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定年後をイキイキとで過ごすためにはどうすればよいのかをエッセイ風に指南。

定年後.jpg  定年 image.jpg
定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)

 定年後をイキイキとで過ごすためにはどうすればよいのか、定年後に待ち受ける「現実」を著者自身の経験を踏まえ、また統計や取材等を通して明らかにし、真に豊かに生きるためのヒントを占めした、エッセイ風「指南書」といった感じの本です。著者のこれまでの人事関連の本に比べるとターゲットが広がっているし、また、多くのビジネスパーソンの関心事でもあるので、結構売れたようです。

 前半部分(第1章~第3章)では、取材を通して定年後もイキイキとした人生を送っている人を紹介しながらも、一方で、テレビのチャンネルを手放せず、妻から粗大ゴミ扱いされている人もいるなど、定年後でもイキイキと暮らしている人は2割未満(?)というのが現実ではないかという暗澹たる事実を提示しています。定年後の男性の人生の危機というのは(本書によれば女性より男性が危ないらしい)、本書で紹介されているように、定年が無いと言われるアメリカでも、ジャック・ニコルソン主演の「アバウト・シュミット」(2002年公開)という定年後の危機をテーマにした映画がありましたから、世界共通なのかもしれません。

 ただし、中盤以降(第4章~第6章)は、60歳から75歳までを「黄金の15年」として前向きに捉え、この15年を輝かせるにはどうすればよいかということを論じています。そうした中でとりわけ、社会とどうつながるか(第5章)、また、自分の居場所をどう探すか(第6章)ということについてそれぞれ具体的に検討しています。新聞記事からの引用であるとのことですが、定年になったシニアが、在職中の経験や人脈を生かして、短時間だけビジネスの相談に乗る「スポットコンサルティング」が増えているとのことで、そう言えば、最近テレビでもやっていたような。また、そうした需要と供給を仲介するビジネスも、あちこちで起こってきているようです。

定年後 image.jpg 最終章(第7章)「『死』から逆算してみる」では、定年後の目標は日々「いい顔」で過ごすことであり、人は「良い顔」で死ぬために生きているのだと。「定年学」っぽい切り口から始まって、殆ど人生論的エッセイみたいな終わり方になっていますが、これはこれで良かったのではないでしょうか。でも「定年」って日本的な、しかしながらずっと当たり前のように考えられてきた制度であるせいか、多くの人に関わりがあることであるにしては、あまり「学」として確立されておらず、そちらの方向でもっと突き詰めて書いてもらっても良かったようにも思います。但し、「学」として捉えると、あまりに扱うべき問題が多すぎて、茫漠とした論文になって終わってしまうので、それを避けて、わざとエッセイ調にしたのかも。

 まあ、本書はもともとすべてのビジネスパーソンを対象としているわけではなく、第1章で、36年間同じ会社で務め上げて定年退職した著者の経験が書かれているように、大企業をある意味「昭和的」な定年退職の仕方で辞め、再雇用の道を選ばなかったシニア層や(その内、社員が定年退職する日に皆の前で挨拶するような慣習も稀少になるのではないか)、或いは、これから60歳定年を迎えるが、同じ職場で同じ条件で再雇用される見通しが薄く、そのままリタイアメントまたは独自に転身することを考えている中高年をターゲットにしているフシはあります(大企業の方が小企業より定年再雇用への道のりは厳しいとも言われているし)。

 文章がこなれていて読みやすかったし、60歳から75歳までを「黄金の15年」としていることに励まされる人も多いのでは。一部、ナルホドなあと思わされた部分はあったものの、全体的には"情報"の面ではさほど目新しさは感じられませんでしたが、"啓発"の面ではまずまずでなかったでしょうか。

《読書MEMO》
●「アバウト・シュミット」(2002年公開、ジャック・ニコルソン主演)(62p)
●「空気を読むためには、微妙なニュアンスを把握する必要があるので、常に仲間の輪に入っていなければならない。この共有の場は、各社員が互いに助け合うという機能を持っているが、社員が会社から離れて何か物事をなそうとするときには大きな制約になる。(中略)この共有の場で身につけた受け身の姿勢が、定年後に新たな働き方や生き方を求めることも難しくしてしまうのである。(77p)

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「●ピーター・ドラッカー」の インデックッスへ

「読書会」で互いに刺激を受け、個々の研鑽がより効果的に深耕されることもあるかも。

人生を変えるドラッカー7.JPG人生を変えるドラッカー.jpg
小説でわかる名著『経営者の条件』 人生を変えるドラッカー―――自分をマネジメントする究極の方法』(2016/12 ダイヤモンド社)

 研修会社のベテランOL・青柳夏子。うっかりミスを社長にとがめられたことから、自分の仕事の仕方に悩みを抱き始める。広告会社に勤める杉並柊介もまた、制作部門から営業部門に異動となり、壁に突き当たっていた。そして、保険会社を脱サラしてカフェを始める堀川徹。起業間際のあまりの忙しさに、仕事も家庭もパンク寸前だった。ある日、夏子はふとしたきっかけから、1冊の赤い本を手に取る。ドラッカーの『経営者の条件』だった。しかし買ってはみたものの、難しそうでなかなか読めずにいた。そんなとき、ドラッカー読書会の存在を知る。何かに導かれるように―。(「Amazon内容紹介」より)

 ドラッカーの名著『経営者の条件』を通じて、登場人物たちが自分たちの悩みを解決していく、ストーリー仕立ての入門ガイドブックです。以前にベストセラーになった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(2009年/ダイヤモンド社)がドラッカーの『マネジメント―基本と原則[エッセンシャル版]』(2001年/ダイヤモンド社)1冊に絞って引用しているのと同様、本書も『経営者の条件―ドラッカー名著集1』(2006年/ダイヤモンド社)1冊を言わば「底本」としています。

 第1章では、研修会社のOLですでにベテランでありながら、みんなの前で社長からガツンと叱られた夏子、広告会社の制作部門から営業部門に異動になったものの、営業数字の未達に悩む柊介、保険会社を脱サラして念願のカフェ立ち上げのはずが、仕事も家庭もパンク状態の徹の3人が登場し、彼らがそれぞれ偶然に導かれるように東堂という人物が主催するドラッカーの読書会に集い、『経営者の条件』を読むことになります。そして、まず初回は、『経営者の条件』の章立てを確認しています。『経営者の条件』の章立ては以下の通りです。
 ・序 章 成果をあげるには
 ・第1章 成果をあげる能力は修得できる
 ・第2章 汝の時間を知れ
 ・第3章 どのような貢献ができるか
 ・第4章 人の強みを生かす
 ・第5章 最も重要大切なことに集中せよ
 ・第6章 意思決定とは何か
 ・第7章 成果をあげる意思決定とは
 ・終 章 成果をあげる能力を修得せよ

 以下、第2章では、その『経営者の条件』の読書会を通して各人が、誰もが「知識労働者」であることを確認し、「汝の時間を知れ」「どのような貢献ができるか」といったドラッカーの言葉の意味を探っていきます。第3章では、「人の強みを生かす」「最も重要なことに集中せよ」という言葉の意味を、第4章では「意思決定とは何か」「成果をあげる意思決定」をするとはどういうことなのか、それらの意味を探っていきます。

 同時並行で、登場人物たちが学んだことを自らの仕事や生活にどのように活かしていったかが描かれていて、例えば夏子は、「指示待ち」OLから脱却し、自ら会社の危機に立ち向かうようになりますが、このあたりは「実践編」と言えます。但し、「読書会」が、しかも1冊のテキストが軸になっているため、話が拡散することなく、コンパクトでありながらも、押さえるべきポイントは押さえているように思いました。著者は、ドラッカー読書会ファシリテーターでもあるとのことで、このあたりはさすがだと思いました。

 『経営者の条件』は、ドラッカーの著者の中でも体系がすっきりしていて読みやすく、また自己啓発度が高い一方で実践的であることもあって、応用もしやすい方ではないかと思われますが、まだ読んでいない人は、このような手引書から入って原典にあたるのもいいのではないかと思います。

 個人的に知る中小企業の経営者で、社員にドラッカーの著書を読ませて感想文を書かせている人もいますが、大企業の場合だと、それぞれが自分の意思で自己研鑽せよということになるのかもしれません。但し、ドラッカーをテーマにしたものに限らず、こうした「読書会」「勉強会」という形をとることで互いに刺激を受け、個々の研鑽がより効果的に深耕されることも考えられるのではないかと、本書を読んで感じました。

 著者自身、あとがきで「『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』の存在がまかったら、この小説が生まれることはなかったと思います」と書いていますが、『もしドラ』の"二番煎じ"ということではなく、ドラッッカーの読書会の主催者としての著者の経験が生かされたものとなっているように思いました。

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優れたリーダーはどんなに忙しくても本を読んでいる。女性が1人もいないのが残念。

私をリーダーに導いた250冊6.JPG私をリーダーに導いた250冊6_n.jpg私をリーダーに導いた250冊 自分を変える読書』(2016/10 朝日新聞出版)

「リーダーたちの本棚」.jpg 2009年1月から2016年9月の間に「朝日新聞」の広告特集として掲載された連載「リーダーたちの本棚」から50回分を加筆修正して収録したものです。ビジネス界のトップリーダーが、自分が若い頃から今までに読んだ本の中で影響を受けた本について語り、他人に薦めたい本を5冊程選んで紹介するというものであり、延べ250冊がリストアップされています。

私をリーダーに導いた250冊SL.jpg リーダーがなぜその本を選んだのか、自らの幼少時代や学生時代、社会人になってからの新人時代や海外勤務時代、そして、組織のリーダーや企業のトップになった今におけるエピソードなどを交えて紹介しているので、その人がその本とどう出会い、それをどう読んだのか、そしてどういった影響を受けたのかなどが、その人の人生の軌跡とともに分かるのがいいです。

 50人のどの人についても、経営書だけで5冊選んでいる人はおらず、歴史書、小説、写真集、漫画までその種類は幅広く、また古典から比較的新刊の本まで多岐に及んでいます。よくこれだけの読書人を探したものだなあという気もするし、優れたリーダーというのは、どんなに忙しくても本を読んでいるものなのかもしれないと思ったりもしました。本を読むことを通して、勇気をもらったり、生き方を教わったり、ビジネスの参考にしたりしているのでしょう。

 「百冊の読書は百の人生経験、心に残れば生涯の指針です」「仕事にも息抜きにも本が助けに」「読書の妙味は仕事と同じ。自分にない価値観との出会いである」「読書せずに成長はない」「いろいろ読むほど先入観から解放される」「偏りなく読み、独自の道をさぐる」といったそれぞれの言葉には、実感と重みがあるように思いました。

 1人ずつの本の紹介の最後に、その人が選んだ5冊の書影と概要を整理して掲載してあり、さらに、本の最後の章で「こんな時読みたいブックリスト」として、それまでに紹介された本がジャンル・目的別にまとめられているため、ブックガイドとしても使いやすいものになっています。

 こうしてみると、確かにそれぞれのリーダーの本の選び方は個性的であり、選ばれた本は多様ですが、それでも複数の人が推す本があったりします。例えば、ノンフィクションで言えば『失敗の本質』(野中郁次郎ほか)、『文明の衝突』(サミュエル・ハンチントン)、小説で言えば『坂の上の雲』(司馬遼太郎)、『小説 上杉鷹山』(童門冬二)などは3人から4人の人が薦めており、『成功の実現』(中村天風)、『道をひらく』(松下幸之助)、『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ)、『21世紀の資本』(トマ・ピケティ)なども複数の人が推しています。そうしたことから、伝統的な傾向に交じって新たな傾向が窺えるのも興味深いです。

 リーダーということに必ずしもこだわらなくとも、良書を読むことで得るものは何かと大きく、ビジネスの面でも広く人生全般においても、読書は無駄にならないということを改めて思わされるものでした。50人のリーダーが全員男性であり、女性が一人も取り上げられていないのが、海外などのこの種の本との大きな違いでしょうか。その点がやや残念でした。

《読書MEMO》
●本書で紹介されている本(一部)
『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(武居俊樹著)
『いい加減 よい加減』(野村万之丞著)
『いかに生くべきか』(安岡正篤著)
『生き方』(稲盛和夫著)
『1分間マネジャー』(K・ブランチャードほか著)
『宇宙は何でできているのか』(村山 斉著)
『得手に帆あげて』(本田宗一郎著)
『「空気」の研究』(山本七平著)
『栗の木』(小林秀雄著)
『Googleの脳みそ』(三宅伸吾著)
『錯覚の科学』(C・チャブリスほか著)
『少しだけ、無理をして生きる』(城山三郎著)
『政治と秋刀魚』(J・カーティス著)
『西洋紀聞』(新井白石著)
『世阿弥に学ぶ100年ブランドの本質』(片平秀貴著)
『全一冊 小説 上杉鷹山』(童門冬二著)
『組織を変える〈常識〉』(遠田雄志著)
『知識創造企業』(野中郁次郎ほか著)
『沈黙の春』(R・カーソン著)
『遠き落日』(渡辺淳一著)
『督促OL 修行日記』(榎本まみ著)
『ドラッカーと論語』(安冨 歩著)
『ノムさんの目くばりのすすめ』(野村克也著)
『裸の独裁者 サダム』(A・バシールほか著)
『晩年のスタイル』(E・W・サイード著)
『ヒトは食べられて進化した』(D・ハートほか著)
『陽のあたる坂道』(石坂洋次郎著)
『複合汚染』(有吉佐和子著)
『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(国末憲人著)
『忘れられた日本人』(宮本常一著)ほか

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「●雑学・クイズ・パズル」の インデックッスへ

応用はそう簡単ではない? 単なる「雑学本」として読んでしまった。

薀蓄雑学説教の事典.jpg薀蓄雑学 説教の事典』(2016/08 時事通信社)

 2010年から2011年にかけて警視総監を務めた著者による訓示集で、警察に入って訓示をしてきたある日「だれもちゃんと聞いていない」ことに気づいて、それから、雑学、薀蓄を思いきり入れて、記憶に沁み込む話にしようと考え、訓示に雑学を盛り込むようにしたともこと。著者はまさに博覧強記の人であり、吉本興業に誘われた過去を持つとのことです。

 ただ、読み物としてはそこそこ面白いのですが、こうした"薀蓄雑学"を、これから話を聞く側に伝えようとする趣旨にどのように絡めるかという応用ということになると、そのあたりは個々の創意というかセンスによるものではないかと。一応は、コミュニケーション、危機対応、マネジメント、計画立案、人事管理、人材育成、業務改善、広報戦略、複眼思考と、訓示の内容に沿って9つのジャンルに分けられていますが、本書に出てくるものは警視総監なりが警察幹部なりに話す訓示という枠組みがあるため、本書を読んだだけで読者がすぐに自らに応用するのは難しいかもしれません。

 知識の抽斗(ひきだし)を多く持つことは、ひとつの武器にはなると思いますが、ホントはどんな雑学を開陳するかということよりも、話の趣旨にどう繋げるのかがポイントなのでしょう。本来はそこを押さえながら読むべきなのでしょうが、自分には本書をそこまで敷衍する能力がないのか、単に「雑学本」として読んでしまった感じです(Amazon.comでの分類を見ると、「コミュニケーション」とか「ビジネス」とかでなく、「雑学・クイズ」になっていたりする)。雑学本としてはまずまずでしょうか。

《読書MEMO》
●乾杯は本来「毒殺防止」のために行われた。
●「ローマの休日」は、他人のドタバタを楽しむ悪趣味な人たちの意味
●「本日は晴天なり」(It's fine today)は英文の発音に多くの要素が入っているため使われた。
●NYヤンキースのマークの「Y」はヨークのY。
●エイトマンは警視庁捜査一課の8番目の刑事の意(本来はeighth man(エイスマン))。
●一寸法師の刀である針は、鍼灸師の使う鍼(はり)と考えるべき(鬼は病気の象徴)。
●「少年よ大志を抱け」の後には「この年老いた私のように」と続く。
●やくざ用語の「マッポ」の由来は「待つポリス」から。ヤバいの語源は「速い」からきているとも。
●パッションフルーツのパッションは「受難」の意(花の五本のおしべが十字架のキリストに見えるため)。
ゴディバ.jpg●サッポロビールの星のマークの星は北極星(北海道開拓使の旗のマークより)。
●パネリストは問題提起をする人、パネラーはただのパネルを貼る人。
●ゴディバのマークの由来は、馬に乗った裸のゴディバ伯爵夫人(ピーピング・トムの由来も同じ故事から)。

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IT企業の経営者が読んでもいいが、むしろ人事パーソンにお薦めの準古典的名著。

HIGH OUTPUT MANAGEMENT4.JPGHIGH OUTPUT MANAGEMENT.jpg ハイ・アウトプット・マネジメント―インテル経営の秘密.jpg インテル経営の秘密3.jpg
HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント』['17年]『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密 (1984年)』['84年]『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』['96年]

アンドリュー・グローヴ .jpgHIGH OUTPUT MANAGEMENT  .jpg 本書『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、2016年に亡くなったインテル元CEO・アンドリュー・グローヴ(1936-2016/享年79)による本で、1984年に発刊された『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密』(早川書房)に加筆修正して1996年に発行された『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』(早川書房)の原書"High Output Management"をもとに、2015年に米国で出版されたペーパーバック版を翻訳したものです。

 アンドリュー・グローヴはユダヤ人で、ハンガリーから無一文で英語も話せないままアメリカに亡命し、インテルに3番目の社員として入社、1979年に社長、1987年に社長兼CEO、1998年に会長兼CEOとなった言わば〈立志伝中の人〉であり、本書の帯には「シリコンバレーのトップ経営者、マネジャーに読み継がれる真の傑作、待望の復刊!」とあり、ピーター・ドラッカーやマーク・ザッカーバーグが寄せた讃辞があります。実際、『インテル経営の秘密』のタイトルで改版された際に日本でも多くの人に読まれ、「準古典的名著」と言ってよいかと思います。

 今回の新版は、本編は1983年に当時インテルの現役社長であった著者が著したもので、その前に1995年に著者自身がその後の80年代から90年代にかけての大きな環境変化(日本企業によるメモリー事業への攻勢を主としたグローバル化と電子メールの発展によるコミュニケーションの変化)について記した「イントロダクション」があり、更にその前に1995年に本書を読んだというベン・ホロウィッツによって2015年に書かれた「序文」が付いています。

 「イントロダクション」において著者は、「本書には3つの基本的なアイデアを盛り込んである」とし、それは、1つ目のアイデアは、マネジメントに対する成果(アウトプット)への志向性であり(マネジメントは成果志向であれということ)、2つ目は、そのアウトプットは個人というよりもチームによって追求されるということであり、そこで、チームのアウトプットを増大させるためマネジャーは何が出来るかとの問いが出てくるとしています。そして、チームは、そのメンバーである各個人の業績遂行活動が導き出された時に、最もよく機能して、その業績を高める―というのが、3つ目のアイデアであるとのことです。

 第1部「朝食工場―生産性の基本原理」では、3分ゆでのゆで卵とトーストとコーヒーを出すごく普通の食堂が設備投資をして「朝食工場」となり、さらにその「朝食工場」をフランチャイズ制によって全国展開していくという架空のケースを用い、その中にインテルでの事例なども織り交ぜながら、著者自身が考えるマネジメントの原理原則を体系的に説明しています(この部分は個人的には、「科学的管理法」に近いものを感じた)。

 第2部「経営管理はチーム・ゲームである」では、マネジャーのアウトプットとは、自分の組織のアウトプットと自分も影響力が及ぶ隣接諸組織のアウトプットの和であるとし、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示しています。また、ミーティングはマネジャーにとっての大事な手段であるとし、インテルで行われている「ワン・オン・ワン」という監督者と部下のミーティングを紹介しています(「ワン・オン・ワン」についてだけで『ワン・オン・ワン―快適人間関係を作るマネジメント手法』('90年/パーソナルメディア)という本になっている)。更に、決断を行う際に陥りがちな"同僚グループ症候群"というものを指摘するとともに、明日のアウトプットのために今日どういった行動をとるべきかを、3つのステップから考える計画策定方式(プランニング プロセス)というものを提唱し、これを日常業務に適用したものが目標による管理(MBOシステム)であるとしています。

 第3部「チームの中のチーム」では、冒頭の「朝食工場」が全国展開するような会社になったとき、自ずとそれは"使命中心"と"機能別"のハイブリッド型組織になるとし、インテルのハイブリッド型組織を紹介するとともに、二重所属制度という考え方を紹介しています(「グローブの法則」として「共通の事業目的を持つすべての大組織は、最後にはハイブリッド組織形態に落ち着くことになる」としている)。また、われわれの行動がコントロールされ、影響される過程を考え、われわれの行動は、自由市場原理の力、契約上の義務、文化的価値の3つの方法でコントロールされるとし、最も適切な仕事のコントロール方式とはどのようなものかを考察しています。

 第4部「選手たち」では、モチベーションの問題を取り上げています。マズローの欲求段階説を改めて解説し、仕事とスポーツを対比させて、マネジャーが部下から最高の業績を引き出せるようにするには、部下のタスクへの習熟度を高めることが肝要であり、それが効果的なマネジメントスタイルの基本的要因となるとしています。そこで人事考課が重要になってくるわけであり、マネジャーが考課するときに判断すべきことは何か、避けなければならない大きな落とし穴は「可能性(ポテンシャル)の罠」であるとして、"潜在能力"を評価することに警告を発しています(時期的には日本企業が職能資格制度を盛んに採り入れていた頃になる)。また、査定内容の伝え方についても指南し、それとは別に問題社員の場合の対応や、更にはエース社員の考課の仕方についても述べています。また、マネジャーにとっての2つ困難な仕事である、採用面接と、貴重な人材が退社しないようにする話し合いついても助言しています。そして、タスクに対するフィードバックとしての報酬の考え方および昇進について論じるとともに、なぜ教育訓練が上司の仕事なのかを説いています。最後には、「これからの行動指針チェックリスト」が付されています。

 かなり以上前に書かれた本でありながら、古さを感じさせないのはすごいことかも。全体として、最初に生産管理の話から入っていき、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示し、業績達成のために部下のモチベーションやタスク習熟度をどのように管理し、部下をどのように考課し、どうフィードバックするかという話の流れになっていて、後半にいけばいくほど「人事」の話になってきます。「人を育て、成果を最大にするマネジメント」というサブタイトルは極めて妥当であり、『インテル経営の秘密』というタイトルから、変化の激しいIT業界について書かれた本だと思われているフシもありますが、実は「人事」の根幹について書かれた本であるということ。だから「経年劣化しない」と言うより「人事の本質が分かる」と言った方がいいかもしれません。従って、IT企業の経営者が読むのもいいですが、人事パーソンにもお薦めの本です。
 
