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余命宣告を受けた資産運用の専門家が説く、お金より大事なもの。


山崎 元(2024.1.1、65歳没)『がんになってわかった お金と人生の本質』['24年]
大江英樹(2024.1.1、71歳没)『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方 (光文社新書) 』['23年]
最後の1秒まで幸福は追求できる。その真実をつづった遺稿を特別収載。最期の時間でたどり着いた「人生の最終原理」とは―(版元口上)。2022年の夏に食道癌が見つかった経済評論家(専門は資産運用)の著者が、癌の各局面にあっての考え方や意思決定について述べたもの。お金よりも大事なことにどうやって気づくか、限られた時間をいかに生きるかを説いています。因みに著者は、先に取り上げた 『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』('23年/ 光文社新書)の著者の経済コラムニスト・大江英樹(1952-2024/71歳没)氏と同じく、今年['24年]1月1日に65歳で亡くなっています。
第1章では、著者がステージⅢの食道癌を宣告されたときのことが書かれています。因みに、著者は、日頃から人間ドックに入ったり、健康診断を受けることをしてなかったそうですが、本書執筆時点では」「損得勘定だけでも検査は受けるべし」との考えになっています(ましてや著者の場合、食道癌を心配するに十分なだけの飲食習慣があった。ウィスキーをストレートで飲み続けると、それなりに食道癌のリスクは高まると、自分で書いている)。
また、情報を拾うか捨てるか制限しないと、身が持たないともしています。利害関係にない好意的な医療専門家を探すこと、5年生存率の見当を付けること、治療方針を決めることが重要であるとしています。また、医師の話しぶりなどから「この医師は信頼できる」と思えたことは治療にもプラスだったが、自身の専門においては「そんなもの見ても役に立たないよ」と言ってきたことから「癌患者と投資初心者は似ている」としているのが面白いです。
第2章では、がん保険には自分は入っていたが、振り返ってみれば、治療費は貯金で間に合い、高額療養費制度(+健保組合の上乗せ給付)があり、がん保険は要らなかったとしています。かかった分のほとんどは、自身のQOLのために払った1日4万円の差額ベッド代だけです。この点については、自分もまったく同じような経験をし、公立病院であったこともあり、差額ベッド代も1日1万円程度で、がん保険には入っていましたが、請求しませんでした(請求すれば「支出」より「収入」の方が多くなったのだが)。
ただ、このがん保険不要論に関しては、いろいろと反論もあるようです。著者のような年収3000万円の人ならともかく貯えや収入の少ない人や無い人の場合はどうか、がんの種類によっては効果のある薬はあるが、薬価が日額で何万円もするほど高額で、経済的理由から治療を諦める患者が少なからずいること、若くでまだまだ生きて働きたい患者ならば、生きている間ずっと医療費がかかり続ける可能性あること、などがその理由です。ただし、著者も、がん保険を全否定しているわけでなく、安心ではなく、必要性で判断すべきだとしています。
第3章では、癌になって癌になって分かった、どうでもいいことと大切なことについて書いています。頭髪が抜け落ちる問題については、悩ましい問題ではあるが、こだわりを捨てればコストが節約できる例だとしています。また、地位的競争から降りることの幸せを説いています。増え続けた持ち物もできるだけ減らし、衣類は、極論すれば夏冬一着だけでいいと。
著者は、癌の再発で「持ち時間」というもの意識するようになったといいます。「仕事は10年に一度リニューアルせよ」と言っています。これが、癌の再発で、2年間の活動期間で何をすべきか、半年しか保障できないと
言われてどうするか、このあたりはまさに著者の実体験であり、切迫感があります。仕事を減らしてばかりいては元気が出ないとしています。癌闘病中の経済アナリストの森永卓郎(1957年生まれ)氏(2025年1月逝去)などは、本を出したりYouTubeなどによく出ていたりして、この路線ではないでしょうか(そう言えば山崎元氏もYouTubeなどによく出ていた)。それから、自分が会いたい人だけに会うとも述べています(ご尤も)。
第4章では「山崎式・終活のセオリー6箇条」を説いています。それを纏めると、①なるべく長く働く、②住居は縮小し、モノを減らしてシンプルに暮らす、③便利な場所に暮らす、④介護が必要になったら、施設へ、⑤相続は、本人のアタマがしっかりしているうちに、明確に決める、⑥お墓・お寺と縁を切って、弔いはシンプルに、の6つです。
第4章では、お金より大事なものにどうやって気づくかを説いています。お金に関するアドバイス(お金に感情を振り回されない、運用に思い入れを持ち込まない、予想と希望を混同させない)などは、さすが専門家の金言とも言え、さらに、ビル・パーキンスの『DIE WITH ZERO』 ('20年/ダイヤモンド社)を引いて、お金は「増やし方」よりも「使い方」こそが大切だとしています(この本、『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』でも参照されていた。影響力"大"!)。「FIRE」に対し"守銭奴"型であると疑念を呈し、「幸せになるには、他人の好かれる人間になるのが近道」と結論づけています。お金の損得よりも、自分が持っている「信用」の方が大切だとも言っています。
この著者のこれまでの読者には、お金をどうやって増やすかという方法論的観点から著者の本を手にした人が多かったのではないでしょうか。その著者が最期にお金より大事なものにどうやって気づくかを説くことになったのは、自らが癌による余命宣告を受けたためとは言え、皮肉と言えば皮肉なこと。ただし、こうして本になって世に出たのは良かったと思います。
●著者プロフィール
山崎元(やまざき・はじめ)
経済評論家。専門は資産運用。1958 年北海道生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。野村投信、住友信託、メリルリンチ証券、楽天証券など12 回の転職経験を持つ。連載記事やテレビ出演多数。著書に『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』(水瀬ケンイチとの共著、朝日新書)、『超改訂版 難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』(大橋弘祐との共著、文響社)、『経済評論家の父から息子への手紙――お金と人生と幸せについて』(Gakken)など。2024 年逝去。
《読書MEMO》
●本書の内容
第1章 癌患者と投資初心者は似ている
ステージIII、「真面目な癌患者になろう」
情報を、拾うか、捨てるか
上機嫌な癌患者でありたい
第2章 がん保険はやっぱり要らなかった
治療にかかったお金はいくら?
「不安に対処する」ための保険は賢くない
加入していい保険の条件
第3章 癌になって分かった、どうでもいいことと大切なこと
悩ましい頭髪の問題
わが物欲生活と身辺整理
再発、意識する持ち時間
癌患者には親切にしないで
第4章 山崎式・終活のセオリー6箇条
最晩年の住まいと介護を考える
お金を守る超合理的相続対策
「墓なし・坊主なし」のわが家の弔いルール
第5章 お金より大事なものにどうやって気づくか
〝善意の愉快犯〞として生ききる
お金は「増やし方」より「使い方」こそ大切だ
「幸福」を決めるたった一つの要素
「お金より大事なもの」にどうやって気づくか
最終章 癌の記・裏日記