2-3 年俸制

● 年俸制とは賃金の"決定形態"の1つに過ぎない
年俸制と言うとかつてはプロ野球の選手の年俸しか思い浮かばなかったものですが、日本企業においても1995年ごろから電機・自動車・鉄鋼業界などがコンスタントに導入を始め、現在では大企業の管理職を中心広く普及しています。
年俸制というのは、賃金の額を年単位で決める制度で、賃金の"決定形態"の1種ということになります(賃金体系や支払形態を指すのではありません)。
"決定形態"の1つに過ぎないものが"成果主義賃金の究極のスタイル"であるかのように見られるのは、従来の定昇制度による賃金の下方硬直性を撤廃し、働く側の社員の「給料(年収)は毎年上がるものだ」という思い込みを取り除くのに、「年俸制」という言葉が有効なキーワードだったからだと考えます。経営側から見て、自社の処遇制度がパラダイム・シフト(従来支配的だった考え方の転換)をしたことを社員に伝えるのに効果的な用語であったとも言えると思います。

日本の企業で今までに導入されてきた年俸制の特徴としては、次の3点があると思います。
① いずれも「成果主義」を明確に志向(標榜)している
② なのに、年俸の増減幅などは緩やかな運用にとどまるケースが多い(今までは)
③ 「月例給×12+業績賞与」という「足し上げ方式」が主流だった(所謂「日本型年俸制」)


30-01.gif※ ③の「足し上げ方式」とは、月例給と業績賞与を別々に定め、足し上げたものを年俸とするもので、移行時に月給の減額を避けることができるので導入しやすいというメリットがありますが、従来の賃金制度との違いがわかりにくいという欠点があります。一方、もう1つのタイプ「係数配分方式」は、「はじめに年俸ありき」で、それを係数で月額分・賞与分に配分するものです。年俸ダウンはそのまま月給ダウンにつながるので、導入のインパクトは大きいと言えます。







● 年俸制導入のメリットとデメリット
年俸制を導入するメリットは、①成果主義の徹底や年功的賃金の是正が可能になる、②社員の意識改革や組織風土の改善につながる、③目標管理制度と連動することで社員の業績達成志向が強まる、④フィードバック面接の実施によりコミュニケーション機会が増える、⑤社員個々の年収管理や総額人件費予算の把握が容易になる、などです。
デメリットが出るとすれば、それはちょうどメリットを裏返したかたちであらわれます。年俸制は運用次第では、①単なる「結果主義」(結果偏重)に陥る、②チーム連帯感が喪失する、③目標達成基準や評価基準が明確にできない、④フィードバック面談に時間がかかるためフィードバックがおざなりになる、⑤人件費が硬直化する、などの危険性を孕んでいるのも事実です。


● 年俸制導入のための条件
年俸制導入のための条件として、次のような関連制度・システムの整備が必要となります。
① 目標管理制度、人事評価制度、年俸額査定のルールの確立
「目標管理制度」は年俸制導入の必須条件と言ってよいかと思います。経営計画から部門目標、個人目標へとブレークダウンされた具体的な業績・成果目標の設定が、運用の要になります。「人事評価制度」は、目標管理制度における業績・成果目標に、プロセス評価や行動評価をどこまで加味するかがポイントになりますが、成果主義の考え方から外れないことが原則です。年俸額の決定ルールは、納得性は当然必要ですが、公開し透明性のあるものにすべきです。
良くない例は、年俸がダウンする理由が評価から明確に示せない⇒年俸ダウンができない⇒大幅なアップもできない⇒「年俸制」が動機付けとして機能しない、といったパターンです。
② 評価フィードバック面談、その他補完制度の整備
評価のフィードバック面談も必須条件です。加えて、自己申告制度やその他のキャリア開発を支援する制度についても検討し、個々の能力や志向と仕事のミスマッチを最小限にとどめる機会均等の人材配置が行われるよう配慮することが必要だと思います。

