型リーダーシップ」「民主型リーダーシップ」の4つを業績を向上させる共鳴を起こす"前向きなリーダーシップ・スタイル"として解説し、第5章「危険なリーダーシップ・スタイル」では、「ペースセッター型リーダーシップ」「強制型リーダーシップ」の2つを、特殊な状況下では有用であるが注意して使う必要があるものとして解説しています。

 第2部「EQリーダーへの道」では、EQリーダーは育つものであるとし、リーダーシップ育成の中でも最も重要なのは自発的学習であって(第6章)、自分の理想像を見出すことから変化は始まり(《第1の発見》)、続いて現実をしっかり見ることが大切であり(《第2の発見》)(第7章)、さらに理想のリーダーシップを目指して学習計画を作り(《第3の発見》)、脳の構造を変え(《第4の発見》)、人間関係の力(《第5の発見》)を活かすことで、チーム全体を巻き込んでいくというステップを踏むとしています(第8章)。

 さらに、第3部「EQの高い組織を築く」では、リーダーシップの育成を最も効果的に実現させるには。リーダーと並行して組織も変化していかなければならないとして、集団のEQを高めるにはどうすればよいか(第9章)、さらに、組織の現実と理想をどう結び付けていくか(第10章)、また、長期に渡って持続する共鳴を起こすためにリーダーたちは何をすればよいか、進化し続ける組織とはどのようなものであるか(第11章)を示しています(意外とこの考え方が、日本人である自分にはすっきり腑に落ちる)。

EQリーダーシップ88.JPG 本書は、EQが共鳴的リーダーシップの最も重要なコンピテンシーであり、個人レベルでも集団レベルでもこうした能力を強化することは可能であるという観点に立つとともに、今日では、力だけで企業を率いるリーダーは少なくなり、人間関係にきちんと対応できるリーダーが増えていることなどからみても、協調を呼びかけるべきとき、ビジョンを提示すべきとき、傾聴すべきとき、命令を下すべきときを知っている共鳴的リーダーは不可欠となり、EQリーダーシップはますます重要になるとしています。

 「EQリーダーシップ」のユニークさは、著者によれば、リーダーシップ理論と脳のメカニズムを関連づけた点にあるとのことですが、個人的にはむしろ、著者らがEQリーダーシップを、「集団に共鳴現象を起こし、組織に前向きの雰囲気を醸成するマネジメント」として定義することで、経営の世界に「感情」といったそれまであやふやであるとして回避されていたものを持ち込み、それどころか更に、感情こそが組織の生命だとの考えに立っていることの方に注目したいと思います。また、本書の考え方は、日本人であるわれわれには、意外と腑に落ちるものであるという点でもたいへん興味深いと思います。

 自己啓発書的要素が多分にある本でもありますが、人事パーソン目線で見るならば、人材アセスメントの観点から参考になる部分は多いように思います。

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

《読書MEMO》
●6つのEQリーダーシップ
【ビジョン型リーダーシップ】 共通の夢に向かって人々を動かす
 A:<共鳴の起こし方> 共通の夢に向かって人々をうごかす
 B:<風土へのインパクト> 最も前向き
 C:<適用すべき状況> 変革のための新ビジョンが必要なとき、または明確な方向が必要なとき
【コーチ型リーダーシップ】 個々人の希望を組織の目標に結びつける
 A:個々人の希望を組織の目標に結びつける
 B:非常に前向き
 C:従業員の長期的才能を伸ばし、パフォーマンス向上を援助するとき
【関係重視型リーダーシップ】 人々を互いに結びつけハーモニーを作る
 A:人々を互いに結びつけてハーモニーを作る
 B:前向き
 C:亀裂を修復するとき、ストレスのかかる状況下でモチベーションを高めるとき、結束を強めるとき
【民主型リーダーシップ】 提案を歓迎し、参加を通じてコミットメントを得る
 A:提案を歓迎し、参加を通じてコミットメントをえる
 B:前向き
 C:賛同やコンセンサスを形成するとき、または従業員から貴重な提案を得たい時
【ペースセッター型リーダーシップ】 難度が高く、やりがいのある目標の達成を目指す
 A:難度が高くやりがいのある目標の達成をめざす
 B:使い方が稚拙なケースが多いため、非常にマイナスの場合が多い
 C:モチベーションも能力も高いチームから高いレベルの結果を引き出したい時
【強制型リーダーシップ】 緊急時に明確な方向性を示すことで恐怖を鎮める
 A:緊急時に明確な方向性を示すことによって恐怖を鎮める
 B:使い方を誤るケースが多いため、非常にマイナス
 C:危機的状況下、または再建始動時、または問題のある従業員に対して

EQリーダーシップ図1.png
EQリーダーシップ図2.png
EQリーダーシップ図3.png
EQリーダーシップ図4.png
EQリーダーシップ図5.png
EQリーダーシップ図6.png

