2009年08月30日
【1220】 ◎ 元井 弘 『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』 (2007/08 生産性出版) ★★★★★
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職能主義との対比での役割主義に基づく解説。実務者の要求に応えて余りある内容。
『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』 ['07年]
『役割業績主義人事システム』
タイトル通り、目標管理と人事考課がテーマの実務書ですが、全3章構成の第1章で人事制度の基本から運用形態までを解説していて、職能制度の限界を説くとともに「役割業績制度」というものを提唱しており、この部分は著者の前著『役割業績主義人事システム』('05年/生産性出版)の“復習”であるとも言えますが、前著を読んでいない読者にも分かり易い(同時に詳しい)ものとなっています。
「役割主義」「役割等級制度」と一般にと呼ばれる人事・等級制度に基づく目標管理の在り方や人事考課の実際について書かれた本としては最も明解かつ精緻に書かれたものであるばかりでなく、他の社員格付け制度をベースに書かれたものを含めても最上位の内容レベルであるように思われました。
とりわけ第2章の「目標管理」に関しては、その本質、目標設定のポイント、目標達成度の把握と評価のポイント、目標管理の推進の実際、運用の実際といった順で丁寧に解説されていて、例えば、「職種による目標設定のポイント」として、営業職、生産職、調達職から研究開発職、企画管理職、一般事務スタッフまで6つの職種に分けて、それぞれにおいて効果的だと考えられる目標管理のポイントを多く掲げ、人事部を常に悩ます間接部門の目標管理と人事考課の問題に対する解決への選択肢乃至はヒントを示しています。
第3章の「人事考課」についても、まずその本質論を分かり易く丁寧に解説し、その上で実際論に入っていて、フィードバックのポイント解説も丁寧です。
考課表のサンプルをずらずら並べるような類書とは異なり、どこを見るのか、何を見るのか、何で見るのか、どう見るのかということが、ひとつひとつ言葉と概念図でもってきっちり解説されています。
全体を通して、例えば職能主義と役割主義の考課体系の違いを図に示すなど、役割主義に対する理解を促すために職能主義を引き合いにし、まず職能主義だとどうなるか、それが役割主義だとこうなるかといったパターンでの解説の仕方が多くされているため、「役割(業績)主義」というものの本質を目標管理や人事考課の在り方から再確認できる本でもあり、その意味では実務者の要求に応えて余りある内容と言えるかも。
投稿者 wadamy : 00:37
【1219】 △ 長尾 基晴 『人事のプロ (THEORY BOOKS)』 (2009/02 講談社) ★★★
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ほぼオーソドックスだが、大企業、メーカーにやや偏っている。誰と比べて「プロ」なのか?。
『人事のプロ (THEORY BOOKS)』 ['09年]
岩瀬達哉 『人事はどこまで知っているのか (セオリーブックス)』 ['08年]
著者は企業の人事部を経て今は人事コンサルタントをしている人、企業における人事評価や出向・転籍、採用や昇格、賃金制度、労務問題への対応などについて、人事部の中でどのようなことが行われているか、また、それらの今あるべき姿というものがどのようなものであるかを書いていて、人事の内実を明かしたという点では、同じ講談社セオリーブックスの『人事はどこまで知っているのか』(岩瀬達哉著/'08年)と似てなくも無いですが、あちらはジャーナリストが書いたもので、一方のこちらは「人事のプロ」が書いたもの (とのことで、ある程度期待して読み始めたのだが…)。
事例を入れて読み物風にわかり易く書いていますが、書かれていることの趣旨自体はオーソドックスである分、尤もであっても特に目新しさは無く、気になったのは、それぞれのテーマや話の背景として想定されているのが、大企業、生産部門を持つメーカー企業に限られていると思われる部分がある点と、人材教育・育成的な話にウェイトが置かれていて、制度的な話になるとそれほど専門的なことが書かれているわけではなく、運用論などで啓蒙的方面に逃げてしまっていること。
また、全体として、社内コミュニケーションの大切さなどは説くが、企業も従業員も成長していくにはどうしたら良いかという大きな視点がやや希薄な印象を受けました。
「人事のプロ」というのは、一般の人事部員に対して「プロ」なのか、一般の社員に対して「プロ」なのか、「セオリーブックス」(ビジネスパーソン全般がターゲット?)の1冊ということで、後者ともとれるわけで…。
実際、著者の経歴を見ると、大手自動車部品メーカー(トヨタ系)の人材開発部出身で、そこに10年いたとのことですが、企業規模が大きいだけに、10年では経験できる業務領域は限定されるのではないかと思われ(本書に書かれているような人事が外からどう見られているかということは、人事部長まで経験しなくとも、人事に数年いれば分かる)、独立後も“メーカーを中心に”人事制度構築と浸透に関するコンサルティングを行っているとのこと、中小企業にいる人や非製造業にいる人が読んでも、ややぴんとこない部分があるのはいたし方ないかも。
一般の人が「読み物」としてざっと読むにはまあまあですが、人事部に何年かいる人が読んでも、それほど多くのものが得られるようには思えませんでした。
投稿者 wadamy : 00:14
2009年08月28日
【1218】 △ 永井 隆 『人事と出世の方程式』 (2008/06 日経プレミアシリーズ) ★★★
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人材登用のトレンドを探るが、人事専門誌に書かれていることの域を出ない。
『人事と出世の方程式 (日経プレミアシリーズ)』 ['08年]
ジャーナリストである著者が日本のトップ企業の人事の基本方針、主に幹部社員の登用のあり方について取材していて、新書のわりには取材量は豊富ですが、タイトルにあるような「出世の方程式」がそれらから導き出されるというものではなく、結局、人材登用を決める側は決める側で自社適合の仕組みを考えなければならないし、社員は社員で企業に寄りかかるのではなく自立した職業人として、或いはリーダーとして成長していかなければならないということでしょうか。
社長に上り詰めた人、一旦置かれた苦境から立ち直ってヒット商品を生み出した人など華々しい例も出てきますが、そうしたこと以外に、最近の企業の人事・人材育成の動向などが、具体的な選抜方法や評価、研修制度、賃金制度なども含めて広く紹介されていて、その部分については参考になったと言えば参考になったし、オーソドックスと言えばオーソドックス。
参考になった点は、成果主義の弊害ということが昨今言われるものの(経営トップの外向けの発言はともかくとして)企業の人事部は成果主義というものをさほどに否定していないように思えたこと、但し、仕事の結果だけでなく資質的なものを見る傾向にあること、また、大企業では幹部候補社員の選抜時期を早める傾向が近年見られるということなどでしょうか。
更に、管理職への道がこれまで閉ざされていた女性や外国人などに対する処遇をダイバーシティマネジメントの観点から見直す傾向にもあるということですが、人事専門誌などにある近年の動向情報や今後の人事マネジメントの展開予測の域を出るものでは無く、まあ、再確認できたというぐらいでしょうか(この新書の“プレミア”の意味は実は“プライマリー”ではないかと、時々思う)。
気になったのは、各社の人材登用の事例がいまだに人材の「選抜」という観点で紹介されていることで、人材にゆとりのある大企業ならともかく、中小企業では人材の「確保」そのものが大きな課題になっていて、少子高齢化社会の到来を考えれば、今後は限られた人材をどう生かすかということの方が、企業規模を問わず課題になってくるのではないかと思われたこと(大企業の方がすべてにおいて進んでいるとは限らない)。
女性の活用だけでなく、コースに乗れなかったため目標を喪失している人、会社や仕事に対してコミットメントしきれていない人を、どう活性化し再生していくかということも、広い意味でのダイバーシティマネジメントだと思うのですが。
2008年6月19日 日経朝刊
投稿者 wadamy : 23:51
2009年08月23日
【1217】 △ 山田 咲道 『ダメ上司論』 (2009/05 日経プレミアシリーズ) ★★★
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「プレミア(最高級)」と言うより「プライマリー(初心者向け、基礎編)」という感じかも。
『ダメ上司論 (日経プレミアシリーズ 49)』 ['09年]
『バカ社長論 (日経プレミアシリーズ 5)』 ['08年]
大手監査法人を経て独立し、現在は自ら会計事務所を経営する公認会計士が書いた本で、日経プレミアシリーズの同著者の『バカ社長論』('08年)に続くもの。
全5章構成ですが、「ダメ上司はこうして組織を壊す」(第1章)とか「会社も恐い、すぐキレる上司」(第3章)とかいったことを、リアルな具体例を挙げて説いていて、若い読者が読むと、大いに「ある、ある」感を満たすのではないのでしょうか。
そうした事例を通して、上司と部下のコミュニケーションが組織の効率を決めることを全体としては説いており、また、「すべては内省から始まる」(第5章)とあるように、最後には部下の側に対しても謙虚さを求めています。
この著者の本、「バカ社長」とか「ダメ上司」とかきつい言葉を使っている割には、二宮尊徳を“偉大な先哲”としているように、書いてあることは読者の想定内のことと言うか、比較的クラシカルな感じがしました。
書かれていることそのものに異を唱えるようなものではないですが、本のべースになっているのが「メルマガ」であるためか、日々の部下に向かう姿勢、上司に対する対応の心構えを説いているような感じで、どちらかと言うと後者(部下向け)だろうなあと。
「日経文庫」とは別に「日経プレミアシリーズ」というのが創刊されたのが'08年5月で、実務書としての「日経文庫」に対し、同じビジネス関係でも読み物的なものを考えて、「ビジネスにも役に立つような内容だったり、オフの過ごし方だったり、ビジネスパーソンが興味のありそうなテーマを選んでいる」(野澤靖宏編集長)とのこと(元々は「新書にこだわった創刊ではなかった」とも)。
「プレミア」というのは、「最高級の好奇心」というこの新書のコンセプトに呼応したネーミングのようですが、本書に関して言えば、「プレミア」と言うより「プライマリー」(初心者向け、基礎編)という感じかも。
2009年5月14日 日経朝刊
投稿者 wadamy : 22:37
【1216】 ◎ 原口 佳典 『人の力を引き出すコーチング術』 (2008/01 平凡社新書) ★★★★☆
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「技術」以前にコーチングの本質とは何かということが読み易く書かれている。

『人の力を引き出すコーチング術 (平凡社新書)』 ['08年]
原口 佳典 氏(コーチングバンク代表/略歴下記)
全5章の構成で、まず第1章で、コーチングとは「自然習得力を向上させ」「自己成長を促す」ものであるということを、アメリカにおけるコーチングの誕生と発展の歴史的経緯から辿り、それが日本にどのような形で入ってきて現状はどうであるかを解説、第2章では、ビジネス現場へコーチングを導入する際の留意点は何かを成功例・失敗例を挙げて解説するとともに、以上を通して、コーチングとはコミュニケーションを改善させる媒体(手段)であってコンテンツ(目的)ではないこと、人を操る手段ではなくてモチベーションをアップさせるものであることを述べています。
第3章では、「聴く」「語る」「質問する」というコーチングの3つの基本スキルについて解説し、第4章では、コーチングによって「自然習得力を向上させ」「自己成長を促す」には、この3つに加えて「想像する/想像させる」「提案する/提案させる」「決定する/決定させる」ということが大切であり、それはどのようなことを指すのかを会話例などで解り易く解説、第5章では「コーチングが効果的な10の分野」を挙げ、コーチングがビジネスのためだけのものではないことを示しています。
著者も述べているように、本書はコーチングの個々のスキルについて書いたノウハウ本ではなく、「技術」以前のコーチングの本質とは何かということを中心に体系的に書かれていて、それでいて読み易く、また一読した後にどこからでも再読できるという“優れもの”、とりわけ冒頭の、コーチングの起源とされるテニスプレイヤーのW・ティモシー・ガルウェイ(W.Timothy Gallway)の書いた『インナーテニス』('72年)に関する記述は詳しく、この本の中でガルウェイが述べている「自然習得力を向上させ」「自己成長を促す」というコーチングの概念は、本書全体を通して繰り返されています。
事例やエピソードも豊富で、最終状態を「想像する/想像させる」ことが目標達成を早めることになることをゴルフを例とし、殆どのゴルファーが良いバックスウィング、良いダウンスウィングをすれば良いショットができると考えるのに対し、タイガー・ウッズは、どういうインパクトをすれば良いかから考え始めるといい、彼の父親のアール・ウッズは、息子にゴルフを教えるに際して、ドライバーから練習を始めるのが通常であるのに対し、「ゴール」であるパットから練習させたとのこと。ゴルフの目的はカップにボールを沈めることであり、上手にスウィングすることではないからであると。
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原口 佳典 (はらぐち・よしのり)
1971年福岡県生まれ。愛知県立旭丘高等学校卒。早稲田大学第一文学部社会学専修(宗教社会学・物語社会学) 卒業後、株式会社三省堂書店に入社。医学書販売を担当。その後、店舗設計に携わり新店を開発した後、1999年2月、インターネットの世界に魅力を感じ転身。ビズナレッジ(株)・(株)コーチングバンク代表。(財)生涯学習開発財団認定コーチ、経営品質協議会認定セルフアセッサー。
《読書MEMO》
●「相手の価値観を尊重すれば、よりよいコミュニケーションをとることができる」(W・ティモシー・ガルウェイ)(33p)
●コーチングが目指すのは、純粋に「自然習得力」を持った、自立した人間である。コーチはあくまで援助者であって、先生やトレーナーではない(51p)
●コーチングはあくまでコミュニケーションの改善を行うだけのもの(95p)
●コーチングをビジネスに活かす方法(103p)
1.M&Aや経営改革を強烈なリーダーシップで引っ張りたいとき(コーチング型のマネジメントは変革で生じるストレスを緩和させる方法として有効)
2.コーチングの導入目的を単にコミュニケーションスキルの向上と捉える(チームや部署内の空気を良くするために、或いは、コミュニケーションスキルを向上させるためにためにコーチングを研修の一環として取り入れる)
●クライアントは語ることによって、自分の行動や感情、体験や気持ちをはっきりと認識する。その語りを未来につなげ、次のステップを明らかにする。(131p)
●最終状態をイメージすることで、自ずとその方向に向かおうとする。この「想像させる」ことが、目標達成を早めることになる(146p)
投稿者 wadamy : 00:01
2009年08月22日
【1215】 ◎ 斎藤 智文/Great Place to Work Institute Japan 『働きがいのある会社―日本におけるベスト25』 (2008/06 労務行政) ★★★★☆
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日米の「働きがいのある会社」の比較は大いに参考に。調査の今後に期待できる。
『働きがいのある会社―日本におけるベスト25』 (2008/06 労務行政)
米フォーチュン誌がヘイグループと共同で毎年発表している「世界で最も賞賛される企業(The World's Most Admired Companies)」ランキングというのがありますが、これとは別に同誌は、サンフランシスコに本部があるGreat Place to Work Institute(GPTW)がサーベイしている「最も働きがいのある会社ベスト100(100 Best Companies to Work For)」というのを'98年からから発表しています。
本書は冒頭で、この「働きがいのある会社ベスト100」がどのような経緯で始まり、何を基準としてそのように選ばれるか、過去にどのような企業が選ばれ、それらにはどのような特徴があるかが詳しく書かれていますが、やはり上位に来る企業はどれも、経営理念、人材育成理念がしっかりしている一方、ワーク・ライフ・バランス施策が充実しているのがわかります(アメリカのベスト100に選ばれた会社の29%は、社内託児所があるという)。
'08年のランキングを見てみると、Googleが2年連続で1位で、以下、Quicken Loans、Wegmans Food Markets、Edward Jones、Genentech、Cisco Systems、Starbucks、Qualcommと続きますが(因みに、本書刊行後に発表されている’09年のサーベイではGoogleは4位。'09年の1位は'08年14位だったNetwork Appliance)、「世界で最も賞賛される企業」(こちらは'08年、'09年と連続してAppleが1位)と顔ぶれがかなり異なるように思え、また、1年間でかなり順位が変動するのも興味深いです(過去11年間全てランクインし、平均順位が最も高いのはSAS Instituteだが、'07年は48位、'08年は25位)。
これと同趣の調査をGPTWが'07年から日本でも始め、本書はその'08年版の調査結果の取り纏めでもあるわけですが、「働きがいのある会社」の日本版の'08年のトップはマイクロソフトで、以下、ソニーマーケティング、モルガン・スタンレー証券、リクルートエージェント、アサヒビール、堀場製作所、日本郵船、キッコーマン、日本ヒューレット・パッカード・・・と続き、ただ野次馬的に見ていっても興味深いです。
但し、本来注目すべきはこの調査の特徴で、「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」というGPTWの評価分類別要素を日本企業にも適用し、人材理念の質的な検証すると共に、「働きがい」を高める具体的な施策について「採用する」「歓迎する」「触発する」「語り掛ける」「傾聴する」「育成する」「配慮する」「祝う」「分かち合う」といった組織風土面の従業員意識調査を行っていて、これらはそれぞれの企業で従業員がどのような気持ちで働いているかを知るうえで大いに参考になります。
その上で更に、労働時間(年間所定労働時間、年間総労働時間、フレックスタイム制度、在宅勤務制度)や年次有給休暇(日数・平均取得率)、育児・介護等の休暇の有無(法定期間を超える育児・介護・子の看護休暇、育児・介護のための短時間勤務制度・始業就業時間の繰上げ繰り下げ・時間外休日労働の免除など)といった客観数値、制度の有無も評価対象としていて(育児・介護については国の次世代育成支援推進策のガイドラインに沿っている感じ)、社風や経営理念など定性的なものから諸指標、具体的な制度の有無など定量的なものまでトータルで評価しランキングされていることが分ります。
フォーチュン誌の「最も働きがいのある会社ベスト100」と比べると、「日本企業のベスト25」においてさえもまだまだ改善の余地があることを本書は物語っていますが、日本の企業が今後こうしたワーク・ライフ・バランス施策面における充実度を競い合っていくことは、その動機が企業PRのためであったとしても、日本人全体の働き方を変えていく契機になるのではないかと、個人的には、この調査の(まだ3年目だが)今後に期待を寄せる次第です。
投稿者 wadamy : 23:47
【1214】 ○ ヘイコンサルティンググループ/浅川 港 『世界で最も賞賛される人事―グローバル優良企業に学ぶ人材マネジメント』 (2007/10 日本実業出版社) ★★★★
「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1215】 斎藤 智文 『働きがいのある会社』
グローバル優良企業の何れもがバリューとコンピテンシーを大変重視していることが窺える。
『世界で最も賞賛される人事』 (2007/10 日本実業出版社)
ヘイグループとフォーチュン誌が共同で毎年調査・公表する世界で最も賞賛される企業」(The World's Most Admired Companies)ランキングで常連で上位に位置するグローバル優良企業のヴァイスプレジデントやアジアの人事・組織戦略の責任者に、自社の人づくり・組織づくりの考え方や戦略を取材したもの。
メインで取り上げられているのは、GE、ジョンソン&ジョンソン、アメリカン・エキスプレス、P&G、フェデックス、ネスレの6社で(その他、IBM、マイクロソフト、BMW、ノキアにも言及)、とりわけ担当者自身がレポートしている前半の3社は1社当り約50ページを割いてその企業の人材戦略が詳説されています(後半の3社はインタビュー形式)。
読んで分かるのは、それぞれの企業が何れもバリューやコンピテンシーを大変重視していることで、とりわけ興味深かったのはGEでした。
CEOがジャック・ウェルチからジェフ・イメルトになって更に様々な概念や手法が精緻化しており、例えば「評価」の仕組みについても、まずコミットメント以上の結果を出した人(エクセプショナル=優秀)、コミットメントどおりだった人(サティスファクトリー=満足)、コミットメントを達成できなかった人(ニーズ・インプルーブメント=要改善)の3グループに分け、次に各グループの中でGEバリューを非常に高く持っている人、普通の人と、改善が必要な人の3種類に分け、その結果、9つのブロックに分かれる「9(ナイン)ブロック」になっているほか、そうして選別されたトップ20%の中で更に競争をさせていくとうのがGEの人材育成の手法であるというイメージがあったものの、実は、ボトム10%の「レス・エグゼクティブ」とされた社員にも改善プログラムが用意されていること、ミドル70%の「ハイリー・バリュード」も大切にしなければならないというのが最近の考え方であること(この考え方はトヨタ、キャノンなどの日本企業から学んだとのこと)など、ウェルチの『わが経営』には見られなかった記述もありました。
ジョンソン&ジョンソンの「クレドー」(「我が信条」)は有名ですが、アメックスなども評価の半分はコンピテンシーで決まるというから、人材評価においてバリューやコンピテンシーを重視しているのはGEだけではないということが窺え(アメックスの事例からは、コンピテンシーが一度定めたら不変というものではなく、時代の変化とともにブラッシュアップしていくものであるということも汲み取れる)、また、いくつかの企業がダイバーシティを重視しているのも興味深いです(P&Gは「5つの主要な行動目標」の第一が「多様性を確保する」)。
何れにせよ、人材戦略の無い企業に発展は無いということ、グローバル優良企業におけるそれは極めて具体的なものであること、それらの企業はリーダー育成のための様々な仕組みを持っていることなどを実感させられる内容でした(当事者が書いている分、総花的で“手前味噌”感も無きにしも非ずだが)。
《読書MEMO》
●GE
・4つのアクション(イマジン(imagine創造する)・ソルブ(solve解決する)・ビルド(build築く)・リード(leadリードする))を支える8つのバリュー(情熱・工夫に富む・チームワーク・開かれた・好奇心・責任を持つ・コミットメント・鼓舞する)
・2年間で4つのビジネス課題を解決する「リーダーシップ・プログラム」―あえて異なるビジネス領域を転々とさせて「苦しい状況の中で短期間に打開する能力」を養わせる
・リーダーに求められる3つの要素(GEバリュー、専門知識・能力、経営への精通)
・大多数の70%にも目を向け、潜在能力を引き出す
・多様性(ダイバーシティ)のないところにイマジネーションはない
●ジョンソン&ジョンソン
・すべては「クレドー」(「我が信条」)のもとに―4つのパラグラフ、21のセンテンスから成るクレドー
・「我が信条」では、第1は医者や患者に対する責任、2番目に社員に対する責任、3番目に社会に対する責任、最後に株主に対する責任をあげている
・「任せる」ことで顧客への責任を実現できる―信頼されて任されるほど、人のやる気を喚起するものはない
・人事は全社的タレントへの責任を持つ
・ダイバーシティの進展は業績につながる
●アメリカン・エキスプレス
・コンピテンシーの変更に先立ちコーポレート・バリューを見直す―36項目あったコンピテンシーを(8つのバリューと)8つのコンピテンシーに
・評価の半分はコンピテンシーで決まる
●P&G
・PVP(Purpose, Values, Principles)
・5つの主要な行動目標(1.多様性を確保する、2.企業理念に基づく行動を徹底させる、3.社員の意欲と向上心を引き出す、4.人材は内部で育てる、
5.変化への適応力と生産性の高い組織をつくる)
投稿者 wadamy : 23:33
2009年08月15日
【1213】 ◎ 中井 智子 『「労働時間管理」の基本と実務対応』 (2009/03 労務行政) ★★★★☆
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1212】 日本経団連事務局 『Q&A 改正労基法早わかり』
図説が解り易い。初学者が手に取り易く、実務経験者も満足させるバランスの取れた内容。
『「労働時間管理」の基本と実務対応』 (2009/03 労務行政)
労働基準法で定める労働時間の諸制度を中心に弁護士(中町誠法律事務所に所属)が解説をしたもので、タイトル通り「労働時間管理」に的を絞っての1冊であるため、変形労働時間制やみなし労働時間制、時間外労働・休日労働、割増賃金などについて、基本から実務対応までQ&Aや協定・規程例を交えながら丁寧に解説されています(年次有給休暇、母性保護・育児介護休業・罰則等の解説を含む)。

各論に入る前に労働時間制度の全体像について1章を割いて解説されているのが良く、何よりも、全編2色刷りで図説が多用されていて、それらが大変見易いものであるのが長所、初学者にとっても手に取り易いテキストとなっていますが、実務経験者がおさらい用に読むのにも適した本だと思います。
