◆行方不明になった社員の退職金を配偶者に支払うことは可能か

Qのロゴ.gifのサムネール画像ある社員が突然出勤しなくなり、家族も本人との連絡がとれず、行方不明となりました。社員の配偶者から退職届が出され、当社ではこれを受理して自己都合退職扱いとしましたが、この社員の退職金を配偶者に支払うことには何か問題があるのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像本人の死亡が確認された場合は、死亡退職金として、遺族である配偶者に支払うことになりますが、行方不明というだけでは、配偶者に退職金を支払うことはできません。なぜならば、退職金の支給が制度として定められている場合は、退職金も賃金の一種であり、これを本人以外の者に支払うことは、「直接払いの原則」に反することになるからです。

 

■解説
1 使者払いとすることは難しい

就業規則等であらかじめ支給要件が明確にされた退職金は、労働基準法上の賃金に該当します。したがって、労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁じた「直接払い」の原則の適用を受けるため、直接本人に支払わなければなりません。ただし、給与については、既往の労働分の給与が未払いであったとしても、その社員について従来から口座振込みが行われている場合は、行方不明になる前の給与支払いと同様に、既定の口座に振り込むことに特に問題はありません。
 退職金については、本人がすでに死亡したことが明らかな場合は、死亡退職金として遺族である配偶者に支払うことが可能ですが、単に行方不明であるというだけで配偶者に支払うことは、上記の「直接払い」の原則に反することとなります。
「直接払い」の原則に関しては、労働者の親権者その他の法定代理人や労働者の委任を受けた任意代理人に支払うことは違反になりますが、「使者」に支払うことは差し支えないとされています(昭63.3.14基発150)。ここでいう「使者」とは、自分で意思決定することがなく、いわれたままのことを実行する本人の手足のようなものであり、本人が病気などで賃金を受け取りに来られないときに、友人が代わって受け取り本人に届けるような場合がそれに該当します。
ただし、「使者」に該当するか否かの判断は困難な場合が多く、一般的には、社会通念上、労働者本人に支払うのと同一の効果を生じるような者であるか否かによって判断することになります。しかし、労働者本人が行方不明である場合、すでにその家族は労働者と同居していないため、その配偶者に退職金を支払ったとしても、労働者への支払いがあったと認めることは困難です。労働者本人と連絡がとれないならば、配偶者が「使者」であることの確認もできないため、配偶者に退職金を支払うことはできないことになります。


2 「供託」または「不在者の財産管理人」の制度を活用する

退職手当の請求権は5年間(通常の賃金の場合は2年間)行わない場合は、時効により消滅します(労働基準法115条)。したがって、行方不明となった労働者の退職金は5年間保管しておき、その労働者が取りに来ればいつでも支払うことができるようにしておけばよいのです。
ただし、時効までの5年間保管しておくのは負担になるということであれば、法務局(地方法務局またはその支局など)の供託所へ「供託」する方法もあります。これは、退職金を供託所に保管してもらい、後日、本人が受領できるようになった際に、供託された退職金を供託所から受領する方法で、この手続きにより債務不履行の責任を免れることができます。ただし、この場合でも、本人が現れるまでは受領できないため、配偶者に退職金を支払うということはできません(民法494条)。
そこで、行方不明者の配偶者が退職金を受け取れるようにするには、民法の「不在者の財産管理人」制度(民法25条ほか)を活用する方法が考えられます。この制度により、配偶者が家庭裁判所に申し立てをし、不在者(行方不明者)の財産管理人として選任された場合は、当該不在者財産管理人は、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の許可を得て遺産分割、不動産の売却等を行うことができます。したがって、不在者財産管理人に選任された配偶者から請求があった場合は、当該配偶者に対し退職金を支払うことになります。


□根拠法令等
・労基法24(賃金の支払)、115(時効)
・昭63. 3.14 基発150(賃金の直接払と民法上の委任)
 ・民法494(供託)、 25(不在者の財産の管理)、26(管理人の改任・管理人の権限)