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1176】 田中 和彦『威厳の技術[上司編]
「●マネジメント」の インデックッスへ

奉仕こそがリーダーシップの本質。従来の「強いリーダー像」からの発想の転換を促す。

『サーバントリーダーシップ』。.jpg『サーバントリーダーシップ』.jpg ロバート・K・グリーンリーフ.jpg Robert K. Greenleaf A Life of Servant Leadership.jpg  The Servant as Leader.png
ロバート・K・グリーンリーフ(1904‐1990) "The Servant as Leader (English Edition)"
サーバントリーダーシップ』(2008/12 英治出版)

 サーバント・リーダーシップの提唱者であり、AT&Tマネジメント研究センター長を務めたロバート・K・グリーンリーフ(Robert K.Greenleaf)による本書("The servant as leader"1970)は、「サーバント」つまり奉仕こそがリーダーシップの本質であり、高い志や社会への奉仕の心を持って、スケールの大きなミッションやビジョンに導かれながらも、その実現に邁進するフォロワーに対して、リーダーの方が尽くすという、それまでのパワーでフォロワーをぐいぐい引っ張っていく一般的なリーダー像とはまったく異なる、「奉仕型リーダーシップ」を提唱したものとして知られ『サーバントリーダーシップ』三省堂 2.jpgています。リーダーがフォロワーに尽くすのが自然であり、「導くこと」と「奉仕すること」は両立するという著者であるグリーンリーフの考え方は、従来の常識の転換を促すものであったと思われます(ピーター・センゲに「リーダーシップを本気で学ぶ人が読むべきただ1冊」と言わしめた本でもある)。

 第1章「リーダーとしてのサーバント」では、サーバント・リーダーとはそもそもサーバントであって、そもそもリーダーである人とはタイプ的には両極端にあるとしています(ヘルマン・ヘッセの短編「東方巡礼」のレーオこそがサーバント・リーダーであるとしているのが分かり易い)。では「リーダーとしてのサーバント」とは何か。それは、①リードするという意識的なイニシアティブから始まり、②大きな夢があり、やりたいことがわかっていることであり、さらに、③傾聴し理解する力、④言語力と想像力、⑤一歩下がることができる能力、⑥受容と共感、⑦意識的な理論を超えた感知力、⑧予見力、⑨気づく力と知覚力、⑩説得力といった資質を携えていることであるとしています。さらに、⑪概念化はリーダーの重要な才能であるとともに、⑫人を癒すヒーリング能力も求められるとしています。
 この部分は、後にグリーンリーフ・センター・アメリカ本部の所長を務めるラリー・スピアーズ(本書の編者でもある)により、以下(《読書MEMO》)のような10余りの特性に再整理されたものを、監訳者である金井壽宏氏が本書巻末に載せています。

SERVANT-LEADERSHIP-2.jpg 第2章「サーバントとしての組織」、第3章「サーバントとしてのトラスティ」では、組織をより奉仕できるものにするための概念としてトラスティとその在り方を提唱し、さらに、第4章で、「企業におけるサーバント・リーダーシップ」の在り方を説いています。この部分は、組織を会社、トラスティを取締役会と想定し、取締役会と執行役員会の機能の違いを念頭においても読めるかと思います。以下、第5章で、「 教育におけるサーバント・リーダーシップ」、第6章で「財団におけるサーバント・リーダーシップ」、第7章で「教会におけるサーバント・リーダーシップ」について述べています。そして第8章「 サーバント・リーダー」では、著者がよく知るところのその模範となるべき人物を挙げて紹介し、第9章で「官僚主義社会におけるサーバントとしての責任」について、第10章で「 アメリカと世界のリーダーシップ」についてそれぞれ述べた講演を収めています。
 最終章にあたる第11章「心の旅」は、リーダーシップについて考えることは自らの姿に出会うことと同じで、深く内側の真実の自分へと辿る心の旅でもあるという、非常に啓蒙的かつ詩的とも言える内容のものとなっています。

servantleadership.jpg 「サーバント・リーダーは、何よりもまずサーバント(フォロワーに尽くす人)なのである。まず、初めにフォロワーに尽くしたいという自然な感情があり、フォロワーに尽くすことが第一なのである。そのうえで、導きたいという願望に駆られるのである」。つまりサーバント・リーダーは、自分のビジョンやゴールに向かって一緒に付いて来てくれるフォロワーに対し、「尽くしたい」という思いを最初に抱く―それゆえに、フォロワーに必要なものを提供しようと常に努め、フォロワーに影響力を行使してゴールに導いていきます。このように利他の心、フォロワーを思いやり、フォロワーに尽くす心で臨むことが、サーバント・リーダーシップの実践哲学です。
 グリーンリーフは、これを「Servant First」(相手に尽くす気持や奉仕の精神が最初に来る)と表現しています。リーダーがそうした実践哲学に立脚してこそ、フォロワーは絶大な信頼を寄せ、喜んでゴールへ同行してくれるということになるのでしょう。

