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○映像の世紀バタフライエフェクト(「シークレットサービス 大統領の盾となる者たち」)
ジャクリーン・ケネディの人物像が知れて良かった。著者はどん底から立ち直ったすごい人。
Clint Hill(1932-2025)
『ミセス・ケネディ: 私だけが知る大統領夫人の素顔』['13年] 『Mrs. Kennedy and Me: An Intimate Memoir』['12年]『My Travels with Mrs. Kennedy』['22年]
Mrs. Kennedy & Clint Hill
今年['25年]2月21日93歳で死去した元シークレットサービス、クリント・ヒルの本(原題:Mrs. Kennedy and Me: An Intimate Memoir、2012)です(彼はケネディに近しい人物の中で1963年11月22日のケネディ暗殺を間近で見た最後の生存者だったという)。1958年にアイゼンハワー大統領のシークレットサービス警護官となっていますが、本書は1960年11月、政権がジョン・F・ケネディに移行する前に、彼より2歳年上の次期ファーストレディ、ジャクリーン・ケネディの警護官に任命され、彼女と初めて会うところから始まり、ケネディ政権下の1961年から1963年までの3年間のジャクリーン・ケネディのことが書かれています。ジャーナリストによる聞き語りと思われますが読みやすく、著者は後にこのジャーナリストと結婚しています。
読むと、ジャクリーンがいかに夫思いであり子ども思いであったかが分かり、また、賢くて機知に富み、先進的で活発であったことが窺えます。3人の子どもを産んでいますが、3人目の子どもは亡くすなど、悲しい経験もしています。スポーツ万能みたいだったようで、彼女の趣味のテニスや水上スキーに、そうした方面に心得のないまま付き合わされた著者はたいへんだったようで、このあたりは可笑しいです。馬が好きで乗馬などもこなしましたが、落馬したところをパパラッチに撮られたりして、著者はジャクリーンの安全とプライバシーの両方を守れねばならず大変だったようです。
Mrs. Kennedy & Clint Hill
外遊先では非常に堂々とした振る舞いを見せる一方で、ジャクリーン人気ゆえのあまりに過密なスケジュールに、著者のクリント・ヒルに対して1日寝ていたいのでその日の予定を全部キャンセルして欲しいといった"ドタキャン"要請することもあったようです。学生時代にフランスに留学していたためフランス語が話せ、欧州などでトップ外交の一翼を担ったようです。それらを間近で見た著者は、あの元首はいい人物だったとか、あの財界人はいけ好かなかったとか述べていますが、ギリシャの海運王オナシスはケネディの大統領在任中からジャクリーンにアプローチしていたようで、著者から見てオナシスはいけ好かない人物の部類に入るようです。
一方で、よく言われるケネディの女性好きの話は出てきません。ジャクリーン・ケネディのシークレットサービスになったときに、明示的か暗示的かは判りませんが守秘義務を課せられているはずで、それを律義に守っているのでしょう。国民にとってケネディ家は幸せな良き家庭であらねばならないというある種の信念を貫き通しているのでしょう。そうした意味ではもの足りなさもありますが、ジャクリーン・ケネディの人物像が知れたのは良かったです。
Mrs. Kennedy & Clint Hill
そして話はケネディ暗殺の日へと向かっています。この時、ケネディはダラスでパレードをしていて喉に銃撃を受け、著者は、数秒遅れてリムジンに飛び乗りましたが大統領を守ることができす(3発目の銃弾がケネディの頭を砕いた)、しかし、ジャクリーン・ケネディを守ろうとして身体を盾にして病院に到着するまでリムジンの上にいました。
この時の様子は、NHK「映像の世紀バタフライエフェクト」の今年['25年]4月7日放送分「シークレットサービス 大統領の盾となる者たち」で詳しく伝えていました。ケネディの葬儀後、著者はワシントンで表彰されましたが笑顔はなく(表彰から数日後に海で自殺未遂を起こしている)、これも本書にはありませんが、「映像の世紀」の方では著者がその後、大統領を守れなかった責任感で酒に逃げてアルコール中毒になったことを伝えていました。
番組では、アル中からの復帰の過程でインタビューに応えた映像がありましたが、責任感からくる後悔の念を未だ引き摺っている感じで、痛々しかったです。ただ、本書は原著刊行が2012年でケネディ暗殺から半世紀を経ようとしている頃であり、1932年生まれの当時29歳だった著者も80歳になっており、いろいろと語れるようになったのではないかと思われます(冒頭にも述べたように、この共著者リサ・マッカビンと何冊か本を出した後、2021年に彼女と結婚(89歳と57歳のカップル!)、その後も『My Travels with Mrs. Kennedy』['22年]、『Five Days in November: In Commemoration of the 60th Anniversary of JFK's Assassination』['23年]などの共著を出している)。
銃撃を受けたドナルド·トランプをSUVに乗せ、周囲を警戒する米秘密警護局(SS)所属の女性SPら[AP連合]
昨年['24年]7月13日の選挙集会中に起きた当時大統領候補だったドナルド・トランプの暗殺未遂事件で、「女性は警護分野で最高ではない」との女性SP不要論が勃発したのに対し(イーロン·マスクは「女性警護員たちはトランプ前大統領を体で隠すには小さすぎた」として「力量により選抜されなかった」と主張した )、本書の著者クリント・ヒルは、自分は身長が特別に高いわけでもないのにシークレットサービスを勤め上げたとして女性SPを擁護し、92歳にして尚も発信をしていました。どん底から立ち直ったすごい人です。
《読書MEMO》
●NHK 総合 2025/04/07「映像の世紀バタフライエフェクト#96―シークレットサービス 大統領の盾となる者たち」
歴代アメリカ大統領45人のうち20人がその命を狙われている。絶大な権力を持ち、時に憎しみが向けられる大統領をシークレットサービスは24時間守り続けてきた。しかしその献身的な仕事が認められることはほとんどなかった。スポットが当たるのは、失敗した時だけだった。ケネディを守れなかった男の痛恨。身代わりに銃弾を受け、レーガンの命を救った男の矜持。報われることが少なかった、名もなき人々の闘いの記録である。