〔41〕 ポイント制退職金制度の概要②-ポイント制の特長と併合型の制度設計の流れ

●ポイント制退職金制度の特長
① 基本給からの絶縁
"ベアハネ"が無いため、賃金昇給額に関係なく独自の水準管理が可能になります。給付抑制効果だけでなく、退職時基本給を算定基礎とした場合、定年時に最終賃金が下がった人は支給額が減ってしまう、といった制度的問題もクリアされます。
② 年功的比重の縮小し、貢献度を反映
「長期勤続に対する功労報奨」的性格を弱めるとともに、会社への貢献度を支給額に反映させることが可能になります。このことにより、中途入社者や早期退職者が極端に不利になることを回避できます。
③ 「その都度確定」
給付額(給付ポイント)が1年毎に確定するため、今時点での個々の支給水準の把握が容易であるとともに、「退職金前払い制度」や確定拠出年金制度(日本版401k)など、次段階の制度に移行し易くなります。

●ポイント制退職金制度(併合型)の設計の流れ
① 新制度における退職給付水準を決める
全体として給付水準を上げたいのか、抑制したいのか、方向性を決めます。
② 既存モデルカーブを作る
実在者モデルから、勤続年数ごとの支給水準モデルを作成します。通常はS字カーブを描くことになります(下図左)。さらに、単年度ごとの増加額(積上げ額)を算出します(下図右)。
 
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③ 各等級別の新モデルラインを作る
ア.どの等級までいった社員の最終支給額をどの程度にするか、仮設定します。
イ.各役割等級別の昇進モデル(滞留年数モデル)を作ります。
ウ.到達等級別に給付額の新モデルラインを作ります。
④ ポイント単価および各等級別の付与ポイントを設定する
③のカーブに沿う積上げ額になるように、ポイント単価と等級別付与ポイントを仮設定します。
⑤ 算定シミュレーションし、現行制度との調整を検討する


〔42〕 評価反映型のポイント制退職金制度①-「評価ポイント」を導入した事例

●ポイント制退職金制度の特長
 「ポイント制」の手法をベースに、毎年度ごとの評価をポイントに反映させることで、より貢献度の反映度合いを強める退職金制度とする企業も出てきました。ここに2つ事例紹介します。

① 東芝(2000年導入)
東芝では、退職金の算定式を次の通りにしました。
退職金=(勤続ポイント累計+仕事給ポイント累計)×単価×自己都合係数
 仕事給ポイントは、同じ資格段階であっても人事考課の結果により格差が生じるようになっています。勤続ポイントは、勤続30年を超えると、1年単位の積上げが3分の1になります。

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② 川崎重工業(2002年導入)
川崎重工業では、退職金のポイント制への移行に際して、職能資格別の加算点に、さらに賞与の業績評価による加算点を加えることにしました。若干ポイントが小さい気もしますが、加算点方式で制度にポジティブな意味合いを持たせるよう工夫するとともに、幹部社員の業績加算相当額は賞与時に支給するなどして、退職時支給額の高騰抑制、給付の分散化が図られています。

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この他に、役割等級別の基本ポイントに賞与評価に応じた加算ポイント(年2回)を付与することとし、勤続ポイントを設けない(併合型)事例もあります。



〔43〕 評価反映型のポイント制退職金制度②-「評価反映型ポイント制」の設計方法

●「評価反映型ポイント制」退職金制度の設計手順
① 新制度における退職給付水準を決める
② 既存モデルカーブを作る(既存モデルでの単年度ごとの積上げ額を調べます。)
③ 各等級別の新モデルラインを作る(ア.等級別の最終支給額の水準を仮設定し、イ.各役割等級別の昇進モデルを作ったうえで、ウ.到達等級別に新モデルラインを作ります)。
④ ポイント単価および各等級別の付与ポイントを設定する

43-01.gif ここまでは、通常のポイント制(併合型)と同じです。昇進モデルに沿った単年度ごとの積上げ額の推移イメージはグラフのようになります(55歳以降、役職離脱し、専任職となる事例)。
「評価反映型」では、ここで設定した付与ポイントを標準評価(B)でのものとし、評価ごとのポイント格差を一定の基準により設定し、役割等級・評価別のポイント数を決めます。(下図)








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〔44〕 算定シミュレーションと全体調整①-シミュレーションにより趣旨の反映度をチェックする

●通常のポイント制の退職金制度と「評価反映型」のポイント制退職金制度のシミュレーション
制度設計の最終段階でシミュレーションをして、制度改定の趣旨(給付の抑制やS字カーブの直線化など)がどの程度に反映されているかを確認し、必要に応じて全体調整します。

