2024年6月 Archives

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アンチエイジング研究の最前線を「俯瞰」乃至「概観」。

『老化は治療できるか』.jpg老化は治療できるか.jpg老化は治療できるか (文春新書 1432)』['23年]

 世界中のIT長者たちが老化制御ビジネスに巨額の資金を投じているが、果たして本当に老化は防げるのか? 若返りを可能にする物質はあるのか?-本書は、ノンフィクション作家が、アンチエイジングの最前線を追った本です。

 第1章では、人間の平均最大寿命は115歳とした論文を紹介する一方、平均寿命は延びているのに最大寿命はほとんど延びていないとしています。ゲノム編集によって伸ばす可能性もありますが、それを許すかどうかは社会が決めることだと。さらには、老化の原因とされる「老化細胞」を除去する研究も、ネズミのレベルでは行われていると。ただし、老化と死はプログラムされているとも。

 第2章「不老不死の生物の謎」では、老化しない動物「ハダカデバネズミ」や死なないクラゲ「ベニクラゲ」の謎を探っています。一方。老化というのは均質的に進行するのではなく、34歳、60歳、78歳の3つの段階で急激に進行し、このことからも、老化は遺伝的にプログラム化されているのではないかと。

ライフスパン.jpg 第3章「究極の「若返えり物質」を求めて」では、古来人はそうした物質を追い求めてきたが、ここでは、今アンチエイジング研究で話題になっている血液中の「NⅯN」という、老化によって衰える機能を活性化するという物質について述べています。ただし、老化を「病気」とした『LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界』の著者のハーバード大学のデビッド・シンクレア教授が急先鋒ですが(日本人ではワシントン大学の今井眞一郎教授)、そのシンクレア教授でさえ、その"特効薬"の点滴には反対しているとのこと、ただ、今井教授は、「100歳まで寝たきりにならず、120歳くらいまでには死ぬという社会は、10年、20年後には来ると思う」と。
デビッド・シンクレア『LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界』['20年]
久坂部 羊 氏.jpg 因みに、文藝春秋より本書『LIFESPAN』の書評の依頼をされた作家の久坂部羊氏(この人はずっと、安易な長寿礼賛を批判し続けている)は、一般の読者には、酵母やマウスでの実験が人間にすぐに応用できるのかということは些細な問題になってしまい、「希望にあふれた著者の主張を信じ、恍惚となるにちがいない」とし、最後に「本書はどこにも嘘は書いていない。あるのは都合のいい事実と、楽観主義に貫かれた明るい見通しだ。万一、本書に書かれたことが実現するなら、この世はまちがいなくバラ色になる」と、かなり皮肉を込めて締め括っています(「週刊文春」2020年12月24日号)。

 第4章「問題は「脳」にある」では、110歳以上生きたスーパーセンチュリアンの頭脳は、認知機能が高く保たれていたとし、その謎はまだ解明されていないが、脳の細胞に可塑性が備わっていることが考えられるとしています。また、有酸素運動をしながら頭を使うといったデュアルタスク運動が、認知症予防にもなるという研究成果も。さらには、半導体に記憶をアップロードするというSFのような発想についての思考実験もあると(ただし、不老不死は楽園なのかという問題もある)。

 第5章「科学が解明した「長寿の生活習慣」」では、睡眠の大切さを説き、「レム睡眠」の減少は認知症リスクであるとか、体内時計の狂いで免疫力が低下するということが述べられています。最後に、「バランスの良い生活」をするための6要素として、「喫煙・受動喫煙」「飲酒」「食事」「体格」「身体活動」「感染症」を挙げ、「社会的つながり」が寿命を延ばすとしています。

 第6章「「長生きする老後」をどう生きるか?」では、運動で幸福度を上げるという考え方を紹介しています。軽く息切れする程度の運動を日々の生活の中で習慣化することだと。あとは多様性のあう食事と、「好きなこと」に熱中すること、重要なのは「主観的幸福感」であると。モチベーションを維持するには、もう一度「思春期」を取り戻すのがよいと。

『なぜヒトだけが老いるのか』2.jpg いろいろな研究者のいろいろな話を訊いて、やや総花的になった感じもあり(いきなり専門用語が出てくる傾向もあった)、また、先に読んだ小林武彦『なぜヒトだけが老いるのか』(講談社現代新書)同様、最後は人生論的エッセイみたいなった印象も受けました。ただ、「老化抑制」研究の最前線を「俯瞰」乃至「概観」するという、科学ジャーナリスト的な役割は一応果たしているように思います。

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前半は生物学だったのが、後半は社会学的エッセイ(シニア応援歌)になってしまったが、楽しく読めた。
『なぜヒトだけが老いるのか』.jpg『なぜヒトだけが老いるのか』2.jpg 『生物はなぜ死ぬのか』.jpg
なぜヒトだけが老いるのか (講談社現代新書)』['23年]
生物はなぜ死ぬのか (講談社現代新書 2615)』['21年]
 『生物はなぜ死ぬのか』('21年/講談社現代新書)がベストセラーになった著者の第2弾(第1弾の『生物はなぜ死ぬのか』の内容は、この『なぜヒトだけが老いるのか』の第1章に集約されているので、ここでは詳しく取り上げない)。因みに著者は、生命の連続性を支えるゲノムの再生(若返り)機構を解き明かすべく日夜研究に励む学者であるとのことです。

 第1章「そもそも生命はなぜ死ぬのか」は、前著『生物はなぜ死ぬのか』のおさらいで、「なぜ死ぬのか」ではなく、死ぬものだけが進化できて、今存在しているのだとしています。我々は死ぬようにプログラムされて生まれてきたのだと。ここから、死の前段階としての老化の生物学的意味と、幸福に老年期を過ごす方法を考えていきます。

 第2章「ヒト以外の生物は老いずに死ぬ」では、サケが産卵・放精後に急速に老化して死ぬことに代表されるように、野生の生き物は基本的に老化せず、長寿で知られるハダカデバネズミにも老化期間は無く、また、ヒト以外の陸上哺乳類で最も寿命が長いゾウも、ガンにもならないし、傷ついたDNAを持つ細胞を排除する能力があって、結果的に「老いたゾウ」はいないと。

 第3章「老化はどうやって起こるのか」では、老化の原因は、その傷ついたDNAを持つ細胞が居座り続けるからであると。著者は、ヒトの寿命は本来55歳くらいで、それよりも30年程度生きるのは、例外的なことであるとしています。