一応は、平成21年4月1日施行の法改正(時間外労働の割増賃金率の引き上げ、時間単位の年休制度)についても解説されていますが、こちらは平成21年5月29日付の厚労省通達(基発第0529001号)が出される前の刊行であったため、さらっと触れている程度。ただ、全体に、あくまでも「解り易さ」と「実務対応」を主眼とし、あまり個々の解説がマニアックにならないようバランスを配慮している感じです。
但し、例えばQ&Aにおいて、「事業場外において、一部内勤がある場合の労働時間はどのように取り扱えばよいでしょうか」という問いに対する回答として、「事業場内の労働時間も含めてみなし労働時間である」としている行政通達(昭63.1.1基発第1号)に対し、「労働時間の一部を事業場内で労働した日の労働時間は、みなし労働時間制によって算定される事業場内で業務に従事した時間と、別途把握した事業場内における時間とを加えた時間となる」としている別の行政通達(昭63.3.14基発150号)を挙げ、「この二つの通達の関係は、前者から後者に変わったものととらえ、後者に従うべきです」と述べるなど、必要に応じては行政通達の捉え方にまで解説が及んでいますし、勿論、それらは実務に大いに関係してくることでもあります。
投稿者 wadamy : 23:41
2009年08月08日
【1212】 ○ 日本経団連事務局 『Q&A 改正労基法早わかり』 (2009/07 日本経団連出版) ★★★★
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●年金・社会保険」 【726】 久野 万太郎 『年金の常識』
まさに「早わかり」。直近通達(基発第0529001号)を反映。本の出来より、改正法そのものに疑問を感じる。
『Q&A改正労基法早わかり』 (2009/07 日本経団連出版)
日本経団連は日経連の時代から労基法に大きな改正があるごとに、「改正労基法早わかり」というのを刊行していて、前回の'03年の時の主な改正内容は、「有期労働契約の上限見直し」、「解雇法制」、「裁量労働制の見直し」などでしたが(所謂「平成15年改正」)、今回の平成21年4月施行の改正法の核は、「時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金を50%にすること」(併せて、代替休暇制度の創設」、「時間限度を超えた時間外労働の割増賃金率に関する努力義務」)と、「時間単位の年次有給休暇の創設」です。
本書はQ&A方式になっていて全30問、解り易くコンパクトに纏まっていて、まさに「早わかり」と言え、それなり解説も突っ込んで書かれている上に、後半は資料編になっていて、関連する施行規則や指針などが掲載されており、最後に平成21年5月29日付の厚労省通達(基発第0529001号)が掲載されていて、Q&Aの内容もそれに沿ったものになっているため、21年7月刊行というのはタイムリーと言えばタイムリー、1000円という価格も手頃(難点を言えば、解説図とそれに付された文字がちょっと小さくて見づらいことか)。
本の出来よりも改正法そのものに対して思うのですが、本書でもQ&A30問のうち後半の約半分が「時間単位の年次有給休暇の創設」についてのものとなっていて、ホントにこんな面倒なことを労使協定結んでわざわざやるのかなあという感じも(小数点単位で繰越し休暇を管理するなんて)。
もっと言えば、60時間超の時間外労働について割増賃金を50%にすることの代わりとなる「代替休暇制度」で、当初は労使協定で多くの企業がこちらを選ぶのではないかと思いましたが、21年5月29日通達にあるように、労使協定を結んでも本人に代替休暇を取るか取らないかを確認し、2ヵ月後までに実際に取得したかどうかを確認して、取得出来ていなければ翌月の賃金に反映させなければならないという(この2ヵ月間が「全額払いの原則」の適用除外になるというのも解せないが)その管理の面倒くささ(労務コスト)。
時間単位の年休はシステムの問題で解決される部分も多いかと思われますが、こちらは個々人の意思確認ですから、ヒューマンアクセスが頻繁に求められることになります(中小企業で、担当が1人で総務・経理・人事やっているような会社はどうするのだろうか)。
中小企業は適用が一定期間猶予されているとしても、その間、大企業に勤める労働者と中小企業に勤める労働者の割増賃金率が異なるのはおかしいし、そもそも、賃金を払えば長時間残業させてもいいというやり方が、本当に労働者(特にホワイトカラー)の生産性向上やワーク・ライフ・バランスに寄与するのでしょうか。
アメリカでは既に週40時間以上の労働について5割以上の割増賃金を課していますが、その代わり、ホワイトカラー・エグゼンプション等でこの割増賃金の対象外となる労働者が40%もいるのに対し、日本はホワイトカラー・エグゼンプションはやらないで5割増しだけ導入ということで、果たしてどちらが労働者のためになるのか簡単には言い切れないものの、個人的には疑問の多い法改正だと思われます。
投稿者 wadamy : 23:48
2009年08月02日
【1211】 △ 新田 義治 『成功本はムチャを言う!?』 (2008/08 青春新書INTELLIGENCE) ★★☆
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この本そのものも、「心理屋さん」が書いた成功本。
『成功本はムチャを言う!? (青春新書INTELLIGENCE)』 ['08年]
成毛 眞 『本は10冊同時に読め!―本を読まない人はサルである!生き方に差がつく「超並列」読書術 (知的生きかた文庫)』 ['08年]
タイトルから「成功本」を斬って捨てる本かと思いきや、「成功本の著者が説く成功ノウハウや成功法則と、それをなかなか自分に生かし切れない読者のギャップを埋めることを目的に」書かれた本であるとのことで、著者は、小学校教師から出版社の編集者、取締役を経て、今は、コーチングやカウンセリングを行う心理カウンセラー(乃至コンサルタント)―と言うか、そうしたことを商売とする事業者と言った方がいいかも。
本書では、成功本そのものを否定しているのではなく、成功本が説く法則(ノウハウ)を、「目標を明確にする」、「期日を決める、スケジュールを立てる」、「.好きな仕事をする」、「ポジティブ思考をする」、「人に感謝する、人に与える」、「自分に投資する」、「いい人と付き合う、人脈を広げる」、「潜在意識を活用する」の8つ類型に分け、これらの法則を読んでも実行できない読者の心理的障壁について、つまり読者が読んでどこに無理が生じる原因があるかを分析しています。
更に、人の行動価値基準を「目標達成的傾向(「勇」:行動を重視する人)」、「親和的傾向(「親」:調和することを重視する人)」、「献身的傾向(「愛」:愛し愛されることを重視する人)」、「評価的傾向(「智」:考えることを重視する人)」の4つの性格傾向に分け、これらに沿って成功本を“自分流”に読み替えるコツを伝授していますが、いかにも「心理屋さん」が書いた本といった印象も受けなくもなく、気づいてみれば、この本そのものも「成功本」の1種だったのかと…(この著者には『異性を思いどおりに動かす!』('93年/橘出版)なんて著書もある)。
「成功本」というのがどこまでを指すのかよくわかりませんが、個人的にはあまりそうした本は読まない方だと思います。
元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏が『本は10冊同時に読め!』('08年/知的生きかた文庫)の中で、「家にある成功者うんぬんといった本を捨てるべきである」とし(こっちの方がスッキリしている)、「ビジネスハウツー書ばかり読む人も、私から見れば信じられない人種である。まず、『金持ち父さん、貧乏父さん』系の本を読んでいる人、こうすれば儲かるという投資本や、年収1500万円を稼げるといった本を読んでいる人は、間違いなく『庶民』のまま終わるだろう。できる社員系の本を読んでいる人も同じである。なぜならば、他人のノウハウをマネしているかぎり、その他大勢から抜け出すことはできないからだ」と書いていますが、庶民のままで終わって何が良くないのかとは思うものの、「成功本」に対するスタンスは自分も成毛氏に近いかも知れません。
投稿者 wadamy : 22:36
2009年07月31日
【1210】 △ 岡本 一郎 『グーグルに勝つ広告モデル―マスメディアは必要か』 (2008/05 光文社新書) ★★★
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マスメディア企業への「生き残り戦略」についてのプレゼンのような中身。
『グーグルに勝つ広告モデル (光文社新書)』 ['08年]
冒頭のヤフーとグーグルの違いで、ヤフーがアテンションを集めて卸売りしているのに対し、グーグルはインタレストを集めて売っているのだという指摘は明快で、アテンションの総量は増えないのにアテンションを奪い合う競合の数は増えているというゼロサムゲーム状態が今あると分析し、マスメディアが獲得できるアテンションの総量が減少しこそすれ、増加させるのは非常に困難な状態において、広告媒体としてのマスメディアが生き残るにはどうしたらよいかという問い掛けをし、それに答えるかたちの内容になっています(ということは、アテンションの世界の話だから、「ヤフーを超える」ならまだしも「グーグルを超える」というタイトルは少し内容と合わない気がするが)。
テレビ・ラジオ・新聞・雑誌のマス4媒体とインターネットの広告特性を対比し、インターネットに対してマス4媒体がどのようなポジションを取り得るかを概説すると共に、各4媒体の今後の生き残り策を提言していますが、つまりは、テレビ局や新聞社が広告メディアとして生き残るにはどうしたらよいかという、言わばマスメディア企業へのプレゼンテーションのような中身で、一般向け新書としてどうなのかなあという印象もありました。
(ミスリード気味のタイトルがアイキャッチとしての“作為”にも思え、ついつい見方がシビアになってしまう。)
著者は、国内大手広告代理店にてメディアマーケティング、ネット事業立ち上げを担当した後、大手外資系コンサルティングファームに参加し、主にメディア企業、エンターテインメント企業に対しての企業変革、ビジネスモデル改革に関する提言活動に従事した後、独立したという経歴の持ち主だそうですが(実在の人物なの?)、実在の人物かどうかは別として、本の内容はまさにこの経歴に沿ったものでした。
テレビに求められるオンデマンド性、ターゲットメディアとしてのラジオ、宅配ネットワークをどう生かすかが課題の新聞、ネットとの代替性が低い情報でネットとの差別化を図る雑誌、といった具合に、それぞれの提言は比較的絞り込まれたものになっていて分り易く、話は、プレーヤー(媒体情報を乗せる機器)の問題、マスメディアそのものの要不要論(ここがサブタイトルに呼応)、コンテンツの現状と課題にまで広がり、最後に、メディアやマーケッターに情報テクノラートとして特権を振りかざすだけではこれからはやっていけないよと言っているような感じ。
言い換えれば、プロダクトアウト(乃至メディアアウト)からマーケットインへと言っているに過ぎないともとれるのですが…(だから、マーケティング会社やコンサルティングファームにご相談くださいということか)。
投稿者 wadamy : 23:39
【1209】 ○ 田中 洋 『企業を高めるブランド戦略』 (2002/09 講談社現代新書) ★★★☆
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ブランド資産、ブランド育成といったものを理解する上では、纏まっていて読み易いテキスト。
『企業を高めるブランド戦略 (講談社現代新書)』 ['02年]
かつて電通に勤務し、現在は大学でマーケティングを教える著者が、ブランド戦略について書いた入門書で、新書でありながらもかっちりした内容となっています。
ブランドは企業の資産であるという考え方をベースに、「ブランド」とは何か、「ブランドマネジメント」とはどいったことを言うのか、消費者にとってのブランドの意味は何かといったことから説き起こした上で、本題であるブランド戦略に関して、新たなブランドの創造、成熟ブランドの活性化、企業ブランドのマネジメント、ブランドコミュニケーションについてを解説し、更に、企業戦略とブランド戦略の関係について述べています。
ブランド資産、ブランド育成といった概念は、本書刊行時には既に日本においても、それぞれブランド・エクイティ、ブランディングという原語のまま定着していたように思われ、そうした意味では、これまでの潮流も含めて解説したインナー向けの教科書的な内容という感じもしないでも無いですが、カタカナをズラズラ並べるのではなく、ちゃんと自分の言葉にして書かれている感じがして、それが全体としての読み易さに繋がっているのかも(一方で、新書1冊にしては詰め込みすぎで、説明がやや簡潔すぎたり、尻切れトンボになっているきらいも)。
終わりの方にあるブランドの効果を巡っての院生と行った実験の結果や、各企業に取材したブランド育成戦略の中身についても、なかなか興味深いものでした。
キッコーマン/リーフレット「新酒 2003」
著者によれば、日本は企業ブランド社会であるとのこと、だから醤油メーカーのキッコーマンが70年代に初めてワインを発売した当初、「キッコーマンのワインは醤油が入っているような気がする」と関係者に言われ、「マンズワイン」というブランドを作ることで企業ブランドの使用を避けたとのこと。
一方、ネスレの調味料マギーのように、ネスレというブランドがマギーという当初はあまり認知されていなかったブランドの「保証マーク」として働く場合もあるわけで、この辺り、単一製品をイメージさせるブランドなのか、製品より(食品ならば食品全般にわたる)技術水準をイメージさせるブランドなのかの違いは大きいなあ(後者の方が汎用性が高い)。
また、「スター・バックス」の日本での成功例などに見られるように、今日ではブランドを短期的に育成し活用していくような経営・マーケティング戦略が競争優位をもたらす市場状況が出現しているという指摘も興味深いものでした(デル・コンピュータなどもそうだが、サービスプロバイダー型のブランドにとりわけ見られる特色とも言えるが)。
投稿者 wadamy : 23:23
【1208】 ○ 内田 東 『ブランド広告』 (2002/09 光文社新書) ★★★☆
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ブランド構築論よりも、コピーライターの視点から見た広告表現論が面白かった。
『ブランド広告 (光文社新書)』 ['02年]
Pepsi Michael
著者は電通出身のコピーライターで、大学でメディア表現について教えている人。本書では、定義上のブランドについてではなく、消費者が呼ぶところのブランドについて、つまり、どうすれば消費者にブランドと呼んでもらえるか(名前を聞いて良いイメージが喚起されるか)、ブランドを築く広告表現とはどのようなものであるかということについてを、広告キャンペーンのあり方を通して解説並びに考察しています。
途中にアカウント・プランニング(広告に消費者の価値観や心理を積極的に反映させる考え方)やIMC(Integrated Marketing Communications=企業が発信するマーケティング・コミュニケーション活動の戦略的な統合)理論の話が入りますが、実地面においてどの程度浸透しているかは別として、本書刊行時('02年)においては、こうした概念は日本の広告業界に既に定着していたように思うし、終盤にに出てくるクロスメディアという手法も、今や中堅クラス以上の総合広告代理店ならば、そうした課題を専門に扱う事業部や部門を持っており、そうした意味で目新しさはないかも。
むしろ、それら教科書的な話より、クリエーターの視点から、ブランド構築に繋がる広告表現というものを内外の数多くの具体例を挙げて考察しているのが興味深く、文章も読み易いため、最後まで面白く読めました(著者の言わんとしていることは、継続性、一貫性、繰り返しが大事であるということに帰結するだけの話なのだが)。
「Will-Girl」 Sony Will (米国)
コカ・コーラの新ヴァージョン「ニュー・コーク」の失敗と、先月('09年6月)亡くなったマイケル・ジャクソン(1958‐2009)を使った「新しい世代が選ぶぺプシ」の広告(マイケルの真似をしてストリートで踊っていた子が誰かにぶつかって、見上げたら本物のマイケルだったというCMは有名)の成功などのケーススタディは定番ですが、バドワイザーやナイキなど海外のブランド広告の解説は興味深いものでした。
それにしても、この著者、ソニーを随分高く買っているなあ(反対にパナソニックには厳しい評価)。
結局、ディズニーのようなバリューチェーン・カンパニーを目指したソニーのコンテンツビジネス志向は上手くいかなかったけれど、まあ、確かに今でもブランド価値評価はパナソニックよりは高いし、海外などで見る広告はSonyの方がPanasonicよりも断然垢抜けている…。
ベネトンのクリエーターのオリビエロ・トスカーニが刑の執行を待つ死刑囚を広告に起用して消費者や死刑囚の遺族の反発を受け、ベネトンは以前からのエイズ撲滅などのメセナ広告(と言っても、これらも一筋縄ではない表現方法なのだが)に路線を戻したという話については著者の思い入れたっぷりで、思想(この場合、「死刑廃止」)や芸術を志向して商売を忘れてしまったというのは、かつてのサントリー・ローヤルのCM「ランボー」にも通じるところがあるなあと思った次第です。
桃屋のCMの三木のり平の声は、息子の小林のり一がやっていたのかとか、一応、全ての話が「継続性・一貫性の大切さ」という趣旨とリンクはしているのですが、その辺りあまり教科書っぽくなく、1つ1つの話そのものを面白く読みながら理解できるのが、本書の特長でしょうか。
TBS (2002.12放映) 「CBSドキュメント~死刑囚広告の波紋」より
投稿者 wadamy : 23:00
2009年07月28日
【1207】 ○ 石井 淳蔵 『ブランド―価値の創造』 (1999/09 岩波新書) ★★★★
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「ブランド」とは何かを分り易く解説。入門書ながらも多角的(ポストモダン的)視点。
『ブランド―価値の創造 (岩波新書)』 ['99年]
現代資本主義経済の特徴となっている「ブランド」(「消費資本主義社会」の特徴となっていると言ってもいいが)―その「ブランド」とは一体何かということになると、自分自身は広告会社に勤めていた経験があるのに、それでいて永らく漠としたイメージしか持ち得なかったのですが、その「ブランド」というものについて分り易く解説したのが本書で、入門書でありながらも多角的かつ深く抉った内容となっています。
所謂「ブランド商品」の話から始まり、グリコの「ポッキー」の誕生秘話を通してのブランドがいかに生成され、どのような過程を経て定着していくかの解説は、入り込み易くて分り易いものでした(ポッキーは最初はプリッツ系の位置づけだったのか、とか)。
続いて、日清食品のカップ麺、袋麺のブランド戦略を通して、ブランドと製品の違いをより明らかにし、競合商品の逆を行った戦略で成功した花王の「アタック」の事例を通して、ブランドの生成期においてはブランド・マーケッターの果たす役割が大きいこと、そして、これら全てを通して、ロングセラー商品は偶然では生まれないことを示しています。

そして、日本企業が得意とする新製品マーケティングのティピカルなものを紹介し、「ベンツ」と「トヨタ」のブランド戦略の違いを通して、内外のブランド戦略の違いを明らかにし、更に「無印商品」というブランドを通して、ブランドの本質を更に深く考察(「無印商品」というブランドは具体的な商品としては何も示していないが、固有の意味的世界を持つと言う意味では、極めてブランドらしいブランドであると)、常に自己否定し1つのスタイルに固着しないことがそのブランドが市場で生き続ける秘訣であることを「イッセイ・ミヤケ」に見て取り、そして、ああ、やっぱり出ました「コカ・コーラ」、スタイルや機能を超えた「ブランド価値」という話になると、絶対出てくるなあ。
ブランドの創造的側面を記号論的に解き明かし(このポストモダン的視点が著者の本領)、この辺りからやや難しく感じる人もいるかと思いますが、常に実際の商品やブランドを事例に挙げて解説を進める姿勢がここでも貫かれていて、お陰で最後まで興味深く読めるものとなっています。
著者は、経営学、マーケティングが専門の学者で、広告代理店出身者が書いた類書などに比べて視野が広く、最後はやはり、消費社会、消費欲望とブランドとの関係についての論に向かうわけですが、この辺りはポストモダン風の社会学的論調となっているように思えました(著者自身は、「ブランド=共同幻想」論を否定し、再生し続ける商品群との相互関係において、それは実態としてあるものと見ている)。
著者によれば、ブランドの選択とライフスタイルの選択はどちらが先かは微妙だが、あるブランドを選んだ時点で、それはその人のライフスタイルに影響を及ぼしていることは間違いないと…。
そうだなあ、スポーツの練習が終わった後、蛇口から出る水を一気に飲む爽快感―ってイメージは、もう今は、ポカリスエットやアクエリアスを飲むCMのイメージに置き換えられ、若い人たちは実際に後者の体験しかないんだろうなあ。
投稿者 wadamy : 22:44
2009年07月18日
【1206】 ○ 土屋 耕一 『コピーライターの発想』 (1974/03 講談社現代新書) ★★★★
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ある意味、丸々1冊、コピー的な手法で書かれた「発想法」の本。

『コピーライターの発想 (講談社現代新書 (724))』 ['74年]
『土屋耕一全仕事』 ['84年/マドラ出版]
'09年3月に亡くなったコピーライター・土屋耕一(1930-1209/享年78)の本で、'74年刊行ですから、40歳代半ば頃の著作ということになります。
伊勢丹とか資生堂の広告コピーは、一時この人の独壇場だったなあ。
竹内まりやのデビューシングルにもなった伊勢丹の「戻っておいで・私の時間」、アリスの堀内孝雄によりヒットした資生堂の「君のひとみは10000ボルト」など、CMソングがヒットチャートの上位を占める現象のハシリもこの人。大瀧永一の「A面で恋をして」も、この人のコピー。
「軽い機敏な仔猫何匹いるか」などの回文作家としても知られていました(そう言えば、「でっかいどお。北海道。」の眞木準も亡くなった(1948- 2009/享年60))。
コピーライターという職業が脚光を浴び始めつつも、1行文章を書いてたんまり報酬を貰うナンダカ羨ましい職業だなあという偏見や誤解が勝っていたような時代に、コピーライターというのが実際にはどういった仕事の仕方をしているのか、その発想はどのようにして生まれるかを(これが結構たいへんな作業)わかり易く、また楽しく書いたものだと言えますが、そうした意味では、コピーライターや広告業界志望者へのガイドブックにとどまらず、「発想術」「ひらめき術」の本とも言え、広くビジネスに応用が利くのでは。
“ひらめき”と“思いつき”はやはり違うわけで、本書によれば、「唐突に、頭の中の風にやってくるものは、浜べに打ち寄せられる、あの、とりとめのない浮遊物と同じであって、すべては単なる思いつきのたぐいにすぎないのだ」と。
「戻っておいで・私の時間」(竹内まりや/伊勢丹'78年CMテーマソング)
/「君のひとみは10000ボルト」(堀内孝雄/資生堂'78年秋のキャンペーンソング)
「ひらめきだって結局は頭の中に、ぱっとやってくることは、やってくるのだ。ただ、その現われたものが、ほかの浮遊物とちがうところは、それの到着をこちら側で待ちのぞんでいたものがやってくる、という、このところでありますね。ひらめきとは、じつに、『待っていた人』なのである」とのこと。何となく分る気がします。
口語調に近い文体で書かれているのも、この頃の新書としては珍しかったのではないでしょうか。
でも、こうした柔らかい感じで文章を書くというのは、本当は結構難しいのだろうなあと、読み返した今は、そのように思われました。
それと、やはり“比喩”表現の豊富さ! ある意味、丸々1冊、コピー的な手法で書かれた「発想法」の本とも言えるかも知れません。
「A面で恋をして」 資生堂CM
投稿者 wadamy : 00:52
【1205】 ○ 稲垣 重雄 『法律より怖い「会社の掟」―不祥事が続く5つの理由』 (2008/04 講談社現代新書) ★★★☆
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会社組織の日本的特質に関する考察は鋭いが、タイトルがちょっと…。
『法律より怖い「会社の掟」―不祥事が続く5つの理由 (講談社現代新書 1939)』 ['08年]
本書は全3章の構成で、第1章で、企業不祥事が無くならないのは何故かということについて、日本人の法意識や自我の問題、日本人によって構成される組織の原理と行動について分析し、日本人は伝統的な徳目など「見えない規範」によって行動するが、そこにはキリスト教の聖書やイスラム教のコーランのような絶対的契約文書が存在しないため、その時々で禁忌される行動が変わってしまうという深刻な問題を孕んでおり、共同体的な組織は共同体の存続、対面を保つための「会社の掟」が不文律として浸透しがちで、組織の構成員は無意識的にそれに従ってしまう傾向があるのが、不祥事が無くならない理由であるとしています。
この部分は明快な文化論、日本人論にもなっているようにも思えました。
第2章では、企業不祥事を、「不正利得獲得」傾向が強い不祥事と、「共同体維持」傾向が強い不祥事に大別し、多くの事例を挙げてそれらを細分化し(この部分が本書のユニークポイントであり白眉かも)、第3章では、近江商人の「三方よし」という理念とその根底にある経済活動の社会性や共生・協働、勤勉・努力を尊ぶ考え方に着目して、それが今で言うCSR(企業の社会的責任)に近似することを指摘し、そこから、企業不祥事が無くすにはどうすれば良いかを考察しています。
個人的には、やはり、「共同体維持」傾向が強い不祥事に日本人組織の特質を感じました(「不正利得獲得」傾向が強い不祥事と言うのは、エンロン事件とか海外でも多くあったのでは)。
全体に鋭い考察と含蓄に富む指摘の詰まった内容ですが、読みながらずっと心に引っ掛かったのは、「会社の掟」をネガティブな意味合いで捉えていることで、それはそれで論旨の流れの上ではいいのですが、そうであるならば「法律より怖い『会社の掟』」という表題は、ミスリードを生じさせやすいのではないかと(日本企業の“現状”であって、“あるべき状態”へ向けてのベクトルが無いタイトル)。
テキサス・インスツルメント社の「エシックス(倫理)・カード」が紹介されていますが、IBMのBCG(ビジネス・コンダクト・ガイドライン)などは、これの比ではないスゴさでしょう(ウェブで公開されているので、多くの人に見て欲しい)。