 とりわけ第1章をしっかり読まれることをお勧めします。先に述べたように、それまでのパワーで皆をぐいぐい引っ張っていくリーダー像に対して大きく発想の転換を促したという点で、欧米ではユニークなリーダーシップ観ということで注目されましたが、一方で、和を尊重する日本の社会においては、こうしたサーバント・リーダーと呼べるようなリーダーはこれまでにも少なからずいたようにも思われ、一般に日本はリーダーシップの研究やリーダーの育成が遅れている(或いはリーダーが育ちにくい)と言われる中、或いはまた、欧米型のリーダーシップ観をその通り実践した場合日本の社会の中ではむしろ"浮いて"しまいがちになるとも言われる中、日本人にとって、身近にイメージし易い、また、誰もが目指しやすいリーダー像を示した本としても注目されるべきではないでしょうか。解説で金井壽宏氏が、サーバントの素質がある人がリーダーになるのがいいと書いているは、特に日本の社会において当て嵌まるように思います。

《読書MEMO》
servant-leadership.jpg●サーバント・リーダーシップの特性
 ・利他心(相手に尽くし奉仕することにより信頼を得ること)
 ・気づき(自分自身の感情と行動を理解し、相手や状況を理解すること)
 ・癒し(自分や相手のストレスや困難、リスク要因を見つけ出して解決すること)
 ・傾聴(心を開いて、相手の要求や課題を聴くこと)
 ・共感(相手の立場で、相手の感情・思考・意図を理解すること)
 ・説得(強制ではなく相手を納得させて、自発的な行動を促すこと)
 ・概念化(目指すゴールやビジョンの具体的なイメージを描くこと)
 ・先見性(過去から学び、現実を見据え、未来への道筋を示すこと)
 ・スチュワードシップ(信頼と強い責任感の下で黙々と奉仕すること)
 ・成長へのコミット(相手の成長を支援すること)
 ・コミュニティー作り(チームワークと協調を促進すること)

「●キャリア行動」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【172】 シュロスバーグ 『「選職社会」転機を活かせ
「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(エドガー・H・シャイン)

キャリア・アンカーの大切さ、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかを説く。

キャリア・ダイナミクス.jpg エドガー・シャイン.jpg エドガー・シャイン ph0to.jpg エドガー・H・シャイン(マサチューセッツ工科大学スローンスクール名誉教授) 『キャリア・ダイナミクス―キャリアとは、生涯を通しての人間の生き方・表現である。

 エドガー・ヘンリー・シャイン(Edgar Henry Schein、1928 - )による本書(原題:Career Dynamics、1978年)は、現在のキャリア論の礎ともなった、このジャンルおけるバイブル的著書と言ってもいいのではないでしょうか。

 訳者による概説によれば、「人は仕事だけでは生きられず、ライフサイクルにおいて、仕事と家族と自分自身が個人の内部で強く影響し合う。この相互作用は成人期全体を通じて変化する。ここですでに、動態的なダイナミクスがあることになろう。しかし、他方、多くの場合そうであるように、組織に雇われて働けば、個人を受け入れる組織には組織自体の要求があり、これが、個人の持つ要求と調和されなければならない。シャインの言う個人と組織の相互作用である。そして、組織の要求も時の経過とともに変化する。また、個人も組織も複雑な環境のなかに置かれており、両者の相互作用は一部外的諸力によっても決定される。こうして、仕事の決定について、きわめて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになる。これが『キャリア・ダイナミクス』だということができる」とのことであり、この考えが本書のフレームワークとなっています。

 全3部から成る本書の第1部の前にある第1章は、第2章以下第17章までの本編全体の序論に該当し、ここではキャリア開発の視点を提起しています。やや抽象的な記述が続きますが、第1部第2章からは様々な具体例を交えた記述となり、ずっと読み易くなりますので、この部分はざっと読み、全編を読み終えた後に振り返って読んでもよいかと思います。

 第1部「個人とライフサイクル」では、第2章から第6章において、個人が直面する主要なライフサイクル問題について、生物社会的サイクル、キャリア・サイクル、家族の段階と状況の3つの側面からそれぞれの段階と課題を検討するとともに、これらの様々な人生の課題群間の複雑な相互作用についても説明しています。
 人は、個人としての発達の欲求、実行可能なキャリアを開発する欲求、及び、満足な家庭生活を展開する欲求、の3つを均衡させ満たす方法を見つけなければならず、社会の大部分の人々にとって、こうした「欲求の満足」の主要部分は、キャリアを築き維持していく過程で生じ、それゆえ、個人は「組織」と直接的な相互作用を持つに至るとしています。
 組織の要求も時の経過とともに変化し、また、個人も組織も複雑な環境に置かれているため、仕事の決定についての極めて複雑な動態的なダイナミクスが出現することになりますが、これがまさに「キャリア・ダイナミクス」であるということです。