 第4章「なぜ人は老いるようになったのか」では、人生の40%は生物学的には「老後」だが、ゴリラやチンパンジーにさえ「老後」は無く、哺乳類では、クジラの仲間のシャチやゴンドウクジラだけ例外的に「老後」があると。ヒトに「老い」があるのは、「シニア」がいる集団は有利は有利だったためで、「老い」が死を意識させ、公共性を目覚めさせるのではないかとしています。

 第5章「そもそもなぜシニアが必要か」では、シニアまでの「競争→共存→公共」を後押しするのが「老化」であり、長い余生は、自分がのんびり過ごすためだけにあるのではなく、世の中をうまくまとめる役目もあると。

 第6章「「老い」を老いずに生きる」では、生物学的に考えると、人の社会は、若者が活躍する「学びと遊びの部分(クリエィティブ層)」とシニアが重要な役割を担う「社会の基盤を支える部分(ベース層)」の2層構造になっており、社会に対してシニアしかできないこともあるし、シニアが社会の中で存在感を示せば、「生きていればいいことがある」と思えるかもしれないと。

老年的超越.jpg 第7章「人は最後に老年的超越を目指す」では、老年的超越の心理的特徴(宇宙的・超越的・非合理的な世界観、感謝、利他、肯定)を紹介し、その生物学的な意味を考察し、そこに至る70歳~80歳くらいが人生で一番きついかも、としています。

 純粋に生物学の本かと思って読み始めたけれど、前半は生物学でしたが、後半は社会学的エッセイ(もっと言えばシニア応援歌)になってしまったような気がしました。本書にも出てくる「おばあちゃん仮説」の拡張版みたいな感じもしました。しかしながら、全体を通して楽しく読めました。


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吉田ルイ子のキャリアの原点的な写真集。

『ハーレム』.jpg吉田ルイ子1.jpg
ハーレム 黒い天使たち』['74年]吉田ルイ子(1934-2024)

吉田ルイ子2.jpg 先月['24年5月]31日に89歳で亡くなった写真家、ジャーナリストのハーレムの熱い日々 (ちくま文庫.jpg吉田ルイ子(1934-2024)の写真集で、ルポルタージュ『ハーレムの熱い日々』('72年/講談社)と並んで、初期の代表作です。(●没後2ヵ月して『ハーレムの熱い日々』はちくま文庫にて文庫化された。)

ハーレムの熱い日々 (ちくま文庫 よ-35-1)』['24年8月9日]

 北海道に生まれ、アイヌの差別を目の当たりにした幼少期がジャーナリストを志すきっかけとなり、慶應大学卒業後は、NHKそしてTBSのアナウンサーを経て渡米。コロンビア大学ではフォトジャーナリズムを専攻し、その頃から写真を撮り始め、ハーレムに居を構え(そう言えばコロンビア大学の東隣りがハーレムである)、愛らしい子供たちのスナップを皮切りに、差別・文化革命の真っ只中にあり、意識の変革にめざめていったハーレムの人々の日常や黒人運動を描写。その一連の記録をまとめた写真集が、1974年に初版が刊行された本書になります。

「ハーレム.jpg その後も、「人種差別」「子供」「女性」などを主なテーマとして、長年写真・テキストを織り交ぜた刊行物を発表してきた彼女でしたが、ニューヨーク在住中に、ハーレムで撮った写真が高く評価され、1968年に公共広告賞を受賞したのがフォトジャーナリストとしてのキャリアのスタートであり、やはりこの「ハーレム」という対象は、彼女の原点的なものと言えるでしょう。

 もともと本人の自意識は「写真家」であり、文章の方は、編集者の強い勧めがあって刊行したようですが、この写真集に添えられた短いテキストは、詩人の木島始(1928-2004)のもののようです。また、ア「ハーレム4.jpgフリカ系アメリカ人の男性と日系人女性との間に生まれた少年"Zulu"との出会いに始まり、少年の視点を織り交ぜながら一冊の写真集に仕上げているのも成功していると思います(Zulu とは長年にわたって手紙などで交流を続け、30数年ぶりに再会し、2012年の写真展「吉田ルイ子の世界」では、お祝いのメッセージが届いたという)。

「人間の証明3.jpg「人間の証明」八田.jpg そう言えば、森村誠一原作の角川映画「人間の証明」('77年/東映)の中で、ハーレムで写真屋を営む三島雪子という女性(演・ジャネット八田)が登場しますが、モデルは吉田ルイ子で(ジャネット八田は身長167㎝だが、吉田ルイ子は150㎝ぐらいと小柄だった)、その吉田ルイ子の撮った写真が背景ほかイメージ画像として使われていました。

ジャネット八田 in「人間の証明」('77年/東映)

【2010年復刻版[サンクチュアリ出版]】

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「葬送」ということについて、さらには「死」について色々考えさせられた。

エンジェルフライト 国際霊柩送還士1.jpg
エンジェルフライト 国際霊柩送還士2.jpg エンジェルフライト 国際霊柩送還士3.jpg 佐々涼子.jpg
エンジェルフライト 国際霊柩送還士』['12年]『エンジェルフライト 国際霊柩送還士 (集英社文庫)』['14年]ドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還」タイアップカバー 佐々涼子氏(1968年-2024年9月1日/56歳没
2024年ドラマ放映(主演:米倉涼子)
エンジェルフライト 国際霊柩送還士ドラマ1.jpg 2012年・第10回「開高健ノンフィクション賞」受賞作。

 異境の地で亡くなった人の遺体を、国境を越えて故国へ送り届ける「国際霊柩送還士」の姿を通し、死のあり方を見つめるノンフィクション作品。やっていることは「エンバーミング」なのですが、「葬送」ということについて、さらには「死」についていろいろ考えさせられる内容でした。

 取材対象となった国際霊柩搬送業者エアハース・インターナショナルは、海外で亡くなった人の遺体の日本への帰国と、日本で亡くなった外国人の遺体を母国へ送還することを主に行っています。

 タイトルでも使用されている「エンジェルフライト」は、天使が霊柩(棺)を運んでいる図柄のエアハース社のシンボルマークで、「国際霊柩送還士」という言葉(公的資格などの名称ではない)と併せて、登録商標だそうです。今はどうか分からないですが、取材当時、きちんとした会社としてこうした仕事をしているのは日本ではこの会社だけで、よく知られている海外の事件などの犠牲者の多くを、この社が扱っていたことが本書から窺えます。

 著者は約1年かけて創業者や社員、遺族などへの取材を重ね、時には遺体搬送の現場に立ち会い、エアハース・インターナショナルが手がける国際霊柩送還士という仕事の本質に迫っています。ただし、最初は社長の木村利惠氏から「あなたに遺族の気持ちが分かるんですか。あなたに書けるんですか」と言われて断られ、取材の許可が下りたのは、取材を申し込んでから4年ぐらい経ってからだそうで、この粘りに感服します。