こうした独自に倫理基準を持っている外資系企業では、抜群に高い業績を上げ、いずれは役員になること間違いなしと言われていた人が、いつの間にか急にいなくなっていたりする―その殆どは、こうした「社内の倫理基準」に反する行為がどこかであったためであり、刑事訴追されるわけでもなければ懲戒発令されるわけでもない、でも、もうその人はその会社にはいない―これこそ、「法律より怖い『会社の掟』」であり、また、そうあるべきだろうと思った次第です。
投稿者 wadamy : 00:51
【1204】 ○ 大塚 将司 『死に至る会社の病―ワンマン経営と企業統治』 (2007/03 集英社新書) ★★★★ (○ オリバー・ストーン 「ウォール街」 (87年/米) (1988/04 20世紀フォックス) ★★★☆)
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ワンマンの害悪より、「株式会社」とは何たるかを知る上で大いに勉強になった。
『法律より怖い「会社の掟」―不祥事が続く5つの理由 (講談社現代新書 1939)』 ['07年]
タイトル及びサブタイトルから「ワンマン経営」が企業統治の上でいかに害悪をもたらすかを書いた本だと思ったのですが、趣意はその通りであるにしても、配分上はかなりのページ数を割いて、「株式会社」制度の今とその起源及び歴史を解説していて、加えて、アダム・スミス、マルクス、ウエーバーの「株式会社」観にまで言及されており、「株式会社」とは何たるかを知る上で大いに勉強になりました(あとがきに「ワンマン経営者」を横糸、「株式会社の過去、現在、未来」を縦糸にして、株式会社のどこに欠陥があり、その欠陥を克服できるのかを考察した本であると書いてあった)。
米国や英国などの“企業統治先進国”が、現在のそうした統治体制に至るまでの経緯を、近現代に起こった企業不祥事や経済事件との関係において示しており、これはこれで各国の企業統治のあり方を、シズル感をもって理解することができ、また、読んでいても飽きさせないものだったと思います(著者は日本経済新聞社の記者だった人で、今は系列のシンクタンクに所属)。
もちろん米国だって、全ての制度が旨く機能したわけではなく、本書にある通り、会長とCEOの兼務を認めていることにより権力が一個人に集中し、「独立取締役会」が形骸化してエンロン、ワールドコム事件のようなことが起きているわけだし(英国は会長とCEOの兼務が認められていない)、更にはアンダーセンといった監査法人もグルだったりした―そうした事件を契機に「独立取締役会」の成員条件や機能を強化し、SOX法などが定められ、企業に対する情報開示要請や内部監査機能は日本よりずっと厳格なものにはなっていることがわかります(こうして見ると日本の内部監査は遅れているというか迷走している)。
本書で多く紹介されている敵対的企業買収の事例なども、企業の情報開示の弱い部分、株主の目の行き届かない部分を突いており、それでも、オリバー・ストーン監督の映画「ウォール街」('87年/米)のゲッコー氏のモデルとなった米国の投資家アイバン・ボウスキー(本書160ページに登場、「ジョニ黒」を作っている会社の買収争奪戦で、英国ギネス社の株価を釣り上げるためにギネス社と結託して暗躍した)のような人物は、この先も出てくるのだろうなあ(インサイダー取引で逮捕されたこの人について書かれたジェームズ・B・ステュアートの『ウォール街・悪の巣窟』はピューリッツァー賞を獲得している)。

因みに、映画「ウォール街」の方は、ゲッコー氏を演じたマイケル・ダグラスにアカデミー主演男優賞をもたらしましたが、ストーリー的にもややご都合主義的かなとも思える部分はあったもののまあまあ面白く、個人的にはむしろ、マーティン&チャーリー・シーンの親子共演が印象的でした。
チャーリー・シーンがゲッコーに憧れる駆け出しの証券マンを演じ、その父親役のマーティン・シーンは、今や買収されそうな飛行機工場に働く組会活動に熱心な労働者という役どころで、「地獄の黙示録」('79年/米)から8年、随分老けたなあという感じがしましたが(当時、彼は出演作に恵まれていなかった)、後にテレビドラマ「ザ・ホワイトハウス」('99年-'06年)の合衆国大統領役で復活し、エミー賞主演男優賞を獲得しています(「ザ・ホワイトハウス」は、シーズン1の第1話が一番面白い)。
「ウォール街」●原題:WALLSTREET●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:オリバー・ストーン●製作:エドワード・R・プレスマン●脚本:スタンリー・ワイザー/オリバー・ストーン●撮影: ロバート・リチャードソン●音楽:スチュワート・コープランド●時間:128分●出演:マイケル・ダグラス/チャーリー・シーン/ダリル・ハンナ/マーチン・シーン/ハル・ホルブルック/テレンス・スタンプ ●日本公開:1988/04●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:二子東急(88-09-18)(評価:★★★☆)●併映:「ブロードキャスト・ニュース」(ジェイムズ・L・ブルックス)
投稿者 wadamy : 00:46
2009年07月04日
【1203】 △ 樋口 弘和 『新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか―失敗しないための採用・面接・育成』 (2009/01 光文社新書) ★★★ (△ 本田 有明 『若者が3年で辞めない会社の法則』 (2008/11 PHP新書) ★★☆)
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所謂「タイトル過剰」気味。中身はオーソドックス乃至は古典的。
『新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか (光文社新書)』 ['09年]
『若者が3年で辞めない会社の法則 (PHP新書)』 ['08年]
日本ヒューレット・パッカードの人事出身で、採用コンサルタントの樋口弘和氏(1958年生まれ)が書いた『新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか』('09年/光文社新書)は、タイトルに何となくムムッと惹きつけられて買ってしまいましたが、中身的には、サブタイトルの「失敗しないための採用・面接・育成」というのが順当で、要するに、新卒採用が「期待はずれ」のものとならないように予防するには、面接において留意すべき点は何かということ。
内容は比較的オーソドックスで、強いてユニークなところを挙げれば、本来の「お見合い形式」の面接を改めて「雑談形式」面接で本来の素質を見抜くというのは、時間的余裕があれば採り入れてもいいかなあと思いました(これが「模擬討論」みたいな硬いものになると、却って人材の質の見極めが難しくなるけれども、多くの企業ではその難しい方のやり方でやっている)。
志望動機とかキャリアビジョンとかを語らせても、仕事というのは将来性志向だけでは空回りするものであり、今まで何をしてきたか、どんな役割だったかを、掘り下げて雑談風に聞くのが良いというのは、著者がヒューレット・パッカードの米国本社でのキャリア採用の現場を見て体験的に学んだことのようですが、この辺りの日米の採用面接のやり方の違いは、興味深いものでした。
但し、そうした考えに基づく実際の面接の進め方の例も出ていていますが、これはこれで、面接する側に相当のヒューマンスキルが求められるような気も。
前半部分ではリテンション(人材引止め)についても触れられており、「OJTは放置プレイ」と言い切っていて人材育成の重要性を説いていますが、この辺りは本田有明氏の『若者が3年で辞めない会社の法則』('08年/PHP新書)においても強調されていました。
本田有明氏は1952年生まれのベテランの人事教育コンサルタント。この人の書いたものは月刊「人事マネジメント」などの人事専門誌でも今まで読んできただけに、リテンション戦略の中心にメンター制度を含めた社内教育制度を据えるというのは、読む前から大体予測がつき、実際、そうした内容の本でした(「辞めない法則」ではなく「辞めさせない制度施策」、人材確保というより人材教育そのものの話)。
組織風土の問題を語るのに“厚化粧がこうじた挙句の「仮面会社」”とか“仕切っているのは「レンタル社員」”とか “制度はそろっているのに「機能不全」”といった表現がぽんぽん出てくるのも手慣れた感じですが、「トリンプ・インターナショナル・ジャパン」や「未来工業」の事例も使い回し感があり、書かれていることに正面切って異論は無いのですが、樋口氏よりやや年齢が上であるということもあるのか、「仕事の面白さやロマンを堂々と語れる浪花節的上司たれ」みたいな結論になっているのが、ホントにこれで大丈夫かなあと。
あまりに古典的ではないかと。実際、若手社員の意識は昔とそう変わらないということなのかも知れませんが。
樋口氏の本より“啓蒙書”度が高いように思われ(微妙な年齢差のせい?)、何れにせよ、両著とも、タイトルから受ける印象ほどの目新しさやパンチ力は感じられませんでした(所謂「タイトル過剰」気味)。
投稿者 wadamy : 00:02
2009年06月30日
【1202】 ◎ 森岡 孝二 『貧困化するホワイトカラー』 (2009/05 ちくま新書) ★★★★☆
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データの裏づけが十分にあり、一般にも読みやすいホワイトカラーの現状分析。
『貧困化するホワイトカラー (ちくま新書)』 ['09年]
森岡 孝二 氏
労働経済学者による本で、第1章で、ホワイトカラーとは何かその原像をアメリカに探る一方、アメリカにおけるホワイトカラーの置かれている情況を、データを交え分析していますが、著者はジル・A・フレイザー著『窒息するオフィス―仕事に強迫されるアメリカ人』('03年/岩波書店)の訳者でもあり、米国労働事情に対する造詣の深さを感じました。
第2章、第3章では、日本のホワイトカラーの現状を、データを交えながら分析し、ホワイトカラーのこれまで以上に“搾られる”ようになっている現状と(ああ、アメリカと同じことになっているなあ)、過労死・過労自殺事件の判例から、その働かされ過ぎの実態を考察しています。
第4章では、上場企業を中心に日本のサラリーマン社会における女性差別について考察、賃金差別撤廃などの裁判上のこれまでの女性たちの闘いを追い、第5章では、「ホワイトカラー・エグゼンプション」について、経済界と政府がいう「自由で自立的な働き方」とした説明の“嘘”を指摘しています。
前著『働きすぎの時代』('05年/岩波新書)もそうでしたが、この著者の書くものはデータの裏づけが十分にあり、参考文献や資料の読み込みもしっかりして、それでいて、学術書然とせず、一般にも読みやすいものになっている点に感心させられます(ルポルタージュ的視点が織り込まれていることもあるが)。
個人的には、ホワイトカラーというものの増加傾向が既に止まっていること、管理職の過労死・過労自殺発生率が高いこと、ホワイトカラーの方がブルーカラーより労働時間が長くなっていること、労働時間の性別二極化が進んでいること等々多くのこと知り、収穫がありました。
「ホワイトカラー・エグゼンプション」については、すでに残業がつかない労働者が2割いて、その中には「名ばかり管理職」として実態適用されている人が相当数おり、裁判になれば企業が負ける―その危険を回避するために、経済界と政府が持ち出したものであると。
偽装請負などについても同様のことをいつも思うのですが、裁判になれば企業側が負けているのに、法律自体は見直さずにきた(急に規制のみを強めた)立法府(及び行政)にも問題があるのではないかと思った次第です。
本書では、トヨタ関連企業での過労死を労災認定しなかった豊田労基の例が紹介されていますが(後に行政訴訟で労基側が敗訴)、大企業の中には裏口であの手この手の労基署対策をやっているところもあるのは確か。
労働側の学者が書いた本ということで、企業側の人にはあまり読まれないかも知れませんが、産業構造・労働実態の変化を俯瞰する上でも参考になり、「賃金労働者とホワイトカラーの際立った違いの一つは、賃金労働者は彼の労働とエネルギーとスキルを売るが、ホワイトカラーは、多数の消費者、顧客、管理者に対して、自己の労働を売るだけでなく自己のパーソナリティを売る」(C・W・ミルズ、1957)といった引用にも、だからホワイトカラーの疲弊度は増すのだなあと納得させられたりしました。
投稿者 wadamy : 00:11
【1201】 × アスキー書籍編集部 『雇用崩壊』 (2009/04 アスキー新書) ★★
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オムニバス効果が見えず、寄せ集め感だけが印象に残った。
『雇用崩壊 (アスキー新書)』 ['09年]
'09年4月刊行。未曾有の経済危機で、企業による「派遣切り」が横行し、「正社員リストラ」の兆しも見えるなど、日本の雇用のあり方が問われている中、「第一線の論客たち」7名にこの問題についての提言を求め、解決策を模索した本―と言っても、まあ、それぞれの立場の人がその立場での話を(勝手に?)書いているなあという感じで、あまり目新しさはなく、全体としての寄せ集め感だけが印象に残りました。
日比谷公園の「年越し派遣村」('09年1月/共同通信)
冒頭の民主党国会議員への“SUPECIAL INTERVIEW”は国会答弁みたいだし、次に来る『若者はなぜ3年で辞めるのか?―年功序列が奪う日本の未来次に来る』(光文社新書)の著者・城繁幸氏のものは、これはインタビューに答えたもので、自著の内容のリフレインに過ぎず、その次の(労働側にとっては悪評高い)元「経済財政諮問会議」メンバーの八代尚宏氏の話も論筋があちこち飛んで(これもインタビュー?)、結局、「規制緩和」が雇用悪化の“犯人”ではないという弁解に聞こえなくもありません。
一方、それに続くユニオンやマスコミの人の話は、事態の深刻さを訴えるばかりで(ちょうど年末年始にかけ「年越し派遣村」が話題になった頃に取材申し込みしたようで、そのことを使用者側も含め多くの人が取り上げている)その先がどうすればいいのかが見えにくく、最後のリクルートの元「とらばーゆ」編集長のものは自助努力論?(城繁幸氏のものもそうだが)
雇用流動化への認識と、同一労働同一賃金であるべきという方向性については、多くの論者の見方がほぼ一致しているのに、なかなか議論が交わらないという感じを受けるのは、労と使、ミクロとマクロという面で、それぞれが向いている方向がばらばらであるためでしょうか。
八代氏の話の次に、ユニオンの連合会の事務局長の話が来るので、この2つを読み比べると、そのことが鮮明になります。
労働法学者の大内伸哉氏が『雇用はなぜ壊れたのか―会社の論理vs.労働者の論理』 (ちくま新書)の中で、「会社の論理」と「労働者の論理」の調整が難しい時代に今あることを指摘していましたが、お互いに実のところどうしたらいいのか解らないというのが本音であるような気もしないでもなく、八代氏の言うことにしても(個人的にはこの人の論を全否定はしないが)、「差別のない、多様な働き方ができる社会へ」とだけ言われてもねえ、みたいな印象は抱かざるを得ませんでした。
投稿者 wadamy : 00:06
2009年06月23日
【1200】 ◎ 大内 伸哉 『雇用はなぜ壊れたのか―会社の論理vs.労働者の論理』 (2009/04 ちくま新書) ★★★★☆
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「味方のように微笑む美女が、じつは悪魔であったということもある」ことを考えさせられた。
『雇用はなぜ壊れたのか―会社の論理vs.労働者の論理 (ちくま新書)』
大内 伸哉 氏(略歴下記)
雇用問題の中には、会社が利益を追求する「会社の論理」と、労働者が自らの権利を守る「労働者の論理」の2つの論理があり、経済の激変で両者の調整が一段と難しくなった今、どうすれば両者の論理を比較衡量し、調整が図れるかということを、セクハラ、長時間労働、内定取消、期間工の解雇、正社員リストラなど、雇用社会の根本に関わる11のテーマを取り上げ、それぞれについて対立軸を行き来しながら考察した本です。
従って、表題の「雇用はなぜ壊れたのか?」というその原因を明らかにする内容ではなく、そのためミスリード気味のタイトルではないかということで、書評ブログなどでも評価が割れているようですが、個人的には、本書から、多くのことを考えさせられる契機を得られました(ブログなどでは、結論が明確でない、或いは立場が「会社の論理」に偏っているといった批判もあったようだが、そう簡単に結論が出せるような問題でもないし、考察の進め方は至極まっとうなものだと思う)。
法学者らしくない柔らかめの文体で、但し、内容は労働法と雇用社会の関係を考察して深く、例えば、解雇規制を強めることや最低賃金を引き上げることは、それが労働者の権利を守ること繋がると言い切れるのか、といったことを解り易く問題提起しています。
自分個人がかつて経験したこととして、ハローワークに営業職の求人を出したものの同業種経験者の採用はならず、異業種の若手営業経験者を採用内定した際に、内定後に、「示された給与額が求人票の額より下回っているのは違法だ」と言ってこられたことがありましたが、ハローワークに出した労働条件と実際の労働条件が異なることは必ずしも違法ではないと考え、本人に提示額の根拠説明をし、額の変更は行わなかったということがありました。
もし、法規制が強化されて、こうしたことが即違法となるならば、企業は低い給与額の(給与額に幅のある)求人を出して対処するかも知れませんが、むしろこうしたケースでは、本命筋の採用は出来なかったということで諦める可能性が高く、仮に当時からそうだったとすれば、この営業職(今もその会社で正社員として元気に働いている)の入社は無かったでしょう。
先述のように「会社の論理」に立っているとの批判もありますが、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」という労基法3条の「社会的身分」とはどこまでをいうのか、パートタイマーや非正社員の給与が正社員より低い場合は「均等待遇」原則に反しないかという問題について、「社会的身分」とは、自らの意志では離れることのできない「生来の身分」をいい(通達)、パートタイマーや非正社員といった雇用形態の違いは該当しないと解されていることに対し、これは詰まるところ「自己責任論」であり、疑問の余地があるとしています。
本書では、「会社の論理」「労働者の論理」に加えてもう1つ「生活者の論理」というものを取り上げていて、著者によれば、日本人は少しでも豊かな生活をしたいという「生活者の論理」が「労働者の論理」に優先するという選択をしているとのことで(イタリア人などは逆)、但し「生活者の論理」が一方的に「労働者の論理」に優先するのではなく、その両者の均衡が日本的経営の強みだった(長時間労働もするが雇用は確保されている)とのこと。
(著者自身は格差社会を是認しているわけでもないし、正社員と大きな賃金格差のある非正社員がいることは社会正義に反するとしている。その上で、)例えば、正社員と非正社員との均衡をとるということは、格差問題(貧困問題)の一時的な処方箋とはなり得るかもしれないが(実際、最低賃金法やパート労働法の改正はその流れに沿って行われてきた)、この「生活者の論理」と「労働者の論理」の間のバランスを壊すことになりかねないとしています。
この辺りは、実際に本書を手にして読み込み、それぞれの読者が自ら考えていただきたいところですが、「味方のように微笑む美女が、じつは悪魔であったということもあるのである」(219p)と。
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大内 伸哉 (オオウチ シンヤ)
1963年生まれ。法学博士。専攻は労働法。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。現在、神戸大学大学院法学研究科教授。主な著書に『労働条件変更法理の再構成』『労働者代表法制に関する研究』(以上、有斐閣)、『雇用社会の25の疑問』『労働法学習帳』(以上、弘文堂)、『労働法実務講義』『就業規則からみた労働法』(以上、日本法令)、『どこまでやったらクビになるか』(新潮新書)など。
《読書MEMO》
●「ちくま 458号」 (筑摩書房)の一部を転載((神戸大学のサイトより)
「拙著『雇用はなぜ壊れたのか?-会社の論理vs.労働者の論理』は、実は、雇用が壊れた原因を明らかにしようとした本ではない。 むしろ、本書で描きかったのは、雇用が壊れる過程における、会社の論理と労働者の論理の関わり合いについてである。 これらの論理の関わり合いを明らかにすることを通して、筋の通った正しい政策はどのようなものかを模索していきたかったのである。 それは、必ずしも会社にも労働者にも「甘い」ものばかりではない。正義の女神は、剣をもっている。母のように「甘える」ことは危険なのである。」
投稿者 wadamy : 00:06
2009年06月20日
【1199】 △ 竹内 裕 『日本の賃金―年功序列賃金と成果主義賃金のゆくえ』 (2008/11 ちくま新書) ★★★
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「●ちくま新書」の インデックッスへ
ちくま新書というより「日経文庫」的。もっとコンサルタント的視点や提言を入れてもよかった。
『日本の賃金―年功序列賃金と成果主義賃金のゆくえ (ちくま新書)』 ['08年]
人事・賃金コンサルタントによる本で、日本の賃金の歴史、日本の賃金が抱えている問題点、日本企業にとって望ましい賃金制度とはどのようなものか、基本給や諸手当は今後どうなっていくか、賞与制度の方向性や賃金格差の今後、退職金制度の将来などについて書かれていますが、あまりに網羅的・教科書的で、「日経文庫」を読んでいるよう錯覚を感じました。
「日経文庫」でもコンサルタントが書いているものがありますが(例えば、『職務・役割主義の人事』(’06年/長谷川直紀 著)は外資系コンサルティング会社マーサー・ヒューマンリソース・コンサルティングのコンサルタントによるもの)、あちらは最初から入門書であることを意図したものであり、結果的に網羅的・教科書的であることがままあるのも仕方ないとして、本書については「ちくま新書」に収めるのにこの内容は如何なものかと思ってしまいました。
実務書としてはいい本も書いている人なので、もう少しコンサルタント的視点や提言を入れてもいいのではないかという気がしながら読んでいましたが(タイトルだけでは本書の企図が見えにくいのも難点)、そうしたものは終わりの方の賞与制度や賃金格差について述べたところで少し出てきたかなという感じで、個人的には肩透かしを喰った感じでした。
最初から「教科書」だと割り切って、勉強のつもりで読めばそれほど悪い本でもないと思うのですが、そうした「お勉強」志向で「ちくま新書」を手にする読者がどれぐらいの割合でいるだろうかとか、賃金制度の業務に携わったことの無い人には字面(じづら)だけではイメージしにくい部分があるのではないかとか、要らぬ気を揉んでしまいました(文章自体が読みにくいわけではないが)。
『パートタイマーのトータル人事制度―資格・考課・賃金制度構築のすすめ方』
投稿者 wadamy : 23:29
【1198】 ◎ 風間 直樹 『雇用融解―これが新しい「日本型雇用」なのか』 (2007/04 東洋経済新報社) ★★★★☆
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雇用労働問題の先駆的ルポ。「製造業復活」が非正規雇用により支えられていたということがよく解る。
『雇用融解―これが新しい「日本型雇用」なのか』 ['07年]
風間 直樹 氏 (週刊「東洋経済」記者)
'07年の刊行。東洋経済新報社の記者が'02年から足掛け5年に渡って「新しい日本の雇用」の実態に関する取材をし、それを取り纏めたもので、この本の後に刊行された「偽装請負」や「ワーキングプア」等の労働・雇用を巡る諸問題を扱ったルポルタージュと比べても、カバーしている範囲とその切り込み度合いの深さにおいて出色のルポだったのではないでしょうか。
まず第Ⅰ部では、「製造業復活」と言われる裏側で、現場ではどういったことが行われているかを取材しており、序章では、シャープ亀山工場「アクオス」製造現場における非正規雇用の実態(外国人労働者の優先的受け入れにより、企業誘致が地元の雇用創生に繋がっていないという“亀山パラドックス”)を、第1章では、業務請負業「クリスタル」の実像とグッドウィルによる買収劇を、第2章では、松下プラズマディスプレイ(MPDP)茨木工場「VIERA」製造現場に派遣される請負労働者の実態と、MPDP社員の請負会社への出向(偽装請負)などを、第3章では、「外国人研修生」という名の下に奴隷のような労働条件を強いられる外国人労働者たちとその背後にある彼ら・彼女らをコーディネートする組織機構が取り上げられています。
更に、第Ⅱ部では、「働き方の多様化」と言われるなか、フリーター、パートタイマー、個人請負といった人たちがどういった情況に置かれているかを、それぞれ第4、第5、第6章で取り上げており、統計分析から見えてくるもの、改正パート労働法の問題点、或いは、労働法“番外地”とでもいう情況にある業務委託社員の問題に触れながら、こちらも多くの企業とそこに働く労働者及び業務委託社員の置かれた苦境を現場取材しています。
「雇用融解」と題した第Ⅲ部では、第7章でホワイトカラー・エグゼンプション問題、第8章で、医師(勤務医)・教師・介護士を蝕んでいる雇用環境の劣化を取り上げ、終章で、小泉内閣の構造改革・規制緩和路線が「雇用融解」を招いたことを分析・糾弾しています。
著者は本書刊行時30歳、ということは25,6から雇用労働問題を追っていたということでしょうか、取材開始当時はどの新聞や雑誌にも「クリスタルグループ」や「偽装請負」に触れた記事は無かったそうで、暗中模索での取材に関わらず(東洋経済の多くの記者のサポートを受けたとしても、基本的には、取材対象ごとにアルパイン・スタイル=単独登頂スタイルが取られている)、内容的にはよく纏まっており、新聞社が掲載済みの連載を書籍化した際によく見られるような継ぎ接ぎ感、バラバラ感がありません。
結局、製造業の復活などと言われたものが、劣悪な労働条件の非正規雇用の労働者によって支えられていたということが本書を読み直すとよく解り、章の終わりに、折口雅博グッドウィル会長(当時)や奥谷禮子ザ・アール社長などへのインタービューが挿入されていて、折口氏は「クリスタル」のオーナーとは一度も会うことなくその会社を買収したと言い、奥谷氏は、過労死は自己責任、労働省・労基署は要らないと言っている―これらも今読むとまた興味深いというか、改めてゲンナリさせられるものでした。