下左図は、通常のポイント制(併合型)の例です。ここでは、当初の設計方針が例えば、ア.従来モデルの最終支給額は、新制度における"順調にM1(部長クラス)まで昇進したモデル"の水準とする。(給付抑制)、イ.M2(課長クラス)またはM3(係長クラス)までしか昇進しなかった場合のモデルは段階的にそれより低い水準にする、ウ.ただし、E1・2(専任職)までしか経験しなくても一定水準はキープする、というものだったとした場合、その通りになっているかを確認するわけです。

下右図は、「評価反映型ポイント制」のシミュレーションです。役割等級別・評価別にシミュレーションします。評価別の考え方は、例えば、ほぼ恒常的に上位評価(平均A)だった場合と、標準評価(平均B)、下位評価(平均C)だった場合、というふうにします。
同じ等級経験者でも、ずっと上位評価だった場合と、標準評価、下位評価だった場合では開きがでることになり、経験職位が上でも支給水準は必ずしも上位に来ないことを示しています。
また、最大最小格差が、評価を入れないポイント制よりも当然のことながら大きくなっています(550万円→1000万円)。こうした格差が自社にとって適正範囲(許容範囲)であるかどうかも、現状の受給額の格差状況などを見ながら判断していきます。

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〔45〕 算定シミュレーションと全体調整②-全体調整の考え方と制度設計のバリエーション

● 全体調整の考え方
給付抑制の方向で制度設計した場合、社員の間に不満感や不安を引き起こす可能性もあります。しかし、現状の給付カーブと同じモデルカーブになるように設計することが目的ではないので、本末転倒にならないようにしたいものです。
45-01.gif一般に定年間近の社員ほど退職金に対する意識が高いので、中高齢層から不満の声が上がることが多いのですが、過去から現在までの勤務分の支給額は保障し、これから将来にかけての勤務分についてのみ新制度を適用するならば、残存勤務年数が少ないほど新制度の影響は小さくなります。(右図)
「評価反映型」にする場合は、評価に対する信頼度、現在の評価が何年も後に支払われる退職金に反映されることが受け入れられるかどうか、という企業風土の観点からの検討も必要です。







● 制度設計上のバリーション
支給水準や格差の全体調整は、原則として付与ポイントの修正というかたちで行います。修正後再度シミュレーションし、適正ならば設計完了です。ただし、制度設計自体のバリエーションもいくつか考えられます。2つばかり挙げ、それらのメリット、デメリットを示します。
① 同一等級に長期滞留している場合、単年度当たりの付与するポイント数を減らす
〔メリット〕 累積ポイントの高騰を抑制することになり、全体としては成果主義的傾向を強めることができます。(例えば、中途採用者と長期勤続者の差が縮まる、など)
〔デメリット〕 個々のヒストリーデータ(履歴)の管理が必要になるなど、運用が複雑になります。例えば、昇級・降級(昇進・離任)を繰り返した場合の扱いをどうするか予め決めておく必要がありますし、等級制度を改定(等級区分の新設や統合)した場合にも、運用が複雑化します。
② 退職時の役職を加味する(最終役職ポイント)
〔メリット〕 このパターンは、職能資格制度でポイント制の退職金制度を入れている企業に見られます。職能資格基準のポイント付与においては、貢献度反映の要素は強まります。
〔デメリット〕 役割等級制度で等級基準でのポイントの付与の場合、最終役職ポイントの付与は、意味合いが重複するので合理性が希薄です。役職任免が硬直化する危険性もあります。

以上から、全体調整は、基本的には付与ポイント修正で行うのが標準的手法と思われます

〔46〕 ポイント制への移行に際して-現行制度との調整方法、企業年金における注意点

46-01.gif● 現行退職金制度との調整方法
ポイント制退職金制度の導入に際し、旧制度を残し(凍結し)新制度を入れる場合は、移行時に旧制度で計算した全従業員の退職金を算定しておく必要があります。退職事由別にそれをしますから、制度自体も退職給付会計も複雑化します。
そこで、新制度に一本化し、過去分については改定時点での累計ポイントを算定するのが普通です。ただし、新制度の基準を過去に遡及して適用しようとすると、全員の入社来の履歴(ヒストリーデータ)が必要になりますし、そもそも同時に等級制度を変更する場合は不可能です(できたとしても、新旧で給付水準に過大な格差が出ることが予想されます)。ですから一般には、旧制度での退職金を移行時点で捉え、この退職金水準に見合う累計ポイントを新制度へ"持っていく"という方法をとります。この場合、一般には、会社都合計算したものを持っていき、新制度移行後に自己都合退職した場合、新旧の総ポイントに対して新制度の退職事由係数を掛けるという扱いをします。