 会社設立は'03年で、本書を読むと、現場はいつも緊急事態の連続のような感じで、当初はとても取材など受ける状況ではなかったのと、木村利惠氏のこの仕事への思い入れから、中途半端な取材はされたくないという思いがあったのではないでしょうか。

 この著者の取材方法には、対象の中に自分自身が入っていくところがあって、自分自身の親の看取り体験などの話も出てきますが、著者自身も取材対象に入り込んでいくタイプだったのがこの場合良かったのかもしれません。

 本書は「開高健ノンフィクション賞」を受賞し、「国際霊柩搬送士」という仕事が世に広く知られるようになるましたが、さらに'23年3月17日からAmazon Primeにて、本作を原作とし、米倉涼子を主演とした配信ドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(全6話)が配信されました。そちらの方は今でも視聴可能なのですが、今月['24年6月]9日よりNHK BSプレミアム4KおよびNHK BS「プレミアムドラマ」枠でも放送されるので、テレビ版の方を観たいと思います(BSでの放送に際しては、プレミアムドラマの放送枠(50分)に合わせられるよう再編集されたとのこと)。

《読書MEMO》
「エンゼルフライト.jpg●2024年ドラマ化【感想】脚本はエピソード的にはオリジナルで、フィリピンなどでの海外ロケも含め、かなりしっかり作られている感じ。やや、泣かせっぽい感じもあり、一方でコミカルな要素も加わっているが、「エンゼルフライト2.jpgテレビドラマにするなら、こうした味付けも必要なのかも。米倉涼子が主演で、(エンバーミングの)施術シーンがあり、遠藤憲一まで出ているので、ついつい「ドクターX」を想起してしまい、米倉涼子の演技にも当初それっぽいものを感じた。ただ、「ドク「エンゼルフライト3.jpgターX」と異なるのは、米倉涼子がエンジェルフライト 国際霊柩送還士ドラマ2.jpg泣く場面が多いことで、彼女自身の後日談によれば、脚本上泣かなくてもよいシーンでも涙が出てきたとのこと。それは他の俳優陣も同様のようで、それだけ脚本が上手くできていたということにもなるのだろう。反響が当初の予想以上に大きいことを受け、続編の製作が決まったと聞く。

  
エンジェルフライト 国際霊柩送還士ドラマ3.jpgエンジェルフライト 国際霊柩送還士」●脚本:古沢良太/香坂隆史●監督:堀切園健太郎●音楽:遠藤浩二●原作:佐々涼子●時間:49分●出演:米倉涼子/松本穂香/城田優/矢本悠馬/野呂佳代/織山尚大(少年忍者・ジャニーズJr.)/鎌田英怜奈/徳井優/草刈民代/向井理/遠藤憲一●放映:2024/03~07(全6回)●放送局:NHK-BSプレミアム4K/NHK BS(2023年3月17日からAmazon Prime Videoで配信)

エンジェルフライト 国際霊柩送還士 全6.jpg第1話「スラムに散った夢」(葉山奨之・麻生祐未)

第2話「テロに打ち砕かれた開発支援」(平田満・筒井真理子)


第3話「社葬VS食堂おかめ」(余貴美子・菅原大吉)

第4話「アニメに憧れたベトナム人技能実習生」(近藤芳正・濱津隆之)


第5話「那美VS究極の悪女」(松本若菜・二役)

第6話「母との最期の旅」 (草刈民代・飯田基祐)


【2014年文庫化[集英社文庫]】

●文庫Wカバー版
エンジェルフライト 国際霊柩送還士w.jpg

佐々 涼子2.jpg佐々涼子(ささ・りょうこ)
2024年9月1日、悪性脳腫瘍のため死去。56歳。
「エンジェルフライト」や「エンド・オブ・ライフ」など生と死をテーマにした作品で知られる。

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ベテランの日本軍事史研究家が、プーチン戦争の野望と誤算の全貌を解明。

ウクライナ戦争の軍事分析 (新潮新書).jpg
 秦郁彦.jpg 秦 郁彦 氏       なぜ日本は敗れたのか.jpg
ウクライナ戦争の軍事分析 (新潮新書) 』['23年]  『なぜ日本は敗れたのか―太平洋戦争六大決戦を検証する (洋泉社新書y) 』['01年]

 ベテランの軍事史研究家(専門は日本軍事史が専門)が、進行中のウクライナ戦争について、これを「プーチン戦争」と定義し、その野望と誤算の全貌の解明を試みた本です。

 著者は、ヒトラーやスターリンがそうだったように、プーチンといえども軍事作戦の行方を恣意的に操作できるものではなく、ウクライナ戦争の経緯を、「何が起きたのか、なぜそうなったにかを過不足なしに記述する」(ランケ)ことに徹したいと念じたとしています。

 全5章構成の第1章では、ウクライナ戦争がどのように始まったかを、侵攻初期のキーウ争奪戦を中心に分析し、プーチンの「特別軍事作戦」とその誤算について解説しています。

 第2章では、その前史である9世紀から21世紀までの歴史を辿り、第3章では、2022年末までのウクライナの東部と南部戦場の攻防を中心に扱っています。

 第4章では、分野別に、航空戦、海上戦、兵器と技術のほか、米国やNATOの対ウクライナ支援や対露制裁などを概観しています。

第5章では、2023年の年初から4月末に至る戦況を辿り、さらに、和平への道を展望しています。その中では、和平をめざすAからDまで4つのシナリオを示していて、どのシナリオならばの本が存在感を示せる機会があるかまで探っています。

 あとがきによれば、執筆は開戦から2か月ばかりして、リアルタイムで書いたものが、1年後に再読しても古びていないため、一字も直していないとのことです。

 また、この「論考」を、これまで30本以上を寄稿した産経新聞社の「正論」の編集部に送ったところ(著者は'14年に「正論大賞」を受賞している)、担当の論説委員から返事がなく、電話で確認したら「面白くないし、誰もが知っていることしか書いていない」と言われたとのこと、原稿をボツにするしないか、「ボツならば「正論大賞」は返上したい」「勝手もどうぞ」といった遣り取りまであったとのことです。

 新潮新書として日の目を見ることになってよかったですが、日本軍事史が専門の著者が(個人的には著者の『なぜ日本は敗れたのか―太平洋戦争六大決戦を検証する』('01年/洋泉社新書y)』などを読んだ)、90歳にして(著者は1932年12月生まれ)、畑違いとまでは言わないけれど、専門を超えてこうした本を出すというのは稀有なことだと思います。