因みに、奥谷禮子氏は、「規制改革会議」の元委員で、最近('09年6月時点)西川善文社長の留任人事で揺れている日本郵政の社外取締役でもあり('06年1月~)、郵政公社から受注した「職員のマナー講習」の売上げは、これまでに7億円前後になるそうな。
投稿者 wadamy : 23:20
2009年06月18日
【1197】 ○ 駒崎 弘樹 『働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法』 (2009/05 ちくま新書) ★★★★
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「働き方」を今一度考えさせられると共に、「仕事術」の体験的指南書でもある。
『働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)』 ['09年]
駒崎 弘樹 氏(略歴下記)
http://www.florence.or.jp/
著者は、学生時代に起業したITベンチャー出身の人で、今は、自らが立ち上げた会社を共同経営者に譲渡し、子供が病気になり普通の保育園などで預かってもらず、そのために仕事を休まねばならないようなワーキングマザーのために、そうした子供を預かる所謂“病児保育”専門の託児所のネットワーク作りをしているNPO法人「フローレンス」の代表、と言っても、まだ29歳の若さです。
今までの日本人の働き方、人生を会社に捧げるような仕事中心の人生観、その割には低い生産性、といったことに対する疑問からスタートし、ITベンチャーの経営者として、それこそ身を粉にして仕事をしてきた自分を振り返り、そこから脱却していく思考過程が1つ1つ内省的に綴られていて、「働く」ということに対する根源的な思索となっている上に、新たに自分が描いたライフビジョンをどう行動に移していったかが、ユーモアを交えて語られています。
自分だけが自己実現やワークライフバランスの実現をすればいいというのではなく、社会実現(あるべき社会像の実現)を通しての自己実現ということを念頭に置き、社員、パートナーや親・家族、社会が豊かな人生を享受できるようにするためには自分がどうしたらよいかということを具体的に行動に移しています。
その手始めとして、自らが経営者である会社の「働き方」(仕事のやり方)をどう変えていったか、どう仕事の「スマート化」していったかということが、論理的・実践的に紹介されていて(いきなり「とりあえず定時に帰れ、話はそれからだ」というのも凄いといえば凄いけれど)、仕事術(メール術・会議術・報告術・残業しない術...etc.)の指南書にもなっています。
ここで言う「スマート化」が、例えば「『長時間がむしゃら労働』から『決められた時間で成果を出す』」ということとして表されているように、個人的にはこの著者に対して、やはり何事においても徹底してやる「モーレツ」ぶりを感じなくもないし、著者の抱く家族観や人生観も、新たなことを提唱しているのではなく、ある種“原点回帰”的なものに過ぎないような気もしなくもありませんでした。
でも、「働く」とは「傍」を「楽」にすることであり、その「傍」とは家族だけなく地域や社会に及ぶという発想や、「『成功』ではなく『成長』」、「『目指せ年収1000万円』ではなく『目指せありたい自分』」、「『キャリアアップ』ではなく『ビジョンの追求』」、「『金持ち父さん』ではなく『父親であることを楽しむ父さん』」といったキーワードの整理の仕方などに、通常の啓蒙書(著者は啓蒙書が好きでないみたいだが)には無い視座が感じられました。
「働き方革命」をしたら、会社でトラブルがあって倒産の危機に見舞われる、こうなったのも「働き方革命」したせいだと、今までやってきたことを全否定するような心境になった、というその話の落とし処も旨い、とにかく全体に読むものを引き込んで離さない文章の巧みさ(自分を3枚目キャラとした小説のように描いている)、もしかしたら、その点に一番感服したかも。
ただ、そうした文章テクニックはともかく、「働くということ」「働き方」について今一度考させられると共に、「仕事術」の体験的指南書としても、一読して損は無い本でした。
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駒崎 弘樹 (コマザキ ヒロキ)
1979年生まれ。99年慶応義塾大学総合政策学部入学。在学中に学生ITベンチャー経営者として、様々な技術を事業化。同大卒業後「地域の力によって病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくれまいか」と考え、ITベンチャーを共同経営者に譲渡し、「フローレンス・プロジェクト」をスタート。04年内閣府のNPO認証を取得、代表理事に。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)がある。2012年までに東京全土の働く家庭をサポートすることを志す。
投稿者 wadamy : 23:44
【1196】 ◎ 小室 淑恵 『新しい人事戦略 ワークライフバランス―考え方と導入法』 (2007/07 日本能率協会マネジメントセンター) ★★★★☆
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「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ
ワークライフバランス施策としての人事諸制度を企画・立案する(その前にまずイメージする)上で役立つ本。
『新しい人事戦略 ワークライフバランスー考え方と導入法』 ['07年]
『超人気ワークライフバランスコンサルタントが教える キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方』 ['08年]
著者は、最近では『キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方』('08年/ダイヤモンド社)などという本が好評の(その本のサブタイトルによると)“超人気ワークライフバランスコンサルタント”だそうですが、主に働く女性向けに自らの体験を綴ったその本に比べると、本書の方は、ワークライフバランス施策を体系的に論じているもので、具体的な制度にまで落とし込んでいるため、企業の人事部の人が読んで参考になる部分は多いのではないかと思います。
前半の1・2章がワークライフバランスについての概説と先進企業の導入事例、後半の3・4章が、ワークライフバランス導入のステップと、「育児休業」「介護休業」「短時間勤務制度」などの各制度メニューの解説となっています(最終章(第5章)はデータ編)。
前半部分では、脇坂明・学習院大学教授の「ファミリーフレンドリーな企業・職場とは」という研究成果が、〈ファミリーフレンドリー度〉と〈男女均等推進度〉との掛け合わせによる4象限で、「A.本物先進ワークライフバランス企業、B.モーレツ均等企業、C.見せかけのワークライフバランス企業、D.20世紀の遺物企業」というネーミングで括られているのが、個人的にはたいへん解り易かったです。
先進各企業の施策を見ると、複数の施策を何年かもかけて実施していることがわかり、じゃあ今からという企業はどうすればよいかといことで、第3章に「変革の8ステップ」が示されていますが、最初に「プロジェクトチームを作る」というのがきて、「2人以上」で「専任者がいる」ことが望ましいと。
確かにそうに違いないですが、大企業で人事部だけで何人も社員がいるような場合はともかく、中小企業にとってはこの辺りが1つのハードルになるかも。
但し、第4章で紹介されている「ワークライフバランスの各種制度とメニュー」の中には、中小企業でも出来なくはないと思われるものもあるし、中小企業向けの助成金なども紹介されています。
「育児休業」といった基本的な制度も紹介されていますが、本書にもあるように、「育休」などは、法定の規定を超えて期間の延長などの独自の制度を設けることで、はじめてワークライフバランス施策を講じたと言えるのであって、その点は要注意、「介護休業」や「子の看護休暇」も然りです。
また、休業期間中の人事評価をどうすれば、休業を取った社員のモチベーションを下げずに済むか、短時間勤務社員の評価はどうするかといった問題や、人事規定に盛り込むことが難しい「転勤配慮」にもキメ細かく触れられていて、ここでも先進企業の事例を紹介しているため、たいへん解りよいものとなっています。
個人的には、休業者の仕事の補填策として、「ドミノ人事制度」というものを提唱しているのが興味深く、これは、休業者の1つ下のランクの役職や経験の社員を代替要員として抜擢する方法で、代替要員となった社員の業務は、同様に1つ下のランクの社員に順次任せていくというものです。
代替要員となった社員は一定期間1つ上位の業務を担当することが出来るので、ステップアップのためのOJT(実務による訓練)となり、若手社員にとってのチャンス、職場全体のモチベーションアップになるという―ナルホド。
全体に読み易い中身で、ワークライフバランス施策としての人事諸制度を企画・立案する(その前にまずイメージする)上で役立つという点でお薦めです。
しかし、この著者は1年に何冊本を出しているのだろう(“第2の勝間和代”と化しつつある)。
この人自身の現時点でのワークライフバランスが気にならなくもない…。
《読書MEMO》
●ワークライフバランス導入の8ステップ(108p-173p)
1 プロジェクトチームを作る
2 スケジュールを組む
3 社内ニーズを把握する アンケート実施。フィードバックは早めに。
4 導入プランを策定する
5 経営層の理解と承認を得る 中小企業こそ、ワークライフバランス施策にはコストがかからないものが多いこと、中小企業向け助成金などが整備されていること、機動性が高く、トップの意識次第で素早く大きな動きが起こせて、採用でも他者との差別化が図れる。
6 計画を実行し、告知する
7 マネジメント層の協力を得る
・短時間で高い付加価値をつけるアイデアと、広い視野や人脈を持つ社員が求められる
・社員が私生活を充実させ、会社以外のフィールドを持って活動することで、付加価値の高い仕事ができる
・個人の私生活を大切にできる職場環境は、うつ病や過労死の予防にもつながる
・そのための戦略がワークライフバランスである。という流れを確認する
「朝メールフォーマット」 今日の予定、今日の優先事項、今日の帰社予定
8 チェック&フォローを行う
投稿者 wadamy : 23:35
2009年06月14日
【1195】 △ 佐藤 博樹/武石 恵美子 『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』 (2008/11 勁草書房) ★★★
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学術書、調査リポート的体裁。両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であると。
『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』 (2008/11 勁草書房)
「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向けて企業が取り組む際には、従業員の多様なニーズを前提とした柔軟な施策展開が重要になりますが、多様な施策を展開することは、企業にとってコストとなり、コスト削減を要請する経営戦略と従業員の意欲を引き出す人事戦略がぶつかり合うことになり、企業は「ワーク・ライフ・バランス」の重要性を頭ではわかっていても、実際にやるとなると及び腰になってしまう―。

本書は「従業員のワーク・ライフ・バランスを支援することが企業にとってどのようなメリットがあるか」という課題設定のもとに、データ分析により実証的にそのことを明らかにしようとしたもので、ニッセイ基礎研究書が行った、両立支援を含むワーク・ライフ・バランスに関する企業調査を基に、主に大学教授らが分析を行っています(全体の編集は、『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』('04年/中公新書)の佐藤博樹・武石恵美子の両氏)。
その分析結果として、先ず、女性の活躍の場を拡大するためには、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であることが明らかにされ、両立支援策を充実させている企業は、女性の活用に熱心であり、また、従業員のキャリア支援にも力を入れているということになるようです。
更に、こうした企業の施策は、人材確保においても効果を及ぼし、従業員の定着率も高く、但し、20代前半で採用した大卒正社員については、両立支援の利用程度はそれほどでもないとのことです。
後半では、均等施策や両立支援が企業収益に結びついているかという分析を行っていますが、結論としては、均等も両立支援(ファミフレ)も共に活用度が高い企業は、好業績を上げているが、両立支援を単独で入れた企業は、企業業績はかえってマイナスになっていると…。
全体として、学術書のような感じも。結論的には、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であるということになるのでしょうが、だったら均等施策だけでも良いのではという気もしなくもありません。
両立支援の企業に与える効果を検証しようとした意図そのものは評価すべきであるし、こうした検証は実際に必要だと思います。
但し、両立支援策と均等施策のそれぞれの効果を因子分析するのは、均等施策を行っている企業は両立支援も行っているという相関が高いため、結構、難しい作業になっているような印象を受けました(そうした中では、第6章の脇坂明・学習院大学教授による「均等度とファミフレ度の関係からみた企業業績」は、よく分析・整理されている方ではあると思うが)。
分析中心で、人事戦略の具体策にまで必ずしも落とし込めていないのは、本書が元々、調査リポート的性格のものであったということでしょうか。
但し、両立支援策を効果的なものにするには、均等待遇との並立が肝要であるという、これはこれで、1つポイントを絞った指摘がなされている本ではあると思います。
投稿者 wadamy : 23:35
【1194】 ◎ 大内 伸哉 『雇用社会の25の疑問―労働法再入門』 (2007/07 弘文堂) ★★★★★
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1179】 山川 隆一 『労働契約法入門』
読み易いが奥が深い。「入門書」というレベルを超えていろいろ考えさせられる良書。
『雇用社会の25の疑問―労働法再入門―』 〔'07年〕
大内 伸哉 氏
本書のはしがきには「労働と法、ときどきイタリア」とあって(著者のもともとの専門はイタリアの労働法)、「労働と法」について「イタリア風に味付け」した本という、ややくだけた口上がありますが、内容はなかなか濃かったです。
「労働法再入門」とサブタイトルにあるように、「どうして、労働者は就業規則に従わなければならないのか」といった解りづらい論点について、明快な文体で基本理論を解説し、また、判例解説も懇切丁寧で、全体として“学者言葉”の使用を控え、小説を読むように読みやすいものとなっています。
しかし、提示する25の疑問には労働法学者としての鋭い視点が窺え、例えば、一般に労働者によかれとしてなされている法改正が、果たして労働者のためになるものなのだろうかという見方を示したり、リーディングケースとされている判例にも、今の社会に置き換えた場合どうかといった疑念を挟むなど、常に、社会のあり方、変化を見据えつつ、原点に立ち返って考える姿勢が見られます。
その結果、「疑問」に対してすっきりした解答を出し切れていないものもありますが、そうした様々な要素が複雑に絡み合っているのが「雇用社会」というものなのだと改めて感じさせられ、法律の真意を探ることなく金科玉条のごとく盲従することの危うさを指し示しているようにも思えました。
「答えを出し切れない」という意味においては、著者の師匠筋にあたる労働法の権威・菅野和夫氏の『新・雇用社会の法』('04年/有斐閣)が、Q&A形式をとりながらも、多分に、法のカバーし切れない部分や曖昧な点に対し問題提起をすることを主眼としていたのとよく似ているし、こうしたスタイルの本では『新・雇用社会の法』以来の“読みで”のある本でした。
菅野和夫 『新・雇用社会の法』 〔'04年〕
さらっと読めるが奥が深く、「就業規則」の話から始まって、少子化や過労死の問題など昨今の労働経済や雇用環境を巡るトピックにも触れ、最後は「働くとはどういうことなのか」という根源的テーマにまで言及しています。
一方で、判例・用語解説等もよく纏まっていてリファレンス的にも使えるので、手元に置いておき、折々に読み返したい本です(そうしている内に、書評で取り上げるのが少し遅くなってしまったが)。
因みに、帯の「会社は美人だけを採用してはダメなのであろうか?」は、労働経済学者・大竹文雄氏が『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには』('05年/中公新書)で示した切り口を本書において引用しているもので、他書からの引用を帯にもってくることもなかろうにとも思うのですが、アイキャッチ効果があるフレーズとみたのかな。
大竹文雄 『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)』 ['05年]
《読書MEMO》
●主要目次
第1部 日頃の疑問を解消しよう
第1章 労働者の疑問
第1話 どうして、労働者は就業規則に従わなければならないのか
第2話 退職金は、退職後の生活保障としてあてにできるものか
第3話 労働者は、会社の転勤命令に、どこまで従わなければならないのか
第4話 女性社員は、夜にキャバクラでアルバイトをしてよいか―会社は、社員の私生活にどこまで介入できるか
第5話 会社が違法な取引に手を染めていることを知ったとき、社員はどうすべきか
第6話 労働者には、どうしてストライキ権があるのか
第7話 女子アナは、裏方業務への異動命令に従わなければならないのか
第2章 会社の疑問
第8話 会社は、美人だけを採用してはダメなのであろうか―採用の自由は、どこまであるか
第9話 会社は、試用期間において、本当に雇用を試すことができるか
第10話 会社は、どんな社員なら辞めさせることができるか
第11話 会社は、社外の労働組合とどこまで交渉しなければならないのか
第12話 会社は、社員の電子メールをチェックしてよいのであろうか
第2部 基本的なことについて深く考えてみよう
第13話 労働法は、誰に適用されるのか―労働者とは誰か
第14話 労働組合の組織率は、どうして下がったのか
第15話 成果主義型賃金は、公正な賃金システムであろうか
第16話 公務員には、ほんとうに身分保障があるのか
第17話 正社員とパートとの賃金格差は、あってはならないものか
第18話 定年制は、年齢による差別といえるであろうか
第19話 少子化は国の政策によって解決すべきことなのか
第3部 働くことについて真剣に考えてみよう
第20話 誰が「強い」労働者か―君は会社に「辞めてやる」と言えるか
第21話 労働者が自己決定をすることは許されないのか
第22話 日本の労働者は、どうして過労死するほど働いてしまうのか
第23話 雇用における男女差別は、本当に法律で禁止すべきことなのであろうか
第24話 会社は誰のものなのか
第25話 ニートは、何が問題なのか―人はどうして働かなければならないのか
投稿者 wadamy : 23:23
2009年06月10日
【1193】 ○ 峰 隆之 『賃金・賞与・退職金Q&A― 労働法実務相談シリーズ1』 (2008/03 労務行政) ★★★★
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1164】 大内 伸哉 『どこまでやったらクビになるか』
「賃金控除・賃金カット」や「休業手当・解雇予告手当」 を独立章とし、実務面への配慮が窺える。
『賃金・賞与・退職金Q&A (労働法実務相談シリーズ)』 ['08年]
労務行政の「労働法相談シリーズ」(Q&Aシリーズ)で、シリーズナンバーが「1」ですが、刊行はやや遅かった…。
これも弁護士によって著されたもので、全体としては労務行政らしいカッチリとした内容、賃金・賞与・退職金を巡る相談事例81件を200ページ強に収めています。
系列の財団法人「労務行政研究所」刊行の人事専門誌「労政時報」の末尾にある「相談室Q&A」が、ややマニアックなほど難解なテーマを扱っているのに比べると、こちらは基本をしっかり抑えている感じで、それでいて、「賃金控除・賃金カット」や「休業手当・解雇予告手当その他」に各1章を割き、実務面への配慮が窺えます。
だだ、弁護士が書いたものにはこの手のものが多いのですが、言い切り調になっているものがあって、例えば、「Q8」の「定期昇給が義務付けられる場合」などの項は、就業規則(本則)に「定期に昇給させる」とあって、「賃金規程」などの具体的な昇給額が確定する仕組みであれば、使用者は昇給させる義務があるという説明で終わってしまっていて、これなどは、実際には、労使交渉による合意とそれに基づく就業規則の改定(労働契約法12条に沿って)により、「据え置き」などの対応は考えられるように思います(そうでないと、「昇給」か「改定」かという何気ない就業規則の記述の違いのために会社が潰れてしまいかねない)。
「Q8」もそうですが、先に述べたことの判例を挙げるか、補足説明をするかで、どちらかと言えば判例重視といった感じでしょうか。
基本を抑えるという面ではこれでいいのですが、例えば「Q41」の「通勤手当と高速道路料金負担」などの項目のように、「マイカー通勤者に通勤手当として高速道路使用料金まで含めて払うかどうかは使用者の自由である」で説明が終わってしまっていて、あとは、一旦そうと決めれば、それをやめるのは不利益変更になるとして、「みちのく銀行事件」の判例解説が出てきます。
ここは、普通だったら、例えば「通勤手当として支払った高速道路の使用料金は課税対象となるか」という所得税法9条(非課税所得)及び所得税法施行令第20条の2(非課税とされる通勤手当)の解説などを持ってくるべきではないかと…(不利益変更の話は他の多くの質問項目に当て嵌まる話で、それをどうしてこの質問に1ページしか割いていないここでわざわざ持ってくるのか?)。
1つのQ&Aに割けるページ数が1、2ページだと、どうしてもこうなってしまうのは致し方ないところですが、何となく解説の方向性が、こちらが望んでいるものとは違うように思われるものも幾つかありました。
細かいところでケチをつけましたが、やはり「労務行政」というブランドと3,100円という価格ですから…。
全体としては、シリーズの中でも使い勝手のある方だと思われ、買って損は無かったと思いました。
投稿者 wadamy : 23:05
2009年06月01日
【1192】 △ 大塚 寿 『職場活性化の「すごい!」手法―モチベーションを一気に高める48の処方箋』 (2009/01 PHPビジネス新書) ★★★
「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●ビジネス一般」 【1178】 佐賀 潜 『商法入門』
参考にならないわけではないが、あまりに「リクルート」回顧調。
『職場活性化の「すごい!」手法 (PHPビジネス新書)』 ['09年]
高間 邦男 『組織を変える「仕掛け」 (光文社新書)』 ['08年]
『組織を変える「仕掛け」-リーダーシップとは』(高間邦男著/'08年/光文社新書)を読んだ後に、実際の“テクニカル編”に当たるような本かなと思い本書を読みましたが、う~ん、この著者はリクルートのトップ営業だったそうで、「やまびこあいさつ」、「寄せ書き」「社員図鑑」「社内パーティ」等々、いかにも「リクルート」という印象を受けました(他社の事例も多少はあるが)。
職場を活性化するための手法が具体的に幾つも紹介されていて、その背後にある著者の考え方には異を唱えるわけではないですが、実際この本に書かれているようなことをやって効を奏す会社(職場)とそうでもない会社(職場)があるのではないかとも。
著者自身、重厚長大で伝統的な企業には、「リクルートのようなイケイケ・ドンドンの社風は異次元のものに映るに違いない」、「工場や研究所の活性化のために太鼓や鳴り物で鼓舞激励するような手を使うというのは、TPOがずれているだろう」と最初に断りながらも、紹介されている例の多くは、リクルートで著者自身が経験したものです。
著者がいた頃のリクルートは、単一または少数の自社メディアを掲げ皆で一斉にセールスにかける、そうした営業スタイルが主体だったのではないでしょうか。
一見、最近のベンチャー企業と似てなくもないですが、例えばITベンチャーでも回線リセールのような業務を主体とする会社と、コンテンツ・ビジネスを主体とする会社では大きく業態が異なり、後者の方は、下手すると社員数だけの職種があったりするわけで、そうした意味では「研究所」的な要素もあって、ベンチャーだからと言って、本書にあるような手法が向いているとも限らないのでは。
但し、社風や職場風土に似つかわしくないかなと思われることでも、職場のムードを変えるために、ある時期、思い切ってやってみた方が良いというようなこともあるでしょう。
ナレッジ・マネジメントにおける「場」の考え方にあるように、インフォーマル・コミュニケーションの充実が図られるならば、それが人と人の関係や職場の活性化に寄与するところは大きいと思います。
「社内報」や「社内イベント」などは、かつて企業業績が好況だった時期には、別にそうした意図のもとでなくても、自然発生的にあったように思います。
今は、入社以来そうしたことを経験したこともなく、日々の業務に追われている人が、企業の若手社員には結構多いのでは。
本書に紹介されている活性化事例が参考にならないわけではないですが、「リクルートではこうしていた」的な話ばかりで、冒頭の断り書きを除いては、その方式がどの会社や職場でも通用するような感じで書かれているのがやはり気になりました。
著者が若手社員だった頃と今とでは社会情勢も就労意識も異なるし、また、その中でも当時のリクルートは特殊な会社だったわけです。
帯にある「これだけあればどれかは効く!」というのは確かかもしれないけれど、どれが自社に効くかというのが難しいわけであって、その辺りを冒頭の一言で済ませているのはちょっと乱暴な感じも。
投稿者 wadamy : 00:01
2009年05月26日
【1191】 ◎ 高間 邦男 『組織を変える「仕掛け」―正解なき時代のリーダーシップとは』 (2008/09 光文社新書) ★★★★★ (? 野田 智義/金井 壽宏 『リーダーシップの旅―見えないものを見る』 (2007/02 光文社新書) ★★★?)