《読書MEMO》
目次
序文 ベン•ホロウィッツ
イントロダクション
第1部 朝飯工場~生産の基本原理
1章 生産の基本
3分間ゆで卵の生産原理は/製造作業の実際\状況が複雑になると/大量生産の場合は/付加価値をつけること
2章 朝食工場を動かす
インディケーターこそ大事なカギ/ブラックボックスの中をのぞくには\将来のアウトプットをコントロール/品質の保証/生産性を高めるために
第2部 経営管理はチーム・ゲームである
3章 経営管理者のテコ作用
マネジャーのアウトプットとは/「パパ、本当はどんなお仕事をしているの?」/社内情報の収集と提供/経営管理活動のテコ作用/マネジャーの活動速度を速めること―ラインのスピードアップ/組織内に組み込まれたテコ作用―マネジャーの部下は何名が適切か/仕事の中断―マネジャーを悩ますもの
4章 ミーティング-マネジャーにとっての大事な手段
プロセス中心のミーティング/使命中心のミーティング
5章 決断、決断、また決断
理想的なモデルは/同僚グループ症候群/アウトプットへの努力
6章 計画化―明日のアウトプットへの今日の行動
計画策定方式/プランニング・プロセスのアウトプット/目標による管理―日常業務にプランニング プロセスを適用すると
第3部 チームの中のチーム
7章 朝食工場の全国展開へ
8章 ハイブリッド組織
9章 二重所属制度
工場保安係はどこに所属すべきか/ハイブリッド組織を働かせる\もうひとつの妙案―二面組織
10章 コントロール方式
自由市場原理の力/契約上の義務\文化的価値/マネジメントの役割/最も適切なコントロール方式/仕事のコントロール方式
第4部 選手たち
11章 スポーツとの対比
生理的欲求/安全―安定への欲求/親和―帰属への欲求/尊敬―承認への欲求/自己実現への欲求/金銭およびタスク関連のフィードバック/不安/スポーツとの対比
12章 タスク習熟度
マネジメント•スタイルとマネジャーのテコ作用/良いマネジャーになるのは容易ではない
13章 人事考課―裁判官兼陪審員としてのマネジャー
なぜ、悩むのか/業績の査定\査定の内容を伝えること/「 一方では......他方では......」/問題社員/エースの考課の仕方/その他の考え方と実際のやり方
14章 2つのむずかしい仕事
面接/「私、辞めます」
15章 タスク関連フィードバックとしての報酬
16章 なぜ教育訓練が上司の仕事なのか
最後にもうひとつ―これからの行動指針チェック・リスト

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「組織論」には違いないが、「こわい上司のひと言」集がいちばん印象に残ったか。

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思考停止する職場 ~同じ過ちを繰り返す原因、すべてを解決するしかけ~』(2018/03 大和書房)

 スタンフォード大学工学博士であり、特定非営利活動法人「失敗学会」の副会長でもあるという著者による本書では、職場での思考停止を防ぐために、上司は何を考えなければならないか、部下の潜在能力を引き出し、自分のグループの活力を倍増させるために、部下とどうコミュニケーションをとればよいのかについて解説していています。また、そうした課題を解決するための手法として、「エムパワリング・コミュニケーション」というものを提唱しています。

 第1章では、コミュニケーション不足が引き起こす職場のリスクについて解説しています。ミスが起こったときには必ず原因があり、著者はその原因の分類として、「学習不足」「注意不足」「伝達不良」「計画不良」の4つを挙げています。その結果起きるのが「無知」「無視」「過信」であり、「無知」と「過信」は努力次第で何とか減らせるが、「無視」には無意識的なものと意識的なものがあって、どちらも解決は簡単ではないとしています。そこで、人の組織が頼ってしまうのが「周知徹底」「教育訓練」「管理強化」であるが、失敗学ではこれを「三大無策」といい、これらが通用しないばかりか、致命傷につながったり、最も職場を壊すことになったりする理由を解き明かしています。

 第2章では、自分で考える部下を育てるために、部下とどう接すればいいか、どう指導すると良いかを説いています。著者はマニュアルというものを否定しておらず、最初の仕事はマニュアル通りに作業を進めることを教え、マニュアルに疑問を感じたら、自分で解決しようとせず、相談するよう指導し、部下と一緒になってマニュアルの不備を見つけて修正する姿勢をとるのがいいとしています。指示待ち人間に対しては、根気よくその人が自分で考えるよう、まず簡単なタスクを与えて徐々に育てることを考えるべきで、急に考えるように仕向けると、無用なプレッシャーを与えてしまうとしています。

 また、部下にうまく育ってもらうための効果的サポートの方法として、「はい」という返事は真に受けず、経過を確認するとともに、自分の考えを押しつけず、部下が考えていい答えを出すチャンスを与えること、思考展開図をうまく使い、部下と一緒に作ることを心がけること、まず目標は何か、要求機能を正しい言葉で表現することなどが重要であるとし、どのような失敗が起こり得るか、チームで徹底的に考えることが逆境に強いチーム作りにつながるとしています。

 第3章では、どのような話し方が人の創造性を潰してしまうのかを解説しています。ここでは、「リスクがある」「前例がない」「成功例はあるの?」「それ、ニーズあるの?」「うちの業界はね......」「できない」「つべこべいうな」といった否定的、懐疑的で部下の活力を削ぐような言葉から、「かんたんだから」「期待してるよ」という抽象的な励ましや、「合理化・効率化」「コスト優先」「ノルマ達成」といった往々にして使いがちな言葉が、しばしば部下たちの思考を停止させたり、創造性を奪っていると指摘しています。

 この中で、「コンプライアンスの遵守」は、うかつに掲げると却ってあだとなるというのは、ハーバード・ビジネススクールのマックス・H・ベイザーマン教授らの著書『倫理の死角―なぜ人と企業は判断を誤るのか』('13年/エヌティティ出版)に述べられている指摘に通じるものがあるように思いました(けっして目新しい指摘ということでもないということになるが)。

 第4章では、それでは思考が動く職場とはどのような場所なのかを考察しています。作業の流れをグラフ化するなどの、思考停止に陥らない仕事の進め方や、成功事例よりも失敗事例に学ぶほど誤判断が減るとして、失敗の測定や分析方法、事後に生かすための報告書の書き方などを紹介し、職場での運用方法について解説しています。

 事故・不祥事の発生予防だけでなく、正しい組織運営の在り方を説いた本。但し、まえがきにあった「エムパワリング・コミュニケーション」というものが本文内で定義されておらず、それが本書のどの部分を指すのかよく分からなかったですが(おそらく本書全体?か)、「自分の保身しか考えない」上司が会社を破壊するといったことなど、しっくりくる部分は少なからずありました。

 創造性を発揮できるようにするためには、柔軟かつ科学的な組織運営が求められるとしており、基本的には組織論の本であると思います。仕事上のミスや誤認は、現場と司令塔のギャップや暗黙知の過信などのコミュニケーションの不具合から起きるということを、事例を交えて検証し、組織メンバーの潜在能力を引き出すポイントは、コミュニケーションの巧拙にかかっているとしています。その意味では、第3章の「こわいのは(創造性を潰してしまう)、上司のこのひと言」集は、いちばんストレートに気づきを促してくれる部分だったかもしれません。

《読書MEMO》
●自分で考える部下を育てるために、どう接すればいいか、どう指導すると良いか(155p)
・最初の仕事は真似から始まります。このときはマニュアル通りに作業を進めることを教えてください。
・マニュアルに疑問を感じたら、自分で解決しようとせず、相談するよう指導してください。一緒になってマニュアルの不備を見つけて修正する姿勢をとるのがいいでしょう。
・マニュアルを使用しながら、その内容を見直すことになりますが、そのとき、利用者の立場から、マニュアルがどうあるべきかを考えるよう指導してください。
・指示待ち人間に対しては、根気よくその人が自分で考えるよう、まず簡単なタスクを与えて徐々に育てることを考えること。急に考えるように仕向けると、無用なプレッシャーを与えてしまいます。
●うまく育ってもらうための効果的サポート(156p)
・「はい」という返事は真に受けず、経過を確認してください。
・自分の考えを押しつけず、部下が考えていい答えを出すチャンスを与えてください。
・思考展開図をうまく使い、部下と一緒に作ることを心がけてください。まず目標は何か、要求機能を正しい言葉で表現することが重要です。
・社会にある失敗事例をうまく利用し、仮想的な失敗に備える練習をチームで行ってください。
・どのような失敗が起こり得るか、チームで徹底的に考えることが逆境に強いチーム作りにつながります。

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'02年新訳の新装版。パラドックスというより「矛盾に見える真実」。今一度再読するのも良い。

ピーターの法則 sin .jpg ピーターの法則.jpg  The Peter Principle.jpg Laurence J. Peter.jpg
[新装版]ピーターの法則―「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』(2018/03 ダイヤモンド社)/『ピーターの法則』新訳版 〔'02年〕/The Peter Principle〔'84年版〕/Laurence J. Peter

[新装版]ピーターの法則5.JPG 教育学者ローレンス・J・ピーターが唱えた有名な「ピーターの法則」の原著『THE PETER PRINCIPLE』は1969年に出版され、1970年に邦訳されていますが、2002年に新訳が刊行され、さらに今回その〈新装版〉である本書が出たことになり、やはりインパクトは今でもあるのかと思われます。

 本書は、まず第1章で、「ピーターの法則」なるものを示しています。それは、《階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能のレベルに到達する》というものです。そして、《やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる》ことが必然であるとしています。では一体、誰が仕事をしているのか? それは、《仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われている》のであるとしています。

 第2章、第3章では、階層社会はこのピーターの法則に支配されていて例外はないとし、第4章から第6章にかけては、無能を生む昇進は実際どのようにして行われるのか、優秀なリーダーがいかにして排除されるのかを説き、第7章では、平等主義が昇進を促し、それだけ多くの無能を生み出すとしています。第8章では、先人たちの「無能の研究」を振り返り、第9章では、なぜ人は無能に突き進むのかを考察しています。

 第10章では、無能が無能を生むという悪循環について説き、第11章から第13章にかけては、成功した人(=無能レベルに達した人)はさまざまな病気を患っていることが多く、無能ゆえにいろいろ奇妙な行動をとるとし、無能レベルに達した人には現実を直視することは禁物で、健康と幸福を維持するためには、問題のすりかえを行うことが効果的であるとしています。

 第14章では、無能に陥らないためには、昇進拒否も一手ではあるが、それに勝る方法は、自分が無能レベルに達していることを周囲に印象づけること、つまり「創造的無能」こそが無敵の処世術であるとしています。そして、最終第15章では、「ピーターの特効薬」として、昇進を回避する方法や無能レベルでも健康と幸福を維持する方法などを紹介し、ピーターの法則は、滅亡に至る昇進の代わりに生活の質の向上をもたらすとして、本書を締め括っています。

 すでに察せられるように、全体がある種パラドックスとなっており、ビジネスパーソンに対し、昇進するのが必ずしも良いことではなく、自分の適性を見極め、創造的な職業人生を送るよう示唆しているととれます。

 一方、人事パーソンの視点から見ると、本書におけるパラドックスは、「真実に見える矛盾」というより「矛盾に見える真実」としての色合いが、経験上より強く感じられるのではないでしょうか。プレーヤーとして優秀だという理由でマネジャーに昇進させたらダメだった、というのはまさにピーターの法則にあてはまるのでは。係長の仕事をしていた人が課長になり、課長の仕事をしていた人が部長になるというのが通常の昇進パターンである日本企業の場合、こうしたことは往々にしてありがちな気がします。

 多くの著名な経営思想家が、「ピーターの法則」に陥らないようにするにはどうすればよいかを説いています。「ピーターの法則」――多くの人事パーソンにとって既知ではあるかと思いますが、これを機に今一度読み直してみるのも良いと思いますし、未読の人も、知っておいて損はないかと思います。

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「組織論」には違いないが、思った以上に精神論的な「啓発書」だった。

生きている会社、死んでいる会社2.JPG生きている会社、死んでいる会社.jpg  遠藤 功.jpg 遠藤 功 氏
生きている会社、死んでいる会社―ー「創造的新陳代謝」を生み出す10の基本原則

生きている会社、死んでいる会社  image.jpg 30年にわたり経営コンサルタントとして多くの企業と接してきた著者による本書では、経営において本質的に大事なことはただ1つ、会社が「生きている」ことであり、経営とは「創造と代謝を繰り返す」ことであって、「死んでいる会社」は管理や抑制がメインになり、組織が停滞しているとしています。本書は、「生きている会社」になるための処方箋を明らかにしたものであるとのことです。

 第Ⅰ部では、「生きている会社」とは、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOが言うところのデーワン、つまり創業1日目の活力ある状態を保っている会社であるとしています。会社は「新陳代謝」しなければ創造はできず、「生きている会社」とは「新陳代謝」に長けている会社であり、「生きている会社」であり続けるには、「事業」「業務」「組織」「人」の4つを新陳代謝しなければならないとしています。また、会社は「生き物」であり、会社を「経済体」として捉えるだけでなく、「共同体」「生命体」としての会社を理解しなければならないとしています。

 第Ⅱ部では、「生きている会社」になるための必須条件として、「熱」「理」「情」の3つの要素を掲げています。まず、「生きている会社」は「熱」を帯びているとし、その「熱」の正体は何か、「熱」はどこからくるのか、どうしたら広がるのか、失ってしまった「熱」をどう取り戻すかを説いています。また、「生きている会社」は「理」を探究しているとし、会社は「合理的な存在」でなければならず、戦略レベルと実行レベルのそれぞれにおいて「理」をどう担保するかを説いています。さらに、「生きている会社」は「情」に満ち溢れているとし、「情」とは人の「心」であり、それを満たすことは最も合理的であるとして、仕事の「やりがい」をどう作り出すか、承認欲求をどう満たすかを説いています。

 第Ⅲ部では、どうすれば「生きている会社」を作ることができるかを説き、代謝のメカニズムを埋め込む、骨太かつシンプルな「大戦略」を定める等々、実践すべき「10の基本原則」を掲げています。また、会社が「生きている」かどうかは、ミドル(課長クラス)を見ればわかるとし、課長たちの「突破力」を磨くために必要な「6つの力」を掲げ、さらに、経営者の仕事とは何か、その「4つの仕事」(扇動者・羅針盤・指揮者・演出家)を説いています。

 会社というものを理解する際に、付加価値を生む「経済体」として捉えるほかに、そこにいる人たちの関係性(「共同体」)や人の営み(「生命体」)の集積としての会社に着眼している点は興味深かったです。「見た目の数字」や「業績」より「生きていること」が重要であるとし、「生きている会社」になるための必須条件に、「熱」「理」「情」の3要素を挙げているのは腑に落ちました。

 帯に「働き方が変わる!新しい組織論」とありましたが、全体としては、特に目新しいことを言っているわけではなく、オーソドックスと言えばオーソドックスな内容かと思います(結果的に"総花的"になった印象も)。前半部分は概念的で、かっちり纏まっていると思いましたが、それが中盤から後半にかけて具体的になっていくかと思ったら、確かに事例なども紹介されているものの、それほど深く突っ込んだ紹介でもなく、むしろ精神論の比重が高くなったような印象を受けました。経営コンサルタントの著書という先入観があったかもしれませんが、思いの外に"啓発書"であり、読み手によっては、もやっとした印象で終わってしまう可能性もあるかも。

《読書MEMO》
●生きている企業の3つの条件
「熱」...生きている企業は「熱」を帯びている。
「理」...生きている企業は「理」を探求している。
「情」...生きている企業は「情」に満ちている
●実践すべき「10の基本原則」
・代謝のメカニズムを埋め込む
・骨太かつシンプルな「大戦略」を定める
・「必死のコミュニケーション」に努める
・「言える化」を大切にし、管理を最小化する
●経営者の「4つの仕事」
・扇動者
・羅針盤
・指揮者
・演出家

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「ティール組織」という新しい組織モデル(パラダイム)を提唱して示唆に富む。

ティール組織51.JPGティール組織.jpg ティール組織ド.png
ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

 「ティール組織」という新しい組織モデルを提唱した本ですが、マッキンゼーで組織変革プロジェクトに関わり、現在はコーチ、ファシリテーターを生業とする著者による原著("Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness")は、2014年に自費出版されて以来、12か国語に翻訳されているビジネス書のベストセラーだそうです。著者は、組織の発展段階を色で表現していて、現在、世界中で五段階目の新たな進化型モデルが生まれ始めているとし、これを「ティール(鴨の羽色)」という色(本書カバーの色)で表現し、第Ⅰ部では、これまでの組織の歴史と進化を振り返っています。

ティール組織a.png それによれば、まず、組織形態の前段階として、「無色(グレー)」という血縁関係中心の小集団、「神秘的(マゼンタ)」という数百人の人々で構成される種族があり、組織形態の第一段階が「衝動型(レッド)」モデルで、これはマフィアやギャングなどに見られる、恐怖が支配するものであるといいます。第二段階は「順応型(アンバー)」モデルで、教会や軍隊に見られるように、ここでは規則、規律、規範による階層構造が支配していて、そして、現代の資本主義社会で主流になっているのが、第三段階の「達成型(オレンジ)」モデルであり、多国籍企業に見られるように、目標を設定して未来を予測し、効率を高めてイノベーションを起こすことで成果をあげようとするものであると。但し、達成型モデルにおいては、実力主義によって万人に機会が開かれているが、階層の上にいくほど権限が集中しやすいヒエラルキー構造になって、また、効率と成果を追求するあまり人間らしさを無視してしまいやすく、更には、ますます複雑化するビジネス環境において、計画と予測は機能しなくなる恐れがあるという欠点を抱えているとしています。そこで、達成型モデルへのアンチテーゼとして生まれたものが、第四段階の「多元型(グリーン)」モデルであり、人生には成功か失敗か以上の意味があるとして、平等と多様性を重視し、多様なステークホルダーを巻き込んで合意を形成して物事を進めようとするものであるといいます。しかし、このモデルの極端な平等主義は、多様な意見をまとめきれずに袋小路にはまってしまうリスクも孕んでいるとしています。そして、これらの問題を打破すべく生まれつつあるのが、第五段階の「進化型(ティール)」モデルであり、これは階層構造におけるトップダウン型の意思決定でも、ボトムアップ型の合意形成による意思決定でもない。上司も中間管理職もいなければ、組織図も職務権限規程も肩書もない、変化の激しい時代における生命型組織であるとしています。

 第Ⅱ部では、事例研究によって、ティール組織には、「自主経営(セルフ・マネジメント)」「全体性(ホールネス)」「存在目的」の三つの突破口(特徴)が備わっていること明らかになったとしています。つまり、組織を取り巻く環境の変化に対して、階層やコンセンサスに頼ることなく、適切なメンバーと連携しながら迅速に対応することが可能で(自主経営)、誰もが「本来の自分」の姿で職場に来ることができ、同僚、組織、社会との一体感を持てるような風土や慣行があって(全体性)、更に、組織自体が何のために存在し、将来どの方向に向かうのかを常に追求し続ける姿勢が見られる(存在目的)としています。そのうえで、そうしたティール組織が実際にどのように運営されているのかを、著者らが調査した12の組織の事例を通して"三つの突破口"の観点から紹介しています。

 例えば第Ⅱ部の第2章では、自主経営の例として、2006年に立ち上がったビュートゾルフという、在宅介護支援の新しいモデルを提供する組織の事例が紹介されていますが、その特徴は、マネジャーを持たないチームが、ビュートゾルフが進化するという目的のために完全に独立しているというもので、その特異な組織形態・介護システムによって、7年間で10名から7000名の介護士が働く組織に急成長を遂げたとのことです(より直近のデータによれば10年間で24ヶ国、850チーム、1万人以上)。他社の事例も含め、第3章にかけて、上司もミドルマネジメントも不在のチームが、どのように意思決定を行っているのかを紹介しています。第4章では、そうしたティール組織が全体性を支えるために、開放的な、真の意味で「安心」できる職場環境をどのように整えているのかなどを、第5章では、採用や研修、労働時間管理や評価など人事面でどのような慣行やプロセスを取っているのかを紹介しています。

 第Ⅲ部では、こうしたティール組織が機能するための条件は何か、新たにティール組織を立ち上げる際と、既存の組織をこの新たなパラダイムへと転換させる際のそれぞれについて、念頭に置くべきことは何かを示唆しています。

 本書によれば、ティール組織とは、社長や上司がマイクロマネジメントを行わなくても、組織の目的実現に向けて進むことが出来ている、独自の工夫に溢れた組織のことであり、実は、世界には既にそういった組織が実際に増えてきており、成果を上げている現状があるとのことです。序章で、こうした組織を、「昔のテレビ・シリーズに出てきたような親しみやすい宇宙人」に喩え、「人々の生活に溶け込み、超能力を備えているのだが、ほかの人々からはそのことを認知されていない」と言っています。とは言え、本書に出てくる12社もまだティール組織への移行段階にあり、「自主経営(セルフ・マネジメント)」「全体性(ホールネス)」「存在目的」の三つの条件の全てを完璧に満たしているわけではないとも言っています。

 わが国では現在「働き方改革」の議論は盛んですが、組織の在り方というのは、そうした議論の前提条件としてあるものではないかと思います。「ティール」という新しい組織モデルが(モデルと言うよりパラダイムに近いが)今後どれだけ浸透していくか、ひとつの潮流的なコンセプトとなり得るのか関心が持たれるとともに、これからの社会に適合した組織とはどのようなものかを考えるうえで、たいへん示唆に富む本であると思います。

《読書MEMO》 
ティール組織7colors.png
●組織形態の進化
・組織形態の前段階①=「無色(グレー)」:血縁関係中心の小集団
・組織形態の前段階②=「神秘的(マゼンタ)」:数百人の人々で構成される種族
・第1段階:「衝動型(レッド)」:ジャイアンの世界。人を動かすのには最も手っ取り早い豪族やマフィアによる支配。
・第2段階:「順応型(アンバー)」:ピラミッド時代のように身分で支配する世界。支持命令の組織。業務フローはここで登場した。
・第3段階:「達成型(オレンジ)」:技術が進化するとそれぞれの村や国が出会うようになり、武器を発明しないといけない時代。一人一人を測定した能力主義となり、上層部の指示に従う部品だけの人生を歩む人もいる。
・第4段階:「多元型(グリーン)」:家族をメタファとした組織。従業員としてではなく、家族・仲間としてみんなで話し合いエンパワーメントする。欠点としては、なかなか物事が決まらないことと、最終決定はトップ層が決める為、そことの溝だけは大きくなる。
・第5段階:「進化型(ティール)」:上司がおらず、一人一人が意思決定する信頼で成り立つ組織。
達成型パラダイムは組織を「機械」に喩えることが多く、多元型パラダイムでは組織は「家族」のようなものとされるが、進化型パラダイムにおいて組織は「生命体」や「生物」に喩えられる。
●進化型組織の三つの突破口
・「自主経営(セルフ・マネジメント)」:組織を取り巻く環境の変化に対して、階層やコンセンサスに頼ることなく、適切なメンバーと連携しながら迅速に対応すること。セルフ・マネジメントが浸透している組織では、お互いにアドバイスをしつつ、独立したひとり一人が積極的に意思決定をすることになる。
・「全体性(ホールネス)」:メンバーひとり一人が持っている潜在性を全て使って組織を運営することを指す。ここでは、誰もが「本来の自分」の姿で職場に来ることができ、同僚、組織、社会との一体感を持てるような風土や慣行がある。
・「存在目的」:創業者が決めたビジョンやミッション・ステートメントとは違い、変化に適応した方向性を指す。その方向性は一部の限られた人が決めて推し進めるのではなく、組織全体として探求し続けていく中で、組織自体が何のために存在し、将来どの方向に向かうのかを常に追求し続ける姿勢として立ち現れてくる。

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ストーリー仕立てで組織開発のプロジェクトを追体験でき、啓発的であると同時に実践的。

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組織は変われるか――経営トップから始まる「組織開発」』(2017/12 英治出版)

 組織開発のコンサルティングをしている著者が、組織開発を実践しようとしている人(本書では「事務局」と呼んでいる)に向けて、その手順や方法を示した本です。事務局を主人公とした組織開発のストーリーが用意されていて、約1年におよぶ組織開発のプロジェクトを追体験できるようになっています。

 第1章では、コンサルタントが事務局と対話する形式で、事務局はまず何をすべきか、組織開発のタイミングをどう見極めるか、組織が変われない要因はどこにあるのか、問題をどう捉えなおすかを説いています。さらに、組織開発を進めるうえでの3原則として、「経営トップから始める」「各層のコンセンサス」「当事者主体」を掲げ、それらを解説しています。