《読書MEMO》
●目次
第一章 「プーチンの戦争」が始まった
挫折した空挺進攻  「私は首都にふみとどまる」  泥将軍と渋滞の車列  首都正面から退散したロシア軍 ◆コラム◆七二時間目の岐路
第二章 前史――九世紀から二一世紀まで
冷戦終結とソ連解体のサプライズ  クリミア併合の早業  ドンバス戦争の八年  プーチン対バイデン  ロシア軍の組織と敗因  BTGとハイブリッド戦略 ◆コラム◆「さっさと逃げるは......」
第三章 東部・南部ウクライナの争奪
ドンバスへの転進  ドネツ川岸の戦い  南部戦線の攻防  ウ軍反転攻勢の勝利  ロシアの四州併合と追加動員  ヘルソン撤退と「戦略爆撃」 ◆コラム◆「軍事的敗北と破産は突然やってくる」
第四章 ウクライナ戦争の諸相
航空戦と空挺  海上戦  「丸見え」の情報戦  兵器と技術(上)――戦車と重砲  兵器と技術(下)――ミサイルと無人機  ウクライナ援助の波  制裁と戦争犯  罪と避難民  ◆コラム◆「キーウの亡霊」伝説  ◆コラム◆戦車の時代は去ったのか?  ◆コラム◆あるドローン情報小隊の活動  ◆コラム◆使い捨てカイロを支援
第五章 最新の戦局と展望
膠着した塹壕戦の春 今後の戦局とシナリオ 平和への道程は ◆コラム◆ブフレダルの戦い ◆コラム◆ゼレンスキー(コメディアン)対プーチン(スパイ)

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ジュニア新書だが、原発事故とその後の実態は、大人でも読んで初めて知ることが多いのでは。

原発事故、ひとりひとりの記憶.jpg原発事故、ひとりひとりの記憶2024.jpg  母子避難.jpg 孤塁.jpg
原発事故、ひとりひとりの記憶 3.11から今に続くこと (岩波ジュニア新書 981) 』['24年]『ルポ 母子避難―消されゆく原発事故被害者 (岩波新書)』['16年]『孤塁 双葉郡消防士たちの3.11』['20年]『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11 (岩波現代文庫 社会333)』['23年]
吉田 千亜 氏
吉田 千亜.jpg 2011年3月11日の地震、津波、そして原発事故から10年余、その間、福島と東京を往復し、人々の声に耳を傾け、寄り添い、取材を重ねてきた著者が、あの日から今に続く日々を生きる18人の道のりを伝え、あの原発事故が何だったかを、浮き彫りにすることを試みた本です。

 第1章「原発から3kmの双葉町で」では、双葉町で牧畜を営んでいた人などに取材し、原発の近くにいた人ほど、逃げるためにいち早く知るべき情報が、まったく伝えられていなかったことが窺えます。

 第2章「原発から60kmの郡山市で」では、著者が『ルポ 母子避難―消されゆく原発事故被害者』('16年/岩波新書)でも扱った、当時母子のみで避難することになった人を追っていますが、そのことが離婚の原因となり、シングルマザーになってしまった人もいるのだなあ。

 第3章「原発から40kmの相馬市で」では、避難をせず、東電や国の責任を訴え裁判を闘った人を追っていますが、最高裁は「国の責任を認めない」との判決を言い渡し、国家賠償責任は退けた...。国策だった原発の事故なのにです。

 第4章「避難指示が出なかった地域で」では、住民たちが自分たちで放射線量を測定する組織を立ち上げた話を紹介。何せ、「ニコニコしていれば放射能は来ない」などと宣(のたま)う御用学者(山下俊一氏)がいたりしたからなあ。

 第5章「原発から20km圏内で」では、これも著者が『孤塁―双葉郡消防士たちの3.11』('20年/岩波新書、'23年/岩波現代文庫)でも扱った、原発事故発生当時、原発構内での給水活動や火災対応にもあたった双葉消防本部の消防士たちの証言を集めています。当時、職責以上のことをしていたのに公に知られることなく、そして今は被曝の後遺症の不安を抱え続けているという、何とも理不尽!

 第6章「あの原発事故は防げたかもしれなかった」では、津波は予見でき、対策をすれば原発事故は回避できたのではないかということが、東電内で「社員が津波対策を考えていた」ということからも窺えるとしながら、なのに裁判(最高裁判決)では、経営者側の「自分に責任はない」という言い分がと通ってしまったとしています。まさに「唖然」。最高裁は東電の味方なのだなあ。

 第7章・第8章では、原発事故当時子どもだった人々を取材して被曝後遺症の不安を聴くとともに、実際に甲状腺がんに罹患した子どもたちの声を集めています。第9章・第10章では、区域外避難者たちの苦難や、国の補助が限定的であったり、どんどん打ち切られたりしていることの問題を取り上げています。

 ジュニア新書ですが、本書にある原発事故とその後の実態は、大人だって本書を読んで初めて知ることが多いのではないかと思われます。こうして見ると(除染費用とか補償費用とか、住みたいところに住めないという経済的損失などから考えると)原発ほどコストのかかるエベルギー源はないように思います。それでも国としては、原発事故後に導入された運転期間を原則40年に制限する制度(40年ルール)を見直し、緩和する動きがすでに出ています。

原発推進のために、更なる税金が投入される...。喩えはおかしいかもしれませんが、負け賭博にどんどん金をつぎ込んだ人物を思い出してしまいました。

《読書MEMO》
●目次
1章 原発から3kmの双葉町で―「もう帰れないな」と思った
2章 原発から60kmの郡山市で―母子避難を経て
3章 原発から40kmの相馬市で―避難をせず、裁判を闘う
4章 避難指示が出なかった地域で―地元を測り続ける
5章 原発から20km圏内で―原発のすぐ近くで活動を続けた人たち
6章 あの原発事故は防げたかもしれなかった
7章 原発事故と子どもたち
8章 甲状腺がんに罹患した子どもたち―「誰にも言えずに」「当事者の声を聞いて」
9章 区域外避難者たちの苦難―住宅供与の打ち切り
10章 原発事故の被害の枠組みを広げる

●著者プロフィール
吉田千亜[ヨシダチア]
1977年生まれ。フリーライター。福島第一原発事故後、被害者・避難者の取材、サポートを続ける。著書に『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』(岩波書店)にて、本田靖春ノンフィクション賞(第42回)、日隅一雄・情報流通促進賞2020大賞、日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞を受賞。