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理念的に纏まっていて、且つ、地に足のついた組織変革の実践論・手法論となっている。
『組織を変える「仕掛け」 (光文社新書)』 ['08年]
『リーダーシップの旅 見えないものを見る (光文社新書)』 ['07年]
『組織を変える「仕掛け」-正解なき時代のリーダーシップとは』は経営コンサルタントの高間邦男氏による組織変革並びにリーダーシップに関する本で、同じくAmazon.comのレビューの評価が高かった『リーダーシップの旅-見えないものを見る』(野田智義・金井壽宏著/'07年)と共に読みましたが、『リーダーシップの旅』は、リーダーシップは先天的なものか後天的なものかという論争には意味がなく、後天的な環境がリーダーを育むものであり、「すごいリーダー幻想」に惑わされてはいけないと説きながらも、例に引いてくるのが歴史上の偉人や有名な経営者など「すごい」人物ばかりで、却って「すごいリーダー幻想」を助長しているような気もしました(横文字がやたら多いにも気になった)。
斬って捨てるような本ではないし、部分部分では共感するのですが、何となく肌に合わなかったというか、自分はこの本向きの読者では無かったのかも。
一方、高間氏の『組織を変える「仕掛け」』の方にも横文字は少なからず出てきますが、こっちの方がかっちりと理念的に纏まっていて、且つ、より地に足のついた組織変革の実践論となっているように思えました(最後にリーダーシップ論も出てきますが、メインは組織改革の手法を説いた本だった)。
従来のトップダウンやボトムアップに替わる手法として〈ホールシステム・アプローチ〉という「経営トップから管理者層、メンバー、協力会社まで、ステークホルダーが全員集まり、状況や背景を共有し、全員が話をし、人の話を聴くことで、全員で自分たちのありたい姿を考え、新しいアイディアや施策を生み出していく」方法を提唱していて、更に、このアプローチの背景になる思想は、従来型の問題解決アプローチ(ギャップアプローチ)では限界があり、人の「強み」や「価値」に焦点を当てていく〈ポジティブアプローチ〉であるべきだとしています。
前半部分だけだとやや抽象的ですが、後半において、「ポジティブアプローチの6つの原則」として、〈ポジティブアプローチ〉を更に具体的な幾つかの手法に落とし込み、研修場面などを想定しながら話を進めていくので、非常にわかり易いし、最後の「組織変革の9つのステップ」もしっくりくるものでした(但し、あまりに多くのことに触れているので、一読して全てを習得するのは難しいかもしれないが、取り敢えず要点と流れだけ掴めば、それだけでも随分違うのでは)。
『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』('08年/講談社現代新書)を読んだ際にも思ったのですが、結局、これからはリーダーシップ研修というよりメンバーシップ研修が大切になってくるのだろうと思わされた1冊でした。
《読書MEMO》
●インクルージョン(⇔イクスクルージョン)-境界を外していく(⇔閉じている)
「女性の活用」といい続けるのは、「女性」というラベルを貼って区別していることになる(49p)
●生物学的な統合的(シンセシス)アプローチ(⇔分析的(アナリシス)アプローチ)
私たちを取り囲むシステムの変化や影響関係を、物語や映画のように全体の流れの中でとらえ、感性や皮膚感覚といったもので、察知していきます。自分たちは何者であるのか、一人ひとりがどうありたいのか、自分たちの組織や、社会がどうなったらいいのかを共有するところから、行動を生み出していく(53p)
●ミツバチの生態系の破壊
アーモンドの需要増→5キロ四方のアーモンド畑→単一の花の蜜ばかり食べる→免疫力低下(70p)
●アポトーシス
新規プロジェクトが100ぐらい走っているが、その多くが失敗。非効率に見えるが、どうも社内的にアポトーシスを持っているようで、長い時間軸で見るといい結果に(74p)
●ポジティブアプローチの6つの原則
原則1:信頼感のある対話の場をつくる(108p)
組織のメンバーの関係性を徐々に高めながら、メンバーの思いを引き出し、共有できるコミュニケーションの場をつくる。(「怒ってはいけない」「根に持たない」「自分のことは棚に上げてよい」)
原則2:メンバーの「察知力」を高める(129p)
メンバー自身が自己の認知の癖を知り、また、他者のことを自分のことのように捉える力を磨く。そのために自己に向き合うプログラムを取り入れる(内観/トイレ掃除/身体性を高める/瞑想をする)。
原則3:一人ひとりをリスペクトし、強みを認める(138p)
組織の一人ひとりに一人の人間として関心を寄せ、尊重する(問題解決の責任は問題に気づいた人にある/ミーティングで一人ひとりをリスペクトする/必ず全員が話しするようにする/メンバーの強みを引き出す手法―アプリーシアティブ・インクワイアリー(AI)のハイポイント・インタビュー(フロー体験(生きがいや達成感を抱いた体験)を語る)。
原則4:主体性を引き出す(161p)
メンバーが主体的に学習に取り組んだり、ミーティングに参加したりする工夫をする。(プロセス・ガーディナー/ファシリテーターはごみ拾いが理想)
原則5:自他非分離の場を作る(177p)
組織の一体感を高める活動を。組織変革を促すミーティングの場ではディスカッショよりも、メンバーの思いが表出するストーリーテリングが大切(ストーリーを共有する→個々のメンバーに内在するコンテクストが浮き彫りに→共感が生まれる)
原則6:暗在的リーダーシップでサポートする(192p)
組織メンバーの良い面を引き出し、サポートしていくことに徹することができるリーダーが組織変革には不可欠(顕在的リーダー(カリスマ)ではなく、メンバーを励ましていけるリーダーシップ)
●組織変革の9つのステップ(214p)
ステップ1:全体観を持ち、状況の共有によって視座の向上を図る
ステップ2:みなのありたい姿、夢を共有する
ステップ3:関係性の向上を図る
ステップ4:目的・ゴールを共有する
ステップ5:否定と創造
ステップ6:新しい意味の創造
ステップ7:アクションプランをつくる
ステップ8:行動する
ステップ9:振り返り、成果を実感する
●「メンバーが好きに目標を立てたら、組織目標が達成できないだろう」と危惧するマネージャーも多いが、それは思い込み。AIミーティングで主体的に売上げ目標を立ててもらったら、組織目標をはるかに上回った(215p)
●魂の入ってないプランをサラサラつくらないようにスピードを落とす。メンバーが本当に考え、腹に落ちている言葉であれば、稚拙な表現でもよい(232p)
投稿者 wadamy : 00:35
2009年05月24日
【1190】 ○ 富士ゼロックスドキュメントマネージメント推進室 『プレゼンテーションの説得技法(テクニック)―ビジュアル・ドキュメントの作り方』 (1989/05 日本経済新聞社) ★★★☆ (△ 山本 義郎 『レポート・プレゼンに強くなるグラフの表現術』 (2005/02 講談社現代新書) ★★☆)
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同じような本が無いために、いまだにロングセラーであり続ける…。
『プレゼンテーションの説得技法(テクニック)』 ['89年]
『レポート・プレゼンに強くなるグラフの表現術 (講談社現代新書)』 ['05年]
プレゼンテーションにおける効果的なビジュアル・ドキュメントの作り方をわかり易く解説したもので、マニュアル的に使えるせいか、'89年という旧い刊行ながらも、いまだにロングセラーとなっている本です。
各種グラフやチャートの特徴と有効な使用例を、解説編とサンプル編にわけて多くの事例を用いて指し示すだけでなく、シートのサイズやレイアウト、文字の大きさから始まって、チャートに入れる文字の字数や行数、囲み罫からの距離まで示していて、実際のプレゼン場面でのテクニックや留意点、例えばスライドを映すスクリーンの適切な高さなどということまで記されており、まさに至れり尽くせり。
そう、この頃はまだ、切り張りして図や資料を作り(網目模様やカラーのセロファンをカッターで切って棒グラフの枠内に糊で貼り付けていたりしていた)、OHPシートにコピーするなどしてスライド化し、それをOHPで映すということがまだまだ一般に行われていたなあと(これ、藤城清治か?というような、凝ったプレゼンを見たことがある)。
でも、この本が地味ながらも売れ続けているのは、結局、ビジュアル・ドキュメントの作成の基本は変わっていないということと、網羅している範囲の広さやサンプルの多さ、ワンポイントのアドバイスの的確さなどにおいて、同じような本がその後、手頃なところでは殆ど出ていないということもあるのではないでしょうか。
近年の同系統のものでは、大学でプログラミングを教えている先生が書いた『レポート・プレゼンに強くなるグラフの表現術』('05年/講談社現代新書)がありますが、その本にしても、エクセルの使用をベースに書かれている分、グラフの作り方だけで1冊終わってしまっていて、知っていることは既に知っているし、知らないものは、あまり使いそうもないものだったりし、確かにアプリケーションのマニュアル本よりは実戦的ですが、本書ほどの“至れり尽くせり”感はありませんでした。
ハンドブックとして役立つかもしれませんが、「新書」(横書き)という体裁が目新しいだけで、「新書」に限らなければ(新書にもあるが)、類書はいくらでもあるように思えました(評価★★☆)
『プレゼンテーションの説得技法』は、富士ゼロックス内のプロジェクトが編纂したもので、アプリケーションのマニュアル本の範囲を超えた、こうしたビジュアル・ドキュメント作成に関する分野というのは、オブジェクトの作成とプレゼンの実施の間にある、ある意味“隙間”であり、意外とそれ自体を専門としている人がいないのかも。
投稿者 wadamy : 22:59
【1189】 ◎ 梅棹 忠夫 『知的生産の技術』 (1969/07 岩波新書) ★★★★☆
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内容が経年により陳腐化しているというよりは、むしろ著者の試行錯誤が却って新鮮。
『知的生産の技術 (岩波新書)』
藤本ひとみ 『知的生産者たちの現場』 ['84年]
今から40年も前に刊行された「情報整理術」の元祖的な本で、著者は文化人類学者としてよりもこっちの分野で有名になり、今で言えば、経済学者の野口悠紀雄氏が一般には〈「超」整理法〉の方でより知られているのと似ているかも。
知的生産の「技術」について書かれたものですが、著者も断っているように、本書はその「技術」の体系的な解説書ではなく、自らの経験を通じての提言であり問題提起であって、ハウ・ツーものと違って、読者が自ら考え、選び、また試すことを願って書かれています。
従って押し付けがましさがなく、また文章も平易で、天才ダ・ヴィンチがメモ魔だったという話から始まって、それに倣って「手帳」を持ち歩くようになり、更に「ノート」「カード」と変遷していく自らの情報整理術の遍歴の語り口は、まるでエッセイを読むようです(個人的にハマったなあ、「京大カード」。結構デカいので、途中からハーフサイズのものに切り替え、収納用の木箱まで買ったのを中身と共に今も持っている)。
その後に出てくるファイリング・システムの話などは、野口悠紀雄氏の考えに連なるものがあり、〈「超」整理法〉もいきなり誕生したわけではないということかと思った次第。
本書の後半では、「読書」「書く」「手紙」「日記と記録」「原稿」「文章」といったことにまで触れ、カバーしている範囲も幅広く、何れも示唆に富むものですが、文化人類学者らしく文化論的な論考も織り込まれていたりするのも本書の特徴でしょうか。
再読して改めて興味深かったのは第7章の「ペンからタイプライターへ」で、著者は英文タイプライターにハマった時期があり、手紙などもローマ字で打ち、その後カナ・タイプライターが出るとそれも使っているという点で、ワープロの無い時代に既にこの人はそうしたものを志向していたのだなあと(更にカーボン紙を使って現在のコピーに当たる機能をも担わせている)。
今でこそ我々はワープロやコピー機を、そうしたものがあって当然の如く使っているだけに、内容が技術面で経年により陳腐化しているというよりは、むしろ著者の試行錯誤が却って新鮮に感じられ、「より効率的、生産的な方法」を模索する飽くなき姿勢には感服させられます。
自分は本をあまり読まないとか文章を書くのが得意ではないとかサラっと書いていますが、本当はスゴイ人であり、著者の秘書をしていた藤本ひとみ氏の『知的生産者たちの現場』('84年/講談社、'87年/講談社文庫)などを読むと、本書にある「技術」が現場でどのように応用されたのかということと併せて、著者の精力的な仕事ぶりが窺えます。
投稿者 wadamy : 22:46
2009年05月23日
【1188】 ○ 山本 直人 『ネコ型社員の時代―自己実現幻想を超えて』 (2009/03 新潮新書) ★★★☆
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「博報堂生活総研」×「人材コンサル」? サラッと読めて、新たな視点を提供してくれる。
『ネコ型社員の時代―自己実現幻想を超えて (新潮新書)』 ['09年]
山本 直人 氏
(略歴下記)
かつて博報堂の人事に在籍し、現在は人材開発コンサルタントをしている人が書いた本で、新潮新書らしいサラッと読めてしまうビジネス本。
著者の言う「ネコ型社員」とは、「『自己実現』に幻想を持たず、出世のためにあくせくせず、滅私奉公に背を向けつつも、得意分野では爪を磨ぐ」タイプとのことで、そんな「ネコ型社員」が増殖しているそうな。
著者が挙げる「ネコ型社員」の特徴は、「1.滅私奉公より、自分を大切にする、2.アクセクするのは嫌だが、やる時はやる、3.自分のできることは徹底的に腕を磨く、4.隙あらば遊ぶつもりで暮らしている、5.大目標よりも毎日の幸せを大切にする」ということだそうで、ちょっぴり「犬型」的要素も入っているような気がしないでもないですが、本書では、名犬・忠犬・警察犬はいるけれど名猫・忠猫・警察猫はいないよねという話は冒頭あるものの、「犬型」の特徴を挙げて対比するようなやり方はしておらず、あくまで「ネコ型」について述べるのみ、これ、戦略的かも。
ネコ型社員の信条は、「『忠誠』よりも『信義』、『上昇』よりも『向上』、『一人前』よりも『一流』」ということで、博報堂のR&D部門にいた人らしく、こうした分類には、マーケティング的というか「博報堂生活総合研究所」的な匂いを感じなくもありません(「生活総研」×「人材コンサル」といったところか)。
「ネコ型社員」であることを勧める共に、企業としての「ネコ型社員」の活かし方にも触れていて、「1.砂場を作る、2.見返りを求めない、3.自信を持って甘やかす」ということになるようで、それぞれについては中身を読んでいただければと思いますが、「ネコ型社員」になることよりこっちの方が難しいかも知れないとも思ったりしました。
個人的に感性が一致したのは、転職支援の「あなたの可能性はまだまだそんなものじゃない」といった“眩しい”コピーを「自己実現熱」を煽るものとして批判している点で、元コピーライターが言うだけに説得力があったりして(「粘土上司」なども言い得て妙)。
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉の流行に対しても、経営側は「結局ワークを中心として、ライフとのバランスをとろうというように聞こえる」と言っているのには素直に共感しました。
実践面でそんなに旨くいくかなという部分もありましたが、“目から鱗”とまでは行かないでも、働き方や物事への取り組み方、部下の扱い方などを少し違った角度から考察してみるには悪くない本でした。
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山本 直人 (やまもと なおと)
1964(昭和39)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。博報堂に入社後、コピーライター、研究開発、人事局での若手育成などを経て、2004年退職、独立。著書に『売れないのは誰のせい?』など。青山学院大学講師。
投稿者 wadamy : 23:50
【1187】 ○ 竹信 三恵子 『ルポ雇用劣化不況』 (2009/04 岩波新書) ★★★☆
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'07-'09年にかけての労働者の置かれている現場の状況を改めて俯瞰する。
『ルポ 雇用劣化不況 (岩波新書)』 ['09年]
竹信 三恵子 氏(朝日新聞編集委員)
著者は朝日新聞の編集委員で、長年にわたり労働問題を追い続けている人ですが、本書は規制緩和の後押しを受け悪化する非正社員・正社員の労働環境の現場をルポルタージュしたもの。
'08年3月から5月にかけて朝日新聞に9回に渡って連載された「現場が壊れる」という企画記事がベースになっていますが、1年後の'09年4月の刊行ということで、'08年9月に起きたリーマン・ブラザーズの破綻に端を発する金融恐慌と世界経済の衰退に伴う国内の雇用情勢の悪化に関することも加筆修正の際に織り込まれ、結果としてタイムリーな出版となっています。
序章・終章を除いて6章の構成で、第1章にある「派遣切り」と言われる問題などは、まさにリーマン・ショック以降、顕著なものとして注目された問題ですが、本書によれば、以前から自動車メーカーにとって派遣労働は「人間のカンバン方式」と呼ばれていたとか。
派遣労働者には携帯メールで登録した人も多く、派遣会社の所在地も知らず、雇用保険の手続きもままならない、それでいて住居を追い出されてホームレスになれば、住所不定で再就職も出来ないという情況を伝えています。
第2章で派遣・請負に伴ってありがちな「労災隠し」(労災飛ばし)の問題を、第3章で正社員の削減等により様々なしわ寄せを受けるパート・派遣労働者の労働環境の問題を扱っていますが、この辺りは以前からマスコミなどでよく報道されており、但し、旅行業界の添乗員は「美空ひばり」タイプより「モーニング娘。」タイプ-要するに細かいサービスが出来るベテランよりも入れ替え可能な臨時雇用が求められているという現況は新たに知りました(この部分は内容的にはほぼ新聞記事の再掲のようだが…)。 2008.3.21朝日新聞(朝刊)
結局、こうしたことのツケは利用者に回っているのだとういうこの章での著者の指摘は、考えさせられるものがありました。
第4章で扱っている非常勤公務員などの「官製ワーキングプア」問題や第5章の「名ばかり正社員」問題は多くの人にとって目新しいかも。
「名ばかり正社員」の問題は「名ばかり管理職」とパラレルなのですが、「非正社員=ワーキングプア」というイメージから逃れるため若年社員の間で広がっており、かつて正社員と言われた人ほどに雇用保障があるわけでもなく、一方で非正社員のリーダー役として利用されているという…ひどい話。
第6章では労働組合の現況を取材していますが、企業内組合の中には「御用組合」化しているものもやはりあるのだなあと。これからは個人加入のユニオンなどが本来の組合的役割を担っていくのかなあという気がしました。
同じ岩波新書の『ルポ解雇』(島本慈子著/'03年)、『働きすぎの時代』(森岡孝二著/'05年)、『労働ダンピング』(中野麻美著/'06年)、『反貧困』(湯浅誠著/'08年)などの流れにある本ですが、解決策を提示するよりもルポそのものに重点が置かれているため、'07-'09年にかけての労働問題、労働者の置かれている現場の状況などを改めて俯瞰するうえでは悪くないものの、新聞をまとめ読みしているような感じも。
投稿者 wadamy : 23:42
2009年05月20日
【1186】 △ 境 真良 『テレビ進化論―映像ビジネスの覇権のゆくえ』 (2008/04 講談社現代新書) ★★☆
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さほど目新しさが感じらず、むしろ、テレビって簡単には変われないのかも、とも。
『テレビ進化論 (講談社現代新書 1938)』 ['08年]
梅田望夫氏の『ウェブ進化論』('06年/ちくま新書)を模したようなタイトルで、本書の方もそれなりに売れたようですが、内容的にはさほど目新しさが感じられませんでした。
コンテンツ・ビジネスの現状を、最近のトピックス(かなり瑣末なものも含まれているように思える)を織り交ぜ、「再確認」的な意味でわかり易く取り纏めてはいるものの、最近の動向や現状分析が主体で、主テーマであるはずのテレビの「今後」ということに関してはやや漠としており、角川が昔やったメディアミックス戦略(出版・TVと広告と芸能キャラクターの複合戦略)に注目していたりしますが、これって、多かれ少なかれ今はどこの局でも(NHKですら)やっていることではないかと。
一見、「ギョーカイ」人が語るメディアの未来像みたいなムードを漂わせていますが、著者は最近まで経済産業省の官僚であった人で、TV局や映画会社など映像メディアの流通・配信に関わる産業が、いかに過去の因習やインフラ整備に係る法的な規制に縛られているかという「業界」内の産業構造の問題点が重点的に指摘されており、電波事業は郵政省の許認可及び監督事業であるわけですが、経済産業省にもメディアコンテンツ課というのがあり(著者はかつてここに勤務していた)、やはり人は自分の得意分野のことしか書けないということか、とも思ったりしました。
但し、グーグルのビジネス技法の特徴を「直接収益のように単一の受益者に金銭対価を要求するのではなく、複数の受益者を想定し、ある受益者には無償で利益を与え、そこから、獲得した情報と引き換えに別の受益者から金銭を回収するというやり方」だとし(これも言わば“再確認”事項に過ぎないが)、こうした「情報の三角貿易」を映像ビジネス世界でも模索する動きがあるというのには関心を持ちました。
ただ全体としては、ウェブの世界でアルゴリズム化されたOne To Oneマーケティングが進む中、テレビの方はそう簡単には変われないのではないか(「地デジ」にしても、郵政族議員の利権の上に進められているのであって、そうした双方向効果が具体的に見えているわけではない)という思いを、本書を読むことで更に強くしました。
投稿者 wadamy : 23:26
【1185】 ○ 海部 美知 『パラダイス鎖国―忘れられた大国・日本』 (2008/03 アスキー新書) ★★★☆
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「目からウロコ」と言うより、もやっと感じていたものをスッキリと表現したという感じ。
『パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)』 ['08年]
海部 美知 氏
(帯の写真は梅田望夫氏と池田信夫氏)
「日本人は海外に行きたくなくなったし、海外のことに興味がなくなった」のではというのは、確かに言えているかも。
本田技研に総合職一期生として就職後、米国に留学し、現在シリコンバレーで通信・IT事業に関するコンサルタントをしている著者は、こうした「自国が住みやすくなりすぎ、外国のことに興味を持つ必要がなくなってしまった状態」を「パラダイス鎖国」と呼び、これは個人レベルに止まらず、産業レベル、例えば自らが携わった携帯端末事業などにおいても、ほどほどに大きい日本市場に安住して囲い込み競争を続けているうちに世界市場にとり残されることになったような状況が見られるとしています。
著者は、'05年の日本での夏休みの後、米国に戻った際に、日本人は「誰も強制していないけれど、住み心地のいい自国に自発的に閉じこもる」ようになったのではないかと感じ、そのことを自らのブログ「Tech Mom from Silicon Valley」に綴った際に用いた言葉が、この「パラダイス鎖国」。
これが、翌年「月刊アスキー」編集部の目にとまり、更に2年を経て、新書として刊行されることになったという点では「ブログ本」だとも言えますが、「パラダイス鎖国を、国家とか全産業とかのレベルでどうすべきだ、なんぞという大きな話は私にはよくわからない」とブログで述べていた当初に比べると、本書では「パラダイス鎖国・産業編」という章を設け、産業統計を用いて自己の考えを検証するなどし、「ブログ本」によく見られるブログ記事を引き写しただけのような安直さ、読みにくさはありませんでした。
著者は自らのブログで、携帯端末に関して日本の企業は、いかに大きいといっても日本市場しか相手にしておらず、特に日本ではメーカーの数が多すぎて世界で売っているメーカーと比べてスケールも違いすぎ、一方海外の安い端末は日本のあまりに進んだ市場に合わず、そのため日本で普及している製品は皆コスト高となっている、こうした状況がユーザーに割高な使用料を強いていることを指摘していましたが、すでに料金システムの見直しや端末メーカーの撤退が始まっている…。
こうした著者の経験分野に近いところの話は(ブログと内容は重複するものの)シズル感を持って読むことができましたが、統計数字を用いた貿易収支の話などは、経済白書を読まされているような印象も。
「パラダイス鎖国」を脱するための問題解決の提言が抽象レベルに止まっているのもやや不満で、最後は、まだキャリアの入り口にいるような人に向けての“もっと視野を拡げよう”的「啓蒙書」になった感じ。
但し、そのことを割り引いても、個人の意識レベルの問題と産業レベルの問題を「パラダイス鎖国」という概念で貫いて示した点は評価できると思いました(「目からウロコ」と言うより、もやっと感じていたものをスッキリと表現したという感じ)。
個人的には、「HEROES/ヒーローズ」のマシ・オカ演ずるヒロ・ナカムラの描き方について、「日本人の記号」を装飾しているが、中身は「普通の人」として描かれているとし、「パラダイス鎖国」の裏側で、アメリカ人から見た日本人の姿もまた変化してきているとしている点などはナルホドと思わされました(但し、ヒロ・ナカムラ像は、英語を母国語としながらも、流暢な日本語とブロークンの英語を操るマシ・オカこと岡政偉(おか まさのり)の異才に依るところ大なのだが)。
投稿者 wadamy : 22:00
【1184】 × 城 繁幸 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代』 (2008/03 ちくま新書) ★★
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またまたタイトルずれ? 特殊な人だけ拾っても…。
『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』 ['08年]
『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)』 ['06年]
『若者はなぜ3年で辞めるのか』('06年/光文社新書)の続編と思われますが、今度は〈ちくま新書〉からの刊行で、〈webちくま〉の連載に加筆修正して新書化したものとのこと。
前著では、「年功序列」を日本企業に未だにのさばる「昭和的価値観」としていて、そこから企業のとるべき施策が語られるのかと思いきや、働く側の若者に対し「昭和的価値観」からの脱却を呼びかけて終わっていましたが、本書では、実際にそうして企業を辞め、独立なり転職なりした、著者が言うところの「平成的価値観」で自らのキャリアを切り拓いた人達を取材しています。
ですから、タイトルからすると労働問題の分析・指摘型の内容かと思われたのですが、後から書き加えたと思われる部分にそうした要素はあったものの、実際には、どちらかというと働き方、キャリアの問題を扱っていると言えるかも知れず、こちらも少しずつタイトルずれしているような気が…。
紹介されている人の全てがそうだとも言えないけれど、(著者同様に)高学歴でもって世で一流と言われる企業に勤め、業界のトップの雰囲気や先端のノウハウに触れた上で起業なり独立なりを果たした人が中心的に取り上げられているような気がし、同じ「若者」といっても産業社会の下層で最初からそうしたものに触れる機会の無かった人のことは最初から眼中にないような印象を受けました。
こうした特殊な人ばかり取り上げて(その方向性の散漫さも目につく)、「辞めた若者」の一般的な実態には迫っていないんじゃないかなという気がしますが、転職に失敗した人に対しては、前著『若者はなぜ3年で辞めるのか』にある“羊 vs.狼”論で、「彼ら“転職後悔組”に共通するのは、彼らが転職によって期待したものが、あくまでも『組織から与えられる役割』である点だ。言葉を換えるなら、『もっとマシな義務を与えてくれ』ということになる。動機の根元が内部ではなく外部に存在するという点で、彼らは狼たちと決定的に異なるのだ」と既にバッサリ斬ってしまっていたわけです。
元々著者自身が、企業の中で学習機会に恵まれた環境のもと大事に育てられた人なわけで、この人が「キャリア塾」的な活動をするとすれば、対象としては大企業に今いて一応レールに乗っかっている人に限られるのではないかと思われ、個人的にはそうした活動よりも、企業向けのコンサルティング的提言をしていく方がこの人には向いているのではないかと、老婆心ながらも思いました(『内側から見た富士通-「成果主義」の崩壊』(’04年/光文社ペーパーバックス)は悪い本ではなかった。むしろ、大いに勉強になった)。
投稿者 wadamy : 21:42
【1183】 △ 城 繁幸 『若者はなぜ3年で辞めるのか?―年功序列が奪う日本の未来』 (2006/09 光文社新書) ★★★
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タイトルずれしている。分析・批判はともかく、著者の“立ち位置”がわかりにくい。
『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)』 ['06年]
『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』 ['08年]
『日本型「成果主義」の可能性』('05年/東洋経済新報社)に続く著者の本でこのタイトルであったために、企業がとるべき人材引き止め策(リテンション戦略)について書かれたものだと思ってしまったのですが、「年功序列」を未だに日本企業の根底にのさばる「昭和的価値観」と規定したところで終わってしまっていて、何かそれに対する改善策が提示されているわけでないため、人材マネジメントに関する本ではなく、労働経済問題を社会学的な見地から指摘した類の本だったのかなと。
それにしてはデータ的な裏付けがさほど無いままに著者の主観ばかりが先行しているようで、終わりの方では若者に向けて、そうした「昭和的価値観」に捉われている企業から脱出するように呼びかけているような内容であるため、著者の“立ち位置”というか、本書を通して何を言わんとしているのかが今ひとつ分りにくく、少なくともタイトルからは“肩透かし”的印象を抱かざるを得ませんでした。
著者の言うように、年功序列のレールは90年代前半の時点で大方の企業で崩壊の兆しを見せており、成果主義の導入によってより顕著になったわけで、分析・批判そのものは必ずしも的を射ていないわけではないですが、平成不況下でも年功序列の負の遺産だけが残り、若者達にとっては企業に勤め続けても明るい未来は約束されていないというある種の閉塞状況があるという指摘や(それが本書ではやや端的に語られ過ぎている気がするが)、或いは「“席を譲らない老人”と”席に座れない若者”」といった世代間格差的な捉え方は、玄田有史氏の『仕事の中の曖昧な不安―揺れる若年の現在』('01年/中央公論新社)などとほぼ重なるように思えます(5年前に他の人が指摘済みのこととなると新味は薄い)。
繰り返しになりますが、本書ではそこからの企業のとるべき施策が語られているわけではなく、働く側の若者に対し「昭和的価値観」からの脱却を呼びかけていて、そのためには自分なりの確固たる価値観を持たねばならないとかいった感じで、ああ、「キャリア塾」みたいなこと、やろうとしているのかな、この人は、と思った次第。
続編の『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』('08年/ちくま新書)は、そんな感じの内容らしいし…。
投稿者 wadamy : 21:31
2009年05月13日
【1182】 ◎ 大関 ひろ美 『「パート・アルバイト・派遣の使い方」ここが間違いです!』 (2006/02 かんき出版) ★★★★★
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パート労働法の改正を見越したような内容。効果的人材活用を制度として推進するという考え方。
『「パート・アルバイト・派遣の使い方」ここが間違いです!』 ['06年/かんき出版]
パート・アルバイト・派遣社員の雇用・労務管理について社会保険労務士がQ&A方式に纏めたもので(全81問)、社会保険に関しても解り易く解説されていますが、それだけでなく、むしろ1:2ぐらいの比率で労働基準法を中心に労働法全般に関わることに重点が置かれていて、採用から退職までの労務管理から賃金その他処遇等の人事管理全般にまでトータルに解説されているのが特長です。
'08年4月施行の改正パート労働法の2年前に刊行された本ですが、パート・アルバイト・派遣社員の効果的な人材の活用に繋がる雇用改善を社内制度として推し進めるという考え方が全般を通して貫かれていて、具体的な施策の提示も含めたQ&Aも幾つか用意されており、まるで予めパート労働法の法改正を見込んだような内容になっています。
法的な義務があるものについてはそのように明記する一方、「法的な義務ではないが、労使トラブルを回避するためにはこうした方が望ましい」、更に、パート・アルバイト等のモチベーションを喚起するためにはこうしたことが「望まれます」といった言い方が多くされているのが、弁護士などが書いた本とは異なる点でしょうか。
「家計補助的な理由で働いている」から「家計補助的な就労意欲だろう」、だから時給を安く設定していいかという問いに対し、同一労働同一賃金の原則を以ってきっちり回答していたりして、企業内の人事担当者だけでなくコンサルタント側にも経営者の考えに靡いてしまい、自分の中でこうした抵触する怖れのある法律との関連が弱くなってしまっているケースがままあることを思えば、読んでいて襟を正したくなるような思いも。