 第2章では、経営トップである社長とのコミットメントを得るために、社長との対話のプロセスにおいて、①現状の認識をすりあわせる、②リスクシナリオを提示する、③組織課題の本質を見極める、④組織開発のプロジェクトを提案する、⑤トップの想いを引き出す、という5つのステップを意識するように説いています。そのうえで、トップの想いを社内に発信することを説き、初期の発信フェーズの仕上げとなるのが、役員合宿であるとしています。

 第3章では、その役員合宿の前に、役員一人ひとりの考えをインタビューで探る方法や、役員合宿の目的をどう明確化するか、合宿をどうプランニングするかについて解説しています。さらに、実際の2日にわたる役員合宿の事例を交えながら、合宿中に役員の本音の対話をどう引き出すか、それらの中に見られる変革と抵抗のシグナルにどう対応するかを述べ、それを、役員合宿の次のステップとしての、部長支援のワークショップに生かすことを説いています。

 第4章では、部長が置かれている現実と葛藤を理解したうえで、気づきと自覚を促すための部長支援のワークショップをどう設計するか、1日版の進行案を示しています。また、部長と課長数名で行う「智慧の車座」という対話の方法などを、これもまた事例で紹介しています。そして、ワークショップが終わった後、部長の意識改革を、部下にどう結びつけ、いかに変革の種をまくかが、事務局による現場支援の鍵のひとつであるとしています。

 第5章では、組織開発が自走し続けるにはどうすればよいか、それには組織を刺激しつづけることが大事であるとしています。また、組織開発においては、感情をマネジメントすることも重要であり、組織開発とはまさに「感情のマネジメント」であるとしています。最後に、組織開発部を立ち上げるならば、どのような人材が、ビジネス・パートナーたる組織開発部のメンバーに向いているのかを示しています。

 本書では、組織開発とは、経営トップから現場の管理職にいたる各層と対話を重ね、彼らのコミットメントを生み出すことであるとし、その第1段階が社長との対話にとなるとしています。そして、さらに、役員との対話、部長との対話と続き、最後は自分との対話、という流れになっています。

 堅くなりがちなテーマですが、ストーリー仕立てで読みやすく、また、合宿やワークショップの中身が具体的に書かれていて、理解しやすいものとなっています。組織開発で重視されるのは、組織で働く個々人の感情であるため、「対話」というものが非常に重要になってくるというのが、具体的な解説で読んでいて腑に落ちるものとなっています。組織開発の本質を突いて、啓発的であると同時に実践的であり、組織開発に携わる人にはお薦めしたい本であると思います。

 組織開発を小説仕立てで描いた名著とされる、三枝匡 著『Ⅴ字回復の経営―2年で会社を変えられますか』('01年/日本経済新聞社)を想起しましたが、『Ⅴ字回復の経営』の方が改革への抵抗勢力が手強くて、それに対する対応などが重点的に描かれているのに比べると、こちらは、抵抗勢力の役員はあっさり更迭されてしまって、ちょっと物足りなかった? でも、『Ⅴ字回復の経営』にもこんなに上手くいくかなという部分はあったし、まあ、互角というところでしょうか。

《読書MEMO》
●組織開発の三原則(第1章/37p)
「経営トップから始める」
「各層のコンセンサス」
「当事者主体」 
●社長のコミットメントを得るための対話のプロセス(第2章/59p)
・ステップ1 :現状の認識をすりあわせる
・ステップ2 :リスクシナリオを提示する
・ステップ3 :組織課題の本質を見極める
・ステップ4 :組織開発のプロジェクトを提案する
・ステップ5 :トップの想いを引き出す
●役員への「自己免疫システム」に関する質問(第3章/137p)
① 私は自組織をどう変えたいのか?
② そのために、私自身は何をするのか?(行動目標)
③ 行動目標を阻む日常の行動とは?(阻害行動)
④ ③の目的は何か?(裏目的)
⑤ 裏目的を支えている固定観念は何か?(思い込み)
⑥ だからこそ、自分はどう変わるのか?(私の成長課題)
(ロバート・キーガン/リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』)
●変革ストーリーとQPCA(第4章/177p)
1 現状認識 ⇒ Question (このままでいいのか?)
2 WHY ⇒ Purpose (どうありたいのか?)
3 HOW ⇒ Change  (どこを変えたいのか?)
4 WHAT ⇒ Action (何からやるか?)
●部長への「自己免疫システム」に関する質問(第4章/179p)
① 自組織を変えるために、私は何をしたいのか?
② 私自身は何をするのか?(行動目標)
③ 行動目標を阻む日常の行動とは?(阻害行動)
④ ③の目的は何か?(裏目的)
⑤ 裏目的を支えている固定観念は何か?(固定観念)
⑥ だからこそ、自分はどう変わるのか?(私の成長課題)
(ロバート・キーガン/リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』)

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「時間」「人材」「意欲」の3つのリソースをないがしろにしてはならないと教唆。

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TIME TALENT ENERGY ―組織の生産性を最大化するマネジメント』 Michael Mankins & Eric Garton
"Time, Talent, Energy: Overcome Organizational Drag and Unleash Your Team’s Productive Power"

TIME TALENT ENERGY.png 本書では、ほとんどの企業にとって本当に稀少な経営資源は「時間」「人材」「意欲」であるとしています。パート1「時間」(第2章・第3章)では、時間管理の問題をテーマとし、会議、オンラインコミュニケーション、厄介な官僚体質の構造など、大企業病の原因を探っています。パート2「人材」(第4章・第5章)では、社員の能力とチームづくりに焦点を当て、効果的な人材管理の威力を探っています。パート3「意欲」(第6章・第7章)では、当事者意識の意欲、やる気が生み出す効果について、現実的な視点で考察しています。

TIME TALENT ENERGY38.jpg さらに詳しく見ていくと、パート1「時間」では、第2章で、時間が失われてしまうからくりを示すとともに、失われた時間の大部分をシンプルな時間管理のツールやテクニックで取り返す方法について考察しています。第3章では、無駄に複雑な組織構造が、無用な会議や連絡などのやりとりの原因となっているとして、オペレーティングモデルを簡素化して、効果的な時間マネジメントで成果を上げた企業の事例を紹介しています。

 パート2「人材」では、第4章で、本当に必要なのは、誰よりも組織の使命を理解し、戦略を実行に移すことの出来る人材であるとして、いるといないとでは大きな差が出る「違いを生み出す人材」(ディファレンスメーカー)を、最大の効果を発揮できる職務に配置することが大切だとしています。しかしながら、従来の人事管理はこれに対処しきれていないとし、傑出した企業では、理論面や実践面でどのようにこれに対処しているかを紹介しています。第5章では、最も優秀な人材でチームを編成すべきだとし、また、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしています。さらに、オールスターチームには優秀なリーダーと手厚いサポートが欠かせないとしています。

 パート3「意欲」では、第6章で、社員のやる気を奮い立たせるためのステップとして、①人間性溢れる理念を策定・導入する、②社員の自律性と組織のニーズのバランスを追求する、③成果を上げ、やる気を奮い立たせるリーダーを育成せよ、の3つを挙げ、優良企業の成功事例などを紹介しながら、それぞれのステップを解説しています。第7章では。社員の意欲を引き出して成果を達成させる優良企業の企業文化に着目し、読者が同じような企業文化を醸成するための方法を紹介しています。

 企業の競争優位につながるのは「資金」ではなく、「時間」「人材」「意欲」の3つであるというのが筆者らの主張ですが、時間・人材・意欲のそれぞれについて、「傑出した企業」とそうでない企業を比較したうえで、詳細な理由を述べ、具体的な解決策までが示されているので分かり易く、また参考になります。特に人事パーソンにとってパート2の「人材」とパート3の「意欲」は、興味深く読めるのではないでしょうか。

 例えば、パート2の「人材」では、「違いを生み出す人材」を集めてチームを作り、こうしたオールスターチームに組織の最重要課題を担当させよとしていますが、どちらかと言えば、各部署に優秀な人材を均等に配置する傾向にある日本の企業にとっては、発想の転換を促すヒントになるように思います。

 「時間」「人材」「意欲」という3つの指標は必ずしも目新しいものではなく、また、本書で紹介されている優良企業の事例には、ミレニアル企業と呼ばれる新興企業のものが多かったりもし、読者にとっては、自社とは環境が違い過ぎるとの思いに駆られたりするかもしれません。実際、本書で示されたすべての策が、あらゆる企業に当てはまる汎用性を持つとは言えないと思われます。

 しかしながら、巻末で「日本企業への示唆」として、「組織生産力指数は平均で92にとどまり、グローバル平均の113を大きく下回る」という日本企業の組織生産力マネジメントの課題と、今後向かうべき方向について論じているよように、本書を通して「時間」「人材」「意欲」という3つのリソースをないがしろにしている事実に気づき、なぜそれが問題なのかをしっかりと理解し、具体的に何をすべきかと考える機会を得ることは、それなりに意義があるように思います。

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すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」(DDO)を提唱。

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Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey
"An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization"
なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる』(2017/08 英治出版)

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか2.jpg 30年以上にわたって「大人の発達と成長」を研究してきた著者らによる本で、前著『なぜ人と組織は変われないのか』('13年/ 英治出版)では、大人の知性の発達とはどのようなものであるかに言及しつつ、人と組織が持つ「変革をはばむ免疫システム」に着目して、個人と組織が成功するために避けて通れない変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにし、「免疫マップ」を用いた変革のアプローチを提唱するとともに、その効果を多くの事例を通して明らかにしていました。本書(原題:An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization、2016)では、すべての人が自己変革に取り組むことで、そうした大人の発達を組織全体で可能にする運営を行っており、かつ好業績を上げている3社の事例をもとに、発達指向型組織」(DDO=Deliberately Developmental Organization)と著者らが名づけた会社の実態とその可能性に迫っています。

 著者らは、ほとんどのビジネスパーソンが「自分の弱さを隠す仕事」に多大な労力を費やしているとしています。そのことは、そうした「もう一つの仕事」など誰もしていない組織を観察してはじめて、ありふれたことが実は「普通」ではないとわかるとし、本書で紹介する、人々の能力をはぐくむのに最も適した環境を持っている組織は、みんなが自分の弱さをさらけだせる、安全であると同時に要求の厳しい組織文化によって生み出される、などの特徴があるとして、このような組織を「発達指向型組織」(DDO=Deliberately Developmental Organization)と呼んでいます。

 第1章では、DDOとはどのようなものなのか、DDOに移行しようしている組織の現場を、3社の事例を通して紹介し、それらには、失敗が成功を加速する、「自分の成長+他者の成長=みんなの成長」となっている、リーダーがすぐに次のリーダーを育てる、人々の能力を開花させる場をつくっている、ものごとの根っこの原因をえぐり出す、といった特徴があることを示しています。

 第2章では、DDOにおける「発達」とは、社員のキャリアの発達ではなく、社員の人間としての発達に光を当て、組織を大きくすることより、組織を良くすることをまず考えるのだとしています。そのうえで、大人の知性には「環境順応型知性」「自己主導型知性」「自己変容型知性」の3つの段階があり、すべての人が知性のレベルを次の次元に向上させる必要があるとしています。

 第3章では、DDOというコンセプトを「ホーム」(発達を後押しするコミュニティ)、「グルーブ」(発達を実現するための慣行)、そして「エッジ」(発達への強い欲求)という3つのカテゴリーに分け、DDOに共通する12の特徴を挙げています。例えば、「ホーム」の側面であれば、「地位には基本的な特権がともなわない」「みんなが人材育成に携わる」など。「グルーブ」の側面であれば、「安定を壊すことが建設的な結果につながる場合がある」「ギャップに注意を払う」など。「エッジ」の側面であれば、「大人も成長できる」「弱さは財産にもなりうる。失敗はチャンスだ」など。

 第4章では、「グルーブ」の側面から、DDOの人々が具体的にどのようにして自分の限界に挑み続けているのか、人々がみずからの弱点をあぶり出し、行き詰まりの原因を掘り下げ、自分の足を引っ張ってきた思考・行動パターンを克服し続けるようにしているかを、3社の事例から探っています。

 第5章では、DDOの考え方ではたして営利企業が運営できるのかという疑問に対し、先に挙げた3社の例を分析し、それらは個人の成長を重んじているにもかかわらず成功しているのではなく、個人の成長を重んじているからこそ成功しているのだとしています。

 第6章では、「エッジ」の側面から、DDOでどのように成長が後押しされるのかを、2人の人物が「免疫マップ」の4枠(1.改善目標、2.阻害行動、3.裏の目標、4.強力な固定観念)を書き込んでいくエクササイズを通して例示し、さらに、読者自身がそれらを記す際の留意点を示し、第7章では、「ホーム」の側面から、DDOを目指す組織がその一歩を踏み出すための方法論を論じています。

 著者らの前著『なぜ人と組織は変われないのか』('13年/ 英治出版)は、個人と組織が成功するための変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにした本でしたが、本書も、著者らによれば、組織と個人の両方の潜在能力を開花させる方法を示すことを目的とした本であるとのことです。DDO企業にとっては、個人の発達が「付け足し」ではなく、発達指向の考え方が、組織のガソリンとエンジンの両方に浸透しているとのことです。かなり先進的な考えで、個人も組織もなかなかそこまでのレベルに達している例は少ないと思われますが(本書にもそう書いてある)、但し、企業が将来目指す方向性としてはそうなっていくべきだろうし、今後益々そういしたことが言われるようになるのだろうなあと思いました。

 「経営戦略としての組織文化」とはどういうものかを論じた本でもありますが、「発達」という考えを、社員のキャリアの発達ではなく、社員の人間としての発達として捉えているところに、先駆的かつ啓発的なものを感じました。『なぜ人と組織は変われないのか』と併せて読むとよいと思います。

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「分化」というコンセプトで、個を活かすこれからの組織と働き方を提唱。

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なぜ日本企業は勝てなくなったのか: 個を活かす「分化」の組織論 (新潮選書)

 著者によれば、これまで「全社一丸」を看板に掲げ、社員の勤勉さとチームワークを売り物に優れた製品を世界に送り出してきた日本企業が、労働生産性や競争力の国際的地位が1990年代から急落し、日本経済は20年以上に及ぶ長期の停滞からいまだ抜け出せず、喘ぎ続け、また、生産性だけの問題ではなく、近年、名だたる大企業で組織的不祥事が続発し、女性が活躍できる社会の実現や「働き方改革」も声高に唱えられながらも、現実には思うように進んでおらず、また、ストレスや過労死が深刻な問題になりながら、労働者の労働時間は減らず、有給休暇の取得率も低いままであるとのことです。

 本書では、これらの諸問題には共通する「病根」があるとし、それは、個人が組織や集団から「分化」されていないことであるとしています。ここで言う「分化」とは、個人が組織や集団から制度的、物理的、あるいは認識的に分別されていることであり、「未分化」とは逆に個人が組織や集団のなかに溶け込み、埋没してしまっている状態を意味しています。「働き方改革」「イノベーションの創出」「組織不祥事の撲滅」―これら現在の日本企業、日本社会が直面する重要課題を克服できるかどうかは、そうした空気を一掃し「分化」を実現できるか否かにかかっていると著者は言います。

 全5章の第1章と第2章では、「未分化」がどのような問題を引き起こしているかを説明し、第3章では実際に「分化」すると、組織と個人がどう変わるのかを多くの実例もまじえて紹介、第4章では、著者が長年にわたって取り組んできた「組織と個人の統合」という課題を踏まえ、「分化」と「統合」をどう両立させるかを述べ、第5章で、「分化」の過去を振り返り、未来を考察しています。

 第1章「『未分化』が引き起こしていること」では、企業不祥事の背景にある共同体の圧力、集団無責任体制や「たこつぼ」化した職場の病理、「ブラック企業一掃」の壁となっている長時間労働や、パワハラ・セクハラ、イジメ、さらには「女性活躍推進」や「同一労働同一賃金」の壁となっているさまざまな原因の背景も、そこに個人の「未分化」の問題があることを、多くの事例やエピソードを引き合いにしつつ指摘しています。

 第2章「日本企業の深層に残っているもの」では、日本企業が勝てなくなった理由として、日本的な共同体型組織が、かつてはさまざまな利点があったが、今は限界にきており、同調圧力がいい意味での突出を抑えるため、本来モチベーションというものは個人が組織から「分化」することで生まれるものであるのに、組織が「未分化」であるとそれが抑制されるため、有能な人材は外部に流出してしまうのだとしています。更に、成果主義が失敗したのも、成果の責任を問うには個人の「分化」が絶対条件であるのに、個人を未分化にしたままそれを取り入れたからだとしています。

 第3章「『分化』するとどう変わるのか」では、「分化」することのメリットとして、「やる気の天井」がとれて仕事が効率化し、「異質なチームワーク」からイノベーションが生まれるとともに、「集団無責任型」不祥事がなくなり、女性活躍の道も広がるし、オフィス環境も改善され、オーダーメイドのキャリアが形成できることなどを挙げています。また、「絆」「つながり」を唱え続けて無理に求心力を高めるよりも、むしろ「分化」することでつながるということを、①「自律」の欲求、②人間関係、③功利的な動機、④利他的な動機、という4つのキーワードで説明するとともに、個人のレベルでも、一人ひとりが個人の仕事や職業生活を分化することで、「未分化」では得られなかった生きがいが得られ、将来の展望が開けてくるとしています。

 第4章「『分化』と『統合』をどう両立させるのか」では、「組織と個人の統合」という課題を踏まえ、「分化も進めたいが統合も大事だ」というジレンマを克服するには、「行動」と「機能」を意識的に切り離して考える必要があり、行動を分化しながら機能として統合することで、企業の業績も社員の満足度も実際に上がる場合が多いことを指摘しています。更に、分化した個人は、それ以前よりも強く連帯することを、医療、映画製作、製品開発の具体例で説明しています。また、「分化」をどう仕掛けるかについて、外圧を利用する戦略や、「異分子」を投入したり、「ウチとソトの峻別」を逆手にとる方法などを紹介しています。

 第5章「『分化』の過去と未来」では、過去の「分化」の歴史を、タテに分化された前期工業社会、フラット化した後期工業社会、機械的組織から有機的組織へ、「人間的な労働」への改革、と振り返り、ポスト工業化社会では、これまでのタテの「階級」がヨコの「専門」に転換し、タテ方向の分化が勢いを失ってフラット化に転じる一方、ヨコ方向への分化が進んでいるとしています。そして、この分化ははるか未来を見据えても止まらないであろうとしています。

「分化」という1つのコンセプトで、これだけ多くの問題について具体例を挙げながら包括的に論じている点が、大胆かつユニークに思いました。すっきりしている一方で、読む側にある程度の概念化能力が求められる内容でもあるかもしれませんが、かつて日本企業の利点だった日本企業の「まとまる力」が、いま社員一人ひとりの能力を引き出すことの大きな妨げとなり、組織を不活性化させているとしており、必要なのは、まず組織や集団から個人を「引き離すこと」なのだという趣旨は分かったように思います。個の力を充分に活かすためには、これまでの働き方をドラスティックに変えなければならないことを示唆しており、啓発度の高い本であると言えます。

《読書MEMO》
●「分化」とは、個人が組織や集団から制度的、物理的、あるいは認識的に分別されていることであり、「未分化」とは逆に個人が組織や集団のなかに溶け込み、埋没してしまっている状態を意味する。(5p)
●IT革命とともに経済のソフト化やグローバル化も一気に進んだ1990年代の半ば以降、わが国の労働生産性や国際競争力は世界のなかでの順位が急落し、その状態が今でも続いている。その人的要因の一つとして、ポスト工業社会に入って人間に求められる能力や資質、モチベーションの質が大きく変化したことがあげられる。工業社会で強みを発揮した日本人の黙々として働く勤勉さや一体感、そしてある種の帰属意識やチームワークが、ポスト工業社会では通用しにくくなっているのである。(70p)
●一つの企業のなかでも研究開発、企画、広報、営業、マーケティングといった部署は階層が少ないほど自由に仕事ができ、身軽に動けるので組織をフラットにしたい。一方、慎重さを重んじる法務、契約、審査のような部署はフラット化しにくい。(中略)全社一律、悪しき画一的平等へのこだわりがしばしばネックになっている。そして全職種を対象として企業別に組織される企業別労働組合が、それと深く関わっている。(91p)
●わが国の共同体型組織では、行動と機能を一体化させるところに特徴があった。(中略)モノづくりにしても、事務の仕事にしても従来の集団作業においては、そのように文字どおり一丸になることが大切だったからである。(中略)行動と機能を切り離せば、個人の自由を尊重しながら仲間同士の協力や連帯ができるようになる。(163p)
●バーナードは、組織を「意図的に調整された人間の活動や諸力の体系」と定義しており、組織に人間そのものは含まれない。(中略)組織にとって人間の行動そのものを規制する必要がないことを示唆したバーナードの慧眼は敬服に値する。(165p)

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組織論から入って、リーダー(またはリーダーを志す人)へのアドバイスになっている。

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DREAM WORKPLACE(ドリーム・ワークプレイス)――だれもが「最高の自分」になれる組織をつくる』(2016/12 英治出版) Rob Goffee & Gareth Jones

 原題は"Why should Anyone Work Here?"(なぜみんながここで働かなければならないのか?)。本書では、世界で一番働きたいと思う組織は、有能な人材を引きつけ、留まらせる灯台のようなところであり、社員と会社そのものから、常に一番よいところ引き出す場となる組織であるとしています。そして、著者らは、世界中の人々に、理想の組織、すなわち最高の自分になれる組織とはどのようなものであるのかを問い続けた結果、回答は大きく次の6つの原則に分類されることが判ったとしています。

 ①違い(Difference)ありのままの自分でいることができる
 ②徹底的に正直であること(Radical honesty)今現実に起きていることを伝える
 ③特別な価値(Extra value)社員の強みと利益を理解し、強化する
 ④本物であること(Authenticity)アイデンティティ、価値観、リーダーシップ
 ⑤意義(Meaning)日々の仕事にやりがいをもたらす
 ⑥シンプルなルール(Simple rule)余計なものを減らし、透明性と公平性を高める

そして、これらの頭文字をとってこれを「夢(DREAMS)」の原則と呼び、以下、第1章から第6章までは、この6つの原則をひとつずつ詳しく述べ、各章の中でそれぞれの原則に沿ったシンプルな組織診断ツールを示すとともに、末尾にリーダーがとるべきアクションを整理しています。

 第1章「ありのままでいられるように」では、「違い」は埋めずに、むしろ広げるべきであるとして、思考プロセスや人生経験の「違い」を理由に人を雇い、価値観に対する見解の一致を求めながらも、個人が創造的な表現をする余地を認めよとしています。

 第2章「徹底的に正直である」では、今現実に起きていることを伝えるべきであるとして、コミュニケーションは正直に、かつ迅速に行うことなどを説いています。

 第3章「社員の強みと利益を理解し、強化する」では、ひとりひとりのために特別な価値を創造せよとし、能力開発のチャンスを与えること、社員に価値を付加することなどを推奨しています。

 第4章「『本物』を支持する」では、アイデンティティや価値観を重視し、自分の中にある「本物であること(オーセンティシティ)」を行動で示すことを説いています。

 第5章「意義あるものにする」では、日々の仕事にやりがいをもたらすにはどうすればよいかを述べており、意義あるものを見つけようと思ったら、様々な経験を取り入れ、また、あらゆる機会を使って、自分の組織の取り組みと成果を、広くコミュニティにつなげていくことを推奨しています。

 第6章「ルールはシンプルに」では、余計なものを減らして、透明性と公平性を高めることに努めよとし、物事がうまくいかなくても、新しいルールをつくりたいと思う誘惑を退けなさいとしています。