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高校生による「ウクライナ戦争」についての座談会記録。取り組みは素晴らしい。

10代が考えるウクライナ戦争.jpg10代が考えるウクライナ戦争 (岩波ジュニア新書 963)』['23年]

 若い世代の感性が、この戦争をどう受け止めたかという生の声が聴けるのがいいです。みんなしっかりした意見を持っているなあと思いました。ただ、ファシリテーターの力量にもよるのかもしれませんが、やや整理しきれないまま拡散気味に討議が終わってしまった印象のものもあったように思います。良かったのは、最初の東京都立国際高校と、最後の玉川聖学院でしょうか。

 国際高校の場合、学校の性質上、10人ほどの討議参加者の中に、ウクライナから避難民として来た転入生や、さらに外国人やハーフの生徒もいて、個々の発想が多角的で、若い人の間にもさまざまな考え方があることに気づかされました。

 一方、玉川聖学院は女生徒5人ほどでの討議でしたが、ひとりひとりの知識と意識が深かったように思います(ここもメンバーのうち1人は外国人)。学校のホームページを見ると、教育の3つの柱として「かけがいのない私の発見」「違っているから素晴らし」といった言葉が見られました。

 巻末に、ロシア文学者の奈倉有里氏の「ウクライナ情勢をどう見るか―学問と文化の視点から」があり、さらに、ジャーナリストの池上彰氏の「21世紀の理不尽な戦争をどう考えるか」が付されていて、どちらも本書の要を得た解説になっています(また、最後に、「戦争と平和を考えるためのブックガイド」が付されおり、この中に『同志少女よ、敵を撃て』('21年/早川書房)などもある)。

池上彰.jpg 池上彰氏は、高校生諸君はいずれも優秀で(自分もそう思った)、さまざまな状況をしっかり把握しているが、戦争を理解する上での「正解」はなく、「正しい答え」を追い求める発想にとらわれているいうに感じたとしており、さすが池上氏だなあと。外国人が討議メンバーにいる高校と、日本人生徒のみの高校で、後者の方が参加者の意見が均質化しているように、個人的には思いました。

 ただ、こうした取り組みは素晴らしいことであり、直接こうした討議に参加する機会が無くとも、本書を通じて、この戦争についてより深く考える若い人が増えることも考えられるので、大変いいことではないかと思います。

《読書MEMO》
●目次より
はじめに
いま、私たちにできること.........東京都立国際高等学校
歴史を学ぶ、言葉を学ぶ.........早稲田佐賀高等学校
ウクライナ人少女との交流から.........愛知県立豊田南高等学校
この戦争とどう向き合うか.........渋谷教育学園渋谷中学高等学校
知ることが大事.........玉川聖学院高等部
ウクライナ情勢をどう見るか――学問と文化の視点から.........奈倉有里
二一世紀の理不尽な戦争をどう考えるか.........池上 彰

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今回の戦争を俯瞰するには良い。「古い戦争」であるとの指摘がユニーク。

ウクライナ戦争 (ちくま新書 1697).jpg小泉悠.jpg 小泉 悠 氏 講演中の小泉 悠 氏.jpg 講演・質疑応答中の小泉氏('24.7.10 学士会館)講演テーマ「ロシア・ウクライナ戦争と日本の安全保障」
ウクライナ戦争 (ちくま新書 1697)』['22年]

 2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、ウクライナ戦争が始まりました。同年11月刊行の本書は、今やマスコミ・講演会等で引っ張りだこの軍事研究者(自分も来月['24年7月]その講演を聴きに行く予定)が、このウクライナ戦争について'22年末に書き下ろしたものです(本書では、2014年3月のロシアによるクリミア侵攻を「第一次ウクライナ戦争」とし、今回の侵攻を「第二次ウクライナ戦争」としている)。2024(令和6)年・第17回 「新書大賞」第8位。

 第1章(2021年1月~5月)で2021年春の軍事的危機を扱い、第2章(2021年9月~2022年2月21日)で開戦前夜の状況を振り返って、戦争への道がどのように展開していったかを解説しています。

 第3章(2022年2月24日~7月)で開戦からロシアの「特別軍事作戦」がどのように進行したかを、第4章(2022年8月~)で本書脱稿の2022年9月末まで、戦況がどのように推移していったか、そこで鍵を握った要素は何であったかを分析しています。

 そして第5章では、この戦争をどう理解すべきか、この戦争の原因なども含め考察しています。

 このように、開戦前の状況を含め、開戦から半年後までのウクライナ情勢が良くまとめられており、開戦から2年強を経た今見返すと、今回の戦争というものをある程度〈体系的〉に把握できます。今回の戦争を俯瞰するには良い本だと思います。

プーチン.jpg 読んでみて思ったのは、これはやはりプーチンが起こした戦争であるということ、また、いろいろな不確定要素(特にアメリカの姿勢など)があり、先を読むのが難しいということです。

 興味深いのは、世間ではこの戦争は、戦場での戦いと「戦場の外部」をめぐる戦い(非正規戦、サイバー戦、情報戦)が組み合わさった「ハイブリッド戦争」であると言われているが、戦争自体は、極めて古典的な様相を呈する「古い戦争」であるとしている点です。

 無人航空機などのハイテク技術は使われているものの、戦争全体の趨勢に大きな影響を及ぼしたのは、侵略に対するウクライナ国民の抗戦意識、兵力の動員能力、火力の多寡といった古典的要素だとしています。

 そうなると、なおさらのこと、NATOやアメリカの、この戦争に対する関わり方というのがかなり今後の戦況に影響を及ぼすのではないかとも思います(結局、「戦場の外部」の概念を拡げれば、広い意味での「ハイブリッド戦争」ということにもなるか)。

ドナルド・トランプ.jpg 因みに、ドナルド・トランプは、今年['24年]11月のアメリカ大統領選に向けたテレビ討論会では、「これは決して始まってはならなかった戦争だ」と言い、ロシアのプーチン大統領の尊敬される「本物の米大統領」がいれば、プーチン氏は開戦しなかったとして、ウクライナ危機はバイデン氏の責任だとする一方、ウクライナのゼレンスキー大統領を「史上最高のセールスマン」と述べ、米国はウクライナに巨額の資金を費やしすぎだとし、自らが当選すれば、大統領に就任する前に、戦争を止めてみせると豪語しています(これまた大風呂敷のように思える)。

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双葉社刊最終号。「ベスト映画」より「サイテー映画」特集の方が面白さで言えば面白い?