「1日6時間勤務のパートが配偶者の被扶養者になることを望んでいるが社会保険は入れなくてよいか」とか、「昼間部の学生に毎晩勤務させている場合、雇用保険はどうなるか」とか、「配達されるお弁当代を給与から引いていいか」とか、それぞれ、健康保険法、雇用保険法、労働基準法に関わる問題ですが、そうしたことが大いにありそうだなあというリアルな事例で設問が構成されています。
非正規雇用の全労働者数に占める割合は’08年で約35%、殆どの会社に非正規社員がいるわけで、まさに「総務部・店長必携」と言える本かも(逆に、コンサルタント側は、本書に書かれている事は社会保険関連も含め全て押さえておきたいところ)。
投稿者 wadamy : 00:19
【1181】 ◎ 外井 浩志 『Q&A 65歳雇用延長の法律実務』 (2005/12 税務研究会出版局) ★★★★☆
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改正法の緩さ・曖昧さが浮き彫りに? 今しばらくの間はお世話になりそうな本。
『Q&A65歳雇用延長の法律実務 (スタッフアドバイザーライブラリ)』 ['05年/税務研究会出版局]
65歳定年に向けた高年齢雇用安定法の改正('06年4月施行)に先駆けて、その前年末に刊行された本ですが、早期の刊行にも関わらず、法改正の内容解説だけでなく雇用確保措置の義務化に伴い起こりうる様々な問題についてQ&A方式で解説されていて(全80問)、また規定例なども備わっています。
本書を読んでいると、この法改正にはかなり“緩い”部分があるように思えます(企業側から見れば“柔軟性がある”とも言えるが)。
改正に沿った高齢者の雇用延長制度の導入に関しては、当初大企業が先行し中小企業はやや遅れ気味だったのが、’08年末時点では中小企業も大方が対応済みのようであるようですが、大企業・中小企業とも殆どが「定年延長」ではなく「継続雇用制度」(定年再雇用制度)という形での対応となっています。
そこで、本書の「Q49」にあるような、「1年の有期雇用」はどんなことがあっても更新しなければならないのか」といった問いが出てくるわけで、年齢要件以外の理由があれば「どんなことがあっても更新しなければならない」とまでは言えないという、結局、「雇用確保」の趣旨よりも「有期雇用」の論理の方が優先されてしまう―そのことが、急激な雇用劣化不況の到来に際しては、改正法の形骸化をいやおう無く引き起こすということが目に見えるようです。
更にこの法改正を巡っては曖昧さも多々あり、特例措置に沿って「労使協議が整わなかった」として労使協定の代わりに就業規則で継続雇用の定めをした企業も多いと思われますが、3年または5年の特例措置の期間が切れた場合、「Q55」にあるように、「就業規則にあるにもかかわらず、労使協定を締結する必要があるか」という疑問が生じざるを得ません。
この問題について筆者は、労使協定を継続雇用制度の「存続要件」であるとすれば、今ある基準は期間満了とともに無効になり、速やかに労使協定を結ぶ必要が生じるが、労使協定はあくまでも継続雇用制度を「導入するための要件」存続要件に過ぎず、特例期間については就業規則で実施できるというのに過ぎなのであれば、3年または5年の特例措置の期間が切れても就業規則は有効であるとしていて、一体どっちなのかと言いたくなりますが、改正法施行の時点ではこう書くに留まらざるを得なかっただろうし、現時点でもこの曖昧さは残されているように思います。
ということで、今しばらくの間はお世話になりそうな本です。
投稿者 wadamy : 00:14
2009年05月12日
【1180】 ○ 浅井 隆 『労働契約の実務』 (2008/02 日経文庫) ★★★☆
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人事担当者や一通り労働法を学習した人が復習用に読むにはいいか。
『労働契約の実務 (日経文庫)』 〔'08年〕
『労働契約法入門 (日経文庫)』 〔'08年〕
労働契約に関する入門書で、労働契約の開始から終了までの展開について実務に沿って解説されており、内容もきめ細かいです。
但し、あくまでも新書レベルなので、1つ1つの項目の解説がややあっさりし過ぎていて、全体としてこの文庫にありがちな項目主義に陥っている感じもします。
著者は法律事務所に所属する弁護士で、労務行政の『労働法実務相談シリーズ』で「労使協定・就業規則・労務管理Q&A」の巻を担当執筆していますが、人事専門誌のQ&Aコーナーにもよく書いている人で、さすがに纏め方そのものは解り易く、人事担当者や一通り労働法を学習した人が復習用に通勤・通学の電車の行き帰りで読むのにちょうどいいかなという感じですが、それでも初学者が入門書として読むとなると、この詰め込み過ぎはちょっとキツイかも。
本書は'08年3月に施行された労働契約法にも対応しているとのことですが、対応しているというだけであって労働契約法について詳しく述べられているわけではなく、同時期に刊行された大学教授による『労働契約法入門』('08年/日経文庫)がどういうわけかこちらも(タイトルに反して)労働契約法自体の解説はあっさりしていて後は労働法全般の解説になっており本書と内容的に大いに重なっているため、これは「弁護士」と「大学の先生」という立場の違う著者に敢えて似たようなテーマで書いて貰って、読者に両方買わせようという魂胆なのかなと勘繰りたくなってしまいます(だとしたら、自分はその魂胆にハマってしまったのだが)。
帯に「人事担当者必携!」とあるように、「実務」と謳っている分、内容的には『労働契約法入門』よりは実務向きと言えるかも知れません。
投稿者 wadamy : 23:49
【1179】 △ 山川 隆一 『労働契約法入門』 (2008/02 日経文庫) ★★★
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労働法全般の入門書として読めるが、「労働契約法」にもっと的を絞って欲しかった。
『労働契約法入門 (日経文庫)』 〔'08年〕
法科大学院の教授による労働契約法についての解説書ということで、パート労働法や男女雇用機会均等法など関連する法令や最新の判例なども取り上げているとのことですが、要するに労働条件の決め方や労働契約の終了等、労働契約全般の解説書となっており、また賃金や労働時間についても労働基準法の基本部分を1つ1つ押さえているため、中身としては労働基準法を中心とした労働法全般の解説書といった感じでしょうか。
大学の先生らしく、労働契約法成立の背景から最近の人事の動向までも踏まえるなど視野的には広く、且つ解り易い言葉で書かれており、その上で実務にも沿った形にはなってはいますが、網羅的である分、労働基準法等の細部の解説においては物足りなさも感じられました。
結果として、同時期に刊行された『労働契約の実務』('08年/日経文庫)とかなり内容が重なっているような感じで、'08年3月に施行された労働契約法について書かれたものの中では比較的早く刊行された解説書であるため期待したのですが、その部分では期待はずれでした。
第3章の「労働契約の基本理念と労働条件の決定・変更」が最も労働契約法に直接的に関わる部分かと思われますが、全8章のうちの1つに収められていて、「合意原則」と「合理性」の関係においてやや複雑な就業規則の不利益変更問題や、就業規則で定める基準に達しない労働契約の扱いなどについては、本当にさらっと触れているだけという感じ。
ただ、労働法の基本部分を押さえるための入門書として見れば、コンパクトにきっちり纏まっている本で、『労働契約の実務』の方が本書以上に詰め込み過ぎのような感じもあるので、実務面での入門書として併読し、法の前提となる部分に関する知識や理解の至らないところを補完し合えばいいのかなと。
そうであるにしても、このタイトルであるならば「労働契約法」にもっと的を絞って欲しかった気がします。
投稿者 wadamy : 23:44
2009年05月10日
【1178】 ○ 佐賀 潜 『商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために』 (1967/04 カッパ・ビジネス) ★★★★
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楽しく読めて、商法や会社法の考え方を大筋で知る上では、今でも役立つ。
『商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために (1967年)』
『商法入門』 改版版/『民法入門』 ['67年]
佐賀潜の法律入門書シリーズの1冊であり、学生時代に法律を勉強したことが無かった自分には、例えば、商法における「商人」とは何かについて、「売春婦は商人ではないが、売春宿の主人は商人である」といった説明の仕方で入る点などは興味を引かれるとともに、条文解釈が懇切丁寧で、全体を通して非常にわかり易かったです。
今は別立ての法律となっている会社法の部分が含まれており、株式会社とは何か、取締役とは何かといったことのアウトラインも掴め、細部は法改正などで変わっている部分もありますが、商法や会社法の考え方を大筋で知るための入門書としては、今でも役立つのではないでしょうか。
社長は取締役を解任できないが、「取締役の過半数が結託すれば、社長をクビにできる」などといったことは、本書で初めて知りましたが、その後、三越の岡田社長解任劇など、そうしたことが本当に起きるような時代になっていきました。
取締役は原則として労働基準法ではなく商法(会社法)の適用を受けるので、企業法務に携わる仕事をする人にとっては、商法(会社法)の知識は必須のものと言えるでしょう。
佐賀潜(1914‐1970/享年56)は、中央大学法学部在学中に司法試験に合格し、検事として活躍した後、弁護士に転じた、所謂“ヤメ検”でした(最近では 大澤孝征弁護士・元東京地検検事などがそう)。
弁護士時代もやり手だったようで、それでいて、推理作家としても華々しいデビューをし、多くの娯楽作品を手掛けた人で、佐賀県出身ですが、ペンネームは、その“佐賀”に「犯人をなかなか“捜せん”」を懸けたものです。
この作家の、小説ではないところの「法律シリーズ」は、『民法入門-金と女で失敗しないために』、『刑法入門-臭い飯を食わないために』が'68年にベストセラー2位と3位になったほか、『商法入門』、『道路交通法』も同年の7位と9位にランクインしていて、これはかなりスゴイことではないでしょうか。
表紙カバーの推薦の辞を、『商法入門』が作家の梶山李之、『民法入門』が経済評論家の三鬼陽之助が担当しているのも、時代を感じさせます(佐賀潜自身は、三島由紀夫の『葉隠入門』('67年/光文社カッパブックス)に推薦の辞を寄せている)。
【1974年・1986改版/1990年新版[カッパビジネス『新版 商法入門―安全・確実に儲けるために』]】

投稿者 wadamy : 23:05
【1177】 ◎ 高橋 克徳/河合 太介/永田 稔/渡部 幹 『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』 (2008/01 講談社現代新書) ★★★★☆
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社員同士の協力関係を、役割構造、評価情報、インセンティブの3つで捉える。
『不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)』 ['08年]
なかなか惹きつけるタイトルで、こういう場合、読んでみたら通り一遍のことしか書いてない紋切り型の“啓蒙書”だったりしてガッカリさせられることがままありますが、この本は悪くなかったです。
但し、やはり基本的には(いい意味での)“啓蒙書”であり、読んで終わってしまってはダメで、書かれていることで自分が納得したことを、常に意識し、実践しなければならないのでしょう。
社員同士での協力関係が生まれないために、職場がギスギスして、生産性も向上せず、ヤル気のある人から辞めていく―こうした協力関係阻害の要因を、役割構造、評価情報、インセンティブという3つのフレームで捉えた第2章(ワトソンワイアット・永田稔氏執筆)が、特にわかり易く、また、頷ける点が多かったです。
特に、「役割構造」の変化について、従来の日本企業の特徴であった、会社で仕事をする際に決められる「仕事の範囲」の「緩さ・曖昧さ」が協力行動を促すことにも繋がっていたことを指摘しているのには頷けて(但し、フリーライド、つまり、仕事してないのに仕事しているように見せる“ただ乗り”を許すことにも繋がっていた)、それが、成果主義が導入されると、今度は、個々は自分の仕事のことしか考えず、外からは、誰が何をしているのかよくわからなくなって、仕事が「タコツボ化」していると―。
それが、組織力の弱体化に繋がるとしているわけですが、これは、成果主義の弊害としてよく言われることであるものの、併せて、個々の仕事が高度化していることも、仕事が「タコツボ化」する要因として挙げているのには、確かにその通りかもしれないと思いました。
このことは、続く、インフォーマル・コミユニケーションを通じての社員同士の「評価情報」の共有化がもたらす効果や、金銭的報酬以外の、社内や仕事仲間の間での承認願望の充足がもたらす「インセンティブ」効果という話に、スムーズに繋がっているように思えました。
「仕事の高度化」ということで言えば、IT企業などは正にそうでしょうが、第4章で、組織活性化に成功している企業の事例が3社あり、その内2社は、グーグルとサイバーエージェントです。
両社の組織活性化施策は、人事専門誌などでは、もうお馴染みの事例となっていますが、本書におけるそれまでの繋がりの中で読んでみると、改めて新鮮でした。
ワトソンワイアットは、外資系の中では日本企業の人事制度構築に定評のあるファームですが、日本での強さのベースには、組織心理学に重きを置いている点にあるのかも。
投稿者 wadamy : 22:25
【1176】 △ 田中 和彦 『威厳の技術 [上司編]』 (2009/01 幻冬舎新書) ★★★
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オーソドックスだが、やや印象度が弱い。「技術書」と言うより「啓蒙書」?
『威厳の技術 上司編 (幻冬舎新書)』 ['09年]
伊東 明 『「人望」とはスキルである』 カッパ・ブックス 〔'03年〕
以前に『「人望」とはスキルである』('03年/カッパブックス)という本を読み、結局「人望」は「スキル」で磨くことができるということを言っており、部下マネジメント、コーチングについて述べた本であったことが読んでから分かったのですが、「人望」という言葉の使い方に違和感というか、いやらしさのようのものを感じてしまいました。
本書では冒頭で、マネジメントはセンスや才能ではなく、技術(スキル)であると言っており、本書での「威厳」というのは、前掲書と同じように部下マネジメント力、コーチング力を指していると思われますが、端的に言えば「部下になめられないこと」といった感じでしょうか。
「威厳」という言葉にもやや違和感を覚えなくもないですが、こちらの言葉の使い方の方が、「人望」というより言葉的にはまだしっくりくるような…(最初にタイトルの言葉の使い方がわかる書き方をしているということもあるが…。それに、「人望」というと、コーチングよりメンタリング的なニュアンスに近いのではないか)。
本文は「怖れを身に付ける」「部下を丸ごと知る」「本音でぶつかる」「リスクを背負う」「期待し、任せる」「叱り、ほめる」「守り、育てる」の8章からなり、例えば第1章の「怖れを身に付ける」ためにどうしたらよいかとして、①朝一番で出社する、②部下の名前をフルネームで書く、③自分の時間はすべて部下のための時間と考える、④ブレない判断の4つを挙げていますが、頷ける面はある一方、これって「技術」なの?という気も。
序章の最後では、「最後の最後に、上司を上司たらしめるのは、腹のくくり方である」とも言っており、啓蒙書的要素を多分に含んだ本という印象を受けました(啓蒙書的な本でも読んでそれなり得るところはあると思うが)。
著者は、大学卒業後リクルートに入社して人事課長を経験後、「週刊ビーイング」などの編集長を歴任、その後キネマ旬報社代表取締役を経て、現在プラネットファイブという会社の代表取締役をしている人。
リクルートという会社でそれなりの経験もあり(年齢も50歳)、組織やチームを活性化させるための条件やモチベーション向上についての記述は極めてオーソドックスであり、また、ケースを挙げての部下の叱り方、ほめ方などについては、実際の自分の経験の裏打ちも感じ取れ、そうした意味では好感が持て、それなりの説得力もありました。
ただ、あまりにオーソドックスで、やや印象度が弱いかなあ、目新しさに乏しいと言うか…。
最近のコーチング理論では、従来の「上司-部下」という脇組みそのものを排除しようという傾向がありますが、本書は、完全に旧来の「上司-部下」関係というものを前提にし、その延長線上で、雇用の流動化によって弱くなっている「上司の威厳」をいかにして“回復”させるかということがテーゼとなっているようです。
△評価はあくまで個人的なもので、部下マネジメントの基本を押さえる(整理する)、或いは、上司たる人が自分を振り返るという意味では、そんなに悪い本ではなかったかも知れません。
《読書MEMO》
●活性化したチームに必要な6つの条件(90p)
① メンバーの存在
② 目指すべき目標
③ コミュニケーション
④ リーダーシップ
⑤ マネジメント
⑥ モチベーション
●部下のモチベーションを上げる3原則 (204p)
① 目標の共有
② 情報の共有
③ 権限委譲
投稿者 wadamy : 00:10
2009年05月09日
【1175】 △ 小松 俊明 『デキる上司は休暇が長い』 (2008/08 あさ出版) ★★☆
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1176】 田中 和彦 『威厳の技術 [上司編]』
個人の問題より組織(風土)の問題であることも少なからずあるのではないか。
『デキる上司は休暇が長い』 (2008/08 あさ出版)
['06年]
著者の前著『デキる上司は定時に帰る』('06年/あさ出版)は、「デキる上司」とはどういう人かということが一般論的に書かれていて、タイトルの「定時に帰る」はその現象面の1つに過ぎず、そのことについて深く突っ込んで書かれているわけではありませんでしたが、それに比べると本書は、上司が長期の休暇を取ることの効用が全般に渡って述べられていて、その点では、タイトルからハズレた内容ではありませんでした。
要するに「エンパワーメント(権限委譲)」が部下を育てるという論旨で、それを、ヘッドハンターとして多くの会社とその中で働く人を見てきた自らの経験から、「定時に帰るのがデキる上司である」としているわけですが、その意図はよくわかるものの、個人的には、世の中の全ての会社の実態として果たしてそう言い切れるかなあとも思いました。
確かに、個人的に仕事を自ら抱え込んで、それが部下の育成を疎外しているケースは枚挙に暇が無いかと思いますが、業務の広がりやスピード、専門性の変化が激しい昨今、ましてや年長者や非正社員など、部下および働き方の多様化が進む中で、後輩が少なく、人をマネジメントしたり育成したりする経験が少ないまま管理職になってしまったような人に負担がかかるのは、これは、リーダーシップというよりメンバーシップ、「個人」より「組織」の問題であることが少なからずあるような気がします。
「エンパワーメント(権限委譲)」の重要性に異議を唱えるわけではないですが、ジャン=フランソワ・マンゾーニが『よい上司ほど部下をダメにする』 ('05年/講談社)の中で権限委譲ができない上司のことを言っていた「失敗おぜん立て症候群」という言葉の方が、まだ本質を指摘してインパクトがあったような気がします。
ただ「休め」と言われても、成果主義のもとで結果を出さないと評価されないという立場に追い込まれている中間管理職が本書を読んで、現実と乖離の大きさのため、あまりピンとこないのではないかなあ。
むしろ、「休む」ことを義務化して評価要素の1つとしない限りは変わらないような、そうした組織風土の会社も多くあるということを、著者はどのぐらい認識しているのでしょうか。
投稿者 wadamy : 23:55
【1174】 △ 松本 順市 『上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか?』 (2008/04 ナナ・コーポレート・コミュニケーション) ★★★
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部下のモチベーションをどうやって維持するかがテーマ。管理職初級レベルの啓蒙書?
『上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか? (Nanaブックス)』 ['08年/ナナ・コーポレート・コミュニケーション]
「上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか」って、それはそういうものでしょう。社員が上司に辞める話をする時は、既に大方辞める決断をしているわけで、その時には辞表も既に書き終えているというのが往々にしてありがちな事ではないでしょうか。
上司にすれば青天の霹靂でも、周囲の方がむしろ傍目八目なのか、やっぱりという感じだったりすることもあります。
本書は、リテンション(人材引き止め)について述べたものと言うより、部下のモチベーションをどうやって維持するか(勿論それが部下の人材の引き止めに繋がるのだが)ということに主眼を置いたもの言え、趣旨としては、大田肇氏の「承認欲求」論(部下の承認欲求を満たすことがモチベーション向上に繋がるという考え)を大体において踏襲しているように思えました。
やさしく噛み砕いて書かれていて、「(部下のモチベーションを下げないために)部下をよくほめる」「つるし上げ会議から脱却する」「部下がしてほしいことを本当に把握できているのかを把握する」「取り組むべきテーマを決める」などといったことは1つ1つが尤もですが、当たり前と言えば当たり前のことで、あまり新味はありませんでした。
「上司と部下の“評価の不一致”を正すことから始めよう」というのには大いに共感しましたが、このことも含めて、実際に本書に書かれていることをやるかやらないかということが問題であり、そうした意味では、管理職初級レベルの啓蒙書という感じでしょうか。
問題上司というのは人格レベルの問題でもあったりし、そうした人はこのような本を読んでも本人自身は変わらなかったりして…(大体、そういう人はこうした本は読まないか?)。
投稿者 wadamy : 23:40
【1173】 △ 矢幡 洋 『困った上司、はた迷惑な部下―組織にはびこるパーソナリティ障害』 (2007/01 PHP新書) ★★★
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問題上司、問題部下をパーソナリティ障害という観点から分類。読み物としては面白いが…。
『困った上司、はた迷惑な部下 組織にはびこるパーソナリティ障害 (PHP新書)』 ['07年]
職場にはびこる問題上司、問題部下を、パーソナリティ障害という観点から分類し、それぞれが上司である場合の対処法、部下である場合の扱い方を、それぞれ指南していて、分類は、各章ごとに次のようになっています。
第1章 もっか増殖中の困った人びと(自己愛性、演技性、依存性)
第2章 はた迷惑な攻撃系の人びと(反社会性、サディスト、拒絶性)
第3章 パッとしない弱気な人びと(抑鬱性、自虐性、強迫性)
第4章 意外な力を発揮する人びと(シゾイド性、回避性、中心性)
第5章 やっぱり困った人びと(境界性、妄想性、失調型)
現在の人格障害の国際基準は、DSMⅣの10分類ですが、本書では、DSMを監修したセオドア・ミロンが当初提唱した4カテゴリー(サディスト、自虐性、拒絶性、抑鬱性)を加え、更に「中心性」気質を加えており、これは大体この著者が用いる分類方法です。
各性格の特徴は簡潔に述べるにとどめ、「俺に任せとけ」と調子のいいことを言い、その場限りに終わる演技性上司に対する対処法や、上司の言うことなら何でも聞いてしまう依存性部下の扱い方など、読み物として、まあまあ面白し、読む側にカタルシス効果もあるかも知れません(著者自身、自らの過去の職場での鬱憤を晴らすような感じで書いてる)。
ただ、例えば、大物ぶって敬遠される自己愛性上司には、遠巻きにして勝手に歌わせておくか、おべっか言ってとりまきになるか、おだてて神輿に乗ってもらうかなどすればいいといった感じで、対応が何通りも示されている分、結局、どれを選べばいいのか?と思わせる箇所も。
著者は最初、良心をかなぐり捨て、「読んだ人だけ得をしてください」というスタンスで本書を書いていたところ(サディスト的部下は、派閥争いの戦闘要員として使え、などは、確かにマキャベリズム的ではある)、初稿を見た編集者から「どういうタイプの性格にも長所がある、というメッセージが伝わってくる」と言われたとのこと。
個人的にはむしろ、書かれているようにうまく事が運ぶかなあという気もしました。実際、うまく事が運ぶならば、「人格障害」と呼ぶほどのものでも無かったのでは…とか思ったりして。
著者もあとがきでも述べているように、「人格障害未満」の人も含まれていて、先にビジネスパーソンの行動パターンありきで、そこに「人格障害」の類型を“類推”適用したような感じもあります(“拡大”適用とも言える)。
その結果でもあるのでしょうが、やはり15分類というのは多過ぎるような気もし、自分が人格障害に関する本を読んでいた流れで本書を手にしたこともあり、「人格障害」とはどういうものかをもう少しキッチリ知りたければ、同じPHP新書の『パーソナリティ障害-いかに接し、どう克服するか』(岡田尊司著/'04年)などの方が、内容的にはしっかりしているように思います。
投稿者 wadamy : 23:29
【1172】 × 久新 大四郎 『あなたの会社の評判を守る法』 (2007/10 講談社現代新書) ★★
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網羅的なマニュアル、精神論主体の啓蒙書の域に止まり、読後に残らない。
『あなたの会社の評判を守る法 (講談社現代新書)』 ['07年]
「コーポレート・レピュテーション」という概念を紹介していますが、レピュテーション(reputation)とは「評判」であり、「コーポレート・レピュテーション」とは、「企業人の判断・行動、発言に対して、消費者や投資家、取引先、ジャーナリズム、地域社会といった全てのステークホルダーが下す正または負の評価のこと」であると、本書では定義しています。
冒頭に、「ブランド価値というのは、基本的にはその企業が提供する商品もしくはサービスに対する評価である」といった、いかにもマーケッターっぽい「ブランド・エクイティー戦略」の話などが出てきて、経歴を読まずとも、著者の出自が推し測れてしまいました(企業のマーティング部門から品質管理・市場対応部門に転属、その後、独立してコンサルタントに)。
自らの体験に近いところで書かれているようで、「製品不良問題に対する市場対応」問題に話は集中していています(レピュテーションの対象とするものは、これに止まらないと思うが)。
確かにこれだけでも、石油ファンヒーター、湯沸かし器から食品・菓子類まで、近年の製品事故の事例は枚挙に暇が無いわけで、そうした例を挙げながら、事故対応の問題点を指摘し、あるべき対応策を整理しています。
但し、素材に新しさはあるけれども、内容的にはマニュアルを圧縮しただけの感じもして、特にハッとさせられるようなものなく、消費者関連法など法律面についても、限定的な紹介しかされていないように思えました。
「会社の評判」は決して「金で買えるもの」ではないという趣旨は尤もですが、「全てがトップ次第」であると言いつつ、不祥事が起こった際、それに対して真摯に取り組んでいるかいないかは相手に伝わるものであり、「社員ひとり一人がステークホルダーに向き合え」とも言っており、結局、基本は網羅的なマニュアル書で、論説部分は精神論主体の啓蒙書の域に止まっています(読んで目から鱗が落ちたという人がいれば、そちらの方が問題)。
レスリー・ゲインズ=ロスの『「社長の評判」で会社を伸ばす』('06年/日本経済新聞社)ではないですが、受身的なマニュアル本や精神論主体の啓蒙書よりも、何か「決め打ち」的な戦略が示されているものの方が、読んだ後に残るものがあるように思いました。
投稿者 wadamy : 23:16
【1171】 △ 坂口 孝則 『会社の電気はいちいち消すな―コスト削減100の秘策』 (2009/03 光文社新書) ★★★
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“目から鱗が…”というほどもものでもない。
『会社の電気はいちいち消すな (光文社新書)』 ['09年]
「コスト削減」をテーマにした本で、肝は、サブタイトルの「コスト激減100の秘策」に呼応する、中盤・第3章の「節約術100連発」でしょうか。よくこれだけ網羅したものだなあと。
但し、目を通し終えてみれば、それほど斬新なものは無かったような…。
全くの素人ならともかく、例えば中堅企業の総務部長や庶務部長がこれを読んで、(チェックリストとして使えなくも無いが) “目から鱗が…”的な感想はまず抱かないのではないでしょうか。
タイトルの「会社の電気はいちいち消すな」というのも、会議室などで「5分以上人がいないときは自然の消灯するセンサーをつける」ようにしなさいというテクニカルなことを言っているに過ぎず(これは「節約術100連発」には含まれていない)、「節約術100連発」の中では、パソコン、プリンターの電源は、「こまめにコンセントから抜くことが大切」と言っています。
ホテルを舞台にした小説を素材にして、アウトソーシングや作業のカイゼン・効率化では利益はあがらず、決算書知識は役に立たないとして、薄利多売の意義を説いた第1章が最も興味深く読め、企業会計の勉強にもなりますが、事例の前提条件がやや粗っぽいか、或いは前提条件に対する説明が希薄だったりもし、そのことは「節約術100連発」にも言えるかと思います。
さすがに、リース契約と買い取りではどちらがいいかを考察した3章の後半では、「前提なしでこれに答えることは難しい」と予め断っていますが。
結局、財務的な観点から見れば、業務の実態等の状況に関わらずこれが絶対に良いと断言できるような施策は無い訳で、本全体としてはオーソドックスと言えばオーソドックスな内容、但し、個々についてそれが自社適合であるかどうかは自分で考えてください―といった感じでしょうか。
コンサルタントとして現場で場数を踏んでいるのであれば、従業員をそうした節約キャンペーンにコミットさせていく動機付けのための手法などにもっとページを割いてもよかったのではないかと思いますが、著者の専門はどうやら「購買」であるようで、そうした仕事はあまりやっていないのかな。
投稿者 wadamy : 23:05
【1170】 ○ 森戸 英幸 『いつでもクビ切り社会―「エイジフリー」の罠』 (2009/04 文春新書) ★★★☆
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年齢基準の「定年制」の方が能力基準よりマシという見解自体に異論は無いが…。
『いつでもクビ切り社会―「エイジフリー」の罠 (文春新書)』 ['09年]
森戸 英幸 氏
「年齢差別から能力本位へ」という掛け声の下、「エイジフリー」の美名において「定年制廃止」を理想の雇用形態とするような議論が進んでいる事に対して、気鋭の労働法学者が疑問を呈した本、と言っても、肩肘張らず楽しみながら読める内容です。

著者の『企業年金の法と政策』('03年/有斐閣)は良書だったと思いますが、その中にもアメリカと日本の年金制度の違いが詳しく述べられていたように、本書においてもアメリカを始めとする欧米と日本の雇用及びその枠組みとなる社会の違いについて、時折ユーモアを交えて考察しています。
途中まで「エイジフリー」社会の素晴らしさを讃えていますが、これが逆説的「前振り」であることは本のタイトルから容易に窺え、「いつ落とすか、いつ落とすか」という感じで読んでいました。
その落としどころも、タイトルから解ってしまう訳で、推理小説ではないので、むしろ最初から著者の考えが解ってこの方がいいかも。
玄田有史氏も『仕事のなかの曖昧な不安』('01年/中央公論新社)の中で「定年制廃止」に批判的でしたが(本書も参考文献を見る限りでは、慶応義塾大学の新塾長になった清家篤氏の「定年破壊」論がターゲットになっているようだ)、玄田氏はその理由として、定年制廃止が「既に雇われている人々の雇用機会を確保することにはなっても、新しく採用されようとする人から就業機会を奪うこと」になる怖れがあることを挙げており、一方、著者は本書において、定年が無くなれば解雇によってしか従業員を「退職させる」手段が無くなるため、人選の納得性などをどう担保するかが困難である点を指摘しています。
この考え自体は、著者と同門である労働法学者の大内伸哉氏が『雇用社会の25の疑問』('07年/弘文館)でも言っていたような気がしますが、定年制という「制度」があるから人は納得して会社を去るのであり、「60歳になったらウチの会社ではまあ大体使い物にならないよね」という割り切りが対象者個々人に通じるかどうかという著者の投げかけは、大変解り易いものです。
その上で、「エイジフリー」社会を目指すにはどうしなければならないか、「エイジフリー」社会が到来した際には働く側はどうしたらよいかといったことまで述べていますが、前半の欧米と日本の比較社会論のところでかなり「遊んだ」という感じ。
その分楽しく読めたし、「エイジフリー」ということを考え直すという点では良かったのですが、肝心な結論の部分ではやはり、「年齢基準の方が能力基準よりマシである」という消極的選択の域を出ていないため、さほど新味は感じられませんでした(個人的にはその考えというか見通しそのものには異論は無いのだが)。
投稿者 wadamy : 22:49
【1169】 ◎ 笹山 尚人 『人が壊れてゆく職場―自分を守るために何が必要か』 (2008/07 光文社新書) ★★★★☆
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面白かった。労働側弁護士の本だが、企業側が読んでもユニオン対策の参考書として使える?