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◆管理監督者の深夜割増賃金はどのように算定するのか

Qのロゴ.gifのサムネール画像管理職でも、深夜労働割増賃金の支払いが必要であると聞きましたが、その場合、深夜割増の2割5分相当のみを支払えば足りるのでしょうか、それとも、通常の労働時間1時間分の賃金に割増分2割5分相当を加えた額(125%)を支払う必要があるのでしょうか。
また、当社では、管理職に対して職責の重さに応じて役職手当を支給していますが、こうした通常の賃金に上積み支給する手当がある場合、そのことを理由に、割増賃金を支払わないとすることは可能でしょうか。



Aのロゴ.gifのサムネール画像いわゆる管理職の深夜労働については、時間単価の2割5分相当を支払えば足ります。
また、職責に対する手当の支払いを理由に、深夜割増賃金を支払わないとすることはできません。ただし、就業規則等によって「深夜労働の割増賃金に相当する手当」として支給することが明記されている場合は、この手当を法定の割増賃金に代わるものとして取り扱うことが可能です。

 

■解説
1 管理監督者の深夜割増は2割5分相当を払えば足りる

労働基準法第41条第2号では、監督もしくは管理の地位にある者(以下「管理監督者」という)について、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用は除外することとされています。ただし、ご指摘の通り、深夜労働割増賃金については、管理監督者に対しても支払いの義務を免れません。
これは、労基法が労働時間に関する規制と深夜労働に関する規制を区別しているためで、行政解釈においても、法第41条は、「労働時間、休憩及び休日の規定を適用除外としているものであり、深夜業の関係規定は適用は排除されるものではない。したがって、本条により労働時間等の適用除外を受ける者であっても、第37条に定める時間帯に労働させる場合は、深夜業の割増賃金を支払わなければならない」とされています。
では、実際に管理監督者が深夜労働を行った場合の割増賃金の支払いはどうなるのかということですが、これは、時間単価の2割5分相当の支払いのみで労基法上は足ります。なぜなら、午後10時以降の労働に対する通常の賃金は、時間外賃金と同様、すでに所定賃金に含まれていると解されるからです。


2 役職手当の支払いを理由に深夜割増賃金を支払わないとするのは原則不可

現在貴社で支給されている役職手当は、管理職に対して職責の重さに応じて定額を支給されているもののようです。一方、割増賃金の算定基礎から除外できる賃金は、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金の7種類のみであり(労働基準法第37条第4項、施行規則第21条)、この他の手当は名称にかかわらず、すべて割増賃金の算定基礎に算入しなければなりません。
以上から、現在支給されている役職手当を深夜割増賃金とみなして、実際に支払うべき割増賃金を支払わないとすることはできず、むしろこれらの手当を割増賃金の算定基礎に含めて深夜割増賃金を計算し、支払わなければならないということになります。
ただし、行政解釈では、管理監督者の深夜労働割増賃金について「労働協約、就業規則その他によつて深夜業の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には別に深夜業の割増賃金を支払う必要はない」とされています。すなわち、役職手当を"職責の重さに応じた手当"ではなく、就業規則等によって「深夜労働の割増賃金に相当する手当として支給する」ことが明記されている場合は、この手当を法定の割増賃金に代わるものとして取り扱うことが可能です。


□根拠法令等
・労基法41(労働時間等に関する規定の適用除外)、37(時間外、休日及び深夜の割増賃金)、
・労基法規則21(割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金)
・昭22. 12.26 基発572(割増賃金の基礎となる手当)
・昭63. 3.14 基発150、平11. 3.31 基発168(深夜労働に関する規定との関係)




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◆産前産後の休業中にも賃金を支払わなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像近く出産を予定している女性社員が、産前産後の休業をすることになりましたが、産前産後の休業期間中も賃金の支払い義務はあるのでしょうか。その期間中は無給とすることは可能でしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像労働義務がなければ労働者には賃金請求権は生じないので、賃金の支払い義務はありません。ですから、産前産後の休業のため労務に就かなかった日については、無給としても差し支えありませんが、その旨を就業規則等に定めておく必要があります。
なお、産前産後の休業のため労務に就かなかった日については、健康保険から出産手当金が支給されます。

 

■解説
1 産前産後の休業について

労働基準法第65条においては、「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない」(同条第1項)、また、「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない」(同条第2項)と規定しています。つまり、産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)については本人が請求した場合、産後8週間については強制的(完全な強制は6週間)に就業させることが禁止されていることになります。
なお、産前の休業期間については、自然の分娩予定日を基準としているため、分娩予定日より遅れて出産した場合、予定日から出産当日までの期間は産前の休業期間に含まれます。