「映画秘宝」2205.jpg   東京暮色  1957.jpg 「ヨーロッパの解放 1970.jpg 「1941.jpg
東京暮色 デジタル修復版 [DVD]」「ヨーロッパの解放 HDマスター 1 <クルスク大戦車戦>(通常仕様) [DVD]」「1941 [DVD]
映画秘宝 2022年5月号 [雑誌]
映画秘宝 2205.jpg 双葉社刊の月刊「映画秘宝」の最終号です。このあと約2年の休刊期間を経て昨年['23年]12月、新たに設立された「合同会社秘宝新社」が雑誌の権利を取得し、今年['24]年1月19日発売の3月号から、月刊誌として約2年ぶりに「再々創刊」されていることは、これまでのこの雑誌の経緯と併せ、前エントリーに書きました。

 最終号が「サイテー映画」特集となるところがこの雑誌らしいです。因みに、1つ前の4月号が「映画猛者101人が選ぶ、2022年オールタイム映画ベストテン!」という特集なのですが、この「サイテー映画特集」でも「新世紀アメリカ・サイテー映画10傑」とか「日本のサイテー映画」といったジャンル別ランキング方式をとっていて、20以上の分野ごとのラインアップを、その分野にこだわりを持つ評論家が挙げており、思いもかけない映画が出てくるあたりは、こちらの方が、役に立つかどうかはともかく(笑)、面白さで言えば面白いかもしれません。
 
東京暮色157a.jpg10『東京暮色』.jpg 因みに、「日本のサイテー映画」(浦山珠夫)には、小津安二郎の「東京暮色」('57年/松竹)が入っていたりしますが、選者の浦山氏は、「サイテー映画の後始末」という視点で、「期待を裏切られてガッカリしたけど、改めて見るとなかなか」という映画を選んだとしています。「東京暮色」についても、主人公が鉄道自殺する、このやりきれなさが味わいなのだが、当時の評価では、「大人はわかってくれない」といった普遍的テーマを小津が扱ったことへの観客の違和感が、「失敗作」のレッテルにつながったとしています(前年にジェームズ・ディーン主演の「理由なき反抗」('55年/米)が日本公開されたりしているのだが)。個人的には小津は、キネ旬のランキングなんか気にせず(この映画は1957年度「キネマ旬報ベストテン」で第19位だったが、笠智衆によれば、小津安二郎自身がそのことを自虐を込めて語っていたようだ)、もっとこういう映画を撮って欲しかったです。評価は○
 
「ヨーロッパの解放.jpg「ヨーロッパの解放」2.jpg 「サイテー戦争映画」(大久保義信)では、4作挙げられているうちの1つが「ヨーロッパの解放」('70年~'71年)であり、これは全5部計468分の大作(7時間48分。観ていて、終いには、どれが何の戦いなのかわからなくなってくる(笑))。第1部は、史上最大の作戦と言われる1943年夏のロシア西部要衝クルクスの戦いがメイン、第2部はハリコフ奪回からドニエプル河渡河そしてウクライナ"解放"へ、第3部は1944年のベラルーシ"解放"戦。第4部はポーランドやチェコスロバキアの"解放"戦、第5部はベルリン戦から終戦へ―大久保氏に言わせると、これらが「史実の歪曲や無視、曲解のオンパレードで描かれる『これそ国策映画』」で、「これじゃ『ヨーロッパの侵略』だろう」としています。ただし、個人的には、初めて観た時はついていくのが精いっぱいで、あまりそこまで考えませんでしたプーチン.jpg評価は△(なるほど、ソ連の頃からロシアは変わっていない。プーチン大統領は「ヨーロッパをファシズムから解放した」ソ連の歴史と、後継国としてのロシアの国際的地位を強調することで、国内で政権への求心力を高めてきた。2022年2月のウクライナ侵攻も、ウクライナ政府はネオナチ思想に毒されており、ロシア系住民を迫害・虐殺しているとして、そのウクライナを「非ナチ化」するためとしてしていることは、次エントリーの小泉 悠『ウクライナ戦争』('22年/ちくま新書)などにも詳しい。)
 
「1941」.jpg「1941」3.jpg 「スティーブン・スピルバーグのダメ映画5選」(尾崎一男)で1位は「フック」('91年)、2位は「1941」('79年)になっています。選者の尾崎氏は、「1941」が駄作の筆頭のイメージがあるが、精緻なサンタモニカ公園のミニチュアや、それを攻撃する「1941」三船.jpg日本軍の奇襲攻撃シーンなどに見るべきところは多く、年を経るにつれてカルト的な評価を得て悪評も薄らいだ感があるとしています。ただし、本分であるコメディ演出は笑えないともしていて(三船敏郎はなぜこんな映画に出てしまったのか)、こちらは個人的には、世間評と同じくスピルバーグの一番の駄作であるように思われ、初めて観た時から評価は×

 「サイテー映画」とされていても、個人的な評価が必ずしも一致しないのは当然なことだし、カルト的人気で評価を挽回しているものもかなり含まれているように思いました。こうした特集にさえ取り上げられない「箸にも棒にも掛からない」映画もたくさんあるわけで、こうした特集に取り上げられるということは、それだけ観た人にインパクトを残したという面もあるように思います。


東京暮色 有馬稲子 .jpg東京暮色_640.jpg「東京暮色」●制作年:1954年●監督:小津安二郎●製作:山内静夫●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:140分●出演:原節子/有馬稲子/笠智衆/山田五十鈴/高橋貞二/田浦正巳/杉村春子/山村聰/信欣三/藤原釜足/中村伸郎/宮口精二/須賀不二夫/浦辺粂子/三好栄子/田中春男/山本和子/長岡輝子/櫻むつ子/増田順二/長谷部朋香/森教子/菅原通済(特別出演)/石山龍児●公開:1957/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):(18-06-28)((評価:★★★★)

「ヨーロッパの解放」03.jpg「ヨーロッパの解放(全5部)」●原題:ОСВОЬОЖЛЕНИЕ(OSVOBODZHDENIE)●制作年:1970-71年●制作国:ソ連●監督:ユーリー・オーゼロフ●製作:エマ・トーマス/チャールズ・ローヴェン/クリストファー・ノーラン●脚本:ユーリー・オーゼロフ/ユーリー・ボンダリョフ/オスカル・クルガーノフ●撮影: イーゴリ・スラブネヴィッチ●時間:468分●出演:ニコライ・オリャーリン/ラリーサ・ゴルーブキナ「ヨーロッパの解放」3.jpg/ミハイル・ウリヤーノフ/イヴォ・ガラーニ/フリッツ・ディッツ/スタニスラフ・ヤスケヴィッチ/ブフティ・ザカリアーゼ●日本公開:(第1部・第2部)1970/07/(第3部)1971/07/(第4部・第5部)1972/08●配給:松竹映配●最初に観た場所:三鷹オスカー(83-12-11)(評価:★★★)