 さらに第7章では、本物の組織を作り維持するにはどうすればよいか、6つの原則を自分の組織の現状にカスタマイズする際に、リーダーとして行わなければならないトレードオフのパターンなどを示しています。

著者らはロンドンの組織行動学とリーダーシップの研究者ですが、各章とも組織の在り方から入って、組織診断ツールを示した上で、リーダーがとるべきアクションを整理しており、最終的にはリーダー(またはリーダーを志す人)に啓発を促す内容になっています。

 「6つの原則」は、それだけではやや抽象的な人生訓のような印象も受けなくはありませんが、多くの事例を紹介することで、読み進んでいく中で具体的にどのようなことを指すのかがイメージ出来るようになっていて、そのことがリーダーへのアドバイスに繋がっていきます(中にはややもやっとした感じのままのものもあったが、一方で、感動的なエピソードも少なからずあった)。

 ただし、本書で挙げた組織は、「6つの原則」の少なくともひとつ以上の達成に向けて努力していると思われるから取り上げられたのであるとのことで、それらの中で「6つの原則」をすべて解決した企業はひとつもないとしています。ですから、「こんなのウチでは無理だ」などと思わないで、自分たちに出来ることは何かという感覚で読んでいった方が、割合受け入れられ易いのではないでしょうか。

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新たなる「ホワイト企業」の定義? これからの人事部の役割という観点からも啓発的。

ホワイト企業.jpgホワイト企業 創造的学習をする「個人」を育てる「組織」』(2015/11 日経BP社)

 本書では、低賃金で長時間労働を強いる「ブラック企業」について、厳しい競争環境の中で、大量生産大量流通型モデルで付加価値の低い商品やサービスを提供する企業が、徹底的に利益水準を高めようとした際の現実的な選択肢であったとし、誰でもできる仕事しかしないヒューマンリソース的な人がブラック企業に搾取される構図は、産業革命以来続くものであるとしています。

 これに対し、21世紀の企業経営の要は、社員がイノベーション力の高い「クリエイティブ・キャピタル」になることに力を入れる、つまり、イノベーションを学習する組織=「ホワイト企業」に生まれ変わることであり、また、働く個人が職業人生をサバイバルする最良の道は、イノベーションを産み出す「創造的学習力」を高めることであるとしています(因みに、本書では「イノベーション」という言葉を「技術革新」の意味でなく「価値創造(社会や顧客にとって新しい価値を産み出すこと)」の意味で使っている)。その上で、価値創造に向けた「創造的学習」を促す仕組みや取り組みの在り方について、調査データ、企業や学校組織の事例も取り上げながら、具体的に述べています。

 3部構成の第1部では、「日本の雇用や働き方が、今後どのように変わるのか」を概観しています。主な変化の波は、技術革新、グローバル化、長寿化・高齢化、都市化の4つであるとし、こうした変化の潮流を踏まえた上で、世界経済フォーラムが唱える「人的資本指数」を構成する雇用・労働(働き方)、教育・学習(教育や学習のあり方)の視点から、日本の現況と将来を考察しています。

 第2部では個人の立場から、長いキャリア人生を通してイノベーション力を蓄えた「クリエイティブ・キャピタル」になるために求められる学習の在り方=「創造的学習」とはどのようなものかを探っています。ここでは、孤独な「勉強」をやめ、学習のサイクルを回すことが肝要であるとし、イノベーション力を高めるための「創造的学習」のカギとして、①テーマを見つける、②没頭して楽しむ、③実体験する、④他者と交わる、⑤教え合う、の5つの要素を挙げています。

 第3部では企業の立場から、まず日本企業のイノベーション持続にとって最大の障害である「組織文化の現状」を示し、20世紀に主流だった大量生産大量流通型工業社会で成功を収めた組織運営の在り方や個人の働き方が、21世紀の知識・コミュニケーション型知識社会では大きな足枷になっているという課題を提示した上で、コスト削減や業務能率向上を優先した20世紀型の工業社会とは異なる、知識社会の企業経営の在り方を探っています。

 この中では、イノベーションを拒むものとして、「管理統制信仰」「刻苦勉励好き」「組織の論理と人事権の優先」「本業意識」「目先の利益優先」「リスク回避の権威主義」「職場のコミュニケーション不全」の7つの組織文化の壁を指摘するとともに、イノベーションを継続する力を高める「ホワイト企業」になるには、社員の専門性と自律の促進がカギになり、人、職場、組織、文化の4つの経営の土台づくりが求められるとしています(とりわけ、日本企業に根づいた7つの組織文化の壁を崩すため、文化づくりが大切であるとしているのが興味深い)。

 これまで「ホワイト企業」と言えば、「ブラック企業」の対語として、法令を順守した就業規則が整備され、実際に労務面に反映されているとか、新卒3年後定着率が高いといった現象面のみで捉えられることも多かったように思いますが、本書では、社員をヒューマンリソース(人件費)として位置づけるかクリエイティブ・キャピタル(人的資本)として位置づけるかに"ブラック"と"ホワイト"の違いを見出している点が興味深く(新たなる「ホワイト企業」の定義?)、また、なぜ、イノベーションを学習する組織=「ホワイト企業」に生まれ変わる必要があるのか、そのためにはどうすればよいのかということについても、よく纏まって書かれているように思いました。更には、それらが机上の空論ではなく、調査データ、企業や学校組織の事例も取り上げながら、具体的に述べられている点もいいです。実際にマネジメント研修やリーダーシップ研修を数多くこなしてきた実務家によって書かれているだけに、説得力があるように思いました。

 これからの企業が目指すべき方向という意味で啓発度の高い本であり、また、組織論、人材育成論、さらにはこれからの人事部の役割という観点からみて、人事パーソンに限っても同様のことが言えるかと思います。

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組織論になっていない。啓発書としては尤もなことばかりだが、目新しさに欠ける。

すべての組織は変えられる.jpgすべての組織は変えられる (PHPビジネス新書)』['15年]

 Amazon.comでのレビュー評価が比較的高かったのでつい買ってしまいましたが、買ってから「リンクアンドモチベーション」の執行役員の人が書いたものだということに気づきました(まさか、帯に推薦文を書いている人の会社に勤務している人の本であろうとは)。ただ、"推薦人"である人の本は書店で立ち読みしたことしかなかったので、まあこれを機会に読んでみるのもいいかと...。

 書かれていることは、啓発的で尤もなことばかりですが、タイトルからするに、著者自身は「組織論」のつもりで書いていると思われるものの、実際に組織全体の施策を説いている部分は終章の数ページだけではなかったでしょうか。

 例えば、「陰口や悪口がなくなるだけで組織は激変する」とありますが、これって「組織論」とは言えないのでは。「気まずいメンバーこそ、呑みに誘え」とか、リーダー論、部下コミュニケーション論だなあと。"メソッド"と言うほどのものでもなく、殆どこれまで幾多もあった自己啓発書の世界と変わらないと言っていいかも。内容的に目新しさはありませんでした。

 紹介されているマズローの欲求階層説などは、モチベーション理論でしょう。また、モチベーションの高さは「目標の魅力」×「達成可能性」×「危機感」で決まるとしていますが、これって、ビクター・ブルーム(V.Vroom)の、モチベーションの高さは「対象の魅力度」×「達成への直結度」×「実現可能性」で決まるとした「期待理論」を自社流にアレンジしたものでしょう。こうした亜流の理論から入るよりも、本来の「期待理論」を押さえておいた方が読者にとっては良いように思うのですが、どうでしょうか。著作権の無いことをいいことに、既存理論の一部を改変して、あたかも完全に自社オリジナルの理論のように見せるやり方というのは(多くのコンサルティング会社がやっていることだが)好きになれません。

 「リンクアンドモチベーション」系の本と言っていい? Amazon.comレビューの高評価から見て、嵌る人は嵌るのだろなあ。個人的には、組織論にもなっていないし、目新しさにも欠け、読んでもあまり得られるものはないように思いましたが、一定の「固定客」がいるのでしょう。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジョン・P・コッター)

階層組織とネットワーク組織を共存させた新しい組織への進化を提唱。

ジョン・P・コッター 実行する組織0.JPGジョン・P・コッター 実行する組織.jpg
ジョン・P・コッタ― 実行する組織―――大企業がベンチャーのスピードで動く (Harvard Business Review Press)』(2015/07 ダイヤモンド社)

Dual Operating System - image from the book.jpg リーダーシップ論の大家として知られるジョン・コッターによる本書("Accelerate: Building Strategic Agility for a Faster-Moving World"、2014)は、大組織が、変化のスピードが速く不確実性の高い事業環境で競争に先んじるための解決策として、「デュアル・システム」というものを提唱しています。これは、既存の「ピラミッド型組織」を維持しながらも、起業当時に慣れ親しんでいたはずの「ネットワーク型組織」を有機的に再導入する仕組みであり、このスタートアップのような俊敏な動きが取れる第二のシステムが加わることで、組織全体が機敏性とスピードを実現できるようになるとしています。

 このネットワーク型組織はきわめて動的でやすやすと変化し、「官僚的な階層もなければ、上下関係のタブーもなく」「個人主義、創造性、イノベーションがおおっぴらに許される」「ネットワーク組織を形成するのは、年齢や地位の上下を問わず社内のあちこちから集まってきた人間であり、階層やサイロごとに滞留していた情報が自由に行き交い、何物にも遮られず隅々まで勢いよく流れる」としています。そして、「従来はタスクフォースや戦略部門でしのいできた仕事の大半を、ネットワーク組織に移管することだ。これで階層組織の負担は減り、本来の仕事をよりよくこなせるようになる」としています。

 そして、デュアル・システムの成功のカギとして、①社内のさまざまな部門からたくさんのチェンジ・エージェントを動員する、②「命じられてやる」のではなく「やりたい」気持ちを引き出す、③理性だけでなく感情にも訴える、④リーダーを増やす、⑤階層組織とネットワーク組織の連携を深める、という「5つの原則」を挙げています。

 更に、ネットワーク組織が戦略的に重要なイニシアチブを加速させるために、①危機感を高める、②コア・グループを作る、③ビジョンを掲げ、イニシアチブを決める、④志願者を増やす、⑤障害物を取り除く、⑥早めに成果を上げて祝う、⑦加速を維持する、⑧変革を体質化する、という「8つのアクセラレータ」を挙げています(ジョン・コッターがその著書『リーダーシップ論』や『企業変革力』などで提唱している「変革の8つのステップ」と比較してみるのもよい)。

デュアル・システム2.jpg 本書で興味深いのは、大規模な組織運営として開発され実績を上げてきた階層型組織を捨てる必要はないとしている点であり、但し、ネットワーク組織は、階層組織内でその管理の下に活動するタスクフォースやタイガーチームなどとは全く異なるとしています。それでは、ネットワーク組織とは全く未知のものであるかというとそうではなく、どんな大企業も最初はネットワーク型組織で運営される果敢なベンチャー企業であったのであって、俊敏な動きで事業誕生の礎を築いたからこそ、生き残って今の大企業になっているのであり、つまり、企業が大規模化するプロセスで置いてきてしまった、ネットワーク型システムを、大企業は取り戻せ、というのがコッターの主張です。

 読んでいて、組織概念としての理屈は分かるものの、考えることは出来るが実践はそう容易ではないのではないか、実際にデュアル・システムを取り入れて成功している企業はあるのかという疑問が当然の如く頭をもたげますが、それに応えるかのようにコッターは、まだ数は少ないが成功事例はあるとして、その成功事例(匿名企業)において「5つの原則」「8つのアクセラレータ」がどのように機能し、回って行ったかを詳細に紹介しています。

 コッターは、組織というものは本来的に自己満足に陥るものであり、先ず、真の危機感を醸成することが大切であるとし、そのためには、心を開き、外の世界に気づかせることが大事であるとしています。また、トップこそがロールモデルになる必要があるとし、更に、成果はそれを祝うことによって前向きのエネルギーを生むとしています。

 デュアル・システムを成功させ組織を加速させるには、ビジョンや戦略目標よりは先ず、自分達には大きな機会、大きな可能性があることを示すことが重要であるとしています。その大きな機会を伝わり易く示すには、短い、論理的である、感情に訴える、前向きである、本音である、明快である、整合性がある、ということに気を配ることが大切であるとしています。

 既に、昨年['14年]、「階層組織とネットワーク組織を共存させる―これから始まる新しい組織への進化」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー論文)という論文がKindle版でリリースされていましたが、コッタ―が書いているとは気づきませんでした。書籍化された本書は「マッキンゼー賞金賞受賞」ということで、それがどれくらい凄いのかよくは分かりませんが、コッタ―は間違いなく経営思想に大きな影響力を持つ人なので(しかもハーバード学派のど真ん中にいる人)、このデュアル・システムという概念が、今後より浸透し、具現化していく可能性はあるかもしれません。それがいつ頃なのか予測するのは難しいかもしれませんが、ただ、「デュアル・システム」という考えは、何れにせよ、大企業病に陥った企業や組織が、これから機敏性のある組織への変革を目指すうえでは、大いに示唆的であるように思いました。

《読書MEMO》
●ジョン・コッターの「変革の8つのステップ」
 1.危機感を生み出す
 2.変革プロセスを主導できるだけの強力チームをつくる
 3.ビジョンを掲げ戦略を立てる
 4.ビジョンと戦略を全員に徹底する
 5.社員がビジョン実現に向けて行動するように、現場に任せる
 6.信頼を勝ち取り、批判を鎮めるために、早い時期に成果を出す
 7.手を緩めず、変革を成し遂げる上でのより困難な課題に挑む
 8.新しい行動様式を組織文化の一部として根付かせる


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分かり易く説得力もあったが、一方で、それほど目新しさも感じられなかったか。

腐ったリンゴをどうするか?.jpg腐ったリンゴをどうするか?』(2015/06 三五館)

 前著『人はなぜ集団になると怠けるのか―「社会的手抜き」の心理学』('13年/中公新書)で、「社会的手抜き」のメカニズムを社会心理学、行動心理学の立場から多様な心理学的実験の結果などを通して明らかにした著者による本で、今度はより「ビジネス書」としての体裁になっているという感じでしょうか。

 人は集団で仕事をする。しかし集団になると人は怠け、単独で作業を行うよりも一人当たりの努力の量が低下する―これを学術的には「リンゲルマン効果」と呼び、所謂「社会的手抜き」ということになるわけですが、「自分だけ頑張ってもしょうがない」「誰かがやるからいいだろう」という気持ちは誰の心にも存在するものの、度が過ぎると手抜きは感染し、そばにある"リンゴ"から次々に広がり、最後には箱全体を腐らせるようになる―そこで、「腐ったリンゴをどうするか」ということが重要な課題になってくるということです。

 まず、手抜き発生の要因として、次の4つがあるとしています。
 ①評価可能性...個人の努力が他者から評価されない場合、動機づけが高まらない。
 ②努力の不要性...他者が優秀であったり、一緒に作業している人数が多いので、努力してもムダと思ってしまう。
 ③手抜きの同調...多くの人が手抜きをしているので、一所懸命課題に取り組んでも馬鹿らしいと思ってしまう。
 ④他者の存在による緊張感の低下...同じことをしている人が他にもいると、自分一人くらい、やらなくても大丈夫だと思ってしまう。

 更に、手抜き対策として、次の8つがあるとしています。
 ①罰を与える
 ②社会的手抜きをしない人物を選考する
 ③リーダーシップにより仕事の魅力向上を図る
 ④パフォーマンスのフィードバック
 ⑤集団の目標を明示する
 ⑥パフォーマンスの評価可能性を高める
 ⑦腐ったリンゴの排除
 ⑧社会的手抜きという現象の知識を与える

 そしてこれらは、「個人―集団」「積極―消極」という2軸4象限に整理することが出来、著者が望ましいとする優先順位で並べると、
 第1位 ― 第1象限 ... 個人に対する積極的施策 ... ④⑥⑧
 第2位 ― 第2象限 ... 集団に対する積極的施策 ... ③⑤
 第3位 ― 第3象限 ... 個人に対する消極的施策 ... ⑦
 第4位 ― 第4象限 ... 集団に対する消極的施策 ... ①②
となるとのことです。

 非常に分かりよく整理されているように思われ、結局、手抜きを防ぐには、④パフォーマンスのフィードバック、⑥パフォーマンスの評価可能性を高めること、⑧社会的手抜きという現象の知識を与えること、が最も効果的で、①罰を与えること、②社会的手抜きをしない人物を選考することが、最も効果が薄いということになるようです。

 ネガティブな施策よりもポジティブな施策の方が望ましいことはもとより、③リーダーシップにより仕事の魅力向上を図る、や⑤集団の目標を明示する、といった集団に対する施策よりも、パフォーマンスをフィードバックしたり、評価可能性を高めるといった個人に対する施策の方が効果が大きいというのはそれなりに説得力がありましたが、一方で、「社会的手抜き」の理論を裏返しただけの結果にすぎないようにも思われ、さほど目新しさはなかったというのが正直なところでしょうか(但し、そのことを日常において意識することで、実践面では役に立つセオリーではあると思う)。

 エピローグが「『手抜き』にも役割がある」となっているように、個人レベルにおいても集団レベルにおいても「怠け」というものを100%ネガティブなものとしては捉えず、むしろ「無用の用」として捉えている点は前著の流れを汲んで言えるでしょうか(集団においては"多様性"の観点が織り込まれている)。Amazon.comのレビューなどには、いかにして手抜きを防ぐかと言う本書のそれまでの論旨とズレがあるのではないかと見る向きもあったようですが、「怠け者」を排除すれば組織は活性化するというものではないという点では、先にあげた、①罰を与えること、②社会的手抜きをしない人物を選考することは効果が薄いという論旨と理論上は合致しているように思いました。

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タイトルずれしている。組織論なのか、マネジメント論なのか、単なる「世間話」なのか。

高学歴社員が組織を滅ぼす.jpg  上念司 ニュース女子.jpg「ニュース女子」上念司(経済評論家)・西川史子
高学歴社員が組織を滅ぼす』(2015/06 PHP研究所)

 Amazon.comでのレビュー評価が比較的高かったので、つい買ってしまいそうになりましたが、買わずに図書館で借りました。結果的に、借りるだけにしておいて良かった...という印象です。

 「高学歴社員」とはいったいどのような人間なのか、著者はその定義をしているわけですが、それがかなり恣意的で、殆ど"無茶苦茶"と言っていいです。著者自身、「本書における定義は著者である私自身の経験に基づき独断と偏見で行いたいと思います。それがたとえ、世間一般で言うところの高学歴の定義に当てはまらなかったとしても、...」と前置きし(この前置きそのものが無茶苦茶ではないか)、「私の提唱する高学歴社員の定義は次の通りです」として、
 1.リスク回避的である
 2.安定志向であり、自己保身主義である
 3.相手が誰であるかを判断するとき、世間で重んじられるヒエラルキーばかりを重視する(※世間の評価・評判、学歴、職歴、企業規模など)
 4.自分よりも「格上」と見做した相手には思考を停止しておもねる。身内に対しては自分が傷つきたくないので過剰に甘く、お互いに傷を舐め合う。
 5.「格下」の人間に対しては生死に関わる問題も含め極めて冷淡な態度をとる
としています。

 何ら論を待たずとも、こんな社員ばかり集まったら組織が衰退するか滅びるのは想像に難くないのではないでしょうか。実際、著者自身も、その後は「高学歴社員」論を展開することはなく、ダメになった組織の例を、企業不祥事や、はたまた、昔の戦記物語から引いてきているわけですが、少なくともそこから「高学歴社員」論に戻ることはなく、完全にタイトルずれしています。

 強いていえば、中盤以降の様々な事例は、"「脆弱なマネジメント」と「暴走する現場」の失敗の法則"に呼応していると言えなくもないですが、何れも歴史オタクや経済オタクが歴史書や経済書から引いてきたような話ばかりで、"居酒屋談義"を聞かされているような印象でした。

 結局、組織論なのか、マネジメント論なのか、単なるビジネス読み物なのかよく分からないような内容で、歴史的な出来事や社会的な事件の裏側を語るだけ語って、そのうち終わってしまったという印象です。

 Amazon.comのレビューにも少数派ですが「世間話の範疇を出るものではない」というのがありました。これ、真っ当なコメントだと思います。何故、Amazon.comでの他のレビューで高評価をつけた人が結構いるのか、タイトルずれを誰も怒らないのか、個人的には理解不能です。

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「●光文社新書」の インデックッスへ

近年また脚光を浴びつつあるという「組織開発」に関する入門書。新書で読めるのが有難い。

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入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる (光文社新書)

 本書によれば、「組織開発」とは、戦略や制度といった組織のハードな側面だけでなく、人や関係性といったソフトな側面に働きかけ、変革するアプローチを指し、アメリカで1950年代終盤に生まれ、欧米を中心に発展し、日本でも1960代に導入されたとのことです。近年また、この「組織開発」が脚光を浴びていて、組織開発をタイトルに掲げる研修や講座が増えているとのことです。

 一方で、一般に用いられている「人材開発」とは異なり、一部の人事パーソンにとって聞きなれない言葉であったり、また、多くの人事パーソンにとっても、言葉は聞いたことがあっても、コーチング研修やファシリテーション研修といった研修(トレーニング)とどう違うのか、具体的なイメージが湧きにくいという面もあったりするのではないでしょうか。

 実際、組織開発はその理論や手法が非常に多種多様であるため、その全体像を把握するには体系的な学びが必要とされるものの、組織開発をこれから学びたいという人に向けた本は日本にはまだないとのことです。そこで、本書は、その全体像を理解できるような入門書を目指したとのことで、いま、組織開発が必要とされる理由、特徴と歴史、理論と手法などを具体的な事例を交えて紹介し、なぜ、組織の人間的側面のマネジメントは重要な経営課題となるのかを説いています。

 第1章では、今、なぜ組織開発なのかを、組織を機能させるためには組織の人間的側面へのマネジメントが必要であるという心理学的な視点から考察するとともに、①活き活きとできない社員、②利益偏重主義、③個業化する仕事の仕方、④多様性の増大、といった日本の組織の現代的課題を取り上げ、組織開発が必要とされる状況について検討しています。

 第2章では、組織開発とは何か、その考え方や価値観について検討するとともに、アメリカにおける組織開発の歴史と日本における組織開発の歴史を概観し、さらには組織開発の手法を、その「あり方」はどうあるべきかという観点から述べ、組織開発の手法には代表的な4つの働きかけ(①戦略的な働きかけ。②技術・構造的な働きかけ、③人材マネジメントによる働きかけ、④ヒューマンプロセスへの働きかけ)があるとしています。

 第3章では、組織開発の手法の中から、リーダー養成型組織開発による取り組みを紹介した後に、「パートナー型組織開発」の進め方の例として、①データ・フィードバックによる取り組み、②プロセス・コンサルテーションによる取り組み、③対立解決セッション、④AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)による取り組みを紹介し、最後の第4章では、日本の企業が活性化するための鍵を、組織開発の観点からまとめています。

 組織開発の研究者によるオーソドックスな入門書であり、読者がその体系を理解しやすいように書かれていて、いまの日本の企業組織において、トレーニングから組織開発への広がりが必要とされている理由も理解できました。こうした本はややもすると概念的・抽象的になりがちなところを、第3章では、組織開発の代表的手法を、組織開発コンサルタントの取り組み例で示しているのも良かったです。あくまで仮想事例であり、もう少しシズル感が欲しかった気もしますが、大学の先生が書いた入門書としては妥当な線でしょうか(コンサルティングファームが書いた自社サービスの紹介ではないからね)。

 むしろ、新書でここまで読めるのは貴重かも。後は、「組織開発」への関心が企業内でどれぐらい拡がっていのかによって、本書への注目度も変わってくるのではないでしょうか(同じ光文社新書の高間邦男 著『組織を変える「仕掛け」―正解なき時代のリーダーシップとは』(2008/09 光文社新書)を併せて読まれることをお勧め)。