2 産前産後の休業期間中の賃金

産前産後の休業期間中の賃金を支払うか否かについては、労働基準法では特に規定されていません。したがって、この産前産後の休業期間中に実際に休業した期間については、労働者の就業が禁止されているため労働者に労働義務がないことから、労働者側には賃金請求権は生じないので、ノーワーク・ノーペイの原則により無給として差し支えありません。
ただし、この場合でも、無給とすることについて、就業規則または労働協約などで定めをしておく必要があります。労働基準法第89条では、「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」を就業規則の絶対的必要記載事項の1つとしています(同条第2号)が、産前産後の休業期間中の賃金を支払うか否かについての定めも、この絶対的必要記載事項に該当するためです。
なお、産前産後の休業については、労務に就かなかった期間について、健康保険から出産手当金が支給されます。出産手当金の額は日を単位として計算され、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前42日(多胎妊娠の場合においては、98日)から出産の日後56日までの間において労務に服さなかった期間、1日につき標準報酬日額の3分の2に相当する金額が支給されます。
産前産後の休暇については、就業規則等で有給または一部有給として定めることも可能ですが、労務に就かなかった期間について事業主から報酬を受けた場合には、支給される出産手当金の額は、その報酬の額を控除したものとなるためご注意ください。


□根拠法令等
・労基法65(産前産後)、89(就業規則の作成・変更・届出の義務)
・健康保険法102(出産手当金)、108(傷病手当金又は出産手当金と報酬等との調整)



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◆社員が死亡した場合、死亡退職金は誰に支払えばよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像病気療養のため休職していた社員が亡くなったため、退職金規程に基づいて退職金を支払いたいと思うのですが、受取人の間に争いがある場合には、誰に支払えばよいのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像就業規則、退職金規程等で支給対象者(受取人)が定められている場合はそれに従い、定めがない場合は、民法上の相続人に支払います。
支給対象者が複数いる場合で、当事者間で争いがあるときは、「異議のない部分」を予定期日までに支払えばよく、争いとなっている部分については、争いが解決するまで支払いを留保しても差し支えありません。

 

■解説
1 死亡退職金の一般的な受給権者の順位

労働者が死亡したときの死亡退職金は、労働協約や就業規則、退職金規程等で、死亡退職金の支給対象者(受取人)の順位を定めている場合には、その定めに従って支給します。この場合、死亡退職金の支払い順序は、民法の遺産相続の順位や、労働基準法施行規則第42条、第43条の順位(労働者が業務上の災害により死亡したときの遺族補償を受けるべき者の順位)の通りでなければならないということはなく、就業規則等で任意に定める支給対象者や支給順位に基づいて支払っても差し支えありません
このように、就業規則、退職金規程等に支給対象者の定めがある場合には、遺族が受け取る死亡退職金は、相続財産にはなりません。したがって遺族は、相続人としてではなく、直接これを自己固有の権利として受給権を取得することになります。
例えば、支給対象者を、死亡労働者の配偶者、子、父母と定めているとき、その死亡労働者に配偶者も子もなく、父母も亡くなっているようなときは、たとえ民法上の相続人(例えば、兄弟姉妹)が存在していても、その相続人は、死亡退職金の受給権を持つことはできません。
一方、支給対象者についての定めがない場合は、行政解釈では「民法の一般原則による遺産相続人に支払う」とされています。したがって、死亡退職金の支給対象者に関する定めがない場合で、死亡労働者の民法上の相続人が存在するときには、その相続人に対して死亡退職金を支払うことになり、相続財産になると考えられています。
なお、この場合で、複数の相続人が存在するときには、やはり民法の定めに従って、各相続人に分割支払いすることになります。支給対象者(受取人)順位が定められている場合でも、同順位者が複数存在するときは、「そのときは長幼の順による(最長年者とする)」などの定めが就業規則、退職金規程等にない限りは、分割払いの方法をとります。