「1941」2.jpg「1941」●原題:1941●制作年: 1979年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作: バズ・フェイトシャンズ●脚本:ロバート・ゼメキス/ボブ・ゲイル●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:118分●出演:ジョン・ベルーシ/ネッド・ビーティ/ダン・エイクロイド/ロレイン・ゲイリー/マーレイ・ハミルトン/クリストファー・リー/ティム・マシスン/三船敏郎/ウォーレン・オーツ/ナンシー・アレン/ジョン・キャンディ/エリシャ・クック/ジェームズ・カーン(クレジットなし)●日本公開:1980/03●配給:コロンビア ピクチャーズ●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(80-07-08)(評価:★★)●併映:「ローラー・ブギ」(マーク・L・レスター)

《読書MEMO》
●1957年度キネマ旬報ベストテン
1.米
2.純愛物語
3.喜びも悲しみも幾年月
4.幕末太陽傳
4.蜘蛛巣城
6.気違い部落
7.どたんば
8.爆音と大地
9.異母兄弟
10.どん底
11.地上
12.あらくれ
13.雪国
14.南極大陸
15.メソポタミア
16.世界は恐怖する
17.風前の灯
18.大阪物語
19.東京暮色
20.正義派
20.くちづけ
22.満員電車
23.黄色いからす
24.殺したのは誰だ
25.糞尿譚
26.女体は哀しく
27.挽歌
27.倖せは俺等のねがい
27.土砂降り
30.明治天皇と日露大戦争

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休刊最終号の1つ前の号。いろいろあったが「再々創刊」された!

「映画秘宝」2204.jpg 映画秘宝 2024年 03 月号.jpg 「ブリット」1968.jpg 「ブリット」10.jpg
映画秘宝 2022年4月号 [雑誌]』(双葉社)『映画秘宝 2024年3月号 [雑誌] 』(秘宝新社)「ブリット」スティーブ・マックイーン
 月刊「映画秘宝」が、約2年の休刊期間を経て昨年['23年]12月、新たに設立された「合同会社秘宝新社」が雑誌の権利を取得し、今年['24]年1月19日発売の3月号から、月刊誌として約2年ぶりに「再々創刊」されています。

映画秘宝 エド・ウッドとサイテー映画の世界』['95年/洋泉社]『映画宝島 発進準備イチかバチか号』['90年/JICC出版局]
「映画秘宝」創刊.jpg「映画宝島」1990.jpg町山智浩.jpg 雑誌「映画秘宝」のあらましを辿ると、1995年に洋泉社で創刊、初代編集者は、今は映画評家として知られる町山智浩氏で、JICC(ジック)出版局(現・宝島社)に早稲田の学生バイトからそのまま入社した後に洋泉社に出向し、そこで「映画秘宝」の流れにつながる「映画宝島」('90年創刊)シリーズを企画しています。1996年に町山氏が退職し、田野辺尚人氏が2代目編集長として刊行を継続、田野辺氏は1993年に思潮社の編集者から洋泉社に転じた人です(このように洋泉社は宝島社との人的交流があったこともあり、1998年に宝島社の子会社となった)。

 「映画秘宝」は、当初「不定期刊」だったのが、1999年5月にA4版の「隔月刊」映画雑誌としてリニューアル、2009年から「月刊」化されています。2020年2月1日付で洋泉社が宝島社に吸収合併され解散するのに伴い、宝島社では継続発行せず、2020年3月号をもって休刊となり、その後、休刊時の編集長だった岩田和明氏が新たに発足させた「合同会社オフィス秘宝」が「映画秘宝」の商標権を取得、岩田氏が編集長として同社による編集、双葉社が発行する形で同年4月発売の6月号より復刊、ただし、それも、岩田氏の「恫喝DM問題」などを経て、2022年3月発売の5月号で、双葉社の刊行物としては休刊しています(休刊時の「合同会社オフィス秘宝」代表は田野辺氏、相談役は町山氏)。

「映画秘宝」2204.jpg「映画秘宝」22042.jpg 本誌2022年4月号は、その双葉社刊の最終号の1つ前の号となり、(表紙は'22年公開の「THE BATMAN-ザ・バットマン-」だが)特集名「映画猛者101人が選ぶ、2022年オールタイム映画ベストテン!」として、巻頭に町山智浩氏と平山夢明氏の「映画秘宝オールタイム・ベストテンを語る」という対談があり、メインで「深堀り!マイ・ベスト・オールターム映画」という特集を組んでいます。ここでは、「モダン・アメリカン・カルト映画マイ・ベスト」「日本のカルト映画マイベスト」「ヨーロッパのカルト映画ベストテン」といった感じで30ジャンルに渡って、それぞれのジャンルにこだわりを持つ評論家や識者などが選評しています。いきなりカルト映画がきて、その後に西部劇とか時代劇とやくざ映画とかがくるのが、この雑誌らしいかもしれません。


「ブリット」映画秘宝.jpg「ブリット」00.jpg 「モダン・アメリカン・カルト映画マイ・ベスト」で「パルプフィクション」などをベスト10に挙げていた町山智浩氏が、「カーチェイス映画オールタイムベスト10」で、ピーター・イェーツ監督の「ブリット」('68年)を挙げています。

「ブリット」040.jpg「ブリット」01.jpgブリット ロバート・ヴォーン.jpg サンフランシスコ市警察本部捜査課のブリット警部補(スティーブ・マックイーン)は、チャルマース上院議員(ロバート・ヴォーン)から裁判の重要証言者の保護を命じられる。その証言者とは、ジョー・ロスというマフィア組員。ロスは組の金を横領し、ヒットマンから狙われたために、司法取引によってマフィアを潰す証人となることで身の安全を図ったのだ。しかし、証人は何者かに、殺されもう一人の刑事も重傷を負ってしまう。ブリットは、証人が生きている、という偽の情報を流し、殺し屋を誘き寄せる作戦に出るが―。

 「ブリット」は、スティーブ・マックイーンが1968年式フォードムスタング・マッハワンで殺し屋の車を追ってサンフランシスコの旧坂を爆走して、ハリウッド映画にカーチェイス革命を起こしたとしています。この映画はジャクリーン・ビセットなども出てたりしますが、プロット的にも良かったのではないでしょうか。個人的にはカーチェイスは確かにすごいですが、改めて観ると、アクションだけの映画でなかったことに気づかされます(カーチェイスは「当時としては」革命的だったということだろう)。


