3.退職金制度

● 退職金制度改革の方向性
従来、多くの企業では、退職金の算定に「退職時基本給×勤続年数×退職事由係数」という算定式を用いていてきました。しかしこの公式は、勤続年数で支給額が累増するものであり、知らぬ間に高額化してきた退職金が、いま企業の経営・財務に大きな影響を及ぼすようになっています。そこで今、企業で、退職金制度の見直しが行われつつありますが、その方向性は、図に示すように ①勤続中立化 ⇒ ②短期決済化 ⇒ ③現金給付化 となっています。


① 勤続中立化
上記のような基本給連動型の算定式の退職金の給付は、年齢に沿って「S字カーブ」になり、40代ぐらいから急に立ち上がります。この年代の1年当たりの積み上げ額が、入社時に比べて5倍ぐらいになっているためです。まさに「年功カーブ」とでも言うべきこのSカーブを直線化する、つまり1年当たりの積み上げ額の格差を縮小するというのが、「勤続中立化」の動きです。

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② 短期決済化
基本給連動型の算定式では、退職時にならなければ退職金の受給額はわかりません。そこで、勤続1年ごとに、その年分の金額を確定させよう(さらにそこに貢献度や評価を反映させよう)という動きが、「短期決済化」です。つまり、「その都度確定」という考え方で、これから述べる「ポイント制退職金制度」もここに位置づけられます。

③ 現金給付化
「その都度確定」を更に発展させて、「その都度確定、その都度払い」にしよう、というのが「現金給付化」の流れであり、後で述べる「退職金前払い制度」や確定拠出年金制度(日本版401k)がこれに該当します。



● 基本給絶縁の2方式
「退職時基本給×勤続年数×退職事由係数」という従来の退職金算定式の見直しの方向性として、もう1つは、基本給から絶縁する(基本給を計算の基礎として使わない)という考え方があります。「ポイント制退職金制度」はこの考え方に沿うものですが、その他に、算定基礎額を別に設ける「定額方式」も基本給絶縁の1タイプです。

① 定額方式
算定基礎額を基本給とは別建てにするもので、通常は次のような算定式になります。
 算定基礎額×勤続年数(または勤続指数)×退職事由別係数
 この方式には、基本給を第1基本給と第2基本給に分けて、第1基本給のみを算定基礎とすることで"ベア(昇給)の跳ね返り"を抑える、といった、従来制度の一部修正型のやり方もあり、高度経済成長期、昭和50年代前半に多くの企業で採用されました。
しかし、本来的な"基本給絶縁" "定額"の考えに沿うならば、基礎額を、(退職時の資格や等級など)何らかの基準に沿って別テーブルで設定するやり方が「定額方式」ということになります。ただし、こちらの方はあまり普及していません。

② ポイント制退職金制度(併存型・併合型)
同じく"基本給絶縁"の考え方に沿う、ポイント制退職金制度は、退職金の算定を1年毎のポイント算定に移行したもので、ポイント単価を変えることで給付水準を調整することができるのと、役割ポイントなどの設定により貢献度反映機能を持たせることができるのが、大きな特長です。
役割等級制度におけるポイント制退職金制度には、「勤続ポイント」(勤続1年毎のポイント)と「役割ポイント」(勤続1年毎にどの役割等級に該当していたかで得られるポイント)の「併存型」と、「役割ポイント」に「勤続ポイント」を併合し、「役割ポイント」一本にした「併合型」の2タイプがあります。それぞれ、通常は次のような算定式になります。

A.「併存型」...(勤続ポイント累計+役割ポイント累計)×ポイント単価×退職事由別係数
この方式での「勤続ポイント」は勤続年数に正比例させる必要はなく、したがって勤続が一定年数を超えると1年毎に積み上げるポイント数を減じることにより(あるいはポイントの積み上げを停止することにより)、長期勤続による給付の増大を抑制することが可能になります。