2 受取人(相続人)に争いがある場合

死亡退職金の受取人(相続人)が複数いる場合で、当事者間で争いが生じたときは、「異議のない部分」を予定期日までに支払えばよく(労働基準法第23条第2項)、争いとなっている部分については、争いが解決するまで支払いを留保しても差し支えありません。
ただし、そうした場合、事業主はその間、死亡退職金を保管しなければならなくなるため、訴訟事件になるなど争いが長引くようなときには、実務上の処理として、供託(法令の規定により、金銭、有価証券、その他の物件を地方法務局などにある供託所または一定の者に寄託すること)などの措置を講ずることも可能です。また、このような争いに事業主が巻き込まれることを避けるために、複数の支給対象者があるときは、支払い側(事業主)が指定する支給対象者に支払うことができる旨を、就業規則、退職金規程等にあらかじめ定めておくことも考えられます。


□根拠法令等
・昭25.7.7基収1786(死亡労働者の退職金)




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◆競合他社に転職する社員の退職金を減額または不支給にすることは可能か

Qのロゴ.gifのサムネール画像近く退職する社員が、競合する同業他社へ転職することがわかりました。当社の就業規則(退職金規程)には、こうした場合に退職金を減額または不支給とする旨の定めはないのですが、この社員の退職金を減額または不支給とすることは可能でしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像就業規則等に競業避止義務の定めと、それに反した場合の退職金の減額または不支給の定めがされていなければ、当該社員の退職金を減額または不支給にすることはできません。さらに、全額不支給とする場合は、「労働の対償を失わせることが相当であるほどの顕著な背信性がある場合」に限られることになります。

 

■解説
1 就業規則(退職金規程)に減額または不支給の定めがあるか

競合する他社へ転職する社員の退職金を減額または不支給とすることができるかどうかについては、退職金制度がなく、ときによって恩恵的に退職金が支払われることがあるという場合は、あくまでも、退職金の支給自体が事業主のそのときの意思次第ということですので、減額の可不可という議論自体がそもそも生じません。
しかし、ご質問のように、就業規則や退職金規程に定められた基準に基づいて制度的に退職金が支給されている場合は、就業規則等に減額または不支給の定めがされていなければ、通常支払う額を全額支給しなければなりません。就業規則や退職金規程で、支給条件や支給額の算定方法が定められている退職金は、労働者にとって賃金債権となり、恣意的に減額したり支払わなかったりすることはできないからです。
したがって、退職金を減額または不支給とするには、あらかじめ就業規則等に、その事由や要件を定めておくことが必要です。最高裁の判例においても、「この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であるから」、労働基準法の規定や民法第90条の公序良俗の「規定等に何ら違反するものではない」(「三晃社事件」昭52.8.9最高裁第二小法廷判決)として、退職金を半分に減額した措置を有効としたものがあります。
ただし、退職金の全額を不支給とすることについては、「退職後6カ月以内に同業他社に就職した場合(自営を含む)には退職金を支給しない」旨の定めの有効性が争われた裁判で、「退職金全額不支給条項に基づいて退職金不支給が許されるのは、競業関係の存在のみならず、労働の対償を失わせることが相当であるほどの顕著な背信性がある場合に限られる」(「中部日本広告社事件」平 2.8.31名古屋高裁判決)と判示したものがあるように、それまでの勤続による貢献を相殺するほどに重大な背信性がなければ認められないと考えるべきです。


2 競業避止義務の定めがあるか

在職中の社員は、雇用契約に付随する義務としての競業避止義務を負っていますが、退職後は、憲法22条により保障された職業選択の自由を有しているため、前職の競業避止義務を負うことはありません。そこで、退職後にも競業避止義務を負わせるためには、就業規則や個別の契約で明示しておく必要があります。
競合する他社へ転職する社員の退職金を減額または不支給とするには、あらかじめ就業規則等にその事由や要件を定めておくことが最低条件ですが、就業規則に競業避止義務の定めをしておくことも必要条件であり、「規定された競業避止義務に対する違反を事由とする退職金の減額または不支給」というかたちをとるようにすべきです。
ただし、退職後の競業避止義務を定める就業規則等の有効性は限定的に解されており、基本的には、①.保護に値する営業秘密に携わる一定の地位や職務内容を有する者を対象とし、②競業禁止の期間、場所的範囲、対象業種・職種が限定され、③代償措置がとられていることが必要とされています。
以上のことから、競業避止義務および当該義務違反に対する退職金の減額を定める場合でも、包括的に競業他法人への転職を制限するのでなく、対象者や期間の限定をする必要があり、また全額不支給でなく、半分の減額までにとどめるのが無難であると思われます。
裁判上も、競業制限を受ける従業員の範囲を管理職等に限定し、期間も退職後1年間に限るなどしたうえで、競業他社へ転職した者の退職金を半額とした事案が有効とされた例(「東京ゼネラル(支店長)事件」平12.1.21東京地裁判決)があるのに対し、場所的・時間的範囲の制限がいっさいない退職金規程の競業避止義務条項について、「文言からはおよそ無制限に競業避止を義務づけているとしか解することができない」として、公序良俗に反し無効であるとした例(「ソフトウェア開発外事件」平13.2.23東京地裁判決)があります。