「バニシングポイント」2.jpg それと、町山氏は「バニシング・ポイント」('71[「バニシングポイント」.jpg年)も挙げていますが、こちらの方がクルマ主体かも。1971年製「白」のダッチ・チャージャー(「ブリット」でカーチェイスの相手となった悪役がこれの1968年式「黒」に乗っていた)を陸送でコロラドからサンフランシスコに出来るだけ早く届ける賭けをした元レーサーのコワルスキー(ハリー・ニューマン)の話で、町山氏は「哲学映画」としています。個人的にはずっと観れないでいたのが、昨年['23年]4Kデジタルリマスター版を劇場で見ることが出来ました。
  
「ブリット」●原題:BULLITT●制作年: 1968年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・イェーツ●製作:フィリップ・ダ「ブリット」000.jpgントーニ●脚本:アラン・R・トラストマン/ハリー・クライナー●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:ラロ・シフリン●原作:ロバート・L・フィッシュ●時間:113分●出演:スティーブ・マックイー「ブリット」ビセット.jpgブリット ロバート・デュバル.jpgン/ジャクリーン・ビセット/ロバート・ヴォーン/ドン・ゴード/ロバート・デュヴァル/サイモン・オークランド/ノーマン・フェル/ジョーグ・スタンフォード・ブラウン●日本公開:1968/12●配給:ワーナー・ブラザース=セヴン・アーツ●最初に観た場所:池袋・文芸坐(80-07-16)●2回目:Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下(23-10-02)(評価:★★★★)●併映:1回目「華麗なる賭け」(ノーマン・ジュイソン)
ジャクリーン・ビセット ブリット.jpg
 
ワーナー・ブラザース創立100周年記念上映「35ミリで蘇る ワーナーフィルムコレクション」selected by ル・シネマ(2023)
ワーナーフィルムコレクション.jpg

 
「バニシング・ポイント」●原題:VANISHING POINT●制作年:1971年「バニシング・ポイント」00.jpg●制作国:アメリカ●「バニシング・ポイント」シネマート.png監督:リチャード・C・サラフィアン●製作:ノーマン・スペンサー●脚本:ギレルモ・ケイン(ギリェルモ・カブレラ=インファンテ)●撮影:ジョン・A・アロンゾ●時間:105分●出演:バリー・ニューマン/クリーヴォン・リトル/リー・ウィーバー/カール・スウェンソン/ディーン・ジャガー/スティーブン・ダーデン/ポール・コスロ/ボブ・ドナー/ティモシー・スコット/ギルダ・テクスター/アンソニー・ジェームズ/アーサー・マレット/ビクトリア・メドリン/シャーロット・ランプリング(イギリス公開版のみ)●日本公開:1971/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:シネマート新宿(スクリーン1)(23-04-04)((評価:★★★★)

シネマート新宿

 
 
 
 「日本の怪獣映画のベストテン」で切通理作氏(1964年生まれ)が、「ゴジラ」('54年)を第5位とし、その上に第4位で「モスラ」('61年)がきていて、さらに上に第2位で「モスラ対ゴジラ」('61年)がきているというのが分かる気がしました(「ゴジラ」の5位は、白黒作品のため70年代にあまりテレビ放映されず、やっと観たのが小学4年だったことに起因すると)。一方、「ゴジラ対へドラ」('71年)を第6位にしていますが、小2の時初めて観たゴジラ映画がこの作品だったとのこと。幼少期にリアルタイムで観たものの方が相対的に記憶に残るというのはあるなあと思いました。

ゴジラ ポスター.jpgゴジラ.jpg「ゴジラ」●制作年:1954年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:村田武雄/本多猪四郎●撮影:玉井正夫●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二ほか●原作:香山滋●時間:97分●出演:宝田明/河内桃子/平田昭彦/志村喬/堺左千夫/村上冬樹/山本廉/榊田敬二/鈴木豊明 /馬野都留子/菅井きん/笈川武夫/林幹/恩田清二郎/高堂国典/小川虎之助/手塚克巳/橘正晃/帯一郎/中島春雄/川合玉江/東静子/岡部正/鴨田清/今泉康/橘正晃/帯一郎●公開:1954/11●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿名画座ミラノ (83-08-06)●2回目:TOHOシネマズ 日比谷 (24-07-17)(評価:★★★☆→★★★★(再見し評価変更))●併映:「怪獣大戦争」(本多猪四郎)

「モスラ.jpgモスラ.jpg「モスラ」●制作年:1961年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:古関裕而●特殊技術:円谷英二●イメージボード:小松崎茂●原作:中村真一郎/福永武彦/堀田善衛「発光妖精とモスラ」●時間:101分●出演:フランキー堺/小泉博/香川京子/ジェリー伊藤/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/上原謙/志村喬/平田昭彦/佐原健二/河津清三郎/小杉義男/高木弘/田島義文/山本廉/加藤春哉/三島耕/中村哲/広瀬正一/桜井巨郎/堤康久●公開:1961/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★★☆)●併映:「三大怪獣 地球最大の決戦」(本多猪四郎)   

モスラ対ゴジラ.jpgモスラ対ゴジラ1964.jpg「モスラ対ゴジラ」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:89分●出演:宝田明/星由里子/小泉博>/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/藤木悠/田島義文/佐原健二/谷晃/木村千吉/中山豊/田武謙三/藤田進/八代美紀/小杉義男/田崎潤/沢村いき雄/佐田豊/山本廉/佐田豊/野村浩三/堤康久/津田光男/大友伸/大村千吉/岩本弘司/丘照美/大前亘●公開:1964/04●配給:東宝(評価:★★★☆)

「へドラ.jpg「ゴジラ対ヘドラ」1971p.jpg「ゴジラ対ヘドラ」●制作年:1971年●監督:坂野義光(水中撮影も兼任)●製作:田中友幸●脚本:馬淵薫/坂野義光●撮影:真野田陽一●音楽:眞鍋理一郎(主題歌:「かえせ! 太陽を」麻里圭子 with ハニー・ナイツ&ムーンドロップス)●特殊技術:中野昭慶●美術:井上泰幸(1922-2012)●時間:85分●出演:山内明/柴本俊夫(柴俊夫)/川瀬裕之/麻里圭子/木村俊恵/吉田義夫/中山剣吾(ヘドラ)/中島春雄/●公開:1971/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):神保町シアター(22-08-18)(評価:★★★☆)

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