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「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」。だんだん「法話」みたいになってくる。
『死は存在しない ― 最先端量子科学が示す新たな仮説 (光文社新書)』['22年]
本書では、最先端量子科学に基づくとされる「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」というものを紹介しています。それは、一言で述べるならば、この宇宙に普遍的に存在する「量子真空」の中に「ゼロ・ポイント・フィールド」と呼ばれる場があり、この場に、この宇宙すべての出来事のすべての情報が「記録」されているという仮説です。この説によれば、我々の意識などもすべてそこに記録されているということです。
「以心伝心」「予感」「予知」「シンクロニティ」など現在の科学で証明できない「不思議な現象」も、すべてこの「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」で説明できるとのことで、フィールドに「ホログラム原理」で記録されている「すべての波動」は「部分の中に全体が宿る」ホログラム構造のため、そこにアクセスすることで情報を得ることができるとしています。「前世を記憶する子どもたち」といったような不思議な話も、彼らが何らかのかたちでに「ゼロ・ポイント・フィールド」にアクセスして情報を得ているからだろうと(誰かが「クラウド」と言っていたが、簡単に言えばそんな感じか。でも、どうやってアクセスしているのかが本書では書かれていない)。
では、我々が死んだらどうなるのか。肉体の死後、「自我意識」はしばらくこの世を漂った後、ゼロ・ポイント・フィールド内の「深層自己」に移って生き続けていき、フィールド内では「自我」の意識が消えていき、苦しみも消失し、至福に満たされた世界に向かっていって、言わば「宇宙意識」のようなものに取り込まれていくらしいです。
読み始めた時は科学的な話なのかなと思いましたが(著者は科学者である)、「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」についてのそう突っ込んだ科学的な解説は無く、「仮説」でありながらも(まあ、すべての科学は仮説だと言えるが)、もう「ゼロ・ポイント・フィールド」があるものとして、話がどんどん進んでいっているように思いました。
様々なメタファーや類似概念を用いて(「惑星ソラリス」のようなSF映画なども例に引き)説明していますが、これまで宗教家やスピリチュアリストらが語ってきたことをうまく科学と辻褄合わせをしているように読み取れなくもなく、これはこれで(「霊」という言葉の代わりに「意識」という言葉を用いた)ある種の宗教のようでもあり、少なくともスピリチュアルな話であるように思いました。
興味深い話ではありましたが(最近「死」をテーマにした著作が多い、医師で作家の久坂部羊氏もそう述べていた)、後半にいけばいくほど、「祈り」の意味とか「裁き」の心を捨てることとか、どんどん「法話」みたいになっていって、最後は〈科学〉と〈宗教〉はやがて一つになると言っており、これが著者がいちばん言いたかったことなのかとも思いました(結局、〈宗教〉入ってる?)。
「最先端量子科学が示す新たな仮説」というサブタイトルは嘘ではないでしょうが、あまり「最先端量子科学」という言葉に振り回されない方がいいかも。前著を見れば『運気を磨く―心を浄化する三つの技法』(光文社新書)とかあるので、まあ、その流れの言わば『「田坂」本』と思って読むと、それほど違和感ないのかもしれません。
『死は存在しない ― 最先端量子科学が示す新たな仮説 (光文社新書)』['22年]/『運気を磨く 心を浄化する三つの技法 (光文社新書) 』['19年]/『人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」 (光文社新書) 』['16年]/『教養を磨く 宇宙論、歴史観から、話術、人間力まで (光文社新書 1263) 』['23年]/『知性を磨く― 「スーパージェネラリスト」の時代 (光文社新書) 』['14年]/『運気を引き寄せるリーダー 七つの心得 危機を好機に変える力とは (光文社新書) 』['14年]