 

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◆退職金の支払期日は必ず決めておかなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では、現行の退職金制度を見直し、新たに退職金規程を作りたいと考えていますが、その際に退職金の支払い期日を定めておく必要があるでしょうか。またその場合、労働基準法の「労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払わなければならない」とした定めとの関係はどうなるのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像退就業規則や退職金規程で退職金について定める場合は、退職金の支払い期日についても必ず定めておかなければなりません。その場合、ご質問で指摘されている労働基準法第23条第1項の定めの適用は受けないため、支払い期日は任意に定めることができます。就業規則等に退職金の支払い時期が定められていれば、権利者の請求があったとしても、賃金と同じように7日以内に支払う必要はありません。

 

■解説
1 退職金と労働基準法第23条との関係

退職金を支給するかどうか、また支給するならばどのように支給するのかは、使用者または労使当事者の任意にゆだねられるものですが、退職金について就業規則等に定める場合には、賃金に関する事項と同様に、適用される労働者の範囲、退職金の額の決定・計算方法とその支払方法、および支払い時期に関する事項を定め、それらを記載しなければなりません(労働基準法第89条3号の2)。
このように、退職金も賃金の一種として扱われており、退職金制度を設ける際は、退職金の支払い時期についても就業規則等に必ず定めておかなければならないとされています。一方で、ご質問にあるように、労働基準法第23条第1項では、「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない」と定めていて、それでは退職金の場合も、社員が退職してその請求があれば、就業規則等で定めた支払い期日に関係なく7日以内に支払わなければならないのかということが問題になります。
この点についての行政解釈は、「退職金は、通常の賃金の場合と異なり、あらかじめ就業規則等で定められた支払期間に支払えば足りるものである」(昭和26.2.27基収5483、昭63.3.14 基発150)としています。したがって、就業規則等に支払い時期が定められていれば、権利者の請求があったとしても、賃金と同じように7日以内に支払う必要はありません。


2 就業規則への支払い期日の記載方法

就業規則で定める支払い期日については、必ずしも支給月日まで特定しておく必要はなく、例えば、「退職金は、原則として退職の日から1カ月以内に支給する」などのように、退職の日から一定期間以内の期間に支払うとする定め方でも差し支えありません。
また、あらかじめ定めた退職金の支払い期日を延期する場合があること、支払いを分割する場合があることなどを就業規則において定めることも可能です。ただしその際には、どのような場合に支払いを延期したり分割したりすることがあるのか、その理由がわかるようなかたちで記載しておいた方が望ましく、また、支払いを分割する場合には、その支払い期日(期間)を定めておく必要があります。
ですから、分割支給についての就業規則への記載例としては、「定年による退職の場合の退職金は、原則として退職の日から1カ月以内にその2分の1の額を支給し、同じ日から3カ月以内に残額を支給する」というように、分割回数と分割されたそれぞれのものについての支払い期日(期間)までを含めて定めたものでなければならないということです。


□根拠法令等
・労基法89(就業規則の作成及び届出の義務)、23(金品の返還)
・昭和26.2.27基収5483、昭63.3.14基発150(退職手当の支払時期)




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◆退職金制度がない場合、法律違反になるか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では現在のところ退職金制度がありませんが、このことは法律違反にあたるのでしょうか。 また、退職金制度を導入する際に、法律上留意すべき点がありましたらお教えください。


Aのロゴ.gifのサムネール画像退職金制度を設けるか否かは任意であるため、退職金制度がない場合でも法律違反とはなりません、ただし、退職金制度を導入する場合においては、「適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」を定め、それを就業規則に記載しなければなりません。
また、退職金制度を導入する場合は、一定の「退職金の保全措置」を講じる必要があることに留意してください。