 第2部「キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用」では、まず第7章から第9章にかけて、そうした相互作用及び個人・組織の両者にとってのその影響を検討したうえで、第10章から第12章にかけて、キャリア初期における重要な概念として「キャリア・アンカー」、即ちキャリアの諸決定を組織し制約する自己概念を提唱しています。
 キャリア・アンカーは、①自覚された才能と能力(様々な仕事環境での実際の成功に基づく)、②自覚された動機と欲求(現実の場面での自己テストと自己診断の諸機会、及び他者からのフィードバックに基づく)、③自覚された態度と価値(自己と、雇用組織及び仕事環境の規範及び価値との、実際の衝突に基づく)から成る自己概念です。 
Career Anchors2.jpgCareer Anchors.jpg 分かり易く言えば、
 1.何が得意か (能力・才能についての自己イメージ)
 2.何がやりたいか (動機・欲求についての自己イメージ)
 3.何をやっているときに意味を感じ、社会に役立っていると実感できるか (意味・価値についての自己イメージ)
 といったことになるでしょうか。
 そうしたアンカーの形成について、MITスローンスクール同窓生の長期にわたるデータが報告されているとともに、第2部終章(第12章)では、キャリア中期の諸問題とその基本的原因を検討しています。

 第3部「人間資源の計画と開発の管理」では、視点を管理者に移し、第14章から第17章にかけて、組織全体の立場と人間資源への組織の要求の立場からすると、全キャリア・サイクルを通じて人間資源を開発し管理する全体的なシステムについて、我々はどのように考えることができ、また、これをどのように生み出せるかを考察し、更に、こうしたシステムにおいて個々の管理者はどのような役割を担うか、また、システムはどう編成されるべきかを探っています。

 キャリア・アンカーの大切さなどキャリア決定のメカニズムを論理的に解き明かしている一方で、組織と個人のニーズのマッチングをいかにして図るかという点において、近年の人事的課題であるワークライフバランスなどを考えるに際して多くの啓発的示唆を与えてくれる本であり、まさに「現代の古典」と呼ぶに相応しい1冊であるかと思います。

《読書MEMO》
●構成
第1部 個人とライフサイクル(第2章:個人の成長/第3章:生物社会的ライフサイクルの段階と課題/第4章:キャリア・サイクルの段階と課題/第5章:家族の状態、段階、および課題/第6章:建設的対処)
第2部 キャリア・ダイナミクス―個人と組織の相互作用(第7章:組織キャリアへのエントリー/第8章:社会化および仕事の習得/第9章:相互受容/第10章:キャリア・アンカーの開発/第11章:キャリア・アンカーとしての保障、自律、および創造性/第12章:キャリア・アンカーの総合的検討/第13章:キャリア中期)
第3部 人間資源の計画と開発の管理(第14章:人間資源の計画と開発/第15章:人間資源の計画とキャリアの諸段階/第16章:職務・役割計画/第17章:人間資源の計画と開発の統合的な見方に向かって)
●管理的能力
自分の能力は、以下の3つのより一般的な領域の"結合"にある。
(1)分析能力:不完全情報と不確実性の状況で問題を明らかにし分析し解決する能力
(2)対人関係能力:組織目標のより効果的な達成に向けて組織の全階層の人々に影響を与え、人々を監督し、導き、巧みに扱いかつ統制する能力
(3)情緒の能力:情緒および対人関係の危機によって、疲れ果てたり衰弱したりせず、むしろ刺激される能力、無力にならずに高度の責任を担う能力、および、罪悪感や羞恥心を抱かずに権力を行使する能力
●「助言」の責任を引き受ける
(1)教師、コーチ、あるいは訓練者としての助言者
「あの人はこの辺の物事をどう処理するかについて、多くのことを教えてくれた」
(2)肯定的な役割モデルとしての助言者
「私は、あの人の活動をみて多くのことを学んだ。実際、物事をどうやるかのよい手本を示してくれた」
(3)才能開発者としての助言者
「あの人は実際、やりがいのある仕事を与えてくれ、私は非常に多くのことを学んだ。私は伸び伸びするよう仕向けられ、またそう強いられた。」
(4)門戸解放者としての助言者
 やりがいがあって、成長もできる仕事につく機会が、若者に確実に与えられるように「上位の人たち」と闘う人である。
(5)保護者(母鶏)としての助言者
「私が学んでいる間、あの人は私を世話し護ってくれた。私は、職務を危険にさらすことなく、間違いをしたり学んだりできた。」
(6)後援者としての助言者
 被保護者達を目立たせ、彼らが気付こうと気付くまいと、新しい機会が現れるときには彼らが思い起こされるよう、確実に彼らによい「評判」をとらせ、より高いレベルに人々の目にふれさせる人。
(7)成功したリーダーとしての助言者
自分自身の成功で、その支持者たちも確実に「自分のおかげでうまくいく」ようにする人であり、こうした支持者たちを向上させる人。