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現役の管理職にとっても次世代の管理職を育成するためのツールとして活用できる。

リーダーシップ徹底講座.jpgリーダーシップ徹底講座』(2018/04 中央経済社)

 本書は、マネジャーに求められるリーダーシップとマネジメントに関する知識を身につけることを目的として、リーダーシップやマネジメントを学ぶ学生や大学院生、次世代の管理職候補となる若手や中堅の社会人、さらに、現にマネジメントに関わっている現役管理職を対象に書かれたものです。

 第1章では、「マネジメントそしてマネジャーとは?」として、マネジメントとは何かということをドラッカーの主張などに基づいて説明し、『ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素』(2012/01 日本経済新聞出版社)の著者リンダ・A・ヒルらの研究から導き出されたマネジメントに関する誤解や、マネジメントに関するさまざまな論点を考察、また、組織の概念について、『経営者の役割―その職能と組織』 (1956/09 ダイヤモンド社)の著者チェスター・I・バーナードの近代組織論に基づいて解説しています。

 第2章では、「マネジメントの基本」として、マネジメントの基本となるマネジャーの人間観について、エドガー・H・シャインが『組織心理学』(1981/03 岩波書店)で論じている人間観のモデル(経済人・社会人・自己実現人・複雑人)に基づいて解説し、マネジメントを実行する上で必要不可欠なパワーに関するJ・フレンチとB・H・レイブンによる5類型を取り上げています。

 第3章では、「リーダーシップの基本」と題して、リーダーとは一体何かを、R・J・ハウスらが主張するリーダーシップが生まれる3つのパターン(任命されたリーダー、選挙で選ばれたリーダー、自然発生的リーダー)で解説、次に、マーティン・M・チェマーズの『リーダーシップの統合理論』(1999/02 北大路書房)など、リーダーシップ論の代表的なテキストにおけるリーダーシップの定義を比較検討し、また、リーダーシップを語る上で必要不可欠なフォロワーの存在について、『最前線のリーダーシップ―危機を乗り越える技術』 (2007/11 ファーストプレス)の著者ロナルド・A・ハイフェッツらの主張を紹介、さらに、『サーバントリーダーシップ』(2008/12 英治出版)の著者であるロバート・K・グリーンリーフのサーバント・リーダーシップについて解説しています。

 第4章では、「リーダーシップ論の展開」と題して、リーダーシップ論の歩みを、初期リーダーシップ研究における資質的アプローチ、行動アプローチ、状況アプローチの順でそれぞれの代表的研究を紹介し、それに続く、『カリスマ的リーダーシップ―ベンチャーを志す人の必読書』(1999/12 流通科学大学出版)の著者ジェイ・A・ コンガー、ラビンドラ・N・ カヌンゴらによるカリスマ的リーダーシップ論や、B・J・アボリオの変革型リーダーシップ論について解説しています。

 第5章は、「フォロワーの目から見たリーダーシップ」として、フォロワーの視点を重視したリーダーシップ研究を説明、具体的には、E・P・ホランダーの特異性―信頼理論を取り上げています。また、フォロワーのリーダーシップ認知について、B・コールダーのリーダーシップ原因帰属モデル、R・G・ロードのリーダーシップ情報処理モデル、L・R・オファーマンのフォロワーが抱く暗黙のリーダーシップ論について説明しています。また、J・R・マインドルの提唱したリーダーシップの幻想について解説しています。

 第6章では、「フォロワーシップについて考える」ということで、リーダーシップを受け入れるフォロワーに求められる行動としてのフォロワーシップについて考察し、『指導力革命―リーダーシップからフォロワーシップへ』(1993/11 プレジデント社)の著者ロバート・E・ケリーの提唱した「模範的なフォロワー」や、『フォロワーシップ―上司を動かす賢い部下の教科書』(2009/11 ダイヤモンド社))の著者アイラ・チャレフの提唱した「勇敢なフォロワー」を取り上げています。

 第7章は、「マネジャーに求められるもの」として、管理者行動論の諸研究を説明し、具体的には、『ザ・ゼネラル・マネジャー―実力経営者の発想と行動』(1984/03 ダイヤモンド社)の著者ジョン・P・コッタ―の「ゼネラル・マネジャー」、『マネジャーの実像―「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』(2011/01 日経BP社)の著者ヘンリー・ミンツバーグの「マネジャーの仕事」と「マネジャーの実像」の議論、リンダ・A・ヒルらによる「マネジャーの3つの課題」について説明しています。

 本書の前身である『リーダーシップ入門講座―まとめ役になれる!』(2011/03中央経済社)から7年ぶりの改訂であるとのことですが、リーダーシップ論だけでなくフォロワーシップ論についての解説がなされているのが特徴で、さらに最新のリーダーシップ理論も織り込まれてアップデートされています。また、前著に比べ、マネジメント及び管理者行動について掘り下げているのも特徴です。

 テキスト的な本ですが、序章で述べられているように、現役の管理職にとっても、管理職としての経験を振り返って整理し、次世代の管理職を育成するためのツールとして活用できる本であるかと思います(索引はあるが、文中のキーワードを太字にするようなことはしていないのは、読み物としても読めるようんすることを意識したのか)。

 初学者には、なぜリーダーシップ理論を学ぶのか、それが実務に何の役に立つのかといった抵抗感が往々にしてあるものですが、理論をそのまま現実に適用するのではなく、その理論の基本的エッセンスを応用の足掛かりとし、自分なりのリーダーシップ・スタイルを確立させ、自分自身のコアを持つことは大切であり、そのためには、理論体系をまず把握するのが、毎週のように刊行される自己啓発本みたいなものを読み漁るよりずっと効率的であると、個人的には考えます。

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目に見えにくいフォロアワーシップというものを自身の経験から可視化して解説。

リーダーシップからフォロワーシップへ8.JPGリーダーシップからフォロワーシップへ.jpg 中竹竜二.jpg
新版 リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』 中竹 竜二・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター
リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』['09年]
リーダーシップからフォロワーシップへ    .jpg 本書は、著者が2006年に清宮克幸氏の後を受け早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任し、2007年度から2年連続で全国大学選手権2連覇を成し遂げた際に刊行された本の新版であり、新版として刊行するにあたり、「いいリーダーの資質」についてまとめた終章が加わっています(第1~7章はほぼ旧版を踏襲)。

 第1章では、リーダーシップとフォロアワーシップを同じレベルで考えなければならない時代がやってきたとし、「リーダー」と「リーダー以外」を分けて考えると、組織に対してそれぞれの立場で考えなければならないことは、
 ①リーダーが考える自分自身のリーダーシップ(第2章)
 ②リーダーが考える自分以外のフォロワーシップ(第4章・第5章)
 ③フォロワーが考える自分自身のフォロワーシップ(第6章)
 ④フォロワーが考えるリーダーがとるべきリーダーシップ(第7章)
 の4つあるとしています。

 第2章では、リーダーのためのリーダーシップ論を説いています。まず、ストッグディルの特性論を紹介し、彼はリーダーの持つ特性として、「公正」「正直」「誠実」「思慮深さ」「公平」「機敏」「独創性」「忍耐」「自信」「攻撃性」「適応性」「ユーモアの感覚」「社交性」「頼もしさ」の14を挙げたとし、また、優秀なリーダーたちが持っている能力を、分かりやすく表現したシリーズとして「~力」という考え方があり、そこで挙げられる「力」には情報収集力、分析力、実行力、準備(段取り)力、決断力、対応力、論理力、創造力、マネジメント力、俯瞰力、交渉力、企画力、発想力、目標設定力、課題解決力...等々があるが、管理職研修ワークショップからの吸い上げなどから全ての要素がリーダーシップの大切な能力であることは確認できるものの、一つひとつが大切であることと、一人の人間がそれらの全ての要素を持つべきだということとは全く異なり、この両者を混同すると、「極めて万能で優秀な神様みたいな能力を備えたリーダー以外は、いわゆる理想のリーダーシップを発揮することは、非常に困難である」という矛盾に陥ってしまうとしています。一方、非理想のリーダー像には大きな共通項が見出しやすく、そこから逆説的に考えると、理想のリーダーの条件は、「ブレない」「言動に一貫性を持っている」ことであるとしています。

 これを受け、第3章では、リーダーとしてのスタイルを確立させることの必要性を説いています。ここでは、「中竹のスタイル」として、①日本一オーラのない監督、②期待に応えない、③ 他人に期待しない、④怒るより、謝る、⑤選手たちのスタイル確立を重視の5つを挙げ、さらに、スタイル確立の鉄則として、①多面的な自己分析、②できないことはやらない、③短所こそ光を!、④引力(周囲のプレッシャー)に負けない、⑤焦らず、勇気を持って、の5つを掲げ、また、Vision(ビジョン)・Story(ストーリー)・S cenario(シナリオ)の3つのフェーズを意識してマネジメントするVSSマネジメントというものを提唱しています。また、スタイルを作り上げるプロセスで起こりがちな失敗として留意すべきこととして、①「スタイルがないのがスタイル」は×、②スキルが全くなければスタイルなし、③安易なオンリーワン思考、④無謀な夢、⑤情報過多での混乱、の5つを挙げています。

 第4章は、リーダーのためのフォロワーシップ論です。ここでは、フォロワーを育てるためには、リーダーがまず理想のフォロワー像を描き、部下に主体性を持たせることが大切で、「マニュアル化」や「安全性」はむしろ自主性逓減に繋がることがあるとしています。部下の成長機会を手助けするのがリーダーの役目であり、そのためには、フォロワーの資質と目標に合った環境を整えるとともに、フォロワー一人ひとりのスタイル構築を支援しなければならないとしています。

 第5章では、具体的なフォロワーシップ実践の際の重要な思考スキルと手法を紹介しています。ここでは、(フォロワー育成の中竹メソッドとして)フォロワーとの個人面談におけるチェックポイントとして、①ポジティブ(前向き)で未来志向であるか、②弱点克服に偏りすぎていないか、③周りの引力に負けていないか、④スタイルがオンリーワンになっているか、⑤スタイルを発揮する状況をイメージできているか、の5つを挙げています。そして、自らの経験から、個人面談を通して、選手の短所に光を当ててあげ、相手の懐に入り込み、ワンサイズ大きなスタイルを目指させることで、お互いにとってエネルギーとなる面談となるとしています。また、フォロワーが自分たちで課題を見つけ、解決していくために欠かせないチームトークを推進するために必要なスキルと心構えについても述べています。

 第6章は、フォロワーの立場になって、どう組織を支えていくかが論じられています。ここではまず、組織と人間の関係性に注目し、日本と西洋における個人と組織の一般的な捉え方を比較したうえで、フォロワーの5つの選択肢として、①自分自身の個としての成長を最優先、②仲間(フォロワー)と共に成長する、③リーダーを成長させる、④リーダーを変える、⑤組織を脱退する、の5つを挙げ、前2つのパターンがフォロワーのためのフォロワーシップ行動であり(第6章で解説)、後3つは「フォロワーのためのリーダーシップ」の考え方であるとしています(第7章で解説)。そして、自分自身の個としての成長を考えるには、まず、フォロワーであることのメリットを理解しておくことが重要であるとし、また、自分だけでなく、仲間と共に成長したいと思った場合は、組織に存在する課題をプロジェクト化するとよいとしています。

 第7章は、フォロワーが考えるリーダーシップ論です。ここでは、リーダーのプライドをコントロールすることを説き、その一つの方法として、リーダーそのものの人格ではなく、リーダーと言う立場に敬意を払うポジションリスペクトという考え方を紹介しています。

 2009年刊の本書旧版の巻末にある「おそらくこれから数年の間に、多くの組織においてリーダーシップからフォロワーシップへと議論の焦点が移行するだろう」という著者の予測は、当たったと言えるかと思います。ただし、著者も指摘しているように、トップダウン型のリーダーシップは目に見えやすく、一方で、フォロワーシップは、努めて目を凝らさなければなかなか見えてこない面があり、ラグビーチームの監督としての著者自身の経験に基づいて書かれた本書は、そうした意味ではその見えにくい部分を、著者なりの切り口で可視化して解説しているように思いました(何よりも実績があるので説得力がある)。

 スポーツチームの監督がチームが優勝したりして本を出すのはよくあることですが、本を出した次の年にはリーグなどで最下位だったりすることもあり、個人的には何となくそうした本を読むことに対してそう積極的でなかったです。そうしたこともあり、本書も刊行時にはすぐに読みませんでしたが、こうして新版を読んでみると、この著者の本は当時から「ビジネス書」(ビジネスの世界に応用可能な普遍性を有する本)だったのだなあと思いました。

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「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

部下を不調に追いやる「危険な上司」4タイプの特徴と対処法を分かりやすく説く。

上司が壊す職場.jpg上司が壊す職場 日経プレミアシリーズ

 本書は、産業カウンセラーであり、本書と同じ日経プレミアシリーズにも『「新型うつ」な人々』(2011/06)、『劣化するシニア社員』(2014/02)などの著書がある著者が、自身のカウンセラーとしての経験則をもとに、部下を不調に追いやる上司の特徴とその対処法に分かり易く説いた本です。

 第1章では、職場におけるメンタル不調の7割は、上司が原因で起こるとしています。そして、部下を不調にさせる管理職のおよそ半分(全体の3分の1)は、マネジメント能力の未熟さ、つまり「スキル不足」の問題を抱えているとしています。一方、残りの3分の1は、上司自身の特性、つまりキャラクターに偏りがあるケースであるとし、本書ではこの部分に注目し、このタイプを「危険な上司」と呼び、こうした上司が存在するだけで、そこは「心が折れる職場」となるとしています(「『部下も悪い』と考える会社は危ない」とも言っている)。

 著者は、そうした危険な上司は、自身に問題がある自覚もなければ、罪悪感もなく、他人に気を配れず、他罰的で、極度に「自己中心」な思考をする傾向にあり、無自覚にパワハラ問題を起こし続けるとしています(「『自然な言動』で部下を追い込む」と言っている)。そのうえで、「危険な上司」を、周囲が目に入らず、空気が読めない「機械型」、相手を"敵"と認識すると感情的に攻撃する「激情型」、常に賞賛を浴びたい、特別視されたい「自己愛型」、部下の気持ちよりも自己の目的を重視しすぎる「謀略型」の4タイプに分類し、第2章から第5章の各章で、それぞれのタイプを詳説するとともに、その対処法を示しています。

 「機械型」は、興味の幅が狭く、段取りが下手で、普段は部下の仕事に全く関心がないのに、融通は利かず、どうでもよいことを細かく注意してくるタイプです。周囲の目を気にせず、荷物が多くカバンがぱんぱん、デスクが異様に散らかっているか、逆にクリップ一つないほど片付き過ぎている人にこのような特徴が出やすいとのことです(その性格が変わらない場合は、「うちの上司はそういう人」と割り切って考えるのがお勧めとのこと)。

 「激情型」は、部下の些細な一言で、突然逆上し、罵声をあびせかける典型的なパワハラ上司で、自分が信頼する人にはとことん尽くすが、それが裏切られたと感じると、感情のコントロールができなくなって相手を攻撃してしまうタイプです。会社や職場への不満を話し出したら止まらず、何事も根に持ちやすいとのことです。ひどいケースでは、激昂の末に暴力を振るう場合もあり、こうなるとパワハラの域を超えるとしています(そもそも、激情型の人を上司に就かせないよう、会社側は見きわめる必要があると)。

 「自己愛型」は、「あの人は有能だ」と思われることが本人にとっての最大目標であり、「部下の手柄は自分の手柄」と考えているのに、自身のミスは、その責任を平気で部下へ押し付けるタイプです。電話の声が必要以上に大きく、周りに聞こえるように仕事を進めたり、「忙しさ自慢」をしてきたりするなど、面倒くさい「かまってちゃん」が多いとのことです(賞賛をし続ければ敵意の対象とはされないため、部下側の対応は比較的容易だと)。

 「謀略型」は、支配欲や権利欲がとても強く、「邪魔」と感じた部下は躊躇なく切り捨てられる「最も危ないタイプの上司」であり、他のタイプは自身の感情をコントロールできないため、部下や組織を壊してしまうという側面があるが、このタイプは、自分の目標を達成するために「理知的」に行動しているのが特徴。結果のためには手段を選ばず、部下の弱みを最大限利用し、自分のせいで部下がつらい目にあっていても良心が痛むことがない。口がうまく、自分を「できる上司」だと演出するのを得意とする人が多いとのことです(部下側の対処が最も難しいタイプで、「離職者の続出、職場の澱んだ空気」の責任者であると)。

 第6章では、こうした「危険な上司」がカウンセリングなどを通して変われるか、もし行動様式を変えようとするならば、どのようなカウンセリング内容になるかを、専門家の立場から4つのタイプごとに解説しています。また、こうした個別対応もさることながら、「危険な上司」を生み続け、メンタル不調者を多く出す組織、いわば「危険な会社」というものも多く目につくとしています(「危険な上司」の類型を大まかにでも理解しておけば、自らの職場で起こっている問題を明示的に認識する助けとなるが、最終的は組織的な取り組みが求められるということになる)。

 そこで、最終章の第7章では、「危険な上司」を生まない会社になるにはどうすればよいか、幾つかの提言をしています。この中で、ある職場で問題を起こしたりした上司を、同じ職位のまま別の職場に「たらい回し」するのは、問題の先送りであるとしています。また、ライン管理職中心の人事を見直すべき時代にきているのではないかとも述べています。

 本書では、カウンセリングの手法を示しつつも、カウンセラーの立場でできることには限界があり、「人事上の判断」でしか、真の解決はできないとしています。また、各章で、誰を管理職に登用するかの判断が非常に重要になってくるとしています。意外と、パワハラ上司になる危険性というのは、管理職登用に際してはあまりチェックされなかったりすることもあるのではないか思われます。その意味では教唆的な内容であり、人事パーソンとって自らの気づきを促すために一読してみるのもよいかと思います。

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前著『最前線のリーダーシップ』の実践編と言えるか。

最難関のリーダーシップ.jpg ハーバードリーダーシップ白熱教室2.jpg ハーバードリーダーシップ白熱教室.jpg
最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』ロナルド・A・ハイフェッツ in NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)
最前線のリーダーシップ
最前線のリーダーシップ.jpg 本書(原題:Practice of Adaptive Leadership: Tools and Tactics for Changing Your Organization and the World、2009)は、ハーバード・ケネディスクールの教授らによるもので、著者の一人ロナルド・ハイフェッツ教授はNHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られています。また、本書は、ハイフェッツ教授の『リーダーシップとは何か!』('96年/産能大学出版部、原題:Leadership Without Easy Answers、1998)や『最前線のリーダーシップ』('07年/ファーストプレス、原題:Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading" 2002、マーティ・リンスキーとの共著、先月['18年10月]新訳版刊行)の続編とも言える内容であり、前著で培われてきた考えを更に推し進め、「アダプティブ・リーダーシップ」というものを強く提唱するものとなっています。

 本書の第1部「イントロダクション:目的と可能性」の第2章で、アダプティブ・リーダーシップとは、難題に取り組み、成功するように人々をまとめあげ動かしていくことであるとしており、リーダーシップで失敗する最大の原因は、「適応課題」(問題の当事者が適応することによってのみ前進させられる課題)を「技術的課題」として対処してしまうことにあるとしています。そして、アダプティブ・リーダーシップでは、観察、解釈、介入という3つの主要な活動を反復するとし、ステージごとに、そのコツを身につけることが大切であるとしています。以下、第2部から第5部にかけてが、そのプロセスの実践編となっています。

 第2部「システムを診断する」では、第5章で、観察によってシステムをどのように診断するか、技術的要素と適応要素はどう判断するかを述べ、適応課題の類型を示しています。第6章では、政治的状況をどう診断するか、第7章では、適応力の高い組織にはどのような特性があるのかを述べています。

 第3部「システムを動かす」では、第8章で、システムを解釈する際の方法を述べ、第9章で、効果的な介入をどうデザインするのかを述べています。そして、第10第では政治的に行動する方法を、第11章では対立を組織化する方法を、第12章では適応力の高い文化を構築する方法を述べています。

 第4部「自分をシステムとして認識する」では、第13章で、どのようにして自分自身に目を向けるかを述べ、第14章では自分自身の忠誠心を特定する方法を、第15章では自分自身のチューニングを確認する方法を説いています。更に、第16章では自身の能力の容量を広げるにはどうすればよいか、第17章では自身の役割をどう把握するか、第18章ではどうやって目的を明確にするかを述べています。

 第5部「自分を戦略的に動かす」では、第19章で、目的とつながり続けることの、第20章で勇気をもって参画することの、第21章で人を鼓舞することの重要性とコツをそれぞれ説き、第22章では、リーダーシップを一つの実験として考える考え方を提唱しています。そして、最後の第23章では、成長し成功するためのポイントを述べています。

 著者の前著『最前線のリーダーシップ』では、「ダンスフロアから1歩出てバルコニー席に上がる」という表現を用いて、まず起きていることの全体像を知るべきであるとしていましたが、本書では、第2部以降、アダプティブ・リーダーシップにおける、観察、解釈、介入というプロセスの解説を進めていくうえで、随所で「バルコニーにて」というコーナーで観察すべきポイントを示し、「現場での実践演習」というコーナーで、実験へのヒントを紹介しています。それらヒントは啓発的であり、納得性が高いように思いました。

 第12章で、適応力の高い組織の特徴として、「エレファント(Elephant in the room):重大な問題でその場にいる誰もがその存在を認識しているが、見て見ぬふりをされているもの」の指摘が日常的行動としてなされていることをトップに挙げているのが個人的に印象に残りました。

 また、システムの診断と併せて、自分自身をシステムとして認識することを説いているのは興味深かったです(第2部がシステムの診断、第3部がシステムを対象とした行動、第4部が自分自身の診断、第5部が自分自身を対象とした行動について書かれていることになる)。一方で、スキルに比重を置いてはいるものの、全体を通しては、オーソドックスなリーダーシップ論であるようにも思いました(突飛なことは何一つ言っていない)。但し、示された多くのヒントは大いに啓発的であると思います。

 個人的には、『最前線のリーダーシップ』(個人的評価は◎)から先に読んだのが良かったかもしれません。『最前線のリーダーシップ』も、リーダーシップ行動に伴う危機をどう乗り越えるのか、その方法や技術について説いた本でしたが、『最前線のリーダーシップ』の方がよりコンセプチュアルで、本書の方は、それに比べると("実践の書"を謳っている分)テクニカルかもしれません。本書単独で読んでも得られるものは少なからずあるかと思います(但し、実践してこそ意味があることを忘れてはならない)。

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「科学的モチベーション論」入門。モチベーションの有無よりその理由に注目。

会社でやる気を出してはいけない.jpg会社でやる気を出してはいけない』  Susan Fowler.jpg Susan Fowler

 世界30カ国以上の国々でリーダーシップ・コンサルタント、コーチとしての仕事に携わった実績を持つという著者による本です。タイトルは刺激的ですが(原題"Why Motivating People Doesn't Work...and What Does")、本書のベースにある考え方は、「人間はどんな時でもモチベーションを持っている」ということ、問題は「モチベーションに有無ではなく、モチベーションの理由」であって、「仕事へのモチベーションがあればあるほど望ましいという考え方」は、単純すぎるどころか馬鹿げている」というものです。モチベーションには科学的な裏付けがあり、「科学的にモチベーションをマネジメントする方法」を示したものが本書であるとのことです。