■解説
1 退職金制度の任意性

まず、退職金制度がない場合に、法律に違反するかどうかについてですが、退職金制度は必ず設けなければならないものではなく、退職金を支払うかどうか、また、その内容をどのように定めるかは、使用者または労使当事者の任意にゆだねられるものです。したがって、退職金制度がない場合でも法律違反とはなりません。
労働基準法第89条第3号では、退職に関する事項(解雇の事由を含む)を就業規則の絶対的必要記載事項としていますが、「退職手当に関する事項」については除かれています。ただし、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」(同条3号の2)について定めなければならないとしています。
つまり、退職金制度を設ける(退職金の定めをする)こと自体は任意とされているものの、退職金制度を導入する場合においては、適用される労働者の範囲、退職金の額の決定・計算方法とその支払方法、および支払い時期に関する事項を定め、それを就業規則に明記しなければならないということです。


2 退職金の保全措置

次に、退職金制度を設ける場合の留意点として、退職金支払いの原資についての保全の措置を講じるよう努めなければならないということがあります。「賃金の支払の確保等に関する法律」(以下「賃確法」という)では、「事業主は、労働契約又は労働協約、就業規則その他これらに準ずるものにおいて労働者に退職手当を支払うことを明らかにしたときは、当該退職手当の支払に充てるべき額として厚生労働省令で定める額について、第3条の厚生労働省令で定める措置に準ずる措置を講じるように努めなければならない」と定められています。
ここでいう「厚生労働省令で定める額」(保全の措置を講じることを要する額)とは、具体的には、原則として、労働者の全員が自己都合により退職すると仮定して計算した場合に退職金として支払うべき金額の4分の1に相当する額以上の額とされています(賃確法施行規則第5条)。
また、保全措置の内容は、①銀行その他の金融機関との間に、退職手当の支払にあたって保全の措置を講じることを要する額(以下、「要保全額」という)以上の額について保証する契約を締結すること、②要保全額について、労働者を受益者とする信託契約を信託会社と締結すること、③労働者の事業主に対する退職手当の支払にかかる債権を被担保権とする質権または抵当権を、要保全額について設定すること、④一定の要件を満たした退職手当保全委員会を設置すること、のいずれかとされています(賃確法施行規則第5条の2)。
なお、この保全措置は努力義務に過ぎないため、違反しても罰則はありません。
また、中小企業退職金共済法に基づく退職金共済契約(通称「中退金契約」)等を締結する場合、税制適格退職年金(2012度3月末で廃止)、厚生年金基金に加入する場合、さらに確定給付企業年金または企業型確定拠出年金を実施する場合には、これらについては、退職金や企業年金の原資を外部に積み立てる制度であるため、あらためてこれらの退職金保全措置を講ずる必要はありません(賃確法施行規則第4条)。


□根拠法令等
・労基法89(就業規則の作成及び届出の義務)
・賃確法5(退職手当の保全措置)
・賃確法施行規則4(退職手当の保全措置を講ずることを要しない事業主)、5(退職手当の保全措置を講ずべき額)




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◆年俸制の場合、支給日前に退職する者に対しても、賞与を支払わなければならないか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社では社員に年俸制を採用しており、期首(4月)に決定した個々の年俸額を、配分係数(16)で割って月々の給与として支給し、残りを2で割って7月と12月の初日に賞与として支給しています。一方、就業規則では、「賞与は支給日の在籍者に限り支給する」との定めていて、支給日前に退職する者には賞与を支払っていませんでした。この措置について、支給日の直前日(6月30日)に退職する予定の年俸制社員から、7月の賞与の半分に対して自分には請求権があるのではないかという訴えがありましたが、年俸制の場合、支給日前に退職する者にも、賞与を支払わなければならないのでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像一般的には、就業規則に、「賞与は支給日の在籍者に限り支給する」との定めがあれば、支給日前に退職する者には賞与を支払わなくても問題ありません。しかし、賞与が年俸の一部を構成しているときは、その賞与は賃金債権として確定しているため、支給日前に退職したことを理由に不支給とすることはできません。
また、賞与支給時に加算する業績賞与や、年俸とは別に支給するインセンティブについても、評価が確定している(したがって、支給額が確定している)部分については同様です。