『人が壊れてゆく職場 (光文社新書)』 ['08年]
笹山 尚人 氏 (弁護士/略歴下記)
著者は1970年生まれの弁護士で、首都圏青年ユニオンの顧問でもあり、その著者が扱った案件の内から、名ばかり管理職の問題、給与の一方的減額、パワハラ、解雇、派遣社員の雇止めなどのテーマごとの典型的な事案を紹介し、相談者からどのような形で相談を受け、会社側とどのように交渉し、和解なり未払い賃金の回収なりに至ったかを書き記しています。
要するに労働側弁護士が、ユニオンに寄せられた労働者の訴えを聞いて、ユニオンと協働してどのように企業側の横暴を暴いていったかというデモンストレーションの書ともとれなくもないですが、労働者はもっと労働組合を活用しようというのが本書の主たるメッセージの1つでもあり、こうした流れになるのは当然かも。
労働者から相談を持ち込まれて、弁護士やユニオンがどのような対策をとるのか、その経緯や戦略がリアルに描かれているためかなり面白く読め、事実だから“リアル”なのは当然ですが、「よし、これはいける」とか「参ったな、これはまずいかも」などといった顧問弁護士として係争の見通しに対する感触が随所に吐露されているため、まるで小説を読んでいるみたいでした(顧問としての立場だから書ける部分もあり、ユニオンの人が書くとこうはならないのでは)。
そうした点で、企業側が読んでも、ユニオン対策の参考書として使える部分もあるように思えたし(勿論、こうした事態に陥らないようにすることがそれ以前の話としては当然あるが)、労働法の趣旨や労働契約、就業規則の性質、労働審判の仕組み等についても、それぞれ係争の場面と照らしつつ具体的に解説されているので、実感を持って理解できるものとなっています。
最初の方にある給与の一方的減額や上司が部下を殴り「顎に穴を空けた」(!)といったような事例は、会社側に非があることが自明の、且つ、かなり極端なケースにも思えましたが、係争案件として最も数の多いという「解雇」については、会社側の権利濫用を疎明するのが弁護士にとっても結構難しいケースもあることが窺え、労働者側が勤務期間を通じて完璧に清廉潔白であればともかく、中盤にある解雇の事例などもそうですが、訴える労働者側にも忠実義務に反する行為があったりすると、会社側はそこを突いてくる-そうした中で、いかに依頼人に有利な結果を導くかと言うのは弁護士の腕にかかっているのだなあと(何だかディベートの世界みたいだし、海外の法廷ドラマのようでもある)。
ジョン・グリシャム原作の映画「依頼人」さながらに、1万円の着手金で派遣元から解雇された依頼人の仕事を受けた話などには著者の熱意を感じますが、これなども「感動物語」というより、和解に至る経緯とその事後譚が興味深かったです。
一方、著者の言う労働組合活動の復興は、従来型の企業内組合ではなかなか難しいのではないかという気もし、結局はコミュニティ・ユニオンということになるのでしょうが、ユニオンの場合、労働者1人1人は、自らの案件が決着すると組合員であることを辞めるのが殆どのようで、その辺りはユニオンにとっても難しい問題ではないでしょうか(係争の間しか組合費が入らない)。
結局、その結果ユニオンは、動いたなりの報酬を得なければというかなりタイトな経済原理のもとで活動している面があるように思われるのですが(その事は、労働者側の責に帰すべき部分が大きいと思われる場合には軽々しく介入しないということにも繋がっているのだが)。
それは弁護士も同じかも。本書にある「着手金1万円」のケースも、解決金から報酬を得ればいいという見通しのもとで動いているわけで、こうした弁護士の本音に近い部分が書かれているという点でも、興味深い本でした。
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笹山 尚人 (ささやま なおと)
1970年北海道札幌市生まれ。1994年中央大学法学部卒業。2000年弁護士登録。第二東京弁護士会会員。東京法律事務所所属。弁護士登録以来、「ヨドバシカメラ事件」など、青年労働者、非正規雇用労働者の権利問題を中心に事件を担当している。共著に、『仕事の悩み解決しよう!』(新日本出版社)、『フリーターの法律相談室』(平凡社新書)などがある。
《読書MEMO》
●目次
はじめに
第一章 管理職と残業代 ---- マクドナルド判決に続け
第二章 給与の一方的減額は可能か? ---- 契約法の大原則
第三章 いじめとパワハラ ---- 現代日本社会の病巣
第四章 解雇とは? ---- 実は難しい判断
第五章 日本版「依頼人」 ---- ワーキング・プアの「雇い止め」
第六章 女性一人の訴え ---- 増える企業の「ユーザー感覚」
第七章 労働組合って何? ---- 団結の力を知る
第八章 アルバイトでも、パートでも ---- 一人一人の働く権利
終 章 貧困から抜け出すために ---- 法の定める権利の実現
おわりに
投稿者 wadamy : 22:41
【1168】 △ 梅澤 正 『職業とは何か』 (2008/08 講談社現代新書) ★★☆
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キャリアの入り口に立ったばかりの人向け、と言うよりジュニア向け?
『職業とは何か (講談社現代新書)』 ['08年]
本書の趣旨は、職業とは「~をやりたい」という主観だけではなく「~を通じて社会の一員となる」という社会性がより重要であり、「自分に合った仕事探し」という考え方をやめて、社会が要請している仕事を探すべきであるということで、この内容からも察せされるように、キャリアの入り口に立ったばかりの人向けの本とでも言うべきものなのでしょう。
キャリア教育の専門家が書いた真面目な本であり、書かれている内容も正論だと思いますが、「自分探し」なんてやめろということは養老孟司氏なども以前から言っていることであってあまりインパクトが感じられず、「職業とは何か」と言うことを「仕事とは何か」ということから考察している部分は、むしろ「仕事とは」の方にウェイトがいってしまっている感じもしました。
「キャリアの入り口に立ったばかりの人向け」と最初に書きましたが、就職を間近に控えた人が読んでも、即“応用”という風にはならないかも。
むしろ、イチロー、三浦和良、マザー・テレサから大前研一、三木谷浩史、小椋佳まで(誰彼と無くと言っていいほど多くの)有名人の歩んだキャリアや仕事観がその発言や著作などから引用されていて、こういうのってジュニア向けの書籍によくあるパターンではないかと。
それでいて、冒頭にフランク・パーソンズの「職業選択」理論が出てきて、終わりの方では「ライフサイクル」論のダニエル・レビンソンの著作を紹介していたりもしていますが、但しそれらの解説も浅いもので、キャリア論を深く展開するというところまでは行っておらず、本全体として総花的一般論という感じは拭いきれませんでした。
大学に入学したばかりぐらいの人向けか、あるいは高校生向けといったところかも知れません。
投稿者 wadamy : 00:16
【1167】 × 川崎 昌平 『若者はなぜ正社員になれないのか』 (2008/06 ちくま新書) ★★
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“体験小説”風「就活記録」。「読み物」を書くことが目的化している本?
『若者はなぜ正社員になれないのか (ちくま新書)』 ['08年]
本書は、「大学を出た後、2年近くふらふらしていた人間が心を入れ替えて開始した一連の就職活動」の顛末の記録ということで、著者は大学院卒であることから、水月昭道氏の『高学歴ワーキングプア』('07年/光文社新書)の実体験版と言えなくも無く、但し、「若者はなぜ正社員になれないのか」という労働問題上の一般論的なタイトルを謳いながら、「いかにも新書的に社会を俯瞰する形で解答を提示することを僕はしない」として、結果として“体験小説”風の本に仕上がっている(それに終始している)のはいかがなものでしょうか。
水月 昭道 『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)』
企業の採用活動の現場やそこに集まる学生達の様子が結構生々しく綴られていて、読み物としてはまあまあ面白かったりもするのですが、そうした「読み物」を書く事が目的化しているみたいで、ああ、結局この著者は文筆業で身を立てていくつもりでいて、本書はその足掛かりなのだなあと勘繰りたくなってしまいます(その分、書かれている就職活動の内容に、今ひとつ著者自身の真剣さが感じられない)。
どういう本にするのか編集者ともう少し詰めて欲しかった気がし、編集者側から提示されたタイトルをそのまま受け入れ、但し、内容は自分の書きたいことを書いているという感じ。
本来ならばタイトルそのものを拒否すべきだろうけれども、こうした“妥協”ぶりも、著者の就職活動いい加減ぶりと重なるような…(著者自身も、内容との整合性を重視するより、“売れそうな”タイトルを選択した?)。
本書に対する個人的評価を星1つにせず星2つとしたのは、採用面接で落ちまくる自分のダメさ加減や、企業の担当者や一緒に受けた周囲の学生に対する印象などが素直に描き表わされていて、気持ち的には大いに共感(同情?)をそそられる面があったため(やっぱり小説なんだなあ、これ)。
但し、最後の方にある就職活動者に対するアドバイスなどになると、やけに保守的な部分とフザケ気味な部分が混在していて、著者自身がやや分裂している感じもし(就職試験で落ちまくる学生も、就活の終盤に来ると分裂状態を呈することがあるが)、「不安定の意義」なんて考え始めるとドツボに嵌るのであんまりそんなことは考察しないで、是非、自分の身の丈に合った「安定」を追求していただきたいと思います。
【1166】 ○ 水月 昭道 『高学歴ワーキングプア―「フリーター生産工場」としての大学院』 (2007/10 光文社新書) ★★★☆
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ノラ猫ならぬ“ノラ博士”量産の背景。研究員や非常勤講師は大変なのだということはよく分かった。
『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)』
水月昭道 (みずき・しょうどう)氏
大学院卒という肩書きを持ちながら就職に苦労している人を過去に何人か見てきましたが、その背景として、大学がとった「大学院重点化」という施策による博士養成数の急激な拡大と、一方で、大学という彼らにとっての就職先そのものにポストがないという現実があることが、本書によりよく分かりました。
著者によれば、「大学院重点化」と言うのは「文科省と東大法学部が知恵を出し合って練りに練った、成長後退期においてなおパイを失わんと執念を燃やす“既得権維持”のための秘策」だったとのこと、それが90年代半ばからの若年労働市場の縮小(つまり就職難)と相俟って、学生を「院」へ釣り上げる分には何の苦も無くそれを成し得たが、ほぼ終身雇用に近い大学教授のポストにそんなに空きが出るわけでもなく、結果としてノラ猫ならぬ“ノラ博士”を大量に生み出しているとのこと。
文科省の「大学院重点化」施策に多くの大学が追従した背景には少子化問題があり、学生数の減少を大学院生の増大で補っているわけで(平成3年に約10万人だった院生が、平成16年には24万人余りに増えているとのこと)、大学にも経営をしていかなければならないという事情はあるとは言え、結果として博士号取得済みの無職者(教員へのエントリー待ち者)が1万2千人以上、博士号未取得の博士候補者(博論未提出、審査落ちなどの理由で博士号を授与されていない者)はその数倍いるという現状を生じせしめた、その責任は重いと思いました。
本書ではそうした“ノラ博士”のフリーターと変わらない生活ぶりなどもリポートしていて(研究員や非常勤講師って、コンビニでバイトして生活費を稼ぎながら学会発表のための論文も書かなければならなかったりして大変なのだなあ)、一方で、“誤って”大学院に進学してしまい、現在就職において苦労しているような人達に対しても、専門にこだわらず発想の転換を促すようアドバイスをしていますが、この“やさしさ”は、著者自身が、そうした道を歩んできたことに由来するものなのでしょう。
その分、既にベテランの教授職として象牙の塔にいる側に対する憤怒の念も感じられ、そのことが諸事の分析にバイアスがかかり気味になるキライを生んでいるようにも感じられます。
実際、本書に対する評価はまちまちのようですが、個人的には、研究員や非常勤講師と呼ばれている人達が置かれている現状を知る上では大いに参考になりました(今までその方面の知識が殆ど無かったため)。
投稿者 wadamy : 00:11
2009年05月08日
【1165】 ○ 布施 直春 『イザというときの労働基準法―トラブル発生!そのときあなたは・会社はどうする?』 (2008/12 PHPビジネス新書) ★★★☆
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1163】 國部 徹 『図解による労働法のしくみ 〈増補版〉』
一般サラリーマン向けの解説書として見るならば、オーソドックス。
『イザというときの労働基準法 (PHPビジネス新書)』 ['08年]
著者は元(長野・沖縄)労働基準局長。同じ著者の『わかる!使える!労働基準法―「知らない」ではすまされない仕事のルール』('07年/PHPビジネス新書)の続編とも言えるもので、この新書のメインターゲットである、企業で働く一般サラリーマン向けに、Q&A方式で、賃金や労働時間に関する問題をわかり易く解説しています。
新書にしては項目数も多く、その点では充実しているかと思われ、用語索引もついて親切です。
経営者・管理職向けにも書かれている部分があり、その点で一般サラリーマンが読んでどう思うかというのもありますが、経営者・管理職に求められる労働法の知識というのは、一般サラリーマンが知っておいても結局のところ無駄にはならないと思うので、いいのではないでしょうか。
ただ、人事担当者や実務担当者が読むとなると、少し浅いかも(初任者レベルか)。
大学教授である大内伸哉氏の『どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門』('08年/新潮新書〉もそうでしたが、判例などを挙げても具体的な判例名がない、と言うより、本書の場合、項目数が多い分、判例解説にまでは言及しきれず、「…という場合もあります」的な解説にとどまっている部分が多いように思えました。
でも、パート、契約社員、高齢者等を巡る問題も含め、現時点では最新の内容となっており、あくまでも一般サラリーマン向けの解説書として見るならば、手に取りやすいというメリットがあり、内容的にもオーソドックスな線をいっているのではないでしょうか。
《読書MEMO》
●章立て
序章 まずは知っておきたいトラブル解決の基本ルール
第1章 賃金に関するトラブル
第2章 労働時間、割増賃金、休日・休暇のトラブル
第3章 企業内のさまざまなトラブル―配転、出向、男女差別、企業合併、労災保険など
第4章 退職、解雇、雇用保険に関するトラブル
第5章 パート、契約社員、高齢者を巡るトラブル
第6章 「あっ、労働基準法違反!」そのときどうする?―イザというときの労働者の解決手段
第7章 経営者、管理職なら知っておきたい!労基署、労基監督官への対応法
投稿者 wadamy : 23:54
【1164】 ○ 大内 伸哉 『どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門』 (2008/08 新潮新書) ★★★☆
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1165】 布施 直春 『イザというときの労働基準法』
「●新潮新書」の インデックッスへ
読みやすい入門書だが、結局「程度問題」ということになるテーマも多い。
『どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門 (新潮新書)』 ['08年]
大内 伸哉 氏
副業、社内不倫、経費流用、ブログによる自社の中傷、転勤拒否、内部告発、セクハラといったことが、実際どこまでが許されるのか、事例を挙げながら主にサラリーマンの立場に立って解説されていますが、同時に、会社の労務管理サイドの人が、企業防衛の立場から労務トラブルに対処する方法、及び、その前提となる法の考え方を学べるものにもなっています。
各テーマの設問は、新潮社の担当編集者が、一会社員としての日頃の疑問をもとに案出ししたとのことで、いかにも「新潮新書」らしい本作りとなっている印象を受けました(全てが担当者のオリジナルならば、この担当者はかなり優れた人ではないか)。
大内先生のことでもあり、きっちり法律の基本を抑えながらも、一部に個人的見解を挟んでいて、勉強になるだけでなく考えさせられる点もありました。
但し、もともとのテーマが、法律で簡単に○×で結論づけられるようなものではないものが多いため、結局は「程度問題」としか言いようのないものもあります。
実際、かなりの判例を引きながらの解説になっていて、その点はその点で、この人の判例の読み解きはわかり易く定評があるのですが、具体的な判例名がほとんど省かれているのが少し不満。
一般向けの新書だからやむを得ない気もしますが、こういうのは企業名が出てきた方が、個人的には頭に入り易く、途中で挟まないまでも、最後に判例索引でもつけてくれたらもっとよかったのにと、ちょっとばかり思いました(そこまでやると、一般読者は引いてしまうのかも知れないが)。
《読書MEMO》
●章立て(一部)
ブログ―ブログで社内事情を書いている社員がいてヒヤヒヤしています。あの社員はクビにならないのでしょうか?
副業―会社に秘密で風俗産業でアルバイトをしている女性社員がいます。法的に問題はないのでしょうか?
社内不倫―社内不倫しています。これを理由にクビになる可能性はありますか?
経費流用―私用の飲食代を経費として精算したのがバレてしまいました。どれくらいの額だとクビになりますか?
転勤―会社から転勤を命じられました。どういう事情があれば拒否できますか?
給料泥棒―まったく働かない給料ドロボーがいます。会社はこういう人を辞めさせることはできないのでしょうか?
内部告発―会社がひどい法令違反をしています。内部告発をした時に自分の身を守る方法はありますか?
合併―会社が他の会社と合併することになりました。合併後は給料が下がりそうなのですが、そんなことは認められるのでしょうか?
残業手当―上司に言われていた仕事が勤務時間内に終わらずに残業しました。こういうときでも残業手当をもらえますか?
新人採用―半年の試用期間で「採用失敗」が明らかになった新入社員がいます。会社は彼を本採用することを拒否してよいのでしょうか?