● 企業年金にポイント制を入れる場合の留意点
税制適格年金であれ確定給付企業年金であれ、制度改定により総給付現価を低下させることは、当局の認可基準において「不利益変更」とみなされ、"原則"認められていません。実施する場合は加入者の同意書取り寄せなどの特別な手続きが必要です。他の会社退職金制度から企業年金への移行割合を高めるなどして、制度上この問題をクリアする方法はあります。しかしそこまでしなくとも、本当に会社の経営状況が悪化している場合や、拠出金の大幅な上昇が経営を逼迫しているなどいったやむを得ない事情がある場合には、給付減額が認められる可能性があります。個々人の給付減額についても同じ考え方が成り立ち、現時点での給付額が下がる場合は、労働組合または本人の同意が必要となります。
ただし、制度移行時点での過去分の給付額を保障したうえでの新制度への移行は、将来分についての一般に言われる"期待権"というもののが、法律で明確に規定されているものではないので、問題は少ないと思います。それでも、現時点での支給額(ポイント)などは社員個々に通知し、制度移行についての了解をとりつけておくなどの配慮はした方が良いと考えます。

〔47〕 退職金前払い(選択)制度の概要-「後払い」から「その都度払い」へ

47-01.gif● 「前払い制」への移行動向
最近の退職金制度の改定動向として、「ポイント制」から「前払い(選択)制」や確定拠出年金(日本版401k)への移行が見られます。これは、「その都度確定・後払い」から「その都度確定・その都度払い」への動き、「債務」を"費用化"しようとする動きとも言えます。
「前払い(選択)制」は、大手企業では、'98年に松下電器産業が新入社員を対象に導入(後に全社員対象)、'99年にはコマツが導入(表参照)し、大卒新入社員の92%が希望しました(最終的には8割程度に)。以降、コナミ、富士通、ソニー・コンピュータエンタテイメント、三和総研、ユニチャームなど導入企業が相次いでいます。


● コマツの「前払い制度」の特徴
社員の選択率が高かったコマツの例を見ますと、2つの特徴があるように思います。
第1は、"従来制度での60歳定年時の受給額"と"前払い制度での受給額の60歳までの累計額"が理論値で同じになるようになっていますが、勤続年数ごとの積上げ額グラフ(下図)を見ると、「前払い制度」は従来制度よりも若年層に厚くしている点です。グラフを累計値に直すと、50歳前までは「前払い」の方が累計で上回ることになります。
第2は、退職所得としての税制優遇措置が受けられない「前払い」に対し、相当の税補填を、会社がしていることです。
 つまり、若年層に選ばれ易い仕組みなのです。

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〔48〕 退職金前払い(選択)制度の設計①-制度設計上の基本的なポイント

● 制度設計上の基本的な4つのポイント
① 基本的な考え方
「前払い制度」設計の標準的な考え方は、次の通りです。
例えば、勤続40年でモデル退職金額が1600万円の場合、1600万円÷40年で、1年当たり40万円となります。ただし、この40万円は支払われる時期がそれぞれ異なるので、各年分に一定の割引率で、それぞれの支払い期の残存勤務年数と同じ回数だけ割り戻し計算をします。それらの総和が、実際に支払われるべき額で、40年で割ると、年平均額が求められます。
   年平均給付額=∑{40万円÷(1+割引率)残存勤務年数}÷40年
② 割引率の設定
ここで重要なのは「割引率」です。割引率は、大きく設定すると実支給額は小さくなり、小さく設定すると実支給額は大きくなります。コマツの例で見ると、2.5%を基準としています。これは、今後の平均昇給率を2.5%と見込んだとも言えますし、コマツの企業年金の予定利回りが(前払い制度導入時点で)2.5%であることに準拠したということでもあるようです。

③ 「前払い」給付の配分
年毎の給付配分の設定は、①勤続年数ベース、②等級(役割等級など)ベース、③給与などに連動した基準額ベース、などでの設定が考えられます。
①の勤続年数ベースを唯一の指標とした場合は、どうしても中途入社者は不利になります。それに対し、②の等級(役割等級など)ベースで設定すれば、勤務期間中の貢献度が反映され易くなり、ポイント制退職金制度と同じ考え方で、「評価反映型」の設計も可能になります。ただしその場合、これも評価反映型のポイント制退職金制度と同様、成果主義の度合いがかなり強まるため、受給格差が拡大し、現状の退職金カーブ(選択制において従来制度を選択した社員の積上げカーブ)との乖離が過大となる可能性があります。③の給与などに連動した基準額ベースは、コマツなどでも採用されていますし、年俸制導入企業では「年俸の何%」という決め方をしているところもあります。比較的わかり易い方法であるとともに、コマツのように基準額を大括りにし、上限額を設定することで、"分かり易さ"に加え"給付の抑制"を図ることができます。
 給付の配分は、そこにどのような制度改定の趣旨を込めるかの決め手になります。主に若い社員を対象に考えるのであれば、従来制度に比べて若年層に意図的に厚めにします。