 第1章「モチベーション・ジレンマ」では、他人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかない理由を解明し、その代替案となる「モチベーション・スペクトラム」というものを提案しています。モチベーション・スペクトラムとは、横軸に「心理的欲求」、縦軸に「自己制御力」を取り(この「心理的欲求」と「自己制御力」については第2章、第3章で改めて解説している)、その高低によって「無関心」「外発的」「義務的」「協調的」「統合的」「内在的」の6種類のモチベーションタイプを配したもので、前3タイプを「後ろ向きタイプ」、後3タイプを「前向きタイプ」のモチベーションとしています。

 第2章「モチベーションっていったい何?」では、人間に備わっているモチベーションの本質を知り、それを利用することで得られるメリット、それを省みないことによる代償を明らかにしています。ここでは、モチベーションの本質とは、「自律性」「関係性」「有能感」を満たしたいという人間の「心理的欲求」であるとしています。

 第3章「何かに駆り立てられる『ドライブ』の罠」では、結果を出そうとがむしゃらにならなくても、なぜかよりよい結果が出せる方法を紹介しています。そこで鍵になるのは「自己制御力」ですが、「マインドフルネス」「価値観」「目的」の3つが自己制御力を育む手段となるとしています。

 第4章「モチベーションはスキル」では、自らのモチベーションの質を変えていくために個人がなすべきことと、そのために役立つスキルとして、①現在のモチベーションタイプを見きわめる、②前向きタイプのモチベーションにシフトする、③自らを振り返る、という3つを挙げています。

 第5章「モチベーションをシフトする」では、部下のやる気をより質の高いものへと変えていくためのリーダーの会話術を披露し、第6章「前向きなモチベーションへのシフトを阻む5つの固定観念」では、リーダーとしての言動に悪影響を及ぼしている固定観念や価値観を見定め、部下が前向きなモチベーションを持てるよう促し支援する最善策を紹介しています。第7章「前向きなモチベーションが約束するもの」では、モチベーションに対する新たなアプローチに秘められた可能性を、「組織」「リーダー」「職場での成功を目指す人」の3つの観点から考察しています。

 前半部分が理論編で、後半にかけて実践編になっていくという感じでしょうか。全編を通じて事例を織り込んで解説しているため、読みやすいものとなっています。「マネジメントは科学である」というアメリカ的な考え方が、モチベーションも同様に科学的裏付けがあり、モチベーションを科学的にマネジメントすることで、自分や相手のモチベーションを前向きなものにすることが可能となる、という考え方に敷衍されている本と言えるのではないかと思います。

 これはこれで一つの考え方であると思いますが、「マズローの欲求五段階説」など古典的理論に拘泥されない新しいモチベーション理論であり、自分自身にも相手にも、またチームやプロジェクトにも当てはまる考え方でもあるように思いました。一方で、"理論書"というよりむしろ"啓蒙書"として読める面も多くあるかもしれません(個人的には多分にそう読んだ。リーダーに対する警句がいっぱい出てくる)。確かに、科学的なモチベーション論と精神論の境界は難しいように思いますが、本書において言語化された概念を、もう一度自らの頭の中で再整理してみるもの、その「科学的モチベーション」に一歩近づく手立てではないかと思います(帯に「『科学的モチベーション』のはじめ方」とある)。

 "啓蒙書"として読むと楽に読めるけれど、"理論書"として読むと結構コンセプチュアル・スキルを要する本であったかもしれません。

《読書MEMO》
●人はいかなる場合でもモチベーションを持っています。問題はやる気があるかどうかではなく、なぜやる気があるかなのです。
●リーダーとしてなすべきは、職場で部下が関係性を実感できるように計らうことです。それは、互いに尊重し合っていると思えるよう、誠意をもってつながっていると感じられるよう、自分より大きなものに貢献できるよう導くことにほかなりません。
●人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかないのは、関係性を感じるよう他人に無理強いすることができないからです。
●従業員は職場に関して、頼りになるか否か、安心できる場か不穏な場か、信頼できるか否か、というふうに絶えず評価を下しています。そして、信頼性があり安心できる職場環境のほうが高い自己制御能力を持てる可能性がずっと大きいのです。
●皮肉にも、後ろ向きタイプのモチベーションが生み出すエネルギーは中毒性を持っており、それと同時に人を疲弊させます。(中略)マイナスのエネルギーを維持するには、原因を問わず、怒りを燃やし、失望し続けるしかありません。
●前向きタイプのモチベーションが持つエネルギーは、後向きタイプのモチベーションが放つマイナスのエネルギーにはけっしてかないません。
●価値観は高い自己制御力を支える柱です。それなのに、仕事に関して自分はどんな価値観を持っているかと疑問を抱き、深く考えたことのある人はほとんどいません。
●従業員は外発的モチベーションに夢中になると、他人や物に操られるようになり、知らず知らずに自律性を失ってしまうのです。
●人は、自律性を損ねるような職場をつくるリーダーに対して憤りをかんじます。そのうえ、結果を出せと部下を追い立てる上司を利己的だとみなします。
●どんな感情でも容認するが、どんな行動でも容認できるわけではない、という姿勢を持ちましょう。感情を察知し、それを受け入れ、対処するのです。
自らの心の声に耳を傾けて、感情が重大な役割を果たしていることを認めて、自己制御力を鍛えてください。
●権力を手にしたのだから、けっしてそれを使ってはいけない。優れたリーダーになれるのは信頼と尊敬を集めるからであって、権力があるからではない
●リーダーとは部下が心理的欲求を満たしうる職場づくりを担う人間である。

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ルーキーの強み(ルーキー・スマート)はリーダーにこそ求められる。

ルーキー・スマート6.JPGルーキー・スマート.jpg  メンバーの才能を開花させる技法.jpg リズ・ワイズマン.jpg
ルーキー・スマート』『メンバーの才能を開花させる技法』リズ・ワイズマン
Liz Wiseman Recognized By Thinkers50 As Top Leadership Thinker
リズ・ワイズマン 2.jpgオラクル.png 著者のリズ・ワイズマンはオラクルで長年人材育成に携わった人で、前著『メンバーの才能を開花させる技法』('15年/海と月社)では、リーダーの2つの類型として「消耗型リーダー」と「増幅型リーダー」があり、消耗型リーダーは自分の知性に溺れ、メンバーを低く見て、組織にとって大切な知性と能力を損ない、一方、増幅型リーダーはメンバーの知識を引き出すことで、組織の中に伝染力のある集合知を築くとしていました。

 本書では、はじめて経験する課題に取り組むルーキーに着目し、ルーキーの潜在力に目覚め、彼らをもっと活用することを説いています。さらには「だれもが永遠にルーキーでありつづけられる」として、自分自身もマンネリと決別し、ルーキーならではの強み(ルーキー・スマート)を身につけることを勧めています。そして、これまでの「経験」に「ルーキーのパワー」が加われば、個人としても組織としても非常に強みを発揮できるようになるとしています。

 第1部「ルーキー・スマートを手に入れる」の第1章では、著者らの調査からわかったこととして、はじめて経験する課題に取り組むルーキーは、目覚ましい成果を上げることができ、多くのベテランと肩を並べ、イノベーションが求められる局面などではベテランを凌駕することも多いが、そうした自覚あるルーキーの示す思考・行動にはパターンがあるとしています。著者はそれを「ルーキー・スマート」と名づけ、ルーキー・スマートには、「バックパッカー」「狩猟採集民」「ファイアウォーカー」「開拓者」の4つのモードがあり、同じ人が局面ごとにさまざまなモードに入るとしています。そして、第2章から第5章にかけて、各モードとその思考パターンを解説しています。

 「バックパッカー」とは、重荷がなく、失うものがない者のことを指し、ベテランが"守り"思考であるのに対して、ルーキーは無制約で自由な思考で動くことができるとしています。「狩猟採集民」とは、知識や専門技能が未熟であるため、周りの世界を理解しようと努め、導きを求めて他の人の力を借りようとする特性を指しています。「ファイアウォーカー」とは、自信がないため慎重に、かつ同時に、あたかも初心者の火渡りのように素早く行動する特性を指しています。「開拓者」は、地図に記されていない、しばしば不快な土地に乗り出していく者を指し、"定住者"であるベテランと違って、未知の世界へ乗り出すために、ハングリーで絶えず精力的に行動する特性を指しています。

 第2部「ルーキー・スマートの育み方」の第6章では、「永遠のルーキー」であるための資質として、好奇心、謙虚さ、遊び心、計画性の4つを掲げています。第7章では、ルーキー・スマートは若者や未経験者だけのものではなく、どんなに経験や実績が豊富な人でも自分を再生させ、ルーキーへ回帰できるとして、それを実現するための4つの戦略(①リーダーから学習者へ、②非快適ゾーンに足を踏み入れる、③小さな行動をとる、④若々しさを取り戻すための手順を確立する)を示しています。

 第3部「人に続いて組織も変わる」の第8章では、リーダーがルーキーを活かすための方法として、①方向性を示したうえで自由を与える、②建設的な「ミニ試練」を与える、③安全ネットつきの綱渡りをさせる、の3つを挙げています。また、ルーキーとベテランの効果的な組み合わせ方法や、チームや組織にルーキーらしさを取り戻す方法についても述べています。

 全体を通して、調査に基づいて書かれているため説得力があります。ルーキーに着目した本ですが、著者の専門はリーダーシップの実践的研究であり、本書におけるルーキー・スマートも、最終的には年齢的な枠を超えた特性的なものであって、むしろ、リーダーが柔軟な思考や果敢な行動力、挑戦者の精神を失わないためにはどうすればよいかを説いた本であるように感じられました。ルーキーの強み(ルーキー・スマート)はリーダーにこそ求められるという意味で、たいへんユニークな視座を提供していて、啓発度は高かったように思います。<

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目新しいことが書かれているわけではないが、再啓発される部分はあった。

フィードバック入門5.JPGフィードバック入門.jpgフィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 (PHPビジネス新書)』['17年]

 本書では、上司から部下へのフィードバックについて、フィードバックは「成果のあがらない部下に、耳の痛いことを伝えて仕事を立て直す」部下指導の技術であるとし、コーチングとティーチングのノウハウを両方含んだ、まったく新しい部下育成法であると捉えています。

 第1章「なぜ、あなたの部下は育ってくれないのか?」では、マネジャーが置かれている部下育成が困難な現況を分析し、フィードバックこそ最強の部下育成方法であり、フィードバックは、【情報通知】(ティーチング的)=たとえ耳の痛いことであっても、情報や結果を通知すること(現状を把握し、向き合うことを支援)と【立て直し】(コーチング的)=部下が自己の業績や行動を振り返り、行動計画をたてる支援を行うこと(振り返りと、アクションプランづくりの支援)から成るとしています。

 第2章「部下育成を支える基礎理論 フィードバックの技術 基本編」では、部下育成の基礎理論として「経験軸」と「ピープル軸」を掲げ、「経験軸」の考え方は、部下に適切な業務経験を与え、ストレッチゾーン(挑戦空間)を促すことであり、「ピープル軸」の考え方は、「業務支援」「内省支援」「精神支援」による面の育成であるとしています。そして、フィードバックとの関係では、【情報通知】=経験軸+ピープル軸「業務支援」、【立て直し】=ピープル軸「内省支援」+「精神支援」となるとし、耳の痛いことを伝えて耐え直すフィードバックの技術を、フィードバックのプロセス順に解説しています。

 第3章「フィードバックの技術 実践編」では、「あなたは、相手としっかりと向き合っているか?」「あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?」などフィードバックの実践における5つのチェックポイントと、フィードバック前には必ず「脳内予行演習」すること、フィードバックの内容も記録することなど、フィードバックの8つのTips(コツ)を示しています。

 第4章「タイプ&シチュエーション別フィードバックQ&A」では、すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプや何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ、から目線で返される「逆フィードバック」タイプなど、部下のタイプ&フィードバックのシチュエーション別に、上司がそれらにどのように対処すべきかを、Q&A形式で解説しています。

 第5章「マネジャー自身も成長する! 自己フィードバック・トレーニング」では、フィードバック力をつける2つのポイントとして、自分自身のフィードバックを客観的に観察することと、自分自身もフィードバックされる機会を持つことを挙げ、フィードバック力をつけるトレーニング方法や自分自身をフィードバックし続けるコツを紹介しています。

 前半部分はややコンセプチュアルですが(米国のビジネス書によく見られるタイプか)、後半になればなるほどマニュアル的になり、実践を意識した入門書になっています。全体としては、フィードバックの考え方やチェックポイントを、著者なりにその研究の成果に基づいてまとめたものであると言えます。ものすごく目新しいことが書かれているわけではないけれども、一つのコンセプトのもとに体系的に整理されていることによって、改めて啓発される箇所はそれなりにあったという印象です。中には分かっていてもそれを実践するのがなかなか難しいのだと言いたくなるような箇所もあるかもしれませんが、それが習得できればそれなりに役立ち、十分に効果的であると思われます。そうした意味では、自己啓発のつもりで読んでみるのもいいのではないかと思います。

《読書MEMO》
●フィードバックのプロセス(第2章)
・事前......SBI情報の収集⇒「1to1」を中心に
・フィードバック
①信頼感の確保
②事実通知」鏡のように情報を通知する
③問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる
④振り返り支援:振り返りによる真因探究、未来の行動計画づくり
⑤期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる
・事後......フォローアップ
●フィードバックの実践 5つのチェックポイント(第3章)
1.あなたは、相手としっかりと向き合っているか?
2.あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?
3.あなたは、部下の反応を見ることができているか?
4.あなたは、部下の立て直しをサポートできているか?
5.あなたは、再発予防策をたてているか?
●フィードバックにまつわる8つのTips(コツ)(第3章)
Tips①:フィードバック前には必ず「脳内予行演習」
Tips②:フィードバックの内容も記録する
Tips③:耳の痛いことを言った後で無駄に褒めない
Tips④:フィードバックは「即時」と「移行期」にこそ行う
Tips⑤:フィードバックの沈黙時には時空間を変える
Tips⑥:フィードバックの強烈なストレスと向き合う方法
Tips⑦:「嫌われるもの仕方がない」という覚悟を持とう
Tips⑧:どうしてもフィードバックが難しいときもある
●タイプ&状況別フィードバックQ&A(第4章)
・すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプ
 ⇒こちらから具体的に改善策を聞く
・何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ
 ⇒こちらも負けじと黙り込む
・上から目線で返される「逆フィードバック」タイプ
 ⇒「もし君が上司だったら~」と仮定法で意見を求める
・言い訳ばかりしてくる「とは言いますけれどね」タイプ
 ⇒どんどんしゃべらせて、矛盾を炙り出す
・「根拠なきポジティブ」タイプ/すぐに「大丈夫です!」タイプ
 ⇒なんとかなると思う理由を具体的に聞く
・別の話題にすり替える「現実逃避」タイプ
 ⇒根気よく話を元に戻して、何度でも同じことを述べる
・上司のお前が間違っている! 「思い込み」タイプ
 ⇒部下の日頃の行動を元に具合的に指摘する
・なんでも他人のせいにする「傍観者」タイプ
 ⇒「傍観者に見えるよ」とそのまま指摘する
・都合よく解釈する「まるめとっちゃう」タイプ
 ⇒「私の言いたいことはそうではない」とはっきり言う
・お膳立てしても挑戦しない「ノーリスク」タイプ
 ⇒「挑戦しなくてもいいけど、現状維持はできないよ。このままだとこうなるよ」と伝える
・昔取った杵柄を振りかざす「元○○の神様」タイプ
 ⇒「立場上、私はこう言わざるを得ないのですが」と前置きしてから、素直に述べる
・前評判と働きが違う「他では優秀」タイプ
 ⇒「郷に入れば郷に従え」とはっきり伝える
●フィードバック力をつけるトレーニング方法(第5章)
・模擬フィードバック......自分おフィードバックの観察
・アシミレーション......部下による上司へのフィードバック方法
・社外でのフィードバック......社内の人間関係では得られないスパイシーなフィードバックを受ける
●自分自身をフィードバックし続けるコツ(第5章)
・ピーターの法則......「人は無能になるまで出世する」
・「緊張屋」と「安心屋」
  「緊張屋」......厳しいフィードバックをしてくれる人
  「安心屋」......精神的支援をしてくれる人
   ⇒両者のバランスが大切

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「リーダー神話」は百害あって一利なし!リーダーシップ教育と現実のギャップを浮き彫りに。
○経営思想家トップ50 ランクイン(ジェフリー・フェファー)

悪いヤツほど出世する4.JPG悪いヤツほど出世する.jpg    悪いヤツほど出世する 文庫.jpg
悪いヤツほど出世する』 『悪いヤツほど出世する (日経ビジネス人文庫)

 2017年の「経営思想家トップ50(Thinkers50)」において"殿堂入り"したジェフリー・フェファーの、既刊『「権力」を握る人の法則』('14年/日経ビジネス文庫)の続編に位置付けられる本であるとのことで、リーダーシップに関する従来の知識やリーダーシップ研修の類が実際の職場で役に立たないのはなぜかを探り、リーダーシップについて読者の再考を促しています。

 第1章では、「リーダー神話」は百害あって一利なしとして、リーダーシップに関する本やブログが数十年にわたって精力的に書かれ、講演や研修が盛んに行われているにもかかわらず、職場の実態もリーダーの質も上がっていないことを指摘し、科学的なデータや調査よりも感動体験を求めることにその一因があるとしています。

 そのうえで、続く五つの章で、リーダーシップにとって欠かせないとされている五つの要素―謙虚さ、自分らしさ、誠実、信頼、思いやり―を取り上げ、これらの資質が組織や集団にとって望ましい資質であるには違いないが、第一に、これらの資質を多くリーダーが備えているという証拠はあるのか、第二に、リーダーシップ教育産業が推奨することと反対の行動をとるほうがむしろ賢明に見えるのはなぜかを考察しています。

 第2章では、「謙虚さ」について、そもそも控えめなリーダーはいるのかという疑問を呈し、むしろ自信過剰な方が成功しやすく、過剰な自信は時に大事であり、ナルシスト型の行動は出世に有利であるとしています。

 第3章では、「自分らしさ」について、そもそも「真の自分」は存在するのかという疑問を呈し、「自分らしさ」は臨機応変に捨てるべきであり、つねに自分らしさを前面に押し出すリーダーシップは有効ではないとしています。

 第4章では、「誠実」について、もちろん真実を語るリーダーはいるが、たいていのリーダーは嘘をつくものであり、嘘をついて損をすることは滅多になく、むしろ、嘘がよい結果をもたらすこともあるとしています。

 第5章では、「信頼」について、現代のリーダーが信頼を得ているとは言いがたく、ただし、信頼を踏みにじってもリーダーは罰せられないことが多く、むしろ人を信頼しすぎると損をすることがあるとしています。

 第6章では、「思いやり」について、リーダーの多くは「社員第一」ではなく「我が身第一」であり、リーダーを部下思いにすることを期待するならば、エージェンシー理論に基づき適正な測定とインセンティブを導入すれば、少しは改善されるだろうとしています。

 第7章では、自分の身は自分で守らねばならないということを強調し、第8章では、リーダー神話を捨てて、真実に耐えるべきであるとしています。そして、現実と向き合うためのヒントとして、「こうあるべきだ」(規範)と「こうである」(現実)を混同しない、他人の言葉ではなく行動を見る、ときには悪いこともしなければならないと知る、普遍的なアドバイスを求めない、「白か黒か」で考えない、許せども忘れず、の6つを挙げています。また、リーダーシップを巡る問題点は、リーダーの発言と行動の不一致や行動と結果の不一致、リーダーシップ教育と現実の不一致など不一致の問題であり、不一致を一致に変えるためには、現実に根ざした努力が必要であるとしています。

 著者は「スタンフォード大学の人気教授」と帯にありますが、日本でも、90年代に刊行されたその著書『人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか?』が2000年代に入って再び翻訳され(『人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式』』)読まれるなど、単なる人気教授と言うより「カリスマ教授」に近いのではないでしょうか。誰もが薄々思っていることを、データや実例をもとに解き明かし、リーダーは部下思いで、謙虚・誠実であるべきだといった「神話」を妄信として打ち砕いていく様は爽快でもあり、読み易い啓発書ですが、一方で、リーダーシップ教育と現実のギャップを浮き彫りにもしており、考えさせられる本でした。

 処世術的な読み方と組織行動論的な読み方ができる本ですが、これでいくと、リーダーに依存しすぎるのはよいことではなく、今後は権力分散型の組織が望ましいということになるのでしょうか。

 邦訳タイトルといい装丁といい若干「売らんかな」系(?)に見えなくもないですが、原題は「Leadership BS: Fixing Workplaces and Careers One Truth at a Time」。「BS」はBull Shit(=デタラメ)の略語で、直訳に近い訳だと「リーダーシップの嘘:職場とキャリアを1つずつ改善するために」となるようですが、Bull Shitの語感からは「嘘っぱち」と訳した方が近いのかも。「悪いヤツほど出世する」は更なる意訳ですが、これも内容的にはみ出した訳とは必ずしも言えないようです。善意に解釈すれば、よりアイロニカルな意味合いが込めたのでしょう。

【2018年文庫化[日経ビジネス人文庫]】

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基礎理論を学ぶことの重要性を説いていることに共感。初任管理職などには示唆に富む本。

即効マネジメント.jpg即効マネジメント: 部下をコントロールする黄金原則 (ちくま新書)』['16年]

 著者の既刊『無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論』('15年/プレジデント社)の姉妹編で、前著で扱った、部下のやる気をどう出させるか(「個」のマネジメント)というテーマと組織全体の活気をどう保つか(「組織」のマネジメント)というテーマのうち、前者に的を絞り、より細かく解説を加えたものであるとのことです。

 本書での理論解説のベースに置いているのは、ハーズバーグやマズローをはじめとする大家と呼ばれる7人の研究者の理論であり、とりわけ、著者が薫陶を受け、元気・勇気・やる気にあふれるリクルートの組織風土を生み出した大沢武志(1935-2012)氏の実践的理論を基礎に置いているとのことです。

 著者は、マネジメントというものを1つの型にはめる必要はなく、むしろ基礎理論を覚えることが重要であるとして、本書では、そのための基礎理論を「明日から使えるように、実践的で簡単な法則」にしたとし、それが、「2W2R(What・Way・Reason・Range)」と「三つのギリギリ」であるとしています。

 第1章では、「やる気」には内発的動機と外部誘因があるが、社員の内発的動機を高めれば企業は強くなるとし、では、その内発的動機はどのようにすれば高まるのかを、ハーズバーグの「満足要因と衛生要因」説などを用いて説明していて、それには「機会」を与え「支援」することが必要であるとしています。

 第2章では、部下にどのような機会を与えそれをいかに支援するかを解説し、指導の基本は2W(What・Way)であり、手本やなどできっちり「What」を教えるのも必要だが、それよりも、その通りにやれば誰でもうまくできる成功の道筋=「Way」を教えることが重要であるとしています。また、教えるに際しては、その理由や目的(Reason)を伝えることが大切で、それが部下の自律への入口になるとしています(ここまでで「2W1R」となったわけだが、もう1つのRについては後述されることになる)。更に、部下に機会を与える際には、「できるかできないかギリギリの線を示す」「経験や得意技を活かす場を残す」「逃げ場をなくす」という「三つのギリギリ」が重要であるとしています。

 第3章では、やる気を絶やさない秘訣として、目標はすぐにくずれるので、そのたびごとに刻み直すこと、そのためにも、上司は常に部下を見てSOSや慢心を見逃さないこと、更に、横の見通し(今の仕事は周囲にどんな影響を与えているか)と縦の見通し(今の仕事は将来のキャリアにどんな影響を与えているか)をつけることが重要であるとしています。

 第4章では、もう1つのRであるRange(範囲)について述べており、成長が実感出来るように踊り場(自遊空間)を作って思いっきり羽を伸ばせるようにしてあげること、階段を刻み、踊り場で遊ばせることが大切であることを、D・マクレガーの「XY理論」や三隅二不二の「PM理論」を用いつつ説明しています。

