〔34〕 賞与変動型A(賞与仮決定型)年俸制-月額賞与配分と賞与支給額決定のイメージ

● 賞与変動型(賞与仮決定型)年俸の月額・賞与配分と賞与の支給額決定のイメージ
賞与変動型(賞与仮決定型)年俸は、まず期末に次期年俸(基準年俸)を決定し、一定係数により月額分と賞与分に配分します。
ただし賞与分はあくまでも基準額(基準賞与)であり、実際の支給に際しては、賞与基準額のうち予め定めた変動部分に半期ごとの会社・部門・個人業績を反映させて金額決定します。(賞与固定部分も、法規上の"賞与"性維持のため、"原則としての"固定部分と断っておきます。)

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● 役割等級別の賞与の支給率(最大・標準・最小)のイメージ
賞与変動部分への業績反映については、予め基準を設けておきます。(下図は全等級一律に会社業績を反映させ、上位等級は部門業績を中心に、下位等級は個人業績を中心に反映させる例です。ただし個人業績反映の場合は、何らかの形で半期毎の評価が必要になります。)

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〔35〕 「全社員年俸制」①-「全社員年俸制モデル」の「基準年俸」構成要素

● 「全社員年俸制」を考える
年俸制は今や多くの企業で導入されていますが、その適用対象の大部分は、管理職と高度専門職です。一般職への適用が少ない理由としては、「習熟過程にある社員に年俸制は馴染まない」という説明の仕方もありますが、「年俸制」自体は賃金決定の"形態"に過ぎず、この考え方は「年俸制」の"運用"についての予断が含まれているように思います。
一般職への適用が少ない実際上の理由には、時間外手当の問題が克服できない、というマインドセット(思い込み)があるかと考えます。年俸とは別に時間外手当を支給すればいいのですが、裁量労働などのみなし時間制であれば、残業見合い分を年俸に含めて構いません。それに該当しない一般職も、予め割増賃金を含めて年俸を設定し、年俸や月額給与のうちの時間外手当相当額を明示するとともに、実労働時間に基づく残業手当の計算額が見合い分を超過した場合にはその差額分を支払うなどの条件を満たせば、法規上の問題はクリアできます。

● 「全社員年俸制」モデルの「基準年俸」構成要素
全社員年俸制の1つのモデルとして、「基準年俸」の構成要素を次の通りとする方法を考えてみました。「基準」という言葉を使うのは、賞与に変動的要素を持たせるためで、年俸額が「固定」額ではないということです。
  ★ 管理監督職の「基準年俸」=「役割年俸+業績年俸」(または「役割年俸」のみ)
  ★ 一般職の「基準年俸」=「役割(キャリア)年俸+残業固定分の年額
管理監督職を「役割年俸+業績年俸」とするか、「役割年俸」一本とするかは、賃金制度での「役割給」「業績給」の問題と相似形です。同じように考え、自社適合型を選べば良い訳です。
 管理監督職の「役割年俸」も一般職の「役割キャリア年俸」も、最初から年間ベースで決定します(1万円単位が妥当です。。
 管理監督職の「業績年俸」には、最初から年間ベースで決める方法(1万円単位が妥当です)と、月額ベースで決めて12倍したものを「業績年俸」とする方法(この場合は年額が千円単位になる可能性あり)があります。
 一般職の「残業固定分」の年額は、全員の基準残業時間(毎月これだけの時間は残業するであろう、という時間)を定め、個々の超勤単価に基づき月額を算定し、更にそれを12倍して年額を決めます。勿論、年間の基準残業時間からいきなり年額算定する方法もあり、この方式だと、繰上げ計算で年額を1万円単位にすることができます。(ただし、支給の際には12等分した額を月々支給するため、年額を1万円単位にすると月額分に端数が出ます。)

 「残業固定分」は残業実績に関わらず毎月支払われ、月々において基準残業時間を超過した場合には、超過分の手当を別途支給することになります。そのことを前提に、基準残業時間を「一般職一律」「役割等級別」「職種・職群別」「個人別」のどの決め方をするか選ばなければなりません。管理上は「一般職一律」が最も簡便ですが(単価が異なるので、金額は個々に異なる)、その場合、ほとんど残業がない社員にも毎月定額の残業手当が支給されることになります。