■解説
1 支給日在籍要件の一般的効力と年俸制の場合

貴社では、「賞与は支給日の在籍者に限り支給する」という規定になっているということですが、まず、一般論からいうと、このような「賞与支給日在籍要件」の定めをすることは問題ないとされており、裁判例においても、賞与支給日前に退職した者に賞与を支給しなかったことについて、そのことを適法であるとしたものが多くあります(「梶鋳造所事件」昭55.10.8名古屋地裁判決、「大和銀行事件」昭57.10.7最高裁第一小法廷判決、「京都新聞社事件」昭 60.11.28最高裁判決、「カツデン事件」平8.10.29 東京地裁判決など)。
 しかし、これらの判例における賞与とは、「定期的又は臨時的に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいうこと。定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とみなさないこと」とした行政解釈にあるように、あらかじめ支給額が確定していないものであることを前提としています。
 ご質問の年俸制における「賞与」の場合、年俸額が賞与分も含めて決定されているため、期首(4月)において、7月と12月に「賞与」として支給される額(それぞれ年俸額の16分の2)がすでに確定していることになります。前掲通達にある通り、こうした「支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とみなさないこと」とされるため、確定した賃金債権となります。
年俸制の場合は、一般に年間を通じて労務の提供がなされることを前提に年俸額が決定されるため、労務提供期間が1年に満たない場合は、その期間に応じて賞与を按分計算することは認められています。したがって、ご質問の6月末退職者については、本人の訴えの通り、6月支給予定の賞与の半分の額(年間賞与額を各月に均等配分したうちの4月から6月分)の請求権があることになります。


2 業績加算賞与やインセンティブ・ボーナスなどの扱い

年俸制の場合でも、期首に定めた賞与を基本額(基本賞与)とし、それに業績加算部分(業績加算賞与)をたしたものを賞与総額として支給することがあります。また、年俸契約で決められた賞与以外に、決算賞与(プロフィット・シェア・ボーナス)や報奨金(インセンティブ・ボーナス)などのインセンティブが支給されることがあります。
これらも、一般的には、労働基準法上の「臨時に支払う賃金」として扱われ、「賞与支給日在籍要件」の定めに沿って支給日に在籍しない者に支給しなくとも問題はありませんが、当該者の評価が確定している(したがって、支給額が確定している)場合は、年俸制における賞与(基本賞与)の扱いと同様、確定した賃金債権となり、支給日前に退職した者にも支払わなければなりません。


□根拠法令等
・昭22.9.13発基17(賞与の意義)




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◆生理日の休暇を取得したときは欠勤扱いとして、賞与から控除をしてもよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社の就業規則では、社員が生理休暇を取得した日は無給扱いとしています。実際に生理休暇を取得した女性社員について、賞与計算の際にも、生理休暇を取得した日を欠勤扱いとして勤怠控除してよいでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像生理日の休暇は、労働基準法上、生理日の就業が著しく困難な女性が請求したときに与えなければならないものです。しかし、労働基準法は、生理日の休暇を取得した日について賃金を支払うことまでは求めていません。したがって、賃金から控除することは差し支えありませんが、賞与の勤怠査定の対象としたり、当該日数分を不支給としたりすることは、休暇の取得を抑制することになるため、望ましいことではないと思われます。

 

■解説
1 生理休暇の賃金控除

労働基準法第68条は、「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と定めています。この規定は、生理日の休暇の付与を義務づけた規定ですが、賃金の支払いを義務づけてはいないことから、通達のうえでも、「その間の賃金は労働契約、労働協約又は就業規則で定めるところによって支給しても、しなくても差し支えない」と解されています。
つまり、生理休暇は、「年次有給休暇」のように「有給」とすることを求められているものではなく、したがって、賃金計算において、生理休暇を取得した日を欠勤扱いとして基本給等の所定内賃金から控除しても、必ずしも違法となるものではありません。ですから、賞与についても、通常の欠勤や退職と同様に扱い、不就労時間に相当する額を減額しても一応は差し支えないものと考えられます。