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【701】 日下 公人 『人事破壊

マネジャーの視点から人材戦略を追ったテキスト。時を経た今も全く色褪せていない。

ハーバードで教える人材戦略.bmpハーバードで教える人材戦略6.JPG
ハーバードで教える人材戦略―ハーバード・ビジネススクールテキスト』['90年]

 本書(原著タイトル"Managing Human Assets")は、1981年にハーバード・ビジネススクールで初めてMBAの必修科目として「HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)」が開設された際に作られた教科書を原典としています。それまでは同校には、「人事労務関係」「生産オペレーション管理」「組織行動」の3科目はあったものの、ゼネラル・マネジャーの視点から人材戦略を追う科目は無かったとのことです。本書が多くの理論書と異なる点は、HRMを単なる人事・労務の専門マネジメントとしてではなく、あくまで「経営」の中で最も重要な資源として戦略の中心に置き、組織行動、組織開発、労務管理、人事管理などの理論を統合しながらも、ゼネラル・マネジャーの視点から纏められている点にあります。

 第1章「ヒューマン・リソース・マネジメントとは何か」において、HRMのアプローチにおいて本書で取り組む諸領域として、HRMを、①従業員のもたらす影響、②ヒューマン・リソース・フロー、③報償システム、④職務システムの4つの領域に分け、三角形を描き、それぞれの頂点にヒューマン・リソース・フロー、報償システム、職務システムを置き、その三角形の中心に従業員からの影響を据えた概念図を描いています。つまり、本書は、経営における中心的な役割を果たすのは従業員であるとの考え方に立っているわけです。

 第2章「HRMの概念的枠組み」では、ゼネラル・マネジャーとして、その企業にどのようなHRM制度を導入すべきかを決定する際には、諸制度の妥当性や効果性を評価する方法が必要であるとし、企業、社会、従業員の福祉の実現を、ゼネラル・マネジャーがその企業のHRM諸制度の効果性を測る際の長期的基準として用いるべきであるとし、①従業員のコミットメント、②能力、③コスト効果性、④整合性の4つのCがその指標となるとしています。

 第3章「従業員からの影響」では、どのように従業員の影響行使・参加のための仕組みを作りだすか、労組・経営間の協調を可能とするかを解き明かしつつ、その成功のためには、マネジャーの技量や能力が欠かせないとしています。

 第4章「ヒューマン・リソース・フローをマネジする」では、インフロー(採用)、内部フロー(昇進・異動・能力開発)、アウトフロー(退職)といった人材フローをどう構築し管理していくかを説き、企業の現在および将来の労働力に対する要求と、従業員のキャリア開発のニーズの両方に応えていくことが肝要であるとしています。従業員のキャリア・ディベロップメントのための方法に重点を置いて書かれており、ゼネラル・マネジャーは、個々の従業員の抱く考え方、彼らにとってキャリア・ディベロップメントと満足感が何を意味するのかをしっかり理解していくべきであるとしています。また、ヒューマン・リソース・フローの3つのタイプとして、①終身雇用システム、②昇進もしくは退社というシステム、③不安定なイン・アウトのシステムがあり、第4のタイプとしてそれらの混合型があるとしています。

 第5章「報償システム」では、どのような報償システムによってHRM制度の変化を支えていくかを解き明かしています。報償は、外的(金銭的)・内的(非金銭的)なものを問わず、企業としてどのような組織を作って維持し、また従業員にどのような行動、態度をとって欲しいか明確な期待を与えるものであるが、内的報償への不満が外的報償への不満となって表れることがあるなど、ゼネラル・マネジャーにとってHRMの中でも難しい分野であるとしています。この章では、給与とメンバーシップ、モチベーションとの関係などを通して、そうした報酬システムのジレンマを解明し、報酬の組み合わせた厚生制度(カフェテリアプランなど)や公平性を保つためのシステム(職務評価、技能本位評価など)、業績給システムとそのジレンマなど具体的な課題にまで言及されています。一方で、章末においては、報償システム制度はほとんどの場合、他のヒューマン・リソース制度を導くものではなく、後づけすべきものであるとしています。

 第6章「職務システム」では、マネジャーは職務を定義し、設計することで組織をまとめていく必要があり、では、どのような職務システムが従業員の能力、コミットメントを高めるかを様々な角度から分析し、包括的な職務システムの再設計を提唱しています。