〔36〕 「全社員年俸制」②-「全社員年俸制モデル」の「基準年俸」の月額・賞与配分方法

● 「基準年俸」の月額・賞与配分方法

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「基準年俸」の月額分・賞与分への配分は、図のように一定係数で基準月額と基準賞与に配分します。月額給与には諸手当が含まれてくる可能性があるので、ここでは、「基準年俸のうちの年間月額分の12分の1」という意味で「基準月額」と言っています。賞与は夏冬に分けて支給しますが、支給時に基準賞与額の一定割合に対して業績反映をさせます。
基準月額の内訳ですが、管理監督職は、役割給と業績給から成り、業績給は、業績年俸の12分の1(月額ベースで業績年俸を決めた場合は、その当初月額で決めた額)、役割給は「基準月額-業績給」となります。
一般職の基準月額は、役割キャリア給と残業固定手当から成り、残業固定手当は、残業固定手当の年額の12分の1(月額ベースで残業固定手当の年額を決めた場合は、その当初月額で決めた額)、役割キャリア給は、「基準月額-残業固定手当」となります。
役割給、役割キャリア給が"引き算"で出てくることに違和感があるかも知れませんが、まず年俸を決めて、次に月額と賞与を決めるという手順のため、その時点で月額配分は決まっているので、後は形式的な配分なのです。法規に沿うために、月額給与に占めている「残業固定手当」を明示しているのです。「業績給」を明示するのは、そのことによって期中の見直しがし易くなるためです。半期ごとに見直すルールとすることも可能です。あくまでも査定対象は。年俸辞令にある"基準年俸"であり、給与明細に表示される"役割(キャリア)給"ではないのです。
一般職から管理監督職に昇進した場合は、業績年俸を設定している場合は初任業績年俸が加算され、「役割キャリア給+昇格昇給年額」が役割給に、役割年俸一本の場合は「役割キャリア給+所定の額(残業固定手当の年額相当)+昇格昇給年額」が役割給になります。

すでにお気づきの通り、このやり方だと管理監督職と一般職がほぼ同じシステムで運用することが可能になります。一般職から管理監督職への繋がりもスムーズですし、一般職と管理監督職の基準年俸を連続性の中で対比することが可能で、更に、業績給を設定した場合は、一般職の役割年俸と管理監督職の役割年俸も、連続性の中で対比することができます。


〔37〕 「全社員年俸制」③-「全社員」のメリット、一般職に適用拡大する理由と期待効果

● 「全社員年俸制」のメリット
「全社員年俸制」のメリットは、賃金の「下方硬直性」のマインドセットを全社的に取り除くとともに、(基準額としてですが)会社がそれぞれの社員に年間いくら払っているかが一目瞭然となることにあります。基準賞与への業績反映を「会社・部門業績」に限定し、個人業績を入れないのであれば、査定が年1回で済むことになり、人事担当者の労務コストの低減にもなります。

● 一般職にまで年俸制を適用拡大する理由 
 ① 成果主義の考え方を全社員に浸透させる
職種や業態によって差はありますが、若年層でも仕事の裁量度が高く、個人の創意と努力で高い業績を上げるケースがあります。会社が「成果主義」を標榜していても、そういう個人に報いるシステムが、表彰とか臨時ボーナスなどの一過性のものに限られていては、有能人材に対するリテンション(引き止め)効果は弱いと考えられます。
② 目標の遂行結果の評価は年ベースが合理的
企業の数値目標は年ベースが基本であり、目標管理もそうなります。半期ごとにチェックことは大切ですが、中期プロジェクト的な業務などの場合は、その時点で評価をするとなると、最終結果とのズレが生じる場合があります。また、評価に業績・成果反映の度合いを強めるのであれば、従来のような4月の昇給時に能力査定をし、業績査定は夏・冬の賞与で行う、という教科書的な考え方を見直す必要があるかも知れません。
③ 従来の残業手当の不合理を解消する
業務の進め方についての裁量度が高い仕事、例えば企画業務などはその傾向がありますが、こうした業務は、投入した時間と成果が必ずしも相関関係にないことがあります。しかし、時間単価で支払う残業手当は、成果に関係なく、多く残業した人に多く支払われてしまいます。ある程度の水準までは固定額とし、「時間=賃金」という発想を払拭することも、業務の効率化に繋がると考えられます。

● 一般職年俸制の期待効果と補完すべきシステム
一般職にまで年俸制を適用拡大することの期待効果として次のことが考えられます。
① 社員の意識改革......"年俸制"適用者であることが「成果主義」適用者であるという自覚に
② 業務のやり方の改善......残業代は固定なので、効率的に仕事をし、結果を出す
③ 職場風土の改善......「遅くまで会社にいる人が偉い」「休みがとりにくい」という風土の改善
④ 労働時間の短縮......結果として、労働時間が短縮される
⑤ 人件費の有効カ活用......予測・制御が困難な流動費が減り、成果配分に再分配可能

導入に際して補完または充実すべきシステムとして、①目標設定や評価フィードバックの際の面談制度、②自己申告制度などによる機会均等の人員配置、③ 残業時間の抑制(導入前の"時短"運動、導入後の長期間労働の発生予防)などが必要になると考えます。