2 賞与において欠勤扱いとすることの問題点

ただし、「生理休暇」は、本来「休暇」であって、労働の義務を課した所定労働日に労働の義務を免除するものであり、労働の義務が免除されているにもかかわらず「欠勤」扱いとなるのは、合理性を欠いているともとれます。給与において、欠勤と同様に不就労時間分を控除することは、ノーワーク・ノーペイの原則により一定の合理性が認められますが、賞与の「勤怠査定」の対象とし、当該日数分を減額したりすることは、前述の通り、もともとは「休暇」であって欠勤ではないため、問題があるように思えます。
さらに、いったん給与から控除されたものを再度賞与から減額することは二重の控除となり、そのこと自体が法に抵触するものではありませんが、生理休暇を取得する女性が被る不利益の度合いが大きくなることが考えられます。結果として休暇の取得を抑制することになるならば、生理休暇の取得を定めた労働基準法第68条の趣旨に反することになり、望ましいことではないと思われます。
通達においても、賞与算定のための出勤率の計算などにあたって、「取扱いについては労使間において決定されるべきものである」としながらも、「当該女子に著しい不利益を課すことは法(労基法第68条)の趣旨に照らし好ましくない」としています。
「生理日の就業が著しく困難」であるかどうかを使用者側が判断することは難しく、休暇の申し出をした女性社員との信頼関係に基づき休暇を与えているのが実情ですが、休暇申請が恣意的になされているといった問題が特になければ、生理休暇は単発的なものであるため、賞与算定のための出勤率の計算などにあたっては、その日を出勤扱いにしても差し支えないのではないかと考えます。


□根拠法令等
・労基法68(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)
・昭23.6.11 基収1898、昭49.4.1婦収125、昭63.3.14 基発150、婦発47(生理休暇中の賃金・出勤率の計算)




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◆賞与額の決定に際して、業務上の災害のために休業中の者を欠勤扱いとしてもよいか

Qのロゴ.gifのサムネール画像当社には、半年前に業務上の災害に罹災し、今もなお療養のため休業中である社員がいますが、この社員の休業期間を欠勤として扱い、賞与を減額して支給することはできるでしょうか。


Aのロゴ.gifのサムネール画像賞与とは、「原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」であるため、算定期間中に休業していた社員について、その休業期間を欠勤として扱い、賞与を減額して支給することは、その休業が業務上の傷病によるものであったとしても可能です。
なお、業務上の災害による休業の期間については、労災保険から休業補償給付が支給されます。

 

■解説
1 賞与の性格と業務上の休業による欠勤控除

賞与は、労働基準法上の取扱いでは、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」とされています。つまり賞与は、毎月支給される給与などとは異なり、労働契約上の債務にあたるものではないため、必ず全社員に支給しなければならないという性格のものではありません。
また、労働基準法では、第76条(休業補償)において、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合において、「労働者の療養中平均賃金の100分の60」の休業補償を行うことを義務づけるとともに、第39条(年次有給休暇)に定める年次有給休暇の付与要件である出勤率の取扱いにおいて、「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間」は、「これを出勤したものとみなす」(同条第7項)としています。しかし、労働基準法が定めるところの、業務上の災害による労働者の休業に関して使用者に課している義務はこれだけで、このほかに法的な定めはありません。
したがって、業務上の災害による傷病のため、賞与の算定期間中に休業期間がある場合に、賞与の算定にあたっては、休業期間を欠勤したものとして取扱い賞与を減額しても違法となるものではありません。


2 欠勤控除に減額緩和措置を設ける場合

しかし、業務上の災害による休業を、いわゆる私傷病による欠勤や休職と同じ扱いにして賞与の欠勤控除計算をするとして、就業規則等の定めで、賞与の欠勤控除計算が、算定期間中の基礎日数のうち何日休業したかを求め、通常の計算による賞与額を日割計算して実支給額を決定する方式をとっている場合には、期間を通して休業した場合には賞与はまったく支給されないということになってしまいます。
そこで、そうした場合には、業務上の災害による休業であることを考慮して、①休業の最初の3カ月間は出勤したものとみなす、②休業期間の2分の1は出勤したものとみなす、などの減額緩和措置を定めることも方法として考えられます。
ちなみに、業務上の災害により労働者が休業した期間については、労災保険から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額の休業補償給付(さらに、労働福祉事業より、特別支給金として給付基礎日額の20%相当額が加算される)が支給されます。


□根拠法令等
・労基法76(休業補償)
・昭22.9.13発基17(賞与の意義)
・労災保険法14(休業補償)
・特別支給金規則3(休業特別支給金)




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