 最後の第7章「HRM制度の統合」において、数多くのHRM諸制度と運用法を、その企業のビジネスの他の分野としっかり関連づける形で、総体としてまとめていくという、マネジャーにとって最も難しい責任についての検討を行っています。ここでは、HRM制度を統合していく方法として、①官僚主義的、②市場的、③協調的、の3つのアプローチを示しています。

 所謂「日本的経営」が米国企業にとって1つの研究・参照例とされていた当時のケーススタディなども出てきますが、教科書としては30年以上経った今も全く色褪せていないのは、それだけ分析やセオリーがしっかりしているからでしょう。「経営」におけるHRMとはなにかを考えてみる上で良書であると思います。また、本書が主にライン・マネジャーに向けて書かれたものであるという点で、アメリカらしさを感じました(アメリカのライン・マネジャーは日本の人事部の仕事に相当することをかなりやっているし、それだけの権限を与えられている)。意識の高いマネジャーにも薦めたい本ですが、その前に、とりあえず人事パーソンには是非とも読んで欲しい本です。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【003】 牧野 昇/武藤 泰明 『新・雇用革命

経済学のアプローチにより人事を定量的に捉えた本。「人事は科学できる」!

人事と組織の経済学.jpg  Personnel Economics for Managers.png    Edward P. Lazear.jpg Edward P. Lazear
"Personnel Economics for Managers"(1997)
人事と組織の経済学』(1998/09 日本経済新聞社)

Edward P. Lazear2.jpg スタンフォード大学ビジネススクールのエドワード・ラジアー(Edward P. Lazear)教授による本書は、経済学のアプローチから人事制度を分析したものですが、"Personnel Economics for Managers"(1997)という原題からも窺える通り、学術書ではなくマネジャー向けの解説書として書かれています。

 著者は、前著"Personnel Economics"(The MIT Press,1995)において「人事経済学」というものを提唱しており、それは、「人事に関する政策や慣行は人間の関わることであり、どこにでも当てはまる一般的、客観的な解答などない」という考え方に対し、確かに具体的解決策はケースによって異なるが、それは企業の置かれた環境が異なるためであり、解決策を導き出すまでの思考方法は、一般的普遍性を持っているとの考え方に立って、人事制度や組織を分析するにあたって経済学の手法を用いることで、物理学や生物学と同じようにその「解」に辿りつけることを示したものであるようです(訳著がない!)。

 本書はそうした科学としての「人事経済学」というものを、企業における人事パーソンやマネジャーにも分かり易いように噛み砕いて解説したものと言えるかと思います。各章の冒頭には、人事に関する制度や施策についてのケース課題と、それに対する様々な立場からの意見を収めた会話が配されていて、人事の実務者の観点から見ても、おそらくそれらは、かつて自らがそうした議論の場に直面したことがあったかと思われるような具体的なテーマであり、また議論の分岐点でもあり、そうした問題の解明のプロセスにおいてはやや複雑な数式等が用いられたりはしているものの、少なくとも各章の導入部は、実務者が入り込みやすいものとなっているように思われます。

 第1章の序論では、人事担当者にとって極めて重要な話題であっても、「従業員の解雇の仕方」「労働組合との交渉術」「モラール低下の改善方法」「従業員に対するキャリア機会のカウンセリング方法」といった経済学的アプローチが不向きなものについては他の専門家に任せるとして、本書で扱っている主なトピックスは、求人および採用、転職、合理化、生産性向上のための動機づけ、チーム、年功制、評価、付加給付、権限、任務の割当などについてであると断っています。

 第2章では、「採用基準の設定」(高熟練労働者と不熟練労働者のトレードオフ、データが簡単に入手できないときの意思決定...etc.)、第3章では「適任者の採用」(自己選択、モニタリング・コスト及び労働者選別の詳細)について考察し、第4章では「労働者の生産性を知る」(非対称性情報と対称的無知...etc.)ということ、第5章では、「変動給与それとも固定給与?」(インセンティブ...etc.)ということについてそれぞれ述べ、第6章で「人的資本理論」(基本理論の概要、学校教育、職場における実地訓練...etc.)について解説しています。

 更に、第7章では「離職、解雇および希望退職」(企業特殊的人的資本...etc.)について、第8章では「情報、シグナル及び引き抜き」(シグナリング仮説...etc.)、第9章では「動機づけとしての昇進」(トーナメント・モデル...etc.)について解説し、第10章では「社内における利害行動」(トーナメントと競争...etc.)について考察しています。

