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紀行スケッチ(挿絵)集。繊細な筆で描かれた絵が「水墨画」っぽく、味わいを出している。
『中国の運河: 蘇州・杭州・紹興・上海』['86年]『中国の市場: 北京・大同・洛陽・西安』['86年]安野光雅
安野光雅(1926-2020)『中国の運河』と『中国の市場』は共に1986(昭和61)年に刊行された「紀行スケッチ集」とでも言うべき画集です。もともとは、清岡卓行の朝日新聞連載小説『李杜の国で』('86年/朝日新聞社)の挿絵として描かれたものになります。
『中国の運河』は、サブタイトル通り、蘇州・杭州・紹興・上海を巡って、40点のスケッチを収めていますが、蘇州が12点、杭州が4点、紹興が9点、上海が8点、他に、柯橋が6点などとなっています。この「柯橋」を安野氏は「東洋のベニス」としていますが、蘇州のことをそう呼ぶ人もいて、柯橋は地名としてあまり知られていないため、サブタイトルには入れなかったのかもしれません。上海も、埃っぽい街という印象が昔からありましたが、一方で、人々は川と一緒に暮らしているのだなあと。
そう言えば、「中国第6世代」映画監督の婁燁(ロウ・イエ)の長編第3作「ふたりの人魚」 ('00年/中国・独・日本)の原題は「蘇州河」でした(舞台はロウ・イエ監督の出身地である上海)。周迅(ジョウ・シュン)演じるヒロインは、蘇州河に高所から後ろ向きで飛び込むのだったなあ(泥川で結構大きい)。
運河以外の絵も多くありますが、やはり繊細な筆で描かれた水辺の絵が「水墨画」っぽく、いい味わいを出しています("自然"と"人工"が一体化した中国っぽい感じ)。
『中国の市場』の方も同様に良く、サブタイトルに北京・大同・洛陽・西安とあるように、全40点のスケッチのうち、北京の風景が20点近く、大同が10点が近くを占め、洛陽が5点ぐらい、西安が2、3点ぐらいとなっていますが、あとがきによれば北京にいたのは5日間ということで、その間に20点近くとなると、かなり精力的に描いているのだなあと思いました。
どちらも家の屋根瓦の描き方など精緻なところは精緻ですが、『旅の絵本』シリーズのかっちりした筆致ではなく、デッサンっぽいタッチであり、これはこれでいいなあと思いました。
福音館書店から刊行されている『旅の絵本』シリーズよりは、同じ朝日新聞社から刊行されている『フランスの道』('80年)などの"「世界の旅」シリーズ"に近い筆致で(それよりさらにラフか)、スケッチイラスト付きの紀行エッセイという体裁も同じ。ただし、新聞連載小説の挿絵として描かれたものであるということもあって、安野光雅自身の文章の量は添え書き程であってそう多くなく、『フランスの道』に比べ「イラスト(スケッチ・挿絵))集」の色合いがこちらの方は濃いと思われます。