 第5章では、「誰もがエリートを目指せる」日本型のキャリア構造は世界的にみれば特殊であるが、これも「ギリギリの線を与え続ける」などといったモチベーション理論をキャリアパスの下敷きとして意図的に生み出された構造であるとして、基礎理論の重要性を説いています。また、仮に社員がやる気を出してくれずマネジメント理論が通じないと思われるケースであっても、それは、人の心を揺り動かす要因(動因)が揃っていないことによるものであり、部下は多様な動因を持つから、上司はそれに合った「多様な機会」を作っていくことが大切であることを、マーレイの動因理論などを用いて説いています。

 第6章では、学んだことを人に教えることの重要性を説くとともに、本書でこれまで述べてきた基礎理論を、質問形式で簡潔にまとめています。以上、要約すれば、「2W2R(What・Way・Reason・Range)」とは、何を、どうやって、なぜ、どこまでを決めることであり、「三つのギリギリ」とは、(1)易しすぎず難しすぎず、(2)活かし場を用意する、(3)逃げ場をなくす、ということになります。

 こうしたことが、クイズなどを交えつつ、読み易く丁寧に解説されていて、また、章を追うごとに理論を積み重ねて構造化していくため、説得力のあるものとなっています。個人的にも、基礎理論を学び、実践することの重要性を説いている点には共感しました(同著者の雇用システムや労働市場問題を扱った本よりも共感度が高い?)。とりわけ初任管理職、ミドルマネジメント層には一定の示唆に富む本であるかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 「あの人はすごい」―その理由は、マネジメント理論でけっこう説明できます。
第1章 なぜ、企業は社員のやる気を大切にするのか
第2章 やる気の源泉=「機会」と「支援」の鉄則
第3章 やる気を絶やさないための秘訣
第4章 もう一つのR(=Range)は、なぜ「スーパーな力」なのか
第5章 世界でも特殊な日本型のキャリア構造
第6章 学んだことを人に教え、自分でも実践する
あとがき リクルートの「元気とやる気」の秘密を、みなさんに

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幾つかの気づきを与えてくれる一方、ややもの足りなさを感じる面も。

モチベーションの新法則5.JPGモチベーションの新法則.jpg
モチベーションの新法則 (日経文庫)』['15年]

 部下や職場全体のモチベーションをどうすれば高められるのかを、経営心理学の立場から、クイズなどを交えて分かりやすく解説した入門書です。著者によれば、個人の成功体験の紹介ではなく、誰にでも役立てられること、②心理学の最新の研究に基づいていること、③日本人に特徴的な心情や文化的背景を前提に解説していることが、本書の特色であるとのことです。

 第1章では、多くの若者が「成長したい」という時代に、成長欲求をモチベーションにつなげるにはどうしたらよいかを考察しています。第2章では、ほめて育てるというのが流行っているが、それには落とし穴があるとし、ほめる際の注意点を示しています。第3章では、モチベーションは気分に大きく左右されるという視点から、上司のちょっとした声掛けの効果について考え、そのコツが紹介されています。
 
 第4章では、内発的動機づけと外発的動機づけをどのように使ったらよいかを解説しています。第5章では、ポジティブなものの見方のコツについて述べるとともに、ネガティブだからうまくいっている人もいて、そうした人にはどう対応すればよいかを説いています。第6章では、分かっていてもできない理由について考察しています。

 第7章では、無意識の威力に焦点を当てて、日常生活の中でモチベーションを高めるコツを紹介しています。第8章では、MBO(目標管理)の問題点を指摘しつつ、業績目標と学習目標という視点から、モチベーションを維持するのに有効な目標の立て方について検討しています。第9章では、関係性(人間関係)に重きを置くのが日本人の特徴であることを念頭に置き、アメリカのモチベーション論では見落とされがちな日本人独自のモチベーション法則について考察しています。

 日経文庫ということもあってか、テキストとしてコンパクトに纏まっており、モチベーション理論について、マズロー、マグレガ―、ハーズバーグなど1960年代の理論あたりまでは学習したが、それ以降どのような理論が展開されてきたかを今一度俯瞰しておきたいという人には手ごろな入門書であると思います。

 個人的には、目標管理において、業績目標と学習目標のどちらを持つかによってモチベーションが異なってくるといった点や、日本人は仕事よりも職場を重視する傾向があるため、関係性を整えるだけでモチベーションが上がるといった指摘が腑に落ちるものでした。

 人事パーソンの視点から見て、幾つかの気づきを与えてくれる本であるとは思いますが、クイズが意外と歯ごたえがないのと同様、読む人によっては、それほど目新しさが感じられる指摘でもなかったりするかも。また、こうした心理学系の人が書いた本にありがちですが、実践に活かさなければならない立場の人が読んだ際には、ややもの足りなさを感じる面があるかもしれません。

 著者には専門書に近い内容の本から自己啓発書まで数多くの著書がありますが、本書はその中間的位置づけでしょうか。より専門書寄りのものとして『モチベーション・マネジメント』('15年/産業能率大学出版部)があり、自己啓発よりも知識としての理解に重点を置くならば、体系的にはそちらの方がスッキリしているように思いますが、これは読者の好みの問題でしょう(個人的には著者の前著『お子様上司の時代』('13年/日経プレミアシリーズ)よりは今回の方がやや良かたったか)。

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理系の性分、理系的センスとは何か、理系社員とどう向き合うかを説く。「トリセツ」と言うより「啓発書」。

理系社員のトリセツ.jpg理系社員のトリセツ (ちくま新書)』['15年]

 文系と理系の間にある深い溝―本書は、その壁をを解消して、両者が一緒に働いている職場をうまくまわすにはどうすればよいか、そのために理系の特徴を分析し、その活用法を解説した本です。著者によれば、企業が成功するには、文系と理系双方の人材がうまくかみ合う必要があるのに、実際には文系と理系はお互いを相容れないものとして捉えがちであるとのことです。その結果、文系は理系の仕事をなかなか理解することができず、「文系上司」が「理系部下」の扱いに困っているといったことなども少なからず起きているとのことです。

 そこで「理系」である著者が、"理系の性分"とは何か、その思考傾向を多面的に探るとともに、"理系的センス"とはどういったものか、それはビジネスの様々な場面でどのような効果を発揮するかを説いていますが、読んでいて、そのセンスとは往々にして文系の人間にも求められるものであるように思いました。本書では、それらを踏まえたうえで、組織内で理系社員をどう活用すればよいかを解説しています。

 著者によれば、理系的才能の本質は想像力であり、真の理系は想像力で問題を解くとともに、事実に目を配り、直感に飛びつかず慎重に考えるとのこと、また理系人材は「質量保存・エネルギー保存の法則」を前提に物事を捉えるので、ゼロサムの関係には敏感であり、全体バランスを壊すことになるカネやポストでは動機づけられにくい一方、外部からの期待感や専門分野での名誉には奮い立ち"本気度"を刺激される側面も併せ持つとしています。

 上司が「理系部下」を活かす方法としては、文書化を徹底させるコーチングを行い、部下に自由に語らせるようにし、外部の干渉からは部下を守ること、また、先に述べたような理由から、技術成果に対し「顕彰」で報いることなどを挙げています。とにかく、複雑な評価制度などに惑わされず、コーチングを続けることが大切であるとしています。

最後に、理系マインドをビジネスにどう結びつけていくかを説くとともに、これからのビジネスは文理の協働が前提となり、文理別々で働いてもろくな事は起きないとし、また、理系女性の拡大は、人材増強策の切り札であるとしています。

 個人的には、理系の人材育成の要点として、
 ・空間的に狭い範囲に人材を集めること
 ・仕事を小刻みに数多く絶え間なく与えること、
 ・仕事の成果は質よりも早さを求めること、
 ・互いに切磋琢磨し、競争の状況が誰の目にも明らかに分かる分かるようにすること
とし、その典型例として、石ノ森章太郎や藤子不二雄、赤塚不二夫らを輩出したトキワ荘を例に挙げているが興味深かったです。

 このように、逐一分かりやすい例を挙げて解説しているためたいへん読みやすかったですが、著者はどちらかと言うと、理系人間の中でも「文系」的な方の人間ではないかとも思わせました。そのように考えていくと、だんだん理系と文系に分ける意味が無くなってくるようにも思えてくるのですが、ここはある種のタイポロジー(類型化)を前提とした"思考整理"であると割り切って、最後まで読んだ方がいいかもしれません。

 タイトルには"トリセツ"とありますが、〈マニュアル〉というよりは、文系人間が理系人間と向き合う際の考え方を示した〈啓発書〉といえるでしょう。もちろん、理系人間が、理系である自分の能力の特質を見つめ直し、その活かし方を考えるうえでのヒントが得られる本であるともいえるかもしれません。

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旧版の「1分間叱責」を「1分間修正」に修正。旧版よりしっくりくる。
新1分間マネジャー.jpg新1分間マネジャー――部下を成長させる3つの秘訣』['15年] 1分間マネジャー.jpg ケネス・ブランチャード/スペンサー・ジョンソン『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』['83年]

 世界中で累計2000万部以上売れたという1分間」シリーズの第1弾で、1982年に原著刊行の『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』('83年/ダイヤモンド社)の2015年改定版で、著者は旧版と同じくケン・ブランチャード(Kenneth H. Blanchard、心理学者)とスペンサー・ジョンソン(Spencer Johnson、精神医学者)の2人です(ブランチャード博士は、amazon.comにおいて世界中で25人しかいないベストセラー著者の殿堂入りを果たしている)。

 『1分間マネジャー』の特徴は、1つは、物語仕立てになっていて読み易いことで、但し、こうした寓話スタイルは、読んで合う人と合わない人がいるようにも思います。もう1つの特徴は、部下の管理方法の秘訣をシンプルに3つに纏めていることで、その3つの秘訣とは、「1分間目標設定」「1分間称賛」「1分間叱責」というものでした。個人的には、「1分間目標設定」はいいとして、「1分間称賛」「1分間叱責」と続くと、あまりに単純すぎて、逆にこんなのでいいのか、という思いがあって、初読以来、個人的には△評価になっていました。

 こうした古典的ベストセラーと言ってもいいような本が、中身を変えて改定されることは珍しいとのことですが(34年ぶり!)、今回も、物語仕立ての形式も同じであるし、中身もそれほど大きくは変わっていません。但し、物語全体を今の時代環境に合うように直したことで、以前の版は1982年に書かれたものであるから、インターネットなど無い時代のことでであったのに対し、今回の版では、インターネットで世界各地のメンバーとコミュニケーションをとる様子が描かれたりしています。

 次に、ここが一番決定的な改定点ですが、3つの秘訣の内の最後の「1分間叱責」が「1分間修正」に変わっっています。何れの場合も、部下が間違った方向に行ったときにどのように正すかということですが、改定版では、上司が所謂上から目線ではなく、部下と同じ目線で、軌道修正について話し合うようになっています。この改定の理由についてブランチャード博士は、「1980年代に比べ、今の時代はトップダウン式のリーダーシップがそぐわなくなってきており、部下とのパートナーシップがより重要になってきている」と述べています。また、「1分間目標設定」も、上司が一方的に目標を決めるのではなく、部下と共に決めていくような形に改定されています。

 個人的には、以前の版よりかなり良くなったと思います。と言うより、前の版を手にした時に、すでにそうした時代の風潮を感じていて、それがどこか、旧版に対する違和感に繋がっていたのかもしれません。今回の方がしっくりきます。

 旧版同士の比較では、1985年原著刊行の『1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』(Leadership and the One Minute Manager)('85年/ダイヤモンド社)の方が良かった、と言うか、リーダーシップには唯一無二の完璧な手法はないが、事実上、指示型、委任型、コーチ型、援助型という4つのスタイルがあり、マネジメントの状況に応じていずれかのスタイルが取られるとする、かの有名な「状況対応型リーダーシップ」論が提唱されていて、これかあ、という印象を浮けた記憶があります。こちらの方は、本書より先に(2013年に)改定版『新1分間リーダーシップ―どんな部下にも通用する4つの方法』('15年/ダイヤモンド社)が出ています。

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多彩な11冊を、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディで解説。

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企業変革の名著を読む (日経文庫)

 実務経験豊富な5人の経営コンサルタントらが、リーダーシップについての不朽の名著と言われる11冊を選び、その内容を紹介するとともに、現代における意義を解説したもので、ウェブサイト「日経Bizアカデミー」で2011年10月から連載されている「日経キャリアアップ面連動企画」(経営書を読む)の内容を抜粋、加筆・修正し、再構成したものであり、先に刊行された『マネジメントの名著を読む』('15年1月/日経文庫)の姉妹編にあたります。

 取り上げられているのは、ジョン・コッタ―の『第2版 リーダーシップ論』に始まり、デール・カーネギーの『人を動かす』、スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』、ダニエル・ゴールマンの『EQ こころの知能指数』などの"有名どころ"から、エドガー・シャインの『組織文化とリーダーシップ』やトム・ピーターズらの『エクセレント・カンパニー』、更には、米国海軍の士官候補生向けに書かれた『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』(個人的には"初モノ"だった)、2000年に邦訳が出たビジネス寓話『チーズはどこへ消えた?』、MLB弱小チームの再生を描き、映画化もされた『マネー・ボール』まで多彩です。

 そのラインナップと内容から、「体系」よりも「実践」を重視している印象を受けました。実際、9人のコンサルタントや大学教授が12冊の"座右の書"を紹介した『マネジメントの名著を読む』と同じく、単なる内容紹介にとどまらず、本の内容に関連して、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディを1冊につき4つ設定し、ケーススタディを通して本の内容を解説するというスタイルになっています。

 従って、11冊の中には、「天は自ら助くる者を助く」という序文で知られるサミュエル・スマイルズの『自助論』といった古典も含まれていますが、現代的なケーススタディに当てはめて解説されているため、19世紀半ばに英国で著され、明治時代に日本でベストセラーとなった古典でありながらも、その言わんとするところを身近に感じることができます。

 また、古典ばかりではなく、1990年に刊行され全世界で2000万部が売れたという『7つの習慣』についても、会社の上司と部下の関係をケースに引きながら、「真の成功とは、優れた人格を持つこと」という『7つの習慣』の根底に流れる考え方を提示していくスタイルをとっており、このように、本書自体がリーダーシップの"ケースブック"として読める点が、その特長と言えるかと思います。

 一方で、前著『マネジメントの名著を読む』よりも更に執筆陣の思い入れが強く感じられ(古今数多くあるリーダーシップに関する本の中から僅か11冊をまさに"厳選"しているわけだから、思い入れが無い方がむしろおかしいが)、切り口にも執筆者の経験や考え方が少なからず反映されているように思われました。

 その意味では、この1冊でリーダーシップに関するヒントを手っ取り早く頭に入れるのもいいですが、関心を持たれたもので原著を読んでいないものがあれば、そちらに当たるのもいいのではないでしょうか。そこでまた、執筆者とは違った見方が生じることも大いにあり得るのではないかと思います。

 同じ名著と呼ばれるものでも、「リーダーシップ系」のものは「マネジメント系」のものに比べて、読む人によって相性が良かったりそうでなかったりする傾向がより著しいように思います。「リーダーシップ」に関する本を読むということは、書かれていることを鵜呑みにするのではなく、また、書かれていることの全てに納得する必要もなく、自分にフィットしたものを探す「旅」のようなものではないかと思います。

《読書MEMO》
●取り上げている本
1『第2版 リーダーシップ論』ジョン・コッター
2『人を動かす』デール・カーネギー
3『自助論』サミュエル・スマイルズ
4『7つの習慣』スティーブン・コヴィー
5『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン
6『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』アメリカ海軍協会
7『組織文化とリーダーシップ』エドガー・シャイン
8『エクセレント・カンパニー』トム・ピーターズ他
9『なぜ、わかっていても実行できないのか』ジェフリー・フェファー他
10『チーズはどこへ消えた?』スペンサー・ジョンソン
11『マネー・ボール』マイケル・ルイス

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CSRとは「企業の社会対応力」。「ソーシャル・ブランディング」の概念・方法論と豊富な成功事例。

未来に選ばれる会社.jpg未来に選ばれる会社:CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(2015/09 学芸出版社)

 企業のCSR(企業の社会的責任)活動に特化したビジネス情報誌「オルタナ」の編集長らによる本です。オルタナ編集部はCSRに特化した取材を8年間続けており、本書はその集大成であるとのことです。

 本書のタイトルである「未来に選ばれる会社」の「未来」とは、「未来の顧客」であり、「未来の社会」であり、「未来の従業員たち」であるとのことです。企業が永続的になるためにはただ営利を追求すれば良いのではなく、「顧客だけでなく社会全体から支持される」ことにより、「未来の顧客」に選ばれるための「強み」を作り上げるための作業が必要であるとし、本書ではそれを「ソーシャル・ブランディング」と呼び、CSRを起点としたその方法論を、国内外20社以上の成功例から実践的に解説しています。

 第1章では、今改めて企業に必要なCSRとは何かを問うています。CSRを訳すと「企業の社会的責任」となりますが、その言葉を、「偉そう」「押し付けがましい」「偽善的」ととらえる経営者は少なくなく、CSRを社会的責任ととらえてしまうと、「納税と雇用で十分」「発信するのはおこがましい」と考えてしまいがちであるとのことです。そもそも責任(responsibility)は、「response」(反応する)と「ability」(能力)から成る言葉で、その原義は「対応力」であるため、本書では、CSRを「企業の社会対応力」と定めています。そして、CSRによって企業価値を高める過程は、①ES(Employee Satisfaction=従業員満足度)、②CS(Customer Satisfaction=顧客満足度)、③SS(Social Satisfaction=社会満足度)、④CSRで株価を上げる、の4つがあるとしています。

 また、最近よく使われる「CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)」という言葉を、「攻めのCSR」という表現にしてもよいとし、「CSR/CSV」の定義として、次の3つを挙げています。
 ①「社会的課題の解決」と「経営的成果」の両方を目的としていること。
 ②企業内で完結する活動ではなく、自治体やNPOなど外部他者との「協働」であること。
 ③未来の顧客やファンを増やし、企業価値やブランド価値を高めるものであること。

 第2章では、ソーシャル・ブランディングの構造を解説しています。ここでは、ソーシャル・ブランディングの活動領域には、「E」(エコロジカル=環境)、「S」(ソーシャル=社会)、「G」(ガバナンス=組織統治)の3つがあるとし、企業のコア・バリューのうち、どの企業でも持っている社会的な部分の比重を高めること、「E」「S」「G」のそれぞれで、企業が「社会的課題の解決」につながる活動を選び、展開していくことが重要であるとし、「製品イノベーション型」(企業が社会的課題を解決するため、これまで市場になかった製品を開発・市場投入する)など、ソーシャル・ブランディングの7つの類型を示しています。

 更に、ソーシャル・ブランディングの8つのステップと27のポイントを示し、ソーシャル・ミッション(企業の社会的使命)をミッション・ステートメントとして明文化することを推奨し、社会的課題を自社製品で解決する「ソーシャル・プロダクツ」という視点とその事例や、ソーシャル・ブランディングの広報面での不可欠な要素(①ネーミング、②言える化、③デザイン化、④差異化、⑤見える化)を紹介しています。この事例編が本書の後半を占めます。

 第3章から第5章にかけては、ソーシャル・ブランディングの実践例が紹介されており、第3章は大企業編(「真のグローバル企業」には攻めのCSRが不可欠―味の素、トップの決断で始まったCSV―キリンほか)、第4章は中堅企業編(子どもの成長を支援し、会社を次世代へつなぐ―ギンザのサヱグサ、CSR/CSVで新マーケットを開拓―山陽製紙ほか)、第5章は海外企業編(競争への危機感がCSRの原動力―英国総論、CSV元祖の最大目標は資源の調達―ネスレほか)となっています。

 当然のことながら、それぞれの企業のコア・バリューは異なり、それを「社会的課題の解決」に活かす際の活動領域(ESG)もソーシャル・ブランディングの類型もこれまた様々であることから、ソーシャル・ブランディングの実践内容は実に多彩であるという印象を受けました。例えば、中堅企業編で、白井グループの「社員をサーフィンと田植えに行かせよう」などといったものもあり、興味深く読めましたが、最終的には、自社のソーシャル・ブランディングの在り方は、自社で頭を絞って考えることになるのではないでしょうか。

 CSRを「企業の社会対応力」ととらえている点は注目すべきであり、こうしたことは人事も無関係ではないはずです。「ソーシャル・ブランディング」という概念にはまだ馴染みのない人事パーソンもいるかと思われますが、本書は「概念・方法論」と「成功事例」の両面からアプローチされているため読み易く、また、大いに参考になるものと思われます。

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「オキシトシン」は"?"だったが、組織信頼向上の「8要因」は多くの事例を通して解説されていた。

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TRUST FACTOR トラスト・ファクター~最強の組織をつくる新しいマネジメント』(2017/11 キノブックス)

 本書の著者は神経経済学者であり、神経経済学とは、人間が決断をするときの脳活動を測定することで、なぜそのような行動をとるのかを説明する学問であるとのことです。著者によれば、人間は信頼されると脳内で神経伝達物資であるオキシトシン(信頼ホルモン)を合成し、受けた信頼に応えようとするとのことで、そうしたオキシトシンの測定から、信頼や共感が組織において人間の関係性を良好にし、コミュニケーションを円滑にし、イノベーションが実現しやすくし、各種のパフォーマンスも向上させ、組織を成長させるということが分かってきたとしています。

 一方、オキシトシン(の分泌や働き)を抑制する因子としてテストステロンなどがあり、人間の脳内でテストステロンとオキシトシンのせめぎ合いがあって、テストロンが多いと人間は利己的になり、権利意識も強まるとのことです。本書の目的は、テストステロンから得られる高いモチベーションや意欲と、オキシトシンを分泌することによる協調とチームワークのバランスを見つけることであるとのことであり、つまり、人間や組織を動かす生理学的な要素に着目してその働きと功罪、バランスを考える機会を提供しているのが本書であるということです。

 第1章では、著者は、オキシトシンによって脳の神経回路が活性化される仕組みを解明し、人々の信頼を支え維持する組織文化の構築に向けた一連の実用的な方法を突き止めたとし、信頼を生むマネジメントポリシーを構成する8つの因子として、「オベーション(Ovation)」「期待(Expectation)」「委任(Yield)」「委譲(Transfer)」「オープン化(Openness)」「思いやり(Caring)」「投資(Invest)」「自然体(Natural)」を挙げ、それらの頭文字をとって、まさに「OXYTOCIN」と名付けています。そして、第2章から第9章にかけて、この信頼を上げるための要因をそれぞれ解説しています。

 それによれば、「オベーション」とは、組織の成功に貢献した人を称賛することであり、「期待」とは、同僚がグループの課題に直面した時に生じ、「委任」とは、従業員が仕事の進め方を自ら選択できるようにすることであり、「委譲」とは、従業員が自らの仕事をデザインし、自己管理することを可能にするものであるとしています。さらに、「オープン化」とは、従業員とともに情報を広く共有することであり、「思いやり」は、同僚との人間関係を意図的に構築することであり、組織は従業員に一人の人間として成長してもらうために「投資」し、誠実で謙虚なリーダーがいる組織は、従業員が「自然体」でいられるとしています。そして、これらの実現が組織の信頼に寄与した例を数多く紹介しています。

 第10章では、「喜び」をもって仕事をするために重要な、信頼以外のもう1つの要素として「目標」を挙げ、「喜び」は信頼と目標意識から生まれるとしています。第11章では、信頼が業績に与える影響について述べ、信頼は働く人のモチベーションと幸福感を高め、結果的に生産性の向上、離職率の低下、慢性ストレスの減少につながるとして、改めて、信頼度の高い文化を構築することの意義を説いて、本書を締め括っています。