●    従来の賃金制度との関係上または法規対応上の課題と解決策
年俸制に移行する際に従来の賃金制度との関係で、あるいは法規との対応関係でいくつかのボトルネック(障壁)が生じることがありますが、その解決策と併せていくつか挙げてみます。
① 諸手当の問題
諸手当は、単身赴任手当や通勤手当など支給することに一定の合理性のあるもの、または廃止することが極度のディスインセンティブにつながるものなどを除いては、成果主義の考えに沿うならばできるだけ年俸に組み入れ、手当項目としては廃止することを検討すべきです。
時間外手当については、裁量労働や事業場外労働のみなし時間制であれば、見合い分を年俸に含めて構いません。みなし時間制でなくとも予め割増賃金を含めて年俸を設定することは可能ですが、年俸や月額給与のうちの時間外手当相当額を明示することや、実労働時間に基づく割増賃金の額が見合い分を超過した場合にはその差額分を支払うなどの条件が付きます。
② 賞与の問題
賞与は、生計費の年間サイクルとの関係から、年俸の賞与配分として残した方が移行・運用はしやすいかと思います。その場合に、賞与額完全固定型の年俸制にすると、法規上は割増賃金の算定基礎になってしまいます。本来の賞与の性格を残し、賞与変動型(期首に定めるのは賞与の基準額で、実際の支給額が確定しているわけではないという考え方)の年俸制として導入した方が、法規対応上は運用しやすいと考えます。退職者の賞与請求権についても、判例は就業規則の支給日在籍要件の優越性を認めていますが(支給日に在籍していなければ支給義務はない)、賞与額完全固定型の年俸制の場合は、専門家の解釈が分かれています(その他に、年俸制における賞与は賞与引当金の対象にならないという税法上の課題もありますが、引当金制度自体が廃止傾向にあるので、年俸制移行時に引当をやめるという対応が考えられます)。

① 完全年俸制
まず期末に次期年俸額を決め、それを12等分して月々支給するという米国型の年俸制です。賞与が無くなるので、一般的な日本企業の社員には馴染まないかもしれません。

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② 賞与固定型
まず期末に次期年俸額を決め、それを一定係数で等分して月々支給し、残りを夏冬の賞与で支給するタイプです。賞与が固定されるので安定感はありますが、人件費の硬直化、期中のインセンティブ維持、法規上の賞与と認められなくなる可能性、などの問題があります。

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③ 賞与変動型A (賞与仮決定型)
まず期末に次期年俸額を決め、それを係数で等分して月々支給し、残りを夏冬の賞与で支給するという点では②と同じですが、賞与支給時に半期ごとの業績評価を実支給額に反映させるタイプです。人件費の固定化を防ぎ、業績をタイムリーに賞与に反映できるメリットがあります。

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④ 賞与変動型B (賞与別建て型)
まず期末に次期年俸額を決め、それを12等分して月々支給し、賞与は年俸の枠外で別途支給時に半期ごとの業績評価に基づき支給額を決めるタイプです。導入のしやすさはありますが、従来の月給制との違いがあまりはっきりせず、年俸制導入のインパクトは弱くなります。

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⑤ 半期年俸制A (半期決済型)
半期ごとに次半期の(半期)年俸額を決め、それを一定係数で等分して月々支給し、残りを賞与で支給するというタイプです。前節②と同じ賞与固定型ですが、半期ごとに年俸額を見直せるので、企業にとってはリスク回避、社員にとっては年俸改定の機会増大につながります。

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⑥ 半期年俸制B (期待度加味型)
①と仕組みは基本的に同じですが、次半期の(半期)年俸額を決める際に、期待度をより加味して決定するタイプです。期中の役割変動にタイムリーに対応できるメリットがあります。

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⑦ 半期年俸制C (期待度加味型)
半期ごとに、当半期の業績と次半期の期待度に基づき、むこう1年の年俸を決めるタイプです。ですから、かたちとしては1年間の年俸制ですが、考え方としては②の半期年俸制と同じです。

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● 賞与変動型(賞与仮決定型)年俸の月額・賞与配分と賞与の支給額決定のイメージ
賞与変動型(賞与仮決定型)年俸は、まず期末に次期年俸(基準年俸)を決定し、一定係数により月額分と賞与分に配分します。
ただし賞与分はあくまでも基準額(基準賞与)であり、実際の支給に際しては、賞与基準額のうち予め定めた変動部分に半期ごとの会社・部門・個人業績を反映させて金額決定します。(賞与固定部分も、法規上の"賞与"性維持のため、"原則としての"固定部分と断っておきます。)

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● 役割等級別の賞与の支給率(最大・標準・最小)のイメージ
賞与変動部分への業績反映については、予め基準を設けておきます。(下図は全等級一律に会社業績を反映させ、上位等級は部門業績を中心に、下位等級は個人業績を中心に反映させる例です。ただし個人業績反映の場合は、何らかの形で半期毎の評価が必要になります。)

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