『人事と組織の経済学』6.JPG 第11章では、「年功型インセンティブ制度」について考察し、第12章では、「チーム」(チームの活用、チームにおけるインセンティブ...etc.)について解説、第13章では「雇用関係についての再考」としてアウトソーシング、契約、フランチャイズなどについて考察し、第14章で「非金銭的報酬」、第15章で「付加給付」を取り上げています。「年功型インセンティブ制度」の章では、賃金と生産高が経験年数で逆転し、一定年齢以降は、企業は負債を負うことになるという、有名な「暗黙の負債と見返り」論(別名「ラジアーの理論」)が展開されています(この理論は、所謂「日本的経営」における年功賃金と長期的雇用の関係を説明する際にしばしば用いられることで知られている)。

 第16章「職務:課題と権限」では、人に職務を合せるのか、職務に人を合せるのかを考察し、また、第17章「評価」において評価の目的やルール、昇進かさもなければ退職か、などといった評価の使い道などについて考察し、最終の第18章では「労働者の権限強化」について経営者から労働者への意思伝達などの課題を取り上げています。

 このように、人事の重要課題の全てを扱っているわけではないとしながらも、広範な実務課題を取り上げており、また、一部において課題同士が重複・隣接しながらも、その取り上げ方において異なる視点を入れることなどもしています。

 個人的には、人事における極めて実務的な諸課題を、ちょうど物理学などでいうところの「思考実験」のような形で提示している点が興味深く思われました。また、著者は、「人事制度とはモチベーションとコストの両面から検討されねばならない」としていますが、経済学の手法を用いながらも、一般的推察が妥当と思われる範囲で心理学的要素や社会学的要素をも考察に織り込むことにより、そのことを実践しているように思われました。同時に、そうした考察を明快なロジックとして展開してみせることで、説得力のある内容となっているように思います(「人事は科学できる」!)。各章の章末には、そうして得られた「解」を要約して解説しており、これもまた示唆に富むものとなっています。

 600ページ近い大著ですが、各章は30ページ程度であるため、全体を通読した上で、関心のある項目について再度拾い読みしていくという読み方もあるかと思います。そうした読み方を通して、実際に人事パーソンが人事を巡る諸課題に直面した際に、課題の認識方法や解決法を探る上でのヒントとなる箇所も多いように思われます。その意味では、人事パーソンが是非とも手元に置いておきたい1冊であると言えます。

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2279】 曽山 哲人/金井 壽宏 『クリエイティブ人事
「●マネジメント」の インデックッスへ

人事パーソンが読んでも、"おさらい"を兼ねつつ、新たに得られる知見もあるのではないか。
マネジメントの心理学2.jpg
 

伊波和恵 教授 臨床心理士.jpg 伊波和恵氏(東京富士大学教授・臨床心理士)東京富士大学サイトより
マネジメントの心理学: 産業・組織心理学を働く人の視点で学ぶ

 本書は、主に学生やビジネスパーソンらを対象としたマネジメントの心理学(産業・組織心理学)に関する初学者向け入門書です。著者らは、会社で働き始めてから心理学をもっと学んでおくべきだったというビジネスパーソンの声をよく耳にする一方で、大学で学んだことはあまり役に立たないという声も聞くことから、ビジネスの現場で活用しうる考えや知識を、学生自身が今後の社会人生活をイメージしながら学ぶことができて、大学での学びが社会での実践に結びつくようにするにはどうすればよいかということを意識したうえで、産業・組織心理学の入門書として本書を企画したとのことです。

 心理学を専攻したことがない読者を主に想定して書かれており、心理学の基本的で重要な内容を一通り学びつつ、その知見の持つ意味や、実生活の中でそれがどのように役立つのかを具体的に分かるように解説したものとなっています。また、「働く人の文脈、働く人の視点」を強調し、「働くこと」に関する心理学の知見をもとに、企業組織におけるマネジメントのあり方までを考えるものともなっています。

 本編は、第1章「働くということ」からはじまり、「採用と就職」「組織と私」「リーダーシップ」「ワーク・モチベーション」「コミュニケーション」「キャリア発達」「人事マネジメント・教育研修」「起業」「経営革新」「心の健康」「働く環境の質」の全12章から成りますが、各章の冒頭に、ある学生が就職して、さまざまな人とのかかわりの中で「働く人」として成長していく姿が、各章の内容と関連したストーリーで描かれています。

 そのため、テキストではありますが読み物を読むような感覚でも読めて、また、章末には参考文献を掲げるとともに、働くことに関する現代社会の状況が反映されたケーススタディを載せることで、学習した理論の実践への応用を助ける(自分で考えてみる)ものとなっています。

 参考文献は「もっと詳しく知りたい人の文献紹介」と「文献」の二段構成で、後者がいわゆる"参考文献"の列挙であるのに対し、前者は、例えば「キャリア発達」の章であれば、シャインの『キャリア・ダイナミクス』(1991年/白桃書房)と金井壽宏氏の『働く人のためのキャリア・デザイン』(2002年/PHP新書)の2冊に絞って内容の概略まで紹介するなどしており、次に何を読むべきかという実践的な読書ガイドとなっているように思いました。