 冒頭で、オキシトシン効果というものが強調されていますが、その話から組織の信頼を向上させる「8つの要因」の話が出て来るまでの間が、「神経経済学で実証されている」としか説明がされていないので、単なるゴロ合わせ(?)だったのか、とやや拍子抜けしました。本書で言われている称賛や期待、委任・委譲など8つのトランス・ファクターについても、著者自身がそう述べているように、特に目新しいものではないです

 しかしながら、8つの要因がそれぞれ組織内で具体的に実現されるというのはどのようなことなのか、それによってどのような効果が生まれたのか、企業等の取り組み事例を数多く紹介しているため、まえがきにある、「『曖昧でとらえどころのないもの』を正しく理解するための技術的な入門書」であるという本書の狙いには概ね即しているように思いました。新旧さまざまな経営理論も併せて紹介されており、神経経済学(オキシトシン)は個人的には"?"でしたが、啓発書としては、まずまずではなかったかと思います。

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「学習する組織」の手法体系に絞った入門書だが、手法部分も含め啓発書としても読める。

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「学習する組織」入門――自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践』(2017/06 英治出版)

 「学習する組織」とは、「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織」のことであり、ピーター・センゲやクリス・アージリスらが生み出し、普及させた概念であり、理論・手法体系です。学習する組織を作るための原則、プロセス、ツールの数々は、自己との向き合い方、大局をつかむ思考法、広く柔軟な視座、対話し共感する力、理念や価値観の共有など5つのディシプリン(規律・訓練)として体系化されていますが、本書では、組織開発メソッドとしての「学習する組織」の要諦を、ストーリーと演習を交えて解説しています。

 第1章では、学習する組織がどのようなものであるかを紹介し、第2章では、学習する組織の全体的な構造と、チーム(組織)の中核的な学習する能力を形成する、志を育成する力、複雑性を理解する力、共創的に対話する力という3つの力を紹介、さらに、志を育成する力は「自己マスタリー」「共有ビジョン」というディシプリンによって、複雑性を理解する力は「システム思考」というディシプリンによって、共創的に対話する力は「メンタル・モデル」「チーム学習」というディシプリンによって、それぞれ構成されるとしています。

 そして第3章から第7章の各章で「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」の5つのディシプリンについてそれぞれ詳しく解説し、第8章では、学習する組織の始め方の例と、その過程で突き当たる典型的な課題について紹介、最終章の第9章では、学習する組織を目指した先にある未来の組織の在り方と、それを導くリーダーシップの在り方について述べています。

 ピーター・センゲの著書『学習する組織』(2011年/英治出版)は約600ぺージの大著であり、その中で学習する組織や5つのディシプリンについて奥深く解説されていますが、本書はピーター・センゲらがまとめた手法体系に絞った入門書であり、読者が今ある組織に備わっている能力や意識について探究し、それらをその組織の文脈に合わせてどう活用し、組織を進化させていくことができるかを、具体的・実践的に解説しています。

 そのため、5つのディシプリンについて解説した第3章から第7章の各章は、事例(ストーリーと振り返りの問い)、理論(各ディシプリンの原則とプロセスの紹介)、演習(ツールによる演習、その振り返りと解説)という基本構成になっており、概念や理論の解説と実践の方法が一体となっているのが本書の特長です。入門書でありながら、実践テキストとしての形態も兼ね備えているため、400ページ近いページ数になっていて、ベースとなっているピーター・センゲの『学習する組織』とはまた異なった専門解説をも含むものとなっていますが、個人的には、そうした実践方法の解説を含め、全体を通して啓発書として読めるように思いました(タイトルが「学習する組織」となっており、『学習する組織』となっていないことからも、ピーター・センゲの『学習する組織』のダイレクトな入門書ではないことが窺える)。

 著者によれば、学習する組織は、組織のメンバーらが自ら学び、創造・再創造を繰り返して進化し続ける組織であり、完成形というものは想定されていないとのことです。ディシプリンは「規律」「訓練」などと訳されますが、合気道や茶道といった言葉で使われる「道」に近いと考えられるとしています。その「道」の部分をより深く感じとり、充分に理解するためには、ピーター・センゲの『学習する組織』を読んでみるのもよいかと思います

 因みに、ピーター・センゲの『学習する組織』においては、5つのディシプリンは「システム思考」「自己マスタリー」「メンタル・モデル」「共有ビジョン」「チーム学習」の順で解説されていて、「システム思考」に最も多くのページが割かれていますが、これは、5つのディシプリンの中で「システム思考」が最も基盤となる概念であるからではないでしょうか。個人的には、センゲの『学習する組織』の並び順の方がしっくりきたし、ウェイトの掛け方も、「システム思考」が一番理解が難しい概念であるという点で『学習する組織』の方が良かったですが、実践を絡めて解説すると、本書の「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」の順になったということでしょう学習する組織 3つの「柱」.pngか(ほぼ同時期に刊行の同著者の『マンガでやさしくわかる学習する組織』(2017年/日本能率協会マネジメントセンター)ででは、「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「自己マスタリー」「共有ビジョン」の順で解説されていて、これはこれで、複雑性を理解する力、共創的に対話する力、志を育成する力、の順であることが窺える)。

学習する組織 3つの「柱」from Change Agent

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○経営思想家トップ50 ランクイン(テレサ・アマビール)

「インナーワーク」(人の認識、感情、モチベーション)を向上させる「進捗の法則」を示す。

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マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』 テレサ・アマビール/スティーブン・クレイマー

 本書の著者らは、業務を通じて人の内面で起こっている、認識、感情、モチベーションの3つの相互作用を「インナーワークライフ」と呼び、3業界、7業種、26チームの1万2000の日誌調査から、このインナーワークライフを向上させることが、チームやメンバーの創造性と生産性を高めるために最も効果的であることが判明したとしています。そして、この3つを充実させるには、「やりがいのある仕事が進捗するように支援する」ことが最重要であると説いています。

 第1章では、かつて称賛された企業が破滅に向かっていく様を見ながら、インナーワークライフの一端を紹介しています。第2章では、間違ったマネジメントがチームの認識、感情、モチベーションへ破壊的な影響を与える様子を紹介しています。

 第3章では、巨大なホテル会社の内部顧客に向けて仕事するソフトウェア・エンジニアのチームが、会社の買収劇に直面して大量解雇が始まり、会社を嫌悪するようになった事例から、インナーワークライフが各人のパフォーマンスのあらゆる側面に影響を与える様子を示しています。

 第4章では、彼らソフトウェア・エンジニアチームにとって大きな転換期となる出来事によって、彼らのインナーワークライフが劇的に好転していく様を通して、「進捗の法則」、つまり人の認識、感情、モチベーションを向上させるには、「やりがいのある仕事が進捗するように支援する」ことが最も重要であることを示しています。著者らは、「進捗の法則」は、インナーワークライフに影響する三大要素の第一のものであるとし、第二の要素を「触媒ファクター」、第三の要素を「栄養ファクター」と名付けています。

 第5章では、「進捗の法則」の仕組みを解き明かし、なぜ「小さな進捗」が力を持ち、なぜ障害がより大きな(ネガティブな)影響力を持つのか、進捗の法則を活用するにあたって最も重要なツールを示し、進捗とインナーワークライフが互いに燃料を与え合うものであることを解明しています。

 第6章では、三大要素のうち二番目にインナーワークライフへポジティブな影響を与える「触媒ファクター」について説明し、触媒ファクターとして、①明確な目標を設定する、②自主性を与える、③リソースを提供する、④十分な時間を与える、⑤仕事をサポートする、⑥問題と成功から学ぶ、⑦自由闊達なアイデア交換の7つを掲げ、失敗に終わったプロジェクトと成功したプロジェクトでマネジャーのプロジェクトの支援の在り方がどう違ったかを解説しています。

 第7章では、インナーワークライフに影響を与える三番目の「栄養ファクター」について説明し、栄養ファクターとして、①尊重、②励まし、③感情的サポート、④友好関係の4つを掲げ、前章と同様に失敗例、成功例でこれらを解説しています。

 第8章では、部下たちが着実に進捗するのに必要な触媒ファクターと栄養ファクターを手にするためのツールやガイドラインを示し、例として、化学企業のリーダーで、本能的にこの体系に沿って行動し、厳しい状況にあったチームを創造的・生産的に、かつ幸せに前進させることができたケースを紹介しています。

 社員に日々の仕事の日誌をつけてもらい、その大量の日誌の分析から結論を導くという手法が珍しく、また、各章でそうした日誌が紹介されているので一定の説得力もあります。

 本書で言うところの「インナーワークライフ」というア・プリオリな切り口が絶対的なものかどうかはともかく、マネジャーとしてどうすれば認識、感情、モチベーションから成る個人のインナーワークライフを高めることができるかを考えることは重要であるに違いないように思えました。

 リーダーシップについて書かれた本と言うよりは、マネジメントについて書かれた本と言えるかと思いますが、常に、チーム(組織)ということを念頭に置いて書かれており、組織マネジメントについて書かれた本であるとも言えるかと思います。

 マネジャーが部下の認識、感情、モチベーションに寄り添ってインナーワークライフを向上させることが、チーム全体の成功を左右することに直結することを示しているという点で啓発される要素が多々あり、その点は良かったように思います。

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「モチベーション」の教科書、解説書、あるいは自省を促す啓発書として読める。

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最強のモチベーション術』(2016/07 日本実業出版社)

 著者によれば、「若手がなかなか定着しない」「昇進したがらない社員が増えた」「社員がダラダラ残業する」など、経営者が直面している問題のほとんどはモチベーションの問題であり、それだけモチベーションは、経営やマネジメントに深く関わっているにもかかわらず、多くの経営者や管理職はそのことに気づいていないか、気づいていても過小評価しているとのことです。そのため、何かあると見栄えのよい制度をつくるだけで満足したり、精神論やあるべき論で片づけたりしてしたりするとのことです。

 また、いざモチベーション問題に取り組むとして、学校で習ったモチベーション理論やビジネス書にある手法をそのまま試しても、うまくいかなかったり、かえって逆効果をもたらしたりするケースも多いとのことです。そこで、「現実の会社や職場の中の人間が何を考え、どのように行動するか」というところからモチベーションを説明し、「"やる気"は何によって、どうして生まれるか」「モチベーションをいかに高めるか」など、「人を動かす」ためのさまざまな問題を解決するのが本書の狙いであるとのことです。

 第1章では、モチベーションの理論と現実の世界とを照らし合わせながら、本当の「やる気」は何によってどのように生まれるのかを、古今の心理学の研究成果などを紹介しながら説明しています。ここでは、マズローの「欲求階層説」について、承認欲求の充足は、自己実現より重要であるとしており、これは従来からの著者の持論でもあります。また、「期待理論」を紹介し、人間は期待によって動き方を変え、仕事そのものに没頭したり、様々な計算を働かせたりして行動する存在だとしています。「計算づくではない」働き方をしているような場合でも、称賛や将来に対する貸しの意識が潜んでいて、そこにモチベーションが内包されているとの指摘は、納得感がありました。

 第2章では、モチベーションの「量」より「質」が問われている今の時代に、質の高いモチベーションを引き出すにはどうすればよいかが述べられています。まず、「やる気の足枷せ」となっているものを取り除くという観点から、長時間労働、人間関係、過剰な管理、不公平な人事評価、理不尽な待遇の引き下げ、の5つの足枷せをそれぞれ外す方法を説き、次に、やる気を倍増させるツボとして、自律性を高める、認められる機会を増やす、意識を「外」に向けさせる、の3つを挙げ、さらに、チーム力を高めるコツや、自分自身のモチベーションを高めるにはどうすればよいかを説いています。

 第3章では、相手のタイプに応じたモチベーションの高め方について述べられており、タイプによって効果が真逆にもなるとし、女性、中高年、派遣といった属性に応じた動機づけのコツを説いています。第4章では、「職場のコミュニケーションが不足している」「若手が消極的だ」などといった、現場でしばしば問題になる具体的なケースについて、その対策が示されています。

 モチベーション研究の第一人者として、これまで多くの著書を世に送り続けてきた著者が、職場環境や人間関係が複雑化している現代社会におけるモチベーションというテーマに向き合い、教科書的な原理原則から意外な事実、相手の心理を深読みする実践的な手法までを、豊富な事例やエピソードを交えながら説いた本と言えます。

 無理矢理、断定的なもの言いをしていない点が好感を持てましたが、一方で、その分ややもやっとした印象が残る箇所もありました。帯に「人を動かす究極の教科書」とあり、一方で「モチベーション解説書の決定版」ともありますが、そうした読み方もできるし、「管理職」(人事パーソンを含む)が読めば、日頃そこまでモチベーションの問題に取り組んでいるだろうかという職場のモチベーション問題への自ら取り組み姿勢について自覚と自省(リフレクション)を促す啓発書としても読めるように思いました。

 第2章の、やる気を倍増させるツボとしての「認められる機会を増やす」のところが、まさに著者の「承認欲求」論に呼応する箇所であり、表象制度などにも触れられていて、一番'力'が入っていたでしょうか。ここのところで、上手なほめ方、叱り方についても述べていますが、「叱る」という言葉を封印して「改善点を指摘する」へ言葉を置き換えた方がよいとしていて、これは、ケン・ブランチャード 、スペンサー・ジョンソン(著『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』('83年/ダイヤモンド社)が改訂されて『新1分間マネジャー―部下を成長させる3つの秘訣』('15年/ダイヤモンド社)になった際に、〈1分間で目標設定する〉〈1分間で褒める〉〈1分間で叱る〉の3つが、〈1分間目標〉〈1分間称賛〉〈1分間修正〉と3つ目が「叱る」から「修正する」に変わったことに対応しているように思いました(偶然ではないだろうと思う)。

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ミドルマネジャーに必要な自己変革し続けるための3つの力を説く。事例にシズル感あり。

これからのマネジャーの教科書 .jpgこれからのマネジャーの教科書』(2016/06 東洋経済新報社)

 本書は、「常にイキイキと仕事に取組み、周囲からの期待を超える活躍をしているミドルマネジャーと、そうでないミドルマネジャーの違いはどこから生まれるのか?」という疑問への答えを探るために、期待を超える成果を上げている40名以上のマネジャーにインタビューを行い、その結果をまとめたものであるとのことです。

 第1章では、ミドルマネジメントの置かれた状況を概観しています。そのうえで、ビジネス環境が激変する現代において、「ミドルマネジャー自身が変わり続けなければならない」こと、「ミドルマネジャーとしてイキイキと働くこと自体」に価値を見出していくことが大切だということを強調しています。

 第2章では、会社からも周囲からも一目置かれ、期待を超える成果を上げているミドルマネジャーへのインタビュー結果から明らかになった、彼らが備えている、自己変革し続けるためのベースとなる3つの力について解説しています。その3つの力とは次の通りです。
 「マネジャーとしてのビジネススキル=組織として成果を出す力(スキル)」
 「強い想いやこだわりを持っている=仕事に対する想いの力(ウェイ)」
 「周囲との考えの違いを乗り越える力(ギャップ)」

 そして第3章では、3つの力をどのようにして身につければいいのか、自己変革と自分を変えていくための3つのステップを示しています。その3つのステップとは次の通りです。
 ステップ1:「自己認識」を深める
 ステップ2:自分にとって「都合のよい解釈」をし、次にやることを決める
 ステップ3:自分のとった行動や置かれた状況に基づき「持論形成」する

 第4章では、多忙な日常の中でどうすれば「期待を超えるミドルマネジャー」であり続けることができるのか(「維持」または「強化」ができるのか)、それが不可能な場合は、どうやって「期待を超えるミドルマネジャー」に再びなれるにか(「回復」できるのか)について考察しています。

 第5章では、取材した41人の中から7人の「期待を超えるミドルマネジャー」について、具体的にどのように3つの力を獲得し、その維持、回復、強化に取り組んできたのかについて記しています。

 体系的に纏まっていますが、テキストと言うより啓発書的な内容であり、但し、別段突飛なことを言っているわけでもなく、内容的にはオーソドックスなものと言えます。そうした中で、「スキル」「ウェイ」「ギャップ」の3つの力をつけるステップの1つとして、「自分にとって"都合のよい解釈"をする」といったことが書かれているのが、個人的には関心を引きましたが、これとて、どんな場面でも、過去に行った行為を後ろ向きにはとらえず「これに意味がある」「これでいいのだ」と自己肯定感をもたせることがこれからのマネジャーに必要であるということを指しているという意味では、オーソドックスと言えるのかもしれません。

 むしろ、本書の後半分を占める、第5章の「7人の事例に学ぶミドルマネジャーの自己変革力」が、なかなかシズル感を出していて良かったです。現在さまざまな業種の企業で活躍中のミドルマネジャーら自身が、社会人になってから今日までの自らのキャリアを10年弱前後の刻みで振り返り、その各段階で「スキル」「ウェイ」「ギャップ」がどのように醸成され、「得られた持論」はいかなるものであり、3つの力の維持・回復・強化に今どのように努めているかが書かれています。前半部分の分析結果から得られた「スキル・ウェイ・ギャップ」などいった概念を逆検証している向きもありますが、入社時から振り返ることにより、マネジャーになる前の段階から「スキル・ウェイ・ギャップ」の3つの能力が大切なことがよく分かり、本書全体の納得感を高めることに繋がっています。

 実在のマネジャーの事例を基にした研究は、海外では、ジョン・P・コッターの『ザ・ゼネラル・マネジャー』(ダイヤモンド社)や、本書でも取り上げられているヘンリー・ミンツバーグの『マネジャーの実像』(日経BP社)など、それほど珍しくありませんが、日本では、金井壽宏 著『仕事で「一皮むける」』 ('02年/光文社新書)などがあるもののそう数は多くはないように思われます。

 ミドルマネジャーには自己変革が求められることを説き、自己変革し続けるための力をいかに養うかということを説いているという意味では自己啓発的な内容ですが、ミドルマネジャーがどのように育ち、育れてられていくかを考えるうえで、人事パーソンとしての立場から一読してみるのも良いかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 ミドルマネジャーとは何か
・マネジメントという仕事
・ミドルマネジャーとは誰を指すのか
・自己変革力を求められるミドルマネジャー
第2章 期待を超えるミドルマネジャーを生むメカニズムと3つの力
・期待を超えるミドルマネジャーとは何か
・スキル(組織で成果を出す力)
・ウェイ(仕事に対する想いの力)
・ギャップ(周囲との考えの違いを乗り越える力)
第3章 期待を超えるミドルマネジャーの自己変革力
・期待を超えるミドルマネジャーになる
・期待を超えるミドルマネジャーはどのように自己変革するのか
・自己解釈レンズ ワークシート
第4章 期待を超えるミドルマネジャーであり続けるために
・期待を超えるミドルマネジャーにも紆余曲折がある
・紆余曲折をいかに潜り抜けるか―3つのパターン
・維持、回復、強化のための具体的な行動・思考
第5章 7人の事例に学ぶ ミドルマネジャーの自己変革力
事例1:「やりきる」ことで次のチャンスが巡ってくる――キリンビールマーケティング 早坂めぐみ
事例2:繰り返し取り組んで自らの軸を太くしていく――国内大手機械部品メーカー 牧 浩一(仮名) 
事例3:「読者に喜んでもらいたい」という想いを形にする――女性誌編集長 鈴木裕子(仮名) 
事例4:ロジカルスキルとコミュニケーションスキルを強みに、自分の提供価値を最大化――スリーエム ジャパン 井手伸一郎 
事例5:「これだけはあいつに聞け」と言われる強みをつくる――外資系医療関連会社 山本健一(仮名)
事例6:「人のためになることをしたい」という想いを軸として生きる――日本財団 青柳光昌 
事例7:想い(ウェイ)の強さで社内外を巻き込んで大企業を活性化―パナソニック 有志の会 OnePanasonic発起人・代表 濱松 誠 
おわりに

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テキスト然としておらず、読みやすい。基本は網羅されていて、入門書としてはお薦め。

みんなの経営学  文庫.JPGみんなの経営学 使える実戦教養講座 文庫.jpg   みんなの経営学―使える実戦教養講座.jpg 単行本['13年]
みんなの経営学 使える実戦教養講座 (日経ビジネス人文庫)』['16年]

 本書の著者は社会人向け大学院で教鞭をとる経営学者であり、「みんなの」というタイトルには、すべての人が身につけるべき教養としての経営学という意味が込められているとのことです。

 第Ⅰ章では、経営学そのものに関する基礎的知識から考察し、経営学の最も基本的な考え方を、権限受容説という考え方をもとに解説しています。著者は、経営学は儲けるための学問ではなく、よりよく生きるための学問であるとしています。

 第Ⅱ章では、企業とは何かということについて考察し、米国や日本の企業の生成や発展の歴史を紐解きながら、その本質に対する基礎的な知識を解説しています。ここでは、ドラッカーによる企業の定義などを引きながら、企業を単に営利を追求するだけの装置としてではなく、人間の理想を実現するための装置として位置付けています。

 第Ⅲ章では、モチベーションについて考察しています。代表的なモチベーション理論を、歴史的な流れに沿って紹介するとともに、金銭的インセンティブの効果について、その"負の効果"も含めて考察し、内発的動機付けをもたらすマネジメントとはどのようなものかを考察しています。

 第Ⅳ章では、リーダーシップを取り上げています。リーダーシップ論の初期から今日に至る流れと追うとともに、なぜ優れたリーダーは少ないのかを探り、サーバント・リーダーシップという視点を通して、企業におけるこれからのリーダーのあり方を考察しています。

 第Ⅴ章では、経営組織について、組織概念の解説からスタートし、なぜ組織が必要なのかという基本的テーマを追っています。著者は、組織論はこれまで経営学の中心的な位置を占めてきたが、今日では、官僚制を代表格に大規模組織を無用の長物とする見解もあり、組織論は混迷の時代にあるとしています。

 第Ⅵ章では、経営戦略の本質的な特徴に迫っています。ここでは、経営戦略策定のための基本的な理論枠組みとツールを紹介し、企業の戦略やそれが具体化された中期計画が机上の空論にならないために、よい経営戦略とはどのようなものかを考察しています。

 最終章である第Ⅶ章では、あらためて、経営戦略の活かし方についての基礎的な話をしています。例えば、日本発の世界的な経営学パラダイムである知識創造の経営組織論(ナレッジ・マネジメント論)などを紹介し、今日の経営を取り巻く環境の変化から、経営学の進んでいる方向についての著者の見解を述べています。

 経営学はそもそも人々の役に立っているのかという疑問からスタートし、著者自身がビジネスパーソンや経営者との関わりの中で、経営学と現実のギャップを感じたことなども素直に問題提起され、また真摯に考察されています。そのため、テキスト然としておらず、全体を通して読みやすいものとなっています。

 一方で、第Ⅲ章から第Ⅵ章で、モチベーション、リーダーシップ、経営組織、経営戦略という経営管理(マネジメント)の根幹を成すテーマを扱っており、その中で、経営学の代表的な概念や学説の系譜は、ごく簡潔ながらも網羅的に押さえられています。例えば、第Ⅲ章のモチベーションのところで解説されているマズローの欲求段階説やハーズバーグの二要因理論などは、人事パーソンの必須常識と言えるでしょう。

 必ずしも全てのビジネスパーソンが、大学等で一般教養としての経営学を学んだわけでもなく、それは人事パーソンに限っても言えることでしょう。こうした教養を身につけるには、基本を先に押さえてしまった方が効率的であると思います。本書の場合、ビジネスの現場で応用するにはもう少し掘り下げる必要があると思いますが、入門書、おさらいの書としてはお薦めできるものです。

【2016年文庫化[(日経ビジネス人文庫]】

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