④ 税負担への配慮
「前払い制度」での給付は退職所得ではないため、当然ながら通常の退職所得のような税制優遇は無いのですが、その分を会社が補填するかどうかが課題となります。法的に定まったルールはなく、労使協議などで扱いを決めることになりますが、松下電器やコマツの「前払い」制度選択者が、新入社員のうち相当の割合を占めた要因の1つには、両社とも、この税負担見込み額を会社が肩代わり(補填)する仕組みであったことが挙げられています。

〔49〕 退職金前払い(選択)制度の設計②-制度移行時および運用上の諸問題

● 制度移行時および運用上の諸問題
① 既得権分の扱い
新制度として導入する場合、移行時点までの勤務分の退職金相当額を保障するのが一般的ですが、そうした既得権分をA.一時金で前払いする方法と、B.退職時まで支払いを留保する方法があります。Aは、一時的に大きな給付原資が必要となることに加え、受給者にとっては一時所得として課税されてしまう、という問題があります。一方Bは、結局会社の退職給付債務として残ることの他に、支給時までの利息付与をすべきかどうかという問題が発生します。

② 中途での選択変更、在籍者の選択変更の扱い
新入社員のときに「前払い制」を選択したが、途中で従来制度へ乗り換えたいというケースや、あるいはその逆のケースも出てくる可能性があります。A.「前払い→通常」、B.「通常→前払い」の何れのケースも、給付額の計算上不利になる可能性が高いと言えます。更にBの場合は、①と同様、勤務中にいったん支払われた"退職金"が税法上の退職所得として認められるかが問題になりますが、一般的には認められない、ということになるかと思います。
これについては、松下電器が「前払い(選択)制」を在籍社員に適用拡大した際に、退職所得として当局から承認されたことがあります。松下の場合、'99年秋のみの公募だったのですが、このような一回性の場合は退職所得として認められる可能性がありますが、いつでも自由に"乗り換え"ができるような制度設計をした場合は、こうした扱いは受けられません。
こうした問題を避けるために、例えば選択制の場合、新入社員について入社時に選択希望を聞き、さらに受給権が発生する前に再度確認するなどの対応が必要であると考えられます。

③ 金利変動、退職金水準改定への対応
長期にわたって制度を運用している間に、経済・経営環境の変化により、割引率の根拠数字であったところの金利が大幅に変動したり、支給水準を見直さなければならないことがあるかもしれませんが、すでに「前払い」された分については、遡及して改定することはできません(社員にとっての有利不利はわかりません)。このことは、制度導入時によく周知しておくべきです。

④ 前払い給付の方法
前払い給付については給与に上乗せして支給するのが一般的ですが、賞与に上乗せしての支給や、年度末に別途一時金で支給する例もあります。社会保険料の料率を勘案しての措置であったのと(総報酬制の導入によりその意義は無くなりました)、「評価反映型」の場合には、半期ごとの評価を反映させるために、賞与支給時に上乗せ支給するケースが多いようです。

以上のような制度設計・運用上の問題の他に、「前払い制」を入れることで社員の会社に対する帰属意識が弱まること、退職理由によって給付額を変えるということはできなくなるということなどを、大前提として踏まえておく必要はあるかと思います。

〔50〕 従来制度からの移行事例①-確定拠出年金と前払い退職金の選択パターン

● 確定拠出年金(日本版401k)の導入に際して発生する「前払い」
50-01.gif大手企業など先行企業では、退職給付制度(退職一時金・税制適格年金・厚生年金基金など)の改廃と、それに伴う確定拠出年金(日本版401k)の導入に際して、移行時点までの過去分が移行限度額を超える場合に超過分を一時金で支給したり、移行後の拠出金が非課税限度額を超過する場合に、超過分を毎月の給与に上乗せするなどのかたちでの「前払い」が一般的に行われています。









● 確定拠出年金(日本版401k)と前払い退職金の選択パターン
50-02.gifまた将来分を含め「全額前払い」を選択できる制度を併せて導入するケースも見られます。(図参照)
確定拠出年金は、原則として60歳にならなければ受給できないため、選択肢としての「前払い制度」を設けることで、社員の多様なニーズに応えようとするものと言えます。