投稿者 wadamy : 23:40
【1163】 ○ 國部 徹 『図解による労働法のしくみ 〈増補版〉』 (2009/01 自由国民社) ★★★★
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1213】 ◎ 中井 智子 『「労働時間管理」の基本と実務対応』
解説・図解が「条文」も含めて見開き単位で収められているため使い易い。
『図解による労働法のしくみ』 (2009/01 自由国民社)
弁護士による労働基準法の解説書(入門書)で、各項目見開きで、左ページが横書きの解説、右ページが図解となっていますが、特徴的だと思ったのは、労働基準法の章・条単位で解説されていて、更に解説部分に該当する条文を、右ページの下に書き出していること(罰則規定がある場合はそれも併せて)。
解説・図解が「条文」も含めて見開き単位で収められているため、解説を読みながらいちいち条文を手繰らなくて済み、ほぼ条文の順番で解説がなされているためリファレンスとして使用する際にも便利、しかも、あまりこうしたパターンの解説書は見かけないため、書店で見かけて迷わず購入し、大学の法学部の学生向けの講義資料を作るのに参考にさせてもらいました。
労働法の体系、各法令の制定趣旨にまで踏み込んで解説されており、労働組合法、労働関係調整法、個別労働関係紛争解決法、労働審判法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、雇用保険法などの関連法規にも触れられています。
アラを探せば、'07年刊行の初版の今回は〈増補版〉である('09年1月刊行)ということであるにも関わらず、労働基準法「第6章の2」が依然「女性」のままになっていたり(以前から「妊産婦等」に改められている)、解雇権濫用法理を明文化したものとして’03年に労働基準法に盛り込まれ(第18条の2)、その後、'08年3月施行の労働契約法第16条に条文移行された「解雇」(合理的理由を欠く解雇の無効)が、未だに第18条の2にあったりはしますが…。
<増補>の意味は、「激増する最近の労働トラブルと解決法」という記述が巻末に6ページ追加されているためのようですが、全体を通して内容はプロ向けに近いレベルなので、バージョンアップするならば、この辺りの章名改変や条文移行もチェックして欲しかった気がします。
投稿者 wadamy : 23:34
【1162】 ○ 吉田 正敏 『イラストでわかる知らないと損する労働基準法 〈Ver.2〉』 (2008/03 東洋経済新報社) ★★★★
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1193】 峰 隆之 『賃金・賞与・退職金Q&A』
「第○条第○項」といった記述は無く、一般向けにわかり易い言葉で書かれた入門書。
『イラストでわかる知らないと損する労働基準法〈Ver.2〉 (イラストでわかる-Illustrated Guide Book Series-)』 (2008/03 東洋経済新報社)
社会保険労務士による労働基準法の解説書(入門書)で、縦書きで1項目につき見開き2ページ、全77項目。
各項目の左ページをイラストに充てており、解説文の用語も、前書きで予めそのことを断った上で、労働者を「社員」、使用者を「会社」、賃金を「給料」というように言い表すなどしており、初学者にとっては普通の書物を読むような感じで入り込み易く、また、わかり易い内容となっています。
初版は'01年刊行で、'08年4月刊行(書店売り3月)の本書は“Ⅴer.2”ということですが、パート労働法の法改正('08年4月施行)なども一応は押さえていて、但し、全体としては、労働基準法そのものの基本部分、とりわけ一般の会社員に関わる労働時間や休日・休暇、「給料」などに重点が置かれているようです。
イラストは所謂「図解」的なものからコマ漫画までバラエティに富んでいて(“Ⅴer.2”の表紙のイラストより、実際の中身のイラストは漫画チック、図解部分も「板書」的と言った方がいいか)、これはこれでわかり易いですが、個人的にはむしろ解説文がわかりよいと感じました。
「労働基準法第○条第○項において」などといった書き方は(意図的に)一切されていないので、「法律」としての労働基準法を学びたいと思っている人には物足りないかもしれませんが、一般の企業に勤める社会人にはこれで充分かも。
必要に応じて、施行規則や通達レベルのことも書かれているのですが、あくまでも、普通の会社員に対し、普通の言葉で書かれているという感じ。
専門業務型裁量労働制の適用職種が「18」であるとか(「19」ではないか)、細かい点で突っ込み所はありますが、よくあるテカテカの紙質に横書きでゴチック文字を多用してびっちり文字や図説が盛り込まれた入門書のパターンとは一線を画していて、その点でのオリジナルな工夫は買いたい本です。
投稿者 wadamy : 23:30
【1161】 ○ 丸尾 拓養 『解雇・雇止め・懲戒Q&A―労働法実務相談シリーズ5』 (2007/05 労務行政) ★★★★ (○ 千葉 博 『労働時間・休日・休暇Q&A―労働法実務相談シリーズ2』 (2007/03 労務行政) ★★★☆)
「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1194】 大内 伸哉 『雇用社会の25の疑問』
労務行政の「労働法相談シリーズ」。全体としては労務行政らしいカッチリとした内容だが…。
『解雇・雇止め・懲戒Q&A (労働法実務相談シリーズ)』 (旧版)
『労働時間・休日・休暇Q&A (労働法実務相談シリーズ)』
先ず先に刊行された『労働時間・休日・休暇』の方ですが、シリーズの中で少しだけページが少なめ。こうしたテーマ分けの仕方をするのならば、このテーマの巻はもっとページ数が多くなってもいいような気がするのですが、読んでみてやはり、かなりポイントを絞った(基礎的な)Q&Aになっているように思いました。
実務において実際に充分に起こり得る問題とその対処法がコンパクトにまとめられているという点では良いのですが、約200ページで3,000円は少し価格が高いのでは。
『解雇・雇止め・懲戒』の方は、Q&Aまでの部分で約240ページ(3,200円)。普通解雇、雇止めのほかに、雇用調整の一環としての希望退職や整理解雇についても一定数のQ&Aを配していて、懲戒についても懲戒全般と懲戒解雇を併せて網羅しています。
判断が微妙な問題が多いジャンルですが、「労政時報」の「相談室Q&A」の回答でも定評のある弁護士が、判例等を的確に引いて要領よく解説しているように思いました。
但し、このジャンルはどうしても程度問題、ケースバイケースということが多くなりがちで、これは仕方がないことなのかも知れません。
逆に、冒頭から、「職能資格等級制度の下で、能力不足を理由として解雇することができるか」「成果主義の下で、能力不足を理由として解雇することができるか」という問いに対して「原則」としながらも共に「できない」としていて、そうはっきり言えるのかなあと(普通の会社であれば事案としては稀な事かも知れないが、検討の俎上に上がるとすれば、かなり顕著なケースが想定されるのではないか)。
「役割等級制度」だったら能力不足を理由として解雇していいのか、或いは「成果主義」でなければいいのか、というふうにとる人はまずいないとは思うけれども、等級制度や賃金制度の違いが普通解雇の要件の強弱に関係してくるような誤解を招く設問設定では?(著者の言わんとするのはその逆なのだが)。

『解雇・雇止め・懲戒』の手元にあるものは'07年5月初版のものですが、引用されている「有期労働契約の締結、更新及び止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示)などは、'08(平成20)年3月1日に一部改正されており、本書に間に合っていません。
'08年4月に〈増補改訂版〉が出されていて、今買うならば当然そちらですが、そちらの方ではどうなっているのでしょうか。
このシリーズが、シリーズのナンバー順の刊行になっていないのも、ジャンルによってはめまぐるしい法改正があることがその一因としてあるのではないかと推察します。
『解雇・雇止め・懲戒Q&A (労働法実務相談シリーズ)』 〈'08年4月増補改訂版〉
ただ両書とも、各章の冒頭の「論点整理」は非常によく纏まっていて、とりわけ『解雇・雇止め・懲戒』のそれは大変わかりよいものでした。
投稿者 wadamy : 23:21
2009年04月27日
【1160】 △ 五十嵐 仁 『労働再規制―反転の構図を読みとく』 (2008/10 ちくま新書) ★★☆
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労働規制緩和の流れと'06年以降の規制の強化傾向を解説するも、ブログ本の域を出ず。
『労働再規制―反転の構図を読みとく (ちくま新書)』 ['08年]
'95年以降進められてきた労働規制の緩和政策が、'06年以降、労働規制の強化傾向に転じているその流れを、'08年9月の福田康夫首相の辞任表明など最近の政局を絡めて、或いはまた、その前の、経済財政諮問会議、総合規制改革会議などを軸とした小泉純一郎首相の「構造改革」路線、更にはずっと前、'95年の日経連「新時代の『日本的経営』」の成り立ち等も含めて解説しています。
歴史的な変遷はわかり、また読んでいるうちに著者の“立ち位置”もわかってくるのですが、記述に先入観を持たれまいとするためか、敢えて自ら立場のことは前面に出していない―、このやり方が今ひとつ肌に合わなかったです(本書は、自らのブログ記事からの転用も多いが、ブログの中では、自分は「リベラル」以上の「左翼」であるとはっきり言っている)。
経済界による「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入の動きが国民的反発を招いたのは、「残業代ゼロ法案」というふうに表現されたことが「躓き石」だったとする経済界自身の“敗因分析”に対し、それが「労働実態を無視したまま」の議論だったことを真の原因として指摘していますが、そうした著者の論拠さえ、学者の言説を引いて思い入れのある側に軍配を上げているようにもとれなくもなく、すっきりとした解説になっているようには思えませんでした。
個人的には、'95年の日経連の“その後の市場原理主義的な規制緩和を導いたとして悪名高い”「新時代の『日本的経営』」について、それを書いた日経連の小柳勝二郎賃金部長が、「雇用の柔軟化、流動化は人中心の経営を守る手段として出てきた。これが派遣社員などを増やす低コスト経営の口実としてつまみ食いされた気がする」(2007.5.19 朝日新聞)というコメントが興味深く、この「つまみ食い」論には同感です(「新時代の『日本的経営』」をちゃんと読んだ人がどれだけいるのか)。
但し、これは「朝日新聞」の記事を引用したにすぎないもので、著者もこの内容自体は否定しておらず、「つまみ食いしたのは誰か」という話へと移っていっています。
読んでいくと、「宮内」さんとか「牛尾」さんとかの名前が出てきてそこそこに面白いのですが、この人、政・財界ウォッチャーなの?(ブログでは、池田信夫氏と論争して優勢みたいだけれど、まあ2人の論争は"内ゲバ"みたいなものだなあ)
こんな役割の人がいても別に構わないと思うけれど、こういう本は、読んでいる時の面白さほどには読後感が深まらないような気がしました(池田信夫氏がわざわざ「読んではいけない本」という言ほどの影響力のある本だとは思えないのだが)。
投稿者 wadamy : 00:26
【1159】 ○ 東京管理職ユニオン 『偽装管理職』 (2008/04 ポプラ社) ★★★☆
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「●社会問題・記録・ルポ」の インデックッスへ
ユニオンの監修だが、企業側担当者が意識面でのセルフチェック用に読める部分もあった。
『偽装管理職』 ['08年/ポプラ社]
マクドナルド訴訟:店長は非管理職。東京地裁が残業代認定―判決後に会見する高野広志さん('08年1月28日)[写真:毎日新聞社]
「偽装管理職」の問題は、'08年1月28日の東京地裁の「マクドナルド判決」以降、一層、マスコミや社会の注目を集めるようになりましたが(NHKは「名ばかり管理職」問題という言葉を使っており、判決の3日後に予め特番を組んでいた)、本書の刊行もこの判決が1つの大きな契機となっているとのこと。
第1章では、ユニオンなどに寄せられた相談事例が4件紹介されていますが、どれも企業側の社員に対する扱いや訴えられた後の問題への対応が呆れるほどひどいもので、無理矢理「管理職」に仕立て上げた社員に、仕事だけでなく責任まで押し付け、何かあれば退職を勧奨するなど、時間管理の問題だけでなく、品質管理、責任体制、更には事業戦略などの問題が絡んでいるように思えました。
マクドナルドのような大企業だから(また、訴訟を通して闘うことを決意した店長がいたから)世の話題になったのであって、これまでにも一部の中堅・中小零細企業では、こうしたことは日常茶飯に行われていたのではないかと思われます。
労働者側から見れば、「労働審判制度」などにより係争などに持ち込み易くなったとは言え、ユニオンに相談を持ち込むことさえも相当の勇気がいることではないかと思われ、そうせずにはおれない感情を労働者に呼び起こすだけの仕打ちを、こうした企業はしているという見方も成り立つのでは。
マクドナルド問題もそうですが、「恒常的な100時間超の残業」というのは、「管理職」であるということが残業代不払いの名目として用いられているという点で法的な問題ではあるかも知れませんが、その分残業代を支払えば解決される問題でもなく、根本的な企業体質の問題でしょう(その点、マクドナルド問題については、田中幾太郎氏の『本日より「時間外・退職金」なし』('07年/光文社ペーパーバックス)の方が、本書よりずっと分析が深い)。
法的問題ということで言えば、本書にも登場する日本労働弁護団の棗一郎弁護士が最近、残業時間の上限規制を法制化することを主張しているように、法制度そのものの問題かも(本書でも少し触れられているが、昭和30年代から、ファーストフード店店長など「名ばかり管理職」問題を巡る訴訟は約30件あって、9割方は企業側が敗訴している。訴訟になって初めて、法律が純粋適用されるという印象を受ける)。
配置転換における不当な人事権の行使、パワハラ問題に端を発するメンタルヘルス疾患の問題など、本書で取り上げられているものは残業時間問題に限らないもので、極端な例が多いように思える一方で、企業側の対応には、どこの人事担当者も一瞬は考えそうな「臭いものには蓋をせよ」的な面もあり、企業側担当者が意識面でのセルフチェック用に読める部分もあったように思います。
投稿者 wadamy : 00:25
【1158】 ○ 田中 幾太郎 『本日より「時間外・退職金」なし―日本マクドナルドに見るサラリーマン社会の崩壊』 (2007/02 光文社ペーパーバックス) ★★★★
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一見煽り気味だが、実は、相当に勉強した上で書かれているという感じ。
『本日より「時間外・退職金」なし (光文社ペーパーバックス)』 ['07年]
'08年1月、日本マクドナルドが店長を管理職として扱い、残業代を支払わないのは違法だとして、現役店長が未払い残業代を求めた訴訟で、東京地裁は原告の訴えを認める判決を下しましたが(紳士服のコナカを巡っても同様の判決があった)、この判決に合わせるかのように外食だけでなく小売業などでも店長の処遇の見直しを迫られたり、また全産業的に「偽装管理職」問題ということがよく言われるようになったりしました。
本書は、「マクドナルド判決」の1年近く前に刊行されたものですが、前半部分では、日本マクドナルドが藤田田氏('04年没)のもと日本的な企業としてあったのが(マックは日本進出に際し敢えて大手と組むことはせず、藤田商店をパートナーにしたのだが、この藤田氏が思った以上にしたたかだった)、それが藤田氏が経営から身を引き完全に外資系企業となって以降、リストラや残業代・退職金の不支給など、いかに従業員を使い捨てにするような人事施策をしてきたかが描かれています。
裁判に訴えた店長にも取材しており、本人が語るその勤務実態のあまりにひどさ(睡眠時間が3時間ぐらいで、不足分は職場で昼に仮眠をとるような生活の繰り返し)には呆れました。
やや煽り気味に書かれている部分もありますが、後半部分では、法制化が一旦は見送られたホワイトカラー・エグゼンプションについて、海外ではどのようになっているのか(アメリカは従来の年収基準を引き上げた―ただし従来が最低賃金以下の基準だった)、また日本経団連の考え(年収400万円・700万円案)や、審議会答申を踏まえての厚生労働省案(900万円案)など、国内ではこれまでどのような論議がされてきたかがよく纏められています。
表題にある退職金制度の見直し問題に絡む日本版401kや、改正された労基法・高齢者雇用安定法などについてもその問題点を指摘し、法令の今ある姿だけでなく、過去からの経緯や将来の見通しなどにも触れているので、読んでいて改めていい復習になりました(相当に勉強した上で書いている、という感じ)。
個人的にはホワイトカラー・エグゼンプション導入に賛成であり、また、日本企業がグローバル競争に勝つためには抗えない流れだと考えます。
もともと現行の労働基準法の規定するところに沿って厳密に解釈すると、部長クラスですら管理監督者とは言えなくなってしまうようなことになりかねず、その分、経営側から見ればホワイトカラー・エグゼンプション導入への期待は大きいのでしょうが、マクドナルドのようなひどいケースがこの流れが引き起こす問題の代表例とされてしまうのではたまらないといったところでは。
しかも、マック側は'08年5月に直営店の店長や複数店の店長を兼ねるエリア店長には残業代を支払うことにしたものの、裁判そのものに関しては地裁判決を不服とし控訴を取り下げずにいたため、高裁や最高裁までいってこの判決が確定してしまうとまさにリーディングケースとなり、企業全般に与えるマイナス影響はさらに大きくなる一方だと個人的には懸念しておりました。
しかし、結局その後マックは、'08年8月以降は原告を含めた直営店の店長(約1700人)を正式に管理職から外して残業代を支払うこととし、更にこの係争については'09年3月に東京高裁の控訴審で和解が成立し、約4年半の残業代など約1000万円を原告に支払うことになりました。
係争中でありながらも“名ばかり管理職”の「将来分」の残業問題を先に解消したことに対しては一定の評価できますが、こうした場合、原告以外の“名ばかり管理職”だった人も、訴訟を起こせば「過去分」が取り戻せるのではないでしょうか(この問題があるから、和解まで時間がかかった?)
マクドナルド訴訟で和解が成立し、笑顔で記者会見する原告の高野広志 氏
(2009年3月18日)[毎日新聞社]
投稿者 wadamy : 00:18
【1157】 ○ 金子 雅臣 『壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか』 (2006/02 岩波新書) ★★★☆
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被害者・加害者の相談窓口とのやりとりをリアルに再現。男性側がひど過ぎ(人格障害?)。
『壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか (岩波新書)』 ['06年]
金子雅臣 氏
ルポライターである著者は、長年にわたり東京都の労働相談に従事していた人で、東京都は「セクハラ相談窓口」を早くから設け、解決に導く斡旋システムを作り、実績を残してきたとされる自治体ですが、本書では、どういった形でのセクハラ相談が「女性相談窓口」に持ち込まれ、役所命令で召喚された加害男性はどう抗弁し、それに対して彼自らに非があることをどのように認めさせ、斡旋に持ち込んだかが、会話のやりとりそのままに描かれています。
とにかく、本書の大部分を占める5件の事例における、被害者、加害者と相談窓口とのやりとりが、秘密保持の関係で一部手直しされているとは言え、非常にリアルで(岩波新書っぽくない)、こうした当事者間の問題は、真相は「藪の中」ということになりがちなような気もしますが(実際、アンケート調査で用いた架空事例については、好意かセクハラか意見が分かれた)、本書で実際例として取り上げられているものは、何れもあまりにも男性の方がひどい、ひど過ぎる―。
まず、セクハラの加害者としての意識がゼロで、被害者の気持ちを伝えると、今度は一生懸命、「藪の中」状況を作ろうとしていますが、すぐにメッキが剥がれ、それでも虚勢を張ったり、或いは、最後は会社を解雇されたり妻に離婚されたりでボロボロになってしまうケースも紹介されています。
こうした問題に関連して最近よく発せられる、職場の男性は“壊れている”のか?という問い対し、著者は上野千鶴子氏から「男性はもともと壊れている」と言われ、著者自らが男性であるため、それではセクハラを「する男」と「しない男」の分岐点はどこにあるのかを検証してみようということで、本書を著したとのことです(と言うことは、自分はハナから「セクハラをしない男」に入っているということ? この辺がやや偽善系の感じもするが…)。
加害者となった男性が「男の気持ちがわからない女性が悪い」「なぜ、その程度のことで大騒ぎするのだ」などと反論することがまま見られるように、著者の結論としては、男性の身勝手な性差別意識の問題を挙げていて、セクハラを「する男」には押しなべて男性優位の考えと甘え発想があり、実はセクハラは“女性問題”ではなく“男性問題”であると。
著者は、「気になること」(198p)として、性的なトラブルなどに現れる男たちが「著しく他者への共感能力を欠いている」「相手の人格を否定してでも自らの欲望を遂げようとする」といった傾向にあることを指摘しています。
男性の願望によって造られた性のイメージが巷に氾濫していることも、「意識」が歪められる一つの原因としてあるかと思いますが、もともと、こうして勝手に頭の中で相手とのラブストーリーを描いてしまい、相手の抵抗にあってもそれを好意の裏返し表現ととってしまう男性は、「人格」に障害があるのではないかという気がしました。

精神科医の岡田尊司氏は『パーソナリティ障害』('06年/PHP新書)の中で、自己愛性パーソナリティ障害の人は、あまりにも自分を特別な存在だと思って、自分を諭す存在などそもそも存在しないと思っているとしながらも、一方で、非難に弱く、或いは、非難を全く受け付けず、過ちを指摘されても、なかなか自分の非を受け入れようとはしない、としていますが、本書に登場する加害男性は、プライドは尊大だが非難には脆いという点で、共通してこれに当て嵌まるような気がしました。
岡田 尊司 『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)』
「意識」の面ではともかく、「人格(性格)」自体は変わらないでしょう。セクハラを繰り返す人は、意外と仕事面でやり手だったりするけれども、どこかやはり人格面で問題があり、権勢を振るったとしても、立っている基盤は不安定なのでは。
セクハラ事件で退職に追い込まれた部長に対し、会社としてもいい厄介払いができたと思っているフシも見られる事例があったのが印象的でした。
投稿者 wadamy : 00:13
【1156】 ○ 佐藤 博樹/武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 (2004/03 中公新書) ★★★★
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取得率向上には、やはり法的強制力を持たせないとダメか?
『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)』 ['04年]
佐藤 博樹 氏 (略歴下記)
本書のデータによると、日本における女性労働者が出産した場合の育児休業の取得率は64.0%、それに対し男性は0.33%、取得者の男女比は女性98.1%、男性1.9%とのことで('02年調査)、ほぼ同時期の調査における欧米諸国の育児休業取得率は、アメリカが女性16.0%、男性13.9%、スウェーデンが女性はほぼ完全取得で、取得者の男女比は64:36、ドイツが有資格者の95%が取得しているが父親は2.4%、イギリスでは男女とも12%が取得しているということで、国によってバラツキはありますが、男性の育児休業取得率が日本は特に低いことがわかります。
本書は、前半やや硬いデータ分析や法令の解説が続くものの、それらの現状を踏まえたうえで、男性が育児休業を取得することの企業にとってのメリットや可能性を指摘し、例えば、休業中の職場の対応方法を講じることは、企業にとって単なるコストではなく、活性化や風土改革にもつながる可能性があることを説き、また近年言われる「個人の尊重」「ワークライフバランス」に先駆けて、働く者の自由な選択を尊重する考え方を提唱していて、ビジネスマンが「子供と触れ合える機会」を一定期間持つことの公私にわたる効用を説いている点などは、とりわけ個人的には説得力を感じました。
男性が取る育児休業って、自分の生き方やキャリアを振り返るいい機会だと思うのですが、本書での報告例が、読売や毎日の記者のものだったりして―結局、“記事ネタ”としての育児休業取得になっている?)。
それと、日本における男性の育児休業の取得率の低さの原因の1つに、育児休業法自体に少し問題があるのではないかという気がしました。
育休法に従うと、1年間の育休を男女で分担して取得することは可能ですが、産後休業のときに男性が育休を取ると、通常、女性は「産休」明けから「育休」に入るので、その後男性は「育休」を取れない、つまり分割取得が出来ないようになっていて、これでは法自体が、男に「育休」を取るなと言っているみたいなものではないかと(その後、法改正でこの部分は見直された)。
先のデータにあるように、北欧諸国は男性の育児休業取得率が高いですが、これは本書によると、ノルウェースやウェーデンでは「パパ・クォータ」とか「パパの月」などと言って、法律で、育児休業中の一定期間は父親が「育休」を取らないと、日本で言う育児休業手当がその間は支給されなくなるようになっているとのこと、つまり法に一定の強制力を持たせていることがわかります。
その割り当て期間分の「育休」を終えると、北欧のお父さん達も殆どが仕事に復帰しているわけで、彼らが日本人の男性よりもフェミニストであるとか、子育てに熱心であるとか、少なくともデータをみる限りは、特にそういうことではないみたいです。
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【佐藤博樹氏 プロフィール】
東京大学 社会科学研究所 教授
◆兼職
内閣府・男女共同参画会議議員、ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員
厚生労働省 労働政策審議会分科会委員、仕事と生活の調和推進委員会委員長
経済産業省 ジョブカフェ評価委員 他
◆主な著書(編著・共著を含む)
『人事管理入門』(共著、日本経済新聞社)
『男性の育児休業:社員のニーズ、会社のメリット』(共著、中公新書)
『ワーク・ライフ・バランス:仕事と子育ての両立支援』(編著、ぎょうせい)
『人を活かす企業が伸びる:人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』(編著,勁草書房) 他
(2009年3月現在)
投稿者 wadamy : 00:03
2009年04月26日
【1155】 △ 「心とからだの悩み解消プロジェクト」特別取材班 『もういやだ!この疲れた心を休め、甦らせてくれる心の専門家50人』 (2009/03 三楽舎プロダクション) ★★★
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カウンセラーの数だけ手法があるということを実感。スピリチュアル系に偏り過ぎ?
『もういやだ!この疲れた心を休め、甦らせてくれる心の専門家50人』 ['09年/三楽舎]
全国の心理カウンセラー50名の、1人1人のプロフィールや得意とする相談内容、手法、料金、連絡先など紹介した本で、心理療法やカウンセリングというのはカウンセラーの数だけそのやり方があるということを実感させられました。
とりわけ最初の約10人のカウンセラーについて、インタビュー取材を中心としてかなり詳しく紹介されていて、冒頭の日本催眠心理研究所の米倉一哉氏の話などは、カウンセリング事例としても興味深く、また、心理療法の現場の雰囲気が伝わってくるものでした。
前の方で紹介されているカウンセラーは催眠療法を主としている人が多いようですが、その中にも、ロシア軍が開発した高度健康チェックシステムを導入しているとか、退行催眠療法だけでなく「前世療法」もやっているとか、いろいろな人がいるなあと。
その後にも、「チャネリング」とか「遠隔ヒーリング」を得意とする人が多く登場し、ソウルヒーリングやインターチャイルド、レイキといった用語が出てくるし(こうした用語については冒頭に用語集で解説されていて、その点は親切)、クライアントのオーラーが見えるとか霊感が強いとか、結構スピリチュアル系の人が多いように思いましたが、実際にカウンセラーとして開業している人たちにはこうした人が多いのでしょうか。
透視鑑定とか自然療法まで出てきて、どこまでを心理療法と呼ぶかということもありますが、相談に訪れる人がいる限り、絵画セラピーであろうとフラワーセラピーであろうとセラピーなのだろうなあ。後は、カウンセラーを選ぶ側の自己責任の問題であって。
カウンセラーのパブリシティ記事を集めたような本かなとも最初は思い、実際、インタビューではなく本人の自己PR形式のものも一部にあったものの、全体としては、「薬に頼らず、じっくり相談者の話を聴いてくれる先生を取り上げよう」という取材班の意向は反映されているように思いました(価格1,000円も良心的)。
紹介されている心理カウンセラーの前職は様々ですが、その多くが、かつて自分自身が「心の病」を抱えた相談者の立場だったというのが興味深かったです。
あまり偏見を持つのもよくないけれど、やはりどうしても、スピリチュアル系に偏り過ぎているように思えるのが残念。
投稿者 wadamy : 00:44
【1154】 ○ 荒井 千暁 『職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理』 (2007/02 ちくま新書) ★★★★
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企業のメンタルヘルス対策の底の浅さ、考課システムから抜け落ちるアナログ面を指摘。
『職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理 (ちくま新書)』
『こんな上司が部下を追いつめる―産業医のファイルから (文春文庫)』
前著『こんな上司が部下を追いつめる-産業医のファイルから』('06年/文芸春秋、'08年/文春文庫)は、職場で業務に追われて過労死し、或いはそこまでいかなくとも、精神的余裕を失っている労働者の背後には、部下の仕事をマネジメントする意識が薄く、何らサポートせず何もかも部下に押し