 全体を通して、産業・組織心理学の基本から近年の新たな知見まで網羅されている点でオーソドックスであるとともに、組織から個人を捉えるというアプローチではなく、個人から組織を捉えるというアプローチが強調されている点が、類書と比較してユニークかと思います。

 主に人事部門の初任者にお薦めですが、リーダーシップやモチベーション、コミュニケーションといったものの人事マネジメントにおける重要性がより高まっていると考えられる今日、人事パーソンが「実務に役立つ教養」として身につけておきたい知識がふんだんに織り込まれているという意味で、初任者に限らず各層の人事パーソンが本書を読むことで、"おさらい"を兼ねつつ、新たに得られる知見もあるのではないかと思います。

「●企業倫理・企業責任」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●M&A」【123】 森信 静治/他 『M&Aの戦略と法務
「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

取り上げた事例が多すぎて「不祥事カタログ」みたいになってしまった印象も。

不祥事は、誰が起こすのか2.JPG不祥事は、誰が起こすのか.jpg            倫理の死角2.jpg
不祥事は、誰が起こすのか (日経プレミアシリーズ)』 マックス・ベイザーマン『倫理の死角ーなぜ人と企業は判断を誤るのか

 元日銀マンであり、日銀在職中には自ら考査の現場を担当したという著者が、データ漏洩、偽装表示、横領、反社会的勢力など、絶え間なく発覚する近年のさまざまな企業不祥事の数々を俎上に載せ、どこからそれは起こるのか、原因の解明に挑んだ本です。

 不祥事を起こした企業が事後に発表した第三者委員会の報告書を読み解くなどして、報道としてなされたもの以上に正確で詳細な情報を把握したうえで論考を進める姿勢には信頼が持てるとともに、内容的にも興味深いものでした。

 但し、ちょっと詰め込み過ぎだったかな。ここ何年かでこんなにも多くの多種多様の不祥事があったのかとあきれるくらい多くの不祥事の事例を取り上げていて、人命を損なう事故乃至その恐れのある事故(食品汚染・運輸事故・産業設備事故・医療過誤・設計瑕疵等)及びその隠蔽に由来する刑事犯罪から、金融に係るもの(粉飾決算・不正融資・インサイダー取引等)、官民・民民間に係るもの(談合・汚職・横領・贈収賄・カルテル・下請いじめ等)まで、確かにきちっと分類されているし、分析の方法論も理解できるものの、あまりに事例の拾い方が網羅的であり過ぎたために、結果的に「不祥事カタログ」みたいになってしまい、必ずしも読み易くない上に、1つ1つの案件の分析がやや浅くなってしまったようにも思えたのが残念です(多くを取り上げ過ぎることで、逆に著者の持ち味が見えてこない)。

 本書においても取り上げられているマックス・ベイザーマンの『倫理の死角』('13年/エヌティティ出版)にもありましたが、結論的には、不祥事を起こしやすい企業には共通の「文化」があり、そこでは正論より「大人の事情」が優先され、或いはまた、ミス発生に過剰なプレッシャーをかけたり、しがらみ構造が存在したりするということなのでしょう。M&Aを繰り返した結果、経営の統制が弱くなって現場任せが放置されていたりすることもミス等に繋がると、ガバナンスの盲点なども指摘しています。

デザートに異物混入.jpg 最近マクドナルドで相次いだ異物混入問題は、食べ物に異物なんてあり得ないという前提で商品を口にする消費者と、完全な混入ゼロは困難とする食品業界との認識のズレを浮き彫りにしましたが、本書でもビッグデータから不正を見つけ出す手法など最新のテクノロジーを紹介する一方で、現実には不正・不祥事の「ゼロ」はありえず、必ず起きるという前提の下でいかに頻度を減らすかが予防のポイントだと述べているのが興味深い点でした

マクドナルド、「デザートに異物混入、子どもけが」を受け会見 2015/01/07 19:00 【共同通信】 

《読書MEMO》
植村 修一 『不祥事は、誰が起こすのか』.jpg●「不祥事防止のための10ケ条」
  第1条:人は弱い。必ずミスをする
  第2条:予兆を逃すな 
  第3条:システムにバグはつきもの  
  第4条:権威勾配の傾きに気をつけろ 
  第5条:挙証責任を転嫁するな 
  第6条:ルールは守れ 
  第7条:正論を大事にしろ 
  第8条:副作用には気をつけろ 
  第9条:組織文化を自覚しろ  
  第10条:大事な事(本分)を忘れるな

About this Archive

This page is an archive of recent entries in the ■人事・マネジメント・キャリア category.

■人文社会・自然科学 is the next category.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1