B.「併合型」...役割ポイント累計×ポイント単価×退職事由別係数
この方式は、「役割ポイント」が、その年にどの役割等級に属していたかによって積み上げるポイント数こそ異なるものの、"1年ごとに何ポイントか積みあがる"というのは事実であり、そうであれば「勤続ポイント」は要らないのではないか、という考えによるものです。
当然、一般的には「併合型」の方が貢献度反映の度合いを強めることができますか、それだけに新制度の退職金カーブと従来の退職金カーブで大きな差が出る可能性があります。
● 併存型ポイント制(勤続ポイント+役割ポイント)のポイント設定例と退職金計算例

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この例では、1年あたりの「勤続ポイント」は、勤続5年超で大きく引き上げ、20年超で最大になりますが、25年を超えると小さくなり、35年を超えると新たには付与していません。
「役割ポイント」は、"平社員"からチーフ(S2)または主任(S1)クラスに昇進したときに1年当たりに付与するポイントを引き上げ、さらに管理職(M)になったときに大きくしています。
どこに付与ポイントのアクセントを置くかはそれぞれの企業の考え方によります。(自己都合係数は、最近の制度改定の傾向では、90%~100%到達に要する年数が早まっています。)

勤続25年の上級管理職(M1)社員が自己都合で退職した場合、ポイント単価1万円として退職金がいくらになるか計算例を示します。

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●ポイント制退職金制度の特長
① 基本給からの絶縁
"ベアハネ"が無いため、賃金昇給額に関係なく独自の水準管理が可能になります。給付抑制効果だけでなく、退職時基本給を算定基礎とした場合、定年時に最終賃金が下がった人は支給額が減ってしまう、といった制度的問題もクリアされます。
② 年功的比重の縮小し、貢献度を反映
「長期勤続に対する功労報奨」的性格を弱めるとともに、会社への貢献度を支給額に反映させることが可能になります。このことにより、中途入社者や早期退職者が極端に不利になることを回避できます。
③ 「その都度確定」
給付額(給付ポイント)が1年毎に確定するため、今時点での個々の支給水準の把握が容易であるとともに、「退職金前払い制度」や確定拠出年金制度(日本版401k)など、次段階の制度に移行し易くなります。

●ポイント制退職金制度(併合型)の設計の流れ
① 新制度における退職給付水準を決める
全体として給付水準を上げたいのか、抑制したいのか、方向性を決めます。
② 既存モデルカーブを作る
実在者モデルから、勤続年数ごとの支給水準モデルを作成します。通常はS字カーブを描くことになります(下図左)。さらに、単年度ごとの増加額(積上げ額)を算出します(下図右)。
 
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③ 各等級別の新モデルラインを作る
ア.どの等級までいった社員の最終支給額をどの程度にするか、仮設定します。
イ.各役割等級別の昇進モデル(滞留年数モデル)を作ります。
ウ.到達等級別に給付額の新モデルラインを作ります。
④ ポイント単価および各等級別の付与ポイントを設定する
③のカーブに沿う積上げ額になるように、ポイント単価と等級別付与ポイントを仮設定します。
⑤ 算定シミュレーションし、現行制度との調整を検討する


●ポイント制退職金制度の特長
 「ポイント制」の手法をベースに、毎年度ごとの評価をポイントに反映させることで、より貢献度の反映度合いを強める退職金制度とする企業も出てきました。ここに2つ事例紹介します。

① 東芝(2000年導入)
東芝では、退職金の算定式を次の通りにしました。
退職金=(勤続ポイント累計+仕事給ポイント累計)×単価×自己都合係数
 仕事給ポイントは、同じ資格段階であっても人事考課の結果により格差が生じるようになっています。勤続ポイントは、勤続30年を超えると、1年単位の積上げが3分の1になります。

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② 川崎重工業(2002年導入)
川崎重工業では、退職金のポイント制への移行に際して、職能資格別の加算点に、さらに賞与の業績評価による加算点を加えることにしました。若干ポイントが小さい気もしますが、加算点方式で制度にポジティブな意味合いを持たせるよう工夫するとともに、幹部社員の業績加算相当額は賞与時に支給するなどして、退職時支給額の高騰抑制、給付の分散化が図られています。

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この他に、役割等級別の基本ポイントに賞与評価に応じた加算ポイント(年2回)を付与することとし、勤続ポイントを設けない(併合型)事例もあります。



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